魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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618 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/27(火) 01:46:53.38 ID:0i76Lr130
このまま植物とゴールインするのかどうか
619 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/09/28(水) 23:59:35.20 ID:w0w8rQDEo
番外編用のスレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475058552/
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/29(木) 22:06:37.41 ID:SYrPnr6A0
更新頻度も分散されんのかな?
621 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:45:46.69 ID:gTQto6xCo

第二十二株 海を焼く夕陽


魔剣士「もしもし母さん!」

事務連絡以外で俺から母さんに連絡を入れるのは初めてだ。

勇者『エル……』

魔剣士「なあ、母さんの魔感力でルツィーレ探せねえのか」

勇者『駄目……あいつら、瞬間転移術を使うの……追えなかった』

勇者『あの子ったら、学校から抜け出して……その間に……』

魔剣士「……何かわかったら連絡するから。じゃあ」

あまり遠くに連れ去られていたら父さんの能力でも追いかけるのは困難だ。

不安で胸が締め付けられる。
いつも暴れ回っていたルツィーレ。あいつには俺の植木鉢をいくつも割られている。

人の話は聞かないし片付けはできないしじっとしていられない。
でも俺の妹だ。大切な家族だ。
622 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:46:19.21 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナへの道中、植物伝いにオディウム教徒の気配を追った。
こっちから接触し、情報を持っていそうな奴を尋問するためだ。

魔剣士「…………」

歌姫「見つけられそうですの?」

魔剣士「町付近に黒い気の塊があるらしい。多分奴等だ」

歌姫「そう……」

魔剣士「……重苦しい空気にしちまってわりぃな」

魔剣士「町付近まであと数時間あるし何か雑談でもするか」

魔剣士「……俺も少しは気分転換してえし」

歌姫「そ、そうですわね」

歌姫「…………」

白旅人「…………」

魔剣士「…………」

魔剣士「そういやクレイオーさ、やけに女性化乳房の原因に詳しかったじゃん」

魔剣士「あれなんで?」

歌姫「……お父様が一時期それで悩んでましたのよ」

アポロン先生……そうだったのか……。
623 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:47:16.70 ID:gTQto6xCo

――町付近・茂みの中

魔剣士「戦争時に掘られた防空壕……隠れ家にはもってこいだな」

幹部「え、エリウス・レグホニア! 飛んで火に入る夏の虫とはこの」

魔剣士「せいっ!」

幹部「ギャーッ!」

洞窟の壁から木の根が現れ、幹部やその他信者を捕らえた。

魔剣士「ルツィーレ・レグホニアは何処にいるんだ」

幹部「し、知らん!」

魔剣士「ほんとに?」

白旅人「嘘吐いてる顔ですよ」

魔剣士「力づくでも吐かせるしかねえなあ……でも俺暴力は嫌いなんだよなあ……」

幹部「ひいぃ」

信者1「いやあああ! おお神よ、我等を救いたまえ」

信者2「オディウム神を信じていればこんな災難に遭わないはずじゃなかったんですかー!」

魔剣士「根っこ達ー、こちょこちょして差し上げて」

幹部「あひゃひゃひゃひゃやめひぇひゅひひひひひひひ」

魔剣士「吐く? 吐かない?」

幹部「ははひゃい! れっはいははひゃひいいいいいいい」

魔剣士「んー何言ってんのかわかんねえや」
624 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:50:58.31 ID:gTQto6xCo

幹部「うっ」

歌姫「……何をしましたの?」

魔剣士「アルコールやその他薬物をこいつの体内に流し込んだ」

魔剣士「まあ、自白剤みたいなもんだな」

魔剣士「んで、俺の妹何処?」

幹部「あう……ぅ……祭殿……に……」

魔剣士「祭殿? それ何処にあんの?」

幹部「我等が本拠地の……地球の裏側に……」

歌姫「地図ありましたわよ」

魔剣士「ナイス」

歌姫「……意外とここから近いですわね」

魔剣士「なんのために俺等を狙ってるわけ?」

幹部「蜜の八年間をもう一度……」

魔剣士「なんだよそれ」

幹部「これ以上は……ぅぅ……知らされていない……」

幹部「ただ、良質な憎しみが採れた八年間があったと……それを再び……」
625 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:54:18.70 ID:gTQto6xCo

魔剣士「まだルツィーレは無事なんだろうな?」

幹部「儀式は朔の日だ……それまでは……丁重に……」

魔剣士「そうか」

白旅人「リモンという名の女性を知りませんか。そちらにいるはずなのですが」

幹部「リモン……有能さ故に……他の幹部の副官になったはずだ……」

幹部「何処にいるかまでは……」

白旅人「そうですか」




魔剣士「もしもし父さん? ルツィーレの居場所がわかった」

戦士『早いな。息子に先を越されるとは……』

魔剣士「アクアマリーナの北北東にあるウィロウの村の近くだ」

魔剣士「父さんどのくらいで来れそう?」

戦士『早くて三日だな』

魔剣士「それまで俺、そこに近づいて情報集めてるから」

戦士『待て。……いや、任せよう』

戦士『信頼してるからな』

魔剣士「うん。ありがとう」

もう大人任せにするのはやめた。

俺には力がある。そして、奴等を打っ潰したい理由もできた。
オディウム神を復活させなんてしないし、妹は絶対に守る。
626 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:54:54.46 ID:gTQto6xCo

白旅人「朔の日まではまだ時間があります」

白旅人「今日はアクアマリーナで休みましょう」

魔剣士「……ああ」

車道を通り、町内部の駐車場に停めた。

歌姫「本っっっ当におっきいですわね、あの木……」

ユキの木だ。綺麗だな。

真下に巨大な魔鉱石『緑の聖結晶』が埋まっているため、古代から成長し続けている。

天に届きそうなほど高くて、青い空に枝を伸ばしていて……。

魔剣士「うっ」

歌姫「どうしましたの。前屈みになって」

魔剣士「……先に行っててくれ」

射精した……。
627 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:55:20.37 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナの山に登り、北を眺めた。
オディウム教の祭殿がある場所は……流石に見えないか。

ここから見てわかるくらい目立つのだったら、とっくに噂になって兵士が取り締まりに行ってるだろう。

白緑の少女「……エリウスさん」

魔剣士「ユキ」

さっき射精してごめん。

白緑の少女「ようこそ、アクアマリーナの町へ。かつての……クリューソプラソシアへ」

妹のことがなければなんの憚りもなくユキとイチャついたのにな。

魔剣士「あっちにさ、妹が捕らえられてる場所があるんだ」

魔剣士「見えないかなって思ってここに来たんだけど、無駄足だったな」

白緑の少女「もっと高いところへ行きませんか」

白緑の少女「ここよりも、ずっと遠くまで見渡せるはずです」
628 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:56:12.16 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナの大樹の傍に移動した。
本体に近ければ近いほど精霊の力は安定する。

白緑の少女「しっかり捕まってくださいね」

ユキに抱かれて宙に浮いた。

どんどん高度が上がっていく。高所恐怖症じゃなくてもこれはなかなか怖い。
タマがヒュンとなり、俺はユキに強くしがみついた。

魔剣士「あ……ユキ、花、咲かせたんだ」

白緑の少女「ええ。あなたと出会えたことが嬉しくて」

白緑の少女「自然と花を咲かせていました」

甘い香りがする。
この小ぶりな白い花に俺の精液をぶっかけられたら……いかん、勃ちそう。

妹がピンチの時に俺は一体何を考えているんだ。最低だ。兄失格だ。

ルツィーレは今頃それはそれは恐怖に苛まれていて……いやあいつが怖がっているところを想像できない。
あいつはどんな状況でも楽しむタイプだ。多分俺よりも抜けているネジが多い。
629 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:56:58.68 ID:gTQto6xCo

頂点付近の枝に足を下ろした。
地面が白く霞んで見える。

魔剣士「……ルツィーレがいるのは、多分、あの影だ」

いくつか小さな山が連なっている所がある。
兄ちゃんがすぐに助けてやるからな。

魔剣士「…………」

空がこんなにも近い。

ふと西を見た。夕日が海と空を紅く染めている。
水平線からは入道雲が顔を出していた。もうすぐ夏だ。

魔剣士「……ねえ、ユキ」

魔剣士「ユキの根元に埋まっている『緑の聖結晶』の波動、」

魔剣士「俺の家族や、バンヤンの森の波動と似てるんだ」

魔剣士「それって……」

白緑の少女「……緑の聖結晶や、バンヤンの森に散っている魔鉱石は、」

白緑の少女「七つの聖玉の制作段階で生み出されたものです」
630 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:57:33.38 ID:gTQto6xCo

カナリアも聖玉の波動をアキレスさんから受け継いでいる。
だから近い波動を感じていたんだ。

白緑の少女「一億年前。オディウム神の脅威が去った後、魔族が現れました」

白緑の少女「その対抗手段の聖玉の研究が、ここでも行われていたのです」

白緑の少女「緑の聖結晶は、聖玉としての力は不十分なものの、」

白緑の少女「生命を育む能力には長けていました」

白緑の少女「そして、私の波動は緑の聖結晶との相性が良すぎて……」

白緑の少女「枯れることができないまま、気の遠くなる年月を生きてきました」

魔剣士「……一人で見るより、俺と一緒の方が、ずっと綺麗に見えるでしょ。この夕焼け」

白緑の少女「ふふっ……ええ」

魔剣士「臭い口説き文句、嫌い?」

白緑の少女「いいえ」

……ユキの瞳から涙が零れた。
631 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:58:46.49 ID:gTQto6xCo

白緑の少女「ごめんなさい。つい、懐かしくなってしまって」

魔剣士「イウスもこういうこと言う奴だったんでしょ。なんかそんな感じがする」

白緑の少女「はい」

ユキはやっぱり罪悪感を覚えているようだった。気にしなくていいのに。

魔剣士「母さんがさ、昔言ってたんだ。恋には二種類あるって」

魔剣士「今生限りの肉体的な恋と、魂が震える縁の深い恋」

魔剣士「俺、ユキのことを考えると魂がすっごい震えるんだ。ユキは?」

白緑の少女「私の魂も、震えています。これ以上ないほど」

魔剣士「俺とイウスのこと、別々で好きでいてくれてもいいし、」

魔剣士「逆に思いっきりダブらせてもいいよ」

魔剣士「魂同士が強く惹かれ合ってるんだ。両方好きになって当然なんだよ」

白緑の少女「……ありがとう」

魔剣士「もしこれからユキが他の誰かに生まれかわったとしても、」

魔剣士「俺もきっとどちらとも好きになるだろうからさ」

魔剣士「……キス、していい?」

白緑の少女「……はい」
632 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:59:12.57 ID:gTQto6xCo

白緑の少女「この株を持っていってください。私の枝を挿し木したものです」

白緑の少女「何処へ行っても、私の分身と会うことができますよ」

魔剣士「マジで!?」

――――――――
――

……結局イチャついてしまった。

だけど、精神が喜びで満たされた分魂の波動が強まった。
今ならなんでもできる気がする。愛は世界を救うんだ。

歌姫「楽しそうですわね。その木、今の彼女ですの?」

魔剣士「もうとっかえひっかえはしないよ。この子とは永遠だから。前世からラブラブだったの」

歌姫「まあ、幸せならそれでいいですわ」

魔剣士「おまえももう18なんだから嫁ぎ先確保しろよ」

歌姫「大きなお世話ですわー」
633 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:00:16.78 ID:gTQto6xCo

白旅人「好きな男性はいらっしゃらないんですか?」

歌姫「いませんわね」

魔剣士「そういやメルクさ、従者の女の子とは恋仲だったのか?」

白旅人「いいえ。理解されにくいですけど、彼女とは気の合う友達でしたね」

白旅人「それに彼女、もう二度と恋はしないって言ってましたし」

白旅人「元夫の元に残してきたお子さんへ仕送りするのが生きがいだそうです」

魔剣士「へえ……何歳なんだ?」

白旅人「16歳です」

魔剣士「えっ……」

16歳子有りバツイチ……? 闇を感じる。

白旅人「政略結婚で、無理矢理早く結婚させられたそうですよ」

白旅人「その後いろいろあったらしく。まあいいでしょうこの話は」

白旅人「クレイオーさんは、どのような男性がお好みですか?」
634 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:00:44.89 ID:gTQto6xCo

歌姫「……適当なノリで対等に付き合える相手ですわね」

歌姫「でもあたくし、性格が悪い自覚はありますのよ」

歌姫「あたくしの見た目に恋い焦がれる男性は多くとも、内面まで愛してくれる人なんていませんわ」

白旅人「そうとは限りませんよ。僕はあなたのこと……決して嫌いではありません」

歌姫「そ、それ口説いてますの?」

魔剣士「……恋愛のドロドロで関係を崩壊させることだけはするなよ」

白旅人「はは。そろそろ寝ますか」

歌姫「…………」

歌姫「……………………」

歌姫「ドキドキして眠れなくなったじゃありませんの!」

魔剣士「しゃーねーな安眠効果のあるハーブティでも淹れてやるよ」

白旅人「意外とウブなんですね。可愛いです」

歌姫「っ! っ〜〜!」

……なんだかんだで、仲間がいると面白いな。
635 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:01:11.91 ID:gTQto6xCo

――――――――
――

祭殿から最も近い村に控え、植物伝いに奴等の動きを探った。
祭殿付近の山はほとんど岩山だが、幸い植物が生えていないわけではない。

精霊に頼んで情報を探ることができる。

白旅人「調子はどうですか」

魔剣士「順調だ。このまま奴等の行動パターンを把握して、」

魔剣士「ここらの兵士や父さんと協力して乗り込む」

集めたデータをパソコンに記録していく。

小精霊「女の子、建物の地下にいるみたいダヨ!」

魔剣士「さんきゅ。はい、俺の魔力3ml」

小精霊「わーい! おいしい!」

魔剣士「活気づきすぎて奴等に怪しまれないようになー」
636 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:01:37.63 ID:gTQto6xCo

歌姫「便利な能力ですこと」

魔剣士「俺の魔力を与えたら、精霊は活動範囲が広がる上に邪気への耐性もつくからな」

魔剣士「人間が忍び込んで調査するよりも遥かに安全に情報収集を行える」

クレイオーは本を読んでいる。

魔剣士「何読んでんだ?」

歌姫「この地方に伝わる物語ですわ」

歌姫「とんでもなく古い石版に彫られていた物の写本だそうですの」

魔剣士「へえ」

白旅人「……原文のままですか。古代言語ですよこれ」

歌姫「ええ。精霊王ユース=スマラグディと精霊スパエラ=ニウィスの恋物語です」

魔剣士「ん?」

発音の仕方が異なるが、ユキと俺の前世の名前だ。

白緑の少女「まあ、懐かしい。これ、イウスが書いたんですよ」

白緑の少女「私達のことをそのまま記したんです」

魔剣士「……イウスってけっこう恥ずかしい奴だったんだな」

自分の黒歴史を見ている気分になった。
637 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:02:11.28 ID:gTQto6xCo

歌姫「まあ、ヒロインご本人でしたの」

歌姫「考古学を専攻する者としては興味深いですわね」

歌姫「古代文明について色々と伺わせていただきたいですわ」

白緑の少女「一段落ついたら、たくさんお話ししましょう」

白緑の少女「エリウスさん以外の方ともお喋りしたいんです」

白旅人「ふむ。我ユースと愛しき乙女スパエラは手と手を取り合い……」

歌姫「読めますの?」

白旅人「教養はそこそこ積んでいるつもりですよ」

歌姫「まあ、素晴らしいですわ」

白旅人「彼女の肌は名の通り雪の如く儚く、その瞳は」

魔剣士「音読やめて!! それの作者俺の前世だから!」

白旅人「詩的で素晴らしい文章ですよ」

魔剣士「うわー!!」

白緑の少女「……ふふ。恥ずかしがってるの、可愛いです」

魔剣士「い、いじわる」
638 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:05:17.91 ID:gTQto6xCo

魔剣士「……だいぶ情報が集まった。そろそろ作戦を練れそうだ」

魔剣士「あ、おまえらは待機しててね。巻き込みたくないから」

白旅人「とんでもない。お手伝いしますよ」

白旅人「僕自身、彼等には用がありますからね」

歌姫「……あたくしの力はきっと役に立ちますわ。手助けさせてくださいまし」

魔剣士「まだ責任感じてんのか? もう気にしなくていいよ」

歌姫「それじゃあたくしの気が済みませんわ!」

魔剣士「おまえ言い出したら聞かないもんな。じゃあ頼むわ」


協力してくれるこの国の憲兵のリーダー格数名と共に祭殿の近くまで出向いた。

憲兵団長「オディウム教団の祭殿を見つけたとはとんでもないお手柄ですぞ」

憲兵「でっかいっすねー……大戦争になるんじゃないですか」

実際に乗り込むのは軍人の方々と更に作戦を練ってからだ。
他の国からも密かに少数精鋭の援軍が送られているらしい。

魔剣士「祭殿の南西部と北東部は警備が薄い。ここから奇襲をかけるのはどうでしょうかね」

憲兵団長「妥当ですな」

魔剣士「んで、敵を食い止める班と地下に進む班に分かれて……」

その時、祭殿から粉塵が巻き上がり、大きな爆発音が轟いた。
639 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:06:07.90 ID:gTQto6xCo

憲兵団長「な、何事だ!」



次女「ばんばばーん!」



魔剣士「ちょっ」

次女「じゅじゅちゅしのみんなと鬼ごっこだよー!」

天真爛漫なガキが約一名祭殿から飛び出して駆け回っている。

魔剣士「こらああああああああああああ」

魔剣士「ルツィーレええええええええええええ!!」


自力で脱走してくるなんて、兄ちゃん予想してなかったよ……。
640 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:06:50.03 ID:gTQto6xCo
kokomade
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:09:49.11 ID:UYFEPLQ30
元気になったのはいいがガウェインとカナリアはどうしてるのか
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:11:51.23 ID:fWKIqOWA0
妹の両親アレだからそりゃ普通じゃないよなww
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:38:27.39 ID:xiDDG6gE0
じゅちゅちゅし今しゅじゅちゅちゅう
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 23:39:22.54 ID:7WTDGbO3O
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/07(金) 16:13:06.92 ID:VgPLM/OTO
道理で親父もかーちゃんも、そこまで心配してる素振りがないと思ったらw
むしろ暴れまわって余計に状況を拗らせるほうが心配だったね。
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/11(火) 00:30:47.09 ID:0m7GWN9I0
かごめが犬夜叉に対して自分も桔梗も好きでいていいよって言ってるようなもんだよなこれ
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 18:58:27.10 ID:Thjz0PFb0
つずきが楽しみ
そのうちスイカの種を食べたらおなかの中でスイカが!!みたいなことになりそうでこわえ
648 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/10/20(木) 23:39:03.63 ID:yMADnXuyo
生存報告
近い内に更新します
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/21(金) 15:03:49.60 ID:rGgNrG5A0
はよはよ
650 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:03:50.97 ID:his6J3PBo

第二十三株 その能天気さが羨ましいよ


――――――――

数分前 地下牢

大男「嬢ちゃん、何か欲しい物ある? どんな物が好き?」

次女「お母さんのおっぱい!」

大男「え!? う、うーん……ここにはないなあ……」

大男「お腹空いてない? 何か食べる?」

次女「グラウンド・エルダーのキッシュ!」

大男「ぐ、ぐら?」

次女「お兄ちゃんがたまに作ってくれるんだ! すっごくおいしいんだよ!」

大男「え、えーと」

次女「お姉ちゃんのオニオンスープも飲みたいなあ」

大男「うーん……」

ガリ男「ほっとけよ。朔の夜まで生きてさえいればいいんだからよ」

大男「せめてその日まではさ……可哀想じゃん」
651 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:04:27.72 ID:his6J3PBo

次女「おじちゃん見ててね!」

大男「ん?」

バッ!

次女「ばんばばーん! おちんさまだよぉ!」

大男「!?」

ガリ男「お、おちんちんが付いてるだと!?」

次女「あきゃきゃきゃきゃ驚いてるー!」

大男「お、男の子? え?」

次女「あ、このカギ錆びてるよぉ!」

大男「わー出ちゃだめー!」

次女「あきゃきゃきゃ! えーい!」

大男「いてっ」

ガリ男「なんだこの腕力! 10歳の子供とは思えんぞ!」
652 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:04:55.90 ID:his6J3PBo

ガリ男「待てー!!」

次女「捕まらないよー!」

「子供が逃げたぞー! 追えー!」

「は、速い!」

「追いつけんぞ!」

次女「あきゃきゃきゃきゃ」

ガシャーン!

「ああっ憎しみの壺が!」

「オディウム神の彫像があああ!」

「まるで破壊神だ……」

「ええい! 子供一人に何を手古摺っている!!」

「それが、あの子妙に攻撃力が高くて……」

次女「こんなに大勢の人を騒がせるのは初めてだよぉー! おもしろおぉぉい!!」
653 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:05:21.94 ID:his6J3PBo

――――――――

次女「今日もテンション上げてくよ〜!」

魔剣士「あのアホンダラァァアアア!」

憲兵団長「ああっエリウスさん!」

崖を駆け下りた。

魔剣士「あ゛っ」

しかし俺はあまり運動神経がよろしくない。何度か転がった。かっこわりぃ。
だがアドレナリンが分泌されているためだろうか。大して痛みは感じなかった。

次女「あっげあげだよ〜!!」

魔剣士「ルツィーレ!!」

次女「あーエルお兄ちゃんだあ! ぼくのことはルーカスって呼んでね!」

次女「ルカでもいいよ!」

魔剣士「意味がわからん!!」

次女「男の子の名前がいいんだあ。だって番長だからね!」

俺はルツィーレの手を掴んで走った。とにかく走った。
敵から妨害は受けるものの、死なれたらまずいからかあまり強い攻撃はされない。
654 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:06:14.94 ID:his6J3PBo

憲兵団長「……すぐに団員を呼べ! ルツィーレちゃんの保護を最優先するぞ!!」

憲兵隊長「奴等は混乱を極めているようです。チャンスかもしれません」

歌姫「エリウスを援護しますわよ」

白旅人「ええ」

最早作戦もくそもあったもんじゃない。

憲兵副団長「第一憲兵団揃いました!」

憲兵団長「よし! 突撃いいいいい!!」

俺達が逃げ回っている内にたくさんの兵士が駆けつけ、その場は乱闘と化した。
オディウム教団の術者や戦士達はまともに陣形を組めていないようだ。

魔剣士「おまえっどんだけ暴れたんだよっ」

次女「今までのじんせーでこれいじょーないほど!」

魔術で砂煙を上げ、その隙に岩陰に隠れた。
655 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:06:42.78 ID:his6J3PBo

魔剣士「はあ……しばらくここに隠れるぞ」

次女「えーつまんない」

魔剣士「しーっ!」

とりあえず妹を抱きしめた。

魔剣士「心配させやがって……」

次女「んー! 放してー!」

魔剣士「こうしないとまた暴れ回るだろおまえ」

クレイオーの奏でる曲が聞こえる。世界の終わりを思わせる旋律だ。

敵は次々と絶望感に苛まれて項垂れていく。
都合よく味方の精神状態には影響しないようにできるため、こちらは戦意を喪失していない。

少し離れた所ではメルクが戦っているようだ。

魔適体質者の魔術は、イメージで操れるため通常の魔術よりも小回りが利く。
敵はそのテクニカルな術にまともに抵抗できずにいるようだ。
656 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:07:09.87 ID:his6J3PBo


信者A「見つけたぞ!」

信者B「お嬢ちゃん、こっちにおいで」

結界石を持っているようだ。奴等の体に毒草の成分を流し込むことは困難である。
だが攻撃魔魔術への耐性は薄いタイプかもしれない。ここは通常の魔法を……。

次女「おじちゃん達、よおく見ててね!」

魔剣士「ちょっまっ」

次女「ぼくは」

次女「おとこだあ!」

ベロン!

ルツィーレはスカートをはぐった。

魔剣士「こらあああ!!」

信者達「「えっ」」

こ、この隙に!

魔剣士「小紅焔<スモール・プロミネンス>!」

信者達「「ぎゃっ!」」

魔剣士「逃げるぞ!」

次女「あきゃきゃきゃ」
657 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:07:49.38 ID:his6J3PBo

魔剣士「パンツはどうしたの!!」

次女「めんどくさいからはいてないよ!」

流れた弟は今でも妹の身体の一部として生きている。
主にアスパラガスとして。タマはない。


戦士「なんじゃこりゃあ」

次女「わあ〜お父さんだあ〜」

戦士「ルツィーレ……母さんが寝込むほど心配してるんだぞ」

次女「ルーカスだよ」

魔剣士「ぜえ……疲れた……意外と早かったね父さん」

戦士「生まれて初めて見た植物の精霊? 妖精? に連れてこられたんだが」

魔剣士「気を利かせてくれたのか……ふう」

植物の精霊が父さんを案内してくれていたらしい。

次女「あのねえ誘拐されるのすっごい面白かった!」

魔剣士「怖かったよパパ〜」

戦士「お〜よしよし」

誘拐されていたルツィーレではなく俺が父さんに抱きついた。
658 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:08:41.23 ID:his6J3PBo

戦士「……何かがおかしい」

魔剣士「気のせいだよパパ」

戦士「ああ、うん、そうか。気のせいか。……はあ」

戦士「しかし……何故こんなことに……作戦を練ってからのはずじゃなかったのか」

魔剣士「じ、事情は後で説明するよ」

ルツィーレの姿を見て飛び出したの軽率だったかな……後で怒られるかな……。


ドゴオォォォオオン

大勢の兵士が吹っ飛んだ。
強力な術者が現れたようだ。

次女「わ〜おもしろそー! 行ってくるね!」

魔剣士「うわああああああああああああ!!」

戦士「待てええええええええええええ!!」
659 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:10:03.52 ID:his6J3PBo

兇手「貴様の相手は俺だ、旭光の勇者ヘリオス!」

戦士「今忙しいんだよ!! あと二つ名やめろ!!」

兇手「待て!!」

次女「おじちゃんだあれ!?」

兇手「おじっ……俺はおじちゃんなどと呼ばれるような歳ではない!!」

次女「あきゃきゃきゃきゃ」

ズボッ

次女「おちんさまお父さんのより3センチちっちゃいね!」

兇手「えっ……」

戦士「こらあああああああああ!!!!」

兇手「…………」

兇手「うっ……ぐすっ……」

魔剣士「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
660 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:11:23.76 ID:his6J3PBo

次女「じゅじゅちゅしのみんなー! 見て見てぼくのおちん」

魔剣士「やめなさい!!!!」

次女「だってぇ〜ぼくのおっきなおちんさまみんなに自慢したいんだもん!」

魔剣士「にいちゃんののがでかいぞ」

次女「わぁ〜ほんとだぁ! でもねえお父さんのはもっと太いんだよぉ」

魔剣士「そりゃ父さんのは特別だからな」

戦士「…………」

歌姫「さっさと!! 逃げなさいな!!」

魔剣士「父さんおんぶして」

戦士「冗談言うんじゃない」

次女「体力なさすぎだよ〜!」

魔剣士「誰のせいで!! 疲れてると思ってんだよ!!」


上級呪術師「ヘリオスだ!! 退け!!」

下級呪術師「退こうにも兵士に包囲されてます!!」

中級呪術師「転移術を発動する隙さえありません!」

上級呪術師「例の魔術師はどうした!?」

中級呪術師「姿が見えません!」
661 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:12:03.78 ID:his6J3PBo

騒がしくなり、クレイオーの術の適用範囲がかなり狭まっている中、
父さんに執着しているストーカー臭い男含む強そうな連中に囲まれた。

魔剣士「そう簡単には逃がしちゃくれねえか」

もっとたくさん植物が生えてたら無双できたんだけどな。
こうなったら奥の手だ。

魔剣士「ギンピー・ギンピーを召喚!」

俺は魔力に溶かしていた葉を再構成し、両手に構えた。

戦士「なんだその葉っぱは」

魔剣士「まあ見ててよ」

攻撃をバリアで防ぎつつ、剣を扱うように葉で敵を攻撃した。
俺の攻撃を受けた敵は次々と断末魔のような声を上げて倒れていく。

次女「わーすごーい!」

魔剣士「ふははは! 世界最凶の毒草の威力を思い知ったか!」

魔剣士「この葉をトイレの紙代わりに使い、あまりの痛みに自殺した奴までいるんだぞー!」

魔剣士「あ、ちなみにその痛み、短くて数ヶ月、長けりゃ2年は続くから」

戦士「腰に下げてる剣は使わないのか」

魔剣士「剣で切る生々しい感触嫌い」

歌姫「剣で攻撃するよりずっと酷ですわね、これ……」
662 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:12:32.04 ID:his6J3PBo

兇手「ええい! どいつもこいつも油断しおって!」

兇手「凍てつく槍<フリーズ・ランス>!」

戦士「おっと!」

戦士「先に行け! 俺はこいつの相手をする!」

次女「お父さん頑張ってねー!」

魔剣士「あのなあ試合じゃねえんだぞ!!」


白旅人「こっちです!」

魔剣士「メルク! 怪我はねえか!?」

白旅人「ええ」

  「行かせません!」

白旅人「…………!」

白旅人「…………リモン」

現れたのは、一目でメルクと同じ人種だとわかる若い女だった。
663 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:12:58.74 ID:his6J3PBo

従者「ねえ、メルク。まだわかってくれないの?」

従者「そっちの生活に、あなたの幸せはないのよ?」

次女「ねえ、あのおねーちゃん強いの?」

魔剣士「魔適体質者の従者ってことはかなりの術者のはずだ」

従者「彼等をこちらに引き渡して」

従者「本当の幸せを得るためには、彼等を生贄に捧げなければならないの」

白旅人「自分の言っていることがわかっているのですか」

白旅人「あなたは騙されているんです!」

従者「そっちにあなたの幸せはあるの!?」

従者「人と違う能力があるせいで、人々は無意識にあなたを孤独に陥れた」

従者「そのくせ媚びて力を利用しようとする」

白旅人「ということばかりではありませんでしたよ」

従者「他力本願のクズ共を庇うっていうの!?」
664 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:16:26.05 ID:his6J3PBo

白旅人「自分が理不尽な目に遭ったからといって、」

白旅人「多くの人々を粛清する気になんて全然なれないんですよ」

従者「やはり、力づくでも洗礼を受けてもらわなきゃいけないようね」

メルクの従者だった女は杖を構えた。
杖の先には、おそらくとんでもなく質が良いであろう魔鉱石が固定されている。

白旅人「彼女は僕が抑えます! 逃げてください!」

メルクは目を覆う包帯を取った。

イメージによる魔術を使う場合は、目を覆うと魔力の流れが阻害され、術の威力が弱くなりがちになる。
つまり、メルクは本気で戦うつもりだということだ。

魔剣士「わりぃ!」

歌姫「ご健闘を!」

次女「ぼくあっち行きたいー!」

魔剣士「駄目だ!!!!」

今の最優先事項はルツィーレを安全な場所まで避難させることだ。
俺は無理矢理妹の手を引っ張って走った。
665 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:17:35.29 ID:his6J3PBo

それほど得意ではない攻撃系魔術と植物を利用して敵を薙ぎ払う。
もう少しで……もう少しで乱闘と化した戦場を抜けられる!

森に入ってしまえばこっちのもんだ!

魔剣士「……!」

背後から悍ましい気配を感じた。

俺は体が凍りついて動けなくなった。
別に氷系魔術を受けたわけじゃない。あまりの殺気に硬直してしまったのだ。

魔剣士「この気配……奴だ!」

次女「え? なになに?」

黒ローブの男「…………」

この世の全てを恨むかのようなドス黒い魔力。
あの時、カナリアを攫っていった男だ。
666 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:18:43.71 ID:his6J3PBo

次女「おじちゃんも呪術師なのー?」

魔剣士「っルツィーレ!」

ルツィーレは後方へ駆けていってしまった。
俺は緊張で軋む体をどうにか振り向かせる。

ズボッ!

黒ローブの男「なっ」

次女「あれー? このおじちゃんのおちんちん機械混じりだよー?」

黒ローブの男「…………」

魔剣士「…………」

黒ローブの男「このガキィィィィィィィィィィ!!」

魔剣士「うわああああああああルツィーレエエエエエエエエエエエ!!」

歌姫「まあ」

叫び過ぎて俺の喉は枯れてしまいそうだ。

魔剣士「もう頼むからやめなさいやめてくれ!!!!!!!!」

即座にルツィーレを抱きかかえて俺は走った。
重たさを感じる余裕もない。
667 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:19:41.65 ID:his6J3PBo

しかし奴は短距離の瞬間転移術を使うことができる。
一瞬で俺達の目の前に姿を現した。

魔剣士「うちの妹がすみませんでしたああああああああああ!!」

黒ローブの男「許すかあああああああああああああ!!!!」

黒ローブの男「今すぐに殺してくれるわ!!!!」

次女「怒らせちゃったあ」

魔剣士「おまえなあ!!!!」

歌姫「あなたがしたことは男性のプライドを極限まで圧し折る行為でしてよ」

激昂したら何やらかすかわかんねえタイプだこいつ!
まずいまずいまずい奴に対抗できるレベルの術を発動するには圧倒的に植物が少ない。

俺は琥珀に魔力を込めた。こうなったら今できる限りの術を発動するしかない。

黒ローブの男『邪の世に揺蕩う黒き念』

黒ローブの男『闇に融けし憎悪の魂』

次女「わあ〜アニメみたいな呪文だあ〜」

魔剣士「とっくの昔に廃れた旧魔術だよ!!」

黒ローブの男『我が手に集い 我に抗う愚かなる者に』

魔剣士「長い詠唱してる隙に風の刃<ウィンドウ・エッジ>!」

黒ローブの男「げふっ」

魔剣士「よし走れ!!」
668 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:20:26.48 ID:his6J3PBo

次女「なんで旧魔術廃れっちゃったの〜?」

魔剣士「詠唱が長くて発動までに時間がかかるぜえぜえ」

魔剣士「そして何よりぜえぜえ呪文を言うのがクソ恥ずかしくて使いたがる奴が減ったんだよぜえぜえ」

黒ローブの男「地砕き<アースブレイク>!」

魔剣士「うぎょげ」

地面が砕かれた。

魔剣士「現代魔術使えるのかようわあああ!!」

さっきの俺の攻撃でローブが破れていたようだ。
男の顔をはっきりと確認することができた。
669 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:21:20.44 ID:his6J3PBo

魔道士「覚悟するがいい!」

なんか誰かと似てる気がする。その顔つきは、俺の苦手意識を激しく刺激した。

魔剣士「…………」

歌姫「エリウス! 何固まってますの!」

魔剣士「うわあああああアーさんそっくりだあああああああああああ」

魔導槍師「今……誰にそっくりだと言いました?」

魔剣士「ひいいいいいいいいいいい!!」

魔導槍師「失礼ですねー、人の顔を見て叫ぶなんて」

魔剣士「もうだめだあおしまいだあ」

俺は頭を抱えた。精神が乱れてまともに魔術を使えそうにない。
俺もう疲れたよ。争いなんてろくなもんじゃない。

次女「あきゃきゃきゃ」

おうちに帰りたいー!
670 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:21:52.93 ID:his6J3PBo
kokomade
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/22(土) 17:50:44.09 ID:+/+t04MCo
あのかーちゃんからなんでこんな子が…突然変異かな?
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/22(土) 19:32:34.80 ID:C2hmA40QO
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/24(月) 00:34:55.80 ID:ruTxXAdlo
魔剣士(剣使わない)
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/25(火) 16:08:35.97 ID:U3CDwLyd0
なにこのふたなりようじょ型核爆弾は・・・
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/05(土) 14:05:07.20 ID:SHyU4GLVO
魔剣士が無事お家に帰れますように
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/10(木) 09:48:03.10 ID:vPy86Into
武闘家報われてほしい
677 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/11/22(火) 18:05:29.23 ID:I8L1NZnWo
短編集スレ向けの話ですがエロいのでこっちに
台本形式だとどうしても雰囲気崩れそうだったので小説形式です
親の初夜
http://cherryhunter.x.fc2.com/novel1.html
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 18:13:36.62 ID:NjPldMXFo
魔剣士「親のセックス……おえぇ」
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/11/23(水) 23:29:22.10 ID:np454YtZ0
はよ
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/11/28(月) 07:56:35.73 ID:tHcpMRvf0
まだかなー
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/28(月) 08:02:34.19 ID:tHcpMRvf0
>>680 sage
682 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:09:09.06 ID:sNgVk1I+o
魔剣士と魔道士の字面が似すぎていてややこしいので
魔道士→黒魔道士
です
683 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:13:35.14 ID:sNgVk1I+o

第二十四株 選択する先


魔導槍師「せっかく可愛い妹を連れて帰ることができたのに、」

魔導槍師「国王に私用で呼び出し食らってる隙に案の定誘拐されちゃったんですよねえ」

魔導槍師「というわけで、カナリアを返してもらいに来ました」

黒魔道士「何故ここがわかった……! 発信機は破壊したはずだ」

魔導槍師「カナリアにはお兄ちゃんマークのお守りを渡しておきましたからね」

黒魔道士「発信機は1つではなかったのか……!!」

魔導槍師「カナリアに手を出すこともできなかったでしょう」

黒魔道士「…………」

魔導槍師「ふむ、あそこの岩陰に張った結界に彼女を隠しているようですね」

黒魔道士「我が姪は渡さぬ……!」
684 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:16:56.15 ID:sNgVk1I+o

魔剣士「とりあえずそいつはたのん」

黒魔道士「逃がすか!」

黒魔道士『逃げ惑う憐れな四匹の羊 世を断絶する檻』

奴はかなりの早口で詠唱した。

黒魔道士『目に見えぬ牢獄<プルシッド・プリズン>!』

魔剣士「うわああ出れねえ!」

歌姫「エリウス!」

次女「すごぉぉぉい!」

クレイオーはどうにか逃げられたが、俺達兄妹は閉じ込められた。

歌姫「カナリアさんの元に行きますわ!」

魔剣士「頼む!」

魔導槍師「旧魔術系統の呪術を専門とするオディウム教徒の信者達と違い、」

魔導槍師「あなたは現代魔術を専門としているはず」

魔導槍師「それなのに、わざわざ詠唱の長い旧式の術を使うとは」

魔導槍師「やはりあなたは……相当ムラムラしていますね」

黒魔道士「だからなんだ」

魔導槍師「思っていたよりもこちらが有利だと判明したというだけですよ、イガルク」

アーさんは術名を言わずに中の上レベルの雷魔術を放った。
おかしいな、以前より魔適傾向が上がっているような気が……。

魔導槍師「発動速度ならばこちらが圧倒的に早い!」

黒魔道士「おのれ……!」
685 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:17:48.94 ID:sNgVk1I+o

とにかく巻き添えを食らわないようにしねえと。かなり頑張って精神を落ち着かせる。

魔剣士「守護の壁<プロテクション・バリア>」

魔剣士「あーだめだ……脆いのしか張れねえ……」

次女「古い魔術ならムラムラしてても使えるの?」

魔剣士「ええと……」

携帯でネットに接続して調べた。

魔剣士「現代魔術よりは比較的発動成功率が高いらしい」

次女「へえぇ!」

雷がバリアに当たってバチリとでかい音が鳴った。

魔剣士「ひぃ……」

さっきは現代魔術も使っていたから、ある程度は性欲を制御できるのかもしれないが、
やはり術名を言うだけの現代魔術は不発が多いようだ。

成功率の高い旧魔術の方が安心して使えるのだろう。
686 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:18:30.71 ID:sNgVk1I+o

アーさんそっくりだし、「我が姪」とか言ってたし、マリナさんの兄弟っぽいなあの人。
アーさん(金髪)を黒髪にして眼鏡をとって老けさせたら絶対あんな感じだ。

魔剣士「バリア五重にしとこ……」

恐れで乱れた精神では、弱いバリアを重ねる程度の自衛しかできない。

次女「雷いっぱいで綺麗だねー!」

魔剣士「…………」

黒魔道士「その力は一体どうやって手に入れた……!」

黒魔道士「おまえの瞳はそのような色ではなかったはずだ」

魔導槍師「簡単なことですよ。後天的に魔適傾向を上げたのです」

魔導槍師「『他人の魔適傾向を上げる能力をもつ魔適体質者』に協力してもらいましてね」

魔剣士「それ国際法違反じゃ」

魔導槍師「カナリアが攫われて漸く許可が下りたんですよねー」

イガルクとかいう人が術を発動する前に、アーさんは中・上級の術であいつを嬲っていく。

魔導槍師「カナリアを見て母はたいそう嘆いていましたよ」

魔導槍師「娘“も”あなたと同じになってしまった、と」

魔導槍師「まあ私はまだなんの罪も犯していないので同類扱いはされたくないのですがね!」

黒魔道士「ぐあああああ!!」
687 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:19:23.87 ID:sNgVk1I+o

魔導槍師「よくも私の可愛い妹に穢れたあなたの魔力を注ぎ込んでくれましたね」

黒魔道士「…………」

魔導槍師「……ボロ雑巾が」

イガルクは一瞬気を失ったようだが、すぐに起き上がって小さな突風をアーさんの顔にぶつけた。
アーさんの眼鏡が吹っ飛ぶ。

黒魔道士「くくく……やはり大きな力をもった者は過信で動きが大振りになるな」

黒魔道士「そして、視力の弱い者は眼鏡を失った途端精神を乱す」

魔導槍師「…………」

黒魔道士「さあ、我が闇に包まれるがよ」

魔導槍師「あれ、伊達なんですよね」

魔導槍師「圧・神の雷霆<コンプレッセト・ケラウノス>」

次女「わあ! おっきい雷!」

魔剣士「雷系最強の攻撃魔術じゃねえか!! 圧縮してなきゃ余裕で町一個余裕で吹っ飛ぶぞ!!」

そんだけすごい術を食らっても、イガルクはまだ息があるようだった。しぶとい。

魔導槍師「何故私が眼鏡をかけているのか教えて差し上げましょうか」

魔導槍師「あなたに似ているからですよ」
688 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:19:54.09 ID:sNgVk1I+o

ゴッ

魔導槍師「父は私を母似だと言って可愛がってくれましたが、」

ドゴッ

魔導槍師「成長するにつれ、母は私の顔を直視しなくなりました」

ゴスッゴスッ

黒魔道士「ゲフッ!」

魔導槍師「そしてある時、両親の会話を聞いてしまったんですよね」

魔導槍師「母は、自分を穢した憎き兄に似た私の姿を見るのが怖いのだそうです」

ガッ

黒魔道士「う、くっ……!」

魔導槍師「だから私は私の顔を嫌いました」

アーさんはこれでもかというほどボロボロのイガルクを足蹴にしている。怖い。

魔導槍師「あー憎いですねー、あなたが。あなたに似て生まれた己の存在が」

黒魔道士「く……くくく…………はははははははは!」

魔導槍師「……何を笑っているのです」
689 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:20:27.48 ID:sNgVk1I+o

黒魔道士「おまえは私に似ている。姿形だけではない。精神そのものもだ」

黒魔道士「やがておまえの理性は蝕まれ、性欲を抑えられなくなる」

魔導槍師「…………」

黒魔道士「おまえはいずれ私と同じ罪を犯す。必ずだ」

魔導槍師「……黙りなさい」

黒魔道士「もう20は越しているだろう? 臨界点は近いぞ」

魔導槍師「黙れと言っている!」

アーさんが手をかざすと、イガルクの口から煙が上がった。

魔導槍師「……もう安心していいですよ。喉を焼きました。もう魔術は使わせません」

魔剣士「ヒェッ、ソッスカ」

次女「つよいつよーい! すごおおおい!」

魔導槍師「…………」

魔導槍師「私はいつか、罪を犯す…………」

魔導槍師「…………悍ましい血だ」
690 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:20:53.76 ID:sNgVk1I+o

次女「カナリアお姉ちゃんいないよー? クレイオーちゃんも」

魔剣士「まさか……」

魔導槍師「……イガルクを片づけるのに時間をかけすぎたようですね」

魔導槍師「他の呪術師に連れ去られたのでしょう」

重斧士「おい、カナリアは……」

魔剣士「あ…………」

重斧士「! エリウス」

魔剣士「…………」

重斧士「おまえ、無事だったんだな」

魔剣士「っ……」

気まずさに耐え切れず、俺は目を背けた。
あいつが寝ているすぐ横で、あいつの想い人に犯されたんだ。まともに顔を見ることができない。
691 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:21:31.35 ID:sNgVk1I+o

次女「ねえねえ、お姉ちゃん達探しに行かなきゃ!」

魔導槍師「……発信機の魔導波を遮断されているようです」

重斧士「……あっちだ!」

魔導槍師「便利ですねー、そのブレスレット」

次女「あれ雑貨屋さんで売ってるの見たことあるー」

次女「持ち主のところまで連れてってくれるんだって」

魔剣士「カナリアが持ってた奴だ」

魔剣士「魔力は本体の元に戻ろうとする性質があるからな」

魔剣士「それを利用しているんだろう」

次女「ぼく達も助けに行こ!」

魔剣士「っ…………」

魔剣士「おまえは兄ちゃんと一緒に逃げるの!!」

次女「えー…………」
692 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:22:11.68 ID:sNgVk1I+o

白旅人「エリウスさん!」

魔剣士「無事か!?」

白旅人「ええ、どうにか」

白旅人「リモンは眠らせ、この国の兵士さんに保護していただきました」

魔剣士「クレイオーとカナリアが奴等に捕まってる」

魔剣士「ガウェイン達と一緒に助けに行ってくれねえか」

白旅人「……わかりました」

敵を薙ぎ払い、岩陰に隠れながら丘を登る。

魔剣士「ほら!」

次女「んー!」

ルツィーレに手を伸ばしたところで、すぐ近くの岩壁に何かが勢いよくぶつかって大量の石片を弾き飛ばした。

兇手「ぐあぁ!!!!」

魔剣士「うわやっべ」
693 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:22:43.51 ID:sNgVk1I+o

戦士「レザール!!」

兇手「くっ……」

父さんがでかい火の玉を宙に作っている。

魔剣士「待って待って今魔術使われたら俺達も巻き添え食らっちゃう!」

戦士「うわああいつの間にそんなところにいたんだおまえ達!」

兇手「足止めの氷<コンファインメント・アイス>!」

魔剣士「あばばばばば」

兇手「これで攻撃できまい!」

兇手「回復までの時間稼ぎに使わせてもらうぞ」

次女「…………」

次女「あ、そうだ!」

次女「白く灼ける炎 身を焦がす恋慕のように 熱き心を炭と化せ!」

次女「ヴァイス・フランメ!」

兇手「っ!? なんだこの強烈な胸焼けは」

兇手「うっ」

魔剣士「…………」

魔剣士「……おまえ今何したの?」

次女「あははは〜アニメの主人公の真似したら変なのできちゃったあ〜」

戦士「嘘だろ…………」
694 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:23:43.43 ID:sNgVk1I+o

兇手「俺はただ……力比べをしたいだけなのに……またしても邪魔が…………」

次女「かっこよく光線出したかったのにな〜」

戦士「戦闘不能になるほどの胸焼けを引き起こすとは……」

魔剣士「どんな原理で発動できたんだろ……」

魔術はただ呪文を唱えれば発動できるというものではない。

戦士「……今度こそ逮捕だ。脱獄はさせないぞ」

兇手「…………」





それから数時間経ち、争いは一応鎮静化した。

魔剣士「……疲れた」

戦士「……はあ」

魔剣士「オディウム教徒のリーダー格とか見つかんなかったの?」

戦士「ああ……上層部の人間はさっさと逃げたらしくてな」

戦士「だが、捕まえた連中から情報を聞き出せそうだ」

ルツィーレの世話を父さんの部下に任せて、ちょっと村を出歩くことにした。
695 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:24:46.05 ID:sNgVk1I+o

白旅人「あまり顔を見ないでください。不気味でしょう」

歌姫「…………」

クレイオーがメルクの顔をがしっと掴んだ。

歌姫「これくらい近くで見れば、虹彩と白目の境界がよくわかります」

歌姫「不気味なんてことはありませんわよ」

いい雰囲気のようだ。
邪魔をしちゃ悪いだろうと思って黙って去ろうとしたのだが、クレイオーに呼び止められた。

歌姫「エリウス。そちらも逃げ切れたようで、安心しましたわ」

魔剣士「まだ気を抜くわけにはいかねえけどな」

白旅人「いつ残党が襲ってくるかわかりませんからね」

歌姫「……カナリアさんのお兄様、随分とお強いのですね」

魔剣士「あの人マジ怖い……」

カナリアから離れたことに関して責められないかと俺はビクビクしている。

魔剣士「カナリアの様子、どうだった?」

歌姫「正気に戻られたようですわよ。しかし、悲しげな目をしておられました」

魔剣士「……そうか」

歌姫「伯父君の魔力を注ぎ込まれ、欲望を暴走させられていたと聞きました」

歌姫「親族であるが故に魔力の親和性が高く、取り除くのは大変だったそうですわ」

歌姫「攫われる前には解術が完了していたそうですが……」

武闘家「あ……」

魔剣士「っ……!」
696 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:31:41.72 ID:sNgVk1I+o

武闘家「あのね、エリウス、あのね」

魔剣士「…………」

武闘家「あたしね、あなたがいなくなった日のこと、よく憶えてないの」

武闘家「でも、自分が何をしたのかはなんとなくわかってて……」

武闘家「ごめんなさいっ…………」

カナリアはポロポロと涙を零した。

こいつは、好きであんなことをやったわけじゃない。
でも、顔を見ると反射的に恐怖が蘇って、声を出せなくなる。

魔剣士「…………」

俺はただカナリアの頭をぽんぽんと軽く叩いて、その場を去った。
697 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:32:07.09 ID:sNgVk1I+o

花壇の煉瓦に腰を下ろして溜め息をついた。
胸が緊張で苦しい。

重斧士「おい」

魔剣士「えっ!? いつの間に」

重斧士「おまえが来る前から俺はここにいたんだが」

魔剣士「…………」

全然周りが見えていなかった。

魔剣士「……勝手に消えてごめん」

重斧士「別に責めちゃいねえだろ」

魔剣士「…………」

重斧士「あいつを助けに行って、んでまた気持ちを伝えたんだが」

重斧士「しばらく時間がかかるかもしれないけど、それでもいいか……って」

重斧士「前向きな答えを貰えたぞ」

魔剣士「そうか。……おめでとう」

重斧士「おう。まあまだお兄様公認じゃあねえけどな」

魔剣士「アーさんは絶対厳しいぞ……」
698 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:32:33.71 ID:sNgVk1I+o

魔剣士「ヴィーザルが来てなくてよかったな」

重斧士「まったくだ」

いたら絶対口を挟んできていただろう。

魔剣士「……俺とカナリアの間に何があったのかは」

重斧士「なんとなく察してるぞ」

魔剣士「…………」

魔剣士「あいつの身体、綺麗だから」

重斧士「じゃなけりゃカナリアの兄貴がもっと荒れてただろうな」

魔剣士「ああ、あの人ならそういう情報も魔力から読めるだろうな……」

魔剣士「…………」

重斧士「カナリアの兄貴もおまえを責める気はねえみてえだぞ」

重斧士「『これは仕方ありませんねーはぁー』って感じでよ」

魔剣士「…………」
699 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:33:10.10 ID:sNgVk1I+o

重斧士「おまえ、カナリアとは会ったのか」

魔剣士「さっき会った」

重斧士「どうだったんだ」

魔剣士「……まともに話せなかった」

魔剣士「どうしてもさ、顔見ただけでもつらいんだ」

魔剣士「……いつか、何年か経って、つらい記憶が薄れた頃にさ」

魔剣士「何事もなかったかのように、また友達になれたらな……って」

魔剣士「そう思う」

重斧士「そうか」

魔剣士「……おまえって大人だよな」

重斧士「そりゃおまえよりは年上だからな」

魔剣士「いくつだっけ」

重斧士「18だ」

魔剣士「同い年じゃねえか」

重斧士「来月で19なんだよ」

魔剣士「そっか」
700 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:33:38.58 ID:sNgVk1I+o

宿に行って、父さんとルツィーレにユキを紹介した。

次女「一億歳差のカップルだね〜すごいね!」

魔剣士「ユキは永遠の16歳だからぁ!」

白緑の少女「エリウスさん……」

戦士「……すごい子と恋人同士になったんだな」

戦士「大事にするんだぞ」

魔剣士「もちろん!!」

実体化しているユキを抱きしめた。甘い花の香りがする。

魔剣士「ん〜〜」

白緑の少女「ご、ご家族の前ではしたないですよ」

白緑の少女「人はそう感じるものなのでしょう?」

魔剣士「そうだけどぉ〜」

戦士「精霊のユキさんの方が人間の常識ありそうだな……」

白緑の少女「長い時間の中で、ずっと人の生活を見守っていましたからね」

白緑の少女「若き日のあなたがアクアマリーナに訪れた日のことも覚えていますよ」

戦士「え? なんだか恥ずかしいな……」
701 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:34:08.52 ID:sNgVk1I+o

翌朝。外に出ると、メルクやガウェイン達が何やら集まって談笑していた。

白旅人「初恋は司書のお姉さんでしたね……」

武闘家「騎士のお兄ちゃんだったなあ……初恋っていうか、憧れだったんだけどね」

武闘家「クレイオーさんは?」

歌姫「……お、覚えてませんわ!」

クレイオーは頬を赤く染めた。
あいつの初恋の相手? 心当たりはないな……まずあんまりあいつに興味なかったし。

重斧士「そもそも身内以外に女がいなかったな……。俺は自分をゲイだと思い込んでたんだが、」

重斧士「今思えば男に恋をしたこともなかった気がするしよ」

重斧士「だからカナリアが初恋だ」

武闘家「ちょ、ちょっと! オープンすぎ!」

武闘家「ねえ、お兄ちゃんは?」
702 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:35:06.87 ID:sNgVk1I+o

魔導槍師「初恋ですかー……」

魔導槍師「幼い頃、私はとある女性に恋をしました」

魔導槍師「煌びやかな金の髪、青い瞳、薔薇のような唇…………」

魔導槍師「私は彼女を見かける度に必死に追いかけましたが、彼女の素性を知ることはできませんでした」

ストーカーじゃねえか……?

魔導槍師「しかしある時、魔感力が冴えてきた頃……私は気がついてしまったのです」

魔導槍師「彼女が女装をした実の父親であることに」

武闘家「え……」

魔導槍師「ショックでしたねー……」

武闘家「いやあああああああああああああ!!!!」

魔導槍師「それ以来、私は女装の達人しか愛せなくなってしまいました」

武闘家「そこまで訊いてないから!!」

うわあ。
703 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:35:36.10 ID:sNgVk1I+o

重斧士「こ、広義のゲイなのか?」

魔導槍師「いいえ。異性愛者です」

魔導槍師「しかし、本物の女性は何かしら男を幻滅させる要素をもっているでしょう」

魔導槍師「それに対し、女性になりきった男性は男性の理想を最大限に再現していますからね」

魔導槍師「純女(じゅんめ)よりも女性らしく、それでいて男への理解もある」

魔導槍師「最高じゃないですか」

武闘家「やめてお兄ちゃん!!」

白旅人「いわゆるトラニーチェイサーですね」

専門用語が出てきてもうわけがわからない。

魔導槍師「そこで聞き耳を立てているエリウス」

魔剣士「え」

魔導槍師「あなたは妙に私を恐れているようですが……」

魔導槍師「私、あなたの女装の腕前だけは認めているんですよ」

魔剣士「…………」

魔剣士「ひいいいいいいいい!!」

本気でゾッとしたから、俺は震える脚をどうにか前に出してその場から逃走した。
704 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:36:03.69 ID:sNgVk1I+o

魔剣士「ユキ〜……!」

白緑の少女「どうしたのですか、エリウスさん。そんなに怯えて……」

魔剣士「未知の業界の人間に未知の業界へ引きずり込まれそうな感じがしたー!!」

白緑の少女「よしよし……」

あの人の前では絶対に女装しないと俺は誓った。

次女「むか〜しむかし、あるところに」

ルツィーレはこの村の子供達を捕まえて昔話を聞かせているようだ。

次女「玉無しのおちんちんが住んでいました」

は?

次女「玉無しおちんちんはお母さんおっぱいに訊きました」

次女「『どうして僕には玉がないの?』」

他人の振りしとこ……。

〜〜〜〜


戦士「おいエリウス」

魔剣士「ん」

戦士「これから遺跡の調査に行くんだが」

魔剣士「あー俺も手伝う」
705 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:36:35.37 ID:sNgVk1I+o

戦士「ルツィーレを頼む」

魔導槍師「ええ」

次女「ねえねえアークイラお兄ちゃんのおち」

魔剣士「こらー!!」

魔導槍師「サイズには自信があるんですよ」

次女「見せて見せてー!」

魔導槍師「ははは、それはちょっと」

もう……もう知らない…………。



戦士「っ止まれ!」

車に乗り込み、父さんの部下やこの国の兵士達と村を出た直後、呪術師達が姿を現した。

戦士「…………!」

奴等の内の一人は……ぐったりした母さんを腕に抱えていた。

四女「とーしゃ、にーいーに!」

末の妹も少し離れた所にいる別の呪術師に抱きかかえられている。

戦士「貴様等……!」
706 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:37:08.77 ID:sNgVk1I+o

勇者「う……」

呪術師「くくく……かつての勇者も弱ればただの女。捕らえるのは容易であった」

ルツィーレが誘拐されたせいで、母さんは寝込んでいた。

まともに戦える状態ではなかったのだろう。

魔剣士「あいつ、なんで母さんが勇者だったってことを……」

呪術師「ここは通さぬぞ。動けば……この者達の血を見ることになる」

戦士「…………」

魔剣士「なっ……!」

呪術師達は皆臨戦態勢をとっており、そして実力は相当なものだろう。
下手に動くことはできない。

戦士「……奴等の目的は、足止めだけじゃない」

戦士「激しい憎しみを抱えた復讐者を生み出そうとしているのだろう」

戦士「『蜜の八年間』……それは、アルカさんが復讐の旅をしていた期間だ」

父さんは不思議と冷静さを保っている。

呪術師「あれは良き時代であった」

呪術師「魔族により世には憎しみが溢れ、極上の復讐者が誕生した」
707 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:40:49.79 ID:sNgVk1I+o

呪術師「勇者ナハト……復讐のためだけに生きた鬼神」

呪術師「世を憎む破壊の化身と化した勇者ナハトを取り込み、オディウム神は復活を遂げるはずであった」

呪術師「おまえとの接触さえなければ、我等の悲願は果たされていたのだ!」

戦士「聖玉の波動をもった人間の復讐心は最高の養分らしい」

戦士「復讐心に己を支配されるんじゃないぞ。何があってもだ」


このままじっとしていても、誰かが奴等に殺されてしまう。
俺は奴等に気づかれないよう、こっそり奴等の足元の草の精霊に頼んで呪術師の一人を転ばせた。

「おい誰だ俺の足引っ張ったの!」

「俺じゃないぞ!」

「気を乱すな!」

隙が生まれたその瞬間、父さんは剣を抜いて走り出した。
奴等はすぐにでも態勢を整え直すだろう。一人で二人共を助けることは困難だ。

だが、俺は父さんが迷わず向かう先がわかっていた。
だから、俺も迷わずに行く先を選択することができる。

俺は勢いよくアクセルを踏み込んだ。
708 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:41:38.42 ID:sNgVk1I+o
kokomade
遅くなって申し訳ない
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/30(水) 19:41:09.72 ID:kabQncpA0
アーさんもそりゃ人格ひん曲がるわなwwww
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/30(水) 19:47:14.91 ID:wTm1ew6uO
711 :sage :2016/12/15(木) 21:09:34.73 ID:lPzzHx0Q0
保守
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/19(月) 05:25:29.53 ID:LG6xGbIX0
保守
713 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/12/31(土) 00:15:04.64 ID:NrIwBDw4o
生存報告
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/31(土) 02:09:26.49 ID:HAn5qCcA0
書きため中かなww
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 07:52:58.50 ID:27Yela8IO
わたしまーつーわー
716 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 19:54:45.37 ID:yl2oRthUo

第二十五株 憎悪の開花



呪術師を跳ね飛ばす勢いで、俺はラヴェンデルに向かって集団に突っ込んだ。

魔剣士「ユキ!」

白緑の少女「ええ!」

助手席から実体化したユキが手を伸ばす。彼女の株を乗せていてよかった。

「ぐぁっ!」

魔剣士「ラヴェンデルは!?」

白緑の少女「怪我はないようです」

四女「にー! にー!」

魔剣士「あー……よかった」

人を轢く衝撃を気にする余裕もなく、俺は車を飛ばして奴等から距離をとった。
717 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 19:57:55.00 ID:yl2oRthUo

まだ安心はできない。呪術師の連中は既に反撃の準備をしている。
父さんは……上手いこと母さんを奪取できたようだ。

父さんがこの世で最も大切に思っているのは母さんだ。
いざという時に迷わないよう、子供に対しては常に精神的に距離を置いている。

父親としての責任は果たしてくれているし、人並みに可愛がってはくれるが、
いつでも割り切れるよう情が移り過ぎないようにしているらしい。そういう人だ。

それを特に不満に感じたことはない。ちょっと寂しく感じたことがある程度だ。
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