ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:22:31.26 ID:8mU1puuW0





                         __、
  /ヽ   /ヽ          ( ̄ ̄   ノ           /ヽ
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( <  , -、 | |〈  ノ , -、      l l<〉,へ-、 ヘ_  /ヽ- 、 (_  ,-‐' 〈_,ノ ,-―'フ  ,へ-、
 > 〉l 0 j | し' l l 0 j     ノ |  `l γ / ,-、ヽ l r'7| | |   _  i くフノ  `l γ
// ー、ゝ ー-; l  ー、ゝ    ー   く_ゝ 、 ー' ノ |_ノ〈__|  |_ノ  l´ | ヽニ=-  く_ゝ
         l/                  ̄            ー'





[注意書き]


※一部のサガフロ 没ネタ

※クレイジー・ヒューズネタ があります

※オリジナル解釈と原作中に無い展開もあるのでご注意ください



※クレイジー・ヒューズ程じゃないけどキャラ崩壊もございます

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:23:19.19 ID:8mU1puuW0





           ※ - 序幕 - ※



  prologue<プロローグ> 〜 7歳の修士、忘れ去った思い出 〜







3 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:23:46.31 ID:8mU1puuW0




 その日は、一際暑い一日だった


 降り注ぐ猛暑が石畳を熱し、雑踏を奏でる靴底にさえ悲鳴をあげさせるのではないかと心配する程だった
額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…


心なしか、夏の風物詩たちの鳴き声すら力無いように感じられる






その子供は修士のローブを身に纏い、そんな光景をぼんやりと眺めていた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯に噴水広場で座り込み
虫取り網や空っぽの虫籠をぶら下げた同世代くらいの少年たちが走り回る姿をただ、ただ見ていただけだった



「…どうしよっかなぁ」パタパタ



齢7歳、行き交う人々を眺めながら―――――彼は考えなしに飛び出したことをちょっぴりだけ後悔していた

歳相応に脚をばたつかせる、2本の脚が左右交互に宙を掻き分け、その度の影も動く


長く伸びた癖の無い銀髪、風に靡くキラキラとしたソレは噴水の水面に煌めく陽光の輝きにも勝るとも劣らない



「帰ったら、きっと先生達にまたお仕置きされるだろうなぁ…」



眼を細めて空を仰ぐように見つめる、眼界にはどこまでも蒼い空があり、その蒼さに吸い込まれていきそうな気さえした
 着の身着のままで森の奥の奥、誰に見つかることも無いであろう施設から大人の監視を掻い潜ってでも観たかった外


書物の上のインクでしか知り得なかった事柄や挿絵の中だけの情景、触れることができるのか、っと淡い期待を胸に
飛び出して来たが世の中というのはそこまで甘くなく

結局の所、知りたいと思った世界の1/10にすら満たなかった




…いや、1/10だから実りは有った、0じゃないのだから、有ったのだ








「…んんっ?」





彼はそれを見つけた


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった




4 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:24:17.66 ID:8mU1puuW0


 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人


猛暑日を肴に冷酒を嗜む、そんな夏の風物詩を満喫する通行人の顔が目に入る






その子供は修士のローブを身に纏い、木の根元に腰かけ書物を読んでいた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯にポプラ並木の木陰で捗らない読書にため息を吐いた
どうしても学院に居たくなかった、だから外へ飛び出したが失敗だったか、っとうんざりしていた



「……よくもまぁ駆けずり回れるものだ」



齢7歳、時折手にした書物から視線を外し―――――彼は何も考えずに溌剌と動き回る同世代に聴こえぬ言葉を放つ

歳の割りに大人びて見える彼は、そんな口調とは裏腹に羨望の眼差しを向けていた


束ね上げた長く艶やかな金髪は肩から流れるようで、丈夫な寿樹を背もたれにしていた彼の白い肌は雪のように美しい



「…我ながら馬鹿な事をした、抜け出せば帰った後がどうなるかわかるだろうに」



眼を細めて考えたくも無い事柄から逃避を図るように紙の上の文章へ眼を向ける
 この国一番の荘厳な創りの学院から、愛読書という名の教科書片手に窓から飛び出した


すこしだけ外の世界には興味があった、それが彼の知的好奇心を刺激する事もさることながら
気に入らない教師に教鞭を振るわれるのを嫌っていたという事も手助けしたのだ

何でも良い、何だって良いから適当な理由をこじ付けて逃げ出したかったのかもしれない




…我ながら馬鹿な事をした、と後々後悔すると分かっていてもせずにいられない若気のなんとやらだ








「……なんだ?」





彼はそれと目が逢った


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった




5 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:24:54.78 ID:8mU1puuW0



「ねぇキミ、僕と一緒に遊ぼうよ」

「お前と遊ぶ理由が無い、去れ」




初対面の少年に彼は手を差し伸べ声を掛けました

初対面の少年に彼はそれだけ言い放つと再び本に視線を戻しました




「えー、なんでさー」

「なら答えてみろ、俺がお前と遊ぶ理由があるか、言ってみろ」



少年は初対面の彼に問答を投げました

少年は初対面の彼からの謎かけの答えを探しました




「理由?そんなの簡単さ」

「簡単なモノか、嘘をつくな」



少年は初対面の彼に対して朗らかに笑いかけました

少年は初対面の彼に対してムッと頬を膨らませ怒りました










           「だって、キミはさっきから友達と遊んでる子をじーっと見てたもの」





少年は回答を口にしました

少年は回答を耳にしました




「どうかな?」

「…」



彼は口を開きました

彼は口を開けなくなりました





ずばり、彼の心の内を言い当てたのです、正解でした

ずばり、彼は言い当てられたのでした、驚きました

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:25:20.29 ID:8mU1puuW0

「本当は誰かと遊びたいと思ってるよね、でもお友だちがいないから一人で本を読んでる」

「仮にそうだとしたらなんだ、それとお前と俺が遊ぶ理由に繋がらないぞ」








首を振り、本の文面から視線をあげて銀髪の少年を見つめる

金色の糸がはらり、と肩から零れ落ちる




何処に行く宛ても無く、知り合いも居らず、頼れる者もなく、無計画に飛び出した

何をすれば好き事かもわからず結局のところいつもの書物を読み漁る"フリ"をするしかない




ただ、ただ…羨望の念に駆られて他者を見ているしかないだけの、そんな自分を








目の前の少年はそんな彼を言い当てたのだ




出会って間もない、名前も知らない彼に自分の立場を言い当てられた








「あるよ、僕も同じだから」

「なんだと」







「僕もお友だちがいないから、ぼんやり見てるだけしかできないから
                だから、僕とお友だちになってほしい、僕と遊ぼうよ」







「つまり、"お前とお友だちになればひとりで本を読む理由が無くなる"と」


「うん、僕もお友だちができて遊べるし、キミもじーっと見てるだけじゃなくて済むよ」



「それが"お前と遊ぶ理由"だというのか」


「そうだね、それが"キミと遊ぶ理由"になるね、ほらね簡単だったでしょ」


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:25:56.66 ID:8mU1puuW0

「面白い奴だな、いいだろう」

「ありがとう、キミも中々面白いと思うよ」





この時、しかめっ面しかしていなかった彼が初めて微笑みました、心からの微笑みでした

この時も、その前からもずーっと笑っていた彼は一層明るく笑いました、心からの喜びでした




同じ背丈、同じくらいの歳頃、両手を合わせてみれば鏡に触れたようにピッタリな手の大きさ





整った顔立ち、傍から見れば女の子に間違われてもおかしくない端麗さ
















           なにもかも "生き写し" のように そっくりな ふたり は 歩き出しました












 これは、15年後…此処、魔法大国の"リージョン"として名を馳せる[マジックキングダム]にて
運命の日を迎えであろう少年たち2人の忘却の彼方へ置き去りにされた思い出







      この運命的な接触から15年の歳月が流れる…


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―――
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8 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:28:20.05 ID:8mU1puuW0
【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






              ブルー「…行くか」






 艶やかな蜂蜜色の髪を束ね、藍色の術士の法衣に裾を通し、22歳になった彼は長年暮して来た寮の部屋を発つ
後に使うであろう者の為に整理整頓をしっかりとし、修士修了の日を迎えようとしていた



教員a「修士ブルーよ、ついてくるが良い」



 重々しい声色が扉越しに彼を呼んだ、名を呼ばれた彼はゆっくりと瞼を開き廊下で待ち構える教員の後に続く





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【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






           ルージュ「この部屋ともお別れか、なんだか寂しいなぁ」






 待っている間が暇なのか、するべきことない彼は癖の無い長く伸びた銀髪を弄っていた、朱色の術士の法衣に裾を通し
齢22歳の彼は椅子に座って脚をパタパタとさせていた
 時折欠伸をしたり腕を伸ばしたりと呑気に修士修了の日を迎えようとしていた



教員b「修士ルージュよ、ついてくるが良い」



 重々しい…が、何処となく哀しそうな声が彼を迎えに来た






コツッ…コツッ…




 教員b「…数年も前からお前には言っていたな、お前に双子の兄が居ること」


 ルージュ「はい、先生…えっと、僕と同じで兄も今日、学院を発つのですよね?」


 教員b「……そうだ、それと無理に敬語は使わんでもよい、いつものように話せ」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:35:24.31 ID:8mU1puuW0


教員b「お前の兄は我々"裏の学院"と違い、"表の学院"で育てられた…
     我らが"裏"は学院の外へ出る事は禁じられている
      もっともそのことはお前が一番わかっているだろうから私からはこれ以上何も言わん」


ルージュ「兄のブルーは外へ―――」



教員b「……表と裏は違う、向こうは"リージョン"を出ることさえしなければ街を自由に出歩ける」


教員b「だがお前の兄はお前の事を名前しか知らない、顔も性格も、何もかもだ、お前と同じで、な」


それ以降だんまりを決め込む教師を見て、ルージュは肩を竦めそのまま歩く、これ以上は訊くだけ無駄なのだろうと




教員b「…」


教員b「これは独り言だ」


ルージュ「?」



教員b「私含め、一部を除いた殆どの者がお前を我が子のように想っている、よく立派に育った」

教員b「だから送り出すのが辛いのだ」




ルージュは"独り言"を聴いていた、此方から何かを口出しするでもなくただ聴くだけだった




教員b「修士修了式でお前は晴れてこの国の術士の1人となる、そして、何をすべきか勅令を授かる、それだけだ」




自分よりも一歩先を進む年上の人物は表情を窺えない、だが、その声だけはこれまでの"独り言"で一番哀しみに溢れていた




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【旅立ちの日 時刻 12時15分】

【BGM:ブルー編OP】
https://www.youtube.com/watch?v=bG-O7U2WWig&index=3&list=PL33021FE67F7DCC92


                『修士修了式 開会!』

            『終了者の氏名発表を主任教授から行います』




長い廊下を渡り、荘厳な大扉は開かれる、高い天井には天国に住まう住人たる天使たちが描かれていた
 そんな室内全域に響き渡るように開会式の発表は執り行われた


  『教授会による厳正な成績審査の結果、全会一致により今期の修士修了者を…』

           『修士ブルーに決定致しました』



            『 修士ブルー! 前へ! 』


ブルーは寡黙に、いや…普段冷静な彼でさえもこの時ばかりは緊張したかもしれない
 それだけ強張って見えたのだ、彼とて人の子だ

この優等生は"いつも以上に背筋を伸ばして"入室した
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:36:05.41 ID:8mU1puuW0

髭を蓄えた学会のお偉方は口元を綻ばせ拍手喝采で蒼の術士を歓迎する



      『ブルーよ…汝をマジックキングダムの術士に列する』

     『術士としての義務を果たし、キングダムへの忠誠を全うせよ』





 ブルーは表情にこそ出さないように努めていたが内心、打ち震えていた



自分は王国の為に…我が祖国の伝統と誇りある術士の1人となれた、と

祖国の名誉とさらなる躍進の為の1人となったのだ、と



それは中世の貴族が一国の妃に跪き、剣を天に掲げ命を賭す誓いを捧げる気持ちと通じているのだろう
 さながら物語の主人公か何かになったように義務と責任を背負うことに打ち震えた










     『慣例に従い、キングダムを離れ…リージョン界への外遊を許可する!』






"リージョン"界



この世界には混沌と呼ばれる漆黒の海がある、それは喩えるならば宇宙空間のようなモノで
 その真っ暗闇の空間に無数の"リージョン"と呼ばれる小さな世界がある





"混沌"を宇宙空間と喩えるのなら

"リージョン"はさながら暗黒の海に浮かぶ小惑星<べつせかい>である



機械技術が発達し、人工知能を搭載したロボットやサイボーグが生きる異世界が存在し

サムライ、忍者と呼ばれる風変わりな戦士が生まれ育った別世界もあり

ドラゴンやスライム、各種多様なモンスター種族が平和に暮らす小惑星も実在し

そして、此処…[マジックキングダム]の様に魔法大国として名を馳せるリージョンがあるのだ







このご時世、船<リージョン・シップ>に乗り、宇宙旅行…もといリージョン旅行なんてさして珍しくもなんともない

 されどもこの主任教授の御言葉を聴いて分かる通り、原則として[マジックキングダム]の住人は
船に乗り、他所の異世界へ気軽に旅行へ行くことは禁じられているのだ


外からの観光客は来るのに、内から余所へは許可なく行けない…この時勢にしては珍しく閉鎖的な部類の国家だ


11 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:38:11.53 ID:8mU1puuW0



   『修了者の第一の務めはリージョン界を巡り、術の資質を身に付けより高度な術を鍛錬することである』





資質、…焚火を起こそうと思えばそこには火種となるモノが必要となる、火種があって、燃えるモノがあり
初めてそこに大火を立ち昇らせる事ができる


資質を持つものは鍛錬を積むことで基本術以外の術、…即ち高位の術を操れるようになる
 それゆえに術士を志す者は喉から手が出る程に欲しいモノだ





 さて、22歳の若者に下された勅命は此処までを簡単に訳せば

国外へ旅立ち、術の資質を身に着けて最強の魔術師になって来い、簡単に訳せばそれだけだ




そう、これだけで終わる話ならば







              『……そのためには"あらゆる手段を用いてよい"』











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兄のブルーは幼少の頃よりそう学んだ、そしてそれは双子の弟であるルージュも同じである


目的達成の為ならば"あらゆる手段"を使う事も厭わないように、と


あらゆる手段…つまり人道に反する行いであっても、それを許可するというのだ






         ルージュ「あらゆる手段を…」ゴクッ







時を同じくして、全く同じ内容を聞かされていたルージュの顔は険しいものへと変わる

 彼もまたブルーと同じことを学びはした、しかし彼は"お利口さん"ではなかった



世の中の大半の人間は利益の為と他者を蹴落とし、時には何かしらの見返りを求めて動く、効率的な賢い生き方



生憎と、彼はその生まれつきの性格ゆえに他者を蹴落とす事よりも手を取り起き上がらせることをするのだ

何の見返りも無く、ただただ純粋な善意で他者に手を差し伸べる、全く以って非効率的なやり方

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12 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:39:18.83 ID:8mU1puuW0



                   『異例の事だが出発前に校長からのお言葉がある』





"裏の学院"でルージュがそれを聞き、ハッと我に戻ったころ

"表の学院"でブルーは、天を見上げ校長の言葉に意識を傾ける







                    - ブルー、貴方は選ばれし者です -


                      - 双子ゆえに魔力が強い -

                     - しかし、双子のままでは -

                   - 術士として完成することはありません -

                 - 貴方はその運命に従わなくてはなりません -



                       - 今日、別な場所で -

                    - 貴方の双子の片割れのルージュも -

                    - 同じように終了の日を迎えています -



                   - キングダムには不完全な術士よりも -

                    - 完璧な一人の術士を求めています -

                   - それは貴方だと信じてますよ、ブルー -









             - 行きなさい 資質を身につけ 術を高め そして――――  -













                双子の術士は同じ時間、同じタイミングで御言葉を耳にした



13 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/07/07(金) 19:42:24.05 ID:8mU1puuW0








                   ル ー ジ ュ を 殺 せ !




14 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/07/07(金) 19:42:53.23 ID:8mU1puuW0







                    ブ ル ー を 殺 せ !




15 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:49:02.49 ID:8mU1puuW0


魔術師を育成する学院の校長にしてこの国を治める者…

              …御国の最高権力者からの勅令、それは…







[双子の兄弟同士で殺し合え]という命令だった、22年間、彼等は生まれた時には既に施設に居た



一度たりとも出逢ったことの無い、双子の片割れ


名前しか知らない、赤の他人と変わりない相手



だけど、双子の兄弟


















      - 片方を殺して、自分こそが優れた魔術師であると、最強の証明をしてみせよ -














この物語は…

15年ほど前に、実は禁を犯して学院の脱走を試みた弟と兄が出会っていたという在りもしない物語




ただ、お互いに忘れてしまった

ただ、お互いが生き別れの家族だと知らない



たったそれだけの話




かくして、今日この瞬間、この言葉を合図に殺し合いは始まった



           - 国の威信を背負い、決闘に打ち勝ち生きる為に兄は旅立ち -


      - 兄弟殺しに躊躇いを感じながらも、国家反逆罪を恐れ戦う道を取るしかない弟 -

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:53:09.97 ID:8mU1puuW0






           ※ - 第1章 - ※



        〜 ファースト・コンタクト 〜






17 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:58:08.12 ID:8mU1puuW0


 ルージュの足取りは酷く重かった


彼は先述の通り、"御人好し"と評されるタイプの人種だ

 温和でそして子供っぽさの残る純真さ、そんな彼に出逢った事が無いとはいえ(実際には会ってるが)
双子の兄を殺せと命を下されたのだ

 国家の最高権力者から直々の勅令、王国の意向に背く事となればどのような理由であれ
それは"国家への反逆"を意味する


平和なリージョンとして有名なこの王国に限った話ではないが国の"暗部"というのどこもそうだ
裏では人に言えない事が平然と行われるものだ


自分を迎えに来た教師の辛そうな声色、今ならあの意図も理解できる…


まだ見ぬ兄は殺し合いをどう思っているのか?生き延びる為にルージュを本気で殺すつもりなのか…




ルージュ「…ブルーを殺せ、か」トボトボ




出発前に教授等からいくらかの支給品を渡される

[バックパック]にいくらか詰め込まれた傷薬に精霊石、そして―――




ルージュ「…わわっ、1000クレジット」ジャラッ



教員c「国からの援助資金だ、最初の1ヶ月はそれでどうにかなるだろう
     その先は自給自足となる学院でサバイバルの心得は一通り学んだバズだ」


ルージュ「…1ヶ月かぁ」ジャラッ


教員c「それとこれも渡しておく」スッ



ルージュ「! この宝石は…」


白い手袋をはめた掌の上に輝く蒼い結晶…それは彼も見た事があった、魔術を学んできた彼にとって
それはある術を使う為にどうしても必要なアイテム


教員c「[リージョン移動]、知っての通りお前たちがそう呼んでいる<ゲート>の術を使う為の媒介だ」

教員c「これが無ければ一度行った事のあるリージョンへの瞬間移動も侭ならない、失くしても再発行はしない、良いな」


ルージュ「…はい」


銀髪の好青年は教員から重要なソレを受け取った、その直後だった
 昔から勘の良い彼が全身総毛立つような嫌な感触を覚えたのは



ルージュ「うっ…!?」

教員c「?…どうした」



ルージュ「…質問ですが、僕がこの旅で一度も<ゲート>を…ひいてはこのアイテムを使わないのは構いませんね?」


その質問に眉を顰めたが、別に構わないと答え聴き、ルージュはありがとう、と軽く会釈した
 この蒼い宝石から得体の知れぬ何かを感じた、願わくば資質集めの旅の最中で何処かに捨てても良いとすら思う程に
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:59:52.71 ID:8mU1puuW0
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ブルー「資質集めの旅か、証明してみせる…!」グッ



ルージュがシップ発着場へと歩き始めた頃、紅い宝石を強く握りしめ、彼は強く念じる






ブルー(祖国は不完全な1人の術士よりも完璧な術士を求めている)

ブルー(資質を集めろ?双子の片割れを殺せ?)




ブルー(俺こそが優れていると証明してやる、全ては国の為に!)






ブルー(そして…俺自身が生きる為に
      会った事も無い赤の他人同然の奴にみすみす殺されてなるものか!)




闘争心、互いの命を懸けた競い

優れているのは自分の方だと言ってくれた上層部への期待に応えるべくブルーは真っすぐに
自分が華やかに勝利という凱旋を通り、忠誠心を示すことに燃えていた

そして、同時に死にたくない、まだ生きて色んな世界を見たい


小さな望みもあった


だから尚更に負けられなかった、死ねばそこで終わる、どんな生物だってそうだから…







ブルーは意識を集中させる、頭の中に自分にとって連想しやすいモノを…"青"を


海…深海の奥底に居るイメージを思い起こす、そして空想の海にピラミッド状の抽象的な像を浮かべる


無数の三角形が姿形を変える、その"世界"を…その"リージョン"を象徴するヴィジョンへと変換するッ!








 ブルー「…さらば、故郷よ…必ずここに戻るその時までは…っ!」




ルージュ「バイバイ、マジックキングダム…必ず帰って来るからねっ!」







2人はそれぞれ行くべき世界を…進むべき小惑星<リージョン>目掛けて旅立った!
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:00:48.12 ID:8mU1puuW0
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                 ブルー「<ゲート>! …[ドゥヴァン]へ!!」シュンッッ!!




                 ルージュ「[ルミナス]行きのシップに乗せてください!」




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20 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:02:42.87 ID:8mU1puuW0


―――
――



【双子が旅立ってから…初日、18時27分】




「ピンポンパンポーン♪ Attention, please! Attention, please! お客様!
  本日は当機をご利用いただき誠にありがとうございます、[マジックキングダム]発、[ルミナス]便は間もなく
 [ルミナス]に着陸致します…機体が揺れますので、しっかりとお席についてシートベルトを着用お願い致します」






 キィィィィン…!  プシュゥゥゥゥ…






       ガヤガヤ…!



「着いたなー!ルミナス!此処で精神の修行かぁー!」
「ねぇ!陽術と陰術どっちにする?やっぱり光を操る術よね?恰好良いし!」
「ばっかだなー!恰好良いってったら影操る魔法だろぉ!!」



シップの着陸と同時に観光客や修行目的の客がなだれ込むように降りて来る、その中にも当然ルージュは居た





ルージュ「…すっげぇぇ!ルミナスに着いちゃったよ…術を使ってないのに!」キラキラ…!





マジックキングダムは機械科学に疎い、そして外遊を一部の者以外は許されない

つまり、まるで田舎から都会にやって来て大はしゃぎの子供よろしくと彼は浮かれていた


ゲートの術を使えば既に登録済みのこのリージョンへは一瞬で来られる、にも関わらず態々機械の船に乗って
混沌の海を越えて別の惑星に時間を掛けて来るなど非効率と言えよう




それでも彼は"アレ"を使うのが何故か気が引けたし、何より彼自身機械や外の世界の技術に興味があった



これがルージュと外界のファースト・コンタクトであった




「ねぇ?さっきの人なんだったんだろう?ほら?[オーンブル」の前に居た」ヒソヒソ
「ああ、随分前から此処に張り込みしてるパトロールさんだよ、なんでもリージョン強盗団を追ってるとか」ヒソヒソ
「妖魔だよな、あれ…俺、人間<ヒューマン>以外の種族見た事無くってさぁ」ヒソヒソ



ルージュ「…とりあえず、どうしよう」キョロキョロ



此処へ来たのは光の力を司る陽術の資質、もしくは闇の力を操る陰術の資質を得る為である
光と闇は裏表、どちらか一つの資質しか得ることができないのだ
 しかも出発前に兄ブルーの得た資質を得る事ができないと耳にした、…早い者勝ちの競争だから考え所だ
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:04:06.91 ID:8mU1puuW0


ルージュ「う〜ん…」


発着場のラウンジの椅子に座り、悩む…


最終的には双子の兄と殺し合いをせねばならない、それを踏まえた上でどんな術を得るべきか
闘い方もある程度考えて置く必要がある








            緑髪の少女「……はぁ」トボトボ

            妖魔の女性「お辛いとは思いですが今はこれからを考え無くてはなりません」ギュッ



        緑髪の少女「…うん、そう…だよね、もうおばさんの家には帰れない、だからっていつまでも
                      くよくよする訳にいかないよね、いつも支えてくれてありがとう」ニコッ


            妖魔の女性「ふふっ、貴女様は笑顔でいらっしゃる方が素敵ですよ」






ルージュ「…」ポケー


ルージュ(…あの二人、珍しい人だなぁ…人間<ヒューマン>…じゃないよね?)




他のシップが次々と着陸し、ターミナルゲートはすぐに観光客の波でごった返し始めていた
そんな時、なんとなくぼんやりと眺めていた彼は2人組の女性が目に留まった



片方は紛れもなく妖魔だ

20代の女性で物腰が柔らかく、美しい女性
白いドレスに茶髪に着飾った花飾りがよく似合う女性が付き人を励ましていた


もう一人は10代半ばだろうか、緑髪の整った顔立ちでさっきまでがっくりと肩を落としていたが
付き添いの人に励ましの言葉を貰って笑顔を振りまく、その笑みは太陽のように眩しいものだった





ぐぅぅ〜




ルージュ「っと、見とれてる場合じゃないや、まだご飯食べてなかったんだよねぇ
                  降りたら食べようと、シップ内の売店でお弁当を――」スッ








ルージュ「…!?あ、あれ? 僕のスーツケースが無い!?」

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:05:30.74 ID:8mU1puuW0


スリ「へへっ!見るからに旅慣れてない観光客だぜ」つ【ルージュのスーツケース】

スリ「早速[クーロン]の闇市あたりで売っぱらって―――へっ?」ガシッ






緑髪の少女「おい!見ていたぞ、さっきあそこに居た銀髪の人から盗んだだろ、返せ!」



スリ「な、なんだよお前!連れか!?離しやがれ!」ググッ

緑髪の少女「違う!ただ…そういうのは放っておけないだけだ!」ググッ




ルージュ「ああーーっ!僕の荷物!」




スリ「げっ!?…クソったれ!」バッ! タッタッタ…!




緑髪の少女「ふぅ…はいっ!これ!あなたのでしょ?」つ【ルージュのスーツケース】

ルージュ「あ、ありがとう…!いやぁ、まさか気づかれない内に盗られてたなんて」


緑髪の少女「リージョン旅行は初めて?観光客を狙うスリが多いから発着場は油断しちゃダメだ」


ルージュ「あ、あはは…お恥ずかしい」



 紅の術士は気恥ずかしそうに顔を朱に染めて後ろ頭をかいた、盗人から手荷物を取り戻してくれた
緑髪の少女はそんな彼をおかしくおもったのかはにかむ様に微笑んだ、そして――







  アセルス「私はアセルス、少し訳あって行く宛ての無い旅をすることになったんだ…」




 自己紹介をしてくれた、どのような訳があるか知らないが、それを口にする時に少しだけ目を伏せ
陰りのある顔を見せた



  アセルス「それと、こっちは白薔薇、私に付き合ってくてる人なんだ」

   白薔薇「白薔薇と申します、以後お見知りおきを…」ペコリ



白薔薇…そう呼ばれた妖魔の女性はやはりというべきか育ちの良いお上品なお辞儀をしてくれた
 外界に出て早々に盗難被害に遭うというアンラッキーに見舞われたが、端麗な顔つきをしたボーイッシュな少女
そして麗しの貴婦人とお知り合いになれたのだ、彼の旅立ちは幸先の良いものなのかもしれない





  ルージュ「僕はキングダムの術士ルージュだ、術の修行の為に各地を廻ってるんだよ」




彼は荷物を取り戻してくれた二人の女性に簡単な自己紹介をした
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:07:39.80 ID:8mU1puuW0


アセルス「へぇ…術の修行の為にか…(1人人称が僕か、変わったお姉さんだなぁー)」


ルージュ「?」キョトン



 若干違和感を感じたが、気にせず「まぁ、各地を廻ってるっていっても今日旅立ったばかりだけどね」と付け加え
紅き術士はふと気になった事を尋ねてみた




ルージュ「君も術の資質を集めているのかい?」




 [ルミナス]を訪れる者は大抵、陽術か陰術の資質を求め旅に出た者だ
とすれば彼女達もそうなのだろうか?そう思い立ってルージュは質問してみたのだ


もしそうならば、此処で出会ったのも何かの縁、協力して集めないかと誘おうかと考えた

 資質、それは生半可な覚悟では得られぬ試練を越えねばならないのだ1人より大勢の方が良いに決まってるし
ルージュ自身が純粋に彼女に恩返しをしたいとも思っている



アセルス「えっ!?えぇ…と」チラッ

白薔薇「アセルス様の御心のままに」



アセルス「ルージュ、私達はさっきも言ったように訳があって宛てのない旅をしてるんだ
       此処に来たのも…その成り行きで…」

アセルス「…資質集めをしに来たとか、特に明確な理由はないんだ…ただ逃げて来ただけ、でさ」



ルージュ「ごめん、言いたくない事だったら言わなくて良いから」




 ばつの悪そうな顔で途切れ途切れの言葉を発するアセルスは
自分が置かれている状況をどう説明すべきか言葉を選んでいるようだった



"逃げて来た" その一言がこの女性二人が何者かに追われる身であるという事を意味していた



アセルス「気を遣わせすまない、女性の1人旅は大変だろうけど、キミも修行の旅を頑張ってくれ」




ルージュ「うん!ありが―――じょ、せ、い?」



アセルス「?」



白薔薇「…アセルス様、お耳を」ヒソヒソ

アセルス「どうしたんだ、白薔薇……ん?………!?えっ、は!?っ?お、男の人!?」ヒソヒソ






ルージュ(…ははは、そっかー、僕女の子と間違われたんだー)ズーン


…やっぱり幸先よくない旅路だったかもしれない、これが彼の外界とのファースト・コンタクトであった
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:08:53.90 ID:8mU1puuW0



アセルス「ご、ごめ…っ!あっ、いや、だって髪だってサラサラで綺麗だったし
               顔も女の子っぽくて可愛い感じでそのつまりそのアレでえーっと」ワテワテ



自分の失態に真っ赤に染まった顔で両手を振りながら思いつく限りのフォローを入れようとする少女


が、思いっ切りその効果は願うモノとは真逆な効果した出していない




ルージュ「素敵なフォローをありがとう…」ズーン




これ以上は更に気まずくなると判断し白薔薇が二人の間に割って入るように
「アセルス様、陽術の館へ術だけでも見に行きませんか?」と声を掛ける、その助け船に乗るように
「あ、あーそうだった!資質はともかく白薔薇みたいに<スターライトヒール>くらい使いたかったからねー」と
抑揚の無い声でそそくさと逃げていく



アセルス「ま、またね!ルージュ!縁があったら何処かで逢いましょう!」




そういって発着場のセントラルゲートから[ルミナス]へと続く扉を開き彼女は出て行った



ルージュ「…」ポカーン


ルージュ「色々と忙しない子だったなぁ…」フゥ…


――キラッ


ルージュ「ん?」

ルージュ「これは…カフスボタンかな?」スッ



 床に落ちていたそれを拾い上げルージュは天上の灯りに翳す、赤紫の輝きを放つ宝石をあしらった見事な逸品
衣服の装飾品としてだけでなくコレ単体でも美術品として値が張るような代物だった




ルージュ(…あっ、これアセルスのだ)



 中世の貴族のような爵位の高い人物が身に纏うような衣装、言い換えると時代掛かった古めかしい…
ミュージカル劇場の舞台役者が着こなしてそうな服装のあの男装麗人の少女を思い返す

さっき大袈裟に両腕を振っていたがあの時に外れたのか…




ルージュ「走れば間に合うかな、落し物は届けてあげなくちゃっ!」タッタッタ!




…ルージュは"お利口さん"ではなかった

頭に馬鹿がつく程の御人好しだ、…そんな彼は思いもしなかっただろう



   …これが後の腐れ縁に繋がり、なおかつ資質集めの旅の長い長い寄り道になるなどと…

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:10:29.97 ID:8mU1puuW0
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―――
――



【双子が旅立ってから…初日、14時49分】




- [ドゥヴァン]には秘術と印術の手がかりがある、急げ!ルージュの得た術をお前が身に着けることはできないぞ! -


 表の学院に所属する教授等に背を押され、旅立ったブルーは<ゲート>を使い
占い師が集うリージョン[ドゥヴァン]へと舞い降りた



ブルー「…着いたか」



ルージュが[ルミナス]へ到達する時刻より時は遡る…彼はシップ発着場の手前に姿を現し初めてみる外界に目を配らせた
芝生の絨毯を踏み鳴らし、群れを成す矢印看板の示す方角へと歩き出す




      「へいっ!そこ行く綺麗な金髪ポニテのおねーちゃん!占いどうだい!」
      「俺も占えるぜ、骨占いだぜ、うん!明日も晴れだぜ」
      「ハープ占いどうですか〜?」




ブルー「…」ムスッ


マスター「はいっ、コーヒーですよ」コトッ





ブルーはご機嫌ナナメだった、理由は至って簡単だ

来て早々に"綺麗な金髪のおねーちゃん"扱いをされたからだ



彼は男だ


が、端麗な顔、生まれつきの雪の様に白くきめ細やかな肌、そして蜂蜜色の艶やかな髪が見る者に女性の印象を与えさせた
奇しくも双子の片割れも今の自分と同じように、数時間後に女の子と間違われるのだが、それはまた別のお話である



外界に来て彼はすぐに疲れ切ったような表情だった


…祖国の為!

……上層部からの期待に応えるべく!

………誇りと伝統、名誉ある人間の1人としてっ!



と息巻いていたものの…来て早々にこれでは、と頭を抱えそうになった


まず、この[ドゥヴァン]というリージョンは風変りこの上ない土地だった

骨占いだの、植物占いだの…手相、ハープの音色だ、占星学だなんだと、何処もかしこも観光客を
見つけては頼んでもいないのに勝手に占っていくというのだ


此処を訪れた、何も知らないブルーは正しく、鴨がネギを背負ってきたようなモノなのだろう
詰め寄っては勝手に占い、「どうですか!!!ウチの占い素晴らしいでしょう!?でしょう!?アナタもどうぞ!」

と、訳の分からない"勧誘"をしつこく薦めて来るのだ、さっそくブルーは頭痛を覚えた
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:12:39.83 ID:8mU1puuW0



ブルー「手相図鑑に、星座の表…花の種…くそっ!いらんぞこんなもん!」イラッ


それらと一緒に手渡された契約書のような紙切れ、サインと朱印をすれば晴れてあなたも〇〇占いの同志ですっ!なんて
怪しい一文までついている



[ドゥヴァン]より先に[ルミナス]へ飛べば良かったかもしれないと浮かんできた悔恨の念を喫茶店のコーヒーで飲み流す




…甘い、砂糖とミルクの程よい甘味が彼の苦悩を溶かすようだった
齢22歳、術の修行に青春時代も何もかもを打ち込んだ"優等生"は甘党だった



同世代からの僻み、陰口…才ある者にはそれが付き纏う、更に努力家ならば尚更だった



いつの頃からか彼、ブルーは甘いモノを好むようになっていた、ブドウ糖の摂取は脳を活性化させるとはよくいったモノで
それをよく知らない子供の頃はとにかく甘いモノを食べれば頭が良くなる、というガセネタに踊らされたそうな


何れにせよ彼は甘いモノが好きになった、ソレだけの事だ



マスター「お客さん」


ブルー「ああ、良い味だったこれは少ないが受け取ってく――」





マスター「底の方にどろどろとしたのが残ってるだろう?」ニッコリ



ブルー「……」



財布からチップを差し出そうとするブルーの手が止まる、にっこりと爽やかな笑みで喫茶店のマスターは言葉を続ける


マスター「底に残ってる残りの形で運命を見るんだ、当店自慢のコーヒー占いさ!」フッ!




ブルー「…」







         " 貴様もか店主っ!! "





声に出さずとも目だけでブルーは訴えました


―――
――



「印術の誘いへようこそ!」

ブルー「…印術の資質について教えてくれ」ゲンナリ…
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:16:10.24 ID:8mU1puuW0


初日で既に疲れを覚え始めたブルーは気怠そうに尋ねる



すると、どうだろうか?

「ふふっ!流石印術、この間の金髪美女達と同じで訪れる者が多い!アルカナとは違うんですよ!はーっはっはっは!」


と高笑いまでし始めた…




さっさとこのリージョンから出て行きたい、ブルーの心境はその一言で埋め尽くされていた




「おっと、失礼…ふふっ、あなたの髪色を見て以前[クーロン]からお越しの3人組の女性を思い出しましてね」


ブルー「無駄話は良いから早く教えろ、頼むから」





「ええ…印術とは印(ルーン)の力、加護を得る術です、高位のルーンを召喚するには印術の資質を要します」


「また、印術の力とアルカナを呼び出す秘術の力は相反する為、どちらかを得るにはどちらかを捨てねばなりません」



「資質を得るには…この小石を以て各地にある4つのルーンに触れる必要があります」コロッ



そういって4つの小さな石を取り出す、何も描かれていない小石、だが微かに魔力を感じ取れた



「ルーン文字が刻まれた4つの巨石、"保護のルーン"は[クーロン]に、"勝利のルーン"は[シュライク]に
  "解放のルーン"は[ディスペア]に、そして"活力のルーン"は[タンザー]にあります」



「巨石に触れ、4つの小石が全てルーンの小石と変わった時、あなたは術の資質を手にすることになるでしょう」



ブルー「巨石を探すために世界各地を旅する、それが印術の試練か…良いだろう、寄越せ」

「ふふっ!印術の同志が増える事は歓迎です!どうぞ!」




 ブルーは小石を手にし、そして基本術の術書を購入する、資質は無くともこれで最低限の印術の術は唱えられる
 術の書物と同時に謎の契約書も手渡してこようとする相手を無視してテントを出る




ブルー「<ゲート>の術は一度行った事のある場所にしか飛べない、シップに頼ることになるな」



例外的に[ドゥヴァン]、[ルミナス]だけは初めから飛べる、手渡された媒介となる宝石に初めから登録さているからだ



ブルー「まずは[クーロン]だ、そこへ行ってみるか」




クーロン…九龍…九龍街、立ち並ぶ高層ビルに空は覆われ、ネオン輝く街並み、常に夜なのでは?と思う程の外観と
治安の悪さで有名なリージョンだ、彼も噂だけなら訊いた事があった


人間<ヒューマン>、妖魔、モンスター、メカ…各種多様な種族が共存し繁栄する暗黒街だと、彼は早速チケットを購入した
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:18:03.23 ID:8mU1puuW0

―――
――



「ぎゃーっはっはっは!こんな所に丸腰でくるなんて無用心なんじゃあねぇのか?ええっ!パツキンのチャンネーよぉ〜」

「へへっ!此処を通りたきゃ通行料を払いな!1000000クレジットってトコを美人だから特別100に負けてやるぜぇぇ」



ブルー「」イライラ






早速、絡まれました。




発着場を降りて、まずブルーは驚いた

想像以上に人でごった返していたのだ、ネオン輝く街並みにスーツ姿のサラリーマン風の男から
スカートをたくし上げ胸元を寄せ、あからさまに"そういう金稼ぎ"を行うけばけばしい化粧の女たち

路上販売で声を張り上げ野菜を売るモンスター、汗水垂らして(るように見える)働くロボットたち


雑踏の伴奏に酔っ払いと売春を生業とする娼婦たちのコーラス、この汚れた都会のフルオーケストラに
平和なリージョンからやってきた青年は耳を塞ぎたくなった


耳はやられるは、目はネオン煌めくいやらしい看板やらの灯りでチカチカする


慣れるのに苦労しそうだ、と逃げるように裏路地にブルーは入り込んだ





そして、これである。





「あー、通行料が払えねーってんならそれで良いんだぜ?へへっ」

「そーそー、その代わりよォ、俺達とベットの上であつぅい夜を一緒に過ごそうぜぇ」




ブルー「」イライライライラ




何度も言うがブルーは男である、そして女性に間違われることは彼の密かなコンプレックスであった



「なぁなぁ、いいだるぅろぉぉ?こんな薄暗い所に一人でくるなんて、"そういう事"だろ?」

「ヒューッ!アンタみたいなネエチャンと一発よろしくヤれるなら本望ってもんさ!さぁ行こうぜ、愛の巣へな!」


              「「 ギ ャ ー ッ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ! 」」







 ブルー「」イライライライライライライライライライライライライライライライラ…ブチッッッ!!



今日だけで何度女と間違われたか分からない彼の堪忍袋はその卑下た笑い声を口火についに切って落とされたッ!
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:21:18.27 ID:8mU1puuW0
―――
――


黄金色の髪の女「あーっ!!!くっそぉ!!!ルーファスの奴!ほんっと腹立つ!!!」

紫色の髪の女性「…彼は昔からああなのよ、貴女だってわかるでしょ」





黄金色の髪の女「そりゃ分かってるさ!けど…けど…!
          エミリアは女なのよ!…あんな薬で眠らせて奴らに売り払うなんてっ!」ギリッ



紫色の髪の女性「…ええ、帰ってきたら謝らなくちゃいけないわね」






[クーロン]の街中を慣れた足取りで二人の女が歩いていた

犯罪が日常で財布の紐をきつく締め、隙を見せてはならないこの街で慣れた歩き方をする手練れの二人は愚痴を口にした



紫色の髪の女性「勝手な行動は許されない
         仮に出来てもラムダ基地に入る方法は今の所無し…エミリアを信じる他ないわ」

黄金色の髪の女「そんなの、わかってるよぉ…はぁー…」


紫色の髪の女性「今の私達に出来ることは彼女が帰って来た時
            次の作戦をスムーズにこなせるように準備をするだけ、ね?」

黄金色の髪の女「うん…」





             ――――ズドンッッ!!!



「「ぎゃーーーーーーーーーーっっッッ!!」」





黄金色の髪の女「!? な、なに今の悲鳴…」

紫色の髪の女性「…男性の声ね、それも二人…裏路地の方からだけど」


突然の悲鳴に驚く女と行き交う人々の騒音に紛れて僅かに聴こえた爆発音に首を傾げる女

それぞれがその方角を振り向くと…




ブルー「…」スタスタ



「「…」」



1人の人間とすれ違った、この街で見かけない術士の服装…


黄金色の髪の女「何事も無く悲鳴の方から来たわね…」

紫色の髪の女性「相当な腕前ね、パッと見ただけで分かったわ」


紫色の髪の女性「何にしても私達とは関わりの無い人間よ、行きましょう…」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:22:52.62 ID:8mU1puuW0

―――
――



ブルー(チッ、薄汚い街だ、どいつもこいつも汚い…見た目も中身さえも)



虫の居所が悪いまま彼は路頭を彷徨う、術に関する情報を求め、此処にあると言われる"保護"のルーンを探し出すために
手当たり次第に声を掛け、聞き込みに回っていたが、これと言ってめぼしい収穫は無かった



 途中、宿を見つけ、10クレジットで宿泊できることも確認した
このまま実りが無いのであらば今日の探索は諦めようかと思った






「いらっしゃい!いらっしゃい!安いよ安いよ!」

「トリニティからの横流し品だよ〜!リージョン界と統一する政治機関の開発した最新軍事品がなんとこのお値段!」

「革を買うよ!」

「わぁぁぁ…!すっごーい!メイレン!此処[スクラップ]よりも人が沢山だね!」

「そうね、そんなことより次の指輪よ、豪富が持っているっていう指輪を探しに行きましょう」

「足の装備品〜!如何っすか〜!大安売りだよー!」

「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプを剣のように操るのを!」

「そこの宿屋の裏、ニワトリの後ろを通った所にある情報端末で調べたら?」

「ありがとうございます、ゲン様、行きましょう」

「おう!ん?にいちゃんどうした?」

「わりぃ!俺、此処のイタ飯屋に少し前に一緒に旅してた友達が居るんだ、久しぶりに会いたいし此処でお別れだ!」

「おう!そうかい!犬っ子とネエチャンには言っとくぜ!」

「サンキュー!」

「そこのお兄さん♡アタシとイイコトしない?うふっ」

「新聞!新聞はいらんかね〜?巷で噂のアルカイザーの記事が載ってるよ![シュライク]で誘拐犯を倒したヒーローだ!」







全く以って騒がしい

だが、これだけ人が集まるのならこのリージョンが繁栄するというのも頷ける



ブルー「すいません、お時間よろしいでしょうか?」

「ん?なんだい?」


ブルー「私は故郷を離れ術を勉強する者なのですが、この街に保護のルーンがあると聴きやってきたのです
     何かご存じないでしょうか…」


「ん〜…ルーンねぇ、あっ!そういうことなら裏通りの医者が詳しいかもしれないぜ」


ブルー「!本当ですか!ありがとうございます!」



猫被りのブルーはやっと有力な情報に辿り着いた…!

時刻は【18時03分】既に[クーロン]は闇夜に包まれていた
31 :今回は此処まで! [saga]:2017/07/07(金) 20:24:10.48 ID:8mU1puuW0
https://www.youtube.com/watch?v=HSh7-WrhFnk
[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ
                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=〜 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '
                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人
                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
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                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
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                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~
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                            ノ´/      .ヽ  |
                           ` ̄        .ト、 .ヽ
                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'


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32 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 23:24:36.39 ID:cYnk1Lvso
サガフロとかすげぇ懐かしい
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 01:49:34.63 ID:fFXjqsuI0
主人公が皆、並行で進んでるっぽいなエミリア編が一番進んでるの?
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/15(火) 22:07:24.05 ID:VlusM6ch0


曇天、[クーロン]の街並みはこの時期、雨季であった

 他の異世界<リージョン>と比べれば降水量の多い土地にあたり尚且つ双子が旅立ったこの時期は
陽光を遮る灰色の空が我が物顔で天空を支配していた


 裏通りに朽ち果てたメカの残骸は主人を失い破棄された者達の死骸と言えた、物言わぬ鉄屑と化したそれに群がるのは
同じく捨てられたロボットたちで、錆びた自身のパーツを外し使える部分を死骸から奪い取る

道端で自動車に轢き殺された野生動物を食い漁る鴉の群れと変わらない鋼鉄の人型共


その人型共となんら変わらない行為をする者は他にもいた


貧困から逃れるべく迷い込んだ憐れな観光客を狙う浮浪者、彼等もまた金目のモノになるロボットだろうと
財布をぶら提げた人間だろうと、奴隷として売り飛ばせるモンスター種族の観光者であってもお構いなく襲う







人心は荒んでいた



これは言ってしまえば一種の"病気"である、心の病










だからだろうか?

…ただでさえ無法地帯として名を馳せる九龍<クーローン>街の裏通りを『彼』が居城とするのは






ブルー「…」スタスタ…パシャ…






蒼の術士が水溜りを踏みしめる

地に降ろされる靴底の圧力で飛沫は飛び、へこんだ空き缶の真上を飛び越える



 彼は印術の資質を得る為、広いリージョン界の各地を巡り、印<ルーン>の文字に触れるという修行の旅路を進む
この暗黒街には保護のルーンが刻まれし巨石があるのだ


 疑問に思っただろうか? 裏通りはご覧の通り濁った水が降り注ぎ、衛生面はハッキリ言って最悪
…そこかしこに黴菌が繁殖する不衛生極まりない裏通りだ、雑居ビルの群れと曇天で滅多に射さない日光

それが悪循環を更に加速させていると言っても良い


そんな異世界<リージョン>でありながらも表通りの繁華街にはなぜか一滴も雨水は垂れないのだ、疫病どころか感染症一つ
裏通りから表通りに流れてこない





それは単に此処が"保護"されているからだ

昔々のそのまた昔、誰も知らない程の大昔から、強い魔力を秘めた文字によって

35 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/15(火) 23:56:11.93 ID:VlusM6ch0



「おい見ろよ…綺麗な髪だなアレ…」
「へへ…金糸かぁ、売ったらさぞイイ値段のウイッグになるんだろうなぁ」



 汚れた段ボール、菌類の繁殖しまくったベニヤ板、その上に乗っけただけの瓦棒屋根
お世辞にも家屋とすら呼べないソレから無数の視線が術士を値踏みするように見ていた



 先程、ブルーが二人組の不幸なごろつきに絡まれた階段をゆっくりと降りていく最中
蒼の法衣に身を包んだ彼は自分の影が"何かの影"と重なるのを見た


小さな影は徐々に大きくなり、それは上空から飛来してくる鳥系のモンスター族の影であることに気がついた





「ケケケ!そこのお前、有り金全部出しな!!鞄も、そのひらひらの服も脱げ、靴も全部だ!!」

「オイオイ、待てよ相棒…独り占めは狡いぜ、久しぶりの金ヅルだ、俺にも食わせろよ」

「私も混ぜてよ…きゃははっ!」




 裏通りに巣食う者共は単独で犯罪を起こす者から種族の壁を越え、1つの目的の為に徒党を組んで襲う者も居る
舞い降りて来たのは人体に鳥のシンボルとも呼べる翼と鉤爪の足を持つ半人半鳥の[ハーピー]が2体

 紅髪を二つに結ったツインテールに露出度の高いアーマー右手には鈍い輝きの斧を携えた人間の女が
品の無い卑しい笑みを浮かべて舌なめずり…勝った後の戦利品分配でも考えているのだろうか


「俺も相棒も姐さんも気が短けぇからよ、分かったら早ぇとこ全部寄越しな、そうりゃ命は取らねぇぜ!ケケ」
















                ブルー「断る、失せろ蛆虫共」
















沈黙

ブルーを迷い込んできた馬鹿な旅人と嘲る笑い声はピタリと止み、雨音だけが場を支配する


 彼は頗る機嫌が悪かった、初日から何度眉間に皺を寄せたか分からぬ程に
そんな彼の声はゾッとする程に冷淡で、同じ血の通った人間とは思えない程に冷めていた



36 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 01:58:35.98 ID:S8PCjT6F0


[ハーピー]に斧を持った女戦士[アックスボンバー]…裏通りは先述の通り浮浪者の巣窟である
だが此処に居る3体の実力はその中でも段違いだ


 電線の上から兎のようなつぶらな瞳で黄色い小動物に蝙蝠のような翼の生えた[ラバット]
犬猫程の背丈を持つ蛙[フェイトード]等が"自分達よりも圧倒的に強い"者に不遜な態度を取る術士を見ていた

ああ、あの金髪の人間は生きて帰れないだろうな、と憐れむ様に







その予測はすぐさま裏切られるのだが





「‥ケ、ケケ…てめぇ、許さねぇその綺麗なお顔ぐちゃぐちゃにしてやらぁぁぁああああああああ!!!!!!」

「アンタたち!!このクソッタレをやっちまいなぁァ!!」




 縄張りのボス気取りたちの顰蹙を見事に買ったブルーは涼しい顔だった
彼は目を瞑り、歌うように口ずさむ、右手の中指と人差し指を合せ自身の額に近づける…



             「ケェェェェェー―――――ッ!!」ヒュォォォォオオ



 鷹が獲物目掛けて行うような急降下、[ハーピー]の鉤爪はブルーの喉元を切り裂くため
先頭の1体に続き後続は心臓を鷲掴みそのまま抉る為にそれぞれ狙いをつけていた









          ブルー「『<インプロ―ジョン>』」キュィィィン 










ぼしゅっ、




音がした


 後続の[ハーピー]は目の前の相棒が光に包まれたのを間近に見た、光は相棒を取り囲む球体の檻のようになっていて
立方体…そう無数の正三角形と正五角形で形作る変形二十二面体のような檻だった

半人半鳥のモンスターを閉じ込めたそれは徐々に小さくなり、"消滅した"…中身ごと



"爆裂魔法<インプロージョン>"の檻に閉じ込められた憐れな一体は塵一つ残さずに"焼失"した、だから消えたように見えるのだ


     ブルー「…む?完全に消し飛ばせなかったか…頭部だけが残ったか…ちっ」


 光の檻が内部にある者を"爆裂"させる寸前に頭部だけが檻の外…範囲外に突き出ていた
だから首から下が忽然と消えた生首が宙を舞った
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 05:28:30.99 ID:S8PCjT6F0






「う、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」




 戦慄した、突如として光と共に消えた相棒の首から下、残った頭部は首の付け根部分から血飛沫をあげて吹き飛ぶ
サッカーボール大の頭部は胴体がコンマ0.02秒で焦げ臭さすら残さずに焼失…否、消滅した為


 頭部の下はギロチンで切り落としたかのような断面図となった、そこから噴出する真っ赤な鮮血
空気でパンパンにした風船に爪楊枝で穴を空けた時のように、急降下していた筈の"ソレの一部"は逆に上昇した




上から無色透明な雨水とは別で紅い体液が降り注ぐ、[ハーピー]その様に半狂乱となり―――










               ブルー「『<エナジーチェーン>』…!」









ギュルッ! ―――ベシャッ ジタバタ…!



「あっぐぶゥ!?お、おごっぉ ォ こ"こ"こぉぉ"ぉ」ジタバタ






ブルーの術、[マジックキングダム]の技術によって生み出された科学的超能力<サイオニック>の力…!



指先から放たれる光り輝く念動力の鎖は相手との実力差も分からぬ愚か者の首を縛り上げた






べしゃ、ゴミが浮かぶ水溜りに絞殺刑に今この瞬間、処されんとする憐れな半人半鳥が墜ちた



「い、い いい"い"い"いいい""いいいい"いいいき"きぎき"きぃぃぃぃいィぃィ」バチバチッ



古い電線剥き出しになったコード…銅線に当たる部分に鴉や雀が引っ掛かった瞬間を見た事があるだろうか?
それが雨の日ならば尚更だ、電流が流れ瞬く間にローストチキンになる瞬間だ


 魔力の塊、念動力の力……蒼き術士の攻撃的な思念を鎖の形にしたそれは巻き付いた首元を焼いていた
焼け爛れていく首、絞めつけられ酸素供給ができなくなる気道

水溜りに落下した事で更に"感電"していく彼は先ほど弾け飛んだ相棒の顔と同じく苦悶の表情を浮かべていた


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 05:54:46.74 ID:S8PCjT6F0


「…な、なんなんだいアンタはァ…」ガチガチ




人間の所業ではない、それが同じ人間の―――生きる為に強盗殺人を生業とする者の率直な感想だった



彼は蜂蜜色を束ねた髪は湿気と雨水で重みを増し、前髪から滴る水滴を鬱陶しそうに払う

 今しがた絶命した[ハーピー]2体を屠る時などさもどうでもいい、それより前髪から垂れて来る水滴の方が
面倒だとでも言いたげで…その仕草がより一層この人間には赤い血など流れていないのではないか?
血脈を循環しているのは冷水か、さもなくば人間<ヒューマン>と異なる種族、妖魔と同じ青い血でも流れているのでは、と?





ブルー「丁度いい、こういう事は地元の奴に尋ねるのが手っ取り早い」


ブルー「貴様、この辺りに医者は住んでいるか?裏通りに"ルーン"に詳しい医者が居ると聞いてきたんだ」


ブルー「さっさと答えろ…オイ聞いているのか」





「っ、の野郎……イイ気になってんじゃないよ!!!」




猫被りの時とは全く以って違う、礼儀正しい青年を"演じる"ブルーの本性…





「っずぁらああああああああああああああァ」ブンッッ



ずばっっ!蒼い法衣の左肩を切り裂く…じわりと蒼が赤く染まる




「はっ…ははははっ…」




なんだ、この冷血無比な術士にも紅い血が流れているのか
乾いた笑みが浮かぶ、目尻に涙が溜る、瞳の奥に詠唱を終えトドメを刺そうとする死神が焼き付く





ブルー「ふん、斧を振り回すしか能が無い女か、屑め」





ブルー「死ね」






取り繕う必要性が無い相手、体裁をなど気にする必要性の無い相手

それにだけ見せる"冷徹な男<ブルー>"の本性


今宵、暗黒街[クーロン]の裏通りに本日2度目の悲鳴が上がった
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 06:24:26.69 ID:S8PCjT6F0
―――
――



ブルー「…」スタスタ…



ブルー(失せろと言った時に消え去れば良かったものを、答えろと言った時に答えて逃げれば良いものを)







くだらない事に術力を使った、くだらないモノで自分の手を汚した、不愉快だ、彼の心中にあるのはそれだ


先に言っておくが彼は裏通りの最奥に息を潜める様なクレイジーな快楽殺人犯とは違う


-『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』-


自国で、国の最高責任者から言われた事、幼少の頃から学んだ教え




国家からの勅令、国の威信と名誉の為ならば何をしても良い、それが"正義"である、そう教えられて育った



"王国の術士"としてなら必要あらば100人だろうが1000人だろうが関係なく殺す、王国の忠実な術士としてなら、だ



襲われたから殺した、自分の命、ひいては国家の任務遂行の妨げになる障害物だったから消した、たったそれだけの話
そうでなくとも、どの道あの手の連中は迷い込んだ観光客の命を食い物にする


何れにせよ死傷者は出る、今回の場合それは相手側で、そしてこれ以上死傷者は出なくなるという話、たったそれだけ







ブルー「…」スタスタ…ピタッ

ブルー「…此処か」




雑居ビルに囲まれた裏通り、長い長い階段を降り、点滅する電子の輝きを見つめる
そのネオン看板は病院でお馴染みの十字のマークとは違っていた

喩えばアルファベットのNを反転させて少し傾けた見た目の文字




ブルー「…エイワズ…ふっ、此処にこの文字とはな」




それを見て鼻で笑った




エイワズ、ルーン文字の一つであり暗示する意味は『生命の樹』『防御』…そして『死』

命が生まれる場所であり、万病の攻め手から防御する為の場であり、そして最後は誰かに看取られて死を迎える…


蒼の術士は古びた診療所の戸を開く


40 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 07:06:07.84 ID:S8PCjT6F0


まずブルーを出迎えたのは鼻につく消毒用のアルコールの匂いだった


 薄暗い病院のエントランスにして待合室となる間はパイプ椅子が数脚
机の上には人体について詳細が書かれた医学書が無造作に置かれていて、受付のには今時誰も使わないような黒電話
ダイヤル式の電話機の向こうに見える壺や壁棚板の上に陳列する薬瓶には元からこの医院に居た人物と来院した術士を映す


此処の責任者に話を伺いたいが受付には人影はなく、それどころか呼び鈴の一つだってありゃしなかった


訝し気に眉を顰めたブルーは何時頃から待っているのか分からない男に語り掛ける事にした、誰も居ないのなら
この人物に尋ねる他ないからだ、無論、礼儀正しい青年を演じて




ブルー「あのー、待ってるんですか?」




青白いカッターシャツ、俯いたままの青白い男はやけに肌が白かった

医院の薄暗さも手伝って気づけなかったのかもしれない





ごとんっ、男の首が取れて落ちた、先程の[ハーピー]のように


落ちたクルリと振り返る、ああ、暗さも手伝って気づけなかった



この男は肌が白いと思っていたが思い違いだった





振り向いたその男の生首は白骨だった







理科室の標本にありがちな頭蓋骨がケタケタ笑いだし、スゥーっと消えた



           ボォォン……!


                      ボォォン…!




それを合図にするかのように柱時計が音を鳴らし、その横にあったアルコールを溜めた洗面器にぴちょりと音がなる
何処か雨漏りでもしてるのか




ブルーは少しだけ目を見開いていた、狐にでもつままれたとでも言いたげな顔で固まっていた

彼とて人の子だ、人並みの感情は当然有していて、戸惑いもする


先の事が事だけに今のはブルーに少なからず情動を与えた



41 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/08/16(水) 07:07:54.84 ID:S8PCjT6F0













 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」












42 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 07:45:20.12 ID:S8PCjT6F0



ブルー「」ビクッ


「次の方、どうぞ」




診察室、と札が掛けられた部屋の向こうから声が聞こえた



心臓に悪い所だ、固まっていた術士は気を取り直して、ドアノブに手を掛けた…



ギィィ、と木製の扉の軋む音を耳に彼が目にしたのは膝下まである白衣と流れる様な黒髪の後ろ姿



裏通りの闇医者「よろしい、早速手術だ、そこに横たわり給え」


ブルー「…外界の連中は人の話を聞かないものなのか」





[ドゥヴァン]の占い師共といい、ごろつき共といい、この無免許医師といい…額に手を当て、噂の闇医者をよく観察する


 風変わりな医師、医療費を取らずに難病を抱える患者を片っ端から治療する闇医者
裏通りに入る前、ルーンに詳しい医者が居ると知ってからある程度、どのような人物かさらりと聞き込みは行っていたが





ブルー「それとも、貴様が人間ではなく妖魔だからか?」


裏通りの闇医者「…ふむ、よくわかったな」ピクッ



ブルー「貴様から感じる魔力…いや妖力、人とは明らかに異質であることぐらいわかる」



ブルー「人間だろうと妖魔だろうとそんなことはどうでもいい、保護のルーンについて何か知っているか?」



裏通りの闇医者「[クーロン]の地脈には保護のルーンが刻まれている、その力がこの土地を栄えさせている
         しかしだ…近年この街の治安は悪くなる一方だ」



そう言って闇医師は…妖魔は振り返る、眼鏡を掛けた気品ある端麗な顔立ちは一目で彼が上級妖魔だと悟らせる



ヌサカーン「私の名はヌサカーン、君も知っての通り此処を根城に医師をしているモノだ」

ヌサカーン「尤も、君達の言葉を借りるなら私は"モグリ"という奴だがね」

ヌサカーン「どうだろうか、私は地脈に異常が無いか調査に赴きたいと前々思っていた、だが私一人では何分厳しくてね」



ヌサカーン「何があるか分からないから中々踏み出せず困っていた、そこへ君が都合よくやって来た」

ブルー「貴様なら道案内ができるという訳か」


少し考える素振りを見せ、ブルーは「良いだろう」と胡散臭いこの妖魔の医師と少しの間同行することにした


紫色の怪しげな炎が揺らめく燭台、二つの影が揺れ、妖魔医師は「よろしく、ブルー君」と笑うのであった

43 :一旦此処まで [saga]:2017/08/16(水) 07:54:04.47 ID:S8PCjT6F0




一旦此処まで

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三



      i⌒\     .
      |   \    .
      |  l\  \ 
      l | \__ ) 
⌒\  |  |       
\  \|  |       
.. \.    |       
   \_,,丿     


『<エイワズ(ユル)>』

暗示:『生命の樹』『防御』『死』


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


ヌサカーン先生宅の看板の文字が地味にルーン文字だったり凝ってる



>>32 名作ですね

>>33 YES、現在エミリアはラムダ基地潜入(?)の為、シップに乗せられてる…つまりアセルス達は…
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 18:28:28.06 ID:S8PCjT6F0


妖魔、それは姿形こそ人間に酷似しているが異なる種族である


彼ら、彼女らに性別という概念は無い
女性的な容姿、男性的な容姿と身体の創りや人格そのものに差はあるが、世間一般的な人間の概念でいう性別とは違う






美麗の男性が同じく顔立ちの整った男と仲睦まじく暮らす様子を見ることもあれば

華奢な身体の女性が美しい人魚姫のような女性型の同種族と愛を育んでいたり…









傍から見ると怪しい関係を疑いたくなる種族であるが、彼等(彼女等?)には人類と同じ性別の概念は通じない






 人と比べて飲食を必要としない者、年中一睡も必要とせず生きることができれば、生殖機能が存在しない生態系だったり
大小なれど差はあるが根本的に人間<ヒューマン>と違うのだ





今、ブルーの目の前にいる眼鏡を掛けた白衣の医師も同じ

見た目こそ人間の成人男性に部類される肉体だが、何処か人と違う



血管は全ての妖魔に共通する青い血液が流れていて
見た目こそ年若い美青年だが年齢など、余裕で100歳を超えているのかもしれない





ヌサカーン「ふむ、…肩に切り傷があるな」ズイッ

ブルー「寄るな、食い入るように私の肩に顔を近づけるな」



若干引き攣った顔でブルーはこの妖魔から距離を置こうとする





ヌサカーン「なぜだね?…ん?あぁ……そうか、安心したまえ、私は"病気という存在を愛する者"でね」

ヌサカーン「世にも珍しい奇病や病状の患者と出会い、それを観察するというのが私の望みなのだよ」

ヌサカーン「従って君達、人間社会で言うところの同性愛とやらには興味の欠片も無いし、世間帯とやらも熟知している」



純粋に"興味の対象物である『患者』"を見たいからでありブルーが危惧するようなことはないと男性型の妖魔は告げる



無音、風も何も無い室内で妖魔の身に纏う白衣は不可視の力ではためき、蒼の術士の肩に幻想的な輝きの粒子を舞わせた



ヌサカーン「どうだね?ん?痛みは消えただろう」


左手で肩に触れる…なるほど、上級妖魔なだけはあると彼は思った
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 19:00:22.66 ID:S8PCjT6F0


古びた廃病院に勝手に住み付き、勝手に改築した風変りの人ならざる者はしばしの間自身の根城を留守にする




懐に柄部分のスイッチを押す事により刃が出る光学兵器[レーザーナイフ]を忍ばせ、その手に大型の重火器[水撃銃]を持つ
 ブルーは記憶の引き出しから書物で知る限り妖魔という存在は機械音痴で有名だという話を引き出していた




ヌサカーン「…くくっ、意外かね?」


ブルー「!」



ヌサカーン「そう目を丸くされてはすぐにわかってしまうよ、ブルー…どうやら君は冷静に見えて感情的な人間のようだ」


ヌサカーン「……私も長い年月を人間社会で生きた、何より患者を観察するのが好きだった」


ヌサカーン「そうこうしている内に科学文明というモノにも詳しくなったのさ」





ブルー「そうか…」フイッ



それだけ言うと彼は絶え間なく水を地表へ注ぐ天を見上げた、いや、逸らした
あまりこの妖魔と長く話していたくない、自分の心の内さえ見透かされそうだから




ヌサカーン「くくっ…この[水撃銃]というのも中々に面白い、銃"火"器という部類でありながら高圧で水を飛ばし…
         ああ、面白いと言えば君の魔術もそうだ、魔術と銘打っておきながら科学的超能力<サイオニック>と――」




ブルー「なんでもいい、早く行くぞ…」スタスタ






どっと疲れた、初日からこれで本当に自分は資質を集めきれるのか…

勢いを増し始める降水量、水煙で眼鏡のレンズを曇らせながら不敵な笑みを浮かべる闇医者
目的を済ませて宿のシーツに顔を埋めたくて仕方がない旅の術士は目的地へと続く廃線へと続くマンホールを降りていく




 道中、海星の中央に蛸の様な口部(触手の下にある肛門のような部位)を持つモンスター[ゼノ]を初め
溶解液を飛ばす[スライム]…人に混じり金銭の略奪を働く下級妖魔らに襲われたが…




1人はもはや説明するまでもなく、もう片方の同行者も両手銃で向かい壁まで弾き飛ばし、解剖手術でも行うように手際良く
モンスター、あるいは人や妖魔の野盗たちを掻っ捌き、時には妖魔の術やカードを召喚する術で無謀にも襲ってきた
身の程知らずを次々と叩き伏せて行った








【18時53分】[クーロン]裏通りでの出来事であった…

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46 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/08/16(水) 19:05:15.72 ID:S8PCjT6F0















            …あっれれ〜?おかしいなぁ?どうして僕こんなことになっちゃったんだろう?














時刻は完全に月が昇る【19時49分】


彼は"喫茶店"で項垂れる様に今現在の自分の状況を振り返った






そう…あれは遡る事、1時間と少し前…





47 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 19:34:59.54 ID:S8PCjT6F0
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―――
――


【時刻 18時40分】


 此処、陰陽の術を操れる資質を求め各地より修行僧が集う異世界<リージョン>、[ルミナス]で紅き法衣に身を包んだ青年が
大慌てで走っていた行先は光の力の尊さを説く陽術の館



ルージュ「こんな高そうなカフスだもん、落とし主には届けなくちゃ…!」タッタッ…!



 赤紫の宝石を握りしめた掌の中に、人の良い彼はスリから荷物を取り戻してくれた少女アセルスの後を追う
発着場から扉を勢いよく開き、ロープと丸太で組んだだけの簡素な吊り橋を渡って陰陽の分岐路へ向かう…その時だった



            ぞわっ…!



昔から彼は直感が優れていた

術士として霊感能力が高かったのも確かにあったかもしれないが野生の直感に近かった




背筋に嫌な感触が這う、走ったせいもあるかもしれないが額に玉汗が滲む、こういう時いつだって碌なモンに遭遇しない
22年間生きてきた彼の人生経験が警鐘を煩いくらいに鳴らす



 無意識にルージュは足を速めた、短距離走で後先考えずに力の限りを尽くすような疾走、丸太の吊り橋が揺れ
他の観光客から「何しやがる!」なんて罵声が飛ぶが脇目さえ振らない


            "まずい、このままじゃ手遅れになる…ッ!"


 根拠なんて無い、だが紅の法衣は更に加速する、銀の髪が靡く、息が苦しい…
だからどうした?後悔することになるよりはマシだ、歯を食いしばり彼はそこに辿り着いた!





               「逃がしませんよ!!」





その声が聞こえ、空間が歪みだしたのと同時だった

ルージュがグニャグニャと景色のブレる結界に飲み込まれていく二人の美しき女性たちの元へ滑り込んだのは――


―――
――




アセルス「きゃあああぁぁ!!」

白薔薇「アセルス様っ!」



 貴婦人の女性型妖魔と緑髪の10代半ばの少女が結界の中へと飲み込まれようとしていた

 彼女達は"追っ手"の魔の手から逃れる為に逃亡を余儀なくされていたが、此処に来て見つかり
邪魔が入らぬようにと閉鎖された異空間に引き込み始末するつもりなのだ

 レースカーテンのような影のベールに飲み込まる寸前、白薔薇は悲鳴をあげる少女の身を守るように抱く
彼女自身も追手の奇襲という恐怖に怖れを感じていたが腕の中で震える小さな少女を勇気づけねばと気丈に振る舞う

だから反射的に目と瞑らなかったアセルスと違い白薔薇姫は確かに見た、影に飲まれゆく自分達の元へ彼が走って来たのを
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 19:57:24.41 ID:S8PCjT6F0




ルージュ「どぅおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」ズサァ――!



スライディング、靴底がすり減り、シャッターの様な影の結界で完全に外と内が遮断される直前で紅き術士はやって来た



白薔薇「ルージュさん!?」

アセルス「…ぇ、…!?ル、ルージュ!?どうして!!」


恐る恐る目を開けたアセルスが知り合ったばかりの闖入者の登場に驚きの声をあげる

闖入者に驚いたのは二人だけではない




水の従騎士「なんですか、貴方は…」




それは清流のように穏やかにして静かな声に…聴こえないことも無いが、言葉を発する全身鎧固めの騎士から溢れる
敵意を見てしまえばそんな印象は何処かで跳んでしまう事だろう



一方でルージュはその鎧騎士を見て一瞬呆気に取られた

この騎士風の妖魔と思しき存在が「逃げて来た」と口にしたアセルス達を追ってきた者だと察することはできた


問題は…



ルージュ「……"青"」



青…蒼…ブルー…

そのカラーリングは嫌でも双子の兄を連想させる、言ってみれば彼にとって今一番見たくない色合いであった




水の従騎士「…何者か存じませんが、邪魔をするのならばその命、もらい受けます」チャキッ



白薔薇「従騎士!この御方は私達とは関係の無い方です、結界の外へ逃がしてください!」

アセルス「ハッ!そ、そうだ…!ルージュは関係ない!やめろ!」




なんで来たんだ!?と叫びたかった緑髪の少女は目の前の追手が黒鉄の剣の切っ先をルージュに向けたのを見て慌てた

自分達の所為で無関係な人間が巻き込まれ命を落としてしまう…っ!なんとしてでも逃がしてあげねばと考える





だが、ルージュは―――



ルージュ「いいや、関係なくなんて無いよ、目の前で物騒な恰好した奴が無抵抗の女性を追っかけ回してるんだ」

ルージュ「人間としてそんなの放っておけないッ!理由なんてそれだけ十分だ!」



正義感の強い、超が付くほどの御人好しはそれを見過ごせる程に器用な人間では無かった
49 :今回は此処まで [saga]:2017/08/16(水) 20:46:48.05 ID:S8PCjT6F0


ルージュ「それにね、その恰好!」ビシッ!



全身"青"を基調としたカラーリングの鎧騎士を指さし彼は言った




ルージュ「すっごい個人的な感情だけどさ、今一番見たくない色合いの人に言われると反発したくなるんだよねっ!」フン!




兄の件で思い悩んでいるというのに、ただでさえ蒼色を自分の抱えてる悩みで頭痛がしそうだというのに…!
そんな私情で彼はこの騎士のいう事なんて聞いてなんかやるもんか!と息を巻く



水の従騎士「…いいでしょう、黄泉の国で後悔なさるが良いっ!!」



その言葉を皮切りに騎士は玄武の盾を構え突撃してくる、狙いはルージュだ



アセルス「でやぁぁぁ!!」ディフレクト!

水の従騎士「ぐぅっ!」ギギッ…



 重厚な見た目に反し、敏速な動きで一気に間合いを詰めた鎧騎士は右腕の得物を天へ振りかざし唐竹割りの要領で
ルージュの頭部を叩き切る気でいた、だがそれに一早く反応したのは先ほどまで震えていた少女アセルスだった



 予想に反した動きに反応が遅れた好青年、目的を邪魔する者を排すべく動いた騎士の隙間に割り込むように
彼女は腰に下げていた血濡れの様に妖しく、それでいて美しい妖刀の刀身で黒鉄の刃を受け止めたのだ



アセルス「くぅぅぅ〜っ」ググッ

水の従騎士「はッ!!」ガンッ!ゲシッ!



アセルス「きゃぅ!」



 大剣に近いソードの創りと刀に部類されるブレードでは質量にも差があった
何より彼女の細腕と見るからに逞しい騎士の剛腕では鍔迫り合いに持っていたアセルスが打ち負けるのも当然と言えよう


一瞬、腕を引いてその後に勢いをつけて押し返しアセルスが後方へ仰け反った隙をついて蹴り飛ばす


小さな悲鳴と共に尻餅をついたアセルス目掛けた刺突を騎士は繰り出す
 その一突きは態勢を崩した少女の身体を突き刺すことは無かった、何故ならば突如として伸びて来た念動力の鎖に
腕を絡めとられたからだ、彼女の胸部を貫き心臓の動きを止める筈だった一撃は大きく逸れ、大地に深く突き刺さる



水の従騎士「貴様…っ!」


ルージュ「アセルス!ごめんっ、助かったよ!!
       そして騎士さんとやら!狙うなら初めっから1人に絞っとかないとこんな風に横やり入れられちゃうよ!」


鎧越しに伝わる熱と締め付けられ軋み罅が入る鎧に更なる追い打ちが掛かるッ!


白薔薇「門よ!声に耳を傾け開きなさい!『<幻夢の一撃>』出でよ…!"ジャッカル"」


貴婦人を中心にサークル上の陣が展開される、異界より召喚されるは術者に仇なす者を喰い殺す魔狼
 その牙はルージュの<エナジーチェーン>で締め上げられた腕の罅に突き刺さった…!

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/18(金) 23:08:41.65 ID:CAIPkBBV0


 異形の魔獣が突き立てた牙は罅を更に広げ、冑に覆われ表情を窺い知る術はないが騎士が苦悶の声を漏らし
牡山羊を彷彿させる2本の角が生えた頭部を振るう姿を見るに恐らく皮膚にまで食い込んだのだろう





紅き妖刀を手にアセルスが咄嗟に機転を利かせた防御

あれだけ大口を叩いた癖に油断したッ!と舌を打ちながらも飛び退きエネルギー集合体で敵の腕を縛るルージュ

詠唱を終え、自身を中心とした陣で異形の存在を呼び出す妖<あやかし>の術でジャッカルを召喚した妖魔、白薔薇姫




 単純に力量差ならば騎士に分配が上がっていた
しかしながら古来より戦いというモノは数に左右される、如何なる兵<ツワモノ>も、百戦錬磨の英雄であろうとも
多くの敵の連携を前にしては辛酸を舐めさせられる事となる





 白薔薇「星光の加護よ、彼の者に安らぎを―――『<スターライトヒール>』パァァァァ!!



 澱んだ溝水のように一点の光さえ刺さない結界の中に一筋の輝きが降りて来る
それは従騎士の剛脚で蹴りつけられた腹部を押さえていたアセルスを温かく包み、光に抱擁された彼女の表情も和らぐ




アセルス「白薔薇!すまない……、私にはまだこの妖刀を、幻魔を扱い切れないのか…っ」



手にするは紅い劔、ただならぬ気配が漂う刃は何も答えてくれない



 先程、ルージュを護った紅き妖刀を鞘に納め、少女は右手を前に翳す…
何も掴んでいなかった筈のその手の中に突如として1本の長剣が姿を現した



ルージュ(…!何も無い空間から剣を取り出したっ!?)

白薔薇(っ、アセルス様…それは!!)



水の従騎士「…ほう、[妖魔の剣]を呼び出せるようになったのですね」

アセルス「だぁぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁ!!」ヒュッ!スパッ!



水の従騎士「仮にもあの御方の血を注がれ、半分とは言え妖魔の仲間入りを果たされただけはある…しかし!」ガキィィン!


ルージュ「うおぉおお!?(なんて腕力だ、腕を振り回して縛ってる僕ごと)」




念動力の鎖が巻き付いた腕を大きく振り回し、ルージュごと振り回す
大地から足が離れ遠心力に翻弄されたルージュは堪らず術を解除し、地面に叩きつけられる


彼の身体が地につくのとは真逆だった、彼女が全く同じタイミングで地から飛翔したのは…!



 青年の肉体が地を2度跳ね、少女が剣の先を敵の顔面目掛け突き刺すような姿勢で跳び
妖魔が驚愕の表情のまま口元を手で覆い、騎士は自由になった利き腕の剣で迎え撃つ



これが一瞬の出来事であった

51 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 00:48:39.95 ID:QDQEiEeC0









                        【< 妖 魔 化 >】







―――――――カッッ!!








 目を見開いた、春の若葉を連想させる綺麗な緑髪は暗色を深め、重力に反するように外側は逆立つ
その姿を見たルージュは勢いよく突きを放つアセルスの剣先を目で追う…


その刃先は水の従騎士の冑で眼の位置に当たる部位を突き刺すのは間違いなかった







剣先が届けばの話だ










水の従騎士「クゥォォオオオオ、ボッッッッッッ!!」ガコッ ブシャァァァァ!!!





口の部分がシャッターのように開く、人間とは違った歯並びの大口が顔を覗かせた


 消防車のポンプから噴き出す高出力の水圧、いや、それ以上の出力で
それこそ重火器[水撃銃]に匹敵する[水撃]が妖魔の騎士の喉奥から放たれたのだ



 鈍い音、障害物も何も無く、真っすぐ跳んでくるはずだったアセルスの右肩から骨が折れたような音がした
滞空中の少女の身体はさながら風を受けた風車のように回りながら弾き飛ばされる




そして追い打ちの一太刀がアセルスの身体を裂かんとする





時間を要する白薔薇の術は間に合わない

弾き飛ばされすぐさま態勢を整えて術を放とうとするルージュでも間に合わなかった





17歳の少女の鮮血が騎士の剣先に付着した
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 01:46:08.84 ID:QDQEiEeC0



言葉を失った、自分の目の前で助けられたかもしれない人が命を落とす





深々と刃が通った少女の肉体が嫌にルージュの網膜に焼き付く、脇腹から臍の位置までざっくり…
やや、斜め上に胃腸から肝臓まで切ろうとでもしたのだろう



あれでは助からない




ルージュ「なんてことだ…」ワナワナ




 このような非道が許されようか、年端もいかない娘が目の前で切り殺されたて平然と何故できようか!?
握り拳を創り、彼は暴挙をあげた騎士を何としても葬らねばと怒りに震えた


 誰にでも優しい彼とて相手が微塵たりとも救いようの無い極悪非道の悪漢ならば手心など加えない
容赦なく爆裂魔法<インプロージョン>でその生命をも奪う事だろう



立ち上がり、彼が術を唱えようとしたその直後―――












                     "それ"は起きた











         ドクンッ!

                 ドクンッ






        ―――ゆらり…





本日何度目になるか、分からないがルージュは絶句した


何故ならば…







53 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!nasu_res]:2017/08/19(土) 01:48:25.86 ID:QDQEiEeC0




                 ドクンッ!

                     ドクンッ!



                ドクンッ!












            シュウゥゥゥゥゥ…!
























                  アセルス「」ユラァ…






























     明らかに致命傷を受けた筈のアセルスが立ち上がったのだっ!!その手に血染め色の妖刀[幻魔]を手にして!


54 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!nasu_res]:2017/08/19(土) 02:20:19.42 ID:QDQEiEeC0



                             ビチャッ!


アセルスの血が地面に落ちた…




アセルスの―――















ルージュ「紫色の血液…?」



妖魔の血は青色

人間の血は赤色




あの血はなんだ?





白薔薇「アセルス様…」





裂けた腹からは血液が滴る…そして驚く事にその傷口が尋常ではない速度で塞がっていくのだ、術の力じゃない


ジュゥゥ…!



ルージュ「あ、アセルス…キミは一体」



アセルス「」フラリ…フラリ…フラッ



意識が無い、何も答えず、虚ろな眼は何も映さない

ゾンビのように起き上がり、風に揺れる草原の芝のように左右に身を揺らし、そして―――






             アセルス「           」ボソッ








  彼女は誰に聞き取れる訳でも無い小声でつぶやいた
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 02:26:14.79 ID:QDQEiEeC0
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..r─---─−……<く        ヽ_   ` ー─‐イ_   \   ヽヽ─ 丿_
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| ! _ - ( ___          /: : ヽレ'_:_:_j j/  ! 八 l辷ソiリ /U  ∨'Y
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`ヽ、   \ |   >、  (::(`¨     _∨: : :\  `ヽ    =≧=彳_ヽ′ノ    /ハ
   >、 j/| ∠   ` ̄{厂 > 、 {: : : : : : : : :.ト、  `Y  、_  ̄ _ - ´   ヽ_ノムノ
  |\」/   ヽ{f⌒i    / ̄   |:>'=-: : : : : :..:| f=ーハ     ̄  }    ,f´广´
  ヽ      \ ヽ  / 7ヽ  ハ: :..:∧ニニつ:.//: :..:/ ゝv'⌒)__ノ廴/>′
     ̄ ̄>、  入ノ`ー`ー': : | /  X/_: !: : : : :〈〈: :/    / >、ィ´⌒`‐ア〈
      ト、⊥/  ヽ: : : : : : : \__」/: :L|: : : : : :V: |    ̄/    _ - ' /
        ` ー─‐r}:\: : : : : : : : : : : : : ト、: : : :/,′       ‐´   /}_
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          -    幻   魔   相   破   -








56 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 02:28:09.72 ID:QDQEiEeC0
    .|  .|    . ゙゙ゝ..、  _..-'"          |i |i            ヽ              }l
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         }!      l{          ヽ   /                        /  }l           \
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 23:39:04.33 ID:QDQEiEeC0


気がついた時には全てが終わっていた



妖魔の騎士はもう動かなかった



蒼を基調としたカラーリングの鎧は音を立てて砕け、その破片が砂粒のように変貌する

流れ出した粒子は天へ昇り、蝶へと変わって何処かへ飛び去って消えゆく




幻想的な『死』だった…


後には彼が持っていた[玄武の盾]が転がっていた







意識を失ったアセルスもまた、元の[ルミナス]の風景に戻ったこの場所に倒れていた





「おい!何の騒ぎだ!」

「戦闘があったんじゃないのか…」

「誰か!警察を!IRPOのパトロール隊員を呼べ!」



ルージュ「騒ぎを聞きつけて人が…」バッ!



 倒れて動けないアセルス、その傍らに泣き出しそうな白薔薇
群がる群衆…パトロール隊員の要請、…穏やかじゃないのは確かだ



白薔薇「嗚呼…!そんな!」


白薔薇「厚かましいとは思われますが!お願いです!どうか人を近づけないでください…!」


白薔薇「今のアセルス様を人に視られる訳には!」






紫色の血液を流した少女…


人に視られる訳にはいかない…


シップ発着場の方から来る人集り、逃げ場がない…







    ルージュの中で答えは出た



ルージュ「白薔薇さんっ!アセルスの身体をしっかり掴んで僕に捕まってくれ!」つ【リージョン移動】

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/20(日) 04:48:40.34 ID:FCDawJzU0


外界に出てからは一度たりとも使うまいと思っていた宝石を強く握りしめた



 涙ながらに悲願する貴婦人の妖魔、如何様な理由があるかまだハッキリと分かってはいないが
今、彼女らが民衆の眼に触れるという事は"泣くほど"の事なのだ


ならば誰の眼に触れることも無く脱出する手段を使う他ない

























                ルージュ「『<ゲート>』…[ドゥヴァン]へ!!」
























―――
――



時刻(アセルス達を連れて逃げた回想シーンから今、現在)【19時49分】





「お客さん、どうだいウチのコーヒー占い」ニカッ


ルージュ「あー、すごくいいです」グデー


白い歯を見せて笑うマスターを前に喫茶店のカウンターに突っ伏すようにルージュは疲労の混じった声を出す


59 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/20(日) 05:48:40.42 ID:FCDawJzU0


ルージュ「…陰術か陽術の資質を取る為に[ルミナス]に行ったはずなんだけどなぁ…あれ〜おかしいなぁ」

ルージュ「なんで僕ってば丸1日使ってこんな事になってんのかなぁ、あはははははー」(泣)




「ありゃ?間違ってコーヒーにお酒入れちゃったかな?お客さん?大丈夫ですか」ポリポリ




ルージュ「大丈夫です、それとお酒入ってないんで安心してください、うっ、うぅぅ…」ブワッ






カランカラン!




アセルス「…あのー…此方に銀髪の男の方はいますか?」


ルージュ「」ビクッ ハンカチ、トリダシ ナミダフキ!



ルージュ「やぁ!!もう平気なんだね!良かったぁ」


アセルス「ルージュ、…此処に居たんだ、白薔薇の手当のおかげでなんとか、それで目を覚ました後で聞いたんだ」

アセルス「資質、私達のごたごたに巻き込まれたから取りに行けなかったんでしょ…ごめんなさいっ!」ペコッ


ルージュ「…いや、そのことは良いんだ、自分から突っ込んでいったんだしさ」

ルージュ「それよりも大口叩いといて結局僕は何もできなかった謝るのは僕の方だ」


アセルス「…」チラッ

ルージュ「…マスター!コーヒー美味しかったし個性的な占いで楽しかった、また来るよ!じゃあね!」



緑髪の少女はチラリと喫茶店の店主を見た、目配せ…


此処じゃ話せない事があると暗に言いたいのだ、それを汲みルージュはアセルス、そして外で待っていた白薔薇と共に
神社の方へと歩き出す


白薔薇「ルージュさん…アセルス様のことでお話があります、ただ口外しないことをお約束願いた―――」

アセルス「いいんだ白薔薇、どうあれ巻き込んだのは事実だ、だから…私の口から"話す"」


白薔薇「…畏まりました」





神社の長い階段、紅葉が風に舞い、蒼白い月の光はそれを幻想的に染め上げる


アセルスは告げた…彼女達の立場を、包み隠さずに



60 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!美鳥_res]:2017/08/20(日) 06:05:45.15 ID:FCDawJzU0
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[BGM:主人公アセルスのテーマ(未使用曲) ]

https://www.youtube.com/watch?v=R9iIWQlZxzM





妖魔、人とは異なる種族が住まう世界<リージョン>がある


妖魔の王の中の王、"魅惑の君"と崇められるオルロワージュなる者の統治の元その地は悠久の時を流れていた


変わらぬ日々、代わり映えの無い行動、決められたルーチンワーク、住人も城の召使も騎士も皆が淀んだ時間を過ごす




時が止まったように動かない世界、何もかもが"いつも通り過ぎる"世界



そこで"人間の少女"アセルスは目を覚ます




彼女は困惑した、生まれ育ったリージョン[シュライク]の自宅ではない、見た事も無い天井、見た事も無い部屋での目覚め


彼女は思い出す、育ての親の叔母の頼みでお得意先に本の配達に向かった事を…


彼女は思い出す、その帰り道に





  命を落としたことを…






アスファルトの上を歩いていた、真夜中の道路上には自動車のライトもエンジン音も何も無かった

そう、音もなく、突如として現れた馬車に、馬に、轢き殺された





思い出して頭を押さえた、このご時世で馬車? …頭を強く打って記憶がこんがらがってるのか?ここは何処の病院だ?と



もしかしたら、自分はおとぎの国に迷い込んだ夢でも見てるのかもしれない、なんて楽観的な考えも持っていた

中世のお城のような内装を歩き…


棺桶に入ったたくさんの女性を見て青ざめるまでは





彼女は知る事になった


その城に住まう妖魔の君、オルロワージュの馬車に轢き殺され絶命した事を

そして、"暇つぶし"で城主オルロワージュに妖魔の青い血液を注がれ

半分人間で半分妖魔という、この世でたった一人の奇異の存在に変えられてしまった事を…っ!


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61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!美鳥_res]:2017/08/20(日) 06:22:41.60 ID:FCDawJzU0


アセルス「お願い!この城から出たいの!叔母さんに…家族の所に帰りたいの!!」


白薔薇「アセルス様…」



妖魔の君より、教育係としてアセルスの面倒を見ることになった者が2人居る

1人はアセルスに武術を教えるようにと騎士を(尤も手当たり次第に圧倒的実力差のモンスターと戦わせるだけの人だが)




1人はアセルスに礼儀作法、妖魔の世界について教育するようにと99人居る城主の寵姫<ちょうき>…人の言葉で言う愛人
その99人の側室の中で誰よりも優しい姫、白薔薇姫が担当することになった



血液を体内に注がれたアセルスとは違い、妖魔の君に血液を吸われ…それこそ御伽噺の吸血鬼のように吸われた白薔薇姫は
人間としての人生を強制的に終わらせられ、妖魔へと変えられた


そんな白薔薇姫は故郷に、そして家族の元へ帰りたいと願うアセルスの姿にかつての自分を重ねたこともあり

彼女の脱出に加担する



そして、念願の[シュライク]へと帰郷できたものの…






アセルスの叔母「…アセルスは12年前に行方不明になったんだよ!あの時と変わらない姿なんて…私を騙す妖怪かい!」

アセルス「叔母さん…違う、違うの!私、アセルスだよ!生きてるんだよ…っ!」





アセルス「12年…、私が意識を失って12…年…?」


アセルス「白薔薇…どうして、教えてくれなかったの?」



白薔薇「…私達のリージョン[ファシナトゥール]では時間の流れなど意味を持ちません」

白薔薇「ですがそれ以上にアセルス様に…ショックを与えたくなかったのです」



眠り姫

もしくは、竜宮城から帰って来たばかりの浦島太郎か



母親代わりの叔母は白髪で、数日前までは同級生だった女子高校生は子供の母親…、街並みは所々変わっていて



アセルス「12年も歳を取らないなんて…やっぱり私はもう人間じゃないんだ…、化け物なんだっ!!」

白薔薇「そのような物言いをしてはいけません!」




城を抜けだしたことで、帰る場所を…迎えてくれる人も失くした自分の唯一の理解である白薔薇姫を奪い返そうと

従騎士たちがやって来る


自分はもうどこにも行けない、誰の元へも帰れない、だからアセルスは白薔薇を護る決意を…逃げ切る決意を胸にする


*******************************************************
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/20(日) 06:33:42.56 ID:FCDawJzU0
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白薔薇「アセルス様…これから何処へ向かわれるのですか?」

アセルス「…何処だって良い、二人で逃げ切れる場所へ行くんだ…」


―――
――





そして二人が乗り込んだシップの行先は[ルミナス]だった…そこから先はルージュも知る通りである





ルージュ「そんなことが…」


アセルス「お腹、切られちゃったんでしょ?私」

アセルス「でも、この通り私はもうピンピンしてるんだ、血管を流れてる血だって人の赤と妖魔の青で紫」




アセルス「前にもお腹をグサッて刃物で刺された事があるけど、すぐに傷口が塞がってさ…ゾンビみたいに」





アセルス「気味が悪いでしょ?」



自嘲気味に笑った、それがなんとも言えない、…この少女が一体何をしたというのだ



アセルス「[ファシナトゥール]から逃げて来る前にこの妖刀、[幻魔]を手に入れた」

アセルス「逃げるなら少しでも万全の準備が必要だったからね…でも、困った事にこの剣は使いこなせてないし…
                       白薔薇を護るって言っときながら実際、騎士との闘いはあんなんだよ」


アセルス「私が劔を使ったんじゃない、私が劔に使われた、気絶したまんま、引き摺られるようにね」


アセルス「何から何まで駄目さ」


63 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 00:45:33.92 ID:jsyQzSm60


ルージュ「君達は、これからどうするんだい」



 彼には使命がある、祖国の最高権力者から双子の片割れを殺せ、と…国家が欲するのは完璧な1人の術士
双子の片割れを決闘を通じて打ち倒す事で唯一無二の最強を証明せよ、と



その勅令を無視すれば国家反逆罪として追手がやってきてルージュは始末される、それは兄ブルーにも言えることだが…









生き残るためには国の御言葉に黙って従い、各地での修行を終え、資質を集め、術を磨き兄を抹殺する事…






アセルス「もう引き返せないんだ、これからも追手から逃げ続けるさ、白薔薇と二人でね」

ルージュ「―――っ!」





目の前の彼女は、追手に追われる身の彼女は他人事とはどうしても思えなかった

未来の…そう、選択によってはこうなるであろう、未来の自分の姿なのだ





ルージュ「僕も…」


振るえる唇から声を絞り出す、止められない



ルージュ「僕も…君たちの旅路に付き合わせてくれないか…資質集めの旅で世界各地を歩き回る」

ルージュ「君達が安住の地を見つけるその時までボディーガードくらいにはなれる!」



アセルス「ルージュ……」


その眼差しには光があった、何かを見出したい

国を出て、これから誰かに言われた通りに決められたレールの上を歩くだけの人生、兄を殺すか殺されて終わるか



たったそれだけの『生』の中で何かを残したい、その何かを残せるかもしれない、そんな希望があった



 紅き術士の旅の最終目的を知らない半妖の少女は戸惑い、共に逃げて来た妖魔の貴婦人に目を配らせる
それを見かねた白薔薇は口を挟む


白薔薇「ルージュさん、わたくし達と共に行動をなさるという事は従騎士に襲われる危険があります」

白薔薇「それでも良いと仰るのであらば歓迎いたしますわ」


アセルス「し、白薔薇?」ギョッ


 目配せはした、危険に巻き込むのも吝かではないアセルスはこの男性にどうお断りの言葉を掛ければ良いか困っていた
しかし瞳の奥にある希望を見たような光に戸惑い彼女に助け船を出したが、予想に反した声が来たので驚いた
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:53:53.32 ID:jsyQzSm60


 白薔薇の姉姫…"44番目の姫"に勇敢な姫君が居る、噂で聞く限り城主に眠らされ続けている彼女に限らず
決意を持つモノの眼には通ずる物があるのだ、一歩たりとて退こうとしない強き意志を宿した目…それを彼女は知っている


恐らく、彼は『退かない』そういう目をしているのだと解るのだ



ルージュ「覚悟の上です、それでこの命を落とすというのなら…僕はそれまでの人間だったということだ」


ルージュ(そう、兄に殺される、国家反逆罪になり大勢の人間に囲まれ死ぬ、旅路の果てで死ぬ)


ルージュ(死ぬまでの過程で何かを作りたい、誰かの役に立ちたい…
         もちろん死なずに済む方法、兄を殺さずに済む策が見つかるならそれが一番だし)









ルージュ(それに、知ってしまった以上もう他人事とは思えない…!)





白薔薇「アセルス様、私からのご意見をお許しください…現状私達は行く宛ても無く、また頼れる人もおりません」


白薔薇「此処はルージュさんのご提案を受け入れるべきだと思いますわ、…アセルス様の心中もお分かりですが」



アセルス「……分かった」クルッ


アセルス「ルージュ、私達が安住の地を見つけるまで…お願いできる?」


ルージュ「ああ!当然だ」ニィ!




朗らかな笑み、青年は手を前に差し出し、少女もその手を握ろうと前へ――――





             「今だっ!!!」」ブンッ!




       プシュウウウウウウウゥゥゥ――――っ!


ルージュ「!?」

アセルス「な、なに!?」





 茂みの中から光る物体が飛んできた、それは月光に照らされて僅かに反射することから金属だと解することはできた
スプレー缶の噴出音の様なそれは二人の合間に飛んできて"ガス"を噴き出す


ルージュ「げほっげほっ…こ、れ――ぁ」バタッ

アセルス「ルー…げほっ!」


「おおっと、そこの嬢ちゃん動くんじゃない!」

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 02:36:19.54 ID:jsyQzSm60


 目が痒い、それと同時に襲ってくるの体内に妖魔の血が流れているアセルスでさえも意識を手放しかねない強烈な睡魔
茂みからガサガサと掻き分けて歩いてくる音と野太い男性を聴覚は認識する


「俺達は手荒な真似したくないんだ、それにそっちの白い子を視ろよ」


アセルス「し、白薔、ごほっ…」フラッ


 睡魔、"ガス"に遮られ視界が暈ける中、いつの間に白薔薇の身体を取り押さえたのか男が数人
白薔薇を拘束、口元を覆うようにハンカチのような布を押し当てているのが見えた


がっくりと項垂れるように、目を瞑った彼女…恐らくこのガスと同じ成分の薬を染み込ませた布で白薔薇を眠らせたのだ




アセルス「!白薔薇、しろばらああああぁぁぁぁ」


「うるせぇ!!お前も眠ってろ!!」


アセルス「ぅぐうっ!…‥っ!…!!…・・・っ・…」ジタバタ、…ガクッ





「ふぅ…いっちょ上がりか、へへっ…イイ女が3人も」





…3人、どうやらこの男達、全員女だと思い込んでいるようだ



「どれもこれも上玉だぜ…、にしても…聞いてた情報と違うな」

「ああ、[ドゥヴァン]の神社に[ファシナトゥール]から逃げ出した妖魔の姫が出没するって噂だったが…」チラッ

「この頭に花飾りつけてる奴じゃねぇのか?」
「俺に聞くなよ、噂だけで容姿とかは分らなかったしよ…そもそもガセネタの可能性があったろう?」



"[ドゥヴァン]の神社に妖魔の姫君が居る"…リージョン界で誰が流したか知らない噂…尤も眉唾物として扱われていたが



「っていうか、この銀髪のネーちゃん人間じゃねぇの?」

「なんだっていいさ、このレベルならヤルート執政官も満足するだろうよ」




「ああ、最近妖魔狩りに凝ってるっていうあの変態のな…あんなのが各地のリージョンの取締役、トリニティの執政だろ」

「政治家が軍事基地に自分のハーレム作って女と変態プレイとか…世の人々が聞けば税金返せって喚くよな…よいしょっ」


「おい!そっちの女たち運べや!…小型の高速艇をわざわざ借りてシップ発着場に止めたんだ」

「早いトコ運んで礼金貰おうぜ!」



「おう!あのシップならトリニティのラムダ基地まで1時間もしねぇつけるぜ」


―――
――


66 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2017/08/23(水) 02:53:20.28 ID:jsyQzSm60















            …まずは一つ目か、認めたくないが背を預けられる者が居るというのは悪くない














自然洞窟、人間がいつしか忘れ去ったそこは神秘的な世界だった


希少価値の高いレアメタル、鉱石、あるいは古代のお宝を求めた野盗、モンスターも徘徊していたが…






 それでもこの空洞は表の[クーロン]よりも居心地が良いと感じたのは保護の力だろうか…


67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 07:44:18.75 ID:jsyQzSm60


ヌサカーン「ほう…大したモノだな」




 白衣の妖魔医師は目の前で荒れ狂うルビーの嵐に感嘆の声を漏らす
蒼の術士が唱えた魔術はその名を冠するにふさわしい輝きを見せた、朱色の太陽達…そのまんま、その通りだ


彼が言葉を切ると同時に巨大な宝玉が現出し、それは惹きあうようにぶつかり砕け、弾け飛ぶ




衝突の瞬間に出た火花は正しく日没の一瞬の煌めきに等しい光で、その残光は飛び散った無数の破片に乱反射する

物理法則を完全に無視した光の迸流、大気も何も無い無風の空間に渦巻く竜巻




熱を帯びた鉱物の棘は地脈から"保護の力"を喰らっていた巨虫たちを貫き、体内に熱を送る

 腹、胸、頭の三構造を持つ体節はどれもこれも針の筵の上を転がされたかのように穴だらけで
タンパク質の焼け焦げた異臭と白い煙が立ち上り始めていた、蚤虫に酷似したモンスターの死骸を見てから
ブルーは1匹だけまだ息のある蟲…[クエイカーワーム]を睨みつけた



ブルー「醜い粗虫め、今楽にしてやる…」



文字通り虫の息、放っておいても息を引き取るであろうモンスターに向けて爆裂魔法<インプロージョン>を打ち込もうと――



ヌサカーン「…ふんっ!!」シュバッ!


「ギィッ "ッ ッ」




ヌサカーン「たった一撃で沈む相手にそれはないな、仮にも医者を前にして瀕死の相手に追い打ちをかけるのはどうかね」

ブルー「……」



ブルー「……」プイッ



ヌサカーン「やれやれ…君は情けや人情とやらを学ぶべきだな」



手にした[妖魔の剣]を霧雨のように消し、妖魔は白衣をはためかせながら眼鏡越しに目の前の青年の後ろ姿を見る
 決して殺しを愉しんでいる訳ではない…、それは分かるのだが



ヌサカーン「人間にも様々なタイプが居る者だ、冗句の通じない相手などがな」



 他者に自分の心の領域を犯す事を一切許そうとしないタイプ、調和性が極端に低い人種
根が真面目過ぎるが故に手加減を知らぬ者…


束ねた金糸の髪が揺れる彼はその3点が見事に揃っているという…



ヌサカーン「私から君に診断結果を告げるべきかな?…君は人との繋がりを持つとイイ、さすれば自ずと心にゆとりが」
ブルー「どうでもいい話は後にしろ、それよりもルーンは何処だ」



やれやれ、と肩を竦め「まだルーンが何処にあるか気づかないのかね?」と妖魔医師は言葉を続けた
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 07:59:09.13 ID:jsyQzSm60



ブルー「なに?」ピクッ



ヌサカーン「」トントン



妖魔は何も言わない、ただ片足をあげて爪先で地表を叩く

革靴の底が2回音を鳴らし、術士はそれが意味する所に気がついた




ブルー「…!なんと」


ヌサカーン「この街が何故ここまで栄えたか理解できたようだね」




ルーン文字の刻まれた巨石に触れる、そのためにリージョン界を廻る旅をすることになった
巨石というからにはそれなりのサイズだろうと思ってはいたが…






           ブルー「この地脈そのものが保護のルーンだというのか」




"今自分が立っている大地そのものが"目的の大岩だったのだ


 地盤そのものが目的の石、大地には窪みがあった、1本の長い…川か何かが元は流れていてそれが干からびてできたと
そう思えるような痕があった、途中枝分かれのように三岐路になったような地層



もしもブルーが鳥か蝙蝠か…何れにせよ翼を持った生命体でこの地下空洞のこの場所を
少し浮遊して真上から見ればすぐに分かった事だろう



この場所こそが保護のルーン…<エオロー>の刻まれた巨石だと…!!












                フォン…!

      i⌒i    
. <^\ .|  |. /^>
  \     / .
    \  /   .
      |  |    
      |  |      フォン…!
      |  |    
..    弋_ノ    


  フォン…!



           『保護のルーン』を手に入れた!


69 :今回は此処まで! [saga]:2017/08/23(水) 08:00:55.39 ID:jsyQzSm60
https://www.youtube.com/watch?v=HSh7-WrhFnk
[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ
                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=〜 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '
                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人
                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
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                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~
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70 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 14:31:20.74 ID:OL516RZpO
乙乙
久々にサガフロやりたくなってきたわ
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:46:15.11 ID:oub8EXv60

【時刻 21時23分】




 常闇の街は夜が深まるにつれ昼間以上の輝きと華やかさを増す
特に居酒屋、路上で鍋から湯気を湧き立たせる屋台には顔を赤くしてグラス一杯の焼酎を呷るスーツ姿が目に映った


闇医師ヌサカーンと別れ、1人[クーロン]の安宿へとブルーは歩いていた


 夜なのに昼間以上に明るくなる摩訶不思議な街はその特徴的な色を濃くしていた、路上で客引きをする売春婦
酔っ払い同士の殴り合いを肴に酒を呷りどっちが勝つか金銭を張る警官…数が明らかに増えていた


喧騒と欲望に塗れた暗黒街の小さな安宿、カウンターの向こう側には翼竜の姿をしたモンスター種族の店主が経営している



「1泊、10クレジットだよ」


良く言えば質素な、悪く言えばただの寝床が置いてあるだけの部屋を貸し与えるだけの宿
シャワー、食事等は別料金のオプション扱いだ



しかし、隙を見せれば無一文、裏通りを歩けば追剥の末に骸へと変えられかねない無法地帯で羽休めができる所とあらば
喩え雑魚寝しかできない粗末な場所であろうとも砂漠のオアシスに等しい楽園なのだ




部屋の鍵を受け取った後、シャワーと軽く胃に詰められる物を注文しようと思いながら荷物を整理していた時だった






ブルー「!?…無い、無いっ!!」ガサゴソ



ブルー「【リージョン移動】が無いだとっっ!!」



息を荒げ、何度も自身の荷物をひっくり返して鞄の底を漁る、目当ての宝石は出て来ない
ブルーは一旦呼吸を整え、考えられる可能性を一つ一つ挙げた…

盗まれた?いや、それは無い、此処がどういう街かこの数時間でいやという程に知った
それに、自然洞窟へ入る前に[傷薬]の確認等で一度鞄を見たが…その時は確かにあった…とすれば



ブルー「くそっ!!自然洞窟に落としたというのかッ!」


 ヒステリックに両手で自身の金髪を掴み、忌々し気に床を蹴り飛ばす
疲れた身体に鞭打って彼は既に目的を果たした筈の地下空洞へと再び赴くこととなったのだ…






災い転じて福となす、これは何処かのリージョンに伝わる諺だが、これが後々彼の資質集めの旅にまた関わって来る



無論、福となす方…つまり良い意味で



―――
――



72 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 01:24:47.00 ID:oub8EXv60



黄金色の髪の女「…はぁ…モヤモヤするなぁ〜」


紫色の髪の女性「そう」



黄金色の髪の女「そうって、ライザぁ…」



ライザ、と向かいの席に座る女を呼んだ女は机に突っ伏したまま洋酒入りのコップの淵を指でなぞっていた






ライザ「あと2時間するかしないかでラムダ基地にエミリアを乗せたシップが着地するでしょうね…」


ライザ「エミリアが自分の婚約者の仇、ジョーカーの情報を首尾よく掴めたとしてどう脱出するか」ゴクッ


ライザ「私達は現状、助けたくてもそれが儘ならない…
       基地から適当に小型艇でも奪ってエミリアが逃げて来るのを信じて待つ他ないわ」



口にアルコールを含んだ女が一呼吸おいて淡々と事実だけを述べる

仲間の1人が任務の為とは言え女癖の悪い事で有名な政治家の元へ薬で眠らされて売られたのだ
 表に出さないだけで心配してはいるのだろうが…




ライザ「それで、アニー…貴女はどうする気なのかしら?このまま私と朝までヤケ酒を交すつもり?」ゴクッ


アニー「…遠慮しとく」グデー




アニー「…」

ライザ「」ゴクッ、ゴクッ…




アニー「ライザ」

ライザ「なにかしら?」



アニー「暇」

ライザ「そう」





そっけない返事に黄金色の髪を持つ彼女はムッと頬を膨らませた


アニー「はぁー、もう良いよ…!本当はエミリアが帰ってきたら3人で行く気だったけど…」チャキッ


そういって、彼女はポケットの[レーザーナイフ]とは別で仲間達と同行中に街中で買った得物を…
机の脚の所に凭れさせていた[サムライソード]を手に立ち上がる



アニー「解放、活力は取ったけど、身近にある保護と[シュライク]の勝利は後回しにしてたからね」

アニー「自然洞窟のお宝さがしついでに行ってくるよ、ちょっと鬱憤晴らしたいしさ!」

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 16:16:46.90 ID:xELsypRTO
アニー来た!
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 20:52:14.63 ID:hsAywGgW0
巨乳きたか!
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 00:09:13.64 ID:Mh5gDrEmo
う〜ん、でかい
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 00:34:04.87 ID:VcHYNB2LO
でもレッドの出番は少なさそう
というかなさそう
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 01:01:02.90 ID:rmSlmX26O
ルージュと組ませればワンチャン
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 21:49:54.64 ID:8EAxpLHc0


 鬱憤を晴らす為、金銭を得る為、と威勢良く飛び出していった彼女の後姿をライザはコップを傾けながら見送った
ショートパンツにブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけの相変わらず露出度の高い彼女は店を出る前に
溌剌とした笑顔で「お宝みつけてくるから!楽しみにしてなよ!」とだけ言って飛び出す



ライザ「」ゴクッ



傾けたコップを卓上の上に置く、片寄った液体は水平になりイタ飯屋の照明の灯りを何処か寂しげに反射させる







「心配なら、ついていけば予感じゃないのかい?此処で独りでの飲んでたってつまんないだろう?」







ライザ「…珍客ね、今日は定休日なのだけど」ゴクッ





「いやぁ〜![クーロン]に寄る機会があったもんでさぁ!久しぶりにエミリアに会いに来たんだよ!」



イタ飯屋…皆が犯罪履歴を持つ構成員であり、役に立たないパトロールや法律ではどうにもできない事柄を解決する
裏組織"グラディウス"の隠れ蓑である店内にやたらと明るい声が冴えわたる




 扉の前に居る珍客は紺色でボサボサの髪に民族風の帽子と服装…如何にも「田舎から出てきました」と言った風貌で
腰には使い込まれた剣が一本、その背中には彼の名前と全く同じ弦楽器が背負われていた





ライザ「そう、残念ね、エミリアは今"お仕事中"なのよ…それより、貴方まだ仕事が見つからないのかしら?」ゴク



弦楽器を背負ったニート「ありゃ?エミリア居ないのかー………仕事の方は、まぁぼちぼちな!」



ライザ「…貴方の言う通り、一人でお酒を飲むのも虚しいわ、面白いお話でも聞かせてくれないかしら?」





弦楽器を背負ったニート「おっ!なら今日の出来事を話すぜ!」


弦楽器を背負ったニート「[スクラップ]の酒場で出会った"指輪を集める奴"と"謎のメカ"と一緒に悪党を退治した話さ!」


弦楽器を背負ったニート「さぁさぁ!聞くも語るも愉快な物語の始まりだぜ!」ポロロン〜♪






―――
――

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 22:07:19.34 ID:HT+lE5s/0
ニート、一体何者なんだ(棒)
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 00:29:57.89 ID:m2WBEQKN0
【時刻:22時14分】





アニー「[飛天の鎧]だ!」チャリッ!



軽快な足取りで自然洞窟へ脚を踏み入れた彼女を絶好のカモと勘違いし戦いを挑んだモンスター、野盗が返り討ちにされて
そこら中に転がる中、彼女は頬を綻ばせた


そんじゃそこらの出店では早々見つからない希少価値のある宝が湯水の如く湧いていたと言うべきであろうか
上機嫌で値打ちのある手土産を収穫し、もはやオマケと目当てが逆になりつつある保護のルーンを彼女は目指す




「くそ…!此処にも無い!」




アニー「ん?」スタスタ









ブルー「…考えられるとすれば、やはりあの粗虫共の所か…っ!」


アニー(あいつ…裏通りから出て来た奴か)コソッ





男性二人の悲鳴が上がった路地裏の方から何食わぬ顔で歩いてきた珍しい法衣の人物の顔はよく覚えていた
 妙に苛立った様子で辺りを散策する様子に眉を顰め、岩陰に身を隠す

術士の周りにはなんとも惨ったらしい死体が複数転がっており、それがアニーを警戒させる一因でもあった


妙な気配を感じるから戦闘の準備を、とヌサカーンに言われ、ルーンの地脈がある空洞へ入り込む前に[術酒]の瓶を開けた
 酒瓶を取り出す為に鞄を一度開けたが、あの時に何らかの形で彼の命の次に大切な国家からの大事な支給品を落とした


宿を飛び出てすぐにそう考えて再び最奥の此処まで彼は戻って来たのだ





 裏組織グラディウス、常に命の綱渡りを繰り返す組織に属するアニーは…いや、組織に属する前から厳しい環境で
育った彼女は人一倍、自己保存と自己防衛の本能に研ぎ澄まされている



だからこそ不用意にブルーには近づかない



下手な真似をすればすぐさま自分もあそこに転がる死骸の仲間入りを果たしかねないからだ


後退ろうと一歩脚を退いた、不味かった




                  ―――コツッ



ブルー「!? 誰だ!!」

アニー(っ!…アタシとした事が、しくっちまった…)チッ
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 02:52:36.95 ID:m2WBEQKN0



アニー「あたしはこの奥にあるルーンを探しに来たんだ…そしたらアンタの姿が見えてね」ザッザッザッ…

アニー「先に言っとくけどその辺の野盗共と一緒にしないどくれよ…この通りだ」



両手を上げながら、ゆっくりとアニーは術士の前に出る

 隠れてやり過ごすことは不可能、逃げれば後ろから術を撃たれる可能性も無きにしも非ず…
ならば両手を上げて敵対の意志が無い事を示した方が良いと考えたのだ



ブルー「…証拠はあるのか?」ジトッ



アニー「あたしの鞄の中に[ドゥヴァン]で貰ったルーンの小石がある、それが証拠さ」
ブルー「出してみろ、ゆっくりとだ、妙な動きは見せるな」



ゆっくりと、その言葉に従うように鞄から小石を取り出す…


アニー「ほら、これさ…アンタその恰好からして術士だろ?術士がこんなとこに居るんだなら、同じ石を持ってるはずだ」



ブルー「…!("活力"、それに"解放"まで…)確かにそのようだな…」



ブルー「女、貴様も資質集めをしているようだな?」


アニー「…ああ、それとあたしはアニーって言うんだ、女なんて名前じゃないね」ムッ!




目の前の術士のやけに尊大な態度に内心怒りを覚える
上から目線で他者を見下したような眼差し、…ハッキリ言ってアニーにとって苦手なタイプの人種だ


ブルー「ならば訊くが、この付近でこれぐらいの大きさの宝石を見なかったか?」


アニー「…いや、見てないね」




 正直に言えば仮に見ていたとしてもシラを切ってやりたいと思ったが、相手の機嫌を損ねたくない
見ていたと言えば、案内しろと言われかねないし、もし道中拾っていたとして知らないと言えば「ならば鞄を見せろ」と
そう言われる可能性もある



ブルー「鞄の中身を見せろ」



ほれ、言わんこっちゃない

アニーは内心で愚痴る





アニー「…ほら?嘘はついてないだろう」


ブルー「…疑ってすまなかったな、どうにも気が立っているようでな」


アニー「…ふぅん?」


これは意外だ、偉そうな態度が鼻につく奴だと思っていたが、謝るとは…
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 03:37:38.87 ID:m2WBEQKN0


ブルー「こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様」ジロッ


アニー「そ、そう…」ギクッ




ブルー「それにしても、そうなるとやはり…」ブツブツ

アニー「…あのさぁ、アンタ落し物ってことはこの奥まで行ったの?」


その宝石とやらをこの自然洞窟で落としたというからには一度ここに脚を踏み入れたという事、それが意味するところは
この術士もルーンを求め此処へ来たばかりか、事を為し終えた後のどちらかである


ブルー「ああ、そうだが」


アニー「だったらさ、あたしを保護のルーンのある所まで案内してくれない?その代わりアンタの探し物を手伝う」


アニー「あたしは保護のルーンに触れられるし、アンタは探す目が増える、悪くないと思うけど?」



ブルー「ふむ?」



 道中、野盗やモンスターの群れを剣の錆にしてきたアニーではある、だが予想を超えて広がる大自然の地下迷宮と
敵意を以て襲い来る者達の数の多さに少しだけ疲れの色が出ていた


突破できるかできないで言えば目的を果たしてライザの元へ帰る事はできる

しかし、1人だと威勢よく此処へ来たものの流石に疲弊の色が滲んでくるのだ



見る限りこの術士は相当の手練れ、ならば戦力として申し分ないし、それはこの術士ブルーにとっても同じ事が言えた





            露出度の高い女…見るからに頭の悪そうな女


アニーは世の男が見れば放っておかない容姿だ、女としての魅力があるのだが…

如何せん、目の前の男は例外中の例外、世の全ては知性で決まると判断する男で外見的な容姿には目もくれない




 この場にもし、リージョン界を魅了した元スーパーモデルの金髪美女が居たとしても『頭の悪そうな女だ…』と
鼻で笑うような男である




上記の通り、ショートパンツに上半身はブラジャーにジャケットという肌の露出の多い姿はブルーにとって最悪な第一印象
しかも、岩陰に隠れて此方を窺っていたのだから尚更である




…当然ながらブルーとしては、「こんな女と行動なんぞ共にしたくない」というのが本音なのだが




ブルー「…いいだろう」



[術酒]はヌサカーンと来た時に使った、宿から此処まで全速力で悪鬼の如く駆け抜けて立ちふさがる者を術力の限り屠った
術力が底を尽きればブルーは戦力を失い窮地に立たされることになりかねないのだ

不本意ながら、剣を手に此処まで来たであろう女を利用する他ない
83 : ◆u5jU/0ZJi2 [saga]:2017/08/30(水) 05:03:11.37 ID:m2WBEQKN0


それに、この徹底した合理主義者にはもう一つだけ目論見があった




アニーの持っている"活力"と"解放"のルーンだ





 リージョン界の何処かにある巨石探しの旅路で、ブルーは初日で残り3つの内2つの在処を知る事が出来るのだ
双子の弟が今、どれだけ資質集めの旅を進めているのかは知らないが



 自分の名を告げ、[マジックキングダム]から資質集めの修行の旅をしている事を語り、他愛の無い会話をすること早数分
彼が"活力"や"解放"に関する情報を聞き出そうとしたところで―――






ブルー「所で、訊きたいのだがその小石――」

アニー「おっ!こんなとこにクレジットが落ちてるなんて使ってくださいねっていってるようなもんじゃん!」チャリッ









ブルー「…先程は言いそびれたが貴様の集めているルーン―――」


アニー「500クレジットだわ!」ダッッ! チャリッ!










ブルー「……見たところ既に"活りょ―――」イライラ

アニー「[術酒]だわ!…飲めるのかしらねコレ」チャリッ!









ブルー「………貴様の持っている"解ほ"―――」イライライライライラ…!

アニー「[星屑のマント]じゃん!!これで軍資金もかなり財布の中に貯めとける!」チャリッ!

アニー「ふふっ、これで大儲けね」ニィ








   ブルー 「 い い 加 減 に しろ ! !!さっきから金、金、金!と守銭奴か貴様はッ!!」




キレました。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 06:11:32.18 ID:m2WBEQKN0



アニー「〜っ!んな大声出さなくったって聞こえるっての!!」キーン


 両手で耳を押さえる女をしり目に肩で息を切る術士、フラストレーションを一気に解き放つ
その怒声は薄汚れた都会の地下に存在する大迷宮に響き渡り反響させる






ブルー(…っく、これだから薄汚い街の女はッ)ギリッ





アニーに背を向け、見えない様にブルーは端麗な顔を歪める…顔は見えずとも歯軋りは聴こえているかもしれない



表の街並みで見かける売春婦を汚物でも見る様に彼は見ていた、金の為に身体を売る女
そんなにまでするのか、と





冷ややかな眼差しは背後の女を見ない、見ないが「どうせこいつも薄汚い下賤な者だろう」とアニーを見下していた



"この時までは"





アニー「っ!」チャキッ

ブルー「!」バッ!




「きぃぃぃーー!!」キコキコ…!




アニー「…チッ、アンタがバカでかい声出すから余計なモンが来たじゃない」

ブルー「ふん…!悪かったな」プイッ







一言でいうとソレ


真っ白な体毛、長くうねうねと動く尻尾、それは紛れもなく白猿そのものであった
奇妙な点を挙げるとすれば、その猿は人類に利器(?)に跨っている事だ…


頭に[ヨークランド]の民族衣装を連想させる帽子を被り、一輪車を乗りこなす猿…[モンキーライダー]だ



アニー「2匹か、お互い一匹ずつ片づけるわよ」


ブルー「ああ、そっちは任せた」



アニーが[サムライソード]を手に地を蹴り、それを皮切りにブルーも術を口ずさむ
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 07:03:03.04 ID:m2WBEQKN0


「ウキャキャ!」


大道芸の荒業か、ペダルを漕ぎながら突撃してくる白猿は一輪車に跨ったまま跳ぶ、でこぼこ状の石床を器用に走りながら
ペダルに両脚を乗せたまま猿は人の背丈を優に二回りを越える大ジャンプを果たす


「キッキィィ〜っ!!」



高く飛び上がるライダーはそのまま鍾乳洞に在りがちなつらら状に垂れ下がった鍾乳石にしがみつき
公園のブランコで子供が遊ぶ様を再現するように猿は動きをつける、後退、前進、それを生かし

ニタニタと笑いながら猿はアニーを車輪で踏みつけようと勢いをつけて強襲を仕掛ける――――ッ!





             ジュバッッッ




「キッ きゃ?」ブシャアアアアアアアアアアアアァァァ




[モンキーライダー]の網膜に映った映像は…



アニーが[サムライソード]で何も無い空間を切った光景



[モンキーライダー]の鼓膜に飛び込んだ音声は…



見えない真空の刃が自分目掛けて飛ぶ音





気がつけば白猿の視界は180℃反転していた、地表に居るはずのアニーを見つめていた二つの眼は天上を見つめていた


 黄金色のショートヘアーを揺らしながら彼女が放った[<飛燕剣>]は…剣気によって生じた真空の刃は
猿の首をスッパリと切断した、天井の洞窟生成物に

べちゃり、と音を立てて何かが突き刺さるが見るまでも無い

 頭部の無い遺体がアニーの数p先に落下し、紅い水溜りを創る
そして主を亡くした一輪車はカラカラと音をたてながら何処へなりと駆けた



…派手な音がアニーの後方から鳴り響いた、きっと壁にでも衝突したのだろう




アニー「ふぅ…掃除完了っと…」クルッ



ブルー「…先を急ぐぞ」



プスプスと煙を上げる焼死体を背にブルーが声を掛ける



アニー「ちぇっ、先に仕留められる自信あったのに」

ブルー「誰も競争なんぞしてはおらんだろうが…」

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 07:20:55.54 ID:m2WBEQKN0



ブルー「」スタスタ…

アニー「」テクテク…








アニー「…アンタ、は……さ…その、"家族"とか居るの?」テクテク…


ブルー「なんだ藪から棒に」スタスタ…


アニー「良いから、答えなよ、別に減るもんじゃないしいいだろ?」




ブルー「……」







ブルー「居る、」






――――――物心ついた時から…施設暮らしだった、祖国の学院で…自分は育った


―――――――祖国は自分の親代わりだ、自分を育ててくれた父親であり、母親である


――――――――― 子供は…子供は大恩ある親に尽くす義務がある…
              だから俺は…祖国の誇りの為に尽くし、国家の為に身を粉にする、それが俺の誇りでもある






             だから俺は…――――−






ブルー「たった"1人だけ"…居る」









             ― 名前しか知らない、顔も見た事無い双子の弟<ルージュ>を殺す ―





      ―――弟を殺して、自分こそが優れた人間である証明を掴む、そして祖国に求められる完璧な魔術師となる





87 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 07:43:16.36 ID:m2WBEQKN0


後ろを歩く女は目の前を歩く男の顔を見ることはできない

もし見たのならどれだけ険しい顔だったかを知れただろう






アニー「たった"1人"…?」



アニー「…そう」


アニー「…」





アニー「あたしさ、どうしてもお金が欲しいのよね」テクテク…


ブルー「なんだ突然、話の前後が繋がらない――」スタスタ…














     アニー「あたしには弟と妹が居る…あたしが稼いで養わなきゃいけないのよ、あたし達、親いないから」




                      ブルー「…」ピタッ







"弟"という言葉に反応するように、男は足を止めた




アニー「二人共施設に預けててさ、こんな街だから費用も馬鹿にならない」

アニー「身体の弱い妹は[ヨークランド]の裕福な家庭に養子になったから一安心なんだけどね」

アニー「弟の方はまだ小さくて、そんでもって手が掛かる悪ガキで」



アニー「こんな街で女が小遣いを稼ぐなんて殆ど決まってる…男に身体を売るか荒っぽい事をするかの二つ」


アニー「あたしだってこれでも女だからね……腕っぷしでヤバい橋を渡る方を選んだわ」



アニー「アンタの言う通りあたしはお金にうるさいの、気分を悪くして悪かったわね」




アニー「…」

アニー「ああ!!やめやめ!こんな湿っぽい話、らしくない!」

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 07:56:32.81 ID:m2WBEQKN0


数分前、アニーはこの不遜極まりない男に驚かされた


今度はブルーが目の前を通り過ぎて行った女に驚かされた



「薄汚い街の女」「どうせ肌の露出の多いその恰好…表に居た醜い売春婦共と同じだろう」と見下していたが…




その考えは改めざるを得ない、人は外見に寄らない、目に見える物、言動だけが全てではない




ブルーにとって今日一番の外界で驚かされた事、一番の衝撃との出会い、ファーストコンタクトだ










ブルー(…露出度の多い女には違いないがな)














  この世に かみ が居るとするならば、なんと数奇な巡り合わせを用意したのだろうか…




  奇しくも此処に居る者は…【弟を自らの手で殺す為に戦う男】と『弟たちが生きれるよう食わせていくために戦う女』









    これほど奇妙な組み合わせがあるだろうか…














2名は自然洞窟の奥、[クエイカーワーム]が巣食っていた空洞内へと到達する


ブルー「!! 【リージョン移動】…此処にあったのか!」ダッ!



89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 12:25:51.92 ID:7X8P3L88O

やっぱアニー良いな
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 13:18:42.16 ID:Eggdf3fJ0




          「ギュィィイイイイイイイ イ   イ イ "ィイ "ぃ 」シュバッ


             ブルー「 ?!ぐ、がっ ぁ!?」ド ゴ ッ





地下空洞の最深部に落し物はあった

彼は敬愛する祖国からの支給品という命の次に大切なそれをここに至るまでに術を乱発し文字通り血眼になって探し求めた








だから、気が抜けた、有り体に言えば完全に"油断していた"




 妖魔医師と一度ここに来た時、ブルーは自身の唱えられる最高位の攻撃術を放った…目に見える物全てを巻き込み
広範囲に渡る灼熱の宝玉の嵐、熱を帯びた鉱物の破片は蟲の群れを物言わぬ亡骸へと確かに変えた


辛うじて生きていた粗虫もヌサカーン医師の一太刀で生命線を断ち切りそれを締めに殲滅したと思った





 先入観や思い込み、これほど恐ろしいモノは他にあるまい…入口から一直線に入って来たブルーの鳩尾目掛けて
突進してきた巨蟲のモンスターは何処に潜んでいたのか、はたまた彼等が一度地上へ帰還していた合間に余所から来たのか




アニー「!!―――っくぉぉっっらぁぁ」シュパッ!ザシュッ!


「ギッッ!」ガシュッ!ジュブッ



アニー「おい!しっかりしろ!生きてるのか…おい!返事をしろって!」



 目の前を歩いていた蒼の術士が猪を裕に上回る大型の昆虫モンスターの突撃で跳ね飛ばされると同時に
彼の後ろをついて来ていた彼女は脊髄反射で[サムライソード]を鞘から引き抜き蟲の前脚を切り飛ばした



 大胆不敵に思い切った踏込、そして股下から頭部目掛けた切りつけ、剣術における"逆風"という名称のそれを放つ


前脚を切り飛ばされ血飛沫を上げる蟲を見据え牽制しつつも彼女…アニーは後方の術士に声を掛ける


ブルー「…ぅ、粗蟲共…まだ居たのか…っ」ヨロ…


アニー「…生きてるんだね、良かった」ホッ



腹部を抑えながらも返事を帰してくれた男の顔はまだ見れない、だが生きている事が確認でき安堵した



アニー「目の前で死なれたりされちゃ、流石にあたしも夢見が悪いからね」チャキッ


91 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 13:59:51.21 ID:Eggdf3fJ0



「ギィィ…」ギチギチ
「ギュゥゥィイイイ」カサカサ…





 刺々しい触覚のような手足、牙をギチギチと鳴らし威嚇をする[ワームブルード]の群れ
前方に2体、右斜め後ろに前脚を切り飛ばした1体…羽音を響かせながら降りて来るのが1体…計4匹の巨蟲がお出ましだ




ブルー「…おい、ゴホ…女」


アニー「…あたしは女なんて名前じゃないね、なんだよ」


ブルー「さ、っきので、上手く声を――うぐっ…だ、せん  ゲホッ」ビチャ…


アニー(コイツ血ぃ吐いてんのか…)




 目を離せば彼奴等はなだれ込む様に襲ってくる、後ろの魔術師は察する所、術を唱えようにもそれが儘ならないときた







ブルー「整うま、で…ッ 時間が居る、時間を稼げ」

アニー「言ってくれるじゃん、難しい注文をさぁ…!」ダッ!





 要点は確かに聴いた、女手一人で馬鹿デカイ蟲の化け物を4匹相手にしろと言っている
術の使えん魔術師など恰好の餌食でしかない、ならばこそアニーが猛進し後方のブルーに近づけさせない、それしかない




<うらぁぁぁ!! ガキィィン ザシュッ!
<キイイイィィ ィ ィ ィ ィィ ィ!!







ブルー「ゼェ…ゼェ、くっ…」スッ!バッ!



ブルー([ドゥヴァン]で買った術書が功を成すようだな…!)シュッ!サッサッサッ!





 シップに乗っていた合間に術書を開き、内容を頭に叩き込んだ彼は両手を動かす
幼子のあやとりを初めとする手遊びや手話のように忙しなく動かし、"印"を表す


それはかのリージョンでは"九字護身法"などと呼ばれる式の築き方だ




ブルー(印を構築した…あとはこのまま印を切りれば…)ゴホッ



永い詠唱はできない、短く、それでいて今の自身を癒す方法…!
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 14:23:02.72 ID:Eggdf3fJ0





           ブルー「…生命を繋げ…っ [活力のルーン]!!」






 素早く印を切り、短く喉の奥から捻り出すように声を捻出する

基本術の一つにして自身の細胞を活性化させ身体の損傷を癒す印術[活力のルーン]目の前に出現するライトグリーンの光は
ルーンの文字を宙に描き、ブルーの身を包む…すぐさま自身の身にせいの力が漲って来るのを感じ取る




―――
――




    キィン…!



                 パァァン…!







     アニー「あうっ!」ドサッ


 アニー「〜っ、こいつ…他の奴よりも強い…どうして…」ハッ!?










  「ギッ〜ギイギイィ…!」バタタタタッ![アシスト]!


  「ギイイイイイイイイイイイイイ――――ッィイ!」"STR UP!"."QUI UP!"."INT UP…










アニー「くそっ!こいつら仲間同士で互いに強化させてるからか!」




「キシャアアアアアアアアアアアァァァァァアアアアア!!」バタタタタタッ!ガリッ



アニー「なっ!―――きゃあああっ!!」ガシュッ



猛スピードで突っ込んできた1匹に肩を喰われる

鍛え抜いた反射神経で掠る程度には留めたものの羽織っていた緑のジャケットが裂け、露出した肩肌からは血が滲みだす


93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 14:56:36.94 ID:Eggdf3fJ0



アニー「い"っ‥‥、こ、こんのぉ!クソ蛆虫ぃぃ!あたしのお気に入りだったってのに!!」






肩の痛みを気に入りの服を破かれた怒りで紛らわす、目尻に浮き出た涙を振り払うように渾身の一撃を打ち込む






        アニー「喰らええぇぇぇぇ!!![稲妻突き]ぃぃぃ!!」ダンッッ――ギュンッッ!!



             「ビギィィッ!?―ギッ」ブチュンッッッ!!グシャ!




雷光一閃


刺突技を十八番とする彼女が可能な限りの瞬発力を発揮し稲妻の如く突っ込む






 [仲間の体術使い]と[銃火器を巧みに扱うスーパーモデル]等と共に

"多くの剣術を閃き"[達人]の域に到達した彼女の剣先には闘気が渦を巻き、稲妻が迸る突きの一撃は滞空する虫の胴体を
ものの見事に吹っ飛ばす、頭部、腹、なんやようわからん昆虫系モンスターの臓器が散乱する



同胞の贓物と血飛沫の雨に臆んだか、後に続いて追い打ちをかける予定だった1匹の動きはやや鈍いモノとなる


勢いを落とした突撃など多くの修羅場を潜り抜けて来た彼女からすればスローモーションで―――






         アニー「ふっ!!―――」サッ




くるり、踊るような足さばきで回避行動を取ると同時に手早くジャケットの内ポケットから[レーザーナイフ]を取り出し
グリップを握り締めてボタンを押す


このご時世何処にでもあるビーム兵器の大して珍しくない駆動音と同時にナイフの柄から先に光り輝く刃先が伸びる








 ――――――クルッ…ザシュッ! ガシュッ!





           アニー「…[かすみ青眼]っと!」ボソッ





遠心力を上乗せした両手の得物で害虫を一匹スライスする
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 15:24:38.09 ID:Eggdf3fJ0



アニー「これで2匹、あとは―――」キッ!




害虫を2体駆除し、すぐさま[<アシスト>]で肉体を強化された粗虫共を睨みつける


アニーが振り返ると同時に虫の一匹(最初にブルーに突撃して彼女に脚を切り飛ばされた奴)が強化された奴の頭上を
忙しなく飛び回っていた



すると何ということだろうか、強化済みの[ワームブルード]の身体についた切り傷が癒えていくではないか…っ!!






アニー「…[<マジカルヒール>]回復までできんのね、随分と多芸な事で」チッ!



最初に仕留めとけば良かったと舌を打つ、芸達者の蟲は凝りもせずアニー目掛けてその巨体で体当たりを仕掛ける


当然ながら彼女もそれに対して迎撃すべく剣を構え地を蹴る…










…が!











          ヒュンッ! ヒュンッ―――!






             アニー「!!」






強化された蟲の背後から飛んでくる力の塊、それはモンスター特有の技[エルフショット]であった―――ッ




 飛んできたエネルギー弾の直撃はもはや免れようがない、それでも抵抗すべく刀身で2発叩き落としたが残りは全弾被弾
後方から放たれた援護射撃に遅れて強化済みの蟲がアニーの身体を撥ね飛ばす


血を吐いて仰け反る様な恰好で吹き飛ぶ彼女に[エルフショット]を放った蟲が牙を突き立てるべくアニー目掛けて羽ばたく




 余程、片足を切り飛ばされた事でも根に持っているのか
その執念の赴くままに接近し柔らかな人間の女性の肌に[毒液]滴るその牙を…!

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 15:45:22.74 ID:Eggdf3fJ0







            ブルー「爆ぜろ、[インプロージョン]!」キュィイイイン!






「アギッ!」ボンッッボジュッ





…粘り気の強い[毒液]が滴るその牙は彼女の身体に突き刺さらなかった




短い断末魔、一瞬の焦げ臭さを残し、この世から消え失せた


片脚を切り取ばされた恨みよりも、不意打ちで鳩尾に一撃喰らわされた魔術師の方が根に持つタイプだった、それだけの話






ブルー「ふぅーっ…このクソゴミ蟲共が…此処に保護のルーンがなければこの場所諸共消し飛ばしてやりたい所だ」




見るからに青筋を立てて、惜しみなく不機嫌を表現する術士は目だけで人が殺せそうな視線を残りの害虫に向ける




アニー「なぁ…こいつはあたしにヤらせてくんない?」




腹部を片手で抑え、同じく怒りで肩をわなわなと震わせる黄金色の髪をした女がゆっくりとブルーの背後に近づいてくる

ブルーは呆れた、この女の耐久性に





自分でさえああなったというのに、強化された彼奴の突撃を直に受け止めてその程度で済んでるのか、と







                      ブルー「勝手にしろ」

                      アニー「ん、わかった」



                      「ギッ!?ギイイイィィ!?」









元より、お宝さがしに加えて鬱憤晴らしの為に来たのだ
蟲如きにコケにされては財宝の他に苛立ちまでお土産にしてしまう、怒りの一撃をお見舞いせねば
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 16:13:11.45 ID:Eggdf3fJ0


不穏な空気を感じ取ったのか、モンスターは脇目も振らずに一目散に逃げ出そうとする



アニー「逃がすかぁぁぁぁ!!」



 剣を構える、達人の域に到達した彼女が閃いた一つの到達点
無駄なく敵の急所のみを狙い、生命活動の源となる部位を確実に寸断する手法








       アニー「だあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」シュバッ!















                   [デッドエンド]ッッッッ!!











 地下空洞内全域に轟くような音、天井すれすれまでに跳躍した彼女の身体は逃走を試みる小蟲の一生に幕を下ろした



―――
――


https://www.youtube.com/watch?v=L-oSUIEn218
[BGM:クーロン]



【クーロン:発着場前】



ブルー「まさかあんなところに抜け道があるとはな」

アニー「大昔の地下鉄だからね、こうやってシップ発着場に繋がってる場所もあんのよ」



 お互いに目的を果たした男女は[クーロン]の街へと戻って来ていた、アニーは同僚のライザから教わった道を使い
蒼の術士と共に帰って来たのだ


アニー「あのデカイ蟲が保護のルーンになんかしてるから、街の治安が悪くなるんでしょ?」

アニー「なら、これで安心して暮らせる奴もちょっとは増える、良い事ね」




自分の後ろについてくる術士から聴いた話からそんなことを考える、お宝は手に入るし運動にもなった
挙句にはこの街で暮らす人々の平穏にもつながる良い事じゃないか、と
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 16:29:27.52 ID:Eggdf3fJ0



ブルー「…」スタスタ


ブルー「おい、おん………アニー」






「おい、女」と言いかけて改める、初めて目の前を歩く女の名前を尊大な態度の術士は口にした





アニー「な、なにさ?」




この無礼極まりない男が急に改まったので内心驚きを隠せない、とりあえず返事を返してみれば








ブルー「癪だが、貴様には一つ借りができたな…」

ブルー「粗虫の最初の不意打ちからあれだけの数に囲まれれば俺も命を落としたやもしれん」




ブルー「礼を言わせてもらう」




アニー「お、おう……気にすることないっての…」



偉そうな態度が鼻につく男ではある、が最初の邂逅の時もそうだったが自分に非がある時は素直に謝るのが筋だと述べたり
この男は変なところで真面目だ



ブルー「この借りはいつか何らかの形で貴様に返させてもらう」

アニー「そ、そう?(なんか調子狂うわね)」




借りを返す、かぁ…しかし、返してもらうにしたってどうする
どうせな貰うのなら満足のいくものが良いと思うのが人の常





アニー「……!ねぇ!アンタさ!その恩返しだけどなんでも良いの?」

ブルー「? ああ、可能な事であるならばな」



命を救う、これに匹敵する恩ならば返してやってもいいと思うし、何よりこの女は"[解放]のルーン"、"[活力]のルーン"

ブルーが喉から手が出る程欲しいモノの情報を彼女は二つも有しているのだっ!






…要するに、純粋に恩義に報いてやるのが半分、もう半分は貴重な情報源の機嫌を損ねたくないという利己的な考えなのだ
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 16:49:15.15 ID:Eggdf3fJ0







アニー「ふっふっふ…なんでも良いのね♪」ニシシ




―――この時ッ!アニーの頭上に豆電球が灯るッ!



アニー「じゃあ、あたし含めてあたしの仲間達をディナーに連れてって欲しいのよ!アンタの出費で」


ブルー「晩飯を奢る程度で良いというのか?その程度なら構わんが」




アニー「OK!契約成立ね!取り消しは無し!」つ【紙切れ】




ブルー「? なんだこ―――」





ブルーが手渡されたのは一枚のチラシだった…先程のリージョンシップ発着場で誰でも気軽に貰えるチラシ







アニー「すっっっごくお金の掛かる豪華客船での食べ放題バイキングディナー」

アニー「いやー、一度で良いから皆で行きたかったのよねぇ〜♪」





ブルー「  」





そのチラシにはこう書いてありました






                         【チラシ】

  〜『美しき白鳥のフォルム、展望台から一望できるリージョンの空!満点のサービスに豪華三ツ星ビュッフェ』〜


     〜『 [マンハッタン]発の宇宙船<リージョン・シップ>  《キグナス号》で優雅な一時を! 』 〜
            ※三ツ星ビュッフェは別料金となり、クレジットはお一人様――――




アニー(…エミリアが帰って来た時に、詫びの一つは要るだろうとは思ってたし…)

アニー(グラディウス皆でちょっとした旅行みたいで良いわよね!)ニシシ♪


アニー(不本意だけどルーファスの奴もこのキグナスって船に乗せてやって、皆でご馳走ね)



99 :今回は此処まで [saga]:2017/09/19(火) 17:10:22.15 ID:Eggdf3fJ0

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

      【解説:アニーの閃き率】

どの主人公を選んでも印術の資質入手EVで仲間に出来る子、ラッキースケベの主人公曰く「う〜ん、でかい。」

仲間キャラそれぞれに閃きやすい系統というモノが存在する、"体術" "剣技" "銃技"…その中で彼女は剣

とくに[突き]系の剣術を閃きやすいというが…



   実 は そ ん な こ と は な く 寧ろ 全仲間キャラの中で閃きが一番悪い

 というのも彼女だけが閃きの系統が異質、剣とか銃とかそういうレベルじゃなくて

 彼女は 『[名前がカタカナ]系の技』 を閃きやすいという 何故か独特の系統が設定されてるらしい


 だから漢字の刀技や剣技も新技が覚えにくいらしく
       代わりに[ディフレクト]とか[ロザリオインペール]等の名前がカタカナは閃きやすいという噂



           , _,r '' ´ ̄ ̄ ̄`ヽ、
          //               \
         _//                  ヽ---イ
        /            \ \\  \ヽ
      / /        / |     ヽ ヽ ヽ   l l
      l//      / |  ト 、 ヽ  |l  |ハ | | |
      | |   /  / /| |  | `、 || | |イ} リ | | |
      | |   |   | ハ |⊥|-- | || / ,ィ〒| /| リ
      | |   |   | { l八,⊥= l /|/ ヒj_ K |/
      | |      |川 リィlトイ:} リ/〃   、 "VV
      リ} l     ||ト|ヽ ゞ='´     ′ ハ ト==‐
      〃|| |    ヽ \`ヽ、""   ー一  /| | |
        |j/ /  ヽ\ヾミ        /| | |/
        // / │ | | hヽ ‐- ..__, イ {/イ
       //// ∧ | | lTリ____」 │  | {〃
      |/|/ / /川川/ナ人____| ̄`Y | ヽ、_
      |l | / ///レ┴┴‐tュ_r‐┬r)〉  ト|ヽ、_ノ
      l! | / //      \┴┴'⌒ヽト、
          | { ケ/>====t \   \ \
          〈rイノイ´ ̄ ̄ ̄|L -ヘ ___>‐、ヽ、
           〈 〈 |       └┬⌒〉      ヽ `ヽ、
            ヽ| |  , ---- 、|  |       }     ヽ、_
            ヽV , ---- 、)  |        /     /フ二入
             |Y      |   |     ∧   // 〃    `丶、
             | |      |  |二>--イ ヽ` '‐|レ/_          `>- 、
            /│       |   |-──┤   \//″ ` ''‐ 、 __/    ``ヽ.
            /   |      |    lニニニl  /// |    ,、‐ ''´     `ヽ、    ヽ
            \  |     |    l     レ'  | || | ,  '´             /       |
              ヽ_|       l    \  /|   ノノ/      /      |_i    |
              |     |一''´ ̄ ̄ _l |ァ-イ/         | {        | |l、__/ lハ
             / ̄ ̄ ̄ヽ---─ ''´ |」k/|==ァ     V       し1 / 丁7
             〉‐───く __r─ニロテ7 /|) 〃      /        / 〃 / /
             L -──‐、_)テ }} // |// ∨ ̄了    /         しl |_/‐'
              レ── 、|〉   }}厶//レ'   ヽ 〃    /          /
              |       ん〜┬〒イ  |    ヽ-─┐/         /`丶、
               |      /   / |  | |   |       \ //           /    `ヽ、
                |     /   / |  | |  |      ヽ/           /        \
             j     ハ  / │ l |  ヽ      /,'          /    /      ヽ
            ∧   / `、   |  | ヽ   \   / !           / __/ノ      |
           / ヽ二二ソ  \      \   `ニン |       /´              |
        rr '´       |     \         __ノ   |       /            /
        //ヽ__人   ノ      `ー‐ '´ ̄ ̄    /|      /            /
       / / /  , `'"            ____,.  '´  │     /               _/
      (_/    ̄       rァ⌒ト-‐''´  /     j       /        ,  '"´
                 _,ノ /    /      / /    /_...  --‐ ''´
               , イ   //    /      r'´ ̄ ̄`ヽ、/
            //  / |「レ== 、_ ヽ、___, イ       ヽ
            厶/ |< M Lト=ッ7/7| _.. -'´ /         /个L
            | ∧//ヽ|ラ‐イ//|し1´    〈 ┬‐ 、  (( イ/| 〉〉
            レ冖\__/Jl」 ̄      /   ト|`Tヒ// |しノ
            `ヽ⊥ -‐'´           |__  \\//大」
                            ├  ``ヽ、 ̄|/ ⌒⌒ヽ、_
                            | r─、    ̄ ̄二二ー‐ヽ
                            ヽ三三 r─‐ 、` ー----ハ
                                  ``<┬三三三ヽ/
                                     ` ーニニソ

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100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 17:53:01.66 ID:xEXM+K6SO
そんな特殊な閃き条件ついてたのかこの子……
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 18:13:14.39 ID:z1+jwyCk0
はへ〜知らんかったわ
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 19:06:25.87 ID:HaVOXXHnO
乙乙
でもカタカナ技ってあんまり強いの無いのよね……それでもスタメンだけど
オチはレッド編に繋がるフラグかな?
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 19:33:04.68 ID:uHsU3M6UO
今回も乙

「貴様の名前が気に食わん」をどう料理するかが楽しみだ
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/09/26(火) 21:37:30.93 ID:tFbJF3ye0
















    …うぐっ!? 痛い…? 僕はどうなったんだ…?確か[ドゥヴァン]の神社でアセルスの身の上話を…














痛みで覚醒した僕はゆっくりと瞼を開いた、紅葉の香りが鼻をくすぐったあの神社の前とは全く違う光景だった


無骨な鋼鉄の部屋、まるで僕が本で読んだ牢屋みたいな何も無い部屋で


  [マジックキングダム]の寮部屋みたいな二段ベッドが幾つかあって…僕はその寝具の梯子部分に縛られてたんだ





目の前には知らない男の人が数人いて、なんだか困ったような顔で僕を見てる…




105 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/26(火) 22:03:22.92 ID:tFbJF3ye0
*******************************************************
―――
――



【双子が旅立ってから…2日目、夜明け間際 4時27分… トリニティの軍事施設があるリージョン [ラムダ基地] 内部】




「やっと目ぇ覚ましたぞ…」ハァ

「…で、こいつどうすんだよ……つーか誰だよコレが女とか言った奴」




ルージュ「???」キョロキョロ




 ラムダ基地…赤焦茶色の岩肌だらけのその土地に築かれた前線基地には
この広いリージョン界を束ねる政治機関"トリニティ"の執政官が着任している…現状この基地に居る執政官は…まぁ、その









…実に評判がよろしくない




その理由は…










「どうするよ、あの変態になんて言い訳すんだ?」

「どうったて…なぁ…」


「さっきの妖魔の女たちはヤルート閣下のハーレムに送ったが…この男は…」ウムム…





…税金で創られた軍事基地に美女を集めハーレムを築いているという悪評が出回っているからだ
 物的証拠が無い為、誰も検挙できないでいるが噂自体は広まっている、これで変態執政官と名高い彼のハーレムから
半ば拉致監禁に近い形で連れられた女性が基地内から脱走し証言でもすればお巡りさんが手錠を持って動くだろうが…



ルージュ「!妖魔の―――アセルスと白薔薇さん!!彼女達を何処へやったんだ!」ギッ!ギッ!




 縄で両手両足を拘束された彼は華奢な身体を精一杯動かし、反抗的な態度を露わにする
穏やかな眼つきを鋭いモノへ変えて目の前の男衆を睨み恫喝するのだが…



「あー、ったくうるせなぁ!あの女共ならこの基地のお偉いさんトコに連れてったよ」

「女好きのドスケベ野郎だ」



特に臆することも無く、縛られた男一人、術さえ使われなければどうとでもなるだろうといった風である
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:55:20.48 ID:RQuFY+1SO
う〜ん、でかァァァァァァい。説明不要!
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/27(水) 00:43:01.63 ID:ToaxGTU40



ルージュ「…あなた達はこんなことをして…恥ずべきだと思わないのかっ!!」



 男達の口から飛び出す内容を整理して凡そ分かった事、それはこの男衆は所謂人攫いのようなモノで
自分達はその"ヤルート閣下"とやらの基地に連れて来られたということ


そしてその閣下とやらが無類の女好きということもハーレムという単語からよくわかる、手癖の悪い男だ




「思わんね、正義感なんぞじゃ腹は膨れん、おまんまの食いっぱぐれだけはお断りだ」

「そんなことよりもこいつの処遇をどうするかだ…」ハァ



ルージュ「くっ…なんて奴らだ!」ジタバタ




「…」ジーッ


「あん?どうしたんだ…」


「いやさ、この男…本当に女みてーな顔してんなぁって……思ったんだけどさ」













「こいつ女の恰好させてヤルート閣下に引き渡せば良くね?」





「…」ピタッ
「…」ピタッ


ルージュ「…」ジタバタ…ピタッ








 刹那、凍り付いた…
威勢よく暴れていたルージュもまるで[停滞のルーン]でも使われたんじゃないかと見間違う程に微動だにしない




ルージュ「」ダラダラ…



「いやさ?だって…あのヤルート閣下だぜ?妖魔狩りにハマるような変態度だぞ?なんかもう男の娘です!とか言ったら」



ルージュ「」ダラダラダラダラ…


滝のように汗が噴き出る、止まらない…
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 11:07:11.93 ID:Pk8gK3KB0
寝落ち?
109 : ◆u5jU/0ZJi2 [saga]:2017/09/27(水) 12:37:25.87 ID:ToaxGTU40

―――
――





「出ろ」




アセルス「…」テクテク






アセルス(意識を失ってあの後、目が覚めたら此処に連れて来られた…)


アセルス(白薔薇の安全を確認して助け出すまでおとなしくしなきゃ…っ)ギリッ


アセルス(…あいつら、ルージュを女の人と間違えて連れて来たって言ってたから此処にルージュも居るはずだし、まず)















           トリニティ軍人?「こんな連中に捕まってしまうなんて…まだまだだね君は」フゥー










アセルス「?」


 俯き気味だった半妖の少女はその声に顔を上げた、声の主は深々と帽子を被り軍服をピシッと着込んだ少し色黒の男性で
妙に親しげに話し掛けるこの男性が何者であったか記憶の引き出しを漁り答えを探そうとしていた



少考、一呼吸の間を開けて結局誰だか分らなかった彼にアセルスは



アセルス「誰?」



そのまま抱いた疑問を言葉にして投げかけるしかなかった



色黒の男は「ふふっ」と…そう、まるで悪戯が成功して喜ぶ無邪気なお子様染みた含み笑いを浮かべ帽子を取る

 アセルスはこの時、漸く声の主が誰であったか思い出した、逆立った赤紫色の髪、悪戯小僧と名付けたくなる笑い…
一度見たらそれはもう忘れられない衝撃的な恰好のアイツだ


…今はその衝撃的過ぎる恰好じゃないからこそ、規則遵守を体現したような出で立ちだから思い至らなかったのやもしれん

110 :〜 アセルス編没イベント集より 囚われのアセルス 〜 [saga]:2017/09/27(水) 12:59:28.61 ID:ToaxGTU40










     乳首にお星さまを付けた上級妖魔「この程度の縛めなんて、ちょっと力を入れるだけで破れるのに」ヤレヤレ



      アセルス「ゾズマっ!!!此処で何をしてるんだ!!」






帽子を取り、逆立った赤紫の髪を、そして「ふぅー、この堅っ苦しい服は嫌だねー」と服を脱ぎだす上級妖魔



アセルスが[ファシナトゥール]で出会った男性型の妖魔

 彼曰く「自分は此処のナンバー2で自分を止められるのは妖魔の君だけ」との事、自由を誰よりも愛し
自分を束縛する者を嫌う、興味がある事にはとことん首を突っ込むスタイルで俗にいう美男子という顔立ちであり
上半身裸で乳首にお星さまをつけるという一度見たら誰もが通報したくなるようなスタイルを進む自由人である





 ゾズマ「別にアルバイトとかそんなんじゃないよ…よいしょっと」ドサッ


 アセルス(!私達の荷物…)


 ゾズマ「妖魔を弄んだ連中に、火遊びが過ぎるとどうなるか思い知らせてやるのさ」


 ゾズマ「もう数人侵入して手筈を整えているところだ」フフッ



 アセルス「…ふぅん、随分と仲"魔"思いだな」



何考えてるんだか正直よう分らん露出狂くらいにしか見てなかったがちょっとだけこの自由人の評価が彼女の中で上がった



 ゾズマ「さぁ〜どうかな♪とにかく楽しい宴になりそうだよ」ニヤニヤ







 アセルス「…」





 アセルス(こいつめ、何やらかす気だ…?)





決して長い付き合いとは言えないがある程度この上級妖魔の事で分かった事がある


コイツがこういった悪戯を思いついたような悪ガキめいた笑みを浮かべる時は大抵ロクでもない事を起こす時だと

先程上がった評価がまた元の位置に戻りそうだ


111 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/27(水) 13:40:56.27 ID:ToaxGTU40



アセルス「君、この先に白薔薇が居るのかい?」スタスタ…


「はい、ゾズマ様がご確認なさっております、白薔薇姫様の他、お連れの方もいらっしゃいますよ」


アセルス「そうか、ありがとう、此処から先は私一人で行けるから君はゾズマの所に戻ると良い」


「畏まりました」スゥ…


アセルス「…消えた、アイツ何人この基地に妖魔を潜入させたんだ…」スタスタ…



扉を潜ればそこは……





アセルス「 」







アセルス(う、うわぁ……)ヒキッ




 如何にも成金趣味の部屋だった、いや下手するとそれより酷い、天井にキラキラ光るカラーボール
一昔前に流行ったディスコかと見紛うような内装で女の子が1人の肥え太った醜夫を満足させる為にいやらしく踊っている



醜夫「そらそら〜もっと踊らんか!生皮剥いで釜茹でにしてしまうぞ〜」


「いやぁ〜ん、ヤルート様ってば〜そんなことしないでぇ」



 軽口のように飛び出た恐ろしい拷問に掛けられまいと媚びを売った声色でバニーガール衣装の女が
扇子を仰ぐ東洋風の礼装に身を包んだ女が愛想笑いを浮かべご機嫌取りと来たものだ




ヤルート「ぐへへ…そういわれちゃぁなぁ」デヘヘ

道化師のような仮面をつけた男「……ヤルート閣下、そろそろ取引を」



ヤルート「まぁ待たれよジョーカー殿、もう少し余興をお楽しみくだされ…ぐへっ」ゲヘゲヘ!



 歯磨きなんて生まれてこの方一度たりともしてないんじゃないかと思うような粘りっ気の強い唾液が
前歯にこびり付いているのを見てアセルスは嫌悪感を露わにする

脂ぎった手で近くにいた10代半ばの少女を抱き寄せ頬ずりする様はなんともまぁ……


アセルス(あからさまに嫌そうな顔してるよ…)


ヤルート「ゲへへ、最近身体の発育がよくなったんじゃないのか〜」


「や、ヤルート様に美味しいご飯を頂いているからです…」


ヤルート「おお!そうか!そうか!うむ!そっちの女子も近くに寄れ」

「は、はいぃ…」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/27(水) 13:59:41.80 ID:ToaxGTU40


アセルス(…あ、あまり目を合せない様にしよう)ゾーッ


中央で椅子に踏ん反り返りハーレムを楽しむ醜夫、仮面の所為で表情は窺えないが呆れの色が見て取れる男性
そんな二人を余所にアセルスは白薔薇を探す…



アセルス(…!居た、あんな隅っこに!…でもルージュは何処に居るんだろう)キョロキョロ



バニーガール、民族衣装の少女、ヤルートの趣味でランドセルを背負い腿が良く見えるスカートの女子大生程の人
誰も彼もが拉致同然に連れられたのだ…


そこにはアセルスが嫌悪感を拭えない理由がもう一つある





それは、自分の今の境遇の元凶たる魅惑の君と通ずる所があるからだ





 先程ゾズマに荷物を返してもらった、当然[幻魔]だって手元にあるし
あそこのドスケベ魔人に対して峰内でも叩き込んでやりたいのが率直な感想だ鞘から引き抜かなければ
妖刀に引き摺られることもないだろうし…

ただ、軍事基地のお偉いさんにそれをやれば周りの連れて来られた人に危害が無いとは言えない、だから堪えるしかない



アセルス「ごめん、そこを通して…!」



半妖の少女は水着姿で踊る少女等に道を譲ってもらい漸く辿り着いた

白薔薇姫はベリーダンスを隣に居たセーラー服の銀髪美女と踊っていた



アセルス「白薔薇!私だよ…!」ヒソヒソ

白薔薇「!…アセルス様!ご無事で何よりです!」ヒソヒソ


白薔薇「此処に連れられた方々はこの戯れが終われば自分達に与えられた部屋へ戻されるそうです」

白薔薇「ですのでその時が来るのを待ち、隙を見て逃げ出しましょう」ヒソヒソ

アセルス「うんっ!」ヒソヒソ


 逃げ出せる好機を怪しまれぬよう他の者に混ざり踊りながら待つ白薔薇のすぐ横でアセルスも彼女の真似をする
舞などこれといってできるモノは無いが、白薔薇の動きを真似るぐらいならばなんとかなると考えた


アセルス「……ねぇ、ルージュは何処にいるの?この基地の何処かに捕まってるんでしょ」ヒソヒソ


白薔薇「…ルージュさん、ですか…」


アセルス「…? 白薔薇?」

何故か苦笑する白薔薇に首を傾げた、白薔薇の視線の先がある一点へ向けられる、その先を目で追えば−――



セーラー服を着た女子大生くらいの年頃の銀髪美女「……///」プイッ




アセルス「……」

アセルス「あっ(察し)」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:22:39.47 ID:+YHdLQ5VO
ルージュとんだ災難だなww
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 22:40:58.73 ID:fhMMCxNSO
>男性型の妖魔

男性器の妖魔に空目した
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/28(木) 05:13:00.58 ID:vrwrZIxv0
乙乙
白薔薇のベリーダンスは開発2部ネタかな?
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 18:50:03.44 ID:S0wkO+cY0


"それ"に気がついて間抜けな声が出た

緑髪の少女はさっきから白薔薇姫の隣で舞っていた銀髪美人が誰なのか、漸く悟った




アセルス「……」


アセルス「えーっと、そのぉ…なんていうか、うん、似合うよ、うん」



白薔薇(アセルス様、フォローになっておりませんよ…)



 さて、読者諸氏は既にお気づきの事だろう、この麗しの銀髪美女が何処の誰なのか…
彼女、否、"彼"は顔を赤らめていた、名は体を表すとよく言ったものだが赤色を冠する名を持つ彼は若干半泣きだった


なにゆえ自分はこんな所でこんなワケのわからない恰好をさせられているのか?


理不尽だ、と彼…ルージュは心底そう思った





ルージュ「…素敵なフォローをありがとう」ズーン

アセルス「あっ、そ、その…なんかごめん」アセアセ




どんよりとした顔で力無く笑う彼を見てアセルスは強引に話題を変える、変な気まずさに耐え切れない、空気を変えねば!



アセルス「ル、ルージュ…私!荷物を取り戻したんだ!あの[ゲート]って術を使う為の道具も入ってる!」ボソボソ

ルージュ「!…どうやって?」ボソボソ


アセルス「此処に知り合いが居て、そいつが持って来てくれたんだ」

アセルス「詳しくは私も知らないけどもうじき何かを起こすらしい、その隙がチャンスかも」



この場で直ぐにでも別のリージョンへ移動するのは容易い、が…




アセルス「…相談があるんだ」






アセルス「此処に捕まってる女の人達…皆を連れて移動ってできる?」


ルージュ「此処に居る全員を…」


此処に居る女性は皆が、アセルスやルージュ達と同じだ






何の前触れも無く人攫いに捕まり、此処に監禁された謂わば被害者なのだ、同じ女として、そして…

魅惑の君、オルロワージュの居城に軟禁されて十数年…家族との繋がりを断たれたアセルスだからこそ救いたいと願った

117 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 19:11:39.51 ID:S0wkO+cY0


アセルスの境遇は知っている、だから彼女の心情は紅き術士にも妖魔の貴婦人にも当然汲み取れる
白薔薇はアセルスの望みを叶えてあげたいし、ルージュもこのような状況を見過ごせない



ルージュ「…できないこともない、けど全員を一か所に集めなければならない」チラッ



 気持ちとしては彼女の頼みに快くYESと言いたい、しかし重々しく開かれた口から出た言葉はこの無駄に広い娯楽室で
両手で数えきれない人数の女性を一切、不審に思われる事無く集めて術を発動させるという到底不可能である事を
VIP席に座る執政官と傍らの仮面の男を見ながら言った




最悪、あの醜夫はどうとでもなる…問題はそこじゃない





ルージュは…いや、白薔薇姫もアセルスも奇妙な仮面をつけた男を警戒していた、確か"[ジョーカー]"と呼ばれていた


被り物の下がどのような表情を浮かべているか分からない、だが…妖魔の二人も、魔法大国出身の青年も分かるのだ
 あの仮面男の前で妙な動きをすれば命取りになる






 ウィーン!



アセルス/白薔薇/ルージュ「「「!」」」



3人がどうすべきか思い悩んでいた最中、事態は好転することになる

アセルスが入って来た入口の扉が開かれたのだ…そこにブロンドの髪を結った幸運の女神様をお通しするかのようにッ!













   元スーパーモデルの金髪美女(うわー、悪趣味な所…あの怪物がトリニティの執政官??)スタスタ…












 童話で喩えよう、雑踏といっそ耳障りなくらいにい煩いオーケストラ賑わう舞踏会にシンデレラが舞い降りた
伴奏を奏でる音楽家も政略結婚を狙う口煩い政治家の話術もハイヒールの雑踏さえもピタリと止まる



瞬き程の僅かな合間、ルージュ等も拉致監禁された沢山の女性も、ヤルート執政官も



……そして、ジョーカー、もその姿に目を奪われた…

118 :今回は此処まで [saga]:2017/10/05(木) 19:43:01.55 ID:S0wkO+cY0


ヤルート「―――ハッ!」


ヤルート「如何ですかな?私のコレクションは?」



 入って来た女性にヤルートは惚けた、艶のあるブロンドの髪を結わせたポニーテールが歩くたびに揺れ
しなやかな身体のラインがくっきりと強調された煽情的な踊り子の装束
透けて見える空色の薄布は腰回りをより色っぽく、くびれも上半身に実ったたわわな果実も魅せる露出度で―――



――いや、一番は"女"の部位を前面的に押し出した美貌じゃない、雰囲気だ




例えば同じ美人美女でも歩き方一つで感じる印象が違う



同じ顔立ちでも前を見て朗らかに微笑みながら歩く女と、鬱蒼とした顔でオドオド歩く神経質な女じゃあ抱く感情が違う


舞台役者が一つの劇、芝居でその役を完璧に演じるように、そのものに為り切っているように…目の前の美女は歩く



心の底から『美しい』『綺麗だ』そう感じ取らせるオーラがあったのだ…!





アセルス(うわぁ…綺麗なヒトだなぁ…//)ポーッ

白薔薇「…アセルス様、舞わねば不審に思われますよ」ボソ

アセルス「ぁ、う、うん…!」


相手方に気付かれないように脇腹を小突く白薔薇とアセルス、ルージュもハッと我に返り止めていた動きを再開する

それは水溜りに投じた一石から生まれ出る波紋のように広がり、止まっていた全ての女性等の動きを、執政官達を動かす






ジョーカー「…流石はトリニティ第三執政官のヤルート閣下、良いモノを飼っておいでです」




 被り物に隠された顔は相変わらず読み取れない…筈だが、心なしか仮面の男の声がほんの少しだけ感情を持った
そんな風にルージュは感じた



ヤルート「それでは今日は特別に1匹、お持ち帰りになるとよろしい!ジョーカー殿!」ゲヘ!ゲヘ!


気分を良くした醜夫は来客のジョーカーに揉み手をしながら愛想笑い、対照的に入って来た女は心を波立たせる







元スーパーモデルの金髪美女(ジョーカー…っ!!)






波立った心を落ち着けようと彼女は演技に全意識を集中させる、でもなければ歯軋りが聴こえてしまうだろうし
 今にも自分の婚約者を殺害した憎き仮面男をこの手で縊り殺さん勢いで飛び掛かってしまいそうだったから…

119 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/10/15(日) 05:00:47.16 ID:Xn7nVrpQ0


ヤルート「いやぁ…丁度鮮度の良いのが入荷したようですな、おい、お前何かやってみせろ!」


鮮度の良い入荷品の出来をまずは知ろうとヤルートは命じる、その声に彼女はハッとする



ヤルート「んん〜?どうした?早くしないと生皮を剥いで釜茹でだぞ!」



元スーパーモデルの金髪美女(やっぱりヒドイ所だぁ〜!ルーファスの奴…帰ったら覚えてなさいよ!)


 彼女の頭の中には常にサングラスを外さないロン毛男が浮かび上がる、帰ったら真っ先にグラサンを叩き割ってやろう
そう決意を固めながら「舞わせて頂きます」と初々しくお辞儀をする


今は上司への恨み言は後回し、最優先は役を演じ切ることだ





そうこうしてればグラサンの上司と、気の合う仲間…[ライザ]そして[アニー]が助けに来てくれると信じて…




 軽やかな足取りで中央のダンスステージに飛び乗り金髪美女は舞う、この人の邪魔をしてはいけない
舞い込んだ白鳥に魅了された女性たちは彼女の為に十分なスペースを開けようと静かにその場を離れていく…




これはなんだ?

踊りか?

それとも劇か?



ゆったりと降り立った女性は明るく、この世の幸せは此処に在る、とでも言いたな表情で舞うのだ



まるで女が求める最大の幸せ、愛おしい男との結婚を控える女が魅せるような顔



幸せの絶頂に居る、しかしその後の舞は一変、至福の丘から絶望と哀しみの奈落への転落
エキゾチックな衣装の彼女は天を仰ぐように…どうかこれは悪い夢で目が醒めれば幸せに戻れるますようにと

乞い願う女性を演じた、満ち足りていた表情も今は演技なのか本当に泣きそうなのか分からない顔立ちであった









 結婚を控えた幸福な女、突然の悲劇、絶望に打ちひしがれ、一筋の光が差す…女がゆっくりと再生に向かって立ち上がる





踊りというよりも寧ろオペラ座や歌劇に近かった


それも迫真の演技だ、特に何かを決意した女がゆっくりと再生に向かっていく様は鬼気迫る物すら感じる


起承転結、物語性のある舞いだった…疑問なのは『起』『承』『転』こそあれど『結』の部分が無いことだ


120 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/10/15(日) 05:23:50.34 ID:Xn7nVrpQ0


ジョーカー「…美しい」ボソ

ジョーカー「見事な舞い、これを頂きたいですな」




ヤルート「い、いや、ま、待ってくれ!これはワシも気に入った、中々に食欲をそそられるぞ!」

ヤルート「代わりにアレなんてどうだ!?[ファシナトゥール]から命からがら盗み出して来た女だ!」

ヤルート「妖魔に血を抜かれて体質が変化しているのだ、中々興味深いぞ」



 想像以上に見栄えの良い女が手に入った
執政官は思わぬお宝を客人に横取りされては堪らんと上擦った声でアセルス等を指差す、『特別に1匹持って帰ると良い』
そう言った手前、この仮面をつけた上客に前言を撤回する訳にいかない

 雇った男衆がその辺のリージョンから偶然見つけて来た妖魔の女を
妖魔の総本山[ファシナトゥール]から命懸けで盗んできました!とちょっとでも箔がつくように嘘を付け加える

それだけ手放したくないのだ



そんなこんなで指差され夏祭りの出店で売りに出される兎や雛鳥か何かの如く指定されたアセルス等はギョッとした


これはマズイ


そう感じた次の瞬間…っ!







    ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン







基地全体が揺れた、電気系統に異常が出たのか次々と天井の照明が切れていく




ヤルート「な、何事だ!?」

元スーパーモデルの金髪美女(グラディウスだわ!!)パァァ…!

アセルス(…ゾズマか)ハァ…



狼狽える執政官

仲間達が来てくれたと勘違いし、花が咲いたように喜ぶ金髪美女

「ああ、これか…アイツめ、無茶苦茶な」とため息を吐くアセルス




ジョーカー「トリニティの基地で非常事態とは、世も末ですな」

ジョーカー「ヤルート閣下の足元も意外と脆いのやもしれませんな」クルッ




仮面の男が呟くと同時に全ての照明が切れ、室内は闇に包まれる

121 : ◆u5jU/0ZJi2 [saga]:2017/10/18(水) 20:39:25.88 ID:ncNr6e5B0


 悪趣味な娯楽室が闇に包まれる、静寂を破ったのは誰の甲高い悲鳴だったか
それはルージュ等にもヤルート達も金髪美人にも分からない、唯一つ理解できたことはそれを切っ掛けに拉致された女性が
一斉に非常灯目掛けて駆け出したという事だけだった


 川の流れを塞き止めていたダムというのは一度決壊すれば後は濁流が止め処なく溢れるモノで狭い出入口からは
女達が凄まじい勢いで飛び出していった


その中には騒ぎに紛れて部屋を脱するルージュ、アセルス、白薔薇の3人

次に遅れてヤルート執政官、ジョーカーの姿もあった、3人とは別の方角へ逃げていく姿は人の波に紛れ目撃できなかった





ルージュ「おわっとと…」ヨロッ


ルージュ「ふぅ…なんとか逃げられたけど…これじゃ」チラッ




あちらこちらと逃げ惑う人影を見て彼はバツの悪そうな顔をする、これでは到底[ゲート]の術で全員を逃がすなどできない


アセルス「…」

白薔薇「アセルス様…時には妥協も必要に迫れるときもございます」




アセルス「分かってるよ…、理解はできる、理解だけなら」




 これ以上は此処に留まる訳にはいかない、この騒ぎで基地全体は臨戦態勢に入る…モタモタしてればそれだけ逃げ遅れる
奥歯を噛み締めその場を去ろうとした時、彼女等は声を掛けられた







    元スーパーモデルの金髪美女(…!人が3人、留まってるわ)タッタッタ…!



    元スーパーモデルの金髪美女「早く逃げて!」ハァハァ…!








息を切らして金髪の美女は駆けて来る、その手には何処に隠しもっていたのか黒光りする厳つい銃火器が握られていた
3人を逃げ遅れた人と判断したのか、軍人たちがやってくる前に逃げろと促す

基地内部に居る以上それはあまり意味を成さない忠告なのだが…




ルージュ(この人…さっきの…)

アセルス「貴女は逃げないの?」




元スーパーモデルの金髪美女「私…ふぅ…私は、ね――――」



一呼吸置いて、金髪の美女は悪戯を好む年上の女性の様な笑みを浮かべて告げる
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/10/18(水) 20:44:30.00 ID:ncNr6e5B0


https://www.youtube.com/watch?v=4TJsob5IMSo&list=PL33021FE67F7DCC92&index=8
[BGM:主人公エミリアのテーマ]


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        /ィ , /  ! !´´` ̄ ̄ リ!  ヤ .リ ',     iヘヤ
         / ,'/チ/l !シ l      |! __ヤ l!ヾ、,.ク   l ヘ
.        / .l//イ l .l ゞ、     サ _,,,.._l! !イ癶ゝ  l!
.          |/イ / .! !ー \     l ヘ:::cじ>=≠   ヘ
       / !/l,'ノ、.!、 ィ=、      ーメリイイイ入 !ヽ.\
.          | , ,イヤ!.ヘ    ノ      'ノイoイ  ヘリ ゝ         『私はこれから、お仕事♪それじゃ!』
            !,イ .! l!ヤ゚ヤ、  ` 、   ,  イ.ll l !    ヘ、
         メ,.イサ」ヘl:l:Y>    ̄ イ,イ.サイ:l     ヘ \
          ィ  ィリ_ 〉ヘl:lヘリl:l:o><  ,.イリzl.',       ヽ、
      /   /r _以ー‐七ァ入。メァ'゚ーo7:.:.キj       >z-
   rーイ、   ,.孑チ:.:.:.:.:.:./イ ,.ィ!ー‐゜゚´ .ム:.:.:.リ\      ∧
  」∧_ \_入<:.:.:.:.:.:.:/_  .〈_/   / リ:.:.,イ!:.:.:.キ      .リ
.  l7  /☆ Y:.:.イ >:.:.,イ   ヽ   イ __ ム:.:.:.:.:.:.:.:.:ヤ、     ハ
.  〉<ヽヤ  イイ ´:.:./      ` ´     .,' .:.:.:.:.:.:.:.:.:_jヤ ヽ   ,イ.リ
  l:.:.:.:.:. ̄ヽ〈ヽ,>チ、   .:       /:.:.:.:.:.:.>¨ ̄ーハ     .!
 ノ:.:.:.:.:.:.:.:.:/γ: : : :ヽヽ  /´ ,.斗ー,、 /:.:.:.:.:.:.:.∧.:.:.:.:.:.:.:,イ   ./
 リ:.:.:.:.:.:.:.:.:.l ;: : : : : : :ヽヾ<><´ヘ:.ソ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∧.:.:.:.:.Y  イ,イ
 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.lヘ: : : : : : : :Y: : : : : : : : :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.___ヤ=У,イ イl′
 l!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:l:.:ヽ: : : : : : :! : : : : : : : :l.:.:.:.:.:>"´:.:.:l !ヾ7 /イイ ,'
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123 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/10/18(水) 21:20:51.39 ID:ncNr6e5B0



ぱからっ…!ぱからっ…!


金髪の美人が片手に拳銃…[アグニCP1]を持ちながらその場を去ろうとした時だった、その蹄音が耳に入ったのは

 目と耳に悪いハイテクな機械仕掛けの灯りとけたたましいアラーム音が鳴り響く軍事基地にミスマッチした足音に
彼女は首を傾げた、幻聴か?とゆっくりと音のする方へ視線を動かせば






「ヒヒィィィィー―――z_______________ンンッ!!」パカラッ!パカラッ!





元スーパーモデルの金髪美女「ぇ、えええぇぇっ!?!?」





馬だ。


いや、こんな所に馬が走って来たというだけでも驚きなのだが何よりもその額には一本の角が生えている

それはモンスター種族の中でもそれなりに高位の存在として知られる有名な獣…一角獣[ユニコーン]そのものだった!




この基地で軍が飼育しているだとかそういう情報は一切無い、人間を襲う意志に満ちている血走った目
 どうみても人間社会で暮らす種とは違う、野生のソレだ


剛脚と言っても過言ではない2本の前脚を振り上げ目の前に居る金髪美女の頭部に蹄を振り下ろさんと動く[ユニコーン]
 あれが直撃すれば美女の脳天は憐れ、柘榴のようにパックリかち割られてしまうであろう






                ―――ズドンッッ!


「ギュゥゥグゥゥゥ―――ッ!?」ブシャァァ



突然の事でルージュは無論、白薔薇姫も対応に遅れた、アセルスでさえ[ディフレクト]することが間に合わない…!
その一瞬誰もが目を覆う悲劇が到来すると皆の脳裏に過り掛けた…


が、それは一発の銃声と共に打ち砕かれる


右眼を寸分違わず、針に糸を通すような[精密射撃]で撃ち抜いたのだ、金髪美女が



 誰も彼もが反応に遅れた中、敵に一番近い位置に居た彼女が脊髄反射で射抜く、一角獣の眼球が付いていた部位からは
血飛沫が噴出し、痛みと奪われた視力で大きく目測を誤った蹄の一撃は彼女の真横―――何も無い地面を叩き割る




元スーパーモデルの金髪美女「―――全く、潜入捜査だからってこんな拳銃しか渡されなかったっていうのに!」



"いつもの彼女なら"今手にしている[アグニCP1]なんて威力の低い安物とは雲泥の差がある高火力の銃を両手に構え
お得意の[二丁拳銃]捌きを披露した事だろうが…生憎と彼女の手によく馴染んだ愛銃はサングラスを掛けた上司が
薬で眠らせてこの基地へ送り込む前に没収したという…


不満を口にしながらも彼女――エミリアは持ち前の気丈さと共に後ろの3人にコイツを片付けるの手伝って!と声を掛けた
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/10/18(水) 21:26:23.98 ID:ncNr6e5B0
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           \   今 回 此 処 ま で !  /

           lヽ     ,_
           ヽ\゛⌒::て     _
            {`´::ノ ⌒i::}   /::::::`ヽ
            シ゛    }シ⌒` ̄ヽ:::::::|
            /  ● , '      }::::::::し
             /   /      .|´⌒´
           ヽ、/{     ___,、 l
                    | i`‐´| | {  } {
                   } {  } {_{  }_{
                  }_{  }_{;;} {;;;;}
               {;;;;}. {;;;;}
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125 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 22:01:46.03 ID:/lU5MQnCO
乙乙
やっぱエミリアは銃持ちか
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 23:57:09.41 ID:l7qYqyLHO

ユニコーンには気の毒だがまあ前に出てくるのが悪いよね
127 : ◆MQKemQ7EZz9R [saga]:2017/11/14(火) 22:09:56.72 ID:TIjgsdFU0





                「フゥーッッ…!フゥーッッッ!」ギリッ






本来ならば眼球が"あった"部位からは止めどなく、油のようにどろりとした粘度の高い血液が、

そしてボタッ、という音と共に腐れて腐汁が溢れ潰れたトマトを思わせる眼球だったモノが落ちる








目の前の4本脚が息を荒げ熱り立ち発砲した女を睨むのも当然と言えた。






エミリア「…」チャキッ!




それに対し彼女、エミリアは臆することなく無言で銃を構え続ける


エミリア「貴女達、得意な分野は何?…見たところ術士の人もいるみたいだけど」

アセルス「…一応剣を、後ろの二人は術がメインだ」バッ



[幻魔]をいつでも鞘から引き抜けるように半妖の少女も抜刀の姿勢に入り、後ろの人間と妖魔も術を発動させる態勢へ移る



エミリア「…分かったアイツの足止めをする、貴女はあいつに一太刀浴びせて頂戴!後ろの二人も術で彼女を援護して!」





言うが早いか、それを合図に一角獣は額に生えた雄雄しい[角]の先端を戦槍の如く憎き相手の銅目掛けて突っ込む…ッ!


  「ギィヒィィィィィン!!」ダンッ

  エミリア「遅いっ!」ズダダダダダッ!!




 槍と銃、近接武器と飛び道具…ただの馬ではない4本足の瞬発力を以てすれば銃弾に勝ることすら可能であったが
相手はそれ以上の反射神経の持ち主であることは先の眼球を撃ち抜いた件でもハッキリとしていた



場数が違う、この女相当の修羅場を潜り抜けているのだ…レベルに差があり過ぎる




片手銃で[早撃ち]からの[地上掃射]という荒業を実践するエミリアの真横をアセルスが駆け抜ける!
 地団駄を踏む様に忙しなく四股を動かし、被弾しないように努める[ユニコーン]の喉元目掛け横凪に一閃
紅い劔の軌道上にワンテンポ遅れて一角獣の鮮血が後を追うように迸る


白薔薇「光熱よ降り注げ…っ!―――『<太陽光線>』」

128 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/11/14(火) 23:56:28.12 ID:TIjgsdFU0


 白薔薇姫が手を天に翳す、掲げた右手は太陽へ手を伸ばす女神の絵画を連想させ――掌は小さな淡い光に包まれ
その輝きから直径20p相当の光球が生み出される

風船が浮力を持って地を離れるように彼女の手から浮かびあがり…っ!






         ドジュウウウウウウウウゥゥゥゥ!!



「ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいじぃぃじゅぅぅいいいいいいーーーっ」




熱線を放つッッ!アセルスが切りつけた剣傷をなぞっていく光線は肉の焼ける音と血の蒸発する異臭を漂わせる
『<太陽光線>』が照射されるタイミングに合わせて飛び退いたアセルスお嬢は生き物が焼ける匂いに顔を顰めたが
幸いにも他の3人は後方支援に徹している為、敵の最前線にいる彼女の顔を見る者はいなかった


陽術の神秘が純白の毛並みを黒く焦がし、肌を焼き、皮膚の裏側を―――傷口から焦熱が入り込む



外と内、両方への攻めに悶え苦しみ奇声を上げる[ユニコーン]は首を狂ったように振り回す
 苦し紛れの挙動、出鱈目に振り回す角の先端は宛ら執拗に肌を焼く光を薙ぎ払おうとしているようにも思えた




ルージュ「…これで、眠ってくれ!!『<インプロージョン>』」キュィィィン!!



 人に仇なす野生のモンスターとは言え、その有様にはさしものルージュも憐れみを覚えたのか、最後にそう言ってから
爆裂魔法を発動させる、二十二面体の光の檻が一角獣の棺となり―――獣を一瞬でこの世から消し去った







  せめて、痛みも苦しみも感じる間も無く、逝けるように彼がそんな念を込めて放った即死の魔術である







エミリア「」ポカーン


エミリア「貴女…、すごいじゃないの!なぁんだ!一撃でそれができるなら早く言ってよね!」


ルージュ「えっ、あ…はい」



"貴女"…金髪の女性の自分を見る目とニュアンスから…『ああ、またか…』と彼はうんざりした顔をした



エミリア「? ああ、自己紹介が遅れたわね!私はエミリアよ!貴女達は?」

アセルス「私はアセルス!そして」クルッ


白薔薇「白薔薇と申します」


エミリア「そう!(白薔薇…凄いあだ名ね)」


アセルス「そっちの銀髪の人はルージュっていうんだけど…その人は…その男の人なんだ」

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 00:02:32.04 ID:6/TbcSGm0




エミリア「へぇ!アセルスに白薔薇ちゃん!そしてルージュ…」










エミリア「…」













エミリア「ごめん、もっかい言って?」



ルージュ「僕は男なんです…今、こんな格好だけど、無理矢理着せられたんです…」





今度はアセルスではなくルージュ本人が答えた














エミリア「ええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」









仰天、そりゃそーだ、こんなセーラー服の似合う銀髪女子大生としか思えない人間が男とか誰も信じない


エミリアは色んな意味で叫んだ


『なにそれ!?似合い過ぎでしょ!』とか…『えっ、あの怪物<ヤルート>ってそういう趣味もあったの?』とか…




とにかく驚いた、目を白黒させた
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 00:42:20.62 ID:6/TbcSGm0


ハハハ、と乾いた笑みを出し始めたルージュを見て、ハッと我に返り彼女は
『それにしてもなんであんなのが基地に居るのかしら?』と目をそらしながら口にした



感情豊かな人なのだろう、表情をコロコロと変えるエミリアを見て率直な感情を胸にアセルスが回答を述べる


アセルス「きっとゾズマ―――私の知り合いの妖魔なんだけどね、そいつがこの基地を大騒ぎにしてやるって言ってた」


アセルス「さっきの[ユニコーン]もたぶん、アイツが連れ込んだんだ」




エミリア「えぇ!?グラディウス関係無いの!?」ガーン

エミリア「…ルーファス達はなにやってるのよぉ…」ハァ…



がっくり肩を落としてグラディウス…後に説明されたが、彼女エミリアが所属する組織らしい…そのグラディウスとやらが
自分を助けに来なかったことに落胆した


エミリア「…あぁっ!もうっ!良いわ!」キッ!

エミリア「貴女達、此処から出たいんでしょう?
      私はこれからあのヤルートの奴をとっ捕まえて色々聞き出さないといけないの!」


エミリア「荒っぽいことになるから、何処かに隠れるなり避難した方が良いわ」






アセルス「ヤルートを捕まえるの…?」

アセルス「ルージュ!白薔薇!」バッ!






振り返ったアセルスの眼を二人は見つめ返す

分かってる、手伝いたいのだろう…






白薔薇「アセルス様のご随意に」ペコリ
ルージュ「まぁ、見過ごせないよね!」ニコッ


アセルス「…ふたりとも、ありがとう」




  アセルス「エミリア!ヤルートを捕まえるなら私達も手伝うよ!……あんな奴は許しておけない!」



"あんな奴は許しておけない"その一言にはアセルスの個人的な感情も含まれていた



かくして、旅のトラブルはまだまだ続くのであった…

―――
――

131 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/11/15(水) 02:13:09.19 ID:6/TbcSGm0






           ※ - 第2章 - ※



        〜 交叉するキグナス号の紅蒼 〜





132 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2017/11/15(水) 02:56:45.86 ID:6/TbcSGm0















            [活力のルーン]を手に入れた!














…まさか、このような事になろうとはな


塞翁が馬、とでも言えばよいのか?






 今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 03:13:41.10 ID:6/TbcSGm0






















     弦楽器を背負ったニート「いやぁ〜良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」











                       ブルー「…」





今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった

彼は今現在、自分がこんな気色の悪い生物の体内に居る原因の一人を不問にしてやろう、と考えた







なぜこんなことになったのか?そう…あれは時を遡る事数時間前、まだ[クーロン]に居た頃だ…














【双子が旅立ってから…2日目、早朝 朝6時27分  [クーロン:安宿]】
*******************************************************
134 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/11/15(水) 03:56:44.43 ID:6/TbcSGm0


 
 7時前に蒼き術士は起床し、気怠そうにラウンジへ脚を運んだ…薄っぺらい食パンにキツネ色の焦げ目がついていて
その上に溶けだしたバターの乗ったトーストが一枚、レタスとミニトマトだけのサラダが注文<オーダー>した朝食だった




昨晩は…疲れた、術力を使い果たす程には戦闘を重ね、肉体にもダメージを負い…ついでに悩みの種が出来た



ブルー「…不味い」モグモグ



味気ない、値段の割にカロリーが全くない薄いトーストと酸味の無いドレッシングの掛かったサラダという最低な朝飯だ
 淵が少し欠けたカップに注がれた苦みを喉に流し込む…角砂糖もミルクもついてこない100%のブラックは否応なしに
ブルーの瞼の裏に残る微睡を吹き飛ばす


 この安宿は食事等のオプションは別料金制になっている、それは以前書き記したことだろう
サービス自体は決して良い店舗とは言えないがそれでも物足りなそうな顔で頬杖をついている彼が
文句を言わずとも済む献立くらいは用意できた、金さえ払えば




ブルー「世の中、金か…チッ」ゴクゴク




肉体、精神ついでに悩みの種を作って来た一夜、その悩みの種というのが…





   - アニー『ん?"[解放]のルーン"と"[活力]のルーン"について教えて欲しいって?』 -


   - アニー『…ふっふっふ…良いわ、教えたげる、あっちの方に"イタ飯屋"はあるでしょ?そこ行ってみな』 -


   - アニー『そこに[解放]のルーンに詳しい女が居るのよ、…ついでに[活力]にも』 -


   - アニー『案内料は高くつくけど、その女にしか案内できないから、んじゃ!そういうことで〜♪』 -











  ブルー「 お 前 じ ゃ な い か !!ふざけるな!!!」机ダンッ!!



空になったコップを半ば叩き付けるように怒りと共に机を叩く



早速そのイタ飯屋に脚を運んでみればどうだ?シップ発着場で別れた女が何喰わん顔で店前で壁に寄りかかって
彼が来るのを待っていた、別れ15分も経たない再会であった

しかも開口一番にこう言ったのだ



   - アニー『よく来たわね、待ってたわよ?解放のルーンは刑務所のリージョン[ディスペア]にあるわ』 -

   - アニー『そ!アタシがその案内人の女ってワケ!んで案内にはとーぜんお金が要るわ、これも商売なんで♪』 -


ちろっと舌を出して、監獄に潜入するには定期的に行われる電気系統の修理点検や配管工に扮して入る他ない事

それをやるには彼女…アニーの協力が必要不可避という事を知らされたのであった
135 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/11/15(水) 04:41:16.48 ID:6/TbcSGm0


 ぴしっ、叩きつけた衝撃で元から欠けてたが安っぽい瀬戸物に罅が入る…

ブルーは額に手をやり深くため息を吐いた、これはいけないカルシムと糖分が絶望的に足りない


旅立ちから僅か2日で資金難に陥るなど誰に想像できようモノか



 無駄な出費が出そうになった所で冷静になろうと努める、如何せん彼は冷静さを象徴する色を名に持ちながら
直情的な一面がある……というよりも神経質な所があるのだ


今まで国家の誇る優等生として学院に大事に育てられた温室育ちのお坊ちゃんだったのも加味しているのだろうな




豪華客船のチケット代とバイキングディナーの料金…それに加えて[ディスペア]への潜入費用
 家族を養うべくお金が必要なアニーへの支払金は今のブルーの手持ちでは…"ギリギリ足りない"


いや、頑張ればどうにかできそうではあるが、その日から路上ホームレス生活まっしぐらである














           ブルー「…金を稼ぐ方法…そんなの俺は知らんぞ…どうすりゃいいんだ…」











そうなのだ、ブルーは"温室育ち"なのだ


両親がいない、物心ついたころから国家の保護施設に居て、『親』である御国の為に奉仕する、それがブルーだった

周りの学友の中には街でアルバイトというモノをやっていたのをブルーは聞いた事があった


自分でお小遣いを溜めて欲しいモノを買ったり、友達と遊んだり……だがブルーにはそれが無い

 欲しいモノなど無いし、特別仲の良い友人と呼べる間柄の人物も居なかった、青春の大半は術士としての学に励んだ
修行の日々、魔術の学問を追い求める、それだけ



ある意味で欲の無い男だった。



そして、『普通の人』とは明らかにズレていた、世間を全く知らない、善くも悪くも俗世に疎かった






  天才であると同時に努力家でもあった、…だが融通が利かない

   なんでも知ってるようで、本当はなんにもわかっちゃいない…"世間の一般的な事"を何一つ分かっちゃいない


  22歳になって金銭を稼ぐ方法をまったく分からない…そんな現実に天才は打ちのめされた

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 05:32:27.81 ID:6/TbcSGm0


途方に暮れる、と言った所だ

頭抱えて少しの間一考するも、濁り模様の思惑に光明が射すことはなかった




ブルー(…考えても仕方あるまい、今できる事をせねば)




今できること、修得可能な術の資質を手にすること…即ち陰陽のどちらかの資質を取得することだった




太陽の力、光を司る"陽術"

影を、闇の力を操る"陰術"



どちらを取得するかブルーは既に決めていた…宿でチェックアウトを済ませ『<ゲート>』で[ルミナス]へと飛ぶ










もう一度言おう、ブルーはあらかじめ取るべき資質を決めていた

そこまでは良かったのだ…








悪い事や不都合というのはどういうワケか一度起きるとドミノ倒しのように連動するようで…

[ルミナス]に到着したばかりのブルーは…







        ブルー「封鎖中だと!?おい!どういうことだ!!!」


  「お、落ち着いてください!…コホン、お客さん見たところ術士の御方ですよね…なんとも間が悪い」

  「いえ…昨日、このリージョンでちょっとした事件があったらしんですよ」

        ブルー「事件だと?一体なんだというのだ!」





  「それが…昨日の19時近く吊り橋の先、分岐路付近で戦闘行為があったらしいんですよ」

        ブルー「なっ!?修行者の聖地[ルミナス]で戦闘行為だと!?どこの馬鹿だ!」




おずおずと答える職員の口から告げられた事実にブルーは激昂する
 術士にとっての聖地と言っても過言でないこの地は…ルミナパレスとオーンブル以外は非戦闘区域と指定されている
にも関わらず戦闘を行うなどよっぽど非常識な輩に違いない、もし会おうものなら殴りつけてやりたいと思った



…ちなみ、その非常識な輩は今、緑髪の半妖少女、頭に花飾り乗っけた妖魔、金髪美女と軍事基地に居る
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 05:53:20.66 ID:6/TbcSGm0


「詳しい詳細は不明ですが…妖魔が関わっているとかで…今、IRPOの方にも捜査してもらっているのですが…」



そこまで言って職員は首を横の振る…



「誠に申し訳ございませんが、お客様の安全の為です…テロの可能性もありますので…当面の間は陰術も陽術も…」



ブルー「〜っ!くそっ!!」






術さえ使えば[ルミナス]にはいつだって飛べる、それは分かるがこれは何とも間が悪い話だ…


結局ブルーは[クーロン]に戻って銭を稼ぐ方法を調べるか、他のルーンを探す旅に出るかしかない訳だ









クレイジーなIRPO隊員「はぁ〜…ったく、なーんもわかんねぇ、か」

無口な妖魔のIRPO隊員「………」

クレイジーなIRPO隊員「あぁん?なんだって……マジか、妖魔の君絡みか…めんどくせぇ」

クレイジーなIRPO隊員「お前は引き続きこっちの調査やっといてくれ、俺?俺は別件でこれから[マンハッタン]だよ」

クレイジーなIRPO隊員「前々から話に挙がってたろ?ミス・キャンベルの件だ…ちょっくら行ってくるわ」






遠目にIRPOの捜査官と思わしき人物が何やら話し合っているのが見えた、だがそれはブルーには関係の無い出来事である

しばらくしてから来るしかない、ブルーはすぐに『<ゲート>』の術で飛び去った



―――
――


【双子が旅立ってから…2日目 朝7時14分】



弦楽器を背負ったニート「あ"ぁ"〜…」ヨロッ

弦楽器を背負ったニート「飲み過ぎたぁ……」



弦楽器を背負ったニート(酒には自信あったんだけどなぁ…ライザ飲み比べ強すぎるぜ)



 [クーロン]の屋台が立ち並ぶ通りで空がぼんやりと明るみだした頃…

 如何にも二日酔いです、といった風の男が1人歩いていた、ぼさぼさの長く伸びた髪に田舎者丸だしな服装
民族風の帽子を頭から落とさないように抑えながら彼は電柱やら建物の壁やらに無許可に張られた広告や求人のチラシに
視線を泳がせていた


138 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 06:11:18.21 ID:6/TbcSGm0




弦楽器を背負ったニート(なぁんかエミリアは仕事で今は居ないっていうしなぁ、近場に寄ったから顔見せに来たけど)


弦楽器を背負ったニート(こりゃクーン達についてくべきだったかな…)ポリポリ




弦楽器を背負ったニート(…んと、何々?頭を取り外して笑える人大歓迎…ヌサカーン院…なんのバイトだよ…)チラッ



弦楽器を背負ったニート「…面白そうな事ねぇかな…」スタスタ













弦楽器を背負ったニート「…やっぱ、艦長さんトコにでも行ってみるべきかね」スタスタ













何処か不思議な男だった、飄々としていて、不思議と目を向けたくなる…そんな気にさせる男が歩いていた

 田舎から就職の為に上京してきたが、未だ職にありつけないでいる彼は
ひょんなことから出逢ったとあるリージョンシップの艦長の事を思い出した


自分の父親の知り合いらしい女性、そしてあまりにも無唐無稽な話を語り出した反トリニティの旗を掲げるリージョンの人






―――そこまで考えて彼は首を振った







弦楽器を背負ったニート「これからどーすっかなぁ…―――」




両腕を組んで後頭部に当てながらブラブラと街中を歩いていた彼は妙な気配を感じた

妙な、としか言いようがない、風も何も無い室内で木の葉が風に舞っている、そんな矛盾した感覚

彼はその方角へ目を向けるすると…




   ブルー「…いっそのこと先に[勝利]のルーンを探すべきか…」ブツブツ



何も無い空間から1人の人間が音も無く現れた、それをみて彼は思った『面白いモノを見つけた』と
139 :今回は一旦此処まで [saga]:2017/11/15(水) 06:25:58.05 ID:6/TbcSGm0



弦楽器を背負ったニート「なぁ!!!そこのアンタ!!」キラキラ!


ブルー「!?!?」ビクゥ!!




 朝っぱらから大音量の音声がブルーの鼓膜に直撃する、考え事をして足元を見ながら歩いていたのも相まって
その大声は効果抜群だった、術士が無駄に肺活量の高い人物の方を振り向くと




弦楽器を背負ったニート「今のスゲーな!どんな手品だ!?あっ!その恰好…はは〜ん分かったぞ術士だろ〜!」ニヤニヤ


ブルー「…」










ブルー(なんなんだこの男は)



変なの目をつけられた、瞬時に悟った彼は『すいません、先を急ぐ身なので』と逃げる様に立ち去ろうとするが…





弦楽器を背負ったニート「〜♪」テクテク

ブルー「…」テクテク





ブルー( な ぜ つ い て く る !! )



ブルー「あの、僕に何か用ですか?」クルッ

弦楽器を背負ったニート「ん?別に俺はあっちの方角に用事があるだけだぜ」




ブルー「そうですか…」

弦楽器を背負ったニート「おう!ところでアンタさ!」





1つ、失敗を犯した

此処で振り返ってこの男に声を掛けた、そのまま無視して相手が諦めるまで歩けば良いものの…

ブルーはこの男に『会話を切り出させる機会を与えてしまった』のだ




      成績優秀で融通が利かない世間知らずの天才

      田舎からやってきた無職<ニート>…なのだが、世間を巧く乗れる男



アニーに続く後の腐れ縁その2との出会いだった
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 22:55:03.57 ID:2QrfuOapo

いい根性してんなアニーww
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 11:30:00.66 ID:LmV+rv+aO
乙乙
ボれるとこからはボっておく精神
そしてここでリュートか、続き楽しみ
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 17:01:43.09 ID:QXh9rXoy0
続き来てた

143 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 00:19:01.93 ID:1MyQWKN50




弦楽器を背負ったニート「その法衣、[マジックキングダム]の人だろ?俺、前に観光に行ったからよくわかるんだ〜」


ブルー「…そうですが何か?」



好奇の目に晒されるのは好かない、見世物小屋の珍獣じゃないんだぞ、と苛立ちが滲みだしそうなブルーは
さっさと会話を切り上げてしまいたかった





この返答はミステイクだった





弦楽器を背負ったニート「ふぅん…やっぱそうか〜[ルミナス]とも[ドゥヴァン]とも違うからそう思ったんだよな〜」

























弦楽器を背負ったニート「あの国ってさ、国民は他所のリージョンへ外出が禁止されてんだろう?アンタ何者なんだい?」

                    ブルー「!」ハッ!





[マジックキングダム]は国の最高機関である"学院"が定めた者以外、リージョン界の外遊を許可されない
ブルーの返答はこの男の興味心を更に掻き立てる返答だったのだ







ブルー「…貴様」ジロッ




空気が変わった、眉間に皺を寄せ不機嫌を露わにするブルーに動じない男は呑気な声調で
「おいおい、そんな怖い顔しなさんなって、単なる興味本位さ」と笑うのだ




怖いモノを知らないのか、それともこの男が大物なのか、その態度が彼は気に喰わなかった


144 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 00:43:33.17 ID:1MyQWKN50


だから…ちょっと脅してやろう、と彼は考えた、無論この鬱陶しい男を遠ざけたいのもあった


ブルー「…故郷のちょっとした風習でな、俺は外界でより高度な術を学ぶために資質を得る旅をしている」


弦楽器を背負ったニート「へぇ〜、それにしても『俺』かぁ、なんとなく思ったけどやっぱ猫被りだったんだなアンタ!」


ブルー「」イラッ


へらへらと笑いながら横を歩く男にムッとしながらも話しを続ける

ブルー「己の術を磨き、どこまでも洗練しそして…」




弦楽器を背負ったニート「そして?」ワクワク










          ブルー「故郷の慣例に従って、自分の身内を殺す」









御伽噺に出て来る魔女か何かだ、口元を歪めて悪い魔女が魅せる様な笑みを浮かべる

彼の予想通りとでも言うべきか、目の前のボサボサ髪の男は面食らったような顔で立ち尽くした




ブルー「国の習わしで、双子が生まれた場合…片割れがもう片方を殺すという風習なんだ」

ブルー「分かったか?血が繋がった相手を殺すという宿命なんだお前に構ってる暇なん「アンタ双子なのか!すげー!」





ブルー「……は?」




弦楽器を背負ったニート「いやぁ〜俺んトコの地元にも双子が居るんだけどさぁ、双子って珍しいからなァ」

弦楽器を背負ったニート「それにしても双子同士で争うって物騒だな、もっと平和的に解すりゃいいのに」






ブルー(…な、なんなんだこの男は!!)




頭痛がしてきた、自分からこの話題を振っといてなんだが、このノリは何だ!?


弦楽器を背負ったニート「宿命の対決かぁ…あっ、そういや俺まだ名前言ってなかったな俺、リュートってんだ!」

リュート「兄ちゃんアンタは」


145 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 01:21:46.60 ID:1MyQWKN50



ブルー「……なんでお前に名乗らねばならんのだ」


ペースが乱される、艶やかな金髪を鷲掴むように頭を抑え、この―――…鋭いんだか天然ボケなんだかよく分からん男に
目線も合わせずに答える




リュート「えぇー、別に良いだろう減るもんじゃねーしよぉ……なら、そうだな…」ジーッ




ブルー「…」アタマ、イタイ




リュート「よしっ!」グッ



リュート「アンタ蒼い服着てるから、ブルーな! Mr.ブルー!」ニカッ!



ブルー「っ!?」ドッ!




すっ転びかけた、本当にペースが乱される


リュート「んん?どうしたんだ?」


ブルー「…いや何でもない」


―――
――




リュート「って訳で俺は故郷から就職できる場所を探して旅してるってワケさ!」

ブルー「朝っぱらから酒臭い匂いを漂わせてる奴が言う台詞じゃないがな」




二日酔いのリュートに指摘する、終始調子を狂わされっぱなしの彼は、追い払うことを諦めた…



リュート「それにしてもアンタも銭稼ぐのに困ってんだなぁ」

ブルー「ふん…」



観念したブルーは口数の多い男を話しながら歩いていた、昨日のがめつい女に関する愚痴や[ルミナス]に行ったのに
無駄足だった事…

誰でも良いから胸の内を吐きたかった、追っ払えないなら精々コイツを話し相手ぐらいにしてやろうと開き直ったとも言う




リュート「しっかし、アンタ聞けばとんでもない女にふっかけられたんだな、そんな簡単に用意できないぜ?」

ブルー「ああ、まったくだ…」ハァ…


146 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 01:36:27.90 ID:1MyQWKN50


リュート「俺の知り合いにもお金が好きな女が居るけど…」


ブルー「はっ!そんな奴がこの世に何人も居るなんぞ考えたくも無いことだがな!」




鼻で嗤う金髪の術士は知らない、実は今隣を歩いている男の知り合いの金に目が無い女が同一人物であることを


リュート「…お金、金…カネ…」










リュート「!」(豆電球)ピコンッ!




リュート「なぁ!!さっきの術![ゲート]だっけ?あれって一度行った事ある場所ならどこでも行けるのか?」ガシッ


ブルー「なんだ突然藪から棒に…」



肩を強く掴まれ訝し気に眉を顰めるがそんなの知った事かとリュートは続ける








      リュート「俺とコンビ組まないか?今日一日でアンタを大金持ちにしてやれるぜ!」ニィ!!


                ブルー「…どういうことだ?」







リュート「へっへっへ!なぁに!真面目に働くのも良いことだけどさぁ〜、こういうのは財テクってのがあるんだ」


リュート「良いか!兄ちゃんよォ、まずアレを見な」びしっ



ブルー「?」チラッ





         金券ショップ:クーロン店『 金、銀、プラチナ…なんでも買います! 』ドンッ☆






ブルー「…あれがどうかしたか?」


リュート「移動しながら話す!まずはシップ発着場だ!そこから[ネルソン]へ行くんだよ!」ダッ

ブルー「お、おい!待て!まだ俺はお前と組むなんて一言も言ってないぞ!説明しろ!!」ダッ!


147 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 01:54:39.75 ID:3xGmg1wE0
金転がしか、俺はジャンク屋で稼いでたなあ
148 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/06(水) 03:06:44.07 ID:1MyQWKN50


―――
――




…これ弦楽器を背負ったニートことリュートとの出会いであり、今現在巨大生物[タンザー]に飲み込まれた発端である

割愛するが、リュートと名乗る青年の提案はこうだった




[ネルソン]というリージョンがあり、そこでは金塊を一つ500クレジットで購入できる…

世界を統括する政治機関…トリニティに属さないリージョンの為、グローバル通貨であるクレジットが手に入らない
つまり他所のリージョンから輸入ができない

そこで観光客に地元の品とクレジットの交換を求めるケースが多いのだ




金塊、金のインゴットが1つ辺り500という価値に対し、此処[クーロン]街における金相場は1000…

早い話が安い所から仕入れて物価の高い土地で売り払う、単純な転売という事だ


[ネルソン]は今説明した通り、少々特殊なリージョンで片道だけでも船の乗り継ぎが必要という手間の掛かる土地だ



船賃と時間、人件費を考えるなら大抵の人は素通りしていく、資産家が一気に買い占めて一気に売り払う
極力、安くないだろう船賃を払って何度も行ったり来たりしない、という前提で漸く利益を取れる




そう…"何度も船賃を払って往復するから収支差益があまり良いモノと呼べない"のだ






なら交通費用が無料<タダ>だったら?余計な経費が無ければその分黒字が増えるのは当然と言えよう


この案に術士は目を丸くした、このちゃらんぽらんなニート…中々面白いことを考えるじゃないか
ブルーはこれに承諾、さっそく船に乗り込み一攫千金目指して船内で身を休める事にした

















 世の中、甘くない

 乗った船が童話のピノキオに登場するオバケ鯨よろしく船を飲み込む怪獣[タンザー]に飲み込まれるアクシデントと遭遇







  ブルー「 ど う し て こ う な っ た !!」

  リュート「いや〜、ついてないなぁ!」ハッハッハ!


149 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/06(水) 04:13:41.48 ID:1MyQWKN50


 巨大生物[タンザー]…あらゆる生物が生存不可能な混沌の海に唯一耐性がある生物であり
その体内は一つのリージョンとも呼ばれていた


がっくりと膝をついて項垂れる金髪術士の隣で何が可笑しいのかお気楽に笑う男、その少し先には他の乗客達が
困惑の色を浮かべ、思い思いに不安を口にしていた


「ここは何処だ!」
「ひょっとして[タンザー]とか言うのに飲み込まれちゃったの!?」

「嘘だろ…俺は船乗りたちのホラ話だと…」









緑の獣っ子「あれ〜?…ねぇメイレン、僕達[ヨークランド]に行く予定じゃなかったの?ここが[ヨークランド]?」

チャイナドレスの美女「違うわ…此処は[タンザー]よ…予定と違ったけど此処にも"指輪"があるわ」







リュート「ん?あれは―――…」

ブルー「…いや、こういう時こそ[ゲート]で脱出すれば」ブツブツ…







   「おらおら!!全員動くんじゃあねぇぞ!船から積み荷を降ろせぇ!」
   「へっへっへ…久々のシップだぜ…酒や食料はたーんとあるだろうなァ」



見るからに柄の悪い…ヨレヨレの服を着た男達、恐らく"不幸にもタンザー]の先住民となってしまった輩"なのだろう


   「このバケモンに飲み込まれてから俺達の食糧も底をつきかけてたんだ…天は俺達を見捨ててねぇぜ!」へへっ

   「オラァ!ハチの巣にされたくなけれりゃ全員荷物を寄こしなァ!ついでに金目のモンもだーーーっ!」ズドドド




リュート「おい、ブルー、いつまでもそうやってぶつくさ言ってる場合じゃないぜ?」ポンポン

<ヤメロー
<逆らう気か!?この獣!


ブルー「そうだ、此処にはアニーから聴いた話だと[活力のルーン]があるはずだ、ならば不運なんかじゃ――」ガバッ!

ブルー「…?なんだあの連中は」


<ほー、アンタら強いね


リュート「此処の先住民じゃないか、…ってかお前今アニ「ちょっと待ったぁ!」



     ザワザワ…

              …誰?


弁髪の男「その女についていってはならん!」

150 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/06(水) 05:14:55.97 ID:1MyQWKN50


弁髪の男「その女は悪名高いリージョン強盗団のノーマッドだ!」


「強盗!?」
「マジ!?」
「いい女だ…」ポーッ


ノーマッド「ああ、そうさ、あたしゃ外じゃそれなりに悪さしまくったさ」

ノーマッド「言い訳する気はさらさらないけど、どうすんだい?ちんたらしてたら[タンザー]の奥まで飲まれちまう」

ノーマッド「あたしについてくも良し、そのハゲ頭についてくのも良しさね」





弁髪の男「ハゲではないッ!!」




ノーマッド「ふんっ!」シュタッ!



ざわざわ…がやがや…



リュート「ほへ〜…なんか俺らが喋ってる間に色んな事が起きてんな〜…ってブルー?」チラッ











ブルー「…」スタスタ




リュート「あっ!?おい!勝手に独りで何処行く気だよ」トテトテ…!




ブルー「ふん、外野共が何をしようが知ったことか、俺は此処でルーンを見つけてあとは[ゲート]で出て行く」スタスタ



先の喧騒…弁髪の男と此処に呑まれたらしい強盗の女首領との小競り合いだの、なんだのは微塵も興味が無い
 自分の目的をとっとと達成して此処を出て行くだけである…[ネルソン]の金塊の売買に関しては何でもリュートに
コネの効く人物がいるらしい、リュートくらいは連れてってやろう、彼はそう言いて他の群衆とは違う道を―――


2人で[タンザー]奥へと歩いていくのであった





そして―――今現在




         リュート「いやぁ〜良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」






                       ブルー「…」

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 08:49:22.05 ID:vyhsoMPdO

金転がしの利益を思えばこの程度苦労でもなんでもないどころかルーンまで手に入るとかいいことづくめであるんだよなぁ
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 12:07:19.61 ID:FNLOgK98O
乙乙
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 16:11:38.73 ID:1o+2dcah0
ブルー編だとそのまま本当にリージョン移動でフェイオン見捨てるから仲間にできないんだよなぁ
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 04:18:41.27 ID:eD7lB2/00



   リュート「しっかし凄かったなぁ!…あの術、[ヴァーミリオンサンズ]だっけ?」


 時折…足元にある無数の網目模様じみた緑色の血管が脈を打っていた
それは偏にこの巨大生物[タンザー]がちゃんと生きている証拠であり、ぶよぶよとした毒々しい肉の壁も
天井から垂れ下がった人間<ヒューマン>の肝臓に似た何かも規則的に動いていた


生物の体内に居るというのは本能的に居心地が悪い



今居る所が身体の部位で言うところの胃、消化器官にあたるのならば尚更であった




術士ブルー、放浪の詩人…もとい就活中の男リュートは[タンザー]内部の最深部へと脚を踏み入れた

磯巾着のような触手蠢く入口に自ら飛び込み別の区画に移動する事もあった、胃液の様な粘液で滑る下り坂も降りて行った
そうして、到達したのが通称"スライムプール"と呼ばれる場所だ


…尤も、この二人は此処に詳しかった先程の弁髪の男…フェイオンという名なのだが、その男を無視して手探りで来たから
そのような名称で呼ばれている事など露知らずなのだが



胃の消化液の代わりをしているのかどうかは分からない、だが此処に誤って入り込んだ者は
無尽蔵に湧いてくるゲル状モンスター[スライム]の群れに囲まれ四方八方から[溶解液]を噴きかけられて溶かされるだろう






 - アニー『―――ってわけよ、ヤバかったわマジで…全体攻撃無いとキツイわよ[活力のルーン]…』ハァ -





 ブルー(…早速情報が役に立ったか)





ブルーは予め此処に一度来た経験のある人物から覚えている限りの道順と対策を聞いていた
だから、弁髪の男達を無視して勝手に此処まで来れたのだ

そうでなければ、何の手がかりも無しでルーンを探すなどと言う無策には走らない


以前、此処に来たというアニーは自身含めた3人組で、剣、銃、拳で無限湧きの[大スライム]に苦戦したそうな





 複数の[大スライム]とその後ろに更に一際大きい[特大スライム]…それ等は
自分達に生を与えてくれる大事な物を護っていた

キラキラと輝く結晶体、水晶玉にも見えるその中に刻まれた"活力"を意味するルーン文字を




リュート「真っ赤なデケェ宝石が出てきて、バーン!って割れて皆ぶっ飛ばしちまうんだもんなぁ〜」

リュート「俺も覚えらんないか?あれが出来たらスゲーだろうしよぉ」



ブルー「貴様には無理だ、あれは【魔術の"資質"】を持った者だけが扱える高位の術だ」

ブルー「魔術の"資質"は[マジックキングダム]で生まれた人間にしか授かる事ができん、諦めろ」


155 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 04:40:09.04 ID:eD7lB2/00


 単細胞生物の群れを昨日の粗蟲共と同じく、自身が使える最大火力で消し飛ばし
粘液のプールから新たな生命を持って再誕する前に手早くルーンが刻まれた結晶体に[触れる]…これで手持ちの小石に
2つ目のルーンが刻まれた[保護]と[活力]…



 後は[解放]と[勝利]だけだ…それでブルーは【印術の"資質"】を会得できる…っ!
祖国の勅令に、育ての親への奉公がまた一歩出来る訳だ




ブルー「ふん…、用が済んだならこんなとこに長居は無用だ、リュート掴まれ、此処を出るぞ」つ【リージョン移動】




ブルー(身体中がベトベトだ……くそっ!一度シャワーを浴びたいくらいだ)チッ



リュート「おう、今行く…ぜ?」


ブルー「どうした!さっさとしろ!」

リュート「…なぁ、ブルー、アンタ「なんだ歯切れが悪い、さっさと言え」



リュート「んー、まぁいいや、アンタ早く出たそうだし後で言うよ」スタスタ



コイツは何を言ってるんだ?身体中、粘液塗れでどろどろのぬとぬと状態の術士が少しだけムッとした顔になる
彼は目の前のお気楽者が何を言いたがったのかすぐには察せなかった


舌打ちするくらい、早く帰って湯浴みをしたいと考えていたのも相まったのだろう










リュートが蒼いの術士の足元を凝視していた理由……水溜り(?)を踏みつけたブルーの脚に"そいつ"が這っていた事に






   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー。」ピトッ ヨジヨジ…







…こうして[ゲート]の術で 2 人 と "1 匹"  が[タンザー]から脱出したのであった











【双子が旅立ってから2日目 朝 10時25分  ブルー[タンザー]脱出】


―――
――

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156 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 04:43:06.02 ID:eD7lB2/00
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                オマケ【術士が去った後の[タンザー]】


 【双子が旅立ってから2日目 朝 10時 26分】


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157 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 05:02:10.93 ID:eD7lB2/00



弁髪の男「ハイーーーーッ!!」ヒュッ!ゲシィッ


「ウゲェ!?」ドゴッ

「野郎!―――おぼげぇ!!」ドシャッ!




緑の獣っ子「…ふぅ、フェイオン!大丈夫?」



 [あびせ蹴り]を強盗団の一人にお見舞いした男は背後を狙われていた、凶器を振り下ろされるよりも先に
緑色の影が弁髪の男―――フェイオンを救うべく背後から不意打ちを仕掛けようとした相手の鳩尾目掛けて飛び出した




フェイオン「すまない、クーン助かったよ」


クーン「えへへ!褒められちゃったぁ!」



チャイナドレスの美女「クーン!フェイオン!まだ終わってないわ!和むのは後よ、後!」ジャキッ



ケモ耳と尻尾の生えた緑の子供とフェイオンに声を張り上げながら前方に[アグニCP1]を構え直す
3人は今現在リージョン強盗団の女首領ノーマッドを追っていた

ノーマッドが所有する"指輪"を手に入れる為だ



フェイオン「くっ、しかし…数が多すぎるメイレン!」


メイレン「ええ、雑魚に一々構っている時間は無いわ、そうこうしてる内に彼女は更に奥に逃げてしまう…っ」ギリィ




チャイナドレスを着た紫色の髪を結った美女が儘ならないこの状況に奥歯を噛み締める
このままでは"指輪"に逃げられてしまう、と




               グラッ…!





その矢先だった、突然、[タンザー]が苦しみ出すかのように暴れ出したのだ!


体内に居る彼等彼女等、皆に聴こえる程の唸り声を、…身体全体の細胞が地震災害に遭ったかのように揺れ動き
その場で交戦していたあらゆる者達が思わず、蹲る程の揺れ…






それもその筈だ



[タンザー]の体内、奥部で広範囲に渡る、とんでもない火力の全体魔術をどっかの金髪の蒼法衣の男がぶっ放したのだから





158 :今回此処まで [saga]:2017/12/10(日) 05:15:40.46 ID:eD7lB2/00



「な、なんだってんだ!今のは!!」

「う、うるせー!俺が知るかよ、んなことより野郎共を」










「てっ、てぇへんだ!てぇへんだぁぁァーーーーーーーーーーーーー!!」ハァハァ…!







「おお!丁度いい所に!お前!加勢し「ばっきゃろぉ!!それどころじゃねぇ!!フェイオンの旦那ァ!後生だ!」バッ






フェイオン「な、なんだ…一体?」

メイレン「気を付けて、私達を油断させる罠かも」ジャコッ!チャキッ!


フェイオン「ま、待ってくれ…相手はあの通り土下座までしてるんだ話くらい聞くんだメイレン」ガシッ

クーン「そうだよ、メイレン!鉄砲を下ろしてあげて」



メイレン「…引鉄は引かないわ、でも牽制の役目はさせてもらうから」



フェイオン「…昔からそうだった、こうなると君は梃子でも動かないからな、分かった」




フェイオン「すまない、そのままの状態で話してくれ!何があった!」





「い、今の揺れで…お頭が!お頭が[タンザー]に喰われちまったんだ!」

「な、なんだってーーー!?」
「お頭がァ!?」


フェイオン「何!?ノーマッドの奴が!?」

メイレン「!?!?!?"指輪"がっ!?」


クーン「??? 何言ってるの?ボク達は[タンザー]に飲まれてるでしょ?」



「い、いやそういう意味じゃなくてよぉ…なんか[タンザー]の器官だか何だか、にウチのお頭が喰われかけてて…」

「あぁ!!んなこたぁどうでもいい!頼む!フェイオンの旦那ぁ、俺達じゃどうにもできねぇ!お頭を!!」


フェイオン「うむ!例え悪党だろうと善人だろうと関係ない!あんな奴でも助けねば!」

メイレン「ええっ!指輪を手に入れなくちゃ!」

クーン「ああ!待ってよぉ〜!」

〜 オマケ1 完〜 
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159 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 14:10:27.27 ID:pUf27zNZo
おみやげはブルーが持っていったからクーンはもらわずにすむな
やったねクーン餌の取り合いにならずにすむよ!
ブルーさんは御愁傷様です
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 09:16:53.61 ID:RpCcFrYsO
そういえばスライムついてきてたなww
乙です
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 14:21:42.89 ID:7YoFnztT0
このメイレンさんの執着心・・・例のアレに冒されるの早すぎませんかねぇ(困惑)
乙乙
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 18:44:01.92 ID:IWh+TUR40
メイレンは許さない(半ギレ
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/12/12(火) 22:27:19.59 ID:oBhf20Wx0


 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
 露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
 額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
 快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩く







    【わぁ!見てよ!広場に青いシートが敷いてあるよ!キミの服と同じ色だね!!】
    『…何の変哲も無いブルーシートだろ、大袈裟な…』


    【えへへ〜!僕はお外で遊ぶ事ってあんまりないから色んな物が珍しいんだ】
    『そうか、…どうやらアレは露店のようだな、縁日にはまだ早いが他所のリージョンから来たようだ』


    【他所のリージョン!?凄い凄い!見てみよう!】
    『お、おい!引っ張るな!』



    「いらっしゃい!色んな品があるよ!」



    【わぁ…これ何ですか!】

    「それはおもちゃのピストルだよ、空気しか出せないけど恰好良いだろ?」

    『…ふむ、[ワカツ]剣道?…面白い本だな』

    「ほー、キミ[ワカツ]流の剣術に興味があるのかい?いやー[シュライク]書店から買った甲斐があったね」



    【? 露店のおじさん、この本は?】ペラペラ


    「あー、それは―――!?」





    【…?なんでこの女の人達みんな服脱いでるんだろう?】キョトン


    【ねぇキミ、なんでこの人暑いの?】スッ


    『……なんだ、この本、文字が全く書かれていない上に下品な女達の絵だけ…』ペラペラ


    『無意味な本だな』ポイッ




    「あ、あー、キミたちこれは見なかったことにしてくれ!なっ!」アセアセ

          【『???』】


―――
――

164 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/12(火) 22:35:31.15 ID:oBhf20Wx0
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―――って、ってば、ねぇ!ルージュ! 起きて!!そろそろ到着するよ!!























              ルージュ「…むにゃ?」パチッ













アセルス「はぁ〜、漸く起きた…確かに[ラムダ基地]でのドタバタで疲れたけど、油断し過ぎだよ」

アセルス「また荷物盗まれるよ?」



ルージュ「…あー、ごめん、なんか小さい頃の夢見てた…」ゴシゴシ


白薔薇「夢ですか?」



ルージュ「うん、夢だから顔がぼんやりとしか思い出せないけど…昔、仲の良い友達と遊んだ夢…」ふわぁ…







エミリア「3人とも![クーロン]行きのチケットどうにか手に入ったわ!」タッタッタ…!










【双子が旅立ってから2日目 朝 11時17分  [マンハッタン]:ショッピングモール】
165 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/13(水) 00:26:24.66 ID:hwTtdp/P0



 都市型リージョン[マンハッタン]…リージョン界を統括する政治機関"トリニティ"の御膝元であり
また最先端科学の髄は此処に在りとさえ言わしめる程に発展している


貿易センタービルが立ち並ぶ大都会の中央にはトリニティの"セントラルゲート"が聳えている
 今現在、彼等はショッピングモールの真ん中で別行動を取ったエミリアを待っていた



白薔薇(人がたくさん居ますわね…)キョロキョロ



[ファシナトゥール]から数百年余りは他所のリージョンに出た事が無い妖魔の姫君は現代の発展に目を丸くしていた

 何処もかしこもも、人、人、人…居眠りをしていたルージュとアセルス等と共に待つ傍ら、摩天楼を一頻りに眺めては
ある一点に目を向けた





白薔薇(…?あの塔、…いえ、"ビル"というのでしたね、妖魔の気配がしますが…)





妖魔は機械音痴の種族、それもあってこのリージョンでは妖魔は特に珍しい
…従って、"何故か大勢の妖魔が集まっている"場所が嫌でも目に付くのだ






後に、とある出来事が切欠で昇る事になるビル…"キャンベル貿易ビル"である




ルージュ「すいません、僕達の分のチケットまで確保して頂いて」


エミリア「いいーの!いいの!ヤルートの件を手伝ってくれたお礼も兼ねてるから」


 パチッとウインク一つ、金髪美女は朗らかな笑みで返してくれる…あの後、結局ヤルートには逃げられ
エミリアも追っていた仮面の男ジョーカーに関する情報は得られず終いに終わった


唯一の救い、とでも言えば良いのか…捜査中にアセルスの知り合い…ゾズマに出逢い
『モンスターを侵入させて基地を混乱させたんだから責任ぐらい取ってよね!!』と強気に出たアセルスが
拉致監禁された女性たちの身柄保護、そして基地から脱走の手助けをゾズマ率いる部下の妖魔達に手伝わせた事ぐらいだ






…どうでもいい話だが、最初ゾズマの恰好を見たエミリアは黄色い悲鳴をあげて銃をフルオート射撃しそうになったそうな


女装男子に続き、上半身裸で乳首に星型ニップレスという色黒イケメンという時代を先取りしたファッションの妖魔と遭遇



なんというか、その後もどっと疲れた様子で「ばかやろー…」と力無く嘆く姿が物悲しかった





ルージュ「ほんっとうにすいません!!」ペコッ ペコッ

アセルス「私からも本当にごめん!私のトコの変態が!」ペコッ ペコッ



エミリア「い、いや!良いから!二人共顔上げて!周りの人の目線が痛い!?」

166 :このレスは判定に含めない [saga]:2017/12/13(水) 01:46:42.60 ID:hwTtdp/P0




      エミリア「白薔薇ちゃん!この二人をどうにか…ってあれ?白薔薇ちゃんは?」








ピタッ、助けを求めだしたエミリアのその一言が"皮肉"にも目の前の二人を止めた




周りはこれでもかと言わんがばかりの人混み、その雑踏溢れる賑わいの中に花飾りの貴婦人の姿は―――無い





アセルス「し、しろばらぁぁぁぁぁ!!!」

ルージュ「白薔薇さんがいなくなったぁ!」ガーン!?






…妖魔は機械音痴の種族である、そして浮世離れした妖魔の姫君は絶賛、機械仕掛けの摩天楼で迷子となっていた


―――
――





白薔薇「」ポツーン


白薔薇「こ、此処は一体どこなのでしょうか…」オロオロ







Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…んで、次は何処行くんだ?」テクテク



記憶喪失のロボット「レオナルド博士にメモリを増やして頂きました」

記憶喪失のロボット「その点を踏まえ次は[シュライク]、その次に[シンロウ]へ行く事を推奨します」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「なら次は[シュライク]だな…っと」

記憶喪失のロボット「どうされましたか?」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…いや、派手な格好だなって、あんまジロジロ見るのも悪ぃな、行くぜ!」

記憶喪失のロボット「はい」




白薔薇姫の姿はこの通り傍から見て目立つ、おとなしくしていればすぐに3人に見つかるのだが
 見慣れぬ環境…[ファシナトゥール]ではまずお目に掛かれないメカの存在が彼女を"じっと"はさせなかった

人は自分にとって慣れぬ物、理解できない物を見ると興味を示すか、訳も無く畏れてそれから遠ざかろうとする心理が働く


彼女が前者か後者か、どちらの心理が働いたのかは分からないが、その場でとどまるという事はさせなかった
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 02:13:57.68 ID:+OjESLO60
ワカツの剣豪!ワカツの剣豪じゃないか!
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 08:06:15.86 ID:TlvmAdiUO
ちょいちょいサブキャラが出てくるのが楽しいな
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 14:15:37.96 ID:mc53ejAqO
乙乙
ゲンさんはカードと小石両方取って先にスタメン入りだったわ
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 23:37:55.77 ID:LuywdMZLo
物語が交差してる感じがすごくいい
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 15:45:37.81 ID:8tJ19dmT0







クレイジーなIRPO隊員「さぁ〜て…キャンベル社長のトコに行く前にちと早いがちょっくら昼飯にでも―――」スタスタ












白薔薇「」オロオロ



クレイジーなIRPO隊員(なんだぁ?ありゃぁ…映画の撮影か何かか?)




 近未来都市の摩天楼に一人の貴婦人が居る、通りがかりの男はその麗しの美人をマジマジと見つめていた
ブロードウェイのミュージカルシアターから舞台衣装のまま女優さんが逃げ出して来たのか、と通行人なら皆が思う

 男は全身黒づくめ、靴もジーンズもダークカラーで統一していて襟元に毛皮が付いた革ジャケットを羽織り
裾口から先の手首もこれまた真っ黒なグローブという服装だった

唯一、暖色が見えるとすれば、襟元の毛皮と紅いネクタイ…そして外側が少しはねたショートヘアのくすんだ金髪だ



ポケットに手を突っ込み、先程まで煙草をふかしながら歩いていた彼は遠目に見える"問題の企業"を目指していた

職業柄、いつも手帳と何処のリージョンでも使用可能なタブレット端末…そして、腰ベルトの背には銃が備わっている






彼は[IRPO]隊員だ



I…inter<インター>

R…region<リージョン>

P…patrol<パトロール>

O…organization<オーガニゼーション>






即ち…混沌の海に浮かぶ無数の惑星<リージョン>を跨いで、日々犯罪者を追い続けるリージョン警察である


 今日、彼は[IRPO]本部から[ルミナス]で起きた戦闘騒動の調査後
すぐに此処[マンハッタン]にある、とある企業を捜査する手筈だった、吸い殻をポイ捨てしたいトコだったが
 仮にも市民のみなさんを護るお巡りさんがそれをやると苦情が来るから面倒臭がりの性格である彼は渋々と
最寄りのコンビニによって煙草の吸殻を捨て、仕事前にお気に入りのファーストフード店にでも入ろうかとした矢先だった



クレイジーなIRPO隊員「…あー、そこの麗しいお嬢さん、何かお困りですかな?」ニッコリ


白薔薇「?」キョトン



紳士スタイルで美女に接する下心丸出しな隊員Hさん
172 :ちょっと席を外します [saga]:2017/12/19(火) 16:14:23.14 ID:8tJ19dmT0


クレイジーなIRPO隊員「あぁ、失礼、私はこういう者でしてね」ピラッ


黒ジャケットの男はそういうと腕に[IRPO]の正式隊員であることを証明する腕章を見せる、これに白薔薇はしばし戸惑った




彼女は外界を、世間一般の常識を知らない

無知という訳ではない、数百年あまりの悠久の時を鎖国状態のリージョンで過ごしたからだ



稀に[ファシナトゥール]にIRPO隊員が来る事があってもその腕章が何を意味するのか、知らぬのだ



白薔薇(…!そうですわ!アセルス様が教えてくださいましたわ、これは確かパトロールの御方の!)ハッ!


白薔薇「刑事さん、でよろしいのですね?」


クレイジーなIRPO隊員「ええ!そうです!見たところお困りのようですが、何かありましたか?」



男は大袈裟に両腕を広げておどけてみせる、芝居じみたその仕草に緊張が解けたのか白薔薇も小さく笑い
仲間とはぐれてしまった事を告げた



クレイジーなIRPO隊員「なるほど、…お仲間さんのお名前は?」スッ



情報端末を取り出す、全パトロール隊員に配布されたタブレットは各リージョンの住人は無論、シップ発着場から
下船したお客の情報も問い合わすこともできる

パスポートの偽装、違法シップの運用を想定してだ

パトロール隊員はあらゆる権限を持たされており、隊員1人の権限で企業、店舗の営業停止から突然の立ち入り捜査まで
許可されている……簡単に言えば、この広いリージョン界でほぼ何でもできる権力を持っている


 それゆえに権限の悪用や、"収拾がつかない状態"にならぬようにと、隊員は増やし過ぎず…それでいて
人格面、能力全てが厳選されている





余談だが隊員は全部で な ん と "6 名" …いや、1人殺害された、とのことで5名である


数多の惑星<リージョン>に対してたった5〜6名ほどしか任命されない、逆に言えばそれだけ権限を持った者達なのだ





白薔薇「…その機械は?」


クレイジーなIRPO隊員「ん?ああ、これは発着場から来た人達を調べる機械でしてね」

クレイジーなIRPO隊員「あぁ…妖魔の方ですか、通りでお美しいと思いましたよ」ピッピッ


人助けの為であって悪用する訳じゃないのでご安心を、と笑う男に白薔薇はどう答えるべきか困った








[ラムダ基地]から船を奪ってなんとか逃げ出して来た自分達をどう説明する?

もっと言ったら、12年前に行方不明となったアセルスの名前なんて出せるかッ!面倒な事になるに決まってるッッ!
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 16:50:06.40 ID:v3eHFheI0
エミリア、ゲンさん、ヒューズ、あぁそうか ブルーが印術√だからか
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 18:41:50.71 ID:qtK1GM2/O
なんか誰の名前出しても面倒くさそうww
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 20:08:34.96 ID:jCosaYnU0
エミリアなんて無実なのにヒューズに刑務所送りにされたもんなw
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 21:13:43.90 ID:0fm3HvFEO
>>173
何言ってるか分かんなかったけど秘術イベントで仲間に出来るキャラって今気がついた
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 00:48:58.49 ID:/NaxgDC30


 しばしの戸惑い、その一考に革ジャケットの男は少しだけ眉を顰めた、名前を言うのに何を躊躇う必要がある?
腐っても厳選される程には有能な刑事さんのようだ







   白薔薇「私のお連れの方なのですが…その"ルージュ"という殿方なのです」


クレイジーなIRPO隊員「ほー、ルージュ…フランス語で赤ですか」ピッピッ





クレイジーなIRPO隊員「………」ピッピッ




クレイジーなIRPO隊員「お嬢さん、お間違いはありませんかね…?ウチの機械に、"ルージュって名前が出ない"ですがね」







空気が変わった。









白薔薇「それもその筈ですわ」

クレイジーなIRPO隊員「はぃ?」



白薔薇「その御方は術士の方なのです、昨日[ルミナス]で出会い術の修行の旅にお付き合いすることになりまして」

白薔薇「ルージュさんは[ゲート]という術でリージョン間を移動できるのでして」

白薔薇「私達はシップに乗ってきたわけではないのです…だからどうご説明すればよいのか迷いました」



クレイジーなIRPO隊員「…」



男は下顎に手を当て考えた、なるほど、それなら入国…もといリージョン入りしても記録に残らない訳だ
術による移動事態はトリニティの制定した法律上、違法でも何でもない

名前を端末で検索しても情報が無いから徒労に終わる、彼女が名前を出すのに躊躇ったのも全て辻褄が合う









   クレイジーなIRPO隊員(俺の勘が告げてやがる…どうもそれだけじゃねぇな…それに[ルミナス]から来ただと?)


   クレイジーなIRPO隊員「なら此処は一つ、元来た道を戻ってみるってのはどうかな?」


   クレイジーなIRPO隊員「お連れさんとはぐれたんなら、向こうも探してるだろうし…可能性が高いと思うぜ?」



178 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga 15分ルール適用 安価採用可能]:2017/12/20(水) 01:19:24.77 ID:/NaxgDC30



クレイジーなIRPO隊員「自己紹介が遅れたが、俺はヒューズって言うんだ、麗しのお嬢さんお名前をお伺いしましょうか」



ニィ、と男は…ヒューズは笑う、…コードネーム、一度キレたら手の付けられない男<クレイジー・ヒューズ>

本名ロスター捜査官の通称だ



白薔薇「白薔薇と申します」ペコリ



ヒューズ「白薔薇さん…う〜ん、なんとも可憐なお名前だ、おっと途中から敬語じゃなくなってるがすいませんね」

ヒューズ「俺はどうにも敬語って奴ぁ苦手でしてね、教養の無さは多めに見てくださいよ、っと」



へへっ、と笑うヒューズ、ふふっと笑う白薔薇…



 掴みは上々、綺麗な女性に良い男アピールができたヒューズは此処でもう一押し
紳士的にエスコートして差し上げようと手を差し伸べる




うんうん、これも警察として当たり前の事だ、なーーんにも下心なんて無いモンねー、と内心で呟きながら




































   アセルス「この痴漢めぇぇ!!白薔薇から離れろおぉぉぉぉ!!」ゴスッ!!!!

   ヒューズ「へっぶぁぁぁぁっ!?」ボキャァ!!





鼻の下が思いっ切り伸びまくっていたお巡りさんに清々しい程に右ストレートが決まった


179 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 01:33:09.99 ID:/NaxgDC30



アセルス「このっ!このっ!このぉ!!!白薔薇逃げて!!」


白薔薇「あ、あのぉ…アセルス様」オロオロ


ヒューズ「ひでぶっ!?おい、おま――ちょ、やめ、あっぶぅ!?」












  ヒューズ「 や め ろ っって ん だ ろ が ッ!!こ の コ ギ ャ ル が ぁぁぁ!!」クワッ


   アセルス「きゃあああああああぁぁぁぁ!?!?」







ルージュ「白薔薇さんっ!やっと見つけ―――…えっとこれはどういう状況?」


<キャー!ヘンタイー!

<ウルセー!!



白薔薇「…何から説明すればいいのか」



―――
――





アセルス「ごめんなさい!ごめんなさいっ!」

ヒューズ「…あぁ、俺も悪かったわ」ポリポリ



アセルス「白薔薇を保護してくれてた人に、あんな早とちりを……」



どうにも白薔薇絡みになるとアセルスは冷静さを欠く傾向があるがある…ルージュは短い間だが一緒に居て分かった
アセルスの事情は知ってるし[ファシナトゥール]から此処に至るまでに幾度となく支えられてきた謂わば心の支えなのだ






――――もしも…もしも、だ








【白薔薇姫が "何らかの形" でアセルスの元から引き離されてしまったら】きっとアセルスの心は折れてしまうのでは?


そう一抹の不安さえも感じてしまう程に依存している傾向にあるのだ
180 :誤字 傾向があるがある… → 傾向があるがようだ… [saga]:2017/12/20(水) 02:20:08.56 ID:/NaxgDC30


ヒューズ「ま、お連れさんが見つかって良かったじゃねぇか」


白薔薇「はい」

アセルス「あの…!お礼とお詫びも兼ねて何かできませんか」



自分の早とちりで傷つけてしまった人に出来る限りのお詫びをしようと申し出るアセルスに対して


ヒューズ(血の気が多い娘だが、なんだい良い子じゃねぇか…)


ヒューズ(まだ子供だが後数年すりゃあいい女だな)ウンウン



アセルス「あの…?」


何故か自分を見て頷いた男に疑問符を浮かべる、殴った頬が傷むのだろうか?公務執行妨害とやらで逮捕されるのか?



ヒューズ「んじゃ、ご厚意に甘えて昼飯でも奢ってもらうか!」ニシシッ


ヒューズ「俺の気に入ってるファーストフード店があってな、そこでハンバーガーでも…」














          蒼褪めた、サーッと音が聞こえるくらいにみるみるうちに顔から血の気が引いた









読者諸氏、彼…クレイジー・ヒューズを知る人が居れば彼がどのような人物で過去に何をやったか知っていることだろう



彼の眼は人混みの中にある"一人"を捉えた、向こうはこちらに気づいていなかったのが幸いだ




モノクロ写真のように回りの風景だけは色をなくし、その人物だけは色があった…




リケーネカラーリングのスカートに緑色の上着を羽織り、艶のあるブロンドの髪を靡かせながら歩く見返り美人



[ラムダ基地]で着ていた衣装から本来の私服姿に着替えた"元スーパーモデル"…そして…





 ヒューズが冤罪で証拠も何も無いと知っていながら、キレて裁判もせず刑務所…[ディスペア]送りにした女エミリアだ



181 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/20(水) 04:40:03.87 ID:/NaxgDC30


ヒューズ「」ダラダラ…


あっ不味い、見つかったら俺間違いなく殺られる、不良警官は思った

 汗が止まらない、なんか見つかったら関節技キメられそうな気がする
…もっと言ったら投げ技を極めた人物にしかできない一人連携技を喰らって頭蓋骨が陥没しそうな気がする



アセルス「ヒューズさん…や、やっぱり私が殴った所が痛かったんじゃ…」




ヒューズ「いや、違うんだ…なんつーか、ちょっと腹が痛くなって…あ、今度会えたら、なっ!お礼そん時で良いから!」

アセルス「えっ、あの、待って!」



ヒューズ「じゃ、じゃあな!!!」ダッッ!!





ルージュ/アセルス/白薔薇「「「…」」」ポカーン





エミリア「此処に居たのね!!白薔薇ちゃんが見つかって良かったわぁ…?どしたの3人共」ハァハァ…


ルージュ「いえ、なんでもないです…」


何がどうしたというのだ?3人共首を傾げるばかりであった…

―――
――



アセルス「白薔薇、今度ははぐれないようにしてね?」

白薔薇「申し訳ありませんでした…」



エミリア「さて、[クーロン]行きの船がもうすぐ出るけど…貴女達…[クーロン]へは何しに行くの?観光とか?」



[シュライク]行きのシップが滑走路から飛び立ち混沌の海へと飛んで行ったのを発着場のカフェレストランの窓際の席から
眺めながらエミリアは尋ねてみた


エミリアは[クーロン]に詳しい、というより詳しくなったという方が正しい…






  エミリア「私の仕事仲間が[クーロン]に居るのよ、それであの街には詳しくてね、観光名所巡りならできるわよ♪」


  ルージュ「仕事仲間、と言いますと、その"グラディウス"…ですっけ?」



法律で裁けない者や解決できない事件を"法に反する手段"を以て解決する組織…ルージュは小声で組織名を口にする




  エミリア「そっ!仕事仲間で…ライザ、それからアニーって気の合う女友達も居て、…後、女心の分からない上司も」


182 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/20(水) 05:31:31.76 ID:/NaxgDC30


アセルス(うわぁぁ…エミリアさん、すっごく嫌そうな顔…)



 緑髪の半妖少女は目の前の綺麗なお姉さんがご機嫌から不機嫌に一変するのを垣間見た

基地から脱出の際、サングラスを掛けた彼女の上司に睡眠薬を盛られて寝てる隙に人攫いに自分を売り飛ばさせて
あの悪趣味なハーレムへ潜入させたという話は半ば愚痴のような形で聴かされはしたが…


 アセルスは自分達の目的を話す、という名目で話題を変えた方が良さそうだなーと
フォークに刺したハムエッグを口に運びながら考えた


ルージュ「僕は術の資質集めの旅を続けていて、リージョン界を廻る旅をしてます」

ルージュ「[クーロン]には情報収集のためにも前々行ってみたいとは思ってました」



そんな彼女の考えを察したのか紅き術士が先に口を挟む、


エミリア「…術の資質、ねぇ」んーっ



頬に手を当てて少し考える、それからエミリアは自分のポケットから"あるもの"を手渡したのだ



ルージュ「名刺ですか?」パクッ


ほうれん草とベーコンのキッシュを頬張りながら術士は小さな紙に書かれていた文を黙読する



ルージュ(…お困りごとなら何でも解決!裏組織 グラディウス![クーロン]イタリア料理店、詳しくは店前の女まで!)




ルージュ「あの、これは…?」

エミリア「名刺よ」



ルージュ「いえ、そうではなく…」



裏組織が住所とか堂々と書いた名刺作るなよ…、ツッコミを入れたいと思うのは野暮だろうか
岩塩の塩っ辛さだけがやけに舌に残るキッシュだ、ハズレメニューを頼んだかなと水で口直しをする


エミリア「何かあったらそこを頼ると良いわ、私が居なくても、その名刺さえ見せれば」

エミリア「グラディウスの誰かがちゃんと手を貸してくれるから」



 ウチは術の資質を取りたいって人のために手助けもしてるってアニーから聴いたのよ、お金は取られちゃうけどね
それだけ言うと元モデルはカフェオレのカップに口をつけた








この段階ではまだ誰も知る由もないことである




後にエミリアから貰ったグラディウスの名刺が、 "悪の組織と戦う正義のヒーロー" を幹部のアジトまで導く事になると



183 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/20(水) 05:36:54.97 ID:BgkODNfbO
なるほど、そう繋げるか
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 07:30:12.85 ID:/NaxgDC30


白薔薇「そういえばルージュさんは秘術と印術どちらを取得なさるのですか?」


 至極まともな問いが飛んできた、エミリアの友人のアニーさんとやらが術の資質集めを手伝う仕事も請け負っている
それは今聞いたが、問題はそれが『印術』なのか、はたまた『秘術』かだ


パチクリ、それを聞いて再びパニーニを口にした貴婦人を見返した



そうだった…よくよく考えてみたらまだ印術にするか秘術にするか決めてないじゃないか……



エミリア「ルージュ、あなたは希望とかあるの?」

ルージュ「実の所、とくには無くて…」




 ただ双子の兄とは相反するモノでなくてはならない…被ったら早い物勝ちの競争になること必須で、そうなってしまえば
先に相手に取得され、これまでの苦労が水の泡に終わる

そんなリスクだけは極力可能な限り避けたい


第一、ルージュは祖国からの使命にあまり乗り気じゃないのだ…


会った事が無いとは言え、双子の兄弟をこの手で殺めるなどと人道に反する行いだと重々承知している
できることならこのまま修行の旅が終わらなければいい




それこそ[ルミナス]で適当な旅人を見つけて『資質集めの旅をしてるんです!協力して一緒に集めよう』とでも言い
 その後、旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる


…思ってはいるけど現実問題そうは行かない


国家反逆罪で追われたくないから、体裁だけでも良いから取り繕うしか無いのだ、少なくとも今現在は



エミリア「…印術は、正直オススメできないわね」


ルージュ「何故ですか」



エミリア「んー、私と仲間二人が印術の試練に挑戦してるのよ、ほら」つ『ルーンの小石』×2


ルージュ「!? "解放"と"活力"のルーン!!凄い!昔、学校の本で見たのと同じだ!」



エミリア「…この二つ、滅茶苦茶厄介な所にあったのよにあったのよ」ハァ…



余程苦々しい思い出なのかエミリアは重いため息を吐く

1つは自分の復讐劇の序幕が上がった場所、2つは気色悪い巨大生物の体内のこれまた気色悪いゲル状モンスターのプール




エミリア「強制じゃないけど…私は秘術にした方が良いんじゃないかって思うのよ」






エミリア「それに、秘術の試練だけど、その内の1つは何をすれば良いのか知ってるわ」

185 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 08:11:52.99 ID:/NaxgDC30


ルージュ「試練の1つを知っている!?」ガタッ


アセルス「わっ!!ルージュ!突然身を乗り出さないでよ!飲み物が零れるでしょ!」



ごめん、と矢継ぎ早にアセルスを制しエミリアに続きを話して欲しいと促す




エミリア「私、ある任務でカジノのバニーガールをやってたのよ!」

ルージュ「……」




ルージュ「は、はぁ…?」



とりあえず、黙って続きを聞く事にした、細かい事は敢えて触れずに


エミリア「そのカジノ…[バカラ]ってリージョンなんだけど、そこの地下に金を集めるのが好きな精霊ノームが居たわ」


エミリア「金よ、金塊!…あの人(?)達はとにかく金が好きで」

エミリア「"たくさん"の金を持って来た人間には快く秘術の試練…アルカナのカード集めの1つ"金のカード"をくれるわ」


ルージュ「た、たくさんの金ですか…」





金塊をたくさん…そんなお金が何処にあるというんだ!!!




ルージュは頭を抱えたくなった、奇しくも今日、全く似たような悩みを双子の兄も抱えたという…









白薔薇「これでは足りませんか?」つ『金』×2




エミリア/ルージュ「「えっ」」


アセルス(あ、[ファシナトゥール]から逃げ出す時に飛ばし屋さんに払った貴金属…そういえばまだあったんだね)





白薔薇「ルージュさん、これでよろしければ…」


ルージュ「い、いやいや!受け取れませんって!」



アセルスと白薔薇は妖魔の王から逃げている最中、安定した衣食住だって保証できない、いつ終わるやも分からぬ逃亡生活

先立つモノが必要になるに決まってる、そんな人から何故これを受け取れようか…


186 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 08:27:58.49 ID:/NaxgDC30


ルージュ「二人共、お金は必要になるでしょう!!そうでなくてもこんな高価な…」



白薔薇「私もアセルス様も命を賭してまで助けて頂いたのは事実です」

白薔薇「であるならば今度は私がアセルス様の分も含めその恩をお返しするのが道理です」



ルージュ「で、でもですね―――」



白薔薇「では、こうしましょう、私は『秘術の資質』を得たいと思っています」

白薔薇「この金はその為に使用するモノであって貴方にはお渡ししません、私が"個人的"にノームへお渡しします」



白薔薇「これで如何でしょうか」



ルージュ「…(唖然)」



アセルス「…」フゥ…


アセルス「『君も術の資質を集めてるのかい?では協力して集めよう』」

アセルス「ルージュ、キミ自身が言った言葉だ、"協力"して集めよう…白薔薇はこうなると退かないんだ」



困ったように笑う緑髪の少女を見て、「参った、降参だ」と手をあげる術士
「アセルス様にこうなると退かないんだ、と申されますとは…」苦笑する貴婦人

これは面白い人達に出逢ったと笑顔でカップを傾ける金髪美女…



まだ100%秘術にするとは決まっていないが
どちらかといえば"アルカナ"のカード集めにするのも良いかなと彼は思い始めていた



昼、12時49分、シップ発着場のカフェレストラン…滑走路から飛び立つ宇宙船<リージョン・シップ>が一望できる窓際の一角は
談笑に包まれる温かな空間だったという…



















           ドォ ォ ォオ オオオオオオオオ オオ オオ オオ   オオ  ン!!!!









187 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 08:37:36.43 ID:/NaxgDC30





――――それは、何の前触れも無く起きた







エミリア「っ!!な、なんなのよ!今の音は!!」



店内、いや、発着場そのものさえ揺れる大きな振動、カップの中身がテーブルの上に零れる

アセルスは傍らに居た白薔薇の手を握り、周りを警戒する…そしてルージュは…!
















ルージュ「! み、みんな、見てくれ!あのビル!! あの一番大きな建物から煙が出てるぞ!!」












「て、て…!!」






「テロだぁーーーーーーーーっ!!!!」



「た、大変だぁぁぁぁ!!!!!」



「う、嘘だろぉ!あの建物は…っ、トリニティの中枢が!セントラルゲートが!!!」


「爆破テロ!?どうなってんだよぉ!!」
「お、落ちつけって!事故か何かかもしんねぇだろ!」




誰が開口一番にそう叫んだか、正午の穏やかな談笑など、いともたやすく消し飛んでしまった

そこかしこから悲鳴があがり、民衆はパニックに陥っていた…


―――
――


188 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 08:40:14.23 ID:/NaxgDC30
                 マム   マム \ / `マム:::::  |l;  /
                     マム    丶マムヽ    マム  マム/|
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189 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/20(水) 09:16:52.54 ID:/NaxgDC30

【双子が旅立ってから2日目 昼 12時49分  [マンハッタン]:セントラルゲート前】



「た、たすけてぇぇぇ!!」



ヒューズ「IRPOの者だ!!一般人はさっさと現場から離れやがれ!!…クソったれッ!!キャンベルどころじゃねぇ!」


ヒューズ「おい!そこのアンタ!車どかすの手伝え!救急車が怪我人運べねぇだろ!」


ヒューズ「…あ"ぁ"ん"!?決まってんだろ壊れてんだから手で押すんだよ馬鹿野郎!!力入れろ!」ググッ!!




<ピーポー! ピーポー!

<ウゥーーー、ウゥーーー!!





「救急隊です!怪我人は!?」

「消火栓にホース運べ!急げ!」


「まだ中に人が居るんだ!お願いだ早く」


「おい!肩貸してくれ!この子両脚が潰れてるんだ!」



「生き残ったのはこれだけか…」

「何がどうなってるんだ…うぐっ」









「あ、嗚呼…! レオナルド博士がまだビルの中に閉じ込められてる!!」

「うっ…、駄目だ…見ろよ、あの爆発をよぉ」

「…博士のラボがある階が粉々に吹っ飛んじまったぁ!!」


「そんな、レオナルド博士が…」








この日、政治機関の中枢で爆破テロが起きるというリージョン界を震撼させる事件が発生した


これによりトリニティ上層部は、テロ実行犯の逃亡阻止、また他のリージョンで何らかの事件が起こる事を危惧し
トリニティ政府に属する全リージョンのシップの運行を丸一日ストップさせるという異例の法令を発した


犠牲者は数え切れず、その人数は裕に数千人規模…!





死亡者リストにはロボット工学の権威、[レオナルド]博士…レオナルド・バナロッティ・エデューソン氏の名前も載った


190 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/20(水) 10:00:26.56 ID:/NaxgDC30


政府の対応は早かった


爆破テロの実行犯、あるいは支援する組織が他所のリージョンで犯行を犯した際、逃げ場を潰して置くためにも
また、発着場、移動中の船内で爆破を起こされる二次被害が起きてはどうしようもない




ルージュ一行の居る発着場にも当然ながら、シップ運行緊急停止の法令がすぐに届いた
厳戒態勢が敷かれ、こうなってはどんな船も気づかれずに離陸は不可能である






エミリア「……なんか、大変な事になっちゃったわね」




 発着場のターミナルでは見当違いなクレームを、罵声の数々を同じく被害者である発着場職員にぶつける旅行客
理不尽な怒りを受けてなお、歯を食いしばりひたすら平謝りを続ける職員の光景がいつまでも続いていた


本来の持ち場から立ち往生を余儀なくされた旅行客にブランケットとクッションを配るキャビンアテンダントの女性

怒鳴り散らしてもどうにもならないと漸く悟り、一夜を発着場で過ごそうと不貞寝を始める客達

サイレンの音が今だ鳴り止まない街に勇気を振り絞って踏み出し、空いている格安宿を探しに出る者達…etc




アセルス「みんな、ピリピリしてるね…」



眉間に皺を寄せている男達を見て居心地の悪さを覚える女性陣…いや女でなくとも人の怒声なんて聞いて良いモンじゃない



ルージュ「[クーロン]経由の船も欠航…僕らも此処で一日足止め、か…」






ルージュに至っては術で他所へ行ける、が…[ゲート]は一度行った事のある場所にしか瞬間移動できない

つまり[ルミナス]か[ドゥヴァン]にしか行けない
仮に行った所で全シップが運行を停止されているのだから他所へは旅立てない


 こんな非常態勢が敷かれてる中で悠々と飛べる船があるとすれば、トリニティに属さない[ネルソン]の船か…
海賊が乗った違法シップくらいである





アセルス「はぁ…明日まで[クーロン]はお預けか」



エミリア「…そうだ」




ふとエミリアはさっき聞けなかったことを訊こうと思った

ルージュが[クーロン]に行きたがる理由は知った、だがアセルス達はどうして[クーロン]に行きたがる?


多種多様な種族が暮す街だから身を隠すのに丁度いい?ルージュの手伝いか、…いや
どちらかと言えば彼の方がアセルス等を手伝ってる方だし


エミリア「ねぇ、アセルス達はどうして[クーロン]を目指す気になったの?観光じゃないなら――」
191 :アセルス編没イベント A 妖魔訪問編 - 妖魔医師 - [saga]:2017/12/20(水) 10:19:59.79 ID:/NaxgDC30




     アセルス「…私が[クーロン]に行こうと思ったのは私の身体を"診て"もらうためなんだ」




     エミリア「診てもらう…って貴女」








アセルス「ルージュは知ってるし、エミリアさんにも基地から逃げる時簡単に説明したでしょ?」


アセルス「私は妖魔から元の人間に戻りたい」


アセルス「普通に歳をとって、普通に生きて、普通に死ねる身体に戻りたいんだ」

アセルス「剣で刺されてもゾンビみたいに塞がったり、血の色が紫だったりしない……元に戻りたい…っ!」ギュッ!






白薔薇「…[クーロン]にはゾズマの知り合いで上級妖魔の身でありながらも人の社会を好み、医者として働く方がいます」




エミリア「…ゾズマ、ああ、あの…」




白薔薇「…た、確かに人間社会で暮らしたがる変わり者という点でゾズマとは気が合ったらしいのですが!」

白薔薇「人間社会に順応なされている御方です、きっと服装は人と変わりませんよ、たぶん」





一瞬死んだ魚みたいな目をしかけたエミリアにすかさずフォローを入れる白薔薇姫、最後は妙に語気の弱い言葉だった…







白薔薇「コホン、兎に角、まずはその御方にお会いして、アセルス様の御体を診察して頂く事」


白薔薇「それが[クーロン]を目指す私たちの理由です」




アセルス「うん、…今は藁にも縋りたいんだ、人間のお医者さんじゃどうしようもできない、なら1%でも賭けたいから」



アセルス「だから[クーロン]に住んでるっていうそのお医者さん…名前は…確か」





その続きは白薔薇姫が答えた




       白薔薇「…妖魔医師 [ヌサカーン]様ですわ」

192 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/20(水) 13:03:01.11 ID:+tJHnjJGO
>旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる
だから誰彼構わずついていってたのかルージュ……
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/20(水) 23:34:33.70 ID:aAt+rg8i0

一気に色々繋がってきたな
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:55:11.74 ID:Wwx/aAqe0


【双子が旅立って2日目 午後15時20分】



 結局、今日一日は機械仕掛けの摩天楼で足止め…
ルージュ等一行はエミリアの誘いで裏組織"グラディウス"の[マンハッタン]支部で一夜明かす事になった


 此度のドタバタ騒ぎでどこのホテルも空きは無い、路上のベンチや飲み屋街の看板を抱き枕にして倒れる旅行客すら居た
自棄酒もここまでくればいっそ清々しいモノだ




ルージュ「…それじゃ、明日はどうにかして[クーロン]のヌサカーン先生?って人に会いに行くとして」

ルージュ「僕は今の内に術を使って[ドゥヴァン]へ行こうと思うんだ…印術か秘術か、気になる方を取って来るから」




エミリア「二人は任せて頂戴、此処なら妖魔の1人、2人来たって平気だから」



 追われる身にある妖魔二人が匿ってくれる金髪美女達に恭しく頭を垂れる、行く宛てもなく、保護してくれる人も居ない
そんな彼女等にとってエミリアの誘いはこれ以上ない申し出であった


一夜限りとはいえ、安心して眠りにつけるのは有難い







             ルージュ「[ゲート]!…[ドゥヴァン]へ!」ヒュン!!





 光の粒子に包まれて、何光年と先の遠い宇宙<ソラ>の先にある他所の小惑星<リージョン>へ瞬間移動したルージュを見届け
エミリアは受話器を取り、ダイヤルを回す…


アセルス「エミリアさん、何処へ電話を?」

エミリア「うん?あぁ、友達の所にね、…ほら?今日の騒ぎでシップのチケットが駄目になったからそのことで」




…プルルル! プルルルル!


エミリア「…もしもし!」








  受話器の向こうの声『エミリア!!!アンタ無事だったのね!!』



  エミリア「ええ!なんとか命からがらね、それとジョーカーの件だけど…収穫は無かったわ」



  受話器の向こうの声『…そっか、いや、そんなモンどうだって良いわ!無事で良かった、ライザも心配してたわ』


  受話器の向こうの声『あ、言っとくけどライザはグルじゃないからね…』


  エミリア「うん…」

195 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 22:58:50.82 ID:72kpGaSCo
おお、続き来てる
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 23:07:57.76 ID:Wwx/aAqe0




   エミリア「もう、ニュースになってると思うけどさ」


   受話器の向こうの声『ええ、シップが全便欠航でしょ…本当災難よね』



   エミリア「なんとかならない?できれば早めに[クーロン]に帰りたいのよ…」


   エミリア「訳あって連れてかなきゃいけない子が居て」



   受話器の向こうの声『ふーん…OK!アタシに任せな!何人だろうと問題無く[クーロン]に連れてくから!」



   エミリア「本当!?…詳しく事情は聴かないのね」



   受話器の向こうの声『なぁに言ってんのよ!アタシとエミリアの仲じゃん!気にしないっての!』






   エミリア「ありがとう、アニー」





   受話器の向こうの声『お安い御用よ、明日の便で帰れるように手配しとく!で?連れは何人』






―――
――



【双子が旅立ってから2日目 午後16時01分】


ルージュ「…」



「では!この4枚のカードを…ってお客さん聴いてます?」


ルージュ「え、あ、あぁ…ごめんなさい、少しボーっとして」


「なんだか顔色が優れませんが…ハッ!?まさかルーンの誘いのテントで怪しい勧誘でも受けたんじゃ!」


ルージュ「ははは…いえ、そういうんじゃないんで」


「あそこは悪徳ですからねー!それに比べて秘術は素晴らしいぃ!!」

「誠実、安心、最高の術ッ!あんなオンボロテントとは大違いです!あなたは実にお目が高い!!」ドヤァ


ルージュ「ははは…」




"既に双子の兄がやって来た"その事実を先程、そのオンボロテントで聞いた…自分を殺す為に旅立った双子の片割れの事を


…夢でもなんでもなく、本当に自分の兄が資質集めの旅、――自分を殺す旅路ををしてると実感を得る証言だった
197 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/24(水) 00:04:36.62 ID:CmfbuI/m0


出逢った事はなくとも、血の繋がりがあるのならばあるいは―――心の何処かでそんな淡い期待はあったかもしれない









 だが、実際に兄…ブルーの姿を見たという人間の証言を聞いてしまうと






「お客さん、本当に大丈夫ですか、冗談じゃなく本当に顔色悪いですよ…まるで」





まるで死人か何かだ



 そう言いかけて、慌てて取り繕うように「そんな時こそ!『杯』の術は如何ですかー」と誤魔化す目の前の人間に
気にかけて頂きありがとう、と愛想笑いをしてルージュは出て行く…





ルージュ(…ここに、本当に兄さんが来たんだ)フラフラ







                   ドンッ!










ルージュ「あっ!…す、すいません!よそ見してて」





余程、精神的にキていたのだろう…覚束ない足取りの彼は小さな少女とぶつかってしまった…








      転生した幼女巫女「……おぬし、嫌なニオイがするな」


      ルージュ「ぇ?」パチクリ


      転生した幼女巫女(…オルロワージュの匂い、いや…これは残り香というべきかのう)


      転生した幼女巫女「おぬし、最近妖魔か何かと知り合いになったか?」


      転生した幼女巫女「悪いことは言わん碌な目に遭わん内に縁を切るのじゃな」

198 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/24(水) 00:37:17.67 ID:CmfbuI/m0



出会い頭に奇妙な事を言われたものだ、紫色の髪…小さな背…しかし、目先の子供から感じる大人びた物腰




ルージュ「…あの、つかぬ事を窺いますか貴女は」




どう見ても自分よりも年下だ、だがこの人物には"目上の人に対する態度"で接せねばいけない、直感的に彼はそう思った




転生した幼女巫女「なに、そこの神社で巫女をやっておる身じゃ、忠告はしたからな」クルッ ザッザッ




ルージュ「あ、ちょ、ちょっと待ってください!…行っちゃったよ」



ルージュ「…どういう事だろう…」




<まぁまぁ!かてぇ事言うなって
<リュート!!貴様ァ!




ルージュ「なんだかあっちの方が騒がしいな…はぁ…僕も帰ろう」


―――
――

*******************************************************
【双子が旅立って2日目 午後15時31分】







リュート「いやぁ!にしてもアレだな!俺達はやっぱ運が良いよなぁ!」テクテク


ブルー「…」テクテク



リュート「俺達が[ネルソン]で金を買って、んでその直後だろ?なんか[マンハッタン]でテロがどうとかって」

リュート「シップは全便欠航、俺達はこの機に乗じて金塊を転売しまくる」

リュート「他の資産家は他所のリージョンに行けないから実質俺達の独占だったよな〜、金融市場」




ブルー「…」テクテク





   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー!」





ブルー「貴様はいつまで俺達の後をついてくるんだ」イラッ

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/24(水) 15:28:09.86 ID:CmfbuI/m0



  [タンザー]帰りのお土産「…(´;ω;`)」ブワッ


  リュート「オイオイ、ブルー…何もそんな冷たい言い方するこたぁないだろう?見ろよ?」

  リュート「このスライム泣いてるだろ」



  ブルー「俺には違いがさっぱり分からん」




 [タンザー]から脱出の際、ブルーの脚に引っ付いていたモンスターが1匹、ぬるぬるとしたゲル状のボディー
それ以上でもそれ以下でもない、そう[スライム]だ



スライム「ぶくぶくぶく…;つД`)」ポロポロ…



リュート「なぁブルー、こいつの目を見ろよ?こーんな円らな瞳なんだぜ?涙ぐんで、可哀想に」


ブルー「そいつの何処に目玉がついてるのか分からん、強いて言えばそのヌメッとした粘液が噴出してる所か?」



ゲル状生物の…顔?にあたる部分から湧き水のように粘液が出ている、そこが眼なのか…?




リュート「なんでもお前に一目惚れしたらしくスライムプールから出て来てお前についてきたってよ、健気だろ?」

スライム「ぶくぶー (`・ω・´)」キリッ



ブルー「俺はお前が何故『ぶ』と『く』しか発音できない生物がそう言ってるように思えるのか不思議だ、病気か?」




リュート「いや、俺ン所にモンスターの知り合いが多くて自然と分かるようになったっつーか、それよりもどうだ」

リュート「こいつを連れってやろうって思わないのかい?こんなに一途なんだぜ?」



ブルー「思わん」キッパリ



リュート「思う、だって!?良かったなァ!連れてってくれるってよ!」

スライム「ぶくぶーーーー!(`・ω・´)」



ブルー「言ってないだろうが!!」

リュート「ハハハハ!まぁまぁ!かてぇ事言うなって」ヒョイ(スライム抱き上げ)


スライム「Σ(・ω・ノ)ノ!ぶくっ!?」ビックリ!


リュート「そーれっ!」ポーン ベチャッ!



朗らかに笑いながら、抱き抱えたスライムちゃんをポーン!とブルーの肩目掛けて放り投げるリュート
べちゃっ!!ミネラル成分満載の可愛い可愛いスライムちゃんがブルーの肩に着地!



     ブルー「リュート!!貴様ァ!」

200 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 00:58:09.93 ID:hJQN+BIeo
スライムの表情……?言葉……?
こればっかりはブルーに全面的に同意するぞリュート……
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/26(金) 22:35:58.78 ID:Squ3hirp0




 キィィ―ィィイイィン…!





ブルー「!」ピクッ





リュート「わわっ、悪かったって!確かに悪ふざけが過ぎ…ってあり?」

スライム「(。´・ω・)?」ノソノソ



 肩に乗ったモンスターを払いのけ、拳を強く握り後ろのお気楽男を怒鳴りつけた所で術士は魔力を感じ取った
それは…自分がよく使う[ゲート]の力と同じような









  ブルー「いや…まさか、…"居た"、というのか?」バッ!







急に熱が冷め、忙しなく周囲を、人の姿を探すかのようで、身構えていたリュートは思わず尋ねた



リュート「誰か知り合いでも見かけたのか?」



ブルー「…」

ブルー「…いや、気のせいだ」



リュート「そうか?一儲けができてすぐにこのリージョンに飛んだからてっきり此処に知り合いか誰か居て探したのかと」

ブルー「違う、そんな理由じゃない」スッ


術士が首を振り、蒼い法衣の袖先はこの土地で一番小高い場所を指さしていた
 鳥居の先にポツンと居を構える祭神の家、此処の観光地の1つともされる神社であり、彼が[クーロン]に戻らず
此処へ寄り道に来た理由の一つであった



ブルー「以前訪れた時には留守だったようだが、あそこの社に居る巫女が『"時術"』…『"空術"』に関して知っている」

ブルー「そう聞きつけてな、今日ならば帰ってきていると聞いたんだ」


リュート「ふぅん?」



 噴水広場を突っ切って、左手にアルカナ・パレスそして昨日の喫茶店を、と横切り奇妙な狛犬(?)達の間を抜けて
年中紅葉が頂上からヒラヒラ舞ってくる山の石段を登っていく…


―――
――


202 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/26(金) 22:55:12.79 ID:Squ3hirp0
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【同時刻:マンハッタン 『キャンベル・ビル :社長室』




「しゃ、社長!例の物はなんとか回収し終えました!」




 機械仕掛けの摩天楼、そのリージョンの一等地にあたる立地条件で尚且つ大規模の高層ビルがある
大手ブランドメーカーとして名を馳せる、大企業"シンディー・キャンベル氏"の経営する会社だ

社長室内に慌ただしく駆け込んだ女性社員の声に落ち着きなさいな、と背を向けたまま口を開く



女社長「今日、[クーロン]行きになる筈だった品物は全品回収したのね?」


「は、はい……それにしてもとんだアクシデントでした、まさか爆破テロが起きてシップの立ち入り調査とは」




 ギィ、音を立ててキャスター付きのリクライニングチェアが向きを180℃変わる赤紫の帽子を被り
女社長ことミス・キャンベル氏は妖艶な笑みを浮かべて煙管<キセル>を吹かす…


キャンベル「うふふ…それもまた一興というものよ」ニコッ


「は、はい…//」ドキッ


キャンベル「あら?顔が赤いわね…階段を駆け上がるのに息を切らせたのかしら…それとも」スッ



煙管を手にしたまま、女社長は立ち上がる
 高そうな絨毯の上をゆったりと歩き、女性社員のすぐ間近で立ち止まる…品定めでもするように
息の上がった顔、少しはだけたカッターシャツから脚の爪先までをじっと眺める




キャンベル「私に逢いたくて堪らなかったのかしらねぇ?」クスクス


「しゃ、社長!お戯れを…」



キャンベル「あら、冗談ではないわよ、私の眼をごらんなさい」







女性社員は目の前の美しい瞳を見つめた、そして思うのだ「ああ、いつ見てもお美しい、ずっと眺めていたい」と






  まるで "蜘蛛" に絡めとられた蝶にでもなった気分だ



同じ女性でありながら、こうも夢中にさせられる、その辺の人間には決して感じられない色香に惑わされる
 …この会社に居る多くの人材がそうであった


キャンベル「…貴女、この後空いてるかしら?」

「はい?…あっ、いえ、あ、空いてますが…」


203 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/26(金) 23:24:33.38 ID:Squ3hirp0







          キャンベル「――――――」ボソボソ



               「〜〜〜〜っ!!///」







 - 貴女さえよければ、私の愛する人にならない?その気があるなら今夜、社長室にいらっしゃい -




耳元で愛の言葉を囁く



「あ、あぅ…」



言葉は女性社員の胸に火を灯す、耳たぶから顔全域が真っ赤だ




キャンベル「冗談ではなくてよ?…ふふ、貴女みたいな可愛い子は食べてしまいたいと思うわ」



ミス・キャンベルが舌なめずりをする、唇の端から反対側まで紅い舌の動きを目で追ってしまう…
 胸の動悸が収まらない、火照った身体が時よ、過ぎ去れ、陽よ今この瞬間に沈めと願ってしまう程に熱い
夜の冷えた外気に肌を晒したくて仕方ない、この女性の前で晒したいと強く想わずに居られない



キャンベル「どうかしら?……この世の物とは思えない多幸感を教えてあげるわよ」スッ…ススッ



ゆっくりと腕を女性社員の背に回し、後ろ首を撫でる…獲物を捕食せんとする蜘蛛の動きそのものだ



「わ、わたしでよろしければ…!!!」


キャンベル「ふふっ、良い子ね…そういう子は好きよ」ナデナデ


キャンベル「楽しみにしているわ、今夜をね」


「は、はい!…し、失礼しました…!」ダッ


キャンベル「まぁ、あんなに慌てて走ってしまって…そんなに恥ずかしいのかしらねぇ」




キャンベル「…今夜、私の元に来れば貴女に至福を与えることを約束するわ…」







     キャンベル「我らが【ブラッククロス】の劣兵として生まれ変われる至福を、ね」ジュルッ



…もう、後ろ姿さえ見えなくなった女性社員に、女社長はそう呟いた
204 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/27(土) 00:10:06.93 ID:WitPJlKy0



キャンベル「…あの子を初め、社員の4割は事実を知らないわね…」スッ



煙管を再び口につけ、椅子に腰を下ろす背凭れに身体の重心を預け室内に誰も居ないことを再度確認して独り言ちる
 "表向き"は新作のブランド物バックに欠陥があったため、出荷前に全品回収という筋書きだ



だが、本当の所はそうじゃあない





[クーロン]の"シーファー商会"なる場所にあるブツを発送する手筈だった…法律に触れるヤバい奴を、だ


偶然にも今回のテロ騒動で全便欠航、立ち入り調査が起きた為、事が発覚する前に社員に急ぎで
 欠陥品のブランド物の衣服や鞄を回収、世間様に自社のお株が下がってしまうようなお恥ずかしい事がばれる前に
引き取りをしました、とでも普通の社員は思っているだろう





 まさかこの会社が国際的な犯罪組織の武器を秘蔵に創り

  組織の支部に送っていると…犯罪の方棒を担がされているなど夢にも思うまい






キャンベル「さて…」カタカタ



煙管を置き、オフィスデスクのPCを立ち上げ、明日のリージョンシップのデータを見る…



キャンベル「まったく…シュウザーも急な注文を寄越すものね…戦闘員の育成がうまく言ってないのかしら」カタカタ



キャンベル「……明日、[クーロン]にあれだけの荷物を積載しても問題なく、その上で最短で到達する船は―――」









――――液晶画面には、白く美しい白鳥のフォルムを模った船が映し出されていた







キャンベル「リージョン・シップ『キグナス号』…ええ、今日のテロ騒動で配達できなかった分はこの船に乗せましょう」





社長室で…人ならざる女社長は魔女のような唇を釣り上げて笑う


―――
――


205 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga!蒼_res]:2018/01/27(土) 00:59:40.76 ID:WitPJlKy0















            …俺は何をしてるのだろうか














俺には使命がある


国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある






 だというのに、どうしてこうなった…




206 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/27(土) 01:54:54.97 ID:WitPJlKy0
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―――
――




【双子が旅立ってから2日目 夜19時07分 [クーロン] アニー視点 】





- エミリアも御人好しよねー、潜伏先に基地で知り合った男女3人を連れてきたいか -

- ブルーの奴に『キグナス号』の乗船代を約束させたけど、流石に明日までに用意しろー、とか無理よね -




- しゃーない

  そんときゃアタシのポケットマネーで建て替えときますかね、っと!このお惣菜半額シールじゃん!ラッキー! -





 九龍<クーロン>街にあるスーパーマーケット、そこは一般的な主婦もよく出入りする"普通"の店舗であった
大概、この街の店と呼べるモノは普通じゃない…マンホールの下で本物の拳銃の取引が行われたり
裏通りで政府軍の兵器が横流しで売られたり、白衣を着た怪しい学者風の男が[裏メモリーボード]を売ってたりする


 一見普通の飲食店にしか見えないイタリアンレストランだって金さえ振り込まれれば違法捜査やらなんやらを行う
裏組織があったりするのだから困る



買い物籠を腕にぶら提げ、"次の仕事"があるまで長期休暇の女が1人、仲間の無事を確認できたことからその祝いも兼ねて
ちょっとした酒盛りをしようとつまみを買いに来ていた


 活発な印象を受ける短髪の金髪ショートヘアー、男が見れば釘付けになるだろう裾の短いショートパンツに
ブラジャー一枚の上に緑のジャケットを羽織っただけのいつものラフな恰好




昨晩、ブルーと共に粗蟲の群れを撃退した女性アニーであった



余談だが、蟲に破かれたジャケットは自分で塗って縫合したらしい



アニー(エミリア帰還祝い、うんっ!パーッと飲み明かそうっと!)


緑の買い物籠の中は缶飲料(チューハイ)や酒瓶が数本、あとは缶詰の類や閉店間近の値引きシール付きお惣菜で埋まる


アニー(店が閉まるギリギリだと財布に優しいから良いわよね〜、人参に大根、胡瓜、生野菜スティックも悪くない)ヒョイ



 瞬く間に籠の中身は埋まっていく、片手で持つには少し重くなった籠を両手で持ってレジへ運び会計を済ます
郵便局で施設に居る弟にも生活費の仕送りも済ませた、やるべきことは完璧、あとは友人…ライザ辺りを誘って
朝まで酔いつぶれてしまおうという算段だったが



アニー「えっ、ライザ来れないの!?」

受話器から聴こえる声『ごめんなさい、ルーファスと作戦の相談があって』

アニー「! へぇー、ルーファスとねぇ〜」ニヤニヤ

受話器から聴こえる声『…作戦の相談だけよ、他意はないわ』


アニー「わかってるわ、ちょっとからかいすぎたわ…それじゃ!頑張ってね!」

ちょっと、アニー!と受話器から聴こえてくる声を半ば無視して通話を切る
『close』と書かれた看板をぶら提げたイタ飯屋に帰って1人寂しく、店内で飲み会か、とアニーは夜空を仰いだ
207 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/27(土) 02:30:08.06 ID:WitPJlKy0





 - 独りで酒飲みかぁ…エミリアの帰還祝いをライザと祝うつもりだったけど、しゃーない、か… -






彼女は賑やかな雰囲気や盛り上がる事が好きだ


宵が深まれば輝きを増すネオンの煌めきも、この暗黒街の喧騒――住んでいる人々の営み―――も好きなのだ




どうにも湿っぽい空気というのは性格上、嫌いで…寂しがりなのかもしれない



酒は飲めば、気分が高揚してくる

嫌な事も辛いことも一時の思考の揺らぎに任せて投げだせる、だが、親友と隣同士、語り合って飲む酒は何よりも旨いのだ




身内を養う為、命を担保にして出稼ぎを行う人生を選んだ彼女が明日を生きていく上で学んだ事だ


誰かと飲んでふざけ合って、愚痴を聞いたり言い合ったり、それこそが最高の肴なのだと






アニー「他の連中もみーんな、次の作戦に備えて他所のリージョン…船は動かないから当然帰ってこないし、参ったわね」




ガサガサと両手のビニール袋が音を鳴らす、デザートを買おうにもお気に入りの物が売り切れていたから
多少、出費が上がるが一度荷物を置いて近場のコンビニエンスストアで適当に洋菓子でも買って行こう


ぼんやりとそんなことを考えながらアニーはイタ飯屋へと向かっていた





        その矢先である…




リュート「んじゃ!またなブルー!ほら行こうぜスライム!(金塊で)臨時収入も入ったから飯たらふく食わせてやるよ」

スライム「ぶくぶく…(´・ω・`)」シュン


ブルー「やれやれ…そいつを連れてさっさと行ってくれ」スタスタ




アニー「…ブルーに、リュート?何、アイツ等知り合いだったの?」ハテ?


アニー「…」

アニー「!!…ふふ!暇そうな奴みーっつけた!」ニヤリ




酒というのは誰かと飲んでこそ楽しい物である

  特に普段スカした態度の奴が酔いつぶれて醜態を晒せば、それは最高の笑いの種(酒の肴)になる
208 : ◆RUyHyPiEvo [saga]:2018/01/27(土) 02:37:42.71 ID:WitPJlKy0
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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ
                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=〜 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '
                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人
                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
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    ''''''''''''''''''''''''''              /::::::/  .`'´ ヾヾヽ-、__ `゚  ""'''''''
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                     /::::::::/i´「`-、|     \\_,_._ンヽ- 、
                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~
                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~
                            `|;;;;;;|ヽ〜-←−ヘ
                             |;;;;;|    ヽ- ┤
                             l::::人    .ヽ  .|
                             ///     ヽ .|
                            ノ´/      .ヽ  |
                           ` ̄        .ト、 .ヽ
                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'






              今 回 は 此 処 ま で !!





                次回!飯テロ(酒飲み)回!



*******************************************************
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 13:42:18.72 ID:azD7lB7YO
ブルー逃げてー!
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 16:08:12.80 ID:rTEAR8ByO
いやむしろ捕まってしまえブルー!
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/12(月) 00:36:41.79 ID:ADsMexAi0
続きまだー
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/20(火) 22:48:19.37 ID:uP7l6IcA0

―――
――



ブルー「しかし…あの男が居なければこうも短期間で金を工面することはできなかったのも事実か」スタスタ



 バチバチ、と消えかけのネオン看板の下で座り込んだ浮浪者の視線が突き刺さる
荒んだ眼差しが注がれているのは彼の片手に引っ提げられた黒いアタッシュケースだった…


[ネルソン]で購入した金塊を無法都市[クーロン]で売り捌いたのだ、当然ながら"鼻の利くハイエナ"達の間ですぐ噂になる

 近場の店で売られていた黒革のケースに眼を惹かれた彼は財布に到底収まらない額のクレジットを収納する為に
即決で買い取り、札束を入れ店を去った



世間知らずの魔術師お坊ちゃんをお金に困った方々が、これまたよろしくない感情の入り乱れた眼差しで見送った










…スライムとリュートが一緒だったため手出しはしなかったが

単独である今の彼はまさしくサバンナの真っ只中を歩く高級和牛肉と同じである、後ろからブスリとやって金を盗るだけだ










ブルー(…チッ、汚らわしい)


ブルー(人をジロジロと、敵意と欲望の籠った目線…本当に汚らしい、俗物共め)






 彼とて殺意に気がつかない訳では無い…襲い掛かって来ようものならその場で焼殺死体に変えてやろうくらいの気がある

さて、どうしてくれようか?そう考えていたら…殺意とも敵意とも違う、…欲望は含まれる声と視線が背後から掛けられた










           アニー「ブルー!!良い所であったわね!」タッタッタ!




ビニール袋引っ提げた金にがめつい女が、良からぬ事を考えながら走って来たのだ…



ここ、九龍街で喧嘩を売るとヤバい奴リストに含まれる裏組織の女が

つい最近も数人の男をぶちのめして刑務所送りになったばかりのヤバい奴が、だ

その姿を確認してある者は舌を打ち、ある者は苦々しい思い出をぶり返してブルーの尾行を止めた
 アニーの知り合いであり、金を持っている人物から金品を毟り取るという行為は…
自分のタマを投げ捨てるようなモンであると、金と命を天秤に掛けて割りに合わないと判断したのだろう
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/20(火) 23:28:43.16 ID:vkrsvmLpO
キター
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/20(火) 23:58:50.44 ID:NdDuEhDAo
アニーの獲物を横取りとか遠回しですらない自殺という暗黙の了解さすがです
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/21(水) 00:08:58.04 ID:FhNODQ0S0




 ブルー「貴様か、アニー…」(すごく嫌そうな顔)


 アニー「何よ、その顔」



 アニー「ってか、その鞄どうしたのよ?随分良いモンじゃん」




本革製のアタッシュケース、それはビジネスに成功した経営者のトレードマークと言っても過言ではない

 安物の鞄ゆえに『間違って知らない誰かの鞄と取り違えましたー』などと言った不測の事態を
避けるという理由もそこにはある、値が張るものであればあるだけ仕事上の大事な書類の入った鞄を見失うリスクも減る


儲けている人間程ブランド品を好むが、何もただ単に成金趣味という訳では無いのだ




…このような土地では逆に悪手かもしれんが





ブルー「あぁ…これか、丁度良い嵩張るからな貴様にさっさと渡してしまうか」

アニー「はぃ?」




ブルー「ほら、約束の金だ、[ディスペア]への潜入に必要な費用、先日の礼代わりの船賃もそろって入ってるぞ」




アニー「…なっ!アンタ、マジで用意したワケぇ!?」ガーン


ブルー「…貴様が要求したんだろうが、要らんなら別に良いんだぞ」イラッ


アニー「あぁ!!嘘嘘、要るから!…っつーか見ろって!アタシ両腕塞がってるじゃん!」つ『ビニール袋』

ブルー「むっ」




アニー「はぁ…参ったなぁ、あわよくばアンタに荷物持ちさせようって思ってたのに」

ブルー「そんなこと考えってたのか貴様」




アニー「でも、そうねー…金払いの良い客はアタシ好きよ、特別に飲み会に付き合わせてあげるわ!」ニィ!



勿論、あたしの奢りで酒も飯も食わせてやる、感謝しなよ、などと言い出したが、むしろそれが本命である

べろんべろんにブルーを酔わせて、ダウンしたところを壮大に笑ってやろうと思っている
気前のいい客だから気に入った、酒と飯を奢ってやると一見善意に見えて相手を後々小馬鹿にするための口実を作る気だ



アニー「ほら、昨日イタ飯屋覚えてるでしょ、そこ行くわよ」ダッ!


ブルー「あっ、おい!」タッタッタ!


アニー「その重たい鞄でいつまでも手を塞ぎたくないんでしょ!なら置いて手も自由になる一石二鳥じゃん!ほら早く!」

216 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/21(水) 02:51:14.10 ID:FhNODQ0S0


―――カラン、カラン





ブルー「ほう?中々悪くない店じゃないか」





『Close』そう書かれた札付きの戸を開錠して、店内へ脚を踏み入れた蒼の術士の感想は好意的なモノだった


 入口から入ってすぐの所にイーゼルに掛けた黒板があり、描いた者は絵心があるのだろう素人目から見ても
才あるデザインのチョークアートが施されていた

 赤茶色の床タイルは仄かに薄暗い照明に当てられて雰囲気が出ていてカウンター越しに見える
石窯や木製ピザピール・パドル等調理器具への拘りも見て取れた


厨房奥では当店自慢のミートソースが仕込まれて、置いてあるのだろう何やら良い匂いがした


 四枚羽の天井扇風機<シーリングファン>によって効率よく室内に行き届いた暖房の温かさは夜は冷え込みの増す九龍街を
歩いてきた来店客への気配りが行き届いていた




アニー「よっと!さぁ〜てブルー、どうやって一日で大金稼いだのよ?銀行強盗でもしたの?」クスクス

ブルー「おい、人聞きの悪いことを抜かすな」


ムッ、と眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにする男に「冗談だってば、カリカリすんのはカルシウム足りてない証拠よ?」と
ビニール袋をカウンターレジの横に置いてアニーはケラケラと笑う



アニー「でさぁ、悪いんだけど中身だけ確認させてもらって良い?職業柄ね、こーいうのって見とかないいけないのよ」



偽札をつかまされたり、ずっしりと思い鞄をいざ開けてみたら中身は札束じゃなくその辺のスーパーのチラシの山でした
なんてことがザラなのが裏稼業というモノだ


ブルー「ふん、勝手にしろ」ドサッ


アニー「はいはい、じゃあお言葉に甘えて勝手にさせてもらいますよーだ」カチャッ パカッ!




    札束の山『 』




アニー「…」スッ


アニー「…本物みたいね」

ブルー「当たり前だ、前金で払ったんだ…仕事はしてもらうぞ」



アニー「OK、契約成立よ…代金はしっかり頂いたわ」


アニー「どうやって稼いだか知らないけど、実の所助かったわ…急遽明日までにシップの乗船代が欲しかったのよ」

ブルー「なんだと?」


アニー「友達が今色々あって[マンハッタン]に居るの、その子が連れを3人連れて[クーロン]に帰りたがってたのよ」

アニー「なんにしても助かったよ、自分のポケットマネーから立替たとしてかなり今月ピンチになる所だったわ」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:02:27.91 ID:HsaKbXJw0



その鞄諸共くれてやる、無駄に重い荷物を手放す為にブルーは彼女にそう言い放つ

その言葉にアニーはヒューッっと口笛を1つ、彼の持って来たアタッシュケースをレジ裏に置いて飲み会の準備を始める






アニー「っと、そうだったわね」ハッ!

アニー「あたしのお気に入りのデザート売り切れてたからコンビニ行こうと思ってたんだ、ねぇ!」


ブルー「なんだ」


アニー「お高い鞄を丸ごとくれた釣銭って訳じゃないけどさ、アンタもなんか奢ってやるからついてきなよ」

ブルー「荷物持ちなら御免だが」

アニー「わぁってるっての!」



カランカラン…!



 イタ飯屋の出入口を1組の男女が出てベルが鳴る、鍵を一度施錠し戸締りを確認したうえでアニーを先頭に歩き出した
魔術師はルーン探しの為に一通りこの無法都市を散策したものの地元民と比べれば圧倒的に土地勘が劣る


 徒歩10分もしない内に二人がとある店舗に辿り着く、緑、白、空色、3本カラーリングの横縞が印象的な看板灯が見えた
幟が立ち並ぶ店先には『家庭ごみの持ち込みを固くお断りします』と書かれたゴミ箱が綺麗に並び
その隣には煙草に火をつけながら屯うガラの悪い若者が座り込んでいた






ブルー「」ポカーン…キョロキョロ


アニー「ん?なんか欲しいモノでもあったわけ?」


ブルー「いや…この『"こんびにえんすすとあ"』とやらは…随分と変わった店なのだな、と」キョロキョロ







[マジックキングダム]にはコンビニという物が存在しない

異文化交流…ちょっとしたカルチャーショックを受ける魔術師、慣れた手つきで緑の籠に次々と甘味を放り込む女
なんとも奇妙な組み合わせであった


ブルー(…なるほど、確かにこの街は人口が多いし生活リズムも皆バラバラだ)

ブルー(24時間営業でも利用客はある程度確保できるか、人数も必要最低限で人件費も――)う〜む








アニー(…こいつ、何そんなに難しい顔してんの?、そんなにコンビニが珍しい文化なのかしら)ヒョイ、ガサゴソ



218 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:30:10.80 ID:HsaKbXJw0




ブルー「むっ!!!」




『プッチンプリン』



ブルー(カスタードプティングか…)ジーッ



アニー「何か欲しいモンでもあった――――ぷっ!!」



不愛想な男が棚に置いてある商品を1つマジマジと眺めていた、何かと思えばそれはお子様なら誰もが喜んだことだろう
お皿にひっくり返してポキッ!とやるあの3個入りのプリンだったのだ


アニーは思わず笑いそうになって口を手で押さえた(堪えきれなかったが)





ブルー「…なんだ、貴様悪いか」ギロッ


アニー「…くっ、ぷぷ、…い、いえいえ、なぁ〜んにも悪ぅございませんよ?人それぞれですし」プッ ククッ…





 [ドゥヴァン]のカフェで砂糖とミルクたっぷりの珈琲を褒めちぎったストレスを貯め込みやすい優等生は迷わずプリンを
アニーの籠に入れてやった


レジで会計を済まし二人は荷物を置いてきたイタ飯屋前へと再び戻る、アイスクリームを購入した事もあって若干急ぎ足で
帰路についた彼女は鍵を開けて店内に入る…その彼女の後ろを根に持ったてるのか膨れっ面の魔術師が追う



アニー「…」

アニー「」チラッ





ブルー「…人が何を喰おうが勝手だろうが…そもそも、それを言えば…」ブツブツ






アニー「…」




 - なんだよ!姉ちゃんに関係ねーじゃん! -

 - うるせぇよ!好きなモンは好きなんだし仕方ねーじゃん!ふんだっ! -




アニー「そういうとこ、似てんのよね」ボソ

ブルー「は?」


アニー「なんでもないわ」


219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:17:30.77 ID:HsaKbXJw0
―――
――





ストトトトトト…!

ストンッ!




アニー「ほいっ!一丁あがり!」つ『生野菜スティック』


人参、大根、胡瓜、セロリ、買ってきた野菜を5pほどに均等に切り分け、透明なグラスカップに入れておく
小皿にそれぞれマヨネーズとケチャップ…オーロラソースを乗せて運んでくる


テーブルの上には半額シールの惣菜たち…焼き鳥だったり、コロッケや胡椒を利かせたイカ下足炒め
麻婆茄子と皿に薄く切り分けたチーズやハム等が並べられた




ブルー「アニー…これは、どうやって飲むんだ?」つ『缶チューハイ』

アニー「はぁ?どうって…普通に開けて飲むんだろ」



ブルー「…俺は生まれてこの方、缶を開けた事が無いんだ」

アニー「はぁ〜…ほれ、貸してみな…イイ?ここん所にプルタブってのがついてんでしょ?これに指を引っかけて」プシュ

ブルー「!…こうやって開けるのか」



アニー「アンタ、よくそんなんで世間に出て来れたわね、術よりまず一般教養を学びなよ」ヤレヤレ プシュッ


ブルー「…善処はする」









アニー「それじゃ!乾杯!」

ブルー「ああ、乾杯」










ブルー(……)


<んん〜!!うまいっ





        ブルー(…俺は…)


        ブルー(…俺は何をしてるのだろうか)


220 :>>205 冒頭 ブルー独白に戻る… [saga]:2018/02/23(金) 23:29:28.38 ID:HsaKbXJw0



ブルー(俺には使命がある)

ブルー(国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある)












ブルー(だというのに、どうしてこうなった…)チラッ







アニー「んっ、んっ…んぅ?何よ、アンタ飲まないワケ?」キョトン

















この女には【利用価値】がある



コイツが居なければ刑務所のリージョン[ディスペア]に潜入できない

"解放のルーン"を手にできなければ試練はクリアできない





それに、頭の悪そうな女だが…剣の腕は立つ、戦闘の際いざとなればコイツを囮や盾代わりにして保身に走ることもできる

…だから、"上辺っ面"だけでも取り繕い、友好的な関係を築いておいて損は無いのだろう







こいつの戯言に適当に付き合い、今のような突発的な誘いにも顔を出してご機嫌取りせねばならんのが癪だが…



せめて…[ディスペア]潜入、そしてルーン取得まではこの女の顔色を窺わねばならんな

用済みになったらすぐにでもこんな奴、こっちから捨てて――――





アニー「ちょっとぉ!!聞いてんのかって!」

ブルー「…」

ブルー「聴こえているぞ、叫ぶな」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:59:54.00 ID:HsaKbXJw0


アニー「缶持ったまんま微動だにしないし、呼んでも返事しないし、そりゃデカイ声だって出すに決まってんじゃん」

ブルー「すまなかった、少し考え事をしていてな」










ブルー(…こんな下らん茶番に付き合う時間が惜しいというのに)

ブルー(俺が呑気にこんなことをしてる間にもルージュは資質を集めているかもしれんというのに…!)






アニー「だったら飲みなよ?酒飲みなんて一人でやってもつまんないから暇そうなアンタ誘ったのよ?」フゥー


アニー「酒は誰かと騒いで飲むのが一番楽しいからね」ゴクゴク




ブルー「…」ゴクッ



 缶に口をつける…祖国には缶飲料はあった、免税店や他所のリージョンからの観光客を狙った店先で扱われる事が多く
基本的に魔法薬を瓶詰で保管していた歴史から塩漬け、酢漬けのピクルスなどは皆、瓶と最先端魔法技術で保存してきた

学院の学生寮で育った彼は缶を見る機会こそあれど口にしたのは初だった





ブルー「美味い…」





自然と口に出していた言葉だった



アニー「でしょー、食わず嫌いせずまずは何でも飲んだり食ったりするもんなのよ、缶持って硬直してたけどさぁ」

アニー「自分トコじゃ珍しい文化だからって偏見を持つのはよくないわ、うん」ゴクゴク





…別に動きを止めていたのはそういう理由じゃなかったのだが

黒い背景に桃と柑橘系のイラストが描かれたチューハイ、香りも果物の独特のフレーバーを活かし初心者でも飲みやすい物
一方対面する女の手には対照的に白に染め上げた缶でまろやかな喉ごしのサワーだった




ブルー「……まぁ、見た目だけで判断するのは誤りがあるのは確かだな、貴様の言う通りだ」ゴクッ



 目の前の人物の第一印象は「ガサツな女」「頭の悪そうな奴」「どうせ男に身を売ってるような奴」だったが
正しく見た目で判断してはいけない例だったと、打ちのめされたばかりである

222 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 00:32:25.62 ID:bwScDHXt0




ブルー「……貴様には兄弟が…『弟』が居た、のだったな」


アニー「ん、そうよ…前に話したじゃんか」ポリポリ



 頬杖を突きながら金髪の女はスティック胡瓜にマヨネーズをつけて食べていた
意外にも話しを切り出した男を少し意外そうに見ていた彼女に彼は続けた









    ブルー「お前にとって、『弟』というのは…自らの身を削ってでも守るべき存在なのか?」







ブルー(…俺は、本当に何を言ってるんだろうな)






 アニー「そんなん当たり前じゃん、『家族』なんだから」ポリポリ







女は男の質問に、さも事も無げに言ってのけた





 アニー「前にも話けど、あたしには妹と弟が居んのよ、んで妹は[ヨークランド]の金持ちの家に養子になったけどさ」

 アニー「悪ガキで小さい弟はあたしが養うしかないのよ」




前にも話された事だ、両親が居ないから長女である彼女が年下二人の面倒を見ていると





 ブルー「お前はその養育費を自分の為に使おうと思わんのか?」

 ブルー「今までつぎ込んできた仕送りの額がどれ程かは知らんが人間1人を食わせて行けるだけの金額だ」

 ブルー「命の危険を冒す職務などせずとも穏やかな土地で平穏に過ごせるだろう」




 ブルー「そいつの事を見捨てたとしてもそれを責める人間が、そのような環境がお前のすぐ傍にあるとでもいうのか」




この無法都市で、明日を生きるためなら隣人から財布を掠め盗るような街で


…そうでなくても365日、常に誰かが貧困の中でその命を消してしまうような土地で
誰に自身の生命を優先することを咎められようか?

ブルーが言ってるのはそういうことだ
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 00:55:27.20 ID:bwScDHXt0



アニー「…」ゴクッ



アニー「ま、アンタの言い分も分からなくないよ…そりゃあ誰だって自分で頑張って稼いだお金を自分の為に使いたい」

アニー「そう思うことは間違いじゃあないし、こんな街なら…ましてやあたし等みたいなのは庇護されない」

アニー「自分の身の安全も生活の保証も何もかも全部自分でどうにかするっきゃない」




アニー「ああ、アンタは間違ったことは言ってないよ…けどね、そういうんじゃないんだよ」




ブルー「…なんだというのだ」








アニー「そうだねー、あたしは頭良くないからさ、巧いこと説明できないけど、強いて言うなら『心』ね」


アニー「あたしの『心』がそうしたいから、損得とかそういう話じゃないのさ、…それじゃ納得できない?」







ブルー「……俺には理解できん、そこまでして『弟』を守ろうという思考が」








                弟<ルージュ>を殺す



その【思考】で祖国を出た男には、女の『感情』が今一つ理解できずに居る




アニー「ああああ!!もうっ!あたしは楽しく酒飲みたいの!なに!暗い話してんのよ!」


アニー「やめやめ!湿っぽいのは本当嫌いなんだってば!」ゴクゴクゴク!



ブルー「そんなペースだと酔いが回るぞ」ゴクッ

アニー「うっさい!!…あ、空になった、次の空けよ」ゴソゴソ






コンコン!!



<おーい!!アニー!エミリアー!ライザー!誰か居ないかー!開けてくれぃ
<ぶくぶくぶー!


ブルー「…この声は」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 01:06:37.72 ID:bwScDHXt0



アニー「はいはい、今開けるわよ…」ガチャガチャ



ブルー「お、おい…」









             バーーーン!!





リュート「イエーイ!アニー!久しぶりだなぁ!!さっき、そこの店でおっちゃんが蟹の安売りしてたんだ!」つ『蟹』

スライム「ぶくぶくぶー!(`・ω・´)」つ『白菜、ネギ、しらたき…etc鍋セット』





リュート「いやぁ!色々あって金塊売りまくって臨時収入があってさぁ、景気よくパーッと…んあ?」チラッ

ブルー「…」ゴクゴク



リュート「ブルー!お前こんなとこに居たのかよ!丁度いい!お前も鍋パーティー参加な!!」


スライム「ぶくぶくぶくぶく!(/・ω・)/」ワーイ!ワーイ!





ブルー「貴様、この女と知り合いだったのか…」

ブルー(…あの時、リュートが言ってた知り合いの女ってアニーの事だったのか)




リュート「おう!そうそう…いやぁ〜!なんつーか奇遇だよな!」

アニー「そうね、人の縁って不思議よね〜」ポリポリ



ブルー「…酔いが回ってきたのやもしれんな、頭が痛くなってきた」




自分は酒には強い筈だったんだがな、とため息交じりにブルーは席を外す、少し夜風に当たって来たいと一声かけて




<リュート、このスライムなに?

<ブクブクー

<面白れぇ奴だろ!話し見ると結構楽しい奴だぞ!



ワイワイ…ガヤガヤ…!



225 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 01:25:46.59 ID:bwScDHXt0
―――
――




【店の外】



ブルー「…ふぅ…ドアの向こうから声が丸聴こえだ」カラン



 氷の入ったミネラルウォーターを口に含む…昼も夜も変わらない明るさが変わらない常灯の摩天楼で
イタ飯屋の壁に背を預け、騒がしい女と男、そしてゲル状生物の声を聴く








ブルー「…やれやれ、まったく喧しいったらありゃしない」ゴクッ

ヌサカーン「ほう?その割には中々にキミは楽しそうにしているがね?」

ブルー「フッ、まさか…そんな事あるわけないだろう…」ゴクッ





















ブルー「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」ブ―――ッ!!!


ヌサカーン「口に含んだ水を勢いよく噴き出すのは上品とは言えないな…」ヤレヤレ





ブルー「貴様ァ…!いつからそこに居た!」


ヌサカーン「うん?あぁ…今来たところだ、此処の店は良い所だ、偶にサングラスの店長が作ったグラタンが恋しくなる」






気がついたら、当たり前のように自分の隣に居た上級妖魔…そう、あの粗蟲共の元へ共に行った妖魔医師ヌサカーンだ


相変わらず白衣を身に纏い、そしてブルーの隣に違和感なくブランデー入りのグラスを持って立っていた





ヌサカーン「キミ、気づいていないのかもしれんがね、彼等の声に耳を傾けていた時何処となく楽しそうに見えていたよ」

ブルー「そうか、そう見えたのならば眼科へ赴くことを奨めるぞ、闇医者」

226 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 01:40:08.84 ID:bwScDHXt0


ヌサカーン「中々にイイ傾向だ、他者との交流、会話は自分の感情に彩をつける」

ヌサカーン「現にキミは【呆れ】や【驚き】時に【怒り】そして……相手の思考が読めない事から【戸惑い】や【疑問】」

ヌサカーン「様々な『感情』を抱き始めているではないか、交流の無い者は次第に心を閉ざしていく」


ヌサカーン「キミの心に巣食い始める病の予防薬になるだろう」ゴクッ



ブルー「突然現れて訳の分からないことを抜かすな」








    ヌサカーン「そうかね…まぁ、良い、今日はキミにしばしのお別れを告げにきたのだよ」


       ブルー「"お別れ"…だと?」






ヌサカーン「うむ、実は…訳あって私はしばらく[クーロン]を去る事になったのだ」

ヌサカーン「勘違いしないでくれたまえ、ただ[ヨークランド]に病気の少女が居ると今日来院した者に言われてな」

ヌサカーン「少し往診をしに行くのだよ」




ブルー「ふん!そんなことをわざわざ俺に言いに来たのか、暇してるようだな藪医者」



ヌサカーン「本当ならキミの旅に同行しようかと思っていたのだがね、キミは中々興味深い人間だからね観察したかった」


ブルー「それを聞いて尚更安心した、さっさと往診に行くがいい、そして戻って来るな」





ヌサカーン「やれやれ冷たいものだ、……結構な長旅になるんだがなぁ」

ヌサカーン「[ヨークランド]で患者を診た後で、もう一人気になる患者が居るから…本当に当分の間戻って来れんのだよ」



ヌサカーン「しばらくの間、私の病院に留守にしている、という主旨の書置きは残しておくが」

ヌサカーン「念のためキミに伝えておこうと思ったのだ、何かあっても私は居ない、とね」スゥゥ…






それだけを言い残し白衣の男は影となって消えた、後には空になったグラスだけがアスファルトに取り残された…




ブルー「…夜風に当たりに来たというのに、余計に気分が悪くなったな」チッ

ブルー「戻るか…」



227 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 02:22:40.57 ID:bwScDHXt0





               蟹すき鍋『  』グツグツ…!





リュート「豪富さんトコかぁ…そういやぁ俺が旅に出る時よりも前に言ってたっけなぁ、施設から女の子引き取ったって」

アニー「ええ…その子ウチの妹よ、生まれつき身体の弱い子だったのだけど」



アニー「それにしてもリュートが引き取り先の人の事知ってるなんてね、本当アンタ顔が広いわね」

リュート「[ヨークランド]は俺の地元だし、まぁ知ってるさぁ〜…と!そろそろカセットコンロの火弱めようぜ!」カチッ


スライム「ぶくぶく(・ω・)/『お皿&ポン酢』」








ブルー「今、戻ったぞ」ガチャッ カランカラン…



リュート「おう!丁度いい感じ煮えて来たぞ!」

アニー「ブルーの分の小皿とポン酢もあるからね」スッ


―――
――



リュート「うめぇ!!」ガツガツ!

アニー「あっ!蟹取り過ぎよ!!」

ブルー「元はリュートが持って来たモノだろう」モグモグ




―――――騒がしい空気



『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』
『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』
『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』



リュート「ほらほら、もっと喰えよ!よそってやるから」スッ

ブルー「なっ!?貴様!勝手に人の皿にそんな大量に!」



――――馴れ馴れしい連中


『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』
『あいつ、死なねぇかな…』



アニー「それでさ!その時エミリアってばおかしんだよ!」あははっ!

ブルー「そのエミリアという女がどんな奴かは知らんが聞く限り頭の悪そうな奴なのは分かった」


―――人の気も知らないで絡んでくるこいつ等…
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 02:48:58.16 ID:bwScDHXt0












      スライム(素面)「ぶくぶくぶーー!(*´ω`*)」モグモグ しあわせ〜♪



      アニー(ほろ酔い)「よーしっ!3番!アニーちゃん!いっきまーす!」

      リュート(酔い)「いいぞ!そん次俺な!4番リュート、歌っちゃうからヨロシクぅ!!」




<あーっははは!!





   ブルー(素面)「…」パクッ モグモグ…ゴクゴクッ










   アニー(ほろ酔い)「ジャグリング!そらそらぁ!!この酒瓶をお手玉のように落とさず回し続けるわよ!!」

    リュート(酔い)「おおおっ!すげぇぇぇ!!!」









――――………





―――…妬みも僻みも無い…純粋に接して来る馬鹿共










          -ヌサカーン『ほう?その割には中々にキミは楽しそうにしているがね?』-



ブルー「…ふ、馬鹿馬鹿しい…そんなことあるものか」ゴクッ


リュート「おおっ!ブルーが笑ったぞぉ!」アハハッ

アニー「マジ!?仏頂面のブルーが!よっしゃ!なんかテンション上がって来たわ!」



ブルー「笑ってなどいない、貴様らいい加減酔いを覚ませ…水置いとくぞ」ハァ…

229 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2018/02/24(土) 03:00:13.99 ID:bwScDHXt0





俺には使命がある


国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある







こんなことをしてる暇なんて無いのに、…くだらない、こんな馬鹿馬鹿しい茶番劇に付き合って…それで―――
















―――――それで、このふざけた空気が、少しだけ悪くないとも思ってる

















            …俺は何をしてるのだろうか














           …本当に何をしてるんだろう、…酔いが回ったな、悪酔いしてるようだ





230 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 03:23:47.59 ID:bwScDHXt0
―――
――

【クーロン:イタ飯屋前】

リュート「うげぇ…飲み過ぎたぁぁ…ぶ、ブルー…歩けねぇ…手伝ってくれぇぃ」

ブルー「マヌケが、一人で這ってでも帰れ」スタスタ







アニー「あたた…頭痛い……なんか予定と違ったような…いたた…」ヨロッ


スライム「ぶくぶく!(;゚ω゚)」ササッ!ピトッ

アニー「あっ、転びそうな所、支えてくれてありがとう…」



スライム「ぶくぶくぶく(;´ω`)」ススッ

リュート「あ、肩(?)貸してくれんの?わりぃ助かる」フラフラ


―――
――

【クーロン:シップ発着場前】


クーン「あーっ!先生!待ってたんだよ!」

ヌサカーン「クックック!済まないね、知り合いに別れを告げて来たところだ」

フェイオン「準備はよろしいですね、ヌサカーン先生」

メイレン「さっ!シップに乗り込みましょう!」



―――
――

【マンハッタン:グラディウス支部】


ルージュ「…」

白薔薇「こんな所で何をなさっているのですか?」


ルージュ「星空を、眺めていたんです………そうしたい気分だったもので」

白薔薇「何か悩み事、ですか?」

ルージュ「まぁ…」



アセルス「あっ!二人共こんなとこに居た!晩ご飯ができたってよ」

エミリア「明日には宇宙船<リージョン・シップ>『キグナス号』で[クーロン]に行けるわ、ご飯を食べて寝た方がいいわ」


アセルス「はいっ!…[クーロン]かぁ、ヌサカーン先生って人になんとしても会わなくちゃ!」グッ

―――
――


【マンハッタン:キャンベル・ビル】

「社長!停泊中の『キグナス号』に例のブツの詰め込み完了しました!警察にも見られていません!」

キャンベル「ウフフ!いい子ね…後は貴女に任せるわ!可愛い子猫ちゃんを待たせてるからね」

「はっ!」


231 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 03:45:26.52 ID:bwScDHXt0

―――
――




アニー「調子に乗り過ぎたわね…」フラッ…



アニー「明日はエミリアを迎えに行くために始発で[マンハッタン]に行って合流してから『キグナス号』に乗るのに」


アニー「……ブルーの奴、ぜんっぜん酔わないし……うぅ、飲み過ぎたわ…んっ?」











        紙袋『  』





アニー(カウンター裏の…あたしがブルーから受け取った鞄の横に、これ…あのコンビニの包装?)ガサッ…パサッ











  -『アニー へ

      此処に酔い止めの薬を置いておく

      飲んで治してさっさと[ディスペア]潜入の用意を進めろ ブルー』





アニー(…あぁ、アイツ夜風に当たりたいって出て行ったわよね…)

アニー(蟹すき鍋がに煮えるまで戻ってこないのは遅いと思ったら)




アニー「……命令口調なのはアレだけど、一応ありがとう、ってとこかしらね」


―――
――



リュート「ブルー…ありがてぇ、ありがてぇ…」

ブルー「酔い止めの薬くれてやったんだ、さっさと帰れ」

リュート「何だかんだ言いつつ、薬買って俺を待っててくれるなんてありがてぇ…流石相棒だぜぇ」グスッ

ブルー「良いから!さっさと帰れ!…まったく、金塊の件はこれでチャラだ」スタスタ






各々の夜は更け、そして…朝はやってくる…双子の旅立ち、三日目

        …運命の交差点<ターニングポイント>――― 紅と蒼の道がほんの僅かに重なり合う『キグナス号』の日が…
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 03:52:41.30 ID:bwScDHXt0
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            今 回 は 此 処 ま で !



               __
              ,-‐'´::::,ゝ    _γ:ヽ   ,.ィ
            l::::::,' ̄`⌒`ヾ{:::`:,、⌒/ /
            {::::ノ      {γ´ {_;;ヽ<´  <生命の雨
             ヽL_      |    ヽ::}
                 '-l_.iヽ     ヽ ━  l
                  {;;;} `ー---、ム    }、
                      {;;;;}` ̄I;;;}


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233 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 07:57:29.66 ID:x5kik7Vc0
おつ
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/02/24(土) 13:11:28.84 ID:bnQ3YhIs0
乙十字乙
アセルスェ…、ヌサカーンはブルーとクーン主人公でしか仲間にできないキャラなんだよな
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 13:26:23.36 ID:nXEkGPRpO
乙乙
キグナスと言えば赤も……?
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 07:48:14.28 ID:TfghkQbHo

赤と言えばブルーとスライムも運命の赤い糸で繋がってるという感じになってるなこれ
ブルーは色が気に食わんと言いそうだけど
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 16:19:32.80 ID:jkvYKC5i0
キグナス強襲イベント楽しいよね、スポット参戦だけどエミリア以外最後まで仲間にできないアセルス姉ちゃんや他主人公と夢の共演できるし
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 03:53:27.56 ID:ZdG8Shi80
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               オマケA【妖魔医師、ヌサカーンの診断書<カルテ>】


 【双子が旅立ってから2日目 夜 9時 54分】


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239 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 05:55:50.41 ID:ZdG8Shi80


その日は多くの人間にとって"散々な1日"だったことだろう


 政治の中枢たるリージョンで大規模な爆破テロが起きた、それによって各地のリージョンでシップの運行が停まった
この御時世で宇宙船<リージョン・シップ>が全便欠航となれば流通は当然ストップするのだから堪ったもんじゃない


物販店からはいつもなら棚に陳列している商品が企業や工場からの出荷が来ないという嘆きを体現するようにガラ空きで
 仕事帰り、あるいはこれから出勤予定"だった"スーツ姿のリーマンが会社から居酒屋の暖簾の奥へと姿を消す




誰も彼もが立ち往生、明日まで何処にも行けず帰れずという不測の事態に陥った

もし幸運があるとすれば目的地に丁度到着したところでシップの運行停止に巻き込まれた者等だろう









「お客さん!ワタシ身体よく効くクスリ持ってるネ!今なら安くしておくヨ!」


フェイオン「すまないが他を当たってくれ」










暗黒街[クーロン]…大通りで堂々と"おクスリ"を販売する怪しい男の誘いを突っぱねる弁髪の男は仲間達の元へ急いでいた



フェイオン「いかん、情報収集にかなりの時間を喰ってしまった…メイレンが怒っているだろうなあ」タッタッタ






彼は今日のまだ朝陽が昇り始めて、そう長くない時間までずっと巨大生物[タンザー]の体内に居た男だ



ひょんなことから、どこぞの蒼い術士と弦楽器を背負ったニートのおかげで久しく見る事の叶わなかった日光を拝んだ



 巨大生物の体内から脱出した後、彼は恋人であるチャイナドレスの似合う彼女と滅びゆく故郷を救うべく旅する少年等と




 【 全 て 集 め る と ど ん な 願 い も 叶 う 魔 法 の 指 輪 】 を集める旅に同行した




モンスター族の少年への恩返しと恋人の女性を護る為の同行だ





そんな彼は…今、汗水たらして長らく目にしていなかった人間社会の人混みを掻き分けていた

汗水たらして、と今しがた表現したが何も全速力で走っているから汗をかいたというわけではない




これは恐怖から来る冷汗だ、彼は知っている……自分の恋人は怒ればどんな怪物よりも恐ろしいヒステリックを起こす事を
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 06:16:12.64 ID:ZdG8Shi80


 男は恋人の女が取った宿が見え始めた所でラストスパートと謂わんばかりに過去最高の脚力で駆け出し
自分達の部屋へ転がり込む様に入り込んだ







    フェイオン「メイレン!遅くなってすまな「こんのぉ大馬鹿ぁぁぁ!!!」ぐぎゃあああああああっ!!」








 メイレン「情報1つ見つけて来るのに何時間かかってんのよォ!!ええ!?」メキメキ


 フェイオン「おぎゃあああああああぁぁぁ腕があああああああぁぁぁ変な方向にぃいいいいいいいいっ!」





 クーン「わぁ〜!すっごーい!僕だってあんなふうに腕を曲げられないのに…フェイオンは身体が柔らかいんだね!」






 バンバン!「ギブ!ギブ!降参だ!たすけてぇぇぇ!!」と男の悲痛な叫びが宿の一室に木霊する最中
純真無垢なピュアっ子で獣っ子な緑色の少年が目の前の惨事を見て目を輝かせていた





メイレン「まったく……[ヨークランド]で"指輪"を持ってる大金持ちの豪富…その養子の女の子を治せそうな医者を探す」


メイレン「私達がわざわざ一度[クーロン]までシップに乗って逆戻りしてきたのはその為なのよ?」



クーン「僕たち運が良かったよね!!僕たちが丁度[クーロン]に戻ってきたら、船がぜーんぶ動けないんだもん」



メイレン「…クーンはポジティブで良いわね」ハァ


クーン「???」ニコニコ



メイレン「この暗黒街は大勢の人間が集う、此処を探せばあるいは…と考えたわ」

メイレン「実際、この街に妖魔の医者が居ると小耳に挟んだこともあるしね…」




メイレン「その人の居場所を手分けして探しましょうって所までは良かったわ、ええ…」


メイレン「でもね、…なぁんで探し出して2時間で私達が掴めた情報を8時間近くかけて見つけられてないのよ!!」ギリギリ



フェイオン「うぎゃああああああああああああぁぁぁぁ死ぬぅぅぅぅうううううううう!!!!」ジタバタ



241 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 06:36:14.25 ID:ZdG8Shi80
―――
――



メイレン「ぜぇ…ぜぇ…まぁ、良いわ、私は今からクーンと例の医者の所に交渉に行くから…」


メイレン「あなたはシップ発着場で[ヨークランド]行きの始発のチケットを手に入れて来るのね」



フェイオン「ま、待ってくれメイレン……始発のチケットは誰だって喉から手が欲しい筈だ、簡単に手には――」ボロッ




メイレン「 」ギロッ



フェイオン「ひぃぃ!?分かった!なんとかする!なんとかするから!なっ!?」土下座





クーン「わぁ〜!こういうのって『かかあてんか』っていうんだよね!」



メイレン「クーン、変な言葉を覚えてきちゃ駄目よ、さぁ行きましょう…フェイオン」

メイレン「場合によってはこの部屋を交渉材料に使う事ね」


フェイオン「へ?」



メイレン「あなたも見たでしょうけど…どこもかしこも事前に宿泊施設は今日のゴタゴタで帰れない旅行客で満室よ」

メイレン「この状況で宿をとれるのは、お金が腐る程あるって奴かあるいは"早いもん勝ち競争"に勝てた人よ」





メイレン「路上で寝てればいつ身ぐるみ剥がれても、…いえ、人身売買にすら持ってかれるかもしれないこの無法都市」


メイレン「宿部屋をあげるからチケットを譲ってくださいと頼み込めば、始発便に乗れるかもしれないでしょう?」




フェイオン「!!…なるほど」



メイレン「うまくやりなさい、…期待してるわよ」ボソ




―――
――


【クーロン裏路地:ヌサカーン病院】



ヌサカーン「…それにしても彼、ブルーと言ったか…中々興味深い身体だったな」カキカキ



白衣を着た長髪の人物、その眼鏡のレンズに映っているのは現在進行形で綴られていく自分の筆跡で埋まっていく診断書だ


ヌサカーン「…彼は中身が半分、いや…あの国家は確かにそういうところがあったな…」

ヌサカーン「そういえば[シュライク]の例の研究所にも裏で資金提供を行っていたのだな、ふむ…そう考えるならば」ピタッ
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 06:51:20.26 ID:ZdG8Shi80



妖魔医師はインク壺に筆を戻す、上級妖魔であるがゆえに彼は力の流れを探ることに長けていた

彼がこの街の地脈を流れる"保護"の力を捉え、それが弱まっていることも察せられたように…





ヌサカーン「……これは、どうしたことだ?こんなドス黒い力の塊は久しく診ていないな」




妖魔の中でも変わり者、そう評される彼の生きがいは…


『誰も見たことの無い世にも奇妙な病原菌と遭遇したい』

『不治の病と呼ばれる病魔を治してみたい』

『未知との遭遇を愉しみたい』


と言ったものだった



彼はこの世で一番"病気を愛する医者"なのだ





病気を殺す、が…同時に病気を美しい女性か何かのように愛しているのだ、医者が一番病んでる、ヤンデレ





ガチャ!



クーン「あなたが…ええっと、ぬさかーん先生?入口の仕掛けすごいね!ボクすごくビックリしちゃった!」

メイレン「…あの悪趣味な仕掛け…はぁ、いいわ、文句を言いに来たんじゃないし」ゲンナリ






ヌサカーン「……」ジーッ


クーン(ボクの顔何かついてるのかな?)キョトン


ヌサカーン「…」クルッ…スタスタ ジーッ

クーン(あ、ボクを無視してメイレンの方をジーって見始めちゃった、ちょっと悲しい)ショボーン




メイレン「…?」


ヌサカーン「……」ジーッ






   ヌサカーン「…… "君が患者か"?」


  メイレン「違うわよ…私のどこをどう見て患者だと思ったのよ(こいつヤブ医者かもしれないわね)」


243 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 07:08:02.82 ID:ZdG8Shi80


ヌサカーン「そうか…それは失礼した(…ふむ、自覚症状なし、か)」





妖魔医師は至って身体は健康そのものと呼べる女性を見た…







いや、厳密に言えばちょっと違う…女性の"薬指についてるモノ"を診た…







クーン「あの!先生はよくわからないけど、すごいお医者さんなんですよね!!」

クーン「えっとね!えっとね![ヨークランド]って所に身体の弱い女の子が居て、その子に変な病気が憑いてるの」

クーン「どんな願いも叶う"指輪"の力でその子は死なないで済んでるけどそれも時間の問題で苦しそうで…」





クーン「お願いだよ、助けてあげて…あの子はちゃんと皺くちゃのおばあちゃんにならなきゃだめなんだよ」




自分の故郷の惑星<リージョン>……寿命で惑星のコアが持たないリージョン、滅びゆく[マーグメル]を少年は思い出す

指輪を全て集めて故郷を救う、だがその為に病気の少女を生き永らえさせている指輪を取り上げるのはまた違う




ちゃんと大人になって、お婆ちゃんになって、そして穏やかに眠らなくちゃ駄目だとクーンは言う
 それに対して医師は眼鏡の位置を指先で少し上げなおして―――





ヌサカーン「往診は基本的にしないことにしている、例外はあるがね」




メイレン「相手は大富豪の娘よ、報酬は思いのまま」


ヌサカーン「ふむ、報酬か…興味深い患者だな」





半分本当で半分嘘だ

報酬で"指輪"を仮にもらえたら、それは興味深い…だが医師は何も指輪の力で願いを叶えたいなどといった理由ではない


この医者は今、"一番興味深い患者"の旅に同行してその病の進行状態を間近で観察したいのだ

その病は"指輪"が深くかかわって来る…実に興味深い





[ヨークランド]に居る患者も確かに興味深いが、むしろそっちはオマケ程度にしか見ていない、大本命は目の前に居る


244 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 07:31:41.07 ID:ZdG8Shi80




メイレン「ではヌサカーン先生、私達と共にご同行を―」


ヌサカーン「あぁ、待ちたまえ…少し時間をくれ、この街に昨日知り合ったのだが[マジックキングダム]の術士が居てね」


ヌサカーン「しばしの間、[クーロン]を離れると別れを告げてきたいのだ、構わないかね?」



メイレン「ええ、問題ありませんわ、準備は大事ですものね」


ヌサカーン「では先に宿にでも戻っていると良い…君たちは見たところ他所から来たのだろう?」


メイレン「いえ…シップ発着場で落ち合いましょう」


ヌサカーン「ふむ、分かったではまた後程」






ヌサカーンは二人の背中を見送る、眼鏡のレンズには去っていく少年と患者の背が小さくなっていくのが映る





ヌサカーン「さて、まずは書置きだな…私が留守の間にヒューズの奴がくるかもしれん、っとその前に診断書も書かねば」






妖魔医師の脳裏には『ぬーべー!助けてくれぃ!』などと叫びながらタダで診察してもらおうとする不良刑事の顔が浮かぶ
あれで[IRPO]隊員なのだから不思議だ

そういいつつも何だかんだでタフで面白い奴リストに含まれる彼の為に一応書置きは残しておく

しばらく留守にするぞ、と




ヌサカーン「双子…命、…[シュライク]にある[生命科学研究所]への裏金と技術提供による…」カキカキ



ヌサカーン「大昔に滅んだリージョンの伝承に残る技術…同化、継承、7人の英雄、皇帝… 死によって 力の譲渡」カキカキ



ヌサカーン「同じく死によって、資質の…技術の髄を寄せたコレにより本来ならば得られぬ筈の――…」カキカキ


ヌサカーン「ふむ、こんなものか、…まだ時間がある、さっきの患者の診断書も書いておくか」ペラッ カキカキ







その後、ヌサカーンは"診断書"をいくらか書いてから鞄に一頻りの荷物を纏めて自宅を後にした




なお、此処で詳細を語る必要が無い為、大雑把に書いておくがフェイオンは
 その後、家族8名で狭い客室に雑魚寝するしかなかったらしい大家族と宿部屋の権利を譲る交渉で
見事シップの一室を得てメイレンに褒められ、シップ発着場にやってきたヌサカーン医師共々にシップの客室に入り
始発の時間まで一夜を明かしたらしい


〜 オマケ2 完〜 
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245 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/28(水) 15:27:29.96 ID:2BCBPe4fO
フェイオンは悪い人じゃないんです
ただちょっと運が悪くて不器用なだけなんです
がんばれフェイオン
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/28(水) 16:22:47.69 ID:SPIc5TLw0
実際フェイオンいいヤツだよな
自分から協力を突っぱねるブルーにも嫌な顔ひとつしないで道案内して、それ以外の主人公6人の仲間になってくれる。
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/28(水) 21:37:20.10 ID:qiIH9IZs0
…ん?診断書に書いた内容ってロマサガ2のアレか?
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2018/03/06(火) 22:37:11.29 ID:THw2g2L10





僕が祖国[マジックキングダム]を旅立って今日で3日目になる



国家からの支給品としてもらった資金、[リージョン移動]媒介用の宝石、医療品を入れた[バックパック]





そして…今、僕のこれまでの資質集めの旅を書いている小さな手帳














 誰に書けと言われた訳じゃない、ただ僕が自主的に書きたいから書いているんだ

 いつまで続くか分からない旅路だけど、その終着点が見え始めて、その時、この手帳を僕が見返して


 「あっ、あの時はこんなことがあったんだなぁ〜懐かしいな」と思い出を振り返って笑う事ができるかもしれないから












           …あるいは―――













           ――…あるいは、もしかしたら…ううん、やめておく、縁起でもないからね!




249 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:06:15.88 ID:THw2g2L10
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―――
――



【双子が旅立ってから…3日目、朝7時20分】




ルージュ「」パシャッ!バシャバシャ


ルージュ「…あ、また寝ぐせが…髪長いのも問題だよなぁ」つ『ブラシ』




 エミリアが所属する裏組織の支部でお世話になり、そして陽が昇り始め
人々の生活音が目覚ましのアラーム代わりに鳴り始める頃、紅き術士は洗面台の鏡に映る自分と睨めっこをしていた



瞼裏に残った眠気を洗顔で共に洗い落とす、サッパリとした気分で仲間達が待つフロアへと降りていくと



エミリア「あら、おはよう…ってあなたアホ毛みたいに寝ぐせがピンっとしてるわよ」クスクス


ルージュ「あはは…一応濡らしたんだけどなー」ポリポリ



エミリア「それと…はい、これっ!」っ『乗船チケット:キグナス号』&『キグナス号パンフレット』


ルージュ「ありがとうございます…へー、白鳥の形をしたシップかぁ」ペラ


エミリア「ええ…サービスも充実してる、とてもいい船なのよ」




いい船だ、目の前の金髪美女はそう告げるのだ、一瞬だけ哀しそうな顔をしたのを彼は見逃さなかった


 エミリアが裏組織に入った経緯は…婚約者である男声を殺害され、その濡れ衣で刑務所[ディスペア]に送られたこと
そして刑務所からの脱獄にアニー、ライザという2名の女性の助力を得て成功

後に婚約者の仇"ジョーカー"という仮面の男をこの手で討つべく、アニー等が所属する組織に加入したという






…キグナス号、この船には事件が起きる前に、エミリアが婚約者のレンという男性と共に乗っていたそうだ




同僚の女性二人にもそのことは話していないらしく、ある意味辛い思いをさせる船旅になってしまうのだろう

亡くなった彼氏との思い出の船に乗船するのだから…





エミリア「そ・れ・よ・り!!フライトまでまだ時間があるわ!街に出て何か朝食を取るなり旅支度をするべきよ!」




溌剌とした持ち前の性格で彼女は術士の背を叩いて、そう促す


もしかしたら強引に話題を変えたかっただけかもしれない…それを彼が計り知ることはできないが


250 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/07(水) 01:17:45.47 ID:afQLpd/f0

最先端科学のリージョンを自負するだけはあり、人々の従来は目を目を見張るものであった
 シップが運行を再開した[マンハッタン]のモール街を歩く経営者の靴音、重たい荷物を運ぶロボットの機械音
田舎から上京してきた所謂"おのぼりさん"という人なのだろう、恰好からして[京]から来た人なのだろうか



ルージュ「…護身術ですか」


エミリア「ええ、ルージュは術士なのはわかるわ…でもね、いざという時に術力が切れてしまったら、その時どうするの」



ルージュ「それは…」

アセルス「エミリアさんは銃が無くても体術が使えるんですよね?」



エミリア「ええ、ライザ…ああ、私の同僚の女性なんだけどね、彼女に色々と技を教えてもらったのよ」



「…変な覆面つけられたけど」と何か遠い目をして明後日の方角を向き始めたエミリアを尻目にルージュは考えた
もしも肝心な時に術力が切れてしまったら…

魔術師が力を使い果たして術を使えない…それは銃弾が切れ補充すらもできないピストルと同じだ

その時点で戦いに置いて"敗け"が確定してしまう



ルージュ「そうか、…ならば僕も自分だけの武器を手にするべきなのか」

ルージュ「…よし、決めた!」



ルージュ「エミリアさん、銃を手に入れられるお店ってありませんか!」


エミリア「なんであの時"仮面舞踏会"と"仮面武闘会"を間違えたのかしらね…ハァ…えっ?何ごめんよく聞いてなかったわ」


ルージュ「銃ですよ、銃!銃なら剣や体術と違ってあまり身体を鍛えていない僕でも望みがあるかもしれないと…!」


エミリア「う〜ん、銃ね…実際使った事無い人は分からないと思うけど」

エミリア「あれって発砲の時、反動で肩とか結構持ってかれるのよ?」

エミリア「私も組織に入って間もない頃、射撃訓練で腕がパンパンになるほどやったし…」

エミリア「…なんにしてもこのリージョンじゃ難しいわ、[クーロン]なら顔の利く店もあるし」う〜ん


エミリア「低反動で負担の少ないのあるか聞いてみましょう?」

ルージュ「本当ですか!?ありがとうございます!!」




アセルス「ルージュってばはしゃぎ過ぎだよ、子供じゃないんだからさ」クスッ

アセルス「ね!白薔薇もそう思わない――――」クルッ




『現在パーティーメンバー』

ルージュ
エミリア
アセルス
白薔薇 ←(迷子)


アセルス「……」


アセルス「し、しろばらあああぁぁぁぁぁ!!!!」ガーン

251 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/07(水) 01:48:14.48 ID:afQLpd/f0
―――
――







  わらわら…

             がやがや…

         ざわざわ…

                                 わいわい…!


















白薔薇「」ポツーン




白薔薇(ど、どうしましょう…また皆さんとはぐれてしまいましたわ…)オロオロ











            『 待 て や ァ ァ ァァ!! ゴ ル ァ ァァ!!!』



            『お、俺がなにしたってんだよォ!!!!』







白薔薇「! この声は…確かヒューズさん?…まぁ!なんという幸運でしょうか!!」ダッ!









迷子の迷子の白薔薇姫さんは、知り合いも何もいない大都会のど真ん中で独り

しかし、これは僥倖か…?昨日お近づきになった不良刑事の怒鳴り声が聞こえて来たではないか?


困り果てた彼女は知り合いの声と、必死な年若い男性の声がする方へ駆けて行った


252 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/07(水) 02:13:57.53 ID:afQLpd/f0







   ヒューズ「こんの餓鬼ァ!!人突き飛ばしといて逃げるたぁどいう了見だァァァ!!」カチャ! ダダダッ








   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「ひぃぃぃーーー!そりゃ俺がわりぃけどよぉぉ!」


   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「知らないおっさんが銃構えて走ってきたら逃げるだろうがぁ!!」









  ヒューズ「 誰 が お っ さ ん だァ!!俺ぁ 2 7 だあああぁぁぁぁ!!」バキューン!!



  サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「うわぁああああああああ!?!?おっさんじゃねーか!!」ヒョイッ










 サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「くっそぉ…!なんなんだよぉ一体!?」ぜぇぜぇ


 サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「俺はキグナス号の積み荷の事を知りたいだけだってのに!!」



  ヒューズ「…あ"?キグナスの積み荷だぁ?」ピタッ









   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「はぁ…ッ!はぁ…?なんだあのおっさん動きが止まった?」

   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「とにかく逃げねぇと!この曲がり角を曲がればっ!!」バッ!













           白薔薇「えっ」バッ!


   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「なっ!?―――あ、危ない!!ぶつかるッ!」



253 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 02:16:27.25 ID:baTL5JL40
なんてベタベタな
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 02:30:32.45 ID:Vlhc3VN+0
レッドキター
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 08:02:12.59 ID:xOk3hmniO
ルージュとレッドなら衝突せずに済むな
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 16:40:03.89 ID:CKtUB43BO
遂にレッド登場かwktk
257 :サガフロ主人公 小此木 烈人<オコノギ  レット>編 OP [saga!red_res]:2018/03/13(火) 21:53:39.12 ID:or25wmVp0
*******************************************************











  父さん、母さん、藍子――――――












            ――――――俺は、俺は…絶対にブラッククロスを許さねぇ!必ず仇をとってみせる!!














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258 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:43:09.88 ID:or25wmVp0






【  双子が旅立つ  "数日前"  朝9時27分 】


『レッドの回想:[シュライク]の高速道路』









 都市型リージョン[シュライク]…経済特区として知られ、自然環境も整った緑溢れる街
ロボット産業を始め、生命の神秘を日夜追究する研究所も存在し独特な食文化や歴史もある平和な土地であった






 四輪駆動のエンジン音を響かせながら一台の自動車が高速道路上を走行する、乗っているのは二人組の男性
運転席でハンドルを握る男はまだ年若い19歳の子供、その横には壮年の男性―――子供の父親が乗っていた


ありふれた光景だったとも、この街じゃさして珍しくもない

 親子で自家用車に乗ってドライブなんて何の変哲もない普通の事だった、だから神妙な顔つきの父親を横目で見る
若者もこの後に起きる悲劇など予想だにしなかった





       バイオメカニクスの権威、  小此木<オコノギ> 博士





助手席に座る父親は誰もが知る著名人だ

彼はその腕に茶封筒を抱き抱えるように持ち重々しくその口を開いた




小此木博士「これは…Dr.クラインが悪の秘密結社ブラッククロスの幹部と結託している証拠だ」


小此木博士「この封筒を[IRPO]本部に持って行けば彼の悪事を阻止できる」







小此木烈人…愛称でレッドといつも呼ばれていた少年は訝し気に父親に尋ねた




レッド「父さん…なぜそこまでしてそこまでしてDr.クラインに拘るんだい」


小此木博士「彼と私は共に学んだ仲だ、だが彼は研究の為ならば手段を択ばなくなっていった」


小此木博士「私は…それを知りながら止めることができなかった、私には学会から疎外されていく彼を救えなかった」





小此木博士「私は彼にこれ以上悪事を重ねて欲しくない、あんなふうになってしまっても、彼は私の友だ…」


259 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:03:29.44 ID:or25wmVp0





自らの知的好奇心の為、飽くなき探求心の為、―――道を踏み外し外道の道に堕ちても

それでも掛け替えのない友だから、博士は自分の気持ちを打ち明けた














               ヒュッ!ゴスッッッッッ





レッド「なァッ!?」ギュルルルゥ





哀しみ、憐れみ…そのどちらともつかない表情<カオ>の父を横目で見やった僅かな瞬間だった


突如として真上からボンネットに"鋼鉄製の何か"――今思えば、鎧武者の甲冑のようにも見えた――それが飛びついてきた



ずっしりと重みのある金属の塊が飛来し、乗用車は嫌な軋音をあげてバランスを崩した
真冬の凍り付いた路面を夏用タイヤで走ったような嫌な感覚、ブレーキペダルを踏み、ハンドルを正面に戻そうともした





だが、その金属製の人型は腕を振り上げ、車体に拳を叩き込み配線をブチブチと引き千切って操縦不能にして飛び去った






親子の乗る乗用車は長いカーブで蛇行し、最後にはカードレールを突き破って崖下に真っ逆さま

少年が最後に見たのは金属製のボディーと、その脇に抱えられた父の姿だった







     キイイイイイィィィィ   ガシャァン



―――
――





レッド「…ぅ、…ぐ」ムク


どれだけの時間意識が沈んでいたのだろうか、彼が眼を覚ました時視界に飛び込んできたのは木漏れ日の射す緑の屋根

身体を動かしてみる、奇跡的に目立った外傷は無い、上体を起こせばフロントガラスの破片がパラパラと頭から落ち首を
動かせば拉げた自家用車が黒煙をあげていた…本当によく無事だったものだ

260 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:15:18.38 ID:or25wmVp0



レッド「いってぇ…」



レッド(くそっ…何が起きたってんだ、車運転してたら時代劇の鎧武者みてーなのが降って来て)




レッド「はっ!?父さん!…父さん!!!!」





レッド「くそぉっ!やられた!!ブラッククロスの奴らめ…」ダンッ



拳を大地に叩きつけ、歯軋りを1つ…あの鎧武者は、恐らくブラッククロスの手の者に違いない

証拠品をパトロール隊員に渡す算段を何処で知ったか知らないが連中はそうなる前に彼等親子を亡き者にしようとしたのだ





レッド「…!」ゾワ






そこまで考えて彼は背に薄ら寒いモノを感じ取った



犯罪組織は証拠隠滅の為に自分達親子を襲った…そして父の身柄拘束、ならば…









――――ならば、自分、父と来て"次は何を狙う"







レッド「…か、母さん、藍子…!!」ワナワナ






ブラッククロスの次の狙いは、恐らく小此木博士の妻と娘…即ちレッドの母と妹だ



レッド「ち、ちっくしょおおおおおおぉおぉぉ!!!」ダッ!



その場から彼は走り出した、ペース配分も何もあったもんじゃない、喉が痛くなる程の全力疾走

茂みを掻き分け、郊外にある一軒家へ、家族が居るはずの自宅へと

261 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 00:14:58.01 ID:zLD7jsdH0




レッド「ハァハァ…!」



[シュライク]郊外の美しい森林、その中に佇む豪邸…まだ自分が幼かった頃はすぐ外で木登りや蝶々を追いかけたあの道





レッド「…ハァ、うぐ!」ドテッ ズサーッ




まだ赤子だった妹を抱き微笑を浮かべる優しい母、休日には自分を肩車して森の中を散策した父との思い出





レッド「……こんなとこで転んでる場合じゃねぇんだよ」ググッ





学者である父の所へ都心部から自転車で本の配達に来る憧れのアセルス姉ちゃん、よくヒーローごっこに付き合ってくれた










何もかもがレッドの脳内で鮮やかに輝いていた、在りし日の思い出が




立ち上がり森林の悪路を走る、何度も転び、泥にまみれ、傷を作っても止まらずに…



寿樹の香り…花の匂い、













焦げ臭い匂い、何かが燃える音





自宅に近づけば近づくほどに【当たって欲しくない予測】が現実になっていく




乗用車の襲撃から崖下への転落、眼が醒めた時はまだ木漏れ日の射す時刻で…彼が自宅へと戻った時は既に夕刻であった




              オレンジの空、茜色の雲…そして

                            空の色と同じように燃え上がる実家が…
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 00:40:43.57 ID:zLD7jsdH0

【  双子が旅立つ  "数日前"  夕方16時47分 】




  【炎上する小此木邸 前】






パチパチ…メラメラ





現実は…残酷だ、さっきまで彼の脳裏には家族との温かな思い出が美しい鮮やかな景色があった


だが、目の前の鮮やかな"赤"はそれを否定する


頬に飛んできた火粉が当たる、熱い、ああ、熱いとも…痛いくらい熱い


これが崖下に転落し未だ昏睡状態の自分が見ている夢、幻ではなく無情な現実なのだと嫌でも彼に悟らせる痛みだ

















  レッド「う、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!!!」










それを目の当たりにして彼は折れてしまった、膝から崩れ落ち、大粒の涙を流した



屋敷は全焼、あれではもう母も妹の藍子も……


泣くしかなかった、ただただ哭くしかなかった






しかし、世界はどうやら彼に悲しみ途方に暮れる時すらも与えてくれぬようだ…燃え盛る炎の篝を背に彼の元へ影が伸びる


項垂れていたレッド少年の頭上から声が浴びせられた





              「キサマ、小此木博士の息子だな、死ね 母と妹の後を追わせてやる」



263 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 01:16:19.75 ID:zLD7jsdH0



レッドはゆっくりと顔を上げた、赤々と燃える炎を背に揺れ動く人影がこちらに歩いてくる
眼を擦り、涙を振り払い暈けて見えた輪郭はしっかりとその姿を現した…


 思わず声を漏らし掛けた、何せ自分の目の前には自分よりも一回りも身の丈がある大男が立っていて
その男は両腕が義手だったのだから


義手…それも"普通の"ではない、事故で腕を切断し生活が儘ならない人間が手術で義手や義足をつけること自体は
なんら普通の事と呼べたが、目の前の男のソレは明らかに日常生活が目的で造られたソレとは異なっていた






人間にあるべき腕が無く、肩から先は無機質な金属…手首の先は鉤爪で、刃先には血糊が付着していた



自分の数歩前に男が来たことで漸く焦げ臭さと共に生臭い血の匂いが鼻孔に入り込んだ…
 よく見れば男の口元にも血液が付いていた、ギラついた眼差しでレッドを見下ろし、口元の血をジャムでも舐めるように
ペロリと舐めていた異様な人物



その両隣には護衛であろうか、顔すらも覆いつくす全身青タイツの人物が二名
 青の生地に黒い帯が交差するように腹部、そして頭部についているのがなんとも奇妙な出で立ちだ










 いや、この際そんなことはどうでもいい、重要なのはそこではなく――――










       レッド「…てめぇ、今…なんっつった」








ゆっくりとレッドは立ち上がった、青筋を立てて、未だかつてない程の怒りを、腸が煮えくり返る程の憎しみを声にした






  ――――死ね 母と妹の後を追わせてやる



目の前の人物は間違いなくそう言った、それが意味する事はつまり



   「フン、なんだ落下の衝撃で耳がイカレたのか、天国の母と妹の元へ送ってやると言っているんだ」




264 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 02:10:36.11 ID:zLD7jsdH0


プツン、頭の中で何かが弾け飛んだ音がした

全身の血流が一瞬だけ真逆になったかのようだ、冷静さも思考も要らない、ただ「コイツをぶちのめす」それだけがあった





レッド「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァぁぁぁぁァ!!!!」




やんちゃ坊主でよく喧嘩もしていた、著名人の父を護りたいと空手教室や銃の訓練もまともな学び舎で習った事がある






そんな彼の怒りの一撃は
















               ドゴッシャアアアアアアァァァッッッァァァアアア――――ッ!!!










                  「今、何かしたのか?」ニィ


                    レッド「うっ!?」















怒りの一撃は…腹部に放った渾身の蹴りは、あまりにも無力だった




                   「死ね」ザシュッ



小五月蠅い便所蠅を叩き落とすように軽く振るった左腕、5本指の鉤爪は自分の力が一切通用せず唖然とする
レッドの肉を一振りでズタズタに裂いた

265 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 02:19:49.47 ID:zLD7jsdH0


ずしゅり、身体が痛い、あまりにも呆気ない




レッド(…俺、死んじゃうのかよ)





ドサッ…




横たわった彼が真っ先に思ったのはそれだ、生温かい…自分の血ってこんな感じなんだな、血は温かくて抜け出ていく度に
身体が氷漬けになるみたいに冷たくなってく




            「へっ、口先だけの餓鬼が…」レロォ…



鉤爪の男は刃先に付着した血を舐め取り、踵を翻す…この傷じゃ助かるまいと判断したのだろう






レッド(うそだろ、俺まだ死にたくねぇよ…まだ俺は…俺は…)









レッド(おれ、は…みんなの、父さん、母さん、藍子… あいつ、まだカタキ…)













ズリッ…グッ、グググッ



    「…あぁ?」ピタッ


    「……ほー、まだ立ち上がるのか、まるで生まれたての子鹿だな」クルッ









      レッド「ハァ…ぜぇ、み んな   カタ キ…てめぇ、だけは…っっ」プルプル




     「健気だなぁオイ、泣かせるじゃあねぇか、その敬意に表して確実に殺してやる」

266 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 02:39:30.33 ID:zLD7jsdH0

鉤爪の男は両腕を組むような姿勢を取る、そして肩を竦めると―――



  ガシャッ、ガコンッ…!




レッド「な、んだと…!!」




「へっ、面白れぇもんみせてやるよ!ゆけぃ!![クロービット]」



男の義手が外れ、そしてその両腕は――――ッッ!!




クロービット『』ヒュンッ ヒュンッ

クロービット『』ヒュンッ ヒュンッ




レッド(義手が飛んでやがるッ!―――俺の方に回転しながらマズイッ)




鉤爪の男の両肩、腕が外れた部位は機械で出来ていて…大男は所謂サイボーグという奴だった






  悪の秘密結社ブラッククロス、狂気の科学者クラインが手を貸す前から人攫いを積極的に行い

  攫った人間を改造手術で怪人に改造する……まるで日曜日の朝に特撮ヒーロームービーでやってるようなふざけた話だ



  だが、その狂った内容を現実<リアル>で、三次元でやってるから警察も血眼になって探す犯罪組織なのだ





 父から聴かされた時は最初あまりにも馬鹿馬鹿しい話だと思い冗句か何かだと思ったが…
機械男をこうして見せられては信じざるを得ない





 「な?面白れぇだろ、俺様の腕はこの脳髄の遠隔誘導操作システムで動いてるんだ…あの世で家族に自慢しな」



クロービット『』グルグルッ ギュゥウウウ――z__ン!  ドブッジャアアアアアア!!

クロービット『』グルグルッ ギュゥウウウ――z__ン!  ドブッジャアアアアアア!!



レッド「ぐっぁああああああああああああああああぁぁぁ……」パタッ



採掘ドリルよろしく螺旋を描きながら飛んできたソレは無慈悲にも彼の胃腸、肺に大穴を開け、男の元へ戻っていく


断末魔、そして―――家族の仇をとることすら叶わず朽ちていく自分の非力さに涙しながら彼は地へと伏した…



267 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 03:25:01.07 ID:zLD7jsdH0















              正義のヒーロー「シャイニングキィィィィイイイク!!!!」シュピーン!ゴシャッ!!!






                  「おごぁァ!?!?!?!?」












レッド(…ぁ、? なん だ  だれか  いるの か  もう みみ も まともに きこえな )





              正義のヒーロー「くっ、遅かったか!シュウザー!!私が相手だ!」




              シュウザー「うぎ・・ぎぎ、キサマァ…」ギロッ






その時、何処からかともなく一人の男が現れた全身鎧スーツを身に纏う男は光り輝く蹴脚[シャイニングキック]を放った
鉤爪のサイボーグ…[シュウザー]は脊髄から脳に痛みという電信信号を伝わらせた人物を恨みがましく睨みつけた




   シュウザー「きえええええええええぇぇぃぃいい!」ヒュッ シュバッ!


   正義のヒーロー「遅いっ![ブライトナックル]!!」


全身鎧スーツの闖入者目掛けて貫手、からの袈裟切りを繰り出すもそれを見越した動きで闖入者は紙一重に躱す
 そして光り輝く拳を勢いよく踏み込んできたシュウザーの下顎目掛けて打ち込む

敵の上半身はこちらへの踏み込みで、自身の拳は一回りも大きい巨体の下顎へ、お互いの体格差と動きを利用した拳は
下顎をぶち抜く、敵の方から正面衝突しにきたようなものである




  シュウザー「か"っ"…ぐ、ぶ」ツー――ッ、ポタッ


  シュウザー「俺様の顔に、よくも…クソ覚えていろ!!」バッ!ギュルルルル



唇の端から血を垂れ流したサイボーグは片脚を軸に独楽<コマ>のような大回転、砂埃を舞わせそれを煙幕代わりにし
護衛を連れて去って行った

268 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 04:02:03.07 ID:zLD7jsdH0



 正義のヒーロー「取り逃がしたか…、いやそんなことよりも…!」バッ



 正義のヒーロー「おい!君しっかりするんだ!おい…しっかりしろ!!」




レッド(瀕死)「 」




 正義のヒーロー「いかん、このままでは助からない……ならば」カッ!!!



レッド(瀕死)『  』パァァァァ…!


レッド(?)『』ガシィィン!!





 正義のヒーロー「おい、しっかりしろ!"アルカイザー"」





レッド(?)(ある、かいざー?)





薄れゆく意識の中、レッドは暗闇に差し込む光を見た、あの落下事故で目覚めて最初に木漏れ日を見た様に






そして違和感に気がつく






レッド(?)「…うん?」ガシャッ

レッド(?)「アンタ…なんだそのふざけた格好は…俺にもこんなもの着せてふざけてるのか!」ガシャガシャ





 違和感、それは…目覚めてすぐ目の前にいる全身よろい鎧スーツという
まるで特撮物に出てくるヒーローのようなコスプレをした男と全く同じような衣装を自分も着ているということだ


つま先から肩まで全身に頑丈なアーマー、頭部はバイザー付きでユニコーンの角が生えたようなヘルメット






 正義のヒーロー「混乱する気持ちは分かるが、…いいかよく聞け、君の命を救うにはこれしか方法がなかった」


 正義のヒーロー「本来は君にその資格があるか調査し、宇宙<ソラ>の彼方にある[サントアリオ]のヒーロー協会に行き」


 正義のヒーロー「審査が通り次第、力を分け与えヒーローにするのが正式な手順だ、だが細かく調べる時間が無かった」


269 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 04:31:50.31 ID:zLD7jsdH0


にわかに信じられないような話だった、目の前のコスプレ男は宇宙の彼方にあるヒーローのリージョンからやってきた

 フィクションでは無い、正真正銘本物の正義のヒーローで、悪の組織ブラッククロスと戦っていた最中で
瀕死のレッドとこうして出会い、彼にヒーローに変身する力を授けたのだという


この鎧スーツ男…名をアルカールというらしいが







レッド改めアルカイザー「ま、待ってくれ話を整理させてくれ……すると俺は本当にヒーローになっちまったのか?」



アルカール「そうだ、君は今日から正義の使者『アルカイザー』だ」




アルカール「ヒーローになってしまったからには"ヒーローの掟"に従わねばならない!」


アルカール「【ひとつ、ヒーローにふさわしくないと判断されれば君は消去される】」

アルカール「【ふたつ、一般人に正体を知られた場合は記憶を全て消される】」





悪の組織に、特撮番組に登場する変身ヒーローのお約束みたいな"掟"…いよいよ以って現実かどうか頭が痛くなってきた


頭痛がする、痛いのならこれは残念ながら現実なのだろう…信じがたいが




…信じがたいが消えかけていた命の灯を救われたのもまた事実、そして






アルカイザー「…なぁ、ヒーローは強いのか?俺を強くしてくれたのか?」




あの時、朦朧とする意識の中、光り輝く脚で自分の技が通用しなかった家族の仇を"ヒーロー"は確かに圧倒していた



アルカール「…君が今何を考えているのか大体予想はつく、ヒーローの力は『正義の為』に使わなくてはならん」







        アルカイザー「ブラッククロスの奴らをこの力でぶちのめすッ!!!」ギリィッ!!


   アルカール「復讐はいかん!!正義の戦い以外に力を使えば君は消されてしまうのだぞ!」







   アルカイザー「はっ!どのみち俺は死んでたんだろう、ブラッククロスは…ブラッククロスだけは絶対許さねぇ!」



270 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 04:44:06.34 ID:zLD7jsdH0



―――
――



その日から、小此木烈人…レッドは父親の親友だったらしいホークという人物の誘いで

[キグナス号]という船の機関士見習いとして住み込みで働き各地のリージョンを転々とする日々を過ごした








あの日の事は一日たりとも忘れない、家族を殺され、復讐を誓ったあの時の気持ちを…!





ある時は巨大カジノのリージョン[バカラ]でシュウザーを見たという情報が入り
 そこでブラッククロスの戦闘員と怪人を倒し、またある時は[シュライク]に戻り女児誘拐事件を起こした戦闘員たちを
ヒーローに変身して次々と打ち倒していった


…その時は誘拐された女児の証言や、都市型リージョンということもあり大々的に新聞にも載ったが

変身した姿を見られなくて良かった…








そして、時は現在に戻る




[マンハッタン]の爆破テロでシップの運行が一日遅れたが彼は[キグナス号]と共にやってきた

そして…ひょんなことから船内に大量の密輸武器を見つけてしまった!!何処かで戦争でもやるというのか
こんな物騒なブツを一体どこの誰が持ち込んだのだッ!


家族の仇への復讐心は忘れない、だがそれとは別に元から彼は正義感の強い男だった


だから今回の密輸武器の真相を突き止めるべく、[キャンベル・ビル]に向かう矢先で妙な不良刑事に追い回された、と


そして―――


















           白薔薇「きゃ、きゃああああ!!!!」


        レッド「う、うわぁぁぁぁぁ…あ、ぶつかる訳にぁ行くかぁぁぁぁ!!!」キキィ―ッ!!



271 :今回は此処まで! [saga]:2018/03/14(水) 05:41:21.67 ID:zLD7jsdH0
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


                    今回は此処まで!!!



『BGM:サガフロより…戦え!アルカイザー!』

https://www.youtube.com/watch?v=ZqhEamURFyM



  液晶画面の前に居るちみっこの諸君ッッ!!今日はみんなのヒーロー、アルカイザーについて解説するッ!


 説明しようッッッ!!アルカイザーとは!!正義のヒーローが住むリージョン[サントアリオ](原作中名前しか登場しない)からやって来た
正義のヒーロー、アルカール男爵から力を授かった小此木烈人<オコノギ レット>少年が変身した姿であるッ!





彼は一部のイベント戦闘を除き全ての戦闘で『変身』コマンドが使用可能なのだ

【人間<ヒューマン>】【モンスター】【妖魔】【メカ】その4種族のどれにも属さない【ヒーロー】という特殊な種族であり
専用技ヒーロー技という特殊な技術を閃くぞ!



レッドは変身に1ターン消費してしまうが、変身した場合はHPが全回復し


  『 最 大 HP が 2 5 0 も 上 昇 ! 最 大 VIT 7 5 更 に 他 の ス テ 値 が 全 25 上昇 』

  『 気絶(即死)、石化 、睡眠 、麻痺 、毒 、精神(魅了や混乱)といった全状態異常が効かなくなるのである』




ただし、ヒーローに変身した場合戦闘終了時にステ値が上昇しないので基本は生身で殴り合いをした方が良い

噂によると変身時に自動的に装備される[レイブレード]等のヒーロー装備によってステ補正が付くから成長しないシステムだとか…
サガフロは基本的に装備すると大幅に能力値が上がる武具を装備すると成長の妨げになる

アセルス編で調子ぶっこいて[幻魔]頼りにしてるとアセルスが修行不足になりやすいとか…

結論:ヒーローたるもの日々の鍛錬を疎かにしてはならないッ!


なお、変身シーンを一般人(仲間キャラ)に見られる訳にはいかない為、味方がレッドの変身を目撃できない状態でない限り変身はできない

※ヒーロー協会は『見られさえしなければOK』のスタンスらしく、仲間が麻痺、暗闇、睡眠、石化、戦闘不能、混乱など
 仲間が全員レッドの変身を認識できない状態異常なら可能
 ちなみに、人間、妖魔、モンスターは駄目だが、メカには見られても良いらしい、命令を固く守るロボットは人に言いふらさないし、無機物だからである
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三
                      }  ヽ    |∨/ //    ____
                      }   `、  ./ /∨// , ・'"    `、
                      ヽ  ,r'´/~ヽ|//|///        |
                       ヾ/|‐/_,/ ||//|<_ ..-‐=、    `ヽ、
                  _........-―‐i / /  |.|~`/,r―-)    }}――‐-=}、_
                   ̄ ̄ ̄ ̄|ソ ./ .//|_/ }_/、   /li     //  ヽ、
                        .ヽ ./_//)'/ヽ_,r‐' \ヽ__.//  __/    .|
                 ,、o     {`'~>‐'´ `ヽ-.、   ヽ〈、 ̄~ ,'.l´}`lz、  |
             _,..-''"`}l     .人 |~ヽ   `、/ヽ、  | .|    ヽヽヽヽヽ./
            _}}__  }ヾ_  / >-' .`、   .`、 ヽ__ノノ}    <ヽ```ヽ/
          /  }}  `ヽ、~} / .,/ ./    `、   }    <ー'、     ̄ ̄ヽ
      ,xー=x、_..-、,r}ヾ、  ``}}ー'|,-}___  }ー--/    .∧_|        `、
     /   //  `==ヾ、   }}    |`'´`ヽ_)'<三彡}     .| .|    、     .`、
   ./    //   〉=/ r-,'~)、__..‐'‐、 /~/_`ヽ__)ヽ、,..'|" ノヽ  .`、     `、
  ./    //_,.-||// ,' ,' / |~})   >'-/__  ̄)ー-、 ) `-{´ .`、  .`、     `、
 / ,.-'´ ̄ ̄    // ) `ー'-'-'/=ー-='―' .ノ_  ̄ (~`、   ./.}   `、  `、     `、
/ /          ̄ </~ヾ、/| ̄フチフく´   `ー、ヽ ヽ  / /,--、 |   `、     |
               ヽ  ./|.,ト/ /,.|   ̄`ー―.'-‐'´ ̄~~| ,' |  .ヽ.|    `、    |
                \/〉´`l //ソ     ./~`ヽ___|,' |   `、   `、   ./
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                .,rl_/ /ー―'''´        ∧  } }    } ``‐--‐ヽヽ_,、
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───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 14:27:58.18 ID:3yZnWKRZ0

変身システムはレッド一人だけになるまで追い詰められた時にお世話になったのでよくできてるなぁと思いました
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 16:07:41.61 ID:clHs7vPPO
テロ後のレオナルドはシステム的にはやはりロボ扱いなんだろうなぁ……
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 03:46:54.58 ID:axptN3b50
真・アルフェニックスは前情報なしで閃きたかった……
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/04/10(火) 22:58:28.22 ID:hrl4ammY0



全身全霊を掛けた急ブレーキ、靴底の踵部分が一気に数pすり減り、路面はマッチ箱を擦ったかのような跡と摩擦熱が残る
あわや惨事になる寸での所で彼と彼女は激突を免れた



レッド「だ、ダイジョウブ、か?」



恐る恐る、眼を開いた白薔薇に対して、心拍数が2倍速でリズムを刻む彼は片言ながら尋ねた…



白薔薇「は、はい…」




レッド「よ、良かったぁ〜」ヘナヘナ


とりあえず、女性を全力で跳ね飛ばさなかった事に心底安堵したようで、彼はその場にへたり込んだ
 そんな二人の元へ遅れてやって来るのは不良刑事ことヒューズであり手にした銃を下げ目の前に奇妙な光景に眉を顰める



ヒューズ「…昨日のレディか、また迷ったんですか?」

レッド「うげっ!?お、おっさ―――ごほんっ、知り合いなのか?」



 どうやら目の前の貴婦人はこの不良刑事の知人らしい
怒り狂って先程までレッドを焼き焦がそうとしていた凶悪な重火器は――知り合いの前だからか――既に彼を狙っておらず
兎にも角にも事態が自分にとっていい方向に転がりそうな気配を少年は感じ取った


…此処で間違っても「おっさん」などと言って怒りの導火線に再点火しない限りは




白薔薇「まぁ…!ヒューズさん!またお会いできましたね!」ニコッ

ヒューズ「へへっ!いやぁ〜連日のように美人さんに巡り合えるとは俺もツイてますなぁ、はっはっは!」


白薔薇「そちらの方はどうかなされたんですか?なにやらお急ぎで逃げていたようですが」


ヒューズ「え、あ、あ〜、いやね?ここは大都会でしょう?白薔薇さんと同じようにこの坊主、迷子になってたんですよ」

ヒューズ「それで俺がいち警官として道案内してたってワケで」




レッド(このおっさん…よく言うぜ)




っと、見た目麗しい貴婦人の前でマジメな警察を演じ始めたおっさんに内心毒づいたが
それで自分が助かるならば何も言うまいとレッドは合わせる事に決めた



レッド「いやー、そうなんですよ、俺、あのビルに行こうとして、急ぎの用だったんで全速力で走ってて…」

レッド「本当にすいません、さっきはぶつかりそうになって」ぺこっ


白薔薇「いえいえ、良いんです、私もぼんやりと歩いていたのが悪いのですから」


ヒューズ「(…そう来たか)くぅ〜…なんて良い人なんだ、オイ小僧、次からは気ぃつけて歩けや!」

レッド「わかってるって…んじゃ俺は急ぎの用なんでこれで!」タッタッタ!


道すがりの女性を利用したようで気が引けたが、ともかく彼は不良刑事のリンチから逃れるチャンスを生かし、場を去った
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/04/11(水) 02:59:17.74 ID:0WsO7RUb0




             アセルス「白薔薇ぁぁぁぁ!!!!!」タッタッタ!

              ルージュ「や、やっと見つけた…」ゼェゼェ




白薔薇「まぁっ!アセルス様!ルージュさんもエミリアさんも!」


ヒューズ「げっ!?エミリア…!!」ビクゥ


ヒューズ「な、仲間が来てくれてよかったじゃないですか!じゃ、俺はこれで!」ビシッ!ダッッ!







アセルス「駄目じゃないか!!勝手に居なくなって!」

白薔薇「も、申し訳ございません…」

エミリア「まぁまぁ…それより行きましょう?」






―――
――



【双子が旅立ってから…3日目、朝8時07分 :[マンハッタン]シップ発着場】



アニー「着いたわね![マンハッタン]」

サングラスを掛けた男「そのようだな…、後2時間もすればエミリア達と合流し[クーロン]に帰る事になるだろう」


アニー「じゃあさ!!それまで買い物楽しんできても良い!?此処のアクセサリーショップ人気高いんだよね〜」

アニー「風邪で寝込んだライザの分までなんかお土産買ってあげたいし」

サングラスを掛けた男「好きにしろ」



サングラスを掛けた男「君はどうする?ライザのチケットが余ったからとアニーに連れられたのだろう?」




ブルー「…別に」






元は自分の金で買った乗船チケットだ、急遽来れなくなったアニー等の仲間の1人の代わりに自分が乗る事になった

 この3日間で"保護のルーン"…なにより遭遇できるかどうかさえ怪しい[タンザー]の体内にあった"活力のルーン"を発見
その功績は大きいと言っても良い、そして…



サングラスを掛けた男「…それにしても中々感心した、君のような男が居るとは…勝利こそ男のロマン!分かっているな」

アニー「うわっ、出たよ…ルーファスの病気が」ハァ〜


ルーファス「アニー、何を言うか、勝利は良いモノだ、女のお前には分からんだろうがな…!」

277 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/04/12(木) 20:21:58.35 ID:MRpS5VUSO
なんであんなに勝利フェチなんだろうなこのグラサン
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/04/13(金) 22:27:03.36 ID:idnRdBzy0





"勝利のルーン"



 印術の資質を修得する為に乗り越えねばならぬ4つの試練、その内2つは既に乗り越え、もう半分は今この場に居る男女が
試練の成功へと繋がる鍵を握っている


刑務所への潜入はアニー、そして…―――この日の朝、ブルーが知り合ったルーファスというサングラスの男



 彼はどういう訳か"勝利のルーン"が刻まれている遺跡によく赴き
観光目的で訪れた男性客に『勝利ッ!それは男の勲章!そう思わんかね?』と問うらしい…それだけ聞けば変質者である




 先述の通り、この3日間で試練を2つも踏破したのは功績として大きい、陰と陽の資質は先日の事件が切欠で今は誰ひとり
修行することができない為、ブルーもルージュも指を咥えて待つか他の資質集めに奔走する他ない…

先に[ドゥヴァン]で小石を受け取り、既に半分試練を終えたブルーには余裕があった


仮にルージュが秘術ではなく印術の試練を選択していたと仮定しても、追い抜かれることはほぼ無いに等しいし

 万が一にも弟が兄より優れていてこの3日間で秘術の4試練を全てクリアしてたとしてもだ
[ルミナス]の封鎖が解除されるまで暇を持て余すのだ









ブルー(術の鍛錬…それと、術力が切れて魔術が使えなくなった時の対処法を練るなりしようと考えていたが…)



ブルー「ルーファス、本当に"勝利のルーン"について詳しいんだな?」





ルーンの刻まれた巨石付近は力に引き寄せられてモンスターが出没する、粗蟲共然り、スライムプール然りだ
前情報を得られるならば、聞いておいて損は無かろう…



ルーファス「ああ、何度か[武王の古墳]には潜ったことがあるからな、経験譚を聞かせてやろう」



腕を組み相変わらずサングラス越しの眼はどうなってるのか分からんが微笑を携え、それはそれはご機嫌といった様子だ








アニー「ルーファス!!ちょっと買い物行ってくるからねーーー!」



ルーファス「ああ!…さて何から話したものか…まず、入口から入って左側の奥に宝箱が3つある部屋があるがそれは」


―――
――


279 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/04/13(金) 23:06:23.35 ID:idnRdBzy0





ルージュ「お、おぉ…!あれがキグナス号!!」





シップ発着場の展望エリアから眺める宇宙船<リージョン・シップ>の機影に銀髪の彼は目を輝かせた

 白く美しい白鳥をモチーフにしたデザインは実に見栄えの宜しい外装であった、一眼レフカメラを手に
その姿を写真に収めるマニアのシャッター音が激しいのも頷ける



白薔薇「…綺麗ですわ」

アセルス「どう?機械にもああいうのがあるんだ」

白薔薇「ええ…[ファシナトゥール]に居た頃は全く想像もつきませんでしたが…これは」




エミリア「…」


エミリア(キグナス、か……レン、私達あの日、二人で一緒に乗ったわね…パトロール隊員なんて危険な仕事辞めてって)


エミリア(私があそこであんな事言わなければ喧嘩なんてせずに済んだの…?)


エミリア(気まずさも何も無く、もっと陽の高い内からウェディングドレスを持って家に行けて…そうすればレンも)ジワッ


エミリア「…っ!」フキフキ


エミリア「いつ見ても!綺麗な船よね!!!三人共!売店でも見に行かない?観光ガイドとか必要でしょ」ニコッ






「…おい、あの船か?」ヒソヒソ
「ああ、情報は確かだぜ…」ヒソヒソ
「よし、ノーマッドのお頭に報告だ」ヒソヒソ









様々な思惑、想い、人々を乗せて、白鳥の乗降口は閉ざされていく…








【10時25分】 [マンハッタン]発 [クーロン]行き便は今、大空の彼方へとその翼を広げ飛び立った…







280 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/05/22(火) 23:04:56.70 ID:2Lg3471g0


混沌、それは雲が悠々と流る青空を突き抜けた先にある"空の先にある空"の事だ



 その空間は死が充満していて、あらゆる生命は放り出された瞬間に身体が圧縮されて潰れ、消滅すると学者は説いた
大気圏、という世界<リージョン>を覆うフィールドバリアに護られているからこそ地上の生物は生きていける


だが大気圏の外、即ち混沌の空では身体が重力の激流に常に晒され肉も骨も軋み縮み、最後は圧縮されて粉微塵となり死ぬ

どこかのリージョンでは混沌の事を"宇宙空間"という名称で呼ぶようだが…それは少数派である











ブルー(悪くないな)






死の空を白鳥を模した光り輝く箱舟が渡航していく

 金の髪を束ねた魔術師は船内を暇つぶしがてらに散策していた
オーバーワークな鍛錬も祖国からの任務も今日は遂行しない、適度に急速を取らねば効率が落ちる…

テラスから眺める空は、月並みな言葉しか出せないが綺麗だった

 雲を突き抜け、星が矢の様に眺める自分達の視線から外れていく…
こんなにも美しいというのに、外は一歩出れば身体が朽ちて死に至る空間だというのだ



紙コップに入った甘いカフェラッテを傾け、彼は穏やかな時間を過ごして居た…思えば初めてかもしれない
祖国に居た時は術士としての学業に明け暮れ、寝ても覚めても参考書の文面とにらめっこで


いや、遠い昔、学院を抜け出して同い年の誰かと遊んだような気がするが…この歳になってからは初めてだ





アニー「あっ!居た居た!アンタねぇ!勝手に居なくなって探したわよ!」タッタッタ!


ブルー(…鬱陶しい女が来たか)ハァ…


アニー「ちょっと、なにさ、その顔…露骨に嫌そうな顔を」


ブルー「別に、それより何か用があって来たのか?」ゴクッ



面倒臭い、そんな態度を顔に思いっ切り出しながら紙コップを口元に運び甘味を嗜む
 相変わらずの不愛想な男に少しだけムッとしつつも金髪の女は答えた


アニー「あたしの知り合いとこの船で合流する予定って前言ったじゃん?」

ブルー「ああ(聞く限りで頭の悪そうな女か)」


アニー「時間帯も丁度いいしバイキングを楽しみながらって思ったのよ、ブルーも来る?」


ブルー「結構だ」


豪華客船のビュッフェは彼自身も興味はあるが、アニーだけでなく更にうるさそうなのが一緒なのは御免だ、そう思った


281 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/22(火) 23:17:01.84 ID:ycsGzSzQ0
きたきた
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/22(火) 23:23:59.76 ID:Kh9TbcU/O
キター‼
283 :このレスは判定に含めない [saga]:2018/05/23(水) 00:27:33.33 ID:j4kZd+nl0


アニー「そうかいそうかい、ならそこに1人で居るんだね」

 折角人が飯に誘ってやったのに、と文句の1つ言ってやりたいが…
此処で騒ぐのも他の乗船客に迷惑だな、と彼女は慎む事にした

上司であるグラサン男はVIP専用の部屋で趣味の東洋刀を磨いている頃だろう…隠れ刀マニアで[シュライク]まで赴いては
[刀]を何処かの古墳から拾ってきたがっていたそうな…



青い法衣の男に背を向け、彼女は階段を下りてレストランへ向かっていく













アセルス「…美味しい」

エミリア「ふふっ!なら良かったわ」クスッ




レストランは人気が高く、昼食を求めてやって来た家族連れも含め大盛況と言っても良いだろう
銀食器で切り分けたガレットを一口、アセルスお嬢は蕩けるようなチーズとハムのハーモニーに正直な感想を漏らした


エミリア(この子も歳相応な笑顔をよく魅せるようになったわね…)

エミリア(突然、拉致同然で連れてかれてしかも人間としての生涯を奪われて…)ホロリ



アセルス「それにしてもこの料理…なんだかクレープみたいだね」

白薔薇「これはガレットですわ、痩せた土地で栽培が可能な粉を練った物で何世紀もの時を得てクレープになったのです」


アセルス「ふぅん?要するにクレープの御先祖様なんだ」クルクル


切り分けて生地で半熟卵<スクランブルエッグ>やハム等を巻いて食べる料理をマジマジと見つめる

まだ[シュライク]で普通の女子高校生として暮らしてた頃、帰り際に寄っていた屋台で売られてるホイップクリームだの
苺やバナナを包んだデザートの元となった物なのか、と感慨深げに眺めてそれからもう一口、噛み締める





白薔薇「それにしてもルージュさん、船内を探検したいだなんて」

アセルス「ルージュもあれで結構子供っぽいとこあるからなー…」



 この場に居ない紅い魔術師は目を爛々と輝かせて船内を歩き回っている
機械文明がそれほど盛んではないリージョンからやって来たのも相まって色々と見て回りたいのだろう



特に、医務室前で[医療用ロボット]を見た時なんか視線がもう釘づけで―――





アニー「エミリアーーーーっ!!」パタパタ…


エミリア「んん?アニー!アニー!!」ガタッ


アセルス(走って来る女の人、あの人がアニーさんか…綺麗な人、っていうか胸が大きい…)じーっ
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/05/23(水) 02:46:23.14 ID:j4kZd+nl0


【双子が旅立ってから3日目 午後13時40分】




レッド(…まさか、この船に兵器が積み込まれてるなんてな、クソ!キャンベルビルの社長め)

レッド(あのヒューズって刑事のおっさんと成り行きで一緒に行ったけど証拠もつかめない以上何とも言えなかったし)



ホーク「レッド!作業が雑になってるぞ!」


レッド「あ、わりぃ…」

ホーク「気をつけろ、俺達機関士は船に乗ってる客の命を預かる身でもあるんだからな」


レッド「ああ!」


―――
――



アニー「そう…アセルスちゃん、だっけ?今あの白い人に連れてかれた子」

アニー「彼女も相当苦労してるのね」

エミリア「事情は分かったでしょ?この子を[クーロン]の闇医者の所に連れて行きたいの」

アニー「ええ!そういうことならお姉さんも協力しちゃうわよ!」フフンッ

エミリア「さっすが!アニー!話がわかるわ!」



アニー「所で?あと、1人居るんじゃなかったの?」


エミリア「ああ、術士が1人居るんだけど…今は船の中を散歩中よ」





アニー「へえ?…"術士"…奇遇ね、あたしも今は連れに術士の男が居るのよね…」

エミリア「あら?本当に」



―――
――



ルージュ「凄いなぁ、モニター画面をタッチすると船の案内図がでるんだぁ」ピッ!ピッ!



白薔薇「あら、ルージュさん」

ルージュ「お二人共、どうしたんです?」


アセルス「あ、うん……調子に乗って食べ過ぎちゃって///」カァ///


―――
――


「うん?」

「どうした」

「機長、未確認シップ急接近が衝突コースに入ります」

「なんだと!コンマ1回避、エマージェンシーパルスで警告!一体どこのヘタクソだ…」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/05/23(水) 03:06:02.47 ID:j4kZd+nl0
―――
――


ルージュ「ほらほら!これ凄いでしょ!ボタンを押すと船の見取り図が」ピッピ!

白薔薇「まぁ…!機械というのは不思議ですわね」

アセルス「う〜ん、二人にはそんな風に見えるのか…」



―――
――




ブルー「…」テクテク


ブルー(道に迷った…)ズーン





<ほらほら!これ凄いでしょ!ボタンを押すと船の見取り図が

<まぁ…!機械というのは不思議ですわね









ブルー「うん?なんだ曲がり角の先に人が居るのか…丁度いい、此処がどの辺なのか訊くか」スタスタ


―――
――




アニー「それでさぁ!その男…すっっごく嫌味な奴なのよ!…変なとこで律儀だけどさ」ハァ

エミリア「何か話聞く限りその術士の人、かなりアレな人ね」


アニー「うん…悪い奴じゃないんだろうけどね」


エミリア「アニーってば、飲みすぎじゃないの?」

アニー「べっつにー、ちびちび飲んでるから良いのよ、それに迎え酒だから飲んだ方が良いのよ」






エミリア「あ、術士同士なら魔術とか共通の話題があるじゃない?アセルスの連れの彼と会わせてみない?」

アニー「うーん?あの協調性ゼロ男とぉ〜」ヒック


エミリア「丁度この船に乗ってるんでしょ?これも何かの縁って奴よ」

アニー「うーん、アイツとねぇ…」

―――
――



「だ、駄目です!回避パターンに追随してきます!進路を押さえています…これは!!」

「海賊船<パイレーツ・シップ>か! 緊急事態発令、全乗客・乗員を速やかに固定位置に!急げ!」


286 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 09:56:42.68 ID:6x/HGBPUO
なんと言うニアミス
てかもしかしてアニー置いて一人で脱出するのかブルー……いやいやまさかね
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/05/24(木) 20:58:10.58 ID:nadEptv50


【双子が旅立ってから3日目 午後13時48分】




 豪華客船の順風満帆な渡航は一転、最悪のアクシデントを迎える事となる

 機長の的確な指示によって突如として鳴り響いたアラートは旅行客のアルバムに忘れられない思い出の一頁になるだろう
未来予想図を語らう新婚旅行に出ていた男女、子供連れの裕福な一家、経費で優雅な船旅を楽しんでいたリーマン


酷く耳障りなサイレンと慌ただしく逃げ惑う乗客、そんな群衆を避難誘導する乗組員







   ――――混沌の大海原をフライト真っ只中、逃げ場の無い宇宙船<リージョン・シップ>内部は"檻"と呼んでも良い





近くに着陸可能な小惑星<リージョン>は無い

 これが普通の水面を走る帆船で、しかもただ座標しただけとあらば、救命ボートなり何なり出すだろうが
生憎とこれは星空を走る船、もっと言えば後ろからは武装した海賊船…乗客を乗せて緊急艇を射出しようものならどうか?



…まぁ明るい結末にはならないな






「大変だー!海賊だぁ!パイレーツが船を襲いに来たぞぉ!!」





乗客の誰かがその言葉を叫んだ、次に叫んだのは女性だった、お決まりのように「きゃー」なんてシンプルな悲鳴


 毛を逆立てた猫が飛び跳ねるが如く椅子から立ち上がるスーツ姿の男、酒気を帯びた真っ赤な顔が真っ青になる中年女性
子供を抱き抱え妻の手を引き何処かへ逃げようとする旦那、我先にと他人を押し退け、押し倒し逃げる自分勝手な輩






 阿鼻叫喚の絵図と化したレストランに取り残されたエミリアとアニー…
二人の女性もまた騒ぎの渦中から抜け出そうと藻掻いていた




「ひ、ひいいいぃぃぃ、た、助けてくれぇぇぇ!!」バタバタ

「ど、どけぇぇ!!俺が先だぁぁ!!」ドガッ




エミリア「きゃあっ!?」ドサッ!

アニー「エミリアっ!――――あたしの連れに何すんだこのクソ野郎!!」バキャァ!!


「うげーーーーっ!!」ベキッ!ズサァ―――ッ!!



アニー「エミリア、大丈夫?立てる…」スッ

エミリア「い"っ…あ、脚が…」ズキッ

288 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/05/24(木) 21:24:06.33 ID:nadEptv50


アニー「さっきのハゲおやじに突き飛ばされた時、思いっ切りぶつけたから…そん時に挫いて、くそっ」

アニー(武器はルーファスの所に置いて来てる…よりによってこんな時に)ギリッ






エミリアの肩に手を貸し友人をどうにかして安全な所へ移動しよう、彼女がそう判断すると同時に船体は大きく揺れた


―――
――



「コンマ5最大減速後にコンマ3回避だ!それから1コンマゼロの緊急出力で振り切る!」


「りょ、了解!パターン準備完了ですカウントダウン開始しま―――」




     ド ガァ ァァ アアアアァァァァ―—…ッッ!




「こ、攻撃です!パイレーツが砲撃を うわぁっ!」グラッ


「い、いかん…!カウントダウン停止しろ!ミニマムドライブまで減速だ………くっ、これでは奴らに乗り込まれるな」

「き、機長…」


「…おお、神よ」



―――
――



ブルー「うぐっ…」ドガッ


ブルー「なんだ…さっきからこの揺れは…海賊が外から撃って来てるのか!」



<あ、アセルス様!此処から離れましょう!
<わかった!二人共行こう!
<う、うん!あっちに乗組員さんが居るから僕たちも!

<タッタッタ…!



ブルー(あっちに行けば良いのか、…とんだ船旅だな)チッ


今しがた壁に打ち付けた背中を擦りながら蒼き術士は声がした曲がり角の先に行こうとしたが…




ウエイトレスの少女「! あ、あんなところに逃げ遅れた人が! そこの人!!!こっちへ早く来てください!!」


彼は自分を呼び止める声に脚を止め、振り返った、紺色のショートヘアーに如何にもウエイトレスですと主張する
白いフリフリのホワイトプリムを頭に付けた娘と……医療用ロボットが一機


ウエイトレスの少女「此処からなら向こうの東ブロックより西ブロックの避難エリアが最寄りです!」


289 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/25(金) 00:16:45.98 ID:SYiJmmwLO
ユリアか?
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/25(金) 07:49:08.96 ID:oDhSmZuwo
ユリアとBJ&Kだろうな
そういやゲームでは思わせ振りなわりにあっさりフェードアウトしちゃったなユリア
291 :>>290 ブラックレイ潜入前に一度戻るんだから会話ぐらいあっても良かったですよねー [saga]:2018/05/29(火) 22:43:30.05 ID:9EwUrBht0
―――
――



ドカッ!バキィ!


「うわらばっ!?」
「おぎゃっ」
「あばっぷぅッ」




ヒューズ「ふぃーっ、…よう、小僧」コキコキ







キグナス号を襲撃した海賊が優先的に狙ったのは機関室、そして機長らの居る操縦室だ

機関士見習いのレッド少年は世話になった父の友人ホークを人質に取られ両手を上げて降伏することを余儀なくされていた
そこへいつの間に紛れ込んでいたのか、あの不良刑事が瞬きする間もなく相手を叩き伏せたのだ


レッド「ヒューズのおっさん!アンタもこの船に乗り込んでたのか!」


ヒューズ「だ・か・ら!俺はおっさんじゃ―――ああ、このやり取り何回やらせんだボケ!」

ヒューズ「いいか、連中の狙いはこの船に積み込まれた密輸武器だ」


ホーク「海賊共が情報を掴んだのか?」



 ホークが帽子を被り直し、刑事に問う「ああ、だが情報を流したのはキャンベル社長さ、あの女、大したワルだ」と頭を
掻きながら刑事は吐き捨てる様に返答を返した



レッド「!キャンベルが海賊を使って武器の密輸売買してるって情報を隠滅しようとしてたのか!!」


ヒューズ「まっ、そういうことだわな、偶々この船に乗り合わせた乗客の皆さんにゃいい迷惑だ」




ヒューズ「ざっと見て来たが奴ら迅速だったぜ、ブリッジの占拠から避難区画に逃げ遅れた乗客を船室に押し込んで人質」

ヒューズ「こりゃモタモタしてたらあの女社長の犯罪を暴く為のブツも海賊がお持ち帰りしちまう」





レッドは正直言って碌な印象の無いヤクザ染みたこの男を初めて見直した、これでも厳選された刑事なんだな、と




ホーク「そこの配管から上へ伝って行けばレストラン方面へ出られる、どうする?」



レッド「決まってんだろ!ヒューズ!海賊共をとっちめるんなら俺も協力するぜ!」



 ヒューズはしばし、考えたがこの船に詳しい奴が1人でも居れば策は練りようがある
連れて行く価値があると判断し同行を許可した



ヒューズ「いいだろう、やり方はお前に任せるぜ、機関長のおっさんは此処を見張っててくれ」

292 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:33:36.26 ID:yH3SqLpn0



 動力室のパイプダクトをよじ登り、天井の小さな緊急用の出入口に手を触れる
有事の際に天井扉を潜り狭い道を進んでいけばレストランに置いてあるピアノの真下に出て来れる仕組みだ

乗組員だけが知っている緊急避難ハッチ、レッドは機関長に手渡された工具で天井の戸を開けて入り、その後を刑事が続く



レッド「…まさか、ガキの頃みたスパイ映画みてぇな事するなんてなぁ」

ヒューズ「へっ、スパイ映画か…笑える例えだぜ、全く」



レッド「この真上だな、今開ける」カチャカチャ

ヒューズ「おう、匍匐前進で狭い中を野郎のケツばっか見んのも嫌だからな早めに頼むぜ」



 カチャカチャ…!カチッ!




  レストランフロア緊急ハッチ『 』パカッ!





―――ヨジヨジ、ゴソゴソ…ヒョコッ!





レッド「 」キョロキョロ


レッド「よし、誰も居ない!」バッ!


ヒューズ「……めっちゃくちゃだな、料理の乗ったテーブルひっくり返ってらぁ、勿体ねー」キョロキョロ



刑事は、ホルスターからIRPO隊員に支給される[ハンドブラスター]の電源を入れる
 敵を痺れさせるパラライザー形態から電光剣と化すソード形態にもなる多様性のある重火器だ



レッド「野郎共め…!通路を楽器で塞いでやがる」

ヒューズ「コンサート用の楽器か、出鱈目に積み上げてバリケードのつもりか」



レッド「…右側の通路と左側の通路、どっちから攻める」

ヒューズ「右だな、俺の勘だが左は奴さん達が見張ってると見たね」




スタスタ…!



ヒューズ「! 待ちな」ガシッ

レッド「おわっ!」

ヒューズ「声出すんじゃねぇ!…ほれ見て見てろ、俺の勘は正しかったろう、曲がり角の向こう」スッ

レッド「あぁ!人影が…」

ヒューズ「この船の構造上、どう見る?」

レッド「…この先に行けばグルっと回り込める…俺とアンタでアイツを挟み撃ちにできそうだ」

ヒューズ「決まりだな、レッドお前はあっちから行け」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 00:35:29.00 ID:5VvMLvIe0
ここ無言で目配せかハンドサインしてんのかと思ってた
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 22:14:20.02 ID:2Jjr6Yws0





「ふわぁ…眠ぃ…」

「おいおい、気ぃ弛み過ぎだろ、そりゃあ長ぇこと[タンザー]の中に居たってのぁ、あったがよ」

「いいじゃねぇか、あのくっせぇ空間からやっと出られたんだぜ、リラックスしたってバチ当たらねぇだろ〜?」






客室の前に二人、見張りが居た

 彼等の頭領が目的の"ブツ"を回収して出て行くまでの僅かな時間、退屈で欠伸が出る程に何も無いだろう時間が刻一刻と
過ぎていくのだろうとボヤいていた…



ましてや戦い慣れした輩が自分達を挟み撃ちにする気だなどと思いもしなかった








レッド「うおおおおおおおおおっ!!」バッ!



「なッ、だ、誰だてめぇ―――へげっ!?」ゴベキャッ



ヒューズ「おっと、援軍呼ばれちゃ堪んねぇからな、ちょいとばかし"おねんね"してなァ!」蹴り!


「はごっッ!」









 奇しくも、怠惰を貪りたがったサボりたがりの海賊の願いは叶う事となった
刑事の蹴りと後ろから猪突猛進で殴りかかって来た少年の手によって




レッド「ふぅ…呆気なかったな」

ヒューズ「なぁに、案外こんなもんよ…援軍呼ばれりゃそんな軽口も叩けねぇ状況になってたのはこっちだぜ」



 防音仕様の船室内では恐らく、他の下っ端共が屯ってトランプ遊びでもしてんだろう?っと
扉の前に居た二人を縛り上げながらヒューズは口にする



ヒューズ「こういうモンは各個撃破が基本だ、馬鹿正直につっこみゃやられんのは俺達だ」

ヒューズ「極力、見張りの奴さん達に見つかんねぇように動く、良いな?」


レッド「ああ」

295 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 22:35:57.67 ID:2Jjr6Yws0

バキッ! ゴスッ! タァンッ!

<て、敵襲
<言わせねぇぞオラァ!


ガシッ!グワァン!  ゴシカァン!

<警察舐めんな!




ガチャッ!



ウエイトレスの少女「ひっ!」ブルブル





レッド「ユリア!無事だったかっ!!」


ユリア「…ぇ、レッド?…レッドなの?」オソルオソル





 船室に押し込まれたウエイトレスの少女は何時海賊の男達に乱暴されるのかと肩を震わせていた
扉が開かれ人影が駆け込んできた時、反射的に目を瞑った彼女は聞き覚えのある声にゆっくりと目を開けた



ユリア「レッド!あぁ…!助けに来てくれたのねっ!ホークは無事なの!」ジワッ

レッド「ああ!ホークのおっさんは無事だ!他の人達は?」


ユリア「そ、それが分からないの…」

ユリア「私、BJ&Kと一緒にお客様の避難誘導に当たって…そ、それから逃げ遅れた人を案内してたら見つかって」ブルブル


レッド「ユリア…大丈夫だ、俺達が来たから…」ギュッ

ユリア「…レッド」





ヒューズ「あー、あー…うぉっほん、キミたち青春すんのは良いんだがね、TPOを弁えちゃくれませんかねぇ?」




レッド/ユリア「「あっ//」」




ワザとらしい咳払いと棒読みな刑事の発言に少年少女は照れくさそうに離れる、小声で「く、くそぉ…おっさんめぇ」っと
レッドの恨み言が聴こえた気がしたがヒューズは気にしない



ヒューズ「んで?ウエイトレスのお嬢さん、あー、ユリアさん?覚えてる限りで海賊共の動向や気になることは?」


ユリア「わ、わかりません…海賊たちは積み荷が目的みたいで私達は皆、船室に押し込まれて…」



ユリア「あっ…!あの!見つかった時に一緒に居た蒼い服を着た術士風のお客様とはぐれたんです!」

ユリア「なんとか捕まらずに逃げてくれたのなら良いんですが…もしかしたら船内の何処かに隠れてるかもしれなくて」


ヒューズ「ふむ、逃げ遅れた一般人の乗客ね、…要救助者か、貴重な情報感謝しますよお嬢さん」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 22:48:02.67 ID:2Jjr6Yws0



レッド「わかったよ、俺達が探してくるからユリアは此処で待っててくれ!じっとしてるんだぞ」

ユリア「うん、…レッド、気をつけてね」


レッド「ああ!任せとけ!」ニィ!


タッタッタ…!バタンッ



―――
――







    ヒューズ「 こ の こ の ぉ ! 羨 ま し い じゃ ー ね か ! 小 僧 !」グリグリ







レッド「痛ぇぇ!!いででででで!や、やめろってば頭ぐりぐりすんな、おっさんてめぇ!!」


ヒューズ「くぅ〜!あんな可愛い子ちゃんとよぉ!これだから最近のガキは!」グリグリ



レッド「離せっての!!」バッ




レッド「ぜぇ…ぜぇ…ったく、それより話聞いただろ?逃げ遅れた客がまだ船の中うろついてるかもしれねぇって」

ヒューズ「だな、一般人の救助も警察のお勤めだ…他の客室も回るっきゃねーな、こりゃ」


レッド「…あ、そうだ、ヒューズ、隣の部屋に行こう、戦力になりそうな奴が居るんだ!」タッタッタ!


ヒューズ「あん?…なんだぁ?"医務室"?」


レッド「とりあえず入れよ」ガチャッ!




―――
――



【キグナス号:医務室】



レッド「えっと…」キョロキョロ

ヒューズ「何探してんだよ」


レッド「…あっ!いたいた!アイツだ」





医療用ロボット(節電モード)「 」シーン


レッド「…良かった、パイレーツ達に壊されてない、電源を切られてるだけだ…」カチカチ!ポチッ!
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 23:10:40.43 ID:l3uwzmumO
ゴシカァン‼
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 23:12:18.33 ID:2Jjr6Yws0


ウイーン、という起動音と共に1台のメカがスリープモードから目を覚ます
丸っこいボールのような足が3つ、その中心はチェスの駒で言うポーンを逆さまにしたような体型

両腕を挙げて、動作確認を行い、そして開幕一言が…








医療用ロボット「異常ありません。」


レッド「異常大ありだろう!ちょっとついてこい!」ガシッ





丸っこい、愛嬌のあるロボットを掴み、医務室を出ようとするレッド少年に刑事は口を挟む




ヒューズ「おい、レッド…そいつ役に立つのか?」


レッド「ああ、立つさ…こいつは[BJ&K]、正式名称は[Black Jack&Dr.K<ブラックジャック &ドクター ケー>]」

レッド「ウチの船に派遣されてる医療用メカで最終兵器だ」


ヒューズ「最終兵器ぃ?こいつが?」



レッド「ああ、こういう緊急事態を想定してこいつには[圧縮レーザー砲]が装備されてるんだ」

レッド「どんな敵が来てもコイツのレーザービームでイチコロだぜ」




医療用ロボット…確かに怪我を負った場合、居てくれれば心強い事この上無いだろう
しかし、[圧縮レーザー砲]…


その名前を聞いてヒューズはギョッとした



それは正式な軍隊で戦闘メカに搭載される[破壊光線銃]に負けずとも劣らない重火器装備ではないか…!
風の噂では[クーロン]の闇市場でさえ、早々お目に掛かれない武装だ




ヒューズ「マジかよ…なんつーモン装備してんだよ、ってかソレ本当に医療メカかよ」


レッド「燃費の割りに凶悪な破壊力だからな……」

レッド「まぁ、俺も初めて知った時『コイツぜってぇ戦闘メカの間違いだろ』って思ったけどな」



BJ&K「」じーっ


BJ&K(?…解析結果、体調安定、怪我人無し…非常事態ゆえに体温、脈拍の乱れあり…生体反応…???)




2人のそんなやり取りの中、医療メカはレッド少年を"診て"奇妙な違和感を察知していた…

この時、それは『戦闘による緊迫や呼吸の乱れ等から来るモノ』、とその程度にしかまだ認識していないが…

299 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/13(水) 01:20:11.87 ID:BFOO71OK0
―――
――



【キグナス号:客室 ブルーの居る場所】



ブルー「…っち、面倒な事になったものだな」




あの後、ウエイトレスの少女ことユリア、そして隣に居た医療用メカと移動していた最中に海賊に見つかり彼は
ユリアと"ワザとはぐれた後"追って来た下っ端を"追って来れない身体"にした




ブルー「[タンザー]に飲み込まれ、ハイジャック事件に巻き込まれる…どうにも船には縁がない様だ」ぽふんっ




 自室のベッドに腰掛け、大事な荷物の入った[バックパック]を確認する…祖国からの支給品は無事だ
先日、粗蟲共の所で[リージョン移動]を落としたばかりで次は海賊に奪われましたなど、笑い話にもなりゃしない

今度からは肌身離さず持っておこうと術士は宝石を握りしめ、固く誓った








――――バンッッッ!!





「ヒャッハー――!!見ろよォ!!まだこんな所に乗客が居たみたいだぜェ!!」

「もうこの階の奴ぁ全員連れてったと思ったがこいつぁ運が無かったなァ!」ケラケラ!

「おっ!見ろよ!あの金髪のチャンネー!手に綺麗な宝石持ってんじゃんか!」









                  ブルー「…あ"?」ピクッ








チャンネー


ブルーの横顔を見て、見回りに来た海賊共は"逃げ遅れた女"が居る、そう判断したようだ




そして、その"チャンネー"は眉間に皺を寄せた、キレる数秒前である



「へへっ、そいつをこっちに渡しなぁ・・・そうすりゃ乱暴しないでやるぜ」スチャ

「おう、貰うモン貰ったら後はこの部屋に監禁する程度で済ましてやっからよぉ!アヒャヒャヒャ!


300 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/13(水) 02:00:36.72 ID:BFOO71OK0


―――
――



レッド「見張りが向こうを向いてる間に走り抜ける、ちょっとヒヤッとしたかな…」

ヒューズ「見つかればリンチ確定だ、[ロックバブーン]や[ドラゴンミニー]とかあれこそ集団で来られたら勝てねぇ」

BJ&K「…」ウィーン




2人(と1機)がキグナス号の廊下を、それも丁度とある客室前を歩いていた時だった




バゴンッ!!








      「うわらばっ!!!」「あべしっ!」「ひでぶっ!」ドキャ―――z____ンッ!!







レッド「うわっ!な、なんだぁ!?」




「「「――――――」」」ピクピク…



BJ&K「生体反応あり、3名とも昏睡状態、身体中に火傷、感電の痕が見受けられます」


レッド「こ、この部屋から吹っ飛んできたぞ…」




―――
――



ブルー「…ふぅー」


ブルー(アイツ等何処かで見た気がしたと思ったら[タンザー]に呑まれた時に居たな…)

ブルー(まぁどうだって良いか、くだらんことに術力を使ってしまった)



ガチャッ



ヒューズ「ちょっとお邪魔するぜ、部屋の外に吹っ飛ばされた連中…アンタがやったのかい?」

ヒューズ「おたく相当強いねぇ、協力してもらえないかい?」



ブルー「関わり無いな」シレッ



…面倒なことに巻き込まれそうだ、瞬時に判断した彼は一言そう言い放った
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 06:57:51.65 ID:UAeR+Xpvo
タンザーから脱出したと思ったらブラッククロスに木っ端微塵にされると考えてみると少し哀れな未来が待ってるなこいつら……
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/14(木) 20:33:46.22 ID:WJYfP/9yO
ここで夢の共演……はさすがに無いか
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/15(金) 20:56:35.23 ID:+Pd6NUmR0
ブルーとレッドだけはどの主人公選択しても仲間にできないんだよね…
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/19(火) 22:59:42.74 ID:TWuTPaRG0



    レッド「シップが動かなきゃ困るだろ!!」バッ!





 腕を組んだまま、術士は刑事と自分の間に割って入って来た年若い男を一瞥した
齢は20になるかならないかと言った所なのだろう、血気盛んで如何にも無鉄砲な男なのだろうと彼の第一印象は決まった





ブルー(……『シップが動かなきゃ困る』か)




彼の手には輝きを秘めた宝石が握りしめられている、祖国からの支給品である魔術の媒介だ
 念じれば何時だってブルーは[ゲート]の術で脳裏に浮かべた景色へと瞬間的に跳べる




つまる所、宇宙船<リージョン・シップ>が動けようが動けまいが彼には正直何の関係も無く、1人でさっさと脱出可能という














だが…







ブルー(…ちっ、この船にはあの女が居る)




このハイジャック騒動に共に巻き込まれた金髪の女の顔が過った


 印術の試練の内、"解放のルーン"を得る為には某刑務所に潜入せねばならない
――そして唯一の架橋である守銭奴のお嬢ことアニーを置き去りにして行った場合


最悪…奴に連れて行ってもらえない可能性も浮かび上がるのだ



 今、双子の方割れが資質集めの試練をどれ程成し遂げているのか分からないが、印術を諦めて秘術へ鞍替えするとなれば
ここまでの労力はとんだ徒労に終わる
 そればかりか、ルージュの方が先に秘術を取得してしまえば……



"双子の片割れが修得した資質は取ることができない"……置き去りにして脱出するのはリスキー過ぎる





      ブルー「……そうだな、協力しよう」



彼は、刑事と少年…そして医療メカと共に同行することを決めた

305 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/20(水) 16:29:06.78 ID:UXnIYW16O
おお、もしかして理由があるから我慢できる……?
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/20(水) 16:49:41.71 ID:+62fra4t0
なんかすごいお祭りゲーとか特別編って感じがするの好き
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 05:23:51.44 ID:Q06+Rr0w0
このあと名乗って気が変わるんじゃないかい?
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 01:26:46.72 ID:E62zd+uU0


レッド「本当か!?ありがとうな!」

ブルー「有事だ、やむを得ん」スッ


レッド「いやぁ、助かるぜ…ええっと」スッ



 術士は宝石を大事に仕舞いこみ、[バックパック]を背負う、まだ名も知らぬ少年と刑事に向き合い…
少年が差し出した握手の右手に目を向け、名を名乗ることにした



ブルー「自己紹介がまだだったな、ブルーだ」



ヒューズ「俺はヒューズ、見ての通り[IRPO]所属の刑事だ、そっちの小僧はレッドってんだ」


















                  ブルー「赤<レッド>…だと…?」ピタッ













差し出された右手に答えるべく手を伸ばし掛けたブルー……だが、その手が先方の挨拶には答えず、空虚を掴む事となる





レッド…red… 赤



少年の名を聞いてあからさまに術士は怪訝な顔をする

"苛立ち"…表情どころか体全体から醸し出す不愉快だと言いたげな空気に、若干少年は気圧された


レッド「ど、どうしたんよ?」







ブルー「…」


ブルー「やはり、やめた」


レッド「はぁぁぁぁぁ!?なんでだよっ!!」

309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 01:56:15.92 ID:E62zd+uU0


ヒューズ「おいおい、術士さんよぉそりゃまたどうしてだ」

ブルー「気が変わった、それだけだ」



レッド「何言ってんだよ!アンタさっき協力しようって言っただろう」




―――パシンッッ!




レッド「〜っッ!」ビリッ










   ブルー「貴様の名前が気に喰わん」








差し伸べた右手は…友好の挨拶は白い手で弾かれた、乾いた音が響いた船室…一瞬の静寂と張りつめた空気



 小此木烈人<おこのぎ れっと>…通称レッド少年は…目の前の男を睨みつけた
突然の仕打ちだった、此方に一体なんの非礼があったというのか、アイスブルーの瞳はゾッとする程に冷たく

それこそ、親の仇でも見るかのような眼つき…叩かれた手の甲の痛みも熱もサッと引いてしまう程に凍てついていた




ブルー「失せろ…俺は貴様らと共に行動はせん」


ヒューズ「…おたく、"赤"って単語に恨みでもあんのかい?えらく冷たい目だな」


レッド「なんだってんだよ…くそっ!」



ブルー「……」


ブルー「船が賊共に占拠されたままなのは此方とて都合が悪い、だが俺は俺で独自に行動する」

ブルー「分かったら、さっさと出て行け」プイッ



ヒューズ「…はぁ〜、レッド、理由は分からんが奴さんは梃子でも動きそうにない、諦めようぜ」

レッド「…わかったよ」



スタスタ…



ブルー「行ったか…俺もアイツ等を探しに行かねばな」

310 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 02:11:11.16 ID:E62zd+uU0



レッド「何なんだよアイツ…」ブツブツ

ヒューズ「まっ、世の中色んな奴がいるってことだろ」



納得いかない、口に出さずとも表情で隣を歩く刑事に訴えかけるも「俺にぶー垂れ顔見せるなよ」と肩を竦められるだけだ
 感じの悪い陰気な奴に遭遇した、レッドはそう思って忘れることにした…パイレーツ共の事に切り替えようと…



この時、彼は思いもしなかったであろう





後に"家族の仇"が待ち構える建物に乗り込む際に、術士ブルーと手を組むことになる等と…






―――
――




白薔薇「厄介なことになりましたね」

アセルス「…うん、ルージュとはぐれるし、偶々逃げ込んだ部屋でこうして息を潜めたけど…」

白薔薇「海賊がまだ出歩いているかもしれませんからね…」


アセルス「まさか、あんなに強いのが沢山出てくるなんて思わないし、まだ大人しくしていよう」






―――ガチャッ



アセルス/白薔薇「!?」



アセルス「まさか――!この部屋に居るのがバレたのか!白薔薇は武器を持って私の後ろに下がって!」つ【幻魔】チャキッ






レッド「いてて…なんでこの廊下あんなに敵ががうろついてたんだ?この部屋は逃げ遅れた人は――――!?」



アセルス「海賊めっ!!出て行けぇぇぇ――――!!!」ブンッ


レッド「うわっ!?」



鞘に納めたままの【幻魔】を鈍器代わりにッ!アセルスは突然の来訪者目掛けて一太刀振り下ろすッッ!



レッド「ウオオオオオオオオオオオオォォォ!!」ガシィィン!

アセルス「なっ――素手で受け止められた!?」



真剣白羽取りであるッ!!
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 02:51:13.42 ID:E62zd+uU0


         レッド(あ…危ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!)グググッ!

       アセルス「こ、この…!離して!離しなさいっ!!」グググッ!



アセルスは腕に力を籠めるも、レッドが両手で掴んだ妖刀は大岩の下敷きになった西遊記の孫悟空のように抜け出せない









          レッド「ぐぅ、ぐぎぎぎぎ……あ…?…アセルス姉ちゃん?」


           アセルス「くぅぅぅぅ…って、ぇ…? うわぁッ」スポンッ! ――ドサッ








レッドは入室と共に襲い掛かって来た襲撃者の顔を見て、―――思わず手の力を抜いた

アセルスは鞘による殴打で気絶させようとした来訪者の声を聴いて驚き、―――引っ張った[妖魔]ごと後方へすっ飛んだ






レッド「ね、姉ちゃん!大丈夫か?」


アセルス「…?誰?」




尻餅をつきながら、自分を覗き込んでくる顔を見る―――自分の名前を知ってる彼を思い出そうとするが記憶に出てこない

ふと、自分は12年間も歳を取らずに意識不明状態だったのだからそれもそうかと思い当たった…記憶にある顔の筈が、無い




レッド「やっぱり!やっぱりそうだよ!!俺だよ、烈人…おこのぎ れっと!」

アセルス「おこのぎ――――」ハッ!





レッドにとっては、実に12年ぶりの…

アセルスにとっては、ほんの僅か数日前の…


―――奇妙な再会となったのである…




アセルス「烈人くん!ああ!小此木先生の所の烈人くんか!…大きくなったな〜、いやぁ全然わからなかったよ」

アセルス「でも目の辺りなんか変わってない感じかな」



彼女がまだ人間だった頃、[シュライク]の街で普通に女子高校生として生きてた頃によく遊んであげた7歳の少年
確かに、よく見れば顔に面影がある…



アセルス「…てっきり海賊が来たのかと思って、ごめんね?」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 06:59:12.70 ID:HRC0Je1fo
やはり我慢できなかったか……まあアニー見捨てて脱出しないだけマシか
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 20:35:55.53 ID:3L3C93qBO
キグナスクリア直前でアセルスから木陰のローブ借りパクするのはいい思い出
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:39:42.12 ID:6HTZ/fks0


レッド「ははは!さっきのは驚いたよ、昔のチャンバラごっこを思い出すなぁ〜本当よく遊んでもらってさ」

レッド「姉ちゃん全然変わってないよな〜髪の色は緑じゃなかったけど…」


 後ろ頭を掻きながら10歳年上の、それでいて憧れだった近所のお姉さんとの記憶を思い出して
レッド少年は気恥ずかしそうに笑った













そして、"違和感"に気が付いて、ピタリと顔に浮かべた笑みを消した








レッド「…い、いや、ちょっと待てよ、いくら何でも変だぞ!?」ハッ!







同じくしてアセルスの顔からも笑みが消えた、12年の時を経て、"自分を知ってる人"に巡り合えた安堵が失せた

分ってしまったのだ、そうだとも、…人間が、普通の人間が10年近く年を取らない筈がないのだのだから








レッド「どう見ても高校生くらいだ!!もう10年以上も前の話だっ!」


アセルス(…あぁ…)







悪意は、あったわけじゃない



好きで傷つけたというのでもない




誰が悪い、という話でもあるまい






レッド「貴様っ!何者だ!!」バッ!



レッドは飛び退き、大好きだった近所に住む憧れのお姉さんに化けた"何者"かに向け拳を構える

315 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:54:10.31 ID:6HTZ/fks0









アセルス(…そう、だよね…私は―――私の存在は、"おかしい"んだよね…)








白薔薇と[ファシナトゥール]を脱し、故郷の[シュライク]へ帰って来た時…彼女は自宅で育ての親の叔母に会った

少しだけ老けた叔母に、10年近く前に行方不明になった―――死亡者扱いされた――娘と同じ姿の化け物が現れた






そう言われた時のアセルスの心情とくれば、胸の奥を抉られたような心持ちだった





そして、今…再び、自身の存在を否定された

人間じゃない、自分は【バケモノ】になってしまったんだと打ちのめされる想いを再び…っ






        白薔薇「お待ちください!」



レッド「あ、アンタは…」

ヒューズ「この船に乗ってたのか!」




白薔薇「この御方は…本当にアセルス様なんです、複雑な事情があって齢を取らない肉体となり眠り続けていたのです」


レッド「そんな眠り姫みたいな話を信じろっていうのか…ぃ…」




 眠り姫、童話のタイトルがパッと思い浮かぶような御伽噺<オトギバナシ>さながらな事を言われ率直な感想を述べたが


……そこまで言いかけてレッドは、ふと『宇宙の彼方からやってきた正義の味方に命を救われ変身ヒーローになった』と
自身も大概、夢物語な体験をしてるではないかと思い当たり、否定できなくなった





レッド「………」


レッド「ほ、本当に…姉ちゃん、…なん、だな?」



アセルス「…」…コクッ


レッド「…そ、そうか……ごめんよ、俺ヒドイ事言っちまった…」ペコッ

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 01:26:46.11 ID:6HTZ/fks0




ヒューズ「はぁ〜…お前らなぁ、今そんなこと言い合ってる場合じゃねーだろう」


ヒューズ「白薔薇さんに、アセルス、だったな……あの銀髪小僧と、もう一人は?」




銀髪小僧、…はぐれた紅い魔術師ともう一人…ヒューズにとって会いたくない人物ベスト1に入る女性を尋ねた



アセルス「それが二人共はぐれちゃって…」


レッド「? 知り合いが船の何処かに居るのかい?」


白薔薇「はい、金髪の女性と、紅い服を着た魔術師の方です…」




ヒューズ「まーた、船内にいる逃げ遅れの要救助者が増えたワケか」


ヒューズ「おう、二人共ここで待ってろよ…こういうのは野郎の仕事だからな、行くぞレッド」

レッド「ああ!アセルス姉ちゃん!それに白薔薇さんだったな!二人共此処に隠れててくれよな!」



アセルス「何処に行くつもり!」



レッド「ちょっくら船を取り戻しにだ!」

ヒューズ「ハイジャック犯を逮捕してボーナス貰うんだよ、かつ丼くらいは奢ってやるぞ」




アセルス「私達も行くわ!はぐれた仲間をどのみち探すつもりだったし、それに烈人君を放っておけない」

白薔薇「アセルス様の御命令とあらば御付きします」スッ




ヒューズ「…」ピタッ


ヒューズ「おい、こいつぁ映画やドラマじゃねーんだ、マジモンの実戦だ」ギロッ




アセルス「…私だって、戦える!」




レッド「…姉ちゃん」


BJ&K「…生体反応異常数値」ウィーン





レッド「…わかった一緒に行こう、いざとなったら、後ろに下がってコイツに怪我を治してもらう」

レッド「ヒューズ、今は戦力が欲しいんだろ?」


ヒューズ「……はぁ、わぁーったよ、好きにしろい」

317 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 01:55:33.56 ID:6HTZ/fks0
―――
――




「ひぎぃぃぃぃぃぃ――――ギッ」ボッブジュシュッッ





 蟲型モンスターが悲鳴を上げたのは、頭部が光の牢獄に囚われたからであった
球体状の発光する檻は一瞬縮み上がったかと思えば勢いよく破裂した、"中身"と一緒に弾け飛び

後には頭部を失い、手足をバタバタさせる胴体が残った…脳が焼失させられても少しの間動くのは虫ゆえの生命力の高さか


それをやった張本人は手で鼻を覆いながら、血の匂いと醜いソレの最期の"もがき"から顔ごと背けた






ブルー「…気色の悪い奴らめ、…やけに屯って居るから乗客を閉じ込めているのかと思えば」



 階段を下り続けて、パイレーツの手下どもが妙にうようよ居る通路だと、…目的の人物が囚われているかもしれない
そんな可能性が浮かび、正面から出向き残さず駆除して行ったものの




ブルー「動力室か、…当てが外れたな」クルッ



宇宙船<リージョン・シップ>の心臓部と呼べる部屋を見張っていただけだったようだ





物言わぬ屍と化したモンスターの群れを横切り、階段を上がる

…彼は共に乗って来たアニー、ルーファスを求め船内を廻っていた






ブルー「…ん?」テクテク…ピタッ



ブルー(展望エリアに居るあの後ろ姿は…あの時のウエイトレス…確かユリア、と言ったな)






ユリア?「……」



ブルー(逃げ遅れか、一応世話になった身だ…適当な部屋まで連れてってやるか)テクテク


ブルー「おい」


ブルーはユリア、と思われる後ろ姿に声を掛けました…





           ユリア?「…ふ、ふふふ、うふふふ!まだ捕まってない乗客が居たのね」ニヤッ


318 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 09:11:25.50 ID:r6EsgT80O
たまに親切心を出したらロクでもない目にあうとかブルーさんマジふんだりけったり
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 23:00:23.79 ID:31j7vM970




くるり、その後ろ姿は此方へと振り向く



フリルのついた可愛らしいウエイトレス衣装も艶のある黒髪にもそぐわぬ顔がそこにあった






骨、それ以上でもそれ以下でも無い顔立ち…というか皮膚が無い、人間<ヒューマン>の肉体ではない



船内のスタッフルームから盗って来たのか、衣装を纏い鬘を被った[スケルトン]系譜のモンスターがそこに居たのだ








         ユリアに化けてた海賊「BINGO!」バッ!


          隠れていた海賊A「はーっははは!まんまと引っ掛かったな!マヌケぇ!!」バッ

          隠れていた海賊B「こうやって目立つ格好で突っ立ってればアホが釣られると思ったぜェ!」バッ







   化けてた海賊「くっくっく!我らノーマッド海賊団!死の属性トリオ!」

   隠れていた海賊A「俺達のチームワークから逃れられた奴ぁ今まで一人も居ないんだよォ!!」

   隠れていた海賊B「テメーの不幸を呪うんだなァ!!」








      海賊s「「「金目のモン頂いた後、ふんじばってやんよぉ!!覚悟しやがれッ!!」」」ヒャッハー!
















              ブルー「『<ヴァーミリオンサンズ>』」キュィィィィン!





 化けてた海賊「へっっぶぅ!?」
 海賊A「まそっぷ!?」
 海賊B「ギエピー!?」
 

320 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:16:55.60 ID:U7m/0L760
ひどすぎるッピ!
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 00:07:58.70 ID:HjqFCyQW0




ブルー「…なんだったんだ、今のは」スタスタ…





 やけに自信満々で襲ってきた海賊は見事なチームワークで他界した、横一列に並び最大火力の直撃で同じタイミングで
仲良く消滅したそうな…



―――
――






レッド「」キョロキョロ…

レッド「おっし!!VIPルームエリアは見張りが居ねぇ!皆!いいぜ!」サッ!



ヒューズ「ふぅーっ…VIPルームね、客室に酒のボトルでもありゃ景気づけに貰ってきたいモンだ」

レッド「[IRPO]本部に請求書出すぞおっさん」


アセルス「此処以外は全部見回ったの?」


レッド「ああ、レストランもユリアやBJ&Kが居た医務室、会計室…大体全部みたさ」

レッド「だから、その連れの人が何処かに隠れてるならこの階の可能性が高い筈なんだ」


ヒューズ「こっち側は来なかったからな…」





『VIPルーム扉前』






レッド「…みんな準備は良いか?」チラッ

アセルス「うんっ!」

白薔薇「はい」


レッド「海賊が待ち受けてるかもわかんないからな、せーので行くぞ!」

―――
――



【VIPルーム内部】



ルーファス「ふむ、それにしても君は運が良いのだな船内を逃げ回っていたら此処に辿り着いたとは」

ルージュ「いやぁ…本当に助かりました、仲間とはぐれて心細かったんです」」ペコッ、ペコッ

ルーファス「何、エミリアの知人ならそれくらいどうということはないさ、それで?行くのかね」


ルージュ「はい!外の様子も落ち着いたようですしそろそろ探しに行こうかと」

322 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:19:56.11 ID:xHGBJzXqo
ルージュは秘術だから勝利に興味持つことはなくて残念だったなルーファス
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/23(月) 01:41:48.88 ID:nslvRKgi0



 サングラスを掛けた男性にとう告げて彼は扉の前に立った、無論この部屋を出て仲間を探す為だ
しかし、彼がその扉を開けることは無かった


ガチャッ!バンッッ!


ルージュ「ほぐっ!?」ゴッッッ



鈍い痛みが頭部に走る、開けようとした扉が勢いよく開いた、開けたのはルージュではない廊下に居た人物だ



レッド「あっ…」




ルージュ「〜〜〜っ」(頭抱えて蹲り)


レッド「そ、そのわりぃ…」アセアセ




 扉の眼と鼻の先に誰か居るとは思わなかった、その人物が海賊共の仲間かどうかは知らないが
レッドはそれよりも先に罪悪感が勝り、相手を警戒よりも謝る事を優先した…



この時、ルージュは顔を伏せていたから瞬時には気づかなかった




"さっき"見た顔と瓜二つだ、と




アセルス「ルージュ!ルージュじゃないか!」

白薔薇「まぁ!こんなところにいらっしゃったのですね!」



レッド「えっ!?ってことは探してる人なのかい?」

ルージュ「う、うっ…その声は、二人共無事だったんだね…」


レッド「あー、ルージュ…でいいんだよな?その、本当ごめん、まさかドアの前に居るとは思わなくて」

ルージュ「い、良いんだよ、僕も悪かったから…」スッ






レッド「!?」ギョッ


ルージュ「…? 僕の顔に何かついてるの?」



レッド「ぇ、あ、違う…けどよ…」



"すこし前に会った感じの悪い奴"と似通った顔

ただ、アイツよりかは眼つきがきつくなくて、なんだか温厚そうな人柄だな、と少年は思った
涙目で見てくるのと、罪悪感の所為かもしれないが…

 兎にも角にも彼がルージュ、という人物に対して抱いた感情は対立的ではなかった
ブルーの不遜極まりない態度の後でもブルー似の顔に悪い感情を持たなかったのであった
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/23(月) 01:58:35.56 ID:nslvRKgi0


レッド(…にしても、似すぎだろ)

レッド(世の中、自分にそっくりな人間が3人は居るってよく言うけどなぁ〜)マジマジ




マジマジと銀髪の魔術師を眺める



蒼い法衣、金を束ねた髪…凍り付くような鋭い眼差しと人を寄せ付けない冷たい雰囲気


紅い法衣、流れる銀の髪…どこか人懐っこそうで誰とでも手を取り合ってくれそうな人柄




まるで正反対だ、なのに…"似ている"のだ、不思議なことに



白薔薇「あのー…彼がどうかなさったんですか?」

アセルス「あ!わかったぞ…そりゃ確かにルージュは女の子みたいな顔してるし初見じゃわかんないよね私も間違えたわ」




勝手に自分の中で答えを出して勝手に納得するアセルス姉ちゃん

…そう考えるのも無理はないだろう、まさか彼の双子の兄とこの船で出会いましたなどと普通思わない、世の中狭すぎだ




ルージュ「えぇ…僕、男だよ…」ゲンナリ




またか、また間違われたのか…、げんなりとした表情でアセルスの言葉に続けていく術士


そんなコント漫才染みた緊張感の無い会話が繰り広げられる中、ヒューズが1人の男をじっと見ていた…








ヒューズ「‥ほー、まさかお前が乗ってるとはなぁ、ルーファス」ニヤリ

ルーファス「…腕利きパトロールがこんな所でなにをしている?さっさとシップを取り戻せ」






方やエリート警察、方や裏社会の組織の幹部…




ヒューズ「今やってるとこだ、実を言うと戦力がちと足りてなくてな、どうだ?協力しないか」

ルーファス「…"連れ"が奴らに捕まったようだ、協力させてもらおう」ハァ…





"連れ"……サングラスの男は金に煩い部下の女と、スーパーモデルの顔を思い浮かべながらため息を吐いた


325 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/23(月) 02:35:13.75 ID:nslvRKgi0



レッド「って!オイ!おっさん同士で勝手に話を進めんなよ!」


ヒューズ「お前等が漫才やり始めたからだろーに」

ヒューズ「それにな、こいつは結構使える男だぜ」


ルーファス「君は?」


レッド「レッドだ、こっちは医療ロボのBJ&K、それから…」



アセルス「アセルスよ、彼女は白薔薇」

白薔薇「以後お見知りおきを」ペコッ



ルーファス「…ふむ、とすると君達がエミリアの言ってた連れか」


ヒューズ「」ギクッ


ヒューズ「な、なぁ?ルーファス、この船ってエミリアどっかに居んのか?」

ルーファス「居る、というよりも捕まっている連れの1人がそうだ」




ヒューズ「そ、そかー、たははは…」

ルーファス「お前の自業自得だ、IRPO隊員の特権で裁判なしに留置場送りにしたんだ半殺しくらい覚悟しとけ」


ヒューズ「うぐっ!?…海賊共を逮捕したら即逃げるわ…」




ルーファス「さて、よろしく頼むよレッド君達」




 妖魔2人、メカ1人、そして人間<ヒューマン>が4人…これだけの人数ならば海賊に太刀打ちできなくも無い
戦いに置いて必要な物は古来より『数』と謂われている


かの異世界<リージョン>でもとある老人が『どんな勇者も多くの敵の連係には耐えられんものだよ』と格言を残す程だ




必要最低限の人員はそろったかもしれない、だがそれでも後もう一押しだ

 敵だってアホじゃない真正面から行けば敵の[ガンファイター]共の火線真っ只中だ
それこそ飛んで火にいるナントヤラで蜂の巣にされてしまう




白薔薇「それで、どうなさるおつもりなんですか?」

ヒューズ「ああ、クソ真面目に行きゃ、あっという間にお陀仏だ…他に通路ねぇのか?」




レッド「他に…」ウ〜ン

レッド「…」



レッド「いや待てよ!確か下の方に非常用の通路があるんだ!船がドライブ中でもそこからなら!」ハッ!

326 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/23(月) 03:08:06.69 ID:nslvRKgi0

―――
――



【キグナス号:操縦室】


ノーマッド「"ブツ"の積み込みはまだ終わらないのかいっ!」


海賊A「もう少しですお頭」


ノーマッド「ったく、チンタラしてたらサツが来ちまうだろうに」


ノーマッド「ま、いざとなりゃあこの人質共を使うがねぇ」ニィ




「ひっ!」ビクッ
「なんで…こんなことに、私は旅行を楽しんでただけなのに」グスッ


海賊B「ぶつくさ言ってんじゃねえぞ人質共!撃ち殺されてぇのか!ああ"?」ジャコッ



「ひぃぃっ!!」
「〜〜〜っ」プルプル

アニー「…」
エミリア「…」

「こ、殺さないで…」ガタガタ


海賊B「けっ!」チャキッ、スタスタ…




「もう、もうやだよぉ…」
「うっ、ううっ…」

エミリア「…アニーごめんね、私が脚を挫いたりしなきゃ逃げれたでしょ?」ヒソヒソ


アニー「ダチ見捨てて逃げる程アタシは腐っちゃいないよ」ヒソヒソ


アニー「何度も一緒に組んでヤバい橋を渡った仲じゃんかよ、だから今度も運命共同体って奴だわ」ニィ


エミリア「アニー…」

アニー「大丈夫、まだルーファスや…期待していいか分かんないけど知り合いの魔術師が居るわ」

アニー「海賊共が吠え面かくのを楽しみにしましょう」フフッ


エミリア「ふふっ、それもそうね、こんな時だからこそ前向きにならなくちゃね」




―――
――



【双子が旅立ってから3日目 午後16時10分  キグナス号:非常用通路前】


レッド「着いた、ここがそうだ」

ルージュ「此処から、操縦室に行けるの?」

レッド「ああ…けど、覚悟を決めた方がいいぜ」

327 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 09:19:19.94 ID:qu9/6D6YO
ヒューズは一度ちゃんとエミリアに半殺しにあっといたほうがその後の責任回避的にいい気が……
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/24(火) 22:59:01.57 ID:5UEKilyt0


レッド「この非常通路を通れば操縦室に辿り着ける、…海賊もまさかこの通路から人が来るなんて思わない」

ルージュ「うん?そういう場所程普通は警戒するんじゃないの?」



 至極尤もらしい意見だ、機関室から配管をよじ登った所にある業務員しか知らない隠された緊急脱出用通路なら兎も角
こんな船内の誰の眼からも見える位置に堂々と扉があるのだ




レッド「言ったろ、覚悟決めた方がいいって」

レッド「このドアの向こうは"船外"だ…混沌<宇宙空間>の海をドライブ中に宇宙船<リージョン・シップ>から出れば…」



ヒューズ「おいおいおいおい!ちょいと待てって…この船は普通に渡航中だせ?」

ヒューズ「んな状態で外になんざ出たらどうなるか分かってんのか?」





混沌の海…見渡す限りが闇である空間、星々<リージョン>の合間にある暗黒の海


そんな所に生身の生物が出れば瞬時に身体が圧縮され、最後は消しゴムになって消滅する…塵どころか脳細胞1つ残らない




ヒューズ「混沌に飲み込まれるのはごめんだぜ、まだ敵さんの弾掻い潜る方がマシってもんだ」


カンベンしてくれよ…と大袈裟に腕を振るう、他の面子も顔色は優れない



レッド「俺にも詳しいリクツは分かんないけど、船の周りにリージョンと同じでフィールドが張られてるんだ」

レッド「だから短時間なら外に出ても大丈夫だってホークが言ってたんだ」



 機関士であり上司の言葉を口にするレッド少年、この非常用通路は本当に有事の際にしか使われない
仲間が述べているように、生身で混沌の海に出るのだ


 短時間は大丈夫だと言っても、"あくまで短時間"だ…道中で立ち止まったり、何か躓いたりしようものなら
その場で身体は圧縮され、暗黒海の地平線の遥か彼方に消え去り、THE・ENDである




ルーファス「立ち止まらずに駆け抜ける、そういうことだな」


アセルス「うっ…それしかないんだね」



レッド「姉ちゃん…危ないし、今なら引き返せる、俺達が後はなんとかすっからさ」

アセルス「…いや、私も行くよ!」


ヒューズ「はぁ…腹括るしかねーな」





一同は、扉の前に立つ…レッドが戸を開ける為に手を伸ばす…後ろで息を飲む音、駆け抜ける準備をする者

…全員が覚悟を決めた


329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/25(水) 00:05:18.79 ID:DfKh3z180


…ペタペタ


カモフック「お頭〜!」ペタペタ





彼は[カモフック]見ての通り、モンスター族でありノーマッド団の一員である

http://epsaga.sapp-db.com/zukan_det.php?no=512&tid=2
※参考画像


 海賊帽子を被り、右腕が"フック船長"宛らの鉤爪で二足歩行で語尾が「〜カモ」という団員きっての愛苦しさである
キュートな足をペッタペッタ鳴らしながら彼はノーマッドに積み荷の積み込み作業が終わった所を報告しに来たのだ



カモフック「"ブツ"の積み込み終わったカモ〜!」

ノーマッド「あぁん"?終わったかもぉ?ハッキリしなこのバカチン!」バキッ


カモフック「ふげっ!?い、痛いカモ…」


ノーマッド「荷物運ぶのに時間を掛け過ぎだよ!仕事は迅速にやんな!」

ノーマッド「…チッ、パトロール隊員の小型艇がこの船に取りついてたって報告が今更来たんだ…」

ノーマッド「こうして正面口に[ガンファイター]を配備して見張っちゃいるが…どーにも嫌な予感だ」




 腕を組み、女海賊は苛立ちを隠さないでいた
海賊の勘が知らせている、雲行きが怪しいと……パトロール隊員もそうだが、それ以上に操縦室のモニターに映る
混沌の地平線を彼女は眺めていた…


何も見えない、映らない暗黒の宇宙…胸騒ぎはその深淵の先にあるようでならなかった



ノーマッド(…なんだってんだい、援軍のパトロールでも来るってのかい…)





闇の向こうに、何か、自分達のとって好からぬ者がいる気がしてならない

嘗て、海賊として強奪を行った帰り道[タンザー]に飲み込まれたあの日のような…言い知れぬ悪寒がするのだ




ノーマッド「気分が悪いったらありゃしない、おい!カモ!酒持ってきな!」イライラ


カモフック「わかりましたカモ…」トボトボ








結論から言おう

リージョン強盗団、ノーマッドの勘は正しかった





今、この瞬間も離れた宇域からキグナス号の様子を監視する一機の機影がある

…それは軟骨魚介類の鱏<エイ>の様な形をした漆黒の機体であった
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/25(水) 00:42:10.60 ID:LYxy+VXyo
勘が良くても回避しようがなければなぁ……
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/25(水) 00:46:55.54 ID:DfKh3z180




ガチャッ!ドタドタドタ…!





カモフック「…?なんか下の階が騒がしいかも」ペタペタ


カモフック「かもっ!?!?」








ヒューズ「動くな!パトロールだ!全員手を上げろ!」カチャ!


ノーマッド「なっ!こいつら…どっから沸いて出たんだいッ!カモ!やっちまいなっ!」バッ!

レッド「あっ、待て!」



カモフック「行かせないかもぉ!!」ガコッ ヒュッ!





 気の抜けた声とは裏腹に、茶色の体毛を逆立たせ海賊の一員は敵意を"文字通り"飛ばして来た
先述したが[カモフック]の右腕は鉤爪になっており、彼奴の右腕は着脱が可能なのだ

右脚を前に出しのめり込むように踏み込んで、その勢いを活かしながら右手首を軽く曲げる
投球でスナップを利かせて変化球を投げるのと同じ様に…


金属製の鉤爪は遠心力を伴い、空を切りつけながら舞う、彼奴の独自の戦法[ブーメランフック]だ!



   レッド(!? 腕を…金属の腕を飛ばして来やがったッ!)









           -『へっ、面白れぇもんみせてやるよ!ゆけぃ!![クロービット]』 -






   レッド「…っ、義手を…飛ばす…攻撃っ!」ピタッ





ふと、彼の脳裏には1つの風景が思い起こされた、炎上する自宅、白髪の大男…あの忘れもしない家族の仇の顔がッ!



ヒューズ(あんの馬鹿っ!何棒立ちしてんだ!)

ヒューズ「レッド!避けろォ!」


レッド「―――ハッ!う、うわぁぁ!」


332 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/25(水) 01:47:08.12 ID:DfKh3z180





        アセルス「――−―危ないっ」ディフレクト!

         レッド「ね、姉ちゃん!?」





ヒューズにも、ルーファスでさえも反応しきれない速度で前に出る人物が居た
 それは引き抜いた妖刀と人ならざる者の血が混ざったアセルスだからこそ可能な反射速度であった

女性の細腕が繰り出したとは思えない劔の一閃、刀身は輝く義手を弾き飛ばし幼馴染の身を守る盾となる



カモフック「おおっ!?や、やるぅかも〜!」バッ!カポッ、カチャッ タァン!タァン!


二足歩行の鴨はその場で高く飛び上がり器用にも宙に跳び、そのまま弾き飛ばされた義手を手首が離れた右腕に装着する
 左腕のライフル銃で銃を撃ち始めたヒューズ、[サムライソード]片手に接近を試みるルーファスを牽制しながら



レッド「姉ちゃん…すまねぇ!油断した!」

アセルス「気にしなくていい!白薔薇!ルージュ!アイツの動きを!」



白薔薇「はい!」ポォォォ!
ルージュ「任せてよね!」キュィィン




ルージュ「『<エナジーチェーン>』

白薔薇「其、御心は我の前に伏せよ!―――『<ファッシネイション>』」





深紅の魔術士は指先から人の念動力による鎖を――

薔薇の淑女は妖魔が扱える妖<あやかし>の魅了術を―――



                           ―――――それぞれ、放つッ!





ヒュッッ バチィィ!!


カモフック「はぎゃぁッッ!」ビリィィ!!



金属製の鉤爪の先端部に念の鎖が絡みつく、そして身体全身に伝わる電流に鴨は身を焦がし…
 プスプスと焦げ臭い匂いを漂わせる彼奴の瞳にハート型の薄いピンクの光が飛び込んでくる



カモフック(―ぉ、ぉあああぁつ!!)クラッ




がくがく、と脚を震わせ、惚けた顔で天井をぼんやりと眺める海賊…淑女の放った魅了魔法にに骨抜きにされた彼目掛けて




          BJ&k「圧縮レーザー、発射します」ピピッ ビーーーッ!!

333 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/31(火) 22:59:54.84 ID:rxMo2bYc0


 光学兵器の輝きは真っすぐ、[カモフック]目掛けて飛んでいく




    ボジュッッッ!!



 アセルスの剣技や白薔薇の妖術、ルージュの『<エナジーチェーン>』…ヒューズの体術やルーファスの[稲妻突き]
そしてレッドの鍛え抜いた拳による一撃


 この面子の中で恐らく尤も高火力であろう物騒な代物を搭載した医療メカは惚けた顔で棒立ちの鴨を
こんがり焼けた香ばしい北京ダックに変えてやった




カモフック「…ゲホッ…やばい、かも」




嘴を開けば、喉の奥から真っ黒な黒煙が出てくるという漫画タッチな見た目と化した彼は今更ながら数の上での不利を悟る




カモフック「し、下っ端かもーん!!」ダッ!







ソルジャービル×4「「「「キィーーーーッ!!」」」」





レッド「あっ!あんにゃろう手下を呼び出して自分だけ逃げやがった!」

ルージュ「くっ!!マズイぞ…アイツ、人質が居るところへ向かったんだ!」


ソルジャービルA「キッキィー」ダダダダッ



 槍の先端に勝らずとも劣らない[クチバシ]を吐き出す様な姿勢で突撃を始める兵隊達
それを蹴り飛ばすレッドとヒューズ、嘴を刀の鍔で受け切って殴りつけるルーファス、単純な戦力で言えばこの様に
攻撃を防ぎつつ返り討ちにてきる程度……


つまり、何ら問題無く倒せる"雑魚"だ




本当に単なる時間稼ぎだ、…そう逃げ出した鴨にとって時間さえ稼げればいいのだ














人質の首元に刃を押し当て戻って来れる時間だけの時間さえ稼げれば…っ!!




334 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 00:15:46.51 ID:YYc+HEkOo
カモめ、大人しく北京ダックになっていればよかったものを……
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/01(水) 00:44:43.68 ID:pViOsR1g0

 リージョン強盗団、ノーマッド一味は悪運の強い奴か否かで言えば…まぁ強い方なのだろう
[タンザー]に飲み込まれても、"指輪"を探しに来た緑の獣っ子たちに助けられることもあり、こうして外に運よく出れた


そんな彼等も今日ばかりは運に見放されていたのかもしれない



 レッド少年、武装した医療メカ、刑事のヒューズ、妖魔二人組に紅き術士、裏組織の幹部…早々たる顔ぶれが
寄りにもよって今日同じ船に乗り合わせたのだから



カモフック「これで逆転のチャンスかもー!今に見てろ〜」ペタペタ…!



そして、人質が一か所に集められているスペースに裏組織の構成員が二人、つまりアニーとエミリアである












カモフック「…かも?」








     ガンファイターの残骸×2『  』プシュー プスプス…







そして、…そして、もう一人




この船には寄りにもよって、厄介な人物が後1人、乗り込んでいる



…非常口から突っ込んで来た襲撃者たち以外に、まさか"それとは別で単独行動してる奴"が居るとは思わなかったのだ












        ブルー「…ほう?蛻の殻だったからな、人質を置いて海賊共は皆逃げたと思ったが…」

        ブルー「ちゃんと見張りを置いていたようだな」








…神は言っている、オマエは此処で北京ダックになる定めだと

336 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 01:02:27.58 ID:MhUReRJlO
まるで逃げた先にケンシロウでも待ち構えているかのような絶望感
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 06:25:05.66 ID:YYc+HEkOo
逃げ出した先に楽園なんてありはしないのさと言わんばかりの絶望
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 11:47:01.92 ID:VYiB5yFpO
ある意味なおさら悪いところに突っ込んだなww
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/04(土) 21:11:09.90 ID:xEUqCl450
知らなかったのか?大魔王からは逃げられない
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/04(土) 23:32:13.25 ID:PiyknoQk0
期待
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/18(土) 22:10:51.49 ID:NpR4Vt+Q0
―――
――




アセルス「うぐっ…!」ズサァァ!!


ソルジャービル「クワアアアァァァ!!」ヒュッ!











ルーファス「背がガラ空きだ」ザシュッ!スパッ



 ソルジ/ャービル「 」(真っ二つ)



アセルス「あ、ありがとうござい「身の丈に合った武器を使え、でなくばいざという時に死ぬぞ」ダッ!


アセルス「っ!」



 これまで、幾度となく戦闘を重ねてそこそこ戦える力を得たと思っていた…
手にした妖刀[幻魔]も最初期と比較すれば扱えはしていた


 だが、わかる人間には分かるのだ、"アセルスは剣に引き摺られている"っと
達人の眼から見れば使用者の技量が武器と釣り合わないと



ヒューズ「おう、あんま気にすんなよ野郎はいつもあんな感じでな、昔っからデリカシーってのがねぇのさ」ガシッ バキィ!

ソルジャービル「ほか"っ」ゴキャッ




 鋭い[クチバシ]の突きを繰り出して来た兵の下顎から脳天をぶち抜くようなアッパーカット
頭部が天を見上げるを通り越し背後を見据えるようになった、脊髄があり得ない曲がり方をしている…



ソルジャービル「」ドサッ



ヒューズ「ふぃーっ…朴念仁なんだよ野郎は、あんなんだから13歳年下の鉄の女に関節技キメられんの、さッ!!」ブンッ!




ソルジャービル死骸「 」グワァン!!


ヒューッ!ドガッ!!! ぐべぇ!? ドシャァァ!!




BJ&K「レーザー標準、OK、発射します!」ギュィーーン!



チュドーン! ぎぃびぃいいいいいい!?!?

342 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/18(土) 22:34:28.15 ID:NpR4Vt+Q0


ルージュ「大分…よっと! 数が減って来たね!!」サッ! ゲシッ!!


 突っ込んで来た敵を避けに蹴り飛ばし、それをすぐ傍で彼同様に術で援護していた白薔薇が切りつける
サングラスを掛けた男が一刀両断した個体、不良刑事の剛腕で撲殺された者…



レッド「どっせいぃぃぃ!!!」シュバッッ!



ソルジャービル「ぅぎゅッ!!―――ぎ、ぎゅ」バタッ




ソルジャービル「き、キィイイイイイイイイイイイイイイイ!!」



 残すは1体、次々と倒れる同胞を見て破れかぶれとなったか
見境なく突撃を繰り返す…此処までくれば勝敗など決まった様なものだ



ルーファス「ヒューズ!行けッ!道を塞いでいた障害は粗方排除した!コイツ1体どうという事は無い!」



先の[カモフック]が人質を取って戻ってくれば戦局は一変、此方は手出しもできず一方的に嬲られる可能性はあり得る
 敵の半数以上は既に落ち、この状態であれば人員の一人二人追跡に欠いたとしてもさして問題は無いだろうと判断した



ヒューズ「へっ!あんがとよ!お前ん所の店で今度お高いメニュー注文してやるよ!」ダッ!


ルーファス「注文するより飲み食いしたままのツケをいい加減払え!」バッ!カキィィン!!ブンッ!






ルージュ「アセルス!レッド!僕がルーファスさんを援護する!君達も行くんだ!」

白薔薇「この中で脚が速いお二人ならば間に合います!さぁ!」



レッド「すまねぇ!恩に着る!BJ&Kお前も来てくれ!」ダッ!

アセルス「分かった二人共!後で合流しよう!」バッ!

BJ&K「了解、戦闘行為を一時中断します」ウィーン!




 捜査官ヒューズの後をレッド、アセルスが追い、人質に万が一の事があった場合を考え医療ロボを連れて戦線離脱をする

 持久走なら術士の自分よりも体力がある少年少女(後、疲れという概念が無いロボット)に任せるのが賢明だろうと
紅き術士は、未だ死に物狂いで抵抗を続ける[ソルジャービル]と対峙する壮年の援護に回った



―――
――




タッタッタ…!


ヒューズ「…?なんだぁこりゃ」



        北京ダックにされた者「 」ブスブス…

343 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/18(土) 23:38:40.99 ID:NpR4Vt+Q0


ヒューズは困惑した、鴨が一足早く人質を確保し最悪の展開を想定していた為…これは何とも面食らった様な感覚だ



[カモフック]はもう何処にもいない

代わりに黒ずんだ鴨肉が焦げ臭い匂いを漂わせながら転がっているだけだ




よく目を凝らすと顔が"あった"と思われる部分から、此処で恐ろしい何かがあったのだろうと苦悶に満ちた表情が伺えた




レッド「ヒューズぅぅぅ!!…ぜぇ、ぜぇ…!人質はみんな無事なのか―――…?えっ、こいつは…」

アセルス「…うわっ…なにこれ、死んでる………うっ」




 犯罪者ではあった、しかしながらさっきまで生きてて人語を喋ってた生物が此処まで惨ったらしく死んでいるというのは
流石にキツイ光景であった、モンスターの命を奪うことを体験して来たアセルスお嬢でさえ口元を覆う死にざま



BJ&K「…ピピッ!生体反応なし…」

BJ&K「死因、焼殺、外肉に留まらず、胃腸、肝臓…内肉まで完全に焼かれていると判断、死亡推定時刻は…」





ヒューズ「…こりゃあ、本当にすぐのすぐだった見てぇだな、まだほんのり熱が残ってらぁ」ピトッ



死骸に手を触れ、それからカモフック……だったモノ、の瞼をせめて閉じさせる

眼を見開いたまま絶命していて、食品店で売ってる水揚げされた魚…いや、調理済みの塩焼きみてーな目だと思った




「ひ、ひぇぇぇ…!」ガクガク!

「う、うわぁぁぁ…!なんだあの死骸はぁ!?」



ヒューズ「んん?…人質の皆さんか? あー!うぉっほん!皆さん!落ち着いてください!IRPOの者です!」バッ!



刑事が[IRPO]捜査官であることを証明する腕章を見せ、解放された人質を宥め始めた
 聞くところによると、金髪の中世的な顔立ちをした人物が部屋に入って来て、人質一人の縄を解いた後




 『何があったか知らんが、見張り一人置いて海賊共は撤退したらしい…無駄に疲れた、俺は自室で寝る、後は任せたぞ』




とだけ、知り合い?らしき金髪の女性にそれだけ告げて足早に去っていた、らしい


「あ、あの死体…あの刑事がやったのかな?」ヒソヒソ

「うわぁ…ヒくわ…」ヒソヒソ



ヒューズ(えぇ…なんか、俺が虐殺したみたいな流れになっちゃってるよオイ…)


344 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/18(土) 23:52:07.33 ID:1oEKjxjb0
なんだこれ懐かしいうえに面白い
期待
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 00:20:15.78 ID:jPo/7H4A0


ヒューズ(捕まってた人質に怪我人は無し、か…)


ヒューズ「負傷者はいねぇ見てぇだ…おいレッド!逃げたノーマッドの奴を追――」チラッ









エミリア「けほっ、けほっ…ちょ、ちょっとなによ、この焦げ臭い匂い…」

アニー「うえ…っ、本っ当鼻にくる匂いじゃん…くっそ、ブルーの奴〜…助けに来たかと思ったら人に全部押し付けて」









ヒューズ「レッド、ノーマッドを追うぞ、めちゃくちゃダッシュで」ガシッ


レッド「えっ、お、おわぁ!?」


アセルス「あっ!?ふ、二人共!?」



<嬢ちゃんとメカは人質の面倒みてくれーーーッ!





 ぞろぞろと部屋の奥から出て来た人質の皆さん、その中で一人、ブロンド髪の美人を目にするや否や逃げるように刑事は
走り去っていった
 後には唖然とした顔で残されたアセルスと、テキパキ人質の健康チェックを行う勤勉な医療メカの姿あった




―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後17時37分  キグナス号:展望デッキ】



レッド「くそっ!」ガンッ


 逆立った黒髪の少年は握り拳を作り、下唇を悔しそうに噛んでいた…そんな彼の横に立つ刑事はデッキの窓から
遠ざかっていく1機の船体を眺め心底、憂鬱そうに溜息を吐いた


ヒューズ「逃げられちまったな、積み荷は奪われちまってこれであの会社がクロだって証拠はパーだ」


ヒューズ「…後は何処の惑星<リージョン>に逃げるか知らんが海賊共をとっ捕まえて吐かせるしかねぇな」


…めんどくせぇ、とぼさついた髪を掻きながら、「エミリアとは相乗りだし、今日も厄日だぜ…」と彼は呟き
窓硝子から背を向けて退室しようとした直後であった




  レッド「!? ヒューズ!!なんだあれは!!」





逃げた海賊の船に近づく1機の黒い機影をレッドが見つけたのは―――!
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 01:04:14.19 ID:VRZZAVsAo
逃げ足早いなヒューズ……
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 01:37:48.07 ID:jPo/7H4A0


混沌の空間を漆黒の鱏<エイ>が泳いでいた、バーニアスラスターを吹かし白亜色の炎が箒星の輝きを創り前方へ進む



プロペラ式の海賊船とステルス機能を始めとした科学の最先端を織り込んだ漆黒の機体では距離が縮まるのは当然であり
 魚介類を模した機体は生物で言う口にあたる部位を海賊船に向ける



バチッ



星が弾けたような眩さだった、喩えるならば夏の夜に火をつけたばかりの一本の線香花火


見渡す限り闇しかない空間で光の華が咲いた






漆黒の機体から放たれた破壊光線は、寸分違わず"獲物"を花火にしてしまったようだ


一瞬の光、上がる火の手、赤々と上がる火柱にミニチュア人形の影が、遠目に見ていた彼等の眼には映った






…混沌<宇宙空間>の中を、―――生物が生きられない空間で生身の人間が船から放り出されたらどうなるか
それこそ先刻、レッドが全員を引き連れて、非常口から突入する前に説明した通りである




ヒューズ「…あれは、"ブラックレイ"…捜査官の間でも与太話だと噂されていたが…実在したのか…」


ヒューズ「ブラッククロスの戦闘シップが…!」



レッド「…ブラッククロス」ピクッ




両親と妹の仇である悪の秘密結社の名前…レッドはそれを聞いて青筋が浮かぶ想いだった



レッド「…キャンベル社長と、ブラッククロス…」




少年も刑事も考えることは一緒だった、あまりにも状況が出来過ぎている

武器の売買を行っていた会社の女社長からのリーク

それで積み荷(密輸武器)を奪いに来た海賊…

その海賊船を粉微塵にした犯罪組織の戦闘シップ



ヒューズ「…ま、あの女社長はクロだと睨んでたがね、目論見通り証拠は隠滅、ってことか」

レッド「シーファー商会」ボソ


ヒューズ「あ"?」


レッド「言ってたろ、[クーロン]のシーファー商会ってトコと取引してるって、キグナス号の次の目的場は[クーロン]だ」


レッド「…ブラッククロスとキャンベルは繋がっている、となればその商会も怪しいもんだ、停泊中に降りて調べてやる」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 01:53:27.46 ID:jPo/7H4A0
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          ̄ ̄ ¨¨¨¨¨¨  ̄ ̄


 T-260G「…ゲン様、私達出番が少ないです」

 ゲンさん「うぃーっく!酒だ酒ぇ…」





              今 回 は 此 処 ま で !!  次回 3章



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349 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 02:05:55.97 ID:n3E2h3Yv0
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 03:01:19.29 ID:VRZZAVsAo

ゲンさんは秘術で出番があるだろうがT-260Gは……
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 23:47:32.81 ID:cL/2cY5BO
乙乙!
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/21(火) 22:55:49.49 ID:RUt02vHU0
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  何か忘れてると思ったら、リージョン強盗団 ノーマッドに関してのちょっとした解説を書き忘れてた




 【リージョン強盗団ノーマッド】は作中で登場する場面が大きく分けて2カ所です




 @ キグナス号

 A タンザー




 サガフロは7人の主人公が居て、プレイヤーはその7人から1人選んで各主人公のシナリオを進めていく

 当然選んだ主人公次第では発生しないイベントやそもそも行けないリージョン等もある


例)クーンが[ファシナトゥール]や[時間妖魔のリージョン]に行けない等



原則的に一部を除いて術の資質集めイベントは誰であっても行うことは可能です

その中で"印術"を得る為、各地にある石の試練を通過する際、必ず[タンザー]には立ち寄ることになります





印術の試練を開始して、[勝利] [解放] [保護]何れかのルーンを1つ取得した状態でシップに乗ると強制的に

事故率が高いと(悪い意味で)有名なシップ、スクイッド型に搭乗します…



タンザーに飲み込まれ、そこで開幕早々にノーマッド一味に絡まれるというのが全主人公共通のシナリオです


※主人公によってはノーマッド一味の部下と戦闘になる

正義感の強い、クーン、アセルス、レッド等は乗客を脅す部下たちに突っかかり


逆に、我関せずのスタイルを崩さないブルー、呆れ顔で静観するエミリア、穏便に済まそうとするリュート等々…











さて、既にお気づきかもしれません…






>※主人公によってはノーマッド一味の部下と戦闘になる
>正義感の強い、クーン、アセルス、レッド等は乗客を脅す部下たちに突っかかり





レッド主人公の場合、自由行動が可能になるのはキグナス号強襲事件の後です…タンザーに行けるようになるのはその後


そう… "ブラック・レイによって粉微塵にされたはずのノーマッドが平然とタンザーの内部に居るのです!!"


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353 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/21(火) 23:08:06.02 ID:RUt02vHU0
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 タンザーに飲み込まれた後のレッド自身の台詞からも、あの時のパイレーツか!と発言する辺り

 サガフロ時系列的にノーマッドがタンザーに飲み込まれたのはキグナス強襲後の出来事…











 つまり、船が砲撃で粉微塵にされ、全員が混沌の海<宇宙空間>に放り出された直後

 死ぬより早くタンザーに飲み込まれ助かるという悪運の強さが分かるワケですね…



 女頭領、ノーマッドの悪運高さはこれだけに留まらず


 彼女が持つ【全て集めるとどんな願いも叶う魔法の指輪の1つ『盗賊の指輪』】を求めて来たクーンに追い詰められ


 タンザー内部の消化器官に喰われ、一定ターン以内にタンザーの器官を戦闘で倒せないと
 ノーマッドが飲み込まれるという結果に終わるのですが


 何故かクーン編のEDで普通に生存してる姿が確認できるという…







            \  すっごーい!   /

                     i`ヽ   ,`ヽ
            ,,,-、   .iヽi  ヽノ   }
            |  ` ‐-+、        i,-,  ,ノ⌒i
        __,-‐―!    { `ヽ :::.  _,,{_ノ_ i   }
       ヾ、:.:.:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.ヽ   ヽ、., '     ヽ、__{
          ,‐ミ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ、   ノ            }
        ,-‐'  `ヽ‐-:::::::::::::::::::_{`´   ,、        ノ
      `ヽ、:.:.:.:.::.:.:::::::_,. -‐ ´ }    | ` 、   / {
         ` ‐- 、;;;;:{     人  {  ● ` ´ ●
              ヾ   } (  ヽ-、!        ノ
               }  ├i `‐-、  ` --─一´
           ,-‐‐´  _ノ .|  { !,, ,,-‐''´
           {`‐-< ̄   .{  {  X  } ヽ
           ヽ  ノ       ヽ_>‐{ !⌒   ヽ
            `´           { ノ''ヽ ̄`―´
                     `‐、  }
                       `´


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354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 23:25:08.10 ID:wxMc/4O00
異能生存体かな?
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/22(水) 01:22:01.84 ID:tvb8a5nzO
星の海を股にかける大海賊だから多少はね?
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2018/10/16(火) 22:33:23.10 ID:O7fjBJ/k0


 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人




 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩き、木陰でお互いに笑い合っていた






    『そのおもちゃよっぽど気に入ったんだな』ペラッ
    【そーれ!バーン!バーン!…えへへ!露店のおじさんがサービスでくれたもんね!】カチッ!


    『ああ、何故か服を着てない女の本を返しただけでな』
    【不思議だよねぇ〜、キミはその[ワカツ]の剣術の本面白いの?】


    『そうだな…魔術とは違い、闘気というモノを操る剣術は興味深い』
    【剣かぁー僕は運動神経よくないからなぁ…それに剣より銃の方が何か恰好良いもん】カチッ!カチッ!


    『フッ、飛び道具など術があるだろう、実用性を考えれば懐に入られた時の為の剣が良いに決まってる』
    【むぅ!意見が別れたね…】








    『…久々に笑った気がするな』
    【えっ?】






    『学院で同じ歳の奴らと話してて此処まで楽しいと思ったことはなかった…本当何故だろうな』

    『心が晴れ晴れとしているんだ…なんで安心するんだろうな』
    【……へー、不思議、僕もなんだか安心するんだ】


    【なんだかずーっと昔に落として無くなっちゃった宝物をタンスやベッドの裏で見つけたみたい】


    『…ぽっかりと、空いた何かが埋まった感じ、か?』

    【! そーそー!すごいね!今僕の考えてる事と同じだよぉ!…いやぁキミ人の考えを読むの巧いね】



    『いや…そうじゃないんだ…別にお前の思考を当てたワケじゃない…ただ』
    【?】






    『俺が、純粋に今、思ったことなんだ』


―――
――
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2018/10/16(火) 22:43:47.30 ID:O7fjBJ/k0












パチッ…


         …? …あぁ、そうか鴨肉を焼いた後、アニーに丸投げして仮眠を取るため客室に戻ったんだな














時計は……【20時15分】…とんだアクシデントに見舞われたモノだ


陽の高い内に[クーロン]を出て帰って来るのが夜中とは…






…丁度今、発着場に着陸するとアナウンスも流れて来た…荷物を持って降りる支度でもしておくか



358 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/16(火) 22:54:26.70 ID:O7fjBJ/k0






           ※ - 第3章 - ※



    〜 資質を得る、という事…ぶらり、いい旅夢気分 〜




359 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 23:22:16.71 ID:NjW0TnI/0
いよっ!待ってました!
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 23:27:18.20 ID:fnGjHvzgO
素早い復帰で嬉しい
続きも待ってます!
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 23:18:38.97 ID:ks/1nI6H0
【双子が旅立ってから3日目 午後20時28分】




 仮眠を取り、目覚めてすぐの身体は節々がまだ少し鈍ったように思えた
術士は気怠げに蒼の法衣をはためかせながら発着場を後にした…目指す先は自分が金塊で得た資金にモノを言わせた安宿だ


 長期滞在、という形で宿室を確保した彼の半ば仮住まいと化したオンボロ宿屋へと向かう最中
ふと見覚えのある後ろ姿が目に留まった






リュート「はーい!皆さん拍手拍手!スライムの曲芸だよ〜!この輪っかを見事潜り抜けたら拍手〜」

スライム「(`・ω・´)」キリッ! ピョーンッ!



シーン…




 路上のど真ん中で曲芸とやらをやっている1人と1匹が居た、彼等の手前には空っぽの蓋がくり抜かれた缶詰の缶がある
おそらく道行く人の御捻りを入れて貰う為なのだろう…今のところの儲け?空っぽであることから分かる通りだ




リュート「…ちぇっ、世知辛い世の中だなぁ…」ポロロン♪

スライム「(´・ω・`)」シュン…





ブルー「…」







ブルーは見なかったことにした、というか他人のフリをした、知り合いだと思われたくない








リュート「おぉっ!?オイ見ろよスライム!ブルーだぜ!帰って来たんだな!おーい!ヤッホー!」手フリフリ

スライム「(`・ω・)ぶくぶくぶー!」ピョーン!ピョーン!



ブルー「畜生ッ!」




だが、人混みに紛れて姿を眩ませるのが間に合わなかった

敢え無く彼は、センスが無くて売れない路上パフォーマーの知り合いという奇異の眼で群衆の注目を浴びた



―――
――


リュート「はっはっは!なんだよ、そう怖い顔すんなよ〜俺達、一緒に大金稼いだ仲だろ、相棒?」ニコッ

馴れ馴れしく肩に手を置き笑ってくる男を恨めし気にブルーは睨みつけた
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/27(土) 02:47:10.48 ID:P1zUPoOk0


 2人(と1匹)は[クーロン]の寂れた通りにある、おでん屋台の古木を組んで作った簡素な長椅子に腰掛けていた
悪態を吐いてすぐに立ち去ろうとしたが弦楽器を背負った無職にしつこく付き纏われ
最終的に折れて少しだけ話に付き合うという所に落ち着いたのだ

 眠らない魔都の雑踏や目が白黒するようなネオンライトが仮眠明けの覚醒し切ってない脳に嫌に響く
せめて静かな場所に移動しろ!とキレ気味に抗議した結果が寂れた通りのおでん屋の屋台に移動した経緯であった




…まぁ[クーロン]で"まともな静かな場所"など無いに等しく、今彼等の居る場所も比較的に静かな場所でしかないのだが



裸電球を針金で吊るしただけのか細い灯りと古めかしいラジオから流れる時代遅れの選曲がこれまた哀愁を漂わせていた
 おでんと書かれた赤提灯と紺色の暖簾…夕食をまだ取っていない彼は何か軽く胃に詰められるモノは無いかと思っていた
空腹を埋めれるのであれば店の外装なぞどうでも良かった、味さえ悪くなければ何でもいい


トクトクトク…


 硝子のコップに注がれる焼酎とやらを呷るように飲むリュート…飲み始める前からコイツは酔ってるのではないかと
ちびちびと飲みながら横目でブルーはこのプー太郎を訝しんだ


リュート「いんやぁ、災難だったなぁ〜船がハイジャックされたんだろう?」

ブルー「まったくだ…[タンザー]の件と良い、これと良い…どうも俺はシップと相性が悪い」



味の染みこんだ煮卵を割りばしとやらで器用に食っていくリュート
その横で味噌という調味料を塗ったくった"デンガク"という食べ物にがっつくスライム


箸、という食器を使うのはブルーにとってあまり馴染が無くどうにもモノを巧くつかめなかったがそれでも意地になって
串のように突き刺さずに苦戦しながらも大根を口に放り込んだ

 昨日の蟹すき鍋の時と良い、このリージョンの人間は何故ナイフやフォークでなく箸などという物を愛用したがるのか
言葉には出さずに少しだけ呆れとも感心ともどちらともつかない感情を抱いた





ブルー「…味は、悪くないな」モグモグ





食べ辛いのが難点だが、祖国の料理に勝らずとも劣らないなとオンボロ屋台のおでんを彼は高く評価した



リュート「だろぉ?なんだって食ってみるもんさぁ〜、えーっとどこまで話したっけ?」

リュート「あー、そうそう船がジャックされた話だな、そんで犯人たちと戦ったんだろう?」


ブルー「まぁな、奴らなど術で一網打尽だったがな」フッ


リュート「う〜ん、術かぁ…便利だよなぁ、やっぱ使えた方が就職に役立つよなァ」



[マジックキングダム]は完全な術の実力社会主義だ、魔術師としての才能の有無で将来性が決まる節がある
故にリュートのぼやきを相槌を半分流しで聴いていたブルーはそれには心の中で頷いた




リュート「しっかし考えてみると便利そうだけど、術だけってのも問題なんじゃないのかい?」

リュート「肝心な時に術力が切れて、うわーガス欠だーってなったら困るし術を反射したり効き目の無い敵と会ったら?」



ピタリ、不慣れな箸の動きが止まりブルーは眼を丸くした…
馬鹿だ馬鹿だと思っていた男が意外にも的を得た質問をしてきたのだから
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 01:12:02.02 ID:FFroIjC90


ブルー「貴様の言う事も一理あるな」




ブルーは術が使えなくなった時、自衛の手段が恐ろしい程に無くなる


 それは以前、アニーと二人で[保護のルーン]があった空間に行ったときに証明されている
巨蟲の一撃で術の詠唱ができない状況に陥ったあの時同様に喉や、肺をやられれば立ちどころに蹂躙される未来しかない


術の使えない術士など、非力な人間でしかないのだから…





彼は昔、本で学んだことがある…世には己の術力全てと引き換えに全てを焼き払う『<塔>』という術が存在すると


高位の術士が使えばその火力たるや現在確認されている術の中で隣に並ぶモノはいないと評されるほどである

使えばありとあらゆるものが屈服すること間違いなしだが、これは本当に最後の切り札と言っても過言ではない






もう一度言うが己の術力全てと引き換えに、だ




 短期決戦や1対1のサシでの勝負ならともかく、その後も敵の増援が控えて居たりと
長期戦を想定した場合に使えばどうなるか…


ガソリンが底を尽きた自動車が荒野のど真ん中に置き去りにされるようなモンである





ブルー「術に頼らずに戦う術を手にすることを考えねばな…」



顎に手を当て、空腹さえも忘れ黙り込む―――武器…銃、は…不要だな、とバッサリ考えから外す

 手頃で使いやすいだろうが…それでも敵との相性がある
例をあげれば[スケルトン]種のようなモンスターには銃撃は効果が薄い



…すぐさま浮かんだのは、剣だ



 運命のいたずらか、彼は自分の幼い日の夢を見た…顔はぼやけていて思い出せないが自分と同じ年頃で銀髪の少年と
祖国を廻って遊んだ一夏の思い出


記憶の中の自分は[ワカツ]剣術の本を読んでいて
その中には術の力とはまた別の闘気なるモノを用いた特殊な攻撃がある事を知った


よくよく思い返せばアニーが虫共に対して撃ち放っていたのもそうだ




ブルー「…アニーか、女の腕力でも技と速さを生かして十分に立ち回る…」フム



ブルー(癪だが奴に相談してみるか)


 隣の席で考え事に耽っているブルーのおでんを盗み食いしようとするリュートに気づくことさえなく
ブルーは今後の予定を決めた…
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 01:54:43.38 ID:FFroIjC90
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―――
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【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分】


噂通りの場所だなーっと、観光パンフレットを片手にルージュは呟いた

 乗客の大半はまだまだ警察…即ち[IRPO]の事情聴取を受けている中、ハイジャック騒動で刑事に協力したルージュ等は
優先的に手短な手続きだけで解放された…「面倒だがこれも規則なんでな、まっ!ちったぁ融通は利かせるぜ!」と
ヒューズ刑事の計らいで長い列に並ばされることなく済んだわけである



暗がりの街に目が痛くなる程の光の渦、耳鳴りを覚えそうなくらいに様々な音が流れていく



エミリア「ささ、こっちよ!着いて来て銃を販売してる店を紹介するから」


ルージュ「はいっ!ところで、ルーファスさんは?」

エミリア「うん?ああ、アイツならアニーと先に帰ったわ」


ルージュ「アニーさん…確かエミリアさんのお友だちの方ですね、僕はまだ一度もお会いしていませんが」

エミリア「ええ、あの海賊たちのドタバタで結局紹介できなかったわね…」


エミリア「この街で困った事があったら彼女を頼ると良いわって会わせてあげたかったんだけどねー」


ルージュ「この名刺を渡せば良い、んでしたっけ?」


エミリア「そうよ、私があげたグラディウスの名刺ね…あの子いつもイタ飯屋の前に立ってるから」

エミリア「なんかあったらエミリアから紹介を受けたって言って名刺を差し出すと良いわよ」



エミリア「それにアセルスと白薔薇ちゃんはもう彼女と面識があるし協力を取り付けやすい筈よ」




エミリア「…ところで二人は?」




約束通り、銃を扱う店を紹介してくれるとルージュは金髪美女の後をついてく…

…何故、マンホールの下へ降りて行こうとするのか疑問に思った所で話題に上がった同行者の話を振られた





ルージュ「あの二人は別行動中ですよ、心配だからついて行こうとかと言ったら、問題無いと言われまして」

ルージュ「なんでも、このリージョンにお住まいの"ヌサカーン"というお医者様の元を尋ねるそうでして」



エミリア「妖魔医師って白薔薇ちゃん言ってたわよね…アセルス、人間に戻れるのかしら?」

ルージュ「……僕には、何とも言えません」






ルージュ「…あの、さっきから気になってるんですが、なんでマンホールの下へ降りるんですか?」

エミリア「あ、この街の武器屋はマンホールを下りた下水道にあるのよ」ヒョッコリ


地中から顔をだした土竜のようにひょっこりと顔だけ出して引き攣った顔のルージュにエミリアは答えた
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 02:40:47.01 ID:FFroIjC90
―――
――

【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分(ルージュ&エミリアが武器屋に行く同時刻)】



ポツッ…ポツッ…




 光化学スモッグに薄汚れた街の配管から濁り水が流れ落ち、それは雨水が生み出した小さな溜まり場に行きつく
無数の交差する電線の上には行き倒れの人間そのものを喰らわんとする鴉が眼を光らせており…

常人ならば誰も好んで通りたくないだろうそんな裏通りを一組の女性たちが歩いていた


一人は美しい貴婦人のような出で立ちで頭に白い薔薇の飾りをつけた淑女

もう一人は可憐さよりも凛々しさの方が前に出る整った顔立ちで緑髪が目立つ少女





 綺麗な花には棘がある、などとはよく言ったモノで…一見すれば彼女等は治安の悪いこの街の通りでは
恰好の餌に見えるだろうが、この二人は人間<ヒューマン>ではない、妖魔だ


不用意に敵意を以て近づけば、路地裏に転がる冷たい骸になるのはこっちである



丁度、彼女等二人の眼界にある建物の主と同じ…危険な人物なのだから








アセルス「…此処が、そのヌサカーンって人の…」ゴクッ


白薔薇「はい、妖魔医師ヌサカーン様ですわ、この御方ならばあるいは…」





アセルスは一度だけ白薔薇の顔を見た、自分に付き添ってくれたこの姉の様な優しいヒトを

…固唾を飲み、不安とも期待とも取れる奇妙な感情を胸に暗黒街にひっそりと存在する闇医師の居城の門戸に手を掛けた




ガチャッ!ぎぃぃぃ…







アセルス「た、たのもーーーーっ!」

白薔薇「…アセルス様、それでは道場破りか何かですわ…」





…アセルスお嬢は緊張していた



アセルス「あ、あぁ…!そ、そうだね!ごめんくださーい!どなたかいませんかー!」


366 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 03:34:22.28 ID:FFroIjC90


 薄暗い室内、古びた柱時計に古き良き時代からあるダイヤル式の黒電話
鼻につんっ!と来る病院特有の薬品臭さ…病院の立地条件も相まって院内は不気味そのもので
10代半ばの少女アセルスは歳相応の反応をするのも無理は無かった





アセルス「…あのー…どなたか、…い、いらっしゃいませんかー…」ピトッ

白薔薇「アセルス様、大丈夫ですから」ナデナデ




 さっきまでの威勢の良さはどこへやら、普段は勝気でモンスターとの戦闘にもめげない彼女が語気を弱め
姉代わりの貴婦人の腕にぴたりと、夏場の樹に止まった蝉か何かようである

そんなアセルスを教育係の白薔薇姫は微笑ましくなでるのであった、そして…





白薔薇(それにしても、変ですわね…)ハテ?



白薔薇(ゾズマから聴いた話では来客を驚かせる"おもてなし"に精を出す奇人だとはお聞きしていましたが…)


白薔薇(にしては、あまりにも気配が無さすぎる…何処かに隠れている、ような感じにはとても)






そして、黒電話が置かれた受付机の上に置かれた来客者に宛てたであろう…この病院の主の文を見つけた












【 ちょっと、[ヨークランド]まで緑の獣っ子と往診に行ってきます

      あと各地を廻って奇病を抱えた女性客を診るので しばらく [クーロン]に帰りません ヌサカーンより】














アセルス「 」( ゚д゚)

白薔薇「…あらあら、まぁ…」







……かくして、アセルスの人間に戻れるかもしれない、という期待はいともたやすく崩れたのであった

367 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 11:50:22.33 ID:DMumBUm9O
あの仕掛けはリアルにビビる
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/02(金) 21:48:15.92 ID:vBgNsOZB0
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―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分(ルージュ組、アセルス組がそれぞれ同時進行中)】




「ブラッククロスぅ〜?知らねぇな」スタスタ…

レッド「そうか、ありがとう」







暗黒街[クーロン]…海賊騒動の件を終え、レッド少年は自分の家族の仇である悪の秘密結社の情報を掴もうと
 キグナス号乗務員が次の小惑星<リージョン>へ旅立つ前の休息期間を利用して一人、…いや一機と闇市を歩いていた





BJ&K「…」ウィーン


レッド(…あの後、医務室でコイツに『異常発見、特殊な…』と言われかけた時はビビったな)



 医療ロボット、BJ&K…彼はレッドの生体反応を見て、通常の人間とは違う事に気が付いた
レッドが遠い宇宙の何処かにあるヒーローの惑星<リージョン>から来た人物に力を託され一命を取り留めた人間だと
機械ゆえに生体反応から分かったのだ



レッド(バレたら俺はヒーロー協会の掟とやらで抹消されちまうからな)

レッド(咄嗟にそれ以上喋るな、喋ったらお前をぶっ壊す、俺の傍から離れても壊すっつっちまったからな)




 後ろ頭を掻きながら、乱暴な事を言ったもんだと彼は少し後悔した
そして医療ロボは「命令内容が不正ですが壊されたくないので私もついていきます」と律儀についてくるという



「…ひひっ」
「くすくす♥」





レッド「…」スタスタ




 齢19、まだ大人になりきれない年頃の彼は…正直に言うとこの街の雰囲気に少しだけ気圧されそうではあった
物陰でまだ年若い彼を見ながらほくそ笑む男女の声色や目線、その全てが
まだ大人になり切れない彼の少年の部分に触れてきそうで心細さはあった





BJ&K「…ピピッ、人の大規模な集まりを確認、情報収集に適しそうですよ」

レッド「!」ハッ

レッド「あ、あぁ…ありがとうな」





…たとえ、メカでも今は"独り"じゃなくて良かった、彼は思った

369 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/02(金) 22:55:44.29 ID:vBgNsOZB0


情報収集に勤しむ少年は医療ロボと共にひたすら暗黒街を渡り歩く、彼はメカと違い人間<ヒューマン>だ

 動けばカロリーも消費する、あの騒動でそういえば何も食ってなかったなと身体が空腹の音で知らせ出した頃
適当に眼に止まったコンビニエンスストアで何か軽いモノを買って行こうと歩きだした





「へっへっ…よぉ!見ろよあの頭!」

「ヒューッ!まぁ〜ったく奇妙なヘアースタイルだぜぇ!!鳥の巣かww」
「ちっげーよ、サボテンだろぉ?」



「「「ぎゃーはははははっwwww」」」






…治安の悪い街でこの程度のゴロツキ共はまだタチの良い方だろう

どこの惑星<リージョン>にもまるでお決まりのようにいるコンビニ前で屯うガラの悪い若者という奴だ

 緑、白、空色、3本カラーリングの横縞が印象的な看板灯の下
『家庭ごみの持ち込みを固くお断りします』と書かれたゴミ箱の前に座り込み煙草の吸殻をこれでもかと言わんばかりに
撒き散らしているモヒカンヘアー達



レッドは何も言わずに彼等に背を向けた



「サボテンくぅ〜ん、アタシ等とあそんでかなぁ〜い…イイ事してあげるわよ!キャハハ」

「おい俺らが遊んでやるっつってんだ、無視すんなよ、なんとか言えよォ」




背を向けたレッドは無表情で静かに歩き出した



「へへっ、そんなこというなよなァ〜ビビッて逃げちゃうよ、弱虫くんなんだから、あっ!もう逃げてるか」


「「「「ぎゃーっはははははwwww」」」」


―――
――



暗がりの道を白熱灯の灯りを頼りに階段を降りていく、小さな安宿の横をレッドとBJ&Kが降りていく


レッド「…」



レッド「……昔の俺なら、蹴り入れてたな、オレも大人になったということか‥‥フッ」




[シュライク]に住んでた頃、まだ学生時代だった頃なら余裕でシメてただろうなと思った

…ヒーローになってから何が切欠で抹消されるか分からんと慎重になっていたのはあるかもしれない




以前の自分なら考えるよりまず行動だったが、少しだけ考えるようになった、そんな気がするのだ

370 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/03(土) 00:30:17.81 ID:EDU40oww0


「聞いたか?この街の裏通りに居た闇医者が他所のリージョンへ行っちまったとよ!」

「あ〜、あの奇病フェチで無一文でも診察してくれる変人の…勿体ねぇ」




「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプでロープを切るのを!アイツぜってー[ワカツ]の剣豪だって!」




「さっき変な路上パフォーマーが居たんだけどさぁー、あの芸クッソつまんなかったわよねぇ」
「あっ!わかるぅ〜!」




レッドは歩いた、だが…得られた物は全くと言って良い程に何も無かった…

―――
――




レッド「…収穫無し、か…しゃーない、戻るか」クルッ



スタスタ…


白熱球の灯りに照らされた階段を昇り来た道を戻る…、一度通った道を戻るという事は当然ながら先のコンビニ近くを
通るわけで、当然―――




「お、お、おぉ…サボテンくん戻って来たよぉ…スゥ、ハァ…」



―――当然、ガラの悪い連中がまだそこには居た

透明なビニール袋に何か透明な液体が入っていて、彼等は"ソレ"の匂いをしきりに嗅いでいた


「へ…ふえへへ」スゥ…ハァ


「おひゃ、らいふえげ」





レッド少年は露骨に顔を顰めた、彼はヒーローになる前から正義感の強い男だった
 だから目の前の"行為"を行う集団に心底嫌悪感を抱いたのだ




レッド(こいつら、"ヤク"やってやがるな…)



犯罪都市[クーロン]では日常茶飯事な光景だが、観光客からしたらひどく不愉快な光景である
 これ以上、この手の輩に関わり合いたくないとその場を離れようとしたレッドは次の瞬間信じられないモノを目にする


「う、ウゴゴ…ウウゲエエエエエエエ」…ベキッ、 ベコッメキョ…グッ ボコボコ


「きゃあああああああああぁぁ!」

「らんらー。ろうしたんら?おまえあー ―――ウゲッ」ガッ!




レッド「!? な…なんだぁ!?あれは!!」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/13(火) 22:43:36.89 ID:FWNstqpd0

【双子が旅立ってから3日目 午後20時29分】



エミリア「どうかしら?」

ルージュ「色々種類はあるけど、いきなり強い銃はやっぱり扱い辛さもあるし」


ルージュ「これにしときます!」つ 【アグニCP1】


エミリア「確かに初心者向けではあるわね…ね、基本的に店頭に並ぶ銃は此処ぐらいしか良い店は無いわ」

エミリア「もし、それに慣れたら新しい銃を新調しに[クーロン]にくると良いわよ」


ルージュ「この場所以外にはないんですか?」



エミリア「…んー、銃、といえば銃だけど
       メカにパーツとして組み込んだ方が良さそうな重火器専門の店が一応裏通りにあるのよね…」


エミリア「横流し品で正規軍から色々と強いのを取り揃えてるけど…重火器は、ねぇ…」


ルージュ「何か不都合が?」キョトン

エミリア「いや…戦闘が終わった後の成長性が…」ブツブツ



ルージュ「???」


―――
――


ルージュ「それでは!エミリアさんお元気で!」ペコリ

エミリア「ええ、術の修行の旅ってのはイマイチ私には分からないけど大変なんでしょう?頑張るのよ!」



 腰まで伸びた白銀の長髪は去っていくブロンドの女性に礼を告げ、裏通りに住まう医者の居城へと向かうべく踵を翻す
おそらく、緑髪の少女らが居るからだ…待つよりどうせなら迎えに行った方がいいと判断してだ





タッタッタ…!

ルージュ「うん?」クルッ





巡礼者「 」バッッ! ドンッ



ルージュ「うわっ!」ドサッ


ルージュ「いたた…な、なんだぁ?あの人…凄く急いでるみたいだけど、人にぶつかって謝りもしないなんて…」ムゥ…


「てめぇ!!待ちやがれェ!!」タッタッタ!


ルージュ「…あれ?この声は…」ハッ!





レッド「でめぇ!!そこの巡礼者風の男ぉ!麻薬売りは貴様だな!!」タッタッタ!

372 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/13(火) 23:15:10.86 ID:FWNstqpd0


ルージュ「君は…確かレッド!レッドじゃないか!」ダッ!



レッド「―――あっ!アンタは確かルージュ…だったな!丁度いい!アイツ捕まえんの手伝ってくれ!」ダッ!




 見知った顔の少年が一人の巡礼者を追っていた
紅き術士は自分の名と同じ意味合いを持つ少年と奇しくも早い再会を果たす


 何事かと魔術師は少年に並走するように走り、事態を問うと追跡に夢中だったレッド少年は横目でチラリと
自分についてきたルージュの存在に漸く気づいたのだ…そして第一声が「アイツ捕まえんの手伝ってくれ!」なのだから
術士は目を丸くした





レッド「話せば長くなっちまうから手短に言う!アイツはこのリージョンで麻薬<ヤク>を売ってんだ!」

ルージュ「麻薬だって!?」

レッド「ああ!」




マンホール下の武器屋で銃を品定めしていた合間に、レッド少年は奇妙な光景を目の当たりにした

あの屯って居たガラの悪い若者たちの内の一人が突然、"変貌"するという怪奇だ



 腕や顔…いや、身体全身の皮膚がボコボコと沸騰した鍋底の熱湯のように泡立ち膨れ上がり、瞬く間に人間から怪物へと
その姿を変えていき、手当たり次第近くにいた通行人を襲い始めたのだッ!



それは"ただの麻薬"ではない…飲む者の細胞を意図的に変質させ、人体を改造し化け物を生み出すという―――






レッド少年が追い続ける悪の秘密結社【ブラック・クロス】の人物が新薬の実験、組織の資金を集める為の物だったァッ!





 群衆の眼があるが故に"アルカイザーに変身することができなかった"彼はそのまま生身で改造戦士と化した男を倒し
事の成り行きを見ていた巡礼者風の装いをした男を見つける…そして奴こそが薬物を売っていた張本人と聴き

被害の出た一般人の治療をBJ&Kに任せ一人で追跡していたとうのが此処までの経緯であった







ルージュ「麻薬だなんて…っ!そんなの放っておけない!わかった!」ダッ!

レッド「っ!すまねぇ…恩に着るぜ!」





共闘はした、が出会ってそこまで過ごした時間は僅かだというのに…普通、こんなヤバい事件に首を突っ込んでくれる奴は
いないというのに、ルージュはレッドの突然の申し出に快く頷いてくれたのだ


"正義の心"を持つ少年と共に並走するこの紅き魔術師も、…彼もまた正しいと思う行動の為に動くタイプの男だった…っ!
レッドは心の中で、この青年の純粋な心に感謝した
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/11(火) 23:15:48.89 ID:6QiV02sE0


 鮮赤と深紅が暗黒街の闇を切り裂く様に並走する、ネオンの輝きも何事かと窺う人々の顔も目に映るモノ全てが
線になっては視界の端から逸れていく


竹笠の後を追い、街の闇へ奥へと進んでいく――ネオンの輝きも人の気配も失せ、ついには街の裏通りへと入り始めた頃だ







レッド「チクショウ!!…見失っちまった」ギリッ

ルージュ「レッド!落ち着くんだ!…僕達は此処までアイツとはそれ程距離に差をつけられずにつけて来た」

ルージュ「とすれば、何処かに隠れて息を潜めているんだ!」


レッド「あ、ああ…一体どこに」キョロキョロ




長い階段、雑居ビルの天辺まで一気に駆け上がれる錆びついた梯子…開きっぱなしのマンホール、候補など幾らでもある




ルージュ「危険ではあるけど、手分けして探さないか?」

レッド「二手に分かれるのか」

ルージュ「ああ、事前に裏通りは治安が悪いとは聞いていたけどキミと僕ならきっと余程の事が無い限りはきっと…!」


 レッドは[ソルジャービル]達との戦闘を顧みる、術士として後衛を務めながらも
懐に飛び込んで来た敵兵を避けて蹴り飛ばした姿を見るに護身術も多少は齧っている…ならば行けるか?と


レッド「わかった、その手で行こう無理はするなよ!危険だと思ったらすぐに退いてくれ」

ルージュ「うん、キミも気を付けてね」




互いに頷き、捜索を分担して行う事にした―――異臭のする配管が剥き出しの路地裏を一人ルージュは歩く…


"麻薬の売買"という悪行を許すわけにはいかないと、彼はつい勢いでレッドについて来てしまったが
 結果的に言えばこの裏通りの何処かにまだ居るかもしれない仲間のアセルス等をほったらかしにしてしまったことに
今更ながら後ろめたさを覚えた




ルージュ(緊急事態だったとはいえ、やっぱり悪い事だったかな…あとで二人と合流したら謝ろう)タッタッタ…


―――
――

時を同じくして…そのアセルスお嬢は…



「ひひひ、ね、ねぇ?そこのお嬢さんたちイイモノ売ってるんだけど買わない?今なら安くしておくよ」ヒヒヒ


アセルス「 お 断 り し ま す ! 」



あからさまに怪しい白衣の男に商談を持ちかけられていた

「…ちぇ、いいよ…[裏メモリボード]を50クレジットなんて破格なのに」ブツブツ スタスタ…


白薔薇「変わった方が多いリージョンですわね」

アセルス「…はぁ、ヌサカーンってお医者様が居ないのに変なのは居る、か」ガックシ…
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 02:09:50.35 ID:INgrk9Io0


一筋の希望が見えたと思えば、それは此処に在らず
目に見えて落胆する少女を見て白薔薇姫は暫し迷った、項垂れた緑髪が雨に濡れ余計に悲壮に見えてしまう


白薔薇「アセルス様、まだ手が無いワケではございません…」

アセルス「白薔薇…?」





白薔薇「望みは薄いかもしれませんが、良き知恵をお貸しくださる方に心当たりがございますわ」

アセルス「誰なの?その人は…」



 厳密に言えば知恵を貸してくれそうなのは"2人"だ、2人ではあるが…その内の一人[零姫]と呼ばれる女性が現在消息不明
何処かで生きていることは間違いないのだが、白薔薇はその人物が何処にいるか知らない為、残る一人の名だけを挙げた









 白薔薇「その御方は…妖魔の君の一人、氷炎の小惑星<リージョン>、[ムスペルニブル]に城を構える御仁」







        白薔薇「人呼んで、指輪の君…ヴァジュイール様に御座います」






アセルス「ヴァジュイール?え、でも妖魔の君って」

白薔薇「はい、…オルロワージュ様と同じく頂点に立たれる御方です」





それを聞いてアセルスは身の毛もよだつ怒りに駆られた、オルロワージュと同じ妖魔の君!?冗談じゃないッ!

 自分の都合だけで女の人を攫って、あまつさえ勝手に人間を辞めさせて自分の愛人に仕立てる奴と同格の妖魔なんて
そんな碌な奴じゃない!山豹を思わせる彼女の怒りに貴婦人は「どうかお怒りを鎮めください…」と宥める



白薔薇「ヴァジュイール様に限らず、妖魔の君と呼ばれる方々は
       全てがオルロワージュ様と同じ思想をお持ちではありません」




ある者は修行に明け暮れ術の道を究めて最終的に自身の"時"を停めたり

"退屈"を何よりも嫌い、客人を手厚く持て成し"興"に何よりもめり込むなど…その考え方は千差万別であると



 そして指輪の君も、相当な変わり者として妖魔の中ではあらゆる意味で有名な人であり
また人間から見て寛容な大人物と評する声もあるのだ…(一方で勝手に人をテレポートさせる自己中心的との声もあるが)




白薔薇「あの御方のお眼鏡に叶えば…あるいはお力添えを頂けるかもしれません」


ひょっとしたら零姫の事も何か存じていて、せめて居場所くらい教えて貰えるのでは?と淡い期待も貴婦人の中にはあった
無論、彼が彼女等を気に入り、良き友として見てくれるならばの話だが…
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/15(土) 11:12:18.31 ID:Iy7IpdVQO
つ【ハイドハイドハイドハイドビハインド】
376 :>>375 ヴァジュ様「う、美しい…ッ!」花火ボーン! [saga]:2018/12/19(水) 00:44:33.38 ID:GIh0EGVY0


アセルス「…白薔薇がそこまで言う人なら…」



 納得、とまではいかないのも無理はない、彼女の境遇の元凶たる妖魔の君が如何様な存在か
彼女の知る最たる例が魅惑の君だけなのだから気持ちも分らなくはない膨れっ面のアセルスお嬢は渋々と頷きながらも
裏通りから[クーロン]の繁華街へと通ずる道へ向き返った



アセルス「なら帰ってルージュと合流しよう、そろそろ銃も手に入ってる頃だろうから…」



タッタッタ…



白薔薇「そうですわね――――アセルス様」


タッタッタ…


アセルス「!」ピクッ



タッタッタッタッタ…!!





 その足音に初めに気が付いたのは白薔薇姫だった
同じく妖魔と化したアセルスも遅れて此方に何者かが走って来る音に気が付く、犯罪都市の裏通りだ浮浪者の一人二人が
金品目当てに追剥をしたとしても何ら可笑しなことは無い


白薔薇は静かに[フィーンロッド]に手を伸ばす

同じくアセルスお嬢も侍が腰に差した刀に手を伸ばすように白薔薇姫と同じ武器の柄を握りしめる









       -『身の丈に合った武器を使え、でなくばいざという時に死ぬぞ』-





あの一件…キグナス号でサングラスを掛けた男、ルーファスに言われた言葉だ

妖刀[幻魔]を完全に扱い切れていない自分では…この武器に頼り切った自分ではいつか、地に膝をつくことになる
己自身が強くなり、成長した時こそ[幻魔]を手に戦おう、彼女はそう誓い、此処へ来る前に武器を新調したのだ


[幻魔]は今、ルージュの[バックパック]に預けてある



だから妖刀の力には頼れない、信ずるべきは己の力、ただそれのみッ!


アセルス(…落ち着け私、…そんじゃそこらの奴になんか負けっこない)キッ



 西洋剣の構えを取る白薔薇姫、侍が抜刀する様を彷彿させる東洋剣のスタイルで身構えるアセルス…同じ武器にして
全く異なる剣術の形を取る女性二人が目にした突然の来訪者…それはッ!



            巡礼者「 」タッタッタ…!


アセルス「ふえ!?…お、お坊さん…?」キョトン
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 01:14:31.43 ID:GIh0EGVY0




意外ッ!それは巡礼者ッ!






…身構えていたアセルスは毒気抜かれたような顔をした、浮浪者―――もしくはオルロワージュの放った刺客かと!?―と
本気で身構えていた分、草鞋で水溜りの上をばしゃっ!と踏み歩くお坊さんの登場に目を丸くした


勿論、単に獲物を油断させる為だけにそのような恰好をしていて、そこから懐に忍ばせた刃物でグサリ!なんてことも考え
すぐに緩んだ気を引き締めたのだが…




タッタッタ…


シーン…




白薔薇「…行ってしまわれましたわね」

アセルス「…そ、そだね」カァ///





 ただの通りすがりの坊さんだったようだ
自分達二人の真横を素通りして走り去る姿を見て水溜りに映る自分達の姿が滑稽に見えた


思い出したらなんだか顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってきた…






タッタッタ…!


アセルス「ってまた足音―――」









ルージュ「ハァ…ハァ……って、あ、あれ!?二人共!?」タッタッタ


アセルス「ルージュ!?なんで此処に…迎えに、来た、の?」


ルージュ「いや、人を追っかけてたら―――そうだ二人共!この辺で笠を被って、棒を持った人が走ってこなかった!?」

白薔薇「その御方でしたら彼方へ向かわれましたがどうかなさいましたか?」スッ


白薔薇姫の指差す方向を見てルージュは簡潔に理由を説明する



ルージュ「時間が無いから手短に言う、アイツは街で麻薬を売ってたんだ!レッドと捕まえる為に追ってる!」

アセルス「烈人くんも!?」


378 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 01:48:57.69 ID:GIh0EGVY0


アセルス「それだけ聞ければ十分だ!白薔薇!私達も追おう!麻薬なんて売る奴は放っておけないって!」

白薔薇「アセルス様の御命令とあらばご一緒します」



ルージュ「二人共、巻き込んでごめん!ありがとう!」



三人が早速、巡礼者を追おうとしたその時だった























ゾワッ










三人の中でいち早く"ソレ"に察したのはルージュだった





それは彼自身が魔術師だからなのか、単に彼という人間の[霊感]が高かったからなのか、昔からそうだ

[ルミナス]でアセルス等があの全身青色で統一した妖魔…[水の従騎士]が正に彼女等に襲われる直前がそうだった



嫌な予感を直感的に察知することができた



背筋に嫌な感触が走り思わずルージュは立ち止り身震いした

次に気が付いたのは上級妖魔である白薔薇だ、最後に気が付いたのはアセルスお嬢





ルージュはゆっくりと、ゆっくりと裏通りの…薄汚れた街角の小さな一角を見た、降りしきる雨、雨樋<あまどい>から
伝ってくる汚水に晒され…錆びて腐り切った鉄材や何かの工事で使う気だったのか
キノコや苔、黴菌<かび>が繁殖してもはや使い物にならない角材



…その角材の上に腰を下ろして座りながら此方を眺める"ソイツ"とルージュは目が逢った


黴菌<カビ>だらけで、毒々しい茸が生えて…胞子のようなものをふよふよ漂わせていたソイツと…

379 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!美鳥_res]:2018/12/19(水) 02:27:04.76 ID:GIh0EGVY0









               「ふしゅるるるる…終わりだ!!」






380 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 03:05:03.90 ID:GIh0EGVY0


妖魔だ、見た瞬間に理解した
今までアセルス等を追って来た刺客たちの中でもコイツだけは"別格"だ、と


騎士と呼ぶには細い体つきで、手に持った武器が杖である所からも魔法使いといった印象が強い


全身が緑系統の配色でこの濁った雨が降りしきりコンクリートジャングルではその姿はさぞ目立つ
 しかしながら、初めからそこに居るという気配を感じさせない、奇妙なこの感覚…


目の前にいるのに、居ない


魂だけのお化けか何かと対面しているように錯覚する、手を伸ばせば触れられず、雲をつかもうとでもしてるんじゃないか
そう思わせる程にソイツは…存在感を消していた、視界に入っているのに




森の従騎士「我こそは森の従騎士…主の御命令に従い、姫を取り戻しに来た邪魔立てする者は排除する」フシュルルル





白薔薇を庇うように前に出るアセルス、いつでも術を放てる姿勢に入るルージュ…一斉に戦闘態勢に入る



ルージュ(…なんだ、アイツの身体の周りに浮いてるあの白いのは…)ゴクリッ




白銀の魔術師は森の従騎士と名乗った妖魔の風貌に言いようの無い不安を抱いた…
緑色を基調とした身の周りに蛍のように薄らと半透明で光る"何か"が浮いてるのだ、直感的に分かる


"アレに触れてはいけない"




森の従騎士「立ち塞がるか、ならば死ね」コォォォォ…
白薔薇「! お、お二人共!一か所に固まっていてはいけません!散開してくだ―――」




騎士を名乗る者がどのような攻撃を放つか
  ――いや術を唱えるのか?ならば相手が先に詠唱を終える前に術を反射する術を掛ければ良い!

と、紅き術士も、体術や杖を用いた棒術が来るなら[ディフレクト]しようと構えていた麗人の少女も浅はかな考えでいた



あろうことか敵が仕掛けて来た戦法は術でもなければ剣技や棒術のような物理攻撃ですらなかった



    パカッ


従騎士の仮面の唇にあたる部位…マスクが音を立てて開いたのだ





 森の従騎士「ヴァアアアア アアアアアアア"ア""アアア アアアアア""アア"" ア"ア"ア  ア" ア ア""」キィィン





怒声、悲鳴、絶叫、奇声


無数の音が、騎士の声帯から同時に発せられ

それは無数の糸が絡み合い帯を造る様なうねりとなった…特定の魔物が使う技、音波攻撃の[スクリーム]だ
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 04:29:27.92 ID:GIh0EGVY0


 本来であれば不可視の衝撃波…もとい"音撃波<ソニックウェーブ>"は大気を震わせ空間をも歪め――そう喩えるならば
真夏の猛暑日に遠くの景色がぐらぐらと揺らいで見える陽炎現象に似たモノが垣間見える

輪っか、円環状の振動が相手の口部から放たれ波状に広がる様に伸びていくのが確かに認識できる




…もう一度言うが波状に広がるように伸びていく、[スクリーム]は大勢の敵を巻き込む範囲攻撃の一種として界隈で有名だ



一番後ろに居た白薔薇姫、その彼女を庇うように前に出ていたアセルス、そしてその二人より前に居たルージュ




直撃だった、音の振動が身体全身に響き渡り…銀髪の好青年は自らの身体から嫌な音が鳴るのを直に感じた
ビリビリとした痺れ、鈍い痛み、手足の指、関節が思う通りに動かなせない





ルージュ「――」ドサッ





硬い地面に前のめりに倒れ、血反吐を吐き出す…まだ意識はあるが受けたダメージは彼自身が思う以上に深刻だった

骨に罅、振動は体内を駆け巡り、内臓、脳…あらゆるものを文字通りシェイクしていった




アセルス「――っ ハァ、―フゥーッ…ぐぅ…ハ、  る、るーじゅ?」


偏に魔術師が盾になったのもあるが妖魔の血で人間<ヒューマン>ではなくなったアセルスと
一番後ろに居た妖魔の白薔薇姫だけである、まともに動ける状態なのは…



ルージュ「 」ピクッ、ピクッ




アセルスの目の前には目は焦点があわず、地に伏せたまま痙攣する親友の姿だ
上記の通り、体内にもダメージが行き届いている所為か彼は起き上がることもできずにいる

気絶はしていない意識は確かにある…だが指先から膝や肘、身体の自由がもう効かないのだ



アセルス「」プッツン



アセルス「あぁぁぁぁああああァァァ―――ッ!!お前ぇぇ!!よくも…っ!!」ダッ!!



目の前で親友がやられたッ!!激昂したアセルスは感情のままに[フィーンロッド]を構え突っ走る

 重傷のルージュを見て彼の生命を繋ぎとめようと迅速に回復術の詠唱に入った白薔薇はそれを見て何かを叫ぼうとして
一瞬躊躇った…森の従騎士の事は彼女がよく知っている、故に最初の[スクリーム]が来ると分かった時点で「散開しろ」と
そう言いたかった、間に合わなかったが


そして今回も音撃波から立ち直り、すぐにでも伝えるべきを伝えるべきだったがそれよりも生死に関わる彼を救うのが
最善手だと判断した…

事態は一刻を争う、1秒でも早く回復術を紅き魔術師に掛けねば手遅れになってしまう…っ!
アセルスに何かを叫びたかった白薔薇姫は『伝えるか』『ルージュを見殺しにするか』を天秤に掛けた結果、詠唱を続けた



だからこそアセルスが今行った、森の従騎士に対して行なってはならない禁忌<タブー>を伝えきれなかった

382 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 12:09:13.99 ID:cLWp4x5r0
炎と水は2人でも楽勝なクソザコなのにこいつからいきなり難易度はね上がるんだよなぁ
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 20:09:46.23 ID:GSEMXO/TO
森の従騎士>>>(越えられない壁)>>>>>>>猟騎士


セアト・・・。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/01/30(水) 00:49:36.37 ID:yXOt2kS70


助走をつけてアスファルトを蹴り、[フィーンロッド]の先を目前の敵の喉首目掛けて突き立てる


ガッ!!


アセルス(くっ…か、堅い!喉に全然突き刺さらないなんて!)


 苦虫を噛み潰したような顔をする彼女を見て従騎士の仮面は再び口元を開く
アセルスは口部が再びオープンフェイスになったことをみてゾッとした、この至近距離であの[スクリーム]を浴びるのかと

動揺の走るアセルスの意に反して目の前の騎士は――――!



森の従騎士「――――くくっ…」ニタァ




…アセルスお嬢の警戒した攻撃を放たなかった、いや放つ必要が無いのだ
彼奴が態々口を露わにしたのは…そのほくそ笑みを見せつける為だ



 アセルスの瞳に白い光の球が映った、自分と敵の合間に割って入って来た発光体
常に森の従騎士に纏わりつく様に浮いていた光るソレの正体をこの時、間近で見て漸く分かった







                  首だけの骸骨「ケカカ…」ボォォォ





アセルス「ぁ―――」


頭蓋骨が宙に浮いていた―――歪んだ並びの悪い歯並び、生身の人間なら突き出た鼻がある部位はガッポリと穴なっていて
その奥の空洞までくっきりと見える、眼球が収まっているはずの空虚には何も無い筈なのに

そこには確かにアセルスを凝視する目玉があるようにさえ錯覚する…っ!!







        白薔薇「『<スターライトヒール>』―――アセルス様ぁぁ!!!」パァァッ!

      森の従騎士「汝、呪いあれ『<カウンターフィアー>』」ボソッ






2人の詠唱が終わるのはほぼ同時であった奇跡の星光が傷つき倒れたルージュに生命を宿し

蚊の鳴くような呟きで囁かれた呪いの言葉が頭蓋骨を模った怨讐の思念に勅令を下す


ボッ!バシュッ!バシュッ!


 光と化した生首が流れ星のように一筋の線を描き少女の体内に入り込む、防具をすり抜け
肉体すら関係無いと言わんばかりに彼女の胸の中に入っていく


   "呪い" が アセルス の 精神 に 入り込む ! アセルス の 精神 が 侵食 されていく !



     アセルス「―――――――――」

385 :書き溜め分少しだけ投下 [saga]:2019/02/17(日) 02:19:36.90 ID:HGQPydB/0


 森の従騎士を知る人物であれば対峙した際に決して行ってはならない禁忌<タブー>を誰もが熟知していた



 何故ならばソレがこの刺客の代名詞と呼んでも過言でない程に凶悪極まりなく、又、これまでに屠られてきたであろう
数多の標的達が苦しめられた戦法であるからだ

 ["カウンターフィアー"]その名に違わぬ性能を持つ不死の属性を持つモンスターが使う技
我が身に直接触れた相手に等しく精神汚染の呪いを掛けるのだ…
肉を切らせて骨を断つとは諺で言うが、これは骨を切らせて心を折るとでも言うべきか



 ―――ドクンッ!
    ――――ドクンッ!






      アセルス「は、はぁぁぁ―――はがあか"あぁ――――ッ!」




呪いを一身に受けた少女の眼は瞳孔が開き、悲鳴とも咆哮とも分からぬ叫びを空へ向かって放つ
 傷は癒え一時とは言え昏睡していたルージュが立ち上がり状況を飲み込もうとする最中で白薔薇がアセルスの名を呼ぶ



 アセルス「―――っ」ブツブツ ブンッ!ブゥンッ!



何かを小さな声で呪詛しながら手にした武器をあらぬ方向へ振り続ける少女はこちらへと向き返りそして



 アセルス「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!来ないで!私は人間…人間よ、バケモノなんかじゃないっ」ブツブツ、フーッ フーッ


 ルージュ(! なんだ、正気を失っているのか!?)


 アセルス「あああああああぁぁぁぁぁ!!来るなぁ!」ダッッ! グンッ!!



 精神に潜り込んだ呪いの影響で【混乱】したアセルスが刺突を構えて白薔薇に一直線に駆け出す
この瞬間、紅き術士は何が最適解か判断するのが僅かに遅れた

錯乱状態のアセルスが唯一の回復術の使い手である白薔薇へ攻撃
更に森の従騎士は泣きっ面に蜂とでも言うのか毒素をばら撒く[胞子]を構えていると来た

騎士を止めるか、アセルスを止めるか







 ルージュ「 ぼ、僕を護れッ!『<サイコアーマー>』!!」PSY UP!! VIT UP!!





 光の帯が術者を包み込んでいく…輝く環が脚の爪先から頭部まで覆い尽くし終えた後ルージュは己の術で
身体中を駆け巡る霊感能力の上昇と、肉体の強度が増した事を実感する



 ルージュ「くっ…!間に合えぇぇぇ―――っ!!」ダッ



視えざる強固な鎧を装備した彼はアセルスお嬢と白薔薇姫の間に割って入れるようにアスファルトを蹴る

386 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:20:22.45 ID:HGQPydB/0


 ふよふよ、緩やかに毒素をばら撒く死人茸の胞子が降って来る、冬の頭頃に見受けられる可愛らしい粉雪の様に
ファンシーな見た目とは裏腹な殺傷力を持つそれを浴びてしまう前に為さねばと脚を動かす




―――グシュッ!




 ルージュ「こっっ、ぁ――」ブジャッ!

 白薔薇「る、ルージュさん!!」


 ルージュ「いい!!肩がやられただけそれより下が――」



下がれ、言い切る前に[胞子]は無慈悲にもその場にいた3人に降り注いだ
 肉がジュウウウ!と音を立てて溶解する音、焼ける痛みに声を押し殺せない、ルージュも白薔薇もアセルスさえも



ルージュ「」ドサッ

白薔薇「」ドサッ

アセルス「」ドサッ…カランッカランッ



 術士も妖魔の貴婦人も武器を取りこぼした少女の姿も、森の従騎士の仮面奥にある瞳には映っていないのだろう、と
倒れた一行には冷たい雨が降る中で表情が一切窺えない騎士が何の感動も無くその様を見ているように思えた



アセルス「ぅ、うぅ… ふたり、とも、ごめんなさい…」


白薔薇「…正気に戻られたのですね」
ルージュ「…キミは悪くない、って暢気な事言ってる場合じゃないよね」チラッ



誰一人動けなかった…反省会なんてしてる場合ですらない、頭ではわかる


だが身体は言う事を聞かない、小指一本すら動かない、頭は動くというのにだ



 諦めの境地…っ! もはや悟りのような心境…っ!

      勝機を見いだせないからこそそんな事を言っていられる…っ! 絶対絶命の万事休す…っ!



倒れた一行の視線は皆、一点を見つめていた


森の従騎士「……」カシャッ


 従騎士の仮面は先程見せた口部の動きと同じように目元を開かせた、此処で初めて3人は自分達を見つめる
騎士の眼つきを知る事となる…


ゆっくりと取るに足らない虫けらを見るような眼つきで此方を観ながら歩み寄り
致命傷となるであろう[スクリーム]を直撃させるべく口部マスクを開いた森の従騎士の姿だ


誰もが思った、『嗚呼…ここで全滅するんだな』と


パカッ…!

森の従騎士「任務は遂行する、邪魔者は始末…そして、白薔薇姫様…[ファシナトゥール]へお戻りを…」スゥゥゥ


これからの大絶叫の為にと肺に多量の空気を取り組むべく騎士は大きく息を吸い込んだ…
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:20:54.19 ID:HGQPydB/0






















            「させるものかぁぁぁぁ!!シャイニングキィィィィックゥゥ!!!」ドウッ!























        ドゴシャァァァッッッッッッツ!!!! !  !  !     !












騎士は三人にトドメの一撃を繰り出すことはできなかった、否、逆に"奇妙な闖入者"に一撃喰らわされた


388 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:22:34.64 ID:HGQPydB/0

【双子が旅立ってから3日目 午後20時58分 (森の従騎士戦 開始直後)】



 ばしゃり、降り頻る雨のレースカーテンを掻き分ける様にレッド少年は犯罪都市の裏通りを疾走していた
偶々繁華街で出会った気の良い術士とは二手に別れて捜索しようという提案を受けた後だった



 レッド「くっ…見失っちまったってのかよ」



 目立つ格好、走り辛い見た目に反して男二人を振り切る脚力を持った巡礼者風の姿は既に影も形も無い

元より入り組んだ土地であったし、雑居ビルの屋上まで伸びる錆びた非常階段や鉄梯子、下水道へ繋がるマンホールと
逃げようと思えば何処にでも行けるし身を潜めることも容易いのだ

追跡対象を見失った彼は小さく舌を打ち、両手をズボンのポケットに入れて空を仰ぐように見つめた


喉の奥が少しだけ痛かった、こんなことは学生時代に誰にも負けまいという意志を持ったままゴールテープ切った時以来だ



僅かに開いた唇から零れる吐息は寒空の下で吐く白息に似ていて、煙雨に紛れて薄くなり消えていく…
 その様子をぼんやりと眺め、運動後の脳に酸素が回り始めた頃に彼はルージュの方は巡礼者を見つけられたのかと考えた



 レッド(此処でボケっと空見上げててもしゃーないか)



 少年は麻薬売りを追って全速力でかっ飛ばして来たが、そもそも奴がこちらの方面に逃げたという確証が無い
枝分かれした何処かの小道でルージュの向かった方角に逃げ去ったのかもしれない

ズボンに手を突っ込んだまま首を横に振って逆立った髪から水分を飛ばす、踵を返して来た道を歩み始めた時だった――















 -   ヴァアアアア アアアアアアア"ア""アアア アアアアア""アア"" ア"ア"ア  ア" ア ア""  -









  レッド「っ、な、なんだぁこの頭が割れそうな甲高い音は!?」キィィン





耐えかねてポケットから取り出した手を耳に当てる


…それは厳密に言えば"音"ではなく"声"だ
少年の見やる方角で今この瞬間にアセルス等を追って来た刺客の一人が[スクリーム]を放ったのであった



 レッド「…音が鳴り止んだ…?あっちの方角で何かあったのか」ダッ



休めていた脚に再び鞭を打ち、彼は何らかの事体が起こったと思わしき現場へ駆け始める
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:23:10.47 ID:HGQPydB/0



  レッド(くそっ!なんだってんだ…胸騒ぎがするぜ)ハァ…ハァ…



 自分でさえ自覚できる程に動悸がする、それは碌な休息も取らずに肺を酷使しているからでもはない
レッドは奇妙な既視感を覚えていた、あの日―――



   レッド「くそったれ、これじゃあまるで…っ!!」



――あの日、自分の家族を失ってしまった日と同じじゃあないか!!


 敬愛する父を自家用車の助手席に乗せて高速道路を走ったあの日

 悪の秘密結社なんていう餓鬼向けの番組に出てきそうなふざけた連中が突然やって来て父を、母を、妹を…

 レッド少年の家族とありふれた平穏な日常を焼き切った忌まわしき日を連想させるには十分だった…っ!




 郊外にあった小此木邸が炎に包まれ、赤焼け空に立ち昇っていく火粉、両腕が義手の大男の姿
組織のシンボルマークを表すバツ印を強調した全身タイツの戦闘員、己の腹部を抉る鉤爪…


どれもこれも忘れたいと思っても忘れえぬ記憶だ


 降っているのは建物が燃える煤でも火粉でもない、自分の頬にあたるのは濁った空が落とした涙滴
水分が火事の熱気で飛ばされ乾き切った空気とは真逆のじめりとした湿り気と水滴なのだ


だが、胸は煩いくらいに脈打つのだ…っ!


ここで走らなければ後悔する、間に合わなければ自分は"また失ってしまう"と警鐘を打ち鳴らしているのだ…ッ!



 レッド「…!なんだ、何か光が見えるぞ!」タッタッタ!


 雑居ビルで構築されたコンクリートジャングル、鉄骨と石材の雑木林を抜けた先に一点の星光を見た
それは[スクリーム]で危うく命を落とし掛けたルージュを救うべく白薔薇が唱えた[<スターライトヒール>]の輝きだった



 ―――間違いない、あれは"戦闘"の光だ


この先で戦闘行為が行われている、では誰だ?一体どこの誰が何者と対峙しているのか…






           アセルス『は、はぁぁぁ―――はがあか"あぁ――――ッ!』

            白薔薇『アセルス様ぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!』




 レッド「ッッッ!?」ビクッ




それは…幼少の頃、家族同然のように遊んでくれた"近所のお姉ちゃん"の悲鳴とその人の名を呼ぶ悲痛な叫びだった


 行方不明者として扱われて12年、生存はもはや絶望的で死亡者扱いされていた人、実姉のように慕ってきた人との再会は
家族を失い悪の組織への復讐心に燃えるレッド少年にとって何よりも心の救いだった


その彼女が…!そのアセルスが…っ!! この瞬間、今度こそ生命を断ち切られてしまうかもしれない場面に直面したッ!
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:23:36.50 ID:HGQPydB/0



 レッド(な、なんだよこれは…っ)



 息が詰まる、息が止まる、次々と飛び込んでくる景色――アセルスが錯乱して味方に刃先を突き立てようとする所
銀髪の術士が防御術を掛け身を挺して仲間を救いに行く場面、だが虚しくも敵の一撃で全員が倒れていく景色



無意識に強く握る拳があった、沸々と込み上げる激情があった




 キグナス号で共に海賊共と戦った仲だ、3人共戦闘に関してはそこそこやれる実力はあったのは彼とて知っている
だが、目の前の緑を基調とした魔導士を思わせる姿の妖魔は複数人を一度に相手しこうも打ち負かしている

恐らく、レッド少年一人が戦闘に加わった所で付け焼刃程度のモノだろうな










"レッド"であるならば、な









 レッド(…か弱い女に加勢するんだ、なら"ヒーローの掟破り"なんて言わねぇだろ、アルカールよ!!)グッ!







              レッド「 変 身 ッ!! ア ル カ イ ザ ー !!」カッッッッ!!ピカーッ!!







―――
――




森の従騎士『任務は遂行する、邪魔者は始末…そして、白薔薇姫様…[ファシナトゥール]へお戻りを…』スゥゥゥ


 [変身]が終わると同時に駆けだす、ただの人間<ヒューマン>から変貌した彼は生身の時とは比較にならない速度で地を蹴る
肉体に滾るエネルギー、全身を駆け巡るエナジーッ!全てが物の僅か数秒で人間の領域を超え、"超人"のラインを跨ぐッ!





       正義の使者――アルカイザーッッ!!ここに推参ッッッ!!





          アルカイザー「させるものかぁぁぁぁ!!シャイニングキィィィィックゥゥ!!!」ドウッ!




391 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:24:12.62 ID:HGQPydB/0

森の従騎士「なに!?まだ仲間が居たの、か"ぁ!?」ドゴッ


音撃波<ソニックブーム>を繰り出す寸での所で不発に終わる、闖入者の光り輝く蹴り[シャイニングキック]が炸裂したからだ

 オープンフェイスとなったマスクの瞳が初めて驚愕の色を覗かせた
振り向いた先に只ならぬ熱量を帯びた蹴りが迫っていたのだから仕方がない、強襲に近いソレを胸部に受け
森の従騎士は大きく身を仰け反らせながら水溜りに後ろ頭から突っ込んだ





             ドバシャアアアアアア―――z_____________________ァァァァッッッ!!






森の従騎士「ぐ、ご…き、貴様…何者だ…っ」ワナワナ



濁り水から顔を揚げ、トドメを刺すところで壮大に邪魔をしてくれた闖入者を怒り心頭の眼で睨みつける


 先述、奇妙な闖入者と称したがその出で立ちが正しく奇妙そのものであったからだ
赤とオレンジ、暖色系のカラーリングの脚部から頭部まで一切肌の露出が無い全身鎧
無論その人物の素顔も決して見ることができないフルフェイス仕様のヘルメットでバイク乗りが被るそれと同じ様に目元は
バイザーになっていて着用者の眼にはどう映るのか分からないが此方から見る限りは背中にはためくマントの色と同じ
孔雀青色の淡い輝きを放っている…、兜の天辺には鬼、否、一角獣のソレに見える角があり、耳の付け根の裏には翼が…


 ユニコーンとペガサス…有名な神話の生物の象徴を模した飾りをつけ、その鮮紅色のスーツを纏った拳から稲妻が迸る


彼が―――この惨状に対して抱いた怒りをそっくりそのまま表すように…



      アルカイザー「何者か、だと…?」





                      }  ヽ    |∨/ //    ____
                      }   `、  ./ /∨// , ・'"    `、
                      ヽ  ,r'´/~ヽ|//|///        |
                       ヾ/|‐/_,/ ||//|<_ ..-‐=、    `ヽ、
                  _........-―‐i / /  |.|~`/,r―-)    }}――‐-=}、_
                   ̄ ̄ ̄ ̄|ソ ./ .//|_/ }_/、   /li     //  ヽ、
                        .ヽ ./_//)'/ヽ_,r‐' \ヽ__.//  __/    .|
                 ,、o     {`'~>‐'´ `ヽ-.、   ヽ〈、 ̄~ ,'.l´}`lz、  |
             _,..-''"`}l     .人 |~ヽ   `、/ヽ、  | .|    ヽヽヽヽヽ./
            _}}__  }ヾ_  / >-' .`、   .`、 ヽ__ノノ}    <ヽ```ヽ/
          /  }}  `ヽ、~} / .,/ ./    `、   }    <ー'、     ̄ ̄ヽ
      ,xー=x、_..-、,r}ヾ、  ``}}ー'|,-}___  }ー--/    .∧_|        `、
     /   //  `==ヾ、   }}    |`'´`ヽ_)'<三彡}     .| .|    、     .`、
   ./    //   〉=/ r-,'~)、__..‐'‐、 /~/_`ヽ__)ヽ、,..'|" ノヽ  .`、     `、
  ./    //_,.-||// ,' ,' / |~})   >'-/__  ̄)ー-、 ) `-{´ .`、  .`、     `、
 / ,.-'´ ̄ ̄    // ) `ー'-'-'/=ー-='―' .ノ_  ̄ (~`、   ./.}   `、  `、     `、
/ /          ̄ </~ヾ、/| ̄フチフく´   `ー、ヽ ヽ  / /,--、 |   `、     |
               ヽ  ./|.,ト/ /,.|   ̄`ー―.'-‐'´ ̄~~| ,' |  .ヽ.|    `、    |
                \/〉´`l //ソ     ./~`ヽ___|,' |   `、   `、   ./
                 |/  .|/ ./    /      ./ .|  }    .}`、   `、 ./
                .,rl_/ /ー―'''´        ∧  } }    } ``‐--‐ヽヽ_,、
                ./ / /             .〈  } / /    .}      ヽ /
                }__}´ /´               } } { .{     /
             /},-、 /                 `-'ヽ {   ,〈
        }ヽ_..'// .}'/                     |ヽ  ./ |
        |~ヽ /´ 〈___/|/                     ヽ.}_/__ノ
        `ー``―'―‐'


     アルカイザー「正義の使者ッ!アルカイザー!悪を挫く為に此処に見参したっ!!」バッ!



       森の従騎士「せ、正義の使者…だと?」

392 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:24:42.94 ID:HGQPydB/0



 ルージュ(う、うぐっ ぅ…い、一体何が起きたんだ…)チラッ



 毒素の塊を浴びて身体中、焼けるような痛みが走る…意識が朦朧とし掛ける最中、紅き魔術師は…赤い正義の姿を見る
自分達は今まさに死刑を執行される所だったがマントを靡かせる……男性?…なのだろうか?


全身鎧の所為で性別は分からない、―――いや、身長、体格の良さ、後は声の低さでやっぱり男性なのだろうな

"聞き覚えの無い声"だが、彼は何者だ…友人とか知人とかではないし、助けてくれる理由は一体何なのか…



 ルージュ(い、いや…そんな事どうでもいい、この機を逃すわけには――確か[傷薬]が僕の[バックパック]に)ゴソゴソ



 従騎士の注意は幸いにも目の前の謎の人物に向いている、気取られない様に薬を出して自分の体力を回復させる
そして、脚が動く様になったらヒーラーの白薔薇姫も目覚めさせなくては…っ!!








  森の従騎士「…ならば問おう正義の使者とやら、貴様なにゆえこの者達に肩入れする、無関係な者共であろう」

 アルカイザー「無関係?いいや、違うね」


  森の従騎士「なんだと?」ピクッ



 アルカイザー「目の前で殺されそうになっている人が居てそれを見て見ぬフリをするなど俺にはできない」

 アルカイザー「そんな人が居ると知ってしまった以上は、俺にとってもう"無関係"ではないッ!」



  森の従騎士「…ふっ、まるで人間<ヒューマン>の子供向けに造られた三文芝居の脚本をそのまま読んだような台詞を…」

  森の従騎士「話しにならんな、くだらん正義感で我ら妖魔の問題に首を突っ込んだ事を、死んで後悔するがいい!!」


 アルカイザー「むっ!?」ヒュバッ!



 従騎士は杖を振り翳す、するとアルカイザーが立っていた地点に妖気が収束され、それは蜘蛛の巣状に展開される
取り込んだ者の生命力を絡め捕り奪い去る呪法の一種[エクトプラズムネット]だ
 一早くそれに気が付いたヒーローは呪いの網が完全に広がり切る前に跳び発ち難を逃れようとする
そして鞘から光り輝く劔[レイブレード]を引き抜き、勢いに乗って敵に切りかかる…っ!!



  森の従騎士(…くくっ、愚か者め、そうやって私に近づく者は誰であろうと――――)









 …森の従騎士を知る人物であれば対峙した際に決して行ってはならない禁忌<タブー>を誰もが熟知していた

何故ならば触れた者を【混乱】させる[カウンターフィアー]こそがこの刺客の代名詞と呼んでも過言でない程の戦法だから




それは、自他認める戦法であり

必然、この騎士にとっても今まで多くの敵を葬り去って来た実績共に不動の"勝ち確パターン"という奴だと自負していた

393 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:25:28.60 ID:HGQPydB/0
















―――――――――――――――――――… それゆえに …―――
















  森の従騎士(…待てよ、そういえば何故こやつは先の蹴りを私に放った時に…ッ!?)ハッ!











 …良く言えば自分の力に絶対的な、確固たる自信を持っていた

 …悪く言うならば、慢心、驕りでもあった



 迫りくる正義の使者の[シャイニングキック]をその身に受けた時、想定外の事態であるが為に気が回らなかった
自分に触れた者には何時だって必ず[カウンターフィアー]が発動して如何なる相手にも精神汚染の呪いが張り込む筈だった

だが実際はどうだ?

この全身鎧兜の人物は錯乱しているか、否、正気を保ち続けている
 従騎士はこの時点で気が付くべきだったのだ…、自分の必勝パターンが既に崩されているという事実に…ッッ!!




 積み上げて来た勝利の数だけ、『嗚呼、この闘い方をすれば絶対に勝てる、負ける通りなどありえない』と
信頼も等しく積み重なる…空気が1%も入っていない風船がはち切れそうな程に膨らんでいくのと同じで
騎士の油断もまた大きく膨らんでいったのだ


自分も認めるし、周囲の他人もまた、"こいつの戦法には隙が無いな"と認めたが故に誰も咎めない、忠告しない


自他認める戦法である――――それゆえに――――気が付くのに遅れた


生涯で全くもって一度たりとも予測しないレベル…っ!


想定する必要性が消え失せてしまった可能性…っ!



  森の従騎士「ぅ、ぅううおおおおおおおおおおおおおっっ!?」バッ!


騎士は淡く輝く空色の劔が身体を裂かんとする直前で、漸く"手遅れな受け身の姿勢"を取り始めた
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:26:02.34 ID:HGQPydB/0


        ズバシャァァァッッッッッ


  森の従騎士「ふ ぐっぅおお お おお"お  おお"おぉォ"ォ""ォ!!」



[レイブレード]の輝刃は相手の左肩から右脇腹まで大きな切り傷を生み出し、妖魔特有の青い血液が噴き出る
 半妖のアセルスの筋力を以てしても刀身が突き刺さりさえしなかった騎士を名刀で豆腐でも斬るかの如くやってのけた


  森の従騎士「ふ、ふしゅるるるる…っ、ギ、キ"サマ"アァ"…」ボタ…ボタッ…


 アルカイザー「その傷だ、帰還してすぐに手当すれば助かる…だから二度とこの人達に手を出すな!」


  森の従騎士「ふ、ふざけ"るなぁ"ぁああ あ あ !!ふしゅるるるるるぅぅぅ!」



 激昂すればするほどに青い血が傷から噴き出す、だが青い噴水の勢いと同じく騎士の怒りは収まらなかった
これまで上から受けた勅令はいつだって熟して来た誇りに罅を入れてくれたのだ

もう輝かしい誇りではない、埃を被った誇りだ

戦績に塗られた泥も、おめおめと逃げ帰ったとあれば主に始末されどちらにせよ退路など無い事も
 なによりもくだらん正義感で首を突っ込んで来た部外者という存在が一番、癇に障る



  森の従騎士「コロ"して"やる…っ コ"、コロ"ス、殺すッ…白薔薇姫以外全員だ
             黴<かび>と毒茸の菌糸に塗れて蛆虫の沸いた死骸にしてやるッ」ギリィ



 アルカイザー「……ならば、仕方ない」スチャ




 どういう訳か知らないがこの全身鎧スーツの戦士には[カウンターフィアー]が…いや、"『【状態異常】が効かない』"
一撃で意識を刈り取るべく[エクストラズムネット]を試みても恐らく先程の様に[見切り]をつけられるだろう



  森の従騎士「ならばこれはどうだ鎧の戦士よ!」ビュオオオオォォォ



杖を手にした腕を前に突きだし円を描く様に杖を旋回させる、無風の筈であるコンクリートの渓谷に小規模の竜巻が発生し
気流の塔は倒れ、縦から横へ……アルカイザー目掛けて獲物を丸のみにしようする蛇のように伸びていくッ!!


      ズバッ!  ズババッ
                     スパッ


 アルカイザー「くっ、[強風]か…!だがこれしきの事で!」ズバッ! ズシュッ!



 喩えるなら渦中にいるヒーローは見えない換気扇のプロペラで幾度も刻まれているようなモノで、腕をクロスさせ
身を守る自身の身体にも切り傷が走り、赤い血液が滴り始める


だが、騎士の狙いはこれではない





  アルカイザー「…!なんだと!!」



 アルカイザー…否、"レッド少年"がバイザー越しに見た光景はこともあろうに、自ら使用した[強風]を利用して
倒れたままの"アセルス姉ちゃん"目掛けて飛んでいく森の従騎士の姿であった


   森の従騎士「ならば…キサマのそのくだらん正義感を利用させてもらおうではないか!!」

395 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:26:55.40 ID:HGQPydB/0


 自らの技で我が身を切り刻んででも人質を取る、―――任務はあくまで"白薔薇姫を[ファシナトゥール]に連れ帰る"
邪魔をする者は排除しても良いという命令であった

 なにより、従騎士の主人…セアトはアセルスお嬢が気に喰わなかった
願わくば外界に出て不慮の事故で死んでくれればとすら切に願う程だ、邪魔をしたから排除したとすればさぞ喜ばれる


二重の意味でアセルスを人質に取るのは都合が良かったのだ



只でさえ[レイブレード]に切られた箇所が痛む上、自滅同然の[強風]に自ら巻き込まれたダメージで仮面下の顔を曇らせる
しかし、リスクを背負ってでもやる価値がある…


今から少女を人質に鎧男を嬲った時の苦渋の色、そして死の寸前で少女の首を折り曲げて殺してみせた時の反応が楽しみだ


騎士はほくそ笑みながら未だ倒れたままの緑髪の少女目掛けて一直線に――――ッッ!!











              ルージュ「[エナジーチェーン]っ!」ギュイイイィィン






  森の従騎士脚部「」グルンッ!ギュルルルッ

    森の従騎士「―――!?!?お、お前は…まだ息が―――ッ!」




 ルージュ「…さっき[サイコアーマー]を掛けた分、VIT<丈夫さ>が上がってたんだ今度は失神しなかったさ!」ブンッ!


 森の従騎士「ぐ、ぐおおおおぉぉぉぉ!?」グワァン!!



  アルカイザー「すまない助かった!恩に着るぞ![ディフレクトランス]!!」ダンッ!




 漁師の一本釣りよろしく、念波の鎖で脚を取られた騎士は渦の中から上空へ弾き飛ばされる
そこへ追い打ちで大地を蹴り上げ、雑居ビルの壁すらも利用した三角飛び蹴り…[ディフレクトランス]を繰り出すッッ!



 本日二度目の光り輝く蹴り技を喰らい、更に上空へと押し上げられる騎士は粉々になった仮面の破片
青血を口から吐きだしながら自分が人質にしようと目論んでいた少女が[スターライトヒール]で生気を取り戻し
立ち上がる姿をしっかりと見た





     アセルス「……皆には、本当迷惑かけてばっかりだったわね…」スチャ!



     アセルス「だから、最後くらいは…取り戻さないとね」




静かに、目を瞑り両手は拾い上げた[フィーンロッド]の鞘を握りしめる、刀身は空を差し

掲げるように自分の額へと運ぶ―――その佇まいは中世の貴族騎士が神に祈るように剣を掲げるようにも見える

396 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:27:54.37 ID:HGQPydB/0




  森の従騎士「おのれ…っ、おのれ…おのれ、おのれぇぇぇぇぇェェェェ!!」





オープンフェイスの従騎士は血走った眼で少女を睨む、彼奴の周囲には[カウンターフィアー]の怨念が未だ嘗てない程蠢く


祈るように目を閉じ姫騎士は精神を研ぎ澄ます、武器に想いを込める…強い敵意、降って来る殺意を退けるべく





  森の従騎士「ならばせめてお前だけでもみ、み、みぃ、道連れにぃぃぃいいいいい!!」




  アセルス「打ち砕けぇ!![ファイナルストライク]−―――っ!!」










                 ――――−カッッッッ!!










アセルスは、祈り…手にした剣…いや杖<ロッド>を天へと投げた、神話に語り継がれる戦女神の投擲槍のように





[フィーンロッド]は騎士の心臓に突き刺さる、そして膨大な熱量と光の迸流…稲妻が踊り、力が螺旋を描く


―――
――






 「ンッンン〜、アセルスってばやるねぇ〜♪こりゃ頑張って頼まれ事早めに終わらせて見に来た甲斐があったよ」



 雑居ビルの屋上でその様子を一人の妖魔が眺めていた、褐色の肌に黒髪を結った美青年…ではあるのだが
上半身が裸で唯一肌を隠すのが乳首の位置につけたお星さまという誰がどう見ても変態にしか見えない残念な美青年だった



 ゾズマ「いやぁ、これで従騎士を3人もやったのか…しかし森の奴、飼い主同様にやっぱり見苦しい妖魔だったね」

 ゾズマ「…そして、彼女達は今後どうするつもりか、これまた見物だね」シュンッッッ!!



見物人はそれだけ言うと姿を消していった…


―――
――

397 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:28:23.60 ID:HGQPydB/0

【双子が旅立ってから3日目 午後21時18分】


――――ザァァァァァァァァ

     ――――ザァァァァァァァァ




     アセルス「…」ジッ




光が収まった


常雨の犯罪都市[クーロン]の空に最後の従騎士が散ったのだ



  ルージュ「や、やったの…か?」ヨロッ


   白薔薇「はい、気配はもう微塵も感じませんわ…今ので完全に消滅したに違いありません」



  ルージュ「お、終わったぁ…」ヘナヘナ、べしゃっ



 水浸しの地面に両膝を着く、思いっ切りずぶ濡れになるけど構うものかっ!と銀髪の術士は天を仰ぐ
ジッと空を見つめていたアセルスも緊張の糸が解けたのか胸を撫で下ろしホッと安堵の吐息を漏らす、そんな彼女を見て
微笑ましい表情で見守る白薔薇、そして―――




  ルージュ「えっと、アルカイザー…さん?ありがとう、助かりましたよ…」ペコッ


  アルカイザー「いや、礼には及ばない、偶々アイツに襲われている君達の姿を見つけたから救援に入っただけさ」

  アルカイザー「それより、キミのさっきの術…良かったぜっ!!」ニィ


  ルージュ「えっ、い、いやぁ〜それ程でも…あはは///」テレッ



 照れくさそうに右頬をポリポリとかく紅き術士に赤き正義は手を伸ばす、そしてヒーローは言うのだ
「本当にナイスファイトだった、キミがいなければこうはならなかっただろう」と


 …正義のバイザーの下にある、"本当の彼"―――――"素顔であるレッド少年"――は実姉のように慕ってきたアセルスを
人質に取られることだけは何が何でも避けたかった




  アルカイザー「本当に助かったよ」スッ




……"また失ってしまう所だった"




 二度も家族を失うあの恐ろしさを痛感させられる所だった



  ルージュ「……よっと!立たせてくれてありがとう」ザバァ、…ポタッ ポタッ


  ルージュ「段々思い出してきたよ、新聞紙やテレビのニュース、それにこの惑星<リージョン>でも貴方の噂は聞いてた」

  ルージュ「確か、[シュライク]って惑星<リージョン>で子供の誘拐事件を解決したヒーローが居るって」

398 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:29:19.94 ID:HGQPydB/0


  ルージュ「この星<リージョン>に来たのも何か事件がとかで?」


  アルカイザー「…ああ、実はパトロール中に麻薬の密売「ああああぁぁぁぁ!!」




…正義のヒーロー、アルカイザーは麻薬密売組織の調査をしていた時"偶然"妖魔に襲われている一行を見つけ救援に来た

…と、言う体裁にしておこう、そう思い立ちその内容で話し始めた時だったアセルスの甲高い声が上がったのは




  ルージュ「ど、どうしたんだ!?」





  白薔薇「あ、実は…」チラッ









  アセルス「わ、私の武器が……」


 [ファイナルストライク]を放って壊れたフィーンロッド『 』ボロッ



  ルージュ「うわっ、なんだコレ、もう使い物にならないじゃないか…」

  アルカイザー「きっとさっきの技を使用したことで耐え切れずに自壊したのだろう…」
  アルカイザー(…ビビったぁ、てっきりアセルス姉ちゃんに正体バレたかと、俺が掟で抹消されちまう)ドキドキ



  アセルス「ルーファスさんに言われたから、[幻魔]を扱う前に自分自身を鍛えようとしたけど…これじゃ」




身の丈にあった武器を使え、使い手が未熟では折角の剣も錆びつかせてしまうだけだ
 少女は助言を聞き、まずは剣術の基礎を磨こうと簡単な武器で心身共に鍛えるつもりであったが…肝心の武器がこれでは



  ルージュ「……」


  ルージュ「アセルスの武器もそうだけど、全体的に今の僕達自身にも問題があるのかもしれない…」



 顎に手を当てて術士は現状の問題点を挙げる、まず防具面に関してだが"耐性防具"が非常に乏しい
先の戦闘に関しても誰か一人が[音波無効]効果のある装備を付けていたらどうだろうか?[スクリーム]の直撃を受けても
助かり全滅の危険性が大幅に減ったのではないだろうか?


このパーティはその辺の工面が全くと言って良い程にできていないし、入手できる機会さえもなかった
 装備に関して仕方ない部分もあるから置いておくとして次に重要な問題があるとすれば"回復術"だ

誰か一人が倒れた、そうなった場合は[傷薬]片手に床に伏した仲間の元へ駆けつける必要がある


その倒れた誰かしか回復薬を持っていなかったら?あるいは回復術の使い手だったら?


 アセルスだけが無事で、ルージュ、白薔薇が先に戦闘不能になっていれば間違いなく戦線復帰は不可能で
チェスや将棋で言うところの"詰み"という状況であった筈だ


せめて全員が緊急時に備えて仲間、あるいは自分自身の傷を治癒する手段を持っていることが望ましいのだ

399 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:30:01.14 ID:HGQPydB/0




  ルージュ「…せめて僕かアセルスが白薔薇さんと同じように[スターライトヒール]を使えればいいのだけど」




……生憎とその[陽術]を覚える為の施設は、全身青一色の従騎士と乱闘騒ぎを起こした所為でしばらく封鎖中
資質も取れないし、術単品でテイクアウトもダメといった状態なのだ


今回は偶々強いヒーローが駆けつけてくれたから事なきを得たが、いつもそのような幸運が起きるとは限らない……
















            アルカイザー「ならば[京]に行ってみるのはどうだろうか?」








              ルージュ/アセルス/白薔薇「「「え?」」」






   アルカイザー「リージョンシップ『キグナス号』の次の目的地だ、なんでも全体的に"和"をイメージした惑星で」

   アルカイザー「毎年、各地の惑星<リージョン>から修学旅行の学生や観光客で賑わう」


   アルカイザー「ただの観光目的ではなく、そこでは[心術]の"資質"を得られる修行場もあるんだ」


   ルージュ「[心術]の資質…!」






――資質


[マジックキングダム]を旅立った双子の術士ブルー、ルージュの両名がこの旅で得るべき必要なモノ

資質を厳しい修行の末に得た人間は、その力を発展させてより高位の術を練りだす事ができる…魔術師として資質は大事だ
しかも人間の内なる心に眠る力、精神に宿る潜在能力を引き出す[心術]となれば身体の傷を癒すこともできる


…行って損はない筈だ




 アルカイザー「キミは見たところ術士だろ?なら今の話で[京]に興味が沸いたのではないだろうか?」

 アルカイザー「広い"宇宙空間<混沌の海>"から旅人もそれ目当てでやって来る、優れた剣や装備品の情報も恐らく」


  ルージュ「なるほど…」
  アセルス「[京]…か」

400 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:30:41.75 ID:HGQPydB/0


 リージョン界は広い、宇宙<ソラ>に煌めく数多の星々の数だけ知的生命体が生きる異世界<リージョン>がある
であらば[クーロン]では知り得なかった情報を知る機会もまたあるかもしれない



   白薔薇「アセルス様はどうなさいますか?」

  アセルス「…私は、行ってみたい」



 指輪の君、と呼ばれる上級妖魔の居城の門戸を叩くべく[ムスペルニブル]へ行くにしても準備だけは万全にしておきたい
白薔薇姫の事は当然ながら信頼しているが、あくまで白薔薇姫のこと『は』であって基本妖魔は信用したくない


鬼コーチだったり、突然背中を剣で突き刺すセアトだったり、半裸の変態だったり…etc



……


 まぁ、準備は大事だ、その人が半妖から人間<ヒューマン>に戻れる方法を知っていたとして教えてくれる保証はない上
知らなかったら知らなかったで無事に帰してくれる保証も無いのだから


 この時のアセルスは知らないが、実際問題ヴァジュイール氏は自分に無礼を働く者をその力で
何処ぞへと強制的に転移させる気難しい人物なのだ、丸腰で行ってモンスターの巣窟に飛ばされた日は堪ったモノではない




   アセルス「あっ、ルージュは…どうするの」


   ルージュ「とーぜんっ!僕も着いてくよ!此処まで来ちゃったら乗りかかった船って奴でしょ!」


  アルカイザー「話しは決まったようだな」ザッ



三人の旅の方針が決まった所で窮地を救ったヒーローはマントを翻し背を向ける



   アセルス「あっ、アルカイザー!…その、本当にありがとう!私達を助けてくれて!!」


  アルカイザー「当然の事をしたまでだ、麻薬組織の一員を追跡する任務がある、俺はこれで!――とうッ!」シュバッ!




  ルージュ「わわっ…すっげぇ、ビルの壁を山鹿みたいにピョンピョン蹴って飛んでっちゃったよ…」ほえ〜

  ルージュ「参ったな、めちゃくちゃ有名人だしサインとかもらっとくべきだったかな…」


   白薔薇「何にせよ今日はもうこの街で宿を取ってお休みになりましょう…皆さんずぶ濡れですし」

  アセルス「あはは…そうだね」クスッ


びっしょりと濡れた自分達を見て、アセルスは笑う


つられて術士も貴婦人も笑った





世界は雨だが、心はカラリとした空模様だった―――それは困難を乗り越え、お互いが無事であるからこそなのだろうな





  きっと …きっと この何が起きても大丈夫、不思議とそんな気になる瞬間だった…

401 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:31:24.66 ID:HGQPydB/0





 ルージュ「それにしてもあんな戦闘の後でも麻薬組織の一員を探す任務にすぐ戻るなんて」テクテク

 ルージュ「お休みも無くてヒーローって大変なんだなぁ…」テクテク







 ルージュ「……」テクテク


 ルージュ「………」テクテク






  ルージュ「………あれ?僕なんか大事な事忘れてるような?」ハテ?











―――
――







    巡礼者「  」タッタッタ…!




   レッド「ちっくしょう!!待ちがやれぇぇ――ッッ!!ぜぇぜぇ…!」ダダダダッ!


   レッド「見失ったのをやっと見つけたと思ったらこんな時間に……くっっっそぉぉぉぉ!!」ダダダダッ!











…ルージュがレッドの事を思い出し、慌てて宿を飛び出したのは深夜0時をとっくに過ぎ

麻薬密売人も[京]行きのキグナス号の乗客に紛れて完全に撒かれて

某ボクサー漫画の「燃え尽きたぜ…真っ白にな」状態で項垂れるレッドを丁度、おでん屋の屋台で発見したそうな…





402 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:35:29.39 ID:HGQPydB/0
*******************************************************



                 今 回 は 此 処 ま で !




   ルージュ、アセルス、白薔薇はレッド(あとBJ&K)の乗るキグナスに乗ってそのまま[京]へ向かいます













  森の従騎士「カウンターフィアー!」

  アルカイザー「あ、自分…原作のゲームシステム的に【混乱】とか状態異常効かないッス」

  森の従騎士「\(^o^)/」


*******************************************************
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 03:40:43.28 ID:9z34UB780

いつも楽しみにしています
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 11:53:09.86 ID:RTp4rglWO
乙でした
ところがどっこい、レッドはレッド編でしか登場しないから、残念ながらこのSSみたいな展開にはならないんだよなぁ…
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/18(月) 14:25:06.69 ID:PacNkGlNO
乙乙
こういうゲームではできない展開が熱くて面白い
406 :少し投下 [saga]:2019/02/19(火) 04:54:20.20 ID:T2Ou5U2b0

―――
――


時間は少し遡る、ルージュ一行が森の従騎士を撃破する数分前の事――




【双子が旅立ってから3日目 午後21時12分(アセルス、[ファイナルストライク]発動直前)】





リュート「げへへぇ、ブル〜ぅ、もう一件くらい"はしご"しに行こうぜ、いい店知ってるんだ」


ブルー「やかましいッ!このへべれけ男がっ!…梯子酒がしたいなら一人で行け俺を巻き込むな」チッ


リュート「へべれけってなぁ〜俺酒は強い方なんだぜぇ、酔ってなんかいねぇよ[ヨークランド]魂なめんなよぉ」


スライム「(・ω・)ぶくぶくぶー」リュート ノ ニモツ ハコビチュウ




リュート「大体、お前こんな時間から何処行くんだよ…どう見ても安宿の方角じゃないだろう」

ブルー「…」スタスタ


ブルー「…力」


リュート「あい〜?」
スライム「(。´・ω・)ぶく〜?」キョトン?



ブルー「…力をつけたいんだ、今以上の力を」


リュート「…」
スライム「…」



ブルー「術が使えない局面とやらを想定したとき俺が生存できる可能性は絶望的になる」

 ブルー「…何が何でも俺は生き延びる、ルージュを殺して、俺が故郷に帰る為にも…っ」



 リュート「…あー、お前さ」ポリポリ

 リュート「なに、他所の国の風習だとか、ルールだかにあんま干渉する気はねぇけども」


 リュート「一つの事に囚われ過ぎなんじゃねーの?」



  ブルー「なんだと…?」


  リュート「お前見てるとそう思うんだよなぁ、良くも悪くもストイックでこう疲れねぇか?」


  リュート「……まぁ部外者の俺がとやかく言うのもあれだけどさ」


  ブルー「貴様はさっきから何が言いたいんだ」




   リュート「人生ってのはいつだってギャンブルなんだぜ?どんだけ万全を期したって100%成功するなんて」

   リュート「そんなモンは何処の誰が決めたんだい?」

407 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/19(火) 04:55:44.32 ID:T2Ou5U2b0

  リュート「完璧にしたつもりでも失敗する時は失敗するし、逆に中途半端な奴が人生の成功者になることだってある」


  リュート「そりゃ準備しときゃ確率は上がったかもしれねぇけど…どうせ運なら最後の大勝負が来るまでの間に」

  リュート「人生たーっぷりと甘い蜜吸っときたいって思わねぇか?」

  リュート「ん〜、よくある子供向けの質問なんかであるだお、もし明日世界が滅ぶなら貴方は何したいですか〜的な」


  ブルー「…くだらん」


  ブルー「本当にくだらんな、ああ、餓鬼向けの莫迦な問答だ」クルッ、スタスタ…



  リュート「あっ、オイ!待てってよぉ〜!」タッタッタ…!


  ブルー「…酔っ払いとの無意味な会話に付き合う程暇じゃない」スタスタ


  リュート「だ〜か〜ら!酔ってねぇよォ!!なんか、なんかよ…その、アレだよ!アレなんだよ!!!」ハァハァ…!

















   リュート「――"お前の人生"、それでいいのかよ…!」



      ブルー「…」スタスタ…ピタッ










  リュート「俺は、なんだその、基本的に自分が楽しいことやって好きな事やって
               んでもってソレで食っていけたら最高の人生だなってのが俺の自論なんだ」


  リュート「お前のその、双子の弟さん…ルージュって奴とそう遠くない未来で殺し合うん…だ…ろ?」


  リュート「さっきも言ったが人生ってのはいつ何が起きるか分からない、それこそマジに運否天賦のギャンブルだ」


  リュート「…ルーレットを回して球っころが赤に入るか青に入るかみたいなモンなんだ」


  リュート「お前が強いのはそりゃ一緒に[タンザー]で暴れた仲だからわかっけど」


  リュート「万が一にだって負けちまう場合もある、そん時の走馬燈って奴が楽しい思い出の1つも無かったら―――」




   ブルー「 黙 れ ッ !!俺が負けるだと!?俺がアイツより劣っているとでもいうのかっ!!」



リュート/スライム「「!!」」ビクッ
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/19(火) 04:56:12.24 ID:T2Ou5U2b0


     ブルー「…ハァ…ハァ…っ」ハッ!


<ザワザワ…
<ナニナニ、喧嘩?イヤネェ
<でけぇ声だなァ


    ブルー「―――くっ!」ダッ!


   リュート「あ、待てって!」
   スライム「(;´・ω・)ぶくぶー!」


 …らしくない、このちゃらんぽらんな男に対しては怒声を浴びせることも多々あるが此処まで感情的に怒鳴るのは
自分らしくない、蒼き術士は自己嫌悪を覚えつつも人の大海を掻き分け突き進む


   ブルー「くそ…なんだっていうんだ!人生はギャンブルだの万が一にも俺が負けるだのと…ッ」ブツブツ



   ブルー「………俺が、負ける?」ブツブツ、ピタッ

   ブルー「俺が"死ぬ"、というのか…この俺が、……」



   ブルー「……」



   ブルー「…はっ!はははっ、なにを馬鹿げた事を…」

   ブルー(そうとも俺が負ける筈が無い、小さい頃からずっと鍛錬に打ち込んで来たんだ…)

   ブルー(周りの奴らの妬みや僻み、…陰口だってそんなものは聞き流して来た、できない奴らとは違う)

   ブルー(……ずっとそうしてきたじゃないか、寝る間も惜しんで血反吐を吐いてでも修練に明け暮れて)

   ブルー(それで…―――)





     - 『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』 -

     - 『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』 -

     - 『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』 -

     - 『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』 -

     - 『あいつ、死なねぇかな…』 -





   ブルー(……)





- リュート『俺は、なんだその、基本的に自分が楽しいことやって好きな事やって
               んでもってソレで食っていけたら最高の人生だなってのが俺の自論なんだ』 -


- リュート『万が一にだって負けちまう場合もある、そん時の走馬燈って奴が楽しい思い出の1つも無かったら―――』-






  ブルー(………)

  ブルー(くだらない、努力した奴は報われる筈だ、対価を払うからこそ見返りがある…俺は、勝てる筈なんだ)

409 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/19(火) 04:58:11.42 ID:T2Ou5U2b0



「おおっ、なんだ雷かぁ〜?裏通りの方が一瞬光ったなぁオイ」グビグビ、ウィック
「へぇー雨ならともかく雷たぁこの街じゃあ珍しいぜ、ぎゃははwww」



  ブルー(…うん?)チラッ、ジーッ





一瞬光った[クーロン]裏通りの方角『 』…シーン



  ブルー「…今、強い力の暴走があったな、ヌサカーンの家の方だ……」

  ブルー「いや、俺には関係の無い話か…」テクテク




 時を同じくして抹殺対象であるルージュの旅の同行者が放った[ファイナルストライク]の閃光を背にブルーは歩き出す
向かうべき先はこの数日既に何度も足を運んだ店先、緑白赤の三色旗<トリコローレ>だ


―――
――




  エミリア「うおらあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!![ジャイアントスイング]ぅぅぅぅ!!!」ブゥンブゥン!

  ルーファス「 」グルンッグルンッ!




  ブルー「 」




 『close』ではなく普通に『open』の札が掛かっていた、蜂蜜色の結った髪を持ち蒼の法衣に包まれたブルーは普通に
飲食店の店を開けました、そして思う『あれ、俺間違ってファイトクラブのドア開けちゃった?』と



剣術を教えてくれそうな知り合いを訪ねてイタリアンカフェレストランの戸を開けば、レスリング大会が行われていた

な、なにを言ってるのかわからねーと思うが催眠術とか超スピードじゃあry



  エミリア「睡眠薬盛られて直後にヤルートのハーレムに送り込まれた恨みぃぃ!!忘れてないわよぉ!!」ブゥンブゥン!

  ルーファス「 」グルンッグルンッ!



  エミリア「キグナス号じゃ海賊騒動のドタバタでこの"お礼"をしてやれなかったけどね!」

  エミリア「この機に乗じて有耶無耶になんてさせないんだからぁぁ!」

  エミリア「喰らいなさいぃライザ直伝怒りのプロレス技ぁぁぁ!!」キィーーーッ




   ドゴンッ! ボッゴンッ!! ゴシャァァ! メメタァ! ゴシカァン!



  ブルー「 」ボーゼン


 アニー「ヒュー♪ヒュー♪いいぞぉ!エミリアぁ!やっちまいなぁ!グラサンなんて叩き割っちゃえ」イエーイ

 ライザ「良い機会だから、女心を理解しない男はそうなるって叩き込んでやりなさい」

410 :ここまで [saga]:2019/02/19(火) 04:59:18.73 ID:T2Ou5U2b0

<オトコ ナンテー!![スープレックス]!!
<エ、エミリ――ゴボッ!?


  アニー「あっはっはっはww―――ん?」チラッ


  ブルー「 」ドンビキ


  アニー「あっ!なんだよブルーじゃないの!今ウチの上司と同僚が武闘会やってるとこなのよ」
  ライザ「あら、噂の術士さんね話は聞いているわ」ペコッ


  ブルー「あ、あぁ…」


引き攣った顔で奥の惨状を見ながら美人二人に返事を返す、妖艶な大人の色香を魅せる紫髪を持つライザ
 溌剌とした活力にあふれる魅惑的な女のアニー…そして元スーパーモデルの美女エミリア

男であれば誰もが脚を運びたがる甘い蜜蜂の巣のような店なのだが――



  エミリア「でぃぃいいいいえええええぃ!!!   [ D  S  C ]!!!」豆電球ピコン!



ズサァァーーーーーッ!! ガッ! ガシッ!ギュルンッ!ヒューッ ズッッッゴンッ!グッ! ドッッッゴンッ! グルンッグルンッ!ブンッ! タンッ!ガッ!


                 ゴッッッッッッッッッッ ッ  ッ ッ  ッ ッッ!




  アニー「き、決まったァ!!エミリアの[DSC<デンジャラス・スープレックス・コンボ>]だぁ〜!」ガッツポーズ!グッ!

  ライザ「ええっ!!ルーファスがそこそこの実力者だったから閃いたのね!!!おめでとう!!!」



ルーファス「 」ダメージ11243… - LP2



  エミリア「や、やったわッ!ライザ、アニー!遂に…遂に[DSC]をマスターしたわッ!!」


  エミリア「こんなに、こんなに…嬉しいなんて…グスッ、アニー、私少し泣く」
  アニー「うん…私でよければ胸くらい貸すって」


  エミリア「―――ふぅ、泣いてすっきしたわ、ライザ!次の技は!」


ルーファス「 」ドクドク…


  ライザ「もういいわ、貴女は免許皆伝よ…」フフッ

  エミリア「ライザ…」

  ライザ「これ以上何かを背負う必要はないわ」

  アニー「こんな時に変な言い方だけど、楽しかったよ、エミリア」


  エミリア「アニー…みんな、みんなのこと忘れないからっ!!」



ルーファス「」


  ブルー(……)

  ブルー(……え、これは…なんなんだ?)アゼン


 イタリアンレストランの室内でちょっとしたコント劇場が繰り広げられている様を見せつけられてブルーは困惑した
何故か[ヨークランド]の片隅にある小さな教会が背景に見えて、エンディングテーマが流れてる気さえする

411 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 10:33:16.79 ID:e3wAcppJO
やだ…なにこれ…
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 18:23:05.58 ID:Gjy/T36D0
ジョーカー撃ち殺しエンドの方じゃないですかやだー
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:45:30.13 ID:omphqAj60

――−
――



【双子が旅立ってから3日目 午後22時11分】



アニー「悪いわね客のアンタにまで手伝ってもらっちゃって」

ブルー「いや、構わん…(なんで俺がこんなことを)」


小劇場後の店内は―――局地的なハリケーンでも到来したかのような惨状だった、お洒落なパイン材の円卓は綺麗な半月に
 四脚の椅子は三脚だったり二脚に早変わりで、しかも[ジャイアントスイング]の余波で椅子やらテーブルの木片
更には硝子コップや純銀製の食器<カラトリー>が東洋文化の手裏剣の様に壁や天井に突き刺さているのであった


…今更ながら蒼き術士は背筋に嫌な汗が伝うのを感じた


 見物人二人と同じく出入口付近に居たから良かったものの数歩先――例えば料金でも払ってどっかの席に着き
暢気にディナータイムでも過ごしてたら額にスプーンの一本でも突き刺さっていたやもしれん



ブルー「こっちの破片は箒で全部掃いたぞ、…この店いつもこんななのか?」

アニー「サンキュー、まぁ客居なくて暇なときとかね…大丈夫よ、ちゃんと一般客巻きこまないように加減してるから」


ブルー「……」ジトーッ


アニー「…いや、そんなジト目で見ないでよね、マジだからさ」



ブルー(…あの頭の悪そうな女といい、こいつといい…それにサングラスの男を介抱しているライザという女)

ブルー(こいつ等、相当戦い慣れてるな……この実力者揃いが単なるウェイトレスの訳が無い、何なんだこの店)ジトーッ





妖艶な大人の色香を魅せる紫髪を持つライザ

溌剌とした活力にあふれる魅惑的な女のアニー

そして元スーパーモデルの美女エミリア





男であれば誰もが脚を運びたがる甘い蜜蜂の巣のような店なのだが――


        ――――――暗黒街[クーロン]にある法律で裁けぬ者にも鉄槌を下す裏組織…"グラディウス"の支部…




それこそが妖香漂う蜜蜂の巣の実態なのだ…

言葉通り"蜜蜂の巣"だ…拾った小石を投げたり、枝で突くような真似をすれば泣きっ面を見る事になる



  アニー「でさ、アンタ此処へ何しに来たのよ…あ、もしかして[ディスペア]潜入の用意はできたかって催促?」

  アニー「まだ作業員に変装する為の一式やIDカードできてないんだから待っててよね」


  ブルー「いや、それもあるが…」



 …術が使えなくても、戦いたい…[剣術]や[体術]…いや最悪[銃技]に詳しい奴を教えて欲しかった訳だが

この店に来たのは本当に彼にとって"大当たり"だったかもしれない、それぞれの分野に特化した人材が居るのだから
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:46:47.49 ID:omphqAj60



  ブルー「貴様に借りを作るのは癪だがアニー、貴様に剣術を教わりたい」

  アニー「わーお、上から目線だなこの野郎」



しれっと言い放った言葉に、いらっと来るがこの男はこういう奴だと出掛けた言葉を飲み込んだ…
 この無礼極まりない大層ご立派な術士様がどんな心境の変化で剣術を学びたいかくらい聞いてやろうじゃないか、と



  アニー「一応聞いとくわ、理由は?」

  ブルー「……」









  ――自分の弟を殺す為





  アニー「…ん?なによアンタ理由も言えないワケ?そんな奴には教えたくないわね〜?借り作るの癪らしいしぃ〜?」




ワザとらしく人差し指を右頬につけてお道化てみせる守銭奴に術士は言った



  ブルー「……同郷の者でな、どうしても勝ちたい競い相手が居るんだ、そいつとの試合に勝つためだ」


  アニー「…? 故郷の競い相手と試合??? なによアンタ…熱血スポ根物の少年漫画みたいな事やってんのね」


  ブルー「報酬は弾む、頼む」




 帰って来た返事に「へぇ、以外だわ…」と目を丸くしてアニーは呟く
この冷血男は誰だか知らんが故郷に居る知人と試合をするために力をつけているのかと…

よくある不良が夕暮れの河川敷げ殴り合うアレか、とそう解釈した





『同郷の者』『競い相手』、『試合』――まぁ嘘は言ってない


ただ"詳細説明"……そして最終的に"敗者の末路"に関してを省いただけだ、訊かれなかったから答えなかった、それだけ



  アニー「まっ!金払ってくれるっていうならみっちり!アタシがしごいてやるわ!」フフンッ♪

  ブルー「ああ、それと剣術の他に体術にも詳しそうな奴が居ると思うのだが…」チラッ


  アニー「あ〜、アンタが見てる従業員以外立ち入り禁止ドアの先に居る2人ね」


  アニー「ライザは体術専門だけど、さっきルーファスをヤったエミリアは寧ろ[銃技]専よ」


  ブルー「…エミリア、か…そういえばリュート達と蟹鍋を囲んだ時にチラッと話してたな…あの女が」

  アニー「体術習うならライザだし、銃のプロなら彼女ね」


  ブルー「…今は[剣術]だけでいい、余裕を持てそうなら他の分野にも手を伸ばす」
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:47:21.00 ID:omphqAj60

ガチャッ、パタン…


  ライザ「アニー片づけは終わったようね?それとブルーさん、でしたねお見苦しい所をお見せして申し訳ありません」

  アニー「あのグラサンどうだった?流石にやりすぎたかもってエミリアと介抱したんでしょ」

  ライザ「1日寝てれば何事も無かったかのように復帰してるわよ」



 従業員以外お断り、そう書かれた扉の向こうからライザと呼ばれた紫髪の女性が戻って来た
身内にお恥ずかしい場面を見せて申し訳ないと頭を下げた彼女に蒼き術士も首を振って返す


   「アニー、ライザ、お客さんまだ居る〜?なんか私が荒しちゃった店内の片づけ手伝ってくれたってお礼とか――」



最近、"グラディウス"に加入したブロンドの美女エミリアもまた扉の向こうから姿を見せた―――そして…









      エミリア「………っ!  ―――ぇ、ぁ、なんで?」



      ブルー「?」






金髪美人は一瞬、時でも止まった様に彼の顔を、蜂蜜色の髪を持つ端麗な顔を見て息を呑んだ




     アニー「あぁ、そう言えばキグナス号の時は紹介できなかったわね」

     アニー「ほら?アタシさ言ってたじゃんか、食べ放題ビュッフェのあの席で―――」























      エミリア「ルージュ!こんなところで何をしているのよ!アセルス達は一体どうし―――」



       ブルー「―――――――――――――――――――――――――――――――」







416 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:48:15.75 ID:omphqAj60





  逆鱗に触れる、という言葉が世には在る、もしも触れたならば身を以て知るだろう祟り神に容易に手を出したことを





 電光石化の動きだった、破損していない椅子に腰かけていた蒼き術士が"名前"を耳に入れると同時に勢いよく立ち上がる

毛を逆立てる山豹、青筋を立てた悪鬼、血走った眼を向ける殺人鬼、荒れ狂う妖怪…もののけ




 端麗なその顔立ちは一変、おぞましいバケモノと見紛う程であった…



対面して座っていたアニー、ライザでさえ、ぞわりと身の毛がよだつ敵意




     ブルー「貴様ぁぁッ!!ルージュを見たのかッ!どこだ!?何処にいるッッ!言えぇぇぇッッ!!」ガシッ

     エミリア「キャアっ」ビクッ!




  アニー「ちょ!?ば、何やってんだブルー!!」ガタッ!

  ライザ「これは流石に止めないとマズイわ!」バッ!



     エミリア「い、痛いっ、やめ――っ!やめてってばっ…ほんとう、や、、め …ぁぁ!」



      アニー「っっ!いい加減にしろ!!なんだってんだ…このぉ!!」
      ライザ「手を離しなさいっ!」





         リュート「スライムッ!!いっけぇぇぇぇ!!」ブンッ!

         スライム「(`・ω・´)ぶくぶーーーーーっ」ヒューーン






        ブルー「なにィ!?ぐ―――がぼっ、ごぼっ!?」(顔面にスライム命中)




   リュート「そのままブルーの顔に引っ付けッ!呼吸できなくて気ぃ失っちまうまでだっ!!!」

   スライム「(; ・`д・´) ぶ!? ぶくぶ!」ガッ!グッグッ!




     ブルー「――! 〜〜〜っ!? −−!  −−−」 ジタバタ!ジタバタ!……バタッ!




  リュート「…や、やったか!?……ふ、ふぃーーーマジに焦ったぜぇ」ヘナヘナ…

  リュート「心配でスライムと二人で夜の町中探し回ったらまさかの修羅場とか…ビビったぞ」ハァ…


―――
――
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:49:04.61 ID:omphqAj60



     ロープぐるぐる簀巻きブルー「 」


  アニー「エミリア…本当ごめん、あたしの連れが…」

  エミリア「ううん、いいのよ何処か怪我した訳じゃないし…」


  アニー「……いきなり飛び掛かったこの馬鹿には後で事情聞いたり、みっちりと言い聞かせとくから、本当ごめんっ」

  アニー「暴れないようにロープで縛ったから目が醒めるまで奥の倉庫にでもぶち込んでくるわ」



  グッ…ズルズル…



 アニーはそう言うと騒ぎを起こした連れを『従業員以外立ち入り禁止』の奥…
この店の裏の顔の1つへと向かって引き摺っていく、そんな姿を見送り完全に姿が見えなくなったのを確認してから



   ライザ「さて、色々説明してもらおうかしら」

   エミリア「ライザ?」



   ライザ「リュート…彼と面識があるのでしょう、まぁその前にエミリアからね」

   ライザ「さっき貴女はブルーの顔を見て『ルージュ』と呼んだ、それからよ?何事も無かった彼が血相を変えたの」



   エミリア「あっ、その…なんていうか、よく見たら"人違い"だったっていうか…そのぉ」


   ライザ「人違い、というのはどういうことかしら」



支部とはいえ組織のトップであるルーファスの片腕を任される鉄の女はエミリアの発言が齎した変化に関して指摘を挙げる
 歯切れの悪い彼女の情報を整理すると、偶然知り合った魔術師のルージュなる人物とブルーの顔が瓜二つだった、と


ただ、髪色が違うし服装、細かい装飾も…なにより雰囲気だ






【銀髪の紅き術士】は温和で人懐っこい印象を受ける好青年だったが――

『金髪の蒼き術士』は冷たく気難しい感じのする何処か近寄りがたい人物だったように思える――



    ライザ「…無関係、では無いわよね、名前を耳にしてあの取り乱しようなのだから」



    リュート「…あー、そのことなんだが、よぉ…」ポリポリ



おずおず、と弦楽器を背負ったニートが話に割って入る
 エミリアが知り得る情報は顔が瓜二つの人物が居て蒼き術士は紅い方を知っていて…只ならぬ関係だと

それ以上の事は一切知らず、進展が無いと踏み…次いでブルーの知り合いであるリュートの話を聞くことにした



    ライザ「なにかしら、その切り出し方からして事情を知っているということでよろしくて?」

    リュート「ん、まぁな…これはアイツの人生に関わる個人的な問題だからあんま話すべきじゃないが…」


418 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:49:32.74 ID:omphqAj60

【双子が旅立ってから3日目 午後22時29分】



店内は嫌に静まり返っていた

 面白可笑しく生きるのがモットーである男の口から告げられたのは
何処よりも優れた魔法王国を謳う国家に生まれた双子の宿命であった―――



  エミリア「っ!」キュッ

   ライザ「…」



  リュート「―――と、これが俺の知る限り全てさ顔も見た事が無い、名前しか知らない血縁者を殺す」

  リュート「アイツはその為だけに術を究めようと世界各地を渡ってるってワケだ」





  エミリア「そんなのっ!!――残酷過ぎるわッ!」バンッ!


  ライザ「…エミリア机叩かないで頂戴、数少ない無事だった物なんだから」


  エミリア「でもっ、そんな…兄弟同士で命を奪い合うだなんてそんなの…!…あの、ルージュが…」ギュッ…!

  ライザ「ええ、倫理に反してるわね」










       ライザ「けどね、果たしてそれを"私達<裏社会の人間>"がどうこう言える立場かしら?」


       エミリア「っ」ハッ





   ライザ「私達はね…正義の味方じゃないの、法で裁く事のできない屑を違法を以て潰すわ」


   エミリア「……うん」


   ライザ「私は、他人が"そういう事"をしたとしてもとやかくは言わない」

   ライザ「誰かが誰かに対して"ソレ"をするのは、そこに抗えない理由や当人にしか理解できない葛藤があるから」


   ライザ「もしも、もしもの話よ?エミリア…」




  ライザ「貴女が自分の婚約者を殺したあの仮面の男、[ジョーカー]への復讐心を綺麗さっぱり忘れろ、と」


  ライザ「そう言われたら『はい、わかりました、シャバでのうのうと笑顔で生きてる仇は忘れます』と言い切れて?」




  エミリア「……」



…ブロンドの美女は口を開かない、否定ではなく沈黙で応じた

419 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:50:25.72 ID:omphqAj60


 エミリア「でも、それとこれとは話が」
  ライザ「違わないわよ、人間一人殺すのに必要な動機<エピソード>なんてものは精々、刑罰を軽くできるかどうか」

  ライザ「法廷でお高いスーツを着た人が書類片手に読み上げて情状酌量の材料にするかしないか程度の話でしかない」



   ライザ「殺人を犯したという"結果"はね…"人間よりも上の人"から見たら大差ないわ…」





どこか、…どこか疲れたような顔で裏組織に属する鉄の女は天を仰ぐように見つめた



モデルとしてスポットライトの光を浴びて来たエミリアとはまるで違う
 半生を薬莢と血生臭い世界を駆けて"知りたくも無かった醜悪なモノ"を数多く見て来た女性が言うのだ…



  ライザ「ブルーにはブルーでそうまでしなきゃならない理由がある、国からの命令だからする、そういうものよ」



  リュート「エミリア、俺ぁなんだ…裏社会の人間じゃねぇけどよ国によって独自の文化、風習とか掟だとかさ…」

  リュート「そういうのってある、とは思うんだわ」


  リュート「そこに干渉し過ぎちまうのも…やっぱマズイかな〜って、いや誰も死なないならそれが良いけどよぉ」


  エミリア「…リュートも"そっち側"、なのね」ハァ



   ライザ「勘違いだけはしないで頂戴、貴女の気持ちだって分かる…」

   ライザ「ただ、世の中には知っていて止められない流れや安易に首を突っ込むべきじゃない物事もあるって話よ」




  ライザ「……私は貴女に"ミイラ取り"になってほしくないの、お願いだからわかって」

  エミリア「…わかったわよ」ハァ




 5年分の歳月しか変わらない年上の、しかしその5年が自分以上に多くの物事を観て来た人生の先輩から助言を受け
エミリアは不満げに叩いた机に頬杖をつく、ライザとて『倫理に反している』と自身で言う様に"正しい事"とは思わない
ただ全否定をしないだけ、全肯定もしないだけなのだ




コインに裏と表があるのと同じ、元は同じ物質なのに角度を変えれば見解、見識が180℃グルリと変わる


戦争で"正義"の名の元に戦う軍隊があるとすれば敵は悪ではなく、単純に"別の正義"だったというだけの話





  ライザ「……」

  ライザ「でも、そう、ね…アニーにはこの事を隠しておいた方がいいかもしれないわ」


 エミリア「え?」



 簀巻きにされたブルーをアニーが奥へ連れ完全に見えなくなったのを見届けてからライザはこの話を切り出した
双子の兄弟で殺し合うとまでは流石に想像できなかったが、エミリアの知り合いの名前を聞いて激昂する辺り
何か面倒な事になるのであろうと…

冷静に分析し敢えてあのタイミングでライザは切り出したのだ
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:51:40.57 ID:omphqAj60


  リュート「ほ〜ん?なんでまたアニーにゃ黙っとくんだい」

   ライザ「あの子の性格を考えると一悶着ありそうなのよ…」ハァ



   ライザ「アニーも…このグラディウスのメンバーとして"裏"には長い事居るわ…」

   ライザ「大雑把で開放的な見た目に反して幼い頃から厳しい環境で育ったから自己保存と自己防衛本能が強い」

   ライザ「二人には前に話したけどこの仕事向きの"能力"ではあるわ…でも"性格"までそうかと言われると、ね」






   ライザ「昔、こんなことがあったのよ…家族を皆殺しにされた客が仇を討ちたいからアジトへ案内してくれって」


   ライザ「アニーは報酬の代金を受け取って契約通り案内を済ませた、後はそのまま帰って来るだけ、でも―――」





   エミリア「…帰らずに、その依頼人について行った?」


   ライザ「ご名答、頼まれたのは"道案内"だけであって一緒に戦うなんて契約には無い、無論お駄賃だってない」


   ライザ「『ここからは"ビジネス"じゃなくて"ボランティア"だからカネなんていらないわ』」

   ライザ「そういって依頼人の仇討に加担したのよ…無償で」ハァ…



   ライザ「能力は間違いなく裏社会での仕事向きよ、能力は、ね…」



   リュート「実は双子の弟殺す為に修行してまーすっ!、なんてブルーの目的知ったら…」


   ライザ「…」ハァ…



 本日何度目になるか分からない溜息をライザは吐き出した…、義理堅い、情に熱いというのは美徳だ
闇の中でも失われない光を持つのが手の掛かる妹分の美徳だと感じていて同時に危うくも思う


―――長所と短所は表裏一体だ、浅くない付き合いだから分かるエミリア以上にきっと



バタンッ!


  エミリア/リュート/ライザ「「「!?」」」ビクッ、ガタッ!




  アニー「ただいまー!あの馬鹿とりあえず適当に―――って何よ?どうしたの?」キョトン?


  エミリア「え、あぁ…ホラ?あれよ、アレ…あの人なんで怒ってたのか分かったわー」(目逸らし)

  リュート「お、おう話し合い終わったとこで急に来るもんだからな、心臓飛ぶかと思ったわ」


  リュート「あ、俺急用あったんだ!――ほら、スライム起きろ!行くぞ!」ユサユサ

  スライム「ぶくぶ…zzz……ぶくっ!?Σ(゚□゚;)」スヤァ……ハッ!?


  リュート「じ、じゃ!俺はこれで…さいなら!」ダダッ!

  アニー「えっ、ちょっとぉ!!」

421 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:52:19.61 ID:omphqAj60

ドタバタ…



  アニー「…なんだってのよ、…ってか事情分かったって?」クルッ


 慌ただしく出て行った知人とゲル状のモンスターから同僚に顔を向け、問いただす


  エミリア「ええ、そうよ…コホン、いいアニーよく聞いて頂戴…」

   アニー「いいけど」


―――
――


【グラディウス倉庫】



  ブルー「…うぐっ、…こ、ここは…」キョロキョロ

  ブルー(段々思い出して来たぞ…確かリュートにスライムを投げつけられて…)





  アニー「…どうやら気が付いたようね」ガチャッ!

  ブルー「!」バッ!




 古い木板の匂いがする床の上で目覚めた彼は最初暗がりに慣れず、何も分からなかった
立ち上がろうにも両脚の自由が利かず、また腕も拘束されている事に気づくのはすぐだった声は出せる辺り
口は封じられていない…

ボサボサ頭に民族帽を被った無職とゲル状生物の所為で失神さえられたこと、その件に対する怒りが込み上げるよりも先に
彼の心にまだ見ぬ弟との邂逅があったと思しき女の存在が入り込んだ


 なんとか此処から脱出してエミリアと呼ばれていた女に問い詰めねばッ!
そう思った矢先で部屋に廊下から漏れる灯りが雪崩れ込む、木製のドアを背凭れ代わりに
見知った顔が腕を組んで此方に睨みを利かせていた



   アニー「なんで縛られてるか、わかるわよね?」

   ブルー「…」プイッ



顔を背ける、言われるまでも無い



  アニー「はぁ〜〜〜、餓鬼かアンタは、…そうやって都合悪いと拗ねる辺りあたしの悪ガキの弟と同じだわ」スタスタ

  アニー「縄解いてやるわよ…ただし!エミリアにはちゃんと謝る事、そしてアタシのいう事にも従う事良いわね?」



  ブルー「…拘束を解く、だと?」



  アニー「別に怪我した訳じゃない、大事じゃなかったからいいってさエミリアも御人好しよね〜」スタスタ…ガシッ

  アニー「…」シュルッ…スルスル



  アニー「…ルージュって奴の事、エミリアから聴いたわ」

  ブルー「ッッ!?」

422 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:54:45.54 ID:omphqAj60


  ブルー「…そう、か…聞いたんだなっ」ワナワナ…!


知らず知らずのうちに術士は震えていた…

胃の底から込み上げてきそうな何かを抑え、溢れそうな部分を言葉に変化して出すように確認を取る


  アニー「ええ、…あたしがアンタを此処に運んでる間にリュートからも詳細を聞いたって」






    アニー「ブルー…あんた…」ジッ

    ブルー「…っ」ギリッ





 廊下から差し込むLEDライトの照明を背に伸びる彼女の影が歯軋りをしながら彼女を見返すブルーの顔を丁度隠す
逆光の中に入る女と、影で表情を窺い辛い男…二人の間に沈黙が流れ、そして…






   アニー「…ぷっww――いや、確かにアンタ見たまんま"エリート坊ちゃん"って感じの性格だからね」

   アニー「そりゃあ弟の方が優秀でスポーツ万能、性格良しとかじゃ敵意剥き出しにするわけだわ…ぷぷっ、くくっ」






   ブルー「……」


   ブルー「は?」




 呆気

 思わず間の抜けた声を漏らしてしまった、パチンッ、倉庫の照明をOFFからONへ操作して未だ小馬鹿にしたような笑いを
絶やさぬ女がイマイチ状況の飲み込めない男に言い続ける



  アニー「いやいや、あたしに報酬払うから剣を教えてくれーとかキャラに似合わないことすんなぁ〜とか思ったわ」


  アニー「故郷の競争相手ってのはブルーの弟なんだろ、学生時代の自分より成績が上で」

  アニー「しかもコミュ力高くてリア充しまくってた弟の鼻を明かしてやろうって努力してるんだろう?全部聞いた」



  ブルー「お、おい、ちょっと待て…貴様さっきから何を――」



  アニー「…あー、うん分かってる、わかってるから"兄より優れた弟なんて存在しない"、だろ?うんうん」肩ポンポン

  アニー「しっかし、アンタさ…くくっw 澄ました顔しちゃってさ」

  アニー「そ〜んなコンプレックスの塊だなんて可愛いとこあんじゃんww」プッ…


  ブルー「 」


 この女は黙って聞いてれば何を頓珍漢な事をほざいているのだろうか、オイなんだその顔はやめろ!
その微笑ましいものを見るような慈愛に満ちた笑顔はやめろ!肩をポンポン叩くなァ!

ブルーはそう言いたかった
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:55:18.42 ID:omphqAj60


  アニー「あたしだって姉弟の中で一番上だしさ、情けない姿見せちゃあ面目が立たないとか気持ちは分かるわよ」

  アニー「けどさぁ、エミリアに掴みかかった時みたいなああいうのは良くないわよ?」


  アニー「ほらほら!向こうは許してやるって言ってんだ、ちゃちゃっと謝りに行くよ」スタスタ





  ブルー「お、おいィ!!……あ、あの女言いたい事だけ言って…ふ、ふざおってからにッ!!」プルプル




  ブルー「〜〜っ」プルプル

  ブルー「…」


  ブルー「リュートからも聞いただと?…だがあいつの口ぶり
           どうも【"決闘"】でなく『"ただの試合"』としか思ってないような」




"試合"と"死合"


 妙に緊張感の無い言い方、恐らく彼女は双子の闘いを学生がよくやるような剣道大会の試合
要はスポーツ感覚のソレと勘違いしているのだろう


 実際に行われるのは中世の騎士が立会人の下、どちらかが命尽き果てるまでに斬り合う決闘<デュエル>だ
魂の尊厳、何より自分自身の"生"の為に西部劇のガンマンが早さ比べをする様式とも取れるソレであって
 間違っても負けたら「いいファイトだったぜ、またやろう」みたいな爽やかな笑顔で握手し合う交流試合のノリじゃない



弱肉強食、負けた方が勝った方に生存の権利を譲る―――そういうモノであるはずなのだ




  ブルー「何をどう聞かされたのか、確認を取るか、ルージュの件もある」スッ、スタスタ…




 少し頭に血が昇り過ぎていたな、…蒼き術士は幾らかクールダウンした脳で先刻の接触は悪手だったと今更後悔した


初対面の人間に対する"猫かぶりの対応"を思わず忘れる程の激情、蒼は紅を体現した人物名でその彩に染まっていた
 どうにも故郷を発ってからこういう事が多い、情緒不安定な所が際立つ





 普段、名の通りの男と故郷で言われたが実際は違う、彼とて人の子だ……世間を知らず箱の中で育ち

外界など古臭い書物の紙面に乗った洋墨でしか知らない、鳥籠で産まれ、鳥籠で死ぬ小鳥と何が違うというのだ…



山も、川も、雲さえ知らない鳥がある日、飼い主の身勝手な都合で籠から追い出され野に放たれたも同然だ



見た目だけが成人を迎えた子供<お坊ちゃま>……ただの22歳児でしかない



コツコツッ……ピタッ



  アニー「エミリア、連れて来たわ」

  ブルー「……」

424 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:55:59.27 ID:omphqAj60


  エミリア「…貴方がブルー、ね…ふぅん確かによく見ると色々違うわね」ジーッ



   ブルー「…」



 ポーチ付きのベルトに紺色のスカート、春先の若葉を連想させる明るい緑色のジャケットを着た女は目を細める
親友に倉庫から拘束を解き放ちここまで連行して貰った男と記憶の中にある戦友の容姿を見比べた

 一点を凝視してみたり、離れて全身を軽く見まわしたり
彼に近づいて一本の大樹を中心にぐるぐる回る様に様々な角度から覗き込んで見たり


 観察対象の彼はその行為にじれったさを覚えた、何がしたいんだ、言いたい事があるならさっさと言え、失礼な奴だ、等


心中は投げつけたい文句が浮かぶが、立場上ブルーは"今現在は加害者であるが故"に強くは出れない




 双子が旅立ってから三日目の晩、遡って二日前だった―――丁度このリージョンでブルーが[保護のルーン]を手にする為
暗黒街の地下にある[自然洞窟]でアニーと出会った、その時に彼は確かに言った




 - ブルー『こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様』ジロッ -




 目の前の女はまるで自分を舐めるように観察してくる…こうなった発端は元を正せば後先考えずに行動したブルー自身だ
"自分に非がある"と認めてるからこそ咎めない、許容範囲を軽く越した蛮行でもせん限りは様子見に徹している



  エミリア「ん、んっ〜!ハイ、わかった、確かに違うわ、うん!アニー!ちょっと二人っきりでお話したいのよね〜」

  エミリア「ちょーっとだけこのカレ借りちゃっていい?」ガシッ


  ブルー「お、おい…」

  アニー「OK」ビシッ




 悪戯を思いついた、そんな顔で猫なで声で妹分に許可をねだる元モデル

 何か面白そうなんで、と了承の二つ返事を姉貴分に敬礼つきで出す仕事人



 反論を口しようとする彼はその場から連れ去らんとする腕に黙殺される、そして終止ニコニコ笑顔のブロンド髪で
誰もが見返る魅惑的な美女に誰も居ない深夜の厨房まで引き摺り込まれてそして―――






       エミリア「リュートから話は全て聞いたわ、"身内殺し"をしようとしてるってこと」





分厚い扉は重々しい音と共に締まる、外部に音声を漏らすことはないだろう


突然の隙間風、季節風の様に何の前触れもなく吹いた風が蝋燭の灯火を消していったように、ニコニコ笑顔はふっと消えた




術士の肩に、細く白い綺麗な指が沈み込む、霊獣の毛皮を剥いで創った肩掛けにギュッと強く…桜色の爪化粧が喰い込む


425 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:57:10.49 ID:omphqAj60

 静寂の中で石窯の傍に掛けられた木製の振り子時計が無言の睨み合い、緊迫した空気も読まずにただ己の役割を果たす
一瞬、驚いた顔をしたが何か合点が行った顔で肩を掴まれたままの男は目を細める、今度は自分が女を観察する番だ


  ブルー「……」

 エミリア「…っ」キッ!



  ブルー「まず、先程の件で詫びをさせてもらう、あれは全面的に俺が悪かったな」

  ブルー「他人に教えを乞う態度にしては乱暴が過ぎた、それは認める」スッ




  ブルー「そして、この先は別件だ、リュートから俺の目的を聞いた上で
            あの頭の悪い捏造シナリオを奴に吹き込んだのはお前か、何が目的だ?意図が読めん」


 エミリア「っ」キュッ!



 小さく頭を下げ、自分に非があったと睨みつけて来る女性に淡々と伝える
誠意の欠片も見当たらない謝罪後は一呼吸置いて、何が目的か問い始める


…元モデルというのが彼女の経歴だが
 一世を風靡する程のプロモーションと表現力を兼ねた彼女なら舞台女優でも通用することだろう

 ライザを交えてリュートから"家族殺し"をさせる狂った国家の話を聞いた時と全く同じ様に、目の前の男の言葉を聞き
彼女は下唇を噛んだ、行き場の無い怒りの行先だ




戦友ルージュの背負った理不尽な使命という悲運

目の前に居る戦友の兄ブルーはそれに何も感じないのかッ!という怒り

この双子にそのような命令を下す国家の残忍さ



あらゆるモノに対する腹立たしさが渦を巻いて胸の奥に燻っていた、よくもまぁアニーの前であんな上機嫌な女を演じたな



 エミリア「…意図、ですって?」

 エミリア「あなたねぇ、自分の弟を殺すのよ…何も思わないの、悲しいとか嫌だとか、…っ、辛いとか、感情は無いの」







  ブルー「無いな」






 そんなモノは無い、彼は正直に答えた



 エミリア「―――ッ!このっ」グッ!片手振り上げ


 エミリア「……っ」

 エミリア「…」

 エミリア「…。」


 エミリア「…ない、のね」スッ

426 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:57:49.28 ID:omphqAj60

 振り上げられた手は、エミリアの落胆した声と同じく、だらりと重力のままに降りていく
初めから期待していた訳じゃない、[ヨークランド]出身の友人が語った通り冷徹さを印象付ける色の彼は
弟に"勝つ気"でいるのだ


そこに、罪悪感だとか、嫌悪感、本当は嫌だけど仕方なく国の命令に従っているだとか、そういう淡い"救い"を求めた


…初めから期待していた訳じゃない、のだけれど





  ブルー「…」





 無いな、弟を殺すという事柄に対して悪感情はあるのかという質問にこの男は即答したが…


本当に無いのだ、いや、"考え方そのものが違う"




 彼とルージュが旅立つ初日、国家の元首でもある魔法学院の長はなんと言った事か
強き術士となる為であらば『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』と…


倫理、道徳…必要最低限の"普通の"モラルを学ぶ子供ならば忌諱となるだろう行いを『国家の為だからソレは正義です』と
ブルーの場合は特にその傾向が強い教育だった



資質を手にする為なら、相手から奪う、殺人さえ許可する、と



必要な行為だから、する
良くも悪くも考え方が"国家に忠実な兵隊さん"思想な所がある、もっと言えば隔離されて育ったからこそ兄弟の実感が無い



殺らなきゃ自分が殺される、そういう意味じゃお互い様
ただの抹殺対象、それ以上でもそれ以下でもない、だから情がどうこう以前の話








…とどのつまり、エミリアに対して言った「無いな」に込められた"ニュアンス"は微妙に違う


辛いとか、悲しいとか、嫌だ、ではないが
 逆に…殺せて清々するとか、大っ嫌いだからボコボコにしたいでも、嬉々として倒したかった、とかですらもなく



家族という実感そのものがイマイチ、ピンと来てない




強いて言えば、"自分を育ててくれた里親である国家に親孝行をする"が動機





  ブルー「お前はその確認をしたいが為だけにあんな創り話を考えたのか?」


  エミリア「…それ、もあったけど違う」

  エミリア「……アニーにあなたの旅の目的、真相を知って欲しくないからよ」


427 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:58:56.77 ID:omphqAj60

  ブルー「なぜだ」


  エミリア「あの子、見た目はあんなふうだけどすごくいい子よ、家族思いで」

  エミリア「知ればきっと、あなたの事を止めようと食って掛かるわ…」


 ライザが危惧した内容をそのままエミリアはブルーに告げた、もしも、今この厨房に居るのが自分でなく
どんな会話が行われているのかも知らずに外で眠たげに欠伸でもしているアニーだったら



落胆の色を浮かべ振り上げた手を下げた自分とは違った行動を取ったことだろう

激怒の色を浮かべ勢いをつけ手をあげたに違いない



その後も、ブルーが白旗をあげるまで延々と彼の耳元で喚き続ける
 兄弟同士で殺し合うなんて間違ってる、長男が自分の下を傷つけるな!…姉弟で生きる為、頑張って来た長女なら言った



  エミリア「私の他にもう一人ライザって女性が居たでしょ、彼女もこのことは知ってる」

  エミリア「私もライザもあなたのことは止めたりはしないだから、これだけは約束して欲しい」


  エミリア「せめて、アニーにだけはそんなことを、残酷なことを教えたりしないで頂戴」キッ!



家族で殺し合う為の手助けをしてしまった

自分の知り合いが友達の戦友を殺させる切欠を作ってしまった


 事が終わった後にせよ、起こる前にしても、アニーはもう、ブルーに既に手を貸してしまっている
自分達家族が生きる為に報酬のカネを受け取った、仕事で仕方なくやった、としてもそれが少なからず小さな影を造る


こんな業界に居るから、いつかは…いや、エミリアが知らないだけで過去に似たような経験をアニーはしたかもしれない


…どちらにしても、そんなモノは無いなら、その方が断然いい

言ってしまえば気持ちの問題だ


  ブルー「…ふむ、言いたい事は分かった」


  エミリア「それで、約束は? YESかNO、決めてもらえないかしら」


  ブルー「アイツの性格はまだ知り合って日も浅いが大体わかる、[ディスペア]潜入や剣術の指南」

  ブルー「今後の予定に支障が出る不具合もある、良いだろう飲んでやる、あの馬鹿な脚本に従ってやろう」


  エミリア「…私、あなたのこと苦手、ううん、嫌いだわ…ルーファスとどっちがマシって言われたら悩むくらいよ」


  エミリア「正直、妹みたいに思ってるアニーに近づいて欲しくないくらいに、泣かせたら承知しないわよ」


   ブルー「そうか、それは結構、ところで…そちらから一方的に約束事を持ち出して虫が良いとは思わんか?」

  エミリア「…。」

  エミリア「…私が行動を共にしてた間のルージュの人柄や旅の様子を話す、前払いの契約金よ」スッ


   ブルー「そこまで"頼まれては"仕方ないな、約束を守るように善処しよう」ニコッ、スッ




…ガシッ、ギュッ

…金髪の美女はハッキリと嫌いだと物申した相手――満点の笑みを浮かべる金髪の男性と"仲直りの握手"をした

428 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 01:00:28.10 ID:omphqAj60
―――
――




  アニー「ふわぁ…二人で何話してんだろ…」脚ぷらんぷらん



 暇を持て余した彼女は樽の上に腰掛け足をぷらぷらとさせていた、この惑星の気候は肌寒く特に豪雨の夜は一層冷える
店の雰囲気重視を謳う少し薄暗い照明と合わせて暖房をつけていない…というのは建前で単に"ケチ"なだけなのだ


眠たげな彼女の服装はいつものデニムパンツに、ブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけのラフな格好だった

 夜風に晒されてまで自宅に戻って厚着して帰って来る気にもサラサラなれず
店内にあったブランケットを適当に引っ張り出して来てポンチョの様に身体に巻いていた



スッ


  アニー「…はれ?ライザ」

  ライザ「今夜はまた、一段と冷えるわね…ホットチョコレートよ、飲みなさい」

  アニー「へへっ!サンキュー!」


白いマグカップが4つ、白の陶器は湯気立つ茶色と溶け合うミルクの色が渦を描く、手渡されたカップの淵に口をつけ一口


  ライザ「お味はいかがかしら、お客さん」フフッ

  アニー「うーむ、くるしゅうないぞ!っなんてね」ハハッ


紫髪の女性も樽に腰掛ける金髪少女の傍に立ち、カカオの香りを嗜む


  アニー「あの二人さぁ、何話してんのかなー?」

  ライザ「さぁ、気になるの」


  アニー「そりゃ気になるわ、エミリア美人だし男と厨房で二人っきりとかさぁ」

  アニー「よく言うじゃん?男はオオカミなのよ、気を付けなさい〜♪って」

  ライザ「あら、懐かしい歌のフレーズね」


  ライザ「でも、大丈夫よ彼女はそんなヤワじゃない、そうでしょう」

  アニー「んー、それもそっか、ズズッ 温かくておいしい」


バタンッ!

   エミリア「二人共おまたせ〜」スタスタ

    ブルー「ああ、遅くなって済まない和解は成立した」スタスタ


  アニー「おっ!や〜っときたか、…まったく、ちゃんと反省してるわけ?」ヤレヤレ



    ブルー「あぁ、すまなかったな、ルージュのことになるとどうも頭に血が昇ってな」

    ブルー「エミリアも話してみれば大分話の分かる奴でな、…しっかりと"仲直りの握手"もできたくらいだ」

   エミリア「…ええっ!そうね!」ニコッ

    ライザ「……」

    アニー「えっマジ?なんか意外、アンタとエミリア絶対反りが合わないと思ったけど世の中わかんないものね」


    ライザ(仲直りの握手、…ねぇ)

429 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 01:01:03.89 ID:omphqAj60

エミリアがアニーに近づいて小声で耳打ちする、そんな姿には目もくれずにブルーは得たアドバンテージを考える


 握手には広義の意味がある、単純に仲直りの為であったり、挨拶代わり……政治家のやり取り、商談成立の合図にも



  ブルー(ルージュがどの術の資質を得ようとしているのか、試練の進行状況はどうか
         アイツのペースを知る事で鍛錬の積み方、休息のタイミングも図りやすくなる筈だ)


  ブルー(はは、運気の流れは確実に俺に吹いてきてい―――)ツンツン



ふと、肩を指で突かれる感触に水を差され「なんだ?」と振り返る、すると…

















    アニー「はい、んじゃ今日からビシバシ行くからヨロシクな新人アルバイト!」つ『ピンクのエプロン』








           ブルー「…。 えっ」








 アニー「エミリアに謝ったら、罰として暫く住み込みでウチのイタ飯屋手伝ってもらうつもりだったのよ」

 -アニー『縄解いてやるわよ…ただし!エミリアにはちゃんと謝る事、そしてアタシのいう事にも従う事良いわね?』-




 アニー「あの時、悪戯っぽい顔で連れてくから何かと思ったけど、ピンクのエプロン着せる為だったとは恐れ入ったわ」

 アニー「エミリアが耳元で教えてくれた、厨房で話し合ったんだろ?ピンクのエプロンで良いって」



  エミリア「そうよねぇ、ごめんなさいねぇ〜ピンクのフリフリが用意できなくてぇ、それで我慢してね」ニッコリ
  エミリア(タダでやられっぱなしなんてごめんよ、…フン!ざまぁみなさい陰湿男)



           ブルー「」


           ブルー「」



           ブルー( こ の ク ソ ア マぁ ぁ ぁ  ぁ   ぁぁぁぁ ぁ! ! !!!)




…笑顔の素敵な女優さんの心の声が彼には確かに見えた、エプロン渡され放心状態の彼の怒りの叫びが彼女には聞こえた
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 01:18:42.20 ID:omphqAj60
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                 今 回 は 此 処 ま で !


                   △インフォメーション!▲


  現在経過日数 旅立ちから三日経過



 〜 資質修得状況 〜

『陰陽】

・陽術(従騎士との乱闘騒ぎで現在取得不可)
・陰術(従騎士との乱闘騒ぎで現在取得不可)


【秘印』

・秘術(ルージュ、試練開始 4枚の何も書かれていないタロットカードを貰う)
・印術(ブルー、試練開始 4個の何も刻まれていないルーン文字の小石を貰う)


『時空】

・時術(現状どちらも手がかりをつかんでいない)
・空術(現状どちらも手がかりをつかんでいない)



<心術>
・心術([京]にあるらしいのでルージュが試練を受ける予定)


状況

ルージュ 資質0 試練進行度 0/4 (エミリアから金のカードの情報を貰った)

ブルー 資質0 試練進行度 2/4(既に2つ攻略済み、残りの在処もアニー、ルーファスから知る)




 『パーティーメンバー】

-ブルー組-

・ブルー

・アニー(通常仲間キャラ)

・リュート(主人公級キャラ)

・スライム(通常仲間キャラ)

・ルーファス(通常仲間キャラ)

・エミリア(主人公級キャラ)

・ライザ(通常仲間キャラ)

※ヌサカーン先生はクーンのパーティーに入りました

-ルージュ組-

・ルージュ

・アセルス(主人公級キャラ)

・白薔薇(通常仲間キャラ)

・レッド(主人公級キャラ)

・BJ&K(通常仲間キャラ)




▼…ブルーがエミリアからルージュの情報を聞き出してしまった…、まだ余裕がある事を知り暫く自己鍛錬ができると知る

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431 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/21(木) 22:39:06.44 ID:GtSfa+fT0
更新来てたのか、乙
ルージュが本編で実現不可能なドリームパーティーじゃないか
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/21(木) 22:43:15.71 ID:UkF5UJuX0
全員のシナリオを同時進行するサガフロとか見てみたいと思ってた
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 11:48:21.39 ID:qWc/sLQpO
乙乙
続きがめちゃめちゃ気になる
434 :書き溜め少し投下 [saga!red_res]:2019/02/22(金) 17:38:45.23 ID:EOANnSFz0










ペラッ…カキカキ


         僕は[クーロン]で一夜を明かして[キグナス号]へ二度目の乗船をしている








朝一番の始発で『7時27分』に僕は仲間と共に暗黒街の惑星から飛び立った、日記が書けそうな今の内に書いておく


黒一色の死の大空を飛ぶ船の展望エリアから矢の様に流れていく星々の灯りに目を奪われていた





外界に来て僕は友達がたくさんできたかもしれない、アセルス、白薔薇さん、エミリアさんやヒューズさん

それにルーファスさん、この船に一緒に乗っててさっき出逢ったレッドとBJ&Kもだ

本当に色んな人と出逢えて…良かったと思う、僕はきっとこの旅を忘れない。


    もうじき、[京]に着陸するらしい…ペンを置いて、船を降りる準備をすることにしておくよ


435 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:40:32.77 ID:EOANnSFz0

【双子が旅立ってから4日目 午前9時14分】

 紅き術士は、その美しさに目を奪われた




  ルージュ「……すっげぇ…」



多種多様な惑星<リージョン>が存在する広大な宇域でも、この[京]というのは独特な文化を誇っていた
 旅行ガイドに簡単な紹介文は載っていたが実際に見るモノは違う、まず驚いたのは発着場だ
船を降りてターミナルの待合室に着いたが[マンハッタン]や[クーロン]、[マジックキングダム]とも全然違った


"お座敷"という見た事もないモノがある…


見れば他所の惑星から来た観光客がなんと靴を脱いでその上に上がり座り込むのだ!!


畳…タタミ、と呼ばれる床材でなんでも藺草<イグサ>という単子葉植物で作った独自の文化らしい

この惑星<リージョン>の人はその上で座ったり、寝っ転がって休んだりするそうな
 ちなみ、ルージュが眺めていた観光客たちは「オー、ジャパネーズ ブンカ デース!」と口にしていた
何言ってるのか意味はよく理解できなかったが"ブンカ"…文化と言ってる辺りカルチャーショックでも受けていたのだろう


 旅行鞄を持ったアセルスお嬢、白薔薇姫と合流し、術士は発着場を出て肌で感じ取った、空気が違う…

鼻孔を掠める紅葉と竹林の心穏やかにさせる香り、せせらぐ水と木造りの水車が回る音
 銀杏の実を蓄えた枝の先々には金色のイチョウの葉、今まで見た事も無い浴衣、着物……"和服"という民族衣装
靴だってそうだ、自分達が履いてるような動物の革や布のブーツではない

木の板に紐を通したような不思議な靴、アセルスが後に教えてくれたが草履や下駄という名前らしい


何もかもが新鮮、何もかもがルージュにとって見た事の無い未知だった



 彼は目を丸くして、キラキラと夜空の一番星のように輝かせた…齢22歳の好奇心旺盛な少年心を刺激するには十分過ぎた



  白薔薇「まぁ…!なんて綺麗な街並みなのでしょう!」


  ルージュ「! あ、あ、アセルス!!ねぇ!あれは!?アレは何!?あれって『寿司』って書いてあるよ!?」ソワソワ

  ルージュ「『天ぷら』とか薄らとだけど小耳に挟んだことあるよ!なんかその、食べ物なんでしょ!」ワクワク


  アセルス「もうっ!ルージュは落ち着いてってば、あぁ!!白薔薇勝手に景色を見に行かないで!迷子になるって!」



      「おーい!アセルス姉ちゃん!ルージュ!!」タッタッタ!!



  ルージュ「あっ、レッド!お仕事終わったんだね!」


  レッド「おう!遅れてすまねぇ…ユリアにお土産とか色々頼まれてよ…」

 アセルス「烈人君ごめんね、わざわざ忙しいのに時間見つけて私達の観光に付き合ってもらって」

  レッド「気に擦んなって!姉ちゃんにゃ昔っから世話になりっぱなしだからな!…所で、気になってたんだけど」


  レッド「白薔薇さんは一緒じゃないのかい?」ユビサシ



  ルージュ/アセルス「「…えっ」」クルッ


  アセルス「し、白薔薇ぁぁぁぁぁぁ!!!」

  ルージュ「う、うわぁぁぁぁちょっと目を離した隙に白薔薇さんが迷子になったぁぁぁぁ!?どうしよう!?」

436 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:41:19.12 ID:EOANnSFz0
―――
――


【[京]の庭園】



  白薔薇「 」ポツーン

  白薔薇「あら、あらあら?…どうしましょう…いつの間にかアセルス様たちとはぐれてしまいましたわ…」オロオロ



 [ファシナトゥール]とは全く違った芸術美に思わず蜜のかかった林檎に誘われる蟻の様に釣られてしまった
薔薇飾りを頭に乗せた何処かおっとりとした妖魔の貴婦人が途方に暮れだした、そんな時だった―――






   Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…うぃーっく!…くぅぅ、やっぱ酒飲むならこういう日本庭園だよなぁ!」グビグビ

      記憶喪失のロボット「ゲン様、飲みすぎです、タイム隊長達に怒られます」


 "ゲン"、焼酎という酒が入った瓶を片手に豪快に笑う男の名前だ、顔を赤くしてバシバシと隣居るロボットの肩を叩く



   ゲン「わぁーってるって、そうケチケチすんなって!ガハハハハ!それによぉ
                こいつぁお前の記憶の手がかりが見つかった祝いみてーなモンだろ?」ハッハッハ!



   記憶喪失のロボット「はい、間もなく[シンロウ]で"仮面武闘会"が開催されます」

   記憶喪失のロボット「その間遺跡の探索は禁じられますから、[古代のシップ]でヒントを得たのは大きな収穫です」


   記憶喪失のロボット「HQの存在確認と私の任務が"RB3型"の破壊であること」

   記憶喪失のロボット「もっと詳細を知る為に一度レオナルド様にお会いしましょう」



   ゲン「の前に、あのでけぇコウモリにやられちまった、ナカジマと特殊工作車を治すことだろ」

   ゲン「遺跡の中で蝙蝠倒しまくってたらいきなり出てきやがって流石に俺もヤバいかと思ったぜ、たく」



   ゲン「ん?T-260G、何見てんだ?」



   T-260「…認識完了、メモリ内と100%合致、ゲン様、以前[マンハッタン]で見かけた女性です」


   ゲン「あん?」チラッ





   白薔薇「どうすれば…」オロオロ




   ゲン「ありゃ、本当だな…こりゃまた奇妙な縁だな……」


   ゲン「なんかあの姉ちゃん前見かけた時も困った顔してたな、どうすっかね…」う〜ん

   ゲン「…」


   ゲン「うっしゃ!決めた、これも何かの縁だろう、ちょっくらお節介焼きに行くぞ!」

   T-260「了解です」ウィーン

437 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:41:55.30 ID:EOANnSFz0

 この惑星の観光スポットとして名高い庭園でしなやかに揺れる柳の幕を潜り向けお節介を焼きに来た中年の男と
古臭いデザインのロボットは妖魔の貴婦人に声を掛けた


  ゲン「おーい、そこの姉ちゃんアンタなんかお困りかい?」テクテク


  白薔薇「あ、はい…知り合いとはぐれてしまいまして…失礼ですがどちら様で」


  ゲン「んあ?あぁ…わりぃわりぃ、俺ぁゲンってんだ、隣に居るのが」

  T-260「制式形式番号T260 認識ID7074−878「こいつぁT-260だ見ての通りロボで小難しい事を言う」


  白薔薇「ゲン様に…?てぃーにーろくまる…様?」


  ゲン「おう、この辺ぶらぶらしてたらなんか困り顔の女が居たもんだからついお節介焼きたくなっちまったんだ」

  ゲン「人間困った時はお互いさまっていうだろ」ガッハッハ!


 彼は人情溢れる人間という奴なのだろう、酒瓶を持ったまま豪快に笑い隣に居るロボットの肩をバシバシ叩く
そんな様子につい思わず白薔薇も釣られて笑ってしまう、見知らぬ土地で独りというのは不安がある

話し相手の一人や二人いるだけで、その不安の根は大きく取り払われるモノだ

 初めて来たリージョンに知り合いなどいる筈もなく、右も左も分からない白薔薇はご厚意に甘えることにした



  ゲン「だったら、シップ発着場の方に行きゃいいってことだろ?降りてすぐにこの庭園に来たっつーことは…」フム



  T-260「我々もここから南東の道を通って向かうべきです」

  T-260「白薔薇様の御知り合いが発着場から土産屋方面に向かったのなら、都度、通行人に確認を取り後を追います」


  ゲン「だな、向こうが姉ちゃん探してこっちに来てんなら途中でばったり鉢合わせだろうし」

  ゲン「逆に変に反対方向に行って行き違いになっちまうよりかはその方がいいな」


  白薔薇「ありがとうございます」ペコッ


…テクテク…スタスタ…ウィーン!


  T-260「時に白薔薇様は人間<ヒューマン>でなく妖魔でしょうか?検知された生体エネルギーが人間では無かったもので」

  ゲン「おい、ポンコツ!失礼だろがっ!…すまねぇ」

  白薔薇「ふふ…お気になさらずに、T-260様の仰る通り[ファシナトゥール]から来た妖魔にございます」クスクス1

  ゲン「[ファシナトゥール]…んー、俺ぁ妖魔についてあんまし詳しくねぇからそのリージョンはよく知らねぇや」


  白薔薇「T-260様とゲン様はどちらからお越しで?」



 道中、知り合ったばかりの3人…いや、2人と1機は退屈しのぎも兼ねた他愛もない世間話に花を咲かせていた
会話のキャッチボールが続く中でT-260が発した何気ない一言から何処からこの地へ観光に?という話題に移った…



    ゲン「…」ピタッ


   T-260「ゲン様」

    ゲン「いや、いいんだ……そうだな、だんまりも失礼だわな」ポリポリ


   白薔薇「…?」


    ゲン「俺は…[ワカツ]ってトコの生まれでな」

438 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:42:20.80 ID:EOANnSFz0



  白薔薇「[ワカツ]…ですか?」



   ゲン「ああ、サムライの惑星<リージョン>、なんて他所の奴らはよく言ってたもんさ」

   ゲン「腕っぷしに自信のある奴が技を磨くために訪れたり、[剣のカード]目当てで来る修行者もいた」


   ゲン「俺も、故郷でそこそこ腕のある剣豪だったんだが、色々あって今は放浪の身って奴さ」



  白薔薇「"色々"ですか…」


   ゲン「ああ…"色々"な」



妖魔の貴婦人はつい最近になって時が止まった様な鎖国リージョンから出た、それゆえに世捨て人の如く世間に疎い

彼の言う"色々"というのは新聞やニュースを観ない者でもよく知っている事件なのだが
……あるいは妖魔だからこそ詳しくないと踏んで彼は話したのかもしれない


何か、話辛い失礼な事を聞いてしまったのではないか…、ゲンの横顔を見て白薔薇は少し居た堪れない気持ちになった
 この話題にはあまり深く踏み込むのは良くないと判断し話題を変える事にした


  白薔薇「あの、ゲン様は剣にお詳しいのですか?」


   ゲン「うん?剣かい?そらぁ、まぁな…」




  白薔薇「でしたら、女性でも扱いやすい強い剣をご存じありませんか?」




[クーロン]で自分達を助けてくれたアルカイザーは言っていた、此処には様々な人が集まる
 旅人も疲れを癒すために寄ることが多いのだから優れた剣、装備品に関する情報も聞けるだろうと


アセルスの[フィーンロッド]の代わりとなる武器、[幻魔]を扱えるようになるその日まで…!彼女の実力に見合った剣を!


  ゲン「…そうだな、女でも振りやすいか」


顎に手を当て、剣豪を目を細める、東洋剣を専門とする彼はふと思い当たる節を口にした



  ゲン「………女でも振りやすいかは兎も角だ、嘘か真か[シュライク]に名刀が眠ってるって話なら聞いたな」


  白薔薇「…![シュライク]に」


…シュライク、アセルスの故郷だ
12年間姿の変わらぬままで育ての親の元へ帰り、怖れられた…あまりいい思い出の無い土地


  ゲン「ああ、なんつったかな、昔の偉い奴を埋葬した古墳があって[草薙の剣]ってのが一緒にあるとか」

  ゲン「なんで強い剣を求めてるかは知らねーが墓荒しなんて碌な目に合わねぇからよ、あんまオススメはしないぜ」


  ゲン「店売りの剣になっちまうから金もかかるし威力もずば抜けて高い訳じゃねぇが[ゼロソード]くらいだな」


   白薔薇「いえ、それだけでも十分ですわ」ペコリッ


―――タッタッタ…!

 アセルス「し、白薔薇ぁぁぁぁ!!よかったぁやっとみつけたぁ…っ!」ゼェゼェ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:43:02.03 ID:EOANnSFz0
―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午前10時20分】 [京]の旅館前


    特殊工作車「」HP0

    ナカジマ零式「」HP0




   レッド「この回路をこうして…んで[インスタントキット]を取り付けてっと」カチャカチャ

  ルージュ「あ、あれぇ〜?…れ、レッド!もしかして僕コード間違えちゃってる??」

   レッド「ん?…あー、そこはだな…」


    BJ&K「損傷がひどいですね、…所々に強い磁気を浴びたような形跡が」



  ゲン「わりぃな坊主たち、俺の仲間達を治すの手伝ってもらって」

  ゲン「最近の若い奴らは機械につえぇからなぁ、俺ぁそのインスタントなんちゃらは苦手だぜ…」ポリポリ


  ルージュ「いえいえ!白薔薇さんと僕達を探すの手伝ってくれたんです!このくらいお安い御用です」コード カラマリ


身体中にケーブルが絡まったルージュが胸を張っていい、それが可笑しいのかレッドが苦笑する


  レッド「ま、俺もBJ&Kの整備でメカ専用の回復道具の使い方は慣れてるしな!…しかし凄いなこのメカ」ジーッ

   ナカジマ零式「 」

  ゲン「そいつは[シュライク]で仲間になったんだ、中島製作所って所で縁があってなそこの社長から連れいけってな」

  レッド「へぇ!奇遇だなー、俺[シュライク]出身だからさ、故郷のメカって思うと尚更…」ジーッ


  ルージュ「れ、レッドぉ!たすけてぇ〜!」コード グルグルマキ ミイラ


  レッド「おまっ、何器用な絡まり方してんだよ!?」


―――
――



   ナカジマ零式「いやぁ〜、助かりました〜」

    特殊工作車「感謝いたします。」


    ゲン「おう、おめぇ等やっと目が醒めたか明日になったらレオナルドさんトコに行くからな!」


    T-260「私達は明日まではこのリージョンに滞在します、何か要件があればご相談ください」ウィーン


   アセルス「ありがとう!ゲンさん、T-260、私達は行ってくるからね!」


    ゲン「おう!お嬢ちゃん達も観光楽しんで来いよ!!」手ひらひら



[京]の情趣溢れた旅館で鉢巻をつけた一人の人間が、個性豊かな三機のメカが一行を送り出す
 旅の魅力は初めて行った土地での"出会い"にもある、その土地柄、独特な文化…行き交う人々の民族衣装、料理、方言
それに人柄だってそうだ、今回の旅で彼等の様な人情深い人達と出会い
ちょっとした世間話やお互い知らぬ土地の話題に花を咲かせる…それはきっとすばらしいことなのだろう

 勿論、出会う人全てが"いい人"とは限らないが、それも踏まえた上で他者とのふれあいが異国情緒を楽しむことに繋がる


旅人4人+1機が[京]の街を観光し始めたころ、陽はもうじき一番高い位置に上がろうとしていた

440 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:43:40.43 ID:EOANnSFz0


     ぐぅぅぅぅ〜〜…



  アセルス/レッド/白薔薇「「「えっ」」」クルッ





     ルージュ「ぁ…///」カァ///


 BJ&K「胃が強く収縮された時に生じる音を確認、空腹期収縮ですね、腹の虫が鳴くとも言われています」ピピッ



 ピタリと、歩みを止めて赤らめた顔をする紅き術士、と一歩先で振り返りそれを確認する面々、…冷静に分析するメカ
誰が一番に笑いを堪え切れなくなったのか、噴き出した声に一層照れくさそうにするルージュ


  アセルス「ふ、ふふ、し、白薔薇を探すのに夢中でまだご飯食べてなかったものね!」クスッ

   レッド「お、おう…くくっ、そうだな、もうじき昼メシ時だし…」ククッ


  ルージュ「わ、笑わないでくれよ!…しかたないじゃんか//」



  \ アハハハッ! /  \ ウフフッ! /    \ ヤ、ヤメテヨネ! /



  白薔薇「まぁまぁ、元はと言えば私の所為でもありますし…心術の試練より先にお昼に致しませんか?」

  ルージュ「そ、そうとも腹が減ってはなんとやらでしょ!ここはお昼が先だって!」



 豪華客船キグナス号は[京]で一泊二日の観光ツアー客を降ろし、翌日には[シンロウ]へ向かうスケジュールだった
この機を利用して乗務員も羽休めを許されている為、緊急に呼び出しでもない限りレッドも時間はある

旧知の仲であるアセルスお嬢、妙に意気投合できる気の置けない友人のルージュ、何か放っておけない白薔薇姫

三人に付き合って名所巡りや一緒に[心術]の資質を得る修行に挑戦するのも悪くないと思った


予定通りならば先に[心術]の修行場に行き"資質"修得に挑戦だったが…





   ルージュ「す、寿司ッ!…い、いよいよ僕はSUSHIとやらを食べるのか…」ドキドキ、ワクワク




    レッド「いや、あれは刺身だよ」
   アセルス「うん、寿司はそっちのお米の上にネタが乗ってる奴の事をいうんだよ」




まず、修行よりも腹の虫を鎮める方が大事である

 旅行者に優しい写真付きのメニュー看板を見て
『刺身』を『寿司』だと勘違いする異国人に指摘を入れる[シュライク]人二人、その後に続く妖魔の貴婦人


 BJ&K「…私は入口で店員さんにお願いしてバッテリー繋いで貰います」


物質を飲食できないメカは充電モードで待機してもらう事となった、メカだからね仕方ないね



   ルージュ「お、おぉ………!」キョロキョロ

    白薔薇「あらまぁ……」パチクリ

441 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:45:19.19 ID:EOANnSFz0

 [京]の建築物は木と紙、あとは土を焼いたモノ…屋根に使われている瓦だったり、基本的に自然と共存している印象を
紅き術士と妖魔の貴婦人は受け取った、木造建築の内装でよく見かける畳という床材に、"襖"という紙で出来た横扉だ

 どこの異世界<リージョン>でも料理人の正装は白一色と決まっているのか、"板前"と呼ばれるシェフは白い服に帽子という
姿で、手にした包丁で綺麗に魚を捌いていた



   レッド「二人共こっちの席に座ってくれ」


   ルージュ「ハッ! あ、うんっ!」トテトテ…

    白薔薇「ただいま其方に…」



"おてもと"とリージョン共通語で書かれた紙の入れ物に入った竹製の割り箸、陶器製のコップ――湯呑み、というらしい

 郷に入れば郷に従え、この惑星<リージョン>が発祥の諺らしい、生憎とルージュはこの地での作法を知らぬ
ふんわりとした長い銀髪を揺らしながら彼は目線をレッドとアセルスに向ける、どうやら座布団と呼ばれるクッションに
術の精神統一に行う座禅の体勢で座り込むようだ



  ルージュ(本当に僕の知らない世界だなぁ…っと、こうかな?)ちょこんっ



 白薔薇姫がアセルスお嬢に教えられ、別に正座でなくても掘り炬燵式なのだから楽な姿勢で良いと言葉通りに座る
そして、お品書きを手渡される



   レッド「今日は俺の奢りだ、なんでも頼んでくれよな!…あっ、でもめちゃくちゃ高いのはカンベンな」



 安月給の機関士見習いレッド少年が当店のおすすめ、という部分を開いて渡してくれたので術士はそれをジッと見た
どうやらお寿司、以外にも先の刺身や…天ぷら、どんぶり、という物が在るらしい

 和食は食べた事が無いから、何が美味しいのか分からない
向かいに座る少年曰く「なんでもうまいぜ!」との事だった……アバウトだなぁ、とルージュは内心で困ったように笑う

 値段もお手頃(?)で少し食べたい人向けの寿司を注文してからすぐに運ばれてきた木の板…下駄のような皿の上には
小さな長方形のライスボールの様な物があり、その上には魚肉を切って乗せたモノがあった



  ルージュ「この黒いソースにつけて食べるのかい?」

  アセルス「醤油だね、ちょこんとつけるといいわよ……っ、う〜ん!!久しぶりの和食だわぁぁ…」ホロリ



[ファシナトゥール]から[マンハッタン]…そして[クーロン]と旅してきた少女が久方ぶりの和テイストに感涙する
 隣に居る白薔薇も箸で一つまみ、お刺身を一口齧り「まぁ…!」と思わず頬肉を綻ばした




   ルージュ「いただきます、…ちょっと"ショーユ"つけて…もぐっ」パクッ






     ――――ポタッ

            ――――――ポタッ






      ルージュ「……」ポロポロ


      ルージュ「………感動したッ!」ポロポロ…(´;ω;`)ブワッ


泣きました。
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:45:57.02 ID:EOANnSFz0


  レッド「なんだよお前大袈裟だなぁー」







  ルージュ「大袈裟なんかじゃないよ、お米についてるこの味、酢<ビネガー>かな…それにショーユのしょっぱさと」


  ルージュ「魚の甘み――魚って生で食べる機会無かった分かんなかったけど甘いんだね、あぁ、脱線しちゃったけど」


  ルージュ「それ等と別に何かピリッとしたモノがあって…っ!」




  ルージュ「そのスパイスが絶妙なハーモニーを生み出してるんだぁっっ!」ドンッ☆


<ハーモニーを生み出してるんだぁっっ!
<生み出してるんだぁ
<ウミダシテルンダァ



 ドン!っと漫画なら擬音でも出てそうな力説をかます紅き術士に「お、おう、そうか…」とレッドが気圧されかける
心なしか台詞にエコーでも掛かってそうなまである…まぁ気に入って貰えたなら何よりである



  アセルス「…というかルージュさ、何気にアレだったりするの?ほら…えっと、食通っていうの?」


湯呑みのグリーンティーを啜りながらアセルスお嬢が口を挟む、それにパチクリと目を瞬かせる


  アセルス「いや、酢飯を食べて酢<ビネガー>がどうとかさ初めて見る料理で何使ってるか一々分かる訳じゃないのに」

  アセルス「だから、思っただけ……味にもうるさそうだったし」



  ルージュ「んー、一応旅に出る前は僕が料理当番になること多かったからかな」


  レッド「うん?当番……あ、よくある家族で「今日は○○がお風呂洗い当番なー」みたいな?」



今日はお兄ちゃんが夕飯の夕飯のおつかい行く日ねー、あたしお料理当番だからー、みたいな感じかとレッドは尋ねる
 その答えはある意味近いと言えば近かったが…





    ルージュ「家族?……いや、"家族"、じゃないかな…僕、さ…物心ついた時から親居なくて国の施設に居たから」






  レッド「えっ」
 アセルス「えっ」


  白薔薇「施設、ですか…」



  ルージュ「そそ、[マジックキングダム]の魔法学院でずっと小さい頃から寮生活なんだよねー」

  ルージュ「みんな、僕が当番になると、やったー!ルージュの飯だーって喜んでくれてさ〜」ハハッ



……あっれれー?なんか重いハナシになっちゃったぞー、レッド少年とアセルスお嬢はお互いに顔を見合わせたが
当事者のルージュは笑い上戸か何かのように明るく話すので地雷踏んだワケじゃなかったかと一息である
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:46:28.15 ID:EOANnSFz0



  レッド「そうかぁ…しかし魔法学院の寮かぁ、なんか意外だったなぁ」



  ルージュ「意外ってなにが?あっ!僕が料理できるってこと!?ひっどいなぁ…」

  ルージュ「そりゃあ最初は魔法学院風味を利かせた精進料理もできなかったけど少しずつ腕をあげて」



  レッド「いや、そっちじゃなくて学院の寮ってとこのくだりだよ…なんつーか意外なモンだなぁって」

 アセルス「うん、…言われて見れば私も白薔薇も、ルージュが術の資質を得る修行の旅をしてることしか知らないわ」

  白薔薇「そうですわね、アセルス様が12年間眠り続けて、オルロワージュ様から現在逃げている事や
       レッドさんが犯罪組織の陰謀でご家族を亡くし"通りすがりの人"に病院に運ばれキグナスで働いている等」


  白薔薇「…私達お互いに深い所は知る関係になりましたが、考えてみればルージュさんの事は何も知りませんね」



アセルスと白薔薇は言わずもがな

レッドは……ヒーローの事は伏せるように、組織の幹部に殺されかけた時に"通りすがりの人"に病院に搬送され助かったと
 流石に『広大な宇宙の何処かにあるヒーローの惑星<リージョン>から来た正義の味方アルカールに救われました』などと
馬鹿正直には言えない、言えば記憶を抹消されてしまう








 ルージュは、良くも悪くも世俗に囚われない…知らなすぎる節がある




単なる世間知らず、というには見る者全てに「なんかそういうんじゃねーなコイツ」と思わせる浮世離れした雰囲気がある


見る"モノ"全てが初めて


建物、人物、文化、土地の風習…それもだが、誰もが知ってる当たり前の常識でさえも何処か抜けてて

歳相応じゃない、22歳にしては純粋過ぎる、…人懐っこい犬みたいに誰にでもホイホイついていくその感性だ
 世の中は善人だけではない、"そういう人間"を利用して利潤を得ようとする者も残念ながら居るのだ



――――だが、[ルミナス]で旅人をぼんやりと道行く旅人を見つめていた時といい
                         見ず知らずの旅人でさえあっさり信じる危うさがある



[マジックキングダム]は名の通り、魔法大国として栄えたリージョンだ

 だから出身地を聞いた時、…ああ、裕福なお家で箱入り坊ちゃんとして育ったのか?ともその世間知らずな所で思ったが
それとも違うのだ






  ルージュは、隔離されて育った。



王国の闇、影の部分である問題のある子供を極秘裏に育てる"影の学院"で

いつか、来るべき日…兄弟同士で殺し合いをさせるという御国のプロジェクトの為

他所の惑星から見れば国のお偉いさんは倫理に反している!!と非難殺到間違いなし
 世論が国家を滅多滅多に叩きまくって惑星間を跨ぐネット上で炎上しまくるのが確実な魔法大国の"暗部"


その片割れを隠しながら育てる為に、だ……ルージュが何処か、現世の人間とは違った雰囲気なのもそれが原因である
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:47:02.18 ID:EOANnSFz0
―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後12時15分】



  レッド「…」トボトボ

  レッドのお財布『200クレジット』チャリン…




  レッド「…くっ!男児たるもの泣くもんかよっ」




  BJ&K「涙腺のゆるみを確認、感情の我慢は毒です」ピピッ

  レッド「うるせぇよ!」




 昼食を取り、[心術]の修行場へ赴くがてらに土産屋へ寄った、お祭りに使われる"提灯"という風変わりなランタンがあり
お菓子やお弁当の他に木刀や竹刀なんかも売ってたりする


  レッド「トホホ…ユリアが欲しがってたモンがこんな高いなんてなぁ、ん?」

  ルージュ「…」ジーッ



  インスタントカメラ『 』



  レッド「なんだルージュ、カメラが珍しいのかよ」トテトテ

  ルージュ「あっ、うん…ちょっとね」



 [京]と言えば、学生が修学旅行に遊びに来たいリージョンNo.1に選ばれる星だ、ちなみ次点はカジノの星[バカラ]
レッド少年も、アセルスお嬢も学校の行事で此処へは来た事があった

その時も、学生の旅の思い出にとよくカメラが売りに出されていたのは記憶に残っている



  ルージュ「これさ、いんすたんとかめら、っていうんだろ、上のボタンを押すと写真が出る」

   レッド「ああ、…良けりゃ買ってやろうか?安売りしてるみたいだし」


  ルージュ「えっ!いいの…!」パァァ…!



 気になる職場仲間の女の子への土産は買ったんだ、ならたかが時代遅れになりつつある消耗品のカメラの一つ二つ…
そんな気持ちで安売りされていたカメラを友人に気前よくくれてやった



  ルージュ「レッド!ありがとうっ!…これがカメラで、こっちの筒に入ってるのが替えフィルムかぁ…へへっ」トテトテ



   レッド「やれやれ、アイツ俺より本当に3歳年上なんだか」ハハッ

  アセルス「あっ、烈人君…ガールフレンドへの贈り物は決まったんだね」ヌッ


   レッド「おわっ!?ね、姉ちゃん!?」ビクッ



本来なら12歳年上の17歳女子高生が19歳男子の後ろからヌッと現れた、アセルス姉さんじゅうななさい

445 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:47:37.17 ID:EOANnSFz0


  レッド「あぁ…姉ちゃんは、その紙袋の中身は?」

  アセルス「ふふっ、あれだよ」スッ



 緑髪の少女が指差す方角は衣服が売りに出されている一角だった
浴衣や着物もそうだが宇宙開拓<フロンティア>が進むにつれ客層もグローバル化が進みつつある…何処の惑星でも通用する
カジュアル服も当然ながらある、物価の高い[マンハッタン]、そこよりかは安く済む[クーロン]よりもなるべくなら
資金を消耗せずに済ませたい、…次の目的地が[京]と決まった時に買うならこっちの方がよいと判断したのだ



  アセルス「ずーっとこの貴族服だからね…」クルッ


  レッド「あ、そっか…姉ちゃん追われてるんだよな…」


  アセルス「うん…服を作ってくれたジーナ…あ、友達のいい子なんだ、そこの子には悪いけどこの服は鞄に仕舞って」

  アセルス「こっちの、人間だった頃によく着てた奴を着ようかと」ゴソゴソ




 アセルス編OP時の歩行グラフィック水色パーカー『 』ピラッ




  レッド「うわっ、懐かしい…」

  アセルス「あはは…私からしたら懐かしい、って感覚じゃないんだけどね…」ポリポリ



レッドから見れば12年ぶりの服装、最近目覚めたアセルスからすれば実に数日前の服装である
 追われる身であるのならばせめて中世ファンタジーの王子様ファッションから目立たない恰好にしておきたい

 …尤も妖魔は特有のオーラで何処にいるか大体わかるから多種多様な人種入り乱れるリージョンで人混み
特に妖魔系のグループが大勢いる辺りに紛れてる時ぐらいしか役に立たないかもしれないが


ちなみ彼女曰くジーナから貰った大事な服は間違っても捨てたりしない、らしい




  白薔薇「まぁ…色鮮やかで綺麗ですわ、…こ、こんぺーとー?」

  ルージュ「へぇ、これお菓子なのかぁ」ヒョイッ



金平糖<コンペイトウ>、白、赤、緑、黄…透明な瓶の中にはお星さまが沢山入っている
 土産屋のカウンターから老婆が顔を出し、茶菓子に如何か?と尋ねて来る
紅き術士と妖魔の出で立ちから、他所から来た人ならお一つご試食を、とご丁寧に広げた和紙の上に乗った星をくれたのだ



  ルージュ「…おぉ!あまーい!」パァァ…!

   白薔薇「ええ、口の中で少しづつ溶けていく…飴細工のようですわ」

  ルージュ「おばあちゃん、ひとつ貰うよ!」つ【お財布】


  「おんや、まぁ…そんなに気に入ってくれたかえ?」



  白薔薇「あら?こちらにもありますね…?いえ、これは―――」



  「ああ、それは[京]で精製した[精霊石]じゃよ」


  ルージュ「[精霊石]?…へぇ、[マジックキングダム]以外でも売ってるんだ」

446 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:48:10.63 ID:EOANnSFz0

 土産屋の老婆が言うに、[京]の風水師や陰陽師が清めた魔道具や消耗品が特産品の1つでこの石もそうだという
投げれば、砕け散った破片が敵意を向けて来る者に刺さり自身を守ってくれると



  「ほっほっほ、それだけじゃないぞ、この[ラッキーコイン]や[アンラッキーコイン]やお守り各種も…」


  ルージュ「んー、ならコインを幾つかと[精霊石]を貰おうかな」



綺麗だし、旅の思い出ってことで良いかなと、故郷でも手に入る石をコインと一緒に購入した…



――――後に、この[精霊石]がブルーと出逢った時に役立つのだがそれはまだ先のお話




―――
――



  レッド「つーわけで、人間3人此処で修行したいんだ」

 アセルス「よろしくお願いしますっ!」

 ルージュ「頑張ります!」


  「うむ、では奥の部屋で座禅を組み、精神を集中させなされ…試練に挑戦できるのは一度のみじゃ」


 白薔薇「皆さん、頑張ってくださいね!」←見学

  BJ&K「応援してます」←見学



受付で[心術]の資質を得るべく、手続きを済ます…手続きと言っても特に変わったことをするでもなく
 ただ、受けたいからやらせてくれと言うだけである


 蝋燭の頼りない灯り、お香の独特な匂い…奥の広間で来客のルージュ等三人を出迎えたのは仏像という
変わった様式の彫像だった…物珍しいソレを眺める術士、「懐かしいなぁ学校行事で来た時はお試しコースだった」と
少女が言い、「こいつと睨めっこすればいいのか」と少年が頷く


赤の名を持つ少年が仏像の前に正座して目を閉じる、その隣に紫の血を持つ少女が、そんな二人に倣って紅き術士も




      ルージュ(二人と同じように眼を閉じてればいいのか…)パチッ

      ルージュ(……)

      ルージュ(…う、ん?)グニャァァ



―――
  ―――
      ―――
        ――…



      ルージュ「あれ?なんで草原みたいな所に…」

          「きぃぃぃぃーーーっ」     


      ルージュ「モンスター![ハーピー]か…ッ」シュタッ!



        「けけけっ! 血肉を寄越せェェ!!」グォンッ!

447 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 18:04:45.07 ID:EOANnSFz0

 視界に広がるグリーンの絨毯に影がある、背中に生えた翼をはためかせた半鳥半人の化け物が陽光を遮って作った物だ

小さな豆粒ほどであったそれはルージュ目掛けて高度を落とすに連れて、…地表へ近づくことを示すように大きくなる
 両脚の鋭い爪が銀髪の垂れ下がる両腕の付け根を刺し、そのまま千切り取ってやろうと降りて来るも
彼は自分と地表の影が重なるタイミングを見計らい、それを[見切る]…っ!


頭上に豆電球でも灯った様な感覚だ、どうすれば避けられるか身体が自然と閃いたままに動く



    「ケェー!!、ちょこまかと…!」ガッ!


農夫が柔らかい土塊に渾身の力で鍬を振るったかのように[ハーピー]の両脚は突き刺さる、すぐに足を引き抜いて
 地の利を生かそうとホームグラウンドの蒼穹へ飛び立とうとするが…



    ルージュ「先に仕掛けて来たのはキミなんだ、…恨んでくれるなよっ!」カチャッ!BANG!


        「ゲゥ、…この餓鬼ぃぃ!よくも俺様の顔を…ケェエエエエエエエエェケッ」グォンッ


    ルージュ「エミリアさんみたく上手くはいかない!1発じゃ仕留めきれないかっ!」ダァンッ!ダァンッ!



    「へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ」ゴォォォ…

    ルージュ「それはもう見切った――「甘ぇぇよ!!」ガッ! ボッコンッ



  同じ動作で再び紅き術士に爪を突き立てようとしたのか、否、人間の皮膚を切り裂くのが目的ではない
次はそのまま、土を掻っ攫うように地面に突き立てたまま前進し、地中の硬い大岩を踵爪に引っ掛ける
 土木建築のクレーン重機が持ち上げてみせるのと違わない動きを器用に熟して人の頭部を二周り以上大きくした岩を
ぐるぐると回転して遠心力付きでルージュに投げつける



    ルージュ「あく"ぅ―――っ」ガッ


     「いひゃひゃ!ヤッター、メイチュー、ストライクー、くひゃひゃ!」


 片脚に命中した大岩、衣服に広がる鮮血、尻餅をつき、片手で負傷した脚を引き摺ろうとするルージュを見て
モンスターは舌なめずりをする、狩りは鮮度の高い肉を喰えるから良いのだ


薄い桜色の脂、それを多く赤黒い体液、鉄の味がするワインに酔い、勝利の末に得た極上の肉を舌の上で溶かす


動きの鈍った獲物目掛けて[ハーピー]は今度こそトドメを刺そうと次は両脚をルージュの胸――心臓に狙いをつけて





        「心臓もーらいィ!それで俺様の顔の傷は許してヤルよ!あーひゃひゃひゃひゃ」


       ルージュ「…っ、[インプロージョン]!」キュィィン







            ボジュッ

                        ボトッ ベチャッ…ゴロゴロ…    バサッ…




笑った顔のまま、モンスターの"生首だけ"墜ちて転がった。

釣り上がった目元も舌を出して品性の欠片も無く哂った顔のまま、少し遅れて背中に生えていた筈の翼もバサっと墜ちた

448 :今回はここまで [saga]:2019/02/22(金) 18:05:54.79 ID:EOANnSFz0

―――
  ―――
      ―――
        ――…


     「おい、ルージュ。 起きろよ!ルージュ…!!」ユサユサ



  ルージュ「うっ、…あれ、…ここ、さっきの」




    レッド「お、やっと起きたな寝坊助め…どうだ?夢に出て来た魔物倒せたか?」

   アセルス「どういう理屈か知らないけど、自分の中の不安とかが形になって出る来るから倒せたら成功だって」


  ルージュ「え、そうなの…それならなんとか…」


  ルージュ「…」



   -ルージュ『エミリアさんみたく上手くはいかない!1発じゃ仕留めきれないかっ!』ダァンッ!ダァンッ!-

    -『へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ』ゴォォォ…-


  ルージュ「…。」

  ルージュ「自分の不安、か」




  ルージュ(結局最後は僕、術で倒したんだ…術が使えなくなった時、足手まといになる、僕が仲間の脚を引き摺る…)



目を片脚に向ければ大岩をぶつけられた痕も、衣服の血汚れもそこには無かった



   レッド「俺は、なんか変な腕が出て来たな…いきなり[空気投げ]喰らってな、そのあと巻き返したけど」

  アセルス「私は蝙蝠が襲ってきたわ……昨日苦しめられた[スクリーム]を使ってくる敵よ」グッ!



それぞれ魔法生物系モンスターの[ダガーグラブ]と巨大蝙蝠の[ソニックバット]が襲って来たらしい
 結論から言うと友人達もルージュ同様に撃退に成功し試練に打ち勝ったと

―――
――


   「うむ、合格じゃ…これでそなたらは[心術の資質]を得た」


  レッド「…なぁ、資質って言われて姉ちゃんはなんか実感あるか?」ヒソヒソ

 アセルス「えぇぇ!?…いや、言われて見れば心がスッキリしてるような、ないような…」ボソボソ



  ルージュ「いや…あるよ、ハッキリわかる」




  ルージュ「あの大仏の部屋を出た辺りから何か、目覚めそうな気がするんだ…今まで分からなかった事が分かる」


  レッド「ほ、本当か?俺は…あんましそういうのピンと来ねぇぞ?」ヒソヒソ

  ルージュ「…ううん、戦いの最中で、自分の生命を賭す局面で[心術]を使えば、明光のように突然パーって…」


えらく抽象的で感覚的な事を言われるな、とレッドは思う、だが…不思議と"妙な説得力がある"のだ…否定できない
 自身の心が何処かでソレを"納得"しているのだ…っ!…これが資質を得ている、ということなのだろうか
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:26:54.59 ID:/iBvLIu90


  レッド「ま、俺は術の事はてんで素人だからな、術士のお前が言うならきっとそういうことなんだろうよ」

  レッド「そうと決まりゃ何か一つ基礎術のスクロール…で良いんだよな?」


  ルージュ「そうだね、お金で魔術書…スクロールを買って基礎術を教えて貰う、後は自分でモノにしてく感じだよ」

  アセルス「…だったらさ、全部買う必要ないんじゃない?頻繁に使いそうなの一つ買ってあとは節約するとか」


  レッド「おっ!いいなソレ!おーい受付の人、早速売ってる術見せてくれよー」




 「はい。」デンッ

・[克己] 料金300クレジット

・[呪縛] 料金300クレジット

・[隠行] 料金300クレジット





  レッド「 」


レッドのお財布『170クレジット』




  アセルス「へぇ〜!色んな術があるのね【麻痺】効果の[呪縛]に、自身の怪我を完全治癒する[克己]…良いわね!」

  アセルス「烈人君はどれにする?やっぱり[克己]?」


  レッド「エッ、アァ、ソレガイイヨナ、ジツヨウテキ ダヨナ。」



目が点だ。


試練に打ち勝ち、資質を得た…試練には勝てたが現実には勝てなかった、世の中は金という天下が回っているのだ



ここでアセルスに泣きついて、姉ちゃん!必ず返すから金貸してくれぇぇ!と泣きつくのは容易い
 男としての矜持をかなぐり捨てるだけで借用書が一枚できあがりだ


…おそらくアセルスならレッド、否、烈人君でなかったとしても利子無しで貸してくれるのだろう
女から小銭を借りる男、ヒーローの男児のプライドに罅が入りそうでそれは嫌だ




 ツンツン


  レッド「ぁ?」チラッ

  ルージュ「…」腕ツンツン


  ルージュ「レッド、これ…僕から」つ『300クレジット』

  レッド「!? お、お、お前ぇ…」プルプル



ひそひそ声で300クレジットこっそり渡してくれる友人に目頭が熱くなる、「カメラのお礼だよ」と人差し指を口に当てて
これ内緒ね?と…声には出さないが仕草で伝える、男の誇りを理解する者同士、言葉はなくとも分かり合ったのであった

持つべきモノは友だなぁ…

450 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:27:21.19 ID:/iBvLIu90

―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後14時32分】



このリージョンでの目的は最早果たしたも同然であった、…いやアセルスの武器はまだだが


 あの[森の従騎士]の様な一人で複数人を一斉に攻撃する範囲、又は全体攻撃の手段を所有する敵と対峙し
且つ回復が間に合わない状況下に陥ったとしても最低限、自身の傷は完治できる

それだけでも十分全滅の憂いを避けることができる…そして、ルージュにとって初の"資質"の入手だ…



       ちゃぷん…


                 カポーン!



  ルージュ(…資質、か)




国の命令を聞かなければ国家反逆罪で祖国の魔術兵が群れを成してルージュを追い回す
 それこそ大昔に何処ぞの惑星で実地された悪しき風習の魔女狩りを彷彿させる恐ろしさだ
最悪、紅き術士の身柄を拘束して洗脳や麻薬による狂戦士化状態でブルーと邂逅すらあり得る…馬鹿馬鹿しいと思う話だが
本当にその莫迦げた真似を実行するヤバさがあるからルージュにはどうしようも出来ない


自意識の無い幼子の頃から子供をどっちか死ぬまでの対決させるだけの為に施設に入れて国ぐるみで養育する狂気

しかも、ルージュの他に"裏の学院"には彼以外の子供の沢山いた、つまりそれだけ【そういうこと専用の候補生】が居た


出来ればそんな運命はまっぴら御免で、逃げられるなら何処へなりとも逃亡したい…

何処でどんな方法で監視か何かされてるのかさえ知らないが、体裁だけでも資質を集めている風に見せる必要がある




資質が手に入ったのは…純粋に今居る仲間の力になってあげれるから嬉しいがその反面で

自分の自由が終わる、兄弟同志で殺し合う為の舞台が整いつつある、そんな嬉しいとは真逆の相反する感情も孕んでいる




  ルージュ(…)ちゃぷっ!ちゃぷっ!


  ルージュ(…。旅してる内に解決策、何か考えないとイケナイ、わかってるけど何も思いつかないよ…)





        ザバァァァ!!




  ルージュ「うわっぷ!?」ばしゃぁぁあ!


  レッド「あっはっは!吃驚したか!」ハッハッハ!


  ルージュ「むぅ…!やったなレッド!」バシャァァ

   レッド「おっ!やるかぁ!」



……ちなみに彼等は今、[京]の日帰り温泉の露天風呂に居る、思いの外、手早く目的を果たせた、とお遊びモードだった

451 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:28:08.20 ID:/iBvLIu90

 頭に乗っけた白いタオルがお湯を吸いずっしりと重くなる、おでんのはんぺんみたいになった布は銀髪の上で
しんどそうにだらけてて、お返しとばかりにお湯を掛けたサボテンヘアーの上のタオルも似たような状態になった

お風呂にタオルを入れてはいけない、と幸い他に客はいなく迷惑にはならないがマナーだからしないようにと言われた



…騒いだりお湯を飛ばすのは良いのかと問われれば首を傾げる所だがそこは触れないでおこう



  レッド「いやぁ、タダで入れる風呂っていいよなぁ…やっぱ[京]はいいなぁ」フゥ

  ルージュ「お湯の出が良いからなんだっけ?」


  レッド「そーそー、もっと広々として色んな効能ある湯に浸かりたきゃ値の張る宿だけどよぉ」

  レッド「俺もアセルス姉ちゃんもさ、学生やってた頃は学校行事でみんな一度は来るのさ」


  レッド「なんつったって[京]だからな!温泉入って仏像拝んで、んで帰りに土産屋で木刀とか買ってくんだよ」




  ルージュ「……。」



  ルージュ「機会があれば聞こうと思ったんだけど、度々聞く"シューガクリョコウ"っていうのがソレ、だよね?」


  レッド「ん?まぁ…そうなるな、ってかお前その言い方」

  ルージュ「そっか、これがシューガクリョコウなのか」


  レッド「お、おいおい…お前嘘だろ、修学旅行したことないのかよ」


  ルージュ「本で読んだことはあるよ、学生が自分達のリージョンから他所のリージョンへ遊びに行くんだろ?」

  ルージュ「僕は、一度だけ術の座学で[ルミナス]と[ドゥヴァン]に先生の術で数分くらい連れられたくらいかな」



人生で他所の国に遊びに行ったことがない

どころか魔法王国の学院生徒であった彼は修学旅行なんてもの一度も経験してない


基本的に[マジックキングダム]の民は他所への外遊を許可されていないのだから…





  ルージュ「…?レッド、震えてるけど、どうかしたの」


  レッド「〜〜〜っ!」ガシッ!

  ルージュ「えっ?えっ?えっ?」



  レッド「 よ く わ か っ た !  ! !! 俺に任せろ!!」


  ルージュ「ま、任せるってなにを?」


  レッド「ばっかやろう!お前22歳になって修学旅行の1つも行ったこと無いとか人生損じゃねーか!」

  レッド「ダチとワイワイ騒いで、遊んでって青春の一頁だぞ!無いなんて悲しいだろ!俺に任せろ!」




何かわからんが心に火が灯ったらしいレッド少年の気迫に負け、とりあえず術士は頷いた…

452 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:28:35.02 ID:/iBvLIu90
―――
――



  ルージュ「それで、どうするんだい?」

   レッド「へっ!温泉に来たんだぜ!男が温泉に来たらやることなんて決まってらぁ!」ニヤリ




―――
――


【露天風呂:女湯】



  アセルス「…」ちゃぷん


  アセルス(水面に映る私の姿……この、緑色の髪の毛)スッ




 アセルスお嬢は、陽気立つ水面が映す自身の顔を見た、生前――人間だった頃――と変わらない顔立ち
17歳で成長の止まった身体、それに合わせた歳相応のあどけなさが今の表情にはあった

どうすればいいのか、途方に暮れそうな、捨てられた子犬のような顔


戦地に一度立ち剣を振るわば、花を愛でる少女よりも勇ましく軍旗を振るう戦乙女の如し麗人さよ


そんなボーイッシュな彼女は自分の変色した髪色に溜息をつく
 以前は赤みの掛かった茶髪だったそれは人間じゃない生物に変貌した事を強く主張する…綺麗なエメラルドの美しさだが
当の本人はその鮮やかな色を好まなかった


 自分が人間を辞めさせられたことを強く実感するから……



 ちゃぷっ



  アセルス「っ!誰!?」ビクッ


  白薔薇「アセルス様…私です、お背中、お流し致しますよ」ペコッ


  アセルス「なんだ…白薔薇か、――って背中!?いいよ!私もう子供じゃないんだから///」

  白薔薇「ふふ、そう仰らずに」スッ



  アセルス「あっ……もうっ!」プイッ

   白薔薇「…ふふ、拗ねないでください」


  アセルス「……こそばゆいよ、まったく//」


  アセルス「……。」


  アセルス「ねぇ、私…もう一生、人間には戻れないのかな」



 白薔薇姫の手がその一言で一瞬止まった、だが…それは一瞬だ、何事も無かったように続ける

…少女に不安を感じさせまいと


   白薔薇「可能性が無いとは言い切れませんわ…」

453 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:29:24.85 ID:/iBvLIu90



  アセルス「…私、怖いんだ」

   白薔薇「…」





  アセルス「寝てて、怖い夢を見たんだ…私が、オルロワージュを倒す夢」








 ―――手が止まった、今度は一瞬ではない


白く健康的な肩肌を震わせた少女はポツリ、ポツリ、と"悪夢"の内容を語る



自分を半妖にした原因たる人物、妖魔の頂点に立つ者、…魅惑の君[オルロワージュ]、白薔薇姫の主でもある人





   アセルス「私が、赤紫のお姫様が着る様なドレスを着てたんだ、鏡に映ってる私は……頭に角が生えてて」


   アセルス「すごく綺麗なんだけど悲しそうな顔をしたジーナがその夢に出るんだ、私の顔をみて怯えたような顔で」


   アセルス「…それで、夢に出てくる私は言うんだ『君は私にとって特別な人だ。私の最初の姫だからな。』って」




  白薔薇「…」




   アセルス「その後ラスタバンやイルドゥン…色んな妖魔が来て、思い思いに自分の感情を吐き出して」


   アセルス「私は、そんな彼等を切り捨てた、夢の私は…夢に出てくるアイツは…っオルロワージュと同じ、ううん」


   アセルス「刻の流れの止まったリージョンから外にも手を伸ばして全てを跪かせようとした、それ以上の悪魔だ!」






   アセルス「白薔薇…っ、怖いんだよ…その夢には何故か白薔薇が居なくて、誰も止めてくれなくて…怖くて…っ!」




   白薔薇「アセルス様、それは夢です…現実ではございません」ギュッ

   アセルス「…〜っ」


   白薔薇「…少し、湯冷めしてしまいそうですわね…このままお湯に浸かりましょう?」ニコッ

   アセルス「…。」

   アセルス「はは、後ろから抱きすくめられたままの入浴って変だよ…」


   アセルス「……ありがとう」ギュッ



 アセルスお嬢は…自分を抱きしめる腕にそっと手を添え優しく握り返した、嗚呼、今は怖い夢の中じゃないんだな、と
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:29:57.39 ID:/iBvLIu90
























一方その頃…



ガチャッ!


    レッド「ぐ、ぐおおおおぉぉぉぉ…!!  ぉ 」ドサッ

   ルージュ「…… も、   む り」バタッ




   ルージュ「ね レッド 、これが きみのいう おとこが来たら温泉で すること な  の?」

    レッド「さ、サウナ我慢大会は おとこの ロマン なんだ よ ガクッ」


―――
――



  コーヒー牛乳『 』フタ ポンッ!
  コーヒー牛乳『 』フタ ポンッ!


   レッド「ゴクゴクゴク…」
  ルージュ「ゴクゴクゴク…」


  レッド「くぅ〜、汗思いっ切りかいたら、洗ってから冷たいコレだぜーっ!」プハァ

 ルージュ「美味しいね!これ!」



  レッド「な?我慢した甲斐があったろ?あの後だからこそ冷たいのがうめぇんだよ」


 ルージュ「ああ、いいものだ……、今度来る機会あったら僕が勝つからな」ニィ!

  レッド「いいや、次も俺が勝つね」ハハッ

<アハハハ!


  アセルス「あ、二人共…上がってたんだね」ホカホカ

  白薔薇「お待たせしてしまいましたか?」ホカホカ


  レッド「いや、そんなことはなかったぜ」
  ルージュ「うんっ!」



 充電させてもらってるBJ&K「……私はメカですので羨ましくありませんよ、ええ…放置されるのは慣れてます、ハイ」

455 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:30:25.02 ID:/iBvLIu90



  ルージュ「このリージョン…本当いいとこだよね、紅葉が綺麗でさ…水の上に舞い降りて浮かんでるのがまたね」



 温泉の暖簾を潜り、湯上りの術士は親友達に語り掛けながら畔へと目を向ける

水面の青に、舞い降りる赤。


そこには調和がある



 枝からはらり、と巣立った葉は水鏡を征く小舟となる…自然の生み出すどこか儚く、切ない自然美だ

相反する色合いだからこそ、見映える…赤と青だからこそ重なり合った時にそれを美しいと思う、ただ反発するんじゃない



   ルージュ「……。」



正反対だから争う、ではない…相手とは違う方向性に秀でているからこそ足りないモノを補い合えればいい
 だが不思議な事に人間って奴はその発想に至れない、他者を見てそれに優劣をつけ競い、争い、蹴落とすという
徹底して相手を容認しない選択肢を取りたがるのだ


勿論、理屈では分かる、人と人が何故手を握りたがらないか、人間は動物とは違う…知性がある、それが何を意味するか


如何なる環境であれ、己の生存圏の拡大や権利の為に弱肉強食の闘争を繰り広げる行為も知性云々関わらずに在ることも




だが、どうせ"知性"を得た生物になったのなら、弱肉強食とは違った形で生きてみようと思わないのか、術士は度々想う





  レッド「だよな〜、今言った通りここはその時期にそういう祭りもあるし」

  アセルス「うんうん!」



  ルージュ「……え!?あ、ごめん聞いてなかった!」



  レッド「なんだよ、景色に見とれてたのか?」

  ルージュ「まぁね、あっ、そうだ」ゴソゴソ




  さっきレッドに買ってもらったカメラ『 』バァーン!





  ルージュ「あのさ!みんなで記念写真撮らない?シューガク…コホン、修学旅行ってこういうことするんでしょ?」



  アセルス「あっ、それ良いわね!」

   白薔薇「写真ですか、…噂には聞いてますが、その小さな機械で時を切り取り絵画を生み出すのですね」



  レッド「いいじゃんか!いよいよらしくなってきたぞ!…あ、でもそれだと誰か一人写真に入れねぇ…」

  レッド「…うーん」

  レッド「そうだ、地元の人に頼んで撮ってもらおうぜ!」

456 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:31:02.33 ID:/iBvLIu90


   ルージュ「そうか!僕、人を探してくるね!!」ダッ!


  アセルス「私達は此処で待ってるからねー!……白薔薇は私と手を握っててよ迷子になるといけないから」ガシッ

   白薔薇「は、はい…」



―――
――


タッタッタ…


  ルージュ(……今日で国を出て4日、か)ハァハァ…



  ルージュ(………不安しかなかった旅の始まりだった、決して旅の理由も素敵なモノなんかじゃないけれど)ハァハァ…










      それでも、それでも――今、自分が外の世界で出会えた人との巡り合わせ、"友達"と呼べる人ができたこと




     …それだけは自分の22年の人生で、きっと一番誇っていい、輝いてる宝物だと思う






       どんなに辛かろうとも旅路を思い返せば、嗚呼、いい旅だった…まるで夢のような時間だった、と



     きっと、そう言えると思う、―――いい夢だ、悪夢なんかじゃない







    "家族を殺す為"の旅…そんな呪われた因果の資質集めだけど






       ルージュ(綺麗な景色をたくさん見た、トラブルにも巻き込まれて…女装させられた時もあったっけ)


       ルージュ(見たことない食べ物を食べたり、温泉に入ってサウナ我慢大会したり…)


       ルージュ(……この"楽しい"って感情が、僕にとっての修学旅行なのかな)




 魔法学院を出て初めて祖国から出る許可を貰った、人生で最初にして"最期"になるかもしれない旅行


この旅は、殺し合いを控えてる彼にとって"本当の意味で最期かもしれない旅行"でもあるのだ


ならば…せめて夢心地で居たい、楽しい事をたくさん経験して、ぶらりと色んな所を見て回って…いい旅夢気分でありたい


457 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:31:28.65 ID:/iBvLIu90







  ――――−今だけは夢気分、嫌な事も…近い未来の事も忘れてパーッと楽しもう、ううん、楽しみたいんだ







   ルージュ「…!あんなとこに人影が!おーい!そこのひとぉーーー!」手フリフリ





写真を撮ってくれそうな地元民を探し、すぐの事、息を切らせたルージュはその人影に向けて手を振った
 その出で立ちは正しく[京]にお誂え向きな鎧武者と言った具合であった











       通りすがりの悪の秘密組織の幹部「む?私に何か用か、若者よ」クルッ






   ルージュ「わっ、すごい鎧…かっこいい、あっ、じゃなくて、すいません地元の人(?)ですか?」





 振り返ってくれた地元民(?)は人間<ヒューマン>では無かった、メカだった、スゴイ和風ロボットである




 通りすがりの悪の秘密組織の幹部「地元民、か…生まれた地は違えど、この土地に住んでいる者ではある」



聞くに、このサムライロボットは[京]の書院に住み込みで働いているらしい、友達と観光記念写真を撮りたいから
 シャッターを頼めるかと聞けば快く引き受けてくれた、良い人(?)だ



―――
――

【双子が旅立ってから4日目 午後16時11分】



 悪の秘密組織の幹部「そこの貴婦人、もう少し連れのお嬢の方に寄って頂きたい、さすれば写真の良さが増す」


  白薔薇「はい、アセルス様、失礼します」ソソッ

 アセルス「う、うん…こう密着されると恥ずかしいけどね//」 


 悪の秘密組織の幹部「術士の若者よ、角度を右方向に少し曲げてピースサインを頼む」


 ルージュ「こうかな」ピース!


 悪の秘密組織の幹部「うむ、いい画になる…では、いざ参るっ!参、弐、壱!」カメラ パシャッ!

458 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:31:55.91 ID:/iBvLIu90


  悪の秘密組織の幹部「…うむ、良い出来だ、現像を楽しみにされよ」

        レッド「ははっ!そうさせてもらうぜ!アンタいいメカだな!」


      ルージュ「いやぁ、本当すいませんね道すがら声をかけて、いきなり写真を撮って貰っちゃって」



  悪の秘密組織の幹部「気になさるな、…私もこの土地が好きでな、旅の者が良き思いでを土産にしてくれればと思う」



   レッド「…。」

   レッド(なんか、えらく人間味のあるメカだな…)ポリポリ



 メカ族は、コア…人間でいうところの心臓、脳にあたる大事なパーツを中心に構築される
疑似的な人格こそあれどそこに"感情"があるかと問われれば首振る所である


それは…バイオメカニクスの権威、小此木博士の息子であったレッドならよくわかる、科学者の父から言われた事だから


 実際レッドの隣に居るBJ&Kも多少感情的な動きをしている様に見えるが
それだって元となった人格モデルの行動パターンに過ぎない、心無い言い方になってしまうが…



…このサムライロボットはまるで、本当に心が備わってるのではないかと疑いたくなる程に―――



       アセルス「そういえばあなたのお名前は?」

  悪の秘密組織の幹部「おっと、名乗りが遅れ失礼致した…私は、メタルブラック、父は私にそう名付けた」



"父"…このロボットを開発した人物なのだろう、…本当に心があるようなメカ、さぞ素晴らしい科学者なのだろうな


      アセルス「メタルブラック…ここまで色々してもらって申し訳ないけど[京]にいい剣ってないかな?」

      アセルス「その、土産屋さんにあるような木刀とか竹刀じゃない奴…」



    メタルブラック「…刀をご所望か」



 [京]には武器を売ってる店が無い、装飾品や魔道具はあったが本格的なモノは無い
…[クーロン]の方がまだ良かったまである


 学生の為の木刀や竹刀でまさかモンスターと戦う訳にも行くまい、駄目元で地元民の機械に尋ねたお嬢に対し
メタルブラックは暫し、顎に手を当てて夕焼け空を見上げる、小考、…そしてアセルスに向き返り


  メタルブラック「すまないが、時間はあるだろうか?其方が良ければ[書院]まで来れぬか」

  メタルブラック「私が随分前まで愛用していた刀がある…決して良いモノとは言えぬが無いよりは幾分か良い筈だ」



願っても無いお申し出だった、丸腰か未熟な腕で[幻魔]解禁かの二択だった所に剣を頂けるのだから行かない手が無い

夕焼けの朱に照らされ[京]が一際美しさを増す時間帯、4人と2機は…[書院]への坂道を登り始めた


   レッド「なぁなぁ、ルージュ、カメラ貸してくれよ、夕陽に照らされた街並みがすげぇ綺麗なんだ」

   レッド「俺がベストショット撮ってやるからさ!」

  ルージュ「元々はキミが買ってくれたものだからね、断る理由はないよ」スッ


   レッド「へへっ!サンキュー!俺もカメラ買えば良かったかなぁ…待ってろよ〜撮った奴はコピー機で――」

459 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:32:56.07 ID:/iBvLIu90

 赤い少年が紅き術士からカメラを受け取り、坂道の先にレンズを向ける…赤焼けの瓦屋根の輝き、樹々の揺れる葉
そして[京]の[書院]という最高の風景写真を撮ってやろうと彼は思っていた



が、被写体は風景から人物へと変わる



 宇宙進出の技術が発展し、開拓<フロンティア>が進むこの御時世、最近のインスタントカメラも小馬鹿にはできない
画質の良さ、フラッシュ機能…そして遠くを写す遠望レンズ


 自分達が現在進行形で登る坂道に先客が居る、カメラ越しにその姿を見てレッド少年は目を見開いた
すぐに遠望モードに切り替え、その服装確認する





       レッド(あ、あいつは…間違いねぇ!!麻薬を売ってた巡礼者じゃねぇかッ!?)カメラ ノゾキ





パシャッ!


カメラのシャッターを切る、


パシャッ!

もう一度カメラのシャッターを切る、


パシャッ!


この先にある[書院]へ入っていくことをしっかりと捉えたカメラのシャッターを切る。







    アセルス「烈人君どう、いい写真は撮れたの?」

     レッド「…ああ、撮れたよ、すっげぇいいのが」

    ルージュ「本当かい、楽しみだなぁ〜へへっ」



     白薔薇「…あら」


    メタルブラック「どうかされたか貴婦人殿?」ピタッ



     白薔薇「……、いえ、きっと気のせいですわね」

     白薔薇(ええ、そうですわ…今、感じた妖魔の気配…すぐに消えたからきっと……)スタスタ



―――
――

【双子が旅立ってから4日目 同時刻:[京]の庭園】


   「…おお、なんと美しい景色だろうか、[ファシナトゥール]から出て久しいが…いやはや…」スタッ

   「―――景色に見惚れている場合では無いな、あの御方の為にも…なんとしても私の妹姫、白薔薇に会わねば」



   金獅子「あの御方、オルロワージュ様に逆らう意図を…この私、金獅子が見定めてみせましょう…!!」

460 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/02/23(土) 21:34:10.59 ID:0gnXiJw50
えらいこっちゃ
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:36:28.35 ID:/iBvLIu90
*******************************************************




                     ※ - 第3章 - ※



            〜 資質を得る、という事…ぶらり、いい旅夢気分 〜

                                              -完








 現在の[京]

・ワカツの剣豪 ゲンさん

・誰よりも勇ましく強かった寵姫、金獅子姫

・ブラッククロス幹部、武士<もののふ>の心を持つメタルブラック


京に強者集まり過ぎ問題






※サガフロはとある事情でブルーは[心術]の資質を得る事が出来ない

同様の理由で双子のルージュも本来なら得られませんが、人間<ヒューマン>は試練受けるのOKというゲームシステムの所為で
ルージュも資質を得られるという製作スタッフ側の設定ミスで彼も心術の資質を得られるという…

*******************************************************
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/24(日) 02:25:51.92 ID:UgyrRc4eo

システムの都合丸出しなゲームとは違うだろうからルージュも心術の資質取れないよくらい言われるかと思ってたぜ
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/24(日) 21:58:45.46 ID:kA6y9cuuO
乙乙、最近更新多くて嬉しい
閃きシステムは面白かったなあ
464 :書き溜め投下 [saga]:2019/02/24(日) 23:11:36.39 ID:KgqZGLId0






           ※ - 第4章 - ※



   〜 想うこと、思うこと。 帰るべき場所、帰れる居場所。 〜



465 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2019/02/24(日) 23:12:44.56 ID:KgqZGLId0


 その日は、一際暑い一日だった


 石畳をじんわりと焼く強い日差しは遠く浮かぶ夏空に聳え立つ山が如し積乱雲を創り出す
手を繋いだ仲の良さそうな少年二人が入道雲の頂を眺めていた



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の噴水広場で生き物の様な形の雲を探して遊んでいた




【見て見て!でっかい怪獣の雲だよ!きっと周りの雲をお洋服みたいに着て飛んでるんだ】

『はははっ!いーや、違うな!あれは空飛ぶ居城に違いない、見た目雲だが突っ込めば亜空間に繋がってるんだ』



【えー、なにそれ〜】

『前に図書館の本で読んだんだ、お菓子とおもちゃ、子供だらけの世界でデカい馬がその空間の王様なんだよ』



【へんなのー】

『ああ、俺も莫迦げた御伽噺だと思う、そんなふざけた空間あって堪るか』



【ふふ、そう思うのにあの雲を見てキミはその空間に繋がってるんだって言っちゃうんだ?あははっ】

『ああ、信じてない癖になんでだろうな…ははっ…』



『……誰かと、ふざけあったり、馬鹿な事を言って大笑いしたかっただけなのかもな』

【そっか、…。】





【なら、ひとつキミのお願い事が叶ったんだよ!イイ事じゃないか、もっと笑っちゃおうよ!こんな風にさ】
『そうだな』




【…。】
『…。』


【おっきい雲だよね…本当、アレに乗ってお昼ねできたらきっと気持ちいいんだろうね】
『…雲の上でお昼ね、か…そうだな、それこそ夢物語の楽園…"天国"だな』


【天国かぁ…どんなとこなんだろうね】

『…そう、だな、先生に少しだけ聞いた事がある…』

【えっ!?ほんとう!教えて教えてー、どんなとこなの!!】








  『天使…と呼ばれる羽の生えた人がたくさんいるところ、だそうだ』

  【へぇ天使かぁ…どんなところなんだろう、きっと綺麗なんだろうなぁ】

466 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/24(日) 23:13:25.26 ID:KgqZGLId0
【双子が旅立ってから4日目 午後16時37分 [クーロン]のイタ飯屋】


  ライザ「ありがとうございました」ペコッ

  ライザ「さて、今日は早いけどレストランの方は店仕舞いよ」クルッ


  アニー「OK、こっからは裏のお仕事だね」ニヒヒッ

  アニー「…エミリア、大丈夫よね」


 小さく笑った後にウェイトレス姿のアニーが此処に居ない同僚を気遣う
今朝から長いブロンド美女は店を留守にしていた
 何故なら彼女は今頃、軍人コスチュームで絶賛[ラムダ基地]に潜入中だからだ、[リーサルコマンドー]を身に纏い
全身包帯ぐるぐる巻きのミイラと化したルーファスに皮肉を投げつけた後、単身で基地へ二度目の潜入へ赴いた


ある程度、彼女が基地内部をひっかきまわした後でルーファス、アニー、ライザの3人が忍び込み合流


グラディウスの任務である古代文明時代の無限エネルギー発生装置…通称"キューブ"の在処を探るという手筈だ



  アニー「こんな時間帯まで何食わぬ顔で、何処にでもいる一般人の飲食店従業員やってたんだ」

  アニー「裏稼業ってバレない為とはいえエミリア一人なんて危なっかしくて心配にもなるわ」スタスタ…



  アニー「おーい!新人アルバイト!今日はもう終わりだから皿全部洗ったら終わりだ!」ガチャッ



  ブルー「やっとか…」シャカシャカ


  アニー「昨日試しにソースの仕込みとかやらせたけど、吃驚したわよ…フライパンが爆発したんだから」

  アニー「今日一日はずっと厨房で皿洗いオンリーだったけど、そんでも助かったわ、ありがとね」


  ブルー「…ふん、約束だからな」シャカシャカ


エミリアが居ない、その分人手が減るのは必然で表の仕事は忙しくなる
 空いた欠員を早速バイト術士で埋めようと、昨日の段階でもう考えていた、誤算があるとすればこの蒼い魔術師は
料理がとんでもなく下手だったということだ


フライパンで簡単なミートソースを作れと手本を見せながらやったら何をどう間違えたのか調理器具が爆発した

ただの鉄板が何の化学反応で吹っ飛んだのか、見ていた誰にも分からなかった…あれこそ魔術であった



金髪の少女は「こいつは剣術以外に基本的な自炊のやり方を教えた方がいいかもわかんねぇ…」と頭を抱えた程である




  ブルー「おい…忘れてはいないだろうな、貴様は他の奴らと何処かに行くと聞いたが?」

  アニー「ん?あぁ、エミリアの援軍に行くまでには2時間あるからね、その間は稽古に付き合うわよ」


  ブルー「なら良いのだがな」コトッ


洗った大皿を拭き、それを水切りラックに乗せる、剣の稽古の約束事を忘れていないならそれでいい
 彼女にも彼女の都合がある為、片手間になるかもとは言われたがそれも承知の上だ


ブルーがエプロンを脱ぎ、早速厨房を出ようとした時だった

ガチャッ…!



  ヒューズ「おーい!ルーファス〜、一緒に[京]で[心術]の修行した仲だろ〜メシ喰わせてくれよぉ」


…『close』と書かれた札看板が見えてないのか、迷惑な客がやって来た
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/24(日) 23:14:36.48 ID:KgqZGLId0

 その声を聞きつけ、店内の奥からサングラスを掛けたミイラ男が現れた…ルーファスだ
目元のトレードマークが無ければ恐らく誰か識別できなかっただろう彼は、…包帯とグラサンで分からないが
ゴミを見る目で傍迷惑な客を見ているのだろう


  ルーファス「…アニー、ライザ、すまないがオーダーが入った、こいつは一度来ると梃子でも動かん」

  ルーファス「店の外に叩き出してもすぐ戻ってくる、手早く喰わせてお帰り願おう」


 経験則から分かる、殴ろうが蹴ろうが切ろうが撃とうがタダ飯の為だけに何度でも来る
無駄な時間と労力の消耗より、一皿パパっと作って帰ってもらった方が圧倒的に安く済むと…


  ヒューズ「ひゅーっ!さっすがだぜ!」


   ライザ「という訳で悪いけど、サービス残業よ…」ハァ

   ブルー「…アニー」チラッ


   アニー「諦めなさい、運が無かったってことよ」


  ブルー(……)


   俺は一体、こんな所で何をしてるんだろうか…



 国の勅令で双子の片割れを抹殺する、その為にも鍛錬に明け暮れねばならないというのに…

こんなとこで、…店の中で乱闘するようなこんな連中と、ふざけた配色のエプロンをつけて皿洗い


   本当に何やってるんだ、俺は…



魔術師は心の中でずっとそう呟いていた

蒼き術士は、想定外で事が重なり上手く運ばないことへの苛立ち…焦燥感が少なからずあった
 本来ならこの事態にも怒りを覚えたかもしれない、だが…


昨晩ちょっとした契約があった、エミリアから抹殺対象の動向を知る限り教えて貰う、という事であった


 聞けば、向こうは自分と違い、[秘術]の試練を受けるらしいがルーン文字を既に2つ集めたブルーと比べ相手は何一つと
手つかずの状態であり、しかも何処にあるのかさえ詳細を知らないと…

エミリアが教えた金のカード以外は知らずと来た、進行度も情報も全てにおいて遅れている



それを聞いて、ブルーは拍子抜けした。



命を奪い合う、決戦の決め手にすらなり得る資質集めに対して意欲が無いのかと?…いや、そんな馬鹿な…


 疑問が浮かんだが、それはナンセンスだと振り払う。
向こうだって此方を殺す気でいるのだ、殺られる前に殺る、弟<ルージュ>は自分より劣っていた、それだけなのだ



彼はそう結論付けた、だから本来なら苛立ちを覚える、想定外の来客ヒューズ襲来にも怒りより呆れの感情が先行した


自分がハイペースで突っ走り過ぎただけだった、と少しだけ焦燥感から解放された





―――…ブルー自身は自分でも気づいていない、ルージュが自分より進展が無い事に安堵していること

      それは言い換えれば、無意識に恐れを抱いていることに繋がっている、相手が自分より優秀だったなら?

         自分の生命が脅かされるのではないかと危惧していて、その不安が薄れたから焦燥感から解放されたと
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/24(日) 23:15:06.90 ID:KgqZGLId0


1つ、エミリアは知らない情報がある、知らぬが故にブルーにも伝わってない情報…





―――"ルージュは、初めから兄弟で殺し合いをすることに嫌悪感を持っている"という事実




行動を共にした時、[マンハッタン]のカフェレストランで話をしていた時に
 ルージュはエミリアに資質集めの旅をしていると語った、双子対決の事は伏せて、だ


だからそれに対するルージュの想いを…葛藤を聴いていない、知らない

だから国家反逆罪で追われたくなくて今のところ体裁だけの資質集めだと、知らない



 戦いたくなんてない、殺したい訳じゃない




  ブルーに、ルージュの本心が伝わらない、という…





*******************************************************
―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後16時44分 [京]の書院】



 メタルブラックが住み込みで働いているらしい書院に招かれ、待つ事数分…彼はやって来た
その手に一本の[サムライソード]を抱えて




  メタルブラック「名刀とは言えない、何処にでもある武器だが持っていくといい、私には不要の長物だ」スッ

    アセルス「メタルブラック…」



  メタルブラック「そして術士の若者よ、ルージュと言いましたな…もしも資質を集めているのなら情報がある」

    ルージュ「それは…?」


  メタルブラック「私が知るのは秘術のカードの内1つ、[剣のカード]について」

  メタルブラック「かつて、侍のリージョンと呼ばれた[ワカツ]そこに剣のカードがあるのだが…」

  メタルブラック「[ワカツ]は今や亡者蔓延る魔城と化し、宇宙船<リージョンシップ>の便も閉鎖されている」


  メタルブラック「小耳に挟んだ情報だが、現地人の生き残りが居れば特例で船を出すという話だ」


     白薔薇「…あぁっ! そうですわ!大事な事でしたのに!!私としたことが、うっかりと…」ハッ!

     白薔薇「[剣のカード]目当てで人が来ると確かにゲン様は仰られておりました!」

   ルージュ「えっ、それってどういう…」

     白薔薇「今日、ご縁があってお近づきになったゲン様は[ワカツ]で剣豪をなさっていた御方ですわ」



   メタルブラック「ほう?…なんと数奇な命運か」

   メタルブラック「この広い宇宙で壊滅した惑星の生き残りを探す手間が省けるとは…[ワカツ]に行けますなぁ」

469 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/24(日) 23:16:13.73 ID:KgqZGLId0

  レッド「…待てよ?そういやルージュお前、印術じゃなくて秘術を求めてるのか?」

  ルージュ「え、うん…あれ?言ってなかったっけ」


  レッド「言われてねぇよ、けどカードか……だとしたら…」

  アセルス「烈人君、何か心当たりがあるとか?」



  レッド「いやさ、キグナス号で海賊騒ぎがあった時にヒューズのおっさんと二人で歩いてた時、ぼやいてたような…」


  レッド「なんか[盾のカード]がどうたらこうたら…」




世界は広い、然して世間は狭かった


自分の周りに秘術の試練のヒントやら関係者がポンポン出てくるではないか


アセルス等のとばっちりで誘拐され、偶然[ラムダ基地]で"金のカード"について知るエミリアに出会い

ここでメタルブラックから"剣のカード"の所在を聞き、驚くことにその土地への足掛かりとなる人物ゲンと白薔薇が出会う
 カードの話をしていたら芋づる式にパーティーメンバーの一人レッドが実は"盾のカード"を持ってる人を知ってると



  レッド「今度ヒューズのおっさんに会ったらカードの事聞いといてやるよ」

  レッド「それから…」クルッ


  レッド「メタルブラック、この書院に住み込みで働いてるんだよな
             教えてくれ…ここに巡礼者とかはよく出入りするのか?」


 [京]に巡礼者がやって来る、それは別に可笑しなことじゃない仏像の前で座禅組んで瞑想なんて旅行者なら誰でもやる
似たような恰好した団体様がツアーで来る事だってざらにある

 昨日、逃がしたあの麻薬密売人は旅行者ツアーに紛れてしまった、皆が同じ巡礼者の服装だったからこそ
レッドは追跡を断念せざるをえなかった、木を隠すなら森の中、まんまとしてやれた


そう思ったていたのがさっきまでだ、何の巡りあわせか、ルージュから借りたカメラにツアー客の団体から外れて単独で
この書院に向かう巡礼が1人だけ目撃できた


  レッド「どうなんだ?」


  メタルブラック「巡礼者だと?…ふむ、彼等は自らの心の不安を求めてこのリージョンへやって来る」

  メタルブラック「彼等の目的地は常に心の中にあるのだ」


  レッド「…。」

  レッド「つまり?どういうこと」クルッ


  アセルス「えっ、私!?えっとぉ…みんな一人ひとりが行きたい所に行くから
             誰が何処に出入りしててもおかしくない的な意味かな?たぶん」



要するに『温泉目当てで来る奴も居るし、仏像を観賞したいだけの奴も居るし、書物を漁りに書院に出入りする奴も居る』
随分と回りくどく曖昧な回答だ

レッドが見た巡礼者も偶々、この書院に関心があった無関係な一般人だったかもしれない、とそういう意味にもなる


  レッド「メカの癖にえらく哲学的なことを言うなぁ、俺が聞きたいのはそういうんじゃないんだけど」ポリポリ


…このメカは何も知らない、失礼だが聞くだけ無駄だったかもしれない、とレッドは肩を落とす

470 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/24(日) 23:16:50.71 ID:KgqZGLId0

 夕焼け空に赤蜻蛉<あかとんぼ>が飛んでいる、鎧武者のロボットは自分の羽で飛ぶ命を眺めて言葉を続ける


  メタルブラック「古人は言った、石には石の心があると、ならばメカにもメカの心があって然るべきだと」

 BJ&K「わかります」コクッ

 レッド「お、おう?」


  メタルブラック「だが、メカである私には自分の心が見えてこないのだ」

  メタルブラック「心を求めれば求める程に己の中に心が無い事を確信するのだ…それは虚しい」


 レッド「お、おう?」←全然分かってない顔

 BJ&K「感動しました」



 ルージュ「???」キョトン


 ルージュ「ねぇアセルス、僕は機械に詳しくないから良く分からないんだけどさ…」ボソボソ

 ルージュ「あれは心が無いって言えるのかな?」


紅き術士は、目を丸くして少し考え……ますますわからなくなった


赤焼け空の色を帯びて、黒鉄のボディーに赤みがついた侍を見ていた…彼は確かに人間<ヒューマン>ではない
 コアと呼ばれるパーツに予めプログラミングされた疑似人格パターンから思考し行動に移していく



風情溢れる都の空、儚い命の飛来を眺めて『"自分の心について考えるロボット"』を【心無い機械人形】とは思えなかった



  アセルス「いや、私もそういうのはちょっと…ロボット工学とか苦手だったし…」ボソボソ



自分に心が無い、と彼は言ったが、同時にこうも言った、求めれば求める程に無い事知ると


自分にとって嫌なことがあれば、生物はそれを避けようと必死になったり、時には意欲を失う場合すらある



だが、メカなら目の前に勝ち目が0%に等しい敵が居たとしても任務だから立ち向かおうとする
そこに情という起爆剤が無くともだ


 与えられた仕事をこなす、それだけが意義であり、それ以外を考えはしない
今日出逢ったゲンと共に居たT-260とてそうだ、任務を全うすることが全てであると





何かを求める、という行為は生物が生きる上で必要な"感情"だ



喩えば、勝ちたいライバルが居て倒すために力を求めるのだって勝ちたいという闘争心や意欲心から来る

喩えば、孤独が寂しいから人を求める、それだって愛されたい愛したいと、損得を顧みず無償の愛を配る行動だ




敬愛、友愛、親愛…恋慕

敵意、競争心、時として自分自身の誇り護る為、そんな自尊心…etc




…このメカは もう既に 心を"求める"という行動をしているではないか、そして無いと知り『虚しいと脳が判断した』

471 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/24(日) 23:17:43.99 ID:KgqZGLId0





    ルージュ(もう既に心があるって事なんじゃあないかなソレ、単純に当人がそれに気が付いてないだけで)



 石にも石の心がある、ある日突然、無機物に心が宿ったという神話やおとぎ話は世界に幾つもある

 鼻が伸びる糸無しの操り人形の童話だってそうだ、ただの木偶人形が自分を作った父親を探し求め
最終的に鯨の腹から逃げ出して人間として生きれるようになったという有名な話


  レッド「あー、なんか眠くなってきたな」ゴシゴシ

  レッド「姉ちゃんの剣やルージュに術の事教えてくれたり、巡礼の事とかさ、色々ありがとな!」


じゃ!先を急ぐんで、と手をあげてこれ以上小難しいハナシになる前にこの場を経とうとレッドが声を掛ける






   メタルブラック「待ちたまえ、レッドよ―――君はブラッククロスの事を知りたいのではないか」




レッドの脚は止まった。




   レッド「 何 か 知 っ て い る の か ッ ! 」カッ


   レッド「……。」

   レッド「いや、何故わかったんだ」


声を張り上げた仲間にメカを除いた全員がびくりと肩を震わす



  メタルブラック「自分自身の心は見えずとも、他者の心は読みやすい物だ」

  メタルブラック「あの組織には4人の幹部が居る、…ブラッククロス四天王と呼ばれ、己を見失った愚か者揃いだ」



  レッド「もっと詳しく教えてく――」pipipi


  レッド「っ、こんな時にキグナス号から従業員に戻れって連絡ぅぅ!?くっそー!」クルッ



  アセルス「れ、烈人君!」


  レッド「すまねぇ、姉ちゃんたち、俺緊急の呼び出し喰らっちまった!観光はここまでだ!」

  レッド「あとアンタ!必ず戻ってくるから四天王の事そんとき教えてくれ!」ダッ!

   BJ&K「…帰還します」ウィーン


タッタッタ…

ウィーン…


   白薔薇「…行ってしまわれましたね」

   白薔薇「…。メタルブラック様、御聞かせ願えますか?何故、その組織の幹部について存じているのですか」


凛とした[京]の空気が少しだけ変わった、肌寒い突き刺さるようなそれに

472 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/24(日) 23:18:28.71 ID:KgqZGLId0


  メタルブラック「この惑星には外来客が多く訪ねて来る、それで小耳に挟んだだけのこと…」



     白薔薇「…そうですか」

    アセルス「白薔薇、下がってくれ……メタルブラック、あなたから貰った剣の事は本当に感謝してるよ」

    アセルス「ルージュにも役に立つ情報を教えて貰ったからね」

    アセルス「私達は今日はもう帰らせてもらう、それでいいでしょ」


  メタルブラック「ああ」



―――
――



  白薔薇/ルージュ「「……」」テクテク


少しだけ俯いて足元を見ながら歩く白薔薇姫、その隣を何とも言えない複雑そうな顔で空を見上げる術士

あの時ブラッククロスの名、そして四天王と呼ばれる存在の情報を出され冷静さを欠いたレッドは黒鉄の侍が
犯罪組織の幹部という情報をどうやって知ったかまで気が回っていなかった


だから白薔薇はメタルブラックに問うた、何故知っているのだと、帰って来たあんな返答を流石に鵜呑みにはできないが
世話になった身だから今日は帰らせてもらう、と…それで良しとしたのであった




   白薔薇「…関係者、ですよね」テクテク

   ルージュ「…良い人、いや、いいメカだけど…そうだろうね」テクテク



 世の中、全ての人物が善人とは限らない

人の良さそうな顔をした人間、それこそ付き合いの良かったエミリアでさえ裏社会の人間なのだから…



 紅い魔術師はポケットに手を突っ込んだ、思い出の写真を撮ったカメラが入ったポケットに



  ルージュ「まださ、ヒューズさんみたいに極秘任務か何かで正体を伏せてるパトロール隊員かもしれないよ」

  ルージュ「メタルブラックが裏社会の人って決まったわけじゃないし」


  ルージュ「それにさ、エミリアさんやルーファスさんみたいな組織の人かもしれないもの」

  白薔薇「そう、ですわね…」


  アセルス「…」


並んで歩く二人の前を行くアセルスは何も言わない、二人からは影を作る少女の背中だけしか見えない、表情は窺えない



…きっと、アセルスお嬢も同じことを考えている




今日出逢った彼がレッドの家族の仇である犯罪組織の手の者だったら…いつか刃を交えることになるのだろうか、と




願わくば、その予測は的外れな妄想であってほしいと切に願った
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/24(日) 23:18:57.58 ID:KgqZGLId0
―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後17時37分 [京]の旅館】



  ゲン「わっはっは!いいぞぉ!」


  ナカジマ零式「はいは〜い!ナカジマまわりまーす、空中パフォーマンスー」グールグル


  T-260「ゲン様、飲みすぎです」

  ゲン「いいんだって、ほれ、お前も飲め」ヒック!

  T-260「物理的に飲めません」



   特殊工作車「みなさん、お客様です」ウィーン

   ゲン「あん?お客だぁ、誰だよ、通せ通せ、なんなら宴会に参加してもらえって」ガッハッハ



ガラッ


襖は開かれ、そこに立っていた綺麗な銀髪を見据える



  ゲン「ん〜、うぃーっく、なんだぁ銀髪の綺麗な姉ちゃんだな…旅館の中居さんかい?」ヒック

  T-260「ゲン様、ルージュ様です…水をお持ちしますので酔いを醒ましてください」



水を湯呑みに注ぎながら『過度のアルコール摂取による幻影を見ている模様』と音声を発する丸っこいフォルムのメカを
尻目に、ゲンは目を擦る…確かによく見れば銀髪美少女ではなく男だ



    ゲン「おっと、わりぃ…ルージュの兄ちゃんだったか!」

  ルージュ「あはは、どうぞお気になさらずに慣れてますから」


何処か引き攣った笑いを浮かべてルージュは本題に入ろうとする


   ゲン「で、何の用だい、俺が手伝えることなら手伝ってやるよもう顔馴染だしな!ほれ!お前さん等も飲め」


気さくに茶碗を差し出し、手招きする酔っ払いおじさんにルージュは意を決して言った





   ルージュ「僕達、[ワカツ]に行きたいんです、案内してください」スッ

     ゲン「…」ピクッ




両手をついて、膝を曲げて頭を下げる、畳の上でよく似合う土下座だ



     ゲン「…[ワカツ]か、1つ聞くがお前等正気か?」



 この時、ゲンはただの酔っ払いではなくなっていた、酒気を帯びていた顔は歴戦の武人の顔になっていて
達人級の者であればその闘気を瞬時に察する程であった


  [ワカツ]の剣豪ゲンは静かに3人の顔を見渡した

474 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/25(月) 12:44:26.63 ID:fMNlpLFdO
読めば読むほどサガフロがやりたくなってくるぜ…
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/26(火) 01:32:20.71 ID:ajo86uV90
メタルブラックさん優しいな、地味にエミリア編がラスボス手前ぐらいまで進んでるのな
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/26(火) 01:55:58.12 ID:v1mvfdon0
最近更新多くて嬉しい
477 :書き溜め少し投下 [saga]:2019/02/27(水) 16:30:34.48 ID:sVXTGC7+0


  ゲン「[ワカツ]はなぁ…亡者が犇めく修羅の城と化している、てめぇの身はてめぇで守る覚悟があるってのかい」

  ルージュ「はいっ!」


 資質を集めねば、国家反逆罪で追われる

 退けど地獄、進むは未知…旅を続ける内に現状をどうにかする打開策は見つかるかもしれない、限りなく0に近くとも
可能性があるのならば彼に選ばぬ道はない、強いて言うなら進むレールの先にある終着点が奈落の底でないことを祈るのみ



  ルージュ「僕には、行かなきゃならない理由がありますから」



  ゲン「……」ジッ


  ゲン「兄ちゃん、若いな」

  ゲン「若いのに重たい目をしてんじゃねぇか、…いいだろう知り合いの誼みてやつだ、護衛を引き受けよう」


  ゲン「で?そっちの姉ちゃんたちはどうなんだい」


  アセルス「私達もだ!」

  白薔薇「お願いします」ペコッ



  ゲン「……」

  ゲン「わりぃな、レオナルドさんとこ行くのは後日になっちまうが、構わねぇか?」クルッ


  T-260「了解です」



  ゲン「明朝、[ワカツ]へ向かう…今の内に英気を養うんだな、いいな」

  ルージュ「はいっ!」



 術士、半妖、妖魔の貴婦人は礼を述べ、一泊このリージョンで宿を取り剣豪と連れのロボット達と共に[ワカツ]へ赴く
キグナス号職員全員に通達された緊急の呼び出しで別れたレッドにその事を告げたのは星の瞬くPM9時を越えた頃だった

 ゲンのご厚意で旅館の宿泊費まで出して貰い、そこのフロントにあった昔懐かしのダイヤル式黒電話から
レッド少年に通話して主旨を述べた

【双子が旅立ってから4日目 午後21時07分 [京]の旅館フロント】



  ルージュ「という訳なんだ、ごめん…」

  レッド『いいって!いいって!気にすんなって!』


  ルージュ「レッド」

  レッド『なんだ?』


  ルージュ「僕達さ、旅をしてたらまた会えるかな?ここで別れたらなんだかもう旅先で会えない気がして…」

  ルージュ「キミだって折角アセルスにも会えたんだろ?…だから、尚更さ」


死んだと思っていた幼馴染の女性との再会…、きっとレッドは身内の仇である秘密結社を壊滅するまで厳しい旅を続ける
 もう二度と旅路で交わることのない、そんな運命なのではないだろうか…そんな印象が脳裏に過ったのだ


  レッド『……』

  レッド『へっ!バッカだなぁお前は、…今生の別れじゃねーんだ、生きてりゃどっかでまた会えるさ!』ニィ


昔懐かしの受話器の向こうから聴こえる声は彼らしい爽快さがあった、生きてさえいればまた何処かで出会える、と
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/27(水) 16:31:15.27 ID:sVXTGC7+0

 ルージュ「! ははっ!そうだな!」

 レッド『ああ、そうさ、遠くない内にまた会えるさ』



――そこには信頼があった、初め会った時から気の合う友人<ダチ>になれる、そんな気はしていた

受話器の向こうで術士の言葉を否定し、生きていればまた会えると、確かに"親友"はそう言ってくれた



 レッド『…てか、お前普通に携帯持てばいいじゃねぇか、俺がヒューズのおっさんに[盾のカード]を聞くって言ったろ」

 ルージュ「へ? けーたい?」



 紅き術士が今使っている通話機器は、自国の文明には無い物だ…術力を介して念話する道具という似たようなモノはある
現在使っているダイヤル式の黒電話も見た目こそ一昔前だが、中身は別の惑星まで通話可能な"カジュアルだけのお古"だ


話そうと思えば銀河を越えて話せるこの御時世だ



 レッド『ああ、安い奴ならそんなクレジットかかんねぇしよ…それで集合場所とか決めれば』



……よくよく考えてみればそうだった
レッドはキグナス号からの呼び出しで、書院から別れたんだった、普通に連絡用の端末持ってる




なんか、神妙な顔して「もう今後会えない気がして」とかシリアスな雰囲気で言ってたのが急に恥ずかしくなった




その後、レッドに携帯電話のアドレスを教えて貰いそれをメモに書き留めた…無論、キグナス号乗務員が支給される
呼び出し用のポケベルではなく、ちゃんとレッド個人の電話番号だ


ルージュ(でも僕は携帯電話持ってないんだよなぁ…)


外界に旅立ってまだ4日、ルージュは携帯を持ってなかった…番号は知ったがまずは通話機器を得なくては話にならない
[ワカツ]から帰ってきたら機械文明の発達してそうなリージョンで買おう、そう決めた


なお関係ない話しだが、今、ルージュと代わって受話器を持ちレッドと通話中のアセルスに携帯の事を尋ねたら
『携帯?ああ!知ってるわガラケーのことでしょ!私も持ってたわ』と楽しげに語ってくれた



機械文明に疎い魔術の国出身の青年、機械音痴の種族妖魔、12年間眠り姫状態だった女子高生…


再度、代わって携帯の説明を求めたルージュの話を聞き、受話器の向こうでレッド少年が項垂れたとかなんとか…


―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後21時21分 [京] 庭園】


  ヒュゥゥゥゥ…
            ザワザワ…


 メタルブラック「……」


黒鉄の鎧武者は、湿った空気を帯びた風を鉄の身に受けたまま立っていた
 彼がメカではなく五感のある生身の人間であれば内臓されたセンサーではなく、鼻で雨の匂いを理解しただろう


 メタルブラック「……何奴だ、姿を見せるがよい」

479 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/27(水) 16:31:45.38 ID:sVXTGC7+0

 夜深の庭園に武士<もののふ>が一人、"問われた者"は木葉の桟橋を渡り、影の湖から月明りの陸へと歩み寄る
鋼鉄の侍はツインアイでその姿を捉えて感嘆の声をあげた、日に焼けた褐色の肌、百獣の王を連想させる美しい髪は月光に
照らされていた、その女性の瞳は力強い光に溢れていて見る側からすれば一種の美術品のような美しさであった


妖魔特有の気配を殺した佇まい、存在感を虚無へ置き去り、動く彼女は久方振りの外界にて物珍しい鎧武者を見た
 妹姫を探す使命を帯びた身でありながらその存在につい目線が映り、興味本位で観察をしたつもりだった



見破られるとは思いもしなかった





  金獅子「夜分失礼致しますわ、…驚かせてしまいましたか?」

  メタルブラック「いや、結構…貴婦人は妖魔とお見受けする」


 生体反応が人間<ヒューマン>の基準値を遥かに超えた数値を検出する、彼は初め金獅子姫を見た時、感嘆の声をあげたが
それは何も女性として肉体美に見惚れたわけではない


人ならざる生命力、鍛え抜かれた強靭な肉体、対峙して分かる剣気


戦闘メカとして開発された者の性<サガ>か…メタルブラックは彼女を一目見た時、鋼の心臓部が高鳴った




  メタルブラック「自分は名をメタルブラックと申す、願わくば名を教えては頂けますかな」

   金獅子「これは私としたことが名乗らずにご無礼を…、金獅子と申しますわ」



  メタルブラック「金獅子…金獅子殿、このような夜更けに何用で」

  金獅子「人を探しておりますわ、確かにこの地で彼女の気配を感じたのですが…」


  金獅子「外界は久しいもので、どうにも思うように探ることが叶わないのです」


 メタルブラック「左様か、時に貴女は相当な剣の手練れと見受けます、突然の申し出だと思われるかもしれませぬが…」





 メタルブラック「ひとつ、武人として手合わせを願いたい…!」




 漆黒の侍は、父たる開発者に"心を持った戦闘メカ"として開発された

どこの世界の科学者の知能も未だかつて成し得なかった、『人間<ヒューマン>と寸分たがわぬ本物の感情』を持った人工知能


目立つ事はするべきでない、と…自分が所属する組織の上から下された命令でもあった


心を持ったAIは現世に生まれて初めて、親の命令以外で、"自分が自身の意志でこの様にしたい"と、考え実行した




  金獅子「!…ふふっ、いいでしょう、旅はこれだから面白い…っ!挑まれた戦いに背を向けるは武人の恥も同然っ!」

  金獅子「オルロワージュ様、今暫し、使命を忘れて我で戦うことのお許しを……ッ!」



チャキッ!

シャキンッ!


     ―――――――月夜の晩に、武士と武人が相見えた
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/27(水) 16:32:22.32 ID:sVXTGC7+0


ガキィン! キンッ、カァン!


 金獅子「ぜぇいぃぃ―――っ!」ヒュッ

 メタルブラック「遅いッ」ジュゴォォォ


 獅子の振り下ろす剣が地を叩き割る、一撃が重い、それに対して鋼の侍は機械である身を最大に生かした速度戦で掛かる
背中部位のバーニアから火を噴き、重剣が金属の肉体を斬り捨てる前にその場から退避する


力量と技で言うならば金獅子姫に分配が上がるだろう

対して速力と無機物だからこその耐久性で向こうは補う



 金獅子「むっ…これはっ!」ガキィン

 メタルブラック「うぐ…は、はは!なるほど!!」ザンッ



シュバッ!キィィン!!


 メタルブラック(体内からのあの反応、恐らく火炎や冷気などのブレス攻撃を持つか!)

   金獅子(この者相手に長期戦はいただけないな、短期決戦で!)




  金獅子「[払車剣]!」シュバッ! ギュララララララ!

 メタルブラック「なにっ!」



 一撃は重いが当たらなければ何の意味もない、[スマッシュ]を打つよりも広範囲に及ぶ、剣気の乱気流で相手を絡め捕る
金獅子姫が月の下に舞う、劔の刀身もまた持ち手と同じく黄金に光り風を飛ばす

秋の木枯らしに似た、[京]に似合いの色合いをした剣気が鋼の肉体を刻む…っ!



 弾け飛ぶ金属片、裂かれたパーツの表面から飛び出した配線と火花
ずしゃり、重い鋼鉄の膝を庭園の水辺近い泥濘に沈める


  金獅子「これで終いとさせていただきましょう…![払車剣]」


膝をついた、とはいえ脅威の機動性を持つメタルブラックに近づいてトドメを刺すのは賢い戦いとは言えない
 一度見られた技であっても、この戦闘メカを倒すならばこれしかあるまいと、二度目の[払車剣]を放った


 刹那、風が吹いた


     ゴォォォォォオオオオオオォォォォ――――!



黒鉄の武士が持つスピードは金獅子も戦い続ける内に徐々に慣れては来ていた…
生物である自分、そして無機物である相手、それが最大の違いだ


背中部位は今まで"火"を吐き出して来たが、たった今噴き出したのは"爆発"だ


これまでの速度が10%だったとするならば、この瞬間に生み出した文字通り爆発的な加速はメタルブラック100%の出力だ




          メタルブラック「[ムーンスクレイパー]!」



黒鋼の武士<もののふ>は月影の下に弦月を描いた
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/27(水) 16:33:08.26 ID:sVXTGC7+0


黒鉄は閃光になった、光は直進してくる木枯らしを大きく迂回するように回り込み風の発生源へと奔る


雷光一閃…ッ!



         シュバァァァァ!



 金獅子「う、ぐあああぁぁぁぁぁあ!!…っ、…は、はは!」ブシュッ










 金獅子「素晴らしい手並み!見事だ!メタルブラック殿!」

 メタルブラック「その言葉、そのまま返そうぞ金獅子殿!」






 同時に思った、以心伝心というのだろう、お互いに相手の思惑が読めたのは…戦いに身を置く戦士だったからか
それとも、それ以上に似通った何かがあったからか




――――次に放つ一撃で決着がつく






        金獅子「メタルブラック殿、私は敢えて攻撃に出向きはしません」チャキッ


      メタルブラック「なに!?……むっ、その構えは…」




 獅子の如く気高い心を持った姫騎士は、これまで鋼の侍の剣捌きを防いできた片腕の盾を投げ捨てた
そして、劔を天に浮かぶ三日月の船底に向ける

その構えを見て、メタルブラックは相手の構えがなんであるか察した



   メタルブラック「面白い…[かすみ青眼]か!」



 剣術に置ける反撃技のひとつだ、[かすみ青眼]はその場を軸に正月遊びの独楽<コマ>の様に剣を構えて回転し
自分に向かってきた相手の勢いを利用し切り刻む変則カウンターだ


…当たり前のことだが、これは何も知らずに飛び込んで来た相手を狩る技であり、事前に放つと宣言していいモノではない


だが、金獅子は"敢えて"[かすみ青眼]を放つと宣言し、片腕につけた立派な盾を放り捨てた…それが意味するところは



      メタルブラック「…フッ、面白き剣士だ、此度、相見えたこと幸運に思うっ!」



メタルブラックは己の背部に推進剤を収束させる、再び爆発的な加速を産み敵に切りかかるあの技を!…突撃の構えを!

カウンター、反撃の布陣で待ち構える金獅子に対して放つために!!

482 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/27(水) 16:34:03.09 ID:sVXTGC7+0



  金獅子(見極めろ、心眼を開けっ、一点の曇りさえ無い蒼穹を思い描け、澄み渡る空に飛び込む敵意を…!)


 メタルブラック「エネルギー転換率120%オーバー、装甲パーツの損傷度合いに比例した自壊の警告・緊急停止OFF設定」







  金獅子(全ての敵意を避け、切り裂け…―――私に断てぬモノは、ないっ!)カッ


  メタルブラック「スラスター方位修正完了、対象物への進路障害物無し……全力全開だ…!!」コォォォ








            金獅子/メタルブラック「「いざ、尋常に勝負!!」」








黒鉄が何者をも貫く"最強の矛"となったッッッ!

獅子が何者をも防ぐ"最強の盾"となったッッッ!






               メタルブラック「[ムーンスクレイパー]!!」

                 金獅子「[かすみ青眼]!!」






    ―――矛と盾のぶつかり合いッッッッ!





    ヒュゴッッ!

    ギュルッッ!





    ズジャジャジャジャジャッッ!シュバッ!



―――
――




ヒュウゥゥゥ…

      ザワザワッ…


風が吹いた…

そして、止んだ、もう樹々の騒めきは鳴り止んだ、剣同士の打ちあう音も鳴り止んだ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/27(水) 16:34:35.56 ID:sVXTGC7+0





         メタルブラック「 」バチッ…バチチチッ

             金獅子「 」ドサッ







戦場に立っていた者は…勝利者は居なかった。






矛と盾のぶつかり合い、月が角燈<ランタン>を持ち審判を務めた一夜の戦記


最強の攻、最強の守、古来より語られてきた物語と同じく今宵も"矛盾"した


両者共に大の字になって月夜を見上げていた


火花を激しく散らしたままのメタルブラック、青い血を皮膚から喉から吐き出す金獅子姫


鎧武者と獅子姫の試合はかくして幕を閉じたのだ…








 どれほど、そうしていたのだろう、メタルブラックは自身の内臓時計の計器が異常をきたしていないなら
30分近くはずっと倒れていたのだろうと推測した

 深手を負ったがメカの魂が宿る"心臓部<コア>"は無事だ、時間はかかったが生きてるプログラムが
動かなくなった手足のショートした回路を繋ぎ合わせる、ふらつくがどうにか立ち上がれそうだ…


   メタルブラック「……」スクッ

   メタルブラック「ふっ、私の完敗ですな金獅子殿」


   金獅子「何故そう仰るのですか」ヨロッ…



ふらつく頭を支えるように額に手を当てた姫騎士がゆっくりと遅れて立ち上がる…人間なら昏睡状態でも可笑しくない
 妖魔の尋常ならざる生命力が成せる回復力である



  メタルブラック「その気になればブレス攻撃、いや、それ以外の攻撃手段もありましたでしょうな」



金獅子姫はこの一戦、一度たりとも[火炎]や[冷気]を吐き出さなかったどころか[落雷]さえも撃たなかった
 あくまで"剣術"でのみ戦ったのだ


  メタルブラック「これを完敗と言わずしてなんと呼べましょうか」

   金獅子「そのようなものは幼子<おさなご>の屁理屈です、剣士として剣と剣、対等な戦いをしました」

   金獅子「同じ条件下で戦い、持てる力で真っ向からぶつかってお互いに倒れ、貴殿が先に立ち上がったのですわ」


  メタルブラック「…ふっ、そうですか」

    金獅子「ええ、そうです」


484 :今回ここまで [saga]:2019/02/27(水) 16:35:50.26 ID:sVXTGC7+0


 メタルブラック「今宵は良き出会いに恵まれた、忘れませぬぞ金獅子殿」

 金獅子「それはこちらの台詞でもあります、尋ね人の事、主の事さえも一時とはいえ忘れて戦いに興じるとは」



獅子姫は、まだ口元に残る血を拭いながらも笑った、こころなしか機械であるはずの侍も顔が笑って見えた


 メタルブラック「誠に、楽しい時間であった感謝致す、……もしまた出会う事があれば再び剣を交えたく思う」

  金獅子「奇遇ですね、私も同じ事を思いましたわ」




笑い声が二つ、深夜の庭園に重なった




  メタルブラック「時に、金獅子殿…尋ね人とは如何様な御方だ」

     金獅子「…」




自身が認める程の実力者であった、とはいえ無関係な部外者に言うべきかどうか金獅子は少考したがすぐに答えを出した



 金獅子「私と同じ妖魔で、名を白薔薇と申します…」

 メタルブラック「なんと…あの貴婦人か」


 金獅子「ご存じなのですか?」

 メタルブラック「少々面識が…とはいえ、もうこのリージョンには居ないやもしれませぬ」


 金獅子「そうなのですか…」

 メタルブラック「行先を聞かないのですか」


 金獅子「…彼女は私自身の手で探し出会いたいのです」

 メタルブラック「…では何も言うまい、せめて武運を祈りましょう」スッ


 金獅子「ありがとうございます、……またいつか組手を致しましょう」スッ




その晩、激闘の末に負った傷を癒す為にも金獅子は[京]を去った…

 まだアセルス等が滞在していたことも知らずに



誰よりも強く、誰よりも気高い寵姫、金獅子は影に沈み、そのまま泡のように去り


残された武士<もののふ>の心を宿した戦闘メカは周囲の気配を探り、誰に見られること無くこの地の地下にある居城へ…




知られざる対決…これを知るのは唯一人、立会人となった月だけ知っている



【双子が旅立って4日目 午後22時28分】


―――
――

485 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/27(水) 19:18:08.90 ID:q0yr4SxE0
まさかの金獅子VSメタルブラック
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/28(木) 00:38:03.37 ID:4qTTMpYbo
レッド永久離脱かと思ったら文明の利器ってすげー!してたら金獅子とメタルブラックがバトルだと……
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/28(木) 10:16:11.63 ID:La9N+jA2O
知られざる熱い戦い
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/28(木) 19:44:51.12 ID:07wKLK0f0
武士道と騎士道の戦いかっけぇ、乙
489 :少し書き溜め投下 [saga]:2019/03/02(土) 10:39:41.53 ID:NuKycUZ20

――
―――
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[京]で様々な物語が交差する最中、時間は少し巻き戻るが…あの暗黒街[クーロン]では…



【双子が旅立って4日目 午後 21時48分 [クーロン]イタ飯屋:エミリアの自室】



  エミリア「あ"あ"あぁぁ"ぁぁーーー、疲れたぁぁぁぁ!」バタンッ!足バタバタ!



 帰って来るや否やベッドのシーツにダイブして足をばたつかせるエミリアの姿があった…、コスプレ衣装から普段着に
着替え、メイクも落とすあたり元モデルの矜持なのだろうか


前回、アセルスの知り合いであるゾズマという妖魔の介入で失敗に終わった任務のリベンジだ


[ラムダ基地]に単身乗り込み、女を囲っていたあの醜夫、ヤルート執政官を締め上げて情報を聞き出す気でいたが
 敵を銃で撃ち抜きながら辿り着いた室内に居た人物は眼鏡を掛けた初老の男だった

彼曰く、ヤルートは執政官の座を降ろされ、代わりに自分が執政官として就任したとのことだった



  エミリア「……モンド、執政官か…」スッ、キラッ…



 今日出逢った人物は、不思議と嫌な感じはしなかった、気の許せる人物ではないことは確かだが
"幸運のお守り"だと言って渡された天使を模った装飾品を摘まみ照明に翳してみる



基地でのモンド執政官との会話を彼女は顧みる



  -モンド『これを君にあげよう。盗聴器などついていないから安心しろ』-

  -エミリア『なに…この、羽の生えた人?』-

  -モンド『それは私の故郷のリージョンに伝わる伝説に出てくるんだ、天使という』-

  -エミリア『天使…、どうしてこれを私に』



  -モンド『昔、まだ私が若かった頃、私もキミらと同じように多くの仲間と共に一つの目標に向かって戦った』

  -モンド『特に仲の良いのが二人居てね、私とその二人でよく三人でつるんだものだ』


  -モンド『私達三人には憧れの女性が居た、清らかな人だったよ、その人に贈るつもりのブローチだった』-

  -エミリア『…どうして渡さなかったの?』-



  -モンド『そう、だな…彼女は三人の内の一人と結婚してね、私は彼を友として尊敬していた、だから渡せなかった』-

  -モンド『だがね、この天使は私に幸運を授けてくれたようだ、こうしてトリニティの執政官まで上り詰めたのだ』-


  -モンド『これは君のような人が持つのが似合いだろう、受け取ってくれたまえ』-


  -エミリア『いいの?そんな大事なモノを…』-


  -エミリア『…』-

  -エミリア『分かったわ、大事にするわね、この…えっと』-

  -モンド『天使だ』-

  -エミリア『そう、天使ね!天使のブローチ、有難くいただくわ!』-

490 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/02(土) 10:40:17.06 ID:NuKycUZ20


人生はいつだって"一期一会"…人と人の出会いは未知で、誰彼の間柄も、人の縁も分からない



 名前を聞けなかった初老の野心家は後に包帯ぐるぐる巻きのルーファスからモンドという名で、執政官になる前は
ヤルートの部下で情報・警察部門の実質的な責任者であったと知った



 そして、冷酷無情にしてカミソリのように切れる男だと、警察部門のトップから執政官に昇格してくれてホッとしたと
あのルーファスにさえ言わしめる程の敏腕だった



エミリアは、サングラスの上司から聴いた話と受けた印象が違って思ったが、どちらが本当の顔なのだろうか…


 少し前にテレビのニュースで[ワカツ]がリージョン界を束ねるトリニティ政府に対してテロ活動を行おうとしたと報道が
あって、その後、原因不明の爆発でその惑星に封印されていた悪霊が目覚めて惑星を滅ぼしただとか…


 表向きの報道は悪霊によって亡者の巣窟になりアンデッド系モンスターが屯っているとのことだが
エミリア達、裏社会の人間…いや、"黒い噂話"として表にも流れているが警察部門が独断で大々的な空襲を行い
[ワカツ]を一夜にして火の海にして滅ぼしたと…


一時期は大騒ぎになったが、時間の流れと共に新聞の大見出しを飾った惨事もいつしか人々の記憶から"過去の出来事"扱い


ベッドに寝転んでブローチを眺める彼女とてそうだ、当事者でもなんでもないのだから深くは考えない事にした


それより、そんな黒い噂のある男の心情が気になった
 …グラサン上司曰く冷徹無情の執政官の素顔を少しだけ垣間見た、そんな気がしたのだ





<リュート!!貴様いい加減帰れ!!

<なはは!かてぇこというなよぉ〜!



  エミリア「ん?店の方がなんか騒がしいわね…ってかこの声」スタッ



与えられた自室にまで届く怒声とお気楽な声に、金髪美女は革のロングブーツを履いて自室を出る
 記憶違いでないなら既に『close』の札は掛けてあるはずだが
この店はそんなモン無視して入店してくる客が如何せん多いのだ、昼間の刑事といい…今来てる客といい



スタスタ…ガチャッ



       ブルー「掃除の邪魔だから去れと言っているだろうがァ!!」つ『清掃用モップ』ブォン

          リュート「どわっ、あぶねっ!?」ガシッ




真剣白羽取りィーッッッ!



まだ齧り程度とはいえ、アニー先生に打ち込みのイロハを教わったブルーがモップブラシを振り上げ唐竹割りを放つ
 それを間一髪、両手で受け止める弦楽器を背負ったニートことリュート

反応が遅れれば頭にデカいタンコブを作る所だったと肝を冷やしていた彼は、先日のスライム投げの一件もあって
ブルーにはしこたま怒鳴り散らされていた


  リュート「悪かったって!でもあれは俺だけじゃなくお前も悪かったろ!?
                          …あっごめんなさい調子乗りました、やめてお願い」


…このまま眺めてるのも悪くないが、そろそろ仲裁に入ってあげるべきかしら、とエミリアは歩み寄った
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/02(土) 10:40:43.70 ID:NuKycUZ20

  エミリア「はいはい、二人共ストップ、モップで遊ばないの掃除は終わったの?」


  リュート「へへっ!ブルーってば怒られてらぁ!」ヘラヘラ

  ブルー(ぐっ…この野郎)ギリッ


  エミリア「それにしてもリュート久しぶりね、ライザから暫くこの街に滞在してるって聞きはしたけど」

  リュート「ああ!今は宿泊先に留守番させてるけど仲間になった[スライム]も居てな、今度会わせてやるよ!」


  リュート「うん?…エミリア、そいつぁ…」



  天使のブローチ『 』キラッ


 ふと、リュートは彼女が身に着けていた装飾品に目が行った、とても精巧な創りで素人目にも値の張る逸品だと分かる
元は表の世界で老若男女問わずに魅了した女だ、どこぞの金払いのイイ男にでも贈られたのか、彼は気になって聞いてみた

彼女も指差されたそれに、「ああ、これ?潜入先に居た人がくれたのよ」とだけ伝えた



  リュート「へぇ、"天使"かぁ…」

  ブルー「…」ピクッ


  エミリア「あら?リュートは知ってるのこの天使って羽の生えた人のこと」



エミリアの故郷の惑星には"天使"という存在に関する記述は無かったのか、元からそういう知識に疎かったのかはさておき
掃除用具を持つ手を動かしていた蒼き術士がその単語に作業の手を止め、耳を傾けた
 弦楽器を背負った無職の青年を見て、彼女はリュートがブローチの送り主と同郷であったことを思い出す




  エミリア「そうだったわね…ライザが言ってたっけ、"天使"って[ヨークランド]に伝わる御伽噺なのよね」

  リュート「そうそう!ウチの母ちゃんがよく枕元で子守唄代わりに話してくれる伝説だったんだ、懐かしいぜ!」




……エミリアは知る由も無い事である

 実はその[天使のブローチ]はモンド執政官がリュートの母親の為にオーダーメイドしたモノだということを…




人の出会いは一期一会、どこで誰と誰が何の縁で結ばれているか分からない、人間関係と因果は実に数奇な運命の下にある





  リュート「えーっと、なんだったかな、確か天使ってのはだな、えっと何処に住んでたんだっけ?」ハテ

  エミリア「なによ、全然覚えてないじゃないの…」



   ブルー「"天国"だ」



  エミリア「えっ」



   ブルー「人がいつか行ける極楽と安息の楽園…人々に幸福を齎す女神が住まい」

   ブルー「古代の王が授けられた"指輪"によって、その楽園に続く幸福の坂道を切り拓き」

   ブルー「貧困と絶望の底に居た多くの民を救うべく先導した……[マジックキングダム]に語り継がれる伝承だ」

492 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/02(土) 10:41:13.46 ID:NuKycUZ20


 子供の頃からずっと学院の教師に教えられてきた内容
勿論、ブルーとてその伝説がまるっきりそのまんまの話とは思ってはいない


語り継がれてきた伝承、つまりは永きに渡って人伝で語られてきた内容


 …簡単な例を挙げようか、"伝言ゲーム"という言葉は誰しもが知っていることだろう、その遊びは決まって
途中から聴く側が上手く聞き取れなかった、言う側の活舌が悪かった、中には訳の分からない独自解釈をし
そのまま間違った伝令を次の相手に伝えるというのがお約束だ


伝承というのもまた同じモノ、本当に最初期の内容は……いつしか歪曲され、捻じ曲がった偽りの真実として受け継がれる


 学生時代に歴史の授業で習ったけど、後年になって新しい発掘技術と解明で授業で習った歴史は実は間違いでした、等と
そのような発表だって今の御時世幾らでもある


 所々何らかの差異はあるのだろうが、[マジックキングダム]で大昔の指導者か何かが
貧困で困り果てた民を救う為に"天国"とやらの道を開いて、民を導いた…ということなのだろう、たぶん


ブルーはそう解釈した、ルージュも…あの国で育った子供は皆である




  エミリア「なんか意外ね、あなたってそういうの興味無さそうな人だと思ったけど」

  リュート「わかるー、ブルーだし『貴様ら御伽噺なんぞを信じるのか?おめでたい奴め』くらい言いそうだしなぁ」


  エミリア「あははっ!その声真似すごく似てるわよ!」


  ブルー「お前等なぁ…」



 呆れた顔で何か言おうとしたが、関わる時間を労力に費やした方が良いと判断したのか
彼は口を閉ざし作業の手を再び動かし始めた

ヒューズ刑事が帰った後、店内清掃は引き受けるから先に剣術指南をしてくれと、無理言ってやってもらったが…



  ブルー(他に客が居ないせいか、嫌でも二人の会話が耳に入るな)



やれ、故郷がどうだ、家族がどうだと…アニー担当だった床のモップ掛けを一人黙々とやりながら彼は
術の力こそが全てである祖国のことを思い浮かべた

 親孝行、育ての親である国家への奉仕、それこそが自分の使命であり、生きる意味なのだと


 それだけがブルーの人生観であって、それ以外の事を考える必要はなかった…というよりもだ
彼の場合は考えさせる人生の転機が与えられなかったと言っていいだろう


子供の成長と同じだ、壁に突き当たれば子供はそこで考える、目の前の壁をどうしたいか


登って乗り越えるか、発想を変え砕いて前へ進むか、壁そのものを迂回して進むか、そもそも壁を越える理由があるのか?


 何か問題にぶつかれば、そこで多くの事を考えるし
工夫を凝らそうとするものだ―――だがしかし"大層ご立派な御国の英才教育"とやらは道を一つに絞る


 自分は大人になったら国<親>の言いつけ通り自分の兄弟を殺して国<家>に帰って来るんだな、と
それ以外の選択権を与えない、実際問題ルージュも進む以外の道を今は選べない状況下にある


ブルーとて同じだ、ただ現状に疑問を持ったか持っていないかの違いだけ


  ブルー「モップ掛けもこれで終わりか」スッ

  リュート「おっ、ブルー終わったのかよ、ならお前時間空いてたりする?ちょいと[ネルソン]まで連れってくれよ」

493 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/02(土) 10:41:44.37 ID:NuKycUZ20


   ブルー「[ネルソン]だと…?お前もう金塊で得た金銭を使い切ったのか」

  リュート「いやいや、そうじゃねぇよ、ちょっと知り合いに会って話を聞いてみたいって思ったのさ」


  エミリア「なになに?何の話」ズイッ



反トリニティ政権の惑星<リージョン>…[ネルソン]、世間一般ではそう囁かれる磯の香り漂う夜海の星だ
 資金繰りで困った術士が無職の男と出会い、一儲けでお世話になった土地でもある

そしてノリの良さに定評のあるお姉さんエミリアが男二人の会話に身を乗り出して割り込む


 婚約者が死んで塞ぎこんでるかと思ったら、変な所で割り切りの良い持ち前の明るさが彼女の良さでもある

仮面武闘会を仮面舞踏会と勘違いしたり、[バカラ]のカジノ潜入作戦で一人だけバニーガール衣装であることを抗議した所
ライザとアニーに『似合ってるよ』『流石、元スーパーモデル』と褒められてノリノリで任務に戻る即堕ち2コマだったり



 リュート「ああ、エミリアと出会う前に俺一人旅してた時期あっただろ?そん時にまぁ、知り合った船の艦長が居てさ」

 リュート「自分の人生とか、いろいろどうなんだろうなって考えたらちょっとだけ、本当にちょっとだけな」

 リュート「話聞いてみたくなったんだ、その人は俺の父ちゃんの事知ってるからどんな人だったかって」



 ブルー「…お前は自分の親を知らないのか?」


 リュート「父ちゃんの事は俺もよく知らねぇんだ、母ちゃん何も言ってくれなかったからよ」



 今まで考えたこともなかった、知りたいとも思ったことがなかった、気づいた時には初めから居ない人で
ただお気楽に、自分が好きな事やって楽しい人生を送ってハッピーエンドが彼の人生観であった


    -リュート『――"お前の人生"、それでいいのかよ…!』-


昨日、彼がモップ持った術士に彼自身が言ってやった言葉だ

好きな事やって楽しい日々を送るというリュートの人生論は変える気は毛頭も無い、…でも気になるモノは気になる
 荒っぽいことは嫌いだし、 平和に済むならそれが何よりだ

――――…ただ、父親の事を何も知らないで一生を終える、というのは何か釈然としない

母親も多くは語ってくれない父親の事を知らない生涯、それこそ、"お前の人生"それでいいのかよ、である




英雄になりたい訳じゃない、革命家の象徴として祀られたい訳でもない、ただ自由気ままな雲のように好きに生きたいだけ




だからトリニティ…というよりもモンド執政官が[ワカツ]に造ったという秘密の軍事基地に戦争紛いな事を吹っ掛けよう等
そんなことは全く思わないのだ…




  ブルー(…自分の親をよく知らない、か)



  ブルー「……。」

  ブルー「いいだろう、偶には貴様に振り回されてやろう」


親孝行、育ての親に従い、尽くし、奉仕し続けることこそが産まれて来た人生の全てと"教育されてきた"ブルーは
なにやら思うところがあったのかリュートの都合に付き合ってやろうと承諾した


 エミリア「ねっ、私も行っちゃ駄目かしら?」

494 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/02(土) 10:42:25.40 ID:NuKycUZ20

 ここで視線がエミリアに注がれる、片方は『何故貴様までついて来る』と言いたげなジト目の視線
もう片方は『おっ、来るのか!綺麗な女が居ると賑やかでいいねぇ!』と歓迎の眼差し


  エミリア「[ネルソン]と言えば綺麗な夜景と独特な風味のお酒を出すカクテルBARがあるでしょ」

  エミリア「今日の任務はかなりの重労働だったのよ…ねっ!いいでしょ!この通りよ」


  ブルー「…ルーファスと同じくらい嫌いだと言ったのは何処の誰だ」


 溜息を吐いて、彼女を見る術士、ブロンド美女は胸を張って『それはそれ、これはこれよ!』とか
『今なら嫌いからちょっと嫌いにランクアップよ!わかったらレッツゴー!』などと宣う


変な所で割り切りのイイ前向きさに定評のあるエミリアお姉さんであった


―――
――



【双子が旅立って4日目 午後 21時57分 [ネルソン]】


 海原にある巨大な岩を削り、築き上げた岩窟―――そこに港を造り古き伝統を重んじる海賊の隠れ家と言った具合の港町
それが[ネルソン]というリージョンであった、その為、帆船が出港する穴から朝日が射しこんだとしても常時薄闇に包まれ
24時間街灯の火が消えることは無い


暗黒街から海賊の入り江へ、[ゲート]の術で早速降り立った三人はシップ発着場へと向かう


 リュートの目当ての女性は大概[オウミ]のレストランで此処とは違う味付けのシーフードに舌を巻いているのだが
生憎とこの時間帯ではその人は職務があるから自分の船に戻っているだろう


シップ発着場に行き、リュートは『ハミルトンさんは居るかい』と受付に尋ねた

少し待っていてくれと言われ、数分後、独立戦艦ビクトリアの艦長ことハミルトンが姿を現した




  艦長「やぁ、来てくれたんだね、キミの父上の遺志を裏切ってトリニティへ奔ったモンドの基地へ突入する気は?」

  リュート「悪いけど、そういうのはパスだ、俺は今日はそういうことの為に来たんじゃないんだ」


  艦長「む、そうか……無理強いはせんが、キミが一声かけてくれれば我々はいつでも[ワカツ]へ戦艦を飛ばす」

  艦長「しかし、そうでないならば何の用で来たんだ?」


  リュート「俺は、父ちゃんの事を色々知りたいなって思ったんだ…母ちゃんはあんまし喋ってくれねぇからさ」

  リュート「忙しい中わりぃとは思うんだけど…ダメ?」


  艦長「そうか、父上イアン殿ことについてだな…ウチの自慢のBARで酒でも飲み交わしながら話そう、私のおごりだ」


お連れさんもどうぞ、と口を挟まずに居た術士と美女もご厚意に甘えることになった


 ハミルトン艦長の紹介でやって来たのは以前にも金塊の売買で世話になった酒場で
顔馴染の客にしか出さない秘蔵の一本を開けてグラスに注いでもらった

 徐々に酔いが回り始めた頃、艦長は昔話を懐かしむようにリュートに活動家としてのこれまでを語りだす
リュートの父イアン、その友であったウェント、…同じく友であったモンドのこと


反トリニティの活動中にモンドが兵隊に追い詰められ、死を覚悟した後にイアンが自分の命を投げ売ってモンドを救った事


その後、モンドが何を想ったのか、突然、革命家を辞めてトリニティ政府で働くようになり最近じゃ執政官になったこと

[ワカツ]を爆撃機で空襲した後に秘密裏に軍事基地の建設、[シュライク]の街工場で人型兵器の開発禁止を言い渡す等
影で誰にも分からぬ怪しげな動きをしているということ…

495 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/02(土) 10:42:56.70 ID:NuKycUZ20


  ブルー(こいつの父親がそんな大物とはな…)


 透明なグラスを傾け小さく波打った強めのカクテルを眺めながら感想を浮かべた
このニートの父親がそんな大人物だとは



   エミリア「うっ…うぅ…っ」



一通り話を聞いて、むせび泣くような声がし、横を振り向くとなにやたエミリアが机に突っ伏している
顔は見えないが今の話で泣きでもしたのだろうかと声を掛けようか迷っていると…




   エミリア「う、うぅぅぅ、も、もうだめぇ…き、気持ち悪いぃ…」ウップ

   エミリア「ブルー、この際あなたでいい、トイレ連れてって…」グスッ


   ブルー「 」



この日知った、エミリアは酒に弱い。


 えっ、なのにお前酒飲みたいから[ネルソン]のBAR行こうとか言いだしたの?出かけた声を出せずにいるブルーの肩に
エミリアの白い手が触れる


  エミリア「や、やばいって…ほんと、は、はきそ」

  ブルー「おいぃぃぃ!?バカやめろぉぉ!!た、耐えろ、今連れてくから、おい!お、俺の方を向くなァァァ!!」





                 〜 しばらくお待ちください  〜




  ブルー「ぜぇ…ぜぇ…」

  エミリア「あぁ…飲みすぎたわぁ…うぅ」グスッ


危うく大惨事になる所だった、疲弊しきったブルーは今度こそ文句を言わずに居られなかった


  ブルー「だったら…ゼェ、何故、酒を飲むっ!ゼェ…馬鹿なのか貴様は!?」

  エミリア「だってぇ、疲れた時は嗜む程度に飲みたいじゃない!まさかこんな強いカクテルなんて思わなかったの…」


法衣を嘔吐物塗れにされては堪ったものではない、全速力で走って来た術士は息を切らした息を整えながら席へと返る
すると、なにやら話は終わっていたのかリュートは立ち上がっていた


  リュート「ありがとよ!ハミルトンさん…俺さ、やっぱそういうことに手はまだ貸したくないや」

   艦長「そうか…わかったよ、今晩は良い酒が飲めたよ」


  ブルー「リュート」

  リュート「お、戻って来たのか」



  ブルー「貴様、父親の遺志を継ごうとは思わないのか…」

  リュート「んあ?父ちゃんの遺志?」

  ブルー「お前の産みの親であろう、…志半ばで仲間の為に命を落とした」

  ブルー「なら息子であるお前は成してやりたいとは思わないのか…?」
496 :今回此処まで [saga]:2019/03/02(土) 10:46:33.23 ID:NuKycUZ20





              リュート「いんや、全く」





即答だった


子は親の物、その考えが常であったブルーにとって興味深い返答だった、だから聞いた



   ブルー「…何故、だ」


  リュート「いやよ、なんつーか、父ちゃんは父ちゃんだし、俺は俺っていうのかな…」

  リュート「親の為に自分の生き方を全部捧げるってなんか違うんじゃねぇのって」


   ブルー「…。」


  リュート「お前には前言ったじゃん?俺は自分が好きなことやって楽しけりゃ人生万々歳ってさ」

  リュート「父ちゃんの遺志を継いで〜、とか今の政府を転覆させて革命家の英雄だ〜、とか」

  リュート「別にそういうんじゃ無いんだよ、俺は」



  リュート「本当に自分がやりたいって心で想ったことを、心が命ずる儘にやってこそ人生楽しいのさ」



  ブルー「自分の心が命ずる儘に……」


  リュート「まっ!めんどくせぇことが嫌いで気楽に生きていたいってだけなんだけどなww」

  ブルー(…)

  ブルー「お前は偶にただの馬鹿なのかそうでないのか分からなくなるな」フッ

  リュート「おろ?」



子は親の物、なら……親が初めから居なかったら?

親という自分を繋ぎとめてくれる存在が何らかの理由で無くなってしまったら―――



  ―――育ての親が、[マジックキングダム]国家が、万が一にもあり得ないが何らかの理由で滅びたとしたら?



そこまで考えて、ブルーは自分を嗤った

何を馬鹿な事を…所詮は万が一、あり得もしない"もしも"の話だろうに、こんな事を真剣に考えるなんてどうかしてる



その先の答えは考える事を止めた、…いや無意識にブルーは【逃げた】のだろうな


自分は本当は空っぽの人間だ、それが無かったら…心の在り所を失ってしまったら、――自分の"帰れる居場所"を失ったら



きっと、もうその時点でブルーという名前の人間は瞬間、存在価値が無くなる、生きる理由も何も無くなってしまうのだと





  存在意義を失くして、【世界中の誰からも必要とされない人間】になる、と…その答えに行き着きたくないから
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:29:54.08 ID:rxG/DtiT0


 まだ酔いが抜けきらないエミリアとリュートを連れブルーは暗黒街へと帰った
早朝から叩き起こされて、皿洗いのバイトをしながら守銭奴の金髪娘に[鉄パイプ]を持たされてお稽古の時間
それが終われば、店内のモップ掛けをして夜遅くにやってきた馬鹿な知人と先輩のブロンド髪と一緒に酒盛りだ

そこそこに多忙な一日だったとは思うが、ブルーがこの晩、寝付く事が出来なかった


 三日近く世話になった貧乏臭い安宿の枕が恋しくなったわけではない
住み込みバイトとして与えられた個室が長らく使われてなかったから黴臭くてそれが眠気を妨げるということもない


 胸の奥に理由も分からないのに蟠りがある、エミリアの持ってたブローチや彼女とリュートの会話で芋づる式に天使
それに故郷の話になったり、飲みに行った潮の香りに包まれたBARで普段馬鹿だと思っていた男が語る人生観を聞いた所為



子供の頃、…これは今、寝具の上で眼を開けたまま寝がえりを打ち続ける彼に限らず誰にでもあることだろう



ひとつ気になる事があると、ついつい、それを考えて睡眠が取れなくなる

好奇心盛んな少年心が身に着く年頃になれば、哲学に手を伸ばす
それよりも少し若い頃にさえ誰でも一度は『人は死んだらどうなるんだろう?』そうなったら
今ここで考えてる僕の意識はどうなるのか、死んだ次の瞬間、今までの自分の記憶や自我は消えて別人になってるのか?等

出せるはずの無い答えを探そうと頭を捻ったり、あるいは極度にその妄想を怖れたり


そうしている間に時間だけが刻一刻と過ぎていく





ブルーは、まさしくその状態に陥っていると言っていいだろう



自分の人生、自分とは違う人間の人生、価値観、世間一般から見た弟殺しの見解




ルージュを殺す事に何も思わないのかと感情を爆発させた前日のエミリアの顔

弟と妹、自分の身内を養うために命を賭け金に綱渡りをするアニー

身内殺し事体を全否定はしないが、その時が来るまでの人生それで良いのかと問うリュート



ぐるぐる、ぐるぐる…頭の中で、色んな顔が、声が、次々と浮かんでは交じり合って消えていく
[ドゥヴァン]のコーヒー占いが自慢の喫茶店で飲んだ甘いカフェイン入りの液体の様に、渦を巻いて消えていく





  ブルー(今宵の自分は何処か変だ、エミリアの悪酔いがうつりでもしたのか)





病原菌じゃあるまい、何を馬鹿な、と考えて首を振った

天井ばかり眺めていた顔はその動作で木組みの机の上にあるデジタル表記の時計を見据えた、暗闇に視界が慣れたのだろう
ぼんやりとだがPMからAM、午後から午前へと日付を跨いだことが分かってしまった



嗚呼、眠れない、寝付けない


声が頭の中で煩い、蛇が脳髄でのたうつように五月蠅い、自分の声がうるさい




蒼き術士が意識を手放すのは明方間近であった…

498 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:30:41.75 ID:rxG/DtiT0

【双子が旅立って5日目 午前 10時02分】




 ブルー(目元に隈つき)「…」シャコシャコ

 ライザ「あら、寝坊助さんおはよう」



 歯ブラシに歯磨き粉をつけて、目元に天然物の暗色メイクを施したブルーが鏡をぼんやりと見つめながら歯を磨く
後ろから紫髪の女性がくすくすと笑いながら挨拶をして来るモノだから彼は朝から血圧が上がった
プライドが無駄に高い男は何か言いたげだったが、グッと押し込みマグカップの中身で口を濯いで顔を洗った



 アニー「はいはい!両面焼きのハムエッグ追加だよ!」トンッ☆

 エミリア「お先に!」パシッ



 グラディウスモブ男「もうじき、デカい作戦だからそっちに準備割くんですか?」モグモグ

 ルーファス「ああ、[ヨークランド]の山奥にある[忘れられし聖堂]だ、そこにジョーカーは来るらしいが」パクッ



朝食担当の作った半熟の目玉焼きが乗っかったトーストを頬張りながら完治したルーファスが予定を仲間に話していた
 こんがりと焼けたパン生地のサクサク感と黄身を噛んだ時に広がるとろりとした半熟の卵が広がりそれがまた美味いのだ


 ルーファス「エミリアがモンドから聞き出した情報によれば、暗号の解読には時間が掛かる」

 ルーファス「奴の動向を探っていた[マンハッタン]支部からの情報網によれば、アイツを切ろうとしてる勢力も多い」

 ルーファス「例えば、[シンロウ]で秘密裏に取引していた"ブラッククロス"だ、奴らもジョーカーに見切りをつけ」

 ルーファス「獲物を横取りしようとしてるらしくてな、ジョーカーが[ヨークランド]に行けるのは当分先だ」


 グラディウスモブ子「それまでに私達が準備を万全にして、先回りからの罠を張り巡らせる、ですね!」


 サングラスを掛けた男は「そうだ」と頷いて、ドレッシングの容器を手に取る
透明な深皿に盛りつけられた薄緑色のレタスや色彩豊かなトマト、花野菜にぷりぷりとした海老を施設や軍勢に見立てる
アニーお手製ドレッシングで「我々はこのように、周辺を固め、敵対勢力をこのように絡め捕る」とトマトや花野菜に
味付けをしながら説明する


  バコンッッッ!



 ライザ「ルーファス、作戦の説明は構わないけど食べ物で遊ばないでくださる」ニッコリ

  ルーファス「 」



 ブルーを引き連れた鉄の女ライザが笑顔で上司の頭に拳を叩き込んだ
折角、包帯ぐるぐる巻きミイラから復帰したのに、また頭部に包帯を巻きそうだ、この男本当に組織のトップなのだろうか
後ろで引き攣った顔をして見ていた蒼き術士は何度思ったか分からない感想を浮かべた


 エミリア「ライザ、おはよう!あとブルーも」

 アニー「お、二人共やっと来たわね!で、何にする?」


 持ち運べる携帯食としてアンチョビサンドの仕込みで鰯<イワシ>の塩漬けをオリーブオイルに浸していたアニーは
遅れてやってきた男女に気が付いた、食べたいモノはあるか?注文のリサーチを始める


 ライザ「なら、私もルーファスと同じモノが食べたいわね」チラッ

 ルーファス「」チーン


自ら気絶させた男と同じ食事を注文して、彼女はデカいタンコブ作った男の隣にそっと座った、心なしか顔が赤い気もする
ブルーはソレを見て何か関わったらダメな世界な気がして、目を背けながら半熟目玉焼きを乗っけたトーストを頼んで
極力ルーファスとライザから離れた席に座る事にした
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:31:41.12 ID:rxG/DtiT0


 ブルー「…午後4時から午後10時までとはな、そんな営業時間で大丈夫かこの店」サクッ


 胃にあまり物を詰め込む気にはなれず、一枚のトーストと目玉焼きで丁度良い
白い皿の上に置かれたパンを手に取り角から頬張る、…悪くない


コトッ


 ブルー「ん?」

 アニー「ほら、やるよ」つ『ミックスジュース』


 柑橘系の果汁をブレンドした朝の一杯、剣術指南の師範曰く仕事が始まるまでみっちりしごいてやるからサービスだ、と
渡されたついでに、この店は午前は開業しなくて良いのかと尋ねてみた、すると


 アニー「ん、そこだけど…ちょーっと裏のお仕事がね、今デカい山場なのよ」カチャッ、スッ


 パセリを添えた、焦げ目の無いチーズオムレットの腹をフォークで裂く
とろり、ふわっとした半熟の卵から熱々のチーズが流れ出す、それを口元に運びながら金髪の少女は言う


 アニー「あたし達が追ってる敵との決戦って奴を控えててね、総力戦になりそうなんだ」

 アニー「これがややこしい事に、その敵ってのは色んなとこに手を出してる奴でさ」

 アニー「ある時は麻薬売りと人攫いで有名なブラッククロスとの取引」

 アニー「[バカラ]の地下に居るノーム達から財をふんだくったり、トリニティの上層と繋がりを持ったり」

 アニー「その所為で、そいつを出し抜いてお宝をゲットしちゃおうって奴が多いのよ」


 ブルー「その話ならさっきそこでルーファスも言ってたな」


 アニー「ああ、なら話が早いわね、大掛かりなトラップを周辺にばら撒いて誰も邪魔できないようにするってワケ」


 ブルー「その準備に追われるから飲食店の方は短時間営業ということか」


 アニー「そっ!んでもってあたしやエミリアみたいな戦闘員は英気を養って、非戦闘員のみんなに頑張ってもらうの」

 アニー「つまりアンタの剣の腕を磨く時間があるってわけ、お分かり?」ニィ


 覚悟しとけよぉ?とニヤニヤ笑う女に不敵な笑いで返してやる、寝不足で肩に見えない重りが乗っていたが
そんな物は吹き飛んだ、漸く本腰入れて、鍛錬に打ち込めるのかと、グラスの中で揺れる甘酸っぱいビタミンを喉に流して
気を引き締める、盗める技術は盗む、使える技はなんであれ、自分の物としてみせる


残り一口になった焼けたパンを口に入れて噛みしめる
そんなやる気に満ちた門下生の横顔を金髪少女は面白い奴を見る様な目で眺めていた


*******************************************************
―――
――




 ゲン「…帰って来ちまったなあ」

 ルージュ「ここが、[ワカツ]…」


 早朝、ルージュ一行はゲン達と共に、4人と3機で[ワカツ]へとやってきた…
目指すはカードを得る為の部屋[剣聖の間]だ…沼の向こうに聳え立つ和風の城、[ワカツ]城に向かう為
茂みを掻き分け、桟橋へと向かった―――その桟橋には先客が居た、その者は皮膚はおろか、肉すらない



 アセルス「なっ、モンスター!?」チャキッ

 ゲン「剣を降ろせ、ソイツはモンスターじゃねぇよ……よう、俺達を向こう岸、城門前まで頼むわ」

500 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:32:27.10 ID:rxG/DtiT0

[スケルトン]系のモンスターとしか思えない人骨は何を見つめるでもなく、自分達を見据えてポツリと一言



      「船を待ちな」



ゲンは、その骨を何処か懐かしむような、それでいて憐れむような眼で見つめていた
 [ワカツ]は亡霊の巣窟と化した惑星、目の前の橋渡しは生前は彼と知り合いだったのだろうか…


そんなことを考えている内に、ザザァと誰も乗っていない無人の小舟が不自然な流れ方をしてピタリと桟橋の先に停泊した


人骨は何も言わずに、道を開けて、乗れと首を船へ振るう


 剣豪は、黙って船に乗り込み腰を落として胡坐をかく、それに従うようにロボたちが小舟に乗り込み
後に案内を頼んだルージュ等も乗った

 船は鉄の塊である、T-260や特殊工作車、常に浮遊しているナカジマ零式は別として、その他に大の大人が数人乗って尚
重荷など何も無いかの如くスイスイと見えない力で沼を漕ぎだした


向こう岸に辿り着くのはあっという間の出来事で…全員が上陸すると示し合わせたのではと思う程綺麗な動きで船は去った



      ヒュッ!  ヒュッ!


  ルージュ「んんっ!?」



紅き術士は目を疑った、疑って自分の眼をごしごしと擦った


 白塗りの壁に一瞬、本のページの様に捲れてその裏側に人が居た様に見えたからだ…
もっと言えば櫓屋根の上を高速で走る人影がちらほら見える、その恰好は彼が学院に居た頃、文献で読んだことがある





  ルージュ「ニ、ニ…ニン」プルプル



  ルージュ「忍者だぁぁぁぁぁぁぁ!?」ガビーン!




アイエエエエ!?ニンジャ!?ナンデニンジャ!?

両手を頬にあて美術館に飾られたムンクの叫びめいたポーズで絶叫するルージュ=サン



 ゲン「ありゃあ[ワカツ]の亡霊だ…死んでも死に切れぬ魂がああして出て来ては生者を仲間に引き入れようとするのさ」

 ゲン「お前等も気を付けろよ、連中に追いつかれたら死ぬ気で抵抗しろ」スタスタ


この惑星に迷い込んだ旅人を殺しその血肉を喰らおうする悪しきニンジャソウル、それこそが[ワカツ]の亡霊であり
トリニティの連中が空襲をした際、爆撃が地下にあった封印を解いたことで[ワカツ]の亡者が溢れかえったとのことだった



 アセルス(…悪しき亡霊で忍者って…昔ウチにそんな漫画あったなぁ)テクテク



[シュライク]で実家が本屋だったアセルスはそんなことを思い出しながら皆の後を追った…


 至る所に死の痕跡が落ちていた道程を鉄の蹄が進軍していく、T-260、特殊工作車、[鉄下駄]を履いたゲン
靄が掛かった城を、まるで死者たちの鎮魂歌だと主張するような高らかな金属音、征く手を阻もうとする魔物でさえ
道を開けたくなるような果敢な行進曲<マーチ>

501 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:33:20.87 ID:rxG/DtiT0


――――中には向かってくる命知らずな、"命なき者"もいた


  ゴーストA「けけけけっ!」フワァ

  ゴーストB「きひひひっ!」フヨフヨ

  ゾンビ「うばあ"ああ"あ"あ"あ""あ"」


  ライダーゴースト「ヒャッハー!オンナダァ!オレノモンダァ!」パラリラ!パラリラ!

  ナイトスケルトン「我、汝の命欲す…っ!」チャキッ










   特殊工作車「標準よし、撃ちます[電束放射器]」ビーーー、バチバチ!

     ゴーストA&B「「ぶべらっ」」チュドーン!!




   T-260「[剣闘マスタリー]ON、[多段斬り]発動!」ズジャジャジャジャジャ

     ゾンビ(みじん切り)「ウボァー」ザジュッ



  ナカジマ零式「へーい、そんなスピードじゃあ私にー、おいつけませーん、[神威クラッシュ]」ドゴッ

  ライダースケルトン「ちにゃッッ!?」ボコォ



  ゲン「[三花仙]」ヒュバッ!

  ナイトスケルトン「!…みごと、なり」ドサッ…シュゥゥゥ






  ルージュ「 」ポカーン

  アセルス「す、すごい…私達全然手をだす必要が無いわ」

  白薔薇「あっという間の出来事でしたわね…」




特殊工作車のアーム部分に取り付けられた重火器が電流を放ち、目の前にいた[ゴースト]2体を(物理的に)昇天させ
 T-260に至っては達人級の剣士の動きをトレースしたプログラムを発動させ、壱秒間に数十回動く屍を斬りつけて
玉葱のみじん切りより細かくバラバラにしてやった、断末魔をあげた[ゾンビ]は二度と蘇ることのできないレベルで
肉体を細切れにされ、その横をマッハ越えの速度でナカジマ零式が突き抜けて、やんちゃな幽霊にお灸を据えてやった

ぼっこりと、腹を突き破ってぐるっと宙返りしながら戻ってくるナカジマ零式の機影が[刀]を構えたゲンの真上を過ぎ去る

それを合図に、[鉄下駄]を履いて尚、骨騎士を上回る瞬発性で敵を切り裂く


その艶やかな一連の動きに、花が咲き乱れるような美さえ幻視した…


―――
――


   ゲン「…こっちは、床が完全に抜けてやがるな、オイ兄ちゃん、他の道行くぞ姉ちゃん達も足元に気を付けな」


どれくらい歩き続けたか、時刻は【午前11時49分】…早朝に来たはずだったが、思った以上に時間が経っていたようだ
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:34:09.57 ID:rxG/DtiT0


 アセルス「はい…っとと…本当危ないなぁ」ギシ…ギィ

 アセルス「ちょっと足を乗せただけで軋むなんて…床板の腐食度合いが、うん?」


 白薔薇「…」


 アセルス「白薔薇、どうかしたのか」


 白薔薇「いえ…ただ」チラッ


 焼けた人形『 』



 おかっぱ髪に、焦げてしまっているが辛うじて緋色の和服を着せた人形なのだろうなと推測できる
アセルスは人間だった頃、3月になれば家に飾られる雛人形を思い出した
 これの創りもそれによく似ていて、きっと持主は人形を大切にしていた子供だったのだと…


  ルージュ「…小さい子も、此処に居たんだよな」


2人が見ていた子供の人形を見てから辺りを見渡すように、空襲の跡地を紅き術士は目を配った
 煤だらけの床に丁度、黒ずんでいない人型の綺麗な床が見えてその上には長い間、野晒しにされた白骨遺体が横たわる
折れた刀を持っていた右手は、今尚、柄を握って離さず…倒れた骨の視線の先には―――


 ゲン「…俺達は、何もしちゃいなかったさ、政府に逆らうだのそんな気なんぞ無かった」


 ゲン「誰が流したかも知らねぇ悪い噂、人の噂なんざ七十五日よ…」

 ゲン「あの日だって普通にお月さんが出て、寝てりゃあお天道さんが上がる変わらない明日って奴が来るはずだった」


 ゲン「だがよ、無数の爆撃機が隊を組んでこの城の上空に現れて俺達から"いつも通りの明日"を取っちまいやがった」


 ゲン「みんな、必死だった…腰に脇差引っ提げて、刀抜いてドタバタ走ったぜ」

 ゲン「敵は団体さんで空から爆弾落としてくるんだ、剣を振る俺達じゃあどうにもできなかった」



 ゲン「…そこで眠ってるそいつも、城を守るより、家族を護る為に走ったのさ」




…――柄を握ったまま離すことなく倒れた白骨死体は、空洞となった目から口惜しさの涙さえ流して見えた

折れた刀身が転がった先は、大人1人と子供1人と思われる遺体の傍らだった
 靄が掛かっていた空が一瞬だけ晴れ、空襲で空いた大穴から照らされた日光でその存在が漸く確認できた

カラァン、コロォン!

ガッシャ!ガッシャ!

ブロロロ…



テクテク…スタスタ…


 ゲン、彼は暇さえあればいつだって酒を飲んでいた
酒は良い、嫌な事も思い出したくない光景も酔いが見せる優しい揺り籠で溶かしてくれるから…

嘗ては共に剣を磨き合った友、護るべき主君、…家族、それらが一夜にして火の海に飲まれた


 ここにきて、彼はいつも持ち歩く酒瓶に口をつけることは無かった

 無言で自身に蔦を伸ばして来た喰人植物のモンスターを一薙ぎ、屋根の上から彼目掛けて飛び掛かろうした獣を縦に両断
忍者を思わせる出で立ちの亡霊が気配を消し瓦礫の塹壕から飛び出し奇襲を掛けるも、見向きすらせずに首と胴体を裂いた


[ワカツ]の剣豪ゲンの精神は研ぎ澄まされていた…
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:35:23.11 ID:rxG/DtiT0


  ゲン「ここからなら、中に入れそうだな…」ガラッ


 櫓門の道は塞がれていたものの、城壁の一部が崩れていて、瓦礫を少し手で退かせば大人でも
通れそうなくらいの大穴が渡り廊下の壁に空いていた

 隙間風がカラカラと、赤い風車<かざぐるま>を回す、母親が吹いて赤子をあやす為に使っていた玩具は無造作に床に
突き刺さり、誰を笑顔にすることもなく悠久の時を空回りし続ける、[京]で見たような襖扉に生々しい赤を飛び散らせ
鉄臭さとそこから菌が繁殖したのか緑や黄の斑点模様で着飾った和紙の窓が切り裂かれていた

壁に東洋剣の破片が突き刺さっている、弓矢の矢も無造作に突き刺さりそれが何とも痛々しい



   白骨『  』

   白骨『  』



 ゲン「この一番上の階が[剣聖の間]だ…そこで試練を受けれる、一息だ」



  白骨『 』…ガタッ!


  白薔薇「ゲン様!そこに―――」


ガッ、ズシュッ!


  ゲン「…」チャキッ


 屍で築かれた山に紛れてアンデッドが死者の脇差を抜き取り、ゲンへと切りかかる、白薔薇の警告と同時に相手の眉間に
一刺し、頭蓋骨は見事に前から後ろまでよく見える覗き穴をあけて屍の山へ帰った


  ゲン「おう、姉ちゃんありがとうな」


 自分の身は自分で守れ、と[京]の旅館で言ったゲンだが、道案内も兼ねて率先して前を征き背後にも警戒を怠らない
何だかんだ言いつつもルージュ等をしっかりと守る男であった




……この地で守れなかったモノがあったからこそ、なのかもしれない、[ワカツ]の剣豪として想う所があった



彼にとっての生まれ故郷、此処はゲンの"帰るべき場所"であった筈なのだ…育った大地を踏みしめて彼は何を"想う"か



コツッ、コツッ…


 ゲン「…着いたぜ、此処がそうさ」



 案内された[秘術]を求める者の巡礼地は、こじんまりとした一室で、中央に畳が三畳だけ敷かれていた
中央の畳を挟む程度に燭台が3つあった、ただルージュや白薔薇姫にはあまり馴染の無い形式の燭台だ

 蝋燭の灯がかき消されないように、風除けの硝子が張られているオイル式の角燈<ランタン>に似てはいるが
風除けに使われている材質が紙だ、和紙を使われたソレが灯篭と呼ばれているのを知っているのは
ゲンと子供の頃テレビの時代劇で見た事があるアセルスお嬢、データベース内にある知識として記録しているメカ達だけだ


  ゲン「まず、両方の蝋燭に火を灯すんだ、そうすると後ろの屏風…はもう無ぇな、後ろの壁に3つの影が浮き上がる」

  ゲン「それぞれ、剣、兎、物の怪だ」

  ゲン「3本の剣と兎と物の怪が交互に浮かび上がる、全ての影を『剣』に揃えるんだ…誰が一番初めに受ける?」


中央の畳に、座り意識を集中させて目を見開く、すると浮かび上がった影はその心に応じて止まる
 随分と俗物的な言い方をするならカジノのスロットみたいなモンだ、絵柄を三つ揃えれば良い、違いがあるとすれば
試練を受ける術者の心次第で結果が出るということだが
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:36:07.69 ID:rxG/DtiT0


 ゲン「俺は、こいつ等と亡者共が階段駆けあがってこないように見張りをする…いいな、テメェら」チラッ


 T-260「了解です」
 特殊工作車「右に同じく」
 ナカジマ零式「私たちにー、お任せあれー」


 若き日に成人式のしきたりのようなモノでゲンも[剣のカード]は取得している
三畳一間で彼等が瞑想を始め、剣が描かれた札に認めてもらえることを祈りながら見守る、その間、ゲンの仕事は
試練の邪魔をする無粋な輩を排除することである


 ルージュ「僕は、最後でいいよ先に二人からで」

 アセルス「そう?なら白薔薇」

  白薔薇「かしこまりました」スタスタ…スッ



 ゲン「じゃあ、火を灯すぜ…休憩を挟みたい時はいつでも言ってくれて構わねぇからな」カチンッ!ボォッ


 灯篭の中に赤々とした燈が点いて、影を浮かび上がらせる…この場所、[ワカツ]の天守閣は一種のパワースポットだ
術士であるルージュも妖魔の白薔薇姫も当然、半妖であるアセルスも薄々感づいていた

周りが穏やかな風の吹く草原なら、この場所だけピンポイントで渓谷や山岳地帯の岩々で一点に気流が集中する地点だ


 力の流れで浮かび上がった三つの影は兎や交差する刀、バケモノの姿形を造り飛び回る
蝋燭の灯りは和紙一枚の壁を越え、障害物は何一つとて無い、であるにも関わらず、兎や二本の長物、大口開けた妖怪

光の屈折だとか目の錯覚だのと、そんな次元の話じゃない、科学的に説明不可能な変化を目まぐるしく繰り返す




        白薔薇「…。」



        白薔薇「…」



        白薔薇「!」パチッ




  【兎】 【兎】 【兎】



    白薔薇「…失敗ですわ」シュン


  ゲン「まだ、終わったわけじゃねぇ、何度でも挑戦はできる、心の目でよくみるんだ、耳を澄ませ…」


  アセルス「良い線は行ってたんだ、白薔薇!もう一度…!」

  ルージュ「白薔薇さんっ!」


    白薔薇「 」コクッ


    白薔薇(もう一度…)スゥ…


    白薔薇「…。」





―――
――

505 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:36:40.68 ID:rxG/DtiT0
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―――
――

【双子が旅立って5日目 午後 12時00分 [クーロン]】



  ブルー「てぁぁぁぁっ!」ブンッ

  アニー「もっと踏み込んできな!!」カキィン[ディフレクト]



 暗黒街の惑星の裏通りを抜けた先、元は地下鉄であった地下空間に金属音が鳴り響く
廃線になった駅のプラットホームはそれなりに広く強盗殺人を生業とする浮浪者の棲家でもあった

生憎と、剣道道場なんてモンはこの街に無い…

犯罪者が大手振って歩く空気の澱んだこの空間を利用して、練度をあげる為に手にした得物を振るっていた


犯罪都市で日々を過ごす手練れの追剥も法を犯すことを余儀なくされる低所得者も流石に出て行こうとは思わなかった
 情報が物を言う時代、それもこの都市ならば尚の事で、金髪の術士と裏組織の金髪女はヤバいと既に話が持ちっきりだ



 双子が旅立つ数日前、エミリアがグラディウスに新人メンバーとして加入した際もアニーの指導の下
女二人でこの近辺から店まで帰って来るという実践訓練を行ったものだ



この街で長生きする奴は、自分と相手の力量差をよく分かっている奴だ

早死にする奴は無謀な戦いを挑むか、もう後に引けず強者でも良いから生活の足しになるモノを奪う為にと自棄を起こすか


 大概、その二択である……指導の真っ最中で喧嘩を売りに来る低ランクモンスターが[鉄パイプ]持ったアニーに撲殺され
片手斧やナイフを構えて蛮勇を目に焼き付けながら突進する盗人はブルーの試し切りと魔術で感電させられ気絶していく


 稀に、二人よりもランクが上の実力者が現れ、戦いを挑んでくることもあったが
そんな実力があるなら他所の惑星でも十分喰っていけるだろうに、と思いながらアニーが剣に不慣れな弟子をフォローし
二人掛で仕留めて行った


   アニー「アンタの手に持ってるソレを自分の身体の一部と思え!」

   アニー「自分の手であたしに触れようって気で掛かりな!先端から鞘までが含めてアンタの腕だ」



   アニー「…"手首の先に棒状の武器がある"だからその分リーチがあって、間合いはそこまで詰めなくて良い」


   アニー「そんな考えは糞喰らえだッ!そんなんだからさっきからアンタは一撃もあたしに当てれないんだよ!」ブンッ


   ブルー「ぐぉっ…っ」ガキィィ…ギギギ!

   ブルー「…な、めるなァぁぁぁ!!」グワンッ ダッ!


   アニー「――っと!」バッ!


   ブルー「踏み込めばいいのだろうッ![天地二段]!!」バッ!ダンッ!


   アニー(やばっ!?調子乗り過ぎたッ)サッ!


 蒼を纏った魔術師が鍔迫り合いから相手を上に押し上げる形で崩し、金髪少女が僅かによろめいたのを見て攻勢に出る
プラットホームの地を離れ、飛翔し勢いよく振り翳した鉄の棒を振り下ろす
 遊び過ぎたか、と彼女はすかさず持っていたパイプを頭の上に掲げる
夏の浜辺で遊ぶ西瓜割りの様に縦に振られた得物を両手で横に構えた棒で防ぐ、何度目になるか分からない金属音と火花が
飛び散り、すぐさま、地に足をつけたブルーが着地と同時に胴体を薙ぐ一撃を放つ


  ――――カァン!!

  アニー「…っ、そう簡単にやらせないっつーの!」グググッ

  ブルー「くそ…!」ググッ
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:37:45.56 ID:rxG/DtiT0

ピピピ…

 持ってきていた手荷物からアラーム音がなる、100均ショップで購入できる簡単なタイマー時計だ
ブルーは目の前の講師に一振りたりとも掠ることなく終わったのか、と心底悔しそうな顔をしていた


  アニー「12時丁度だ、ここまでのようね」


アニーは背伸びしてそこらへんで拾ってきた[鉄パイプ]を放り投げる
涼しい顔をしているが最後の[天地二段]は正直なところ焦った、対応が遅れれば胴に一本取られたかもしれない


  アニー「ブルー、聞きたいんだけどさ子供の頃に剣とか習ってたの?」

  ブルー「簡単な護身術なら学院の授業で習ったが、剣に関しては全く…」


 知識だけはあった、若気の至りで学校を一日だけサボって顔は思い出せないが偶々気の合う子供と知り合って
色々あって、剣道に関する本を読んだ記憶はある…

金髪少女は一本も取れなかったことを悔しがった弟子を見て思う、筋は悪くない、と。



 さっきブルーが使った[天地二段]でさえ"閃く"のにアニーは時間を掛けた、しかし昨日今日で剣の道を始めた彼は
もう自分の物にして彼女に放ったではないか


金髪少女と蒼の術士…"閃きの頻度"が、眠る才能の大きさが違う


 今でこそ悔しがっているが、いつかは師である自分があの顔を教え子のブルーに晒すことになるかもしれない
そんな予感を彼女は感じていた


  アニー(面白いわね、育て甲斐があるってもんよ!)フフッ


 コイツは自分の指導で将来どんな奴に化けるのか?豊富な経験でまだまだ負ける気はしないが
目の前の原石を見て益々、ブルーを鍛えてやりたいという気が強まった
 自分の持てる技術を叩き込んでどこまで高見に行くのか見届けてやりたいと…


  ブルー「…貴様、何を笑っている」ジトーッ

  アニー「うん?」

  ブルー「確かに、今日の俺はお前に対して手も足も出なかった…だが見ていろ、いつの日か必ず打ち勝つからな!」


  アニー「!」

  アニー「あはは!いいよ、いいよ…楽しみに待っててやるって」ヒラヒラ


手をひらひらと振って、笑う彼女は施設に居る弟の姿を目の前の男に重ねた


負けず嫌いで、強がりで……



  アニー(…、……ああ、こいつを鍛えたいって思うのはそういう所かなぁ)



―――
――


 荷物を持って地下鉄を出る、お世辞にも良い環境とは言えないが、換気扇が碌に聞いちゃいない澱んだプラットホームで
ランチタイムに洒落込みたくないからだ
 外は相変わらず雨が降っていた、背の高い建物同士の合間に出来た小さな隙間と誰が設置してそのままにしたのか
トタン屋根の恩恵を有難がるわけでもなく、当たり前のようにそこへ入り込み髪についた水滴を払うべく頭を振った

鞄から乾いたタオルを二つ取り出し手渡す


  アニー「ほらよ」つ『タオル』

  ブルー「ああ…すまないな、助かる」フキフキ

507 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 16:38:25.02 ID:rxG/DtiT0

 髪をさっと拭いて首にタオルを巻く、そのまま鞄から折り畳み式シートと[結界石]を取り出す

 春先の公園にでもピクニックに来たなら広げるであろうレジャーシートを地面に敷き、横風で飛ばないように
重石の代わりとして砕いた[結界石]の破片を敷物の端々に置いておく


 こうすることによって、シート上に乗っている人物は周りから知覚されず
またあらゆる攻撃にもある程度は耐える結界が貼られる、簡易シェルターの出来上がりである



  ブルー「気前がいいな、[結界石]を使うなどと…」

  アニー「んー?ああ、これね…なんだかんだで結局最後まで使わずに取っといてさ、いっつも終わるのよ」



 これまで裏社会で様々な任務についてきたて、気が付いたら大量に手に入って大量に余っていた、という魔道具の1つだ
任務終盤で決戦を控えた時に術力、気力、生命力の回復の為にと温存したものの、最後まで使わずに任務を終わらせた

そんなことが多々あって、宝の持ち腐れとなった[結界石]がグラディウスの倉庫には山ほどある


  アニー「こうやって敷いた物の上に乗っけとくだけで、特訓してたあたし達の体力も回復する、鬱陶しい敵は来ない」

  アニー「それにさ、雨音も遠くなって、寒気もあんましないじゃん?…異臭もしないし」


 砕いた魔石の破片を置いたピクニックシートに座った二人の疲労は既に吹き飛んでいた
鼠の死骸やゴミ袋を漁る鴉の匂い、蓋の開いたマンホールから漂う異臭もシャットアウトされていた


  アニー「あとは、この洗濯紐をこうやってビルの雨樋や配管にうまいこと括りつけて…と」ゴソゴソ

  アニー「店から持って来た毛布を紐にこうやって掛ければ、ほい!カーテンの出来上がり」

  ブルー「ほう…[結界石]とは別で更に風除けにもなり、外を見ずに済む簡易テントになるか」


  アニー「そ!どうせ、昼食にするならそっちのがいいでしょ?ルーファスも余ってるから持って行けって煩いのよね」



 登山家ご用達のジェットボイルを取り出し、同じく持ってきていた2Lペットボトルの水を注いで沸騰させる

点火して直ぐにお湯になった水を見て、他所の惑星の科学文明の発達やら、やたら重い鞄に何が入ってたかと思えばだのと
ブルーは感心、呆れ、どちらも入り混じった感情で仲間の荷物を眺めた


  アニー「あ、そうだ…ブルーはどっちにする?」つ『カップ麺』


 名前を呼ばれ、目線を鞄からその持ち主へと向ける、彼女が手に持っていたのは以前、リュート等を交え
酒盛りをした日に一緒に行った"こんびにえんすすとあ"とやらで見かけた、確か…携帯保存食の一種だったと思うが…


  ブルー「貴様、店を出るときにアンチョビサンドを作ってなかったか」

  アニー「あれは任務で出かけた他の子の専用よ、あたし等はこれで済ませるの、で?どっち」



どっち、と問われて、両手の携帯保存食を見る……

正直に言って、"かっぷらぁめん"を見るのは生まれて初めてだった、味の違いなど分かるはずも無い


ブルーは、戸惑ったが…少し間を置いて、右手のシーフードと書かれたラベルの方を指さした、色も青だったから



  アニー「決まりね」トポトポ…!


蓋を半分剥がして、お互いのカップ麺に沸騰したお湯を注ぎ、コンビニで貰った使い捨てのフォークと箸を乗せる
 箸は使えなくないが、どちらかと言えば慣れない食器よりも慣れたモノを使いたい

 リュートが面白半分におでん屋でのブルーの箸の使い方を見ていたのが幸いした
彼に『ブルーの奴、箸の使い方ヘタクソなんだぜ〜』と聞いてたから予め、割り箸の他にフォークも用意していた

お湯を入れて2分と約30秒近く、地下鉄内で訓練の時に使った安物のタイマーをセットしてアラームが鳴るまで待つ

508 :今回は此処まで [saga]:2019/03/06(水) 16:39:18.37 ID:rxG/DtiT0

 待っている合間に缶コーヒーを2本、鮭入りおにぎりを同じく二つ取り出し手渡される
缶についてるプルタブの開け方は飲み会の時に学習した、手渡されたライスボールは丁寧なことに開け方が書かれていた
手順通りにやるならば三角の透明な包装の一番上を摘まんで洋服のジッパーを降ろすように破き、両サイドを引っ張ると…


   ブルー「…」ビリッ


   ブルー「…あぁっ!」クシャッ

   アニー「あぁ、コンビニのおにぎりあるあるだわ、そんな感じで失敗して海苔がバラバラになったりするのよ」


 引っ張ったら海苔もビニールと一緒に裂いてしまった、剥き出しの白いご飯と、取っ払った包装の中に未だある海苔
掌にペタペタとつく白米が物悲しい…



   アニー「ふふんっ♪ブルーよく見てなよ、こういうのにはコツがあってね…ここはこうして…あっ」ビリッ、グシャ

   ブルー「…フッ、中々素晴らしい手本だな、アニー」


   アニー「…う、うっさい、今日は調子悪かっただけだし、ていうかアンタだって失敗したろ!?」


ピピピ…!


   アニー「と、馬鹿なことやってる間に出来たわね…ほら、アンタのシーフードヌードル」スッ


ペリッ

乗せていたフォークを取り、底についていたシールも剥がして蓋を取る、[鉄パイプ]の打ち合いでカロリーは消耗していた
それに比例するかの如く、湯気と共に鼻をくすぐる匂いは食指をそそる

 黄色いふわふわに蛸の脚をスライスした物なのだろうか…?蟹と思われる食材も一口サイズで浮いていて刻み葱の下には
最初見た時、『こんな硬そうなモノが湯を入れただけで美味くなるのか?』と訝しんだ乾麺がお湯を吸い解れていた


ナポリタンスパゲッティと同じ麺を用いた食事、東洋文化の麺類をフォークで掬って口に運ぶ…



  ブルー「…美味い」


 カップの淵に唇を寄せて、スープも啜ってみる…塩気が少し濃くそこに何かを煮詰めて取ったダシ汁を加えた濃厚な味
舌が火傷しそうになるが、ついついもう一口とカップの中の液体を飲み干してしまいそうになる

 握り飯にも齧りつく白米の奥に見える紅色は珍しくはない魚のサーモンで塩漬けにでもされていたのか
これといって過剰な味付けを施されていない白飯としょっぱさを感じる魚肉のハーモニーが丁度いい具合になっていた


 [結界石]と風除けの布があるとはいえ常雨の街は気温が寒い部類だ、身体を温めて少しだけボーっと食後の余韻に浸り
今日の戦績を振り返ってみる、アニーとの模擬戦で得た技や偶に突っ掛かって来る命知らずな野盗やモンスター
稀に危険度ランクが高い方に部類される[トレント]や[ユニコーン]、そこまでではないが凝視攻撃が厄介な[アンノウン]


 ヌサカーンと共に[保護のルーン]を取りに来た頃と比べれば、敵も自身も強くなったものだ…
海星型モンスターの[ゼノ]や[ラバット]共を蹴散らした頃が遠い日々のように思える


 結界石『 』シュゥゥン…


 アニー「砕いた石の光が弱くなってきたね…そろそろ効果切れだ、準備しな」

 ブルー「わかった」


 250ml缶の中に半分程残ったカフェインを飲み干し立ち上がる、洗濯紐と毛布も回収して
シートをばさりと輝きの失せた石を吹き飛ばす、もはや只の石ころと変わらなくなった魔石は
路傍の石に紛れて分からなくなり荷物は全て収納した鞄を担いで再びブルーとアニーは地下へと潜っていった


小降りだった[クーロン]の雨はまた勢いを増し、大雨へと代わろうする頃合いであった…


―――
――

509 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/03/06(水) 19:09:23.59 ID:D2BhFtRm0
お疲れ様でした
今回も楽しませていただきました
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/07(木) 00:47:22.32 ID:lIKKg1YM0
これはブルーさんとアニーによる巧妙な飯テロスレ
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/08(金) 08:06:00.25 ID:Nws5bfq30
乙十字剣
結界石ってそう使うんか・・・
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/09(土) 11:08:39.20 ID:eG9FNXt1O
乙乙
改めて文章で見るとリージョン間の文化の差が顕著で面白いな
513 :少し書き溜め投下 [saga]:2019/03/11(月) 22:22:51.72 ID:g926szxQ0
【双子が旅立って5日目 午後 12時31分】


 リュートは今日も今日とて、闇市場[クーロン]に物珍しい売り物が無いか、風の向くまま気の向くままに散策していた
珍しい獣の革、どこぞの軍隊からの横流し品、マニアなら泣いて喜ぶコレクション、眠らない常雨の街はいつだって活気に
満ちていて、怪しくも可笑しくもある空気を振りまいていた

宝石箱か、はたまた子供のおもちゃ箱かをひっくり返したようにちょっと見渡せば興味を引くものが転がっている


ボサボサ髪にちょこんと乗った民族帽は、ある一点を振り向き…視線を固定させた

一度見たら早々忘れられそうにない緑色の獣耳、ふさふさした尻尾のついた人間がトコトコと歩いていたからだ



  リュート「クーン!クーンじゃないか!」オーイ!


   クーン「? あっ!リュートだー!メイレン!リュートだよ!」

  メイレン「まぁ、元気にしてたかしら?」


  リュート「へへっ!俺はいつだって元気だぜ!…けど、あん時は勝手にパーティー抜けてごめんな」


  メイレン「いいわよ、そんなこと」

  リュート「それでさ、"指輪"集めの方はどうだい?例の全部集めると何でも願いが叶う指輪」

  クーン「えへへ!あの後ね!僕達2つも手に入れたんだよ!」ピョンピョン!


 元々クーンが旅立った際に故郷の長老から渡された指輪、リュート、ゲン、T-260とクーン等で街を仕切るヤクザ者達と
戦い勝ち取った指輪で2つ、そして[タンザー]で宇宙海賊ノーマッドから手にした物で3つだった

つまり現在5つの指輪が揃ったことになる



  メイレン「ここまで順調だったのも全部メサルティムと先生のおかげね!」


  リュート「先生と、メサルティム?」キョトン


知らない人物の名が挙がり、弦楽器を背負った無職は首を傾げた




         ヌサカーン「くくくっ、私としてはタダで病魔を観察できたのだ礼金を払いたいほどだよ」ヌッ!

          リュート「うっひゃぅ!?」ビクッ




 [クーロン]の裏通りに住む闇医者にして上級妖魔の医者、ヌサカーンはリュートの影からぬるりと出て来た
突然背後から声がしたと思えば、眼鏡を掛けた病的なまでに肌の白い白衣の医者が立っていた
死神か何かと一瞬勘違いするほどである


    メイレン「先生、あんまり驚かせないでいただけますかしら?」ヤレヤレ

   ヌサカーン「くくっ!いや、失敬…キミの驚き方は素晴らしい、その心拍数、健康な心臓だ」

   リュート「は、はぁ…、どうも」


   肌の色が黒い人魚「あ、あのー、高貴な御方…いえ、ヌサカーン様それは誉め言葉になってないのでは」フヨフヨ


   ヌサカーン「ん?そうだったかね?それは失礼したなメサルティム」

   メサルティム「ひぃぃぃっ!?すすす、すみません下等な下級妖魔の分際で上級妖魔の貴方にお言葉を…!」フヨフヨ

   メサルティム「出過ぎた真似をして申し訳ありません!どうかお許しを…!」ガタガタ ビクビク


   ヌサカーン(……怯えさせるつもりは無いのだがね…彼女には困ったものだ)ポリポリ


514 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/11(月) 22:23:21.62 ID:g926szxQ0

 メサルティムというのはどうやら、この宙に浮遊してる気弱そうな人魚の名前らしい
美しく長い銀髪で角が生えている人魚…話によれば、最初[マンハッタン]で売られている指輪を買いに行ったら
既に[オウミ]の領主が買っていて、それを譲ってもらいに行ったらなんやかんやで落とし穴に落ちたり
巨大な烏賊<イカ>と戦ったり、領主が実は偽物だったりと…紆余曲折があって苦労したらしい
 それでその道中で偶然知り合って、力を貸して貰い今現在、クーン達と行動を共にしていると


  リュート「いやぁ、こりゃまた別嬪さんだなぁ」ジーッ


  メサルティム「?」キョトン

  メサ子の胸『装備:☆』



―――スパァン!!


  メイレン「リュートぉ?そういうのはね、セクハラっていうのよ?田舎者のアンタでもわかるでしょ」

  リュート「は、はび、ずびばぜん…」ヒリヒリ
    訳(は、はい、すみません…)


メサルティム、彼女は男性から見れば実に魅力的な膨らみをお持ちの女性型妖魔だ…ただ、その…

なんというか…所謂、"ゾズマ・ファッション"なのが少々目に毒である


  メイレン「メサルティム!基本的に人目の多い場所ではこれを羽織ってと言ったでしょ!はいっ!」つ『白いローブ』

  メサルティム「あ、すいません…ついうっかりと」スッ、ゴソゴソ


 人魚だから下半身にスカートだのズボンなんて物は当然ながら無理なので、それは百歩譲って良いとして
せめて上半身は隠さねば…!いや、胸にお星さまつけるのは妖魔の正装なのかもしれないが…
だが、そう考えると白衣を着た闇医者も白衣の下はお星さまかもしれない、…なんかヤダなそれ

 リュートは目の前の白衣を着た男も胸部にお星さまを二つ付けてるかもしれないと想像して、ちょっと顔色を悪くした


  ヌサカーン「うん?どうかしたかね?顔色が優れない様だが…数刻の合間とは言え、自宅の診療所付近に帰ったのだ」

  ヌサカーン「無償でキミの具合をみてあげるがどうする?」ズイッ

  リュート「い、いや〜俺は何処も悪くないんで、あと顔近いです、はい」

  ヌサカーン「キミはあのブルー君の友人であろう?彼には借りがある、また会えたら遠慮せず言うといい」

  リュート「ありゃ?あんた、ブルーの知り合いなのか?」

  ヌサカーン「ああ、以前[保護のルーン]を取りに行くのに少し同行した仲なのだよ」

  リュート「ふぅん…」







  ヌサカーン「……時に、ブルー君のその後はどうかね?」






  リュート「?」


  ヌサカーン「いや、なに、気難しい性格をしてるであろう?」

  リュート「あぁ、アイツ、すぐに仲間と喧嘩したりするんで困るぜ!」ハッハッハ!

  ヌサカーン「ほう、そうか"仲間と喧嘩"か……それは素晴らしい、良い傾向だ」

  ヌサカーン「人間はどんな小さな繋がりであれ、それが時として大きな強みになり、強い心を育む」



  ヌサカーン「最初、手の付けられない狼とも思えたが、孤立せず、共に過ごせる相手が居るならそれは良いことだ」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/11(月) 22:23:51.97 ID:g926szxQ0




      ヌサカーン「近い将来、彼は絶望の淵に落とされるような真実を知るかもしれない」


      リュート「! おい、アンタ…それはどういう」



     ヌサカーン「そうなった時、彼の心に芽吹く病魔を殺せるのは心から支えてくれる友という特効薬だろう」

     ヌサカーン「医者としての忠告だよ…」スゥ!


   リュート「あっ、ちょっと待て…って消えちまった…」

   クーン「ヌサカーン先生って偶によく分からないこと言うんだよね、なんだか難しいの!」

   メイレン「…事情を知らない私には何の話かさっぱりだけど、要約するとその知人を支えてくれって事かしら?」




   フェイオン「メイレーン!」タッタッタ…!



 影に消えた、妖魔医師の謎めいた発言に頭を抱える一同の下に、ネオンの光を綺麗に反射させる美しい頭皮を持つ
武闘家フェイオンが駆けて来る、チャイナドレスの女は「遅い!」と腕を組み頬を膨らませ、クーンは陽気に手を振った



  リュート(…んあ?あの弁髪の人[タンザー]で見たような気が?)ハテ


   フェイオン「君が言ってた人物が指輪を売りたいと交渉を持ちかけたぞ!早速[バカラ]に…っと、取込み中か?」

   メイレン「ああ、気にしないで、ちょっと知り合いと再会したから世間話してただけよ」


 メイレンの知人ということで、頭皮が眩しい弁髪の男性とボサボサ髪のニートは握手を交わし簡単な自己紹介を済ませた
クーン等はこの街で指輪の所有者と取引できるかもしれないという話で一度戻って来たらしい
 本来なら[シュライク]にある古代の王の墓へ行く予定だったが、その間に指輪が誰かの手に買い取られては不味いと
優先度を変え、先に[バカラ]へ行く事に決めたらしい


  リュート「他には手にしなきゃならない指輪って何々あるんだい」

  メイレン「そうね、それ以外だと[ムスペルニヴル]の妖魔が所有しているもの、あとは刑期100万年の男の指輪ね」





  メイレン「前者はいつでも船で行けるとして問題は、後者よ、[ディスペア]の牢獄に居る男にどうやって会うか」


  メイレン「どうにかして[ディスぺア]に潜入したいのだけど…どうしたものだか…」ハァ



  リュート「…。」


  リュート「なぁ、それひょっとすっと何とかなっかもしんねぇよ?」


  フェイオン「なに!?それは本当か!」

  メイレン「どきなさいハゲ!!――リュート、それはどういうこと、詳細を!」ズイッ



フェイオンを押し退け、リュートに詰め寄るメイレンを制しながら彼は口を開く、フェイオンがシクシク泣いてる…


 リュート「あぁ、それなんだが、イタ飯屋に行ってみてくれないか?丁度[ディスペア]に行きたがってる奴が居てさ」

 リュート「今から頼み込めば準備とかなんとか間に合うかもしれないんだ」


丁度、蒼い法衣の魔術師がお金にがめつい金髪娘に潜入の手助けを依頼しているから、なんとかなるだろうと彼は思った
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/11(月) 22:24:25.78 ID:g926szxQ0
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―――
――


【双子が旅立って 5日目 午後 15時35分 [ワカツ]の天守閣】



  ルージュ「…っ」



 【兎】【剣】【怪】





 ルージュは悪戦苦闘していた。


あの後、白薔薇は2度目の挑戦で成功させ、天から舞い降りて来た一枚の札を手にした
 術士は拍手喝采を送り、緑髪の少女は喜びを伝えるべく白薔薇姫に抱き付き、それを眺めていた剣豪もよくやった、と
労いの言葉で祝福して背後のメカ達はサウンドプログラムで派手なファンファーレを鳴らす

二番手としてアセルスが[剣のカード]を得る試練に挑み、計4回目で見事に揃えた




 ここまでは順風だった、問題はルージュで最初は魔術師だからこそこの手の試練には一番向いているだろうと仲間達は
誰しもが考えたが、以外にも紅き術士は何度挑んでも、影を揃えることができなかったのだ


アセルスも白薔薇も固唾を飲んで見守る中、ゲンは目を細めてルージュを見ていた



   ルージュ「ま、まだだ…もう一度…っ」スゥゥ…


   ルージュ「あっ!?」



 【怪】【怪】【怪】



 影は三つ揃った、妖<あやかし>達が牙を剥く様…物の怪を3体揃えてしまった…っっ!



 3つの影『――――!』ドジュウウウゥゥ



 ゲン「全員、武器を手に取れ!」チャキッ





      影 が モンスター の 形 に 変貌 していく !



 ヘルハウンド「グルルルル…」

 モンキーライダーA「ウキキッ!ウキャッ!」
 モンキーライダーB「ウキキッ!ウキャッ!」



 焔色の吐息を漏らす口部は獄炎の園に続いているのか、大型犬の魔物は唸る度に高熱を吐き出し
生意気にも一輪車に乗った白猿は2匹で仲良く一行を嘲っていた、武器を構えだした一行よりも先に
片方の猿はペダルを漕ぎ、[暴走]するッ!



  モンキーライダーA「キャキャキャキャ―――ッッ!」ギュゥゥン!!


517 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/11(月) 22:24:57.98 ID:g926szxQ0


   一輪車『  』ギュラララララララララララララ―――ッッッ!


  白薔薇「あ、アセルス様!伏せてくださ あ"ぁっ!?」ドギャンッ



 獣系の魔物[モンキーライダー]はその愉快な見た目に反して相当なパワータイプであり、彼奴の駆る一輪車を
舐めて掛かってはならない、細い脚の何処にそんな筋力があって、何で一輪車が出来ているのか
過去に冒険者の成人男性がこの白猿が操る車輪で轢かれ、腹の贓物が見事にミンチ肉にされたなどという事案があった
 トリニティ政府はこの一件から、このモンスターを【危険度ランク4】相当の危険生物として認定した



 ルージュ「白薔薇さん!?っ――こ、こいつぅ!!」チャキッ BANNG!



 三畳の畳で座していたルージュは立ち上がり、持っていた拳銃の引鉄を引くが―――


  ヒュンッ!


  モンキーライダーB「ウキャキャキャキャキャキャ!」ゲラゲラ…!


  ルージュ「だ、駄目だ…!早すぎて当たらな――」



  ドゴォッ、グシャッ




  ルージュ「……。」

  ルージュ「ぇ」


 ゴロッ…ボトッ…ドクドク…


 ルージュの左手首『 』ドクドク…


  ルージュ「――――ッ、う か” あ””"あぁ"ぁ"――」




 左手は火が点いた様に熱くなった、宙に浮かぶような夢心地を一瞬感じで、身体が自然と後方へと倒れていく
ごつん!と後頭部を畳へ打ち付けて、何が起きたのか辺りを見渡した…

"何か"が倒れた自分に続く様にワンテンポ遅れて床に落っこちてきた、それは見覚えのある左手首で誰のだったか

脳がそれを理解した瞬間に、熱の灯った左手首の付け根が熱さから激痛へと変わった、それがルージュが気を失う前の光景








            ゲン「  [ 二 刀 烈 風 剣 ] !! 」ヒュッ!シュバン!シュバン!シュバンッ!






―――
――


518 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!nasu_res]:2019/03/11(月) 22:25:34.13 ID:g926szxQ0









   ルージュ「…うっ、ここは、…何処だ!?」




   「けけけっ!だから言ったろう!そんな豆鉄砲じゃ鳩だって堕とせやしないぜ!クケーッ!」


  ルージュ「…お前は!」




   ハーピー「そうともよ![心術]の試練じゃよくも術で殺してくれたな!けけ…でも許してやるよ!」

   ハーピー「お前は今から俺と同じトコに行くからサ!仲よくしようや!兄弟!ケケケッ!」


  ルージュ「兄弟!?ふざけるな誰がお前みたいな奴と…待て、なんだって、僕がお前と同じトコに…」





ガシッ


  気が付けば、ルージュは[ハーピー]の鉤爪に掴まれていた―――





   ―――いや、鉤爪じゃなかった、それは人の手だった、さっきまで拳銃を握っていたルージュの手と同じ人の…







     ハーピ?「聞こえなかったのか?お前はこれから俺と同じトコに行くんだよ」グニャァ…



   目の前の半人半鳥の化け物の顔が粘土のようにぐにゃぐにゃと代わる




     ハー?ー「お前はこれから血塗られた運命に従って悪行を重ねる、そんな奴が一丁前に銃を持ち友達を守る?」






     ?ルー「笑わせるな」




     ブ??「友を守るというのも建前だ、"資質"を得て俺を殺す為、いいや、違うな」

     ??ー「おまえは結局の所、反逆罪で殺されたくないから、その為に何かにつけて理由を述べ」

     ブル?「そして、資質を得て、自分が助かりたいから武器を手にしているだけだ…力を手にして俺を殺す為に」




    ルージュ「…ぁ、ぁあ…ま、まさか…君は」ガタガタ


519 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!nasu_res]:2019/03/11(月) 22:26:22.08 ID:g926szxQ0

   [ハーピー]の顔が誰かの顔に変わっていく…それは、朝起きて顔を洗う為に鏡を見ればいつでも会える顔…














          ブルー「なぁ?そうだろう"兄弟"」


          ルージュ「ち、違うッ!」














  ブルー「いいや、違わないさ、なら何故お前は仲間に旅の目的を打ち明けない?」

  ブルー「エミリアと[マンハッタン]で話をしていた時だってそうだ、あの4人での昼食時の時にでも言えれた筈だ」


  ブルー「『僕は国命令で実の兄弟を殺す為、修行の旅に出たんです』と、な」


  ブルー「言わないのは、お前が仲間を心の底から信じていないから…―――利用するのが目的だからだろう?」


  ルージュ「ッ!―――そんな訳が」






  ブルー「 な ら ッ ! 何 故 言 わ な い ! 答 え ろ ル ー ジ ュ !!」



    ルージュ「っ」ビクッ!





  ブルー「…。」

  ブルー「だんまりか?自分に都合が悪い事だとお前は誰にも何も口を出さないな、仲間にも真実を打ち明けない」




  ブルー「そんな迷いを抱えている様な、情けない男が…試練を1つだって乗り越えられる訳もないだろうに…」

  ルージュ「……ブルー…?」



  ブルー「貴様の仲間とやらは、お前の真相を知れば掌を返して突き放すような軽薄な人間か?」

  ブルー「ならこれまでの旅はとんだ"うわべっ面だけの友情ごっこ"だったな、貴様には似合いだ」


  ルージュ「…!」


  ブルー「まぁ、俺もお前も同じ所、……地獄に落ちるのだ、今更どうでもいい話だな」スゥゥゥ…
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/11(月) 22:27:02.91 ID:g926szxQ0


      ルージュ「き、キミ…身体が透けて…」



      ブルー「先に地獄で待ってるぞ」シュゥゥゥ…






    ルージュ「ま、待て!ブルー!ブルー…っっ!!     兄さん!」










  ゴォォォ!


     ルージュ「えっ、あ、うわああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」





    ゴオオオオオオオオオォォォォォ!ボォォォ! メラメラメラ… バチバチ!



―――
――


【双子が旅立って 5日目 16時27分 [ワカツ]の天守閣】



  ルージュ「――ぃ、いやだ、いやだ…」う〜ん


 ゲン「おい!しっかりしろ!兄ちゃん!起きろって!」ペチペチ


  ルージュ「…。」

  ルージュ「ハッ!?こ、ここは…さっきのは?」


 ゲン「兄ちゃん、白薔薇の姉ちゃんに感謝しろよな?妖魔だから比較的軽傷だったって、んで[克己]で完全回復して」

 ゲン「そっから気ぃ失っちまった兄ちゃんに付きっきりで看病してたんだぜ?[陽術]の使い手で助かったな」



 ゲン「なんの夢見てたんだか知らねぇがよ、…俺から一言言わせてもらうぜ」


ゲンの目が細くなる、さっきまでのルージュの試練を終止見ていた時の眼だ


 ゲン「[剣のカード]は心の試練だ、[心術]の修行と似てはいるが、微妙に異なる試練でな」

 ゲン「迷いがある奴は影を三つ揃えることはできねぇ……兄ちゃんを途中から見てて思ったのさ」


 ルージュ「迷い…」


 ゲン「ああ、…[心術]の修行ってのは聞くところによれば自分の心の奥底にある不安や怖れがバケモンの形で出る」

 ゲン「で、そいつに勝ちゃあ合格ってもんだがな、俺が思うにそれは"切欠"なんだわ」


紅き術士は「それはどういう意味ですか」と尋ねようとした、ゲンは腕を組み静かにルージュへと語る
521 :今回此処まで [saga]:2019/03/11(月) 22:27:42.81 ID:g926szxQ0

 ゲン「そうだな、…俺は精神科のお医者様じゃあねぇからあんましどうのこうのと言えやしねぇけど」

 ゲン「人間の心には自分にしか分からない側面と、他人にしか分からない側面、自分にも他人にすら分からない面」

 ゲン「そういうのがあるって聞いた事ねぇか?」


 ルージュ「それは、あります…確か人間心理学におけるジョハリの窓でしたか…」


 ゲン「いやぁ、俺は専門家じゃねえからそんなもんの名称なんざどうでもいいんだ」

 ゲン「重要なのは、そこだ、【自分で気が付いていない不安や見つめなきゃならない問題】を気づかせる」


 ゲン「それが[心術]の修行における真の目的で、夢の中で魔物倒して資質を貰うのはあくまでオマケじゃないかって」

 ゲン「俺はそう思う、実際はどうだか知らねぇけどよ」




 ルージュ「……」




 -『へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ』-

 -『けけけっ!だから言ったろう!そんな豆鉄砲じゃ鳩だって堕とせやしないぜ!クケーッ!』-


  -『おまえは結局の所、反逆罪で殺されたくないから、その為に何かにつけて理由を述べ』-

  -『そして、資質を得て、自分が助かりたいから武器を手にしているだけだ…力を手にして俺を殺す為に』-



  -『いいや、違わないさ、なら何故お前は仲間に旅の目的を打ち明けない?』-



  -『 な ら ッ ! 何 故 言 わ な い ! 答 え ろ ル ー ジ ュ !!』-


 -『だんまりか?自分に都合が悪い事だとお前は誰にも何も口を出さないな、仲間にも真実を打ち明けない』-






…[心術]の試練で、心の中に出て来た化け物と1対1で戦った


仲間は誰も居ない、その土俵でルージュと、"目の前の人物"と1対1で、決闘をしたんだ

そいつは、夢に出て来て、自分の行動を指摘した…なぜ旅を共にする友人に真実を打ち明けないのだ、と
 心の底にそんな重荷がある奴が試練を達成できるものか!と…見た事も会った事も無い兄に叱られた




 自分自身が気づいてない深層心理の奥底、本当は勇気をだして見つめなきゃいけない問題に気付かせる…



それが[心術]の資質を得た物が最初に開く学び舎の門であり、探求し続けなければならない課題



 ゲンに言われルージュはそうなのかもしれない、と思った、本当の意味で[心術]の"裏試験"を合格してないのかもな、と


  ルージュ「…ゲンさん、ご迷惑をおかけしました、自分の中で少しだけ答えが見えた気がします」



術士は、決意を宿した…帰ったら、アセルスお嬢にも白薔薇姫にも後に再開するレッド少年もだ


自分の…"親友"に、僕の旅の目的―――兄殺し――を告白しよう、と

522 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/12(火) 16:30:28.40 ID:2xkBbZl7O
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/13(水) 07:03:00.11 ID:aZm8qjWJO

心術の資質を会得出来たこととも絡めてくるとは
524 :少し投下 [saga]:2019/03/16(土) 01:27:47.02 ID:5vLt6XnI0


 ルージュ「もう一度だけ、…カードの試練を受けさせてください」ジッ



 ゲン「……ふむ」


 ゲン「…兄ちゃんの眼にゃ未だ迷いや戸惑いの色が見えるな」

 ゲン「だがその奥に強い意志の色も見える、腹括った野郎にしかできない目だわな」


[京]の旅館でも見た、瞳の奥にある力強い"何か"…、まだ20そこらしか歳を喰っちゃいない男がそんな重い目をできるのは
相当の理由がある、剣豪はだからこそこの魔術師を見守ってやろうと思った、一体腹にどんなモンを抱えてんのか、と



 ゲン「俺は護衛だ、兄ちゃんが折れるまでは何度でも傍に居てバケモン共を斬り捨ててやるさ、好きなだけやんな」

 ルージュ「…感謝します」ペコッ


 ゲン「おっと、礼はいらねぇぜ、それよか」

 ルージュ「はい、他に言うべき人が居る、ですよね」


 ゲン「わぁってんじゃねぇかよ、ほら、女は待たせちゃいけねぇんだ、とっとと行けって」


白薔薇姫とアセルスお嬢に心配かけてすまないと謝りに行こう、その思いを胸に彼は下の階層へと駆けて行った



  ゲン「やれやれ…、まだ危うさはあるが、あの分だとアイツは試練に合格するだろうな」ゴソゴソ


 剣豪はその場に胡坐をかき、一升瓶を取り出す…彼は考える、ああいう目をした奴はこの惑星<リージョン>が
世界最強の剣術家たちの憧れであった頃によく見た
 目の奥に宿る、命と命の奪い合い、生と死、自分の命を護る為に目の前にいる敵を斬り殺そうとする戦士の眼だ
合戦場で足軽から武将まで、全員が光らせる命を諦めまいとする眼差しとほぼ同じだ


  ゲン「―――」グビグビ、プハァ


  ゲン「かぁーっ!うめぇ!!」ダンッ



  ゲン「…」

  ゲン(心の迷い、かぁ…)


 酒瓶を床に、置きゲンは一人ボロボロの天守閣の天井を見上げた、優しい酔いが逃げ出したくなるような惨状を暈した
ぐにゃぐにゃと鍋の中で加熱し過ぎて煮崩れを起こした煮物の様に浮かんでくる情景も形を変える


そんな中、彼の頭に一つだけ鮮明な形をした一室が浮かんで来た、この城の地下にある…


  …強き者に最強の剣を授ける神をまつる部屋が―――







ゲンは首を大きく振った、何を考えているんだ自分は、と何処か彼らしくない自嘲めいた顔で浮かんだ景色を振り払った




  ゲン「今の俺じゃ[剣神の間]に行った所でなにも……ハンッ、俺の方があの兄ちゃんより迷いありまくりじゃねぇか」




そう独り言ちり、酒瓶に彼は再び口をつけた

525 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/16(土) 01:28:23.71 ID:5vLt6XnI0
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―――
――


【双子が旅立って 5日目 午後 17時08分 [クーロン]】


 犯罪都市の裏通りに存在する小さな病院、消毒液のアルコール臭さと棚に並べられた怪しげな薬瓶から漂う異様な匂いと
塵埃が交じり合ったこの物件に家主が帰って来た、折角立ち寄ったのだからと自宅で寛ぎながら診断書<カルテ>でも
書き上げてしまおうかと考えたからだ

 1時間そこらしたら、すぐに切り上げて現在所属しているパーティーの元へ戻ろうと玄関口を開くことなく妖魔医師の影が
エントランスの中央に現れ、自分の影から、薄暗い水底からダイバーが浮上するようにヌサカーンは現れた



     ヌサカーン「ふぅ…、おや?…」スンスン



帰宅した医者は、戻って来るや否や鼻をひくつかせた、留守の間に変わった客人が来ていたようだ…
 砂漠に咲き乱れる一輪の白薔薇の様な香り、それに茨の園にある蕾に近い香り


"香り"とは言ったがそれはあくまで比喩表現だ


妖魔は、同族の気配を特有の感覚で察知することができる

 留守の合間に来ていた妖魔の置き土産である妖気は、強い芯を持っているがまだ咲ききれない蕾の様な物と
ハッキリとした品位を持った気高い存在だと窺い知れた、裏通りで観光客目当てに追剥紛いなことをして生計を立てる
溝鼠以下の下級妖魔のソレとはまた違う



   ヌサカーン「ゾズマ…ではないな、かといって私に治療を求めて来た浮浪者の妖魔でもないか」



奇病フェチとしてその界隈で名が通る変人のヌサカーンは、患者から代金を取らない

 いや、病院の設備維持費の為にも最低限は必要とするが

 普通の病院なら人間が生涯を終身まで延々と労働時間に当て、それで築いた莫大な資金を全額はたいてようやくという
法外な金額の医療費も、ヌサカーンなら『自分の知的好奇心を満たしてくれた』『趣味でやってるから金銭はいらんよ』と
世間一般的な欲望とは他の妖魔以上にあまりにも無縁な人格なのだ

 そんな彼の下に、金は無いが同族の誼、あるいは気まぐれで自分を治療してくれないかと
淡い期待で群がってくる妖魔は少なくない、本当に彼の気分で治して貰えた者以外は門前払いだったが…


神出鬼没の友人であるゾズマではないなら、留守中に忍び込んだ下級妖魔か?

いいや、違う…少し前に此処を訪れた白薔薇姫とアセルスお嬢だ


   ヌサカーン「…まぁいい、誰かは知らんが今は他の患者に付きっきりだからな」テクテク


 彼はクーン等との旅で、時間を見繕っては見つけて来た古い書物の束から一冊
古き時代のリージョン界に関する記述に書かれた本を手に取った




  ヌサカーン「その昔、数多く存在したリージョンが滅んだ、…星さえも破壊する人類の機械兵器」ペラペラ…


  ヌサカーン「これは、確かなんという名だったかな…? あーるびー、スリー…だったかな?」ペラッ


  ヌサカーン「破壊されたリージョンの中に古代の技術がある、星と共に破壊され永久に失われた技術」ペラッ、ペラッ

  ヌサカーン「…ふむ? 最後の皇帝… 麗しの、帝国、 七人の英雄、同化の力と継承の力……ダメだな」ペラッ、パタン




  ヌサカーン「失われた古代時代の情報だ、この本も殆ど掠れて読めんな」

  ヌサカーン「ブルー君の身体も弟の方も恐らくは、これの応用技術が使われている筈…」

  ヌサカーン「恐らく、双子が対面し、片方が片割れの命を奪った時、同化と継承の力が働き――」ブツブツ
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/16(土) 01:29:02.86 ID:5vLt6XnI0


  ヌサカーン「何れにしても資料が足りん、となれば…[マジックキングダム]…[フルド]の奴か」ハァ…

  ヌサカーン「気が進まんな、あるいは裏であの魔法大国と黒い繋がりのある[シュライク]の[生命科学研究所]か」


闇医師は、そう言って再び影に沈み彼は仲間の元へと帰って行った…


―――
――



   ライザ「…。」テクテク…



 日が暮れて、一般家庭から繁華街の飲食店までどこもかしこも食指を刺激する匂いを漂わせる時間帯
当然ながら裏組織"グラディウス"のアジトたるイタリアンレストランも『open』の札を玄関口に掛けて、従業員一同が
店内でせかせかと働いている頃合いであった

そんな中、彼女は一人で雑踏が昼間以上に騒がしくなり始めた中心街を歩いていた、知り合いのニートの頼みだからだ


 一見すればただの買い物帰りにしか見えないパンの入った紙袋を抱えて歩くライザはターゲットの集団へ近づく

 緑色のケモミミ少年と、チャイナ衣装の男女
白いローブを羽織った人魚、…よくウチへ来てルーファスの料理を食べにくる怪しい医者、知り合いから聞かされた通りだ



   ライザ「よろしければどうぞ」スッ

   メイレン「あら、どうも」スッ



イタリアンレストランの割引券『 』



 一枚のクーポン券だ、ただし…"ワケありのお客"にしか手渡されない特別なソレ
普通の席に座り飯を食いに来ただけの一般客と特等席での会食を希望する者を区別する為のパスチケットの様なものだ


他に客の居ない静かな個室で従業員とビジネスの話をしながらの食事だ、カタギの奴らに聞かれたらダメな内容の奴の



  メイレン(彼から事前に聞いた話じゃ[ディスペア]には定期的にパイプや電装関係の修理工が入る)

  メイレン(このお店に行けば、潜入に手を貸してくれるプロが居るってわけね)


  クーン「ねぇ、メイレン…」


  メイレン「うん?」

  クーン「ボク、修理なんてできないよぉ」シュン

  メイレン「…あまり、大きい声で言わないで頂戴、大丈夫よ振りだけでいいのよ」ナデナデ


 獣耳がペタンと垂れ気味で落ち込んだ幼子の頭を撫でながら小声でメイレンは囁いた、フェイオンだってできないし
妖魔のヌサカーン先生…はわからないけど、メサルティムだってできないわ、と元気づけるように



  メイレン「上手くいけたら、刑期100万年の男に会いに行きましょう、ね?」

  メイレン「英気を養うために今晩はこのお店で美味しい物たくさん食べることにするし」クスッ


一枚のクーポン、特別客専用の、50%OFFチケットをひらひらとさせながら笑いかける
 食欲旺盛な緑の獣っ子は顔にパッと花を咲かせて喜び、小動物とも歳相応な幼子ともどちらとも受け取れる行動で
感情を体現した、メイレンの周りを雪が降った後に庭駆けまわる子犬の如くぐるぐる駆け回った


  ヌサカーン「あの店か、サングラスの店長が作るグラタンは絶品だからな、テイクアウトも頼もう」

  メサルティム「…で、では…私はシーフードサラダを…」
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/16(土) 01:29:46.27 ID:5vLt6XnI0


  メイレン「ええ!なんだってじゃんじゃん注文しちゃっていいわよ!全額フェイオン持ちだから」ニコッ

  フェイオン「えっ」



  メイレン「そうね、私も…あっ、このスープオムライスとか美味しそうじゃない?」

  メイレン「あの紙袋の人、メニュー表まで渡してくれたのよね〜」


  フェイオン「め、メイレン…あの、そのクーポン、一品しか割引されないんだが…それに俺の財布」


  メイレン「冗談よ、全く本気にしないでよね…ほら?『[ヨークランド]で手に入った資金』がそのままじゃない」

  フェイオン「そ、そうか!冗談か!ははは…キミも人が悪い…はは」



  メサルティム「あのー…私は[オウミ]で皆さんの旅に加わったので、詳しく経緯を知らないのですが…」



 なにがあったんです?とか、失礼ですが皆さんそんなにお金に裕福そうには見えませんでした、とオドオドしながら
人魚が説明を求める



  フェイオン「あぁ…あれは、なんというか、悲しい事件だったというか…その」ゴニョゴニョ

   メイレン「必要な犠牲だったのよ、[マンハッタン]で売りに出されてた指輪が超高額だったのが悪いわ」



 明後日の方角を見始めるメイレンと気まずそうに口籠るフェイオンにメサルティムの不安げな顔色が更に増した
いつでも笑顔のクーンと金銭感覚が可笑しい妖魔医師の方に顔を向けると二人は訳を語ってくれた



  クーン「えっとね、"豪富さんに貰った"んだよ!」ニコニコ

  ヌサカーン「私は別に治療費などいらなかったのだがなぁ……」フム





      〜 回想 [ヨークランド]  〜




   病魔モール「ぎえええええええぃぃぃ!!…おのれぇ!この人間の命は私の物!邪魔をスルナ!!」



  [生命の指輪]をつけた幼女「ハァハァ…たす、けて…おねえちゃん…」ツーッ、ポロポロ



  ヌサカーン「来たぞ!先に説明した手順通りだ、奴は今、患者に憑りついている…これで逃げられん状態だ」

  ヌサカーン「だが、同時に患者から生命力を吸い尽くし憑り殺そうとする、このままでは患者の生命力が持たん」


  病魔モール「ぎひひっ、そうさ!小娘の命を吸い上げて殺してやるさ!未発育の少女の肉体ほど甘美な生命力は――」



  メイレン「気持ち悪っ!女の敵だわ…先生こいつはさっさと退治しましょう!!」


  ヌサカーン「よろしいならば早期決着だ、   こ れ よ り 手 術<オペ> を 開 始 す る ッッ!」


    病魔モール「エ、あの、チョット―――」


<[シルフィード][超風][短勁][妖魔の剣]

<あぎゃーーーーーっ!
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/16(土) 01:30:33.01 ID:5vLt6XnI0


  病魔モール「ゲボ!」ドジャア


 メイレン「くっ、まだ息があるわね!!こうなったら連携技を決めるわよ!各自!連携しやすい技と術を!」(銃構え)



 ズドンッ! バッ、ドゲシャァ! ヒュンヒュンッ!バチチチ…ゴォォ!



  フェイオン「…既に虫の息だった気もしたが、やったな!」

  クーン「うんっ!これであの子も助かるよね!」





  [生命の指輪]をつけた幼女「う、う〜ん…」




  豪富さん「せ、先生!ウチの娘の容態は!?」ガチャッ、バッ!


  ヌサカーン「安心したまえ、見ての通りだ」


  [生命の指輪]をつけた幼女「おとうさん!」

  豪富さん「お、おぉ…、良かった、良かった…」ポロポロ


  豪富さん「先生!皆さん!本当にありがとうございます!なんとお礼を申し上げて良い事か」


  ヌサカーン「いや、中々興味深い病原体を観察できたし寧ろ私がお礼を「あー!はいはい先生は少し黙ってくださる」


  豪富さん「皆さんにはできる限りのお礼を…」





  [生命の指輪]をつけた幼女「あ、おとうさん、少しだけ待って……よいしょっと」ベットから起きて歩き出す


  アニーの実妹の幼女「ハイ!これ」つ【生命の指輪】


  クーン「くれるの!?」

  豪富さん「お、お前!?それを渡してはお前の身体が…」

  アニーの実妹の幼女「ううん、もう大丈夫よ!それにね、夢の中で指輪が兄弟に会いたいって言ったの」



  アニーの実妹の幼女「クーン君が持ってるんだよね?だからあげるっ!」

  クーン「わーい!ありがとう!」ダキッ


  アニーの実妹の幼女「あっ、…うん、頑張ってね///」



―――
――



  ヌサカーン「とまぁ、このように童女趣味という変わった病原体を観察できて私としては中々愉快な時間だった」

  クーン「あの子元気かなぁ、旅に出る前に教えてくれたけど豪富さんの養子になる前は[クーロン]に居たんだって」


  メサルティム「は、はぁ…そうですか…」

529 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/16(土) 01:31:00.60 ID:5vLt6XnI0

 メサルティムは話が大分脇道に逸れそうなのを察して、軌道を修正しようと考えた
緑の獣っ子は見ての通り、他者への説明が上手とは言えない…幼子特有の本題から脱線して別の話にすり替わるアレだ

 医者の方は、医者の方で完全に趣味の世界に生きてる妖魔だからこのままだと自分が治療してきた珍しい奇病や
某珍百景を紹介するテレビ番組の如く世界どっきり患者特集なんていうトークショーに発展しかねない




   メサルティム「そのー、結局の所どうやって大金を得たんでしょうか…」

   クーン「んっとね、豪富さんから沢山もらったの!」



      〜 回想 [ヨークランド]  〜



  豪富さん「娘はああいってますが、これは私からです、どうか受け取ってください」つ『500クレジット』


  フェイオン「なんと!?このような大金を…」
  ヌサカーン「私は別に金など要らないのだが…」


  メイレン「二人共シャラップ、コホン…豪富さん、ありがとうございます…ですが、その…」






  メイレン「たいへん厚かましいとは思いですがもう少し頂いてもよろしいでしょうか?」ニコッ



  豪富さん「え、あ、あぁ…申し訳ない、娘の不治の病を治して頂いたのに」

  豪富さん「命の値段がたかが500とは確かに少なすぎましたね…今持って参りますので少々お待ちを」



  フェイオン「お、おい、メイレン…」

  メイレン「フェイオン!忘れたの!?[マンハッタン]で売られている指輪の金額を!」


  メイレン「3000クレジットよ!?わかる! 3・0・0・0、クレジット!!公務員レベルの月給いくらだと!?」ガシッ

  フェイオン「ぐえっ…わ、わかった首が閉まるから…ぎ、ギブギブ!」


  メイレン「[IRPO]の隊員みたいな高給の社員がねぇ!一世を風靡する女性モデルに婚約指輪代わりで贈る様な
         [パールハート]でさえ1500クレジットもするのよ!?3000なんてその2倍よ!わかっての!?ええっ!」


  フェイオン「ゎ、わかったから、やめ…あ、意識が遠く…」ガクガク


   ヌサカーン「まぁまぁ、その辺にしたまえ、酸欠になりかけているからな」

バッ

  フェイオン「げっほぇぇ…!!」ゴロゴロ


  豪富さん「お待たせいたしました!もう500クレジットです!…?どうかなさいましたか?」

  フェイオン「い、いえ…お気になさら「豪富さん!」


  豪富さん「は、はい!」

  メイレン「豪富さん…彼、私の恋人のフェイオンは先程の治療で病魔から受けた傷が痛むそうなんです」

  豪富さん「な、なんと…」


  メイレン「娘さんの命を奪われまいと、必死に戦い一歩間違えば此方が死ぬかもしれない激闘でしたわ…」グスッ
  ヌサカーン「いや別にそうでも無かっ「先生、シャラップ」

  メイレン「コホン、豪富さん…非常に申し訳ありませんが、もう500クレジット工面できませんか」
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/16(土) 01:32:18.87 ID:5vLt6XnI0


  豪富さん「そ、そうでしたか…確かに皆さんのお命も危険にさらしてしまったのですね…しょ、少々お待ちを!」


ドタバタドタバタ…


  豪富さん「こ、こちらになります、これで合わせて1500クレジットです!」




  メイレン「豪富さん」ニコッ

  豪富さん「ぇ、ぇ、…あ、あの…」ゾクッ


  メイレン「お金はまた稼げば手に出来ます、でも命に替えはききませんよね?」


  豪富さん「…う、ウチの金庫にあったのはそれで全部で」


  メイレン「 」ニコニコ


  豪富さん「 」

  豪富さん「…ぎ、銀行の預金口座からお金をおろしてきます」


  メイレン「豪富さん!」


  豪富さん「!」クルッ


  メイレン「私達は一旦この家を出ます、…"次、私達がこの家に入ってきて話し掛けた時は"…わかりますね?」ニッコリ



  豪富さん「……は、はぃ…」



―――
――



     ヌサカーン「こうして我々は1時間おきに彼の家に出入りを繰り返し、3000クレジットを入手した」


     メサルティム「…うわぁ」


     ヌサカーン「……。」

     ヌサカーン「…最後はな、『もう勘弁してください』と涙と鼻水を垂らして顔色が真っ青でな」


     ヌサカーン「2階に居た患者の少女も吹き抜け手摺の所から眺めていてな」

     ヌサカーン「身体は健康体になった筈で何処も痛みは無いだろうにな、…泣いていた」


     ヌサカーン「不思議なモノだ、私自身は病に侵された事はないが、心臓部が締め付けられる様に痛くなったよ」


     メサルティム「そ、そうですか…それは、その…なんともうしますか…」


     クーン「んとね、次の日、ボク別のリージョンに旅に出ちゃうからあの子にお別れ言おうとしたんだ」

     クーン「でも、お引越ししちゃったんだって、近所の人が言ってたんだ『豪富さん夜逃げしちゃったよ』って」


     メサルティム「 」


     クーン「せんせー!"よにげ"ってお引越しのことなんだよね?」

     ヌサカーン「…うむ、それで合ってる、キミは賢いな、うむ」ナデナデ
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/16(土) 01:53:55.10 ID:5vLt6XnI0
*******************************************************



                  今 回 は 此 処 ま で !



   豪富さん夜逃げしちゃったよ…、について、少々解説



 25歳の無職ことリュートの生まれ故郷である[ヨークランド]に住む豪富さんがクーン(プレイヤー)によって全財産を
 毟り取られ、養子であるアニーの妹を連れて泣く泣く夜逃げする様子である


 病魔モール撃破後に豪富さんに話しかけることで500クレジットを頂戴でき、更にもう一度話し掛けることで
 500クレジットの追加、更に話し掛けてでもう500せしめられるのであった


 記憶違いで無いなら、一度に3回までで、一度豪富さんの家を出てMAP切り替えをする、再び豪富さんの家に入り
 もう一度話し掛ける事で500クレジットを巻き上げる、そしてもう一度話すことで…以下ループ


 と、無限に金を奪えるように見えて、実は上限があり…この辺りイベント条件を忘れてしまい調べましたが

 この繰り返しで1500×2…計3000クレジットという大金を毟り取る事が可能だそうです
(記憶違いでしたか4回話し掛けるとマップ切り替え後にもう一度貰うが出来なくなったような気がしましたが…)


 未確認情報ですが、パーティーを強化しまくってヌサカーン先生を仲間にせず、病魔モールを初回で逃がさず倒すと
 更にもう500クレジット手に入れて 3500クレジット入手可能になるそうです





 ……大抵のサガフロプレイヤーはマンハッタンで売りに出される指輪の為に豪富さんを破産に追い詰めたことでしょう


 なお、小説版『ヒューズのクレイジー捜査日誌』においては、クーンに大金せしめられて夜逃げするのが正史らしく

 その豪富さんとアニーの妹は[シュライク]の[済王の古墳]近くで木の実を拾って食べたり
 ひもじいホームレス生活をしている…


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532 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/16(土) 07:47:55.89 ID:Bpp/IQrco
悲惨すぎる・・・
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/16(土) 17:50:39.25 ID:rlcIrsbyO
ヨークランドの富豪さん野子とは……嫌な事件だったね
534 :少し投下 [saga]:2019/03/19(火) 22:33:43.39 ID:RPhB0ynO0

 メサルティムは今更ながらこの人達の御供として着いて来て本当に良かったのか、と不安を抱き始めた
高貴な上級妖魔の気配を感じ、ひょっとしたら自分を以前救ってくれたアセルス様が来たのでは!?と期待を胸に
水面から顔を出したのが運の尽きであった
 見知らぬ御方とは言え上級妖魔、機嫌を損ねてはならぬと声をお掛けした結果が旅についてこいだったのだから仕方ない



  ヌサカーン「メサルティム、やはり顔色が優れないようだな」


  メサルティム「! い、いえ、そのようなことは…!!」アワワワ


  ヌサカーン「…何度も言うが、私は別に君を取って食おうとは思っていない落ち着き給え」ハァ…

  ヌサカーン「話しながら歩いていたからか、メイレン達と距離が空いてしまったな、少し早歩きで行くとしよう」

  クーン「はーい!」テクテク
  メサルティム「あぁ!お待ちください!!」フヨフヨ



―――
――

*******************************************************
―――
――

【双子が旅立って 5日目 20時07分 [マンハッタン]シップ発着場】



<4番ゲートより、間もなく[シュライク]行きの便が出ます、ご利用のお客様はお急ぎください



  ガヤガヤ…ザワザワ…




  ゲン「…なんてこった」パサッ



 剣豪は小銭を出して購読した新聞紙を無造作に可燃ごみの籠に放り捨てた
遡る事、数刻前…ルージュは、旅の同行者であるアセルス、白薔薇姫、そしてゲン達に自身の秘密を打ち明けた


その時の会話はこうだ


  ルージュ『―――という訳で、僕は…兄さん、ブルーを殺す為に国を出ることになったんだ、黙ってて、…ごめん』


  アセルス『…そんな』

   白薔薇『血を分けた兄弟で…』




  アセルス『…でも、話を聞く分には、嫌なんでしょ!?だったら…』

  ルージュ『うん、僕もどうにかして断ち切りたい、国に定められた宿命の闘いなんてまっぴらだ』


    ゲン『―――頭じゃ分かっちゃいるが今は、資質を集める、それしかねぇんだろ?』


  ルージュ『…はい、国が何処で監視してるのかは分かりませんが、資質集めの旅をしていないなら僕はきっと……』


    ゲン『そうか、……すまねぇが俺にはいい知恵を出せそうに無い』

  ルージュ『いえ、いいんです、寧ろここまでよくしてもらったんですから』



    ゲン『…うっし、なら俺から旅の途中で聞いた情報をやるぜ、カードの資質で[杯のカード]に関してだ』


535 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/19(火) 22:34:18.22 ID:RPhB0ynO0


  ゲン『俺は見ての通り、無類の酒好きって奴でよ、酒造の聖地とも呼ばれる[ヨークランド]に寄ったのさ』

  ゲン『そこで、[杯のカード]に関する話を小耳に挟んだんだ、酒蔵の奴らがカードに詳しいってな』



  ゲン『…だから、次は"英気を養うために数日経ってから"[ヨークランド]に迎え』


 ルージュ『えっ?』



  ゲン『旅をしなきゃ、反逆罪だっけか?なんかよくわかんねー理由でお前が処刑されるんだろ』

  ゲン『でもよ、厳しい試練なら当然、身体の調子を整えるのは重要だ…』


  ゲン『ここで[剣のカード]を得たら、数日休め、宿泊代は俺が出してやる…』


 ルージュ『…!ゲンさん』


 白薔薇『うふふ!そうですわね、試練に備えてベストコンディションにするのは重要ですわ』

 白薔薇『断じて、それはおサボりではありませんわね』クスクス


 アセルス『現状を打開する方法、考える時間はあるなら、たくさんあった方がいいものね』



  ゲン『俺にはこんな事しかしてやれねぇがよ…お前も気ぃ張ってばっかだと疲れるだろ?』

  ゲン『気にすんな、お前の国の奴らが来て兄ちゃんが怠けてるとか喚いたら俺が片っ端から叩きのめしてやらぁ』


 T-260『協力致します』

 ナカジマ零式『わーお、過激で面白そー、じゃないですかー!』

 特殊工作車『不安はありますが、きっと何とかなりますよ』




 ルージュ『…みんな…』





 嘘も方便、物は言い様、……何かしらの方法でルージュもブルーも、片割れが殺し合いを放棄しない様にと常に
見張る必要性がある、その手段はわからないが、数日程の休養を取る分には"向こう側"も文句は言わない筈だ

 必要な事だから仕方ないのだ、と

 実際問題ブルーでさえ、[ディスペア]潜入で数日足止めを喰らうわ、剣術の修行を始めるわと
試練に挑まず下準備の期間を設けている


 なら、この言い分だって多少は通ると信じたい


 それで何か上のお偉方から御叱りを受けるようなら『ブルーを殺す為に拳銃片手に射撃訓練してました』と
でも適当な口実を言えば良かろう



 そう考えれば多少は気も楽になるというものだ…


 そこから先は影を三つ揃える修行に戻ったルージュが嘘の様に精神を研ぎ澄ませて見事に交差する剣を三つ揃え
天に認められて[剣のカード]を取得した


 一行は[ワカツ]を出て、レッド少年と連絡が取れるように機械文明の発達した惑星で携帯電話を調達しようと
[マンハッタン]に向かった


―――と、ここまでが今現在、機械都市にゲン達が居る経緯である
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/19(火) 22:34:49.99 ID:RPhB0ynO0



  ゲン「まさか俺達が[シンロウ]だの[京]や[ワカツ]に行ってた間に…レオナルドさんが死んじまってたなんてな」



 ルージュ達との[ワカツ]でのやり取り、カード取得までの流れを振り返りながら剣豪は再び、自分が投げ捨てた新聞紙を
睨む様に眺めた、政治経済に関する見出しでヤルート執政官が失脚しモンドという男が執政官になった内容から最近起きた
爆破テロ事件でT-260とゲンに協力してくれたレオナルド博士が死亡したという文面までハッキリと見える



 レオナルド・バナロッティ・エデューソン…


 近所のバーガーショップで安いハンバーガー齧りながらT-260の独創的なデザインと構造に興味を持ち
特に深く理由を聞くことすらも無く、高い地位にある天才科学者の彼は無償でコアの解析やメモリ容量を増やしたり
助言をくれた話の分かる人物だった、…変人ではあったが



 トリニティ関連の人間は、少し前のゲンからすれば故郷を奪った目の仇だったが今は少しだけ見方が変わっていた


少なからず交流があったから、もう赤の他人じゃないから…顔見知りだから、とも言える

 レオナルド博士の様な御人好しのロボットオタクなど風変りな奴もトリニティには居る
政府の人間全員が悪人では無いと実際に腹を割って話したからというのもある




それだけに、知り合って数日の間に命を落とされたというのは……何とも言えない複雑な心境だ




  ルージュ「ゲンさん…」


   ゲン「あ?なんだい、兄ちゃんかよ驚かすなって、で?どうだった電話は買えたのか」

  ルージュ「それはバッチリです」


   ゲン「へへ、なら良かったじゃねぇか」

   ゲン「だがよ、今日含めて2泊で良いのかよ、もっとゆっくり時間作った方がいいんじゃねぇのか」


  ルージュ「二人共話し合ったんです、それなら2日後にレッドと合流して僕の事を打ち明けて」

  ルージュ「それからまた休んだ方がいいかなって」

   ゲン「あぁ、あのサボテン頭の坊主か…電話では言いたくないか?」

  ルージュ「ええ、こればかりは…面と向き合って僕の口から伝えたいんです」



 凛とした紅き術士の声に「そうか」とだけ剣豪は返した、受話器越しじゃない、本当に大事な事だからこそ
顔を合わせて生の声で伝えたい、その気持ちはゲンにもよくわかる





  ゲン「…『友達』は大事にしろよ、人ってのは何時会えなくなっちまうか分からねぇんだ」

  ルージュ「えっ…」




それは、果たして誰を指していたのか一瞬ルージュには分からなかった

[ワカツ]で死に別れた戦友だったのか、それとも数日だけ顔を合わせなかっただけで死んだレオナルドだったのか



何れにしても、これだけは共通だ―――"人は何時会えなくなるから分からない"…

537 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/19(火) 22:35:33.37 ID:RPhB0ynO0
―――
――



 機械都市の夜は穏やかだった、同じ夜でも日中と変わらぬ活気を見せた暗黒街とはまるで違う
全ての生命が寝息を立て、メカでさえもスリープ機能をONにして静寂に沈む

唯一の灯りは夜間でも出歩く者の為にと灯った街灯や無人パトカーのライトくらいだ



 シャワーを浴び、バスローブ一枚姿のルージュは白い布タオルで湯水滴る銀髪を拭きながらホテルのカーテンを少しだけ
隙間から覗いてみる様に夜景を眺めた、[クーロン]とはまた違って建築基準法に則った規則的な並びの高層ビルディング
 背の高い企業やマンションの輪郭に所々赤く光る航空障害灯のランプが見え
丁度その真上をヘリコプターが飛ぶのが見えた…



 自分の知らない世界だ


 僕はあと、何回この光景を見れるんだろう、どれだけ同じ景色を見ながら明日を迎えられるんだろうか





急に、心細くなった。




彼が居る部屋の隣室には、兄殺しの勅令を受けたことを正直に打ち明けた仲間の女性が二人寛いでいる頃だろう


仲間に自分の抱える闇を自白した、それでふと、重荷から解放されたような気分はあったが…それでもやっぱり
1人になると堪らなく不安な気持ちになる


明日、目が醒めたら自分を軽蔑する仲間の顔があるんじゃないのか、身内殺しと一緒に居られるかと言葉を吐き捨てられて
そのままルージュは捨てられてしまうんじゃないか




旅立った時と同じ、独りになるんじゃなかろうか


…、背筋が震えた、湯冷めしたのかもしれないな、ちゃんとタオルで紙を拭かなかったからだ

バスローブ姿のルージュは室内空調機のリモコンを手に取り、『暖房』の部分を指で押す
 そのまま、椅子に崩れ落ちるようにドサリと座り、新品の携帯電話を手に取った




  ルージュ「…今頃は[シンロウ]かな」




 慣れないタブレット操作で、登録した電話番号から今はこの場に居ない友達の名前を見る

正義感の強い彼ならどんな反応を示すだろうか、受け入れてくれるだろうか……、それとも拒絶か



 携帯電話を置いて次は掌を天井に翳してみる、意識を集中させる―――暗闇、何も無い真っ暗な空間を思い描く

 影の海に自分が飲み込まれたと考え、その黒一色の世界に一枚の白い紙札を連想し構築させる
暗闇に自由な発想力が生み出したカードがひらりと現れ、表に双剣の模様が浮かんでくるイメージを創る



      剣のカード『 』ポゥゥ…

      ルージュ「……」パシッ



想像は、現実に。

連想は、構築へ。
538 :ここまで [saga]:2019/03/19(火) 22:36:25.89 ID:RPhB0ynO0




   ルージュ「……僕が、手に入れたカード、…資質の欠片、か」




   ルージュ「どう、したらいいんだろうな……」


   ルージュ「僕がブルーなら、…兄さんならどうするんだろう」




 髪を乾かして、手入れの行き届いた布団に潜りルージュは、目を閉じた……


―――
――

*******************************************************

【双子が旅立って 6日目 午前7時21分 [クーロン]】




  ブルー「ふっ!はぁっ!!」ブンッ!ブンッ!


  アニー「無駄に力を入れるなっ!…肩に力を入れればそれだけ大振りのスイングになる」

  アニー「繰り出す剣技や敵の部位によっては意味のある行動になるけど、"大振りになればそれだけ隙ができるわ"」


  ブルー「くっ、わかっている!!」

  アニー「…その癖を直してやりたいけど、いい加減炊き出しやらないとね、メシを食わせろって皆が騒ぐから」


 早朝から店の裏手で稽古に精を出す魔術師と指導する金髪少女は鍛錬を中断し、店へと戻っていく
蛇口を捻り流した汗を洗い落としてタオルで拭く、ブルーが洗面所から戻ると既に起きていたルーファスが新聞紙片手に
白いコーヒーカップを傾けていて…隣に居たライザと何かを話し合っていた


その横を通り過ぎ、自分の席に着いて魔術書を取り出して修得したルーン文字を書き込もうと万年筆を取り出す
 故郷に居た頃は馬毛の筆に墨汁を浸して使ったものだが、初めからインクを内蔵したペンという物は便利だ



何も無い、まっさらな紙。

そこが世界だ。



白に、黒をつける


眼を瞑り意識を集中させる、自分がこの瞬間…筆先を付けている"白"が世界であり全て

頭の中を空にする、白、何も存在しない、"無"


脳は腕の筋肉に電気信号を送らない、何も考えない、だが腕は自分の意志とは別で動く


流れに従う様に握られた万年筆もまた紙面上を滑り、先端から滲む洋墨の粒雫が線を創る



  ブルー「…。」スッ

  活力のルーン『 』ポゥ…



幻想は、現世に。

思念は、真理へ。

539 :少し投下 [saga]:2019/03/24(日) 22:58:57.43 ID:JO3QRXYu0


 蒼き魔術師は閉じた瞼をゆっくりと、劇場舞台の幕開けの如く静かに開く自分が無意識に
描いた文字は生命の遺志、生きようとする力を象徴する証



 ブルー「……どういうことだ」



 彼は、無意識の自分がルーンの導きの儘に描いた文字を凝視した





"逆位置"に描かれた[活力のルーン]を。




 情熱、活力、学び、意欲…前へ進もうとする意志、育ち次第に増していく物事の暗示
蒼い法衣の魔術師は神妙な顔をして占いの結果が何を意味するのか暫し考えを巡らせた


 このルーン文字における一般的な解釈としては向かうべき暗闇の先に明光が射しており
照らされた道を積極的に進むことで道が拓けるというモノ


だが、彼が…いや、彼の霊感が導き出した一文字は反転させた結果



 逆位置における意味は、強すぎる意欲、溢れんばかりの"活力"が水の溜った器に更に注がれて零れ
無駄な労力を使ってしまう、成果を得られずに失敗に終わる


即ち、"急いては事を仕損じる"という奴だ




 ブルー(現状では凶、手を休めて心身共に休養を取るのが吉、とでもいうのか)



頭を抱えたくなった、自分は来るべき果し合いの為に力を得ねばならぬというのに
 この占い結果を導き出したのが赤の他人であれば鼻で嗤って、無視するところではあったが
引き当てたのは他でもないブルー自身の霊感だ


 魔術師としての矜持、血反吐を吐くほどの努力と鍛錬の積み重ねで築き上げた確固たる自分という
決して揺るがない自分自身の能力だ


そう易々と、こんなもの当てになるわけないだろ、とは言えない







 アニー「アンタ、なに変な顔してんのよ、一人睨めっこでもやってんの?」


 ブルー「…なんの用だ」




 ボールペンと手帳を片手に、一人で百面相を試みている可笑しな男の元へ来たアニーは不審な者を
見る様な眼差しで問いかけた

 対してブルーは素っ気なく『何の用だ』と返したが…朝食は何を食べたいのかリサーチを
取りに来たのだろうと持ってる道具から容易に見当はついた

いつの間にか来ていたエミリアを始め、ルーファスやライザにも既に確認を取っていて
一番、端の席に座っていた自分にも注文を聞きに来た


 アニー「何って、見りゃ普通にわかるじゃん」

540 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/24(日) 22:59:49.98 ID:JO3QRXYu0

ああ、そうだったな、我ながらくだらん返し方をした

 彼は彼自身の出した気に喰わない占いの結果に腹を立てていた、その虫の居所の悪さも加担して
声に出す事こそはしなかったが顔に言いたい事が出ていたらしい



 アニー「なにさ、そのムッとした顔は…ったく、朝から何にイラついてんのか知らないけどね」

 ブルー「……悪かったな」プイッ


 アニー「…はぁ〜、今日は折角稽古休んでエミリア達にも協力してもらうってのに」

 アニー「これじゃ先が思いやられるわ…」



 ブルー「は?おい、どういうことだ…」


 アニー「あっ」

 アニー「…いや、稽古ばっかじゃなくてさ
        偶にはエミリアやリュートと一緒にアンタを連れ回そうって話になったのよ」


 アニー「ちょっとした親睦を深め合いって奴よ、4人で街をぶらっと回るの、お分かり?」








胡散臭いなコイツ、それが彼の思ったことだった、大体なんだ今の間の抜けた『あっ』って
 絶対4人で街中を散策する以外に何か企みの一つ二つあるだろう




 ブルー「街をぶらりと、か…」




得た力を試すついでで何となしにやってみた印占いが示した易によれば攻め時に非ず


それこそ、今日の稽古でアニーに指摘された剣筋と同じだ、無駄に力を入れ過ぎてもそれが仇になる




  ブルー「いいだろう、だが何時出掛けるんだ?その話は経った今されたばかりだ」

  ブルー「準備も何もできてはいないが」


 アニー「あー…10時くらいね」

 アニー「それまでは適当に時間でも潰しといてよ」



 それより、何食うのか教えなよ、と急かす相手にトースト一枚に昨日と同じで半熟目玉焼きを乗せ
ミックスジュースを一杯頂こうと答えた



去り際に注文を承った彼女が『あ、[ディスペア]行きなんだけどさ、ちょっと同行者が増えるから』
そんな一言を言われ、思わず椅子から転げ落ちそうになった


 貴様ァ!何を勝手に――と口から飛び出す前に『邪魔はしないから、ただ入るまでよ』と
付け加えられ、ブルーは『それだけならば…まぁ、よかろう』と渋々ながら承諾した



自分の邪魔さえしないのであれば、何でも良い…

541 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/24(日) 23:00:21.56 ID:JO3QRXYu0
―――
――

【双子が旅立って 10日目 午前時49分 [クーロン]繁華街】


 エミリア「わぁぁ!!なにこれ可愛いっ!」ギュッ

 アニー「んー、そうね、確かに可愛いんだけどねぇ…」

 アニー「あたしはその手の可愛さを売りにした愛玩動物ってのは好きじゃないのよね」


 リュート「およ?そうだったか…じゃクーンと会った時は?」


 アニー「正直言うと苦手だったけど、金を落としてくれる客は別物よ」




<キャッキャ!ワイワイ



 ブルー「……。」



 ブルー( 買 い 物 が 長 い ッ !!)



女の買い物は長く、男は待ちぼうけを喰らう…というのは流石に偏見だろう

単純にこれは商店の棚に乗ったモノに興味を抱けるか否かの話だ、自分にとって興味関心を抱ける
掘り出し物であったならば人はそれを何時間でも眺められる
 逆に興味が無い、見てても退屈だ…そういう感想しか抱けない人間が見てて面白くも何ともない
時間が延々と続くだけ


楽しいことなら時間は早く過ぎるが、つまらない時間は長ったらしく思うモノ、体感時間の違い



実際、リュートは女子二人に混じってショッピングを楽しんでいた





  ブルー(…これであれば、部屋に帰って書物でも読み漁っていた方が有意義だったか)




 腕を組んで騒ぐ3人を眺めながら彼は溜息を吐いた、これが彼にとって興味の欠片でもあるか
さもなくば、彼自身の物を見る価値観がガラっと変わりでもしたならばあるいは3人に混ざり
売り物を手に取って良し悪しを語り合いでもしただろう、時間の流れも忘れるほどに



ツンツン



 ブルー「…。」

 スライム「(´・ω・)ぶくぶくぶー」ノソノソ



 ブルー「……」
 スライム「(-ω-)ぶー」ピトッ



 ブルー「貴様は行かないのか、あと俺に引っ付くな裾が湿る」

 スライム「…(´;ω;`)」ブワッ



脚にぴたりとくっつくゲル状の所為で右脚の裾が濡れる
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/24(日) 23:00:51.96 ID:JO3QRXYu0

 相も変わらず『ぶ』と『く』しか発音できないミネラル豊富な生物はブルーにべったりだった

 何の因果でこんなワケの分からん生命体に好かれたのか知らないが彼は半ば諦めに近い感情を
持ち始めていた、いくら邪険に扱おうとも蹴り飛ばしても罵ってもコイツは自分についてくる


 まともに相手をするだけ無駄で気力と体力を消耗するだけだと割り切った




 ブルー「大体、俺と居て何が楽しい?貴様に何のメリットがあるというのだ」

 スライム「(´・ω・`)…! ぶくぶー!」ピョンピョン、フルフル!



 飛び跳ねて、地面に落ちる…身体の破片がベチョ!と音を立てて床を濡らす
首(?)を大きく振り何かを否定する




  ブルー「ええいっ!!だから何だというのだ俺はリュートとは違う!解るわけないだろっ!」



 スライム「(゚Д゚;)!!」ビクゥ

 スライム「……(;´・ω・)」ウーン




 スライム「(; ・`д・´) !?」マメデンキュウ ピコン


その時、スライムに電球灯る…っ!


 スライム「( `・ω・´)ぶくぶーーーーーっ!!」ピョン!ズザザザザザザッ―――z_______!



 ブルー「…なんだ?自分の身体を撒き散らしながら地面をはいずり回って…」



 蝸牛<カタツムリ>なんかが通った後には粘液で跡が残る、突然自身の水分を撒き散らしながら
地面を高速移動するゲル状に魔術師は顔を顰めた

なんだこいつは気色の悪い奴め、と言おうとして気が付いた



 スライムの通った跡『 』ヌメヌメ


 ブルー「…喋れないから文章にするということか、単細胞生物にしては考えたな」



これは"文字"だ、自分の身体の破片(後で回収可能)をポロポロと零しながら走る…
 数刻前に白紙の上に万年筆で文字を書いていたブルーと同じだ、人間の言語を話せないからこそ
そういう手段で会話を図ろうとしたのだ



  ブルー「何々『違う、メリットどうこうじゃない、損得関係なく居たい』…だと?」

 スライム「(・ω・)ノ  ぶくっ!」コクコクッ



 身体の破片を回収しながら器用に鳴き声を上げるスライムにますます彼は首を傾げたくなった
損得関係なく居たい?なんだそれは…


以前、リュートは『お前に一目惚れしたらしくスライムプールから出て来てお前についてきた』と
勝手についてきた動機をそう通訳したが

その件に関して言えばブルーは冗談か何かのつもりで言っているのだと思った

543 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/24(日) 23:01:23.61 ID:JO3QRXYu0


 ブルー「仮にアイツの言う通りだとして、何故、常に一緒に居たがる…」

 ブルー「もう一度言うが"貴様には何のメリットも無い"のだぞ?」



 ブルー「俺が傍に居るだけで空から札束が降って来る訳でも無い、力を得られるわけでもない」


 "モンスター族"は"人間<ヒューマン>"や"メカ"それに"妖魔"とも違う…人は戦いを通して強くなり
妖魔もまた戦いや敵の力を奪い取る事で強くなる、メカならパーツの付け替えで強化が可能だ


 モンスターだけは違う、元々の個体差で生命力が違うことも然ることながら
戦いで倒したモンスターの細胞を吸収し違う種族の魔物に"姿だけ"変貌して強くなる

人間と四六時中一緒に居たら強くなったという話は聞いた事が無い



 ブルー「金銭的な幸福が訪れる訳でも、力を得て他種族より優位に立てるという事も無い」

 ブルー「損得関係なくだと?俺にはまるでお前の考えが理解できない」



心の底から、ブルーは不思議がった


本当に、本当に心の奥底から理解できない



生物は常に他者を蹴落とすことで常に前へ進む、一言で簡単に説明づけてしまうなら『弱肉強食』


人間が朝、起きてその日を生きるためには、元は生きていた何かを食す


それは水中を泳いでた者かもしれないし、空を飛んでたかもしれない

野を駆け群れでくらしていた者だったかもしれないければ…畑の土から産まれて生きていた者も



何かしら生あるものが、その生を奪われ他者を生かす為の踏み台になる






  ……この兄弟―――"兄<ブルー>"と "弟<ルージュ>"の関係性と同じだ




どっちか片方が、片方の命を奪い、明日を生きる権利を得られる



 この話に限ったことじゃない、喩えばギャンブル…儲かる人間が幸福を噛みしめられるのは偏に
【敗者となった誰か】が存在して初めて成立する


 若い子供なら誰だって通う学校の成績…そこから繋がる進学や就職、更に先を言えば
企業における地位<ポスト>だってそう





人は他者を蹴落とすことで日々、前へ進む…

双子同士での殺し合いを促進させる故郷の歪んだ教育の賜物もあってか

それが真理であり世の中の全てというモノだとブルーは想う




だからこそ、損得抜きで誰かと一緒に居たいと考えるスライムの考えが心底不思議に思えるのだ
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/24(日) 23:01:51.53 ID:JO3QRXYu0





 スライムは、人の言葉を話せない……でも『心』はある






人間が産まれた時、親から子へと授かる、子から親へと返してあげたいと思う感情も理解する


巨大生物[タンザー]の体内にあるスライムプールという場所は生命の鼓動である[活力のルーン]を
刻んだ巨石があった、それに触れる為にブルー達は訪れた


"保護"の力に護られた犯罪都市は治安が悪く、また不衛生なスラム化した裏通りが
存在するにも関わらず市場で数万人規模の使者が出る大規模なテロが起きることも疫病さえも無い


寧ろ最近のテロ関連で言えば、最先端技術による治安の良さが売りの[マンハッタン]の方が危険だ


ルーンの印が刻まれた場所は何かと力の流れがある、スライムプールと呼ばれる特異点で
大量の[スライム]が誕生するのもそれが関係している




 あの日、一匹の[スライム]が産まれた


その一匹はだけは他と違い、多感な感受性を持っていた、人間と変わらぬ『心』と
何が『良識』とされるかを分別できるだけの道徳は持っていた



言ってみれば、人間とさして変わらないのだ





その一匹は一人の人間を見た…身体の色は…"青"だった、頭には蜂蜜色の綺麗な髪


産まればかりのそれは、卵から孵ったばかりの雛鳥が初めて親鳥を見る、刷り込みと同じ様に



蒼と金糸雀の人間を、一目見て好きになった
"自分という自我が初めて出来た時"真っ先に見た一番最初の生命だったから


 ある意味でそれは"一目惚れ"で間違ってはいないのだろう
スライムはその日、ブルーに『愛』を抱いた


リュートはスライムの言った言葉を解釈し、ブルーに大まかに説明した





ふわふわとした感覚…この人が好きだ、堪らなく愛おしい、ずっと一緒に居たい人と











――――その感情はまさしく『愛』だ、…でも『愛』には種類がある



545 :今回ここまで [saga]:2019/03/24(日) 23:03:14.96 ID:JO3QRXYu0




 親から子へと授かる、子から親へ返したいと思う感情…





『愛』だ。


損得勘定、打算がどうこう…そんなモノはどうだっていい、無償で贈り贈られる『愛』









とどのつまり、このスライムはブルーに対して

            『親子の愛』を…子供が親に対して持つ情愛を抱いているのだ……























   ブルー「…わからん、俺にはお前の考えが一切理解できないな」

   ブルー「損得関係なく、ただ一緒に居たいだなどと…ナンセンスだ」







   スライム「(・д・)……!?」


   スライム「(´;ω;`)……ぶくっ」ジワッ



   ブルー「……なんなんだよ、一体」ハァ…


   ブルー(人の身体にすり寄って、引っ付いて来て、四六時中俺にべったりで)

   ブルー(何の利点も無いのに一緒の時間を過ごしたい…それでいて突然泣き出す)


   ブルー(意味が分からん)ハァ…


    ブルー「 」チラッ

   スライム「(´;ω;`)…」ウゥゥ、グスッ


  ブルー「……チッ、おいゲル状生物ついて来い」

546 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 06:59:38.41 ID:dG+sN7ADo
スライムあわれ
547 :少し投下 [saga]:2019/03/26(火) 22:08:45.37 ID:lJEgZ43R0


 舌を打ち、面倒臭いと言った表情のまま、彼は水分をダボダボと流すスライムに手招きをする
それを見て未だ泣きべそかきながら地面に潤いを与え続けるアメーバーは
ぷるぷる震えながら彼の後を追いかける


 見様によっては、デパートのおもちゃ売り場コーナーで駄々こねる子供が愚図りながらも
親の後をついてくソレに見えなくも無い




  ブルー「そこの店員、すまないが――――」

  「はい?…―――あぁ!そうですか、その商品でしたら―――」



 スライム「(。´;ω;)? …ぶく?」グスンッ


  「毎度ありがとうございます!今後とも御贔屓を〜!」


 ブルー「ほら…特殊な素材でできた手帳とペンだ」スッ

 ブルー「風呂の湯水に投げ入れたとしても破けず、インクが滲んで読めなくなることも無い」


 ブルー「少しばかり値は張ったが、これで多少はお前との意思疎通も巧くいくはずだ」

 ブルー「筆を咥えて動かすことはできるであろう?奴らと同じ釜の飯を食ってた時も
           お前が器用に色々使いこなしたのは見たんだ、できんとは言わせんぞ」



 曰く、身体の95%が水分のゼラチン質が持ったとしても大丈夫だと謳う店員から購入したものだ
多種多様な種族が銀河の海を渡航する時代なのだからコレくらいの代物も普通にあるらしい


 スライム「(*'ω'*) ぶくぶくぶくーーーーっ!!」パァァァ…!ピョンピョン


 ブルー「ふっ、そうかそうか、嬉しいか」


 相変わらず何言ってるか理解できないが、自分の手渡した手帳を頭に乗っけたまま
野兎並みに飛び跳ねてグルグル回る動作を見るに喜びを表しているのだろう

そう思えば満更でもないな、と静かに魔術師は微笑んだ



  リュート「あっれ?ブルーってばいつの間にスライムとそんな仲良くなったんだ?」

  エミリア「あの手帳ってブルーが買ってあげたの?へぇ〜優しいトコあるのね」



   ブルー「なっ!?貴様ら…いつの間に」


 背後からの声に驚き、振り返ると同時にババッと飛び退く仕草に思わず笑いだす3人
一番最初に噴き出したアニーが『なによアンタ、ビビり過ぎでしょ!あははっ!』と
腹を抱えながら指差してくるものだから遅れて彼は顔を真っ赤にした


その反応が怒りから来るモノだったのか、はたまた羞恥からだったのかはブルーのみぞ知る



 スライム「(´・ω・) ぶ、ぶく、ぶー!」ピョーン音符ピョーン♪



 ワナワナと震えるブルーの背後では陽気にスライムが飛び跳ねる、そんな一幕のあと
4人と1匹は劇場街へと歩みを進めた


―――
――

548 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/26(火) 22:09:29.56 ID:lJEgZ43R0


 リュート「なぁなぁ、まだ根に持ってのかよぉ〜」

  ブルー「…別に、気にしてない」プイッ


 エミリア「持ってるわよねぇ?」
  アニー「アイツ、結構顔に出るタイプなんだよねー」


 プライドの高い人間というのは総じて何処かしら"精神的に幼い一面"というモノがある
そもそも、他人からの評価や体裁を気にしたり、意地を張ろうとする時点で
その鱗片が出ていると言えよう


 隣をへらへら笑いながら歩く無職、声を押し殺してるつもりなのか笑い声も丸聴こえな女性組
真横を跳ねるアメーバー、誰に顔を合わせる訳もなくブルーは劇場街を見渡していた



 古めかしく錆びついた鉄筋アーチは地元民から観光客まで分け隔てなく歓迎する一文が掲げられ
環の下を潜り抜けて見返してみれば、これまた何時取り換えられたのか
識別できないような年代物の照明が通りすがる大勢の通行人の頭数を数えている


さて、[クーロン]を訪れた人間は財布の紐が緩むと言われている


 大概、7割は窃盗被害に遭い、スリの常連達の豪勢なディナーに消え、無事だった者の中身は
この街で最も銭の動きが活発な上位ランキングに消えていくのが関の山だ




 人の夢は終わらない。




 闇市場で取引される他所では手に入り辛いブツ、男と女の情緒が複雑に絡み合う娼館通り
物欲や色情を満たす為の代価として紙幣が飛び、そして上位3として挙げられるのは―――




      ブルー「…随分と賑わうのだな」


      アニー「おっ、わかっちゃう?人間は夢を追う生き物だからね」

      アニー「ルーファスじゃないけど、ロマンって奴に資金をつぎ込むカモが多いのさ」




 その昔、一人の経営者は有名な言葉を残していった、それは経理学の分野というよりも
人間心理学における哲学・思想に近しい言葉であった




 利益を追うなら、夢を追え、と




何時の時代でも如何なる世であったとしても大衆は"夢"を捨てきれない

それを追い求め掴もうとする為であらば投資を惜しまない


子供から大人まで、揺り籠から墓場まで。



誰よりも益を手に出来るのは、夢を本当に理解してる経営者だ

アミューズメント、エンターテイナー…大金を抱き込んだ成功者は、その中でも理解できた者だ




そして、この劇場街は謂わば、そんな未来の成功者たちの卵とそれを応援する出資者達の集いだ
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/26(火) 22:10:01.82 ID:lJEgZ43R0


 小規模なミュージカル劇場から、華々しい装飾のオペラ座…小さな屋台で人形劇をやってる奴ら
皆が皆、でっかい夢を狙ってる、ゼロから始めて誰の手も届かないような"星"にのし上がってやる


どこまでも貧欲に高みを目指す努力の化け物、憧れだけで夢を語り夢に手を伸ばせる天才肌


未来の大スターを発掘しようと目を光らせる利益よりも夢を追おうとするエンターテイナーの卵



 そこかしこに希望を抱いた人間や打ちひしがれた他山の石達がうろついていた
一世を風靡した絶世の美女はその空気に一抹の懐かしさを感じていた



 エミリア「…何処のリージョンもこういうのって変わらないものよね、新人時代を思い出すわ」

 リュート「あぁ、そういやエミリアってモデルさんだったんだよな」


 エミリア「そっ!ファッションモデル雑誌からハリウッド映画までなんでも来いってね!」

 エミリア「エミリアちゃんがテレビに映ってなかったことなんてないくらいだったんだからね」



 ふふっ、と婚約者殺害事件の犯人として無実の罪でヒューズに逮捕される前を振り返る
明るい笑顔を振りまく彼女を見てリュートはふと思い出した



 リュート(そういや[スクラップ]でメイレンと会った時もエミリアが載った雑誌見てたっけな)



 メイレンがエミリアと出会って事情を知ったらジョーカー討伐に全力で協力しそうだなー
なんとなくそんな光景が頭の中に浮かんでくる
ついでにメイレンの隣に座るクーンを可愛いっ!とか言ってそのままエミリアが持ち帰ろうとして
獣耳ショタっ子も仲間入りしそうなまである



 エミリア「そうそう、ハリウッド映画で思い出したわ…今から上映されてる話題の奴よね?」

  アニー「ええ、これから見に行くのはソレよ、ジョーカーとケリつける任務前だし」

  アニー「景気づけってことで見に行っちゃおうって話になったのよ」



  ブルー「映画…か」



ずっと景色だけを眺めていたブルーが単語に反応して復唱するかの様にポツリと呟いた
 ここ数日の付き合いで大体この不愛想な男がどういう人物かは読めた気でいた
恐らく文化圏の違いや彼自身の人生そのものが"映画"に縁の無いモノだったのではなかろうか、と



 リュート「ブルー、お前さんもしかして映画って見たこと無い?」

  ブルー「…見る必要性が無かったからな」



 一応、彼の国にも小さいながら映画館というモノはあるが、殆どが術士見習いの修行者や
勤勉な学生諸君で溢れかえった国だ、あるにはあるが娯楽というよりも教材寄りの内容で…


要するに退屈で眠くなる奴が多い、夏休み前の学生が体育館で聞かされるながーいお話系のアレだ


 そんなモンを眺めるくらいなら教科書を開いて自主勉してた方が効率が良いと宣うのがブルーで
彼にとっての映画とはそういう認識でしかない


 エミリア「えぇ…、それはちょっと勿体ないわよ?人生なんて楽しまなきゃ損じゃない」

 エミリア「これを機に楽しむってことを覚えなさいよ」

550 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/26(火) 22:11:02.96 ID:lJEgZ43R0


思わず口に出してから余計な御節介だったかしら?と自分の発言がこの男に有効だったか考えた
 蒼い魔術師に『…考えておこう』と小さく返され、てっきり不機嫌な顔で辛辣な言葉の機関銃を
撃ち返されるかと後悔が立ちかけたエミリアは意外そうに眼を丸くしたがブルー本人が
そういう思考を持ってくれたなら悪い事では無いだろうと思い『ええ、それが良いわ』と声にした



 劇場街の中心にある映画館では今シーズンの話題作のポスター看板が貼られ、ショップでは
グッズ商品が売られていた、作中の人物をモチーフにした紙カップに入ったポップコーン等



  リュート「何味にする、キャラメルとか塩バター醤油、いろいろあるぜ!」

   アニー「あたしは止めとくよ、それ食べた後って歯に挟まったりするし」

  エミリア「私もパス」


  リュート「わかってねーなぁ、映画っていえばポップコーンだろ、ブルーお前は?」

   ブルー「俺か?…そうだな、じゃあそのキャラメルとやらを」


  スライム「(´・ω・)ぶくぶー」


  リュート「OK、キャラメル2つと塩バター醤油1つな!」



 こういうレジャー施設は飲食物は持ち込み禁止で、中にある店で買わされるのがお決まりだ
しかも、この手の奴は"客の足元を見て来る"ものだ……一杯のジュースが他所で買うより圧倒的に
お高いお値段なのだからな


仲間達から手渡された一枚のチケットを持って番号が書かれたシアターホールへと入る

 薄暗く広々とした部屋の中で半券に書かれた番号とアルファベットの席を探し
大人4人とモンスター1匹の入場者は席に着き、スクリーン映像が始まるのを待った


 話題の上映作『鋼の13世 -時代を開拓者-』とかいう名前だ
なんでも実在のリージョンがモデルだとかいう話だ


――――
―――
――



  『王家の者が術の力を引き出せぬなど…!あれには失望させられた、あれは石ころ以下だ!』

  『あなた、あれとはなんです?私達の息子のことですか』


  『あんなものは私達の子ではない、お前もあれを忘れろ』

  『術の才など無くともあの子は私の子です
    私に宿り、私が乳を与え、私が育ててきました…私にとっては命を分け合った息子です』


  『ならば石ころ共々、この城を出て行け!!』






  『さぁ、行きましょう…大丈夫よ』
  『おかあさま…』


ザワザワ…

  『術が使えない王子様とそのお母さんだー』
  『こら、指をさしてはいけません』
  『出来損ないめー』
  『王家の者が術も使えぬとは…本当に国王との間の子なのやら』
  『薄汚い貧民街の者と不貞を働いたやもしれんな』

551 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/26(火) 22:11:35.87 ID:lJEgZ43R0

――
――
――


  『このこのっ!』ゲシッゲシッ

  『ギュ、ギュス様…やめようよ』



 『あっ、見てよあの二人…術が使えない王子と取り巻きの子だわ』
 『やだ、花を蹴ったり、鳥に小石投げてる…行こう、行こう、あんなの見てちゃ駄目よ』



  『へへっ、ほらお前もやれよ』

  『で、でも…』



  『なにをしているのですか!!』



  『げっ、かあさま…っ』

  『抵抗できない弱い者をいじめるなど、恥ずべき行いです』


  『フン、どうせ僕なんか術の才能がない人間のクズなんだ』


  パシィィ…!


  『――――っ!』ヒリヒリ


  『よく御覧なさい、樹々が花を咲かすのが術の力ですか』

  『鳥が空を飛ぶのは術があるからですか』


  『才能も自分の生まれも関係ありません、…あなたは人間なの、人間なのよ!』



――
――
――


  『こんにちは鍛冶屋の親方』

  『おお!これはこれはギュス坊じゃないか、そんなに鍛冶が面白いかい?』


  『うん、……あのさ、鋼で剣を創るのに術なんて使わないだろ?』

  『へ?そりゃあそうだけど』

  『俺に作り方を教えてくれ、自分の持ってる力でできること、探したいんだ』




―――
――


【双子が旅立って 6日目 午後15時38分 [クーロン]】


 リュート「良い話だったなぁ…」グスッ

  アニー「うん、正直予想以上にいい映画だったよ…あのあと病気の母親との別れとか」グスン

 エミリア「ええ…焼き討ちで消息不明になった後の世界での最後の演説なんてもうね」ウルッ

 スライム「(´;ω;`)」ブワッ

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/03/26(火) 22:12:17.54 ID:lJEgZ43R0

 大まかな物語の流れやテーマを簡単に説明するなら

一人の人間人生を描いた内容で
生まれや才能ではなく自分自身の意志でどう生きていくかを人は選び決めることができるという話



   リュート「なっ、良かったよなブルー!…あり?」


    ブルー「…。」


   リュート「どうしたんだ、難しい顔しちゃって」


   ブルー「うん?あぁ…映画か、確かに素晴らしかった、本心から認めよう」

   ブルー「少し今は考え事をしててな…」


   リュート「そうか?」



 今日は記念日になった、彼の中でつまらない物だと思っていた存在の価値観が180℃変わった
そして、同時に【自分の在り方】を少しだけ考えさせられる日だった



 ブルー(もしも、自分が産まれた時から術の才能も無い人間だったら、か)



 あれは全くのノンフィクション映画という訳ではない、どこぞの辺境の惑星<リージョン>が舞台で
実在した話だとは小耳に挟んだ


 高貴な身分に産まれながら才能に恵まれずに周囲から蔑まれ、疎まれ…そんな人間が自分の手で
運命を切り拓けた物語、術社会主義の[マジックキングダム]とあの作品の世界に置ける術の観点は
少しだけ似ている、だからこそより一層感情移入できたのかもしれない
 術こそが全てで、育ての親に敷かれたレールを走るだけの人生…


―――もしも、レールが初めから存在しなかったならば


あの主人公は最初、父親が最初から敷いたレールに乗って親の後を継ぐ運命だった

それが全くの想定外で人生のレールから弾かれ、定められた将来のスケジュール表は消え失せた
 しかし、どうだ?その後、主人公は暗闇の荒野に、自らの手で進むべきレールを築いた



自分の生き方を自分の意志で決めなければならないのだとしたらば

そう考えてブルーは自分には"何も無い事に改めて気が付いた"…





 それ以外の生き方なんて知らない

 それ以外を彼は考えたことも想像…いや創造することさえも叶わないのだ


 今ある価値観を全て捨てること、今持っている常識が180℃ひっくり返ったら
自分は何を想って行動できるのだろうか



 感情を持たないロボットや歯車と同じだ
誰かが何かをプログラミングしなければブルーは前へ進まない

"自分の意志"があるようで結局は"国家の為"、"育ての親への恩返しだから"と…口にする

自分の意志と言いながらそれは『自分』じゃない、行動や思想事体が既に他者への献身や貢献…




本当の意味で"自分"を持っていない。
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 06:38:17.16 ID:X6iT2jM4o
この映画三時間で収まってたんだろうか……
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 18:57:35.23 ID:DSguIDn8o
風と共に去りぬが4時間越えてたなぁ
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/29(金) 11:34:42.06 ID:y90zi1F1O
まさかのサガフロ2
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:23:25.76 ID:GDcAS2XD0



 アニー「エミリア、ちょいと耳貸して」ヒソヒソ

 エミリア「えっ、……うん、あぁ、わかったわ、此処から手筈通りね」ヒソヒソ






 アニー「おーい!新入りぃーー!そこボーっとした面で歩いてるアンタだよ新人バイト」

 ブルー「その呼び方はやめろ」


 アニー「なら早く皿洗い以外の作業を覚えるんだね、…さて、そんなアンタに昇進チャンスだ」

 アニー「映画の帰りに買い物してけって言われてんだ」つ『メモ』


 アニー「お使いが出来たら、新人バイトから普通のバイトって事にしてやるよ」

 ブルー「まるで意味が分からんぞ!?」



 結局はただのアルバイト呼びじゃないか、呼び名の頭から新人を取っ払っただけだろ、と
眉間に手をやる蒼き術士には決定権など無い、破天荒な女上司からの命令なら仕方ない

 職場における縦社会は誰しもが抗えない
それは尊大な態度を取ることの多いブルー自身も例外に非ず、都会に揉まれて多少は角が取れたか
 これでも一週間近く前よりかは大分、人間性が丸くなったと思われる

 半ば押し付けられるようにグイっと寄越された紙切れには、住所が記されていて一緒に
代金支払い済みの受け取り用の伝票まで添付されていた…



 ブルー「4件、しかもそれぞれ店舗の距離が結構あるじゃないか」

 アニー「アンタそんなナリでも男でしょ、これも筋力トレーニングの一環と思いなさい」



 ブルー「あぁ、くそ!…行けばいいのだろう!」クルッ!スタスタ…



 懐に剥き出しの感情の儘に紙の束を突っ込み、踵を翻して足早に最寄りの店舗に向かう
そんな魔術師の後ろ姿を眺め、やがて小さくなって揺れる蜂蜜色の結った髪さえも特徴的な蒼も
彼の存在を示す色彩が一切見えなくなってからアニーがエミリアとリュートの方へ向き返り



   アニー「うまいこと行ったみたいね」

  エミリア「今朝は内心焦ったわよ?アニーってばうっかりボロだしちゃうんじゃないかって」

   アニー「まぁまぁ!結果オーライだからいいじゃん」



  リュート「そんじゃ、俺も店の方に行って飾りつけでも手伝うとしますかね〜」

  スライム「(。´・ω・)?」キョトン


  リュート「ん?あぁ、お前は何も知らないんだったな」


  エミリア「リュート、手伝ってもらって悪いわね」

  リュート「いいんだよ!俺だって暇だしタダで騒げて美味いメシと酒にありつけるしな」タハハ



   アニー「リュートが無職の暇人で助かったわ」

  エミリア「ええ、でもいい加減に就職先見つけなさいよ、イイ歳なんだし」


  リュート「君ら、ナチュラルに俺の心抉ってくれるなぁ」
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:23:57.99 ID:GDcAS2XD0
―――
――



 ブルー「1件目は古い家電を修理して売りさばく、所謂リサイクルショップ」

 ブルー「そこで渡されたのがこのレコードか…」




  -『はいはい、…あぁ!ルーファスさんトコの店の人かい』-

  -『ほら!頼まれてたレコードだよ、なるだけ当時の音源が出る様に修復したんだ』-



 ブルー「随分と、古びた物だな…」スッ


 昔懐かしの蓄音機に添えて使うレコードが数枚
イタ飯屋の倉庫奥に埃被った布で覆われて眠っている置物に添えて使う気なのだろう


ブルーは眼を細めて、作曲者の名前を読もうとしたが如何せん古い物で文字が掠れて読めない



  ブルー「イ…ト……、駄目だな、読めん」


レコードケースに辛うじて読める曲名がある『情熱の旋律』という名で、その横に小さくスペルで
minstrel<ミンストレル>と書かれていた




        ブルー「…minstrel、…吟遊詩人か」




 作曲者の本名は不明、アーティスト芸名か何かなのか、ただ吟遊詩人と気取った横文字だけ

年代も何時のかは判明していないが、リサイクルショップの店主が修復がどうのと言っていた辺り
相当な古い時代の詩<ものがたり>なのだろう







 ……嘗て、この世界には―――いや、無限に広がる銀河の海には多くのリージョンがあった








 とあるリージョンは『塔』のような形だったかもしれない

 とあるリージョンは秘宝の眠る宝庫の様な世界や時空さえも廻れる世界だったかもしれない





 その昔、トリニティの上層部しか知らない秘められた歴史がリージョン界にはある


 人の英知が創り出した【惑星を破壊する無人機】とそれに対抗するリージョンシップ等の闘い


 その戦争の余波、あるいは指輪を集めるクーン少年の故郷[マーグメル]の様に惑星の寿命で
消滅してしまったリージョンは数知れない


 今、ブルーが何気なく持っているレコードも何時かの時代で誰かが見て来た冒険譚をそのまま
歌詞にした…そんな"SAGA<ものがたり>"なのかもしれない

558 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:24:34.75 ID:GDcAS2XD0

 人の数だけ物語はある

 生命の数だけ音が、詞が存在する



 邪神に立ち向かう勇敢な戦士たちの詩もあれば、麗しの帝国の歴史を語った唄もある

 皆既日食の刻に運命の子供がリージョンを平面から球体に変えたなんて御伽噺だって存在する






 他にも幾つもの『物語』がある


 どこかの惑星から、何時、何処で、誰が、誰に、それを伝えたかは知らない

 だけど、確かにそれは語り継がれ、今を生きてる人の胸の内で生き続ける、長い歴史の末に
多少の曲解や間違った伝わり方をしたものもあるかもしれないが
 それでも伝わったのだ…




 これらの物語の舞台になった惑星は、かの[マーグメル]の様に星の寿命で滅んだかもしれない
あるいは古代の戦争で惑星破壊兵器に粉々にされたかもしれない


…そんなことはなく、今もこの時代で普通に銀河に煌めく星の1つとして輝き続け
 誰も見た事のない"その後"の物語を、その世界は創り続けているのかもしれない



―――
――




 ブルー「2件目は花屋で、3件目は酒屋…そして最後は…」



 花屋で受け取ったブーケと酒瓶、奇しくも、受けとった花の香りと色合いは
自分にとって好ましいと思える物で、酒瓶もここ数日の酒盛りで味わった中では一番好きな銘柄だ

少し重たく感じる荷物を抱えた腕も好きな物だからか然程、苦には感じなかった


 最後に訪れた店はこの犯罪都市にあるのが不思議なくらいに小奇麗な店で
白塗りの壁についている可愛らしい小窓から漏れているのか、小麦粉と砂糖の焼ける匂いがした
木戸を押し開けて、入店すると籠の中にショコラやクッキーが並べられていて奥のガラスケースに
大きなお祝い用のケーキ達が自分の引取りてをまだか、まだか、と待ちわびている



  ブルー「すまない、頼まれていた品を引き取りにきたのだが」スッ『受け取り用伝票』


    「は〜い、ルーファス様ですね、ありがとうございます」スッ



 大きな紙箱に入れられたケーキを持って、ブルーは店員に一礼し自分の住み込み先の職場へと
歩き出す、これを無事に持ち帰ればおつかいは終了だ



   ブルー「やれやれだ、誰かの誕生日祝いだとでも言うのか…」



 帰路にて彼は、ふと自分が手にしている包みを見て思った
ケーキに花束…加えて音楽レコードに数本の酒瓶、これではまるで絵に描いた様な祝いの下準備だ

重たい荷物を持ったままブルーは職場まで戻ってくる
見慣れた道、イタリアンレストランの緑、白、赤のTricolore<トリコローレ>と扉に掲げられた看板


…ここでブルーは眉を顰めた、戸に掛かった看板の文字が『open』ではなく【close】である事に
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:25:17.72 ID:GDcAS2XD0

 昨朝、睡眠不足だったブルー当人が目玉焼きの乗ったトーストを齧りながらが呟いた事だ
この店は午後4時から午後10時までの営業時間だと、あの日はアニーにも確認を取った
 裏稼業の方が山場だから準備のために時間を割いていて
午前中の営業は無い分、午後はしっかりやるのだと…だがこれは一体どうしたことか
店の看板に綴られた英文は、本日は営業を終了したと知らせる一文ではないか…


  ブルー「誰が当番だったか知らんが、札の裏表を間違えたか?」


 ならば早く戻って、店主であるルーファスに間違って【close】になっているぞ、と報告しよう
そう思い立って彼はドアに手を掛けたが…
 時刻はとっくに16時を過ぎていて、開店時間になっているはずだった、であるにも関わらず
カーテンは閉め切っていて、明りも点いていないことが外からでもよく分かった


 意図的に【close】の札にされているのか?

その思考に至ったのが戸を開いて足を暗闇の中へと進めた瞬間だった

















          「サプラァァァーーーーィイイイズ!!」パァァァァン






  ブルー「な、なんだ!?」ビクッ





 ぱんっ、ぱんっ!弾ける音が聞こえたと思えば、灯りがついて、彼の視界に飛び込んでくるのは
色彩鮮やかな紙吹雪と紐の波


 中身を放ったクラッカーを手にしたリュートが悪戯の成功に喜ぶ無邪気な子供じみた笑みで
こちらに歩み寄って来る

ただ、一点いつもと違うのは、ボサボサ髪にちょこんと乗っているのが彼の地元の民族帽ではなく
パーティー用のトンガリ帽子であることに付け加え、デカいお鼻と黒ひげ付きの渦巻き模様の眼鏡
所謂、鼻眼鏡スタイルであったことだ



   アニー「おっ、ちゃんと"おつかい"やれたじゃん!」



 同じくトンガリ帽子被ってクラッカー持ったアニーが、スライムが、ライザが居て
後ろにはルーファスも何故かバニーガール姿のエミリアも居る


  ライザ「アルバイトも正社員も関係ないわ、私達の所は新人には歓迎会を開く事にしてるの」



 エミリア「私はレストランじゃなくて"裏"の方だから無かったけどね…」ジロッ

 ルーファス「当たり前だ」


 ブルー「 」ポカーン


人は理解が追い付かないと脳がフリーズするという、魔術師は処理が追い付かず暫し固まっていた
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:25:47.21 ID:GDcAS2XD0

  ブルー「…」ハッ!?

  ブルー「ま、待て、では…これは…」



  アニー「見ての通りアンタの歓迎パーティーよ」

  アニー「ウチの店で住み込みで働くんだから当然でしょ?」



 グラディウスモブ男「そうだぜ、新人歓迎の為に今日だけは特別に飲食店は休業さ!」

 グラディウスモブ女「その分明日はモーレツに忙しくなるから思いっ切り騒いじゃおうっ♪」


 リュート「へへっ、俺は一緒に金儲けした仲だしお前の相棒だろぉ〜?ゴチになるぜ!」

 スライム「(/・ω・)/ ぶっくぶくっぶ〜!」


  ライザ「あなたが手に持っている品はあなたの為の物よ」

 ルーファス「祝いの席の主役におつかいに店まで取りに行かせるのも可笑しな話かと思うが」

 ルーファス「内装の下準備やサプライズ用ということでな」

 エミリア「今朝の連れ回しから映画館まで、全部が時間稼ぎだったのよね〜」



 いつもなら客が座る飲食店のテーブルや椅子は宴会仕様に変わっていて
丁度ブルーが帰って来る時間帯を見計らってか美味しそうな香りと熱を放つ出来て間もない
料理のフルコースが主役を待ちかねていたようだ

 レジが置いてある位置には倉庫で眠っていた蓄音機が居座り、花が飾られていない花瓶が
薄い空色のテーブルクロスの中央に乗っている

 皆が持ち寄った少しお高い酒瓶から希少な銘酒、安物の缶ビールが山積みになっていて
まだ数本酒瓶を置けそうなスペースが空いている

そのすぐ傍には大きなホールケーキを置くのにぴったりな空の大皿とナイフ、取り皿が数枚





  魔術師は困惑した。



 この状況よりも、自分の心の中に沸いた"知らない熱"に






     - 『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』 -
     - 『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』 -
     - 『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』 -
     - 『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』 -
     - 『あいつ、死なねぇかな…』 -



  リュート「ん〜、どうしたんだよブルー、パーティーの主役のお前がそんな棒立ちで」

 グラディウスモブ女「あっ!わかりましたよ、ブルーさんきっと照れてるんですよ!」

 グラディウスモブ男「なんだそんなことかよ、俺達は同じ職場で働く仲間だしそんな必要ねぇ」

 ルーファス「ああ、同感だ、短期アルバイトであろうと正社員も関係ない」

  アニー「むしろ、ウチの店に住み込みなのだから家族みたいなものと思ってくれていいわ」

  ライザ「そういうことよ、折角の料理も冷めてしまうわ、いらっしゃい」

 スライム「(`・ω・´)ぶくぶくぶー」

 エミリア「…まっ、色々問題はあるけどさ、…慣れて見ればアットホームな職場なのよね〜」

561 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:26:14.72 ID:GDcAS2XD0


胸の奥が、急に熱くなった


そこに突然沸いた熱が膨れ上がって、小さな器から溢れてしまいそうで








-ヌサカーン『キミ、気づいていないのかもしれんがね
         彼等の声に耳を傾けていた時何処となく楽しそうに見えていたよ』-



-ヌサカーン『中々にイイ傾向だ、他者との交流、会話は自分の感情に彩をつける』-

-ヌサカーン『現にキミは【呆れ】や【驚き】時に【怒り】そして
               ……相手の思考が読めない事から【戸惑い】や【疑問】』-


-ヌサカーン『様々な『感情』を抱き始めているではないか
                    交流の無い者は次第に心を閉ざしていく』-


-ヌサカーン『キミの心に巣食い始める病の予防薬になるだろう』-






数日前に、ヌサカーン医師に言われた言葉が不意に甦った

【呆れ】でも【怒り】でもない感情…

確かに今の自分が感じている『何か』に【驚き】や【戸惑い】を隠せない





  ずっと冷え切っていた、蒼く、冷たく…閉じきっていた胸の奥に


  向けられた沢山の悪感情から、奥にあるソレを守る様に閉じていたそれがゆっくりと開かれ

  温かい物が見ていく感じ…久しくブルーが忘れかけていた『何か』だ






  その何か、が何なのか思い出せない、名前を、名称を彼は口にできない




 エミリア「えっ、ちょ、どうしたのよ…」






  ブルー「……?」ツーッ

  ブルー(…!これは…なんだ、俺の目から…)スッ


目元に触れる、指先が水分を認識する…何故、それが零れたのかはわからなかった


  ブルー「なんでもない、ゴミが入っただけだ、それよりもライザの言う通りだな…行こう」



『※※※』という名の感情を言葉にして言えなかった、ただ目にゴミが入ったから泣いたと
彼は言って、荷物を持って待っていてくれた仲間達の元へと歩き出した
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:27:02.54 ID:GDcAS2XD0

 言葉では、表現しなかったかもしれない


 しかし彼は確かにそれを感じた、だから身体が表現した、目から鱗が一枚落ちた







 ――――紛れもなく、彼の心はそれを感じたのだ…嘘偽りなく




 酒瓶のコルクが飛び交い、気泡立つ液体がグラスに注がれて

温かな料理を味わいながら、音楽や内装の雰囲気にそのまま身を委ねる…不愉快とは思わない時間


祖国から使命を受けた身でありながら、もう少しだけこのままで居たいと思ってしまった一時だ






 アニー「あっ、そうだ言い忘れてたブルー!」

 ブルー「?」




 自作の人参と玉蜀黍のポタージュスープを飲んでいたアニーがふと思い出した様に
彼の方に声を掛けて、一言、次の言葉を発した









     アニー「おかえり!」


     ブルー「…。」キョトン





 アニー「いや、そんな顔されても困るでしょ…普通に考えて」

 アニー「さっきも言ったけどさぁ、ウチの店に住み込みなんだから」

 アニー「エミリアやライザと同じ家族みたいなモンだって言ったろ?」

 アニー「家に帰ったんだから『おかえり』っつわれたら『ただいま』って返すパターンじゃん」



  ブルー「……。」

  ブルー「た、ただいま…」ボソ


  アニー「そー、そー、言えたじゃない」ヤレヤレ


  ブルー「そ、それだけの為に声を掛けたのか…くだらん…」

  アニー「くらだん、ってなによ大事なことよ!」


―――
――


563 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:27:55.07 ID:GDcAS2XD0

 [クーロン]のイタ飯屋はその晩、遅くまで宴会が開かれ
酔いつぶれて床に大の字になって倒れる者もいた

後片付けを終えて、日付が変わろうとする間際に蒼は自室で自分の帰るべき場所を考えていた

時を同じくして、紅もホテル内の自分に割り当てられた部屋で自分が居られる居場所を…




 ブルー「…『ただいま』か…」


 ブルー「そんな言葉を次に使うのは俺がルージュを殺し祖国に戻った時に使うモノだと思った」





全ては、自分の育ての親の為に



華々しい戦果を挙げ、勝利の栄冠を手にして[マジックキングダム]に名誉と誇りの凱旋を果たす

その時、彼は"初めて『ただいま』を言えるのだと"…


自分が本来居るべき場所、帰るべき場所に『ああ、俺は故郷に帰って来れたんだな』と感じられる
心の底から安心できる筈なんだと信じて止まない


 今日、この店に帰って来て、騒がしいアイツ等の顔を見て…『悪くないな』と思っている自分が
少しだけ心の何処かに居るのを薄々気付き始めてしまった


 帰れる場所、帰るべき居場所… ブルーにとっての居場所は何処なのだろうか

―――
―――
―――



 ルージュ「…結局、今日も何も思い浮かばなかった…」


 ルージュ「殺し合いなんてせずとも生きられる方法が、…思い浮かばなかったなぁ」




全ては、自由と自分自身が求める幸せの為に


人間誰しもが幸せになる権利と追い求める自由を与えられる

だが無情にも彼の祖国たる[マジックキングダム]と運命はそれを与えてはくれなかった…



ルージュは考える、今自分が居る、居場所を…仲間達と共に過ごす時間、一緒に居られる場所
それこそが彼にとっての帰れる居場所なのかもしれない

帰るべき場所は、…そこに帰る時は
きっと自分の手は血染めになっていて、背に兄殺しの十字架を背負う事となる


もしも、このまま何の妙案も浮かばねば
帰れる居場所から帰るべき場所に帰るなんてことにもなりかねない…


 帰れる居場所、帰るべき場所…ルージュが向かうべき運命の終着駅は何処なのだろうか

―――
―――


 家族や、仲間、故郷、今あるべき場所、これまで旅立った世界の景色、今視える風景、未来

思う事、想う事……双子はその晩、その意味をずっと考えさせられた――――


564 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 21:31:30.47 ID:GDcAS2XD0
************************************




            今回は此処まで!



           ※ - 第4章 - ※



   〜 想うこと、思うこと。 帰るべき場所、帰れる居場所。 〜


                              〜 完 〜

************************************
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/03(水) 15:53:15.34 ID:mcVAfog1o

実際のところ逃亡したらマジックキングダムはどれだけ本腰入れて捜索するんだろうな
放置してさっさと次の双子に移行するような気がしなくもないが……
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/03(水) 22:22:13.83 ID:p4DyODK+O
乙乙
少なくとも「お前たちは本当の…」だから他の双子より執着してそう
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/03(水) 23:21:00.36 ID:U2bl1dDqo
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:28:00.17 ID:OunG5xPt0






           ※ - 第5章 - ※



  〜 資質を得る、という事…A 今ここにある幸福論と旅路 〜



569 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2019/04/09(火) 22:28:41.80 ID:OunG5xPt0


 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
 露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
 額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
 快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない




 そこに聳え立つは国家の象徴と呼べる女神像は広場から少し進んだ先の自然公園で彫られた

 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が授業で習った歴史を確かめ合う様に語らった





 『嘘か誠か、この女神像はこの国の長い歴史を見届けて来た妖魔が創ったらしいな』



 【あぁ!知ってる知ってる、そこの…えっと、なんて名前だっけ?フ、フ、フランクフルト?】

 『フルドな』




 【そうそう!確かそんな名前だったよね!フルドって名前の人が創った女神様の像でしょ】

 『いつの時代からか知らないが噴水広場から下った所にその妖魔の名を冠した工房がある』


 【…そこって誰か住んでるのかな】


 『知らんな、そもそも子供は国の掟に従い出入り禁止だ…』
 『ただ、偉そうな恰好の大人達が入るのは目にするからな、稼働はしてるのかもしれん』


 【ふぅん…大人ってズルいよねー、いっつも子供には何でもダメダメ言ってさー】

 『フッ、同感だな…だがこれを口にすれば大人はいつだって決まり文句を言うさ』

 【内緒にできるのは大人の特権ですよー、みたいな?】

 『そしていつか大人になったら今度は貴方達が次世代の子供から秘密を独り占めしなさい、と』


 【だよねー…やっぱり皆言わるんだねぇ】


 『話は戻るが新年度になると新しい女神の彫刻像が学院に運ばれるんだ』

 【確か、三つくらいだよね】


 『あぁ、学院の何処に運ばれてるのかは不明だが、女神像が三つ…な』

 『子供の間じゃちょっとした七不思議扱いだ』

 【学校の七不思議、腕輪をつけた女神様の像が何処かにあるだよね…】


 『お前は信じるか?そんな話』

 【んー、どうかなぁ、そういうキミは?】


 『さてな、証拠でもあるなら信じてやるさ』
 【ハハハ、つまりは信じてないってことか】


―――
――

570 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:29:12.39 ID:OunG5xPt0
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―――
――






             ルージュ「ハッ!…なんだ夢か」ガバッ





身体が痛い、服装はバスローブ姿で彼はどうやら椅子に座ったまま寝落ちしていたらしい
 本来なら微睡みに沈む前に味わっていただろう身体がよく沈むマッドレスではなく
夜景が良く見える窓際の椅子に座り、シックな黒塗りの机に広げた日記帳を枕にしていたらしい
 猫の様に折り曲げた背中は椅子の背凭れからは遠く、授業中に居眠りする学生の宛らの恰好で
広げたページに涎の跡なんかも残してしまったのが妙に恥ずかしい

そのページだけ綺麗に切り取って丸めて屑籠目掛けてロングシュートを決める



 ゲンが支払ってくれたホテルでの宿泊でゆったりとした休養を送り
入浴後に長い艶のある銀髪をルージュは乾かしていた、濡れた髪が渇いた後まだ眠る気がしなくて
バスローブ姿のまま、日記帳に冒険の記録を残していた辺りで
コックリ、コックリと夢の浅瀬へ向けて彼の意識は櫂<かい>を漕ぎだしていたのであった



 着替えもせずに、そのまんまの姿で寝てて風邪を拗らせなかったのは室温調整が完璧な
お高いホテルだったからだろうか…、そんなことを考えながら紅き魔術師は再びシャワーを浴び
眠気をすっ飛ばして後で普段着に着替えた




 ルージュ「…あっ、涎垂らしたページだけ破って捨てたから昨日の分、丸々書き直しだ」ガーン




今から急ぎで書けば白薔薇さん達が起床するまでに間に合うだろうか?

そう考えながらペンを握った彼は時計を一瞥してから急ぎで作業に取り掛かった






 【双子が旅立って 7日目 午前5時12分 [マンハッタン]:ホテル(ルージュの部屋)】



―――
――




 ゲン「おう、起きてたのか兄ちゃん」ブンッ!ブンッ!


 ルージュ「ゲンさん、おはようございます!朝の素振り練習って奴ですか?」

 ゲン「ああ、…しっかし、世の中何があるか分かんねぇモンだな」


 ルージュ「えぇ、まぁ…昨日は色々度肝を抜かされたといいますか何というか」


 ゲンとT-260はこのリージョンへ知り合いだったらしい博士を訪ねてやって来た
数日会わなかった合間に故人となった彼にせめて追悼の言葉でもとレオナルド博士の職場に
通して貰えないか、以前博士から渡された許可書を見せて役人にゲートを開いて貰い研究所の中へ
彼等は入れて貰える事となった、丁度、携帯電話の契約を済ませたルージュ等も同行して



 …まさか、その博士が自分が死んだ時の事を想定して、脳をコピーしてロボットに移植してた

そんなこと誰に予測できようか
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:29:40.75 ID:OunG5xPt0

―――
――


【時間は遡り 双子が旅立って 6日目 午後14時24分  [マンハッタン]レオナルド・ラボ】





 -『今そこに居るのはT-260G君だね、済まないがそのスイッチを押してくれ』-



ゲン「な、なんだぁ!?死んだはずのレオナルドさんの声がするぞ!?」バッ

ルージュ「えええぇぇぇぇぇ!?まさか、お、お化け!?」

ゲン「なんてこったい!!レオナルドさん成仏できずに…」



アセルス「いやいや、二人共落ち着きなってコレどうみてもあそこのスピーカー音声だから」



白薔薇「とりあえず、声に従い、"すいっち"とやらを押すべきでは…」

T-260「了解」ポチッ



 ゴゴゴゴゴゴ…!ウィーン!パカッ


 謎のロボット「…ふぅ、いやぁ〜君達が来てくれなければ何時までもこのままだったよ」


 ゲン「…。」アゼン

 ゲン「もしかして…アンタぁ、レオナルドさんなのかい?」


ルージュ/白薔薇/アセルス「「「えっ」」」



 三人は頭に疑問符を浮かべた、彼の言う人物はこの研究所の一番偉い人で数日前の爆破テロで
お亡くなりになった故人で、目の前のロボットがその故人だそうな


  ま る で 意 味 が 分 か ら ん ぞ !!!


レオナルド「こういう事態に備えてボクは自分の人格マトリックスをこのメカに移していたんだ」


ルージュ「ええっと…つまり?」


レオナルド「T-260G君の新しいお友だちかな?初めましてボクがこのラボラトリーの主人」

レオナルド「レオナルド・バナロッティ・エデューソンさ、簡単に言うと自分の脳をコピーして」

レオナルド「人間のボクの身に何かあったら、このロボットの身体で生きれる様になるってコト」



 メカになったからこそ分かる、生命力が異常値を検出する妖魔が複数いるから
機械文明に疎い人にも分かりやすい簡単な説明が必要とされると

 肉体は機械になってしまったがそれ以外は以前と何ら変わらないと、寧ろメカになった事で
病気にもならず、疲れ知らずで働けるので便利だと…

唯一の残念なのは自分が好きだったバーガーショップでハンバーガーが食べれない事だと言ったが
それもロボット化した自分の肉体に味覚機能と食物消化機構を取りつければ良いと発言した


…ルージュ等は何となく、ゲンが言っていた"変わり者"の意味を理解した気がした

―――
――

572 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:30:08.99 ID:OunG5xPt0

【そして、現在…】




 ゲン「…まぁ、元気そう(?)で何よりだったな」

 ルージュ「あっ、はい、ソウデスネー」



二人はこれ以上考えることを止めた…とりあえず生きてて(?)良かったそれでこの話はやめよう



 ルージュ「でも、そうなるとゲンさん達ももう出発するんですか」

 ゲン「おう、アイツの無くなった記憶の手がかりがあるかもって言ってたしよぉ」



 昨日、復活を果たしたレオナルド博士にT-260は自分達の調査結果を話した
[シンロウ]にあった古代のリージョン・シップの残骸から幾つかの要になり得るキーワードを入手
そして、それを解析する為に博士の協力が必要で…[マンハッタン]に帰って来る道中で[京]に居た
ルージュ達と知り合いになったことなどを説明した


 博士の方は、事故に遭う直前までしっかりとT-260の失われた記憶を取り戻すために
古人で調査を続けてくれたのだが、曰く、トリニティの調査セキュリティーに引っ掛かり
それ以上先へ情報を得る事ができないとこのこと


そこで、準備が整ったらトリニティの中枢部―――通称[タルタロス]と呼ばれる場所の内部にある
中央情報室に向かうという方針になった


銀河全体を統治する政治機関トリニティの重要機密を保管している場であり、やはり警備も厳重で
博士程の権限を持つ上層の人物でもそう簡単には閲覧ができない

 だから、博士のラボにあるコンテナに入って、こっそり忍び込んでしまおうと
これまた危ないお話になったのである、世話になった身だし手伝おうかと妖魔女性組も赤き術士も
名乗り出たのだが、これは自分達の問題から気持ちだけ受け取っておくと断られた



 結局、ゲン、T-260、そしてレオナルド博士と特殊工作車、ナカジマ零式の人間1人(?)と
メカ4機(?)のパーティー構成で武具を揃えてから突き進むという事らしい…




  ルージュ「ゲンさん、本当にお世話になりました…お気をつけて」ペコッ

    ゲン「へっ、気にすんなよ、それよりあの逆立った髪型の坊主に会いに行くんだろ?」

    ゲン「ダチは大事にしろよな」肩ポン


  ルージュ「はいっ!」



 午前7時を少し過ぎた辺りで起床し既に一通りの身支度を終えていたアセルスお嬢と白薔薇姫と
ホテルでの朝食を口にし、シップ発着場へと向かった…


3人が手にしたチケットには自然豊かな畑と酪農…そして酒造の聖地と呼ばれる田舎の地名があり
それを持って、宇宙船<リージョン・シップ>に乗り込んでいく姿を見送る剣豪とロボット達


 宇宙<ソラ>へと飛び立つ船を見上げ「達者でな、元気でやれよ」と
鉢巻を巻いた剣豪は胸の内でそっと呟いた







 ゲン「さぁて、俺達も準備すんぞ!!レオナルドさんよ!戦力強化の当てがあるんだって?」

 レオナルド「うん、まず[クーロン]へ行こうか、裏通りにちょっとした知り合いが居るんだ」

573 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:30:56.93 ID:OunG5xPt0
―――
――




 ヒュゥゥゥ…


   スタスタ…





 レッド「…遂に、船を降りちまったなぁ…」





【双子が旅立って 7日目 午前11時28分 [ヨークランド]】



 歳は19でまだ成人式さえ迎えていない少年が一人、肩に紐を通したナップサックを背負い
そのまま手首には古い革トランクを持ち、先程まで自分が乗船していた"白鳥"が去っていく姿を
歩きながら眺めていた


少しカラカラとした乾いた風が吹き、砂埃が舞う


 この時期、[ヨークランド]は特に乾燥が著しく、また湿度が少ない所為か喉がパサつく
だからこそ自然の恵みたる水と果実が美味く感じるのだと住民達は朗らかに笑うのだが

そんな土地に彼――レッド少年が降り立った事の経緯を簡単に説明しよう




 ルージュ、アセルス、白薔薇の3人と別行動を取る事になった彼はその後も
キグナス号の乗務員として働き古代遺跡探索ツアーと武術に覚えのある猛者が集まる仮面武闘会で
有名な惑星<リージョン>…[シンロウ]へとやって来た


 船の燃料や、食料品等の必要物資の積み込み作業が終わるまでクルーは自由行動を言い渡され
レッド少年もまた観光がてらに武闘会を観戦しに行こうと[シンロウ王宮]へ赴いた




 -『今大会も強者揃いだな!』-

 -『前回のあのピンクタイガーとか言う女性レスラー以上の奴はいないだろ』-

 -『あぁ、居たのぅ、そんな娘さんが…身体つきがイイ女じゃったなぁ…イデデ!?』-

 -『爺さんや、浮気はゆるさんぞ』-



 レッド『へぇ〜…賑わってんなァ』キョロキョロ

 BJ&K『参加なさらないんですか?』ウィーン


 レッド『俺?…そうだなぁ、出る理由が―――!? 隠れろ』バッ!

 BJ&K『――へ』ガシッ




  レッド『…あの後ろ姿、間違いねぇ…父さんの親友だったDr.クライン…っ!』

  レッド『ブラッククロスで改造怪人を創る悪の科学者となり果てた野郎がなんで此処にッ!』



 悪の組織の科学者として、多くの怪人を誕生させた狂気のマッドサイエンティストを何の偶然か
彼はそこで見つけ、家族の仇の情報を得ようとレッドは大会に出場することを決意する
 この大会の裏、主催者側ともDr.クラインは何らかの繋がりを持っている事を調査で知ったから

574 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:31:38.20 ID:OunG5xPt0


 レッド『…すまねぇ、急用ができた、此処で少し待っててくれないか?』

  BJ&K『了解しました、でもすぐに戻ってきてくださいね』


 タッタッタ…!


 レッド『この曲がり角なら丁度、人が居ない…変身ッ!アルカイザー!!』ペカーッ!!


 アルカイザー『…よし』タッタッタ…!



 受付『大会出場ですか?ではお名前を…』


 アルカイザー(名前…レッドなんて馬鹿正直には言えねぇよな…?)


 アルカイザー『レ…レ、レ』
 受付『レレレ、様ですね!わかりましたリングネーム<レレレ>様、ご登録完了です』

 アルカイザー『えっ、ちょ』



―――
――




 アルカイザー『ぐあぁぁっ!』

 図体のデカい悪の組織の幹部『フハハハハ!中々やるようだがこの[仮面の巨人]様は無敵だ』

 図体のデカい悪の組織の幹部『中々骨のある大会参加者だが試合の相手が俺様とは運の無い』


 図体のデカい悪の組織の幹部『何度、拳を打とうとも見切ってみせるわぁぁ!!』[スウェイバック]



 順調に試合を勝ち抜いていくアルカイザー、いやレッド少年…!
しかし、ここにきて何故か妙に強い巨人系統のモンスター族の参加者と決勝試合をすることになる


その対戦相手は何とッ!!レッドの格闘技を見切り、全て回避していく…ッ!

馬鹿な!ヒーローアルカイザーの筋力を以てしてもこうも躱される等と…一体何者なんだッ!?





 図体のデカい悪の組織の幹部『ハーッハハハ!ゆくぞ!喰らぇい必殺[雷炎パワーボム]ゥゥ』



 アルカイザー『くっ!…俺はこんなトコで負ける訳には行かないんだァァァァ!!』ピコン!


 仮面をつけた正体不明の謎の参加者相手に滅多打ちにされるレッド少年…
自分はこんな所で正体不明の一般人相手に倒されてしまうというのか…ッ レッドは負けられない
ここで優勝することで家族の仇に手が届くかもしれないからだ


彼の闘志は、暗闇の荒野に灯りを灯す


明光が射した、真っ暗闇な脳裏に豆電球でもついたかの様に、気づけば拳を前に突きだし叫んでた



  アルカイザー『射抜けぇぇ[アルブラスター]−――ッ!』


光り輝く拳――[ブライトナックル]が再び来るかと正体不明の大会参加者は身構えていた
 だが、放たれた輝く拳は明らかに自分には届かない、空虚を殴りつけるだけの動作でしかなく
ついにレッドが相手と自分の距離感すら掴む程ダメージを負い過ぎたのかと最初は思ったらしい
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:32:08.70 ID:OunG5xPt0


 刹那、彼は自分の思い違いを思い知らされた


 レッドが今までの殴打技とは全く違う技名を叫んだからだ、何も無い空間を殴りつけた拳の光は
一層強まり、輝きが最高潮に達したかと思えば暴発するように腕の先からそれは飛び出した



名は体を表す。

彼の迸る闘志、生命エネルギーがそのまま放出され目の前の正体不明の参加者を射抜いた




 アルブラスター『 』ビュンッ!

 アルブラスター『 』ビュンッ!

 アルブラスター『 』ビュンッ!




 図体のデカい悪の組織の幹部の腹『 』ボコォォォッ!


 図体のデカい悪の組織の幹部の仮面『 』バキッ!パリーン





 図体のデカい悪の組織の幹部『ぐ、ぼっ…お、おぉ…』ドサッ



 図体のデカい悪の組織の幹部(し、しまった…俺の仮面に罅が――クソッ)

 図体のデカい悪の組織の幹部『飛び道具とは…油断した』サッ



 巨人タイプのモンスター特有の巨大な掌で[仮面の巨人]は罅の入った仮面を、素顔を晒すまいと
顔を覆い隠した、仮面武闘大会だから素顔を晒す事はタブーであるが、この男の場合はもっと違う


この巨人は故あって他者に自身の顔を見られたくないのだ、特に警察関係者に…

 だから不必要に顔が世間に割れる様な事は厳禁だ
それも『強者との闘いが趣味で武闘会に遊びに来て油断しまくった結果バレました』では
冗談にすらならないのである





 図体のデカい悪の組織の幹部『ふっ、だいたい見切らせてもらったぞ』ニタァ




 図体のデカい悪の組織の幹部『悔しいが降参だ!』バッ!ササッ…!



 かくして仮面をつけた正体不明の妙に強い大会参加者を倒したレッドは、優勝を果たし

 Dr.クラインの後を追跡したのだが…肝心な所で逃げられた挙句
まるで狙いすましたかの様な絶妙なタイミングでキグナス号から帰還命令が出された





――――それもあって、彼は決断した


 自分は、このままキグナス号の乗務員として働いていては何時まで経って仇が討てない


                    …船を降りよう、と
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:32:49.63 ID:OunG5xPt0

 元より、親友達の旅路を手伝うことも頭の中にはあった

だから"有給休暇届け"を出すのではなく、"退職届け"を出すことに決めた

 両親を亡くしてから、ずっと世話になった上司であり恩人の機関士ホークに
礼と、船を降りる事を告げて彼はこの日、[ヨークランド]の地に降り立ったのであった


―――
――


そして冒頭へ戻る…


 レッド「…遂に、船を降りちまったなぁ…」

 ヒュゥゥ…



 レッド「暖かい風なのにな、少し寒いって思うのは寂しさのせいかな」


 BJ&K「でしたら、生姜の湯を精製しお出ししますか?」ウィーン

 BJ&K「私の体内機械構造なら簡易漢方薬くらいは直ぐ作れますよ、体温が上昇します」


 レッド「お前なぁ〜…」


 BJ&K「冗談です、ロボット冗句です」ウィーン

 レッド「…やれやれ、…着いて来てくれてありがとよ」


 BJ&K「命令されましたからね『俺の傍から離れても壊す』と、だからついて行きます」

 BJ&K「自分の為、また貴方の健康をお守りする為、レッド…貴方について行きます」


 レッド「…あん時はちょっと荒っぽい口調で悪かったよ」

 レッド「改めて着いて来てくれてありがとう、おかげ独りじゃなくなったからさ」ポリポリ



 レッド「コホン、と、とにかくアセルス姉ちゃん達探そうぜ!!もう着いてるっぽいしな」



 急に気恥ずかしくなった、ロボット相手とはいえ、柄にもない事言ったなと顔を赤らめ彼は
明後日の方角を見ながらわざとらしく声を大きくして言った


 自分がこの惑星に降り立つ数刻前に、3人は既に到着して[杯のカード]に関する情報を得ようと
駆けまわっているらしい


そう広くない村なのだから、すぐに見つかるとは思うが…




 とりあえず、それらしい人を見かけなかったか、住民達に聞き込みに行こう
紅い法衣を着込んだ魔術師と緑髪の少女、後は頭に花飾り付けた貴婦人は居ないかと


レッド少年と医療メカはそう決めて、早速第一村人に声を掛けようと村の入り口へ脚を運んだ




  「あっそ〜れ!イッキ!イッキ!」
  「ひゅー!いい飲みっぷりだよぉ!」
  「そらそら、酒はたーんとあるぞォ」


  ルージュ「んぐっ、んぐっ!ぷはぁ〜…美味い//」トローン


  レッド「って早速居たァァァ!!!普通に居やがったァァァ!?」ガビーン
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:33:34.49 ID:OunG5xPt0


第一村人発見ッ!からの聞き込み調査ドコロの話で無かった、村に足踏み入れて2秒で遭遇だった



 アセルス「…んっ、はぁぅ…///」トローン

 アセルス「うふふ、なんだか少し酔いが回って来たのかも…」


 レッド「うぉい!?姉ちゃん17歳!未成年だから―――あ、でも姉ちゃんは…いいのか?」ハテ

 レッド「ってそこじゃねぇ!カードはどうなったんだよ…」





この時期、[ヨークランド]の空気は乾燥していて喉がパサつく
            …がレッドのこの喉の渇きは気候の所為ではない



 レッド「ぜぇ…ぜぇ…喉乾いてきた」


 白薔薇「まぁ…レッドさん、でしたら此方はいかがでしょうか」つ『果物酒』


 レッド「…」


とりあえず、柔らかな聖母の様な微笑みを携えて酒の入ったグラスを手渡した白薔薇から受け取り
それを飲み干すことなく、説明を求めた



  ルージュ「んと、ね…ここでカードの試練について聞いたんだ…そしたら〜」



―――
――



  レッド「…つまり、話をまとめるとだ」

  レッド「[杯のカード]を得る為には酒蔵の人に話を聞かなきゃいけなくて…」

  レッド「そこで一番度数の高いアルコールを全部飲み干さなきゃ住民は情報を一切教えない」

  レッド「そういう掟があるから、それに沿って皆でこうして陽の高い内から飲んでるのか」



 ルージュ「そーそー、…ゲンさん居れば楽勝だったなぁ〜」フラフラ


 若干呂律が廻らなくなりかけているルージュと、千鳥足気味になっているアセルス
そして何も無い空間に向かって「あらあら〜、うふふ」と気品溢れるお喋りを嗜む白薔薇姫



レッドは思った、キグナスに帰りたい。



 レッド「…まぁ、それが試練だってぇならしゃーねぇよな」ポリポリ


 「んん〜、坊主も試練を受けるのかい?」
 「そういうことならウチの酒蔵に寄って来な、そこでたーんと酒飲んでもらうぞえ」
 「儂らの自信作じゃ!飲まん奴にはカードの事は教えてやらん」


 レッド「うっ…」


 「言っとくが若いの、ズルはよくないぞ、ちゃーんと皆酔っぱらうまで飲むんじゃ」


578 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:34:09.41 ID:OunG5xPt0


 それから……





【双子が旅立って 7日目 午後11時58分】


 レッド「う"っ…気持ちわりぃぃ…」


 ルージュ「レッドってばお酒弱いんだねぇ〜」アハハ



 酒蔵を数軒、廻り一体何杯飲まされたことか、[マジックキングダム]の術士ゆえに
術力回復の[術酒]を慣れるまで飲まされたルージュや妖魔になった事で体質が強くなったのか
はたまた、人間だった頃から耐性があったのか酒に強かったアセルスと比べレッド少年は
酒蔵巡りを半分終える前からグロッキー状態であった


…気合でなんとか最後まで飲み切ったが



 詳細をまだ聞かされていないから試練内容の実態が掴めないが、どうやらここでの修行は
酒を飲んで酔うことに意味があるらしい




耐性を持っていた三人でさえ、ぐでんぐでんになるまで何度も飲ませ

逆にレッドは"酔ったことさえちゃんと確認できれば"それで良いと言わんばかりに少な目の酒



明らかに個人個人で飲ませる量が違ったのだ



  「いやぁ、イイ飲みっぷりだね、今すぐ酒神さんの祠さ、行ってみるだよ」



覚束ない足取りと、情報を整理できない頭で、4人は"祠"とやらを目指す事になった





 BJ&K「私が集めた情報によりますと、この先にある沼地の奥に祠があるそうです」ウィーン




 …酔う、酔わない以前の問題であるロボットがパーティーに居て良かった
背中を押されながら、どうにか4人は鬱蒼とした森の先にある沼地へと辿り着く…


 [ヨークランド]の天然水が山から流れ、その水が地下の水脈を巡り、この湿地帯へと辿り着く
水そのものは美しく、また身体に優しい成分に溢れておりペットボトルにでも入れて
売り捌けば銭儲けにすらなる、暑く、寝苦しい夜に素足を浸けて涼を取るにも最適なのではと
そう思える程の良い場所とも思えるだろう―――…一見すれば


では、何故このような暑い日に村人は沼地に近づかないのか、試練の場だから?

神聖な場所扱いして誰も来ないとかいう理由だろうか?




いいや、違う





誰も来ない理由を4人と1機はすぐ知る事となった
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:34:38.76 ID:OunG5xPt0

 沼地、というだけはある鬱蒼と生い茂った寒枯蘭<カンガレイ>や黄色い花を咲かせた河骨を見かける
一帯が寿樹のサークルに囲われているのも関係しているのか、水草と水面の色、日光の当たり具合
それらが絶妙なバランスで成り立ち花萌葱の絨毯が視界一杯に広がっていた


 一歩、片足を前に差し出す…ぬちゃり、と泥濘を踏んだ時特有の音がして、靴底越しに
心地よいとは言い難い感触を覚えるところだ、幸か不幸か酔っぱらっているが故に4人の感覚は
嘗てないほどに鈍っていて、うっかり沼水に勢いよく突っ込み靴が完全に浸水しても気に止めない





…靴下までびっしょりとずぶ濡れでそのまんま、浸水した靴を履いて歩き続ける



 素面に戻ったら女性陣が悲鳴をあげそうな状態ではある
水虫・水ぶくれの主原因となる白癬菌にとってこれほど喜ばしい事があるものか



 はてさて、そんな未来の心配はさて置き、4人は沼地の奥にある祠を目指してふらつく足取りで
丸太橋を渡ろうとしていた、雑木林の抜け道を越えてそこから地続きで途中までは行けたものの
道中で道が完全に水没している箇所がある…山岳部から低地まで下って来る湧き水を初め
雨季の例年と比べ予想外に多い降水量などあらゆる要因はあった
 何れにしても、脚の脛までなら我慢したとして腰までざっぷりと水に浸かる気はない
元は流木だったのだろう、太い丸太が丁度良く渡り橋の様になっていてくれた



  ルージュ「うっ…脚が、真っすぐ進まないよ…おえっ」グラグラ

  アセルス「ちょ、揺らさないでよ!…あぅ…私まで気持ち悪く…」ヨロッ


  白薔薇「あ、アセルス様…!」ガシッ


  アセルス「うぁ!?た、助かった…ありがとう」


  白薔薇「いえ、置きになさら―――うぅ、すみません私も」フラッ
  アセルス「えっ」



 バッシャーン!!


 ふらつきかけたアセルスに手を伸ばし、白薔薇は彼女を支える事に成功した―――のは束の間で
その直後に少女の身体を支えた筈の彼女がそのまま足を踏み外して丸太橋からあわや転落
ガッチリと緑髪の少女を掴む手は最後まで離さなかった…、つまり"そういうこと"である



  レッド「やべぇ!二人が落ちた!! うおえぇぇ…やべっ、吐きそ―――」グラッ、バッシャーン


  ルージュ「レッド!アセルス、白薔薇さ―――ばべっ!?」ツルッ、バッシャーン



 後ろを振り返り、クルリと回った瞬間に落ちて行った赤の後を紅が追って落ちた
一層綺麗な美様式か何かのようなシーンである





  BJ&K「…。」ウィーン

  BJ&K「あー、お助けしましょうか?」



落下原因:酔っぱらない



そんなこんなで芋づる式に落ちて行った生命体4人を無機質な機械が眺めながら答えた

若干、音声に呆れが混じっている気がするが、きっと気のせいだ
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/09(火) 22:35:13.61 ID:OunG5xPt0


  アセルス「…。」(泥んこ状態)


  アセルス「うえぇぇぇ……」グズグズ

  白薔薇「アセルス様、泣かないでくださいませ…そんな私まで、うっ、ううぅ…」グスンッ


  レッド「うっ、おげえぇぇぇ…き、気分わりぃ…」

  レッド「BJ&K〜、引き揚げてくれぇ…」グデー



  ルージュ「…」(頭から水面に突っ込んで未だ起き上がらない)ブクブク



 酒臭い匂いがプンプンする男女4人が沼に落ちて全員びっしょ、びっしょに濡れた
泥だらけのお嬢ちゃんは泣き上戸か何かの様にワンワン泣いて、隣の従者も同じく

お酒に耐性の無かった坊ちゃんも込み上げる吐き気と気怠さに悲鳴を上げ

紅き術士に至っては水面から上がってすら来ないという…



      こ の 始 末 で あ る ッッ!!






 BJ&K「……」ピピッ

 レッド「ぁんだよぉ、早く引き上げ…うげぇぇぁぁあ…」


 アセルス「うえぇぇ…やだぁ、もうやだぁ!お家帰りたい…」ポロポロ

  白薔薇「うぅ…ひっぐ、…」


 ルージュ「  」ブクブク




 ………


 ………『何か』…『何か』が"奇妙"だ…








 レッド「う"っ―――おぇっ…た、頼む、マジで早く…苦しい」ハァハァ…


 アセルス「どうし、て…私、人間じゃなくなったから…おばさんも皆も私が怖いの…」ポロポロ

 白薔薇「…涙が、涙が止まりません…あぁ!目が、…視界が涙で…何も見えない…っ」グスッ



 ルージュ「 」ブクブク…

 ルージュ「 」ブクブ…


 ルージュ「 」



…………何かが…ッ! これは、『何かが"おかしい"…ッ!』この事態は良くない

…何かよくわからんが『異常』だッッ!!
581 :今回は此処まで [saga]:2019/04/09(火) 22:35:55.48 ID:OunG5xPt0






                  チャプン…









 水音がした。




 少女も貴婦人も少年と術士もそうだ、皆が水中に居て抜け出すことが叶わずに居る
その様子を丸太橋の上から不動の医療メカが眺めている




 では、今の水音は"誰"の物だ?





 比較的症状がマシなレッド少年は背筋に冷たい物が這う感覚を覚えた
酒気に狂わされ愚鈍となった一行の中で、この瞬間に限り彼の感覚は鋭さを取り戻した


脳が警鐘を鳴らす、このままではよくない事が起こると…






 ―――レッド少年が背後で蠢く一本の"触手"を目視すると同時であった







   BJ&K「ピピッ―――確認完了、【状態異常】を検知、【毒】【混乱】【暗闇】【睡眠】」

   BJ&K「また強い敵対生物の存在を確認!直ちに退避を――――」




      ザッバァァァン!!


 突如、水面が割れた…っ!薄いボール紙の蓋を破るかの如く"ソイツ"は無数の触手をうねらせ
身動きが取れない4人と1機の前にその全貌を露わにした



               【 酔いが回る…! 】キィィィン!!



頭の中に、一文の文字が浮かび上がる、世界がぐにゃりと歪み虹色の輪郭がブレる

 レッドは"戦闘"が始まって早々に膝をつき吐き気と気怠さに苛みッ
 白薔薇は武器を構え仲間を守るべく立ち上がるも剣先は敵の姿を全く捉えていない…っ!
 アセルスに至っては、頭を抱えて蹲り、まるで数日前の[カウンターフィアー]を受けた時と同じ

 ルージュは…水底に沈んだまま、浮かび上がってすらこない…まさかそのまま溺れたのか!?



 獲物がやってきた…
     にやりと顔を歪め…[ヨークランド]の沼地"名物"――[クラーケン]は笑った

582 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/10(水) 12:45:34.59 ID:UuatjkrWO
沼地はマジできついんだよなあ…水耐性つけてからいかないと
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/11(木) 14:02:22.45 ID:ZuuHve1NO
沼地はロボ揃えて無理矢理突破するわ
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/12(金) 01:55:23.08 ID:IxZuFk9XO
イカ出る前に序盤で突破やろな
585 :少し投下 [saga]:2019/04/20(土) 01:43:43.73 ID:WzuKBuWT0

 北欧神話に語り継がれる帆船の舵を取る船乗り達から畏怖の念を送られら大海の怪物
その名前を冠した巨大烏賊の魔物に目玉が飛び出そうな程の衝撃を受けた

 何せ[クラーケン]は【危険度ランク9】――トリニティ政府が定める危険生物認定の最上位種だ



近隣住人が沼地に近づかない理由はこれである

 [ワカツ]でもの天守閣でも経験したが、"カード"がある場所というのは一種のパワースポットと
なり得る、酒神を祀るという祠も力が収束される特異点の1つであり
 必然、スポットに近いこの沼地は強いモンスターが自然と集まるようになっている


水棲系モンスターで[ガイアトード]運が悪ければ[玄武]がよく出没するという魔境である


 …尤も、今回の場合は余程の"引きの悪さ"だったのか、ババ抜きで言う所のジョーカーを引いた

滅多な事では現れない[クラーケン]をよりにもよって引き当てたのだ



  レッド「マジかよっ!…うぶっ!?」オエェ…



 試練、それは何も知らされていない彼等は祠に行ってから何かがあるものだと考えた
タダでそう易々とカードが手に入る筈が無い[ワカツ]で影を揃えた時と同じ何かしらはある物と
そう身構えては居たがこれは完全な想定外だ


『辿り着いてから試練が始まる』……ではない、『辿り着くことそのものが既に試練』なのだ


 二つの意味で溺れる程の酒を飲み、千鳥足で更に体調も絶不調
道中凶悪極まりないモンスターの巣窟を、それこそ彼奴等の縄張りに足を踏み入れてはならない
その条件付きで一つの目的地に向かうというのが"[杯のカード]の試練"なのだ


…考えうる限りの最低最悪のコンディションで地雷源をタップダンスしながら進め、と




  クラーケン「〜〜〜〜〜」スッ、ザバァァ



 巨大烏賊はゆっくりと10本ある触手を水中から引き揚げ天へと振り上げ
そのままの姿勢を維持した



   白薔薇(…?襲ってきませんの…)


 涙が止まらなくて、武器の先端が未だ烏賊から若干逸れた所を狙う白薔薇姫は酔いで
碌に回らない頭で必死に考えようとした、潤んだ瞳は巨大烏賊の姿を薄らと捉えては居る
 また、耳に異常はない為、触手が水底から帆船の錨の如く引き上がった音も聞こえた為
相手が今どのような状態でいるかも何となしに分かるのだ



…分からない、いや、"解"らない事があるとすれば、何故その態勢で止まるのか


普通腕を振り上げたのなら敵に向かって殴りかかるなり振り下ろすなり何かしらの行動に出るもの
対して目の前の[クラーケン]は一切動こうとしない、"まるで何かを待っている"様に



  白薔薇「あぁぁ!?いけません!!みなさん、何かに掴まりながら身を守ってくだ――」



 白薔薇とレッドには違いがあった、倒したモンスターを吸収する妖魔という種族は
それなりにモンスターに対する知識を持つ必要がある

力を吸うことで自らの強化へと繋ぐからこそ最低限、対処方法などを学ぶものだ


 当然、貴婦人はこの【危険度タンク9】と認定される災害クラスの怪物が持つ特徴を知っている
この巨体が触手を振り上げた時、それは――
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/20(土) 01:44:35.70 ID:WzuKBuWT0


       クラーケン「ギュブブブ!ブゲゲェ!」


 何とも形容しがたい奇怪な声を上げた化け物に突如として沼の水が集まりだす
風呂桶の底についてる栓を抜いて、そこから水が流れ出す時を想像して欲しい…ある一点に向かい
そこにある液体が集結するように流れ出すイメージを…っ!




     [クラーケン] を ちゅうしん に みず が あつまりだした !






                      ――――【メイルシュトローム】ッッッッ!!





 ズボォォォ"ォォ""ォ"ォ""" ォ""――― ザッバァァァァァァァァン!!





 彼奴に吸い寄せられた水は巨大軟体動物の身体に這い上がる様にくっつき、やがては埋め尽くす
道端に落ちた苺味のキャンディーに蟻が押し寄せあっという間に全体を赤から黒一色に染め上げる
ソレに似ていて水は[クラーケン]の身を覆い隠す程の壁になった

 巨大な円柱状の水柱、天辺からは振り上げたままの触手が10本そのまま露わになっていて
傍から見れば水色の胴体と吸盤付きの触手が生えた磯巾着と見間違うことだろう


 白薔薇の何かに掴まり身を守れ!という咄嗟の警告も虚しく、磯巾着、否、巨大烏賊は
うねうねとした触手を10本同時に振り下ろした



 彼奴の胴体を中心に傘の受骨と同じで中心から廻りまでぐるりと四方八方に均等な位置にあった
触手が鞭打った音を叩きだしながら水面を叩き付ける、するとそれを合図に身にまとった
沼水が一斉に流れ出した


 付近の丸太や、水底に沈んだ大岩、色んなモノを抱き込んで暴力的な水流が全域を襲う



―――当然、4人と1機にも


 ドゴォ!バキャッ!メシャシャァァァ―――!!




 そのまま水圧を直に受けて身体が悲鳴を上げる、流されて大層樹齢のありそうな寿樹に
身体を叩き付けられてそのまま水流に押しつぶされそうになる痛みと飛んでくる流木や土砂が
容赦なく生身を痛めつけて来る





…やがて、水が引いたかと思う頃には





 レッド「ぐ、は……はぁはぁ、クソ、いきなりピンチかよ……!」




アセルス「」(戦闘不能)

白薔薇「」(戦闘不能)

587 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/20(土) 01:45:14.53 ID:WzuKBuWT0


 額から血をどくどくと流しているアセルスお嬢――おそらく流れて来た偽礫岩に当たり
少し離れた先に白薔薇姫が見え、膨らみのある胸に尖った枝が深々と刺さり血を流していた



…この時だけ彼女等が、人間<ヒューマン>でなくて良かったと思える





胸部――心臓を深々と棘枝で串刺し、それと頭部を勢いのついた岩による強打


普通に考えてこんなモン並みの人間なら間違いなく即死レベルである




 レッド(ぐっ、身体は…まだ動かせる…ルージュは…BJ&K…!)チラッ



 へし折れた雑木林の樹々、澄んだ水に土砂が混じり濁り切った沼、倒れた太い丸太の裏に黒煙
耳を傾ければ機械の電気系統がショートしたような音が聞こえて来る
 おそらくBJ&Kはあそこにいるのだろう…この惑星に来る前に装備させた防具で耐久は増してる
煙こそ上がっているがまだ動ける筈だ


問題はルージュだ、目をきょろきょろ動かして見える範囲に彼の姿が無い


まさか流されたのか、それとも…



 レッド(いや、アイツに限ってそんなことあるもんか!それよりコイツをどうにかしねぇと)


嫌な想像が頭を過ったがそれを打ち消す、大技【メイルシュトローム】の反動で烏賊も隙ができた
 考えろ、ここで優先すべきは何だ…!


ここで判断を誤れば全員の死に直結しかねない


攻めるべきか、それともありったけの回復薬をつぎ込んで態勢を立て直すか…!



  レッド「迷って、る時間は…ゴホッ、ねぇ…っ!―――スゥゥゥ [克己]!!」シュィィン!



眼を瞑り、心を落ち着かせる

 息を整え自分の体内にある"気"の流れを掴み、生命力を巡らせる…!
あの日、友人達と共に観光がてらで取った[心術]の資質も無駄ではなかった
 内臓から皮膚の表面まで、内から外、漲る生命力が彼を瀕死の状態から万全まで戻す




  BJ&K「ピピッ!状況判断完了…、みなさんは最悪意識さえ取り戻せば[克己]で回復可能」

  BJ&K「私は私のボディーを治します…!」スッ


 [インスタントキット]を取り出し、器用に自己修復を行うメカ…いくら数の上で有利とはいえ
そんなアドバンテージ軽く吹っ飛ぶ力量差というモノがある



 深手を負ったままの自分が考え無しで無謀にも突っ込んで返り討ちでは笑い話にもならない
攻勢に打って出るよりも守りに徹した



  クラーケン「グゲゲ!ケェー―−ッ!」ジャッバァ!!


沼地の怪物は水上を滑る様に動き襲い掛かる…っ!
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/20(土) 01:45:44.60 ID:WzuKBuWT0

 10本の触手を伸ばし、それを鞭として扱う、厄介な事に得物は本物とは違い生物の体の一部
叩き付けるべく振り下ろせば上下に動き、薙げば慣性に従い弧を描く動きをしてくれる訳ではない
それこそ変幻自在に動かせるから対処に困るのだ



 クラーケン「ギュベゲッ!」ヒュッ!


 触手『』ブンッ!

 触手『』シュルッ!バッ!



  ―――ドッバァァァン!!



 何もいない、水面目掛けて触手を振り下ろした、その動作に完治した彼等は疑問を抱いたが
直ぐに分かった―――ルージュだ、水中に彼が居て彼奴は何らかの理由で浮かんでこない彼に
更なる追い打ちを仕掛けたのだと


 答え合わせだと言わんばかりに、ほどなくしてルージュの姿が目についた

 水面に浮かんだ彼が来ていた紅い魔術師の法衣の裾が少し破けていて
更に彼の丁度真横に浮かび上がった"根っこ"だ

 マングローブの根っこに似た沼地に自生し、水底に根を這わせる植物の根に
見覚えのある布がついていた…彼がさっきから浮かんでこなかった理由が漸く分かった
 ふらりと落ちた彼は【睡眠】状態になった上に服の裾が木の根に刺さったんだか
引っ掛かったのか不運の重なり合いで動きを取られ眠ったまま水面に浮かぶことすらできずにいた

 そこへ【メイルシュトローム】が来て、水中の紅き術士を容赦なく襲い
現在進行形で今も触手に嬲られているということだ



 クラーケン「ギュィギュィィィ!!」ブンッ
  触手『』ブンッ!ゴスッ!

 ゴシャァ!


ルージュ(戦闘不能)「 」LP-1


 クラーケン「ギュバァァァ――ァァァッ!!」ズババッ!


 触手『 』グルッ

 ギチギチ…!ミリミリ!


アセルス「ぅ、…」LP-1



 レッド「っ、クソイカ野郎!!BJ&Kはルージュを頼む!俺は――白薔薇さんを救う!」


 視界に入れるだけで苛立ちを覚える顔を蹴りつけてそのまま脳天に剣をぶっ刺してやりたい
餓鬼の頃さんざん世話してもらった恩人の少女を苦しめる敵に怒りを抱かない筈がない

 激昂した、こいつは俺がぶちのめしてやりたい、とそして同時に彼の理性が何を優先すべきかを
煩いくらいに自身の心に訴えかけるのだ


 アルカイザーになりたての頃のレッド少年なら、有無を言わずにアセルスを救うべく突撃した


 今は経験を積み、感情だけで動けばそれが時に周囲を危険に晒す事を彼は学び成長していった




この闘いは判断を誤れば、全滅する…!自分含めて味方が倒れればそれこそアセルスを救えない!

 歯痒い、力を持っていながら彼女を救えない現状に耐えろというのだ…レッド少年にとって
これほどまでに辛酸を舐めさせられる思いがあるだろうか

589 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/20(土) 01:46:15.24 ID:WzuKBuWT0

 触手『』ギリギリ…!


 アセルス「――、や ぁ ぁ、 ぁぁ っ」ギリギリ



  クラーケン「キィィー!ギュゲッ!ギュゲッ!」



 強く身体を締め上げられ、唇から苦悶の声が漏れる、思わず止めそうになる脚に喝を入れる
烏賊は少女の身体を10本の部位で締め上げて嬲る事に夢中でレッドとBJ&Kの姿が
眼には入っていなかった、無邪気な赤子が買ってもらったばかりの女の子のお人形さんで遊ぶ様に
彼女を締め上げながら持ち上げる

 赤ん坊を抱っこして『たかいたかーい』とあやしてるそれに見えなくもない

 尤も、この巨大烏賊のやってることはそんな優しい内容ではなく17歳の女の子を雁字搦めにして
握力を少しずつ加え、腸<はらわた>が飛び出すまで苦痛に満ちた表情を眺めながら
時間をかけて遊ぼうという悪趣味極まりない、吐き気を催す邪悪そのものなのだが…









  レッド「…」ゴゴゴゴゴゴ…




 おもちゃに夢中の[クラーケン]は背後をゆっくりと通過した少年と
同時にルージュに辿り着いた医療メカの存在に気が付かずにいた…


 何を優先すべきか、レッドは仲間を復帰させることを一番と考えた、そして中でも優先順序を
感情を押し殺して『ルージュ』『白薔薇』に絞った…
 力量差があまりにもあり過ぎる…だからこそルージュの爆裂魔法[インプロージョン]に
[妖魔の剣]の扱いはアセルスよりも長けている白薔薇姫に託すしかなかったのだ



 レッド少年はモンスターの知識に明るくはない、だからこれは全くの偶然だが
(後に教養がある白薔薇姫から知らされる)[クラーケン]という奴は即死耐性が無い
…結果論だが、アセルスお嬢を後回しにしたのは最適解であった



 水辺に現れては【メイルシュトローム】で津波を起こし船を沈没させる自然災害を齎す為に
【危険度ランク9】認定されているがそういう意味では比較的に倒しやすい方だ
 ルージュが術を使うか、確率は低いが白薔薇姫が剣を振るいさえすれば
一発で命を刈り取ることが十分可能であると





 ザブ…!ザブ…!



 アセルス「ぁ、ぁぁ… ぁ」LP-1



 レッド(…くそっ、後少しで白薔薇さんに手が届くってのに)フラッ



視界が霞む、吐き気がする…![克己]には状態異常を消し去る効果がある為、酔いの所為でなった
【毒】は完全に身体から消えた筈だった…


 【毒】が消せるからといって体内のアルコールを消せるわけではない


再び、このタイミングで彼等を酔いが襲い始めた―――!!

590 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/20(土) 01:46:54.10 ID:WzuKBuWT0







     BJ&K「完治完了!ルージュさんが意識を取り戻したました!!」






 クラーケン「グモッ!?」バッ

 触手『』パッ



 アセルス「うっ」バシャッ



 BJ&Kの音声に巨大烏賊は思わず振り向き、そして遊んでたお人形を水面に取りこぼしてしまう



 レッド「あんにゃろう…声出さねぇでいればそっから回復したルージュの術で不意つけただろ」

 レッド「…へっ!けどよくやったぜ!!!今のでアセルス姉ちゃんも解放されたんだ!」

 レッド「俺ももう白薔薇さんに手が届く、ルージュ聞こえてんなら!やっちまええぇぇ!!」



 [傷薬]を取り出したレッドが血を流し意識を失っている白薔薇の手を掴んだ!
込み上げる酔いの吐き気を押し込めてレッドが叫ぶ、アセルス姉ちゃんがやられた分やってくれと




―――ゆらり、紅き術士は立ち上がった


 流れる銀髪からは雫が滴り、その眼は目の前の敵を見据えた、大切な仲間、友を苦しめた…っ!
憎むべき巨大烏賊の姿を…!そしてルージュはゆっくりと口を開き声を発したのだ!




           ルージュ「………。」スゥ…













      ルージュ「い、イカちゃん可愛いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」




  レッド「へ?」
  クラーケン「ファッ」



     ルージュ「その気持ち悪いお目目がキモ可愛くて、うねうねの触手も愛らしい///」

     ルージュ「あぁ…この気持ち、間違いない、この気持ち愛だぁぁぁぁぁ!」



 レッド「」
 クラーケン「」

591 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/20(土) 01:47:24.58 ID:WzuKBuWT0







     レッド「お、お前…こんな時に何をふざけた―――…」






ゾワッ







―――刹那、レッドの警鐘が再び鳴った



 思えばもっと早くに気が付けた、[克己]は状態異常も回復できる
彼に掛かった【毒】という異常は解除された筈だ…



ではなぜ、また吐き気が込み上げてくるのか…苦しいと感じるのか







      ルージュ「あぁぁ…抱きしめてキスしたいくらいだよぉ///」





 頬を染め、蕩けた顔をする…顔立ちが女性の様に美しいからいっそタチが悪い…あぁ本当に


今のルージュは恋する女性の顔そのものであった、この仲間が死にかけの非常事態に
こんな…こんな、"異常" としか言い様の無い発言…





      レッド「…ま、まさか…」




[杯のカード]の試練、それは酔った状態で祠まで辿り着くことこそが試練である
 その試練における最大の障害物は道中で襲ってくるモンスターか?

答えはNOだ


この試練最大の障害物は…【危険度ランク9】のモンスターでも何でもなく




             【 酔いが回る…! 】



BJ&K「…pipi 状態異常を検出 【毒】と【魅了】です」


ルージュ(魅了)「あっはっは!よぉーし!一番強い術をつかっちゃうぞー☆」



最大の障害物は酔いそのものであり、酔ったパーティーメンバーなのであった

592 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/04/20(土) 02:09:21.06 ID:WzuKBuWT0
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                今回は此処まで!

             【解説 ヨークランドの試練】


 杯のカードを入手する為の試練として[ヨークランド]では酒を飲んだ状態で沼地の祠を目指す

 多くのサガフロプレイヤーにとって印象に残るイベントがあります



 まず、主人公操作ですが、何も押してないのに勝手にランダムで移動する仕様になっていて
 それが原因で敵シンボルにあたり戦闘に移ることがあります

 沼地の敵は通常の敵の2ランク上が必ず出るため、少なからず苦戦は強いられます…

 いえ、此処に至っては何処よりも一番苦戦確定です



 まず戦闘に入ると【酔いが回る】というメッセージが出て

 【暗闇】【毒】【睡眠】【麻痺】【混乱】【魅了】【バーサーカー】何れかの状態異常になる

 特に厄介なのは敵に有利な行動を取ろうとする魅了です
 ルージュが魅了状態で味方に[ヴァーミリオンサンズ]を撃ったり、ゲンさんが[二刀烈風剣]を
 撃って味方全体が4桁ダメージで全滅という光景は恐らく多くの人が経験したことでしょう


 サガフロのプレイヤー側はHP上限が999でカンストになる為
 4桁ダメージはどうあがいても即死です、全体攻撃で4桁余裕の魔術や剣術を放たれたら終了です


 対策としてですが、パーティーを酔わないメカで統一するか妖魔系を入れておくこと
 (ただしアセルスは妖魔化しないと状態異常耐性が人間<ヒューマン>と同じ扱いらしいので注意)


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593 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/22(月) 11:52:57.41 ID:Bk9XWMxBO
乙乙
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/23(火) 12:51:02.70 ID:i3cZ02nSO

烈風剣がこれほど怖かったことはない
595 :少し書き溜め投下 [saga]:2019/04/24(水) 23:42:26.58 ID:IyNB7RIv0

 あからさまに正気では無かった、魔法大国出身の術士という奴は総じて酒に強いと評される
それもその筈だ、彼等の最大の武器にして十八番<オハコ>である魔術は当たり前だが術力を使う

 消耗した力を回復させるには特殊な製法で酒造された[術酒]や霊薬としても名高い[神酒]を
飲み干す事で失った術力を取り戻すことができる




 子供の頃から勤勉な学士は術の鍛錬に励み、必然的に霊力を秘めた酒をそれこそ日常的に飲む



 だから、村で酒蔵を巡りながら聞き込み調査をしていた時も並みの人間にしては
アセルスお嬢達妖魔組に負けず劣らずの酒豪ではあった…




普通の酒ならそうそう自分を見失う程に溺酔いはしなかっただろう、が…

"試練を受けに来た者専用"に調整された酒は話が別だ




 [ヨークランド]の住民は代々、酒造に関しては古い歴史と伝統
職人としては神業に到達している技巧を皆が持つ



 妖魔だろうと酒慣れしてる魔術師だろうと関係なく【状態異常】を引き起こす禁断の美酒を
軽々と作り出せるのだ、それこそ東洋の伝記に登場する八つ首竜の八岐大蛇<ヤマタノオロチ>とやらを
酔わせてトドメを刺すという神話に綴られた化け物退治の酒だって造れる程の技術力がある





   ルージュ「ふ、へへぇ〜// いっくぞぉ〜☆」





へらへらとした笑い顔、名前通り赤らめた顔、くるっと踊りながら全身に術力を滾らせ


ゴゴゴゴゴゴ…! ビシャビシャ


 紅き魔術師を中心に沼地の水面が波打つ、大地が揺れる…っ!

陽気で無邪気な子供染みた言動とはミスマッチした凶悪極まりないエネルギーの収束ッッッ!!



      レッド「ば、馬鹿!や、やめろォ!!」



ルージュ「いっけぇ!」クルリンッ☆

ルージュ「ヴァ」クルッ、ピョーン☆

ルージュ「−」クルクルリン

ルージュ「ミ」シュピッ☆

ルージュ「リオ〜ン…サーン」クルッ、クルッ



レッド「うわああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!?!?変身アルカイザーッッ!」ペカーッ





ルージュ「ズ!」キラッ☆


 紅き魔術師は最大級の破壊と殺傷を生み出す宝玉の嵐を呼び出した
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2019/04/24(水) 23:42:57.18 ID:IyNB7RIv0


―――――――――[ヴァーミリオンサンズ]!






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                                        /|/ソ´::\
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