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都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13
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527 :
企み企まれ
◆7JHcQOyXBMim
[sage]:2022/01/31(月) 00:18:55.17 ID:hcB114oa0
こつこつと、隠れ家の中を歩みながら郁は思案していた。
やっと、あの方と合流出来た。「組織」の中で情報を集め続け横流しするという地味な任務。
それを三年間、ずっと続けた。
たかが三年、されど三年。
正直、今年の春にあの方と連絡が取れなくなった際には流石に焦ったが。それでも、何人かの「あの方」の手駒と行動を共にしていた「ピエロ人形」の契約者との連絡は引き続き行えたのが幸いだった。
そちらに情報を流し続け、うまく「組織」の目を誤魔化せる隠れ家を提供し、そこを隠し続けた。
多少親しくしていた同僚を鬼の「餌」にして……まぁ、ついでに与えるつもりだった、その同僚の担当契約者と自分の担当契約者は残念ながら「餌」にならなかったようだが。多少は鬼の腹を膨らませた。
(その「ピエロ人形」の契約者が死んだ訳だが……まぁ、仕方ないだろう。必要な犠牲だ。能力を見ても、そこまで役に立つ訳ではないしな)
学校町では、鬼の「餌」の確保のために能力を使っていたようだったが。
そのくらいならば、今後、特に必要と言う訳でもない。
いくらでも代わりの利く存在だったのだ。死んだところで、たいしてあの方の痛手にはならない。
事実、あの方は「ピエロ人形」の契約者の死について、惜しんでいる様子は見えなかった。
つまりは、その程度だという事だ。鬼の「餌」となって役に立ったのだから、そこだけは誉めてやろう。だが、それだけなのだ。
(あの方が、今後の戦力拡大のために重要視しているのは鬼と……「アナベル」。あれは、呪いの力を強めるのもいいがそうした呪いの伝承系で混ぜることも考えているのだろうな)
「アナベル」と言うはっきりとした個体名がある為やや難しいだろうが。
それでも、呪いの人形の類は世界中たくさんあるし、映画の影響もあって新たな話が生まれやすい。
そうした辺りも混ぜてしまえば、どれだけ強大な呪い人形となるだろう。
(……そう。混ざる、混ぜる。取り込んで同化する。似たものは全部混ぜてしまえばいい)
そうしてどんどん進めていけば、きっと。
そのうち、世界の何もかも曖昧になって、混ざり合って混ぜ合わせられて。
人間も、そうではないものも。
すべてがあいまいで、あやふやになって…………そうした不安定なもの、すべてに。あの方の誘惑が流れ込めば。
(全部、あの方のものになって。そして…………その傍で。僕だけがしっかりしていればいい)
口元を得実の形に歪め、身勝手な欲望(ゲンソウ)を思い浮かべる。
今回の件で「組織」とのつながりは切れてしまったが、あそこで蓄えた知識と裏の情報網はある。
今後は、自分は情報網を広げていくことに専念していくとしよう。
こつこつこつ、思案を続けながら歩んでいて……ちらり。視界の隅に入ったものに、おや、と声を上げた。
「何をしているんだい、君達」
「っ!」
空き部屋の隅、まるで隠れるように人影二つ。
覗き込んでみれば、男が二人。
ますます、おや、と声を上げてしまった。
「なんだ、逢引かい?」
「それは絶対にない」
即答しながら郁を睨んでくるのは、人影の内一方……九十九屋 九十九。
表向きは針金アーティスト。裏の顔は「殺し屋」。今現在、あの方の手駒の中では……おそらく、もっとも戦闘力が高い男。
どこにも所属せずフリーで活動していたが故の習性なのか、味方にも己の契約都市伝説を語らぬ悪癖はあるが。そこを差し引いても優秀な男。
その九十九が影に隠すようにした相手は、どうやらヴィットリオ・パッツィのようだった。
(「死神を閉じ込めた樽」の契約者…………正直、使い勝手は微妙だな。死神ならば問答無用だが、それ以外は無警戒、もしくは発動者に意識を払っていない相手にしか発動できない。しかも一人閉じ込めたら、それを解放するまで次が使えない……)
当人の戦闘力はないに等しいし、元々は「教会」の子飼い。正式所属ではなかったのだから、「教会」の情報もたいして持ってはいないだろう。
その存在の重要度は低い。いざとなったら、切り捨ててももないだろう。
「二人でこそこそ、何をしていたんだい?」
「情報交換、と言うか確認だ。あの方が釣れてきた、「朱の師団」の中之条とか言う奴。あいつが探しているって言う女について」
九十九の言葉に、郁はふむ、と考える。
確かに、今宵、自分達の前にやっと姿を見せてくれたあの方が連れてきた都市伝説の集団。
その中でも、ある程度上の立場なのだろう者が何か言っていた記憶がある。
直接尋ねられていないので答えてはいないが。こちらが知っている範囲では、その者が探している者の情報はなかったと思うが。
「僕の知っている範囲ではその毒婦とか呼ばれるような女性に心当たりはない。あえて言うなら「バビロンの大淫婦」が該当するかもしれないが、あれはあの方の配下にはなっていないからね。君達は、心当たりはないのかい?」
「ない……そもそも。三年前、俺はイタリアにいたからな。当時、こっちで何が起きていたかまでははっきり把握していない」
きっぱりと答えてくる九十九。
ちらり、九十九の背後にいるヴィットリオに郁が視線を向けると、彼もまた首を左右に振った。
「俺も、三年前はまだイタリアで「教会」の子飼いやってた頃だし…………あいつの説明聞く限りの外見の女性と会った事あるなら、間違いなく覚えてる。記憶にないから、いないはずだ」
「そうか……」
現状、あの方の手駒はこの隠れ家に集まっている者のみ。
……ならば、件の女性はあの方の手駒にいない。協力者でもないだろう。
「わかった。では、僕は明日に備えて色々とやっておくよ。そっちも、明日に備えておくんだよ」
「…………あぁ」
くすりと笑い、郁は踵を返す。
そう、明日に備えておくべきなのだ。
明日、事を起こして、それを成功させるために。
…………自分も、何かしら切り札を用意しておくとしよう。
528 :
企み企まれ
◆7JHcQOyXBMim
[sage]:2022/01/31(月) 00:20:09.35 ID:hcB114oa0
郁の足音が遠ざかっていくのを確認する。
いや、足音だけではなく、気配も。
あれは、「てけてけ」と「とことこ」の多重契約で飲まれた者だと聞いている。下半身だけで遠ざかったふりもしかねない。
「……なぁ、九十九」
ヴィットリオが何か言いかけたのを、軽く手を上げて制した。
郁が来る前に話していた件についてだろう。それはもう、伝えるべき事は伝えた。
……あとは、ヴィットリオ次第。
そして、自分がどれだけうまく動けるかにかかっている。
(万が一。アダムの後追って地獄に行くのは。俺一人で十分だ)
万が一が来ることを恐れることすら、「あの方」への背信。
……それをわかっていて、余計に頭が痛む。
だが、痛みが酷くなり続けるからこそ、余計に備えるべきだった。
ヴィットリオの頭痛を悪化させたのは多少悪かったが、いざと言うときのことを考えて我慢してもらうとしよう。
529 :
企み企まれ
◆7JHcQOyXBMim
[sage !red_res]:2022/01/31(月) 00:22:35.56 ID:hcB114oa0
頭痛が酷い。痛みが消えない。
…………今はまだ、この痛みを消してはならない。
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