勇者「幼馴染がすごくウザい件」

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1 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 20:10:53.20 ID:RjIOA7Qm0
・100レスほどで終わればいいなと思ってます
・通常sage進行で行います
・エロやグロ主体ではありませんが、エロはあります
2 : ◆y7//w4A.QY :2017/03/11(土) 20:30:12.00 ID:RjIOA7Qm0
暑い夏の日だった。
バンドギア王国の郊外、ど田舎のミルー村でギラギラと照りつける太陽の下、ミラは前歯でアイスクリームのコーンを噛み砕いた。
巻き紙の部分をまわし、外周をかじっていく。内側のアイスを吸い舐め最後のコーンを口に放り込むと両手を打ち鳴らした。

ミラ「カケル、面白いものを見せてあげる」

整った切れ長の一重の目をチラリと向けて、眉をひそめる俺に含みをもたせてこう言った。どうせろくでもないと訝しみながらも、誘いに乗ることにした。
しばらく無言で歩きながら、やるせない気分のまま、ぼんやりと視線を流れる景色に向ける。

俺の気持ちは、いつも深い霧に包まれているようだった。

なぜ、こいつの家の近くに生まれたのだろう。
なぜ、こいつにいつも振り回されるのだろう。
なぜ、こいつは、こんなにも! 自己中心的なんだ!!

注意しておく。俺は別段、どこか体調がすぐれないわけでもない。ましてや精神を病んでるわけでもない。

一見して見れば絶世の美女とも見間違えるほど、ミラの容姿は整っている。うらやましがる物好きな連中がいるのも俺は知っている。
しかし、俺が我慢できないのは、ミラの傍若無人な振る舞いだ!

誰か! 変われるなら変わってくれ!

ミラには、もっとふさわしい世界があるはずだと俺は思う。

どんなに絶望的な状況も切り抜けられる、さながらの尻に火がつく事態も、けっして自暴自棄になることもなく、自己邁進して我が道を突き進む。

そんな漫画のような世界がミラには合ってるんだ――。

こんな、毎日を惰性に身を任せている俺とは違う。

何度も何度も逃げようとした。

ある時は――。

カケル『今日は用事が……』
ミラ『なんの用事? 終わるまで待ってあげる!』

また、ある時は――。

カケル『(よし、いないな……)』
ミラ『カケルっ!! ……なに驚いてるの?』
カケル「(お前から逃げようとしてたんじゃボケェっ!!)」

このように、ミラから逃げようとともがくほど、否応なく気がつかされたことは、恐ろしい勘で先回りされ、いつのまにか側に立っている。そんな状況だった。
3 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 20:56:54.71 ID:RjIOA7Qm0
カケル「…………」
ミラ「フンフ〜ン♪ ねぇ、私ね、新しい魔法を覚えたの」
カケル「そう……」
ミラ「カケルってあいかわらす無口よね」

余計なお世話だ。俺は、元来、人と喋るのが苦手だ。
だから、ミラに限らず、自分の両親相手でさえ、二言で済ませることが多い。
例えば「ああ」「そう」「うん」など。
……って、頷いてばっかりじゃんか、俺!

呆れ顔のミラが先を歩く後ろ姿を見つめるままに、細い路地の角をまがり進むと開けた草原が目の前に広がっていた。
一本の巨木。
大きく枝葉を広げた木が、幅の狭い道のほぼ半分を塞いでいた。その手前には、木の根元に寄り添うように、小さな石像がひっそりと構えている。

ミラ「ここまで来ればいいかな……じゃあ、カケルはそこで座って見てて」

ちょこん、と座り、はやく終わってくれと見上がる格好の俺に、ミラは得意気に鼻息をフンスと気合いをいれる仕草をだす。
ぼとなくして、ゆっくりと、ミラは瞼を閉じた。

ミラ「マナよ……火の精霊よ………」

恐らく、精神統一に入ったのだろう。
魔法を使うには、内にある体内の気と自然界にいる精霊とのエネルギーを杖というバイパスで繋ぎ練り上げなければならない。
魔法を使える=それができる人というわけ。

俺なんか普通の人間はできる気さえしない。
10000人に1人ができたらいいぐらいの話で希少価値はある。

ミラは魔法の面でかなりの才能があるらしく、王国からミラの為だけに視察団が来たぐらいだった。

信じられるか? 王国からだぞ。近いわけでもないこんなクソ田舎に。

ミラ「……風の音……火の音……」

火の粉がミラのまわりにポツポツと集まりだした。
4 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 21:13:36.21 ID:RjIOA7Qm0
それは、綺麗だった。
それは、神秘だった。

ミラ「カケル! よーく見ててね!」

不敵な笑みを浮かべるミラに、瞬間、なにか、身震いをしてしまうかのようなゾワっとした悪寒が走る。
異様な気配を感じ取り、俺は金縛りにかかったように足が動かなくなった。

カケル「(ま、まさか、またなのか⁉︎」

額や胸、背中から汗が吹き出す。鳥肌が二の腕を走る。
見る間にぐっしょりと濡れそぼった掌を服にこすりつけながら、俺は喘ぐように後ずさった。

――リンリンリン――。
――リンリンリンリン――。

耳が、というより脳がキーンと痺れるほどの鈴に似た音が近づいてくる。身体にフツフツと鳥肌がたちだした。混乱する思考のさなか、その気配の異常さを正確に捉えていた。

こいつはいつも、そうだ!
持て余し気味の力を披露する時にいつも、やりすぎる!

気配は秒刻みで、確実に迫ってきている。
絶望的な未来を直感してしまうほどのただならぬ雰囲気のする方角へと気づいたときには凝視していた。


――そして、豪炎が、世界を揺るがした。


カケル「うっ……!」

そこからは、スローモーションを見ている感覚だった。
身体は宙に投げ出され、視線は虚空を見つめている。
烈風が俺を襲った。
もがくように反射的に踏ん張ろうと腿に力を入れるが、どうにかなるものではなかった。砂利を巻き込み壁に叩きつけられる格好でようやく勢いは止まる。

カケル「がはっ!」

肺に停滞していた二酸化炭素が、衝撃で吐き出され、数秒の絶息が襲ってきていた。俺は搾り出すように嗚咽の言葉を吐いた。

カケル「お、ぇ、おぇぇ……」

吐き気を催し、よだれが糸をひく。這いつくばった不自然な姿勢のまま痛みに呻いた。なにをしているのか意識することもできず、軽い脳震盪でぼやけた視界の中、俺は信じがたい景色を眺めていた。


ドォンッ!!


と、火山が噴火するような爆発音と共に、視界いっぱいに天を貫かんとばかりの巨大な火柱が、前方の数メートル先に現れていたのだ。

カケル「(こ、これだから、こいつに付き合うのは嫌なんだ……っ!」

口の中を切ったらしく、否応なしに鉄の味が舌に絡む。
ミラを取り巻くように荒れ狂った光景は、辺りの景色を紅蓮の炎で焼き尽くし、周囲を真っ赤に染め上げてゆく。

ミラ「どぉ⁉︎ 凄いでしょ⁉︎」

よろよろと立ち上がり俺は息を呑み圧倒的な光景を唖然として見つめた。
まるで、神々の怒りか、はたまたこの世の終末を彷彿とさせる荒々しさだ。

カケル「……うん」

今すぐに、この場を離れ、まっすぐ行けるとこまで走っていきたい。すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られているのに、足が動かない。

おまけに口下手な俺の言葉に気を良くしたミラは満足気に頷いていた。もちろん、お察しの通りの、満面の笑みで。

ただ、呆然と、なす術もなく見つめるしかない俺にミラが軽やかなステップで近づいてくる。

ミラ「また新しい魔法覚えたら見せてあげるね♪」

その声はまるで死神の鎌のような禍々しい鋭さを宿して俺の耳朶を打つ。

カケル「(誰か、誰か俺の幼馴染をなんとかしてくれ)」

これが、俺の毎日だ。
5 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 21:46:37.02 ID:RjIOA7Qm0
マアヤ「カケルちゃん、カケルちゃん」ゆさゆさ
カケル「……ん」
マアヤ「もう、ようやく起きた。寝坊癖はいい加減なおさなきゃね。ミラちゃんが下で待ってるわよ」

眉根を寄せて困った顔をしていた母さん。
母さんは俺より十数センチほど背は低いが、それでも、年上っぽい落ちついた雰囲気を纏っている。
肩より少し長い髪で、毛先がほんの少し内側に向かって曲線を描いている。目が大きいせいか、少しあどけない顔立ちだ。

カケル「うん……」

違う。俺は寝坊癖があるわけじゃない。
起きるのが億劫なだけだ。その理由は、起きればミラが待っているからに他ならない。

ミラ「カケル、先に朝食いただいてるわよ」
カケル「うん……」
マアヤ「いつもいつもごめんねぇ」
ミラ「いいえ、叔母様の作る料理がとっても美味しくて♪」
マアヤ「まぁ、この子ったら。ミラちゃんみたいな子がカケルのお嫁さんになってもらえないかしら……」
カケル「え……」

勘弁してくれ。そうなったら自[ピーーー]る。

ミラ「まだ私たち十代ですし、気が早いですよ」
マアヤ「まだってことは、その気があるの?」
ミラ「お、おば様……」

おい。なぜミラもそこで顔を赤くする。否定するところだろうが。

マアヤ「ふふっ。カケルも嬉しいわね?」
6 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 23:57:40.20 ID:RjIOA7Qm0
-学校 授業中-

浅いまどろみと覚醒とを繰り返していた。夢を見ているときも、それが夢であることを、はっきりと意識していた。こういうのを明析夢というらしい。

夢の中はとても暗かった。鉛のように重い身体を引きずり闇の中を逃げている。

――背後からミラの気配が追ってきていた。

ミラ『カケル! ねぇ、カケルってば!』

俺を呼ぶ声が聞こえる。

ミラは歪な笑みを浮かべて近づいてきていた。



先生「こら! なに寝とるんじゃ!」ゴチンッ
カケル「んぁっ?」

目だけでグルリと確認すると、先生が側に立っていた。

先生「まったく! お前はいつもいつもいつも、なんで寝てばかりで……」
カケル「(うっせーな。退屈なんだよ。授業が)」

ひそひそ、とクラスの間で陰口がささやかれはじめる。

先生「よいな、もう寝るなよ」

小言を言うのも諦めたようだ。通り過ぎた後、先生の忌々しげな吐息が肩越しに聞こえてくる。
7 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/12(日) 00:14:45.23 ID:ThtKAN8m0
ひどい猫背のまま、俺は目をこすると大きなあくびをした。
正面の時計にある温度計を見ると表示は、二十六度。少し暑い。
寝間下に着ていたワイシャツの袖口で首元に滲んでいる汗を拭った。
脱水症状や熱中症になってしまうほどではないが、喉が乾いたと、そうぼんやり考えて唾を飲み込み気休め気味に潤す。

「なんであんなやつにミラが……」
「きっとゲスな手段をとってミラを脅迫しているんだ」

思考をスリープ状態から復帰させるとまた陰口が、今度ははっきりと内容まで聞こえてきた。

カケル「はぁ〜〜〜〜……」

俺が付きまとわれているんだよ。しかし、落ちこぼれ同然の奴の言うことに耳を傾けるやつがいるだろうか。

答えは、否。

おまけに俺は病気かと疑うほどの口下手ときている。
思っていることの10分の1でも話せればまた別になってくるのだろうが、これでは、なにを言ったところで、他者のイメージを覆すことができないだろう。


――周囲の人達の視線が冷たい。

「……クズね」

女生徒の一人が、冷たく突き放すようにぼそりと呟いた。

カケル「(まぁいつものことか……)」

他人というものは容赦がなかった。
同情の視線を向ける者も中もおらず、ほとんどが顔を歪めている。

カケル「(友達でもいれば違うのかねぇ)」

俺にとって、こうした光景はめずらしいことではない。
心の中で念仏のようにミラと関わりたくないと願うことしかできないのだ。

普通ならノイローゼとかになってしまうかもしれない。

しかし、ミラと違うクラスであるこの授業中だけが、ミラを遠のくことのできる唯一の環境だというのを俺は噛み締め、平穏を感じていた。
8 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/12(日) 00:30:39.51 ID:ThtKAN8m0
- 学校 昼休み -

ほどなくして、昼食の時間になった。待っていたのは、さっそくのミラからのいびりだった。

ミラ「また居眠りしてたの?」
カケル「うん……」
ミラ「もう! なんでそんなに居眠りしちゃうの⁉︎」
カケル「(やかましいわボケカス)……うん」
ミラ「ダラしないんだから!」

はて、と窓ガラスでマジマジと自分の姿を見てみても俺は気がつけなかった。

そんな様子を見てますます険しい顔つきになったミラ俺の襟元を指す。どうやらミラは寝ていた時についたシワが気に入らなかったらしい。

カケル「……」
ミラ「まったく、カケルには私がいてあげないとダメね」
カケル「(いなくていいよ)」
ミラ「あ、そうそう、今週、祝賀祭の日に王都に行くのよ。カケルももちろん来るわよね」
カケル「え……?」

ふざけるな理不尽の塊。その日俺はゴロゴロする予定だったのに。

ミラ「どうしても一度王都に来てくれって言われちゃってさ。馬車で片道3時間ぐらいなんだけど」

ってことは往復6時間やんけ! そんなに付き合ってられるか、ここは丁重にお断りしよう。

カケル「ぼ、ぼく……」
ミラ「カケル? くるわよねぇ?」

その笑みは、断ることを許さないという意思表示が、ありありと滲んでいた。このクソアマ。

ミラ「なんか、勇者の選定もその日にあるらしいわよ。精霊神様が降臨なさるんですって」

なんだその胡散臭い響き。降臨ってなんだよ、なんで王都ヒイキしてんだ神様のくせに。

ミラ「あ、仮病使ってもだめだからね。私、魔法で治せるから」

――精霊でもなんでもいい。神様、助けてください。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/12(日) 19:46:51.46 ID:4e9ysOvBo
見てるぞ
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 12:34:24.84 ID:ngic1vLj0
- 4日後 王都 -

ミルー村の遥か十里の彼方。
東西南北の中心地にあるバンドギア城が構える王都。その商店街で俺は彷徨っていた。

商人A「さぁーやすいよやすいよ! 今日は精霊神様が降臨なさるお祝いだぁっ!」
街娘「あら? これもいいわね」

ガヤガヤ

カケル「(くっそー、こんな時に限って1人になるなんて……ていうか、迷子じゃん! 俺)」

人の波に押され、着ていたマントを脱ぎ肩にかけ、ズボンのポケットに入ったままの懐中時計を取り出して、鏡面にある数字を見る。
――時刻は午後三時三十八分。

カケル「(はぁ、このままじゃ帰りの馬車に間に合わない。ミラはどこにいるんだろう……)」

細い目で辺りを見ると、いつのまにこんなに近くに来ていたのか、先ほどは米粒大だった女の子が俺のの眼前に立っていた。
知性を感じさせる女性ーー。
まだ幼さの残る顔立ちには、綺麗というよりも可愛らしさを感じるものの、まつ毛が長く、目には意志的な光を感じる。
あと、数年すれば、かなりの美人になるだろう。
女性の視線を追うと彼女は、真剣なまなざしで、俺の顔を見つめていた。

カケル「(なんだ、この子?)」

観察されているのは明らかである。まっすぐと見つめらどうにも居心地がよくなくて頭をポリポリと掻いていると、赤い色の入った眼鏡を指で直しながら女の子は口を開いた。

○○「……私、ベニ」
カケル「うん?」
ベニ「勇者の選定なら、あっち」

ここでなんと言うべきか、俺の心は、揺れていた。咄嗟の事態にうまく頭がまわらない。
あ、そうだ。この子に道を聞けばいいんじゃないか?

カケル「あの……」
ベニ「……?」

ええい、忌々しい口め。道を聞くことすらまともにできんのか。
考えてみたら、言語が通じるのはいいが、どうやって馴染むというのか。いや、馴染む必要なんか、ないんだ。馬車乗り場までの道を聞ければ……」

ベニ「連れていってあげる」

必死に言い出そうと、口を開きかけた状態で手をひかれる。茫然として、開いた口がふさがらないまま、否定することができない……いや、否定しろよ。

カケル「あ、あのっ」

俺のバツが悪そうにしている表情を見て、女の子は申し訳ないと思っていると勘違いしているらしく……

ベニ「気にしなくていい」

と、にこやかに笑みを返していた。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/03/14(火) 13:08:25.91 ID:ngic1vLj0
- 大聖堂 勇者選定臨時会場 -

大理石の床に、金色の額縁にはいった絵画を見つめていた。ひとつひとつが緻密に計算されたであろう芸術を前に、感嘆とした息を漏らす。

カケル「(ふわぁ〜〜〜すげぇ……つうか、どんだけ金かけたらこんなもん建つんだよ。教会なんて金の権化だな)」

しかし、なにからなにまでが見事というのも事実だった。お世辞抜きで、見惚れるとはこのことなのだろう。生まれて初めての経験だった。

ベニ「受け付けはあそこ」

なんの? と思わず聞き返そうとしたところで思考が冷静になり現実に引き戻された。
違うよ。俺は受け付けにしにきたんじゃないから。
まずは、誤解を早急に解かなければならないな……。

ジョル「――おや、ベニじゃないか。こんな所に来るとはめずらしい。明日は雪かのう」
ベニ「ジョル、ひさしぶり」

振り返ると、ジョルと呼ばれた老人は、無精髭の浮いた顎を擦って口元で笑った。
髪はほとんど白く、シワの目立つ手の甲には、黒っぽい斑点が無数にある。齢六十ぐらいだろうか。目を細めて微笑で頷いていた。

ジョル「そちらの子は?」
ベニ「勇者の選定に来た子」
ジョル「ふむ……?」

ほどなくして、ジョルの顔色が呆れたものに変わる。

ジョル「少年。夢を見るのはかまわんが、君には才能がないように見えるのぅ」
カケル「(才能ないのは俺だってわかってるよ)」
ベニ「……そう見えるのは、ジョルの目が節穴。私が推薦状を書く」
ジョル「なんじゃと? それほどまでに?」
カケル「…………」
ジョル「ふぅむ、ワシにはどこからどう見ても普通より劣る少年にしか見えんが……」
ベニ「この子は、普通の目で見てはだめ。精霊を通して見てみて」
ジョル「……うぅん? どれどれ」

ジョルは杖を取り出し顎先に当てはじめた。
勝手に盛り上がっているところ悪いが、ただの村人Aなんかほっといてくれ! 俺はここを離れて場所乗り場に行きたいんだよ!

ジョル「――……こ、この子は……」
ベニ「ね?」
ジョル「なんということじゃ。全精霊からの加護とは……ワシの目はたしかに節穴じゃった」
ベニ「わかったならいい。さ、行こう」
ジョル「待て、ワシも付いていこう。王宮魔術師二人の推薦ならば選定をはやめてもらえるじゃろうからな」

深く、深く、肺に空気を取り込み、すこしの間を置いてため息を吐き出す。
王宮魔術師がこんな所にいるわけがない……詐欺師かな。仕方ない、この人達に聞くのは諦めて、選定だけ終えたら馬車乗り場をはやく探そう。
12 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/14(火) 15:43:00.29 ID:ngic1vLj0
我々は精霊神さまの御許に抱かれ、皆平等なのだ。
さあ、互いに手を取り、楽園への道を歩もう。

小鳥は歌えり 林に森に
見交わす われらの明るき笑顔

吹く風さわやか みなぎる日ざし
心は楽しく しあわせあふれ
響くは われらのよろこびの歌

バンドギア王国〈歓喜の日 一節〉


カケル「(虫唾が走る。嫌いなんだよな。こういう唄)」

大聖堂大広間。
咽せるような埃と塵が陽の光に照らされ、まるで粒子のような輝きで舞っている。
椅子に腰を落ち着かせたまま目線を向けると、教徒である司祭達が唄の合唱を行なっていた。

俺は、教会にはよっぽどの用事がないと近づこうとしない。なにも信徒を否定しているわけじゃない。神様信じてますっていうのが合わないからだ。

カケル「はぁ……」

俺にしてみれば税を尽くした贅沢な空間にしか見えないし、芸術はわかるが広大な物置ぐらいの感覚しかない。

大司祭「これは、これは。ベル様にジョル様ではございませんか」
ジョル「司祭。久しぶりじゃな」
ベル「久しぶり」
大司祭「本当に何年ぶりになりますやら、他の方々もやはり特別な日なのですね」
ジョル「他? なんじゃ、誰かおるのか?」
大司祭「えぇ。大陸中から高名な魔法使い様方が集まっておられます。お二方を含む五大魔術師様方が勢ぞろいしておられますよ」
ジョル「なんじゃと? あのワガママ娘達まで……」
ベル「そっちだと都合がいい。手間がはぶけた」

この人が大司祭というのも、嘘なのだろう。厄介な詐欺師に捕まったもんだ。
大司祭が広間にいるわけがないし、五大魔術師といえば、ミラなんかよりもっと上。雲の上、月とスッポン。この人達がその二人? そんなわけがない。

カケル「……あの」
ジョル「どうした、少年」
カケル「僕、もう18です」
ジョル「お、おぉ? もうそんなに? 童顔なんじゃな」
ベル「意外。私と同い年」
ジョル「まぁ、少年も些細な違いじゃろ」

些細だと言うのならばどうしてそんな無理に作った笑顔を浮かべているジジイ。
文句を言おうと口を開きかけるが、言葉は言葉にならずに舌先で解れてゆく。

忌々しいのはこの口だ、あぁ、忌々しい。

大司祭「こちらは……?」
ジョル「ワシとベルからこの子を推薦したい」
大司祭「は?」
ベル「はやく、選定をしてあげてほしい」
大司祭「お二方からっ⁉︎」

大司祭は、ただ無暗に驚いて、感心して、疑って、躊躇していた。百面相を1人で繰り広げている。
大司祭と向い合ったまま黙って突っ立っていた俺を見て我に返る。演技乙。

大司祭「その、選定には、万を超える人数が参加しております。ご存知でしょう?」
ベル「知ってる」
大司祭「受け付けと順番は公正な手続きを踏まえていただかないと困ります。いくらお二方といえど、不正は……みなさん、何日も待っておられますし」
ジョル「この子が女神様とお会いすれば意味はなくなるんじゃよ」
大司祭「はぁ?」
ベル「……五大魔術師全員からの要請ならどう?」
ジョル「なんなら国王様からでも……」
大司祭「は、はぃぃぃっ⁉︎」

ベルにとんでもないことを言われ、目を白黒させながら俺のことをまた、二度三度見上げしていた。あまりに異常な事態に、異様とも言える光景に、大司祭はただ、ただ呆然と立ち尽くしているように見える。

はっはっはっ、もうなんか迫真すぎて演技に見えなくなってきたぞ、壮大な騙し方だな。
13 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/14(火) 16:22:38.89 ID:ngic1vLj0
フラン「なんの話?」

話に割って入ってきた声に目をやると、キリリとした立ち姿で腰に手を当てている女の子がいた。黒眼勝ちの眼が強い意志を感じせる、綺麗な女の子と云っても、決して誇張ではないだろう。

カルア「お姉さま、あの、あぅぅ」

側でただずんでいる少女がいたのは意識の外だったが、お姉様と呼んでいることでようやく気がつく。
対象的に、もう一人いた。この少女もまた、人形のような容姿をしていた。品よく金の髪を巻いておりよく整っている顔立ちといえるだろう。
並んで立つ佇まいは、人形を思わせる。

ベル「ちょうどいい。フラン、カルア、この子を見て」
フラン「はぁ?」
ジョル「見てもらった方がはやいからの」
カルア「……普通の、子に、見えます……」
フラン「……っ⁉︎ こ、この子っ⁉︎ まさかっ⁉︎」
カルア「お姉様……?」
フラン「カルア、第三の目で見て」
カルア「んん……はい。……あぁっ⁉︎」

やばい。これはいかんですよ。
なんていうんだっけ、こういうの。次から次に仲間を呼んで逃げられない状況を作るの。ネ○ミ講だっけ。

どうしよう、今すぐに逃げだすべきか。

フラン「私などが精霊を見てしまってことを深くお詫びいたします。失礼いたしました。勇者さま」
カルア「ごめ……っ!」ペコペコッ
大司祭「ゆ、ゆうしゃぁっ⁉︎ ……あっ……」ドサッ
ジョル「おお、情けない。これぐらいで気を失ってしまうとは」
ベル「フラン、この子……この人は大丈夫。私が見てもなにも怒らなかった」
ジョル「ワシも見させてもらったが、何も怒った素ぶりもなかったしのぅ」
ベル「ジョルはたいしたことない子だと言った。大変、失礼」

俺の目と鼻の先にフランがひょっこりと顔をだした。ややこそばゆそうな俺を意に介することもなく、マジマジと見つめてくる。

フラン「勇者さまって本当に人格者なのね。私だったら蘇生して、殺して、蘇生して、うふふ」

フランは自分の呟きに妄想でもしているのだろうか、目は弧を描き笑みをより一層、濃くしていく。

瞬間、弾かれるように椅子から腰をあげ、広間から脱兎の如く走り出した。

カケル「(俺が勇者なわけないだろ⁉︎ 付き合ってられるか!)」

感情を支配したのは恐怖――。
まったく意味がわからない。このように連中からは逃げるに限る。様々な思いが頭の中を駆け巡り、限界を迎えようとしていた。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 16:34:33.01 ID:mdEwFv0Jo
主には悪いがここまでで一番ウザいのはカケル

クラスに友達いないくせにミラに心の中で悪態つく
しかもだからと言って口に出すわけでもない
授業中寝た挙句、授業がつまらないせいにする
しかもそれも言わない
王都に行きたくないのに断らない
人に道も聞けない
聖歌すら虫唾が走るとか思っちゃう
神様は信じないけど神様に助けは求める
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/03/14(火) 16:38:01.43 ID:rETEYwPHo
面白い。続きが気になる
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 16:38:36.48 ID:rETEYwPHo
sageるの忘れてた。
申し訳ない。
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