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都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13
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706 :
単発「Deck the Halls」
[sage]:2022/12/25(日) 01:27:08.87 ID:TRVU1ftko
「やっぱお前、寒そうだぞ……。そ、そうだ。あの、あのさ。わたしが――ギュッってしてやろう! 今日のお礼も兼ねて! なっ!」
「えっ? いや、あの。な、何言ってるんですか」
「に……逃げるなって! 恥ずかしがりか! ほっ、ほらっ!! ――ギュッ」 グイッ
「ぎゃっ」 フニュ
いきなり先輩に抱きしめられて、持ってたお土産のホールケーキの袋を落としそうになった
先輩はコートを羽織ってるけど、文字通り羽織ってるだけだから前は開いてるわけで
それでギュッてされたら、先輩と密着してしまうわけで
先輩の匂いがする、甘い花のようなシャンプーの匂いが
どうしても意識が肌に行ってしまう。先輩、こんな柔らかいんだ
ダメだこんなの、もっとドキドキしちゃうよ
「今日、ありがとな」
「えっ? あの、いいえ。そんな」
「呼び込みしてるときさ、わたしナンパされそうになっただろ? あんなこと初めてでさ、怖かったんだ」
「あっ、あっ」
「でもお前が間に入って、助けてくれて、……カッコよかったよ」
「はひっ」
せ、先輩に耳元で囁かれるなんて初めてだよ
ていうか女の子にこんなことされるの自体が初めてだよ
心臓がスゴいバクバクしてきた
ボクと先輩は体の前面がほぼほぼ密着してるから、これじゃ絶対バレてる。心臓の音が絶対バレてる
あっ前で密着してるってことは、つまり、つまり……!
「せっ、先輩!」
先輩の肩を掴んで、一応なんとか優しく、ゆっくり身を引き剥がした
多分今のボクはすごく顔が赤くなってるに違いない。だって顔面がめっちゃ熱いから
「その、……ゴメン」
「いえあの、先輩悪くないです。ただボクあの、こういうの初めてで。ドキドキしちゃって」
「……わたしだって初めてだぞ」
「ひえっ?」
思わず変な声が出た
あっでもそれより
チビで童顔呼ばわりされて周囲から勝手に草食系扱いされてるボクだって男子なわけで
だから、いくら部活の悪友じみた先輩だからって、抱きしめられて耳元で囁かれたりしたら
股間の、その―― かたくなる
「んうっ」 モジモジ
「えっ、お、お前。えっと、大丈夫か……?」
「だっ、だいじょぶです……!」
制服のパンツは割と余裕ある方なんだけど、変な当たり方してる所為で変な声が出てしまった
どうしよう……! どこ見ればいいのか目のやり場に困って、先輩の顔を見た
なんでだろ! 先輩の目がいつもよりウルウルしてる! しかも先輩も顔が赤くないかな!?
思わず目を逸らした。具体的に言うとちょっと下を見てしまった。前が開いたコートの、先輩のサンタ服
先輩って、意外と胸がおっきいんだな……じゃなくて!! 違う、違うったら!!
ど、どうしよう……!! 変なとこ見ちゃった所為で! ぱおんが!!
707 :
単発「Deck the Halls」
[sage]:2022/12/25(日) 01:27:44.02 ID:TRVU1ftko
「お前だいじょぶか……!? 腰が引けてるみたいだけど、お腹痛いのか……!?」
「だ、だいじょぶです。深呼吸すればなんとか」
このままだと危ない。ボクの心臓はもうバクバクどころかバンバンだし、そのままだと股間もバンバンだし
もう、こうなったらアレをやるしかない
お父さんから伝授された、「柊鰯」の取説
『いいか、俺たちは「柊鰯」と契約して魔性のものに対する強い抵抗力を獲得した。これはもう一般人とは比較にならないレベルでだ
でも、それでも俺たちの中に魔性が入り込むことがある。いわゆる魔が差した状態ってやつだな
もしもお前に魔が差して、抵抗できないほどの悪意に呑み込まれそうになったとき。その魔性を祓う方法を教える』
「先輩。立ったままだと寒いから、行きましょう」
「あっ……うん」
先輩の手を取ってボクが先に進み始める
もう躊躇なんかしてらんない。このまま股間が破裂しちゃうよりも先に、ケリをつける!
ボクはパンツのポケットに手を入れ、スペアの柊鰯を探ると
それとしっかり握って、先輩にバレないように――自分の胸に突き刺した
「うっ――ふうっ、ふうっ」
「な、なあ! ほんとにだいじょぶか……!?」
「――はい、大分ラクになりました。ありがとうございます」
心臓のバクバクが嘘のように引いていった。それだけじゃなくて股間のバンバンも収まった
よ、良かった。柊鰯を自分に刺すなんて普段は怖くてできっこないけど
さっきよりもすごく落ち着いた気分だ、ようやく冷静なボクが戻ってきたような感じがする
凄いな「柊鰯」、こんな使い方もできるんだ
「なあ、お前…… っっっ!! ちょっ、ちょっっっっっと待て!!」
「えっ、どうかし 「お前!! 胸!! 血!! 血が出てるぞ!!」
あっ先輩にバレちゃったみたいだ
「おいお前!! なんか胸に突き刺さってるぞ!? 大丈夫じゃないだろこれ!!」
「あっ、あの、痛くはないんですよ。へいちゃらです」
「平気なわけあるか!! はっ、早く病院に行かないと!!」
「だいじょぶ、だいじょぶなんですほんとに、気にしないでください」
その後
ボクはパニックになってる先輩をどうにか落ち着かせて
いきなり抜いたら逆に危ないし、ちゃんと手当するからと説明した後に、なんとかして駅に押し込んだ
パニックになってたけどいつもの先輩のテンションに戻ったようでちょっと安心した
いやでもほんとは「来年は先輩も受験ですね、もう部活に来れなくなっちゃいますね」「そうだな……」みたいな
先輩をしんみりさせるような話をして、寂しそうな先輩の横顔を眺めながらにんまりする予定だったんだけど
どうしてこうなっちゃったんだろう…… まあいいか
708 :
単発「Deck the Halls」
[sage]:2022/12/25(日) 01:28:57.02 ID:TRVU1ftko
そしてそのまま家に帰ると、まずお母さんにビックリされた
帰りが遅くなったことじゃなくて、柊鰯を胸に刺したまま血だらけで帰ったことだ
素直に事情を説明したらお母さんにも呆れられたけど、なぜかお父さんにも呆れられた
お父さんが「お前……そこまで行ってその娘をラブホに連れ込まないのはおかしいだろう! 押し倒せ!」
「そもそもクリスマスイブってのはだな、そういういい感じになったところで素直に男女の欲望に忠実に」と話した辺りで
お母さんはお父さんの後頭部をしこたま殴りながらガミガミ説教を始めたのでそれ以上は聞けなかった
兄貴は「なんというか、お前らしいよ」と呆れながらも笑ってくれた
でもこの先何があろうと先輩のあの表情と柔らかさは絶対忘れないと思う
あ、クリスマスケーキ美味しかったです
709 :
単発「Deck the Halls」
[sage]:2022/12/25(日) 01:29:37.99 ID:TRVU1ftko
ここまで
710 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2023/04/27(木) 21:55:25.35 ID:cpCWscUG0
投下乙でした
先輩も後輩君も可愛い。柊鰯、その手があったか……
711 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2023/07/15(土) 20:14:18.07 ID:sAc/qBvL0
君たちはどう生きるか。
季節はもう夏である。一夏の出来事で少女が女へと変貌する時期である。
若き契約者諸君、ビキニを着用して海に出よ。ナイトプールでも良い。
スケベだ、スケベせよ。スケベを繰り広げよ。この際男同士でもいいし女同士でもいい。
君たちはエロスに生きよ。現場からは以上だ。
712 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2023/07/15(土) 23:22:07.99 ID:sAc/qBvL0
飲みながらネット見るもんじゃないな…
713 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2023/09/10(日) 21:55:52.34 ID:x6GvhMes0
すっかり何もないままおっさんになってしまったぜ
714 :
次世代ーズ
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:01:08.42 ID:sOQ3PWjdo
職場で「(確かホラー映画の話題で)テディベアなんてかわいいもんだろ、今やこの国は各地でリアルクマが出没してんだからよ! ガハハ!」みたいな会話を聞き、ハヒッ、ハヒィッ となりました
18ヶ月振りの投下となる、「次世代ーズ」でございます
>>700
感想ありがとうございます……!
> 脩寿くん、ちょっと巫女姉妹の件については詳しく話をしてくれないとダメだと思うのよ
どっちだ……!? 飛騨の方か!? 穂張の方か!? となりましたが、恐らくこれは飛騨の方ですね
飛騨高山(岐阜)の小学生巫女ちゃん姉妹に早渡相手にわちゃわちゃする……お察しの通り未発表のエピソードになります
飛騨の話も穂張の話も機を見て投下したいのですが、次世代ーズはまさかこの箇所にご意見を頂くとは一切予想していなかった!!
ありがとうございます
> ジャイアントカンガルー、というかカンガルーと言えばボクシングっていうのはどこ由来のミームなんだろう
これについては気になって調べました
19世紀後半から20世紀にかけて、カンガルーを人間と戦わせる見世物の開催が一般的だったようですが
そんななか1891年に風刺漫画雑誌「メルボルン・パンチ」に掲載された「ファイティング・カンガルーのジャック VS (人間の)レンダーマン教授」というイラストでは
カンガルーがボクシンググローブを装備して人間と打ち合っている姿が!!
https://trove.nla.gov.au/newspaper/page/20441476
これ以降、映画等で「ボクシングするカンガルー」が人気を博し、そのイメージが定着していった……ようです
今ではオーストラリアの国民的イメージとして馴染んでいるんですね、いやあ勉強になった
【参考】
ボクシング・カンガルー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%BC
Boxing kangaroo
https://en.wikipedia.org/wiki/Boxing_kangaroo
Fighting Jack: Melbourne’s first boxing kangaroo
https://blogs.slv.vic.gov.au/such-was-life/fighting-jack-melbournes-first-boxing-kangaroo/
単発の話ですが、以前避難所で「エッチな事をしないと出られない部屋」の話は書きたいと申告しました
あれはエイプリルフールまでに書いて、エイプリルフール当日に投下すべきだったと後悔しています……が
ともかく長引いた「次世代ーズ」の「聞き込み side.B」をやります
715 :
次世代ーズ
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:02:17.46 ID:sOQ3PWjdo
○前回の話
>>681-686
次世代ーズ 36 「聞き込み side.A」
これは作中の【9月】の話です
○三行あらすじ
早渡脩寿が自らに掛けられた変質者の容疑を晴らすため、真犯人を探す
彼の幼馴染、遠倉千十も真犯人特定のため情報収集を始める
具体的には高校の友人はじめ、人脈を活用して聞き込みだ
716 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 1/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:02:54.08 ID:sOQ3PWjdo
まずはありすちゃんから聞いた情報を整理しよう
今日はいつもより早めに起きて、早めに準備を済ませた
自分とお姉ちゃんの分のお弁当も用意したし、後は登校するだけ
でもその前に
携帯のメモアプリを開く
前もってありすちゃんから聞いた変質者の情報を、昨日のうちに一通り書き出しておいた
大き目のサイズのクマのぬいぐるみの姿をしていて、二足歩行しながら、黒い触手を生やしてくる
ぬいぐるみとは別にそれを操作する契約者がいて、その変質者は最近現れるようになった露出魔かもしれない
そして、露出魔がよく現れるのは東区から南区にかけて
一度深呼吸した
昨日脩寿くんと電話で話したとき、何気なしに言ったけど
確かにクマのぬいぐるみを使う変質者だなんて、すぐ話題になる気がする
だけどクラスでもそんな話を耳にしたことがない
それに、露出魔が現れるようになった、って話も直接誰かが見たって話じゃなくて
HRのときに先生が話してた内容が基になってるかもしれない
ちゃんと確認をとらなきゃダメだ
「……確認しなくちゃいけないこと、結構多いかも」
私自身、歩き回るクマのぬいぐるみや露出魔に遭遇したことは、まだない
どの辺りに出没しているのか、もう少しその情報がほしい。東区、南区といっても場所が広いし
変質者なんて絶対に遭いたくないし考えるのも怖いけど、でも少しでも脩寿くんの役に立てるように頑張らないと
今は不思議とあまり怖い感じはしなかった
普段なら変質者とか契約者とかのことはあまり考えないようにしてるし
もし自分が遭遇しちゃったら、なんてことは怖くて考えたくない
あまり怖く感じないのは脩寿くんとありすちゃんのお陰かもしれない
二人とも
仲直り、できるといいけどな
「千十ぉぉぉ!! 私の携帯見なかった!? どこ探しても無いのぉぉぉ!!」
「うひゃあっ!?」
お姉ちゃんの突然の大声にビックリした
あ、朝からそんな大声出したら、お隣さんに迷惑だよ!!
「千十ぉ! 私の携帯鳴らしてぇぇ!!」
「お姉ちゃん帰ってきて携帯ほったからしにしてたの!?
鞄の中に入れっぱなしなんじゃないの!? ちゃんと探したの!? もう!
仕方ないなあ、鳴らすよ?」
「あっあっ! 鞄からだぁ! 昨日充電切れかけたのに! 置きっぱだったぁぁ!!」
「もー、お姉ちゃんちょっと静かにしてよ……」
家から出るギリギリまで充電しようとしてるお姉ちゃんを見て、思わず溜息が出る
学校町に引っ越してきたばかりのときはしっかりしてたのに
年を追うごとにだんだんダメなお姉ちゃんになってる気がする
はあ、私がしっかりしなくちゃ
「お姉ちゃん、今度は携帯置き忘れないように気をつけてね」
「大丈夫! お姉ちゃんの脳内ToDoの一番は携帯回収だから!」
……やっぱり不安だ、私がしっかりしなくちゃ
717 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 2/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:03:40.52 ID:sOQ3PWjdo
「せっちゃん、おつかれなの?」
「うん。ちょっと」
二時間目の授業が終わってアヤちゃんに心配された
そんなに顔に出てたのかな
結局あの後、お姉ちゃんは予想通りというか携帯を置き忘れたままお家を飛び出して
慌てて追い掛けて携帯と充電器を押し付けたけど、そのお陰で登校が結局いつもと同じ時間になってしまった
本当はいつもと同じ時間どころか、ちょっと遅刻しそうになったんだけど
……お姉ちゃんには、もうちょっとしっかりしてほしい
できれば学校町に来たばかりの頃の緊張感、ちょっとだけでも思い出してほしい
ほんの少しだけ、ありすちゃんの方を見た
ありすちゃんは携帯と睨めっこしてるけど、どこかぼんやりした感じだった
HRが終わった後で細かい話を聞こうとしたんだけど
何度話し掛けても上の空みたいだったし、心配で肩を叩いてみたらすごくビックリされた
昨日のこと、引き摺ってるのかな
でも帰りに付き添ってもらったときはそんな感じでも無かったのに
一応ありすちゃんのことはそっとしておくことにした
でもやっぱりお昼休みにもう一度声を掛けてみよう
「あの、アヤちゃん。知ってたら教えてほしいんだけど」
「うん? どしたの?」
「最近学校町を徘徊してる変質者のことなんだけど
……クマのぬいぐるみを、持ってるらしいんだけど、聞いたことない?」
「えーなにそれ」
「千十、かやべえ。何? 変質者の話?」
「千十ちゃん、なんの話をしてるの?」
アヤちゃんに変質者のことを尋ねてみると、宇女(うめ)ちゃんと栞(しおり)ちゃんも加わってきた
私は思い切って三人に訊いてみることにした
でも三人とも都市伝説や契約者については知らない。だから少し誤魔化さなきゃ
「テディベア、ねえ。聞いたことないな」
「そのテディベア、一体何に使うんだろうね……」
「多分ファンシーなテディベアの内側に淫具でも仕込んでるんじゃね?」
「い、淫具って……」
「ちょっ! ヒル山、男子にも聞こえてるんだからアンタ、自重しなさいって」
「でも千十、どっからそんな話聞いたん? 変質者の話題って苦手じゃなかったっけ」
宇女ちゃんがそんなことを訊いてきて、一瞬固まった
どうしよう、いきなりそれを訊かれるのは考えてなかった
「え、ええと。別のクラスの子が、そんな話してるの、耳にして。本当だったら怖いなって思って」
「変質者で思い出したけど、確かかやべえと栞は夏休み前にもヤバ目の変態と遭遇したって話してなかったっけ? 千十も居たんだっけ?」
「そういやあったねそんなこと……、せっちゃんととシオりんと、かやべえの三人で目撃しちゃったんだけど」
718 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 3/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:04:13.40 ID:sOQ3PWjdo
あう、話が脱線しちゃった
夏休み前にも変質者を見たんだけど、そっちは勿論テディベアの変質者とは別人、だと思う
……あのときの出来事はあんまり思い出したくない。夏休み前に遭った変質者も都市伝説みたいだったし
「栞、どういう変質者だったか説明してもらえる? LINEでかやべえに訊いても教えてくれなかったし。私だけ仲間外れ感ひどくない?」
「私の口からはとても言えません……!」
「ヒル山変なこと聞くな! あれは正直トラウマ級なんだから!!」
とにかく、三人はテディベアの変質者について知らないみたい
新しい情報があったわけじゃないけど、テディベアには遭遇してないわけだから少し安心できた
「せっちゃん、もしかしなくても不安だよね……?」
「う、うん。ちょっと」
私のことを心配したのか、アヤちゃんが私の肩に手を回してくっついてきた
「だーいじょうぶっ! 心配しないで。せっちゃんのことは、かやべえが守ったげるからね」
「んっ、ありがと……」
そのままアヤちゃんにされるまま、ゆったりとした横揺れに付き合うことになる
アヤちゃん、いつもはちゃらんぽらんに見えるけど、いつだって優しい。中学のときから、ずっと
でも、だから、都市伝説とか契約者とかの怖い世界には関わってほしくない
でも、そのせいで、一葉さんのことをアヤちゃんには話せない
絶対に混乱させてしまうから
あんなに仲良しだったのに
「せっちゃんそんなに不審者のこと怖かったんだね、だいじょうぶだよ!」
「でも……でも、もし本当にテディベアを持った変質者がいるのなら、ちょっと見てみたいかも」
「へっ? あっ、栞ちゃんダメだよ!? 変質者は危ないから見かけたら逃げてね!!」
「そうだよシオりん、せっちゃんの言う通りだよぉー」
「ん? 栞? 今なんかエロい妄想でもしてたん? ん? 正直に言ってみ?」
「えっ!? ち、違うの三人とも! 聞いて! 今のは単に、もしもの話なわけで、そう! これは仮定の話であって――!!」
719 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 4/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:05:02.77 ID:sOQ3PWjdo
「千十、悪い。それはそっちでいいから。あっ、ごめっ、こっち……持ってくれる!?」
「あっ、はいっ、今行きますっ」
昼休み、担任のみゆ先生に捕まった
先生の担当は二年生の古文、だから普段は授業で関わることが無い、んだけど
今日は図書室から借りっぱなしの教材を返すためにお手伝いを頼まれた
教材といっても紙の古語辞典、それもクラス分運ぶことになるから、……お、重い
「はーっ、千十ありがとう! 二年に頼もうとしたら皆逃げちゃってさー」
「それはそうですよ、大体辞書を借用したまま返却しないのは教師としてあるまじき、です」
「なにおー、雪子コイツコイツー」
「く、くすぐったいです! 暴力反対!」
みゆ先生に引き寄せられて脇腹を揉まれてるのは、二年生で図書委員の小野木雪子(おのぎ ゆきこ)さん
図書室でいつもお世話になってる。年齢は一つしか違わないのにすごく年上のお姉さんっぽくて、中学の頃から憧れてる
「お昼時間、うわっ。もう20分経ってる。千十ごめん、お昼何か奢ろうか?」
「あっいえ! お弁当持ってきてますから!」
「うー、悪いね本当。いつかお礼するから」
「御小柴(みこしば)先生? 生徒を食べ物で丸め込もうとしてはいけませんよ?」
「ちーがうって、雪子もう! 意地悪言うのやめて!」
バツが悪そうな顔して口を尖らせるみゆ先生を見ながら、雪子さんはクスクス笑っている
みゆ先生は先生に成り立てらしくて、四月には「皆と同じひよっこ」と自己紹介してた
親しみやすい人ではあるんだけど、仕事終わりにお姉ちゃんと居酒屋で飲んだりしたこともあって
公務員がそんなことしていいのか、ちょっと不安になることもある
こんな良い雰囲気のときに変質者の話は出さない方がいいかも
……って思ってたら
「千十さん、今日は何か浮かない顔してるけど、何かあったの?」
「あっいえ、そういう訳じゃ」
「何か話したいことあったら、話していいのよ? 御小柴先生も居るしね」
「へ? 千十なんか悩みあるの? 担任としてほっとけないな、言ってごらん?」
どうしよう、雪子さんに見透かされたような気がする。それにみゆ先生まで乗ってきた
雪子さんには中学の頃から、丁度今みたいに私の考えてることを覗かれてるような気がする
そんなに表情に出てたのかな? でも、促してもらったのなら
「あの、実は。ちょっと気になることがあって。HRのときに先生が話してた変質者のことで
東区から南区にかけて露出魔が出没してるって話なんですけど、目撃情報とか、あるんでしょうか?」
「んー、いや? あれはね、警察署から回ってきた話をそのまま皆に通知しただけなんだけど」
「実は、その。変質者がクマのぬいぐるみを連れてるって話を聞いて。ちょっと怖いなって思って、話題になってないかなって。気になっちゃって」
とりあえず当たり障りのない範囲で伝えて様子をうかがった
みゆ先生と雪子さんは顔を見合わせている
720 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 5/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:05:46.96 ID:sOQ3PWjdo
「んー、職員会議でも特にうちの生徒が変質者を目撃したって話は上がってないし、実は変質者の注意情報も、噂かそこらのレベルだと思ってたんだけど」
「先生、それはそれで危機意識低すぎじゃないですか? 千十さん怖がってますよ?」
「あ、いや。襲われたって話が無いならそれに越したことは無いって。ただそれだけの話だから!」
「そう、ですよね」
先生も雪子さんもそんな話は聞いたことがない、といった様子だ
ダメかあ……。少しでも情報があったら、と思ったんだけど、これは調べるに時間掛かるかもしれない
「ふむ、千十さんはその話をどこから聞いたのかな?」
雪子さんに質問された
この質問に「友達が襲われました」なんて正直に答えるわけにはいかない。ちょっと誤魔化さなきゃ
「それは……、別のクラスの子がそんな話してるのを耳にしたんです。それで、気になっちゃって」
「一番良いのはその話をしていた人を見つけて直接話を聞くことね
あくまで仮定の話だけど、その変質者が出没しているとして、現段階では目撃情報がまだ少ない、とも考えられるわね
もしくはあくまで噂、あるいは誰かが面白半分で話を大げさに盛っただけかもしれない
まあ悪い想像は幾らでも膨らむものだから、あまり気にしない方がいいと思うな
千十さん、こういう類の話は苦手だったでしょう?
大丈夫。人通りの少ない道は避ける、回り道になっても安全な道を使う。それだけでも危険を回避できるから」
うう……、雪子さんの言葉はとても正しい
話を誤魔化してまで情報を集めようとしてる私が間違ってるかもしれない
でも正直に話すわけにはいかない。みゆ先生はともかく雪子さんは一般人だから
「そうですよね、すいません。こんな話をしちゃって」
「いいのよ、不安になるのは仕方ないことだもの。ねっ、御小柴先生!」
「おっ、ああ。そうそう。何かあったら遠慮なく相談しなよ?」
「はい……」
先生に促されて図書室から出る
退室間際に雪子さんに頭を下げた。雪子さんを心配させちゃったかもしれない
「千十、お昼大丈夫? カロリーメイトか何か渡そうか?」
「あっいえ! 私は大丈夫ですから! 先生こそちゃんと食べてくださいね!」
みゆ先生と途中まで一緒に歩いていく
私は教室に戻らなくちゃ
先生は契約者だけど、ありすちゃんが問題のテディベアに襲われたことは、まだ話さない方がいいかもしれない
一学期の頃も都市伝説が出没したとき、先生は気負って倒れる寸前まで見回りを続けたりしてたから
話すとしたら、ありすちゃんに前もって相談してからにした方がいいかもしれない
721 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 6/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:06:41.68 ID:sOQ3PWjdo
そして、放課後
私はオカ研の部室にお邪魔していた
お昼休みの間、ありすちゃんは教室に居なかった
五時間目の開始直前で戻って来たけど、やっぱりどこかぼんやりしていた
心配になって話し掛けようとしたけど、HRが終わるといつの間にか居なくなっていた
大丈夫かな? 大丈夫じゃないかもしれない。後でメッセージを送ろうかな
「テディベアを操作する変質者、で、契約者、ね……」
対面に座っているのは、中学からの友達の泉花(いずか)ちゃん
私も泉花ちゃんも元々は自分が契約者だったことを知らなかった同士だ
色々あって仲良くなって、他の人に話せない都市伝説や契約者のことも、泉花ちゃん達になら話せる
「使うのがテディベアってところがなんか生々しいよね。あ、千十ちゃん、豆大福食べる?」
「うん、ありがとう」
すずなちゃんから貰った豆大福を、淹れてもらったお茶と一緒に食べた
私はオカ研のメンバーじゃないんだけど、この場所は不思議と落ち着くな
「そんな変質者の話は聞かないし、私達も目撃したことないな。部長が知ったら飛びつきそうだけど」
「だよねー、エロ触手とか絶対ウタちゃん好きそうだもんねー」
「……泉花ちゃん、そういえば唄さんは?」
「ああ、部長は御小柴先生に捕まってる」
どうせまた変なことして先生からかったんでしょ、うんざり顔で泉花ちゃんはそう言った
みゆ先生は私達の担任で、オカ研の顧問でもある。もっと言うとオカ研のOGらしい
オカ研は全員、契約者か、都市伝説や契約者について知っている
だから話そうと思えば全部の経緯を話せるんだけど
「ねえねえ千十ちゃん、この話ってウタちゃんにどれくらい話しても大丈夫なやつ?」
「……私が話したってことは、今は伏せてほしいな」
「千十、大丈夫。察した」
「うふふ、察しましたよー。ありすちゃん絡みかな」
「……今はノーコメントでお願い」
「わかった。一応オカ研でも何か情報掴んだら共有するね」
「期待しないで待っててー。でもウタちゃんが知ったら自分が捕獲するって勇んじゃうかも」
「二人とも、ありがとう」
オカ研の部長――足助唄さんは勘が鋭い
そのうえありすちゃんとは、あまり仲が良くない
険悪ってわけではないけど、決して仲がいいってわけでもない
だから、ありすちゃんが変質者に襲われたって話を知ったら、確実に唄さんはありすちゃんに突撃して根掘り葉掘り聞こうとする
ありすちゃんの今の状態で、唄さんに突撃されたら、色々と良くない気がする
それに、正直に脩寿くんのことまで話したら、多分唄さんだけじゃなくて、すずなちゃんにまで色々勘づかれちゃう、気がする
うん、黙っていよう
722 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 7/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:07:23.12 ID:sOQ3PWjdo
「でもそうなると相手の契約能力の詳細が知りたくなるね。千十は何か心当たりある?」
「ううん。黒い触手を操るっていうから、何かしらの生き物みたいなのと契約してるのかなって、思ったんだけど」
「まあ触手に見せかけた別の何かって線もありそうだからねー」
「とりあえず登下校は普段より気をつけた方が良さそうね」
ふと時計を見る
約束の時間まではまだまだ余裕があるけど、もうそろそろ高校を出た方がいいかな
「あっ、そういえば千十。久しぶりにかなえから連絡があったんだけど
皆でお茶でもしないかって。ついでだし、かなえにも聞いてみようか?」
「えっ? かなえちゃんから?」
紅かなえちゃん。私達と同じ東中出身で高校は別々になった女の子だ
彼女は今、中央高校に進学している。日景君達と同じ高校だ
ちょっと、考えてしまう
かなえちゃん、こういう話は苦手だったはず
「泉花ちゃん、ありがとう。でもかなえちゃんには訊かないことにする
次に会うときは明るい話題にしたいって決めてて。だから、ごめんね」
「ん、わかった。それまでに変質者の問題、解決してるといいね」
「せーとにゃーんっ!!」
「ひゃあっ」
オカ研を後にして高校から出ようしたら、後ろからいきなり抱き付かれた
び、ビックリした……。相手は誰なのかわかる。一個上の莉子(りず)さんだ
「お、お久しぶりです、莉子さん」
「千十にゃんほんとおひさだにゃ! 元気だったかにゃ?」
「な、なんとか」
723 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 8/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:08:08.23 ID:sOQ3PWjdo
独特な語尾の人だけど、普段はあくまで普通で「猫を被ってる」状態らしい
親しい相手の前だけ素の口調で、語尾に「にゃ」を付けて話す、そんな変わった人だ
そして莉子さんも契約者だ
特に中学時代は私も泉花ちゃんも、何度も莉子さんに助けてもらったことがある
「こーはいを守るのは、あたしのミッションなのにゃ!」というのが莉子さんに言われたことだった
「実は千十にゃんが図書室でクマのぬいぐるみの変質者について、雪にゃんとみゆにゃんせんせーに質問してるのを聞き耳立ててたのにゃ!」
「えっ? あっ! い、居たんですか? 図書室に?」
「うにゃ、上の階から聞いてたにゃ。にゃーの耳は地獄耳なのにゃー」
切り揃えた前髪を揺らして、内緒話をするように顔を近づけてくる
ふわっと何か果物のような香りがした
「実は一週間くらい前、クマのぬいぐるみが東区の二丁目あたりを南区に向かって歩いてるのを見たにゃ」
「っ!? ほ、本当ですか!?」
「うん。でもそのときは、あたしもただぼんやり眺めてただけだったし、特に変態的なことしてるわけでも無かったから、単に見送っただけだったにゃ」
「東区の、二丁目ですね!? ありがとうございます、情報が全然なくて」
「でもにゃー。千十にゃん、そのときは単にそこに居ただけで、いつも出没する場所ってわけじゃ無さそうだにゃ
それに、どうしてその変態ぬいぐるみのことを調べてるのかにゃ? なんか理由ありそうな気がしてにゃー。あたしで良かったら話聞くよ?」
そう尋ねながら、私の耳元でふんふんと鼻を鳴らした。何だかくすぐったい
莉子さんになら話しても大丈夫かな?
「それは……、実は私の友達がその変質者だって疑われてしまって。友達同士で険悪な感じになってるんです」
「にゃんと?」
「それで、その。友達の疑いを晴らしたくて情報を集めてたんですけど、あまり上手くいかなくて」
「そういうことならお任せにゃ! あたしが学校町のネコちゃんに訊いて回ってみるにゃ!」
「えっ、でも。そんな」
「いいのいいの、ここんとこずっと生活費のためにバイトに明け暮れてたのにゃ。心は砂漠にゃ
ここらへんでちょっと猫になりきって心と体のお洗濯をしてくるにゃー、そのついでと思ってくれればいいにゃ!」
「あのっ、ありがとうございます……!」
「いいのにゃ! 千十にゃんのためなら頑張るにゃ!」
「あっ、でも、あまり無理はしないでくださいね……!?」
「にゃふふ……千十にゃんは優しいにゃー。バイト先も優しさ溢れる職場なら良かったのににゃー、あははー」
ど、どうしよう
見るからに莉子さんが落ち込んでるように見える
目がすごいどんよりしてる……
「あたしの心配なら無用だにゃ! 千十にゃん、帰るときは安全な道を使って帰るのにゃ! じゃーねー!」
「あっ、り、莉子さん……!」
莉子さんの体が私から離れた、その途端に
莉子さんの姿が消えるようにいなくなってしまった。は、速い……!
724 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 9/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:09:36.51 ID:sOQ3PWjdo
高校を後にして向かったのは、中央高校の近くにある落ち着いた雰囲気の喫茶店
きっと忙しいと思ってダメ元で連絡を取ってみたら、「絶対に時間作る!」ってすぐに返事がきた
少し申し訳ない、という気持ちと一緒に嬉しさも込み上げてきた
一学期の頃も色々助けてもらったのに、その後ちゃんとお礼も言えてなかったから
「千十ぉ! こっちこっち!!」
喫茶店に入るなり大声で私を呼ぶ声に、ビックリしてしまった
相手は既に席を取っていた。約束してた待ち合わせの時間より30分も早いのに
「お久しぶりです、久慈さん」
「やあやあ、六月振りだったかぁ!? ちゃんとメシ食ってたか? 痩せてないかよ?」
佐川久慈(さがわ くじ)さん、「組織」の黒服さんだ
一人称が「俺」で、最初の印象は怖い人だったけど、すごく気さくで優しいお姉さん
私は「組織」に所属している契約者
といっても、自分が契約者だということが未だによくわかっていないんだけど
最初の頃は「組織」がどういう組織なのか、とか
他にはどんな人達がいるのか、とか
私みたいな人もいるのか、とか、そういったこともわからなかった
今では「組織」が人間社会で害のある都市伝説を退治する人達、というのは何となく理解してるけど
例えば私と同い年の人達も所属してるのか、とか、そういうことは今でもよくわからない
久慈さんに「組織」のことを色々聞いたら教えてくれそうだけど
今日の大事な用事はそっちじゃない。しっかりしなくちゃ
「あの後から体に違和感残ったりとかしなかったか?」
「あっ、いえ。お陰様で、大丈夫です。はい」
「それなら良いんだけど、あのときは状況が状況だったろ? キルトさんは問題ないって言うけどさ、俺も一応心配してて
あっ、そうだ! 七月にも変態とカチ遭ったって聞いたぜ!? そういうときは迷わず黒服を呼べよ!? 絶対遠慮すんじゃねーぞ!?」
「あのときはすぐ連絡しました、はい。あの後からそういうことには遭ってないから、多分大丈夫です」
最初、「組織」の人達に声を掛けられたのは中学一年の頃だった
お姉ちゃんはまさか芸能事務所のスカウト!? ってかなり警戒してたし
説明を受けた後も、当時は「組織」が何をしている組織なのか全く理解できなかった
お姉ちゃんは後から、「『七尾』のANクラスみたいに超能力かなんかの研究してる人達なんじゃない?」って言ってたけど
結局、「学校町内で目撃した『都市伝説』と呼ばれる存在について、報告してくれるだけでいい」という内容で
「組織」に所属することになったんだけど、所属してる実感なんて全くなかった
お姉ちゃんが最初の職場でセクハラされてから、そこを辞めて新しいお仕事を探してる最中だったし
報告すれば実績に応じて報酬金がもらえると聞いて、私も覚悟を決めて頑張った
最初にお金が振り込まれたとき、お姉ちゃんと一緒にその額にビックリしたけど
本当にこんなことでお金をもらってもいいのか、すごく不安だった
それでも私が頑張らないと、そう自分に言い聞かせて、危険だと感じる場所に自分から足を運ばないといけなかった
最初に声を掛けてきた人達――「黒服」さんは、こっちの質問には一切答えてくれなかった
ただ一方的に不定期のメッセージ連絡を送ってくるだけで
それも専門用語が多くて、その意味を何となく理解できるようになったのは大分後になってからだった
725 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 10/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:10:22.50 ID:sOQ3PWjdo
「店員さん、この子にホットケーキセットを! 俺は……エビピラフセットで! 悪い、昼食ってくる余裕なくって」
「わ、私は大丈夫ですから!!」
「遠慮すんなし! こういうときに他人の財布で一番高いもん頼むもんだぜ?」
「ああうう……」
「都市伝説」
黒服さんからその話を聞いたとき、多分アレかもしれないという感覚はあった
アレ――「七尾」にいた頃は見なかったのに、学校町に引っ越してきてから急に見えるようになった、怖い影
最初は影のような黒い塊だと思っていたけど、よく見るとまるで漫画や映画に出てくるモンスターのような存在だった
私は最初、それがストレスの所為なんだと思ってた
「七尾」の学校が急に閉鎖することになって、中学から学校町に引っ越すことになって
環境が急に変わったからその所為で変なものが見えるようになったんだって、自分にそう言い聞かせてた
お姉ちゃんには相談できなかった。お姉ちゃんもいっぱいいっぱいなのに、私のことで心配させたくなかったから
「俺はてっきりさぁ、千十に嫌われてるんじゃないかと思ってたんだぜ? 夏の間も連絡無かったしさぁ」
「あの、いえ、そういうわけじゃ……」
「冗談だよ! そういや『ラルム』のバイトは忙しいか? あんま無理すんなよ? 前も過労気味だって医者に言われてたしな」
「きっ、気をつけてますっ!」
「組織」のお仕事もあって、「都市伝説」を目撃する機会はそれなりに増えていったけど
最初の頃は自分から危ない場所に行かなければ、そういう怖い存在に遭遇することは無いって、そう思っていた
危ないと感じる場所に行かなければ、危ない存在に出遭うことはない
危険な場所や相手には、自分から近づかなければ、危ない目に遭うことは無いんだって、そう信じていた
でも、違った
この学校町に、安全な場所なんか無かった
この学校町にいる限り、危険はすぐ隣にあるんだって、何度も思い知らされることになった
「『ラルム』の方にも顔出したかったんだけどなー、ちょっっっと、『ラルム』のメニューは高くってさ」
「あ、あはは……」
「だけど今日は俺が奢るからな! そう決めて来たんだ! あっそうだ、なんか追加で注文しときたいものってある?」
「へっ? あっ、あの、そんな。悪いです」
学校町、そのなかを徘徊する「都市伝説」、そして学校町内に存在する「契約者」
私は最初、自分が直感的に危険だと感じる場所にだけ、そういう存在がいるんだって、ずっとそう思っていた
でもそれは間違いだった。私の通う中学にも「契約者」はいた。それも、何人も
日景君、荒神君、獄門寺君、花房君、双子の広瀬さん、大門さん
あのグループのことが、わけもわからず怖かった
何より日景君、同じクラスにいるだけで震えが止まらなかった
私はてっきり、自分の頭がおかしくなったんだと思った
「七尾」から出て、学校町に来て、心が参っちゃったんだ、そう思って
でもそうじゃなかった
私は「都市伝説」や「契約者」のことが怖いんだって、後になって気づくことができた
「本当なら俺も今頃現場でバリバリ働いてたのかもしんないけどよ……」
「え? 何か、あったんですか?」
「別にそんな大したことじゃねーよ? えっと、実は俺、まだ新人研修中でさ、若葉マークが外れてねーんだよな……」
「あっ、もしかして、忙しいときに呼び出しちゃいましたか!? す、すいませ」
「ああ違う違う! 千十には感謝してる! 研修って息苦しいからこうやって外の空気に当たらねーと、ちょっとキツくて」
726 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 11/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:10:57.01 ID:sOQ3PWjdo
お姉ちゃんと二人で「人肉ハンバーガー」の契約者に襲われたとき
私達を守ってくれたのが「組織」の久慈さんと、キルトさんだった
私が「組織」所属だと知った二人は色々と話を聞いてくれて、教えてくれた
そのお陰で「都市伝説」が何なのかを、そして「契約者」や「組織」についてようやく理解できた
「都市伝説」は人が今までに噂したりネットで一人歩きしてるような怪しい話が具体的な姿をとって現れたもので
元の噂や話に由来するような不思議な力を持っていることがある存在
そして「契約者」はそんな「都市伝説」と「契約」という関係で結ばれた人で
「契約」による「拡大解釈」のおかげでより強力な不思議な力、「契約能力」を使うことができる
「都市伝説」や「契約者」は普通の人間のように、良い人や悪い人もいて、なかには人間を襲うような危険な存在もいる
「組織」はそんな危険な「都市伝説」や「契約者」を取り締まって、人間社会を混乱させないようにその存在を隠す仕事をしている
私の理解が間違ってなかったら、キルトさんの説明はこんな感じだったと思う
このお陰で、私が怖いのは「都市伝説」と「契約者」だったんだって、ようやく気づけた
学校町に来てからは「都市伝説」や「契約者」に怯えてばかりだったけど
慣れない学校町での中学生活で、私に声を掛けてくれたのがアヤちゃんや、一葉さんと咲李さんで
確かに中学のなかにも「契約者」はいたし、私は怖がってばかりだったけど
「都市伝説」に追いかけられてたとき、一緒に逃げてくれた泉花ちゃんや、私達を守ってくれた莉子さんのことは怖くなくて
普段の生活のなかで、「組織」のお仕事のなかで、恐ろしい「都市伝説」や「契約者」に遭遇することもあったけど
そんなとき私やお姉ちゃんを助けてくれたのが、「組織」の久慈さんとキルトさん、そして隣町の下着屋さんの店長さんやクロワさんで
思い返せば、学校町に来てからもずっと、誰かに助けてもらいっぱなしだったな
勿論、怖がってばかりじゃいられないって、勇気を振り絞ることもできて
日景君達のことを怖がってばかりじゃ、相手に対しても失礼だなって思って
少しでも慣れることができるように挨拶から始めて、声を掛けるのを頑張ろうって目標を立てたり
それが原因で女の子達から勘違いされたり、アヤちゃんから「アイツらのことは気にしない方がいいって!」って言われたりしたけど
それに、「都市伝説」や「契約者」のことを知って、他にも気づけたことがあった
「七尾」にいたとき、私を助けてくれた男の子、脩寿くんも「契約者」だったんだ、ってことにそのとき気づいた
そのことに気づけたとき、私は少しだけ――ほんの少しだけ、だけど、怖さが和らいだ気がした
「おっ来たぞホットケーキ!」
店員さんが持ってきたのは、「ラルム」でお出しするような小さいふわふわしたパンケーキではなくて
フライパンで焼き上げたような、大きくて何枚も重ねられた、そんなホットケーキだった
「おう遠慮すんな食え食え、千十はもうちょっと食った方がいいぞ? あっ、俺のも来たな」
「うう……、すいません。頂きます」
久慈さんに満面の笑顔で勧められると、断れない
うう、こんなに食べたら、もう夕飯は要らないかもしれない
727 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 12/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:11:41.75 ID:sOQ3PWjdo
「んうむ、そういや千十。キルトさんにも言われて確認しておきたいことがあってよ」
サラダを食べ終えた久慈さんに質問された
「千十の担当黒服って――あの、携帯でしか連絡してこない奴な。最近は何か連絡してきたか?」
「いえ、それが……。四月以降はずっと何の連絡もなくて」
「そっか、やっぱり」
担当の黒服さん、多分最初に私をスカウトしてきた人達だと思う
あの人達は最初に会ったきりで、それ以降は携帯の一方的な連絡以外にやり取りがない
私はこういうものなのかなって、ずっと思ってたけど、キルトさんが言うには「ありえないレベルで不審すぎる」らしい
久慈さんも難しい顔してるし、どうしよう
「本当は口止めされてるんだけどさ、千十の状況はちょっと良くないらしくて
あっ! 良くないってのは担当黒服の方な! 千十自体に問題があるわけじゃねーからな?
で、まあ、とにかく状況が良くなるように、裏でキルトさんとか上司が動いてるみたいで、もう少しの辛抱だからな」
状況が良くないってどういうことなんだろう
漠然とした不安はあるけど、正直今の担当の黒服さんはこっちが聞きたいことにも答えてくれないから
今の状況が良くなるんなら、その方がいいのかもしれない
って、自分のことばかり考えてたけど!
今日の用事はそっちじゃない! 久慈さんにも変質者のことを確認しなくちゃ!
思わず周囲を見回す
けど、今の時間帯は私達しかいないみたいで店内が空いてる
このお店は「組織」関係の人がよく利用するお店で、ちょっとした会議とかにも使われるらしい
だから、都市伝説関連の話をしても――無関係のお客さんとかに聞かれない限りは――大丈夫らしい
「あの、久慈さん。実は今日は、私からも確認しておきたいことがあって
最近学校町に出没してる変質者のことなんですけど
クマのぬいぐるみを操作する契約者みたいで、なにか目撃情報とか不審者情報とかって『組織』で把握してませんか?」
「えっ? 何だって? クマの、ぬいぐるみ?」
私は問題の変質者の特徴を久慈さんに説明した
変質者が契約者なら、「組織」で何か情報を掴んでるかもしれない
そんな感じで当たりをつけてみたんだけど
「ちょっ、っとそういう話を聞いてねえや」
久慈さんは知らなかったみたいだ
……ど、どうしよう
「キルトさんとか――外回りの黒服なら何か知ってるかもしれないから、後で確認しておくな」
「すいません、お願いします!
実は友達がその変質者に襲われたみたいで、それで別の友達が変質者じゃないのかって疑われてて
友達同士で険悪な状況になっちゃってて……、それを早く解決したくて、早く真犯人が捕まってほしくて」
「はぁっ!? 今そんなことになってんの!? オーケー! 事情はわかった! 俺に任せろ!
夜になるかもしんねーけど、必ず連絡するからな! ……ところでその友達って、二人とも契約者?」
「えあっ!? あっ、それは、その」
「ああいや! 答えづらいなら無理して答えなくていいから! 千十には『組織』のこと嫌いな友達も居んだろ?
俺も『組織』のことは正直嫌いだから気持ちはわかるし、その子のことかちょっと気になっただけだから!
でもこのクマのぬいぐるみの変質者って奴ぁ相当ヤバそうな感じするな、とっとと捕まえねーと」
728 :
次世代ーズ 36 「聞き込み side.B」 13/13
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:12:28.13 ID:sOQ3PWjdo
ちょっと待ってろ、久慈さんはそう言うと自分の携帯を引っ張り出して物凄い勢いで操作し始めた
久慈さんに負担を掛けることになるかもしれない、けど私も退けない
脩寿くんとありすちゃんがあんな風にぶつかっちゃうなんて思ってなかったから、早く問題が解決してほしい
せめて、脩寿くんが犯人じゃないってはっきりすれば、ありすちゃんも納得してくれると思うから
ありすちゃんには前々から「『組織』に自分のことは秘密にしてほしい」って言われてたから
今までも久慈さんにはありすちゃんのことを伏せているし
久慈さんも気を遣ってくれたのか、ありすちゃんのことを「匿名希望の『組織』嫌いな契約者」として理解してくれた
脩寿くんはどうなんだろう
「組織」に脩寿くんのこと、伝えても大丈夫なのかはまだわからない
脩寿くんに前もって相談しておけば良かったかな。ちゃんと確認できるまでは伏せておこう
今夜にでもメッセージか電話で私のことを話しておいた方がいいかな
……ううん、やっぱりまた会えた時に直接話そう
携帯越しだと上手く説明できる自信ないし
今までずっと、脩寿くんのことを片想いしてきたけど
私、脩寿くんのことを何も知らないや
私のことも、何も伝えられてないや
「うっし、キルトさんにメッセ打っといた! あでも今ちょっと会議中だから返事は遅くなるかも」
「すいませんありがとうございます!」
「しっかしそうなってくると、俺もそろそろ外回りに入れるように手を打たねえとなー
……いっそのことミッペのグループに混じって警邏した方がいいかな? いやとなると教官の目を誤魔化さねーと」
「あっ、あのっ、無理はしないでくださいね……!?」
「千十は心配すんなって! こういうときこそ『組織』が動くときだからな!
それに俺が捕まえた方が却って長引いた研修が終わりそうな気がしてきたぜ!!」
そう言いながら大きく伸びをする久慈さんを見ながら
退けない思いと、やっぱり申し訳ない思いがぐるぐる渦巻いた
ごめんなさい、私に戦う力があったらもっと協力できたのに
もう少しで喉から飛び出しそうになったその言葉を
すんでのところで飲み込んだ
だって
もうそれはずっと前に、零してしまった言葉だから
(そんなこと言うんじゃねーよぉ! 千十は感知担当! 実力担当は俺ら黒服! 適材適所ってやつだよ!! 気にすんなって!!)
そして、そのとき
久慈さんには、そう返されたから
だから、結局久慈さんには甘えてしまう形になったけど
私は、私のできることをやっておきたい
私はいつも助けられてばっかりだから
せめて、こういうときだけでも誰かの力になりたい
そしてきっと、これが「組織」所属である私にできることだから
だって
都市伝説を前にして、怖がったり怯えたりするだけの自分は、もう嫌だから
それに
ううん、それ以上に
小さい頃からずっと好きだった男の子の前では、少しだけでも胸を張って話せる自分でいたいから
□□■
729 :
次世代ーズ おまけ 1/2
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:13:58.19 ID:sOQ3PWjdo
@猫ちゃん聞き込み💓 ニャンニャニャン💓
りず「よっし! それじゃーさっそく聞き込みをやってくにゃー!」
りず「頑張るにゃ!」 ニュニュニュ.... ☜ 頭頂から発現するふわふわの三毛耳と、スカートを際どく持ち上げながらスルッと現れる三毛模様な猫しっぽ
りず「あっっ! あそこにいるのは中学校辺りを縄張りをしてるボスにゃんじゃないかにゃ」
りず「これは幸先よさそうにゃ💓 さっそくとつげきにゃー!!」
Aボス猫突撃💓 ニャニャニャニャン💓
ボス「久しいな、ヒト混ざりのメス猫よ……」 ☜ 超低音ボイス
りず「ボスにゃん! おひさだにゃ! 今日はちょっと訊きたいことがあって来たのにゃ!」
りず「かくかくにゃんじかでー、二足歩行するクマのぬいぐるみを見なかったかにゃー?」
ボス「ヒト混ざりのメス猫よ……、俺に何かを要求するならば……!」
ボス「対価を! 支払うのだ!!」 バァァァァン!! ☜ 超低音イケメンボイス
りず「もちろんそれなりの見返りはあるにゃー! ちょっと待って……」 ゴソゴソ
りず「なんと! 高級グレードのちゅーるだにゃ!!」 ジャーン!!
ボス「ほう……、話がわかるようだな……」
ボス「最初に言っておくが、俺はそのクマのぬいぐるみを見ていない」 ハフハフッッ ペロペロッッ
りず「えぇー!? 見てないのぉー!?」 ☜ ちゅーる絞り出し係
ボス「だが……ウマイ、他の猫が、東区で、ウマイ、奇妙な契約者を見た、と……アアウマイ!!」 ペロッペロペロッッ
りず「奇妙な契約者?」
ボス「うむウマ、黒い触手のようなものを、ウマッ、操る不審者だったそうだ、オオウマイ……」 レルレルレルッッ
りず「黒い触手……」
ボス「脇に、テディベアを抱えていたそうだ……ウッウマイ!!」 ハァッハァッッ
りず「!? ほんとかにゃ!? そっ、それはどこで!?」
ボス「東区の、二丁目あたりだウマイ、奴はおそらくアアウマイ……東区から、南区にかけてをウマ、縄張りとしているウマイッッ!!」 ニャァァァァ ガジガジガジッ
りず「やっぱり東区二丁目……あの辺りかぁ」
ボス「ふう、堪能したぞ……」
ボス「俺はもう往かねばならん。さらばだヒト混ざりのメス猫よ、縁があればまた会おう」
りず「ボスにゃんありがとにゃー! ……となると、前にあたしが見たところからほとんど移動してないってことかにゃー……?」
B道行く猫にも💓 フニャフニャン💓
於 学校町 東区 二丁目
りず「というわけで二丁目に来たにゃ! ここはお日さまのあるうちから静かな住宅街にゃ」
りず「静かといっても住宅街だから、人の目はあるのににゃー……」
りず「こんなところで不審行為をしてたとしたら、かなり大胆な変質者だにゃ」
りず「あっ! ネコちゃん発見にゃ! 見ない顔だにゃー、でもとつげきしてみるにゃ!」
りず「あのー、ネコちゃーん。今ちょっといいかにゃー?」
ネコ「フオッ? ニャアアア??」
りず「聞きたいことがあるにゃ。二足歩行するクマのぬいぐるみを探してるんだけど、この辺りで見なかったかにゃ?」
ネコ「ニャァァァアアアオゥゥゥゥッッ!?!?」 フシャァァァァァァッッ!!
ネコ「噂には聞いていたが……っ! ヒト混ざりのメス猫が本当にいようとはな……っ!!」 ☜ 全身の毛を逆立てて警戒
りず「ええっ? あたしのこと噂になってるのかにゃ?」
ネコ「即刻消え去るがいい!! この混ざりモノめがっ!! あまりの気持ち悪さに反吐が出そうだわっっ!!」 ギシャァァァァァァッッ!!
りず「きっ!? 気持ち悪くなんかないよ!?」
ネコ「呪いあれ!! ヒト混ざりのメス猫に呪いあれぇーっっ!!」 ダッッッ ☜ 全速力で脱走
りず「あっ!! 待つにゃ!! あたしの話を聞いてにゃー!! 待ってよー……!!」
730 :
次世代ーズ おまけ 2/2
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:14:47.90 ID:sOQ3PWjdo
C猫じゃ猫じゃ💓 と仰いますが
於 学校町 南区
りず「二丁目辺りで粘ってみたけど……、散々だったにゃー」
りず「あの後もなぜかネコちゃんたちに警戒されたにゃー」
りず「なんでにゃー……、今までこんなことなかったのにー……」 ションボリ...
茶猫「東区のあたりはー昔っからプライド高いというかー、こっちとは違う気質のネコが多いからねー」 ムニャ...
茶猫「最近は 『狐』 の影響なのかー、他所からも学校町に入ってきてるネコも増えてるみたいだしー」 ゴロゴロ...
りず(『狐』……、アレの行方も気になるにゃ。また戻ってきてるって話は耳にしたけど……)
妻猫「りずちゃん元気出して。それで誰を探していたのかしら?」
りず「んあっ!? ああ……、二足歩行するクマのぬいぐるみだにゃ。ちょっとした変質者っぽくて、色々あってマークしてるのにゃ」
妻猫「それって……」 ☜ 旦那さんの猫ちゃんの方を見る
夫猫「多分アイツだな」 ☜ 奥さんの猫ちゃんの方を見る
りず「!? 見たことあるにゃ!?」
夫猫「最近になって東区から南区にかけてを徘徊してるコートの不審者だよ」
妻猫「契約者なんでしょう……? 雰囲気が普通の人間じゃなかったわ」
夫猫「クマのぬいぐるみを持っているようだが、周囲の人間は不思議と気にしていなかったな……。恐らく『角隠し』か何かの結界を使っているかもしれない」
りず「ほんとかにゃ!? これは大収穫だにゃ! ありがとにゃ!! やっぱり持つべきものはネコともだにゃー!!」
夫猫「でも注意した方がいい。ヤツは並の契約者とは異なる、異様な雰囲気を纏っていた」
りず「異様な雰囲気……」
夫猫「恐らくまだこの近辺に潜伏しているかもしれない。日没前後にしか姿を見せないんだが」
妻猫「誰か人を探している様子だったわね」
夫猫「りず、戦う気か? お前が強いのは知っているが、悪いことは言わない。ヤツに限っては避けた方が良い」
りず「そんなにヤバいヤツなのかにゃ……!?」
りず「オッケーにゃ! こーはいにも注意するように言っておくにゃ」
茶猫「それがいいよー、『賢き猫、危うきを冒さず』って昔っから言うからねー」 ムニャー...
妻猫「そういえばりずちゃん、今日もお仕事なんでしょう? 時間は大丈夫かしら?」
りず「そうだったにゃ……、もうすぐ人間砂漠のバイトが始まるにゃー……」
妻猫「うふふ、りずちゃん頑張って」
りず「みんな、ありがとにゃー!!」
りず(クマのぬいぐるみの行動範囲は東区二丁目から南区にかけてでほぼ確定だにゃ)
りず(バイトで心も体も潰れる前に、せとにゃんに連絡入れるにゃー……!)
りず(もうひと頑張りだにゃー) ☜ 使い古しの携帯を取り出す
□□■
731 :
次世代ーズ
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:20:10.04 ID:sOQ3PWjdo
●南区商業高校の登場人物
波越 沙也花(なみこし さやか)
商業一年、早渡クラスの委員長
女子レスリング部所属
戸塚 銀士(とつか ぎんし)
商業一年、早渡と同じクラスで部活はしていない
映画マニアで、校外の映画評論サークルに属している
藤巻(ふじまき) / 吉岡(よしおか) / 水谷(みずのや) / 秋山(あきやま)
早渡と同クラス、このうち藤巻と水谷は東中出身
秋山は東中出身ではないにも関わらず、中央高校の荒神憐と日景遥に並々ならぬ関心を抱いている
敷嶋 敏己(しきじま としき)
早渡とは別クラス、東中出身
高校進学後に幼馴染の多崎京と付き合い始めた
兒玉 金治(おだま きんじ)
商業高校の生徒指導担当、教科は世界史
赤星 嘉主馬(あかぼし かずま)
商業高校の生徒指導担当、教科は女子体育
ギャグ枠、商業の男子生徒から危険人物扱いされている
多民沢 丞(たみざわ たすく)
商業高校の教諭、教科担当は古文・漢文
どこを見てるのか分からない顔つきが特徴
「組織」Tナンバー関係者ではない
●東区高校の登場人物
茅部 綾子(かやべ あやこ)
千十、ありすと同じクラスで東中出身
名前で呼ばれるのを嫌がり「かやべえ」と呼んでもらいたがる
蒜山 宇女(ひるぜん うめ)
千十、ありすと同じクラス
ありす、かやべえからは「ヒル山(ひるやま)」と呼ばれる
真庭 栞(まにわ しおり)
千十、ありすと同じクラスで出身中学は学校町外
かやべえ、ヒル山、栞は大抵一緒にいる
小野木 雪子(おのぎ ゆきこ)
東高の二年で東中出身の眼鏡さん
図書委員で、誰が呼んだか「図書室の番人」
御小柴 みゆ(みこしば みゆ)
東区高校の教諭、担当教科は古文
同校のOGで、元オカ研所属の現オカ研顧問
「組織」Mナンバー関係者ではない
泉花(いずか) / すずな
千十、ありすとは別クラスの一年
二人ともオカ研部員、泉花は東中出身で契約者
足助唄(あすけ うた)
千十、ありすとは別クラスの一年
オカ研部長で契約者
莉子(りず)
東高二年で東中出身、契約者
苗字で呼ばれるのを嫌がり名前で呼んでもらいたがる
クラスメイトの前では普通に話すが、親しい相手には「〜にゃ」の語尾が出る
多崎京(たさき きょう)
千十、ありすとは別クラスの一年で、東中出身
幼馴染の敷嶋敏己のことがずっと好きだったが
進学する高校が別と知ったときはショックを受けた
●「組織」
佐川 久慈(さがわ くじ)
「組織」Pナンバー所属の黒服
ちょうど千十が中学一年の頃に「組織」に加わったのだが
未だに研修期間中の新人扱いをされている
732 :
次世代ーズ
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/03(金) 22:20:59.41 ID:sOQ3PWjdo
花子さんの人、そしてはないちもんめの人に謝意を表します orz
そして、マジカル☆ソレイユのリスペクト元は単発「魔法少女マジカルホーリー」と以前告白しましたが
今回初出となるオカ研部長の「足助唄」は、次世代ーズが「都市伝説」スレにはじめて来た頃に投稿されていた
西区工業高校を舞台とした作品「噂をすれば」に登場する、「足助透」氏から姓を拝借しました
この場を借りて謝意を表します…… orz
世間的には三連休ですが、次世代ーズは土日お仕事です
せめて37の「組織」サイドの掌編までは投下したかった
733 :
次世代ーズ 37 「事前準備」 1/5
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/15(水) 21:43:03.34 ID:/8cLRL+Ao
淹れたばかりのコーヒーを啜り、カップを脇に置く
嘆息が漏れるのはこれで何度目だ、まったく
「組織」Pナンバー所属、“メイプル”は今、自分のデスクで頭を抱えていた
悩みの種は現在手元にある二通の書類だ
一通は「組織」所属の契約者に関するもので、もう一通はPナンバー所属の、自分の部下でもある黒服に関するものだった
暫く目頭を指で押さえていたメイプルは、観念したように書類の一通へ再び視線を向けた
不安そうな表情が如何にも気の弱そうな印象を与える、そんな少女の顔写真の横には「遠倉千十」と印字されている
メイプルはこの契約者の処遇について、直属の上司から判断を委ねられていた
無茶振りにも程がある、そのうえあと数時間で答えを出さなければならない
Pナンバーが彼女の存在を把握したのはおよそ三年ほど前の話だ
遠倉千十、そして彼女と同居する義姉が、悪意ある契約者数名に襲われかけていたところを保護したことが切っ掛けだった
当時彼女らを保護したのはPナンバーの“キルト”と、「組織」に加わって間もない新人研修中の佐川久慈だ
そして遠倉千十が都市伝説契約者であったため、Pナンバーで事情聴取を実施することになった
その際、遠倉千十自身の申告により彼女が「組織」所属であることが発覚する、のだが
彼女は自分自身が契約者である自覚もなく、そして何と契約しているのかも不明だという状況だった
自分が契約者であるという申告も、その実、遠倉千十を勧誘した「組織」の黒服からの受け売りに過ぎないという
基本的に契約者にとって初契約時のエピソードは比較的重要なものとして記憶に銘記されるはずだが、遠倉千十にはそういった記憶がなかったのだ
加えて、遠倉千十は自身が「組織」所属と申告したものの、所属部署や担当黒服については「わからない」と回答した
その代わりに彼女は携帯に登録されていた担当黒服の連絡先やアカウント情報を提供した
そこから「少なくとも『組織』で使用されているであろうアカウントである」ことは確認できた
しかし、当時はそれ以上の情報がまったく出てこなかった
この時点で聴取を担当したキルトと、情報の裏付けをおこなったPナンバースタッフの疑念は、「一旦様子見で済ませる」というレベルを軽く超えていた
彼女の申告した情報から一応「組織」所属と思われるが、どの部署に属しているのか、そもそも本当に「組織」所属なのかはっきりしなかったからだ
当然、遠倉千十という存在と彼女の置かれた状況についてはPナンバー管理者らにも報告が上がり調査の対象となった
調査のうえで明確にすべきは二点あった
「組織のどの部署所属なのか」、そして「何の都市伝説と契約しているか」である
まず「遠倉千十が『組織』のどの部署に所属しているのか」について
繰り返しになるが、先の事情聴取から彼女の申告、そしてそこから推察できる状況を見るに、非常に不明瞭な点が多すぎた
キルトが初期の段階で提示した疑念、つまり「遠倉千十は『組織』暗部で利用されているのではないか」という点を早急に払拭する必要がある
仮に暗部で利用されているとすれば、「組織」としては迅速に暗部の活動を捕捉し、同時に遠倉千十の身柄保護に動かなければならない
最初期の調査で彼女がPナンバー所属ではないことは明確になった
続いて実施されたのは「組織」所属契約者データベースでの照会だ
「組織」内で穏健派が優位に立ったことで
これまで、特に過激派・強硬派のなかで常態化していた、所属契約者を巻き込んでの不正や規定違反行為ができないように穏健派は次々と手を打った
「組織」所属契約者データベースの整備もその一環だ
これは「組織」所属のすべての契約者を一元的に管理することを企図したものだ
情報の閲覧にはセキュリティクリアランス、権限がなければアクセスできない規制は存在するものの
「組織」への所属自体を隠蔽したり欺瞞工作を施したりすることが実質不可となったのだ
では遠倉千十の情報はというと、データベース上でヒットしなかった
といってもここまではさほどおかしい話ではない
彼女の所属情報にプロテクトが掛けられている可能性はあるし、そもそもこのデータベースは未だ整備中のものだ
「組織」内には様々な事情でデータベースへの反映が遅れている部署もあれば、データベースへの登録を渋る部署も存在する
というわけで、ここからはやや強引な手段に出ることになった
具体的には、別のナンバーへ秘密裡に協力を取り付け「組織」内全データベースへの全文検索を実施することになった
しかし当時は「狐」の捜査――学校町の東区中学で生徒連続自殺を引き起こした、あの悪夢のような事件の後の話だ――や
その後の余波と思われる事件の処理等で、どのナンバーもその対応に追われていたため、調査のための根回しに存外な時間を要した
734 :
次世代ーズ 37 「事前準備」 2/5
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/15(水) 21:44:36.23 ID:/8cLRL+Ao
紆余曲折ありながらも、全データベースへの検索調査をおこなったところ
件の所属契約者データベース上に、未公開設定の、下書きのまま放置されたと思しき遠倉千十のプロファイルが発見される
といっても、顔写真画像と氏名、連絡先情報、身体情報、口座情報のみが記載されたあまりにも簡易なもので、意図的とも思われる情報未登録も目立った
なお、プロファイルのフォーマットは強硬派で利用されているそれと一致していたため
上位管理者経由で強硬派に照会を掛けたが、強硬派担当からは「こちらには遠倉千十なる契約者は所属していない」という回答が寄越された
ここまでの調査経緯を踏まえ、遠倉千十の置かれた状況についてPナンバー管理者らが推測したのは次の2パターンだ
まず、@穏健派の秘密部隊で遠倉千十が運用されているパターンである
しかしこれはありえない話で、間もなく候補から除外された
何故なら、仮に穏健派所属ならば件のデータベースに登録自体はされているであろうし
それ以上に、Pナンバーが独自調査を始めた時点で、より上位の立場から直接的なストップが掛かるはずだ
そして今回そういった横槍は発生していない
続いて考えられたのは、A「組織」暗部関連で遠倉千十が運用されているパターンで、管理者らはこちらの可能性が高いと判断した
そうであるならば、彼女の境遇を放置することはあまりにも危険すぎる
加えて仮に暗部所属であった場合、問題なのは彼女を勧誘した動機が不明であることだ
現在進行中のなんからの実験に巻き込まれている、という線も否定できない
これらの潜在的リスクを踏まえ、管理者らは遠倉千十の身柄を一時的にPナンバーで預かることとした
無論、遠倉千十の所属部署の特定と並行して、担当黒服特定の調査も進められていた、が
通信ログや通話記録から情報を洗い出したものの、「組織」の規定とは異なる暗号化が施されていたり
担当黒服に関するアクセス情報が空白と化していたりと、担当黒服ならびに所属部署の特定は困難を極めた
意図的な情報隠蔽がおこなわれたのではないか、という声も上がったが、真相は未だに闇の中だ
いずれにしてもこの不可解な状況が明らかになったことで、遠倉千十の勧誘に暗部の関与があったことが疑われる事態となった
ひとまず遠倉千十はPナンバーで保護しつつ、問題の担当黒服から彼女に送付される連絡はすべてモニタリングされることになった
その解析を進めることで担当黒服と部署の特定を試みているが、現在に至るまで目立った成果は上がっていない
これ以上の決定的証拠がないため、現状「彼女を勧誘した担当黒服と部署は不明だが、暗部が関与している可能性が高い」とみなされている
続いて「遠倉千十が契約している都市伝説は何か」についてだ
最初期の事情聴取の後、この点についても簡易的な調査が実施された、が
彼女は待機出力が低すぎる――要は契約者としての気配があまりにも薄すぎるのだ
当時、自分は契約者だと自信なさげに申告する遠倉千十を観察したキルトは申告そのものを疑っていたし
現に調査を担当したPナンバースタッフ内にも、果たして彼女は本当に契約者なのか、という疑念の声を上げた者もいた
この時点では、契約都市伝説の特定には至らなかったし、特定する必要性も薄かった
初期の頃は彼女がどの部署に所属しているのか不明であり
こちらで勝手に検査を進めると、彼女が所属している部署から干渉と捉えられる恐れがあったためだ
加えて、彼女は契約者としての気配が薄すぎるため、特定には精密な検査と長時間の拘束が必要になる
一応、簡易検査によって少なくとも彼女は都市伝説ないし契約者による精神干渉や洗脳施術を受けていないことは確認できた
また、彼女は「組織」への不安感、もしくは不信感を抱いている印象があったため、遠倉千十への負担も考慮し一旦保留扱いとなった
再調査の必要性が高まったのは遠倉千十の所属、つまり彼女を勧誘してきた担当黒服の所属が「組織」暗部ではないか、という疑念が生じて以後だ
「暗部」による勧誘の動機が彼女の契約都市伝説にあるのならば、Pナンバーとしてもその詳細を正確に把握しておく必要があった
だが、この段階で待ったを掛けたのがキルトだ
曰く、遠倉千十は未だに「組織」に警戒感や不安感を抱いており、無理に調査を強硬すればこれまで築いてきた関係が壊れる可能性もある
精密な調査は一定以上の信頼を構築してからの話で現段階では時期尚早だ、とこのように主張してきたのだ
確かに報告によると、遠倉千十は「組織」に――というより、厳密には都市伝説や契約者、そして黒服という存在に――恐怖感を抱いているようだった
そうであれば、彼女を安心させたうえで協力を取り付けるのが筋だろう、ということでPナンバーの幹部らも一応それに合意した
以上の経緯があり、遠倉千十に対する精密調査は延期となり、信頼関係の構築はキルトら現場の黒服に一任されることになる
これ以上の調査は当分先の話になると思われたが、事態が大きく動いたのは今年の六月に差し掛かった頃だ
遠倉千十のバイト先が呪詛汚染の被害に遭う事件が発生し、特に彼女が強い影響を受ける事態となった
この事件そのものについては割愛するが、呪詛汚染は人為的なもので未だに犯人は捕まっていない
ともかく、遠倉千十は「組織」の管轄する病院に搬送され除染治療を受けることになったが
これこそ彼女の精密検査を実施するのにまたとない機会であると判断したPナンバー管理者により、彼女の治療と検査は同時に進められることになった
集中的な専門検査に掛けた結果、遠倉千十は高い確率で現象型「トイレの花子さん」と契約していることが判明する
それと同時に、彼女は非常に稀な「先天性能力発現不良」であることも発覚した
先天性能力発現不良――非常に低い確率で「契約自体はできるが」「能力が発動できない」という先天的欠陥が発生することがあり、彼女はそれに該当する
検査担当者は「欠陥というよりも、これはもはや才能の領域」とコメントしたが、決して肯定的に評価できるものではない
要するに遠倉千十は契約者であるため都市伝説的な影響を知覚可能な状態だが、能力を扱えないため都市伝説や契約者に対抗する術がない
おまけに契約による身体能力の向上も見られず、唯一彼女が得られたのは都市伝説的存在の感知が並の契約者に比して鋭敏という点のみだ
先に触れた遠倉千十を勧誘した担当黒服に関する疑念も踏まえて総合的に検討すると
「組織」暗部が稀少な彼女の体質を利用して何らかの実験を進めているのではないか、という疑念を抱いたPナンバー管理者は
改めて遠倉千十の身柄をPナンバーで一時保護することにしたのだ
735 :
次世代ーズ 37 「事前準備」 3/5
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/15(水) 21:45:32.47 ID:/8cLRL+Ao
そして話は現在に戻るのだが、上司から“メイプル”に振られたのは
このまま遠倉千十を正式にPナンバー所属として本決定しデータベースへ登録するか判断せよ、というものだった
頭痛の種はそれだけではない
上司はこの話と同時に、Pナンバー内に蠢く不穏な影についても話を振ってきたのだ
Pナンバーは歴史的経緯から「瑕疵ある穏健派」と呼ばれていた
かつて過激派・強硬派が優位だった時代「ダークエイジ」の頃に、Pナンバー内の一部が独走した挙句
過激派・強硬派の一部と結託して、「組織」に対する背任を働くという暴挙に及んでいたのだ
当然、背任が発覚した当時の管理者とその関係者は厳重に処罰され
穏健派が形勢を逆転しつつあった頃に、Pナンバー内一桁ナンバーを一新して新体制へ移行
そのうえで信頼回復に向けて全力を傾けることになるのだが、現在に至るまで完全な回復には至っていない状況だ
要するに「組織」上層部において、Pナンバーの地位と発言権は低くはないものの、決して高くもないのだ
これがPナンバーが現在においても「瑕疵ある穏健派」と呼ばれている所以なのだが
その現在においてもなお、Pナンバーの黒服のなかに未だ暗部と繋がりのある者が存在すること、そして
近頃になってそうした黒服が不穏な動きを見せていることが、内部調査により明らかになったのだ
穏健派が「組織」内で優位になっていくのと同時に、「組織」暗部はより地下へと潜伏していった
この所為で暗部の凶行が過去に比して一段と陰湿化、隠匿化していると言われている
尻尾が掴みにくくなった暗部を捕捉するため、現段階では暗部との繋がりが疑われる黒服を敢えて泳がせているようだが
(遠倉千十をPナンバー所属としたとすれば、暗部とパイプのある黒服が接触してくる恐れは十分にあるぞ)
上司から告げられたその言葉は、もはや脅迫にしか聞こえなかった
遠倉千十をPナンバー所属にしたとしても、そうした黒服により彼女が暗部へ引き込まれるリスクは払拭できない、というのだ
「じゃあどうしろってんだよ……」
Pナンバー以外の部署に所属させる、という手もあったが
そうするとどの部署が安全なのかという話になるし、穏健派内であっても暗部と繋がりのある黒服が接触してくるリスクは依然として存在する
この時点で、メイプルの頭は既に茹で上がっていた
回答の期限は刻一刻と迫っているものの、具体的な案がまとまらない
しばらくの間メイプルは両手で顔を覆っていたが、焦りを振り切るように顔を上げるともう一つの書類を睨みつけた
不貞腐れたような仏頂面にダブルピースを添えた、そんな女の顔写真の脇には「佐川久慈」と印字されている
そう、コイツが頭痛の種その二、部下であり問題児でもある未だ新人の黒服だ
佐川久慈、裏社会では名の知れた長野の「飯綱使い」、名家佐川家の令嬢
……令嬢と呼べば多少聞こえはいいが、この佐川久慈に関してはとんだ問題児だった
いや個人的には自爆バカと呼びたい。正面から突っ込むのが大好きな戦闘スタイル、単純バカな性格、そして独断で独走する傾向
未成年だった頃のメイプル自身に非常によく似ている、という点はもう棚に上げる
佐川久慈が「組織」に加入したのはおよそ三年前
件の遠倉千十が中学一年生として東区の中学に入学した――奇しくも「狐」が学校町で凶事を引き起こした、あの――年だ
久慈自身も「飯綱使い」、つまり「管狐」と契約した能力者だったのだが、無謀にも高位霊格の「管狐」と追加契約を試みたことで黒服へと変貌したらしい
現役の「飯綱使い」であり佐川家の当主である彼女の高祖母から「力に溺れるなどとは末代までの恥」、そして
「己の自業自得で黒服と成り果てたのであれば、せめて『組織』で修行を積んで心身を戒めるべし」と言い渡され、佐川家から勘当されたのだ
不幸中の幸いというべきか、本人の地力が高いためか悪運が強い故か、黒服に変貌する以外のペナルティは免れたようだ
こうして「組織」へとやってきた久慈はPナンバー所属が決定した後、多くの新人黒服と同様に教育部門で新人研修を受講することになる
根が単純っぽいのでまあまあ御しやすい、新人研修担当の黒服は当初そのように見ていた、のだが
先輩黒服と組んで実施される現場研修の段階で、久慈の問題行動が次々に露呈することとなった
元々久慈の「管狐」は占術や読心、呪詛、呪詛返しといった、どちらかというと支援向きの能力だ
強いて戦闘に活用するとなると「管狐」を“飛ばす”遠距離戦向けの戦い方になるのだが
あろうことか久慈は突撃することを好み、真正面からの殴り合いに持ち込もうとする傾向にあった
それだけではない、久慈も現場で暴れに暴れたと思えば必ず重傷を負っては医療チーム行きとなった
力こそパワーと言わんばかりの肉弾戦に終始するものの、別に久慈は体格に恵まれるわけでも殴り合いに優れるわけでもない
「管狐」を使役する呪力を自身の体術向上に利用しているようだが、現場で害性の都市伝説や契約者と殴り合っては必ず自身も自爆負傷して帰って来たのだ
しかもなんというべきか負傷の回復だけはやたら速く、医療チームにブチ込まれた翌日には何ともない顔で新人研修に混ざっている、というのはザラだった
736 :
次世代ーズ 37 「事前準備」 4/5
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/15(水) 21:46:34.87 ID:/8cLRL+Ao
さらには、初期の頃は「高木から降りれなくなった猫ちゃんを救助するために樹木を縦に断裂する」程度で済んでいたのだが
「害性の都市伝説を討伐しようとアスファルトを深々と抉り取る」、「しかも人払いの結界を破るレベルの能力を市街地でぶっ放す」
「制止させようとした研修担当者に『こっちの方がはるかに効率的でしょォ!? 人命が懸かってるんスよ!?』と盾突く言動ばかり取る」
「修繕や隠蔽に駆り出される『組織』スタッフのことを軽視したような被害を起こす」……といった形で問題行動がエスカレートしていったのだ
当然ながら現場で起こしたトラブルは大問題として取り沙汰された
メイプル自身も研修担当者から「一体どうなってるんだこの新人は!?」「上司であるお前はこの責任、どう感じてるんだ!?」と盛大にキレ散らかされた
正直、上司とはいえ自分が研修に直接関与しているわけではないので自分に怒りが向くのは理不尽そのものだが、研修担当には反論しなかった。だって怖いし
そして久慈の問題行動は、Pナンバー管理者でもある一桁ナンバーの耳にも入ることになった
P-No.1は「とってもいいと思うわぁ♥ 花丸をあげちゃいます♥ 久慈ちゃんは次世代を担う新星になるわぁ♥♥」と評していたようだが
「現場に迷惑かけまくりの問題児を飼うことになって今どんな気持ち? ねえ今どんな気持ち?」とP-No.6から直接絡まれた日には胃に穴が開くかと思った
てかあの人、ことあるごとにアタシにパワハラじみた発言してないか? あれ出るとこ出たらアタシ勝てるか? 勝てるんじゃないか?
……話が逸れた
とにかく、佐川久慈のトラブルメーカーじみた一連の問題行動が解消されない限り新人研修修了程度とは認めない、という決定が下った
この決定の裏では件の新人研修担当者がかなり張り切っていたらしく、再教育の徹底が必要ということで新人研修期間が延長されてしまった
そこから現在に至るまで、つまり久慈は三年経った現在も「新人」のままである
そのうえ「こちらでやれることはもう無い」、「あとは君の裁量で何とかしろ」と、久慈は教育部門からも弾き出されメイプルに押し付けられる羽目になった
一応この四月からは久慈と比較的相性のいいキルトのチーム「応援部隊」に(仮)配属する形で無期限の現場研修に組み込みつつ
様子を見ながら現在研修中の新人黒服と混ざる形で新人研修の“補習”を掛けている状況なのだが
正直なところ現場の負担が増えている、メイプルはそう判断している。たとえキルトや応援部隊の面倒見が良いとしても、だ
そしてこちらが気を揉んでいるのを知ってか知らずか、とうとう久慈も未だ自分が新人扱いされる処遇について不満を表し始めたのだ
なにが「俺、いつまで新人扱いなんスか? もうこれで四年目っスよ?」だ、お前の自爆特攻する傾向を改めない限り若葉マークが外れるわけないだろうが
飲みの席で説教を飛ばしたりもしたが、響いているのかそうでないのか非常に微妙なところだ
(久慈を∂ナンバーへ一時的に移籍させるというのはどうだ?)
このタイミングで上司からの助言を思い出した
(キルトのいる応援部隊だって同じPナンバーなわけだから、良くも悪くも久慈は慣れてしまっている
奴の視野を広げて実力を養成するために、問題行動を改善するためにも、一度Pナンバーとは異なる環境に置くのがいいんじゃないか?)
∂ナンバー、比較的歴史の浅い新設の部署だ
成立の経緯からして穏健派だけではなく、過激派や強硬派の出身者も混在している
とはいえPナンバーを始めとした古株の穏健派からモニタリングを受けており、仮に暗部の者が潜伏していたとしても表立った行動は取りにくいだろう
加えて、ボスである∂-No.0は元Pナンバーでもある羽金夏李(はがね なつり)さんだ。メイプル自身も新人の頃は羽金さんに面倒を見てもらった頃がある
佐川久慈を新たな環境に投入するとすれば、これほどお誂え向きな部署もそうないだろう……なのだが
これで久慈が∂ナンバーに多大な迷惑を掛けて、∂ナンバーとPナンバーの良好な関係が悪化してしまったとしたら
いや、それ以前に
あの優しい羽金さんから「Pナンバーの問題児をこちらに押し付けてどんな気持ちですか? さぞかし清々したでしょうね」などと冷えた眼差しで言われてしまったら
……耐えられない!! 羽金さんにそんなこと言われたら立ち直れない!! まだP-No.6の陰湿パワハラの方が百倍マシだ!!
いかん落ち着けアタシ、今は目の前にある案件に集中しろ
……その案件の所為でこうも掻き乱されてるんだ、どうすればいいんだ
「どうすればいいんだ……!!」
何か、何か自分を助けてくれるものはないか
縋るように視線を彷徨わせた先に、業務用のタブレット端末
数秒間凝視した後、メイプルはそれに手を伸ばした
737 :
次世代ーズ 37 「事前準備」 5/5
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/15(水) 21:50:06.17 ID:/8cLRL+Ao
『クジっちと千十は仲良いですよ、多分千十は自分よりクジっちに懐いてんじゃないかと思いますね』
「マジか」
『最初は千十が怖がってるんじゃないかって不安だったんですが、相性的には抜群だと思います』
「マジか」
『それにクジっちも千十の前だと、なんというかお姉さんっぽくなるんですよね。普段より落ち着いた雰囲気になるというか』
「マジか……!!」
部下であるキルトに相談してみたところ、意外な反応が返ってきた
遠倉千十と久慈は相性が良いらしい
これを聞いたとき、メイプルは安堵感で泣きそうになっていた
もうこれは答え出たようなもんじゃないかまったく! あれこれ悩まずキルトに確認するべきだった!
「妙案を思いついた。遠倉千十の担当黒服を久慈にしよう」
『えっ!? 新人研修が修了してないスタッフって、確か契約者を担当できないんじゃ?』
「そこは管理者権限でなんとかするつもり。そもそも新人“四年目”ってのが前代未聞なわけだしな」
『でもそれが可能なら、多分今のところ一番理想的じゃないかなと思いますよ』
「キルトもそう思うか!」
現場の意見には耳を傾けるに限る
メイプル自身も上司から「現場の黒服や所属契約者とは会話したり直接様子を見たりした方が良い」と言われていたが
普段の業務の多忙さにかまけて、なかなか現場の様子を直接見に行くことをやっていなかった
その結果として数時間もこの案件で悩む羽目になったわけだから、次回以降は必ず現場の視察に行こう。ついでに遠倉千十とも直接会話しよう
メイプルはそう反省しつつ、キルトとの会話で自身の判断を整理していった
『それで、千十は引き続きPナンバーで面倒見ることになりますか? それなら是非久慈を自分らの応援部隊に正式配属してほしいんですけど』
「いや、実は∂ナンバーに移籍させようと思ってる。部長からも久慈をPナンバーに置きっぱにするのは良くないって言われたからな」
『あー……、そうなっちゃうんですか?』
「そうなっちゃうな、個人的には∂ナンバーに迷惑掛けないかとても不安だが」
『実は先日羽金さんと会話する機会があって、何となく「クジっちが∂ナンバーに移籍したいって申告したらどうするか?」みたいな話になったんですよ』
「……羽金さんの反応はどんな感じだった?」
『「できることなら是非ともうちに来てほしい」って話してました。思った以上にクジっちの面倒を見たい様子で。なのでそういう心配は不要じゃないかと』
「これはいいぞ!!」
これはいいことを聞いた。やはり現場の声には耳を傾けるに限る!
決まりだ、久慈には∂ナンバーで修行してもらうとしよう
それにキルトの話によると、久慈も遠倉千十の前では多少落ち着くようだ。彼女も守る者ができればやたら自爆を繰り返す悪癖が矯正されるかもしれない
それに不安要素のあるPナンバー内より、立ち上げ間もないとはいえ比較的安全な∂ナンバーの方が、遠倉千十の安全も確保できるだろう
いざとなったら久慈に体を張って守ってもらおう! それに応援部隊はじめPナンバーが∂ナンバーと関わる機会を増やせばさらに安心だ!
我ながらいい案じゃないか! これで決まりだな!
『それで、クジっちの∂ナンバー移籍ってすぐ実施されるんですか?』
「ん? ああ、いや。こっちも色々別件で忙しいし、それが落ち着いてからになると思う。多分11月か12月くらいになるんじゃないかな」
『ということはそれまでの間は引き続き、応援部隊に籍を置きつつ新人研修修了を目指す……って感じですかね』
「まあそうなるな……、現場の負担はもう少し続くだろうけど、悪いが辛抱してほしい」
『いえ! 負担なんて全然! それにクジっちも自分のクセをようやく自覚してきたのか、突撃グセを改善できそうな感じですよ』
「そりゃいいな、できれば∂ナンバー在籍までに若葉マークが取れると最高だよ」
『話は変わるんですが、実はぷーたんが千十と会ってみたい様子なんですよ。友達になりたいって言ってて。会わせても問題ないですかね?』
「ん? 全然問題ないよ。それに久慈が∂ナンバーに移籍したら応援部隊も∂ナンバーと合同で動いたりする機会を増やそうと考えてるし」
『本当ですか!? やったぜ!! ∂ナンバーの子たちと交流する機会が増えればアクアの仏頂面も多少はマシになると思うんですよ!!』
意外とキルトも嬉しそうだな、アタシもようやくこの案件から解放される
そんなことを思いつつ、部下のはしゃぐ様子をタブレット越しに眺めながらメイプルはコーヒーを啜る
回答提出までまだ時間的余裕はあるな、よし
「後はそうだな……、久慈の現場で暴走する悪癖を抑える、とどめの一手があれば良いんだけど」
『実は秘策があるんですよね、クジっちは嫌がりそうだけど。興味あります?』
「ほう?」
キルトには久慈を抑える手があるという
その詳細を聞き出したメイプルの表情は、やがて薄気味悪いほど満面の笑みへと変貌した
方針は決定した。あとは実行あるのみだ!
□□■
738 :
次世代ーズ
◆John//PW6.
[sage]:2023/11/15(水) 21:50:55.55 ID:/8cLRL+Ao
メイプル
「組織」Pナンバー所属の黒服、キルトや佐川久慈の上司にあたる
現世代編(20年前)より後になって「組織」に加わったので、そこまで古株な人員ではない
個性豊かな上司と個性豊かな部下に挟まれストレスにまみれながらも日々戦う下位管理職
遠倉千十(とおくら せと)
「組織」所属契約者、東区の高校に在籍する高校一年生
学校の怪談「トイレの花子さん」(現象型)と契約しているようだが、本人は最近までその自覚がなかった
「先天性能力発現不良」により都市伝説の気配や契約者の力を知覚できても彼女自身は能力を発動できない難儀な状況にある
佐川久慈(さがわ くじ)
「組織」Pナンバー所属の黒服、元「飯綱使い」(「管狐」の契約者)
「組織」加入は大体四年くらい前だが、未だに新人研修を修了していない若葉マークの女子
いろいろあって一応この年の春にキルトら「応援部隊」の配属になった(正式なメンバーではない)
キルト
Pナンバー所属の黒服、「応援部隊」のリーダー
褐色肌にエルフ耳という明らかに日本人離れした容姿で、仕事がデキる雰囲気のお姉さん
新人研修の頃から後輩である久慈の面倒を見つつ可愛がっている
739 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2024/08/07(水) 22:28:38.13 ID:oI3GiWJm0
狐イベントが解決したら契約を剥奪されて記憶も消されそうな恐れがあるが
狐側所属の唯ちゃん…もっと活躍してるところが見てぇかった…
賭けに負けて先生の診療所できわどい衣装で嫌々コスプレさされてるとこを見てぇかった…
変態野郎を本気で罵倒しながら直接切り捨てるとこを見てぇかった…
下級生女子組の前で何がとは言わないが「大きくて肩こるだけだし邪魔」と発言して様々な感情を呼ぶとこを見てぇかった…
まあやましい目で見ているのは空井雀君、君もなんだけどな…
740 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2024/12/24(火) 18:07:09.13 ID:gZVaECBUo
作業環境が大幅に変わったのでテスト
741 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[!桜_res]:2024/12/24(火) 18:08:10.10 ID:gZVaECBUo
この話はほんのりピンク方面に偏っています
お許しください
742 :
健康シリーズ: 山の探索には入念な事前準備を!
[saga]:2024/12/24(火) 18:09:04.89 ID:gZVaECBUo
昔々――ではなく! 現代と変わらない時分か、現代よりも少しばかり未来の時分
ある所に――ではなく! 具体的には東北地方か、もしくは甲斐多摩秩父地方の山奥に、鬼気迫る雰囲気を発した一人の男が彷徨っていました
「巫女様……! 巫女様はいずこ……!?」
亡者のような面持ちでうわごとのように独り言を口走るこの男は、鬱蒼とした山林のなかを奥へ奥へと進んでいるのですが
しかし登山目的でやって来たにしては、薄手のパーカーにカーゴパンツそして形ばかりのサファリハットと、いささか軽装すぎる格好です
もしやこの男は下調べや下準備もせずにピクニック気分で山へ入った挙句、遭難しかけているのではないかという様相を呈しています
それもそのはず、この男は半ば意図的に遭難しかけの山中探索を決行していました
「いやしかし、まさか遂に実地で『山中で遭難したら、美少女巫女に助けられた』というあの伝承の真相を確かめることになろうとはな……!!」
半ばずり下がったビン底眼鏡を指で持ち上げ、両手に開いたノートから顔を上げて、男は怪しい表情に薄気味悪い微笑を浮かべながら、そう口にしました
山や田舎を舞台にした与太話で時折、実しやかに語られるシチュエーション
「道に迷い、もしくは遭難した際に、美少女に助けられて、なんかいい感じのもてなしやら、気持ちのいい不思議な体験やらをする」
……この「美少女」の部分が「この世のモノとは思えない妖艶な雰囲気をまとった美女」だとか、もしくは「美しい巫女」だったりと複数バリエーションがありますが
とにかくそういう感じのネタは古今東西の日本昔話だとか怪談だとかほんのり不思議な話だとかで語られてたりするわけです、多分
そう、この男はこうした胡散臭いネタが果たして本当に存在するのかを確かめるべく、無謀にも軽装での登山探索を決行したのです
整備済み登山道から大きく外れ、どこへ続くかも分からない獣道を進むこと数時間
既にお天道様も大きく西へ傾き、もう一時間もせずとも周囲は夕闇に呑まれてしまう時間帯になっていました
おまけに山は天気が変わりやすいと云われるように、何やら先ほどから辺り一面に霧が立ち込めてくる、いかにもな雰囲気へと変貌しています
「ネットの目撃情報を吟味するに、恐らくこの山が最も遭遇確率が高い! しかもさっきからイイ感じの激ヤバ雰囲気!
これはアレかもしれんぞ、巫女様に勢いで求婚すればワンチャンあるかもしれんぞ!!
つまりこれは山中のお屋敷に招待され、そのまま [NSFW] [NSFW]……! さらには [R-18] [R-18] [R-18]!!!! うおおおおおおおっ!!!!」
この、控えめに言っても最悪な状況の只中にあって、しかし男はテンション爆上がりの奇声を発していました
とは言え、霧だけではなく何処か不吉な気配も漂い始めたこの山中をさらに進めば、この男は間違いなく遭難コース突入でしょう
というか現時点でもはや遭難しているといっても過言ではない状況なのですが……、果たしてこの男はどうなってしまうのでしょうか?
と、その時でした!
「あのぉー……、すいませーん……! お独りでお山のなかを迷ってらっしゃるように見えたんですけどー……、大丈夫ですかぁー……!?」
なんと木々の影に隠れるかのように、恐る恐るといった体で男の様子をうかがう人影が、男に声を掛けてきたのです!
声を聞く限り女性! それも声質的にきっと美少女!!
男は咄嗟に声の方向へ振り向くと、下心に塗れた心眼を発揮して影の正体を見定めました
なんとそこに居たのは、男が求めに求めていた巫女様ではありませんか!!
743 :
健康シリーズ: 山の探索には入念な事前準備を!
[saga]:2024/12/24(火) 18:10:01.31 ID:gZVaECBUo
「おお!! おお!!!! 神よ!! 神様よ!! 感謝します!!!!」
男はその場で崩れ落ち、拝むように巫女様に向かって手を合わせながら号泣し始めました
一方、巫女様の方は男の唐突すぎる奇行に 「ヒッ!!」 と悲鳴を上げ、木々の影に身を引っ込めました
実は巫女様は男が「巫女様に勢いで求婚すればワンチャンあるかもしれんぞ!!」などと口走る少し前から男を発見しており
(ひょっとしてあの人、遭難しちゃったのかな……?)などと疑念を抱きながら様子をうかがっていたのですが
いきなり絶叫し始めた挙句、亡者のような面持ちで獣道を進もうとするこの男のことを(もしかして、アブない人なのかな……!?)と不安視、ではなく見守っていたのです
しかし声を掛けてしまったために、男には自分の存在が知られてしまいました
巫女様は「あー……うー……」という困ったような声を発しながらも、ようやく木々の影から姿を現しました
「うっ……! う、美しい……!!」
おずおずとした様子で男に近寄る巫女様の容姿に、男は歓喜の嘆息を漏らしました
それもそのはず、巫女様は身長もデカい! 胸囲もデカい! ケツもデカい! ついでに腹回りもデ……まあまあな感じの!
それはそれは、男の性癖にずばりクリティカルヒットな体型のお若い女性なのでした
年の頃は20代前半、いえもしかするとフレッシュ10代なのかもしれません
ところで巫女様の腰元には一差しの刀のようなものが垣間見えるのですが、男は気づいていない様子です
「あのぉー……、お山登り中だったのでしょうか……?」
「ええそれはもう! この山には霊験あらたかな神社があると聞き!
そして、その神社には見目麗しい巫女様がいらっしゃると聞き! はるばるやって参りましたァ!!」
「あう……、だいぶ登山道から外れているようなのですが……」
やたら勢いのある男の言葉に圧され、巫女様の声は心なしか口ごもり気味でしたが
さすがの彼女も男の軽装に気づいたようです
「ところで、こんな薄着でこのお山を登っていらしたんですか?」
「えっ、はい。まあ最悪野宿することになるかもと思ってたんですが、別にこのままで問題なしかなって」
「問題大ありですよ! 何を言ってるんですかぁ! お山の天候は急変しやすいんです!
特にここは霧が出やすくて……! そんな薄着でお山登りなんかしたら体調を崩すだけじゃなくて命にも関わるんですよぉ!?
『お山登りには入念な事前準備が大事!』 なんです!!」
「なるほど……! ところで、巫女様はもしかして、こんな俺のために、わざわざ助けにやって来たのですか……!?」
「えっ……? あっ、いやっ、そういうわけではなくてですね。あっ、私はちょっとした所用の帰りでして」
「しかし巫女様、こうしてお逢いできたのは何かの縁です! きっとそうですよええ!! なので巫女様!!」
男はいきなり興奮し、大声と共に巫女様の無防備な両手を握りしめました
そして キリッ! とした顔つきで
「巫女様、俺と結婚してくだちい」
とんでもないことを言い出しやがったのです
「ええっ!? えええええっっ!?!? どっ、どっ、どうしてそうなるんですかぁ!?」
「はい、実はですねここの神社には美女巫女様がいらっしゃるというのは既に知っていたのですが
ネット情報だと山中に巫女様が出歩いているところをごく稀に見ることができるという報告があったものですから
俺は長年確かめたかった『山中で遭難したら、美少女巫女に助けられた』という真偽不明のネタの出所はここじゃないかと調査に来たんですよ
それはそれとして、こんな遭難待ったなしの状況下で実際にあなたのような美しい巫女様と逢ったりなんかすれば、男女のなんかこういい感じで顔の近いやり取りというのを否が応でも期待しちゃうではないですか
すいませんねさっきからオタク特有の長文早口になってる自覚はあるんですがもう止められないんですよ、仕方ないですよねこんな夢にまで見たシチュでまさか性癖ドストライクの巫女様にお会いするなんてもうこれは運命ですよゲヘヘ」
「なっ、なっ!! 何言ってるんですかぁ!? そ、そんな、2000年代に大量生産されたエロゲじゃあるまいし!
巫女さんとかメイドさんとかが登場するエロゲじゃあるまいし! 私もそういうの嫌いじゃないですけど!!」
744 :
健康シリーズ: 山の探索には入念な事前準備を!
[saga]:2024/12/24(火) 18:10:28.18 ID:gZVaECBUo
「ほう巫女様もその手のエロゲを嗜んでおられましたか、こんなお若いのに
もしや巫女様もビジュノベやサンノベや泣きゲーなどに手を出しておられたり?」
「えっ?えっ?? ハッッ!! あっ、なっ、何を言ってるんですかぁさっきからぁ!?
そんなっ、私は、エロゲ、あっ、おっ、そそそっ、そんな、知らないっ! イカがわしい、ゲームなんか、知らないですよぉ!??」
「うん? 嘘は良くないですぞ巫女様! さっきの話しぶりからして嗜んでおいででしょう! R-18のアダルトなゲームを!!」
「あっあっあっ! 知りません! 私なにも知りませんよぉ!??」
「巫女様!? 巫女様なぜ逃げようとするんです!? とにかくここでこうしてお逢いできたのは運命ですよ!! ちょっと待て逃げないで!!」
「うええええええええええっっっ!! キョウコ先輩助けてぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
「なっ!? 巫女様!!」
男との会話で何やら追い詰められた面持ちの巫女様は、男の手を振り切るとパニックを起こしたようにその場から逃げ出しました!
ここで巫女様を見失ってしまえば男は完全に遭難! なのですが、男は別の意味で巫女様を追い掛ける気満々でした
そう、未来のお嫁さんをみすみす逃してしまうなんて、今の男の精神状態的には無理な相談なのでね
そして、十数分後!
「はぁっ! はぁっ! こんな、山のなかでっ、私を追いかけてくるなんてっ、見た目の割にっ、タフなんですねぇっ! はぁっ」
「ゼェっゼェっ、巫女様を見失うわけには、いかないという、一心でした……! ゼェッ」
山中を仲良く追いかけっこしていた二人は、見事に息切れしてその場に座り込んでいました
追いかけている間、男は全力ダッシュで揺れに揺れる巫女様のケツに妄執の籠った視線を向けており
その視線を察知した巫女様が謎の悪寒に襲われて更に逃げ足を速める、という一幕もあったのは、ここだけの話です
「巫女様、そのですね、こうしてる内にも霧がだんだん濃くなって、完全に陽も落ちてしまったようなのですが……」
「うー……、そうですね。今から下山というのも却って危険なので……。ひとまずあなたを『刃守神社』へ案内します。付いてきてくださいますか?」
「や、それがですね、巫女様。さっきから妙に力が抜けて、足に力が、入らない……」
「えっ!?」
先ほどは男の迫力と気色悪さから思わず逃げ出してしまった巫女様でしたが
男の顔色が一段と蒼白になった様子に気づいたのか、彼のもとへ近寄りました
「巫女様、俺はもう駄目です。多分『山の怪』に取り憑かれてしまったかもしれません。まったく体に力が入らないんです」
「あっ、いえ、これは『山の怪』の仕業ではありません。恐らくハンガーノックです」
「なん、だと……?」
745 :
健康シリーズ: 山の探索には入念な事前準備を!
[saga]:2024/12/24(火) 18:10:57.28 ID:gZVaECBUo
「あのぉ、日中はきちんと食事を摂りましたか?」
「いや、この山を探索することばかり考えてて、主に文献を読み込んでいました。強いて言えばコーヒーを飲んだくらいですね」
「ええ……?? あの、リュックに携行食や登山食などはありませんか?」
「いや、リュックの中身は全て文献とノートですね。食糧などは特に」
「お馬鹿! お馬鹿さん!! 登山道があるからって甘く見てましたね!? 駄目ですよ駄目ですよ!!
このお山一帯は限界集落化してますしお山登りしようなんて人は滅多にいませんしほぼ管理されていませんし遭難リスクが意外と高いんですよ!?
それに別の危険もあるのに、こんな軽装で! 食べ物も持たずに! こんな時間帯にお山登りなんて無謀そのものです!!
どうか肝に銘じてください!! 『山の探索には入念な事前準備を!!』 ですよ!? いいですかぁ!?!?」
「あっ、はい。すいません」
「どうしましょう、私もすぐに食べられるようなものは……、あっ! 緊急用のタブレットが確か……、ありましたぁ! 今はこれを食べて辛抱してください!」
巫女様は装束のあちこちをまさぐっていましたが、やがて懐から非常食のブドウ糖タブレットを取り出しました
お口のなかで優しく広がる、夢のくちどけな感じのアレです
「はいっ、あーんしてください」
「あっ、はい。すいません。あーん……、はむっ、んむんむ」
「ひっっ!! ちょっ、あっ、なっ、ゆっ、指は食べちゃ、はひゃっ」
「むご! むごご!! (巫女様のおみ指ごと頂ける機会なんて今後一生無いでしょうから今のうちに味わっておかないと! これは運命ですよ!)」
「指は食べちゃダメですっ! ちょっ、あっ、くすぐった!!」
お優しい巫女様は男をあーん♥させてタブレットを食べさせてあげたのですが、なんと罰当たりなことに男は巫女様の指ごと頂いてしまいました
おかげで巫女様は男が指に吸いつき、あますところなく舐め付くたびに、身悶えしながらへんな声を上げることになってしまいました
「も、もうっ、指ごと食べるのは禁止です! 禁止っ!」
「あっ、はい。つい下心、じゃなくて出来心で」
「すいません、そのまま動かないで休んでいてくださいね。私たちの気配に惹かれたのか、姿を現したようです」
「うん? 巫女様、何の話でしょうか?」
「あれです。見えますか? あれこそが『山の怪』です」
「なん、だと……!?」
巫女様が静かに示す方向を凝視した男は絶句しました
それは、深く立ち込める霧の中にあって自身の存在を誇示するように突っ立っていたのです
一本足に、白くのっぺりとした体、何より特徴的なのは頭部がない代わりに胸辺りに顔のようなものが存在する胴体
そう、それはネット怪談は洒落怖発の人気怪異、「ヤマノケ」そのものだったのです!
「テン♥ ソウ♥ メツ♥♥ テン♥ ソウ♥ メツ♥♥」
……なにやら「ヤマノケ」は巫女様を見て興奮しているような雰囲気ですが、考えない方がいいでしょう
けんけん、と一本足で飛ぶようにしながら、「ヤマノケ」はゆっくりと、しかし着実に男と巫女様の方へ接近していました
「私の影に隠れるようにしていてくださいね。私はアレを処します」
「えっ? えっ?」
746 :
健康シリーズ: 山の探索には入念な事前準備を!
[saga]:2024/12/24(火) 18:11:37.24 ID:gZVaECBUo
巫女様は一息に鞘を払いと、刀を正眼で構えました!
その瞬間、「ヤマノケ」と巫女様との空間を隔てるように一筋の“線”が張られた気配を、男も確かに感じました!
まるでその“線”を越えてこちらへ侵入するならば容赦しない、そのような緊張が走ります
そして、――それにもかかわらず、「ヤマノケ」がさらにこちらへ接近しようとした、次の瞬間です!
「 、 『 』 」
「あギャっ♥♥」
巫女様がなにかこう、意味ありげな台詞を口にした途端、「ヤマノケ」は縦に真っ二つになってしまいました!
ただし血が噴き出すこともなく、直前まで「ヤマノケ」だったものは砂のように崩れ落ちてしまったのです!
そして、いつのまにか巫女様は刀を鞘へと納めていました
「ふう、今日はいかにもな雰囲気だったのに一切怪異の類を見なかったので不安だったのですが、やっぱり隠れてただけで居たようです。油断大敵ですね、ふう」
「……巫女様、今のは一体!? いやっ、貴女は一体!!??」
「あっ、ふふん。これでも『刃守神社』の巫女ですので! ふふん」
驚く男に対し、どこか得意気な巫女様は自分が神社付きの巫女などと言っておりますが
まあ平たく説明すると、彼女は怪異の類と戦うために都市伝説――というよりとある伝承と契約した能力者なのでした
国土の実に75%が山地であるという本邦ですが、霊的に決して無防備というわけではなくそれぞれの山を守る神様がいらっしゃいました
なのですが……! 巫女様と男が今いるお山は守りの神様が存在しない、「神の空位」と呼ぶべき事態が発生していたのです!
とはいえそれはこの現代にあって珍しいことではありません
元々守り神様と人間は持ちつ持たれつ、祀りが途絶えて拠り所を失ってしまえば、神様といえどその力を維持できません
神様がいなくなり、霊力……、人間が「パワースポット」などと呼んだりする空間……、そうした霊力だけが残った山地を狙い、土着もしくは他所から流入した怪妖が居着くケースも増え始めました
なかには力をつけた怪妖が罰当たりなことに自らを「神」と称するケースすら発生し始めたのです!
このお山もまさにそうした状況下にありました
麓の村ははるか以前より高齢化と過疎化による限界集落化が進行しているものの、まだまだお山の神様への信仰は篤く、神事は継承されていました
村民の尽力もあってか、お山の神様は人の姿で顕現することが可能で、神事の度に神様もまた村の繁栄を願っていました
しかし、何時の頃からかお山の神様が姿を消し、魑魅魍魎が徘徊する魔の山と化してしまったのです
挙句の果てには化け物の如き魔性が「山の神」を名乗り、村に対して生贄を要求する不穏な事態にまで発展しました
「刃守神社」――、このお山にある小さな神社は元々お山の神様への奉仕を行っていましたが
魑魅魍魎が跋扈するようになって以降は、お山を含めた区画全域に「結界」を張り、魑魅魍魎を「結界」外に出させず、その活動を抑制するとともに
そのなかにあってなお襲撃しようとする怪異の魔手から、村民やごく稀に訪れる登山者を守るべく、必要な対処を施してきました
「刃物は魔除けになる」――、それはいわゆる都市伝説と契約者の界隈では稀少度(レアリティ)が「ありふれている」(コモン)程度の能力なのですが
「刃守神社」の巫女たちは、この伝承と契約し、代々継承することにより能力を向上させています
そして、男を助けた巫女様もその一人として、山中で行き迷った人を助け、襲い来る魔性を祓う活動を続けてきた……そういうわけです
「緊急用のタブレット程度じゃ、お腹空いたままですよね……。私が頑張って負ぶりますから、神社までの間は辛抱してくださいね」
「みっ、巫女様が負ぶってくださるのですか!? ヒャッホウっ!! ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「あのっ……、叫ぶのは無しですからね!? (あなたのことが)怖いので……」
一部の台詞を飲み込んでおずおずと背中を見せた巫女様に、男はまるで抱き着くようにへばりつきました
747 :
健康シリーズ: 山の探索には入念な事前準備を!
[saga]:2024/12/24(火) 18:12:03.23 ID:gZVaECBUo
「巫女様からほんのりいい香りがしますね……! たまらんっっ!!」
「ヒッ……! に、においを嗅ぐのも禁止ですっ!! 汗かいちゃってるので臭いですよぉ!!」
「背中越しに伝わる体温、肌触り、この張り具合とぷに具合……、まさしく本物っっ……!!」
「へんなこと言わないでくださいぃー……!!」
背中の男が再び妄執と劣情に満ち満ちた激ヤバな目つきになっていることにどうにか知らないふりをして
巫女様は男の吐息が耳に当たるのをどうにか我慢しながら、闇に沈んだ山中を「刃守神社」に向けて歩き出しました
(ううっ、こんなときキョウコ先輩がいてくれたら……!!)
と、巫女様は心のなかで頼れる先輩巫女に思いを馳せますが
すぐさま首をブンブンと横に振りました
(キョウコ先輩はもういない! 私が、私がしっかりしなくちゃ……!!)
そう、キョウコ先輩はもう「刃守神社」にはいません
といっても死去したり行方不明になったりしたわけではなく、円満退“社”でした
キョウコ先輩は巫女様に、刀剣の扱いから神事作法まで、神社での奉職に必要となる知識と技術を手取り足取り教えてくれた先輩巫女で
優しく、明るく、まるで太陽のような人だったので、巫女様は先輩のことを実の姉のように慕っていました
ですが、数年ほど前にお山の信仰を調査に来た大学院生の男性が怪異に襲われていたところをキョウコ先輩が助けたことがきっかけで
院生さんと先輩は清い交際を続け、ある青い満月の夜に情熱的なまぐわいを経て、丁度今から一年ほど前にめでたく寿退“社”したのでした
それからというもの、巫女様は時折心の中のイマジナリー先輩と会話しながら、どうにか現在までやって来たのですが
さすがの巫女様もとうとうキョウコ先輩が去った後の現状を受け入れなければならないときが来たようです
(この男の人を神社に連れ帰って、一泊していただくとして……)
巫女様は現在神社に詰めている仲間たちについて考え始めました
まず大婆様、厳密には巫女ではなく神社唯一の神職者です
長く神社の管理運営を行いながら、麓の村を脅かす怪異やその他脅威と戦い続けてきた女性でもあります
ですが、十数年前に旦那様に先立たれ、そのうえ何かと張り合っていた先代村長が数年前に逝去して以後は、日がな一日ぼんやりするようになり
つい数か月ほど前からは頬を赤くしてニコニコしながら 「昭蔵さんや、行ってきますのチュウはまだですかの♥」 と壁に向かって独り言を話す頻度が増えました
ちなみに昭蔵さんとは亡き旦那様のお名前です
本当は当時の夫婦生活を彷彿とさせるかなり生々しい独り言が他にも色々あるのですが、大婆様の名誉のためにここでは割愛します
続いてお局先輩、これは俗称です
巫女のなかでは最も長く神社に勤めているベテランの先輩巫女さんで、キョウコ先輩不在の際は彼女が複雑な神事の手順を後輩巫女に教えてくれたりしていました
物腰柔らかでお淑やかな女性で決して悪い人ではないのですが、巫女のなかでは年齢が最も高いことを気にしており
より具体的には、とうに婚期が過ぎていることを非常に気にして、常に行き場のない母性を持て余し気味のようで
自分のヒモになってくれる成人男性もしくは未成年男子を猛禽のような目つきで探し回っているのです
この男性に対する妄執の所為で、先代の村長からは村在住男性への接近禁止の言霊が発せられていました
そして先代村長は臨終の床にあってもこの言霊を撤回しなかったため、お局先輩はこれから先ずっと村の男性に手を出すことができなくなってしまったのです
キョウコ先輩から聞いた話では、不幸にも彼女に男性が捕まってしまった場合、ものの半日で廃人に近しい状態になってしまうとのことでした
そしてヒオリ先輩、キョウコ先輩が太陽ならヒオリ先輩は月とでも呼ぶべき先輩で
クールで冷静沈着、眼鏡が似合う理知的でデータ主義な巫女
性格的にキョウコ先輩と時折衝突しながらも共に奉職する良きライバル的なポジションだったのですが
キョウコ先輩退“社”後の心の虚を突かれたのか、かなり邪悪で変態で女の敵な怪異に心身を弄ばれてしまい、その後遺症によりここでは口に出来ないような大変かわいそうな精神状態になってしまいました
大婆様とお局先輩による継続的な癒しの神事により、現在では一週間に二日程度なら正気に戻るレベルにまで回復しています……が、まだまだ予断を許しません
少なくともこの三人にはこの男の人の世話を任せるわけにはいきません
最悪でもお局先輩とヒオリ先輩を男の人に接触させてはなりません
さもなくば廃人まっしぐら、もしくは搾り取られてしまうので
残る巫女は、キョウコ先輩と入れ替わる形で入“社”した後輩ギャル二名です
学校を卒業したてで、SNSとWi-Fiが無いと生きていけなさそうな現代っ子ですが、しっかり奉職してくれる頑張り屋さんの後輩巫女でもあります
聞けば 「ウチら田舎でスローライフの方が合ってるぽいんすよね」 ということで、自ら望んでこの田舎なお山へやって来たようです
ちなみに巫女様とは年齢が近いのですが、世代が違うせいか趣味の話があんまり噛み合いません
あと、うち一名は刃物のチョイスが非常に変わっており、刀や薙刀ではなく何故か鎖鎌にこだわっている、ちょっと変な子です
(男性のお世話は、私と後輩ちゃんで頑張るしかなさそうですね……!!)
748 :
健康シリーズ: 山の探索には入念な事前準備を!
[saga]:2024/12/24(火) 18:12:47.08 ID:gZVaECBUo
背負っている男がエラい表情で巫女様のうなじの香りを吸い尽くしていることも露知らず
巫女様は今晩を乗り切るための決意を固めていました
「この男の人となら趣味の話が合ったりするかな」だとか、「昔のエロゲの話とか、後輩ちゃんには出来ないような濃い目の話もできるのかな」だとか
「今の私ってこの人と伝奇系エロゲみたいな出会い方してるんだよね……、この人ちょっと言動が怖いけど悪い人じゃないのかも。この後ひょっとしてひょっとしちゃったりするのかな、へへ、ヘヘヘ」だとか
そんなやましいことを一切考えてなどは、いないはずです。多分、多分ですけど
そして二人は闇夜のなかを「刃守神社」に向けて進んでいきましたとさ
めでたし、めでたし
えっ? この後どうなったか、ですって?
そりゃあおめえさん、山に入った動機も不純なうえに、巫女様と運命的な出逢いを果たした後も下心丸出しなこの男に
ムッツリなようでムッツリじゃない、でもちょっとムッツリな気のある巫女様が、一晩同じ屋根の下で過ごすとして何も起きないはずがないでしょうよ、ええ
そのうえ、向かう先の神社には旦那様に先立たれて男とはすっかりご無沙汰な大婆様に
村の男性とは接触不可能なので山を訪れた男を押し倒すしかすべがない飢えた未婚巫女に
明らかに婉曲表現でぼかされているとはいえ、間違いなく [R-18] 方面な精神状態になっちまってる眼鏡巫女に
いくらスローライフ志向とはいえ、潜在的には男を求めたい盛りの10代女子が二名もいるとなっちゃ、最終的なことを防ぐなんて無理でしょうよ、ええ
まあ巫女様も同様に、男性との接触が極端に少ない中で!
話が合いそうな年齢の近そうな男が目の前に現れたとなっちゃ!
恐らく入浴前後か、就寝前の暇を持て余したタイミングで、なにかが爆発する可能性しか残されていないわけで! ええ
……あとは、わかるな?
【とっぱらりんの、ぷぅ♥】
749 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2024/12/24(火) 18:15:06.75 ID:gZVaECBUo
【とっぱらりんの、ぷぅ
♥
】は隠語ではない
テスト中にいくつか問題が生じたので、そっちを何とかします
しかしまさかクリスマスにやって来ることになるとは……
750 :
ブラックサンタに人権はない、何故なら人ではないから
[sage]:2024/12/26(木) 13:38:18.56 ID:sWVnnYwRo
12月24日、クリスマス・イヴ
俺は屋外掲示板にポスターを貼り付けるバイトに従事していた
本来は別でバイトしているのだが、シフトが年末年始に集中した都合か、この時期は絶妙に暇になってしまった
講義もなく、他の連中も彼女その他とよろしくやってるのか飲み会に誘われるなどもなく
今年もクリぼっちで過ごすことになるのかと思っていた矢先、学校町内で超短期のバイトが募集中だったので暇つぶしもかねて応募したのだ
「しっかし……すごい表情だな」
ポスターにでかでかとプリントされているのは、「ブラックサンタ」を名乗るおっさんの顔面だ
血走った両目で見る者をエラい形相で睨みつけ、ガッツポーズを取っているという、なんとも味わい深い絵面だった
おまけにでかでかと映った顔の両脇には「クリスマスをぶっ壊す!!」だの「クリスマスから学校町を守ります!」だのと、これまた香ばしいワードが並んでいる
ポスターのデザイン的に政治活動か何かを彷彿とさせるが、実際のところは何らかのイベントらしい
あと、このポスター掲示は事前に行政の許可を取ってある、という点をバイト前に何度も強調された
よくOK出したな、学校町
「よし……と、まあこんなもんかね」
そもそもポスターを貼り付け可能な場所は限られてるので、持たされたポスターもそれほど多くない
いま貼ったのが最後のポスターなのでこの仕事はこれで終わりだ
と言ってもバイト自体はまだまだ続く。イベントの撤収までが仕事の内だからな
さっさと戻るか
「あ、あー。バイトの諸君、各々の作業、誠にご苦労であった」
急造と思しき仮設プレハブのイベント設営本部
眼前のテーブルには各種料理の数々が並び、バイト数十名を挟んで前方には自称「ブラックサンタ」のおっさんが立っていた
ここがイベント会場ってわけでもないのに、この旨そうな料理はなんだ?
「これより一時間半ほど後に、南区の会場でイベント本番が開催されるのだが
あ、あー。バイト諸君には、このブラックサンタの衣装に着替えてもらった後に、ブラックサンタ・タンフールーを配布してもらうことになる」
目が若干泳ぎながらも「ブラックサンタ」のおっさんは俺達バイトに今後の段取りについて説明している
若干声が上ずっているが……もしやこのおっさん、緊張してんのか?
「ちなみにブラックサンタ・タンフールーはこんな感じだ。自信作だから今のうちに見といてくれ」
別のスタッフが一番前のテーブルにガラスケースに入ったタンフールーとやらを置いた
バイトの中から変な声が上がったのも無理はない。タンフールーが何だか知らないが
目の前に置かれたそれは、「ブラックサンタ」のおっさんの生首を縦に6段ほど並べてそのまま串刺しにしたおぞましい代物だったからだ
目を凝らしてよく見れば、件のポスターに負けず劣らずの表情をしたおっさんの生首だ
絶妙におっさんの特徴を捉えているところが気持ち悪さに拍車を掛ける
こうして見るとなかなかイカれたデザインだな
「うっわ、キモカワ系じゃん」
そんな感想を漏らしたのは俺のすぐ横の女子だ
密かに視線を向けると、ピアスをバチクソに装備した女子だった。多分俺と近い年齢だ
「事前のテストモニターでは10代女子に好評だった
何がウケたのかはよく分かっていないが、トロピカルな味わいでまとめたのが決め手だったかもしれん」
「あー、確かにウケそうかも」
751 :
ブラックサンタに人権はない
[sage]:2024/12/26(木) 13:38:47.05 ID:sWVnnYwRo
おっさんの話し振りから推測するに、これ食い物なのかよ
しかも隣のピアスバチクソ女子もおっさんの話に理解を示したような様子だった
てか、この女子はちょっと俺の好みかもしれん……。とか見惚れてたら女子と目が合ったので咄嗟に視線を外した
ガン見してたのがバレたかもしれん。仕方ないだろ、童貞はこういう女子をついつい見ちゃうんだから
「とにかくだ! それまでの時間は自由なので、くつろいでもらって構わない
簡易ながらケータリングを手配した。ソフトドリンクもある。費用は全額こちら持ちなので諸君は気にせず食事を取って英気を養ってくれ
全イベント終了後に打ち上げも実施予定だ。当然代金はこちらで持つ。南区のダイニングバーを貸し切ったので希望者は是非参加してほしい」
おお、このおっさんは胡散臭いがやけに太っ腹だな
てか、たかがバイト如きにここまでする旨味ってなんだ……?
「あのー、ブラックサンタさん。質問いいですか?
超短期バイトとして応募したつもりだったんですけど、ここまで待遇が良いって聞いてなくて。正直困惑してるんですが
バイトの私達にここまでしてくれるのは嬉しいんですけど、そちらのメリットって、一体……?」
とか思ってたら、ほぼ思ってたことを代弁してくれる人がいた
眼鏡を掛けた女子のバイト参加者だ
「メリットか……。そう聞かれると答え辛いな
敢えて言えば、このイベントはかつての同胞達に向けた鎮魂……と言えば大袈裟に聞こえるかもしれないが、少なくとも私は本気だ」
お、なんかおっさんが語り始めたぞ
「もう十何年も前の話になるか。『ブラックサンタ』に『ルベルグンジ』、その他有象無象の連中と一緒にこの学校町に襲撃を掛けたんだ
丁度この時期だった。だが、仲間のほとんどがこの町の契約者共と、後ろで糸を引いていた『組織』の悪辣な罠によって――」
「全員動くな!!!!! 『組織』DA!!!!!」
「――バカなっっ!? 『組織』だと!? 何故っ!?」
とかやってる内に、なんか黒スーツの連中がプレハブ内部に乱入し始めた。何だこれは?
いきなりの出来事に俺達バイト連中が固まっていると、黒スーツの一人がおっさんを組み伏せて締め上げだした
「お前が『ブラックサンタ』だな!? 無駄な抵抗はYAMERO!! 死にたいのか!?」
「抵抗してないだろ!!!! お前が締め上げるからあだだだだだだだっっ!!!!! やめろっ!!! 離せっっ!!!!!
俺は今回は能力使って事件起こそうなどとしているわけじゃねえぞっっ!?!? これはれっきとした正当な、おいやめ、あだだだだだだだだっっ!!!!!」
「はーいみなさーん、こっちに注ー目!!」
おっさんが締め上げられて叫んでいる中、ひときわ大きな声が響いた
俺達は思わず声の方向に目をやると、黒スーツの奴がなんかを頭上高くに掲げていた
「いかん!! バイト諸君そいつの光を見るんじゃあなぁぁぁいっ!!!!! 逃げろっ!!!!! 逃げるんだっ!!!!! 逃げ」
急に頭の中が真っ白になった
俺は何故か屋外に突っ立っていた
周囲を見渡すと似たような感じの奴が何人かいた
おかしい、俺はバイトのシフトが年末年始に集中した都合か、この時期は暇で
他の連中も彼女その他とよろしくやってるのか飲み会に誘われるってこともなく、今年もクリぼっちで過ごす予定だったのだが
一体、俺はここで何をしていたんだ? 直前の出来事は何も思い出せん
などと、ちょっとした記憶の空白に混乱していると、黒スーツの人が俺達の注目を集めた
話によるとこの人は警察らしい
752 :
ブラックサンタ人権無
[sage]:2024/12/26(木) 13:39:12.74 ID:sWVnnYwRo
「君達は騙されて闇バイトで集められたようです」「主犯格の男は強力なフラッシュを焚いて逃走しました」
「君達はフラッシュの影響で記憶が混濁しているようです」「が、なんの問題もありません」「最近は闇バイトが横行しているからくれぐれも注意するように」
「本来であれば君達から事情聴取が必要なのですが」「主犯格のグループを押さえたので今のところ事情聴取は不要です」「今夜はもう解散していい」
「必要があればこちらから連絡して追加の事情聴取を行うのでその際は指示に従ってください」「というわけでなんの問題もありません」
「不明点があれば警察署の生活安全課に問い合わせるように」「なお気分が優れない者は病院へ搬送するので名乗り出なさい」「すぐに楽にしてやろう」
矢継ぎ早にそんな説明を受け、そういえばそんなことがあったんだったな……という気分になってきた
頭はさっきより大分すっきりしたが、しかしどうも釈然としない
前方を見ると、眼鏡を掛けた女子がふらつく足取りで黒スーツの男達に連行されていた
俺、闇バイトなんかに応募したのか?
いやもういい。こんな日は早く帰ろう
「あの、ちょっといい?」
とか考えてたら、同世代っぽい女子に声を掛けられた
ピアスをバチクソしている女だ
普段はこんなヤバそうな女と関わることはないのだが、よく見ると好みのタイプかもしれん
「闇バイトで騙された同士で呑みません? 自分この後どうせ一人で暇なんで」
いい断り文句も思いつかないので、ついていくことにした
そうだ、酒でも飲んで全部忘れちまおう
そして、12月26日の昼過ぎ
俺はがくがくになった足取りで自分のアパートへ帰る途中だ
あの後、ピアス女子と居酒屋で夕食も兼ねて飲みつつ、いい時間になったので解散しようとしたら
女子に誘われるまま彼女のアパートへ連れ込まれ、そのまま濃厚な「性の6時間」を過ごすことになったのだ
まさか20年近く持て余した童貞を卒業することになるとは思わなかった
なんつうか、めっちゃすごかった
しかもあの女子、見た目は涼しい感じだからそういう系かと思ってたら、意外と全力で甘えてくる系だったらしい
3回やった後のことはもう覚えていない。我に返ったのは日付が変わってクリスマスの明け方だった
その時点でもう帰ろうとしたのだが、女子に押し倒されて「いいじゃん帰んなくても
♥
一緒にだらだらしろ
♥
」と耳元で囁かれた後のことはもう曖昧だ
今度はこっちから女子を押し倒して、男の凄さを分からせてやる! とめっちゃ頭に血が上ったことだけは辛うじて覚えている
どうやらその後、性の延長24時間に及んだらしい
そして意識を取り戻したのは今日の昼前だったというわけだ
しかも凄いことに女子と連絡先を交換してしまった
しかし凄かったな。思い出すだけでまた盛り上がってきた
とにかくだ。今年の年末年始もこの女子と会う約束をしたので、今までと違って今年と来年は楽しくなるかもしれない
しかし、めっちゃすごかったな……。思い出すだけでまたもりあがって
753 :
ブラ人無
[sage]:2024/12/26(木) 13:39:55.64 ID:sWVnnYwRo
「ふざけるな!! なんだこれは!! 俺はただクリスマス粉砕の決起演説をやるだけのつもりだった!! これのどこが問題なんだっ!!」
「いやもう、『ブラックサンタ』は存在自体が罪、的な?」
「到底納得できんぞ!! お前ら『組織』はウン十年前に『ブラックサンタ』や『ルベルグンジ』を無差別殺戮して、同胞をほとんど全部討伐しただろ!!」
「あー? あー、あったね確かそういえばそんなことも。あった気がするわー」
「今回のイベント開催はその弔いだ!! お前ら『組織』に一矢報いるためのな!! それも能力を使ってテロを狙ったわけでもない!! 今回は一般的な方法で開催された正当な遵法行為だろうが!!」
「それ、『クリスマス中止のお知らせ』みたいなノリですか? リアルインターネット老人会かよ」
「貴様らに俺のイベントを愚弄する資格はないだろう!!!! そもそも!!
学校町のその辺を徘徊している人面犬がなぜセーフで!! なぜ俺がアウトなんだ!! 大っぴらに能力を使ったわけでもないだろ!!
なぜ俺を襲撃した!! 理解できるように説明責任を果たせ!!」
「いや、それ決めるのはお前みたいな都市伝説じゃなくて俺達『組織』でーす。都市伝説相手に説明責任なんか果たすわけないだろ」
「不当行為だ!! コンプライアンス違反だろうが!!」
「あ、それはだいぶ認識違いです。都市伝説相手にコンプライアンスなんて守んなくていいんだよ。だって都市伝説には人権ないから」
「なんだと!? ふざけるな!! 横暴にもほどがあるだろ!!」
「あー、さっきから大声で暴言吐くのやめてもらっていいです?
俺達『組織』は都市伝説相手にコンプライアンスを守んなくてもいいんだけど、お前ら都市伝説が『組織』に暴言や暴力を振るえば立派なコンプライアンス違反なんで。お分かり?」
「[
ピーーー
]!! [
んでんでんでwww
] そんなバカな話があるか!! もういい、お前達過激派では話にならん!! Dナンバーを呼べ!! 最低でも穏健派の黒服を連れてこい!!」
「いや穏健派なんか呼んだらこっちの都合が悪んで、お前の処分は俺達で決めまーす
それに話聞いてた? 都市伝説には人権がないから黙秘権もないわけよ
拷問でもなんでもし放題だから、お前が『テロ起こすつもりでした』って認めるまでなんでもし放題なんだけど? 口の利き方気をつけたら?」
「チ、チクショー!!!! 踏んだり蹴ったりじゃねえか!!!! こんな理不尽が許されていいのか!!!! おのれ『組織』!!!! 絶対許さんからな!!!! クソが!!!!」
そして私はこの後、なんとか『組織』から逃走することに成功した
私は致命的な思い違いをしていたようだ
こちらが超常的な手段によらず正当な方法で世に訴えれば『組織』も表立った妨害をしてくることはないと
今回の一件でそれが間違いだったということが明らかになった
私が間違っていた
今後は手段を選ばず、クリスマスと「組織」の二頭巨悪をぶっ壊す所存だ
私の主張に賛同してくれる方は、是非とも高評価とチャンネル登録をお願いしたい
クリスマスと「組織」を、ぶっ壊す!!!!!!
――「ブラックサンタ」
754 :
良い年越しを! 1/2
[sage]:2024/12/31(火) 22:27:13.89 ID:tAB6uyYko
「組織」の黒服がいきなり俺ん宅に「福の神」を連れて来た
しかも暫く預かってほしいと言い出した
現在、大晦日のだいぶいい時間を回った頃合いだ
かくして俺と黒服と「福の神」様はダイニングを囲っているというわけだ
「ほんとはねぇ〰、他の神様たちと落ち合うために、お忍びでとコッショリ学校町にやって来たんだぁ〰
そしたら道に迷っちゃうし、この町なんだかあっちこっちで不穏な感じだし、お腹空いたしでぇ泣きそうだったんだよぉ〰
しかも『すまっほ』に土地神ちゃんからお電話あってぇ、なんかおっきなトラブルがあってぇ、その対処で他の神様たちが総動員しててぇ
それが片付くまで、わたしは待ってて、って言われたんだよぉ〰」
神様は上座に収まって俺の私物である清酒を舐めながら涙目だった
ちなみに神様の御姿はあからさまに未成年女子のそれである
眼前の状況が完全に飲酒法に抵触してるかなりアレな感じだ
……なんで高校生の独り住まいな俺が清酒なんか持ってるのか? だと?
別にいいだろ、そこは気にしなくても。今は神様の話に集中してくれよ
ここで話を強引に逸らすために一つトリビアだが、神様は「すまっほ」ことスマホの使い方に詳しくないようで
俺たちがその使い方を簡単にレクチャーするまで、掛かってきた電話に出ることしか出来ない状態だったらしい
「というわけでぇ、なんだけどぉ、神様たちがお迎えに来るまで、此処に居させてぇ〰! おねが〰い!」
「そりゃ勿論、構いませんよ」
俺は即答で言い切った後、ややあって黒服へと顔面を向けた
呆けた顔でこちらを見返していたが、俺の突き刺す眼差しを更に眼力強めにするとようやく察したようだ
「いや、他の神様から連絡が来たんだよ! 俺に! お福様を保護してほしいって!!
慌ててお福様を探し出して、その後は『組織』で保護する……ってワケにもいかねーだろ!?
つーわけで、申し訳ないがお前ん家にだな……」
「ごめんねぇ〰……迷惑だよねぇ〰〰……」
「あっいや!! 決してお福様のせいでは!!」
黒服の言葉に神様がションボリすると、黒服は慌てて追加説明を繰り出した。俺に向かって、早口で
「今だからこそ穏健派が優勢だからともかく、昔は過激派とか強硬派とかがやりたい放題やってたんだよ!
当然、世の神様たちにも全方位にケンカ売る感じで! 俺も又聞きだからよく知らんけど!
幸運系の神格を監禁してやりたい放題やってた連中だろ!? 今は穏健派と中立派が優位に立ってヤバい連中を抑え込めてるかもしんねーけど!
『組織』はそんな安全な場所じゃねーし! 最悪、穏健派だか中立派だかの偉い連中が神様を前にして欲に目が眩むってリスクもありうるだろ!?
信頼できんのお前しか居ねーんだし!!」
「たしかにそうだよねぇ〰、大体びっぐねぇむな神様たちは、お金持ちとか大企業とか大神社とかが囲い込んでたりするからねぇ〰」
何やら「組織」に批判的というか警戒心を隠そうとしないこの黒服だが
事実、コイツは自分が繋がれている「組織」という組織についてあんまり信用も信頼もしてないらしい
ついでに言うと、俺も色々と紆余曲折あったが「組織」という組織を信用していない
さらについでに言うとだな、俺は「組織」所属じゃないぞ
ちなみにこの黒服は当然、俺の担当黒服でもなんでもない
じゃあ何なのかと言うと、この黒服は俺の大事な彼女さんの担当である
そもそもの話、俺の彼女さんは色々あって「組織」に繋がれてしまっている状況でな
……なんで単発のクセに色々と無駄に背景が複雑なのか? だと?
別にいいだろ!! そこは!! 気にしなくても!! 今は神様の話に集中してくれよ!!
「二人とも知ってるぅ〰? ほんとはねぇ、神様が大っぴらに人間の福徳を願っちゃダメになっちゃったんだぁ〰
完全にダメってわけじゃないんだけどぉ、『福の神』として力を使うなら、ちゃんとした神社に籠って、御利益を与えたら
御利益でげっとした収入の大半をボス神様に上納しないといけなくなっちゃったんだぁ〰
あと、いろいろ制約もあってぇ、あんまり御利益を振りまき過ぎても怒られちゃうんだよぉ〰
世知辛いのは人間社会も、神様界隈も変わんないだなぁ〰〰 って、くたびれちゃったよぉ……」
755 :
良い年越しを! 2/2
[sage]:2024/12/31(火) 22:29:53.16 ID:tAB6uyYko
「あっはい! 上納制度ですよね? 存じ上げております!」
神様の言葉に、黒服が神妙な面持ちで合いの手を打った
俺もこれまでに見聞きしてぼんやり理解したことだが
世の都市伝説やら契約者やらが大っぴらに能力を振るうと色々と面倒くさいことになるのと同じく
この世に姿を現した神様方も大っぴらに神通力を用いると色々と面倒くさいことになるらしい
……世界のなんかの均衡を保つためにも、必要なことらしい。知らんけど
「ごめんねぇ、でもグチグチしてたら、なんだかスッキリしちゃったぁ〰
話を聞いてくれて、ありがとねぇ〰〰」
「あっいえ! 自分らで良ければいくらでもお相手しますんで! なあ!?」
調子よく黒服が応じると、俺の方に同意を求めてきた
なんか田舎の調子いいヤンキーの下っ端的なムーブしてくるんだよな、コイツ
「……そろそろ蕎麦を茹でますね。もう少しでおせちも来るんで」
俺はそれだけ答えて席を立った
お節は彼女さんたちが持ってきてくれる
わざわざ俺んとこで年を越すって言うんだから、何だか気恥ずかしい
「ねぇねぇ!! かのじょとはもう『お💖っくす』、したのぉ〰〰?」
「へっ? えっ? はっ?」
「したのぉ〰〰? まだなのぉ〰〰?? きみもお年頃だし、したいよねぇ〰〰 『おせっ💖す』〰〰」
「いやあのですね!! 俺と彼女さんは!! その!! プラトニックな関係で!!」
「お前まさか嘘だろ!? もう……したのか!? おい、どうなんだ!! 答えろ!! 事と次第によっちゃお前!! マジでお前!!」
「まだだって!! なんでいきなり興奮するんだよ!! やめろよ!!!! 俺のことより蕎麦とかおせちとかに集中してくれよ!!!!」
……なんか話題が急にへんな方向に歪んだ気がする!!
しかも神様だけじゃなく、黒服まで興奮しやがった!! なんだこれ!!
しかも神様はそのロリっとした御姿で、お酒舐めながら卑猥なこと言い出すこの状況が! 色々とアレがなんかヤバい!! ヤバいぞこれは!!
「決めた!! わたし、きみのために御利益をいっぱい振りまいちゃう!!
もうボス神様なんか、怖くないもんねぇ〰〰!! 行くぞぉ〰〰!! はっぴぃにゅーいやー〰〰!! あそれ!! はっぴぃにゅーいやー〰〰!!」
うわっマズい!! 神様の御体がなんか金色に発光し始めた!!
神様!! マズいですって!! まだ年明けてませんよ!? おっっ落ち着いて!!!! なんとかしてくれ黒服ゥゥゥゥっっ!!!!
「あ゙あ゙ーーーっっ!! お福様っ!! ヤベーっす!! それ以上神通力を振るうと!!
もれなく『組織』に検知されちまう!! 急激な神通力の高まりを検知されちまいますっっ!!
ヤベーっす!! お福様っっ!! とっっ止まってくだせぇっ!! ヤベーんすよ!!
最良の場合でも俺の上司の上司の……!! とにかくおっかねえ人が来ちまいますっっ!!
最悪の場合ももっとヤベーことになっちまう!! おっっお控えくだせぇ!! どうかっ!! 平にっっ!! 平にっっ!!」
「はっぴぃにゅーいやー〰〰!! 『おせっく💖』できるように!! あそれ!! はっぴぃにゅーいやー〰〰!!」
なんか俺の股間まで金色の発光を始めやがった!!
なんで?? これはアレか!? 俺、爆発しちまうのか!?
「むふんっ💖 はっぴぃにゅーいやーだよぉ〰〰!! ここにいる全員で はっぴぃにゅーいやー💖 しようねっ!!」
神様!! それはマズい!! というかヤバい!!!!
てか俺の股間が!! 発光が!! ヤバいって!! これはアレが激ヤバな感じでめちゃヤ
【良い年末年始をお過ごしください】
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