シンジ「その日、セカイが変わった」

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203 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/18(火) 23:17:28.33 ID:xqLx9XiS0
冬月「――じゃじゃ馬め、可愛げのないやつだ」

ユイ「あの年頃の子は思春期が重なっています。色々、繊細なんですよ」

冬月「レイはともかくとして、セカンドチルドレンの資料は事前に把握してあるのだろう」

ユイ「ここに」パサ

冬月「トラウマをつつくようなマネをしたな」

ユイ「赤木博士がまとめた書類は簡潔明瞭、幼少期にあった母親の自殺。その目撃が、その後の人格形成に強い影響を及ぼしたと記載されています」

冬月「ああ」

ユイ「精神の脆さと危うい均衡のバランス、どれほどの拒絶を見せるのか、控え目にでも確認をしたかったんです」

冬月「それで、ユイ君はどう見る」

ユイ「想像以上の反応ですね……」

冬月「ふむ」

ユイ「あの子の大人への強い憧れは、幼い自分に対する嫌悪感の裏返しでもあるのでしょう。最初はそれだけだった、しかし、いつしか嫌悪感は強迫観念へと変わり自身を追いつめはじめます」

冬月「それがプライドにひっかかっているのか」

ユイ「エヴァの場合は必ずしも良い数値に偏るとは限らない。A10神経で接続している以上、生身の人間では波があるからです。でも、あの子は不調な自分を許せない。なぜならば……」

冬月「亡き母親の影を追い求めているのだろう」

ユイ「恐ろしいのでしょう、必要とされなくなるのが。母親亡き後、残ったのは努力と虚栄心という拠り所。パイロット候補に選出された時、キョウコは笑顔を見せたそうです」

冬月「だが、パイロットに選ばれたからこそ、委員会に母親を死なせる決定をさせた。コアに必要だからな」

ユイ「キョウコがおかしくなってしまったのにも理由があります。どちらにせよ、あの子の運命です」

冬月「いっそ、母親がコアにいると打ち明けてしまったらどうだ?」

ユイ「面白い考えです。弐号機の覚醒、そして精神の安定化につながるでしょう。ですが、懸念がないわけでもありません」

冬月「なぜかね」

ユイ「先ほども申しあげましたが、エヴァはA10神経、つまり多幸感がシンクロの鍵です。数値を高めるには深く深く、一体感を求めコアに近づかなければなりません」

冬月「潜りすぎるというわけか」

ユイ「歯止めがきかなくなれば、取り込まれるのみ。つまり、数値が高くなるにつれてその危険深度に近づいていくのです」

冬月「諸刃の剣だな」

ユイ「L.C.Lには麻薬に似た成分が入っています。あくまでも補助的にですが、いずれ身体に害をなすことも」

冬月「判断はユイ君次第だ。候補はあやつにするのか?」

ユイ「私がほしいのはエースパイロットではない、承認欲求を満たすため、英雄になりたがっている子ではないのです」
204 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/18(火) 23:56:03.72 ID:xqLx9XiS0
【ネルフ本部 エスカレーター】

アスカ「嫌なやつ、嫌なやつ、嫌なやつ、嫌なやつ!」ズンズン

レイ「……」

アスカ「いちいち癪にさわる言い方しちゃってさ! ねぇ、そう思わな――」

レイ「なに?」

アスカ「あんたに言っても無駄よね」

レイ「……」

アスカ「はぁ、司令が変わるのはいいんだけど、なんでこうめんどくさいんだろ。シンジみたいに恵まれた環境だったらなぁ」

レイ「碇くんが?」

アスカ「だってそうでしょ。前の司令は性格に難ありだったけど、父親だし。次の司令も嫌なやつだけど、母親だし」

レイ「家庭事情は、一見だけじゃわからないわ」

アスカ「両親が健在だってだけで贅沢よ。嫌な思いをするとしても、親がいるからできる……私のママは、もういないのに」

レイ「私は、かわいそうだと思う」

アスカ「はっ、人形のあんたがどういう理由があってそう感じんの」

レイ「生き方を強いられているから。私と同じ」

アスカ「シンジが?」

レイ「選択肢をあたえられているようで、実際は誘導され、ひとつしか選ばせてもらえていない」

アスカ「なんの話?」

レイ「流れの話」

アスカ「わっけわかんない。それって神の選択肢みたいね」

レイ「神?」

アスカ「あー、選択肢をあたえられてるようで、ひとつしか選ばせてもらえてないってやつ。神様はね、そうなのよ」

レイ「……?」

アスカ「汝、主を愛せ。これが根底にあるの。だからどの選択肢を選んだとしても、詰まるところ神様は尊いって答えに誘導されてしまうってわけ」

レイ「そう」

アスカ「ま、シンジが迫られてる選択肢なんて夕飯の献立ぐらいの話ね」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 01:47:21.02 ID:mYFsbltjO
そろそろ追いつきそうかと思いきやそうでもないのかな
途中が変わってるから複雑になってんね
ここまでの人物相関図とかあると嬉しいんだけど
206 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/19(水) 11:57:29.05 ID:e84TH7QQ0
暇つぶしにチルドレン組のみサンプル作ってみましたがこんな感じでいいすかね

画像
http://i.imgur.com/qiUkVV5.jpg

※解像度の都合上、画像は新劇場版を使用しています
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 12:38:23.24 ID:Z30nYvJ5O
サンクス
全体は無理?
208 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/19(水) 12:56:10.54 ID:e84TH7QQ0
IOS向けのアプリでこのサンプルは作っていて、同アプリですと簡易的にしか作れません。登場人物全員をサポートするのは難しいです。
パワーポイントでなら詳細に作れますがけっこう時間もらっちゃうようになると思いますよ
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 13:13:44.47 ID:hcGOgsswo
全員は無理だから主要人物だけとか
もしくはユイ、冬月、ミサト、リツコ、加地だけのが見たいかも
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 13:58:04.04 ID:eS7GF5HuO
ちょっと待った。>>1が作るのは、物語が前スレと並んだあたりでの、前スレとの差異箇条書きだけだろ?

なんで人物相関なんて新規読者への、それも作業が面倒なやつを頼んでんの?
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 14:25:49.49 ID:v+wZYkpbO
すまんかったワガママがすぎた
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 14:29:43.98 ID:v+wZYkpbO
俺の頭ではついていけなくなってきてしまったから・・・あると嬉しいなと思っただけなんや・・・許してクレメンス
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 14:42:24.34 ID:nb76j9nuO
>>212
何がクレメンスじゃ
お前の低脳でJに泥を塗るな[ピーーー]カス
214 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/19(水) 14:54:16.91 ID:e84TH7QQ0
まぁ、ユイ達だけでよければこのアプリで作れるんでよければ以上ですかね

・チルドレン組(サンプルを改定)
http://i.imgur.com/llTGZDz.jpg

・上層部組
http://i.imgur.com/gybFRwU.jpg

足りない人物はオペレーター三人組(マコト、シゲル、マヤ)、中学校組(トウジ、ケンスケ、ヒカリ)、政府や戦時のモブ、マナやサクラといった連中になります
これらを一枚で収めようとすると様々な機関を含みますから、枠線を作らないと厳しいです

・詳細のサンプル例
http://i.imgur.com/E8z9uaf.jpg
記入のないテンプレートなので見なくて問題ありません

ざっくりですがこのように分けようかと思ってました
なんで作業量的に多くなってしまいます

※尚、これらの関係性は現時点です、後々変化します
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 14:57:37.61 ID:JyEkPRDTo
サンクス

上層部の考えがよくわからなかったから助かる
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 15:02:45.60 ID:uS9E/KC6O
ありがとう!面白いんでがんばってください!
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 17:49:44.13 ID:hGZH4j74O
スレと関係ないけどimgurってアクセス解析にも使えるよね
同一IPじゃ増えない仕組みらしいからどれくらいこのスレ見てるんだろ
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/20(木) 04:25:49.15 ID:nnUt2l/fO
スマホのブラウザから見たら今んとこ125人
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/20(木) 04:37:10.81 ID:nnUt2l/fO
ちな画像開いたら左下にある数字がUA数だよ誰でも確認できる
220 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/20(木) 22:16:20.82 ID:jzCNuSI10
【マンション 霧島マナ宅】

加持「荷物の確認はあらかた済んだ――」

マナ「……」キュッキュッ

加持「鏡に映る自分を見つめてどうした」

マナ「わたし、かわいいですか」

加持「ん……? ナルシズムの気でもあるのか」

マナ「あは、違います。技術、経験がない。武器にできるものが思いつかないからです」

加持「……」

マナ「さっき渡されたチルドレン二名のファイルの一ページに戦自からメッセージがありました」

加持「勝手に座らせてもらうよ。それで、なんて書いてあったんだ」ドサ

マナ「――“守るべきは秘密だ”って。作戦の目的を考えれば理解できます。正体がバレてしまえば終わりだから。特別監査官も秘密を隠して潜入しているんですよね」

加持「そうだ。しかし、キミとは違う、己の敵を知ることは、勝てない思う相手にさえ自分を守る術に繋がる。それが俺の仕事だ」

マナ「だから、私は、自分の武器になるものってなんだろう。そう考えた時に、この顔と身体だって思ったんです」

加持「なかなか、型破りな子みたいだな」

マナ「教えてください。この任務で、人を……殺した経験がありますか」

加持「ないとは言えないな」

マナ「どんな、気分ですか」

加持「別に、なにも」

マナ「……」

加持「未経験だが、思い切りの良さがあるのはわかった。余計な力を肩に入れすぎるとうまくいかなくなるぞ」

マナ「こわいんです……」ギュウ

加持「……」

マナ「うまくいかなかったらどうしようって! 私だけじゃない! ムサシとケイタの運命もかかってるのに!」

加持「欠点の先に才能を見いだせる時もある。……キミは、キミの戦場に足を踏み入れたんだ」

マナ「私の、戦場……」

加持「自分をすり減らす、孤独な戦いだ。神経も、心までもね。偽りの仮面を被り続けるといつか、目的を見失いそうになる時だってくるだろう」

マナ「そうでしょうか」

加持「殺しなんて誰にでもできるのさ」スッ カチャ

マナ「拳銃、携帯してるんですね」

加持「能力じゃない。慣れなんだよ、重要なのは」

マナ「……」

加持「まだキミは運がいい。どのチルドレンも癖はあるが、悪い子たちじゃないからな」

マナ「碇シンジくんと、よく話すんですか」

加持「たまに。人とのコミュニケーションに消極的なタイプの子でね、付かず離れずの距離感がちょうどいい」

マナ「付き合っている子はいないんですよね」

加持「そうだな、加えて異性に対する免疫も薄い。武器にしようとしているモノは、良い線いってるんじゃないか」

マナ「……」

加持「色仕掛けをするつもりなら、決して勘づかれるなよ。騙すつもりなら、最後まで騙しきれ。ウソを本当にする唯一の方法だ」

マナ「いいえ、方法はそれだけじゃありませんよ」

加持「……?」

マナ「バレても、離れられない。……私に、骨抜きにさせてしまえばいいんです」

加持「なるほど、将来末恐ろしい発送だな。有望だよ」
221 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/20(木) 22:35:13.23 ID:jzCNuSI10
見落としてしまっている誤字があるんでレスしなおします
222 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/20(木) 22:42:46.44 ID:jzCNuSI10
【マンション 霧島マナ宅】

加持「荷物の確認はあらかた済んだ――」

マナ「……」キュッキュッ

加持「鏡に映る自分を見つめてどうした」

マナ「わたし、かわいいですか」

加持「ん……? ナルシズムの気でもあるのか」

マナ「あは、違います。技術、経験がない。武器にできるものが思いつかないからです」

加持「……」

マナ「さっき渡されたチルドレン二名のファイルの一ページに戦自からメッセージがありました」

加持「勝手に座らせてもらうよ。それで、なんて書いてあったんだ」ドサ

マナ「――“守るべきは秘密だ”って。作戦の目的を考えれば理解できます。正体がバレてしまえば終わりだから。特別監査官も秘密を隠して潜入しているんですよね」

加持「しかし、キミとは違う、己の敵を知ることは、勝てないと思う相手にさえ自分を守る術に繋がる。それが俺の仕事だ」

マナ「だから、私は、自分の武器になるものってなんだろう。そう考えた時に、この顔と身体だって思ったんです」

加持「なかなか、型破りな子みたいだな」

マナ「教えてください。この任務で、人を……殺した経験がありますか」

加持「ないとは言えないな」

マナ「どんな、気分ですか」

加持「別に、なにも」

マナ「……」

加持「未経験だが、思い切りの良さを備えているのはわかった。余計な力を肩に入れすぎるとうまくいかなくなるぞ」

マナ「こわいんです……」ギュウ

加持「……」

マナ「うまくいかなかったらどうしようって! 私だけじゃない! ムサシとケイタの運命がかかってるのに!」

加持「欠点の先に才能を見いだせる時がある。……キミは、キミの戦場に足を踏み入れたんだ」

マナ「私の、戦場……」

加持「自分をすり減らす、孤独な戦いだ。神経、心までもね。偽りの仮面を被り続けるといつか、目的を見失いそうになる時だってくるだろう」

マナ「そうでしょうか」

加持「殺しなんて特別な要素は必要ない」スッ カチャ

マナ「拳銃、携帯してるんですね」

加持「能力じゃない。慣れなんだよ、重要なのは」

マナ「……」

加持「まだキミは運がいい。どのチルドレンも癖はあるが、悪い子たちじゃないからな」

マナ「碇シンジくんと、よく話すんですか」

加持「たまに。人とのコミュニケーションに消極的なタイプの子でね、付かず離れずの距離感がちょうどいいらしい」

マナ「付き合っている子、いないんですよね」

加持「加えて異性に対する免疫が薄い。武器にしようとしているモノは、良い線いってるんじゃないか」

マナ「……」

加持「色仕掛けをするつもりなら、決して勘づかれるなよ。騙すつもりなら、最後まで騙しきれ。ウソを本当にする唯一の方法だ」

マナ「いいえ、方法はそれだけじゃありませんよ」

加持「……?」

マナ「バレたとしても、離れられない。……私に、骨抜きにさせてしまえばいいんです」

加持「なるほど、末恐ろしい発想だな。有望だよ」
223 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/20(木) 23:30:24.72 ID:jzCNuSI10
【付属病院 105号室】

看護師「サクラちゃん、点滴の時間だよ〜」

サクラ「あ、はいはい」

看護師「はいは一回」

サクラ「はい、えへへ」

看護師「んもう、入院生活が長いからってすっかり慣れちゃって。針、嫌いじゃないの?」

サクラ「好きやないですけど。嫌わない方がええんちゃうん?」

看護師「めんどくさくなくていいけどねぇ。たまには嫌がってほしいっていうかぁ」

サクラ「微妙な乙女心てゆうやつやろか」

看護師「マセちゃって。はい、じゃあ手のひらに親指いれてグーにして」

サクラ「ん」ギュー

看護師「みんなサクラちゃんみたいに素直な子だったら助かるなぁ。そういえば、昨日の夜中に叫び声をあげてた中学生がいてね、男の子なんだけど」

サクラ「へぇ、外科の患者さんですか?」

看護師「超優遇。院長が巡回に行ってピリピリしてるもの。それで、その子が突然、気でも触れてしまったかのように叫びだしたんですって。私が当直じゃなくてよかったー」

サクラ「お姉さんは、小児科担当ちゃうんですか」

看護師「掛け持ちっていうの。というか、院内ですごい噂になってるのよ。人の口に戸は立てられないって言うでしょ?」

サクラ「戸に? 閉められるん?」

看護師「ぷっ、やだ。そうじゃなくて、噂話は止められないって意味。ちょっとチクっとするわね」プス

サクラ「はぁ、そうなんですか」

看護師「耳かしてごらん」スッ

サクラ「……?」

看護師「なんでも、ロボットのパイロットらしいのよ」コソ

サクラ「えぇっ⁉︎ 」

看護師「ねぇー! びっくりよねー!」

サクラ「あのっ! あのあのっ、患者さんの名前は⁉︎」

看護師「名前は、なんだったかなぁ」

サクラ「もしかして、碇シンジっていう名前じゃ……?」

看護師「碇? あー、そうそう、たしかそんな名前だったような」

サクラ「やっぱり! なんで⁉︎ なんで入院してるん⁉︎ 怪獣きてないんちゃうの⁉︎」

看護師「えっ、ちょ、ちょっと、サクラちゃ」

サクラ「叫び声てなに、怪我したん⁉︎ どこの病室⁉︎」

看護師「それはっと、いけないいけない。面会謝絶になってるから、知ったとしても、会えないわよ」

サクラ「そんな」

看護師「あっ、そっか。ロボットっていえばみんなのヒーローだもんね。パイロットだから会いたくなっちゃったのか」

サクラ「ちがっ……!」

看護師「サクラちゃんだって明後日に手術控えてるんだから。無理はできないの。回復したら、会いにいけるかもしれないから。いい? わかった?」

サクラ「……う、うん……」

看護師「点滴は三十分ね。終わったらいつも通りナースコールおして」

トウジ「入るで。……点滴しとったんか、ども、こんばんは」ペコ

看護師「こんばんは。今、点滴をはじめたところですから、サクラちゃんに問題はありませんよ」カチャカチャ

サクラ「兄ちゃん!」

トウジ「サクラ……? どないしたんや」

サクラ「シンジさんが、シンジさんがここの病院にいてるっ!!」
224 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/21(金) 00:00:49.18 ID:gkDsZ77g0
看護師「あっちゃぁ〜」

サクラ「看護師のお姉さんがパイロットが入院してるって」

看護師「サクラちゃん、言いふらしちゃだめよ〜」

トウジ「ほんまなんですか?」

看護師「ええ、パイロットが入院してくる頻度自体は少なくないですけど。今回は特別なケースらしくて」

トウジ「特別て?」

看護師「いっけない。私ったらまた。このクチが悪いのね、このクチが」ブツブツ

トウジ「あの、シンジは、ワシのクラスメートなんです。なにがあったのか、教えてもらえませんか」

看護師「クラスメイト? たしかに、同い年、なのかしら」

トウジ「間違いありまへん。そんなに、ひどい怪我なんですか?」

看護師「うーん、仲良いの?」

トウジ「ワシはそう思っとります」

看護師「そっかぁ、だったら、心配よねぇ。サクラちゃんが言って知られちゃったし、いや、でも……」

サクラ「お姉さん、兄ちゃんに言って口止めしたら? このままやと、シンジさんが心配で他の人に話ちゃうかも」

看護師「え、ええっ? そ、それは困るなぁ」

トウジ「教えてくれたら誰にも言いまへん。ワシは男や、約束を絶対にやぶらへんことを誓います」

看護師「だったら……。あのね、ちょっと、声潜めて話て」

トウジ「はい、なんでしょ」こそ

サクラ「なになに」

看護師「なんかのね、移植手術だったみたい」

トウジ「なんの?」

看護師「わかんない」

サクラ「だぁ」ガックシ

看護師「でもでも、昨日の深夜に叫び声をあげたあとに容体が急変しちゃって」

トウジ「叫び声ですか」

看護師「そぉなのよ! それはもう、うわああって大声で。数分間とまらなかったらしいの」

サクラ「数分間も……息、続くん?」

看護師「野暮なツッコミしないの。止まっては、叫んでの繰り返し。ホラーよね」

トウジ「なんで、叫んだりしてたんですか」

看護師「噂なんだけどね、手術が原因なんじゃないかって」

トウジ「失敗してたわけやないんでしょ?」

看護師「わかんない、テヘペロ」

サクラ「お姉さん! ふざけてるんちゃいます⁉︎」

看護師「だぁって、わかんないんだもん!」

トウジ「はぁ、それでシンジは」

看護師「今は昏睡状態で面会謝絶中」

サクラ「兄ちゃん、大丈夫やろか」

トウジ「サクラ、シンジなら大丈夫や。心配あらへん」

サクラ「でも……!」

トウジ「すこし会えませんか?」

看護師「むり! 無理無理無理無理! そんなの見つかったらクビが飛んじゃう!」

トウジ「そうでっか……」

看護師「心配なの、わかるけど。今は病院にまかせておいて。私たちは人を治すのが仕事なのよ」
225 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/21(金) 00:50:27.20 ID:gkDsZ77g0
リツコ「クビが物理的に飛ばないで済むように祈ったら?」

看護師「……? どちらさまですか、鈴原くん、サクラちゃん、知り合い?」

サクラ「いや、うち、知らない」

リツコ「この子が例の女の子ね」

トウジ「いつからそこに」

看護師「部外者なの? ちょっと、困りますよ。ここは小児科病棟です。ご家族でないのなら室内に」

リツコ「特務機関ネルフの者です。先ほどの噂話の一部始終は聞かせてもらいました」

看護師「ああ、ネルフの……ね、ネルフっ⁉︎」

リツコ「これが身分証」パサ

看護師「はわ、はわわっ、わた、わたし、いえ、違います、違うんです」

トウジ「いつから」

リツコ「ネルフ権限における保安条例の第十四項、パイロットに関する機密保護法を著しく侵害しています。この顛末は上司に報告させてもらうわよ」

看護師「ひっ、そ、そんな」

リツコ「久しぶりね、鈴原くん。ユニゾンの時の打ち上げ以来かしら」

トウジ「……ども」ペコ

サクラ「兄ちゃん、この人、誰?」

トウジ「ネルフの人や」

リツコ「シンジくんが父親に泣きついてまで救おうとした子は思ったより元気みたいね」

トウジ「ここの病院は、スタッフがすごいし、それに……」

リツコ「前の病院ではまともな設備がなかった。満足な受けられず、徐々に悪化していくのは仕方なかったと言える」

トウジ「はい」

リツコ「ついてきて」

トウジ「は、はい?」

リツコ「シンジくんに、会わせてあげる」

サクラ「ほ、ほんまですか⁉︎」

リツコ「そっちの子は……車椅子を使えば移動できる?」チラ

看護師「可能ではありますが、まだ点滴してるので、その、なるべく運動は。針がズレたら刺し直しに」

サクラ「行きたい! じゃなきゃ言いふらしたる!」

トウジ「おい、サクラ!」

サクラ「別にええやん! 心配やないの⁉︎」

トウジ「わ、ワシはお前を」

サクラ「そんな兄ちゃんなんか嫌いや!」

リツコ「人の身体は簡単に壊れるわけではないわ。ここは病院よ。すぐに医師が駆けつけられるでしょうしね」

サクラ「話わっかるぅ〜!」

リツコ「車椅子の準備を」

看護師「持ってきたらわたしの件は、なくなったり……?」

リツコ「それとこれとは話が別。あなたの仕事でしょ」

看護師「ひ、ひぃ〜ん」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/21(金) 02:54:29.51 ID:4HhaBdmSO
死神
227 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/21(金) 13:25:52.30 ID:gkDsZ77g0
ちと>>225はもう一度レスしなおします
228 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/21(金) 13:44:11.07 ID:gkDsZ77g0
リツコ「クビが物理的に飛ばないで済むように祈ったら?」

看護師「……? どちらさまですか、鈴原くん、サクラちゃん、知り合い?」

サクラ「いや、うち、知らない」

リツコ「この子が例の女の子ね」

トウジ「いつからそこに」

看護師「部外者なの? ちょっと、困りますよ。ここは小児科病棟です。関係者でないのなら室内に――」

リツコ「特務機関ネルフの者です。噂話の一部始終は聞かせてもらいました」

看護師「ああ、ネルフ……ね、ネルフっ⁉︎」

リツコ「こちらが身分証」パサ

看護師「はわ、はわわっ、わた、わたし、いえ、違います、違うんです」

リツコ「ネルフ権限における保安条例の第十四項、パイロットに関する機密保護法を著しく侵害しています。顛末は管轄にあたる上司に報告させてもらうわよ」

看護師「そ、そんな……ふひ、ふひひ、おわた……家で待ってるヒモ彼氏がいるのに」ヘナヘナ

サクラ「堪忍したってください。お姉ちゃん、悪くないよ。うちが無理言って……」

リツコ「団体、ひいては組織の規律問題なのよ。子供だって悪いことをすれば親に叱られる。違うとすれば、社会は親ほど我慢強くなく、簡単に切り捨てることね」

サクラ「それじゃ、冷たいやん」

リツコ「ふぅ、私はあくまで報告をするだけ。処分について裁定をくだすのは組織の管理者よ」

トウジ「ワシも謝りますから、今回だけは、お願いします」ペコ

リツコ「パイロットを守るための取り決めでもある。感情に左右され恩赦を与えてしまっていては改善できないわ……久しぶりね、鈴原くん。ユニゾンの時のホームパーティー以来かしら」

トウジ「え? あぁ、ども」ペコ

サクラ「兄ちゃん、この分からず屋の頭かっちかっちな人、誰なん?」

トウジ「こら、そないな言い方するもんやない。ネルフの人や」

リツコ「シンジくんが父親に泣きついてまで救おうとした子は思ったより元気みたいね」

トウジ「ここの病院は、スタッフがすごいし、それに……」

リツコ「前の病院ではまともな設備がなかった。満足な治療を受けられず、医師の判断も曖昧では徐々に悪化していくのは仕方なかったと言える」

トウジ「その通りです。せやから、転院できて感謝してます」

リツコ「ついてきて」

トウジ「は、はい?」

リツコ「シンジくんに、会わせてあげる」

サクラ「ほ、ほんまですか⁉︎」

リツコ「そっちの子は……車椅子を使えば移動できる?」チラ

看護師「可能ではありますが、まだ点滴してるので、その、なるべく運動は。針がズレたら刺し直しに」

サクラ「行きたい! じゃなきゃ言いふらしたる!」

トウジ「おい、サクラ!」

サクラ「別にええやん! 心配やないの⁉︎」

トウジ「ワシはお前が……」

サクラ「そんな兄ちゃんなんか嫌いや!」

リツコ「人の身体は簡単に壊れないわ。それに、ここは病院でもある。なにかあれば、すぐに医師が駆けつけられるでしょうしね」

サクラ「なんや、話わかるやん!」

リツコ「車椅子の準備を」

看護師「持ってきたらわたしの件は、なくなったり……?」

リツコ「それとこれとは話が別。クビになってない内は、患者の面倒を見るのが仕事でしょ」

看護師「ひぃ〜ん」
229 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/21(金) 14:38:44.24 ID:gkDsZ77g0
【付属病院 205号室】

トウジ「シンジ、おい、しっかりせぇ!」

サクラ「なんで、なんでこんなになってるん⁉︎」

シンジ「……」シュー シュー ピッピッ

リツコ「カルテを」

看護師「ドイツ語ですけど、そもそも見方わかるんですか?」

リツコ「あら、こう見えて医師のはしくれよ。もっとも、専攻はは心理学ですけど。昨夜、急な叫び声をあげたという噂話は院内でかなり広まっているの?」

看護師「う、その」

リツコ「今さら隠したってしょうがないでしょう。正直に話した方が身のためよ」

看護師「はい……入居してる患者は治療方針は医師が決定をしますが、看護師は身の回りの介助、いわゆる補佐を担当しています。その際に……あの、日常会話の感覚でポロっと」

リツコ「必要でない部分まで喋ってしまってしまっていると。口は災いの元とも言うわよ」

看護師「うう、ごもっともです」

リツコ「幸か不幸か、問題は管理体制そのものにある。コンプライアンスを徹底させなければだめね」

看護師「あの、どういう……」

リツコ「個人ではなく全体の問題だということ。意識の低下が引き起こした結果なのよ。報告したとしても、あなたのクビで責任逃れできないように言い含めておくから」

看護師「職を失わなくて済むんですか⁉︎」

リツコ「ただし、あなたがバレたというきっかけで締めつけが厳しくなる。職場の同僚から良い目では見られなくなるわよ」

看護師「それは、自業自得な部分ありますから」

リツコ「これに懲りて反省しなさいね」

看護師「はい……お姉さま……素敵……」ウットリ

リツコ「ち、ちょっと、なんなの」タジ

トウジ「そないな話より、シンジはどうなってるんでっか⁉︎」

リツコ「ごほん、見ての通り。目を覚まさないのよ」

サクラ「ぐす、怪獣と戦って怪我したん? 来てなかったやん」

リツコ「別の要因。サクラちゃん、だったわね。シンジくんが好き?」

サクラ「へ?」

リツコ「幼く純粋な思いでなら、助けになるかもしれない」

トウジ「サクラ! ワシは許さへんぞ! もがっ⁉︎」

看護師「鈴原くん、お姉様が話してるのに邪魔しないで」ギュッ

トウジ「ふむーっ! ふもふもー!」ジタバタ

リツコ「どう? 彼を助けてあげたい?」

サクラ「うち、こんな身体やし、なにができるかわからへんけど、シンジさんはみんなを守ってくれてるヒーローなんやもん! なんだってするで!」

リツコ「なんでも? なんでもと言ったわね」

サクラ「うん! なんでも!」

トウジ「ぶはっ!」

看護師「あ、もう!」

トウジ「サクラは手術を控えとるやろが!」

リツコ「黙らせて」

看護師「がってん承知!」グイ

トウジ「ふむ⁉︎ ぬうーーっ!」

サクラ「女に二言はない! 自分を守ってくれた男のためなら命でもなんでもかけたるわぁ!」

リツコ「よく言ってくれました。実は、実験に協力してほしいの――」
230 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/21(金) 14:44:28.73 ID:gkDsZ77g0
集中力がないと誤字がやばい、たびたびすんませんがレスしなおします
231 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/21(金) 15:10:36.59 ID:gkDsZ77g0
【付属病院 205号室】

トウジ「シンジ、おい、しっかりせぇ!」

サクラ「なんで、なんでこんなになってるん⁉︎」

シンジ「……」シュー シュー ピッピッ

リツコ「カルテを」

看護師「ドイツ語ですけど、そもそも見方わかるんですか?」スッ

リツコ「あら、こう見えて医師のはしくれよ。もっとも、専攻は心理学。昨夜、急な叫び声をあげたという噂話は院内でかなり広まっているの?」

看護師「う、その」

リツコ「今さら隠したってしょうがないでしょう。正直に話した方が身のためよ」

看護師「はい……入居してる患者様の治療方針は医師が判断をして決定をされる一方で、看護師は、医師、患者、双方にとっての負担軽減。身の回りの介助、いわゆる補佐を担当しています」チラ

リツコ「怯えなくていいから、続けて」

看護師「その際に……先生方が話てる内容を聞き及ぶケースも多く、あの、日常会話の感覚でポロっと」

リツコ「必要でない部分まで喋ってしまっていると。口は災いの元とも言うけど、知らなかったの?」

看護師「うう、お恥ずかしい限りです」

リツコ「幸か不幸か、問題は管理体制そのものにある。コンプライアンスを徹底させなければだめね」

看護師「あの、どういう……」

リツコ「個人ではなく全体の懸念事項だということ。意識の低さが引き起こした結果なのよ。報告はするけど、クビで責任逃れできないように言い含めておくから」

看護師「職を失わなくて済むんですか⁉︎」

リツコ「あなたの為じゃないわ。それに、バレたというきっかけで締めつけが厳しくなる。職場の同僚たちから良い目で見られなくなるわよ」

看護師「それは、自業自得な部分ありますから」

リツコ「これに懲りて反省しなさいね」

看護師「はい……お姉さま……素敵……」ウットリ

リツコ「ち、ちょっと、なんなの」タジ

トウジ「そないな話より、シンジはどうなってるんでっか⁉︎」

リツコ「見ての通り。目を覚まさないのよ」

サクラ「グス、怪獣と戦って怪我したん? 来てなかったやん」

リツコ「別の要因。サクラちゃん、だったわね。シンジくんが好き?」

サクラ「へ?」

リツコ「幼く純粋な想いなら、助けになるかもしれない」

トウジ「サクラ! ワシは許さへんぞ! もがっ⁉︎」

看護師「鈴原くん、お姉様が話してるのに邪魔しないで」ギュッ

トウジ「ふむーっ! ふもふもー!」ジタバタ

リツコ「どう? 彼を助けてあげたい?」

サクラ「うち、こんな身体やし。なにができるかわからへんけど、シンジさんはみんなを守ってくれてるヒーローなんやもん! なんだってするで!」

リツコ「なんでも? なんでもと言ったわね」

サクラ「うん! なんでも!」

トウジ「ぶはっ!」ガバ

看護師「あ、もう!」

トウジ「サクラは手術を控えとるやろが!」

リツコ「黙らせて」

看護師「がってん承知!」グイ

サクラ「女に二言はない! 自分を守ってくれた男のためなら命でもなんでもかけたるわぁ!」

リツコ「よく言ってくれました。実験に協力してほしいの――」
232 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/22(土) 23:40:48.36 ID:Bx531VAM0
【同時刻 ネルフ本部 営倉】

カヲル「思ったよりお早い来訪で。さっそくボクを殺しにきましたか」

ユイ「時期ではないわ。釈放よ」

カヲル「へぇ、やけにあっさりと引き下がるんですね。ボクはかまわないけど」スッ

ユイ「その前に何点か聞きせてもらえない? シンジと会ってみてどうだった。なにか話をしたの」

カヲル「いいえ。彼は寝ていましたから」

ユイ「寝ている最中に脳を弄った方法は?」

カヲル「本来、夢というのは記憶を整理する処理作業だけど、彼の手にはアダムがあったから」

ユイ「明快な返答ね。まるであらかじめ聞かれるとわかっていたかのよう」

カヲル「遅すぎるくらいだよ。確認するには。ようやく冷静になれたのかい?」

ユイ「最後の質問」

カヲル「(本題がきた)」

ユイ「元に戻す方法、つまり、目を覚ました後、以前のシンジに戻すにはどうしたらいい?」

カヲル「彼は彼だよ。ボクは真実を知識の泉として脳に刻んだに過ぎない。受け入れれば眼が覚める、そう伝えていたはず」

ユイ「今すぐに目を覚ます方法はないというわけね」

カヲル「残念ながら」

ユイ「――本当にそうかしら」

カヲル「……」

ユイ「例えば、一度潜れたあなたなら可能なんじゃない?」

カヲル「逆効果だよ。そんなことをすれば二度と目が覚めなくなってしまう。彼の魂は今、殻に閉じこもってしまっているからね」

ユイ「補助をつければどう?」

カヲル「補助、だって?」

ユイ「シンジを純粋に心配して、想いやる気持ちを持った子を潜らせれば」

カヲル「碇シンジくんが望むとも思えないけど」

ユイ「聞きたいのはそこではないのよ。できるのかできないのか」

カヲル「……」

ユイ「十三年前にリリスを使い作られた初号機からサルベージされた経験がある」

カヲル「なにを言いたいんだい?」

ユイ「再生、シンジの意識をサルベージします」

カヲル「そうか、そういうことか。リリン」

ユイ「ピースは用意した。協力、するわよね?」

カヲル「ボクになにをしろって?」

ユイ「パイプになってもらいます。用意した子をシンジの深層意識に送り届けるための」

カヲル「勝手だね。ヒトは生きながら罪を犯し続けてしまう。汚れながらしか生きていけないから」

ユイ「この世に光、あれ。泥に汚れても、這いながらでも太陽があれば進む道を照らしてくれる。シンジは私の、いいえ、人類にとってのさんさんと輝く太陽なの」

カヲル「個人の意思を棚上げにして、神輿を作る気なのか」

ユイ「神は、全知全能であるかもしれない。だけど、苦悩がないとは限らない」

カヲル「……」

ユイ「太古から伝わる神々と同じように、アダム、リリスが抱えていた頭痛の種」

カヲル「それは?」

ユイ「孤独感よ。とても、とっても、寂しがり屋さんだったの」

カヲル「……」

ユイ「無駄話をしていた間にそろそろ到着する頃合いだわ。ついてきて」
233 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/23(日) 00:24:17.15 ID:cid+e0Go0
【シンジ 夢の中】

シンジ「ここは……?」

レイ(少女)「ここは、L.C.Lの海。生命の源の海の中。
A.Tフィールドを失った、自分の形を失った世界
どこまでが自分で、どこからが他人なのか分からない曖昧な世界」

シンジ「心の壁を……」

レイ「あなたの真実を辿る旅路。どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている静寂な世界。全てがひとつになっているだけ。世界。そのものよ」

シンジ「こんな、なにもない殺風景な場所が真実だっていうの?」

レイ(少女)「私もあなたも。最初はひとつだったのよ。虚無からすべては始まった」

ミーンミンミミンミーン――……

シンジ「夏、暑い日」

ゲンドウ『今日は暑くなったな』

シンジ「父さん……?」

ユイ『あら、もう。あなたったら。アイスなんか口につけて。いくつになっても子供みたい』

シンジ「かあ、さん?」

シンジ(少年)『えへへ』

シンジ「これは僕だ。幼い頃の僕。覚えていない記憶」

ゲンドウ『このような地獄をこの子は生きていかねばならないのか』

ユイ『生きていればなんとかなるわ。私たちの息子なんだもの。未来を希望で溢れさせてくれる。おいで、シンジ』

シンジ(少年)『はーい』

ゲンドウ『俺は、不安だよ』

ユイ『大丈夫。子供はいつのまにか成長していく。あっという間よ』

シンジ「僕の記憶。優しかった父さんと母さんとの思い出。幻なんかじゃない、たしかにそこにあったセカイ」

レイ「他人の存在。親でさえ理解できない、心の壁が全ての人々の心を引き離すわ。他人への恐怖が始まるのよ。このように」

ゲンドウ『シンジ! エヴァに乗れ! でなければ帰れ!』

シンジ『嫌だ! こんなわけのわからないモノに乗れって言うの⁉︎』

レイ「楽しい思い出ばかりじゃない」

シンジ「……」

レイ(少女)「夢は壊れる」
234 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/23(日) 00:25:37.52 ID:cid+e0Go0
ぬお、改行がおかしなことになってるんでレスしなおします
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/23(日) 00:27:51.66 ID:cid+e0Go0
【シンジ 夢の中】

シンジ「ここは……?」

レイ(少女)「ここは、L.C.Lの海。生命の源の海の中。A.Tフィールドを失った、自分の形を失った世界。どこまでが自分で、どこからが他人なのか分からない曖昧な世界」

シンジ「心の壁を……」

レイ「あなたの真実を辿る旅路。どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている静寂な世界。全てがひとつになっているだけ。世界、そのもの」

シンジ「こんな、なにもない殺風景な場所が真実だっていうの?」

レイ(少女)「私もあなたも。最初はひとつだったのよ。虚無からすべては始まった」

ミーンミンミミンミーン――……

シンジ「夏、暑い日」

ゲンドウ『今日は暑くなったな』

シンジ「父さん……?」

ユイ『あら、もう。あなたったら。アイスなんか口につけて。いくつになっても子供みたい』

シンジ「かあ、さん?」

シンジ(少年)『えへへ』

シンジ「これは僕だ。幼い頃の僕。覚えていない記憶」

ゲンドウ『このような地獄をこの子は生きていかねばならないのか』

ユイ『生きていればなんとかなるわ。私たちの息子なんだもの。未来を希望で溢れさせてくれる。おいで、シンジ』

シンジ(少年)『はーい』

ゲンドウ『俺は、不安だよ』

ユイ『大丈夫。子供はいつのまにか成長していく。あっという間よ』

シンジ「僕の記憶。優しかった父さんと母さんとの思い出。幻なんかじゃない、たしかにそこにあったセカイ」

レイ「他人の存在。親でさえ理解できない、心の壁が全ての人々の心を引き離すわ。他人への恐怖が始まるのよ。このように」

ゲンドウ『シンジ! エヴァに乗れ! でなければ帰れ!』

シンジ『嫌だ! こんなわけのわからないモノに乗れって言うの⁉︎』

レイ「楽しい思い出ばかりじゃない」

シンジ「……」

レイ(少女)「夢は壊れる」
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/23(日) 00:52:06.90 ID:cid+e0Go0
シンジ「でも、父さんとはまたやり直せる」

レイ(少女)「あの人なら壊れたわ」

シンジ「なに言ってるんだよ」

レイ「死。生命の終わり」

シンジ「死……? 父さんが死んだって言うの?」

リツコ『私の前で夫婦の会話をしないでちょうだい!』パァン

ゲンドウ『うっ』ドサ

ユイ『まったく、最後まで人に迷惑をかけるんだから』パァン

ゲンドウ『』ベチャ

シンジ「これは……?」

レイ「碇くんが知らない。私たちが覗いていた視点の出来事」

シンジ「うそだ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!」

加持『シンジくん』

リツコ『シンジくん』

冬月『サードチルドレン』

シンジ「敵、テキ、てき、敵……! みんな嘘つきだ! 良い顔をして、何食わぬ顔をしてるだけだ!」

ユイ『シンジ……』

シンジ「畜生、チクショウ、ちくしょう……よくも、よくも僕を捨てたな。いきなりあらわれて母さんだなんて名乗って。殺してやる! 僕のカタキ、父さんの仇!」

レイ「……」

シンジ「お前もだ! 綾波さえいなければ父さんは僕を捨てなかったんだ! そうだ、綾波がいたから僕がいらなくなっちゃったんだ! お前さえ、お前さえいなければ!」ギュウ ググッ

レイ「ごほ、私の、首を、しめ……[ピーーー]……の?」

シンジ「初号機に乗る時だって、本当は父さんに嫌いだって言うつもりだったんだ! それなのに、綾波のせいで!」

レイ(少女)「向き合う勇気がなくて、自分から逃げ出したくせに」

シンジ「違う、ちがうンだ。ボクはそウジャなイ」

レイ(少女)「あなたは、本当になにも覚えていないの」

シンジ「ボクは……ッテタ。ぼクがニゲダシタ」

レイ「……」ドロドロ

シンジ「僕はニゲダシたんだ! 父さンとかあサんから!」

レイ(少女)「現実を受け止めて」

シンジ「うわああああああああああアアアッ!!!」
237 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/23(日) 01:26:34.78 ID:cid+e0Go0
ここまでで以降は前スレと共通する箇所はあるものの、前スレでカヲルくんが死んだ展開とかもろもろが新しくなります
なので、リクのあった箇条書きまとめをします
今日は眠いんでまた後日〜
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/23(日) 02:43:57.51 ID:8625KEbDo
乙。ここまで飛ばしたんで、箇条書きお願いします。
やっと続きが読める
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 04:11:10.39 ID:RJxakNWoO
単純に続きな訳ではなさそうだが
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 10:20:49.92 ID:Pmjc3m3SO
というか>>237に書いてる続きではないな確実に
違う展開になるからと書いてるだろ
241 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/24(月) 13:09:07.98 ID:dwaKTqlv0
まずは流れのおさらいです
1.シンジのPCにアンケートが届く
2.シンジが誘拐、1日間拉致される
3.犯人はユイだった(原作では初号機に取り込まれていたままだったのが当SSでは生きています)
4.シンジ、ゲンドウの前にユイが姿を現わす
5.ゲンドウは粛々と補完計画を進める(元になった補完計画と変わりはありません)

6.ユイは独自の考えを持っており、またゼーレを利用した計画があります、それはゲンドウとは相入れないものでした。よってユイはゲンドウのネルフを乗っ取ろうと機会を伺います
7.ゲンドウを孤立させるには冬月、リツコがキーだとユイは目星をつけていました。
※またこっそりとシンジを拉致しアダムをシンジの掌に移植します(原作ではゲンドウの手のひらにありました)
8.加持を使い冬月とリツコを反目(裏切り)させることに成功します
※同時進行的に綾波の中でもう一人の自分が目覚めます
9.ゲンドウ死亡(前スレだとシンジの目の前で死んでいますが、シンジがいない状況で今スレではリツコによって致命傷を与えられユイにトドメをさされています)

ここからユイが新司令です
ゼーレの後ろ盾を元に組織内部図の掌握にかかります

10.ゲンドウが殺された場面を直に見せつけられ大人達を信用できず、またいつも通りになれない自分に苛立つシンジ(前スレのみの流れです)
10.渚カヲルがゼーレ、ユイの思惑の元、フォースチルドレンに選出(原作ではトウジです)
11.晴天の霹靂とも言える司令交代に日本政府、および戦自がかなり訝しみ、スパイとして見繕ったマナを送りこみます(日本政府は金の無心をしたいというのが本音ですが、単純にネルフの戦力にびびってる保守派の集まりです。戦自は実行組織)
12.ユイは戦自を釣り上げるためにネルフを停電状態にして加持に偽のデータを渡します(前スレのみの流れです)
12.カヲルはシンジ(あわよくばカヲルにも)にとってなにが一番いいかを考えます。望みである魂の解放と同時に自らの死によってアダムの魂をシンジに還元します(前スレのみの流れです)

ざっくりとですがこれまでの流れになります
前スレとの違いは
・シンジは現在昏睡中
・シンジの目の前でゲンドウが殺されていない
・ゲンドウの死を綾波によって強制的に知らせれてしまっている最中で、受け入れられないループが続き目が覚めません

レスしてる人もいますが今後の展開としては「前スレに追いついたから続き」というわけではありません
前スレとは違う流れになるのでここまででリクのあった箇条書きをしようと判断しました
わかりづらいかもしれませんが以上です
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 13:26:29.19 ID:Pmjc3m3SO

まとめてほしいなんてほぼ一人の末尾oが勝手に言ってただけだからシカトぶっこいたらいいだけでそんなくそまじめにやってやらんでいいぞ
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 18:44:08.53 ID:BxbAqp16o
個人的には一方的に垂れ流してもらう方が好きです
244 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/24(月) 21:49:23.38 ID:uYiUyHRs0
小説系サイトではなくここは掲示板なので感想返しやリクするにも項目別に別れてませんからね
必要ない、淡々と投稿してほしいと思ってる方は「続きが読みたいだけなのに」と強制的にやりとりを見せられている状況だと思います

一方で、○○が理解できない、この流れはおかしいというのもどうしても出てくると思います
なんでそういう質問やリクに対しては応えてこうかなと思ってる感じです

個人が持っている定規はそれぞれ長さが違うので、目に余るようでしたら読むのをやめる要因になるとも思いますが、この掲示板の仕様だと思ってある程度は理解していただきますようお願いします
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/25(火) 00:56:22.78 ID:M6KR1Ayao
苦労してくれてありがとう把握した。
とりあえずシンジはまだユイに不信感を持っていないようだ。

アスカのメンタルは前半の嫁状態から変化なしでよさそう
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/25(火) 01:09:29.93 ID:mmh101gEO
直前の>>236ぐらい読めよ・・・
シンジはユイがゲンドウ殺したとこを知って不信感どころか殺してやるって言ってるだろ
247 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/27(木) 02:49:17.61 ID:SShfyPHs0
【ネルフ本部 第六層】

サクラ「これ、くすぐったいわぁ。なんのテープ?」もぞもぞ

リツコ「脳波を受信する機械」ペタペタ

サクラ「じゅしん? なんかすごいね」

リツコ「これを貼れば終わり。司令、仰られていた準備が整いました」

ユイ「ご苦労様」

カヲル「……」

ユイ「なにか他に入り用?」

カヲル「ボクから確認したいことがある」

ユイ「なに?」

カヲル「ヒトは、夢を見ていると自覚していたとしても嫌な現実に立ち向かう術を見つけるには時間がかかる。リリンたちはそういう夢を悪夢、そう呼んでるね」

ユイ「ええ」

カヲル「あなたがとろうとしている行動は、碇シンジくんのためだと一定の理解はできる。でも、どうしてそこまで生き急がなければいけない」

ユイ「起きてしまった結果を嘆いていても前に進めないのよ。どんなに頑張ったって過去は変えられないでしょ」

カヲル「なにもかも決められたレールの上で生きるのが、本当に彼の為になると?」

ユイ「そうよ」

カヲル「意思は誰しもに尊重されるべきだ。叶えた願いに対して自覚していないのは、責任を放棄しているのと同義だからね」

ユイ「既に一線を超えてしまっている。シンジの手にあるアダム、夫の死。私はあの人から繋いだバトンを持ち走らなければならない。どんな方法を使っても。ゴールテープを切るまで止まらない」

カヲル「愚かだね。愚かで、悲しい生き物だ」

リツコ「……」

ユイ「そうね、私もそう思う。人は、寂しさと怒りを処理する方法を間違えるだけで簡単に崩れてしまう」

カヲル「自分の夫、息子、家族。幾千、幾万にのぼる無関係のニンゲンを巻き込んでいる気分は?」

ユイ「……」

カヲル「孤独。そうじゃないのかな」

ユイ「いつシンジの脳内に?」

カヲル「ボクが彼女とシンジくんをリンクさせる」スタスタ

サクラ「……? こんにちは」

カヲル「ボクと手をつないでもらっていいかい?」

サクラ「手?」

カヲル「そう、キミとボクとシンジくんで手を繋ぐ。シンジくんの目が覚めますようにって真剣に願ってほしいんだ」

サクラ「願う? お願いしたらええの?」

カヲル「心の底からだよ? 他は一切考えない。純粋に、それだけを願うんだ」スッ

サクラ「うーん、よくわからへんけど、やってみる!」

シンジ「……」すぅーすぅー

サクラ「(シンジさん、お願い起きて……!)」

カヲル「……」

サクラ「(シンジさん、シンジさん、シンジさん、シンジさん)」

カヲル「もっと。口にだしていいよ」

サクラ「わかった! シンジさん! もういい加減起きて!」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 21:32:29.58 ID:b7GhCSVPO
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/29(土) 10:25:10.71 ID:eKFiAMLaO
https://youtu.be/t-QSmNReDyI

オープニングを聞きながら続きを待ってます
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/29(土) 11:24:45.72 ID:eKFiAMLaO
このSSのイメージは破だな
https://youtu.be/LShf6pzgpGI

なんにせよ原作へのリスペクトが見えるから良い
251 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/30(日) 23:43:21.50 ID:aiYPAPVx0
【シンジ 夢の中】

サクラ「シンジ、さ……ん」

シンジ「いやだ、いやだ」ギュウ

サクラ「シンジさんってばぁっ! もぉ! 碇さん!」

シンジ「……?」

サクラ「こんな所で体育座りなんかして、ほんま堪忍してほしいわ!」

シンジ「誰……」

サクラ「立ってください! そろそろ起きる時間ですよ!」

シンジ「……」

サクラ「しっかりしないと! 自分の足ついてはるんでしょ⁉︎」グィ

シンジ「いやだ、父さんはもういないんだ。戻って僕になにをしろっていうの」

サクラ「私を救ってくれました!」

シンジ「キミを……? どこかで会ったことがある?」

サクラ「気づいてへんのですか⁉︎ 私ですよ! 私!」

シンジ「えっと」

サクラ「鈴原サクラです! ほら、兄ちゃんのジャージ!」

シンジ「サクラちゃん⁉︎ そんな、どう見たって僕と同じ歳ぐらいじゃないか! サクラちゃんはまだ小学生のはず」

サクラ「あれ、ほんまや。おっきくなってる」キョロキョロ

シンジ「なんで」

サクラ「うーん、あっ! もしかしたら碇さんの夢の中やからとか⁉︎」

シンジ「そ、そういうもの?」

サクラ「わからへんことは気にしたってきっとわかりません。なんかそれはわかる気がします」

シンジ「どうしてここに」

サクラ「碇さんの目を覚ますために決まっとるやないかぁ」

シンジ「帰ってよ、僕は、目を覚ましたくないんだ」

サクラ「どうしてですか」

シンジ「みんな、みんなウソつきなんだ。みんな」

サクラ「……」

シンジ「父さんを殺したのに。なんでそんな人たちのために戦わなくちゃいけないのか。僕にはわからない」

サクラ「みんな、それぞれ都合があるんですよ」

シンジ「人を[ピーーー]理由になんかならない! 正当化してるだけだ!」

サクラ「そうかもしれまへん。せやけど、シンジさんは、お父さんになにかしてあげました?」

シンジ「これからだったんだ! 父さんと仲直りして、認められたかったのに!」

サクラ「シンジさんだって、自分の欲求のために父親を利用しようとしてるやないですか」

シンジ「違う!」

サクラ「本当に、お父さんが好きやったんですか?」

シンジ「好き……」

サクラ「認められたいのは、自分のためやないんですか?」

シンジ「僕は違うんだ! 僕は」

サクラ「なにが違うんですか。父親もそうやってまわりを利用してきたんです。ゲンドウは綺麗な人間でしたか?」

シンジ「父さんは、僕の」
252 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/31(月) 00:05:01.39 ID:KpI8R5Ir0
サクラ「父親ですね。ですけど、まわりの人にとっては赤の他人なんです」

シンジ「母さんは違う。母さんにとって父さんは夫だから」

サクラ「夫婦の問題です。すり替えないでください。シンジさんは、お父さんが好きやったですか?」

シンジ「好きじゃなかった」

サクラ「なんでですか」

シンジ「僕を見てくれなかったから。歩みよろうとしても許してくれなかった」

サクラ「受け入れて認めてほしかった」

シンジ「父親らしいことをしてほしかった」

サクラ「自分のイメージを押しつけはりたいんや」

シンジ「なんなんだよ……。どうしてサクラちゃんまでそんなに僕を責めるの⁉︎ 僕は優しくしてほしいんだ!」

サクラ「みんな、矛盾を抱えて生きてます。人は不完全なもんやから。補い合って生きてるんです」

シンジ「……」

サクラ「優しくされたい。碇さんはそれだけの世界を望むんですか。認められたいという願いは叶えられませんよ」

シンジ「どうして」

サクラ「無条件の優しさは認めているとはならないからです」

シンジ「……」

サクラ「気持ち悪ないですか? そんなセカイ。悪いことをしても、頑張ってなくても、受け入られるなんて。私やったら嫌やわ。そんなの自分が必要とされとる気がせぇへんもん」

シンジ「……」

サクラ「碇さんが変えられなかったのは、お父さんを救えなかったのは、なんの力も持たない子供やからです。ホントは気づいてるんでしょう?」

シンジ「僕には、エヴァパイロットしての価値しかない」

サクラ「そうですね、それしか力がない。すぐに力がほしい」

シンジ「階段はいきなり十段にはいけない」

アスカ『やっとわかったの⁉︎ バカシンジ!」

シンジ「わかってたんだ。地道にやるしかないって。でも、その間にも状況は変わっていく」

アスカ『だったらがむしゃらにやってみなさいよ! やる前から諦めるつもり⁉︎』

シンジ「こわいんだ。自分の無力さと向き合うのが。なにもできない歯がゆい思いをしたくない」

サクラ「はい、これ」スッ

シンジ「これは……?」

サクラ「兄ちゃんの野球道具です。グローブよく使いこまれてるでしょ」

シンジ「うん」

サクラ「球児は、ううん、本気でスポーツをする人はみんな頑張ってます。自分の限界を、乗り越えたら結果が待っていると知っているからです。碇さんはやりまへん? スポーツ」

シンジ「僕は、そういうのは……」

サクラ「苦手そうですもんね」

シンジ「まぁ、その」

サクラ「根性! って言葉があります。逃げてるだけじゃなにも変わりまへんよ」

アスカ『あんたは、約束を破らない男になるんじゃなかったの』

シンジ「……」
253 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/31(月) 00:32:00.76 ID:KpI8R5Ir0
サクラ「うじうじ悩んで、塞ぎこんでる間にも状況は変わっています」

シンジ「……」

サクラ「碇さんは、大切な人を、みんな見捨てるんですか。エヴァパイロットっていう力があるのに」

シンジ「……」

サクラ「使徒がくれば、みんな死にますよ。お父さんだけじゃなくなるんです。やれるのなら試さへんのですか」

シンジ「……」

サクラ「私は死にたくありまへん。ちゃんと最後まで面倒を見てください。それが、碇さんの責任です」

シンジ「僕に、戦えって」

サクラ「そうです! 使徒がいなくなっても、来ていなくても誰かと戦わなくちゃあかんのです!」

シンジ「……」

レイ「許せないのならそれでもいい。選ぶのはあなた」

シンジ「僕が、選ぶ」

サクラ「意思は誰でも選ぶことのできる。自由なものなんです。雨にも風にも負けず、貫き通す信念を、保てる強さを持ってください」

シンジ「僕に、できるかな」

アスカ『やるの! できるかできないかじゃない!』

シンジ「諦めなくちゃいけなくなったら……」

ゲンドウ『そうなったら、その時にでも考えろ』

シンジ「父さん……」

ゲンドウ『シンジ。前を向け』

シンジ「僕には」

ゲンドウ『限界は己で決めるものではない。お前がどうありたいかだ』

シンジ「……」

ゲンドウ『これまですまなかった。お前がほしいのは謝罪か?」

シンジ「違うよ」

ゲンドウ『俺に認めてほしいのならば、こうしていては得られないぞ』

シンジ「もう一度、頑張る……」

ゲンドウ『現実は時に残酷だ。折れそうになっても歯を食いしばって耐えろ。いくつかは報われる時がくると信じられれば無駄な瞬間などない』

シンジ「そう、なのかな」

ゲンドウ『無駄になってしまうのは、諦めた瞬間に訪れる。お前はお前の人生を歩め』

サクラ「みんな待ってますよ。まわりにちゃんと目を向けてみてください」

トウジ『シンジ!」

ケンスケ『碇!』

アスカ『お昼ご飯まだぁ⁉︎』

ミサト『シンジくん、あなたは人に褒められる立派なことをしたのよ……』

シンジ「トウジ、ケンスケ、アスカ、ミサトさん」

レイ「……」

シンジ「綾波、レイ」

カヲル「希望。これが碇シンジくんの宿す光か」

シンジ「キミは……?」

サクラ「ほぉら、目を覚ます時間です!」

トウジ&ケンスケ&アスカ&ミサト『起きて!』
254 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/07/31(月) 01:19:27.70 ID:KpI8R5Ir0
【ネルフ本部 第六層】

シンジ「……」パチ

ユイ「シンジ!」ガタッ

サクラ「あ、おはようさんです」

ユイ「シンジ、よかった……」ギュウ

シンジ「……ただ、会いたかっただけなんだ、もう一度……」

リツコ「……」

カヲル「複雑な表情を浮かべているね」

リツコ「終わったのなら帰ったら?」

カヲル「生憎と還る場所がないんだ」

リツコ「そう」

カヲル「あなたはどうするつもりなんだい」

リツコ「これから検査よ」

カヲル「聞かれている意味がわかっててはぐらかしてるね」

リツコ「答える義理はないわ」

カヲル「人を分析するのは得意だとしても、自分を客観視できるとは限らない」

リツコ「不愉快だわ」

カヲル「誰にだって踏み入れられたくない領域がある。どうやらボクは土足で踏み込もうとしているのかな」

リツコ「……」

カヲル「それじゃ、僕はこれで」スタスタ

ユイ「赤木博士。至急、シンジのメディカルチェックを」

リツコ「承知しました。サクラちゃん、手を離していいわよ」

サクラ「へ? 結局なんやったんですか? ずっと握ってるだけやったですけど」

リツコ「なにを行ったか、方法を知っている人はどこかへ行ってしまったわ」

ユイ「今はタブリスよりシンジです」

リツコ「はい。サクラちゃんも検査は一通り受けてもらうわね」

サクラ「はぁ」

リツコ「心配ないわ。終わったら病院で待ってるお兄さんに連絡してあげるから」

シンジ「サクラ……ちゃん」

サクラ「……? どないしたん?」

シンジ「手術はどう、だった」

サクラ「それなら、明後日ですよ。先生は心配あらへんて。すこし後遺症は残るかもしへんけど」

ユイ「シンジ、無理して喋らなくていいのよ」

シンジ「父さんは……」

ユイ「あの人なら、アラスカに調査に行った。長期滞在になる予定よ」

リツコ「……」

シンジ「ちょ、うさ?」

ユイ「ええ。今は休みなさい」
255 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/01(火) 16:03:48.98 ID:r5dpexpO0
【付属病院 ロビー】

トウジ「サクラ! 大丈夫やったか? 変なことされてないか? 心配ない言うとったけどワシは心配で心配で」

サクラ「えへへ、なんもないて。シンジさん、目が覚めたよ!」

トウジ「……! そうか! それで、どこに」

サクラ「検査があるからって、MRIにかかってる。うちもシンジさん終わったらはいる」

トウジ「シンジは、なんで目が覚めへんかったんや」

サクラ「わかんない。手を握ってただけやったし」

トウジ「……さよか」

リツコ「妹さん大手柄だったわよ。今後の医療費、及び経過はネルフが全負担します」

トウジ「おお! ほんまでっか⁉︎」

リツコ「もともとそういう約束だったけど。強固なモノとして確約する。誓約書は必要?」

トウジ「いえっ! そんな」

リツコ「小児科病棟から特別室への移動を命じられています。一泊数十万の部屋にね」

サクラ「えぇ?」

トウジ「おま、なにしてきたんや」

リツコ「司令の指示。あなた達は甘えておきなさい。遠慮をするものではないわ」

トウジ「遠慮なんてするかいな! ワシは、ありがたいですし!」

サクラ「もう。どんな部屋なんやろか」

トウジ「色々設備が凄いんちゃうか?」

サクラ「うちは普通でもかまへんのに」

トウジ「せっかくなんやからご好意はいただいとけ! 遠慮なんかしたらあかんぞ!」

サクラ「いやしいなぁ」

トウジ「なんやと⁉︎ たくましいと言わんかい! こんなチャンスめったにあらへんのやからな!」

リツコ「シンジくんに会ってく?」

サクラ「兄ちゃん、そうしなよ。一緒にシンジさんとこ行こう?」

トウジ「せやけど、まだ体調悪いやないんでっか?」

リツコ「問題ないわよ。ただ、寝ていただけなんだから」

トウジ「はぁ」

レイ「赤木博士」スッ

リツコ「レイ……? あなた、どうしてここに」

レイ「碇くんのお見舞いに来ました」

リツコ「お見舞い? あなたが?」

トウジ「なんや、綾波もシンジが入院しとるて知っとたんかいな。教えてくれればよかったのに、冷たいのぉ」

リツコ「(レイが? なぜ知っているの……?)」

レイ「具合、どうでしょうか」

リツコ「先ほど目を覚ましたところ。あなたもついていらっしゃい」

サクラ「兄ちゃん、この人はだれ?」

トウジ「これや、これ」ピッ

サクラ「小指?」

トウジ「センセのハーレムの中の一人……いだ! いだだだ! 小指を噛むな!」

サクラ「むー!」

トウジ「たく、おー痛っ、腹減ったんか」

サクラ「ふんっ!」プイッ
256 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/01(火) 16:35:35.75 ID:r5dpexpO0
【付属病院 205号室】

リツコ「シンジくん。入るわよ」コンコン

シンジ「どうぞ」ムクッ

トウジ「よっ!」

シンジ「トウジ?」

サクラ「ちょっと、はやく入って。後ろつかとんねん」

トウジ「せかすな! 今入るわ」

シンジ「サクラちゃんも」

レイ「……」スッ

シンジ「綾波……」

リツコ「私は先にカルテを確認してくるから。好きに喋ってなさい。サクラちゃんは検査がある、もう少ししたら呼ばれると思うけど」クル

トウジ「大丈夫か? 寝て目が覚めへんかったらしいやないか」

シンジ「平気だよ。心配かけちゃったみたいだね」

トウジ「なにがあったか話すことはできんのか?」

シンジ「うん……」

トウジ「水臭いやっちゃのー。そんなん言わなわからんやろが」

シンジ「機密に触れてたら迷惑がかかるし、言っても理解できないと思うから」

トウジ「ふぅー」

シンジ「綾波」

レイ「なに?」

シンジ「聞きたいことがあるんだ。夢の中の出来事を知ってるの?」

レイ「ええ」

シンジ「……! やっぱり、あれは全部夢じゃなかったの⁉︎ 綾波は夢にいたの⁉︎」

トウジ「な、なんや」

シンジ「少し、二人で話せないかな」

レイ「かまわないわ」

トウジ「いったい……」

サクラ「むー」プクー

シンジ「ごめん。トウジは少しここで待ってて」

レイ「監視カメラがついてないところへ。屋上に行きましょう」

シンジ「わかったよ」

サクラ「兄ちゃん! なにぼーっとしてんの⁉︎」
257 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/01(火) 16:36:43.64 ID:r5dpexpO0
トウジ「は?」

サクラ「シンジさんまだ起きたばっかりやないの! それでも友達なん⁉︎」

トウジ「いや、でも、案外平気そうやし」

サクラ「このグズ!」

トウジ「な、なんやとぉ⁉︎ シンジが二人で行くのになんで……はっ! ま、まさか、お前」

シンジ「……?」

トウジ「あかんぞ! まだはやいやろ!」

サクラ「な、なにを勘違いしてんの⁉︎」ボッ

トウジ「なにをて! なにを顔赤くしとんねん! マセガキが、小学生から色気づくなや!」

サクラ「なんやて⁉︎ 女は男より精神年齢上なんやもん!」

トウジ「アホか!」

サクラ「アホとはなんやねん! 女は度量がある生き物なんや! 母ちゃんもそう言うとったやろ!」

トウジ「変な影響ばっかり受けよって……!」

サクラ「兄ちゃんだって男はっていうこだわりは父ちゃんからやないか!」

トウジ「やかましい! いかがわしい知識をつける前に怪我を治さんかい! ワシは許さへんぞ!」

レイ「碇くん、行きましょう」

シンジ「……? ああ、うん」
258 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/01(火) 22:55:06.62 ID:r5dpexpO0
【付属病院 屋上】

レイ「なにか、頭に浮かんだ?」

シンジ「いや」

レイ「どうして、私に聞いてきたの」

シンジ「夢なのに、はっきりと覚えてるんだ。まるで現実みたいに。それに、今なら、エヴァがなんなのか。使徒がどうしてくるのかわかる気がする」

レイ「そう」

シンジ「綾波は、なんで僕の夢にいたって言ったの? 使徒、天使の名を持つシ者。綾波はなにか知ってるの?」

レイ「碇くんが知っているのと同じ」

シンジ「僕がなにを知っているっていうのさ⁉︎」

レイ「この世界の理(ことわり)。ヒトがどこに進むのか」

シンジ「……」

レイ「向き合えたわけではないのね」

シンジ「父さんは、本当にアラスカにいるの?」

レイ「……」

シンジ「答え、られないんだね。そうさせるのは、僕なのか。教えてほしいんだ。母さんはなにをしようとしてるの?」

レイ「人類の補完。生命をひとつにしようとしている」

シンジ「生命を、ひとつに?」

レイ「……」

シンジ「違う。僕は本当はわかってる。わからないのはまだ逃げてるからだ。そうだよね、綾波」

レイ「どうすべきか選ぶのはあなた」

シンジ「僕は……僕は……」ギュウ

レイ「……」

シンジ「まだ、エヴァに乗るよ。綾波に協力してほしい」

レイ「私に……?」

シンジ「僕を助けてほしいんだ。僕は弱いから。力だってない。綾波が必要なんだ」ギュウ

レイ「な、なにを言うのよ」ボッ

シンジ「頼りないままじゃいけないのはわかってる。僕ひとりじゃどうしようもないんだ、だから……!」

レイ「て、手を離して」

シンジ「あっ、ご、ごめん! その、勢いでつい!」

レイ「いい」

シンジ「あの、だめ、かな」

レイ「なにをしたいの?」

シンジ「母さんがなにを考えているのか知りたい。リツコさん、加持さん、副司令たちが関係しているよね」

レイ「詮索は命令違反になる」

シンジ「そうかもしれない。だけど、知りたいんだ」

レイ「……」コクリ

シンジ「助かるよ、綾波がいてくれてよかった」ニコ

レイ「べ、別に」

シンジ「どうしたの? 顔が赤いけど」

レイ「赤い?」

シンジ「うん。少しだけ。だけど、そっちの方がいいよ」

レイ「あ、ありがとう」
259 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/01(火) 23:19:25.92 ID:r5dpexpO0
【付属病院 205号室】

トウジ「おう、おかえりさん。なんや? 綾波は帰ったんか?」

シンジ「うん、この後ネルフに用事があるって。サクラちゃんは?」

トウジ「検査や……パイロットは大変やのー。拘束時間ばっかりで」

シンジ「これが普通だから」

トウジ「……」

シンジ「綾波が持ってきてくれたりんごがあるけど、食べる?」

トウジ「いや」

シンジ「……? どうかしたの?」

トウジ「シンジ。お前がなにを抱えとるか知らん。言われたとしても半分でさえ理解できるかわからん、ワシはバカやからの」

シンジ「……」

トウジ「せやけど、話を聞く相手ぐらいなれるはずや。なんかあったなら話せや」

シンジ「ありがとう。でも、大丈夫だよ」

トウジ「しみったれた話はワシは好かん。なんもない言うならまわりに心配かけたらあかんで」

シンジ「うん」

トウジ「男は肩に荷を背負うもんや」

シンジ「そうだね。僕には、重すぎるかもしれないけど」

トウジ「道を見据えたならまっすぐ進まなあかんぞ! ワシらに何にもないって決めたなら押し通せ! ワシも黙って待ってやる! それが男の友情ってもんや!」

シンジ「ぷっ、トウジらしいや」

トウジ「大事なことなんやぞ!」

シンジ「わかってるって」

トウジ「ふん、サクラの検査が終わったらワシも家に帰る。学校はまだしばらくこんのか?」

シンジ「いや、明日から行くよ。リツコさんにもそう伝えるつもり」

トウジ「体調は平気なんか? 手に包帯しとるが」

シンジ「これは、気にしなくていいよ。いつも通りだから」

トウジ「……?」

シンジ「そうだ。これ、あげるよ」

トウジ「ウォークマンやないか。お前、これ」

シンジ「僕には、もう必要ない」

トウジ「さよか……あっ! 妹はやらんぞ!」

シンジ「い、いもうと?」

トウジ「サクラがほしかったらあと十年! いや! あと十五年は待ってからやな!」

シンジ「なに言ってるんだよ」

トウジ「くぅーっ! まさかセンセがここまでスケコマシ野郎やったとは! なにもサクラまで!」

シンジ「はぁ」

260 : ◆qR6TCtkvbo [saga]:2017/08/22(火) 16:01:11.79 ID:Y5phI0Uu0
【同時刻 ネルフ本部 執務室】

ゼーレ02「我らの悲願たる補完計画」

ゼーレ05「計画された“終末の時”まで、残された時間は少ない。その理由を教えよう」

加持「いやはや、驚きましたな」

ゼーレ03「こそこそと嗅ぎ回っているようだからな。キミの目の前にある極秘ファイルを手に取りたまえ」

ゼーレ04「発端は十三年前よりはるか以前に遡る。具体的には、我々がゼーレを発足するきっかけとなったその録画データだ」

加持「これが……? 黙示録とも呼ぶべきものを――」

ゼーレ02「なにを躊躇う。よもや今さら命が惜しくなったわけではあるまい。キミに渡そう、好きにしたまえ」

加持「タダより高いものはないと知らない子供じゃありませんよ。見返りを要求されるとわかっているので、ビビっているだけです」

ゼーレ05「ふっ。臆病だな」

加持「――しかし、臆病だからこそ今日(こんにち)まで生き延びてこれたんです。たとえそれが地獄のような場所だとしても」

ゼーレ05「我々が望むべきは二つ」

ゼーレ04「碇ユイに関する情報を提供と抹殺」

ゼーレ02「データを提供するかわりに我々の“鈴”になってもらいたい」

加持「これはまた、物騒なお話ですね。キール議長はこの件をご存知で?」

ゼーレ04「この問題は、我々だけで決めた。不安材料の解消に対して保険をかけるべきを是としたからだ」

ゼーレ02「左様。キール議長とて完璧ではない。いや、人類そのものか。我々にも補佐という役目がある」

加持「なぜ、わざわざ俺に情報の開示をするんです? その気になれば圧力をかけられるでしょう」

ゼーレ03「手の内にあるデータの一部を渡したにすぎない。試供品だよ、それは」

ゼーレ05「喉から手をでそうなほど欲している資料はまだ一部というわけだ。働きに応じてさらなる開示をしよう」

ゼーレ05「キミの資料は確認済みだ。孤児達の無念を晴らしたければ彼女ではなく我々につけ」

加持「……」

ゼーレ03「断れば、待つのは死。裏切っても、死あるのみだ」

加持「日本政府にも内通していると知ってて言ってるんでしょ?」

ゼーレ02「無論」

加持「ふぅ……。俺にトリプルスパイになれというわけですか。あなた方の益になるように。どうやら、碇ユイ博士は信頼を勝ち得るまで成功していないようですな」

ゼーレ05「目的が達成されるのならば、人選についてとかく言う意義はなし」

ゼーレ06「だが、我々の実行機関たるネルフ。その私物化は許されない」

ゼーレ02「彼女と我々。キミにとってどちらが魅力的な餌か。選択の時だ。加持リョウジ」
261 : ◆qR6TCtkvbo [saga]:2017/08/22(火) 16:40:42.32 ID:Y5phI0Uu0
【加持 デスク】

加持「……――ふぅ」ピッ

ゲンドウ『お集まりいただき恐縮です。今日は皆様方に終末について話したい』

キール『続けたまえ』

ゲンドウ『我々人類は破滅の瀬戸際にいる。妻がもたらした裏死海文書の目録にある使徒の襲来。治療法のない病気。破滅を叫ぶ原理主義者ども」

ゼーレ『……』

ゲンドウ『やつらは制御できない集団とかしています。知恵をもたざる者にいきすぎた玩具(兵器)を与えてしまったため、本来の理念を失っている』

キール『それで?』

加持「……」カチャ シュボッ

ゲンドウ『これらを克服したとしてもさらなる脅威が待っている。先のセカンドインパクトは計画性をもっておこしたことでニアで済みましたが、気候の変動で50年後における可住地は9割が海に沈む』

加持「……事前に起こしただって……」ポロ

ゼーレ『必要な粛清がよもやあのような中途半端な結果になるとはな。いずれ貧困と飢餓がくる。そして、新たな争いの火種になる』

ゲンドウ『これは予測ではなく事実だ。必然に起こる事態』

キール『使徒が来ずとも世界の終わりは近い。わかりきったことをつらねる為にここに立っているわけではあるまい』

ゲンドウ『――ふっ。では、滅びますか?』

ゼーレ『……』

ゲンドウ『我々の手で、世界を終わらせ……いえ、救済するのです。我々の望む形でだ』

キール『……』

ゲンドウ『人類終末のシナリオを我々が作るのです。かつて行われ、大成功を収めた、“ノアの方舟”ですよ』

ゼーレ『方舟……? どこにそんなものがある? 宇宙船でも作って新天地を目指すというのかね。馬鹿馬鹿しい』

ゲンドウ『これまでの発想と変わりません。我々には死海文書の外典があるのですから。理想の地球、そして完璧な個体へと人類は昇華できます』

キール『方法を聞こう』

ゲンドウ『救済の手段は既に我らの手に。ご覧ください、こちらが悲願を達成するその道具、人型決戦兵器エヴァンゲリオンのプロトタイプです』

ゼーレ『おお……! これは、セカンドインパクトにあったコピーか』

加持「――ここでおしまいか。どうしたもんかねぇ」
262 : ◆qR6TCtkvbo [saga]:2017/08/22(火) 19:52:43.39 ID:Y5phI0Uu0
【ネルフ本部 執務室】

冬月「息子の様子はどうだね。後遺症の心配はないか?」

ユイ「経過は良好です。思った以上に前向きな姿勢を見せているので違和感がありますが」

冬月「タブリスに脳を弄られていたんだろう? なにかこちらが知り得えない情報があるのではないか?」

ユイ「時間が必要です。今のところそれらしき変化は見受けられません」

冬月「しかし、どうも気になる。あのタブリスを模した少年。本当に味方と考えていいのか」

ユイ「騙し合いをしている内はまだお互いの腹の中を探っていると同義です。多少、行動に問題があると認めますが、駒を使いこなせない打ち手は無能です」

冬月「使えない駒だとしてもかね」

ユイ「盤上に不要な駒なぞありません。手の内に何枚、どのような個性を携えている駒をかかえているか……。相手の数十手先を予測し対策を行えばよいだけです」

冬月「サードチルドレンの保護観察はどうする? 碇の時と同様に一人暮らしを行う方針ではないだろう」

ユイ「職員と同居させます」

冬月「葛城宅に戻すか。それもいたしかたある――」

ユイ「いえ、そうはしません」

冬月「なに? では、赤木博士のところか?」

ユイ「違いますよ」

冬月「おい、わかっているのか。もはや俺たちの計画の要は息子が握っていると言っても過言ではないのだぞ」

ユイ「だからこそ、です。怪しまれず、なにも疑うことを知らない者にまかせましょう」

冬月「ううむ、末端の職員か」

ユイ「伊吹二尉の元にアルバイトという口実で押しこみます。赤木博士も協力的ですし、彼女から言ってもらえれば滞りないでしょう」

冬月「……」

ユイ「明日からシンジは学校に通うと言っていましたので、今日中にアパートの契約を解除しておいてください」

冬月「一度押しこんでしまえば、あとはなし崩し、か」

ユイ「帰る家がなければネルフで保護するしかありません。次の入居先のアパートが決まるまでの間、伊吹二尉の元に住まわせる。こういうテイでいきます」

冬月「わかった。すぐ手配しておこう」

ユイ「……? 先生。私が地下にいる間、だれかここに来ました?」

冬月「いや、そんな報告はあがっていない。なにか不審な点でも?」

ユイ「そう、ですか。それなら、いいんですけど……」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/22(火) 22:51:15.51 ID:Q3fwL43Vo
まってまひた
264 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/23(水) 00:00:16.04 ID:p8MuYZWJ0
【ネルフ本部 ラボ】

マヤ「シ、シンジくんをうちでですか?」

リツコ「急で悪いんだけど」

マヤ「あの、葛城一尉のお宅だと都合が悪いんでしょうか」

リツコ「だめよ。司令には私から推薦をしておいた」

マヤ「えっ! そ、そんな。急に言われても困ります……」

リツコ「マヤ、これはあなたにとっての更生プログラムでもあるのよ」

マヤ「……」

リツコ「潔癖症の自覚、あるわよね。ひとえに潔癖症と言っても細菌に対し嫌悪感を覚えているわけじゃない。あなたのは対異性、つまり男を強く感じる性への不快感」

マヤ「あの、これまで、なんとかやってこれましたし」

リツコ「ふぅ……そうやってとりつくろって生きているとこの先辛いわよ。純情な反応……いいえ、過剰防衛とさえ思える拒絶の所以はそこにある」

マヤ「どうしても、受け入れ、しなくちゃダメですか……?」

リツコ「相手は中学生で、無害な小動物とでも考えなさい。あなたが最も優先すべきことは“異性への慣れ”。綺麗なだけの世界なんて存在しないと頭でわかっている。でも心で受け入れられないのね」

マヤ「仕事に支障はないぐらいに我慢できていますし、これからも尊敬する先輩の下で働けるのなら私……!」

リツコ「あなたの才能は見込みがあると評価しています」

マヤ「ほ、ほんとですかっ⁉︎」

リツコ「でもね、機械相手だけじゃない。人ともうまくやれる術を身につけなさい。技術者はただでさえ内に籠もりがちな環境にいるんだから。孤独は、虚しいだけだと気がつく前に……」

マヤ「先輩?」

リツコ「とにかく、これは司令からの発令なのよ。私を失望させないで」

マヤ「断ったら、先輩は、失望するんですね」

リツコ「好きだけを仕事にしたいのなら転職を提案します。ましてや、その理由が中学生の面倒を見るのが嫌だからだなんて。あの子がマヤに対して危害をくわえると思う?」

マヤ「そうは、言ってませんけど……あの、いつからですか」

リツコ「本日付けでサードチルドレンの荷物を搬送するそうよ」

マヤ「ええぇぇっ⁉︎ そ、そんなっ⁉︎ それって、業者が⁉︎」

リツコ「鍵なら副司令に頼まれてスペアキーを渡しておいたから」

マヤ「来てますよね⁉︎ もう私の家にシンジくんの荷物届いてますよね⁉︎」

リツコ「でしょうね」コト

マヤ「ど、どうしようっ! 下着、隠さないと! し、失礼しますっ!」
265 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/23(水) 00:57:52.19 ID:p8MuYZWJ0
【マヤ宅 玄関前】

シンジ「……? えっと、僕はマンション暮らしじゃありませんよ」

諜報部員「……」

シンジ「聞こえてないのか。すぅー、僕はアパート暮らしで――」

諜報部員「サードチルドレン、以下一名を伊吹二尉宅まで護送するよう連絡がありました」カチ ピンポーン

シンジ「え? てことは、ここはマヤさんの? どうして……」

諜報部員「詳細について存じあげません」

シンジ「母さんがなにか手配したのかな」ボソ

諜報部員「私に降りてきた指示は赤木博士によるものです」カチ ピンポーン

シンジ「リツコさんが?」

諜報部員「はい。それ以上のことはわかりかねます。これが仕事ですので」カチ ピンポーン

シンジ「は、はぁ」

マヤ「す、すいませーんっ! ちょっと待ってもらえませんか!」ガチャ

諜報部員「ドアチェーンを外してください。伊吹二尉。サードチルドレンがお待ちです」

マヤ「シンジくん! 少し待てるわよね⁉︎」

シンジ「あ、あのっ!」

マヤ「ご、ごめんね! 10分で済ませるから!」バタン!

シンジ「な、なにを済ませるんだろう」

諜報部員「――……さぁ」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 02:12:02.78 ID:+mJLMP+Ro
盛り上がって参りました
267 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/23(水) 16:47:34.05 ID:7woo+S8g0
【マヤ宅 リビング】

シンジ「……」

マヤ「……」チラ

シンジ&マヤ「……あ、あのっ!」

シンジ「あ、どうぞ」

マヤ「いえいえ、そちらこそ……」

シンジ「……」

マヤ「……」

シンジ「……ぷっ、くっくっく」

マヤ「ど、どうしたの?」

シンジ「なんだか、おかしくなっちゃって」

マヤ「あ……。ごめんね」

シンジ「いえ、謝る必要ないです。あの、僕はどうしてここにいるんですか?」

マヤ「……? シンジくん。なにも聞いてないの?」

シンジ「はい」

マヤ「そう、なんだ。てっきり先輩から話が通ってるのかと思ってた」

シンジ「話?」

マヤ「最初は、アルバイトって話だったみたいなんだけど。シンジくんが私のところで」

シンジ「僕がですか?」

マヤ「うん、そう。料理とか掃除とか。ほら、家政婦ってあるじゃない? それ」

シンジ「僕はなにも聞いてない……」

マヤ「あっ! きっと、すぐに知らせるつもりだったのよ。司令の交代とかあってドタバタしてたから遅れたのかもしれないし」

シンジ「はぁ」

マヤ「あのね、シンジくん。あなたはパイロットでしょ?」

シンジ「はい、まぁ」

マヤ「見つけてきた物件は防犯上の問題であまり良い条件とは言い難いらしいの。保安部を警護につけたとしてもパイロットの身になにかあれば大問題ですもの」

シンジ「……」

マヤ「だから、もう少し、探してみてくれない? 見つかるまではここに住んでかまわないから」

シンジ「えっ、ここに?」

マヤ「うん……」

シンジ「いや、いいですよ。マヤさんにご迷惑かけますし、ネルフのコンテナで寝泊まりすれば」

マヤ「……」

シンジ「……あの?」

マヤ「私の、更生プログラムでもあるらしいの。先輩が推薦したって」

シンジ「……?」

マヤ「突然、こんなこと言われたら戸惑うわよね。あの、私、男の人とか少し、苦手で……」

シンジ「……」

マヤ「先輩は、たぶん、シンジくんと同居させることで私に少しでも慣れさせようとしてくれてるみたい」

シンジ「あ……」

マヤ「私事で、ご、ごめんね。だから、シンジくんだけのせいじゃないの。都合が良かったんでしょうね、私たち」
268 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/23(水) 17:02:04.64 ID:7woo+S8g0
シンジ「あの、僕の荷物とかは?」

マヤ「それなら、奥の部屋に。あんまり荷物ないのね。ダンボールひとつだなんて」

シンジ「はい。必要なものはバックに収まるぐらいしか」

マヤ「そっか。……お腹すいてない? なにか食べる?」

シンジ「えっと、そうですね。……あの、本当にいいんですか? 僕がここにいて」

マヤ「ごめんなさい。本当は私、今もいっぱいいっぱいで、中学生って子供、なのよね。でも、家にあげたことないから」

シンジ「べ、べつにおかしくないと、思いますけど」

マヤ「おかしいわよ。もうハタチ超えてるのに。で、でも! 恋愛経験がその、まったくないってわけじゃ! いいかなー、って人は、これまでいたし……」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「でも、やっぱりだめ。向こうからアプローチされても、こっちからアプローチしようにも、距離感の測り方をうまくとれないの」

シンジ「……」

マヤ「仕事だったら、必要な業務連絡を事務的に済ませればいい。日常会話で困らない程度に、ごまかす術を身につけた。自分に」

シンジ「……」

マヤ「や、やだ。なに話てるんだろう。よっぽど余裕ないのかな、私。ごめん、あの、なにか作ろうか?」

シンジ「よければ、僕が……」

マヤ「だめ!」ガタンッ

シンジ「あ……」

マヤ「ご、ごめんなさい。あの、私物にあまり触ってほしくなくて。……ごめんね」

シンジ「いや、えっと、自分の家、ですもんね。僕もなにがどこにあるかわからないし」

マヤ「その、荷物見てきたら? 奥の部屋はそのままシンジくんの部屋にしていいから」

シンジ「そう、ですね。そうします」
269 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/23(水) 17:37:50.79 ID:7woo+S8g0
【ネルフ本部 執務室】

リツコ「サードチルドレンは予定通り、伊吹二尉の宅に送り届けました」

ユイ「ご苦労様。辻褄合わせは完璧ね。伊吹二尉とシンジはもちろん、周囲も疑わないでしょう」

リツコ「マヤの場合は、症状が複雑化しているので容易でした」

ユイ「女性は世の中の習慣から、なにかにつけて守られている者という概念が強い。だからこそ自立性のある女性に特異性が生まれ、強く輝く。……皮肉ね、あなたは夫に依存して体面を保っていただけなのに」

リツコ「……!」ギリッ

ユイ「しかし、伊吹二尉はあなたの弱さを知らない。赤木博士に抱いているイメージは“どこまでもフラットで科学者な自立した女性”」

リツコ「仕事には、どんなものにも妥協しないという性質がいい面であらわれています。しかし、汚れ仕事を嫌う癖があります」

ユイ「完璧すぎる貴女はまさに彼女のなりたい自分そのもの。理想像なのでしょう。男がいなくても毅然としているカッコイイ人、かしらね。ふふっ」

リツコ「それはご自分だとおっしゃりたいのですか?」

ユイ「あら? 私?」

リツコ「不倫をしていると知っていても冷静に対処なさっていたではありませんか。しかも、私を部下に引き入れるだなんて」

ユイ「うーん、そうね? でも、あなたは優秀だから。それだよ」

リツコ「一度も、あの人を恨まなかったんですか?」

ユイ「恨む?」

リツコ「一度もなかったんでしょうか? 夫婦の契りを結び、裏切られていると知っていながら」

ユイ「一人が一人と結婚して永遠の愛を誓い合う。この永遠というのは、意識があるまでと仮定すれば死ぬまでと該当するけど。それじゃ、論理的に愛とはなにかを説明できる?」

リツコ「……」

ユイ「私ね、こう見えても、学生の頃はけっこーぶいぶい言わせてたのよ? ぶいぶいって死語か。そうねぇ……なにが言いたかっていうと」

リツコ「……?」

ユイ「――男は人類の半分よ」
270 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/23(水) 18:10:41.10 ID:7woo+S8g0
【マヤ宅 リビング】

シンジ「ごちそうさまでした」

マヤ「洗い物はそのままにしてくれていいから」

シンジ「すみません。自分の食器用意できてなくて」

マヤ「仕方ないわよ。でも、その、明日にでも買ってきておいてもらえる?」

シンジ「わかりました」

マヤ「あ、忘れちゃうところだった。私のクレジットカード渡しておくわね」

シンジ「いいんですか?」

マヤ「うん、高額な使い方されても、後で請求できると思うし、ネルフに」

シンジ「いや、そんな使い方はしませんけど。……わかりました。では、明日お返しします」

マヤ「……」チラ

シンジ「……」

マヤ「もう、寝る?」

シンジ「そうですね」

マヤ「えっ、と、あの、まだはやくない? 21時になってないけど」

シンジ「かまいませんよ。眠れなければ部屋にいますから」ガタ

マヤ「あの! シンジくん!」

シンジ「はい?」

マヤ「私、ひどい態度してない?」

シンジ「……いや、そんなことは」

マヤ「平気、なの?」

シンジ「慣れないのならしょうがないです。それに、先生の所にいた時とあまり変わりありませんから」

マヤ「それって、ネルフに来る前ってこと?」

シンジ「はい。身の回りのことは自分でやれって教わってきました。礼儀作法についても一通り。食卓も毎日がこんな感じで」

マヤ「そう、なんだ」

シンジ「僕も自分のことを話すのが苦手だから、なんとなくわかる気がします」

マヤ「あ……」

シンジ「なにかルールを決めたければ、言ってください。守れることがあれば協力します」

マヤ「あ、ありがとう」

シンジ「それじゃ、僕はこれで」

マヤ「……うん……ってちょっと待って! お風呂入ってないよね⁉︎」

シンジ「あぁ、そうですね。でも明日の朝でも」

マヤ「衣食住はキチンと不自由がないようにしなきゃ。これが私の仕事だもの。だから、入って」

シンジ「はぁ。あの、風呂はためていいんですか?」

マヤ「え……? 後で私には入れってこと? うっ、ふ、不潔」

シンジ「あぁ、えぇと、それなら、シャワーだけとか」

マヤ「だめよ。あの、後で入れ替えるから気にしないで入って?」

シンジ「は、はぁ」
271 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/23(水) 18:51:49.84 ID:7woo+S8g0
【翌日 第三新東京市立第壱中学校 HR前】

男子生徒A「おい、まだかよ」そわそわ

男子生徒B「うっせーな。もうちょいだろ」そわそわ

女子生徒A「なにあれ。そわそわしちゃってダッサ」

女子生徒B「ねーっ、ほんと男子って露骨」

シンジ「……? なんだか、今日はみんな落ち着きないね」

トウジ「あぁ、てんこーせーがくるっちゅう話やからな」

ケンスケ「そーそー。オスとしてはかわいい子がきたら嬉しくなるサガってもんだよ」

シンジ「転校生……? この時期に?」

ケンスケ「はぁ……。碇ぃ、そこはかわいいってところに反応するべきじゃないかぁ?」

シンジ「あぁ、うん……」

ケンスケ「たしかに、ウチのクラス偏差値は低くはないからねぇ。ま、主に引き上げてるのはパイロット二名の存在だけど」

トウジ「センセは不自由しとらんやろしなぁ。サクラもまったく……」

ケンスケ「……? ま、でも碇がモテてるわけじゃないんじゃないか? 彼女ってわけじゃないもんな?」

シンジ「そんな。僕は、モテてないよ。アスカと綾波はパイロットって繋がりがあるだけだから」

トウジ「これやからなぁ」

ケンスケ「あのなぁ、他にはないもんがあるっていうのはアドバンテージなんだぜ? 悪いけりゃ意味ないけど。単純に、一緒にいる時間が多いって話だろ。ネルフの仕事っていう公認でさ」

シンジ「それが?」

ケンスケ「だぁもぅっ! 碇がその気になれば、口説けるって話だよ! そういうのがしやすい環境っていえるだろ」

シンジ「あ、あはは。でも、アスカや綾波は、興味ないと思うよ」

ケンスケ「どうしてわかるんだよ?」

シンジ「なんとなく、かな。それに、選べるなら僕なんか、嫌だと思うし」

トウジ「選ぶ権利は男にだってあるやろがい! あんなゴリラ女とかこっちから願い下げや!」

ケンスケ「トウジは関係ないだろ」

トウジ「お、そうか」

ヒカリ「ちょっとあんたたち! またくだらないこと話てるんでしょ!」バン

ケンスケ「いや、その、聞こえてた?」

ヒカリ「鈴原の声であんなに大きく言えば聞こえるわよ!」

トウジ「なんや! ワシはなんも間違った発言はしとらんぞ! 女のそれはな、自意識過剰っちゅーんじゃ!」

ヒカリ「突然なに言ってるのよ!」

トウジ「男にだって選ぶ権利がある! 性格ブスは嫌に決まっとる!」

ヒカリ「せ、性格、ブスぅ……っ⁉︎ ちょっと、それ、誰のこと?」

トウジ「ふん、ゴリラ女に決まって――」

アスカ「成敗っ!」ゴン

トウジ「かはぁっ!」ガターン

アスカ「朝っぱらからやっかましいわねぇ、北京原人はバナナでも食ってなさい」

シンジ「アスカ、おはよう」

アスカ「ふん」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 22:30:46.79 ID:0skklPono
C
273 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/25(金) 02:09:20.11 ID:ymj1j9CJ0
【数十分後 HR】

マナ「はじめまして、霧島マナと言います。親族の都合で越してきました。これからよろしくお願いします」ペコ

男子生徒一同「おお〜〜、か、かわいい」

アスカ「はん、ばっかみたい」

教師「席はぁ、そうですね。碇さんの隣があいているようだから、そこにしなさい」

マナ「はいっ!」

男子生徒A「なぁなぁ、写真よりも実物のが全然いいなっ!」

男子生徒B「シッ! 黙ってろ! 歩いていらっしゃるだろうが!」

マナ「……」スタスタ

男子生徒C「な、なんでかわいい子はいい匂いがするんだろなぁ」

男子生徒D「オーラだよ! オーラが違うんだ!」

ヒカリ「そんなわけないじゃない」

マナ「よいしょっと」ガタ

シンジ「……?」

マナ「よろしくね、碇くん」ニコ

シンジ「あ、あぁ、どうも、よろしく」

教師「霧島さんはまだ端末がきてないんだったね。碇さん、見せてあげなさい」

シンジ「はい」

マナ「あの、先生。机くっつけてもかまいませんか?」

教師「もちろんだ。ノートパソコンであるからそうしないとみれないだろう?」

マナ「ですよね、えへへ」ガタ

シンジ「あ、僕が移動させるよ」

マナ「ありがとう」スッ

シンジ「え……」

マナ「優しいんだね」

シンジ「いや、あの、手……を重ねられると、移動が」

男子生徒A「……!」

男子生徒B「ま、また! またあいつなのか……!」

マナ「ご、ごめんなさいっ! あの、私が机を移動させようとしてたから」

シンジ「ああ、そういうこと。ごめんね、気がつかなくて」

マナ「ううん、いいの」
274 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/25(金) 02:11:27.67 ID:ymj1j9CJ0
アスカ「……」ジー

シンジ「よっと、先生、もう大丈夫です」

教師「ふむ、よろしい。おっと、もうこんな時刻か。今日は私が担当の教科なのでこのまま一限目をはじめる。洞木さん、号令を」

ヒカリ「はい。きりーつ!」

生徒一同「……」ガタガタッ

ヒカリ「礼。ちゃくせーき」

教師「では、端末を立ち上げて」

マナ「……ね、もうちょっと近くにいっていい? 私、近眼で」ズイ

シンジ「う、うん」

マナ「……? どうしたの?」

シンジ「いや、ちょっと近かったから、びっくりして」

マナ「もしかして、照れてる?」

シンジ「いや……」

マナ「ふぅ〜ん。碇くんって、かわいいんだ?」

アスカ「……!」パキッ

ヒカリ「……? アスカ、どうしたの?」

アスカ「あぁ、シャーペンの芯折れたみたい」

ヒカリ「シャーペン使わないよ?」

アスカ「あれ? そうだっけ」

ケンスケ「こりゃあ、一波乱ありそうな。いやぁ〜な予感」

トウジ「ほんま、センセは。どうなっとるんや」
275 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/25(金) 02:39:19.52 ID:ymj1j9CJ0
【ネルフ本部 司令室】

マヤ「ふぅ……」

シゲル「おっ。めずらしいねぇ〜、マヤちゃんがため息つくなんざ」

マヤ「私だって、ため息ぐらいつくわよ」

シゲル「なんか悩み事?」

マヤ「別に」

シゲル「あいかわらずガードのかたいこって。女は少しぐらい隙を見せたぐらいがちょうどいいぜ?」

マヤ「余計なお世話です。またギター雑誌見てるの?」

シゲル「いんや。今日はコレ」バサ

マヤ「なに……? そ、それって……!」

シゲル「かぁ〜わいいっしょ? 今話題のアイドルグループのグラビア。漫画の付録についてんだけどさぁ」

マヤ「不潔っ!」バンッ

シゲル「……ん?」

マヤ「職場でそんなの見るなんて不謹慎よ! 家に帰ってから見たらっ⁉︎」

シゲル「今は空き時間だし」

マヤ「そういう問題じゃない! これは立派なパワハラよ!」

シゲル「お、おいおい」

ミサト「どったの〜? なんの騒ぎ?」

マヤ「葛城さん! 聞いてくださいよ! 青葉くんが!」

ミサト「あっ! これ今話題の子たちじゃなぁ〜い!」

シゲル「葛城さんも知ってるスか?」

ミサト「もちのろんよ〜。くー、若い肌って羨ましいわねぇ」

マヤ「え……」

シゲル「俺はこのセンターの子が押しなんすよ」

ミサト「どれどれ……? だっはっはっ! やぁだぁっ! まだ子供じゃないのー!」

マヤ「……」ギュウ

シゲル「それがいいんじゃないすか。あどけない感じがして」

ミサト「そお〜? あら? 伊吹二尉?」

マヤ「あの、葛城一尉はなんとも思わないんですか?」

ミサト「……?」

マヤ「私たちの職場でこんなの見てるんですよっ!」

ミサト「あぁ〜、なる」

シゲル「マヤちゃんさぁ。ちょっと堅苦しすぎないか?」

マヤ「どうして⁉︎ 私が間違っているって言うの⁉︎」

シゲル「そうは言ってないが。そんなんじゃ、一生独身だぜ?」
276 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/25(金) 02:53:37.81 ID:ymj1j9CJ0
マヤ「どうしてあなたなんかにプライベートの心配されなくちゃいけないのよ⁉︎」

シゲル「俺はそんなつもりじゃ……!」

ミサト「はいはい、そこまで」

シゲル&マヤ「……」

ミサト「たしかに、こういうページを嫌がるというのも理解できるわ。同じ女として、ね?」

シゲル「そういうもんすかねぇ」

ミサト「空き時間の使い方までとやかく言うつもりないけど。青葉くん、コンプライアンス違反にならない程度にね」

シゲル「うす」

ミサト「それで、マヤちゃんはぁ……ちょっち、肩の力入りすぎかな?」

マヤ「私は間違ったこと言ってません!」

ミサト「人間はね、機械じゃないの。常に正しいことで抑えつけようとしてはだめ。息抜きは必要だって理解してあげなきゃ」

マヤ「別の手段があるはずです! なにもソレを選ばなくたっていいじゃないですか!」ビシ

ミサト「そうね、言ってることはもっともだわ。だけど、改めて言うけど、“辻褄が合う行動だけ”をするのが人じゃないのよ」

マヤ「……」

ミサト「セクハラになると感じた?」

マヤ「はい、だって、そんなの……」

ミサト「そんなに嫌だったのね。……いいわ。女性に見せびらかす行為は今後控えるように」

シゲル「ちぇ」

ミサト「相手を選びなさい」

シゲル「了解」

マヤ「私が融通きかないみたいじゃない。なんで……私がこんな思いしなくちゃいけないの。間違ってないのに……!」

ミサト「すこし、落ち着きなさい」

マヤ「いいです! 失礼します!」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 05:24:33.50 ID:k3q1VMPvo
C
278 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/25(金) 23:51:42.58 ID:ymj1j9CJ0
【ネルフ本部 第四通路 女子トイレ】

マヤ「……うぷ……おぇぇっ……」ベチャベチャ

リツコ「……」スッ

マヤ「……! せ、せんぱい……」

リツコ「また、吐いてたの?」

マヤ「……」ジャー

リツコ「よくうがいなさい」

マヤ「大丈夫です」キュキュ

リツコ「やはり、その癖を治す必要があるわね。男という生物は無神経でズボラ。感性が違うのだもの」

マヤ「そうでしょうか」

リツコ「少女漫画の主人公のような、幻想から卒業できないんでしょ、あなた」

マヤ「わ、わたしは……そんなつもり……」

リツコ「汚れていないから。一線を踏みこえていれば案外割り切れるものなのに」

マヤ「仕事があれば、私」

リツコ「マヤの卒業論文を読み私はあなたを部下にするとを決めた。着眼点が優れていたからよ」

マヤ「……」

リツコ「もっと視野を広げるには、今のままじゃ頭打ち。なぜだと思う?」

マヤ「わかり、ません」

リツコ「わからないというのは思考停止しているの? それとも、わかっていて言いたくないという拒絶反応かしら?」

マヤ「人生経験は他で代用できます! 恋愛経験が全てじゃ……!」

リツコ「あなた、なにか勘違いしてない?」

マヤ「え……」

リツコ「私は結果だけを求めているの。あなたができると言うのならかまわないわ。できているのならね。……で、今は?」

マヤ「そ、それは」

リツコ「提案をしているだけなのよ。いわゆる、きっかけを。男の為に頑張る、旅行にいく、なにかを覚える、経験する、そうした動機が行動を生み可能性と言う選択肢を広げる」

マヤ「……」

リツコ「現状を打開するにあたり、なにをすべきか考えてごらんなさい。失敗をこわがっているようじゃ科学者に一生なれないわよ」

マヤ「失敗は成功の母、ですか。納得できません」

リツコ「自分自身に、なにがプラスになるか。やり方は自由よ」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 02:30:06.67 ID:Y3QeeAseO
まだ続いてたのか
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 02:46:08.40 ID:S8HqIS1to
リッちゃんイイヨー
281 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 11:32:59.80 ID:bPa3y6d00
【第三新東京市立第壱中学校 昼休み】

トウジ「さぁて、購買パン買いに行くかぁ」

シンジ「トウジ、僕も行くよ」

トウジ「今日は弁当やないんか?」

シンジ「あ、うん。しばらくそうなりそう、かな」

トウジ「行くならはよ行くで。カツサンドが売り切れてしまうからな」

マナ「あの……」

トウジ「お」

シンジ「……? なにか用? 霧島さん」

マナ「お昼まだなんだけど、購買パンてどこで買えばいいのかな?」

シンジ「それなら、一階の――」

トウジ「センセはだあっとれ!」グイ

シンジ「むぐっ⁉︎」

マナ「口と鼻塞いだら息が」

トウジ「霧島、やったか。俺らも今からとこやから一緒に行くか?」

マナ「いいの?」

トウジ「かまへんで。お前やったら、男子どいつに聞いても喜んで案内するやろうが」

マナ「そ、そんなこと」

トウジ「まぁ、転校初日からいきなり女王様状態になると女子達からやっかみがあるやろからなぁ。ゴリラ女ほど強靭な精神しとるなら話は別やが」

マナ「ご、ゴリラ女?」

トウジ「ほんま、女っちゅーのは猫かぶるから信用できひん。あいつはまさに唯我独尊みたいやつや」

マナ「は、はぁ。その、碇くん、顔が……」

トウジ「なんや、やっぱりシンジが目当てやったんか?」

マナ「そうじゃなくて」

トウジ「こいつはなかなかにモテよるからのお。ライバルは多いで?」

シンジ「……」グタァ

マナ「い、碇くんっ⁉︎」

トウジ「なんや? ……っておわぁっ⁉︎ おい、シンジ、しっかりせぇ!」
282 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/26(土) 12:40:41.26 ID:bPa3y6d00
【十分後 再び教室】

トウジ「めしやめしー」

ケンスケ「驚いたよ。まさか噂の転校生と一緒に食べるとはねぇ」

マナ「迷惑だった?」

ケンスケ「い〜や。ただ、普通は男子は男子、女子は女子でグループを作るモンだろ? 転校初日だし、友達を作るにしたって僕たちのところにきたのが意外でさ」

シンジ「……」ガサガサ

マナ「うん、私もできれば、女の子と仲良くなりたいけど。なんか、視線がきつくて」

トウジ「あん? そんなん気にしとったらあかんで。最初は物珍しさも相まってるだけやろ」

ケンスケ「ま、素材がかわいいからねぇ。嫉妬に巻き込まれやすいのは納得。そういや、碇と惣流が転校してきた時もけっこう騒ぎになったもんなぁ」

マナ「そうなんだ?」

ケンスケ「ああ。碇はロボットのパイロットだとみんなに発覚した時。同じパイロットの惣流は持ち前の美貌から」

マナ「碇くんが⁉︎ すごいっ!」

シンジ「そんな。たいしたことないよ」

マナ「みんなを守ってるんでしょう⁉︎ かっこいいなぁ」

ケンスケ「はぁ。やっぱり、エヴァの操縦士はステータスだよなぁ」

マナ「でも、不思議。パイロット同士で食べないんだ?」

シンジ「そうだね。僕たちは、あくまでネルフという繋がりがあるだけだから。プライベートまで仲良くなる必要はないんだ」

マナ「一緒にいる時間が長ければ仲良くなったりしないの?」

ケンスケ「ほらほら、みんなそう思うよなぁ?」

シンジ「はは。……そうなってもおかしくないのかもしれないけど、そうはなってない」

トウジ「仲良くなるにしても相手次第っちゅーことや。合う合わんはある。だいたいあんなゴリラ女――」

ケンスケ「わかったわかった。パン食いながら喋るなよ」

マナ「惣流さん? って、どの人?」

ケンスケ「あいつなら、あそこ。髪にブローチつけてるから目立つだろ。そうじゃなくったってクォーターだし」

マナ「あぁ、あのキレイな子……教室に入ってきた時から、目についてた」

ケンスケ「素材はいいんだけどねぇ」

マナ「もう一人、キレイな子いるよね?」

ケンスケ「綾波かぁ? そっちもエヴァのパイロットさ」

マナ「へぇ……。このクラスにパイロットが三人も……?」

ケンスケ「うん、まぁ、言われてみれば凄い偶然だよな」

マナ「惣流さん、綾波さんと話してみたいなぁ」

トウジ「やめといたほうがえーで。噛みつかれるわ」

シンジ「アスカと綾波はそんなことしないよ」

ケンスケ「とっつきやすいとは言いがたいんじゃないか。特に綾波はシンジじゃないと会話になるのかさえ怪しいし」

トウジ「せや。それやったら、委員長を間に挟めばええんとちゃうか」

ケンスケ「惣流相手だと、いい考えだね。綾波は――」

シンジ「……?」

トウジ&ケンスケ「シンジ。出番」

シンジ「へ?」

トウジ「紹介しようにもセンセの他に誰が会話になるっちゅーねん」

マナ「あ、あの。迷惑だったら……」

トウジ「かまへんかまへん。友達は作っとくべきや。な、シンジ」

シンジ「……うん、そうだね。アスカと綾波、どっちからにする?」
283 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/26(土) 13:03:57.94 ID:bPa3y6d00
アスカ「――でさぁ、加持さんったらこんなこと言うのよ?」

ヒカリ「……? 碇くん?」

シンジ「食事中にごめん。ちょっといいかな?」

マナ「あの、どうも」

アスカ「転校生じゃない。なに?」

シンジ「まだ、友達がいないんだ。だから、仲間にいれてあげてくれないかな」

ヒカリ「私はいいけど。アスカは?」

アスカ「ふぅ〜ん。どうして私達のところなの?」

マナ「碇くんたちから話を少し聞いて。話てみたいなって。深い意味はないんだけど」

ヒカリ「あ、そっか。碇くんとは席が隣同士だもんね」

シンジ「うん、アスカは悪い子じゃないし。話してみたらいいんじゃないかなって」

アスカ「ぶっ」

ヒカリ「……うん、一緒に食べよ? あ、もう食べちゃった?」

マナ「あ、うん。今日は」

アスカ「はぁ……。席、そこらへんの使っていいんじゃない? 昼休みだし、文句言ってこないでしょ」

シンジ「よかった。ありがとう、アスカ、洞木さん」

マナ「碇くん、ありがとう。わざわざ紹介してもらって」

シンジ「また後で、綾波にも紹介するから。声かけてくれたら」

アスカ「ファーストに?」

シンジ「綾波、友達少ないだろ。だから、いいんじゃないかと思って」

マナ「ち、違うの。惣流さんにも綾波さんにも私が」

シンジ「僕からってことにした方がいいよ」こそ

マナ「あ、ありがとう。……優しいんだね」

アスカ「……? そ。まぁどうでもいいけど。どうせろくに話続かないと思うし」

ヒカリ「とりあえず座ったら?」

シンジ「僕はこれで」

マナ「わかった。また後で。……あの、シンジくんって呼んでもいい?」

アスカ「はぁ?」

シンジ「いいけど……」

マナ「よかった! その、シンジくんともお友達、だよね?」

シンジ「ああ、うん」ポリポリ

ヒカリ「……」チラ

アスカ「ちょっと! 座るの⁉︎ 座らないの⁉︎」

ヒカリ「あ、アスカ」

マナ「ご、ごめんなさい。えへへ」

シンジ「それじゃ」スタスタ
284 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/26(土) 13:29:26.86 ID:bPa3y6d00
アスカ「……」

マナ「よろしく。霧島マナっていいます」

アスカ「朝聞いたからそれは知ってる。あんなのと友達になったってろくなことないわよ?」

マナ「……?」

ヒカリ「……」もぐもぐ

アスカ「三馬鹿グループにはいるよりかはこっちに入った方が断然いいわ。判断は間違ってなかったわよねぇ」

マナ「惣流さんは、シンジくんと仲良くないの?」

アスカ「あ〜ら、もう親しく名前呼びなんだぁ? さっきの今で随分躊躇なく呼ぶじゃなぁ〜い?」

マナ「え? その……」

ヒカリ「仲、いいよ! アスカは素直じゃないだけから」

アスカ「ヒカリっ!」

ヒカリ「もう、霧島さんはなにもわからないんだから」

マナ「えっと、洞木さん、だよね?」

ヒカリ「ヒカリって呼んで? 私もマナって呼んでいい?」

マナ「もちろん。惣流さんは……」

アスカ「ちっ、アスカでいーわよ」

ヒカリ「ご、ごめんね。アスカ、碇くんの話題になると厳しめっていうか、ちょっと扱いが難しくなるんだ。女の子同士だと凄く良い子なんだけど」

アスカ「ちょっと! どーゆう意味!」

マナ「(くすっ、意識してないわけじゃないんだ)」

ヒカリ「マナ、驚いちゃってるじゃない。名前呼びだって気にしないの」

アスカ「その言い方っ! 私がつっかかってるみたいじゃない!」

ヒカリ「違うの?」

アスカ「違うわよ!」

マナ「本当に、席が隣で親切にしてもらったからってだけだよ」

アスカ「……あいつムッツリだから。気をつけた方がいいわよ」

マナ「そうは見えないけど」

アスカ「それがまた曲者なのよぉ〜。そうよ、私はただ転校生に助言をしてるだけ。わかった? ヒカリ」

ヒカリ「はいはい」

マナ「わかった、気をつける」

ヒカリ「親族の転勤だったっけ? めずらしいね、この時期に」

マナ「急でドタバタしちゃったんだけど」

アスカ「使徒がくるこの街に越してくるなんてなかなかいないわよね、おまけに都心はネルフ関係者しか住めないし」

ヒカリ「疎開、する人も少なくないもんね」

マナ「危ないってわかってるけど、守られてるし。そうだ、シンジくん達に聞いたけど惣流さん、パイロットなんでしょう?」

アスカ「あいつ……! なにベラベラ喋ってんのよ」

ヒカリ「隠してたわけじゃないでしょ」

アスカ「まぁ、そうだけど」

マナ「わぁ、かっこいいなぁ!」

アスカ「そ、そう?」

マナ「うんっ! 憧れちゃう」

アスカ「……そっか。まぁ、トーゼンよね! なんてったって私はエリートなんだから!」
285 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/26(土) 22:03:23.93 ID:bPa3y6d00
【放課後 教室】

ヒカリ「アスカ、今日、ネルフの用事は?」

アスカ「なにもなーい」

ヒカリ「それじゃ、途中まで一緒に帰らない?」

マナ「あの、私もいいかな?」

ヒカリ「いいけど……。住まいはどこらへん?」

マナ「地名はまだ。コンフォート17マンションってところなんだけど」

アスカ「え……? そこって、私が住んでるマンション?」

マナ「そうなの?」

ヒカリ「へぇ、偶然だね。なら大丈夫。一緒に帰ろ?」

マナ「う、うん!」

アスカ「親族ってなにしてる人なの?」

マナ「興味ないから詳しくは。なんだったかな……エンジニアしてるって言ってたけど」

アスカ「ふぅ〜ん」

マナ「アスカっていつもはネルフに寄るの?」

アスカ「テストとかがある時はね」

マナ「そうなんだぁ。大変だね?」

アスカ「ま、これもエリートの義務ってやつね。あたしはエースなんだし」

マナ「エース? 凄いなぁ。一番成績がいいんだ?」

アスカ「あったりまえよ。成績だけじゃないわ。迫り来る使徒に対してもあたしとあたしの弐号機は唯一無二なんだから」

マナ「他の二人は?」

アスカ「あいつらは単なるおまけ。チョコボールのおまけより粗末なモンね」

マナ「じゃあ、アスカがこれまでの怪獣を全部やっつけちゃったんだ?」

アスカ「う……。そ、そういうわけじゃ」

マナ「……?」

アスカ「あたしはまだ日本に来て間もないし! 初陣が終わったぐらいなの!」

マナ「へ? えっと、これまでにいくつかきてるよね……」

ヒカリ「碇くんと綾波さんが倒したのよ」

マナ「そうだったんだ」チラ

アスカ「……」ぶっすぅ

マナ「こ、これからだもんね! アスカは!」

アスカ「ふん」プイ
286 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 22:42:47.16 ID:bPa3y6d00
【ネルフ本部 模擬体室】

リツコ「シンジくん。変わりはない?」

シンジ『はい』

リツコ「次、射撃訓練に移行して」

マヤ「……」

リツコ「マヤ? なにぼーっとしてるの」

マヤ「あっ、す、すみません。えっと、なんですか?」

リツコ「インダクションモードへの移行」

マヤ「了解、バーチャルリアリティスタンバイ。仮想敵の投影、開始します」

リツコ「シンクログラフに変化は?」

マコト「チェック2550までオールクリア」

シゲル「臨界点まで、後0.5。全回路、異常なし。パルスによる侵食ありません」

リツコ「やはり、脳に影響は見受けられないみたいね……」

マコト「……? なんのテストですか? これ」

リツコ「独り言よ。気にしないで。本案件は、新兵器のデータ採取」

シゲル「ポジトロンスナイパーライフルの小型化ですか。あれ、燃費悪いっすからねぇ」

マコト「なにせ電力がなぁ」

リツコ「実用化が進めば、威力は多少落ちるでしょうけど中距離戦において大きな戦力アップが見込めるわ」

ミサト「そりゃ助かるぅ〜」クルクル

リツコ「椅子をまわして遊んでるの、楽しい?」

ミサト「それほどでも。しかし、シンジくんとマヤちゃんが同居するなんてビックリだわ」

マヤ「……」ピク

シゲル「俺も俺も。意外な組み合わせっすよね」

リツコ「またその話? 無駄話をしないで。これは遊びじゃないのよ」

ミサト「だってさっきよ? 聞いたの。あたしゃ心配してたんだからさぁ」

リツコ「ミサトが?」

ミサト「そ。シンジくんが一人暮らしするって聞いてあのアパートじゃ。リツコにだって話てたじゃない」

リツコ「そういえばそうだったかもしれないわね」

ミサト「あらま。あいかわらず淡白ね〜」

リツコ「興味ないもの」
287 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 23:22:30.68 ID:bPa3y6d00
【夜 マヤ宅 リビング】

マヤ「ふぅ……よし。シンジくーん。ご飯できたよー」

シンジ「はーい」

マヤ「シンジくんのお皿は、これよね?」

シンジ「そうです」

マヤ「今日もテストお疲れ様。新兵器開発、うまくいくといいね」

シンジ「そうですね、それがみんなの為になるなら」

マヤ「みんなもそうだけど、シンジくんだって痛い思いしなくて済むかもしれないのよ?」

シンジ「期待すると、ガッカリしますから」

マヤ「あ……そ、そうよね。前線で戦ってる側からしたら気休めにならないか」

シンジ「かまいませんよ。それが僕のやるべきことですから」

マヤ「疲れない? そういう生き方」

シンジ「すこし。だけど、できることがわかる内はやろうって決めたんです」

マヤ「へぇ……」

シンジ「いただきます」パク

マヤ「今日は、魚のムニエルにしてみたんだけど」

シンジ「……」もぐもぐ

マヤ「どう? 私、料理を振る舞うのすらあんまり」

シンジ「おいしいですよ。すごく」

マヤ「よかった。健康管理は私の仕事ですから、たくさん食べてね」カチャ

シンジ「あっ! ま、マヤさん!」

マヤ「……?」

シンジ「食べるんですか? それ」

マヤ「食べるわよ? 私もお腹すいてるし」

シンジ「僕、今日はすごくお腹すいてるんです。よかったらもらえませんか?」

マヤ「えぇ? そんなに?」

シンジ「はい」

マヤ「シンジくんって結構食べるのね?」

シンジ「今日は授業で体育があったんです。男子はバスケットボールで」

マヤ「そうなんだ。……わかった。私は後で作りなおすから、食べていいよ」

シンジ「わぁ、嬉しいなぁ」

マヤ「ふふっ、そうしてると本当に中学生みたいね」

シンジ「はは」もぐもぐ
288 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 23:32:13.80 ID:bPa3y6d00
【数十分後 同リビング】

マヤ「シンジくん、メンズ用シャンプー買ってきたの置いておくから」

シンジ「ありがとうございます。先に風呂はいりますね」

マヤ「えぇ。上がる時に風呂の栓を抜いておいてね」

シンジ「はい」ガラガラ

マヤ「ふぅ……。うまくできたかな、相手は子供なんだし、少しずつ慣れていけば、少しずつ」

TVCM「本当の自分をあなたに! コンタクトで世界が変わりますよー」

マヤ「本当の自分、か。さて、私もご飯食べよっと。……あ、フライパンに少し残ってるんだった」ぱく もぐもぐ

TVCM「うまーい! エバラの焼き肉のタレ!」

マヤ「うっ! ま、まずっ! ……なにこれ⁉︎ うそっ⁉︎ お砂糖とお塩間違えてる⁉︎」

シンジ『おいしいですよ、すごく』

マヤ「え? だってさっき、たしかそう言って……――」

シンジ『僕、今日はすごくお腹すいてるんです』

マヤ「も、もしかして、わざと……? 私に食べさせないために?」

シンジ『わぁ、嬉しいなぁ』

マヤ「バカ。私、なにやってるのよ……。中学生に気を使わせて」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 23:37:58.29 ID:lkKpu6jI0
大人過ぎる
290 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 23:53:27.90 ID:bPa3y6d00
【コンフォートマンション マナ宅】

マナ「定時連絡です。サードチルドレン、セカンドチルドレンへの接触に成功しました」

戦自高官「ご苦労。反応はどうだ」

マナ「初日ですので積極的な行動は控えています。ファーストインプレッションは滞りなく取り入れられたと思います」

戦自高官「もう一人のチルドレンについては?」

マナ「明日未明に接触を試みます」

戦自高官「とりあえず、出だしは順調といったところか。目的を忘れるなよ。仲良しクラブを作るために派遣したのではない」

マナ「了解しています。あの、ムサシとケイタは……」

戦自高官「心配に及ばんよ。今は訓練生として従事している」

マナ「少しだけでも! 話できませんか⁉︎ 私、頑張りますからっ!」

戦自高官「頑張りなど必要ない。良い知らせだけを期待している。キミの貢献に対して、我々は必ずや応えるだろう」

マナ「だめ、ですか」

戦自高官「まずはデータだ。サードチルドレンから碇一族について情報を聞き出せ」

マナ「でも、あの子、普通の子みたいでしたよ!」ギュゥ

戦自高官「ふん、さっそく情に流されだしたか。親が特殊なのだよ。親が親なら子も子だ。なにか引き出しがあるはず」

マナ「もし、なかった場合は?」

戦自高官「内閣府の可決で、中東に人材を派遣する法案が近々通るそうだ。数千人ほどな」

マナ「そんな⁉︎ 治安の安定していない激戦区じゃないですか! そこにムサシとケイタを⁉︎」

戦自高官「霧島隊員。絶対になにかある。貴様の任務を忘れるな」

マナ「……了解……しました」

戦自高官「時間の猶予はある。励めよ」プツ
291 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 00:22:03.53 ID:dg9h+A5m0
【コンフォートマンション ミサト宅】

ミサト「よっほっ! ふんっほっ!」

アスカ「なにしてんの……?」

ミサト「ふんっ、ほっ、エクササイズのっ、ダンスっ! アスカも、やるっ?」

アスカ「いい」

ミサト「ふぅ……」カチ

アスカ「なんでまた急に」

ミサト「青葉くんがアイドルのグラビア見てたんだけどさぁ、あたしもまだまだ負けてらんないかなって闘志がね」

アスカ「その発言がますますババくさい」

ミサト「アスカもねぇ、油断してるとほんとあっという間よ? 今は若いから肌も代謝もいいけど」

アスカ「あーそー」

ミサト「さて、エビちゅ、エビちゅっと」

アスカ「エクササイズした意味あんの? それ……」

ミサト「これはクスリなの! 明日への活力! 今日を頑張った自分へのご褒美!」

アスカ「めんどくさ。好きにしたら? 風呂はいるわよ」

ミサト「ちょっちまった。忘れるとこだった。アスカにも一応教えておくけど、シンジくんの一人暮らしなくなったわよん」

アスカ「えぇっ⁉︎」

ミサト「これで一安心かなぁ。さすがにあの歳でアパート暮らしのたった十万支給はねぇ……」

アスカ「いつ⁉︎ いつここに帰ってくんの⁉︎」

ミサト「っと、おんやぁ〜? シンちゃんが恋しいのぉ〜ん?」

アスカ「あれ見ても同じセリフ吐ける?」チラ

ミサト「な、なぁ〜る。けっこーたまってるわね。キッチンの洗い物」

アスカ「それだけじゃないわよ! 洗濯物も! あぁんもう、ミサトがコインランドリー行かないからじゃなぁい!」

ミサト「そ、そりは……。忙しくて」

アスカ「無駄な努力をやってたやつが言う⁉︎」

ミサト「む、むだってぇ。あたしだってイケるって」

アスカ「衣・食・住! これ生活のキホン! 三大要素!」

ミサト「めんぼくない」シュン

アスカ「で? シンジはいつ帰ってくるの?」

ミサト「それがぁ、その……」

アスカ「嫌な予感がする。なんで言いづらそうにしてんのよ」

ミサト「さぁ〜すがアスカ! もう、勘がいいんだからぁ〜ん」カシュ

アスカ「……ここには、帰ってこない?」

ミサト「んくんくんくっ、ぷはぁ〜〜っ! はい! 帰りません!」

アスカ「なんとかしなさいよっ!!」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 13:19:57.36 ID:Ch61ICrmo
更新頻度上がってうれしい
293 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/27(日) 17:02:04.02 ID:dg9h+A5m0
【翌日 早朝 マナ宅】

マナ「はぁ〜い?」ガチャ

加持「ちょうど近くを通りかかったもんでね、これから学校だろ?」

マナ「誰かと思ったら、加持監査官でしたか」

加持「不用心にドアを開けてよかったのか? 相手が誰か見当がついていなかったんだろ」

マナ「いいんです、そこまで息を潜めなくて。私は、私らしさを忘れたくない。上がっていきますか?」

加持「そのつもりで寄らせてもらったんだ。……ああ、用意しながらでかまわない。昨日一日の様子を聞いておこうと思ってな、失礼するよ」

マナ「はい、どうぞ。適当に座ってください」

加持「――それで、シンジくんたちの印象をどう見る?」

マナ「まだ初日を終えたばかりですよ? そう早々と結論はだせません」

加持「現時点でキミが受けている見解を聞いているのさ。これからやりとりを重ねるにつれて情報は増えるだろうが、とりあえずのね」

マナ「普通の子じゃないですか?」シュル パサ

加持「それだけかい?」

マナ「はい。戦自にも昨夜、定時連絡の折にそう報告しています」

加持「ふっ、それだけじゃ頭のお堅い連中は納得しなかったろう?」

マナ「頑張りますって言っても……相手にされませんでした。意思表明は必要ないって」

加持「だろうね。マナちゃんの経歴書に目を通させてもらったよ。この、度々でてくるムサシとケイタというのは友達かい?」

マナ「幼馴染です。私たち、物心ついた時から、辛い時も楽しい時も同じ環境で過ごしてきました」

加持「戦自に入隊しようとした動機を聞いても?」

マナ「最初は……志願した理由ってほんとにささいなきっかけで。なんだと思います?」

加持「さてね」

マナ「お腹いっぱいご飯を食べられる。それだけだったんです」

加持「……」

マナ「私は、ムサシとケイタと笑って毎日が過ごせるなら満足でした。でも、入隊してから数ヶ月がたったある日、二人の様子がだんだんと変わっていったんです」ギュゥ

加持「国のためという大義名分。団体生活の中で洗脳されていったのか」

マナ「二人ともなにも見えてないんです! 私たちは兵士で、使い捨てのただの駒扱いだって!」

加持「間違っちゃいない。国はそういう目的で人材をかき集めているからな」

マナ「こわくなりました。二人が、もしかしたら……ううん、このままだと間違いなく、死んじゃうって」

加持「なるほど。それで、この任務で白羽の矢が当たった時、キミは飛びついたわけか」

マナ「これしかないんだもん。救うためには」

加持「……」

マナ「戦自の上官は私に約束してくれました。必要な情報を引き出し、結果を示せば、三人とも前線から遠い情報作戦室に配置してくれるって」

加持「(ウソだろうな)」

マナ「だから、それを信じて私は、やります」

加持「事情は把握した。俺からこの道の先輩としてひとつアドバイスをしよう」

マナ「……?」

加持「自分を守れるのは、自分だけだ。退路は常に用意しておけ」

マナ「簡単に言わないでくださいよ」

加持「頭の片隅に入れておくだけでも違うもんさ。良心の呵責でまわりを利用するのに躊躇しちゃいけない、一瞬の判断の遅れが生死を分ける」

マナ「……」

加持「例えば、シンジくんに辛い思いをさせてまで利用することになってもね」

マナ「私は、そのつもりです。ターゲットなんですから」

加持「そうは言っても一線をなかなか踏み越えられないものさ。ま、どう行動するかはマナちゃん次第だけどな」
294 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 17:35:29.40 ID:dg9h+A5m0
【第三新東京市立第壱中学校 HR前】

シンジ「おはよう」ガララ

アスカ「あ、シン――」

マナ「シンジくん! おはよう!」タタタッ

アスカ「っと」

シンジ「マナ、おはよう」

マナ「あの、端末がまだ来てないんだ。明日には届くらしいんだけど。だから、今日も……」

シンジ「ああ、うん。大丈夫だよ」

ヒカリ「これで日直の仕事終わりっと。……? アスカ、手あげたまま固まってなにしてるの?」

アスカ「えっ⁉︎ あ……え〜と、それはその〜、あ、あ〜コンタクトズレちゃったぁ〜」

ヒカリ「へ? アスカ、コンタクトしてたの?」

アスカ「してないけど」

ヒカリ「は、はぁ……」

マナ「あのね、今日は、あとで綾波さんに紹介してほしいな。シンジくんが暇な時でかまわないから」

シンジ「わかった。昼休みでいい?」

マナ「うん、ごめんね? なんだか、いろいろ迷惑、だよね……?」

シンジ「そんな。気にしなくていいよ、マナはまだ二日目だし」

マナ「ありがとうっ! 嬉しいっ!」ハグ

シンジ「わわっ⁉︎」

男子生徒A「だ、抱きついたっ⁉︎」

男子生徒B「なんてうらやま、けしからんやつぅ!」

女子生徒A「なぁ〜にあれ。見せつけちゃってさぁ」

ヒカリ「わぁ……大胆だね、マナって」

アスカ「ヒカリ、席につくわよ」

ヒカリ「いいの? アスカ」

アスカ「なにが?」

ヒカリ「う、うーん? いいなら、いいけど」

シンジ「その、みんなこっち見てるから、離れて」

マナ「あっ! ご、ごめんなさい! つい嬉しくってはしゃいじゃった、えへへ」

シンジ「素直なんだね、マナは」

マナ「そう? 前の学校ではそう言われることあったかも」

シンジ「そうなんだ? 前はどこに住んでたの?」

マナ「ここよりずっと田舎の方。のどかで、私は嫌いじゃなかった」

シンジ「……さみしいの?」

マナ「昨日も、思い出して泣いちゃった。まだきたばっかりだからかな。ちょっと、ホームシック」

シンジ「あ……」

マナ「でも、アスカやヒカリみたいな新しいクラスメートができて嬉しい。それに、その……シンジくん、優しいし……隣でよかった」ポッ

シンジ「いや、まぁ、その」

アスカ「ちっ」

ヒカリ「……」
295 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 17:59:44.40 ID:dg9h+A5m0
アスカ「あたし思うんだけどさぁ、パイロットて常日ごろから危機意識もたないといけないんじゃないかしら?」

ヒカリ「はじめて聞いた」

アスカ「だらしなく! デレデレと! するのはどうかと思わない? 私たち使命があるんだから」

ヒカリ「そうだね?」

アスカ「マナもマナよねぇ。昨日せっかく注意してあげたのに、上っ面に騙されちゃだめだって」

ヒカリ「う、うん」

アスカ「委員長、注意しなくていいの?」

ヒカリ「へ? なんで?」

アスカ「風紀の乱れは校則の乱れでしょ!」

ヒカリ「でも、あれぐらいいいんじゃない?」

アスカ「ぐぬぬ……」

ヒカリ「アスカ、もう少し、素直になりなよ。アスカだって、とってもかわいいのに」

アスカ「はぁ、なにについて? まるで私がシンジに素直じゃないみたいじゃない。私は、あくまでも――」

マナ「あの、今度、お礼がしたいな。一緒にどこか遊びにいかない?」

アスカ「ちょ、ちょっと」

ヒカリ「わあ、大胆プラス積極的」

シンジ「そこまでしてもらっちゃ悪いよ。僕はできることしかしてないから」

ヒカリ「断るのかな」

アスカ「とーぜん!」

マナ「全然! 気にしないで? むしろ、私が申し訳なくて……」

シンジ「うぅん」

アスカ「なに悩んでんのよバカシンジ! 男らしくきっぱり断りなさいよ!」

ヒカリ「ちょっと待ってて」ガタ

アスカ「……?」

マナ「や、やっぱり、迷惑だよ、ね?」

シンジ「そういうわけじゃ」

ヒカリ「碇くん、マナ、おはよう」

マナ「ヒカリ。おはよう」

シンジ「おはよう」

ヒカリ「どこかに遊びにいくの?」

マナ「え? 聞いてた?」

ヒカリ「ごめんね。ちょっと聞こえちゃって」

シンジ「いや、僕は」

ヒカリ「アスカと鈴原たちも誘ってみんなでプールに行かない?」

マナ「わぁ、いいね! そうしようよ!」

ヒカリ「うん、よかった。アスカぁー! ちょっとこっちきて!」

アスカ「……」ぶっすぅ

ヒカリ「みんなで遊びにいかないかって! もちろん行くよね?」

シンジ「女の子同士で行ってきな――」

ケンスケ「そりゃないんじゃないか碇ぃ〜! なんだぁ? 友達におすそ分けしないってのかぁ?」

シンジ「ケンスケ、おはよう。おすそ分けってなにを?」

ケンスケ「プライベートの水着姿なんて高く売れるに決まってるだろ!」こそ

シンジ「ああ……」
296 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 22:44:24.63 ID:dg9h+A5m0
【同学校 昼休み】

シンジ「綾波」

レイ「……? 碇くん?」

マナ「こんにちは。話するのはじめてだね、えへへ」

シンジ「転校生の霧島マナさん。こっちが綾波。エヴァのパイロットだよ」

レイ「……」ジー

マナ「よろしく。よければ、友達になってもらえないかな?」スッ

シンジ「……」

レイ「私が? あなたと?」

マナ「え? ……うん」

レイ「なぜ?」

マナ「え、えっと」

レイ「命令があれば、そうするわ」

マナ「命令って……あの、碇くん」

シンジ「綾波は誰に対してもこうだから。こういう子なんだよ」

マナ「碇くんにも?」

シンジ「僕だって例外じゃない。最近は、少し喋るようになったけど。それに、いきなり仲良くできなくても仕方ないじゃないか」

マナ「(碇くん、綾波さんとアスカで接し方が違うのね。この違いは……? 個性の違い? なにか、ひっかかるような……)」

シンジ「どうしたの? 考えごと?」

マナ「う、うぅん。私、反省してたの。そうよね、いきなり仲良くなってなんて無理よね」

シンジ「よかった、綾波のこと嫌いにならないでくれて。少し、時間がかかるかもしれないけど、僕がいない時も話かけたらいいんじゃないかな」

レイ「碇くん」

シンジ「うん?」

レイ「報告したい件がある。この前の話」

マナ「(……なんだろう、もしかして、情報……?)」

シンジ「わかった。ここじゃなんだから、屋上に行こうか」

レイ「ええ」

シンジ「マナ。僕たちは少し席をはずすね」

マナ「うん……」
297 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 22:46:11.75 ID:dg9h+A5m0
名称が碇くんになってしまってるミスあるんで訂正レスします
298 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 22:47:16.87 ID:dg9h+A5m0
【同学校 昼休み】

シンジ「綾波」

レイ「……? 碇くん?」

マナ「こんにちは。話するのはじめてだね、えへへ」

シンジ「転校生の霧島マナさん。こっちが綾波。エヴァのパイロットだよ」

レイ「……」ジー

マナ「よろしく。よければ、友達になってもらえないかな?」スッ

シンジ「……」

レイ「私が? あなたと?」

マナ「え? ……うん」

レイ「なぜ?」

マナ「え、えっと」

レイ「命令があれば、そうするわ」

マナ「命令って……あの、シンジくん」

シンジ「綾波は誰に対してもこうだから。こういう子なんだよ」

マナ「シンジくんにも?」

シンジ「僕だって例外じゃない。最近は、少し喋るようになったけど。それに、いきなり仲良くできなくても仕方ないじゃないか」

マナ「(シンジくん、綾波さんとアスカで接し方が違うのね。この違いは……? 個性の違い? なにか、ひっかかるような……)」

シンジ「どうしたの? 考えごと?」

マナ「う、うぅん。私、反省してたの。そうよね、いきなり仲良くなってなんて無理よね」

シンジ「よかった、綾波のこと嫌いにならないでくれて。少し、時間がかかるかもしれないけど、僕がいない時も話かけたらいいんじゃないかな」

レイ「碇くん」

シンジ「うん?」

レイ「報告したい件がある。この前の話」

マナ「(……なんだろう、もしかして、情報……?)」

シンジ「わかった。ここじゃなんだから、屋上に行こうか」

レイ「ええ」

シンジ「マナ。僕たちは少し席をはずすね」

マナ「うん……」
299 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 23:11:10.20 ID:dg9h+A5m0
【同学校 屋上】

レイ「手の具合、どう?」

マナ「……」ソォー

シンジ「問題ないよ。アダムがいる違和感はあるけど」

レイ「同化は……――」

マナ「(ここからじゃよく聞こえない……)」ススッ

シンジ「昨日、部屋で包帯をとってみたんだ。確認したら体内にとりこめるんだね」

レイ「碇くんの一部になればなるほど、外見上は普通になっていく」

シンジ「神経を集中していないと思うように目立たせなくできないから、まだ包帯は必要だけど」

レイ「そう」

シンジ「母さんはここまで知っていて僕に移植したのかな」

レイ「ええ」

シンジ「そう、だよね。怪我はいつか治るし、このままの状態じゃ隠せるわけないんだ」

レイ「赤木博士のデータベースにアクセスした」

シンジ「どうだった?」

レイ「権限はレベルEEE。リリスがいるフロアのヘブンズドアと同じ」

マナ「(シンジくんの手になにが……? リリスって……?)」

シンジ「やっぱり、調べるのは難しそう?」

レイ「……」コクリ

シンジ「どうしようかな……。リツコさんに頼むわけにも……」

レイ「電子制御は、アダムの力を使えばできなくもない」

シンジ「え?」

レイ「衝動は平気?」

シンジ「昨日の夜中に少し。アダムからの干渉なの?」

レイ「たぶん」

シンジ「壊したいって思った。なにか、なんでもいいから。積み木や砂場の山をこわすように」

レイ「凶暴性を抑えきれなくなったら言って。協力する」

シンジ「わかった。……ありがとう。さっき、僕の同化が進めば、電子制御できるって言ったよね? それってアクセス権限に関係なく、できる?」

レイ「可能になる。アダムの持つ力は、強い電磁波を発生させるから」

シンジ「……」

マナ「(なに……? なんの話……?)」

シンジ「試してみるよ」
300 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 23:31:36.76 ID:dg9h+A5m0
レイ「……」

シンジ「アダム、最初の人間にして、始祖たる存在の一人。使徒、天使の名を持つ使者。……そして、綾波。今なら、母さんが言っていた真実を信じられる」スタスタ

レイ「……」

シンジ「ここから見える景色。街に来た最初の頃は、嫌で嫌でしかたなかったのに。不思議だね、今はそれすら遠い過去に思えるんだ」

レイ「不変なものは存在しないわ」

シンジ「そうかな。僕はそう思わない。取り巻く環境、父さん……はいなくなってしまったけど、かわらないものがあるんじゃないかな」

レイ「……?」

シンジ「綾波は変わった?」

レイ「私?」

シンジ「うん。ネルフで父さんや色んな人と接して、時間を過ごして変わったと思う?」

レイ「わからない」

シンジ「不変なものは存在しないってリツコさんが言ってたの?」

レイ「……」フルフル

シンジ「じゃあ、父さんかな」

レイ「……」コクリ

シンジ「やっぱり、そうなんだね。綾波がちょっとだけ、羨ましい」

レイ「なぜ?」

シンジ「父さんのそばにいられたから」

レイ「……」

シンジ「もっと色々教えてほしかったんだ。ただ、それだけ。でも、こうなってしまった。空、見てみてよ」

レイ「……」スッ

シンジ「雲が流れてる。なにが起こっても、僕たちはちっぽけな人間なんだね」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 02:23:24.19 ID:HEcdXEVNo
(ここで猿岩石)
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 00:38:30.74 ID:m0bnnDrNo
まだかな
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