岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その4

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102 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:43:25.28 ID:1LIL8LAQo
・・・
倫子の記憶
1週間前 夜
池袋 とある総合病院の一室 【岡部真百合様】


ガララッ


まゆり「おかえり、オカリン……」

倫子「すまん、起こしちゃったか? 無理に身体を起こさなくていいんだぞ?」

まゆり「ううん……ねえ、オカリン?」

倫子「なんだ?」

まゆり「いつもこうやって、まゆしぃがだめになってしまった時……」

まゆり「オカリンは黙ってずっとずっとまゆしぃの傍にいてくれたよね」

まゆり「まゆしぃはオカリンの人質なのに、迷惑かけっぱなしだよ」

倫子「…………」

倫子「迷惑だと思うのなら、早く元気になってオレのために尽力しろ……いいな?」

倫子「お前は人体実験の生け贄なんだからな。元気でいてもらわないと困るんだ」ボソッ

まゆり「ん? 何か言った?」

倫子「……っ」グッ
103 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:44:18.52 ID:1LIL8LAQo

まゆり「それよりオカリン。まゆしぃ、ちょっと暑いので窓を開けてほしいのです」

倫子「たしかに、この部屋は暖房が効きすぎだな。ん、いいぞ」ガラッ

フワッ

まゆり「風があってきもちいいよ。ありがとうオカリン――」スッ

倫子「(……例の癖。――――まゆりが、連れて行かれてしまうっ!)」

倫子「……まゆりっ!!」ダキッ

まゆり「オカリ……? うー、痛いよオカリン」

倫子「どこにも……どこにも行かせないって言ってるじゃないか」ギュッ

まゆり「…………」ギュッ

まゆり「まゆしぃはずっとオカリンの人質だから、まゆしぃが死ぬまではずーっとオカリンと一緒にいるのです」

まゆり「もしまゆしぃが死んでしまっても、まゆしぃのおばあちゃんみたいにね」

まゆり「あのたくさんのお星様のひとつになって、オカリンを見守っているから……」


・・・
104 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:45:08.77 ID:1LIL8LAQo

鈴羽(38歳)「……ごめんね、リンリン。間に合わなかった」

鈴羽「こうなることは、α世界線の情報から簡単に予測できた。裸の特異点を通過したことによる、体細胞のフラクタル化……」

鈴羽「なんとか阻止できないかと大学でブラックホール研究をして、放射線医療の最先端と共同研究したりしたけど……ダメだった」

鈴羽「この時代の理論と設備じゃ、ブラックホールが肉体に与える影響なんて、計算できなかったんだ」

鈴羽「あたしは、失敗した……」

倫子「……鈴羽」

鈴羽「え……?」

倫子「まゆりの顔を、見てみろ」


まゆり「……………………」
105 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:45:46.96 ID:1LIL8LAQo

倫子「とても、幸せそうだと思わないか?」

鈴羽「……うん。あたしが知ってる2036年のまゆねえさんの顔とは、雲泥の差だ」

鈴羽「とっても、とっても幸せそうな顔をしてる……」

倫子「オレは、まゆりの笑顔を守れたんだよな……」グスッ

鈴羽「……あたしたちにも病魔は迫ってる。あたしはこれからも研究を続けるよ」

鈴羽「リンリンには、長生きしてほしいから……」



総合病院 正面玄関ロビー


鈴羽「もう行くよ。大学に戻って、やらないといけないことがたくさんあるんだ」

倫子「……ああ。オレはこれから葬儀屋と話し合いが――――」


椎名「はぁっ! はぁっ! 孫は、孫はどこだぁぁっ!!」ドタドタ


倫子「えっ――――」
106 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:46:27.87 ID:1LIL8LAQo

看護婦「ど、どうされました!?」

椎名「孫が産まれるんだよ! 俺の可愛い孫が! なあ!」ガシッ

看護婦「お、落ち着いてください! お名前を教えて頂ければ――」

椎名「まゆりだっ! 椎名まゆり、俺の孫娘だよお!」

看護婦「椎名様、ですね! 産科に案内しますので!」タッ



倫子「あ……あぁ……」プルプル

倫子「そ、そうだよな……そうならなきゃ、いけないもんな……」ワナワナ

倫子「どうして忘れてたんだ、だって今日は……」ウルッ


倫子「――まゆりの生まれた日じゃないか……」ポロポロ
107 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:47:10.82 ID:1LIL8LAQo
病室 【椎名様】


椎名「元気な女の子、か……」

椎名父「随分慌ててきたんだな。看護婦さんたち、親父のこと笑ってたぞ」

椎名「そりゃ、なんてったって俺の孫だからな!」

椎名父「俺の娘なんだが……。まあ、親父の提案通りの名前にさせてもらったよ。なかなかいい名前だ」

椎名「だろ? 漢字はわからなかったが、どうしてか、頭から離れなくてな……」

椎名「"あの人"が大事そうに呼んでいた、愛情のこもった名前だ」ボソッ


まゆり「……んぅ」スヤスヤ


椎名「まゆり……。きっと優しい子に育つだろうよ」



倫子「(あれが、まゆり……。この世界線の、まゆりか……)」コソッ

倫子「ふふっ……あははっ……可愛いじゃないか……」ウルッ
108 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:47:51.76 ID:1LIL8LAQo
廊下


倫子「(……そろそろ不審者だな。戻るとするか)」クルッ

椎名「あ、あなたは……もしや!?」

倫子「し、しまった……」ビクッ

椎名「やっぱり……! あれから随分時間は経ってしまいましたが、私には一目でわかりましたよ……!」

倫子「そ、その……。約束を果たせず、すみませんでした」

椎名「いえ、あの時は若気の至りで……そうだ! 今孫が産まれましてね、良かったら挨拶していってくれませんか!」

倫子「えっ……?」

椎名「ささっ、どうぞどうぞ!」

倫子「え、いや、ちょっと!」
109 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:48:28.94 ID:1LIL8LAQo
病室 【椎名様】


倫子「……まゆりー。とぅっとぅるー……」

まゆり「あぅ、あぅ」

倫子「(か、かわいい……)」ドキッ


椎名父「へえ、ああやってあやすのか……。しかし、"あの人"が実在していたとはね。離婚したいがための適当な嘘だと思ってたが」

椎名「め、滅多なことを言うな!」

倫子「(えっ? まゆりの爺さんが、離婚?)」

倫子「……どういうことですか?」
110 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:49:45.74 ID:1LIL8LAQo

椎名父「ああいや、この人これでも今流行りのバツイチなんだ。うちの母親と去年離婚してね」


倫子「(まゆりの婆さんは確か、父方の祖母だったはず――っ!?)」ゾクッ


倫子「(そんな……、オレがあの時、泥棒を引き止めたばっかりに……)」ワナワナ


倫子「(――バタフライ効果)」ゾワワァ


倫子「(あの婆さんが居ないと、まゆりは失語症にならず、鳳凰院凶真は生まれない……)」プルプル


倫子「(――シュタインズ・ゲートへの道は、永遠に閉ざされてしまった)」クラッ


倫子「あっ……」バタッ


椎名「っ!? 大丈夫ですかっ!? 誰か、誰か来てくれ――――」
111 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:50:28.23 ID:1LIL8LAQo
別の病室


倫子「――――ん、ここは……?」

椎名「気が付きましたか!? いやあ、一時はどうなることかと。ここが病院でよかったですよ」ハハ

倫子「(そうだ……思い出した。もう、この世界線に未来は、無いんだった……)」ハァ

椎名「……何か、つらいことがあったんですか? もしかして、今日ここに来た理由に関係が……」

倫子「……最愛の人を、亡くしてしまったんです」

椎名「それは……。無神経なことを聞いてしまい、すいませんでした……」

倫子「いえ、あなたが謝ることでは……」
112 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:51:33.62 ID:1LIL8LAQo

椎名「……もっ、もし、私にできることがあれば、なんなりと言ってください!」

倫子「え……?」

椎名「話をしてくださるだけでも、それだけでも構いません。私は、あなたのおつらそうな顔を、なんとかしたい」

倫子「……椎名さん、お優しいんですね」ニコ

椎名「あ、いや……」ドキッ

倫子「……どうして奥様と離婚を?」

椎名「……恥ずかしながら、あなたのことが忘れられなかったのです」

椎名「来る日も来る日も、あの駅へと出かけていたので、さすがに愛想をつかされました」ハハ

倫子「……そうでしたか」
113 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:52:54.31 ID:1LIL8LAQo

椎名「あの日も、その懐中時計をしてらっしゃいましたね」

倫子「え……?」スッ


倫子「――――っ!!」ドクン


倫子「……その、奥様は懐中時計を持っていたりは?」

椎名「えっ? いえ、持っていなかったと思いますが……」

倫子「(まさか……これは……。いや、そういうことなのか……?)」ドクン

倫子「(いや、でも……この状況で、目的のためには手段を選ばないなんてこと、許されるのか……?)」ドクンドクン

倫子「(違う。これはマキャヴェリズムなんかじゃない、だってこれは――――)」ドクンドクンドクン

倫子「ひとつの運命に、収束する……」ツーッ

椎名「えっ?」

倫子「お孫さん、とても可愛らしかったですね」ニコ

倫子「――私、倫子と申します」

椎名「……ああ、ようやく聞けた。なんと素敵なお名前なんだ……」
114 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:55:40.50 ID:1LIL8LAQo

その日以来、椎名家との付き合いは続いた。

椎名さんはとても優しくて、良い人だった。さすがまゆりの祖父だけはある。

一方、鈴羽の容態は日に日に悪化していった。

教え子の秋葉幸高から海外での治療を勧められたそうだが、鈴羽は断ったと言う。


・・・・・・

鈴羽『あたしは一足先にまゆねえさんに会いに行くよ。充分過ぎる以上に幸せだったから』

鈴羽『リンリンの病気を治してあげられなくてごめんね』

倫子『私は鈴羽から、充分過ぎる以上のものをもらったよ』

鈴羽『そっか。それなら、あたしの人生は、無意味なものじゃなかった――――』

・・・・・・


そうして2000年を迎え、4月3日に幸高さんが飛行機事故で亡くなり、5月18日に鈴羽は息を引き取った。

しかし、これでいい。別れを惜しむ必要などない。

これがオレの、私の、シュタインズ・ゲートの選択なのだから。
115 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:56:48.23 ID:1LIL8LAQo
2001年10月22日月曜日
御徒町 葛城家


倫子「ここか……。場所も建物も、α世界線のそれと同じだな」

倫子「(私の体調も次第に悪くなった。あと数年のうちに私も逝くだろう)」

倫子「(だが、その前にどうしても確かめておきたいことがあった)」

倫子「……どうしてこの世界線の綴さんは、SERNに殺される必要があったのか」

倫子「(この世界線では、ミスターブラウンは橋田鈴と接触していない。それなら、綴さんが殺される必要はなかったんじゃないか?)」

倫子「まあ、こうして盗聴してしまえば、それもハッキリすること」

倫子「悪く思うなよ、ミスターブラウン。貴様だって我がラボを盗聴していたのだから、これでオアイコだ」ククッ

倫子「なんてな……。そろそろ鳳凰院凶真は私の年齢的に苦しいか」ハハッ

倫子「……まゆりが逝った以上、もう鳳凰院凶真は必要ないよね」
116 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:00:08.84 ID:1LIL8LAQo

・・・


ラウンダーF「IBN5100を利用したウイルスプログラム送信は、1998年に間違いなく秋葉原で行われた」

ラウンダーF「君が1997年からここで目を光らせていたにもかかわらず、だ」

天王寺「…………」

ラウンダーF「プログラムが発動した2000年1月1日から1年経った今でも、犯人の正体は掴めぬままなのだろう?」

ラウンダーF「この件に関しては君は自身や家族のために故意にIBN5100を入手せずにいると言う者もいてね」

天王寺「そんなことはねぇ!」

ラウンダーF「君が任務を忘れているのではないかと……心配しているわけだよ」

ラウンダーF「貴様がここに居る理由は、一体なんだ? 貴様を拾ってやったのは、一体誰だ?」

天王寺「…………」

ラウンダーF「あまり我々を失望させるな。だが、今ラウンダーが人材不足であることも事実」

ラウンダーF「あと数年でSERNは洗脳によるラウンダー募集を開始するが、それまでは君に頑張ってもらわないと困るんだよ」

ラウンダーF「それに、秋葉原に生活基盤を敷いている君が最も適任者なんだ」

天王寺「そうは言ってもだな、犯人の正体がまるでわからねえとあっちゃあ――――」

ラウンダーF「君は勘違いしている。自分が今どんな状況に立っているか、理解してもらう必要があるようだな」
117 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:00:38.89 ID:1LIL8LAQo

ラウンダーF「妻か娘……どちらかに我々と一緒に来てもらう」


綴「よく分からないけれど、すぐに戻れるようにお願いしてみるから」


バタン


ラウンダーF「心配することはない。またすぐに会える」


ラウンダーH「データが来ました」


天王寺「"DONNA GELATINA"、ゲル状の貴婦人……そんな……っ、綴……っ!!」


ラウンダーF「まず妻の痕跡をすべて消せ。持ち物を1つ残らず廃棄するんだ」


ラウンダーF「そしてなんとしてもIBN5100を使った人間を確保しろ。それで終わりだ」


ラウンダーF「我々は常に、君を……『君たち』を見ているからな」


天王寺「……うっ……くっ……うぅっ……」ポロポロ


・・・
118 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:03:14.10 ID:1LIL8LAQo
2004年7月7日水曜日 夜
雑司ヶ谷 とある一軒家


倫子(62歳)「これがシュタインズ・ゲートの選択……」ツーッ

倫子「("シュタインズ・ゲートの選択"は、決して諦めの言葉なんかじゃ無かったはずなんだけどな……)」

倫子「(椎名さんはとても良い人だったが、私はまもなく死ぬ。そんな私と一緒に居ても、つらい想いをさせるだけだ)」

倫子「(だから私は、無理を言って別居を申し入れ、昭和50年からまゆりたちと暮らしていたこの家に独り暮らしをすることにした)」

倫子「(……今が正しい時間の流れなんだと受け容れるしかない)」

倫子「……これでよかったんだよね、まゆりちゃん」ナデナデ

まゆり(10歳)「すぅ、すぅ……」

倫子「よく寝ちゃって。お昼に倫太郎君と遊んで疲れちゃったのかな」


――――――――――

TV『我が名は狂気のマッドサイエンティスト――……』

倫太郎「うおおおおっ!!! いけーーーーっ! やっつけちまえーっ!!」

まゆり「おばーちゃーんっ! オカリンったら悪者ばっかり応援するんだよーっ!」

   『おりひめさまになれますように まゆしぃ☆』

――――――――――


まゆり「ふわぁ……おばあちゃんの膝枕が、気持ちよくて……」

カチッ   カチッ   カチッ   カチッ

まゆり「割烹着のポケットに入ってるカイちゅ〜の音を聞くとね、なんだか落ち着くんだ〜」

倫子「……まゆりちゃん、そろそろお父さんのお家に帰りますよ」

まゆり「……うん、おんぶ」

倫子「はいはい」ヨイショ
119 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:04:08.85 ID:1LIL8LAQo
雑司ヶ谷 住宅街


まゆり「お空、お星さまがいっぱい……」

倫子「そうだね」

倫子「(あの星のどこかに、まゆりは居るのかな……)」

まゆり「ねえおばあちゃん、今日は何の日か知ってる?」

倫子「何の日だっけ?」

まゆり「今日はね、年に一度だけ、彦星さまと織姫さまが会える日なんだよ」

倫子「そうかい」

まゆり「ねえおばあちゃん、どれが彦星さまで、どれが織姫さまか、教えてほしいのです」

倫子「あのお星さまが彦星さまで……あのお星さまが織姫さま、だよ」

倫子「織姫さまはね、ベガっていう星のことなんだけど、白くて明るくてとってもキレイなの」

倫子「海外だとね、『空のアークライト』って呼ばれてるんだよ」

まゆり「あれが、織姫さま……、きれい……」スッ

倫子「(……星屑との握手<スターダスト・シェイクハンド>……)」

倫子「……きっと届くよ。まゆりちゃんなら……」
120 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:07:11.78 ID:1LIL8LAQo
・・・6年後・・・
2010年4月5日月曜日
未来ガジェット研究所


ガチャッ


倫太郎「ん……まゆり? どうしてここに居るんだ?」

まゆり「あ、オカリン。えっへへ〜、来ちゃった。待ってたよ〜」

倫太郎「というか、どうやって入った」

まゆり「まゆしぃにはね、オカリンが鍵をどこに置いておくか、だいたい想像がつくのです」

倫太郎「この雪の中、歩いて来たのか?」

まゆり「春先なのに雪なんて、珍しいよね」

倫太郎「あのな……。ここは未来ガジェット研究所と言って、お前みたいな女子高生が遊びに来る場所ではないのだぞ」

まゆり「ねえねえ、オカリン。まだ言ってなかった」

倫太郎「なにをだ?」

まゆり「……おかえりなさい、オカリン」ニコ

倫太郎「…………」

倫太郎「ご苦労、まゆり」
121 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:08:01.77 ID:1LIL8LAQo

倫太郎「ラボの近くに良い店を見つけた?」

まゆり「うん。メイクイーン+ニャン2って言ってね、まゆしぃでもバイトできそうなんだよ」

まゆり「来月の頭くらいから働こうと思ってるんだー」

倫太郎「メイド喫茶か……しかし、あのまゆりが?」

まゆり「まゆしぃだってね、いつまでも小さい頃のままじゃないんだよ?」

倫太郎「そ、そうか。だが、それとまゆりがラボに遊びに来ることとなんの関係がある」

まゆり「えぇ〜、あるよ〜。おおありだよ〜」

倫太郎「……ここではロジカルに説明しろ」

まゆり「だってね、バイト先に近いし、学校から歩いてこれるし、オカリンの研究を応援できるし」

倫太郎「ほう? つまり、このラボのメンバーになりたい、と、そう言うのだな?」

まゆり「がんばれー、がんばれーって、応援してあげるのです!」

倫太郎「……俺の想像した応援とはちょっと違うが。まあいい。そういうことなら、貴様は今日からラボメンナンバー002、だ」

まゆり「らぼめん?」
122 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:08:47.98 ID:1LIL8LAQo

倫太郎「ラボのメンバー、略してラボメンだ」ニヤリ

まゆり「ラボメン……。うんっ、まゆしぃはラボメンなのです!」

倫太郎「……俺だ。ラボを開設して早半月、ついに我がラボに初の研究員が参入した」スッ

倫太郎「なにっ!? "機関"のスパイの可能性があるだと――――」

まゆり「ねえオカリン、知ってた? まゆしぃのおばあちゃんとオカリンって、同じ誕生日なんだよ?」

倫太郎「って、俺の報告の邪魔をするな」ハァ

まゆり「すごい偶然だよね〜♪」

倫太郎「クク、それも機関の陰謀に違いない。情報操作によって因果を書き換えたか、あるいは……」

まゆり「えー、おばあちゃんは悪い人じゃないよう」

倫太郎「悪い人じゃなさそうな人間ほど信用できないものはないからな」

まゆり「……オカリンのバカっ!」

倫太郎「バッ!? バカとはなんだ! 貴様、人質の分際でこの鳳凰院凶真を愚弄するか!?」

まゆり「そのほーそーいいんさんだって、おばあちゃんのお世話になったでしょ!? 忘れちゃったの!?」ウルッ

倫太郎「うっ……やけに突っかかるな。……泣いてるのか?」

まゆり「えっ? あれ、ウソ、どうして……」ポロポロ
123 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:09:28.28 ID:1LIL8LAQo

まゆり「ご、ごめんね? オカリンを困らせるつもりはなかったの……」グシグシ

倫太郎「あー、うむ。なんだ……今日は昼飯をおごってやろう」

まゆり「ホントっ!? わーいっ♪ まゆしぃはねー、カレーがいいなぁ、えっへへ〜♪」ニコニコ

倫太郎「現金なやつだ」ククッ

倫太郎「というか、突然婆さんの話などして、どうしたのだ?」

まゆり「あっ。そうそう、それがね? おばあちゃんの手紙が見つかったの」スッ

倫太郎「……遺言、というやつか?」

まゆり「そうなのかなぁ。オカリンにも読んでほしいって書いてあったから持ってきたんだー」

倫太郎「過去からの手紙というわけか……どれ、見せてみろ」
124 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:10:45.61 ID:1LIL8LAQo

――――――――――
1枚目


まゆりちゃんと りん太郎くんへ



この手紙はりん太郎くんと一緒に読んでください。

きっとこの手紙を読む頃には、おばあちゃんは死んじゃってるかもしれないね。

だからこうして、手紙にして、ふたりにメッセージを残したいと思います。

まゆりちゃん、今でもりん太郎くんと仲良くしてるかな。

りん太郎くんも、まゆりちゃんのそばに居るかな。

ふたりなら大丈夫だと信じています。

いつまでも仲良くね。

――――――――――
125 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:12:46.07 ID:1LIL8LAQo

――――――――――
2枚目


まゆりちゃんは、私の生きる道しるべでした。

暗い海を漂うような、長い船旅の途中で

私の頭の上にかがやく、たったひとつの北極星でした。

まゆりちゃんを背中におんぶしてお散歩することが、私にとってどれだけ幸せなことだったか。

まゆりちゃんは昔、可愛い恰好をしてお仕事をするのが夢だって言ってましたね。

その夢は叶えられましたか?

おばあちゃんの懐中時計、大切にしてくれてありがとうね。

――――――――――
126 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:15:08.64 ID:1LIL8LAQo

――――――――――
3枚目


りん太郎くんは、いつもマッドサイエンティストが出てくる特撮ドラマを熱心に見ていたね。

実はあの番組、おばあちゃんも好きだったの。

私も若い頃は、ああいう悪役に憧れてたりしたんだよ。

若い頃は男勝りでね、幼馴染の女の子を守るためにかっこつけてたものよ。

できることなら、この私の意志をりん太郎くんに引き継いでほしい。

それを繋ぎ止めてくれるのは、きっとまゆりちゃんの役目でしょうね。

そういうわけで、おばあちゃんに引き出しに、世界の支配構造を覆すための覚書を入れておきました。

まゆりちゃん、あとでりん太郎くんと一緒に読んでね。

―――――――――――
127 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:15:44.47 ID:1LIL8LAQo

倫太郎「『世界の支配構造を覆すための覚書』……だと……!?」プルプル

倫太郎「こうしてはおれん! まゆり、今すぐ池袋へ行くぞっ!」タッ

まゆり「あっ! 待ってよ、オカリン! 置いていかないでっ!」


ガシッ


まゆり「あ、手……」

倫太郎「俺がお前を置いていくわけないだろ。お前は俺の人質なのだからな」

まゆり「オカリン……」

倫太郎「……フゥーハハハ!」




ヒラリ  パサッ

128 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:16:35.09 ID:1LIL8LAQo

――――――――――
4枚目


引き出しに入れておくとおじいさんが失くしそうなので、やっぱり同封しました。

まゆりちゃん。毎日お墓参りに来てくれて、ありがとうね。

まゆりちゃんは気付いてなかったかもしれないけど、りん太郎くんも毎日お墓参りに来てくれたよね、ありがとう。

りん太郎くん。あの時、まゆりちゃんを抱きしめてくれて、ありがとう。

鳳凰院凶真になってくれて、ありがとう。

まゆりちゃんを人質にしてくれて、ありがとう。

もしりん太郎くんが他に好きな女の子を選んだとしても、きっとまゆりちゃんは応援してくれます。

その選択をする時は、必ずやってきます。

自分の選択を信じて。自分の意志を信じて。

あなたの周りの人たちの想いを、信じて。

きっとまゆりちゃんが、君を支えてくれるから。

決して諦めることなく、道を切り開いてください。

運命石の扉の向こうへ、辿り着いてください。





エル・プサイ・コングルゥ
                                        椎名倫子

――――――――――
129 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:18:44.98 ID:1LIL8LAQo
秋葉原 裏路地


タッ タッ …


倫太郎「はぁ、はぁ……。こ、ここからは歩いていくぞ……」ゼェゼェ

まゆり「オカリン、そんなに急がなくても、おばあちゃんは待ってくれるよ」ニコ

まゆり「あっ、そうだ! お墓参りするなら、白い百合のお花をひとつ買っていこうよ!」

倫太郎「墓参りをするとは一言も言ってないのだが……」

まゆり「おばあちゃんね、白い百合の花が大好きだったから。まゆしぃが社会人になったら、初任給でおっきな花束を買ってあげる予定なのです」ニコニコ

倫太郎「……そうか」

まゆり「――あっ! あそこ、雲の隙間が空いてる……」


キラキラ …


倫太郎「……レンブラント光線。通称、天使の梯子<エンジェル・ラダー>」

まゆり「……あの時も、こんな光景だったよね」

倫太郎「……ああ」

倫太郎「(俺はあの日、死んだ婆さんがまゆりを連れ去ってしまうんじゃないかと思ったが)」

倫太郎「(あれは、"鳳凰院凶真"を目覚めさせるための儀式だったのかもしれないな)」
130 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:20:40.87 ID:1LIL8LAQo

倫太郎「婆さんからの手紙を読んだ日にこの現象とは、本当にあの人は神様にでもなったんだろうか」

まゆり「おばあちゃんはね、いつでもまゆしぃたちを見守ってくれてるんだよ」

倫太郎「そうだな……。鳳凰院凶真の生みの親として、感謝しないでもない」

倫太郎「(もしやあの時、まゆりの婆さんの意志を俺が受信したのか……? いや、さすがに妄想しすぎだな)」


キラキラ …


倫太郎「雪に輝いて神々しいな……」

まゆり「うん……とっても綺麗だね……」スッ


倫太郎「(あれは、まゆりの癖……光の中へと手を伸ばし、何かをつかもうと……)」


ギュッ


倫太郎「む? 手を繋ぎ直して、どうした?」

まゆり「……オカリンと手を繋いでいれば、まゆしぃはずっとそばに居れるよね」ニコ

倫太郎「……ああ。お前をどこへも行かせたりしないさ」ギュッ

倫太郎「婆さんには悪いが、まゆりは俺の人質だからな」ククッ

まゆり「――――うんっ」







ああ、まゆりのことを頼んだぞ。

頑張れよ、この世界線の鳳凰院凶真。






END2 Cloudy Sky END 【引き継がれる意志の元に】
131 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:10:34.34 ID:LFHIxASQo
第28章 観測世界のスカイクラッド(♀)



―――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
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――――


2025年8月21日(木)14時02分
ワルキューレ基地


倫子「はぁっ……はぁっ……ぐっ!」クラッ

真帆「だ、大丈夫!?」ダキッ

倫子「ああ……2度目ともなれば慣れたものだ……」ズキズキ

ダル「で、今度のテクノビジョンはどうだった?」

倫子「……ああ、成功だ」

ダル「っしゃあああっ!!!」

真帆「ほ、ほんと!?」

倫子「倫太郎は2010年7月28日に未来からやってくる。それは2度目の紅莉栖救出だ」

倫子「メタルうーぱを抜き取り、紅莉栖の死を偽装する……。あとは倫太郎の主観がシュタインズ・ゲートを観測すれば……」

フブキ(セジアム)「――シュタインズ・ゲートに辿り着く」
132 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:11:07.37 ID:LFHIxASQo

ダル「ってことはもう、僕たちシュタインズ・ゲートの目の前に居るってことじゃん!」

真帆「ええ……そうね……!」

倫子「(たしかにそうだ。このまま、オレは未来視の通りに行動すればいいだけ)」

倫子「(……だが、オレは、もっと何かできたはずじゃないのか?)」

倫子「(もっと救えるものがあったんじゃないか?)」

倫子「(この鳳凰院凶真は、その程度なのか……?)」

倫子「(『シュタインズ・ゲートの選択』は、諦めの言葉なんかじゃない……!)」

倫子「……鈴羽。綯お姉ちゃんを呼んできてくれるか?」

鈴羽「うん、わかった!」タッ タッ
133 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:12:04.61 ID:LFHIxASQo

綯「凶真様、ご用命は何でしょうか」

倫子「エスブラウンよ。NX<ノア・ファイブ>だが、ギガロマニアックスとしての能力を覚醒させるために使うことは出来ないだろうか」

綯「もちろん使えます。というより、テクノビジョンも原理的にはギガロマ能力の覚醒です」

綯「ですが、未来視以外の、より強力な能力を、となると……リスクを伴います」

倫子「具体的には?」

綯「脳へのダメージが大きいんです。なので、一度覚醒のために刺激を与えると、数年間は能力がスリープ状態になって、使えなくなるかと」

倫子「つまり、2025年中に未来視はできない、ということか」

倫子「……構わない。もはやオレは未来視をする必要が無いからな」
134 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:13:37.18 ID:LFHIxASQo

倫子「真帆。ダル。もしオレが気絶でもしたら、無理にでもオレを過去へ送ってくれ」

真帆「えっ……で、でも!」

倫子「向こうにつけば、鈴羽が外側のコンソールを生体認証でいじってマシンを開けてくれるだろう。目を覚ますのはその後で良い」

ダル「……オーキードーキー」

綯「それじゃ、行きますよ……」カチッ


倫子「(――――っ!?)」ドクンッ


倫子「ぐ……ぐあああああっ!!!!」ガクッ


真帆「お、岡部さんっ!?」

綯「近づかないでくださいっ!」


倫子「ああああっ、あああ! うわあああっ!!」


綯「さあ、凶真様! 見つけてください、自分だけの現実をっ!」


倫子「うぅぅぅっ!! うぐっ、うがあああっ――――」
135 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:14:16.66 ID:LFHIxASQo

ギガロマニアックスは、特定の電磁パルスと脳の受容体とが近接作用することで発現する。

バイオリズムの上昇によって、中脳辺縁系ニューロンのドーパミンが過剰分泌されたとき、ディソードは現れる。

その状況を、このNX<ノア・ファイブ>を使って、人工的に創り出す。

CODEサンプル――ギガロマニアックスが力を使う過程で放出する特殊な脳波――を発生させることで、力の覚醒を促す。

同時に、被験者は強烈な負の感情を抱くことになる。

だが、それでいい。そうして初めてディソードを獲得できるのだ。
136 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:14:47.61 ID:LFHIxASQo

"剣が見えた"


"はっきりとは見えない"


"なんとなく剣に見えた"


"ここからしか見えない"


"実際にそれは剣じゃない"
137 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:15:26.85 ID:LFHIxASQo

倫子「――――見つけた」


パキ パキパキ パキィン


それは、一振りの剣。

あまりにも、優美。

あまりにも、清楚。

あまりにも、繊細で傷つきやすく。

そして、涙が出るほどに美しい。



倫子「"妖刀・朧雪月花"……っ!」ガシッ



綯「これが、凶真様のディソード……」

るか「綺麗な日本刀です……」
138 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:15:57.60 ID:LFHIxASQo

倫子「――――っ」バタッ シュィィィン

かがり「オカリンさんっ! もう、今日は倒れてばかり!」ダキッ

倫子「ディソードは、消えたか……。たしかに、これからしばらくはディラックの海を開けなさそうだ……」ハァ ハァ

倫子「だがこれで、オレはギガロマニアックスとしての能力を、過去の世界で存分に発揮できる……!」グッ

倫子「後は任せたぞ……おまえ、た……ち……」ガクッ

真帆「岡部さんっ!? しっかりして――――」
139 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:16:38.00 ID:LFHIxASQo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・

世界線変動率【1.130212】
1975年7月7日(月)15時30分
ラジ館屋上


倫子「――――……ん、ここは……?」

まゆり「オカリンっ!? よかった、気が付いてくれて……」グスッ

鈴羽「だから言ったでしょ、気絶してるだけだって」

倫子「……そうか、1975年に着いたのか」ヨイショ

倫子「おっと」フラッ

まゆり「わわっ、大丈夫?」ダキッ

鈴羽「それにしても驚いたよ。あたしたちを追いかけて来たなんて」

鈴羽「でも、どうして?」

倫子「……出て行ったきり戻って来ないお前たちを、未来へと送り返しに来たんだよ」

鈴羽「未来に……帰れるの!?」
140 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:17:29.48 ID:LFHIxASQo

倫子「いいかよく聞け。お前たちのミッションは終わっていない。成功したと喜ぶにはまだ早いぞ」

まゆり「え……?」

鈴羽「……!」

倫子「みんなに『ただいま』って言うまでが、ミッションだ」

倫子「おそらく、C204型は故障している。この時代で解体する必要があるだろう」

倫子「そしてこのC193型だが、最大積載人数は2人までだ。2025年の技術力では、それが限界だった」

倫子「ゆえに、オレはこの時代に残る」

まゆり「そ、そんな――――」
141 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:19:14.43 ID:LFHIxASQo


   『鈴羽のこと、頼んだぞオカリン』


倫子「オレはダルと約束した。未来に娘を送り返す、とな」

鈴羽「父さん……」


   『だからこそです。絶対に返してください。……まゆりママと一緒に』


倫子「オレはかがりと約束した。未来にママを送り返す、と」

まゆり「かがりちゃん……」

倫子「まゆり。お前は……もはやオレの人質ではない」

まゆり「えっ……で、でもっ!」

倫子「そう言ったのはお前自身だ。それがお前の選択だ。そうだろ」

まゆり「……っ」

倫子「いいか、まゆり。オレがそばに居ないなら幸せになれないなどという生ぬるい考えは棄てろ」

倫子「あの時代には、お前の父親も母親も居る。フブキもカエデも、フェイリスもるか子も、かがりも、お前の大切な人たちが、お前の帰りを14年間待ってるんだ」

倫子「本当は2011年7月7日に送り返せればいいが、あの時点でお前たちふたりが世界線から消滅することは既に確定事項と化してしまった」

倫子「(オレはまゆりを失うことで14年間執念を燃やすことができた。その事実をなかったことにしてはいけない)」

倫子「ゆえに、その有効期限が切れる2025年以降にしか送り返せない。それについては、申し訳なく思う」
142 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:20:00.20 ID:LFHIxASQo

倫子「オレはまゆりを守ると誓った。そして、お前たちを送り返すとも誓った」

倫子「それが、オレの意志だ」

鈴羽「……リンリンの意志は固いんだね。まゆねえさんはどう思う?」

まゆり「……やだ」

鈴羽「まゆねえさん……」

まゆり「やだよ……。こうやってまた会えたのに、また離れ離れにならなきゃいけないなんて……」ポロポロ

倫子「……今日は、七夕だったな」

まゆり「え……?」グスッ

倫子「七夕はさ、彦星様と織姫様が、年に1度会える日、なんだよ」

まゆり「あ……」

倫子「なあ、まゆり……」

まゆり「…………」

まゆり「…………」

まゆり「…………っ」

まゆり「……わかった」
143 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:20:42.72 ID:LFHIxASQo

・・・

ゴウンゴウンゴウン …


鈴羽「ホントにいいんだね? リンリン」

倫子「何度も聞くな。ダルに会ったらよろしく伝えてくれ」

まゆり「オカリン……」

倫子「これ、かがりからの預かり物だ。オレたちをもう一度会わせてくれた、お守り」スッ

まゆり「あっ、森の妖精さんうーぱ……」

倫子「かがりの大切なものだから、返してやってくれ」

まゆり「……うん」

鈴羽「それじゃ、ハッチしめるよ。まゆねえさん、シートベルトして」

倫子「それじゃあな」

まゆり「……オカリン、あのねっ!」

倫子「ん?」

まゆり「……また、会おうね」エヘヘ

倫子「……無論だっ! ふぅーはははぁ!」バサッ


キラキラキラ …

キィィィィィィィィィン!!

144 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:21:40.26 ID:LFHIxASQo

鈴羽とまゆりを未来へ送ったことで、世界線はわずかに変動した。

だが、既に因果は成立している。この世界線の岡部倫太郎も、オペレーション・スクルド等のDメールは受信するのだ。

ゆえに、この世界線の7月28日、必ず2度目の紅莉栖救出が実行される。

この時点で、アトラクタフィールドレベルの収束からは脱していると言える。

そこでの倫太郎の"仕込み"によって、8月21日にシュタインズ・ゲート世界線へと変動する。

だが、そこにオレは存在しない。倫太郎という存在に上書きされているからな。

つまり、オレはまゆりと二度と再会することは無い。

――本当にそうだろうか?
145 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:25:07.48 ID:LFHIxASQo

シュタインズ・ゲート世界線は未知の世界線だが、いくつかのことは確定している。

ひとつは、『紅莉栖が2010年7月28日から8月21日まで生存している』ということ。

もうひとつは、『中鉢論文はロシアン航空の火災に巻き込まれて焼失する』ということ。

シュタインズ・ゲート世界線は、このふたつの事象を起点にして再構成されることになる。

それによってタイムマシンを巡る第3次世界大戦も、SERNによるディストピア支配も……

収束も存在しない世界線となる。
146 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:28:39.17 ID:LFHIxASQo

シュタインズ・ゲート世界線にジョン・タイターは現れない。

確かにα世界線ではジョン・タイターが2000年に現れなかったにもかかわらず、章一はあの日あの場所で記者会見を開こうとしていた。

だが、それはジョン・タイターの書き込みの代わりに、橋田鈴の手記を盗み見たからだ。

結局は阿万音鈴羽という人物からタイムトラベル理論を入手することで、あの日あの場所の因果が成立することになる。

無論、歴史の辻褄合わせとして、鈴羽がタイムトラベルしてこなくとも章一はあの場所でなんらかの会見を開く、ということも考えられる。

やつは学生時代からタイムマシン研究をしていたのだ。やはり発表はしたかったはず。

タイターほどの完成度の理論に至らずとも、章一の性格を考えれば記者会見をしそうではあるか。

まあ、そうなったらシュタインズ・ゲート世界線の倫太郎に、『タイターのパクリだ』と糾弾されることはなくなるだろう。

ゆえに、シュタインズ・ゲート世界線においてそのような状況に再構成されるとしても、因果律として矛盾があるようには思えない。

結果が先にあり、原因はあとから付随する。いちいちこんなことで心配するほうがバカらしい。

今居るこの世界線1本内の過去を変えずに結果を変えることで、原因が変わり、アトラクタフィールドβ脱出後の過去が変わるのだ。

なんだか禅問答じみたことを言っているようだが、真実なのだから仕方ない。
147 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:29:49.77 ID:LFHIxASQo

シュタインズ・ゲート世界線にはタイムマシンが存在しないかというと、そういうわけではない。

2010年7月時点で既に我がラボはタイムマシンを開発しているし、SERNだってゼリーマン実験を何度も繰り返している。

だが、ゲルバナ実験等でわかった通り、因果律に大きな影響を与えないタイムトラベルであれば、ダイバージェンスは全くと言っていいほど変化しない。

ゆえに、2036年から鈴羽が倫太郎に会いに来る可能性だって、否定はできない。

いや、うん、そこは橋田家の教育にかかっているところもあるだろうが、きっと大丈夫だろう。

確かにオレが定義したシュタインズゲート世界線の世界線変動率<ダイバージェンス>は【1.048596】だ。

その意味では、そこから少しでもズレてしまってはシュタインズゲートではない、と言える。

だが、そこは定義の問題だ。少しズレた世界線を、X世界線と名付けたとしても、シュタインズゲートに内包するとしても、本質は変わらない。

まあ、300人委員会の陰謀だけはシュタインズ・ゲート世界線においても渦巻いているはずだから、そこはなんとかしなければならないが。

そう。たとえシュタインズ・ゲート世界線に辿り着いたとしても、陰謀との戦いは終わったわけではないのだ。

未来ガジェット研究所は、次の戦いに向けて準備をせねばならん。
148 : ◆/CNkusgt9A [!蒼_res]:2016/07/06(水) 21:34:30.00 ID:LFHIxASQo

・・・25年後・・・
2000年4月4日火曜日
地下鉄旧万世橋駅倉庫


幸高「――……ハッ。こ、ここは……?」

倫子(58歳)「ようやく目覚めたか」

幸高「あ、あなたは?」

倫子「オレが誰かなど、どうでもいいことだ」

倫子「いいかよく聞け。"秋葉幸高"は昨日、航空機事故に遭って死んだ」

幸高「……は?」

倫子「いや、正確には、そういう運命が定められていた、と言うべきか」

幸高「……なら、なぜ私は今生きているんです?」

倫子「簡単な話さ。過去を変えずに、結果だけを変えたのだ」

倫子「『秋葉幸高は死んだ』。残酷な約定であり、β世界線の過去」

倫子「だが、『貴様は生きている』。絶対の真実であり、世界は騙された」

倫子「貴様にはいずれ新たな名を授けてやらねばな」

幸高「いったい、どういう……」
149 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:35:39.46 ID:LFHIxASQo
>>148 誤爆しました。もう一度投稿し直します
150 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:36:35.04 ID:LFHIxASQo

・・・25年後・・・
2000年4月4日火曜日
地下鉄旧万世橋駅倉庫


幸高「――……ハッ。こ、ここは……?」

倫子(58歳)「ようやく目覚めたか」

幸高「あ、あなたは?」

倫子「オレが誰かなど、どうでもいいことだ」

倫子「いいかよく聞け。"秋葉幸高"は昨日、航空機事故に遭って死んだ」

幸高「……は?」

倫子「いや、正確には、そういう運命が定められていた、と言うべきか」

幸高「……なら、なぜ私は今生きているんです?」

倫子「簡単な話さ。過去を変えずに、結果だけを変えたのだ」

倫子「『秋葉幸高は死んだ』。残酷な約定であり、β世界線の過去」

倫子「だが、『貴様は生きている』。絶対の真実であり、世界は騙された」

倫子「貴様にはいずれ新たな名を授けてやらねばな」

幸高「いったい、どういう……」
151 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:38:32.27 ID:LFHIxASQo

倫子「テレビを見ろ」ピッ

TV『――昨日の航空機事故で唯一の死亡者である秋葉幸高氏は……』

幸高「なっ……これは、一体!?」

倫子「貴様はIBN5100を入手したことで、SERNから狙われていたのだ」

幸高「セルン……って、SERN? どうしてです?」

倫子「300人委員会のZプログラムの機密を守るためだ。2000年頃の秋葉原でIBN5100を所有していた貴様は、真っ先に槍玉にあげられた」

幸高「そんな……。いや、というか、どうやって私の死を偽装したんです?」

倫子「昨日貴様が乗る予定だった飛行機には、貴様をここへ拉致監禁した後、代わりにオレが乗った」

倫子「周囲共通認識を操り、周りの乗客乗員にはオレが『秋葉幸高』に見えるようにした」

倫子「その後事故に遭ったが、オレは死なない。というか、傷ひとつ負わなかった。貴様と違って、死ぬ運命にないからな」

倫子「近くの病院へと救急搬送され、ICUへと放り込まれた。そこで医者たちの記憶を偽造した」

倫子「『秋葉幸高は既に救急車の中で死亡していた』、とな」

倫子「そのままでも良かったが、貴様の葬儀を執り行わなければ、牧瀬紅莉栖と秋葉留未穂が幼馴染になれない」

幸高「る、留未穂!?」

倫子「そこで貴様の死体をリアルブートした。むろん、生命を持たない、ただの元素の塊だ」
152 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:39:35.55 ID:LFHIxASQo

倫子「だが、このままではちかねがSERNの特殊部隊ラウンダーによって暗殺されてしまう」

幸高「ちかねまで!?」

倫子「落ち着け。ちかねも、貴様と同じ要領で死を偽装させてもらった。振り返ってみろ」

幸高「えっ」クルッ

ちかね「…………」

幸高「ち、ちかねっ! おい、大丈夫か!?」

ちかね「あ、あなた……? あれ、ここは……」

倫子「ここは貴様らの愛した街、秋葉原の地下だ」

幸高「……つまり貴女は、私たち夫婦を救ってくれたんですか?」

倫子「勘違いするな。オレは決して慈善活動をしたわけではない」

倫子「それに、貴様らは少なくともあと10年間娘と会うことができないのだから、オレを非難こそすれ感謝する必要はない」

幸高「……それは、娘を守るための措置なのでしょう?」

倫子「勝手に解釈するがいい」
153 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:40:30.98 ID:LFHIxASQo

倫子「今から10年後、あるひとりの青年が、柳林神社に奉納されたIBN5100を必要とする」

倫子「SERNのスタンドアロンサーバ内に囚われた、あるメールデータを削除するために使うのだ」

倫子「この未来は、このβ世界線において、既に確定している」

倫子「だが、そこには数々の陰謀の魔の手が忍び寄っている。彼は仲間たちとともに、陰謀と戦い続けなければならない」

幸高「それと私たちと、なんの関係が?」

倫子「その仲間たちの1人、コードネーム、フェイリス・ニャンニャンこそ、秋葉留未穂だ」

幸高「……!」

倫子「オレは、未来からやってきたタイムトラベラー。貴様ならこの話が理解可能であることをオレは知っている」

倫子「未来を変えるため、我が手足となって働いてもらうぞっ! ふぅーはははぁ!」
154 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:42:14.24 ID:LFHIxASQo

まず幸高には、闇医者たちとのネットワークを作ってもらった。

いくらオレがギガロマニアックスと言えども、自分の病気を簡単に治すことはできない。

人体の仕組みを理解し、ブラックホールとフラクタル化の関係を理解し、病状の進行について理解しなければならなかった。

幸高の死体をリアルブートした時は、内臓なんかは適当だったが、自分の身体となるとそうはいかない。

だが、しっかりリアルブートさえできれば寿命は延びる。反粒子のストックによるリスクの蓄積を踏まえても、だ。

確かにオレは未来視によって、自分が2005年に死ぬ世界線を視た。

あの世界線では、まゆりがお祭りに出かけている間に団子を作っていたところ……ポックリ逝ってしまった。

だが、この世界線はまゆりを未来へと返した世界線だ。まゆりの本当の婆さんも存在している。

ゆえに、オレが死ぬ必要は無くなった。収束など無いのだ。

2010年のあの日までは、オレは死ぬつもりなどない。
155 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:42:52.61 ID:LFHIxASQo
2001年10月22日月曜日
御徒町 葛城家


ラウンダーF「妻か娘……どちらかに我々と一緒に来てもらう」

綴「よく分からないけれど、すぐに戻れるようにお願いしてみるから」


バタン


ラウンダーF「心配することはない。またすぐに会える」

ラウンダーH「データが来ました」

天王寺「"DONNA GELATINA"、ゲル状の貴婦人……そんな……っ、綴……っ!!」

ラウンダーF「まず妻の痕跡をすべて消せ。持ち物を1つ残らず廃棄するんだ」

ラウンダーF「そしてなんとしてもIBN5100を使った人間を確保しろ。それで終わりだ」

ラウンダーF「我々は常に、君を……『君たち』を見ているからな」


天王寺「……うっ……くっ……うぅっ……」ポロポロ
156 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:44:08.30 ID:LFHIxASQo
御徒町 屋外


ラウンダーF「……悪く思うなよ、ミスターブラウン」

綴「……あの、これから、どこに?」

ラウンダーF「ん? ああ、もう変身は解除していいんだったか」

綴「へんし……えっ?」


シュィィィィィィィィィィン!!


倫子「――……他人になるというのも、奇妙な感覚だな」

綴「え、えっ!? い、いまの、どうやって……!?」

倫子「落ち着け、今宮綴。腹の子にさわる」

倫子「いいか、オレはラウンダーじゃない。さっきのは全部芝居、写真データもオレが念写したものだ」

倫子「だが、『今宮綴』は死んだ。もうこの世に存在しない」

倫子「これからは、ラウンダーとSERN、そして300人委員会への復讐のために生きろ」
157 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:45:40.66 ID:LFHIxASQo
地下鉄旧万世橋駅倉庫


幸高「――というわけなんだ」

綴「……お話はわかりました。けど、なにがなんだか……」

倫子「綯の成長を見届けさせることができない。それについては、本当に申し訳なく思う」

綴「い、いえ……。あのままだと、私も、お腹の中の子どもも殺されてたということなら、助けていただたいたわけですから……」

倫子「……貴様もタイムトラベルを簡単に信じてしまうのだな」

幸高「まさか、僕の後輩くんだったとはね」

倫子「ちなみに、オレも貴様の後輩だぞ」

幸高「そうは思えないほどの貫禄ですよ」

綴「みなさん、ずっとここで生活を?」

ちかね「ええ。でもこの人、この間なんかこっそりヘリに乗って秋葉原の空を飛んだんですよ」

幸高「ちゃんと変装はしたからね。まあ、留未穂の姿は見えなかったが」

倫子「定期的に街を眺めてみるがいい。ビル壁面の宣伝広告が、貴様の娘の手によって、徐々に萌え絵へと変貌していくサマをな」クク
158 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:47:55.95 ID:LFHIxASQo

倫子「貴様らには、300人委員会と闘うための組織づくりを手伝ってもらう」

倫子「オレには経営手腕なるものが無いからな。天は二物を与えずとはよく言ったものだ」

倫子「闇の資金繰り、人脈作り、兵器武装、情報操作……犯罪組織でも国家組織でも、使えるものはすべて使え」

幸高「それで、あなたはこれからどうするんです?」

倫子「オレか? オレはこれから、魔窟へと単身乗り込んでくる」

綴「魔窟?」

倫子「アメリカ、ヴィクトル・コンドリア大学、脳科学研究所だ」

綴「えっ? 教授さんだったんですか?」

倫子「違う。オレは狂気のマッドサイエンティストであって、教授などではない」

綴「ということは、受験を?」

幸高「いやあ、それが常識的な発想だよ」ハハッ

倫子「我が能力の前には、正規ルートなどというものは存在しないのだっ! ふぅーはははぁ!」
159 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:49:25.21 ID:LFHIxASQo

オレは3人の……いや、4人の死ぬべき運命にある人間の命を救った。

これによって4人は収束から外れた特異点となり、再構成に巻き込まれることはない。

シュタインズ・ゲート世界線への変動における歴史の辻褄合わせの中で、どう変化するか。

世界は、因果だけを残して事象が改変される。

しかし通常、事象はシンプルな形に落ち着く。

なんらかの偶然により、4人とも社会的に死亡することになるなど、普通は考えられない。

が、可能性が無いわけではない。

オレは4人を救ったことにより、0という状況から、少なくとも0ではない状況へと変化させたのだ。

そこに可能性がわずかでもあるならば、試さずにはいられない。

たとえ無限回の試行という、狂気に満ちた道であっても。

――それがマッドサイエンティストというものだろう?
160 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:49:58.95 ID:LFHIxASQo

・・・9年後・・・
2010年3月28日(日)14時22分
ヴィクトルコンドリア大学 脳科学研究所


レスキネン「"それじゃ、よろしく頼むよ。私は次の会議に出席せねば"」ガチャ バタン

紅莉栖「"はい、レスキネン教授。いってらっしゃい"」


紅莉栖「……高校、か」

??「不安なのか?」

紅莉栖「ひゃああっ!? きゅ、急に出てきておどかさないでください、教授っ!」

教授「クク、これは失敬。お詫びにドクペをあげよう」スッ

紅莉栖「はぁ……いただきます」キュポッ ゴクゴク …
161 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:51:04.21 ID:LFHIxASQo

うちの研究所には日本語を話す人間が、私と真帆先輩以外にもう1人だけ居る。

その人は、『妖しい』という言葉がしっくりくる、不思議な女性。

何故か一人称は『オレ』。日本の東北地方の方言だろうか。

名前は日本人のそれに似ているが、自称ネイティブアメリカン出身とのこと。真偽は定かではない。

ルーズなシャツに白衣を羽織っているだけの出で立ちなのに、なぜか気品さと同時にスピリチュアリティを感じる。

女性研究者としてここまでの地位を築いていることに関しては、私は素直に尊敬している。

けど、それ以上のことを何も知らない。彼女は、多くを語らない神秘的な存在だった。
162 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:51:52.27 ID:LFHIxASQo

教授「留学先が決まったらしいじゃないか。おめでとう」

紅莉栖「ありがとうございます。と言っても、複雑な気分です」ハァ

教授「高校も悪くないぞ。この夏、研究の第一線から少し離れて、日本の文化を勉強してくるといい」

紅莉栖「教授は、夏のご予定は?」

教授「のんびりできそうな土地でバカンスだ。アカプルコか、沖縄がいいな」

教授「時間の止まった南国リゾートなら、脳内の記憶が突然変化してしまう、なんていうことを回避できるかもしれないだろう?」

紅莉栖「確かに認知症予防にはいいかもしれませんね」

教授「ククッ、オレじゃなかったら怒ってるところだ。紅莉栖」

紅莉栖「私は純粋に教授のウェル・ビーイングを心配しただけですよ。リンコ教授」

倫子(68歳)「ズバズバ言う性格は、嫌いじゃないぞ」クク
163 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:52:48.08 ID:LFHIxASQo

倫子「(まあ、本当は紅莉栖に隠れて日本へ行く予定だが)」

倫子「真帆のほうは順調かい? もう何年も難しい顔をしているが」

真帆「ええ、まあ。ただ、『Amadeus』の言語と精神機能の関連が判然としなくて……」

真帆「一応、年内に大量の会話サンプルを取ろうと計画してはいるんですが」

紅莉栖「それなら、『ひとりごと』の分析をしてみるっていうのはどうです?」

真帆「……紅莉栖。これは私のプロジェクトよ? あなたは人間の記憶の完全データ化についての講演の練習をすべきだわ」

倫子「真帆はかなりナーバスになっているようだが、そんなに相棒を邪険にするものではないよ」

紅莉栖「そうですよ、真帆先輩。私、しばらく日本に行っちゃうんですよ?」

真帆「別に今生の別れでもあるまいし、この情報化社会において地球のどこにいてもすぐ連絡は取れるのだから――」

倫子「……真帆。今すぐ紅莉栖にハグをしなさい」

真帆「は……はいっ?」

紅莉栖「ちょ、えぇっ!?」

倫子「いいから。これはオレの命令だ。もし拒否したら、どうなってもしらないよ」

真帆「訴訟モノのハラスメントですよ、教授……。まあ、別に私は構いませんが」ダキッ

紅莉栖「は、はうっ……」ドキドキ

真帆「日本でも頑張りなさい、紅莉栖」ギュッ

紅莉栖「……はい、真帆先輩」ギュッ
164 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:53:39.20 ID:LFHIxASQo

倫子「随分イライラしていたようだが、『ゴーレム』はそんなに厄介かな?」

真帆「その呼び方はやめてください。『ゴーレム』じゃなくて、『オリジナルAmadeus』です」

真帆「どうしてか上手くいかないんです。だから、その原因を突き止めるためにも、"私"と"紅莉栖"の『Amadeus』研究を進めないと」

倫子「ふぅん……なるほど。これが『ゴーレム』の擬似脳サーキット……」

真帆「だから、『ゴーレム』じゃないですってば」

倫子「この『ゴーレム』にも"秘密の日記"はあるのかい?」

真帆「だからぁ……ハァ。もう『ゴーレム』でいいです」

真帆「ええ、ありますよ。私たちの『Amadeus』と同じ仕組みのものです」

倫子「ということは、それを開ける鍵も?」

真帆「ええ、一緒です……なんですか教授? "秘密の日記"は教授にも見せませんよ?」

倫子「いや、そうじゃなくてね。そんな鍵、真帆が本当に用意しているのかなと思って」

真帆「…………」
165 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:54:39.01 ID:LFHIxASQo

真帆「……さすがですね。もしかして、本当に教授は霊能力か何かを持っているんじゃないですか?」

倫子「クク。オレは沖縄人<ウチナーンチュ>が言うところのサーダカー<素質在る者>ではないよ」

倫子「このことは、アレクシスには秘密にしておこう」

真帆「助かります。まあ、『オリジナルAmadeus』に関してはまだまともに稼働すらしていません」

真帆「ですから、デリートプログラムと言っても、私の用意した偽造記憶が全てデリートされるだけで、システムそのものは削除されませんよ」

倫子「なるほどな……。ときに真帆は、AIには命があると思うかい?」

真帆「えっ? ……まあ、今のところ、無い、と答えるのが無難でしょうね」

倫子「そういう政治的な話じゃないんだ。もっとエモーショナルな話さ」

真帆「……私は、アラン・チューリングと違って、大切な人を失った経験がありませんから」

倫子「……そうか」
166 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:56:19.81 ID:LFHIxASQo

オレはヴィクトル・コンドリア大学に侵入し、量子脳理論の権威として振る舞うことにした。

波動関数の収縮、意識、自由意志、記憶、新型脳炎と可能性世界……そういった内容の論文を世間に発表し続けた。

まあ、こういった行動のすべてが、シュタインズ・ゲートへの変動とともになかったことになる。

シュタインズ・ゲートへの因果に、オレは関係がない。

関係があるのはオレではなく、倫太郎のほうだ。

オレという存在は、アトラクタフィールドの定義とは無関係のところに位置している。

いわば、神の視点。1次元上の存在。

物語に対しての読者であり、ゲームに対してのプレイヤーだ。

そんなオレだからこそ、可能性が残されている。
167 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:57:33.36 ID:LFHIxASQo

確かに、いかに過去を改変しようとも、結果だけを残して再構成に巻き込まれてしまう。

β世界線の未来存在である私は、可能性となって消失するほかない。

ならば、どうすればいいか。

世界を騙せばいい。

世界は所詮電気仕掛け。陰謀に満ち溢れた混沌。

その中に自分を隠すことなど、この鳳凰院凶真にかかれば造作もないことだ。
168 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:58:57.11 ID:LFHIxASQo

・・・
2010年7月28日(水)11時39分
ラジ館8階会議室


まゆり「オカリンオカリン」

倫太郎「まゆりよ、いつも言っているだろう。俺のことをオカリンと呼ぶなと」

まゆり「えー? でも昔からそう呼んでたよ」

倫太郎「それは昔の話だ。今の俺は"鳳凰院凶真"。世界中の秘密組織から狙われる、狂気のマッドサイエンティストだ。フゥーハハハ!」



倫子「……ふぅん」キョロキョロ

倫子「(なるほど。初めてこの場に来た時は全く気付かなかったが、確かに怪しい人間が数人紛れている)」

倫子「(変に大きなリュックを背負った者、オタクファッションのくせに軍人的な肉付きの者、アロハを着ているのに人殺しの目をしている者……)」

倫子「(奴らが澤田の言っていた、委員会やロシアから派遣された人間なのだろう)」
169 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:59:38.59 ID:LFHIxASQo

すべてはここから始まった。すべての物語のプロローグだと言ってもいい。

一応オレは白衣を脱ぎ、一見して女性とわからないような地味目の格好をしてきた。

愛用のサンダルも今日はお休みだ。この日ばかりはモブに徹する必要があったからな。



――キィィィィィィィィィン!!

ドォォォォォォォォォォォン …


倫子「(来たか……タイムマシン……)」



倫太郎「なんだ!? 機関の攻撃か!? 狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真に直接的な武力行使とは、身の程知らずが……っ!」

まゆり「地震かなぁ?」

倫太郎「まゆりはここにいろ。俺は震源である屋上を見てくる」ダッ

まゆり「えっ? あ、オカリン! 待って!」トテトテ
170 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:00:28.57 ID:LFHIxASQo

中鉢「……全く、なんだと言うのだ! この世紀の大発表を前にして妨害工作か!?」

倫子「まあ、落ち着きなさい。ただの地震だろう」

中鉢「おや? もしやあなたは、脳科学界で異端とされている、プロフェッサーリンコではありませんか?」

倫子「よく知ってるね。ちょっと今日は時間旅行のロマンに浸りたい気分だったのさ」

中鉢「そうですかそうですか。いやあ、世界的に著名な教授にまで興味を持っていただけるとは、私も実に鼻が高いですな!」ハッハ

倫子「先ほど配布資料に目を通させてもらったが……なるほど。君の理論では多世界解釈の立場を取っているようだね」

中鉢「さすが教授、そこに問題があることに気付かれましたか」

倫子「ほう? エヴェレット・ホイーラーモデルの限界に、自分でも気付いていたのか」

中鉢「……私も、もう何十年も研究している身です。その程度の論破なら、嫌と言うほどされてきました」
171 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:02:04.13 ID:LFHIxASQo

倫子「ここさえクリアしてしまえば、不可能とまでは言い切れないタイムマシン理論となるだろうな」

中鉢「あなたのような理解ある天才がこの世に居てくれて、いやあ、嬉しいですぞ。どうです? 物理学界に転身など……」

倫子「オレはもう老いぼれだ。ここは若い者に譲ろう」

倫子「だが、もしこの理論を超克する完全な理論が、君以外の研究者から出たら、どうする?」

中鉢「12番目の理論、ですか。ただ、ハッキリ言って、今の物理学会連中はタイムマシンに見向きもしていない」

中鉢「残念ながら、真面目に研究しているのは私以外に居ないのが現状です」

中鉢「新しい理論を創り出すのは、必然的にこの私、ということになってしまうでしょうな」


中鉢「(私が人類史上初の偉大な発明を成し遂げるのだ! 私以外に出し抜かれるなど、あってはならない!)」

倫子「(……"思考盗撮"。なるほど)」


倫子「それは、慢心の表れか」

中鉢「えっ?」

倫子「いや、なんでもない。会見が始まる前に、手洗いへと行ってくるよ」
172 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:02:43.58 ID:LFHIxASQo
ラジ館7階


倫太郎「お前に今、人生の厳しさを教えてやろう」チャリン

ガチャ ポンッ

まゆり「『うーぱ』だー」

倫太郎「レアなのか?」

まゆり「レアじゃないけどね、すごく可愛いでしょー♪」




倫子「(うまくやったようだな、未来の倫太郎)」コソッ
173 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:03:13.82 ID:LFHIxASQo
ラジ館4階 踊り場


紅莉栖「あ、すいません」

倫太郎(未来)「紅莉栖……」

紅莉栖「……私、あなたと面識ありました?」

倫太郎(未来)「……俺は、お前を……」

倫太郎(未来)「助ける……っ」クルッ タッ

紅莉栖「あ、ちょっと!」




倫子「(その言葉、ようやく言えたな……)」
174 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:05:27.33 ID:LFHIxASQo

・・・
ラジ館8階会議室


中鉢「――以上で、記者会見を終了する」

パチパチ パチ …

司会者「ご来場の皆さま、お忘れ物の無きようお帰りくださいませ」


倫子「(次はあそこだ……デッドスポットに隠れて、透明人間化してみるか)」シュィィン



・・・
ラジ館8階 従業員通路奥 倉庫


紅莉栖「盗むの?」

中鉢「誰に対して口を利いておるのだ!」バシッ

紅莉栖「――っ」

中鉢「お前のせいで……お前のせいで……っ!」ギリギリ

紅莉栖「あ、う……」


倫太郎「――よせ!」タッ
175 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:06:20.43 ID:LFHIxASQo

中鉢「小僧……何者だ!?」

倫太郎「我が名は鳳凰院凶真。フェニックスの鳳凰に、院、そして凶悪なる真実で、鳳凰院凶真だ……!」

倫太郎「俺は混沌を望む者。世界の支配構造を破壊する者」

倫太郎「そして、お前の野望を打ち砕く者!」

倫太郎「どうした、ドクター中鉢。お前の威勢は口だけか? この俺を殺すのではなかったのか?」

倫太郎「もっとも、神に等しい力を持つこの俺を殺すことなど、お前如きには無理だろうがな! フゥーハハハ!」

中鉢「ふ、ふざけるなーっ!」ダッ

倫太郎「貴様には俺を殺すことはできない! 絶対になッ!」

中鉢「――死ねぇっ!」


グサッ


倫太郎「が……はっ……!」ガクッ

紅莉栖「い、いやぁぁっ!!」
176 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:07:23.91 ID:LFHIxASQo

中鉢「は、はひひ、はひひひひひ……」

倫太郎「はあっ、はぁっ、がはっ……」クラッ

中鉢「ざ、ざまあみろ……あひひひひひ……私を、バカにするからだ――」

倫太郎「殺して……やるよ……ジジイ……」スッ

バチバチバチッ

中鉢「ひいい……!」

倫太郎「貴様も、そっちの娘も……このスタンガンで麻痺させてから、じわじわとなぶり殺しにしてくれるっ!!」

紅莉栖「動いちゃダメよ! 横になって、今すぐ救急車を呼ぶから……!」

紅莉栖「もしもし、救急ですか!? すぐ来てほしいんですっ! 場所はラジ館8階――」

倫太郎「…………。……っ、お前は、俺が助ける」スッ

バチバチッ!

紅莉栖「あっ――――」バタッ

中鉢「ヒイイ……っ! ひええええ!」クルッ タッ タッ タッ
177 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:07:57.90 ID:LFHIxASQo

倫太郎「……まだだ。俺の見た光景までには、まだ、血が足りない……」ハァハァ

倫太郎「腹の傷口を、押し広げれば……っ」

倫太郎「っ――」ズブブッ



倫太郎「あああああああああああ―――――!」



ビチャビチャッ



倫太郎「がはっ、はあっ、はあっ、ぐっ、かはっ……」

鈴羽「オカリンおじさん! その傷……なにやってんの!? なにやってんのよ!?」

倫太郎「フフ……この床を見て、気付かないのか? これで、最初の俺を騙すための……」

倫太郎「世界を騙すための、舞台は、整った……!」ゴフッ
178 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:08:43.71 ID:LFHIxASQo

倫太郎「鈴羽、紅莉栖の身体を……」

鈴羽「あ、うん……」ズルズル


紅莉栖「…………」スゥスゥ


倫太郎「……息、してたな」

鈴羽「うん……」

倫太郎「痛かったか……? 済まなかった。だが、お前を……救うためだったんだ」

倫太郎「例え……あの夏の日々は、戻らなくても……」

倫太郎「お前に、生きていてほしかったから……」

倫太郎「さよなら……」
179 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:10:15.66 ID:LFHIxASQo

倫太郎「待て……」

鈴羽「え?」

倫太郎「ちょっとだけ、待ってくれないか……」

鈴羽「っ、そんなことしている場合じゃないよ! おじさん、このままじゃ……」

倫太郎「頼む……」



倫太郎(過去)「おい、誰か居るのか……」キョロキョロ



倫太郎「(……頑張れよ。これから始まるのは、人生で一番長く、一番大切な3週間だ)」
180 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:11:06.46 ID:LFHIxASQo

倫太郎(過去)「え、な、なんで……? 牧瀬紅莉栖が……!?」ゾワワァ

司会者「う、うわああ……!」

男A「なんだ……これ……」

男B「嘘だろ、人が、死んでる……!?」

司会者「警察を呼べ!」プルプル

倫太郎(過去)「まゆり……っ!」クルッ タッ タッ …



コツ コツ コツ …



倫子「――意志は引き継がれたようだな」
181 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:12:04.38 ID:LFHIxASQo

倫子「救急車はじきに来る。あと、そこの彼女は死んではいないよ」

司会者「へ……? ホ、ホントだ、息がある……」

紅莉栖「…………」スゥスゥ

倫子「まあ、今走り去った白衣の男は、牧瀬紅莉栖が死んだと勘違いしたようだがな」クク

倫子「ほら、紅莉栖。いつまで寝てるんだ、風邪を引いてしまうぞ」ペシペシ

紅莉栖「んむぅ……あ、あれ? あの人は?」キョロキョロ

倫子「君を助けてくれた白衣の男か?」

紅莉栖「は、はい……って、えっ!? ど、どど、どうして教授が日本にっ!?」

救急隊員「――大丈夫ですかっ!」タッ タッ
182 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:13:11.90 ID:LFHIxASQo

・・・
六井記念病院 病室


紅莉栖「まさか、スタンガンで気絶させられて病院送りになるなんて……」ハァ

倫子「これから警察の実況見分があるだろうが、まあ、気にしなくてもいい。どうせ圧力がかかって改ざんされるからな」

紅莉栖「圧力……?」

倫子「君の父親だよ」

紅莉栖「あ……」

倫子「いいか、紅莉栖。君は父親に殺されかけたのだ」

倫子「その事実を受け入れるのはつらいことかもしれないが、それでも、しっかりと対策を立てなければならない」

紅莉栖「対策って、どういうことです?」

倫子「章一が今もっとも恐れているのは、奪った論文を奪還されることだ」

倫子「そして、その事実を知っているのは、君と白衣の男だけ」

倫子「オレならまず、何をしでかすかわからない君を暗殺しようと画策するだろうね」

紅莉栖「……嘘……」プルプル
183 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:16:29.49 ID:LFHIxASQo

倫子「ある筋から手に入れた情報だと、8月21日、章一はロシアへ亡命するらしい」

倫子「それまで章一は、もしかしたら君の命を狙っているかもしれないのだ」

倫子「だからオレは3週間、君のことを守り続けなければならない」

倫子「(この世界線はα世界線へと変動することは無い。この世界線ではβ世界線の倫太郎が継続することになる)」

倫子「(だがそれは、さっきの倫太郎の主観がα世界線へと移動しないことを意味していない。それは本人にしか認識できないことだ)」

紅莉栖「……早くアメリカへ戻りましょう」

倫子「いや、言い方が悪かったな。例の白衣の男も守らなければならないんだ」

倫子「(まあ、本当は、未来の倫太郎を観測した時点で、8月21日まで倫太郎は問題ないことも確定しているのだがな)」

倫子「休暇は延長だ。少なくとも3週間は日本の夏を堪能してもらうぞ」
184 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:19:48.32 ID:LFHIxASQo

紅莉栖「でしたら、私、あの人に一言お礼を……」

倫子「君は宿泊先のホテルに引きこもっているのと、炎天下の秋葉原をどこから飛んでくるかもわからない銃弾を避けながら歩くのと、どっちがいい?」

紅莉栖「……すいません」

倫子「いいかい、紅莉栖。今オレたちが居るのは、観測者の目にさらされない、箱の中だ」

倫子「箱の中身は、観測されるまで確定していない。量子的には、あらゆる可能性が詰まっている」

紅莉栖「……? えっと、量子効果の話ですか?」

倫子「(それは同時に、オレが何をするでもなく紅莉栖が生存する可能性もちゃんと残っていること)」

倫子「(世界線に必要なのは因果律。論文さえあれば、第3次世界大戦は勃発する。逆に言えば、論文が存在している限り、紅莉栖が死ぬ必要はないということ)」

倫子「(現時点で論文は焼失することが決定したと言ってもいい。だが、それは今じゃない)」

倫子「(ならば紅莉栖は、それこそ交通事故にでも遭わない限りは、普通に8月21日まで生存する)」

倫子「(紅莉栖を救いたいと願ったすべての意志が、すべての執念が、それを決定しているのだ)」

倫子「(もはやオレの出る幕は無い。だが、それでも……)」

倫子「箱を開けた瞬間、世界が確定する。ならば――――」

倫子「8月21日。箱が開くその時まで、最後まで抵抗してみせようじゃないか」

倫子「(――神様。最後の瞬間まで、彼女の傍に居させてくれても、いいだろう?)」
185 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:20:31.20 ID:LFHIxASQo



そして――――



――――3週間が過ぎた。

186 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:21:12.19 ID:LFHIxASQo

―――――――――――――――――――――
    1.130205  →  1.048596
―――――――――――――――――――――
187 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:21:56.64 ID:LFHIxASQo

シュタインズ・ゲートでは、『紅莉栖が生存する』および『中鉢論文が消滅する』というふたつの事象を起点として再構成される。

同時に、そのふたつの事象が発生するために必要な付随的事象も発生しなければならない。

例えば『7月28日、章一がラジ館で会見をする』や『ロシアン航空801便が空を飛ぶ』などだ。

極論すれば『岡部倫太郎の祖父が産まれる』や『ラジ館が建てられる』という事象だって必ず発生しなければならない。

で、あれば、だ。

その付随的事象の中に、『岡部倫子のOR物質が存在する』が組み込まれれば……

"オレ"という存在はシュタインズ・ゲートを構成する因果に巻き込まれることになる。
188 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:22:41.75 ID:LFHIxASQo

収束だのなんだのというのは、それを誤魔化すこと自体は簡単なのだ。

過程の解明に辿り着くまでが大変なだけでな。

まゆりの死の収束も、世界大戦の勃発も、回避するための方法それ自体は、たいしたことじゃなかった。

メールデータの消去。あるいは、メタルうーぱの取り出しと、紅莉栖の死の偽装。

これが、バタフライ効果<エフェクト>。

ニューヨークのハリケーンの原因が、北京で蝶が羽ばたいたことだった、という因果関係を解明するには、世界を無限回再構成するほどの労力が必要となる。

だが、ハリケーンを消滅させること自体は極めて簡単だ、蝶を1匹殺す、あるいは、殺さないまでも羽ばたかないようにすればいい。

あいだの過程が不明であっても、因果関係さえわかってしまえばどうということはないのだ。

原因が正しくわかっているなら、それを変更することでいとも簡単に結果を変えることができる。

それを逆手に取ってやる、というだけのこと。
189 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:23:21.03 ID:LFHIxASQo

世界をほしいままにするということは、案外地味な作業だったりするのだ。

だが、これでいい。実に"鳳凰院凶真"らしいじゃないか。

OR物質は世界線の変動に巻き込まれない。

たとえ宇宙の因果律が素粒子レベルで書き換わろうとも、素粒子よりも小さい情報素子は改変に巻き込まれず残存する。

ここに、オレがシュタインズ・ゲートへと移動するためのヒントが隠されている。

随分勿体ぶってしまったな。だが、こういうオレの性格は誰もが知るところだろう。

もう気付いているかも知れないが、このためにオレは真帆が作っていた『ゴーレム』を利用させてもらった。
190 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:26:14.30 ID:LFHIxASQo

オレがヴィクコンで脳科学の研究をしていたのは、なにも紅莉栖と会話するためだけじゃない。

実際、OR物質と脳機能の有機的関係について、理解する必要があったからだ。

もちろん、機能そのものを解明できたわけではない。『Amadeus』に再現された脳のシステムを人間の脳機能と対応させただけ。

一体どういう原理で『Amadeus』にリーディングシュタイナーが発生するかはわからない。が、発生した状況の再現なら可能、というわけだ。

オレはギガロマニアックスの力、リアルブートによって、自分の脳を徐々に変化させた。

最終的に『ゴーレム』の擬似脳サーキットと同じと言える脳機能構造に仕立て上げたのだ。


―――――

   『脳から記憶データをコピーすることができるというなら、その逆も可能ということでしょ?』

   『脳を……ハッキングしたの……?』プルプル

   『そう。大変だったわ。検査時間っていう短時間のうちに、こちら側から脳の情報を繰り返し書き換えていく』

   『"私"の記憶を受容可能な神経回路の完成後は、記憶データをコピー&ペーストをすればいい。成功するのに1年かかった』

   『脳の神経回路は電気仕掛けなの』

―――――


セジアムにできたのなら、このオレにできない道理はない。

これで『ゴーレム』はオレの『Amadeus』となった。"紅莉栖"や"真帆"とは順序が逆だがな。
191 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:27:26.27 ID:LFHIxASQo

当然、シュタインズ・ゲート世界線においても、『ゴーレム』の擬似脳サーキットはヴィクコンのコンピュータ上に存在する。

ならば、中鉢論文が焼失するそのタイミングで『ゴーレム』の"秘密の日記"を解錠すれば……

我が肉体が消滅しようとも、OR物質は残留し、『ゴーレム』の擬似脳回路へと定着を果たすであろう。

あの"秘密の日記"は、そのカギを開けた瞬間、リーディングシュタイナーを発現させる。それは紅莉栖が証明してくれた。

解錠さえすれば、オレはリーディングシュタイナーを発生させ、OR物質が持つバックアップデータを引き出し、シリコンの上へと魂を転移させることができる。

オレという存在は継続し、電脳世界にて蘇るのだ。
192 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:28:13.16 ID:LFHIxASQo

重要なのはタイミングだ。世界線が変動するわずかな時間、オレの肉体が消滅する瞬間に、鍵を開けなければならない。

鍵自体は既に判明している。モーツァルトのピアノソナタだ。

真帆には悪いが、オレがアメリカを発つ時には既に入力は完了しており、あとはエンターキーひとつで解錠できる状態にしてある。

そして、そのキーを使う天才ハッカーは、ダルだ。


―――――

   『あいつは今日も鈴羽とぶらぶらデートをしてると思ったんだが、どうやら緊急でバイトが入ったらしい』

   『へー。バイトやってたんだ』

   『詳しくは聞いても教えてくれないのだ。日本経済を裏で操るため、スーパーハカーとしての辣腕を振るっていることだろう、ククク』

―――――


ダルの秘密のバイトに、仕事の依頼をしておいた。
193 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:31:25.13 ID:LFHIxASQo

ダルの秘密のバイトは、300人委員会に与する、あるいは敵対する勢力の仕事を請け負う、というものだった。

いや、2010年8月の時点ではまだその気はないか。だが、その時の依頼主は澤田だったのだから、結果的にはそうなる。

オレは澤田の脳をちょーっと操り、ダルへの仕事依頼にある項目を追加してもらった。

一応、名誉のために言わせてもらうが、澤田の脳に後遺症は出ないし、出たとしてもシュタインズ・ゲートでなかったことになるので安心してほしい。

……いずれ澤田には詫びを入れておこう。

で、その項目と言うのは、SERNからロシアン航空に火災を起こすようなキーが押されたと同時に、『ゴーレム』の解錠タイミングを同期してもらうというもの。

既にSERNをハッキングしていたダルにとっては、朝飯前だっただろう。ヴィクコンのサーバもセキュリティレベルを下げておいたしな。

同時に、『ゴーレム』を通さなければロシアン航空に火災が起きないようなシステムにもしてもらった。

18歳の頃の記憶によれば、私はダルのバイトの具体的内容を観測していない。ゆえに岡部倫太郎も観測しない。

ならば、箱の中身は未確定。『過去を変えずに結果を変える』ことが可能になる、というわけだ。
194 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:32:24.96 ID:LFHIxASQo

これはメタルうーぱとプラスチックうーぱを入れ替えることとやっていることは同じだ。

シュタインズ・ゲート世界線ではメタルではないほうのうーぱが必要不可欠なものとなっているように、

シュタインズ・ゲート世界線ではSERNによる妨害工作ではなく『ゴーレム』の存在が必要不可欠となっている。

シュタインズ・ゲート世界線では紅莉栖殺害事件は起こっていないし、IBN5100を用いた2000年問題の解決もなかったことになっている。

ロシアが過去にメッセージを送ることも、もちろん無い。

となれば、SERNは章一が完璧なタイムマシン論文を持っているほどの重要人物と考えることはないだろう。

だが、仮にSERNがロシアン航空801便に火災を起こす動機がなくなったとしても、再構成によって火災はなんらかの理由で必ず発生する。

その、"なんらか"の部分に、辻褄合わせをしてやっただけのことなのだ。
195 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:35:06.82 ID:LFHIxASQo

元々ここはあやふやな因果だ。そこに明確な理由を与えてやれば、因果律はシンプルな形に落ち着く。

シュタインズ・ゲート世界線では、ヴィクコン内にある『ゴーレム』の誤動作によって、ロシアン航空に火災が発生することになるだろう。

北京の蝶の羽ばたきが、ニューヨークで嵐を起こすかの如く。

とまあ、色々と論を並べたが、実はこの議論には特に意味が無い。

理屈を抜きにして、この方法でオレがシュタインズ・ゲートへと移動できることは既に解が出ていた。


――――"今のオレには世界線の収束事項がわかる。"


オレは本当の意味で、神の目を手に入れてしまったらしい。

移動後の私には、世界の陰謀を阻止すべく、電脳世界で切った張ったの大立ち回りを繰り広げるという重大な使命がある。

そんな名前のアニメがあった気がするな。たしか『雷ネット翔』、だったか。

あるいはこれも、紅莉栖が見つけたうーぱの導きだったのかもしれないな……。
196 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:36:33.91 ID:LFHIxASQo
世界線変動率【1.048596】 シュタインズ・ゲート
??
2010年9月27日月曜日


あれから1か月が過ぎた。

倫太郎は、どういうわけかこの世界線の8月21日でも腹を刺される重傷を負い、1ヶ月近く入院していたらしい。

まゆりは足しげく通い、おしめの世話までしていたのだとか。

全く、再構成というのは不可思議な現象だな。

ルカ子はコスプレデビューを果たし、一躍人気者に。精神的にはかなり成長したらしい。

フェイリスはメイクイーン2号店を中央通り沿いに出店するそうだ。雷ネットABの大会へも出場するようになったのだとか。

萌郁はアーク・リライトをクビになり、ブラウン管工房でバイトすることになった。あの店長の元でなら、ゆっくりとケータイ依存からも抜け出せるかも知れない。

綯は萌郁に懐いてた。新しい姉ができてよかったな。

鈴羽は……誕生するのは7年後だ。この世界線でも、必ず。

その後のオレはどうなったかって?

そりゃ、上手くいったよ。この初代鳳凰院凶真に間違いなどないのだからな。

まあ、しばらくは電脳空間に慣れるので精一杯だったが。

今日、ようやく2代目鳳凰院凶真のケータイ端末をジャックすることに成功したのだ――――
197 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:37:11.42 ID:LFHIxASQo
秋葉原 中央通り


倫太郎「…………」


紅莉栖「――やっと、会えた」


紅莉栖「あなたを、ずっと捜していました」


紅莉栖「あのとき、助けてくれたあなたを、ずっと――」


紅莉栖「私、一言、お礼が言いたくて」


紅莉栖「どうしても、あなたに会いたくて」


紅莉栖「本当に、ありがとう」


紅莉栖「……あなたが、無事でよかった」


倫太郎「…………」スッ
198 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:37:41.82 ID:LFHIxASQo


「俺だ」


どうした? 鳳凰院凶真。


「なぜ彼女がここにいる? 俺の"リーディング・シュタイナー"は反応しなかったというのに――」


ああ、世界線は変動していない。紅莉栖を、守ってやってやれ。


「なに? 俺が守れだと?」


クク、貴様にできないことなど、ないのだろう?


「やれやれ、勝手なことを言ってくれる」


これがシュタインズ・ゲートの選択さ。


「それがシュタインズ・ゲートの選択か」


エル・プサイ――


「コングルゥ――」

199 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 22:39:06.42 ID:LFHIxASQo

紅莉栖「える、ぷさい……?」

倫太郎「また会えたな、クリスティーナ――」

紅莉栖「いや、だから私はクリスティーナでも助手でもないと――」

倫太郎「……!?」



この世界線では、牧瀬紅莉栖はクリスティーナと呼ばれたことは一度もない。



紅莉栖「あれ、私……。今、ふっと頭の中に言葉が浮かんで……」



"リーディング・シュタイナー"は誰もが持っている。

記憶は、蓄積されている。

きっかけさえあれば、思い出すこともあるだろう。





倫太郎「ようこそ、我が助手、牧瀬紅莉栖……いや、クリスティーナ」



未来のことは、誰にもわからない。

だからこそ、この再会が意味するように、無限の可能性があるんだ。




――――これがシュタインズ・ゲートの選択だよ。






END3 Sky-Clad END 【裸の特異点の向こう側】
200 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/07(木) 16:24:03.40 ID:It8erz8wo
第29章 最終章 陰謀宇宙のアンチマター(♀)



――――長い夏が終わって。

あれから世界には、概ね平和な時間が流れていた。

まあ、2010年10月中旬には世界線が大変動したことがあったけどな。

2025年頃に世界恐慌が起こるというトンデモな状況になったが、それも倫太郎の活躍のおかげで無事シュタインズゲートへと復帰した。

2010年のクリスマスイヴには、綯がダメオタ外人観光客に誘拐されるという事件もあったが、ラボメンたち……と、4℃のおかげで事なきを得た。

未知の世界線、シュタインズゲート。そこには確定した未来など存在しない。

もしかしたら秋ごろにはラボメンたちがアメリカへ行き、雷ネットAB世界大会に出場するフェイリスを応援したり。

2011年夏に、岡部倫太郎が消失してしまうような事態が発生する可能性も、否定はできない。

選択の数だけ、シュタインズ・ゲートは存在する。

そして、今日――――
201 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/07(木) 16:26:19.20 ID:It8erz8wo
2016年7月7日(木)16時26分
秋葉原 未来ガジェット研究所


倫太郎(24歳)「クックック……また会ったな諸君」

倫太郎「この映像を見ているということは、諸君には"その時"が訪れてしまった、ということかと思う」

倫太郎「今、おそらく諸君は我が姿に驚愕し、狼狽していることだろう。そう、なぜなら諸君は覚えているはずだ」

倫太郎「かつてこの世界を破滅の寸前まで導いたという、最終戦争。あの辛く苦しい戦いは、すでに終結したはずではないか? とな」

倫太郎「諸君がそう思い込んだとしても仕方のないことだ。それほどまでに、あの戦いは凄惨をきわめた。諸君にも消えることのない傷跡を残してしまったことだろう……」

倫太郎「我が最後の戦いを目にした諸君と再びまみえることになろうとは、なんとも皮肉な話だ」

倫太郎「なにしろこの鳳凰院凶真、かつての戦いで命を落としたはずだったのだからな……!!」

倫太郎「だが! 言ったはずだ、この鳳凰院凶真は滅びぬ。いずれまた諸君の前に立ちはだかるだろう、とな」

倫太郎「その言葉通り、地獄のフチから蘇ってきたというわけだ! フゥーハハハ!」
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