魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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317 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:52:50.44 ID:sq/eI797o

魔剣士「め、迷惑だったら別にいいんだけど」

魔剣士「君の歌を聴いてると……心が安らぐんだ」

白緑の少女「ええ、喜んで」

全ての疲れを癒すそうな、優しい歌声だ。心に直接響いてきて、体に染み渡る。
歌の流れと共に、小さな白い花が周囲の草木に振りかかった。まるで雪の様だ。

……雪の花。そう呼ぼう。
風が吹き、雪の花は夜空へと舞い上がった。


白緑の少女「また、いずれ」

彼女は左手を俺の右頬に添え、浅緑の瞳を細めて柔らかく微笑むと、姿を消した。

名残惜しさに胸が痛む。

夢のような甘いひと時だった。
318 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:53:37.99 ID:sq/eI797o

翌日。

武闘家「すぴー……」

魔剣士「なあガウェイン、おまえ……よく平気そうに振る舞えるよな」

重斧士「ん?」

魔剣士「俺、好きな子のことが頭から離れなくてすげえつらい」

重斧士「俺もけっこう苦しんでるぞ」

魔剣士「あんま表に出さねえじゃん……尊敬するわ」

魔剣士「うああぁぁぁ……」

俺は布団を抱き締めて寝台の上を転がった。
心が痛むと体まで痛くなる。胸が軋む。
319 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:55:52.31 ID:sq/eI797o

町を出て森の近くを通りかかると、精霊に呼ばれた。
渋々カナリア達を置いて精霊に会いに行った。

魔剣士「もしオディウム教徒の奴等が近付いてきたら、あいつらを隠してやってくれねえか」

黄柏精霊「お安い御用よ。ただし……」

魔剣士「……俺の体、使わなきゃ駄目か」

黄柏精霊「ええ」

魔剣士「っおまえの前で自慰してやるよ。だから、触るのは……」

黄柏精霊「行為を行っている時から触った方が魔力を取りやすいもの」

仕方がないから脱いだ。ちくしょう。
ユキ以外とこんなことしたくねえのに。
320 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:56:50.33 ID:sq/eI797o

黄柏精霊「実はね、人間のえっちなお店を覗いて……ちょっと勉強してきちゃったの」

黄柏精霊「どうせなら楽しんだ方がいいじゃない?」

魔剣士「ちょっ、おい」

キハダの葉で全身を優しく愛撫された。

魔剣士「やめろ! くすぐったいだけだ!」

黄柏精霊「あら、ほんと?」

指で首筋をなぞられ、そして乳首をこねくり回された。
体から力が抜ける。俺は地面に腰を下ろしてしまった。

黄柏精霊「すごいんだよ。女の人が体中を優しく愛撫して、男の人、すごく気持ち良さそうだった」

魔剣士「あっ……やめっ……」

膝を撫でられるのやばい。ゾクゾクして動けなくなる。
321 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:57:18.57 ID:sq/eI797o

軽く竿を扱かれた。

黄柏精霊「本当にやめてほしいなら、おしべを硬くしたりしないよね?」

魔剣士「これは、そのっ……」

魔剣士「嫌でも反応しちまっ……くっ……」

実際、嫌なのに何で勃っちまうんだろうな。それが更に屈辱なんだ。

黄柏精霊「お尻の穴で、もっと気持ち良くしてあげるね」

魔剣士「は?」

周囲から蔓が忍び寄ってきた。
小腸までゴリゴリ犯されたことを思い出し、俺は恐怖を覚えた。

魔剣士「嫌だっ! やめろ!!」

魔剣士「前を扱くのは妥協してやる! だからそれは……」

黄柏精霊「気持ち良くなるだけだよ?」

魔剣士「ひっ」

俺はその場を逃げ出そうともがいたが、あっさりと捕らえられてしまった。

四つん這いの状態のまま動けない。
322 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:57:51.90 ID:sq/eI797o

葉による愛撫が続いた。

魔剣士「うっ……!」

黄柏精霊「ここ、気持ち良いの?」

尾骨の辺りを撫でられると、どうしようもなく熱が走った。

黄柏精霊「動物みたいね」

黄柏精霊「動物は、オスがメスのここを押して気持ち良くしてあげてるんだよ」

肩に力が入らなくなる。情けなく尻を突き上げる体勢になった。

黄柏精霊「射精せずに男の人が絶頂することをメスイキって言うんだったかな」

黄柏精霊「できたら楽しいかもね!」

楽しいのはおまえ等だけだろ。

黄柏精霊「挿れるよ」

魔剣士「嫌だ!! やめてくれ!!」

粘液で濡れた蔓が肛門を突き破って侵入してきた。

魔剣士「ちょっ、待って…………」

ろくに開発してねえ尻で感じるわけねえだろ……と思ったのだが、

魔剣士「っ……!?」

信じられないほどの快楽が突き抜けた。
323 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:58:29.61 ID:sq/eI797o

以前注入された媚薬の副作用だろうか。
成分そのものは抜けきっているはずなのだが……腹の組織そのものが変質してしまったのかもしれない。

犯されていた時は激しい快楽で頭がどうにかなりそうだったから、
副作用まで認識する余裕がなかった。

前立腺らしき箇所だけではなく、腸壁を押されるだけで周囲の神経が刺激されて快楽が走った。

黄柏精霊「すごいすごい! 感じてるんだね!」

抑えきれない喘ぎ声が漏れる。

切なくて切なくてたまらない。
何故俺が女のように犯されなければならんのだ。

……どうして、守ろうとしている対象からこんな辱めを受けなければならないんだ?
情けなくて涙が出てきた。……耐えろ。耐えろ。きっと永遠に続くわけじゃない。




ああ、もう、何回達したっけな。
射精してねえのに……してねえからこんなに気持ち良いのかな。

黄柏精霊「お兄さん、もうお顔もトロトロだね!」

黄柏精霊「体の中でイキまくって、すっかり女の子みたい」
324 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:59:45.52 ID:sq/eI797o

黄柏精霊「最後に、もっと面白いことしてみよっか」

精霊の少女が服をはぐると、彼女の股間には、大きなめしべ……ではなく、
人間の男根を模したモノがついていた。

黄柏精霊「お店でね、男の人にサービスしてた女の人が、」

黄柏精霊「こんな風に男の人を気持ち良くしてあげてたんだあ」

黄柏精霊「不思議だよね、やることが逆転しちゃってるの! 人間の発想ってすご〜い」

彼女はソレを俺に押し当てた。
今まで中に入っていた蔓よりもずっと太い。

魔剣士「やだ……こんな……い、やだ……」

さっきよりも僅かに奥の方を突かれる。
前立腺の奥って何があるんだっけ。精嚢だっけか。

また違った快楽に襲われた。

もう、俺は声を抑えることさえ諦めていた。早く終わってくれ。
親にこんなところ見られたら泣かれるだろうな。いやもう泣かれてたか。
325 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 19:00:13.76 ID:sq/eI797o





……あれ、俺、いつの間に射精してたんだろ。
萎えた愚息の先端から、力なく精液が垂れていた。

すかさず精霊達が俺の精液を吸いに来る。
すげえイカ臭いもんなのに、こいつらにとってはご馳走らしい。

黄柏精霊「ね、気持ち良かったでしょ?」

俺は力尽きるように横向きに倒れた。

魔力の消耗はそう激しくないが、体力を使い過ぎた。
体が重い。

魔剣士「…………」

どうにか起き上がり、服を着る。
ずっと無理な姿勢をとっていたせいで腰が痛い。

黄柏精霊「……どうしてそんなに悲しそうなの?」

魔剣士「……言ったじゃないか。嫌だって」
326 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 19:01:30.92 ID:sq/eI797o

黄柏精霊「え? でも……感じてたでしょ?」

黄柏精霊「動物は性的快楽を好む生き物だし、すっごく気持ち良さそうだったし……」

魔剣士「ああ、そうか、おまえら植物だもんな。俺の気持ちなんて量りようがねえよな」

なんで俺が苦しんでるのかなんて知るわけねえよな。
……普通の人間とも植物とも違う俺って、一体なんなんだろうな。

黄柏精霊「…………」

黄柏精霊「ごめん……なさい……」

背後から、小さくそう聞こえた。
327 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 19:02:19.03 ID:sq/eI797o
ここまで
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/20(水) 21:16:14.82 ID:E+bdpvvHo
前作でも味わったけど心のすれ違いは読んでて切な苦しい乙です
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/21(木) 02:49:44.15 ID:GAQXd/XwO
330 : ◆qj/KwVcV5s [sage saga]:2016/07/22(金) 00:01:57.88 ID:tQtmzFIAo
訂正
>>332
黄柏精霊「動物みたいね」

黄柏精霊「動物は、オスがメスのここを押して気持ち良くしてあげてるんだよ」

黄柏精霊「獣みたいね」

黄柏精霊「獣は、オスがメスのここを押して気持ち良くしてあげてるんだよ」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/01(月) 06:47:58.67 ID:09RnrIzLO
続き待ってるよ
332 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:43:06.13 ID:MptHbmsLo
第十二株 古代の体


乱暴にしやがって……上手く歩けねえじゃねえか。

仲間の所へ戻ると、盗賊らしき連中が木々に体を貫かれていた。
カナリア達を隠してくれるだけでよかったのに……流血沙汰になってやがる。

武闘家「大丈夫?」

魔剣士「がっぽり吸われちまった。けっこうきつい」

魔力の大量消費以上に体力を奪われたことがつらい。

重斧士「しかし驚いたぞ。俺が斧を取るより先に木がひとりでに動いてよ、」

重斧士「一瞬でこいつらを倒しちまったんだ」

一応まだ生きているようだ。

魔剣士「なかなかグロいな……一応通報しとくか」

罪人はバッテリー用の魔力の供給源だ。
罪人の魔力はそのままでは穢れているため、浄化の処理を施してから利用されている。

武闘家「蔓が何か運んできてるみたいよ」

魔剣士「この辺で採れる果物や野草だな。……おまえらにやるよ」

これを食って体力を回復しろってことなんだろうが、食べる気にはなれなかった。
333 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:43:36.42 ID:MptHbmsLo

――――――――
――

不能になった。

勃たない。勃たないんだ。
性欲もあまり沸かない……というより、性的な感情に対して嫌悪を覚えるようになった。

俺はプライドが高いんだ。
相手に主導権を握られ、あられもない姿であんあん喘がされるというのはとんでもない屈辱なのである。

それに、魔力の供給のためとはいえ、
好きでもない奴と性的な行為をすることにはどうしても抵抗がある。

正直おぞましくてたまらない。
自覚している以上に精神に負担がかかっている。

今度ユキに会う時、俺は普通に振る舞えるだろうか。
犯され放題の俺なんかが、あの子に会う資格なんて……。

悲観的に考えるのはやめよう。悲劇のヒロインぶるのは嫌いなんだ。
俺は母さんとは違う。
334 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:44:22.73 ID:MptHbmsLo

大砂州近くの村。
道を行く人々の中には、俺を見ると股間を押さえて蹲る奴もいた。

皆壮年のおっさんだ。おそらく勇者ナハトのことを知っているのだろう。
この辺りの国で、勇者ナハトはかなりでかいテロ組織を潰している。
顔を見たことがある人間が多くてもおかしくはない。

勇者ナハトは、性犯罪者の股間を切り落とすだけではなく、
淫らな人間には不能になる呪いをかけまくってもいたらしい。

壮年の男「ひいっ!」

そんなに怯えんなよ。俺は不能にさせる側じゃないんだ。
335 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:45:47.90 ID:MptHbmsLo

老人「困ったのぅ……」

孫娘「司祭さんからも相手にしてもらえないもんね」

老人「仕方ないのじゃ、この頃教会の方々は忙しそうじゃからのう」

武闘家「何かあったのかしら」

魔剣士「他人のことに首突っ込むもんじゃねえぞ」

武闘家「ほっとけないわ。どうしたんですか?」

魔剣士「はあ、まったく……」

重斧士「俺はカナリアのそういうところが好きだ」

老人「実は、うちの敷地内から……夜な夜な女の子の泣き声が聞こえるのです」

孫娘「幽霊よ……絶対幽霊だわ! 昔ここで死んだ女の子よ!」

武闘家「まあ」

老人「一度声を追ってみたのですが、人影は一つも見つけられず……」

老人「怖いものですから、何度もそう探しに行く勇気も出ないのですじゃ」

武闘家「困りましたね。もしよければ、お手伝いさせてください」
336 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:46:53.12 ID:MptHbmsLo

青い石「幽霊……怖いよぉ」

魔剣士「おまえも幽霊だろ」

武闘家「あなた、植物の精霊とは意思の疎通ができるのよね?」

魔剣士「まあ一応」

武闘家「精霊なら幽霊がいるのを把握できるでしょうし」

武闘家「もし幽霊じゃなかったとしても、誰かが森にいるのなら探知できるでしょ?」

魔剣士「そりゃそうだが…………俺に頼ること前提かよ」

武闘家「お願い。協力して、ねっ!」

魔剣士「しゃーねえな」

老人「ありがたや……ご案内いたしましょう。こちらですじゃ」


孫娘「うちの裏の……あの山です」

老人「泣き声が聞こえる時間帯までもうしばらくございます」

老人「夕食をご用意しましょう」
337 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:47:48.20 ID:MptHbmsLo

少し暇ができた。

魔剣士「…………」

武闘家「何やってるの?」

魔剣士「自然破壊をしないようネットで注意喚起してる」

犯されたくない一心でだ。

武闘家「……難しいこと、いっぱい書いてるのね」

魔剣士「ただ呼びかけるだけじゃ駄目だからな」

魔剣士「精霊を怒らせない伐採量の目安や、」

魔剣士「伐採量を減らしたことにより発生する不利益への対策」

魔剣士「その他諸々をしっかり書いとかねえと何かとうるさいからな」

魔剣士「……書いても論争が巻き起こったりはするが、」

魔剣士「何もしねえよりはマシだろ、多分」

武闘家「……『英雄の子供』としてじゃなく、あくまで『あなた個人』としての社会への影響力、」

武闘家「すごく大きいのね。尊敬するわ」

魔剣士「親とは全く違う方向で成功してるからな」
338 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:49:06.57 ID:MptHbmsLo

魔剣士「そりゃ父さんの息子だからって理由で注目されることはあるが、」

魔剣士「一人の学者として評価されることのが圧倒的に多い」

青い石「それだけ薬学・植物学方面に突出してるんだよね」

青い石「正にエリウスは『天才と変態は紙一重』を体現してげふんげふんごめん」

魔剣士「父さんと同じ軍人志望のアルバは『英雄の息子』として見られることがどうしても多いみてえだけど、」

魔剣士「父さんの子供であることを心の底から誇りに思ってるみてえだから微塵も気にしてねえな」

魔剣士「それどころか、『父さんの百倍輝いて見せる』って息巻いてるくらいだ」

武闘家「…………」

武闘家「あたしだって、昔は……」

魔剣士「おまえ、魔導にも格闘にも自信ねえんだろ」
339 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:49:49.56 ID:MptHbmsLo

武闘家「そ、そうだけど」

魔剣士「今はまだ自分の好きなこと模索してればいいんだよ」

魔剣士「他に自分に合ったものが見つかるかもしれねえじゃん」

武闘家「…………」

魔剣士「ついでに言うと、親とは違う方面で実力を発揮するのも、同じような道を進むのも、」

魔剣士「ふっつーの一般人として生きるのもおまえの自由だ。無理に社会的成功を収める必要はない」

武闘家「…………」

魔剣士「英雄の子供のくせにヘボいとか言ってくる奴がいても無視すりゃいい」

魔剣士「英雄だって外面を剥げばただの人間なんだ」

魔剣士「だとしたら、その子供もただの人間だろ」

魔剣士「おまえ自身が親の地位に拘ってる限りはなんの進展もないだろうよ」

魔剣士「気楽に生きりゃいいんだ」

武闘家「……そう、よね。その通りだわ」

武闘家「エリウス、ありがとう」
340 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:50:15.60 ID:MptHbmsLo

武闘家「……そういえば、あなた春生まれよね?」

魔剣士「そうだけど」

武闘家「誕生日、いつ?」

魔剣士「先月終わったが」

武闘家「っどうして言ってくれなかったの? 祝えなかったじゃない!」

魔剣士「ええ……ほら、言う機会なかったし、」

魔剣士「自分から言い出したら祝ってもらいたがってるみたいで嫌だし」

武闘家「もう!」

重斧士「おい何喧嘩してんだよ。目が覚めちまったじゃねえか」

武闘家「あ……ごめん」

重斧士「おまえらも夕飯ができるまで仮眠とっとけ。今晩は夜更かしするんだからよ」
341 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:50:58.86 ID:MptHbmsLo

随分暗い夜だ。晴れてはいるが、月は弓の様に細い。

魔剣士「なあモル、おまえって自分以外の霊と干渉できないか」

青い石「ちょっとはできるけど……怖いから引っ込んでたい……」

魔剣士「あのなあ……」


うぅ……    
           うぁぁぁぁぁぁ……


武闘家「ねえ、今聞こえなかった?」

重斧士「微かに聞こえたな」

老人「恐ろしや……」

魔剣士「生きてる人間の声じゃあないな……この響きは」

重斧士「そういうのわかるのか?」

魔剣士「物理的な音と霊的な音は種類が違うんだよ」


タスケ  

       あ

         あ  


              たすケて
342 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:53:18.42 ID:MptHbmsLo

茂っている植物から情報をもらった。

魔剣士「……あっちの方らしい」

青い石「やばいよこれ、依り代なしでこの世にしがみついてるから悪霊になりかけてる」

青い石「ちゃんとした依り代に住まないと存在が安定しなくなるんだよ」

武闘家「ほ、ほんとに霊だったのね……」

重斧士「怖いなら俺の胸に飛び込んできていいぞ」

武闘家「遠慮しとくわね」

ガサッ

孫娘「きゃっ!」

腕に抱きつかれた。

魔剣士「おっと、大丈夫か」

孫娘「は、はい」

物音の正体はただのタヌキだ。

武闘家「っ……」

老人「全く動じないとは……肝が据わっておられますのう」

孫娘「す、すごいです。その、一緒にいてくださると……安心できます」

魔剣士「ん、そっすか」
343 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:53:53.18 ID:MptHbmsLo

魔剣士「あそこにいるな。女の子が蹲ってる」

老人「わしには何も見えませぬ……霊感がおありのようで」

魔剣士「ない方だと思ってたんだけどな」

青い石「多分私と長く一緒にいる影響だと思う」

武闘家「うっすら死んで冷たくなった魔力の塊が見えるわ……」

重斧士「何も見えねえ」

幽霊少女「見つカら……いの……」

魔剣士「ちょっくら行ってくる」

武闘家「あ、あたしも行くわ」

魔剣士「精霊もそうなんだが、霊ってのはエネルギー体だから他人の思念に敏感なんだ」

魔剣士「あまり大勢では行かない方がいい」

武闘家「そう……」
344 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:54:20.80 ID:MptHbmsLo

魔剣士「おい、俺の声聞こえるか?」

幽霊少女「ダ……レ……?」

モルに頼らなくても会話ができそうだ。

魔剣士「ええと……旅のもんなんだが」

幽霊少女「わたシが……見エてるノ?」

魔剣士「ああ」

魔剣士「どうして夜な夜な泣いてるんだ? どんな未練があるんだ」

幽霊少女「探シモノ……」

幽霊少女「わたシ……大切なモノを失くシて、」

幽霊少女「探シてたら、この山で足を滑らせて、死ンじゃって……」

幽霊少女「宝石……パパとママからもらった大切なモノ……見つかラないノ」

魔剣士「どんな宝石なんだ」

幽霊少女「琥珀……綺麗な緑色ノ……」

魔剣士「そうか、わかった。明日、明るくなったら探してやるから」

魔剣士「また明日の夜な」

幽霊少女「! あリが……とウ……」

幽霊少女「皆わたシのこと怖がるノに……あなタみたイな人、初メて……」
345 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:55:58.84 ID:MptHbmsLo

翌日。

重斧士「こんな草木の生い茂った山中でどうやって探すんだよ」

魔剣士「まあ見てろって」

植物達に俺の魔力を与え、琥珀を探すよう頼んだ。
昼間の方が植物の活動が活発なため、夜明けを待ったのである。

生き物や意思を持った何かであれば夜間でも探せたのだが、今回は小さな石相手である。
活動が活発な時間帯でないと探すのは困難だった。

武闘家「植物達の生命力が上がってる……」

生命の結晶との融合前の俺の魔力ではできなかったことだ。
この様子なら、そう時間をかけずに終わるだろう。




魔剣士「……これか」

山の奥の方、草むらの中に落ちていた。柔らかい緑の輝きを放っている。
ペンダントトップになっているようだ。

青い石「天然のグリーンアンバーだ……とんでもなく珍しいよこれ」

俺はその石に手を伸ばした。

魔剣士「っ!」
346 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:56:25.68 ID:MptHbmsLo

――いつまでも待っています。あなたが再び生まれてくる日を――

――ああ。次は必ず、君と……――

――待って! まだ、もう少し……――

――…………、また、いつか――





武闘家「エリウス、エリウス!」

重斧士「おいしっかりしろ」

魔剣士「う……」

魔剣士「わり、なんか……白昼夢見てたみたいだ……」

今のは……石の記憶か?
いや、はっきりとはわからないが、違う気がする……。
347 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:57:55.15 ID:MptHbmsLo

――――――――
――

魔剣士「ほら、あったぞ。おまえの琥珀」

幽霊少女「!」

魔剣士「これで成仏できるか?」

幽霊少女「うん……ありがとウ、お兄さん」

幽霊少女「コの子……お兄さんに持っててほしいノ」

幽霊少女「アノ世にハ……持っテいけなイから」

幽霊少女「そレに……こノ子、お兄さんのトころに行きたがってるみたイだから」

魔剣士「……そうか」

幽霊少女「拾っテもらエて……よかっタ……」

女の子は光の粒になって天に昇っていった。

武闘家「エリウス、ありがとね」

魔剣士「ああ……」

俺は月明かりに照らされた琥珀に目を落とした。

俺はこの石のことを知っているような気がした。
この石に関する記憶なんてものは全くないのだが、どこか懐かしい感覚を覚えたのである。
348 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:59:16.74 ID:MptHbmsLo

大砂州を渡り、サントル中央列島の本島の森に入った。
データ収集が楽しくて仕方がない。

魔剣士「よし、そろそろ行くか……っ!?」

武闘家「どうしたの?」

魔剣士「ちょっと先に車に乗っててくれ。用事ができた」

少し離れたところの大木の陰に隠れた。
俺の体に二体の精霊が貼り付いていたのだ。俺の魔力に魅かれたらしい。

魔剣士「この大きさの双子の精霊は珍しいな……」

まだ人間でいう一歳程の幼女だが、
いずれはこの森を守る立派な人格持ちの精霊になるだろう。

魔剣士「離れろって」

幼青精霊「んー」

幼黄精霊「あうーまよくー」

魔剣士「おい……あーもう!」

幼いとはいえ怒らせたらどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。
強く拒絶することはできなかった。
349 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:59:46.24 ID:MptHbmsLo

魔剣士「くすぐってえって……」

上着を開けられ、両乳首を強く吸われた。

魔剣士「動物の真似事してんじゃねえぞ……男の胸吸って楽しいか?」

引っ張っても離れてくれやしなかった。

魔剣士「あのなあ、困ってるわけでもないならおまえらにやる魔力なんて……っ……」

魔剣士「あっ……やべえ…………」

気持ち良くなってきちまった。
こいつら意外とテクニシャンだぞ。巧みに舌を使ってきやがる。


魔剣士「うっ!」

幼黄精霊「きゃっきゃっ!」

幼青精霊「おいちかったぁ!」

俺の体が大きく震えた瞬間、幼女達は満足して駆けていった。
嘘だろ……俺、乳首だけでイッた? イかされた? しかも幼女相手に?

しばらく呆然として動くけなくなってしまった。
俺の体……一体どうなってんだよ。
350 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:01:09.62 ID:MptHbmsLo

――――――――
――

数週間、いくつかの村や町を転々とした。

武闘家「海、綺麗ねー。ちょっと見飽きてきちゃったけど」

魔剣士「しばらく内陸を旅するから見納めだな」

南には青い海が広がっている。

西の方角には、大きな木のシルエットがうっすらと聳え立っていた。
アクアマリーナの大樹だ。

武闘家「あたし、ルルディブルクに行くのすっごく楽しみなんだ」

重斧士「花の都だっけか?」

魔剣士「この調子だと、順調にいっても数週間後だな」

魔剣士「あ、なあ、この花すげえ可愛くないか?」

武闘家「確かに可愛いけど……あなたが他人に共感を求めようとするなんて珍しいわね」

魔剣士「あ……確かにな」

重斧士「なんつうか……雰囲気が女っぽいぞ」

魔剣士「冗談言うなよ」

武闘家「そろそろ宿に行きましょうか」

武闘家「っ!」

地面のタイルに躓いたカナリアを受け止めた。

武闘家「ご、ごめんなさい。ありがと」

武闘家「……あら?」

むにっ
351 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:01:36.52 ID:MptHbmsLo

武闘家「…………」

むにっ むにっ

魔剣士「んっ……おい……何揉んでんだよ」

武闘家「嘘でしょ……」

魔剣士「な、何がだ?」

むにっ

……むに?

武闘家「エリウスあなた……おっぱい出てるわよ」

魔剣士「…………」

魔剣士「…………!?!?!?!?」

服を着ていれば目立たない程度ではあるが、確かに膨らみかけていた。
言われるまで気がつかなかった。

魔剣士「何かの間違いだろおおぉぉおおお!?」

重斧士「落ち着け! たまにそういう奴いるからよ!!」
352 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:03:10.93 ID:MptHbmsLo

魔剣士「い、いるのか?」

重斧士「ネコやってる男がメス化することは珍しくなかったぞ」

重斧士「『男らしいのがよかったのに女っぽくなったから』という理由で別れるカップルが……」

重斧士「何組かいたくれえだ。俺が入ってる暴走族での話だが」

武闘家「ね、ネコ……?」

魔剣士「すごい世界だな」

そういや、性感を開発されたら女性化するって話を聞いたことがなくもないような……。

サントル中央列島に来てからも、何度か精霊から女のように犯されている。
ちくしょうめ。多分そのせいだろう。

武闘家「……肌も綺麗になったわね」

魔剣士「お、俺が美白なのは元からだろ」

武闘家「更にきめが細かくなってるわ。嫉妬しちゃうくらい」

武闘家「顔つきも……ちょっとだけだけど……」

重斧士「メス化するとそうなるんだぜ」

武闘家「……どうして女の子っぽくなっちゃったの?」

魔剣士「ホルモンバランスが崩れてんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」

魔剣士「うわあああああああ!!」
353 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:03:43.09 ID:MptHbmsLo

筋トレ! 筋トレ! 肉! 肉! 筋トレ! 増えよテストステロン!

魔剣士「うおおおおおおお」

少しでも男らしさを取り戻すため涙目になりながら体を鍛えた。

武闘家「闇雲に運動するだけじゃ効果は薄いわ」

武闘家「男らしくなれる献立とトレーニング内容組んであげる」

重斧士「俺も付き合うぞ。仲間がいた方がモチベも続くだろ」

魔剣士「うう……」

過酷な日々が訪れた。



武闘家「次は腕立て二百回ね」

魔剣士「え゛っ」

武闘家「昼食後は一時間休んで町の周りを……五周よ」

武闘家「じゃあスタミナご飯作ってくるわね」

あの筋肉女あああああ!!

重斧士「二百回くらい楽勝だろ、ほらやるぞ」

魔剣士「おまえらとは生きている次元が違うということを痛感した」

重斧士「やっぱカナリアとお似合いなのは俺だよな! な!」

魔剣士「へ? まあ二人とも筋肉の塊だよな」
354 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:04:30.06 ID:MptHbmsLo





ある日の夜、トレーニングに慣れてきたのか、寝る前に少しだけ体力が余るようになった。
昨晩までは寝台に乗った瞬間夢の中に突入したものだった。

武闘家「あら、植物以外の絵を描くなんて珍しいじゃない」

魔剣士「植物の精霊だから植物みたいなもんだ」

武闘家「……上手ね」

魔剣士「植物本体じゃねえのに、こんなに綺麗に描けるなんて自分でも思ってなかった」

魔剣士「はあ……ユキぃ……」

武闘家「例の、好きな子?」

魔剣士「あんま見るなよ……恥ずかしいだろ。その通りだよ」

武闘家「いつの間に会ってたの?」

武闘家「精霊に魔力をあげに行ってる時とか?」

魔剣士「いんや……その……おまえらが寝た後に……」

魔剣士「いいだろこの話は! 俺恋バナとかし慣れてねえんだって!」

武闘家「……あたし達が寝てる間に、こっそり一人で外出してたっていうの!?」

魔剣士「そんなに離れてるわけじゃねえし!」

寝る時には自衛用の結界装置を作動させている。金に物を言わせて強力な物を買った。
自分で自衛結界を長時間張り続けるよりも身体的にも魔力的にも負担が少ない。
野宿の時は交替で起きて見張りをすることもある。
355 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:05:11.26 ID:MptHbmsLo

魔剣士「安全には細心の注意を払ってるし別にいいだろ」

武闘家「女の子に夢中になってる間に襲われたらどうすんのよ!!」

魔剣士「そりゃ俺の自業自得だしおまえには関係ねえだろ」

武闘家「あるから言ってるんじゃない!」

青い石「喧嘩しないで」

魔剣士「そんなに俺に不満があるなら国に帰れよ!」

武闘家「それが嫌だからどんなに危険でも家出を続けてるのよ!!」

青い石「せっかく仲良くなったと思ったのに……」

重斧士「おい騒ぐな。他の部屋に響いたら迷惑だろ」

武闘家「……ムキになってごめん」

魔剣士「…………勝手な行動してばっかで悪かったな」
356 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:06:34.60 ID:MptHbmsLo

――――――――
――

魔剣士「なかなか男らしくならねえ……」

必死にメシを腹に詰め込んできつい筋トレにも耐えてるってのに。

武闘家「もう数週間続ければ変わってくるわ」

重斧士「もっと食う量増やさねえとな」

魔剣士「うっ……」

武闘家「よし、休憩終わり! スクワット始めるわよ!」

魔剣士「ひいぃ」

重斧士「おい誰かこっちに来るぞ」



聖騎士「漸く見つけたぞ……カナリアーナ!」

魔導槍師「やれやれ……随分と手間がかかりましたね」

現れたのは、プラチナブロンドの騎士の男と金髪の魔法使いだ。
騎士の方は……えーっと……。

魔法使いは誰なのか思い出せた。カナリアの兄ちゃんだ。名前は忘れた。
眼鏡をかけていて雰囲気が胡散臭い。

聖騎士「さあ、東に帰るぞ!」

騎士の男はカナリアの手を掴んだ。

武闘家「嫌よ!」
357 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:07:08.53 ID:MptHbmsLo

重斧士「おいてめえ、なにもんだ」

聖騎士「野蛮な口の利き方だな。育ちの悪さが窺える」

重斧士「んだとコラ」

武闘家「ちょっと二人とも、離れて離れて」

聖騎士「カナリアーナ、なんだこの男は!」

重斧士「こいつ知り合いか!? えらくおまえに馴れ馴れしいじゃねえか」

武闘家「ええっと……」

聖騎士「何故このような不良と共にいるのだ! 君には私こそが相応しい」

重斧士「てめえふざけてんじゃねえぞ!」

聖騎士「貴様は一体カナリアーナとどのような仲なのだ? まさか恋人ではあるまいな」
358 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:08:24.24 ID:MptHbmsLo

重斧士「恋人じゃあねえが……俺はカナリアに惚れてんだ」

重斧士「いきなり現れた男に強引に連れてかれるわけにはいかねえな」

聖騎士「ほおう? 私は幼少の時分より彼女に想いを寄せているのだがな」

武闘家「えっそうだったの?」

魔導槍師「いや〜若いっていいですね〜」

なんかやる気が削がれた。

聖騎士「エリウス、何処へ行くのだ!」

魔剣士「おまえ誰だっけ?」

聖騎士「なっ……」

奴は絶句した。

魔導槍師「エリウス君は相変わらずですね〜、ははは」

めんどくさそうなことになってるから宿に帰って絵でも描きたい気分だ。
あー、ユキが恋しい……。
359 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:08:56.65 ID:MptHbmsLo
kokomade
次回までもちょっと時間かかるかもしれません
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/03(水) 10:37:36.05 ID:Qywp5FDJ0
乙!
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 18:45:37.01 ID:jm2iVtYk0
メス化怖い……
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 03:17:19.64 ID:4IQsKl17O
363 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:22:10.07 ID:z+NwFDT5o

第十三株 無理がある未来


武闘家「エリウス、彼ヴィーザルよ。エイルさんとこの」

武闘家「何回か会ったことあるでしょ」

魔剣士「……あー、あのめっちゃ生真面目な奴か」

真面目すぎて融通が利かずめんどくさかった記憶が蘇った。
格好からしてアモル教団の守護騎士団に所属しているようだ。

武闘家「こっちはアークイラお兄ちゃんね」

重斧士「お兄ちゃん……実の兄貴か!?」

武闘家「そうよ」

そうだそうだ。アーさんだ。確か俺は彼をそう呼んでいたはず。

聖騎士「貴様、以前は彼女と二人旅だったそうではないか」

聖騎士「何も間違いは起こさなかったのだろうな?」

魔剣士「俺人間に興味ないし」

武闘家「……あなたが恋してる子も人間の姿じゃない」

魔剣士「人間と人型精霊は別物だもん」

武闘家「…………」

魔剣士「俺にとってはこのアザレアの花のが遥かに性の対象として魅力的なくらいだ」

聖騎士「そ、そうか……」

武闘家「っ……」

魔導槍師「おや、これは……」
364 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:30:57.45 ID:z+NwFDT5o

魔剣士「あー、マジ可愛い……」

性欲が減退しているおかげでムラムラは沸き起こらないが、その愛らしさに心が癒された。
本気で恋愛感情を感じているわけじゃないから決して浮気ではない。

……でもなんか胸はきゅんとするんだよな。

通りすがりのオタク1「りゅんたんマジ萌え〜」

通りすがりのオタク2「ぼきはラーナたん!」

ああ、そうか。この感覚は「萌え」なんだ。

魔剣士「アザレアたん萌え!! 萌え萌えしてる緑の葉っぱにも萌ええええ!!」

あくまで「萌え」だから浮気じゃない!!
まあ彼女と付き合ってるわけじゃないから浮気も何もないんだが。

聖騎士「な……なんだこいつ……」

重斧士「いつものことだ」

重斧士「とにかくカナリアを連れて行くなんぞ許さねえからな」

聖騎士「ならば力づくでも」

武器を抜く音が聞こえた。

魔導槍師「物騒になってきましたね〜」
365 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:32:53.43 ID:z+NwFDT5o

魔導槍師「ではここで解決法を提案しましょう。……ふふっ」

武闘家「あっ……」

武闘家「お願いエリウス、お兄ちゃんの悪い癖を止めて!」

魔剣士「悪い癖ってなんだよ」

魔導槍師「これから私が出す十二の試練に挑んでください」

魔導槍師「見事乗り越えられた方を、カナリアの婿候補として兄である私が認めましょう」

重斧士「……カナリアの兄貴公認の婿候補……やってやろうじゃねえか!」

聖騎士「よかろう。勝利を収めるのはこの私だ」

国に連れ帰るかどうかという話だったはずなのに、妙な方向に進んでいる。

武闘家「お兄ちゃんは玩具を見つけると、壊れちゃうまで無理難題をふっかけるのよ!!」

魔剣士「二人ともやる気みたいだしやらせとけよ」

武闘家「ちょっと」

魔剣士「男には白黒はっきりさせなきゃいけねえ時があるんだよ」

魔剣士「イヌツゲたん萌え〜〜」
366 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:34:38.01 ID:z+NwFDT5o

武闘家「うぅ……エリウス〜……」

聖騎士「…………」

聖騎士「どんな変態だろうが、やはり貴様とも決着をつけなければ気がすまん!!」

魔剣士「え、なんで?」

聖騎士「き、貴様……本気で言っているのか?」

重斧士「こういう奴なんだ」

聖騎士「大体貴様等その身長は嫌味か?? 嫌味なのか????」

重斧士「いくつだ?」

聖騎士「ひゃ……176だが?」

魔剣士「俺の母さんの2センチ下か。充分あるじゃねえか」

聖騎士「やはり貴様私を馬鹿にしているな」

そんなつもりはなかったのだが。

重斧士「俺なんて2メートル近くあるせいで不便してるんだぞ。羨ましいくれえだ」

魔導槍師「ちなみに私は188です」

父さんと同じくらいだ。3センチ負けた。

魔剣士「じゃ、俺関係ねえし勝手にやっててくれ」

聖騎士「待て!」

魔剣士「あ、カナリアは世話焼きたいタイプだからおまえみたいな男とは相性悪いと思うぞ」

聖騎士「なっ……」
367 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:35:19.78 ID:z+NwFDT5o

魔剣士「じゃあな」

武闘家「ああもう! また一人でどっか行こうとしてるー!」

武闘家「単独行動は駄目なのに!!」

聖騎士「危機管理能力が欠けているにもほどがあるな」

魔導槍師「心配する必要はありません。結界を張っておきました」

魔導槍師「安全は保障します」

武闘家「でも…………」



聖騎士「待てと言っているのがわからんか!」

魔剣士「おまえなかなかしつこいな……うっ」

犯されたおぞましさを突然思い出して気分が悪くなり、茂みで嘔吐した。

この頃はよくあることだ。
せっかく食ったのにな。食べ物がもったいねえ。

聖騎士「お、おい……大丈夫か」

魔剣士「ほっといてくれ」
368 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:36:07.01 ID:z+NwFDT5o

――――――――

ガサッ

聖騎士「待たせたな」

聖騎士「では勝負を始めるぞ。最初の試練はなんだ」

重斧士「あいつはいいのか?」

聖騎士「具合の悪い人間を無理矢理土俵に登らせるほど私は鬼畜ではない」

――――――――



胃が空になって腹が減ったが食欲はない。これじゃ鍛えようにも力なんて出せやしない。

まあ今日一日くらい休んだっていいだろう。連日超絶ハードな筋トレに耐えてんだ。
369 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:38:01.16 ID:z+NwFDT5o

――
――――――
――――――――――――

『アークイラ君すごいな。史上最年少で宮廷魔導師になったんだろ』

『現代魔術の使い手としては、だけどね。マリナに似て優秀なんだ。エリウス君もすごいんだろ?』

『あの学力はアルカさんに似たんだろうな……。ヴィーザル君のニュース読んだか?』

『あー読んだ読んだ! 将来有望な法術師の卵ってやつでしょ』



俺は床にしゃがみこみ、店に置かれた観葉植物を観察していた。

『おい、少しは何か話したらどうだ』

『…………』

『せっかくじい様達が集まって楽しく食事してるのに、空気が悪くなるだろ』

『…………』

『聞いているのか? エリウス、おまえに言っているんだ』

白に近い髪色の奴が話しかけてきた。

『行儀が悪い。せめて席に戻れ』

渋々椅子に座った。ここにいても、楽しいことなんて一つもない。
大人達が話していることにも興味が沸かない。

窓の外を見た。青い空の下で、木が風に揺らされていた。
喋るよりも木の動きを見ている方がよっぽど楽しい。
370 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:38:30.05 ID:z+NwFDT5o

『……ずっと仏頂面で黙ってるじゃないか。話を聞いたり、周囲に合わせて笑ったりできないのか?』

好きで連れてこられたわけじゃないのに、なんでわざわざ他人に合わせなきゃいけないんだ。

『何を言っても無駄ですよ、ヴィーザル。彼は『そういう子』ですから』

アーさんが優しくそう呼びかけた。

柔らかく微笑んでいるが、俺はその目が怖くてたまらない。
俺を憐れむような、嘲笑しているような感じの目だった。

俺は気を紛らわせようと外を眺め続けた。
日の光の下で気持ちよさそうに枝を伸ばしている木が羨ましかった。

――
――――――
――――――――――――
371 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:40:21.28 ID:z+NwFDT5o

妙なこと思い出しちまった。気分わりぃ。
もう吐くもんなんて残ってねえのに吐き気が強くなった。

ふと俺は鏡を見た。
俺って美人だよな……。

魔剣士「もしもしアウロラ? 頼みがあんだけど……」


――――――――

魔導槍師「私の大切な妹を甲斐性のない男に任せるわけにはいきませんからね〜」

魔導槍師「そうですね……この頃、この辺りに家畜を荒らす獅子が現れるそうです」

魔導槍師「私の術で誘き寄せますので、退治してください」

武闘家「待ってよ!」

どうにかしてお兄ちゃんを止めないと。

重斧士「安心しろ、カナリア。俺はライオンなんぞに負けやしねえ」

重斧士「なんせストロンゲストタイガーの異名を持ってるくれえだからな」

聖騎士「試練にしては簡単すぎるな」

武闘家「最初は簡単な試練を出して後から絶望させるのがいつもの手口なのよ!!」

武闘家「大体、お兄ちゃんは私が大切だからこんなことやらせようとしてるわけじゃ」

魔導槍師「さあ行きますよ〜。ここでは一般人が犠牲になりかねませんからね」
372 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:41:12.73 ID:z+NwFDT5o

まともに止めようとして敵うわけがない。
お兄ちゃんはエスト大陸最強とまで言われているほどの魔導師だもの。

直接お兄ちゃんに何か言うより、二人の戦意の喪失を狙った方がいいかもしれない。

武闘家「あのね、あたし、どっちとも付き合う気ないから!」

武闘家「こんな争いしたって無・駄! 無駄なの!!」

重斧士「お義兄さんに認めてもらえるってのはでけえんだよ」

聖騎士「なんとしてもこの男には勝たなければならんのだ」

武闘家「このままじゃ二人とも、最低でも半年は病院から出られなくなるわ!」

武闘家「本当にあたしのこと、す、好きなら、あたしの言うこともうちょっと聞いてよ!」

重斧士・聖騎士「「好きだからこそだ」」

武闘家「えっ……」

重斧士「真似すんなよ」

聖騎士「おまえが真似したのだろう」

武闘家「……再起不能になっても知らないんだからー!」

魔導槍師「いい子だからここで大人しく見ていましょうね」
373 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:41:57.19 ID:z+NwFDT5o

町の外に出ると、巨大なライオンが現れた。
とんでもなく大きい。百人は殺していそうだわ。

聖騎士「我が法術で眠りの世界に落としてやろう」

聖騎士「誘眠の星光<スリーピング・スターダスト>!」

巨獅子「ガアァァァー!」

重斧士「利いてねえぜ!」

聖騎士「これほど獰猛とは……!」

重斧士「その首たたっ斬ってやる!」

ゴッ!

重斧士「俺の斧が……通らねえだと!?」

聖騎士「ふん、口ほどにもない」

硬いたてがみに引っかかって、首に刃が届かなかったみたいだった。

武闘家「嘘でしょ……あんなに強いなんて。ねえお兄ちゃん」

魔導槍師「大丈夫です。あの二人なら容易に倒せるでしょう」
374 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:43:13.02 ID:z+NwFDT5o

重斧士「狙ったところがちょいと悪かっただけだぜ」

ガウィはライオンの背や腹を……たてがみのない部分を狙い出した。
ライオンの動きを巧みに読んで、ありえない身体能力を生かして攻撃を繰り出している。

身体強化魔術を使用していないのに、
あんなに俊敏に動けるなんて……いつものことながらすごいと思った。

聖騎士「負けてはおれんな」

ヴィーザルは補助系の法術で自分の身体を強化したり、
ライオンの動きを鈍らせたりして剣を振るっている。

惚れ惚れするほど華麗な剣さばきね。惚れはしないけれど。

聖騎士「討ち取ったぞ!!」

重斧士「とどめを刺したのは俺だ!」

聖騎士「いいや私だ!!」

重斧士「カナリアー! この毛皮はおまえに捧げるぜ!!」

聖騎士「被害を受けた町の住民に寄付すべきだ! 君もそう思うだろう!?」

魔導槍師「では次行きましょうか〜」
375 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:44:08.32 ID:z+NwFDT5o

武闘家「恋愛って、めんどくさい……」

……想ってもらえるのはありがたいことなのだろうけれど、気持ちに応えることはできない。
だって、あたしは……。

武闘家「…………」

魔導槍師「耳を貸しなさい、カナリア」

魔導槍師「兄として忠告します。エリウス君はやめておきなさい」

武闘家「べ、別にあたしは……」

魔導槍師「脳機能の障害を持った相手を追いかけても苦労するだけですよ」

武闘家「っ! 確かに個性的な奴だけど、そんな言い方ないじゃない!! 彼に失礼よ!!」

魔導槍師「事実です」

武闘家「っ……」

――――――――
376 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:45:17.10 ID:z+NwFDT5o

青い石「ねー……エリウスー……」

魔剣士♀「…………」

M男1「あの!」

M男2「お願いがあります!」

魔剣士♀「あら……何かしら」

M男1「どうか、俺たちの……」

M男達「「女王様になってください!!」」





「おい……見ろよあの長い黒髪の美女……」

「ああ……やばいな……190以上ありそうなのに細くて綺麗なんだよな……」

「俺も奴隷にされたい……」

「切れ長のつり目がたまらん……」
377 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:46:31.25 ID:z+NwFDT5o

魔剣士♀「ヒールって歩きづらいのね」

魔剣士♀「調子に乗って10センチのなんて選ぶんじゃなかったわ。んっふ」

青い石「……………………」

母さんをすっきりさせた感じの美女に仕上がったわ。
アウロラにも負けてないんじゃないかしら。罪な兄ね。いいえ姉かしら。
ウィッグの重さにも慣れてきたわ。

M男8「荷物お持ちいたします!」

魔剣士♀「あらありがと」

青い石「うわあああ!!」



重斧士「ぜー……はー……これで……十個乗り越えたぞ……」

聖騎士「なかなか……やるではないか……だがもう限界ではないか……?」

重斧士「おまえこそ……息切れてんじゃねえか……」

魔導槍師「いや〜二人とも素晴らしいですね〜」

魔導槍師「大抵五つ目くらいでリタイアしてしまうんですけどね。これなら本当に……」

武闘家「やめてお兄ちゃん」



魔剣士♀「ご褒美にムチ五十回の刑よ〜! お〜ほっほっほ!」

M男8「ああっ!」

武闘家「え?」
378 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:49:55.66 ID:z+NwFDT5o

魔剣士♀「そんなにこのムチが気持ちいいの? とんだド変態さんねぇ!」

M男8「ひぃんっ! あっ! いいっ!」

M男7「女王様! このゴミクズ同然の俺にもどうか情けのムチを!」

魔剣士♀「仕方ないわね……ゴミクズはゴミクズらしくもっと恥ずかしい格好で跪きなさぁい!」

重斧士「おい……あいつ……」

聖騎士「まだ日暮れ前だというのに淫らな奴等だな」

魔導槍師「あれは……なかなか……本当の女性でないのが惜しいですね……」

魔導槍師「父さん♀よりも美しいですよ」

武闘家「…………」

魔剣士♀「変態共ォ! そんなにあたくしのムチが欲しければ尻を突き出してそこに並びなさ」

武闘家「変態はどっちよ!!!!」

魔剣士♀「あっ」
379 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:50:36.29 ID:z+NwFDT5o

武闘家「あなた一体何やってるの!? 男らしさを取り戻すんじゃなかったの!?」

M男4「え、男?」

M男15「マジで?」

魔剣士♀「いやその……これは……一時の気の迷いで……」

魔剣士♀「ひ、開き直って女装してみたらどうなるか気になってさ……」

武闘家「トレーニングに付き合ったあたし達が馬鹿みたいじゃない!!!!」

魔剣士♀「ごめん! ごめん!! でも美人でしょ!?」

武闘家「なんでそんなにメイクばっちしなのよ!?」

魔剣士♀「妹に教わったのよ」

魔剣士♀「さすが姉妹ね。あたくしの顔に合う小技までバッチリ教えてくれたわ」

聖騎士「おい、あの女は一体何者だ」

重斧士「おまえ案外鈍いな?」

聖騎士「?」
380 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:51:17.71 ID:z+NwFDT5o

魔剣士♀「あらそこのあなたぁ、随分お疲れのようじゃない」

魔剣士♀「痛みのという名の癒しが欲しくはないかしらぁ?」

聖騎士「わ、私にそのような趣味はない」

魔剣士♀「そういう子ほど自分の欲求を押さえ込んじゃうものなのよねぇ」

魔剣士♀「さあ、自分を曝け出しなさぁい!」

ビシィ!

聖騎士「ああっ! 痛っ! やめっ!」

魔導槍師「では、十一個目の試練は『彼女のムチを受けても尚己を保つこと』にしましょう」

重斧士「えっ……俺も打たれなきゃなんねえのか?」

聖騎士「しかし……程よい痛みがなんだか……ああっ! く、クセになってしまうっ!」

重斧士「いてっ! いてっ! くっ、俺は奴隷にはならんぞっ!」

魔剣士♀「もっと強いのがお好みかしらぁっ!?」

重斧士「あぁぁっ!」

魔剣士♀「あたくしのムチのエサにしてさしあげますわっ!」

武闘家「なんなのよもぉぉぉぉぉ!!」
381 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:53:49.08 ID:z+NwFDT5o

魔導槍師「この隙に……」

魔導槍師「カナリア、よく聞きなさい」

武闘家「何よ!!!!」

魔導槍師「私達の家系は優秀な血統です。異常者の血を混ぜるわけにはいきません」

武闘家「はあ!?」

魔導槍師「ですから、あなたには相応しい男性を」

武闘家「お兄ちゃんの馬鹿ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

人体を激しく損傷させる音が轟き、俺はムチを打つ腕を止めた。
アーさんが吹っ飛んだ。

それはもう華麗に。凄まじく。
五十メートルは飛んだのではないだろうか。

武闘家「もういやあああああ!!」

戦闘時以外は決して暴力を振るわないカナリアが人をぶん殴るなんてよっぽどだ。

どんな会話してたんだ。

魔剣士♀「お、落ち着け」

カナリアは何処かに走り去ろうとした。

武闘家「来ないで! 追いかけるなら女装といてからにして!!」

武闘家「あたしが女装にトラウマあるの知ってるでしょ!?」
382 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:55:17.33 ID:z+NwFDT5o





魔剣士「あいつどこ?」

重斧士「あっちだ」

聖騎士「本当に……あの美女はおまえだったんだな……」

魔剣士「あら、驚いた?」

魔剣士「不満そうね。あたくしのムチで感じちゃったことがそんなに屈辱かしら」

聖騎士「おまえのムチじゃなくとも一生の恥だ!!!! 私は聖職者なのだぞ!?!?」

魔剣士「お堅く振舞っている殿方ほど……ねえ」

重斧士「さっさと行けよ……」




魔剣士「おいカナリアー……機嫌直せよ……」

あいつは木の枝に腰を掛けていた。

武闘家「…………」

魔剣士「みんな心配してっぞ」

武闘家「聞く耳持たない連中だらけのところになんて戻りたくないわ」
383 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:56:18.12 ID:z+NwFDT5o

魔剣士「そりゃまあ……俺は生まれつきこの性格だけど……」

魔剣士「他の二人は頭冷やしてるからさ。さっきよりはおまえの言うこと聞くだろうよ」

武闘家「お兄ちゃんは」

魔剣士「まだのびてる」

武闘家「そう」

魔剣士「…………」

武闘家「…………」

魔剣士「ええと……好かれて気まずいかもしんねえけど、あいつらなら普通に話せるだろ」

他人の気持ちなんてわかんねえから何を言えばいいのかさっぱりだ。
てかなんで俺がこいつを迎えに来てるんだ。他の奴等でいいだろ。

武闘家「ねえ、エリウス」

武闘家「あたし、あなたのこと好きなのよね」

魔剣士「え……ええ?」
384 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:56:54.43 ID:z+NwFDT5o

突然何を言い出すんだ。頭の処理が追いつかない。

魔剣士「あ…………ぇ……っと…………まじで?」

武闘家「ええ」

魔剣士「おまえ……そんなそぶり…………」

魔剣士「…………あんまりなかったじゃん」

武闘家「ガウィがいるのにあからさまにアピールできるわけないでしょ」

それもそうだ。

魔剣士「っ…………」

あいつはこっちに振り向いた。

武闘家「好き」

魔剣士「……………………」

魔剣士「その、俺……ごめん……」

武闘家「だよね」

武闘家「困らせてごめんね。吐き出してすっきりしたかったの」
385 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:58:07.72 ID:z+NwFDT5o

魔剣士「…………」

武闘家「いいの。叶わないって最初からわかってたし」

魔剣士「…………」

武闘家「行きましょうか」

魔剣士「あ、ちょっと……訊いてもいいか」

武闘家「何?」

魔剣士「なんで……俺のこと、好きになったんだ」

魔剣士「俺、自己中だし、頭おかしいし、何処が良かったんだよ」

武闘家「…………」

武闘家「あなた、あたしと似たような境遇なのに、」

武闘家「英雄の子供であることなんて微塵も気にしてなくて……」

武闘家「だから、あなたと一緒にいると、すごく気が楽になったの」

武闘家「それで、ずっと一緒にいられたらなって……」
386 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:59:25.86 ID:z+NwFDT5o

魔剣士「……そっ、か」

武闘家「……でも、多分、あなたがあたしに興味ないからこそ、」

武闘家「あたしはあなたのことを好きでいられたのかもしれないわ」

武闘家「それに、この気持ちは長続きしないだろうなって……そんな感じがするから」

武闘家「どんなに遅くても、来年には忘れてるわ」

魔剣士「…………」

魔剣士「えっと…………」

魔剣士「俺の中身を見た上で好きでいてくれた奴なんて、初めてだし……」

魔剣士「告られて嫌だと思わなかったのも……生まれて初めてなんだ」

魔剣士「……だから、上手く言えねえんだけど……」

魔剣士「その……あり、がとな」

緊張で胸がバクバクする。

武闘家「……ねえ、あたし達…………」

武闘家「これからも、友達でいられるよね?」

魔剣士「……ああ」

涙を堪えた作り笑顔が夕日に照らされた。
387 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:59:59.42 ID:z+NwFDT5o
kokomade
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/08/11(木) 18:08:10.11 ID:pWNenKueO
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/12(金) 19:59:49.28 ID:KO/KkTxV0
乙!
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/15(月) 13:51:07.80 ID:vK5COQlO0
魔導槍師が子安ってかジェイドで再生されてつらい
391 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:10:39.02 ID:JW6mXUhYo

第十四株 華の道


重斧士「勝負つけらんなくなっちまったな」

聖騎士「……まさかあのアークイラが大怪我を負うとはな」

重斧士「やっぱつええのかあいつ」

聖騎士「魔導の腕は世界最高クラスだ。槍使いとしてもあいつに勝てる人間はまずいないだろう」

聖騎士「……これまでは力勝負だったな。知恵比べをしないか」

重斧士「頭使う気力残ってんのか?」

聖騎士「……疲労困憊だ」

武闘家「ただいま。……休みましょうか」

魔剣士「…………」

聖騎士「おいエリウス、顔が赤いぞ。熱があるのではないか」

魔剣士「夕日が当たってるだけだろ」
392 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:11:12.45 ID:JW6mXUhYo

聖騎士「来い。法術師である私が診療してやる」

魔剣士「いらねえよ俺医療系魔術使えるし」

重斧士「法術と魔術ってどう違うんだ?」

魔剣士「発動するまでの過程が違うだけで似たようなもん」

聖騎士「貴様それでも魔導学生か!? いいか、法術というのは……」

魔剣士「…………」

聖騎士「…………貴様まさか」

聖騎士「か、彼女となななななにかあったわけでは」

魔剣士「ねえよ!!!! それ以上俺に話しかけたらまたムチで打つぞ!!」

聖騎士「ひっ」

重斧士「……やれやれだぜ」
393 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:12:07.65 ID:JW6mXUhYo

魔導槍師「…………」

重斧士「脱いだらすげえイイ体してんだな」

武闘家「お兄ちゃん……このまま永眠するなんてことないよね?」

聖騎士「私が治療を施したんだ。じきに目を覚ます」

魔剣士「……なあ、なんでこの二人と同部屋なんだ」

重斧士「部屋数の都合だそうだ。節約になっていいだろ」

魔剣士「…………」

大勢でいるのは苦手なんだ。正直、特にアーさんがいると休めない。
俺はスケッチブックを開いた。ユキぃ……会いたいよ……。

旅館の主人「華道家が来れなくなっただと?」

従業員「船が故障したそうで……」

旅館の主人「参ったな……明後日の大事な来客のために、」

旅館の主人「とびきり美しい生け花を飾りたかったのだが」

受付嬢「旦那様、実は…………」

旅館の主人「エリウス・レグホニアが泊まっているだと!?」

魔剣士「廊下から俺の名前が聞こえた気がしたんだが」

重斧士「気のせいではないぞ」
394 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:12:34.81 ID:JW6mXUhYo

魔剣士「呼びました?」

旅館の主人「お……ぉぉおおおおお!!」

旅館の主人「ヒュペリオン氏の孫であり天才華道少年であるエリウスが我が旅館に!!」

(ヒュペリオン?)

青い石「君の!! 父方のおじいちゃんの名前!!」

難しいから覚えてなかった。同居じゃないしあんまり名前を聞く機会がない。

旅館の主人「運命だ……ああ、なんと運命的なのだ!!」

重斧士「華道って生け花だろ? おまえ植物好きだもんな」

魔剣士「免状持ってるけどやってたの何年も前だぞ……」

魔剣士「華道家としての俺のことを覚えてる人間がいまだにいるなんてな」

聖騎士「え、エリウスが生け花……? 貴様に花を生けることができるほどの情操があったとは」

魔剣士「失礼な奴だな……」

魔剣士「俺の感受性の乏しさを心配した母さんに無理矢理習わされてたのは事実だけどさ」

聖騎士「ほう……」

重斧士「おまえ悪い奴じゃねえみたいだけどよ、あいつのこと見下し過ぎだと思うぞ」

聖騎士「それは悪かったな」

旅館の主人「ど、どうか花を生けていただきたい」

魔剣士「俺で良ければやりますけど……感覚鈍ってると思いますよ」
395 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:16:43.52 ID:JW6mXUhYo

出された夕食は妙に豪華だった。まだ生けてないってのに。

魔導槍師「いや〜エリウス君のおかげでそこそこの食事にありつくことができましたね」

魔剣士「…………」

魔剣士「俺今晩はそこの木の上で寝るから!!」

武闘家「ちょっ……」

俺は外に飛び出した。

武闘家「ねえ、待って」

魔剣士「…………」

武闘家「……ど、うして? やっぱり……気まずい?」

魔剣士「そうじゃないんだ」

魔剣士「……俺、どうしてもアーさん苦手なんだよ」

魔剣士「妹のおまえにこんなこと言うのは申し訳ねえんだけどさ」

武闘家「…………」
396 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:17:09.27 ID:JW6mXUhYo

魔剣士「あの目……無理なんだ。俺、他人の感情読んだりするのへたくそなんだけど、」

魔剣士「俺の自尊心を傷つけてくる奴の雰囲気にだけはやたら敏感で……」

普段は他人からどう思われようが知ったこっちゃない。気にせずにいられる。
でも、何故だかアーさんの、内に秘めた侮蔑の感情だけは……跳ね返せない。

魔剣士「怖いんだ」

武闘家「…………そう」

武闘家「落ちないようにね」

魔剣士「木の上で寝るのには慣れてる。大丈夫だよ」



仲間が泊まっている部屋のすぐ傍の木に登った。

聖騎士「全く、協調性のない奴だ。あんな奴と旅をしても危険なだけだろう」

聞こえてんだよクソ。

武闘家「ちゃんと守ってくれてるわよ。……ガウィ任せにされることも多いけど」

武闘家「それに、彼がいてくれたからあたしは旅を続けることができてる」

武闘家「そのおかげであたし自身の実力だって随分上がったんだから」

魔導槍師「はは……確かに、強くなりましたね」
397 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:17:36.31 ID:JW6mXUhYo

武闘家「……父さん、この頃どうなの。戦えてるの」

魔導槍師「ええ、どうにか。軍の士気も回復しましたね」

聖騎士「軍の士気など、アキレス殿の息子であるお前が上げればよいではないか」

魔導槍師「生憎私はこの性格ですからね〜。人を引き付ける力を持った父さんとは違うのです」

魔導槍師「恐怖で軍を支配するのなら可能でしょうけれど」

聖騎士「訊いた私が愚かだったようだ」

魔導槍師「……ところで、エリウス君のことなのですが」

また悪口言われんのかな。一瞬心臓が強く脈打った。

魔導槍師「彼、人ならざる者の力を取り込んでいますね」

重斧士「わかるのか?」

魔導槍師「ええ。人より魔感力が優れていましてね」

魔導槍師「最近では、私のような人間を魔透眼持ちと呼ぶそうですがまあそれは置いておいて」
398 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:18:04.01 ID:JW6mXUhYo

魔導槍師「あれは異常ですね。超古代技術と生命の力が掛け合わさってできた物のようですが」

魔導槍師「いずれ、彼はこの世の理から外れた存在となるでしょう」

聖騎士「創造神への冒涜ではないか」

魔導槍師「あの力が人間の身体・魔力とどのような魔学反応を起こすかは未知数です」

魔導槍師「人類にとって非常に危険な存在に成りうると判断できるでしょう」

魔導槍師「……一刻も早く処分してしまいたいほどに」

武闘家「なっ……何を言うのよ!」

武闘家「大体、人間が植物に酷いことをするから、彼は仕方なく……」

魔導槍師「まあ悪いことばかりではありませんね」

魔導槍師「もしあの力を『あなたを守る』方向に使ってもらえさえすれば、」

魔導槍師「あなたを下手に連れ戻すより、彼と共に旅をしてもらう方が安全です」

武闘家「…………!」

聖騎士「それは本当か」
399 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:19:02.87 ID:JW6mXUhYo

魔導槍師「非常に残念ですが、国で保護しても安全の保障はできないのですよ」

魔導槍師「この辺りよりも奴等の活動が活発な上、」

魔導槍師「奴等の組織には厄介な術師が約一名いるようですからね」

聖騎士「おまえでも手に負えないというのか」

魔導槍師「可能性は0ではありませんねえ」

魔導槍師「私がずっとカナリアの傍にいられるのならばよかったのですが、」

魔導槍師「国王の守護などというニート同前の仕事に縛られていまして」

聖騎士「最も名誉のある仕事をニート同前とは……」

魔導槍師「更に、少ない空き時間を研究に充てているとなると……」

魔導槍師「正直言って一ヶ所に留まっている方が危険性が上がります」

重斧士「他に優秀な奴いねえのかよ」

魔導槍師「平和ボケのおかげで、使い物になる戦士の人数は極めて限られています」

魔導槍師「となると、戦う力を持った者が傍にいさえすれば、」

魔導槍師「隠れて逃げ回っていた方が比較的マシというわけですね」
400 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:20:19.32 ID:JW6mXUhYo

魔導槍師「まー兄としてはあまり彼と共にはいてほしくはないのですが」

重斧士「カナリアはまだ帰らなくていいんだな!?」

魔導槍師「エリウス君次第ですね。彼無責任ですし」

あーイライラする。事実だけど。

聖騎士「私は反対だぞ」

聖騎士「プティア国で保護しないのならば我がアモル教聖騎士団がカナリアを守る」

魔導槍師「ほう、人手不足の騎士団で護りきることができるのですか」

聖騎士「うぐ……」

重斧士「人手不足なのにおまえこんなところにいていいのか?」

聖騎士「……すぐにでも戻らなければならない」

魔導槍師「お互い無理矢理休暇をもぎ取ったようなものですからねー」

武闘家「……心配してくれるのは嬉しいけど」

魔導槍師「あなたは自分の立場を理解していません」

魔導槍師「我が軍の脆さが露呈した際はどうなるかと思いましたよ」

聖騎士「英雄一人が引き籠ったくらいで士気を落としてしまう軍など、いつ壊滅してもおかしくないな」

魔導槍師「体勢を見直すいい機会ではありましたねー」

魔導槍師「そうそう、オディウム教徒が英雄の子供達を狙っている理由なのですがね」
401 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:20:45.44 ID:JW6mXUhYo

魔導槍師「……なんでも、聖玉の結界を決壊させるため……という情報があるのです」

武闘家「……!」

重斧士「今の駄洒落か?」

魔導槍師「嫌ですねーたまたまですよ」

武闘家「そんなことしたら魔族が復活しちゃうじゃない」

武闘家「あいつらに何の得があるっていうのよ」

魔導槍師「不明です。しかし、」

魔導槍師「調査したところ、オディウム教徒は魔族の襲撃を受けなかったそうです」

武闘家「そんなの、あいつらの妄言じゃ……」

魔導槍師「それが、事実なのですよ」

魔導槍師「襲撃を受けなかった理由も不明ですが、」

魔導槍師「少なくとも、彼等は魔族が存在することで何らかの利益を得ていたのでしょう」

魔導槍師「八十五年前に魔族を復活させたのも彼等である可能性が高いと思われます」

魔導槍師「一体どうやったのかは謎ですがね」
402 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:21:27.10 ID:JW6mXUhYo

武闘家「どうして結界を壊すのに私達が必要なの?」

魔導槍師「不明です。……が、おおよその推測は可能です」

魔導槍師「オディウム神は実在している可能性があります」

魔導槍師「超古代時代以前の資料にその名が記されていました」

魔導槍師「実際に、人々の憎しみを吸収して世に破滅をもたらしたと伝えられています」

ふーん。

魔導槍師「あなた方を利用し、人々の持つ憎しみの感情を操作することで、」

魔導槍師「オディウム神を復活させ、聖玉の結界を壊そうとしている」

魔導槍師「……と、考えられなくもありません」

魔導槍師「もちろんあくまで推測です」

武闘家「……お兄ちゃんは狙われてないの?」
403 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:30:30.36 ID:JW6mXUhYo

魔導槍師「刺客なんてものは全く寄ってきてくれませんねえ。私が強すぎて」

重斧士「おまえのところはどうなんだ」

聖騎士「時折面倒なのが来るな」

魔導槍師「そして、もう一つ推論をお教えしましょう」

魔導槍師「聖玉の結界はそう簡単に破れるものではないことは知っているでしょう」

武闘家「神様でもなきゃ無理よ」

魔導槍師「それが、そうでもないようなんですよ」

魔導槍師「聖玉は全て揃ってこそ強力な浄化封印の力を発揮します」

魔導槍師「七つより少なくても……そして、多くてもバランスが崩壊します」

魔導槍師「そして、六英雄の内三人は聖玉の波動を己の魔力に編み込んでいます」

魔導槍師「この意味がわかりますか」

武闘家「……父さん達か、その子供であるあたし達が結界に干渉することで、」

武闘家「結界のバランスが壊れるかもしれないってこと!?」

魔導槍師「ええ」

武闘家「でも、聖玉の波動を持っている人なら他にもたくさんいるじゃない」

武闘家「あたし達である必要ってあるの?」

魔導槍師「常人よりも魔力容量が大きくて丈夫ですからね」

魔導槍師「一般人よりも魔力の輝きが遥かに強いのですよ」

聖騎士「私は聖玉の波動を有していないのだが」

魔導槍師「そのため、あなたとあなたの兄弟は『優先順位が低い』そうですよ」

魔導槍師「おそらく前者の理由で狙われているのでしょう」
404 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:31:10.05 ID:JW6mXUhYo

魔導槍師「ですので、決してあなた方は彼等に捕まるわけにはいきません」

重斧士「……カナリアを保護する話ばっかりしてたが、」

重斧士「ほんとはエリウスの奴も守らなきゃいけねえんじゃねえか?」

魔導槍師「その通りですとも」

魔導槍師「しかし、先程言った通り彼は人智を超えた謎の力を得たようですからね」

魔導槍師「彼一人でしたら、植物の存在しない場所にでも行かない限りは大丈夫でしょう」

俺に何かあったら植物達が困ることになる。
おそらく精霊達が力を貸してくれるだろう。

魔導槍師「カナリア」

武闘家「何?」

魔導槍師「このお兄ちゃんマークのお守りを片時も離さずに持っていてください」

魔導槍師「やっぱり心配ですからねー、色々な意味で」

武闘家「…………」

魔導槍師「それと……」

アーさんは窓際にカナリアを引き寄せて、他の奴等に声が届かないように話した。
つっても俺には聞こえてるんだが。……わざと聞こえるようにしてんのか?

アーさんは魔感力がとんでもなく冴えている。俺の母さんと同じくらいかそれ以上だ。
俺が聞いていることくらい感づいているかもしれない。
405 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:32:14.82 ID:JW6mXUhYo

魔導槍師「嫁入り前の大切な体なのですから、決して間違いを犯してはなりません」

武闘家「…………」

少なくとも俺とは起こしようがねえよ。ガウェインはどうか知らんが。

魔導槍師「何度も言いますが、彼にはあまり深入りしないように」

魔導槍師「……彼の脳機能の偏りさえなければ、静観することもできたのですけどね」

魔導槍師「昔よりはだいぶ会話ができるようになったようですが……」

武闘家「妹の心配するより先に自分の将来の心配しなさいよ!」

アーさんは再びカナリアに殴られて意識を失った。




魔剣士「もしもし、アウロラ」

長女『どうしたの、兄さん』

魔剣士「彼氏と……上手くいってるか?」

長女『いつも通りよ』

魔剣士「……向こうの親御さんから、何か言われたりしてないか?」

長女『? いいえ。時々彼の実家に遊びに行くけど、普通に仲良く喋ってるわ』

長女『どうしたの?』

魔剣士「いいや……それならいいんだ。ぐーてなはと」
406 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:32:43.99 ID:JW6mXUhYo

携帯の電源を落としたところで、白い月明かりの中からユキが現れた。

魔剣士「……!」

白緑の少女「お久しぶりです、エリウスさん」

彼女の名前を呼ぼうとしたところで、俺は口をつぐんだ。
自分に自信を持てない。

俺の嫌いな考え方だが、
どうしても「俺なんかが、この子と会っていいのだろうか」と思ってしまった。

白緑の少女「……どうされました?」

彼女の顔を見たくて仕方がないのに、直視できない。
好きな子の前でくらいかっこつけたいのにな。

白緑の少女「……何か、心配なことがあるのですね」

実体化した彼女の手が、俺の左手を覆った。

以前よりもはっきりと彼女の存在を感じ取れた。
鏡を見なくたってわかる。俺の顔は今真っ赤になっている。
407 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:33:09.73 ID:JW6mXUhYo

魔剣士「……ねえ、俺と喋ってて、違和感ない?」

魔剣士「ズレてるとか、会話が噛み合ってないとか、はっきりモノを言い過ぎとか……」

白緑の少女「?」

魔剣士「俺っ、普通の人間と……頭の作りが違っててさっ……」

魔剣士「そ、それでも、百人に一人くらいはいるらしいんだけどっ」

魔剣士「あ、これはデンドロフィリアであることとはまた別の話で、その……」

白緑の少女「……私は人間ですらありません。大丈夫ですよ」

そりゃそうだ。彼女は樹の精霊なんだ。
俺何言ってんだろ。だめだもう。

白緑の少女「あなたが心根の優しい人だということはよくわかっていますよ」

白緑の少女「細かいことは気にしません」

魔剣士「……俺、わがままだよ」

白緑の少女「いいえ。ただ、ちょっと不器用なだけ」
408 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:33:35.62 ID:JW6mXUhYo

ユキは、俺のことを肯定してくれる。父さんみたいに。
それが嬉しくて、苦しかった。

――
――――――――

『なあ、エリウス。モニカちゃんを泣かせたってのは本当か』

父さんが屈みこんで俺に問いかけた。

『……とろいから、みんなに置いてかれるんだって、言っただけ』

悪いことをした自覚はなかった。でも、俺は父さんの顔を見れなくて、俯いていた。

『置いてけぼりにされたくないなら、すばやく行動すればいいじゃん』

『あのなあ。人には、それぞれスピードがあるんだ。おまえにだって不得意なことくらいあるだろう』

父さんは、俺を厳しい口調では叱らなかった。

『ゆっくりな子がいたら、おまえが助けてやればいい。それが優しさだ』
409 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:34:55.31 ID:JW6mXUhYo

『エリウス、その鉢植えのこと、大事だろ』

花屋に行った時、俺が欲しがっているのを察して父さんが買ってくれた鉢植えだった。

『その苗のことを他人から馬鹿にされたりしたら、絶対嫌だろ。仮に言われたことが本当のことだったとしても』

俺は頷いた。

『本当のことでも、あんまりはっきり言われると、心は傷つくんだよ』

そう言われて、俺は漸く自分が酷いことをしたことに気がついた。

『そうやって泣けるなら、おまえは大丈夫だ。ちゃんと人の心を持ってる』

父さんは、笑って俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。

『今度モニカちゃんに会った時は、ちゃんと謝れるな?』

他人の立場に立って考える能力が欠けている俺に対し、
父さんは俺にもわかるように諭してくれた。他の大人は頭ごなしに叱るばかりだった。


「そんなことしちゃだめだ」「どうしてできないんだ」

飽きるほど聞いた叱り文句だ。そんなこと言われたって、俺には理解できない。
好きでこんな頭に生まれてきたわけじゃない。

――――――――
――
410 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:35:49.16 ID:JW6mXUhYo

魔剣士「……人と共感できない、他人の気持ちがわからない、」

魔剣士「わがままな子だって、俺、小さい頃から、ずっと……」

具体的に説明されるまでは、他人の気持ちを理解できないことはたくさんあった。
経験を積むごとにマシにはなっても、いまだに治りきらない。

白緑の少女「あなたは、共感性がないわけではありません」

白緑の少女「人も、精霊も、自分と似ていない相手に共感するのは難しいのです」

白緑の少女「きっと、あなたは、たまたま自分と似ている人が近くにいなかっただけ」

魔剣士「…………」

白緑の少女「……エリウスさん!」

彼女に名前を呼ばれて、俺はやっと彼女を見つめ返した。


――――――――

武闘家「……エリウス」

武闘家「あ……」

武闘家「……………………」

――――――――
411 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:36:52.01 ID:JW6mXUhYo

浅緑の瞳が優しく微笑んでいる。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。

白緑の少女「……あら、この、琥珀は…………」

魔剣士「あ、ああ……しばらく前に手に入れたんだ」

魔剣士「不思議なほど俺の魔力と相性がよくて……」

白緑の少女「…………嘘」

彼女はひどく困惑しているようだった。

白緑の少女「……少しだけ、あなたの胸に手を触れさせてもらえませんか」

魔剣士「い……い、けど」

ユキの右手が俺の胸の中央に触れた。
そして、服と体表をすり抜け、俺の心臓部に……魂のすぐ傍に這入りこんでくる。

魔剣士「ん……」

好きな子の精神体が俺の中に這入っている。
その手から漏れる彼女の魔力が、僅かに俺の魔力と反応を起こしている。
ちょっと苦しい。でも、嬉しい。喜んでいいことなのかどうかもわからないけれど。
412 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:37:21.71 ID:JW6mXUhYo

魔剣士「はあ、は……はぁ……」

ゆっくりと彼女の手が引き抜かれた。

白緑の少女「……そんな」

ユキの目から大粒の涙が溢れた。
俺はあっけにとられて何も言えなかった。

白緑の少女「ああ…………」

彼女はすがりつくように俺の胸へ飛び込んだ。

魔剣士「…………!?」

嗚咽を漏らす彼女の背を、俺はおそるおそる撫でる。
一体どうしたのだろう。

しばらくすると、彼女は顔を上げ、悲しみに溢れた表情で俺を見つめた。

魔剣士「……ユキ?」

最後に、彼女は俺の首に腕を回すと、月明かりに融けて消えていった。
413 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:38:07.58 ID:JW6mXUhYo

――――――――
――

旅館の主人「この壺に合うよう、豪華ながら気品のあるデザインを手掛けて頂きたい」

じいちゃんが作った歪な壺じゃねえか。
そういえば、この旅館の雰囲気は、じいちゃんの取引先の民族のものとよく似ている。

旅館の主人「魔王が倒される前あたりから『侘び・寂び』文化がじわじわと人気を高めていったのですが、」

旅館の主人「私はそれ以前からこの文化が好きでして」

旅館の主人「この壺に出会った時はもう運命だと」

魔剣士「……けっこうお高かったんじゃあ」

旅館の主人「はっはっは。妻にちょこっと叱られた程度のお値段ですよ」

旅館の主人や従業員と一緒に町に出向いて花を仕入れた。

一本一本生けていく。

じいちゃんの作品にはガキの頃から何度も花を生けてるんだ。
どんな花や葉と組み合わせたら出来のいい作品が作れるのかは感覚が覚えている。
414 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:38:44.09 ID:JW6mXUhYo

違う種類の花と葉、枝を組み合わせることで、
ありのままの姿とはまた違った魅力を生み出すことができるんだ。

料理と似ているかもしれない。

旅館の主人「……お孫さんに花を生けていただけるなんてもうほんと運命です」

緊張で手が震える。最後の一本を挿す瞬間がなんとも気持ちがいい。

魔剣士「……こんなもんで、どうですかね」

旅館の主人「素晴らしいです、本当に。ありがとうございます」

旅館の主人「これで気持ち良くお客様をおもてなしすることができます」

泣いて喜ばれた。
俺なんかでも、人の役に立てるんだな。


喜んでもらえたことが嬉しかった。
415 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/15(月) 18:39:28.61 ID:JW6mXUhYo
kokomade
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/15(月) 18:42:11.65 ID:F6Je/ygko
乙っ
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