シンジ「その日、セカイが変わった」

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2 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 13:12:43.79 ID:zV+SN6BF0
【ミサト宅 シンジの部屋】

▫️ご意見をお聞かせください

この度は、恵まれない子供達への募金サイトにアクセスしていただき、誠にありがとうございます。簡単なアンケートにお答えいただきますと、提携先企業様から弊社に代金が支払われ、支援団体に寄付させていただきますので、ご協力をお願い致します。
次へ、をクリックしていただくとアンケートが開始されます。

シンジ「――連絡メールだと思ったけど、違ったみたいだ。えっと、恵まれない、子供達か……よし、少しやってみようかな。どんな内容なんだろう……?」カチカチ

設問にお答えください。該当するお答えのチェックボックスをクリックしていただくと、画面が自動的に切り替わっていきます。進みますか?

シンジ「ここで、クリックしたらいいのかな」

1.あなたの性別をお答えください。

シンジ「お、でたでた。男、と」カチ

2.あなたの年齢をお答えください。

シンジ「10代だね」カチ

3.あなたは今、好きな人はいますか?

シンジ「えっ? うーん、いないから、あれ? YESしかチェックボックスがない……? まぁ、ただの質問だからなんでもいいや」カチ

4.好きな人は同級生ですか?

シンジ「今度はYES/NO両方ある。でも、いないってないから答えようがないんだよなぁ……適当にYESで」

5.好きな人がいる。と答えた方に質問です。どのようなところに惹かれましたか? 該当する項目をお選びください。

シンジ「ひとつしか選択肢なかったじゃないか。それとも僕が見落としたのかな……」

・気立てがよかった。
・落ち着いてる雰囲気がよかった。
・優しいところがよかった。
・見た目がタイプだった。

シンジ「うぅん、どれにしてもいいけど、僕が付き合うとしたら……いや、そんなの考えるだけ無駄だ。僕を好きになってくれる人なんかいるわけないし。見た目にしておこう」カチ

6.あなたは、願いが叶うとしたら、その子と付き合ってみたいですか?

シンジ「……まただ。またYESしか選択肢がない。どうなってるんだこれ? 見落としもあるようなインターフェイスじゃないのに」カチ

以上で質問は終了です。
あなたのご協力に感謝します。碇シンジさん。

シンジ「えっ? なんで、僕の名前」

尚、このコンピューターは20秒後に自動的に爆発します。端末を窓から投げ捨ててください。

シンジ「えぇっ?」

カウントスタートします。20、19、18――。

シンジ「いきなりブルースクリーン⁉︎ ……ウィルスサイトだったの⁉︎」

13、12。

シンジ「ノートパソコンから煙? ……熱っ⁉︎ そんな、まさか……?」

自爆までテンカウント、10、9――。

シンジ「う、うそでしょ⁉︎」

5秒前。レッドアラート。

シンジ「ケースが溶けてきてる……⁉︎ この端末、学校でも使うのにっ!!」ガシッ

――……ドォオンッ!!

シンジ「……っ! ぐっ! ……いっつつ。咄嗟に投げだけど、ほんとに爆発するなんて」

ミサト「シンジくんっ⁉︎ 今の音はなに⁉︎」

シンジ「あ、あの」

ミサト「開けるわよ⁉︎」

シンジ「ど、どうぞ」

ミサト「部屋の中に手榴弾でも投げ込まれたの?」

シンジ「僕にもなんでこうなったのか、さっぱり」

アスカ「うわぁ、なにこれぇ。……ところであんた、変な体勢で転がってなにしてんの?」 ヒョイ
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 13:16:45.87 ID:TCp1sRHaO
見たことがあるんだけと
4 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 13:21:25.72 ID:zV+SN6BF0
【リビング】

ミサト「シンジくんがアンケートに答え終わったらポップアップがでたのね?」

シンジ「はい。それからあとは、その通告通り20秒後に爆発しました」

ミサト「おかしいわ。エヴァパイロットを狙うにしてもやり方がまわりくどすぎる」

アスカ「アンケートで端末を爆破とかありえる? シンジが嘘ついてんじゃないの?」

シンジ「そんなわけないだろ。僕が嘘をつく必要なんてないよ」

ミサト「……とにかく、私は確認の為、ネルフ本部へ向かうわ。このマンションには、保安部から警備を数名つけておくから。シンジくんとアスカは何も心配しないで」

アスカ「アホくさ。私はバカシンジみたいに引っかからないわよ」

ミサト「それでも用心するにこしたことはないはずよ。シンジくん、これからは無闇にそういうメールを開かないでくれる?」

シンジ「そんな、僕は、善意で……でも、すみません」

アスカ「またすぐ謝る。そういうとこがさぁ――」

ミサト「やめなさい、2人とも。送付されてきたアドレスはわかるかしら?」

シンジ「いえ、たまたま開いたメールですから覚えてません。遠隔操作で爆破なんて可能なんですか?」

ミサト「普通に考えれば難しいわね。アンケートに答えるように誘導され、答え終わるのが合図となるようにあらかじめ仕組まれていたのかもしれない」

シンジ「あ……」

アスカ「やっぱりあんたがまぬけなだけだったんじゃない」

シンジ「そんな言い方しなくたっていいじゃないか……」

アスカ「ふん。だったら問題を起こさないでよね」

シンジ「僕だって、起こしたいわけじゃないよ!」

アスカ「ほんっとにガキね。結果が全てだっつってんのよ。犯罪をやるつもりがなかったなんて言い訳が通るなら警察なんていらない」

ミサト「はぁ……そこまでにして、今夜はもう寝なさい。シンジくんは私の部屋を使っていいから」

シンジ「すみません」

アスカ「よかったわねぇ〜。女の部屋で寝るからって下着を漁ったりするんじゃないのぉ?」

シンジ「いい加減にしろよ! するわけないだろ!」

ミサト「今のはアスカが悪いわ」

アスカ「ちっ、なによ。シンジばっかり」

ミサト「今夜は帰らないと思うから。それじゃ、もう行くわね」
5 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 13:22:45.49 ID:zV+SN6BF0
>>3
立て直しです
現在まとめ作業中です
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 13:28:38.97 ID:u2E3cMOHo
>アンケートに答えるように誘導され、答え終わるのが合図となるようにあらかじめ仕組まれていたのかもしれない

前から思ってたんだけどメール自体に爆破システム仕掛けておいてもパソコン本体には爆弾が仕掛けられてなかったら意味ないよね
つまりシンジ君のパソコン自体に細工したことになるからネルフの人間くらいにしか出来ないって考えに行き当たると思う
7 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 13:30:02.60 ID:zV+SN6BF0
【一時間後 リビング】

シンジ「はぁ……どうしてこんなことになったんだろう」

ペンペン「クエ〜」

ガラガラ

アスカ「お風呂、あがったわよ」

シンジ「あぁ、うん、わかったよ」

アスカ「あんた、まだ座ってうなだれてたの。いい加減切り替えなさいよ、うっとうしい」

シンジ「色々迷惑をかけたら申し訳ないって思うのは当然じゃないか」

アスカ「あいかわらず内罰的ね。そういう時は、そもそも爆弾を仕組んだやつが悪いって開きなおるのよ」

シンジ「そんなに、簡単じゃないよ」

アスカ「ぐちぐち悩んでるよりずっとマシじゃない。そんなんだからあんたはダメなのよ」

シンジ「そうなの、かな……」

アスカ「呆れて開いた口が塞がらないわ。あたしにここまで言われて悔しいとか思わないわけぇ?」

シンジ「思ったって、アスカには口でかなわないじゃないか」

アスカ「ぷっ、なによ、諦めてんの?」

シンジ「僕だって、ちゃんとしてるつもりなんだ」

アスカ「ひとりよがりで?」

シンジ「うるさいなぁ。もういいだろ。アスカだって、口ではどうでもいいとか言っておきながら僕に文句ばかり言ってくるじゃないか」

アスカ「あんたがあまりにも情けないからよ。見ててイライラすんの!」ビシ

シンジ「それは僕がよくわかってるよ。僕だって、うまくやりたいって思ってるんだ」

アスカ「無理ね」

シンジ「な、なんでアスカにわかるんだよ!」

アスカ「根本的な問題よ。あんたは悪いと思った、で? うまくやろうとしてるってなにを?」

シンジ「それは……もっと、要領よく、前向きになれるように」 もごもご

アスカ「そこがズレてるのよ。いい? 開きなおるにしてもそれだけじゃただのクズ。人間、なにをやるかで価値が決まる」

シンジ「そうだけど」

アスカ「前向きになったら? その先は? とりあえず目先のことしか考えてないあんたはすぐ壁にぶち当たる。そしてまた悩みだすんでしょ」

シンジ「……」

アスカ「またダンマリ。癖ってのは、簡単に治るものだったら苦労しないのよ。あんたはそこを理解してない」

シンジ「そうかもしれないけど」

アスカ「断言してやるわ。あんたはそう。悔しかったら私を見返すぐらいの根性見せるのね」

ペンペン「クエクエッ」 クイクイッ

アスカ「ん? なに? ペンペン」

ペンペン「クエ〜」スッ

アスカ「なにこれ? 牛乳? くれるの?」

ペンペン「クエッ!」コクコク

アスカ「ありがと」ヒョイ

ペンペン「クエ〜」 ペタペタ

アスカ「それじゃ、私は部屋に行くから。あんたはそうやっていつまでも悩んでなさい」 スタスタ

シンジ「(僕は……)」
8 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 13:37:45.28 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「まったく、こんな夜中に叩き起こされるなんて思わなかったわよ」

ミサト「ごみ〜ん。今度なにか奢るからさ」

リツコ「あなた、いつもそう言うけど奢ってくれたの大学の学食以来ないのわかってる?」

ミサト「そうだったっけぇ?」

リツコ「はぁ……。それで? これが爆発したというノートパソコンの残骸?」

ミサト「人を使ってできるだけ集めさせたけど、かなり粉々になっちゃってるのよね〜」

リツコ「ミサト? HDDもこの破片の中のどれかなの?」

ミサト「でへへ。たぶん」

リツコ「帰るわよ」 クルッ

ミサト「ちょ、ちょっと待ってよう!」 ガシッ

リツコ「パソコンの仕組みぐらい理解しているものだと思っていたけど。どうやら私の思い違いだったようね。義務教育からやり直したら?」

ミサト「わかってるってぇ! だけど、その、リツコならなんとかならないかなぁ〜って」

リツコ「この有様で復元できるわけないでしょ。爆発物のデータは?」

ミサト「あ、それはこっちです、どーぞ」

リツコ「……」ペラ

ミサト「マイクロチップ型の爆弾だと確認されたわ。シンジくんのパソコンにいつ細工したのかしら」

リツコ「素人には手に入らない代物ね」

ミサト「となると、潜入したスパイ? プロの仕業ってわけか」

リツコ「えぇ。わかるのはそれぐらい。証拠隠滅まで完璧だもの」

ミサト「また、接触あると思う?」

リツコ「なんとも言えないわね。必要な情報が揃ったのならもうないのかもしれないし、そうであってもあるとは断定はできない」

ミサト「うーん、相手が見えないし。なにより、犯人の目的がわからないのよねぇ。ちょっと、不気味、かな」

リツコ「他のチルドレンに対しても警護レベルを引き上げることを提案します」

ミサト「なぜ?」

リツコ「質問の内容がアナグラムではないとしたら、好きな相手を特定する為に接触してくるかもしれない」

ミサト「まっさかぁ? 本気でシンジくんの好きな子の情報を知りたいってわけ?」

リツコ「内容を額面通りに受けとるとそうなるわね」

ミサト「……わかった。そんな理由はないと思うけど、備えは必要か」
9 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 13:45:41.68 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 初号機ケイジ】

冬月「やぁ、三年ぶりだね」

「ご無沙汰しております」

冬月「生活に不自由はないか? 困ったことがあれば、なんでも言うといい」

「お気遣い、ありがとうございます。すみません、夜更けに」

冬月「気にしなくていい。老人の朝は早いのでな、ちょうど起きようと思っていた。ところで、話は変わるが碇には、まだ何も言うつもりはないのか?」

「はい……その方があの人にとっても、私にとってもいいんです」

冬月「――しかし、君たちの息子はもう中学生になる。ユイくん自身が、死んでいると思われて平気なわけないだろう」

ユイ「シンジには……いずれ、対面することになります。あの子が、子供達が幸せに暮らせる世界。それこそが追い求める理想ですもの」

冬月「その為に、己を殺してもか」

ユイ「……この初号機も、そしてゼーレも実験材料でしかありません。先生には、ご迷惑をおかけしますが」

冬月「その顔には、君がまだ学生の頃から敵わんよ。碇には、これまで通り黙っておこう」

ユイ「ありがとうございます」

冬月「ユイくん、ひとつだけ確認してもいいかな?」

ユイ「はい?」

冬月「君の生物学者としての信条は、あの日、初号機に取りこまれてからサルベージされるまでに変化はあったのか?」

ユイ「なにも。昔から、いえ、志した時から変わってはいません」

冬月「そうか……それならばいい」

ユイ「先生もお元気で。シンジを、よろしくお願いします」

冬月「あぁ。君の息子について心配しなくていい。もっとも、EVAの中が一番安全だと知っているだろうがな」

ユイ「ふふっ、そうですね。では、失礼します」コツコツ
10 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 14:09:40.60 ID:zV+SN6BF0
【翌日 第三新東京都市立第壱中学校 HR前】

ケンスケ「なんてこったぁっ! ネジがバカになってしまってるじゃないかぁ!」カチャカチャ

シンジ「ケンスケ、部品広げてなにやってるの?」

トウジ「見ての通り、いつものカメラいじりや」

シンジ「調子でも悪いんだ?」

トウジ「さぁなぁ。何回も分解したり組み立てたりで何が楽しいん――」

ケンスケ「この楽しさがわからないだってぇ⁉︎」ガバッ

トウジ「お、おう? なんや、聞こえとったんかいな」

ケンスケ「はぁ……まったく、これだから凡人は。いいかい? 物作りっていうのは技術ひとつひとつの集大成でもあるんだ」

シンジ「うん」

ケンスケ「新しいパーツの進歩は凄いんだぞ! そりゃ、まぁ、同じ技術の進化をなぞっているものだけど。その中で取捨選択をして、自分だけの物をプロデュースするおもしろさ。このロマンがわからないかぁ⁉︎」

トウジ「ぜんっぜんわからん。そら組み立てるチョイスはあるやろけど、市販されてる物であるんなら誰かと被ったりするやろ」

ケンスケ「いいや! そんなのが重要じゃないんだ。自分で作り上げるという達成感! なにものにも変えられないね!」

トウジ「はぁ」

ケンスケ「碇だったらわかるよな⁉︎」

シンジ「ん、えーと、なにかにそこまで熱中できるのは凄いと思うよ」

トウジ「オタクなだけちゃうかぁ?」

ケンスケ「妬みだね! 打ちこめるものがない大衆は僕みたいな人を蔑称を使ってバカにするのさ!」

トウジ「こじらせとるのぉ」

シンジ「でも、いいんじゃないかな」

トウジ「ふん、それはそうとシンジ。今日の放課後、時間あるか?」

シンジ「うん。あるよ」

トウジ「それなら、ワシに付き合ってくれ。寄りたいところがあるんや」

シンジ「わかった。あ、そうだ。ケンスケってパソコンにも詳しいの?」

ケンスケ「ん? まぁ、ある程度なら」

シンジ「実は僕、昨日、授業で使うパソコンが壊れちゃって。帰りに買って帰ろうと思うんだけど」

ケンスケ「あぁ、使いやすそうなのを選ぶのは簡単だけど。でも、学校指定の端末になってるから、新しく発注するしかないね」

シンジ「そうなの?」

ケンスケ「授業で使うドライバとかアプリケーションなりがプリインストールされてるものじゃないといけないっていう決まりがあるからな」

トウジ「ワシらにやらせてくれればいいのに、融通がきかんもんなんやのぉ」

ケンスケ「一括で管理する方が簡単じゃないか。個々に任せると方法がわからない連中もでるだろうし」

シンジ「それじゃ、事務で頼まなきゃ駄目なんだ」

ケンスケ「そうゆうこと。……前の端末の時は、手続きどうやったんだ?」

シンジ「うーん、僕が直接やったわけじゃなかったから。リツコさんが全部用意してくれてたし」

レイ「――碇くん」 スッ

シンジ「あ、どうしたの、めずらしいね、僕たちのところに来るなんて」

レイ「赤木博士から、渡すよう頼まれた。これ、新しい端末。ないと授業に困るだろうからって」 ゴトン

トウジ「いたれりつくせりやのぉ」

レイ「それと、伝言。インターネットへの接続はもうできないようになっているそうよ」

シンジ「そっか、うん、わかった」

レイ「席、戻るから」スッ

シンジ「待って! 重かった、よね? その、持ってきてくれて、ありがとう」

レイ「別に、いい」
11 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 14:24:51.72 ID:zV+SN6BF0
【授業中】

教師「え〜、ですから、セカンドインパクトはこのように巨大隕石の衝突によって」

シンジ「(ん……? ポップアップ? なんだろう?)」カチ

先日は、弊社が行なっている調査に関するご協力をしていただきありがとうございました。つきましては、恵まれない子供達のために引き続き回答をお願い致します。
アンケートを開始しますか?

シンジ「いっ⁉︎」

アンケートを開始する場合は、次へをクリックしてください。自動的に画面が切り替わります。

シンジ「(これって、昨日のと同じ……? インターネット回線に繋いでないはずなのに)」キョロキョロ

可否の有効時間が経過しました。まもなく、アンケートが開始されます。

シンジ「(まだなにも選択してないよ⁉︎)」

1.あなたの好きな人を出席番号で答えてください。

シンジ「(な、なんなんだよ……しかも、また、選ぶしか選択肢がない)」カチ

エラー。回答してください。

シンジ「(ブラウザを閉じられないのか。コマンドキーで強制終了はどうだろう)」カチャ

エラー。試行回数は、残り二回です。

シンジ「(まずいんじゃないの、これ。まさか、また爆破なんて……)」

残り時間をカウントします。

シンジ「(ゆっくり選ばせてもくれないの? ちょっと待って、よく考えるんだ、落ち着いて。深呼吸)」

20秒前。

シンジ「(ふぅ……試行回数があるってことは回避に有効な方法があるのか、それとも、ちゃんと答えるしかないのか。どっちなんだろう)」

15秒前。

シンジ「(そもそも、なんで僕なんだ? ……だめだ。考えてもわかりっこない)」

12秒前。

シンジ「(選ぶしかないのか)」

テンカウントスタート。

シンジ「(いや、でも、どうせ爆破する可能性があるんだ。だって、この端末を操作してる人は証拠を残したくないはず、だよね)」

5秒前。

シンジ「(――決めた。放置だ)」

教師「今のところを、あー、今日は何日だったかな? ……ふむ。では、洞木さん。わかりますかな?」

ヒカリ「はい」ガタ

シンジ「(なにも起こらない?)」
12 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 14:27:12.13 ID:zV+SN6BF0
エラー。試行回数は残り一回です。

シンジ「(そ、そうか、もう一回あったんだ。ってことは、これも放置したらいいのかな)」

警告。回答いただけない場合、教室にいるクラスメイトを狙撃します。左手の屋上をご覧ください。

シンジ「はぁ?」

キランッ

シンジ「(なんだ? キラキラ光ってるの……ん? システムメッセージ更新?)」

おわかりいただけたでしょうか。狙撃翌用スコープに反射している太陽の光です。

シンジ「あ……ぁ……」

残り試行回数は、一回です。

シンジ「(ちょっ、ちょっと待ったっ! ど、どうしたらいいんだ! こんなの!)」

カウントを開始します。

シンジ「(だめだ! 僕じゃ対処しきれない! こうなったら大声を上げて――!)」

不審な動きを見せた時点で、立って授業を受けている女子を撃ちます。残り20秒前。

シンジ「(ほ、洞木さん⁉︎ 見張られてるの⁉︎)」

15秒前。

シンジ「(仕方ない、誰か選ばないと。でも、誰を……)」

残り10秒前。

シンジ「(迷ってる時間なんてない。こうなったら知ってる人の中で誰かを選ぶしか、アスカか綾波か)」

5秒前。

シンジ「(……ごめんっ!)」カチ

教師「よろしい、では席について」

シンジ「(だ、大丈夫だったのかな……)」

2.好きの度合いを次の中から該当する項目を選んでください。

シンジ「(……なんだこれ)」

・彼女のためなら、死んでもいい。
・彼女を愛している。
・たまらなく好き。

シンジ「(どれ選んでも同じじゃないかぁっ!)」

カウントをスタートします。

シンジ「(くそっ! バカにしてる! たまらなく好き、で)」カチ

3.たまらなく好きと選んだので、彼女に向かって消しゴムのカスを投げてください。

シンジ「(アンケートですらないよ……)」

カウントをスタートします。

シンジ「(でも、やらなきゃ。クラスの誰かが狙撃されるかもしれないんだ。僕が、やらなきゃ)」

残り20秒前。

シンジ「(まずは消しゴムのカスを作らないと)」ゴシゴシ

残り10秒前。

シンジ「(僕が選択したのは――)」コネコネ
13 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 14:37:32.31 ID:zV+SN6BF0
アスカ「(ん? なんか髪に違和感が。……なに? ゴミ?)」キョロキョロ

シンジ「……」ポイ ポイ

アスカ「(あんのバカ……っ! なにしてくれてんのよ!)」

シンジ「(ご、ごめんよ)」」パクパク

アスカ「(今さら謝っても遅いのよ! さては、昨日の仕返しのつもり? 上等じゃない!)」パクパク

シンジ「(今日はアスカの好きなハンバーグを作るよ)」パクパク

アスカ「(そんなので誤魔化されると思ってるわけぇ⁉︎ ちょっと待ってなさい。やられたら百倍返しにしてやるんだから!)」ゴシゴシ

トウジ「おい、見てみぃケンスケ」こそ

ケンスケ「あぁ、見えてるよ」

トウジ「あいつら口パクで会話しとるで。芸人かいな」

ケンスケ「それだけお互い意思疎通ができてるんじゃないかぁ? さっきから碇がソワソワしてると思ったら……じゃれついていたとは、いやぁ〜んな感じ」

アスカ「(このっ! この!)」ポイ ポイ

シンジ「(消しゴムのカスでよかった。アスカが投げてきてるけど、当てられてもあまり痛くないし)」

双方の距離感は確認いたしました。アンケートへのご協力を感謝します。尚、このパソコンは20秒後にショートします。

シンジ「(ば、爆発じゃないんだ? よかったぁ)」

強い電磁波を発します。電子機器に対する干渉がありますので、できるだけ教室から離れてください。

シンジ「せ、先生っ!」ガタッ

カウントスタートします。

教師「なにかね? 碇くん」

シンジ「あの! お腹が痛くて! トイレ行ってもいいですか⁉︎」

教師「かまわんが、そんなに大声で叫ぶほど急を要するのか?」

女子生徒A「くすくす、なぁにぃ? あれぇ?」

女子生徒B「わ、わらっちゃ、かわいそうだよ。く、くっくっ」

アスカ「はぁ……ダッサ」

残り20秒前。

シンジ「ま、まずい、じゃなかった! すぐに行きたいんです! お願いします!!」
14 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 14:48:32.17 ID:zV+SN6BF0
【男子トイレ】

シンジ「はぁ……パソコンの電源つかなくなっちゃったな。携帯電話は、使えるみたいだ。電磁波はウソだったのかな、しかたない、ミサトさんに報告しておこう」

ピッ プルルルルッ

ミサト「はい?」

シンジ「あ、ミサトさんですか?」

ミサト「あらぁ〜シンちゃんが電話くれるなんて初めてじゃない? 渡した携帯電話、やっと使ってくれたのね」

シンジ「いえ、そんな。持ち歩いてはいたんですけど」

ミサト「あは、そっか。プレゼントした側としては嬉しいわ」

シンジ「それで、新しいパソコンについてなんですけど」

ミサト「あぁ、リツコから? そういえばシンジくん、まだ授業中の時間じゃない?」

シンジ「緊急だと思ったので、電話したんです。実は、また昨日と同じアンケートが」

ミサト「――なんですって?」

シンジ「今度は、質問が終わると爆発じゃなくショートしました」

ミサト「シンジくんに怪我はないのね?」

シンジ「僕は大丈夫でしたけど、質問に答えないとクラスメイトの誰かが狙撃されてたかもしれなくて」

ミサト「脅迫してきたの? なにか、要求されたりした?」

シンジ「いえ、今回も設問があって、回答しただけです。終わると、電磁波か周囲に影響するとシステムメッセージが出たので、先生に嘘をついてトイレにいるんです」

ミサト「そう……よくやったわ、シンジくん。的確な判断よ」

シンジ「この端末、どうしたらいいですか?」

ミサト「ちょっち待ってて。すぐにネルフ関係者を送る。詳しく経緯を聞きたいから、警護がきたら同行して本部まできてもらえる?」

シンジ「わかりました。このままトイレで待ちますか?」

ミサト「そうね……教室にもどるのは、危険かもしれない。五分で到着させるわ」
15 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 14:56:47.59 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 執務室】

ミサト「それで?」

保安部「はっ、我々が到着した頃には、既にサードチルドレンの姿はなく――」

ミサト「そんな報告を聞きたいんじゃないわよっ! その後の消息は⁉︎」バンッ

保安部「し、失礼いたしました! 目下、捜索中です!」

ゲンドウ「作戦課長、どういうことだ」

ミサト「はっ! サードチルドレンよりヒトヒトマルマルに連絡がありました。そこで、保安課の者を使いにださせたのですが……」

冬月「いるはずの場所にいなく、行方不明。つまり、こういうことかね」

ミサト「はい、申し訳、ありません」

リツコ「葛城一尉とサードチルドレンの会話は録音してあります。やりとりはこちらのデータに」

ゲンドウ「……」ペラ

冬月「責任問題だぞ。もしなにかあれば、パイロットを選別するのは容易ではないのだぞ」

ミサト「承知、しております」

冬月「君のクビで済むと思っているのかっ!」バンッ

ミサト「も、申し訳、ありません」

ゲンドウ「アンケートをとったのは、誰の仕業だ」

ミサト「それは……」 ギュウ

ゲンドウ「もう結構だ。一度だけ、挽回のチャンスを与える。保安部の総力をあげてサードチルドレンを探せ。諜報部を使うのも許可する」

ミサト「了解しました!」ビシッ
16 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 15:06:33.94 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「サードチルドレン捜索の進捗状況は?」

保安部「現在、中学校周辺において検問を実地中です。また、上空からヘリ5機にて、怪しい車両がないか監視しています」

ミサト「近隣への聞き込みは?」

保安部「200人体制で行っています」

ミサト「本部の第三会議室に特別捜索チームを結成したわ。人員をあと300人増やして」

保安部「了解」

ミサト「報告があればオペレーターに繋いで。それと、諜報部への連絡も。全ての情報をかき集めるのよ、行って」

保安部「はっ!」タタタッ

リツコ「首の皮一枚で繋がったわね」

ミサト「なんとかね」

リツコ「時間の猶予はあまり残されていないわよ。副司令がカンカンなんだから」

ミサト「わかってる。私の失態だわ」

リツコ「連れ去られた足どりについて目星をつけてるの?」

ミサト「シンジくんが自分で離れたとは考えにくい。だとしたら、拉致されたのよ。運ぶための手段が必要だわ」

リツコ「そうね……」

ミサト「端末を操作できると考えられる可能性は? 赤木博士」

リツコ「工場から出荷されて、ネルフに到着してから再度検査を行っています。すなわち、考えられるのは、私の手にある内にがひとつ。レイに渡してからシンジくんの手に渡るまでがひとつ。渡ってからがひとつ、この三つになる」

ミサト「シンジくんに渡してから仕組む時間ある? やはり、内部の人間に破壊工作員が紛れ込んでいたのかしら。たしか、電磁波がでるってシンジくんが言ってたわよね……」

リツコ「こういう場合、辻褄合わせをしようと思うと闇に片足いれるようなものよ。考えるのはひとつずつでいい」

ミサト「つまり?」

リツコ「端末を操作できる状況下にあったのは、授業をしてた教師じゃないかしら」

ミサト「疑わしくは罰せよと?」

リツコ「チルドレンは人類の希望でもあるのよ。個人と天秤にかけるつもり?」

ミサト「……わかったわ。学校関係者、全員に事情聴取を取り行います」

リツコ「念の為、残りのチルドレンを保護しておきなさい」

ミサト「えぇ」
17 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 15:11:28.11 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 女子ロッカールーム】

アスカ「えぇ〜〜〜〜っ⁉︎ 家に帰れないぃ⁉︎」

マヤ「ネルフの中なら、安全だから。コンテナの中で寝泊まりしてもらうけど」

アスカ「狙われてるのはシンジなんでしょ⁉︎ なんで私までとばっちりくうのよ!」

マヤ「攫った目的が、わからないらしいの。もしかしたら、あなたたち他のチルドレンもターゲットになってるかもしれないし」

レイ「碇くんは、大丈夫なんですか?」

マヤ「今は、なんとも」

アスカ「自分の身は自分で守らないからよ。自業自得ってやつね」

マヤ「こら、アスカ、そんな言い方しないの。シンジくんは、クラスメイトを守ろうとしてたみたいよ?」

アスカ「そうなの?」

マヤ「トイレに行ってたらしいじゃない」

アスカ「あぁ……それであいつあんなに慌ててたの」

レイ「赤木博士は?」

マヤ「先輩なら、葛城一尉に協力してる。今頃はプロファイリングチームに協力して犯人の人物像を分析してるんじゃないかしら」
18 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 15:56:59.65 ID:zV+SN6BF0
【第三会議室】

冬月「どうなっている! サードチルドレンが学校からでるまでに目撃者すらいないのか!」バンッ

保安部「授業中を狙われたせいで、生徒への目撃情報が望めません。また、近隣への聞き込みを行なった結果、こちらも人通りの少ない時間帯でして……」

冬月「貴様はもういい! 諜報部! 報告しろ!」

諜報部「はっ! こちらでも同じく足取りを掴もうとしましたが、その時刻に車両を目撃したという情報はありませんでした」

冬月「別の手段でサードチルドレンを運んだのではないのか⁉︎」

諜報部「身長と体重を考えれば、その可能性は多分に考えられます。しかし」

冬月「人ですら目撃情報がないのか!」

諜報部「はい。まだ全世帯への聞き込みは終えていませんが」

冬月「三時間以内に人海戦術で徹底的に探し出せ! 赤木博士、プロファイリングチームに助言を行い、犯人が複数なのかどうなのかもあらゆる面から検討したまえ!」

リツコ「はい」

保安部&諜報部「了解!」

ミサト「副司令が熱くなるのなんて珍しいわね」こそ

リツコ「神経が図太いのは結構。だけど、あなたの落ち度もあるの。さっき、碇司令に釘を刺されたのを忘れたの?」

ミサト「とほほ」

リツコ「万が一、死体にでもなってたら、あなたもコンクリートで固められて海に沈んじゃうわね」

ミサト「や、やめてよ〜……え? ちょっと、やだ、目が笑ってない。マジ……?」

リツコ「危機感を持ちなさい、葛城一尉。今後のためにね」

加持「おふたりさん。今日も仲良くつるんでるな」 ポン

ミサト「うげっ、うっとーしいのがでた」

加持「ツレないね。シンジくんがいなくなったらしいじゃないか」

リツコ「加持くんはなにかわかる?」

加持「間違いなくプロの仕業、としか。それもかなり用意周到に計画されたものだね」

ミサト「あの場で拉致するのが?」

加持「いや、それはどうかね。タイミング次第だったのかもしれない。プロと確信してるのは場所じゃなくやり口だからな」
19 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 16:06:43.19 ID:zV+SN6BF0
ミサト「結局、あんただってわからないんでしょ」

加持「おいおい、そうは言ってないだろう?」

ミサト「えっ⁉︎ なにかわかったの⁉︎」

加持「目撃情報がひとつだけ、ある……この情報がほしいか?」

ミサト「あんたねぇ、ふざけてる場合? シンジくんの安否がかかってるのよ?」

加持「副司令に渡すか、葛城に渡すか、どちらでもかまわないってだけさ」

ミサト「望みはなによ?」

加持「そうだなぁ。海の見える見晴らしのいい展望台でディナーでもいかがかな?」

ミサト「……わかった。それで手を打つ」

リツコ「あら? 私だけ仲間はずれ?」

加持「リッちゃんならいつでも歓迎さ。なんなら、今夜でも、もちろん、二人きりで……」スッ

ミサト「わかったから! はやく教えなさいよ!」

加持「冗談が通じないねっと、まずはこれを見てくれ」ペラ

ミサト「なにこれ? 搬入業者の日程表? ……購買へパンの仕入れが行われてるわね」

加持「調べを進めていっても怪しい人影の姿が見えない。あえて人の往来の少ない時間帯に犯行に及んでいるからな」

ミサト「それが?」

加持「葛城。完全犯罪というのは、いかに逃げ切るかが目的じゃない。いかに気がつかせないがかキモなのさ」

リツコ「業者に扮していた?」

加持「この時間帯に目撃されず、かつ不自然じゃない外部からの侵入ルートは限られている。ま、そう考えるのが妥当だろうね」

ミサト「業者の出発時刻は?」

加持「パートのおばちゃんによると、いつも通り昼休み前には作業を終えて帰ったそうだ。時間にしておよそ二十分にも満たない。ただし、帰る前に男子トイレに寄ったそうだがね」

リツコ「怪しいわね」

加持「まだなんとも言えないがな。ろくな目撃情報がない以上、これが現時点での有力な情報になる」

ミサト「うぅん……でも、弱いわね」

加持「行動に結果はつきものだ。なにかしらほころびを見つけてその小さな隙間から目星をつけていくしかない」

リツコ「加持くん、警察官にでも転職したら?」

加持「よしてくれよ。ネルフは元々技術畑の人間の集まりだからな。保安部や諜報部の連中が場慣れしてない分、多少は俺に慣れがあるっていうだけさ」

ミサト「とりあえず、業者に連絡をとって担当していたドライバーを確認してみる」

加持「こっちでも引き続き調べてみるよ。最悪の事態だけは避けたいんでね」

リツコ「それは、シンジくんの安否?」

加持「両方さ。用意周到に進めたプロの犯行で、身代金の連絡がないとしたら……雇い主が、いや、やめよう。憶測の域をでない」

ミサト「シンジくんは人類の希望を担うパイロットよ。彼の安否を最優先事項とします」

加持「りょーかい」
20 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 16:32:29.95 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 コンテナ内】

アスカ「こ、こんな場所で寝泊まりしろっていうの?」

マヤ「一時的な処置だから……個室だとここしかなくて」

アスカ「家具は⁉︎ ベットは⁉︎」

マヤ「職員が使ってる布団ならあるわよ? 歯ブラシとか必要なものがあれば言ってくれたら買い出しも」

アスカ「こんな空調もきいてないような倉庫で寝泊まりなんて嫌よ!」

マヤ「なら、仮眠室に……」

アスカ「それはもっと嫌! 職員が使ってるってことは不特定多数ってことでしょ⁉︎ 不衛生よ!」

マヤ「その気持ちわからなくもないけど」

レイ「私の部屋は?」

マヤ「レイは隣のコンテナ。大丈夫そう?」

レイ「問題ありません」

アスカ「ちっ、なによ? ポイント稼いでるつもり? これだから優等生気取りは」

レイ「別に。そんなつもりじゃない」

アスカ「こんな無機質な空間の中で不満がでないわけないじゃない! あたしを悪者にしようって魂胆なんでしょ⁉︎」

レイ「……」

アスカ「なんとか言ったらどう⁉︎」

レイ「いつも通りだもの。私の部屋、これと変わらないから」

アスカ「はぁ? あんたんとこってこんな感じなの?」

レイ「ええ」

アスカ「信じらんない。自分でなんとかしたらいいのに」

レイ「どうして?」

アスカ「過ごしやすい環境を作るのは当たり前でしょ。毎日自分が寝泊まりするんだから」

レイ「寝れればいいんじゃないの?」

アスカ「無関心もここに極まれりね。好きなグッズとかそういうのないわけぇ? 寝るだけにしたってねごごちがいい枕とかお気に入りがあるものでしょ?」

レイ「よく、わからない」

アスカ「はぁ……それで? 何日ここで寝ればいいの?」

マヤ「少なくとも、今回の事案に折り合いがついて、安全が確認されるまでは」

アスカ「えぇ⁉︎ それって、わからないんじゃない!」

マヤ「まぁ、その……」

アスカ「あのねぇ! 先の見えない不安ってのもあるんですけど⁉︎ エヴァパイロットのそこらへんの精神安定はどうしてくれるわけ?」

マヤ「むっ。薬なら、先輩に言えばもらえるわよ」

アスカ「どいつもこいつも! そんなの言ってるんじゃないわよ!」
21 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 16:42:27.33 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「チルドレンの様子はどうだった?」

マヤ「レイは大丈夫そうです。アスカは……」

リツコ「まぁ、文句がでるでしょうね」

マヤ「そうですね……」

リツコ「不自由には変わりがないもの。人はリラックスできる場所を求める。自分の部屋というものは、好きにしてもいいという空間でもあるのよ」

マヤ「気を使っちゃいますもんね」

リツコ「そうね。加えて私達女性は巣作りをするという本能でもあるけど。はい、コーヒー」コト

マヤ「先輩、シンジくんの件はなにか進展ありそうですか?」

リツコ「いいえ。まだなにも。上層部は可及的速やかに事態の解決を試みて人材を投入しているけれど、足取りが掴めないのよ」

マヤ「端末に爆弾が仕掛けられてたんですよね? そこからなにか掴めないでしょうか?」

リツコ「難しいわ。元になる端末は、こちらが気がつく前にバラバラになるまで爆破されている。いつ仕組まれたか、内部の人間が噛んでいるとしても容疑者は、数万人の技術者にのぼる。外部から潜入した工作員という線も捨てきれない」

マヤ「パイロットを狙うなんて、信じられません」フーフー

リツコ「警護の意識が低かったみたいね。普段から気をつけてはいた。しかし、網をかいくぐれるプロにとっては施錠ですらなかったのかも」

マヤ「シンジくん達がいなければ人類は滅んでしまうのに」

リツコ「その日暮らしをしている者にとっては、明日人類が滅びようが関係のない人達だっているのよ」

マヤ「理解、できません」

リツコ「考えすぎないほうがいいわよ。理解できないものはいつまでたっても理解できないまま終わることも多いから」

マヤ「無事だと、いいですね……」

リツコ「さて。今頃はなにしているのかしらね、シンジくん」
22 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 16:59:52.61 ID:zV+SN6BF0
【第三新東京都市第壱中学校 放課後】

トウジ「なんや、学校中がえらいごったがえしとるのー」

ケンスケ「碇、いなくなっちゃったしな」

トウジ「また使徒やあるまいなぁ」

ケンスケ「いや、使徒だったら学校にネルフの人達が来ないんじゃないか? 避難警報も放送もないし」

トウジ「せやかて、綾波とゴリラ女は昼休み前に呼びだされていなくなってもうたやないか」

ケンスケ「うーん」

トウジ「なんかあったんやろか?」

ケンスケ「僕たちが考えてもわからないさ……そういやさ、碇に用事あったんじゃないのか?」

トウジ「妹がお礼を言いたいから一度連れてきてくれってうるさいからのぉ」

ケンスケ「あぁ、トウジが碇を殴って怒られたっていう例の」

トウジ「エヴァのパイロットちゅーのは、ヒーローなんやと。ま、ワシ達の生活の守ってくれとんのは事実やしな」

ケンスケ「僕でよかったら行こうか?」

トウジ「お前が行ってなにすんねん? ま、まさか、オタクなだけやなくて、ロリコン?」

ケンスケ「バカなこというなよ!」

トウジ「じゃあかあしい! 妹にお前は絶対に近づけへんぞ!」

ケンスケ「偏見だね! そうやってオタクを変な趣味と結びつける誇大妄想だ!」

トウジ「見た目からして怪しいと思っとったんじゃ!」

ケンスケ「なんだと⁉︎」

ドンッ

ユイ「あら、ごめんなさい。まわりをよく見てなくって」

ケンスケ「お、おい。トウジ」

トウジ「あ、すんまへん」

ケンスケ「あの、すいません。僕たちこそ」
23 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 17:02:45.44 ID:zV+SN6BF0
ユイ「いいえ、気にしないで。それよりもなんだか騒がしいわね?」

トウジ「なんか、ネルフから人がぎょーさんきとるみたいです」

ケンスケ「職員室にご用ですか?」

トウジ「こらケンスケ! 美人だからって抜け駆けすな!」

ユイ「ふふっ、ありがとう」

トウジ「い、いえっ! 滅相もありません!」

ケンスケ「顔真っ赤にしててよく言うよ」

ユイ「忙しそうだし、また日を改めようかしら」

トウジ「たしかに、今やと取り次ぐの時間かかりそうですもんね」

ユイ「それじゃぁ、私はこれで……お友達と仲良くね?」

トウジ&ケンスケ「は、はいっ!」ビシッ

トウジ「……はぁ〜。べっぴんさんやったの〜。誰かの母親やろか」

ケンスケ「どこかで会ったような……」

トウジ「あないな美人なお姉さまを会ったら忘れるわけがないっ!」

ケンスケ「いや、似てるっていうか……」

トウジ「あん?」

ケンスケ「あ⁉︎ そうだよっ! 綾波だ! 綾波に顔立ちが似てるんだ!」

トウジ「そうかぁ? 綾波とは髪の色も」

ケンスケ「いいや! 盗撮をしている僕は被写体のパーツを鮮明に思い出せるんだ! 間違いないね!」

トウジ「また変な特技を」

ケンスケ「綾波の母親かな?」

トウジ「いてもおかしくはないが」

ケンスケ「他人の空似なのかな。似てると思ったんだけどなぁ」

トウジ「しかし、ぐふふ。ええ匂いやったな」

ケンスケ「トウジぃっ! ぶつかったのは肩か? ここなのかぁ?」 スリスリ

トウジ「わわ、さわんな! 残り香が薄れるやろ! ぺっぺっ!」

ケンスケ「ツバとばすなよ!」
24 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 17:12:06.88 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 シャワールーム】

アスカ「つめたっ! もぉ、なんで湯の加減が一定じゃないのよ!」

レイ「……」ゴシゴシ

アスカ「おまけにこいつと一緒になにが楽しくて」

レイ「音、反響してうるさい」

アスカ「悪かったわねぇ! うるさくて!」

レイ「石鹸、使う?」

アスカ「使う!」

レイ「あなた、碇くんが心配じゃないの?」

アスカ「……少しはね。そういうあんたは心配なの?」

レイ「よく、わからない。死ぬってこわい?」

アスカ「あたしはこわいというより嫌。ただ、まぁ、世の中には自[ピーーー]る人だっているのは子供でも知ってるしさ、こわくない人もいるんじゃない?」ゴシゴシ

レイ「碇くんは、死ぬのがこわい?」

アスカ「あいつは自分のことだけでいっぱいいっぱいだもの。きっとこわがるんじゃない?」

レイ「そう……」

アスカ「バカシンジはもうちょっと頼りがいってものがあればいいんだけどさぁ」

レイ「どうして?」

アスカ「守ってもらいたいって思うのは、女なら誰しも持ってる幻想じゃない。自分でやろうと思えば何だってできる。けど、頼れる人がいると安心するもの」

レイ「安心……」

アスカ「ま、ガキシンジには無理な注文ね」

レイ「……」

アスカ「それに、私たちはパイロットなんだから。死ぬ覚悟はしておくべきよ」

レイ「あなたは、死んでもいいの?」

アスカ「だからぁ、そうじゃないんだってば。私はやりたい夢がたくさんある。だから死ぬのがこわいんじゃなくて、嫌なの。でも第一線で戦うのは、私たちでしょ?」

レイ「えぇ」

アスカ「心構えの問題よ。死と隣合わせだからこそ、そうなってもおかしくないと考えていなくちゃ」

レイ「でも、碇くんは、今はエヴァに乗っているわけじゃないわ」

アスカ「……」

レイ「使徒が相手じゃない。ヒトが相手だもの」

アスカ「それはあんたの言う通り、私たちは、狙われてるのかもしれない」

レイ「使徒が相手じゃなくても、死んで、いいの?」

アスカ「ずぅ〜〜ぇったいに嫌!」パシャ
25 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/06/24(土) 17:27:42.67 ID:zV+SN6BF0
【第三新東京都市 繁華街】

ミサト「はぁ、これで何件目?」

マコト「二十件目になりますね、今日だけでですけど」

ミサト「なんで高層マンションばっかりあるのよ! この土地は!」

マコト「仕方ありませんよ。ネルフ関係者が使ってる集合住宅地ですから」

ミサト「人口が多すぎるのよ。いっそN2でもぶちこんでやろうかしら」

マコト「またそんな物騒な」

ミサト「諜報部から業者の件、なにか連絡は?」

マコト「青葉からの報告によりますと、たしかに業者は搬入作業にはいっていました。しかし、正規の者です」

ミサト「えぇ?」 ガックシ

マコト「……シロですね。怪しい点は見受けられません」

ミサト「またふりだしに戻っちゃったじゃない」

マコト「どうします? 近隣への聞き込みを続けますか?」

ミサト「うーん、本部で大規模捜査を実施してるし、私たちがやったところで意味なんてないんだけどねぇ」

マコト「会議室は副司令がいるからこっちに加わったんでしょ?」

ミサト「そうなのよぉ〜。まさに針のむしろって感じ」

マコト「使徒が来ていないのが不幸中の幸いですね」

ミサト「本当にね、ネルフの業務はMAGIがほとんど行ってるから問題ないけど、影響が全くないってわけじゃないし……」

マコト「もし、使徒がきたら」

ミサト「そうならないように一刻もはやく解決しなくちゃ。続き、行きましょうか」
26 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 17:49:28.19 ID:zV+SN6BF0
【第三新東京都市 郊外 廃工場】

シンジ「うっ……」

「気がついた?」

シンジ「(ここは? 真っ暗でなにも見えない)」

「いつまでも寝てるから心配になったわよ」

シンジ「どこですか? ここ。なんで真っ暗なんですか?」

「それは麻袋を被せているせい。あたりも陽が沈んでる時間帯だけど」

シンジ「誰ですか? 僕にどうして、こんなことするんですか?」

「苦しくない?」

シンジ「質問に答えてください」

「あまり暴れると縄が食いこんで痛むわよ」

シンジ「(ぐっ! なんなんだよ! いったい!)」

「もういいの?」

シンジ「えっ?」

「本当はエヴァに乗りたくなかったんでしょう?」

シンジ「……」

「私はその手助けをしているだけ。あなたが望むなら、このまま消えさせる」

シンジ「なに言ってるんですか……」

「大人達の都合を押しつけてしまったんですもの。今までよく頑張ったわね」

シンジ「いったい……」

「あなたが思っている以上に、計画は進んでしまっている。いいえ、エヴァに乗るように仕組まれた時点で、準備は終わっていたの。あとは、スケジュールに沿って進めていくだけ」

シンジ「……?」

「好きにしていいのよ。未来は、あなたが選択するの」

シンジ「わ、わけがわからないよ」

「そうね、ごめんなさい。戸惑いが先にあるわよね」

シンジ「縄を解いてくれませんか?」

「いずれ解いてあげる。ただ、今夜はこのままで。トイレがしたくなったら言いなさい」

シンジ「えぇ⁉︎」

「なにも恥ずかしがることはないのよ」

シンジ「そ、そんな! 嫌ですよ!」

「ふふっ。緊張はあまりしていないようで、安心したわ」

シンジ「……」

「灯台下暗し。先生は気がつくわね、それまで少し、お話をしましょう」
27 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 17:59:44.48 ID:zV+SN6BF0
シンジ「……」

「古い、古い、昔の話。シンジは神話を知ってる?」

シンジ「いえ」

「アダムとイヴは? 知恵の実を食べて、エデンの園から追放された」

シンジ「少しなら」

「似たような話が現実に起こっていたとしたら、と、想像してみた?」

シンジ「そんなの、あるわけないじゃないですか、だって、神話ですよ」

「そうね」

シンジ「聖書だって人の都合で後から書き加えられた項目が多いって、テレビで見ました」

「それも事実。だけど、元となった話は、関連する記載が実在する、死海文書というの」

シンジ「そんなのウソだ」

「よく気をつけてまわりを見てみなさい。ネルフのマークも、使徒という呼称も。それら全てがある点に繋がっていくの」

シンジ「話が突拍子すぎて、わかりません」

「破滅の日が、現実に起こりうると仮定してみて。人類が生き残る為に進められているのが、エヴァに乗らされている理由なのよ」

シンジ「……おかしいよ」

「信じられない?」

シンジ「信じられるわけないでしょうっ! いきなりこんな状況になってるだけでもわけがわからないのに!」

「現代に至るまで、人類が誕生した謎はほぼ解明されていない。これは知ってる?」

シンジ「……」

「研究は進められてるわ。理論で固められて、これなら間違いないという域にまで高めていくけど、それも新しい発見があれば、簡単に塗り替えられてしまう。物理的証拠がないから、その程度でしかないの」

シンジ「僕に、僕にいったい、なにを説明しているんですか」

「真実を知ってほしい」

シンジ「……」

「その上で、あなたがどうしたいのか、判断してほしい」

シンジ「僕は、わかりません」

「わからなくても、生きている以上は、なにかを選んで生きているのよ。物を食べる、何時に寝る、そういった必要な選択肢はありふれてる」

シンジ「それとこれとは、話が……どうして、僕が選ぶんですか?」

「あなたはもうどっぷりと巻き込まれてしまっているから。中心にいると言ってもいいぐらい。最初に仕向けたのは、私」

シンジ「えっ?」

「シンジ、元気に育ってくれて嬉しいわ」

シンジ「だ、誰なんですか?」

「少し、眠りなさい」

シンジ「寝ろって言ったって、今まで……」

「子守唄、いる?」

シンジ「いりませんよ」

「そう。それなら、注射でいいわね」

シンジ「えっ? ……いっ!」プス

「おやすみ」

シンジ「ぼ、僕の質問にまだ答えて……!」

「ゆっくり眠りなさい」

シンジ「う……」 ガク

ユイ「あの人にも、会わなくちゃいけないわね」
28 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 18:16:35.39 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 第三会議室】

リツコ「副司令、こんな時間まで」

冬月「なんだ、君か」

リツコ「報告はいたしますので、そろそろあがられては……ご無理などなさらないよう、ご自愛ください」

冬月「年寄り扱いはしないでくれ」

リツコ「申し訳ありません。お気に障ったのなら」

冬月「いや、かまわんよ……そうだな、たしかに歳に夜更かしは堪える」

リツコ「湯のみが冷たくなっておりますわ。差し支えなければ、淹れ直しいたしますが」

冬月「うん、頼もう」

リツコ「はい」

冬月「君は、赤城ナオコ博士の娘だったね」

リツコ「はい……」トクトク

冬月「親娘でネルフに勤務とは、因果なものだな」

リツコ「私は、ここで働けて誇りを持っております。碇司令と副司令のお側にお仕えできるなんて、光栄ですわ」

冬月「ふん、おだててもなにも出やしないぞ」

リツコ「本心です、どうぞ」コト

冬月「ありがとう」

リツコ「副司令が、サードチルドレンに躍起になっておられるのは、やはり計画のためでしょうか」

冬月「ん?」グビ

リツコ「いえ、気にかかったものですから」

冬月「……それもある。我々には目的があるからな。別の理由は、ある教え子からの頼みでもあるからだ」

リツコ「と、言いますと」

冬月「碇がまだ、学生だった頃の話だが。生物学者を志している女生徒がいてね」

リツコ「それは、あの、失礼ですが」

冬月「君も名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。碇ユイ、あの男の妻になった女だ」

リツコ「……」

冬月「不思議な魅力を持つ女性だったよ。掴みどころがなく、それでいて、慈愛に満ちていた」

リツコ「E計画の実験の際に、初号機のコアへ取りこまれたと聞きました」

冬月「それが彼女の望みだったからな」

リツコ「初号機に、ですか?」

冬月「女の考えは理屈ではない。彼女は常に慈愛に満ちていた。しかし、それと同時に、とても頭が良かったのだよ」

リツコ「……?」

冬月「私にも不確定な部分がある。もしかすると、彼女の頭の中では、碇ゲンドウでさえ計画の一部だったのかもしれんな」

リツコ「あ、あの碇司令を手駒に?」

冬月「その通りだ……少し、話すぎたか。老人の戯言だと思って聞き流してくれ」

リツコ「はぁ、それはかまいませんが」

冬月「しかし、要求はまだないのか?」

リツコ「依然として、なんの連絡も。戦自や各国政府が秘密裏に拉致したという可能性が」

冬月「いや、それは考えにくい。パイロットは各国にとっても資産だからな。ゼーレがそれを許すはずがない、得をするとすれば、いや……待てよ」

リツコ「どうかなされました?」

冬月「――女は、理屈で動くものでは」
29 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 18:27:19.18 ID:zV+SN6BF0
【シンジ 夢の中】

男「君の母親は実験中に亡くなった。父親は、妻を殺した疑いがある」

シンジ「違う!」

男「実験の為に、自分の妻を殺したんだ!」

シンジ「違う! ……母さんは、笑ってた……」

ユイ「シンジ……」

シンジ「母さん! どうしていなくなるの⁉︎」

ゲンドウ「シンジ、逃げてはいかん」

シンジ「自分の楽しいことばかりで人は生きてはいけないんだ。逃げたいから逃げてなにが悪いんだよ⁉︎」

ゲンドウ「よくやったな、シンジ」

シンジ「エヴァに乗ればみんなが褒めてくれるんだ! 父さんだって、あの、父さんが、僕を褒めてくれたんだ……」

ユイ「反芻するの?」

シンジ「そうだよ! 思い出せば辛くても生きていける!」

ユイ「シンジ、世の中にはもっと素晴らしい眺めがあるのよ」

ゲンドウ「だが、見るには自分が前に進まなければならない」

シンジ「簡単に言わないでよ。僕には、無理なんだ……」

ゲンドウ「待つだけではなにも得られない。傷つくのがこわいか?」

シンジ「こわい、たまらなくこわいんだ……」

ユイ「殻に閉じこもるのは自分を守る行為ではないわ。追い詰めているだけ」

ゲンドウ「勝ちとれば何ものにも得難い経験になる。そうなった時に、実感できる」

シンジ「ぐすっ、うっ……エヴァに乗っても、楽しくないんだ、僕には、わからないよ……」

ユイ「シンちゃん、顔をあげなさい」

シンジ「母さん」

ゲンドウ「お前の人生だ。お前が選び、お前が決めろ」

シンジ「父さん」

ユイ「しっかりね」
30 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 20:28:20.15 ID:zV+SN6BF0
【翌日 第三新東京市 郊外 廃工場】

シンジ「うっ、こ、ここは?」

ユイ「起きたのね」

シンジ「そうか、僕はまだ拘束されて……」

ユイ「寒くない?」

シンジ「いや。というか、人肌の感触、なんだか、いい匂いが……うわあぁぁっ⁉︎」 ガタン

ユイ「どうしたの?」

シンジ「なんだ⁉︎ これ、抱きしめられてますよね⁉︎」

ユイ「そうね、寒そうだったから」

シンジ「い、いや! いいですよ!」ジタバタ

ユイ「そう?」

シンジ「はい! お願いですから、離れて……!」

ユイ「わかったわ」スッ

シンジ「……はぁ、なんなんですか、本当に」

ユイ「なに、と聞かれても困るんだけど」

シンジ「僕はいったいこれからどうなっちゃうの?」

ユイ「もう少し、時間があるわ」

シンジ「時間って……それに、あなたは誰なんですか? たしか、僕を知ってるみたいな」

ユイ「あなたが、膝の高さぐらいの頃に会ったことがあるの」

シンジ「ネルフの関係者ですか?」

ユイ「ふふっ、そうね。そう言えば間違いではないのかもしれない」

シンジ「僕を攫っても、父さんは、顔色なんて変えませんよ」

ユイ「ええ」

シンジ「僕にはパイロットとしての価値しかありませんから」

ユイ「あなたの父親の話を聞かせてもらえる?」

シンジ「そんなの、聞いて……」

ユイ「知りたいだけ。不器用な人だとはわかっているけど」

シンジ「ぷっ、父さんが、不器用ですか?」

ユイ「あら? 違う?」

シンジ「よく、わかりません。父さんとは僕がまだ小さい時に離れて暮らしましたから」

ユイ「あまり話ができなかった?」

シンジ「そうですね」

ユイ「話そうとはしたの?」

シンジ「ぷっ、くっくっくっ」

ユイ「どうかした?」

シンジ「いえ、綾波というクラスメイトがいるんですけど、同じことを聞かれたので」

ユイ「そう……」

シンジ「どうなんだろう。話そうとはした、んじゃないかな。けど、幼い頃の記憶ですし、その後は、努力が足りなかったのかもしれません」

ユイ「親子でも難しいのね?」

シンジ「他の家庭がどうかなんてわかりません。だけど、父さんは、僕にとって、難しい人です」

ユイ「母親は?」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 20:33:08.91 ID:/Y0Or9oSO
はよ
32 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 20:35:53.66 ID:zV+SN6BF0
シンジ「母さんは……ほとんど記憶にないんです。思い出といえることはなにも。ただ、父さんは母さんを今でも忘れてないんだと思います」

ユイ「なぜ?」

シンジ「毎年、墓参りに行ってるから」

ユイ「あなたは、お母さんを恨んでる?」

シンジ「いえ、不慮の事故で亡くなったらしいんです。ただ、かわいそうだな、としか」

ユイ「他人事でしかないのね」

シンジ「実感がわかないんです。母さんがいたというだけで」

ユイ「興味深いわ」

シンジ「え?」

ユイ「あぁ、ごめんなさい。癖みたいなものだから」

シンジ「……」

ユイ「人は、誰しもが個を確立して生きているの。自分が自分であるという証明ね。何事にも二面性があるように、良いところと、悪いところがある。なにかわかる?」

シンジ「自由と、孤独、かな」

ユイ「正解。あなたの母親は、人の孤独に寄り添う永遠の存在になりたかったのよ」

シンジ「母さんが?」

ユイ「えぇ。裏死海文書に記載されている意味を、真に理解しているのは、彼女だけだったんじゃないかしら」

シンジ「う、うら……」

ユイ「昨日の神話の話の続き」

シンジ「また、その話ですか」

ユイ「母親があなたを、そして夫を捨てたことに後悔をしていないとしたらどう思う?」

シンジ「え? だって、事故で亡くなったのに」

ユイ「聞いた話だけが全てではない。あなたを、夫を、愛していた。だけど、罪悪感なく捨てていたとしたら?」

シンジ「まただ。言ってる意味がわかりません」

ユイ「あなたはまだ何も知らない。教えたとしても、理解できる受け皿がないのね。でも、仕方ないのかもしれない。そうやって生きてきたんだから」

シンジ「……」

ユイ「時は残酷ね。個人の都合とはかけ離れた概念で動いている」

シンジ「はぁ」

ユイ「あなたの話に戻しましょう。エヴァパイロットになってよかったことは?」

シンジ「僕は、迷惑をかけてばっかりです」

ユイ「それでも人類を守っているのでしょう?」

シンジ「そう言ってくれます。ミサトさん、職員の人たち。だけど、僕はみんながそう言ってくれてるのに、エヴァパイロットの価値しかないって」

ユイ「自分自身の価値を見つけられないのね」

シンジ「わがままですよね」

ユイ「自分を責めないで、当たり前よ。だけど、エヴァパイロットも含めて、あなたの価値だと思わない?」

シンジ「……」

ユイ「なぜ選ばれたのか、なぜ乗れるのか。それは理由のひとつずつにしか過ぎない。あなたが乗れる、そして、あなたが守っている。その事実を、周囲の人は認めてくれているのよ」

シンジ「やっぱり、僕には関係ない」

ユイ「ジレンマを抱えるのはわかるわ。でも、あなたがあなたを認めてあげなくちゃ。そんな自分でもいいって」

シンジ「そんな、自分でも、いい」

ユイ「ひとつじゃないのよ。あなたが選んだものが正解になる、正解にしてしまうの。誰だって突き詰めれば自分の為に生きているんだもの」

シンジ「そうでしょうか?」

ユイ「自己犠牲で愛する人の為に、なんて建て前を言っても、愛する人の喜ぶ姿が見たい自分の為でもあるでしょう?」
33 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 20:49:54.96 ID:zV+SN6BF0
シンジ「そうかも、しれません」

ユイ「無限の可能性であふれている。だから、選ぶのに迷うし、こわい」

シンジ「もし間違っていたら」

ユイ「良くても悪くても、結果はでてしまう。悪かった場合が、他人を傷つけ、自分を傷つけてしまうのがこわい」

シンジ「う……」

ユイ「だから、なにもしない、というの?」

シンジ「そ、それは」

ユイ「選択のひとつなのよ。シンジ、あなたがなにもしないと決めたの」

シンジ「僕がなにかしたって……」

ユイ「なにかしても、なにもしなくても悪くなるのなら、同じではない?」

シンジ「……」

ユイ「決めたのなら責任を持ちなさい。あなたが選んだという自覚から逃げてはだめ」

シンジ「耐えきれなかったら、どうしたらいいんですか」

ユイ「不安感に? 持ち札は多くないと割り切れる?」

シンジ「できそうもありません」

ユイ「シンジはまだ若いから。でも、こわがっちゃだめよ。歳をとるのはね、可能性を消費しているの。今しかできないと判断したら飛びこみなさい。これなら、言っている意味わかるわよね?」

シンジ「はい」

ユイ「シンジ……」スッ

シンジ「……?」

ユイ「あなたならきっとできる。あなたが持つDNAはそこらの凡人に負けるはずのない、サラブレッドですもの」

シンジ「……」

ユイ「母さんの血筋を信じなさい」

シンジ「なんだか、懐かしい匂いがします」

ユイ「……覚えがある?」

シンジ「なんとなく、そう思っただけで。変ですよね。僕、誘拐されて、相手の顔だってわからないのに、こんな話するなんて」

ユイ「話してくれて嬉しいわ」

シンジ「いえ……」

ユイ「まだ、エヴァに乗り続ける?」

シンジ「ふぅ……すぐには、答えがだせそうもないや。だけど、乗ってみんなが笑顔に……自分の為に僕は乗るべきだと思います」

ユイ「そう」

シンジ「ありがとうございました……あれ、お礼を言うのは、変ですかね」

ユイ「いいのよ」

シンジ「あんまり、考えを話せる人いないから」

ユイ「また会える。次は、麻袋無しで。チクっとするけど、我慢してね」スッ

シンジ「え? いっ! また……⁉︎」プス

ユイ「おやすみ」
34 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 20:59:01.59 ID:zV+SN6BF0
【第三新東京市 繁華街】

ミサト「うぅーん、足がぱんぱん! 結局、ビジネスホテルで夜を明かすなんて」

マコト「今日は成果をあげられればいいですね」

ミサト「そうね、誘拐から身代金の要求がないいままに時間だけが経過すると、生存率が低くなる。目撃情報を得ないと」

マコト「大丈夫かなぁ……」

ミサト「マジにやばいかも」

マコト「シンジくんだけじゃないかもしれませんしね、ひょっとしたら他のチルドレンも」

ミサト「今はシンジくんよ」

マコト「はい、わかってます」

ピリリリリッ

ミサト「日向くん、携帯、鳴ってるわよ」

マコト「青葉からだ。なにか動きがあったのかな」

ピッ

マコト「はい、もしもし……あぁ、葛城さんなら、ここに……うん……なんだって⁉︎ わかった! すぐに本部に戻る!」

ミサト「どうしたの⁉︎ ま、まさか、死体が……」

マコト「違いますよ! って、シンジくんが見つかったのは違ってないですが! 生きてます!」

ミサト「よっしゃあっ!」グッ

マコト「急ぎましょう!」

ミサト「おっけー! 駐車場に私の車があるから! 飛ばすわよ!」

マコト「いっ⁉︎」

ミサト「どうしたの? 日向くん! はやく本部に向かわなくちゃ!」タタタッ

マコト「はぁ、葛城さんって、運転荒いんだもんなぁ……」ガックシ
35 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 21:09:00.19 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ付属病院 202号室】

シンジ「う……うぅん……」 パチ

レイ「起きた?」

シンジ「綾波、アスカ?」

アスカ「はぁ、まったく、人騒がせなやつよねぇ」

シンジ「僕は、いったい」

アスカ「あんたがいなくなったおかげでこちとら大迷惑よ」

レイ「気分はどう?」

シンジ「大丈夫、特になんともないよ。僕は、いつ病院に?」

レイ「二時間前。駅のベンチで寝ていたそうよ」

アスカ「あんた、誘拐されてたんでしょ? 拷問とかされなかったの?」

シンジ「ご、拷問って。そんなんじゃなかったよ」

アスカ「なぁ〜んだ。心配して損した」

シンジ「アスカが、僕を?」

アスカ「あ、あたしは別にっ! ファーストがうるさいからよ!」

レイ「私?」キョトン

アスカ「そうでしょ⁉︎」

レイ「違うわ。心配してたのは、あなた」

アスカ「うぐっ! 気がきかないんだからぁ!」

シンジ「そっか、心配かけてごめん」

アスカ「ふんっ!」

レイ「起きたら、連絡するよう赤木博士に言われてるけど平気?」

シンジ「うん、そうだね、大丈夫だよ」

アスカ「……ん? シンジ、あんたなんか顔つきがすっきりしてない?」

シンジ「そう?」

アスカ「気のせい、よね。なにも食べてないとか?」

シンジ「そんな。たしかに食べてないと思うけど、一日かそこらじゃないか」

アスカ「ま、それもそうか。ならやっぱり気のせいね」

レイ「なにか食事は?」

シンジ「……りんご、食べようかな」

レイ「いいわ」 カタ

アスカ「はっ! 起きたらさっそくいちゃついちゃってさぁ!」

シンジ「アスカ」

アスカ「なによ」

シンジ「変わる意味がわかった気がする」

アスカ「はぁ? 頭でも打ってきた?」

シンジ「よくわからないけど」

アスカ「……どっちなのよ」

シンジ「僕はこわがってちゃいけないんだね」

アスカ「……?」
36 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 21:19:32.46 ID:zV+SN6BF0
シンジ「違う、いけないってわけじゃない。それが、自分の為にも、いつか、誰かの為にもなるんだろうね」

アスカ「や、やっぱり、なにかされてきたんじゃ……」

シンジ「アスカ」

アスカ「人の名前を何度も呼ばなくても聞こえてるっちゅーの!」

シンジ「アスカは、僕とは違う」

アスカ「はぁ」

シンジ「よっと」ギシ

アスカ「ちょっと、いきなり立って大丈夫――」

シンジ「こうしたら、どうなるんだろう」スッ

アスカ「んなっ⁉︎ ふぁんたぁっ⁉︎」

シンジ「アスカのほっぺた、やわらかいね」ムニムニ

アスカ「ふんっ!!」 ブンッ

バチンッ!

アスカ「エッチバカ変態っ! 信じらんないっ!」

シンジ「ぷっ、あは、あはははっ、ジンジンして、痛いや」

アスカ「え……? ちょ、ちょっと?」

シンジ「そうだよね。なにかをしたら、なにかが返ってくる。簡単な話なんだ」

アスカ「し、シンジ?」

レイ「碇くん?」

シンジ「くっくっくっ。だめだ、おかしくて、あははっ」

アスカ「ファースト、赤木博士に連絡してはやく精密検査受けさせるべきよ。そうしないなら隔離するべきね。きっと脳になにかされてきたんだわ」

シンジ「ひ、ひどいや、アスカ。あはははっ」

アスカ「急ぐのよ!」

レイ「え、えぇ」
37 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 21:27:31.34 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 第三会議室】

シンジ「失礼します」

冬月「楽にしたまえ」

シンジ「はい」スッ

冬月「災難だったが、無事でなによりだ。検査の結果は問題ないそうだな」

シンジ「すぐに退院できました」

冬月「赤木博士から報告は受けているよ。書類で確認してもいいが、直接話を聞きたくてね」

シンジ「かまいません」

冬月「君は、将棋を打つかね?」

シンジ「あ、いえ……」

冬月「ふむ。山崩しならできるだろう」ガシャカシャ

シンジ「それなら知ってます」

冬月「聞きたいのは、君を誘拐した相手だ。女だったそうだな」スッ

シンジ「はい。声を聞いたので」

冬月「麻袋を被せられ、両手両足を縛られていたと聞いたが?」

シンジ「間違いありません」

冬月「やけにはっきりと答えるな」

シンジ「え……あの、なにか?」

冬月「老人と2人きりでは息苦しいのではないか」

シンジ「……はい、息苦しいです」

冬月「ん?」

シンジ「でも、望んでるのは副司令ですから」

冬月「この席をかね?」

シンジ「はい」

冬月「それは違いない。多少の無礼は許そう」

シンジ「質問に答えるかわりといいますか、ひとつお願いしてもいいですか?」

冬月「めずらしいな、なんだ?」

シンジ「父さんと、少し、話がしたいんです」

冬月「碇と?」

シンジ「はい。母さんのことを聞きたくて」

冬月「なぜかね? もしや、君を誘拐した相手は――」

シンジ「え?」

冬月「いや、なんでもない」

シンジ「誘拐した相手は、誰だかわかりません。ただ、僕を知っていて、小さい頃に会ったとは言ってましたけど」

冬月「やはり、我々は彼女の手のひらで遊ばれていただけなのか」

シンジ「彼女?」

冬月「それだけでいい。碇には会わせてやろう」

シンジ「あ、ありがとうございます」 ホッ

冬月「山崩しはまたにしよう。今なら、多少の時間があるはずだ。ついてきたまえ」
38 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 21:41:14.81 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 発令所】

ゲンドウ「どうした?」

シンジ「あ、あの……」

ゲンドウ「ぐずぐずするな。用件があるならさっさと言え」

冬月「母親について知りたいそうだ」

ゲンドウ「なに?」 ピクッ

シンジ「母さんって、どんな人だったの?」

ゲンドウ「なぜだ?」

シンジ「知りたいって、おかしいかな……」

ゲンドウ「そうではない。なぜ今なのだ」

シンジ「気になったんだ。父さんは、母さんのことを大切に思ってるのは知ってるから」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「なに?」

ゲンドウ「無駄な話に時間を割くな」

シンジ「そ、そんな」

冬月「――サードチルドレン、面白い話をしてやろう」

シンジ「……?」

冬月「ここにいる男はな。昔、私の教え子だった」

シンジ「と、父さんが?」

ゲンドウ「……」

冬月「大学の頃の話だがね。当時からこいつは、一匹狼を気取っていてな。変わり者の類だった」

ゲンドウ「冬月」

冬月「キャンパス内では孤立していたよ。しかし、そんな折に、君の母親に出会った。最初は疎ましそうにしていたな」

シンジ「そ、それで?」

冬月「しかし、ユイ君の態度に、この男の心もやがて氷解していった。いつのまにやら、なくてはならない存在になっていたのだ」

ゲンドウ「過去の話だ」

冬月「やがて、2人は付き合うようになった。男女の仲というやつだ。そして、ユイくんは君を身篭った」

シンジ「父さんって普通に恋愛してたんだ」

ゲンドウ「いいかげんにしろ!」

冬月「碇、もういいのではないか」

ゲンドウ「なんのつもりだ?」

冬月「俺もお前も、やり方を間違えていたのだ。お前は言ったな。ゼーレと死海文書の存在にはじめて気がついた時、俺にこれを世間に公表すると」

ゲンドウ「なぜ蒸し返すのだ」

冬月「ネルフがまだゲヒムだった頃、お前は人が変わったようになって、決意を滲ませて帰ってきた。人類補完計画を遂行するために」

ゲンドウ「冬月、シンジを連れてさがれ」

冬月「ここから見える職員を見たまえ」

マヤ「あ、ここの解析間違ってる」
シゲル「じゃんじゃんじゃかじゃ〜ん♪ いぇ〜い♪」
マコト「はぁ、仕事が終わらない」

ゲンドウ「それがどうした?」

冬月「誰しもが、夢にも思うまい。人類が滅ぶ手助けをしているとはな」

ゲンドウ「滅ぶのではない。人が形を変える為の進化だ。必要な補完だ」

冬月「息子は、お前ではないよ」

ゲンドウ「なにを言っている」
39 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 21:45:36.01 ID:zV+SN6BF0
冬月「認めたらどうだ。お前は息子から逃げている。俺もお前も。いや、ここにいる誰しもが、なにかしらの現実から逃げているのか」

シンジ「あ、あの」

冬月「俺は降りはしない。親子の時間を取り戻せ。破滅の日まで、まだ時間はある」

ゲンドウ「必要ない。思い出は心の中で生き続ける。今はそれでいい」

冬月「素直に受け入れられんか。歳というものは難儀だな。若い発想と柔軟性が羨ましいよ」

ゲンドウ「冬月、今日は休め」

シンジ「父さん」

ゲンドウ「なんだ⁉︎」

シンジ「僕は、幼いころ、父さんから逃げ出したんだ」

ゲンドウ「……子供の戯言には」

シンジ「父さんはあの時、僕に、わからないけど、なにかに失望したんじゃないの?」

ゲンドウ「それは違う。お前が逃げ出したのだ。お前の選択だ」

シンジ「そうかもしれない。父さんは何を選択したの? やっぱり母さんの――」

ゲンドウ「茶番はやめろ!」 バンッ

冬月「碇、今日中の仕事は俺が引き継いでやる。息子と飯でも食ってこい」

ゲンドウ「先生」

冬月「ふん、はねっかえりはあいかわずだな。老人のたまに見せるわがままだ。ここは俺の顔を立てろ」
40 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 22:01:48.02 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 初号機ケイジ】

ミサト「たらりらったらぁ〜ん♪」

リツコ「そこ、踏みはずすとL.C.L漬けの完成になるわよ」カキカキ

ミサト「わかってるってぇ〜」

リツコ「呆れた、相変わらず現金ね。シンジくんに外傷なく発見できたからといって。チルドレンの警護体制見直しを検討しなくていいの?」

ミサト「そんなのはあとよ、あと。左遷もなさそうだし、この喜びを親友と確かめあわなくっちゃ、ね?」

リツコ「リーチがかかっているの、忘れないようにね」

ミサト「実験は明日から再開するの?」

リツコ「えぇ。シンジくんに問題はないし、そうなるでしょうね。そこのアンビリカルブリッジの固定具、締めつけが甘いわよ」

作業班「え! どっちすかぁ⁉︎」

リツコ「二番よ」

ミサト「使徒が相手ならなんとかなるんだけどさぁ。さすがにああいうやり方されるとちょっちねぇ〜」

リツコ「あなた、戦闘訓練も受けているでしょう? 優秀な成績だったはずだけど」

ミサト「小難しい推理は苦手。今回の件では、かたなしだって」

リツコ「そう……あら? あれは、碇司令と、シンジくん?」

ミサト「あらまっ! 本当だ! 2人で歩いてるのなんてめずらしいわね!」

リツコ「なにかあったのかしら?」

ミサト「気になるぅ?」 ジトー

リツコ「ミサト? なによその目は」

ミサト「いんやぁ〜? リツコって碇司令を目で追っかけてない?」

リツコ「……っ! バカなこと言うのはやめなさい!」

ミサト「なんでムキになるのよぉ〜?」

リツコ「あなたがそうやっていつも茶化すからでしょう⁉︎ 私は尊敬しているだけよ!」

ミサト「あらま、本気で怒ってる? ご、ごめん。悪かったわ」

リツコ「まったく!」コツコツ
41 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 22:12:41.20 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 レストラン】

シンジ「……」チラ

ゲンドウ「どうした? お前が希望した会食だ」

シンジ「あ、うん。そうだね」

ゲンドウ「俺の顔色を伺ってないではやく決めろ」

シンジ「はは。父さんでも、わかるんだ」

ゲンドウ「くだらん」

シンジ「だけど、僕は嬉しいよ」

ゲンドウ「……そうか」

シンジ「父さんと、こうして食事できるのは本当に何年ぶりになるだろう」

ゲンドウ「十三年ぶりだ」

シンジ「やっぱり、僕が逃げ出した時からだね」

ゲンドウ「ああ。だが、それ以前の俺は研究に没頭していたからな」

シンジ「父さんがしていた研究ってやっぱりエヴァの?」

ゲンドウ「様々な研究だ。基礎構造に関わっている人員は万をゆうに超えている。俺はそのタスクの一部を担当していたにすぎん」

シンジ「凄いんだね。母さんも……?」

ゲンドウ「ユイは、エヴァに子供達の夢を託していた。シンジ――」

シンジ「なに?」

ゲンドウ「お前にとって母親とはなんだ?」

シンジ「うーん、会ったことのない、人、かな」

ゲンドウ「だが、お前の母親はたしかに生きていた」

シンジ「うん」

ゲンドウ「ユイはかけがえのないものを俺に教えてくれた。俺の心の中で生き続けている」

シンジ「もし、もし今も母さんが生きていたしとたら何かが変わっていたのかな」

ゲンドウ「そんな話はするだけ無駄だ」

シンジ「そうだね、ごめん」

ゲンドウ「俺は、お前に何もしてやれない」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「だが、ユイの願いは、お前に対する願いでもある」

シンジ「父さん、なに言って……」

ゲンドウ「シンジ。二度は言わん。よく聞け」

シンジ「う、うん」

ゲンドウ「俺は父親失格なのだろう。この手は、血で汚れてしまっている。過去を振り返りはしない」

シンジ「……」

ゲンドウ「犠牲が、あまりに多すぎる。俺だけの話ではない、関わってきた者、志半ばにして倒れてきた者たちの願いが託されている」

シンジ「うん」

ゲンドウ「俺は、お前に嫌な思いしかさせていないのだろうな」

シンジ「そ、そんな……」

ゲンドウ「初号機パイロットは、ユイの願いでもあるお前がやり遂げるのだ」
42 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/24(土) 22:23:36.23 ID:zV+SN6BF0
【ネルフ本部 発令所】

冬月「(ユイくん、これでよかったのだろう?)」

リツコ「副司令」

冬月「なんだね?」

リツコ「さきほど、碇司令とご子息をお見受けしました」

冬月「ああ。たまにはいいだろう。なに、ただの親子の食事会だ」

リツコ「お、親子の食事……?」

冬月「どこの家庭でも見受けられる、日常的な光景だよ」

リツコ「あの2人にとっては、その、大変、申し上げにくいのですが……」

冬月「言わんとしているのはわかる。だが、誰しもにきっかけは必要だ」

リツコ「は、はぁ」

冬月「俺は手助けをしているだけにすぎん。どうするかは、当事者が決める」

リツコ「今さら、関係の修復などありえるのでしょうか?」

冬月「いつになっても遅いというのはないが、歳をとれば、臆病になる。息子の頑張り次第だな」

リツコ「サードチルドレンは、かなり受け身だと思われますが……」

冬月「ふっ、期待しよう」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 23:21:36.21 ID:/Y0Or9oSO

44 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 14:24:43.91 ID:ydzk62+70
【ネルフ本部 レストラン】

ウェイター「お待たせいたしました。ハンバーグセットとアメリカンコーヒーでございます」コト

シンジ「い、いただきます」 カチャ

ゲンドウ「……」

シンジ「父さん、僕は、やっぱり、父さんと母さんに何があったのかわからないよ」

ゲンドウ「ああ」

シンジ「だけど、母さんの願いも、父さんの願いも、実現したらいいと思う」

ゲンドウ「お前に心配される覚えはない」

シンジ「そうじゃないんだ。僕は、父さんと母さんの息子だから」

ゲンドウ「形だけの親だ。お前が母親に抱いている感情と俺に対する感情になにも違いはない」

シンジ「父さんからしたら、バカみたいな話かもしれないけど、僕は父さんに褒められるためにエヴァに乗ってるんだ」

ゲンドウ「……」

シンジ「父さんはこう思ってるんでしょう? 乗れればいいって。僕にだってわかるよ。そうやって、父さんは切り捨ててきたんだね」

ゲンドウ「そうだ」

シンジ「父さんの手がなにかで汚れていても、命の尊さは変わらない。僕には、今が大事なんだ。だから――」

ゲンドウ「シンジ。会食は一度きりだ。冬月の顔を立てて話をしている」

シンジ「だけど! 父さんが言ったのは本心だったんでしょう⁉︎」

ゲンドウ「……」

シンジ「普段なら絶対に言わない話をしてくれたのを僕は聞いてたよ!」

ゲンドウ「はやく食え」

シンジ「なんでそうなんだよ」

「ご一緒してもよろしいですか?」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「……っ!」ガタッ

「お久しぶり」

シンジ「あ、えっと」

ゲンドウ「ば、バカな⁉︎ そんなはずは!」

「立ち上がってないで席に座ったらどう? 注目を浴びるわよ。碇司令」

ゲンドウ「な、なぜ……っ!」

「シンジ。ハンバーグセットを頼んだの? おいしそうね」

シンジ「あの……?」

ゲンドウ「ゆ、ユイ……君なのか……」

ユイ「シンジ、飲み物は? ジュースはいらないの?」

シンジ「――ユイ? ゆ、ユイって、え、えぇっ⁉︎」

ユイ「あなたの母さんよ」 カタ

ゲンドウ「ど、どうなっている。キミはたしかにサルベージに失敗して」

ユイ「バカね。私はいつもあなたのそばにいたのに。シンジをきちんと育てずになにをしていたの?」

ゲンドウ「お、俺は、キミに会うために」

ユイ「時がくれば会えたのよ。私達の息子が叶えてくれるはずだった」

シンジ「お、お母さん、なの?」

ユイ「そうよ。麻袋無しで会えたわね」 ニコ

シンジ「えぇ⁉︎ ってことは、あの時の人が⁉︎」
45 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 14:44:52.17 ID:ydzk62+70
ゲンドウ「初号機のコアはどうなっている⁉︎」

ユイ「それなら心配ないわ。対応策は組んであるから。シンジのシンクロに問題なかったでしょう?」

シンジ「あ、あ……」

ユイ「ハンバーグ、冷めるわよ?」

ゲンドウ「本物か?」

ユイ「失礼ね。なんなら学生時代の恥ずかしい話を列挙してあげましょうか?」

ゲンドウ「……」

ユイ「私はあなた達を捨てたのよ。自分の望みの為に進んで初号機に取りこまれたの、なぜだかわかる?」

ゲンドウ「……」

ユイ「生き続ける限り、孤独感は切っても切れない関係にある。人類補完計画は心の壁を取り除き完全な個体への道標、今さら説く必要はなかったわね」

ゲンドウ「ならば、計画の完遂を待てば……」

ユイ「いいえ、それでは永遠にはなり得ない。私はね、この大地に還りたかったの」

ゲンドウ「……」

ユイ「なんの罪悪感もなかったわ。だって、この大地の土となり、木になり、空気となって、一緒にいるんですもの。始祖、そう呼ばれる存在になりたかった」

ゲンドウ「補完は人をやめるのではない、キミは人をやめようとしたのか」

ユイ「私はこの星と運命を共にして、誰よりも近く、あなた達のそばにいられるのよ? 終わりのない、永遠に」

ゲンドウ「未来永劫など理想だ。種はいずれ滅びる、星にも寿命はある」

ユイ「そうね、それに気がついたからここにいるわけだけど」

ゲンドウ「……」

ユイ「そんな話よりも、あなた。シンジをほったらかしてなにやってるの。さっきのやりとりは聞かせてもらったわ。自分に酔っているつもり?」

ゲンドウ「俺はだな」

ユイ「この子は私達の息子なのよ。あなたの手を、はじめて握ったあの頃の感覚を忘れたの?」

ゲンドウ「……」

ユイ「シンジの言う通り、命は尊いものよ。あなたはこの子から力強い鼓動を学ばなかったのね」

シンジ「(す、すごいな。父さんのこんな表情はもう見れないかもしれない)」

ユイ「シンジ」

シンジ「は、はいっ⁉︎」

ユイ「勉強はちゃんとしてる? 授業の成績はどれぐらいなの?」

シンジ「えーと、中間ぐらいの」

ユイ「あなたは頭がいいはずよ? 私は当然として、この人も学会では天才と言われていたんだから」

シンジ「す、すみません」
46 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 14:54:44.01 ID:ydzk62+70
ユイ「勉強のノウハウを教える人がいなかったのね、いえ、学ぶ楽しさ、生き方を」

シンジ「いや、その……」

ユイ「でもね、シンジ。与えられるだけが当たり前だと思わないで。過酷な環境でも、生きて、自分で考えている子供はたくさんいるわ」

シンジ「は、はい」 シュン

ユイ「あなた」

ゲンドウ「なんだ」

ユイ「私は姿を消します。また会いたかったら、父親の背中を息子に見せるのね」

ゲンドウ「今さら俺に父親になれというのか」

ユイ「なにを言ってるの。あなたは血の繋がった父親その人でしょう。浮気をしているの、知っているのよ?」

ゲンドウ「……」

ユイ「シンジ、ハンバーグゆっくり食べなさい。それと、あなたの為に用意してある計画はたくさんあるから。しっかりね」

シンジ「は、はぁ」

ユイ「シンジも私が永遠となるDNAを宿してるんだもの。次の世代へのバトンね」 ニコ

ゲンドウ「お、おい」

ユイ「追いかけてきたら二度と会わないわよ」

ゲンドウ「……」

ユイ「それじゃ、元気でね」コツコツ

シンジ「い、行っちゃった」

ゲンドウ「……」

シンジ「と、父さん」

ゲンドウ「なにも言うな。あれはお前の母親だ」

シンジ「い、生きてたんだね、びっくりした」

ゲンドウ「あぁ」

シンジ「あの、どうするの? これから」

ゲンドウ「葛城一尉を呼び出す。お前もついてこい。それと、ハンバーグをはやく食べろ」
47 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 15:12:01.00 ID:ydzk62+70
【ネルフ本部 執務室】

ゲンドウ「冬月」

冬月「どうした? 本日の業務は引き継ぐと言ったはずだ」

ゲンドウ「ユイが生きていた」

冬月「そうか。ふっ、ようやく姿を見せたのだな」

ゲンドウ「知っていたのか、なぜ今まで黙っていた」

冬月「すまなかったな。俺はお前の悩む姿を見て、内心でほくそえんでいたからだよ」

ゲンドウ「……」

冬月「嫉妬していたのかもしれん。それぐらいはこれまでの苦労を計算に入れればお釣りがくるだろう」

ゲンドウ「俺たちの目的が、補完計画の目的がなくなってしまったと同義だとわかっているのか?」

冬月「無論だ。だが、ゼーレによって、補完計画は発動される。それまでは時間を取り戻すといい」

ゲンドウ「ユイの血筋はゼーレそのものだ、委員会が生きていると知れば」

冬月「そういうと語弊がある」

ゲンドウ「これから、どうすればいい」

冬月「子供じゃあるまいし、俺に聞くな。ユイくんは何と言っていた」

ゲンドウ「父として背中を見せろと」

冬月「ならばそうしろ。余計な気を揉まんでいい、お前が背負っている十字架は消えやせんよ」

ミサト「失礼いたします! 碇司令、ご用でしょうか?」

ゲンドウ「……」

ミサト「あら? シンジくんも?」

シンジ「どうも、ミサトさん」

ゲンドウ「シンジ、葛城一尉に不満はあるか?」

ミサト「は、はい⁉︎」

ゲンドウ「どうだ?」

シンジ「いや、ミサトさんはよくしてくれてるよ」

ゲンドウ「そうか」

ミサト「碇司令、いったい、これは」

冬月「碇、過保護はちと違うぞ」

ゲンドウ「レイと同じ扱いではだめか?」

冬月「それでは育たん」

ミサト「ねぇ、シンジくん、なんなの、いったい」

シンジ「いや、あ、あはは」ポリポリ

冬月「気にしなくていい。中年の病気だ」
48 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 15:29:52.10 ID:ydzk62+70
【ミサト宅 リビング】

ミサト「それじゃ〜、シンジくんの帰還を祝してぇ! かんぱぁ〜い!」

ペンペン「クエ〜ッ!」

ミサト「んくんくんくっ、ぷはぁ〜〜っ! くぅ〜〜っ! シンジくんが無事に帰ってきてくれてよかったわぁ〜! 今日は奮発してお寿司よぉ、さ、どんどん食べて!」

アスカ「はいはい」

シンジ「はぁ……」

アスカ「えぇい、うっとうしい! あんたもため息ばっかりつくな!」

シンジ「いいじゃないか、少しぐらい」

アスカ「みんなでワイワイやろうって時に陰気臭いオーラしてる奴がいるだけで濁るもんなのよ! どうせまたくだらない悩みなんでしょ?」

シンジ「くだらないかはわからないけど」

ミサト「まぁまぁ、シンちゃんだってお年頃なんだもの。悩みのひとつやふたつ、あるわよ」

アスカ「私に悩みがないみたいじゃない」

ミサト「アスカはアスカでないとは言わないわ。だけど処理の仕方がそれぞれあんのよ」 グビ

シンジ「アスカ」

アスカ「あによ」 パク

シンジ「アスカって、お母さんと、どう?」

アスカ「やぶからぼうになんなのこいつ」 もぐもぐ

シンジ「いや、別に」

アスカ「だったら聞くんじゃないわよ……ん……⁉︎」

ミサト「……?」

アスカ「は、は、鼻が痛い! つ、ツーンって!」ガタッ

ミサト「大当たりね! アスカが引いちゃったか!」

シンジ「ミサトさん、まさか」

ミサト「そのま・さ・かぁ♪ いくつかは特製ワサビ入りってやつなのよねー! あっはっはっ、シンちゃん見て見て、アスカ、涙目になってる、ぷっ」

アスカ「こんの……っ! し、シンジっ!水、水!」バタバタ

シンジ「う、うん!」
49 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 15:55:49.28 ID:ydzk62+70
【ネルフ本部 執務室】

冬月「やれやれ、まだ悩んでいるのか」

ゲンドウ「そうではない。今さらどう向き合えと言うのだ」

冬月「構えることかね」

ゲンドウ「親としての接し方がわからん」

冬月「そうではないだろう。お前は、息子を愛しているのかさえわかっていない。ユイくんに向けている情のカケラでさえ持ち合わせているのか、自信がない」

ゲンドウ「……」

冬月「不器用なところばかり似よって。お前たちはまぎれもない親子だよ」

ゲンドウ「シンジに親として接するのがユイのためであるのは明白だ」

冬月「自分の為だ。履き違えるな。お前の望みを叶える道具として扱うから、道具を愛するのはどうしたらいいかわからんのだろうが。レイに対しては、ユイくんの面影を投影していたようだがな」

ゲンドウ「……」

冬月「ユイくんが生きているからといって、当然のように手に入ると自惚れるなよ? 見捨てられんように、せいぜい気をつけろ」

ゲンドウ「ああ」

冬月「ひとつだけ助言をしてやろう。……“家”とは帰る場所でもある。息子に帰る場所はあるのか?」

ゲンドウ「生活に不自由はないはずだ。規定にのっとって葛城一尉に世話を一任してある」

冬月「そうではない。規律や法律は弱者を守る為にあり、現代社会は物に溢れ、便利になった。必要な管理と設備を整えれば、不自由はないだろう。だが、それだけでいいのか? 心が貧しくなっているのではないか?」

ゲンドウ「人は、与えられた道具をどう使うか選ぶ、娯楽でさえも溢れている。選択肢は多いにこしたことはない……使う側の問題だ」

冬月「MAGIのような市政さえも行える極めて効率的なコンピューターという例もある。機械という電子製品に頼り良い結果が得られる、それは同意する」

ゲンドウ「……」

冬月「しかし、それだけでは満たされない。人の心は人でしか埋められないからな。人類補完計画もそこに起因する」

ゲンドウ「俺がやるのは性に合わん」

冬月「昔と今では価値観が違うがね。昔の人が不便だから、生活ができていなかったから、幸せでなかったかと言うと違う、食卓に笑顔があったからだ」

ゲンドウ「なにが言いたい」

冬月「答えを言っているだろう、わからなければ息子に学ぶんだな」
50 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 16:18:04.93 ID:ydzk62+70
【第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

ケンスケ「どうしたんだよ、ずっと窓の外見て黄昏ちゃって」

シンジ「あ、いや、なんでもないよ」

ケンスケ「碇がなんでもないって言うときは大抵なにかある時だよなぁ」

トウジ「シンジはめずらしくないやろ」

ケントウ「そういや、そうか」

トウジ「せや、この前はあかんかったが放課後時間あるか?」

シンジ「あぁ、ごめん。でも、そんなに大事な用事?」

トウジ「妹がなぁ」

ケンスケ「碇にお礼を言いたいんだとさぁ」

シンジ「それって、僕のせいで怪我したっていう……」

トウジ「まぁ、シンジのせいやないのはワシもわかっとる。サクラや、妹の名前は」

シンジ「お礼なんて、僕はなにもしてないよ」

ケンスケ「僕も一緒に行っていいんだろう?」

トウジ「お前は連れ行くわけないやろっ!」

ケンスケ「仲間外れにする気か⁉︎」

トウジ「ワシは兄として妹の身の安全を確保しとるんや!」

ケンスケ「トウジっ⁉︎ 僕は変態じゃないぞ!」

トウジ「お前が普段やっとる盗撮は変態行為やないんかい!」

ケンスケ「ブロマイドはビジネスさ! トウジだって儲けに一枚噛んでるだろ!」

トウジ「ぐっ」

ケンスケ「僕の趣味はあくまでカメラなんだからな!」

トウジ「はたからみたら女の尻追っかけとるストーカーやないか!」

ケンスケ「見損なったよ! 僕たちの友情はそんなものだったんだな!」 バンッ

シンジ「ちょ、ちょっと2人とも」

トウジ「今は会わせる気はない!」

ケンスケ「そうかよ! だったらいいよ!」タタタッ

シンジ「トウジ、ケンスケが」

トウジ「かまへんやろ。いざとなったら拳で語りゃええ」

シンジ「ケンスケは、変態じゃないよ」

トウジ「それはワシもわかっとる。妹は、そんなに長く話せる状態やないんや」

シンジ「あ……そう、なんだ」

トウジ「しみったれた空気にさせてすまんのぉ」

シンジ「いいんだ。まだ、回復してないの?」

トウジ「目処はたってない……。病院の先生からは、もっと設備の揃った病院に転院を薦められるが、そんな金、どこにあるっちゅうねん」

シンジ「……」

トウジ「あいつが笑顔になれるんなら、今はそれでええ。シンジ、すまんが励ましたってくれ。お前の活躍の話をすると、ほんま嬉しそうな顔するんや」ペコ

シンジ「やめてよ! 僕のせいなんだ! 僕ができるのならなんでも……!」

トウジ「お前なら、そう言ってくれると思うとったわ。怪我は事故やが、パイロットがシンジでよかったとワシかて思うとるで。どうしようないクズやったらやるせないだけやからな」
51 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 16:31:17.27 ID:ydzk62+70
【小田原病院 病室前】

看護師「あら、鈴原くん。今日もお見舞い?」

トウジ「お世話になっとります」 ペコ

看護師「めずらしいわね。友達も一緒だなんて」

シンジ「はじめまして」

看護師「はい、こんにちは」

トウジ「サクラは、変わりないでしょうか?」

看護師「鎮痛剤を投与しているから、今は落ち着いてるわよ」

トウジ「そうですか……」ホッ

看護師「あんまり根を詰めすぎないようにね。毎日来るのはいいけど、鈴原くんが倒れたら……」

シンジ「え? トウジ、毎日来てるんですか?」

看護師「えぇ。よっぽどサクラちゃんがかわいいのね。新聞配達もしてるんでしょう? 今時えらいわ〜」

トウジ「あ、その」

シンジ「知らなかった……」

トウジ「まぁ、その、な」

看護師「あら? 言っちゃまずかった?」

トウジ「いえ。ワシらは、病室にはいるので」コンコンッ

サクラ「……はい?」

トウジ「サクラ、はいるで」 ガララ

サクラ「……」ニコ

トウジ「そのまま、ラクにしとけ。なんや、またカーテン閉めとったんか」

シンジ「お、お邪魔します」

サクラ「兄ちゃん、今日はお友達、連れてきた?」

シンジ「……」

トウジ「せや、誰やと思う?」

サクラ「うーん?」

トウジ「お前にいつも話を聞かせてたやつや」 シャ

サクラ「えぇ?」

シンジ「はじめまして、サクラちゃん」

サクラ「わぁっ! 怪獣をやっつけてくれてるシンジさん⁉︎」

トウジ「そうや。どや? 嬉しいか?」

サクラ「うんっ! とっても嬉しい! 兄ちゃん、身体起こして!」

トウジ「よしきた! そうか、嬉しいか、よかったな、ほんまに、よかったな」

シンジ「(だめだ、トウジが我慢してるのに僕が泣いちゃだめだ)」

サクラ「どうぞ、座ってください。なにもないとこで申し訳ないわ」

シンジ「ごめん、ごめんね。本当に、怪我をさせてしまって……うっ、うぅ……」ポロ

トウジ「泣くやつがあるかぁ! サクラ、シンジも会えて嬉し泣きしとるみたいやぞ⁉︎」

シンジ「ぐすっ、ごめん、僕が、もっとちゃんとしていれば……ごめんよ……」ポロポロ

サクラ「エヴァっていうんでしょう……? あないにおっきなものに乗ってたらしかたないよ、私は気にしてないよ?」
52 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 16:45:54.25 ID:ydzk62+70
シンジ「トウジ……」

トウジ「なんや?」

シンジ「今まで、本当にごめん。僕は、自分がなにをしたのかわかってなかった」

サクラ「……? 兄ちゃん、シンジさんどないしたん?」

トウジ「おい、サクラかて、びっくりしとるやないか」

シンジ「もっと、はやく、くるべきだったんだ」

トウジ「もしシンジがきたいと言うてもワシは断っとったはずや」

シンジ「そうじゃないんだ。もっとはやく申し出るべきだった。来れる来れないんじゃないんだ」

トウジ「まぁ、そんな深刻に考えんなや」

シンジ「僕がなんとかしてみせる……!」

トウジ「はぁ?」

シンジ「僕の力じゃ無理かもしれないけど。今から、父さんのところに、ネルフ本部に行かなくちゃ」

トウジ「お、おい。せやけど、時間が遅くなるんちゃうか?」

シンジ「ジッとしていられないんだ。また、明日学校で。なにかあったらすぐに言うよ。サクラちゃん、ごめんね、改めてお見舞いにくるから」

サクラ「う、うん……」
53 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 17:19:26.38 ID:ydzk62+70
【ネルフ本部 発令所】

シンジ「はぁっ、はぁっ、父さんっ!」

ゲンドウ「お前と話している……いや、どうした?」

シンジ「忙しいのはわかってるよ。ごめん。頼みがあるんだ」

ゲンドウ「手短に済ませろ」

シンジ「僕が、初号機に乗って出撃したときに、怪我をした子がいるんだ。その子がとても重い怪我みたいで」

ゲンドウ「……」

シンジ「ネルフ付属病院に転院させるのは無理かな」

ゲンドウ「甘えは許さん、望みがあるのならば自分で勝ち取ってみろ」

シンジ「でも、僕じゃできる範囲が、だから父さんに頼んでるんじゃないか!」

ゲンドウ「俺を動かすに足る理由を示せ」

シンジ「なんだってするよ。エヴァにだって乗り続ける。それならどう?」

ゲンドウ「取り引きしたい場合は、自身の不確定な行動に対して手にあまる発言をするな。なぜ、助けたいと思った?」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「我々は使徒を相手に戦っているのだ。怪我人はこれからも出続ける」

シンジ「そうかもしれない、けど!」

ゲンドウ「クラスメイトだからか」

シンジ「友達の妹なんだ! 僕のせいで怪我したんだ!」

ゲンドウ「誰しもに救済はない。お前は、友達だからという理由で選ぶのか?」

シンジ「……っ!」

ゲンドウ「どうした? この程度で揺らぐのか? もう一度だ。お前が怪我をさせる人々はこれからも出続ける。エヴァに乗り続けるとはそういうことだ」

シンジ「ぼ、僕は……」

ゲンドウ「シンジ! 答えろ!」

シンジ「う……」

ゲンドウ「責任を持てないのならば帰れ、目障りだ」

シンジ「自分の目の届く範囲は、守りたいんだ。だって、それが僕がエヴァに乗る理由だから!」

ゲンドウ「俺に褒められたいからというのは、取り繕ってつけたウソだったのか」

シンジ「違う! ……ひとつじゃないんだ。僕が乗り続ける理由は誰かに嬉しいと思ってほしいから」

ゲンドウ「多様性はある、だが、お前が望む未来は実現に程遠い」

シンジ「お願いだよ、父さん。どうか、転院させてやってほしいんだ」

ゲンドウ「ふっ、次は拝み倒しか」

シンジ「どうしたらいいかわからないんだよ!」

ゲンドウ「……」

シンジ「くっ!」ギリッ

ゲンドウ「お前がやっているのはなんだ? 求めている結果に至るまで、お前にできるのはなにか、よく考えてみろ」
54 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 17:35:45.20 ID:ydzk62+70
【ミサト宅 リビング】

司会(TV)「それでは、次の万国びっくりさんは、何と、算数のできるワンちゃんの登場です!」

芸人(TV)「ほんまでっか⁉︎ うさんくさいわぁ〜」

シンジ「アスカ」

司会(TV)「それが本当! さぁ、登場してもらいましょう! 新潟からお越しの、天才ワンワン、ハナちゃんです!」

アスカ「ん〜?」

シンジ「前に僕に、目先しか考えてないって言ったの覚えてる?」

アスカ「あぁ? あったよーな、なかったような」

シンジ「覚えてなくてもいいんだけど、僕は、どうしたらいいのかな?」

アスカ「はぁ、また病気が発症したの?」

シンジ「病気って……」

アスカ「今の時点で目先だけじゃない。人に聞く前に自分で考えようとした?」

シンジ「考えたよ。考えたけどわからないんだ」

アスカ「そうやってつまずくとすぐ他人の力に頼ろうとする」

シンジ「……」

アスカ「なにを考えたのよ? 具体的に! 言ってみなさい!」

シンジ「トウジ、知ってるだろ? 妹さんが僕のせいで怪我したから父さんに転院を頼みに行ったんだ」

アスカ「それでぇ?」ジトー

シンジ「そしたら、父さんは、僕がエヴァに乗り続ける限り、怪我人はでるって。なにをしているのか、よく考えろって言うんだ」

アスカ「はぁ」

シンジ「あ、僕が、エヴァに乗るならいいかって聞いたからなんだけど……」

アスカ「バッカみたい」

シンジ「そ、そうかな」

アスカ「なんでそんなこともわからないのよ」

シンジ「えっ?」

アスカ「あんた、碇司令が[ピーーー]って対価を要求してきたらどうするつもりだったの?」

シンジ「そ、そんなの、できるわけ」

アスカ「そうよね。じゃあなんでいちいち真に受けて返すわけ?」

シンジ「ど、どういう……?」

アスカ「ホントにバカね……。いい? 碇司令が考えろっていうのはね、なにかを犠牲に差し出せっていうものじゃないわ」

シンジ「そうなの?」

アスカ「他には? なにか言われてない?」

シンジ「えっと、なんだったかな。責任をもたないなら、帰れとか、あとは……」

アスカ「そこね。あんたさぁ、自分では責任持ってるつもりかもしれないけど、全部丸投げしてんのよ」

シンジ「う、うん」

アスカ「怪我人にしてもそうだし、面倒についてもそう。一人を助ける為に何人が動くか考えないのぉ?」

シンジ「うーん」

アスカ「権力はないよりはあったら手段が増える。それは力だし、お金も付加価値。だけど、それで不幸になるかもしれない人がいるってことよ」

シンジ「ど、どうして不幸になるのさ」

アスカ「急な仕事が入って、娘の誕生日に帰れない人がいるのかもしれない。他ならないあんたの頼みのせいで」

シンジ「……」

アスカ「その子に、あんたはなんて謝るのよ? 僕は友達の妹を助ける為にって言い訳すんの? 大層な理由よね。我慢して、許してくれるかもしれない、だけど、あんた、それでいいの?」
55 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 17:39:28.07 ID:ydzk62+70
シンジ「だけど、その人にとってはそれが仕事で」

アスカ「ふん。ラチがあかない」

シンジ「うぅ……」

アスカ「あぁん、もうっ! よーするに! 信念を持てって話よ! 自分で決めた結果に! 悪くても良くても受け入れる覚悟が、あんたにはあったの⁉︎ 本気ってそんなもん⁉︎」

シンジ「……」

アスカ「ぐじぐじ悩んでるのがなかった証拠でしょ⁉︎ 一度頼みを蹴られたからなんだってのよ。ダメなら相手が折れるまで何度でも頼めばいいじゃない」

シンジ「……」

アスカ「どうせ、一時のテンションに身をまかせたとかなんじゃないの? ガキにありがちな話ね」

シンジ「そうか、だから父さんは僕に念をおして聞いてきたのか……」

アスカ「やっとわかったの?」

シンジ「うん、僕はやっばりバカだね」

アスカ「またすぐそうやって自虐に走る」

シンジ「だけど、アスカに聞いてよかった。ありがとう」

アスカ「ま……あんたにしちゃ、悪くない選択だったわね」

シンジ「僕はまだまだ子供で、すぐには大人になれない」

アスカ「……」

シンジ「階段を一段目から十段目にはいけないように、すぐに結果なんてでないんだね」

アスカ「このあたくし様は凡人とは違ってすっ飛ばしてきたけど」

シンジ「アスカはそのかわりに、努力をしてきたんだと思う。だけど、僕は何もしてこなかった。いつでもできたのにしなかった。だから今という結果があるんだ」

アスカ「少しはわかってきたみたいね」

シンジ「トウジの妹にしても、なんとかしてみせるって根拠のない約束をしてしまった。僕に、そう言い切れるはずがないのに」

アスカ「言い切ってもいい。それを必ず達成するなら」

シンジ「うん」

アスカ「あんたは、ちゃんと約束を守れる男になりなさいよ」

シンジ「守ってみせるよ……! 必ず! 僕、ちょっと出かけてくるから!」

アスカ「えぇ? 晩ご飯はぁ⁉︎」

シンジ「冷蔵庫にあるタッパーに入ってるひよ!」タタタッ
56 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 17:45:17.69 ID:ydzk62+70
アスカ「いっちゃった……。あいつどこに行ったんだろ。ダイヤ改正してるから終電なくなってるのに。バカを通り越して大バカね」

ペンペン「クゥゥゥ〜」

アスカ「お腹すいちゃったわね、ペンペン。タッパーの中身はっと……」ガチャ

ペンペン「クエ〜ッ! クエッ!」

アスカ「ロールキャベツか。チンして食べましょ」

ペンペン「クエッ!」

アスカ「不器用だけど、マシになってきてるのかな」

ペンペン「クエ?」

アスカ「大人の男性もいいけど、育てるってのもありかもしれないわね。どう思う? ペンペン」

ペンペン「クエッ! クェクァッ!」 パタパタ

アスカ「足りない部分は補ってやればいいわけだし。……うーん……はっ⁉︎ な、なに考えてるの⁉︎ しっかりしなきゃ! アスカ!」
57 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 17:59:02.65 ID:ydzk62+70
【ネルフ本部 初号機ケイジ】

ゲンドウ「(ユイ……)」

リツコ「碇司令、こちらにいらっしゃったのですか」

ゲンドウ「君か」

リツコ「本日は泊まりですか?」

ゲンドウ「あぁ」

リツコ「私もです」

ゲンドウ「まだ終電はあるだろう」

リツコ「地下拡張工事の為、ダイヤの改定が行われています。二時間前に運休となっておりますわ」

ゲンドウ「そうか」

リツコ「近くのラウンジでお酒でもいかがですか?」

ゲンドウ「いや」

シンジ「はぁっ……はぁっ……」

リツコ「シンジくん? あなた、まだ帰ってなかったの?」

シンジ「父さんっ!!」キッ

ゲンドウ「……」

シンジ「トウジの妹を! 転院させてやってくださいっ!」

ゲンドウ「なぜだ?」

シンジ「僕がそうしてほしいんだ! 理由なんてないよ!」

ゲンドウ「考えたのか、短い時間でだせる程度のものか」

シンジ「そうじゃない! だって、僕にはなにもないから!」

ゲンドウ「……」

シンジ「僕にはこうするしかないんだ! 何度ダメと言われても諦めずにお願いするしか!」

リツコ「この子、なにを言ってるの?」

シンジ「父さんは僕に考えろと言った! だけど、僕はトウジに約束したんだ! なんとかしてみせるって!」スッ

リツコ「無様ね。立ち上がりなさい、シンジくん。土下座なんて不恰好なまねを中学生が――」 スッ

シンジ「離して! お願いだよ、僕はこれぐらいしかないんだ。父さんのように権力があるわけでも、お金があるわけでも、人脈があるわけでもない」

ゲンドウ「……」

シンジ「でも、僕は! 願いを叶えるためにあがいてみせる!」ガシッ

リツコ「シンジくん、いい加減にしなさい。碇司令の足を離すのよ」 グイッ

シンジ「お願いします。父さん、今はこれが僕にできる精一杯なんだ。拝み倒しでもなんでもいい、それしかできないのなら、格好悪くても」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「……」

ゲンドウ「転院したとしても回復しなかったらどうするのだ?」

シンジ「それでも、なにもしないよりはいいっ!」

ゲンドウ「お前が勉強し、救おうという気持ちがあるか? 諦めなければいけない機会は必ず訪れる」

シンジ「なにかをやらなくちゃわからない! そうなる時もあるかもしれない! 怪我人だって、これからも……」

ゲンドウ「そうだ。お前が乗り続ける限り、大なり小なり、犠牲はつきものだからな」

シンジ「守れた人達だっていたんだ!」

ゲンドウ「全員は無理だ。どうやって選び、切り捨てる?」

シンジ「そ、それは……」

冬月「碇、それぐらいでいいだろう」 コツコツ

リツコ「ふ、副司令」
58 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 18:07:05.58 ID:ydzk62+70
冬月「若人とは詰めが甘いものだ」

ゲンドウ「冬月、口を挟むな」

冬月「子育てにハリきりすぎだ。メリハリをつけんと、潰れてしまうぞ」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「はい」

ゲンドウ「お前が手続きをしろ。わからなくても解決する方法を見つけるのだ。赤木博士」

リツコ「は、はい」

ゲンドウ「全職員に通達。サードチルドレンを現時点より部外者として扱え。いかなる時もだ」

リツコ「しょ、承知いたしました」

ゲンドウ「葛城一尉にも連絡して、同居を解消。身の回りの世話は、全て、自分でやらせるのだ」

冬月「おい、碇」

シンジ「いいんです。それで転院を認めてくれるんだね?」

ゲンドウ「ああ」

シンジ「だったら、僕はそれでいい」

ゲンドウ「口だけならなんとでも言える。お前が挫けないか、見せてみろ」

シンジ「わかったよ。それが、父さんの望みなら」

ゲンドウ「一区切りの結果に過ぎない。お前が選び、お前が行動したせいでこうなったのだ。自分で選んだというのを忘れてはならない。いかなる結果が待ち受けようと、悔いは残すな、胸を張れ。自分自身に、言い訳はするなよ」

シンジ「……っ!」ギュウ
59 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 18:21:06.71 ID:ydzk62+70
【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「マジに言ってんの?」

リツコ「ええ。これがシンジくんの支給される生活費」ペラ

ミサト「……ちょっとこれ、十万ぽっち? 家賃を含めたらギリギリの生活じゃない! ワンルームに住まわせる気⁉︎」

リツコ「碇司令が直々にお決めになったわ」

ミサト「厳しすぎるわ! 私が直訴します!」

リツコ「無駄よ」

ミサト「シンジくんはまだ中学生なのよ⁉︎ こんなはした金でどうやって生活しろって! エヴァに支障をきたすかもしれない!」

リツコ「そうなったら、どうなるのかしらね」

ミサト「情がないからってあんまりよ! やりすぎだわ!」

リツコ「そうは見えなかったけど」

ミサト「え……? というか、なんであんた、むくれてんの?」

リツコ「なんでもないわ」

ミサト「とにかく、碇司令に話をしないと!」

リツコ「やめなさい。左遷させられるわよ」

ミサト「どうしてよ! シンジくん、なにもしてないわよ⁉︎」

リツコ「シンジくんが望んだのだから、あなたも従いなさい」

ミサト「はぁ? シンジくんがぁ?」

加持「女が男のやることにいちいち口出しするのはご法度だぞ」トン

ミサト「チッ、あんた、こんなところでブラついてて仕事はどうしたのよ、仕事は」

加持「葛城に言われるとは心外だな、初号機ケイジで面白いものを見かけたんでね。リッちゃん、コーヒーもらうよ」

リツコ「ぬるいわよ?」

加持「かまわない」

ミサト「わたしはねぇ! シンジくんを心配して!」

加持「余計なお節介だろう、なぜ、そこまでシンジくん気にかけるんだ」

ミサト「気にならないわけがないでしょ。あの子、まだ中学生なのよ。使徒と戦うだけでも重荷なのに」

加持「いいんじゃないか? それがシンジくんの意思なら」

ミサト「純粋すぎるのよ。まわりに利用されるわ」

加持「それも勉強さ」

ミサト「あんたねぇっ! そうなってからじゃ遅いのよ⁉︎」

加持「心配してるのは、エヴァに乗れなくなるからか? それともシンジくん自身の?」

ミサト「両方よ!」

加持「シンジ君は今、現実と歩きだそうとしている。このままじゃ弱すぎるからな。向き合う準備をしている段階なのさ」

ミサト「わかったような顔しちゃって」

加持「蝶は芋虫からサナギへ、そして羽ばたいていく。人間も成長は一緒さ。いずれ通る道だ」

ミサト「潰れるわよ、シンジくん」

加持「セカンドインパクトを経験した俺たちは、地獄を見た。それに比べれば、どんな環境でも恵まれてるよ」

ミサト「価値観が違うの!」バンッ
60 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 18:29:45.92 ID:ydzk62+70
加持「……」

ミサト「今の子供たちはみんな、セカンドインパクトを教科書でしか知らない! シンジくんたちはその変わりはじめた世代なのよ!」

加持「時代が変わっても、与えられた環境でしか生きていけないのはみんな同じだ。子は親を選べないのと同じでね」

ミサト「私は納得がいかない! 生活にだって、すぐに行き詰まるわよ!」

加持「切り詰めるか、新聞配達なり手段はあるぞぉ? 中学生でも事情を話せば雇ってくれるしな」

ミサト「パイロットなのよ⁉︎ 人類を守るかたわらで、そんなことさせるの⁉︎」

加持「しちゃいけないって決まりはないだろう?」

ミサト「もういい。あんたと話してもストレスがたまるだけだわ!」

リツコ「あなた達が子育てしているわけではないのよ、夫婦喧嘩ならよそでやってくれない?」

ミサト「ふ、夫婦って、そんなつもりじゃ!」

加持「俺も心配してるのは一緒さ。どことなく弟に似てるからな」

ミサト「……?」

加持「それじゃ、葛城のマンションに行きますか」

ミサト「なんでよ!」

加持「アスカにも話してておきたいんでね」

ミサト「アスカに?」

リツコ「私はいなくなってくれるならなんでもいいわ」
61 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 18:54:43.67 ID:ydzk62+70
【ミサト宅 リビング】

ミサト「アスカ、ただいま」

アスカ「あっ! 加持さぁ〜んっ!」 ダダダッ

加持「よう」

アスカ「私に会いに来てくれたのね! 嬉しいっ!」 ギュウ

加持「元気にしてたか?」

アスカ「も〜! 日本に来てから全然顔見せてくれないんだもの!」

加持「悪い。仕事が立てこんでいてな」

アスカ「私の為に時間を作ってくれなきゃや〜よ」

加持「シンジくんとうまくやってるそうじゃないか」

アスカ「うげっ、バカシンジ?」

ミサト「シンジくん、ここから出てくのが決定したわ」

アスカ「マジ……?」

ミサト「マジよ。友達の妹を転院させる交換条件だそうよ」

アスカ「え? だって、さっきの、私のせい?」

加持「なにかあったのか?」

アスカ「べ、べつに!」プイッ

ミサト「明日には全職員に通達されるわ。碇司令の発令は絶対遵守、組織である以上、規則には逆らえない」

アスカ「なにやってるのよ……! あのバカっ!」

ミサト「アスカ、なにか訳知りみたいね」

アスカ「正直に言うと少しね……それで、どこに住むかもう決まったの?」

ミサト「三日の猶予を与えられたわ。それまではネルフで寝泊まりするようになってる」

アスカ「どこに?」

ミサト「シンジ君が誘拐された時にあなた達も寝泊まりしたコンテナよ」

アスカ「エヴァのシンクロはどうするの?」

ミサト「通常通り、行ってもらうわ。当人も了承済みの決定よ」

アスカ「……」

ミサト「はぁ……」

加持「一人暮らしをするから、寂しくなるな」

アスカ「平気よ。むしろせーせーするわ」

加持「いなくなってはじめてわかることもあるさ」

アスカ「そんなのわからなくていい!」

加持「アスカは今回のシンジくんの判断をどう思う?」

アスカ「まぁ、バカはバカなりに根性見せたって感じ。ただ、ここまでするとは思ってなかった。他人の面倒なんてほっとけばいいのに」

加持「だが、シンジくんはそれを選ばなかった。立派じゃないか」

アスカ「ふん。どうせ三日坊主でしょ」

加持「みんなが無理だと、厳しいと言うが、シンジくんは挑戦しようとしている。彼は歩き出したんだよ」

アスカ「私だって、そんなのやれと言われればできるわよ」

加持「アスカは大学に飛び級で合格し、卒業してるしな。努力を継続させる辛さを知っている。しかし、シンジくんは今なのさ」

アスカ「……」

加持「誰しもに最初がある。アスカが決意した日を思い出してみろ。その時と同じ気持ちでシンジくんが立ち上がったとしたら……」

アスカ「まだなにもわからないわ」
62 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 20:33:02.38 ID:ydzk62+70
【第三新東京都市立第壱中学校 昼休み】

シンジ「トウジ」

トウジ「おう、昼休みから出勤か。ネルフの用事やったんか?」

シンジ「今朝は、転院に必要な手続きの詳細を聞きに付属病院に行ってたんだ」

トウジ「病院て……」

シンジ「父さんに頼んだら、転院が認められたんだ。サクラちゃんが治るかもしれないんだ!」

トウジ「やっぱり、そうなったか。サクラに会わせたのは失敗やったのぉ」

シンジ「え?」

トウジ「話はありがたい。やけどな、頼んでほしいなんて、ワシがひとことでも言うたか?」

シンジ「い、いや、でも」

トウジ「こうなると思うたから会わせたくなかったんや。ワシがお前がきたくても断るというたのは」

シンジ「治るかもしれないんだよ?」

トウジ「人間ってのは複雑やな。ワシはサクラを心配しとる。せやけど、お前も心配や」

シンジ「僕はいいんだ」

トウジ「治療費は、ネルフが負担してくれるんか?」

シンジ「そうだよ、なにも心配しなくていい」

トウジ「なぜ、ワシに一言、聞いてくれへんかったや」

シンジ「それは、僕のせいだから」

トウジ「お前がやっとるんは押しつけや。どうにもならんと判断したらワシから相談する」

シンジ「ご、ごめん、だけど……!」

トウジ「ワシがお前に感謝の気持ちがなくても、ええんか?」

シンジ「いいよ、考えが足りなかったのは僕が悪い。トウジの気持ちを」

トウジ「いや、ええよ。転院させてもらうわ」

シンジ「よ、よかった! 転院には紹介状が必要で!」

トウジ「それぐらいワシも知っとるわ。必要な手続きは全て調べ終わっとるからの。万が一、転院となった時の為に」

シンジ「そっか。転院させるのは、考えたりするよね」

トウジ「必要な書類は近日中に渡す。それでええか?」

シンジ「うん、受け取ったらすぐに父さんに話て、金銭的な詰めにはいるよ」

トウジ「わかった……。シンジは先に教室に戻っておいてくれ。ワシは少し、風に当たって戻る」

アスカ「鈴原、ちょっと待ちなさい。あんた、打算したわね……」

トウジ「……?」

アスカ「こうなるのがわかってて、シンジを妹に会わせたんでしょ⁉︎」

シンジ「アスカ?」

アスカ「転院させるために! あんたは言わずとも最初からシンジに頼んでたのよ! 妹の状態を見せつけることで!」

トウジ「……」キッ

アスカ「シンジ。あんた、利用されてんのよ?」

シンジ「やめてよ、トウジがそんな……」

アスカ「なんでシンジに会わせたのよ!」

トウジ「お前は、シンジが心配なんやな」

アスカ「話をすり替えないで!」 バンッ

トウジ「妹が会いたがったからや」

アスカ「シンジがこうなるとわかってて、妹の頼みを断らなかったのは、そういうことでしょ⁉︎」

ケンスケ「(僕に会わせなかったのは、そういう理由か)」
63 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 21:00:04.86 ID:ydzk62+70
トウジ「せやったら、なんや! こうでもしない限り、どうしようもなかったんや! シンジが自分で決めた選択や! ワシたちを見捨てるのもできた!」ガンッ

アスカ「ようやく本音を言ったわね。だったら、シンジに最初からそうお願いしなさいよ。あんた達、友達でしょ? 利用するなんて」

シンジ「いいんだ。治るなら」

アスカ「ばっ、バカァ⁉︎ あんた、今の話聞いてた⁉︎ こいつは最初からそのつもりで会わせたのよ⁉︎ それなのに、えらっそーに」

トウジ「う、いや、ワシは」

アスカ「怪我させたのをまだ根に持ってるんじゃないの⁉︎ 心のどこかで!」

トウジ「ワシはシンジを友達と思っとる! せやけど! サクラを救うにはこうするしか!」

アスカ「昨日は煽って言ったけど、まだ中学生なのよ? 身分証だって社会的に認められてない。こいつの魂胆は今わかったでしょ⁉︎」

シンジ「トウジにはトウジの事情があったんだ。僕が怪我をさせたし、それに、やると決めた。最後までやってみせる。トウジとした約束だけど、父さんとの約束でもあるから」

アスカ「根性は認めてあげる、今回は逃げても責めないから撤回しなさいよ」

トウジ「シンジは、お偉いさんの息子なんやし、頼めば、それぐらい……」

アスカ「たしかにナナヒカリだけど! すんなり通ると思う⁉︎」

シンジ「もういいんだ、アスカ」

アスカ「くっ! この私が心配してやってんのよ⁉︎」

シンジ「ありがとう、アスカに助けてもらってばかりで。だけど、やらせてほしいんだ」

アスカ「好きにすれば⁉︎ もう知らないっ!」
64 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 23:20:18.15 ID:ydzk62+70
トウジ「シンジ、お前……」

シンジ「なんでもない。気にしなくていいよ」

トウジ「あいつの取り乱し方はそんなんやなかったやろ。心配せなあかんようなのがあったんちゃうんか⁉︎」グイッ

ケンスケ「話は聞かせてもらったよ」

シンジ「ケンスケ……」

ケンスケ「トウジ、僕に謝らなきゃいけないんしゃないか?」

トウジ「今はシンジの話を……!」

ケンスケ「もちろん碇にもだ! なんで正直に話さなかったんだよ! 碇だって、僕だって、事情を知ってれば力になろうとしたのに! 僕にはコネがないからか⁉︎」

トウジ「うっ、そ、それは」

ケンスケ「いいか、順番を間違えちゃいけないんだ! 僕たちは友達だろう、だったらまずは誠意を見せなくちゃ!」

トウジ「……」

ケンスケ「トウジッ! なんのために碇に殴らせたんだよ!」グイッ

トウジ「……離せ」

ケンスケ「離さないね! 友達が間違った道に進んだら正さなきゃならない! 碇がどういう戦いしてるか僕たちは見たからだろ⁉︎」

トウジ「ぐっ……」

シンジ「ケンスケ。もう、その辺で」

ケンスケ「碇、そんなんじゃだめだよ。僕たちは他人同士だ。ぶつかるのは当たり前なんだ! 喧嘩したっていい! 友達を続けたいなら、きっちり清算しないと!」

シンジ「……」

ケンスケ「どうした⁉︎ トウジ、殴りたいなら殴ってみろよ⁉︎」

トウジ「わかった。わかったから、もう離してくれ」

ケンスケ「……」スッ

トウジ「すまんな、シンジ。ワシは卑怯モンや。惣流が言うたのは当たっとる」

シンジ「いいよ」

トウジ「自分に言い訳をしたんや、簡単に許したらあかん。心のどこかで、許してくれる、悪いのはお前やって、そう思っとった」

シンジ「……」

トウジ「怪我をさせたのはとっくにチャラになっとったはずやのに、痛みに耐えてる妹を見るたんびに、なんでこんな目にあわなきゃあかんのかって、ワシは、ワシは……!」ガク

シンジ「怪我が治るまで、そう思うのも仕方ないよ」

ケンスケ「碇、それでいいのか?」

シンジ「うん」

ケンスケ「いいやつなんだな、碇は」

トウジ「ケンスケも、黙っとってすまん」

ケンスケ「ロリコン扱いしたのもだろ!」

トウジ「そっちも気にしとったんかいな」

ケンスケ「こいつぅ……!」

トウジ「すまん」

ケンスケ「まぁ、僕は碇に比べたら、なんてことないように思えるけどさぁ」

トウジ「それで、シンジ。お前、なんかあったんか?」

シンジ「……なにも、ないよ」

トウジ「ほんまか?」

シンジ「いやだな。なにもないのに、なにかあったなんか言えないじゃないか。僕にウソをつけっていうの?」

ケンスケ「そうだな、ウソをついたってすぐにわかるんだぞ?」

シンジ「や、やめてよ。二人とも。本当になにもないよ、教室に戻ろう。そろそろ昼休み終わるから」
65 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 23:45:07.31 ID:ydzk62+70
【放課後 第三新東京都市 繁華街】

シンジ「うーん、やっぱりどこを選んでも自転車は必要になるな」

加持「本を読みながら歩くと危ないぞ?」

シンジ「す、すみませ……加持さん? 外で会うのめずらしいですね」

加持「奇遇だな。手に持ってるのは賃貸雑誌か?」

シンジ「そうです、けど」

加持「そこのベンチで少し座ってかないか? コーヒーぐらいは奢るよ」

シンジ「……僕、男ですよ?」

加持「ぶっ、な、なんだぁ?」

シンジ「加持さんって、女の人じゃないと奢らないんじゃないんですか?」

加持「お、おいおい、誰だ、そんなホラ話したのは」

シンジ「ミサトさん、ですけど」

加持「あいつもよからぬことしか吹きこんでないな。俺は、女相手だけじゃないよ」

シンジ「そうなんですか。それじゃ遠慮なく」テクテク

加持「葛城から聞いたよ。一人暮らしするんだって?」ガコン

シンジ「(自転車が1万円ぐらいで、引っ越し費用は負担してもらえるだろうから、これは必要ないと)……え、あ、はい」

加持「ふっ、計算でもしてるのか? 昔を思い出すな」

シンジ「昔?」

加持「俺も、ちょうどシンジくんと同じ歳の頃、極貧生活の中で切り詰めた暮らしをしていてね。今とは違い、物資がなかったってのもあるんだが」

シンジ「家出でもしてたんですか?」

加持「そんななまっちょろいもんじゃない、帰る家がなかったのさ」

シンジ「帰る、家が?」

加持「セカンドインパクト。未曾有の大災害は、世界に大きな影響を与えた。気候の変動、生態系への影響。俺たち人間社会にもね」

シンジ「あ……」

加持「孤児だったのさ。俺は。とにかく毎日の生活が大変でね。守ってくれる人も、頼れる人もいなかった。俺は運悪く、特に治安の悪い地区にいてね」

シンジ「……」

加持「食料の不足。誰しもが誰かを疑い生きている。人間の汚いところを幾度となくみてきた」

シンジ「教科書でしか、知らないから」

加持「今のシンジくんなら、想像しようとするだろう。だから俺は話してるのさ」

シンジ「……」

加持「聞きたくないかもしれないが、俺からすれば君は恵まれている。生まれた時から人はみな平等ではないからね」
66 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/25(日) 23:53:21.60 ID:ydzk62+70
シンジ「加持さんがセカンドインパクトを体験したのっていくつぐらいの時なんですか?」

加持「まだ小さかったよ」

シンジ「どうやって生活を?」

加持「盗みさ。軽蔑するかい?」

シンジ「いえ、そんな。だけど、想像がつかなくて。今って、復興してるから」

加持「国内はだいぶな。しかし、発展途上国はいまだ復興には程遠いのが現実だ。紛争はいつの時代でも行われている。気にしないものだろう? 外に目を向けない限りは」

シンジ「そう、かな」

加持「もっと、シンジくんには世界を見てもらいたいがな。それも難しい」

シンジ「世界、ですか。僕は自分の生活で手一杯ですよ」

加持「実際に見るのと、想像は違うぞぉ」

シンジ「毎日盗んでたんですか?」

加持「孤児同士で集まって生活をしていたからな。食料はいつもかかえている問題だった」

シンジ「……」

加持「ある時、俺が失敗してね。 その相手がヤバかった。拷問をね」

シンジ「え……」

加持「こわかった。でも、相手は許しちゃくれない。残りの孤児の居場所を聞かれて、どうしたと思う?」

シンジ「わ、わかりません」

加持「俺は喋った。自分が助かりたい。その一心で」

シンジ「一緒に暮らしてた人達は……?」

加持「縄を解かれたあと、しばらくして、俺は、おそるおそる戻ったよ」

シンジ「……」

加持「みんな殺されてた。誰も生きちゃいなかったのさ」

シンジ「あ……」

加持「俺は自分を責めた。しかし、この世の中が悪いという考えもあった。セカンドインパクトを呪った」

シンジ「僕なら、立ち直れないだろうな」

加持「そうなってみなければなんとも言えないだろう。現実は理不尽で残酷な瞬間もある。運命、なんて一言では片付けられないほどにね」

シンジ「……」

加持「みんながそんな経験をするわけじゃないさ。今は世代も違う。シンジくんは、なにが起こっても、諦めないで前に進むんだ」

シンジ「はい」

加持「重い話をしてすまなかったね」

シンジ「いえ、そんな……」

加持「金がなくなったらパンの耳でもかじるといい。揚げたらうまいからな」

シンジ「そうですね、最初は出費も多いだろうし、そうします」

加持「ま、生きてりゃなんとかなるさ」ポン

シンジ「……はい」
67 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 01:02:45.40 ID:+ko4vlT80
【ネルフ本部 発令所】

マヤ「あの、先輩」

リツコ「どうしたの?」

マヤ「シンジくん、どう接したらいいでしょうか」

マコト「みんな困惑してますよ。突然、パイロット扱いするなだなんて」

リツコ「いつも通りでかまわないわ」

マヤ「でも、それじゃ、命令違反になるんじゃ」

シゲル「そうスよ。碇司令にバレたらどうするんすか」

リツコ「私はあの子に仕事以上の感情はないもの。あなた達はあるの?」

マヤ「え! いや、そういうわけじゃ……」

リツコ「特別優しくしていたわけでもないし」

マヤ「先輩は、フラットなんですね。どこまでも科学者で尊敬します。私は、どうしても感情的に考えちゃって」

マコト「でも、今まで通りって言われても」

リツコ「部外者として扱うといってもエヴァパイロットとしての業務はいつも通りなのよ。普通にしなさい」

シゲル「うっす」

マヤ「はい」

リツコ「ただし、馴れ合いすぎないようにね。子供が頑張っていたら褒めてあげたり、気遣ってあげたくなるのをやめればいいだけ。仲間意識は捨てて、派遣社員相手だと思えば?」

マコト「じゃあ、僕たちは正社員ですか? クビを切られるのは、こっちが先な気がするけどなぁ」

リツコ「個の価値としてはあなた達が下なのは間違いないわね。くだらない話をする暇があったら、手を動かしなさい」

マヤ「わかり、ました」

ミサト「まめなんでこう、スカーッとしたいときに使徒は来ないのよ! こんなにも待ち遠しいなんて!」 ズンズン

リツコ「更年期障害にはまだはやいんじゃなくて? それとも欲求不満?」

ミサト「うっさいわねぇ! リツコこそ、ラボに引きこもってないでなにしてんのよ!」

リツコ「MAGIの確認よ。ミサトも給料泥棒と言われない内に仕事をしたら?」

ミサト「わかってるってばぁ。ねぇ、シンジくん、やっぱり、うちで」

リツコ「しつこいわね。シンジくんに惚れてるの?」

ミサト「じょーだん言うんじゃないわよ! 私は家族として!」

リツコ「ごっこでしょ。ミサトのは。本物の親子の決定に他人が口をだすのは筋違いよ。シンジくんの為を思うのなら見守りなさい」

ミサト「親子って言えるぅ⁉︎」

リツコ「ミサト、これ以上の追求は、自分が納得したいだけと見なすわよ」

ミサト「はぁ、シンジくんは? もうコンテナ生活はじめてるのよね?」

リツコ「確認しに行ってきたら? 邪魔されるより、そうしてくれると助かるわ」
68 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 14:50:50.72 ID:qmTw1PEeO
【ネルフ本部 コンテナ】

ミサト「シンジくーん? いる?」

シンジ「ミサトさん? どうぞ」

ミサト「では、失敬」 ガチャ

シンジ「どうしたんですか?」

ミサト「昨日の今日で話する機会がなかったから、どうしてるのかと思って。部屋は決まった?」

シンジ「いえ、まだ。条件を照らし合わせて煮詰めてる最中です」

ミサト「候補はあるの?」

シンジ「家賃との相談になるからまだ、なんとも言えないんですけど、その中でこれ」ペラ

ミサト「やっぱりワンルームね……内見はしたの?」

シンジ「内見?」

ミサト「実際に見て、確かめること。あなたはまだ一人暮らしをした経験がないからわからないでしょうけど、近隣の様子や、汚さとか立て付けとか、あと何畳という記載に至るまで見るまでわからない部分が多いのよ」

シンジ「なるほど……」

ミサト「それにここ、学校まで電車で通うの?」

シンジ「それなら自転車で」

ミサト「シンジくん、頭で考えるよりも実際に行うのは大変よ? 毎日の話だってほんっとーにわかってる?」

シンジ「はい、わかってるつもりですけど。やらなきゃわからないと思います」

ミサト「あなたが望むのなら、また一緒に暮らすのもできるのよ?」

シンジ「いえ、父さんの期待を裏切りますから」

ミサト「どこに期待があるっていうの⁉︎ こんなの、ただの横暴じゃない!」

シンジ「僕は一度、父さんから逃げました。今回も逃げ出したら、次はいつ向き合おうとしてくれるか」

ミサト「私は、あなたの為を思って!」

シンジ「ありがとうございます。でも、決めたんです。僕は、やらなくちゃいけない」

ミサト「辛いわよ?」

シンジ「僕も、そして、父さんも不器用だと思うんです。皮肉、ですよね。似ているからわかるんです。辛い選び方をしているのかもしれません。だけど、手探りでも前に進みます」

ミサト「バカ……」

シンジ「すみません」

ミサト「男はなんでも自分でやらなきゃ気が済まないのね」

シンジ「ミサトさん……?」

ミサト「わかったわ。なにも言わない。ただし、最後までやりとげるのよ。いい?」

シンジ「はい、わかりました」
69 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 15:01:59.02 ID:qmTw1PEeO
【ミサト宅 リビング】

アスカ「スーパーの惣菜ぃ?」

ミサト「やっぱ、だめ?」

アスカ「はぁ、まだいいけどさぁ、毎日じゃいつか飽きるわよ? それに、食費だってかさむわ」

ミサト「うっ……今月はカードの支払いが」

アスカ「ミサトが外飲みばかりしてるからでしょ。居酒屋とかバーとか」

ミサト「うぅぅ。だってぇ、お酒ぐらいいいじゃなぁ〜い」

アスカ「よくアル中にならないわよね」

ミサト「まぁ、肝臓は丈夫だし♪」

アスカ「ほかには……? なんかないの?」ガサガサ

ミサト「枝豆とジャーキーでしょ。あとチーズと。するめと……」

アスカ「いい加減にしてよね! 全部ツマミじゃない! しかもなにこれぇ? ビール、ビール、ビール、チューハイ」トントントントン

ミサト「アスカは唐翌揚げが……」

アスカ「それもツマミ! 窓から投げ捨ててやる!」

ミサト「ひぃぃぃっ⁉︎ や、やめてぇっ!」

アスカ「くっ! 離しなさいよ! 往生際がわるいんだからぁっ!」

ミサト「ら、ラーメンで手を打たない⁉︎」

アスカ「太るだけよ! 塩分高いんだからね!」

ミサト「シメにはラーメンって……」

アスカ「そこをどきなさい。全部捨ててだめな大人を躾てあげるわ」

ミサト「ストップ! わかった! 出前とりましょう! ねっ⁉︎」

アスカ「今日はそれでよくても今後どうするつもりなのよ……」

ミサト「とほほ。シンちゃん、帰ってきて……」

アスカ「まさかこんな形でシンジがいなくなったのが痛手とはね」

ミサト「アスカもやっぱりシンジくん、いた方がいいわよね?」

アスカ「どういう意味?」ジトー

ミサト「アスカが希望するなら、碇司令に……」

アスカ「やめてよね! あんな頑固モン知らない! せっかく、このあたしが」ブツブツ

ミサト「……? アスカ、なにかあったの?」

アスカ「あんまりにもバカバカしくて嫌気がさしただけ。はぁ、加持さんこないかなぁ」

ミサト「アスカは結婚するとしても、あんなの選んじゃだめよ。そうねぇ……シンジくんみたいなタイプが合ってると思う」

アスカ「シンジがぁ? ぜんっぜん、実感わかないんですケドぉ?」

ミサト「たしかに、シンちゃんは付き合うと考えたら、面白味にかけるわね。一緒にいて楽しいというより、落ち着く感じだもの」

アスカ「だから?」

ミサト「付き合うのと結婚は別って話よ。シンちゃんは家庭的だし、いい夫になるんじゃないかしら」

アスカ「はぁ、あのねぇ、私まだ中学生なのよ?」

ミサト「シンジくんだって、まだ若いんだし。これから化けるかもしれないじゃない」

アスカ「私はいいの! ミサトこそ、加持さんは?」

ミサト「まぁ、大人には色々あるのよ」

アスカ「ふん、言い訳ね。歳を重ねてるだけじゃない」

ミサト「うぐっ! い、痛いとこつくわね」

アスカ「料理もできないのがその証拠よ。ぐーたら酒飲み!」

ミサト「す、すみませぇん」
70 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 15:17:19.81 ID:qmTw1PEeO
【ネルフ本部 ラボ】

レイ「あの、赤木博士」

リツコ「なに?」

レイ「碇くんが、一人暮らしするって本当ですか?」

リツコ「ええ」

レイ「私が住んでるマンションなら空きが」

リツコ「却下」

レイ「……」

リツコ「碇司令がお許しにならないわ。余計な口出しはしないで、用件が済んだなら、下がっていいわよ」

レイ「碇くんは、どうして引っ越しようと思ったんですか?」

リツコ「シンジくんは、意地を張らず、人の間で流れるように生きようとする他人指向型の子よ。ことなかれ主義とも言うわね。人の指図には逆らわず、波風を立たせるのを嫌う」

レイ「……」

リツコ「ヒトは変わっていくものよ。どこまでいっても自分という概念に変わりはないけれど、それぞれが持つイメージを覆せるかどうか。その一点に集約される」

レイ「碇くんは、変わろうとしてるんですか?」

リツコ「シンジくんは、問題を放置する消極的な姿勢をやめて、解決しようと試みた。それを変化というのならそうなるわね」

レイ「……」

リツコ「どちらにしろ、あなたには興味のない話でしょ?」

レイ「はい」

リツコ「私から見れば、碇司令の変化が気になるけど」

レイ「碇司令、ですか?」

リツコ「言ってもしょうがない……いえ、レイなら誰かに喋る心配は……いいかもしれない。レイなら感情という概念がないわよね」

レイ「……」

リツコ「変、なのよねぇ。以前の碇司令ならば、シンジくんと話をする機会すら設けなかったはずよ。なのに、シンジくんが話をしたいと言えば応えている」

レイ「碇司令が……」

リツコ「今まで徹底して無関心、放任主義を貫いてきていた……今になって、導いているとすら思える節があるわ。親子の関係が似合わないイメージだからこそ、強烈な違和感がある」

レイ「……」

リツコ「副司令がなにか企んでいるのかしら」

レイ「……」

リツコ「条件付きとは言え、碇司令がシンジくんの頼みを聞くに値する価値はどこにもない。泣き落としが通用するような人ではないもの」

マヤ「先輩、はいってもいいですか?」コンコンッ

リツコ「どうぞ」

マヤ「失礼します。あ、レイもいたのね」

リツコ「なにか問題?」

マヤ「はい、第二技術課からパーソナルデータについて不備があるという指摘を受けまして」

リツコ「どの数値?」

マヤ「ここです。計算したみたところ、たしかに誤差がマイナス0.03ほど発生しています」

リツコ「通常ならばありえないわ。MAGIのシステムデータ更新は?」

マヤ「新しい更新プログラムを適用したばかりですが……バージョンが原因でしょうか」

リツコ「バグかもしれない。発令所に行って確かめてみましょう」

マヤ「今日も、残業、ですね」

リツコ「一通り目処がついたら帰れるようにしてあげるから」

マヤ「いえっ! 私、そんなつもりじゃ!」

リツコ「どのつもりでも構わないわ。行くわよ」コツコツ
71 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 15:40:05.90 ID:qmTw1PEeO
【二日後 第三新東京都市第壱中学校 屋上】

シンジ「(今日がいよいよ期日だな。決めたアパートは、学校から13km……。自転車でどれくらい時間かかるんだろう)」

男子生徒A「お前か? ロボットのパイロットって」

シンジ「えっ?」

男子生徒A「お前だろ。ネルフだかなんだかしらねぇけど何様だよ?」

シンジ「えっと、誰?」

男子生徒A「うるせぇ。気にくわねぇんだよ、お前みたいな調子にのってるやつ」スッ

シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ。僕がいったいなにしたって――」

男子生徒B「こいつに何かしたら、俺たちが……」

男子生徒A「あ? ビビってんのかよ?」

男子生徒B「ビビってねーよ⁉︎」

男子生徒A「度胸試しにちょうどいいじゃん。ロボットのパイロットをボコしたって言えば、ハクがつくし」

シンジ「な、なんだ?」

男子生徒A「ま、そういうわけだから、お前には踏み台になってもらう。覚悟しろよ、なっ!」ブン

シンジ「いつっ……!」 ズザザ

男子生徒A「へ、へへ。ほら見ろ! パイロットなんて言ってもたいしたことねぇじゃん!」

男子生徒B「お、おい。もうやめろって」

シンジ「……」キッ

ヒカリ「誰かいるの?」キィィ

男子生徒A&B「……っ⁉︎」

ヒカリ「なに? 碇くん? どうして倒れて……血がでてるじゃない⁉︎ あんた達、なにやってるのよ⁉︎」

シンジ「洞木さん?」

ヒカリ「……っ!」タタタッ

男子生徒A「な、なんだよ。邪魔するのか?」

ヒカリ「上級生ね! 先生に言いつけられたくなかったから、帰りなさいよ!」バッ

男子生徒B「やりすぎだって、なぁズラかろうぜ」

男子生徒A「ふ、ふん。先生に言うなよ!」タタタッ
72 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 15:40:41.15 ID:qmTw1PEeO
ヒカリ「最低。なんでこんな……。碇くん、大丈夫?」スッ

シンジ「平気だよ。ちょっと殴られただけだから」

ヒカリ「殴られたって……保健室、行く?」

シンジ「いや、やめとく。そろそろネルフに行かなくちゃいけないし」

ヒカリ「どうして?」

シンジ「わからない。名前を聞く暇もなかったんだ」

ヒカリ「そんな……やっぱり、噂のせい」

シンジ「噂って?」

ヒカリ「碇くんがいなくなった時に、ネルフの人達が学校にきて、すごく騒がしかったの。だから、それでちょっとこわいねって。でも、三年生達は遊びが」

シンジ「そっか……さっき話してた度胸試しって」

ヒカリ「誰かに言ったほうがいいんじゃない? 」

シンジ「言っても、どうせなんともならないよ」

ヒカリ「そうなの? 碇くんならエヴァパイロットなんだし」

シンジ「僕がなんとかしなくちゃいけないんだと思う。自分でやりはじめてわかったんだ。僕はきっと、父さんに試されてる」

ヒカリ「試す……?」

シンジ「これまで自分の耳も目も塞いで生きてきた。だから辛くて僕がまた逃げださないか、父さんはきっと……洞木さんは、こわくないの?」

ヒカリ「私は、アスカとも友達だし。よくわからないから、軽々しくは言えないけど。孤立しちゃったら、かわいそうじゃない」

シンジ「僕たちは、何も危害をくわえるつもりはないよ」

ヒカリ「わかってる……。でも、力ってこわいの。それが権力でもなんでも。私達が、弱い人達が、危ないと思うものに近づかないようにしようって思うのは普通でしょ?」

シンジ「うん」

ヒカリ「きっと、こわがる必要ないんだと思う。けど、まわりがこわいって言ったら本当にこわいのかもって、流されてるのかな……ごめんね。こんな話、私達を守ってくれてるのに」

シンジ「僕もパイロットじゃなかったら、そうかもしれない。関わろうとはしないよ」

ヒカリ「アスカには、今の話、言わないで。友達でいたいの」

シンジ「わかった、約束するよ」

ヒカリ「えへへ、ありがとう。でも、その腫れた顔でネルフに行ったら、わかると思うよ?」

シンジ「あ、そうだね。でも、すぐにひくようなものじゃないし……」

ヒカリ「やっぱり、保健室に行こう? アイシングしてあげる。気休めでも腫れがおさまるかもしれないから」

シンジ「あ……ありがとう」
73 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 16:03:49.04 ID:qmTw1PEeO
【ネルフ本部 作戦会議室】

アスカ「ぷっ、あっはっはっはっ! なぁ〜によ、その顔ぉっ?」

シンジ「仕方ないだろ、階段で転んだんだから」

アスカ「く、くくっ。転んだって、あんた本当に間抜けね」

ミサト「アスカ、それぐらいにしときなさい」

レイ「作戦司令……。今日はなぜ招集を」

ミサト「みんなのシンクロ率がなかなか上がらないからヒアリングをね」

アスカ「私はトップでしょ! なんで私まで受けなきゃならないのよ!」

ミサト「言ったでしょ? 問題は順位ではなく、伸び代。アスカだって日本に来てから上昇が見受けられないけど」

アスカ「私はっ、まだ慣れてないからよ!」

ミサト「そう、それじゃ、いつまでに慣れるの?」

アスカ「そんなの、いつまでとか……」

ミサト「具体的に提示できなければ、甘えでしかないわ。もっとも提示するからには守ってもらいますけど」

アスカ「だったらもっとパイロットのケアをちゃんとしてよね! 満足に行き届いてるなんて一度も思ったことないわよ!」

ミサト「規定にのっとって必要な待遇は、すべて管理されています。今は使徒が来ていないから、対策が後手に回らないように話を聞く機会を設けているのよ」

レイ「私は、現状に不満はありません」

アスカ「またあんたはっ! いつもそうやって優等生ぶる!」

ミサト「レイ、環境と別に原因があると思い当たる点はある?」

レイ「いえ」

ミサト「アスカは?」

アスカ「私はもっと、最高のスタッフを揃えてほしい! そうしてくれるのなら、どこまでも高めてみせる!」

ミサト「考慮します。シンジくんは?」

シンジ「いえ、僕は、なにかあると言うわけじゃ」

ミサト「それは、あなたに上昇志向がないという考え?」

シンジ「いえ、そういうわけじゃ」

ミサト「この際だから言っておくわ。みんなよく聞きなさい」

シンジ&レイ&アスカ「……」

ミサト「あなた達はエヴァに乗るのが仕事ではないわ。使徒を倒す、ひとつの目的の為に、ネルフ全体が、いいえ、人類全体が協力しあっているの」

アスカ「わかってるわよ!」

ミサト「シンクロ率の上昇は作戦の成功率を高めるにも有効な手段のひとつよ。ここまでで満足なんて低い意識ではなく、しっかりと自覚を持ってテストにも取り組んで」

レイ「了解」

ミサト「シンジくん、少し話があるからついてきて。アスカとレイはお互いに問題点をだしあってみなさい」

アスカ「またシンジだけぇ?」

ミサト「住居の件を碇司令に報告しなくちゃいけないのよ」

シンジ「あ、わかりました」

ミサト「そんなに時間かからないと思うから。二人はまとめといてね」コツコツ ガチャン
74 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 16:04:23.19 ID:qmTw1PEeO
アスカ「――ムカつくっ!」ガンッ

レイ「……」 チラ

アスカ「なぁ〜にが人類全体よ。私達が最前線で戦わなきゃどうしようもないくせに!」

レイ「わめいたって何も変わらないわ」

アスカ「なんですって⁉︎」

レイ「あの場でそう発言すればよかった」

アスカ「言っても暖簾に腕押しでしょ。結局ねぇ、自分達の正当性を主張してそれで終わるのよ!」

レイ「エヴァに乗らなければいい」

アスカ「そんな話じゃないのよっ! 私はっ! 私は! やらなくちゃいけないんだから!」

レイ「そう」

アスカ「シンジばっかりずるいわよね。誰に殴られたか知らないけどさぁ」

レイ「え?」

アスカ「あんた、人形みたいなやつね。気がつかなかったの? 転んだってウソついてたけど、あれ。どう見てもそういう腫れ方よ」

レイ「……」

アスカ「ミサトが気がついてないはずない」

レイ「あなた、笑ってたわ」

アスカ「気にするのそこぉ? あたしは、あいつがウソつくんだから、合わせてやっただけよ」

レイ「合わせる……」

アスカ「かっこつけたいんじゃないの? 男ってのはそういうのあるみたいだし」

レイ「経験があるの?」

アスカ「な、ないけど! 雑誌で見たの! いいでしょ、別に!」プイッ
75 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 21:33:31.97 ID:+ko4vlT80
【ネルフ本部 執務室】

ミサト「失礼いたします」

冬月「……? サードチルドレンの顔の腫れはどうした。報告を」

ミサト「階段で転んだとの申告を受けております」

冬月「学校のかね?」

シンジ「はい」

冬月「この場では、虚偽申告をするなぞ許されん。パイロットの健康管理は葛城一尉の管理下にあるのだからな。管轄には、安全面も含まれている」

シンジ「……」ギュウ

冬月「まともな証言を得られないのであれば、葛城一尉にけじめをつけさせるだけだぞ」

シンジ「ミサトさんに……?」

ゲンドウ「作戦部長。中学生のお守りひとつできないのか」

ミサト「申し訳ありません」

シンジ「……! 父さんっ!」

ゲンドウ「いつ、どこで、どのように転んだか裏をとったのか」

シンジ「父さん、ミサトさんはなにも悪くないよ!」

ミサト「サードチルドレンの自主性に任せております」

ゲンドウ「嘘の申告を許したのか」

ミサト「問題になるようでしたら、改めて対処すべきかと」

冬月「タイミングが悪かったな。危機管理の問題なのだ、これは。また誘拐されるような事態に陥ったら、弁明の余地なし、すべて迅速かつ適切に処理してもらわんと困るよ。理解した上で発言しているのだろう?」

ミサト「はい」

ゲンドウ「二ヶ月の減給処分だ」

ミサト「はっ!」ビシッ

シンジ「そんな、ミサトさん、違うんだ、この腫れは」

ゲンドウ「次の報告を」

シンジ「僕の話を聞いてよ! ミサトさんが僕のせいで、そんな話……」

ミサト「サードチルドレンの住居についてご報告が」

シンジ「ミサトさんっ⁉︎」

ゲンドウ「聞こう」

ミサト「申告により、住所が決定いたしました。こちらがそのアパートになります」ペラ

冬月「安全とはもちろん言いがたいな」

ミサト「警護はいかがいたしますか?」

ゲンドウ「保安条例第十二項を適用させろ」

ミサト「厳重警護ですか?」

冬月「葛城一尉。復唱はしたまえ 」

ミサト「了解。保安条例第十二項を適用させ、出頭させます」

シンジ「くっ、なんなんだよっ! 僕にまかせるんじゃなかったの⁉︎」ギリッ

ゲンドウ「ご苦労だった。さがっていい」

ミサト「碇司令。ひとつだけ、質問をよろしいでしょうか?」

ゲンドウ「なんだ」

ミサト「シンジくんをどうなさりたいのですか?」

ゲンドウ「どうもしない。こいつの人生だ」

ミサト「エヴァに乗るのもですか⁉︎ 十四歳に背負わせるのは過酷すぎます!」

ゲンドウ「いまさらなにを言う。我々は子供に頼るしかない。パイロットは必要だ」
76 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 21:52:02.36 ID:+ko4vlT80
【ネルフ本部 エレベーター内】

シンジ「あの、ミサトさん。僕のせいで」

ミサト「黙って」

シンジ「でも……! 僕がウソの申告をしたのが原因でミサトさんが!」

ミサト「黙りなさい」

シンジ「……」ギュウ

ミサト「シンジくん。自分で決めるのは結構。でも、その判断が正しいものかどうか、もう一度考える必要があると思わない?」

シンジ「僕は、なんとか自分で解決しようと」

ミサト「碇司令に部外者と言われたから? あなたはパイロット、代わりのきかない者でもある」

シンジ「……」

ミサト「決断には責任がついてまわるの。シンジくんの責任ではないかもしれない。だけど、関わっている者達に影響する。パイロットは、そんなに軽い立場じゃないのよ」

シンジ「す、すみません」

ミサト「……にひひっ」ペチンッ

シンジ「い、痛っ!」

ミサト「ガキが気にしてんじゃないわよ。失敗はつきものなんだから。私がへこでると思う?」

シンジ「えっと」

ミサト「現場からの叩き上げはねぇ、こんなのしょっちゅうなんだから。毎日胃に穴があきそうになる中で戦ってるの。シンジくん達がエヴァに乗ってるように、私たちだって日常で自分の居場所を守るために、ね」

シンジ「……」

ミサト「全部を守るなんて考えるのやめちゃいなさい。まずはできることから、それが最初の一歩」

シンジ「はい」

ミサト「しっかし、減給はちょっち痛いわねぇ〜」

シンジ「あの、僕で力になれるのなら、なんでも」

ミサト「ぷっ、だっはっはっ! シンジくんがぁ? ……あら、でも、そうねぇ」

シンジ「……?」

ミサト「シンちゃん、ウチに料理作りに来てくれない?」パチン
77 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 22:12:32.17 ID:+ko4vlT80
【ミサト宅 リビング】

シンジ「なにがあるんだろう」ガチャ

ミサト「買い足しはしてないけど、まだそんなに日数たってないから。腐ってないでしょ?」

シンジ「そうですね。お肉は冷凍していたのがあるし、野菜も少し痛んでるけど、うん、これなら食べられそうだ」

アスカ「うげっ、本当に大丈夫?」

シンジ「匂いを嗅げば大抵わかるよ。牛乳は、新しいね。トマトもあるし、これならホワイトソースが作れると思うよ」

ミサト「よかったわねぇ〜、アスカ。シンジくんが作りにきてくれて」

アスカ「助かったのはミサトでしょ」

ミサト「お惣菜続けたかったの?」

アスカ「うっ」ヒク

シンジ「料理、覚えたらいいのに。トマトソースも作っておくよ。瓶にいれておくから。パスタにでもあえて食べたらいい」

アスカ「ふ、ふんっ。料理なんてあたしは嫌だからいいの」

シンジ「この家には必要じゃないか」

ミサト「シンジくーん、熱燗、もう一本、おねがぁ〜い」プラプラ

シンジ「はい、エプロンはっと」

アスカ「あんたさ……」

シンジ「ん?」

アスカ「不安とかないの?」

シンジ「へ?」キョトン

アスカ「べ、別に。気になったわけじゃない。ただ、ぬくぬく育ったお坊ちゃんじゃない?」

シンジ「おぼっちゃ……て、そうでもないけど」

アスカ「まぁ、そりゃ誰だって生きてりゃなにかしらあるだろうけど、あたしに比べたらお坊ちゃんって話よ。なんたって、このあたしは天才とか神童とか言われてたんだし」

シンジ「そう、だね。アスカに比べたら」

アスカ「新しい目的を掲げてはじめる不安は私だからわかる。……本当は、泣きたいんじゃないの?」

ミサト「……」グビリ

シンジ「そんな、一人暮らしするだけだよ」

アスカ「鈴原は、まだ知らないの?」

シンジ「あぁ、うん。トウジには、言いいたくないんだ。言ったら、きっと心配するから」トントントン

アスカ「お人好しもいい加減にしなさいよ、あんたのやってるのははっきり言って偽善だわ、自分の為でしょ」

シンジ「うん、そうだよ」

アスカ「あんた、少し変わった」

シンジ「それは、アスカが僕を知らないからだよ。僕たちはパイロットっていう繋がりがあるけど、身の上話をほとんどしないからねぇ」

アスカ「当たり前ね。エヴァがなければ、あたしは日本にすら来てない、うぅん、きっとママの時に……」

ミサト「……」ピクッ

シンジ「アスカのお母さん?」

ミサト「そっか、シンちゃんは知らないんだっけ」

アスカ「ミサト」キッ
78 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 22:53:07.21 ID:+ko4vlT80
ミサト「はいはい」

シンジ「……? なんですか?」

アスカ「なんでもない! 料理まだぁ?」

シンジ「今作ってるよ」

ミサト「シンジくん」

シンジ「はい?」

ミサト「誰かを守るには、強くならなくちゃだめよ。今のシンジくんに求めるのは難しいかもしれない、強さってなにかわかる?」

アスカ「……」

シンジ「最近考えたというか、こういうことなのかなって思う時が多くて」

ミサト「話してみて」

シンジ「僕は、自分でいっぱいいっぱいだったんじゃないかって。他人から良く思われたい、自分のしたいようにしたい、みんな誰だって持ってる話ですけど」

ミサト「そうね」

シンジ「できないってわかった時に、駄々をこねたり、いろんな反応があると思うんです。僕は、できるの少ないから」

ミサト「強くなるには、どうしたらいいと思う?」

シンジ「当たり前にできるようになる、のが必要、なんじゃないかな。最初は不慣れかもしれない、だけど、それができて当然まで繰り返す。そうなれば、きっと色んな、予期しない出来事にもぶつかると思うから」

ミサト「そうよ、様々なパターンがあるの。私たちの歳になっても変わらない。驚きと困惑の連続なの、不安にもつながる」

アスカ「ふん」

ミサト「アスカは、背伸びをしているけれど、この子はこの子で、わかっているの。大人たちの理不尽さを、そして子供である自分の限界を」

シンジ「アスカが?」

アスカ「やめて!」バン

ミサト「アスカ、あんたも、素直になるのを覚える良い機会なんじゃない?」

アスカ「こんな話聞きたくない! ミサトだって他人をとやかく言えないわ!」

ミサト「わたし?」

アスカ「保護者面してなによ! 自分が寂しいだけなんでしょ⁉︎」

ミサト「大人になればわかるわよ。たまには、虚しいと思う時だってあるって」

アスカ「私は都合のいいペットなんかじゃない! 素直になりたかったら自分からそうするわ!」

シンジ「アスカ、言いすぎたよ」

アスカ「シンジもシンジよ! ちょぉ〜っと変わったったぐらいで調子にのっちゃってさぁ!」

シンジ「そんな、僕は、ただ自分で思ったから」

アスカ「ほぉら、また言い訳! 現状がわかったら次は自分の壁にぶち当たんないようにしないと!」

ミサト「ぷっ、アスカったら、シンジくんに世話やいてるじゃない」

アスカ「ぬぐっ!」

ミサト「さ、シンちゃん。料理、はやく作っちゃって」
79 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 23:11:00.75 ID:+ko4vlT80
【第三新東京都市 ホテル バー】

加持「はやかったじゃないか」

リツコ「クラシックがかかっているバーなんて」

加持「リッちゃんは嫌いかい?」

リツコ「いいえ」

加持「バッハの無伴奏。一人舞台は演奏者によって聞く耳の解釈が違う。弾き語りみたいなものさ、なにを想うか、それで心に響く度合いが違う」

リツコ「ちょうどよかったのかもしれない。気分を高めたいわけではないから」

加持「昂りがあるなら、それはそれで俺としちゃ歓迎なんだが?」

リツコ「やめて。今日はそんな話をしにきたんじゃないの」

加持「わかってるよ。ここなら誰かに聞かれる心配もない。リッちゃんは碇司令とシンジくんについてどう考える?」

リツコ「わからないわ。私にもなにか頂ける?」

加持「山崎18年のウィスキーでかまわないか?」

リツコ「ええ」

加持「あの二人の間に誰かが介入したのは間違いない。それも影響力のある誰かだ」

リツコ「それで?」

加持「想像がつかないよ。シンジくんだけならわかるが、碇司令、と推察すると副司令以上には。リッちゃんだと思ってたんだが、アテがはずれたな」

リツコ「タバコ、吸ってもかまわないわよね」スッ

加持「火をつけよう」 カチ

リツコ「いつから私と碇司令の関係に気がついていたの?」

加持「いつをご希望で?」

リツコ「ふざけないで!」

加持「そう怒るなよ。最近さ」

リツコ「加持くん、これはプライベートな問題よ」

加持「悪かったよ」

リツコ「碇司令との関係は詮索しないで……!」

加持「しかし、どうにも気になってね。悪癖だな。自分の目でたしかめないと気がすまない」

リツコ「あなたが確かめたいのはもっと別の件ではなくて? 好奇心は猫をも[ピーーー]わ」

加持「おっと、これは手痛いしっぺ返しだ」

リツコ「ちゃんと聞いて。これは友人としての忠告。委員会に消されてからじゃ遅いのよ」

加持「謎は暴かないと面白くないだろう?」

リツコ「碇司令も勘づいてる。いつか身動きがとれなくなるわ、袋小路に追いつめられたネズミのようにね」

加持「そうなったら、葛城をよろしく頼むよ」

リツコ「自分でやりなさい」

加持「学生時代が懐かしいな。あの頃に戻りたいよ」

リツコ「なにも考えず、夢と希望に溢れ、若さで生きていた。でも、誰しもが汚れて大人になっていくのよ」

加持「難儀なもんだ」
80 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/26(月) 23:11:43.34 ID:z30POKuYO
リツコ「話を戻しましょう。私も、気になってはいる」

加持「そうだろうな。だからここにいる」

リツコ「わからないのは事実よ。碇司令以上の特権階級というと思い当たる人物はキール議長達ぐらいしか」

加持「シンジくんの身辺調査はしているんだろう?」

リツコ「ふぅー。ええ」

加持「きっかけは誘拐事件だ。犯人は捕まっていない。それどころか、捜査に消極的な姿勢が見られる」

リツコ「パイロットが無事に戻ったからではなくて?」

加持「なぜだ? なぜシンジくんは無事に戻ってきた? 誘拐した目的が今だに見えず、音沙汰がないのは不自然じゃないか」

リツコ「痕跡がないのだから、わかりようも」

加持「いや、それができたのさ。シンジくんを帰した、そして碇司令との関係の変化でね」

リツコ「……」

加持「誘拐までは完璧だった。足取りも掴めず、証拠を全て抹消するには明らかな悪手だ。と、なると、目的はそうではない」

リツコ「シンジくんにもう一度聞いてみる?」

加持「その必要はないさ。そうすれば、碇司令が止めるだろう。俺には確信に似たなにかがあるね」

リツコ「つまり」

加持「ここまでの経緯を話すと、碇司令とシンジくんを取り持つことができ、尚且つ碇司令にとってかなりの影響力を持つもの。それは権力じゃない。脅しが通用する相手とも考えにくい」

リツコ「二人にとって、親しい者?」

加持「リッちゃんだと思った理由がわかったか? それが、誘拐犯の正体さ」

リツコ「でも、そんな人が……」

加持「先入観を捨てて考えるんだ。俺は引き続き調べてみるよ」

リツコ「まさか、そんなはず、ありえないわ」
81 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/27(火) 02:17:03.81 ID:d4zFeL7H0
【ネルフ本部 コンテナ】

シンジ「はぁ、疲れた……」ガチャ

ユイ「おかえり。シンジ」

シンジ「わ、わぁっ⁉︎」

ユイ「そんなところで立ってないで、はやく中に入りなさい。一人暮らしをするのね」

シンジ「えぇ、まぁ……はい」 スッ

ユイ「どうしたの? 正座なんかして」

シンジ「いや、なんでいるのかなって」

ユイ「いちゃだめだった?」

シンジ「そういうわけじゃ」

ユイ「どう接していいかわからないの無理がないわね。いきなり現れて母親なんて言われても」

シンジ「あ、いや、そのっ」

ユイ「それでかまわないわ。親子の縁は簡単に断ち切れないものだから。私たちは血が繋がっているという事実さえあれば、やりなおす機会はある」

シンジ「そうですね」

ユイ「ええ。あなたは冷たくされた父親に自身の価値を認めてほしいと追い縋り、そして死んだと思っていた母である私にはなにをしてほしいの? 愛情? 思いきり甘えたい?」

シンジ「わかりません」

ユイ「反動は誰にだってあるものよ。シンジは頑張ってないわけじゃなかった。ただ、自信がなかった。そうよね?」

シンジ「僕は、そんな」

ユイ「頭を撫でてほしいの? 抱きしめてほしい?」

シンジ「その、僕は中学生ですから」

ユイ「母親にとってはいくつになっても息子なのよ。それとも、母ではない、異性にそうしてほしい?」

シンジ「あの、なんて呼べば、そこからはじめませんか」

ユイ「好きなように呼びなさい。どんな呼び方をされても私は怒ったりはしないわ」

シンジ「そ、それじゃぁ、ユイさん?」

ユイ「やっぱり母さんとは呼んでくれないのね」シュン

シンジ「え、だって今どんな呼び方をされても」

ユイ「怒らないとは言ったけど、悲しまないとは言ってない。それに、残念そうな素ぶりが見えないと愛していると伝わらないでしょう?」

シンジ「あ、愛してるって」

ユイ「私にとってもシンジにどう接したらいいかわからないの。だから、時にはストレートに伝えないとね?」

シンジ「なんで、今になって戻ってきたの?」

ユイ「シンジに会いたかったから」

シンジ「……」ギュウ

ユイ「本当よ」

シンジ「そんなのウソだ。だったらもっとはやく戻ってきてくれたってよかったじゃないか」

ユイ「そうね。私が愚かだった。こんなにも簡単な答えに行き着けなかったなんて」

シンジ「答え?」

ユイ「私の望みは、星と共に悠久の時を超えた存在になることだった。でも私はすでに、望みを叶えていたの。あの人を利用してシンジを産めたんだもの」

シンジ「なに言ってるかわからないよ」

ユイ「知恵の輪は既に出来上がっていたの。あなたの選択で人類に、生きとし生けるもの全てに、福音をもたらしなさい」

シンジ「ほ、本当になに言ってるんだよ」

ユイ「あぁ、シンジ。私の望みは全てあなたにある。あなたが私の願いそのもの」

シンジ「な、なんなんだよ。この人が、本当に母さん?」

ユイ「紛れもなく、母親よ。六分儀という性もあなた。 少しの間眠りましょう。起きたらまたいつも通り。眠りなさい、かわいいかわいい私のシンジ」プス
82 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/27(火) 13:10:52.93 ID:d4zFeL7H0
【ネルフ本部 執務室】

冬月「加持特別監査官。呼びだされた理由は説明するまでもないな?」

加持「いやはや、驚きましたよ。夜分遅くに、まさか副司令直々のお呼び出しとは」

冬月「無駄口を叩かんでいい。なにやら、こそこそと嗅ぎ回っているみたいだが」

加持「さて」

冬月「下手な誤魔化しはやめるんだな」パサッ

加持「……」

冬月「ここにある写真で、君の姿がはっきりと確認できる。スーパーコンピューターMAGIの配線管理室でなにを傍受していた」

加持「碇司令もご存知っすか?」

冬月「報告するかどうかは詳細を聞いてから決める」

加持「なぜ、すぐに報告しないんです?」

冬月「碇も暇ではないのでな。こういった雑務はどの道、私にまわされる」

加持「苦労してますね」

冬月「まったくだよ。だが、問題を生みだしているのはキミだ」

加持「サードチルドレンと碇司令の変化が気になったもので」

冬月「それだけのために命を危険に晒すのか」

加持「裏を返せば、俺の命よりも重い価値があるということでは?」

冬月「勘違いするな。キミの命など、道端に転がる石ころと同じだ。とるにたらんよ」

加持「それもそうだ……俺はあるひとつの仮説を立てています」

冬月「言ってみたまえ」

加持「2人の仲を取り持とうとしているのは、死んだはずの人間の亡霊なんじゃないかとね」

冬月「なぜ、そこまで」

加持「碇ユイ。彼女が生きているとすれば、セカンドインパクトの真実にもっとも近い。ある意味では、委員会や碇司令よりも。それは、魅力的なんですよ」

冬月「我々の子飼いでいれば今しばらくは長生きできたろうに、裏の顔を持っていたか。後悔はないか?」

加持「するならとっくにやめてますよ」

冬月「そうか」カチャ

加持「副司令に拳銃は似合わないっすね」

冬月「似合わん姿を見せるのも仕事というものだ」 パァン
83 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/27(火) 13:20:32.20 ID:d4zFeL7H0
ユイ「――失礼します。あら、こちらで倒れてるのは……お取り込み中でしたか?」

冬月「問題ない、かたはついた。死体はすぐに処理させるよ。今日はどうしたね?」

ユイ「まずは感謝の言葉を。シンジを守っていただき、ありがとうございました」

冬月「白々しい、私は、あの子を守っていたのではない。キミを守っていたつもりだったよ」

ユイ「結果に相違ありません」

冬月「全てはキミの計画の内だったのだろう」

ユイ「私はこれまでの人生で計画など考えたこともありません」

冬月「キミのその笑顔に、俺もすっかり騙されたよ。ただ、純粋なだけだと思っていた」

ユイ「私は願いに対して真っ直ぐでいたい。それだけです」

冬月「そのために、どれだけの人間を欺いてきた」

ユイ「かわいそうな人。あなたは、自分が思っていた理想像と違う私に幻滅なさっているんですね」

冬月「キミに振り回されるのはもうたくさんだ」

ユイ「いいえ。あなたはもう引き返せない。私から解放されたい? それとも、愛されたい?」

冬月「う、き、キミは」

ユイ「感謝しています。あの人から私を守ってくれた。私のために自分を押し殺し、耐えてきたのですね」

冬月「碇の悩む姿も、キミは気にもとめなかったんだろう。俺のようにざまあみろとほくそえんでいたんじゃない。興味がなかったんだろう?」

ユイ「いいえ。愛情を注いでいました。ただ、形が変わるだけなのです」

冬月「詭弁だな」

ユイ「ふふっ、先生。もうひとつ、最後のお願いを聞いてくださいますか」

冬月「聞くだけならな。言ってみろ」

ユイ「シンジをください」

冬月「次は自分の息子を翻弄するつもりか」

ユイ「私の願いの成就は、あの子に幸せな結末になります」

冬月「人を操り、行き先を誘導する。形だけの意思になんの意味がある」

ユイ「重要なのは、自分で選んだという事実のみですわ。それだけで簡単に納得してしまう」

冬月「あくまで己に責任はないと言い張るつもりか。キミのやっているのはただの刷りこみだぞ」

ユイ「そうかもしれませんね。幸せは、掴みとることもできますし、作為的に用意することもできる」

冬月「籠の中の小鳥にするのかね」

ユイ「塀の中の世界が全てであるならば、それは何よりの幸せです」

冬月「間違っている! 人は外を見なければ中の有り難みを実感できん!」

ユイ「シンジならば価値を見い出せるはず」

冬月「なんたる言い草だ! これまでの計画を水泡に帰すつもりなのかっ!」バンッ

ユイ「元々、裏死海文書をゼーレに渡したのは私。……発端は私なんです」

冬月「始まりはきっかけにすぎん。動きだしてしまっている以上、キミの手から離れているのだぞ。直接的にも、間接的にも関わってきた多くの人間の運命が狂わされてしまっている」

ユイ「修正させてもらいます。補完計画をあるべき姿に」

冬月「バカな……! 今さらそんな話が」

ユイ「先生、許してください。約束の時、願いの成就の為に」
84 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/27(火) 13:43:32.60 ID:d4zFeL7H0
キール「そこまでだ」コツコツ

冬月「その声は……?」

キール「久しぶりだな。こうやって対面するのは」

冬月「キール議長、なぜここに。もしや、委員会とユイくんは最初から協力関係にあったのか」

キール「存命を知る立場にあったのは、正確には、議長である私だけだ」

冬月「ならば、碇の企みもとっくにご存知なのでしょうな。我々の命運もこれで尽きたか」

キール「そうはなるかは、キミ次第だ」

ユイ「先生にはまだ使い道がありますもの」

冬月「俺が嫌だと言ったら?」

キール「ユイ博士が帰ってきた以上、その選択肢は用意されていない。ネルフなぞもはや形骸だけの姿にすぎん」

冬月「……」

キール「キミが選ぶのは、ラクに死ぬか、悶え苦しんで死ぬかのどちらか」

冬月「沈黙をもって答えよう」

キール「そうか。加持リョウジ」

加持「……」ピクッ

キール「いつまでそうしている」

加持「もうよろしいので?」 スッ

冬月「お前はっ⁉︎ たしかに先ほど撃ったはすだっ!」

加持「その拳銃、空砲っすよ。あとはこうやって、血のりをね」

冬月「まさか、私をここにおびき出すために」

加持「まんまと罠にかかってくれましたね。いつも碇司令と一緒にいるんで、遠回りしましたが」

冬月「そうか、最初から狙いは俺だったか。拉致すればいいものを。キール議長もまわりくどいやり方をなさる」

キール「まだ、碇に悟られるわけにはいかない。まだ、答えは聞いていない。沈黙以外で答える最後の機会を与える」

ユイ「先生、賢い選択をなさってください。あなたはあの人に嫉妬していた」

冬月「違う。あれは気の迷いだった」

ユイ「そうやって逃げるのですね。私の存在を心から消しさるおつもりですか」

冬月「魔性の女め!」

ユイ「生きてきた時間を取り戻すには、先生はあまりにも遅すぎたんです」

冬月「……」

ユイ「私のために汚れた手も、包みこんでさしあげます」スッ

冬月「なぜだ? どうしてこうなってしまったのだ」

ユイ「先生はなにも悪くありません。何も考えなくていいのよ、全て、私のせいにしてしまえば、先生はラクになれる」ニコ
85 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/27(火) 13:54:30.71 ID:d4zFeL7H0
【ネルフ本部 ラボ】

マヤ「先輩? まだ残って……だ、大丈夫ですかっ⁉︎」 タタタ

リツコ「マヤ?」コトン

マヤ「うっ、お、お酒の匂い。ちょ、ちょっと飲み過ぎなんじゃ」

リツコ「ふっ、かまわないでしょ。どれぐらい飲もうと、あの人は、心配すらしてくれない、優しい言葉をかけてくれた記憶なんかないわ」トクトク

マヤ「いったい、誰の話……こ、こぼれますっ! こぼれてます!」

リツコ「あの人はね、今だにいなくなった人が忘れられないのよ。私はいったい、なんなの……なんだっていうの!」ガシャンッ

マヤ「きゃあ⁉︎」 ドサ

リツコ「いつまでも過去の出来事にとらわれて。そんなに恋しいのかしらね……」

マヤ「せ、先輩、もうそれぐらいに」

リツコ「加持くんは言ったわ。先入観を捨てろって、もし彼女が生きているとしたら……これまでの私はどうなるの?」

マヤ「あの?」

リツコ「許せるわけない……私を捨てるなんて……許せるわけがないのよっ!」ブンッ

マヤ「ひっ⁉︎」

リツコ「でも、可能性のひとつにすぎない。仕事、しなくちゃ。あの人のために。MAGIのメンテナンス、母さん、待ってて」スッ

マヤ「先輩⁉︎ そんなフラフラの状態でいったいどこに⁉︎」

リツコ「かまわないで!」ドンッ

マヤ「あぅっ!」ドサ

リツコ「一人にして……一人になりたいのよ」
86 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/27(火) 14:09:15.87 ID:d4zFeL7H0
【ネルフ本部 モニター室】

加持「まさか、リっちゃんがこうも疑心暗鬼になってくれるとはね」

ユイ「不倫なんて報われない恋よ。頭でわかっていても、希望を抱かずにはいられない。ましてや、死んだと思っていた人間が相手だもの」

加持「勉強になりますな。これもあなたの計画通りですか? ユイ博士」

ユイ「今だ過程、どう選ぶかは個人が決める」

加持「リッちゃんは、これからどうなります」

ユイ「聡明な頭脳を持っていても所詮はオンナなのよ。彼女が何に縋っているのか考えればわかる」

加持「碇司令は権力こそあれど、実態は孤独です。副司令とリッちゃんという腹心を失えば、丸裸も同然だ」

ユイ「そうね」

加持「ネルフを乗っ取るには都合が良すぎますね」

ユイ「あの人が気がついた時には外堀は埋まっているのが理想。それまで、私は疑われてはいけないし、あの人のイメージの中にある私を壊してはいけない」

加持「肝心の碇司令はご子息への教育にご執心のようですしね、それもあなたに会いたいという願いの為に」

ユイ「シンジに父親のかわりはいないからそうしたの。向き合うようになったのは私がきっかけ」

加持「子育て放棄を理由に、シンジくんには父親を……そして、碇司令には目くらましを。まさに一石二鳥ってわけですか。正直、全てがあなたの手の内でおそろしくさえあります」

ユイ「買い被りすぎよ」

加持「碇司令が折れれば、後ろ盾にはキール議長がいる。争いはなく、ほぼ無傷でネルフが手に入る。のぼりつめたらどうするんです?」

ユイ「表舞台に立ったら、シンジにふさわしい相手を用意させる」

加持「セカンドチルドレンですか?」

ユイ「そうと決まったわけではない。私を罵る?」

加持「やめときますよ、出来過ぎているとは思いますがね」

ユイ「そう」

加持「硬化ベークライトで固められた、アダムの処置については?」

ユイ「ゆっくりやりましょう。特等席で見届けたいのならそうしなさい」
87 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/27(火) 14:45:45.67 ID:d4zFeL7H0
【同刻 芦ノ湖】

ゲンドウ「始まりの地、ここが出発地点か」

カヲル「夜分遅くに一人で出歩くとは感心できませんね。あなたは、自分のお立場をもう少し考えた方がいい」

ゲンドウ「……」 チラ

カヲル「はじめまして。お父さん」

ゲンドウ「その制服は、第壱中学校のものだな」

カヲル「はい。と、言っても通ってすらいませんが」

ゲンドウ「機関の所属名はどこだ」

カヲル「重要なのは、ボクがヒトかそうではないかではありませんか?」

ゲンドウ「……」

カヲル「大昔、ここにリリスの黒き月が落ちてファーストインパクトが起こった。そして、アダムから生まれた僕たち使徒は、眠りについた」

ゲンドウ「俺に接触してきた目的はなんだ」

カヲル「言ったでしょ? どこでもないって。目的は生き残る、わかりやすい話です」

ゲンドウ「(使徒か)」

カヲル「その呼び名はおかしい。リリンも気がついているんだろ? ヒトも十八番目の使徒であるということを」

ゲンドウ「思考を読めるようだな」

カヲル「そんなのはどうでもいい。リリンはリリスから生まれ、僕たちはアダムから生まれた。種を残す為に僕たちはどちらか一方が滅ぶ運命にある」

ゲンドウ「あなた達使徒が悠久の時を生きられても、我々人類と同様、永劫ではない」

カヲル「ヒトは死にゆく運命(さだめ)だと言いたいのかい? 次の世代へのバトンを紡いで」

ゲンドウ「人は完璧にはなれない。状況への変化に適応するために選んだ進化のプロセスだ」

カヲル「なぜ?」

ゲンドウ「群れに答えはある。個として見れば脆弱な生物だ」

カヲル「完璧な生命体は救済だと考えているのかい?」

ゲンドウ「むなしいだけだ。群れを捨てれば、完璧であるにこしたことはないだろう。だが、それでは生きる意義を失う」

カヲル「死の価値とはなんだ?」

ゲンドウ「死とは個の終着点に過ぎない。魂の解放とも言えるが、それまでになにを成すかという散りざま次第だ」

カヲル「……」

ゲンドウ「あなたは何番目の使徒なのだ」

カヲル「ボクは渚カヲル。第壱使徒です」

ゲンドウ「なに?」ピク

カヲル「話を続けましょう。ボクたちはお互いに不完全な生命体だ。アダムより生まれしヒト以外の使徒はリリンを滅ぼし、完全な個体になろうとしている。わからないのは、リリン。キミ達だよ」

ゲンドウ「それが、今の質問か」

カヲル「リリンは自ら進化の可能性を閉ざそうとしている。科学の力を使い、エヴァというデッドコピーを作り、使徒を撃退する一方で、滅びの道を歩んでいる」

ゲンドウ「ふっ」

カヲル「なぜだ? なぜ、リリンは生き残りたいと願うのに、群れを放棄しようとする? 今の話と辻褄が合わないじゃないか」

ゲンドウ「人の心が気になるか」

カヲル「……」

ゲンドウ「知恵の実を与えられた人類はいまや、一部の意向により方向づけられ、操作されている。個としての意思は尊重されない」

カヲル「ヒトをまとめるためにかい?」

ゲンドウ「領土をまとめるには統治者が必要だ。しかし、いずれ腐敗していく……進化は頭打ちなのだよ。紛争は終わらず、破壊を、資源を食いつぶしている。人は増えすぎ、傲慢になってしまったのだ」
88 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/27(火) 14:53:43.18 ID:d4zFeL7H0
カヲル「ヒトの歴史は悲しみに綴られている。だからなのかい? 個を選び、群れを捨てるのは」

ゲンドウ「その通りだ。人は感情を捨てて生きていけない。理性だけでは生きられないからな」

カヲル「幻滅したよ」

ゲンドウ「どう受けとってもらってもかまわん。どの道、どちらかは滅ぶ。あなた達使徒と戦うのは人にとって決定事項だ」

カヲル「……」

ゲンドウ「用件はそれだけか?」

カヲル「そうですよ……あぁ、それと」

ゲンドウ「なんだ」

カヲル「キミたちリリンがネルフと呼んでいる地下施設にあるのは、本当にアダムの本体?」

ゲンドウ「その問いには、俺も同じ疑問がある。お前はコピーか?」

カヲル「お互い、答えるつもりがないのはわかりました」

ゲンドウ「用が済んだのなら消えろ」

カヲル「悲しいね。歌という文化の極みを残せる美しさを持っているのに、それでもダメなのか」テクテク
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 22:52:30.06 ID:GL4sBxx1O
内容変わってる?
90 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/28(水) 11:04:31.21 ID:+tCFHMrJ0
無駄の省略と整合性をはかっています
誤字はあいかわらずありますが少なくなってるのでまぁ良しとします
91 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/28(水) 15:34:07.61 ID:ZadT34pk0
【翌日 ネルフ本部 ラボ】

ミサト「おじゃま〜……って、ちょっとリツコ」

リツコ「あぁ、ミサト」

ミサト「ひどいクマじゃない、それにここ、どうしたの?」

リツコ「年増の癇癪よ」

ミサト「と、年増……達同い年なんだからね? それにまだ三十路にもなってないのに、なに言ってんのよ」

リツコ「四捨五入すれば変わらないでしょ? 二十五を過ぎれば下り坂とも言うし、男は若い女の方がいいじゃない」

ミサト「気持ちの問題よ。見た目だって、まだまだ……」

リツコ「ホント、あっという間よね。ハタチを過ぎてからは」

ミサト「まぁ、それはそうだけど。めずらしいじゃなぁい、センチメンタルになるなんて」

リツコ「少し、感傷に浸りたいだけ」

ミサト「ふぅん……リツコがそうなるのって男絡み?」

リツコ「どうかしらね」

ミサト「どうせ私みたいにペラペラ喋るようなのと違ってあんたは喋らないですよーだ」

リツコ「そのセリフ、キャンパスで最初に会った時を思い出すわ」

ミサト「え? いつだったっけ?」

リツコ「学食であなたが私に話しかけてきたの、もう忘れたの?」

ミサト「言われてみれば、そうだったわね……」

リツコ「妙に馴れ馴れしく話しかけてきたから、最初は仲良くなれないと思ったりもしたけど」

ミサト「でへへー。その節はどーも」

リツコ「あの頃はまだ、色んな体験が楽しくて、私もスレてなかった。いつからかしら、楽しかったはずの遊びや研究に居場所を見つけられなくなったのは」

ミサト「誰だって、飽きるわよ」

リツコ「いいえ。むなしいの」

ミサト「そっか、リツコもか」

リツコ「新しい発見があると、価値観が一変し、私は、その為に生きていると、幸せを実感できた。でも、それだけでは、今は物足りない」

ミサト「虚構と現実のはざま、いつまでも選り好みはしていられないものね」

リツコ「それでも、人は希望に恋い焦がれる。叶わない望みを抱くのは、辛いのね」
92 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/28(水) 15:55:21.98 ID:ZadT34pk0
【ネルフ本部 執務室】

リツコ「お呼びでしょうか」

ゲンドウ「ダミープラグ計画を急ぎたい。レイのパーソナルデータ収集の報告をしろ」

リツコ「必要な情報は既にMAGI上で計算を終えております」

ゲンドウ「委員会に報告を行うには、試験運用まで移行しているのが必須条件だ。形になるまでにどれぐらいの期間を要する」

リツコ「不確定な要素が多過ぎます。計算を終えているといっても、実際にシステムに最適化をして組み入れるにはまだまだ調整が必要ですわ」

ゲンドウ「では、質問を変えよう。全体の何パーセントまで完了している」

リツコ「60といったところでしょうか、完璧を望まれるのであれば残り30にさしかかった辺りがもっとも時間を要します」

ゲンドウ「……」

リツコ「レイのデータはダミーと照らし合わせ、細かい誤差が発生します。詰めを急ぎすぎると制御不能になる可能性が高まります」

ゲンドウ「かまわん、動けばそれでいい」

リツコ「なぜ、ご報告を?」

ゲンドウ「老人達は予定を早めるつもりのようだ。秘密裏に十三号機までの建造を世界各地で進めている」

リツコ「では、量産機にやはりダミーシステムの採用を」

ゲンドウ「ああ。やつらはパイロットという不安定な要素を排除する決定を下した。我々も切り捨てられぬよう保険はかけなければならん、技術のノウハウはこちらにあると見せつけたいのだ」

リツコ「承知いたしました。次に、ご子息誘拐の件ですが」

ゲンドウ「その件は、もういい」

リツコ「徹底解明すべきでは?」

ゲンドウ「サードチルドレンは生きて戻ってきた、パイロットとしての価値があれば充分だ。余計な人手をまわす余裕はない」

リツコ「犯人の目的は依然として不明なままです。なぜ生きて返してたのでしょうか」

ゲンドウ「……」

リツコ「誘拐犯にとって傷つけたくはなかった、あるいは、傷つけるのが目的ではなかっとしたら」

ゲンドウ「もういい、下がれ」

リツコ「……っ! なぜ、母さんも、私も……あなたにとってなんなの……! さぞや気分がいいでしょう! 母娘揃って一人の男に!」

ゲンドウ「赤木博士、君には期待している」

リツコ「この後に及んでまやかしをして、隠し事をするつもり⁉︎ シンジくんをさらったのが誰かわかってるんじゃなくて⁉︎」

ゲンドウ「以上だ、さがりたまえ」

リツコ「ねぇ……私を……愛してる……?」

ゲンドウ「……ああ」

リツコ「うそつき……」クル
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 17:39:03.47 ID:ZadT34pk0
【ネルフ本部 発令所】

マヤ「初号機、冷却値をクリア、作業はセカンドステージに移行してください」

リツコ「零号機の胸部生体部品はどう?」

マヤ「大破していますからね。塗装も含めて新調しますが追加予算の枠、ギリギリです……あの、先輩、昨日は……」

リツコ「忘れてちょうだい」

マヤ「はい……」

マコト「作業完了しました。地上でやってる使徒の処理も、タダじゃ無いですし、たまりませんね」

リツコ「人はエヴァのみで生きるにあらず。生き残った人たちが生きていくにはお金がかかるのよ。復旧率は?」

マヤ「先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムは、大きなダメージを受け、現在までの復旧率は26%です」

シゲル「そういえば、米国を除く全ての理事国が量産計画の予算を承認したと聞きました」

リツコ「そう」

マヤ「え、アメリカは既に三号機を着工開始してるんじゃなかった?」

マコト「それが、今になって難色を示してゴタゴタしてるらしいよ。あの国、失業者アレルギーだから」

マヤ「EU加盟国よりも生産力は高いはずなのに」

シゲル「大国は大国なりの意地とプライドってもんがあるんじゃないの〜? 整備計画が頓挫しないといいけどね」

マコト「そういえば、赤木博士も大変ですね」

リツコ「なんの話?」

マコト「定例会議でパイロット問題で追及されたって噂、聞きました」

シゲル「俺も俺も。人道的ではないとかなんとか言われたんじゃないんスか?」

リツコ「その他に、五分で動かなくなる決戦兵器だとか、制御不能に陥る危険極まりない兵器だとかね。そこ、計算間違ってるわよ」

マコト「ほんとだ」カタカタ

リツコ「先の戦闘で国連は大規模な追加予算をネルフに補填させたわ。某国では二万人の餓死者がでているというし、ある程度は仕方ないのかもしれない」

マヤ「に、二万人、ですか」シュン

リツコ「ウチの利権にあぶれた連中のやっかみでもあるのよ」

冬月「左様。政府による突き上げだ。ただ文句を言うだけが仕事の、くだらない連中のたわごとだよ」

リツコ「おはようございます」

マヤ&マコト&シゲル「おはようございます」

冬月「作業の進捗状況はどうかね」

マヤ「現在、L.C.L.の温度は36を維持、酸素密度に問題なし」

シゲル「各計測装置は正常に作動中」

リツコ「今の所は順調ですわ。初号機と弐号機の修復作業は明後日までには完了いたします」

冬月「ふむ、ごくろう」
94 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/06/28(水) 18:15:16.31 ID:ZadT34pk0
【ネルフ本部 加持 デスク】

アスカ「かぁ〜じさんっ!」ヒョイ

加持「アスカ、お前、学校はどうした、学校は」

アスカ「なんだか、加持さんに会いたくなっちゃってサボっちゃった!」ギュウ

加持「こら、おいっ、抱きつくな」

アスカ「また香水の匂い。今度は誰の?」

加持「大人の付き合いさ。少し、酒を飲んできただけだ」

アスカ「そうなんだ。なに見てたの? パソコン?」

加持「いや、これは」

アスカ「なに? なによこれぇ⁉︎ なんで私とシンジのDNA配列を調べてるの⁉︎」

加持「実験に関係するからだ」

アスカ「だって、これ、重なりあってるじゃない!」

加持「近い内に弐号機と初号機で互換性のチェックを予定しているらしくてな」

アスカ「互換性ぃ?」

加持「ぶっちゃけちまうと、相性が悪いかどうかだな」

アスカ「DNAで?」

加持「自分の精神は遺伝子の制約をあまり受けないと思っているだろうが、そうでもないのさ。食べ物の好み、顔の好み、そういったものはDNAによって操作されているという分析がある。親に似た人を好きになる原理だ」

アスカ「そうだとしても、それってあくまで一説なんじゃないの」

加持「情報収集として必要だと判断されたんだ。結果を聞きたいか?」

アスカ「バカシンジとの相性なんか聞きたくなんかない!」

加持「そうか? ここ見てみろ。なかなか良い数値で」

アスカ「どうして……? どうして加持さんは振り向いてくれないの? 私が子供だから?」

加持「ふぅ、本当に子供扱いしなくていいのか?」

アスカ「えっ」

加持「男を甘く見てるだろう」スッ

アスカ「え、あの、そのっ! か、加持さん?」

加持「どうした、ビビっちまったか?」

アスカ「意外といじわるなのね」

加持「そうか? アスカが俺に何を求めているのかわかってしまうからな。少し、からかってみただけさ」

アスカ「誰かにしがみついちゃだめなの?」

加持「だめとは言ってない。ただ、アスカが相手にしてるのは人間だ。思い通りにいくとも限らないものさ。大人の階段を駆け上がるのもいいが、本当に望んでいるのか?」

アスカ「探究心は必要よ」

加持「シンジくんと足して二で割ったらちょうどいいのかもな。アスカは焦りすぎている」

アスカ「そうやって、わかるようになりたいの。みんな誰だって、色んな一面を持ってるものだもの。シンジにガキだって言ってたけど子供なのは私も同じ」

加持「そうだな」

アスカ「抑えきれないの。感情の波を。あたし、どうしたらいいの?」

加持「自分で考えるんだ」

アスカ「いつもそうやって、あたしには優しくしてくれない。突き放すだけじゃない……見せかけだけの優しさなんてほしくないのに」

加持「これは結果をプリントアウトしたものだ。持って帰れ」ペラ

アスカ「いらないって――」

加持「黙って、受け取って帰るんだ」

アスカ「……っ!」

加持「授業にはまだ間に合うだろ? 昼からでもいいから、学校にはちゃんと行ってこい」ポン
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 12:21:28.45 ID:4hmlr8vQO
まだかよ!!!
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 12:50:55.26 ID:fyK2bkc4O
わしが続きを書いてやろう
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 12:55:20.97 ID:RrNnh5EeO
シンジ「うっ」どぴゅるるるる
アスカ「うっ」ずぴゅーーー
ゲンドウ「おめでとう」

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 13:16:19.39 ID:fsKnoHPIo
前みたいに面倒くさくなっちゃったんで結末ぱぱっと書いてコレで終わりですってならなければ遅かろうがなんでもいいよ
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 13:24:51.25 ID:p51fw/poO
あ?なんだコラかんだコラ
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 13:45:41.77 ID:sP6RovNyO
        |:.:.:.:.:.:.:.: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ∧:.\
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        `X:ァ<ヽ:.:.!:.|V: : ;イ: : : ::/: : :;イ:/|::!: : イ,リ Vi: : !: : :!: : : : : : : ::|
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            〈 ′∧∨:/||l//|!:.:∠__!::/ /l′ V/ !′  }:.リ |:リ}: : !: : }i:ハリ
           ∨ i ノ V! |リ |/ _,.ム'=≧x=ー{′     _レ'_,.>''レlリ: :/|l' ソ
             Vーxヽ,リ    <じ勺   `X>    /ん勺¨X / }ノ
           \        ー '_         弋ン  /
              {`ー、                      ̄   /
          / ̄ハ|ハ                      /
          /. : : : : リ: : :.             __ ∨     /
        |:l i: (: : : /: : : :ヘ               ァ'´   /
         /:l ∨_/. : : : : : :\      x─ - -   /ー 、 _
      /:.: .:l  V: : : : : : : : : : :.\     ー‐  /\      ̄ ヽ
     /|: : : : .  V   . : : : : : : : \      , <´.    ∨       \
    / .:∧: :.: :.:.  ∨   : : : : : : : : : >‐ァ ‐《: :i: : .   \          、
 ./  . :.:.∧: : : : :.  \   : :ヽ:. : : : : : :/: : :∧::|: : :     \      |
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 13:55:00.68 ID:tRA9EGpAO
書いてくれてありがとうという感覚はないのか・・・
















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