都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

178 :次世代ーズ 前回 >>132-134 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:38:42.03 ID:ale9fTeBo
 


 ある学校で、男子生徒が放課後、教室に居残っていた
 男子が何となく窓の外を見ると、向かいの校舎の屋上に人の影がある
 男子は不審に思い、窓に近づいてよく見ようと目を凝らした


 その瞬間だった、人影が飛び降りたのは
 重たい物が堅い地面に激突する音が、確かに聞こえたのはその直後だ


 突然の出来事に混乱した男子生徒は暫く動揺していたが
 兎に角人を呼ばないと、飛び降りた人はまだ助かるかもしれない、そう思い
 人影が落ちたであろう場所に駆け付けるが、其処に誰かが飛び降りた痕跡は無かった

 取り乱した男子生徒は、部活中の生徒や付近を通り掛かった教員を捕まえて話をしたが
 誰かが飛び降りる現場など誰も目撃していないのだと言う

 騒ぎを聞いてやって来た用務員は男子生徒の話を聞くなり
 腑に落ちたような顔をして、男子生徒に説明を始めた

 昔、この学校で飛び降り自殺があったのだと
 女子生徒が校舎の屋上から飛び降りたのは、丁度、男子生徒が飛び降りを目撃した時間帯
 彼女が死んだ後、時折このようにして在る筈の無い飛び降りの光景を目撃する生徒が少なくなかったそうだ


 彼女は死してなお、飛び降りを繰り返しているのかもしれない










 
     「繰り返す飛び降り」
 







 
179 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」 1/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:39:58.10 ID:ale9fTeBo
 



 週が明けて月曜日、その夜
 俺達は東中に向かっていた。勿論理由は東ちゃんに会う為だ
 俺達、ってのはつまり


「まあ頼まれたからには聞いてやっけどよぉ」
「新谷のおいちゃん、やっぱり陽が落ちると寒いね」
「そだね、でも寒くなると星が綺麗に見えるんだよな、ほら」


 先週金曜の顔ぶれと一緒だからだ
 「人面犬」の半井のおっさんに新谷さん、「コロポックル」のれおん
 そして俺の計四名、この数で押し掛けるからには今夜中に東ちゃんを見つけたい所だ


「なあ、兄ちゃん」
「おん?」


 後ろから新谷さんに話し掛けられた
 ホワイトシェパードな新谷さんは見た目がほぼ犬に近い
 この日も新谷さんはれおんを背中に乗っけていた


「あいつら、人身売買やってたんだよな。もう捕まったかな……」
「今頃は『組織』に捕まってるよ。わざわざやって来てたわけだしな」
「だといいんだけど」
「大丈夫だよ、後のことは『組織』が何とかするだろ」


 あいつら、ってのは先週金曜にれおんを誘拐しようとした連中のことだ
 現場には俺たちの後から『組織』所属の二人組が駆け付けたわけだし、直ぐ気づいただろう
 むしろあれで犯罪者共をみすみす見逃してたとしたらだ、『組織』は余程のポンコツってことになる

 それ以上に気になるのは奴の存在、あの『組織』の刀使いだ
 現場で遭遇したとき俺を注視していたわけで、間違いなく俺に気付いていた

 ひょっとしなくても確実に目を付けられてる? 「組織」に?
 やばくない?

 いやいや考えるのは止めろ俺! もう既に何度も悩んだろ俺!
 悩み過ぎて眠れない夜を過ごしたりもしたけど、そもそも「組織」に目を付けられたんなら
 もっとこうストレートに接触してくるだろ普通。だからきっと大丈夫だ。多分、多分ね


「それより新谷さん、れおんも一緒なのは何か訳とかあったり?」
「そりゃおめえ、留守番は危ないからだ」


 迷いを振り捨てて、取りあえず今気になっていることを訊いてみると
 答えが返って来たのは先頭を行く半井のおっさんからだった


「確かに野良の連中が侵入してくるリスクは低いだろうが
 オヤジは寝入っちまってるし、ヤバい部屋はヤバいからな
 おまけに最近は『黒服』が付近を張ってるようだしな、万が一ってこともある」
「オヤジ?」
「いずれ紹介するよ、“地下区”のこともな」


 地下区? よく分からんが学校町の地下が根城ってことだろうか
 ううむ、この町のことは一応下調べしてきた積りだったけど、まだまだ未知がいっぱいとは
 前に瑞樹さんから色々教えてもらったことを思い出しながら……あ、そうだ
 半井のおっさんに真っ先に言うべきことがあったんだ


「そういやおっさん、以前の霊園訪問の件で『墓守』さんが怒ってたぜ」
「は、なんで急にその話が出てくんだ? 大体あれだ、ほら、墓でうるさくしてたのはお前だろ早渡」
「おもにありもしない呼び出し方を新参者に吹き込んだ不届き極まりない都市伝説が居るってとこにな
 おっさん、あんたのことだからな?」
「は? 俺!? あっおいまさか! 早渡お前『墓守』にバラしたのか!?」
「馬鹿言うなよ、『墓守』さんは最初から最後まで全てをバッチリ把握済みだ」
「阿呆かお前!! あれだ、あの、あの人はキレるとめっちゃ怖えんだぞ!?」
「知るか、俺にホラ吹いた報いだろ」
 
180 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」 2/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:40:43.87 ID:ale9fTeBo
 



 そうこうしてる内に東中に到着した
 半井のおっさんが軽くパニックになってるのは華麗にスルーだ
 東中は何というか、静かなのは静かなんだが何処か不穏な雰囲気なのは相変わらずだ
 
 
  そうだな
  俺はこの場所が好きになれない
 
 
 今回は校庭ではなく、校舎の方を目指す
 何となく東ちゃんはそっちに居るような気がしたからだ


「一応もう一度説明しとくとだな」
「わあってるって、お前の惚れた女の捜索だろ」
「違うって、本当に最近知り合ったばかりなんだって」
「兄ちゃんのおともだちなの?」
「友達ってか、知り合いだな。あんま話したわけじゃないんだ」
「やっぱ惚れてんだろ、JCによ」
「いや俺はどっちかで言えば年上のが好き、みたいな?」


 何故、夜中の東中に来たのか
 既におっさん達に理由を伝えてあった
 人探しは手の多い方がいいし、何よりおっさんは鼻が利く


「しかし、――『三年前』の事件の犠牲者、か」


 一通りふざけた後、半井のおっさんが口を開いた
 おっさんから「三年前」の話を聞くのは初めての筈だ


「あの事件も胸糞だったな」
「中学の子供たちが連続で飛び降りたやつでしょ? 怖いよね、契約者って」
「確かに実行犯は契約者だが、裏で糸引いてたのは『狐』って話だ」
「あれ、おっさん知ってたのか?」
「馬鹿野郎、早渡、俺を誰だと思ってやがる
 それに、『狐』に警戒してたのは『組織』だけじゃ無えんだ
 当時は俺達んとこに『犬神』様が居候してたからな
 他の連中よりも『狐』の動向については幾らか察知してたんだよ」
「『犬神』様」
「そうだ、あのときは確か新谷も……、いやお前確か当時は辺湖に逃げてたんだったか」
「うん、半井さんの指示で」
「まあ、そうだな。兎に角、信仰も薄い今の世じゃ『犬神』様では到底あれに対抗出来る筈も無く、な
 見てるこっちが可哀想なくらいブルっちまっててよ、まあそれでも三年前は『狐』が失せたから良かったんだ」
「早渡の兄ちゃん、『犬神』様は今年の春先に学校町を出て行ったんだ、れおんも覚えてるでしょ」
「うん」
「春先って言えば」
「そうだ、『狐』が学校町に戻ってくるのを知った途端にな
 『貧乏神』の子と一緒に出来るだけ遠くに逃げるって聞かなくてよ
 その時点で俺達も嫌な予感がして、警戒モードに入ったってわけだ」
「そんなことが」


 これは初めて聞く話だ
 狐と犬は相性が悪い、何処かで聞いた話がふと脳裏を掠めていった


「まあ、あの事件から暫く経って『飛び降り』のガキが夜な夜な現れるって噂は耳にしてたが」
「今から会いに行くのってその子なんでしょ? どんな子だろ」
「俺が会ったときは、まあ普通の子だったよ。ただ最後の方は様子がおかしかったけど」
「お前が会いたがってるのは『狐』の手掛かり探しの一環か」
「別にそれが目当てってわけじゃ無いんだけどさ、ちょっと気になって」
「しっかし、よく今まで『組織』に討伐されずに済んだな」


 まさに『組織』に目を付けられてて、そろそろヤバそうなんだよ
 などとは言わないでおこう、これ以上余計なフラグは立てたくないからな

 さて、校舎だ
 どっから探そうか

 
181 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」3/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:41:28.73 ID:ale9fTeBo
 



「どうする、ここはやっぱ二手に分かれて探す?」
「待て待て待て、駄目だ却下」


 無難な方法を提案したところ即座に半井のおっさんに止められた


「バラけると有事の戦力的にちょっちヤベえぞ?
 この中で戦えるのは俺と早渡くらいだからな、万が一ってこともある」
「気にし過ぎ――とも言えないか」
「早渡、お前『モスマン』のことは忘れちゃいねえだろうな?
 最近は気味悪いくらい東区で目撃されてんだ、今夜遭遇しないとも限らんぞ」
「でも、此処に来るまでに『モスマン』は見なかったよ?」
「甘えんだよ新谷、見えないときほど危険なんだ。少しは気ぃ張っとけや」


 というわけで全員で固まって探すことになった
 確かに分散すると連携は携帯頼りになるし、何かあったときに心許ない


「それで、どうかな」
「うん、夜は色んな臭いが混ざっちゃうからさ、時間掛かっちゃうかも」
「そりゃお前の経験不足だ新谷
 弱いが確かに匂いはあるな。早渡、アタリはついてるか?」
「先ずはこの先に行こう」


 この先
 以前、花房直斗と一緒に来たとき、奴が献花した一角だ
 別に“波”を感じるわけじゃないが、今夜は勘でも冴えてるのかそんな気がしたんだ

 半井のおっさんと並ぶように歩を進める
 後続する新谷さんは心なしか緊張しているようだった


「お」
「ビンゴだ早渡、気をつけろ。臭いが濃いぞ」



 いた



 東ちゃんが、いた

 花やぬいぐるみが供えられた壁際に向かって
 東ちゃんはしゃがんでいた

 丁度こっちに背を向けるような格好だ

 足が、速まる

 心拍が、速まる


「東ちゃん」

 彼女の、名を呼ぶ

「東ちゃん!!」



 おもむろに彼女は振り返った

 顔は青白く、頭から血を流している


 彼女の“波”は、以前のものでは無かった

 東ちゃんは変質していた


 
182 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」4/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:42:24.62 ID:ale9fTeBo
 



 俺は東ちゃんに距離を詰めた
 彼女は逃げるでも無く、俺の顔を見ている

 無表情で


「誰?」

「俺だよ、覚えてないかな
 前にここで会ってさ、それで」

「知らない」

「覚えてない?
 花房君も一緒だったんだけど、奴のことは覚えてるよね?」

「知らない」

「覚えてないのか
 屋上で『再現』を見たことも覚えてない?」

「覚えてない。何の話?」


 不意に“波”が、少し強くなった
 東ちゃんが俺に警戒してるのが嫌でも分かる

 意を決した


「本当に覚えてない?
 『三年前』のあの日のこと、『再現』で見たの」

「覚えてない。あんた誰なの? 何しに来たの?」

「東ちゃんのことが気になって来たんだ
 『あの日』、何があったのか、俺は理解できたけど
 東ちゃんの様子がおかしいみたいだったから、心配で」

「心配? 何が心配なの?」


 東ちゃんは嗤っていた

 眉間に皺が寄り、俺を睨み付けた、歪な笑顔




 
183 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」5/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:43:12.30 ID:ale9fTeBo
 

「やめてくれる? そういうのうざいだけだから。早く出てって」

「駄目だ聞けない、東ちゃんと話がしたいんだ」

「帰って。あんたも私のこと、笑いに来たの?
 馬鹿にしに来たんでしょ? お願い、帰って。早く出てって」

「あんたも? 俺意外にも誰か来たの?
 そいつが東ちゃんのこと、馬鹿にしたのか?」

「なんであんたなんかにそんなこと教えなくちゃいけないの?
 助けてよ、私、あんたのこと殺したくないよ。頭の中でずっと声がして
 みんなが、出てきて。違う、私、違うの、お願い止めて。もう帰って! 帰ってよ! 目の前からいなくなって!!」


 今度は泣き出し始めた
 遠くからのおぼろげな灯りを受けても、彼女の眼は微かな光すら宿していない

 そして
 彼女の“波”が先程よりも変化しているのが分かる

 不安定に
 まるで、暴走する都市伝説のように

 コードに呑まれたANのように


「私がどれだけ怖い思いしてるか分かる? 分からないよね! 分かるはず無いよ!!
 気づいたら、屋上に立ってるの、フェンスの向こう側に、そんな積り無いのに
 そしたら、飛び降りてて、頭から真っ逆さまに、堕ちて、痛くて、寒くて、震えて」

「東ちゃん」

「私、好きじゃ無いんだよ? なのに、気づいたら、屋上に立ってて、もう一人の私が笑うの、
 誰かを道連れにしちゃおうって、怖いよ、みんながさ、私の声で言うの、お前のせいだって、
 違う、私、これ、好きじゃ無いし、私のせいじゃない、私だけ助かったんじゃない、違う、違う違う違うっ!!
 道連れにすれば楽になれるって、私が言うの! 気付いたら、屋上に居て、私、違う、やだ、やりたくない!
 違う、怖い、一人じゃないなら怖くないって、違う、嘘だ、私、やだ、こうはいを、やだ、私、私、後輩を殺したくないっ!!」

「東ちゃん」


 彼女の手を、掴んだ


「言って信じてくれるか分かんないけど、君を助けられるかもしれない
 俺を信じてくれるか、東一葉ちゃん」


 東ちゃんは驚いたように眼を剥いた
 不意に沈黙が場を支配した


「それ、知ってる。私の、私の――名前」


 黙った
 その代わり、彼女の言葉を肯定するために頷いた
 東ちゃんの眼から大粒の涙が溢れ、零れ落ちるのを、ただ、見守った


「馬鹿じゃないの」


 それは擦れた声だった
 不意に“波”が和らいだ


「なんで早く助けに来てくれなかったの?
 私が飛び降りる前に、なんで来てくれなかったの?
 どうして私がこんなになってから、止めてよ、優しくしないで、もう私は、もう、遅いから」

「遅くないよ、こっちに来いよ」

「じゃあ、助けてよ」

 
184 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」6/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:43:54.80 ID:ale9fTeBo
 



 顔を上げた彼女の顔は、もう歪んでいなかった
 涙を零しながら、ようやく東ちゃんは声を発した


「助けてよ」
「  っ!?」


 出し抜けに
 “波”が強まった
 さっきの比じゃない
 なんだこれは!?


「そんなにカッコつけるんならさ、私のこと、助けてよ」


 そして
 東ちゃんは消失した


 思わず舌打ちした
 失敗した! 上手くやれば何とかいけると思ったんだが!!


「おいおいおいおい待て待て待て待て」


 半井のおっさんの声にビクッとなった
 そういや集中してた所為ですっかり後ろの皆のことを忘れてた


「ちょっと急に口説きに入った理由をね、おじさんに聞かせてほしい。何やってんだテメーは?」
「いやちゃんと理由があんだよ! 前に説明したろ!? 見ての通り、東ちゃんは“取り込まれ”かけてた!
 前会ったときはあんなじゃなかったんだ! だから多分“揺り戻し”だろうと見当をつけたんだ
 “取り込まれ”から引っ張り出すには、まず落ち着かせて、“名前を呼んでやること”、だろ!?」
「早渡、あのな? そういうのは“取り込まれ”が比較的軽い奴にはよく効くんだけどよ
 俺の見立てじゃ、あの嬢ちゃんはほぼ“なりかわり”っつーか、もう完全に――」


『たすけてよ』


 咄嗟に顔を上げた
 献花された一角の遙か上方、校舎の屋上に人影は見えない

 ならば何処だ?


「おっさん! 今の聞こえたよな」
「わあってるよ! “取り込まれ”のキッツい奴なら“オリジナル”通りにしか行動出来なくなるからな!」
「待ってよ、早渡の兄ちゃん、半井さん! 俺、さっきから置いてけぼりなんだけど!!」
「うるせえ新谷!! あの嬢ちゃんを探せ! お前の鼻は飾りか!?」
「原話通りなら“飛び降り”だ! 新谷さん、屋上に居ないか見てくれ!」


 自分が何処でヘマしたのかを判断する材料さえ無い
 明らかに踏んだ場数は少ない、とはいえそんなのは言い訳にはならない

 俺がしようとしてたのは、“取り込まれ”かけたANを元に戻すこと
 自我を獲得した都市伝説が自分の原話(オリジナル)に引きずり込まれかけたとき
 それを阻んで、自我の側へと引っ張り戻してやることだった

 もう少しで上手く行くんでは、と思ったのに
 甘かったとしか言いようが無い


 どうする?
 こっから先はどうするんだ?


「居たよ! 兄ちゃん! 直ぐ上だ!!」


 
185 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」7/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:44:41.99 ID:ale9fTeBo
 

 新谷さんとれおんの声に、意識が思考の渦から引っ張り出される

 校舎から数歩離れ、改めて屋上を仰いだ

 いる

 東ちゃんがいる

 先程は姿が無かったが、今はシルエットが見える

 屋上の縁に、彼女は立っていた


 どうする、俺



『お前は七尾(がっこう)で都市伝説の殺し方(ころしかた)は習っても、壊し方(たすけかた)は教わらなかったからな』

 心臓が早鐘のように音を立てるのを感じながら
 俺は彦さんの言葉を思い出していた
 「七つ星」でお世話になった、俺の兄貴分だった

『尤も、契約者で都市伝説を態々壊そうなどと考える奴は、そうは居ないのだが』

 彦さんの話では、AN、つまり実体化した都市伝説は
 そもそも実体化している時点で狭義の都市伝説から逸脱しているのであり
 それ故に、既に都市伝説では無いのだと、確かそういう話だった筈だ
 思い出せ

『だから彼らは、ある面で生きているのであり、ある面で人を襲い[ピーーー]のであり、故にある面で[ピーーー]せるのだ』

 “取り込まれ”かけた都市伝説が、その状態から脱するには
 都市伝説が、自信の原話(オリジナル)から完全に支配されているわけじゃ無いことを示してやれば良い

 あるいは、身を以て理解させれば良いのだという

『最も手早い方法は恐怖を与えることだ
 残念なことに、恐怖というのは横槍を入れることにかけては最高と言って良くてな』

 この話をしているときの彦さんは
 何故か、寒気を覚える微笑を浮かべていた

 兎に角、殴るか、さもなくば相手の服従する原話に基づく行動へ“介入”してやること
 それが、都市伝説を元に戻す、あるいは壊す方法、らしい
 曰く、実力が伴えば都市伝説を壊すのは容易い
 
 だがまさか東ちゃんを殴り飛ばすわけにもいかないだろ

『少しで良い。少しだけ“干渉”してやれば良い
 例えば「口裂け女」の質問に横槍を入れて掻き乱すこと
 そうすれば、もしかすると彼女の中に混乱が生じて自我が芽生えるかもしれない。あるいは』

 彦さんは酒を含みながら、薄く笑っていた

『健闘空しく彼女に殺されるだけかもしれない。そこはお前の実力次第だ、脩寿』



 “介入”
 今、俺にできること
 つまりそれは東ちゃんに“介入”すること
 具体的には彼女の飛び降りを阻止することだ



 
186 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」8/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:45:26.58 ID:ale9fTeBo
 


 “黒棒”じゃ力不足だ
 それだけじゃ東ちゃんを止められない

 もっと“力”が必要だ


 既に俺は、昔の感覚を呼び起こそうと、記憶の底から引きずり出そうとしていた
 学校町に来てからあれはまだやったことが無い
 これで無理なら俺には無理だ


「おい、早渡! 聞いてんのか!? ヤベえぞ!!」


 東ちゃんが飛び降りる前に
 “尾”を引きずり出せないと、終わる

 不意に
 昔、口にしていた聖句を思い出した
 ANを発動させるときに必ず諳んじた一節を


   されど主よ 我が目はなほ汝にむかふ 我 汝に依ョり


 東ちゃんが飛ぶ前に

 引きずり出せ


 熱いモノを無理矢理引き抜くような痛みが背中に奔る

 主観時間が一気に鈍る

 東ちゃんの方を睨んだ



 東ちゃんが、屋上から落ちた

 重力に絡め取られながら

 彼女の体が、落下していく



 急げ

 引きずり出した“尾”を見る間も無く

 思い切り、天を指差した

 “尾”がその方向へと、東ちゃんへと突き進んでいく



   主よ 我 汝を呼ふ 願はくは速かに我に来たり給へ 我 汝を呼ふとき 我が聲に耳を傾け給へ



 空っぽの頭で、その言葉に縋り付きながら


 込み上げる怒りと絶望を抑え込みながら


 俺は“尾”で東ちゃんの体を受け止めた








□■□
1295.56 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報R 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)