勇者「幼馴染がすごくウザい件」

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1 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 20:10:53.20 ID:RjIOA7Qm0
・100レスほどで終わればいいなと思ってます
・通常sage進行で行います
・エロやグロ主体ではありませんが、エロはあります
2 : ◆y7//w4A.QY :2017/03/11(土) 20:30:12.00 ID:RjIOA7Qm0
暑い夏の日だった。
バンドギア王国の郊外、ど田舎のミルー村でギラギラと照りつける太陽の下、ミラは前歯でアイスクリームのコーンを噛み砕いた。
巻き紙の部分をまわし、外周をかじっていく。内側のアイスを吸い舐め最後のコーンを口に放り込むと両手を打ち鳴らした。

ミラ「カケル、面白いものを見せてあげる」

整った切れ長の一重の目をチラリと向けて、眉をひそめる俺に含みをもたせてこう言った。どうせろくでもないと訝しみながらも、誘いに乗ることにした。
しばらく無言で歩きながら、やるせない気分のまま、ぼんやりと視線を流れる景色に向ける。

俺の気持ちは、いつも深い霧に包まれているようだった。

なぜ、こいつの家の近くに生まれたのだろう。
なぜ、こいつにいつも振り回されるのだろう。
なぜ、こいつは、こんなにも! 自己中心的なんだ!!

注意しておく。俺は別段、どこか体調がすぐれないわけでもない。ましてや精神を病んでるわけでもない。

一見して見れば絶世の美女とも見間違えるほど、ミラの容姿は整っている。うらやましがる物好きな連中がいるのも俺は知っている。
しかし、俺が我慢できないのは、ミラの傍若無人な振る舞いだ!

誰か! 変われるなら変わってくれ!

ミラには、もっとふさわしい世界があるはずだと俺は思う。

どんなに絶望的な状況も切り抜けられる、さながらの尻に火がつく事態も、けっして自暴自棄になることもなく、自己邁進して我が道を突き進む。

そんな漫画のような世界がミラには合ってるんだ――。

こんな、毎日を惰性に身を任せている俺とは違う。

何度も何度も逃げようとした。

ある時は――。

カケル『今日は用事が……』
ミラ『なんの用事? 終わるまで待ってあげる!』

また、ある時は――。

カケル『(よし、いないな……)』
ミラ『カケルっ!! ……なに驚いてるの?』
カケル「(お前から逃げようとしてたんじゃボケェっ!!)」

このように、ミラから逃げようとともがくほど、否応なく気がつかされたことは、恐ろしい勘で先回りされ、いつのまにか側に立っている。そんな状況だった。
3 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 20:56:54.71 ID:RjIOA7Qm0
カケル「…………」
ミラ「フンフ〜ン♪ ねぇ、私ね、新しい魔法を覚えたの」
カケル「そう……」
ミラ「カケルってあいかわらす無口よね」

余計なお世話だ。俺は、元来、人と喋るのが苦手だ。
だから、ミラに限らず、自分の両親相手でさえ、二言で済ませることが多い。
例えば「ああ」「そう」「うん」など。
……って、頷いてばっかりじゃんか、俺!

呆れ顔のミラが先を歩く後ろ姿を見つめるままに、細い路地の角をまがり進むと開けた草原が目の前に広がっていた。
一本の巨木。
大きく枝葉を広げた木が、幅の狭い道のほぼ半分を塞いでいた。その手前には、木の根元に寄り添うように、小さな石像がひっそりと構えている。

ミラ「ここまで来ればいいかな……じゃあ、カケルはそこで座って見てて」

ちょこん、と座り、はやく終わってくれと見上がる格好の俺に、ミラは得意気に鼻息をフンスと気合いをいれる仕草をだす。
ぼとなくして、ゆっくりと、ミラは瞼を閉じた。

ミラ「マナよ……火の精霊よ………」

恐らく、精神統一に入ったのだろう。
魔法を使うには、内にある体内の気と自然界にいる精霊とのエネルギーを杖というバイパスで繋ぎ練り上げなければならない。
魔法を使える=それができる人というわけ。

俺なんか普通の人間はできる気さえしない。
10000人に1人ができたらいいぐらいの話で希少価値はある。

ミラは魔法の面でかなりの才能があるらしく、王国からミラの為だけに視察団が来たぐらいだった。

信じられるか? 王国からだぞ。近いわけでもないこんなクソ田舎に。

ミラ「……風の音……火の音……」

火の粉がミラのまわりにポツポツと集まりだした。
4 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 21:13:36.21 ID:RjIOA7Qm0
それは、綺麗だった。
それは、神秘だった。

ミラ「カケル! よーく見ててね!」

不敵な笑みを浮かべるミラに、瞬間、なにか、身震いをしてしまうかのようなゾワっとした悪寒が走る。
異様な気配を感じ取り、俺は金縛りにかかったように足が動かなくなった。

カケル「(ま、まさか、またなのか⁉︎」

額や胸、背中から汗が吹き出す。鳥肌が二の腕を走る。
見る間にぐっしょりと濡れそぼった掌を服にこすりつけながら、俺は喘ぐように後ずさった。

――リンリンリン――。
――リンリンリンリン――。

耳が、というより脳がキーンと痺れるほどの鈴に似た音が近づいてくる。身体にフツフツと鳥肌がたちだした。混乱する思考のさなか、その気配の異常さを正確に捉えていた。

こいつはいつも、そうだ!
持て余し気味の力を披露する時にいつも、やりすぎる!

気配は秒刻みで、確実に迫ってきている。
絶望的な未来を直感してしまうほどのただならぬ雰囲気のする方角へと気づいたときには凝視していた。


――そして、豪炎が、世界を揺るがした。


カケル「うっ……!」

そこからは、スローモーションを見ている感覚だった。
身体は宙に投げ出され、視線は虚空を見つめている。
烈風が俺を襲った。
もがくように反射的に踏ん張ろうと腿に力を入れるが、どうにかなるものではなかった。砂利を巻き込み壁に叩きつけられる格好でようやく勢いは止まる。

カケル「がはっ!」

肺に停滞していた二酸化炭素が、衝撃で吐き出され、数秒の絶息が襲ってきていた。俺は搾り出すように嗚咽の言葉を吐いた。

カケル「お、ぇ、おぇぇ……」

吐き気を催し、よだれが糸をひく。這いつくばった不自然な姿勢のまま痛みに呻いた。なにをしているのか意識することもできず、軽い脳震盪でぼやけた視界の中、俺は信じがたい景色を眺めていた。


ドォンッ!!


と、火山が噴火するような爆発音と共に、視界いっぱいに天を貫かんとばかりの巨大な火柱が、前方の数メートル先に現れていたのだ。

カケル「(こ、これだから、こいつに付き合うのは嫌なんだ……っ!」

口の中を切ったらしく、否応なしに鉄の味が舌に絡む。
ミラを取り巻くように荒れ狂った光景は、辺りの景色を紅蓮の炎で焼き尽くし、周囲を真っ赤に染め上げてゆく。

ミラ「どぉ⁉︎ 凄いでしょ⁉︎」

よろよろと立ち上がり俺は息を呑み圧倒的な光景を唖然として見つめた。
まるで、神々の怒りか、はたまたこの世の終末を彷彿とさせる荒々しさだ。

カケル「……うん」

今すぐに、この場を離れ、まっすぐ行けるとこまで走っていきたい。すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られているのに、足が動かない。

おまけに口下手な俺の言葉に気を良くしたミラは満足気に頷いていた。もちろん、お察しの通りの、満面の笑みで。

ただ、呆然と、なす術もなく見つめるしかない俺にミラが軽やかなステップで近づいてくる。

ミラ「また新しい魔法覚えたら見せてあげるね♪」

その声はまるで死神の鎌のような禍々しい鋭さを宿して俺の耳朶を打つ。

カケル「(誰か、誰か俺の幼馴染をなんとかしてくれ)」

これが、俺の毎日だ。
5 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 21:46:37.02 ID:RjIOA7Qm0
マアヤ「カケルちゃん、カケルちゃん」ゆさゆさ
カケル「……ん」
マアヤ「もう、ようやく起きた。寝坊癖はいい加減なおさなきゃね。ミラちゃんが下で待ってるわよ」

眉根を寄せて困った顔をしていた母さん。
母さんは俺より十数センチほど背は低いが、それでも、年上っぽい落ちついた雰囲気を纏っている。
肩より少し長い髪で、毛先がほんの少し内側に向かって曲線を描いている。目が大きいせいか、少しあどけない顔立ちだ。

カケル「うん……」

違う。俺は寝坊癖があるわけじゃない。
起きるのが億劫なだけだ。その理由は、起きればミラが待っているからに他ならない。

ミラ「カケル、先に朝食いただいてるわよ」
カケル「うん……」
マアヤ「いつもいつもごめんねぇ」
ミラ「いいえ、叔母様の作る料理がとっても美味しくて♪」
マアヤ「まぁ、この子ったら。ミラちゃんみたいな子がカケルのお嫁さんになってもらえないかしら……」
カケル「え……」

勘弁してくれ。そうなったら自[ピーーー]る。

ミラ「まだ私たち十代ですし、気が早いですよ」
マアヤ「まだってことは、その気があるの?」
ミラ「お、おば様……」

おい。なぜミラもそこで顔を赤くする。否定するところだろうが。

マアヤ「ふふっ。カケルも嬉しいわね?」
6 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/11(土) 23:57:40.20 ID:RjIOA7Qm0
-学校 授業中-

浅いまどろみと覚醒とを繰り返していた。夢を見ているときも、それが夢であることを、はっきりと意識していた。こういうのを明析夢というらしい。

夢の中はとても暗かった。鉛のように重い身体を引きずり闇の中を逃げている。

――背後からミラの気配が追ってきていた。

ミラ『カケル! ねぇ、カケルってば!』

俺を呼ぶ声が聞こえる。

ミラは歪な笑みを浮かべて近づいてきていた。



先生「こら! なに寝とるんじゃ!」ゴチンッ
カケル「んぁっ?」

目だけでグルリと確認すると、先生が側に立っていた。

先生「まったく! お前はいつもいつもいつも、なんで寝てばかりで……」
カケル「(うっせーな。退屈なんだよ。授業が)」

ひそひそ、とクラスの間で陰口がささやかれはじめる。

先生「よいな、もう寝るなよ」

小言を言うのも諦めたようだ。通り過ぎた後、先生の忌々しげな吐息が肩越しに聞こえてくる。
7 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/12(日) 00:14:45.23 ID:ThtKAN8m0
ひどい猫背のまま、俺は目をこすると大きなあくびをした。
正面の時計にある温度計を見ると表示は、二十六度。少し暑い。
寝間下に着ていたワイシャツの袖口で首元に滲んでいる汗を拭った。
脱水症状や熱中症になってしまうほどではないが、喉が乾いたと、そうぼんやり考えて唾を飲み込み気休め気味に潤す。

「なんであんなやつにミラが……」
「きっとゲスな手段をとってミラを脅迫しているんだ」

思考をスリープ状態から復帰させるとまた陰口が、今度ははっきりと内容まで聞こえてきた。

カケル「はぁ〜〜〜〜……」

俺が付きまとわれているんだよ。しかし、落ちこぼれ同然の奴の言うことに耳を傾けるやつがいるだろうか。

答えは、否。

おまけに俺は病気かと疑うほどの口下手ときている。
思っていることの10分の1でも話せればまた別になってくるのだろうが、これでは、なにを言ったところで、他者のイメージを覆すことができないだろう。


――周囲の人達の視線が冷たい。

「……クズね」

女生徒の一人が、冷たく突き放すようにぼそりと呟いた。

カケル「(まぁいつものことか……)」

他人というものは容赦がなかった。
同情の視線を向ける者も中もおらず、ほとんどが顔を歪めている。

カケル「(友達でもいれば違うのかねぇ)」

俺にとって、こうした光景はめずらしいことではない。
心の中で念仏のようにミラと関わりたくないと願うことしかできないのだ。

普通ならノイローゼとかになってしまうかもしれない。

しかし、ミラと違うクラスであるこの授業中だけが、ミラを遠のくことのできる唯一の環境だというのを俺は噛み締め、平穏を感じていた。
8 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/12(日) 00:30:39.51 ID:ThtKAN8m0
- 学校 昼休み -

ほどなくして、昼食の時間になった。待っていたのは、さっそくのミラからのいびりだった。

ミラ「また居眠りしてたの?」
カケル「うん……」
ミラ「もう! なんでそんなに居眠りしちゃうの⁉︎」
カケル「(やかましいわボケカス)……うん」
ミラ「ダラしないんだから!」

はて、と窓ガラスでマジマジと自分の姿を見てみても俺は気がつけなかった。

そんな様子を見てますます険しい顔つきになったミラ俺の襟元を指す。どうやらミラは寝ていた時についたシワが気に入らなかったらしい。

カケル「……」
ミラ「まったく、カケルには私がいてあげないとダメね」
カケル「(いなくていいよ)」
ミラ「あ、そうそう、今週、祝賀祭の日に王都に行くのよ。カケルももちろん来るわよね」
カケル「え……?」

ふざけるな理不尽の塊。その日俺はゴロゴロする予定だったのに。

ミラ「どうしても一度王都に来てくれって言われちゃってさ。馬車で片道3時間ぐらいなんだけど」

ってことは往復6時間やんけ! そんなに付き合ってられるか、ここは丁重にお断りしよう。

カケル「ぼ、ぼく……」
ミラ「カケル? くるわよねぇ?」

その笑みは、断ることを許さないという意思表示が、ありありと滲んでいた。このクソアマ。

ミラ「なんか、勇者の選定もその日にあるらしいわよ。精霊神様が降臨なさるんですって」

なんだその胡散臭い響き。降臨ってなんだよ、なんで王都ヒイキしてんだ神様のくせに。

ミラ「あ、仮病使ってもだめだからね。私、魔法で治せるから」

――精霊でもなんでもいい。神様、助けてください。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/12(日) 19:46:51.46 ID:4e9ysOvBo
見てるぞ
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 12:34:24.84 ID:ngic1vLj0
- 4日後 王都 -

ミルー村の遥か十里の彼方。
東西南北の中心地にあるバンドギア城が構える王都。その商店街で俺は彷徨っていた。

商人A「さぁーやすいよやすいよ! 今日は精霊神様が降臨なさるお祝いだぁっ!」
街娘「あら? これもいいわね」

ガヤガヤ

カケル「(くっそー、こんな時に限って1人になるなんて……ていうか、迷子じゃん! 俺)」

人の波に押され、着ていたマントを脱ぎ肩にかけ、ズボンのポケットに入ったままの懐中時計を取り出して、鏡面にある数字を見る。
――時刻は午後三時三十八分。

カケル「(はぁ、このままじゃ帰りの馬車に間に合わない。ミラはどこにいるんだろう……)」

細い目で辺りを見ると、いつのまにこんなに近くに来ていたのか、先ほどは米粒大だった女の子が俺のの眼前に立っていた。
知性を感じさせる女性ーー。
まだ幼さの残る顔立ちには、綺麗というよりも可愛らしさを感じるものの、まつ毛が長く、目には意志的な光を感じる。
あと、数年すれば、かなりの美人になるだろう。
女性の視線を追うと彼女は、真剣なまなざしで、俺の顔を見つめていた。

カケル「(なんだ、この子?)」

観察されているのは明らかである。まっすぐと見つめらどうにも居心地がよくなくて頭をポリポリと掻いていると、赤い色の入った眼鏡を指で直しながら女の子は口を開いた。

○○「……私、ベニ」
カケル「うん?」
ベニ「勇者の選定なら、あっち」

ここでなんと言うべきか、俺の心は、揺れていた。咄嗟の事態にうまく頭がまわらない。
あ、そうだ。この子に道を聞けばいいんじゃないか?

カケル「あの……」
ベニ「……?」

ええい、忌々しい口め。道を聞くことすらまともにできんのか。
考えてみたら、言語が通じるのはいいが、どうやって馴染むというのか。いや、馴染む必要なんか、ないんだ。馬車乗り場までの道を聞ければ……」

ベニ「連れていってあげる」

必死に言い出そうと、口を開きかけた状態で手をひかれる。茫然として、開いた口がふさがらないまま、否定することができない……いや、否定しろよ。

カケル「あ、あのっ」

俺のバツが悪そうにしている表情を見て、女の子は申し訳ないと思っていると勘違いしているらしく……

ベニ「気にしなくていい」

と、にこやかに笑みを返していた。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/03/14(火) 13:08:25.91 ID:ngic1vLj0
- 大聖堂 勇者選定臨時会場 -

大理石の床に、金色の額縁にはいった絵画を見つめていた。ひとつひとつが緻密に計算されたであろう芸術を前に、感嘆とした息を漏らす。

カケル「(ふわぁ〜〜〜すげぇ……つうか、どんだけ金かけたらこんなもん建つんだよ。教会なんて金の権化だな)」

しかし、なにからなにまでが見事というのも事実だった。お世辞抜きで、見惚れるとはこのことなのだろう。生まれて初めての経験だった。

ベニ「受け付けはあそこ」

なんの? と思わず聞き返そうとしたところで思考が冷静になり現実に引き戻された。
違うよ。俺は受け付けにしにきたんじゃないから。
まずは、誤解を早急に解かなければならないな……。

ジョル「――おや、ベニじゃないか。こんな所に来るとはめずらしい。明日は雪かのう」
ベニ「ジョル、ひさしぶり」

振り返ると、ジョルと呼ばれた老人は、無精髭の浮いた顎を擦って口元で笑った。
髪はほとんど白く、シワの目立つ手の甲には、黒っぽい斑点が無数にある。齢六十ぐらいだろうか。目を細めて微笑で頷いていた。

ジョル「そちらの子は?」
ベニ「勇者の選定に来た子」
ジョル「ふむ……?」

ほどなくして、ジョルの顔色が呆れたものに変わる。

ジョル「少年。夢を見るのはかまわんが、君には才能がないように見えるのぅ」
カケル「(才能ないのは俺だってわかってるよ)」
ベニ「……そう見えるのは、ジョルの目が節穴。私が推薦状を書く」
ジョル「なんじゃと? それほどまでに?」
カケル「…………」
ジョル「ふぅむ、ワシにはどこからどう見ても普通より劣る少年にしか見えんが……」
ベニ「この子は、普通の目で見てはだめ。精霊を通して見てみて」
ジョル「……うぅん? どれどれ」

ジョルは杖を取り出し顎先に当てはじめた。
勝手に盛り上がっているところ悪いが、ただの村人Aなんかほっといてくれ! 俺はここを離れて場所乗り場に行きたいんだよ!

ジョル「――……こ、この子は……」
ベニ「ね?」
ジョル「なんということじゃ。全精霊からの加護とは……ワシの目はたしかに節穴じゃった」
ベニ「わかったならいい。さ、行こう」
ジョル「待て、ワシも付いていこう。王宮魔術師二人の推薦ならば選定をはやめてもらえるじゃろうからな」

深く、深く、肺に空気を取り込み、すこしの間を置いてため息を吐き出す。
王宮魔術師がこんな所にいるわけがない……詐欺師かな。仕方ない、この人達に聞くのは諦めて、選定だけ終えたら馬車乗り場をはやく探そう。
12 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/14(火) 15:43:00.29 ID:ngic1vLj0
我々は精霊神さまの御許に抱かれ、皆平等なのだ。
さあ、互いに手を取り、楽園への道を歩もう。

小鳥は歌えり 林に森に
見交わす われらの明るき笑顔

吹く風さわやか みなぎる日ざし
心は楽しく しあわせあふれ
響くは われらのよろこびの歌

バンドギア王国〈歓喜の日 一節〉


カケル「(虫唾が走る。嫌いなんだよな。こういう唄)」

大聖堂大広間。
咽せるような埃と塵が陽の光に照らされ、まるで粒子のような輝きで舞っている。
椅子に腰を落ち着かせたまま目線を向けると、教徒である司祭達が唄の合唱を行なっていた。

俺は、教会にはよっぽどの用事がないと近づこうとしない。なにも信徒を否定しているわけじゃない。神様信じてますっていうのが合わないからだ。

カケル「はぁ……」

俺にしてみれば税を尽くした贅沢な空間にしか見えないし、芸術はわかるが広大な物置ぐらいの感覚しかない。

大司祭「これは、これは。ベル様にジョル様ではございませんか」
ジョル「司祭。久しぶりじゃな」
ベル「久しぶり」
大司祭「本当に何年ぶりになりますやら、他の方々もやはり特別な日なのですね」
ジョル「他? なんじゃ、誰かおるのか?」
大司祭「えぇ。大陸中から高名な魔法使い様方が集まっておられます。お二方を含む五大魔術師様方が勢ぞろいしておられますよ」
ジョル「なんじゃと? あのワガママ娘達まで……」
ベル「そっちだと都合がいい。手間がはぶけた」

この人が大司祭というのも、嘘なのだろう。厄介な詐欺師に捕まったもんだ。
大司祭が広間にいるわけがないし、五大魔術師といえば、ミラなんかよりもっと上。雲の上、月とスッポン。この人達がその二人? そんなわけがない。

カケル「……あの」
ジョル「どうした、少年」
カケル「僕、もう18です」
ジョル「お、おぉ? もうそんなに? 童顔なんじゃな」
ベル「意外。私と同い年」
ジョル「まぁ、少年も些細な違いじゃろ」

些細だと言うのならばどうしてそんな無理に作った笑顔を浮かべているジジイ。
文句を言おうと口を開きかけるが、言葉は言葉にならずに舌先で解れてゆく。

忌々しいのはこの口だ、あぁ、忌々しい。

大司祭「こちらは……?」
ジョル「ワシとベルからこの子を推薦したい」
大司祭「は?」
ベル「はやく、選定をしてあげてほしい」
大司祭「お二方からっ⁉︎」

大司祭は、ただ無暗に驚いて、感心して、疑って、躊躇していた。百面相を1人で繰り広げている。
大司祭と向い合ったまま黙って突っ立っていた俺を見て我に返る。演技乙。

大司祭「その、選定には、万を超える人数が参加しております。ご存知でしょう?」
ベル「知ってる」
大司祭「受け付けと順番は公正な手続きを踏まえていただかないと困ります。いくらお二方といえど、不正は……みなさん、何日も待っておられますし」
ジョル「この子が女神様とお会いすれば意味はなくなるんじゃよ」
大司祭「はぁ?」
ベル「……五大魔術師全員からの要請ならどう?」
ジョル「なんなら国王様からでも……」
大司祭「は、はぃぃぃっ⁉︎」

ベルにとんでもないことを言われ、目を白黒させながら俺のことをまた、二度三度見上げしていた。あまりに異常な事態に、異様とも言える光景に、大司祭はただ、ただ呆然と立ち尽くしているように見える。

はっはっはっ、もうなんか迫真すぎて演技に見えなくなってきたぞ、壮大な騙し方だな。
13 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/14(火) 16:22:38.89 ID:ngic1vLj0
フラン「なんの話?」

話に割って入ってきた声に目をやると、キリリとした立ち姿で腰に手を当てている女の子がいた。黒眼勝ちの眼が強い意志を感じせる、綺麗な女の子と云っても、決して誇張ではないだろう。

カルア「お姉さま、あの、あぅぅ」

側でただずんでいる少女がいたのは意識の外だったが、お姉様と呼んでいることでようやく気がつく。
対象的に、もう一人いた。この少女もまた、人形のような容姿をしていた。品よく金の髪を巻いておりよく整っている顔立ちといえるだろう。
並んで立つ佇まいは、人形を思わせる。

ベル「ちょうどいい。フラン、カルア、この子を見て」
フラン「はぁ?」
ジョル「見てもらった方がはやいからの」
カルア「……普通の、子に、見えます……」
フラン「……っ⁉︎ こ、この子っ⁉︎ まさかっ⁉︎」
カルア「お姉様……?」
フラン「カルア、第三の目で見て」
カルア「んん……はい。……あぁっ⁉︎」

やばい。これはいかんですよ。
なんていうんだっけ、こういうの。次から次に仲間を呼んで逃げられない状況を作るの。ネ○ミ講だっけ。

どうしよう、今すぐに逃げだすべきか。

フラン「私などが精霊を見てしまってことを深くお詫びいたします。失礼いたしました。勇者さま」
カルア「ごめ……っ!」ペコペコッ
大司祭「ゆ、ゆうしゃぁっ⁉︎ ……あっ……」ドサッ
ジョル「おお、情けない。これぐらいで気を失ってしまうとは」
ベル「フラン、この子……この人は大丈夫。私が見てもなにも怒らなかった」
ジョル「ワシも見させてもらったが、何も怒った素ぶりもなかったしのぅ」
ベル「ジョルはたいしたことない子だと言った。大変、失礼」

俺の目と鼻の先にフランがひょっこりと顔をだした。ややこそばゆそうな俺を意に介することもなく、マジマジと見つめてくる。

フラン「勇者さまって本当に人格者なのね。私だったら蘇生して、殺して、蘇生して、うふふ」

フランは自分の呟きに妄想でもしているのだろうか、目は弧を描き笑みをより一層、濃くしていく。

瞬間、弾かれるように椅子から腰をあげ、広間から脱兎の如く走り出した。

カケル「(俺が勇者なわけないだろ⁉︎ 付き合ってられるか!)」

感情を支配したのは恐怖――。
まったく意味がわからない。このように連中からは逃げるに限る。様々な思いが頭の中を駆け巡り、限界を迎えようとしていた。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 16:34:33.01 ID:mdEwFv0Jo
主には悪いがここまでで一番ウザいのはカケル

クラスに友達いないくせにミラに心の中で悪態つく
しかもだからと言って口に出すわけでもない
授業中寝た挙句、授業がつまらないせいにする
しかもそれも言わない
王都に行きたくないのに断らない
人に道も聞けない
聖歌すら虫唾が走るとか思っちゃう
神様は信じないけど神様に助けは求める
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/03/14(火) 16:38:01.43 ID:rETEYwPHo
面白い。続きが気になる
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 16:38:36.48 ID:rETEYwPHo
sageるの忘れてた。
申し訳ない。
17 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/14(火) 16:42:29.61 ID:ngic1vLj0
>>14
一応全部設定上そうなってます。狙ってやってないわけではありません。
>>1の説明を補足します。
主人公の設定は書いてある通りで概ね間違いはなく
・思ったことを口にできない。
・内面は別のことを思っている、悪態をつきまくる。
・神様嫌い。
・基本的に人間不振。

でも、勇者。世界を救っちゃいます。
で、口下手なので内面は読んでる人には見えてますが、まわりのキャラクターには内面を喋れないので登場人物たちはカケルがこんな人間だというのをわかりません。
どんどん、勘違いしていきます。良い方向に。
そんな設定の読み物? です。

今日はここまでです。
別のやつと並行して書いてて、こっちは息抜きなので不定期ですけど、暇つぶしに読んでやってください。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 16:46:06.50 ID:mdEwFv0Jo
>>17
なるほど、わざと口べただったのか
始まったばっかなのに早とちりしてごめん

また更新待ってる
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 20:43:42.08 ID:4JCEQ7UDo
おつおつ
期待
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 23:37:09.74 ID:lTwaL0DKO
勇者になればミラから逃げられるな!よかったな!(棒)
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/15(水) 11:34:27.38 ID:XssXE9q70
期待
22 : ◆qR6TCtkvbo [sage]:2017/03/15(水) 17:01:57.08 ID:Cyt3wLgz0
カケル「(ここまで来れば、大丈夫かな)」

陽が落ち始め、あたりを茜色に染め上げようとしているころ。
寂れた路地の一角にある廃墟じみた建物へと俺は駆けこんだ。
小屋そのものはシンプルな作りだ。構造は木材で囲まれており、正面にある扉と裏口がひとつずつ。
正方形な空間に木箱が3つほど並べられているだけの非常に手狭なところであった。

しかし、なんだったんだ、あの詐欺集団は。
最後の方は、フランと呼ばれていた女はすごい物騒なこと言いだしてるし。サイコ女こわい。

ミラ「カケルっ⁉︎」
カケル「ん?」

なんということでしょう。
呼ばれた方へ注視すると木箱によりかかるように身体をロープで縛られ、ガタガタと震える幼馴染がいる。

ミラ「助けにきてくれたのね!」

why? 意味がわからない。俺はたまたま詐欺集団から逃げてきただけだというのに。

ミラ「カケル、私のために……」

ぶつぶつと、不穏な言葉を呟かれている。音がない環境というのはそれだけ、小さな音でも広いやすくなり、響いてしまっていた。

ごくり。

カケル「ミラ……」

半ば呆然とした声で名前を呼んでしまっていた。理由を考える前に開いた口がふさがらない、とはこの事か。誰のためだって? 瞬間的にありえないと思った。

室内を包む、重い、重い、沈黙。
そして、頬を染めるミラ。

ミラ「嬉しい……って――」

はっとしてミラは目を見開く。奇妙な間があった。

ミラ「でも、今のカケルじゃ……だめ、逃げて!」

そう叫び声をあげた瞬間。

ぎぃぃぃぃ。

ドアがひとりでに開いた。

ミラ「くっ……!」

なんとかロープをゆるめようと身体をくねらせているのだろう、左右に身体をふっていた。芋虫を噛んだ表情で開いたドアを睨みつけている。

俺からは、扉のふちを掴む黒い手袋しかいまだ視認できない。
手が部屋の中にはいり、さらに黒いブーツがドン、と小屋の木床を踏む。
ゆっくりとした足取りで、その人物はランプを片手に持ち扉を閉める。
全体を黒い色で統一した着衣に身を包んでいた。

カケル「(なんだこいつ)」

フードを深く被っているので表情はうかがいしれないが、ミラの慌てようを見るに縛ったのはこいつで間違いないだろう。

………でかした! ざまーみろっつーんだよ!ミラさん苦しそうで今夜は飯がうまい!

ミラ「お願い! そいつはなにも関係ないの! 逃してあげて!」

スッ

フードを下げて顔を現した容貌に俺は、絶句した。悪鬼としかいいようがなかったからだ。
肌は緑、髪は乱れ、禿げ散らかした頭髪は清潔感のカケラも感じさせない。口からは牙が飛び出し、目は飛びでて俺とミラをぎょろり、とゴミを見るような一瞥した。

カケル「(こいつ……ゴブリンじゃないか!)」
23 : ◆qR6TCtkvbo [sage]:2017/03/15(水) 17:26:23.75 ID:Cyt3wLgz0
悪意を持った精霊。――通称、ゴブリンである。
精霊は大きく分けて四大元素の、土、水、火、風の四つに分類される。しかし、精霊種はそれだけではない。
ゴブリンのように魔に堕ちた亜種も存在する。
精霊がどうしてそうなるのかは魔王による影響が大きいとされるが不明な部分が多い。

カケル「(なんでこんなところに⁉︎ ここ城壁の内側だぞ⁉︎」
ゴブリン「人間か」
カケル「(喋ったぁ⁉︎)」

おかしい、喋れるような知能があるなんて。こういう雑魚精霊は知能がないと相場が決まってるはずなのに。
ゴブリンは俺を見て舌舐めずりするように、にやりと笑った。

ミラ「やっぱりだめ! カケル逃げて!」
ゴブリン「この場を見られたからには生かしておけない」
ミラ「……っ! そんな……私を助けにきたばっかりに……」

そもそもここにいたって知らなかったからね⁉︎

ミラ「目的の物は渡す。だから、カケルだけは助けて。お願――っ!」

いつの間に振り向かされたのか、俺の顔を覆いつくさんばかりの大きな掌で、顔面を鷲掴みにされているのだろう。指の隙間から差し込む淡い光が、そのことを示していた。

バキッ! バキッ!

後頭部をしこたま打ち付けられ木の床を突き破る音がする。
それと同時に、電流でも流されたかのような衝撃が五体を駆け巡る。
もがくように反射的にゴブリンの腕を掴み、引き剥がそうとするが、さながら万力で掴まれているかのような力強さを感じるだけで、どうにかなるものではなかった。

ゴブリン「こいつ反応、遅い。ゲヘヘ、目的のものは、殺した後でもらう」
カケル「(いてぇっ!)」
ミラ「カケルっ! カケル!」

息も絶え絶えに俺は、もがいていた。気絶できればどんなにいいだろう。だが、霞む意識の中で、痛みが覚醒を促し気を失うことを拒んだ。

心臓の鼓動が早鐘のように鳴り始めた。
やばい、このままだとやばい。

カケル「(ぬおおおぉぉぉっ! もうお家帰りたいよぉおおおっ!)」

声にならぬ声で心の中で雄叫びを上げ、床に沈んだまま、ゴブリンを見上げる格好で睨む。

ゴブリン「お前、弱いが、いい眼をしている」
24 : ◆qR6TCtkvbo [saga]:2017/03/15(水) 18:05:54.05 ID:Cyt3wLgz0
ゴブリン「その眼、俺が……うぐぅっ!」

扉を突風が吹き飛ばしゴブリンを宙に浮かせている。
――切り裂く断末魔の叫びだった。四つん這いの姿勢のまま命からがら逃れた俺は、ミラと見つめ合う。

ベニ「間に合った」

ローブに身を包んだ少女達と老人が敷地内に侵入して俺達の直線上に現れていた。手には杖を持っている。

ジョル「走っていなくなるから何事かと思ったら、ゴブリンの気配に気がついたんじゃな」
ベニ「さすが勇者」
フラン「あら、ミラじゃない」
ミラ「し、師匠⁉︎」

声がして一気に騒がしくなっている。術者の声に気がついたゴブリンは、腕をやみくもに振り回しながらこちらにもがいていた。

ゴブリン「ぐっ……五大魔術師かっ……!」
フラン「黙りなさい。低俗精霊が。さぁ、誰の命令なのか洗いざらい喋ってもらいましょうか」
ゴブリン「ぐぐっ……!」
フラン「カルア、遠慮はいらない。もっと締めあげて」
カルア「はい、お姉さま。風よ、マナよ……」
ゴブリン「あぎぃ……息がっ……かはっ……っ!」
フラン「さぁ、言う気になったかしら? カルアは風だけど私は火よ。私に脳みそ焼かれて殺されるのがお望み?」

な、なんだこいつらは。
状況と変態どもに囲まれて生きてる心地がしない。叫べたのは心の中だけで、もう「あ」とか「い」とか言葉がひとつ足りともでなかった。
動けるならどうするか? 決まってる! 一刻も早く逃げ出してるね!

ミラ「師匠! そいつの目的は勇者……カケルです!」

全員の目が一斉に俺に向けられる。

フラン「なるほどねぇ。選定の時を狙って暗殺でもしにきた? 魔王ってチキンなのね」
ジョル「ふむ……。であるならば、こいつは帰すわけにはいかんのぅ」
ゴブリン「そ、そんな、こいつが、勇者……っ!」
ベニ「魔王は勇者を恐れてる。それがわかっただけでもいい」

な、なんじゃぁそりゃぁ⁉︎
こんな奴らからは一刻も早く縁を切るとして、なんか……髪に違和感が……あれ、血がでてる。
感じる、もうだめだと。揺らぐ視界の中で暗闇へと俺は意識を手放した。
25 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/15(水) 20:37:09.69 ID:Cyt3wLgz0
- 城下町 宿屋 -

シン、と静まりかえった室内に熱いため息が漏れている。頑丈なはずの寝台が軋む音がする。
呼吸が荒く、ミラは小さく身体を震わせながら俺の布団に潜り込んでいた。

ミラ「ん、カケルぅ、あ、はぁ……」

また、この夢だ。
俺はたまにこういった夢を見ることがある。ミラが相手だというのが納得いかないが、所詮夢は夢。
割り切って楽しむことにしている。

甘美な時間。ミラの秘所に手を伸ばした。

ミラ「え、いや! どこ、触って……、まって、あ、あ!」

わさわさとした陰毛を掻き分け、その奥の肉同士の隙間に指を押し込む。ミラのそこはぐっしょりと濡れていた。簡単につるんと奥まで指を滑らせることが出来る。

ミラ「あ! あ、ん、いや、ぬいてぇ!」

ミラの腰がひくんひくんと俺の上で強張るように動く。

ミラ「あ、あ、もう……、あ、あー……」

右手で秘部をまさぐり、左手で耳をくすぐってやる。
恥ずかしいのか真っ赤な顔でミラは瞳をうるませていた。
ミラの発情した匂い、指にまとわりつく感触、反応の良い吸いつくような肌。全てに興奮した。
次第に俺の股間に血液は集まり、下半身を硬くした。

ミラ「カケルぅ、だめ、もうっ……いくぅっ!」

びくん、と足のつま先までを反り返し、ミラはぐったりと俺に覆い被さってきた。
正直、俺自身も限界だった。いくら疎ましいミラが相手とは言え、健康な男子でもある。
ズボンの下で硬くなった男根がはちきれんばかりだ。
俺は自分のズボンに手をやり、それをズルっと下まで下げて男根をミラに晒した。すると、ミラは、優しい、愛おしくてたまらないという表情を浮かべ上下に、ゆっくりと俺の男根をシゴいていく。
ミラにシコシコとしごかれる度に、俺からもまた、熱い息が漏れる。

ミラ「ねぇ、カケルぅ」

もぞもぞと内股を擦り合わせている。俺の興奮した様子を見てどうやら我慢ができなくなったらしい。
ミラが俺の上にまたがり、俺の男根とミラの秘部を擦りはじめた。
いわゆる素股ってやつだ。

ミラ「ん、あっ、ん、ん」

ミラが腰を振るたび、柔らかい、暖かい愛液が俺の男根にポタポタと濡らしてくる。

ミラ「カケルぅ、あっ、んっ、こんなのっ感じすぎちゃうよぉ」

視線が交差する。潤んだ瞳、赤みのかかった顔をお互いに見つめ合い、俺たちはオスとメスになっていた。
俺はたまらず、ミラの腰を掴み、もっとはやく腰を動かせと催促をする。

ミラ「クリ、擦れて、だめ、だめだめだめぇっ! あ、あ、ああぁぁぁあっ」

下半身がびくんとしなったかと思うと、俺は精子をミラに撒き散らした。

ミラ「はぁっはあっ、今日も、気持ちよかっ……た……」

びゅるびゅると出して太ももについた精子を指ですくい、器用にミラは舐めとっている。

ミラ「おやすみ、カケル」

そう、これは、俺の夢なのだ。
26 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/15(水) 21:04:30.34 ID:Cyt3wLgz0
カケル「(はぁ、身体がだるい)」
ミラ「師匠! そのパン私のですよ!」

翌朝、城下町の宿屋で目を覚ました。結局、あの後、俺はすぐに気を失ってしまいここで一泊することにしたらしい。
しかし、あの夢から目覚めるといつも身体がダルい。そして、なぜかミラは顔がツヤツヤとしている。

ジョル「まぁまぁ、喧嘩せんでも。パンならまだこんなに」
ベニ「ジョル、ジャムとって」
ジョル「名前をネタにするな!」
ベニ「……別にしてないのに」

そして昨日の詐欺集団御一行もなぜか! 一緒である。
勘弁してくれ。昨日の出来事は昨日のうちにって言うだろ。
眉根を寄せて、口をへの字にしていると隣に座るフランからツンツンと脇腹をつつかれた。

フラン「昨夜は、お楽しみでしたね」
カケル「……え?」
ミラ「師匠っ⁉︎」バンッ
フラン「あら、まさかお気づきでない?」
ミラ「やめてください!」

なんでもいいが、朝からこのテンションは嫌だ。というか家に帰りたい。馬車の時間いつだろう。

ジョル「昨日は選定できんかったのぅ」
ベニ「別にいい。女神様にはカケルならいつでも会うことができる」
ジョル「……? じゃが、降臨祭はまた数十年後じゃぞ」
ベニ「王室にもある。今日はそこに行こう」
ジョル「なるほどの」

我が意を得たり、という神妙な顔をしているベニと頷きあうジョル。

ベニ「カケル、魔法の知識について、どこまである?」
ミラ「あ……。あの、カケルはあまり」
ベニ「そうなの?」
ミラ「はい、勇者ですから。あまり必要ないと思って私も教えなかったんです」
フラン「それそうと、ちょっとベニ。なんで勇者が幼馴染って教えなかったの?」
ミラ「あ、それは、その……」
フラン「遠くに行っちゃいそうでこわかったんでしょ? うん?」

一つの仕立てあげたような継ぎ接ぎ感が漂う笑顔を貼り付けたまま成り行きを見守る。
昨日のわけわかんない話の続きかよ。嫌味のひとつでも言って……言えなかったな俺の口では。

ベニ「フラン、話がそれる。カケル、少し説明する。あなたはすべての魔法を使うことができる。デタラメな存在。それが勇者」

微妙な表情を浮かべ、どうやって逃げ出そうか思案していると、俺にかまわず話を続けてきた。

ジョル「ちなみにワシ達も全ての魔法を使えないわけじゃないがの。適正レベルが違うんじゃよ」
ベニ「私達は自分に最適解な精霊がいる。私は水、ジョルは土、フランは火、カルアは風。五大魔術師はもう1人いるけど、その子はカケルともちがい特殊」
ミラ「わかってると思うけど、私は火よ」
ベニ「そして、私達は自分に合った属性は100%の力を出すことがでかる。しかし、他の属性は使えても100%の力を出すことはできない」
ジョル「それができるのは、魔王と――」
ベニ「勇者。あなたは魔王とただ1人、対等に渡り合える存在」

眉間に指をあてて、深く肩を落とす。
こいつらに必要なのは、薬だな。それも早急に必要だ。もし思ったように喋れても、俺は勇者じゃないただの落ちこぼれと否定しても暖簾に腕押しな気がしてきた。
俺を騙そうとしてたんじゃなかったんだ。きっと宗教にハマりすぎてしまってるんだ。
ミラも信者になったのか。かわいそうに。
27 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/15(水) 21:38:54.52 ID:Cyt3wLgz0
ジョル「まぁ、賢者という例外も中にはおるが」
ベニ「あれは仙人みたいなもの。長生きできるだけ。伝説によると勇者はさらに独自に魔法を生み出した」
ジョル「合体魔法、ミナデインか」
ベニ「その威力は大地を割り、雲を裂き、百里先からでも見える光の柱だと本で読んだ」

えっへん、と席から立ち上がって力説するベニを見上げる形で視線を向ける。満足気な表情を浮かべたまま得意げに言い放つベニに哀れんだ眼差しを向けることしかできない。

フラン「カケル様、あなたの精霊は四大元素全てがついています。まぁ、ゴブリンに苦戦していたのは意外でしたが、力が敵わない相手に立ち向かう勇気こそが勇者たる所以ですわ」

視界を横に向けるとこっちはこっちで勝手な勘違いをしている。
俺はといえば、目の前に広がる光景にめまいを感じ、掌で目を覆い隠し天を仰いだ。

ミラ「カケルは、あまり喋らないんですけど、いつも私を助けてくれて。みんなから陰口を言われても気にしなくて……」
フラン「勇者に陰口を?」
ミラ「みんな、知らないから」
フラン「寛大な心なんですね。私もそうなりたいな」

いささか憮然としたものを含みはするものの、フランの視線からは尊敬の念を感じる。
そう心で呆れる俺の心中とは裏腹に、一向に状況は改善しない。むしろ、さらに変な曲解をされている気がする。
まさに進退窮まるとはこのことなのだろうか。

カケル「(そういや、この中で発言していない子がいるような……)」
カルア「……うんしょ、うんしょ……」

一生懸命、パンにペタペタとバターを塗っている姿を見ると考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。リスのような仕草のカルアをぼんやりと眺めていると、視線に気がついたカルアがパンと俺とを交互に見て――。

カルア「た、食べますか?」

と、聞いてきたので、変に和んでしまった。
28 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/16(木) 10:02:17.46 ID:KWdk4OjR0
- 魔王城 -

枯れ木がばかりの荒れ果てた荒野が見渡す限りの地平線まで広がっていた。
空にはワイバーンが無数に舞い、どんよりとした雷雲の下、ヒビ割れをしている大地は、長い間、雨すらも降っていないと思わせる。
大地に立ち入る者を嘲笑うかのように、奇声と鳴き声がこだまする。

城の主しか使うことの許されない寝台で、アリスは長い睫毛を揺らし目を覚ました。
白銀に輝く髪、そしてその中で輝く真っ赤な瞳。血管まで透き通ってしまうのではないかという雪のように白い肌は、彼女の全てを引き立てる方向へと働いている。
絵の中から抜け出してきたような容姿だ。
美の女神でさえも、魔王たるアリスの前ではひれ伏すだろう。

寝台の上に起き上がると、アリスは全身を映す鏡の前まで歩き、自身の姿と対峙していた。
目を閉じて、想いをめぐらせる。
真夜中の、黙想の時。
始まりはいつだったか、それすらも数千年という長い歴史の中では思い出すことができない。

まぶたを再び持ち上げて、自身の顔を見つめる。
どの角度から見ても十代後半。
生まれてから、もっと正確に言えば意識が覚醒した瞬間からこの姿だった。変わらない見た目で歳をとることはない、有り体に言えば不老不死なのだが、アリスは特権を喜ばしく思っていない。

生とは、なにか。
生とは、死があるからこそ成り立つのではないか。
儚さがあるから、美しいのだ。
――では、自分は、なんと醜い存在なのであろう。

起因するのは、自己を証明する要素の欠落。
アリスの胸には生に対する執着がまるでなく、いつもぽっかりと穴が開いた虚無感の中で生きていた。
いや、生きているというと語弊があるかもしれない。
ただ、魔王として君臨していた。

アリス「我はなんのために生きているのか。この疑問は、もはや我の魂の叫びであり、生きるよりどころでもあり、存在理由ですらある」

呟きには、激情と呼べるものの全てが詰まっていた。
想像してみてほしい、このアリスという魔王は、自身の存在理由が欠落したままに数千年という長い年月を過ごしているのだということを――。
29 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/16(木) 10:42:14.95 ID:KWdk4OjR0
揺れる蝋燭の火炎がナニカの形を淵作る異形に、魔王は目を細める。徐々に収束し、大きな塊を作ってゆく。

「魔王様、お目覚めでございますか」

炎の塊が喋った。その声は低く、しかし艶を持って禍々しい。異形のモノがヒトの形を作り終えると紫の髪を振り乱し、豊満な胸を両手で持ち上げ、口角をつりあげた女性が立っていた。
魔王直属である四天王の1人、淫魔の王、サキュバスである。

アリス「トモエか。なんの用であるか」
トモエ「ゴブリンからの連絡が途絶えました。勇者の発現は阻止できなかったようです」
アリス「勇者がやったのか?」
トモエ「ゴブリンを退けたのは勇者ではなく、取り巻きです。姿は確認いたしました。まだ赤子のような存在ですが、潜在能力は……」
アリス「どうした、続けよ」
トモエ「……失礼ながら、魔王様と比肩するやもしれません。私も、水晶で勇者の精霊を見た時に震えてしまいましたわ」
アリス「それほどか」
トモエ「はい。おそらくは奴こそが、精霊神のジョーカーかと。私が知りうる中で、歴代最強と言っても差し支えありません」
アリス「古参のお前がそこまで言うか。面白い、これまで私に立ち向かう勇者どもは見かけ倒しばかりであった」
トモエ「必ずや魔王様のご期待に添えることができるでしょう」

――ああ。ようやく、ようやくだ。
魔王は、喜びに打ち震えていた。もちろん、自分の目で見るまでは全てを信じるわけではないが、なぜか、確信にも似た予感を感じている。
今代の勇者ならば、私に生きる意味を説いてくれるのではないか、と。

力をふるい、暇つぶしに壊し、人の大切な物を破壊することに快楽を感じ、自分の存在が上であると確信するために泣き叫んで命乞いをしているのを見て悦に浸る。

そのようなつまらぬ遊びに魔王は飽き飽きしていた。欲しいのは、自身と肩を並べる存在。対等にぶつかり合い、生きていると実感させてくれる者を心の底から欲していた。

アリス「く、くっくっくっ、あっはっはっはっ!」

魔王の笑い声が響いた。
頭の中へと直接響くような底冷えのする声にトモエもまた、狂気と恐怖を感じて震える。

トモエ「(威圧感があり、威厳もある。しかし、なぜ魔王様はこんなにも、死にたがっているように見えるの……)」

それぞれの想いを胸に秘め、ボタンのかけ違いは交差する。それが望む望まないに限らず、ひとつの終わりは誰しもにやってくるのだから。
30 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/16(木) 16:08:15.95 ID:KWdk4OjR0
- 城下町 商店街 -

人の波をかきわけ、最初の時のようにはぐれないように注意をはらいながら大通りの屋台が立ち並ぶ通りを抜けると、レンガ作りの家が並ぶ閑静な住宅地区へと入った。
しかし、やはり王都だ。
ミルー村みたいなクソ田舎では、人に遭遇するのも骨が折れるというのにどこに行っても人がいる。

ベニ「この住宅地を抜ければ、王城の門が見えてくる」

ちょっと待てやコラ。ここの先っていうとあの親指ぐらいの大きさにしか見えない城のこと? あそこまで歩かせる気? というか、なんで俺もホイホイついていってるんだか。
いや、これが終わったら帰れるという計算通りの行動の為だよ?

ジョル「転移魔法でも使えば一瞬なんじゃがの。王城は警備が厳しく、限られた者しか無理なんじゃ」
ベニ「五大魔術師は王宮に直属として仕える魔術師でもある。私達だけなら可能だけど、カケルとミラは無理」

どんっ。

と、不意に大き目の帽子を被った人とぶつかった。
しまった。
ジジイの方に意識を傾けているせいで人が多いというのを失念していまっていたらしい。体勢が不利だったのか、足がもつれたのだろう。尻もちをついて倒れていた。
背格好は同じくらいだ。やけに高めの声で謝ってきた。

「す、すまん、急いでてな」

帽子を深めにかぶり、表情を隠すようにしている。よほど慌てているのだろう、謝罪もほどほどにすぐにでも立ち去ろうとする気配がある。

カケル「……?」

なんとなく、興味がわいたので助け起こす際にまじまじと見てみる。
柔らかい輪郭に、長い睫毛、大きな帽子で髪の毛は隠れているが、たぶん金髪。

「ボクの顔になにかついてるか? 失礼だぞ」

居心地が悪そうに、ころころと表情を変えている。しかし、ボク? こいつ、本当に男か?
聞いてみるのもめんどくさいので、言葉を濁そうとしたその時だった。

ジョル「こ、こんな所で一体なにを⁉︎」
ベニ「抜け出した……?」
フラン「あらあらぁ」
カルア「ひ、ひ、ひ……」

「あ、あなた達こそどうしてここに⁉︎」

なぜか、俺のまわりをハエがブンブンと飛んでいると気がついたのは。
俺は世の中にどうしても我慢ならないものが3つある。
ハエとゴキブリとヘビだ。
ハエという生き物は睡眠時、そして食事の時に、けっこうな頻度で現れる。
その時のウザい度ったらない。星5が満点とすると星4はあげれるほどウザい。

ミラ「カケル、あの人って……」

黙れ人間界のウザい代表。俺は今、羽虫界のウザい代表と戦うために準備しとるんじゃ。
ミラの言いたいことは、この目障りなハエを退治してからゆっくり聞いてやろう。

俺はハエ退治に向けて、目を閉じて精神を集中しだした。

こいつ、すばしっこいわけではないが目を離すとなかなか見つけることができなかったりする、手強い相手なのである。
ブゥ〜ンという音を頼りに、黒い線をイメージして動きへ向ける意識を高めていく。

周囲の喧騒など耳にはいらない。外界と俺とは、今、完全に隔離された。

この世界には、ハエと俺しか存在しないのだ。
31 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/16(木) 16:29:29.09 ID:KWdk4OjR0
カケル「(奥義を出す時が、来たようだな……)」

そう、我が一撃必殺にして、ただ両手でハエを拍手で挟み潰す。その名も血塗られたブラッディフィンガー(ハエの血)
右から左に動いてるハエの気配を感じる。
く、くくく。余命はあと数秒だ。貴様の死因は、俺を不快にさせた。運が悪かったな……。

カケル「(そこだぁっ!)」

ぱぁんっ!

大きな音が響き、周囲の音と世界が戻ってきた。

ジョル「刺客か⁉︎」
フラン「ナイス勇者さま! ミラ! 投げられた方角はわかった! 向こうの角2つめ!」
ミラ「はい! ……風の音……火の音……」
ベニ「姫様、こっちへ」

なんで、俺の両手の間にナイフが挟まっているんだ。
慌てて手を離すと、カラン、と。石畳みの上で金属音が鳴いた。なにがなにやら分からないままに悩んでいると、地面にある小石が小刻みに揺れているのに気がつく。

カケル「(な、なんだぁ?)」

――地震? ではない。カタカタと小石が宙に浮きだしている。異様な気配を感じ、咄嗟に地面に耳を当て澄ますと、地鳴りのような音がする。これは、なんかやばい感じがする。
悪い予感ばかりどうしていつも当たるのだろう。けっこうな確率で外さない。

ジョル「ワシにまかせておけ! 国賓に刃を向けるとは許せん! 土魔法の威力、しかと見るがいい――!」
32 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/16(木) 17:17:23.68 ID:KWdk4OjR0
とりあえずここまで。
またこっち進めたくなった時にでも。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/17(金) 15:42:42.66 ID:J/rVg5fg0
期待
34 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/03/19(日) 23:38:28.20 ID:lkUUS0li0
フラン「ユミル姫様、なぜこのような危ない真似をされたのですか」
ユミル「ボクの勝手でしょ! お見合いなんて……⁉︎」

続きを喋ることは許されなかった。
その代わり、ぱしん、という音がユミルと呼ばれた女の子の頬を叩く音が響いた。

ジョル「まぁ、姫様もまだ若いからの。それぐらいにしてやれ」
フラン「――ふぅ、国賓という立場をわかっていらっしゃらないですね。あなたに何かあれば、私達との国との戦争になるんですよ」
ユミル「その国賓に手をあげるなんてどういうつもりよ……っ!」
フラン「オイタをした子には罰が必要です」
ユミル「子供扱いするつもり⁉︎ あんまり歳変わらないでしょ⁉︎」

ユミルのおさまりきらない怒りを前にしてもフランに怯む様子はない。
それどころか一刀両断とばかりに毅然とした態度で――

フラン「歳は関係ありません。大事なのは品性と教養です」

と、切り捨てるように言った。
また知らない人が出てきた。もううんざりだ。
肩から下げている鞄をその場に下ろして椅子がわりにして腰を落ち着けるとやりとりが終わるのを待った。

ユミル「とにかく、ボクは嫌だ。城には帰らない」
フラン「嫌と言っても連れて帰ります」
ユミル「い・や・だ!」

そっぽを向いて話をする気はないと意思表示している。フランはゆっくりと息を吐いた。だが、引く気はないらしく、きつく睨んでいる。
その後ろでカルアがビクビクと隠れるように様子を伺っている。

……はぁ。これじゃラチがあかないんじゃないのか。
暇なので、改めてここにいる面子を見回してみる。ミラで可愛い子には耐性があるが、なんとも豪勢な顔ぶれだ。
なにしろ、全員美少女と言っても差し支えない。
村一番の美少女なミラをはじめとして、表情に乏しいが知的系のベニ。西洋人形のような容姿をしたフランとカルア。
そしてこのユミルという子も帽子をはずした姿は美少女だった。
今は怒っているから目がつり上がっているいるが、鼻筋はすっと通っており、パーツそのものがどれも整っており美しい。
村の男達が見たらさぞ羨ましがることだろう。
だが、俺はたいして興味はない。自分には関係ないと思っているからだ。

フラン「ユミル姫、いい加減にしてください」

フランから冷たい声が飛んだ。それに対しユミルはふん、と鼻を鳴らす。
あきらかに険悪な雰囲気である。

ミラ「……あの人って、隣国のお姫様だよ」

聞いてもいないことを耳打ちされて情報を得た。
なるほどね、だから姫様と呼ばれているわけか。

ミラ「なんだか、実感わかないね」

たしかに、それはミラの言う通りだった。元々、この国の王様やお姫様でさえ田舎暮らしの俺たちには縁もなければ姿を見たことすらない。
理屈では偉い人というのはわかる。
だが、それが隣国にまでなると「へぇ、そんなんだ」ぐらいの感想しか湧かないんだ。
35 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/03/20(月) 00:27:05.08 ID:kPcLir3I0
フラン「お礼ぐらい言ったらどうですか」

渋々といった感じではあったが、礼節は厳しく教育されているのだろう。ユミルは形式上の手続きかのように慣れた仕草で膝をまげると俺に礼をした。

ユミル「助けていただいてありがとうございました。こ度のお礼は――」
カケル「いい」
ユミル「えっ?」

きっぱりといらないと言った俺にたいしてユミルは目を丸くしている。そもそも助けるつもりはなかったんだし、余計な関わりはめんどくさそうだという判断なのに、そんな意外そうな顔をされても困る。

ユミル「で、ですが、王族が礼もしないとなると……」

やはり、めんどくさい。王族なんてことは俺個人にはなんの関係もないし、受けとらなければ困るというのはそちら側の都合だ。
そんなものはお礼ではない。
仕方なく、鞄から一輪の黒百合を取り出し、差し出した。

ユミル「は、花……?」
カケル「どうぞ」
ユミル「あ、ありがとう? でも、なぜ……」
カケル「これでおあいこです」
ユミル「へ?」
カケル「受け取ってくれました。なので、お礼はいただきました」

この花は道中、何の気なしに摘んだ花である。もちろん、価値なんかない。
本の押し花として使おうかと思っただけだ。
多少強引かもしれないが、王族が庶民の価値のない花を受け取ってくれたのだ。それも1つの畏れ多いことなんじゃなかろうか。

ユミル「は、はぁ?」
ジョル「姫様、カケルはの。それでお礼をチャラにしてくれと言うとるんじゃよ。カケルにとって人助けなんて日常茶飯事なんじゃろうて」

勝手なこと言ってんじゃねえジジイ。

ユミル「そんなにも人助けを?」
ミラ「――はい。それは幼馴染である私が側で見てきました。保証します」
ユミル「……そう。では、カケルよ。そなたの心意気を汲んでお互い様ということにしましょう」

いちいち堅苦しいね、姫様ってのは。
庶民に対してある程度体裁をとらなきゃいけないってものも考えようだ。これでは息苦しいと城から逃げ出したとしてもわからないでもない。
俺ならやだね。生まれてからこんな生き方を強要されるのは。
だからなのだろうか、俺は立ち上がり、この時、微笑みを浮かべて――。

カケル「気にしないでくれ」

ユミルのほどよい大きさの手をとり、そう、思ったままを口にすることができた。

ユミル「あ……」

虚をつかれたユミルの頬に赤みがさす。

フラン「あらあら……。男前だけじゃないんですね、勇者さま」
ミラ「そ、その顔はめったに見せないのに……っ!」

外野がなにかうるさいが、俺は今もはやく家に帰ってグータラしたい。これだけである。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/20(月) 01:41:48.44 ID:zf5Xaf6+o
天然ジゴロェ…
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/20(月) 02:42:46.14 ID:Pbx/5WwU0
飛んでる?
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