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魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」
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453 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:39:43.76 ID:2eCgujgHo
第十六株 マジナイ―呪い―ノロイ
歌姫「これは二千年程昔にこの地方の魔術師の間で流行していた暗号ですのよぉ」
歌姫「少々製作者のオリジナリティが入っているようですけれど、」
歌姫「解読に大した時間は要しませんでしたわぁ! ぉおーっほっほっほっほっ!」
いちいち上がる語尾がなんとも耳障りだ。
司祭「助かりました……ありがとうございます」
巫女「よかったです……ふぇぇぇ……」
司祭「こちらは村で採れた野菜です。どうぞ」
歌姫「エリウス! 久々にあなたの料理を頂いて差し上げますわ!」
魔剣士「言われなくても作るっての……」
454 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:40:42.11 ID:2eCgujgHo
武闘家「……首を突っ込んだのはあたしだったのに、また何も手伝えなかった」
重斧士「まああいつ色々できるし、なんだかんだで人脈あるみてえだからな」
武闘家「なんだか情けないわ」
歌姫「ふう。美味ですわ」
魔剣士「そりゃどうも」
歌姫「あなたから料理の腕を取ったら顔と学力と地位と名誉と財力と謎の能力しか残りませんものね」
重斧士「充分じゃねえか……?」
武闘家「…………」
歌姫「ご馳走様でした。ヴォイストレーニングをして参りますわ」
歌姫「あ・あ・あぁ〜〜」
重斧士「なあ、女装してた時のおまえとあの子の話し方、そっくりじゃねえか?」
魔剣士「そりゃあいつをモデルにしたからな」
魔剣士「あいつみたいに高慢に振る舞うことでストレスを発散したかったんだ」
重斧士「なるほど」
武闘家「ふうん……」
455 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:41:28.71 ID:2eCgujgHo
魔剣士「……別にあいつとは何もないからな」
魔剣士「あいつの親父さんと俺の母さんが仲良くて、顔を合わせる機会が多かっただけだ」
歌姫「ああ、そうですわ」
歌姫「城下町まで送ってくださります?」
魔剣士「元々行くつもりだったからいいけど、俺達と一緒だとあぶねえよ」
魔剣士「オディウム教の連中にたまによく襲われてっから」
歌姫「それならお役に立てると思いますわよ」
歌姫「しばらく前、古代の文献に記された不思議な術を発見しましたの」
歌姫「音楽と魔導が融合した“魔奏術”」
歌姫「己の魔力により、音楽の持つ“心を動かす力”を大幅に増幅することができますわ」
歌姫「音を楽しむ感受性がある者の心はあたくしの思うがまま! おおーっほっほ」
歌姫「敵の戦意なんて地の底に沈めて差し上げますわぁ!」
魔剣士「下手な洗脳術より恐ろしいな」
歌姫「あなたには効かなさそうですわね」
魔剣士「うっせ」
魔剣士「つかおまえ、事務所のボディガード連れてこなかったのか?」
456 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:42:02.68 ID:2eCgujgHo
歌姫「事務所とは喧嘩いたしました」
魔剣士「え、なんで?」
歌姫「魔奏術を芸能活動に使えと言われましたの」
魔剣士「使えば人気上げ放題だろうな」
歌姫「あたくし、歌には誇りを持ってますのよ」
歌姫「枕営業などは一切行わず、実力で輝いてきました」
歌姫「特殊な術を用いたインチキなんてプライドが許しませんわ」
歌姫「これからはフリーランスで活躍してみせます」
高慢ちきの酷い性格の女ではあるが、実力はあるし努力家であることは確かだ。
――森の中
物騒な恰好をした連中が現れた。
歌姫「鎮静の旋律<クワイエット・メロディ>」
歌姫「〜〜〜〜〜〜♪」
クレイオーは術を発動した状態で歌った。
457 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:42:35.42 ID:2eCgujgHo
「何故俺は武器なんて持ってるんだろう……?」
「なんか……眠いな……」
「襲おうとしてごめんなさい……!」
武闘家「綺麗な歌声……」
大男「何攻撃やめてんだゴルァアアアア!」
歌姫「まあ」
魔剣士「はっ!」
近くの木に魔力を与え、枝で大男を殴ってもらった。
歌姫「やっぱり音楽を嗜まない粗暴な人間には効きませんのね。残念ですわ」
重斧士「敵の数を大幅に削ってくれるだけでもありがてえよ」
歌姫「エリウス、あなた食べたわけでもない植物も操れるようになりましたのね」
魔剣士「操ってるわけじゃない。お願いを聞いてもらってるだけだ」
458 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:44:54.87 ID:2eCgujgHo
生命の結晶との融合率が上がり、精霊に与えることのできる力の種類が随分増えた。
精霊が俺の代わりに魔術を発動してくれるおかげで攻撃範囲が大幅に広くなったし、
植物本体を動かしてもらうこともできる。
ただし魔力の消費量は多い。
――城下町
歌姫「では約束通りお買い物に付き合っていただきます」
魔剣士「こいつらも一緒でいいか?」
魔剣士「二人きりだとそれはそれで面倒なんだよ」
歌姫「あら。せえっかくこのあたくしとでぇとする好機ですのにぃ?」
魔剣士「冗談もほどほどにしろよおまえ」
459 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:45:46.36 ID:2eCgujgHo
魔剣士「おまえと一緒に歩いたせいであらぬ噂を立てられたり」
魔剣士「パパラッチに写真取られたりゴシップ誌にとんでもねえこと書かれたり」
魔剣士「俺が散々な目に遭わされてきたのを忘れたか」
歌姫「あなたこそ女避けができて好都合でしたでしょ」
魔剣士「それもそうだが……」
歌姫「仕方ありませんわね」
魔剣士「俺が非力なの知っててこんだけ荷物持たせるとはおまえほんと鬼畜だよな」
歌姫「鍛えて差し上げてますのよ。感謝なさい……って」
歌姫「あらあらあら?」
歌姫「以前よりは逞しくなったようですわね?」
ぺたぺた体を触られた。
歌姫「……あら? 女性化乳房なら病院に行くことをお勧めいたしますわよ……」
魔剣士「ほっとけ!!」
歌姫「ヤバい病気だったらどうしますの」
歌姫「肝機能の低下か乳がんか精巣腫瘍が原因かもしれなくてよ」
魔剣士「ホルモンバランスが崩れてるだけだから!!」
距離感が近過ぎて嫌になるが、あまり拒絶し過ぎて怒らせても面倒なことになる。
武闘家「……いくら幼馴染でも、付き合っていないのにこんなに触るものかしら」
重斧士「ま、まあ、兄妹みたいな感覚なんじゃねえか?」
460 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:46:55.47 ID:2eCgujgHo
歌姫「胸筋かと思ったら脂肪だったなんてとんだ詐欺ですわー」
テストステロンを増やすために筋トレは欠かさず行っているが、
鍛えられた胸筋によって脂肪が底上げされてしまった。
筋トレしたところで胸の脂肪が落ちるわけではなかったのだ。
完全にミスった。当分腕立て伏せはやらんぞ。
一応服を着ていれば目立たない程度ではある。
歌姫「次のお店に行きますわよおっぱい男」
魔剣士「て、てめえ……」
殴りてえ……。
おもしろキャラとして愛されているアポロン先生とは違い、
こいつはただただ性格が悪い。
「おい……あれハルモニアじゃないか?」
「ち、近くで見るとほんと美人だな……」
「すげえぼんっきゅっぼんだぞ」
「くそっ、声かけたいのにでけえ男が二人も傍に……」
記者「すみませ〜ん、わたくし、月刊ファッション誌FUNFUNの記者なんですけど、」
記者「今、美男美女カップルにインタビューをお願いしてまして〜」
461 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:47:24.66 ID:2eCgujgHo
歌姫「あら」
記者「お二人はいつからお付き合いなさってるんです?」
魔剣士「付き合ってねえよ」
歌姫「この男はただの召使いでしてよ! おぉ〜っほっほっほ」
武闘家「……ちょっと、あなたエリウスのこと馬鹿にしすぎじゃない!?」
武闘家「それに、周囲の人から誤解されないようにもうちょっと離れて歩いたら!?」
歌姫「んっふ……あなた、もしかして……こいつに気がありますの?」
武闘家「なっ……」
魔剣士「ちょっ」
記者「あ、いいですね〜この修羅場……記事にはできませんけど……」
クレイオーに腕を組まれた。
こいつ、カナリアを挑発してやがる。
歌姫「やめときなさいなぁ、こんなド変態」
歌姫「大学では毎年残念なイケメンランキング一位に輝いているような男なんですのよ?」
462 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:48:02.27 ID:2eCgujgHo
武闘家「べ、べ、別にあたしはっ……」
歌姫「あら……もしかして本当に?」
武闘家「……エリウスは、いいところだって、いっぱいあるしっ……」
歌姫「知ってますわよ? お・さ・な・な・じ・みですもの」
歌姫「他人との意思の疎通が極端に下手なせいで捻くれちゃってますけれど、」
歌姫「根は優しいですわ、この男」
歌姫「で・もぉ」
歌姫「昔馴染みでもないとぉ、エリウスは操縦しきれませんわぁ!」
魔剣士「いい加減にしろクレイオー! おふざけが過ぎるぞ」
武闘家「操縦って……人を乗り物みたいに……!」
歌姫「『夫を操縦する』って、言いますでしょ? おぉ〜っほっほ」
魔剣士「っだーもう! ほら、さっさと行くぞ!」
こんなことを言っているが、クレイオーは決して俺に気があるわけではない。
カナリアを嫉妬させて楽しんでいるだけだ。
それはとんでもない地雷だってのに。
重斧士「……やれやれだな、まったく」
463 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:48:54.96 ID:2eCgujgHo
歌姫「この服、似合いますかしら」
魔剣士「あーうんそのくらい派手なのがおまえには似合ってるよ」
店員「彼氏さんはこちらの服いかがです?」
魔剣士「だから彼氏じゃねえって。それに俺そういうV系の服着ねえから……」
店員「似合いそうですのに」
歌姫「試着するだけしてみなさい」
めんどくせえ……。
魔剣士「おらどうだ」
店員「まあ! メイクまでバッチリ!」
V系メイクを携帯で検索し、短時間で仕上げた。
目元から頬にかけてはヴィンテージなアートメイクを施してある。
歌姫「ふっ……ふふっ……」
歌姫「似合いすぎて笑ってしまいますわ……あははは……!」
魔剣士「どうだガウェイン。いつにも増して美しいだろう」
重斧士「デビューしちまえよもう」
武闘家「……ノリノリじゃない」
464 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:49:31.73 ID:2eCgujgHo
結局V系の服は着たまま購入した。
歌姫「この街には、自由にストリートライブを行っていい区画がありますの」
歌姫「久々にやりますわよ」
魔剣士「買い物に付き合ったんだからもういいだろ……」
魔剣士「つうかこの恰好で俺にオカリナを吹けと」
V系のスタイルでオカリナは……アリなのだろうか? ミスマッチすぎないか?
歌姫「……ギターか何かできませんの?」
魔剣士「俺がオカリナとリコーダーしかできねえのは知ってんだろ」
歌姫「…………」
魔剣士「どうしても俺に伴奏やらせてえなら女装してきていいか?」
魔剣士「やっぱ男女二人組の状態で目立ちたくねえし」
歌姫「……いいですわよ。精々あたくしの引き立て役になってくださいな」
465 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:50:14.36 ID:2eCgujgHo
濃いものの静かそうな印象を与えるメイクに変え、長髪のウィッグを被った。
ドレスは清楚な青系だ。
クレイオーが高飛車系お嬢様だからキャラを分けた方がいいだろう。
そう思っておしとやか系お嬢様キャラになってみることにしたのだ。
魔剣士♀「どうかしら」
歌姫「!?」
歌姫「……ヒョロガリウスのくせに生意気ですわ」
何故俺がオカリナを吹けるか?
生け花と同じ理由で母さんに習わさせられていたからだ。
最初は真面目にやるつもりが全くなかったのだが、
父さんが木製のオカリナを買ってくれてからは練習するようになった。
魔剣士♀「学際の時に演奏した曲でいいかしら?」
歌姫「ええ」
歌姫「さあ皆様! 注目なさぁい! 麗しき彗星☆ハルモニアの歌が響きますわよ!」
「なんだなんだ?」
「うっわすごい美女二人組だぞ」
「ハルモニアたんは知ってるけど後ろの子は何者だ?」
466 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:52:31.50 ID:2eCgujgHo
感受性はどうか知らんがテクニックだけは身についた。
上手いけど気持ちが籠ってないのよねえと先生には言われたっけな。
流石に伴奏がオカリナだけじゃ弱いから、ピアノの録音を再生する。
歌姫「あさーつーゆーに映えーる閃光〜♪」
魔剣士「……〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
重斧士「あいつのオカリナテクすげえな」
武闘家「息、ぴったりだわ」
重斧士「ええと…………」
武闘家「……あたし、そこのお店見てくるわね」
重斧士「俺も一緒に行くぞ!」
重斧士「カナリア…………!」
重斧士「…………おかしいな。一瞬で見失っちまった」
――――――――
あれ? ここ、何処……?
人混みに押されて、気づかない内に変なところに迷い込んじゃったのかしら。
武闘家「…………はあ」
わかってる。あの二人は別に好きあってるわけじゃない。
でも、嫉妬心は抑えようがなかった。
467 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:53:39.03 ID:2eCgujgHo
あの子はあたしよりもずっと美人だ。スタイルもいい。
筋肉で引き締まった硬いこの体と違って、女の子らしい柔らかさがある。
気まずくなっちゃったあたしと違って、あいつに好きなだけ近づいて好きなだけ会話してる。
あたしの知らないあいつのことをたくさん知ってる。
あたしとあいつが過ごした時間よりも、
あの子とあいつが過ごした時間の方が、ずっと長い。
……はっきり振られている以上、あたしにはもう何もできることなんてないのに。
振られても、それでも一緒にいたかった。
だから、ついてきた。
でも、この頃なかなか会話が噛み合わないし、
話しかけても、まともに話せる自信がなくて引いてしまうことも多い。
告白してすっきりするはずだったのに、おかしいな。
苦しいよ。
占い師「そこのあなた」
武闘家「……あたし?」
468 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:54:35.96 ID:2eCgujgHo
占い師「恋の悩みを抱えているようですね」
武闘家「…………」
占い師「失恋の色が出ています」
占い師「状況を好転させたくはありませんか?」
武闘家「そりゃ、そうだけれど……」
あたしはあまり占いなんかには頼らない方だ。
でも今は、なんの確実性もないものに対しても縋りたくて堪らない。そんな気分だ。
気休めが欲しい。
占い師「深呼吸をして、気持ちを落ち着けてください」
占い師「あなたの好きな方は、どんな方ですか」
武闘家「……器用なのに不器用で、あたしに異性としての興味は全くなくて、」
武闘家「でも、友達としては大事にしてくれる人」
占い師「あなたは、彼を振り向かせるために、どのような努力をしてきましたか?」
武闘家「っ……」
武闘家「努力したって、無駄だもの」
武闘家「あいつのために料理したり、あいつのしたいことを手伝ったりはしたけど……」
469 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:55:10.36 ID:2eCgujgHo
占い師「ふむ」
占い師「恋愛は駆け引きです。“押し”と“引き”の加減が重要なのですよ」
武闘家「もう何やったって駄目よ。告白して振られてるんだもの」
占い師「告白してからが勝負ですよ!」
占い師「気持ちを伝えられたら、相手はあなたのことを意識せずにはいられなくなるものです」
占い師「これからのあなたの行動次第で、彼はあなたに好意を寄せるようになります」
武闘家「そう……かしら」
占い師「これから、あなたにまじないをかけましょう」
占い師「まじないが、“押すべき時”と“引くべき時”をあなたに教えてくれるのです」
武闘家「でも、あたし、この気持ち……早く忘れたいの」
武闘家「ただ、友達としてあいつと付き合っていけたら、って……」
占い師「でも、まだ好きなのでしょう?」
占い師「このまじないは、“引くべき時”に完全に気持ちを抑えてくれます」
占い師「普段は恋の苦しみを感じずに済むようになるのですよ」
武闘家「本当に……?」
470 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:56:29.06 ID:2eCgujgHo
占い師「目を閉じて。魔力を解放し、心を無にしてください」
武闘家「…………」
占い師「そうです。儀式が終わるまで、その目を開けてはなりませんよ」
占い師「くくく……」
占い師「もう大丈夫ですよ。あなたに、この愛の箱をお渡しします」
占い師「“押すべき時”に、あなたは自ずとこの箱を開けるでしょう」
重斧士「カナリア! ここにいたのか」
重斧士「こんなに近くにいたのになんで気づかなかったんだろうな……まあいいか」
武闘家「…………」
重斧士「……大丈夫か?」
武闘家「ごめんなさい。ちょっとぼうっとしちゃって。平気よ」
471 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:57:13.14 ID:2eCgujgHo
――――――――
魔剣士♀「大丈夫ですか?」
占い師「う……」
占い師「あれ……私は一体……」
魔剣士♀「ここで気を失っていたのですよ」
魔剣士♀「病院までお送りしましょうか?」
占い師「い、いえ! だだだ大丈夫です!」
占い師「こんなに美しい女性のお手を煩わせるわけには参りません!!」
魔剣士♀「まあ」
歌姫「キモいですわ」
歌姫「では、あたくしはここで」
魔剣士「じゃあな。……疲れた」
472 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:57:50.22 ID:2eCgujgHo
武闘家「エリウス!」
重斧士「おーいたいた」
魔剣士「何処行ってたんだよおまえら。心配したじゃねえか」
カナリアがガウェインとくっついてくれたら気が楽になるんだけどな。
歌姫「あ、カナリアさん。ちょっといいかしら」
武闘家「なあに?」
歌姫「さっきは意地悪なことをたくさん言ってしまってごめんなさいね」
歌姫「あんまりにもあなたがウブくて可愛らしかったから、」
歌姫「ついついいじめたくなってしまいましたの」
武闘家「いいのよ。もう気にしてないから」
歌姫「!? ず、随分さばさばしてますのね」
歌姫「これはお詫びの品ですわ」
歌姫「運命の相手を引き寄せてくれる、魔法のブレスレットですのよ」
武闘家「ありがとう。あたし、絶対に幸せになるわ」
歌姫「素直な子ですこと……」
473 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 17:58:16.56 ID:2eCgujgHo
魔剣士「おまえ、なんか魔力に違和感あんだけど……」
武闘家「そう? うふふ。不思議な魔法にでもかかっちゃったのかしら」
微妙だけどなんか混じってるような……まあ気のせいか。
しかし妙に機嫌がいいな。
魔剣士「カナリアと何やってたんだ?」
重斧士「ちょっとこの辺歩いてただけだぞ」
魔剣士「ふうん」
携帯にメールが届いた。
プライベート用のでも仕事用のでもなく、大学のアドレス宛だ。
474 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 18:01:13.52 ID:2eCgujgHo
送信者:アポロン教授 “apollon.classic@uni-sunrise.ac.south”
うちの長女の婿になる気はないかね?
冗談じゃねえ。つか大学のメールで変なもん送ってくんなっての。
「非常に申し訳ございませんが俺好きな子いるんでお断りさせていただきます」
と送って携帯をスリープ状態にした。
武闘家「ねえエリウス」
魔剣士「ん?」
武闘家「んふ。なんでもないわ」
475 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/24(水) 18:01:43.82 ID:2eCgujgHo
kokomade
476 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/24(水) 22:43:52.19 ID:lCHMviqbO
乙
477 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/24(水) 22:49:12.79 ID:r5LlNh2jo
丸太とか馬鹿にされてるけど木の枝で殴ったら大質量攻撃だからかなり強いよね
478 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/25(木) 00:01:26.93 ID:/w0d41Fa0
アポロン先生の嫁どんな人なんだろうな
てか嫌な予感しかしない
479 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/25(木) 18:59:03.72 ID:u00JsKfPO
雄っぱい
480 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:32:18.16 ID:tIICa6pJo
第十七株 恋しいのは樹木の体温
――――――――
副官「隊長〜見てくださいよこのニュース〜」
そう言ってキャロルは俺にパソコンの画面を見せた。
リポーター『このアルテの町にハルモニア嬢が流星の如く現れました!』
リポーター『そして、彼女の傍らには……な、なんと! オカリナを操る謎の美女が!』
魔剣士♀『エリシアと申しますわ』
ブフォッ
昼飯のラーメンを吹いた。
戦士「げほっげほっ……何をやってるんだあいつは」
化粧をしていていつもと雰囲気が違うが、あのオカリナは確かに俺が買ってやったものだ。
副官「やっぱりエリウス君なんですね! 美人ですよね〜」
戦士「……息子が娘になってしまった」
副官「うふふ。あの子が国に帰ってきたら一緒にショッピングにでも行きたいです」
戦士「……なあ、おまえはいつからそうなんだ?」
副官「え?」
481 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:33:03.55 ID:tIICa6pJo
戦士「いつから女のように振る舞うようになったんだ?」
キャロルは何処からどう見ても線の細い女性なのだが、妻子持ちのれっきとした男だ。
副官「隊長ったらも〜! 私は生まれつきこうですよ〜」
戦士「……はあ」
エリウスがアキレスと同じ道を進んでしまわないか、俺はひどく心配になった。
――――――――
――とある町
オウム「コーンニッチハッ」
武闘家「きゃっ! オウムだわ。お喋り上手ね〜」
飼い主「とても賢いんですよ」
オウム「アァー! オマエ、見タコトアル〜ッ!」
魔剣士「え、俺?」
オウム「若鳥ダッタ頃〜ッ! ナハト、ナハト〜ッ!」
オウム「髪変ワッタ〜ッ! アァー!」
魔剣士「ええと……何年前の話だよ……?」
482 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:33:41.98 ID:tIICa6pJo
飼い主「この子、26歳なんです」
飼い主「もしかしたら、勇者ナハトを見たことがあったのかもしれませんね」
武闘家「長生きするのね……」
魔剣士「しかし、そんな昔のこと覚えてるもんか……?」
飼い主「この子、とんでもなく記憶力がいいんです。ふふ」
オウム「アァーーーー!」
重斧士「……なあ、もやし」
重斧士「オウムの舌って……アレに似てないか?」
魔剣士「あ? ……ああ」
飼い主「もしかしてアレのこと言ってます?」
重斧士「先端とか完全にカメさんみてえじゃねえか?」
魔剣士「そうだがおまえの発想なかなかお下品だな」
重斧士「だってそうだろ。どう見てもアレなんだからよ」
飼い主「禁句ですよ〜」
武闘家「なんの話してるの?」
魔剣士「男にだけぶら下がってるブツの話」
武闘家「……男の子ってどうしようもないわねー」
483 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:34:15.76 ID:tIICa6pJo
武闘家「ちょっとお花摘んでくるわね」
重斧士「花摘んで一体どうすんだ?」
魔剣士「遠回しにトイレに行くっつってんだよ」
重斧士「ああ……なるほどな」
通りすがり1「あぁー美女に逆レイプされてぇー」
通りすがり2「触ってくれるえっちな子いねえかなぁ〜」
通りすがり1「結界のおかげで性犯罪なんて都市伝説だしな〜……」
魔剣士「…………」
魔剣士「なあ、男って女にエロいことされたら絶対嬉しいもんなの?」
重斧士「逆レイプから生まれてきて見事にグレた俺に聞くのかそれ」
魔剣士「あっ……ごめん」
重斧士「まあ喜ぶ奴はいるだろうが、犯された側であるにも拘らず責任取らされて、」
重斧士「好きでもねえ女と結婚……なんてことになったら悲惨だよな」
重斧士「そこまで行かなくても、養育費要求されたりとかよ」
魔剣士「怖っ……」
484 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:34:44.46 ID:tIICa6pJo
重斧士「暴走族の仲間で、女がトラウマになってる奴がいるんだが」
重斧士「色々苦労したみてえだ」
魔剣士「……そうか。てっきり、俺がおかしいのかなって思っちまってたんだ」
重斧士「…………」
魔剣士「あ、いや、昔女に襲われそうになったことがあってさ」
魔剣士「衛兵沙汰になったんだが、親以外は誰も俺が嫌だったのを理解してくれなかったんだよ」
魔剣士「『美少年だから仕方ないのよ』だの、『お姉さんにサービスしてもらえてよかったね』だのと」
魔剣士「そんなんばっかだった」
性犯罪防止結界にはデメリットもある。
自動的に通報されるため、嫌でも被害に遭ったことが表沙汰になるのである。
……過保護な母さんが泣き喚いて暴れまくったのは説明するまでもない。
重斧士「ひでぇ目に遭ったな」
武闘家「おまたせ。行こっか」
485 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:35:36.54 ID:tIICa6pJo
魔剣士「この辺、ネジバナがたくさん咲いてるな」
可愛らしくてもうたまらない。萌え。
重斧士「俺の故郷じゃ見ねえ花だな」
武闘家「よく見たら、1つ1つがランの花みたいな形をしてるのね」
魔剣士「実際ラン科だしな」
魔剣士「雑草としてはたくさん生えてるが、栽培しようとすると意外と難しいんだ」
魔剣士「菌類と共生しててさ。菌との関係を壊すと枯れちまう」
植物は菌類と共生関係にある。
俺がモノによっては菌類を操ることができる理由がこれである。
操ることはできなくとも、ある程度耐性ができている菌類もある。
致死量の毒キノコを食べても多分死にはしないだろう。やはり種類によるが。
武闘家「エリウスって、植物のお話をしてる時はすごく楽しそうよね」
武闘家「いっぱい聞かせて?」
魔剣士「え……語っていいなら語るけど」
486 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:36:14.42 ID:tIICa6pJo
武闘家「これはなんて名前の草なの?」
魔剣士「ムラサキだ。来月には白い花を咲かせてるだろうな」
武闘家「ムラサキなのに、花は白いの?」
魔剣士「根っこが紫なんだよ。染料の原料だ。火傷の薬にもなる」
俺には語り始めたら止まらなくなる癖がある。
だが、カナリアが何故だか楽しそうに聞いてくれるものだから、三時間ほど語り続けてしまった。
とんでもなく喉は疲れたが気分はすっきりした。
気まずさはどっか行った。……楽しく会話できて正直嬉しい。仲間っていいもんだな。
魔術の類を使わないガウェインにも薬草のことをたくさん教えた。
武闘家「やっぱりすごいわね。こんなにたくさんのこと知ってて」
魔剣士「ま、まあ……俺には植物しかないからな」
頭も疲れた。ブドウ糖が足りてない感がある。
体から雑草を生やして光合成を行った。
重斧士「ある意味植物人間だよな」
487 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:37:59.20 ID:tIICa6pJo
植物は太陽光からエネルギーを得ている。
植物以外もこのエネルギーを利用できたらな……。
魔剣士「あ…………」
どうしてこんなに簡単なことに気がつかなかったのだろう。
魔力は波動だ。そして、光も波動だ。どちらも電磁波の一種である。
太陽光を他のエネルギーに変換し、
利用することができれば……魔力の大量消費社会を変えることができるかもしれない。
そうすれば、魔力不足の弊害を受けている植物は助けることができるだろう。
人は不便な生活には戻れない。
だから、植物から魔力を吸おうとしたり、
遠方から木材を運搬するのに必要な魔力が足りないために、近場の森を過剰に伐採したりしている。
だが、魔力不足が解消することにより更に工業化が進み、
環境破壊が行われてしまう可能性も否めない。
……俺一人で考えてもどうしようもない。とりあえずは大学にいる人間に話をしよう。
魔剣士「もしもしセド? おまえまだ大学にいるよな?」
学部生の頃に一般教養で同じ授業を取っていた魔導工学オタクのショタコン紳士に連絡を取った。
当時十二歳だった俺は気持ち悪いほどこいつに可愛がられた。
そのためあまり関わりたくはないのだが、他に連絡先を持っている工学部の知り合いはいないし、
頭脳は確かだ。
488 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:39:06.68 ID:tIICa6pJo
工学院生『久しぶりじゃないか。僕も君と同じ博士課程一年だよ。どうした?』
魔剣士「……っての思いついたんだが」
工学院生『君はやはり天才だな。面白いじゃないか。博士論文のネタはそれでいくよ』
この世界に生きる、あらゆる生物は共生関係にある。
上手く共存していく生き方を、人間は探さなければならない。
知能が高く、急激に社会を変化させ、環境に影響を与える存在だからこそ責任は重いんだ。
首に下げた琥珀を木漏れ日にかざした。
……日光で褪色しないよう、ちゃんと魔法で保護している。
こいつはどれほど昔の木だったのだろう。
人とは仲良くできていたのだろうか。どんな精霊が宿っていたのだろうか。
鉱物と同様、樹脂の化石である琥珀にも記憶が刻まれている。
この石の記憶、見てみてえな。
そう思った瞬間だった。
一瞬視界がホワイトアウトし、超古代時代の服を着た人間達が見えた。
――人間達よ…………この私を斬り払え!――
頭の中に響いたその言葉は、明らかに古い言語だったものの何故だか意味がわかった。
人間達はひどく戸惑っている様子だった。
489 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:39:33.26 ID:tIICa6pJo
……石の記憶を見ている時とは、やはり少し感覚が違った。
気のせいかもしれないのだが……。
武闘家「エリウス? 大丈夫?」
魔剣士「……ちょっと立ち眩みしちまっただけだ。平気」
なんだか、胸が苦しい。
ユキ、今頃どうしてるのかな。この前会った時はなんで泣いたのだろう。
俺が失言したからってわけではないようだったし……。
――――――――
――
数日後、森の中。
魔剣士「……あ、精霊に呼ばれた。ちょっとここで待機していてくれ」
桜精霊「ここの近くに建てられた工場から有毒ガスが出てて迷惑してるのよ」
桜精霊「だから、クレームをつけるために人との干渉能力が欲しいの」
桜精霊「……でも、あたし、元々持ってる力が小さいから、」
桜精霊「けっこうたくさんの質のいい魔力が欲しくて……」
魔剣士「……俺がそこに警告出すんじゃ駄目か?」
桜精霊「助かるけど、やっぱり精霊が直接文句言った方が人間ってビビッてくれるし……」
490 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:40:00.54 ID:tIICa6pJo
……犯された。相変わらず勃たねえから主に尻穴を。
朝立ちはあるのに、犯される時はほとんど反応しないあたりやはり心因性なのだろう。
偉そうな奴じゃなかったからそう腹は立たなかったが屈辱は屈辱だ。
魔剣士「……待たせたな」
重斧士「お疲れさん」
武闘家「……エリウス」
カナリアに押されて、木に追い詰められた。
魔剣士「お、おい……どうした?」
重斧士「っ……」
武闘家「あ……ごめんなさい」
武闘家「なんだか、あんまりにも色っぽくて、クラッときちゃって……」
魔剣士「……い、いくら俺が美しくても、理性は保てよ」
武闘家「どうしちゃったのかしら、あたし……」
重斧士「……疲れてるんじゃねえか? 今夜はゆっくり休めよ」
武闘家「…………うん」
ま、まあ、思春期は女も性欲ヤバいらしいしな……そういう時もあるだろう。
491 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:40:28.33 ID:tIICa6pJo
――――――――
――
数日後。
山を進むと、ガウェインの携帯が鳴った。
重斧士「……妹からだ」
重斧士「どうした」
重斧士「…………そうか。まあよろしく伝えといてくれ。まだ帰るつもりねえから」
魔剣士「なんだって?」
重斧士「親父が俺に会いたがってるんだとよ」
武闘家「帰らなくていいの?」
重斧士「おまえらを放って帰れるかよ」
魔剣士「……なんか申し訳ねえな。もう随分守ってもらってるし」
武闘家「ありがとね、ガウィ。でも、無理はしなくていいから」
重斧士「恩人と好きな女に何かあったら一生悔んじまうよ」
武闘家「あはは。……あたしのことは諦めてくれるとありがたいんだけど」
武闘家「そんなすぐに気持ちを切り替えるのなんて難しいわよね」
492 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:41:09.78 ID:tIICa6pJo
魔剣士「山小屋があって助かったな」
重斧士「看板立ってるぞ」
「
この小屋は2つの性犯罪防止結界の狭間に位置しており、
階段、2階B部屋、C部屋は結界外となっております。
この部屋をご利用になる際は、携帯型結界等の自衛手段をお持ちください。
管理人 」
魔剣士「まあ街道っつっても山中だしな」
2階B部屋以外には先客がいた。
間違いが起こることはないだろう。いつも通り三人で寝るだけだ。
武闘家「厨房、自由に使っていいみたい。晩御飯作ってくるね」
青い石「一日中お喋りしたら疲れちゃった」
俺が車を運転している間、モルはよくカナリアと喋っている。
事故りそうな道で、俺がカナリアと話す余裕がない時は特にそうだ。
でも、今日はいつも以上にたくさん喋ってたな。
魔剣士「起きすぎだ。寝ろよ」
青い石「そうするー。力を使いすぎるとこの世にいられなくなっちゃうし」
493 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:42:31.77 ID:tIICa6pJo
魔剣士「おまえ、料理の腕上げたよな」
武闘家「そう? よかったわ」
重斧士「いい嫁さんになれるぞ」
武闘家「んふふ」
魔剣士「じゃあもう寝るか。魔石灯消すぞ」
重斧士「ぐごが」
魔剣士「……えらい寝つきがいいな」
俺も寝台に横たわって眠りに落ちた。
494 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:43:27.36 ID:tIICa6pJo
違和感で目を覚ました。
俺の右膝に何かが激しく擦りつけられている。
武闘家「んっ……はぁっ……あっ……」
魔剣士「……!?」
……カナリアが、己の股を下着越しに俺の膝に擦りつけていた。
湿った熱が伝わってくる。
魔剣士「ななな何やってんだよ!!」
明らかに様子がおかしい。
武闘家「う……はあ…………好きな人とえっちなことしたいって思うのって、」
武闘家「別におかしいことじゃないでしょ?」
魔剣士「い、いや待てよちょっと」
カナリアは腰を止めた。
武闘家「あなた、植物と……やらしいことしてるんじゃない?」
魔剣士「え……」
495 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/25(木) 20:45:19.41 ID:tIICa6pJo
武闘家「ガウィが言ってたこと、気になるのよね」
武闘家「カマ掘られた人の歩き方がどうとか、体が女性化していった人のこととか……」
魔剣士「…………」
武闘家「ねえ……どうなの?」
魔剣士「……好きでやってるわけじゃない」
武闘家「でも、どうせ喜んでるんでしょ?」
魔剣士「っ……」
あいつらは加減を知らない。
悪気がないにしても、乱暴にされるし、強く触られすぎてすげえ苦しかったりするし……。
ナチュラルに人間を見下してる奴や、気が立ってる奴なんかに犯される時なんて最悪だ。
死んでもおかしくないくらい激しくされちまう。
精霊との行為を嬉しいと思える余裕なんてない。
496 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:46:50.58 ID:tIICa6pJo
武闘家「あたしだってあなたと気持ちよくなりたいの」
魔剣士「でも、こんなの、駄目だって」
どうにかして逃げないと……っ!?
両腕を掴まれた。腕力ではカナリアに敵わない。
魔剣士「おい!」
隣で寝ているガウェインに目をやった。
武闘家「ガウィなら起きないわよ。一服盛っちゃったもの」
魔剣士「モル! 起きろ!」
武闘家「……起きないようにするために、いっぱいいっぱいお喋りしたのよ」
武闘家「万が一、あなたの魔力で叩き起こされないようカバーも被せてあるし」
窓際に置いたアウィナイトは、薄く青い透明な物で覆われていた。
魔剣士「や……やめろ……」
武闘家「ふぅ、んっ……あはは……」
首筋を吸われた。
涙が滲んでくる。
魔剣士「……今、やめてくれたら、ま、だ、なかったことにしてやれる」
魔剣士「だから、やめっ……」
武闘家「やめるわけないでしょ?」
497 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:48:03.46 ID:tIICa6pJo
魔術でどうにか抵抗を……駄目だ、性的快楽に魔力の流れを阻害されて発動できない。
精神も乱れている。
性犯罪防止結界は……そうだ、適用範囲外なんだ。
魔剣士「うっ……」
武闘家「乳首、元からこんなに敏感だったの?」
武闘家「それとも、精霊に触られて感じやすくなっちゃった?」
乳首が目立たないように貼っていた絆創膏を剥がされ、少し強めに抓まれた。
魔剣士「かな、りあ」
武闘家「……男の子らしさを取り戻すのを手伝ってあげたのに、」
武闘家「あなた、女装なんてしてくれちゃったわよね」
武闘家「……そういえば、あなた、男の子でいる意味あるの?」
武闘家「人間は愛せないんでしょ」
武闘家「どうせ一生独り身なんでしょ」
武闘家「……ねえ、エリウス」
武闘家「あなた、いっそのこと……別に女の子になっちゃっても、いいわよね?」
嫌だ。
ユキが純粋な女の子だから、俺は男でありたい。
女装はしたけど別に本当に女になりたいわけじゃない。
ただ、自分じゃない何かになりきって現実逃避をしたくなる時があるだけなんだ。
498 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:49:12.24 ID:tIICa6pJo
武闘家「あたしの男の子になってくれないのなら、」
武闘家「女の子として玩具にしてあげるわ」
怖くてもう言葉が喉につっかえて出てこない。
やだよ。
武闘家「豊胸マッサージでもしてあげようか?」
ニヤニヤ笑いながら、カナリアは俺の胸を揉みしだいた。
嫌だ。これ以上でかくなったら服を着てても完全に目立っちまう。
やめてくれ。
拒絶の言葉を吐き出したくても、俺の口から漏れ出てくるのは、
快楽に反応する嬌声だけだ。
武闘家「あ、もし逃げようとしたら」
玉をガシッと捕まれた。
武闘家「容赦しないから」
息子を人質にとられて抵抗できるはずがない。
499 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:50:58.96 ID:tIICa6pJo
声、抑えねえと他の部屋に泊まっている客に聞こえちまう。
武闘家「あはっ……我慢してるの、すっごく可愛い」
武闘家「男の子の乳首でも、こんなに硬くなるものなのね。びっくりしちゃった」
勃起しきった俺の乳首を、こいつは舌で転がしながら股間を俺の体に再び擦りつけた。
そしてしばらくすると、自分の下着を下ろし、直に俺の膝に当てる。
武闘家「あっん、はあっ……」
何十回も腰を振り続ける。俺の脚がこいつの愛液で穢される。
樹液塗れにされる方がよっぽどマシだ。
武闘家「あっ……!」
大きく体を反らせ、絶頂したようだ。
武闘家「ふう、はあ……」
乳首責めを再開された。
あ、駄目だ、イくっ……。
武闘家「え、嘘……今、もしかしてイッちゃった?」
精霊達にとって、俺が絶頂しやすい身体の方が都合がいい。
すっかりイキ癖をつけられてしまった。ディープキスだけでも絶頂することがある。
500 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:52:18.44 ID:tIICa6pJo
下着ごと半ズボンを下された。
武闘家「ここ、寝てる間はおっきくなってたのにな」
武闘家「やっぱりあたし相手じゃ勃たない?」
今は誰に対しても勃たねえんだよ。
武闘家「……あたし、人間の女の子としては綺麗な方よね」
武闘家「大抵の男の子なら喜んでくれると思うんだけどなあ」
武闘家「……それなのに、これ、使い物にならないんじゃ、」
竿を握られた。痛い。
武闘家「あなた、本当に男失格よね」
尊厳が圧し折られる痛みが脳内で鳴ったような気がした。
思いっきり頭を殴られた気分だ。
武闘家「やっぱりあなたは、女の子みたいにされるのがお似合いよ」
一瞬の内に腰を持ち上げられ、腰と寝台の間に枕を挟まれた。
何する気だこいつ。
501 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:52:52.50 ID:tIICa6pJo
武闘家「さあ……もっと気持ちよくしてあげるわ」
カナリアは小瓶の蓋を開けた。……ローションだ。なんでそんなもん持ってんだ。
俺は現実から目を背けようと、壁に視線を向けた。
……怪しい箱が床に置かれている。
中には、たくさんの淫具や得体のしれない薬が詰め込まれていた。
武闘家「占い師さんからもらったのよ」
嘘だろ……。
玉の後ろから肛門にかけて、たっぷりと液を垂らされた。
そしてこいつは、しっかり医療用手袋をはめて指を突っ込んできた。
魔剣士「んぐっ……」
強烈な違和感に襲われる。
魔剣士「あっ、ぐ……ゃ、め……ぉ…………」
502 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:53:21.76 ID:tIICa6pJo
武闘家「ここ、いつも犯されてるんでしょ?」
武闘家「減るもんじゃなし。あたしだって好きにしていいじゃない」
一本一本、侵入する指を増やされる。
武闘家「あははは、感じちゃう?」
嫌でも反応してしまう自分の身体を許せない。
魔剣士「あぁ……あああぁぁぁぁ……」
前立腺をゴリゴリ押された。
武闘家「お魚みたいに跳ねちゃって」
脚がガクガクする。
503 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:53:47.56 ID:tIICa6pJo
カナリアは歪な形をした張り型を取り出すと、俺の穴にあてがった。
武闘家「力抜かないと、痛いかもよ?」
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
張り型が中に押し入ってくる。
武闘家「わ……すごい。全部入っちゃった」
カチッと、スイッチを入れる音がした。
張り型が複雑にうねっているらしい。あまりにも強い甘さに大きな声が漏れた。
激しく腸壁を押されたら、もう……何も考えられなくなる。
ありえないほどの快楽に見舞われる。
脊髄がゾクゾクする。
衝撃が脳天を突き抜ける。
504 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:54:21.40 ID:tIICa6pJo
魔剣士「んぅー! んぐっああああああああああ!!!!」
武闘家「ああ、エリウス……あたしに犯されてそんなに感じてるのね……嬉しいわ」
カナリアは何度も張り型を出し入れし、俺の体内を突き続けた。
魔剣士「あああぁぁっ! くっ……!」
魔剣士「ユキ、ユキぃ…………!」
武闘家「……なんで、他の女の子の名前を呼ぶの?」
武闘家「今!! あなたとしてるのは!! あたし!!!!」
突きを強くされた。もう死んじまいそうだ。
武闘家「……ああ、そっか。快楽が足りないのね」
武闘家「もっとすごいやつに替えてあげるわ」
一気に今まで這入っていた張り型を引き抜かれ、
更に大きくて……形もエグいやつを突っ込まれた。
もうずっとイッてんのに。
武闘家「……こんなにおっきいのを簡単に飲み込んじゃうなんて、」
武闘家「今までどんなことされてきたの? ねえ??」
505 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:55:01.33 ID:tIICa6pJo
強い振動に内臓を揺らされる。
もう、俺、俺…………。
イキすぎて、おかしくなっちまう。
俺が悲鳴のような喘ぎ声を上げ、大きく絶頂して漸く行為は終わった。
武闘家「これで、あなたはあたしのもの……!」
武闘家「あはは……うふふふ……はははははははは……!!」
徐にカナリアは俺に覆いかぶさった。
人間の体温は、俺には熱すぎる。
人間としての尊厳も、男としての自尊心も、何もかも壊された。
仲間だったはずの女に。
力なく見上げる天井は、ひどくぼやけていた。
506 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/25(木) 20:55:34.67 ID:tIICa6pJo
kokomade
507 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/25(木) 21:15:08.00 ID:JC81syhl0
乙!
508 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/26(金) 02:00:44.35 ID:CKaO/v9rO
乙
509 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/26(金) 02:06:09.26 ID:BDB1eJRQo
乙
箱の中身が爆発物じゃなくて良かったと言うべきか……
510 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/26(金) 16:06:31.16 ID:QkbooA1z0
アルカが来たら大変なことに
511 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/26(金) 18:17:34.71 ID:d0eT23je0
実際美少女(好きではない)に襲われたらどんな気持ちになるの?
S男がアナル犯されたらプライドが傷ついて悦ぶどころじゃなくなるとは聞いたことあるけど
512 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/08/27(土) 16:52:23.41 ID:hq7pLtwCO
読んでて苦しい…助けてくれ父さん!
513 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/27(土) 19:46:28.65 ID:opGZAilnO
>>512
うるせぇsageろks
514 :
◆qj/KwVcV5s
[sage]:2016/08/27(土) 22:17:50.36 ID:ymyf3kvXo
明日から二週間多忙で来れないかもしれません
515 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/28(日) 22:21:39.34 ID:IM4L+nPdo
メイルレイプで調べるとセカンドレイプがやばいことがわかる
516 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:40:44.27 ID:GtURHtWlo
第十八株 心身一如
俺がシャワーを終えると、カナリアは俺が寝ていた寝台で眠りに落ちていた。
モルを回収して外に出た。
まだ夜は明けていない。静かだ。
車のエンジン音がよく耳に響く。
カナリアを置いていくこと、アーさんやヴィーザルには憤慨されるだろうな。
父さんもアキレスさんから信用を失ってしまうかもしれない。
やっぱり、俺駄目な奴だ。
でも、こんなことになって、もう一緒にいられるわけなんかないだろ。
ガウェインには「探さないでくれ」とだけメールを打って、アドレスを変更した。
電話番号を変えるのは流石に面倒だからそっちは着信拒否だ。
517 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:44:02.41 ID:GtURHtWlo
振った振られたの関係の男女が友達付き合いを続けるなんて、無理があったんだ。
すぐ近くにいるのに好きな相手が自分のものにならなかったらそりゃ苦しいだろう。
空が白み始めた。
あー、誰とも関わらずに山奥にでも引きこもりてえ。
人間と植物の共生のことを考える以前に、俺が人間と共生できてねえよ。
物心ついた頃から他人と関わることは苦手なんだ。めんどくさくてたまらない。
……カナリアと仲良くできていた頃が懐かしい。
あいつらとの旅はなんだかんだで楽しかったな。
518 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:45:23.62 ID:GtURHtWlo
魔剣士「…………!」
白旅人「ああ、よかった。気がついたんですね」
メルクだ。
青い石「よ゛がっだぁぁぁぁぁ」
青い石「私が起きた時にはもう怪我してて……」
愛車は……よかった、無事だ。俺のエメラルド号のすぐ前には岩壁があった。
交通事故を起こしかけていたらしい。
白旅人「事故防止装置が作動したようでしたが、」
白旅人「急停止のショックで額や首を損傷していたんですよ」
白旅人「もう少し遅ければ危ないところでした。治療が間に合ってよかったです」
そ、そうなのか……。ありがとう。
魔剣士「っ…………」
……おかしいな。声が出ない。
喋ろうとすると、喉が締め付けられるように苦しくなる。
519 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:45:52.02 ID:GtURHtWlo
メルクは俺の喉に手をかざした。
白旅人「……声帯に異常はないようです。脳の損傷でもありませんね」
魔剣士「…………」
白旅人「スープ、いかがですか。お腹が空いているでしょう」
あったけえな。薄味で俺好みだ。
青い石「ねえエリウス、カナリアっちとガウェっち何処?」
魔剣士「…………」
白旅人「何か事情があって別れたのでしょう」
青い石「え、じゃあ敵に捕まったわけじゃ……って」
青い石「そういえば、私の声聞こえるんだね」
白旅人「素の状態では聞こえません」
白旅人「魂が宿っているようでしたので『回線を繋ぐイメージ』をしました」
520 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:46:20.55 ID:GtURHtWlo
青い石「す、すごい。流石魔適体質者だね……」
青い石「エリウス、どうして他の二人とバラバラに行動してるの? 危ないでしょ?」
魔剣士「…………」
白旅人「しばらくはそっとしておいて差し上げませんか」
青い石「そうも言ってられないよ。強い敵ばかり襲ってくるようになってるのに」
青い石「ねえ、エリウス」
魔剣士「っ…………」
青い石「ええと…………」
白旅人「パイナップル、分けましょうか」
白旅人「丁度一人じゃ食べきれなさそうだなって困っていたところなんですよ」
521 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:46:52.68 ID:GtURHtWlo
青い石「……ねえ、メルク」
青い石「声が出ないの、治せないの?」
白旅人「できませんね」
白旅人「“どんな難病でも治す奇跡の力を持った魔適体質者”と謳われてはいますが、」
白旅人「どれほど魔適傾向が高くても、万能ではないんですよ」
白旅人「心因性の病気や精神疾患、先天的な脳障害はどうあがいても治療できませんね」
白旅人「僕だけでなく、魔適傾向100〜150マジカルの魔適体質者全員がお手上げなんだそうです」
ああ、じゃあ俺の頭がおかしいのも治せないんだ。
そこまで頼る気は毛頭ないけど。
白旅人「……一緒に行きましょうか」
助手席にメルクが乗った。
522 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:47:33.88 ID:GtURHtWlo
魔剣士「…………」
青い石「『もしよければ、君が今までどんな人生を歩んできたのか聞きたい』だって」
モルに代弁してもらった。
白旅人「いいですよ。自分語りをする機会なんてなかなかありませんし」
白旅人「生まれは西の、そのまた西の大陸です」
白旅人「ここから東にあるエスト大陸と文化や気候が似ていますね」
ほぼ地球の裏側だってのに、文化が似ているってのは不思議なもんだ。
白旅人「両親は国に仕える高官です」
白旅人「なので、身内に直接保護してもらえる環境で育ちましたね」
白旅人「まあ魔適体質者にしては比較的融通の利く身だったと思いますよ」
魔適体質者は厳重に保護され、常人以上に倫理観を叩き込まれて育てられるらしい。
なんでもかんでもできちまう存在だから仕方がないそうだ。
反社会的な人間に育ったら大変だ。
白旅人「兄弟は妹が一人います」
白旅人「幼い頃は仲が良かったのですが、今はもう疎遠になってしまいましたね」
白旅人「僕の目が怖いんだそうです」
523 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:49:47.73 ID:GtURHtWlo
魔剣士「…………」
白旅人「仕方がありませんね。自分でも不気味だと思うほどですから」
白旅人「たとえ魔適体質でも、魔力が白じゃなければよかったのですが」
魔剣士「…………」
青い石「『よくこんなに優しい性格に育ったな』って」
白旅人「……ははは。捻くれていた時期もありましたよ」
白旅人「特に反抗期真っ盛りの頃は天狗になっていましたね」
白旅人「そんな時でしたよ、治療できない相手に出会ったのは」
白旅人「ショックでしたね。無力感を覚えたのはあの時が初めてでした」
白旅人「どうしても悔しくて、必死に心理学や精神医学を学びました」
白旅人「そうしている内に、いつの間にか丸くなりましたよ」
魔剣士「…………」
青い石「『年、いくつ?』」
白旅人「18です」
524 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:50:48.48 ID:GtURHtWlo
青い石「『同い年なのに悟っててすごい』だって」
白旅人「悟ってるなんてそんな……」
白旅人「落ち着いて生きる穏やかさに慣れることができただけです」
白旅人「それに、僕以上に僕の孤独を嘆いてくれる人に出会えましたからね」
白旅人「孤独と言えるほど寂しい境遇だったわけではありませんが、」
白旅人「僕はこの体質が元で、孤独感を……周囲との疎外感を抱え続けていました」
白旅人「だから、世の中に対して斜に構えることで寂しさを誤魔化そうとして……」
白旅人「近くにいてくれる『他人』が現れたのは、人生の大きな転機でしたね」
魔剣士「…………」
青い石「『痛いほどよくわかる』」
家族でもないのに見捨てず傍にいてくれる他人の存在は貴重だ。
ユキと一緒にいると心があったかくなるし、優しくなれる。
白旅人「僕の従者だった彼女は、魔適体質者としての僕とではなく、僕自身と向き合ってくれました」
白旅人「必ず取り戻します」
525 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:51:46.84 ID:GtURHtWlo
――――――――
――
白旅人「ここは、勇者ナハトとヘリオスが出会った村だそうですよ」
へえ。
よくある、小さくて平和そうな村だ。
携帯が鳴った。
長女『もしもし兄さん?』
長女『母さんの子宝草が無尽蔵に増えすぎてすごいことになっているのだけど……』
喋れないのを忘れて通話ボタンを押してしまった。
仕方がないから通話を切って、
『風邪引いてて声出ない。幸い外来種じゃないから平原にでも放っとけ』と返信した。
新婚だった頃に『子宝草を育てると妊娠する』というジンクスを聞いて育て始めたらしい。
でもあれとんでもなく増えるんだよ。増えすぎた子株は俺が食べて処理してた。
本来食用にはならないから真似してはならない。
(※生態系が崩れる危険性があるので日本では子宝草を野に放たないでください)
やけに夕日が赤いな……。
感動するような心は沸いてこなくて、なんだかただただ虚しい。
526 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:53:56.14 ID:GtURHtWlo
白旅人「二人部屋でいいですか」
俺は頷いた。一人でいたかったはずなのに、すっかり気分が変わっていた。
夜が来るのが怖くて心細い。
勇者ナハトが泊まっていたとかいう部屋……の真上の部屋を借りた。
料理をする気力どころか食欲すらない。
食べられるのは汁物か柔らかい果物くらいだ。
宿には小さな食堂があり、幸いあっさりしたスープが置いてあった。
女将「お兄ちゃん随分顔色悪いじゃない」
女将「特別にお粥作ってあげたわよ。これなら食べられるでしょ」
女将「ほら、サービスだから」
頭を下げた。ありがとうの一言も言えねえや。もどかしいな。
……人と話すことができない精霊の苦しみが、少しだけわかったような気がした。
白旅人「すみません、彼今話すことができなくて。代わりに僕がお礼を言います」
メルクが気を利かせてくれた。
女将「早く元気におなりなさいね」
527 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:55:27.64 ID:GtURHtWlo
お粥……かあ。
――
――――――――
『エル、お粥なら食べれそう?』
『はい、あーんして』
あっついよ。
『ああ、ごめんね。ふーふーしてあげるからね』
――――――――
――
母さん、今頃どうしてるかな……。
俺は赤ん坊の頃から母親への依存心が希薄だった。
でも別に最初から嫌いだったわけじゃない。
もう……会えないな。
今の俺が母さんに会ったら、この間以上に泣かせちまう。
俺の魔力を必要としているわけでもない人間に、それも戦友の娘に犯されたんだから。
母さんの魔感力なら、相手が誰かなんてのもすぐにわかってしまうだろう。
おかしいな。俺が母さんのことを想いながら泣くなんて。
528 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:55:59.16 ID:GtURHtWlo
言葉は出てこないくせに嗚咽は出てくるんだ。変なの。
鼻水で鼻が詰まって料理の味わかんねえじゃねえか。
せっかく出してもらえたもんだってのに。
女将「人生色々あるものねえ。たまには泣いたっていいのよ」
背中をさすってくれた。
俺は泣きながらお粥を口に運んだ。
モルはまだ起きてるみたいだが、思うところがあるのか黙っている。
この女将さん、肝っ玉な感じがばあちゃんと似てるなあ。
南に帰りたい。
騒がしくて面倒なことも多いけど、家族のいる暖かい家が恋しい。
529 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:58:48.87 ID:GtURHtWlo
――――――――
――
何もやる気が起きない。
俺はすっかり引きこもりと化していた。
数日間寝てばかりだ。
髭、剃ってないわりに薄いな……はあ。
自分の不幸に酔うようなことは嫌いなんだが、どうしても気分がよくならない。
女将「起きてるかしら? お昼ごはん持ってきたわよ」
白旅人「ああ、ありがとうございます。渡しておきますよ」
白旅人「食べられますか?」
食べ物を無駄にするわけにはいかない。
かなり億劫だが、俺は布団から出た。
魔剣士「…………」
青い石「『ずっとこの村にいるけど、酷い目に遭ってないか』だって」
白旅人「心配しなくて大丈夫ですよ」
白旅人「物珍しがられはしてますけど、そう頼られ続けることはありませんね、今のところ」
白旅人「控えめな民族性なのかもしれません」
白旅人「穏やかで過ごしやすい村です。しばらく滞在していましょう」
優しさが痛い。
530 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 20:59:29.58 ID:GtURHtWlo
観葉植物……小さなパキラの鉢植えが視界に入った。
俺一人が世界中の植物を助けて回るなんて馬鹿げてる。無理だって。一人じゃ。
そもそもなんで人間の社会が引き起こしている問題のしわ寄せを俺一人が受けなきゃならんのだ。
おかしいだろ。
尊厳は粉々に砕かれるし、体の調子はおかしくなるし……。
それに、性的な行為を伴わなくても、魔力を吸われるのはすごくつらいんだ。
急激に血が抜けていくような、寿命が削られていくような、そんな感覚に襲われる。
もうやだよ。怖いよ。
いっそ死んでしまいたい。でも、自殺する勇気なんてないんだ。
白旅人「手、震えてますよ」
白旅人「ゆっくり深呼吸してください」
白旅人「何も考えず、腹式呼吸で」
白旅人「しばらく続けている内に、楽になりますから」
531 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 21:00:24.19 ID:GtURHtWlo
白旅人「心理学に、心身一元論という考え方があります」
白旅人「心がつらい時、今のように体も調子を落とすことがあるでしょう」
白旅人「逆に、体を癒すことで心を癒すこともできるんです」
白旅人「端的に言いますと、心と体は同じものなんですね」
白旅人「……大丈夫です。傷はいつか癒えますから」
俺がこんな状態になってる原因を一切探ろうとせずに、メルクは傍にいてくれる。
再会できてよかった。
白旅人「他に調子の悪いところはありませんか」
白旅人「心因性のものでなければ治せますよ」
魔剣士「…………」
青い石「『病院行けって言わないのか』」
白旅人「そこまで鬼じゃありませんよ」
俺がこんな状態だからサービスしてくれているみたいだ。
白旅人「それに、あなたなら僕の能力に依存することもないでしょう?」
信頼してくれているようだ。嬉しいな。
治してもらうよう頼むか迷ったが、俺は服をたくし上げて胸の肉を寄せた。
メルクなら馬鹿にしたりしないだろう。そう信じたからだ。
532 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 21:01:31.88 ID:GtURHtWlo
白旅人「ああ、これは余計に病院へは行きづらいですね」
白旅人「ちょっと失礼しますよ」
白旅人「……病気や腫瘍が原因ではありませんね」
白旅人「脂肪を取り除き、ホルモンバランスを調節しました。もう大丈夫ですよ」
ああ……助かった。
白旅人「あ、取り除いた脂肪はエネルギーに変換して血液に流しました」
白旅人「栄養が足りていませんでしたからね」
口の動きだけで「ありがとう」と伝えた。
まだ外に出る気は起きないけれど、心が軽くなった。
「なんだあいつらは!」
「女子供は家の中へ!」
何やら外が騒がしい。
533 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 21:02:02.39 ID:GtURHtWlo
女将「あんた達、外に出ちゃ駄目だよ。変な連中がいるからね」
白旅人「どのような方々ですか」
女将「なんでも、『自分達の宗教に入らなきゃ命はないぞ』って武器持って暴れてるらしいんだよ」
オディウム教の奴等だ。
引きこもっている場合じゃない。どうにかしないと。
白旅人「エリウスさん!」
気がつくと俺は外に飛び出していた。
「こ、こいつ……エリウス・レグホニアだぞ!」
「この村にいたとはなんたる幸運! これもオディウム神のお導きか」
「捕らえるぞ!」
「しかし末端に毛が生えた程度の我々にぐふっ!」
敵が体勢を整える前に、周囲の草木に魔力を与えて攻撃した。
声が出せないということは、通常の魔法の使用がほぼ不可能であることを意味する。
精々術名を唱えなくても発動できるかなり小規模な術くらいだ。
攻撃は植物に頼るほかない。
534 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 21:03:26.39 ID:GtURHtWlo
村人1「きゅ、救世主だ!」
村人2「25年前にこの村を救ってくださった勇者様とそっくりだぞ!」
村人3「印象的だったもんな……俺も不思議なほど勇者様の姿を覚えてるよ」
精神的に弱り、魔力の波動のエネルギーが低下している今の状態でも対処できた。
でも、以前と比べると……やはり調子が…………っ!?
腹が、生命の結晶とその付近が異様に熱い。
俺はその場に倒れ込んだ。
白旅人「どうしましたか!」
魔剣士「っ…………!」
青い石「エリウス! エリウス!」
青い石「……すごい違和感だ」
白旅人「これは……一体……」
535 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 21:04:47.02 ID:GtURHtWlo
白旅人「……人知を超えた何かに体が蝕まれているようです」
青い石「生命の結晶っていう、森の生命力を濃縮したものが埋め込まれてるんだよ」
白旅人「生命の結晶……昔、文献を読んだことがあります」
白旅人「何か不思議な力を感じてはいましたが、正体はそれでしたか……」
青い石「助けようとしても魔力を弾かれちゃう……あいたたた」
俺の魔力が弱まり、結晶の力に負けてしまっているようだ。
白旅人「このままでは極めて危険です。何が起きるわかりません」
白旅人「いいえ、何かが起きる前に彼の命が…………」
腹の中から食われているような強烈な感覚に襲われる。
ああ、駄目だ、魂の本体が宿っている心臓まで侵食され始めた。
俺……もう…………
死ぬ…………
…………かも…………
536 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/30(火) 21:05:29.44 ID:GtURHtWlo
kokomade
537 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/31(水) 01:37:32.87 ID:Itck3jRHo
乙乙
538 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/31(水) 02:34:05.40 ID:0Y/ydthRO
乙
539 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/31(水) 07:17:11.68 ID:N1JXOFsg0
不憫な……
540 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/31(水) 21:40:25.89 ID:bV2hEqu1O
こっからどう立ち直るのか…
541 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:33:10.95 ID:Q5EWaLPro
第十九株 遡る記憶
今までの記憶が映像になって流れ込んでくる。
重斧士『おまえってすげえ奴なのに、昔の知り合いからは見下されることもあんだな』
魔剣士『理由はわかってんだろ』
魔剣士『奇行が多くて言動もおかしい奴なんて、劣った存在とみなされても仕方がない』
魔剣士『だからって周りに合わせて生きる気にもなれなくてさ』
魔剣士『普通の人間の振りをしようとしても、結局ボロが出る』
魔剣士『だから自分の好きなように生きることにしてんだ』
重斧士『おまえが割り切れてんならそれでいいけどよ』
魔剣士『とっくに割り切ってるよ』
正直に言えば、こんな人間に生まれて不幸だと思ったこともある。
でもそれ以上に恵まれているから、マイナスよりはプラスの方が多い。
そう自分に言い聞かせている。
542 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:34:26.85 ID:Q5EWaLPro
父さんは強くて思いやりがある大陸一の戦士だし、母さんは優しくて教養があるし、
可愛がってくれるじいちゃんばあちゃんその他大勢の親戚はいるし、
俺自身才能に溢れているし、
これで不幸ぶったらバチが当たる。
『おまえ昨晩のオカズなんだったよ?』
『適当にネットで探した動画』
大学の男共が、講義室の後ろに溜まって猥談をしていた。
『ようエリウス! おまえは何オカズにしてんだ?』
魔剣士『月下美人だ』
『どんな美人だそりゃ』
俺は図鑑の297ページを開いた。
魔剣士『美しいだろう』
『は、はは、花ニーか、流石だな』
大学生活は気楽なもんだった。
ネジの外れた発言をしても虐げられることなんてなかった。
上級教育までと違い、人間関係が浅い上に変人なんて他に何人もいたからだ。
サカってる女が鬱陶しかった意外は特別嫌なこともそんなになくて、暮らしやすかったな……。
543 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:35:17.95 ID:Q5EWaLPro
教授『やあエリウス君。我が研究室へようこそ』
教授『研究したいことをなんでもやったらいい。君の才能はよく知っているよ』
学部一年の頃から、俺は特別にゼミへの配属が認められていた。
俺の夏休みの自由研究を毎年審査して、
俺の実力を認めてくれていた教授の所に早く行きたいと思っていたから、嬉しかったな。
俺の義務教育生・上級学生時代の自由研究は自由研究のレベルを大幅に越えていて、
毎年プラチナ賞を取っていた。
本来最優秀賞はゴールド賞だったのだが、次元が違っているという理由で新たな賞が設けられた。
俺は……幸せなはずなんだ。
544 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:36:14.86 ID:Q5EWaLPro
『やっぱり飛び級生に体育の授業はきついわよね〜』
『もう昼休み入ってんじゃん〜早くゴールしてよ』
これは……上級学生時代か。持久走は地獄だったな……。
『黒板の高い所届かなくて困ってる〜かわい〜!』
『誰だよあいつ用の台隠した奴。ははは』
飛んだ学年の多さのせいか、容姿のせいかは知らないが、軽くいじめられることもあった。
この頃、学校でだけは奇行を抑えていたのだが……浮くことは避けられなかった。
『いーよなあいつは女の注目集めてて』
『勉強できて顔がいいからって調子乗ってんじゃねえぞ……』
『シッ! 聞こえっぞ』
男からは妬まれることが多かったな。
いじめが酷くならなかったのも、面と向かって文句を言われることがあまりなかったのも、
父さんの威光があったからだろう。
早くこんな狭い箱の中から抜け出したい。興味のない教科から解放されたい。
そう思って必死に勉強した。
545 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:40:22.25 ID:Q5EWaLPro
『おまえのにーちゃん頭おかしいんだろー!』
『やーいやーい』
次男『おれのにいちゃんおかしくなんてないもん!』
『おまえのにーちゃんが頭の病院行くところ俺のかーちゃんが見たって言ってたぞー!』
小さなアルバが悪ガキ共に囲まれている。
長男『……おまえら、何してんだよ』
悪ガキ達は俺達を馬鹿にしながら散っていった。
アルバは泣きじゃくっている。自分が馬鹿にされたわけじゃないのに。
次男『にいちゃんはおかしくなんてないよね、ね?』
長男『……ごめんな、アルバ』
俺のせいで、俺がおかしいせいで、弟が…………。
でも、まともな人間がどんなものなのかなんてわからなかったし、
俺らしく生きたい衝動を抑えるのは困難だった。特に幼い頃は、今以上に。
546 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:41:24.22 ID:Q5EWaLPro
『あたくしよりも先に更に飛び級だなんて生意気ですわ!』
クレイオー……すっぴんだ。そりゃそうだ、まだ子供の頃なんだから。
『あたくしがいないと何もできないくせに。心配でたまりませんわ』
周囲と馴染めなかった俺の世話を、頼んでもないのに焼いてくれたっけな。
言い方はいちいち高圧的だったが、思いやりがなかったわけじゃない。
『本当に……一人でも大丈夫ですの?』
あいつが俺に絡んでくるのは、俺が決してあいつを女として見ないからだ。
容姿が優れている分あいつも苦労している。だから俺と一緒にいると安心するらしい。
……どんな奴にだって、生きる苦しみはあるんだ。
547 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:42:56.90 ID:Q5EWaLPro
『ねーえ、何してるの?』
幼い頃のカナリアだ。俺も八歳くらいだろうか。
母さん達が食事をしている店の外に出て、俺は案の定草木を観察している。
そういえば俺、なんでこいつの名前覚えてたんだっけ。
アーさんの名前は覚えてなかったし、ヴィーザルなんて顔すら忘れてたのに。
あいつらの他の兄弟のこともあまり記憶に残っていない。
どうして、カナリアだけ……。
『何か言ってよ〜』
『……喋ったって、どうせ、おまえも俺のこと変だって言うんだろ』
『言わないよ?』
幼い俺は漸くカナリアの顔を直視した。
『植物好きなんでしょ? 将来は植物の学者さんかもね!』
そう言って、あいつはひまわりの花のように笑った。
『エリウス君、あたしの名前わかる?』
『…………』
『カナリアーナよ。みんなカナリアって呼ぶわ。ちゃんと憶えてね!』
そっか、あいつ……俺のこと否定しなかったんだ。
どうして、どうしてあんなことに…………。
俺がまともな人間で、もっと他人の気持ちに敏感だったら、
あいつの気持ちを量ることができていたら、違っていたのだろうか。
548 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:46:30.35 ID:Q5EWaLPro
『どうしよう、赤ちゃん、流れてくっついっちゃった』
ソファに座った母さんが泣いている。父さんは母さんの肩を抱いていた。
俺が七歳の頃のことだ。
『どうしよう、どうしよう、このままじゃ二人ともちゃんと生まれてこられないかも』
『アルカさんのせいじゃないよ。しばらく様子を見よう』
妊娠のかなり初期の頃で魂が宿る前だったのだが、
母さんは魔力で子供の性別がわかっていたらしい。
女の子と男の子の双子だった。流れたのは男の方だ。
母さんは、階段から降りてきた俺に気がつくといつも通り微笑んだ。
『ごめんね、今お風呂沸かすからね』
無理しなくていいのに。
なんで俺なんかが五体満足で生まれてきて、弟は一人の人間として生まれてこられなかったのだろう。
ひたすら虚しくて、気が重くなった。
母さんはどれだけ悲しかったのだろう。想像したくもない。
549 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:47:22.45 ID:Q5EWaLPro
子供……欲しいな。自分の子供が欲しい。
俺は何故だかガキの頃からそんな願望を持っていた。
人間を愛せないのに子供が欲しいだなんて、ひどく矛盾しているだろう。
でも俺は愛する花との間に本当に子供が欲しいんだ。
他人に理解してもらおうだなんて思っていない。
この望みを果たせないまま俺は死んでいくのだろう。
『エル! エルのためにね、山菜摘んできたんだよ』
母さんはわざわざ俺の好物を採ってきて調理してくれた。
家事や育児でクソ忙しいってのに。
重たいなって思った。
万が一人間と付き合うことがあっても、面倒で重い女だけは嫌だ。
『どう? おいしい?』
無愛想な俺に対して、母さんは何処か寂しそうに微笑んでいた。
俺は何も言わなかった。ただただ面倒だった。
いや違う。
本当はおいしかった。嬉しかった。
550 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:48:20.86 ID:Q5EWaLPro
俺、なんで親不孝しかできないんだろ……?
生まれつき他の赤ん坊と違った俺が更におかしくなったのは、あの夜のことだ。
三歳になる直前くらいのことだ。
俺は口数が少ない割に、難しい言葉の意味もある程度覚えていた。
俺は父さん、母さんと寝台の上で川の字になっていた。
幼いアウロラはベビーベッドですやすや眠っている。
ここ数年は落ち着いているが、当時、母さんは昔のことを思い出して突然泣き出すことがあった。
その夜も、母さんの嗚咽で目が覚めた。
『ごめんね、ごめんね』
(おかあさん、なんでないてるの?)
『汚いお母さんでごめんね……!』
俺はその言葉の意味がわからなかった。
551 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:49:26.84 ID:Q5EWaLPro
おかしいな。大人が吃驚するくらい言葉を知っているはずなのに。
お母さんが謝っている理由がわからないんだ。
……幼い俺には、その言葉を処理しきれなくて、
母さんが、いつも守ってくれている母さんが、とんでもない悲しみを抱えている事実を受け入れられなくて、
それ以来、俺は母さんと向き合うことができなくなった。
『アルカさん、もう大丈夫だから。謝る必要なんてないんだよ』
父さんが起きて母さんを慰めていた。父さんは何を知っているのだろう。
『私、お母様ほど気丈になれない』
『いいんだよ、弱くたって。俺が支えるから』
『どうしたエリウス、一人で寝たいだなんて』
母さんが汚いなら、その母さんから産まれてきた俺も汚いのか。
謝るくらいなら産むなよ。
何故だか俺はそう思うようになった。
552 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/08/31(水) 22:50:02.07 ID:Q5EWaLPro
どうして母さんは自分のことを汚いだなんて言っていたのだろう。
今でも俺はその理由は知らないし、知らない方がいいのだと思う。
たとえ親だろうが一人の人間なんだ。
俺の把握しきれない過去くらいあっても何もおかしくない。
……そう思うなら、どうして母さんに対してもっと優しくなれなかった?
結局意地を張って反抗していただけじゃないか。俺はガキのままだ。
俺がどんな馬鹿な息子でも、死んだら母さんは悲しむだろう。
それなら、もっと親孝行しておけばよかった。
母さん、ごめんなさい。
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