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勇者「淫魔の国で風邪をひくとこうなる」
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2 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:17:21.38 ID:fQSRpZJAo
あれ、酉は変わってないか
それなら安心
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 00:17:34.77 ID:4Ljr9qHD0
twitterやってたのか...どこだっけ?
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 00:19:27.41 ID:VulOlsrDO
待ってた
5 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:19:41.70 ID:fQSRpZJAo
*****
始まりは、城の廊下で起きた、たった一度の咳からだった。
勇者「――――――けほっ」
サキュバスB「……陛下? 大丈夫? お風邪ひいちゃいましたですか?」
勇者「いや……分からないから、近寄らない方がいい。“お手伝い”に戻れ。心配してくれてありがとう」
サキュバスB「誰が“お手伝い”ですか! でも、お具合悪かったら……言ってくださいね?
わたしの必殺、“ヒーリング☆フェラ”で治しちゃいますよ? おケガ以外なら何でも治っちゃうんですからね?」
勇者「気持ちだけ受け取るよ。無理はしない」
舌をぺろりと出し、いたずらっぽく微笑みながらサキュバスBは去っていく。
しかし、勇者は内心妙だと感じていた。
ここへ来て一年が経つのに……今のは、少し悪い咳だった。
喉に何かが絡んだり、空気の乾燥のせいではない。
勇者(……今日は、早く寝よう)
*****
6 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:20:56.94 ID:fQSRpZJAo
次の日になると、起きてすぐ喉が荒れているのが分かった。
昨日は何もせずに寝たのに。
酒も断って、暖かくして眠ったのにも関わらず、喉の痛みが酷い。
勇者「……な゛ん、だ……ごれ゛……?」
水を飲んでも、咳払いをしても、荒れた喉が発声の邪魔をして、治らない。
イガが突き刺さったような不快感が、消えない。
堕女神「おはようございます、陛下」
勇者「ああ。……お゛……っ」
いつものように起こしに来た堕女神に挨拶しようとして、息が詰まり……喘鳴を含んだ、タチの悪い咳をしてしまった。
勇者「う゛、げほっ……! がふっ……!」
堕女神「え……!? へ、陛下?」
勇者「ああ゛……心配、しなくて……っ!!!」
7 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:21:38.76 ID:fQSRpZJAo
威嚇するように震えた咳とともに、喉に鋭い痛みが走った。
続けて、込み上げてくる熱と、胃へ向けて下りて行く熱の両方を感じた。
それは気管にまで入り込み、思わず咽て咳き込み……口から、“熱”の正体が吐き出されてベッドを汚す。
堕女神「陛下っ!」
赤く飛び散る、その飛沫を見たのは、一年ぶりに。
“魔王”との戦い、以来だった。
勇者「堕女神……だい……じょう、ぶ……だ……っ!」
落ち着けようと言葉を発しようとしても、言葉にならない。
彼女の呼びつけた近くのメイドが部屋に入ってくるまで。。
8 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:22:38.86 ID:fQSRpZJAo
*****
サキュバスA「……つまり、何ですの。咳のしすぎで喉が破れて、血を吐いたと?」
勇者「あぁ……ぞ、う゛……なる゛……」
サキュバスA「お話しにならなくて構いませんわよ。それにしても……ねぇ」
勇者「……?」
サキュバスA「堕女神様も……気が気でなかったでしょう」
喉の奥が、息をするだけでも痛んだ。
少し声を出そうとするだけでズキズキと疼いて、滲み出た血が喉へ流れ込む。
サキュバスA「まぁ、今日はお眠りなさいな。命に関わる事ではありませんし」
9 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:23:36.52 ID:fQSRpZJAo
勇者(……体調を崩すなんて、なぁ)
怪我でも呪いでも毒でもなく、“病気”にかかるのは久しぶりだった。
もしかすると……“勇者”になる前にまで遡れる。
サキュバスA「ただ……陛下もそろそろ、落ち着いてこれたのでしょうね」
勇者「え……?」
サキュバスA「だって、そうでしょう。陛下のこれまでのご人生。病床に伏す暇も恐らくは無かったのでしょう」
勇者「まぁ……ぞう゛、だな」
サキュバスA「何せ貴方は、世界の希望。絶望たる“魔王”と双極。魔王があくせく働いているのに、“勇者”が休む訳には参りませんもの」
勇者(……なるほど。俺もようやく……感冒にかかって寝る事が、できるのか)
受けた毒、負わされた怪我、かけられた呪い、身体を侵す能力低下の魔法。
そうした“戦い”の傷ではなく、ただ何となく流行るお決まりの感冒。
思えば、かかり始めの事ぐらいは旅の中でもあったのに、それに気付いてはならないから無理を押して旅をし、戦い続けてきた。
今、発熱と倦怠感、それと喉の痛みと咳をようやく自覚できる。
ようやく命の危機なく、何に遠慮をすることもなく眠って治す事ができる。
ようやく――――“病人”を、やれる。
10 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:25:20.25 ID:fQSRpZJAo
サキュバスA「……ちなみにこの状況、サキュバス族の“定番のシチュエーションベスト10”の常連ですわね。
病で寝込む殿方、忍び込む淫魔、『うふふ……こんなに硬く張ってて、苦しそうねぇ……』。
そう言ってズボンと下着を下ろさせると、長く身体も拭けずに溜まったオスの香りが鼻をつき、
ひたすら高まり熟成されたモノがぎっちりと詰まって……」
勇者「待で」
サキュバスA「加えて病床の殿方は命の危機に瀕している本能か、ともかく精力が増していて。
“ふふっ……いっぱい出たわね”の一言で〆るのが定番で」
勇者「そう、いう話は……今、ば……」
サキュバスA「あら、知識より実践がお好み? それでしたら私が僭越ながら……」
堕女神「何をしているのですか」
ベッドの向こう側の椅子、サキュバスAの対面に座っていた堕女神がそれを制する。
サキュバスA「何、って……まぁ、ナニなど」
11 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:26:46.73 ID:fQSRpZJAo
堕女神「いけません。弱っておられる陛下の寝込みを襲うなど」
サキュバスA「いいえ、イケます。それにあまり高熱ですと、精子を作る機能が弱ってしまいますし」
堕女神「陛下は微熱です」
サキュバスA「じゃあもう、あれです。……病で少し弱々しくなった陛下にもうちょっとうざったく絡みたいだけで他意は……」
堕女神「他意そのものじゃないですか!」
勇者「いい゛、から……静かに……」
堕女神「……申し訳ありません」
サキュバスA「ほぅら怒られた。病人の部屋で騒ぐなんて……いただけませんわねぇ」
堕女神「誰のせいだと……!」
サキュバスA「では、私はこれで。堪能させていただきましたわ。それではまた明日。おやすみなさいませ」
12 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:27:40.22 ID:fQSRpZJAo
サキュバスAがようやく退出すると、寝室の中は一気に静まり返った。
勇者は声を出すのも億劫なばかりか、姿勢を変える事でさえ酷く気だるく感じる。
いがらっぽさがまだ喉に残り、咳き込むたびにズキズキ痛んだ。
ぼうっとした熱が頭の中に籠もり、目も潤んできたのに、それに反して寒気がある。
“勇者”じゃなかった時代にかかった、何という事も無い感冒と同じで……懐かしさだけがある。
堕女神「まったく、彼女ときたら……。そろそろお眠りくださいませ。明日は、お体をお拭き致します。今日のところは……どうか」
勇者「……悪い、な」
堕女神「いえ、陛下の御身体の為……と、申し上げたいところですが……」
勇者「え……?」
布団の中で――――温感の鈍くなった手を、それでも熱く感じる華奢な手が握った。
ふと、堕女神の顔を見れば……黒真珠のような眼が潤み、その中にある紅と細い瞳孔が、たよりない火のように揺れていた。
堕女神「私、は……あんなに、怖くなったのは……初めて、でし、た……」
絞り出すような声は、震えている。
幾度も詰まる言葉の終わりには、とうとう嗚咽までも混ざった。
手を握り返してやって……しばらくも、彼女の震えは治まらない。
13 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:28:52.54 ID:fQSRpZJAo
堕女神「……申し訳ございません、陛下」
どれだけ時間が経ったか、ようやく堕女神は落ち着きを取り戻す。
勇者「……心配かけて、ごめん」
堕女神「その……陛下。今日はお側で眠らせてくださいませんか」
勇者「え……? いや、駄目だ。君にうつる」
堕女神「ご心配には及びません。私は、かつてとはいえ“神”の眷族ですから……病にかかる事は、ありません」
勇者「でも……」
堕女神「どうかお願い致します。もし私が自室に戻ったとしても……きっと、眠れません」
勇者「……分かったよ」
こうなってしまうと、もう堕女神は引き下がらない。
いくら“大丈夫だ”と言い聞かせても埒が明かないだろう。
まして理由がこちらであって……仮に引きさがらせても、余計に堕女神の心労が嵩むだけだと悟った。
目を閉じると衣擦れの音と、脱いだそれを折り畳む音が聴こえた。
どれだけ寝ても満たされない眠気にまた身を浸し、沈む直前。
布団の中に入り、寄り添ってきた堕女神の少し冷えた肌が当たる。
それはとても心地よくて……体の熱さと怠さが、吸い取られ、どこかへ消えていってしまうような気がした。
堕女神「……もし、お辛いようでしたらなんなりとお申し付けください。何でも……いたします」
14 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/23(月) 00:33:03.96 ID:fQSRpZJAo
一日目、投下ここまでで終了です
>>3
https://twitter.com/inmayusha
こちらになります
もうスレは立てないと言ったけれど、まぁ一年に一度ぐらいなら構やしないだろうと
まだ一応は正月だし景気を付ける意味でも
それではまた明日、日付けは変わるか変わらないかの頃にまた会いましょう
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 00:34:53.03 ID:bpULiCbM0
待ってました乙
だめがみさんマジ正妻
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/01/23(月) 00:37:30.89 ID:VulOlsrDO
乙
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 00:39:07.72 ID:VulOlsrDO
sage忘れたすまぬ
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 00:39:38.21 ID:58CJbOWQO
乙
待ってました
19 :
sage
:2017/01/23(月) 00:43:38.14 ID:zYvtUPCB0
乙!
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 00:43:38.72 ID:/LkdSmCA0
待ってました!
なろうの方も楽しませて頂いております!
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 00:45:32.27 ID:zYvtUPCB0
ありゃま失礼…
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/01/23(月) 00:49:35.93 ID:KSCYBo720
待ッテマシタ!
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 00:59:14.02 ID:Av3MNTRJo
待ってた!
復習がてら最初から読み直してくる
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/01/23(月) 02:22:12.45 ID:8Hcgl7Cj0
乙!トゥイッターから来た
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 02:24:26.68 ID:6bh5kFg1o
なろうは回りが回りだから行く気にならないんだよなあ
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/01/23(月) 05:19:07.50 ID:5K5ZenXs0
待ってた
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 06:01:59.21 ID:hXZEJaTRo
乙 ずっと待ってました
まさかこのシリーズの新作をリアルタイムで読める日が来ようとは…
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 06:37:59.50 ID:+L9FXi94o
ひょぉあああああ待ってたよおおおお
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/01/23(月) 06:47:51.52 ID:GdG9YTEV0
うおおお待ってました!
続きが楽しみだ…
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/01/23(月) 07:34:56.19 ID:/omw0dEd0
待ってたぁぁぁぁ!
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 13:04:04.32 ID:qRfQvNDyo
待ってた
超待ってた
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 13:27:21.26 ID:jBp/YMUZO
乙、久々だな〜
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 14:00:14.85 ID:FcpxV3bE0
待ってた!
こいつが欲しかったんだぁ…
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 14:09:57.12 ID:slQKTnuwO
何処から来たか知らんが荒れる原因になるからsageてくれ…
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 15:02:11.37 ID:xXjBvzRCO
sage知らんとかそりゃまとめしかないやろ
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 15:11:57.12 ID:FOYxUW0A0
お帰り!待ってた
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 17:31:09.46 ID:ZU90rZHfO
文才ありすぎてもう何というか
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 18:53:58.26 ID:JMEN9yXYO
嬉しさのあまりなんて書き込もうか忘れたがまぁいいや乙
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 21:18:13.77 ID:/omw0dEd0
このすばで駄女神とか言う奴いるけどやっぱこっちのが先に頭に浮かぶよなぁ。堕女神様マジ正妻
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 21:20:38.91 ID:owyS9Z3C0
めっちゃ待ってた。
死ぬ程待ってた。
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/01/23(月) 21:52:17.85 ID:MZhA1tgF0
まじで堕女神かわええ
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/01/23(月) 22:22:17.10 ID:ho1nnDP+O
チンコビンビンですよ堕女神
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 22:24:22.76 ID:Av3MNTRJo
sage忘れあまりにも多くない?あげちゃダメだぞ
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 22:58:05.85 ID:iWwPL1hfo
あほばっか
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 23:15:19.24 ID:5K5ZenXs0
e-mail欄にsageって入力するんやで(良心)
46 :
◆1UOAiS.xYWtC
[saga]:2017/01/24(火) 00:07:57.30 ID:TB1GBG6ro
別にageようとsageようと荒れようと、俺は書いて投下していくんだぜ
もうそれでモチベーションの下がるような事も無いのでさ
見直して、十分後ぐらいから投下始めていきます
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/24(火) 00:10:23.54 ID:yb+OQS970
待ッテマシタ!
48 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:17:54.48 ID:TB1GBG6ro
*****
深夜になり、痛みが目を覚まさせた。
倦怠感に覆われた身体を、それでもよじらせるような……そんな堪えがたい、熱を持った痛み。
その根源にあるのは……まさしくサキュバスAが指摘した通りの場所だ。
勇者「ぐぅっ!」
寝返りを打とうとして、シーツに触れた一瞬。
昂ぶり切った神経が、一瞬の摩擦を痛みに替えて背骨に走らせた。
思わず苦痛の声が漏れ出て、とっさに堕女神を起こしてしまっていないか、気配を探った。
だが、彼女に特に目を覚ました気配はない。
ひとまず安堵するも、それより何より……ひどく、昂ぶってやまない。
彼女を起こして、落ち着かせてくれと頼む事はいくらなんでもできない。
しかし堕女神が隣で寝ているのに自分で鎮めるのも無理だった。
49 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:18:54.17 ID:TB1GBG6ro
勇者(寝、る……なんとか、寝るしか……!)
ずきずきと痛むほど血が巡るそこは、厄介な傷になった。
ほんの少しの摩擦でも痛い。
貫かれ、突き出た剣先を指で掴まれて傷口を広げられるような、感覚の暴走。
実際そうされた傷なら耐え忍べたのに……あまりに、部位がまずい。
一度として味わった事の無い痛みが、もっとも脆弱な部分を襲っていた。
勇者「……い、たっ……!」
堕女神「……陛……下?」
情けなくも声を漏らしてしまうと、向けた背中越しに、堕女神の声がはっきりと聴こえた。
気付かない振りも、寝ている振りも、もうできない。
勇者「起こして、悪い。……でも、何でも無いんだ」
堕女神「陛下。私を慮っていただけるのなら、どうか正直に申して下さい。どこか……悪いのですか?」
50 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:19:52.92 ID:TB1GBG6ro
布団の中で、すっかりと暖まった堕女神の手が差し伸ばされ、腹部を抱くように撫でられた。
じわりとした暖かさが沁みるような、優しく細い手の感触。
それは――――紛れもなく、彼女が“女神”であった事を何より語る。
同時に、勇者は恥じて……恥じながらも、正直に告げる。
勇者「分かった。でも、腹とかじゃない。……その、下だ」
堕女神「下?」
そのままゆっくり、女神の掌が腹筋から臍、と滑りおりて――――熱く高まった“それ”の気配を感じて、動きを止めた。
勇者「……だから別に、どこか痛いわけでも、気分が悪いわけでもない。寝ていてくれ」
病気じゃない。
薬を飲んだり、水を飲んで治まるものでもない。
男がそうなった時は、とにかく時が経つのを待つしかない。
なのに。
堕女神「……かしこまりました、陛下。私が……お鎮めします」
51 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:20:40.93 ID:TB1GBG6ro
勇者「何っ……え!?」
布団の中に潜り込んだ堕女神が、その中でこちらの下着を優しく下ろす。
屹立したそれが引っかからないように、布団の中、それでなくても暗闇だというのに気を遣っているのが分かる。
時間にして、ほんの数秒。
彼女は、何の痛みも届ける事無く――――こちらの剣を、抜かせてみせた。
堕女神「んっ……こんなに、硬くなされて……これも、症状なのでしょうか……?」
勇者「分からない……な……」
堪えきれず布団を剥ぎ取ると、窓から差し込む明けかけた夜の薄明りに、情けないほど屹立した“自分”と、堕女神の顔が見えた。
彼女と眼が合う事はない。
その視線は異常なほどに昂ぶるモノに向けられていた。
布団をかぶっていなくても、寒気は無い。
それどころか……火照った体に具合の良いほどだった。
52 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:21:23.69 ID:TB1GBG6ro
堕女神「あの、陛下。もし……痛みがありましたら、どうかお申し付け下さいね」
それだけ言って、彼女は目を閉じ、根元からゆっくりと舐め上げる。
その刺激は……痛みに感じない。
むしろ何かが癒されて行くような、不思議な心地よさがある。
普段するそれとは――――“性感”とは、また違うものだった。
何かが満たされて行くような、摩訶不思議な感覚。
堕女神「ん……大き、くて……、んぶっ……! まる、で……腫れてる……みたいで……!」
今日の堕女神は、普段とは違い……早く出させるために、余裕のない口淫を行っていた。
持ち前の豊かな二つの果実を使う事も無く、手指を添えて焦らす事も無く、ただ、早く射精を促すため。
これまでで知った性感帯をなぞり、最短距離でそこへ到達するための。
それは、“愛の女神”の振る舞いそのものだ。
激痛を及ぼす傷口を、慈悲深く癒すための施術。
全ての世界で――――勇者、ただ一人だけがそれを受けられる。
それは熱くて邪な昂ぶりが、まるで浄化されるような不思議な感覚だった。
53 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:23:32.15 ID:TB1GBG6ro
勇者「っ……だ、めだ……! 出るっ……!」
堕女神「はむぅっ……! どうか我慢なさらないで……私のお口に、吐き出してください。
……貴方の……苦しいの、私が、飲み干しますから……!」
呆気なく、その時を迎えた。
彼女がぱくりと銜え込んだ亀頭から、放熱するようにそれは迸り、口腔を穢す。
ごぷごぷと垂れ流される精液という名の“膿”は激流のように堕女神の口から喉へ、流れ込む。
ぴったりとモノに貼り付いた唇を窄め、飲み下していく彼女の頭は、小刻みに震えていた。
彼女の口の中、舌とすべすべの歯、頬の粘膜、体温を……上書きするように、吐き出された精液のぬめった温もりが絡みつく。
それなのに、一滴たりとも……こぼれる事は無い。
女神はそう誓約を果たすように、浄めていった。
54 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:27:33.83 ID:TB1GBG6ro
やがて治まり、モノが硬さを失い始めてようやく堕女神は、ゆっくりと口を離していった。
口の粘膜と舌で、こびりついた精液を拭い去るように。
最後の一滴までも味わうように――――ゆっくりと、唇からモノを離す。
軽い咳払いを一度してから、彼女は言った。
堕女神「……陛下、お具合はいかがでしょうか?」
勇者「ああ……助かった」
堕女神「それは何よりです。……陛下」
勇者「?」
剥ぎ捨てた布団を再び首までかけてくれ、堕女神も再び寝床へ横たわる。
その中で探り、引き寄せられた腕が、彼女の胸の間へ吸い込まれて……二つの柔らかさの中で、鼓動を伝えられた。
堕女神「快癒なされたら……しましょう、ね……?」
いきなりの感冒で潰れた一日。
その終わりは――――彼女の、そんな“お願い”で終わった。
55 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:28:39.83 ID:TB1GBG6ro
翌朝……起きた時には、もう身体の不調はなくなっていた。
完全にではなくとも、普段とあまり変わらない程度には、熱もだるさも、寒気も薄れていた。
しかし、目が覚めると――――自然、“そこ”は張ってしまっていて。
勇者「…………」
堕女神「お断りします」
勇者「何も言ってない」
堕女神「言わずとも分かります。……日が昇ったばかりですよ? 少し回復されたようで何よりです」
勇者「くっ……」
堕女神「慎んでください。さて……朝食を運んで参ります。それでは」
56 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:29:16.40 ID:TB1GBG6ro
昨晩とはうって変わって冷たく突き離され、勇者は独りで部屋に残された。
誰もいなくなった部屋で、冷静に今一度自分の体調を確認する。
頭を軽く振っても、頭痛も目眩もしない。
ぼんやりと焦点の狂っていたような視界もなく、額や脇に手を当てても、熱は引いていた。
シーツの端を掴んだり、離したり、色々とまさぐってみても手の触感もおかしくなく、自由だ。
血を吐くまで咳き込んだ喉も、今はもう痛くない。
一晩明けてみれば、昨日の不調がまるで嘘だったように、けろりと治ってしまう。
勇者(大人になると……こういうのは長引かないものなのか?)
釈然としないまま、サイドテーブルの水差しに手を伸ばす。
窓から差し込む朝日と、鳥の声に聴き入りながら、ひとまずは朝の時を過ごした。
その間に朝立ちは収まった。
収まったが……それでも、おかしな半勃起状態より下にはならない。
57 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/24(火) 00:29:56.19 ID:TB1GBG6ro
本日投下分終了です
ではまた明日
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/24(火) 00:33:20.86 ID:2OYQYVUko
乙
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/24(火) 00:37:38.84 ID:iD6/dVq60
乙
活力が生まれた
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/24(火) 00:42:34.26 ID:tjzE6YG20
乙です
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/24(火) 01:09:16.65 ID:N0P6DL4y0
乙
明日が楽しみだ 待ってる
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/24(火) 01:13:37.78 ID:yb+OQS970
さすがの文章だ 毎日の楽しみになったわ
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sega]:2017/01/24(火) 13:55:17.07 ID:uL7qW27sO
乙
しかし昼休みに見るもんじゃないな、椅子から立てん
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 00:19:53.09 ID:3aTVaTgV0
まだかー!!
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 00:34:28.03 ID:T1TDY1640
まだー?
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 00:37:42.45 ID:dscQm7aGO
くっさ
67 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 00:59:09.77 ID:iCugq6SKo
今日の分投下始めます
68 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:04:12.75 ID:iCugq6SKo
>>56
より
*****
そして、変化がまた起きたのは二日後のことだ。
勇者(……眠れない)
大事を取って休まされていた晩になる。
妙に明るい満月の夜で、そのせいなのか妙に体がざわついて眠れない。
似たような事は過去にあっても、こんな胸騒ぎまでは無かった。
それに――――
勇者「くそっ、またか!」
ズキズキと痛むような、酷い昂ぶりが襲った。
二度めになれば慣れはしても、無視はできない。
かれこれ二時間もの間、鎮まる気配がない。
寝ようとしても、寝つけないまま、落ち着かないまま、ただ時だけが過ぎる。
勇者(……仕方ないな、少し……歩いてこよう)
69 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:05:14.35 ID:iCugq6SKo
もう、歩いても支障はない。
この城内の沈黙と性欲の昂ぶりは、どうも冬の事件を思い起こさせる。
城に前触れなく現れたインキュバスと、その魔力。
女性を眠らせ、精気を少しずつ吸い取り集める能力だった。
あれと同時に唯一の男だった勇者は妙に昂ぶってやまなかった事もある。
だが――――その杞憂は、すぐに消えた。
何かないか、と思って入った厨房に、サキュバスが起きていたからだ。
サキュバスA「あらら……こんな所で何をしておいでですの?」
勇者「お前こそだ。……何だ、その酒瓶」
サキュバスA「何、と申されても……寝酒としか」
勇者「何だ、お前も眠れないのか?」
サキュバスA「えぇ。お酒もお肌には悪いのでしょうが……眠れぬよりはまし、ですわね」
勇者「……」
サキュバスA「いや。陛下、ご提案がございます」
70 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:06:07.64 ID:iCugq6SKo
勇者「え?」
サキュバスA「今から、出かけて……呑みに参りませんこと?」
勇者「今から……?」
サキュバスA「大丈夫、まだ日を跨いだばかり。それに、少し歩きますし……ね? 娑婆の空気を吸いに行くのも、立派な“治療”ですわよ?」
勇者「しかし」
サキュバスA「……陛下。ここは“淫魔の国”です。淫魔の国で、夜遊びをなさらないなんてそちらの方が不謹慎ですのよ」
勇者「…………」
腹は、減っていた。
外に出たいとも、軽く酒を入れたいとも思っていた。
何も断る理由はないし、いつか堕女神に注意された事もあったがあれはあくまで、“独りで出歩くな”という意味合いの事だ…………と、勇者は認識していた。
結局。
――――――断る理由は、なかった。
71 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:08:40.63 ID:iCugq6SKo
*****
勇者「すまない、火酒を一本。温野菜と魔界牛のグリル、それとオーク風ソーセージを一皿と……」
サキュバスA「グラスと氷を私の分も追加で。あとは……海老と蛸、海鮮のサラダもありますけれど」
勇者「…………いや、俺はいい。しばらくはいい」
サキュバスA「かしこまりました。まぁ、私は食べますが」
勇者「じゃあ何で訊いたんだ……。とりあえず注文は以上で。請求書は城へ送ってくれ」
給仕「はい。しばらくお待ちくださいね、国王陛下どの?」
勇者「国王陛下はよせよ。今ここにいる俺は、ただの人間だ」
72 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:09:27.79 ID:iCugq6SKo
眠れない日に抜け出してここへ来るうちに、彼女らの上に立つ王だというのに、常連になった。
料理の全てが逸品であり、酒もまた人界では呑んだ事もない美酒ばかりだ。
店主も給仕も、務めるのは年経た“狐”が魔族となった、ふさふさの尾を持つ美女だ。
金色とも白色ともつかない、強いて言えば“きつね色”の髪を束ね、尾を生やしているが本数にばらつきがあった。
彼女らはどちらかといえば、雇用関係よりは師弟関係に近いらしい。
サキュバスA「人間界では……ブラッドソーセージと呼ぶのでしたか?」
勇者「だったかな。俺も食べたことはあっちでは一度しかないかな」
サキュバスA「あら、意外ですわね。注文するからには好物かと」
勇者「というか……食べたいと思っても、その地に長くいられなかったからさ」
サキュバスA「“急き立てられた根無し草”のつらい所ですのね」
73 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:10:46.55 ID:iCugq6SKo
奥のカウンター席に座って店内を見回すと、思っていたより客は少ない。
冬も終わって屋内に籠もりがちだったラミアも出て歩くようになって、様々な種族でいつもはごった返しているのに。
今、店内にいるのは勇者とサキュバスA、いつもの給仕と料理番、サキュバスが二、三人だけだ。
勇者「俺は、世界中を旅したけど……世界をじっくりと味わう事はできなかったんだな」
サキュバスA「世界は“飲み物”ではなく“美食”でしたのに。……ともあれ、今はまず腰を据えて乾杯としましょうか。“元”勇者の人間どの?」
勇者「ああ。……乾杯」
氷の浮かぶ琥珀色の火酒。
それを充たされたグラスには――――ある魔法がかかっていた。
ガラスに彫り込まれた細工がひとりでに動き、物語を演じている。
サキュバスAのグラスの中では、山羊角の生えた女が木の下で旅人をかどわかす様が、
まるで生きているかのようになめらかに動いて語られている。
“無声劇のグラス”はまた、場面ごとにその細工の色までも変わる。
情熱的な場面では赤く、たとえば哀しみに沈む場面では青くなると聞く。
しかし、悲劇を演じるグラスは存在しない。
喜劇であったり、淫魔におあつらえの場面であったりはしても、酒に哀しみを背負わせる事は、人間も淫魔も同じく嫌っているに違いない。
74 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:12:07.22 ID:iCugq6SKo
そして、勇者の掲げ持つグラスの中の世界では……どちらかといえば拙いが味のある絵柄で、
姫君をさらった暴竜へ立ち向かう勇敢な少年の冒険物語が演じられていた。
勇者「……効くな、これは」
一口含むだけで、口の中が焼けるようだ。
強烈な酒精と火を吐くような辛さ、しかしその奥深くにあるのは、深遠な甘さ。
どこか潮の香りのするような味わいは、荒波とともに吹く熱い海風を吸い込むような後味を残した。
氷が解けてゆけば丸くはなるし、少しずつ間を置いて飲めば柔らかくなる。
しかしサキュバスAは乾杯直後で半分ほど空けてしまっていた。
サキュバスA「これは……良い酒を仕入れております。私も飲むのは59年ぶりです。
もっとも、最高の出来栄えだったのは2275年前。あれは当たり年でしたわね」
勇者「……気になっていた事がある」
サキュバスA「何でしょう」
勇者「お前は……妙に、数字に細かいな」
75 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:13:29.24 ID:iCugq6SKo
サキュバスA「そうでしょうか?」
勇者「その……気を悪くするかもしれないけど、数万年生きていると、十年単位の時間なんてどうでもいいのかと思ってたんだ」
サキュバスA「あら、そうでもありませんわよ。どれだけの生があったとしても、今この瞬間の長さは皆同じ。
酒が喉を下りるのも、噛み締めた肉汁がほとばしるのも、一瞬。“時間“はすなわち思い出です。
……それに、誕生日を迎えるのも、一年にたったの一度。つまりは……今日」
勇者「え……って事は」
サキュバスA「ええ。私……今日で、20940歳になりましたのよ」
言って、サキュバスAは霜の降りたような海魚の薄切りと葉野菜をまとめて口に運んだ。
どこか得意げで満ち足りたような表情は……いつもの彼女とは違って、不敵さがない。
76 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:13:55.67 ID:iCugq6SKo
サキュバスA「……そういう訳ですので、今日の酒代は無料とする訳には」
給仕「いくわけないだろ。二万数回目の誕生日はおめでとうと言ってやるけどさ」
サキュバスA「あら……いけず」
給仕「こっちだって生活があんの。……まぁ、少しぐらいまけてやってもいいよ。八掛けにしてやる」
サキュバスA「それはどうもありがとうございます」
給仕「いいからその分酒でも頼みな、サキュバスさんよ」
サキュバスA「それでは、火酒をもう一本いただきましょうか。もう少しスムーズな口当たりのがあれば、それを。」
給仕「あいよ」
77 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:14:33.18 ID:iCugq6SKo
もう一度火酒を含むと、解けた氷で薄まって、だいぶ飲みやすく変わっていた。
しかし喉越しは相変わらず焼かれるようで、胃に下りてからも余韻が残る。
グラスの中の世界は、半ばまで減った火酒の琥珀色を背景に、ドラゴンと“勇者”が戦っている場面に変わっていた。
勇者「誕生日、おめでとう。……すまないな、贈れるものもない」
サキュバスA「ふふっ、お構いなく。陛下と共に過ごせるだけで、私には過ぎたる幸せですもの」
相変わらず――――彼女は本心が見えない。
勇者「そう言われるとな。……ところで、手洗い場は?」
サキュバスA「お酷い。私の言葉があまりに居心地悪いからといって……」
勇者「違う! 飲めば行きたくもなるだろ。それで、どこだ」
サキュバスA「ありませんわよ」
勇者「……はぁ?」
78 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:15:57.91 ID:iCugq6SKo
サキュバスA「お手洗いなど、ありません」
勇者「いや、無いはずがない」
サキュバスA「……陛下、サキュバス族がお手洗いに行くはずなんてないでしょう、常識的に考えていただかないと」
勇者「え……、え?」
給仕「……いや、ウソつくなよあんた。陛下、外出て建物を右側に回った離れですからね」
サキュバスA「いきなりボケを潰さなくても良いでしょうに」
給仕「陛下が一瞬本気にしただろ。それで十分じゃないのさ」
サキュバスA「……まさか、本気になさったの?」
――――――何も、言えなかった。
79 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:17:18.65 ID:iCugq6SKo
手洗いに立つと……ますます酷くなる。
飲んでいても、話していても、治まりがつかず……むしろ、悪化の一途を辿る。
勇者(……! 何だ、これ……いったい、何時間……!?)
血が引かない。
見てみると、いつにも増して硬く、そして大きく太く変わっていた。
勇者(しかも……何だ、これは)
左手に、奇妙なアザが浮き出ていた。
指の骨をたどるように、黒く太い線が五本。
その縁は紫色に輝いて不気味な光を放っているが、痛くも痒くもなく、他の身体の不調も無い。
収まらない勃起と、左手の紋様。
それが関係ない事とはどうも思えなかった。
勇者(まさか……呪いか?)
80 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:17:53.87 ID:iCugq6SKo
勃起のせいでしづらくなっていた排泄を終えて戻ると、サキュバスAが、蕩けた目で迎えた。
サキュバスA「んふっ……。陛下、随分とお時間がかかりましたのね?」
勇者「……大丈夫か?」
サキュバスA「ええ、大丈夫ですわ。……でも……そう、ですわね。陛下の御顔を、もう少し……間近で……」
勇者「どう見ても大丈夫じゃないぞ」
サキュバスA「んふふふ……」
見れば、もう解けてなくなってしまったグラスに直に注いで、原酒のままで傾けていた。
氷を浮かべてさえも喉が焼けるように強い火酒を、直でだ。
81 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:18:51.54 ID:iCugq6SKo
勇者「おい、そんな飲み方するなって!」
サキュバスA「え? ……あぁ……すみません、気がつかず……」
勇者「違うって! 俺のに注げとは言って……やめ、こぼれるこぼれるこぼれる!」
サキュバスA「あらぁ……もったいなぁい……」
勇者「口をつけてすするな!」
サキュバスA「んふっ……美味しい」
勇者「……おい、一体何があったんだ?」
給仕「何でしょうねぇ……。こいつ、そんな弱くないのに……こんな量じゃ酔わないはずですよ」
サキュバスA「ひっどぉい……酔って、まぇんって……」
勇者「酔ってる奴はみんなそう言うんだよ!」
給仕「ベタベタな酔い方ですねぇ。水持ってきます?」
勇者「頼む」
サキュバスA「えぇ……? お水なんて飲んだら、酔いが醒めちゃうじゃないですかぁ……」
勇者「醒めろって言ってんだ!」
82 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:19:32.21 ID:iCugq6SKo
結局、とっぷりと更けた夜の街を、サキュバスAを背負って城へ帰る事になった。
うなじには酒臭く熱い吐息がかかり、しっとりと湿ったこそばゆさが背筋をその度に走る。
勇者「……何でこうなった?」
サキュバスA「んふふ……申し訳ありませぇん、陛下ぁ……」
勇者「まぁ、いいよ。少しかかるぞ。寒くないか?」
サキュバスA「お優しい……陛、下……」
勇者「ちょっと一杯ぐらいのはずだったのに。どうして……」
サキュバスA「……はしゃいで、しまい……ました」
勇者「え?」
サキュバスA「私、が……貴方と、二人きりで……誕生日、祝杯を、挙げられ……て……嬉しかった、のです……か?」
勇者「……俺に訊くなよ」
83 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:20:14.28 ID:iCugq6SKo
背中越しにサキュバスAの体温と、必然として当たる感触が伝わる。
酔い潰れてしまった彼女の声はか細く、どこか健気で……普段の掴みどころのなさは形を潜める。
サキュバスA「……陛、下……ぁ……んふっ……」
勇者「っ!」
後頭部に鼻先をうずめられ、そのままくしゃくしゃと飼っている猫にでもするように嗅がれる。
生暖かく熱い吐息の逃げ場がなく、頭皮が湿るのを感じて背中が粟立った。
サキュバスA「……お風呂……入った方が……良い、ですわ……」
勇者「うるさい悪かったな、病み上がりだ。明日入るよ」
サキュバスA「でも……好き……この、匂い……」
勇者「……ああ、そう」
84 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:21:20.79 ID:iCugq6SKo
サキュバスA「……思い出しますわね……。あの日……の……」
勇者「あの日?」
サキュバスA「兵士を……看取った、事が……あって……」
勇者「ちょっと待った……縁起の悪い話じゃないよな」
サキュバスA「……彼、は……まるで、安心して、眠るみたいで……目が覚めたら、何をしようか、っと……考えていた、ような……っ」
勇者「サキュバスA?」
サキュバスA「っ……ぅ…っふう……んっ……」
勇者「大丈夫か?」
サキュバスA「ん、くっ……うぅぅぅ……」
勇者「…………いいさ、拭け」
85 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:22:38.60 ID:iCugq6SKo
服の背中が、押し付けられたサキュバスAの顔を通して湿っていくのを感じた。
小刻みに震え、その中にしゃくりあげるような波も混じっていた。
密着した背中からは心臓の鼓動も伝わる。
サキュバスA「陛下……ごめ、なさい……う、うぅっ……もう……」
勇者「……サキュバスA?」
サキュバスA「もう、耐え……られ……」
それはもう嗚咽ではなくなっていた。
もう……間合いに入ってしまっていたと気付き、勇者の顔は青ざめた。
勇者「耐え……? おい、耐えられないって……まさか!」
サキュバスA「んぐっ……うぷっ……」
勇者「待て! 待てコラ! 今下ろすから!」
サキュバスA「…………おえっ」
勇者「待っ」
86 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/25(水) 01:23:28.91 ID:iCugq6SKo
本日分投下終了です
もう少しアレシーンはお預けだ、悪いな
それではまた明日
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 01:25:52.59 ID:0bf6nYqu0
乙
泥酔サキュAたそ〜
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 01:51:50.19 ID:dmFKWzWG0
乙
もうってことはそういうことだよね
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 02:03:21.03 ID:nm/U2IPy0
乙
食べ物ほんと美味そうに書くよね
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 02:09:27.15 ID:cAA0Tnbuo
兵士の話と繋がってて面白い
乙
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 02:19:05.24 ID:MhYOO0Hso
乙
ああもう、酒飲みたくなったじゃないか
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 02:56:15.05 ID:XA5pj7VE0
乙
サキュAの貴重な泥酔シーン
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/01/25(水) 07:08:15.46 ID:rArJ/kwU0
サキュバスAが弱ってんの珍しい
94 :
◆1UOAiS.xYWtC
[saga]:2017/01/26(木) 00:38:40.45 ID:NOr4kny+o
どうもこんばんは
それでは投下開始
95 :
◆1UOAiS.xYWtC
[saga]:2017/01/26(木) 00:40:33.49 ID:NOr4kny+o
>>85
から
*****
堕女神「おかえりなさいませ、陛下。随分とお元気そう――――うっ……」
勇者「言いたい事は分かる。説明もする。怒られる。だけど、その前に」
堕女神「……浴場ですね。それと彼女も一旦どこかへ寝かせて」
勇者「うん。……とりあえず、部屋まで運ぼう。こいつの部屋は分かる」
堕女神「その間に……お召し替えの準備を致します」
勇者「ああ、頼む」
最も堕女神に見つかる可能性の高いルートを選んだのに勝手口の扉を開けるなり、
そこには凄まじい読みの冴えで待ち伏せ、微笑んでいる堕女神がいて。
しかし用意していた言葉も凍りつかせて、彼女の顔は引きつった。
酔い潰れて勇者の背におぶさるサキュバスA、しかも、その姿は――――。
勇者「……なぁ、俺……一応、ここで一番偉い人だよね?」
堕女神「えぇ、まぁ……はい」
96 :
◆1UOAiS.xYWtC
[saga]:2017/01/26(木) 00:42:05.58 ID:NOr4kny+o
サキュバスAを私室まで送り届け、ベッドに寝かせてから大浴場を目指した。
服から刺すようなものが立ち上って、首回りから鎖骨、服の胸元までがべっとりと濡れる。
旅の途中で“魔法使い”が毒に倒れた時にもこうなった事があるが、流石に酒でこうされた事は一度もない。
脱いだ服を置かれていた籠に入れて、さすがに誰も入る者のいなくなった湯に浸かる――――前に、身体を清める。
手近にあった桶で湯を組み、全身に浴びると、ようやく解き放たれた。
石鹸と香油でいつもより念入りに体を洗い、二度、三度と繰り返す。
サキュバスAにやられた分だけではなく、風呂に入れなかった数日間の分も含めて、
頭髪も泡が立ち、指が入るようになるまで幾度も洗う。
あれだけ火酒を乾したのに、酔いはもうすっかりと抜け……というよりも、一気に醒めさせられた。
勇者(酷い……いくらなんでも、酷すぎる……)
湯船に身を浸しても、まるで気分は晴れなかった。
そして、裸になってみればイヤでも目が行く。
“自分自身”は、酒場に行く前に起きてからずっと、飲んでいる間も、あの目に遭っても、城に帰るべく歩いていても、今も。
ずっと――――滾ったままだった。
勇者(これも……いくらなんでも変だ。普通じゃない)
左手に浮き出た不気味な紋様も、湯の中で奇妙にたゆたっていた。
97 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/26(木) 00:42:49.70 ID:NOr4kny+o
*****
堕女神「……陛下。私は今どういう気持ちでいるとお思いですか?」
勇者「…………いや、その」
堕女神「安静にしているよう申した筈です。それなのに貴方は抜け出し、酒場に出掛けた。……病み上がりのその御身体で、です」
勇者「……はい」
堕女神「酒場に赴く事は禁じておりませんが、ご自愛下さいと申しました。飲酒はお体に良い事ですか?」
勇者「いえ……」
堕女神「お分かりになられているのなら、何故ですか?」
勇者「……つい。サキュバスAも、無理に俺が誘ったんだ」
98 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/26(木) 00:43:48.68 ID:NOr4kny+o
堕女神「それともう一つ。今は何時ですか」
勇者「……昼」
堕女神「そう、昼です。もう少々で昼食のお時間です。私から陛下へ苦言を申し上げている最中です。……それなのに、貴方は」
勇者「はい……」
堕女神「なぜ――――“昨日の晩から、ずっと勃起が治まっていない”などというお話を?」
勇者「…………」
堕女神「陛下。私の話を聞いておられますか?」
時刻は翌日、昼の執務室。
机の向こうに堕女神が立ち、じっくりと説教を受けている最中。
一晩明けても、まだ“それ”は……屹立していた。
99 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/26(木) 00:44:45.00 ID:NOr4kny+o
勇者「本当なんだ、信じてくれ。昨日の晩からずっと……!」
堕女神「……陛下。いくらなんでも苦しいとは思われませんか?」
勇者「違っ……本当だって!」
堕女神「いえ……本当であれば、確かにお苦しいのでしょう。ですが申し上げたように、このようなお話の逸らし方はいくらなんでも……看過いたしかねます」
勇者「そうじゃないって!」
その時、執務室の扉が開く。
サキュバスA「……陛下……」
堕女神「申し訳ございませんが、今は取り込み中です、後に……」
青い肌をことさらに二日酔いで蒼白にさせて、サキュバスAがいつになく疲弊したまま入室してきた。
彼女は、溺れたようによどんだ目のまま、勇者が机に隠していた左手を視線で示す。
100 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/26(木) 00:46:09.44 ID:NOr4kny+o
サキュバスA「陛下の……言っている事は、本当です……わ」
堕女神「え?」
サキュバスA「陛下、左手を……机の、上に……」
勇者「あ、あぁ……」
謎の紋様の浮いた左手を出し、二人に見えるようにかざす。
それを見ると堕女神は目を丸くして驚き、サキュバスAは、にやりと笑った。
サキュバスA「……極まれに、この国に迷い込んだ人間の男が罹患する、あるタチの悪い風邪がございました。
名前は特に付けられておりませんでしたが……私たちは、単純に“淫魔熱”と呼んでおりました」
堕女神「……それは?」
サキュバスA「一日、二日は咳や熱、頭痛と腹痛といった症状。ところがそれが治まると、後遺症で……“あちら”が滾ったままで決して治まらない。寝ていても起きていても、ずっとです」
勇者「まさか一生このままって事か!?」
サキュバスA「……いえ。治療法はございます」
堕女神「どのような……」
サキュバスA「セックスです」
101 :
◆1UOAiS.xYWtC
[sagesaga]:2017/01/26(木) 00:47:09.72 ID:NOr4kny+o
堕女神「……は?」
サキュバスA「左手の紋様がカウントである事は分かっております。それが消えるまで射精すれば良いのです。
……お疑いのようでしたら、城の書庫に詳しい文献が……」
勇者「え、え……? 放っておくとどうなる?」
サキュバスA「……さぁ。これまでの罹患者は三〜五十回で治りましたし。
とりあえず……一度、抜いてみて……紋様の減少を見てみましょうか?」
堕女神「お待ちください、このような場所で……」
サキュバスA「大丈夫。……脱ぐ、必要は……ございません。触れる、必要も」
ほんの少し体調を取り戻したサキュバスAの指先が、妖しい光を放つ。
軽く握っていたその手を、きゅっ、と握り締めた時、光が強まり――――。
勇者「うっ……!」
何の前兆もなくズボンの中で、弾けるように……達してしまった。
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