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咲「和ちゃんが男子になっていまいました」
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2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 18:23:16.98 ID:HPVkbKXjO
咲「部長たちも連絡くれたけど、やっぱり何も分からないって」
優希「のどちゃんが一週間くらい前に退院したって聞いて、何回か家にも訪ねてみたけどなー」
咲「うん」
うなだれた様子で優希ちゃんが切り出す。
優希「いつ行っても、のどちゃんは寝てるって言われて。もう門前払いだったじょ……」
咲「そうだったんだ…」
パパさん堅物なんだじぇ、とは優希ちゃん談
和ちゃんが聞いたら怒りそう
咲「優希ちゃん、和ちゃんと同じ中学だもんね。ご家族とも知り合いなんだ」
優希「まあなー。咲ちゃんも、今度のどちゃんのお見舞いついでに行ってみるかー?」
咲「ついで……?」
優希「間違ったじょ。お見舞いで行くんだじぇ!」
落ち込んではいても、やはり優希ちゃんは明るい。
可笑しくてつい笑っていると、優希ちゃんも安心したみたいにふんわり微笑んだ。
それにしても、しっかりしててマメな和ちゃんが、一度も私達に連絡してこないなんて。
不安だ。凄く。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 18:41:02.09 ID:HPVkbKXjO
……和ちゃんが倒れたのは、インターハイ団体戦決勝の後。
………
……
…
久『団体戦お疲れ様でした、一晩ホテルで休んで。明日の個人戦も頑張りましょうっ」
--でーも!
久『――戦果は上々!今夜はこれくらい、許されるわよね?』
嬉々とした部長の乙女なはにかみ。可愛い人。
まこ『お主。そんな経費ないじゃろうに……』
久『大丈夫よ、私たちは地元の期待に応えたんだもの。これくらいいいじゃないっ』
和『夏休み明けてみたら、麻雀部は大幅な予算オーバーで廃部に……』
和『なーんてことないよう、きちんとお願いしますよ……部長?』
久『わ、わかってるわよ……』
透華『こんなめでたい日にそんな微細な問題気にするものではありませんわっ!』
透華『今夜は長野県代表、清澄高校の祝勝会ですもの。お代はうちが受け持ちますので、目一杯楽しみましょう!』
ゆみ『まあ、そうだな。明日からはまた個人戦が始まるが……』
ゆみ『とはいえ、今日くらい美味しいものを食べたって罰は当たらないさ』
ゆみ『ところで龍門渕、その宴会だが、当然鶴賀も参加可能なのだろう?』
透華『当然ですわっ!清澄の勝利を祝いたい気持ちのある方でしたら、どなたでも大歓迎です!』
靖子『ほう、なら私も参加させてもらおうか』
純『おい、プロのくせに学生にたかんなよ……』
靖子『久とは長い付き合いだからな。そういう席が設けられているなら、参加したいと思うのは当然だろう?』
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 19:45:20.84 ID:R18BqZWMO
華菜『キャプテン!私たちも行きましょうよ!』
美穂子『ああ、華菜……でもいいのかしら…』
久保『何を躊躇う理由がある』
美穂子『こ、コーチ…!』
久保『同郷が立派な成績を残したんだ。祝ってやんのが仲間ってもんだろうが……違うか?』
華菜『コーチ…ッ!』
久保『オイ池田ァッ!ここで足踏みしてる福路も連れていってこい!腹いっぱいになるまで帰ってくんじゃねぇぞ!!』
華菜『はいっ、コーチ!!ほらキャプテン、コーチもこう言ってますし!』
美穂子『待って、華菜……。コーチ、よろしければ一緒にいらっしゃいませんか?』
久保『……なに?』
美穂子『清澄と風越女子である私達が同郷であるなら、私たちを指導し共に戦っているコーチもまた、同郷ですよね?』
久保『福路……』
美穂子『それに……まだ私の個人戦が残っています。ですが今夜は、風越女子の団体戦の区切れとして、同じ長野を背負った彼女たちの功績に敬意を表し、祝いの席に並ぶというのはどうでしょう?』
美穂子『もちろん、来年の優勝は風越女子のものですけどね……フフフ』
華菜『キ、キャプテン……』
久保『……ん、んんっ。チッ、わかったよ……ったく、人の気遣いを無下にしやがって。福治ッ!帰ったらきっちりミーティングだからなっ!』
美穂子『ええ、付いていきます!』
華菜『……キャプテンとコーチ越しに夕日が見えるじぇ』
未春『華菜ちゃん落ち着いて!口調っ、口調間違ってるよ……!』
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 19:56:27.50 ID:R18BqZWMO
ノリノリの加治木さんたち鶴賀や、遠慮がちな久保コーチを引っ張ってくる風越。
参加者を募りつつ、『アレが食べたい、コレが食べたい』と店を相談する部長と龍門渕さん。
『衣も麻雀打ちたい!』嬉しそうに抱き付いてくる衣ちゃん。
騒がしく、そしてとても心地良い空間。
……紛れもなく、自分達が仲間と努力して勝ち取ったものだ。
成し遂げた優勝を称えるトロフィーを抱えながら、感動を噛み締めていた。
宴会も無事終わり。部長の悪戯っぽいウインクがミーティングを締めくくった後。
そして、その帰りに和ちゃんが倒れた。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/10(日) 21:35:20.48 ID:jPwsS4dxO
巨根なのかな
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 21:58:50.32 ID:xZB/hCGiO
…
……
………
咲「……」
幸せの絶頂の中での、唐突な。
和ちゃんの突然の体調不良と共に幕を閉じた、私たちのインターハイ。
和ちゃんは個人戦当日も入院先で意識が戻らず棄権。
私も、個人戦は棄権してしまった。
薄れていく非日常の熱気。
新学期が始まれば、原村和も普段通り登校してくるだろうと、皆が信じていた。
咲「……あれ」
優希「ん?どうしたー、咲ちゃん」
咲「なんか校門の前、人だかりができてない…?」
優希「登校時間なんだから当たり前だじょ」
咲「あはは、それもそっか」
いつもの登校日。
秋を間近に控えたものの、まだまだ暑いコンクリートの舗装道。
夏休み前みたいに、道端に蜃気楼が見えたりはしないけど。
どこか懐かしい面影を残したピンク髪の男子生徒が、リュックを後ろ手に持ちながら校門に凭れている。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 22:16:50.26 ID:x2FQIJQa0
「え、誰あれヤバ」
「ちょ、話しかけてみなって」
「えーっなんであたし〜!?」
その男子生徒を遠巻きに眺めながら横を通り過ぎる女子生徒の集団からは、僅かに黄色い声が聞こえてくる。
その男子生徒は居心地悪そうに、髪の毛を弄ったり、右腕に付けた腕時計を気にするような仕草でやり過ごしている。
周りを気にしていて、しきりに周囲を見回していた。
咲(だれか人でも待ってるのかな……?)
優希「さ、あんまりのんびりしてると遅刻しちゃうじぇ」
咲「あ、うんっ」
優希「そういえば一緒に登校して思った。咲ちゃんって方向音痴だけど、意外と通学路はちゃんと覚えてるんだなー」
咲「もうっ、そんなの当り前でしょーっ!」
優希ちゃんの笑い声。
咲(からかわれただけだったのかな……)
でも私も、ちょっと大きめに声を出して気合が入った。
生粋の文科系の私が、なぜか若干運動部のノリ。
今日はなんだか、変なことが起きそう
「咲さんっ、優希……!」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 22:38:41.27 ID:xZB/hCGiO
……名前を呼ばれた気がした。
咲「?」
優希「な、なんだじょ……?」
目の前には、息切れしながら走り寄ってくるピンク髪の男子。
そんな知り合いかもしれない男子は、私にとっては間違いなく名前も知らない人だった。
「あ、あの!私……えっと。その……咲さん…」
咲「……?」
優希「誰だじぇ?」
覚えのない縋るような視線に、私達はただ戸惑うばかり
でも私たち以上に、目の前のピンク髪の男子の方が切羽詰まっている様子。
理由は、まだよくわからない。ただ必死な眼差しに、只事でない予感はひしひしと伝わってくる。
そんな空気を感じ取ったのか、それとも興味本位か。通りすがる他の生徒たちも何事かとちらちら私たちの方を見てくる。
咲「あ、あの…な、なんでしょう…」
咲(恥ずかしい…)
できれば早く終わってくれないかな…、と内心願いつつ、顔を見上げる。
私と目前の彼の間にはだいぶ身長差があり、向かい合っていると上向くだけで顔を覗き込めてしまう。
眉に少し掛かるサラサラなピンクの前髪。
走ったせいで少し着崩れた、何故か第一ボタンまで締められた夏服。
苦しそうに歪んだ中性的で整った顔。
入学仕立ての中学生みたいなあどけなさに、ちょっと可愛いかも…なんて思った。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 22:45:22.02 ID:xZB/hCGiO
優希「え……あの、ほんと誰…ですか?」
優希ちゃんが居心地悪そうに身じろぎ。珍しく気後れ気味に、敬語で話しはじめる。
咲(あ、なんか優希ちゃんの敬語、いま初めて聞いたかも)
その隣で私はつい咄嗟の現実逃避。
咲「……優希ちゃん、敬語使えたんだねぇ」
優希「咲ちゃんしっかりしてッ!ダメだじぇ目の前のことから目を逸らしちゃ」
咲「はっ!う、うん……」
だってこんな男子知らない。
男友達の人数なんて、それこそ片手で数えても余る
というか、京ちゃんくらいしか思い浮かばない
……のだけど
和『―――咲さんっ』
私を『咲さん』と呼ぶ人はこの長野において一人しかいない。
その人は私の大好きな親友であり、ライバルであり、大事な仲間。
けれど、彼女はきっと今も体調を崩しているはず。だって昨日まで音信不通だったし。
どう考えても校門前で遭遇するなんてありえないもん。
目の前にいる人物が男性という時点で、そもそもこんな回答、的外れにも程があって欲しいくらいなんだけど
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 22:55:54.72 ID:xZB/hCGiO
咲「でも、なんか……」
たしかに顔のパーツとか似てるし、懐かしい面影は感じられる。
ここ二週間ほど会えていなかったけど、それでも私は彼女を覚えている。
咲「……もしかして、和ちゃん?」
「……!……!」
弾かれたように、男子が頷く。
荒唐無稽な質問をする私に、呆れた様子の優希ちゃん。
優希「はぁっ。咲ちゃん……のどちゃんは女子だじょ」
咲「でも彼、頷いてるよ?」
優希「オレオレ詐欺と同じ手口だじぇ」
咲「ああ、なるほどねぇ」
「そ、そこで納得しないでくださいよっ!」
咲「ひゃあっ!?」
するどいツッコミ
全力で食いついてきたピンク男子は、さっと姿勢を正して。
和♂「――お久しぶりです。優希、咲さん。その、私……原村和です……」
優希「えっ……」
咲「うそ……」
東京で倒れて搬送された和ちゃん。
夏休みを経て、今まで通りに、元気に登校してきてくれると。誰もがそう信じていた。
そんな私達の予想は、願いは――思わぬ形で破られることとなった。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 22:57:59.63 ID:xZB/hCGiO
夏休み数週間会わないうちに
私の友達が
男の子になってしまいました
ある意味、夏休みデビュー……?
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/10(日) 23:06:21.20 ID:xZB/hCGiO
今日はここまでです
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/10(日) 23:31:09.16 ID:wnWcj0VWo
乙
続き気になる
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/11(月) 01:02:05.88 ID:Q/PNyp8A0
おっぱいのでかさが金玉とポコちんに回ったか
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/11(月) 05:30:05.66 ID:zRhVxnPeO
スレタイからしてキメェ
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/17(日) 01:19:53.51 ID:cgGzJv6po
乙、更新待ってるよ
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/17(日) 02:33:59.53 ID:rKp5G//1o
>>15
和ハーレムに京太郎の居場所無いなww
19 :
◆uFgKAeBDKs
:2016/07/31(日) 15:31:40.80 ID:5LOgFkBWO
こんにちは、3週間ほど空きまして
トリップつけました
再開します
20 :
◆uFgKAeBDKs
:2016/07/31(日) 15:34:36.46 ID:5LOgFkBWO
「「「……」」」
空気が、重い…
数週間ぶりに、絵に描いたような感動の再会を果たした私たち三人の間には、その事実に反してあまりにも不釣り合いな重苦しい沈黙
何しろ今の私たちは、あまりの事実にびっくりで言葉もなく。
加えて、すぐ気付いてあげられなかった罪悪感から、彼女(?)に対してまともに顔向けできそうにない。
咲(……というか、信じろって言われても難しいと思うんだけど)
和♂「ですよね……わかる訳ないですよね……」
咲「あ、その……」
まるでこちらの動揺が筒抜けのように、目の前には、和ちゃんの諦めたように魂が抜けたみたいな半笑い
咲(和ちゃん、きっと傷ついてるよね……)
咲(ちゃんと気づいてあげられなくてごめんねって、和ちゃんに謝ろう)
和♂「……すみませんでした」
咲「っ!? そう、それ!」
和♂「そ、そんなに、怒鳴らなくてもいいじゃないですかぁ。謝ってるんですからぁ」グスッ
咲「ええ!? あっ、違うよ! 別に怒鳴ってなんて……」
またしても、私の感情を先読みしたかのような先駆ける謝罪。
私の気持ちを代弁してくれたのかと思うくらいに、息がぴったりだったのに。どうやら今度のは、和ちゃん自身の言葉だったらしい。
……このタイミングで、ふとした会話の中に、阿吽の呼吸というのを期待したのは、さすがに私の欲張り?
クイズ番組みたいに『ピンポン!』みたいな効果音とか出てくれれば、もっとコミュニケーションが楽なのにな……
咲(会話における意思疎通って、難しいよね!)
21 :
◆uFgKAeBDKs
:2016/07/31(日) 15:36:49.92 ID:5LOgFkBWO
和♂「いえ、怒られて当然です……連絡くれたのに、一度も返信しなかったんですから……」
優希「大丈夫よ。私たちはそんなの別に気にしてないじぇ!」
咲「そうだよ。むしろ和ちゃんが学校に来てくれて安心してるもん! 夏休みの間ずっとずっと、心配してたんだから……」
そういえば……和ちゃんに自己紹介はしてもらったけど、肝心なことを忘れていた。
いつも通りでも、どれだけ想定外でも、…必ず言おうと決めていた言葉。
咲「……まだ、おかえりって言ってなかったよね…」
和♂「えっ…」
優希「確かに忘れてたじょ!」
咲「おかえりなさい、和ちゃん」
優希「おかえり、のどちゃん!」
するとーーさっきまで真っ白だった和ちゃんの顔色が、一瞬にして真っ赤に染まる。
そして見開いた目から涙をこぼして、あっけなく泣き出してしまった。
和♂「っ…ぅ、ぅぅ…ぅぇぇっ、優希ぃ〜…咲さぁんっ」
ポケットから取り出した綺麗に畳まれたハンカチを口元、そして目元に交互に押し当て、溢れ出る何かを必死に塞き止めてるみたい
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/31(日) 15:38:33.57 ID:oIwNO845o
待ってた
23 :
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 15:41:44.70 ID:5LOgFkBWO
優希「よしよし、もう大丈夫だじぇ」
咲「あ…」
そんな和ちゃんにいち早く手を差し伸べたのは、中学時代からの親友。
背の高い和ちゃんを正面から抱きしめる体勢は、優希ちゃんの方が逆に甘えているようにも見える。
でも、優希ちゃんの背中に回された大きな手は、掻き抱くように、まるでしがみ付いているみたい。
……世の中はやっぱり見た目じゃないなって思った。
咲「よしよし……」
物怖じしない優希ちゃんに釣られるように、私も頑張って背伸びして、おっかなびっくり、和ちゃんの頭を指の先っぽで掠るようにして撫でる。
優希「さ、咲ちゃん……」
咲「うん、どうしよっか……優希ちゃん」
その合間に、優希ちゃんと決死のアイコンタクト。
この人は間違いなく和ちゃん本人なんだろう。
だけど、あまりに外見が違いすぎて、ちょっと調子が狂う。
だってこの人は、傍から見ればピンク髪の格好いい男子。
それも、和ちゃんの立ってた校門の周囲半径4mのところに人だかり(女子限定)ができていたぐらい。
24 :
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 15:45:18.67 ID:5LOgFkBWO
咲「とりあえず…和ちゃん、歩ける?」
優希「もうすぐチャイム鳴っちゃうしなー。教室でいいか?」
和♂「うっ…えっぐ…すみません…」
目元にハンカチを押し当てながら、震える口元を必死に動かそうとしている。
こういうところ、育ちの良さを感じつつ……
和♂「……その。実は、SHR前に職員室に行かなくてはならなくて」
咲「えっ、でももう5分もないよっ!?」
和♂「だ、だって、お二人に会いたくてぇ…」
優希「い、いいから急ぐじぇ…っ!」
何か無性に子どもっぽさを感じた。
そういえば男子って、女子より精神年齢がどうのこうのって。
ということは心も男子になりつつあったり?
ーー
泣きじゃくる和ちゃんを二人で支えながら、校舎の方へ。
和ちゃんを職員室に送り届けた
優希「じゃあなー、咲ちゃん」
咲「うんっ、また…昼休み、かな?」
優希「もしかしたら行間休みにも行くかもしれないじょ…」
咲「あ、うん。いいよ。何かあったらいつでもおいでよ」
優希「おー…」
咲「また部活でね……」フリフリ
教室に向かう優希ちゃんの背中に、無言で手を振り続けた。
心が落ち着かなくて、何かしていないと無性に不安に駆られる。
東京帰りの長野は気温が低く、たかだか二週間弱しか離れていなかったにもかからわず、まだまだ慣れることができない。
身体も……そして、心も。
何もかも、たった数週間前までのようにはいかないみたい。
そしてそれは、学校内も例外ではなく……
お昼休みまでには、和ちゃんの噂は瞬く間に学年中に広がっていた。
25 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 15:52:49.58 ID:5LOgFkBWO
放課後。麻雀部部室
まこ「久…? どうしたんじゃ、頭抱えて」
久「聞かないでよ。実際に、頭が痛いのよ…」
額に手を当てる久は、大きくため息
まこ「のう、久。わし、妙〜な噂を聞いたんじゃが…」
久「あら、まこ。奇遇ね。たった今私も、全く同じ話題を出そうと思っていたところよ?」
今度は、二人のため息が重なった
ーー
部室に麻雀部員が集う中、和ちゃんだけが席を外していた。
放課後は職員会議があり、今日は和ちゃんも同席しているらしい。もしかしたら、和ちゃんのことが議題なのかも
いつも部室に集まる時間から一時間ほど経った頃、和ちゃんが部室にやってきた。
和♂「あの。遅くなりました…」
優希「あ、のどちゃん、やほー」
和♂「あ、優希……――と、皆さんも」
優希ちゃんに穏やかに笑みを返してから、私と京ちゃんと染谷先輩、部長に申し訳なさそうに会釈
26 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 15:58:28.78 ID:5LOgFkBWO
和♂「この度は、お騒がせいたしまして…」
咲「ううん、大丈夫だよ和ちゃん。…それで、どうだった?」
和♂「そう、ですね…。とりあえず、私の処遇についてでした」
和♂「夏休み中に父と校長、教頭先生と話はしていましたので、その確認のような内容です」
咲「あ、そうだったんだ…」
まこ「久、学生議会ではどうなんじゃ?」
染谷先輩が部長に学生議会について話題をふる。
久「ん〜。とりあえず学生議会には、今のところ議題として下りてきてないわね。ま、議題に上ったとしても、たかが学生が決められるような微細な問題でないのは確かだし」
まこ「ま、そうじゃの」
顎にさすりながら頷いてから、染谷先輩は悪戯っぽく笑う。
まこ「それにしても和〜、随分と男らしくなったもんじゃ」
和♂「……実際、身体は男性のものですからね」
まこ「あ、す、すまん…」
和♂「いえ、事実ですから」
和ちゃんが優しく小さく笑みを作った。
その儚い微笑に、部室の雰囲気が少し重くなる。
27 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:00:56.02 ID:5LOgFkBWO
優希「それにしてものどちゃん、イケメンだじぇ!」
突破口を切り開くような、優希ちゃんの真っ直ぐな声。
久「ああ、そうねー。それは私も思ったわ」
まこ「じゃのう。線が細くて、すらっとした顎先、整った顔立ち。身長も、まあまあじゃろ」
和ちゃんが苦笑する。
少し考えるような素振りをしながら、一度小さく頷いた。
和♂「そうですね…。確かに体格が変わったので、目線が変わったのは大きいです。筋肉や体力もついた気がしますね」
久「身体測定は?」
和♂「夏休み中の検査では、身長が174cm、体重が60kgでした」
「おお〜」と思わず歓声が漏れる。
釣られて私も、ちょっと控えめに声を出してみた。
……でも。男子の身長・体重を聞いたところで、それがどういう体型なのか私にはよくわからない。
優希「モデル体型だじぇ…」
京太郎「一応身長は俺の方が勝ってるな…」
久「んー……私、男子の体型ってよくわからないんだけどさー。和も十分背が高いと思うけど、こう見ると須賀君って随分デカかったのね」
まこ「それに、こうして和と京太郎が並ぶと絵になるのぅ。なんじゃお前さん、実はイケメンじゃったんか」ククッ
染谷先輩が京ちゃんを見て悪戯っぽく笑う。
京太郎「なんですかそれ〜。今日初めて顔ちゃんと見た、みたいなこと言わないでくださいよ……」
まこ「んなっ、そんなこと言っとらんじゃろが!?」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/07/31(日) 16:04:24.23 ID:5LOgFkBWO
わいわい、がやがや…
みんなが盛り上がっているものの、いまいち話題に乗れず右往左往してしまう。
盛り上がりの中、所在なさげに俯いていた和ちゃんがくるりと私を振り返る
和♂「あの、咲さん……」
咲「うん? どうしたの、和ちゃん」
和♂「咲さんも、今の私が格好いいと思いますか?」
咲「え…」
ちょっと真剣な表情に、一瞬固まった。
咲「……和ちゃんは、いつも格好いいよ。インターハイでは…だって私、いつも助けて貰ったもん」
私の返答に一瞬キョトンとした表情
けれどすぐに、嬉しそうにはにかんだ和ちゃんが胸の前で手を握った。
和♂「ありがとうございます、咲さん…」
ひと夏で私より随分大きくなってしまった和ちゃん。
でもその姿が、今は迷子みたいにやけに小さく感じた
咲「…和ちゃん」
和♂「は、はい?」
一歩、踏み出す。
和ちゃんの前に回って、顔を覗き込んだ。
そして行き場を失った和ちゃんの手を、ガシッと両手で包みこむ。
和♂「っ…咲さん? えっと…」
咲「……」ニギニギ
その手は、夏合宿で絡め合った柔らかい手ではなく、私と同じくらいの大きさでもなく。
硬くて、指も長くて、私の手では包み込みきれないくらい大きかったけど。
……こうして触っていると、和ちゃんの手なんだって、自然とそう思えた。
29 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:07:54.63 ID:5LOgFkBWO
咲「私たちずっと友達だよ…!」ギュッ
和♂「え?」
咲「身体が急に大きくなったって、和ちゃんは和ちゃんだもん。私、ずっと和ちゃんのこと大好きだからね!」
和♂「……ありがとうございます」ニコッ
言葉じゃなくても伝わる絆を、確かに私達は築き上げたんだから。
咲「…いつまでも変わらず、友達でいようね」
和♂「はい…っ、ずっと、友達ですよ…咲さんっ」ポロポロ
和ちゃんを見上げると、目尻に涙を溜めながらも、実に爽やかな笑顔が返ってきた。
咲(っ…なんか、今までの和ちゃんの笑顔と違う雰囲気……)
びっくりして咄嗟に俯くと、握られた手に一層力が込められぐいっと引き寄せられる。
咲「きゃっ」
ぎゅうっと身体を、腕ごと抱き締められる。
和♂「咲さん……」ギュッ
咲「和ちゃん……」
それに応えるように私の手にも力を籠め――
和♂「はあはぁ…咲さん気持ちいい…いい匂い…」ムクムク
30 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:17:08.02 ID:5LOgFkBWO
咲「ぁ、やん……ちょっと、和ちゃんっ」
咲「もう、喜びすぎだって――……ん?」
咲(なんかお腹に、堅いものが当たって……?)
咲(なんだろう……ポケット。筒……あ、和ちゃんのスマホ、結構おっきかったっけ?)
和♂「んっ、ぅっ、ぁ…はぁっ」モソモソ
抱き締められながら、何度もお腹を押し当てられるように身体を揺らされる。
和ちゃんは息を荒げては身体を震わせ、次第に動きが大きくなっていく。
無理やり押し付けられて少し痛いけど、あまりに必死な様相に何故か体に力が入らない……
和♂「はぁ…ぁっ、ぁあ…くっ、うっ」モソモソッ
咲「あ、あの……和ちゃん…?」
和♂「……」ジィ
声を掛けると、蕩けた表情でこちらを無言で見つめ返される。
咲(あっ、なんか…ダメ……)ピクッ
半開きの唇から漏れる息があんまり熱っぽくて、なんだか変な気分になってしまいそう……
和♂「ちゅぅ…っ」
突然、首筋に吸い付かれた。
咲「きゃっ、ひゃあっ!?」
京太郎「おいぃぃっ!? ちょ、落ち着け和ッ!」ガシッ
咲「んっ…ぁ、京ちゃん……?」
突然、京ちゃんが私達の間に割って入ってくる。
何故か少し中腰気味の和ちゃんを引っ張って、部室の外まで連れて行ってしまった。
咲「な、なに……どうしたの?」
頬が熱くて、思わず髪をかき上げる。
久「……はぁ。まっ、そりゃそうなるかー。先が思いやられるわね…」
31 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:19:52.30 ID:5LOgFkBWO
麻雀部室前。
京太郎「おい和! おい、しっかりしろ和!!」
和♂「…はっ! わ、私は、いったい何を…?」
京太郎「バカ野郎、無茶しやがって……。男の性欲を舐めすぎだぞ!」
和♂「はぁはぁ…須賀くん、私は……」
和♂(私は、いったいどうしてしまったのでしょう……。合宿や遠征で、咲さんと一緒にお風呂に入って寄り添っていても、とりわけ何ともなかったはずなのに)
京太郎「とりあえず、その勃起を処理してこい。寸止めじゃ辛いだろ。やり方は知ってるか?」
和♂「は、はい……一応は…」カァァ
京太郎「なんなら手伝ってやっ……え?」ドキドキ
和♂「え?」キョトン
京太郎「……」
和♂「……」
京太郎「そ、そっか……なんだ、知ってるのか…」シュン
和♂「……な、なんでそんな悔しそうなんですか! ドン引きです!」ヒキッ
京太郎「いや、これは違くて……!そう、いつも麻雀では指導して貰いっぱなしだから、今度は俺が役に立てると思ってさ!」
和♂「……」ジトッ
京太郎「お、おい!なんだその疑いの視線は…!」ペシッ
和♂「痛っ…ふふ。わかっていますよ」
和♂「この先困ったことがいくらでもあると思います。その時は、その都度教えてください……私に。その、男子のことを」
京太郎「っ…お、おう!任せとけ!」
和♂「ありがとうございます……。正直、話せる男子なんて須賀君くらいしかいないので、とても心強いです」
和♂「……父に聞くなんて、虫唾が走りますし」
京太郎「はは……そりゃそーだわな」
32 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:22:49.28 ID:5LOgFkBWO
京太郎「ま、そんな気負うなよ。地道にでも、慣れていけばいいと思うぜ。俺もちゃんと付き合うからさ」
和♂「はい、…ありがと…ございます…っ」グスッ
京太郎「おい……何も泣くほどのことじゃねーだろ…」
和♂「でも私……こんなでも、皆さんに受け入れていただけて……本当に…」ポロポロ
京太郎「……」ナデナデ
和「う……えっぐ……っ」ギュッ
京太郎「……まあ、泣くもシコるもトイレ行ってからにしとけ。どちらも見られるのは恥ずかしいだろ?」ナデナデ
和♂「ああ……いえ、大丈夫です。ぐすっ…須賀君と話していたら、突っ張って苦しかったモノが萎えてきましたので…」ゴシゴシ
京太郎「言い方! そりゃ良かったって言ってやりたかったのに、そんな言い方されたら素直に喜べないだろ!」
和♂「…? えっと……何がですか?」
京太郎「……はぁ、まあいいか。もう大丈夫なら部室に戻ろうぜ。急に和のこと引っ張ってきて、皆心配してるだろうし」
和♂「はいっ、そうですね…」グッ
京太郎(俺の言葉に頷いて、和は普段より少し距離感近めで俺の隣に並んだ)
京太郎(隣から見る、目の赤く腫れた横顔は、女子だった頃とそこまで変わらない。……違うところといえば、せいぜい顔の輪郭が多少シャープになった事くらい?)
京太郎(一歩間違えれば、本当に……)
京太郎「……」トクンッ
和♂「須賀君?」
京太郎「え? あ、いや、何でもない」
京太郎(……そういえば和って、今の恋愛対象はどっちなんだろう)
33 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:30:08.13 ID:5LOgFkBWO
麻雀部部室内。
ガチャ
和♂「ただいま戻りました」
京太郎「したー……」
久「おー、おかえりー。ん? どうしたー和、また泣いてたの?」
和♂「なっ、べ、別に泣いてなんて…っ!」ビクッ
久「はいはい、そういうことにしておいてあげるわ」クスクス
久「それで……ま、話を戻すけどさ。さっき咲が言った通りなのよね」
久「身体が男子になったからって、心は和そのままなんだから、私達の関係は何も変わらないわ」
久「それだけ、今のうちに言っておきたくてね」
まこ「多少涙脆くなってはいるみたいじゃがの」ククッ
和♂「だ、だから泣いてませんってば…っ!」
口元を手で押さえながら、弾かれたように声をあげる和ちゃん
咲(目は口ほどにものを言う。……口元を頑張って押さえても、赤くなった目元を隠さないと意味がないのになー)フフッ
優希「そうだじぇ染谷先輩、のどちゃんは昔から変わらず感激屋だったじょ!」
和♂「優希!? ちょっともうっ、やめてください…! からかわないで下さい!」
顔を真っ赤にした和ちゃんが、また皆の輪に入ってくる。
振り向き際に見た顔は、耳まで真っ赤だった。
34 :
和ちゃんは、変わらず友達です。
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:31:22.90 ID:5LOgFkBWO
私の知らない和ちゃん。
知らない顔。知らなかった表情。まだ表面化してない和ちゃんの変化。
何よりも困惑しているのは和ちゃんで、迷惑しているのも和ちゃんで、些細な変化に傷ついているのも和ちゃんだから。
なるべく私は動揺してはダメ。
いつも彼女…彼?の傍にいて、不安にならないように、隣で笑っていてあげるのが、今の私にできることだと思う。
夏休みまで麻雀に打ち込んだ日々。隣で励まして、支えてくれたのは和ちゃんだ。
今度は私の番だ。
35 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:37:07.34 ID:5LOgFkBWO
一週間後。
―Side 和―
キーンコーン カーンコーン
夏休みが明けてもう一週間。
麻雀部の皆さんで過ごせる恒例の昼休み
和♂「優希、行きましょうか」
優希「おうともよーっ!」
テンションの高い優希の声が、ざわつく教室内に響く
優希「タコスが恋しいじぇ」
和♂「今日も須賀君の手作りでなんですかね」
優希「そっ、そんなの知らないじぇ! 今日まだ京太郎に会ってないし…」
和♂「でもやっぱり、優希は手作りの方が嬉しいのでしょう?」
優希「っ…別にどっちだっていいっ!」
顔を赤らめながらそっぽを向く優希
この、親友をいじるという新たな遊びは、新学期に入ってからできた私のお気に入り
いかる親友を横目に、手提げからとても一人では食べきれない立派な重箱を取り出し、落とさないよう大事に胸に抱える
優希「いつ見ても立派な重箱だじぇ」
和♂「ええ、家宝ですもの」
優希「ええっ!?」
和♂「冗談です。ふふっ」
優希「もーっ!!!」
ポカポカ肩を叩かれる。
笑顔で甘んじているが、実はこれ結構痛い。
優希の反応が楽しくて、今日はちょっと怒らせすぎたかもしれません
和♂「さ、行きますよ」
そして、咲さんに私のお弁当を食べてもらうのは夏休み前から変わらない、咲さんが『宮永さん』だった頃からの楽しみ
36 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:40:15.18 ID:5LOgFkBWO
和♂「こんにちは、咲さん」
咲「あ、和ちゃんっ」
叢にペタンと座り込む咲さんは、小さなお弁当箱を膝の上に置いて須賀君とおしゃべり。
こちらを振り返って、天使のようにふんわり微笑んだ
咲「あ、京ちゃんっ。優希ちゃん来たよ?」
京太郎「わかってるっての」
けれど咲さんの視線は私で止まらず、私の隣の優希へ。
そしてにんまり笑ってから、今度は隣の須賀君へ移る。
京太郎「優希、今日のタコスは一味違うぜ!」
優希「! ご託はいいからさっさとよこせ、犬っ」
京太郎「あっこら!」
優希は須賀君からタコスをひったくり、ガブリと噛みつく
優希「あっつ、辛っ! な、なんなんだじぇコレ!?」
京太郎「お前の食事には圧倒的に感謝と行儀が足りてないからな、それはワサビ唐辛子を入れた躾用だ」
京太郎「壁に噛みつく犬には、噛みついたら苦い思いをすることを経験で教えてやらないと矯正できないだろ?」
優希「なにを〜!! 京太郎こそタコスで遊ぶなっ。犬のくせに生意気だじぇっ!」
出会って一分。
いつもの通り、既に二人の痴話喧嘩が始まっていた。
優希と須賀君の過ごす二人の時間は、とても濃い。
咲「あはは、京ちゃんと優希ちゃん仲良いよねー」
そして、そんな二人を眺めながら幸せそうにつぶやく咲さん。
私は咲さんを見ているだけで幸せです
咲「あっ、あっ、京ちゃんに動きが!」
和♂「え?」
視線を向けると、そこには巧みにタコスを使い優希を餌付けし始める須賀君。
さながら猛獣使いのよう。いや、全国区の魔物使いでしょうか
猛獣と揶揄されても仕方ないですけど
でも、タコスを頬張ったせいでむせる優希の背中を撫でる須賀君の表情は、とても優しげ。
37 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:43:14.14 ID:5LOgFkBWO
咲「なんかああいうの見てると、いいよねぇ」
和♂「え、ええ…まぁ」
確かに、最近の優希と須賀君は仲睦まじい。
が、そんな須賀君を愛しげに見つめる咲さん。
私にとってはそっちの方が気になってしまう。
気が気でないし、ちょっと面白くない。
なので私も、早々に奥の手を使うことにした。
和♂「咲さん、お弁当作ってきたんです」
咲「…ひょっとして和ちゃん、私と優希ちゃん重ねて見てない?」
咲「……まさか餌付け?」
ちょっと露骨すぎたでしょうか。
咲さんは不満げに私を見上げ、頬をぷくっと膨らませた。
そのあまりに可愛らしい仕草に頬が緩みそうになるのをぐっとこらえ、努めて冷静に答える。
和♂「まさか。誤解ですよ」
咲「どーかしらねー。なーんか最近の和ちゃんは、私を妙に子ども扱いしてる節があるんだよね」
和♂「子供扱い?」
咲「ほら、荷物運びとか。重いもの、全然私に任せてくれないじゃない?」
咲さんは拗ねた調子で唇を尖らせる。
和♂「ああ。咲さん…それは…」
和♂(それは子供扱いではなくて、女の子扱いです。咲さん……)ズキッ
言えるはずもない言葉を胸にしまう。
まるで届いてないアピールについため息が漏れた。
和♂「……食べないのでしたら、一人で食べちゃいますね」ツンッ
咲「わわっ、頂きます和ちゃん!」アセアセ
和♂「はいっ。召し上がれ、咲さん」
何もなかったように箸を受け渡しながら、二人して笑う。
こんな何気ないやり取りが、たまらなく嬉しい。
満面の笑みで小動物のように玉子焼きを口に運ぶ咲さんの柔らかそうな唇を眺めながら、そんな小さな幸せを噛み締める。
『重箱の隅を楊枝でほじくる』なんて言葉があるけど。
咲さんが私の重箱の端のご飯粒まで食べてくれると、嬉しい気持ちが止まらない。
気に入ってくれたかな、という嬉しい不安。
一緒にいて幸せ。この笑顔が好き。
温かい感情が胸の奥に押し寄せてくる。
和♂(この気持ちはいったい…?)
私が女だった時から感じていて、今もなお加速し続けている感情。
38 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:46:47.45 ID:5LOgFkBWO
咲「ごちそうさま。いつもありがとう和ちゃん」
和♂「いえ、そんな…私の方こそ」
満足をそのまま表情で示してくれる顔に、私の視線はもう釘づけ
和♂(咲さん、可愛い……)ポー
咲「和ちゃん、顔赤いよ? 大丈夫?」
和♂「え…」
ひんやりした優しい手が、私の頬にぴとりと重なる
和♂「……っ!」
咲「…やっぱり熱い。体調悪い? 保健室行く?」
和♂「い、いえ……大丈夫です」
咲「でも心配だよ……。横になる?」ポンポン
最近の咲さんは、私の体調にとても敏感。
弁当箱を端に除け、自分の膝をポンポン叩く咲さん。
和♂「えっ」
咲「あ、えっと、膝枕とか……。ほら、お弁当のお礼みたいな?」アセアセ
先ほどの体調の心配はどこ行ったんですか、と訊けば、赤面して視線から逃げるように俯いてしまう。
咲「いいから! お、おいでっ……?」
和♂「え、いや、でも……」
してもらいたい。
咲さんに恥をかかせるわけには。
でも……こんな場所でなんて。
右往左往していると、咲さん越しに部長と染谷先輩のにやけ顔が見える。
和♂(こんな人目につく場所でなんて……。咲さん、もしかして私しか見えてないのでは?)
和♂「……では、お願い、できますか?」
咲「う、うん…」
心の中に生まれた僅かな優越感に負け、欲望の赴くままに。
39 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:49:37.85 ID:5LOgFkBWO
咲「……はあ。私、すっかり和ちゃんに餌付けされちゃってるなあ」
和♂「そうでしょうか……」
咲「そうだよー?」
横たわる私を膝に抱え、髪を丁寧に梳いてくれる優しい指先。
困った口調とは裏腹に、私の頭を優しく撫でながら浮かべる咲さんの表情は、私の大好きな笑顔。
うららかな昼の陽射し、ぽかぽかな笑顔に目を細めながら、私は口の中でつぶやく。
和♂(本当は……あなたの笑顔に餌付けされて離れられなくなっているのは、私の方なんですよ)
今の私はまるで、愛しい飼い主の膝の上で丸くなっている猫のよう。
ーー
優希「京太郎嫌い!まじ大っ嫌いだじぇ!」
京太郎「はいはい」
優希「んーっ!!」
ーー
どこか遠くから、優希の拗ねた声が聞こえてくる。
須賀君、好きな人をいじめるのも大概にしないと、親友の私が黙っていませんよ…?
優希の文法を借りて、心の中でつぶやく。
和♂(…咲さん好き、まじ大好き。)ギュッ
溢れ出しそうな想い。
にこやかに私を見下ろす咲さんのぬくもり。
恥ずかしさから寝返りを打って、咲さんのお腹に顔を埋める。
和♂(咲さん……咲さん、いい匂い……)
咲さんの匂いに包まれ、言葉を飲み下しながらゆっくりと瞼を閉じた。
40 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:57:07.46 ID:5LOgFkBWO
―Side 咲―
膝枕をして間もなく、和ちゃんは寝息を立て始めた。
まさか本当に寝てしまうとは思ってなかった。
気の抜けた表情があんまり無防備で、守ってあげなくちゃという気持ちになる。
これが母性なの……?
お腹に顔を埋められて少し恥ずかしい。
太ってるとまでは思ってないけど、お腹の脂肪とか匂いとか。
こういうことならもっと体型に気を遣っておけばよかった。
これから和ちゃんと一緒にいる時は、身嗜みをちゃんとしなくちゃ。
和♂「ん…」
咲「ふふっ、よしよーし…」
和ちゃんの頭が、私の膝上でスリスリ身じろぎ。
大きくて重たい。けど、くすぐったくて優しい気持ちになれる。
ーー
腕時計を見ると、もうすぐ予鈴が鳴ってしまう時間。
中庭は段々荷物を片付け始め、ざわつき始めている。
和ちゃんを休ませてあげられる時間が、もうすぐ終わってしまう。
京ちゃんや部長たちも、とうとうお弁当を片付け始めた。
久「咲。もうすぐ昼休みが終わるわ」
咲「はい、わかっています」
久「和のこと心配する気持ちはわかるけど、授業に遅れるわけにはいかないでしょ?」
咲「はい…」
部長の諭すような口調。
久「一回起こして、体調悪いようなら保健室に連れて行ってあげましょ」
咲「…そうですね」
部長に頷き、心を鬼にして、眠っている和ちゃんに声を掛ける。
咲「和ちゃん、起きて…。和ちゃん…」
和♂「ん…」
咲「和ちゃん、和ちゃーん? おーい」
声を掛けてもなかなか起きないので、肩を優しく揺する。
41 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 16:59:21.73 ID:5LOgFkBWO
咲「和ちゃんー? 起きる時間だよー?」
久「…咲、なんだかお母さんみたいね」
咲「え?」
久「あ、いや……なんか、いいなあって思ったのよね」
部長は寂しそうに頬を掻き、複雑な表情を浮かべる。
咲「……?」
久「……ねえ咲、もし私が――」
和♂「ん……あ、寝てました……?」
部長が何か言い掛けた時、和ちゃんの寝ぼけた声に途切れる。
久「――…あ、起きた……」
咲「で、ですね……」
和ちゃんはぽけーっとしながらも体勢を起こす。
そっと肩を支えながら声を掛けてみる。
咲「和ちゃん、体調どう?」
和♂「……ん、たいちょ……ぐぅ」
咲「ちょ、起きてってば!」
身体を縦にしたのに、そのまま寝るなんて器用なことをする和ちゃん。
なんだか、男の子みたいだなーって。あ、男子だった。
でもちょっと可愛いかも。
そうこうしていると、優希ちゃんたちも集まってくる。
42 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 17:03:20.91 ID:5LOgFkBWO
優希「大丈夫だじょ咲ちゃん! 任せろ。同じクラスである私が責任を持って連れて行くからなー!」
と言いつつ、京ちゃんに和ちゃんを背負わせる優希ちゃん。
咲「そのわりに背負うのは京ちゃんなんだ……」アハハ
優希「私の犬だからな、当然だじぇ」
京太郎「あー、はいはい」
咲(京ちゃんも、それで納得しちゃうんだ…)
二人は和ちゃんを連れて、校舎の方へ。
咲「あの…京ちゃん、本当にいいの?」
京太郎「いいって。つーか、今の和を運べるのなんて、俺くらいなもんだろ?」
京太郎(それにこいつ……勃ってやがるし)
京太郎(長大なモノが腰に押し付けられてて……ダメッ、ドキドキしちゃう!!)
京太郎(――とはならない不思議。男女に違いはあれど、和のセックスアピールを感じても、だ)
京太郎(和のことが好きだった俺は結局男で、ただあのおっぱいに惹かれていただけなのだろうか…?)
京太郎(だが、男の和が生着替えしてたらつい目で追ってしまいそうな気はする……おっと、煩悩退散!)
咲「うん…ありがと」
京太郎「おう、気にすんな」
ぽんっと私の頭に手を置き、くしゃくしゃっと撫でられる。
咲「きゃっ、ちょっと! 髪乱れちゃう!」
京太郎「人の心配する前に自分の心配しろこのナマイキめ〜」
咲「ひゃあ〜っ!」
優希「っ! こら犬! 咲ちゃんとイチャイチャしてないでさっさとするじぇ!」ドンドンッ
優希ちゃんが焦れたように地団太を踏む。
京ちゃんは「授業遅れんなよー」と一言残して、優希ちゃんの方へ歩いていった。
43 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 17:09:01.05 ID:5LOgFkBWO
咲「あ、そうだ。部長…さっきの話なんですけど」
久「えっ、ああ、アレ? 別に、特に意味なんてないんだけどね」
部長はバツが悪そうに笑う。
身を捩りながら、ぐっと大きく伸びをした。
久「ん〜っ、ただちょっと…咲が和ばっかり構ってるもんだから、嫉妬しちゃっただけなの」
咲「嫉妬、ですか…私に?」
久「さあ、どうかしらねー」
一歩、気分良さげにスキップするように前に出る。
久「ま、そんなに気になるなら沢山悩んでちょうだい。私のことでねっ」ニコッ
咲「もう、なんですかそれー」
久「べっつにー?」
部長は格好よくウインクを決めて、後ろで待っていた染谷先輩の方へ歩いていく。
まこ「ほれ咲―、急ぎンさい!」
咲「あっ、はーい!」
催促する声に、私も急ぎ足で追いかける
前を歩く、頼もしい先輩二人。
左に染谷先輩、右に部長。
特に考えなしに染谷先輩の左隣に並ぶ
咲「はぁっはぁ…」
まこ「ちょっと駆け足した程度で情けないのぉ」
咲「す、すいませ――」
と言い終わる前に、反対側にいた部長に肩を掴まれ、並んで歩く先輩二人の真ん中に連れ去られる
久「…ちょっとぉ、なーんでまこだけの隣なのよー。私の隣じゃ嫌なんだー」
咲「え、そんな…」
まこ「これくらいで息を切らすなんて…軟弱な」
私の左隣を歩く染谷先輩が真顔でつぶやく
まこ「これは、体力トレーニングとか取り入れるべきじゃろか」ボソッ
咲「ええっ!? いっ嫌ですよそんなの!」
まこ「朝練で走りこみなんてどうじゃ?」
私の運動不足のせいで、我ら麻雀部が運動部になりかけていた
44 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 17:11:40.71 ID:5LOgFkBWO
この染谷先輩の悪魔的な思い付きに、悪い顔をした部長がノッてくる
久「あらぁ、いいわねー。それが終わったら腹筋、背筋?」
まこ「そうそう。各30回、2セットずつ?」
咲「絶ッ対嫌ですッ!」
咲(あ…お腹から声出すって、こうやるんだ…)
まこ「あっはは、咲、本気にせんでええ。冗談じゃ」
咲「な、なんだぁ…」ホッ
恨みったらしく染谷先輩を睨んでいると、今度は部長から横槍が入る。
久「なーんだ、冗談か。いいじゃない。やればいいのに」
咲「部長!?」
久「ま、私はもう引退する身だし? 朝練ができても関係ないけどー」クスクス
咲「んなっ、いじわるっ!」
久「はいはい」
――ほんと、咲は可愛いわね…
ふくれっ面の私の髪を撫で、ふんわりとなだめる部長
久「うふっ」
まこ「? なんじゃ久、随分ご機嫌じゃな」
久「そう見える?」
まこ「何年一緒にいると思っちょる、朝飯前じゃ」
久「いまは、昼食後だけどね」
まこ「やかましい!」イラッ
久「んー、そうねぇ。…まあ?」
部長は下げた髪を後ろでまとめながら、ゆるりと笑う
まこ「なんじゃその適当な返事は…」
久「えっと…その、大好きな人と一緒にいる時間って、楽しいなってさ」
まこ「…フン、激しく同意じゃの」
久「あら素直」
45 :
友達と、いつもの日常
◆uFgKAeBDKs
[saga]:2016/07/31(日) 17:23:34.00 ID:5LOgFkBWO
たった数言で、何もかも理解し合ったらしい先輩二人。
物理的ではなく、精神的な面で側にいて支えられる関係……こういう仲に憧れる。
咲(気の置けない友達って、こういう雰囲気のことをいうんだろうな……)
咲「……お二人って、すごく仲いいですよねー」
久「あら、私は咲とももっと仲良くなりたいわよ?」
まこ「じゃーから、そういう発言が『誑し』という風評を招くんじゃと何度言えば…」
咲(タラシ…?)
ご機嫌な部長と、だるそうに肩を回す染谷先輩と一緒に校舎中に入っていく。
ーー
咲「よーし! 頑張るぞー!」グッ
今後の抱負も決まって、気合いが入る。
熱い気持ちのまま握り拳を作り、大きな声を出すと、なんだか少し気が引き締まった。
咲(……なんだか、私)フフッ
まこ「なんじゃ咲、気合い入っとるのぅ」フム
久「ちょっと……この娘、さっきのまこの言葉を本気にしたんじゃ……。 咲? いいのよ別に、私たちはあくまで文科系なんだからね?」オロオロ
咲「……」
咲(……熱血系キャラになってる!?)ガーン
私も和ちゃんと、
誰よりも近くで支えられるような、
そんな関係になりたいと思った。
46 :
◆uFgKAeBDKs
:2016/07/31(日) 17:29:14.97 ID:5LOgFkBWO
とりあえず、ここまでです
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/31(日) 17:45:51.94 ID:oIwNO845o
乙
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/31(日) 20:07:51.73 ID:RSDs7kczo
乙
和のスマホは堅くて大きい
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/31(日) 20:17:38.52 ID:sDxSB22Fo
乙
おもちの対義語を表す言葉としてスマホが流行る可能性が……?
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/01(月) 00:28:36.90 ID:q+zP50qq0
乙
どうでもいいけど、この咲さんはロングスカートなん?
ミニスカートで膝枕とかその場で襲われそう
自分が熱血キャラか心配しちゃう咲さんかわいい
51 :
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:15:32.73 ID:9WZmtJWD0
再開します。
52 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:20:23.86 ID:IF7t6qkEO
まこ「えー。新学期も始まって早々じゃが、今週から一週間、テスト準備期間で部活は休止じゃ。各々、しっかり勉学に励みンさい」
引退した竹井先輩に代わり、新たに染谷先輩の号令で部活を終える。
竹井先輩は受験に向けて本格的に行動し始めたらしい。
気が付けば、始業式から早一ヶ月。
そして、定期テストまで早一週間。
咲(つまり今日からテスト休み……)
咲「また、この時期が来てしまった…ッ!」
優希「だじぇ…」ダラァ
和♂「…? なんか咲さん気合い入ってますね」
あまりにも嫌で、なんか逆にテンションがおかしい
私の隣では優希ちゃんが雀卓にうなだれている。
咲(うんうん、その気持ちわかるよっ)グッ
まこ「なんじゃ、二人とも勉強は苦手か? 優希はともかく、咲はそんなイメージなかったんじゃが…」
優希「…さりげなくディスるのやめて欲しいじょ」
まこ「事実じゃろうが」
優希「ぐえっ」
染谷先輩の言葉に、潰れたカエルみたいな断末魔と共に雀卓に伏せる
優希ちゃんは喋るのも億劫なようで、口数も少なめ
体に至ってはピクリとも動かない
53 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:23:40.66 ID:IF7t6qkEO
京太郎「え、なに、お前そんなテストやばいの?」
優希「ぬかせ京太郎! 私にはのどちゃんという優秀な家庭教師がいるから問題ないんだじぇ!」ドヤッ
まこ「自力で勉強せえ……」
京太郎「はあ? だったらなんでそんなグロッキーになってんだよ……」
優希「…のどちゃんの教育がスパルタすぎて、今から想像するだけで疲れてるんだじぇ…」
部内の視線がいっせいに和ちゃんに集まる
和♂「えっ!? そんな、別に厳しくなんてしてませんよ! ただ…その、必要なレベルに持ってくための勉強量を、こなさせただけで…」
しどろもどろに説明する和ちゃん。
たぶん和ちゃんの言い分も正しいし、勉強慣れしていない優希ちゃんの言い分も正しい。そういうことだろう
となると今度は、私に視線が刺さる
京太郎「おいコラ咲。お前は別に成績悪くないだろ? むしろいい方じゃねーか。この現国満点め!」
和♂「ま、満点……」
まこ「…? なら咲は、なんでまたそがぁなことになっとるんじゃ」
視線を四方から受けて、思わずため息
咲「だ、だって私、そんなに理数系は得意じゃないし、それに…」
まこ「それに…?」
54 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:26:26.45 ID:IF7t6qkEO
咲「…テストが嫌というよりは、ちょっと寂しくなっちゃって」
和♂「寂しく、ですか?」
和ちゃんの繰り返しに、頷いて返す。
咲「ここ数か月、ほぼ毎日一緒にみんなで頑張ってきたのに、急に集まれなくなっちゃうから」
咲「そう思ったら、なんか寂しいなって…」
「「「……」」」
静まりかえってしまった。
咲「あ、いやっあの…!」アセアセ
和♂「では、放課後は来たい人だけ部室に集まって勉強しませんか?」
咲「……え」
まこ「まあそうじゃのぅ…。鍵もうちらが管理しとぅし出来んこともなぁが、見つかりようもんなら停部もんじゃけぇ…」フム
むむむ、と唸る染谷先輩。
ふと、線が切れたように表情が緩んだ
まこ「…まあ、麻雀さえしてなければ構わんじゃろ」
和♂「ありがとうございます」
染谷部長に頭を下げた和ちゃんが、私に振り返る
和♂「咲さん、私も放課後はここで勉強しようかと思います。一緒に頑張りましょう」ニコッ
咲「あ…うんっ、ありがと、和ちゃん」
和♂「いえ。私も、その……咲さんと一緒にいられるのは嬉しいですし」テレテレ
咲「和ちゃん……」
和ちゃんは、恥ずかしそうにはにかんだ
55 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:28:42.73 ID:IF7t6qkEO
―Side 和―
金曜日。
テスト準備期間最終日。
この土日を挟んだら、もう来週の月曜日からは試験期間が始まってしまう。
わざわざ部室に集まるわけにもいかないし、午前中で日程が終わるので昼休みもない。
一日のうちに咲さんと一緒にいる時間はほとんどなくなる。
一週間の我慢だと言われればそれまでだけど、一秒でも長く咲さんの顔を見ていたい。
部室のドアの前に立つ。
HRが終わってから一時間超。だいぶ時間が経っている。
和♂(咲さん……帰ってませんよね?)
和♂「すぅーっ…はぁーっ」
…この部室に続くドアの前で、かつてここまで緊張したことがあっただろうか
染谷先輩は、今日はお店の手伝いで来れない。
竹井先輩は言わずもがな。
優希と須賀君は、今日は二人で先に帰るとメールが送られていた。デートでしょうか
つまり、この部屋には…
ガチャ
咲「あっ、和ちゃんやっと来た……っ」
和♂「…すみません、少し手間取ってしまって」
56 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:30:33.42 ID:IF7t6qkEO
ガバッ
咲「和ちゃんっ、和ちゃんっ!」
和♂「咲さん? どうかしたんですか?」
咲さんは私に飛びつき、そのままYシャツをぎゅっと握りしめたまま、イヤイヤと頭を揺り動かす。
咲「なんだか、私、一人ですごく心細くって……」
和♂「はい……?」
咲「いつも……ここで部活してたのにね…」
咲「それなのに、優希ちゃんや和ちゃん、染谷先輩も京ちゃんもいなくて、急に…」グスッ
私に縋る咲さんの肩は可哀想なほど震えていて、手を添えるとピクッと跳ねるも、そのまま癒着するように落ち着いていく。
咲「いつも部室にはあれだけの人に囲まれてるのに、いなくなる時は、突然いなくなる……」
咲「ちょっと行き違っただけで、誰とも会えなくなっちゃうんだ……」
和♂「咲さん、それって……」
和♂(――お姉さんのことですか? とは聞かなかった)
和♂(だって、他に考えられないし、それを言葉にするのは今の咲さんの様子を見て、ご法度だと思ったから)
和♂(インターハイの後、一度もお姉さんとの件を話題に出さないということは、そういうことでしょう)
57 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:32:48.26 ID:IF7t6qkEO
咲さんは私の胸に顔を押し付ける。
咲「でも、和ちゃんは、ちゃんと来てくれた……」ギュッ
咲「ちゃんと、いてくれるよね……?」
和♂「……はい」
咲「ずっと、ずっとよ……?」
和♂「もちろん、一緒にいますよ」
荒かった息が少しずつ落ち着きはじめ、咲さんは段々私に体重を預けてくる。
小刻みに震える体は、びっくりするくらい軽かった。
咲「和ちゃん…」
和♂「はい?」
胸に埋まっていた咲さんが、私を見上げて笑っていた。
安心したみたいに笑ってる。
和♂「どうしました、咲さん…?」
咲「…ううん。和ちゃんって、いつも私の傍にいてくれてるなぁ…って…」
考えなしに、なんとなく、思ったことを口にする。
和♂「いますよ……」
静かに答えた。
するりと口からあふれた。ずっと待っていたかのように、考えるまでもなく
和♂(あなたの支えになりたい……)
和♂「私は……咲さんのそばにいたいですから……」
咲「……っ!!」ダキッ
今度は咲さんが、私の頭を胸に抱きとめてくれた。
私は今、どんな顔をしていたんでしょうか……
とても抱きしめずにはいられない顔? それってどういう意味で?
和♂「……咲さん、咲さん……」
和♂(それがどんな意味だってかまいません…)
だからお願いします神様、せめて私が部室にいる間だけ、時間を止めてくれませんか?
58 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:34:25.22 ID:IF7t6qkEO
*
咲「あっ、やば! もう夕方」
二人で部室の机で向かい合って勉強していると、唐突に咲さんがつぶやいた。
ちらりと腕時計を見ると、午後6時すぎ。
和♂「あ…。そうですね…」
咲「時間すぎるの早いなぁ……、ね?」
和♂「ええ」
恥ずかしそうに笑って、咲さんは筆記用具を片付け始める
咲「完全下校時間って何時だっけ?」
和♂「たしか、6時半だったと思います」
咲「そっかぁ……じゃあ、そろそろ出ないと。結構ギリギリだね。完全下校時間まで、あと20分もないし」
和♂「そうですね」
私の返事に小さくうなずいてから、咲さんは椅子に置いていたリュックを肩に掛けた。
二人そろって部室を出て、長い道のりを越えて校門を目指す。
校門をくぐる頃には、月はきれいに夜空に浮かんでいた。
59 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:36:55.78 ID:IF7t6qkEO
咲「んん〜っ、勉強疲れた〜…」
和♂「ふふっ、頑張りましたね」
咲「えへへ…」
今さっき疲れたと言った咲さんは、はじけるような満面の笑み。
その笑顔に釣られ、私も頬が緩んだ。
心地よい倦怠感とともに、さわやかな気持ちになる。
咲「平和だねー」
隣を歩く咲さんが、ほぼ真っ暗な天を仰いで目を細める。
木々の葉が世界を紅く色を変え、穏やかに秋の星々の輝きが降り注ぎ
風は優しく吹いて、虫たちはそれに合わせて優しくさえずる。
すべての生命の営みが、祝福されているようだった
和♂「ええ、本当に。ここに残れてよかった……」
咲「……え?」
和♂「ふふっ。なんでもありません。ただ……勝ち取った平和を、噛みしめているだけですから…」
咲「うん。……うん?」
わかったような、わからないような
咲さんはそんな表情を浮かべる
それが愛しくて、自然にまた笑みが零れてしまった
60 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:42:02.67 ID:IF7t6qkEO
和(インターハイ団体戦で優勝した日に倒れてから、私はその四日後に目を覚ました……らしい)
和(目が覚めて見覚えのある病室の天井を見たとき、私たち清澄高校の優勝は夢だったのではと不安になりました)
和(もしかしたら長野での思い出だけでなく、奈良での穏乃たちとの思い出まで全部嘘で、私は入院していた子どもの頃のままなのではないかと)
和(実際は、今までのことが全部嘘だった方がまだマシだったかもと思えるほどの変化が、体には起こっていたわけですが……)
毎日検査を繰り返す日々。
急に男性の身体に変わって慣れない心。
そんな心の支えは、清澄高校の全国制覇のニュース。
優希、咲さん、竹井部長、染谷先輩、須賀君。
私の大好きな人達は現実にちゃんと存在していて、そして私はそこで暮らす権利を勝ち取ったという事実。
みんなと共に過ごす時間を夢見て、一日一日を過ごしていた。
だから、始業式の朝。
優希と咲さんが並んで歩いている姿を見たときは、息も止まりそうなほど嬉しかったんです。
虚無感の中に沈んでいた私の心が、感動とか安堵だとか様々な感情が一気に押し寄せて、急に色づくのを感じた
姿も変わり果てた私を、変わらず受け入れてくれた麻雀部の仲間
咲『ずっと、友達だよ!』
そう言ってくれた咲さん。
私にとってはその言葉が、夏休み中毎朝鏡を見るたびに泣いていた私を励まして、もう一度生きる元気をくれた、私の全て
――私の居場所はここにある。
61 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:44:47.26 ID:IF7t6qkEO
咲「本当はね」
ふいに、咲さんが口を開く
咲「すごく、不安だったの。和ちゃんのこと」
和♂「え……?」
咲「このままどこか遠くに行っちゃうのかもって。そんなわけ、ないのにね……」
――和ちゃんが生きててよかった…
泣きそうに笑う咲さんの笑顔が、月明かりで淡くはじける。
咲さんこそ、今にも溶けていってしまいそう
和♂「……そうですか」
そこで会話が途切れると、その後は無言のまま歩き続けた。
62 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:49:21.88 ID:IF7t6qkEO
ーー
ふと、足が止まる。
四方を緑に囲まれたこの場所は、この夏、咲さんと二人でホタルを見た思い出の地。
咲さんは静かに数歩だけ前に出て、その場でクルリと振り返る
咲「和ちゃん」
和♂「何ですか?」
咲「さっきの言葉の意味、そろそろ教えてくれないかな?」
和♂「さっきの…?」
咲「『ここに残れてよかった……』ってやつ」
和♂「ああ」
ぼんやりと空を見上げた
周囲に木々も明かりもなくて、雲もなくて、まるで降ってきそうなほどの満天の星空
あまりに幻想的な光景で、つい夢の中にいるのかと錯覚してしまいそう
63 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:52:14.01 ID:IF7t6qkEO
和♂「……言い忘れていた事が、あります」
視線はそのままに、ゆっくりと言葉をつぶやく
咲「言い忘れていたこと?」
和♂「はい。…咲さんは、私に言いましたよね? 私がどこか遠くに行ってしまいそうだったと」
咲「う、うん…」
和♂「……あれ、あながち間違いじゃなかったんです」
咲「え、和ちゃん、それって」
見上げていた視線を下げ、今の私よりだいぶ背の低い咲さんを見る
咲さんの顔は引きつり、そして青ざめていた
和♂「私、全国大会で優勝できなかったら、東京に引っ越す事になっていたんです」
咲「っ――」
息を呑むような音
私からか、咲さんからか、よくわからない。
でも目の前の咲さんは俯いて、まるで何かから自分を守るように肩を抱いて体を縮めている。
和♂「でも、優勝できました。咲さん自身が…優勝を掴んでくれました」
和♂「咲さんが私を、今まで通りお傍に置いてくれたんです」
和♂「……ありがとう、咲さん」
咲さんが恐る恐る顔を上げて、私を見る。
目が合って、気恥ずかしさから目を細める私に、咲さんは安心したように軽くはにかんでくれた。
64 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:57:30.90 ID:IF7t6qkEO
和♂「…これだけ、です」
咲「うん……ありがとね、話してくれて」
和♂「いえ、……こちらこそ」
妙に湿っぽいような、しんみりした時間の流れ。
名残惜しさをよそに腕時計を見る、もうすぐ七時だ。
そろそろ帰らないと、咲さんのご家族も心配してしまうだろう。
和♂「さあ、もう帰りましょうか」
咲「えっ…」
和♂「あ…でもさすがにこの時間だと、もう真っ暗ですね」
咲「う、うん…」
和♂「それでは、もしよろしければ、家まで送らせてもらえませんか?」
咲「ええっ!?」
素っ頓狂な声を上げる咲さん。
私の行動が、咲さんの表情をころころ変えさせている。
なんだか少し感動。
65 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 15:59:24.20 ID:IF7t6qkEO
でも咲さんはすぐにはっとして、無言で私を睨む。
かつてないほど険しい顔。でも、怒ってるわけではなさそう。
和♂「どうでしょうか」
咲「うーん、でもいいの? そうしたら和ちゃんの帰りが…」
和♂「大丈夫ですよ。今日は父が仕事の都合で出張なんです」
咲「あ、そうなんだ…」
咄嗟に論点をすり替えた言葉に、むむむと唸る咲さん。
「じゃあいいのかな…」と首を傾げるその仕草の可愛らしいこと
和♂(もう少しでしょうか…)
最後にダメ押しで、これが咲さんだけでなく自分のためでもあることをアピールする。
和♂「それに、もう少し咲さんとお話していたいんです」
咲「う……じゃあ、ええと。言葉に甘えまして…」
照れたような笑顔から発せられた言葉に、思わず胸が高鳴る。
和♂「ありがとうございます。嬉しいです…!」
咲「…ふふ。送ってもらう私がお礼言われるって、なんか変なの〜」
可笑しそうに笑った
66 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:02:20.58 ID:IF7t6qkEO
――
宮永邸。
―Side 咲―
和♂「ここが、咲さんの家…」
咲「そんな立派なものじゃないけどねー」
そして、玄関の前まで送ってもらってしまった。
もう外は真っ暗で、まだお父さんの帰ってきてらしい宮永家は、それでも普段の人のぬくもりを放ち存在感を放っている。
七年前に母と姉がこの家を出てから、それでもこの家で過ごした時間、ぬくもりは消えない。
ーーここは変わらず、私の居場所なんだ。
和♂「でも、とても温かいです。いい家ですね」
咲「うんっ」
柔らかい笑みを絶やさない和ちゃん。
私と居て心地よいと感じてくれているのかな…?
咲「あ、その……それでさ…」モジモジ
和♂「ええ。また来週ですね」
なんとか会話を引き延ばそうとした私の相槌に、和ちゃんは盛大な勘違いでもって短くつぶやく。
咲「ぁ…、……うん…」シュン
そしてその勘違いを前に、うまく切り返せない私。
帰り道はあんなにお話ししたのに、いざお別れの時間になると言葉少なになってしまう。
もっとお話ししていたい。
こんなに悲しい顔をしながら「また来週」と笑う顔を、放っておけない。
咲「……あ、あのね和ちゃんッ! 私のうち…」
「…ん? 咲か?」
意を決して発した言葉は、今度は和ちゃんの背後、我が家の門から聞こえてきた声に遮られた。
67 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:05:03.82 ID:IF7t6qkEO
スーツ姿に短髪、眼鏡を掛けている冴えない温厚な顔。
咲「あっ……おかえり、お父さん…」ギロッ
和♂「お父様!?」ビクッ
せっかくの勇気に水を差されたことに、静かに俯きながら肩をいからせる私。
そんな私の隣では、和ちゃんが慌てた様子で姿勢を正す。
和♂「あの、こんばんは。私、咲さんの友達の原村和と申します!」
界「お、おお……ご丁寧にどうも。こんにちは。咲の父です」
興味深そうにまじまじと和ちゃんを眺めるお父さん。
界「へーぇ。咲の彼氏か?」
和♂「えっ! そ、そう見えますっ?」
咲「ちょ、ちょっと止めてよお父さん!! 友達だって言ってたでしょー!?」
唐突な、なんの脈絡もない問いかけに焦る。
あまりに慌てすぎて、顔が熱い。
咲(……和ちゃんのバカ……ちゃんと否定してよ……)カァァ
頬に手を当て、恥ずかしさから咄嗟に俯いてしまう。
ていうか私は、なんで和ちゃん相手にこんな気持ちになってるんだろう……
自分にちょっと違和感。
68 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:08:04.74 ID:IF7t6qkEO
そんな吠える私を持ち前の緩い顔で躱し、お父さんは申し訳なさそうに笑う。
界「なんだ違うのか。咲がうちに男子を連れてくるなんて初めてだから、ついな…」
咲「一緒に勉強してたら遅くなっちゃって、もう暗いからって送ってくれたの! もうそれだけ!」
――ねっ、和ちゃん?
縋るように和ちゃんを見上げると、何やら複雑そうな顔をして曖昧に笑うだけ。
咲「……?」
和♂「……。ええ、まぁ……」
咲「ほらぁ!」
界「無理やり言わせたんじゃないのかー?」
咲「だから違うってばぁ、もー!」
和♂「ふふふふっ…」クスクス
ふいに、隣からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
見上げると、和ちゃんが口を押えて笑っている。
界「はっはっはっはっは!」
今度は目の前で、お父さんまで笑い出した。
咲「えっ、な、なに……? なんなの?」オロオロ
和♂「い、いえ…ふふっ。なんか咲さん、お父様といる時は結構子供っぽいんですね」ニヤニヤ
咲「へっ!?」ビクッ
界「大丈夫だ。心配しなくても、咲に彼氏ができるとは思ってないさ」ニヤリ
咲「どっ、どういう意味かな……っ!?」
特にプライドがある訳ではないけど、それでも胸に突き刺さる言葉を真に受けて全力で抗議した。
69 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:15:48.69 ID:IF7t6qkEO
界「あーあ。笑った、笑った」
ひとしきり笑ったお父さんは、カバンから鍵を出しドアを開ける。
界「原村くんと言ったか。家はどこ?」
和♂「え? えっと、八ヶ岳の方ですけど…」
界「何気に距離あるじゃないか。親御さんは?」
和♂「いえ、今日は大丈夫ですので」
お父さんは「そうか…」とつぶやいて、数度頷く。
界「もしよければ、晩御飯でも食べていかない? 食後に家まで車で送ろう」
和♂「えっ……いえ、そんな。とてもありがたいですけど、さすがにそれは…」
界「咲はどう思う?」
突然話を振られて若干焦る。
でも、とても魅力的な提案だと思う。
咲「私も、和ちゃんにもう少しいて欲しいな… あ、どうしてもダメなら仕方ないけど」
自分で言って勝手に落ち込む気持ちを誤魔化すように、ちょっとだけ作り笑い。
そんな私の顔を見守るように見つめていた和ちゃんが、僅かに息を呑む。
和♂「…では、すみません。お言葉に甘えさせていただけますか?」
咲「うんっ、任せて!」
界「任せてって……車で送るのは俺だろ」
咲「料理するの私だもんっ」
私たち宮永家に、十年ぶりに、私とお父さん以外の人が敷居を跨ぐ瞬間だった。
70 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:19:06.38 ID:IF7t6qkEO
―Side 和―
ドアをくぐり中に入ると、そこは咲さんのにおいがした。
咲「ただいまー」
和♂「お邪魔します」
咲「うん、いらっしゃい」
しゃがみ込んで脱いだ靴を揃えていると、上から温かい声が私を出迎えてくれる。
咲「和ちゃん〜、ちゃーんと手洗いうがいするのよ〜?」
和♂「え?」
咲さんの方を向くと、にんまり笑われた。
咲「あはは……。実はね、私、おままごとでお母さん役ってやったことなくって」
咲「こういうこと言うの、ちょっと憧れてたんだよねっ」エヘヘ
ステップを踏むように靴を脱ぎ、自然な流れで靴を揃えた咲さんは、その横で固まっている私を、律儀にその場で待っていてくれた。
咲「こっちがトイレ。で、そこが洗面所とお風呂場ね」
ここが、咲さんの家。
夢にまで見た聖域。
ちらと、咲さんが振り返る。
柔らかく笑う。
和♂「…? あの、何ですか?」
咲「あ……ううん、なんでもないの」ニコニコ
そう言って、また歩きだす。
71 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:21:20.17 ID:IF7t6qkEO
和♂(なんでしょうか…)ポー
この家全体に甘い空気が漂ってる気がする。
先導していた咲さんが、顔をあげてちらと私を振り返った。
妙に緊張する。また目が合う。
和♂「……?」
咲「……ふふっ」フニャッ
和♂「……!」
ふわりと笑う。
咲さんは度々私を振り返るたびに、何かを噛みしめるようにきゅうっとはにかむ。
とても幸せな気分だった。まるで新婚二人で新居を見に来たみたい……
咲さんの笑顔にはきっと何かあるんだと思う
だって、普段そこまで笑わない私が、咲さんの笑顔を受けるとたちまち笑顔になってしまうのだから
72 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:30:21.18 ID:IF7t6qkEO
ーー
咲「で! ここ真っ直ぐ抜けると〜!リビングです!」
和♂「はいっ」
普段に比べて随分テンションの高い咲さんに釣られ、1オクターブ高い声が出る。
感慨深く、部屋を右に見渡す。
リビングの端に置かれた小さめのテレビと、床に敷かれたカーペット。二人用のソファに、床に置かれた座布団が二つ。
食卓テーブルに、それを囲む四つの椅子。お洒落な色合いのサイドテーブル。
広めのスペースに、シンプルな壁紙と、物が少ないせいだろうか。
咲「えっと、ちょっとごめん。適当にソファにでも座ってて。私、上で着替えてくるね」
和♂「あ、はい…」
咲さんは楽しげに手をふりふり、そのままリビングを出て行った。
和♂(どうしましょうか…)
咲さんを見送ってから、何の気なしにソファに近づいてみる。リビングを見渡しても、誰もいない。
訳もなく後ろめたい気持ちになりながら、ソファに浅く腰掛ける。
深呼吸をすると、背筋がぴんと伸びた。
適度な緊張感。
いつも通りの姿勢だけど、心は全然いつも通りじゃない。
和♂(落ち着いて、落ち着いて……)
73 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:32:00.94 ID:IF7t6qkEO
そうこうしていると、咲さんが帰ってきた。
和♂「! おかえりなさい、咲さん」
咲「うん、ただいま」
戻ってきた咲さんの服装は、東京のホテルで部屋着代わりに使っていたパーカーに、薄手のショートパンツ。
スラリと伸びる肢体に、少しだけ目のやり場に困る。
咲「…? 緊張してる?」
和♂「えっ…」
咲「だってぇ、お見合い前みたいにガチガチなんだもん」
和♂「お見合い……ですか」
咲「もっと楽にしてていいよー……と言っても、さすがにちょっと難しいか」アハハ
咲さんが可笑しそうに笑うと、まるで魔法のように緊張という呪縛から解放される。
私の頬にも、自然と笑みが浮かんだ。
咲「お腹空いたよね? もうちょっと待ってて、もう仕込みはできてるの」
和♂「あの、何か手伝えることは…」
咲「だーめ、座ってて。一から調理するものはないから、もうすぐだよ?」
和♂「はい…」
諭されて、席につく。
74 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:41:16.01 ID:IF7t6qkEO
とんとんとん、キッチンから規則的な音が聞こえてくる。
食事の準備のために、包丁がまな板を叩いている音だ。
――母と同居していた頃に聞いていた音。
ふわりとキッチンに目を向けると、エプロン姿の咲さんが料理をしている。
咲さんが鼻唄を歌いながら、こちらにお尻を向けて料理をしている。
咲「ふん、ふふ〜ん♪」フリフリ
和♂(……あれ? おかしい、咲さんのお尻から視線が動かない……)ムクムクッ
和♂(いい匂い……お味噌の香りがする。咲さんのお尻いいにほ……ーー)ズギューン
和♂「うっ……!」ゴリッ
美味しそうな香りと、何もしていないもどかしさに体がムズムズしてくる。
ガタッ
和♂「……す、すみません、お手洗い拝借できますか?」ヨロッ
咲「うん? うん、大丈夫だよー。場所わかるよね?」
和♂「は、はい……」ヨロヨロ
咲「そんな、なんか凄い前屈みになってるけど……お腹痛いの?」
和♂「い、いえ……男子特有の、発作のようなもので……」イソイソ
咲「発作っ? え、大丈夫!? な、何か手伝えることある?」
和♂「て、手伝えることですって?!……っうぐぅ……!」カメェッ
和♂「す、みませ……大丈夫、ですから……っ」
和♂「ですから、いま……! 私に話し掛けないでください……!」ダッ
咲「え……」
咲「……話し掛けるな、かぁ……」シュン
75 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:45:31.81 ID:IF7t6qkEO
咲「もう20分も……大丈夫かなぁ。でも、様子見に行くのはさすがに……」モジモジ
咲「でも、もし倒れてたら……、だけど男の子がトイレしてるのに私が行くのもどうなの?」ウーン
ゴポォッ!!!
咲「……っ!? 何? 何の音……?」
ガチャ
和♂「……ふぅ」テカテカ
咲「あ、戻ってきた! 大丈夫だった?」
和♂「はいっ。おかげさまで、たくさん吐き出せました!」ニコッ
咲「へっ? おかげさまで……?」
和♂「あ、いえ……言葉の綾といいますか」
和♂「いやでも、咲さんの笑顔のおかげで、何とかやり遂げました」
和♂「今ならどんな困難も乗り越えられそうな……そんな心持ちです」ニコッ
咲「そ、そっかぁ。なら良かった……のかな?」アハハ
咲(でも、吐き出す……かぁ)
咲「晩ごはん食べれるかな? なんなら和ちゃんのために、お粥とか作るけど……」
和♂「いえ、病気ではないので。むしろしっかり食べれるくらいですから…」
咲「そ、そう? 何かあったら遠慮しないで、ちゃんと私に言ってね?」
和♂「ええ、ありがとうございます」ニコッ
76 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 16:49:16.83 ID:IF7t6qkEO
咲「あのね、お父さん、お仕事の電話が掛かってきちゃったみたいで。今はちょっと手が離せないんだってさぁ」
咲「なので、今夜は私達二人でごはんです」
そんな言葉と共に、料理が運ばれてきた。
煮物と、おからの青菜の煮つけ、アジの開きを焼いたものに大根おろし。油揚げとわかめの味噌汁。
慎ましい和食メニューに、どこか咲さんらしいなと感じ、笑みがこぼれる。
和♂「おいしい……」
咲「そうかな……。我ながらぱっとしない献立だなぁって思ってたんだけど、そう言ってもらえると嬉しいかも」
腕を抱えながら、咲さんは首を傾げて笑った。
和♂「いつもは咲さんがお料理を?」
咲「うん。高校で麻雀部入るまで、部活はやってなかったから。時間はあったし」
純和風の家庭料理で、作り慣れていることがはっきりわかる、丁寧な味わいの料理だった。
食器と口を行き来する箸の動きが、全然止まらない。
和♂「なんか不思議ですね。塩辛くないのに、しっかり味がついているんです。これは何で味付けしているんですか?」
おからを食べながら訊いてみた。
関東というよりは、関西寄りの味付け。
あっさりした薄味なのに、滋味のある味付けで美味しい。いくらでも食べられそう。
77 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:00:25.85 ID:IF7t6qkEO
咲「あ、そうかな……。一応、塩としょうゆ、みりん、酒、砂糖なんだけど」
なんでもないように答える咲さんが、ほんのりはにかむ。
和♂「普通の調味料なんですね。でも、出汁が効いていてとても美味しいです」
咲「ああ、それね。干し松茸のもどし汁と昆布」
咲「お母さん鹿児島の獅子島出身なんだけど、小学生の時に教えてもらったの」エヘヘ
和♂「へぇ……知りませんでした。こんな風味が出るんだ……。この青菜は何ですか? クシャクシャしていて、ちょっと苦みがあって、初めて食べました」
咲「え〜何って、ふつうの大根葉だよー?」
和♂「えっ…あれって食べれるんですか?」
咲「食べれるよ!……あ、和ちゃんもしかして、大根葉、苦手だった?」
和♂「いえ、とても美味しいです」ニコッ
咲「おかわりもあるから、足りなかったら言ってね?」
和♂「はい、ありがとうございます」
からっぽになったお茶碗を差し出すと、咲さんはすっと立ち上がり、足音もなく移動して、キッチンの炊飯器からご飯をよそって戻ってきた。
和♂(あ……今気づいたけど、咲さん裸足だ……)ドキドキ
ここは咲さんの家なのだから当たり前で、だからなんだという話なんだけど、妙に胸がドキドキしてしまう。
78 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:05:14.35 ID:IF7t6qkEO
そんな場所で、二人で向かいあってご飯を食べている。
咲さんの、もっと深いところに触れている。
和♂「うっ」ムクムクッ
和♂(また大きくなってしまった。こんなに優しい咲さんに対して、私はいったいどこまで不義理を……)ギンギン
咲「なんか、お茶碗受け取ってよそってあげるのって、夫婦みたいじゃない?」
和♂「そ、そうでしょうか」ギンギン
咲「あはは、私だけかもだけどね」
咲「はい。あなた?」ニコッ
和「……っ」ビクン
冗談めかしながら、にっこり笑って差し出してくれる。
指先が触れた。
咲さんは、はにかんだように笑った。生糸のように細くなった目がやわらかな弧を描く。
そのまなざしに、私は恥ずかしくて声を返せなかった。
79 :
試験前。友達と、私の居場所
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:08:57.34 ID:IF7t6qkEO
和♂「咲さん、ごちそうさまでした」
咲「ううん。こちらこそ普段の料理しか出せなくて。もうちょっと記憶に残る感じにすればよかったなって、ただいま反省中」
和♂「でも、美味しかったですよ?」
咲「まぁそれは、小学生の頃から料理してますので……」
恥ずかしそうにはぐらかす咲さん。
咲「よかったらまた来てよ。それまでに絶対忘れられない、衝撃的な料理を考えとくから」
和♂「ふふ、そうですね。また、是非」
和♂「でも、今度は私の家にも来てほしいです」
和♂「今度は私も料理を振る舞いますので」
咲「うん。ありがとう」
界「お、もう帰るのかい? 送っていこう」
和♂「ありがとうございます。お世話になります」
車の後部座席に乗り込み、家の前でいつまでも手を振り続けている咲さんへ、私もずっと手を振り続けていた。
咲さんと離れるのが、名残惜しくて辛い。
和♂(……もっと、咲さんといたい)
胸に灯る強い気持ちに、今は静かに目を閉じた。
80 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:39:15.02 ID:IF7t6qkEO
―Side 咲―
今日で無事試験も終わり。
当たり前のように部室に集まってくる部員たち。
そんな中で、きっと一番浮かれているのは間違いなく私だろう。
咲「ねぇねぇ、日曜日なんだけど、お買い物行かない?」
和♂「……はい? お買い物、ですか?」
咲「そうっ、お買い物!」
普段気分でフラリと買い物に行くようなこともなければ、人を誘って出かけることも稀な私が、部活のみんなを休日のお出かけに誘っている。
中学の頃からは比べれば、随分の変わりようだと思う。
まこ「買い物、のぅ……」フム
和♂「それは構いませんけど……。咲さん、何か足りないものでも?」
咲「あっ、ううん、そういうんじゃないんだけど。もう秋物とかお店に並び始めてるし。ほら、清澄の制服に合うカーディガンとか。ちょっと見ときたいなぁ〜って」テレテレ
咲(あと、和ちゃんの服、困ってるようなら皆で見てあげられないかなって……)
和♂「ああ……そういえばそんな時期でしたか」
優希「そういうことなら私も見たいじぇ〜!」フワッ
京太郎「俺も、この一年でだいぶ背が伸びたもんなー。……女子に服見てもらえるなら」
優希「京太郎。浮気」
京太郎「言い方」
81 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:40:43.36 ID:IF7t6qkEO
和♂「私は構いませんよ?」
咲「ほんとっ!?」
和♂「はい。というか、断られると思っていたんですか?」
咲「そういう訳じゃないけど……、でもみんな色々あるじゃない?」
和♂「はぁ」
咲「ほら、『出会いは一期一会だからって、しょっちゅう衝動買いしちゃってマジ財布ピンチ!』って人とか、『ネットで安く買えるんだからわざわざ店まで行かない!』って人とか……」
和♂「ぐっ、なぜ私の……」グサッ
優希「最初の事例が妙にリアル感あって萎えるじぇ…」グサリッ
京太郎「俺は優希がタコス以外を買ってるの見たことないけどな」シレッ
優希「黙れっ犬!」グワー
咲「あの、えっと、だから…」
まこ「散財するか、はたまた一点集中か。さすがにそこまで割り切ってる人はなんて……」
和♂「……」ピクッ
優希「……」ピクッ
まこ「……いや、居るとは思うがのぅ」
和♂「ん、んんっ、確かに今は、何でもスマホのオークションアプリやネットで買えてしまう時代ではありますが」
優希「それにしたって咲ちゃんは気にしすぎだじぇ……。買い物なんて、そんな考えてするものじゃないからな」
和♂「優希はもう少し計画性があっていいかと」
82 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:42:59.70 ID:IF7t6qkEO
京太郎「そういうとこ、考えすぎないでもっと気楽でいいんだぞ?」
咲「そ、そう……?」
和♂「はい。それに、咲さんと一緒にお出かけでしたら、私はどこへだって行ってみたいですから」
咲「……あ、ありがと…」カァァ
和♂「い、いえ……その、一緒に買い物、楽しみですねっ……?」テレテレ
咲「う、うん…っ!」
咲「えへへ」
和♂「うふふ」
まこ「ん? ……こ、これは……」
京太郎「もしかして俺たち」
優希「参加したらお邪魔虫か……?」
京太郎「……傍から見ると、本当に初デートの約束して照れ合ってるカップルにしか見えねぇ」
優希「はぁ……確かにここ最近はなぁ。どう見ても、好きな女子に尻尾振ってる純情男子なんだよなぁ、のどちゃん」
京太郎「なんなら制服デートとかって、ちゃんと教えるべき?」
優希「いやぁ、どうかなー。休日なのに制服を着る意味がわかりません。とか言って、和ちゃんに一蹴されそうだじぇ」ハァ…
まこ「目に浮かぶのぅ……」ヤレヤレ
咲「じゃあ、その、日曜日は――」
遊ぶ約束をして、部活を終えた。
お昼前に駅で集合する予定だった。
83 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:46:26.69 ID:IF7t6qkEO
日曜。駅前。
和♂「…はい? 行けなくなった? 3人ともですか?」
優希『そうそう。だから今日は、のどちゃんと咲ちゃんの二人きりだじぇ。しっかりアピールするのよー?』
和♂「!? な、何言ってるんですか…っ!」ドキッ
私が待ち合わせの5分前ギリギリに駅に着いたときには、既に和ちゃんが一人、改札の前で待っていた。
向こう側を向いてスマホ片手に、もう片方の手を腰に当てて仁王立ちしながら、息も絶え絶えにお喋りしている。
ーー
それから二分ほどして、和ちゃんの電話が終わったみたい。
携帯をポケットに滑らせてから、大きなため息を吐いて壁に寄り掛かる和ちゃんに、気後れしながらも、ゆっくりと近づいていく。
咲「和ちゃん」
声を掛けると、くるりとピンク髪の背が振り向いた。
和♂「……あ。咲さん……!」
咲「うん。おはよう、和ちゃん」ニコッ
和♂「はい。おはよう、ございます」フワッ
照れたような笑みを浮かべながら、ゆったりとこちらへ歩いてくる。
84 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:47:57.99 ID:IF7t6qkEO
和♂「私服……合宿やホテルで着ていたのと違いますね」
咲「う、うん。実はこの服、お出かけ用なの…」
和♂「そうなんですね。凄く、よく似合ってますよ、可愛いです…とっても」
和ちゃんが眩しそうに目を細めながら、熱心に私のことを褒めてくる。
なんだろう……こんなに服装を褒められるなんてこと初めてで、自分がにやけてないか、顔が赤くなってないか心配。
咲「うんっ。あ、ありがと…///」
和♂「いえ、いいんです。本当のことですし」
咲「もう…褒めすぎだよ。その、和ちゃんも、お、そういう私服は初めて見るなぁ。うんっ、格好いい!」
男の子の服――そう言おうとして、咄嗟に曖昧な表現で誤魔化した。
でも、細くて、そんなシルエットを十分に生かした服を綺麗に着こなしている。
惚れ惚れして、思わず嘆息してしまいそう。
85 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:49:20.25 ID:IF7t6qkEO
和♂「そ、そうですか…? メンズの服を着て出掛けたことがなかったので、心配だったんですけど…」
咲「え、あ…そうなの?」
和♂「はい……私は元々、女性ですし。その…変だと言われないか、不安でしたので…なかなか」
咲「あ…」
咲(そっか。和ちゃんは、自分に起きた現象だけでなく、そういった恐怖とも今まで戦ってきたんだ…)
自分に多大なコンプレックスを持つ人の、色眼鏡で見られることへの不安やストレスは、一体どれほどのものだろう。
少なくとも私には、想像もつかない。
咲「…ううん。全然、変なんかじゃないよ?皆、和ちゃんのことを男子だって思うくらい」
和♂「はい…」
咲「だ、大丈夫だよ! もし不安でも、私がずっと隣にいるから。だから怖くないよ!」
和♂「咲さん…」
咲「あはは…なんて、私なんかじゃ頼りないかな?あっ、なんなら手とか繋いでく?でもそしたら私達恋びt――」
私の言葉を遮るように、和ちゃんの右手が、私の左手を引いた。
和♂「――それでは、今日一日は、咲さんは私の恋人ってことですね」
咲「あ……う、うん」
和♂「…それじゃあ、そろそろ改札をくぐりましょう。そろそろ電車が来ますよ」
86 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:51:04.15 ID:IF7t6qkEO
早朝と言うにはのんびりし過ぎだし、お昼時と言うにはまだ気が早いような。
そんな微妙な時間帯だからか、私たちが乗車した電車内には、他の乗客は誰一人乗っていなかった。
そんな中で、私達は二人席に並んで、のんびり座っている。その間も和ちゃんは二人の間で握られた手を放すことはなかった。
時折和ちゃんは私から視線を外しながら「……ふふっ」と嬉しそうにほほ笑んでいた。
……お買い物を楽しみにしていてくれたみたい。なんだか嬉しい。
咲「そういえば、最初から二人で出掛けるのって初めてじゃない?」
和♂「そうでしたか?」
咲「あ……」
不思議そうに首を傾げる時の角度と、その可愛らしさは、女の子だった頃からまるで変わってない。
和ちゃんの変化を見つけて一つ一つ肯定し受け入れつつ、変わらないものを見つけては大事に心の中に仕舞っていく。
咲(――って、んんっ? 何か忘れてるような……二人……?)
咲「って、ああっ!今日はみんなで遊びに行くって話だったような!そういえば、他の皆は!?」
和♂「え? ああ。それなんですが…先程行けなくなったと、私の携帯に連絡がありまして」
咲「ええっ、三人とも!?」
和♂「はい…」
咲「そ、そっかぁ……急だったもんねぇ」
87 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:53:27.34 ID:IF7t6qkEO
和♂「もう、今更気付くなんて遅すぎですよ……電車だって発車してるのに。てっきり、咲さんの方にも連絡が入ってるものだとばかり…」
咲「えへへ……ごめん。あ、えっと…何の話だっけ?」
和♂「二人きりで出掛けるのは、これが初めてですね、という話ですよ」
咲「あ、そうそう!合宿中に二人で滝を見に行ったり、神社にお参りには行ったけど、最初から二人だけってなかったよね」
和♂「…言われてみると、確かにそうですね」
思い出すように、上向く視線。喉ぼとけが軽く突き出て見える。
咲「……なんだか、ちょっと不思議な感じ」
和♂「そうですね。あっ」
何か思いついたようで、今までずっと私と繋いでいた手を放した。
和ちゃんの両手が胸の前でポンッと合わさる
和♂「咲さんっ。記念に写真でも撮りませんか?」
咲「うんっ、いいよ!…でも、この車両誰もいないから取って貰えないね…」
和♂「いえ、いいですよ別に……自撮りできますし」
咲「自撮り機能なんてあるんだ…」
呟いた言葉に、和ちゃんはクスリと笑った。
88 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 17:58:08.35 ID:IF7t6qkEO
「スノー使おうかな……」と呟き数回唸ってから、私の脇腹に腕を回して軽く引き寄せる。
咲「きゃっ、和ちゃん! くすぐったいよ〜」
和♂「でも、もっとくっつかないと見切れてしまいますよ?」
私の反論は涼しい顔で躱され、和ちゃんの手が私の背中に軽くを添えられる。
和ちゃんの頭が揺れて、私の頭に凭れかかってきた。
気になって和ちゃんの顔を見上げると、目と鼻の先にあった彼女の顔と至近距離で見つめ合う体勢になる。
咲「あっ…」
和♂「……」
驚いて、咄嗟に顔を逸らして、そっぽを向いてしまった。
何でだろう。いま、凄く顔が熱い……
和♂「はい、チーズ」
パシャ、と和ちゃんの持っているスマホがシャッター音を響かせた。
和♂「撮れました!」
咲「うんっ」
和ちゃんが撮れた写真を見せてくる。
咲「……」カァァ
和♂「……」
頭をコツンとくっつけて撮った写真の中の、真っ赤になっている私たちは、どう見ても付き合いたてのカップルだった。
89 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:02:30.96 ID:IF7t6qkEO
和♂「……あと、咲さん。優希に教えてもらったんですけど、スノーっていうものがあるんです」
咲「スノー、雪?」
和♂「そうです。写真を撮ると可愛く加工できたりするアプリでして〜」
咲「アプリ……?」
首を傾げていると、前方に腕を伸ばして画面をこちらに向けたままスマホを構えつつ、再度私に身を寄せてきた。
するとスクリーンには、もちろん私と和ちゃんの姿……と思ったら、急に二人の頭にネコミミ、そして顔にはネコの鼻と髭が現れる。
咲「!? なにこれー!?」
和♂「ね? 可愛いでしょ?」
咲「うんっ」
電車内ではずっと、他に乗客がいないのをいいことに、ひたすら写真を撮ってはアプリで加工してはきゃーきゃー騒いで遊んでいた。
90 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:04:41.58 ID:IF7t6qkEO
大通り。
和♂「電車で少し出ると、こういう大きいお店も多いんですけどね」
咲「そうだねぇ。でも、ここが出来たのもわりと最近なんだよ?」
和♂「そうなんですか?」
咲「私は長野長いしね。まぁ、私も今の家には随分昔に引っ越してきたんだけど」
和♂「初耳ですね」
ショッピングモールを歩きながら、街について、そしてまだまだ知らなかったお互いの事について話す。
そんな日曜日のお昼時は流石に混んでいて。
けれどどれだけの人混みだったとしても、基本的に皆がすれすれで避け合って、実際に肩がぶつかるのは極稀だ。
日本人は忍者の末裔だって話も、あながち間違ってない気がする。
こんなこと言ったら、和ちゃんに笑われちゃうかな……
91 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:06:19.47 ID:IF7t6qkEO
いつもと変わらず隣を並んで歩いている。
でも身長差のせいで、和ちゃんの横顔が今までよりずっと遠いような感じ。
咲「ねぇねぇ和ちゃん」
和♂「はい、なんですか?」
咲「女の子だったときは、身長って何cmだったの?」
和♂「154cmですけど…」
咲「あ、1cm差だったんだ」
私の身長が155cmで。
そして今の和ちゃんの身長は確か174cmだから、そりゃ遠いわけだ。
和ちゃんが遠くに行ってしまった気がして、思わず手が強ばる。すると和ちゃんは、それに応えて力強く握り返してくれた。
和♂「咲さん、どうかしました?」
咲「うん。あのね……私達、隣を歩いているのに、顔、随分遠くなっちゃったなって」
和♂「え?」
キョトンとした顔で和ちゃんが小首をかしげると、午後の陽光の下、ピンクのショートヘアがきらきら流れる。
思わずため息の漏れる私に、和ちゃんは静かに笑いかけてきた。
92 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:08:48.72 ID:IF7t6qkEO
和♂「そうですね……こうして隣を歩いているだけなのに、前よりずっと咲さんが遠いです」
和♂「でも、どれだけ身体の距離が離れても、心の距離は変わりません。私たちは……友達、ですから」
はっきり友達を言い切ってくれたことに、笑みがこぼれる。
でも、そんなにやける頬に、冷たい思考が水を差す。
――『友達ですから』。
同性の友情なら、友達なら、理由なんて何もいらないけれど。
一応は子どもというほど子どもではなく、そして今は男女だから。一緒にいるためにはわかりやすい何かが必要なんだろう。
咲(京ちゃんに頼まれて、学食でレディースランチを注文した日のことを思い出す。)
咲(あの時はたしか、同級生に『いい嫁さんだなぁ』って言われて、咄嗟に『中学で同じクラスなだけ!』と言い返してたっけ?)
そう……京ちゃんの場合は『中学が一緒なだけ』。
本当にそれだけなんだけど、一緒に行動するにはその関係を言葉によって明確にしなければならないらしい。
誰が決めたのかはわからないけど、いつの間にか
93 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:10:49.37 ID:IF7t6qkEO
物事に白黒ハッキリさせることは、必ずしも正しいとは思えないけれど、それでもどうしてもグレーではいられない事だって、きっとあるんだ。
この前まで女の子で、でも今は男の子になっちゃって。でも、心の形なんてわかるはずもなく。
男の子なのか、女の子なのか。もやもやしてグレーゾーンで、私にも和ちゃん本人にだってきっと、よく分からない。
だから私は、彼女に対するセクハラ染みた白黒ハラスメントに対し、『友達』という彼女を説明する明確な枠組みを作る。
咲(これからも付き合っていくであろう彼女のコンプレックスを、私といる間は少しでも和らげられるように……)
今の和ちゃんは女の子であって、同時に男の子でもあるんだから。
だとするならば、『友達』という明確な関係であることは私達にとって、この関係を続けていくうえで不可欠であるような気さえしてきた。
咲「……うん。ずっと、友達だからね」
和ちゃんの顔が至近距離にある。
私の顔は前を向いたまま、視線だけがチラチラと横へ流れていた。
94 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:13:16.98 ID:IF7t6qkEO
私のカーディガンを見て、和ちゃんに似合いそうな服を想像しながら一緒にお店を巡って。
たまーに小物屋さんで、綺麗なアクセサリーなどを物色していると、あっという間に時間が過ぎ去っていく。
小腹が空いてクレープを食べながら、二人並んでアーケードを歩く。
不意に、和ちゃんの足が止まった。
咲「和ちゃん?どうしたの――」
快晴だった天気が少し曇ってきて、細々と雲の切れ目から差し込む一筋の光の下。
和ちゃんの視線を辿った先には、有名なロリィタ服のショップが店を構えていた。
咲「あ、」
和♂「えっ、あ、咲さん……何でもないんです、何でも」
愁いを含んだ微笑に、胸が少し高鳴る。
咲「私、和ちゃんが持ってるような服のお店って、初めて見たかも…」
和♂「そう、ですか?」
咲「ねぇ…せっかくだし、ちょっと見てかない?」
和♂「で、ですが…」
咲「今までのお店は大体中に入って見て来たのに、このお店だけ見て行かないのは逆に変だよ」
和♂「…そう、ですかね」
咲「そうそうっ。私も興味あるもん。さ、入ろっ」
もう一度手を引いて、ゆっくり脚を踏み出す。
すると和ちゃんは何の抵抗もなく、――どころか私よりも勇み足にショップに向かって行く。
95 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:15:37.01 ID:IF7t6qkEO
店員「いらっしゃいませ〜」
カランコロン、という鈴の音と共に、店員さんの声が聞こえて来た。
目の前に広がるフリルの嵐に卒倒する。
店員「どんなのお探しですか?」
咲「あの、こういったお洋服って、私たち初めてで。大きめのサイズとかも置いてたりしますか?」
店員さんは「大きめ…」と呟きながら和ちゃんに目を配り、ちょっと考え込む。
店員「どうでしょう…ロリィタってサイズ小さめに作られてるブランドもありますから。身長はおいくつですか?」
和♂「174cmです…」
店員「すごーい、おっきいねぇ。でも細身だから身長のわりに華奢に見えちゃいます。うーん、どういった服が着たいとかって、好みは決まってます?」
和♂「色は白の…そうですね、クラシック系とか」
店員「なら大丈夫だと思いますよ? あ、スリーサイズは測り直します?」
和♂「あ、いえ、結構です」
適当にこちらに話を振りながら、私たちを連れてショップ全体を巡回しつつ、服が並べられたエリアの紹介をしてくれる。
店員さんがいくつかのエリアから集めたロリィタ服が、空いていたラックに敷き詰められて、私たちの前に移動されてきた。
店員「これくらいかな〜。もしかしたら小さいかもって商品も、一応出してみました〜」
和♂「ありがとうございます」
店員「いいえ、全然大丈夫ですよ〜。サイズ合わなくてもデザインが気に入った服あったら、取り寄せも出来るし。下見だけでも楽しいだろうから、店内色々見てみてください」
和♂「はい…ありがとうございます……」
店員「……いい彼女さんねっ♪」ボソッ
和♂「っ……ぁ、はぃ……」カァァ
ニコ、とフランクに軽く会釈をした店員さんは、私たちの傍を離れ、カウンターの方に戻って行った。
96 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:18:23.00 ID:IF7t6qkEO
咲「じゃあ、ちょっと合わせてみようよ」
和♂「えっ、ですが…私じゃ、きっと似合いませんよ…」
咲「いいから、ね?ちょっと鏡で合わせるだけでも!」
和♂「……咲さんが、そこまで言うなら…」
嫌なものは、嫌。
態度がいつも徹頭徹尾、一貫しているはずの和ちゃんらしからぬ態度に、彼女の本音を見た気がする。
咲「じゃあ、まずどれからにするー?」
和♂「では…この白のレースのを…」
ディティールが満載の可愛い服の両肩を摘まんで、鏡の前で自分に合わせている和ちゃんの顔は、女の子の頃とまるで変わってなかった。
惚けた表情に、キラキラした目。嬉しそうに緩む口元。
咲(和ちゃん……。やっぱり、ロリィタ服がまだ大好きなんだ……)
言葉にならない態度は、より顕著に彼女の本音を表している。
咲「うんっ、すごく可愛い!」
和♂「はいっ、凄くいいです、これっ」
興奮気味に答える和ちゃんは、合わせていた服をラックに戻し、別の黒の服を手に取った。
鏡の前で合わせて、ラックに戻す。それを何度も繰り返して。
今度は気に入ったのであろう数着を持って、今度は試着室に向かっていく。
気に入った物が多すぎたようで、嬉しそうに頭を抱える和ちゃんの表情は、入店前とは打って変わって、終始笑顔だった。
97 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:24:06.20 ID:IF7t6qkEO
和♂「結局、一着買ってしまいました」
咲「でも似合ってるんだし、欲しいんだからいいと思うよ? 出会いは一期一会だし」
和♂「そうですね…」
咲「和ちゃん頭いいから、きっと色々考えちゃうと思うけどさ……。好きな事をしてた方がきっと楽しいよ」
和♂「……はい…」
気付けば私達を照らす影の輪郭は、薄くオレンジを含んでいた。
私の足元から伸びる影の、その隣の影が、ぐっ、と伸びをする。
和♂「ん〜っ…はぁ。私、もうくたくたです…」
咲「あ、ごめん。流石に歩き疲れちゃった?」
和♂「いえ、大丈夫ですよ。疲れはしましたけど、幸せ疲れですから」
咲「あははっ、なぁに、それ。幸せ太りみたい」
和♂「似たようなものですよ…幸せすぎて、疲れてしまったというか。咲さんとの時間が、とても楽しかったので」
咲「えへへ。やっと和ちゃんの本音が聞けたんだもん…張り切っちゃうよっ」
和ちゃんの服を見てあげたくて、今日は優希ちゃんや染谷先輩、そして男の子目線担当で京ちゃんの意見も聞く目論見だったんだけど。
でも、今回ばかりは二人きりで良かったのかもしれない。
98 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:25:31.64 ID:IF7t6qkEO
二人で両手にいくつかの紙袋を下げながら、ゆっくり駅の帰り道を歩く。
和♂「やっぱり、お買い物って楽しいですね。これから増えていく男子との交流では、あまりないでしょうし」
咲「ねっ、確かに。男子だけで休日にショッピングしてる場面って、あんまり想像できないかも」
……改めて考えてみても、男子の生態ってよくわからない。
私の場合、お父さんと京ちゃんくらいしかサンプルが居ないせいかもしれないけど。
そういえば男子って、普段何やってるんだろ…
和♂「…公園で、鬼ごっこ、とか?」
咲「あっ、河川敷でエッチな本とかは?」
二人で顔を見合わせて笑う。
和♂「ふふっ…もう、咲さんったら。今時小学生だってそれはないですよ」
咲「あははっ…和ちゃんこそ、鬼ごっこって。小学生だよそれじゃあ〜」
和ちゃんの安心したような笑顔。
夕日に照らされ、顔が真っ赤になる。
唇を尖らせそっぽを向く和ちゃんだって、きっと、私と同じく――
和♂「……私は、ちゃんと男子になることができるんでしょうか…?」
99 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:47:05.60 ID:IF7t6qkEO
赤信号。
足を止め、夕暮れをぼうっと見上げる。
咲「……やっぱり不安、なの?」
和♂「え?…ん。不安というか、不満っていうか。ごめんなさい。自分でもよく分からないんです」
信号待ちで道行く人が止まり、私達の周囲にも足を止めた人たちがどんどん増えていく。
お揃いのリュックを背負う大学生の集団。スマホをいじる若い女性。じっと遠くを見つめるサラリーマン。
咲(周りから見た私たちは、どんな風に見られているんだろう。周囲に違和感なく混じることができているのだろうか……)
和♂「ねぇ、咲さん」
咲「ん?」
和♂「今までと違う生き方って、どうすればいいんでしょうね…」
咲「へ――。そ、それは……今までの生活とは、周囲からの見られ方が違うから……」
和♂「今まで普通にしていた事が、普通じゃなくなったり、ですか?」
咲「う、うん…」
和ちゃんは前を向いたまま立ちすくむ
和♂「でも……周りが私の見方をどう変えようと、これが私の普通なんです…」
咲「和ちゃん――」
青信号。
周りが一斉に歩き出す。
周りの人に合わせて和ちゃんも歩き始める。周りに置いていかれないように。
迷いなく真っ直ぐに、けれど迷子みたいな足取りでゆっくりと。
それに少し遅れて、私も速足で追いかける。
100 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:52:57.17 ID:IF7t6qkEO
和♂「……やっぱり私、変なんですよ…」
咲「……え?」
和♂「この姿も、こんなメンズの服を着てるのも、髪だってこんなに短くて」
和♂「なのに、こういったロリータ服も好きなまま……」
振り返って立ち止まる。
たくさんの人が行き交うスクランブル交差点の真ん中。人の流れが、和ちゃんを置き去りにしてすっと分かれる。
少し周りと逸れて流れを乱せば、もうそこに流れはなくなって。そこにいるのはただの迷子。
もう一度その流れに加わろうとすればいいのか、それとも自分の目の前を真っ直ぐ歩いていけばいいのか。
和♂「ほんと。私はいったい―――」
咲「―――」
言葉を打ち消すように、電車のブゥォォォ―ンという音が鳴り響く。
消え入る雑踏のなか。
全ての神経が和ちゃんを認識するのに集中し、その他全ての音が遠退くーー
その答えは誰も知らない。稀代の哲学者すら、人生を掛けてもわからなかった難題。
迷子どころの話じゃない。
ひとりだった。
出口の見えない迷宮に迷い込んだ、一人の女の子。
咲(でも。ああ、そっか、違った。そうだったんだね――)
一つ、私は盛大な勘違いをしていたらしい。
……和ちゃんは別に、男子になったわけじゃないんだ
咲(何故だろう……)
ふっ、と笑みが零れた。
101 :
私の友達は、変わらず女の子でした
◆uFgKAeBDKs
[sage saga]:2016/08/09(火) 18:58:20.63 ID:IF7t6qkEO
咲「和ちゃん。……別に、無理しなくてもいいんだよ?」
和♂「え……?」
咲「大丈夫。変なんかじゃないよ」
大きくなった和ちゃんの、その小さな背中の真後ろに立つ。
そっと和ちゃんの背中に手を回し、元の方向を向かせた。
咲「大丈夫、大丈夫……」
つぶやきながら空を仰ぐ。
咲「私ね、楽しみなんだ」
和♂「え――」
咲「今日買った服を和ちゃんが着てくれるの、私凄く楽しみなのっ」
和♂「――咲さん…」
僅かにクレープの甘味の混じる唾液を呑み込み、前を向く。
咲「今度和ちゃんの家で、二人でファッションショーしようよ。だってこの服は、私と和ちゃんの二人で選んだんだから…」
和♂「……」
咲「身体が男性になっただけで、……和ちゃんは、和ちゃんだよ」
咲(そして和ちゃんは何も変わってない、女の子なんだ……)
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