都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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92 :次世代ーズ 「一日目の夜」 1/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:43:33.40 ID:JdN7X+hIo
 



「状況はどうです?」

「上々、といった所でしょうか
 ようやく『組織』も事態を把握したようです
 ここまで粘れたのならベストを尽くした方だと思いますよ」


 女の返答に「ピエロ」は胸を撫で下ろした
 首尾はそこそこ上手くいったようだ


「ただ、そうですね
 『組織』よりも早い段階で
 『レジスタンス』配下と思しき対象が動いた点をどう読むか
 現状、不安材料が無いわけではありませんが、十分に想定の範囲内です」

「『一ツ眼』や『組織』関係者の能力で
 『ピエロ』が若干名、支配権を奪われてます
 我々の方で処理した方がよろしいでしょうか?」

「問題はありません。予定より早く“彼女”が学校町へ到着しました」
「“彼女”? まさか、あの、“女神”さんですか!?」
「あら、隊長さんも気になってました?」


 隊長と呼ばれた「ピエロ」は、取り繕うように笑って誤魔化した


「いやあ、“女神”さんに惚れてる仲間も多いもんで……」
「中々楽しいことになりそうですね。特に今日と明日は」


 女は機嫌良さそうに「ピエロ」からモニターの方へ向き直る
 壁面に設置された複数の画面には様々な映像が表示されていた


「“先生”方の具合はいかがです?」

「こちらもまずまず、と言った所でしょうか
 『アブラカダブラ』と『やってくるモノ』は現在、事象改竄系能力者を追跡中のようです」

「事象改竄に全知の観測、か。おっかねえな、学校町の契約者は」
「まだまだこんなものではありませんよ。序盤ですらありません」


 「ピエロ」の隊長は感嘆したように首を振る一方で、女の声は弾んでいる
 まるで、学校町で現在進行中の事態が楽しくて仕方ないといった雰囲気だ


「ただ、対象の能力者が幼少の女児のようで
 少々『やってくるモノ』が没頭している様子なのは気掛かりですね
 まあ、『カダブラ』の子が一緒なので手綱は握れるでしょう。心配はありません」

「お若い“先生”方はどうでしょうか?
 アシストが必要ならいつでも駒を動かせますが」

「それが……」


 直前まで上機嫌だった女の声色が曇る
 「ピエロ」は彼女の顔色を伺いつつ、モニターの方へ視線を向けた


「こちらの“眼”からロストしたようなのです
 一人は『七尾』出身者なのですが、問題児で……、こちらの指示を聞いているのかどうか……
 まあこちらも“寄生”の子が一緒なので、いざというときはストッパーになってくれると思うのですが……」

「最後にトレースできた座標は残っておりますでしょうか?」
「南区、ですね」
「一応、当該地区で待機している『ピエロ』達に指示を出します」
「すいません、お願いしますね」


 女の言葉を受けて、「ピエロ」の隊長は足早にその場を去った
 女はモニターに目を向けたまま、深い溜息を吐いた


「これだから『七尾』の子は……まったく……」

 
93 :次世代ーズ 「一日目の夜」 2/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:44:15.87 ID:JdN7X+hIo
 



 学校町、某所
 其処は廃工場なのか廃ビルなのか
 兎に角人気が全く無い筈のその場所に“彼女”達は居た


 開けたその場の中心に佇むのは“彼女”だ
 胸の一部と腰周りを申し訳程度に隠したと言っても過言ではない装束の他は
 透けるベールのようなものを羽織っており、このまま道を征けば衆目を奪うには十分過ぎる

 と言うより、その格好で出歩けば即座に国家権力が飛んできそうな程に肌の露出は甚だしかった

 いや、露出の多い装束というよりもむしろ全裸の上から局部のみをギリギリ隠した容姿と表現すべきか?

 加えて“彼女”の豊満な肉体が公然猥褻の度合いを弥増しに高めているのは、ある種の必然だった

 それもその筈、“彼女”は愛欲と戦闘の神格と契約を結んだ能力者だったからである


 周囲には大量の「ピエロ」が“彼女”を包囲するかのように平伏している
 この「ピエロ」達は一つの共通点で以ってこの場に集っていた
 「一ツ眼」の“魔”、あるいは契約者による“支配”、あるいは淫魔による“魅了”
 そう、学校町に於いて精神干渉系の能力を受けた「ピエロ」達は自動的にこの場に向かっていたのだ
 全ては“彼女”が事前に仕込んでおいたフラグなのだが、「ピエロ」達がこの事実を知っているのかは明らかでは無い

 いずれにせよこの場の「ピエロ」達は“彼女”の力能によって、今や干渉を完全に“上書き”されていた


「あなた達ニ――」


 “彼女”が口を開く
 その声は「ピエロ」で無くとも心狂わせるには十分過ぎる程の官能を湛えていた


「――“お願い”をしたのは誰カナ? ワタシに教えテネ」


 “彼女”の声に聴覚を擽られた「ピエロ」達は我先に体を起こし
 “彼女”の姿を直視した途端、彼らは性的絶頂に達した


「ああーッッ!! 女神サマーーッッ!!」
「駄目ぇっ シコシコしてないのに いっぱいピュッピュしちゃうよォォォーーーッっ
「パパが! パパがやれって!! 『一ツ眼』のパパがやれって言ったのォォーー!!
「俺は悪くないんだ女神サマッ!! あっ 『組織』のっ 女の子がッ! やれって!! だからッ
「女神さまお許しください 俺達は悪くないンだぁぁァァぁァァッッ!!! あっ また出るゥゥっ!!」


「みんナ、いい子だヨ 悪い子は独りもいナイ だからいっぱい気持ち良くナぁレ


「あアーーっ 女神サマァァァァぁぁッッ!!!!」
「うソォォっ!?!?!? 一回出たのにィまだ出るヨぉぉぉぉ
「もうオレここで死んでもいいッ!! 死にたいッ気持ちイイッッ!! 女神さまン殺してェェェ!!


 異様な光景であった
 たとえそれがこれから学校町で繰り広げられる惨劇の序章であったとしても

 己の性欲を猛り狂わせながら銘々が欲望に絶叫するその様は
 その光景は異様と呼ぶより他無かった



 「イナンナ」

 それが彼女の契約した神格の名だ
 古のシュメールより伝わる性愛と美、豊穣、そして戦争を司る女神である
 その女神はメソポタミアに於いてイシュタルと、ギリシアではアプロディテと崇められ
 ローマではヴィーナスと、ユダヤ教やキリスト教ではバビロン、あるいは淫婦共の母と見做された存在である

 その神格と契約した能力者は人間の女だったが
 彼女が神格に呑まれてしまったのか、それとも人格のみをこの女神に書き換えられてしまったのか
 今となっては誰にも知り得ぬ話であるし、そのようなことは当事者にとってもどうでも良いことなのだろう

 
94 :次世代ーズ 「一日目の夜」 3/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:44:48.07 ID:JdN7X+hIo
 

 “彼女”、「イナンナ」と契約した能力者は大きく二つの力能を有する
 一つは、愛欲の神格としての側面。つまり、己の愛欲により全てを飲み込み、愛する“魅了”の力能
 そしてもう一つが、戦闘の神格としての側面。即ち、敵対した存在全てを嬲り殺しにする“殺戮”の力能である

 そして現在
 “彼女”の能力下にある「ピエロ」達は
 “彼女”の“魅了”により新たな命令を刷り込まれつつあった


「みんなの“パパ”と“ママ”ハ、みんなに愛をくれたヨネ?」

「うんッ! 『一ツ眼』のパパんはいっぱい愛してくれたァァァァァぁぁッッ!!」
「『組織』の子ッ ママんッッ ああああンンんンんんっっ ボク愛されてるぅぅぅぅぅっっ!★!★!」


 「イナンナ」の“魅了”は、神格のそれである為か強力な干渉を誇る
 “彼女”には過去に「狐」による魅了者の乗っ取りを何度か実施したという噂もある程だ
 熟達した契約者であっても、“彼女”の“魅了”を受けてしまえば、その出力と密度により決して長くは“もたない”だろう


「受け取った愛ハ、“パパ”と“ママ”に返さなくチゃネ

「ふぁッ!? ンン あっ ああァァーーッっ んアアーーっ!!!!」


 “彼女”の最も近くに居た「ピエロ」の頭を、“彼女”は優しく撫でつけた
 その瞬間、その「ピエロ」は自らの睾丸を握力で握り潰し、白目を剥きながら、文字通り昇天した


「でモ、そのままのやり方じゃあ“パパ”と“ママ”は愛を受け取ってくれなイヨ? そんなノ、悲しいヨネ? 嫌だヨネ?」

「えっ??? やだやだやだァァァァッっ!!」
「女神サマっ!! オレたち、どうすればいいッ!? 助けてヨぉぉッ!!」


「うン だかラ、出来る所からヤればいいんダヨ★ みんなでも出来ルヨ!」


「どぉうすればいいンのォォ????
「教えて女神さまン! どうやれば、パパにLOVEを怨返し出来るンんッっ!?!?」


「それはネぇ


 “彼女”は「ピエロ」達に向けて、きゅうと笑む
 それを見た「ピエロ」の何人かは更に射精を繰り返した
 敵からの干渉を歪める形で刷り込まれる命令はほぼ完成の域に達しつつある


「『一ツ眼』は今、学校町の大きなお屋敷に食客として迎えられているンだッテ
 でネ、そのお屋敷のお坊ちゃんハ、この町の大きな高校に通ってるって聞いタノ★
 分かるかナ、ブレザーの子どもたちダヨ? その高校の子どもたちなら、愛を受け取ってくれるかモネ


「ほントッ!? ほんトにッっ!? 高校生に愛を返死てもいいンッ!?!?」
「おホぉぉォォンッッッ!! 妊活カーニバルの開催だァァっっっ!!!!」
「高校生…… ブレザー…… かわいいかわいい……
「高校生ってもう赤ちゃん作れるよねェェっ! ヤっちゃっていいンだよねェェッッ!!」
「いっぱいいっぱい頑張らないとォォ 女神サマも頑張れって言ってるんだからァ 頑張らないトぉぉ


「みんな頑張レ “パパ”も“ママ”もきっと喜んでくれルヨ


「うんンんんンンン!! 頑張るゥゥゥウウゥぅぅううぅうぅゥゥゥぅぅぅううッッ!!!」
「中央高校 でも危険すぎるッ!! 中央高校は“結界”あるからッっ 駄目ぇッッ!!」
「お前バカだろォォ!! 放課後を狙えばいいンだよぉぉぉぉぉぉんんん!!」
「そっかぁぁ、放課後 放課後にデート レッスン 種付けレッスン 頑張らなくちゃ



 新たな命令を植え付けられて狂喜の渦に飲まれた「ピエロ」達を満足気に眺めながら
 まるで新しい玩具にはしゃぐ子供達を愛おしく見詰める母親のように、“彼女”は微笑んだ



「そうダヨ
 愛を恩返しするなラ、まず弱い所からヤってかなイト ダヨ


 
95 :次世代ーズ 「一日目の夜」 4/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:45:18.35 ID:JdN7X+hIo
 

「全員動くなァァッッ!! 『組織』だぁぁッッ!!」


 「組織」の黒服達が怒号と共に現場を急襲したとき
 既にその場所には誰も存在しなかった

 まるで以前に遺棄されてそのまま時間だけが経過したかのように
 静寂のみが空間を支配している

 二点、違和があるのだとすれば
 矢張り先程まで此処に何者かが、それも多数の者が居たと思わせるぬるい気温と
 男達の体臭のようなそれに加え何やら酷い臭いが混じっている、特有の空気だろうか


「くそッ! 間に合わなかったかッ!?」
「主任、改めて確認しますが」


 悪態をつく黒服に対し、部下と思しき者が声を掛ける


「現場での察知系能力の行使は――」

「許可できない! リスクが大き過ぎる
 くそ、例の報告が無ければ、あわや大惨事だったぞ……」


 主任と呼ばれた黒服は歯噛みしながら頭髪を掻き毟った
 彼ら過激派と言えど、ここまで勝手に振る舞う「ピエロ」達を前に
 全てを穏健派に押し付けて傍観役に徹する真似は出来なかった

 かつて「狐」の案件で過激派と強硬派の一部が暴走した挙句
 貴重な手掛かりを無駄にし、「狐」をも取り逃がしてしまった彼らは
 「狐」の案件に関わることこそ出来ないが「ピエロ」ならば、と対処を開始したのだ


「まさか察知系能力へのカウンターとは、やられましたね」

「感心している場合じゃないッ!! 初動が早ければまだ封じ込めも出来たが、こうもなってはッ!!」

「やはりこの件、裏で『狐』が絡んでいるのでしょうか?」


 部下の一人が疑問を呈する
 その言葉に主任は手を止め、目を閉じた


「まだ判断を出すのは早計、それが現段階での幹部達の判断だ
 だが、状況から推察するに『ピエロ』が『狐』の陽動を担っているという見方を排除することは出来ない――!!」

「『狐』が本格的に学校町制圧に動き出した、とか?
 三年前の件があるでしょうから、『狐』も策を練ってると見るのが自然でしょうし」

「『狐』の案件は穏健派の連中が何とかするだろう
 いや何とかして貰わないことにはこっちだって困るんだッ!!
 俺達は何としてでも『ピエロ』を討伐し、その中枢を押さえるぞッ!! いいなッッ!?」


 主任の言葉にその場の部下全員が首肯した


 此処からは人海戦術だ
 個々の黒服達はこの場に居た筈の大量の「ピエロ」達を見つけ出すべく夜の学校町を奔走することになる


 だが果たして、「狐」と「ピエロ」との間に繋がりなど存在するのだろうか

 彼ら黒服の私見は、最終的にどのような末路を辿ることになるのか

 今はまだ、誰にも分からない






 
96 :次世代ーズ 「一日目の夜」 5/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:45:52.10 ID:JdN7X+hIo
 



 学校町南区、某ビル屋上



 彼女は放課後、別の学校の友人と一緒に南区を回っていた
 移動屋台が集まる南区の一角で新作のクレープを楽しんだ後
 キッチンカーに陳列されるお菓子を眺めながら時間までお喋りして
 それから、楽しい気分のまま、友達と別れる――筈だった、筈だったのだ



 彼女は震えながら目の前に横たわる友達を凝視していた
 友達はもう、体を動かすことは無かった。でも、生きてる筈だ
 根拠の無い思い込みだけが、今の彼女にとって唯一希望を繋ぐ糸だった

 生きてる筈だ、生きてなきゃダメなんだ。死んでなんかない。死んでなんか

 友達の顔面には血と肉の花が咲いていた
 最早、何処が眼で何処が口なのかも分からない程、ぐちゃぐちゃにされている
 鼻があった筈の部分は盛り上がりも何も無く、顔面が削り取られたかのような状態だった
 赤い中に見える白い物は骨、いや違う。白い、ご飯粒のような物が、友達の顔の中で蠢いている

 思わず目を背けたくなる。が、出来ない
 出来る筈が無い

 喉の奥から酸っぱい物が込み上げるのを彼女は必死で押し留めた


「それじゃ、もう一度聞くね?」


 自分と友達を、こんな目に遭わせた元凶が
 直ぐ耳元で囁いた


「キミは南区の商業高校、一年生。だから知ってる筈なんだ
 さわたり、しゅうじゅ。名前、知ってるだろ? ホントのこと言ってよ、ねえ」

「うっぐっ、しっ、知らないっ! ほん、とにっ、知らないっ、ぅうン、ですっ!!」

「さわたりしゅうじゅだよ、早渡脩寿。知ってんだろ? なあ!?」

「ごめっ、なさい゙っ、わたっ、しっ、ほんとにっ、知らなっ、ぅあっ」


 元凶の少年は、女子の肢体を優しく撫でつけた
 少女は先刻まで着ていた筈の制服を剥ぎ取られ、今や下着のみの姿で、無理矢理横たえられていた
 彼女の白い腹部は少年の爪で引き裂かれ、裂傷の中から内臓が大きくはみ出ている
 引き裂かれたのは腹だけでは無い、女子のふくらはぎから踵にかけてが、ずたずたに切り刻まれている

 不意に少年は手に取っていた少女のはらわたを指で弄んだ

「ゔっ、ぅぁあっっ、やめ゙っ、ぅぅううあああっっ、お゙ぉ゙ぉ゙っ」

 彼女は顔を背けてお腹の中身を吐き戻した
 先程食べたクレープだったモノが屋上の床を汚した


「あ〜あ、きッたないゲロ吐いちゃってさぁ、ホントくッせえな」
「でもこのゲロ、美味しそう」


 別の声は少女の反対側からだ
 女の子だ、少女と年齢は同じ位だ
 ただ、その声は彼女のそれに比べて幼い

 内臓を弄ばれる彼女を挟むようにして
 元凶の少年と、彼の連れである少女が両脇を詰めていた
 吐き戻した側にその少女は詰めていたので、吐瀉物が彼女と少女の間に広がっていた


 おもむろに連れの少女は
 吐いた彼女の口を己の口で塞いだ
 艶めかしく口元が蠢く。彼女の眼は恐怖で見開かれた

 ややあって少女は口を離した
 大量の唾液が白い糸を引いて二人の間を伝う
 少女は蕩けたような表情を浮かべていたが、彼女の方は錯乱したように悲鳴を上げていた

 
97 :次世代ーズ 「一日目の夜」 6/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:46:22.56 ID:JdN7X+hIo
 

「お姉ちゃんのゲロ、酸っぱくて、甘くて、美味しい
 女の子の味がする


 少女は囁き声でそっと彼女の耳たぶを噛む


「うぁ、ぅああぁあ゙あ゙ぁ゙ぁ゙っ!!」


 目を見開いたまま、女子生徒は泣いていた
 まるで幼い子供がただ感情のままに泣き叫ぶように


「マヒルの変態、ふ、変態マヒル、ふぅッ」


 その様を前に、少年は押し殺した声で嗤っていた


「じゃあ何、ホントになにも知らないんだ
 早渡脩寿はモテないのな、ゴミはゴミのままで安心だわ」


 少年は満面の笑みに顔を歪め
 泣いている彼女の肩に手を回した
 震える彼女の耳元で彼は、甘く、囁く


「キミのふくらはぎ、柔っかくて、ぷにぷにで
 甘くて、だからとっても、美味しかった」

「いやぁ、ああっ、ああぁぁ゙っ、あ゙あ゙あ゙っ」

「正直今すぐ食っちゃいたい
 優しくするから、ふ、気持ちくしながら、ふッ、ふぅッ
 命令が無ければ、ふぅッ、イかせながら食っちまうのに」


 少年は自分の右手の先を噛んだ
 噛む度に口内からバキバキという音が響く
 事実、彼は自身の指先の骨を歯で噛み砕いていたのだ


「ふぅーッ、我慢しなくっちゃ、クソみたいな命令でも
 ふひッ、命令は絶対だって、ふぅッ、先生も言ってた、くひッ
 だから、だから俺は、ひぃッ、我慢しなくっちゃあなあ、くひぃッ」


 込み上げる笑いを窒息させ
 少年は唸るように押し殺した声を漏らした
 右手の先を噛む口からは血が垂れ始めるが構う様子は無い


「大丈夫、お姉ちゃんのこと、きっと正義の味方が救けに来てくれる」


 耳の縁を何度も舐め上げながら
 少女は女子生徒の耳元でそっと囁いた
 女子の側からは決して見えないのだから分かりはしないだろう
 柔らかく、優しく囁くその少女の目元は、愉快な物を見詰めるかのように歪んでいることを


「だって、正義の味方の好物は恐怖と絶望だもの
 ヒーローの御馳走はね、あなたの泣き叫ぶ声なんだよ
 あなたの苦しむ悲鳴だよ、だから、もっともっと、大きな声で救けを呼ばなくちゃ」

「ごっ、ごろ゙ざな゙い゙でっ!! たっ、たっ、たすっ、たすけてくださいっ!!」

「もっと大きな声で泣かないと、誰にも聞こえないよ?」

「だずげでぐだざ――ぉおおおお゙お゙お゙っ!!」


 彼女の命乞いは途中で遮られた
 少年が彼女の傷口に手を深く押し込んだ所為だ


 その様子を見て、少女は嘲笑った


 
98 :次世代ーズ 「一日目の夜」 7/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:46:55.43 ID:JdN7X+hIo
 

「あのなあ、泣けば何もかも許されるって
 本気でそう思ってんのか? なあ? だから泣いてんのか?」

「ごめ゙んなさっっ、ぁぁ、ぁあああ゙っ、ごべっ、ぉ゙ぉ゙っ、ぃやだっ、ごべんっ、あ゙あ゙」


 少年の声は飽くまで静かだ
 内臓を直接弄ばれた少女の吐瀉物には既に血が混じり始めている


「もうお互い子どもじゃ無いんだからさぁ、弁えなよ
 ――で、キミとこの子、俺はどっちを見過ごすべきだと思う?」

「ぃゃ、ぃゃ、やでず、も゙う、ゆる゙してください゙っ」

「選べよ? でなきゃ、俺に聞こえるように命乞いしなきゃ
 ほら、しっかりやれよ、お姉ちゃんもう高校生だよね? 16歳だよねえ!?」

「ごめん゙な゙さい! ゆるじでぐだざい゙っ、うぁぁ゙、ぁああああ゙あ゙」

「もっと大きな声でぇッ!!」

「ごめんな゙ざい゙っ!! ゆどぅ、ぁっ、ぅおおおお゙お゙、お゙お゙っ、ごろ゙さな゙いでくださいっ、ああ、ぁぁぁ゙ぁ゙」

「なんだ、言えるじゃないの」


 少年は無邪気に微笑みながら、横たわった彼女の友人に手を掛けた
 途端に先程まで動かなかった友人の顔面から激しい呼気が聞こえ始めた
 辛うじて鼻があった部分が蠢いて、断続的に血の混じった息を噴き散らした

 息を吹き返したのでは無い、少年に掴まれ、神経に爪を立てられた激痛に呻いているのだ


「じゃあ、この子を、キミの代わりに[ピーーー]していいよね? ねっ?」

「だめ゙でずっ、やっ、やべでっっ、ぅおお゙お゙っ、ああああ゙、いやだあ゙あ゙あ゙」

「さっきから鼻水とか涙とかゲロとか撒き散らしやがって、やる気あんのか? お前?」

「ごの゙ごわ゙っ、だい゙ぜづな゙っ、とも゙っ、ぉぉぉ゙ぉ゙、どぼだぢなん゙でずっ、だがだっ、ごどさだい゙でっ!!」

「はーい、よく言えましたっっ、と」


 少年は急に興が削がれたとでも言いたげな投げやりな口調で立ち上がった
 そしてそのまま、横たわった友人の脇腹を、蹴り込んだ


「や゙べでぐだざい゙っっ!!」


 友人を庇う様に、女子生徒は友人に覆い被さった
 その途端に、彼女は耐えていた嘔吐を繰り返した
 最早吐瀉物では無く、彼女の口から吐き出された血が、友人の顔に掛かった


「お望み通り、お前のオトモダチは助けてやるよ
 それからお前のこともなあ、なあ、嬉しいだろ? ちゃんと感謝しろよ、感謝も出来ねえのかお前はッ!!」


 少年は友人を庇う女子生徒の頭髪を掴んで揺さぶった
 言葉こそキレた調子だが、彼の顔には未だ微笑みが貼り付いている


「ありがどお゙ござい゙ま゙すっ、こどさな゙いでぐでで、あり゙がどお゙ございまっ、ぅぁ、すっ、ぁぁ゙ぁ゙」

「そうそう、感謝は大事だよー? そんなの誰でも知ってるよー
 じゃあ、キミとオトモダチを見逃してあげるんだから、キミのカゾクを[ピーーー]しちゃってもいいよね??」


 突然の少年の提案に
 女子生徒は言葉を吐き出すでも無くただ呼吸を繰り返した
 少年が何を言っているのか、彼女には直ぐには理解出来なかった


 
99 :次世代ーズ 「一日目の夜」 8/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:47:25.78 ID:JdN7X+hIo
 

「この世はね、シンプルな理屈で成り立ってるんだ
 トレードオフ、等価交換、何だっていいよ。兎に角、何かを犠牲にしないと何も得られないんだ
 分かるっしょ? 俺はキミとオトモダチを助けたよね? だからその分、俺は何かを奪わなきゃいけない」


 再び、少年の顔が悪意に歪む
 その表情は年頃の悪戯少年のそれと比するには余りにも残忍に過ぎた


「キミはオトモダチとカゾクを天秤に掛けて、オトモダチを選びました!
 だからそのトレードに、俺はキミのカゾクを食っていいってわけ! いいシステムだよなあ、ほんっと」

「えっ、あっ、あの゙っ、なに゙を゙、言ってん゙かっわがっ、ああ゙あ゙あ゙」


 漸く女子が顔を上げ、口を開くが最後までは話せなかった
 少年の蹴りが腹部に直撃したからだ


「だーかーらー、俺は今からキミのカゾクをみんな[ピーーー]しちゃいまーす! ッてわけ!
 楽しいなあ、たッのしいなあ♪ うッきうッき遠ッ足、たッのしいなあ♪ 俺ッてほんッと、あったまいいー♪」

「かぁクンばっかりずるいよ、そろそろ私も混ぜてね」


 直前まで微笑みながら状況を傍観していた少女も、漸く彼に声を掛けた


「よく見てろ、ゲロ女」


 少年が彼女の頭髪を掴み、無理矢理顔を上げさせた
 不意に、彼の顔が溶けた。しかしそれも一瞬だった

 直後、少年の顔は女になっていた
 顔だけではない、体つきも女のそれに変化していた
 正確には、彼の目の前に居る女子生徒の姿と、瓜二つになっていた


「これで」


 少年、いや、直前まで少年だった、自分と同じ顔の少女はきゅうと笑う
 顔面全体に少女に対する嘲りが刻まれているような笑顔だった


「お前のお袋も、親父も、俺の正体を疑わない
 俺はお前の振りをしてお家に帰ればいいんだからなあ
 可哀想に、お前の親は、ここでお前が死にそうになってるのに気づかないんだよ
 そして」


 彼は女子生徒の耳元に顔を近づけた
 押し殺したように嗤うその声も、おぞましいことに彼女のそれと同じだ


「俺に食い[ピーーー]されて、死ぬ。ちょろい人生だよなあ、お前のカゾクはさあ」

「やめ゙っ、やめ゙でぐだざい゙っ!!」

「じゃあ、止めてみろよ、ゲロ女。お前の情報はこっちにあんだからよ」


 ひらひらと彼女の前で見せびらかせる様に振るのは
 女子生徒が持っていた筈の携帯と、生徒手帳だ


「俺は今日からお前に成り代わる。お前はここで震えてろ
 あ、大声で救けを呼べば、正義の味方気取りが来てくれるかもよ♪」

「やべで……、やべでぐだざい゙、だでがっ、たずげで……!」

「ああ、そうだ
 いいこと思いついたよ
 よーく見ててね、ゲロ女」

 
100 :次世代ーズ 「一日目の夜」 9/9 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/07(金) 14:47:56.24 ID:JdN7X+hIo
 

 女子生徒の顔をした少年は彼女の携帯を弄り始めた
 少女の方も少年の傍に寄り、携帯を覗き込む


「で、どれだ? こっから見ればいいのか?」

「かぁクン、これだよ、これ。そのままタップして」

「おうおう、なーる。あ、待て。よし、――ああ、お母さん、うん、わたし!
 今から帰るね、うん。今日の晩御飯なぁに? あっ、そうなんだ
 うん、わかった。早く帰るね。うん。えへへ、お母さん、いつもありがとね!」


 携帯に向かって話す少年の声は、普段の彼女のそれだ
 漸く状況が飲み込めた女子生徒の眼が恐怖で見開いた
 今、女子に化けた少年は、何処へ電話を掛けているというのだ


「お前のカゾク、マジでちょろいなあ、ゲロ女。もう攻略完了でつまんねーわ、マジちょろ」


 女子の声で少年はそう言い捨てると、出し抜けに服を脱ぎ始めた
 まるで最初からそうする積りだったかの動作で
 先程引き剥がされた彼女の制服を拾い上げると、そのまま着替え出した


「うは、メス臭え服だな。これで俺はもうお前なんだわ
 誰が見ても完璧な。だろ、マヒル?」

「うん、凄く似合ってるよ」

「そらそーよ、制服は元々このゲロ女のだしなあ!」


 二人の声が、状況を理解した女子の耳に突き刺さる


「じゃあ、俺たちはお前ん家で 夕メシ 食って くっから
 気が向いたら、 お袋の味 って奴を教えに来てやるよ」


 それだけ告げて、少年と少女はビルの屋上から飛び降りて行った



 二人は行ってしまった



 取り残された女子生徒は、震えていた

 あれは幻覚だったのか? あの少年の顔は自分の顔になった
 自分の声に成り代わって、自分の制服を着て、行ってしまった

 魔法か何かなのか? それとも全部、悪い夢なのか?

 混乱する頭の中で、しかし、女子生徒の中で恐怖が膨れ上がる

 自分と友人を襲撃したあの二人は、自分の姿を奪って行ってしまった
 あの男は、私の家族を[ピーーー]と言った。それははっきりしている
 このままでは、家族があの化け物に[ピーーー]されてしまう


「あ、あ゙あ゙……」


 恐怖が、急速に膨れ上がっていく
 不意に、先程、あの男に足を掴まれて
 ゆっくりとふくらはぎを食い千切られる感触が蘇ってきた


 ああやって、私の家族を食い[ピーーー]積りなんだ


「いや゙だ……! だれ゙が……、だれ゙が、ぅお゙っ、だっ、だずげでぐだざい゙……!」


  頭の中が、ぐちゃぐちゃになる
  もう、息が吸えない、苦しい



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