魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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518 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:45:23.62 ID:GtURHtWlo






魔剣士「…………!」

白旅人「ああ、よかった。気がついたんですね」

メルクだ。

青い石「よ゛がっだぁぁぁぁぁ」

青い石「私が起きた時にはもう怪我してて……」

愛車は……よかった、無事だ。俺のエメラルド号のすぐ前には岩壁があった。
交通事故を起こしかけていたらしい。

白旅人「事故防止装置が作動したようでしたが、」

白旅人「急停止のショックで額や首を損傷していたんですよ」

白旅人「もう少し遅ければ危ないところでした。治療が間に合ってよかったです」

そ、そうなのか……。ありがとう。

魔剣士「っ…………」

……おかしいな。声が出ない。
喋ろうとすると、喉が締め付けられるように苦しくなる。
519 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:45:52.02 ID:GtURHtWlo

メルクは俺の喉に手をかざした。

白旅人「……声帯に異常はないようです。脳の損傷でもありませんね」

魔剣士「…………」

白旅人「スープ、いかがですか。お腹が空いているでしょう」

あったけえな。薄味で俺好みだ。

青い石「ねえエリウス、カナリアっちとガウェっち何処?」

魔剣士「…………」

白旅人「何か事情があって別れたのでしょう」

青い石「え、じゃあ敵に捕まったわけじゃ……って」

青い石「そういえば、私の声聞こえるんだね」

白旅人「素の状態では聞こえません」

白旅人「魂が宿っているようでしたので『回線を繋ぐイメージ』をしました」
520 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:46:20.55 ID:GtURHtWlo

青い石「す、すごい。流石魔適体質者だね……」

青い石「エリウス、どうして他の二人とバラバラに行動してるの? 危ないでしょ?」

魔剣士「…………」

白旅人「しばらくはそっとしておいて差し上げませんか」

青い石「そうも言ってられないよ。強い敵ばかり襲ってくるようになってるのに」

青い石「ねえ、エリウス」

魔剣士「っ…………」

青い石「ええと…………」

白旅人「パイナップル、分けましょうか」

白旅人「丁度一人じゃ食べきれなさそうだなって困っていたところなんですよ」
521 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:46:52.68 ID:GtURHtWlo

青い石「……ねえ、メルク」

青い石「声が出ないの、治せないの?」

白旅人「できませんね」

白旅人「“どんな難病でも治す奇跡の力を持った魔適体質者”と謳われてはいますが、」

白旅人「どれほど魔適傾向が高くても、万能ではないんですよ」

白旅人「心因性の病気や精神疾患、先天的な脳障害はどうあがいても治療できませんね」

白旅人「僕だけでなく、魔適傾向100〜150マジカルの魔適体質者全員がお手上げなんだそうです」

ああ、じゃあ俺の頭がおかしいのも治せないんだ。
そこまで頼る気は毛頭ないけど。

白旅人「……一緒に行きましょうか」




助手席にメルクが乗った。
522 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:47:33.88 ID:GtURHtWlo

魔剣士「…………」

青い石「『もしよければ、君が今までどんな人生を歩んできたのか聞きたい』だって」

モルに代弁してもらった。

白旅人「いいですよ。自分語りをする機会なんてなかなかありませんし」

白旅人「生まれは西の、そのまた西の大陸です」

白旅人「ここから東にあるエスト大陸と文化や気候が似ていますね」

ほぼ地球の裏側だってのに、文化が似ているってのは不思議なもんだ。

白旅人「両親は国に仕える高官です」

白旅人「なので、身内に直接保護してもらえる環境で育ちましたね」

白旅人「まあ魔適体質者にしては比較的融通の利く身だったと思いますよ」

魔適体質者は厳重に保護され、常人以上に倫理観を叩き込まれて育てられるらしい。
なんでもかんでもできちまう存在だから仕方がないそうだ。
反社会的な人間に育ったら大変だ。

白旅人「兄弟は妹が一人います」

白旅人「幼い頃は仲が良かったのですが、今はもう疎遠になってしまいましたね」

白旅人「僕の目が怖いんだそうです」
523 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:49:47.73 ID:GtURHtWlo

魔剣士「…………」

白旅人「仕方がありませんね。自分でも不気味だと思うほどですから」

白旅人「たとえ魔適体質でも、魔力が白じゃなければよかったのですが」

魔剣士「…………」

青い石「『よくこんなに優しい性格に育ったな』って」

白旅人「……ははは。捻くれていた時期もありましたよ」

白旅人「特に反抗期真っ盛りの頃は天狗になっていましたね」

白旅人「そんな時でしたよ、治療できない相手に出会ったのは」

白旅人「ショックでしたね。無力感を覚えたのはあの時が初めてでした」

白旅人「どうしても悔しくて、必死に心理学や精神医学を学びました」

白旅人「そうしている内に、いつの間にか丸くなりましたよ」

魔剣士「…………」

青い石「『年、いくつ?』」

白旅人「18です」
524 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:50:48.48 ID:GtURHtWlo

青い石「『同い年なのに悟っててすごい』だって」

白旅人「悟ってるなんてそんな……」

白旅人「落ち着いて生きる穏やかさに慣れることができただけです」

白旅人「それに、僕以上に僕の孤独を嘆いてくれる人に出会えましたからね」

白旅人「孤独と言えるほど寂しい境遇だったわけではありませんが、」

白旅人「僕はこの体質が元で、孤独感を……周囲との疎外感を抱え続けていました」

白旅人「だから、世の中に対して斜に構えることで寂しさを誤魔化そうとして……」

白旅人「近くにいてくれる『他人』が現れたのは、人生の大きな転機でしたね」

魔剣士「…………」

青い石「『痛いほどよくわかる』」

家族でもないのに見捨てず傍にいてくれる他人の存在は貴重だ。
ユキと一緒にいると心があったかくなるし、優しくなれる。

白旅人「僕の従者だった彼女は、魔適体質者としての僕とではなく、僕自身と向き合ってくれました」

白旅人「必ず取り戻します」
525 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:51:46.84 ID:GtURHtWlo

――――――――
――

白旅人「ここは、勇者ナハトとヘリオスが出会った村だそうですよ」

へえ。
よくある、小さくて平和そうな村だ。

携帯が鳴った。

長女『もしもし兄さん?』

長女『母さんの子宝草が無尽蔵に増えすぎてすごいことになっているのだけど……』

喋れないのを忘れて通話ボタンを押してしまった。
仕方がないから通話を切って、

『風邪引いてて声出ない。幸い外来種じゃないから平原にでも放っとけ』と返信した。

新婚だった頃に『子宝草を育てると妊娠する』というジンクスを聞いて育て始めたらしい。
でもあれとんでもなく増えるんだよ。増えすぎた子株は俺が食べて処理してた。
本来食用にはならないから真似してはならない。

(※生態系が崩れる危険性があるので日本では子宝草を野に放たないでください)


やけに夕日が赤いな……。
感動するような心は沸いてこなくて、なんだかただただ虚しい。

526 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:53:56.14 ID:GtURHtWlo

白旅人「二人部屋でいいですか」

俺は頷いた。一人でいたかったはずなのに、すっかり気分が変わっていた。
夜が来るのが怖くて心細い。


勇者ナハトが泊まっていたとかいう部屋……の真上の部屋を借りた。
料理をする気力どころか食欲すらない。

食べられるのは汁物か柔らかい果物くらいだ。
宿には小さな食堂があり、幸いあっさりしたスープが置いてあった。

女将「お兄ちゃん随分顔色悪いじゃない」

女将「特別にお粥作ってあげたわよ。これなら食べられるでしょ」

女将「ほら、サービスだから」

頭を下げた。ありがとうの一言も言えねえや。もどかしいな。
……人と話すことができない精霊の苦しみが、少しだけわかったような気がした。

白旅人「すみません、彼今話すことができなくて。代わりに僕がお礼を言います」

メルクが気を利かせてくれた。

女将「早く元気におなりなさいね」
527 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:55:27.64 ID:GtURHtWlo

お粥……かあ。

――
――――――――

『エル、お粥なら食べれそう?』

『はい、あーんして』

あっついよ。

『ああ、ごめんね。ふーふーしてあげるからね』

――――――――
――

母さん、今頃どうしてるかな……。
俺は赤ん坊の頃から母親への依存心が希薄だった。

でも別に最初から嫌いだったわけじゃない。




もう……会えないな。
今の俺が母さんに会ったら、この間以上に泣かせちまう。

俺の魔力を必要としているわけでもない人間に、それも戦友の娘に犯されたんだから。
母さんの魔感力なら、相手が誰かなんてのもすぐにわかってしまうだろう。



おかしいな。俺が母さんのことを想いながら泣くなんて。
528 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:55:59.16 ID:GtURHtWlo

言葉は出てこないくせに嗚咽は出てくるんだ。変なの。
鼻水で鼻が詰まって料理の味わかんねえじゃねえか。

せっかく出してもらえたもんだってのに。

女将「人生色々あるものねえ。たまには泣いたっていいのよ」

背中をさすってくれた。
俺は泣きながらお粥を口に運んだ。

モルはまだ起きてるみたいだが、思うところがあるのか黙っている。
この女将さん、肝っ玉な感じがばあちゃんと似てるなあ。


南に帰りたい。

騒がしくて面倒なことも多いけど、家族のいる暖かい家が恋しい。
529 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:58:48.87 ID:GtURHtWlo

――――――――
――

何もやる気が起きない。
俺はすっかり引きこもりと化していた。

数日間寝てばかりだ。
髭、剃ってないわりに薄いな……はあ。

自分の不幸に酔うようなことは嫌いなんだが、どうしても気分がよくならない。

女将「起きてるかしら? お昼ごはん持ってきたわよ」

白旅人「ああ、ありがとうございます。渡しておきますよ」

白旅人「食べられますか?」

食べ物を無駄にするわけにはいかない。
かなり億劫だが、俺は布団から出た。

魔剣士「…………」

青い石「『ずっとこの村にいるけど、酷い目に遭ってないか』だって」

白旅人「心配しなくて大丈夫ですよ」

白旅人「物珍しがられはしてますけど、そう頼られ続けることはありませんね、今のところ」

白旅人「控えめな民族性なのかもしれません」

白旅人「穏やかで過ごしやすい村です。しばらく滞在していましょう」

優しさが痛い。
530 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:59:29.58 ID:GtURHtWlo

観葉植物……小さなパキラの鉢植えが視界に入った。

俺一人が世界中の植物を助けて回るなんて馬鹿げてる。無理だって。一人じゃ。
そもそもなんで人間の社会が引き起こしている問題のしわ寄せを俺一人が受けなきゃならんのだ。

おかしいだろ。
尊厳は粉々に砕かれるし、体の調子はおかしくなるし……。

それに、性的な行為を伴わなくても、魔力を吸われるのはすごくつらいんだ。
急激に血が抜けていくような、寿命が削られていくような、そんな感覚に襲われる。

もうやだよ。怖いよ。
いっそ死んでしまいたい。でも、自殺する勇気なんてないんだ。

白旅人「手、震えてますよ」

白旅人「ゆっくり深呼吸してください」

白旅人「何も考えず、腹式呼吸で」

白旅人「しばらく続けている内に、楽になりますから」
531 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:00:24.19 ID:GtURHtWlo

白旅人「心理学に、心身一元論という考え方があります」

白旅人「心がつらい時、今のように体も調子を落とすことがあるでしょう」

白旅人「逆に、体を癒すことで心を癒すこともできるんです」

白旅人「端的に言いますと、心と体は同じものなんですね」

白旅人「……大丈夫です。傷はいつか癒えますから」

俺がこんな状態になってる原因を一切探ろうとせずに、メルクは傍にいてくれる。
再会できてよかった。

白旅人「他に調子の悪いところはありませんか」

白旅人「心因性のものでなければ治せますよ」

魔剣士「…………」

青い石「『病院行けって言わないのか』」

白旅人「そこまで鬼じゃありませんよ」

俺がこんな状態だからサービスしてくれているみたいだ。

白旅人「それに、あなたなら僕の能力に依存することもないでしょう?」

信頼してくれているようだ。嬉しいな。

治してもらうよう頼むか迷ったが、俺は服をたくし上げて胸の肉を寄せた。
メルクなら馬鹿にしたりしないだろう。そう信じたからだ。
532 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:01:31.88 ID:GtURHtWlo

白旅人「ああ、これは余計に病院へは行きづらいですね」

白旅人「ちょっと失礼しますよ」

白旅人「……病気や腫瘍が原因ではありませんね」

白旅人「脂肪を取り除き、ホルモンバランスを調節しました。もう大丈夫ですよ」

ああ……助かった。

白旅人「あ、取り除いた脂肪はエネルギーに変換して血液に流しました」

白旅人「栄養が足りていませんでしたからね」

口の動きだけで「ありがとう」と伝えた。
まだ外に出る気は起きないけれど、心が軽くなった。




「なんだあいつらは!」

「女子供は家の中へ!」

何やら外が騒がしい。
533 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:02:02.39 ID:GtURHtWlo

女将「あんた達、外に出ちゃ駄目だよ。変な連中がいるからね」

白旅人「どのような方々ですか」

女将「なんでも、『自分達の宗教に入らなきゃ命はないぞ』って武器持って暴れてるらしいんだよ」

オディウム教の奴等だ。
引きこもっている場合じゃない。どうにかしないと。

白旅人「エリウスさん!」

気がつくと俺は外に飛び出していた。



「こ、こいつ……エリウス・レグホニアだぞ!」

「この村にいたとはなんたる幸運! これもオディウム神のお導きか」

「捕らえるぞ!」

「しかし末端に毛が生えた程度の我々にぐふっ!」

敵が体勢を整える前に、周囲の草木に魔力を与えて攻撃した。
声が出せないということは、通常の魔法の使用がほぼ不可能であることを意味する。

精々術名を唱えなくても発動できるかなり小規模な術くらいだ。
攻撃は植物に頼るほかない。
534 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:03:26.39 ID:GtURHtWlo

村人1「きゅ、救世主だ!」

村人2「25年前にこの村を救ってくださった勇者様とそっくりだぞ!」

村人3「印象的だったもんな……俺も不思議なほど勇者様の姿を覚えてるよ」


精神的に弱り、魔力の波動のエネルギーが低下している今の状態でも対処できた。
でも、以前と比べると……やはり調子が…………っ!?


腹が、生命の結晶とその付近が異様に熱い。
俺はその場に倒れ込んだ。

白旅人「どうしましたか!」

魔剣士「っ…………!」

青い石「エリウス! エリウス!」

青い石「……すごい違和感だ」

白旅人「これは……一体……」
535 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:04:47.02 ID:GtURHtWlo

白旅人「……人知を超えた何かに体が蝕まれているようです」

青い石「生命の結晶っていう、森の生命力を濃縮したものが埋め込まれてるんだよ」

白旅人「生命の結晶……昔、文献を読んだことがあります」

白旅人「何か不思議な力を感じてはいましたが、正体はそれでしたか……」

青い石「助けようとしても魔力を弾かれちゃう……あいたたた」

俺の魔力が弱まり、結晶の力に負けてしまっているようだ。

白旅人「このままでは極めて危険です。何が起きるわかりません」

白旅人「いいえ、何かが起きる前に彼の命が…………」

腹の中から食われているような強烈な感覚に襲われる。
ああ、駄目だ、魂の本体が宿っている心臓まで侵食され始めた。



俺……もう…………





死ぬ…………







…………かも…………


536 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:05:29.44 ID:GtURHtWlo
kokomade
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 01:37:32.87 ID:Itck3jRHo
乙乙
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 02:34:05.40 ID:0Y/ydthRO
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 07:17:11.68 ID:N1JXOFsg0
不憫な……
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 21:40:25.89 ID:bV2hEqu1O
こっからどう立ち直るのか…
541 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:33:10.95 ID:Q5EWaLPro

第十九株 遡る記憶


今までの記憶が映像になって流れ込んでくる。

重斧士『おまえってすげえ奴なのに、昔の知り合いからは見下されることもあんだな』

魔剣士『理由はわかってんだろ』

魔剣士『奇行が多くて言動もおかしい奴なんて、劣った存在とみなされても仕方がない』

魔剣士『だからって周りに合わせて生きる気にもなれなくてさ』

魔剣士『普通の人間の振りをしようとしても、結局ボロが出る』

魔剣士『だから自分の好きなように生きることにしてんだ』

重斧士『おまえが割り切れてんならそれでいいけどよ』

魔剣士『とっくに割り切ってるよ』

正直に言えば、こんな人間に生まれて不幸だと思ったこともある。

でもそれ以上に恵まれているから、マイナスよりはプラスの方が多い。
そう自分に言い聞かせている。
542 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:34:26.85 ID:Q5EWaLPro

父さんは強くて思いやりがある大陸一の戦士だし、母さんは優しくて教養があるし、
可愛がってくれるじいちゃんばあちゃんその他大勢の親戚はいるし、

俺自身才能に溢れているし、
これで不幸ぶったらバチが当たる。


『おまえ昨晩のオカズなんだったよ?』

『適当にネットで探した動画』

大学の男共が、講義室の後ろに溜まって猥談をしていた。

『ようエリウス! おまえは何オカズにしてんだ?』

魔剣士『月下美人だ』

『どんな美人だそりゃ』

俺は図鑑の297ページを開いた。

魔剣士『美しいだろう』

『は、はは、花ニーか、流石だな』

大学生活は気楽なもんだった。
ネジの外れた発言をしても虐げられることなんてなかった。

上級教育までと違い、人間関係が浅い上に変人なんて他に何人もいたからだ。
サカってる女が鬱陶しかった意外は特別嫌なこともそんなになくて、暮らしやすかったな……。
543 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:35:17.95 ID:Q5EWaLPro

教授『やあエリウス君。我が研究室へようこそ』

教授『研究したいことをなんでもやったらいい。君の才能はよく知っているよ』

学部一年の頃から、俺は特別にゼミへの配属が認められていた。

俺の夏休みの自由研究を毎年審査して、
俺の実力を認めてくれていた教授の所に早く行きたいと思っていたから、嬉しかったな。

俺の義務教育生・上級学生時代の自由研究は自由研究のレベルを大幅に越えていて、
毎年プラチナ賞を取っていた。

本来最優秀賞はゴールド賞だったのだが、次元が違っているという理由で新たな賞が設けられた。


俺は……幸せなはずなんだ。
544 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:36:14.86 ID:Q5EWaLPro

『やっぱり飛び級生に体育の授業はきついわよね〜』

『もう昼休み入ってんじゃん〜早くゴールしてよ』

これは……上級学生時代か。持久走は地獄だったな……。


『黒板の高い所届かなくて困ってる〜かわい〜!』

『誰だよあいつ用の台隠した奴。ははは』

飛んだ学年の多さのせいか、容姿のせいかは知らないが、軽くいじめられることもあった。
この頃、学校でだけは奇行を抑えていたのだが……浮くことは避けられなかった。


『いーよなあいつは女の注目集めてて』

『勉強できて顔がいいからって調子乗ってんじゃねえぞ……』

『シッ! 聞こえっぞ』

男からは妬まれることが多かったな。

いじめが酷くならなかったのも、面と向かって文句を言われることがあまりなかったのも、
父さんの威光があったからだろう。

早くこんな狭い箱の中から抜け出したい。興味のない教科から解放されたい。
そう思って必死に勉強した。
545 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:40:22.25 ID:Q5EWaLPro

『おまえのにーちゃん頭おかしいんだろー!』

『やーいやーい』

次男『おれのにいちゃんおかしくなんてないもん!』

『おまえのにーちゃんが頭の病院行くところ俺のかーちゃんが見たって言ってたぞー!』

小さなアルバが悪ガキ共に囲まれている。

長男『……おまえら、何してんだよ』

悪ガキ達は俺達を馬鹿にしながら散っていった。
アルバは泣きじゃくっている。自分が馬鹿にされたわけじゃないのに。

次男『にいちゃんはおかしくなんてないよね、ね?』

長男『……ごめんな、アルバ』

俺のせいで、俺がおかしいせいで、弟が…………。

でも、まともな人間がどんなものなのかなんてわからなかったし、
俺らしく生きたい衝動を抑えるのは困難だった。特に幼い頃は、今以上に。
546 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:41:24.22 ID:Q5EWaLPro

『あたくしよりも先に更に飛び級だなんて生意気ですわ!』

クレイオー……すっぴんだ。そりゃそうだ、まだ子供の頃なんだから。

『あたくしがいないと何もできないくせに。心配でたまりませんわ』

周囲と馴染めなかった俺の世話を、頼んでもないのに焼いてくれたっけな。
言い方はいちいち高圧的だったが、思いやりがなかったわけじゃない。

『本当に……一人でも大丈夫ですの?』

あいつが俺に絡んでくるのは、俺が決してあいつを女として見ないからだ。
容姿が優れている分あいつも苦労している。だから俺と一緒にいると安心するらしい。

……どんな奴にだって、生きる苦しみはあるんだ。
547 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:42:56.90 ID:Q5EWaLPro

『ねーえ、何してるの?』

幼い頃のカナリアだ。俺も八歳くらいだろうか。
母さん達が食事をしている店の外に出て、俺は案の定草木を観察している。

そういえば俺、なんでこいつの名前覚えてたんだっけ。
アーさんの名前は覚えてなかったし、ヴィーザルなんて顔すら忘れてたのに。

あいつらの他の兄弟のこともあまり記憶に残っていない。
どうして、カナリアだけ……。

『何か言ってよ〜』

『……喋ったって、どうせ、おまえも俺のこと変だって言うんだろ』

『言わないよ?』

幼い俺は漸くカナリアの顔を直視した。

『植物好きなんでしょ? 将来は植物の学者さんかもね!』

そう言って、あいつはひまわりの花のように笑った。

『エリウス君、あたしの名前わかる?』

『…………』

『カナリアーナよ。みんなカナリアって呼ぶわ。ちゃんと憶えてね!』

そっか、あいつ……俺のこと否定しなかったんだ。



どうして、どうしてあんなことに…………。

俺がまともな人間で、もっと他人の気持ちに敏感だったら、
あいつの気持ちを量ることができていたら、違っていたのだろうか。
548 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:46:30.35 ID:Q5EWaLPro

『どうしよう、赤ちゃん、流れてくっついっちゃった』

ソファに座った母さんが泣いている。父さんは母さんの肩を抱いていた。
俺が七歳の頃のことだ。

『どうしよう、どうしよう、このままじゃ二人ともちゃんと生まれてこられないかも』

『アルカさんのせいじゃないよ。しばらく様子を見よう』

妊娠のかなり初期の頃で魂が宿る前だったのだが、
母さんは魔力で子供の性別がわかっていたらしい。

女の子と男の子の双子だった。流れたのは男の方だ。

母さんは、階段から降りてきた俺に気がつくといつも通り微笑んだ。

『ごめんね、今お風呂沸かすからね』

無理しなくていいのに。

なんで俺なんかが五体満足で生まれてきて、弟は一人の人間として生まれてこられなかったのだろう。
ひたすら虚しくて、気が重くなった。

母さんはどれだけ悲しかったのだろう。想像したくもない。
549 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:47:22.45 ID:Q5EWaLPro

子供……欲しいな。自分の子供が欲しい。
俺は何故だかガキの頃からそんな願望を持っていた。

人間を愛せないのに子供が欲しいだなんて、ひどく矛盾しているだろう。
でも俺は愛する花との間に本当に子供が欲しいんだ。

他人に理解してもらおうだなんて思っていない。
この望みを果たせないまま俺は死んでいくのだろう。



『エル! エルのためにね、山菜摘んできたんだよ』

母さんはわざわざ俺の好物を採ってきて調理してくれた。
家事や育児でクソ忙しいってのに。

重たいなって思った。
万が一人間と付き合うことがあっても、面倒で重い女だけは嫌だ。

『どう? おいしい?』

無愛想な俺に対して、母さんは何処か寂しそうに微笑んでいた。
俺は何も言わなかった。ただただ面倒だった。


いや違う。



本当はおいしかった。嬉しかった。
550 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:48:20.86 ID:Q5EWaLPro

俺、なんで親不孝しかできないんだろ……?


生まれつき他の赤ん坊と違った俺が更におかしくなったのは、あの夜のことだ。
三歳になる直前くらいのことだ。

俺は口数が少ない割に、難しい言葉の意味もある程度覚えていた。
俺は父さん、母さんと寝台の上で川の字になっていた。
幼いアウロラはベビーベッドですやすや眠っている。


ここ数年は落ち着いているが、当時、母さんは昔のことを思い出して突然泣き出すことがあった。
その夜も、母さんの嗚咽で目が覚めた。

『ごめんね、ごめんね』

(おかあさん、なんでないてるの?)

『汚いお母さんでごめんね……!』

俺はその言葉の意味がわからなかった。
551 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:49:26.84 ID:Q5EWaLPro

おかしいな。大人が吃驚するくらい言葉を知っているはずなのに。
お母さんが謝っている理由がわからないんだ。


……幼い俺には、その言葉を処理しきれなくて、
母さんが、いつも守ってくれている母さんが、とんでもない悲しみを抱えている事実を受け入れられなくて、

それ以来、俺は母さんと向き合うことができなくなった。

『アルカさん、もう大丈夫だから。謝る必要なんてないんだよ』

父さんが起きて母さんを慰めていた。父さんは何を知っているのだろう。

『私、お母様ほど気丈になれない』

『いいんだよ、弱くたって。俺が支えるから』





『どうしたエリウス、一人で寝たいだなんて』

母さんが汚いなら、その母さんから産まれてきた俺も汚いのか。
謝るくらいなら産むなよ。


何故だか俺はそう思うようになった。
552 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:50:02.07 ID:Q5EWaLPro

どうして母さんは自分のことを汚いだなんて言っていたのだろう。
今でも俺はその理由は知らないし、知らない方がいいのだと思う。

たとえ親だろうが一人の人間なんだ。
俺の把握しきれない過去くらいあっても何もおかしくない。


……そう思うなら、どうして母さんに対してもっと優しくなれなかった?
結局意地を張って反抗していただけじゃないか。俺はガキのままだ。


俺がどんな馬鹿な息子でも、死んだら母さんは悲しむだろう。
それなら、もっと親孝行しておけばよかった。




母さん、ごめんなさい。
553 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:50:29.20 ID:Q5EWaLPro
kokomade
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/01(木) 02:06:59.69 ID:HN5nnOJDO
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/01(木) 05:36:52.77 ID:jb8WuSM10
走馬灯
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/02(金) 11:20:29.12 ID:AzQMMlT+0
〜BAD END 〜
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/16(金) 01:14:53.46 ID:rJT4uZPI0
続き待ってる
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/16(金) 16:00:36.15 ID:IgdE7Xoo0
ヒロインは一体誰なのか
559 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:55:04.51 ID:IbKbh14ho

死にたい気分だったのに、いざ死ぬとなると未練が沸き上がってくる。
このままじゃ成仏できねえよ。

親孝行したかった。もっと研究したかった。弟や妹ともっと遊んでやりたかった。
ユキが泣いていた理由だってわからないままだ。

でも生きるのはつらすぎる。
嫌だ……死にたくない。生きていたくもない。

俺にとってこの世界はどうしても生きづらいんだ。


なんで人間になんて生まれてきたんだろう。
木になれたらいいのに。

誰にも伐られる心配のない何処か山奥で、何かを考える必要もなく、
幹を伸ばし、緑の葉を茂らせ、陽の光を浴びて……。
560 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:56:29.10 ID:IbKbh14ho

ここ、何処だろ。真っ白だ。あの世かな。

――僅かでも可能性のある器を――

男の声が響いた。

――例え、何千万の時が過ぎ去ろうとも――

頭の中で鳴ってるみたいだ。

――彼女の心を満たすために――


時が逆行し、景色は次々と移り変わった。
この魂は海を渡り、平原を駆け、樹海を彷徨い……そうやって、億近くの年月を過ごした。

そしてある時点で、時間がゆっくりと正常に流れ出した。


男女の精霊が、大きな木の枝に腰をかけて談笑している。

『ねえイウス、ずっと一緒よ』

『ああ、スフィ』

男の精霊は女の精霊の手に自分の手を重ねた。
女の子の方は……ユキだ。

今と少し容姿が異なるが、確かに俺が想いを寄せているあの子だ。
本名がスファエラ=ニヴィスだからスフィと呼ばれているのだろう。
561 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:57:15.73 ID:IbKbh14ho

てかあれ何? 彼氏??
でも今も付き合ってるのならユキは俺に会いに来たりしないよな多分。

種族が違っても俺男だし。……男だと思われていると思いたい。
ってことは元彼かな。

不安感と惨めさと嫉妬心が同時に沸き上がった。

『ああ……こんなにも愛し合っているのに、どうして種族が違うのかしら』

見たところ男は雌雄異株の木の雄株の精霊のようだが、ユキとは別の種類のようだ。

『種族なんて関係ないだろう?』

『……あなたとの子供が欲しいの』

ユキは物悲しそうに俯いた。

『…………君が、望むのなら……』


その瞬間、視界が真っ暗になった。
562 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:57:41.99 ID:IbKbh14ho

胸がじんじんと痛み、心が萎んでいく。
さっきの映像は一体なんだったんだろ。

走馬灯がネタ切れ起こして幻でも見たのかな。
人間としての俺が死んでいくのを感じた。さよなら人生。


来世はどうか植物でありますように。
















563 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:58:24.55 ID:IbKbh14ho

もう、何も感じない。
穏やかだ。







すぐ傍に誰かがいるような気がした。
でも何も見えない。聞こえない。


















明るい歌声が聞こえてきた。琴の音も聞こえる。
胸が熱を帯びた。
564 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:58:52.41 ID:IbKbh14ho

――…………きて……――

――生きて…………――

…………ユキ?

――お願い、生きて……エリウスさん!――

もう疲れたよ。

――ああ、やっと声が届いたのですね――

――今、あなたが死んだら……私は、再び長い孤独を生きることになってしまいます――


暗闇の中に、月明かりを浴びた雪のような儚い輝きを纏う彼女がいる。


俺のすぐそばにいる。
565 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:59:30.26 ID:IbKbh14ho

――私と一緒に、生の喜びを探しましょう?――

一緒にいてくれるの?

――ええ――

俺なんかと?

――今のあなたの温もりを、どうか私に……――





琴の音が大きくなる。

魔剣士「ユ……キ……」

魔剣士「俺まだ……生きていた……い……」

歌姫「生きてますわよ」

魔剣士「っ!?」

宿屋の寝台の上で目が覚めた。


第二十株 ある種の神話
566 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:00:15.96 ID:IbKbh14ho

クレイオー!?
名前を呼ぼうとしても声は出なかった。

愛用の竪琴を持っている。十歳の誕生日にアポロン先生に買ってもらった物らしい。

歌姫「散々寝言を言っていたくせに、起きたら話せなくなりますのね」

え……俺どんなこと言ってたんだろ?

歌姫「『母さんごめん』って何回も謝っていたんですのよ」

えっ……。

歌姫「本当はお母様のことが大好きな癖に」

うっわ恥ずかしい。

歌姫「それと、『ユキ、ユキ……』と何度も何度も」

…………。

そういえばおまえなんでここにいんの?

歌姫「事情の説明は後ですわ。ゆっくり体と心を休めなさいな」

っつか俺が考えてること読めてんのか?

歌姫「長い付き合いですもの。あなたが何を考えてるかくらい手に取るようにわかりますわ」

俺は深い安堵の溜め息をついた。
同郷の昔馴染みの顔を見たらひどく安心してしまった。
567 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:01:13.76 ID:IbKbh14ho

起きた時点で涙が流れていたのだが、俺は更に泣いた。

歌姫「お馬鹿泣き虫ウス。よっぽど怖い目に遭ったんですのね」

歌姫「心を落ち着ける曲を奏でて差し上げますわ。よくお聞きなさい」

クレイオーは竪琴を構えた。
防音結界を張り、俺が眠っている間も演奏してくれていたようだ。

やけに悲しく重い旋律から始まった。

歌姫「最初から明るい曲調を奏でても効果は薄いだろうと思いましたの」

歌姫「あなたの感情と音楽を同調させる必要がありますわ」

少しずつ希望の見えるようなメロディに変化していく。
窓からは朝日が差し込んでいた。
568 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:02:36.16 ID:IbKbh14ho

扉が開いた。

白旅人「ああ、よかった。これで一安心です」

白旅人「一時はどうなることかと思いました」

モルの石はベッドサイドテーブルに置かれている。
いつもより眠りが深いみたいだ。俺の琥珀も隣に置いてあった。

てか俺一体どうなったの。

白旅人「落ち着いて聞いてくださいね」

白旅人「あなたはここ数日の間、木になっていました」

え?

歌姫「何ちょっと嬉しそうな顔してますの……もう」

歌姫「助けるの大変でしたのに」

白旅人「正確には、木の形に発達した魔力結晶の核になっていましたね」

白旅人「いやー驚きましたよ。生命の結晶の能力は魔導学では証明しきれません」
569 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:03:18.76 ID:IbKbh14ho

――――――――

四日前

白旅人「どうにかしてこの力を押さえ込まなければ……!」

青い石「できそう!?」

白旅人「……極めて困難です」

白旅人「僕の魔力に彼と波動の近い魔力を乗せることができたら、可能性は有るかもしれませんが……」

青い石「私が魔力を出すよ」

白旅人「しかし…………わかりました」



白旅人「っ……抑えきれません!」

白旅人「何か、別の器があれば…………」

白旅人「っ!」
570 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:05:15.57 ID:IbKbh14ho

白旅人「そうだ、この琥珀」

白旅人「これにだったら、溢れ出る生命の結晶の力を流し込めるかもしれません!」

青い石「エリウスの魔力が染み付いてるし、」

青い石「普通じゃありえないくらいエリウスと波動が近いんだ」

青い石「確かにこれなら望みがあるかもしれない」

白旅人「回路の生成に成功しまし…………あっ」

青い石「あっ…………」

白旅人「…………木が生えましたね」

青い石「立派な大木だね…………」

白旅人「おそらく、あの琥珀の生前の姿なのでしょうけれど…………」

青い石「エリウス、完全に木の中に埋まっちゃったよ……」

青い石「あ……もうねむ……い…………」

――――――――

白旅人「とまあ、一命を取り留めることはできたものの、」

白旅人「そんな状態になっちゃったわけですね」
571 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:05:59.64 ID:IbKbh14ho

白旅人「あなた自身が『生きたい』という強い気持ちを持たない限り、」

白旅人「僕達には手の施しようがありませんでした」

白旅人「魔適体質者といえども他者の心を操ることまではできませんからね」

青い石「正直途方に暮れたよ……」

白旅人「そんな時に、たまたまクレイオーさんからあなたの携帯に電話が入りまして」

白旅人「申し訳ありませんでしたが、緊急時なので勝手に出させて頂きました」

歌姫「女装したあなたの評判が随分よかったので、また共演して頂こうと思いましたの」

歌姫「そのためにあなたの帰郷の予定を知りたかったのですけれど」

歌姫「死にかけてるなんて吃驚しましたわ」

白旅人「昨日クレイオーさんがこの村に来てくださったので、演奏してもらったんです」

歌姫「眠っていても、音楽はある程度脳に影響を及ぼしますの」

歌姫「あなたの生命力を強めるために必死に歌ってハープを弾きましたのよ」
572 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:07:46.21 ID:IbKbh14ho

白旅人「クレイオーさんの歌と、」

白旅人「あなたに寄り添っていた精霊の呼びかけによりあなたの生命力が回復したタイミングで、」

白旅人「どうにかしてあなたを木から引きずり出しました」

精霊……そっか、ユキ、ほんとに来てくれてたんだ。

白旅人「木と化していた魔力はその琥珀に封じてあります」

白旅人「取り扱いには注意した方がいいでしょう。再び暴走する可能性を否定できません」

白旅人「……すみません、もっと上手くあなたを助けることができたらよかったのですが」

助けてくれただけで充分だよ。ありがとう。

歌姫「これから帰るつもりだったのですけれど、しばらくは付き添いますわ」

歌姫「心配ですもの。あなたには音楽という名の薬を処方して差し上げないと」

学校はいいのか?

歌姫「フリーになった記念にライブツアーでもしようと思っていましたのよ」

歌姫「どうせ大学はもう暇ですし」

歌姫「ああ、ついでにあちこちの遺跡や古い文献も見て回りたいですわね」
573 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:08:20.67 ID:IbKbh14ho

村を出た。

俺があの村にいることがオディウム教の連中にバレてちょくちょく襲撃されていたらしい。
一箇所に長居するのは危険だ。

歌姫「ちょっと水浴びをして参りますわ。見張りを頼みます」

歌姫「あ、覗いたら許しませんわよ!」

魔剣士「…………」


可視化した魔力で文を書いた。
短い文章くらいだったらイメージだけで可視化することができる。

独特の精神制御が必要だから疲れるし、余程落ち着いてないとできないが。
あれから数日経ったが、モルはまだ目覚めない。

『あいつ、クセの強い性格してるだろ。傷つけられたりしてねえか』

白旅人「いいえ。僕あんな感じの子好きですよ。奴隷にされたいですね」

そ、それならよかった……のか?
574 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:09:34.48 ID:IbKbh14ho

『俺もすげえ無神経なところがあって、人から嫌われることはよくあるんだけど』

『俺といて嫌なことがあったらすぐはっきり言ってほしい。治すようがんばるから、』

『だから』

白旅人「見捨てませんよ。安心してください」

昔は人に嫌われようがどうでもよかった。縁が切れたって大して気にも留めなかった。
でも今は、仲間を失うことが恐ろしくて仕方がない。

あいつら大丈夫かな。捕まったりしてねえかな。
安否は気になるが、確認する気にはなれなかった。

……駄目だ、弱気になるとまた腹が熱くなってくる。




白旅人「今夜はここらで野宿ですね」

焚火を消した。
この暗さと睡眠が怖い。不安で眠れない。

クレイオー、歌、聞かせて…………。

歌姫「演奏してほしいんですの? いいですわよ」

歌姫「子守唄でも歌って差し上げますわ」
575 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:10:13.62 ID:IbKbh14ho

――
――――――――
――――――――――――――――

「みぃ――つけたぁ」

カナ、リア……?
木陰から、見慣れた金髪の美少女がこちらを覗いていた。

「随分探したのよ」

一歩一歩こちらに近づいてくる。
やめろ、こっちに来るな。

身体が動かない。逃げられない。

地面に組み敷かれた。

「よくも逃げてくれたわね」

玉を掴む手に力が込められていく。

「容赦しないって、言ったでしょ」

あ、やばい、俺、去勢され――――
576 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:10:57.35 ID:IbKbh14ho

魔剣士「っあああああああああああああああああ!!」

魔剣士「あ、あ、ぅああああああああああああああああああああ」

歌姫「んー、またパニックですの?」

白旅人「エリウスさん、大丈夫ですよ。怖い夢でも見たのですか」

魔剣士「はあ、はあ、あ、あ、あ、あ、あ」

ああ、なんだ、夢か。

地面をのたうち回って暴れていた俺を、メルクが抱えて背中をさすってくれた。
情緒不安定になって突然泣き出したり、パニックを起こしたりするのは、この頃よくあることだった。

…………少しだけ呼吸が整った。

もう全部吐き出したい。
俺がされたのは誰にも言えないことだけれど、誰かにぶちまけたい衝動に駆られた。

でも、この衝動に任せて暴露しようにも、言葉を発しようとすると喉が絞まって苦しくなるんだ。
気がつけば、俺は植物にするように意思を魔力に込めてメルクにぶつけていた。
577 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:11:34.38 ID:IbKbh14ho

  犯されたんだ。仲間の女に。信頼していた相手に。
  俺は愛してもない相手に無理矢理犯されてもただただ屈辱なだけなんだ。

  痛い。痛いんだよ。
  でもこんなこと人に言ったって馬鹿にされるだけだろ。

  男が女に犯されて苦しんでるなんて信じてもらえるわけない。
  もうどうすりゃいいのかわかんねえんだ。助けてくれ。


しばらくすると、メルクは俺が何をしたくて魔力を発しているのか察したようだった。

白旅人「……ああ、そういうことだったんですね」

白旅人「安心してください。僕はあなたの苦しみを否定しません」

ほんとに?

歌姫「ど、どういうことですの……?」

白旅人「ええと……」

歌姫「……話しにくいことならいいですわ。あたくしは寝ます」

二人にしてくれた。
578 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:12:27.78 ID:IbKbh14ho

白旅人「『女性が加害者になるわけがない』『男性なら抵抗できるはずだ』」

白旅人「『男性なら襲われても喜ぶはずだ』」

白旅人「……そういった思い込みが世間にあることは事実ですね」

白旅人「しかし、実際は長期的に苦しみを背負うことになる場合が少なくないそうです」

白旅人「ですから、あなたがデンドロフィリアであることとは関係なく、」

白旅人「あなたが苦しんでいることは何もおかしいことではないわけです」

魔剣士「…………」

白旅人「性犯罪防止結界に引っかかった犯罪の数なんですけどね」

白旅人「男性が被害に遭いかけた事件の数は、女性が被害の事件の五倍だそうですよ」

白旅人「それほど事件が起きるのは、」

白旅人「男性が被害者である場合は犯罪にならないと人々に認知されているためでしょう」

強姦神話とかいうやつだろう。今時は強姦そのものが神話になりかけているが。

白旅人「ご自分を責める必要はありませんよ」

でも、俺がもっとカナリアの気持ちをわかってやれていたら……。
自責の念は拭えなかった。

白旅人「それに……」

白旅人「…………いえ、なんでもありません」

白旅人「ご自分の心の傷を癒すことに集中してください」
579 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:13:09.31 ID:IbKbh14ho

――――――――
――

歌姫「あなたの調理器具を貸しなさい。あたくしが昼食をこしらえて差し上げます」

あんまり自分の持ち物を他人に触られたくないんだが……。

歌姫「……包丁何種類ありますの? え、何これ……これはなんのための道具ですの?」

ああもう危なっかしいな。一緒にやるよ。

歌姫「どうせお料理には疎いですわよ。んもう」

こいつの歌のおかげで、一時的にだがとても気分がいい。
料理くらいならやる気が出た。




歌姫「……いつものあなたの味とは違いますわね。もちろんおいしいですけれど」

白旅人「お袋の味って感じですね〜」

……母さんの味を再現してしまっていた。
いつもの俺の料理の方がずっとレベルは上なのにな。

母さんの料理が家庭料理の中の上くらいだとしたら、俺の料理は最高級レストラン並みだ。
でも今は母さんのメシを食いたくて仕方がない。

母さん、今頃どうしてるかな。声を聞きたいけど、電話したところで俺喋れないしな。
580 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:14:39.69 ID:IbKbh14ho

携帯にメールが届いた。アルバからだ。

  送信者:アルバ・レグホニア “alalba_tross@Fmail.ac.south”

       ラベンダーを並べんだー!
       P.S.明日はルツィーレの誕生日だからね! 祝ってあげてね!


すごくくだらないのに笑ってしまった。
たまに駄洒落を思いついたら送ってくるんだよなこいつ。

添付画像には、収穫したラベンダーの花が写されていた。
これから束ねて廊下にでも干すのだろう。
ルツィーレももう十歳か。早いもんだな。

魔剣士「…………!」

精霊に呼ばれた。

歌姫「……顔色が悪いですわよ」
581 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:15:31.14 ID:IbKbh14ho

精霊を無視するわけにはいかない。
メルクにモルの石を預けて、森の奥へ歩を進めた。

恐怖で身体が震える。


辛夷精霊「……なんて弱々しい波動」

辛夷精霊「これじゃ、どんなに融合が進んでいても……何回も絶頂してもらわなくちゃ足りないね」




身体中を愛撫され、尻の中を貫かれた。
恥辱の極みだ。

辛夷精霊「他の子が必要以上に君を苛めたくなっちゃう気持ちがわかっちゃったかも」

辛夷精霊「君、精霊並みに綺麗な顔してるんだもの」

なんだよそれ。母さんに似なかったらここまでされなかったとでも言うのか。

辛夷精霊「ねえほら、ここ気持ちいいんでしょ?」

早く終わんねえかな……。

言葉を発せないんだから、どうせなら喘ぎ声とかも全部出なくなっちまえばいいのに。
自分の意思とは関係なく勝手に出る声は出ちまうんだ。
582 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:16:19.80 ID:IbKbh14ho

辛夷精霊「身体は気持ちよくなってるのに、心は辛そうだね」

辛夷精霊「……心も気持ちよくなれるようにしてあげよっか」

周囲の植物から妖しい茎が伸び出した。

辛夷精霊「まともに考えることができなくなっちゃうくらい、よくなれるよ」

辛夷精霊「ついでに、コレが元気になる成分も挿れてあげちゃう」

力の入っていない愚息をつつかれた。
どうせ勃起不全だよ。男失格だよ。ほっといてくれ大きなお世話だ。

辛夷精霊「折角こんな滅多にできないコトをしてるんだから、楽しまなくちゃね!」

まずい。植物側の自我が強いと俺は成分を操ることができない。

辛夷精霊「一回やったらクセになっちゃうかも。……あははは!!」

こいつが俺に打とうとしているのは麻薬に近い物と強制勃起薬だ。
麻薬は言うまでもなく危険だが後者も副作用でやばいことになるかもしれない。

やめろ! やめろ!!

辛夷精霊「怖がらなくても大丈夫だよ。ちょっと人間やめてる状態になっちゃうだけだから」

死なないなら問題ないってか!? 冗談じゃねえ!!

白緑の少女「おやめなさい!」
583 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:16:48.60 ID:IbKbh14ho

え……ユキ?

辛夷精霊「す、スファエラ様……」

白緑の少女「人間はあなたが思っている以上に脆いのです」

白緑の少女「乱暴にしたら……許しませんよ」

辛夷精霊「は、は、はい…………」

白緑の少女「エリウスさん、ごめんなさい」

白緑の少女「彼女に悪意はないのです。ただ、人間のことを知らなすぎるだけ……」

犯されているところを好きな女の子に見られた。


俺やっぱ死にたい。
584 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:17:37.04 ID:IbKbh14ho
kokomade
osokutegomennnasai
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/17(土) 19:17:36.62 ID:GXMFilMdo
おつおつ
忙しかったら生存報告だけでもいいよ
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/18(日) 03:39:40.08 ID:AD87cDXgO
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/18(日) 23:53:11.30 ID:0Dr5MWzg0
カナリアとくっつく可能性はあるのか?
588 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:53:57.03 ID:x9vu2cVWo

第二十一株 緑ノ秩序ヲ創ル者


今、最愛の女の子が膝枕をして俺の頭を撫でてくれている。
だが俺の首から下は他の精霊に犯されている。とんだ羞恥プレイだ。

白緑の少女「エリウスさん……」

魔剣士「ぃ、っ……で……」

見ないで。出ない声を振り絞った。
あ、やばい。久々に朝立ち以外で勃った。

好きな子に対してはまだ反応するんだな……とか喜んでいる場合じゃない。

辛夷精霊「あ、魔力……おいしくなったね」

わりとマジで泣いてる。
589 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:54:38.36 ID:x9vu2cVWo




樹液と汗にまみれた身体をユキが拭いてくれた。

白緑の少女「上着、どうぞ」

魔剣士「…………」

惨めすぎる。

白緑の少女「ええっと……」

白緑の少女「人間は、性的な行為を隠そうとする生物……ですものね……」

白緑の少女「私も考えが足りていませんでした。……ごめんなさい」

性器である花を目立たせている植物は少なくない。
性的なものを隠す文化が植物にはないのだろう。

俺が気にしているほど気にするべきことではないらしい。
でも俺はなんだかんだで人間だから、見られたのはやはりとてもつらい。つらい。
590 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:55:12.04 ID:x9vu2cVWo

もうやだかっこ悪すぎる。死にたい死にたい死にたい死にたい。

魔剣士「っ…………!!」

やば、腹、痛い……侵食されてる。

白緑の少女「いけない!」

後ろからユキに抱きしめられた。

白緑の少女「生きて!」

魔剣士「…………」

    俺が犯されてるのを見て、ほんとになんとも思わなかったの。
    幻滅したでしょ。

白緑の少女「そんな、幻滅なんてしません」

白緑の少女「でも……なんとも思わなかったわけではありません」

魔剣士「…………」

白緑の少女「私、正直……嫉妬してしまっていました」

嫉妬?

白緑の少女「好きです、エリウスさん」
591 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:57:08.52 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「……初めて会った時から、私はあなたに惹かれていました」

白緑の少女「でも、あなたが私の恋人の生まれかわりだと気づいて……」

白緑の少女「今のあなたのことが好きなのか、彼の面影を追いかけていただけなのか、」

白緑の少女「わからなくなってしまったんです」

    だから、あの時泣いてたの?

白緑の少女「……はい」

白緑の少女「しばらく一人で考えてわかりました。私は今のあなたが好きです」

白緑の少女「しかし……彼、イウスのこともまだ愛してしまっています」

イウス……?

じゃあ、あれは幻なんかじゃなくて、前世の記憶?
今まで琥珀を通して見た映像もきっと……。

白緑の少女「ごめんなさい。こんな不誠実な気持ちをあなたに向けてしまって」
592 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:57:47.78 ID:x9vu2cVWo

    全然いいよそんなの。だって魂はおんなじなんだもん。

嫉妬する必要なんてなかったんだ。
あの男の精霊は俺の過去世だったんだから。

    俺の前世、人間に自分を伐るよう頼んでたよね?

白緑の少女「記憶があるのですね」

    ちょっとだけだけどね。

白緑の少女「……私が子供を望んだから、彼は私と同じ種族に転生しようとしたのです」

白緑の少女「ですが、彼の転生が完了する前に、」

白緑の少女「憎悪の神オディウムがもたらした厄災により私の種族は滅んでしまいました」

白緑の少女「私も枯れることができたらと、何度も思いました」

白緑の少女「しかし、あの後、私は死にたくても死ねない体になってしまいました」

だから俺の魂は一億年に近い時を彷徨っていたんだ。

ユキと子供を成せる体を求めて、ずっと。
593 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:58:17.87 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「精霊から精霊に転生する場合は、前世の人格と記憶を引き継ぐことができるんです」

白緑の少女「でも、今のあなたは人間。あくまで別の人格を持って生まれた存在です」

白緑の少女「それなのに、両方愛しているだなんて……」

俺は振り向いて彼女を抱きしめ返した。

白緑の少女「許してくださるのですか?」

    両方好きでいていいよ。死んだ恋人のこと忘れろだなんて酷なこと言わないよ。
    俺の前世ごと俺を愛して。

白緑の少女「……ありがとう、エリウスさん」

    好きだよ、ユキ。誰よりも。

俺が抱えていた孤独感なんて、ユキの孤独に比べればちっぽけなものだ。
どれだけ寂しい思いをしただろう。どれだけ苦しかっただろう。

    一億年も独りにしてごめん。
    俺の命が続く限り、君を愛するから。
594 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:59:14.21 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「この琥珀は、イウスの身体から生まれたものです」
白緑の少女「きっと彼があなたを守ってくれるでしょう」





歌姫「遅かったじゃ……随分顔色が良くなりましたわね」

魔剣士「うん」

歌姫「あら。声、治りましたの」

白旅人「元気を取り戻されたようでよかったです」

魔剣士「待たせて悪かったな。急げば夜までに町に着くはずだ。車飛ばすぞ」

傷が癒えたわけじゃない。
でも、好きな子と両思いだと確認できた喜びが心の芯を支えてくれる。
595 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:00:13.24 ID:x9vu2cVWo

白旅人「あなたを混乱させないために黙っていたのですが、」

白旅人「実は僕、あなたの事故現場にたまたま通りがかったわけじゃなかったんです」

魔剣士「随分都合よく助けてもらえたなとは思ってたんだ」

白旅人「ある日、いつも通りオディウム教徒の方々に強引な勧誘をされていたのですが」

白旅人「彼等、妙なことを言って去っていったんですね」

白旅人「『作戦が上手くいきそうだ』『最優先すべきエリウスを追うぞ』と……」

魔剣士「…………」

白旅人「気になったので、僕は彼等の後を追いました」

白旅人「彼等、あなたに探知されない距離を保ちつつ気配を極力抑えていましたね」

白旅人「そして、雇った外部の人間にあなた方の様子を報告させていたようです」

白旅人「ある時、彼等はあなた方のいる方向へ急接近しました」

白旅人「『生贄達の仲を決裂させることに成功した』と言ってね」
596 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:00:44.92 ID:x9vu2cVWo

白旅人「彼等は一人で出てきたあなたに睡眠の術をかけ、捕らえようとしました」

白旅人「普段のあなたなら術にかかりなんてしなかったでしょうけれど、」

白旅人「精神的に追い詰められると隙が大きくなりますからね」

あの時、俺は敵の気配を察知する余裕なんてなかったし、
ひたすらあの場から逃げることしか考えることができなかった。

白旅人「そこで僕が奴等を倒し、あなたを助けたわけです」

白旅人「おそらくカナリアさんは、彼等から何らかの術をかけられていたのでしょう」

魔剣士「……俺達、罠に嵌められたんだな」

クレイオーとのライブの後、微かだがあいつの魔力に違和感があった。
気のせいなんかじゃなかったんだ。

魔剣士「…………」

カナリア自身がやりたくてあんなことをやったわけじゃなかった。
裏切られたわけじゃなかったんだ。

そもそもあいつは俺の気持ちを無視してあんなことやらかすような女じゃない。
597 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:01:22.02 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「じゃあすぐにカナリア達と合流しねえと!」

白旅人「まだあなたとカナリアさんが顔を合わせるのは危険です」

魔剣士「だけど」

白旅人「絶対とは言い切れませんが大丈夫ですよ。彼女は現在プティア兵に保護されています」

白旅人「僕の祖国の両親に相談したら、いいように手を回してもらえたんですよ」

魔剣士「…………そうか」

白旅人「彼女もそう簡単には催眠にかからない精神の持ち主です」

白旅人「余程弱っているところを付け込まれたのでしょう。……許せませんね」

魔剣士「ちくしょう、あの時ちゃんと調べていれば…………!」

白旅人「心当たりがあるのですか」

歌姫「あ……」

歌姫「もしかして、あたくしと町に行ったあの日じゃありませんの……?」

歌姫「あたくし、カナリアさんに違和感を覚えた瞬間がありましたの」

魔剣士「…………」
598 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:02:07.38 ID:x9vu2cVWo

歌姫「その通りですのね?」

歌姫「……もし、あたくしがカナリアさんを傷つけたせいで、」

歌姫「あなた方に何かがあったのなら……」

魔剣士「……もう、あんま他人を煽ったりすんなよ」

歌姫「……ごめんなさい」

魔剣士「まあ、おまえに何も言われなくても元々弱ってたし、悪いのはオディウム教の連中だし」

魔剣士「また歌ってくれよ」

魔剣士「緊張したり、嫌なことばっか思い出したりしたら、また声出なくなりそうなんだ」

歌姫「それで、贖罪になるのでしたら」
599 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:02:42.44 ID:x9vu2cVWo

翌朝

魔剣士「昨晩は暗くてよくわかんなかったけど」

魔剣士「この町の雰囲気、あんま穏やかじゃないな」

歌姫「緊張してる感じですわ」

白旅人「近隣の森と揉めてるそうですよ」

魔剣士「マジ?」

町人「おお、あなたはもしかして森林保護活動を行っているというエリウスさんでは」

魔剣士「活動ってか、ネットで呼びかけたりしてる程度だけどな」

魔剣士「事情を教えてもらっていいか?」

町人「この町は、かつてオパールの採掘で栄えていたのですが」

町人「ほとんど掘り尽くしてしまい、貧困に苦しむこととなってしまいました」

町人「町全体が貧しくなれば、質のいい魔鉱石を買うことができなくなります」

町人「そのため、火を使いたければ大量の薪炭材を消費するしかなく……」

魔剣士「それだけじゃないだろ」
600 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:03:27.29 ID:x9vu2cVWo

町人「オパールが採掘できなくなった代わりに、周辺の森の木を木材として売り出しているのです」

魔剣士「まあ他の町もやってることだよな」

町人「…………」

魔剣士「他にまだあんだろ」

町人「実は……タバコの栽培を始めたのです」

町人「伐採した木の多くは、葉煙草の乾燥のために使用しています」

魔剣士「はあー……なんでよりにもよってんなもんで儲けようとするかね」

魔剣士「できる限り環境を破壊しないビジネスを確立しなきゃあ、」

魔剣士「結果的に余計貧しくなるだけだってのに」

町人「綺麗事だけで食っていけるほどこの世界は優しくないんですよ!」

町人「たとえその場凌ぎにしかならないとしても、稼がなきゃ妻子が飢えちまう」

魔剣士「でももうちょっと頭使えよ」

町人「この世界の人間全員があなたみたいに頭がいいわけじゃないんだ!」

魔剣士「…………」
601 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:03:55.95 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「……領主には相談したのか?」

町人「三十年前に町長が領主様と喧嘩して以来この土地は見放されてるんですよ」

町人「領主様と連絡を取ったってまともに相手をしてもらえるわけないんです」

魔剣士「いやそこは頭下げろよ」

歌姫「エリウス、クッション言葉のことは教えたでしょう」

魔剣士「あ……」

相手を否定する前に、相手を気遣う一言を挟んだ方がコミュニケーションは円滑になる。
医者からも、大学の先生からも、こいつからも教わったことだったのに忘れてしまっていた。

魔剣士「まあ……色々苦労して、苦肉の策がそれだったんだろうしな」

魔剣士「俺に話しかけたってことは、俺に頼みがあるんじゃないのか」

町人「ええ」
602 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:04:22.52 ID:x9vu2cVWo

町人「あなたが訪れると、樹木の精霊が話す能力を得て、」

町人「近隣の町村とのトラブルが解決していると聞いています」

町人「どうか、この町を助けていただけないかと……」

魔剣士「……とりあえず、精霊と話してきてやるよ」

魔剣士「その後町長のところに向かうから、話を通しといてくれ」

町人「ありがとうございます……」

遠くから何かが破壊される音が聞こえた。

町人「ああ、また精霊様からの罰だ……」

魔剣士「……少しでも早く行かないとやばそうだな」



歌姫「一人で森に入りますの?」

魔剣士「ああ。おまえらはできるだけ安全そうなところにいてくれ」

魔剣士「俺は大丈夫だから」

白旅人「お気をつけて」
603 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:06:04.32 ID:x9vu2cVWo

森に足を踏み入れると、精霊達がざわついた。
こいつらだいぶ気が立ってるな。

魔剣士「あんたがこの森の主か」

唐檜精霊「……ほう。おまえがエリウスか」

空気がピリピリする。
トウヒの大きな根が土を割って現れ、大きく波打って地面を叩きつけた。

唐檜精霊「人に植物の気持ちはわからない」

唐檜精霊「そう思っていたが、おまえは違うようだな」

魔剣士「前世は植物だったらしいし」

唐檜精霊「……ふむ」

唐檜精霊「おや、その琥珀……ただの死骸ではないだろう。貸してはくれぬか」

唐檜精霊「その力があれば、この町を一晩で滅ぼすことができそうだ」

魔剣士「これは何かを壊すためのもんじゃない」
604 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:06:32.35 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「我等の心が理解できるのならばわかるだろう」

唐檜精霊「あの知能の低い人間共! 散々警告を出したというのに!」

根が何度も地面を叩き、周囲の精霊達も怒りを露にしている。

魔剣士「警告って、どんな風に出したんだ?」

唐檜精霊「最初は蔓植物で阻塞を張った。次は軽く攻撃を加えた」

唐檜精霊「人間達は過剰な伐採をやめなかった」

唐檜精霊「となれば攻撃を強めるほかあるまい」

唐檜精霊「何故くだらない人間の嗜好品を作るためにこの森が破壊されなければならぬのだ!」

魔剣士「…………」

魔剣士「そりゃつらかったな」

魔剣士「……声、届かなくて、もどかしかったろ」

唐檜精霊「ああ」
605 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:07:42.07 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「声さえ届けば妥協案を出すことができただろう」

唐檜精霊「人間達に知恵を授けてやれただろう」

唐檜精霊「しかし我等が人間に対してできることは自衛の攻撃のみ」

唐檜精霊「『声があった頃』は……あの時代はよかった」

唐檜精霊「人と共に喜び、悲しみ、生活を共にすることができていた」

魔剣士「……それって、いつ頃の話だ?」

唐檜精霊「いつ? いつだったろうか……」

唐檜精霊「数えるのも面倒なほど古き時代のことだ」

唐檜精霊「なんせ、あの黒き憎しみの塊が暴れる前のことだからな」

魔剣士「オディウム神のことか?」

唐檜精霊「神などという立派な名で呼びたくはないな」

唐檜精霊「彼奴が暴れてくれたおかげで世の草木は弱り、声を持つ者は滅多に生まれなくなってしまった」

魔剣士「あんた、そんな昔からずっと記憶を引き継いでるのか?」
606 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:08:10.78 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「己を失うのが嫌でな」

唐檜精霊「ああ、そうだ。あれは一億年近く前だ」

唐檜精霊「今は樹齢千年程度の木に宿っておるが、当時の私は樹齢五千年の大精霊でな」

唐檜精霊「イウス=スマラグディの阿呆が死にさえしなければ、もっと長く生きられたというのに……」

魔剣士「え、イウス?」

唐檜精霊「知っておるのか? ……ああ、なるほど」

唐檜精霊「おまえは奴の転生体か」

魔剣士「わかるもんなの? そういうの」

唐檜精霊「長く生きておると、魂そのものの波動を読めるようになるのだ」

唐檜精霊「イウスは他者に力を分け与えることに長けていた」

唐檜精霊「奴が生きておれば、あれほどの被害は免れただろう」

唐檜精霊「……今更一億年前に終わったことを言ってもなんにもならぬな」
607 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:08:45.78 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「俺があんたらに魔力を分け与えたら、この通り人間との意思の疎通が可能になる」

魔剣士「多少大勢の人間が来たって、そんなに気分も悪くならねえだろ」

霊的な存在は人酔いしやすい。

魔剣士「攻撃をやめて、町の連中と話し合いの場を設けてほしい」

唐檜精霊「よかろう。緑ノ精霊王の魂を持つ者の頼みだ」

魔剣士「そんな風に呼ばれてたのか」

唐檜精霊「ああ。奴はただの精霊ではなかったしな」

唐檜精霊「木の精霊でありながら女神の子でもあった」

唐檜精霊「しかし何故人間に転生したのか……」

魔剣士「…………」
608 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:09:11.51 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「ずっと、彷徨ってて……この星の裏側や海底まで行ってみたり、」

魔剣士「彼女と子供が作れる新種が生まれないか待ってみたりして……でも駄目で」

魔剣士「いっそ適当に転生しようかなと思っても、適合する新しい身体なんてのもなかなか見つからなくて」

魔剣士「もう諦めようかなって思った時、光が見えたんだ」

魔剣士「それは、波動の強い魂が入っても耐えられる、聖玉の力を受け継いだ肉体で」

魔剣士「それに、なんだかとても懐かしい感じがして……」

唐檜精霊「あー、それ以上思い出すな」

唐檜精霊「人格を引き継いでおらぬのに、前世の記憶を蘇らせるのは非常に危険なことなのだ」

唐檜精霊「今生の人格が崩壊しかねん」

魔剣士「そっか」

俺の前世がユキとどういちゃついてたのかとか色々気になるんだけどな。
609 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:09:44.51 ID:x9vu2cVWo

――――――――
――

歌姫「タバコなんてこの世から消えちゃえばいいんですわー!」

歌姫「体の弱いお母様はいつもタバコの煙に悩まされてるんですもの!」

魔剣士「喘息持ちはほんと苦労してるらしいな」

クレイオーのお袋さんは線の細い儚げな美人で病弱だ。

白旅人「なんとか落ち着いて交渉が進んでいるようでよかったですね」

魔剣士「決裂しなきゃいいんだけどな……」

町長や町のお偉いさん方は領主に頭を下げて援助を求めつつ、
植物達と和解するために奔走している。

歌姫「植物を怒らせたら恐ろしいことになるのは当たり前ですのに、」

歌姫「よくここまで状況を悪くできたものですわね」

魔剣士「魔族が復活していた間、精霊達は大地の穢れで弱って引きこもってたからな」

魔剣士「おっさん世代は精霊のことをよく知らねえんだよ」

魔剣士「だから舐めてかかってトラブルが起きるんだ」
610 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:10:10.64 ID:x9vu2cVWo

次男『もしもしにーちゃん?』

魔剣士「ん、どうした?」

次男『あーよかった、風邪治ったんだ』

次男『兄ちゃん、いつも風邪引いても薬草食べて症状抑えてたでしょ?』

次男『なのに喋れなくなるなんて、どんな酷い風邪だったんだろって』

魔剣士「あー、アウロラから風邪引いたこと聞いたのか。もう治ったよ」

魔剣士「心配してくれてありがとな」

次男『カナリアねーちゃんいる? ちょっと話したいなー』

魔剣士「あ……えっと……」

やべえ……緊張で声が出ねえ。
かすれ声でどうにか答えた。

魔剣士「今一緒にいないんだ。じゃあな」
611 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:10:39.63 ID:x9vu2cVWo

何度か深呼吸をして緊張を解いた。

町長「エリウスさん、ちょっとこの電話に出ていただけませんか」

町長「領主様に援助をごねられてまして……」

魔剣士「いいけど。もしもし?」

よかった。ちゃんと声が出た。

領主「誰が何を言おうとその町のことは知らんぞ」

魔剣士「植物学者のエリウス・レグホニアです。昔揉めた話は聞きましたけど、」

魔剣士「このままじゃ本格的に植物と戦争になっ」

領主「待て、エリウス・レグホニアだと?」

魔剣士「そうですけど」

領主「勇者ナハトの生まれかわりだというあの!?」

魔剣士「え」

領主「わ、わかりました! 住民の要求を呑みます! 呑みますから!!」

領主「国王陛下に町を放置していたことは通報しないでくださいね!!」
612 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:11:32.97 ID:x9vu2cVWo

領主「すぐそっちに向かいます!!」

プツッ

魔剣士「なんなんだよ」

町長「よかったー……実はうちの領主様、」

町長「ルルディブルクの統治に関して勇者ナハトにダメ出しくらったことがあるんですよ」

町長「その時すごくビビっていたと噂になっていたのです」

町長「なので、生まれかわりだと謳われているあなたの言葉ならきっと聞いてくださると思ったんです」

珍しく勇者ナハトの生まれかわり説が役に立った。

歌姫「ルルディブルク……花の都ですわね」

歌姫「この町のお隣ですわ。行く予定ですの?」


  武闘家『あたし、ルルディブルクに行くのすっごく楽しみなんだ』


魔剣士「……気分乗らねえや。他の町村を経由してアクアマリーナに行こうと思う」

ユキは転生することなく、一億年の時を生きている。
樹齢一億年前後の木なんて心当たりは一つしかない。

アクアマリーナの大樹だ。
613 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:12:05.53 ID:x9vu2cVWo

有名だから、全景が写された写真や映像はよく見かけるが、
ちゃんと葉や花の形を見たのは幼い頃だ。

それも、写真ではなく図鑑の絵だった。
俺が彼女に覚えていた既視感の正体はそれだ。

俺好みの小ぶりな白いその花を見てみたいと思いつつ、
彼女が数千年に一度ほどしか花を咲かせないことを知って、当時の俺はひどく残念な気分になった。


魔剣士「そろそろこの町を出るか」

歌姫「どうなるか、見届けないんですの?」

魔剣士「そうすぐに解決する問題でもねえし、」

魔剣士「精霊が話せるようになったからこれ以上俺が口出しする必要もないしな」

町人「あの……定期的にこの町に来ていただくことってできませんかね……」

町人「精霊様もずっと話すことができるわけではないのでしょう?」
614 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:13:01.94 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「めんどすぎるし俺が死んだ後どうすんだよ」

魔剣士「まあ自分達で頑張れよ」

俺は空に聳える彼女の本体を見上げた。
早く傍に行って寄り添いたい。

いっそ、彼女の根本に埋まって彼女の一部として永遠に一緒にいたい……はあ。

携帯が鳴った。

魔剣士「もしもし父さん?」

戦士『エリウス、無事か?』

魔剣士「お、俺は……まあなんとかやってるけど」

戦士『そうか』

戦士『実は……ルツィーレが奴等に誘拐された』

魔剣士「は……?」

戦士『おまえは絶対捕まるなよ。じゃあな』

血の気が引いた。
妹が……捕まった?
615 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:13:38.57 ID:x9vu2cVWo
kokomade
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/22(木) 19:21:35.20 ID:0H3TmUlUO
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/23(金) 08:52:38.13 ID:x6eelSat0
勇者発狂
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