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マミ「QBかく語りき」 QB「君らしいね」
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2 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:09:17.81 ID:eDj2lchjo
まどかは夢を見ていた。
ようやくワルプルギスの夜を滅ぼすことに成功した。
マミと杏子が犠牲になった。
二人で示し合せてソウルジェムを暴発させたのだ。
それが魔女への最後の攻撃となった。
二人の死を目の当たりにしたまどかはショックで動けず、巨大な魔女の崩壊に巻き込まれそうになる。
「危ない!」
それに気づいたほむらがまどかを安全な位置まで避難させた。
「マミさん……杏子ちゃん……どうして」
崩れ落ちていく魔女を見上げながらまどかが呆然とつぶやいた。
どうしても納得がいかない。
彼女たちのグリーフシードはまだ残っていたはずだったから。
「こんなことって……」
そんなまどかのソウルジェムをほむらが取り上げ、浄化した。
「ほむらちゃん……やり直さないの?」
まどかが尋ねた。
「ええ」
「それは……私が生きているから?」
「まどか、聞いて」
ほむらがまどかの手を取って輝くソウルジェムを掌に包ませた。
3 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:10:47.04 ID:eDj2lchjo
まどかは己が魂である宝石に目を落とす。
浄化されたばかりのそれは美しいきらめきを見せているが、まどかはそれが不思議で仕方がない。
なぜ魂が浄化できるのだろう。こんなに心が混乱しているのに。
「あなただけじゃなく、あなたのご家族も生きている。
あなたが願って人間に戻した美樹さやかも。もっとひどい結末を私はたくさん見てきた」
「ひどい、結末」
「魔法少女が二人犠牲になっただけ。最善ではなかったけれど上出来だと思う」
(だけ?)
ピシリと音がした。誰にも聞こえない音、心にひびが入る音が。
(…………そう)
(ほむらちゃんが正しいのだと思う)
(でも私は)
(……たえ、られ、、ない……っ)
まともに思考ができたのはそこまで。身体が震える。
何も見えない、何も聞こえない。
壊れていく。
浄化したばかりのソウルジェムがあっという間に黒々と光るグリーフシードに変わった。
クリームヒルトが出現する。
4 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:12:35.36 ID:eDj2lchjo
そんな場面で目が覚めた。
「ええと……」
あまり寝起きはよくない方で少し頭がぼうっとする。
「……マミさんと杏子ちゃんが死んじゃって……私も、壊れちゃった……」
まどかはここ二週間程、毎晩欠かさずやけにリアルな夢の数々を見続けている。
最初の夢を見たのはほむらが転校してくる前の晩だった。
得体の知れない巨大な何かと戦う一人の少女。
夢の中の自分に話しかける猫ともウサギとも言えない謎の生き物。
もちろん今はもう「ほむらちゃん」と「QB」だったとわかっている。マミや杏子とも現実世界での邂逅を果たした。
予知夢というやつなのだろうか?
それにしてはあまりにも多くのパターンがあった。
(どうなっているのかな)
転校生、暁美ほむらのことを考えた。
初日に受けた警告について。
5 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:15:58.55 ID:eDj2lchjo
(魔法少女になってはいけない。そういうことだよね)
(多分ほむらちゃんとしっかり話をした方がいい……と思う……)
(けれどなんて?)
(毎晩ほむらちゃんが夢に出てくるんだけど、どうして? って聞いてみる?)
(……おかしいよね……)
(夢はしょせん夢だしね……)
夢の中だと仲間として、あるいは親しい友人のように接しているほむらだが現実はまったく違った。
大変近づきがたい雰囲気を放ち、いつもひとりでいる。昼休みはどこにもいないし放課後もすぐに姿を消す。
そんな彼女と初日以来まどかはほとんど話をしていない。
日々は確実に過ぎていく。
QBやマミらとの接触も増え少しずつ夢の内容に意味が通っていった。
(……私このまま何もしないでいていいのかな……?)
疑問と焦燥を募らせているうちにさやかがQBと契約を交わしてしまう。
「いやあ〜ごめんごめん! 危機一髪ってとこだったね〜」
魔法少女となったさやかによって命を救われた時、まどかは親友への深い感謝とともに激しい後悔に見舞われた。
まどかが本気になった。
6 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:20:16.59 ID:eDj2lchjo
「佐倉杏子」
「どこかで会ったか?」
またほむらの新たな一ヶ月が始まったが今回はいつもと少し勝手が違った。
佐倉杏子が見滝原に最初からいた。
半年ほど前、見滝原の急激な魔女増加を危惧して巴マミが呼び寄せたということだ。
杏子にしてみれば絶好の狩場と住み家、なにより三食が保証されるというので二つ返事だったらしい。
マミの部屋に入り浸ってゴロゴロしているようだ。
おかげで問題の多いマミの無茶企画、まどかとさやかを魔女結界内に入れて連れ回す「魔法少女体験ツアー」は一度も実行されなかった。
杏子が頭から反対したと聞いた。
「素人を連れ回すなんて正気なのか?」という正論に押されてしぶしぶマミが引いたという。
二人の代わりに杏子がマミと一緒に行動している姿をよく見かけた。
結果マミはほむらと険悪な関係になることはなかったしお菓子の魔女に殺されることもなかった。
問題はさやかだ。またしても彼女の契約を止めることができなかった。
7 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:23:04.83 ID:eDj2lchjo
さやかの件でまどかと話す機会があった。
彼女の方から話しかけてきたのだ。
魔法少女になったさやかとの共闘を願うまどかに「美樹さやかはあきらめて」と告げる。
これはいつも通りのことだったが。
「あの……ほむらちゃんは本当にそう思っているのかな?」
これまで聞いたことのない返しがきた。
「私がどう思っているのかは関係ない。
美樹さやかは助からない。
そしてあなたはQBと絶対に契約するべきではない。
もういいかしら」
ほむらとしては噛んで含めるように説明してから返事を待たずにその場を離れようとした時、まどかがほむらの制服の袖をつかんだ。
「待って!」
ほむらは無言で向き直り、まどかに正対する。強く出てくるまどかは珍しい。
それだけさやかのことを心配しているのだろう。
目を合わせるとまどかの瞳が揺らいだが視線は外されなかった。
8 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:25:27.25 ID:eDj2lchjo
「ええっと……あの、ほむらちゃんは、その……」
「?」
「なんなのかなって」
「!」
「ちょ、ちょっと待って、今のなし! そうじゃなくてあの
私に何か言っておくこととかない?」
「言いたいことはさっき全部伝えたわ。手を放してくれる?」
「あ、ご、ごめん……」
歩き去るほむらの後姿を無力感に沈みながら見送った。
(……これじゃまるで私こそが本物の電波さんだよ)
まどかは彼女の笑顔も泣き顔も見たことがあるし、やさしい気遣いを受けたことも憶えている。励まし合って一緒に戦ったこともある。何度も何度も助けてもらった。
ただしすべて夢の中でのことで、現実とのギャップに驚いてしまう。
ただ心の奥底で「夢で見ている世界も正しい」と主張する自分がいる。
(どうなっているんだろう)
(……考えなくちゃ、私に何ができるのか)
9 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:31:43.75 ID:eDj2lchjo
尊敬してやまない巴マミの説得にすら、さやかは耳を貸さなかった。
マミが「お願いだから使って」と手に取らせようとしたグリーフシードも頑として拒み、うなだれるマミを残してふらふらと街に消えた。
そしてゆっくり衰弱していった。
近日中に魔女化するだろう。
ほむらは自分でも気づかないまま小さなため息をついた。
これまで見てきた数多の時間軸においてさやかは魔女に変貌を遂げている。
そもそも彼女が叶えた他者のための願いが魂を蝕む危険をはらんでいるのであり、最初から詰んでいるとも言える。
(惜しい)
この時間軸には大きな可能性があった。
戦闘力の高いマミが生きていて険悪な人間関係もない。
だがさやかの魔女化によって杏子が消え高確率でマミも失われることになる。
この流れは何かの呪いのように固着している。
以前の時間軸で彼女らに繰り返した無駄な説得を思い出す。
またほむら一人でワルプルギスの夜と戦うことになる。
まどかはどこかの時点で契約してしまうだろう。
ワルプルギスの夜より遥かに巨大なあの魔女を見上げることになるのだろうか。
その前に苦しむまどかのソウルジェムを砕くことになるのか。
10 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:34:12.50 ID:eDj2lchjo
(もうたくさん)
ほむらは考える。ここからまどかを救える未来について。
ワルプルギスの夜はあまりにも強大だ。
ループを繰り返すうちに戦力としてマミと杏子が生き残っている状態というのが、ワルプルギスの夜越えに成功するギリギリのラインだと確信するに至っている。
だがその最低限にすらなかなか辿り着くことができない。
もしも現状からさやかの死を止める方法が見つかればどうだろう。
この先のループにおいても早い段階でのデッドエンドルート突入を避けられるようになるかもしれない。
本気で彼女の魔女化を止めようとしたことはあっただろうか。
(もちろんある)
まどかに対するほど真摯に対処しただろうか。
(……否)
さやかへの苦手意識がどこかでほむらの行動を邪魔している。
(認めたくはないけれど、私の力では無理ね)
早々に判断したほむらは難しい顔で街をうろついていた佐倉杏子を自宅へ招き入れ、単刀直入に協力を求めた。
11 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:38:40.23 ID:eDj2lchjo
「さやかのために?……あんたが?」
杏子はほむらの用意したインスタント麺を口に運びながら、胡散臭げではあったものの最後まで話を聞いてくれた。
(美樹さやかを救えなければどうせ失敗ルートになる)
そんな多少ヤケクソめいた思いもあってほむらは全てをぶちまけてみたのだった。
「だからまずあの子を助けたい」
杏子はなぜか目を輝かせて「いいよ。協力してやる」と即答した。
更に何かさやかを助ける理由めいたことを言い募ろうとしていたほむらが一瞬不安に駆られた。
(なぜ食い気味で来るの……?)
念のため聞いてみる。
「私の話は理解してもらえたのかしら?」
荒唐無稽な時間遡行のストーリーを。
「当たり前だろ?」
何がおかしいのかニッと笑う。苦笑だったかもしれない。
「魔法少女当人が魔法を信じないわけないじゃんか。
あんたは時間を繰り返した。
そしてあたしらが死んでいくのを何度も見てきたと」
「ええ」
「なるほどね。じゃあ思い出せるだけのパターンを話してもらおうか」
「それはお断り。うんざりするほど長くなるから」
「そこは面倒がらねーで話せ! 協力してやるんだからさ」
「どうして」
「情報はいくらでも欲しい。当然だろ?」
(テレパシーを使ってもいいわよね)
「なぜわざわざ余計な魔力を使うんだ?」
(早いし近い距離で使うと五感も少し通じ合える)
(なんだと?)
(やり方次第、あるいは相手次第だけど)
(へえ?)
(負担が大きいから辛いようなら遮断して)
12 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:40:18.48 ID:eDj2lchjo
それはほむらの物語。
幾たびも巻き戻される世界。
膨大な数のエピソードと感情が杏子になだれ込んできた。
渦を巻く喜怒哀楽
徒労感
無力感
焦燥
混乱
諦念
それから底なしの罪悪感
根底にあるまどかへの想い
13 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:46:49.51 ID:eDj2lchjo
不用意に感覚を晒したせいで杏子は一瞬耳元で大音響がしたような衝撃を味わったが、その後は精神の濁流を比較的あっさりと受け入れた。ほむらが拍子抜けする程だった。
(波長が合うというのもあるし、あなた意外と度量が大きいのね)
(それ、ぜったいバカにしてるよな!?)
(いいえ驚いただけ。わかるでしょう)
テレパシーで嘘をつくのは難しい。
それから「とにかく、わかった」と杏子は言った。
額にうっすらと汗をかいていた。頭を打った時のような吐き気を微かに覚えて口に手を当てた。
(さやか…………くそ)
杏子は身を削って無茶な魔女退治を続けているさやかに思いを馳せる。
初めて会った時はまどかとセットで「こいつら相当うぜえ」と嫌悪に近い気持ちを抱いた。住む世界が違い過ぎた。とにかく反感を持った。
14 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:52:32.92 ID:eDj2lchjo
魔法少女候補というが、杏子から見ればただ素質があるというだけの二人だった。
「なるかならないか迷うくらいなら最初からやめておけ」と噛みついたがマミがやんわりと杏子を制した。
「もう少しよく私たちを知ってから判断するといいわ。
一生に一度のチャンスなんだから」
「チャンスぅ? 寝ぼけてるのかマミ。あたしは反対だ。
おい、全部忘れてとっとと帰っちまえ。二度とツラ見せんなよ」
二人を睨み付けると気の強いさやかはまどかを背中にかばいつつ睨み返してきた。
そんな馴れ初めだったがマミの家でよく顔を合わせるようになると立場を越えて打ち解けるのは早かった。
口も態度も悪いという自覚はあったので疎まれるだろうと思っていたら、さやかはともかく大人しそうなまどかまでがなぜかまったく警戒心なく接してきた。
普通にニコニコと話しかけてくるし、さやかに至ってはバシンと肩をはたいたりおやつを横取りするなどの無遠慮っぷりを見せた。それを怒ると喜ぶ。
皆で一緒に街をぶらついたりマミの部屋で意味もなく一日を過ごしたりもした。
正直楽しい思いをしたし信頼関係を築けたとも思っていた。
だからこそさやかが魔法少女になったと知った時にはその願いの愚かさに逆上し、わざわざ学校帰りを捕まえて罵倒した。
仲裁しようとするまどかの努力も虚しく、かつてないほど激しい言い争いになる。
そうやって言い合ってみると考え方がどこまでも頑固で幼くてあきれた。
次いで内面のもろさと強がりが見てとれて正直なところ可哀想にも思った。
それからいきなり直感を得て背筋を寒くした。
(こいつ、長生きできない)
(魔女と戦わせてはいけない)
実力の程度を思い知らせて戦闘の恐怖を叩き込もうと人目のつかない場所まで誘った。
日没直後の高速道路に架かる大きな橋の上、そこでトラブルが起こった。
15 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:56:02.31 ID:eDj2lchjo
変身しようとしたさやかのソウルジェムをまどかが突然奪って橋から投げ落とすという暴挙に出る。
下を通りがかったトラックの荷台に乗ったさやかのそれはみるみる遠ざかっていった。
「さやかちゃん、ごめん」
やってのけたことの割に冷静なその発言の直後ごくごく小さな声がつけ加えられたのを杏子は聞いた。
お願いほむらちゃん。
ほむらの耳には届かなかったろう。
しかし杏子はほむらが血相を変えてさやかのソウルジェムを取り戻しに行く瞬間を目の端に捉えた。
直後唐突にさやかの身体が生存のための全ての機能を停止した。
ただの物質と化して動かないさやかを見て自分の心臓がドクンと嫌な感じに跳ね上がった。
現われたQBを問い詰めてソウルジェムの正体を知った時、考えるより先に手が動いてQBの身体を四散させた。
自分の魂の在りかを知ったさやかは、それから自暴自棄な戦闘を繰り返すようになる。
そのうち落ち着くだろうとこっそり様子を窺っていたが増々荒れていった。
そして狂気の沙汰とも言えるような領域にまで入っていき、杏子が内心かなり頼みにしていたマミの説得すら拒んでしまった。
そろそろ限界だろうとやきもきしつつも取れる手がなくて歯噛みしていたところだった。
だから「さやかを助けたい」というほむらの申し出は渡りに舟の思いがした。
16 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 02:58:24.65 ID:eDj2lchjo
「おまえはもうあいつを諦めているんだろ?」
「ええ。こうなるとどうやっても美樹さやかは魔女になる」
「それはおまえがどうやっても、だな」
「あなたならなんとかできると言いたいの」
「そうは言わないけど。でもそれを期待してあたしを選んだんじゃないのか」
「そうね」
食うかい? と差し出された棒菓子をほむらが遠慮すると自分で包装紙を破いて一口大きくかじった。
何か考えながらもぐもぐしている。
「ああそうだ。まどかはどこまで知っているんだ?」
「なぜ? あの子は何も知る必要はない」
「だってあいつ、ソウルジェムがあたしらの魂だって聞いても驚かなかった。
悲しんではいたけど。あんたが教えたんじゃないのか?」
「いいえ」
「まどかはどうしてソウルジェムを投げ捨てたんだろうな?」
「あなたたちのケンカを止めたかったのでしょう」
「まどかはあんたの能力を知っているのか?」
「まどかは私について何も知らない」
「そうか、ふうん。まあいいけどさ」
17 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:05:52.81 ID:eDj2lchjo
重い足を引きずって帰ってきた。
さやかはもうあまり物を考えない。常に疲れている。限界が近いのがわかる。
眠ると決まって夢を見た。
コンサートホール、演奏者たち、ふらふらとゆっくり左右に揺れる大きな鎧。
その姿は醜悪だが、どこか魅かれた。
流れ続ける音楽に自分が融けてしまいそうになる。
目が覚めている間にも旋律が耳に響いてくることが増えた。
そう、ちょうど、今まさに弦が重なり高まっていく、大好きな箇所にさしかかって………
ほとんど無意識のうちにドアノブを回して自室に入ると杏子の姿が目に飛び込んできて、心を埋め尽くしていた音楽がピタリとやんだ。
18 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:10:18.62 ID:eDj2lchjo
何日かぶりに会う魔法少女の先輩はさやかのベッドに座って所在無げに腕を組んでいる。
「おかえり。遅かったな」
さやかはただ(じゃまだな)と思った。
早くそこをどいてほしい。横になりたい。だるい。
「なんか用?」
「な? だから魔法少女なんてなるもんじゃなかったろ」
「あんたが……あたしに説教できる立場なの?」
「ああ、頼むからトゲトゲすんな」
「またケンカしにきたの? ヒマなの?」
「様子を見にきたんだ。マミも気にしてる。
最初に自分が誘ったせいだって落ちこんでる。
お人好しだからな」
「マミさんは関係ない。あの人のせいじゃない」
「そう言ってんだけど納得してくれないんだよね」
消耗しきったさやかを上から下までジロジロと眺めがら杏子が続ける。
「それにしてもさあ」
「なに」
「おまえメンタル弱すぎ。そんなになっちゃうのは絶対おかしい」
「はあ?! おかしいってどういうことなの、おかしいって!」
「って思ってたんだ。ごめんな」
今度はさやかが杏子を注視した。
「……なにそれ」
「今なら少しわかる。いやすごくわかる。必死だったんだよな」
「なに言ってるのかわかんない」
「いいからソウルジェム出しな。グリーフシード持ってきた」
「それは使わない。って、ちょっと何すんのよ」
まあまあとさやかをなだめつつ腕を引いて隣に座らせた。そして彼女の指からソウルジェムのリングを抜こうとする。
さやかは抵抗するが杏子は易々と取り上げた。
19 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:16:08.70 ID:eDj2lchjo
「そんな疲れ果ててちゃ何もしたくないだろ。いいから楽にしてなよ」
「おせっかいはやめて。あんたそんなヤツだっけ?」
「まあいいから。な?」
本来の形態に戻してみるとやはり危険なほど変色しているのがわかった。
青く澄むまでグリーフシードを使ったがすぐさまジワリと濁り始める気配がある。
(なるほどね。これは厳しい)
「ほらね? もうだめだって」
あっけらかんとさやかが言う。薄ら笑いを浮かべている。
「見て、どんどん濁っていく。自分のことだもん、わかるんだ。
もう壊れてるよソレ」
杏子は二個目のグリーフシードを取り出した。さやかが笑いを引込めた。
「やめなよ。無駄になっちゃう。もったいないよ」
「おまえはまだ壊れてない」
ほむらが見せてくれた幾つもの場面を思い出す。
怒りに任せてお互いの魔力をぶつけ合ったこと。
さやかをひどく傷つけてしまったこと。
失敗に終わった話し合い。
自分のすぐそばで魔女へと変わるさやか。
いくら呼びかけても応えない魔女。
さやかの遺体を抱いて運ぶ自分の姿。
魔女と一緒に死んだこと。
「少なくともまだ生きてるだろ」
幾分優しい声で言う。
「生きてるなんて言えないよ、こんな身体」
吐き捨てるようにさやかが言った。
20 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:19:35.07 ID:eDj2lchjo
その間にもごくゆっくりとソウルジェムは濁りを溜めこんでいく。
(魔女にだけは……あんなの絶対にイヤだ)
「こうして体温もあるし心臓だって動いてる。脳ミソもあるからいろんなことを考える。
生身の身体とどう違うんだ」
ソウルジェムを返してさやかの肩に手を回した。
「近い!」
さやかは小さく抗議するが杏子は気にしない。ちょっとやそっとでは逃げられないよう、がっちりホールドする。
心中までした仲だ。無理心中だが。
間近でさやかの横顔を見ながら続ける。
「思い通りに動かせるし腹も減るしさ」
「まがいものでしょ。だから痛みだって消せる。人間じゃないよこんなの。
ゾンビじゃん」
さやかの声に抑揚がない。
だが杏子は会話が続いていることに手応えを感じている。
21 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:21:14.15 ID:eDj2lchjo
肩を抱く手に少し力を込めた。
「さやかは、すごいな」
「は?」
「死にそうになるくらい心が傷つくなんてさ。
今までどれだけ幸せな人生だったんだ」
「……ねえ、もう帰ってくれないかな」
「いやだね。どうしてそんなに自分を大事にできないのか教えてくれよ」
(そんなのこっちが知りたいよ!)
さやかは自分の心をコントロールできない。
こうまで簡単に絶望する自分の脆さにさやか自身が驚いている。
なぜこんなに弱いのか。どうしてここまで傷つくのか。
後悔や悲嘆で自縄自縛になってどうしようもない。
“だったらあんたが戦ってよ”
“あたしと同じ立場になってみなさいよ”
まどかにまで毒を吐いてしまった。その毒が自分自身を侵食していく。
行き着くところまで行くしかないように思う。
(最低だ……あたしなんかもう……どうなったって)
22 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:25:16.30 ID:eDj2lchjo
「いいからもう帰って。あんたに八つ当たりしそうだよ」
「好きなだけ当たってくれて構わないけど?」
「ねえ、もう何も考えたくない。黙って帰って。
首根っこつかまれて放り出されたいわけ?」
「へええ〜やれるもんなら」
「笑うな!」
さやかは杏子の手を無理矢理ふりほどいて立ち上がりドアを指差した。
「今すぐ出て行って!」
「落ち着きなよ」
杏子が立ち上がってドアに向かう。
さやかはホッとしたが、杏子は魔力を使ってドアを封じてしまった。
「ちょっと何してんの?!」
久しぶりに出した大声は響かずに掠れた。
「いや、家の人が心配するだろ? 防音と念のため封印しとく」
「あんたが帰れば済む話なんだってば!」
「用が済んだら帰るさ、もちろん」
「グリーフシード使っても無駄だってわかったでしょ?」
「さやかを元気にしたいんだよ!」
いきなり直球が来てさやかは不意を突かれた。思わず素直に打ち返してしまう。
「ムリだよ……」
「なあ。ほんとはわかってんじゃないのか? このままだとどうなるか。
あたしは知ってるんだ、この先あんたがどうなってしまうか! しっかりしろよ」
杏子がじりじりと詰め寄ってくる。さやかが気圧されて後ずさった。
「………どうなんの?」
「とぼけんなよ! 薄々わかってんだろ、死んじまうんだよ。
なあ、もっと自分を大事にできないのか」
音楽、コンサートホール、鎧、剣。
(ああそうか、あたしは)
(…………魔女になるんだ)
23 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:30:26.12 ID:eDj2lchjo
「あんたには関係ないでしょ」
「いや、関係ある」
「ないじゃん!」
「あるんだ……ああ、なんだかほむらの気持ちがわかってきた。
頑固だなほんとに!」
「どうしてそこであの子が出てくるのよ」
「おまえのことをなんとかしてくれって泣きついてきたのはあいつだし」
「ウソだって丸わかりだよ」
「ちょっとウソだけど大筋ではそんなとこなの!」
「もういいよわかった。疲れてるんだからもう帰れ。何回言わせんのよ」
「埒が明かないな。おまえが自分を大事にできないって言うなら」
「……?」
「私が大事にする」
くぐもった声で言うが早いか杏子はさやかの両肩を掴んで抱き寄せた。
少し乱暴に胸がぶつかった。
「杏子?」
「ほら、ドキドキしてるのわかるだろ。まがいものだって?
これが実感できないってのか、ふざけんなよ」
「ね、ねえ杏子、さっきからなんでそんなに必死なの?」
「ふうん、QBなんかの話はまともに聞くのにさあ?
あたしの真剣な話はそうやって受け流すんだ。
それじゃいくら話してもムダみたいだから仕方ないな」
一旦距離を取ってさやかと目を合わせ、そのまま唇を合わせた。
顔を傾けながら押し付け、一瞬だけ舌先でチロリと相手の唇に触れてからゆっくり顔を離す。
「好きにさせてもらう。死ぬ気だろ? もうどうでもいいんだろ?」
24 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:39:05.41 ID:eDj2lchjo
柔らかいそれが触れ合った瞬間さやかは頭が真っ白になった。
意識がそこだけに集中して時間の感覚を引き延ばす。
ぬめりと相手の舌先が唇をなぞる生々しい感触に愕然とする。
いきなり未体験ゾーンに放り込まれてさやかはあっさりショートした。
「自分を捨てる気でいるんなら、丸ごとあたしにくれ」
身体はただ硬直している。
(どうして思い通りに動かないんだろう)
杏子に何か答えようとは思うが言葉が見つからない。
(なんて使い勝手の悪い頭と身体なんだろう)
杏子は少なくとも拒否はされなかったと解釈してわずかに開いた口にもう一度唇を合わせる。
今度は舌を入れた。さやかの身体がピクリと小さく跳ねた。
逃げられたくなくて肩を掴む手に力が入った。口腔内を遠慮なくまさぐる。
さやかが足をもつらせて腰がストンと落ちた。それを支えながら軌道を少し変えてベッドに着地させてやる。
そのまま重力にまかせて覆いかぶさり、さやかの目を覗き込む。
「そんなに怖がることないだろ」
「あ……べ、別に……その………なんか……ちょっ、近い!」
なんとか出した声がひっくり返った。
「怖がらせたくなんかないんだけどさ」
軽く触れる程度のキス。
「……やめる気はないから」
「……ば、ば、ばかなの??」
「そうかも」
お互いの息が交わる距離で会話する。
25 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:41:38.90 ID:eDj2lchjo
「あ、あのさあ? 杏子?」
「言っとくけど、大真面目だから私」
「あんた変だよ? 杏子はそんなことしない……しないでしょ? おかしいよ!」
やっと身体を動かせるようになり、ぐいぐいと杏子を押しのけようとする。
「けどさやか、あたしのこと好きじゃん?」
「は? えええっと、なんで?」
「そんくらいわかるし」
「どういう勘違いさせたんだっけ?」
「あ、自覚なし? じゃあいいや、逆でもいいや」
「だからなに言ってんのか本当にわかんない。怒るよ?!」
「あんたのことが好きなんだよ」
「杏子、どうしたのよまじで!」
「やっぱりまともに答える気はないんだな。
じゃ、もっかいしよう。ほら気分転換だと思って」
手足をジタバタさせ始めたさやかを軽くいなしつつ、なだめるような軽いボディタッチを行なった。時々すうっと胸や腰に手を滑らせる。
「ちょっt?」
反射的に身をよじるその動きに杏子は煽られた。
「ほらな、やっぱりどうでもいいなんてことないじゃん」
「な、なんのこと」
「まがいものなんかじゃないだろ」
顎を捕まえて杏子はもう一度キスをする。
26 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:44:27.84 ID:eDj2lchjo
(こ、こんなに人の話を聞かない子だったっけ?)
さやかは半ばパニックに陥りつつ考えている。何か考えていないとどうにかなってしまいそうだ。
強引なキスが続いた。
(こんな杏子は、知らない)
(杏子は)
(ぶっきらぼうで口が悪いけど優しくて楽しくて、からかい甲斐のある子で、
笑顔がかわいく、て、やさ……し、あ……………)
顎にかけられた指をどうにか外して顔をそらすと頬や目蓋、口の端などにぞっとする程やさしく唇が降ってきた。
触れられた場所から思いがけなく快感が押し寄せてくる。
頭を両手で包まれて正面を向かされ、またも唇が重ねられた。
侵入してきた舌にさんざん蹂躙されたが悔しいことに決して不快ではない。
それどころか心の奥底からもっとこうしていたいという圧倒的な願望が溢れてくるのを自覚してうろたえる。
相手の身体の重みがどうにも心地よい。
逃れようとしてもがいているはずだったのに全身がこすれ合う感覚に刺激される。
キスの合間に切なげな息を吐いているのをさやかは自分で気付いていない。
目は閉じられ両腕は杏子の背中に回されて服をギュッとつかんでいた。
そうやっていつしか相手の動きに夢中で応えていたさやかがハッと我を取り戻す。
27 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:46:13.85 ID:eDj2lchjo
「杏子、わかった!」
叫んだ。
「なにが?」
そう問う杏子の呼吸も早い。
「わかったよ、頭が冷えた! 気分転換できたできた完璧できた!
もうわかったから!!」
早口でそんなことを喚きながらジタバタと杏子の身体の下から逃げようとするが、ぜんぜん力が入らない。
「だから離れてよもう!」
このままいくと大変なことになる気がする。
「何をわかってくれたんだ? ほら楽にしてなって」
構わず杏子は行為を進めようとする。
「な、いや、無理しなくていいってば杏子。アンタそんなキャラじゃないでしょ?」
「キャラってなんだよ。無理なんかしてないけど?」
「いやいやいや、私のためにこんなことしてくれたのがわかるよ。
うん、単純だな〜私も。びっくりしすぎて頭の中がリセットされちゃったみたい。
笑ってよ、ほ、ほら、ほら見て、あははは」
28 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:48:49.90 ID:eDj2lchjo
実際、いろいろ吹っ飛んだ。きれいさっぱりと。
ソウルジェムを見せる。ひと目でわかるような濁りの進行は止まっている。
「ね。もちこたえてる」
それをチラと見やってすぐに視線を戻した杏子が言う。
「服が邪魔だから脱がしていいよな?」
「は? あれ? いやいや……杏子聞いてる? どうしちゃったの? もう大丈夫だってば。
なにその真剣な顔! ほんっとにあんたこわいよ?」
「やっぱ着たままだとまずいよな? 制服だもんな」
そう言いつつ杏子はぷちぷちと二箇所のスナップでくっついているネクタイをむしり取り、首元近くのボタンから外していこうとする。
「待って待って、なんで?」
「そうしたいからに決まってんじゃん。んなこともわかんねーのか」
「わかんないよ!!!」
そう返しつつも先程から明白になりつつある心境の大きな変化に渋々気付く。
杏子の顔を今日初めて見たような気がした。
(なにこれ……意識がすごくはっきりする)
なにかハイになる脳内物質でも出ているのだろうか。
しつこく心を苛んでいた失望も、後悔も、大きな悲しみも今はどうしても感じることができない。
(こんなに簡単に消えてしまうようなことだったの?)
(どういうことよ。自分の心が謎すぎる)
「なーこれどうやって脱がしたらいいんだ?」
手こずった挙句そう尋ねる杏子の顔をまじまじと見た。
29 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:51:06.82 ID:eDj2lchjo
「杏子はその……つまりあたしとそういう関係になりたいと」
「うん」
「なんで?」
「いいから早くしよう」
「なんで?」
「したい」
「か、簡潔に言えばいいってもんでもないでしょうに?」
「んーと、こうか?」
「こら 開くな引っ張るな破れる! めくるな!」
「だってさやかが」
「だってじゃないでしょ? 話を聞きなさいよ」
「なんだよ?」
「こんな風に強引に持って行かれるのはイヤなの!」
杏子の動きが止まった。
「一方的だったか? さやかもぜったい気持ちよかったろ?」
「あああああんたねえ」
「あたしはめちゃくちゃ気持ちよかった。だからもっとしよう?」
「無理矢理は嫌だ」
「え、ちょっとは強引だったと思うけど……」
「気持ちよきゃいいってもんじゃないの!」
「よかったてのは否定しないんだな?」
「うるさい。だから」
すうと息を吸い、吐いた。
「………杏子、あんたが先に脱ぐ」
30 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:53:32.77 ID:eDj2lchjo
さっきまで押しのけようと必死になっていた身体がいそいそと離れてベッド脇に立ち、スルスルと服を脱ぎ始めた。
さやかはのろのろと起き上がり、はだけていたブラウスを合わせ、めくれあがっていたスカートの裾をおろした。
杏子がしなやかで均整のとれた裸身を晒してこれでいいかという風にさやかを見た。
「あんた隠すとかまったくしないね?」
(ジタバタしてる自分がバカみたいだよ)
「目障りか?」
「ん、いや」
近づく杏子を「ちょっと待って」と制止する。
「自分で脱ぐから」
「手伝う」
「いいからちょっと待ってて!」
つい声が大きくなった。
さやかはもそもそと脱ぎ始めた。隣にすとんと杏子が座る。
「ねえあんまり見ないでくれる?」
「無理」
31 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 03:55:35.13 ID:eDj2lchjo
部屋の電気が消された。
暗がりの中で杏子がさやかを抱きしめる。
さやかはおずおずと抱き返したが、こんな状況になってもまだ
(どうなんのコレ?)
(なにやってんのあたし?)
などと思っている。
杏子は記憶が少々混乱していた。
やっと生きているさやかを抱きしめてやることができて嬉しくてたまらない。
「その、あのさ。念のため聞くんだけどさ」
さやかは黙っていられなくなっておしゃべりを始める。
「こういうの経験あるの?」
ちゅ、と小さな音を立ててこめかみにキスされた。
「あるわけないじゃん」
耳朶にキスされたかと思うと軽く歯が立てられた。
「んあっ………ねえ、アンタってこんなんだったっけ?……だいたい、いつから…ん」
唇にキスされた。
「なんかすごく恥ずかしいっていうか……ム……」
深く口づけられた。
32 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 04:00:05.16 ID:eDj2lchjo
なんらかの形で、必ずゆがみは出る。一方を整えればもう一方がゆがむ。
そういうバランス感覚は長い繰り返しの中で培われてきたもののひとつだ。
杏子によってさやかの魔女化が防げるとしたらツケは巴マミにくると踏み、ほむらは巴マミの動向に注意を集中する。
特に彼女とQBの接触をチェックしていた。
インキュベーターは魔法少女の不運や不幸のトリガーとしてタイミング良く的確に動いてくる。
この時期まどかはさやかへの心配で気持ちが大きく揺れており、危機に瀕した親友のために契約に及ぶことが今まで何度もあった。
本来ならなるべくまどかから目を離すべきではないのだが
「ああ、あいつは大丈夫。心配ならフォローはしておくよ。
あんたよりマシにできる」
杏子にそう言われたので任せた。妙に確信を持っているようだった。
誰がやるかが問題ではない。まどかが無事ならそれでいい。
ただ気がかりはあった。
(この世界のまどかは何かが違う)
杏子も気付いているようだったが、たぶん何かを知っているか見聞きしている可能性がある。
そのことで事態がどう動くだろう。
気にしながらも結果として放置状態にあった。
33 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 04:01:54.16 ID:eDj2lchjo
「さやかはいい匂いがする」
「……そうなの?」
自分ではよくわからない。
「ずっと嗅いでいたい感じ」
「……よくわかんないけど、こうしているのは気持ちいい……かな」
さやかが杏子の頭を抱き寄せると杏子の唇が首筋を這った。
時々強く吸われたので痕が残るかもしれない。
杏子のすべすべした背をすうっと撫でると、さっと肌が泡立った。
そのざらつきに興味深く触れた。
腰骨のほんの少し上の辺りを探ると妙に感じる部分がある。
同じことをされてわかった。
皮膚が重なるすべての部位から熱と快い刺激が伝わる。
折々に様々なキスを交わした。
しばらくそんな身体の会話に没頭した。
34 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 04:05:23.62 ID:eDj2lchjo
暗い部屋に目が慣れてきたのと距離が近いせいでお互いの表情はわかった。
多少は緊張しているのだろうか。杏子は終始真面目な顔をしていてさやかにはそれがとても好ましかった。
この状況でもし杏子がこちらを気遣うような笑顔でも見せていたら一瞬で気持ちが冷めたかもしれない。
長い髪が解かれて杏子の顔をふちどっている。初めて見た。妙に大人びて見えた。
杏子は杏子でさやかの顔に見とれている。
「なんでそんなふうに見るの?」
視線に耐えきれず目をそらしながらさやかが聞いた。
「さやかの身体も顔も大好き」
ほてった顔がますます熱くなった。
「声も」
杏子の手が中心部にあてがわれ、指がそっと割って入った。中はもう充分に潤っている。
一瞬息を詰まらせたさやかの耳に「ぜんぶ好き」という声が聞こえた。
熱のこもった声と一緒になにかが身体の中に送り込まれて強烈に感じた。ぞくぞくする。
器用な指が鋭敏な部位をぬるぬると行き来し、指の動きに伴って湿った音が聞こえる。
他人の指がこんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。
勝手に腰は動くし、それと共に自分の声とは思えないような声が出る。
「気持ちいい?」
杏子が聞いた。
さやかは答えない。わかってるくせに、と思う。
耳孔にぬるりと舌が差し込まれて背筋にぞくりときた。
悲鳴みたいな声を出してしまった。
体内に浅く潜って小さく上下していた指先が抜かれ、ふくらんだ突起に当てられた。
柔らかく押し潰し、揉みこむような動きを始める。
「あっ、ちょっ、きょ、杏子!」
跳ね上がる身体はやさしく抑え込まれてしまった。
35 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 04:09:15.98 ID:eDj2lchjo
「なに?」
「……っ、だめだよ、それ嫌だ。い、いっちゃうってば」
「いいじゃん」
「だ、だめなんだって」
「なにが?」
要するにイッてる顔や姿を見られるのが恥ずかしいのだが杏子は構わず、さやかの反応を窺いながら動きを微妙に変えて一番効果的な場所と力加減を探した。
「んっ、……あっ、杏子」
「こう?」
「う、うん、じゃなくて、だめ、お願い、ちょっと待って、って」
「イヤだ」
さやかの呼吸が早くなる。
うねるような腰の動きがたまらなくて、さやかの肩のあたりに少し強めに歯を立ててしまった。
さやかの背中がこわばり、明らかに痛みからだけではない「あっ!」という喉にからんだなまめかしい声が聞こえた。
「ううっ、……杏子、お願い」
「なに?」
「もういきそう……見ないで、お願い」
さやかが杏子にしがみつく。
「さやか、かわいい」
「あっ、あっ、、あ……!」
ほどなく杏子の執拗な愛撫によってさやかが達した。
快感に身悶えるさやかの声を杏子はうっとりと聞いた。
「っ…………ん、んっ…………」
足指の先まで行き渡る絶頂感は長く続いた。
それからじんわりと身体の緊張がほぐれていき、やがて心拍と呼吸が徐々に元に戻る。
疲労を溜めこんでいたさやかはここで急激な睡魔に襲われ、逆らうことができずに眠りに落ちた。
杏子は上体を起こしてさやかを楽な姿勢に整えてやった。
さやかのソウルジェムを確認する。穢れの進行は止まっている。
杏子は安心して大きく息をつき寝入ったさやかの汗ばんだ首筋に鼻をうずめた。
(さやか)
返事はないがこうして生身のさやかと過ごすことができて満足だ。
36 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 23:43:44.27 ID:eDj2lchjo
「やあ、まどか」
「QB」
「少しいいかい? 君と話をしに来たんだ」
「少しなら……」
「ありがとう。まあ、またいつものお願いなんだけどね」
「私、魔法少女にはならない方がいいと思うんだ」
「さやかを助けないのかな」
「私ならさやかちゃんを人間に戻してあげられる……」
「それくらい造作もないことだよ」
(それくらい、かあ)
「ねえ、奇跡ってQBが叶えてくれるの?」
「僕の、というか僕たちの力だね。そういう仕組みになっている」
「仕組み?」
「魔法少女になってくれたら教えてあげるよ。
それより、そろそろさやかが危ないようなんだ。彼女を助ける気はないのかい?」
「QB」
「なんだい?」
「もっとよく考えてみたいかな」
「うーん誰かに入れ知恵をされたのかな? ほむらかい?」
「………」
「まあいい」
会話を終えるとQBはいつものように愛想よく挨拶をして部屋から消えた。
まどかはベッドに倒れ込んで目をつぶる。
(杏子ちゃんならきっとさやかちゃんを助けてくれる)
37 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 23:45:18.12 ID:eDj2lchjo
久しぶりに熟睡した。
眠りの深さのあまり目覚めた一瞬は自分が何者かもわからなかった。
「わあっ」
すぐあれこれ思い出してさやかは勢いよく裸の上半身を起こした。
(! 身体が軽い)
「よ、おはよ」
当たり前のように杏子が隣にいた。
「って、あ、あんたずっとここにいたの?」
視線を感じたので掛布団を引き上げて上半身を隠す。
「いたよ。気分は?」
「……うん、よくわかんない」
杏子の顔を直視できない。
「もう起きるね。学校に行かなきゃ。けっこう休んじゃってる。
まどかも心配してるだろうし」
「まだ暗いよ? 早起きなんだな」
「ゆっくりシャワー浴びたいし、心の準備もしたいし」
「その前にちょっとだけ昨日の続きしよう?」
「冗談でしょ?」
「冗談なんか言わない、こんな時に」
そっと抱き寄せられた。
「杏子?」
「すごくよく寝てた」
「そう?」
「うん」
38 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 23:48:54.47 ID:eDj2lchjo
耳の側でぼそぼそと話しかけられているので非常にくすぐったい。
「早く起きないかなって思ってたんだ」
「そっかそっか、さみしかったか」
そんな軽口は相手にされず、今しがた身体を覆ったばかりの布団が剥がされて胸から太腿の上部まであらわになった。
とっさに腕を上げて身体を隠そうとする仕草に杏子が反応した。
「隠すことないじゃん、今さら」
手首をつかまれる。
「ええっと……あんまり見られるのはちょっと嫌かな」
「慣れて」
言いながら身をかがめて乳房に吸い付いた。
舌で乳首を起こされ転されて快感に耐えていたら、いきなり歯が立てられた。
適度な痛みが下半身への強い刺激へと変わり、自分の中が一段と湿り気を帯びたのがわかった。
「今の声すごくかわいかった」
(声なんて立てたっけ?)
気付かなかった。
「もっと聞きたい」
ベッドに押し戻され、自然に迎え入れる姿勢になった。
(…………まあ、いいかな……時間もあるし……)
ここで流されたのがいけなかった、とさやかは後で反省することになる。
「さやか、いい匂い」
「そればっかり」
39 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 23:50:45.95 ID:eDj2lchjo
教室でまどかが仁美と昼休みを過ごしているとQBを介したテレパシーでマミが話しかけてきた。
(美樹さんは今日もお休み?)
(はい)
(QBは何も知らないの?)
(僕は何も聞いてないよ)
(そう。佐倉さんも帰ってきていないの。
美樹さんを探して話をするって出て行ったきり)
(杏子ちゃんなら昨日私のところへ来てくれて少しお話ししました。
さやかちゃんの家に行くって言ってましたけど……)
(そう? 二人が一緒にいるなら心配いらないわね。
あの子はあんなだけど、頼りになるから)
(はい)
(そういえばQB)
(なんだいマミ)
(この間、美樹さんのソウルジェムを見たの。
彼女、穢れを溜めるばかりでまったく浄化しようとしないのよ)
(そのようだね)
(ソウルジェムが穢れを限界まで溜めてしまうとどうなるのかしら?)
(元に戻らなくなる。使い物にならなくなるよ)
(まあ大変)
(そのとおり。君たち魔法少女にとってはとても大変なことだよ)
40 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 23:52:23.54 ID:eDj2lchjo
「……ぁれっ?……私また寝てしまってた??」
「あー………ふたりとも寝ちゃったんだな。まだ学校行くつもりなのか?」
あくび交じりに杏子が聞いた。
「……昼過ぎから登校できるわけがないでしょうよ……」
「じゃあもういいじゃん、ゆっくりしよ?」
うつ伏せの背中に杏子が上半身をかぶせた。
「いい加減にしなさいよ」
うなじに唇が当てられ片手が胸の下に潜り込む。
これだけで芯にじわっとくる感覚があった。
(なんか、どんどん感じやすくなってる気が……)
もぞもぞと相手の腕の中で身体を反転させて向き合うと顔を合わせた杏子がニカっと笑い、軽く体重をかけてきた。
その背中をなでてやる。
「杏子はほっそいなー」
「さやかは……めちゃくちゃ気持ちいいカラダしてる」
「そう? そりゃよかった」
ぎゅうっと抱きしめられた。
「すっごい、いい」
「わ、わかったから」
ちょっと苦しくて気持ちがいい。
41 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 23:54:48.79 ID:eDj2lchjo
「ほむらちゃん、ちょっといい?」
下校時、教室を出ようとするほむらにまどかが声をかけた。
「急いでいるのだけれど」
相変わらず木で鼻を括ったような答えが返ってくるが、めげることなくほむらとコンタクトを取ろうという試みを続けている。
そっけない態度にもだいぶ慣れてきた。
「そうなんだ……あの、ぜんぜん時間ない?」
こうして多少食い下がることはできるようになった。
「ごめんなさい」
「ちょっとだけでも?」
「……」
「わかった。じゃあまた明日ね」
引き際が肝心、あまり深追いはしない。
(あせらない。少しずつ少しずつ)
自分が野良猫と仲良くなろうとする時の心得だったが対猫用規範に則って行動している自覚はない。
今日はここまでかなと踵を返した背中に声がかけられた。
「ちょっと待って」
あわてて振り向く。
42 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/20(火) 23:57:52.66 ID:eDj2lchjo
「あっ、なに?」
「魔法少女に関わる話?」
「うん」
大きく頷くまどかを見てほむらが少し怪訝そうにした。
この時間軸においては二人の間にほどんど親交は無い。少なくとも相談事を気軽に話せる相手ではない。
魔法少女絡みの話をしたいのであればマミも杏子もいて二人の方がほむらよりよっぽど親しい。
これほど頻繁にほむらに話しかけてくるのには何か切実な理由があるのかもしれない。
だが。
「ごめんなさい。今はどうしても時間が取れないの」
「わかったよほむらちゃん。
あ、今日マミさんがQBにソウルジェムのことを聞いていたよ」
それは危険だ。
「巴さんが?」
「ソウルジェムが限界を迎えたらどうなるのかって」
「QBはなんて答えたの?」
「良くない、元に戻らなくなるって」
「そう。ありがとう」
ほむらは急ぎ足で教室を出て学校帰りに単独で街を巡回するマミを追う。
43 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:00:02.32 ID:JptNLkfbo
「日が暮れちゃった……」
さやかが長いため息をついた。
結局一日のほとんどをベッドで過ごしてしまった。
「だな。腹減ったな」
「自分が信じられない……こんだけグタグタできるとは……」
「たまにはいいじゃん」
「何時? ありゃ、もうすぐお母さん帰ってくる」
「……じゃあそろそろ退散するか」
「うちのごはん食べていきなよ」
「えっ! いいのか?」
「もちろん」
44 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:03:34.93 ID:JptNLkfbo
マミは夕刻から夜半にかけて街で行動し、特に成果もなく部屋に戻った。
ソウルジェムの穢れについて考えていた。
その才能と実力のおかげで今までまったく気にすることなく過ごしてこれた。
ソウルジェムについてはただ単にそうしなければならないものとして淡々と浄化し、それを習慣にしてきた。
(魔力を消耗し尽くすとどうなるか)
魔力の源だと説明されていたそれが実は自分たちの身体から分離された魂そのものだという。
(ソウルジェムが濁りきるとどうなるか)
少し考えてみるとどうしても認めたくない単純な一つの答えに思い至る。
(魔女がどうやって生まれるのか)
なぜ今まで気付かなかったのか。
ソウルジェムとグリーフシード。
仲良くひっくり返る頭文字。
「QB。そうなの?」
QBから全てを聞いたマミはしばらくぼんやりとしていた。
力を持たない魔法少女の大半が一体の魔女すら倒すことなく殺されたりあるいはあっさりとソウルジェムを濁りきらせているという事
実をマミは知る。
そうして魔女になった魔法少女を数限りなく狩ってきた。
「なら、こうするしか……」
つぶやいて変身しソウルジェムを無造作に放り投げたかと思うとそれに向けて発砲した。
45 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:06:50.63 ID:JptNLkfbo
ほむらが部屋に入ってきた。
時間停止空間内、放たれた銃弾は目標のすぐ手前にあった。
魔力の発動を察知してすぐアクションを起こしたが、マミの変身から攻撃までのスピードが恐ろしいほどに早いために危うく間に合わないところだった。
(この人は思い切りが良すぎる。危なかった)
ソウルジェムを取り上げてその場を離れる。
能力を使いながら百メートルあまりを一気に逃げ切りひとまずマミの自殺は阻止できた。
「マミを返してくれないか」
すぐにQBがやってきた。
「君は何を企んでいるんだい?」
「企んでいるのはあなたでしょう。話すことは何もない。消えて」
「やれやれ。何も教えてもらえないのかい?」
その姿は腹立たしいほど悠々と闇にまぎれた。
急いでマミのマンションに取って返す。
血流が途絶えて五分もすると脳の神経細胞が壊れ始め、治癒が大掛かりになる。
マミの心拍と呼吸を魔力でスタートさせ、寝室まで運んでベッドに横たえた。
杏子と二人がかりでマミの説得を行なう心積もりだったが昨晩から杏子が帰ってこない。
もうすぐ日付が変わろうとしている。
46 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:09:17.53 ID:JptNLkfbo
「杏子、いつ帰るの?」
「さやかが眠ったら帰るつもり」
「一日中ダラダラしてたからあまり眠くないよ」
「じゃあもっかいしてもいいよな?」
「なんで聞くの?」
「一応」
「断ったらどうすんの?」
「困るけど、イヤならしないよ」
「ふうん、そう。じゃあ一切何もしないで」
「え? 怒った? 怒ってるよな? なんで?」
「さーね」
「なんであたしの手首縛ってんの?」
「何もできないようにでしょ」
「この目隠しも必要なのか?」
「うん」
「何をどうしたらいいんだ?」
「何もしないで」
「わけがわからないよ」
「モノマネやめて」
仰向けに倒され、縛られた両手は頭の上に押し上げられた。
47 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:11:08.47 ID:JptNLkfbo
「ふうん、さやかってこういう趣味もあんの?」
「口も塞いどかなきゃダメだったかなあ」
「え?」
「余計なことは言わないでってこと」
「んーーーー!!!!」
キスされつつ鼻をつままれた。
「ぷはああっ! 死ぬだろ!」
「うん、いいや。塞いじゃったら杏子のいい時の声聞けないもんね。さてと」
「は……………!?………うわわわわ!!!!」
「気持ちいい?」
「う……うぅ、ど、どうやってんの?」
「こんな感じ?」
「ちょ、うわっ……、あ、さ、さやか」
「なに?」
「見たい! 今すごい見たい!!」
さやかは動きを止めない。
「だ、め」
「せめて触らせて!」
「あとでね……杏子は身体がやわらかいね、っと」
「さy????あr?g!!」
「うん、かわいいじゃん杏子」
夜は更けていった。
48 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:20:22.69 ID:JptNLkfbo
朝の登校時間、まどかと仁美はいつもの通学路上にさやかの姿を見つけた。
向こうも二人に気付いて照れくさそうな笑みを浮かべながら小さく手を振っている。
仁美は涙ぐみまどかは泣きながら走って行って抱きついた。
「さやかちゃんっ!」
「ごめん、ほんとにごめんね、まどか」
万感の思いを込めて受け止め、ギュッと力いっぱい抱き返す。
「あたしがバカだった、ほんっとうにごめん!」
「さやかちゃん、さやかちゃん、ううううっ!」
「ねえまどか、あたしを力いっぱいひっぱたいてくれない?」
「ぜったいにイヤだよう!」
「あーこのちっこさと肉づきがたまりません。
抱き心地はまどかが一番だよ」
そう言って抱きしめたまま指を立てたのでまどかは「くすぐったいからやめてよ、さやかちゃん!」と笑いながら抗議した。
(……ん?)
泣き笑いのまどか越しにほむらを見つけた。かなり遠いが目が合った。
(尾行してんの?)
呼びかけは無視された。
「さやかさん、どうかされました?」
まどかのすぐ隣で二人のいちゃつきぶりを邪魔しないよう空気になっていた仁美が不思議そうに聞いた。
「あ〜おはよ、仁美……えっと」
恭介のことも何もかも、もう気にしなくていいと後で伝えよう。
49 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:29:12.61 ID:JptNLkfbo
「お身体の具合はもうすっかりよろしいのですか?」
「ありがと、もう大丈夫だから。
……その、いろいろ心配をかけまして。ごめん」
「いえ、そんな、わ、私の方こそ」
「さやかちゃん……よかった、ほんと元気そうだよ」
ニコニコとまどかがその顔をのぞきこんだ。
「っていうか、すごく楽しいことがあったみたいな顏してるよ?」
「えっ。あっ、いや。ええ? ほんと? そう見えるの?」
「見えるよ。何があったか聞いていい?」
「うーん? なんだろう?」
「変なさやかちゃん!」
(よく助かったわね)
ほむらが話しかけてきた。二人の魔法少女は黙って会話を始めた。
(どうも。なんか用があるんでしょ。何?)
(巴マミのソウルジェムを私が預かっている)
(どういうこと?)
(自分のソウルジェムを砕こうとしたから)
(マミさんが?! なぜ?)
(知ってしまったから。あなたも直前まで行ったのだからわかるでしょう?
魔法少女がどうなるのか気付いているのよね?)
(……魔女になるんでしょ。どうして最初に教えてくれないのよ)
(あなたは私の話を聞かなかった)
(じゃなくてQBが。なんで教えないのアイツ)
(さあ。契約する子がいなくなるからじゃないかしら)
(で、それを知ってたアンタもそれを黙ってた)
(話してもあなたは私の話を信じなかった)
少し考えて(うん、たぶん信じなかった)と認めた。
どんな話を聞いたとしても自分がやりたいようにやっただろう。
(よく引き返して来れたわね。私は諦めていた)
(……強引に連れ戻してもらったかな)
(どうやって)
50 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:32:52.05 ID:JptNLkfbo
言えない。
(……マミのことでQBが何かあなたの不安を煽るようなことを
言ってくるかもしれない。相手にしないで)
(それは大丈夫。あの白いのにはだいぶ耐性がついてきたから)
(ならいいけれど)
ほむらは続けた。
(それから今朝、杏子に会った時)
「な、なに急に」
思わず声に出してしまい、隣で話していたまどかと仁美が驚いてさやかの顔を見た。
「あ、ごめん、ちょっと思い出して。なんでもないよ!」
手をぱたぱたさせながら笑って誤魔化す様子を見てまどかは察したらしく、そっと周りを窺った。
(見たことがないくらい幸せそうな顔であなたがもう大丈夫だと教えてくれた)
(……そう)
(拾ってもらった命、大事にしなさい)
(あんたって普段喋んないくせに口を開くと一言多いよね)
ほむらの気配が消えた。
「だれ?」
小声でまどかが聞き、ボソっとさやかが答えた。
「ほむら」
きょろきょろとその姿を探し始めたまどかに「もう行っちゃった」と告げる。
「そっか」
(さやかちゃんが生き残ってくれた……ということは
ほむらちゃんが一人で戦う可能性はかなり少なくなったって、ことかな)
「えへへへへ」
まどかが嬉しそうにさやかの腕に絡みついた。
「わははっ、なぁに〜?」
「あら、まどかさん。今朝はずいぶん甘えん坊さんですのね」
「だって嬉しくて」
51 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:41:03.47 ID:JptNLkfbo
結局朝になるまでさやかの部屋にいた杏子がマミのマンションまで戻ってみると、どことなく憔悴した感のあるほむらが待っていた。
寝室ではマミが魔力で生命を維持されて眠っている。
「……遅かったわね……」
「帰るタイミングを逃しちまって……って、どういう状況なんだこれ?
なんであんたがいんの?」
ほむらが事の次第を話す。
「ふーん……ああうん……マミらしいや。で、どうすんだ?」
「この人には生きていてほしい。説得する」
「あんたが?」
「いえ、あなたが。私は何があってもいいように側で待機」
「……気の動転したマミはちょっと(どころじゃなく)苦手なんだけど……
まあいいか。じゃ、さっそく始めようぜ。マミのそれくれ」
ソウルジェムをよこせと手を差し出す。
「その前に美樹さやかはどうなったの?」
「ああ、さやかはもう大丈夫だ」
杏子がその時見せた全開の笑顔にほむらはかなり驚かされた。
「……本当に?」
「ウソついてどうすんだ」
ほむらは何か考えていたが「少し待っていて。マミをお願い」
そう言い捨てて部屋を出て行った。
(なんだ、あいつ)
52 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 00:50:26.53 ID:JptNLkfbo
夜を徹してほむらが施していたマミのケアを杏子が引継ぎ、ほむらが戻ってくるのを待った。
使うのは僅かな魔力だが慣れていないこともあって持続に神経を使う。ほむらがくたびれていた理由がわかった。
当人は顔色も良く眠っているようにしか見えない。
(けど確実に死んでるんだよな)
さやかには見せたくない光景だ、と思った。
やっぱりゾンビだとか何とか言ってまた落ち込むかもしれない。
(あたしらってほんとに魔力で生きているんだな。
だからなんにもしない時も濁っていくのかソウルジェムは)
(魔女になるか、殺されるか、自分で死ぬか、か)
(……まあ、まともではないけど)
(でもマミのやつ……自殺を考えるなんてやっぱ、わからないな)
(そういや、あたしだって何度も自分から死んでるんだっけ?)
(どうせならグリーフシードになってやってもいいかもな。
残ったやつのためになるし……ん? でも何人も殺しちまうかもしんないのか)
(それはいやかな)
そんなことを考えているうちにほむらが戻ってきた。
「早っ! メシ食ったり寝たりしてくりゃいいのに。徹夜したんだろ?」
「今まであんな風になったさやかは必ず魔女化していた。
どうしても自分の目でどんな状態なのか確認しておきたくて」
「わざわざご苦労なこった」
「まだ信じられない。あの頑迷な子をどう説得したのかぜひ教えてほしいわね」
「参考にはならないよ。あんたと違ってあたしらには次回なんてないんだ。
キッチリ終わらせろよな」
「誰よりもそうしたいと思っているのだけれど」
「うん。さ、始めようぜ」
53 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:01:34.74 ID:JptNLkfbo
「変身しないの?」
問われて一瞬、胸元の赤いソウルジェムを打ち抜かれる悪夢の様な光景を思い出して身震いする。
(初動がめちゃくちゃ早いんだよなぁ……)
「しない。もしマミが攻撃してきたらあんたがなんとかしてくれ。
ていうか、それに専念してくれ」
ソウルジェムを掌に触れさせるとマミはすぐ意識を取り戻し、それを握る手に力がこもった。
マミは情況を大体察して身体を起こし、無表情にほむらと杏子を見た。
「そう……やり損ねたのね」
杏子は緊張を隠したおだやかな声で話しかける。
「マミ。自分で無理矢理幕引きってのはないんじゃないのか」
「あなたも体験してみる? いろいろと実感できるわよ」
相手が予想に反してかなり落ち着いているので杏子は心底ほっとした。
「遠慮しとくよ」
「無理におすすめはしないわ」
返却されたソウルジェムを目の高さに掲げて眺める。
「まったく。まさに消耗品なのね」
「マミ?」
「大丈夫、もう自分で終わらせようとはしないわ。
少し衝動的すぎたと思っているの」
「聞き分けがよすぎてなんか気味が悪いんだけど」
「ずいぶんな言い方じゃない? 正直、見事に失敗したから
もう一度試す気にはなれないわね」
「いい知らせもある。さやかのソウルジェムは浄化できたよ」
「ほんとうに??」
マミの肩から力が抜けて、顔付きが一瞬で明るくなった。
「………よかった、ほんとうに」
「まったくだよ。早まらなくてよかったろ」
「ごめんなさい。あなたも、暁美さん」
黙っていたほむらをマミが見た。
「どうしてあなたが私の命を救おうとしてくれたの?
他人に干渉しない質だと思っていたから意外だわ」
「あなたに知っておいてほしいことがあるの」
マミは無言で先をうながす。
「もうすぐワルプルギスの夜がくる。一緒に戦ってほしい」
54 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:04:58.02 ID:JptNLkfbo
(マミさんは大丈夫かなあ)
さやかは自室の机の上にソウルジェムを置いてしげしげと眺めた。
青い輝きを保っている。
(不思議だな)
一番酷い時には何もしていなくても濁っていき、更に絶望を深めていたのだったが。
時々頭の中を占拠していた音楽も一切聞こえなくなり、主旋律もきれいに忘れてしまった。どうしても思い出せない。
それにしても今一つ納得がいかない。
絶望というものはただ誰かとああして身体を重ねるだけで消えてしまうものなのだろうか。
納得いかないのはQBも同じらしい。
「あれほどのスピードで心身を消耗させていたのに君は急に自分を取り戻した。
あまり前例がない。何があったのか参考までに教えてくれないか?」
「何も話したくない」
「そうか。じゃあほむらがマミとトラブルを起こしたことを知っているかな?」
「詳しくは知らないけど聞いてるよ」
「マミの様子は?」
「直接マミさんに聞けばいいんじゃないの?」
「ほむらが一緒にいてね。手立てがないわけじゃないんだが」
「ふうん? 悪いけどあたしもよく知らないから」
「なんだ君も蚊帳の外なのか……おっと杏子が来た。
彼女にもすっかり嫌われてしまってね、気まぐれに個体を減らされてしまうんだ。
無駄なことだよって何度も教えているんだけどね」
55 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:09:36.40 ID:JptNLkfbo
QBはヒョイとどこかへ消えた。
まどかの所へ行くのだろうか。
魔女化についてはありのままを教えて絶対に契約しないように念を押してある。
その時のまどかの反応は不思議だった。
あまり戸惑ったり驚いたりせずにただ「ああ、そうなんだね」と深く頷いたのだ。
そして不意にさやかに抱きついてきた。
「さやかちゃん、本当によかった!」
「まどか?」
「さやかちゃんがどこかに行ってしまいそうで本当にこわかった」。
「……うん、ごめん」
「もう一人で抱え込まないでね?」
「心配かけちゃったんだなあ、あたし。ほんとごめんね」
「うううん、私もね、もうちょっとがんばってみるね」
「へ? なにを?」
答えてくれなかったなあ、などと思い返していると杏子からコンタクトがあった。
(さやか)
(うん、部屋にいるよ)
(遅くなっちゃった。これでも早くさやかに会いたくてすっ飛んできたんだ)
くすぐったいような、恥ずかしいような気がする。
「いいから、さっさと入ってくれば」
カチリと音がして施錠していた部屋の窓が開き、するりと魔法少女姿の杏子が入ってきた。
56 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:23:08.46 ID:JptNLkfbo
「へへ、やっと会えた」
「マミさんは大丈夫なの?」
「大丈夫。マミと二人でほむらの家に行ってさ、いろいろ打ち合わせしてきた。
あ、おまえも知っとかなきゃいけないことだから後で地図のコピーもらっとこう」
「なんのこと?」
「もうすぐワルプルギスの夜が来る」
「ん? なにが来るって?」
杏子はこれから見滝原を訪れる規格外の魔女とほむらの事情についてある程度の説明をした。
ほむらにされたようなテレパシーを使って記憶を移しこむテクニックは使わなかった。
マミに対してもほむらはそれを行なわなかった。
彼女らにとっては余分な情報が多すぎて精神的な負担が大きいのと、何よりほむらにしてみると真情の吐露そのものであるためどうしても相手を選ぶ。
話を聞いたさやかがきまりの悪そうな顔をした。
「どうした?」
「や……ほむらには悪いことしたのかな?」
「悪いことって?」
「そんな子だったなんて知らなかった。知ってたらもうちょっとさあ……
こっちも取る態度ってもんがあったのに、って思ったんだ」
「……ほむらがあんな風なんだから、どうにもならなかったんじゃないか?」
「けどそんなの知っちゃったからには私、まどかに全部しゃべるよ。
魔女化して地球を滅ぼすなんてあの子が知ったら何が何でも絶っ対に契約しないよ」
「いいんじゃないの? 話してやれば?」
「じゃ今から電話して」
「あ、ちょい待て。それは明日にしてもう少し聞いてくれ」
ワルプルギスの夜出現まであまり時間がないこと。
とにかくグリーフシードを集めておく必要があること。
57 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:29:04.63 ID:JptNLkfbo
「収集は私とマミ、ほむらでやる。
さやかはなるべく魔力を消費しないでいてほしいんだ」
「当日までなにもするなってこと? そんなにあたしって役に立たない?
何体かやっつけてるよ?」
「身体能力そのものは高い方だし破壊力も文句ないレベルだけど
なんせ経験が足りない。
あたしらとの連携は難しいし、遊撃に回るのはもっと無理だ。
サポートを専門にやってもらうつもりなんだ」
「うーん。役立たずってそこまではっきり言われると全力で反発したくなるなー」
「役立たずなんて言ったか? おまえの力は貴重なんだ。
治癒得意なやつ、おまえしかいないんだから」
(それに……)
偶然の積み重なりにより、全員でワルプルギス戦に挑めたこともあるにはあった。
その場合近接攻撃のさやかから消えていく。
一人欠けると早い。続いて杏子、マミと続く。
「今度の戦いでは何を置いてもまず、誰も死なないようにしたいんだ」
「ねえ、そんなにヤバいやつなの?」
「今までのとはまったく比べもんにならないな」
「そんなに?」
「けど四人がかりなんだ。なんとかなるさ」
「なってもらわなきゃ困るよね」
58 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:38:09.39 ID:JptNLkfbo
さやかがふと尋ねた。
「あのさ、今まで魔法少女として生き延びた子っていなかったのかな」
「いきなりなんだ。マミより長く続けているやつは知らないな、今のところ」
「絶望さえしなきゃ長生きできるかな? なんて思うんだけど、どう?」
「どう? 実際に危なかったおまえがそれを言う?
それがどんなに難しいか思い知っただろ?」
「結構悲観的なんだね、意外〜」
「現実的なの!」
「ほむらはほんと、よく絶望しないなー。
ワルプルに何回も負けてループしてんだよね?」
「まどかを救う方法があるうちは絶望なんかしてられないだろ。
おかげで事前にワルプルギスの情報を得られたし、こうしてちっとは対策も立てられる」
「ああ、物は考え様だね」
それからしばらく真面目なのやそうでもないやりとりを続けた後、杏子は入ってきた窓から飛び出して行った。
手を振って見送った後つい「あれ?さみしいぞ?」とつぶやいてしまう。
(じゃあ明日の朝この埋め合わせするから)
思いがけなく返事があって、ドキッとした。
(独り言に返事するのはやめろ!)
笑い声が聞こえた気がした。
そして一夜明けて、さやかは自分の隣でスヤスヤと寝息を立てている杏子を発見して飛び起きた。
(埋め合わせってまさかこれですか杏子さん!?)
夜通し活動したのであろう杏子は前後不覚の眠りの中にいる。
(ま、びっくりはさせてもらったよ)
横顔にかかった髪をそっとよけて頬を軽く突いてみる。
(うん。嬉しい気持ちもあるよ)
見ているうちに何かいたずらがしたくなり、とりあえず長い髪をゆるいツインテールに仕上げてみた。
(おー、杏子じゃないみたい。まるで普通の女の子に見える)
59 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:40:00.62 ID:JptNLkfbo
杏子の姿を見たマミが珍しくお腹を抱えて笑っている。
「これ、そんなにおかしいか?」
「ち、違うの、似合っていてとてもいいの、でも」
笑いの発作で息が苦しい。
「そうじゃなくて、あ、あなたが、好き勝手にそんなことをされているあなたがおかしくて」
「そういうもんか?」
ひとしきり笑い転げてから、マミはやっと顔を上げた。
「あーあ、笑わせてもらったわ。美樹さんと仲がいいのね」
「いいよ」
にこやかに答えた。
「ねえ。なんだかいい感じになってるわよ佐倉さん」
笑い過ぎで滲んだ涙を指先で拭いて、改めて杏子を見つめる。
「どう言ったらいいのかわからないけど、時々まるで人が違うわよ? いい意味で」
「マミは腹をくくったってツラしてる」
「そう?」
「なにか吹っ切ったろ?」
「どうかしらね」
「そういうとこ話さないよな」
「聞いたらドン引くかなと思って話せないの」
「まじで?」
「冗談よ」
60 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:42:35.59 ID:JptNLkfbo
そんな他愛のないやり取りをしていると、ほむらが玄関のドアを開けて部屋に上がってきた。
「いらっしゃい暁美さん」
「おまえはコレに反応がねーな」
杏子が両手でツインテールをパタパタしてみせた。
「?……違和感があるけど似合うと思う」
「ふつうだなー」
てきぱきと元の髪型に戻しながら部屋の時計を見た。
この三人はグリーフシード収集のため完全に昼夜を逆転させている。
「さてと。さやかは納得したぜ。あいつは完全に回復役に徹してくれる」
「助かるわ。標的近くを素人にうろつかれると本当に困るから」
「攻撃力だけならけっこう高いぞ」
「ええ。そして最前線で磨り減って、真っ先に死んでいく」
「ふん。死なせやしないけどな」
「あなたも気を付けて。ワルプルギスの夜を前にして
誰かをかばう余裕なんて持てないわ」
「わかってるよ!」
「戦闘が始まったら鹿目さんの契約は誰も止められないわね」
杏子の短気を目で諌めながらマミが口を挟んだ。
「まどかは契約しないよ。最終的にどうなるか知ったからな」
QBが部屋の隅からやってきた。
「興味深い話し合いをしているね」
61 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:45:14.77 ID:JptNLkfbo
「マミ。こいつ部屋に入れないように頼んだろ」
「せっかくだからいろいろ聞いておきましょう。
QBは少なくともウソはつかないわ」
「ウソつかなくても事実を隠すだろ。たちが悪いぜ」
「QB、ワルプルギスの夜という魔女はなぜそれほどまでに強いの?」
マミが尋ねる。
「あれはいくつもの魔女の集合体だ」
「じゃあグリーフシードもザクザク落としてくれるのか??」
「どうだろう。あれを倒した魔法少女はいないから確かなことは言えない」
「一応聞くとくけど弱点なんてのはねーんだな?」
「あの魔女についてわかっていることは少ないよ」
そこでふと言葉を切った。
「ただ、君たちは群れるのが好きだろう。魔女も同じなんじゃないのかい?」
「ああ? なんか不愉快だな。テメーやっぱ消えろ」
「気に障るようなことを言ったかな。君たちはやはりよくわからないね」
杏子がソウルジェムから出現させた攻撃的な形状のエネルギー体を見て素早くQBは消えた。
「あら。もっと聞きたいことがあったのに」
「のらりくらり話をかわされるだけよ」とほむら。
「聞き方にもよるのよ?」
その時玄関のドアがノックされ、返事をする前に開かれた。
「マミさんお邪魔しまーす! まどか連れてきましたー」
62 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:49:27.51 ID:JptNLkfbo
声と同時にさやかが三人のいる部屋に姿を見せ、その後ろからひょっこりまどかが顔をのぞかせて会釈をした。
学校からそのままやって来たらしく、二人とも制服姿で通学かばんを下げている。
「おじゃまします」
完全に想定外だったまどかの出現に虚をつかれたほむらがさっと杏子に視線を移した。
「ああ、あたしが呼んだ。話したいことがあるって、あんたに」
「私に?」
マミは新たな客をもてなすために台所へ立つ。
「話って何かしら」
さやかと隣あってテーブルにつくまどかを見ながらほむらが尋ねた。
「ほむらちゃんなかなかつかまらないし、みんながいる所だったら
ちゃんと会話してくれるかなって」
「ちゃんと会話? ほむらは普段まどかにどんな態度なんだ」
まどかの天然かつシビアな発言に杏子が思わず突っ込みを入れた。
さやかが応える。
「ん、誰に対してもこんなんだよ。
ただ、まどかのことは距離を取りつつ目で追ってる感じ?」
「ストーカー一歩手前みたいな状態だな」
「事情を知っても共感し辛いっちゅうか
やり方をもうちょっと考えてほしいところですなあ」
「暁美さんも試行錯誤の末にそうしているわけだから」
マミがニコニコと口を挟み、新客二人に香り高い紅茶を配った。
「「ありがとうございます」」
二人は揃って頭を下げた。
63 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:51:29.03 ID:JptNLkfbo
「用件をどうぞ」
落ち着かない心地で再びほむらが催促する。
「じゃあ、ええとね。ほむらちゃんはどうして
大事なことを私に直接話してくれないのかなって」
「どういうことかしら?」
「ほむらちゃんが私のために時間を繰り返してるって
さやかちゃんから聞いたよ。どうしてそれを私に直接話してくれなかったの?
話したくない理由があったりするの?」
「知り合ったばかりの私がどうこう言っても
信じてもらえなかったでしょう。あなたが混乱するだけ」
「そうとは限らないよ、ほむらちゃん」
(だって知ってたもん)
「それに、誰から聞いたとしても同じことだと思うのだけど……」
「それは違うよ、ほむらちゃん、うん……ええっとね……」
説明を始めようとしたところでようやく、当事者が集まっているところで出す話題としては大変よろしくない内容だということに気付いた。
64 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:53:39.21 ID:JptNLkfbo
(魔女との戦闘で悲惨な最期を迎えるマミさん)
(魔女になって私や杏子ちゃんを攻撃するさやかちゃん)
(さやかちゃんと一緒に死んでしまう杏子ちゃん)
(杏子ちゃんを撃ち殺すマミさん、マミさんを射殺す私)
(ワルプルギスの夜に全滅させられる私たち)
数限りなく繰り返される失敗と敗北、そして不運。
(だめ。ここでは、話せない……
やっぱりほむらちゃんだけに話すべきだったんだ。わかってはいたんだけど)
(と……さて、この場をどうしたらいいかな)
まどかが考え込み、沈黙が長くなった。
杏子が身体ごと向き直ってほむらを見た。
「おまえ、へたくそだな」
その時のほむらのいわゆる“ハトが豆鉄砲を喰らったような顔”がマミに笑いのツボをついた。吹き出しそうになり、慌てて自分の口を両手で塞ぐ。
さやかはほむらの困惑の様が珍しくて興味深げに眺めている。
「前から言わなきゃと思ってたんだ。おまえは説得も説明も
つか会話がめちゃくちゃ下手だ! 下手ってか不能レベルだ!」
(不能!?)
あんまりな言いぐさだと内心激しく抗議するが、口には出さない。
65 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/21(水) 01:57:47.69 ID:JptNLkfbo
「だーかーらー肝心のまどかにハレモノみたいな扱いをされるんだ!
わかってんのか! それからまどか!」
「は、はい?」
「ほむらを全面的に、徹底的に信用してやってくれ。
こいつほんとただ色々不器用なだけだから。
バカって言ってもいいレベルだろ、これもう」
「杏子にバカって言われるほむらって」
「ねえ美樹さん、面白いけど私たちは黙ってましょ。
杏子のお説教なんて珍しい」
「どっちかっていうとされる方ですよね。あたしもですけど」
「二人うるさい。えっと、あのなまどか」
「はい」
「おまえにとっちゃ赤の他人みたいなコイツだけど
んで実感もさっぱりないだろうけどコイツはおまえの親友で
誰よりもおまえのことを考えて……って」
しゃべり過ぎに気付いて止まる。
「なんで私がこんなこと説明してやってんだ?
ほむらはなんでそこでちょっと赤くなる! 切れるぞいい加減おい」
「あ、誤解だよ杏子ちゃん。私ほむらちゃんのことすごく信用してるよ?」
「「「「えっ」」」」
まどかの一言にまどか以外全員の声が揃った。
各々が勝手に話し始め、場がざわつく。
「……まどか……あなたは一体?」
「なんで?! やっぱアンタって女神かなんかなの??」
「それなら話は早いじゃねーか」
「今、暁美さんでさえ“えっ”て言ったわよね?」
誰が何を言っているのか、お互いよく聞き取れなかった。
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/09/21(水) 12:18:40.85 ID:7PSjEkvJo
面白い
いい杏さやだわ、杏子ちゃんの頼りになりまくるメンタルいい
テレパシーで記憶まで送れるって設定も美味しい、これ出来たら本編みんなの対人誤解の八割が解決しそう
ほむらは近寄って親近感持たれるとそれが原因で契約されかねないにしても、この現状ならもうちょい近寄っていくべきよな
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/09/22(木) 00:34:45.70 ID:H0JqPK/8o
>>66
杏さや書きたくて書いたのであったかいコメに泣ける
ありがとう
68 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:40:09.28 ID:H0JqPK/8o
まどかは夢のひとつひとつを克明に覚えている。
一晩にいくつものエピソードを見ることもあった。
そうやって知識が増え、様々な謎が解ける一方でまたわからないことも増えていく。
ほむらへのアプローチもなかなかうまくいかず、たまりかねてある時とうとうQBを質問責めにしてみた。
警戒する気持ちは強かったがどう考えても一番事情に通じているのはQBだったし、そもそもQBがそれらの夢を見せているのかもしれないと思いついたからだ。
そうしてまどかから話を聞いたQBが出した答えが「ほむらは時間遡行者だ」というものだった。
まどかは面食らう。
「じかんそこうしゃって?」
「それはね」
QBの説明は簡素でわかりやすかった。
「えっと……じゃ、ほむらちゃんがそうだとして、だから?」
「なぜそんな夢を見るかというと、君の素質と彼女の能力が
共鳴したからだと考えられる。それはただの夢じゃないよ。
ほむらが繰り返した世界を君は見ているんだ」
「私はほむらちゃんの記憶を見ているの?」
「違う、記憶そのものではないね。夢にはほむらも出てくるんだろう?」
「うん」
「これは君が通常考えられない程の大きな素質を持っていることとも関係する」
69 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:42:34.80 ID:H0JqPK/8o
そしてその原因になっている重ねられた因果についてQBの説を聞かされた。
「一人の魔法少女が入念に君を因果の糸でがんじがらめにした。
それによって君はもう半ば魔法少女だと言ってもいい。
自覚はないだろうけど、とんでもない量のエネルギーが溜まっている」
「それを無意識ではわかっているんだよ。夢くらい見るさ。
早く契約して君の魔女を解放してやるといい」
「そして世界を滅ぼすの?」
「君の力なら余裕だろうね。
でも宇宙が滅びるよりいいはずだよ?」
「例えば魔法のない世界にしてってお願いはできる?」
「どうしてもそれを願うというなら聞き届けるしかない。
どんな世界になるかは神のみぞ知るとしか言えないけれどね」
「じゃあ……もしも今いる魔法少女全員を人間に戻してって頼んだら?」
「それは簡単だ。君一人が魔女になるだけで一つの星から回収できる
エネルギー量としては充分すぎるくらいだから、僕としては助かる。
それにするかい?」
まどかが考え込む。
「まあゆっくり考えてくれ。まだ時間はある」
(時間?)
少し引っ掛かった。
70 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:44:24.53 ID:H0JqPK/8o
「なんの時間?」
「ワルプルギスの夜が来るまでに契約を済ませないと
君は魔法少女として仲間を助けることができなくなるだろう?」
「とにかく契約だけは止めてほしいって言われているんだけど」
「だってみんなの命がかかっているよ?
君がいればどんな魔女にだって絶対に勝てるのに」
「勝っても結局は人類滅亡なんだよね?」
「些細なことだよ」
「些細だなんて、そんなことはないよ……うーん、あっ、それじゃあその
私のがんじがらめの因果の糸を断ち切ってって頼んだらどうなるの?」
「ほむらのしてきたことを無に帰すってことだね」
これは推測だけれど、と挟んでQBが続ける。
「少なくともほむらは今のほむらではなくなるだろう。
時間遡行の能力と記憶は失うだろうし、君は凡庸な魔法少女になるだろうね。
その場合ほむら並みに特殊な固有魔法を持ちそうだ。興味深いことではある。
ただせっかくの素質を無駄遣いすることになるね」
素質の無駄遣いとやらはともかくほむらの身に何が起こるのかはっきりしない点は困る。
「じゃあ例えば……」
実はこのところ誰よりもQBと会話を重ねてきているまどかだった。
71 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:45:44.24 ID:H0JqPK/8o
「ほむらちゃんのことは絶対に信じてる。でもねほむらちゃん」
「何かしら」
まどかの目が真剣で、かなり思いつめたような表情に見えた。
「私、ほむらちゃんと二人でちゃんとお話をしなきゃいけなくて」
そしてまた少し考えてから言葉を継いだ。
「だから、突然でごめんなさい。
もうあまり時間がないみたいで私ちょっとあせってて。
ほむらちゃんをお借りします」
「まどか?」
情況を今一つ把握しきれていない一同に向かってそう告げると無表情のまま激しくうろたえているほむらを連れてまどかは部屋を出て行ってしまった。
それを見送ってさやかがポツリと呟く。
「まどか、がんばるって言ってたの、このことかな……?」
「まあ、あいつらは話し合うべきだろ。
なんでほむらはまどかを避けてんの?」
「さあ? どうしてあんな秘密ばっかり抱える暗い人に
なっちゃったのかねえ、ほむらって」
「元々の性格だろ。誰かさんも悩むと黙る方じゃん」
「悩んで口数減るのは極めて普通ですよね、マミさん?」
「ええ」
「マミ! 無理に話を合わさなくていいんだからな!」
72 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:47:31.09 ID:H0JqPK/8o
「まどか、私は逃げないから手を放して」
「あ、うん、ごめん」
並んで歩く。そのことがほむらの遠い記憶を呼び覚ます。
(こうして一緒に歩いていてもあなたはいつも私を置いていく)
気持ちが沈む。
「ねえ、ほむらちゃん」
「まどか」
何か言おうとしたまどかを遮った。
「なにかなほむらちゃん?」
「杏子に話すといいわ」
「え?」
「杏子はだいたいのことを知っているから」
「そうなんだ」
「ええ。事情を話してさやかを助けてもらったの」
「そうだったんだ。ありがとう」
「あなたのためにしたことではないわ」
「私にはお礼を言う理由があるんだよ、ほむらちゃん」
「とにかく杏子ならあなたの力になってくれる」
「ねえ、私はほむらちゃんと話したくてこうしているんだよ」
「私でなければならない理由があるの?」
73 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:48:54.32 ID:H0JqPK/8o
まどかがほむらの前に回り込んでその顔を見上げた。
その表情の変化を見逃さないようにしっかりと目を覗き込む。
「あるんだよ、ほむらちゃん」
静かな声だ。
「約束したのは私とほむらちゃんだよね?」
(私を支えるもの。私の道標)
驚愕の表情を浮かべたほむらをホッとした様子でまどかは見た。
「よかった。信じてはいたけれど自信は持てなかったから安心したよ」
こみ上げる嬉しさから満面の笑顔になって、さっき放した手をまどかからもう一度つなぎ直した。
「行こ!」
「あの」
ほむらはもう何も言えない。されるがまま、まどかに手を引かれていく。
なにかすごく大事な会話を交わした気がするが、頭の中が先程のまどかの笑顔でいっぱいになっている。
74 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:52:14.44 ID:H0JqPK/8o
部屋に夕日が差し込んできた。
「さてそろそろ忙しい時間になるわね。お開きにしましょうか」
「そですね」
「あ、マミ。今日もこいつん家に泊めてもらうからメシはいいよ」
「そう? あちらのお宅にご迷惑のないようにね」
「迷惑なんかかけてないってば。
さやかん家のおじさんもおばさんも朝早く出かけて遅くに帰ってくるんだ。
誰も家にいない間こいつのベッド借りてるだけだし」
「あなたたち、ちゃんと食べてるの?」
「あ、うち共働きだから常備菜とかおかず冷凍したやつとか
チンして食べられる物いっぱいあって、ご飯さえ炊けばいつでも食事できるから大丈夫です!」
「すごいんだ。冷蔵庫に食べ物がギッシリ入ってて感動しちまった。
手作りの即席みそ汁とかあるし」
「あれ味噌玉っていうんだよ」
「楽しそうだからそのうちお邪魔しようかな?
手土産はお米とデザートでいい?」
「歓迎しますよ〜!」
「マミは意外と食うぞ」
「あなたほどではないと思うけれど」
「杏子は食べっぷりがよくて餌付けのし甲斐がありますよね」
「まったく同感よ、美樹さん」
「力いっぱい同意してるけどあたしとほぼ同じ量食うじゃねーか!」
「あなたみたいに四六時中間食してません!」
「あ、やばいマミさんがかわいい」
「あのな、おまえらの前だとちょっと作ってっからマミのやつ」
「ちょっと待って」
「暴露話はしないでおいてやるよ」
笑いながら杏子が立ち上がり「行こ」とさやかに声をかけた。
「うん。マミさんお邪魔しました。楽しかったです」
「はぁい。佐倉さんはまた後で」
「はいよ」
さやかの手を引っ張って立たせるとそのまま二人は手をつないで帰っていく。
75 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:54:04.71 ID:H0JqPK/8o
(それにしても)
急に静かになった部屋でマミが考えをまとめようとした。
(……それにしてもなぜなのかしら)
疑問がまだしっかりした形を取らない。
(一つの街を飲み込むほどの力を持つ魔女……)
(暁美さんは統計と言ったけれど、なぜこの街に?)
(街を消滅させ無数の命を奪って消える)
(そして時間をおいてまた現れる…)
(なぜ今?)
(どうしてこの見滝原なの?)
(ワルプルギスの夜は魔女の集合体)
君たちは群れるのが好きだろう?
魔女も同じじゃないのかい?
「まさか、私たちをめがけて出現するの?」
(十分にあり得る……どういう魔女なの……そして)
「どういう……魔法少女だったのかしらね」
「それがそんなに気になるのかい?」
QBが戻ってきていた。
76 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:55:43.70 ID:H0JqPK/8o
人通りの少ない住宅地を、さやかの家に向かって二人は歩いていく。
さやかが話題を振っても杏子は全くのってこない。
「ねえ、さっきから変だよ杏子」
「さやか」
「なに?」
「ちょっとだけ黙ってて」
「はあ?」
さすがにむっとしてつないでいた手を解こうとするとぎゅっと握りこまれてしまった。
「一緒にいてくれ頼むから」
杏子が立ち止まり早口で囁いた。変に張りつめている。
彼女の切羽詰った様子に魔女の気配でもするのかと周りの様子を窺うが特に不穏な空気は感じ取れない。
「なんなの、もう」
杏子は手を放してくれない。そしてその場から歩き出そうともしない。
77 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:57:48.77 ID:H0JqPK/8o
「そうね。気になるわね」
マミはQBを見つめる。
赤い双眸がマミの視線を真っ直ぐに見つめ返す。
「マミは何を知りたいんだろう」
「ちゃんと答えてくれるのかしら?」
「質問によるね」
「あなたはいつでも正直ではある」
「なるべく正確であろうとしているだけだよ」
「ワルプルギスの夜になった魔法少女をあなたは知っているの?」
「基本的に僕らインキュベーターは別固体でも同じ存在だ」
「つまり知っているわけね」
「最初はあれほど強力な魔女ではなかった」
「魔女になってから力をつけてきたということ?」
「まず、魔女になった彼女を助けようとした仲間の魔法少女十数人が
あれに取り込まれてそのまま魔女の力となった。
求心力のあった子で仲間が多かったんだ。それが本体の核と呼べるものになっているようだね」
78 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 00:59:30.67 ID:H0JqPK/8o
「なぜそんなことが起こったの?」
「そういう力を持っていたんだろう。それから魔力を集める渦のような力場が発生して
それは徐々に大きくなっていった。ゆっくりと気まぐれに移動しながら成長していったよ」
「魔法少女を巻き込んで力にしてきた魔女……」
「出現頻度は低いものの、なにしろ破壊力が凄まじいからね。
昔から恐怖の的だった。そして魔法少女が複数いる場所に現われる傾向があってね」
魔法少女は魔女になる。
「あなたがワルプルギスの夜を呼んだのね?」
「いいや。あれは呼びかけに応えたりなどしないよ」
マミは目を伏せ、小さくため息をついた。
見滝原の魔女はある時点から異常な増加を始めた。
一人で相手をするのは負担が大きいと考え、風見野から杏子に来てもらった。二人の間にあった確執は時間が解決してくれていた。
そんな彼女らがフルに活動してもなかなか間に合わないほど広範囲に数多く魔女はいた。
ワルプルギスの夜を出現させるためにQBが仕事をしたのだとすればおそらく、短い魔法少女の時間を過ごした急造の魔女たちであったろう。
彼女らの絶望と恐怖を思うと胸が痛む。
79 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:01:22.73 ID:H0JqPK/8o
(……知らなかったとはいえ、片っ端から狩っていった)
(せめて大切な願いを満足のいく形でかなえることができていればいいのだけれど)
(偽善ね)
(でもその犠牲がなければ私たちは存在していけない)
「魔法少女が殺されて取り込まれるの? それとも魔女になってから?」
「そんなの君たちにとってはどうでもいいことじゃないのかい?」
「死に方を選びたいのよQB」
「命を落とすという点においてはなにも違いがないよ。いいかいマミ」
QBが前脚を踏み揃えて身じろぎをした。こういったあたりはいかにも小動物らしく見える。
「魔法少女の力というのは魔女からきている」
「どういうこと?」
「魔法の源はなんだと思う?」
「ソウルジェムだとあなたに教わったわ、最初にね」
「もう少し詳しく言うと、ソウルジェムに内包された魂の核になる力だ。
これが魔法の源で、おもしろいことに君たちはこれに人格や様々な像をあてはめようとする。
スーパーセルフと呼んだりもするのかな」
(おもしろいことに、なんて。まるで感情を持っているかのように話すのね)
そう思いつつ口には出さず、マミは黙って聞いている。
80 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:05:50.45 ID:H0JqPK/8o
「石造りの巨大な門や尖塔、変幻自在の影絵、映像を流し続ける箱、グロテスクな怪物や獣の姿など、
まあ形はいろいろだね。自覚の有無は関係なく、それは君たちの意識の底で育ってきたものだ。
君たちの常に揺れ動く感情をエサにして、且つ因果をまといながらね」
マミが驚きの表情を浮かべてつぶやいた。
「魔女!」
「そう。魔女こそは君たちの魔力の源だ。
僕たちは君たちが育てているその像を見ることができる。エネルギー量が多く、
かつシステムによく適合する人間を僕らはそうやって知る」
「見えているの? 魔女が?」
「見えるよ。それは君たちの根源的なエネルギーだ。
この星の中心にある高温の核みたいなものだね。荒々しい力そのものとしてただ存在する。
ただし心臓を自由に動かせないのと同じように好き放題アクセスして利用するということはできないんだ」
「それがあなたたちが必要としているエネルギーなの?」
「そうだよ。感情を持つ種族のみが魂に蓄積していくこの強力なエネルギーをなんとか僕らは利用したいと思った。
まず、魂をソウルジェムに移行させることで君たちが魔力として使うことができるようになる。
次に、君たちが希望から絶望への相転移を経る」
「こうしてやっと僕らは必要とするエネルギーを効率よく抽出できる。
魔女を無理やり引っ張り出してエネルギーとして便利に使うことはできないんだ。
そうするとただ君らごと消滅するだけだ」
「僕らとしてはそれはとても困る。
魔法少女システムはどうやって君たちからエネルギーを抽出するか試行錯誤の上やっとできあがったんだよ」
「感謝しろとでも言いたげに聞こえるのだけど?」
「君らにとっても宇宙の延命というのは決して悪い話ではないはずなんだが、違うのかい?
とにかくそうやって君らから首尾よくエネルギーを得られた結果、ああいった魔女が外の世界に具現化するわけだ。
ソウルジェム内に収まっていた時とは性質を大きく変えているけれどね」
81 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:07:47.40 ID:H0JqPK/8o
「というのも魂の核としてあったエネルギー自体は根こそぎ僕らが収穫させてもらうからね。
結果、不要で粗悪なエネルギー体として形を持った魔女が残される」
「一旦魔女になると絶対に元に戻ることはできないのね」
「奇跡でも起こらない限り死者は蘇らない。単純だろ」
「その奇跡をあなたたちは取引に使う。
本当にあなたたちがその気になれば死者は蘇るし時間は巻戻る」
「奇跡は安売りできないんだ。僕らにしてもそれなりの代償を払っているよ」
「それに引き替え私たちは命を丸ごと取られるだけで済んでいるのね?」
「まあ、そう言わないでほしい。確かにシステムは君たちの命を奪う。
だから君が片付けてきた魔女たちは要するに残骸だ。
仲間を殺してきたわけじゃない。そう考えると気が楽にならないかい?」
「残骸が出る仕様にしているのよね?」
「不要なものが残るようになっているだけだよ。どこかには捨てなきゃいけない。
でも魔女との戦いは魔法少女の存在する仮の目的としてとても適しているし
おまけに魔女化は連鎖することもある。なにかと都合がよくてね」
「それに君みたいに長生きができる固体が現われるチャンスも生まれる」
こうして会話を成立させていながら両者の間には相互理解不能な深淵が横たわっている。
マミは滔々と話す異世界人を悲しい思いで見た。
「私たちがワルプルギスの夜に勝てる確率は?」
「今のところ君たちはワルプルギスの夜といい勝負ができると思うよ」
「いい勝負?」
「簡単に言うと、君と杏子、ほむら、さやか、四人の全魔力を一気に放出させると
それだけでワルプルギスの夜の半分くらいは消し飛ぶ」
82 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:11:13.54 ID:H0JqPK/8o
「ちょ、杏子、手! 痛い痛い!」
「…………」
83 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:14:21.15 ID:H0JqPK/8o
「何体集まっていようと所詮は残骸なわけだからね。
生きた魔法少女の力というのはなかなか大したものなんだよ」
「QBは私たちに自爆してほしいの?」
「そんなもったいないことはしてほしくない。
僕としては君のキャンデロロに会いたいよ」
「キャンデロロ?」
なぜか懐かしい響きがする。
「君の魔女の名前だよ」
「あなたが名付け親?」
「仕事のひとつなんだ」
「私は魔女を解放させる気はないわよQB」
「そして杏子」
「ちっ!」
「杏子!? ……あんた今、誰と話してるの?」
「別に知りたくはないだろうけど、君はオフィーリア。
僕らと君らの間で盗み聞きはムリだよ」
(黙って聞いていただけだ)
「いいけどね。ワルプルギスの夜の出現はいつでも僕らにとって大きなチャンスだった。
ずいぶん便利に使ってきたよ」
「一方でエネルギー回収前の魔法少女が大勢殺されてしまうという困った問題もあった。
僕らの取り分をあれに随分持って行かれてしまったよ。
しかもそれらを有効活用しているとはとても言えない。控えめに言っても酷い無駄遣いだ。
君たちが退治してくれるのならそれでもいい」
(マミ! 大丈夫なのか? そっち行こうか?)
「大丈夫よ佐倉さん。少し暗い気分にはなるけれど」
「しかしそれらの膨大なロスもまどかが契約してくれれば補うに余りある。
まどかを育ててくれたほむらには感謝だね」
(マミ、もうそんな胸糞悪い話に付き合うな)
「大丈夫だって言っているでしょ。
でも、そうね。聞きたいことはもうこれくらいかしらね。
QBありがとう。出て行ってもらって結構よ」
「ちょっと待ってくれ。マミにもう少し話がある。
君自身のことだから二人だけで話したい。結界を張ってくれるかい?」
(QB!マミにおかしな真似を仕掛けるな!)
「佐倉さん、私は本当に大丈夫。気遣ってくれてありがとう」
(マミ! 待てって!)
84 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:16:58.07 ID:H0JqPK/8o
「遮断された。時々人の言うこと聞かないんだよな」
「マミさん?」
「うん。マミとQBの会話を聞いてたんだけどさ」
「それでずっと上の空か。さっさと説明しなさいよ」
「ごめん。こっから一人で帰れる?」
「もうすぐそこだから」
「先に行ってて。ちょっとマミのとこ帰る」
「うん、QBも平気でエグいことするからね」
さやかは痛覚遮断を行なうきっかけになった出来事を思い出して眉をひそめる。
(君があの魔女から被るはずだった本当の肉体的ダメージはこれくらいだ)
QBの前脚がひょいとさやかのソウルジェムに触れるとさやかの全身に激痛が走った。ソウルジェムと身体の関係について思い知らされたのだった。
声を上げることも出来ないほどの苦痛にもがいていたのはたぶん短い時間だったのだろうが気付いた時には少量ながら失禁していた。
努めて忘れようとしているが、うっかり思い出す度に不快な感情が蘇る。
「……」
「なんだその暗い顔!? 何されたんだ!? あとで教えろよ!」
杏子は変身し、猛スピードで行ってしまった。
「……いや、教えないからね?」
小さくひとりごちる。
85 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:17:59.18 ID:H0JqPK/8o
部屋の前まで跳んではきたものの、中に入れないよう強力な結界が張り巡らせてあった。
槍をぐるんと逆手に持ちかえ穂先で軽く境界面に触れてみる。小さな魔法陣が浮かびあがり、微かな振動が伝わってきた。
(杏子、来なくていいって言ったのに)
マミが話しかけてきた。
「大丈夫なのか!?」
(一時間経ってもこちらから連絡がなければ結界を破ってもいいわ。
それまでQBと二人にしてね)
「三十分にしてくれ。あんたが心配だ」
(了解)
変身を解き、背中でドアに寄りかかって待った。
86 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:19:30.83 ID:H0JqPK/8o
「杏子かい?」
「結界の外にいるわ。こちらが意図しなければ話が聞かれることはありません。
話したいことがあるならどうぞ。ただし手短にお願い」
「わかった。ねえマミ。君が魔法少女でいられる時間はあまり残っていない。
これを伝えておきたくてね」
「どういう意味かしら?」
「君はよく頑張ったよ。魔法少女として申し分なく働いてくれた」
それで? というようにマミはほんの少し首を傾けた。
「けれどシステムがそろそろもたなくなってきている。
もしワルプルギスの夜と戦って生き残っても、たぶん君はそう長くない」
「そうなの。経年劣化ってこと?」
「いや、時間が問題じゃないんだ。システムは……そうだね。
一、二世紀分くらいの時間は充分働き続ける。
ただ君という素体にソウルジェムが耐えられなくなってきているんだ。
平たく言うと成長期に服のサイズが合わなくなるようなものだね」
「つまりどうなるの?」
「ソウルジェムが壊れる」
87 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:21:08.04 ID:H0JqPK/8o
「わざわざ自分で砕くことはなかったってわけね」
不思議と平静でいられた。
「ほら、それだよ。君はもう僕の言葉に動じない。
一時的な麻痺状態というわけでもないらしい。
精神的な成長が著しいね。君は今とても落ち着いているけれど
不安定な方がシステムは上手く働く。いわゆる魔女化が捗る」
「それを踏まえて君に提案がある」
「どうぞ?」
「完全な同意があれば、僕はソウルジェムをいじって君をただちに魔女化させることもできる。
ねえマミ、宇宙延命のために協力する気はないかい?」
「QB、本気で言ってるの?」
マミは笑いだしたくなった。
「もちろんだよ。君はとても良質な素晴らしいエネルギーを持っている。
きちんと相転移を経た方が回収効率は抜群にいいが、それはもう無理そうだ」
「鹿目さんがいれば量としてはどうでもいいようなものではないの?」
「彼女に比べたら取るに足らなくても君を失くすのは惜しい」
「バカねQB。宇宙延命のために魔女化を望む魔法少女などいない……と思うわよ?」
「提案は受けてくれないということだね?」
「ええ」
「もったいないな。君ほどの魔法少女がただいなくなるなんて。
せっかくエントロピーに逆らう力になれるのに、すばらしいことだと思わないのかい?」
「普通は思わないの。覚えておいてね」
「君たちは個を大事にし過ぎるね。では好きにするといい。悔いのないようにね」
「ええ。言われるまでもないわね」
88 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:26:13.02 ID:H0JqPK/8o
さやかが珍しく早く帰宅した両親と共に居間でテレビを見ていると杏子から呼びかけがあった。
二人に「宿題残してるから」と声をかけて戻った自室では魔法少女姿の杏子が待っていた。浮かない顔をしている。
「マミさん、どうだった?」
「何があったか教えてくれなかった。ものすごく落ち着いててさあ。
一緒にメシ食った後、さっさとグリーフシード集めに行っちまったよ」
「良かったじゃん。なんでブーたれてんの?」
「QBの話に、なんかモヤモヤする。だけどうまく説明できない」
「どうモヤモヤすんの?」
「私らって、魔女なんだってさ」
「うん、まあ……そうなるって聞いたじゃん?」
「いや、そうじゃなくてさ。元々魔力ってもんが魔女からきてて
……………ってまあいいか? 考えてどうなるってもんでもないし」
「ん?」
「だからさ、明け方戻ってくるからまた隣で寝てもいいか?」
「もちろんいいよ。よしよしほーら杏子ちゃん」
「うー?」
杏子がとてもしょんぼりしているように見えたので、抱き寄せてぽふぽふと背中を叩いてやった。
89 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:28:18.22 ID:H0JqPK/8o
「なんだよ?」
「甘やかしてんの。ワザワザ言わせないでほしいな。
身体の力を抜きなさいって、そうそう」
「……ねえ、誘ってる?」
杏子は両腕をさやかに巻きつけ、頭をその肩に軽くのせた。
「バカだね杏子は。知ってたけどね」
「はあ……もう今日行くのやめようかな」
「だめでしょ。マミさん一人に働かせる気?」
「さやか、今日もいい匂いがする」
「うん、やっぱあんたはバカ」
「スイッチ入っちゃった、バカバカ言うから」
さやかの背で杏子の指がそういう動きを始める。
「杏子、今しないできない」
手が止まった。
「……じゃあキスだけ」
「ん」
軽く唇を触れ合わせた。
「なあ、今度いつちゃんとできる?」
額をこつんと合わせて未練たらたらに杏子が聞く。
「わかんないよ、そんなの。さあさあ行った行った!」
照れもあり尻を叩くようにして部屋から追い出してしまった。
名残惜しそうに出て行く杏子を見送った後少し考えていたが、自分も街に出てみる気になった。
マンションのエントランスを出る際つい癖でまどかの姿を探してしまい「たはは」と笑いがもれた。
(まどか、ほむらとうまくやってんのかな?)
90 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:32:07.21 ID:H0JqPK/8o
まどかに連れられてほむらは鹿目家を訪れた。
話は通してあったらしく一家団らんに混ぜてもらって夕飯を御馳走になり穏やかな歓待を受けた。
いつものような仏頂面も沈黙もしていられず、目の回る思いがした。
まどかの小さな弟が遊んでほしいとあの手この手で訴えてくる。かわいい。
それほど熱心に相手をしたわけではないが懐かれてなかなか離れてもらえなかった。
「ほむらちゃん、今日は泊まっていってね?」
「せっかくだけど何の用意もしていないし、ご迷惑でしょうから」
気疲れしたのですみやかに帰宅したかったのだが。
「大丈夫だよ。ウチお泊りセット常備してるから。
着替えも歯ブラシもあるよ」
「……」
91 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:33:13.36 ID:H0JqPK/8o
さやかは少し前までパーサーカーモードで暴れまわっていた街の通りで魔力の気配を探してみる。
ベテランの魔法少女が三人がかりで魔女を狩っているだけあってソウルジェムでの索敵に何も引っ掛かってこない。
(もう見滝原に魔女って残っていないんじゃないの?)
(それはすごくいいことだけど……)
(でもさ、私たち的にはすごくマズイんじゃないの?)
その日繁華街の一角で使い魔を見つけたが、あまり気が乗らないまま追い回して結局逃がしてしまった。
(あ、しまった)
(あいつがなにか悪さをして人が死んだら私のせい)
「……いやいや、違うって。QBのせいじゃん」
(そして、誰か……私みたいなバカな女の子が命と引き換えに願った奇跡のせいなんだ)
(QBはちゃんとはっきりそう言うべきだった。
おまえの魂と引き換えになんでも願いを一つ叶えてやるって)
(まっとうな悪魔みたいにさ)
92 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:36:26.87 ID:H0JqPK/8o
その時ふと、こちらを窺う他人の視線を感じた。
使い魔を追いかけている時からそこはかとなくつきまとう気配を感じてはいた。
(知らない魔法少女)
気になるのは敵意ともあるいは憎悪ともとれる負の感情がさやかに向けられていることだ。
(なにかしたっけ、あたし)
(ああ、もしかしたらあの使い魔が育つの待ってたのかな)
建物の陰から様子を窺っていた人物は自身の存在に気付かれたことを察してその場から遠ざかって行く。
急いで追ってみると後姿を捉えることがことができ、もう少しスピードを上げると見知らぬ魔法少女の前方に回り込むことができた。
眼前にいきなり現れたさやかのスピードに相手が息を呑み、戦闘態勢を取った。
段平とでも呼びたいような両刃の剣を片手に持ち、頑丈そうなガントレットをつけたもう片方の腕を前に垂らしている。
「とっとっと、待って待って! やり合うつもりはないし!」
あわてて声をかけ、手に持ったサーベルを地面に突き立ててぶんぶんと両腕を振った。しかし深緑のコスチュームをまとった相手は構えを解かずにさやかを睨みつけている。
93 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:37:56.00 ID:H0JqPK/8o
「さっきのあれ、あなたの獲物だった? なら余計なちょっかいかけてごめん!」
返事は無く、どうやらじりじりと間合いを測っている。さやかは急いで言葉を継ぐ。
「あの、あたしってついこないだ魔法少女になったばかりの新米でさ、
なんか地雷踏んじゃったかな? だったら謝るし?」
「あんたのこと知ってる」
相手が初めてしゃべった。
「あの化け物じみたやつらの仲間だね」
「化け物って、あたし魔女の仲間なんかじゃないよ?」
(あーいや、同じようなもんなんだったっけ??)
「察しが悪くて苛つくよアンタ。化け物ってのは黄色いのと赤いののコンビだよ!」
「んえっ? もう一人いなかった?」
「あいつら、街中の魔女を片付けやがってさあっ」
(ほむらは別行動か)
「ま、まあまあ、あんまり頭に血がのぼってるとロクなことにならないよ?」
憎々しげな少女を見て、さやかは心配になった。
94 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:40:19.09 ID:H0JqPK/8o
(かなり危ないんじゃない、この人……)
「ねえ、あなたのソウルジェム見せてくれない?
だいぶ苦しそうだよ?」
目の前の少女はさやかの言葉を無視した。
「あんたら、グリーフシードを独り占めしてる。許せない……!!!」
「QBなんにも言ってなかったなあ。あなたみたいな魔法少女もいるんだねえ。
あ、ソロ活動なの?」
「何も教えないよ」
「どうして?」
「この世界は弱肉強食、だよねえ?」
意味ありげに少女がさやかを窺った。
「私じゃあいつらの相手は無理だけどさ?」
じり、と少し距離を詰めてきた。
「あんた相手なら、なんとかなりそうな気がする」
「はあ? なにふざけたこと言ってんの?」
さやかも気の長い方ではないので、感情の赴くままつけつけと言い返した。
「ねえ、あたしを倒してなにがどうなんの?!
そんなことしたくて魔法少女になったの、あんたは?」
95 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:52:44.03 ID:H0JqPK/8o
「うるさい!! 魔女とは戦えないんだから
魔法少女から奪うしかないでしょうがあ!」
「ううん、しょうがないっちゃしょうがない気もするけど」
「コイツ腹が立つ!!」
さやかはあわてて地面から引き抜いた細身の刀身で厚い両刃剣の打ち込みを受け止めた。金属同士が激しくぶつかる音がした。さやかの剣など折れて飛んでいきそうなものだが魔法少女の戦闘は必ずしも物理に則らない。
「ん? 意外とやさしいんだね?」
さやかの本音に少女ははっきりと驚愕の表情を浮かべた。彼女の渾身の一撃だった。
(ああ、この人すごく弱いのかも)
「ねえやめよう? 引いてくれないかな?」
「うるさい!」
刃の部分にガントレットをあてがって両手で力任せに押し込んで来ようとするが、長い鍔迫り合いにはならなかった。
さやかは力の拮抗点をずらして圧をいなし、相手のバランスが崩すのと同時に踏み込んで間合いを潰した。肩からの体当たりをまともにくらって相手の身体は大きく後退する。
短い攻防だったが少女はもう息切れしていた。さやかにはその状態に覚えがあった。ソウルジェムの穢れが進むと少し動くだけで激しい疲労を感じるようになる。
さやかは手持ちのグリーフシードを取り出して見せた。
「ほら。つまるところ、これでしょう?」
「よこしなさいっ!!!」
深緑の魔法少女が吠えた。
96 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 01:56:20.35 ID:H0JqPK/8o
「いいよあげる。どうぞ? あと何回かは使えそうだよ。はい」
掌に載せて差し出す。
目をぎらつかせて近づいてきた少女がそれをひったくり、後方へ跳んでさやかを睨みつけた。
「どういうつもりなの?」
「ワルプルギスの夜って知ってる?」
「?」
これから見滝原を襲う厄災と、自分たちがそれと戦うつもりであることを簡単に話した。
「赤と黄色の人はその準備のためにグリーフシードを集めてるの」
「あははっはははは」
彼女はそれを聞くと笑い出した。
「ああ、おっかしい。どうだっていいけどさあ、もっとマシな言い訳ないの?」
「……はあ」
がっかりした。
頭から信じてもらえなかった。
見知らぬ少女はさやかの落胆のさまに哄笑をぶつけると、どこかへ行ってしまった。
(……帰ろっと)
そろそろ夜も遅い。さやかはトボトボと家路についた。
97 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:01:53.53 ID:H0JqPK/8o
「ほむらちゃん、お湯加減大丈夫だった?」
「ええ、ありがとう。いいお湯でした」
「こっちこっち」
入浴後、ほぼさやか専用という水色のパジャマを着用して脱衣所を出るとリビングからまどかが手招きしていた。
招かれるまま行ってみると仕事で不在だったまどかの母が帰宅していた。
「君がほむらちゃんか、話は聞いてるよ。美人さんだなあ」
お邪魔しています、と丁寧に頭を下げると「まあゆっくりしていきな」と気さくに言って氷を入れたグラスをちょいと上げてカランと鳴らした。
「はああ、キレイどころがいると酒がすすんでたまんないな」
「ママ、飲みすぎないでね」
知久が心配そうに声をかける。
「そうだよ、朝起こすの大変なんだからね?」
まどかも父親に便乗する。
「わかってるよ大丈夫。これでおしまい」
両親におやすみなさいとあいさつし、ほむらもそれに合わせて頭を下げた。
まどかは自室へほむらを案内し「やっと二人になれたよ」と笑う。
そして「どこでもいいから座ってね」と自分は学習机の椅子の向きを変えて座った。
ほむらは以前のループで幾度かまどかの部屋を訪れている。懐かしく思いながらベッドのへりに腰かけ、膝に両手を置いた。
鹿目家に到着した頃はガチガチに緊張していたほむらだったが、いい加減それも一周半してしまった。今では少し眠気を感じるほどリラックスしている。
98 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:03:06.90 ID:H0JqPK/8o
「ええと、何から話せばいいのかな。でもとにかく最初に」
まどかが居ずまいを正してほむらに深々と頭を下げた。
「ほむらちゃん、ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「私のせいで、ほむらちゃんを出られない迷路に閉じ込めてしまいました。
本当にごめんなさい。あやまって済むことじゃないのはわかっているけど
あやまらせてください」
(?!)
眠気は消えた。
99 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:06:28.37 ID:H0JqPK/8o
「ちょっと待って……頭をあげて。一体さやかからどんな風に私の話を聞いたの?」
「え、さやかちゃん?……ああそうじゃなくてね。あのね、QBの言い方だと
私もう半分くらい魔法少女なんだって」
「?」
まどかは自身に重ねられた因果についてQBに聞かされたことを説明する。
「そんな……それじゃ私こそが元凶そのものじゃない!」
ほむらのショックは大きいが納得のいく話でもあった。
まどかの魔女。あれはループのたびに力を増していった。そのことを疑問に思ったのは一度や二度ではなかったのに。
「違うよほむらちゃん。元々は私のお願いでしょう。私、知ってるの」
「……何を?」
「QBに騙される前の、バカな私を助けてあげてくれないかな……だよね」
「まどか?! あなたは一体?!」
先程から驚きすぎて脈拍がおかしい。いつの間にか胸に手を置いていた。昔の最悪だった身体感覚を思い出す。少しの動作で疲れて動けなくなっていた。ほむらはそっと、細く長く息を吐いた。
「あのね、私いろんなことを夢で見ているの。
初めはほんとのことだと思わなかった。
でも、あまりにもはっきりしてるし繰り返し見るから
もう時々どっちが現実か迷うくらいになっちゃった」
こんなことがあった、あんなことがあった、と夢で見た出来事を挙げていく。
100 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:08:16.54 ID:H0JqPK/8o
(何てことなの)
「間違いなくどれも実際にあった事ね……そんなことになっていたなんて」
「最初はほんとに何がなんだか全然わからなかったのに
そのうち色々と分かってきてちょっと怖くなったりして……
それで何度もほむらちゃんに相談したいと思っていたんだけど、難しくて」
「えっと、それであのね、マミさんのおうちでも聞いたけど
避けてたんだよね? 私のこと?」
親しくすることは避けていた。コクリと頷く。
「どうして?」
「今回は、つまりこの時間軸ではということだけど、私はあなたにとって
あまり必要な存在ではないの」
「どういうことかな?」
「私はいつもあなたを魔女にさせないために動いてきたけれど、ここでは私以外の人が
そうしてくれているし、あなた自身が魔法少女になろうとする意思をみせていない」
「うん。アレになるって知ってしまうとどんなことがあっても契約はできないよ」
「そうして今のところは、とてもいい感じに時間が進行している。
なにしろ誰も死んでいないわ」
「うん」
101 :
◆GXVkKXrpNcpr
[saga]:2016/09/22(木) 02:12:28.17 ID:H0JqPK/8o
「奇跡を願わないでいてくれてありがとう。
だから私があなたと接触する理由がなくなっていた。
それでうまくいっているのだから、なるべくこの状態を崩したくなかった」
「けれど私結局こうして強引に崩しちゃったよね?」
「あなたなりにこうしなければならない理由があった。
私一人の思惑で物事をどう操作しようとしてもなるようにしかならない。
それはもうよくわかっているから気にしないで」
「考えてみると私も物事を操作しようとしていたみたい。
知ってしまうと誰でもそうならざるを得ないんじゃないかな」
「まどか?」
「ねえ、ほむらちゃん。私は私だよ」
「?」
「ほむらちゃんにとって私は、ずっとずっと友達だった。そうだよね」
「……ええ、私にとっては」
「私にとってもそうなんだってわかってもらえるかな?」
「あなたが私の事情について知っていたなんて思いもよらなかったから」
言い訳めいて聞こえるのは仕方がない。
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