都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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410 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 1/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:33:29.78 ID:XcJZUenvo
 








 


「観念しなさい、この変態クマ」


 震えそうになる息を、抑える
 すくみそうになる両膝に、力を込める


 私が杖を突きつけた先にいるのは商業の制服を着た男子
 いかにも呆気に取られましたといった体でこっちを凝視している
 ふざけた格好にふざけた表情のふざけきったチャラい存在だ、吐き気がする


 変態クマ
 東区の公園で変態的な暴挙に及んだ絶対悪
 あの屈辱を受けた日から、私はその正体を突き止めようと躍起になっていた

 そして、目の前にいるこいつ
 こいつこそがその許されざる犯人だ


 こいつの蛮行はあの日の暴挙だけに留まらない
 近頃、学校町の東区や南区で度々目撃されているという露出魔は
 十中八九この変態クマ、正しくはクマのぬいぐるみを操って変質的な破廉恥を繰り広げてきた本体だろう

 私は情報収集で得た手掛かりから目星をつけて犯人の捜索を続けてきた
 そのなかで浮上してきたのが、目の前にいるこの男だ

 正直、犯人が年の近い男子なのは意外だった
 しかしだからと言って、それが容赦する理由には全然ならない




 自分の鼓動がいつもより大きく響いてくる
 こいつが何か言おうとしたので思わず“炎矢”を発射してしまった
 自分の喉から悲鳴を飛び出しそうになるのを、無理矢理こらえる




「言っとくけど、余計な真似したら消し炭にするわよ」




 声が震えないように、声が上ずらないように、頑張って抑えつけた
 そう、これは戦いだ、絶対に気取られてはいけない
 以前の繰り返しになっては、絶対に駄目だ


 落ち着け、落ち着いて自分、大丈夫
 こうして対峙することは前々から決めていたし
 これまでにやるべきことも、事前準備も、きちんとしてきた


 だから今日、此処でこいつを仕留めないと――!










 
411 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 2/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:34:11.54 ID:XcJZUenvo
     
 








「千十は今日バイト休みよね?」
「え? うん、そうだよ」


 時間は戻って、今日の放課後
 HRが終わった後、私は千十に念のためこの後の予定を確認していた


「これから予定ある? どこか寄ったりとか」
「今日は……うーん、そのまま帰ろうかなって」


 それがいいわ、私は大きく首肯する
 そもそも今日の千十は朝から具合が良くなさそうだった


「安全な大通りから早めに帰った方がいいわ。できれば陽のある内に」
「……ありすちゃん、何かあったの? 今日、ずっと、怖い顔してるよ?」


どこか遠慮がちにそんなことを訊く千十に、私は少し言葉を選んだ


「東区から南区にかけて露出魔が出没しているのは知ってるわよね?」
「うん、何度かホームルームでも先生が注意してたよね」
「その露出魔、契約者よ。間違いないわ。それもかなり悪質なやつ」
「え……」


 最近この町を徘徊する変質者は、なにも都市伝説だけじゃない
 なんでも新たに変態の露出魔が出没するようになったらしいのだ
 クラスでもその都度担任から注意するよう通知されている

 案の定、千十は表情を曇らせた
 別に怖がらせるつもりじゃないけど、でも伝えておく必要はある


「もしも二足歩行するクマのぬいぐるみを見かけたら、絶対に近づかないで
 全力で逃げて、余裕があったら私に連絡して」

「あの、ありすちゃん。これから何するつもりなの?」


 千十は私と同じく、契約者だ
 この子は普通の契約者みたいに能力が使えるわけじゃないらしいけど
 私と同じように都市伝説やら怪異やらの類を知覚することができる
 その所為でこれまでにも何度も怖い思いをしてきたらしく、都市伝説に対して恐怖を抱いている

 そして千十も知っている
 私が契約者であることも、有害な都市伝説をできる範囲で撃退していることも


「変質者の目星はついてるの
 犯人はどうも南区の商業生っぽくて、能力でぬいぐるみを操作して女性を襲ってるみたい
 そいつの行動範囲が問題の露出魔とほぼ一致してるのよ。これ以上あんなふざけた真似を見過ごすつもりは無いわ」

「ありすちゃん、また一人でやるつもりなの? 危ないよ! それなら私が」

 
412 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 3/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:34:58.01 ID:XcJZUenvo
 

 千十の目を見つめる
 彼女の言葉はもっともだし、心配してくれてるのはよくよく理解してる

 確かに一人でやるにはリスクが大きいかもしれない
 反りの合わないノクターンの助けを借りる手も考えた、けれど


「大丈夫、私だって無理はしないし」


 今回は勝算がある

 でもそれだけじゃない

 やっぱり、この手で直接叩かないことには、納得がいかない!





          ●





「これでよし、と。ざっとこんなもんかしらね」


 高校を後にして問題の場所に到着する
 一応制服の下から水着だけは着てきたとはいえ
 まだマジカル☆ソレイユの衣装へと完全に着替えたわけではない

 街中でまだ日も暮れてないうちからこの格好で出歩くことになるのには躊躇したし
 作戦的に路上で着替えることになるのにも大いに躊躇した、したけれど
 今回はそうも言ってられない、状況が状況だ

 此処は東区、昼間も夕方も他の場所よりも一際閑静な住宅街の路地だ
 あいつは東区の住宅街だろうと、此処より人が居るような場所だろうと、そんな時間帯だろうと
 場所や時間に構わず、変態行為に及んでいることは調べがついている
 ましてや人気のないこの場所は、あいつにとっては格好の狩場ってとこだろう

 路面には目立ちにくい暗色系のビニールテープを貼り付けた、無数の目印
 仕掛けのために昨夕用意したものだ

 これまでの傾向から判断するに、あいつはこの時間帯、間違いなくこの道を通る
 言うまでもなくあいつの動線は把握済み、目印はそのためのものだ

 此処に隠しておいた使い古しの抱き枕を引っ張り出す
 これは囮のためのもの


「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント……      (炎の鎖、私の戦意)」


 抱き枕へ杖を向けて“熱鎖”の呪文を掛ける
 元々は敵を拘束するために考え出した呪文だけど、今回の目的は違う
 抱き枕に私の気配を編み込むため、プランAが失敗したときの代替策だ

 ここまでは問題ない
 あとはシミュレーション通りに動くだけだ
 この日のために事前のリサーチと準備は怠らなかったんだし、だから大丈夫

 抱き枕を所定の位置へ隠すように置く
 今になってまさかこんなに緊張してくるとは思わなかった
 でも、頭の中では今日の計画を幾度も練ってきた、だから、大丈夫

 プランAは「あいつの先を歩いて、襲い掛かってきたところをいい感じで返り討ちにする」
 プランBは「万が一あいつが別の道へ逸れたり、襲ってこなかった場合は、どうにかして此処に誘い出す」
 作戦と呼ぶには我ながらアバウトすぎるけど、何が起こるか分からない以上臨機応変に立ち回るしかない
 だからこれはあくまで行動方針的なものだ


「そろそろ時間ね――」


 時刻を確認して私自身の待機位置へ歩を進める
 推定通りならそろそろこの道をあいつが通る頃合だ


 大丈夫! 私ならやれる!!
 
413 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 4/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:35:38.62 ID:XcJZUenvo
 









 そして、今

 私の想定は概ね間違ってはいなかった

 あいつは確かにこの辺りに近づいてきたし、私はうまいことあいつの前方を位置取ることに成功した
 ただ、あいつは直ぐには襲ってこなかったし、よりによって今日は別の道へ逸れようとしたので
 思わず声を出して注意を引かなきゃいけなかった

 電柱の影に飛び込んで大慌てで制服を脱いでソレイユの格好に着替える羽目になったし
 結局プランBに切り替えるような形になった
 それでも、とうとう私はあいつを此処へ追い込むことに成功した





          ●





「覚悟なさい、あんたが今までやってきたことを後悔させてやるわ」


 声が震えそうになるのを抑える
 こいつに向かって、もう既に“炎矢”を放ってしまった
 絶対に逃げるわけにはいかない、此処で確実に仕留める必要がある

 大丈夫落ち着いて自分
 この日のために何度もイメトレを重ねてきた
 敵が私とほぼ同じ年齢の男子だというのは早い段階で分かっていたし
 敵が何を言ってどう動いたら、こっちはどう出るべきなのかも検討してきた


 そういえば年の近い契約者と交戦するのって初めてだっけ
 そもそも都市伝説ではなくて、契約者相手に戦ったのって、どれくらい前だっけ


 イメトレのときには思い浮かびもしなかったようなことが、今になって私の頭のなかを渦巻きだした


 落ち着いてありす、大丈夫だから
 自分にそう言い聞かせないと
 大丈夫、今なら能力の使用にはまだまだ余裕がある
 今日は私の方が有利なんだから


「ごめん、あの、身に覚えがないんだけど」



 は?

 目の前の犯人の言葉に、一瞬、頭のなかが真っ白になりかけた



 
414 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 5/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:36:22.56 ID:XcJZUenvo
 

「覚えがない? へえ、そんなこと言うの? 一言目がよりによってそれ? ふざけてるの?」


 頭のなかが真っ白のまま、ほぼ無意識で怒りが言葉になって私の口から出てくる
 こいつの表情は、なに? 動揺? もしてかして恐怖? そんな顔で私を見返している


 なんでそんな顔ができるのよ

 なんでそんなすっとぼけてられるのよ


「知らないとでも言うの? いい加減になさいよこの変態!」


 犯人が何か言い訳がましいことを口にした。何を言ってるのかなんて耳に入らなかった
 私は怒りのままに何かをまくし立てた。自分が何を言い返したかなんて覚えてられるわけなかった

 いやもうそもそも、この男の存在そのものが、論外だった

 こいつが私に何をしたきたか
 私だけじゃない、こいつがこの町のあちこちで何をしでかしてきたか
 それを思い出すだけで、マグマのような怒りが私の内側を焼き尽くしていた



「ヌルヌルのベチョベチョにするって言い放って、エロ……くっ……
 あっ、や、やらしいことしようと迫ってきたことも、とぼける気ね!?」



 不意に我に返る
 公園で受けた屈辱を口にして、そのことを思い出して、一瞬言葉が詰まってしまった



「待って本当に身に覚えがないんだけど!?」



 対してこいつが切羽詰まったような声色で即座に言い返してきた答えが、これだ



 身に覚えが、ない



 あらそう
 ふざけないで!! この期に及んでまだシラを切り通すつもり!?
 あんなやらしい犯罪行為をしでかしておきながら!?

 犯人の目を、睨みつけた


(ソレイユちゃん、メリーの勘だけどあの人は犯人じゃないと思うのー)


 何故だかこのタイミングで、いつだったかのメリーの言葉を思い出してしまう
 いつ言われたことだっけ? そのとき私はなんて応じたっけ?


 ほんの一瞬、自分のなかの怒りがフッと冷めた気がした
 こいつの返答って、全部私を騙すための演技なんだろうか? 知らないフリを続けるために?
 少なくともウソを吐いてるようには見えない。私のなかで徐々に混乱が渦巻き始めた

 
415 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 6/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:37:01.60 ID:XcJZUenvo
 

 もしも


 目の前のこいつが、変態クマの正体じゃないとしたら?
 こいつが犯人というのが、全部私の勘違いだとしたら?


「そう、しらばっくれる気ね。いいわ、いいわよ。そっちがその気なら――」


 混乱した思考とは裏腹に、勝手に言葉が口から出てくる


 ど、どうしよう
 卑劣な変質者なら人を騙すことなんて何とも思わないかもしれない
 だからこいつが本当に犯人で、こいつの答えが、態度が、表情が、全部演技の可能性だって十分にある

 でも、もしもこいつが変態クマの犯人じゃ、なかったとしたら?

 どうしよう
 こういうときは一度痛い目に遭わせて、それから様子を見るべき?


「あくまでシラを切り続けるつもりなら、本当のことを話したくなるまで、体の端から灰にしていってやるわよ!?」


 考えなしに我ながら物騒な台詞が口から滑り出た
 私はそれを、止めることができなくなっていた

 でも――そうだ、それがいい、今のはいい案だわ
 大丈夫、端っこからちょっとだけ焼いていく、それだけだから
 それで己の罪状を自白し始めるかもしれない。そうだ、拷問に掛ければいんだ


「言っとくけど、前の私と同じだなんて思ってたら、死ぬほど後悔させてやるわよ」


 目の前の男子は見開いた両目で私のことを凝視している
 もし、もしも
 この男子が、本当に変態クマの正体じゃ無かったとしたら?

 無実の人を、拷問に掛けるつもり?

 どうしよう


「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント          (炎の鎖、私の戦意)
 アルヴィル・ノッド・アルヴィル――          (強く、より強く――)」


 ほとんど麻痺したような私の頭は
 半ば無意識のうちに、“熱鎖”の呪文を唱え始めた

 この呪文で拘束されると、温度を上げて相手の身体を熱することも、焼くこともできる
 威力を上げれば火だるまにすることだって可能だ――勿論、人を[ピーーー]ことだってできるかもしれない


 どうしよう


 男子に向ける杖が、大きく震えた










 
416 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 7/12 ◆John//PW6. [sage !red_res]:2022/01/11(火) 20:37:49.55 ID:XcJZUenvo
 










 すべての音が消えた、少なくともそう感じた

 それは一瞬だった

 男子の両目が、私を捉えている



 こいつの目には、恐怖の感情が渦巻いていた

 恐怖、私に対する恐怖

 ようやく実感した、こいつが私に抱いている恐怖を



 どうしよう、私はこいつが変態クマの正体であることを前提に準備を進めてきた

 でも、思い返せば

 メリーはずっと、何度も口にしていたんじゃないか

 目の前の男子が、本当に変態クマの正体なのかと、疑念をことあるごとに口にしていたんじゃないか

 そしてそれを、私は軽く受け取るか、無視してきたんじゃないか





      くすくす      くすくすくす      くすくす





 不意に、女の人の笑い声が聞こえた

 幽かな、囁くような、嘲笑うような、そんな嗤い声が



 憑かれたように、男子を見る

 何故そうしたのかは、自分でも分からなかった





                  くすくすくすくす      くすくす         くすくすくす





 その声は当然私のものでも、男子のものでもなかった



 笑い声は、私の直ぐ耳元で、聞こえた











 
417 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 8/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:38:35.63 ID:XcJZUenvo
 








「――待って!! ありすちゃん!! 駄目!!」


 麻痺していた頭が、一気に現実に引き戻される

 聞き慣れた声だ


「あり、あっ……ソレイユちゃん! 駄目! 待って!!」


 数秒遅れて知覚に思考が追いついた


「千十ぉ!!??」


 あの後、学校で別れて先に帰宅した筈の千十が、目の前にいる
 千十が、問題の男子と私の間に割って入っていた
 まるで、男子を庇うように

 ちょっっ、えっっ!? な、なんで千十がここにいるの!!??
 先に帰ったんじゃなかったの!!??
 なんでそいつのこと庇ってるの!? なんで!!??


「千十!! な、何やってるのよ、こっちに来て!!」

「待ってあり、……ソレイユちゃん! 脩寿くんと何かあったの!?」

「千十!! そいつから離れて!! そいつが変態クマよ!! 早くこっち来て!!」

「変態クマって……」


 はっきり言う、千十は男子が苦手だ
 それも男子から急に話し掛けられると飛び上がってしまうレベルで
 だから、目の間にいるこの犯罪者を、千十が庇った理由が私には理解できなかった


「違うよ、脩寿くんじゃないよ! そんなことをするような人じゃないよ!!」


 なんてこと言い出すのよ!?
 なに!? 知り合いなわけ!? そんなのと!?!?


「脩寿くんじゃないよ! だから……ソレイユちゃん、お願い。杖を下ろして」

 
418 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 9/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:39:04.01 ID:XcJZUenvo
 

 どうしよう
 さっきまでの私はちょっとパニックになってた
 でもでも、この男子が変態クマの正体では無いと確定したわけでもない

 一瞬、迷った
 私をみつめる千十の表情は普段よりも固い――とりあえず、杖を下げるしかなかった


「千十、とにかくこっちに来て! 早く!!」


 無論、この男子のことが信用できるわけじゃない
 千十が騙されてる可能性だって十分にあるわけで

 最悪なのは、この男子が千十を盾に本性を現すパターン
 この場に私が居ながらそんな事態になるのは、絶対に許されない

 もうこうなった以上、一旦撤退するしかない


「メリー!」


 千十の腕を掴んだまま、携帯でメリーを呼ぶ
 最初の計画には無かった緊急時の最終手段だ
 無論、男子からは目を離さない


 そいつは困惑したような表情で、最後までこちらを凝視していた

















 
419 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 10/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:39:45.85 ID:XcJZUenvo
 













「ありすちゃん、一体何があったの!?」


 そして
 私達は学校町内のドーナツ屋にいた

 メリーの能力で転移した後、近場の公園トイレで早着替えを済ませてある
 さすがにソレイユの格好でお店に入るわけにはいかないし

 どこから説明しよう
 私の対面席で千十がいつになく怖い表情をしている
 言葉にもなんというかこちらを責めるような圧がこもっていた

 そんな彼女を前に、切り出す言葉を選ぶ
 思えば、こんな顔する千十は初めて見るかもしれない


「せとちゃん、ありすちゃんはねー、テディベアを操る変質者を追ってたのー」


 私に代わりに答えたのはメリーだった
 メリーはぱっと見、もこもこした羊のぬいぐるみ
 だから声を出しているのを他人に気づかれなければ割かし安全だ
 メリーはテーブルに置いた私の腕のなかで震えるように身動ぎしている


「そう、その……そうよ
 それで、色々調べて回ってたんだけど
 そのうち、あの男子が犯人の可能性が強くなってきたんだけど」

「でもでもー、あの男子ーが変質者だっていう決定的証拠は無いなのー
 今のところは、あくまでありすちゃんの推測なのー!」


 メリーは私の説明に横槍を入れると
 私の腕から抜け出して、テーブルをちょこちょこ駆けて千十の胸元へ飛び込んだ
 彼女はメリーを抱きしめて、今度は不安そうな面持ちでこっちを見てくる



 
420 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 11/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:40:19.14 ID:XcJZUenvo
 

「それよりも千十! あなたアレと知り合いだったわけ!?」

「知り合いというか、お……幼馴染だよ! あの、小学校の頃に一緒の施設にいたの
 ありすちゃんにも前、紹介したい友達がいるって言ったでしょ? それがさっきの、脩寿くんのことなんだけど」

「あいつが」

「脩寿くんは人を傷つけるような真似をするような人じゃ、……ないんだけど
 だから、あの、変質者じゃないと思うんだけど、何かの間違いじゃないかな……?」


 大きく息を吸い込む
 落ち着こう、こういうときは一旦整理しないと

 さっきあいつを追い詰めてたとき、私は確かに熱くなってた
 思い込みで判断していたところも多いかもしれない
 でも――でも、だ


「確かにあいつが犯人だって直接的な証拠は無いわ、今のところ全部状況からの判断よ
 でも、あいつの行動範囲は変質者、クラスでも話題に挙がってた露出魔が目撃された箇所とほぼ一致するし
 それにあいつが夜の東区を徘徊しているのは、私もメリーもこの目でしっかり確認してるのよ」

「うー、それはそうなのー。あの男子ーは、あちこち徘徊してたのー。東中とかー」

「ああ、まあそうね、別に東中だけじゃなく東区の広い範囲を……、東中! そうよ!!」


 思い出した。証拠、あった!
 東中であの男子が都市伝説の少女を襲ってたことを話さないと

 一瞬、千十を怖がらせるんじゃないかとも思った
 この子は東中の出身で、そもそも学校の怪談全般を怖がってた筈

 でも状況が状況だ


「千十、あいつはね、夜の東中で都市伝説の……そう、『学校の怪談』の女子に襲い掛かってたのよ」
「へ!?」
「あう、それも本当に襲ってたのか、ちょっと微妙なところなのー」
「いやでもあれは襲ってたと見てほぼ間違いないでしょ!」
「……」


 千十は自分の携帯を握りしめたまま固まっている


「千十、あなたの幼馴染かもしれないけど、あいつは……千十!?」

「あおお、あおお……!!」


 彼女は変な声を上げだした
 千十の目が、激しく泳いでいる


 
421 :次世代ーズ 32 「えんかうんと! side.B」 12/12 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/11(火) 20:40:55.86 ID:XcJZUenvo
 

「しゅっ、脩寿くんはっ! 昔、せッ、セクハラ大魔王って呼ばれた時期もあったけど!
 あ、あれは単に、寂しがり屋な、やんちゃさん、だっただけだからっ! ほんとは優しい子だったから!」

「せ、千十? いま、なんて?」

「い、今もへっ、へへ、変態さんかもしれないけど、けどっ
 でも、でもっ、そんなっ、人を傷つけるようなこと、するような人じゃないからっっ!」

「千十、ちょっと、どうしたのよ!?」


 どうしよう
 こんな様子のおかしい千十、初めて見た……

 でも今、あいつのこと変態呼ばわりしてなかった?
 ちょっと千十、どういうことなの!?


「わ、私っ、脩寿くんを、ココに呼ぶねっ!」

「は!? あいつを!? ここに!? 呼ぶ!? なんで!!??」


 思わず大声を出してしまった
 途端にお店のなかが静まり返った
 店員さん含め、皆がこっちを見ている


「あ、す、すいません――!」


 立ち上がって店内にいる人たちに頭を下げた
 我を忘れて大声出しちゃうなんて、何やってるの私

 千十は脇目も振らずに凄い勢いで携帯をフリック操作している


「あばばばば……! 私が、誤解を、解かなくっちゃ……!!」

「ちょ、ちょっと千十! あいつを呼ぶって、どういうつもりよ!?」

「こっ、こういうときは、やっぱり両方の話を聞くのが大事だと思うし!
 それに私は脩寿くんが、へ、変質者じゃないって、信じてるから!」


 私は身を乗り出し、押し殺した声で千十に尋ねると
 彼女は顔を上げてそんなことを言う


「それがいいと思うのー! 本人に話を聞くのが一番と思うのー!
 疑うのはそれからでも遅くないと思うのー!」

「メリーまで!?」


 メリーも千十に同調した


 ちょ、ちょっと待って!? 本気でアイツここに呼ぶの!?



 マジで!?









 




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