【艦これ】元艦娘は独り、歩く。【朝潮】

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 21:52:50.06 ID:nMEB2drc0
少し成長した朝潮のSSです。
地の文あり。
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/29(土) 21:54:59.69 ID:47htpc6sO
これは期待せざるを得ない
3 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:02:34.70 ID:nMEB2drc0
ー昼下がりのある日。

近所に住む子供たちの騒ぐ声を聞きながら、私は目を覚ましました。

這い出すようにベットから降り、そのまますぐ近くのラグへとうずくまります。
昨晩、少しお酒を飲みすぎてしまったのでしょうか。
打ち付けるような頭の痛みと猛烈な吐き気はとどまることを知りません。

私は家具を伝いながらトイレへと向かい、そこで何度も嘔吐しました。

そうしてやっと、私の一日が始まります。
4 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:03:10.26 ID:nMEB2drc0
すっかり毎日の日課となった散歩は、自分が生きていることを実感できる唯一の時間。
近所の河原に始まり、時には海岸まで行くこともあれば、電車に乗って街へ赴くこともありました。

…………

川辺で水遊びを楽しむ子供たちを見て、ちょうど夏休みが始まったころだった、と思い出します。

すれ違う人たち。……楽しそうな顔の子供達、友人と語り合う学生、私と同じように散歩をする老人。
確かな平和が、そこにはありました。
5 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:04:08.33 ID:nMEB2drc0
…………

ー午後七時。

いつもの日課を終えた彼女は、ひとり古びたアパートへと帰宅する。
靴を脱ぐと着替えることもなく酒瓶を掴み、ベットへと倒れこむ。

かつて、彼女は英雄だった。
6 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:05:43.96 ID:nMEB2drc0
世界中が事変に恐怖し、希望が失われかけた時代に、彼女は艦娘と呼ばれていた。

数トンもの質量を持った兵器と身を一つにし、海から湧き出る怪物たちを退ける。
世界中を巻き込んだ戦争は数年続き、そしていつの間にか終結した。
怪物はもの言うことなく何処かへと消え去り、彼女らはその日から英雄と呼ばれることになった。

しかし、彼女は常に、孤独だった。
7 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:06:23.47 ID:nMEB2drc0
幼少の頃から戦いに己の身を削るばかりで、普通の少女でいることを許されなかった彼女はすぐに同年代の輪から孤立し、
それに追い打ちをかけるように大人たちは彼女をいたずらに祭り上げる。

教師たちは彼女を畏れ、ときに腫れ物のように扱った。
自宅には有名人を出迎えるが如く、連日のように記者たちが訪れ、時には菊花紋を掲げた車の隊列が訪れた。

ついには彼女は心を病み、倒れた。

しかし、その彼女を助けるものは誰もいなかった。
世間の関心から捨てられた艦娘は、ただ毎月淡々と振り込まれる軍人恩給を頼りに、無為な日々を送ることとなった。
8 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:08:10.49 ID:nMEB2drc0
ー午前五時。

いつもより早く目が覚めた彼女は、妙に己の体が軽いことに違和感を覚えた。
枕元にある酒瓶は、昨夜のまま一滴も減っていない。ふと壁面にかかった鏡を眺める。

……ひどい顔。

瞼は赤く腫れ上がり、長く伸びた黒髪は寝癖で四方に散っていた。

夢の中で涙を流したのだろうか、と記憶を辿るも
酒瓶を片手にベットへ飛び込んだところから、何も思い出すことができなかった。

彼女は箪笥から衣類を数点掴み取ると、シャワールームへ向かった。

このわだかまりが、少しでも洗い流せるならば。
9 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:08:55.51 ID:nMEB2drc0
「熱ッ」

シャワーヘッドから噴出した熱湯に、彼女は思わず声を上げる。

いつもは泥酔しながらの入浴か、入浴せずにそのまま眠ってしまうばかりで、温度の調節すらままならなかった。
何度も熱湯と冷水を交互に浴び、その都度情けない悲鳴を上げる。
やっとのことでぬるま湯が流れるようになった頃には、彼女は髪までずっぷりと濡れ上がっていた。
10 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:09:48.32 ID:nMEB2drc0
……

全身の泡を洗い落とした頃には、浴室に備え付けられた小窓から朝日と小鳥の鳴き声が流れ込んでくる。

「……全然、変わってないな」

鏡に映る自らの身体を眺め、彼女はそうつぶやいた。
11 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:12:22.03 ID:nMEB2drc0
――――――――

ー正午。

彼女は、いつものように川辺を散歩していた。普段日陰に沿って歩くはずの歩道には、さんさんと日光が降り注いでいる。
一歩歩くたびに額から汗が滲む。ああ、こんなことならばもう一度休んでから出かければ良かった。と心の中で後悔しながら
彼女はどこか一息つける日陰がないだろうか、と辺りを見回した。

水辺では少年たちが、衣服が濡れる事を気にすることもなく全身で水を浴び、きゃっきゃと笑っている。
12 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:14:05.13 ID:nMEB2drc0
少年たちの無邪気の姿を眺め、放心していたその時だった。

ぽつり。

ぽつり、ぽつり。

微かな水音が、彼方で響いた。

……やがてそれは間隔を狭めながら音を強めていき、辺りをあっというまに濡らす。
13 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:14:41.91 ID:nMEB2drc0
ー嫌だわ。せめて日傘でも持って来れば良かったな。

水音はあっというまに轟音となり、見渡す限りの雨粒が舞った。
水辺の少年たちは、悲鳴をあげながらもどこか楽しそうに走り回り、各々でどこかへと四散していく。
14 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:15:13.54 ID:nMEB2drc0
高架の下までたどり着いた頃には、彼女は全身から雫を滴らせるほどにこっぴどく雨を受けていた。
長い髪を掴み、ぎゅっと毛先まで絞ると、水滴がしたたり辺りのコンクリートを染め上げる。

突然の天気雨。この調子だと、あと十分ほどは降り続けるだろうか。
彼女はふう、と一息ついて、湿ったコンクリートに腰を下ろす。土の香りと、滴る雨の音だけが辺りを包んでいた。
15 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:15:45.50 ID:nMEB2drc0
ふと、背後に視線を感じ、彼女はぴくりと肩を震わせる。
恐る恐る背後を覗くと、ダンボールに横たわった汚い身なりの男性が、彼女をじっと見つめているではないか。

「ひゃッ」

腰を下ろすまで気付く事のなかったその視線と人影に、思わず彼女は小さく悲鳴を上げる。

彼は、動じる事なく、彼女をじっと見つめていた。髭をたっぷりと貯えた、四十路ほどの男性だ。
16 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:17:17.59 ID:nMEB2drc0
「……ごめんなさい。お邪魔してしまいました」

彼女はあわてて謝ると、まだ小雨がばらつく高架の外へと歩き出した。

「……君は……」

どこか聞き覚えのある声に、彼女は男の方へ振り返る。

「君は、朝潮……かい?」
17 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:19:07.49 ID:nMEB2drc0
「司令……官?」

二度と聞くはずのなかった懐かしい声に、彼女は目を丸くした。
低く囁くような喋り方に、優しい笑顔。身なりは汚れきり、顔は長く伸びた髪と髭に埋もれてはいるものの、確かに提督その人であった。

「十年ぶり、かな……こんなところで会うとはね」
18 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/04/29(土) 22:24:51.94 ID:nMEB2drc0
紙面に映る、レンズから逃れるように自宅の門から走り去る姿。
……彼女が彼の姿を最後に見たのは、八年ほど前の事だった。

彼は暫くの間、世間からまるで重罪人の如き扱いを受けた。

児童虐待に汚職、ありもしない悪口雑言が紙面を賑わせた。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/30(日) 07:31:25.51 ID:I25vzKF40
期待
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/30(日) 12:42:23.08 ID:Pft1CZVLO
いいですね
21 : [sage]:2017/04/30(日) 14:09:24.43 ID:+V6rCh/FO
期待
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/30(日) 20:27:01.58 ID:bcKWXEp7o
超期待
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 01:25:11.29 ID:mIjjdNnW0
期待はよはよ
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 04:52:37.78 ID:CE92zkLv0
期待
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 21:04:09.58 ID:VwQK6RIZO
なんだァ?てめェ……
26 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 21:53:45.08 ID:daI7/DTa0
無論、彼に味方がいなかったというわけではない。
幾人もの艦娘たちが彼を擁護し、その中でも彼女、
……提督の秘書艦として戦時常に寄り添った朝潮は、最後まで彼を守り続けた。

しかし、彼は自ら消息を絶ち、そこでつながりは全て途切れた。
仕方の無いことだ、全て終わったしまった。いつの時からか、彼女は自分に言い聞かせるようになっていた。
27 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 21:54:37.67 ID:daI7/DTa0
……今、目の前で彼が生きている。ただそれだけで彼女にとってはこの上ない幸せなのであった。

「お隣、失礼しますね」

ちょうど、高架の陰に隠れるようにくずおれる彼の隣へ彼女は腰を下ろした。
彼女は、秘書として彼の隣にいるその時、微かに感じる石鹸の香りが好きだった。

――うーん、少し独特のにおいがするなぁ。

……でも、やっぱり司令官の側は……安心するわね――
28 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 21:59:16.16 ID:daI7/DTa0
彼女があまりにも近くに腰を下ろしたためか、彼はあわてて起き上がり、わずかに距離を取る。

「す、すまん……俺、こんな身なりだからさ……」

「あっ、そんな、朝潮は気にしていません!」

ぎこちない言葉が飛び交う。誰よりも近い場所にいた二人の距離も、長い年月が真っさらに戻してしまったようだった。
29 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 22:06:26.13 ID:daI7/DTa0
しばしの沈黙が続いた後、先に口を開いたのは彼の方だった。

「……朝潮は、あの時からあまり変わらないな」

「確かに、あの頃から…その、身体はほとんど成長していませんが……」

まるで子供のまま成長が止まったかのような幼い容姿に人知れず大きなコンプレックスを抱いていた彼女は、彼の何気ない一言を盛大にひねくれて捉えた。
むぅ、と口を曲げて不満げに見つめる朝潮に、彼は慌てて言葉を見繕う。

「いや、その、だな!幼いとか、そういった意味で言ったわけでは無く……だな」
30 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 22:07:07.30 ID:daI7/DTa0
狼狽する彼に、思わず彼女はふふっ、と微笑んだ。

「司令官は随分と変わられましたね。
 今ならば、歴代の艦長と並ばれても遜色ない出で立ちです」

「うっ……やっぱりこの身なり、気になってたんじゃあないか……
 ……それはそうと、少しは冗談も言うようになったんだな
 昔はプレゼントをしても『何かの作戦か?』なんて言っていたのにな」



「あ、あれは……」
31 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 22:10:16.15 ID:daI7/DTa0
彼女はとたんに口ごもり、赤面した。

彼女はそのプレゼントの意味を幼心なりに理解していた。しかし、突然の告白に、思わず返した素っ頓狂な返事。
そのことを、彼女は今でもしっかりと覚えている。

現に、彼女の部屋には未だ、彼から貰った銀の指輪が飾られている。殺風景な部屋に輝く、唯一の装飾品。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 22:16:06.26 ID:Pe8n57osO
あ〜いいっすねえ
33 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 22:20:13.77 ID:daI7/DTa0
…………

「雨……上がったみたいだな」

気がつくと、高架下の端まで眩しい日光が降り注いでいた。
川を挟んだ向かい側の空にはくっきりと七色の虹がかかり、それを川辺の少年たちが指で指しながら歓声をあげている様子が見える。

思わず彼女もわぁ、と息を飲む。

「……司令官、綺麗な虹……。一緒に、観に行きませんか?」
34 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 22:23:04.87 ID:daI7/DTa0
彼女の問いかけに、彼はコンクリートへと倒れ込み、虚空を見たまま答えた。

…………

「ここからの景色で十分だよ。俺は、ずっとこういうじめじめとした陰にいつづける。そう決めたんだ」
35 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 22:24:29.44 ID:daI7/DTa0
彼女は、ただ黙ることしかできなかった。数秒の間、まるでこの高架下の空間だけがすっぽりと切り取られたように沈静する。
川の流れる音、子どもたちの声、草木のざわめき音。そのすべてがここにあって、それでいて、どこか遠くの出来事のようだった。
彼女は、すっと彼の側から立ち上がり、一歩、歩みを進めながら言った。

「また……明日も、ここへ来ていいですか?」
36 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/01(月) 22:36:45.41 ID:daI7/DTa0
「明日、俺がここにいるかは分からないよ。
 夜のうちに、どこかへ消えていくかもしれない」

「明日も……司令官、きっとここにいます、よね?」

彼女は、堂々とした声でそう返した。確証はなくとも、また彼とは会える。そのような気がしてならなかったのだ。

「……ああ、来てくれて構わないよ」

彼がそう小さく呟いた頃には、彼女は高架下からはるか遠くの道を歩んでいた。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/02(火) 07:39:21.90 ID:K8QODsBQO
いい
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/03(水) 03:06:46.71 ID:YLOdeEmvo
うむ
39 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/03(水) 16:01:03.93 ID:3Z9v03P50
その日から、彼女は毎日のように高架の下へと赴く。

些細な景色の変化、昨日の出来事。
そんな、日常を二人で共有するだけの時間であった。

それでも、彼女にとってその数十分が大きな心の支えと変わっていくこととなった。
40 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/03(水) 16:02:20.36 ID:3Z9v03P50
「なぁ、朝潮。明日……何処かへ出かけないか?」

それは、唐突な提案だった。
立ち上がる姿を見ることさえ稀となっていた彼の言葉に、彼女は目を丸くした。

「司令官は……その、良いのですか?」

「もうすぐ……いや、なんでもない。たまには気晴らしも必要かと思ってね」
41 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/03(水) 16:10:13.94 ID:3Z9v03P50
―翌朝。

彼女は、鏡の前で独り言を呟きながら身支度を進める。
その顔には、艦娘であった幼少の頃以来見せていなかった、うわついた表情が浮かぶ。

「うーん……こう……違うわね……えーと」

生まれて初めての化粧。何度も失敗を重ね、彼女の顔はまるで子供の落書きか、パーティの仮装の様な様相となっていた。
むっ、と自らを睨みつける鏡の中の自分に、思わずふっ、と笑い出す。

メイクを洗い落とし、着替えを終えると、そこにはいつもと変わらない彼女がいた。
42 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/03(水) 23:59:47.18 ID:3Z9v03P50
ーいつもの高架下。

ちょうどすっぽりと陰に隠れるよう築かれた雑多ながらくたに囲まれ、コンクリートに伏せた彼がいるはずの場所。そこが、本来の姿へと戻されていたのだった。
うだる暑さとけたたましく鳴くセミの声。夏の景色から切り取られたようにひんやりと静かな陰で、彼女は一人立ち尽くしていた。

ー司令官……どこへ行ったの……かしら。
43 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/04(木) 00:01:19.87 ID:oPsOgtkA0

…………

…………

突然、背後から駆け足と、懐かしい声が聞こえる。

「朝潮、ごめんな。待ったか……?」

振り返ると、あの頃の司令官が、息を切らして立っていた。
肩元まで伸びた髪も髭も、汚れた衣服もなく、そこにいるのは
執務室にいたあの頃の彼そのもの、とまでに感じられた。
44 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/04(木) 00:02:09.59 ID:oPsOgtkA0
「……司令官っ!」

子供のように駆け寄った朝潮は、彼の胸元へと飛び込み、ぎゅっと抱きしめた。
あの時の、そのままの彼がそこに、確かにいたからだ。

「ちょっ、わっ、朝潮?!」

しばらくして、彼の胸元から離れた彼女は、顔をじっと見つめながらにっこりと微笑んだ。

「司令官、ご命令を。この朝潮が、お供させていただきます!」
45 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/04(木) 00:25:56.96 ID:oPsOgtkA0
微かに聞こえる波の音。どこからともなく漂う磯の香り。
軽い食事を済ませた後に、二人が向かった先はかつてのホーム、帰る場所であった。
無論、鎮守府としての機能は失われ、今現在では、半ば観光施設のような形相と化している。検問では、数組の観光客が入場に列を成しているようだった。

「うーん、さすがにこの中へ入り込むのは目立ちすぎるかなぁ」

「……司令官!クルーズ船が出ているみたいですよ!
もし良かったら、久しぶりに鎮守府近くの海を……見てみませんか?」
46 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/04(木) 12:58:48.36 ID:oPsOgtkA0
『当船は……鎮守府近海を巡航致します……時に帰港を予定しており……』

船体は原速にて緩やかに海面を割り進んでいた。
かつて自らの足でこの海を駆け巡った少女は今、まるで初めての航海に胸をときめかせる子供のようにデッキから身を乗り出し、潮の香りを、遠く浮かぶ島々を楽しんでいた。
47 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/04(木) 12:59:55.46 ID:oPsOgtkA0

「……わぁ。司令官……とっても、綺麗な海……」

船体に大きな風穴を空け、満身創痍で座礁した貨物船。
回収すらされることなく、虚空を睨むフリゲート艦。
海岸から一歩踏み出せば、船の墓場とでも言うべき有様であった戦時の面影は消え去り、今は、青い海に海鳥の鳴き声が鳴り響く。

「……すっかり、平和になったなぁ」

彼の瞳は、どこか遠くを見つめているようだった。
48 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/04(木) 13:01:17.89 ID:oPsOgtkA0

「なぁ、朝潮?」

………………

彼女はくるりと振り返る。長い髪が、潮風に揺れた。
49 : ◆vXDSPRZJDU [saga sage]:2017/05/04(木) 13:02:44.96 ID:oPsOgtkA0
「明日、俺はここから、遠い所へ発つ。
……もう一度、全部やり直そうと思うんだ」

………………

一瞬、驚いたような表情を見せるも、すぐに彼女は微笑んだ。

「……そんな予感が、していました」

レールにかけた手を離しステップから降りた彼女は、彼の側へと寄り添う。
31.31 KB Speed:0   VIP Service SS速報R 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)