都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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491 :甘い頭痛と先への備え  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 21:56:20.69 ID:U8kVXGly0
 …………痛い。
 ずきずき、ずきずきと頭の芯が傷む感覚。
 一時、マシになったかと思った頭痛はまた再発していた。
 考えようとすると、頭痛が強まる。考えるなと言うように激しく痛む。

(……いや。思考を止めるな。考えろ、考えろ……!)

 己に言い聞かせ、彼、九十九屋 九十九は頭痛に抗いながら必死に思考を巡らせようとしていた。
 思考を止めてはいけない。今は、思考を巡らせ続けなければいけない。

(アダムが、死んだ…………判断ミスだ。俺があの場に残るべきだった……!)

 そうすれば、みすみす死なせずにすんだ。
 自分が、あの場に残っていれば対応できた。
 あの「カブトムシと正面衝突」を防げるだけの力が自分にはあった。
 最悪防げなかったとしても、対処できたはずだ。そのはずだ。
 ……だというのに、自分はあの場にいなかった。
 頭痛が原因で、休むように言われて……そのまま、従った。無理にでも、あの場に残るべきだった。

 皓夜はまだ泣いている。
 アダムが死んだ後、「食事」の為にある場所を襲撃した際には一旦涙は止まっていた。
 だが、ある程度腹が満ちたら、再びその思考は悲しみに囚われたのだ。
 アナベルもそれは同じ。
 抱き人形と言う布の体故涙を流すことのできないアナベルだが、それでも幼い少女のすすり泣きの声をもらしていた。
 二人共、アダムによく懐いていたから。

 今、九十九の手元にはロケットペンダントがある。
 皓夜が、「あだむが持ってたやつ」と言って、九十九に渡してきたものだ。
 アダムの遺体は、彼の遺した最期の言葉に従って皓夜が全て食らいつくしてしまって……そのアダムが身に着けていたペンダントを、皓夜は遺品として持ち帰ったのだ。
 そして、それを九十九に預けてきた。「きっと、自分だとなくしてしまうから」と。なくしたくない物を預けてくる程度には、九十九は皓夜に信頼されていた。
 ロケットの中身は、家族写真だった。
 男と、女と、まだ幼い子供。男の顔の部分だけ酷く乱雑に黒く塗りつぶされていたが、そこにあるだろう顔が誰のものかは容易に想像できる。
 きっと、アダムは皓夜の事を自分の子供のように扱っていた。
 皓夜だけではない。アナベルや、ミハエルや……もしかしたら唯の事すらも、そう見ていたのかもしれない。
 自分達の中で、「父親」を経験したことがあるのはアダムだけだった。
 ファザー・タイムは死神の側面が強すぎて「父親」とはまた違う……もし「父親」の側面があったとして、それを向けられるのはミハエルだけだろう……結果的に、アダムは自分達の集まりの中で父親のような役割を果たしていた。

 そのアダムが、死んだ。その役目を果たせるものはもういない。
 皓夜やアナベルの悲しみは、そう簡単には癒えないだろう。
 死を間近で見る事になった唯も深く心が傷ついたようだったが、彼女はまだもう少し、悲しみに沈み切らずにこらえている。
 皓夜とアナベルの悲しみが深いのは、その場にいながら何もできなかったせい。
 特に皓夜は、自分を庇って死んだという点があまりにも衝撃が強すぎたのだろう。
 きっと、皓夜は…………誰かに庇われるという体験自体、生まれて初めてだっただろうから。

(ひとまず…………皓夜とアナベル、には、「あの方」がついているから、だいじょう、ぶ…………っ!?)

 「あの方」が、皓夜とアナベルの傍に居る。
 悲しみを忘れさせるから大丈夫と、そう微笑んで言っていたから、大丈夫……。


 ずきんっ、と。
 頭の芯が、ひときわ強く痛みを訴えた。
 あまりの痛みに、思わずその場で蹲る。

(……しっかり、しろ…………「あの方」がいる、から……皓夜とアナベルはだい、じょう……)

 ずきん。
 痛みが増す。考えろ、思考を捨てるな。
 「あの方」が、包帯まみれの連中を連れて自分達の前に姿を現してくれて。
 その時には頭痛が収まっていたというのに、またこうしてずきずき傷む。
 こんな、頭痛に囚われている暇などないのに、どうして。
492 :甘い頭痛と先への備え  ◆7JHcQOyXBMim [sage]:2022/01/27(木) 21:57:50.24 ID:U8kVXGly0
(……う、ん……?…………そうだ。どうして、こんなに。頭痛が、するんだ……)

 頭痛は、いつからしていた?
 どうして、頭痛は強まった?
 考えようとすると、また傷んだ。

 なんとか立ち上がり、ふらふらしながら隠れ家の中を歩く。
 ミハエルと、唯がすすり泣いているような声が聞こえて。そこにかけるべき言葉は見つからず、歩き去る事しかできず。
 ……あちらは、ファザー・タイムに任せるしかない。自分にはかけてやるべき言葉は見つけられない。
 ずきずきと傷み続ける頭を抱えて、やるべき事と頭痛の原因を考える。

(とにかく、「あの方」と合流は出来た……頭痛は、「あの方」の傍にいれば収まる、大丈夫…………明日。いや、もう今日か。動くとあの方はおっしゃった…………なら。俺は、治療を行える者の確保を……)

 一番戦えるのは自分。
 攻撃が届く範囲も、威力も。殺し慣れも。
 「あの方」が連れてきた包帯まみれの連中の実力が分らない以上は、自分が一番戦えるものとして考えるべきだろう。
 情報は、「あの方」より先に合流した、「組織」所属の黒服からも与えられている。
 それを元に、厄介な連中のうち、誰に誰が対応するか。考えないと……。

 頭が痛む。
 目をそらすなと警告するように。

(……大丈夫…………できる、やれる……「あの方」とも合流できたんだから、もう、何も心配する事なんて……)

 頭が痛む、傷む、傷む。
 目をそらすな、今の状況をもっとよく見ろ。

 もしも、もしも……万が一が、あれば…………。

「……九十九」

 声を掛けられ、振り返ろうとして。激しい頭痛に、足がふらついた。
 倒れ込みそうになった体は、伸ばされた腕にはしと受け止められる。

「お、っと……大丈夫か?」
「……ヴィットリオ」
「抱きとめるんなら美女の方がいいんだが…………って、おい。本当に大丈夫か。顔色酷いぞ」
「…………顔色に関しちゃ、お前に言われたくない」

 酷い顔色なのは、きっとお互い様だ。
 九十九の体を受け止めたヴィットリオも、酷く顔色が悪い。
 「あの方」の傍に居た時はそうではなかったのだが。この軽い調子の男も、アダムの死に思うところあったのだろう。
 自分達があの場を離れた後で死んだという事実が、重たくのしかかっているようだった。

「頭、まだ痛むのか?」
「……「あの方」の傍に居た時は、落ち着いてはいた」
「そうか、お前もか」

 お前も?
 頭痛をこらえつつヴィットリオの顔をよく見れば。あちらもまた、何か痛みに耐えているような顔。

「俺も……最近ちょくちょく、頭痛がしてさ。「あの方」の傍にいる時は痛みが消えてて安心したんだけど。傍から離れたら、また傷みだしてさ」

 我慢できない程じゃないけど、と。
 そう言って笑ってくるが、だいぶ辛そうだ。

(…………「あの方」の傍に居る間は、落ち着いていた……?)

 自分と、同じように。
 それは、その、理由は…………。

「…………ぐ」

 気づいた事実を消し去るように頭が痛む。
 駄目だ、目をそらすな。そらすのだとしても……あと、少し……。

「九十九?おい、本当に大丈夫なのか?「あの方」を呼んで……」
「…………、駄目だ」

 目をそらすな。
 事実を認識しろ、そして、考えろ。
 万が一に、備えろ。

「ヴィットリオ、ちょっと、来い」
「え?」
「……話しておくべき事が、ある。今後のために」


 万が一に備えろ。
 その万が一が来るかどうかはわからない。
 いや、それを考える事すら不敬であったのだとしても、それでも。
493 :甘い頭痛と先への備え  ◆7JHcQOyXBMim [sage !red_res]:2022/01/27(木) 21:58:35.59 ID:U8kVXGly0


 一人でも多く生き延びるための、備えをしなければ。



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