都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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661 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 1/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:44:57.54 ID:nc7nwv6ko
 




「夜の背中って、白くて綺麗だよね」
「そう、かしら? そんなこと言われた、のは。初めてよ」


 夕食後
 後片付けを終わってしばらく経ってから、わたしは夜とお風呂に入っていた

 夜には両親がいない
 小さい頃に二人とも亡くしたらしくて、“お師匠様”に育てられたらしい
 その“お師匠様”も長いこと遠出してて、夜は仕事でお金を稼ぎながら暮らしてる

 それだけじゃなくて、“お師匠様”の知り合い伝手で預かることになった「コロポックル」の子供たちの面倒も見てる
 小さいくて幼い3人の子の面倒を見ながら、服を作って、それを販売して、学校にも通って

 すごい、と思った
 わたしと同い年なのに、わたしよりしっかりしてる


「慣れれば、楽勝よ」


 夜の身の上を聞いてビックリしたとき、彼女は静かにそう言ったけど
 でもやっぱり、すごいと思った
 親と離れ離れになっただけで落ち込んでるわたしなんかと全然違う
 本音を言うと夜に負けたくないし、それ以上に、自分自身に負けたくない
 わたしも頑張らなくちゃ


 でも、夜がすごいのはそれだけじゃない


「あのさ、夜。その……夜の胸って何時から大きくなったの?」
「え?」


 夜はスタイルもいい
 身長も高いし、胸も大きいし、和風美人って感じだし
 お値段高めのドレスとか似合うんじゃなかってのが初対面時の印象だった


「たぶん、小学、四年生の頃。だったと、思うけれど」
「うう……」


 わたしも自分のスタイルに自信がないわけじゃなかった
 そりゃ、咲李とかに比べたらお子様体型かもれないけど
 でもでも、同じクラスの女子と比べたら、平均よりちょっとは良い方じゃないかと思ってたけど

 夜の体つきを前にすると、何だか打ちのめされたような気分になる
 もっと言うと、わたしの体つきは、わたしが死んだ中二のときのままだ
 もしこのまま時間が停止したようにわたしの姿がこのままだったとしたら


 そう考えると、ちょっと怖くなった





 
662 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 2/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:45:35.87 ID:nc7nwv6ko
 



「わたし、都市伝説になっちゃったじゃん……。それでも体って成長するかな……?」
「大丈夫、よ。成長するわ。気になるなら。知り合いに、そういうことに、詳しい人がいるのだけど。相談して、みる?」
「あっ、うん! 相談するする! 実はずっと成長止まったままなんじゃないかって不安になってたんだよね!」



 そもそも、だ。わたしが「繰り返す飛び降り」なんて都市伝説だかになっちゃったのは
 わたしに飛び降り自殺させた契約者だか何だかの仕業だ。今になってすっごい腹立ってきた
 この前屋上で事件当時の“映像”を見たときは気分が悪くなって、目の前がぐちゃぐちゃになってその場から逃げ出した、気がする
 実は“映像”の後半からはっきりと覚えてない。わたし自身が飛び降りるのを見たときは割かし平気だった、気がする
 その後は……いやだ、あんまり考えたくない。咲李があの後どうなったのかなんて、思い出したくない
 わたしは犯人のこと知ってる気がする。思い出さなきゃいけない気がする。とても大事なことなのに。でも、思い出したくない
 花房君にもう一度聞いたら教えてくれるかもしれない。でも、怖い。聞きたくない。思い出したくない。気持ち悪い



「一葉、さん? どうしたの、大丈夫?」
「えっ、あっ、ううん、ごめんちょっと。色々考えちゃって。それより、あのさ。夜の胸、触ってもいい?」
「え? 私の、胸を?」
「あっ!? えと、あっ、あのさ、ほら。アレだよ! スタイルいい人にあやかって胸揉ませてもらったら、こっちもスタイルよくなるって言うじゃん! なんかで読んだ!」
「そう、なの? ……ふふ、ふ。そういう、ことなら。……優しく、触って。くださいね」
「あっ、あっ、あっあっ……」


 夜が後ろ手に、彼女の背中を洗ってた私の手首を掴むと
 ゆっくり、前に引いていって
 私の手を、夜の手が包んで
 そのまま、夜の胸に


「あっ、あっあっ」
「一葉さん、す、少し。くすぐっ、たいわ」
「おお、おおお……! あわあわで、すべすべ……!」


 柔らかい
 すっごい、夜のおっぱい、柔らかい
 ちょっとだけ、少しだけ強めに夜のおっぱいに指を埋めると
 確かな弾力と、やっぱりおっぱいの柔らかさが、よく分かる

 ヤバい、ずっと触ってたい
 何だかすごい安心する!
 ざわついた心が一気に落ち着いた、気がする!


「ふかふかで、やわやわで……、もちもちだ……!」
「い、一葉さん。くす、くすっぐたい」
「もうちょっと! もうちょっとだけ!」


 ずるい
 ずるいずるい!
 夜だけこんなの持ってるなんてインチキだ!
 わたしのなんか、触っても柔らかいんだかハリがあるんだかなんとも言えない中途半端な感じなのに!

 これでわたしと同い年だってのは、ちょっと納得いかない
 なんで神様はこうも不公平なんだろう
 わたしも順当に成長してれば、夜みたいになれたんだろうか


「すっごぉ……。ずっと触ってたい。気持ちいい……!」
「ふ、ふふっ、い、一葉さん……」
「ぬるぬるすると、何だかもっとやわやわが味わえる気がするー……!」
「一葉、さん……! も、もう少し、ふふっ、や、やさしく……んうっ
「ふあっ?」


 い、今の声なに? なになになにっ!?
 夜の声、だよね? 何だか聞いたことない声だった


 どうしよう
 何だかやっちゃいけないことしてる気がして、すごいドキドキしてきた……







 
663 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 3/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:46:13.30 ID:nc7nwv6ko
 







 私は自室のベッドの上で体育座りしたまま顔を覆っていた

 今日の私がやったことは、失態だった


「あーりーすーちゃーん」


 横合いから声をぶつけられ、思わず飛び上がりそうになる
 見れば、机の上にメリーが仁王立ちになってこちらを睨んでいた

 見慣れた羊のぬいぐるみ
 彼女は「メリーさんの電話」そのもの
 そして――私の指南役であり、頼れる相棒だ


「ありすちゃんを! 強く止めなかった! わたしにも! 悪いとこあるのー!!」
「メリーは、悪くないわよ……私が」
「でも! 中学校のことは、疑いが解けたのに! あんな言い方したの! ひどいと思うのー!!」
「……」


 “あんな言い方”。ドーナツ屋の前であの男子に言ったこと
 言うにしても、もう少し冷静であるべきだった。あのときもまだ感情的になっていた


「そんなにあの男子ーのこと、嫌いなのー?」
「それは……、まあ。見た目も雰囲気も、チャラそうだったし……」


 正直好きになれない、というかはっきり言って嫌いなタイプの男子だ。アイツは
 見た目があんなだし、商業生だし。アイツに必要以上に突っかかった理由は、多分そこだ
 思えば最初からそうだったのかもしれない。嫌悪が先行した。アイツを犯人だと決めてかかって
 それからアイツが犯人なことを前提に証拠集めを進めてきた

 いくらか冷静になった頭で考えれば、自分が思い込みで突っ走ってきたことくらい、わかる
 せめて。アイツを犯人と決めつける前にそれに気づけていれば。もう少し冷静に振舞えたはずなのに


「ありすちゃん、今回の反省点は、ほかにも二つあるなのー」


 メリーは机からベッドに向かって飛び込んで
 表面の凹凸に脚を取られながらも、よちよちこちらに近寄ってくる

 メリーを抱き上げ、膝の上に乗せた





 
664 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 4/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:46:45.98 ID:nc7nwv6ko
 

「一つは、まだ犯人と決まったわけじゃないのに、思い込みで襲撃しちゃったことなのー
 捕まえて話を聞くんだったら、まだいいのー。でも、今日のありすちゃんはー、襲い掛かってたのー」

「そうね」

「そして、もう一つはー。先に攻撃しちゃったうえに、途中でもっと攻撃的になっちゃったことなのー
 あのとき、ありすちゃんは怒りに呑まれてたんじゃなぁい?」

「そうね……、あのとき完全に呑まれてたわ」

「いけないことなのー。怒りは炎とおんなじなのー。自分が炎に呑まれちゃったら、全部燃えちゃうのー
 炎はコントロールするものなの。ありすちゃんは、そのことをよーく理解してるから、分かってくれると思うの」

「うん。もう少しでアイツを火だるまにするとこだった」


 あのときの私は完全に我を失っていた
 自分の能力で、アイツを拷問すればいいとすら考えていた



 あのときの自分が怖い



「ありすちゃん。ありすちゃんがあの男子ーのこと、好きになれなくて、まだ変質者だって疑ってることは、メリーも分かってるの
 だから、約束してほしいの。もし、捜査を再開して、あの男子ーが犯人じゃないって分かったら、あの男子ーに謝ってほしいの」

「……わかった」

「もちろんメリーも一緒に謝るのー。大丈夫なの! 二人で謝れば怖くないの!
 ――じゃあ、約束なの」

「ん」


 メリーの差し出した前脚に、自分の小指をあてがう

 もしアイツが本当に犯人じゃなかったとしたら、非礼を謝る。それでケジメをつけよう
 好きになれないタイプの男子だけど、それくらいはしないと


「気を取り直して、明日からまた捜査再開なのー! 反省会終わりなのー!」

「そうね、いつまでも落ち込んだままじゃいられないし」


 今日は色々散々だったけど未だ変質者が捕まったわけじゃないんだし
 自分の落ち度にいつまでも落ち込んでるわけにもいかない

 心機一転、明日からもう一度仕切り直しね!











 
665 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 5/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:47:24.81 ID:nc7nwv6ko
 







「はおっ!?」


 風呂から上がり、頭髪を拭きながら何気なしに携帯を見て
 思わず変な声が出た

 千十ちゃんからメッセージが来ていた



 【さっきのことで、電話したいんだけど】
 【いま時間大丈夫かな?】

 【忙しかったら無視していいからね】



 いっいつ!? 何時来てたんだ!? 全く気付かなかった!!
 慌ててメッセージの時刻を確認する

 最初の二件は今からほぼ一時間も前
 最後のメッセージは二十分ほど前のものだった

 うそぉ? なんで俺気づかなかったのぉ??
 最後の一件はともかく、最初の二件は気づいてるべきだろ!?
 長風呂ってわけでもない、完全に見落としてたことになる

 今から返事して間に合うだろうか
 とか考えてる場合じゃない、早く返信しないと



           【ごめん風呂入ってあ】
           【いま時間だいじょぶたけと、さすがに遅いやね?】



 ……誤字った
 一旦削除して返信し直そうか躊躇してるうちに


 既読がついた
 割と直ぐだった



 【私は大丈夫だよ!!】
 【今から電話してもいい?】



 何やら見たことないキャラクターの「OK!」なスタンプと一緒に返信がきた

 速い

 思わず息を呑む



           【OK!】



 返信する指が、震えた
 どうして俺こんなに緊張してるんだ!?
 千十ちゃんと今からお話するからだろうが! 静まれ俺の心臓!!

 数秒固まってるうちに携帯が震えた
 千十ちゃんからの着信だ、ほぼ反射的に電話に出た


 
666 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 6/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:48:01.70 ID:nc7nwv6ko
 



『もしもし、遠倉です』

「こんばんは千十ちゃん、レスが遅れてごめん。先輩送った後に帰って直ぐ風呂入ってて、気づくの遅れたんだ」

『あっ、こっちこそごめんね、急かすみたいになっちゃって』

「ううん大丈夫。それで、あの」


 言葉が続かない、何から話すべきだ
 眼鏡の子、日向さんのこと、いよっち先輩のこと、変質者のこと、他には


『脩寿くん、その……一葉さんのことなんだけど
 一葉さんと初めて会ったときのこと、もうちょっと教えてほしいんだけど、いい?』

「えっ、あ、うん。先輩と初めて会ったときね」

『できれば、その。脩寿くんがどうやって一葉さんと出会ったのか、知りたくて』


 経緯は数時間前にいよっち先輩自身が話しているけど
 俺から順を追って話した方がいいかもしれない


「四月に引っ越してきて後、『七尾』で世話になった研究者を探してたんだ
 チャイルドスクールが解体になった後、学校町に来てるって聞いて」


 なるべく、抑える


「千十ちゃんも聞いたことないかな、佳川有佳(よしかわ ありか)って言うんだけど」

『……ANクラスの、偉い研究員の人だっけ』

「うん、まあ偉いっていうか主席ってだけの奴なんだけど」

『……ごめんね、私もこっちに引っ越してから、「七尾」の人には出会ったことなくて』

「そっか。一応そっちは見つかればラッキー程度でのんびり捜して回ってたんだ
 何しろ学校町の何処にいるのかなんて細かい情報は知らない状況だったから
 それで、放課後とか夜とか、あちこち回りながら学校町を冒険してたんだ
 ほら、学校町広いでしょ? 実は最近まで東区を南区と勘違いしてたってことがわかって」

『あっ、わかるよ! 私もよく間違えるから! 東区広いよね!』


 「ヒーローズカフェ」で瑞希さんにも似たようなフォローを頂いたことがある
 思い出して何だか恥ずかしくなってきた! 顔が熱くなってきた気もする!


「そ、それで、あの。そんな感じで学校町を冒険がてら散歩してたんだけど
 一週間くらい前に東区の中学眺めながら歩いてたら、同じ年の奴に声掛けられて
 なりゆきで中学の敷地内まで付いていくことになったんだけど。そいつらも、あの、都市伝説とか契約者とかそういうの知っててさ」


 一度、言葉を切った
 このまま話し続ければ、三年前の事件に触れることになる


「このまま続けるけど、いい? 三年前の……事件のことになるんだけど」

『あっ、うん。私は大丈夫。……ドーナツ屋さんの前で泣いちゃったりして、ごめんね
 ちょっとビックリしちゃって。今は落ち着いたから、大丈夫だよ』

「あ、いや……わかった。それで、そのときいよっち先輩に出会ったんだ
 そいつらが三年前の事件について知りたいかなんて聞いてきて、そのとき先輩もやって来て、自分も話聞きたいって言い出して
 それが――いよっち先輩と初めて出会ったときの状況だよ。それで先輩も加わって一緒に事件の話を聞いて。そのときは先輩、話が大体終わると居なくなっちゃったんだけど」


 なるべく簡潔に、そしてぼかすべきところはぼかした
 栗井戸君の「再現」についても、その内容についても、ここでは触れるべきじゃないだろう


 
667 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 7/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:48:28.59 ID:nc7nwv6ko
 

『そう、だったんだ』

「それで、いなくなる直前の先輩の様子がどうしても気になって
 そいつらに色々教えてもらった次の日から、先輩に会うために東中に行って
 そのときは全然会えなかったんだけど、週をまたいでもう一度行ったらようやく先輩見つけて
 で、まあ色々話をして、いよっち先輩を東中から連れ出したって感じ。……中学は寒いし暗いしさ、先輩も嫌がってたから」

『……一葉さん、ずっと中学校に居たんだね』

「あ、あー……。本人が言うには『ずっと悪夢のなかに居た感じ』だったって
 いつも中学に居たのかはちょっと分からない。“中学に縛られた”状態だったのは確かかも
 でも、よく笑うし、明るいし。今日も元気そうだったし、俺はほっとした」


 嘘を、吐いた
 先輩は今日、家族の不在と向き合うことになった

 不安じゃない筈がない、しかもこういうのはじわじわ後にも効いていくものだから
 ――それでも、先輩の言葉は伝えないと


「それに、いよっち先輩、千十ちゃんに感謝してた。また会って話したいって」

『……本当に? よ、良かった! さっき連絡先聞くの忘れちゃって』

「俺が知ってるから、先輩からOK貰えたら教えるね」

『いいの!? ありがとう……!!』

「あ、あとさ。その三年前の事件について教えてくれた奴ってのが、東中の出身らしくて
 花房直斗って奴なんだけど、千十ちゃん知ってる?」

『……っ!!』


 電話の向こうから思いっきり息を呑む音が聞こえた
 ふとついでに何か知ってるんじゃないかと考えなしに訊いてみたが、どうやらこの反応はビンゴみたいだ


『花房君、だよね? ……知ってるよ、花房君達は有名人だったから』

「有名人」

『うん、花房君達は幼馴染のグループといつも一緒で
 日景君が一番有名人だったから、それで有名だったかもしれないんだけど』

「日景」

『あっ、うん。日景遥君。女の子たちにすごく人気の男の子だったの。それで』


 名前は聞いたことがある、商業でも何度も名前を聞いた。女子がよく話題にするのを耳にした
 いや、それ以上に。直感的に日景遥が何者なのかを理解した




 あいつだ




 栗井戸君の「再現」に現れた、あの竜だ



















 
668 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 8/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:49:01.78 ID:nc7nwv6ko
 






『脩寿くん……?』

「あっ、ごめん! ちょっと聞いたことある名前だなって!
 学校町内の高校という高校にファンクラブがあるって定評の、あのイケメンね!」

『そ、そうなの?』

「色んな噂は商業でも聞くよ、女子が不良に絡まれてるところを颯爽と登場して殴り飛ばしたとか
 助けられた女子が一目惚れしたとか、女子がそういう話してるのを週一単位で耳にしてる」

『多分それ、話に相当尾ひれがついてると思うな……』

「しかし、なるほどね。花房君は日景って奴と幼馴染ってわけなんだ
 ……実は千十ちゃんも、その日景って奴が好きなタイプだったりする?」

『へっ!? えっあっ、な、何訊いてるの!?』

「ん、いや、ちょっと気になっただけ! 嫌な質問だったら流していいから!」

『あっ、あのっ……』


 待て、待て待て待て
 俺は何を尋ねてんだ!? いくらなんでも不躾すぎるよな!?


「千十ちゃんごめん!! 今のは無視していいから!! 余計なこと訊いちまった!!」

『あのっ、違うの。実は、あの、日景君のことは……ちょっと苦手で』

「苦手」

『ううん、ちょっとどころじゃなかった。中学で初めて会ったときから、ずっと日景君のことが怖かったの
 日景君だけじゃなくて、花房君たち幼馴染のグループがすごく怖くて。あっ、別に何かされたわけじゃないの
 ただ、怖いことされたり言われたりしたわけじゃないのに、……同じクラスにいるだけで、体の震えが止まらなくなっちゃって』

「そんなことが」

『でも、これじゃいけないって思って。それだとみんなに失礼だなって思ったから、早く慣れるように頑張ったの
 グループのなかで一番怖く感じたのは日景君だから、日景君に慣れたら他のみんなもきっと大丈夫って思って
 日景君になるべく毎日挨拶したりとか、チャンスがあったら話し掛けたり、そういうことをしてたんだけど
 ……結局慣れないまま、高校は別々になっちゃって』


 そんなことが
 なんで花房君たちのことが怖かったんだろう
 だなんて、怖かった理由を訊くのは、これは失礼だろうか


『日景君には、迷惑かけちゃったかも
 いつもクラスの女の子たちが話し掛けようとしてて、日景君はそういうのあまり気にするタイプじゃなさそうだったから
 私も単にそういう女の子たちの一人として見られてたかも。あ、でも。時々うんざりしてたみたいだから、やっぱり迷惑だったかも』

「大丈夫だよ、気にし過ぎだって。モテるイケメンはそういうの気にしない奴多いって言うし
 日景の噂を聞いてる限りじゃ狭量って感じでも無さそうだしな」

『あっ! あのっ、ごめんね! 話が逸れちゃって』

「んん、全然。というか千十ちゃんの中学時代の話、もっと聞きたい
 機会があったら、もし千十ちゃんが良かったら、また聞かせてほしい」


 今のは不躾だっただろうか
 いや、これくらいはいいだろ


「……ん、わかった。今度話すね」


 ほら! 千十ちゃんもOKしてくれた!


 真面目な話、中学ってとこに行ってない身としては
 千十ちゃんが学校町でどんな中学生活を送っていたのか、正直気になる

 でもそれを聞くのは今じゃない

 
669 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 9/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:49:43.70 ID:nc7nwv6ko
 



『あの、本当は今日のことで話したいことがあって。それで電話したんだけど』

「日向さんのことだよね」

『うん、ありすちゃんのことで』


 日向ありす、あの眼鏡女子のことだ
 千十ちゃんにとっても本題はそこだったらしい

 あの女子についてと、変質者の話も聞いとかないと
 変質者容疑の件は完全に誤解だ、今日のドーナツ屋で千十ちゃんにそれが伝わったのは正直嬉しかった


「あの後大丈夫だった? 日向さん、俺にキレてたとは思うけど」

『えっと、ありすちゃんに送ってもらいながら私からもう一度誤解だよって話してたんだけど
 ありすちゃんも、脩寿くんがまだ犯人と決まったわけじゃないって言ってて
 でも、犯人じゃないって決まったわけでもないって言ってて。困った感じだったの』


 つまり容疑者候補からは外れたが、完全にシロでもないってところか
 依然として「疑わしいヤツ」なのには変わりないのだろう


『あのね、本当なら私、脩寿くんのことをありすちゃんに私の友達って紹介するつもりだったの』

「ほ? えっ、本当に? あの――日向さんに?」

『うん。脩寿くんもありすちゃんも、私にとって大切な人だから
 それなのに、こんなことになっちゃって。本当は私がありすちゃんにちゃんと説明しないといけないのに
 こんな風になっちゃって。どうしよう、どうしてなんだろうって困ってて』

「いや! 千十ちゃん悪くないよ! 抱え込まなくていいよ!」


 千十ちゃんが悄気返ってるのが声だけでも分かる
 疑いを晴らすのは俺の仕事だ、やると決めたらやる


「俺がなんとか誤解だってことをあの子に理解してもらえるように頑張る
 そのために、その変質者って奴を押さえたいんだ」

「へっ……!? 真犯人を、捕まえるってこと!? あっ、危ないよ……!」

「あっ、違うんだ! その、危険なことするわけじゃなくて!
 変質者が別にいるって分かってもらえればいいんだ、後は……警察の仕事だから」


 嘘を吐いた
 でも、正直に犯人を捕まえるなんて話したら
 今の様子だと確実に千十ちゃんを心配させることになる

 それに犯人を捕まえるってのはあくまで可能ならばって条件つきだ
 そういう意味では、俺の言ったことは嘘ってわけでもない、その筈だ。きっと





 
670 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 10/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:50:30.16 ID:nc7nwv6ko
 



「今はその変質者の情報が欲しいんだ
 それにほら、本当に変質者だってんなら、俺も警戒するに越したことはないし
 だからその、千十ちゃんが変質者について知ってることあったら教えてくれない?」

『……わかった
 私も直接見たりしたわけじゃないんだけど
 ありすちゃんから聞いた話で良かったら』



 千十ちゃんからその“変質者”の情報を教えてもらった
 その特徴というのが
 
 
   ・可愛らしい、大き目なサイズのテディベアを操る
   ・テディベアから無数の触手を生やして、日向さんに痴漢行為を働いた
   ・恐らくテディベアを操作する本体が別にいる
   ・最近東区や南区に出没するらしい露出魔が、恐らくその本体である
   ・恐らく本体は契約者である
 
 
 ……俺の予想を遥かに上回るロクでもない野郎らしい
 OK、こんなのを野放しにしてちゃ駄目だろ、学校町



「なんかごめんね、こんな気持ち悪い話させて」

『私は大丈夫。気にしないで』

「でも、そんなのに襲われたんなら日向さんがキレるのも無理ない話だわ」

『そうだよね、怖いよね』

「個人的にはそんなのと勘違いされたってのがちょっとショックだけど
 どうにかして身の潔白は証明しないとだな」

『脩寿くん? 危ないことは、しないよね……?』

「あっ、しない! 大丈夫! しないと思う!」


 なんというか、こう
 千十ちゃんの不安そうな声色で心配されると、こう答えざるをえない
 なんだこれは、すごい後ろめたいぞ


『絶対に無理はしないでね?
 それに私ももう少し情報がないか調べてみようと思う
 クマのぬいぐるみを使う変質者なんて、誰かが見たりしてたら話題になる筈だし』

「言われてみれば。それもそうだな、俺もちょっと周りの奴らに確認してみる」


 俺も明日商業の連中に聞いて回ろう
 それに今のうち敷島に連絡取っておいた方がいいかもだ
 花房君にも尋ねてみることにしよう、何か情報がもらえるかもしれない



 
671 :次世代ーズ 35 「憩う、ひととき」 11/11 ◆John//PW6. [sage]:2022/03/23(水) 18:51:09.02 ID:nc7nwv6ko
 



『あの、脩寿くん
 ありすちゃんと仲直りできたら、そのときは三人で一緒に「ラルム」に行こうよ』

「そうだね、そのときは……約束する」

『それと……。こんなときに、なんだけど……前の約束、覚えてる?』

「覚えてるよ、千十ちゃん家へ夕食しに行く約束だよね。来週の金曜」

『……うんっ。あの、それまでに
 ありすちゃんに誤解だって分かってもらえたらいいなあって』

「そうだね、俺もなるべく早くに勝負つけられるように情報収集を頑張ってみる」

『うんっ! 私も力になれるように頑張るから。じゃあ、あの
 長くなっちゃったけど――おやすみなさい、脩寿くん』

「千十ちゃんも。おやすみなさい」





 通話を終え、深呼吸する
 安堵感と使命感が同居して胸の内で静かに燃え上がってるような気がする

 まずは“変質者”に関する情報収集
 そして“変質者”を押さえる、あとはその場の流れでなんとか

 でもあの眼鏡女子、割と俺のこと嫌ってる雰囲気だったよな?
 仮に“変質者”のことを抜きにしても、仲良くなれるタイプなんだろうか



          『勘違いしないで』
          『東中のことは私の誤解、それは認める。でも、だから何?』
          『あなたが変質者じゃないって証明にはならないから』



 不意に眼鏡女子に言われたことが脳裏でリフレインした
 ……そうだな、やっぱり“変質者”を捕まえてあの女子の前に引きずり出そう


 うん、それが一番だ


 人のこと、見た目で判断しやがって!
 アレか!? 俺が商業生だからか!?
 覚悟しとけよ、あンンのコスプレ女ぁぁぁ!!






























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