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マミ「QBかく語りき」 QB「君らしいね」
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102 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:13:39.85 ID:H0JqPK/8o
「うん。嫌われてたって訳じゃなかったから、いいかな」
「決してあなたのことを嫌ってなどいない」
(あなたの存在が私の生きる意味、私の全て)
「よかった。ほんとはいろいろ言いたかったんだけど、うまく言えそうにないからもういいかな」
えへへ、と笑った。
「あなたの話をもっと早くに聞いておけばよかった。
逃げ回っていたのは謝るわ」
(機会はたくさんあったというのに)
「あはは……逃げ回っているっていう自覚はあったんだね」
「そうね」
「夢とのギャップがすごくて悩んだんだけど、理由がわかったからいいや。
それでね……ええと、あった。これ、見てくれる?」
103 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:15:19.06 ID:H0JqPK/8o
まどかが一冊のノートをほむらに差し出したので受け取ってパラパラとめくる。
魔法少女のコスチューム案が描かれている例のノートだが衝撃的なものが目に飛び込んできて少し手が震えた。
写実的とは言い難いが、鎧姿と尾ひれ、二本の剣を持つ怪物の姿。
「これはさやかの魔女……!『オクタヴィア』?」
まどかの字でそう記してあった。
「うん、名前はQBに聞いたよ。
次のページのかわいいお人形さんみたいのがマミさんで」
「『キャンデロロ』?」
「隣のページが杏子ちゃん」
「……『オフィーリア』というのね」
ほむらは何度か遭遇している。
「そして次のが、よく知ってるよね。『クリームヒルト』だって。私だね」
104 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:17:02.31 ID:H0JqPK/8o
「これは……これらの魔女も夢で見たの?」
「うん、そうだよ」
「あ、因みにほむらちゃんの魔女は見たことないの。
QBもよくわからないって言ってた。どう転ぶかで姿が変わるほど不安定で
とんでもないイレギュラーなんだってこぼしてた」
「待って。この世界ではまだ誰も魔女化していないわ。
QBはどうして皆の魔女の姿を知っているの?」
「魔女は元々私たちの中にいてQBにはそれが見えるし、
そのエネルギー量と性質からだいたいどんな形で出現するかがわかるって。
とても長い時間魔女化のパターンを見てきたから」
(それはそれはたくさん見てきたことだろう)
「ええとね、私たちの中にいるうちは希望の源だけど、
出てきてそれだけになってしまうと絶望になるって。
君にわかるようにってQBがそう解説してくれたけど、
説明が下手でごめんね」
(後でQBを問い詰めてみようかしら)
「でも私はね、それ聞いてああそうなんだって思ったの。
でなきゃ魔法少女じゃない私が魔法みたいな夢は見ないよね。
元からあるっていうから、ああそうなんだって」
あまりにも不明点が多いが、ともかくまどかの話を聞こうと思った。
105 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:17:56.81 ID:H0JqPK/8o
「……そう」
「それで、何かできることがあるんじゃないかなって考えたんだけど」
ほむらはその言葉の意図がつかめない。
「できること?」
「うん」
肯いてまどかが続ける。
「でもね、私のやりたいことは私一人では無理なの。
ほむらちゃんの力が必要なの」
「私の?」
「もしかしたらなんにもならないかもしれないし、
ぜんぜん時間が足りないかもしれないし、危ないことかもしれなくて……」
「まず何をしたいのか教えて、まどか」
106 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:24:14.87 ID:H0JqPK/8o
夜明け前、杏子がさやかのところに戻ってきた。
寝相が良くないのかそれとも気遣いなのか、さやかがかなり端の方で寝ているためセミダブルサイズのベッド上にはたっぷりスペースが残されている。
眠る彼女を起こさないようにそっと隣に潜り込んだ。
魔女を数体狩りグリーフシードも手に入れた。
戦闘を幾つも終えて疲れているのに気持ちが昂っており、なかなか寝付けそうになかった。
触れたいという欲求に逆らってさやかに背中を向け目をつぶる。
「おかえり」
声を掛けられてビクッとする。寝返るとさやかがこちらを見ていた。
「起こしちまったか? ごめん」
さやかはむくりと上体を起こして「んんん」と両腕を突き上げ、大きな伸びをする。
「ふう、何時なの?」
「四時を過ぎたとこ。まだ寝てな」
「あ、結構早かったねえ」
少しぼうっとしているさやかの頭を抱き寄せて額にキスをした。
(……やっぱり、いい匂いがするんだよなあ……)
「……ねえ、杏子」
「ん?」
「思ったんだけどさ、ワルプルギスまであと何日もないんでしょ。
こうしていられる時間ってもしかして、すごく貴重なんじゃない?」
「勝つからずっと一緒だ」
「うん……だけど違うってば杏子」
まどろっこしくなり、杏子の手を導いて自分の胸に当てた。
その指がすぐに先端を探り当てた。
固くなったところを指の間に挟みそのまま柔らかく全体を揉みしだく。
気持ちがよくて、はふっと息がもれた。
杏子は呆れるだろうか。笑われるかもしれない。その前に言っておこう。
「あのさ……笑わないでね」
「何を?」
「下着の中、今ちょっとすごいかもしれない」
杏子は自分の身体にさやかを巻き込むようにしてゆっくり押し倒した。
しばらくは何か冗談を言ったりふざけ合ったりもしていたが、すぐ行為に熱が入り始めた。
もどかしげに着ている物を脱ぎ、脱がされて抱き合い、もつれ合う。
107 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:24:53.39 ID:H0JqPK/8o
いつかどこかの時間軸で。
108 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:25:52.90 ID:H0JqPK/8o
見滝原の街は破壊し尽くされている。
魔力を極限まで使い切った瀕死の魔法少女二人が成す術もなく倒れている。
「一個残しておいたんだ」
まどかは、これまでどうしても使うことができなかったさやかのグリーフシードを取り出してほむらのソウルジェムを浄化した。
「まどか、どうして!?」
「私にはできなくて、ほむらちゃんには、できることがあるでしょう?」
「そんな……!」
グリーフシードを求めて虚しく盾の中を探る。
ほむらの目からポロポロと涙がこぼれた。
その時まるで中空から降ってわいたように新しいグリーフシードが地面に転がった。
盾から落としたのだろうか。急いで拾い上げ、まどかの危ういソウルジェムに当てる。
間に合った。
浄化されていく。
二人は大きな声で泣き、抱き合った。
みんな死んでしまったけれど。
街も守れなかったけれど。
お互いがいさえすればなんとか生きていける気がした。
109 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:27:36.99 ID:H0JqPK/8o
また別の時間軸。
双刀を振り回してさやかがワルプルギスの夜の本体を削っていく。
さやかが素早く間合いを取ると、宙に浮いて待機していた何本もの剣が連撃を仕掛けていった。
戦闘法にはっきりと巴マミの影響がうかがえる。
「さやか! 無理すんな! あたしと交代しろ!」
さやかに対する諸々の攻撃を一手に引き受けていた杏子が辺りの使い魔を薙ぎ払いながら声を張り上げた。
「もうちょっと! もう、あとちょっとで落ちるよコイツ!」
「あせるな! 自分のケガの治療をしろよ!」
「大丈夫っ!」
さやかは増々激しく攻撃をしかけていき、そしてついに限界を迎えてしまう。
魔力を使い尽くしたさやかが魔女化してオクタヴィアの結界が出現した。
「さやか、ちっくしょお!」
杏子は全速力でその結界を脱出する。
できたばかりの新しい魔女結界は、目の前で古い魔女に吸収されてしまった。
「なんなんだよ、一体! さやかはどこだ?? くそっ!
マミ、グリーフシード残ってないかっ? こいつほんとにもう少しで落とせるのに!」
(こちらはゼロよ! なんとかもたせて!)
無数の使い魔を潰し続けるマミが応える。
(ほむらは?! 残ってないか?)
「使って」
ほむらが近くに現われた。
時間停止空間で杏子のソウルジェムが蘇る。
「恩に着る」
「無茶はしないで」
110 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:28:30.42 ID:H0JqPK/8o
杏子がワルプルギスの夜に向かって行き、勝負どころだと察したマミも距離を詰めてきた。
追い詰められた魔女の笑い声が高らかに響き、更に大きな力をふるい始める。
杏子の雄叫びが聞こえてきた。
果てしなく続くかと思われた戦闘もようやく終わった。
避難所でみんなの無事を祈っていたまどかのところにほむらだけは帰ることができた。
「ほむらちゃん、ほかのみんなは?」
ほむらは小さく首を振る。
「そんな、……うそ……ぜったい大丈夫って……みんな」
泣き出したまどかの肩をそっと抱く。
ほむらはもう、この時間軸から移動する気はまったくない。
目的は達せられたと言っていい。
(今度こそ終わり……やっと……! でも)
(だけど)
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん、なさい、ごめん……)
ほむらも涙を流し続けた。
111 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:30:53.26 ID:H0JqPK/8o
また別の時間軸。
まどかは避難所を出てほむらを探す。
「ほむらちゃん、そのケガ!」
治癒に回す魔力はない。
「もうこの街はダメ。逃げるわよ。あなたは生きなければ」
「待ってほむらちゃん! みんな、パパやママ、タっくんもあそこにまだ!」
「どうすることもできない。運に任せるしかないわ」
「じゃあ私が契約しなきゃ!」
「ダメ! そうしたら本当になにもかもが終わりになる!」
「だけどほむらちゃん!!」
まどかを抱えて全速力でワルプルギスの夜の影響下から逃れようとする。
だが、逃げるつもりであったのなら行動を起こすのが少々遅かったようだ。
ソウルジェムの穢れが危険なほど進んでいる。
(まもなく魔女化する)
確実にまどかを巻き込んでしまう。
これ以上この世界には留まっていられない。
(……ここまでね)
残存魔力で時間遡行を発動させる前にふと盾を探る。
グリーフシードはとっくに使い尽くしてしまっているはずだったが。
112 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:32:30.13 ID:H0JqPK/8o
(!?)
新しいグリーフシードが目の前にあった。
まるでなんの脈絡もなくただ空中にいきなり出現したかのように。
ほむらは疑問に思う余裕もなくそれを掴み、自身の浄化を行ってすみやかに街を脱出した。
スーパーセルはおびただしい数の人命を巻き上げて自然消滅した。
まどかは座り込んだままずっと泣いている。無理もない。
だがほむらはもう時間を遡ることはしない。絶対に。
おずおずと声をかける。
「まどか。私は何もできなかった。あなたに恨まれても構わない」
「ほむらちゃん……私、わかってるの。
ほむらちゃんが精一杯やってくれたんだってわかってる」
まどかがしゃくり上げながら言う。
ズキリと胸が痛んだ。
「恨んだり……するわけ、ないよ」
「まどか」
まどかの泣き声はやまない。
ほむらは立ち尽くす。
盾の砂はもちろん全て落ち切っている。もう二度と時間停止魔法は使えない。
一人で魔女に対峙することはもう難しい。近いうちに魔女にやられるか自身が魔女化するのだろう。
(それでもまどかは生きている)
それで充分だと思った。
113 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:33:07.39 ID:H0JqPK/8o
また別の時間軸
また別の時間軸
また別の
また
114 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:33:49.61 ID:H0JqPK/8o
まどかは自室のベッドで身体を丸め、眠り続ける。
両手でほむらのソウルジェムを包み込み、胸に抱いている。
魔力が発動しているらしく、まどかの身体全体をほのかな紫の光が覆っている。
ほむらの姿は見当たらない。
まどかは眠り続ける。
寝顔は穏やかで、小さな規則正しい寝息が聞こえる。
その眠りはかなり深いようだ。ピクリとも身じろぎしない。
その光でQBの影が部屋の壁に大きく浮かび上がった。
115 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:35:06.33 ID:H0JqPK/8o
また
また別の
また、別の時間軸。
使い魔にかかりきりだったマミがワルプルギスの夜本体から伸びた影のようなものに勢いよくはじき飛ばされるのが見えた。
別の場所では巨大な鉄骨の構造物が今まさに崩れ落ちようとしており、落下の軌道上にほむらがいる。
「本当に勝てるの?」
「勝てるわけがない」
まどかの問いにはっきりとQBが答える。
「見ればわかるだろう。無理だ。二人とも気を失っているしソウルジェムも限界だ」
「そんな」
「彼女たちを助けたいかい」
「助けたい!」
「なら契約するしかない。魂をかけた君の願いを言ってごらん。
君ならどんな願いでもかなえられるよ」
「私は」
(この先、私はどうなってもいい)
(みんなを助けるには)
(魔法少女という存在を救うためには)
116 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:36:19.12 ID:H0JqPK/8o
「私の願いは」
「君はどこから」
ふいにほむらが現われてQBの身体が爆ぜた。
「ほむらちゃん?」
「まどか、いけない」
「でも!」
「ワルプルギスの夜はもうじき止まる。お願い。信じて待っていて」
「虚しいものだよ。その場しのぎの嘘というものは」
無駄だとわかっているがQBの新たな一体にも実弾を数発打ち込む。
「そいつの言うことを聞かないで。お願いだから待っていて、まどか」
「……わかった。そういう約束だったよね」
まどかは頷いた。声が震えている。不安でたまらないのだ。ほむらは頷き返してその場から姿を消した。
(この世界の私は、直撃は免れていてケガは酷くない。ただ気絶しているだけ)
(まず巴マミの救出に向かわなければ)
117 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:37:22.47 ID:H0JqPK/8o
ねえ、ほむらちゃん。
QBの言う因果っていうのを私たちでなくしてしまうことはできないかな。
私の見ている夢はただの夢じゃない。
そこは、いつかの現実なの。
ほむらちゃんは時空を行き来してきたんでしょう。
だったら私の見ている世界に干渉できないかな。
ひとつひとつ因果を解きほぐしていくことはできないのかな。
(あなたという人は……)
私は、ほむらちゃんならできると思う。
(あなたがそう言うのなら)
(私はなんでもできる)
(なんでもする)
118 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:38:19.72 ID:H0JqPK/8o
二人の身体が重なっている。
お互いの脚の付け根で中心を圧迫し合い、貪欲に動いている。
腕はしっかり相手の背中に回され、しがみつくようにお互いをかき抱く。
さやかの片方の脚が下から蛇のように杏子に絡みついた。
さらにより強く密着するために。
昇りつめようとしつつある二人の荒い息遣いと忘我の声、ベッドが規則的にきしむ音がする。
さやか一際大きな声をあげた。
口が大きく開き、ぐんと身体がのけぞった。
背を反らした姿勢で硬直する。
両足先が伸びて丸まったつま先が微かに震えた。
そんなさやかの名前を呼びながら杏子もまたその時を迎えた。
(やばい)
(っ、すごいのきた……、つか、これ、は)
(……と…ぶ…)
杏子は「飛ぶ」、さやかにとっては「沈む」「落ちる」といった感覚だった。
真っ白いどこかにそれぞれ二人とも。
119 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:39:52.63 ID:H0JqPK/8o
マミは瀕死だった。
わき腹から脊髄中心あたりまでを深く切られて気絶している。
彼女を中心に大きな血だまりができていた。痛覚遮断が間に合っていても、ここまで出血していては意識を保ち続けることは難しかっただろう。
ほむらの力で修復は可能だろうか? が、やるしかない。
「あれ? マミさん?」
そこへすたすたとさやかがやってきて、おもむろに治癒魔法をかけ始めた。
ほむらは呆気にとられた。自分が新しい都合のいい夢でも見ているのかと思った。
この世界ではワルプルギスの夜が来る前に魔女化によってさやかは脱落している。ついでに杏子まで魔女化してしまった。
「あなたはどうしてここにいるの?」
「え? なんで? いちゃダメなの?」
マミの身体がみるみる治っていった。
(……さすがね)
「美樹さんなの?……私は死んだのかしら」
意識を取り戻したマミはそう言おうとして、口の中に残っていた血液で少しむせた。
「こほっ」
手の甲で口を拭いながら、不思議そうにさやかを見る。
「美樹さん……なのよね? 幻覚?」
「やけにリアルな夢だなあ」
さやかが首をひねる。口調は場違いにのんびりしている。
120 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:40:51.54 ID:H0JqPK/8o
「ねえほむら、あれが例のワルプルギスの夜ってやつ? こっちに向かって来てない?」
まどかが夢を見ている世界、現在進行形の時間軸のさやかだと確信する。
(どうしてこんなことが)
考えている暇はない。とにかくマミのソウルジェムを浄化する。
魔女が近づいてくる。避難所から離れた方向へ誘導するため三人は一斉に動いて魔女から大きく距離を取った。
「……まだ死んだわけではなさそうね」
マミが戦闘を再開する。視界を確保するために近くのビルの壁面を駆け登って屋上に陣取った。無数の銃が魔女と使い魔を狙う。
「あれ? 杏子だ」
やはり緊迫感のないさやかの声がした。ワルプルギスの夜に向かって槍を構えた赤い魔法少女が跳んでいくところが見えた。
「どうなっているの。私は夢でも見ているの?」
呟きつつ銃を構えたマミが集中力を高めていく。
(……助けにきてくれたのかしらね。幻でもいい。うれしい)
ワルプルギス本体から時折攻撃が届くが、こうなった彼女にもう当たることはない。
121 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:42:22.69 ID:H0JqPK/8o
「そういえば、まどかに聞かれたことがあった」
不意にほむらの背後からQBの声がした。
「因果の糸を断ち切って、と頼んだらどうなるのかって。
まさか自分たちで試そうと考えるなんてね」
「邪魔しに来たの? インキュベーター」
「危ないことをする。元に戻れなくなるかもしれないよ」
「ん? あれえ? あそこ、杏子と一緒にほむらもいるじゃん……
ほむらが二人いるよ。夢にしたって滅茶苦茶だね」
「解せないのは君だ、さやか。杏子もいる。どうやってここに?」
「QBは大体いつも何を言ってるのかよくわかんないんだよなー」
「こういった特殊な空間にはね、ほむらはともかく君らが来ることはできないはずだ。
……そうだね、臨死体験に類する心身の極限状態やストレス、激しい性行為、あらゆる魂の危機の時に
迷い込む人間がまれにいるけれど」
「ああ、とぷん、って身体が全部沈んじゃったんだよね。
そしたらマミさんがケガしてて……ってあれ? そろそろ浮上しそう」
ほむらは試しに言ってみた。
「帰るのならQBも一緒に連れて行ってもらえないかしら?」
「あ? うん、いいよ」
さやかがQBの尻尾を鷲掴みにする。
122 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:42:55.42 ID:H0JqPK/8o
そして一人と一匹の姿は忽然とこの世界から消えた。
時を置かず杏子の姿も消えた。
ほむらは二人のことをひとまず意識から消し、戦闘を続けるマミとこの世界の自分を影ながらフォローし続ける。
自らの作り出したまどかの因果をまた一つ解消するために。
こうした干渉でどれくらい解消できるかはわからないが。
ワルプルギスの夜が崩れていく。
マミとほむらは生き残り、避難所のまどかの所へ戻っていく。
ほむらはもう時間を巻き戻さない。
123 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:43:53.53 ID:H0JqPK/8o
(お、落ちる! ………あれ?)
杏子が自分を取り戻す。
目の前には当惑顏のさやかがいて、その手にQBが握られている。
「なるほど」
QBがそう言いかけた時、杏子がさやかの手からその身体を真横に払いざまもぎ取り一瞬で蒸発させた。
二人で顔を見合わせる。
「ほむら、いたよな?」
「うん」
「なんだったんだろう」
「うーんと、因果の糸を断ち切るとかなんとか」
「まじか!」
「え、それでわかんの杏子すごい」
124 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:45:10.36 ID:H0JqPK/8o
朝を迎える。
まどかが目を覚ました。
傍らでほむらがその目覚めを待っていた。
「おはようまどか」
「おはよう。お疲れさま、ほむらちゃん。これでうまくいっているのかな? はい」
握りしめていたソウルジェムを返す。
「もうじきわかると思うわ」
ぬくもったそれを受け取りながら答えた。
「これこそ才能の無駄遣いというものだよ」
二人が予期していた通り、どこからともなくQBが現われて文句を垂れた。
「せっかくの素質を削ってしまうなんて」
「ああよかった、効果あったみたいだね」
まどかがふわっと微笑んだ。
「やれやれ。まだ続ける気かい?」
「やれるだけ、ギリギリまで」とほむらが答える。
「まあ、いい。それで」
QBがまどかを見て小首をかしげた。
「最凶最悪の魔女は出現しなくなりそうだし、君にとって大きな心配事が一つ減ったというわけだ。
契約は考えてくれるのかな?」
「状況によるかなって」
「そうか、うん、わかった」
QBは姿を消した。
125 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 04:15:08.24 ID:K+q61Ei9o
午後、さやかのベッドで目覚めた杏子は無人の美樹家を出てほむらを訪ねた。
「よ。起きてた? なんか食わしてほしいんだけど」
他人の家を訪ねて平気で食べ物を要求する杏子を謎の生き物を見るような目でほむらは見た。
(そう言えば)
多くの場合巴マミからは供され、美樹さやかには叩き落され、まどかには手渡す。
(杏子は食べ物で友好度が測定できる子だった)
そんなことを考えながら部屋に上がるよう促す。
「えっ? サンドイッチ? しかも手が込んでる!
絶対なんかまたジャンクなやつが出てくると思って気軽にメシ頼んだのに?!」
(ああ、そういうこと)
「まどかのお家の人が今日のお弁当にと持たせてくれたのだけど」
「あー、あの料理上手な親父さんか」
「量があるし一人で食べるのはもったいないから手伝って。
ご期待通りのジャンクなものも用意する」
「おおサンキュー!」
何種類かのサンドイッチと使い捨て容器に詰められたサラダが並べられた。
126 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 04:17:12.50 ID:K+q61Ei9o
「すげーうまい卵サンド。ふわっとしょっぱいのなんだろ」
「アンチョビね」
「なにそれ」
「いわしの塩漬け」
「へ〜魚なのか。肉もうまい。この葉っぱは味知ってるけどなんだっけ」
「野菜はクレソン、肉はローストビーフね」
「あーそれそれ。ん、これはわかる。カリカリベーコンとチーズ。
緑はアボカドだな。うまい」
「パンめくって見ないでよ」
「え、やんない?」
「ええ」
「パンがまたうまいよな」
「お手製らしいわ」
「有能だな」
鹿目家特製サンドイッチ弁当がみるみる減っていき、少食のほむらはほっとした。作ってもらったものを残さずに済む。
火にかけていたヤカンのフタがカタカタ鳴り出したので火を止めに立った。
ストックしてあった即席めんのカップに熱湯を注いでから二人分の飲み物を用意して居間に戻る。
カップめんと湯呑を杏子の前に置き自分の飲み物を手に取った。
「ありがと」
「いいえ」
楽しげに蓋を開け、割り箸でするすると平らげていく。
127 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 04:20:33.12 ID:K+q61Ei9o
「今朝のあれだけどさ」
杏子が切り出した。テーブルの上はもうきれいに片付いてる。
「さやかに聞いたよ。因果の糸を切るってつまり、まどかの化け物じみた素質ってのを消そうとしているんだよな?
合ってる?」
「ええ」
「どうやってそんなことができたんだ? 過去を書き換えるなんてアリなのかよ」
「過去を書き換えているというのは違うと思う。 私にとっては過ぎてきた時間ではあるけれど」
「うん」
「過去に遡っているわけではないの。私は繰り返してるから、それは感覚でわかる。
もっとあやふやな移動のように思う……ごめんなさい、合理的な説明はできない」
「ああ、そんな詳しく聞きたいわけでもなかったし、いいんだけどさ。
聞いてもたぶんわかんねーし」
「考えてみるとワルプルギスの夜の出現自体も、因果の糸がまどか一点に重ねられるような異常事態に
少なからず影響を与えているのかもしれない」
「そいや、ワルプルギスの夜には魔力を集める性質があるってさ。
マミがQBから聞き出してたよ。求心力のある一人の魔法少女が魔女化して
そいつのたくさんいた仲間が根こそぎ魔女の力として吸収された……んだったっけな確か」
ほむらはQBから一度たりともそんな話は聞けなかった。
「巴マミはインキュベーターの扱いが上手いわ」
「あいつら付き合い長いから」
会話が少し途切れた。
128 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 04:22:26.78 ID:K+q61Ei9o
「QBと言えばさ、気付いたら目の前でさやかがQBのしっぽ握ってて」
「……!」
「なんだよ?」
「激しい性行為?」
突然杏子が大きな音を立ててむせた。
ほむらが本気で謝ってしまうほど咳き込みは長く続いた。
口に当てるタオルを手渡して背中をさすってやりながら、QBの説をテレパシーで再生させた。
“こういった特殊な空間にはね、ほむらはともかく君らが来ることはできないはずだ。
……そうだね、臨死体験に類する心身の極限状態やストレス、激しい性行為、あらゆる魂の危機の時に
迷い込む人間がまれにいるけれど”
「はあ、やっと落ち着いた。な、何それ。さやかもそれ聞いたのか?」
平静を装っているが涙目になっている。
「さやかは、QBはいつもわけがわからない、と」
「た、確かにわけわかんないけどな」
「………」
(杏子とさやかが。まったく想像がつかない)
(……想像する必要もないけれど)
「……ともかく、あなたたちのお蔭で助かった。ありがとう。
さやかにもお礼を言っておいて。私では無理だった」
「こっちはボロボロになってのびてたあんたをひっぱたいて起こしただけだよ。
あたしを見て“なぜ生きているの?”って叫んでた。
魔女になったあたしをあんたが狩ったんだよな?」
「そう」
「後始末をありがとさん」
「いいえ」
「で、本題に入るんだけどさ」
129 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 04:27:45.55 ID:K+q61Ei9o
杏子は少し言い方を考えている。
「んーつまりあんた、まどかを魔法少女にする気なのか?」
「まさか」
ほむらは即答し、表情が固くなった。
「それだけはない。なぜそう思うの?」
「気ぃ悪くしないで聞きなよ。あたしら全員が自爆攻撃をしたら
ワルプルギスの夜に大打撃を与えられるんだってさ」
「QBがそう言ったの? あなたはそれを信じるの?」
「うそはつかないだろ、あいつ」
「それで?」
「それ聞いて思ったんだ。つまり全員で無理すりゃ勝てる相手だ」
「そうね」
「その無理を支えるのがグリーフシードだよな? だからせっせと蓄えている」
「……」
「まどかを絶対に魔法少女にしないってんなら、ひょっとするとおまえのやっていることは
グリーフシードの無駄遣いにならないか?」
「まどかにあんなリスクを抱えさせておくわけにはいかないでしょう?」
「大事なグリーフシードを減らしてまでまどかの素質を失くさなきゃいけないんだな?」
「これで最悪の結果は避けられる」
「最悪ってのはまどかが最凶最悪のあの魔女になることか?」
「…………」
「とすると、まどかの契約を何かあった時のための保険に使える。
だってもうあんな入道雲のお化けみたいな魔女にはならないんだろ」
「保険ね。ええ、まどか自身もそれを考えているみたい」
「だろうな。まどかが契約しやすくなった」
「でも私はどんな手を使ってでもそれは止める」
「一応言っておくけど、私も基本的にはあいつを魔法少女にするの反対だからな」
「美樹さやかは正しいわ」
「は?」
「魔法少女になった時点で人としてはもう死んでいるのと同じこと」
「おまえそれさやかに言うなよ」
「だからもしさやかやマミが命を落として、それをまどかが契約で助けようとしても私はそれを止める」
「わかったよ。確認しときたかっただけだ」
そう答えた杏子の視線を一瞬受けてから、ほむらがわずかに目蓋を伏せた。
「なぜそんな風に言えるの。私はマミもさやかも助けないと言っているの」
「あたしはただ誰も死なさない気でいるんだ。そんだけだ」
130 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 04:30:23.03 ID:K+q61Ei9o
「だいたいその辺はまどか次第だろ?」
余計なことを言ってるな、と自分で思いつつ杏子は続けた。
「まどかが決断したらあんたはどうやってそれを止めるんだ?
殴って気絶でもさせるのか? 協力してやろうか?」
ほむらは挑発に乗らない。
「この話に関しては立ち入らないでほしい」
「わかったよ」
杏子はあっさり引き下がる。この話は終わりだ。
「それから」
ほむらがわずかに言い淀む。
「……グリーフシードについてだけど」
「ん?」
「ストックは、まだかなりある」
「そうなのか?! いつもいつもアレがなくなってグダグダになるじゃねーか」
「グリーフシードが切れで失敗したことも多いけど、そうでない場合も少なくなかった」
「まあ確かに。失敗のバリエーションはちょっとしたもんだよな」
「以前私の記憶を見てもらったことがあったわね」
「ああ」
「虚偽の記憶を作って見せたりはできないけれど事実を隠すことはできるの」
「ん?」
「QBと同じよ。うそはつかない。でも秘密は持てる」
「どういうことだよ」
「一人で戦おうと決めた時、とにかくグリーフシードを集めようと思った。
どれだけあっても足りなかったから………だからグリーフシードを集めるだけの周回も作った。
ほむらは変身して盾の中からばらばらとユニットバス一槽分ほどのグリーフシードを積み上げてみせた。
このひとつひとつがかつて魔法少女だったものだ。別時間のマミも杏子もさやかもここにいる。
「お、おいおい、すげえな」
「一ヶ月間これと武器をひたすら集め続けて見滝原が壊滅してから時を戻す、というのを繰り返したの」
(まあ、そうでもしなきゃこんだけ貯まるわけねーよな)
「誰ともまったく接触しなかった。ワルプルギスの夜が来て街が消えるまで淡々と作業しただけ。
感情を持たないQBみたいにね。大抵の場合まどかの魔女は現われたわ。そんな世界を捨ててきた」
131 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 04:37:31.24 ID:K+q61Ei9o
「私だって同じ立場ならそうしたと思うよ」
杏子がなんでもない風に言った。
(なんて顏をするんだよ)
「簡単に言うのね」
「けどさ、こんなにあるなら私らが今ガツガツ集める必要なくないか?
マミも私もこれほどじゃないにしろストックはあるぞ?」
「いいえ」
きっぱりとほむらが答えた。
「昨夜だけで八個ほど使った」
「一日でか、豪儀だなオイ」
「最終的にどれだけ残るかわからないし、戦ってみればわかるけれど
ワルプルギスの夜みたいな規格外と戦えばあっという間に魔力は減っていく」
「出し惜しみなんかできないんだろうしな」
「ええ」
「わかった、せっせと集めるよ」
「そうしてくれると助かるわ」
「うん」
杏子は腰を上げた。
「じゃあ帰る。余計なことしゃべらせて悪かったな」
ほむらは座ったままだ。
「んな顔すんなよ、ほむら」
「どんな顔をしているの?」
「まあ、またもし手伝えることがあったら手伝うから」
「……稀なことだとQBは言っていたわよ」
「かもしれないけどさ。ごちそうさん」
ひらひらと手首から先を振って杏子は出て行き、それを見届けてからほむらはぐったりと背もたれに身をあずけた。
132 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 08:06:42.00 ID:K+q61Ei9o
QBは「魔法少女の力は魔女からきている」と言った。
魔力の源であり、そこに元からあるものだと。
(ではそれは、私の土台となっているもの)
私とはなにか。
(今の私は実質これ)
掌のソウルジェムを見る。
マミはこれのことが頭から離れない。
「壊れる」と聞いたあの日からずっと。
(私は魔法少女、巴マミ)
そして
(魔法少女である巴マミはこのソウルジェム)
かもしれないが
(ソウルジェムは私)
という認識は難しい。
(だって、ソウルジェムを見ている私は何?)
身体など単なるハードウェアに過ぎない、とQBは言った。
しかし自身が身体に在る、という確かな感覚を消すことはできない。
言葉を紡いで思考するのはこの身体なのだから。
“君たちは個を大事にしすぎるね”
(QBと私たちは違いすぎる)
(そしてQBは、ウソはつかない)
QBにとっては人間の身体はあくまでも単なる外殻にすぎない。
スペアをいくつも持つ彼らであれば、そう言うだろう。
(QBは身体を軽く見すぎている。身体が一瞬で失われるようなことがあれば
ソウルジェムだって無事なはずはないのに)
(どちらかを失えば私という個体は存続できない。魔法少女システムによって
本来不可分な身体と魂を分かたれた存在になってしまった……)
(私という存在に深く根を張り食い込んでいるこのシステムは私にとって極めて不自然なもの)
(ソウルジェムが私に合わなくなってきている、と言ったわね)
(システムが適合しにくくなってきている、と)
133 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 08:11:31.66 ID:K+q61Ei9o
精神的な変化、思春期の終わり、すなわち成長がシステムの不適合を起こすのならこれは魔法少女すべてに起こり得る。
だが個人差はかなり大きいとみていいだろう。
ふと、暁美ほむらの気持ちが理解できる気がした。
出会った頃の表情の読めない張りつめた雰囲気を思い出す。
(話すべきことを話すことができない。そんな状況もあるのね)
魔法少女の終わり方について得た新しい情報についてはワルプルギスの夜が終わるまで自分の胸に収めておく。
だが、まだQBは大事な情報を隠している。
なんとなく彼女にはそれがわかる。
マミは何度かコンタクトを取ろうとしているがインキュベーターは姿を現さない。
今までこんなことはなかった。
“悔いのないようにね”
(もちろんよQB)
マミはソウルジェムを見つめ集中する。
「私」に集中してみる。
肉体による思考活動を放棄することで「私」であるソウルジェムそのものを感じ取ることはできないだろうか?
そんなことを考えていた。
だが思考を止めることは難しい。考えないでおこうとするとなおさらに。
そこで魔力を使った。
直後、マミの身体は肉体の五感を失う。
そして、破壊され尽くした街に立っていた。遠目にいくつか見える見慣れた人影は。
そして、いつか見たことのある魔女結界内にいた。魔女の気配を辿って結界内を歩く。
そして、父母と談笑し、学校に行き、戦い眠り食べ笑い泣き怒り悲しみ喜び
………を通り抜けると黄色い光に包まれた。
魂に深く食い込んだシステムという、彼女の持つイメージが形をとってそこにある。
特定の感覚に頼ろうとするとすり抜けていく、定まりきらない像をマミは追う。
ようやくピントが合ってきた。
134 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 08:12:46.60 ID:K+q61Ei9o
巨大な輝く柱があり、その数か所に無機質の円盤が枷のようにがっちりとはめられていた。
円盤の大きさはさまざまだが、それらはごくごくゆっくりと回転している。
どうやら歯車のように思えた。
それ自体なにかを包み込んでいるらしくはちきれそうに膨れ上がっているのがわかる。近い将来、内側から歯車を割るだろう。
“合わなくなってきている”のだ。
それは本来喜ぶべきことのように思える。
問題は魂が身体から隔離されていることで、これがすべての元凶だった。
システムにより生成されたソウルジェムが破壊される。それは魂の消滅、生命活動の終わりを意味する。
しかし、なぜソウルジェムの破壊が魂の自由を意味しないのか。システムから解き放たれた魂はなぜ身体に戻らないのか?
元々それは不可分のはず。一旦離れ離れにされても、触れるだけで身体は意識を取り戻す。ただ触れるだけでそこに魂があると認識できるほど緊密なはずなのに。
つまり枷、というイメージは正しく枷であるのだろう。
枷から逃れられないままでいるから、魂はシステムごと破壊されてしまうのではないだろうか。
では自ら枷を破った魂はどうなるのか。
その時、マミの身体に集中を妨げる力が加えられた。
135 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 08:15:02.36 ID:K+q61Ei9o
「ただいまあ、っておーい」
杏子がマミの部屋に戻ってきてみると、薄暗いリビングにマミがひっそりと座っていた。
ローテーブルの上に彼女のソウルジェムが鎮座している。
魔力を使用中らしく、柔らかな山吹色の光がランタンのようにぼんやりと辺りを照らしている。
「なにしてんの?」
電気を点けてやる。
「マミ?」
様子がおかしい。
目を半眼に開き、正座している。呼びかけに反応がない。
(まさか)
おそるおそる背中に耳を当ててみる。
心臓は動いているし静かに呼吸もしていた。杏子はホッとする。
耳の側で名前を呼んでみた。
やはり反応がない。
どうしたものかと考えていると、ごくゆっくりとマミが戻ってきた。
魔力の発動が消え、マミがふうっと息を吐いた。
当惑顔の杏子に気付く。
「あら、お帰り」
「ただいま……なにしてたの?」
「実験」
「はあ?」
「杏子」
名前を呼ばれると少し身構えてしまう。なぜか叱られそうな気がする。
「とりあえず、何も聞かないで」
「……なんだよ」
杏子にニコリと微笑みかけると、あとはどこまでも普段通りのマミだった。
136 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/23(金) 08:16:31.64 ID:K+q61Ei9o
日々は過ぎていく。
(どうやら、終わりのようね)
その日ほむらはいつものようにまどかの夢に入ろうとしてそれができないことに気付いた。
兆候はあった。
ここ二、三日エピソードを移動するたび、不安定な空間のゆがみを感じるようになってきた。昨夜などは途中でプツリと途切れて放り出されるように現実に戻された。
因果を刈りつくしたわけではないだろう。
たぶん、これまでは膨れ上がったまどかの素質によって異空間への移動が可能だった。因果が減じてそれができなくなったのだ。
予測はしていた。
(返してもらうわね)
まどかの手にある自分のソウルジェムを、指を解いてそっと取り上げた。
「おやすみなさい」
安らかな寝顔に小さな声であいさつをし、部屋を去る。
ワルプルギスの夜まであと三日。
137 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 03:01:55.11 ID:pCr1Cam0o
「最近、QB見かけた?」
「ううん、見てない。まどかのとこにも来てないの?」
屋上でお弁当を食べながら、まどかとさやかが話している。
「うん来ないよ。マミさんの所にもいないみたい」
「杏子が一緒だからかな?」
「ねえ、杏子ちゃんとは会えてるの?」
「うん。今朝も顏見たよ。どうして?」
「グリーフシード集めが大変になってきてるみたいだから」
「だねえ、ちょっとぐったりしてた」
「うん、ほむらちゃんもそんな感じ」
見滝原とその周辺の魔女は狩り尽くされグリーフシード入手の難度は上がっている。
(あの子はどうしてんのかな)
さやかは数日前に出会った名前も知らない魔法少女のことをふと思い出す。
彼女について杏子に話すと「ああ」と心当たりがある風だった。もし遭えたら街を出るよう説得すると約束してくれたが、以来一度も見かけていないそうだ。
それも無理はない。ベテラン組は見滝原を出てかなり遠方まで出かけている。毎日帰りが遅い。
朝の登校時間頃になってようやく戻ってくる。
138 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 03:05:15.58 ID:pCr1Cam0o
「ねえ、もしかしてさ。まどかは魔法少女になろうとしてる?」
「……場合によってはアリかな、って」
「やめてあげなよ。ほむらの苦労が水の泡になっちゃうよ」
「そうかな……ワルプルギスの夜がもうこれから一切出現しないようにってお願いはできないかなあ
なんて思っていたんだけど」
「あー、それできたらすごくいいなあ。
けどまどかまでこんな病気になっちゃダメだよ」
「病気?」
「ゾンビになる病気って思ってる。致死率百パーの」
「さやかちゃん……」
「最近よく思うんだ。もっと詳しくバカでもわかるように具体的にきっちりはっきり
説明してほしかったなって」
「……」
「あ、でもね、それでも契約はしてたと思う。あたしってほら、バカだし意地っ張りだし。
奇跡ってこう、抗いがたい魅力があるんだよねえ」
さやかは知らない。
上条恭介の身にその奇跡が起こった時、この世ならざる力が働いたことを彼はどこかで理解した。
そのため彼の心は歓喜ではなく、しばらくの間底知れない恐怖に満たされたのだった。
天才肌の人間が持つ直感で、彼の幼馴染とその恐怖が分かちがたく結びついてしまう。
139 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 03:07:40.63 ID:pCr1Cam0o
「なんていうのかなあ、その人にとってどうしても手に入れたい物って
他の人から見たらなんで? みたいに思う物でも、死んでも欲しいって思うんだよ。
あ、別に言い訳してるんじゃないよ?」
「うん、わかってる……たぶんそういう風に思えるってことも魔法少女の素質なのかもね」
(そしてさやかちゃんは代償として命を、上条君はさやかちゃんを失う)
「つくづく、QBっていろいろと、問題あるよね……」
「まどか! 黒くなってるよ!」
「……黒くもなるよ、さやかちゃん」
「ま、奇跡を願おうにもQBが出てこないんじゃしょうがないけどね!」
「えへ、そうだよね。ねえ、さやかちゃんは今度いつQBが私の前に出てくると思う?」
「契約のチャンスってことだよね?
うーん……ワルプルが来て、みんながピンチ! ってなった時?」
「そんなに単純かなあ」
「た、単純でごめんね?? まどかってたまに辛辣だよ?」
「え、そうかな? けど、今の私って魔法少女としての才能がかなり目減りしてるはずだから
どの程度の願いが叶えられるのかな」
「そんなのほんとにQBにしかわかんないよね。もう夢って見ていないの?」
「すごくぼんやりした何かは見るんだけど……覚えてないんだ」
「そっかあ」
しばらく黙々とお弁当を口に運ぶ。
「あ、そうだ……ねえまどか」
「なに?」
「全然関係のない話だし、ちょっとアレな感じで悪いんだけど」
「どんな感じかな?」
「私におう?」
「え?」
少しの間言い辛そうに「やーえーと」と口の中でモゴモゴ言っていたさやかだったが、食べ終わった弁当箱を片付けるとキッとまなじりを吊り上げてまどかを見た。
「ど、どうしたのさやかちゃん?」
「あのさ。杏子が時々あたしのことなんかその、匂いがするって言うんだよね。
自分じゃさっぱりわかんないんだけど、私、体臭キツイ?」
「さやかちゃんとはさんざんくっついてるけど
……別に匂いってわかんないけど……?」
「ほんとに?」
「ほんとだってば」
140 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 03:10:38.96 ID:pCr1Cam0o
お弁当の最後の一口と紙パックのお茶を飲み終えたまどかが「失礼するよ」とさやかの襟元あたり、ごく近くに顔を寄せた。
「……うん、改めて嗅いでみても……ふつうかなって」
「そう? そうかあ、じゃあよかった」
「んひゅ?」
ワシっとさやかがまどかの頭を胸に抱いた。
「ありがと! いやあ、なかなか相談しづらくてさあ、あははは」
「あっ!」
「な、なに、やっぱなんか匂うとか??」
「杏子ちゃんの匂いがする!」
さやかはパッとまどかを放して二メートルほど後ずさった。
血の気が引いて白い顔のさやかにまどかがニコッと笑って見せた。
さやかと密着した時、匂いというよりごく微かな気配のようなもの、さやかのまとう空気がふと杏子のイメージを喚起させた。
「あ、えーと」
「ちゃんと仲良くしてるんなら良かった」
「な、仲良くって、今日は出がけにハグされただけだよヤダなも〜」
「わああ……今日はって……だけ、ってさやかちゃん……」
「教室戻ろ!」
さやかは本気のダッシュで逃げていった。
ワルプルギスの夜まであと二日。
141 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 03:12:20.03 ID:pCr1Cam0o
「マミ、約束してくれ」
「何かしら改まって?」
「自爆だけはナシな」
「あら。あなたが言うのね?」
「あんた時々、こっちがヒヤヒヤするくらい思い切りがいいからな」
「そう? それはあなたにこそ言っておきたいわね」
「あたしら二人でドカーンってことがあったんだよ」
「それはいかにもありそうよねえ」
「だからあったんだって。約束してくれ」
「ん。でも最後のひとりになってしまったらその時は思い残すことなく」
言いながら掌をパッと開いて見せた。
「あ〜そんならいいや。あたしもそうするし」
「ふふっ」
「笑いごとじゃねえっての」
あと一日。
142 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 04:15:54.06 ID:pCr1Cam0o
「ちゃんと覚えたか?」
「もう何回も確認したし、こうやって実際に見てるんだからさあ」
「ほむらが言うにはかなりえぐいやつ仕込んでるそうなんだ。絶対に巻き込まれるなよ」
「わ、わかってるよ」
赤と青の魔法少女が二人で魔女出現予定地点の近くに来ている。
ほむらが仕掛けたトラップの場所を一通り巡り、九十メートルほどもある電波塔の上に並んで座って街を見下ろした。風が強い。
「この景色ももう見られなくなるのかなあ?」
「ああ。明日にはめちゃくちゃになっちまう」
「あたし、この街の景色が大好きだったよ」
「そっか」
「見納めかあ」
「すぐ元通りになるって、きっと」
もうすぐ日が沈む。どちらからともなく手をのばしてつなぎ合った。
「ねえ杏子」
「ん」
「あんたが好きだよ」
「………初めて聞いた」
「えっ、そうだった?」
「そうだよ」
「ええ? うそでしょ? 自分では好き好き言ってる気がしてたけど……」
「えっちん時だけな!」
「……そうだっけ? 酷くない私?」
「そーでもない」
「そうなの?」
「うん。さやかがさやかなだけで十分だから」
「どういう意味?」
「言った通りの意味」
「ふーん」
「でもさやかのおかげですごい幸せ」
「そう来るかー」
「大好き」
143 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 04:18:00.01 ID:pCr1Cam0o
太陽はすっかり沈んでしまった。
「そっか、嬉しいよありがと……じゃあえっと、あたしのどんなとこが一番好きかな? なんて聞いてみたり?」
「そう言われて一番最初に思い浮かぶのは」
「うんうん」
「さやかのきれーなおっぱいなんだけど……」
冗談なのか本気なのか判断がつかなくて、さやかは隣に座る杏子の顔を覗き込んだ。
夕闇にまぎれてさっぱりわからない。
「あ、それからそれだけじゃなくてその……こう……脇から腰のラインとか
……すべすべした脚とか……見てるとたまんなくなる白い背中とか……」
らしくなくモジモジと杏子は続ける。
つなぎあった杏子の手の親指が届く範囲をすりすりとさすった。冗談でもなんでもない単なるド本気だった。
「ま、待て待て杏子! そういうことは聞いてない!」
「……えっ?」
「えってあんた……うぐぅ」
身体だけなのかとかなんとか突っ込もうと思ったけれど、痛いくらいに抱きしめられてどうでもよくなった。
「なあ、最近してないじゃん?」
「そうだっけ?」
「だからさ、今ここでしよっか? 脱がなくていいから」
「……やだよ、こんな吹きっさらしのとこで」
そう言いつつもさやかの腕は杏子の首に回された。
「けど杏子」
耳に口をつけて話す。
「あたしはあんたのそういうとこも好きみたい」
ごくりと杏子の喉が鳴った。
「えっと……前から思ってたけどさやかは相当やらしーよな」
「あんたがそんな風にしたんだっての」
「なに言ってんだよ」
露出した胸の上部に頬ずりしながら杏子が言った。
「最初っからそんなだった。知らないの?」
「そんなつもりはないんだけどな」
144 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 04:25:06.73 ID:pCr1Cam0o
人同士の濃厚な感情の交わりを察知して彼女はよろよろとそれが強くなる方向へ歩みを進めた。
展望台のある広場はこの時間カップルが多いが感応したのは彼らではなさそうだ。
彼らのはまとまって大きくなり彼女の狭めた門には入らずにすべっていく。
(この感じ知ってる……あれだあいつ、すごく単純な青いの……あいつは楽だった……どこ)
感じ取ろうという意思を持ったことで感応力が強まった。入り口が広がった。
(しまった)
どうしようもない混沌がなだれ込んできた。激しい頭痛とこみあげる吐き気をこらえながら少女は滂沱たる涙を流す。冷や汗も止まらない。
(いたいいたいいたいたいいたい、頭がものすごくいたい)
(も、もうすこしこれの近くにいかないと)
門を閉じることはできない。少し狭くすることしかできない。
“願い事を一つかなえてあげる”
“だから僕と契約して魔法少女になってよ”
契約時に望んだことは「人の気持ちがわかるようになりたい」というものだった。
友達同士の関係に悩んでいて切実に「他人の気持ちを知りたい」と思っていた。
願いはかなってエンパシー能力を得た。
他者の感情を身体感覚で知ることができるようになった。
これで人間関係のトラブルから無縁になれると喜んだのだが、すぐに後悔した。
この力は彼女に苦痛しかもたらさなかった。
145 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 04:29:50.44 ID:pCr1Cam0o
学校と家は特にひどかった。知ってる顔がいるところだと相当辛い。
魔法少女になって三日ほどで学校に行くのはやめた。
グリーフシードを手に入れるため一度結界に入ったことはあるが魔女本体に近づくことなど出来そうもなかった。
変身すると能力は何倍にも増幅されて結界内にいるだけで黒い濁流にすべてをもっていかれそうになった。
号泣しながら逃げた。
少しでも楽になる場所を探してみると知らない人間が大勢いる場所が少しマシだとわかった。
入りこんでくるものが多すぎて、門を狭めてさえおけば入って来れずに上っつらを滑って行く感じだ。
日がな一日雑踏で過ごした。警官や補導員、学校関係者を避けるのは簡単だった。
よろしくない目的で彼女に声をかける者もすぐにわかる。
魔法少女として力を使うことはほとんどないまま一ヶ月ほどが過ぎた。
魂の宝石とやらは日に日に濁っていった。
「これを濁らせてはいけないよ」
白い獣はそう言った。
「大変なことになるからね」
契約後のそんな言葉を最後にそれは一度たりとも姿を現さない。
146 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 04:39:07.02 ID:pCr1Cam0o
展望台に近づくにつれ苦痛は薄れた。
ベンチに座りたかったが空きが無く、塔をぐるりと囲んだ芝生の広場に座り込んで膝を抱えた。
(たぶんこの塔の上)
快い感情の応酬、深いレベルの交感、目をつぶってしばしその流れの中で憩う。
(楽……それにあたたかい)
(どこも痛くない)
安堵の涙が出た。
鼻をすすりあげながら、青い魔法少女が与えてくれたグリーフシードを取り出してみる。
ソウルジェムの穢れは進行するにつれそのスピードを増したので、すでにもう何回か使ってしまっている。
(もうこれダメそうだな……)
どうしたものかと考えていると覚えのある空虚なものが近づいてきた。
「やあ」
「気味が悪いね。あんたはなんでそんなに空っぽなの」
「そうか君はエンパスだったね。僕らには感情がないんだ」
「そんな不気味なやつだって知ってたら契約なんかしなかったよ。なにしに来たの?」
「そいつを回収しよう。放っておくとそこからまた魔女が孵化する」
「あっそ。じゃあほら」
ぽいと投げてやるとグリーフシードはその背中に吸い込まれた。
「うげえ、ほんとにきもちわるい」
「そうかい?」
「私はどうして放っておかれたの? ほとんどなんの説明もなくフォローもなく」
「そうだね。聞かれたから答えるけれどもっと早くに君は魔女に殺されるか
あるいはソウルジェムを濁り切らせて魔女になるはずだったんだ」
「え……? 魔女になる?」
「君レベルの素質の子には本来契約を勧めないんだよ。ほとんどメリットがないからね」
「じゃあ、私はなぜこんな身体にされたの? 苦しくて仕方がないよ、これ」
「魔法少女を増やしてワルプルギスの夜を発生させたかったのと、力量のある子たちへのグリーフシード供給のためだね」
少女は肩を震わせて笑った。
「は……魔女へのマキエか魔法少女のエサってか。めちゃくちゃ有意義だね」
ソウルジェムが限界を迎える。
「ま、これでやっと楽になれるのかな」
147 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 04:40:06.10 ID:pCr1Cam0o
「魔女?!」
「近い!」
148 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/24(土) 04:40:37.61 ID:pCr1Cam0o
「な、なんかずいぶんあっさりだったね??」
「………ああ、そうだな」
149 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 03:50:29.22 ID:f5vhqUUmo
まどかの部屋にほむらがいる。
ほむらを一人にしたくなかったまどかがかなり強引に誘って連れてきた。
「グリーフシードはもういいの?」
「ええ。今夜はもう何もしない。みんなで手持ちのものは全て分け合ったの」
「足りそう?」
「充分にあるはずよ」
「絶対に死なないでね」
「大丈夫」
「みんなが帰ってこれるように祈ってる」
「あなたは何があっても絶対に契約しないでね」
「何度も聞いたよほむらちゃん!」
「ええ」
(私はそのために生きているようなものだから)
まどかの携帯が鳴った。
「あ、マミさんだ」
なんだろうね? とつぶやいてまどかが電話に出た。
ほむらは通話が終わるのを待つ。そう長くはかからなかった。
150 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 03:52:38.82 ID:f5vhqUUmo
不思議そうな顔で携帯を閉じたまどかが会話の内容をほむらに伝える。
「今までこんなことあった?」
「ないわね」
「思い出したことがあるんだ。一度、マミさんと杏子ちゃんが一緒に自爆したことがあって」
「ええ」
「あれは私が弱すぎたと思うんだ。ごめんね」
「いえ、私の方こそ言い方が酷かったと思う」
「けれどまたあんなことがあったら、私きっと二人を助けてって願う。
それができない無力感もあって最終的にああなったんだ、きっと」
「そうかもね」
「あきれてる?」
「いいえ、鹿目まどかはそういう人だから。
私は結局いつもあなたを止めることができなかった」
「ほむらちゃん……なんかゴメン……」
「それでも言わせて。魔法少女にはならないで」
「……私、なりたいとは思ってないからね?」
「約束はしてくれないの?」
「えっと、破ることになるかもしれないから……」
「……」
「もし、私が契約したらほむらちゃんはまたやり直すの?」
「……」
「ほむらちゃん」
「そうなったら、あなたが魔女にならないように四六時中ずっと張り付くようにするわ」
「あは、ほむらちゃんもそんな冗談を言うんだね」
ほむらは曖昧に笑みを返した。
「………もう寝ましょうか」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみなさい、まどか」
151 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 03:54:33.91 ID:f5vhqUUmo
また光の柱を見ている。
柱を芯に歯車はゆっくり動き続けている。
中の何かが時々発光しているので、歯車全体がぼうと薄く光る。
特に柱の上の方にある円盤は中身が透けて見えるのではないかと思う程強く光っている。
柱に沿って下降する。
一番下段にある歯車はとても大きく、さらにその下方には脈動するコアがあった。
質量を感じられそうな大量の光。
これだ、と思った。
躊躇せずコアと同化し身を任せる。
広大な空間を感じる。
巴マミという個を保持しつつ広がり、これがキャンデロロだと理解する。
呼びかけてしばしの間言葉にならない会話を交わす。
それからマミ自身に戻ってきた。
ソウルジェムが外側から破壊されればシステムも魂も共に損なわれる。
しかしシステムのみ壊れるのなら、自由になった魂は勝手に身体に戻る。
希望が温かく胸のうちを満たしていく。
実際にその時なにが起こるのかはマミにはわからない。
ふと引っかかることがあった。
携帯を手に取りまどかを呼び出す。
152 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 03:59:48.87 ID:f5vhqUUmo
(今言っておかないと明日はたぶんこれについて彼女と話す機会はない)
「鹿目さん? こんな時間にごめんなさい」
「大丈夫です、起きていました。どうかしましたか?」
「お願いがあるの」
「はい」
「あなたは今、一つだけ奇跡を願うことができるわね」
「はい、そうですね」
「けれど、何があっても絶対にそうしては駄目」
「ほむらちゃんにも散々そう言われています」
「QBを見かけた?」
「いいえ」
「私もよ。でも明日には会えるでしょう」
「はい」
「あの子の話に乗らないように。あの子は私たちと違い過ぎるの。
だから、もしもあなたの足元に死体同然の誰かが転がっても決して契約を交わさないで。
覚えておいてね。お願いよ」
「?……あの……はい、お話はわかりました」
「暁美さんによろしくね。ではまた明日」
「はい。おやすみなさい」
153 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 04:03:21.50 ID:f5vhqUUmo
そしてワルプルギスの夜がやってくる。
(今度こそ)
ほむらは目を凝らし、強風が吹き荒れる見滝原上空に誰よりも早く巨大な魔女本体の姿を認めた。
地上に、空に、溢れるように使い魔の群れが出現し始める。
(打てる手はすべて打った。これ以上はない状態でこの日を迎えることができた)
(これでダメならもう何をしてもムダだとすら思えるほど)
(失敗したら今度こそ私は絶望してしまうかもしれない)
ほむらが文字通り時間の合間を縫って仕掛けたトラップが次々と作動していく。
自ら操作するものは操作し待ち伏せるタイプのものは最も効果的にそれが働くよう能力でタイミングを合わせ、あるいは場所を調整した。
魔力を帯びない通常兵器があまり効かないことは分かっているがほむらにはこれしかない。
爆発に次ぐ爆発、魔女を中心に次々と巨大な火柱が上がる。
やがて最後のトラップが発動を終えた。
全ての攻撃を受け切ってワルプルギスの夜が耳障りな笑い声を響かせる。
(そうでしょうね……でも、いくらかは削れたはず)
ここから先は他メンバーとの連携となる。
ほむらは最適の間合いを探しつつ跳んだ。
154 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 04:09:26.04 ID:f5vhqUUmo
魔法少女は自身の性格や能力に最も適合する武器を持つ。
杏子の場合は槍だが、これほど扱いやすくて変幻自在で攻撃力の高い武器はないと密かに自負している。多節棍あるいは鞭、鉄鎖としても使うことができるが、これはリボン使いのマミの影響だ。
魔女が出現し、ほむらの攻撃が始まっている。
巻き込まれないよう最後のトラップが発動し終えるまで本体への攻撃は控えて使い魔の相手を続けている。
一際大きな爆発音がして地響きがしたかと思うと、天を焦がす巨大な火柱が上がった。
「おお、すげー!」
爆風が吹き荒れる。思わず声を上げた。
仕留めたのかと期待したがきのこ雲の中から魔女は笑いながら姿を現した。
「ちっ!……けど、そうこなくっちゃ」
担いでいた槍を脇にたばさみつつ高速で足元を薙ぎ、後方へ払いあげてから全速で振り下ろしてオーソドックスな槍の構えをとった。槍の重さをまったく感じさせない動きだった。穂先がぴたりと魔女本体へ向く。
その過程で辺りの使い魔は一掃されている。
とある古い流派ではこの一連の動作が正式な攻撃開始の宣言だが、そんなことは杏子は知らない。
「さて」
とん、と軽やかに踏み出して魔女本体へ向かって行く。
爆風が収まると雨が強く降り始めた。
魔女由来の大風がますます強まっていく。
155 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 04:22:23.58 ID:f5vhqUUmo
予想される魔女の進行ルートは人が集まる避難所を直撃するため少し逸らせる必要があった。建設途中の高層ビルに陣取ったマミは
魔女本体から一番遠くに位置しつつ囮になる。
「出し惜しみはしないわ」
おびただしい数のマスケット銃が筒先を並べている。攻撃の意思を込めると先触れの使い魔が続々と集まって来た。
暴風雨の中、際限なく増え続ける使い魔を風や距離の影響を受けない魔法の銃弾が次々と捕えていく。
弾丸を潜り抜けてマミに近づく個体があれば視線すらやらずにリボンの餌食にした。
そうしつつも折を見て魔女本体と直接交戦を始めたほむらと杏子のために攻撃力を高めた弾で本体を狙撃した。
さらに大掛かりな攻撃を仕掛ける機会を待つ。使い魔の雲が晴れるタイミングを。
(今!)
二人にテレパシーを飛ばす。
(当たらないようにしてよ!!!!)
二人が使い魔を引き連れて左右に分かれたところに一斉射撃を行なう。
156 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 04:24:48.97 ID:f5vhqUUmo
弾は魔女本体に集中し、巨体が微かに揺れた。マミのソウルジェムが一気に三分の一ほど濁る。すぐさま魔女本体から触手のような影が伸びてくるのをリボンを固めた盾でいなした。
「そうそう、あなたの敵はここ。こちらへいらっしゃい」
マミは自分が恐ろしく集中しているのを感じる。
眉間にチリチリと電気でも帯びたような感覚があり、五感が澄みわたっている。かつてないほど調子がいい。戦場がよく見えた。
ほむらの部屋にある資料で魔女の姿は知っていたが、こうして実物に遭遇してみることで改めてわかることもあった。
巨大な歯車に目を奪われる。
「なんとなくだけど、生前のあなたとは気が合ったんじゃないかしら」
(私には……その姿は冒涜のようにも思えるけれど)
(相転移、堕落、聖は俗に、俗は聖に……なんてね)
惜しまず魔力を使うのでソウルジェムはどんどん濁っていく。
(これほど魔力を全開にさせたことはなかった)
(これほどやれるとも……知らないことはいろいろあるものね)
役目を終えたグリーフシードを下の地面に投げ落とす。
恐怖はない。油断もない。わずかな緊張を保ち戦闘を続けた。
157 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 04:29:57.34 ID:f5vhqUUmo
「それにしても大きいなあ」
夢か現か定かではない淡い体験ではあったものの、確かに一度それとは遭遇していた。
「とにかくこいつさえ倒したらいいんだよね」
戦意は高い。しかし轟音を響かせた大きな爆発の後、生身なら無事では済まなかった高温の熱波と荒れ狂う爆風が届いた時さやかはふと気持ちが怯んだ。
爆心地近くで鉄塔がいくつもグニャリと曲るのを見た。昨日杏子と昇った電波塔も大きく傾き倒れた。
マントが千切れそうにはためき、両肩があらわになった。
鉄骨や軽自動車並みに大きいコンクリート片がそこら中を恐ろしいスピードで飛んでいく。
掠っただけで致命傷を負うだろう。自身を守る不可視のシールドにそれらが時々接触し、その度に白い魔法陣が浮き出る。
(やっぱ怖い)
しみじみと思う。
(不思議だなあ。もう死んでいるようなものなのに、いざ死ぬかもってなると死ぬのは怖いんだね)
(生き残りたい)
(そしてみんなと生きていきたい)
さやかはいくら倒しても減らない使い魔を捌き続けた。
戦闘は始まったばかりで三人ともまだまだ余裕がある。
回復役である自分の出番は当分なさそうだった。それは幸いなことだ。
時々本体から攻撃が伸びてくる。使い魔のそれとは桁違いのパワーを感じた。
当たればひとたまりもないので、念入りに避ける。
雨で視界はかなり悪い。魔力で強化した眼で時々杏子とほむらを確認した。
と、その時二人が慌てたように移動したかと思うとマミの位置するあたり一面から射出されたとんでもなく高い魔力が魔女に届いた。
戦闘に入る前、必要な時以外はマミと魔女を結ぶ線上には不用意に近寄るなと口を酸っぱくして言われていた訳がわかった。
「うっわ、すごいねマミさん……!」
一瞬の眩しい光、それから轟音が響いて全身がびりびりと震える。
魔女の高笑いは止まない。
158 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 04:32:08.26 ID:f5vhqUUmo
まどかは家族と共に指定の避難所にいた。
「ねえちゃ!」
「タっくん、ほらお口がよごれてるよ」
見知らぬ場所のせいで興奮気味のタツヤの相手をしてやる。大きなスポーツイベントにも利用される広いホールだが、避難している人々でいっぱいだ。
わずかに感じた地響きにふと顔を上げた。
「ん? また地震……じゃないな……
まさかコンビナートで爆発事故でもあったんじゃないだろうねえ」
母が呟く。
「どうしたまどか? 不安か?」
「え? うううん……人が多くてちょっと落ち着かない、かな」
「仕方ないさ」
「うん」
「あそぼーねえちゃー」
「わ、タっくん、いい子だから暴れないで」
「えへへへへ〜」
まどかに体重をかけて甘えるタツヤを知久がひょいと抱き上げた。
「きゃーっ!!!」
嬉しそうに父の頭にしがみつく。
159 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/25(日) 04:33:39.69 ID:f5vhqUUmo
「限界だね。ぼくが少し散歩させて来よう。トイレにも並ばなきゃ。
おいでタツヤ」
「はいっ!」
「いい返事だね」
母と二人で手を振って父子を見送る。
「タっくんは元気だなあ」
「ちっちゃいまどかはおとなしかったよ。
こんな所に連れてきたらアタシに抱き着いて離れなかっただろうねえ」
「そうなんだ?」
「そうさ。ねえまどか」
「なあにママ?」
「なにか気になることでもあるのかい。ずっとそわそわしてるぞ」
「う、うん」
「そういや、さやかちゃん見ないな? ほむらちゃんはどうした? ここに来ているはずだろ?」
「うん……そうだ、ちょっと探してきていい?」
「ん?」
「その辺、見てくるね」
母の目を見ずに立ち上がり、出入口の方を向いた。
詢子は娘が何かを心に溜めこんでいることには気づいているが、口を出すことは我慢していた。立ち上がった娘を見上げて(大きくなったんだな)と思う。
「建物の外に出るんじゃないよ」
「はい」
160 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/27(火) 17:38:07.75 ID:J5IxWr5Po
ホールの外はゆったりした回廊になっていて、ぽつぽつと人がいた。疲れた様子で歩く人、備え付けの椅子に深く腰掛けてうつむく人、床に敷物を広げて壁にもたれかけている人もいる。
まどかはガラス張りになっている壁沿いに歩いた。荒れ狂う空を気にしながら進む。
建物全体に叩きつけられる雨の音が大きく響く。嵐は一向に収まる気配がない。
(みんなは……ワルプルギスの夜はどこだろう)
適当な所で立ち止まって外を眺めるが雨で何も見えない。
(確かあの辺に展望台が小さく見えたはずなんだけれど……)
そのまどかの側にとことことQBがやってきてちょこんと座った。
「やあ」
「QBってどこからともなく現われるんだね」
「そうかい?」
並んで外を見ながら話す。
「久しぶり。何してたの?」
「主に新たな魔法少女のスカウトだね」
「見つかったの?」
「うん。見滝原には僕の姿を視認できる子が多いんだ。
いろいろと因縁の集まっている土地なのかもしれないね」
「彼女たちはどんな願いをかなえたの?」
「おしゃべりしていていいのかい?」
「うん。教えて」
161 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/27(火) 17:39:45.39 ID:J5IxWr5Po
「自分を変えたい、病気を治したい、友だちと仲良くしたい、勉強ができるようになりたい、
死んだペットを生き返らせて、というのもあった。まだあるけれど聞きたいかい?」
「うん」
「歌が上手くなりたい、もう少し身長がほしい、あるいは体型を変えたい、
離婚寸前の両親を仲良くさせてほしい、何ヶ国語も話せるようになりたい、
それから特定の個人を消したいというのもあって、この子はすぐに大笑いしながら魔女になってしまった。既に狩られている」
「そんなに大勢……あの、そんなに魔法少女を増やしてどうするの? QBはその子たち全員フォローできるの?
それにただでさえグリーフシードが手に入らないのに、取り合いになっちゃわない?……のかな」
「そんな心配は無用だよ、まどか」
「どうして?」
「彼女らのほとんどが今日ワルプルギスの夜を見たことで魔女化している」
まどかは絶句する。
「何人かは魔法少女として育ってくれるとバランスが良かったけど仕方ない。
結局魔女との戦闘を経験した子は一人もいなかったんじゃないかな。
まどか、泣いているのかい?」
「私はその子たちを助けられない」
「君の力はまだそこそこ大きい。さっきの願い事の子たち全員を人間に戻すというのはなんとかなるよ」
「そうなの?」
「うん。そうするかい?」
とっくに決断していたまどかだが、ほんの少し逡巡した。
「……いいえ、しない」
「そうか。意外だね。この星を終わらせるような魔女にはもうならないよ?」
「わかってる。でも、しないよ」
絞り出すような声だった。
(あなたたちを助けません……ごめんなさい)
162 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/27(火) 17:42:02.23 ID:J5IxWr5Po
「賢明な判断だね。ほむらたちのことを考えるならその方がいいだろう。
グリーフシードは魔法少女の命綱だ」
「なんとかならないのかな?」
「なにがだい?」
「魔法少女から魔女になってあなたたちのためのエネルギーになるという仕組み」
「僕らのためではなくて宇宙のあらゆる生命体のためだ。それはともかく、
うん、それはどうにもならない。君にはもう魔法少女システムをどうにかできるような力はない」
「君は少し突飛なところがあるからね。もしかしたら君の力が減じたことは
システムを含めこの世界の維持存続には良かったのかもしれない」
願いによっては宇宙すら改変してしまえるほどのものだったから、とQBは続けた。
「聞きたいことはそれだけかい? ほむらたちのことは知りたくないかな? かなり健闘しているよ」
「わかるの?!」
「じゃあしばらくは彼女らの戦いを一緒に見守るとしようか」
QBに視界を与えられ、まどかは友人らの戦場を見渡すことができた。
誰も欠けていない。みんな戦っている。
「サービスがいいんだね?」
「営業活動だと思ってくれていいよ」
「ワルプルギスの夜がいる」
「そう。実際に見るのは初めてだったね」
「舞台装置の魔女、ワルプルギスの夜。本当の名前はなんていうの?」
(−−−−−−)
頭に響いたそれはよく聞き取れなかった。
「えっと?」
「僕らの星の言葉で発音も表記も君たちの感覚器官ではムリだ」
「そうなんだ。ねえ、みんなに話しかけることはできる?」
「中継してあげたいが距離があるからやりとりは難しいかな。伝言なら承るよ」
「わかった。黙って見てる」
163 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/27(火) 17:48:25.73 ID:J5IxWr5Po
「にしても固ってーなあっ!」
杏子が苛立つ。文句を言いながらもその動きは早く鋭く疲れを見せない。突き、払い、切り落とし、抉る。それらを無限に組み合わせて切れのある体捌きを行いつつ槍をふるう。
後方からはマミの援護があって、痒い所に手が届く的確さで魔女の動きを阻害してくれていた。
何かよくわからない、しかし見るからに物騒な火器を構えたほむらがちらちらと視界の端をかすめる。
武器はとっかえひっかえしているようだ。姿が消えたかと思うと魔女本体の所々で派手な爆発が起こる。
魔女の攻撃パターンはいくつかあった。
建造物の巨大な一塊を魔法少女たちに向かって飛ばしてくるのと、本体からかなりのスピードで伸びてくる影のような触手が厄介だった。
それから無数に湧き出てくる使い魔たち。数で押してくるので単純に邪魔で仕方がなかった。本体に攻撃がうまく届かない。
たまにまとめて一掃するが、すぐ元の分厚さを取り戻す。
さらにここにきて魔女の攻撃パターンが増えた。
人間の形をした影がいくつも現われて襲ってきた。杏子とほむらを数人で囲む。
皆笑っている。
(こいつら、魔法少女だよな……?)
色は無いがさまざまなコスチュームに身を包んだ少女たちだ。
(撃てるかマミ?)
返事代わりに数発の銃弾が影の一つを貫いて消し去った。
(愚問だった!)
164 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/27(火) 17:52:23.14 ID:J5IxWr5Po
杏子は瞬く間にそれらを撃破していく。対人戦は得意だった。
ほむらは時間停止をタネとした瞬間移動を多用してじりじりと敵の数を減らしている。
ワルプルギスの夜本体への直接攻撃を担う杏子とほむらのところにそれらは重点的に出現したが、いくつかはマミとさやかをも訪れた。
マミに近づけた影は一体もいなかったが、さやかは敵が同じ魔法少女の姿をしていることに動揺してあっさり囲まれてしまった。
それを見たマミが援護を開始し、同時に顔色を変えた杏子がさやかのところへ飛んできた。
魔女本体に背を向けて。
((危ない!))
高所にいるマミと杏子の背後が見える位置にいるさやかからの警告で杏子は本体から伸びた触手を危うく避けた。
「うっわあぶねえっ」
「こらっ、こっちはいいから戻りなよ!」
さやかが叫ぶ。
「るっさい! ケガはないか?!」
「すぐ治してるからだいじょうぶ!」
「そもそもケガすんな!」
「無茶言わないでよ!」
杏子がさやかの周りの影を片付け始めたのをきっかけに視界を広げたマミが上空にそれを見つけた。
(二人とも上!)
ビルの数階分ほどの塊が杏子とさやかのいる位置に降ってくるところだった。
「うおっ真上から!」
「すみませんマミさん」
なんとか横っとびに避けることができた。
165 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/28(水) 08:06:56.52 ID:Q5Zg0UrZo
(絶好調じゃないか、マミ)
(QB、やっと出てきたわね)
(お待たせしたのかな? それは悪かったね)
(聞きたいことがあるの。先の短い魔法少女はもうサポート管轄外なのかしら?)
(まさか。なんでも聞いてくれ)
(ワルプルギスの夜はなぜ魂を縛るシステムとよく似た姿をしているの?)
(見たんだね。どうやって?)
(質問に答えてくれる?)
(あの魔女の核になった子は生前システムに並々ならぬ関心を持っていた。
君と同じようにそれを見て深く影響を受けたようだね)
(あの歯車は枷に見えたわ。何を拘束しているの?)
(拘束というよりは強化を目的としている。ギアというよりはハンドルだね。
コアを見たろう? キャンデロロには遭えたのかい?)
(ええ)
(さすがはマミだ。お世辞じゃないよ。君はほんとうに器用だね)
QBとやりとりをしながらもマミは手を止めない。
タイミングを見計らって魔力温存を全く考えない苛烈な一発を放ち、クリーンヒットさせた。
一気に濁りを増したソウルジェムを回復させ、マミはグリーフシードをまた一つ地面に投げ捨てる。
(下にいくつも落ちてるから後で回収しておいてね)
(任せてくれ)
(確認させて。システムから自由になった魂は身体に戻るのよね?)
(戻る。だがその過程でなんらかの不具合が起こることが知られている。
長い時間身体を留守にしていたためか、魂の定着に少々無理な力がかかるようなんだ)
(前例があるのね?)
(あるよ。なんの問題もなく身体と魂が結びついた例もある)
(確率的には?)
(システムから自由になろうとする魔法少女の数が少ないからね。正確な統計がとれない)
(何が起こるのか具体例を挙げてもらえないかしら)
(それはやめておいた方がいい。知ってしまうとそれに引きずられる)
(そういうものなの?)
(影響は少なからずあるね。聞かれれば答えるが知らない方がいいと思う)
(思い遣ってくれているみたいに聞こえるわ)
(僕はいつだって君たちのことを考えている)
(それはそうね)
武器を構えて目標を見据えたまま、マミは思わず苦笑いを浮かべた。
166 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/28(水) 08:11:24.83 ID:Q5Zg0UrZo
戦闘は続いている。
影のような魔法少女たちはあらかた消えた。復活はしないようだ。
使い魔の群れの一部に隙間ができてマミの大型砲による一撃がワルプルギスの夜を襲った。それに合わせて杏子も魔力を存分に込めた攻撃を放つ。魔弾と大槍が深々と魔女本体を抉った。
「へへっ、やっぱ魔力をケチってちゃいけないな」
(杏子)
ほむらが杏子に呼びかけた。
(どうした?)
(私の攻撃はほとんど効かない。サポートと使い魔の方にまわった方が効率が良さそう。
マミと二人で本体をお願い)
(じゃあ、さやかを……あ!)
(なに?)
(その盾はちゃんと防御に使えるよな?)
(もちろん……!)
(あんたがついてりゃ大丈夫だろ)
167 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/28(水) 08:12:16.51 ID:Q5Zg0UrZo
まどかは心配そうに戦闘を見守っている。
「あれはさやかちゃんとほむらちゃん?」
「ああ。いい判断だ。ほむらの攻撃はワルプルギスの夜のような大物にはそうそう効かないから」
「さやかちゃんは大丈夫なのかな」
「ほむらが防御と攻撃指示を担うのだろう。とても合理的だと思うよ」
168 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/28(水) 08:27:17.23 ID:Q5Zg0UrZo
ほむらと杏子が後衛のさやかのところへ行って一旦魔女から距離を取る。その間にマミは空を埋め尽くすように並べた大量の銃を一斉に発砲させた。
すべてを命中させて使い魔の霧が晴れたところですかさず本体への砲撃を行なう。並みの魔女なら一瞬で消滅するほどの魔力がワルプルギスの夜本体にぶつけられる。
一連の攻撃を二度繰り返すとソウルジェムがほぼぎりぎりまで濁った。
相変わらずの暴風雨と魔女の笑い声。しかし新たに湧き出る使い魔の数は目に見えて減ってきた。
マミがグリーフシードを使っていると、目の覚めるようなスピードで魔女に突っ込んで行く塊があった。
豪雨を切り裂き派手に水煙を上げて進む。使い魔も触手の攻撃も強引に突破していく。
(暁美さんと美樹さん。あれは必ず当たるわね)
二人とは少し違う軌道で杏子も続いている。
「やっぱ二人で飛ぶと早いんだ! パーマンと一緒じゃん! 知ってる?」
盾をかざすほむらの背にしがみついたさやかが大声で話しかけるが、ほむらにはほとんど聞こえていない。
(そろそろ止めるから絶対に離れないで)
(合点だ!)
盾がカシャンと小さな音を立て、景色が固まる。
「おおっ?! すごいっ全部止まってる!」
静かな空間を二人で飛ぶ。
169 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/28(水) 08:38:31.68 ID:Q5Zg0UrZo
「直近までこのまま行く。合図をしたら飛び出して思う存分にやってきなさい。
危険はない、防御もまったく考えなくていい」
「任せといて!」
「今!」
「でええええええええい!!!!!」
ゼロ時間で魔女との距離を詰めたかと思うとほむらからさやかが発射された。杏子の目にはそう見えた。
さやかが水煙の渦を作りながら錐もみに高速回転して魔女に突っ込み、当たった瞬間その衝撃で魔女が全体の軸ごと少し後ろへずれた。
「うらあああっ!!!!」
それと同時に杏子も渾身の魔力を込めた槍を投擲した。
的に当たるまでの間に巨大化した武器が深々と本体に刺さった。それから槍自体が意思を持っているかのようにずくずくと潜り込んだかと思うと身震いしながら強引に貫通する。
(マミ、全力で攻撃して。また止める)
(全力ね、仰せの通りに。ちゃんとみんなそこから離れてよ。危ないから)
「ティロ・フィナーレ!」
目一杯の攻撃を放つ。魂ほぼ一個分の全身全霊弾。
ほむらは時間を止める。
さやかと杏子に接触してフリーズ状態から解放してやり、三人で一緒に出来る限りのスピードで本体から離れた。
着弾直後、凄まじい熱と光が発生する。
いくつもの魔法陣が開いてワルプルギスの夜を囲み、熱と衝撃を閉じ込める。轟々と腹に響く音が届いた。
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/09/28(水) 09:52:39.70 ID:8B99W0pGo
なんかQBがやけにユーザーフレンドリーね
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/09/28(水) 12:45:53.83 ID:Q5Zg0UrZo
>>170
言われてみれば
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/09/30(金) 22:37:19.27 ID:p4RFBL9bo
おや、こんなスレがRにあったとは
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/10/01(土) 01:21:15.81 ID:zunH4d0Ro
楽しみ
174 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/02(日) 00:34:18.53 ID:SEKQbk/so
まどかもそれを体感した。
触れていたガラスがびりびりと震え、形容しようのない異音が聞こえた。
「もしかして倒したのかな?」
「いいや。まだだね」
「あれ?」
廊下の照明が落ちた。
「え? 停電?」
いきなりのことで館内にどよめきが起こっている。
「いや、これは停電じゃない」
「じゃあなんなの?」
「魔女結界が展開されようとしている」
「こんな所で!?……QB、みんなに伝えてくれる?」
「それが願い事かい?」
「いいえ、ただの頼みごと」
「わかっているけど一応聞いてみたよ」
175 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/02(日) 00:36:58.42 ID:SEKQbk/so
マミの周りに三人が集まった。
「なんかあれ、結構ボロボロになってきたよね?!」
「そろそろ目処が立ってきたな」
マミのリボンに守られつつそれぞれソウルジェムを回復させていると
(今のはだいぶ効いたようだね)
皆にQBの声が届いた。
(それはそうと誰か来てくれないか。避難所に魔女結界ができた)
ほむらが飛び出そうとするのを抑えて「あたしが行くよ」と杏子が進み出た。
「おまえはここで早くアレを片付けてしまえ。もうひと踏ん張りで落ちるだろ!」
言い置いて飛び出し、すぐさま後姿が小さくなる。
魔女の方角から穂先を向けて槍が飛んできた。柄の真ん中辺りをキャッチして増々スピードを上げて消えた。
「じゃあ二人とも、さっきの要領でもう一度」
マミがワルプルギスの夜から目を離さずにほむらとさやかに言った。
「え、続けるんですかマミさん?」
「適任者が行ってくれたわ。きっと大丈夫。
暁美さんは鹿目さんが気になるのね?」
「避難所はかなり混乱しているはず」
阿鼻叫喚になっていても不思議ではない。まどかが契約してしまう。
「魔女発生はもう起こってしまったこと。それに対して手は打ったし、鹿目さんは自分の身を守る手段はある。
私たちはここでできることをしましょう。
目の前の魔女をどうにかしなければ契約をしようがしまいが鹿目さんが失われる可能性は高い。違うかしら?」
理詰めのマミに少し違和感を覚える。しかしとにかく避難所にはもう杏子が向かったのだ。
(ここまできて、またやり直しになるかもしれない)
(………見届けよう)
「行くわよさやか」
「アイサー! ……ん? どした?」
“どっちにしろあたしこの子とチーム組むの反対だわ”
隔世の感がする。
「なんでもない。急ぎましょう」
176 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/02(日) 01:09:26.80 ID:SEKQbk/so
「ねえQB、この魔女結界ってなんだか静かだね? なんていうか、何もない感じ。
おかげでみんな落ち着いてるし……」
小さな声で話した。
「魔女が本格的に活動するまで少し猶予がある。生まれたばかりだからね。
時間が経つとそうもいかなくなる」
「そうなんだ」
「まあそうなる前に誰か駆けつけてくるだろう。しかし君には何度も驚かされている」
「どうして?」
「さすがに魔女結界に取り込まれたらすぐに契約を申し込むんじゃないかと思ったんだ。
犠牲者を出したくないだろうし、ましてやここには君の家族がいる」
「すぐ助けが来るかなって思ったから」
「僕が助けを呼ばない場合だってあったかもしれないよ?」
「そこまでして私に契約させたいの?」
「以前の君にならね。君が最後の魔女になるはずだったんだ」
何か小さなものがたくさん動いている気配がある。もちろん使い魔だろう。
できるだけそういうものを見ないようにしながら歩いた。
「そう、それが正しい」
「なんのこと?」
「結界内での歩き方だね。視覚や聴覚に惑わされず、恐れたりせず静かに歩くんだ。
戦意や負の感情を目掛けて魔女や使い魔は襲ってくる」
「怖がったり不安に思ったりしてない人には魔女は攻撃してこないってこと?」
「概ねその通り。しかし完全にそうするというのは君たちには無理だ。君たちは感情の生き物だから」
周りが急に明るくなった。景色が元に戻る。人々がほっとして話し始めた。
…………あ、停電終わったのか。
…………良かったあ、なんだか変な感じだったよね。
…………なんか、背筋がぞくぞくしなかった? なんだったんだろう?
177 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/02(日) 01:12:20.31 ID:SEKQbk/so
「もう大丈夫だ、まどか」
声を掛けられた。
「杏子ちゃん! 来てくれたんだ!」
振り向くとパーカーのポケットに両手を突っ込んだ杏子がぶらぶらと近づいてきた。いつもの私服姿だ。
「そりゃ来るさ。そいつと契約なんてしてないだろうな?」
まどかの足元にいるQBに目をやる。
「してないよ」
「おっし間に合ってよかった。ほむらに殺されちまうとこだった」
「ほむらちゃんはそんなことしないよ?」
「ああ、おまえにはな。ん」
まどかの手に個包装のスナック菓子が押し付けられた。
この人は時々よくわからないタイミングで食べ物をくれる。
「ありがとう。これ好き」
「それは良かった。ん?」
まどかの顔を見て眉をひそめた。
「な、なにかな?」
「泣いた?」
ぎろりとQBを見る。
「ううん、なんでもないよ。それにしてもすごいね、いつの間に魔女を倒したの?」
「伊達に長いこと魔法少女してないって。こっちだ」
178 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/02(日) 01:20:36.30 ID:SEKQbk/so
まどかの先に立って歩き出した。
「杏子」
何か言いかけたQBには構わず進む。
インフォメーションコーナーに大型ディスプレイが設置してあり、ニュース番組が流れていた。
(あれ?)
まどかは不審に思う。
「電波障害だかなんだかでテレビはまったくダメになってるってママが言ってたような……?」
アナウンサーが何か原稿を読んでいるが聞き取ろうと集中しても何を言っているのかさっぱりわからない。
「杏子ちゃん、どこに向かっているの?」
「まどか」
「杏子ちゃん?」
「あんまり驚かないで聞いてくれ。今見てる景色全部幻だから」
「魔法なの?」
「杏子の固有魔法だ。魔女戦にはあまり役に立ないが人間相手にはてき面に効くね。
さすがに見事なものだ」
「集団パニックなんか起きたらめんどうだからやったことだけど、
さっきの話だとこうやって安心させておけば襲われないんだろ」
「確率は低くなるね」
「おまえがいつも結界内をひょいひょい平気な顔で歩き回れる理由がようやくわかったぜ」
「じゃあこの杏子ちゃんも幻なの?」
「あたしは本物」
杏子は足を止めて低い声で言った。
「ここでいい。ああ、おまえんちのチビとおじさんもさ、ちゃんとおばさんのとこ帰ってきてるよ」
「ありがとう、心配してたんだ」
「ワルプルギスももうすぐ終わるから」
「うん!」
179 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/02(日) 01:22:29.44 ID:SEKQbk/so
杏子の姿はかき消え、QBもいなくなっていた。
「あれ?」
「まどか? どうした?」
立ち尽くすまどかに詢子が訝しげに声をかけた。
「あれ、ママ?」
「ぼーっと帰ってきて、どうしたんだ。ほら突っ立ってないで座んな。
さやかちゃんやほむらちゃんはいたのか?」
「うううん」
首を振って答えた。
「でも杏子ちゃんに会えたよ」
「ねえちゃ? きょーこは?」
「また今度うちに遊びにきてもらおうね」
「きょーこうちくる?」
「うん」
「あ(や)ったーーーー!」
「たっくん。もうちょっと小さい声でお話ししようね、しー」
「ぁーぃ」
180 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/02(日) 01:26:27.67 ID:SEKQbk/so
「さて。悪く思うなよ」
結界の奥にいた魔女はぼんやりした霧のような姿で蠢いてる。
穂先を下げて楽に構えをとった。
周囲のそこかしこに人がいるが、彼らは杏子の幻術の中にいて自分たちの見ているべき当たり前の風景だけを見ている。
ノロノロと徘徊する使い魔を人々は認識できない。使い魔もまた恐怖も敵意もない人間たちを補足できずにいる。
「何を望んだのかは知らないが、そいつは叶えられたんだろ? もう眠れ」
大きな魔法を発動させているので攻撃に魔力を割けないでいるが、そんな縛りはものともしなかった。
生まれて間もない魔女をあっさり切り裂いて滅するとたちまち結界がたたまれていく。
そして通常空間にぽつんと残されたグリーフシードを拾い上げた。
「さすがだね」
近寄ってきたQBに杏子が尋ねた。
「新しい魔法少女は他に何人いる?」
「今のでおしまいだよ。あとはみんな相転移を起こした」
「鬼畜生め」
避難所にいた一部の人々は周囲の空気が変わったのを感じとった。まどかもその一人だ。
(杏子ちゃん、ありがとう)
QBはちゃんと中継してくれた。
(あたしはもう行くよ。ちゃんとほむら連れて帰ってくるから待っててくれ。契約すんなよ!)
(うん!)
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/10/02(日) 12:32:43.59 ID:SEKQbk/so
>>172
そうなのRなの
>>173
書き溜め終了につきこれより滞ります
でもその一言でがんばれるありがとう
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/10/03(月) 17:27:45.89 ID:RaaNnyJHo
台無しオチがないことを願う
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/10/03(月) 18:14:49.15 ID:HxxPWaKvO
乙
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/10/03(月) 21:54:14.28 ID:X2AJWZE5o
>>182
ギクッとニヤッが半々
謝っとく
>>183
ありがとう
185 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/03(月) 23:23:10.64 ID:X2AJWZE5o
吹き荒れていた風が止み雨も小降りになってきた。
遠くで雷が鳴っていてどうやら急速に近づいてきている。
壁面がごっそり剥がれ落ちたビルの上階に彼女らはいて、もうほとんど形を成していない魔女を見上げた。
ワルプルギスの夜に勝った。
稲妻が光り、少し遅れて近くに落ちた。
その場の全員が皮膚表面にピリピリとした軽い痺れと強いオゾン臭を感じた。
空に幾筋もの稲光が走る。会話に支障をきたすほどの雷鳴の中でさやかが魔女だったものを指さしながら何かを叫び、杏子がそれに応
えている。
(信じられない)
ほむらは消えゆく魔女を凝視した。
(信じられない)
長い長い時間をかけてとうとう成し遂げた。
実感がわかないので何の感動もない。
「ワルプルギスの夜はね」
QBだ。
数えきれないほど潰しているが恐れ気もなく、むしろ親しげにこの獣は近づいてくる。
「特殊な魔女だった」
空気が変わったことにほむらと杏子が気付いた。
「おい、なんだこのおかしな感じ?」
「これは……」
ほむらには心当たりがある。時間遡行が始まる感覚によく似ていた。大きなエネルギーの動きがある。
トコトコとQBが倒れ伏したマミの元に歩んだ。
「マミ!」
「マミさん!?」
いつの間にかそうなっていた。誰もマミの状態に気付かなかった。
マミの変身は解けていて、近くに光を失ったソウルジェムが転がっている。
慌ててその身体に触れた杏子がハッとした。
「どういうことなんだ?」
マミは生きている。
186 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/03(月) 23:31:04.79 ID:X2AJWZE5o
雷が止み一帯は静かになっていた。
マミの身体を診ているさやかに杏子が聞いた。
「どうなんだ?」
「なんともないみたい」
「じゃあどうして意識が戻らないんだ?」
「ぜんぜんわかんない」
こんなの変だよ、とさやかは怒っている。
「おかしいよ! 治らないよ!? どうして??」
「病気でもケガでもないからね」
QBの返答にさやかが更に激高した。
「じゃあ、なんだっていうの!!!? いつもいつも説明が足んないのよ、わざとでしょこの耳毛!!!」
「ちょっと落ち着けさやか」
「起きて、マミさん、マミさんってば!」
ほむらはマミのソウルジェムを拾い上げて子細に見た。
ヒビひとつない。
ただ、空っぽになっていた。
「それはもう抜け殻だよ。ソウルジェムではなくなった」
QBが言い、ほむらはマミの爪を見る。魔法少女の刻印が消えている。
「こんなことが起こり得るの?」
「マミの魂は自力でそこから抜け出たんだ」
「どうしてマミさんは目を覚まさないわけ?」
「身体に定着するはずだった魂が時空間の隙間に引っ張られてしまった」
意味が解る者は誰もいない。ほむらが静かに尋ねた。
「ちゃんと説明して」
「ワルプルギスの夜は特殊な魔女だった」
「どう特殊なの?」
「次元間を彷徨うんだ。この世界に現われない時、あれは狭間にいた」
「狭間というのは、そうだね、忘却界とか時の間隙とかリンボと言えば通じるかい?
とにかく隙間だ。どこでもない場所だ」
「これを利用すると様々な場所や空間へ移動できる。ほむら、君には馴染みがあるんじゃないかな」
「さっきワルプルギスの夜は最後の力で間隙に飛び込もうとして半ば成功しかけていた」
「マミがそれを邪魔した。そして自分がそこへ吸い込まれてしまった」
187 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/03(月) 23:34:37.39 ID:X2AJWZE5o
ワルプルギスの夜を倒したという確信を得た直後マミはそこにいた。
システムの歯車がいきなり眼前でスパークした。
無機質なそれを割り砕き力を振おうとするそれ、見ていられないほどまぶしいそれは。
(花?)
眼で見ているわけではないのは分かっている。目蓋を閉じてもそれは見える。
回転する巨大な花弁の残像が心に焼き付いた。
いくつもの視界が広がっていく。
街
避難所
仲間たち
QB
過去
過去
過去
過去
過去
意味のありそうなもの、なさそうなもの。
そのうちの一つがとても気になった。
黒い影が暗い場所へ続くドアから逃げ出そうとしている。
(だめ。あれを逃がしてはいけない)
マミは滑らかな動作で発砲した。
影が千切れ跳び、空間全体が身震いした。
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/10/09(日) 13:03:24.17 ID:3n6euaZ2o
一気読みしてしまった
続きが気になる
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/10/10(月) 00:34:18.78 ID:FnV1I0xfo
Rにこんな名作が隠れているとは
わからんものだ
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2016/10/17(月) 00:10:47.52 ID:+k033sMKo
乙乙
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/10/18(火) 01:13:30.86 ID:c9PlB8gso
>>188
ありがとう拝んでしまいそう
>>189
照れますわ
>>190
ありがとうありがとう
滞ってて申し訳ない思いでいっぱい
192 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:19:21.44 ID:c9PlB8gso
スーパーセルの襲来から早一週間が過ぎた。
被害の大きかった場所では形ある物がことごとく破壊されて更地になった。大小様々な瓦礫が暴風に乗って巨大な渦の形に積み上がり障壁を作って復興の厄介な妨げとなった。
また最も酷くダメージを受けた地点は更地どころか爆心地さながらに広く深く抉れ、その惨状に人々は恐怖した。
「そこは実際に爆心地だよ」
「それがバレないわけないし、いろんなもん落ちてるし、どっかできっと大騒ぎしてるんだろうな」
破壊の度合いに比べて死傷者が少なかったのは徹底した避難勧告が功を奏したのと、丸一日は続くと予想されていたスーパーセルの勢力がなぜか唐突に消え失せた幸運による。
ただこの災害をきっかけに市内の行方不明者が異常な数に上っていることが明らかになった。
数か月前からスーパーセル当日までの間にざっと七十名以上もの人間が姿を消している。しかもそのほとんどが女子中高生だとわかって大騒ぎになっていた。
「全員きれいさっぱり魔女になっちゃったよ」
ほむらの家のソファーを占領して毛布にくるまった杏子が朝のニュース番組を観ながら所々でつぶやいている。
(そんでもうほとんどがグリーフシードになってる)
未討伐の魔女はワルプルギスの夜が出現したことによって魔女化した数体のみ。今丁度モニターには災害による行方不明者として十名程の顔と名前が映し出されてる。
(できるだけ手っ取り早く後片付けはしてやるから)
そんな残存魔女とワルプルギスの夜の置き土産である使い魔が街中で盛んに活動している。
住む場所を失った人や持病を悪化させた人、ケガを負った人たちが次々と自ら命を絶った。仮住まいの部屋に灯油を撒いて火を点け、無関係の住人を大勢巻き込む最悪の自殺も起こってしまった。
災害後の自殺者は増え続け、これについてもニュースで大きく取り上げられていた。
「使い魔のやつらはキリがないな。地道に潰していくしかないけどさあ」
「そうこうしてるうち時間切れで何体かは魔女になっちまいそーだよな? エサはたっぷりあるし」
「使い魔から昇格した魔女はたまにスカがあってガッカリすんだよね」
昨日も夕方から夜半まで奔走していた杏子だった。
「しかし困るな、じっくり魔女を探す暇がない」
言ってからふわあと大きなあくびをした。
193 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:23:15.42 ID:c9PlB8gso
グリーフシードのストックはまだ少なからずあった。
あの日の戦闘で手持ち分を使い切ったのはマミだけだ。次々とグリーフシードを終わらせて、凄まじい攻撃力と攻撃量を見せた。
どこか突き抜けていた。持てる力の全て、否それ以上を出し尽くしてくれた。
(マミ、杏子、さやか)
(皆が事態について深く納得していること、お互いに理解があることが大事だった)
誰もが必要なピースだった。
果てしなく続くかと思われたループを終わらせて、ほむらにはやっとそれがわかった。
全か無か。
まどか一人を助けるというのは土台無理な話だったのだ。一番遠回りに見える道が一番の近道だった。よくある話だ。
そうやって今、ほむらは未知の時間を生きている。
そして新しい問題を抱えている。
杏子の独り言めいた話を黙って聞いていたほむらがやっと口を開いた。
「少しペースを落としましょう。思っていた以上に使い魔の数が多い。
どうしても長期戦になるのだから、ここで無理をするべきではないわ」
「こんだけ騒ぎになってんだ。さぼってらんないだろ」
「魔法少女が一日二日仕事を休んだところで、大して変わりはしない」
死者の数のことをそう言い切った。それを聞いて杏子が笑い声を上げた。
「やっぱりあんたは話が分かるね」
194 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:26:15.24 ID:c9PlB8gso
「それに、全滅させてしまう訳にもいかない。そうでしょう」
「ま、ある程度落ち着くまでだな」
「そんなに疲れて。さやかはあなたに何も言わないの?」
「あーさやかは……」
ワルプルギス戦を終えてからというもの、さやかのテンションは上がりっぱなしだった。
「……それどころじゃないかも」
杏子はなんとなく部屋を見回した。
ワルプルギスの夜に関するあらゆる資料は片付けられて部屋の印象はすっかり変わった。新しくダイニングテーブルが設置してあり、椅子は五脚ある。ほむらはそのひとつに腰かけている。
「普通の人間に戻れるかもってすごく喜んでる。心配なんだ。
だってさ、あんまりそういうの良くないって思わないか?」
さやかは良くも悪くも感情の振れ幅が大きい。
「素直に喜び過ぎなんだよ……」
ほむらの隣にはマミが無言で坐っている。
丁寧に梳かしつけられたゆるやかな癖のある髪がそのまま肩甲骨を覆うあたりまで流れ落ちている。表情はない。
彼女は見えている、聞こえてもいる。簡単な指示や介添えがあれば身の回りのことはこなすし、朝起きて夜眠る。
しかしそれだけだ。
魔法少女は条理を覆す存在だと言うが、最強の魔法少女は何もかもをひっくり返して人に戻った。
これが代償なのだろうか?
195 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:30:54.57 ID:c9PlB8gso
QBから今のマミの状態についての説明はあった。
“ソウルジェムに収められた魂は完全に君たちから切り離されている。だから距離を取れば君たちは全ての機能を停止する”
“マミの場合は違う。マミの魂はもう身体に根を生やした。この結びつきは簡単に切れることはないよ”
“だが空間の壁を越えることは簡単ではない。どこへ飛ばされたのかもわからない。ドアは閉ざされてしまったから”
“たださっきも言ったが身体と魂の結びつきは本来とても強い。彼女なら帰ってこれるはずなんだが”
「なんでこのマミを見て喜んでられるのか、わかんねー」
「帰ってくるって素直に信じているのでしょう、さやかは」
「ほんとに元に戻ると思うか? あいつ別に帰ってくるとは言ってないじゃん」
QBは“帰ってこれるはず”と言った。
「百パーセントの保証はしていないわね」
「考えたいことがいろいろあるってのに、忙しいしわかんねーことだらけだし、あーあ」
言いながらごそごそと身体に巻き付けた毛布の中に潜り込んでしまった。
「……もうちょっと寝てていーかな?」
「お好きに。でももうすぐ二人が来る」
ほむらは時刻を確認してから返事した。
学校は無事だったのでほむらも通学を再開している。
マミは災害後のPTSDでしばらく休学ということにしていた。他に何人も同様に休んでいる生徒がいるらしい。
一人では生活ができないので四六時中杏子がついている。
魔女退治及び使い魔の片付けは毎晩交代で行っており、杏子が出る日はほむらの家にマミを預けに来る。一通り仕事を終えると戻ってきてそのまま泊っていく。
杏子は単独で、ほむらはさやかと組んで出撃していた。
時間停止能力を失ったほむらと経験の浅いさやかが互いにフォローしあう形で、これは自然にこうなった。
攻守の役割りがはっきり分かれていることもあり、お互い意外とストレスにならないのはワルプルギス戦でわかっていた。
(一日おきの出撃を続けるのは厳しい……休養日は作るべき)
(けれどもさやかは毎日でも使い魔退治に出たい。増え続ける死者の数にプレッシャーを感じているから)
(さやかと話してみましょう。今のままでは杏子の負担が大き過ぎる)
196 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:33:10.63 ID:c9PlB8gso
椅子から立ち上がり、何かの番組が始まったテレビを消して身支度をしているとインターフォンが鳴った。
(開いてるから入って)
(はいよー)
「ではお邪魔しまーす、っはようほむら! マミさんもおはようございます!」
「おはようほむらちゃん。マミさんおはようございます」
ほむらを迎えがてらマミと杏子の顔を見に来たさやかとまどかが口々にマミに挨拶をするが目は合わないし返事ももちろんない。
わかってはいたが二人とも一瞬寂しい思いを味わう。
「これ、いつもの」
気を取り直してまどかがマミと杏子二人分のお弁当をテーブルに置いた。
「毎朝大変でしょう」
ほむらが気遣うとまどかは「これくらいしかできないから」と笑った。
「交代でやろうよって言ってるのにどうしても譲らないんだから。頑固者め」
「だってさやかちゃんも忙しいでしょ。テストも近いんだしお弁当くらい作らせて。
パパも手伝ってくれるから、私は平気だよ」
「ダメな時はちゃんと言ってよね?」
「もちろん」
「ほむら、杏子はアレ?」
ソファー上の毛布を視線で指してさやかが聞いた。
「ええ。さっきまで起きていたけれど二度寝してるかもしれない」
「昨夜、遅かったの?」
「かなり」
「無理すんなってんのに」
197 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:34:47.94 ID:c9PlB8gso
さやかは大股で近づいて「きょ〜〜〜こ」と声を掛けながら杏子の側に坐った。
「おつかれさん杏子、起きなって。あたしらもうガッコ行くよ」
ぱたぱたと毛布越しに背中を叩くともごもごと声がした。
「起きてるってば」
「顔見せて」
「ん」
眠たげな首だけが出てきた。
「ねえ」
さやかはそれに顔を寄せて小声で言った。
「杏子さ、あたしを避けてない?」
「なんで?……んなわけないじゃん」
同じ様に小声で返す。
「だってさ」
「なんだよ」
「なんでウチに来ないの?」
「マミ放っとけないだろ?」
「放っておくわけじゃないでしょ……じゃあマミさんと一緒に来るとかさ」
「それはやだ」
「なんでよ」
「だってそりゃ」
「?」
「いや、いいよ」
「いいこたないでしょ」
「………!」
「………?」
198 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:38:04.59 ID:c9PlB8gso
ほむらは何か言い合っている二人を見るともなく見ている。
口達者な二人がそのうちケンカでも始めるのではないかと懸念していた。
(これ以上問題が起きないでほしい)
心からの願いだった。
(マミのこと、街に溢れる使い魔の始末)
(それから……QBの不在)
そんなほむらの横顔をまどかが見上げた。
「ほむらちゃんはなにか心配ごと?」
「え?」
「っておかしいね。心配ごとだらけだよね、ごめん」
「いえ……先に出ましょうか?」
二人の話が長引きそうなのでそう提案してみるとコクンと頷く。
「マミさん行ってきます。さやかちゃん、先に行くよ? 杏子ちゃん、またね?」
「うん、わかった。すぐ追いつくよ」
「またな」
玄関に移動し、ドアを開いてまどかを先に送り出してからちらりと二人の様子を見たほむらがぱっと顔をそむけた。
ただ事ではないその表情を見て一旦外に出たまどかが中に戻ってこようとする。
ほむらは思わず身体で阻止し、勢いでまどかがよろめいた。ほむらがあわててそれを支える。
「あっ、ごめんなさい!」
「う、ううん大丈夫だよ」
挙動不審なほむらが珍しくてまどかは思わず微笑んだが、すぐに真顔になって聞いた。
「どうしたのほむらちゃん?」
「…………ごめんなさい」
ほむらの顔は真っ赤になっていた。
(ああ)
察したまどかがさっとほむらの腕をとって歩き出した。
「行こう?」
199 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:39:14.35 ID:c9PlB8gso
いつどちらからどうなったのか、二人ともよくわからないままお互いの気が済むまで。
長いキスになった。
200 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:41:35.24 ID:c9PlB8gso
「……二人が仲違いでもしているのかと、少し心配していたの」
ほむらの顔はまだ赤い。学校への道すがら、まどかにぽつぽつと思っていることを話した。
最近努めて考えごとを自分の中に溜めないようにしている。
「うん、それは心配要らなかったかも。見てても仲良いし」
ほむらはその辺りの機微に疎い。
「そうみたいね」
「もし、二人がお互いにどこか……なんだろ、つんけんというか……ぎくしゃく?
しているように見えたのなら、さ」
「見えたのだけど」
「たぶんそれは犬も食わないっていうあれじゃないのかなあ」
(今後はなるべく関わらないでおこう)
ほむらはそう決心した。
「ほむらちゃんが今一番気になっていることってなんなのかな?」
「一番?……そうね……」
ほむらが積極的に話そうとしていることがわかるので、まどかも質問をためらわない。
「巴さんのこと。それから、QBがいないこと……かしら」
「ああ……QBは気になるね」
201 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/10/18(火) 01:44:25.10 ID:c9PlB8gso
ワルプルギス戦直前の日々、不在のQBはせっせと魔法少女を増やしていた。今もどこかでそうしているのだろうか。
あの日、嵐が止んで安全が確認された後、避難所からぞろぞろと大勢の人が自宅に戻っていく雑踏の中、QBはまたどこからか現れてまどかの肩に飛び乗り「マミを助ける気はないか」と言った。
「僕にも魔法少女にも、今すぐマミを連れて帰るのは無理だ。でも君の願いなら、それは可能だ」
その時まどかはマミの声をまざまざと思い出した。前の晩にマミからかかってきた電話の声。
“もしもあなたの足元に死体同然の誰かが転がっても決して契約を交わさないで”
(きっとこのことだったんだ)
(マミさんは自分に何かが起こるということがわかっていた)
(なら、私が取るべき選択肢はひとつだけ)
まどかが申し出を断ると、QBは「それは残念だね」とだけ言って消えた。
後からその話を聞いた時、ほむらはどっと冷や汗をかいた。
せっかくワルプルギスの夜を越えておいて、直後にまどかが契約してしまっては悔やんでも悔やみきれない。
「どこで何をしているのかとても気にはなるけれど、でもあいつがいないと心が休まるわね」
「え?」
「あなたが変な気を起こしても、あれがいなければどうしようもないから」
「やだなあ、ほむらちゃん。ほんとうに心配しすぎだからね?」
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