都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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533 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 1/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:30:14.50 ID:vgGlqA+Io
 


「そっか、咲李が飛び降りた後。そんなことがあったんだ」


 場にいる全員が一通り、かつて見た「再現」の終盤に起こったことを話してくれた
 そして、それを受けて、いよっち先輩は静かにそう零した
 その声は微かに震えている。今は見守るしかない


「灰人君。私、もちろん当時の記事も読んだよ。……もどしそうだった」


 いよっち先輩は急に天井を向いた
 そのまま深呼吸を繰り返しているようだった


「おじさんが……、土川先生が、犯人だって。信じられなかった。信じたくなかった
 だって、咲李のお父さんだから。なのに。なんでそんなことになったんだろう、って」


 俺は静かに憐ちゃんに目を向ける


 酷く、虚ろだった


 少なくとも、先ほどまで柔らかい微笑と雰囲気を纏っていた彼ではなかった
 彼が持っていた、温かく優しい感情を、すべて拭い取られたかのような、そんな状態だ
 少なくとも俺にはそう見えた


 どれだけ傷つけられたんだ
 どれだけ打ちのめされたんだ


 当事者ではない俺に、理解できる筈も無いことだ
 それでも


 憐ちゃん
 辛いだろうが、――どうか、顔を上げてほしい


「土川先生、まだ生きてるんだよね? でも先生も『狐』に、操られてた、だけなんだよね?」
「どうだろうな」


 やや長い沈黙の後、いよっち先輩が発した問い掛けに、吐き捨てるような口調で応じたのは荒神灰人先輩だった
 その表情には、冷たい怒りが滲んでいた
 そっと角田の人に視線を滑らせる――目が合った。険しい表情で微かに首を横に振っている

 まさか
 自らの意志で、実の娘を利用したってのか?


「土川先生。今は、ちゃんと、罪を償って、くれたかなあ……?」
「そうだといいけど」


 そう尋ねるいよっち先輩の声はどうしようもなく震えている
 対して、それに答えたのは憐ちゃんだった
 彼はまだ、俯いたままだ

 だが、彼の答えとは裏腹に、部屋の空気はあまりにも重々しい
 日景は沈黙を守っているが、隠す気も無いほどの怒りを発していた
 空気は語っていた。犯人――土川羽鶴に、贖罪を求めるだけ無駄であると


「ごめんね。本当はわたし、ここに来るとき、――泣かないって決めてたのに」


 いよっち先輩は口元を押さえ、真っ直ぐに憐ちゃんを見ていた
 今にも涙が零れ出しそうな眼で




 
534 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 2/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:31:41.30 ID:vgGlqA+Io
 

「わたしも、死んだあと。土川先生に操られてたんだよね
 わ……わたしも。操られて、みんなに……酷いこと、しなかった?
 誰か……、誰かを、殺したり、してなかった?」

「してない」

「無い。断言していい。そんなことは無かった」


 花房君と、日景が即答した
 日景は最早隠すことのない怒気を立ち昇らせていた


「そんなふざけた真似をされる前に、その場で潰したからな」


「ずっと、怖かったの。わ、わたしも、誰か……殺したり、したんじゃないかって」

「重ねて言うけど。してないよ」


 花房君は、穏やかな口調でそう答えた
 先ほどの、怒りすら感じられた声色ではなく、先輩を安心させるような優しい言葉だった

 その直後、先輩は顔をくしゃくしゃにして、引っ張り出したハンカチを眼に押し当てた


 いよっち先輩、ずっと思い詰めてたみたいだったからな
 ここからは俺が引き受けよう


「俺からも確認したいことがある
 犯人の――土川羽鶴は、一応『組織』の管理下にあるって話だったが、念のため訊いておきたい」


 「笑う自殺者」 と 「富士の樹海の自殺者の幽霊が、人間を引き込んで自殺させる」
 この多重契約者だった土川羽鶴は、この二種の契約能力を組み合わせて、東区中学の生徒達を
 つまり、教え子達を、自殺させ、その死後は殺害した生徒達を意のままに操った
 そういう話らしいが


「『組織』が何らかの措置を施した、って信じたいんだけど
 いよっち先輩が、まだ犯人の能力影響下にある、なんてことは無いんだよな?
 支配権をまだ握られてる状態だなんてことは無いんだよな?」

「安心しろ、そっちは問題ない」


 花房君に即答された
 先ほどと変わらぬ、穏やかな返答だ


「もう支配されることはないよ。一応『組織』の立場からも答えた方がいいんじゃないか。慶次」

「基本的に『組織』で確保した犯罪者は、契約した都市伝説を剥奪される
 それが難しい場合でも二度と再発動できないように措置を講じられる。それに、あいつは重度の監視下に置かれてるからな
 再支配の危険性は無えよ」


 花房君から振られた角田の人が改めて説明してくれた

 思わず息を吐き出した
 一応、高奈先輩たちが見る分にも「問題はない」という判断に至ったそうだが
 角田の人から断言してもらえたのは、大きい。一旦は安心していいだろう


「オーケー、どうも。流石に『組織』が何とかしたって思いたかったけど
 裏取れるまではいよっち先輩も不安だったみたいだからな、リモコンで操作される事態は起こり得ないと。理解した」

「そこはもう少し『組織』を信用しろや」


 角田の人の突っ込みに苦笑いで応じる
 こっちもそれなりに気を張ってたんだ。ちょっと大目に見てほしい


 一応これで一通り訊いておきたいことは確認したことになる
 何かとやきもきしたが、場をセッティングしてくれた花房君はじめ、みんなに感謝しないと




 
535 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 3/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:35:09.24 ID:vgGlqA+Io
 



「早渡、確認しておきたいことは本当にこれで全部か?」

「うん、今のところは以上だ。いよっち先輩から何か無ければ――」

「いや。いよっち先輩とは別に、早渡。お前自身が確認しておきたいこと、言っておきたいことだ」



 花房君にそんなことを切り出され

 少し、躊躇した



「一応こっちの意図としては、確認事項があれば一気に出してもらった方が
 色々情報も共有しやすくなるしな。で、どうだ早渡」

「早渡、後輩。わたしのことは気にしないでいいらかね
 訊きたいことあるなら、今のうちに訊いておきなよ」



 落ち着いたのか、顔を上げたいよっち先輩にもそう言われた
 参った、いよっち先輩にも気を遣われてしまった

 迷い、迷い、黙ったまま
 いよっち先輩の赤くなった眼から、角田の人に顔を向ける――何か言えよ、という顔をされた



「――わかった、少し長くなるけど聞いてほしいことがある」





               כִּי-מַשְׁחִתִים אֲנַחְנוּ, אֶת-הַמָּקוֹם הַזֶּה





「改めて自己紹介するよ。俺は早渡脩寿
 今年の三月まで『広商連』は『団三郎』圏内の『北辰勾玉 庵屋』、通称『七つ星団地』で厄介になってた
 今も籍は置いてるけど、四月には此処、学校町に越してきたんだ。『狐』を追うために」

「ああ、矢張り『広商連』の方でしたか」

「うん、獄門寺君の家のことも聞いてたよ」


「それで――、『七つ星』に拾われる前は『七尾』に居たんだ。身寄りがなくてな
 山梨の『七尾チャイルドスクール』っつー小中高一貫な感じの学校兼施設で教育を受けてた
 幼い頃にはもう契約させられて、物心ついた頃には既に契約者って感じだった」


 「七尾」が都市伝説の研究を進めていたこと
 適正のある子を都市伝説と契約させ、人材として訓練していたこと
 「チャイルドスクール」には普通クラスと契約者のクラスが存在し、俺もそこで教育されていたこと
 過去をざっくり話していった


「『チャイルドスクール』はE6、小学六年相当の頃に突然解体された
 表向きはそれまでに性的児童虐待が行われていた事実が一気に問題化して、それで閉鎖に至った、てことになってる」

「だいぶ前に大きなニュースにもなってたしな」

「え、そうなの? 知らなかった……」


 花房君の相槌に首肯した
 いよっち先輩が中一のときか、まあ知らなくてもいい話だ
 醜いスキャンダルみたいなもんだからな


 
536 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 4/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:36:37.70 ID:vgGlqA+Io
 

「で、真相はそうじゃなかったと」

「うん。EカリのANクラス――初等教育課程の契約者訓練クラスが『組織』の襲撃を受けた
 多分その時期に『七尾』がAN研究進めてたのが『組織』にバレたからで
 『組織』の連中はANクラスの人材を無理矢理拉致ろうとしたんじゃないか、俺はそう見てる」

「ちょっと待て」


 角田の人の横槍が入った


「俺も詳しく知ってるわけじゃ無えんだが、『組織』は『七尾』を監視こそすれ、『七尾』の研究推進を黙認してた筈だ
 いくつかの基礎研究を『七尾』に委託したりとかな。それに『七尾』の都市伝説研究を『組織』が知ったのは
 『七尾』施設解体よりかなり前だった記憶があるぞ。色々おかしくねえか?」

「『組織』に発覚したのは、『スクール』襲撃より前のタイミングだと。そういうことか?」

「俺の記憶が確かなら間違いねえよ」

「……確かに『七尾』が『組織』から何らかの助力やら技術提供を受けていたフシはあった
 けど、悪い。当時はクソガキだった俺はそこまで知らなかったわ。てっきり『組織』がそれを口実に襲撃してきたと思ってたからな」

「そこもだ、“襲撃された”ってとこにも違和感がある
 基本的に『七尾』ほどの大企業――『七尾グループ』だったか? あれほどの規模を『組織』が抑えるとなると
 普通はグループの主要会社を迅速かつ同時に速攻で抑える感じで動く。どっちかていうと首脳陣を確保するイメージだ
 仮に『組織』が『七尾』を抑えるとしたら一ヶ所を叩くなんて真似はしない。早渡、襲撃してきたのが『組織』の連中だって言うが、何か証拠はあんのか?」


 角田の人の突っ込みに、一度深呼吸した
 一気に事態が動きそうだ

 万が一を考えて、用意してきたが
 正解だったな


 俺は鞄からバインダーを取り出した
 近くにいる、日景に渡す


「見てもいいのか?」

「うん、角田の人にも回してほしい」


 日景はテーブルの、なるべく中心にくるようにしてバインダーを置いた
 いくつかの写真が挿入されたページが開かれる
 何人かが席を立ち、写真を視た


「これは――実銃か」

「H&Kの、多分最新型の自動拳銃。それと光線銃だ
 角田の人、連中は銃を使って俺たちの目の前で、世話になった先生と、研究員を射殺したんだ」

「……え?」


 いよっち先輩が息を飲むのが聞こえた
 だがもう、切り出した以上は止めることはできない


「俺は襲撃してきた連中の何人かを返り討ちにして、所持していたこういう物品を奪取した
 そして、『スクール』から逃走した。連中も何人か腕の立つ奴がいて、俺を追跡してきた
 車両を奪って長野まで逃げてたが、捕まって殺されかけたときに、『七つ星』に拾われた」


 角田の人は一旦黙って俺の話を聞いてくれた
 そして、バインダーをめくり、ページを戻り、こちらを見た



 
537 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 5/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:39:47.67 ID:vgGlqA+Io
 

「この光線銃、穏健派の一部と過激派の一部で使われてるモデルだ
 ただ何とも言えねえな、所属を詐称するために別派閥の銃を使った可能性もあるが
 それにこの実銃は、『組織』内でも所持と運用に規制が掛かってるやつだ
 シリアルナンバーまで映りこんでやがるから照合しやすい。あと、これは記憶除去装置だな
 認めたくはねえが、『組織』の人員が噛んでる臭いな。……おい、そういやこれの実物はどうした?」

「この町以外の安全な場所に隠匿してある。何せヤバめの物証だからな、奪われるわけにはいかねえだろ」

「なかなかキナ臭え話になってきたな。早渡、この件の事実確認を取りたい。こいつは借りてもいいか?」

「どうぞ。 じゃあこういうのはどうだ? そっちで得られた情報と、物証をトレードってすることで」

「ハッ、生意気な野郎だ――。俺の知り合いに権限持ちがいる、そいつに話を通しとく
 だが、今は発生している問題の対処が先だ。めぼしい情報が得られるまで、一寸まとまった時間くれや」

「分かった、頼みます」


 角田はバインダーを取り上げ着席した
 ページをめくりつつ、複雑そうな表情で首を横に振っている


「それで――九宮空七のことを話さないとな」

「最初会ったとき話していた、お前の初恋の人か?」


 花房君の言葉を受けて、眼を閉じる

 全員の視線を受けてる気分だ
 それにこれを口に出すと、認めてしまったことになる

 それでも、進むしかない


「最近になって昔のことを色々思い出したんだけど、多分その“初恋”ってやつ
 『七尾』の研究者の誰かしらに、“俺が空七を好きになる”ように記憶の植え付けをされた可能性がある
 まあ有り体に言って記憶操作の洗脳を受けたかもしれない。多分誰かのイタズラかなんかだ。それに――」


 思い出したくない過去
 だが、吹っ切らないといけない過去だ


「――それに、それ以前に。アイツには、愛人いたしな。逢瀬の現場を何度か見ちまったし。肉体関係があることも、知っちまったし
 俺はそれを見て見ぬ振りして、……自惚れから告って、クソミソに言われて切り捨てられたしな。我ながら何やってんだかな
 アイツは最初から俺のことは眼中に無かったんだ。俺が、只の勘違いしてた馬鹿野郎ってだけだよ」

「それでも、お前の……幼馴染なんだろ?」

「……そうだな」


 花房君、的確に突いてくるな
 思わず笑ってしまった


 眼を開く
 携帯を引っ張り出し、画像を呼び出した
 「チャイルドスクール」時代の、空七の画像だ

 とりあえず近場の日景に手渡した


「今の外見から大分かけ離れてる可能性もある。そこは踏まえといてほしい」

「……それ。データで貰っても、いい?」

「どうぞ?」


 俺の返答を聞いた日景は直ぐに広瀬(晃)ちゃんへ携帯を渡した
 広瀬(晃)ちゃんが俺の携帯を弄り始めたのを見て、広瀬(優)ちゃんがこちらに遠慮がちな視線を向けた


「晃にデータ全部抜かれちゃうと思うけど、大丈夫?」

「問題ないよ。ヤバい情報とか恥ずかしい画像なんかは事前に別ストレージへ避難済みだから」

「……なら、問題なし。でも、やりようは、ある。から、油断しないで」


 
538 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 6/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:41:04.02 ID:vgGlqA+Io
 

 ……広瀬(晃)ちゃん? やりようって何? 何するつもりなんだ?
 いや、今はいい。信じよう、広瀬(晃)ちゃんの良識と良心を
 突っ込みたい気持ちはどうにか抑えた



「九宮空七、『七尾』が有する人材のなかで“最高傑作”と呼ばれた契約者
 俺が知ってる頃は『幸運のギザ十』と契約していた。“第一種適合”、完全にAN-Pを意のままに操作できる
 それだけじゃない、アイツは理論上、どの都市伝説とも、コストを脅かすことなく、無制限に契約できる特殊な“器”を有していた
 E4の頃は『ギザ十』以外にあと2種類のANとも契約してたらしいけど、そっちは俺にも分からない」

「空七は『スクール』襲撃の夜、『組織』に連行された。佳川有佳、教師役の研究者と一緒に
 後から知った話では、空七自らの意志で『組織』に従ってたらしい。それで―― 一年半かそれくらい経った辺りで、空七が死んだという話を聞いた
 大体今から三年前くらいの時期に、『組織』の命令で『狐』討伐戦に駆り出されて、『狐』の勢力に殺されたと」

「でも、俺は――、アイツは生きてると見ているんだ。その後に色々聞きたくない話を耳にしたからな
 幾つかの可能性を考えた。もし、本当に『狐』の手勢と交戦したなら、それで敗けたとしたら――九宮空七をわざわざ[ピーーー]真似をするほど『狐』も浅はかじゃ無いんじゃないか
 アイツの実力を考えたら、“魅了”して手元に置いとくのは悪い手じゃない筈。それで今は、九宮空七が『狐』の手勢に取り込まれてるんじゃないかと、そう疑ってる」

「だから――」



 息を整えながら、今話しておくべき内容を話す
 最も伝えないといけない内容は


「みんなは『狐』に付いてる配下のほうも、もれなく全員[ピーーー]つもりか?
 もし可能なら、配下の奴と話がしたい。空七が『狐』の配下に取り込まれたのかを聞き出したいんだ
 せめて配下の、少なくとも一人とは話をさせてほしい」


 全員を見渡し、やっぱり花房君に視線を戻す
 あくまでも穏やかに俺の話を聞いてくれる花房君に、謎の安定感を覚える

 今はそれがありがたかった


「もしも『狐』の配下に九宮空七がいるとしたら、離脱も考慮に入れてくれ。君らができるんなら……殺してもいい」

「駄目でしょ!!」


 いよっち先輩に突っ込まれた


「え、だって。早渡後輩の、幼馴染でしょ? だ、……大事な人なんでしょ?」

「先輩、ごめん。聞いた話が本当なら、空七はもう取り返しのつかないレベルで人を殺してる。誰かが止めないといけない」


 深呼吸する


「俺が止めるとしたら、そんときは殺しになる」

「……そんな」

「おい、なら俺達に殺人の罪を犯せってのか?」


 日景に、睨まれた


「安心しろ、仮にそいつが『狐』の配下に居たとして。見つけたら何とか拘束してやる。なに物騒なこと吐いてやがんだ、お前は」


 
539 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 7/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:43:50.00 ID:vgGlqA+Io
 

「それが出来たらそっちのが最良に決まってる。ただ今の空七は『ソドムを滅ぼす神の怒り』と契約してる可能性がある
 聞いた話が本当なら、かなりヤバい。赤黒の光を放ってレンジ内の全ての対象を、問答無用で塩の柱に変えるらしい」

「おい、それはあれか。『創世記』の――」

「『主は硫黄と火を、主の所拠り、即ち、天よりソドムとゴモラに雨しめ、其邑と低地と其邑の居民、及び地に生る處の物を盡く滅し給へり。ロトの妻は後を回顧たれば鹽の柱となりぬ』――19章24-26節の、“奇蹟”だな」


 日景と灰人先輩の言に、首肯する
 横合いから角田の人に、盛大に舌打ちされた


「そういうことは、早く言えよ! 『組織』が介入すべき案件じゃねえか!!」

「角田、静かにしろ。早渡が話してんだろ?」

「あ゛!?」


 日景と角田の人が何やらまたバチバチし始めたが
 悪い、フォローしてる場合じゃない


「それよりお前は『狐』を仕留めることに参加しないような口振りだが、本当のところはどうだ? 本心を話せ」

「そりゃ――、そちらに合流できるなら、したいですよ」


 灰人先輩はあくまで静かな口調で問うてきた

 俺は最低な真似をした
 本来なら俺が空七を殺さないといけない
 なのに
 みんなに押し付けるような真似を
 それを前提とするかのような頼みを


「すいません、今抱えてる問題を解決させたら直ぐにでもそちらに合流したいです
 でも、そちらでも前もって計画を立ててたと、花房君から聞いた話からそう判断しました
 自分が混じると、計画的に問題あるんじゃないですか?」

「そこは気にしていない。仮にお前が加わろうと加わらずともやることに変わりはないからな
 それで。早渡、お前の抱えている問題とは?」

「――『ピエロ』の件になります」


 横合いから再び、角田の人の盛大な舌打ちが響いた





               🤡  🤡  🤡





「『組織』でも本格的な報告が増えたのは十月の頭からだ
 それ以前から学校町に侵入してた可能性はあるが」

「親が話してるの耳にしたけど、『ピエロ』って『狐』とは別個の勢力なんでしょ?」

「『ピエロ』はどちらかと言うと、自らの存在が非契約者の一般人にも目立つように動いているだろ
 これまで情報を徹底的に隠したがってた『狐』の手勢とは、正直思えねえ」

「一応『組織』内部でもそういう見方してるが、情報攪乱のために『狐』が加えた賑やかし要員って可能性も排除できねえ」

「いずれにせよ、現時点で判断を下すのは早計ですね」

「てか『狐』の手勢なら、『狐』を潰しちまえば勝手に自滅するだろ」


 みんなも「ピエロ」の動向には注意を向けていたらしい


 
540 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 8/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:46:37.69 ID:vgGlqA+Io
 

「俺は商業の同級の女子から、友人の失踪について調べてほしいって頼み込まれたんだ
 警察には相談してるが、まあ成果は無いみたいで」

「『ピエロ』に誘拐された、と?」

「いえ、その失踪した子ってのが元々素行が良くなくって、単純な家出の可能性もある、そう思ってたんすよ
 でも、失踪の直前にヤバい連中とつるんじゃって大変なことになった、的な連絡を友人にしてたらしくて
 あと、それだけじゃないですね。学校町のあちこちの学校で、失踪が相次いでるらしいっすね?」

「あッッたま痛え問題だよ、ッッとーに! ただでさえ『狐』の件でピリピリしてるって時節によ!」


 角田の人が先ほどより、キレそうな表情で頭を抱えている


「天地は『狐』に掛かり切りだからな、『ピエロ』の方は別の派閥が担当してる
 だが荒事になると、俺にも話が回って来たり ―― ったく」

「『ピエロ』はAN由来の物品や銃火器を携行して、それを使ってくる
 この町の警察は『組織』と繋がってるらしいけど、警察じゃ対処しようがない
 収容の取れない事態になる前に、角田の人――アンタと連絡先をやり取りしときたい」

「……ここまで話を振られといて、俺に断れると思うか?」


 悪い、角田の人
 俺もそれを狙って話を進めてた


「その前にまず、角田の人に渡しときたいものがある」


 俺は鞄からいくつか物証を取り出した
 全て厚手のポリ袋に封入したものだ


「まずは、これだ」

「おい、さらっと実銃を取り出してんじゃねえよ」

「俺が『ピエロ』と交戦した際に、連中が取り落としていったものだ」


 日景の突っ込みを華麗にスルーし、ポリ袋ごと自動拳銃を押し付けた
 角田の人に回してくれ


「Kimber TLE II、.45 ACPモデル。考えたくないが連中は対人射撃を念頭に置いてる。そう見なすべきだ」

「この銃自体からは、都市伝説の気配は無えな」

「これも回して。現場から回収した空薬莢、.45 ACP弾だ」

「こっちからは気配あるぞ、弾になんか仕込んでやがったのか」

「日景、問題はこれなんだ。こっちは、さっきの拳銃に装填されてた未使用の実包と
 連中が発砲して壁やらに突っ込んだ弾頭を回収したものだ」


 早口でそう説明しながら
 未使用の .45 ACP弾 と、砂礫ごと回収した潰れた弾頭が入ったポリ袋を渡した


「おい、これ――かなりヤベえやつじゃねえか」


 日景の声に、僅かな怒りが混じる
 俺も同意見だ


「詳しくは解析しないと何ともだが、この弾頭はわざと脆く作製されてる
 内容は媚薬、多分『スパニッシュ・フライ』の粉砕物に、治癒系の霊薬、『鎌鼬の塗薬』かなんかだ
 それに向精神薬、睡眠薬、これらの混合物だと思う。内容が内容だけに、多分お互いに効能を相殺し合わないように調整されてる」

「……どういうこと、なんですか?」


 紅ちゃんが震えを抑えたような声で訊いてくる
 いや、彼女も恐らくその意味するところは気づいているかもしれない



 
541 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 9/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:51:06.54 ID:vgGlqA+Io
 

「恐らくこの弾丸は、誘拐する“獲物”に対して撃ち込むもので
 @まず向精神薬か睡眠薬だかで“獲物”の動きを鈍らせて、A媚薬が効いて従順になったところで“獲物”を安全に誘拐するためだろうな
 B撃たれた傷口は、弾丸に仕込まれた霊薬で治癒するから傷は残らず、かつ残りの薬物を的確に“獲物”の体内に残留させることができるんだろうな」

「……下衆の所業じゃない」


 やや冷え込んだような声色で、花房君が的確な解説をおこない
 それに対して大門さんが吐き捨てるような口調で応じた


 ごめんな、いよっち先輩。紅ちゃん。本来なら角田の人と二人きりで話すつもりだったんだが
 場の流れと、あと俺の勢いでモノを早々に出してしまった。後で謝らないと
 青い顔してる二人を見て、胃の底が不快に沸き立つ

 だが今は、情報の共有と連携が先だ
 心を鬼にする


「それから、現場に残った弾痕の撮影画像、現場の、南区の座標付きだ。これを角田の人に託す
 『警察』経由より、角田の人に直接頼む方が勝負が速いと判断した」

「角田、これは『先生』にも実包の解析頼んだ方がいいんじゃねえか?」

「……腹立つが、已む無しかもな。しかし、そうだな……、相手が実銃を使ってくるなら、逆に対策の立てようがある」


 日景経由で画像データが収められたスマホ用メモリカード入りのポリ袋も角田の人に渡った
 角田の人は先ほどよりも一層深刻そうな表情でブツブツと独り言を呟いている


「それより早渡、『ピエロ』と交戦したそうだが」

「ええまあ、各個体の戦闘力は大したことないうえでにANfx持ちでもないから倒すのは容易っす
 つまりどっかに『ピエロ』を発現させてる本体がいるってことなんですけど」

「俺が聞きたいのはそうじゃない。早渡お前、“撃たれた”な?」


 灰人先輩の視線が突き刺さる
 参ったな、どこまでお見通しなんだ、この人


「撃たれたって言っても、こんなヤバい弾頭でなくて、普通のフルメタルジャケット弾でした
 背後から数発。油断してた俺が悪い。幸い全部体を貫通しましたし、弾が通った傷口は念入りに削いで捨てましたよ」

「そうか。素人の医療行為は褒められた真似ではないが。大事に至っていないのであれば」

「まあ免許なんて当然ないですけど、でも俺も一応処置の心得はあるんで」


 違うそうじゃない、今の発言何から何までおかしい
 誰かの突っ込みが聞こえた気がしたが、一旦スルーしとこう
 いま大事なのはそっちじゃないし




 
542 :次世代ーズ 「いよっち先輩からの質問」 10/10 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/31(月) 01:52:06.53 ID:vgGlqA+Io
 

「いや! でも! 早渡後輩!? 撃たれたんでしょ!? びょ、病院には、行ったの!?」

「先輩大丈夫、傷はみんな完治したし
 それにさっき『先生』からエリクサー入りのお茶も頂いたし。すこぶる快調だよ」

「駄目だよ!? 駄目だよ!!?? 後で『先生』にちゃんと診てもらおうね! お姉さんと約束して!?」

「分かった、分かったから! そんな、泣きそうな顔しないで!!」


 とまあ取り敢えず、俺から伝えたいこと、確認したいことはこれくらいだ。多分
 思い出したらその都度共有するとして、いやでもこれ以上は無かった。と思う


「とりあえず早渡の携帯を寄越せ。連絡先を登録しとく」

「角田の人、悪い。後は頼んだ。ちょっとトイレ借りる」


 角田の人は広瀬(晃)ちゃんから俺の携帯を受け取っていた
 それを見て、席を立つ

 顔を洗いたい気分だ
 色々洗いざらい話したのは久しぶりな気がする

 俺は――角田の人に向き直った


「角田慶次」

「あン?」

「色々と迷惑かけます。――どうか、よろしくお願いします」


 彼に、頭を下げた


「やめろ薄気味悪い、とっとと行ってこいや」


 角田の人に鼻であしらわれ、早よ行けとばかりに手を振られた
 んな……、花房君の方を見ればニヤニヤと笑われてしまった

 花房君の口元が僅かに動いていた



 “良かったな”



 そう、言われた気がした


 恥ずかしいな


 俺はその場から逃げるように退室した


















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