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志希「〜激走〜アタシと鬼のアメリカ逃走記」
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305 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 07:58:53.10 ID:ZD0Y9woyo
「……………」
チクタクチクタクチクタクチクタク。
メトロノームの駆動音が、今はこんなにも喧しい。
しかし、これはもはや夢ではない。
甘い夢想でなく、苛烈な超現実。
選択するしか、ないのだ。
あの時のように。
あの時選んだからこその。
ーーーかぽっ。
おもむろに、プロデューサーはフラスコの栓を抜き、そして口元へその先を近づけた。
志希の目に、形容しがたい淀み。
アルコールを飲んだ男が、いつまでたっても射せない、そんな不感。
そして。解答が、提出された。
ーーーーー結果的に、それは二択のそのどちらでもなかったけれど。
306 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 07:59:25.00 ID:ZD0Y9woyo
「…………どういうつもりかな?」
「………」
プロデューサーは栓を抜き、そしてその中身を勢いよく床へぶちまけたのだ。
「どういうつもりかって、聞いてるんだけど?」
「わかりませんか? こういうつもりですーーーよ」
ハートのフラスコが落ちていく。
緩慢に、ゆっくりと。
あっけなく、当然のようにーーーーーココロは割れた。
志希は酷く冷めた目で、他人事のようにその様を眺めていた。
307 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 07:59:52.50 ID:ZD0Y9woyo
「まだ終わりではありませんよ。 解答は最後まで受けとるものです、先生」
ぐしゃり。
ふぐりが勢いよく潰された時に似た、嫌悪を催す音。
フラスコを跡形もなく踏みつけて、プロデューサーは肩をすくめた。
「そっか。 それがキミの答えなんだ。 ふうん。 オモシロイよ。 今まででいっとう」
「それはどうも……おや、どこへいくつもりです?」
「決まってるでしょ。 答え合わせ終わったんだから、帰るの」
「どこに?」
「……キミには、カンケー、ない」
308 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:00:27.62 ID:ZD0Y9woyo
踵を返し、逃げるように出ていこうとする志希を、プロデューサーが後ろから抱く。
「離して。キミの匂いを嗅いでたらアタマがおかしくなりそう」
「………私に震える女の子をほっぽりだす趣味はありませんよ。 また、失踪するつもりですか? それに言ったでしょう。 解答は最後まで受けとるものです」
初めてあがったステージの時のように、志希の小さなカラダは震えていた。
抱きしめれば、抱きしめるほどそれはプロデューサーに伝わっていく。
309 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:01:00.88 ID:ZD0Y9woyo
「似非紳士がここにいれば、女を泣かせる男なんて、人間ですらない。 ーーーなぁんてのたまうんでしょうねぇ。 けれど、私は鬼なので。 んー鬼と悪魔のハイブリットだからそれ以上でしょうか?」
大真面目な顔をしてそんなことを呟いて。
がっちりと後ろから抱かれた志希は身じろぎもせず、鬼の述懐を受け止める。
「ふん。 どうせ貴女のことだ。
飲めば、『キミもアタシと離れたいんだ』。
飲まなければ、『あぁ、アタシのココロを受け止めてはくれないんだ』ーーーなぁんて」
志希の声真似をしながら、プロデューサーは鼻で笑う。
一ノ瀬の出した問は二択ですらない。
はなから解答の存在しない、神の不在証明と同じ。
310 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:01:33.90 ID:ZD0Y9woyo
「フェルマーの最終定理よりも質が悪い。 前提として、詰んでいる。 一ノ瀬の最終定理とでも言うつもりですか? ………その癖、自分は勝手に傷ついて」
志希の表情は見えない。
ぽた、ぽた、と。
滴の落下音だけが、彼女を主張する。
「ギフテッドなんて大層な冠被ってる癖に、臆病で情けない大バカさんですよねぇ貴女は」
「…………」
天才にだって、わからないものはある。
それは、何だろう。
アイドルを続けて少しずつわかってはきたけれど。
そう、思っていたのだけれど。
311 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:02:05.08 ID:ZD0Y9woyo
「ーーーーココロが壊された気分はどうです、『被験者』さん?」
床に落ちてバラバラになって。
もう元の形もわからないくらい砕けて散らばったハートのフラスコ。
ハートの乙女は、ぽつりぽつりと、こぼし出す。
312 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:02:32.61 ID:ZD0Y9woyo
「…………傷ついた」
「それで?」
「気分サイアク。 今すぐ世界中かき混ぜて、ぐちゃぐちゃにしたい」
「他には?」
「キミ、キライ。 だいっきらい。 墓場に埋まって、地獄に堕ちても、隣で恨み言言ってやる」
「それは悲しい。 嫌われるのは苦手なもので」
「………砕けちゃった乙女心。 責任、とってよね」
この場で壊れたのは何だろう。
ココロというよりそれは。
志希を蝕んできた『呪い』のような。
313 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:03:07.47 ID:ZD0Y9woyo
「そうですねぇ。 入れ物が壊れた以上、新しい『器』が必要ですね」
「そうだよ。 割れた一ノ瀬ハート、キミの手で整えなきゃ、許さない」
と、そこでプロデューサーの動きが鈍る。
今までいついかなるときも、志希の前でだけは、緊張や苦悩を見せなかった鬼が、初めて悩む。
親のプロレス現場に直面した翌日の、母と息子のような。
そんなきまりが悪い表情。
「あーーーー。 こほん。 あのですね。 志希さん。 うん」
「………? なに?」
「あーーーー………」
間抜けた声を飛び散らせて、プロデューサーは言った。
314 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:04:12.80 ID:ZD0Y9woyo
「ーーーー作りましょうか。 二人の、ココロの結晶体」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふぇ?」
315 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:04:42.93 ID:ZD0Y9woyo
社会人が18歳に対して、お前のボルチオに欲望を吐き出して孕ませる宣言。
倫理観の欠片もなく、ムードもへったくれもないが、二人にはとても相応しく思えた。
「だから、言葉や行動でもわからない、才能の欠片もない大馬鹿さんにも、目で見てわかる、いやカラダとココロの両方で感じられる証を作ろう、そう言ってるんです」
プロデューサーは矢継ぎ早に、早口でどんどん言葉を生産する。
彼女にアブノーマルなエロ本を見つかった青少年のような、必死で、たまらなく滑稽な姿が重なった。
316 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:05:12.92 ID:ZD0Y9woyo
「いや、私が欲しいってわけじゃないんですよ? いつまでたってもギフテッドだ才能だほざく小娘に、女なら誰でも同じ部分があるということを、フツウの女だと教え込むためにですね。 そう、これはけっして未成年に興奮するような変態的な思考ではなく、いわばココロのケア。 そう! 迷える若者を導くための大人として正しい姿なのです。 けして、自分の子を孕んだマタニティーアイドルが見たいというわけではないのです」
かつてないほど弾丸のように言葉を撃ちまくる鬼。
あんまり必死なその姿に、さっきまでの空気もどこへ行ってしまったのやら。
317 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:05:45.49 ID:ZD0Y9woyo
「………ぷっ……ふふ、あっははははは! ーーーーハァ。 ホント、予想不可能な化学変化ってカンジ♪ どんな素敵なエリクシールもキミには敵わないかも♪」
志希は笑う。
18歳の、等身大の女の子の表情で。
綺麗な綺麗な、ビビットピンクに色めいて。
溢れた色の分は、プロデューサーの腕を、ゴリラめいた力で一杯掴んじゃって。
乙女の恥じらいでプロデューサーの腕の骨が軋むが、今この場では関係ないことだろう。
「あーあ。 悔しいなぁ。 こんな楽チンにココロトリップさせられちゃうんだ……♪ 志希ちゃん、ヘリウムより軽い女の子かもかも。 比重が限界突破〜」
「…………それは、了承と、受け取っても構わないんですか?」
ホンの少し見せた鬼の弱みを察知し、志希がプロデューサーの母親めいた笑みをつくる。
318 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:06:13.55 ID:ZD0Y9woyo
「ふっふっふー♪ 言葉と行動でわからないプロデューサーには、ココロとカラダで教えてあげなきゃダメかにゃあ? にゃはは♪」
にやにやと、未だ赤い目を細めつつ、志希はプロデューサーを見上げる。
反撃には、鉄槌を。
プロデューサーの進撃が始まる。
「………志希、貴女今日、排卵日でしょう」
「ふにゃっ?!」
予想外の反撃。
ピンクからレッドへ、レッドからルビーへ。
どんどん赤みを増していく、百面相志希。
319 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:06:40.33 ID:ZD0Y9woyo
「排卵日にこんなことして、本当は私に期待していたんでしょう? 唯一の『被験者』と『実験者』ですからね。 私たちは」
「き、キライ! キミ、ほんとキライ! ぎにゃあぁぁぁぁ! こ、このヘンタイ! ヘンタイごっこじゃなくて、ヘンタイ! ヘンタイオトナ!」
「はっはっはっはっは。 だまらっしゃい小娘が。 犯しますよ」
バシバシと、制御不能の剛力でプロデューサーの腹に肘をぶちこむ。
ゴフッゴフッと、口の端から血が漏れて、もれなく病院搬送必須なのだが、プロデューサーの腕が緩むことはない。
320 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:07:13.12 ID:ZD0Y9woyo
「フーッフーッフーッ………ふふ♪ ほんとに良いのぉ? ちひろさんに怒られちゃうかもだよ?」
「何を今さら。 それに私に貴女を丸投げしたのはあの女の方です。 とやかく言われるいわれはありませんね」
「………志希ちゃん、式は盛大にやりたいにゃあ」
「勿論。 事務所総出、あの女にも懐からたんまり吐き出させます。 育児放棄したお返しです」
「にゃは♪ そしたら、ちひろさんを『お母さん』って呼ばなきゃ、だね♪」
「………やっぱり考え直しても」
「イワセナーイ♪」
321 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:07:55.92 ID:ZD0Y9woyo
スルッと腕を抜けて、プロデューサーに向き直り、志希は飛びついた。
胸に顔をうづめ、存分に匂いを吸い込んで、にへら、と緩んだ微笑みを見せる。
「ーーーねぇ、プロデューサー。 この可逆反応、不可逆なんかにしないでね♪ もしキョーミなくしたら、志希ちゃん失踪しちゃうから♪」
「ええ、二度と輪っかがきれないように、しっかり繋いであげますよ」
等身大の女の子。
一ノ瀬、志希。
一杯、多くのものを授かって。
一杯、多くのものを失って。
322 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:08:42.84 ID:ZD0Y9woyo
「ずっと見ててね、プロデューサー。 昔なんて思い出しちゃわないくらい。 四六時中、24時間、365日。 アタシをプロデューサーのフレグランスで、溺れさせて欲しいのです」
「当たり前です。 私は貴女のプロデューサー。 貴女が欲しがる全て与え。 貴女を遠ざける全てを払い。 病めるときも健やかなるときも。 貴女を愛します」
そうしてこれから、当たり前のように、いっとう幸せになるのです。
323 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:09:17.97 ID:ZD0Y9woyo
「んふふ♪ ーーーーそれじゃ、産まれたての志希ちゃんが一番欲しいもの、アタシのココロとカラダを満たして頂戴………あなた?」
「お安いご用ですよ、お前さん」
こうして、ただの女の子とただの男の子のココロとカラダが、純白の部屋の中で、一つに溶けて混ざりあったのでした。
おしまい♪ にゃはっ♪
324 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 08:11:21.89 ID:ZD0Y9woyo
ここまで。
なんだこの文字量……いやほんま疲れました……
後は、前作同様後日単を投稿しておしまい!
夜にでもだしに来ます。
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/13(月) 10:30:11.05 ID:/g+VRYIqO
濃い話でした
おっつん
そしてギリギリアウトだ
326 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/13(月) 13:01:09.65 ID:rEnUYBsTO
おつおつ
スレッドムーバーも気圧されてたわ
327 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/13(月) 13:08:09.04 ID:ZjBA04f+o
この二人の子供とかろくな性格とスペックしてなさそう
乙
328 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/13(月) 16:24:53.39 ID:yfQQGqVn0
乙、です〜
何とも濃厚な話でしたな
329 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:33:06.37 ID:ZD0Y9woyo
これからは濃いのは汁だけにしたいと思いました(フレP感)
アウトかなぁ……次も紳士度高いけど大丈夫か……
後日単が書いてて一番楽しいのは内緒
出汁ます!
330 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:33:35.91 ID:ZD0Y9woyo
夕暮れ、事務所の中が朱に染まる時刻。
珍しくも、事務所にプロデューサーはいない。
ちひろさんもいない。
多くのアイドルも出払って。
たまたま示し合わせたように3人のアイドルがソファーで隣り合っていた。
フレデリカ、奏、志希。
デジャブでジャメブ。
奏に寄りかかるようにしながら仲良く3人並んでいたのだ。
331 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:34:20.78 ID:ZD0Y9woyo
「志希ちゃんクーイズ♪」
「いっえーい☆ ぱふぱふーどんどん! どんがらがっしゃーん!」
「何故志希ちゃんは、憂鬱うつうつガス欠さんなのでしょうか〜?」
「ちくたく! ちくたく? ちくちく……ちくちく!」
「プロデューサーさんが居ないからでしょう?」
「ぶっぶー。 正解は、プロデューサーから逃げ出して、事務所に来たはいいものの。 奏ちゃんのフレグランスに捕まって逃げられなくなった、でした〜♪ ハスハスハスハス、ふにゃ〜」
332 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:34:52.92 ID:ZD0Y9woyo
「離れればいいだけだと、思うのだけれど」
「ちっちっちーそれで済めば志希ちゃんはいらないのだ〜。 あぁーダメになる〜。 奏ちゃん専属のハスハスマシーンになるぅ〜」
「ちくちくちくちく……。 あたっ! もー針が舌に刺さっちゃったよ〜。 カナデちゃん撫でて〜☆」
「任せなさい。この〈狂悦なる口蛇の魔性〉の舌技で、痛みなんて那由多の彼方へと吹き飛ばしてあげる 」
「あ、やっぱいいです。ウッス」
「あら残念」
お決まりのやり取り。
ほんの少しだけ違うのは、志希の頬がいつもより、ちょっぴり朱に染まっていることくらい。
そして、それに気づかぬ親友二人ではない。
333 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:35:26.07 ID:ZD0Y9woyo
「……志希、少し顔が赤いわよ?」
「ホントだ! いつもが林檎さんなら〜今日は蜜柑さんかも☆」
「んーそのココロは?」
「どちらもフレちゃんの大好物でしょう〜♪」
「美味いっ! 奏ちゃん、フレちゃんの座布団持ってって〜」
「あーれー! お許しくださいお代官さまー! と、見せかけてとりゃー!」
「あーれー!」
くるくるくると、ソファーの上で器用に回転する志希。
白衣をぽーんと、放り脱ぐ。
334 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:35:52.96 ID:ZD0Y9woyo
ベーブレードならぬシキブレードね、なんて思いつつ奏は志希に向き合った。
「それで、どうしたの? 風邪? ……熱は……ないようだけれど」
「わー奏ちゃんのお手てちべたーい。 手が冷たい人はココロが暖かいって通説、これで証明できたかも♪」
「えっ! ならフレちゃんは太陽さんさんだから、ハートは北極になっちゃう?!」
「フレちゃんは別〜♪ ココロもカラダもあったかでーふわふわ♪」
「私は仲間はずれなのね。 寂しいわ、しくしく」
「「ぎゅー!」」
左右両方から美女のサンドイッチ。
男なら誰しも夢見る、3Pの縮図だ。
335 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:36:20.67 ID:ZD0Y9woyo
「………っはぁー。 蜜柑といえば、柑橘系のフレグランスが嗅ぎたいにゃあ〜。 うぅー。 でも拙者動きたくないでござるぅ……」
「………? 柑橘系……酸っぱいもの………。 はっ! し、志希、まさかあなた……!」
天啓を受けた、大仙人のような沈痛な面持ちで、奏は志希の肩を掴む
「んー……発表はもう少し先の予定だったけど、二人には言ってもいいかにゃー。 そうなの、志希ちゃん実は………」
志希も真剣そのもの。
胸の緊張をそばだたせ、告白を決意する。
336 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:36:47.15 ID:ZD0Y9woyo
「……プロデューサーさんと喧嘩したのね!」
「そう、にんし……………ん?」
「うん。 フレちゃん知ってた」
真顔のフレデリカと、死んだ魚の目をした志希と、狼狽える奏。
三者三様。
みんな違ってみんないい。
337 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:37:16.12 ID:ZD0Y9woyo
「そうよね………私も喧嘩してしまった時は、沢山柑橘系を食べて、お花を摘みに行くわ。 それで黄金色の小水と共に、不安や苛立ちを水に流すのよ」
「うーん。 上手いんだけどなぁ。 上手いんだけど、今だけは、奏ちゃんの座ってた座布団には触りたくないかにゃー」
「カナデちゃん、黄色いもの食べたからって黄色いものが出ていくわけじゃないんだよ」
共に止まってしまった回遊魚の目をしつつ、速水処女を見つめる。
ーーーと、ここで事務所入り口から聞こえてくる靴音。
338 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:37:46.47 ID:ZD0Y9woyo
「にゃっ?! やば! プロデューサー来ちゃった! 奏ちゃん、フレちゃん! 一ノ瀬軍曹は、地下実験室へ退避します! えーっと、上手いことどやこや、しといて♪ ボンジュールマダム!」
「いえっサー♪ いてら〜☆ ボンマダ〜」
「またね、ボンマダ」
ぴゅーっ、とオノマトペの聞こえてきそうなくらい機敏に走り去る志希。
志希プロデューサーが入室する頃には、影も形もなくなっていた。
339 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:38:16.32 ID:ZD0Y9woyo
「はぁはぁはぁーーーふぅ。 おはようございます、お二人とも。 志希を見ませんでしたか?」
「「地下へ行ったわ(よ)」」
光の速度で崩壊する友情。
平素と異なる、志希プロデューサーの慌てぶりに、奏は疑問を口にする。
「そんなに息を切らしてどうしたの? 志希が逃げるのはいつものことだと思うのだけれど」
「ん? ーーーーあぁ、志希言ってませんでしたか?」
「志希がどうかしたの?」
緩んだネクタイを締めつつ、清潔を何より心がける志希プロデューサーは、思いがけずだらしのない笑顔で言ったのだ。
340 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:38:46.32 ID:ZD0Y9woyo
「妊娠したんですよ。 志希」
341 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:39:12.58 ID:ZD0Y9woyo
あっけらかんと、言ってのける志希プロデューサー。
奏は時を止め、フレデリカは目をぱちくり。
「………わーお。 おフランス並みに情熱的かも」
「ああ、それと。 近々結婚式を挙げますので、これ、招待状です。 あいつに渡せって言ったんですが、アレで恥ずかしがりやですからね。 意外と。 折角、親に会う口実作りだって言うのに……まったく」
「…………」
血の通わぬ、真顔で受け取る奏。
フレデリカは招待状に、きらきらと宝石を見るような、輝いた目を向けている。
342 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:39:51.41 ID:ZD0Y9woyo
「妊娠したんだから安静にしろって言ってるんですが……利かん坊のお転婆で困ります」
苦笑いの中に、隠しきれぬ喜びを。
今まで見たことのない、鬼の暖かな笑顔に、フレデリカはどきりとする。
思わず志希に嫉妬しそうになるくらい、彼は幸せそうだった。
「ねぇねぇカナデちゃん。 見て見て志希プロデューサーの顔。 にへぇとして、ゆるゆるったらないよ」
「………」
「……? カナデちゃん?」
343 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:40:28.91 ID:ZD0Y9woyo
「………おかしい。おかしいわ。〈狂悦なる口蛇の魔性〉たるこの私が、未だに彼とまともにキスも出来ていないのに志希が妊娠? なんのジョーク? いいえ、嬉しいのよ? だって親友の幸せだもの。 だけど、だけどおかしいわ。 コウノトリさんは人を選ぶとでも言うの……? ………そうよ。 わかった。 この世界の私はきっと並行世界の私なんだわ。 きっと基本世界の私は今ごろ、19人の子供がいて、マタニティーアイドルとして、世界を席巻しているんだわ。 そうよ。でなければこんなの。 いともたやすくえげつない行為が行われ過ぎよ。 ふふ。 決めたわ。 今夜こそ彼を骨抜きにしてあげる。 覚悟なさいあなた……!」
「………」
ぶつぶつと、呪詛を言い聞かせるように呟く処女。
344 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:41:02.57 ID:ZD0Y9woyo
やはり本日も奏プロデューサーが床で寝ることが確定しつつ、それを横目にフレデリカはぼやいた。
「いいなぁ……シキちゃん。 アタシもプロデューサーにお願いしよっかなぁ。 …………裸エプロンにつけ毛つけたら、理性飛ばせるかなぁ……」
『元』紳士プロデューサーによって、若干の性的思考の偏執が見られつつも、幸せ一杯のフレデリカ。
と、地下へ向かおうとする志希プロデューサーへ、思い出したように声をかける。
「あ、プロデューサー。 シキちゃん白衣忘れて行っちゃったから届けてあげると喜ぶかもかも」
「おや、ありがとうございます。 ところで奏さんの調子が悪いようですがいかがしました?」
「んーー? まあ、なんというか。 次回にご期待しるぶぷれって感じかな?」
「………はぁ……そうですか……?」
不承不承といった様子で白衣を受けとる。
345 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:41:30.37 ID:ZD0Y9woyo
その時、異世界から帰ってきた奏が、絞り出すように声をあげた。
「…………プロデューサーさん。志希をよろしくね。 あの子は例えるなら猫。 気まぐれで、寂しがりやなんだから」
「シキにゃん、だもんね〜? ファイト! プロデューサー♪」
多くの者は、志希を猫だという。
それは掴み所がなく、自由の象徴で。
それ以外、例える先を知らぬがゆえ。
けれど。
こんなとき、プロデューサーはいつもの通りに、こう返すのだ。
346 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:42:51.00 ID:ZD0Y9woyo
「志希を譬られるとしたら、志希だけです。 あんなお転婆………猫には荷が勝ちすぎる。私くらいの者ですよ。 あんな女性に首輪をつけられるのは。
ふふっ……」
この世でただ一人の、『被験者たる実験者』は、お転婆娘が置き忘れていったお気に入りの『白衣』を優しく抱えて。
今日もまた、追走を始めるのであった。
これで本当におしまいです。ふふ。
347 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 21:55:58.12 ID:ZD0Y9woyo
出しきりました!
似非格闘はーとふるえろすを目指したのですがいかがでしたでしょうか?
志希女史以外はこんなお話にならないと思うので、これからもお付き合いいただけたら勃起ものです。
次回は予告通り
奏 「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんでしょ?」 です。
できればLIPPS全員ヤりきりたい。
余談ですが、『いいなーいいなーLIPPSっていいーなー』の作者は天才だと思うんですが、なに食ったらあんなの思い付くんですかね(白目)
今回も紳士淑女の皆様、ありがとうございました
348 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/13(月) 21:57:44.23 ID:ZjBA04f+o
おつ
俺もあんたの食ってるものを知りたいよ……(白目)
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/13(月) 22:02:13.70 ID:yfQQGqVn0
乙、です〜
>>1
の作品を読むのはこれが初めてですけどもう病みつきですね!
良ければ
>>1
の過去作品を教えてください。他の作品も読みたくなってきた…
350 :
◆4C4xQZIWw7k3
[saga]:2016/06/13(月) 23:54:39.50 ID:ZD0Y9woyo
>>348
つ
http://i.imgur.com/uYpJ3Fx.jpg
>>349
ありがてぇ……ありがてぇ!
フレデリカ「アタシPンコツアンドロイド」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464904631/
です。
もっとキマッて、是非オートロック式のすりガラスドアがある部屋に来てくださいね。
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/15(水) 02:50:00.57 ID:O3fxAv7qO
おつ
お前もあの作者も危険な臭い放ってそう
352 :
真真真・スレッドムーバー
:移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
353 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2023/07/07(金) 21:34:03.61 ID:OygWPrZnO
ん
354 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2025/10/26(日) 07:53:48.64 ID:CRGhUNYrO
ん
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