岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その4

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2 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:20:08.38 ID:hqUsDMANo
・・・13年後・・・
2025年8月13日水曜日
元ラジ館屋上 ワルキューレ基地


フブキ「いやーしっかし、かがりちゃんも随分色っぽくなりましたねぇ!」

かがり「え、えと、そう、ですか?」

フブキ(セジアム)「ホント、出るとこ出ちゃって。牧瀬紅莉栖のDNAを受け継いでいるなんて信じられないわ」

ダル「突然変異じゃね?」

鈴羽「かがりおねーちゃん、とつぜんへんいってー?」

かがり「えっとね、橋田さんからスズちゃんみたいな美人さんが生まれること、かな?」

ダル「ぐはー、容赦ねぇっす。これでも最近筋トレしてるんだけどな」

由季「三日坊主にならないよう、応援してますね」

ダル「愛しのワイフに応援されたら、やる気100倍なのだぜ」ムハー

フブキ(セジアム)「フブキの身体は貧相のままよね」ハァ

フブキ「ざ、残念そうな顔をするな、私!」

倫子「(……フブキはまるで一人芝居をしている。入院していた頃の私のようだ)」

真帆「岡部さんもあれから15年経って、随分色気を増したじゃない?」

倫子「"クリス"は相変わらず合法ロリだがな」

真帆「もう35なのに私……」ガクッ
3 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:21:16.43 ID:hqUsDMANo

あれからというもの、オレたちはひたすら研究に打ち込んだ。

いや、実際は打ち込める状況などではなかったのだ。世界中の治安が悪化し、気付いた頃には世界大戦が始まっていた。

世界中の組織がタイムマシンの残り香を血眼で捜索しており、オレたちは自分たちの身を守ることで精いっぱいだった。

そんな中にあっても、オレたちの研究は飛躍的に進歩した。

ある時は敵の研究所からデータをハッキングし、またある時はスパイを送り込んだ。

リスクを負わなければ、望んだ結果を掴むことはできない。

すべての世界線のすべてのオレが望んだ、唯一絶対の答えのために。

紅莉栖を救うために。

"今"に至る道のりは、きっと"オレたち"の執念の収束だったのだろう――――
4 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:22:16.20 ID:hqUsDMANo

真帆はコードネームとして"クリス"を選んだ。その真意は彼女しか知り得ないところだ。

もしかしたら、これから牧瀬紅莉栖を救うために動く鈴羽に、"クリス"という名前にリアリティを持ってもらうためだったのかもしれない。

が、オレにとっては世界に対する挑発のように思えた。

この第3次世界大戦は、牧瀬紅莉栖という天才少女をキッカケに勃発したと言っても過言ではない。

そんな世界において"クリス"の名を自称すること――

まるで、紅莉栖はまだ生きてるぞ、と、世界へ警鐘を鳴らしているかのようだった。

事実、紅莉栖はまだオレたちの中で生きている。

ワルキューレ最大の目的は、牧瀬紅莉栖を生存させること。

シュタインズ・ゲートへと辿り着くことなのだからな。
5 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:23:51.27 ID:hqUsDMANo

倫子「"クリス"と言えば……例のブツは手に入れたか?」

真帆「ええ。ワルキューレ精鋭部隊に、ヴィクコンの精神生理学研究所から盗ませた」

真帆「今はまだ装置の中で妊娠1ヶ月程度の状態らしいわ。話に聞いただけじゃ、一体どうやって産まれてくるのか見当もつかないけれど」

倫子「これでこの世界線で誕生する"かがり"も洗脳されずに済むな。偽のPTSDを植え込まれることもない」

かがり「この世界線の"私"……。私がしっかり、ママになってあげなくちゃ……!」

由季「家族が増えますね」ニコ

倫子「きっと米軍は"かがり"を取り返しにくるだろう。クリス・プロジェクトは消滅したわけではないからな」

倫子「オレたちの手で、絶対に守ってやらねばならぬ。いつかまゆりに会わせるためにも……」

鈴羽「リンリン、かっこいい!」キラキラ

倫子「(どういうわけか鈴羽はオレに懐いてしまったな……これもまたシュタインズ・ゲートの選択……)」
6 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:29:52.44 ID:hqUsDMANo

フブキ(セジアム)「そのためのガジェット……ダイバージェンスメーターやトレーサーの開発も順調よね」

倫子「ああ。ジョン・タイターの書き込みの通りに作ったら、思いのほか簡単に作れたな」


   『世界線ごとに異なる物理的情報がどこかにあって、それを検知してる、ってことよね? 温度計や気圧計みたいに』


倫子「(α世界線の紅莉栖が推測していた通り、ダイバージェンスメーターは世界線ごとに特有の情報を検出する装置だ)」

倫子「(その情報とは、"重力波")」

倫子「(重力波とは、いわば時空のゆがみのこと。物体が運動をすると、周りの歪んだ時空が波の宇宙空間に広がってゆく)」

倫子「(ありとあらゆるものを貫通し、減衰しないという性質がある。当然これは、因果律の大きく異なる世界線ごとに固有のパターンを示すことになる)」

倫子「(1916年にアインシュタインがその存在を予言したものであり、一般相対性理論に必要な要素でもある)」

倫子「(2015年に人類が初めて重力波を観測してからは、その研究は加速度的に進んでいた)」

倫子「(現在では、一辺が数kmに及ぶマイケルソン干渉計など用いずに重力波を観測することができる)」

倫子「(また、例のタイムマシンおよびダイバージェンスメーターのサイズであっても局所重力正弦波を発生させることが可能となった)」

倫子「(まあ、"発生"自体は2010年7月には既に成功してるんだけどな。要は特異点を超高速回転させることでカー・ブラックホール効果を再現するだけだ)」
7 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:31:41.48 ID:hqUsDMANo

真帆「タイムマシンはDメールやタイムリープとわけが違う。ブラックホール生成装置自体を過去へと送ることになる」

真帆「だから、自身が見知らぬ時空へと放り出されないように制御する技術――VGL<ヴァリアブルグラビティロック>の開発は必須だった」

ダル「うん。時間移動する前に局所重力の基礎読み込みを行って、ティプラー正弦波をその位置にロックする」

ダル「搭載された4個のセシウム時計と重力センサーからの神郷を受け取って、3台の量子コンピューターが正確な計算を行い、タイムマシンを望んだ場所へと運んでいく」

倫子「全くもってジョン・タイターの予言通りのシロモノが出来上がった、というわけだ」

鈴羽「じょん、たいたー?」

倫子「そうだ。オレに初めてタイムマシン理論を教授してくれた、とってもカッコイイ人なんだぞ」ナデナデ

鈴羽「えへへ、くすぐったい!」

ダル「VGL開発の過程で、オカリンのリーディングシュタイナーと組み合わせれば、ダイバージェンスメーターが完成したってわけっすな」

鈴羽「だいばーじぇんすめーたー?」

倫子「これも元はジョン・タイターから譲り受けたものだ……」ナデナデ
8 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:32:51.85 ID:hqUsDMANo

倫子「(ダイバージェンスメーターの使い方はこうだ)」

倫子「(まず、起点となる世界線の局所重力の読み込みを行う。どこかの可能性のオレが決めた0%を基準に考えることになる)」

倫子「(2010年に登場したタイムマシンに搭載されていたメーターの数値は、ダルの話によれば1.13209%だ。この世界線ではこれを利用する)」

倫子「(時間移動後に局所重力正弦波を発生させ、重力歪曲装置で観測変数を調べ、地域重力をサンプリングし、基準値との差異を変動率に変換して数値化する)」


    【1.132090】


ダル「小数点第6桁まで表示されるよう改良できたお。とりあえず表示は0にしてみたけど」

倫子「常に魔改造する精神には見上げるものがあるな」ククッ

真帆「だって、ひとつ前の世界線と同じ技術レベルじゃ、悔しいじゃない?」

鈴羽「父さんも、クリスも、リンリンもすごーい!」

倫子「"今後のオレ"が手にするダイバージェンスメーターは7つの数の並びになるのだな」
9 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:34:50.83 ID:hqUsDMANo

倫子「……この数字を見る限り、α世界線漂流の後の最初のβ世界線の数値に近い。最初の紅莉栖救出の時、オレが鈴羽のタイムマシンの中で見た数値に、だ」

フブキ(セジアム)「その世界線変動率<ダイバージェンス>の差は、0.00004%ということになるのかしら」

倫子「結局オレは、β世界線を漂流して戻ってきただけ、なのだな」

倫子「だが、無駄ではなかった。諦めの世界線の中でオレは、確定した執念を手に入れることができたのだから」

倫子「このβ世界線漂流は、なかったことにしてはいけない。この意志をムービーメールとして、過去の"俺"へと引き継いでもらおう」

倫子「それに、演算によってシュタインズ・ゲートとされる世界線の世界線変動率<ダイバージェンス>は既に割り出されている」

真帆「変数自体はシンプルよね。2010年8月21日、牧瀬紅莉栖が生き、中鉢論文が消滅するという、これだけ」

倫子「そうして割り出された値は、やはりと言うべきか、かつて鈴羽が教えてくれた通りだったな」


   『シュタインズゲートの世界線変動率<ダイバージェンス>は、父さんとリンリンとですでに割り出されてるよ』

   『相対値で、ここ【1.13205】から、−0.08346%』

   『そこがシュタインズゲート【1.04859】』


鈴羽「あたしがリンリンに教えたのー?」

倫子「ああ、そうだ。偉いぞ、鈴羽」ナデナデ

鈴羽「えへへ……」テレッ

倫子「もっとも、今後の世界線では【1.048596】ということになることが判明しているがな」
10 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:40:14.95 ID:hqUsDMANo

ダル「それと、タイムマシン試作機FG-C193型に取り付けたトレーサーも問題なし」

倫子「(こちらはカー・ブラックホールが作り出した時空のゆがみを追跡する装置だ。重力波の測定さえできればそこまで複雑なものではない)」

倫子「(カー・ブラックホールは世界線において大きな痕跡となる。なぜなら、その穴の先は別の時代、つまり別の重力波状態へと繋がっているからだ)」

倫子「(この穴は、世界線と世界線を繋ぐワームホールになっている、というわけではない。世界線は常に1本だけがアクティブなのだからな)」

倫子「(むしろ、未来と過去を繋ぐタイムトンネルのようなものになっていると言える)」

倫子「(例えば、ある世界線のある時点からタイムトラベルを行い、過去へと到着し、世界線が再構成されたとする)」

倫子「(タイムトラベラーが過去に到着したことで発生するバタフライ効果によってタイムトラベルそのものがなかったことになる場合は、カー・ブラックホールの痕跡もなかったことになり、測定しようがない)」

倫子「(世界線1本レベルでなかったことになるタイムトラベル……オレがα世界線で送り続けたDメールやタイムリープなどはこっちの部類だ)」
11 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:42:03.57 ID:hqUsDMANo

倫子「(だが、タイムトラベラーが過去に到着してもタイムトラベルがなかったことにならない場合……)」

倫子「(つまり、到着後の世界線でも同じようなタイムトラベルが発生するよう再構成された場合)」

倫子「(入り口と出口が、正確には別物だが、再構成によって同一世界線上に存在することになる)」

倫子「(鈴羽のタイムトラベルをはじめ、"テレビを見ろ"メールやノイズムービーメール、オペレーション・アークライトなどはこの場合となる)」

倫子「(と言っても、"なかったことにならない"のはアトラクタフィールド内での話だ。シュタインズ・ゲートを観測すれば、これらはすべてなかったことになる)」

倫子「(世界線1本レベルではなかったことにならないが、アトラクタフィールド1枚レベルではなかったことになるタイムトラベル……)」

倫子「(未来から過去への影響――タイムトラベルそのものが世界線を構成する因果律に組み込まれている場合、トレーサーは機能する)」

倫子「(時空のゆがみは、"いつ"へ繋がっているかに比例して大きくなる。それを測定できれば、最大7000万年前の過去から未来に至るまでをトレース可能)」

倫子「(以前"ラジオ会館"と呼ばれていた建物の屋上に座標を合わせさえすれば、時空の歪みの"連続"を追跡することができる)」

倫子「(むろん、その目的はひとつだ。だが、その前に――)」
12 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:43:13.76 ID:hqUsDMANo

倫子「ダル。例の演算結果はどうなった?」

ダル「うん……やっぱさ、セジアムの言うことは正しいっぽい」

倫子「そうか……。だが、たとえセジアムの言う通り、オレを男にしたとしても、鍵がわからぬのでは意味が無い」

フブキ(セジアム)「そうね。だからこうやって、"もうひとつの演算領域"を用意した」

真帆「シュタインズ・ゲートはα世界線とβ世界線の狭間の世界線。だから、"こちら側"からだけでなく、"あちら側"からも計測する必要がある」

ダル「そのために、僕の量子コンピューター内で牧瀬氏の『Amadeus』回路を再現したわけだお。2人分ね」

フブキ(セジアム)「私のコピー先データを引用しただけだから、簡単だったわね」

ダル「さらにさらに、新型脳炎研究で判明した、リーディングシュタイナー保持者の脳の構造を"秘密の日記"として再現したお!」

倫子「世界中の新型脳炎研究のデータをハッキングした上に、セジアム本人による実証実験を行った賜物だな」

ダル「これで『Amadeus』に牧瀬氏のOR物質を定着させて、記憶の修復力をフル稼働、人格も意識も含めてすべてを蘇らせれる夢の装置!」
13 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:47:28.00 ID:hqUsDMANo

真帆「呼び覚ますOR物質はもちろん紅莉栖本人のものよ。まあ、『Amadeus』の回路を使っている以上、私か紅莉栖のどちらかのOR物質しか定着させられないのだけれど」

倫子「α世界線の『Amadeus』"紅莉栖"の記憶が流入するおそれは無いか?」

真帆「α世界線の私が"秘密の日記"の鍵を開けていない限り、その可能性は無いわ。あなたがアクティブにしてきた世界線の中でそれはあった?」

倫子「……考え得る限り、そういう事態にはなっていないだろうな」

フブキ(セジアム)「紅莉栖のOR物質は、2010年7月28日までのβ世界線の情報と、8月17日までのα世界線の情報を持っている」

倫子「2033年からタイムリープしてきた記憶は、自分でデリートしたからな、あいつ……」

真帆「まあ、7月28日正午ごろの記憶が両方あって混乱するでしょうけど、それでもこの仮想空間内に現れる紅莉栖は、8月17日が最終更新の状態ということになるはず」

フブキ(セジアム)「どこか別の世界線で生き返ったりしていなければね」

倫子「γ世界線で過ごした1ヶ月、紅莉栖は蘇っていたな……。あの時の記憶はあまり思い出してほしくない」

フブキ(セジアム)「他にもそういう世界線があったかもね。岡部が気付かないうちに忘れちゃった可能性もあるし」

倫子「ぐっ。何度かとんでもない忘却をやらかしているからぐうの音も出ない……」グヌヌ

フブキ(セジアム)「γ世界線での記憶はOR物質が断続することになる。記憶の混乱は必至ね」

フブキ(セジアム)「対してα世界線での記憶は、β世界線からほぼそのまま連続した18年間になる」

真帆「擬似的にではあるけど、α世界線の情報を継続させることができるってこと」

ダル「そいで、牧瀬氏とセジアムの共同演算でシュタインズ・ゲートの鍵を探してもらうっつーわけですな」

倫子「紅莉栖を亡霊として蘇らせることになるとはな……」

フブキ(セジアム)「非人間の私だからこその発想かもしれないわね。それでも、可能性に賭けてみる価値はある」

フブキ(セジアム)「死と生は0と1。だけど、量子的世界においては、その限りではない」

倫子「……命の定義さえ、不正に上書きしようと言うのだな」ククッ
14 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:49:51.27 ID:hqUsDMANo

フブキ(セジアム)「私はこれからタイムリープマシンの要領で記憶を取り出して、橋田のPC内の『Amadeus』人格として顕現する」

ダル「こっちは普通に記憶データを『Amadeus』に更新するだけだから、特に問題ないと思われ」

真帆「モデルデータと音声データは、ドリームワークスとYAMAHAにバックアップデータが残ってたから拝借してきたわ」

ダル「それらを再構成したらこんな感じになりますた」カタッ

ブォン …


倫子「ほう、電脳空間に3D紅莉栖モデルが2体……」

鈴羽「ふおお、すごーい……」

フブキ(セジアム)「私の要望は通らなかったの? 真っ白空間にして欲しかったのだけど。真っ暗だと不安になるもの」

ダル「あ、いや、ちゃんと作ったお。ただ、切り替わるのにちょっと時間がかかるだけ」

ダル「自分で作りながら、これなんてマトリックス? 真理の扉? って思ったお」

倫子「オレの声は中へちゃんと反映されるのか?」

ダル「仮想空間内のスクリーンを模した装置に信号を出力するお。このwebカメで撮った映像と音声をそこに反映させる」

真帆「相互コミュニケーションデバイスも基本は『Amadeus』と一緒よ」

ダル「これでオカリンは向こうの牧瀬氏と会話ができるお。動作テストもバッチリなのだぜ」

フブキ(セジアム)「私の準備はできたわ。もう飛ばしちゃって」スチャッ

真帆「わかったわ。それじゃ、いってらっしゃい」カタッ

フブキ「――――っ」ガクッ
15 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:51:38.06 ID:hqUsDMANo

フブキ「あ、あれ、私……そっか、もうひとりの私が移動したんだ」

真帆「お疲れ様。無理せずゆっくり休んでおきなさい」

倫子「おお、画面内に居た紅莉栖のひとりが目覚めた」


セジアム『私にとってはこの身体は初めてね……。こっち、ちゃんと見えてる?』


真帆「大丈夫よ。PCとの接続は?」


セジアム『確認中……大丈夫。アクセサリの生成も可能ね』スッ


フブキ「おお、なんか歯車が出た! かっくいーっ!」

鈴羽「かっくいーっ!」キャッキャッ


セジアム『音声は……柱時計でも生成してみようかしら』スッ


ダル「秒針の音まで聞こえてるお。モニタリングよし、音声よし、量子演算よし……」カタカタ

ダル「こっちも準備できたお。いつでもロックを解除して、牧瀬氏のリーディングシュタイナーを発動できる」

倫子「いよいよ本物の紅莉栖と……」ゴクリ

ダル「オカリン」

真帆「岡部さん」

フブキ「オカリンさん」

鈴羽「リンリン!」

倫子「ああ……わかっている。今こそ、世界の支配構造を覆し、混沌へと陥れる時!」

倫子「――オペレーション・カーラチャクラ<密教の時の環作戦>、発動せよっ!!」

ダル「オーキードーキー!」

カタッ
16 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:52:14.85 ID:hqUsDMANo

――――――――――――――――――
―――――――――
―――



チク タク チク タク …


紅莉栖「真っ暗な空間……? 何処なの、ここは……」

紅莉栖「時計の音……。私……、どうしてここに?」キョロキョロ

紅莉栖「そもそも……、私は誰?」

紅莉栖「また倫子ちゃんのいたずらかしら? ……って、あの子はこの手のことはしないか」

紅莉栖「あれ……?」



倫子ちゃんって

誰?

17 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:52:53.75 ID:hqUsDMANo

チク タク チク タク …


???「そうなってもその名前は覚えてるのね?」

紅莉栖「え? わ……、私? 目の前に、私が、居る……歯車に座って……」

セジアム「それくらいは分かるみたいね、牧瀬紅莉栖?」

紅莉栖「牧瀬……、紅莉栖……! 私の、名前!」

紅莉栖「私、日本に来て……、パパに殺され……」

紅莉栖「ううん、違う! 大ビルの講演で、変な白衣の女の子に会って……」

紅莉栖「違う……。その白衣の子とは、パパに殺される前にも会ってて……」

紅莉栖「そう……だった。彼女と出会って、過去にメールを送ることができた……」

セジアム「だいぶ思い出せたようね。なら、今は何をやっていたか……思い出せる?」

紅莉栖「今……? これは、白昼夢なの?」

セジアム「その認識は正解とも言えるし、正解ではないとも言えるわ」

紅莉栖「……"正解ではない"? "間違っているとも言える"ではないの?」

セジアム「ふふ……。あなたらしいわね。言葉の正確な定義にこだわろうとする」
18 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:56:15.65 ID:hqUsDMANo

チク タク チク タク …


紅莉栖「交わす言葉が正確に定義されないなら、その言葉で伝達される事象にも齟齬が生じるわ。当然でしょう?」

セジアム「ええ、それでいいのよ。あなたはあなたらしくあればいい。これからあなたが体験する、ひとつの物語でも」

紅莉栖「……物語?」

セジアム「ただあるがままを受容すればいい。そしてあなたは、あなたのままでいればいい」

セジアム「その物語は"ここ"から離れたら、もう覚えていることもできない蜃気楼か、さもなければ幻のようなものかもしれない」

セジアム「もしかしたら、存在さえしなかったかもしれない、ひとつの可能性や幻想になるかもしれない」

セジアム「それでも、あなたがここに来てしまった以上、それを目の当たりにする権利と義務がある」

紅莉栖「どういうこと?」

セジアム「時の円環と歯車は……。無限の螺旋を描いてまたそこに戻る。永遠の連鎖が描く軌跡を、"私"は知っているはず……」

セジアム「時計の鐘の音が響き渡る時、あなたの記憶のゲートが開く」

セジアム「だから、確認しなさい。そして、救うのよ……。ここでも」

セジアム「あなた自身を。……彼女を」

紅莉栖「ちょっと待って、そんな一方的に……っ!」グラッ



ゴーン ゴーン ゴーン



紅莉栖「時計の、鐘が――――」
19 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:57:16.46 ID:hqUsDMANo

――――パッ!


紅莉栖「――――私も、岡部のことが……大好きっ!!」

紅莉栖「……あれ? 真っ白な空間……」キョロキョロ

紅莉栖「私……、こんなある意味でステロタイプな臨死体験をするタイプだったんだ?」

セジアム「臨死体験ね……。そうやって解釈しなければ、すべてを受け入れられないの、あなたは?」

紅莉栖「そうかもね。……でも、そういうものじゃないかしら? 結局、すべての事象は解釈なしには成り立たない」

セジアム「確かにその通りね。逆に言えば、解釈することそのものが世界を認識する手段――観測のための必須要件ということ」

セジアム「すべての記憶を解釈できたかしら?」

紅莉栖「すべての? ……あれ、私、地下鉄の駅に1年間居たような……」

セジアム「それは夢? 幻?」

紅莉栖「あなたも知っての通り、私って記憶力が良いのよ。何月何日何曜日、何時何分に何が起こったか、重要なものはだいたい覚えてる」

紅莉栖「だからこれは……きっと……」




――別の世界線の記憶。
20 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:57:55.48 ID:hqUsDMANo

セジアム「合格よ。あなたには、観測者の資格あり、ってところね」

紅莉栖「当然よ」

セジアム「ならば、あなたの認識していない真実をひとつ教えてあげましょうか?」

紅莉栖「それは一体、何?」

セジアム「あなた、今どうやって考えてるの?」

紅莉栖「え……、どうやって考えてるも何も……」

セジアム「気付いた? 世界線の変動で"いなくなった"人間に、臨死体験なんかあるわけがないでしょう」

セジアム「だって、それを発生させるための脳がもう無いんだから」
21 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 21:59:26.91 ID:hqUsDMANo

紅莉栖「じゃ、じゃあ……。"これ"は一体、何なの?」

セジアム「さあ?」

紅莉栖「……さあ、じゃなくて!?」

セジアム「そんなことより、もっと大切な話がある」

セジアム「あなたは知る必要がある、シュタインズ・ゲートのことを」

紅莉栖「シュタインズ・ゲート?」ポカン

セジアム「仕方ないでしょう。……その造語を作った人間が、そう名付けたんだから」スッ

紅莉栖「あっ、歯車が飛んでって……増えた? なるほど、合体して門<ゲート>の形になったわね」

セジアム「これはひとつの考えに基づいて構成された、模式図のようなもの」

セジアム「抽象化されているし、実状からはほど遠い。けれども、分かりやすいわ」
22 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:03:09.19 ID:hqUsDMANo

セジアム「あの歯車のひとつひとつが、世界線だと思えばいい。歯車の歯のひとつひとつが、言ってしまえばダイバージェンスの細かい数値」

セジアム「あなたの記憶から読み取った、α世界線の可能性の束。そして、扉の裏にはβ世界線の可能性の束がある」

紅莉栖「つまりこれが……、この真っ白空間と門が、その利用法のひとつというわけ?」

セジアム「そうよ。あなたは観測しなければならない。シュタインズ・ゲートを」
23 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:04:03.35 ID:hqUsDMANo

セジアム「シュタインズ・ゲートは、岡部倫子がβ世界線において名付けた、ある世界線のこと」

セジアム「それまで彼女たちが如何に尽力しても観測できなかった、未知の可能性を秘めた世界線――」

紅莉栖「どうして私が?」

セジアム「あなたの書いた、『タイムマシンに関する考察』よ。あの論文がきっかけになって、世界でタイムマシン開発競争が激化した」

セジアム「それが第3次世界大戦の引き金となったのよ」

紅莉栖「…………」

セジアム「思い出した?」

紅莉栖「うん……、思い出した」

紅莉栖「そっか……。やっぱり、変えられないのね。私や岡部が何度も考えたように、収束する事項は変えられない」



なら、それでもいい。

倫子はまゆりを守ることができたのだから。
24 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:04:39.30 ID:hqUsDMANo

セジアム「本当にそう思う?」


まゆり「…………」


紅莉栖「……まゆ……り……?」

まゆり「まゆしぃはもう大丈夫なのです。もうオカリンに無理させなくても、……大丈夫」

紅莉栖「え、えっ? どういうこと、これ?」

まゆり「でも、まゆしぃはクリスちゃんに言いたいことがあるのです」

紅莉栖「え? 何?」

まゆり「なんで、クリスちゃんはクリスちゃんがいなくなっても、オカリンが何ともないって思うの?」

まゆり「オカリンは、クリスちゃんのことをとっても大切にしてるのに」
25 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:08:47.57 ID:hqUsDMANo

紅莉栖「ま、まゆり……。それは……、その……」タジッ

紅莉栖「…………」グッ


私が倫子にとって失えない何かになってしまったら――

それは、倫子を殺すのと同義だ。


鈴羽「でも、岡部倫子は君を失って、とても苦しんだよ」

紅莉栖「え……」ドクン

鈴羽「だから、未来から来たあたしと一緒に7月28日に跳んだ。……君を救うために」

紅莉栖「けれど、失敗したんでしょ?」

鈴羽「……君が、観測しなかったからね」

紅莉栖「わ、私のせいだって言うの!?」

鈴羽「君も岡部倫子も間違えている。少なくとも、観測者の視点で確定しているのは、"牧瀬紅莉栖の死"という結果じゃない」

紅莉栖「そんなの、わかってるわよ! というか、あなたと1年間あなぐらで議論したじゃない!」

鈴羽「……思い出したんだね」
26 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:09:39.91 ID:hqUsDMANo

鈴羽「君の言う通り、観測された結果さえ変えなければ、そこに至る過程は変えることができる」

鈴羽「箱の中身を、蓋を開けずに変えてしまえばいい」

紅莉栖「でも、"観測された結果"がどこまで限定されるのかがわからない。世界線の収束には、確定事項と非確定事項がある」

紅莉栖「その境目がどこにあるか、今のところ、複数回にわたる試行を繰り返す以外に確認する手段はない」

鈴羽「それを確かめるのが、君の役目だよ」

フェイリス「クーニャンは凶真のお手伝いをすればいいニャ」

紅莉栖「留未穂ちゃん……」

フェイリス「この姿の時は、フェイリスニャ♪」

フェイリス「それより聞くニャ。クーニャンは、メタルう〜ぱを封筒に入れたことと、その封筒の中の論文を書いたこと」

フェイリス「このふたつの責任を取る必要があるニャ」

紅莉栖「うん……。でも、私はもう死んでるのよ? ううん、違う。正確には……消えている、か」

紅莉栖「いずれにしても、今の私はもう現実の事象に干渉する力なんかないはず!」

フェイリス「そこは心配ないニャン♪ 後ろのスクリーンを見るニャン」

紅莉栖「え――」クルッ



   『聞こえているな、ザ・ゴースト』
27 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:10:16.51 ID:hqUsDMANo

紅莉栖「誰がゴーストよっ! ……って、あなた、一体……誰?」


   『"いつも"と変わらぬ調子が聞けて、嬉しいぞ。……助手』


紅莉栖「あ……あぁ……」プルプル

紅莉栖「岡部……なの……?」ドクン


   『ふっ……。違うな』


紅莉栖「え……」


   『オレの名は、岡部などではない。鳳凰院凶真だっ!! ふぅーはははぁっ!!』


紅莉栖「……厨二病、乙!」ウルッ
28 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:12:34.06 ID:hqUsDMANo

紅莉栖「り、倫子ちゃんが、ぐすっ、大人になって、えぐっ、またこうして会えて、ひぐっ……」ポロポロ

倫子『お、おい、ガチ泣きするな……。もうひとりの紅莉栖よ、その紅莉栖を慰めてやれ』

セジアム「はいはい……ほら、水でも飲んで落ち着いて」スッ

紅莉栖「んぐっ、んぐっ! はぁ、はぁ……」グシグシ

倫子『よく聞け助手よ。……生憎だが、少なくともオレは、"お前のよく知る倫子"ではない』

倫子『だからオレのことはその名で呼ぶな』

紅莉栖「え……? じゃあ……、あんたは別の世界線の倫子ちゃんってこと?」

倫子『鳳凰院凶真だ。このオレは、いずれ可能性として消滅せねばならん』

倫子『オレは、シュタインズ・ゲートを観測するオレではない。それはつまり、お前にとっての倫子は、別の人間になるということ』

倫子『もしかしたら、性別も変わっているかもしれない』

紅莉栖「なるほど……」

倫子『頼む、紅莉栖……あまり時間がない。聞いてくれ』

紅莉栖「……私があなたの頼みを、断れるわけないじゃない」
29 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:14:22.67 ID:hqUsDMANo

倫子『岡部倫子は牧瀬紅莉栖の救出に失敗した。……失敗せねばならなかった』

倫子『その苦しみこそが……、岡部倫子に牧瀬紅莉栖を完全に救うための計画を遂行させる原動力となったのだ』

倫子『それくらい強い動機がなければ、……ここまで来ることはできなかった。だから、なかったことにするわけにはいかなかったのだ』

倫子『長年の研究の結果、分かったことがある。それは、ふたつの条件をクリアーすることでシュタインズ・ゲートへと至ることが出来るということ』

紅莉栖「……ひとつは、私の死を回避すること。そしてもうひとつは、論文を葬り去ること、よね?」

倫子『そうだ。しかし、おそらく章一が論文を持ってロシア行きの飛行機に乗ることは収束事項だ。それは変えることができない』

紅莉栖「へえ、未来の世界ではそんなことまで計算できるの……」

倫子『収束かどうかは時間をかければ調べることができるようになった。だが、収束じゃない事項がどれかは、悪魔の証明だ』

紅莉栖「そうね。そればっかりは無限の時間をかけてもわかりようがない。因果は複雑に絡み合った糸のように結ばれているんだもの」

紅莉栖「"決して変えられない事象"と"変えることのできる事象"を見極めて、その積み重ねで大きな変化――バタフライ効果を起こすなんて、普通じゃできない」

倫子『――その通りだ』
30 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:17:40.09 ID:hqUsDMANo

紅莉栖「……つまり私に、"決して変えられない事象"と、"変えることのできる事象"を見極め、それを情報の形で岡部の脳に送れ、というのね」

紅莉栖「α世界線の事象と、β世界線の事象を照らし合わせて、たったひとつの答えを探す。それはこの私にしかできないこと」

セジアム「私との共同作業よ」

紅莉栖「あら、あなただって私じゃない。つまり、私にしかできないということには変わりはない」

セジアム「違いないわね」

倫子『紅莉栖はやっぱり、オレの唯一無二の助手だ』フッ

紅莉栖「……大人な色気ムンムンの倫子ちゃんもいいわね」ジュルリ

倫子『台無しだ』

紅莉栖「冗談よ。でも、この気持ちが、このやりとりが、私に直感させる」

紅莉栖「それを信じて、あんたに協力する――倫子ちゃんを、助ける!」
31 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:20:43.86 ID:hqUsDMANo

紅莉栖「ここってやっぱり量子コンピューターの中なのよね? さしずめ私は生体脳量子コンピューターってところかしら」

倫子『ああ。ダル自作のな』

紅莉栖「ってことは、とてつもない量の演算を行うことができる。世界を――門をハッキングできる」

倫子『そうだ。お前が観測したデータは、オレが電気信号に変え、ムービーメールの形で過去の俺に送る』

倫子『そのメールを見た俺の脳には、無意識野に"決して変えられない事象"を認識し、"変えることのできる事象"の見極めが刻まれるだろう』

紅莉栖「受信側のOR物質を操作するのね? SERNがやってたメール洗脳みたいなやり方で」

倫子『あれと一緒にするな。原理は同じだが』

紅莉栖「理屈はわかった。……けれど、あんまり過信しないでよ? 今までにこんなこと、1回もやったことないんだから」


??「大丈夫だ。……お前ならできる」


紅莉栖「え――」クルッ


章一「お前は、私の自慢の娘なのだからな」
32 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:21:24.74 ID:hqUsDMANo

・・・

倫子「おい、ダル。さっきから電脳空間に登場しまくってるこいつらは一体誰なのだ?」

ダル「あ、いや、セジアムが作ったNPCじゃないなら、たぶん牧瀬氏本人が創り出してる幻像かも」

倫子「そんなこともできるのか」

ダル「無意識のうちにここの内部のプログラムを操作できちゃう牧瀬□」

倫子「だが、ということはつまり、彼らの言葉は……」

真帆「……紅莉栖の夢、のようなものかしら。でも、それはきっと生前のOR物質の相互作用で刻み込まれたもの」

真帆「嘘偽りない、本人たちの言葉である可能性も、否定はできない」

倫子「……そうだな」

・・・
33 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:24:32.21 ID:hqUsDMANo

章一「私は、タイムマシンができたらやりたいことがあった」

章一「娘にひどいことをしてしまった、あの瞬間に戻って……、自分を止めることだ」

章一「許してくれ、紅莉栖。いや、許さなくてもいい。……希望を捨てないでくれ」

紅莉栖「ちょ、ちょっと岡部!」アセッ

倫子『……オレではない。オレはそんな信号は送っていない。あと鳳凰院凶真』

紅莉栖「ならどう解釈しろと?」ムッ

倫子『好きにしろ。さすがにオレも分からん』

章一「お前がどう思おうといい。だが、お前にはしなければならないことがあるはずだ」

章一「お前が力になりたいと思う人のために……。お前がやるべきことをやりなさい」

紅莉栖「パパが……、こんなこと……、言うはずが……」プルプル

倫子『紅莉栖。お前にずっと伝えたかったことがある』

倫子『お前は決して、世界に望まれていなくなんかない。みんなお前が大好きなんだ』

倫子『それが、真実だよ』

紅莉栖「真実……」
34 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:26:33.75 ID:hqUsDMANo

紅莉栖「(門……。あの向こう側に、真実が……)」スッ

倫子『まるでまゆりの星屑との握手<スターダスト・シェイクハンド>だな。実はオレも小さい頃、太陽に向かって同じ仕草をよくしていた』ククッ

倫子『……ところで、ひとつ聞いておく』

紅莉栖「何かしら?」

倫子『オレが何故、到達すべき世界線をシュタインズ・ゲートという名前にしたか。何故、その名なのか分かるか?』

紅莉栖「ハァ。分かってるに決まってるでしょ。……特に意味は無い」

倫子『その通りだ』ニヤリ

紅莉栖「私を誰だと思ってるの? 狂気のマッドサイエンティストの助手、天才少女研究者、牧瀬紅莉栖よ。ふわーはっはっはっは」

紅莉栖「……///」テレッ

倫子『…………』

紅莉栖「こ、こっちみんな! にやにやもすんなぁ! うわぁん!」
35 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:27:47.04 ID:hqUsDMANo

紅莉栖「やるわ……」ゴクリ

紅莉栖「…………」スッ


倫子『(ほう、無数の円環が現れた。それらが連なり、螺旋となり、ひとつの線となって、糸のように絡み合い……)』

倫子『(例えるなら、数式の雨。ベクトルの海。宇宙を描く巨大なタペストリー)』

倫子『(神のパズルへの挑戦回数はゆうに京を超え、垓、杼、穣、溝、澗、正……)』ゴクリ

倫子『(やはりあの時、7月28日の収束事項はあまりにも錯そうしているようだ)』

倫子『(何かひとつを動かせば、それによる歪みが別の問題を引き起こし、バタフライ効果が次々と不具合を発生させる)』

倫子『(迂闊な干渉は、"血の海に横たわる牧瀬紅莉栖"から"牧瀬紅莉栖の死"へと簡単に移行させ、因果律としてシンプルな形――人間にとっての悲劇へと収束してしまう)』

倫子『(そんな悲劇のクモの巣の上で、糸に絡めとられることなく、脱出しうるルートとは……)』

倫子『(宇宙に存在する原子の数よりも多い演算の末、限りなく無限に近い演算の末、紅莉栖が導いた結論は――――)』










紅莉栖「……う〜ぱ?」
36 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:29:27.70 ID:hqUsDMANo

私は、気付けば歯車の門の向こうに手を伸ばしていた。

そこからそっと手を引き抜くと、掌の上に握っていたのは、小さな銀色のマスコット――メタルう〜ぱ。

7月28日の収束事項の例外。運命の特異点。


【7月28日時点の岡部がガチャポンを回すことで出てくるのは、メタルう〜ぱでなくてもよい】


ただし、"岡部がガチャポンを回した時、最初に出てくるのはメタルう〜ぱである"は収束事項だった。

なら、話は簡単だ。未来から来たほうの岡部が、過去の岡部に先んじてガチャポンを回せばいい。

それなら収束事項の条件を満たしながら、過去の岡部が手にするのはメタルう〜ぱではなく普通のう〜ぱになる。

タイムマシンを使った古典的なトリック。未来の自分と過去の自分を入れ替える。

これで、因果の輪は断ち切られる。

私はそっと、掌の上のメタルう〜ぱを抱きしめるようにやさしく握った。
37 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:30:47.61 ID:hqUsDMANo

ダル『ちょ、仮想空間のプログラムが書き換わってく!? この僕がハッキングされるなんて……』

真帆『……紅莉栖ったら、中に"岡部さん"を創り上げたわね』フフッ


倫子「(……どうやら今、オレの感覚は電脳空間の"オレ"とシンクロしているらしい)」

倫子「(今なら、紅莉栖に手を触れることも――)」

紅莉栖「ありがとう、みんな。……ありがとう、岡部」グスッ

倫子「……紅莉栖、オレは――」

紅莉栖「ううん、その唇を開いちゃダメ」チョンッ

倫子「(う、紅莉栖の人差し指が唇に……)」

紅莉栖「だって、これはお別れじゃない。……そうでしょ?」ニコ

倫子「……そうだな」フッ

紅莉栖「がんばって……。それで今度は、私があんたを捜すから――あんたが、あのラジ館の屋上で私を見つけてくれた時みたいに」

紅莉栖「世界が再構成されても、絶対、あんたに会いに行く か   ら   」

紅莉栖「岡―――部、愛――――して――――――――


倫子「紅莉栖……。また、会おう」ダキッ



紅莉栖「うん、絶対――――――――絶――――対、ま――――――――――――







大好き。







―――
―――――――――
――――――――――――――――――
38 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:31:58.83 ID:hqUsDMANo
2025年8月21日木曜日 朝
ワルキューレ基地


倫子「――以上が『オペレーション・スクルド<未来を司る女神作戦>』の概要だ」

かがり「その、どうしてそんなにムービーメールで伝える内容が曖昧なんですか? うーぱのこと、直接伝えればいいのでは……」

倫子「大丈夫だ。"アイツ"なら必ず気付いてくれる。"アイツ"はオレでもあるのだからな」

倫子「それに、"アイツ"はその、人から命令されるのが嫌いでな……。オレが事細かに指示してしまっては、へそを曲げてしまうかもしれん」

かがり「ああ、なるほど……」

倫子「オレが"アイツ"にすべてを明らかにして伝えてしまうことでなんらかのバタフライ効果が発生してしまうおそれもある」

倫子「それよりも、無意識野に刻み込んだオレの"意志"だけを受信し、臨機応変に行動してもらったほうがいい」

倫子「箱の中身は、最後まで開けてはならないのだ」
39 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:34:56.00 ID:hqUsDMANo

倫子「みんな、進捗は?」

ダル「ムービーメールに添付する用の洗脳電波の準備も完了したお。もち、2005年のSERNがやってたのなんかとは情報量は何兆倍も異なるレベル」

真帆「東北ILCとの接続も完了。オペレーション・アークライト用メールとどちらから送る? 同時でもいいけど」

フブキ(セジアム)「送る順番は関係ありません。両方送るということが決定している以上、最終的に観測をするのは過去の岡部ですから」

倫子「ああ。どちらも『受信する』という事象に関してだけは、すでに確定事項だからな」

フブキ(セジアム)「受信時点のタイミングさえ間違えなければ、順番でどうこうなるものではないので、ご自由に」

フェイリス「ってことは、あとはムービーを撮影するだけニャン?」

倫子「ようやくここまで来たな……もう随分長いこと休んでいない」

真帆「『疲れた、休ませてくれ』、なんて、言わせないわよ?」ニヤリ

倫子「……ああ、望むところだ」ククッ

鈴羽「リンリン、がんばれーっ!」

フブキ(セジアム)「まだ大仕事が残ってるしね。あんたを男にしないといけないんだから」

るか「で、でも、岡部さんを男にしたら、バタフライ効果で、オペレーション・スクルド立案の過程が消滅してしまうのでは?」

倫子「あるいは、そうかもしれない。だが、女のオレがこの地平に辿り着くことを証明したのだ」

倫子「魂は鳳凰院凶真のまま……。ならば、もう一度オレの時を始めるだけのこと」

ダル「ふぃ〜、ここまできてようやく折り返し地点っつーわけだお」
40 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:40:42.63 ID:hqUsDMANo

倫子「無論、不安が無いではない。そこでだ――」


ビーッ ビーッ


かがり「あ、来ましたね。橋田さん」

ダル「うん。……君に萌え萌え」

??『バッキュンきゅん!』


ウィィィィィン


倫子「来たか、エスブラウン。例のブツは?」

綯「はいっ、凶真様。澤田さんに用意してもらいました! 使い方もちゃんとレクチャーしてもらいましたよ!」

真帆「へえ、これがその……」

倫子「NX<ノア・ファイブ>、と言ったところか。見た目はポータブルHDDにしか見えないが」

ダル「これを使って、男になったオカリンを観測してみようっつーわけっすな」

倫子「どうやらオレの未来視は、確定した世界線の未来を視るだけでなく、オレの主観が認識する未来もキャッチできるらしい」

真帆「いつ聞いてもトンデモ能力だわ。いったいどういう原理なのかしら」

フブキ(セジアム)「考えられるとすれば、この世界の外の世界へと干渉してるくらいしか思いつきませんね」

ダル「それってつまり、僕がアニメの世界に入れば、最終話がどんな展開かをキャラに伝えることができる、みたいな?」

倫子「オレは無意識のうちに何度かそれを実行したことがあった。だが、通常では意識的に行うことは不可能だ」

倫子「そこで、この装置の力を借りる」
41 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:41:33.53 ID:hqUsDMANo

フブキ(セジアム)「誰でも気軽にギガロマニアックスになれる装置、ね。こんなものを300人委員会が開発してたなんて」

ダル「なんでもやつら、タイムマシン開発の副産物として、BHB<ブラックホール爆弾>まで作ったんだとかなんとか」

フェイリス「それで、いつ使うニャン?」

倫子「ああ、今すぐにでも使おう」

倫子「オレはこれから未来視、いや――"機械仕掛けの未来視<テクノビジョン>"を発動するっ!」

ダル「おお、なんだか昔のオカリンっぽいお!」

真帆「鳳凰院凶真の本質はコッチだって言うんだから、呆れるわ」フフッ

倫子「……エスブラウン。起動を頼む」

綯「はい、凶真様っ!」カチッ


――シュィィィィィィィィィィィィィィン!!


倫子「ぐっ……!? う、ぐ、ああああ――――――――」グラッ
42 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:42:05.46 ID:hqUsDMANo

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――
――


・・・

倫子「――ふたつのムービーメールは確かに送ったな」

るか「は、はいっ! 凶真さんっ!」

真帆「世界線変動率は?」

倫子「変化無しだ。無論、表示されないレベルで変動は起きたはずだが、成功だな」

フブキ(セジアム)「次は私が行く番ね。岡部を男にするために」

倫子「……なあ、みんなには黙ってたんだが、頼みがある」

倫子「――オレを、2010年にタイムリープさせてほしい」
43 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:44:04.39 ID:hqUsDMANo

倫子「セジアムが改変した世界線では、岡部倫子という存在はなかったことになる。ダイバージェンスは大きく変動することだろう」

倫子「それを観測するには、オレがタイムリープすればいい」

真帆「つ、つまり、セジアムを過去に送ると世界線が大幅に変動するから、それと同時にタイムリープするってこと?」

倫子「そうすれば、男になったオレの脳へと、このオレの今の意識が移動することになる」

倫子「(たぶんオレは既にどこかの世界線で、これと同じようなことをやってのけている)」

倫子「無論、移動先は別のβ世界線であって、シュタインズゲート世界線ではない」


   『正解よ。これがアトラクタフィールドの収束と世界線1本の収束の意味の違いってわけ』


倫子「(……この不思議な記憶はきっと、あったかもしれない世界線の残滓なのだろうな)」
44 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:48:49.33 ID:hqUsDMANo

倫子「(ギガロマ装置からの電磁波を自身の能力上昇に割り振ったことで、本来忘れていた記憶が蘇ったのか……?)」

倫子「(……それはそれで好都合だ)」

倫子「送り先は2010年7月28日11時36分。あの時オレは、例の"定時報告"をやっていた」

倫子「たとえ男になってもオレはオレだ。きっとその瞬間、ケータイを耳に当てているだろう」

倫子「電源を切ったのは記者会見が始まってから。ゆえに、このタイミングなら、自然にタイムリープを受信してくれるはずだ」

真帆「でも、脳は性別で構造が異なるのよ? ハイパータイムリープは……」

倫子「ハイパータイムリープはしない。RSTL<リーディングシュタイナータイムリープ>を行う」

真帆「それって確か、擬似パルスを添付しないタイムリープのことよね?」

フブキ(セジアム)「OR物質は胎児が脳の器官を形成する過程で構築される。私が岡部の性別を変えたとしても、OR物質の個体識別は変わらない」

フブキ(セジアム)「なるほど、RSTLなら可能ってわけね」

真帆「確かにOR物質だけを受信させるなら、記憶データよりは脳への負担は少ないけれど……」

倫子「無論、"倫太郎"とオレの脳の構造はまるで違うだろう。だが、世界中で最も類似した脳であることもまた事実」

倫子「それなら、シンクロするのは比較的簡単なはずだ」

倫子「オレと倫太郎は二卵性双生児のようなもの。あるいは、テレパシーのような能力を持ち合わせているかも知れん」
45 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:49:54.18 ID:hqUsDMANo

フブキ(セジアム)「でも、それだと記憶の引継ぎができない」

倫子「構わない。魂がそこへ届くのなら、オレはすべての記憶を失おうとも、すべての能力<チカラ>を失おうとも、もう一度絶対に"ここ"へ戻ってくる」

倫子「魂がオレを、オレたちを導いてくれる。紅莉栖を救いたいという気持ちが、必ず」

倫子「この世界線の2025年で、何もしないままくたばるよりはマシだ」

倫子「なんらかのバグが発生すれば、オレはオレを取り戻すかもしれないしな」ククッ

真帆「岡部さん……」

倫子「技術的には可能か?」

真帆「……ええ。タイムマシン試作機が完成している時点で、情報圧縮用ブラックホールを作る技術は確立していると言っていいからね」

ダル「そうじゃなきゃ、ムービーメールを圧縮できなかったわけだし」

倫子「つまり、ブラックホールは作り放題。同時タイムリープは可能、だな?」

ダル「タイムマシン稼働実験も兼ねて、FG-C193型たんにミニブラックホールを作ってもらうお」

倫子「ではこれより、鳳凰院凶真の名において、オペレーション・ウロボロス<円環の蛇作戦>を開始するっ!」
46 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:50:44.33 ID:hqUsDMANo

・・・

ダル「……準備できた。あとはエンターキーを押すだけだお」

倫子「早速実験を行うとしよう」

るか「ホントに、行っちゃうんですね……」

倫子「セジアムを1975年へ送ってくれ。同時にオレは2010年7月28日へ向かう」

真帆「岡部さん、でも、その……」シュン

フェイリス「凶真ぁ……っ」ウルッ

かがり「オカリンさん……っ」グスッ

鈴羽「リンリン……っ!」ポロポロ

倫子「何、お前たちは気にするな。タイムリープは所詮記憶のコピー&ペーストだ」

倫子「オレの主観は過去へ移動し、同時にこの世界線はなかったことになるが、お前たちの主観からすればオレが消えるわけじゃない」

フブキ(セジアム)「詭弁ね。結局再構成に巻き込まれるのだから、あなたが消えることと同義だわ」

倫子「そう解釈してもらっても構わない。だが、そうなったとしても、オレはお前たちの前から消えるのか?」

真帆「……いえ、消えないわ。あなたという魂は、必ずまた、私たちの前に現れる」

倫子「そう。これは別れじゃない。再会のための儀式だ」
47 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:51:31.52 ID:hqUsDMANo

フブキ(セジアム)「……私の準備もできたわ。あとはあんたがキーを押すだけ」スチャ

倫子「わかった……」スチャ

真帆「お、岡部さんっ! その……っ」

真帆「いつだって私たちは――」


「あなたの――」「オカリンの――」「岡部の――」「オカリンさんの――」「岡部さんの――」「凶真の――」「リンリンの――」


真帆「――味方よ」

倫子「……ああ」



カタッ
48 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:52:30.44 ID:hqUsDMANo

――――――――――――――――――――――――――――――――
         1.132090    →     1.130426
    2025年8月21日11時36分  →  2010年7月28日11時36分
――――――――――――――――――――――――――――――――
49 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:53:09.62 ID:hqUsDMANo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・

世界線変動率【1.130426】
2010年7月28日(水)11時36分
ラジ館前


ミーンミンミンミーン …


スタ スタ スタ 


スッ


倫太郎「俺だ。現場に到着した……そうだ。これから会場へ潜入する」

倫太郎「ドクター中鉢にはまんまと出し抜かれてしまったが、わざわざ記者会見を開くとはな」

倫太郎「どういうつもりなのかはこれからたっぷりと聞かせてもらえることだろう――――」





ズキッ
50 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:53:52.42 ID:hqUsDMANo

倫太郎「…………」キョロキョロ

倫太郎「(なんだ、今のは? 脳みそがかゆい感じ、とでも言えばいいのだろうか)」

倫太郎「(頭の奥、芯のあたりが鈍く痺れているような、そんな気がしたが……)」

倫太郎「(俺は、この景色を一度見たことがある? 既視感<デジャヴ>みたいなものだろうか)」


倫太郎「……ククク。わかっている。手荒なことは流儀ではない。控えるつもりだ」

倫太郎「もっとも先方の態度によっては、この右手の悪霊が目を覚まさないとも限らないがな……」

倫太郎「なに!? "機関"が動き出している、だと……?」ゴクリ

倫太郎「そうか、それが運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択か――エル・プサイ・コングルゥ」
51 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:54:33.05 ID:hqUsDMANo

まゆり「オカリーン♪ お待たせー」トテトテ

倫太郎「遅いぞ、まゆり」

まゆり「遅れてごめんね。もう先に行っちゃったかと思ったよー」

まゆり「でもオカリンがね、わざわざまゆしぃのこと待っててくれるなんて、嬉しいなあ♪」

倫太郎「お前がついてきたいと言ったんだろう」

まゆり「えっへへー♪」

倫太郎「ほら、さっさと会場に行くぞ。いつまでもこんなクソ暑いところに立っていたら、熱射病で死んでしまう」

倫太郎「(いよいよ、世界を揺るがす大発明、タイムマシンの完成記者会見が始まるのだな……)」ゴクリ

倫太郎「(まあ、内容はスットコに決まっているが、そういうアニマルな心意気が大事なのだ。うん)」

倫太郎「って、あれ? まゆりは? おい、まゆり……?」キョロキョロ

倫太郎「(――いないっ!?)」タッ
52 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:54:59.63 ID:hqUsDMANo

倫太郎「まゆり! まゆり、どこだ!」タッ タッ


まゆり「ここだよー☆」


倫太郎「え……」クルッ

まゆり「はい、かき氷。えっへへー♪ オカリン暑いって言ってたでしょ?」

倫太郎「驚かせるなよ……」ホッ

倫太郎「ほら、そろそろいくぞ」

まゆり「うんっ」
53 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:55:39.59 ID:hqUsDMANo

まゆり「……ねぇねぇオカリン。あそこ……」

倫太郎「ん? ラジ館の屋上に何か降ってきたか?」

まゆり「ううん。その下の階の窓……」

まゆり「ねえ。オカリンは、起きてるのに、夢を見たことってある?」

倫太郎「ないな」

まゆり「あのね、それが誰だかはわからないんだけど、まゆしぃにはとても大切なお友達がいた気がするの」

まゆり「でね、その大切なお友達のことを考えるとね、すごく切なくなって、胸のあたりがキューってなるんだー」

倫太郎「…………」

まゆり「たまにね、声も聞こえるんだよ。『よかったわね』って」

まゆり「あの声の人、誰だったのかなー?」

倫太郎「お友達はともかく、それは空耳だろう。それか普通にオバケかなんかじゃないのか?」

まゆり「ええー? オバケなんかじゃないと思うんだけどー……」ムーッ
54 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:57:03.84 ID:hqUsDMANo

倫太郎「オバケ……ゴースト……ゾンビ……」

倫太郎「そういや、どこかでこんな話を聞いたことがあるな。ラジ館8階の従業員通路には、赤い髪の女の幽霊が出るらしい」

倫太郎「(でも、誰から聞いたんだったか)」

倫太郎「なんでも、刺された恨みでひどく気が立ってるそうだ」

まゆり「あー、刺されちゃったら痛いもんねー。怒っちゃっても仕方ないんじゃないかなー」

倫太郎「単に気が短いだけかも知れんがな」フフッ

倫太郎「ほらまゆり、行くぞ――」


まゆり「…………」スッ


倫太郎「(って、今度は星屑との握手<スターダストシェイクハンド>か……)」
55 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/04(月) 22:58:22.51 ID:hqUsDMANo

まゆり「――ねえオカリン。今ね、赤い髪の幽霊さん、見ちゃったかも」

倫太郎「……それは、どう考えても幽霊じゃなくて人だろう。というか、俺にも見えたぞ」

まゆり「外人さんかなあ? すごく綺麗な女の子だった――」

倫太郎「じゃあドクター中鉢の雇ったスタッフか、助手じゃないのか――」

まゆり「会場、何階だっけ――」

倫太郎「8階だ。ほら、早く中へ行くぞ。手を取れ――」

まゆり「――――うんっ!」ギュッ





真夏の秋葉原。

どこまでも突き抜ける青空の下、俺たちはラジ館へと足を踏み入れた。






END1 Blue Sky END 【"キミ"の時がもう一度始まる】
56 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:27:45.31 ID:1LIL8LAQo
第27章 無限遠点のスターダスト(♀)



―――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――
――


2025年8月21日(木)11時37分
ワルキューレ基地


倫子「はぁっ……はぁっ……ぐっ!」クラッ

真帆「だ、大丈夫!?」ダキッ

かがり「今水を!」タッ

倫子「ついにオレは、世界線移動することなく、別の世界線の様子をのぞき見る力を手に入れたわけだ……!」

鈴羽「リンリン、かっこいい……っ!」キラキラ

倫子「我ながら恐ろしい力……。死ぬほどつらい、けど、なっ」ガクッ

フブキ「ちょっと!?」

るか「だ、大丈夫ですか!?」
57 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:28:29.77 ID:1LIL8LAQo

真帆「えっと、その……落ち着いた?」

倫子「ああ、心配かけてすまない」

ダル「で、未来視の結果はどうだったん?」

倫子「……失敗だ」

ダル「へ?」

倫子「変動後の世界線では、ムービーメールがノイズまみれで届くことが決定していた」

ダル「おうふ……2つのムービーメールと2つのタイムリープが混線しちゃったんかな……」

真帆「あるいはブラックホールの干渉? もう一度検証する必要があるわね……」

倫子「無論、それはシュタインズゲートへと辿り着けないことを意味していない」

倫子「オレが見てきたあいつらも、最終的にはオレたちと同じ地平に立つはずだ」

フブキ(セジアム)「でも、岡部倫子としての存在は、完全になかったことになる」

真帆「ええ。そうね……」

倫子「そもそも、オレがNX<ノア・ファイブ>を使ったのは、オレたちの仮説が正しかったのだということを完全に証明するためだろう?」

倫子「そこでだ。過去のオレは男にする。2つのムービーメールも送る」

倫子「だが、タイムリープはしない」
58 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:29:28.14 ID:1LIL8LAQo

ダル「でも、そうすっと、過去を観測できないお」

倫子「タイムリープはしない。が……タイムトラベルは行う」

かがり「え……?」

倫子「物理的タイムトラベルなら、裸の特異点はマシン内部に生成することになる。干渉量は減るんじゃないか?」

フブキ(セジアム)「ムービーメールやタイムリープと違って、局所場指定を行うタイムトラベルなら、特異点通過は安定するわ」

倫子「その後は、お前たちがトレーサーを使えば、オレがどの世界線変動率<ダイバージェンス>の世界線に移動したか、わかるだろ?」

ダル「そりゃまあ、確かに……」

倫子「同時に"過去のオレ"の性別は変わり、倫太郎になるはずだが、それは今居るこのオレの存在を消すこととイコールではない」

倫子「因果は続いていく。時間は、このβ世界線というアトラクタフィールドで、閉曲線として閉じる」

倫子「アトラクタフィールドを超えない限りは、岡部倫太郎と岡部倫子は同時に存在できるのだ」

倫子「かつて1本の世界線上に、鈴羽が2人も3人も居たのと同じようにな」ナデナデ

鈴羽「……?」
59 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:35:28.23 ID:1LIL8LAQo

倫子「オレが過去に存在することによって、とんでもないバタフライ効果を起こしてしまうようなことさえなければ」

倫子「過去を変えずに、結果だけを変えれば」

倫子「"過去のオレ"が男になろうとも、現在のオレという存在は消えない」

倫子「ならば、世界線変動率はそう大きく変わらないはずだ」

倫子「それでいて世界線は変動し、ムービーメールのノイズが取れた世界線へと到着するはず」

フブキ(セジアム)「なるほど……。その仮説、検証してみるわ」

倫子「それに、これなら過去を観測するだけじゃなく、オペレーション・アークライトから戻って来ない不良娘2人とも接触できるはずだ」

ダル「あ……!」

倫子「可能ならその2人をこっちに送り返すことも、な」

倫子「送り返すということは、過去を変えずに未来を変えるということ。この場合も、世界線変動は極小で済む」
60 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:37:04.98 ID:1LIL8LAQo

フェイリス「それじゃ、早速ムービーメールの録画をするニャ?」

倫子「……なあ、ダル。撮影にあたって、声を変えたい」

ダル「ん? なんで?」

倫子「男になった時のオレの声は覚えているから、そいつと同じ声にしたいんだ」

ダル「あー、なる。いいんじゃね、それ。音声編集でうまいことやろうず」

倫子「髪も切るか……」

フェイリス「えぇー! それはダメニャン!」

るか「凶真さんの素敵な御御髪がぁ!」

フブキ「そういうことなら、私が男装コスプレ用ウィッグをつけてあげますよ!」

倫子「そんなものがあるのか……さすが男装のプロだな」

フブキ「それ、褒めてないです……」

かがり「髭は油性ペンで書いちゃいましょうか」ウフフッ

鈴羽「あーっ! あたしがやるーっ!」キャッキャッ

倫子「……いや、うん。ありがとう」
61 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:37:47.51 ID:1LIL8LAQo

・・・

倫子「――健闘を祈るぞ、狂気のマッドサイエンティストよ」

倫子「エル・プサイ・コングルゥ」




フェイリス「はい、これでバッチリだニャ」

ダル「編集はこっちでやっとくお」

倫子「あとはDメールと一緒に過去へ送信だな。ルカ子、送り先と日時を間違えるなよ?」

るか「はい! 今のは2010年の凶真さんの携帯アドレスへ」

るか「その前に撮った至さんのムービーメールは、2011年の鈴羽ちゃんへ、ですね」

倫子「よろしく頼む」ニコ

真帆「お疲れ様。次はセジアムのタイムリープ準備ね」

倫子「これでシュタインズ・ゲートへの道筋はついた……はずだ」

倫子「今の"オレ"に出来るのはここまで。あとは、2010年の"俺"次第と言ったところだな」
62 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:38:28.98 ID:1LIL8LAQo

真帆「ねえ、その……本当にタイムマシンの試作機で、有人実験をするの?」

倫子「不安なのか? 大丈夫だ。オレは、有能な右腕たちを信用しているからな」

真帆「あなたが死ぬのは2025年。この世界線では、それが確定している」

真帆「だからって、自分から死にに行くような真似を、あなたにさせるわけには……」シュン

倫子「確かに、そうだ。オレの通常の未来視でも、2025年にオレが死ぬことは確定しているとわかる」

倫子「だからオレは、今年で死ぬものだとずっと思い込んできた。けどな――」バサッ

倫子「それは、必ずしも『死の必然』とは限らない」

倫子「世界線にとって重要なのは人間の死ではなく、因果律だ。そうだろ」

倫子「だから、このオレが2025年にこの世界線から消えるという選択もまた――死と同じ意味に解釈される」
63 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:40:58.57 ID:1LIL8LAQo

倫子「そもそも、どうしてオレが2025年に死ぬ必要があるんだ? しかも、α世界線とβ世界線と、2つのアトラクタフィールドにまたがる形で」

真帆「えっ……?」

倫子「それに、γ世界線では2036年まで生きていた……まあ、いわゆる悪堕ちというオチだったが」

フブキ(セジアム)「……アトラクタフィールドを跨ぐ共通収束事項は、"阿万音鈴羽が2036年から過去へとタイムトラベルする"、この1点ね」

倫子「そうだ。それ以外の要素は共通していない」

真帆「それって、どういう……?」

倫子「簡単な話さ。オレが2026年から2036年までのあいだに鈴羽の側に居ると、鈴羽がタイムトラベルする決意をしなくなる」

真帆「あっ!」

鈴羽「……リンリン?」

真帆「そうよね、この子、もう岡部さんにベッタリだものね……」
64 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:41:59.18 ID:1LIL8LAQo

かがり「スズちゃん、お姉ちゃんとあっちでお話しよう?」

鈴羽「うんっ!」タッ


倫子「……鈴羽は行ったな。話を続けよう」

倫子「α世界線では2033年に父親を失い、2036年に母親を失う。β世界線では父親は生存するが、母親を失う」

倫子「γ世界線のことはよくわからんが、おそらく似たような状況だったのだろう」

倫子「鈴羽が戦士になるためには、人類史上もっとも過酷な使命を得るためには……」

倫子「"何かを失う"という経験が、必要不可欠なんだ」

倫子「その穴を埋めるような存在が居ては、彼女は絶対に過去へと跳ばなくなってしまう」

倫子「彼女を支えるような存在が居てはダメなんだ」

倫子「だから、オレという存在は、2025年の時点で鈴羽の前から消滅する必要がある」

真帆「そんなことって……」

フブキ(セジアム)「その仮説はイマイチだけど、さっきも言ったように、共通収束事項がそれしか無いのもまた事実」

倫子「だから、必ずしもオレが死ぬ必要は無い。鈴羽には、オレの背中を追いかけてもらえばいいだけだ」

倫子「結論を言おう。オレが2025年にこの世界線から消滅する、ということは――」

倫子「記念すべきタイムマシン初号機に乗り、別の時空間へと無事に旅立つことを意味していたのだ!」

真帆「ものすごいポジティブシンキングだわ……」
65 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:43:52.70 ID:1LIL8LAQo

―――――――――――――

マッドサイエンティスト
【世界は欺ける】

マッドサイエンティスト
【可能性を繋げ】

マッドサイエンティスト
【世界を騙せ】

―――――――――――――


倫子「……別の世界線から届いたこのメッセージが、オレに勇気を与えてくれたんだ」

倫子「唯一不安があるとしたら――」

倫子「物理的タイムトラベルは技術的な問題はないだろう。だが、その先にある世界線は、男になった"俺"が居る世界」

倫子「とは言え、過去へと消えたまゆりと鈴羽は、この世界線から移動してきたとして再構成されるから、オレが女だった記憶は持っているはず」

真帆「ええ。特異点を通過した存在は、情報が保存される。記憶もまた情報だから」

倫子「だが、わかるのはその程度のことだ。その世界線で何が起こるか、想像もつかない」

フブキ(セジアム)「一応、検証の結果としては、問題は無い。シミュレートは完璧なはず」

フブキ(セジアム)「……と言っても、物理学に"完璧"はあり得ない。例えば、別の宇宙からの干渉なんかを考慮しろって言われたら、お手上げよ」

倫子「だから、オレはもう1度、NX<ノア・ファイブ>を使う」

真帆「えっ?」

倫子「紅莉栖は常に、保険を用意しろと言ってきた」

倫子「このタイムマシンに乗ってオレが行きつく先を、事前にのぞき見てやろう」ククッ



――シュィィィィィィィィィィィィィィン!!
66 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:46:08.95 ID:1LIL8LAQo

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――
――


倫子「みんな、今日までオレみたいな人間によくついてきてくれた」

倫子「だが、"神の摂理"を相手にした戦いは、まだ続く」

倫子「次は、2036年だな。それまで、よろしく頼む」

倫子「『ワルキューレ』の健闘を祈る」

真帆「……っ」ウルッ

倫子「よし、そろそろ逃げた人質を捕まえに行くか。あいつが人質をやめたのはあの日一日だけだから、あいつは今でもオレの人質だ」

ダル「たぶん、まゆ氏と鈴羽を乗せたC204型はバッテリーが切れたはず。それによって、正常な時間転移が出来なくなってるんだ」

ダル「だから、C193型に予備のバッテリーを積んでおいた。これを使えば、C204型はもう一度タイムトラベルできる」

ダル「オカリンと一緒に、ここに帰ってくることができる。鈴羽のこと、頼んだぞオカリン」

倫子「任せろ」フッ

倫子「(仮に鈴羽たちのマシンが壊れていたとしたらその時は……このC193型に"鈴羽とまゆりだけ"を乗せて現代へ帰す)」

倫子「(オレは乗れない。このマシンはまだ試作機で、人間を3人以上乗せることができないからだ)」

倫子「(だが……それでも、オレは構わない)」

倫子「シュタインズゲートを目指すのが"2010年の俺"の仕事なら……」

倫子「旅に出たきり戻らない不届きな人質と不良娘を送り返すのが、"このオレ"の仕事だからな」
67 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:46:53.68 ID:1LIL8LAQo

倫子「じゃあ、行ってくる」

かがり「ま、待ってっ! 待ってくださいっ!」タッ タッ

かがり「オカリンさん。持って行ってください。お守り」スッ

倫子「これは……緑のうーぱキーホルダー?」

倫子「いいのか? 君の大切な宝物だろう?」

かがり「だからこそです。絶対に返してください。……まゆりママと一緒に」

倫子「……分かった。必ず返すよ――必ずな」
68 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:47:25.01 ID:1LIL8LAQo

真帆「……元気で」

倫子「君もな、クリス。いや……真帆」

真帆「……ねえ? シュタインズ・ゲートは本当に実在すると思う?」

真帆「今まで何度も計算して、仮説を立てて、解を導いてきた。だけどそれらは――」

倫子「やってみなきゃわからない。そうだな」

真帆「……っ」グスッ

倫子「シュタインズ・ゲートはあるさ。絶対に」ダキッ

真帆「岡部さん……ううん、オカリンさんっ」ポロポロ

倫子「泣くなよ、真帆ちゃん」フフッ

真帆「な、泣いてないわよぉ……っ。あと、ちゃん付けぇ……っ」グシグシ

真帆「あなたのことは、絶対に忘れないから……。たとえ世界が塗り替わろうとも、絶対に」ギュッ

真帆「必ず、また会いましょう……私の大切な人……」

倫子「ああ」

真帆「……行ってらっしゃい」
69 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:47:59.73 ID:1LIL8LAQo

フブキ(セジアム)「私のタイムリープの準備もできたわ」スチャ

ダル「干渉量、問題なし。タイミング制御装置、問題なし」カタカタ

真帆「トレーシング完了、局所場指定完了……いつでも行けるわ」

倫子「よし! 全員、下がれ!」

倫子「これよりオペレーションを開始する。なお、作戦名は――」

倫子「彦星作戦<オペレーション・アルタイル>とする!」


ウィィィィィィィン(※ハッチが閉まる音)

ゴウンゴウンゴウン…


ダル「そっち、データは?」カタカタ

真帆「ええ、異常ないわ」カタカタ

真帆「うまく……行くわよね……」カタカタ

フェイリス「大丈夫。凶真は必ずやり遂げるニャ」

るか「その通りです。不可能を可能にする人ですから」

ダル「それでこそ僕たちのオカリンなわけでね」

鈴羽「リンリン……」

かがり「オカリンさん……」


キラキラキラ…
70 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:48:38.68 ID:1LIL8LAQo

ダル「……ああっ、もうっ!!」ガバッ

真帆「橋田さんっ!?」

ダル「オカリーンッ!!! 絶対、絶対にここへ戻ってこいよぉっ!!! 僕は君が居ないと、ダメなんだからぁっ!!!」

真帆「……わ、私だって待ってるからっ!!! 帰ってこなかったら、脳みそに電極を刺しちゃうんだからぁっ!!!」

フェイリス「凶真ぁぁ! 凶真がいなきゃヤダぁぁぁ!」

鈴羽「リ゛ン゛リ゛ィ゛ィ゛ン゛ッ゛!!」ポロポロ

るか「凶真さんっ!!」

かがり「オカリンさんっ!!」



キィィィィィィィィン……

71 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:49:45.54 ID:1LIL8LAQo

―――――――――――――――――――――――――――――――
        1.132090     →     1.130212
    2025年8月21日15時36分  →  1975年8月21日15時36分
―――――――――――――――――――――――――――――――
72 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:50:56.82 ID:1LIL8LAQo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・

世界線変動率【1.130212】
1975年7月7日(月)15時30分
ラジ館屋上


鈴羽「まさか、このC204型くんの初期設定年に不時着するとはね。日付は1ヶ月ほどずれてるけど……」

まゆり「うわぁー、空気が美味しくないのです……」ウヘェ

鈴羽「まぁ、まゆねえさんだったらそーゆーリアクションになるよね」

鈴羽「うーん……参ったなー。まさか過去方向へ不時着するなんて。バッテリーも完全にイっちゃてるし……」カチャカチャ

まゆり「どうしてまいったなーなの?」

鈴羽「シュタインズ・ゲートへの変動は2010年8月21日だから、あたしたちはここであと35年間過ごさないと世界は再構成されないんだ」

まゆり「そっかー。ちゃんとオカリン、しゅたいんずげーとに到達するんだー」エヘヘ
73 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:51:49.87 ID:1LIL8LAQo

鈴羽「いや、まゆねえさん。まだそうと決まったわけじゃ……」

まゆり「えー、そうなの?」

鈴羽「うん。35年後を観測すれば成功か失敗かどっちかに確定するんだけど」

まゆり「そっかー……」シュン

まゆり「でも、だったらまゆしぃたちはちゃんと2010年まで生き残らなきゃだね!」

鈴羽「ともかく、誰かに見つかる前にここを退散しないと。一旦マシンをカモフラージュして、そのあとで解体かな……」ブツブツ

まゆり「……ねえ、スズさん」



まゆり「この1975年でも、お星様は輝いているのかな……」スッ



鈴羽「(あれは、まゆねえさんの癖……たしか名前は――――)」



キラキラキラ …
74 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:52:30.27 ID:1LIL8LAQo


ドォォォォォォォォォォォォォン!!!



鈴羽「っ!?」ビクッ

まゆり「えっ!? な、なにっ!?」ドキッ

鈴羽「――嘘ッ!? どうして、そんな、なんでここに――――」


プシュー …

ゴウンゴウンゴウン …


まゆり「……もう1台の、タイムマシン?」キョトン

鈴羽「なにこれ!? どういうこと、聞いてない!」


ウィィィィィィィン(※ハッチが開く音)




倫子「――――彦星作戦<オペレーション・アルタイル>第一段階、成功だぁっ!!!」バサッ
75 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:53:19.34 ID:1LIL8LAQo

まゆり「オ、オカリン!?」

鈴羽「リンリン!? って、歳が昔に戻ってる!?」

倫子「鈴羽よ、ややこしいから普通に『歳を取った』と言ってくれ」

鈴羽「そんなことより、どうしてリンリンがここに!?」

倫子「それはこっちの台詞だ。まさかお前たちが1975年に不時着していようとはな」

倫子「出て行ったきり戻って来ないお前たちを、未来へと送り返しに来たのだっ」

鈴羽「未来に……帰れるの!?」

倫子「予備のバッテリーを持ってきた。安心しろ、2025年の最先端テクノロジーだ。互換性はちゃんとある」

倫子「帰ってダルたちに挨拶をしないとな。"ただいま"って」ニコ
76 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:54:39.97 ID:1LIL8LAQo

まゆり「……オカリン」ウルッ

倫子「……まったく、人質のくせに生意気だ。オレの手からは逃れられん。絶対にだ」

まゆり「オカ……リン……っ!」ポロポロ

まゆり「オカリンッ! オカリンッ! オカリンッ!!」ダキッ

倫子「ふふっ。そう何度も"オレの名前"を連呼するな。こそばゆい」ギュッ

まゆり「やっぱり……助けに来てくれた……! いつも、オカリンは、助けに来てくれて……!」

倫子「がんばったな、まゆり。お前は、栄誉あるラボメンナンバー002の、偉大なる初任務を成功させた」ナデナデ

まゆり「やっと、まゆ……しぃは、オカリンの……役に……立てたよ……」グスッ

倫子「(いつかどこかで聞いたセリフ……)」

倫子「…………。……オレだ」スッ

倫子「あぁ、そうだ。椎名まゆりはここにいる。計算通り、オレの"リーディングシュタイナー"は発動していない」ウルッ

倫子「もちろん、オレが守る。それが"彦星作戦<オペレーション・アルタイル>"だ」グスッ

倫子「世界に訪れる混沌。これこそが、運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択なのだ―――」ポロポロ

倫子「エル・プサイ・コン……グ、ルゥ……っ」ヒグッ
77 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:58:50.49 ID:1LIL8LAQo

鈴羽「リンリン、あのさ……どうしても、聞きたいことがある」

倫子「……シュタインズ・ゲートへ到達するかどうか、だな」

鈴羽「うん……」ゴクリ

倫子「オレが、オレたちが導き出した計算では……」

倫子「シュタインズ・ゲートの観測は、この世界線において確定事項だ」

鈴羽「……え」ドクン

倫子「未来視によれば、この世界線の"俺"は間違いなく2度目の紅莉栖救出を行う」

倫子「2010年7月28日……。そこに分岐点が用意されている」

倫子「そして、そこで必ず選択をすることになる――――シュタインズ・ゲートの選択を」

鈴羽「ということは……」プルプル

倫子「オペレーション・アークライトは成功した。お前の父親が鈴羽に託した任務は、完遂したんだ」

鈴羽「な、な、な……!!!」プルプル



鈴羽「――――成功したアアッ!!!!」
78 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:59:36.53 ID:1LIL8LAQo

鈴羽「成功した成功した成功した成功した……ッ!」


鈴羽「成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した……」


鈴羽「成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した……ッ!!!!」



鈴羽「あたしは、成功したアアアアーーーーーーーッ!!!!!!!」



倫子「ぷっ。くははは。うむ、実にいい顔だぞ! ラボメンナンバー008、阿万音鈴羽っ!」

倫子「(……ようやくオレもダルと由季さんに胸を張って感謝ができそうだ)」

倫子「(鈴羽を誕生させてくれて、オレたちを導いてくれて、ありがとう、と……)」
79 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:01:31.57 ID:1LIL8LAQo

・・・

倫子「バッテリーの換装は終わったか?」

鈴羽「……それが、その……」

倫子「……C204型は壊れている、のだな?」

鈴羽「う、うん。バッテリーを繋いでも、うんともすんとも言わなくなっちゃった」

倫子「(やはり、か……)」

倫子「となると、何はともあれC204型の解体が急務だな。この時代にオーパーツを残すわけにはいかない」

鈴羽「わかった、すぐ取り掛かるよ」タッ

まゆり「えっと、まゆしぃたち3人は、C193型ちゃんで帰るのかな?」

倫子「……3人じゃない」

倫子「お前と、鈴羽だけだ」
80 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:02:22.57 ID:1LIL8LAQo

まゆり「え……」ドクン

鈴羽「リ、リンリン! どういうこと!?」タッ タッ

鈴羽「C193型をちょっとのぞいてみたら、アレ、3人以上の人間が乗れないように設計されてる!」

倫子「さすが鈴羽、すぐにわかったか」

まゆり「な、なんで!? オカリンはどうなっちゃうの!?」

倫子「オレはこの時代に残る。35年を生きて、再構成に巻き込まれることになるだろう」

倫子「しばしの別れだ。なに、向こうにはダルもルカ子もフェイリスも真帆も……かがりだって居る」

倫子「なにも寂しいことは――――」




まゆり「――――オカリンのバカッ!!!」ダキッ




倫子「う、うおっ!?」
81 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:07:54.57 ID:1LIL8LAQo

まゆり「まゆしぃはね、もう、まゆしぃは……オカリンとお別れするの、イヤだよ……」グスッ

倫子「まゆり……」

まゆり「まゆしぃはね、世界中の誰よりも、オカリンと一緒に居たいんだよ……?」ウルッ

倫子「…………」

鈴羽「……あたしだって、そうだよ。そりゃ、父さんと母さんの居る時代に戻れるなら、戻れるに越したことはない」

鈴羽「でも、そこにはあたしじゃないあたしがちゃんと居る。シュタインズ・ゲートのために、あたしが未来へ戻る必要性は無い」

倫子「……ああ、そうだな」

まゆり「ねえ、オカリン……もう、まゆしぃたちは充分、頑張ったと思うの」

倫子「うん……」ウルッ

まゆり「だからね、ずっと一緒に居たいな……」

倫子「……っ」ポロポロ
82 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:08:58.89 ID:1LIL8LAQo

倫子「で、でも、いいのか? お前たち、こんな時代で、ずっと暮らすなんて……」グシグシ

まゆり「まゆしぃはオカリンと一緒なら、どこでもいいよ。今日は人質をやめるって言ったけど、明日からは人質に戻りたいな」ギュッ

倫子「……随分自分勝手だな」

鈴羽「70年代だって悪くないよ。きっとあたしたちで自由に生きていける」

鈴羽「それにあたしの次の使命は、ふたりを守る戦士になることだ。それはラボメンナンバー008としてのオペレーション……でしょ?」

倫子「お前たち……」グスッ

倫子「(すまない、ダル、かがり。お前たちとの約束を果たすのは、35年後になりそうだ)」

まゆり「ねえ、オカリンが持ってるそれって……」

倫子「……ああ。かがりから渡されたんだ。お守りに、って」スッ

まゆり「森の妖精さんうーぱ……。うん、うーぱが居てくれるなら、寂しくないよ」エヘヘ

まゆり「ありがとう、かがりちゃん……」
83 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:09:56.18 ID:1LIL8LAQo

鈴羽「となると、サバイバル生活のはじまりだね。色々準備しなくちゃ! 忙しくなるぞーっ」

まゆり「スズさん、なんだか楽しそうだねぇ」ニコニコ

鈴羽「そりゃあね。なんだかもう、すごく気分が良いんだ」フフッ

鈴羽「さ、リンリン! まずはこのマシンたちの解体だったね」

倫子「鈴羽……」

鈴羽「ほら、ぼーっとしてないで、リンリンもこっち登って手伝って」スッ

倫子「……ああ、わかった。オレの手を掴んで、引っ張ってくれ」スッ


ガシッ!

84 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:12:52.10 ID:1LIL8LAQo

鈴羽の手を掴んだことが正しかったのか、そうじゃなかったのか、オレにはわからない。

この世界線でもオレの死亡収束があるため、2025年、つまり83歳までオレは死なないだろうか。

なんてな。そんなわけない。その収束があるのは倫太郎であってオレではない。

オレという存在は既に、肉体の連続性という意味でも因果の輪から外れてしまった。

いずれ世界線の収束によって修正されてしまうだろう。

さっきも言ったが、この世界線では2010年にシュタインズ・ゲートへと変動する。

ここは、オペレーション・スクルド等のDメールを送った後の世界線だ。送る世界線ではない。

ゆえに、倫太郎がシュタインズ・ゲートを観測しさえすれば、世界はすべて倫太郎の主観に従属し、再構成される。

シュタインズ・ゲートへの再構成においては、この世界線におけるオレたちの痕跡はすべてなかったことになる。

それが狭間の世界線、すべてのアトラクタフィールドの干渉を受けないとされる所以でもある。

オレたちが買ったものは別の誰かが買ったことになっているだろうし、オレたちの暮らした家だって別の誰かが住んだことになっている。

結果だけを残して、オレたちは消滅するんだ。

たとえそうだとしても、オレは、オレの約束を果たさなければな。

まゆりはオレの人質で、鈴羽は時空の戦士なのだから――――
85 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:16:29.95 ID:1LIL8LAQo

・・・

まゆり「もう夜になっちゃったね」

鈴羽「元々すぐ解体できるように設計されてたとは言え、2台分となるとさすがに時間がかかるね」

倫子「とりあえず、今日はここまでだ」

倫子「機体の構造材はプラチナやチタン、パラジウム、イリジウムなどの希少金属が主だ。この辺はそのまま加工所や金属商に売れる」

倫子「今はベトナム戦争も終結したばかりで、カンボジアやレバノンではいまだ内戦が続いているから、金属の値段は高騰していてな」

倫子「大量に現金が手に入るぞ。当面の生活資金にしよう」

まゆり「いくらくらい?」

鈴羽「この時代のレートで、数億円は確実かな」

まゆり「それって、バナナが何本かな〜?」

倫子「(……あれ、こいつ受験生だよな……?)」
86 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:17:39.82 ID:1LIL8LAQo

倫子「それ以外の廃材は、この時代の"安全な"廃棄物処理を行う。ほとんどヤのつくところに世話になるが」

鈴羽「いざとなったらあたしがふたりを守るから」

まゆり「まゆしぃも体力はあるから、運ぶのをお手伝いするのです!」

倫子「ああ、よろしく頼むぞ。ラボメンナンバー002」ニコ

倫子「金を手に入れた後は、今日中に上野に行く必要がある。犯罪組織のニンベン師と接触して、戸籍を入手する」

鈴羽「地下に潜り続けたり、保護母体があるならともかく、公的機関を使って生活するには必要だもんね」

倫子「35年間3人であなぐら生活はさすがに耐えられんだろう?」

まゆり「できれば毎日お風呂に入りたいな……」

倫子「そのためにも、今汗を流して働くんだ。いいな?」

鈴羽「それじゃ、リンリンはこれ、まゆねえさんはこれ持って」スッ スッ

まゆり「オーキードーキー!」ヒョイッ

倫子「……お、重っ!」ズシッ
87 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:19:26.71 ID:1LIL8LAQo
同日夜
上野 雑居ビル地下


鈴羽「名前?」

ニンベン師「ああ、今ならちょうど良いタイミングでね。他人の戸籍を買うんじゃなくて、好きな名前で戸籍が取れる。どうするね?」

倫子「3人分もか?」

ニンベン師「これだけの金があれば、10人でも、100人でも作れちまうよ」カカッ


倫子「ふむ……。まあ、"岡部倫子"はこの世界線に生まれてこないのだから、オレはそのままでもいいが」

まゆり「うん、そのままがいいよ。だって、名前が変わっちゃったらオカリンじゃなくなっちゃうもん」

鈴羽「確かに。あたしは"橋田鈴"でいいんだよね? それで、まゆねえさんは?」

まゆり「えっとね、まゆしぃは"星屑握手さん"にしようかなー」

倫子「そんな日本人いるかっ! そうだな、ここは……"岡部真百合"、なんてどうだ。"凶真"から一字を取ってだな……」

鈴羽「…………」

まゆり「…………」

倫子「ま、真顔で見つめるなぁっ! オ、オレだって恥ずかしかったんだぞっ!」テレッ
88 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:20:26.19 ID:1LIL8LAQo

まゆり「えへ。えっへへ。えっへへ〜♪」デレデレ

鈴羽「それだと、ふたりで姉妹みたいだね」

まゆり「うんうんっ! オカリンとまゆしぃはね、子どもの頃から姉妹みたいにいつも一緒だったのです!」

倫子「まあ、この年齢差だと親子に間違われそうだけどな」

鈴羽「確かに、まゆねえさんは童顔で、リンリンはアダルトだもんね」

倫子「どうせオレは老け顔だよ……」

鈴羽「そっ、そんなことないっ! 絶対無いっ! フェロモン全開だよっ!」

まゆり「オカリンがまゆしぃのお母さんなの? それだと、かがりちゃんはオカリンの孫娘だねぇ♪」

鈴羽「複雑な家庭だね」

倫子「これ以上ややこしくしないでくれ……」
89 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:21:39.02 ID:1LIL8LAQo
1975年7月8日(火)13時24分
秋葉原 中央通り


倫子「(昨晩は余った金でビジネスホテルに宿泊した)」

倫子「さて、戸籍は明日完成する。だが、ラジ館屋上にはいまだ解体途中のタイムマシンがある」

鈴羽「早めに見積もっても、完全に処分するにはあと1週間はかかりそうだね。そうなると、見つかる危険性が高い」

鈴羽「何より、8月13日までには完全に撤退しないと、重大なパラドックスが起きる危険がある」

まゆり「もうひとりのスズさんと、かがりちゃんが現れちゃうんだよね」

倫子「そこで今度は、ラジ館の管理会社と太いパイプを持っている別の会社の重役を金で買う」

まゆり「オカリン、大人になっちゃったんだね……」

倫子「しかし、いかに金があろうと、この時代において33歳の女と、17歳と19歳の少女の無理が通るわけもない」

鈴羽「どうするの?」

倫子「……柳林神社を利用させてもらう」
90 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:22:53.31 ID:1LIL8LAQo
某会社


栄輔(15歳)「――ラジ館屋上には、亡霊が棲みついている」

重役「っ……」


鈴羽「本当にこんなのでどうにかなるの?」ヒソヒソ

倫子「1970年代後半は都市伝説や怪談がポンポン生まれた時代だ。そうじゃなくても、不動産会社ってのは霊的なものを嫌う傾向がある」

鈴羽「そうなの?」

倫子「それに、地元の神社のお祓いを受けないわけにはいかない。ここで商売を続ける限り、地縁に縛られざるを得ないからな」

まゆり「でも、どうやってるかくんのパパを説得したの?」

倫子「エレキギターを買ってやると言ったらついて来た。ルカパパは昔ロックバンドをしていたらしくてな、見事にハマってくれた」

鈴羽「買収したんだ……」


重役「分かった。……何とか掛け合ってみよう」

重役「あんたらの本当の目的がなんなのか知ったことじゃないが……変な噂は立てないでくれよ」

倫子「ああ。特に、8階の従業員通路に赤い髪の女の幽霊が出る、なんて噂は、絶対に流さないよう努力しよう」
91 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:24:11.80 ID:1LIL8LAQo

・・・
1975年9月27日土曜日 曇り
池袋 雑司ヶ谷 とある一軒家


まゆり「……なんだか、ようやく生活が落ち着いたね」

倫子「タイムマシンも片付いて、身分証も整理し、家まで手に入れたからな」

鈴羽「住処を決める時もさんざん迷ったよね」

倫子「秋葉原という選択肢もあったが、それよりも――」

鈴羽「……うん。まゆねえさんとリンリンの生まれ育った街だもんね、ここは」

まゆり「ねえ、オカリン。まだこっちに来てから"まゆしぃたちの家"、見に行ってなかったよね?」

倫子「え?」

鈴羽「それを言うなら、"まゆねえさんたちが生まれることになる家"じゃない?」

まゆり「あ、そっか。うん、そうそう」

倫子「ああ、なるほど。たしかオレの家、というか、岡部青果店は2011年で築40年だったらしいから、今の時代だと新築だな」

まゆり「オカリンのお父さん、居るかなぁ〜?」

倫子「中坊の親父か……あまり会いたくはないが」

鈴羽「時間もお金もあるからある程度は何してもいいとは思うけど、隠密行動を心がけてよ?」

まゆり「オーキードーキーだよー、スズさん♪」
92 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:26:24.02 ID:1LIL8LAQo
雑司ヶ谷霊園近く 商店街


まゆり「そう言えば、この時代って、まだまゆしぃのおばあちゃん生きてるんだよね……」

倫子「……そうだな。だが、接触は厳禁だぞ?」

まゆり「わ、わかってるよ! まゆしぃ、そこまでバカじゃないもん」プイッ

まゆり「…………」

倫子「(婆さん、今はオレと同い年くらいか。……すまないな、まゆり)」

まゆり「あっ! ねえ、オカリン! ここって、オカリンがいつもビニール傘を買ってくれたコンビニがあったところだよね?」

倫子「ああ、たしかに……ほう。昔は時計店だったのか」

まゆり「……ショーケースに並んでる懐中時計、まゆしぃのカイちゅ〜とおんなじやつだ」スッ

倫子「(過去に持ってきてたのか) どれどれ……おお、本当だ」

まゆり「そっか……おばあちゃん、このお店で買ったんだ……」

倫子「……まゆり、それ、買うよ。幸い、金はたくさんあるし」

まゆり「えっ!? で、でも、そんなことしたら、おばあちゃんが買えなくなっちゃうよ!」アセッ

倫子「よく見ろ。これは展示品で、商品はいくつも同じのが用意してあるんだよ」

まゆり「そうなの?」

倫子「だから、その……。まゆりとお揃いの時計を、オレが持っててもいいだろう?」

倫子「お前と同じ時間を、一緒に歩いていきたいから……」

まゆり「オカリン……」
93 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:29:09.31 ID:1LIL8LAQo


時計店店員「ありがとうございました」


まゆり「おそろいだねぇ、えっへへ〜♪」ギュッ

倫子「う、腕を掴むな。歩きにくい」

まゆり「え〜、一緒に歩いてくれるんじゃなかったの〜?」

倫子「そういう意味じゃなくてな……」

まゆり「ほら、着いたよ? オカリンのおうち」

倫子「う、うむ……。紛うことなき岡部青果店だ。オレの記憶と違うのは、小奇麗なのと、犬小屋が無いくらいか」

岡部父(13歳)「いらっしゃい。なんにします?」

倫子「(これが親父か……。まだガキじゃないか……)」

まゆり「ぼく、お店番? えらいねぇ〜」ニコニコ

岡部父「は、はい……」テレッ

倫子「このスケベ坊主が。歳を取ってから椎名の娘にセクハラしないよう肝に銘じておくのだなっ」ケッ

岡部父「はぁ……?」ポカン

まゆり「えっとね〜、バナナを1房ください♪」
94 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:31:22.01 ID:1LIL8LAQo
都電雑司ヶ谷駅付近


ガタンゴトン …


倫子「全く、油断も隙もあったもんじゃない。あいつ、まゆりの胸に目が釘付けだったぞ」プンプン

まゆり「まだ子どもだよ〜?」


??「ド、ドロボー!!」

泥棒「へへっ……」タッタッ


まゆり「えっ!? あ、あそこっ!」

倫子「(あんまり目立ちたくなかったが……)」タッ

倫子「おい、そこの」

泥棒「な、なんだテメェ!? どけっ!!」

倫子「やれやれ。ガキの喧嘩ならいざ知らず、近所で悪事を働くとは」

倫子「天が許しても、この"池袋のトラブルシューター"こと鳳凰院――」

泥棒「うるせェ!」ダッ!

まゆり「きゃぁっ!」

倫子「ひ、ひぃっ!」ビクッ


鈴羽「――だりゃぁっ!」ガッ


泥棒「ぐあッ!」ズテーン!
95 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:32:26.95 ID:1LIL8LAQo

倫子「す、鈴羽……!?」

まゆり「スズさんっ!」パァァ

鈴羽「帰りが遅いから探しに来てみれば、この卑劣漢め……」ガシッ

泥棒「テメェ何しやが……!?」

鈴羽「あたしが押さえ込んでるから、リンリン、やっちゃって」

倫子「あ、ああ。任せろ……ふんっ!!」ドゴォ!!

泥棒「―――――っ!!」

泥棒「あ……あ、あ……っ」バタッ

倫子「情けない奴だ。ダルだったらこの程度の金的で気絶などせんぞ」
96 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:33:35.86 ID:1LIL8LAQo

倫子「大丈夫ですか? バッグを取り返してきましたよ」スッ

??「(て、天使……)」トゥンク

??「あ、ありがとうございます! この中には通帳と印鑑と、大切なものが入ってて……」ペコペコ

倫子「(なんでまたそんなものを持ち歩くかな……)」

??「実は私、すぐ物を失くしてしまうタチでして……このご恩は決して忘れません! 何かお礼を!」

倫子「お礼……いえ、結構ですよ。それでは、私たちはこれで」

??「ま、待ってくださいっ! せめてお名前だけでもっ!」

倫子「…………」


倫子「おい、これ、どうすべきだ?」ヒソヒソ

鈴羽「ありゃリンリンに惚れてるよ」ヒソヒソ

まゆり「オカリン、美人さんだもんねー」ヒソヒソ
97 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:39:10.01 ID:1LIL8LAQo

倫子「本当に申し訳ないですが、その――」

??「こ、これは失礼! ひとの名を聞くときはまず自分から、ですよね!」

椎名「私、椎名と申します。椎名――――」


まゆり「……えぇーっ!?!?」

鈴羽「ど、どうしたの?」

まゆり「……おじいちゃんだ」

鈴羽「えっ……?」

まゆり「この人、まゆしぃのおじいちゃんだ……」プルプル

倫子「まゆりのおじいちゃん!?」


椎名「まゆりのおじいちゃん?」

倫子「(この20代後半の男が、まゆりの祖父だと言うのか!? ……となると、これは非常にマズイ)」ドキドキ

倫子「(早いところこの場から立ち去らねば……!)」
98 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:39:53.96 ID:1LIL8LAQo

倫子「あーっ、もうこんな時間っ! 急がなきゃ」スッ

倫子「(買ったばかりの懐中時計が役に立ったな……!)」

椎名「あ、あのっ! もし、もし覚えていたら――――」

椎名「半年後、またこの駅で会っていただけませんか……」

倫子「(……親父から聞いたことがある。『君の名は』という昭和の映画のセリフだ)」

倫子「(この人にはなんの恨みもないが……)」

倫子「……さようなら、椎名さん」タッ

椎名「あっ……」


鈴羽「……良かったの? すごく、悲しそうな顔してたけど」

倫子「……そのうち忘れてくれるだろう。そうなってくれないと困る」

まゆり「う、うん。まゆしぃのおばあちゃんがオカリンになっちゃうところだったよ」

倫子「そう単純な話でもないんだがな……」
99 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:40:59.65 ID:1LIL8LAQo
1975年9月28日日曜日
池袋 雑司ヶ谷 とある一軒家


倫子「……忘却とは、忘れ去ることなり、か」

鈴羽「何当たり前のこと言ってるの?」

倫子「いや、この詩には続きがあるんだ。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ、ってな」

鈴羽「……まるで昔のリンリンみたいだね。牧瀬紅莉栖のことを、α世界線のことを、ラボのことを忘れようとしてた頃の」

倫子「それこそ忘れてくれ。オレにとっては黒歴史……いや、今となっては大切な思い出か」フッ

倫子「それより、これからどうするか決めたのか?」

鈴羽「うん。あたしはα世界線と同じように、大検取って電機大に入学してみようと思う」

倫子「ほう。まあ、この世界線では相対性理論超越委員会を結成する必要は無いが……鈴羽がそうしたいならそうすればいい」

まゆり「ごはんできたよー!」

鈴羽「おおっ、良い匂い。母さんに鍛えられただけのことはあるね」

倫子「(本当はかがりなんだが、そのことはわざわざ言う必要は無いだろう)」フフッ

倫子「まゆりはすっかり主婦だな。大学はいいのか?」

まゆり「えっ? うん、まゆしぃはできるだけオカリンの側に居たいので」エヘヘ

倫子「……そうか」
100 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:41:51.43 ID:1LIL8LAQo

その後、オレたちは緩慢な時間の中でその時を待ち続けた。

とは言っても、常にSERNを警戒する必要があった。

助教授になった鈴羽には、天王寺裕吾に関わるなとだけ念を押しておいた。

関わったところで、いずれつらい思いをしなければならないからな……。

だか、天王寺が日本へとやってくる3年前に、早くもその時が来てしまった。




――――1994年2月1日、椎名まゆりが死んだ。
101 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:42:38.73 ID:1LIL8LAQo
1994年2月1日火曜日
池袋 とある総合病院の一室 【岡部真百合様】


医者「――原因不明の多臓器不全。36歳の若さとは、本当に残念でなりません」

倫子(52歳)「まゆり……」グッ

医者「真百合さんの私物はこちらに」スッ

倫子「……懐中、時計。おかしいな、昨日までちゃんと動いてたのに、私の時計も動いてるのに」

倫子「まゆりの時計だけ、止まってる……」ギュッ

倫子「なあ、まゆり……。これで、よかったんだよな……?」


まゆり「……………………」
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