天秤(オリジナル百合)

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48 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/17(金) 23:10:59.92 ID:8JsEgK1w0
学校

生徒「あれ、今日は妹いないんですか」

姉「ちょっと入院してるんだ」

生徒「え、うそ!」

姉「たいしたことないよ」

生徒「えー、酷いお姉さん。もっと心配してあげてくださいよ」

姉(妹の怪我、軽傷だった。ちょっとかじった私程度でも分かるくらいには)

姉「うん、そうだね」

生徒「お姉さん、き、今日命令は」

姉「え」

生徒「私も、していいんですよね……?」ゴク

姉「……え、ええ」
49 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/17(金) 23:21:12.47 ID:8JsEgK1w0
昼休み

体育倉庫――

姉「ここで、何をするの?」

生徒「ごめんなさいッ」

トンッ

姉「……きゃッ」

ガラガラ
ガチャ

姉「え、生徒さん? 開けて! ねえ!」

『先生、これで私のカンニング許してくれるんですよね!?』

数学教師「ああ、いいよ」

姉「だ、誰」

数学教師「誰とは酷い。担任じゃないか」

姉「どうして、先生が」

数学教師「君はいつも妹さんと一緒にいるから、話しかけるチャンスがなかなかなかったけど、漸くゆっくり話せる」



50 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/17(金) 23:43:20.94 ID:8JsEgK1w0
姉「何か」ビク

数学教師「なあ、そんなに怯えるな。僕よりも、君の妹の方がよほど不気味だろう」

姉(どうして、知ってるの)

数学教師「驚いた顔をしてるが、この学校の教職員、PTAは周知の事実だよ」

姉「どういうことですか」

数学教師「君の妹の異常性と、そしてそれを擁護する両親。そして、我関せずの学校側」

姉「つまり、私と妹の関係を知っていてみんな放置しているってことなんですか」

数学教師「そうだ。頭の柔らかい子は好きだよ。おかしいと思っただろ? どいつもこいつも助けてくれないクソ野郎だと思わなかったか? 君の祖父はこの学校の大きなスポンサーなんだよ。理事長でさえ逆らえない。だから、君らのしている事を誰も咎めやしないのさ」

姉「どうして、そんなことになったんですか」

数学教師「知りたいか?」

姉「はい」

数学教師「では、取引をしよう。情報というのはタダではないよ」

姉「あの、私お金は持ってなくて」

数学教師「お金なんていらない。写真を一枚欲しい」

姉「写真ですか?」

数学教師「そうだ。君の写真だ」

姉「私の?」
51 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/17(金) 23:47:55.88 ID:8JsEgK1w0
チャキ

姉「ナイフ!?」ビク

数学教師「刺しやしない。ちょっと首筋に当てるだけさ」

姉「あ、う」

ピト

数学教師「動くと傷をつくることになるぞ。じっとしてろ」

パシャッ

姉「ッ……」

数学教師「よし、契約成立だ」

チャキンッ――スポ

姉(……なんでこんな写真を)

数学教師「さて、じゃあ僕の知っていることを話そう」
52 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/18(土) 00:15:00.76 ID:zg1uzZ0x0
――――
―――

放課後

河川敷――

テクテクテク

姉「……」

『―――ある患者の死が発端だった。その患者は手術中に亡くなった。担当したのは、君のお父さんだった。その時のオペにミスはなかったが医療器具に問題があったと病院側の見解が発表された。医療器具に致命的な欠陥があり、手術の際に器具の点検を怠ったとして責任者が処罰された。その責任者は、実刑は免れたけれど、その後どこの病院にも受け入れられなかったんだ。一人息子を持ちながら、彼は辛い状況に追い込まれてしまった。行き場を失った彼は、自分を守るためにある結論を導き出した。もしかしたら、オペにミスがあったのではと。そして、それを病院側が隠蔽しようとして、器具に何らかの細工を施したんじゃないかとね。なら、話は違ってくる。彼は憎悪に身を焦がした。憎しみの矛先は、どこに向かったと思う? なんということか、君の妹だよ』

『君の妹は、7日間監禁された。そして最後の日に、炎の中で殺されかけた』

『けれど、妹は助かった。救ったのは、誰だったと思う? 君の本当のお父さんだ。彼は実はオペ室にいた人物の一人だったんだよ。そして、彼だけは知っていたんだ。真実を。何が本当だったのかを。でも、今は誰も分からない。だって、君のお父さんは君の妹を助けるために炎の中に飛び込んだんだから』

『なあ、そう考えると、君を苦しめているのは何なのか見えてこないかい?』

『え? どうしてそんなことまで知っているかって?』

『……僕はね、その責任者だった男の一人息子だからだよ』

ジャリッ

犬「ワン!」

姉「わッ」ビク

53 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/18(土) 00:25:58.12 ID:zg1uzZ0x0
姉「あ、ここ……この間の」

犬「ワン!」

姉「あの時の正太郎?」

ザアアッ

ヒラッ

姉「花びら?」チラ

姉「……川沿いに、花束が」

姉「……」

姉(あ……そうか。あの子、亡くなったんだ)

「お姉ちゃん」

姉「え」

少女「お姉ちゃん」

姉「……あの」

少女「あの病院、お姉ちゃんのお父さんの病院なんだって?」

姉「う、ん」

少女「酷いよ」

姉「少女ちゃん……」

少女「酷いよ、どうして助けてくれなかったの!?」

ドンッ――グラッ

姉「きゃ?!」

ゴロゴロゴロッ――ドシャッ

姉「ッい」

少女「返して! お姉ちゃんを返して!!」

バシッバシッバシッ

姉「やめッ」
54 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/18(土) 00:34:53.65 ID:zg1uzZ0x0
姉「私の、私のせいじゃない! 私は悪くない!」

少女「ひッ……うえッ……うわああああ―――」ポロポロ

姉(はッ、そんなことをこの子に言ったってしょうがないのに)

少女「うわああああ――」ポロポロ

姉「ご、ごめんね」

スッ――バシッ

少女「人殺し!」

犬「ワン! ワン!」

少女「人殺し!」

タタタタッ

姉「ま、待って」

姉(人殺し? 私が? どうして?)

姉(おかしいじゃない)

姉(人殺しは、私じゃない)

姉(私はちゃんと言った。先に手術してくださいって)

姉(人殺しは、誰?)

姉(……考えたくない)

姉(ちょっと、疲れた……)
55 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/18(土) 00:40:14.71 ID:zg1uzZ0x0
F天秤とは

秤(はかり)の一種。
中央を支えた梃子(てこ)の両端に皿をつるし、一方に測る物を、
他方に分銅(ふんどう)を載せ、梃子が水平になるかどうかを見て重さを決める。 
56 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/18(土) 00:43:17.41 ID:zg1uzZ0x0
G悪夢の7日間

パチ

妹「……」

妹(白い天井)

妹「どこだっけここ」

ムクッ

妹「病院か」

ズキッ

妹「頭が痛い」

ズキズキズキッ

妹「いた……」
57 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/18(土) 00:43:59.13 ID:zg1uzZ0x0
今日はここまで
なかなか百合にならない……
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 01:29:07.44 ID:Mw29//aGO
むしろ百合なのかこれ...
そして登場人物にクズが多い
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 04:16:22.07 ID:dhvnQDGAO
良いね
60 : ◆/BueNLs5lw [sage saga]:2017/02/18(土) 23:25:22.41 ID:SnTsOsWf0
>>58
クズがもがくssです

>>59
ありがと
61 : ◆/BueNLs5lw [sage saga]:2017/02/19(日) 00:28:55.38 ID:bkQIlsYO0
チカッ

妹(何か、今、光った)

妹(私の頭の中の……記憶?)

『……偉い』

妹(男の人の声が聞こえる)

『君の……偉い』

妹「やだ、止めて」ビクッ

『ここで大人しくしているんだ』

妹(痛いッ、両手、痛いッ、縛らないでッ)

ギシッ

妹(止めて!)

『一緒に、ビデオを見ようか。あまり、面白くはないんだ』

妹(いや、いや、いや! 見たくない! 私、そんなの見たくない!)

『目を開けて、開けるんだ、開けなさい!』

バシッ

妹(痛いッ、ぶたないで! ごめんなさい! ごめんなさい!)

『俺の、俺の息子は、学校でいじめに合うようになった。息子はもっと傷ついた。なのに、お前らは、呑気に家族で買い物か……笑わせるな』

妹(ごめんなさい! ごめんなさい!)
62 : ◆/BueNLs5lw [sage saga]:2017/02/19(日) 00:47:24.02 ID:bkQIlsYO0
『1週間の猶予をやった。真実が明るみにされれば、お前を帰してやるよ』

妹(ひッ……うあああ――)

ピッ

『手術の映像を見たことがあるか?』

妹(……ッ)ブンブン

『俺は以前、発展途上国の病院に勤務していたことがあってな、その時の手術の映像をたくさん持っているんだ』

妹(いや、見たくない……やだやだやだ)

『中には、麻酔をかけることができない人や、手術中に断末魔を上げて死んでしまった人の映像もあるんだよ。なあ、ちょうど良い暇つぶしだろ』

妹(やだやだやだやだ――)

『医療ミスで死んだ奴の気持ちを、そのミスを被せられた人間の気持ちを……なあ、知ってるか。結局、どっちだ、どっちが庇っているんだ? 兄貴か弟か? なあ? 知らないのか? そうそう、弟の方にも娘がいたな…………なんだ、漏らしたのか? 汚いガキだ』

妹(ひッあ……ぅッぁ)

ポタポタッ

『風呂なんてないぞ。そのうち、乾くだろう』

妹(ったずげ……でぇ)

『じゃあ、鑑賞会1日目と行こうか』
63 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 00:53:22.90 ID:bkQIlsYO0
ガっシャーン!!

妹「イヤアアアアァ?!」

ガタンッ!
ダンッ!

妹「ハア……ァッ……ハァッ」

『情けない。お前の親父はもっと偉そうにしていたぞ。ああ、でも気味が良い。気味が良いな』

妹「きえ……て」

ブンッ――ボス!

『ハハ八ハハハハハッ』

妹「……ァ」フッ

ドサッ
64 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 01:04:53.01 ID:bkQIlsYO0
コンコン

姉「妹?」

ガチャ

妹「……」

姉「寝てるの? でも、何か、音がしたような……わ」

カチャン

姉「花瓶が割れてる……」

カチャカチャ

姉「危ないなあ……」

姉(風で倒れたのかな?)

妹「何しに来たの」

姉「わ、びっくりした」

妹「……お姉ちゃん、なんで泣いてるの」

姉「え」

サワ

妹「なに、いじめられたの?」

姉「そういう訳じゃ」

フキッ

65 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 01:22:02.95 ID:bkQIlsYO0
姉「それより、花瓶割れてたよ? 気づかなかった?」

妹「知らないわ」

姉「それは、凄いね」

カチャカチャ

姉「……いたッ」

妹「……」ビクッ

姉「血が」

妹「切ったの? ドンくさいわね」

姉「あはは……そうだね」チラ

姉(あれ、妹いつもより呼吸が早くなってるような気がする……。それに、瞳孔が開いてる)

姉「妹」

妹「ちょっと早く、血止めてよ」

姉「え、そんな大した量じゃ」

妹「そんなに、出てるじゃない!」

姉「落ち着いて。何をそんなに興奮してるの」

姉(妹には何か違うものが見えてるの?)

妹「見せないで。見たくない。見たくない」

姉「妹、どうかしたの?」
66 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 01:24:37.89 ID:bkQIlsYO0
今日は寝ます
ここまで
67 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 13:11:22.83 ID:E+i5dEgC0
妹「はあッ……はッ」

姉「妹、ねえ」

妹「ふ、ふふふッ……」

姉(今度は、笑いだした?)

妹「頭が、痛い……あは」

姉「ナースコールを」

カタッ――ガシ

妹「いい、しなくていい」

姉「でも」

姉(手に、凄い汗かいてる……震えてる?)

妹「……はあッ……はあッ」

妹「4日目……生肉を食べ続けた子ども寄生虫除去手術……」ブツブツ

姉「は?」

妹「6日目……」

姉「だ、大丈夫?」

ギュウゥッ

姉(いたッ……)

妹「7日目は」ギリッ

姉「……ッ」ビク
68 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 13:26:20.83 ID:E+i5dEgC0
姉(何の事を……)

妹「熱い……熱いよ」ガタガタッ

姉「ね、私を見て、妹」

妹「やだ、怖いッ……熱い」

姉「大丈夫だよ、怖くないよ」ニコ

妹「あ」チラ

姉「?」

妹「……私のパパは偉い。偉いの。でも、私は? 私は……」

姉(混乱し過ぎてる)

ビー

姉「今、ナースコール押したからね」

妹「……ねえ、おじさん」

姉「うん……?」

妹「どうして、パパはすぐにお金を払ってくれなかったの……」ボソ

姉「……」ビク

妹「どうして……」フッ

ドサッ―――
69 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 13:43:28.93 ID:E+i5dEgC0
翌日



パパ「妹がそんなことを?」

姉「うん」

パパ「そうか」

姉「ねえ、お父さん、どういうことなの」

パパ「知らなくていい」

姉「……」

パパ「知らなくていい事ばかりだよ」

姉「でも、知りたいの」

パパ「……お前は、弟によく似ているな。知らなくてもいいことに首を突っ込む。見ていて痛々しさすら覚える。そういう性分なんだろうがね」

姉「お願い」

パパ「学校が終わったら、病院に来なさい」

70 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 14:02:02.04 ID:E+i5dEgC0
学校

カツカツ――

生徒「あ」ビク

姉「……」

生徒「……」ペコ

姉「あなた」

生徒「な、なんですか」

姉「妹がいない時は、一人なんだね」

生徒「そ、それが何か」

姉「分からない? 妹に飼われてただけだよ。ああ、でも、他に飼ってくれる人がいないんだね。可哀想に」

生徒「な」

姉「医者の娘に近づいたら、餌をくれると思ってる? カンニングなんてしても、医大には入れないよ」

生徒「あんた!!??」

バシッ

姉「手癖が本当に悪い。先生に許されたくらいで、あなたの罪なんて消えないから。一生」

生徒「言ってなよ! どうせ、この学校でなかったことにすればいいだけなんだから。バレなきゃいいんだよ!」

姉「そんな嘘で、何が釣り合うの?」

生徒「あんたこそ、妹に媚び売って気持ち悪いんだよ」

姉「そうじゃないと生きていけないもの。私は、あの家に飼ってもらわないと死んでしまう」

生徒「私だって……」ポロ

姉(あ、泣いちゃった)

生徒「……うッ」ポロポロ

国語教師「こらー! そこ、何やってる!」

生徒「せ、先生! この人いきなり、私を殴ってきて……妹が休んだのは私のせいだって」

姉「え?」

国語教師(はあ? めんどくさいこと起こすなよ)

国語教師「そうか、そうか。それは辛かったな。あー、とにかく、姉は一緒に来なさい」

生徒「……」ニヤ

姉(嘘泣きまで、できるんだ)

71 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 14:13:08.98 ID:E+i5dEgC0
国語準備室

国語教師「で、殴ったのか?」

姉「いいえ」

国語教師「じゃあ、あいつの嘘か」

姉「はい」

国語教師「まあ、だとは思ったが」

姉「え」

国語教師「カンニングしたことがあるって聞いたことがあるからな、そのくらいの嘘平気でつくやつだろう。災難だったな」

姉「じゃあ、どうしてすぐにあの場で」

国語教師「妹と仲が良いだろう。妹に言って、二人で癇癪を起されちゃたまらない。最終的に、学校側の監督不行き届きってことにされるだけだ。で、現場に居合わせた俺の責任になる」

姉(腐ってる……)

国語教師「だったら、お前が口を噤んでくれるのが一番いいってことだ。平和的に」

姉「義理の娘よりも妹の方がこの学校にとって大事ですか」

国語教師「そんなこと聞いて何になる」

姉「どちらが偉いのかはっきりさせて欲しいんです」

国語教師「……」

姉「先生……」

国語教師「分かり切ったことを聞くな」
72 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 14:27:52.93 ID:E+i5dEgC0
昼休み

保健室

コンコン

姉「あの、すみません」

シーン

姉「誰もいないのかな」

姉「……ベッドも、誰もいない」

トサッ

姉「お腹痛い……ちょっと寝てもいいかな」

ゴソゴソ

姉「いつも、こんなに痛くないのに……」

姉「妹がいないと平和だと……思ったのに。いない方が、もっとしんどいなんて」

姉(変な話……ほんと)

姉(均衡? みたいなのがあったんだ、きっと)

姉(妹がいることで、この学校の悪が普通になるんだ)

姉(だから、今まで分からなかった)

姉(痛い……)
73 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 14:33:05.90 ID:E+i5dEgC0
ボヤア――


『パパ? ね、どこにいるの? あ、ママ帰ってきた』

『ママか? 本当にママか……ごほッ』

『うん』

『あら、パパ?』

『本当だ、ママの声だッ……嬉しいなあ。上手く引っかかってくれたのか』

『ねえ、ママ、今日のパパ変なの』

『あら』

プツッ――

姉「パパ?」

ツツッ――

パパ『……は……どうじゃない……んだ』

74 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 14:59:45.60 ID:E+i5dEgC0
姉(……はッ)パチッ

姉「うっかり、眠っちゃってた……」

姉(何か、夢を見ていた気がする)

「おい」

姉「え」

数学教師「……授業サボって何やってるんだ」

姉「授業?」チラ

姉(あ、寝すぎた)

姉「あの、お腹が痛くて、寝てたら……」

数学教師「なんだ、お前もか」

姉「お前も?」

数学教師「俺も、たまに節々が痛くなるんだよ」

グシャッ

姉「だ、大丈夫ですか」

ムクッ

姉(抑えてるのは首の後ろ?)

数学教師「なんだ。不思議そうな目で見て」

姉「いや、首の後ろ痛いんですか?」

数学教師「これは、まあたまに。なんだ?」

姉「いえ……」
75 : ◆/BueNLs5lw [sage saga]:2017/02/19(日) 15:11:04.59 ID:E+i5dEgC0
訂正 数学教師の人称ミス

数学教師「俺も」→「僕も」、「お前」→「君」

失礼しました

76 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 15:21:42.23 ID:E+i5dEgC0
数学教師「むち打ちだよ。昔、ある男に思いっきり殴られてな、それからだね」

姉「そうなんですか……」

姉「お父さんの病院、あ、行きたくなんかないですよね」

数学教師「ああ、そのうち行くよ」

姉「そうなんですか」

数学教師「ああ」ニコ

姉「……?」ゾク

数学教師「僕の事より、妹はどうだい?」

姉「怪我は大丈夫ですけど、この間は錯乱して……変な事を言ってました」

数学教師「なんて?」

姉「1日目、2日目……何か手術を受けたのか、見たのか……気持ち悪いことを呟いてて。昔の事を思い出したんでしょうか」

数学教師「子どもの寄生虫?」

姉「あ、はい」

姉(あれ、なんで?)

数学教師「僕も見たよ」

姉「……え」

数学教師「7日日間……も見なかったけどね。30分程で吐き気がして、失神した」
77 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 15:50:17.08 ID:E+i5dEgC0
姉「つまり、妹に先生のお父さんがしていたこと……?」

数学教師「ああ、そして僕にして、未完成に終わったこと。君の妹は、凄いよ。7日間それに耐えたのだから。あれに耐えて、廃人にならなかったんだから。強い子だ。でも、僕はダメだ。もたなかった」

姉(この人も、この人のお父さんも……おかしい)

姉「……妹がおかしくなったのも、そのせい?」

数学教師「同情してるのかい?」

姉「あ、えっと……」

数学教師「きっと、彼女の心はその時何か変化した」

姉「先生も、先生もそうなんですか?」

数学教師「……」

姉「あの、もしかして、その首のむち打ち、お父さんに殴られたんじゃないんですか?」

数学教師「いいや、僕は違う。父がボクにくれたのは愛だよ。僕は目に見えないものだった愛という感情を、体に受けることができたんだ。僕の体によって、愛は顕現したんだ。素敵な事だ? そうじゃないか? それに、彼は僕の本当の父親ではなかった。家も離れ離れだった……なのに、わざわざやってきて僕を気にかけてくれたんだ」

姉「妹が受けたことは……」

数学教師「父の愛にも等しいよ。なにせ、父はあの病院を憎んだだけで、君達姉妹を憎んでいたわけではない。だから、最高のおもてなしをしたまでだったんだ。君の妹が羨ましい……でも、それはあるいは君だったのかもしれないね」

姉「え?」

数学教師「そうだろ? どうして、兄の娘である必要があった。弟の娘でも良かったはずだ」

姉「私……だったら」

数学教師「なあ、そう考えると、君は不幸だったのか幸せだったのか? どっちだろう? 答えなくてもいい。分かっているだろう」

姉「……私は」

キーンコーンカーンコーン

数学教師「さあ、授業に行かなくちゃね」

カタンッ
カツカツカツ――

姉「……」
78 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 15:57:02.43 ID:E+i5dEgC0
夕方

病院

姉「あの」

受け付け「ああ、お嬢さん、待ってましたよ。こちらへどうぞ」

姉「あ、はい」

受け付け「このネームプレートを首下げて、エレベーターで8階に上がってください」

姉「……はい」

スッ

受け付け「どうぞ」ニコ

姉「ありがとうございます」
79 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 16:09:01.66 ID:E+i5dEgC0
ウイイン――

姉「……」

姉「私、何を聞こうとしてるんだろう」

姉「聞かなくてもいいこと」

姉「そうかもしれない」

チンッ
ガコン――

姉「え」

妹「どうして、ここにいるの」

姉「妹こそ」

妹「ヒマだったから、パパに会いに来たのよ」

姉「そうなんだ」

妹「あんた……なんでもない、じゃ」

姉「うん」

姉(あれ、もっと何か言われると思ったのに)

80 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 16:40:25.70 ID:E+i5dEgC0
コンコン

『どうぞ』

姉「お父さん……?」

パパ「ああ、よく来た。そこに座りなさい」

姉「……はい」

テクテク――ストン

姉「今、妹とすれ違ったよ」

パパ「もう良くなったから。明日には退院できるよ」

姉「ねえ、妹はPTSDなんでしょ?」

パパ「授業で習ったのか?」

姉「違う。自分で調べた」

パパ「どこまで?」

姉「色々だよ」

パパ「そうか……じゃあ、あとは何が知りたいんだ」

姉「どうして、私のお父さんは死んだの?」

パパ「……お前のお父さんは、弟は、罪を償っただけだ」

姉「罪?」

パパ「もう知ってるかな? 私と弟の医療チームが行った手術の顛末のこと」

姉「……」コク

パパ「あの時、誰のミスもなかったんだ。スタッフも、器具も、病院側には落ち度はなかった。だが、どうしたって世間は何かに責任を負わせたがる。私の父が下したのは、病院としてのけじめをつけるために、そして、後継者を守るために、器具点検の責任者を生贄にした。父はそういう人間だった」

パパ「だが、誤算もあった。責任者に、多額の金を積んだ。にも関わらず、追い立てられた状況に気付き彼は事を起こした。そう、君の誘拐を企てた」

姉「え、私?」

パパ「そうだ。本来なら、君が誘拐されていたんだ。だが、それにいち早く気づいたお前の父によって、未然に防ぐことができた。だが、対象がすぐに変わっただけだった」

姉「妹……」

パパ「ああ、代わりに私の娘が誘拐された。身代金を要求されたが、すでに多額の金を彼には支払っていた。私の父は、言った。もう、出す金はないと」

姉「まさか……それで、1週間も何もしなかったの?」

パパ「そうだ」

姉「酷い……」
81 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 16:59:03.47 ID:E+i5dEgC0
パパ「金を出す気がないと分かれば、解放すると父は判断した。警察にも届け出を出さなかった」

姉「その間に、妹は凄く辛い目にあったんだよッ?」

パパ「みたいだな」

姉「そんな、他人事みたいに言わないでよ……」

パパ「どうして?」

姉「どうして? どうしてって……」

パパ「妹はどうせ、もう使い物にならない」

姉「やめてよ……そんなこと言わないで」

パパ「今さらになって、君の方がよほど優秀だと気づかされた」

カタンッ
カツカツカツ――

パパ「心も強く、美しい。隠れて、私の書斎の本を見ているね? 知的好奇心も医者向きだ」

ポンッ

姉「さ、わらないで」

パパ「今だけでいい。あの子が学校を卒業したら、精神病棟に入れる予定だ。次は、君が表舞台に立つ番だ」

姉「妹は、確かにおかしいけど……そんな必要は」

パパ「あの事件が起きた時から、彼女には集団行動を学んでもらう以外に期待はしていないよ。病棟でスタッフの手を煩わせないようにね」

姉「……」ゾク
82 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:07:36.01 ID:E+i5dEgC0
H妹

病院の中庭

姉「……」

姉(狂ってる……)

姉(この病院も、あの男も……)

姉(妹……)

姉(妹が今まで私にしてきたこと、許せないことばかりだ……)

姉(なのに、今、私は……あの子を思いっきり抱きしめてあげたいと思ってる)

姉(汚い言葉をかけられるかもしれない。殴られたり、蹴られたりするかもしれない)

姉(あの子が私の居場所を奪ったんじゃないんだ)

姉(あの子には、もうそんなもの用意されてない)

姉(私は、あの子が立つはずだった場所に立っている……)
83 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:17:22.31 ID:E+i5dEgC0
ママ「あら、お姉ちゃん」

姉「お母さん……」

ママ「妹ちゃん、元気だった?」

姉「うん」

ママ「これから、退院の手続きに行くの。来る?」

姉「行く……あのね」

ママ「なあに?」

姉「どうして、ママは再婚したの?」

ママ「いきなりどうしたの」

姉「前から、聞こうと思ってたの……」

ママ「あなたのためよ」

姉「……」

ママ「あなたのため。それだけよ」ニコ

姉「あり……がとう」


私は、前に図鑑で見たカッコウという鳥を思い出した。
あなたのためよ、と言われて他人の巣に託されたその子は、いったい何を思うのだろうか。
施しを受けながらも、誰かを犠牲にしていると知る日が来たら?
その時、ヒナは果たして幸せ?
84 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:23:04.36 ID:E+i5dEgC0
妹の病室

コンコン

姉「妹? 入るよ」

シーン

姉「……あれ」

姉「どこにもいない」

姉「トイレかな」

キョロ

姉「……なにこれ」

カサッ

『みんな死ね』

グシャッ

姉「……あ」ドクンッ
85 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:26:04.69 ID:E+i5dEgC0
ガタタッ

ママ「お姉ちゃん? 妹ちゃんは?」

姉「はッ……」ドクドクッ

ママ「どうしたの?」

姉「……ッ」

タッ

ママ「お姉ちゃん!?」

姉(もしかして、お父さんとの話聞いちゃったんじゃ……)

タタタタッ
86 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:34:12.92 ID:E+i5dEgC0
ドンッ

数学教師「あれ」

姉「いたッ」

ヨロッ

数学教師「そんなに慌ててどうした」

姉「せ、先生どうして病院に……あ、ううん、そんなことより、妹見ませんでしたか?」

数学教師「妹? さあ?」

姉「ベッドの上にこれが」

カサッ

『みんな死ね』

数学教師「……これは」

姉「さっき、あの」

姉(なんて説明すれば)

数学教師「理由は後で聞こう。それより、妹さんを探した方がいいんだろう?」

姉「は、はい」

数学教師「誰か見たかもしれない」
87 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:38:39.09 ID:E+i5dEgC0
タタタタッ

姉「はッ……はッ」

『僕の携帯の番号を教えておくよ。何かあったらかけておいで』

看護士「こら、廊下では走らない! さっきも言ったでしょ!」

姉「え」

ピタッ

看護士「あれ、お姉さんの方だったのね」

姉「妹を見かけたんですか?」

看護士「上に駆け上がっていくのは見たけれど」

姉「……ありがとうございます」

タタタッ

看護士「あ、こら」
88 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:44:12.74 ID:E+i5dEgC0
姉「……妹」

タタタッ

姉「妹ッ」

タタタッ

姉「どこ?」

タタタッ

患者「ごほッ」

姉「あ、はあッ……あのッ」

患者「?」

姉「私と同年代くらいの女の子見かけませんでしたか」

患者「さあ?」

姉「……はあッ」

患者「でも、なんか同じように廊下を走る音は聞こえたかな」

姉「どっちの方からですか?」

患者「たぶん、あっちの屋上に繋がってる方の」

姉「……ッ」

タタタタッ
89 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:48:21.06 ID:E+i5dEgC0
屋上

ガチャッ

姉「はあッ……ごほッ……」

看護士「あら、こんにちは」

姉「あの、妹見ませんでしたか」

看護士「さっきまで、そこのベンチに座ってたわよ」

姉「……はあッ」

看護士「鬼ごっこはお外でやってね」

姉「すみ……ません」

キョロ

姉(どこ)
90 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 17:57:26.41 ID:E+i5dEgC0
姉「……」

テクテク――

姉「妹?」

ガタンッ

妹「お姉ちゃん、どうしたのよ」

姉「……あ」

妹「来ないで」

姉「妹、柵の外は危ないから、こっちに来て」

妹「いやよ」

姉「お願い」

テクテク――

妹「お願い? お願いするのは私の方よ? 返してよ、私の居場所を!」

姉「やっぱり、聞いてたんだね」

妹「許さない、許さない、許さないから!」

姉「妹……」
91 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 18:07:48.28 ID:E+i5dEgC0
妹「許さない……」

カツッ

ママ「妹ちゃん?!」

妹「マ、ママ」

姉(気が逸れた)

タタタッ――ガシッ

妹「は、離して!」

姉「ダメだよッ」

ママ「お姉ちゃん、危ないから離れなさい!」

姉「え」

ママ「何されるか分からないんだから! もう、その子は狂ってるの。好きなようにさせてあげて」

姉(お母さん、何を言ってるの?)

妹「……あはッ」

姉(それは、つまり、妹に死ねと言ってるの?)

妹「やっぱりね、そうだ……あんたたちの考えてること、漸く分かったわ」

姉「妹……」

ギュッ

妹「離しなさいよ」

ママ「お姉ちゃん、こっちにおいで!」

姉「この子は……私が、守る」

ガタンッ

ママ「どうして、柵の外に!?」

妹「な、なによ。一緒に死ぬつもり?!」

姉「死ぬのは怖いから嫌だな」

妹「じゃあ」

ギュウ

妹「あ……」

姉「お母さん、しばらく二人きりにして。出ないと一緒に飛び降りる」

ママ「何言ってるの!?」

姉「本気だよ」

ジャリッ

ママ「……!?」

92 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 18:15:12.05 ID:E+i5dEgC0
―――
――

外階段

カツンカツンカツン

妹「……」

姉「……」

妹「どこに行くの」

姉「……」

妹「……ねえ」

姉「分からない」

妹「なによそれ」

姉「でも、私、あなたのこともっと好きになりたいの」

妹「どうしてよ」

姉「お姉ちゃんだからかな? ううん……妹だから?」

カツン

数学教師「あら、見つかったのか」

姉「うん」

妹「先生が、なんで病院に……」

姉「ねえ、先生。そのうち病院に来るって言ってたよね?」

数学教師「ああ」

姉「私の写真使うつもりだったんでしょう?」

数学教師「察しの良い子どもも好きだよ」

姉「私達、当分家に帰らないから。好きに使って」

数学教師「へえ」

妹「ちょっと、何勝手に」

姉「一緒に行こう?」ニコ
93 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 18:25:02.08 ID:E+i5dEgC0
妹「……ッ私は、狂ってるの」

姉「知ってる」

妹「偉くなんかないの」

姉「知ってるよ」

妹「生きてなんていけない……」

姉「生きて。私が、あなたを守るから」

ぎゅう

妹「うッ……ああああああ――」ポロポロ

姉「その写真で身代金でもなんでもいくらでも要求して」

数学教師「ああ、そうするよ。君はどこへ行くんだ?」

姉「……」ニコ

妹「うッ……ひッ」ズビ

姉「おいで、妹」

妹「……ッ」コク

数学教師「……」


カンカンカンカン―――





終わり
94 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2017/02/19(日) 18:25:49.99 ID:E+i5dEgC0
お付き合い感謝です
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/02/20(月) 02:47:27.01 ID:WisZge3nO

雰囲気やオチを含めた話も好きだ
是非また書いてね
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/21(火) 05:56:03.44 ID:X03rPlOto
世紀末だな...
こんな世の中で生きていける気がしない
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 15:18:57.35 ID:CB2zowkeO
とても好きだった
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