魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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553 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:50:29.20 ID:Q5EWaLPro
kokomade
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/01(木) 02:06:59.69 ID:HN5nnOJDO
乙
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/01(木) 05:36:52.77 ID:jb8WuSM10
走馬灯
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/02(金) 11:20:29.12 ID:AzQMMlT+0
〜BAD END 〜
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/16(金) 01:14:53.46 ID:rJT4uZPI0
続き待ってる
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/16(金) 16:00:36.15 ID:IgdE7Xoo0
ヒロインは一体誰なのか
559 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:55:04.51 ID:IbKbh14ho

死にたい気分だったのに、いざ死ぬとなると未練が沸き上がってくる。
このままじゃ成仏できねえよ。

親孝行したかった。もっと研究したかった。弟や妹ともっと遊んでやりたかった。
ユキが泣いていた理由だってわからないままだ。

でも生きるのはつらすぎる。
嫌だ……死にたくない。生きていたくもない。

俺にとってこの世界はどうしても生きづらいんだ。


なんで人間になんて生まれてきたんだろう。
木になれたらいいのに。

誰にも伐られる心配のない何処か山奥で、何かを考える必要もなく、
幹を伸ばし、緑の葉を茂らせ、陽の光を浴びて……。
560 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:56:29.10 ID:IbKbh14ho

ここ、何処だろ。真っ白だ。あの世かな。

――僅かでも可能性のある器を――

男の声が響いた。

――例え、何千万の時が過ぎ去ろうとも――

頭の中で鳴ってるみたいだ。

――彼女の心を満たすために――


時が逆行し、景色は次々と移り変わった。
この魂は海を渡り、平原を駆け、樹海を彷徨い……そうやって、億近くの年月を過ごした。

そしてある時点で、時間がゆっくりと正常に流れ出した。


男女の精霊が、大きな木の枝に腰をかけて談笑している。

『ねえイウス、ずっと一緒よ』

『ああ、スフィ』

男の精霊は女の精霊の手に自分の手を重ねた。
女の子の方は……ユキだ。

今と少し容姿が異なるが、確かに俺が想いを寄せているあの子だ。
本名がスファエラ=ニヴィスだからスフィと呼ばれているのだろう。
561 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:57:15.73 ID:IbKbh14ho

てかあれ何? 彼氏??
でも今も付き合ってるのならユキは俺に会いに来たりしないよな多分。

種族が違っても俺男だし。……男だと思われていると思いたい。
ってことは元彼かな。

不安感と惨めさと嫉妬心が同時に沸き上がった。

『ああ……こんなにも愛し合っているのに、どうして種族が違うのかしら』

見たところ男は雌雄異株の木の雄株の精霊のようだが、ユキとは別の種類のようだ。

『種族なんて関係ないだろう?』

『……あなたとの子供が欲しいの』

ユキは物悲しそうに俯いた。

『…………君が、望むのなら……』


その瞬間、視界が真っ暗になった。
562 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:57:41.99 ID:IbKbh14ho

胸がじんじんと痛み、心が萎んでいく。
さっきの映像は一体なんだったんだろ。

走馬灯がネタ切れ起こして幻でも見たのかな。
人間としての俺が死んでいくのを感じた。さよなら人生。


来世はどうか植物でありますように。
















563 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:58:24.55 ID:IbKbh14ho

もう、何も感じない。
穏やかだ。







すぐ傍に誰かがいるような気がした。
でも何も見えない。聞こえない。


















明るい歌声が聞こえてきた。琴の音も聞こえる。
胸が熱を帯びた。
564 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:58:52.41 ID:IbKbh14ho

――…………きて……――

――生きて…………――

…………ユキ?

――お願い、生きて……エリウスさん!――

もう疲れたよ。

――ああ、やっと声が届いたのですね――

――今、あなたが死んだら……私は、再び長い孤独を生きることになってしまいます――


暗闇の中に、月明かりを浴びた雪のような儚い輝きを纏う彼女がいる。


俺のすぐそばにいる。
565 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:59:30.26 ID:IbKbh14ho

――私と一緒に、生の喜びを探しましょう?――

一緒にいてくれるの?

――ええ――

俺なんかと?

――今のあなたの温もりを、どうか私に……――





琴の音が大きくなる。

魔剣士「ユ……キ……」

魔剣士「俺まだ……生きていた……い……」

歌姫「生きてますわよ」

魔剣士「っ!?」

宿屋の寝台の上で目が覚めた。


第二十株 ある種の神話
566 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:00:15.96 ID:IbKbh14ho

クレイオー!?
名前を呼ぼうとしても声は出なかった。

愛用の竪琴を持っている。十歳の誕生日にアポロン先生に買ってもらった物らしい。

歌姫「散々寝言を言っていたくせに、起きたら話せなくなりますのね」

え……俺どんなこと言ってたんだろ?

歌姫「『母さんごめん』って何回も謝っていたんですのよ」

えっ……。

歌姫「本当はお母様のことが大好きな癖に」

うっわ恥ずかしい。

歌姫「それと、『ユキ、ユキ……』と何度も何度も」

…………。

そういえばおまえなんでここにいんの?

歌姫「事情の説明は後ですわ。ゆっくり体と心を休めなさいな」

っつか俺が考えてること読めてんのか?

歌姫「長い付き合いですもの。あなたが何を考えてるかくらい手に取るようにわかりますわ」

俺は深い安堵の溜め息をついた。
同郷の昔馴染みの顔を見たらひどく安心してしまった。
567 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:01:13.76 ID:IbKbh14ho

起きた時点で涙が流れていたのだが、俺は更に泣いた。

歌姫「お馬鹿泣き虫ウス。よっぽど怖い目に遭ったんですのね」

歌姫「心を落ち着ける曲を奏でて差し上げますわ。よくお聞きなさい」

クレイオーは竪琴を構えた。
防音結界を張り、俺が眠っている間も演奏してくれていたようだ。

やけに悲しく重い旋律から始まった。

歌姫「最初から明るい曲調を奏でても効果は薄いだろうと思いましたの」

歌姫「あなたの感情と音楽を同調させる必要がありますわ」

少しずつ希望の見えるようなメロディに変化していく。
窓からは朝日が差し込んでいた。
568 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:02:36.16 ID:IbKbh14ho

扉が開いた。

白旅人「ああ、よかった。これで一安心です」

白旅人「一時はどうなることかと思いました」

モルの石はベッドサイドテーブルに置かれている。
いつもより眠りが深いみたいだ。俺の琥珀も隣に置いてあった。

てか俺一体どうなったの。

白旅人「落ち着いて聞いてくださいね」

白旅人「あなたはここ数日の間、木になっていました」

え?

歌姫「何ちょっと嬉しそうな顔してますの……もう」

歌姫「助けるの大変でしたのに」

白旅人「正確には、木の形に発達した魔力結晶の核になっていましたね」

白旅人「いやー驚きましたよ。生命の結晶の能力は魔導学では証明しきれません」
569 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:03:18.76 ID:IbKbh14ho

――――――――

四日前

白旅人「どうにかしてこの力を押さえ込まなければ……!」

青い石「できそう!?」

白旅人「……極めて困難です」

白旅人「僕の魔力に彼と波動の近い魔力を乗せることができたら、可能性は有るかもしれませんが……」

青い石「私が魔力を出すよ」

白旅人「しかし…………わかりました」



白旅人「っ……抑えきれません!」

白旅人「何か、別の器があれば…………」

白旅人「っ!」
570 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:05:15.57 ID:IbKbh14ho

白旅人「そうだ、この琥珀」

白旅人「これにだったら、溢れ出る生命の結晶の力を流し込めるかもしれません!」

青い石「エリウスの魔力が染み付いてるし、」

青い石「普通じゃありえないくらいエリウスと波動が近いんだ」

青い石「確かにこれなら望みがあるかもしれない」

白旅人「回路の生成に成功しまし…………あっ」

青い石「あっ…………」

白旅人「…………木が生えましたね」

青い石「立派な大木だね…………」

白旅人「おそらく、あの琥珀の生前の姿なのでしょうけれど…………」

青い石「エリウス、完全に木の中に埋まっちゃったよ……」

青い石「あ……もうねむ……い…………」

――――――――

白旅人「とまあ、一命を取り留めることはできたものの、」

白旅人「そんな状態になっちゃったわけですね」
571 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:05:59.64 ID:IbKbh14ho

白旅人「あなた自身が『生きたい』という強い気持ちを持たない限り、」

白旅人「僕達には手の施しようがありませんでした」

白旅人「魔適体質者といえども他者の心を操ることまではできませんからね」

青い石「正直途方に暮れたよ……」

白旅人「そんな時に、たまたまクレイオーさんからあなたの携帯に電話が入りまして」

白旅人「申し訳ありませんでしたが、緊急時なので勝手に出させて頂きました」

歌姫「女装したあなたの評判が随分よかったので、また共演して頂こうと思いましたの」

歌姫「そのためにあなたの帰郷の予定を知りたかったのですけれど」

歌姫「死にかけてるなんて吃驚しましたわ」

白旅人「昨日クレイオーさんがこの村に来てくださったので、演奏してもらったんです」

歌姫「眠っていても、音楽はある程度脳に影響を及ぼしますの」

歌姫「あなたの生命力を強めるために必死に歌ってハープを弾きましたのよ」
572 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:07:46.21 ID:IbKbh14ho

白旅人「クレイオーさんの歌と、」

白旅人「あなたに寄り添っていた精霊の呼びかけによりあなたの生命力が回復したタイミングで、」

白旅人「どうにかしてあなたを木から引きずり出しました」

精霊……そっか、ユキ、ほんとに来てくれてたんだ。

白旅人「木と化していた魔力はその琥珀に封じてあります」

白旅人「取り扱いには注意した方がいいでしょう。再び暴走する可能性を否定できません」

白旅人「……すみません、もっと上手くあなたを助けることができたらよかったのですが」

助けてくれただけで充分だよ。ありがとう。

歌姫「これから帰るつもりだったのですけれど、しばらくは付き添いますわ」

歌姫「心配ですもの。あなたには音楽という名の薬を処方して差し上げないと」

学校はいいのか?

歌姫「フリーになった記念にライブツアーでもしようと思っていましたのよ」

歌姫「どうせ大学はもう暇ですし」

歌姫「ああ、ついでにあちこちの遺跡や古い文献も見て回りたいですわね」
573 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:08:20.67 ID:IbKbh14ho

村を出た。

俺があの村にいることがオディウム教の連中にバレてちょくちょく襲撃されていたらしい。
一箇所に長居するのは危険だ。

歌姫「ちょっと水浴びをして参りますわ。見張りを頼みます」

歌姫「あ、覗いたら許しませんわよ!」

魔剣士「…………」


可視化した魔力で文を書いた。
短い文章くらいだったらイメージだけで可視化することができる。

独特の精神制御が必要だから疲れるし、余程落ち着いてないとできないが。
あれから数日経ったが、モルはまだ目覚めない。

『あいつ、クセの強い性格してるだろ。傷つけられたりしてねえか』

白旅人「いいえ。僕あんな感じの子好きですよ。奴隷にされたいですね」

そ、それならよかった……のか?
574 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:09:34.48 ID:IbKbh14ho

『俺もすげえ無神経なところがあって、人から嫌われることはよくあるんだけど』

『俺といて嫌なことがあったらすぐはっきり言ってほしい。治すようがんばるから、』

『だから』

白旅人「見捨てませんよ。安心してください」

昔は人に嫌われようがどうでもよかった。縁が切れたって大して気にも留めなかった。
でも今は、仲間を失うことが恐ろしくて仕方がない。

あいつら大丈夫かな。捕まったりしてねえかな。
安否は気になるが、確認する気にはなれなかった。

……駄目だ、弱気になるとまた腹が熱くなってくる。




白旅人「今夜はここらで野宿ですね」

焚火を消した。
この暗さと睡眠が怖い。不安で眠れない。

クレイオー、歌、聞かせて…………。

歌姫「演奏してほしいんですの? いいですわよ」

歌姫「子守唄でも歌って差し上げますわ」
575 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:10:13.62 ID:IbKbh14ho

――
――――――――
――――――――――――――――

「みぃ――つけたぁ」

カナ、リア……?
木陰から、見慣れた金髪の美少女がこちらを覗いていた。

「随分探したのよ」

一歩一歩こちらに近づいてくる。
やめろ、こっちに来るな。

身体が動かない。逃げられない。

地面に組み敷かれた。

「よくも逃げてくれたわね」

玉を掴む手に力が込められていく。

「容赦しないって、言ったでしょ」

あ、やばい、俺、去勢され――――
576 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:10:57.35 ID:IbKbh14ho

魔剣士「っあああああああああああああああああ!!」

魔剣士「あ、あ、ぅああああああああああああああああああああ」

歌姫「んー、またパニックですの?」

白旅人「エリウスさん、大丈夫ですよ。怖い夢でも見たのですか」

魔剣士「はあ、はあ、あ、あ、あ、あ、あ」

ああ、なんだ、夢か。

地面をのたうち回って暴れていた俺を、メルクが抱えて背中をさすってくれた。
情緒不安定になって突然泣き出したり、パニックを起こしたりするのは、この頃よくあることだった。

…………少しだけ呼吸が整った。

もう全部吐き出したい。
俺がされたのは誰にも言えないことだけれど、誰かにぶちまけたい衝動に駆られた。

でも、この衝動に任せて暴露しようにも、言葉を発しようとすると喉が絞まって苦しくなるんだ。
気がつけば、俺は植物にするように意思を魔力に込めてメルクにぶつけていた。
577 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:11:34.38 ID:IbKbh14ho

  犯されたんだ。仲間の女に。信頼していた相手に。
  俺は愛してもない相手に無理矢理犯されてもただただ屈辱なだけなんだ。

  痛い。痛いんだよ。
  でもこんなこと人に言ったって馬鹿にされるだけだろ。

  男が女に犯されて苦しんでるなんて信じてもらえるわけない。
  もうどうすりゃいいのかわかんねえんだ。助けてくれ。


しばらくすると、メルクは俺が何をしたくて魔力を発しているのか察したようだった。

白旅人「……ああ、そういうことだったんですね」

白旅人「安心してください。僕はあなたの苦しみを否定しません」

ほんとに?

歌姫「ど、どういうことですの……?」

白旅人「ええと……」

歌姫「……話しにくいことならいいですわ。あたくしは寝ます」

二人にしてくれた。
578 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:12:27.78 ID:IbKbh14ho

白旅人「『女性が加害者になるわけがない』『男性なら抵抗できるはずだ』」

白旅人「『男性なら襲われても喜ぶはずだ』」

白旅人「……そういった思い込みが世間にあることは事実ですね」

白旅人「しかし、実際は長期的に苦しみを背負うことになる場合が少なくないそうです」

白旅人「ですから、あなたがデンドロフィリアであることとは関係なく、」

白旅人「あなたが苦しんでいることは何もおかしいことではないわけです」

魔剣士「…………」

白旅人「性犯罪防止結界に引っかかった犯罪の数なんですけどね」

白旅人「男性が被害に遭いかけた事件の数は、女性が被害の事件の五倍だそうですよ」

白旅人「それほど事件が起きるのは、」

白旅人「男性が被害者である場合は犯罪にならないと人々に認知されているためでしょう」

強姦神話とかいうやつだろう。今時は強姦そのものが神話になりかけているが。

白旅人「ご自分を責める必要はありませんよ」

でも、俺がもっとカナリアの気持ちをわかってやれていたら……。
自責の念は拭えなかった。

白旅人「それに……」

白旅人「…………いえ、なんでもありません」

白旅人「ご自分の心の傷を癒すことに集中してください」
579 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:13:09.31 ID:IbKbh14ho

――――――――
――

歌姫「あなたの調理器具を貸しなさい。あたくしが昼食をこしらえて差し上げます」

あんまり自分の持ち物を他人に触られたくないんだが……。

歌姫「……包丁何種類ありますの? え、何これ……これはなんのための道具ですの?」

ああもう危なっかしいな。一緒にやるよ。

歌姫「どうせお料理には疎いですわよ。んもう」

こいつの歌のおかげで、一時的にだがとても気分がいい。
料理くらいならやる気が出た。




歌姫「……いつものあなたの味とは違いますわね。もちろんおいしいですけれど」

白旅人「お袋の味って感じですね〜」

……母さんの味を再現してしまっていた。
いつもの俺の料理の方がずっとレベルは上なのにな。

母さんの料理が家庭料理の中の上くらいだとしたら、俺の料理は最高級レストラン並みだ。
でも今は母さんのメシを食いたくて仕方がない。

母さん、今頃どうしてるかな。声を聞きたいけど、電話したところで俺喋れないしな。
580 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:14:39.69 ID:IbKbh14ho

携帯にメールが届いた。アルバからだ。

  送信者:アルバ・レグホニア “alalba_tross@Fmail.ac.south”

       ラベンダーを並べんだー!
       P.S.明日はルツィーレの誕生日だからね! 祝ってあげてね!


すごくくだらないのに笑ってしまった。
たまに駄洒落を思いついたら送ってくるんだよなこいつ。

添付画像には、収穫したラベンダーの花が写されていた。
これから束ねて廊下にでも干すのだろう。
ルツィーレももう十歳か。早いもんだな。

魔剣士「…………!」

精霊に呼ばれた。

歌姫「……顔色が悪いですわよ」
581 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:15:31.14 ID:IbKbh14ho

精霊を無視するわけにはいかない。
メルクにモルの石を預けて、森の奥へ歩を進めた。

恐怖で身体が震える。


辛夷精霊「……なんて弱々しい波動」

辛夷精霊「これじゃ、どんなに融合が進んでいても……何回も絶頂してもらわなくちゃ足りないね」




身体中を愛撫され、尻の中を貫かれた。
恥辱の極みだ。

辛夷精霊「他の子が必要以上に君を苛めたくなっちゃう気持ちがわかっちゃったかも」

辛夷精霊「君、精霊並みに綺麗な顔してるんだもの」

なんだよそれ。母さんに似なかったらここまでされなかったとでも言うのか。

辛夷精霊「ねえほら、ここ気持ちいいんでしょ?」

早く終わんねえかな……。

言葉を発せないんだから、どうせなら喘ぎ声とかも全部出なくなっちまえばいいのに。
自分の意思とは関係なく勝手に出る声は出ちまうんだ。
582 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:16:19.80 ID:IbKbh14ho

辛夷精霊「身体は気持ちよくなってるのに、心は辛そうだね」

辛夷精霊「……心も気持ちよくなれるようにしてあげよっか」

周囲の植物から妖しい茎が伸び出した。

辛夷精霊「まともに考えることができなくなっちゃうくらい、よくなれるよ」

辛夷精霊「ついでに、コレが元気になる成分も挿れてあげちゃう」

力の入っていない愚息をつつかれた。
どうせ勃起不全だよ。男失格だよ。ほっといてくれ大きなお世話だ。

辛夷精霊「折角こんな滅多にできないコトをしてるんだから、楽しまなくちゃね!」

まずい。植物側の自我が強いと俺は成分を操ることができない。

辛夷精霊「一回やったらクセになっちゃうかも。……あははは!!」

こいつが俺に打とうとしているのは麻薬に近い物と強制勃起薬だ。
麻薬は言うまでもなく危険だが後者も副作用でやばいことになるかもしれない。

やめろ! やめろ!!

辛夷精霊「怖がらなくても大丈夫だよ。ちょっと人間やめてる状態になっちゃうだけだから」

死なないなら問題ないってか!? 冗談じゃねえ!!

白緑の少女「おやめなさい!」
583 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:16:48.60 ID:IbKbh14ho

え……ユキ?

辛夷精霊「す、スファエラ様……」

白緑の少女「人間はあなたが思っている以上に脆いのです」

白緑の少女「乱暴にしたら……許しませんよ」

辛夷精霊「は、は、はい…………」

白緑の少女「エリウスさん、ごめんなさい」

白緑の少女「彼女に悪意はないのです。ただ、人間のことを知らなすぎるだけ……」

犯されているところを好きな女の子に見られた。


俺やっぱ死にたい。
584 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:17:37.04 ID:IbKbh14ho
kokomade
osokutegomennnasai
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/17(土) 19:17:36.62 ID:GXMFilMdo
おつおつ
忙しかったら生存報告だけでもいいよ
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/18(日) 03:39:40.08 ID:AD87cDXgO
乙
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/18(日) 23:53:11.30 ID:0Dr5MWzg0
カナリアとくっつく可能性はあるのか?
588 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:53:57.03 ID:x9vu2cVWo

第二十一株 緑ノ秩序ヲ創ル者


今、最愛の女の子が膝枕をして俺の頭を撫でてくれている。
だが俺の首から下は他の精霊に犯されている。とんだ羞恥プレイだ。

白緑の少女「エリウスさん……」

魔剣士「ぃ、っ……で……」

見ないで。出ない声を振り絞った。
あ、やばい。久々に朝立ち以外で勃った。

好きな子に対してはまだ反応するんだな……とか喜んでいる場合じゃない。

辛夷精霊「あ、魔力……おいしくなったね」

わりとマジで泣いてる。
589 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:54:38.36 ID:x9vu2cVWo




樹液と汗にまみれた身体をユキが拭いてくれた。

白緑の少女「上着、どうぞ」

魔剣士「…………」

惨めすぎる。

白緑の少女「ええっと……」

白緑の少女「人間は、性的な行為を隠そうとする生物……ですものね……」

白緑の少女「私も考えが足りていませんでした。……ごめんなさい」

性器である花を目立たせている植物は少なくない。
性的なものを隠す文化が植物にはないのだろう。

俺が気にしているほど気にするべきことではないらしい。
でも俺はなんだかんだで人間だから、見られたのはやはりとてもつらい。つらい。
590 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:55:12.04 ID:x9vu2cVWo

もうやだかっこ悪すぎる。死にたい死にたい死にたい死にたい。

魔剣士「っ…………!!」

やば、腹、痛い……侵食されてる。

白緑の少女「いけない!」

後ろからユキに抱きしめられた。

白緑の少女「生きて!」

魔剣士「…………」

    俺が犯されてるのを見て、ほんとになんとも思わなかったの。
    幻滅したでしょ。

白緑の少女「そんな、幻滅なんてしません」

白緑の少女「でも……なんとも思わなかったわけではありません」

魔剣士「…………」

白緑の少女「私、正直……嫉妬してしまっていました」

嫉妬?

白緑の少女「好きです、エリウスさん」
591 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:57:08.52 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「……初めて会った時から、私はあなたに惹かれていました」

白緑の少女「でも、あなたが私の恋人の生まれかわりだと気づいて……」

白緑の少女「今のあなたのことが好きなのか、彼の面影を追いかけていただけなのか、」

白緑の少女「わからなくなってしまったんです」

    だから、あの時泣いてたの?

白緑の少女「……はい」

白緑の少女「しばらく一人で考えてわかりました。私は今のあなたが好きです」

白緑の少女「しかし……彼、イウスのこともまだ愛してしまっています」

イウス……?

じゃあ、あれは幻なんかじゃなくて、前世の記憶?
今まで琥珀を通して見た映像もきっと……。

白緑の少女「ごめんなさい。こんな不誠実な気持ちをあなたに向けてしまって」
592 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:57:47.78 ID:x9vu2cVWo

    全然いいよそんなの。だって魂はおんなじなんだもん。

嫉妬する必要なんてなかったんだ。
あの男の精霊は俺の過去世だったんだから。

    俺の前世、人間に自分を伐るよう頼んでたよね?

白緑の少女「記憶があるのですね」

    ちょっとだけだけどね。

白緑の少女「……私が子供を望んだから、彼は私と同じ種族に転生しようとしたのです」

白緑の少女「ですが、彼の転生が完了する前に、」

白緑の少女「憎悪の神オディウムがもたらした厄災により私の種族は滅んでしまいました」

白緑の少女「私も枯れることができたらと、何度も思いました」

白緑の少女「しかし、あの後、私は死にたくても死ねない体になってしまいました」

だから俺の魂は一億年に近い時を彷徨っていたんだ。

ユキと子供を成せる体を求めて、ずっと。
593 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:58:17.87 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「精霊から精霊に転生する場合は、前世の人格と記憶を引き継ぐことができるんです」

白緑の少女「でも、今のあなたは人間。あくまで別の人格を持って生まれた存在です」

白緑の少女「それなのに、両方愛しているだなんて……」

俺は振り向いて彼女を抱きしめ返した。

白緑の少女「許してくださるのですか?」

    両方好きでいていいよ。死んだ恋人のこと忘れろだなんて酷なこと言わないよ。
    俺の前世ごと俺を愛して。

白緑の少女「……ありがとう、エリウスさん」

    好きだよ、ユキ。誰よりも。

俺が抱えていた孤独感なんて、ユキの孤独に比べればちっぽけなものだ。
どれだけ寂しい思いをしただろう。どれだけ苦しかっただろう。

    一億年も独りにしてごめん。
    俺の命が続く限り、君を愛するから。
594 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:59:14.21 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「この琥珀は、イウスの身体から生まれたものです」
白緑の少女「きっと彼があなたを守ってくれるでしょう」





歌姫「遅かったじゃ……随分顔色が良くなりましたわね」

魔剣士「うん」

歌姫「あら。声、治りましたの」

白旅人「元気を取り戻されたようでよかったです」

魔剣士「待たせて悪かったな。急げば夜までに町に着くはずだ。車飛ばすぞ」

傷が癒えたわけじゃない。
でも、好きな子と両思いだと確認できた喜びが心の芯を支えてくれる。
595 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:00:13.24 ID:x9vu2cVWo

白旅人「あなたを混乱させないために黙っていたのですが、」

白旅人「実は僕、あなたの事故現場にたまたま通りがかったわけじゃなかったんです」

魔剣士「随分都合よく助けてもらえたなとは思ってたんだ」

白旅人「ある日、いつも通りオディウム教徒の方々に強引な勧誘をされていたのですが」

白旅人「彼等、妙なことを言って去っていったんですね」

白旅人「『作戦が上手くいきそうだ』『最優先すべきエリウスを追うぞ』と……」

魔剣士「…………」

白旅人「気になったので、僕は彼等の後を追いました」

白旅人「彼等、あなたに探知されない距離を保ちつつ気配を極力抑えていましたね」

白旅人「そして、雇った外部の人間にあなた方の様子を報告させていたようです」

白旅人「ある時、彼等はあなた方のいる方向へ急接近しました」

白旅人「『生贄達の仲を決裂させることに成功した』と言ってね」
596 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:00:44.92 ID:x9vu2cVWo

白旅人「彼等は一人で出てきたあなたに睡眠の術をかけ、捕らえようとしました」

白旅人「普段のあなたなら術にかかりなんてしなかったでしょうけれど、」

白旅人「精神的に追い詰められると隙が大きくなりますからね」

あの時、俺は敵の気配を察知する余裕なんてなかったし、
ひたすらあの場から逃げることしか考えることができなかった。

白旅人「そこで僕が奴等を倒し、あなたを助けたわけです」

白旅人「おそらくカナリアさんは、彼等から何らかの術をかけられていたのでしょう」

魔剣士「……俺達、罠に嵌められたんだな」

クレイオーとのライブの後、微かだがあいつの魔力に違和感があった。
気のせいなんかじゃなかったんだ。

魔剣士「…………」

カナリア自身がやりたくてあんなことをやったわけじゃなかった。
裏切られたわけじゃなかったんだ。

そもそもあいつは俺の気持ちを無視してあんなことやらかすような女じゃない。
597 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:01:22.02 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「じゃあすぐにカナリア達と合流しねえと!」

白旅人「まだあなたとカナリアさんが顔を合わせるのは危険です」

魔剣士「だけど」

白旅人「絶対とは言い切れませんが大丈夫ですよ。彼女は現在プティア兵に保護されています」

白旅人「僕の祖国の両親に相談したら、いいように手を回してもらえたんですよ」

魔剣士「…………そうか」

白旅人「彼女もそう簡単には催眠にかからない精神の持ち主です」

白旅人「余程弱っているところを付け込まれたのでしょう。……許せませんね」

魔剣士「ちくしょう、あの時ちゃんと調べていれば…………!」

白旅人「心当たりがあるのですか」

歌姫「あ……」

歌姫「もしかして、あたくしと町に行ったあの日じゃありませんの……?」

歌姫「あたくし、カナリアさんに違和感を覚えた瞬間がありましたの」

魔剣士「…………」
598 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:02:07.38 ID:x9vu2cVWo

歌姫「その通りですのね?」

歌姫「……もし、あたくしがカナリアさんを傷つけたせいで、」

歌姫「あなた方に何かがあったのなら……」

魔剣士「……もう、あんま他人を煽ったりすんなよ」

歌姫「……ごめんなさい」

魔剣士「まあ、おまえに何も言われなくても元々弱ってたし、悪いのはオディウム教の連中だし」

魔剣士「また歌ってくれよ」

魔剣士「緊張したり、嫌なことばっか思い出したりしたら、また声出なくなりそうなんだ」

歌姫「それで、贖罪になるのでしたら」
599 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:02:42.44 ID:x9vu2cVWo

翌朝

魔剣士「昨晩は暗くてよくわかんなかったけど」

魔剣士「この町の雰囲気、あんま穏やかじゃないな」

歌姫「緊張してる感じですわ」

白旅人「近隣の森と揉めてるそうですよ」

魔剣士「マジ?」

町人「おお、あなたはもしかして森林保護活動を行っているというエリウスさんでは」

魔剣士「活動ってか、ネットで呼びかけたりしてる程度だけどな」

魔剣士「事情を教えてもらっていいか?」

町人「この町は、かつてオパールの採掘で栄えていたのですが」

町人「ほとんど掘り尽くしてしまい、貧困に苦しむこととなってしまいました」

町人「町全体が貧しくなれば、質のいい魔鉱石を買うことができなくなります」

町人「そのため、火を使いたければ大量の薪炭材を消費するしかなく……」

魔剣士「それだけじゃないだろ」
600 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:03:27.29 ID:x9vu2cVWo

町人「オパールが採掘できなくなった代わりに、周辺の森の木を木材として売り出しているのです」

魔剣士「まあ他の町もやってることだよな」

町人「…………」

魔剣士「他にまだあんだろ」

町人「実は……タバコの栽培を始めたのです」

町人「伐採した木の多くは、葉煙草の乾燥のために使用しています」

魔剣士「はあー……なんでよりにもよってんなもんで儲けようとするかね」

魔剣士「できる限り環境を破壊しないビジネスを確立しなきゃあ、」

魔剣士「結果的に余計貧しくなるだけだってのに」

町人「綺麗事だけで食っていけるほどこの世界は優しくないんですよ!」

町人「たとえその場凌ぎにしかならないとしても、稼がなきゃ妻子が飢えちまう」

魔剣士「でももうちょっと頭使えよ」

町人「この世界の人間全員があなたみたいに頭がいいわけじゃないんだ!」

魔剣士「…………」
601 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:03:55.95 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「……領主には相談したのか?」

町人「三十年前に町長が領主様と喧嘩して以来この土地は見放されてるんですよ」

町人「領主様と連絡を取ったってまともに相手をしてもらえるわけないんです」

魔剣士「いやそこは頭下げろよ」

歌姫「エリウス、クッション言葉のことは教えたでしょう」

魔剣士「あ……」

相手を否定する前に、相手を気遣う一言を挟んだ方がコミュニケーションは円滑になる。
医者からも、大学の先生からも、こいつからも教わったことだったのに忘れてしまっていた。

魔剣士「まあ……色々苦労して、苦肉の策がそれだったんだろうしな」

魔剣士「俺に話しかけたってことは、俺に頼みがあるんじゃないのか」

町人「ええ」
602 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:04:22.52 ID:x9vu2cVWo

町人「あなたが訪れると、樹木の精霊が話す能力を得て、」

町人「近隣の町村とのトラブルが解決していると聞いています」

町人「どうか、この町を助けていただけないかと……」

魔剣士「……とりあえず、精霊と話してきてやるよ」

魔剣士「その後町長のところに向かうから、話を通しといてくれ」

町人「ありがとうございます……」

遠くから何かが破壊される音が聞こえた。

町人「ああ、また精霊様からの罰だ……」

魔剣士「……少しでも早く行かないとやばそうだな」



歌姫「一人で森に入りますの?」

魔剣士「ああ。おまえらはできるだけ安全そうなところにいてくれ」

魔剣士「俺は大丈夫だから」

白旅人「お気をつけて」
603 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:06:04.32 ID:x9vu2cVWo

森に足を踏み入れると、精霊達がざわついた。
こいつらだいぶ気が立ってるな。

魔剣士「あんたがこの森の主か」

唐檜精霊「……ほう。おまえがエリウスか」

空気がピリピリする。
トウヒの大きな根が土を割って現れ、大きく波打って地面を叩きつけた。

唐檜精霊「人に植物の気持ちはわからない」

唐檜精霊「そう思っていたが、おまえは違うようだな」

魔剣士「前世は植物だったらしいし」

唐檜精霊「……ふむ」

唐檜精霊「おや、その琥珀……ただの死骸ではないだろう。貸してはくれぬか」

唐檜精霊「その力があれば、この町を一晩で滅ぼすことができそうだ」

魔剣士「これは何かを壊すためのもんじゃない」
604 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:06:32.35 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「我等の心が理解できるのならばわかるだろう」

唐檜精霊「あの知能の低い人間共! 散々警告を出したというのに!」

根が何度も地面を叩き、周囲の精霊達も怒りを露にしている。

魔剣士「警告って、どんな風に出したんだ?」

唐檜精霊「最初は蔓植物で阻塞を張った。次は軽く攻撃を加えた」

唐檜精霊「人間達は過剰な伐採をやめなかった」

唐檜精霊「となれば攻撃を強めるほかあるまい」

唐檜精霊「何故くだらない人間の嗜好品を作るためにこの森が破壊されなければならぬのだ!」

魔剣士「…………」

魔剣士「そりゃつらかったな」

魔剣士「……声、届かなくて、もどかしかったろ」

唐檜精霊「ああ」
605 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:07:42.07 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「声さえ届けば妥協案を出すことができただろう」

唐檜精霊「人間達に知恵を授けてやれただろう」

唐檜精霊「しかし我等が人間に対してできることは自衛の攻撃のみ」

唐檜精霊「『声があった頃』は……あの時代はよかった」

唐檜精霊「人と共に喜び、悲しみ、生活を共にすることができていた」

魔剣士「……それって、いつ頃の話だ?」

唐檜精霊「いつ? いつだったろうか……」

唐檜精霊「数えるのも面倒なほど古き時代のことだ」

唐檜精霊「なんせ、あの黒き憎しみの塊が暴れる前のことだからな」

魔剣士「オディウム神のことか?」

唐檜精霊「神などという立派な名で呼びたくはないな」

唐檜精霊「彼奴が暴れてくれたおかげで世の草木は弱り、声を持つ者は滅多に生まれなくなってしまった」

魔剣士「あんた、そんな昔からずっと記憶を引き継いでるのか?」
606 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:08:10.78 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「己を失うのが嫌でな」

唐檜精霊「ああ、そうだ。あれは一億年近く前だ」

唐檜精霊「今は樹齢千年程度の木に宿っておるが、当時の私は樹齢五千年の大精霊でな」

唐檜精霊「イウス=スマラグディの阿呆が死にさえしなければ、もっと長く生きられたというのに……」

魔剣士「え、イウス?」

唐檜精霊「知っておるのか? ……ああ、なるほど」

唐檜精霊「おまえは奴の転生体か」

魔剣士「わかるもんなの? そういうの」

唐檜精霊「長く生きておると、魂そのものの波動を読めるようになるのだ」

唐檜精霊「イウスは他者に力を分け与えることに長けていた」

唐檜精霊「奴が生きておれば、あれほどの被害は免れただろう」

唐檜精霊「……今更一億年前に終わったことを言ってもなんにもならぬな」
607 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:08:45.78 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「俺があんたらに魔力を分け与えたら、この通り人間との意思の疎通が可能になる」

魔剣士「多少大勢の人間が来たって、そんなに気分も悪くならねえだろ」

霊的な存在は人酔いしやすい。

魔剣士「攻撃をやめて、町の連中と話し合いの場を設けてほしい」

唐檜精霊「よかろう。緑ノ精霊王の魂を持つ者の頼みだ」

魔剣士「そんな風に呼ばれてたのか」

唐檜精霊「ああ。奴はただの精霊ではなかったしな」

唐檜精霊「木の精霊でありながら女神の子でもあった」

唐檜精霊「しかし何故人間に転生したのか……」

魔剣士「…………」
608 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:09:11.51 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「ずっと、彷徨ってて……この星の裏側や海底まで行ってみたり、」

魔剣士「彼女と子供が作れる新種が生まれないか待ってみたりして……でも駄目で」

魔剣士「いっそ適当に転生しようかなと思っても、適合する新しい身体なんてのもなかなか見つからなくて」

魔剣士「もう諦めようかなって思った時、光が見えたんだ」

魔剣士「それは、波動の強い魂が入っても耐えられる、聖玉の力を受け継いだ肉体で」

魔剣士「それに、なんだかとても懐かしい感じがして……」

唐檜精霊「あー、それ以上思い出すな」

唐檜精霊「人格を引き継いでおらぬのに、前世の記憶を蘇らせるのは非常に危険なことなのだ」

唐檜精霊「今生の人格が崩壊しかねん」

魔剣士「そっか」

俺の前世がユキとどういちゃついてたのかとか色々気になるんだけどな。
609 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:09:44.51 ID:x9vu2cVWo

――――――――
――

歌姫「タバコなんてこの世から消えちゃえばいいんですわー!」

歌姫「体の弱いお母様はいつもタバコの煙に悩まされてるんですもの!」

魔剣士「喘息持ちはほんと苦労してるらしいな」

クレイオーのお袋さんは線の細い儚げな美人で病弱だ。

白旅人「なんとか落ち着いて交渉が進んでいるようでよかったですね」

魔剣士「決裂しなきゃいいんだけどな……」

町長や町のお偉いさん方は領主に頭を下げて援助を求めつつ、
植物達と和解するために奔走している。

歌姫「植物を怒らせたら恐ろしいことになるのは当たり前ですのに、」

歌姫「よくここまで状況を悪くできたものですわね」

魔剣士「魔族が復活していた間、精霊達は大地の穢れで弱って引きこもってたからな」

魔剣士「おっさん世代は精霊のことをよく知らねえんだよ」

魔剣士「だから舐めてかかってトラブルが起きるんだ」
610 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:10:10.64 ID:x9vu2cVWo

次男『もしもしにーちゃん?』

魔剣士「ん、どうした?」

次男『あーよかった、風邪治ったんだ』

次男『兄ちゃん、いつも風邪引いても薬草食べて症状抑えてたでしょ?』

次男『なのに喋れなくなるなんて、どんな酷い風邪だったんだろって』

魔剣士「あー、アウロラから風邪引いたこと聞いたのか。もう治ったよ」

魔剣士「心配してくれてありがとな」

次男『カナリアねーちゃんいる? ちょっと話したいなー』

魔剣士「あ……えっと……」

やべえ……緊張で声が出ねえ。
かすれ声でどうにか答えた。

魔剣士「今一緒にいないんだ。じゃあな」
611 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:10:39.63 ID:x9vu2cVWo

何度か深呼吸をして緊張を解いた。

町長「エリウスさん、ちょっとこの電話に出ていただけませんか」

町長「領主様に援助をごねられてまして……」

魔剣士「いいけど。もしもし?」

よかった。ちゃんと声が出た。

領主「誰が何を言おうとその町のことは知らんぞ」

魔剣士「植物学者のエリウス・レグホニアです。昔揉めた話は聞きましたけど、」

魔剣士「このままじゃ本格的に植物と戦争になっ」

領主「待て、エリウス・レグホニアだと?」

魔剣士「そうですけど」

領主「勇者ナハトの生まれかわりだというあの!?」

魔剣士「え」

領主「わ、わかりました! 住民の要求を呑みます! 呑みますから!!」

領主「国王陛下に町を放置していたことは通報しないでくださいね!!」
612 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:11:32.97 ID:x9vu2cVWo

領主「すぐそっちに向かいます!!」

プツッ

魔剣士「なんなんだよ」

町長「よかったー……実はうちの領主様、」

町長「ルルディブルクの統治に関して勇者ナハトにダメ出しくらったことがあるんですよ」

町長「その時すごくビビっていたと噂になっていたのです」

町長「なので、生まれかわりだと謳われているあなたの言葉ならきっと聞いてくださると思ったんです」

珍しく勇者ナハトの生まれかわり説が役に立った。

歌姫「ルルディブルク……花の都ですわね」

歌姫「この町のお隣ですわ。行く予定ですの?」


  武闘家『あたし、ルルディブルクに行くのすっごく楽しみなんだ』


魔剣士「……気分乗らねえや。他の町村を経由してアクアマリーナに行こうと思う」

ユキは転生することなく、一億年の時を生きている。
樹齢一億年前後の木なんて心当たりは一つしかない。

アクアマリーナの大樹だ。
613 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:12:05.53 ID:x9vu2cVWo

有名だから、全景が写された写真や映像はよく見かけるが、
ちゃんと葉や花の形を見たのは幼い頃だ。

それも、写真ではなく図鑑の絵だった。
俺が彼女に覚えていた既視感の正体はそれだ。

俺好みの小ぶりな白いその花を見てみたいと思いつつ、
彼女が数千年に一度ほどしか花を咲かせないことを知って、当時の俺はひどく残念な気分になった。


魔剣士「そろそろこの町を出るか」

歌姫「どうなるか、見届けないんですの?」

魔剣士「そうすぐに解決する問題でもねえし、」

魔剣士「精霊が話せるようになったからこれ以上俺が口出しする必要もないしな」

町人「あの……定期的にこの町に来ていただくことってできませんかね……」

町人「精霊様もずっと話すことができるわけではないのでしょう?」
614 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:13:01.94 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「めんどすぎるし俺が死んだ後どうすんだよ」

魔剣士「まあ自分達で頑張れよ」

俺は空に聳える彼女の本体を見上げた。
早く傍に行って寄り添いたい。

いっそ、彼女の根本に埋まって彼女の一部として永遠に一緒にいたい……はあ。

携帯が鳴った。

魔剣士「もしもし父さん?」

戦士『エリウス、無事か?』

魔剣士「お、俺は……まあなんとかやってるけど」

戦士『そうか』

戦士『実は……ルツィーレが奴等に誘拐された』

魔剣士「は……?」

戦士『おまえは絶対捕まるなよ。じゃあな』

血の気が引いた。
妹が……捕まった?
615 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:13:38.57 ID:x9vu2cVWo
kokomade
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/22(木) 19:21:35.20 ID:0H3TmUlUO
乙
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/23(金) 08:52:38.13 ID:x6eelSat0
勇者発狂
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/27(火) 01:46:53.38 ID:0i76Lr130
このまま植物とゴールインするのかどうか
619 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/09/28(水) 23:59:35.20 ID:w0w8rQDEo
番外編用のスレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475058552/
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/29(木) 22:06:37.41 ID:SYrPnr6A0
更新頻度も分散されんのかな?
621 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:45:46.69 ID:gTQto6xCo

第二十二株 海を焼く夕陽


魔剣士「もしもし母さん!」

事務連絡以外で俺から母さんに連絡を入れるのは初めてだ。

勇者『エル……』

魔剣士「なあ、母さんの魔感力でルツィーレ探せねえのか」

勇者『駄目……あいつら、瞬間転移術を使うの……追えなかった』

勇者『あの子ったら、学校から抜け出して……その間に……』

魔剣士「……何かわかったら連絡するから。じゃあ」

あまり遠くに連れ去られていたら父さんの能力でも追いかけるのは困難だ。

不安で胸が締め付けられる。
いつも暴れ回っていたルツィーレ。あいつには俺の植木鉢をいくつも割られている。

人の話は聞かないし片付けはできないしじっとしていられない。
でも俺の妹だ。大切な家族だ。
622 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:46:19.21 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナへの道中、植物伝いにオディウム教徒の気配を追った。
こっちから接触し、情報を持っていそうな奴を尋問するためだ。

魔剣士「…………」

歌姫「見つけられそうですの?」

魔剣士「町付近に黒い気の塊があるらしい。多分奴等だ」

歌姫「そう……」

魔剣士「……重苦しい空気にしちまってわりぃな」

魔剣士「町付近まであと数時間あるし何か雑談でもするか」

魔剣士「……俺も少しは気分転換してえし」

歌姫「そ、そうですわね」

歌姫「…………」

白旅人「…………」

魔剣士「…………」

魔剣士「そういやクレイオーさ、やけに女性化乳房の原因に詳しかったじゃん」

魔剣士「あれなんで?」

歌姫「……お父様が一時期それで悩んでましたのよ」

アポロン先生……そうだったのか……。
623 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:47:16.70 ID:gTQto6xCo

――町付近・茂みの中

魔剣士「戦争時に掘られた防空壕……隠れ家にはもってこいだな」

幹部「え、エリウス・レグホニア! 飛んで火に入る夏の虫とはこの」

魔剣士「せいっ!」

幹部「ギャーッ!」

洞窟の壁から木の根が現れ、幹部やその他信者を捕らえた。

魔剣士「ルツィーレ・レグホニアは何処にいるんだ」

幹部「し、知らん!」

魔剣士「ほんとに?」

白旅人「嘘吐いてる顔ですよ」

魔剣士「力づくでも吐かせるしかねえなあ……でも俺暴力は嫌いなんだよなあ……」

幹部「ひいぃ」

信者1「いやあああ! おお神よ、我等を救いたまえ」

信者2「オディウム神を信じていればこんな災難に遭わないはずじゃなかったんですかー!」

魔剣士「根っこ達ー、こちょこちょして差し上げて」

幹部「あひゃひゃひゃひゃやめひぇひゅひひひひひひひ」

魔剣士「吐く? 吐かない?」

幹部「ははひゃい! れっはいははひゃひいいいいいいい」

魔剣士「んー何言ってんのかわかんねえや」
624 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:50:58.31 ID:gTQto6xCo

幹部「うっ」

歌姫「……何をしましたの?」

魔剣士「アルコールやその他薬物をこいつの体内に流し込んだ」

魔剣士「まあ、自白剤みたいなもんだな」

魔剣士「んで、俺の妹何処?」

幹部「あう……ぅ……祭殿……に……」

魔剣士「祭殿? それ何処にあんの?」

幹部「我等が本拠地の……地球の裏側に……」

歌姫「地図ありましたわよ」

魔剣士「ナイス」

歌姫「……意外とここから近いですわね」

魔剣士「なんのために俺等を狙ってるわけ?」

幹部「蜜の八年間をもう一度……」

魔剣士「なんだよそれ」

幹部「これ以上は……ぅぅ……知らされていない……」

幹部「ただ、良質な憎しみが採れた八年間があったと……それを再び……」
625 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:54:18.70 ID:gTQto6xCo

魔剣士「まだルツィーレは無事なんだろうな?」

幹部「儀式は朔の日だ……それまでは……丁重に……」

魔剣士「そうか」

白旅人「リモンという名の女性を知りませんか。そちらにいるはずなのですが」

幹部「リモン……有能さ故に……他の幹部の副官になったはずだ……」

幹部「何処にいるかまでは……」

白旅人「そうですか」




魔剣士「もしもし父さん? ルツィーレの居場所がわかった」

戦士『早いな。息子に先を越されるとは……』

魔剣士「アクアマリーナの北北東にあるウィロウの村の近くだ」

魔剣士「父さんどのくらいで来れそう?」

戦士『早くて三日だな』

魔剣士「それまで俺、そこに近づいて情報集めてるから」

戦士『待て。……いや、任せよう』

戦士『信頼してるからな』

魔剣士「うん。ありがとう」

もう大人任せにするのはやめた。

俺には力がある。そして、奴等を打っ潰したい理由もできた。
オディウム神を復活させなんてしないし、妹は絶対に守る。
626 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:54:54.46 ID:gTQto6xCo

白旅人「朔の日まではまだ時間があります」

白旅人「今日はアクアマリーナで休みましょう」

魔剣士「……ああ」

車道を通り、町内部の駐車場に停めた。

歌姫「本っっっ当におっきいですわね、あの木……」

ユキの木だ。綺麗だな。

真下に巨大な魔鉱石『緑の聖結晶』が埋まっているため、古代から成長し続けている。

天に届きそうなほど高くて、青い空に枝を伸ばしていて……。

魔剣士「うっ」

歌姫「どうしましたの。前屈みになって」

魔剣士「……先に行っててくれ」

射精した……。
627 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:55:20.37 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナの山に登り、北を眺めた。
オディウム教の祭殿がある場所は……流石に見えないか。

ここから見てわかるくらい目立つのだったら、とっくに噂になって兵士が取り締まりに行ってるだろう。

白緑の少女「……エリウスさん」

魔剣士「ユキ」

さっき射精してごめん。

白緑の少女「ようこそ、アクアマリーナの町へ。かつての……クリューソプラソシアへ」

妹のことがなければなんの憚りもなくユキとイチャついたのにな。

魔剣士「あっちにさ、妹が捕らえられてる場所があるんだ」

魔剣士「見えないかなって思ってここに来たんだけど、無駄足だったな」

白緑の少女「もっと高いところへ行きませんか」

白緑の少女「ここよりも、ずっと遠くまで見渡せるはずです」
628 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:56:12.16 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナの大樹の傍に移動した。
本体に近ければ近いほど精霊の力は安定する。

白緑の少女「しっかり捕まってくださいね」

ユキに抱かれて宙に浮いた。

どんどん高度が上がっていく。高所恐怖症じゃなくてもこれはなかなか怖い。
タマがヒュンとなり、俺はユキに強くしがみついた。

魔剣士「あ……ユキ、花、咲かせたんだ」

白緑の少女「ええ。あなたと出会えたことが嬉しくて」

白緑の少女「自然と花を咲かせていました」

甘い香りがする。
この小ぶりな白い花に俺の精液をぶっかけられたら……いかん、勃ちそう。

妹がピンチの時に俺は一体何を考えているんだ。最低だ。兄失格だ。

ルツィーレは今頃それはそれは恐怖に苛まれていて……いやあいつが怖がっているところを想像できない。
あいつはどんな状況でも楽しむタイプだ。多分俺よりも抜けているネジが多い。
629 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:56:58.68 ID:gTQto6xCo

頂点付近の枝に足を下ろした。
地面が白く霞んで見える。

魔剣士「……ルツィーレがいるのは、多分、あの影だ」

いくつか小さな山が連なっている所がある。
兄ちゃんがすぐに助けてやるからな。

魔剣士「…………」

空がこんなにも近い。

ふと西を見た。夕日が海と空を紅く染めている。
水平線からは入道雲が顔を出していた。もうすぐ夏だ。

魔剣士「……ねえ、ユキ」

魔剣士「ユキの根元に埋まっている『緑の聖結晶』の波動、」

魔剣士「俺の家族や、バンヤンの森の波動と似てるんだ」

魔剣士「それって……」

白緑の少女「……緑の聖結晶や、バンヤンの森に散っている魔鉱石は、」

白緑の少女「七つの聖玉の制作段階で生み出されたものです」
630 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:57:33.38 ID:gTQto6xCo

カナリアも聖玉の波動をアキレスさんから受け継いでいる。
だから近い波動を感じていたんだ。

白緑の少女「一億年前。オディウム神の脅威が去った後、魔族が現れました」

白緑の少女「その対抗手段の聖玉の研究が、ここでも行われていたのです」

白緑の少女「緑の聖結晶は、聖玉としての力は不十分なものの、」

白緑の少女「生命を育む能力には長けていました」

白緑の少女「そして、私の波動は緑の聖結晶との相性が良すぎて……」

白緑の少女「枯れることができないまま、気の遠くなる年月を生きてきました」

魔剣士「……一人で見るより、俺と一緒の方が、ずっと綺麗に見えるでしょ。この夕焼け」

白緑の少女「ふふっ……ええ」

魔剣士「臭い口説き文句、嫌い?」

白緑の少女「いいえ」

……ユキの瞳から涙が零れた。
631 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:58:46.49 ID:gTQto6xCo

白緑の少女「ごめんなさい。つい、懐かしくなってしまって」

魔剣士「イウスもこういうこと言う奴だったんでしょ。なんかそんな感じがする」

白緑の少女「はい」

ユキはやっぱり罪悪感を覚えているようだった。気にしなくていいのに。

魔剣士「母さんがさ、昔言ってたんだ。恋には二種類あるって」

魔剣士「今生限りの肉体的な恋と、魂が震える縁の深い恋」

魔剣士「俺、ユキのことを考えると魂がすっごい震えるんだ。ユキは?」

白緑の少女「私の魂も、震えています。これ以上ないほど」

魔剣士「俺とイウスのこと、別々で好きでいてくれてもいいし、」

魔剣士「逆に思いっきりダブらせてもいいよ」

魔剣士「魂同士が強く惹かれ合ってるんだ。両方好きになって当然なんだよ」

白緑の少女「……ありがとう」

魔剣士「もしこれからユキが他の誰かに生まれかわったとしても、」

魔剣士「俺もきっとどちらとも好きになるだろうからさ」

魔剣士「……キス、していい?」

白緑の少女「……はい」
632 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:59:12.57 ID:gTQto6xCo

白緑の少女「この株を持っていってください。私の枝を挿し木したものです」

白緑の少女「何処へ行っても、私の分身と会うことができますよ」

魔剣士「マジで!?」

――――――――
――

……結局イチャついてしまった。

だけど、精神が喜びで満たされた分魂の波動が強まった。
今ならなんでもできる気がする。愛は世界を救うんだ。

歌姫「楽しそうですわね。その木、今の彼女ですの?」

魔剣士「もうとっかえひっかえはしないよ。この子とは永遠だから。前世からラブラブだったの」

歌姫「まあ、幸せならそれでいいですわ」

魔剣士「おまえももう18なんだから嫁ぎ先確保しろよ」

歌姫「大きなお世話ですわー」
633 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:00:16.78 ID:gTQto6xCo

白旅人「好きな男性はいらっしゃらないんですか?」

歌姫「いませんわね」

魔剣士「そういやメルクさ、従者の女の子とは恋仲だったのか?」

白旅人「いいえ。理解されにくいですけど、彼女とは気の合う友達でしたね」

白旅人「それに彼女、もう二度と恋はしないって言ってましたし」

白旅人「元夫の元に残してきたお子さんへ仕送りするのが生きがいだそうです」

魔剣士「へえ……何歳なんだ?」

白旅人「16歳です」

魔剣士「えっ……」

16歳子有りバツイチ……? 闇を感じる。

白旅人「政略結婚で、無理矢理早く結婚させられたそうですよ」

白旅人「その後いろいろあったらしく。まあいいでしょうこの話は」

白旅人「クレイオーさんは、どのような男性がお好みですか?」
634 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:00:44.89 ID:gTQto6xCo

歌姫「……適当なノリで対等に付き合える相手ですわね」

歌姫「でもあたくし、性格が悪い自覚はありますのよ」

歌姫「あたくしの見た目に恋い焦がれる男性は多くとも、内面まで愛してくれる人なんていませんわ」

白旅人「そうとは限りませんよ。僕はあなたのこと……決して嫌いではありません」

歌姫「そ、それ口説いてますの?」

魔剣士「……恋愛のドロドロで関係を崩壊させることだけはするなよ」

白旅人「はは。そろそろ寝ますか」

歌姫「…………」

歌姫「……………………」

歌姫「ドキドキして眠れなくなったじゃありませんの!」

魔剣士「しゃーねーな安眠効果のあるハーブティでも淹れてやるよ」

白旅人「意外とウブなんですね。可愛いです」

歌姫「っ! っ〜〜!」

……なんだかんだで、仲間がいると面白いな。
635 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:01:11.91 ID:gTQto6xCo

――――――――
――

祭殿から最も近い村に控え、植物伝いに奴等の動きを探った。
祭殿付近の山はほとんど岩山だが、幸い植物が生えていないわけではない。

精霊に頼んで情報を探ることができる。

白旅人「調子はどうですか」

魔剣士「順調だ。このまま奴等の行動パターンを把握して、」

魔剣士「ここらの兵士や父さんと協力して乗り込む」

集めたデータをパソコンに記録していく。

小精霊「女の子、建物の地下にいるみたいダヨ!」

魔剣士「さんきゅ。はい、俺の魔力3ml」

小精霊「わーい! おいしい!」

魔剣士「活気づきすぎて奴等に怪しまれないようになー」
636 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:01:37.63 ID:gTQto6xCo

歌姫「便利な能力ですこと」

魔剣士「俺の魔力を与えたら、精霊は活動範囲が広がる上に邪気への耐性もつくからな」

魔剣士「人間が忍び込んで調査するよりも遥かに安全に情報収集を行える」

クレイオーは本を読んでいる。

魔剣士「何読んでんだ?」

歌姫「この地方に伝わる物語ですわ」

歌姫「とんでもなく古い石版に彫られていた物の写本だそうですの」

魔剣士「へえ」

白旅人「……原文のままですか。古代言語ですよこれ」

歌姫「ええ。精霊王ユース=スマラグディと精霊スパエラ=ニウィスの恋物語です」

魔剣士「ん?」

発音の仕方が異なるが、ユキと俺の前世の名前だ。

白緑の少女「まあ、懐かしい。これ、イウスが書いたんですよ」

白緑の少女「私達のことをそのまま記したんです」

魔剣士「……イウスってけっこう恥ずかしい奴だったんだな」

自分の黒歴史を見ている気分になった。
637 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:02:11.28 ID:gTQto6xCo

歌姫「まあ、ヒロインご本人でしたの」

歌姫「考古学を専攻する者としては興味深いですわね」

歌姫「古代文明について色々と伺わせていただきたいですわ」

白緑の少女「一段落ついたら、たくさんお話ししましょう」

白緑の少女「エリウスさん以外の方ともお喋りしたいんです」

白旅人「ふむ。我ユースと愛しき乙女スパエラは手と手を取り合い……」

歌姫「読めますの?」

白旅人「教養はそこそこ積んでいるつもりですよ」

歌姫「まあ、素晴らしいですわ」

白旅人「彼女の肌は名の通り雪の如く儚く、その瞳は」

魔剣士「音読やめて!! それの作者俺の前世だから!」

白旅人「詩的で素晴らしい文章ですよ」

魔剣士「うわー!!」

白緑の少女「……ふふ。恥ずかしがってるの、可愛いです」

魔剣士「い、いじわる」
638 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:05:17.91 ID:gTQto6xCo

魔剣士「……だいぶ情報が集まった。そろそろ作戦を練れそうだ」

魔剣士「あ、おまえらは待機しててね。巻き込みたくないから」

白旅人「とんでもない。お手伝いしますよ」

白旅人「僕自身、彼等には用がありますからね」

歌姫「……あたくしの力はきっと役に立ちますわ。手助けさせてくださいまし」

魔剣士「まだ責任感じてんのか? もう気にしなくていいよ」

歌姫「それじゃあたくしの気が済みませんわ!」

魔剣士「おまえ言い出したら聞かないもんな。じゃあ頼むわ」


協力してくれるこの国の憲兵のリーダー格数名と共に祭殿の近くまで出向いた。

憲兵団長「オディウム教団の祭殿を見つけたとはとんでもないお手柄ですぞ」

憲兵「でっかいっすねー……大戦争になるんじゃないですか」

実際に乗り込むのは軍人の方々と更に作戦を練ってからだ。
他の国からも密かに少数精鋭の援軍が送られているらしい。

魔剣士「祭殿の南西部と北東部は警備が薄い。ここから奇襲をかけるのはどうでしょうかね」

憲兵団長「妥当ですな」

魔剣士「んで、敵を食い止める班と地下に進む班に分かれて……」

その時、祭殿から粉塵が巻き上がり、大きな爆発音が轟いた。
639 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:06:07.90 ID:gTQto6xCo

憲兵団長「な、何事だ!」



次女「ばんばばーん!」



魔剣士「ちょっ」

次女「じゅじゅちゅしのみんなと鬼ごっこだよー!」

天真爛漫なガキが約一名祭殿から飛び出して駆け回っている。

魔剣士「こらああああああああああああ」

魔剣士「ルツィーレええええええええええええ!!」


自力で脱走してくるなんて、兄ちゃん予想してなかったよ……。
640 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:06:50.03 ID:gTQto6xCo
kokomade
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:09:49.11 ID:UYFEPLQ30
元気になったのはいいがガウェインとカナリアはどうしてるのか
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:11:51.23 ID:fWKIqOWA0
妹の両親アレだからそりゃ普通じゃないよなww
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:38:27.39 ID:xiDDG6gE0
じゅちゅちゅし今しゅじゅちゅちゅう
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 23:39:22.54 ID:7WTDGbO3O
乙
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/07(金) 16:13:06.92 ID:VgPLM/OTO
道理で親父もかーちゃんも、そこまで心配してる素振りがないと思ったらw
むしろ暴れまわって余計に状況を拗らせるほうが心配だったね。
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/11(火) 00:30:47.09 ID:0m7GWN9I0
かごめが犬夜叉に対して自分も桔梗も好きでいていいよって言ってるようなもんだよなこれ
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 18:58:27.10 ID:Thjz0PFb0
つずきが楽しみ
そのうちスイカの種を食べたらおなかの中でスイカが!!みたいなことになりそうでこわえ
648 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/10/20(木) 23:39:03.63 ID:yMADnXuyo
生存報告
近い内に更新します
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/21(金) 15:03:49.60 ID:rGgNrG5A0
はよはよ
650 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:03:50.97 ID:his6J3PBo

第二十三株 その能天気さが羨ましいよ


――――――――

数分前 地下牢

大男「嬢ちゃん、何か欲しい物ある? どんな物が好き?」

次女「お母さんのおっぱい!」

大男「え!? う、うーん……ここにはないなあ……」

大男「お腹空いてない? 何か食べる?」

次女「グラウンド・エルダーのキッシュ!」

大男「ぐ、ぐら?」

次女「お兄ちゃんがたまに作ってくれるんだ! すっごくおいしいんだよ!」

大男「え、えーと」

次女「お姉ちゃんのオニオンスープも飲みたいなあ」

大男「うーん……」

ガリ男「ほっとけよ。朔の夜まで生きてさえいればいいんだからよ」

大男「せめてその日まではさ……可哀想じゃん」
651 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:04:27.72 ID:his6J3PBo

次女「おじちゃん見ててね!」

大男「ん?」

バッ!

次女「ばんばばーん! おちんさまだよぉ!」

大男「!?」

ガリ男「お、おちんちんが付いてるだと!?」

次女「あきゃきゃきゃきゃ驚いてるー!」

大男「お、男の子? え?」

次女「あ、このカギ錆びてるよぉ!」

大男「わー出ちゃだめー!」

次女「あきゃきゃきゃ! えーい!」

大男「いてっ」

ガリ男「なんだこの腕力! 10歳の子供とは思えんぞ!」
652 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:04:55.90 ID:his6J3PBo

ガリ男「待てー!!」

次女「捕まらないよー!」

「子供が逃げたぞー! 追えー!」

「は、速い!」

「追いつけんぞ!」

次女「あきゃきゃきゃきゃ」

ガシャーン!

「ああっ憎しみの壺が!」

「オディウム神の彫像があああ!」

「まるで破壊神だ……」

「ええい! 子供一人に何を手古摺っている!!」

「それが、あの子妙に攻撃力が高くて……」

次女「こんなに大勢の人を騒がせるのは初めてだよぉー! おもしろおぉぉい!!」
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