都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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475 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 2/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:53:58.25 ID:MNOhVNoyo
 

「それで、――千十ちゃんもだんだん明るくなっていったかなって
 五月には同じクラスの子と一緒に来るようになってね。かやべーちゃん、元気にしてるかなー
 咲李も大丈夫そうだねって安心したみたいで。それからも時々、昼休みはちょくちょく一緒に遊ぶようになって
 あっ、咲李は色々忙しくてあんまり一緒に居られなかったけど、わたしと千十ちゃんたちで二年生のクラスでよく話したりね
 それで……、一学期は大体そんな感じで……」


 不意に先輩が押し黙った
 俺はもう一口、ドリンクを含んだ

 店内のBGMを耳にしながら、先輩の方を見やる
 彼女は両手でドリンクのカップを包みながら、ほとんど減っていないソーダを見つめていた


「あのさ、早渡後輩。ごめん
 『あの日』のことを聞きたいんなら、わたし、役に立てないよ
 夏休み入る前の頃から、何があったかほとんど覚えてなくて」

「あ、いや。先輩、そういうんじゃない。俺は」

「――ごめん」

「先輩が謝ることじゃないよ。マジで
 それ言うなら俺は今日、先輩に助けてもらったわけだし
 ……なんならこれで貸し借りチャラってことにしない?」

「なにそれ、全然足し引きになってないよ、それ」


 先輩はようやく顔を上げて困ったように笑った
 それを見て、思わず俺も頬が緩んだ


「もう遅いし送ってくよ。さっき話に出てた通り、危ないしな
 そういや元々俺ん家に来ようとしてたんだっけ」

「あっ! そうだった! ……ねえ早渡こーはい、今から行ってもわたしは全然いいんだけど?
 男子のお部屋ってどんな感じなのか気になるし
 ベッドの下にどんないかがわしい雑誌とか隠してるのか気になるし!」

「はっははは、早速俺で遊ぶ気マンマンなのはやめろ?
 いやでもほんと遅い時間だから! 俺ん家に来るのはまた今度にしない?」

「ふーん、早渡後輩がそう言うんなら、突撃するのは今度にしてあげてもいーかなー」


 多分いよっち先輩の本来のノリはこっちだろう
 若干元気が戻ったようで、少し安心した


「じゃあ、そろそろ出るか」
「早渡後輩、あのね」


 うん? 先輩は何やらモジモジしてるが


「お願いしたいことがあるんだけど、いい?」
























 
476 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 3/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:54:34.84 ID:MNOhVNoyo
 

 ドーナツ屋を出た後

 俺は先輩の後を付いていく
 帰路である南区方面じゃない
 位置的に、恐らくこの町の中央、中央高校に近づいてる気がする


「帰る前に付き合ってほしいところがあるんだ」


 いよっち先輩にそう告げられ、彼女に従うことにした
 俺達は今、住宅街の只中に歩を進めていた
 速足だった先輩のスピードが、やや上がった
 その先にあるのは――ごく普通のアパートだ



 なんとなく、察した



 先輩に従い、アパートの外階段を昇る
 先輩も俺も無言だ

 やがて三階の踊り場まで上がって、先輩は立ち止まった


「変わってないな」


 彼女の背中越しに、囁き声めいた一言を聞く
 足音を立てないように廊下を進み
 そして、とある一室の前で再び立ち止まった


          『奥上野』


「やっぱり……」


 先輩の声は俺にも分かるほど沈んでいた
 振り返った先輩は、どこか固い面持ちだ


「ごめんね、付き合ってもらって。――もう帰ろう」
「ここが先輩の実家なんすね」


 正確には実家“だった”と言うべきだろう
 既に表札は別人のそれへと変わっているのだから


 しばらくの沈黙の後、先輩は頷いた
















 外階段へと戻り、静かに階下へと向かう


「わたし、ずっと東中に居たとき、悪夢のなかに居た感じだったんだよね。前話したっけ」


 先輩は振り返らず、囁き声で教えてくれた


「そのとき、東さん家は引っ越しちゃった、みたいな話を誰かしてるの、聞いてさ
 確かめたかったけど、一人で来るのが怖くて」

 
477 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 4/11 [sage]:2022/01/27(木) 19:55:17.28 ID:MNOhVNoyo
 

 何と応えればいいのか、分からない


「でも、仮にね。引っ越してなくても
 死んだ子どもが戻ってきたら、……やっぱ怖いよね、親だとしても、ね」


 そんなことはない、と言いたい
 でも言えなかった

 先輩の置かれた状況は先輩しか分からない
 先輩の今感じてる辛さは先輩にしか分からない

 俺は何と言えばいい










 一階に着いた
 お互い何を言うでもなく、アパートから出る


「あら、こんばんは」


 出し抜けに横合いから声が掛かった、年配の女性の声だ
 視界の端でいよっち先輩がビクッと揺れるのが分かった


「どうも」


 俺は声の主に会釈で応じる
 杖をついた、セーター姿のお婆さんだった

 そのまますれ違うように歩を進め、ブロック塀の死角へと回り込む
 この間、いよっち先輩は俺の影に隠れるように身を縮めていた


「さっきの、知り合い?」
「アパートの大家さん」


 なるほど、理解した


「先輩、ちょっとここで待ってて」
「えっ? あっ、なんで?」


 踵を返し、アパートへと戻る
 お婆さんは、背中を向けているがまだ居た


「すいません、少しいいですか? 此処の大家さんですよね?」

「あら。ええそうよ、どうしたのかしら?」

「此処に、……三年前は、東さんという方が住んでらっしゃったと思います
 娘さん、一葉さんのことで、どうしても挨拶したくて伺ったんですが」

「ああ、東さんを尋ねに来たのね。見ない顔だと思ったわ」


 彼女は曇った表情のままだ


「東さんは、一葉ちゃんを亡くしてから直ぐに此処を引っ越したの
 ごめんなさい、これ以上は話せないわ」

「無理を言ってすいません。ですが、一葉さんにはどうしても挨拶したかったんです
 俺……自分の先輩だったんで
 せめて、何処へ引っ越されたのか、それさえ分かれば」

 
478 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 5/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:56:31.71 ID:MNOhVNoyo
 

 大家さんが酷く困っているのは嫌でも伝わってくる
 だが、此処で折れるわけにはいかない
 せめて先輩のためにできることをやらないと


「ごめんなさいね、守秘義務を抜きにしても
 東さんが何処に越していったのかは私にも分からないのよ」


 ややあって、溜息とともに大家さんは状況を教えてくれた
 一葉さん――いよっち先輩を亡くした東夫妻は傍目にも不安になるほど憔悴しきっていたらしい
 大家さんにも「娘が死んだこの町に居るのが辛い」と零し、ある晩、まるで夜逃げするかのように此処を引き払っていったという


「すいません、こんな無理を言って」

「貴方、東区の中学出身かしら? 中学校へはもう行った?」

「自分は――別の中学です。でも、東中には行きました。黙祷してきました」

「そう……、きっと一葉ちゃんも喜んでると思うわ
 思えば。あの夏からずっと辛いことばっかりね
 私のお友達も行方不明になったの。去年の冬にね
 親しい人が居なくなるのは、幾つになっても堪えるものよ」


 大家さんは遠い眼をして、夜空の彼方へ目を向けていた















 俺もいよっち先輩も、黙ったまま歩道を渡った

 今度こそ南区に向けて帰途に着いた


「早渡後輩」


 前を進むいよっち先輩に、急に声を掛けられ思わず息を呑んだ
 先輩は変わらず前を向いたままだ


「ありがとね、付き合ってくれて」


 そう言う先輩の背中は、酷く虚ろに見える
 このまま消えてしまうんじゃないかという程に


「実はさ、親が引っ越したこと一度確かめたんだよ」


 出来ることなら、先輩に並びたい
 横顔だけでもいい、一目見たい


「わたしも、甘く考えたんだ
 やろうと思えば、親に直ぐ連絡できるんじゃないかって
 わたし、携帯もってるし
 でもね」


 でもそれは無理だ
 歩道が細く、人が一人通れるだけの幅しかない
 今は先輩の背中越しに、声を聞くしかできない


 
479 :次世代ーズ 34 「帰る場所」 6/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 19:57:03.89 ID:MNOhVNoyo
 


「登録してた連絡先、使えなくなっちゃってたんだ
 そんな電話番号は存在しませんって
 電話だけじゃなくて、チャットも、メールも無効になっててさ
 お母さんのも、お父さんのも。こんなことある? って感じだったよ、もう」


 誰かがいてくれればいいのに
 こういうときに限って俺達以外に人影は見当たらなかった
 おまけに車の往来もないときてる
 確かにこの辺りは普段から人気は少ないだろうけど


「あーあ、なんかもうね。あんまり考えたくなかったけど
 本格的にひとりぼっちになっちゃったみたい」



 先輩のおどけたような調子の言葉を聞き、胸が詰まった
 その声は、今にも泣きそうなほど、震えていたからだ



「中学にずっと居続けてたときからずっと思ってんだけど
 なんでわたしだけ戻って来ちゃったんだろ、って」


 前方の横断歩道
 その向こうに見える歩道は、幅が広がっている
 もうじきだ、先輩の横に並ぼう


「わたしが戻って来ても、しょうがないって、ずっと考えててさ
 みんなも、咲李も一緒に戻って来たら、良かったのにって」


 横断歩道を、渡る
 俺は、先輩の横へと歩を速めた
 そっと、先輩の腕に自分の腕を回した


 俺達は立ち止まった


「先輩」


 いよっち先輩は泣いていた
 そして、そのまま俺の顔に目を向けた


「わたしね、お母さんたちが引っ越したの、なんかの間違いで
 アパートにまだちゃんと居て、それで、わたしが会いに行ったら、どんな顔するんだろうって
 もし、お母さんに拒絶されちゃったら、どうしようって、そんな怖いことばっか、ずっと考えてて」


「……」

「わたし、結局戻って来なかったほうが、良かったんじゃないかって、ずっと思ってて
 そのまま消えていなくなった方が、みんなも、『あの日』のこと、思い出さずに済んだのに
 わたし、わたしね。でも、でもね……!!」


 俺は、ただ黙ったまま、先輩の嗚咽を聞く


「千十ちゃんが、千十ちゃんがね、帰り際に、言ったの
 『私もずっと怖かったです』って、『一葉さんにまた会えて良かったです』って……
 『また会って、お話してもいいですか?』って……! わたしさ、そのときは頭いっぱいで、考える暇、なかったけど
 今になって、今になってね、あんな風に言ってくれて……、わたしのこと、怖がらずに、抱きしめてくれて……! ……うれしくって!!」


 
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