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ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】

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802 :次回は 火曜日か水曜日予定 [saga]:2021/10/24(日) 22:44:19.25 ID:FCswWosx0
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【双子が旅立って9日目 午後 同刻18時45分】

【クーロン:屋台広場】



 ズルズルズルズル、豪快に麺を啜る音に加えて飲めや歌えや騒げやのどんちゃん騒ぎが繰り広げられる中で
蒼き魔術師は青い塗装が塗られたベンチに座ってぼんやりと空を見上げていた

 [モンド基地]での死闘に幕が下りて程なくして人質とされていた密売店主を引き連れてモンド執政官が彼らの前に現れた
言うまでも無くゲンはその姿を見るや否や警戒心を剥き出しにしていつでも抜刀できる構えに入ったが
そこを慌ててレオナルド博士が止めに掛かった


 止めた人物曰く、『彼が"取引相手"だよ、まずは彼から直接話を聞いてくれないか?』との事で
剃刀の様に鋭い目つきの執政官が発した言葉を要約すると、君達の命を助けたのだから私を見逃せ、といった趣旨だ


 …本当に要約するならそんな内容で、彼はあくまで"自分は偶々、私兵を引き連れてテロ組織を摘発しようと此処に来た"
自分はトリニティ政府の転覆など企んでいない、[ワカツ]を滅ぼし基地を造ったのがモンドだというのも
反政府勢力がトリニティ内の不信や対立を募らせて内部分裂を起こそうとしたデマだった、と



 そうシラを切る算段だ。…なんとも幼稚で見苦しい言い訳だなと思った


 [ワンダードギー]がどのような手段を用いたか知らないが、政府が民間企業の[中島製作所]から押収した技術で作った
あの巨大機動兵器も政府の機密兵器だったのだがその技術、現品を奪取してさらには地下に大規模基地も作った…

 元は浮浪者の下位妖魔が、だ


 こんなバカげたシナリオを本気で信じる奴が普通居るか?
当然一行は思った事を口々にしたが、それをレオナルドが宥め、T-260が聞き入れようと頷く

 店主を人質にされたのもあるが、実際問題[グレートモンド]との戦闘で全員に死に目があったのを救うだけの貸しを受け
同時に双方にとっても厄介者でしかない世界征服を狙う野心家の妖魔が乗った兵器を葬れて、尚且つやたらと
庇護しようとするT-260とレオナルドの態度から恐らく今後彼らが乗り込む予定の[タルタロス]に何らかの便宜を図る
そんな取り決めもあったのだろうな


 メカというのは目標、任務の達成に全てを注ぐ存在でありそれだけに約束や条約、契約と言った類にも中々に煩いもの
最優先のS級任務に近づけるとあらばT-260は黙ってモンドの言葉に首を縦に振り
人間としての感情もあったレオナルド博士は仲間達の命を救う為、ブルー達と別れて自分達の冒険をするにあたって
今後有利に事を進める為に……ついでにpzkw�Xが今までトリニティ政府の兵器を違法に売りさばいてた罪で逮捕されない為


 自分達とモンドは偶然、潜入先の基地で遭遇して同じような目的だったから協力関係になった、という体で物事を進めた


 話は平行線の言い合いになったが結局はこちらが折れて、モンドに手を出すことはしなかった
グラディウス組にとっては厄介な相手ではあっても警察部門のトップから政治屋になったから
直接的な敵対は"今はまだ"していない、あくまで今日は基地の調査に来ただけでジョーカーとの一件もあるこの時期に
無駄に全面戦争みたいな下手は打ちたくない

 ブルーに至ってはただのバイト、祖国が関わらないのなら正直どうでもよくて、祖国に被害出しそうな妖魔は既に他界

 スライムは基本的にブルーに従うし、メカ勢は取引してるから当然何も言わない
唯一の懸念が剣豪だったが、意外にも彼は苦虫を噛み潰した顔で「俺はてめぇに会わなかった事にしといてやる」と…

 リュートは剣豪と執政官が出会った時、ゲンはモンドを切り殺してその後"ハラキリ"でも
するのではないかと心配すらしていたが何故か[流星刀]を見て、自身を律していたゲンに
想定していた最悪は起きないと安堵の息を吐いた




 何があったのか知らないが、ゲンの眼には怒りこそあれどチラついていた復讐心の炎が消えているように思えたのだ
慙悔も失意も狂気も破滅願望も何もない、未来に向かって生きてみよう…っ!酒で暈かしてきた世界を直視しよう…っ!
 そんな何処か晴々とした…死者の声に囚われていない男の眼になったように感じたのだ






 ……長々と語ったが、まぁこういった各々の理由でモンドには色々言い放ちはしたが
こちら側が折れてその取引を呑む結果になったというのもある意味当然と言えば当然の結果に収まったのかもしれない
803 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/10/25(月) 18:12:22.75 ID:ujrZbn8V0
この段階でグレートモンドだけ失って立ち位置は健在なままなモンドって今後どう動くんか気になるな
804 :次回は金曜日か土曜日の予定 [saga]:2021/10/27(水) 23:53:08.29 ID:TELfdryz0


   レオナルド「やぁ、隣いいかな?」スッ


 ほぼスープだけになっていたラーメンの容器を持った魔術師の傍に工学者がやってくる
肉体がメカとなった彼は飲食ができない、表情の窺えない機械人形の博士は宴会の中で何処となく寂しさがある様に思えた


    ブルー「別に断る理由は無いが」

  レオナルド「本当かい、助かるよ!それじゃあ隣に失礼して」ストッ


 メタリックボディはそう告げるとベンチに腰掛ける、重量ゆえに僅かに椅子が軋みをあげたが敢えて無視する
このメカは中々に気さくな…社交的な性格だ、生前のレオナルド自身がファーストフード店で上京してきたリュートや
名前も顔も知らない偶々相席になった初見利用の客に「これおいしいんだよ。」とおススメしてくれたり
T-260との初邂逅時も茶目っ気を出す人柄


  レオナルド「やっぱりボクが居るとみんな気を使っちゃって食べ辛いかもしれないからね〜」

    ブルー「俺は良いのか、俺は」


 将来的に味覚機能と飲食物を消化して動力に変換するシステムを自身に組み込むと言ったレオナルドは少しだけ
仲間達の輪とは距離を取っていた、偏に自身の身体問題で気まずい空気を創り出してしまうのではないかと考慮したから


  レオナルド「君は別にそんなの気にするタイプの人間じゃないだろう?短い間だけど一緒に居てわかるよ」

    ブルー「ハッキリと物を言う、気に入った」

  レオナルド「そりゃどーも」


 器の中のスープを啜りながら、妖魔医師のヌサカーンといいスライムといい、それにこのメカ
妙に人外に寄られるものだな、と心の中で彼は思った


    ブルー「それで用件はなんだ、人肌恋しいから来ましただなんて言うまい」

  レオナルド「話が早いね、うん…まぁコレを、ね」スッ


    ブルー「? なんだこれは…ディスク」スッ



 工学者が取り出したのは一枚の円盤、データディスクであり受け取ったブルーはそれの説明を求めた
機械化した彼の脳内メモリを映像化した物がその一枚には納められているらしく
 ルーファスからの依頼で散々カメラに写真記録を収めたブルーとはまた別に独自で彼は基地内の出来事を収めていた


  レオナルド「契約があるからね、ボク達のT-260君の記憶を取り戻す為の旅路やpzkw�Xの罪状の帳消し…」

  レオナルド「そういった物の為に"ボクは"モンドを裁くことはできない」


  レオナルド「だからモンドとの会話内容はばっさりカットされた物ではあるけれど」


    ブルー「……ふむ、つまりこういうことか?コレを出すところに出せば、そいつ等が検挙してくれると」


 機械というのはつくづく律儀な物だな、と思う
基地から脱出した今もまだモンド相手に契約を守るのか…、あくまで自分達とは関係の無い第三者の手によって裁かせると


  レオナルド「あー、でもさ警察は駄目だよ?彼、元々警察機関のトップだったし」

    ブルー「ならば何処へだ?」


  レオナルド「その辺は抜かりなしさ一人あてに出来そうな人物に心当たりがある、生前行き着けの店で知り合った」



  レオナルド「[IRPO]所属のロスター捜査官、通称クレイジー・ヒューズ…彼に渡して欲しい」

  レオナルド「トリニティ政府の警察組織とはまた独立した組織ではあるけど、それでもモンドからの圧力は掛かる」

  レオナルド「でも、彼は人一倍"悪"というものを許さない人だから、上からの圧力で今すぐは無理でも恐らく…」

805 :続きは明日か明後日 [saga]:2021/10/30(土) 23:34:40.80 ID:53kzs8mb0


    ブルー「ロスター捜査官か、引き受けてやってもいいだろう」

    ブルー「ただし気が向いた時にだぞ、俺はあくまで私用を優先とさせてもらう」


 いい加減アニーに依頼した[ディスペア]行きの件も準備ができる頃合いだろう、資質を取る為の旅が優先だ
魔術師は工学者にそう言い放ち、それでもいいのなら受けようと改めて問い直す


  レオナルド「なるほど、確かにキミにもキミの都合があるだろうからね、それで構わない」


 話は纏まり魔術師は受け取ったディスクを仕舞う、それとほぼ同じタイミングでいつも異常にテンションが
上がっている無職男性が絡んできた


  リュート「いよぉーっ!ブルー!レオナルドさん!!楽しんでるかーい!?」ダキッ

   ブルー「ぐえぇっ!?」

 レオナルド「うん!楽しんでるよ、それとあんまり彼の首絞めない方が良いよ」


 首に腕を回して締め上げてくるというウザ絡みをしてきた酔っ払いを見事な一本背負いで投げ飛ばす
背中を強打して「痛ってぇぇぇぇ!?!?」と叫ぶリュートを見て術士は我ながら筋力が付いたなと思った


   ブルー「ぜぇぜぇ…貴様ァ!!いきなり人の首を絞める奴があるかァ!?」

  リュート「いつつ、わ、悪かったってばよぉ」タハハ…

  リュート「二人ともこんな離れた所に居るから寂しくないのかと思っちゃってさ
        なぁ!もう少しみんなの所行こうぜ!ゲンさんが剣術大会の事とか語ってくれるんだ」

   ブルー「在りし日の[ワカツ]の剣術大会か………まぁ興味がないわけではない、な」

 レオナルド「T-260君から少し聞き及んでるけど
         [鉄パイプ]でロープを切ったりとか科学的にありえない事を起こせるんだよね面白そう」


  リュート「だろだろ!?だからさ二人もこっち来て話そうぜ!」


 すっかり空になってしまったラーメンのお椀を持って青の魔術師は歩き出す不意に空を見上げれば
そこには月が浮かんでいた、ネオン輝く"惑星<リージョン>"では珍しく今日は月がくっきりと見える日だった


  エミリア「あっ、二人ともこっちこっち!今最高に盛り上がる内容――ブルーどうしたの空なんか見て」



   ブルー「…いや、今日は月がよく見えているなと」


   アニー「あぁ、今日ってそういえばニュースでやってた日だったわね」


 エミリアの隣に座っていたアニーも術士の目線の先を追いテレビのニュースでやっていた内容を思い出す
今になって気が付いたが陽が沈み夜が到来したばかりの[クーロン]にしては明かりが少ないな、と彼は考える
 もうこの街に滞在して短くはない、些細な違いに気が付けるくらにはなってきた



  エミリア「今日って数年に一度の皆既月食とかいうのが視れる日なんでしょ?」

  エミリア「名前は知らないけど天文学者の人がニュースで言ってたわ」


   アニー「それを観測しようってことで街中で医療機関とか大事な場所は除いて計画停電があるのよね」


 それで今日は月がくっきりと見えているのか。


  ブルー「この"惑星<リージョン>"だけか?」

  アニー「そうよ、[クーロン]の月だけが皆既月食みたいで他所の星から見える月は普通みたいね」


 月食で月が徐々に欠けていき、完全に無くなるとその瞬間…月は紅くなる
血に濡れたかのように真っ赤な月、ブラッドムーンと呼ばれ
季節によってはストロベリーやローズ等とも呼称される…そんな紅い月、神秘と畏怖を覚える紅の色が
806 :続きは火曜日か水曜日 [saga]:2021/11/01(月) 14:26:38.42 ID:LBBGN4s+0


 エミリア「でも月食って神秘的でもあるけど、どこか怖くもあるわよね…いつもそこにあった物が欠けていって」

 エミリア「次第には完全に無くなって、真っ赤なお月様になるんですもの」


 祖国の学院で常に机上の参考書と睨めっこしながら白紙の上にペンを走らせた身として術士の彼はその言葉は
イマイチ理解できかねた
 齢22となっても月なぞ見る機会はもしかしたら指で数える程しかないかもしれない
皮肉にも修行の旅に出て空をぼんやり眺められる時間が出来たかもしれぬのだ



    ゲン「暁月<ぎょうげつ>だな…」



  リュート「ギョーゲツ?」

    ゲン「俺んトコじゃあ真っ赤なお月さんの事をそう呼んでたのさ」


    ゲン「[ワカツ]に古い話があってな、まぁ悪ガキ共をビビらせる為の与太話なんだが…」

   アニー「おっ?何々また面白い話聞かせてくれるの?」ワクワク

  リュート「あぁっ、待ってくれよ屋台のおっちゃんに注文した焼き餃子取ってくっから!」ダッ


 語り部となって古い言い伝えや失われた[ワカツ]の日常風景、伝統など貴重な話を聞かせてくれるゲンの傍に
工学者と術士も座り込む、無職男性もいつになく機敏な動きで取りに行った大皿を運びながら座り込んだ
 [モンド基地]から生還した彼らの宴会会場となった屋台広場のテーブルにはアルコールの注がれたジョッキや
食欲を擽る素晴らしい馳走が並べられていて、さっそく追加された一品を小皿に分けて
一口食べ出すグラディウス組とスライム、「あっ、ずりぃ」とリュートも食べ始めて魔術師もそれに倣う

 …パリパリとした皮の食感と火が通った具材、そこに少量のピリ辛風味のたれが美味いと感じた


  ゲン「話していいか?…俺の爺さんのそのまた爺さんの爺さんの…ってとんでもなく気が遠くなるくらいの」

  ゲン「まぁ年号がいつだかわからねぇくらい大昔の話が元とかいう奴でな、嘘かどうかなんて誰も証明できないんだ」




  ゲン「数百年に一度、月食が起きて…生き物がみんな死んじまうって怪談話さ」


  T-260「」ピクッ


  ブルー「なんだそれは?」

   ゲン「知らねぇよ大昔のご先祖様にでも聞けって話さ、…なんでも月が無くなると"双子"が出てきて」


   ゲン「良い子にしてたら双子のお姉ちゃんの方が善良な子供や大人を助けてくれる」

   ゲン「だが双子の弟の方は恐ろしい4体のバケモノを引き連れて全ての生き物を喰いに来るんだとさ」


   ゲン「なんてこたぁねぇ迷信だろう、人間胸張って善い事して生きろって話で、悪い事したら閻魔様に舌抜かれる」

   ゲン「それと同じような与太話だよガキの頃に俺も爺ちゃんから耳にタコできる程聞かされた」

  ブルー「道徳と人間性、罪と罰に対する戒めみたいな作り話か……問題はその話がどのような過程で生まれたかだな」


 例えば、世界に残る心霊現象や神話も紐解けば何かしらの見間違いや歴史の口伝が何処かでねじ曲がって伝わったり…
白いお化けを見たと言えば実は木の枝に引っ掛かったビニール袋がそう見えただけだったり
人魂を見たと言えばそれは田舎で夜中に沼地から発生したガスが引火して結果的に宙に炎が浮いてる様に見えただけ等

 何かしらの"元ネタ"というのはあるのだ…人の罪と罰や正しさ、倫理的道徳に基づいた話を後世に残すなら
昔に恐ろしい事件でも本当にあったのだろうか?


   ゲン「過程なぁ…ってもそんなの聞いたこともねぇし皆ただの作り話だろって、いつ作られたかもわかんねぇんだ」

   ゲン「案外どっかの"惑星<リージョン>"で本当にあった話でそれが[ワカツ]に流れてきただけとかかもな」ガッハッハ!

 リュート「はははっ、ちげぇねぇや!…ん?T-260どうかしたのか?」ゴクゴク

 笑いながら豪快にジョッキの中身を流し込みながら妙に黙りこくった古代文明の遺産…"T"シリーズの機械に話しかける
807 :続き 金曜日か土曜日 [saga]:2021/11/03(水) 14:18:56.27 ID:Pd11aneE0

 剣豪と旅を共にしてきたメカは基本的には無口だがそれにしたって今の迷信話をし始めてから何かを考えこむ様な
そんな沈黙を通しているような気がしてリュートは問いかけた


   T-260「いえ、ただノイズの様な物が走りました、不調でしょうか」

 レオナルド「うん?キミの修理が甘かったかな?後でもう一度ボクが見ておくよ」


 "T"シリーズ…古代に作られた通称"T<タチアナ>"の名を冠したメカは工学者の提案に黙って頷いた


  T-260「ゲン様、その話に関して諸説はあるのですか?」

   ゲン「おっ、どうした珍しいじゃねぇかお前がこんなのに興味持つなんて…
               そうさなぁ、生き物が死んじまう月食が起きると生まれてくる双子」

   ゲン「片方は地獄の底から従えた怪物と一緒に人を襲って、片方は人を護るっていうから」

   ゲン「じゃあ片方は悪党なのかってーと、そうじゃねぇ悪さする奴の戒めだし本当に世の中の奴らが皆いい奴なら」

   ゲン「そん時は姉ちゃんと弟が力合わせて、双子の力で地獄の門を閉じてくれるなんて伝わってる地域もあったな」


 信じられないだろうが地獄の門を閉じた事で"混沌の海<宇宙>"が出来て新しい"惑星<リージョン>"も誕生したとか
…まっ、こんなもんか?とゲンは語った。


   ブルー(双子が協力して地獄の門を塞ぐ、か)


 数百年に一度、死の月食が起こりその時に生まれた双子が力を合わせて"地獄に通ずる門"を封ずる
太古の昔より伝わる現実味の無い御伽話に耳を傾けながらコップに注いだ発泡酒を口に含んだ
 対極の存在にある双子が時としては手を取り世の為に戦う―――いや、元々は形さえ違えど世の為なのか
双子同士での殺し合いを宿命づけられている自分とは違うものだな、と彼は思った…


   ブルー「中々興味を惹かれる話だったな、他に面白い話は無いのか?」

    ゲン「あー、それならこういうのはどうだ―――――」


 月食は始まり、[クーロン]から見える月はもう半分が無くなり始めていた…暁月<ぎょうげつ>の刻は近い

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【双子が旅立って9日目 午後 19時06分 [京]】


 気候としては熱帯雨林に類する[シンロウ]の空気と異なり、気温や湿度も低くまた[京]の季節も少し肌寒いくらいで
過ごしやすいものだった、一度は[マンハッタン]に寄ってこれから乗り込むであろう基地に仕掛ける時限式の爆発物を購入
 少し遅めの時間にはなったものの紅の法衣を来た術士は以前ゲン達が泊まっていた旅館でチェックインを済ませていた


  ルージュ(…遂に来ちゃったな、メタルブラックさんの所)


 [クーロン]へ向かいブラッククロスの件でエミリアが所属するグラディウスに行くより先に彼らは[京]を訪れた
案内された客室にとりあえず荷物を置いて、財布と携帯電話だけを持って外に出かける
 この街の[庭園]にて"ラビット"なる隊員を見つけ出し協力を要請を行う手筈のレッド達と合流予定だからだ


 ルージュ「…綺麗な"惑星<リージョン>"だよなぁ此処、こうして夜の[京]を歩くのももう一回観光目的でしたかったなぁ」


 落ち葉舞う美しい街並み、灯篭の寂しげな明かりを支える様に夜空の星光が煌めいて
風に揺れる柳の並木を抜けて紅き魔術師は観光スポットの[庭園]へと向かう…


 ルージュ「んっ」ヒュオオォォ…!


 突然、吹いてきた強風に煽られて目元を抑える、そしてふと夜空を見上げるとそこには美しい月が浮かんでいた



 ルージュ「…わぁ、綺麗だなぁ」


 今宵の満月はとても澄んだ"蒼"の輝きを放っていた、この世のどんな宝石よりも美しいと思える蒼月<そうげつ>が…
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/11/03(水) 19:32:39.76 ID:qmUOt1PuO
ロマサガ3の死食かな?
809 :続き明日 [saga]:2021/11/06(土) 23:10:21.03 ID:Y31XkU2P0

 橋を渡って[庭園]にたどり着けば仲間達は既に目当ての隊員と合流を果たしていた
ふよふよと宙に浮かぶ機械、タイプ2型と呼称されるメカがレッド等と話しているのが目視できる



  IRPOメカ隊員「[メタルブラック基地]を調査中です」フヨフヨ…


   アセルス「キミがラビットだね、ドールさんからお話は聞いてるよコレ書いてもらった紹介状」スッ

    レッド「メタルブラックの基地を調査中、か…そう、だよな」


   ラビット「……。」ジッ

   ラビット「IRPOの印ならび書かれている文字の筆跡がドール本人の物と完全一致、偽造でないことを確認しました」


   ラビット「書状の内容通り、アナタ方との共同任務に就きます」

    レッド「ああ、よろしくな!―――っとルージュ、宿をとってきてくれたのか?」


   ルージュ「うん、チェックインは済ませてきたよ」チラッ


 紅き魔術師は辺りを見渡す、今日はこの場所に多くの人が訪れていた
この"惑星<リージョン>"特有の着物姿の人間が飲み物や手作りのお弁当を持参して敷物を広げて皆が一様に空を見上げていた
 [京]は他所と比べても肌寒さのある土地でまた一年の中で最も秋の期間が長いとされている
今宵は蒼く輝く月が夜空を彩る、この時期だからこそ人々は地元の風習の"お月見"とやらを楽しむのだそうな



   ルージュ「人が多いね、道中で道行く人が話してた『おつきみ』って奴なのかい?」

    レッド「だな、俺達が来た方の道なんて縁日でもねぇのに屋台が出てたぜ、焼き鳥の美味そうな匂いだ」
   アセルス「うん、わたあめ屋さんとお団子屋さんまであったね」


 なるほど商魂逞しいというヤツなのか、と術士は思った
予定では今日でラビットと合流して彼の調査報告を訊き、監視や警備の手が薄い時間帯を狙って基地に潜入
悪の秘密結社の活動資金源と成り得る麻薬密造施設の爆破を目論んでいた

 作戦開始はどの道明日だ、であれば…





       ルージュ「僕達もお月見しようよ、今日はこんなにも月が綺麗なのだから」



 紅き魔術師は空に輝く『蒼』を見て美しい、純粋にそう感じた
心が不思議とザワザワする居ても立ってもいられない、胸の奥で何か言葉にし難い物が込み上げてくる感覚
 明日、知り合いを自らの手で斃すかもしれない、斃してしまうことになるのかもしれない……
そう考えると頭が重い、澄んだ水面に石を投げ入れて浮かんできた泥を更に綯交ぜにして濁り水を作られた気分になる
パーッと遊んで、騒いで笑って、今だけはそれを忘れたいだけなのかもしれない
 英気を養うという意味でも、振り返った時に笑える思い出話を作るためにも…やってみたい、彼はそう考えた



    レッド「景気づけか、それも悪くないかもな」

   アセルス「そうだね、こんなに綺麗なんだから見なくちゃ損だよね」



 なら何か飲み食いできるもの買いに行こうぜ!とレッド少年が声を上げて屋台に向かうとした時
姿が見えないなと思っていた白薔薇姫とBJ&Kが向いの橋から何やら袋を引っ提げてやってくるではないか


    白薔薇「必要な物はこちらですか?」ニッコリ
     BJ&K「屋台の方々がサービスしてくれました」ドッサリ


 旅の消耗品、食料の買い出しで別行動をしていた白薔薇姫とBJ&Kがリストに無い品を大量に持っていた
まるで最初からこの3人が今宵は此処でお月見しようぜ!っていうのを予知していたかの様に
彼女(ほとんどBJ&Kだが)はお団子やお総菜、飲み物の類を持っていた

 曰く、屋台前を通りかかった白薔薇に屋台の店主達が「べっぴんさんだね!これサービスするよ!」と渡して来たとか…
重さで腕がプルプルしてる様な気がするBJ&Kとにこやかに笑う白薔薇を見て3人は暫く呆気に取られた後、盛大に笑った
 準備に抜かりは無しとは恐れ入った、これは白薔薇には頭が上がらないな、と
810 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2021/11/07(日) 23:56:00.27 ID:DcTYNOu70
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 古来、人は空に輝く物を信仰した

 太陽には神が住まうと信じ人間に齎す光の恩恵や作物の豊穣を乞い願った、風土と風習は違えど何かを信仰する文化は
必ず人の根付く大地にはあった、太陽信仰とは違うが夜空に輝く月に祈りを捧げる古めかしい文化も当然ある
 大空で輝く物に対して畏れ敬う…形式こそ違えど本質は変わらない


 人がそれに人智を超えた神秘を感じたならそれに対して畏敬を以て信奉し得られる恩恵へ感謝する、そこに差は無かった





    ブルー「…紅い月だな」



  エミリア「綺麗だけど、血の色みたいで少し気味が悪いわね…」

   ブルー「ふん、気色が悪い言いつつ貴様もジッと見続けているではないか」

  エミリア「そりゃそうだけど…」


    ゲン「はははっ、さっきの話の後だから不吉に見えちまったってのもあるか?」


 酒を呷った剣豪が豪快に笑う、元モデルの彼女は少しだけムッとして「別にそーじゃありませんよー!」と拗ねた様に
果物酒の入ったグラスに唇をつける、酒に弱い事を知っている同僚のアニー、酒屋で同席したことのあるリュートは
そんなに一気に飲んで大丈夫かと?心配そうに見つめた


 レオナルド「まぁ赤い月は不吉の象徴っていうのはあながち間違ってはいないからね」

 レオナルド「統計データ上、何かしらの災害が起きる直前には紅い月が出ると言うから」


 空に光る紅に対してネガティブな意見が出る中、蒼の魔術師は口を開いた





   ブルー「俺は、別に紅い月を不吉の象徴だとは思わんがな…」



  リュート「おろ?珍しい、いつも赤いモンを目のカタキにしててトマトでさえガツガツ噛み砕くのに?」

   ブルー「貴様の中での俺はどういう人物像なんだ…」


   ブルー「赤い月が見えるのは学説上、噴火や山火事で発生した塵や水蒸気が原因でそう見えるというのが多い」


   ブルー「今レオナルドが言った様にそれが見えてからは地震だとか災害が出るケースがある」

   ブルー「…不吉の象徴というよりは、警告や注意だな」




   ブルー「学術理論で解き明かせる自然現象を以てして、人々に"事が起こるから備えておけ"と説いている」


   ブルー「…俺はそう解釈してるがな」



 学徒として本の虫だった頃に文献で見た意味合い、そこから自分が感じた毀損の無い意見を彼は述べた
古代の人間が太陽や月を信仰したのはそういった一種のサインを知れたからというのもある
 暦<こよみ>を知る術<すべ>であり、方角や時間、季節の概念を賜り、世に起こる恵みや厄災の"予報"にもなった


 …【紅】はあまり好きな色じゃないけど、アレ自体は別に悪くはない、ただの自然現象、論理的に解明できる仕組みだ

 人々を救おうとそんな声なき声を上げ、警戒心を抱かせる―――あまり好きになれない色だが認めるべきは認めてやる

811 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2021/11/07(日) 23:58:27.76 ID:DcTYNOu70


 何か信じられない様な物でも見た顔で各々が蒼き魔術師の顔を見る、表情が判別できないスライムですら
呆けている様にブルーは見えてバツの悪い顔になる


   ブルー「……なんだ貴様ら、そんなに変な事を言ったか?」イラッ



   アニー「いや別に変な事は言ってはいないんだけどなんかね」

  リュート「お、おう…なんか今日は珍しく赤い物に対して優しいなって、こりゃ明日は月でも消し飛ぶんじゃ…」



 あっ、いや、月は無くなってたかと茶化してジョッキの中身を喉に流し込む無職男性に益々眉間の皺を寄せるのであった
言いたいことは解ってる自分らしく無い発言だったとも、そんなことは分かっているんだ

 生死を賭けた激戦から誰一人欠けずに生還したからなのか、今日に限って妙なセンチメンタルになっている自分が
存在していることには気付いている
 …認めたく無いが、自分はコイツ等に多少なりとも愛着が湧いてるのかもしれない、蒼き魔術師はそう思う


 そんな彼らと今宵見ている【紅】は不思議と嫌な気持ちがしない、それどころか美しいとすら感じた
胸の奥がざわついて、だのに…何処かひどく冷静な自分が居て今まで考えた事も無い言葉が浮かんでくる
誰にも漏らした事の無い自分の心情を何かの弾みでポロリと零してしまいそうな自分が居る
 今まで凍り付いていた物が一気に解氷して流れ出してしまいそうな、…落ち着いて打明けたくなる不思議な気持ち



 ――――……心細い?不安や寂しい? どんなちっぽけな事でも良いから誰かに打明けたい?


 脳裏にこの歳まで考えた事も無かったワードが飛び交って消えていく、今まで考えた事も無い"言葉<感情>"の数々が





…きっと紅い月の所為だな、皆既月食は星々との間での引力で人を情緒不安定にさせるらしいからな。

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 紅き魔術師は[京]の[庭園]にて気の置ける仲間達と共に語らい合い、夜風を浴びて空に浮かんだ蒼月を眺めていた
滅多に見れるものじゃない統計上かなりのレアケースの月

 ありえないこと、相当珍しい物、もしも見れるのならばそれは即ち幸運であり神に愛された者であるとそれ故に
蒼月はこう称されることもある

――――青い月は奇跡の象徴である、と



  アセルス「―――ってことがあったんだよ、だから二人でイルドゥンの寝室に捕まえた虫を…って聞いてる?」

  ルージュ「えっ、あっ!?ごめん…空を見上げてたからつい」


   レッド「今日は確かにお月様が綺麗だからなぁ…スーパーブルームーンとか言ってたっけ?」

   白薔薇「ええ、今宵は綺麗な月ですよね……美しい程の青は奇跡や幸福を与えると言いますわ」

   白薔薇「童話でも"幸せの青い鳥"という物があるように昔からそう言った意味はあるのです」

  ルージュ「読んだことがありますよ、幸福を呼ぶ青い鳥は本当は近くに居るのそれに気づかず求めて旅する話ですね」


 その身に青い血液を宿す妖魔の貴婦人は静かに語る。


   白薔薇「…ふと国ごとに解釈の違う青い鳥の書籍を読み考えた事があるのです、青い鳥を見つけ出せた者は幸福と」

   白薔薇「であれば、"青い鳥自身"は一体どうやって幸せになるのでしょうか…"月自身"は一体何を見上げるのか」


 自身が人に幸福や奇跡を授ける存在であるならば、その当人は誰から幸福や奇跡を授かるのだろうか?
そう考えると見上げる人々を幸せにする蒼い月はなんと孤独な存在なのだろうとふと思ってしまう


812 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2021/11/08(月) 00:16:50.30 ID:6x6tlwg90


   レッド「なんつーか哲学的な話だなぁ…確かにそういわれるとあの夜空に浮かぶお月さんも可哀そうかもな」

   レッド「だって、月自身は月なんてみれねぇだろ?俺達は普通にこうやって飲み食いしながらお月見してる訳だし」

   レッド「月は一体何を見て綺麗だなぁとか思うんだろうなぁ」


  ルージュ「ん〜…可哀そう、なのかな?」


   白薔薇「ルージュさん?」




  ルージュ「僕は、蒼い月が可哀そうな子だとは思わないよ、だって蒼い月は僕達が住んでる星を見てるんだもん!」



 その発言に全員が目をきょとんと丸くした、なるほど…地上に居る人間がお月見してるなら
向こうさんはもっと蒼く輝く水の星を見てるのか…

 月視点なら幸せの"青い水の星"がいつだって間近にあるという事なのだろうか



   白薔薇「なるほど…そういう解釈ですか、そういう物もあるのですね…その発想はありませんでしたわ」

  ルージュ「僕は皆が皆、誰しもが幸せになれる権利があると思うよ、きっと例外なんて無いんだ」

  ルージュ「人は青い鳥を探したり捕まえることができる、でも青い鳥自身は青い鳥を捕まえられない」


  ルージュ「きっとそんなことはないんだよ」


  ルージュ「青い鳥にとっての別の青い鳥が居るんだよ、もしかしたら僕達には気付けないだけで彼らには」

  ルージュ「彼らだけが口にできる幻の青い果物とか青い木の実とか、もしかしたら青い花があるのかもしれないし」


  ルージュ「月には月で僕達からの場所から観測できないけど、あの宇宙区域地点から見える別の月があるかもよ?」




  ルージュ「ただ自分だけが誰かに奇跡や幸福を与えるだけで、自分は誰からも奇跡や幸せを貰えない」



  ルージュ「僕はそうは思いたくない、そんなの悲しすぎるから……―――だからそうであって欲しいなって」


 それは違うし、そうであってはならないんだ。

 紅き魔術師はそう口語する、きっと自分達には分からないだけで相手にも大切な何かや誰かが居てくれる筈なのだと


   白薔薇「ふふっ、そうですわね、そうであった方がいいですよね」クスッ


 妖魔の貴婦人は月を見上げて慈しむ様に微笑む、空から無償の輝きを振りまいて夜道に疲れ果てた人々の心に感動を与え
もう一度辛く険しい道のりを歩き続けようという心持にさせてくれる蒼月

 そんな蒼月にもきっと自身にとっての幸せや頑張ろうとするための何かがあるのだ
案外、自分の"応援<エール>"で立ち上がり日々頑張ろうとする人々の姿が彼にとっての生きがいなのかもしれない

 そう考えたら、それはそれで相互に助け合っているということになるのでは?



   ルージュ(…誰かが空に浮かぶ綺麗な月に祝福されて、頑張ってねって応援される)


   ルージュ(もしも、もしも月が誰からも祝福されないのなら、祈ってもらえないのなら…そうだなぁ)




   ルージュ(なら、せめて僕くらいは祈ってあげたい、かな…)


813 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2021/11/08(月) 00:35:00.43 ID:6x6tlwg90
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―――
――
―



  二人の魔術師が居た。



  奇しくも、同じ時間、同じ刻の中で二人は蒼と紅の月をそれぞれ見上げていた






 蒼は暁月を見て、これからの旅路は困難が伴う茨の道かもしれないと感じた


 蒼は誓った。




 自分は決して挫けない、生きてみせると









 紅は蒼月を見て、光を齎す存在と自身の旅路に幸があって欲しいと思った


 紅は祈った。




 自分のこれからに幸を、生きてみたいと



―
――
―――
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814 :少し忙しくなるのでもしかしたら再来週かもしれない、できれば一週間以内に続き [saga]:2021/11/08(月) 00:38:04.33 ID:6x6tlwg90
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            今回は此処まで!



           ※ - 第6章 - ※



        〜 蒼月に祈りを、暁月に誓いを 〜


                              〜 完 〜

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815 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/11/08(月) 07:35:51.48 ID:kUQRjw8B0
おつー
ルージュくんいい子でかわいい
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2021/11/21(日) 23:35:22.51 ID:tk2iaXF30






           ※ - 第7章 - ※



        〜 それでも明日はやって来る 〜



817 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2021/11/21(日) 23:37:00.15 ID:tk2iaXF30


 その日は、一際暑い一日だった


 ジッとただ立ち尽くすだけで汗が滲む様な暑さの中を涼風が一陣吹きぬけていく
ふと首を上向けてみれば少し前にも見上げた蒼穹は色褪せていて、徐々に違う色が混ざりつつあった
 齢7歳の二人は勝手にそれぞれの学院を抜け出して来たことを思い出し互いに表情を変えた
こっぴどく叱られてしまうだろうなと眉を八の字にして笑い、もう一人はバツの悪そうな顔で後ろ頭を掻いた



 かと言って今更戻る気なんて無かった、どうせ怒られるのが確定しているなら慌てて帰っても意味は無い
一時間遅れようが三時間遅れようが遅れたという事実は変わらないと開き直った



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 ほんの少しだけ暑さが薄れていく街の中央広場で二人は此処まで来たなら夕日も見てみようと

 蒼を纏った金髪の子と紅を纏った銀髪の子、どちらが先にでもなく息を合わせてそう言った





  『刻が経つのは早い物だな、もう陽が傾き出した』

  【ね、本当に不思議だと思うよ】


  『楽しい時ほど早く過ぎる、月並みな言葉だが…その意味を実感出来た気がする』

  【時間は皆に等しく平等だー!っていうけれど本当はそんなことないのかもね】


  『ああ、苦痛に感じる者や喜楽を噛みしめられる者、人によって流れ方は違う』

  【根っこの部分は同じモノの筈なのに人がそれをどう捉えるかが大事ってお話だよね】



  『ああ、そうだな』

  【ふふ、そうだよね!】





 邂逅を果たした広場の噴水の縁をベンチ代わり腰かけてお互い何も言わずにただ街を眺めていた
修道士が手に学院の教えを綴った聖書を持ち聖堂で祈りを捧げる為に忙しくなく移動し
ある者は特殊な呼吸をしようと木陰で息を整えて、観光客は西日になりつつある斜陽から
目を保護すべくサングラスの位置を正していく


 一際暑い夏の日がほんの少しだけ去っていく瞬間、晩夏もやがては立ち消え、鈴虫が舞台準備に急く


 吹き抜けた涼風は遠からぬ未来を暗示していた
時が訪れれば自然と現れる摂理の予兆、街に根付く息遣いも少しずつそれ等を感じ取って変わっていく
 小さな変化、だけども大きな変化―――それを二人の少年は何を言うでもなく見つめていた



  『人を視る、というのも存外つまらないものではないな』

  【"生きている"それを実感できるからね】


 街が生きている、人が活きている。

 多くの命がそこにあって、それぞれが互いの相互関係で成り立っている
誰かが誰かの為に存在していて、同時に誰かが誰かから渡された物で今日を生きて
そして誰かは誰かの犠牲の上で成り立ち明日を迎える、普段気が付かないだけで世界はきっとそうして回っている


―――
――
―
818 :続き火曜日か水曜日予定 [saga]:2021/11/21(日) 23:38:33.99 ID:tk2iaXF30

【双子が旅立って10日目 午後 16時00分 [京]】


 紅葉の色が最も映える夕暮れ時、時刻はジャスト16時ぴったり、ヒトロクマルマルである


 眠気覚ましの湯浴み後に重くなった銀髪の水分をふき取り旅館備え付けのドライヤーで髪をよく乾かして彼は着慣れた
紅の法衣を身に纏う、[シンロウ]で調達した精霊銀の装備やドール隊員から選別として頂いた幾つかの支給品も身に着け
彼は揺り椅子の上で時計の長針が天辺に上り詰めるのを待っていた

 昨晩、[IRPO]のメカ隊員ラビットと接触して協力を取り付ける事に成功した彼らは潜入先の基地について
分かっている情報を提供してもらった

 曰く、物資の搬入や人員の入れ替え、また基地内の警備担当者による定時見回りスケジュール等々




 結論から言うと、この時間帯が[メタルブラック基地]を攻略する上で一番の攻め時だそうだ



[書院]の地下にブラッククロスの資金源となる麻薬の密造施設がある、彼らにとっての金鉱脈を潰し
"可能であるならば"メタルブラックに警察への自首あるいは組織を潰す為の協力…つまりは司法取引だが
恐らく彼は主君を裏切る様な者ではない

 前日から思ってはいたが、どれだけ希望は薄くとも藁にも縋りたくなるのが人間のサガだ


 限りなく可能性が0%に近かったとしても"可能であるならば"穏便に済ませたい




 肝心の入り口に関してだが「ぬけみち」とやたら達筆で書かれた掛け軸の裏が出入口になっているらしく
[書院]に出入りする修行僧に扮した麻薬売人もそこから入っているらしく本来であれば掛け軸前に
誰かしらの見張りが居る、なんならメタルブラック本人が掛け軸前に堂々と立っていて来訪者が基地内に入り込まない様に
監視していることだってあるのだそうだ

 今日のこの時間帯なら掛け軸の前に見張りは居らず、しかもご丁寧にブラッククロスの手の者が基地に入る為にロックを
敢えて解除してあるとのこと


 それ故にルージュ一行は昨日[京]に到着したにも関わらず、行動を起こさず黄昏時まで旅館で息を潜めていたのである
時計の針が16時をぴったり指し示したタイミングで戸を叩く音がする




      BJ&K「ルージュさん、時間です」ピピッ

    ルージュ「ん、今行くよBJ&K」


 医療メカが予定通り作戦決行の時間に迎えに来た、彼は必要な荷物を持って旅館を出る
チェックアウトはしていない、事が終わればまた戻って来る予定だからだ
 入口には既に白薔薇姫とアセルスお嬢、レッド少年も居る……ラビットは先に件の掛け軸前に居るとの事だ



    レッド「それじゃあ、行くか」


 術士の姿を見るなり少年がそう言葉を発した、何も知らない観光客や旅館の従業員からすれば知り合いが来たから
引き続き観光の為に街を回ろうという意味にしか聞こえないことだろう
 何気ないこの一言に、どれだけの決意と緊張が入り混じっていたかは知る由も無い



 友好的だった知人を―――メタルブラックをこれから切り捨てるやもしれぬ、それは皆が思っている事で口には出さない


 彼らは橋を渡り、落ち葉舞う道を歩み、幾度か訪れた店の前を素通りして、長い坂道を登っていく
前に訪れた時と同じで紅く燃え上がる様な美しい輝きが[京]の都を包んでいた
 夕焼けの朱に照らされた街並みを進み、彼らは遂に[書院]へとたどり着いてしまった…

 事前報告の通り、院内には職員は誰一人として居なかった…否、道中見えてしまったのだ
[クーロン]でも見かけた巡礼者と同じ格好をした人物が建物の中に入っていくのを
 そして、誰も居ない……入った筈の修行僧の姿が影も形も無い、隠れられる場所など何処にも無いと言うのに


 例の掛け軸がある部屋にも巡礼者の姿は無く、代わりに天井からラビットがふよふよと降りてくる
曰く、麻薬の密売人がやってきて自分に気づかずに基地内へ入っていった、と
819 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/11/22(月) 03:07:57.08 ID:CfwkyEjn0
乙です
メタルブラック楽しみ
820 :続き 金曜日か土曜日 [saga]:2021/11/24(水) 23:24:46.52 ID:r3avWaxy0


   ラビット「この裏に空間があります」

 降りてきたメカ隊員は「ぬけみち」と書かれた掛け軸を示す、その言葉を受けてレッド少年がゆっくりと手を伸ばすと…


          レッド「おあっ!?」シュインッ!!


  アセルス「烈人君!?」

  ルージュ「き、消えたっ!?」


 手を触れた途端、彼の身体は薄くなりそのまま回転しながら浮かび上がったかと思えば
掛け軸に吸い込まれる様にして姿が消えた
 白薔薇がそれを見て口元に手を当て、「…なるほど一種の転移術のようですね」と興味深そうに眺める

 [ファシナトゥール]の城にも転移術を利用した移動装置はある
台の上に乗れば舞う花弁に包まれて違う棟へと運ばれる物だが彼女は主人の城にある物と違い
妖力を感じないことに疑問を抱く


   ラビット「術と科学機器の2種混合装置のようです、術に長けた人物が近づいても察知できないようです」


 メカ隊員の解説を聴いて成程と白薔薇は納得し、同時に機械の力は妖魔の霊感でさえもこう欺くのですかと感心する
同じく術士である紅き魔術師も術的な力を全く感知できなかったことに驚いた
 薄っぺらい壁掛けの一枚、それが捲れても後ろには壁しかなくどうみてもちっぽけな掛け軸一枚の裏に
人間一人が通れる様な大穴も扉もあるとは思えない

 触れればこの軸の裏側、厳密に言えば壁を物理的に貫通して内部にある秘密基地に入れるという仕組みか


  ヒュンッ!!

   レッド「び、吃驚したぁ……」


 少年がまるで瞬間移動でもしてきたように現れた、どうやら向こう側から帰ってきたようだ
仲間の顔と景色を一瞥してどうにか地上に戻って来ることができたのだとホッと息をつく


   レッド「入ってみたが、この中凄いぜ…[京]の建物とは思えないくらいの無骨な創りだった」

   レッド「瞬間移動してすぐ後ろに緑色の光がある、暗闇の中で蛍光塗料ペンで縦長の長方形描いたみたいな感じの」

   レッド「どうやらそれに触れれば地上に戻れるみてぇーだ」



  アセルス「じゃあ、予定通り基地に時限式の爆弾を仕掛けたら…」


   レッド「ああ、退路は確認できたからな、そこまで戻ってくれば無事に脱出成功ってワケだ」


 一同その言葉に頷いて、掛け軸に触れていく
紅き法衣の青年も仲間達と同じように手を当てれば、浮遊感に襲われる
 自身の身が宙を舞い、視界が文字通り360度回転―――したかと思えば何処かの物置か何かと思わしき場所に立っていた



  ルージュ「ハッ……ここは…」キョロキョロ


 [京]の自然豊かな香りとは違う、鉄と油の匂い…いや、それだけじゃない
長い間放置された雨水をろ過しようと熱した時に立ち上る様な何とも言えない臭さ
 銀髪の青年は自然と裾で鼻を覆いながら眉を顰めていた


   BJ&K「大気中に人体にとって有害な成分はありませんね」ピピッ


 医療メカがそう判断して一先ずは安心する、一歩足を踏み出すと金属の上を歩く音が響く
トタン製の鉄板床から年季の入った所々塗装が剥げて錆が目立つトタン階段を降りていく

……もう大昔からこの麻薬工場が稼働していたというのがよくわかる


 階段を降りきって部屋の隅々を見渡すと部屋の端っこに無造作に[300クレジット]が置かれているのが目に映る
察するに此処で外部から来た"商売人"が品を受け取り代金を置いていくのか
あるいは組織本部へ輸送予定の献金を近々、それこそ本日中にでも輸送予定だから仮置きしているのか…
821 :続き明日か明後日 [saga]:2021/11/27(土) 23:48:49.93 ID:MkOxy8fh0

 徐に金袋に近づいて手に取ったレッドが術士の方に投げて彼は慌ててそれを受け止める
ずっしりとしたクレジットの重みが両の掌にのしかかる、魔術師は険しい表情をした少年の顔を見つめる


   レッド「ブラッククロスの金なんざ百害あっても一利無い、この麻薬基地もどうせ用意した爆弾で吹っ飛ばすんだ」

   レッド「コソ泥みたいな真似だけど旅に役立つモンは貰うだけ貰うさ、[秘術]の為にも先立つ物が要るんだろう?」


 一理ある、無法都市で[金]を買おうとしたがあまりの値段に中々手が出せず結局[シンロウ]に行ったのは記憶に新しい
遺跡探索で一山当てて購入するという金策も[ベルヴァ]の一件で有耶無耶になり成果は……まぁ強い武具の新調はできたが
 何れにせよ犯罪組織のテロ活動や非人道的な科学実験の助けになり得る資金や物資を放置しておくのは忍びない
ドール隊員からも押収品についてはお墨付きをもらっている、[IRPO]の権限様々といった所だ


  ルージュ「そう言う事なら…」スッ


―――
――
―

 金袋を[バックパック]に仕舞いこむ、少しだけ重量の増した荷物を背負い直してから潜入者一行は
入口から一歩先の通路へと歩みを進める
 曲がり角の所を覗き込むと全身緑色のタイツスーツの人間が3人だけ見回っているのが見える
本来ならばもっと厳重な警備態勢だったのかもしれない


   アセルス「イチ、ニのサンで飛び出してそれぞれ各個撃破しよう」


 [緑戦闘員]は全部で3体、この通路部屋も別エリアへと3つに枝分かれしている…入ってきた入口からすぐに北側南側への
枝分かれ、南側に更に階段があって下階層へと繋がっている
 未だ自分達の侵入は気付かれていない、ここで討ち逃して増援を呼ばれたり最奥の警備を固められるのは好ましくない


 幸いにもラビット隊員を数に入れて自分達は6名だ、であれば[1軍]、[2軍]、[3軍]と2名ずつパーティチームを編成して
それぞれを強襲すればまだ警報も鳴らず平穏という名の微温湯に浸って油断しきっている敵基地内を堂々と歩けるワケだ


  ルージュ「よし!僕とレッド、アセルスは白薔薇さんと一緒で、BJ&Kはラビット隊員と組む、これでどう?」

  アセルス「OK、白薔薇と南側の戦闘員の方をやっつけるよ」


   レッド「ああ、姉ちゃんはそっちを頼む俺達は北側の奴だな」


    BJ&K「では我々は階段の戦闘員ですか」
  ラビット「了解です」


 それぞれが分担して各個撃破に務む、いつかのキグナス号での戦いを思い出す様な状況だ
各員が武器を手に取り、ルージュも術の印を直ぐ様切ることができる様にしておく


   レッド「行くぞ…イチ」
  アセルス「ニの…」


  ルージュ「サンっっ!!」ダッ!



   緑戦闘員A「キー!(!? な、なにやつ!?)」
   緑戦闘員B「キー!(曲者じゃ!ええい!指揮官殿が外の見回りに出ておるこの様な時分にっ!)」
   緑戦闘員C「キー!(おのれ!ネズミ共め……その首討ち取ってくれようぞ!!)」


 戦闘員達が一斉に飛び出した彼らの姿を認識するや否やそれぞれの反応を見せる、あからさまに動揺を隠せない者
数の上で分が悪いと速やかに判断してせめて基地内の警報装置を作動、可能ならば増援を率いて戻ろうとするもの
体術の構えを取り勇猛果敢に攻めんとする者


  ルージュ「相変わらず何言ってるか分からないけれど…っ!![エナジーチェーン]!!」キュィィン!!


 紅の魔術師は指先から思念の鎖を発現させて、動揺から我に返り基地内の異常を知らせようと
背を向けた戦闘員の脚を絡めとる、同時に背後から[妖術]と[心術]が発動する時の魔力の流れを感じ取り
階下からは重火器による攻撃を受けた戦闘員の悲鳴と思わしき甲高い『キー!』という声が響く

 脚を取りすっ転ばせた戦闘員の顔面にレッド少年の壁を蹴ってそのままの勢いを活かして急降下していく[三角蹴り]が
綺麗に決まった、心なしか動きがアルカイザーの[ディフレクトランス]に似てる気がする、きっと彼もファンなのだろう
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/11/29(月) 03:09:51.76 ID:uaPMP7L30
おつー
ブラッククロス戦闘員好き
823 :>>1です [saga]:2021/11/29(月) 12:27:35.18 ID:uZ+szydD0
予定変更で続き土曜日予定
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2021/12/04(土) 23:39:12.15 ID:K9MQ64G60

 戦闘員を沈黙させた二人は後方を振り返る、[生命波動]と呼び出された[ジャッカル]によって倒れた戦闘員を背にして
こちらは完了したと女性陣が手を振っていた程なくして階下から浮上してきたラビット隊員も目標を沈黙させたとの事
 一行は合流して慎重に歩み始める入口から三方に分岐していることから分かる様に基地内は入り組んでいた


  アセルス「あれ、こっちって通った道だっけ…」

  ルージュ「上を見てごらんよ、ほらあの金網上の足場、あそこに繋がってたんだよ」


 基地を歩き回り道中でまた[300クレジット]を拾ったり、彼らの支給武器と思われる[サムライソード]の置き場を発見し
今しがた自分達が歩いている場所はその武器置き場の真下だと術士は言った

 多少迷いもしたがまだ踏み歩いていない場所に出たのだなと彼らは安堵する、あまり時間をかけすぎては厄介な事になる
幸いにもまだ基地内に潜入された事実は広く伝わっていないのだから



 スッ…


   レッド「ん?なんだ…なんか匂うな」クンクン


 敵がいないか警戒しながら通路を覗き見る少年はふと、妙な香りに気が付く
甘ったるい奇妙な匂いに鼻をひくつかせながら彼は視線の先に[緑戦闘員]が二人何かを話し合っているのが目に映る
彼らのすぐ傍には鉄扉が一枚、そしてレッドから見て左側にはガラス張りの部屋があって天井に電灯でもついてるのか
薄暗い基地内の通路側にまで強い光が漏れ出して来るのが解った


  レッド(…なんだこの角度からじゃよく見えねぇけど左側のガラス部屋、何かあんのか?)

  白薔薇(あら、この香りは…)スンスン



 ふと花飾りの妖魔貴婦人が空気中に舞う香りに気が付く、これは"花"の匂いであることに気が付く…それも普通ではない
左側から溢れる強い光は太陽光に性質が非常に似ていて
室内栽培などに使われる最新式のLEDライトのソレだとメカ勢は察する

 妖魔の姫とメカ2機はそこから左の部屋がなんであるか大まかに理解した……



   緑戦闘員D「キー(新薬の配合はどうでござるか?)」
   緑戦闘員E「キー(依存性に難がありで調整が必要であろうな、被検体が来ることを切に願いたい)」



 ルージュ(3人とも…準備はいいかい?)
  レッド(応ともよ)
 アセルス(こっちもOK)


  ルージュ「それじゃあ…[隠行]」スゥゥ…!
   レッド「…[隠行]」スゥゥゥゥ…!
  アセルス「…[隠行]」フッ…!



 刹那、3人の姿が霞みが如く消えた…っ!否、そこに存在してはいるのだ!!
彼らは以前[京]に来た時に[心術]の資質を得た、その甲斐あって自らの姿を他人に知覚させなくなる[隠行]を習得していた
人間が自身の内にある潜在能力や力を引き出す術…ッ!極限までに気配を断ち、そこに居るはずなのに居ないと錯覚させる
 周囲の空気と同化した彼ら3人が先行して近づき
未だ接近に気づかぬ敵の喉元に拳を鳩尾に鞘による鋭い突きを至近距離からの[魔術]で意識を刈り取り―――

 こうして彼らは未だここまで潜入に気づかれずに数々の難所を切り抜けてきたのであるッッ!!


その様はまるで忍ぶ者、即ちニンジャめいたアクションであった…!


    ド ス ッ !!!


    緑戦闘員D「ギッ!?(ぐえっ!?)」ドサッ

    緑戦闘員E「キー!(ど、どうしたでござるか同胞よ!)」


  ゴスッ!

    緑戦闘員E「」ドサッ
825 :続き明日か明後日予定 [saga]:2021/12/04(土) 23:40:53.12 ID:K9MQ64G60

 しめやかに気絶した戦闘員の傍らで彼らは余人の眼が無い事を確認してから[隠行]を解く、ふぅ…と大きく息を吸い込む
この術を使うと如何せん水中に潜る感覚で息を殺さねばならぬのだから息苦しくて困る
 呼吸が碌にできない状態では派手な大技や術を使うこともできない、必然的に一時的な隠れ蓑としてしか機能しない


  レッド「何言ってたかわからねぇけどこんな所での立ち話だ碌でもねぇ内容だったんだろうな」チラッ




    ガラス越しに見える部屋『 一面のお花畑  』



  アセルス「この花ってそういうことだよね?…刑事物のテレビドラマとかの中だけの存在だと思ってたけどさ」

  ルージュ「ケシの花ってヤツ?…やたら甘い感じの変な匂いがするとは思ったけど」


 色鮮やかな花が無数にある花壇には咲き乱れていた、可憐に咲く…とても人を破滅に導くとは思えんような花々が
硝子越しにその姿を見てルージュは何とも言えない心持になった


  ルージュ(…こんなに美しい花なのに)グッ…!


 欲望と禁忌の花園が此処にあるのならば目的の麻薬製造釜も恐らく近い事だろう、レッド少年とアセルスお嬢が
気絶させた戦闘員をとりあえず人目に見つからぬ所に隠せないものかと戦闘員を発見した際に見た鉄扉へと目を見やる
 少年は奥に何か居ないか警戒しながら扉を開けるが…



    レッド「うっ…こいつぁ…」ギリッ


 紅い鉄扉は刑務所の囚人用のソレと同じように顔を覗かせる格子がついていた、部屋の中は簡素な物で狭い一部屋に
パイプ椅子が二脚、そして机が一つ…
 それこそ先程アセルスが口にした刑事ドラマとやらに出てきそうな尋問室じみたシンプルな部屋だが問題は
地べたに置かれた料理の乗ったトレイと横倒しになったパイプ椅子である

 パン一切れによく分からないスープの入った器のシンプルなメニュー…爪で引っ掻いた様な後がある机と
暴れた拍子で倒れたとしか思えない椅子、極めつけに鉄扉は外側から施錠できるタイプで
中に入った者を逃さない仕組みと来た…扉の内側には何かが衝突したようなボコボコの跡が真新しい



   白薔薇「…酷い物ですわね」


 その部屋の"用途"がなんであるかを察してレッドは歯を食いしばる、彼は純粋な少年だった
だからこそ年若い彼の正義感がこの行いを一層許せなかったのだ


 背後から覗き見て部屋の内情を知ったアセルスも声を失いただ両手で口元を覆うだけで
そんな彼女の肩を抱き寄せて下がらせたのが率直な感想を述べた白薔薇姫である

 紅き魔術師もただ黙って俯き目を閉じた




 ―――…組織の人間の休憩所にしてはお粗末過ぎる、百歩譲ってそうだとしても食事を地べたに置く理由や
              机の引っ掻き痕、倒れたままの椅子や内側から何度も扉を殴打した跡の説明がつかない



 ここが麻薬の密造施設であるという事を考えれば容易に見当もつく


   レッド「ルージュ、わりぃけどコイツ等を縛ってそこの部屋にぶち込むの手伝ってくれ」
  ルージュ「うん…」


 少年はそう言いながら震えるアセルスの肩を抱きしめる白薔薇姫に目配せをする
それを受け取って白薔薇は「アセルス様、私達はBJさん達と敵が来ないかそちらを見張りましょう」と部屋から離れさせる

 戦闘員二人を[バックパック]から取り出した紐で縛って部屋に放り込み重々しい鉄扉を閉じる
重量のある扉が完全に閉じた後、彼らは中に居る二人が目覚めても出てこれないように鍵で施錠しておいた


   ラビット「証拠写真の撮影を求めます、違法植物培養設備の方へ進路を取れますか?」フヨフヨ…

    レッド「そっちか…」チラッ
826 :続きは木曜日か金曜日予定 [saga]:2021/12/06(月) 22:38:15.77 ID:sB9mSSjh0


   アセルス「…行こう!これは大事なこと、記録に残しておかなくちゃいけない大事なことなんだ」グッ


 同じく非道に対する怒りとも取れる震えを抑えぬまま固く拳を握ったアセルスお嬢が静かに口にした
証拠写真として、誰かの目に触れることのできる資料として後世に遺さねばならない

 時が立てばいつかは人々の記憶から忘れ去られ、風化する事件や出来事はある
しかしながら人間には断じて許してはいけないタブーがあるのだ、越えてはならない一線というものがあるのだよ
 それは容易に風化させてはならぬ事柄だ、然るべき機関や書庫に記録され二度とあってはならない事と記されるべきだ


 どんな大きな組織であっても、どれ程の規模や尽力を尽くしても必ず罪は暴かれる


 警察機関の資料室で埃被った解決済みの調査ファイルがそう主張するように、これも未来の悪党への抑制となればいい


―――
――
―


 艶やかな赤紫の花がちらほら咲き乱れる花壇をラビット隊員が内蔵カメラで撮影していく、先程[緑戦闘員]を放り込んだ
例の部屋は当然既に撮影済みだ、……至る所に[術酒]や[最高傷薬]が落ちてるのが目に映る
 BJ&Kに成分を精査してもらったところ、彼曰く"アレな成分"は入っていないとの事で使う分には問題はないらしいが



 ルージュ「正直、気が引けるよね…こんな所に落ちてた薬とか使うの、いや一応は貰っていくけどさ」

  BJ&K「先程も申しましたがトリニティの法令に反する薬物反応は検知されていません依存性も無く人体に無害です」


 ルージュ「うっ、それは分かったけどさぁ…そのぉ、気持ちの問題というか、その、ね?」


 術の力を満たす特注の酒と[最高傷薬]が培養の為の原料の一部らしいから落ちていたという見識だが
"おクスリの花壇"の傍らに落ちてる回復薬とか色んな意味で何か嫌だなぁ、とルージュは独り言ちた

 シュルリ…


 術士の耳が何かを這う様な音を拾ったのは彼が脚を何かに取られて態勢を崩しかけるのとほぼ同時であった


  ルージュ「うわぁぁぁっ!?」

   白薔薇「ルージュさんっ!!―――ハッ!あれは!!」


 一本の蔓の様な物が紅き魔術師の脚に絡みついていた――――花壇の花々に埋もれる様に隠れていたソイツを妖魔の姫は
直ぐに見抜いた…ウツボカズラの様な食虫植物にありがちな捕虫袋を持つ植物モンスター[トラップバイン]だ…っ!
 一般的な食虫植物との最大の違いは捕虫袋の形が蕾状態のチューリップのような形状とその大きさが人間の頭部に匹敵
そして獲物を喰らう時はその蕾がガッポリと開いて一気に人間一人を[丸のみ]にできる程にまで膨れ上がるということだ

 虫だけでなく哺乳類をも喰らう肉食性の植物であるが動き自体が遅く不用意に近づかなければ問題無いとされ
トリニティ政府からは"敵ランク4"相当とそこまで危険視はされていない存在なのだが…


   レッド「こいつっ…!花壇の中にモグラみてぇに潜伏してやがったのか!?」チャキッ


 全長の半分近くを地中に埋めて、残りは花々に埋もれるように隠れる―――本来ここまで知性溢れるモンスターではない
これもブラッククロスの品種改良によって生み出された生物兵器ということなのか…っ!!!


 [触手]による[足払い]を受けて姿勢を崩したルージュの片足を掴みそのまま吊るし上げて[丸のみ]せんと大口を開く
術士の眼には毒々しい蕾の中でちゃぷちゃぷと揺れる[強酸]が映るッッ!


   アセルス「はぁっっ!!」スパッ!

   ルージュ「あでっ!?」ドサッ


 間一髪飲み込まれる所でアセルスの[逆風の太刀]が[触手]を切り飛ばす、地面に落下したルージュは
先に剣を抜いていた筈のレッドの方を見た、すると―――


      レッド「ぐおっ、こんの…角付き虫がぁ…っ!」キィン!キンッ!ガキィン!

   アームウォーカー×3「ピギーーー!!!」
827 :続き土曜日か日曜日予定 [saga]:2021/12/10(金) 23:02:44.76 ID:yUnP5nEZ0

 少年のすぐ傍に盛り上がった土があった、地中から何かが出てきたような穴…冬眠から覚めた虫が春一番の餌を求め
地中から飛び出してきたようなソレを確認できた


 ボコッ、ボコボコッ


 地に落ちて身を起そうとする魔術師が自分のすぐ目と鼻の先からそんな音が聞こえたのも気のせいじゃないと悟る
音の正体が幻聴でもなんでもなく更に言えば何が起ころうとしているのかを察して
慌ててその場から跳ねる様に起き上がり後退した



   アームウォーカー「パミーッ!」ボッコォォン!


 [角]を高々と突き上げる様にして丁度ルージュの顔面がさっきまであった空間を[アームウォーカー]が出てきた




      ルージュ「っっ、む、むむ―――」








      ルージュ「  ム シ だ ー !  」





 \ ムシだー! /





 まるで何処ぞの村で蟻のモンスターでも出たような叫びをあげる紅き術士、音はまだ聞こえてくる…ッ!


 ボコッ!ボコッ! ボコボコボコボコ……!!!



   BJ&K「ピピッ!危険危険、地中から複数の生体反応あり!」

   レッド「んなモンっ―――見りゃ分かるっつーの!!」ガキィンッ [飛燕剣]ヒュィィイン!


 敵の攻撃を捌きつつ、一番後ろに居た1匹に[飛燕剣]を飛ばす、体液を撒き散らしながら巨虫の怪物が横倒しになり
無数にある手足をジタバタとさせている―――レッドは確信を得た


 かつてアルカイザーとして[バカラ]で最初のブラッククロスとの衝突があった際
指揮を執っていたシュウザー配下の戦闘員と一匹の[アームウォーカー]を相手取った事があるが

 …その時と比べて明らかにコイツ等は強い


 単純に今の自分が生身の"人間<ヒューマン>"状態だからと言われればそれまでだが修羅場を乗り越えて
多少は強くなったと自負している、更に言えばさっきから捌いてる攻撃の一発一発の重さ
怪人達の戦闘力が3倍になる"トワイライトゾーン"でもないのに鋭さが増しているッ!


  パシュッ!パシュッ! シュィィン―――!


  ビット『 ビーム攻撃 』ビュンッ!
  アームウォーカー「ギッ!?」バジュッ!


  ラビット「プログラム[ビット]を射出しました、この場を切り抜ける為に少々時間を稼いでください」フヨフヨ…


 次々と強化改造が施された増援が来る中でラビットはそう言った、彼の身体から放たれたビット機が宙を舞う蜂の様に
敵を光線によって焼いていくが、致命傷には至らない…[ビット]の真骨頂はまだこれからであった

 ラビットは静かに、内部プログラム[サテライトリンカー]へのアクセスを試みていた…!
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/11(土) 03:42:31.54 ID:R6ZHrwvf0
女王がエロい成虫になりそうなアームウォーカーだな…
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/11(土) 19:14:48.30 ID:RAULAz8rO
乙です
830 :続き火曜日か水曜日予定 [saga]:2021/12/12(日) 23:51:28.22 ID:TypUjCXn0

 [IRPO]隊員のラビットといえばコレ、一種の代名詞と言えよう

 プログラム[サテライトリンカー]は異次元に存在する衛星と射出した[ビット]を連動させ、それによって
如何なる場所であろうと高出力のレーザーによって敵を焼き払うという兵装だ
 優れたモノではあるが難点があるとすれば発動までにやや時間が掛かる事が挙げられる
子機の射出で一手、衛星との接続で二手、刹那の判断が要される戦場に無防備で立ち尽くすのはあまり好ましくない


  ルージュ「時間を…分かった!皆ラビット隊員の為に時間を稼ごう!」BANNG!


 [精密射撃]が巨虫の角をへし折る、それでも勢いを殺すことなく折れた先端で突き刺そうと迫り来るソレ相手に
アセルスの[生命波動]が突き刺さり要約動きを止める

 1匹倒しても更にもう1匹、潰せど潰せど湧いて来る様は正しく"虫"そのものである
それに出てくるのは虫だけではない…っ!



  シュルシュル…!ウジュルウジュル…!


 先程ルージュを[丸のみ]にしようとしたあの食虫植物に似た怪物まで出てきたのだ…ッ!


  レッド「畜生め…[トラップバイン]まであんなに…っ!白薔薇さんが囲まれた―――クソ、どけよ!お前等」バキィッ!


  アームウォーカー「パミーッ」[インセクトジュース]ブジャアアア!!


 すぐ真後ろに迫ってきた1匹をレッド少年は変身時に[スパークリングロール]を打つ要領で[裏拳]を放ち
後方へと吹き飛ばすが負けじと相手も飛びながらも[インセクトジュース]を口部からぶちまけていく

 粘度の高い酸性の液体が彼目掛けて飛び、彼もまたそれを躱してなんなら前方に居た1匹を鷲掴み
液体の落下地点に投げ飛ばす――――ジュワァァァっと嫌な音がして虫の奇声が上る

 粘度の高い液体であるが故に中々振り払えず、じわじわと皮膚を焼く…そんな嫌な性能の水溜まりが辺りに散らばる
白薔薇や術士達の救援に行きたくてもこれでは思うように進めそうにない

 
  BJ&K「レーザー射出します!」ビィィィィ!


 アームウォーカー「アバーッ!」チュドーン
 トラップバイン「チビィィ」ボォォォォ!メラメラ!


  BJ&K「…ラビット隊員まだ掛かりそうですか?そろそろ私の"WP<ウェポン・ポイント>"も尽きますが」

  ラビット「あと少しです」

  BJ&K「さいですか…」ビィィィ!




  ルージュ「アセルス!白薔薇さんが…!」
  アセルス「白薔薇なら大丈夫だ!私達はこっちを!」




    白薔薇「…あらあら、困りましたわね」キョトン


  トラップバイン「ネエチャン、イイオンナダナァ…」ジリジリ
  トラップバイン「グヘヘ…!」[触手]ウネウネ
  アームウォーカー「ウスイ=ホン テンカイ ヤッター!」
  アームウォーカー「イタダキマース!」


    白薔薇「――大いなる白光は渦を巻き、熱を伴う波紋となりて焼き払わん[フラッシュファイア]」ゴォォォォ!!


  トラップバイン「グワーッ」バジュッ―――!
  トラップバイン「イヤーッ」バジュッ――――!
  アームウォーカー「アバーッ」バジュッ――――!
  アームウォーカー「イ、イヤダ!ドクシン ノ ママ シニタクナイーーッ ナムサン!」バジュッ―――!


  ルージュ「」ポカーン
  アセルス「ね、言ったでしょ」
831 :続き土曜日か日曜日予定 [saga]:2021/12/15(水) 14:58:36.56 ID:0iSPIPyn0

 終わりの見えない増援に次ぐ増援、流石にこれ以上の長居と騒ぎ続ければ爆弾設置作戦は厳しいかと思われ所で
ラビット隊員が反応を示した!!




   ラビット「次元連結システム作動![サテライトリンカー]の起動オールグリーン、[次元衛星砲]発射!」ピピッ









        【  [ 次 元 衛 星 砲 ]  】





 刹那、空間がねじ曲がり"裂け目"が生じた。

 術士は別の"惑星<リージョン>"から遠く離れた別の"惑星<リージョン>"まで転移する[ゲート]に微妙に似た力場を感じた
あのワームホールは[京]とはまったく違う別の場所に繋がっていると実感できる
 裂け目の先からビーコンの光が伸びて標的となった敵の足元にライフルのスコープ越しに覗いた様な照準模様が描かれた


 次の瞬間には雷が落ちた


 天井がある室内で突然の落雷…否、それは遠い星々が漂う海に浮かぶ衛星兵器からのレーザーであった
極太の光柱が立ち上ったと思えばそこに居た筈の[アームウォーカー]が焼け焦げた焼殺遺体と化していて
足一本だってピクリとも動きやしない

 神話における神の怒りとも裁きの雷<イカズチ>とも呼べるそれに灼かれて絶命したようだ
だが神罰はただの1発では終わらなかった…


  アームウォーカー「ギギッ!?」


 空間の亀裂から無慈悲な衛星兵器の攻撃で死んだ仲間を見て狼狽える巨虫、兵器をどうにかしようとしても既に手遅れだ
仮にラビット隊員を破壊したとしても、一度座標を撃ち込まれた衛星兵器は起動させた主が死しても問題なく
その場に居る全ての敵対勢力を殲滅させるまで稼働し続ける
 衛星そのものを破壊しようと試みても裂け目の先の遥か彼方銀河の海にある



     バジュウウウウウウウウウウウウウウウー―――ッッ!!!


 そうこうしている内に再び神罰が改造を施された生物兵器に降り注ぐ、[ビット]同様に戦闘の真っ只中で
お構いなしに毎秒撃ち続けるのだから潜入者御一行が仮に何もせず、ただ[防御]してるだけでも勝手に敵は灼かれて死ぬ

 破れかぶれで少年達に攻撃を仕掛けようとアルマジロの様に身を丸くして転がり
硬い皮膚でそのまま轢き潰そうと試みた巨虫が届く前に神の雷によって絶命した――見ろォ!まるで虫がゴミのようだァ!



    ラビット「これで増援は問題ありません、皆さんあちらをご覧ください」フヨフヨ…


 浮遊するメカ隊員は違法植物園の出口を指さす、潜入者一行が入ってきた入口から突き抜けて北側一直線にある出口だ
出口前にも当然巨虫や肉食植物の怪物が陣取っているが、それを薙ぎ倒して突き抜ければここから脱することも可能


    レッド「そうか!衛星砲が発動してる今なら地面から無限に湧いて出てくる増援に歩みを止められる事も無い」


 この設備室からの脱出はおろか、ルージュ1人救援しようとすることさえも
大量に湧いて来る増援に阻まれて不可能だったが、その増援が増えても焼き払う…どころか向こうの救援ペースを
上回る速度で殲滅し続ける兵器が作動しているのだ、今ならばどうにか撤退することもできる


   ルージュ「よし!そうと決まればあそこを目指そう!」バッ!


 乱戦状態で完全に孤立していたレッドも、ラビット隊員に付きっ切りだったBJ&Kやさっきまで囲まれていた白薔薇も
全員が同じ目標地点に向かって走り出す、道中で草花の影から飛び出る[トラップバイン]も
地面から出る[アームウォーカー]も天からのレーザーに焼かれ、討ち漏らしも複数を相手取らず1対1なら問題なく突破でき
かくして一行は窮地を脱したのであった……そして、出口を抜けた先で彼らは目標の麻薬製造釜を発見する…っ!
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/16(木) 04:39:26.17 ID:FQNMRoNq0
乙!
メカのWPはウェポンポイントなのか
833 :>>1です [saga]:2021/12/19(日) 23:45:30.85 ID:XVIdPMA20
予定変更、続きは水曜日か木曜日予定
834 :続き土曜日か日曜日予定 [saga]:2021/12/23(木) 23:36:04.35 ID:d12hd9w70

 辺りには妖しい陽気が立ち込めていた、中央の鉄釜に向かって伸びるいくつものコード
赤錆が所々に目立つタラップ階段…そしてこのエリアだけ他と比較しても多い見張りの人員

 見張りの戦闘員やメカ達はルージュ等の姿を見るや否や直ぐに攻勢へと転じ始める

 流石に[サテライトリンカー]の攻撃音やら何やらで花園からそう遠くない彼らには異常を察知されたか
侵入者の存在に薄々勘づいていた彼らは潜入者の排除を試みようと駆けだすが…!



   ルージュ「レッド!そのまま走れ[生命波動]」コォォォ!!

    レッド「応ともよ!援護は任せたぜ!」


 光の波動が形作る槍がレッド少年のすぐ真上を2条飛びぬけていく、人間のエナジーと妖魔のエナジーが並走するように
飛んで[ガンファイター]2機を串刺しにする、アセルスお嬢とルージュの術攻撃が機械兵を物言わぬ鉄塊に変えて
一気に距離を詰めて[緑戦闘員]に攻撃を仕掛けようと拳を繰り出す
 戦闘員は少年の一撃を寸での所で躱して改造された肉体から繰り出す[突き]を放つ



 戦闘員は自身の力で少年の拳を避けたと"勘違い"したようだが、そんなことはない
これまで幾度となく戦ってきた彼らの戦闘経験は改造戦士が想像するよりも遥かに上であえて躱される様な拳を
彼は打ち出したのである、コレはある種の[フェイント]と言えよう



   パリィィン!!


           【 [ ブ ロ ー ク ン グ ラ ス ] 】



 陶器を地面に叩きつけて割ったような音が響いた

 そう戦闘員が認識した時には既に自身を取り囲むように硝子の刃が迫ってきていて
改造手術によって得た屈強な肉体を裂いていた、ゆっくりと崩れ落ちる様に倒れる戦闘員が最後に見たのは
術の詠唱をしていた花飾りをつけた妖魔の姿であった



 どさり、戦闘員が倒れて残りの敵もラビットとBJ&Kが沈黙させたのを確認して彼らは一息をつく
レッドが正面から向って取っ組み合いを始めようとする、かの様に見せかけて…実は前に突飛していく前衛の彼は罠
 本当は彼に殴らせる気なんぞ無くて、白薔薇姫の[硝子の盾]を利用したカウンター戦法というやり口で
相手を鎮める算段であった―――仮に砕け散った魔法盾の破片が敵を襲う[ブロークングラス]で仕留めきれずとも
その分は今度こそレッドが手負いの相手に一撃を喰らわせてチェックメイトだ

 後衛はそのままに、前衛の少年を前に出しながらも反撃効果付きの防御術で無傷のまま懐まで接近させられる
自分達のチームワークも中々様になってきたのではないだろうか?



       レッド「…終わったか?」


 他に潜んでいる敵の姿は見受けられない、ついぞ基地内にてメタルブラックと遭遇することは無かった
彼は情報が間違っていないのならば未だ外周りをしている筈、鬼の居ぬ間になんとやら…
 少年は時限式の爆弾を仕掛けるなら今しかないと判断した



       レッド「麻薬製造釜だな、ここを爆破しよう!」


 彼のその言葉に応じる様に紅き魔術師は[バックパック]から時限式の爆発物を取り出し各員に手渡す
手にしたブツをそれぞれ分散して各地に仕掛ける

 スッ…!

    サッ!サッ――ポチッ、ピッピッ!カチリッ




       レッド「よし!準備完了だ!」




 タイマーが作動した…っ!後は爆発に巻き込まれまいと全速力で基地からの脱出を試みるだけだ…
道中の敵は多少のダメージは覚悟の上で無視…っ!相手をせずに突っ切るのみッッ!!
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2021/12/26(日) 23:57:48.24 ID:BZfH3o9N0

 爆発物のタイマーが動き出した後の潜入者達はひたすらに出口を目指した
未だ停止せず増援の巨虫や食虫植物と騒ぎに勘づいてやってきた戦闘員を駆逐する[次元衛星砲]の花畑を素通りして
気絶させた戦闘員を押し込んだ鉄扉の部屋前も抜けて、一番最初の枝分かれの間を駆けて錆が目立つトタン階段も昇り
滑り込む様に例のワープ地点へと入り込んだ…!




       ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!

                                  ―――――――カッ!!!




 術士達が基地を脱出して一拍子置いた後に全体を揺るがす振動が起きる、間一髪だった
もしもタイマーの時間をもう少し早めの設定にしていたら?道中の敵にもっと絡まれていた…ゾッとする話である
 かくして悪の組織ブラッククロスの資金源であり無辜の人々の生涯を狂わせる禁断の園は閃光に包まれて大火に消えた


   ゴォォォォォォ!!!メラメラメラ…!



  「ウワー![書院]が火事だぁ!!」
  「消防に通報しなくちゃ!ええっと電話番号は…」ポチポチ
  「あそこは街の離れだから他の民家や林に燃え移ることは無いだろうが…このままにしておけん!バケツリレーだ!」


  メサルティム「ひーっ!?突然建物が炎上しましたよ!?!?」
   ヌサカーン「ふむ…先程地下から振動を感じた辺り人為的なモノだろうな」

   ヌサカーン「クーンと別行動中でも面白い物は見れるな、私の自宅近辺に出没する改造人間等の家が燃えるとは」



   ヌサカーン「…ん?」ピクッ

  メサルティム「どうかなされましたか?」


   ヌサカーン「」ジッ




             高台『 』ヒョォォォォ…



   ヌサカーン「……いや、なんでもない"彼女"は我々には関係の無い者だ、さて一波乱起きる前に此処を発つか」クルッ

   ヌサカーン「メサルティム、君の療養が主目的だったのに"診断書<カルテ>"の作成に同行させてすまないな」

  メサルティム「!! め、滅相もございません!私のような下賤な者でも高貴なるお方のお役に立てれば…」フルフル

   ヌサカーン「……君がそんな調子ではこれから合わせる知り合いとどうなることか…」ハァ…


   ヌサカーン「まぁいい、予定通りまずはサイレンスと話しその後は[シュライク]と[マジックキングダム]だ」スタスタ

  メサルティム「あぁっ!待ってください〜!」










高台の上『』 金獅子姫「…随分と長い遠回りになったが遂に見つけましたよ我が妹姫、そして主の血を与えられし者よ」


       金獅子姫「直ぐにでも向かいたい所ではありますが、既に先客が居る…であらば待つのが礼儀でしょう」



 高台の上から見下ろす誰よりも誇り高き武人の姫はかつて矛を交えた黒鉄の"強敵<とも>"が
[庭園]に向かって行くのをその眼で捉えていた…!!

 後にルージュが自身の旅日記に書き記す中で最も長い[京]の三日間の幕開けであった
836 :リマスター版のレッドとメタルブラックの追加掛け合い良いよね [saga]:2021/12/26(日) 23:58:58.18 ID:BZfH3o9N0

 例の「ぬけみち」掛け軸から飛び出て来て尚彼らは止まらなかった、ブラッククロスの職員しか居ない[書院]を抜けて
坂道を下り橋を渡って美しい[庭園]まで一切の休息無しの疾走、目的地にたどり着いた彼らは漸く一息つけると
鞄から取り出した水筒の中身を口に含み、呼吸を整える……だが、小休止も言葉通り長く続くことは無かった

   ザッザッザッ…!


   ルージュ「貴方はっ!!」

   アセルス「…メタルブラック」


 まるで一行がそこに来る事など最初から分かっていたかの様に、何食わぬ顔で鋼鉄のサムライはゆったりとした足取りで
彼らの前に現れた前回の出会いと違う点があるとするならば明確な威圧感が…敵対者に対するプレッシャーが滲み出てる事
 紅き術士は目を大きく開き戸惑いとも焦りとも付かぬ色を見せていて、アセルスお嬢は悲しげに目を伏せ
レッド少年の眼は義憤の炎が揺らめいていた…彼は道徳に外れた行いをしたから許してはならないのだ、と

…そうでもしなければ、きっと少年は目の前にいる彼を直視できなかったから、きっと目を逸らしてしまっただろうから

 対して機械仕掛けの武士は彼らの姿と炎上する[書院]を見比べる様に首を動かした後、次の様に言葉を発した


   メタルブラック「 我 が 基 地 を 破 壊 す る と は 、 見 事 な 腕 前 」

   メタルブラック「 一 手 御 手 合 せ 願 お う 」スチャッ


 静かな声でありながらも一字一句が耳に入って来る、遠くで燃える[書院]の音や人々の声さえも感じなくなるほどに
解ってはいた、事前に資料で知ってはいた…だが当人と顔を合わせて当人の口から"我が基地"と改めて言われて
 込み上げてくるものは…たくさんあった


     レッド「くっ…メタルブラック!!」ザッザッ…!


 少年は一歩前に出て声を荒げる



   レッド「人を蝕む麻薬を売りさばく罪深さ、メカのお前には理解できないのか…メタルブラックッ!!」


 何故こんなことをするんだ!何故これが分からない!お前はそれでいいのか!?と彼は訴える
黒鉄の意思は少年の熱意に対して無機質な返答を返した



      メタルブラック「与えられた指令を実行したのみ」


 "指令を実行したのみ"…メカという種族にとっての存在意義、創造主から生まれ持った使命を授かり
ただその為だけに生を真っ当する、それこそが彼らにとっての全て…


   レッド「っ…」ギリッ
  ルージュ「メタルブラックさ―――」







       メタルブラック「だが、―――」



   レッド「…?」
  アセルス「えっ」



       メタルブラック「―――だが、我が基地を失ったにも拘わらず、どこか晴れやかだ」


   レッド(…メタルブラック…お前)
  ルージュ「メタルブラックさん…」


 黒鉄の意思は少年達に対して青空の様に澄み切った音声で返答の続きを紡いだ

 任務の失敗、指令を真っ当できないメカ―――それはメカとしては無能の烙印を押される出来事なのだろうな
だが黒鉄のサムライは…石にもあるべき心が存在しないメカであることを嘆いていた彼は、晴れやかさを感じていた
837 :次回は火曜日か水曜日予定 [saga]:2021/12/26(日) 23:59:44.20 ID:BZfH3o9N0

 首をほんの少しだけ上方に向けて、遠くを見つめる様な仕草で語ったメカに少年は声を掛けた




   レッド「…それが―――それが解るのなら、もうこんなことはやめろよ…」



 声は…少し震えていたかもしれない、義憤に駆られ肩を震わせながら発していた声とはまた違った震え方だった気がする
紅き魔術師は目先に居る年下の友人の声をそう感じていた、背を向けている彼が
今どんな"表情<カオ>"をしているのかは対面するメカにしか分からない


  アセルス「…そうだよ、メタルブラック…別に私達はあなたを討ちたいワケじゃない」

  アセルス「これはやっちゃいけないことなんだって、悪いことだって本当は解ってるんでしょ――だったら!」ザッ!


 半妖の少女も一歩前に出る、鋼鉄の戦士は手を前に翳しそこから先は言わないでくれと制する






      メタルブラック「我が創造主Dr.クラインを―――…父たる者を裏切ることはできん」




 [庭園]に沈黙が流れた、遠くで木造建築の[書院]が焼けていく虚しい音だけが場を支配していく…

 誰も、何も言えなくなってしまった。


 一歩引いた場所から終始黙って静観していた白薔薇がアセルスの隣に歩み寄りそっと肩に手を乗せる
彼女はそんな貴婦人の顔を見た、誰よりも心優しい寵姫と呼ばれた白薔薇姫は目を瞑り静かに首を横に振った

 もう、誰も何も言えないのだ…此方には此方側の正義や貫くべき道がある様に、相手にも相手の信念がある


 [シンロウ]で話し合った時点である程度予想はついたことだった、既定路線では確かにあったが…


   白薔薇「メタルブラックさん、私はアセルス様達を御守りするのが使命です
                    …何人たりとも危害を加えられる者であれば…容赦はできません」スッ


 寵姫の姫が彼らの前に出て武器を取り出した…口火を切る役目を、"知人を討つ為の切っ掛け"を少年少女達にさせまいと
次いで年長者のルージュも…同じく彼女の横に並び立った、気が付いたらもう足を進めていた


  ルージュ「―――貴方の事は忘れません…」ギュッ


 自首や司法取引、Dr.クラインだけでも罪を軽くするからこちら側に寝返れだとか
そんな言葉は彼には何の意味も為さない、さっきの一言で解ったから、理解してしまったから…覚悟を決めるしかない…っ




   レッド「…っくそったれ、なんでだよ…なんでなんだよッッ!!!」ギリッ!!

  アセルス「…お父さんを裏切れない、か…そうか、そう、なんだね」スッ



 拳を痛い程に握りしめて前を向いた少年、静かにそう呟いて目先の相手から譲り受けた[サムライソード]を抜刀する少女


     メタルブラック「……暫し、長く語らい過ぎてしまったな」


 名残惜しむ様に、目先の"敵"もまた討たねばならない敵対者達への構えを取るッッッ!!





  メタルブラック「ブラッククロス四天王が1人―― メ タ ル ブ ラ ッ ク 推 し て 参 る ! ! 」

  メタルブラック「 い ざ 尋 常 に 勝 負 ッ ッッ!! ! ! 」
838 :続き明日かも [saga]:2021/12/30(木) 23:59:56.93 ID:I4/bXPE30

 茜色の空、燃え上がる紅葉の色、ちらちらと遠方で舞う煤と火粉を背景に鋼鉄の武人は自身の得物を構える
形状は彼のボディカラーに合わせた黒鉄の槍―――否、薙刀であった

 突けば槍に、払えば鉈に、振り下ろせば剣として

 武器を構えたメタルブラックは身を屈める様にどっしりとした姿勢で相手の出方を窺う…
先に攻勢を仕掛けたのはルージュ一行からだ、相手は先日戦った[ベルヴァ]と同じブラッククロス四天王の座に就く者
であれば一斉に攻撃を仕掛けて"連携"を狙うのが吉と判断した

 少なくとも仮面をつけた魔人は連携無しで単騎特攻を仕掛けようものなら強烈なカウンターを繰り出す猛者だった
銀髪の魔術師は相手の脚を絡めとるべく[エナジーチェーン]を、そこに続く様に少年が浮遊するラビットを踏み台に
[三角蹴り]を仕掛ける、これで2連携の"[三チェーン]"が出来る筈だった




   メタルブラック「甘い…っ!」ブンッ!




  レッド「なっ、にぃ!?」
 ルージュ「はぁッ!?」


 紅き術士の魔術は間違いなく発動した、思念の鎖が[メタルブラック]を絡めとり脚の関節部を術による熱で
ショートさせつつ動きを止めた相手の急所へと少年の急降下蹴りが炸裂からの続くアセルスお嬢達の連携も入る予定だった




  しかし…っ!メタルブラックはここで彼らの予想を上回る動きを取ったッッ






  メタルブラックの薙刀『 』ギュルギュルギュル…ッッ!!
    エナジーチェーン『』バチィッ!!


 メカの動体視力とAIによる瞬間判断能力の高さを見誤った、初動で彼らが何をする予定だったのか見切った黒鉄の武人は
"手にしていた薙刀を投げたのだ"…っっ!! 戦場において己の武器を放り投げる、それに術士と少年が目を見開いた
 空を裂く音を響かせながらブーメランのように回転する鉈は投擲者と術士の丁度中間の所で[エナジーチェーン]と衝突
本来であれば敵を拘束する筈だった思念の鎖は投げられた武器に絡まる、そして武器を失った黒鉄の侍は
背部のスラスター吹かして地表からホバリングをしながら全力で猛進する…っ!

 くどい様だが[メタルブラック]はメカでありその重量は並みの人間の比ではない、そんな彼の全力の[体当たり]に対して
迎え撃つのは19歳の少年の[三角蹴り]である



 極めて単純な話である、交通事故が起きたとして軽自動車1台と2tトラックが正面衝突をしたとする
であればどちらがより大きな被害を受けるのか…衝撃を受けて吹き飛ぶ方は果たしてどちらなのか?

 同じ速度で同じ大きさの物体が衝突したとしても重量のある方が勝つに決まっている



   レッド「ぐばぁっ!?」ドガァァ!!

  アセルス「えっ!?キャアアアア!!」ドゴッ



   メタルブラック「ふっっ!!討たせてもらうッッ!」ジュゴォォォォォ!!パシッ!ヒュッ!


 [体当たり]で寸分狙いを乱さず落下してきたレッドを逆に弾き飛ばし後方から剣を構えて走ってきたアセルスにぶつける
これで続く連携を乱しホバリングしながら自身の得物が丁度、思念の鎖が消えて解放される瞬間にキャッチしそのまま
驚愕するルージュへと一気に肉迫して[突き]を繰り出す


       ――――ズザァンッッ!!



     BJ&K「――――!!損syo−甚大 ガガガッ」

     ルージュ「B、BJ&K!!!」

 間に割り込む様に医療メカが入り、その一突きをまともに受ける、生身の人間である彼より自分がと判断したからだ
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/01/09(日) 12:47:01.94 ID:NyXN6Tv80
メタルブラック戦の曲が脳内再生される…
京の戦闘背景も最高よね
840 :すまぬ…明日とか言いつつ、大分開いてしもうた [saga]:2022/02/21(月) 02:03:26.75 ID:QqQsPltQ0

 純粋な力よりも速さを主軸とした高機動戦が[メタルブラック]の領分と言えた、彼の背部スラスターが輝きを放つ度に
地平を流星が走り、過ぎ去った後には多くの兵が倒れ伏す―――彼を象徴する名詞ともいうべき技[ムーンスクレイパー]が
まさしくコンセプト通りの速度戦用の攻撃と言えよう


 初手でルージュの術に武器を投げつけながらの肉迫で少年を跳ね飛ばしそのまま回収した武器で一気に攻めてくる
戦闘開始からものの数秒の出来事である



  ラビット「[ビット]射出」シュバッ!シュバッ!


  ビット『 』ヒューン!
  ビット『 』ヒューン!



  メタルブラック「はぁぁっ!!」ズボッ!ガスンッッ



 黒鉄の武士は片足を医療メカの胴に宛がいそのまま深々と刺さった得物を引き抜き、更にBJ&Kの身体を踏み台として
蹴り飛ばす様にその場を離れる、こうすることで大穴の開いた医療メカの重量ボディで
そのまま背後に居たルージュを吹き飛ばし同時に[ビット]の攻撃から逃れるという一手になるからだ


 飛び退け様に鋼鉄の侍は両腕をクロスさせ、稲妻を発生させる…機械である自身の身にある内蔵回路を
意図的にショートさせて放電を起こすという荒業
 [メタルブラック]は交差させた腕から収束させた電流を[落雷]の如く撃ち出す



 ―――ズシャアアアアアアァァァン!!



  ラビット「ギビビビッ!?――ピー…回路がショート…反重力装置が、うまく、起動し、せ、ん、ガガッ」フラッ、ドサッ!



 感電してラビットが地に落ちる、移動能力を潰されたラビットは最早ただの固定砲台としての役目しか果たせない
牽制目的で[圧縮レーザー砲]を撃ちつつ、片手間で次元衛星へのアクセスを試みる
 速さを売りとした鋼鉄の侍は降り注ぐ幾条もの光を回避しながら[サテライトリンカー]を使わせまいとラビットへ迫る



    「鏡よ、鏡…この世で憐れなる自傷者は誰なるぞ[硝子の盾]!」キィィン!




  メタルブラック「ムッ!?」



 身動きが取れなくなった兎を狩ろうとする彼の前に突如として不可視の壁が現れた…っ!

 彼は勢いを殺せず透明な壁―――白薔薇姫の唱えた[妖術]の盾へと突っ込んだ




パリィィィン…!




                【 [ ブ ロ ー ク ン グ ラ ス ] 】



 妖力を帯びた硝子片が黒鉄の武士に吸い込まれる様に刺さっていく…っ!

 元来、鋼鉄の肉体にガラスの刃など突き刺さる訳もないが、これは生憎と普通のガラスではない妖力で構成された硝子だ


 術力の続く限り[硝子の盾]を唱え続けて[メタルブラック]を取り囲むように、あるいは進路を阻むように
不可視の迷路を造り続ける白薔薇、固定砲台として活動を続けるラビット、そして起き上がったレッドとアセルスも向かう


  白薔薇「ルージュさん、今の内にBJさん達を!」

841 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/02/21(月) 02:04:43.03 ID:QqQsPltQ0

 自分含めて5人掛かりでも拮抗どころか何なら劣勢を強いられる強敵だ
人手は多い方が良いに越したことは無く、自分の仕事は背負ってる[バックパック]からすぐに[インスタントキット]を取り
それでBJ&Kを再び動けるようにすることだ……紅き術士はそう判断した


  ルージュ「くっ…待っててくれボクが君を直すから!!」ゴソゴソ


 相手に蹴り飛ばされて自身に覆いかぶさる様に動かなくなった医療メカの身体から抜け出して直ぐに修理道具を手にする
身を挺して自身を救ってくれた"異種族<メカ>"の友人を慣れた手つきで治し始める
 最初は右も左も分からずよく分からない機械コードに絡まってばかりだったが長い付き合いだからこそもう治し方も解る

 横目で状況を見るが好材料は見当たらない

 未だ決め手に欠けるこちら側の攻撃、なんとかして攻めに転じれる様に布陣を完璧にしたいが[サテライトリンカー]に
接続しきれないラビット目掛けてジリジリと迫り続ける鋼鉄の侍、白薔薇の[硝子の盾]で迂回させるなり時間を稼げるが
彼女の術力とて無尽蔵ではないのだ…いつか底を尽きる




 何より恐ろしいのは―――果たして頼みの綱にしてる[次元衛星砲]がどこまで通じるか、である



 基地内においては指定した座標上の敵に対して正確無比な極大レーザー射撃を行うという強さを見せつけたが
現在進行形で即席モノの硝子の迷宮内を降り注ぐ[圧縮レーザー砲]のシャワーを避けながら近接の2人を相手取り徐々に
ラビット目掛けて近づくという頭を抱えたくなるような高機動戦をやってのける四天王なのだ…


 古人は言った、当たらなければどうということは無い。



 こんな無茶苦茶な相手に果たして当たるのだろうか、頼みの綱は通用してくれるのであろうか?

 一抹の不安を抱かずに居られるものかっ!



 ルージュ「よしっ!できたぞ…!!どうだい、戦えるかい?」

  BJ&K「はい、いつでも戦線復帰可能です」ピピッ



 ルージュ「なら早速で悪いけど君はラビットの救援に向かってくれ!」


 [インスタントキット]を持たせて医療メカを飛べなくなった兎の元へ向かわせる
修理と同時に[圧縮レーザー砲]で弾幕を張る役目を担ってもらう、その間に一刻も早くラビットに[次元衛星砲]の準備を!

―――
――
―



   レッド「ッラァ!!」ブンッ!!
  アセルス「ていっ!!」ヒュッ!!



  メタルブラック「踏み込みが甘いぞっ!」ガッ、ブンッ!キィンッ


 少年の首の付け根部を狙った回し蹴りと少女のフェンシングに似た構えからの一突きを防ぐ黒鉄の戦士
右腕は飛んできた脚を掴み投げ飛ばし、左腕に持った薙刀の先端で[サムライソード]の切っ先を跳ね除ける

 空から降ってくる光の雨さえも避けて器用に[落雷]で[硝子の盾]の排除もこなしていく



  メタルブラック「―――!!背面を取ったつもりかっ!?殺気ですぐに悟ることができるぞ!」シュバッ

 メタルブラックがさっきまでいた地面『 』ボジュンッッッ!!


 激戦の中で少なからず成長した気ではいたが[インプロージョン]を難なく躱されてしまった、自分の中では間違いなく
最速で、ほぼノーモーションの[魔術]発動だったのだが、とルージュは舌を打った
 爆ぜたのは鋼鉄の武士がさっきまで立っていた地面だけで彼は上空に跳びながら左手の武器をアセルス目掛けて投擲
武器を投げつけた当人は背部のスラスターを吹かして徐々に高度を下げながらも優先攻撃対象へ向かって行く…っ!
空を自在に飛べるワケではないがこうすることで滑空状態に近いことができる
842 :原作だとメタルブラックさんはこの段階だとグライダースパイクはまだ使えません [saga]:2022/02/21(月) 02:06:12.91 ID:QqQsPltQ0


  ルージュ「しまった…!してやられたッ!!」


 まさか翼も持たない鉄の塊が[グライダースパイク]擬きをやるなど完全に想定外だった、あくまでも"擬き"であり
鳥系モンスターが使う様な本家の[グライダースパイク]とは違って飛距離も高度も足りず殺傷能力も皆無と言っていい唯の
パラグライダー染みた芸当だが、それでも[硝子の盾]で作った壁を乗り越え標的に攻撃を仕掛けるには十分過ぎた…ッッ!


 [インプロージョン]ではあの速度で滑空している武士には直撃不可能、ならば何処までも伸びて鞭の様にある程度自由に
振り翳せる[エナジーチェーン]を…とも考えたが――――!!



    レッド「くそったれ!!あの野郎"こっちの術を完全に利用してやがる"ッ!!」







   ―――――――味方が仕掛けた[硝子の盾]が邪魔で迎撃ができないッッッ!!!!



 [エナジーチェーン]を振り回そうものなら間違いなく[メタルブラック]を絡めとる前に自分達で仕掛けた硝子に当たる
上級妖魔の中でも相当修練を積み[妖術]に長けた者は自身が味方と認識した者の攻撃だけを透過させる高等技術が可能だが
生まれ持った才こそが全てで鍛錬を積むことは美徳ではないとされる妖魔社会の世論、そもそも白薔薇姫自体が好き好んで
戦闘技術を磨きたい武人気質の人ではないということが相まってそこまでの練度に至れていない


 レッドは言わずもがな、アセルスにもどうすることもできないのだ


 いや、"気<オーラ>"の力で宙に舞いそこから収束させた気を放つ[生命波動]が使えるアセルスお嬢ならばあるいはできた



 だからこそ…、だからこそソレを警戒して彼奴はアセルス目掛けて武器を投げつけたのだッッ!!!
一瞬でも怯ませることができたならばそれで十分だ背部スラスターを吹かして[生命波動]が届かない位置まで逃げ切る
 今からアセルスが[心術]で攻撃を試みたとしても既に[メタルブラック]と自分の距離
相手の高度と[硝子の盾]の絶妙な位置加減でどう足掻いても墜とせない



   ラビット「敵、こちらに向かってきます!」バシュッ!バシュッ!
     BJ&K「[圧縮レーザー砲]当たりません!」バシュッ!バシュッ!

    ビット『』ビュンッ!ビュンッ!
    ビット『』ビュンッ!ビュンッ!



 全く以て悪夢でも見てる様な光景だ。

 出来の悪いシューティングゲームか何かかね?…指をくわえて見てるしかない"人間<ヒューマン>"組は実質6人掛かりで
囲んで袋叩きにしようとしてもまるで攻撃をあしらわれ何なら手痛い反撃すら貰う化け物マシーンが悠々と弾幕を避けて
ゴール地点へと到達しそうな場面を見せられている気分だ
 見えているのに止められない、攻撃できるのに撃てない、解っているのにどうすることもできない


 [硝子の盾]が完全に裏目に出た、滑空しながら腕をクロスさせて[落雷]を発生させて飛んでる[ビット]を数基破壊
更に後々の戦闘で自分が動きやすい様に地上の邪魔な硝子壁も同時に掃除するという荒業をしながら彼奴は目的地へ…!



  [サテライトリンカー]を作動させようとしているラビットの元へ―――――――

                                         ――――――ではなく……!







   メタルブラック「将を射んとすらば馬を射よとな…!貴婦人殿、貴女が私にとっての機動性を殺す射手、お覚悟!」


                     白薔薇「っっ!!」


843 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/02/21(月) 02:06:53.37 ID:QqQsPltQ0

 紅き魔術師は駆けだしていた、彼だけではない
少年も少女も誰もが硝子の迷宮を最短ルートで抜けて、間に合うまいと頭の片隅が冷酷な事実を呟いていても
 それでも彼らは白薔薇を救おうと走っていた…っっ!!

 [メタルブラック]はアセルスに武器を投げつけた、今の彼奴は丸腰状態


 だからといって脅威ではない理由にはならない否これまでの相手の出方を見ていれば分かる
出で立ちこそは武士であるが何も武器に頼った戦い方が全てじゃない…[落雷]も初手でレッドを跳ね飛ばした[体当たり]も
武器なんて必要としない技なんだからッ!



     白薔薇「―――っ…私とて近接格闘はできます―――!!!!!」ポォォォ!!

 メタルブラック「…!なんと、これは驚いた」




  レッド「あ、あれは!?」


 妖魔の貴婦人は目を見開き拳を構える、刹那、彼女から闘気が立ち上る…!
この場に居る機械達は誰しもが花飾りの妖魔の生体反応が急上昇していくのをデータとして観測できて
生身の人である2人も白薔薇から肉眼で確認できるほどの、ゆらめく炎のような闘気を認識できた


 半妖のアセルスだけは…他の面々とはまた違った"者"が見えた



  アセルス「あ、あれって…"あの時の"!」


  ルージュ「えっ?」
   レッド「あの時の…って?」


 どうやらアセルスにだけはくっきりと"形<ヴィジョン>"が視えたようだ、アセルスの発言が何を意味するのか
白薔薇の元に向かいながらも注意深く彼女を観察して、先に『ソレ』に気が付いたのはルージュの方だった


  ルージュ「あっ!?あれは…[ヨークランド]の!!そういうこと!?」
   レッド「お、おい…俺にも分かるように説明を―――」


 そこまで言葉を出した所で漸くレッドにも二人が何を言っているのか理解できた、炎の様に揺らめいて見えた闘気は
よく観察すると"とある生物"の姿形に酷似していたのだ
 一見すれば立ち上る炎の揺らめきに見えるそれは見方を変えれば[触手]の様にも見えた…嫌な事を思い出すシルエット







            [妖魔の小手]【憑依: ク ラ ー ケ ン 】






 政府危険度認定…ッ!!敵ランク9の大海獣[クラーケン]ッッッッッ!!
4つのカードを集める試練で[杯のカード]を得るために[ヨークランド]に赴いたあの日
全員が死んでいてもおかしくなかった悪夢の様な試練での収穫…っ!


 白薔薇姫の両腕に現出した[妖魔の小手]が輝き、そこに封じられたモンスターの魂が彼女を歴戦の武術家へと変えたのだ
大木をへし折り、大岩さえも一撫でで削る剛腕の怪物、その生体エネルギーを解放することによって
白薔薇姫の筋力<STR>と丈夫さ<VIT>は飛躍的に高まった、機械戦士達が一様に彼女の生体反応値の上昇を感知したのは
それが主な理由であり、そして……[クラーケン]という怪物を[妖魔の小手]に、"拳"に宿したならば使える技は…ッ!




  - 白薔薇『私も[タイガーランページ]を修得できましたから、気にしてはいませんよ』ニッコリ -


 白薔薇の両腕が黄金の輝きを纏った…っ!!
あらゆる敵を粉砕すると言わしめた、神の如し拳―――[タイガーランページ]が今炸裂するッッ!!

844 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/02/21(月) 02:07:25.03 ID:QqQsPltQ0

 闘気を纏った黄金の拳による乱打が放たれる、強烈な右ストレートからの左スイング、そこから右、左と交互に
黒鉄のボディへと撃ち込まれていく白薔薇の現状使えるであろう最も火力の高い技
 さしもの[メタルブラック]もこれは涼しい顔で流すことはできないようで身を殴打される度に彼の呻きと鉄が砕ける音が
響いたのが彼らにも分かった

 そしてこのタイミングで―――――!!



  ラビット「[サテライトリンカー]アクセス完了!座標を転送しました、間もなく衛星砲が飛んできます」

    BJ&K「攻撃の布陣は整いました、反撃開始です!」



  アセルス「白薔薇…!私達もすぐに辿り着くそれまで待ってて!」タッタッタッ


 初めて何をしても効かなかった強敵に決定的なダメージを与えられた…その事実が彼らにとって大きな希望となった
このまま押し切れば勝てるんじゃないか?準備が万全の今ならブラッククロス四天王の彼奴を倒せるのではないか!?













  そう誰しもが思った矢先であった。





 ガキィィン!!



  白薔薇「〜〜〜っっ!!」



 手の甲に鈍い痛みが走った…

 白薔薇の光輝く右手に何かがぶつかった、それは[メタルブラック]の拳だった…
それだけならなんてことは無かった、むしろ[タイガーランページ]の闘気が上乗せされて彼奴の腕に殴り勝っていた




    メタルブラック「―――――プログラム発動、太古の昔より受け継がれてきた歴史の記録<データ>」ブンッ


 黒鉄の武人が左腕の鉄拳を振るう、ど真ん中を狙ってきた妖魔貴婦人の左腕を寸分違わぬ正確さで相打ちになる様に打つ


    メタルブラック「その武術、流派に語られ勢いは百獣の王…虎の如しッッッッ!!」ブンッ!!


 黒鉄の武人が右腕の鉄拳を振るった、妖魔貴婦人の繰り出す右腕を"自分なら此処を狙うと知っていた様に"狙い、相殺!





    メタルブラック「システム完了…![猛虎プログラム]ッッッッ!!!」コォォォォォォォォ!!!

        白薔薇「こ、これは…そんなまさかっ!?」



 黒鉄の戦士の両腕は……――――黄金の輝きを放ったッッッ!!




    メタルブラック「 [ タ イ ガ ー ラ ン ペ ー ジ] 発 動 !!!! 」

845 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/02/21(月) 02:08:07.66 ID:QqQsPltQ0

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッ!!

   ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッ!!




      メタルブラック「破ァぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」ガガガガガガッ
          白薔薇「うっ!ぐぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜っ!!」ドガガガガガッ





  ドガガガガガガガガガッ!ドギャ―――――――――――――――z_____________________________________ン!




 突きの速さ比べッッ!!

 "音"と"音"のぶつかり合い…っ!


 1秒間に幾多もの黄金の輝きがぶつかり合い、火花を散らし、神拳と凶拳が邂逅を果たす度に衝撃波が生まれる
目には目を、歯には歯を、よもや[タイガーランページ]という殴打系の技術で最上格に位置する技同士がぶつかり合う等
一体誰に予想できようか?


 音の濁流と衝撃の余波で思わず"人間<ヒューマン>"組は歩みを止める、前に進みたくとも進めないのだ
超弩級の大型台風の日に暴風の向かい風を前にして肩で風切って歩こうとしてるような気分だ、物理的に前に進めないッ!


   白薔薇(くぅぅ…ま、まさかメタルブラックさんも[タイガーランページ]を使えるなんて…っ――――ハッ!?)ミシッ



 同じ技術を用いた拳闘技の応酬戦真っ只中で白薔薇は嫌な音と手応えを感じた、ミシッっと何かが罅割れる音
自身の両手に現出した[妖魔の小手]の片割れに小さな亀裂が入っていた
 元より筋力<STR>が高い方では無かった、その上対戦相手も悪すぎた
お互い一行に手を休めることはなく、無慈悲に降り注ぐ梅雨時期の集中豪雨差乍らの拳…マシンガンの様なジャブ合戦


 先に悲鳴を上げたのは妖魔貴婦人の方であった



  白薔薇の片腕に装着された[妖魔の小手]『』パリーン!


      白薔薇「ああっ!」ズキッ

  メタルブラック「隙を見せましたな…!!」ヒュッ



   ゴッッッ!!


 小手が砕け散り、手の甲がそのまま手首の骨ごと粉砕されそうな痛みを感じて思わず腕を引っ込めた
痛覚が無い機械と痛覚を有する生命体の差であった、本能的に腕を引いた彼女の隙を機械は見逃すことなど無く鳩尾に
[タイガーランページ]を解いた通常の拳を素早く叩き込む


    白薔薇「ッッ〜〜〜」ヨロッ、グッ


 苦悶の表情を浮かべてよろけ、地に膝をつける白薔薇を見てメタルブラックは言葉を発した


   メタルブラック「どのような返答をするか予測はつく、だが敢えて言おう」

   メタルブラック「……投降なされよ、貴殿らの戦闘能力は実に素晴らしいこのまま殺すには惜しい」



  白薔薇「……ふ、ふふっ、メタルブラックさん…貴方の想像通りの返答を致しますわね…まっぴら御免ですわ」ニッコリ

   メタルブラック「……フッ、でありましょうな、そうであって欲しかった、そうでなくては困る所だった」


 返答など分かり切っていた、[メタルブラック]自身が自分の父を裏切れないから、だから彼女等の呼びかけに応じて
自首しなかったのと同じように少年少女達にも自分の護るべき正義や信念がある
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/02/21(月) 02:10:04.74 ID:QqQsPltQ0

 黒鉄の侍が言葉を区切るとほぼ同じタイミングで空間の裂け目が頭上に現れ高出力の光線が落ちてくる
[次元衛星砲]による射撃が始まったのだ、悪の組織の幹部はその場を飛び退き事なきを得る

 裂け目からは止めどなく神罰が降り注ぎ必要に鋼の武士を狙うが命中率はそれほどよろしくは無い
衛星砲の精度が決して悪い訳ではない、ただそれ以上に標的が"速い"のだ


  ルージュ(くっ…やっぱりメタルブラックさんには当たらない…いや、所々被弾はしているけど、それでも――!)


 将を射るならば馬を射よ、相手にとっての射手は白薔薇と言っていたが正しくその通りだ
縦横無尽の移動も全ては機動性特化型という彼自身の持ち味、その持ち味を活かすのが
この広い[庭園]という"戦場<バトルフィールド>"でもある


 時空の裂け目からの狙撃、紅き魔術師の術もメカ達の遠距離射撃だって、少年少女の[飛燕剣]も何も全て回避され
唯一決定的にダメージを与えていたのが[タイガーランページ]か[硝子の盾]に突っ込んだ時に発動する
カウンターの[ブロークングラス]ぐらいのモノであった


 …そう、機動性を活かした攪乱と電撃戦を得意とするならば自由自在に走り回れない様にするというのが上策

 そういう意味でも[硝子の盾]効果は大きかった



 紅き魔術師は術による攻撃をしながら視線で白薔薇姫を見やる、…[メタルブラック]は命まで奪ってはいないが
重い一撃を受けていて術の詠唱は厳しいと見受ける
 術士の欠点は偏に耐久性の無さと言えよう、後方から術による援護や補助を主体として前線で攻撃を受ければ
敢え無く崩れ落ちる……というのも魔術師であるルージュ自身が一番理解していることだ



  ルージュ「全てはあの機動性…あの速さなんだ…っ、アレさえ…アレさえ封じることができれば…ッ!!」


 弾幕を張り続けてどれほど"術力<JP>"を消耗あしたことだろうか…医療メカが白薔薇の治癒に向かい
攻め手が手薄になった隙に彼奴は放電で次々と[硝子の盾]を排して行き


 気が付けばもうアイツを止める障害物など無くなっていた


 壁さえ無ければ黒鉄の疾風と化した彼奴にまともな攻撃が当たる訳も無い、いつの間にやら
回収されていた薙刀の[突き]がレッドの脇腹を貫いていた…!アセルスは鉄塊による超重量級の[体当たり]で大樹の幹に
叩きつけられるように吹き飛ばされて吐血…っ


   白薔薇「アセルス様!――揺蕩うは幻妖の水鏡に写せし我が御身[ミラーシェイド]!!」

 シュイン!シュイン!シュイン!

  メタルブラック(むっ…なるほど、分身の術とは面妖な[妖術]もあるものだ――――だがっ!!)チャキッ


 BJ&Kによる手当もまだ完全でない状態で少女の危機に白薔薇が駆け出し幻影を出現させる術を発動させる
メカの内蔵センサーすらも本当に生きている生命であるかの様に欺く妖<あやかし>の技
 質量を持った分身をいざとなれば身代わりとして使うこともできる―――然しそんなものは無意味だと言わぬばかりに…





          メタルブラック「 [ ム ー ン ス ク レ イ パ ー ] !! 」





 ――――地上に月影が描かれた。


 そう錯覚したときには全員が斬られていて、地に伏していた…


  ルージュ「がっ、ぼ、ぁっ…―――!!!」ドサッ

  ルージュ(一体…いつ、切られたんだ、まるで動きが、視えなかった……つよ、すぎ、る)ゼェゼェ…



 赤の魔術師は一瞬で消えた白薔薇の幻影達や自分と同じく地に伏している少年少女達がまだ息をしていることを確認する
彼らは与り知らぬ事だが、この技を見切れた者はかの武勇の姫"金獅子姫"だけであり…そんな彼女も[かすみ青眼]で彼奴と
真っ向からぶつかって相打ちになるほどであった…ッッ!
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/02/21(月) 02:12:31.29 ID:QqQsPltQ0
*******************************************************


                      今回はここまで!!


                次回メタルブラック戦、完結予定…ッッッ!!!


*******************************************************
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/02/21(月) 07:11:58.62 ID:TKSSFowqo
SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/02/21(月) 21:46:54.57 ID:cSviMkfS0
久々&一気に更新乙です
タイガーランページのぶつかり合い熱い…白薔薇かっこよかった
それにしてもメタルブラックつええ
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/02/22(火) 02:29:54.23 ID:b2xeBnFlO
来てた!おつおつ
851 :メタルブラック編完結 [saga]:2022/03/31(木) 05:00:04.03 ID:BfNAH4mk0

 傷は深い、朦朧とする意識が紅き魔術師にソレをより一層実感させる


 おそらくパーティ内に置いて一番護りが弱いのは自分だ、[シンロウ遺跡]で幾つか有益な装備品を調達したが
その中で[精霊銀のピアス]しか新調していないのだから
 逆に一番防備を固めていたのは[精霊銀の鎧]まで着込んでいたアセルスだったが…蓄積したダメージもあってか
もう動けそうにないと見た

 白薔薇姫もルージュもアセルスも生きてこそいれども立ち上がる事も出来そうにない、術士が薄れゆく意識の中で
見えたのは彼らの仲間内で最も体力があった少年が辛うじて起き上がる姿であった…




    ルージュ(レッド……すまない、これ以上は――もう、無理だ…)ゼェゼェ


    ルージュ(こんな所でボクの旅は終わるのか…案外あっけないモノだな…)




 どうすれば黒鉄のサムライに勝てたのだろうか、今の自分達で勝機など有り得たのだろうか
目の前が闇に覆われ始めた彼は何度も自問していく、まだ意識を手放すわけにはいかない親友がまだ立っているのだ…!
ならば何か無いのか!?と、気力だけでどうにか沈んでいきそうな意識を繋ぎとめていた



    ルージュ(すべては…あの はやさ なん、だ  あれを おさえ、れば…でも どうやって…)




 背部スラスターから噴き出す光、熱、焔、人間では到底追従することは許されない機械だけが産み出せる機動性、馬力…


 





    ルージュ(   ……あ? )



 ふと、そこまで考えてある事に思い至る。

 彼奴の速さは全て背部スラスターから生み出されるのだ、人間じゃない、メカである彼の肉体だからこそ可能な事…




 思考が水底の泥の様に深く落ちる寸での所で、彼は"気が付いた"のだ
…そうだ、そうだ!!なんでこんな簡単な事に気づかなかったのだ!?自分はなんて愚かだったのだ!!

 伝えなくては、レッド少年に、自分が導き出した『最適解』を…ッ!





   ルージュ「―――!」パク、パク…!


 残った気力を絞り出す様に身体を動かす、全身が痛い、神経筋が細胞の一つ一つにこれ以上酷使させるなと訴えかける
唇を開いたつもりだが、声が出せない…もう彼に"声<メッセージ>"も届けられない…っ!


―――
――
―



     レッド「ハァ…ハァ、げふ、ぐっ…」ヨロッ

 メタルブラック「少年よ、まだ立つか」スッ


     レッド「当たり…前だ…俺は、お前達を―――ブラッククロスをぜってぇ赦しちゃいけねぇ、んだよ…」フラッ


852 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:00:52.72 ID:BfNAH4mk0

 小此木烈人の闘志は未だ燃え尽きてはいなかった、彼にとって家族の仇たる一味の者というのは確かにあった
父と母、妹の仇討ちで始めた旅ではあったのだ……然しそれ以上に彼を突き動かすモノが、今の彼には在るのだから



   メタルブラック「……仲間は全員傷つき倒れ、この身に有効打を与える術も持たぬ絶望的状況で諦めぬと申すか」

       レッド「うるせぇ…、勝てる勝てねぇの話じゃねぇんだよ、俺はなぁ――――」




   メタルブラック「家族の仇だからか、少年よ」



 [書院]が焼け崩れていく音と人々の叫びが[庭園]にまで聞こえてくる、その最中で黒鉄の戦士の声だけは澄んで聞こえる
少年の内情を知る彼の問いにレッドは応える


       レッド「それだけじゃねぇよ」


 少しでも呼吸を整えるべく、また仲間が誰か一人でも気絶から立ち直れるまでの時間稼ぎも兼ねて会話に付き合う
少年の言葉に興味を抱いたのか黒鉄の武士は「ほう?」と聞き入る事にした




  レッド「最初こそな…俺は、復讐だけを考えてずっと生きてきたさ」

  レッド「力を手に入れて、強くなって…けれど復讐は良くない、そんなことをすれば報いを受けるって警告もされた」



 アルカール男爵から言われた事を思い出す、正義以外に力を行使すればヒーローに正しくないと判断され抹消されると
それでも構わない、どうせ死んでいた身なのだからあいつ等を道連れにしてやれればそれで良いなんてさえ思っていた


  レッド「そん時の俺は…正義なんざ知ったこっちゃないって考えてたさ、でもな色んな人と出会って」

  レッド「[シンロウ]や此処で行われていた所業を知って…っ!漸くわかった気がするんだよッ!」



 何も知らない探検家達が人知れず犠牲になり、人体改造を施されて犯罪に加担させられる事そして何より
メタルブラックの基地にあったあの身の毛もよだつ部屋





  - レッド『うっ…こいつぁ…』ギリッ -



 紅い鉄扉に倒れたパイプ椅子、そこら中に何かが暴れ回った痕跡のある無機質な部屋…
一体、どれ程の人間達が組織の欲望を満たす為だけに苦しみ死んでいったというのだろうかッ!
 こんなことが許されていいはずがないのだ
今も世界の何処かで"名前も顔も知らない誰か"が自分と同等かそれ以上の苦しみを受けている
 一度そう考えてしまったら彼は止まれない、止まれなかったのだ
相手が自分よりも圧倒的な強者だとか、個人の力でどうすることもできない組織だとしても
臆してはならない、自分が此処で恐れをなして背を向けたのなら、一体誰がその行いを止めてくれるというのだ!?

 口を塞ぎ、目を閉じて、これから先も未来永劫続いていく非道の数々を見て見ぬ振りで生きていて




――――――…果たして、笑って明日を迎えられるのか



   レッド「俺はお前達の所業を許せねぇ、…ここで諦めちまったり逃げちまったらよォ」


 レッド「俺はきっとそれ以上に俺自身を赦せなくなっちまうんだよ!!
           前を向いて明日が迎えられない、いや!明日なんて一生こねぇんだよおおおおおおおお!!!!」




                カッ!!!
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:01:53.58 ID:BfNAH4mk0


     メタルブラック「な、なんだこの光は!?この生命エネルギー反応は…」


 小此木烈人が咆えたと同時に彼の身体が眩い輝きを放った、彼の魂の叫びに呼応するかの様に…っ!



   光の粒子『』キラキラ…
   光の粒子『』キラキラ…


 少年から解き放たれて霧雨の様に降り注ぐ光…それは"意志の力"
彼の熱い想い、決して挫けぬ心、誇り高き精神が――正義の使者としての証が仲間を奮い立たせるエナジーの雨となり
降り注ぐアルカイザー特有の技[ファイナルクルセイド]として昇華したのだ…ッッ!!



  「…うっ、わたくしは意識をどれほど失っていたのですか…」ムクッ



 メタルブラック「!」ハッ!

     レッド「白薔薇さん!」



 降り注ぐ光を浴びて目を覚ます白薔薇姫、否、彼女だけではない!
[ムーンスクレイパー]を受けて所々ショートしていてピクリとも動かなかったラビットとBJ&Kも再起動し出したのだっ!
 アセルスもルージュも、迸るエナジーを受けて再び起き上がったではないか…ッッ!!



   メタルブラック(今のは――そうか、あの生体エネルギー反応は"そういう技"なのだな…敵ながら天晴だ)


 有機生命体はおろか機械である筈のラビット達ですら受けた損傷個所が治っている
機械である彼らに治癒の術は本来効かない筈…それこそ[マジカルヒール]の様な言葉通り"奇跡"の力でもない限りだ
 満身創痍のレッド少年以外は生命に満ち溢れ、逆に少年は…むしろ内なる魂がすり減っている様に感じられる


―――[ファイナルクルセイド]…その技は確かに仲間達を完全復活させるが、代価として文字通り命を燃やす技だ


 少年の消耗具合を見て鋼鉄の戦士は「敵ながら天晴だ」と称賛した




 ラビット「再起動を確認、復帰理由は不明ですが今は任務を遂行します![サテライトリンカー]スリープモード解除!」
  白薔薇「鏡よ、鏡…この世で憐れなる自傷者は誰なるぞ[硝子の盾]!」 


 妖魔とメカが状況先程の焼き直しと謂わんばかりに相手の動きを封ずる手段に打って出る、彼奴もまた何度でも躱し
切り伏せてみせようと言わぬばかりに駆け抜け始めた…ッッ!



    アセルス「烈人くん!!大丈夫!?」
    ルージュ「レッド待ってて、今[バックパック]から[最高傷薬]を…!」ゴソゴソ


 硝子の迷路内を[メタルブラック]が神罰とBJ&Kの[圧縮レーザー砲]を避けに専念しながら動き回る最中
紅き魔術師は回復薬で少年を介抱する、一体いつの間に彼はそんな全体回復なんて大技を習得していたんだと疑問はあった
だが、この際そんなことはどうでもいい一刻も早く伝えなくてはならないことがあるのだから…



    レッド「すまねぇ助かったぜ…!なんとか持ち直せたがこのままじゃジリ貧だ、どうしたもんか…」


 傷は治った、とは言え"JP<術力>"やメカ達の"WP<ウェポン・ポイント>"までもが満たされたワケではない
遅かれ早かれ[メタルブラック]の足止めをするのがやっとの戦法も続きはしまい…







     ルージュ「そのことなんだが…ボクに一つ案があるんだ、危険な賭けになりそうだけど」

854 :※ファイナルクルセイドはヒーロー技なので原作において変身してないと使えません [saga]:2022/03/31(木) 05:02:41.50 ID:BfNAH4mk0
―――
――
―

  メタルブラック「――――砕け散れ!」バチィィィ!!


 [落雷]で硝子の壁を排除して肉迫していく、ここまでは先と何ら変わらぬ作業
半ばルーチンと化しているこの状況で優位なのは自分だと鋼鉄のサムライは考える
自身には[マクスウェルシステム]が搭載されている為、電撃や技を如何に放とうと"WP<ウェポン・ポイント>"が底を尽きる事は
早々無く更に言えば元より彼の内蔵燃料槽もクライン博士の手によって作られた特別製だ、元からの蓄積量からして違う


 一方で向こう側のメカは正規の規格品、根競べをすればどちらが先にガス欠になるかなど目に見えている
白薔薇姫にしたってそうだ、如何に妖魔といえども"JP<術力>"は無尽蔵に非ず

…いよいよ以て彼女等の顔に疲弊が浮かんできた。


 仮に再びレッドが[ファイナルクルセイド]を使い戦線を持ち直したとしても同じパフォーマンスでの戦闘続行は不可能
勝敗を決するのもそう遠からぬ未来だろうと彼は読んでいた


 だからある意味では想定通りであり、ある意味に置いてはイレギュラーな行動に少年達が出た事も不思議ではなかった




  メタルブラック「…む?」



ザッ!!




    ルージュ「…」キッ!

     レッド/アセルス「…」グッ




 術や技を使い遠距離から[メタルブラック]を牽制しつつ妖魔とメカの元へと彼らが集結した
前後から包囲するように攻撃を撃ち続けた方が高機動の武人には命中するだろうにあえて一方向に集結した
 そして何を思ったのか、援護射撃に徹していた術士や剣気を飛ばしていた少年少女が手を止めて一斉に前に出始めたのだ
いや、彼らだけじゃない、前に出た者達の背にメカ2台と妖魔1人も…





  メタルブラック「血迷ったか?…いや、違うか」



 既視感がある。


 数日前、奇しくもこの[庭園]で似たような光景を繰り広げたことがある
黒鉄の侍と黄金の獅子がお互いの全力で一騎打ちを果たした時と同じ…




 決着をつける為の"最後の一撃"を仕掛けんとする者と対峙したあの瞬間を想起させる。




   ルージュ「…かなり無茶ぶりさせるけど、皆ごめん」

    レッド「へっ、気にすんな!どのみちコレを決めらんなきゃ俺達は仲良くあの世行きだ」
   アセルス「危険でもこれしか選択が無いのなら、やってみる価値あるよ」



 ある意味では想定通りであり、ある意味に置いてはイレギュラーな行動――ジリ貧の現状を打開すべく大博打に出る事ッ



 人間というものは追い詰められると起死回生を狙って被害を被るのは覚悟の上でとんでもない捨て身の攻勢に出るものだ
紅き魔術師は背後に控えさせた妖魔貴婦人とメカ2機にも準備はいいかと確認を取る、帰ってきたのは最高の返答だった
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:03:40.92 ID:BfNAH4mk0



  「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…!!!!!!





 総員突撃。



 言葉にすればそれだけの至ってシンプルなソレ、もはや作戦も糞も無いような見事な突撃っぷり
術士が後方から術を撃つことも機械達が光線を射出することさえも無く、妖魔が壁を作る仕事もしない潔いまでの"特攻"

 第三者が見れば血迷った末の玉砕覚悟としか見受けられない行為だが…



   メタルブラック「ほう、そう来るか…面白いっ!!」



 …[体当たり][突き][落雷][ムーンスクレイパー][タイガーランページ]、彼の技は
どれもこれも範囲を吹き飛ばす程の爆発力が無いッ!
 [ムーンスクレイパー]だけは全体攻撃と呼べるが、それは彼の機動力と個々の敵兵の立ち位置が並んで初めて意味を為す
一つの塊となって一丸で迫って来る集団相手では本来の性能を発揮できない


 言ってみればルージュ達の取った行動は肉壁作戦だ

 ルージュ、レッド、アセルスの3人が前方と両脇を固める様に走り、重要戦力の白薔薇たちを護る様に移動する…ッッ!






――――古来、とある"惑星<リージョン>"に存在した『陣形』という概念における[インペリアルクロス]の構え




 おそらくは唯一[メタルブラック]に決定的なダメージが入っていた白薔薇の[タイガーランページ]をぶち当てる為
しかし、それだけでは彼は倒せないし先程の様に黄金の拳同士の突き合いになるだけ――――









      ルージュ「 [ マ グ ニ フ ァ イ ] の 準 備 だ !!」



    ラビット「了解!![マグニファイ]スタンバイ…!」




 [マグニファイ]とはッッ!!その兵装のリミッターを外す事で能力を限界値を超えた威力を引き出すプログラムであり
これを使用すれば使った兵器は完全に壊れてしまうという効果がある

 長期戦を想定するならば初手で気軽に撃っていいモノではない、本当に最後の最期で使う様なブツだ




 白薔薇の[タイガーランページ]単騎だけでは正面からぶつかり合いになっても競り負ける


 しかし…殴り合いの真っ最中でどう頑張っても"回避不可能なゼロ距離から[マグニファイ]で横っ腹を撃たれたら"?


 遠距離武装である[圧縮レーザー砲]を離れた位置から撃ち出すというセオリーを無視してゼロ距離射撃で使う
そうなってくれば彼奴とて無傷では済まされない、それで倒せる倒せないは別としてもダメージを与えるのは間違いない
 そして――真の"本命"はコレではない、策の重要課題は如何に真意に気づかせずメタルブラックを欺き通せるかだ
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:04:19.23 ID:BfNAH4mk0

―――
――
―


 どちらの大技が先に炸裂するか、黒鉄の武士<もののふ>はこの行動の要はそこにあると考えた




 メカの[マグニファイ]と白薔薇の[タイガーランページ]の二大火力をぶつけて一撃で鋼の侍を粉砕するか
 肉壁と化した"人間<ヒューマン>"組の3人を玉葱の皮を剥ぐが如く速やかに倒して芯の部分、切り札の淑女達を倒せるか




 言葉通り一回限りの大勝負だ、白薔薇の"WP<技力>"も残り僅かで[マグニファイ]も起動すれば、使った武器が破損
自身が出せる最高速度で彼らを捻じ伏せ不発に終わらせられれば勝利確定と言っても過言ではない


 内容に違いはあれどその行動自体は月夜の晩にメタルブラックが金獅子姫の[かすみ青眼]に対し[ムーンスクレイパー]で
打って出た一騎打ちと同じで、彼の性格上これに応えないのは武人として恥ずべきだと考えた


 後方へ逃げに徹しながらチマチマと[落雷]で1人ずつ落とすなんて野暮な真似を彼らを前にしたくはなかった
組織の者に小馬鹿にされようが罵られようが、彼は自身の理念を貫く事に誇りを感じており
 産みの親たるクライン博士からも"相手の弱みに付け込めないのが最大の弱点"と評されたが同時にその心を失くしては
真の最強になれないとのお言葉も頂いた…だからこそ[メタルブラック]は逃げには回らない


 真向から一つの塊になって向ってくるルージュ一行に対して真正面から札を切らせる前に全員を切り伏せる事を選択する





     メタルブラック「フッ、まこと面白き傑物達よ…よかろう受けて立つッ!」コォォォォォォォ…!!!



 黒鉄の戦士の背部スラスターから光が噴き出る、次の瞬間メタルブラックは夕闇を切り裂く閃光と化した
赤焼けの色に照らされたメタルボディが凄まじい推力を伴ってすっ飛んでくる
 初撃は最も彼奴と位置関係が近いセンターラインのレッドだ、お互いに直進すれば最初に激突するのは当然の事
視界に鋼鉄が飛び込んでくるのを見据えて少年はアセルスから借りた剣で[ディフレクト]しようと構えるが
防ぐよりも先に恐ろしく速い峰内が飛んでくる




   ゴッッッ


   レッド「がふっ――――!?」


 センターを走る少年が峰で殴打されて姿勢を崩し大地に転がされていく様がスローモーションの様に映る
ライトとレフト、それぞれを担当していた少女と魔術師は少年が倒されるのを見て直ぐに迎撃へと移行する
なにも倒そうなんて思ってはいない、後方で拳を輝かせた白薔薇姫とメカ達が絶対的に攻撃を外さない状況を作るのが目的


 アセルスは予めいつでも放てる様にしていた[稲妻突き]の構えを取りルージュも術の詠唱に入る







―――同じ事の繰り返しを…芸が無いぞ若人よッッ!!


 声に出さず胸の内でメタルブラックが彼らにそう叫ぶ、声なき叫びを体現するかのように数万馬力の剛腕が少年を地に
下した薙刀を振るい、術の詠唱が終わるよりも先に2秒差で飛んでくるだろう少女の刺突を掻き消さんとする

 半妖の少女が持っていた[サムライソード]の先端が敵の薙ぎでへし折られ、返す刃で利き腕の肩を潰されて苦悶の表情を
浮かべながら大地へと沈んでいき、それとほぼ同時に花飾りの淑女が片腕の[妖魔の小手]を輝かせながら地を蹴り
黒鉄のサムライ目掛けて跳躍した……この間、僅か2秒ッッッッッ


 アセルスを叩き墜とした彼奴は直ぐに真逆の方向に居るルージュへと攻撃を仕掛けんとする!
人の身体の構造上、目の前の相手を攻撃してすぐさま背後の相手を切り伏せたいと思ったなら当然振り返るなり
上体を捻るなりする必要性が出てくる、その場から移動するのではなく"ただの向きの修正"…
如何に距離を詰められる敏速性に優れたブースターを持っていたとしてもその動作を行う上で大きな意味を持たない
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:04:50.32 ID:BfNAH4mk0

 黒鉄の戦士が紅き魔術師をカメラアイに捉えた瞬間には指先に高熱反応が出ていて[魔術]を唱えられる準備が出来ていた
[タイガーランページ]の拳を叩き込める射程圏内まで数�pの位置まで接近している白薔薇の姿も横目に見えている














              メタルブラック(勝負あったな―――!!!)





 彼は自身の勝利をこの瞬間確信した。



 機械であるが故に優秀なAIソフトが直ぐに計算結果を叩き出した、彼らの切り札である白薔薇の拳が届くまで"数�p"
その瞬き程の僅かな時間差は紅き魔術師を倒して白薔薇の対応に回るには十分過ぎる時間であると


 [猛虎プログラム]を発動させて白薔薇の拳を相殺するはおろかこれ程の秒差があるならば白薔薇を捻じ伏せる事さえ可能


 彼女が[妖魔の小手]に大技を仕込んでいたという意表を突いた攻撃をしてくると分かっていたならば警戒もできよう
初見殺しは1度でも見てしまえばその瞬間から"初見殺し"ではなくなる、どんな攻撃が来るか予め予測できているならば
冷静に貴婦人の挙動を見てどの位置に攻撃を叩き込めば良いのかも判るというものだ…

 彼女の背後でラビットの[圧縮レーザー砲]が膨大な熱量を産み出しているのもカメラアイで確認できたが
彼が[マグニファイ]を撃ち出すよりも先に白薔薇を沈めたとあれば回避もさして苦労せんだろう




              メタルブラック「―――切り捨て御免」


 ザシュッ!



           ルージュ「―――っっっっっ」ブジュッッ






 紅き魔術師の法衣が鮮血に染まる。

 薙刀の先端がルージュの腹部を掠める様に横一文字に切り裂く
詠唱が終わり術名を叫ぼうとした彼の喉からは声の代わりに血が噴き出た 



 ゆっくりと…世界の動きがスローになっていく、ルージュもまた母なる大地へと倒れ込む様に彼の身も墜ちていく…













                   ルージュ「―」ニィ


         メタルブラック「――――――――――!!」ゾワッ

858 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:05:32.24 ID:BfNAH4mk0

 彼…メタルブラックは武人としてではなく私人として倒れゆくルージュの最期の顔を拝もうと見た、見てしまった。


 魔術師は笑っていた、まるで"悪だくみが成功した悪戯小僧の様な笑み"を浮かべていたのだ…!





 機械である筈のメタルブラックは確かに人工知能の片隅で警鐘が鳴ったのを感じた、自分は何かを見落とした?何をだ?








 彼らが[メタルブラック]を倒せる唯一の方法はなんだ?

 メタルブラックが誇る高機動能力を以てしても絶対的に回避不可能な超至近距離で最大火力をぶつけることだ



 ではその最大火力とはなんぞや?

 白薔薇姫の[タイガーランページ]とメカ勢の[マグニファイ]だ




 …一応[次元衛星砲]や他の面子が使う[剣技]や[生命波動]等でもダメージはあるがどれも回避可能で致死には至らな――










 黒鉄のサムライは、メカである。

 だからこそ頭の回転が速かった、優秀なAIを積んだ機械なだけはある…彼は悟った




















     レッド「 う お お お お  おお お おおおォーーーーーーーっ!!!!」









    メタルブラック「!?!?クッ、うお、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?!?」





 小此木烈人少年がアセルスの装備していた[ツインソード]を構えて[稲妻突き]で[メタルブラック]目掛けて猛進するッッ

859 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:06:08.47 ID:BfNAH4mk0


――――[生命波動]…そう、"[心術]を彼らは使えるのだ"…ならば当然アレも使える


 "JP<術力>"が絶望的に低くて術士としての適性すらも碌に育ててこなかったレッド少年でさえ使える
自身を完全回復する術…[克己]をッッ!!








   - 『ルージュ(すべては…あの はやさ なん、だ  あれを おさえ、れば…でも どうやって…)』 -
   - 『ルージュ(   ……あ?)』  -


- 『…そうだ、そうだ!!なんでこんな簡単な事に気づかなかったのだ!?自分はなんて愚かだったのだ!!』 -
- 『伝えなくては、レッド少年に、自分が導き出した『最適解』を…ッ!』 -







 あの時、紅き魔術師は活路を見出した。
どれだけの攻撃を撃っても文字通り人外の速度で回避されるのであっては意味など為さない
 完全に意識外からの攻撃だったらどうだろうか、不意をついた一撃だ…それでいて致命的な一撃

 [稲妻突き]は脚に力を溜め狙いを定めた上でそこからの瞬発力で一気に距離を詰め相手を突き刺す技だ
一度発動すれば止める術など無く、だからこそ彼奴は技が出る前にアセルスの剣先を折り彼女自身も叩き墜とした
 然してこの剣技の威力では[マグニファイ]や[タイガーランページ]の火力には並び立たない


 鋼鉄の肉体を持つ[メタルブラック]を致死に追い込む事など不可能
何事も無かったかのようにそのままレッド少年の剣技をその身で受けながら白薔薇達を排除することさえ可能だ

 ならば、何故彼奴はこんなにも狼狽えているのか…―――――それは…ッッ!!













  レッド「テメェの背中についてるスラスターがガラ空きになるこの瞬間を待ってたんだぁぁぁーーーっ」











-『彼奴の速さは全て背部スラスターから生み出されるのだ、人間じゃない、メカである彼の肉体だからこそ可能な事…』-

 - 『――真の"本命"はコレではない、策の重要課題は如何に真意に気づかせずメタルブラックを欺き通せるかだ』 -








"白 薔 薇 と メ カ の 高 火 力 攻 撃 は 実 は 囮 で 本 命 は ブ ー ス タ ー 破 壊"





 将を射んとすらば馬を射よ…っ![タイガーランページ]と[マグニファイ]で一気に勝敗をつけようとするが如く見せ掛け
その実は剥き出しの背部スラスターを使い物にならん様にするのが目的の陽動作戦
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:06:40.34 ID:BfNAH4mk0

 頑丈さを誇る鉄のボディも[次元衛星砲]で所々焼けていた、自慢の機動性で直撃を免れたからこそダメージも少なかった
掠める程度には被弾しつつあった彼奴でも背中だけは頑なに攻撃を受けない様に注意を払っていた

 単に不要な損耗を避けていたからではない、彼自身の構造上の弱点がそこにあったからなのだ
白薔薇とラビット達の2大火力が[メタルブラック]に当たるか防がれるかはこの際そこまで重要視していない

 最悪の場合[次元衛星砲]だけでも勝てないこともない。



 スラスターを破壊されれば単純に回避性能が大幅に落ちるだけではない[体当たり]や[突き]の軌道も眼で追えて読み易く
こちら側に攻撃が命中する確率も減る



…そして何よりも[ムーンスクレイパー]という速さを活かした彼の代名詞が完全に死ぬ





 焦り過ぎたな、[インペリアルクロス]の陣形で突っ込んでくる術士等を見て前衛3人を如何に早く倒して
中核の貴婦人達へ対応していくべきなのか…モタモタしていたら相手に切り札を切られかねない、と
 そんな節燥感に駆られて手早く少年少女と術士を倒したからこそ傷が浅かった



威力よりも速度を重視した峰内、剣先を折り返す刃で利き腕を潰すだけに留める早業、心臓を貫く事も無く先端で切り付け


 1人1人ご丁重に[克己]を唱えることすら不可能な重体にでもしてれば話は大分変っただろうが
それをやれば今頃2大火力の直撃によってメタルブラックの腰から上は綺麗さっぱり消し飛んでいたに違いない




 後門の小此木少年、前門から白薔薇の光輝く拳…っ!!




 今から振り返り少年を居合切ろうとすれば上半身が拳と光線で持って行かれる
無視して白薔薇を打ち負かせば馬を射られた将になり降り注ぐ神罰やら今まで楽に躱せてきた攻撃の集中砲火で敗ける




 ルージュ一行はあの劣勢から見事に逆転の一手を指したのだ…。



















            メタルブラック「 喝ッ ッ ッ  ッッッッッ! ! !! 」ブォンッ!




           白薔薇「きゃっ―――!!」     レッド「な、にィ!?」







 この時、メタルブラックが咄嗟に取った行動…それは意外ッ!"バク宙"である…ッ
数�pどころじゃない距離まで白薔薇の[タイガーランページ]が迫った所でバク宙…否、正規のやり方と違って
鉄棒競技の逆上がりの様な片脚を大きく上げたバク宙擬き―――サマーソルトキックであった
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:07:21.68 ID:BfNAH4mk0

 身体を宙に浮かしながら姿勢を横軸に180度向きを変える
こうすることでレッド少年の本来の目標であった『背部スラスター』への攻撃は大きくズレて
メタルブラックの腰付近に当たることとなった…一方で白薔薇姫は苦し紛れのサマーソルトを脇腹に受け
小さな悲鳴を上げながらも拳を叩き込んだ

―――当然ながら最初の予定通り上半身を粉々に吹き飛ばすという狙いは大いに逸れたが





    白薔薇「っっ――[タイガーランページ]!!!!!」ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ



 背面のブースター破壊は失敗に終わり、鋼鉄の肉体にほんのちょっとの傷を[ツインソード]で負わせるに至り

 白薔薇の攻撃は――上半身を消す致死の攻撃にはなり得なかったが、自身に蹴りを浴びせた片脚を完全に持って行った





  ベキメキ、メキャッッ




――――――バキィ




        膝下から完全に捥がれたメタルブラックの右脚『 』ベシャァァ!!




     メタルブラック「―――っっ、[猛虎プログラム]発動!!!!!!!!!」キュィィィン!!








 片脚を失い歩行は不可能になった。


 更に黄金の鉄拳による殴打の雨嵐がサムライの残った脚も奪わんと叩き込まれてズタボロの鉄塊と化す
白薔薇から見て上後方へと飛び退かれて距離を開けられた事で小手がほんの少し空虚を舞う
 脚を失いつつもバク宙をした黒鉄の戦士の上体は今完全に[稲妻突き]を放ったレッドの背後――死角を取る位置にあった
レッドが首を動かして自分の頭上を通り越した相手の姿を捉えて対処しようとした時には…[猛虎プログラム]が


 敵の[タイガーランページ]が既にレッド少年の鳩尾を的確に打ち抜いていた


 腹部に筆舌しがたい激痛が走るッッ、最強格の殴打技をその身に受けた齢19歳は
上方に跳んだ敵と違い地を滑る様に吹き飛ばされていく、頭の中が真っ白になる一生分の胃液を吐き出したかもしれない


 口中が酸っぱい、喉が熱い、自分の口からは水分が驚くほど出て行くのにそんな現状と裏腹に
脳の何処かにひどく冷静な自分が居て「よく今の喰らって俺生きてるな」なんて場違いな事すら考えていた
[克己]は唱えられそうにない、白薔薇さんはどうなった?頭の中に居る冷静な自分がふと目を向けると…



            レッド(……)


            レッド(オイオイ…)

            レッド(んなアホな、そんなんアリかよ…)





 丁度少年の視界に飛び込んできたのは歩行不可能になったというのに一体どんな手品を使ったのか白薔薇の真上に飛び
上から拳の雨を降らせ、それを貴婦人が拳の傘で防ぐという構図であった
862 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:07:48.70 ID:BfNAH4mk0

 レッドが吹き飛ばされた瞬間に何があったのか、潰された利き腕を治そうと
少年に少し遅れて[克己]を唱えていたアセルスお嬢はその様を目撃した…

 傷は完治したが、彼女より先に完治して背部スラスターの破壊に少年が向った為、彼女はルージュの介抱に当たった
赤い魔術師を治療する傍らで彼女が見たモノ…それは目を疑う光景だった

 少年が吹き飛ばされた後、両脚がまともに使えなくなった[メタルブラック]はこのまま落下していくだけだろう…
背部のブースターこそ壊せなかったが機動性を潰すというお役目は確かに果たされた

 あとは地を這う芋虫よろしくとなったメタルブラックを囲んで叩くだけの手筈…だというのに








    メタルブラック「まだだ!まだ終わらん!!たかが片脚を失くした程度だ!腕が残っているっ!」シュバッ!ダンッ





―――両脚で大地に立てぬならば、両腕を地につけ逆立ちでもする要領で着地すればよいッッ



 [猛虎プログラム]を発動させた光り輝く両腕で大地に立つ!
まるで軽業師が舞台公演する曲芸じみた動きだ…アクロバティックな動作で宙を舞い
剥き出しになった急所へ致命の一撃を繰り出す少年を避け、前方の貴婦人に片脚を拳で千切られる程の衝撃を受けても
空中で繊細な姿勢制御を成してレッドを殴り飛ばして着地する、これだけでも十二分に常識を疑いたくなる挙動であり
 更にプログラム発動で[タイガーランページ]を可能とする人外の"筋力<STR>"を活用して
腕力と指先の力だけで大ジャンプを熟し未だ健在だった背部スラスターを吹かしてまた宙を滑空するように高速移動
白薔薇の頭上から拳の雨あられを降りかけるという行動に出たのだッ!!


 脚が在ろうが無かろうが関係なかった。
 ルージュの結論通り、全てはあの背部スラスターが産み出す機動性なのである



 アレを破壊できなかった時点で勝敗はもう決まったようなモノ…その事実を認めレッドとアセルスは苦渋を浮かべた





 そう、――――「自分達は一世一大の大博打に敗けたのだ…。」っと、少年少女はそう悟った







 [次元衛星砲]は白薔薇を巻き込むと判断した為、自動発射はせず
ラビットは白薔薇を巻き込まない完璧な位置取りで[マグニファイ]を撃とうと試みたが…時すでに遅し



     白薔薇「きゃあああああぁぁぁぁっ!!!」パキィィン!!
    ラビット「[マグニファイ]セット[圧縮レーザー砲]!!!!!」ギュィィィン


   メタルブラック「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



        ジュウウウ ウウウウウウ ウ  ウウウウウウウ ウウウゥゥ ウゥゥ――!!


 彼女の[妖魔の小手]が完全に破壊されて吸収された[クラーケン]の力が解放されて消えていくのが見える
それとほぼ同時にラビットが切り札を撃ち出した、通常の何倍もの威力を持った破壊の輝き、圧倒的な熱量

 白薔薇との呼吸の合わせ方も決して悪くは無かった、競り合っている間に撃つという目的も果たせはした
ただ見積が甘かった、想像以上に相手が白薔薇を退けるまでの所要時間が短く、更に脚を失った事で完璧な回避行動は
不可能と判断したのか背中のジェットを使い無理矢理前進するというゴリ押しの力技で移動を始めた
無理に避けようとして余計な被弾をするのならいっそ"避けずに吶喊<とっかん>する"という思い切りに出た

 可及可能な限りの最大戦速、それを以てして自身のパーツが壊れようが焼かれようが必要な損害と割り切り
最短で[マグニファイ]の中を突っ切りメカ勢を叩き潰す、そんな意気込みをコレでもかと言う程に感じられる吶喊だった
 黒鉄の戦士が膨張したレーザーの波を突き抜けた時には既に上半身の左肩から先が完全に熔解して無くなっていた
863 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:08:16.38 ID:BfNAH4mk0


 メカという種族は総じて任務という物に忠実である、どこまでも残酷なまでに



 何かを破壊する為に産み出された戦闘メカが喩え任務を忘れてしまったとしても是が非でも思い出し必ず遂行する様に
メタルブラックも"武士<もののふ>"の心を持ちながらも同時に何が何でも任務を果たさんとする性質を持っている


 己の全存在を掛けてでも必ず命じられた事を成し遂げようとする"性<サガ>"…どこか歪でありながらも純粋なソレ



 ラビットの[マグニファイ]の後すぐにBJ&Kの[マグニファイ]が黒鉄のサムライ目掛けて放たれたが
彼奴の肉体を灼けたのは前者の攻撃のみで後者の砲撃は全速力で突っ切る相手を捉えきれず



 片脚と片腕、持っていた薙刀を失いながらも彼奴はラビットを残った片腕で叩き潰し
残りの脅威と成り得る相手へと肉迫していく、[妖魔の小手]も破壊し終えてラビットもご覧の有様、最後は当然―――





     メタルブラック「ここまでだな」ギュンッッッ


         BJ&K「…うっ…」タジ…



 戦闘メカではない彼が、ほんの僅かにたじろいだ



 策で最も重要だった機動性を潰すという目的が潰えた以上、もうアセルスにもルージュにもレッドにだって打つ手は無く
直線的な動きしかできなくなったがそれでも[次元衛星砲]の直撃を避けながら残った脅威にトドメを刺すなど容易い

 身体のパーツの大半が無くなった武士は惜しむ様にBJ&Kを眺めていた








 戦士として戦っている実感を味わえる死闘だった

 最後の方は金獅子殿と剣を交えた時に匹敵するほどに"心"が震えた


 良き巡り合いだった、束の間と言えど邂逅を持てたことを誇らしく思う…、こうして終えてしまうのが哀しく思える





      メタルブラック(……二転三転する戦いだった、若人たちよ私は決して君達との闘争を忘れはしない)



 背部スラスターの推力だけで強引にホバリングする悪の組織の四天王は片腕だけの拳を勢いよく相手の胴へと打ち込んだ





       ガシャァアアアアアアァァァァァァン




     BJ&K「!?!?!?!?!?」バチバチ


 胴体に風穴を開けられて手足をばたつかせながら火花を上げる医療メカは自身を破壊せんとする輝く剛腕を両手でつかむ
その有様を見てメタルブラックは心の内で呟く…掴んだ所でもうどうしようもないであるまい、と

 彼奴にも彼奴の立場があるのだ創造主たる父の意向に逆らえない事も含めて
投降しないのであれば見逃す訳にもいかない、医療メカを破壊して完全に脅威を取り除いた状態で
"人間<ヒューマン>"組を抹殺してそれで"組織に攻め込んできた侵入者の排除という任務"は達成と、名残惜しくはあるが…
864 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:08:43.23 ID:BfNAH4mk0

 拳を医療メカの胴にめり込ませたままメタルブラックは後ろを見やる

 地に墜ちたラビットの残骸、術士と少女に助けられたのか下唇を噛んだまま此方を睨みつける小此木少年
 術士と半妖の看護によって息を吹き返す妖魔貴婦人





  メタルブラック(……。)



 万感の想いがある、私人として邂逅があっただけに、束の間だとしても平時に偶然知り合えた気の良い観光客達と…

 それでもブラッククロス四天王としての責務は果たさねばならない
私人としても武人としての情ももう抱くべきではない…――――――――――――――――彼らは此処で殺す


 彼が腕を胴から引き抜こうとした時、違和感に初めて気が付いた




  メタルブラック(……?なんだ腕に力が入らない、左腕や脚だけでなく内部ジェネレーターまでやられたのか…?)



 出力が出ない、メカにあるまじき捨て身行動の数々で蓄積されたダメージが原因で内部に異常をきたしたのか
赤焼けに照らされてながら欠損した肉体の至る所から剥き出しのコードや火花を散らしながら彼は少考する
 彼の知性、人格を司るコアと頭部の知能AIは健在だ、故に考える


 赤焼けが綺麗だ。

 心を持たない機械の自分でもこの眺めは何故かカメラアイにずっと納めておきたかった。

 [京]の[書院]はどうやら鎮火したようだ住民たちがやってくれたのだな、怪我人はいなさそうで何よりだ。

 父は私を褒めてくれるだろうか、私はまた最強に近づけたのだろうか…それともこれは間違った強さなのだろうか。

















      メタルブラック(…っ!? なんだ、なにか おかしい、なにかが なにかが なにかが おかおかおあか)







 自分は何を考えてた?どうしてこの医療メカの胴体から腕が抜けないのか、だった筈だ
肉体あるいは内部の動力系に問題が出たのかと考えていた、なのに風景がどうだの私人としての考えだの地元民の事や父…

 さっきから考えが纏まらない、支離滅裂すぎる、どうしがんだなんで出力が胴を抜くくらいの理由を判明に至らない
支利滅劣すぎる、どうしんだんがんなでんジェネターレに異音が発性してるのではないかの?!?

 一休わたしの体身に伺が越きてりろ@だ!$










          「……本当に巧くいく保証なんて無い賭けだった、ボク達の勝ちだ」
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:09:14.31 ID:BfNAH4mk0


  メタルブラック「―――!?」ガガガッ、ピーッ



 声の主に意識を集中させる、上手く聞き取れない集音機でも声の主が銀髪の青年のモノだと分かった



 アセルス「えっ、どういうこと!?」オロオロ
  レッド「お、おいルージュどうなってんだ…一体何が」オロオロ



 頭の中にノイズが響く、"両の眼<ツインアイ・カメラ>"は急速に色を失い古いブラウン管TVの砂嵐の様な景色ばかりを見せる
身体の随所から異常が検知されるメタルブラックにも術士の澄んだ声は聞こえた、困惑する少年少女の声も




  ルージュ「2人とも本当にごめんね、君達には作戦の真の狙いを敢えて言わなかったんだ」







 - 『――真の"本命"はコレではない、策の重要課題は如何に真意に気づかせずメタルブラックを欺き通せるかだ』 -







  ルージュ「この作戦は"如何にメタルブラックに気づかせずに欺き通せるか"…敵を欺くにはまず味方から」

  ルージュ「最後の最後でアレを警戒されるのをどうしても防ぎたくて、だからこそスラスター狙いと思わせたかった」








-『彼奴の速さは全て背部スラスターから生み出されるのだ、人間じゃない、メカである彼の肉体だからこそ可能な事…』-









    "メカである彼の肉体だからこそ可能な事…"


    "メカ"である彼……―――――――『メカ』……





  メタルブラック(―――…そう、いう、ことか……ははっ、試合に勝って勝負に敗けるとは、こういう、こと、か)







  ルージュ「メタルブラック、貴方ならきっと脅威の度合いから判断して白薔薇さん、ラビット、BJ&Kの順に倒し」

  ルージュ「最後に完全な武力破壊を行ってからトドメを刺すだろうと睨んだ――だからこそBJ&Kに秘密裏に頼んだ」




    ルージュ「―――"[論理爆弾]"、メカである貴方になら絶対に効くだろうって閃いたんだよ」

866 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:09:48.15 ID:BfNAH4mk0

 黒鉄のサムライはその場から動けなかった。


 否、動かそうと思えば動かせるが指一本でさえ錆び付いた様にぎこちなく思い通りに動かせなかったのだ…!



 人間でも妖魔でもモンスターでも無い、メカという種族が持つ唯一最大の欠点
[磁気嵐]を始めとした特定の技で内部システムを狂わされるという問題点だ


 機械という身であるが故に[毒]や[暗闇]に[眠り]、[石化]や[魅了]と言った状態異常が何一つ効かない
しかし先述の技や[グレムリン効果]…[論理爆弾]等の技やプログラムを使われれば途端に何もできなくなる

 電気系統のエラーから[麻痺]やAIの故障による[混乱]が例に挙げられるがメタルブラックの頭部から
蒸気が上がっているところを察するにおそらく[バーサーカー]の状態異常が出ていると見ていいだろう



 散漫とした思考回路、脊髄神経に電気信号が行き渡ってないのかと思いたくなる動きの悪さ、異様に熱くなる頭部


 一度に難しい事を考えすぎて知恵熱を出した子供、…なんてモノとは比較にもならない程の熱量が鋼鉄の武士の頭部から
発せられていて冷えた外気の風が熱に充てられて視覚出来る程の蒸気と化す






 …もはや今のメタルブラックには[猛虎プログラム]を発動させる事はおろか、背部のスラスターを吹かす事さえ困難





 当然ながら下弦月を描く剣閃も体内電圧を利用した稲妻も速さに物を言わせた突撃だって今の彼には不可能
単純な武力と武力のぶつかり合いなら間違いなくルージュ一行に勝算は無かった、抗った所でジリジリと疲弊して最終的に
今現在の壊滅状態に陥り命を刈り取られたに違いあるまい


 だから彼は賭けた。


 白薔薇の拳と[マグニファイ]からの[圧縮レーザー砲]2発、これに命運を委ねた―――と、思わせて真の狙いは
レッド少年やアセルスお嬢が繰り出す瞬間加速値の最高の刺突技による背部スラスターの破壊!…と、いうのも実は陽動で
正真正銘真の目論見は少年等を避け、主力組の白薔薇とラビットを倒し最後の一人BJ&Kを倒すという間際で放たれる罠だ


 まさかの"二重陽動作戦"…ッッ!!!



 敵は背後から弱点を狙ってくる少年に気づきコレが狙いだと考える、そしてそれをやり過ごし目の前にいる
無視はできない超火力持ちの主力組を潰すことに注力する
 敵の策を見破り奇襲のソレを捌きつつ近接タイプの白薔薇も打ちのめす、そして回数1発限定の[マグニファイ]も
避けきればその時点で出来る事など高が知れている


 2発の極大レーザー砲をやり過ごした、この時点でメタルブラックは半ば勝利を確信した




 偉人の言葉を借りるなら、"勝利を確信した時、既にソイツは敗北している"


 術士達にはもう戦局を覆す一手は無い、最後の切り札は今ので終わりだ―――そう思い込んだ彼奴がラビットを墜とし
虎の子の[圧縮レーザー砲]も使い物にならなくした医療メカの前に堂々と立つ
 [マグニファイ]後であるならばやれる事なぞ精々[パンチ]が関の山だと…



 ここまでの流れ全てが[論理爆弾]を警戒させない布石



 戦闘開始早々でルージュを庇ったBJ&Kにした時と全く同じ様に腹を貫通する一撃を見舞う
そして手足をばたつかせながら自身を破壊せんとした"メタルブラックの輝く剛腕を医療メカは両手で掴んだ"
 [論理爆弾]という技は相手に接近して対象に触れ、そこから敵の脳に影響を与える電磁波を流し込む様に送信する
つまり接触が出来なければ"miss<かわされた>"という事になってしまうのだ

 仮にBJ&Kが白薔薇と同じ前衛で殴りに行けば不審に思われ勘付かれたまである、敵の機動力なら当然回避されてた
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:10:20.33 ID:BfNAH4mk0

 [次元衛星砲]のリンクは未だ切れていない、いつでも羽の捥がれた蝶と化したメタルブラックを灼く準備はできてる
少年少女、術士と妖魔貴婦人は既に彼奴を取り囲む様ににじり寄っている



   メタルブラック「見事なものだった……この勝負、私の敗けだ」



 声調機の調子も良くはなかった、濁りを感じさせる発声だがそれでも黒鉄の武士<もののふ>は
己を打ち負かした者達へ称賛の言葉を贈った
 肉を切らせて骨を断つ、一歩でも匙加減を間違えば終わっていた作戦
誰か一人でも欠けていたら成立しなかった総動員の大博打に彼らは勝ったのだ、[論理爆弾]が直撃しても最悪の場合
軽い[スタン]程度の状態異常で終わったかもしれない


 ザッザッ…


      レッド「メタルブラック…」


  メタルブラック「戦う前にも告げた通り、父を裏切る事はできない…降伏するつもりは無い」


      レッド「…」


  メタルブラック「若人達よ、もしも私に情けを掛けるというのであれば私が望む事はただ一つだ」





  メタルブラック「介錯仕ってもらいたい、この首を撥ねて幕を下ろしてくれぬか?」

     アセルス「そんな…」



 父親、Dr.クラインの唯一の味方はこの世で最早自分しかいない、そんな自分に何故父を裏切れようか?
このまま逮捕されて自身の内部情報から警察機関に組織の手がかりが流される事も幹部としての矜持が許さない
 敗者が勝者に乞うなどと烏滸がましいのかもしれない、そう黒鉄の武人は考える…それでも彼は願わずにいられない
自身をここで切り捨てて欲しいのだと




      レッド「……解った」チャキッ




     アセルス「…ぁ」

     ルージュ「…ボク達も最初から覚悟はしてきた筈だ、――メタルブラックさんもソレを望んだんだ」



 紅法衣の術士は首を振るいながら少女にそう言った、…自分に言い聞かせているようにも思えるその言葉を




                メタルブラック「…少年よ、感謝いたす」ニィ

         レッド「メタルブラック、俺はおまえの事を忘れない!絶対に…っ」グッ












                  ザシュッ、ゴト…

―――
――
―
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:11:12.90 ID:BfNAH4mk0


 静寂。



 何とも言えない長い沈黙が、不気味な程の静けさがそこには漂っていた







 黒鉄の武士は身一つ満足に動かせない状態にあった中、おそらく全神経を集中させたであろう
首の付け根の部分、鎧を着こんだ胴体と頭部のつなぎ目に当たる部位を意図的に曝け出し打ち首にされることを待った
 常時あの爆発的な高機動では背部スラスター以上に狙う事は不可能だった急所を装甲を僅かにパージさせた上で…


 焼け跡だらけになった[庭園]の土にごとりと音を立てて重たい金属の塊が落ちた


 もう何も言わない鉄塊、ツインアイは死んだ魚の目玉が如く光を失っていて


 無機質なメカである筈の彼の口元はどこか微笑みを携えていた様に思える、最期に願いを聞き届けられたからだろうか


 切断面からよくわからないコードが数本飛び出ていて機械油や火花を飛ばしながら動き、やがてそれさえ動かなくなった









 初対面の自分達に快く接してくれた人、旅先で出会った数少ない知人…そんな彼の"死<きのうていし>"


 自らの手で知り合いを討った……



 その事実をどう受け止めて良いのか分からなかった、いや何も実感できなかった、何も感じられなかった。
胸にぽっかりと穴でも開いたようで内に入って来るものがその穴から外へと抜けていくようだった
 人間、感情が一定量を振り切れると笑う事も怒ることも、泣くことさえもできなくなるのだと知った

 得物を握った手を力なく下したまま空を見上げつづける少年、白薔薇姫に寄り添い胸を借りる少女

 そして動かなくなった鉄塊を見つめたまま思考を止めていた術士の青年





 皆、誰しもが感情の整理に時間を要した。



 然して刻を止めた少年達を置き去りに陽は沈んでいく、月は昇り始める…世界は無情にも廻っていく

 何時、何処で、誰が、何を想うと何を考えようとそんな事は知った事ではないと言わぬばかりに、時は去っていく


 世界は止まらないのだ、どんなに辛い事や厳しい事があっても、それでも明日へと向かって行く











 そう、だから……



                 「探しましたよ、アセルス殿」

869 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:11:48.70 ID:BfNAH4mk0



      白薔薇(っ!? この気配は…っ)ゾワリッ

      アセルス「誰だ!」バッ



 不意に、力強さを秘めた声が静寂の空間に響き渡る
声の高さからして女性と思われる声に一同がハッと辺りを見渡す…


 夜の帷が下り始めた世界にその存在は眩しすぎた、だからこそ直ぐに気が付いた




 黄金の輝き、一目見て抱いた印象がソレだ


 引き締まった肉体美、健康的な日に焼けた肌と魅惑的な線を持つ女性の身体、そこから溢れんばかりの生命力
何物にも恐れを抱かない情熱的な瞳―――何もかもが眩かった、気高い獅子を思わせる黄金の輝きがそこに居たのだッ!







         白薔薇「金獅子姫様ですね、私、白薔薇と申します…姉姫様の御噂は耳にしておりました」



                      金獅子「……。」





……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




    アセルス(!? 金獅子姫…この人が[針の城]で白薔薇とイルドゥンが話してくれた…あの)



    白薔薇「最も勇敢な寵姫であったと」

    金獅子「白薔薇姫…あなたは最も優しい姫であったと評判ですよ」











―――世界は止まらないのだ、どんなに辛い事や厳しい事があっても、それでも明日へと向かって行く




 そう、だから……





         金獅子「その優しさで、私の剣が止められますかしら?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ…








 ――――――だから……彼らの前には更なる試練が姿を見せるのであった
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/03/31(木) 05:14:42.94 ID:BfNAH4mk0
************************************


            今回はここまで!


  ルージュ編 ボ ス ラ ッ シ ュ 継 続 で あ る !!


************************************
871 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/03/31(木) 11:44:15.40 ID:ov/oXdPp0
乙です
メタルブラック強かった…と思ったら金獅子キター
872 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/03/31(木) 20:20:41.20 ID:A8LpjGxnO
なぜか金獅子姫戦はやっぱり京でってイメージがある
873 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/04/06(水) 21:01:39.01 ID:IL9sGhqeO
乙
このボスラッシュはヤバすぎる……
874 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/04/07(木) 00:33:11.88 ID:c3TbhMypO
耐性の無さを利用した搦め手勝利はサガ感あるな
875 :今回の投下分で一旦、ルージュ側ストップ [saga]:2022/04/09(土) 21:59:01.45 ID:dburQpGm0


 どっと汗が噴き出した、紅き魔術師は目の前に立つ黄金の闘気にあてられて蛇に睨まれた蛙の気分に至る
隣で今の自分と同じような表情をしているレッド少年もそうであろう



 ――――途方も無く強い。



 対峙するだけで解った、解ってしまった

 今さっきまで死闘を繰り広げていたメタルブラックに決して劣らぬであろう"威圧感<プレッシャー>"を感じる程の強者
断言しよう、戦えば間違いなく…負けるッ!



   レッド(ぐっ…冗談じゃねぇぞ…俺達、満身創痍だってのに!)

  ルージュ(メタルブラックさんですら種族としての特性を逆手に取った辛勝だったのに…勝ち筋が見えるのか!?)


 精も根も尽きたと言っていい、"WP<技力>"も"JP<術力>"もほぼ使い果たし武器の破損さえある現状での連戦
ルージュは[ゲート]の術を使って仲間全員と他所の"惑星<リージョン>"へ逃走することも視野に入れたが…
相手は上級妖魔、星間移動ができぬワケが無く逃げた所で追い付かれる場合も十分あり得る


  ザッ…



 気高き獅子は一歩、妹姫へと歩みを進める
それを見て、我に返ったアセルスが白薔薇を庇う様に前に立ち塞がる、白薔薇を…!
いつも自身を励まし寄り添ってくれた大切な人を護らなくては!その想いだけで彼女は獅子の前に立った…っ!






                アセルス「戦うのは私だ!」バッ!


                 レッド「アセルス姉ちゃん!」
                 白薔薇「アセルス様!!」



                 金獅子「……。」ジッ



         アセルスの利き手『 折れた[サムライソード] 』



 刃先が使い物にならなくなった剣を精一杯握りしめて、それで尚護る為に立ち上がった少女を見つめ――視線を変える





             金獅子「…。」チラッ


        首を切り落とされたメタルブラックの残骸『 』





     金獅子「ふっ、…この剣に屈しなかったのはオルロワージュ様ただ一人…。」スッ



 獅子は常に帯刀している二刀の内、"唯一無二の自分の剣"では無い方―――[黒曜石の剣]を抜刀していた
抜き身の刀身はアセルスへと向けられていて彼女はなんとその剣先を…っ!


 ―――――スチャッ


静かに鞘へ収めた。
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/04/09(土) 22:00:02.25 ID:dburQpGm0


    白薔薇「金獅子姉さま?」

   アセルス「…どうして剣を?あの人に言われて白薔薇を連れ戻しに来たんでしょ」




     金獅子「…いざ参る、と言いたいですが手負いのあなた方を斬り伏せたとあっては恥という物」

     金獅子「その折れた劔で立合うとなれば尚更に」




 折れたアセルスの得物を一瞥しながら彼女は更に次の様に言葉を続けた…




     金獅子「あのお方の御命令は絶対です、それに叛するつもりなど絶対にあり得ませんが」

     金獅子「今この場では剣を振るいたい気分にはなれません」



 最後にメタルブラックの亡骸に視線を向けて、この場で争う気になれない、彼女はそう告げた…
ほんの僅かな時間とは言え武人として最高の邂逅を果たした相手、感傷的だと思われるかもしれないが
今はただ武勇の死を慮りたかった、…嘗て人間だった頃一人の戦士として敵味方関係なく戦死した勇者に哀悼の意を表した
 剣を交え彼という存在を知ったからこそ尚更に亡骸が野晒しになっているこの地で争う気にはなれなかった





   金獅子「ですから3日後、今から丸3日過ぎた後の夜半過ぎに再びこの[庭園]で1対1での決闘を望みます」



  ルージュ「い、1対1で!?」



   金獅子「ええ、こちらから指名する相手は無論あなたですアセルス殿」



 魔術師は目を見開いた、正直に言えば今この場で戦いを回避できるのであればこの提案は是が非でも乗りたい
現状のパーティーメンバーのコンディションと武装の破損具合を見れば全滅するのは火を見るより明らか

 が…、三日後に『"1対1で最低でもメタルブラックと同等の相手と戦う"』というあまりにも大きすぎる代償を払わねば…




   レッド「姉ちゃん1人で戦わせるワケには「いいわ」


   レッド「っ!アセルス姉ちゃん!」

  アセルス「今から丸3日過ぎた後の夜半過ぎ…夜中の2時に私があなたと戦う、それでいい」



 疲弊しきった今の自分達が一斉に飛びかかったとしても勝てる相手じゃないことは判っている
苦肉の策だろうが不利な提案だろうと四の五の言える立場じゃないのは重々承知している、だからこそ受け入れる他ない



  アセルス「ただし約束して欲しい、あくまで戦うのは私なんだ!…彼らは、本来関係ない人達なんだ」




  アセルス「もしも私があなたに敗北したとしてもルージュや烈人くんには指一本触れないと誓ってくれ」

   金獅子「…いいでしょう、あのお方の名の元に誓います気高き人よ」




 金獅子姫の姿は揺らめき、次の瞬間には影となって消えていた…、居場所が割れて同じ[京]に居る以上は
別の"惑星<リージョン>"への逃走はまず不可能だ、三日後、"一人の女性<白薔薇姫>"を賭けた女の戦いが始まるッ…!
877 :今回はここまで 次回早ければ来週の土曜日予定 [saga]:2022/04/09(土) 22:01:07.80 ID:dburQpGm0
【双子が旅立って10日目 午後 19時32分 [京]】



   ルージュ「…とんでもないことになったぞ、これは」

    レッド「姉ちゃん…あの人に勝てる保証はあるのか?」



   アセルス「……。保証なんて無いよ、でも勝たなくちゃいけないんだ」ギュッ



 折れた[サムライソード]の柄を強く握りしめてアセルスは決意する…。




   アセルス「自分で言うのもなんだけど私は、ここまで強敵と戦い続けて強くなってきた…だから今ならっ」







   アセルス「今なら…っ![幻魔]を本当の意味で使いこなせるかもしれないッ」





 まだ技量が未熟で血の様な赤い劔に振り回されていた頃を思い出す、敵の攻撃を受けて気を失い
意識が無い状態で妖剣に操られて[幻魔相破]を撃ち出していた時分


 自身の魂を代価にして得た深紅の劔は当時の身には持て余す代物で、キグナス号で出会ったルーファス等の助言から
これまで封印していつの日か剣の方に肉体を乗っ取られない程度には腕と技を磨き、扱えるようになってみせると考えた

 現に彼女は今日だって[メタルブラック]という強者を前にして[幻魔]の力に頼らずに食らいついてきた
これから挑むはそんな彼奴と同等かそれ以上の強さを持つ黄金の獅子なのだ…!






  [ 幻 魔 ] の 封 印 を 解 か ざ る を 得 な い ッッッッッッ!!!





 妖刀を解禁するという方向性に定まり、また金獅子がこの場を引いてくれたことからか緊張の糸が切れたと同時に
忘れかけていた痛みと疲労が押し寄せてくる、脳内で分泌されていたアドレナリンが切れると一気に来ると言うが…
 一行はとりあえず身を休ませる為に旅館へ向かおうとこの場を離れる事にした

 明日からアセルスの[幻魔]を使いこなす稽古に皆が付き合うという話をしながら

―――
――
―


 術士達が[庭園]を去った頃、小高い丘の上で金獅子姫は1人香草を焚いていた。

 それは彼女がまだ人間であった頃、故郷の風習であった勇士を讃え、弔う儀式であった…




  金獅子(メタルブラック殿…貴殿にも私と同じく護るべき御人が居られた)

  金獅子(その御仁へ最期まで忠義を尽くし潔く死を選んだ…誉れ高い散り方でありました)



  金獅子(そんな貴殿を打ち負かした相手を貴殿の亡骸傍らに討ち取る気にはなれません…今宵は剣を振りませぬぞ)



 枝木は風に揺れ、銀杏や紅葉も波打ち数枚の木の葉が風に浚われて二度と枝には戻れぬ永劫の旅路に向かい
焚いた香草の煙もまた想夜に馳せる様に立ち昇る、願わくば勇士の魂を星まで届ける標となることを直向きに祈る…
878 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/04/12(火) 00:42:44.13 ID:fK5zw1V+O
乙
879 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/04/14(木) 06:34:55.50 ID:ljo+5hbm0
乙
屈しなかったのはただ一人…のニュアンスにメタルブラックが死んだ事も掛かってる?の粋でいいな
880 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2022/04/21(木) 22:00:30.44 ID:UqNaO6N30




 祖国を発ち、幾つかの"宇宙船<リージョン・シップ>" に乗船してきたがやはりガベージ型の揺れが一番激しいな。

名は体を表すというが…ガベージの言葉通り屑鉄の有り合わせで創った様なこの襤褸船の揺れで若干の酔いを覚える




…ふん、今にして思えばキグナス号の乗り心地は正しく上等なモノであったな





事故率が高いスクイード型とは別の意味で安心して眠れん、まぁ[タンザー]に再び呑まれんだけ良いがな





今日は早朝からアニーとの稽古に何を思ったのかルーファスやライザまで参戦してきてどっと疲れた
エミリアの奴はそんな様子を見てカフェラテ片手に「いいぞ!もっとやれ」だの囃し立ててくるし…

 途中からリュートとスライムまで呑気に観戦を始めおってからに…!!






 ……相も変わらず、朝から喧しい日々が続いている。前まで煩わしいと感じていた日々が









 今は…その、なんだ…。不思議とそこまで嫌悪はしていない自分が居る、ような気がする…気のせいと思いたいがな












 …チッ、くだらん!こんなワケの分らん事を唐突に考えるのは乗り心地最低の船の所為で気が滅入っているからだ!!!

 アニーの奴め![ディスペア]潜入までの準備を散々待たせやがって、これから赴く[スクラップ]のジャンク屋で
ブツを受け取ってさっさと[解放のルーン]を取りに行くぞッ!


 着陸態勢に入った屑鉄船は名前通り似合いの"惑星<リージョン>"[スクラップ]へと降り立った。

881 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/04/21(木) 22:01:06.15 ID:UqNaO6N30
【双子が旅立って11日目 午後 16時04分 [スクラップ:シップ発着場]】


 蒼い法衣が一陣の熱風に煽られる、随分と年季の入ったタラップ階段は一段踏みしめる度に悲鳴を上げていた。

 年中湿度のある犯罪都市とは別の意味で無法が横行する街だとは事前に同行している拝金主義の女から聞いていた
自然光が殆ど届かず、全体降水量が銀河を見通してもトップクラスでその癖そんな街でありながら活気に溢れていた土地と
比例すると此処は対極的な場所だな、という印象を蒼き魔術師は抱いた


 四つ足で大地に根を下ろす――宛ら昆虫の様な見た目の――ガベージシップを背に夕陽の恵みが寂れた町を照らしていた
魔術師の法衣や露出した素肌に吹き抜けていく風は熱く、水分を全くと言っていい程に含まない


 陽は沈みだした時間帯だというのに、じわじわと焼いていくような熱に来て早々ブルーは喉の乾きを覚え始めた。




  ブルー「なるほど、無職が前に言っていた様にこの街なら唯一の酒場が儲かるのも頷けるというワケか」

 リュート「だろぉ〜?クソあちぃ日に屋根のあるトコで飲むキンキンに冷えたビールが超うめぇんだ」



  ブルー「…もう何で無関係の貴様が一々俺達に同行してるかは突っ込まんぞ」

 リュート「えぇーっ、今日もブルー冷たくね!?名前だけに! 俺とお前の仲だろぉ〜?面白そうだからついてくぜ!」
 スライム「(;´・ω・)ぶくぶくー」



 聞いてもいないのに勝手に「面白そうだから着いて来た」と口を開く弦楽器を背負った無職と暑さで表面から汗(?)が
滲み出て参っているモンスター等にツッコむ気力も無くなってきた術士は眼界に広がる街へと歩みを進めたかった
 彼らと違って比較的に温室育ちが故に口の中がパサつく感じが好かぬ彼はグラス一杯の水を求めているのであった

 軋むタラップ階段を降り切り、火成岩に似た硬質な大地に靴底が触れて砂利を踏み鳴らす
降り切る前のまだ高い位置に居た頃はそこまで気にならなかったが低所に来るとより突風に砂塵が混じっている事に気づく


 シップ乗りの女「ようこそ、砂と鉄と金そして酒の楽園へ、帰りたくなったら言いなよ」

 シップ乗りの女「[クーロン]までのシップドライブを始めたんだ、誰でも100クレジットさ」


    ブルー「来るのは無料でこの土地から出て行くのには代金を取るだと?寝言は寝て言え」


 シップ乗りの女「この町のルールさ、クレジット持ってる奴は正義で貧乏人は干からびて朽ちるだけだ」


 100クレジットすら持っていないってんならお情けで有り金全部で特別に乗せてやるよ、とケラケラ嗤う女を見て
蒼き魔術師はこの町の評価をもう一段階下げる事にした、評価1つ星からマイナス1つ星にクラスチェンジである

 [金塊]を用いたビジネスで資産には困っていないがこんな奴にはビタ一文払ってやりたくない、帰りは自身の術を使って
雨が降りしきる暗黒街まで帰ってやろうと心に決めた所で彼は先導する黄金色の髪に向かって声を掛けた


  ブルー「アニー、クーン達との合流地点は何処だ…あまりこの日差しの中で外をうろつきたく無いんだが」

  アニー「だらしないわねぇ〜、あんたも男でしょ?心配しなくても[酒場]で先に待ってるわよ」


 そう言いつつ彼女も汗を滲ませているのを術士は見逃さなかった
西日で過ごしやすい時間帯とは言え[スクラップ]の日差しは外部から来た人間には堪える
 日中だと地元民ですら熱中症で倒れる事がある熱砂の街だ、それゆえかこの土地は"人間<ヒューマン>"よりも
比較的に暑さに強いモンスターやメカが住んでいて、観光客相手に宿や飲食店を営み日々の生活の糧を得ている


 こんな辺鄙な土地にやってきた理由は一つ、いよいよ以て[ディスペア]潜入の為の最後の準備道具を受け取りに来たのだ
厳重な監視と最先端セキュリティの装置だらけの刑務所だからこそ清掃員の道具もそれ相応の特殊な物を使う
 変装して潜り込むにも入念な下準備と本格的な偽装が必要になるのである

 そして何の因果か、ルーンの石を求めていたブルーと"指輪"を求めていたクーン一行の目的地が一致した為、彼らの分も
受注して此処で合流した彼らと共にそれを受け取る手筈となった


  リュート「皆で一緒に行けりゃあ良かったんだけどなぁ〜」

   アニー「仕方ないわよ、定期便の席が空いてなかったんだし向こうには先に行ってもらうしかなかったのよ」


 こっちは誰かさんに剣術を指南しなきゃいけないからどうあっても後発の船に乗るしかなかったものねぇ、と
黄金色の髪の女が蜂蜜色の髪に視線を向けながら言ってくる、術士はしかめっ面で酒場に向かって歩いた
882 :次回は日曜日か月曜日 [saga]:2022/04/21(木) 22:01:52.24 ID:UqNaO6N30

 見慣れた犯罪都市の下品なネオン電飾とは違った、点滅の仕方をするネオンが見えてくる
経年劣化が激しいのか、所々不規則にぷつぷつと明かりが消えては点きを繰り返す様が見て取れる
 シップ発着場から歩き続けて、まさしく"西部劇"と謂わんばかりの街の入り口を通り砂の積もった塗炭屋根や
穴の開いた木板の建築物、壊れた樽や木箱の傍に落ちた屑鉄の山が目立つ通りへと出る

 "枯草塊<タンブルウィード>"がコロコロと強風で種子を撒き散らしながら転がっていく様は
ガンマンの一騎打ちでも始まりそうなワンシーンの様だと思えた


 宿の前の馬『 ヒヒーン 』


 リュート「馬かぁ…ウチの地元にも馬飼ってる家があるんだよなぁ…サンダーの奴どうしてるかなぁ」テクテク

 リュート「偶には[ヨークランド]に帰って会ってやるかな〜、あっ、でも母ちゃんに遭ったらまだ無職かって殴られる」

 リュート「どうすっかなぁ、困っちまったぜぇ〜ブルーどう思うよ?」



  ブルー「 知 る か !! なんで俺に訊く!?お前の都合だろうが…!…くそ要らん事にツッコんだ所為で喉が」



 真後ろで止まること知らずと言った顔であれこれ言葉を発するニートにツッコまないと決めていたのに遂に声を上げ
余計に喉が渇いた彼はまず一杯冷たい飲み物を頼もうと[酒場]の扉を開くのであった


 ギィ…!



 涼風が外気と入れ替わる様に出入りして、一瞬だけ暖と涼の間に挟まれる、…空調の効いた内部は中々に洒落ていた
外の寂れた様子とは一変して中央のライブステージで妖魔や比較的に人型に近いモンスター、メカ等の亜人種が
軽快な心弾む曲を演奏していて室内の明かりもまた外の看板とは違ってしっかりフロア内を照らしている
 騒がしい場所をあまり好まないブルーでも店内の雰囲気はどちらかといえば好感触であった

 外でかいた汗が一気に冷めて、少しの肌寒さを感じなくも無いがこの贅沢な寒さを味わえるのは文明の恩恵あってのこと
急激な熱の変化を快く受け入れながら彼は店内を見渡す
 部屋の隅にあるジュークボックスの近くに2人程座れそうな空席がある、座るなら空いてるあそこだろうか?
その席よりは中央よりの場所には何処か疲れた顔をした壮年の男が酒をちびちびと飲んでいた、草臥れた作業着を着ていて
何処かの町工場で働く男という印象を受けた

 そんな彼から更に奥の席はやたらと賑やかだ…緑色のもふもふとした獣っ子と
酔っているのか何か怒鳴りながら暴れているチャイナドレスの残念な美女、そんな彼女に残り少ない髪の毛を引っ張られて
泣き叫んでる辮髪の男…



  ブルー(よし、他人のフリするか)スタスタ…



 賢いブルーは何も見なかった事にした。関わってはいけない。



 ほとぼりが冷めるまでは部屋の隅っこで喉の乾きを潤して待とう
そう決めた彼がジュークボックスの近くを陣取ったのは早かった、いつの間にか追い越していたアニーが入店してきて
術士の前に座る、ちょっと先に行き過ぎでしょ!と座って早々に文句を言ってくるが彼はそれを右から左へと聞き流す
 それからほんの僅かな間が空いてからアニーが「…ねぇ、あそこで髪がーっって泣いてるのフェイオンよね?」と尋ねて
「目を合わせるな、飛び火するぞ」とだけ忠告をした



 賢いアニーちゃんは黙って酒場のメニュー表を開きました。

 もっと言ったら自分の顔が向こうの席で騒いでる一行に見えない様、隠す様にメニューを開きます




 気が付けば何時の間にか入店していたリュートもクーンと愉快な仲間達から遥か遠く離れたいつもの定位置な席に座って
弦楽器を弾いていた「[スクラップ]の[酒場]で変わった奴に会った〜♪」などと次作ソングを歌っている
 彼奴もまったく以て店内で繰り広げられている惨事に関わろうとする気概が窺えない、無職の傍にいるスライムも同じく


 今この瞬間、間違いなく三人と一匹の心は繋がっていた、今なら4人連携だって余裕で出せそうである。


―――
――
―
883 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/04/24(日) 22:21:06.02 ID:lKGqTXjr0
【双子が旅立って11日目 午後 16時47分 [スクラップ:酒場]】



 メイレン「もう!来てたなら一言でも言ってくれたいいじゃないの」


 頬からすっかり赤味が消えて、穏やかな笑みを浮かべるチャイナ美人の横で毛根がまた一段と薄くなった辮髪の男が
目尻に涙を浮かべながら頷く、そんな男女に「いやぁ取り込み中みたいだったんで空気読みましたー」と笑って返すニート
 凡そ30分近い荒れっぷりを見ながらちびちびと麦酒を飲んでいた3人と1匹は嵐が過ぎ去ったタイミングで彼らの前に立つ


 クーン「そうだよ!メイレンもフェイオンも"ぷろれすごっこ"が凄かったんだよ!!迫力あって面白かったなー」


 ブルー達も近くで見ればよかったのに〜、と能天気な感想を漏らす緑の獣っ子に無邪気とは時として恐ろしい物だなと
引き攣った笑みを浮かべていた、紆余曲折はあったがコレで荷物の受け取りができそうだ


―――
――
―

 砂埃の舞う[スクラップ]の街を集団が歩いて行く、道中リュートがクーンにメサルティムはまだ居ないのか?と尋ねる
蒼き術士は特にすることも無いから脚を進めながら耳を傾けてなんとなく会話を聴いていた
 話の内容を簡単に訳すと、その水妖は例の"先生"とやらとまだ療養らしく手紙が届いたがパーティーに合流するのに
もうしばらく掛かるとの事らしい
 妖魔で医者と聞くと掴みどころの無いどこぞの藪医者を思い出して気が滅入るからその"先生"とやらが居ないのは
ブルーとしては都合が良かった、そんな事を考えていると目当てのジャンク屋にたどり着いたようだ







       『ジャンク屋!いい品あります カバレロファクトリー(株)経営』




  メイレン「あら、ここカバレロ一味が経営してた店だったのね…」

 フェイオン「ムッ、カバレロというと私と出会う前にキミ達が一悶着あったという連中か?」


 チャイナドレスの美女が経営グループの名前を見て、顔を顰める
雰囲気からしてあまり良い関係では無かったと察せられるが…



 ブルー「カバレロ一味?なんだそれは」


 アニー「あぁ、この[スクラップ]を牛耳ってるヤクザ者よ」

 アニー「確か何処かの"惑星<リージョン>"で恐喝紛いな手を使って金属を安く買いたたいていたとか」


 リュート「おっ!それ知ってるぜ[ボロ]の事だろ!ゲンさんとT-260が居た場所で子供を誘拐する碌でもねぇ連中さ」

 リュート「あの二人が此処に来たのも[ボロ]から手を引かせる為の"話し合い"だったって聞いたぜ」


 それを聞いてまたあの二人か奇妙な縁もあるものだな、と術士は思った
あまり西日に焼かれたくはないので足早に小汚い店の入り口へと入ってみると中はこれでもかと言う程[がらくた]が
散乱していて脚の踏み場もないと言った状態であった、これでも店か?と術士の青年は眉を顰めた



  水棲系モンスター(緑)「おっ、お客さんじゃん!」
  水棲系モンスター(青)「へい!いらっしゃい!」


   アニー「"イタリアンレストランからのご注文だよ、頼んでた調理器具を頂きたいんだけどね"」ジャラッ

  水棲系モンスター(青)「!!! はいはい、例の調理器具ですね、お代金を確かに頂きました」チャリンッ



 金の入った麻袋をカウンター台に乗せる裏社会の女、それを見て、その言葉を聞いてトサカのある青蜥蜴が
差し出したのはどう見ても調理器具には見えない工具箱が複数…
 それを受け取ったアニーは中身を確認すると「確かに頼んでたブツだね、ありがとさん」とだけ告げて店を出ようとした

884 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/04/24(日) 22:21:31.31 ID:lKGqTXjr0

 これで目的は達成されて、晴れてこの砂と暑さが酷い"惑星<リージョン>"からおさらばできると術士が思った時であった








  悲劇が起きてしまったのは…ッッ!!!











  クーン「わぁ〜!こっちの広いお部屋はなぁに?」トテトテ…!

  水棲系モンスター(青)「勝手に入っちゃダメダメ!」



 好奇心旺盛な緑の獣っ子クーンがとてとてと歩いて店の奥へと行こうとしたのである、当然ながら店を任されている
水棲系モンスターはそれを咎めるが、彼が怒った理由は勝手に店の奥に入り込もうとしたことではなかった



   水棲系モンスター(青)「3個で1000クレジット、料金は先払いだよ」


  リュート「んん〜?料金、3個で1000クレジットって何のことだい?」



  水棲系モンスター(青)「なんだい知らないのかい、ウチのジャンク屋では金を払ったお客に宝探しをさせるのさ」

  水棲系モンスター(青)「料金を払ったらゆっくり品を選んでもらう、どんなクズでも掘り出し物でも1個は1個だよ」


  メイレン「あら、面白そうね!福袋みたいな物でしょ!折角だしやっていきましょうよ」

 フェイオン「おいメイレン…1000クレジットはそこそこ結構な額だぞ」


 確かに[マンハッタン]にある宝石店で[策士の指輪]を買うために資金を集めていた彼らだからこそ分かる、しかし…


  メイレン「何言ってるのよ!"掘り出し物"って言ってたじゃない、つまりは運が良ければ1000以上の価値があるのよ」

  フェイオン「う、うぅむ、しかしだなぁ…」


  メイレン「買うは!」ジャラッ


 水棲系モンスター(青)「毎度あり!じっくり選んでくれ」



  メイレン「ほら、あなた達も手伝って頂戴!」

   ブルー「はっ!?俺達もか!?」


  メイレン「そうよ!クーンやフェイオンの目利きじゃ正直不安しかないのだから」

  リュート「ひゅ〜!いいねいいね!面白そうじゃん!クーン俺も混ぜてくれぇーっ」ダダダダッ


   ブルー「あっ、オイ!?」


 これが後に彼らを―――この店を襲う悲劇の始まりになろうとはブルー等は知る由も無かったのである

―――
――
―
885 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/04/24(日) 22:22:05.47 ID:lKGqTXjr0

 金網フェンスの先は用途の分からない物から見慣れた物までなんでも置かれているジャンク品の楽園であった
この場につい数日前に別れたレオナルド博士や遠い[ボロ]の地に居る腕が4本以上ありそうな技術屋おじさんが居れば
歓喜の声を上げたくなりそうな掘り出し物も確かに置いてあった

 だが、それはあくまで分かる人が見ればわかるというもので素人目では一見すればタダの鉄屑にしか見えない
例えばひん曲がった鉄パイプにしか一見見えない様な物が仕込み刀になっていて中身が[サムライソード]だったとか
 中世時代に出てくるようなブリキの鎧かと思った物が中身は魔改造されていてハイテクな[サイバースーツ]だったり…

 赤いドラム缶の群れ、段ボール箱に入ったよく分からない棍棒の様な物、縁日屋台で見かけるコルク弾の玩具のピストル
一行はそれぞれ手に取って何が良いのか考え込むが結果はハッキリ言って芳しくない



 【あと3個】

 メイレン「防具のジャンクかしら?これにするわ!」






 チャリン!


 実は[がらくた]だった。



 メイレン「…が、[がらくら]…」






 【あと2個】

 フェイオン「武器のジャンクかな?これにする!」


 チャリン!


 実は[壊れたバンパー]だった。



 フェイオン「こ、[壊れたバンパー]…自家用車など持っていないぞ、しかも壊れているって」





 【あと1個】

 クーン「銃のジャンクだ、これにしよーっと!」

 チャリン!



 実は[インスタントキット]だった。



 クーン「わぁ!"いんすたんときっと"だー!これってメカの怪我を治せるんでしょ!今度T-260にあげれるね!!」


 メカの修理道具であるそれはメカの工房などに行けば30クレジットであっさりと買える代物である


 物の価値があまり分かっていないクーンを除いて全員が暗い顔で帰って来る、それを見て
心なしか愉快そうな顔をしているように見える青蜥蜴の店主がこう言ってきたのだ


 水棲系モンスター(青)「うちの店は買いだけじゃなくて売りもできる、お客さんの手にした要らない物引き取れるよ」

  メイレン「…そ、そうね…正直[がらくた]やバンパー、メカの修理アイテムを私達が持ってても仕方ないし路銀に…」


 少しでも路銀にしましょう、か細い声で彼女が言った途端に「うちじゃこれしか買い取らないよ」と
蜥蜴が紙切れを見せてきたのであった…
886 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/04/24(日) 22:22:37.19 ID:lKGqTXjr0


\ デンッ!! /


・[インスタントキット] 価格20

・[強化装甲] 価格2000

・[ベヒーモス] 価格3000

・[デュエルガン] 価格3500

・[ストーカー] 価格5500

・[重粒子砲] 価格6000

・[ブリューナク] 価格8500

・[ハイペリオン] 価格10000








  メイレン「……。」


  メイレン「 は? 」ピキッ



 見せられた買取メニューを見て、チャイナドレスの美人は額に青筋を浮かべた…




  メイレン「…あのー、気の所為かしらぁ?このお店で買った[がらくた]や[壊れたバンパー]の名前が無いけど」ワナワナ

 水棲系モンスター(青)「うちじゃこれしか買い取らないよ」ニッコリ



 青蜥蜴はすごく良い笑顔で言い切りました、メイレンお姉さんのお顔もつられてニッコリです!目は笑ってない。


 リュート「メイレン落ち着けって!さっきのは選ぶの手伝った俺達にも落ち度があるからさ!?」アセアセ
  ブルー「あ、あぁ…もう一度やろう、心配するな代金は俺が払おう、罪滅ぼしだ、だから落ち着け、な?」


 長い付き合いではないが、この紫髪の女性の気質を理解した術士と弦楽器を背負った男が慌てて宥めに入る
スライムはドラム缶の裏で怯えてるし、アニーは背筋に冷や汗をかきながら壁に立てかけられた短刀を眺める、我関せず。
 このままでは[酒場]の凶事の二の舞が起こり兼ねん…ッッ!!なんとしても掘り出し物を当てねば!


 水棲系モンスター(青)「? お客さん何をコソコソ話してるんだ?」

      リュート「なんでもないって!それよりもっかいやるから!ブルー金払ってくれ!!」
       ブルー「う、うむ…店主、もう一度だ」




<防具のジャンクだ!
チャリン!

実は[アーマーグラブ]だった。



<武器のジャンクだ!
チャリン!

実は[クックリ刀]だった。



<銃のジャンクだ!
チャリン

実は[ペンドラゴン]だった。
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/04/24(日) 22:23:13.50 ID:lKGqTXjr0

 かなり健闘した、正直むちゃくちゃ頑張った方だと自負できる…しかしッ
明らかに戦利品が1000クレジットに釣り合う様な物ではなかったのである…っ!![クックリ刀]なんかは
[シュライク]で買い取ってくれる店があるとは言うが、売値は二束三文の投げ売りみたいな価格だ

 この青蜥蜴の提示してきた買取表の中にも売れる物の名前は入っていないし、この場で現金に換えることさえできない



 水棲系モンスター(青)「いや〜、惜しかったなぁwww、運が良ければ1000クレジットの以上の成果があるんだがなぁ」



 わ、笑ってやがる…っ!

 この店主…っ!客の不運をあざ笑っていやがる…っ! 人の不幸を蜜として悦ぶ外道ッ 悪魔的発想…っ!




――――ダンッッッッッ…!






 カウンター机の上『 1000クレジット入った麻袋 』


 メイレン「……もう一回よ」ビキビキ



 フェイオン「め、メイレン…よさないかっ!」

 メイレン「黙って、これは退けない戦いよ」スタスタ…



チャリン!

実は[ハンドバズーカ]だった。

チャリン!

実は[がらくた]だった。

チャリン!

実は[インスタントry



 
 リュート「なぁ、ブルー…いくらなんでもよぉ、おかしくねぇか?」

  アニー「あたしも同感だわ、いくら運が絡むとは言えしょうもない品ばっかり」


 さっきの武具もそうだし今しがた出た[ハンドバズーカ]もお世辞にも強い装備品とは言えない
なんなら1000クレジットでもっと有用な重火器を購入できるのは[クーロン]でpzkw�Xが営む武器屋を知っているからか



 兎にも角にも3人ともほぼ確信を持って言えた、間違いなくこの店"ぼったくり"だ、と




  メイレン「…。」

  メイレン「……」クルッ、スタスタ…



 水棲系モンスター(青)「あちゃ〜、こりゃあまた駄目だったみたいだね、でも[インスタントキット]なら買い取るよ」

 水棲系モンスター(青)「なぁに、20クレジットでも金にはなるさ、さっきのも合わせて40で買ってあげるさ、どうだ」


 メイレンは黙って叩きつける様に硬貨の入った袋をカウンターに叩きつけ、ジャンク漁りに戻っていく…
ゆらぁ、と幽鬼か何かかと見間違えるような足取りで

888 :次回は土曜か日曜 [saga]:2022/04/24(日) 22:23:45.23 ID:lKGqTXjr0

 【あと3個】


 メイレン「…。」


 赤いドラム缶の前に立ち、彼女は防具のジャンクを漁った。



チャリン!


実は[インスタントキット]だった。



 【あと2個】

ガサゴソ…


実は[インスタントキット]だった。



 【あと1個】


 メイレン「…。」


 メイレン「」クルッ、スタスタ…







  メイレンが… メ イ レ ン が 漁 る の を 途 中 で や め て 店 主 に 近 づ く !!




 フェイオン「ハッ!?い、いかん…長い付き合いだからこそ分かる、今のメイレンはいかんッッ!?」



  水棲系モンスター(青)「おやぁ?お客さんどうしたんだい?まだ後1回残ってるけど、あっ遂に諦めちゃったかww





  ―――――――――パァン!!!





 店内に乾いた音が鳴り響く。



 店の奥の壁『 銃痕 』


 水棲系モンスター(青)「―――へっ?」



 メイレン「 」ニッコリ



 メイレンは、それはもう誰しもが見とれる見返り美人としか言えない妖艶な笑みを浮かべていた
右手に[ベヒーモス]なんていう物騒な拳銃を構えてなければ絵画になるほどの美しさであった

 青蜥蜴と緑蜥蜴、ついでに術士一行も乾いた音の正体がなんであるか気付くのに一拍子遅れた、発砲音である


 メイレン「ねぇ、これ、いい銃だと思わない?あなたこの[ベヒーモス]を買い取るのよね?」ニコッ
889 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/04/26(火) 09:10:14.86 ID:a7zj1Ii10
無限ジャンク漁りか
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/04/28(木) 22:21:10.60 ID:8HLJfGEP0
メイレン正直好き
リマスターで脚が非常にエロかったし
891 :>>890 マスターリング倒した直後の倒れグラフィックとか脚がいいっすよね!!!! [saga]:2022/05/01(日) 22:26:26.47 ID:EsDFpuzx0

 微笑みかけながら首を傾ける、ボリュームある紫色の髪が揺れる
店主と手伝いの蜥蜴達が息を飲みその様を見ながらメイレンはゆっくりと弾倉に弾を補充した
 銃口は壁から横にややズレて蜥蜴店主の脳天を丁度ぶち抜ける位置となる



  クーン「あーっ、この間倒した[巨獣]から出てきた銃だー」ピョン!ピョン!


 緑の獣っ子はこの状況を理解しているのかしていないのか、飛び跳ねながら仲間の女が持つ銃を指さす
[ベヒーモス]…巨大な獣の名を冠するその銃は相当な貴重品であり、その辺の店で売ってるような代物では無かった


 ブルーとリュートは先程クーンが口にした言葉を聞いて、記憶を辿る



  ブルー「[巨獣]だと…?それは確か[バカラ]で倒した奴のことだな」
 リュート「俺達が指輪泥棒のネズ公を追っかけた時だな」


  クーン「うん!あの後ね、倒した[巨獣]の中から銃が出てきてソレをメイレンが拾ったんだよ〜」


 たまたま迷い込んだ冒険者を大怪獣が喰った時に一緒に胃袋行きになったのか、その時に出てきた[ベヒーモス]を
彼女は目敏く"拾って自分の物に<アイテムドロップ>"していたのである


    メイレン「運が良ければ1000クレジット以上の価値があるなんて、そんな都合のいいことあるわけないわ」ニコッ

    メイレン「この店は欲望を吸い寄せるぼったくりの店に過ぎないの、存在を赦しちゃいけないわ」チャキッ



  水棲系モンスター(青)「ひぃーっ」
  水棲系モンスター(緑)「お、おたすけー!」



   フェイオン「メイレン!気でも触れたか!?」



 メイレン「でももう限界よ、このぼったくり商法に付き合ってらんないわ!!!!!」クワッ!!

 メイレン「この銃の力こそが真の正義!!時として暴力はお金以上に解決するのよ、この力があれば何でもできるわ!」


 メイレン「店主さん達、今まで楽しい時間を過ごさせてくれてありがとうね、皆さんの事は忘れないわ」



   フェイオン「メイレン!?バカな事は止せ!!!!」



  メイレン「 さ っ き か ら う っ さ い わ よ ! ! こ の ハ ゲ !! 」


<[裏拳]バキィ
<ぎにゃああああああぁぁぁぁ


 後ろで騒ぐ辮髪の男を殴り倒して、メイレンは[ベヒーモス]の引鉄を弾いたァ!!――――パァン!




 店の壁『 銃痕 』パラパラ…



  メイレン「……。」

  メイレン「なーんちゃって♪やだもうっ!本当に脳天を撃つと思ったのトカゲさん、冗談よジョーダン」


  メイレン「ほんの小粋な冗句じゃないの、おほほほほっ」




  メイレン「さっ、冗談も済ませたことだし【2個目】を取りに行かないとね」クルッ
892 :今回ここまで 次回もしかしたら次の土日、場合によっては早まる [saga]:2022/05/01(日) 22:27:27.26 ID:EsDFpuzx0

 店の壁に2射目で更に大きな穴をあけた後、朗らかに笑いながら彼女は言った"【2個目】のアイテムを取りに行く"と
それに蜥蜴の店主は目を丸くした、先程まで本当に脳天をぶち抜かれて殺害されるのでは?と恐怖に震えていた彼はまだ
声が若干震えているがそれでも言葉を発さずにいられなかったのだ




  水棲系モンスター(青)「へっ、ふ、ふたつめぇ?」

  水棲系モンスター(緑)「――――(白目剥いて泡吐きながら失神中)」ブクブク



      メイレン「ええ、そうよ♪邪魔しちゃってごめんなさいね〜」



  水棲系モンスター(青)「い、いやアンタ【2個目】はもう取っただろ!?[インスタントキット]だったって――





           ―――――パァン!!



 乾いた音がした、店主のすぐ真後ろの目覚まし時計が音を立てて無残な姿に変わる
弾けとんだ鉄片と螺子やバネ、時計の針がパラパラと降ってくる…





    メイレン「あら、やだ、私の持ってた銃が何故か突然暴発しちゃったわ、驚かせてごめんなさいね」

    メイレン「じゃあ私は 【 2 個 目 】 を取ってきますから」ニコッ


 そう言って弾を装填するメイレンは静かに部屋の奥に去っていった、その様子を店主は「…はい」とだけ
尚、術士一行は既に部屋の隅に退避していた




チャリン!

実は[インスタンry


―――
――
―





  メイレン「ねぇねぇ店主さん私ってば運がいいみたいよ、ほら![リーサルドラグーン]!」チャカッ



 もはや"何度目か分からぬ【2個目】の取得"で手に入れた店売り最上級の銃を自慢するチャイナドレスの美女
尚、手に持っているのは[ベヒーモス]である




  モンスター(青)「もう勘弁してください」
  モンスター(緑)「お金ならいくらでも払いますから、ウチが倒産します」



 涙ぐみながら許してくれぇ!と懇願する爬虫類2匹の光景に既視感を覚える辮髪の男
…フェイオンは既視感の正体を察した、「あっ、[ヨークランド]の豪富さんだコレ」と

 何時ぞやの豪富から何度も診療代をせびって最終的に夜逃げに追い込んだ時と全く同じ構図なのである

 遠い目をしながら彼は目の前で行われる恐喝もとい略奪行為を止める事ができず茫然としていた
クーンは山積みになった戦利品の数々に「メイレンすごーいっ」とだけ、術士と無職の男は引き攣った笑みを張り付け
守銭奴の女も流石にこれは…と引いていた、スライムはドラム缶の影から全くに出てこない…

 この店の品が全て奪い尽くされるのもそう遠くない未来の事であろう…経営破綻待ったなしッ!
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/05/03(火) 19:28:10.75 ID:/XEpqnqU0
乙ー
894 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/05/04(水) 20:40:59.29 ID:c63McYgbO
まああのジャンク屋はアコギだししゃーないかな……って
895 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 18:24:00.22 ID:ihDcxAkHO
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
896 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/05/06(金) 22:32:33.20 ID:/GT1H3rN0


     「オイ!珍しく視察に来てみればこりゃあ一体何の騒ぎだ!?」タッタッタッ!


 一目見ただけでお高いと判る質感の背広、情熱的な赤ネクタイを紳士帽子を被った髭面の男が怒鳴り込んできた
地元の人間特有の日に焼けた健康的な肌と対照的な白い歯、これで気前の良さと親しみ易さでもあれば露店に居る
タコス売りのおじさんとでも称せるような顔立ちだが、生憎と彼はそんないい人間じゃあない


 [スクラップ]を牛耳るギャングスタ―、"首領<ドン>"・カバレロその人なのである



  水棲系モンスター(青)「カ、カバレロさん…!!」
  水棲系モンスター(緑)「助けてくだせぇ!コイツ等がウチの店のモンを全部かっぱらっていくんです!!」



  カバレロ「なぁにぃ〜!?ウチのシマでそんな狼藉を働くなんて一体何処のふてぇ野…郎…だ、あ?」


 ギャングは助けを求める部下を見た後、自分の組が経営している店で絶賛大暴れ中の略奪者の顔を見た、そして凍り付く
何故なら数日前に自慢の[カバレロファクトリー]で殴り合いをして結果悲惨な目に合わされた相手がそこに居たのだから



         メイレン「あら?」

         カバレロ「うげっ―――――あ、アンタはあの時の…」ダラダラダラダラ…



 水棲系モンスター(青)「カバレロさんっ!アイツですよ、あの女です!!!」
 水棲系モンスター(緑)「ガツンと言ってやってくだせぇ!」


     クーン「あっ、指輪を安く売ってくれたカバレロさんだ!久しぶり〜!」ピョンピョン

     メイレン「ええ、その節は100クレジットで売ってくれてありがとうっ」ニッコリ
     クーン「T-260にもシップのパスを用意してくれた優しいおじさんだよね〜」キャッキャッ!


        カバレロ「ひ、久しぶりだなセニョリータ…その、ウチの店で暴れてるってのはアンタか?」


 水棲系モンスター(青)「か、カバレロさん?」
 水棲系モンスター(緑)「どうしたんスか!?いつもみたいに怒鳴りつけてやってくださいよ!!」


        カバレロ「うっ、うるせぇ!!!コイツ等にはもう関わりたくねぇんだよぉ!!」タッタッタッ!


  タッタッタッタッタッタッタッタッ…!!!


 水棲系モンスター(緑)「カ、カバレロさん…」
 水棲系モンスター(青)「に、逃げた?」



 全力で十字路を北に行ったところにある工場へと駆けていくギャングスターの背を眺めて目をぱちくりさせる蜥蜴2匹
彼らは顔を見合わせる、泣く子も黙る極悪非道のドン・カバレロが斯様に尻尾を巻いて逃走するだろうか、否ッ!

 ギャングの末端の彼らはボスの非道さを知るからこそ――あと数日前の惨事を知らないが故に――"壮絶な勘違い"をした



   水棲系モンスター(青)「うおおおおおおおっ!!」ダダダダダッ!パシッ!

  アニー「えっ!?きゃああああっ!?」ドンッ


 水棲系モンスター(青)「てめぇらに売ってやった道具は返してもらうぜ!!こんだけウチの店を荒らされたんだッ」
 水棲系モンスター(緑)「取り返したければ[カバレロファクトリー]まで来いってんだ!!」


 カバレロファミリー傘下の店を潰された事への憤り、堪え切れなくなったフラストレーションを発散するが如く
蜥蜴達はアニーから自分達が売った[ディスペア]潜入用の道具を引っ手繰り工場の方へと逃げ出したァ!!!
 去り際に「ボスの事だ、逃げたと見せかけて工場で潰す策に違いない」とか「なるほど!流石カバレロさんだぜ!」等々
勘違いに拍車を駆けた妄言を叫んでいた

……このジャンク屋店員達、比較的に新参者で金払いの良い観光客相手に"シノギ"を稼ぐ仕事しか任されていない

 だからこそクーン等がカバレロ一家にカチコミを仕掛けた当日も店に居て、カバレロのトラウマ相手だと知らぬのだ…
897 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/05/06(金) 22:33:06.50 ID:/GT1H3rN0


 ブルー「大馬鹿者!アレを盗られたら[ディスペア]に入れんではないかッ!?アニー貴様何をぼんやりしていた!」


 蒼の魔術師は意外にも俊敏だった下っ端蜥蜴共の奪取に対応できなかった仲間に向かって叫ぶ、今日はアレの為だけに
こんな砂と鉄屑と干からびるような暑さの所に来たというのに、これでは無駄足ではないかッ!?


 アニー「うっさい!!怒鳴んないでよ!―――痛〜っ!あのクソ蜥蜴…こっちとらカネは払ってやったってのに」

 アニー「客に売った物を盗むですってぇ?ビジネスの世界で一番やっちゃあならないことをやったわ…許すまじ」




 アニー「その辺のチンピラ同然のヤクザもん風情があたし等に喧嘩売ったんだ…無法には無法で返してやろうじゃない」



 "裏社会組織<グラディウス>"の構成員アニーの眼が光る、無法には無法を持って裁く。それが流儀の彼女がぎらついた眼を
覗かせていた、確かに数分前までは憐みを感じていたがそれとこれとは話が別だ

 百歩譲ってアレだけの暴挙をされたなら逆上するのも仕方ないにしてもやる相手が違うだろ、と…メイレン達だろうが


 なんで全く無関係な自分が商売道具を盗まれきゃいかんのだ!?ふざけるな!!切り刻むぞ爬虫類共ッ!アニーはキレた


―――
――
―

【双子が旅立って11日目 午後 17時51分 [スクラップ:カバレロファクトリー]】




 カバレロ「…ゼェ、ハァ…ゼェハァ…くそぉ、なんだってあいつ等がまたこの町に居るんだよ…」

 カバレロ「工場までこうして逃げ帰ってきたが…全く、寿命が縮まるかと思ったわい」


 ゴソゴソ…スッ、ジュッ!


 カバレロ「…スーッ、ぷはぁ…あ〜、全力で走った後の煙草は美味いぜ、俺の疲れた肺を癒してくれる」


 ギャングスターは工場に拵えた自分専用の部屋で値の張る椅子に凭れ掛かる様に腰を下ろす
街中で悪鬼とエンカウントした気分を味わった彼はここまで全力疾走してきたからか汗まみれであり
金糸刺繍入りのハンカチで顔を拭いてから胸ポケットの葉巻に火を点ける、一服することで漸く彼の心に平穏が訪れた


…かに思えたのも束の間で。


<カバレロさーん
<やってやりましたぜ〜



 カバレロ「…あん?」チラッ


 騒々しい足音を立てながらファミリーの末端が部屋へと雪崩れ込んでくる、その様子に不快感を表し咎めようとしたが
そんな事に使ってやる体力も惜しいと感じた彼は内心でため息を吐きながら無礼な末端共が何用で来たのか伺う事にした


 水棲系モンスター(青)「カバレロさーん!見てくださいよ!ほらこれ」バッ
 水棲系モンスター(緑)「へへへっ、俺達お手柄でしょう?」



 カバレロ「? なんだその汚い工具箱は…っていうかお前等店はどうした?」ぷはぁ…


  水棲系モンスター(青)「店?店の仇ならこれから取るんじゃないですか!!そのために連中からコレ盗んだんです」
  水棲系モンスター(緑)「奴らにとって大事な物っスからね!これでトラップだらけの此処へ攻め込みますぜ」


 カバレロ「!?!?!?!? ちょ、ちょっとまてぃ!?テメェ等何やってくれてんだ!?」

 ポロっと…口から葉巻が落ちて格式高い机やビンテージ物の椅子、自身の服が吸い殻で汚れるがそれどころではない
898 :次回は早ければ明日か明後日、あるいは来週の土日 [saga]:2022/05/06(金) 22:34:49.08 ID:/GT1H3rN0



   水棲系モンスター(青)「えっ、だって…そういう作戦…なんです、よね?」
   水棲系モンスター(緑)「この町一番のワルのカバレロさんが尻尾巻いて逃げる訳なんて無いし策がある、とか?」




 カバレロ「 そ ん な わ け な い だ ろ う が ど う し て く れ ん だ 馬 鹿 野 郎 !」




 ギャングスターの膝蹴りが数日前、緑の獣っ子御一行にボコボコにされたという惨事を知らない新参者の蜥蜴達の腹に
綺麗にめり込む、蛙を潰した様な悲鳴が工場内に響くがそんなことはどうだっていい!

 連中が攻め込んでくるのはそう遠くない未来の話だろう…工場解体待ったなしッ!



 カバレロ「あぁ…もう駄目だぁお終いだぁ、鉄材を御大臣様に足が付かない様に裏で買ってもらう事で
        右肩下がりだった景気が良くなったと思ったのに、あの店はおろか再度この工場が襲撃されるなんて…」




 『"御大臣様"に鉄材を売っていた』……利益に伸び悩んでいた彼の元にある日、転機が訪れた。



 小さな"惑星<リージョン>"の街を牛耳る、警察組織は日々"ブラッククロス"等の大規模犯罪組織を追うのに手いっぱいで
言ってしまえば些事にかまけていられる程の暇はない、小規模なヤクザ屋を取り締まってくれるパトロール隊員が居るなら
相当な物好きか、余程自由奔放な隊員くらいだろう…


 元・警察部門トップだったモンドはそこに着目した、この手の組織の中には小規模と侮れない隠蔽に長けた物が存在する


 小規模犯罪組織だからこそ如何に警察の眼を掻い潜り"ギリギリお咎め無しのグレーを維持できるか"…
1匹居たら30は居る小虫程の生命力と狡猾さを兼ね備えているものだ、そうでなければ裏稼業で食ってなどいけない


 中でもこの"カバレロファクトリー(株)"というのはその手合いに関してはかなりのやり手で

 [ワカツ]に建設していた[モンド基地]や[グレートモンド]開発の為に必要な資材を買い付けるには都合が良かったのだ




 説明するまでも無いことだがカバレロが"御大臣様"としか言っていないのは、モンド執政官の用心深さ故である

 

 話は逸れたが、彼はこうして利潤を得て[カバレロ事務所]にビリヤード台を置いたり、新しい事業を始めようと考えてた
その矢先に問題が起きた…!




 モンドに彼は資源を売っていたが、その資源は何処から入手したものか?答えは[ボロ]である。



 T-260が目覚めた土地であるそこで住民を脅して資源をタダ同然で買い叩いていたが部下が一悶着を起こした所為で
記憶を失くした戦闘メカと酔っ払いの剣豪に喧嘩を売った形となったのである、更に間の悪い事にそこに指輪を求めていた
クーンとメイレン、自分が鉄材を売りつけていたモンド執政官と縁があるリュートなど…

 数奇な命運の下にある者達が[スクラップ]の[酒場]に集ったのである


 御大臣様と大手ビジネスをしたいが為に[ボロ]での採掘量を上げさせたが為に厄介な戦士二人を相手にし
更にその売買の結果[モンド基地]の建築が良い感じに進んでたからちょっと心にゆとりができて里帰りしてたモンドが
偶然リュートと出会って彼を船に乗せてしまったから巡り巡ってこの土地に来たり、因果は巡るというのは本当なのだなと


 せめて、クーンとメイレンの2名しか敵が居なければまだ勝ち目もあっただろうに…

 [商人の指輪]を手に入れて大手取引ができたと思っていたら実はそれがケチのつけ始めだったという皮肉である



 カバレロ「くぅ〜…畜生!もうどうにでもなりやがれってんだッ!おい糞蜥蜴共伸びてんじゃねぇぞ!」

 カバレロ「テメェ等の責任でもあるんだ!急いで工場内の奴らを全員俺の前に集めて来いやッ!」
899 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/05/07(土) 02:43:05.32 ID:hdOI7oi00
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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900 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/05/08(日) 10:42:32.01 ID:pKcyMZGv0
おつ
901 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/05/15(日) 23:16:55.84 ID:PcGRRSLC0
――――
――
―


 リュート「いやぁ〜なんか大事になっちまったなぁ」

  ブルー「…全くだ、さっさと帰れば良かったものを」


 陽は発着場から下船した時よりも遥かに西へ傾いていて、見れば既に反対側の空には檸檬が浮かんでいた
今宵は綺麗な三日月か、と呑気な事を宣う無職の男の背を蒼き魔術師は不満げな顔で追っていた
 必要な道具を持って行った蜥蜴は以前、このニートとお騒がせ3人組の内2人がカチコミに行ったことがあるらしい
即ちこの面子の中で最も内部構造に詳しいと言えよう、先導役であるがゆえに追い抜くことはできないのだ、今すぐにでも
ブルー自身が追いかけて手早く潜入道具を取り戻したいのだが、もどかしい話である

 暫し歩くこと数分、漸く目的の[カバレロファクトリー]が見えてきた…。


 
彼らが脚を踏み入れると同時に――――




 カバレロの手下A「来たぞ撃ち殺せ!!」ダダダダダダダッ
 カバレロの手下B「ぶひっ ぶひっ ぶひっ!」ダダダダダダダッ



              【 [ 敵 の 援 護 射 撃 ] 】



 待ち構えていた[ゴースト]や[スパルトイ]の大群が一気に押し寄せてくる…ッ!戦闘能力自体は決して高くなく
陶然の様に死線を何度も乗り越えてきた一行の手によって一層されるのだが


  カバレロの手下C「オラオラオラァ!」ダダダダダダダッ


  ブルー「チィ…鬱陶しいなあいつ等!!」


 夏夜の蚊が如く、[援護射撃]が煩わしい、万が一にも後れを取ることはないと思うが潰せない物か…
そう試案する術士に獣っ子が提案を持ちかける


 クーン「ねぇねぇ、あの上の奴らが邪魔なんだよね?前はボク達やらなかったけどクレーンを利用しない?」

 ブルー「クレーンだと?どういうことだ?」


 こっちだよ!ついてきて!と走り出す少年とその後を追う術士等、道中メイレンに説明を求むと
この工場は入力操作で稼働させられる機械があって、それを巧く使えば高台から発砲する小蝿を無力化できるそうだ



  クーン「まずはここ!この赤いボタンを押して」

  ブルー「入口付近のコレだな」ポチッ



 クレーン『 』ウィーン!ガシッ


 カバレロの手下A「のわああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」ジタバタ


 本当に入口からすぐの所にある赤いボタン、それを押す事で巨大アームが動き援護射撃を行っていた柄の悪い男を
猫摘まみの状態で持ち上げ――――そして何かのガラクタと思われる巨大な鉄釜の真上で…


 クレーン『 』パッ

 カバレロの手下A「うわああああっ!?!?!?ぺぷしッ!?」ゴスッッ!!


 ホールインワン!憐れ真っ逆さまに落下した手下の一人はその石頭を硬い金属釜の底にぶち当てて眼を回した…。
これで厄介な者は1名排除できた…残りは3名である

 クーン「今後はこっちだよ!!!このボタンのある場所から右側のこの階段を一気に登るの!」トテトテ

902 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/05/15(日) 23:17:54.90 ID:PcGRRSLC0

 クーンの先走った案内に導かれて彼らは階段を昇る、すると工場全体を一望できる上層へと躍り出る


 グラサンハゲ「て、てめぇら!?下層でウチの組のモンに揉まれてるんじゃあなかったのかよっ!?」カチャッ

 待ち構えていた"人間<ヒューマン>"の敵対者が居たが何かをしでかす前にフェイオンが階段手摺を踏み台に跳び上り
そのまま勢いをつけて工場内のコンクリート壁を蹴りつけた[三角蹴り]を披露する、ぱきりっ!顔面に靴底がめり込んで
罅割れたサングラスと一緒に倒れ込む敵に一礼するフェイオンと「何カッコつけてるのよ!」と突っ込むメイレンを尻目に
クーンが紅いレバーを弄る、すると…


 クレーン『 』ギュィィィィン!!

―――――――ードッコォォォォォォォオオオオオオォォォ!!


 カバレロの手下B「ぜろぉぉぉっ!?」ヒューン!ドガシャッ!



 左に向かって急発進(?)し出した黄色と黒のストライプが映える巨大な鉄塊が豚マスクの身体を撥ね飛ばす
まるでちょっとした交通事故の現場に居合わせたようだった…、横腹から大質量に追突された小太りの男は派手な音を立て
工場の壁にズドンッ!…上半身が壁に埋まった状態でケツと足がヒクヒクと動いている
 そんなギャグ漫画じみた光景を見て惨事を引き起こした張本人は楽しそうに笑うのであった…


 クーン「あははっ!凄いよね!人ってあんなに飛ぶんだもん!この調子で次も行ってみよーっ!」

 ブルー「お、おう…そうだな」ヒキッ


 メイレン「ちょっと待ちなさい後々の手順を考えたらまた此処に戻らなくちゃいけないじゃない、二手に分かれない?」
  クーン「あっ、そっか」


 急ぎ足で昇って来たのとは別口の階段から下層へと降りようとしていた緑色の少年をメイレンが止める
まだ内部構造に詳しくない面々のアニーとフェイオンが二人だけで納得せずに話してほしいと訴える


   アニー「ちょっと、ちょっと!アンタ達二人だけで勝手に納得しないでよね!」
 フェイオン「う、うむ…私達はまだこの施設の事は詳しくないのだ、手順というのはなんなんだ?」

 メイレン「あー、そういえばアンタが合流したのは[タンザー]からだったわね…いいわ、教えてあげる」


 紫髪の美人はビシッと指さす方向には今彼らが立っている通路から真っすぐ進んだ先にあるボタンと昇降機と思わしき物
彼女曰く、下層から昇降機を上昇させることでこの工場で造られた物がぎっしりと詰まった木箱がこの階層に運ばれて
それを上層のクレーンで掴んで鬱陶しいもう一人の豚マスク着用の子分の頭上に叩き落としてやるのだそうな…。
 行って戻って来るのが面倒くさいから人数も多いし誰か此処で待機しようという話だそうな


 アニー「ふぅん、そういう話ならあたしはパス…こちとら買った物を盗られたんだ、落とし前は着けに行きたいんでね」

 ブルー「同じく、くだらん事に時間を割かれたんだ…この手で潰さねば気が収まらん…ッ!」


 スライム「ぶ、ぶくぶくぶー(;´・ω・)」ピョン、ピョン!


 通訳のニートによると、自分が残りますとゲル状生物は主張しているらしい、ちなみに通訳のニートは此処に詳しいから
自分も行くと…、話し合いの結果最終的に下層に向かうのが術士と守銭奴、無職…そしてクーンの4名で
メイレンとスライム、フェイオンが上層に残ってくれる事となった


  リュート「うっし!そいじゃ行ってみっか!」
   クーン「わーい!れっつごー!」


 ボタン一つで右へ左へ飛んでく巨大な鉄の塊、吹き飛ぶ人と落下する男達…

 まるでテーマパークに来たみたいだぜ!!!テンション上がるなァ!とはしゃぐお気楽な二人と対照的に
殺気立った2人の4人パーティーが[カバレロファクトリー]の下層を吹き抜ける嵐と化していた…


 二刀流から織りなされる無職の[二刀烈風剣]が前方に立つ敵を切り刻み、[マリーチ]と化した獣っ子の高火力な急降下が
何時ぞやの[巨獣]を斃した時と変わらぬ威力で繰り出され、怒り心頭のアニーが[濁流剣]で周りの敵を文字通り巻き込む
濁流の動きで粉砕、トドメにキレ気味の術士が明らかにオーバーキルの[ヴァーミリオンサンズ]を唱え出すのであった…ッ

 なまじ工場の天井が高く、広い室内であるために広範囲高火力の[魔術]が使えてしまうのがなんとも…
幾つかの鉄材すらも巻き込んだ緋色の宝玉の破片が舞う暴風が工場内をズタボロに荒らしていく


………どう足掻いてもこの工場、閉鎖待ったなしである。罷り間違って彼らに勝てても経営不可能レベルで荒らされている
903 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/05/15(日) 23:19:07.21 ID:PcGRRSLC0
―――
――
―


 カバレロ「あっ、あっ、あぁぁ…お、俺の…俺の"城<こうじょう>"が…っ
                 俺が駆け出しの若い頃から借金してまで作った工場がぁぁ〜」


 工場の奥で青春の1ページとも呼べる自分の城が破壊される音を耳にしてギャングスターは今にも泡を吹き倒れそうで
そんな彼を側近達が「カバレロさん!?お気を確かに」と支えている…。

 肩をぶるぶると震わせたドン・カバレロは不意に笑った、突然笑い出したのである


 カバレロ「ふ、ふはははっ、ふはははははははははーっはははははっ!!!!」



          側近「か、カバレロさん!?遂にイっちまったんですかい!?」

 水棲系モンスター(青)「し、しっかりしてくださいよォ!!」



 カバレロ「…うるせぇ…畜生…畜生ぉぉ…もう自棄だ!!オイてめぇら"アレ"持ってこいや!アレ!」



   側近「へ?アレ…えっ!?まさか"アレ"に乗り込むってんですかい!?」

 カバレロ「どうせ俺は終わりなんだっ!なら最期くらい俺自らが戦いを挑んでやらぁ!!!」


―――
――
―


 フェイオン「このボタンを押せば良いのか?」

  メイレン「ええ、そうよ…ほら見なさいな、下層でスイッチ前にある邪魔な木箱を持ち上げたでしょ」


 真上から下層の様子を伺う男女とゲル状生物は術士達の進行方向にある金網フェンスで区切られた一間の変化を目で追う
自分達の操作したボタンの結果、クレーンは彼らが動かす手筈のスイッチの前にある障害物を持ち上げた
 丁度いいタイミングで彼らもそこに到達して術士と金銭にがめつい女がアンデット系のモンスターを八つ裂きにする最中
クーンと弦楽器を背負った男が"クレーンゲーム"に興じていた


 娯楽施設の遊びの名を例に出したが言い得て妙である。


 お気楽二人組が指で押したボタンは正しくその通りにクレーンが左右を行ったり来たりしていて、彼らが二度目の指圧を
ボタンに加えればぴたりと止まってヌイグルミを捕まえる様に機械の手が下りてくる…
 これをクレーンゲームと称さずしてなんと呼べようモノか


<オラァ、盗んだヤツ何処だゴルァ
<ひぃぃ…何の事だよ!?
<吐け!さもなくば首から上を[インプロージョン]で爆殺する
<おたすけぇぇぇぇ!!



 リュート「あっ、クーンずりぃぞ!!俺こういうの得意なんだって!」
  クーン「えぇーっ、ボクにやらせてよ!」


 リュート「駄目だ、お前は上で散々ボタン押したろ〜、次は俺の番!」ポチッ
  クーン「あぁぁぁーっ!」


 クレーン『 』ウィーン、ガシッ


 カバレロの手下C「か"ろりっ!?」ビクッ


 木箱の上で援護射撃を試みようとしていた部下が1人、首根っこを掴まれて奇声を上げる…そのまま宙ぶらりんで
降りる事ができずジタバタと無駄な足掻きをする彼を捨て置き進行組はカバレロがすぐ近くに陣取る区画まで駆けてきた


 クーン「むぅっ、次はボクに押させてよね!あそこだよ、あのボタンを押せば昇降機が動くから」
904 :次回たぶん土日 [saga]:2022/05/15(日) 23:20:12.64 ID:PcGRRSLC0


 昇降機『 [荷物入りの木箱] 』ウィーン、カシュッ!


 メイレン「来たわね…」


 下層での一連を眺めていた彼女はそろそろ来るだろうと昇降機前に待機していた
木箱にはこの工場で造られたのであろう[鋼のお守り]が大量に梱包されていた、前にチラッと見た時にはコレの他にも
[強力傷薬]などが木箱に詰められていた為、製鉄工場としてだけでなく医療品の製造か、はたまた[クーロン]か何処ぞへの
密輸で資金稼ぎでもしようとしていたのではないかと考えられる


 正方形の木箱にぎっしりと詰め込まれた[鋼のお守り]はさぞ重かろう…これが頭上に落ちてくる豚マスクに同情する


 手を振って合図を送るチャイナドレスの美人の姿を目視したスライムがフェイオンに押してもいいと伝令を送り
そうして動き出したクレーンは見事に何tもあろう重量の木箱を持ち上げて覆面の男の真上でそれを手放す


 ズッシャァァァン!!


  カバレロの手下D「ごぉらぁっ!?」


 鋼鉄製品が大量に梱包されたソレの重みに耐えきれず膝から崩れ落ちて下敷きになる豚マスク
カバレロファミリーの手下はこれでほぼ壊滅状態と言える結果になってしまった…

 残るは逃げ場を失ったドンだけである


 メイレン「さて、私達も行きましょうか…もっとも、この位置からじゃ走っても最奥に着く頃には終わってるかもね」


―――
――
―



 アニー「蜥蜴共!あたしのブツに手ぇ出したんだ!三枚におろしてやるから出てきな!!」

 ブルー「道具を持って今すぐ投降すれば尻尾を切除する程度で許してやるさぁ来い!!!」つ[双龍刀]


 リュート「…あー、カバレロさんよぉ、何処に隠れてるか知らんけどコイツ等やる時はマジだから出た方いいって」

 クーン「おーい!カバレロやーい!」



    ブロロロロロロ…!



 リュート「ん?なんの音だ?」


  ブロロロロロロロロ…!



 それは工場の奥から聞こえてきた…、轟音を鳴らしながらやって来た空色のカラーリング
頼りなさげな工場の電飾に映えることから金属の物体であると判る、更に距離が近づいて来る事でその全容は分かった

 工事建設で使う重機のショベルカーと搬入作業で使うフォークリフトを掛け合わせたような乗り物であった



  カバレロ「おうおうおうおう!!テメェラよくも俺様の城を壊してくれやがったなコンチクショー!!」

  カバレロ「もうタダじゃすまさねぇぞ…ぐすっ、俺の工場ぉぉぉぉ…!!」


 半泣きのカバレロと愉快な仲間達は頭に黄色いヘルメットを被り、御自慢の改造重機…通称[鋼の傭兵団]に乗り込み
彼らの前に立ち塞がったァァァッッ!!


  カバレロ「もう形振りなんぞ構ってられねぇ…俺の虎の子のコイツも投入したんだ…一矢報いてやるッ」


 アニー「なっ!!奴らの後ろから来るあのデカブツはまさか…ッ!」
905 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/05/18(水) 17:04:21.23 ID:YDSUvPPD0
相変わらずスライムくんかわいい
906 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/05/22(日) 23:10:08.40 ID:l25jkljg0

 その姿を見てアニーは思わず声をあげた、なんでこんな所にこんなヤツが居るんだ!と

 カーキー色の機影が地鳴りを上げながら此方に走行してくる、戦車の履帯に似た特徴的な脚部に
中央からは腕付きの電柱が生えたような独特なフォルム…トリニティ政府でも重要な機密施設を徘徊する殲滅兵器
通称[モービルマニューバ]が出てきたのだから度肝を抜かされる


 ふと、アニーの脳裏にジャンク屋の買い取りリストのメニューが浮かぶ…。





   "[ハイペリオン]"     "[ベヒーモス]"





  アニー(ちっ、連中め…そういうことか)


 メイレンが持っていた大怪獣の名を冠した銃は稀に目の前の駆動殺戮兵器が"落とす<ドロップ>"ことがある
それとは別口で重火器の中で最も破壊力を秘めた[ハイペリオン]も撃破後に落とす個体が存在する…

 政府がリージョン界からかき集めた税金を使って作り上げた、お高い量産機ゆえである
潤沢な資金があって、そこに最上級の武器、防具をベースに作り上げた駆動兵器だからこそ
撃破後に彼らの身体を構築していた部品が落ちるのだと裏社会の人間達の間で考察が飛び交っていた

 屑鉄売りなんてセコイ商売やってる連中だ、どうやってかは知らないが政府の腐れ連中から廃棄処分同然の中古品を
買い取り独自に修理しようと試みていた、といった所なのだろうよ…



 カバレロ「虎の子の[モービルマニューバ]だぁーっ!コイツで辺境の"惑星<リージョン>"相手に強請ろうと思ったが…!」

 カバレロ「もうそんなこたぁどうだっていい!テメェ等覚悟しやがれってんだ!!」



 ギャングスターは乗り込んだ作業車のアクセルを踏みしめて憎むべき相手を撥ね飛ばそうと試みる
それに続く様に部下達も急発進と同時にアームを振り上げ生身の人間相手にジョベルを突き立てようと振り下ろした


 鋼の傭兵団『 』ブゥン!


 リュート「おわっっと!?あぶねっ!」サッ

  アニー「このトラクターモドキ共はどうだっていい!!後ろのデカブツにだけ注意しな!」サッ、ザシュ!


 [体当たり]をぶちかましてくるカバレロ機を軽快な動きで避けるリュートは仲間の姿を見やる
自分と同じく回避行動を取ると同時に器用に作業アームを切り飛ばす黄金色の髪と[スウェイバック]よろしくな動きで
紙一重に躱したと思えばカウンターでその場から剥き出しの搭乗席に飛びかかる様に[パンチ]を練り出し乗組員を一人
打ちのめす蜂蜜色の髪をした術士の姿が目に入った

 相手を殴り飛ばした後はそのまま[双龍刀]を構えて他の機体に飛び移るブルー、そんな彼を背景に風の精霊たちが流れて
[打撃]を繰り出そうとしていた他の機体が破壊される…[マリーチ]に変身したクーンの[シルフィード]が炸裂したのである



 モービルマニューバ『 』グッ!ジュゴオオオオォォォォー―――っ!



 リュート「うおっ!?でっけぇのがロケットみたいにケツから火を噴いて飛んだぞ!?」


 駆動殲滅兵器は底板に当たる部位に[ハイパーバズーカ]が取り付けられている、姿勢を変えて中央部の胴を仰け反らせ
"相手に尻を向けた状態"にすることで目の前の対象を撃つ事も可能である…

 何故こんなワケの解らないツッコミどころ満載な位置にそんな兵装がついているのかという問いに真面目に返答するなら
特定のモンスターやメカの技である[ミニオンストライク]や[びっくりソルジャー]対策だからだ

 小型の兵器や特殊な攻撃技が真下から攻めてきた時に一掃する為だと言われいる、[パワードスーツ]をベースにした
メカニカルボディなら至近距離で[ハイパーバズーカ]の爆発を受けても大丈夫だとされているし、それにもう一つ…
 その位置に発射口があるという特徴を利用して簡易ロケットノズルの取り付けも施されているのだ

 バズーカの弾ではなく開いた発射口から火を噴き、上昇が可能…そして上空からその重量差を利用して―――!!


  アニー「!! [地響き]が来るから注意しなさいっ!」
907 :今回はここまで 次回 再来週予定 [saga]:2022/05/22(日) 23:10:46.23 ID:l25jkljg0




   ズ ド オ オオ オオ オ オ オオオオオォォォォー――――z____________ン!!




 超重量級の兵器が工場全体を揺るがした。

 解体工事現場で作業用車が鉄球を振るった時の衝撃、あるいは脆い地盤にボーリング掘削の過程で巨大杭でも打った揺れ


 [カバレロファクトリー]全体が[地響き]と共に揺れていく…っ!古い工場の天版や丸太の様に太い配管が外れて落下する
巨大な鉄の塊や瓦礫の雨が容赦なく敵味方に関係なく降り注いでいくッ!!




 水棲系モンスター(青)「ひょぇぇぇぇっ!?俺達まで巻き添え喰らうじゃないっすかぎゃあやややあやぁ!?」ゴッ
 水棲系モンスター(緑)「おたすけぇぇぇーーーっ べぎゃっ!」グチャッ


    リュート「く"ぁっ!?」ザシュッ

    リュート(ゆ、揺れの所為でまっすぐ歩けねぇのに…落ちてきた硝子が脚に刺さりやがった…!!)


 弦楽器を背負った男は激しい揺れで割れた天窓の枠を見つめて顔を歪める、冷静に[バックパック]から回復薬を取り出し
硝子片を引き抜いてから処置を行おうと試みる―――しかし…!


  カバレロ「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっ、一人でも多く道連れだああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
  リュート「!? ばっ、こっち来んじゃね―――」


 火事場の底力、自暴自棄になった男の荒い運転がリュートを撥ね飛ばした!
先の揺れで落ちてきた瓦礫に操縦系統がやられたのか蛇行しながらギャングスターの運転する作業車が渾身の[体当たり]を
偶々目に留まった青年に向けてぶち当てた、自身の工場が閉鎖せざるを得ない程のダメージを負わされていたから
だからもう形振り構わない、この戦いで自分の生命も工場そのものの倒壊も知ったこっちゃないと言わんばかりの暴れ方


 [モービルマニューバ]を投入してきた時点で既に死なば諸共の精神で来てると警戒すべきだった。


 リュートを撥ね飛ばした車体はそのままカバレロを乗せて木箱の山に激突してピクリとも動かなくなった
撥ねられた彼は壁に叩きつけられ…運の悪い事に[バックパック]と取り出していた[高級傷薬]を落としてしまった…。

―――
――
―

  ブルー(ハッ!? 来る…!分かるぞ、彼奴が落ちるタイミングとその後の二次災害が―――)ピコンッ


 駆動兵器の推進力が途切れ、自由落下を始めた刹那―――彼の脳裏に豆電球灯るッ!!


 [巨獣]…[グレートモンド]…そして[モービルマニューバ]と地を揺るがす攻撃を仕掛ける敵と蒼き術士は幾度も相対した



 その経験が今、実を結んだ。 瞬間的に彼の視界がスローに映る、敵の落下までの予想時間と落下後に起きる天井や大地
地形から来るダメージを瞬時に計算できたのだ…っ!



 それはまるで"見切り"…そう、天地を揺るがすような災害さえも見切れるようなったのだ…っ! [地響き見切り]だッ!



 駆動兵器が大地に降り立ち衝撃の波紋を広げる刹那、ジャストタイミングで地を蹴り跳び上がったブルーは揺れを回避
降ってくる瓦礫や鉄製の配管も落下の予測計算通り当たらずにノーダメージでやり過ごす

 これならば勝てる。そう確信した彼は仲間との連携攻撃で一気にカタを着けようと近くに居る攻撃可能な仲間を確認する
肩を強打したのか抑えているアニー、天使の翼で飛んでいて事なきを得たクーン、そして…


  ブルー(!! リュート…あいつッ、なんであんなところに転がっているんだ!![バックパック]はどうした!?)

  ブルー「〜〜っ! クソったれめ!世話の焼ける奴だ…!!」ダッ!


 攻撃チャンスをふいにしてしまうことに悪態を吐きたくなるが、彼は直ぐに荷物を拾って悪友の元へと向かおうとする
908 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/05/24(火) 00:37:39.18 ID:vwzvD3Ya0
おつ
地響き見切り大事
909 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/06/12(日) 12:42:30.09 ID:CgjG6vk70

 蒼き術士は手早く床に落ちた医療品と鞄を拾い上げてリュートの元へと急行、[最高傷薬]を彼に投与して頬を2、3発叩き
意識を覚醒させる、「はにゃ?俺どうなったんだ?」と何とも間の抜けた目覚めの一声を呟く彼に呆れつつ
術士は戦闘中だしゃんとしろ!と喝を入れた


  ブルー「あまり奴に時間を掛けてはいられん!長期戦に持ち込まれては不利になるからな!!」


 助け起こした弦楽器の男と共に[モービルマニューバ]へと向かうと[チェーンヒート]を
寸での所で回避したアニーが声を上げる


 アニー「やっと来たわね、遅いわよ!コイツ二人で相手するにはキツイんだから!」

 リュート「すまねぇ!今んトコどうだ!?」


 アニー「…さっきからクーンと二人掛かりで攻めてるけどタフ過ぎるわ、決めてになるデカい一撃でも無けりゃキツイ」


 苦々しい顔で黄金色の髪の女は[反重力クラッシャー]を撃ち出して来る敵機を睨み告げた、相反する2重螺旋の輝きが
天使の片翼を傷つけクーンの飛行姿勢が崩れる、やや高度が下がり始めた辺りで殲滅兵器が警告音を鳴らす
 耳障りな異音に「なんだ!?」と警戒すると奴の周りに"水が集まっていく"ではないかッ…!

 先の[地響き]で割れた排水管や工業機械からの産業排水やオイルの混じった科学液の波、それらが彼奴を中心に密集する





  リュート「!! やっっべぇぞ、あの技は――――!」






―――――[龍神プログラム]作動。



 そんな機械音声が聞こえてきた気がした。







            【 [ メ イ ル シ ュ ト ロ ー ム ] 】



 [猛虎プログラム]から繰り出される[タイガーランページ]と対を成す敵全体への"水"による攻撃手段…っっ!
危険度ランク9の水棲系モンスターが使う恐るべき技だと直ぐにリュートが気付けたのは
地元の酒神が祀られた祠がある沼地に住まう危険生物の代名詞と呼ぶべき技だったからか…

 陸地であわや大海嘯に見舞われるという事態を察したリュートは直ぐにクーンにアニーを掴んで可能な限り天井近くまで
飛翔しろと指示を飛ばしブルーの腕を掴み階段を目指し始めた


  クーン「アニー!飛ぶよ」ガシッ
  アニー「えっ、ちょ―――うわああああああぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 リュート「ブルー!

*******************************************************
910 :途中送信されてしまった [saga]:2022/06/12(日) 12:51:28.41 ID:CgjG6vk70

 蒼き術士は手早く床に落ちた医療品と鞄を拾い上げてリュートの元へと急行、[最高傷薬]を彼に投与して頬を2、3発叩き
意識を覚醒させる、「はにゃ?俺どうなったんだ?」と何とも間の抜けた目覚めの一声を呟く彼に呆れつつ
術士は戦闘中だしゃんとしろ!と喝を入れた


  ブルー「あまり奴に時間を掛けてはいられん!長期戦に持ち込まれては不利になるからな!!」


 助け起こした弦楽器の男と共に[モービルマニューバ]へと向かうと[チェーンヒート]を
寸での所で回避したアニーが声を上げる


 アニー「やっと来たわね、遅いわよ!コイツ二人で相手するにはキツイんだから!」

 リュート「すまねぇ!今んトコどうだ!?」


 アニー「…さっきからクーンと二人掛かりで攻めてるけどタフ過ぎるわ、決めてになるデカい一撃でも無けりゃキツイ」


 苦々しい顔で黄金色の髪の女は[反重力クラッシャー]を撃ち出して来る敵機を睨み告げた、相反する2重螺旋の輝きが
天使の片翼を傷つけクーンの飛行姿勢が崩れる、やや高度が下がり始めた辺りで殲滅兵器が警告音を鳴らす
 耳障りな異音に「なんだ!?」と警戒すると奴の周りに"水が集まっていく"ではないかッ…!

 先の[地響き]で割れた排水管や工業機械からの産業排水やオイルの混じった科学液の波、それらが彼奴を中心に密集する





  リュート「!! やっっべぇぞ、あの技は――――!」






―――――[龍神プログラム]作動。



 そんな機械音声が聞こえてきた気がした。







            【 [ メ イ ル シ ュ ト ロ ー ム ] 】



 [猛虎プログラム]から繰り出される[タイガーランページ]と対を成す敵全体への"水"による攻撃手段…っっ!
危険度ランク9の水棲系モンスターが使う恐るべき技だと直ぐにリュートが気付けたのは
地元の酒神が祀られた祠がある沼地に住まう危険生物の代名詞と呼ぶべき技だったからか…

 陸地であわや大海嘯に見舞われるという事態を察したリュートは直ぐにクーンにアニーを掴んで可能な限り天井近くまで
飛翔しろと指示を飛ばしブルーの腕を掴み階段を目指し始めた


  クーン「アニー!飛ぶよ」ガシッ
  アニー「えっ、ちょ―――うわああああああぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 リュート「ブルー! 流石にクーンに俺達まで担いで飛んでもらうことはできねぇ!波が来ない所まで昇るしかねぇ!」
   ブルー「くそっ!間に合うのか…!?」


 大津波が彼らの背後で機材や柱を飲み込み、水圧で潰しながら迫ってきているのが音で解る
逃げ切りたいが…っ![メイルシュトローム]の発動を見てから階段まで走るのでは到底間に合わない、[地響き]と違って
起死回生の策を閃いて見切りが成功するというのも望めない―――万事休すか!?


 濁流の音がすぐ背後まで迫り、ここまでかと二人が走りながら目と閉じ覚悟を決めた時であった…。







      スライム「ぶくぶくーーーーーーーーーっ (*‘ω‘ *)」ヒューン

911 :予定より遅れて申し訳ない、今回はここまで次回は来週の土日予定 [saga]:2022/06/12(日) 13:19:39.95 ID:CgjG6vk70

 聞き覚えのある声と共に、「べちゃ」という音が彼ら二人の背後からした。

 スライムである、[ユニコーン]形態に変身せず、上層から下層の二人を見兼ねて飛び降りてきたようだ


 迫り来る大海嘯を前にして二人を護る様に仁王立ち(?)をするゲル状生物に思わず「ば、馬鹿者!なぜ降りてきた」と
蒼き術士は声を荒げる、上層に居れば助かっただろうに…!お前1人来たところで津波をどうにかできる訳ないだろうと


 リュート「ハッ!?いや待てよ!そういうことか!?助かったぜ!!」

  ブルー「な、なに?どういうことだ…!!」


 モンスターの特性に詳しいリュートは全てを察した、安堵と困惑それぞれの表情を浮かべる男性二人を尻目にスライムは
突然膨張を始めたのである、これはモンスターが吸収した相手の細胞から遺伝子情報を読み取り変身する際の現象だ
 クーンの[マリーチ]形態やスライムの[ユニコーン]形態もこの過程を通してから成り代わるのだが…しかし



  スライム「ぶくぶくぶくぶ く ぶ く ぶ く ぶ く ぶ く ぶ くーっ! (`・ω・´)」ズモモモモモモモ


 
 姿形が変わらない、スライムのままで何処までも膨張し続けたのである…これではスライムというより[スライム大]だ
[タンザー]のスライムプールに居た巨大な個体を連想させる姿だが…

 あっと言う間に巨大化しかスライムが二人を護る様に大津波の前に立ち憚る、鋼鉄の柱を拉げ、機材を圧壊させた
恐るべき水圧の波が…!水の暴力が容赦なくスライムを飲み込んだァーーーーッ!!



――――――ズッッッッゴオオオオオォォォォォォォォ!!!




 べきべき、みしみし、あらゆる物を飲み込み圧し潰す音が辺りに響く…絶大な暴力の波に飲み込まれて尚
術士と無職の男は生きていた…いや、彼らは水圧に襲われることは無かった


  ブルー「こ、これは一体…」

 リュート「はははっ!サンダーのヤツも昔言ってたな[スライム]は…"水耐性"があるんだってな」


  ブルー「水耐性だと…?」



 幼い頃[ヨークランド]の沼で[クラーケン]に出くわした時、友達に居たモンスター種が
[メイルシュトローム]から身を挺して助けてくれたのをリュートは思い出した
 モンスターの変身能力の次第では凝視系の攻撃や水攻撃、果ては音波や精神異常に対しても耐性を持つ者がいるのだと


 スライム「(。-`ω-) ぶくっ!」キリッ


 波が過ぎ去った辺りでスライムは身を縮めて、元のサイズに戻ってから改めて一角獣へと変貌する、上空に避難して難を
逃れたクーン達も降りてきた、遅れて階段の方からフェイオン達が降って来るのも見える


 リュート「へへっ、ありがとな〜助かったぜ! こっからが俺達の反撃チャンスだ」

  ブルー「ああ、だが…奴を仕留めきれる程の一撃となると[ヴァーミリオンサンズ]でもやりきれるか」


 リュート「そのことだがよ、ブルー…お前さんに相談がある耳を貸せ」


  ブルー「何?」

 リュート「――――で、――――だから、――――できるか?」
  ブルー「―――――!!貴様馬鹿か!?可能だが…」


 リュート「できるんだな!?ならその作戦で行こうぜ!」

  ブルー「…はぁ、どうなっても知らんぞ」


 突拍子もない作戦を聞かされて彼は天井を見つめた、この戦闘で酷く傷ついたオンボロ工場の崩落しそうな天井を
術士は脆く壊れやすい箇所に目星をつけながら集まって来た仲間達に誘導を頼むのであった
912 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/06/13(月) 10:54:51.64 ID:EzoCl7Xeo
スライム有能
913 :次回、少々仕事探しで忙しくなるので2週間か3週間開きます [saga]:2022/06/19(日) 23:33:09.83 ID:dM9Fqlim0

 水が退いた後先に殲滅対象が集まっていること目視した兵器は姿勢を変えて底板の発射口を集まりに向け
[ハイパーバズーカ]を放つ、砲弾が着弾する間際で何かの"印"を切った術士が散開を命じ、その場に居た者達は四方へと
蜘蛛の子が散る様に飛び退いていく…!爆発に呑まれる姿はなく、火と煙のカーテンを利用して機械の眼を欺く


 [モービルマニューバ]が一行を見失って数秒後に真後ろから風霊が背後の装甲に傷を残し、更に霊力を纏った音波が
内部システムを焼いて行く、俊敏性に特化した天使と一角獣が死角に回り込んでいたのだとAIは断定する
 角の先端から[シルフィード]の風を解き放ったスライムと[聖歌]を歌い終えたクーンの姿がそこにはあった

 一角獣はともかく天使を相手に[地響き]は効果が無い、かといって水害を再現してもスライム形態に戻られてクーンを
庇い無傷でやり過ごす事も眼に見える、後々を考えるなら此処でこの2体を潰すのが最適解だろうと
[反重力クラッシャー]の銃口を2体のモンスターに向ける




   フェイオン「ハイィィィヤァーーーーーッッッ!!」シュバッ!ズシャァァ!!!




 赤と青の重力エネルギーが解き放たれる間際に闖入者が現るッッ!!"まるで瞬間移動でもしたかのように"突然現れた
辮髪の男が[あびせ蹴り]を放ち、狙い定めていた兵器の先端の射線はずれ込む
 螺旋描くエネルギーの波はあらぬ方向へと飛んで行き、工場の柱を削った…!


 ブルーの[保護のルーン]だ。


 バズーカ砲の着弾間際で散開した時に切っていた何かの"印"は[モンド基地]での死闘に貢献した認識阻害の術式…!
敵の十八番にして最大火力を誇る[地響き]と[メイルシュトローム]を無効化それも近くに居る術士一行の誰かも防衛できる
ともすれば厄介な相手として真っ先に落とそうと動き出すのはある程度予測可能だ
 だから機敏性があり、どの部位が動き出しても敵の命中率を落とせそうなフェイオンにルーンの加護を与えたのだ

 リュートでは若干の力不足があり、術メインと銃メインのブルーとメイレンでは動きを妨害しきれない
アニーでは助走をつけて勢いよく[稲妻突き]などの力強さを持つ衝撃で敵の姿勢を崩し攻撃を逸らせるはするが…
 底板にも正面にも側面にも高い位置にあるロボットアームや胴体、どこにでも武器を内蔵した相手の全武装に
対応できるかと問われれば少し厳しいものがある

 その点、辮髪の男は高い位置でも[三角蹴り]や[あびせ蹴り]で高い位置の武装まで届くし背部にも真正面にも回り込める
底面も[鬼走り]による地を這う衝撃波で姿勢を変えだす前から発射口を潰すこともできる


 まるで電柱の様な円柱状の背が高い胴体の天辺、其処から左右に伸びた[反重力クラッシャー]を撃ち出す為に
必要なジェネレーターを一基、[あびせ蹴り]で下方から上方へと打ち抜く様に蹴り上げた事で左右のバランスは崩された
これでもうまともに撃つ事はできまい…無理して撃てても赤、青の両方が重ね合わさることの無い半端な威力の
エネルギー砲が関の山と言った所か



  ブルー「その御身を厄災の眼<まなこ>から逃れさせよ!――[保護のルーン]」フォンッ!フォンッ!


 工場内に声が響き渡る、大地揺るがす攻撃と全てを圧壊させた水圧の二重災害で酷い有様と化した工場内だ
良くも悪くも残骸が溢れかえり身を隠すための遮蔽物が多くできた形となった
 何処からか隠れながら印を切ったブルーの魔力が辮髪の男を再び不可視の存在へと変えた

 こうして2体のモンスターを護りつつ、フェイオン――面倒な位置にある武装の破壊もできたならば――そしてアニーも
交えて動きを封殺しながら"時間を稼ぐ"のだ…目的を成就させるために


―――そう、その目的とは…!!!








  メイレン「はい!これで最後の1人っと!」ポイー

  カバレロ「ぐべっ!?」ドサッ


  リュート「ひぃ、ふぅ、みぃ……おーい、お前さんの仲間これで全部か?そろそろ工場潰すけど逃げ遅れ居ないな?」

  カバレロの手下A「は、はいぃぃ…!もう居ません、仲間は皆さんが全部入口まで放り出してくれましたぁぁ!!」


  リュート「うっし!!盗まれた荷物もこうして確保した」

  リュート「あとはブルーに柱壊してもらって天井を落としてアイツをペチャンコにして終わりだなっ!」
914 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2022/06/20(月) 02:03:54.10 ID:CvuJLgqS0
乙乙
915 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/06/21(火) 20:39:40.67 ID:u8g6z5lHO
なにか策があるのか……ってなんかトンでもないこと言ってんなリュート!?
カバレロさん首吊らなきゃいいけど……
916 :長らくお待たせしてすまない2レスだけですが投下です [saga]:2022/07/11(月) 23:17:44.95 ID:l0HT8Otl0

 殴打、剣閃、鍛え抜かれた肉体から放たれる技術は殲滅兵器の動きを封じていた
破壊の為に造られた戦闘機が応酬として繰り出す[チェーンヒート]、[ハイパーバズーカ]の砲撃に対して射線や間合いを
強制的に逸らす衝撃の数々、それが横殴りの暴風の如く[モービルマニューバ]を襲っていく


 アニー「そこッ![デッドエンド]ォォォ!!」


―――ズドンッ!!


 辮髪の男と蒼き術士の姿が直線上に並んだ所で姿勢を変えて弾道砲を撃ち込もうとした所で金髪の女が降下してくる
両手でしっかりと剣柄を握りしめて相手を確実に斃すという意志を込めた一撃…!
 底板を男達に向ける様に…所謂、仰向け状態にしていた胴に刀身がめり込む、彼奴が鋼鉄の身でなくタンパク質の塊なら
間違いなく今の剣技は致命の一撃となっていたことだろう

 天高く跳び上がった彼女の重力を掛け合わせた技が電柱柱と見間違う様な胴体、ど真ん中にぶち当たる
梃子の原理よろしく身がひん曲がった殲滅兵器の弾道の発射口も当然それに合わせて標準がズレる

 狙いが外れた砲撃はフェイオン達の頭上を通り過ぎ工作機械の残骸を吹き飛ばした



 フェイオン「今のはヒヤリとしたな…っ!」

   アニー「当たらなかったんだから結果オーライでしょ」


  スライム「(。-`ω-)ぶくぶくぶー!」



 認識阻害の印術で直ぐに姿を隠されるフェイオン、ヘイトが自身に向き攻撃を躱し、時に[ディフレクト]で捌くアニー
離れた位置から敵の周りを駆けまわる様に走りながら風精を飛ばすスライム

 見えている面々が攻撃を続けて、ステルス状態になった仲間が絶妙なタイミングで攻撃の邪魔やダメージを蓄積させる
……一見すればそう見える戦術を続け、その合間で空を自由に舞えるクーンに工場を支える支柱の数々に
小さな罅を入れてもらう、最後に特大の広範囲攻撃魔術で一気に全てが連鎖的に崩れていく様にすべく…!



  ブルー(そろそろ頃合いだろうよ…っ!)

  ブルー「総員!退避ィーーッ!」バッ!



  「ギギギッ…!?」



 弦楽器の男と紫髪の女がカバレロ一味を全員外に連れ出しただろう頃合い、クーンの破壊工作もいい塩梅となった今なら
そう判断した術士は合図を送る、何時ぞやの指輪泥棒騒動の時に[バカラ]で見せた光源を発生させる術[ライトボール]だ
 信号弾の様に光球を高くに放つ…それを見て天使はアニーを掴み、[地響き]を回避させた時の様に出口目掛けて一直線に
[ユニコーン]形態をとっているスライムは一角獣特有の筋力と俊敏性を活かし、フェイオンを背に乗せて走り出す



   フェイオン「掴まれェ!」バッ

     ブルー「っ!!」ガシッ


 戦闘音で万が一にでも撤退命令が聞こえなかった場合、そして鉄屑の物陰に隠れながら印を切り続けたブルーの位置を
スライムに知らせる、そういう意味も含めた信号弾を放った彼は辮髪の男を乗せた小柄な一角獣の背に乗る

 本来の個体と比べて一回り小さな子馬の身には少々負担が大きいが此処は踏ん張って貰うしかない…!


  スライム「Σ(;-`ω-) ぶ、ぶぶぶぶ、ぶくぶーーーーーっ!!」


 成人男性二人分の重みを背にダメ押しの一声としてモンスター固有の技の一つ[突進]を使い加速するッ!
一直線上のラインを脇目も振らず文字通り猛突していく技だ、攻撃手段であるそれを移動手段として利用するのだ…ッ!

 一角獣の毛並みが逆立ち、身に"闘気<オーラ>"を纏う!蹄が土煙を巻き上げながら鉄屑を蹴散らし一気に出口へと奔るッッ


 既に陽は没した[スクラップ]の星光といやらしいネオンの輝きが見えてきた術士は殲滅兵器を眺める、当然逃がすまいと
呆れた執念で追ってこようとするのが目に映る…だが、もう手遅れだ

 どれだけの速力を以てしても間に合うまい、何のために工場の中央部に引き寄せさせたと思っている…!
彼奴がもし壁際にでも居れば強引に壁を破壊してそのまま外に逃げるなりできただろうな、そう思いながら術士は術を放つ
917 :次土日予定 [saga]:2022/07/11(月) 23:18:22.69 ID:l0HT8Otl0



      ブルー「 [ ヴ ァ ー ミ リ オ ン サ ン ズ ] ! 」



 大地が割れた。

 地割れの底より出流はヴァーミリオンの名を冠するに相応しい、彼が忌み嫌う暖色の宝石だった
術者の思念によって具現化された何カラットあるのか分からない巨大なソレ、一軒家サイズの規模を持つそれが浮かび上り
円舞曲でも踊る様に近づき、離れ、また近づいては離れを繰り返し……最後に接触した


 鏡合わせの双子の如く、大きさも形も同じ巨大な紅石がぶつかり弾けて、その破片は燃え盛る太陽の様な熱を帯びて散る

 金網フェンスの殆どが薙ぎ倒され工作機器やドラム缶の山、箱詰めされた製造物が粉々になった工場内部は
それは広々とした空間であった、だからこそ飛び散った大なり小なりの宝石の欠片は乱反射しやすい


 [跳弾]が如く、ピンボールゲームの球の様に重量と熱を持ったそれは内部で暴れ、吹き荒むのだ。


 必然、その渦中に居る[モービルマニューバ]も無事では済まされない
逃れようと安全な外へ逃げたくとも紅石の礫に脚を取られ、ただでさえ中央部に居て外が遠い彼奴は逃げきれない



 蒼き術士はその様子を見てあのニートに対する評価に星を一つ付け加える事にした。

 自身の最大火力を誇る魔術を100%以上の性能に引き上げる策、最初話を聞かされた時馬鹿げた事を言い出したと思った
然し、やってみればどうだ?効果覿面であった…!


 元の[ヴァーミリオンサンズ]に加えて[サイキックプリズン]で閉じ込めて乱反射でもさせた様な破壊力…
咄嗟に工場内部そのものを火力を底上げする舞台装置にするとはやるじゃないか、しかもご丁寧に"トドメの一撃まである"


 クーンに罅を入れさせた支柱の数々に中で乱反射を繰り返す紅玉がぶち当たる、ただでさえ脆くしてあるそこに衝撃が
加われば最早言うまでもあるまい


   ズゴゴゴゴゴゴゴ…!!  ドォォォォォォン!!


 あらゆる災禍が殲滅兵器を襲った―――鉄筋コンクリートの落盤、折れて先端がささくれた金属製の太い配管の槍が降り
天井裏を通っていた高圧電流の配線が鎌首を擡げる蛇の頭部が如く牙を突き立てに降りてくる


 陽はとうに没した[スクラップ]の夜、星光と月明かり、いやらしいネオン電飾が栄える中、街を牛耳るギャングの根城は
音を立てて崩落した…ッ!!

―――
――
―

 カバレロ「お、俺の…俺の"城<ファクトリー>"が…」



 リュート「なぁカバレロさんよぉ〜…工場ぶっ潰した一味の俺が言うのもなんだが、悪銭身に付かずっていうだろ?」

 リュート「コレを機に心を入れ替えて真面目に働けよな、俺も仕事探してんだ…ちったぁ手伝ってやるからさ…。」



 リュート「あの[モービルマニューバ]で何する気だったよ?アンタ自分で言ってただろ?」




-カバレロ『虎の子の[モービルマニューバ]だぁーっ!コイツで辺境の"惑星<リージョン>"相手に強請ろうと思ったが…!』-



 カバレロ「…うぐっ。」


 [モービルマニューバ]はトリニティ政府の機密情報眠る[タルタロス]を警護する戦闘メカだ、正規の手段じゃ入手不可だ
公にできない手で廃品パーツから組み立て、ソレで善良な市民から略奪する気はあったし、元から軽犯罪の類は勿論
違法と知りながら裏ルートでモンドに資材を売りつけて結果的に[グレートモンド]や[ワカツ]の基地建設の片棒担いだ


 リュート「世の中ってのは不思議な事に悪い事すると必ず失敗するようできてんだよ…稼いだ悪銭の資産も全部パーさ」
918 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/07/12(火) 02:56:08.76 ID:6AnDoZSg0
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919 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/07/13(水) 03:00:47.65 ID:njtu5HLN0
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920 :続き土日、もしかしたら早いかもしれない [saga]:2022/07/17(日) 06:43:48.44 ID:XJ4v8BTp0

 ギャングスターは一言も発しなかった。握りこぶしを作ってただ打ち震えていた。…それから暫くの沈黙が続き、やがて



 カバレロ「……足を洗えだと?また一からやり直せだと?…よくもまぁ簡単に言ってくれる」ハァ


 項垂れて大きく息を吐いた。ネオン輝く無法土地の支配者は降参だと言わんばかりに手を上げる。
"城<ファクトリー>"も潰れて、[ボロ]での資源横領、政治屋相手の裏取引ももうできまい…年貢の納め時だろうな

 成り上がったギャングは天を仰いだ、[スクラップ]の夜天光はいっそ忌々しい程に瞬いてた





【双子が旅立って11日目 午後 20時17分 [スクラップ]】

―――
――
―


 発着場の自動ドアが開かれて湿気を含んだ何処か黴臭さのある風が鼻腔を掠めた、まだ1日も経過していないのに
この空気と雑踏、喧騒…それに[スクラップ]とは違ったいやらしさのあるネオンの光が妙に懐かしく思えたのは
砂埃と暑さに苛まれる土地に居た所為か

 術士一行は[クーロン]に帰ってきた。ただ一名を除いて





   エミリア「えーっ!?じゃあリュートってば[ヨークランド]に帰っちゃったの!?」

    ブルー「まぁな、帰ったと言ってもアイツは俺達が[ディスペア]に潜入する前には帰ると言ったがな」
    アニー「しっかし、カバレロもなんだかんだで人望あったのね、部下がこぞって付き合うなんてさ〜」


 術士は発着場での出来事を思い起こす…。弦楽器を背負ったニートが[クーロン]までカバレロ一味を全員連れてきて
それから次の様に発言したのであった…。




 -リュート『つーわけで、俺ちょっくらカバレロ達を連れて[ヨークランド]に里帰りするわ』-

  -ブルー『放って置けばよかろうに、そんなならず者集団など…』-

 -リュート『冷てぇこと言うなってカバレロ一味もちゃんと心を入れ替えて真面目に働くってきっと!』-

 -メイレン『貴方も変な所で真面目よね、仕事探しを手伝うってアレ本当にやるんだから』-


 -リュート『へへっ、あれから機内でも一人一人になにやりてぇんだ?とか趣味や特技を聞いたんだ』-

 -リュート『したら「あれ?コイツ等農業とか得意なんじゃね?」って思ったからよ、地元の知り合いの伝手を使うさ』-



 このニートは不思議な事に"気づけば身の上話やらなんやらを語ってしまう奇妙な魅力があった"、故にギャング一味から
話を聞いて、暑い風土の[スクラップ]生まれ特有のど根性や、なんやかんやで荒事ができるくらいに力仕事にも自信があり
[鋼の傭兵団]に乗って操縦できて工場機材の稼働に精通することからトラクター等の農作機械も教えれば割とできそうで

 もっと言えばカバレロファミリーの構成員の大半が"メカ"と例のジャンク屋の蜥蜴含めた"モンスター"種で色んな意味で
[ヨークランド]という土地は人種問わずで農業のノウハウを学ばせるのには適した土地なのだ…
 人種、経歴に対して偏見的な物の見かたは無いだろうし色々考えた結果が地元の顔が利く農家に
彼らを紹介してみようという話に纏まったのである

 [沼地]などの水源も近く、田畑が多い所為で勘違いされがちだが時期によっては相当に暑い土地だ、乾燥した風が吹く
そこより暑い土地柄で育った彼らにとっては涼風と呼べる程度で、根性もあるとくればやり切れる筈だ

 ある程度仕事を覚えたら[スクラップ]の土壌でも育つ作物の種、…例えば開拓時代の某国を代表するジャガイモなんかだ
そういった物で一からやり直させるのも悪くはない、心をちゃんと入れ替えているのなら最悪そのまま[ヨークランド]で
受け入れて貰える可能性もあるかもしれん…



   エミリア「…ふぅん、すぐ戻って来るとはいえ賑やか担当がいなくなるとちょっと寂しいわね」

    ブルー「なに直ぐに戻って来る、彼奴は母親に遭ったら殴られると言っていたからな遭遇する前に来るさ」

    アニー「まっ、そうだよねぇ…リュートだもん」
921 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/07/17(日) 18:21:07.05 ID:cX2aZAnO0
おつー
やるなあリュート
922 :予定より数日遅れてすみません、2レスですがどうぞ [saga]:2022/07/26(火) 11:00:47.90 ID:PgghdCB30
*******************************************************
―――
――
―


        レッド([天地二段]…!)


 飛翔した少年の剣技が緑髪の少女目掛けて振り下ろされる、それを彼女が[ディフレクト]する
紅き妖刀を盾代わりに、手に重い衝撃が伝わった事で感じる痺れに思わず貌を歪める少女アセルス…そんな彼女に少年は
面打ちからの胴斬りへと移行するように剣を横凪に振るう


     アセルス「…天地……二段が、来るのはわかっているッ!」キィィンッ!


 少年の二連撃を防ぎ、更には防いだ妖刀をそのままスイングさせて彼を弾き飛ばす
数々の死闘を潜り抜けた事で彼女自身の戦闘能力も培われてきたが、鮮血を連想させる紅い劔の柄を握った今の彼女は…!
[幻魔]の力を解禁した今のアセルスは以前とは比較にならない強さを手にしたのである…ッ!



「[生命波動]!!」

「[幻夢の一撃]―――――[ジャッカル]よ!」


 雑木林の中、レッドを樹木の幹に叩きつけた後そのまま追撃に向かおうとした緑髪の少女目掛けて二方向から術が飛ぶ
彼女から見れば右斜め後ろの方角から翆玉色の光で出来た鎖が伸び、左斜め後ろからは異界の門より現れし魔獣が牙を向け
 彼女は瞬時に脚で落ち葉の絨毯を蹴り飛ばし[京]の空へ…天へと跳び発ち劔を振るったッ!
地表から上へと向かって突き上げる様に剣を上方へ…ボクサーが利き腕の拳で渾身のアッパーでも振るうかの如く…ッッ!



  アセルス(後方二方向から飛んでくるルージュと白薔薇の術はフェイント…本命は…っ!)

  アセルス「[ライジングノヴァ]!!!」


 緑髪の少女が下から上へと突き上げる様に振るった剣閃、その動きは剣技の中でも最上位技に数えられる技…!


……とは言え、まだ彼女の練度は完璧とは言い難い。

 技名を口に出し実際に放ってみたものの…本来の[ライジングノヴァ]に匹敵する威力には満たない上に
"闘気<オーラ>"による小規模爆発も発生しない、未完成技であった…


 ズパァン!!   ―――…チュドーン!


 術士と妖魔による囮の術攻撃、本命は真上…二人と違って術の詠唱も必要無く、ノータイムで且つ無音で攻撃が可能な
ラビットの[ミサイルポッド]だ…!アセルスが後ろを振り返り、思念の鎖と異界の魔獣を切り捨てる事に思考を
持って行かれていれば間違いなく弾頭が少女にぶち当たり爆発アフロヘアーの出来上がりで本日の戦闘訓練は終了だった

 なんちゃって[ライジングノヴァ]もどきで音も無く放たれた頭上のミサイルを切り裂き、2分割された実弾兵器は彼女の
後方から迫っていたルージュの魔術と白薔薇の召喚した魔獣目掛けてヒュルヒュルと落ちていき衝突、火球を作って消えた




 BJ&K「データ解析…、昨日に比べて動きが随分と良くなりました、戦場全体を見通す視野も広がり陽動にも掛からず」

 BJ&K「敵の実弾兵器を切り裂き、切ったその破片で後方の相手2人の攻撃を相殺して対処もできる」


 BJ&K「一旦小休止としましょう。怪我を治療します」ウィーン!



 アセルス「ふぅ…大丈夫?烈人くん」チャキッ

  レッド「イテテ…ちょっぴり背中がヒリヒリするけど平気だ、姉ちゃん強くなったなぁ…」



 ラビット「発射音、ミサイルの飛来音、共にステルス性の高い方式を採用したつもりでしたが気付くとはお見事です」

 アセルス「ありがとう、でも…今回の戦闘は反省点が沢山あるんだよ」


 武器を納刀した彼女は口元に手を当てて考え込む、咄嗟にレッドの攻撃を[ディフレクト]で防いだが護るよりも攻めに
徹するべきだったかもしれない、対峙した時の金獅子から感じた並みならぬ闘気…アレを倒そうと思うのならば
[幻魔双破]や[かすみ青眼]の様なカウンターも狙っていく必要性があるのかもしれない、と…
923 :続きは土日のどちらか予定 [saga]:2022/07/26(火) 11:01:55.51 ID:PgghdCB30

 それに彼女との果し合いに備えて新技開発にも勤しんだがさっき使った[ライジングノヴァ]も正直言って稚拙な出来だ
形だけはそれっぽくした"なんちゃってもどき"でしかない、本来の威力と精度でなければ効くどころか当たるのかも怪しい



  アセルス「…もっと、強くなりたい…っ!」




 白薔薇を護りたい。


 親友のルージュや旧知の仲である烈人、この旅で知り合った仲間達だってそうだ――せめて己の手が届く範囲の人を…!





 ピトッ


  アセルス「ひゃああぁぁっ!?!?」ビックゥ

   白薔薇「アセルス様、根を詰め過ぎるのはよろしくありませんわ」つ『冷えたラムネ』


 不意に頬にひんやりとした感触が宛がわれる、思考の淀みに沈みかけていた彼女の意識が現実に引き戻され何事か!?と
顔を向ければ[京]の出店では然して珍しくも無い、どこか懐かしさのある炭酸飲料の入った瓶が視界に入った


  ルージュ「適度にリフレッシュしないとね、こういうのってパフォーマンスに影響するからさ」


 紅き魔術師とサボテン頭の少年が露店で購入していた飲料を何時の間にか手に持って笑っていた
「こういう時、BJ&Kが簡易冷蔵庫みたいな役割で助かるぜ」と少年が笑い、「本来は医薬品を冷やす為ですが」と
心なしか不満げな感情を伴っている様に聞こえる機械音声の声が聞こえてくる

 目をぱちくりと瞬かせて、遅れてアセルスも笑い出した
妖魔の国で12年の時を経て目覚めてからは何かと肩の力を抜くことを忘れがちになっていたものだ…

 ひとしきり笑ってから緑髪の少女は天を仰ぐ、鍛錬中に何度も見上げてた筈の空の色なんてすっかり気にも留めなかった
気付けばどうだ?暗色に染まり、遥か彼方で輝く"惑星<リージョン>"の星あ光が見えるではないか


 ラムネ瓶の栓を軽く叩いて、ポンと飲み口を塞ぐビー玉を落とし込む
炭酸の気泡に包まれた硝子玉と瓶から溢れ出す飲料を眺めて、懐かしい甘さを口に含んだ


  アセルス「…美味しい」

   白薔薇「ふふっ、そうですね!私も初めて飲みましたが良いものですね」




  ボォン! ボン!ボン!


 ルージュ「んんっ?何の音?」キョロキョロ
  レッド「おっ!見ろよアレ!花火だぜ…っ!そういや花火大会があるっつってたがこっからでも見えるもんだなぁ」


 雑木林の中、木々の間から覗かせる漆黒の帷に複数の光が打ち上がり大輪を花咲かせた
近くにあった大岩の上に腰掛けて一行は暫し合間、ラムネの瓶を片手に花火に見とれていた、少年曰く詳細は知らないが
この"惑星<リージョン>"で今日は何かの記念日だったらしくそれで[庭園]の方で花火が上がっているそうな


  アセルス「…なんだか夏祭りみたいだね」

   レッド「ああ、ガキの頃を思い出すぜ…」
  ルージュ「お祭りかぁ…僕はこんなお祭り参加できる機会がそうそう無かったからなぁ…」


  ラビット「でしたら今から行ってみませんか?鍛錬も本日予定していたスケジュールをクリアしたので気分転換で」

   レッド「おっ!イイコト言うじゃねぇかラビット!もしかしたら今行けば食い物の出店もあるかもしれねぇしな!」


 空っぽになった瓶を手に彼らは雑木林を抜けて街道へと躍り出る、着物姿の地元民から他所からの観光客まで皆が一様に
一か所を目指し、ある者は川辺や花火の見やすい茶店の席へと腰を下ろす、群衆に紛れて紅き術士一行も束の間の休息を
楽しむのであった… 来るべき金獅子との約束の刻限まで残り2日と5時間近く……

【双子が旅立って11日目 午後 21時15分 [京]】
924 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2022/07/26(火) 11:17:08.63 ID:jNG8MUzp0
読んでるよ、支援
925 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/07/28(木) 04:38:00.58 ID:eV4+hLm30
乙
アセルス姉ちゃんと烈斗くんで訓練とかたまらんシチュだなあ
926 :引換券 [saga]:2022/07/31(日) 23:16:33.58 ID:69/vRtt50
*******************************************************
―――
――
―























               【双子が旅立って12日目 午後 18時05分 "[ディスペア]" 】
















  ディスペア看守A「いや…なんというか作業員さん、アンタでっかいねぇ…こう逞しいというか体格に恵まれてるな」




     サンダー「えっ?そ、そうかなぁ…///」テレッ//


     リュート「なははっ!コイツが便利なんスよ〜!力仕事で大活躍するもんでして」

      ブルー「…。」




 リージョン界における凶悪犯罪者が収容される刑務所の"惑星<リージョン>"…[ディスペア]、此処にはブルーが兼ねてより
"印術の試練"を達成するために必要な[解放のルーン]が刻まれた巨石がある為ずっと来たがっていた場所であった

 此処に潜入したい、ただそれだけの為にアニー相手に(ブルー基準では)遜った態度で接しご機嫌を取り続けてきたのだ
色々あって"刑期100万年の男"に会いたいらしいクーン一行も交えて今この場に彼は立っているが…


  ディスペア看守A「そんだけゴツいなら檻越しに凶悪犯を見ても大丈夫そうだな!逆に向こうがビビるか!はははっ!」



     サンダー「ひえっ!凶悪犯!?!?こ、こわいよぉぉぉぉぉ!!アニキ〜〜〜!!」ガクブルガクブル

     リュート「…たはは!コイツ、ナリはこんなんだけど怖がりなんスよ…あはは」



      ブルー(…本当に連れてきてよかったのか、選択ミスったんじゃないのか俺よ)ハァ…


 蒼き魔術師一行に新たなメンバーが1人追加されていた…名前はサンダー、[オーガ]種のモンスターで
見た目通りの怪力、最初から習得している技も優秀なラインナップで並み大抵の雑兵なら蹴散らせる猛者である


 何故かちゃらんぽらんな無職の男をアニキと呼び慕うこの強面がどうしてこの場に居るのか?遡る事数時間前…―――
927 :次回は次の土日か早ければ水曜日 [saga]:2022/07/31(日) 23:17:13.45 ID:69/vRtt50

【双子が旅立って12日目 午後14時27分 [クーロン]】


   ブルー「…これがその指輪か?」

   クーン「そうだよ、えへへ〜!ブルー前から指輪の兄弟たちを見てみたいって言ってたけど、どう?どう?」

   ブルー「ふむ、確かに一つ一つには奇妙な魔力が宿っているがコレで願いが叶うとは思えんな…」



 祖国に伝わる古い御伽話、魔法の指輪を集めた賢王が[マジックキングダム]の国民を更により良い暮らしと豊かな富を
享受できるように"天国"への門を開き、多くの人々が楽園で夢の様な生活をできるようになった…という主旨の伝承がある

 御伽話と謳われる程の昔話は史実の中で本当にあった出来事を子供向けに簡略化した話として次世代へ伝え聞かせたり
あるいは長い歴史の中で伝言ゲームの要領で途中から間違った伝播のされ方をした語りだったり…
何れにせよ元となったネタが何かしらある筈なのだ


 自分が生まれ育った故郷、自分を育ててくれた祖国、御国の為に命を投げ捨てる覚悟の術士だ


 愛国心から"そういう事柄"には興味関心はある。


 緑の獣っ子から集めた指輪を観させてもらったが…正直なトコロやはり単なる作り話だったか、と彼は落胆した
確かに奇妙な魔力は宿っている、天に掲げれば認識阻害の効果や大人数を溢れんばかりの生命力で治癒することもできる
 それは認めるが…それだけのマジックアイテムに過ぎない


 とてもじゃないが何でも望みが叶うなんて出来過ぎた代物とまでは行かない、と彼は判断したのであった…




 ………ブルーの評価は間違っていない。


 個々の指輪は単なる"核<コア>"となる部位の力を増幅させるオプションに過ぎないのだから、一番の大本命つまり…
"核<コア>"となる大事な指輪を一目でも鑑定できる機会があればブルーの評価は180度裏返った事だろう






 指輪の兄弟の中で最も重要な指輪にして、最大の厄介者…メイレンが隠し持っている"黒の指輪"の存在さえ知っていれば




 カラン、カラン…!



 臨時休業中の札を掛けてある筈のイタ飯屋の扉が開かれた、カバレロ一味を地元の知り合いに預けてきた無職の男が
戻って来たのだろうと踏んで術士は入口の方を振り向く


 ブルー「―――やっと帰ってきたかリュー…トぉ!?」ビクッ


 手にしていた指輪をテーブルの上に置き、彼は振り返った…するとどうだ、そこには想像していた顔とは違った人物が
…否、それ以前に見た目が違った

 座ったままの姿勢と言えども振り向いた彼の視界に入ったのは立派な胸筋と腹筋、肌の色は真っ赤
少し首を下に向ければ靴も履かない剥き出しのゴツイ脚と鋭い爪を覗かせる爪先、上に向ければ厳つい顔した鬼の顔がある


  サンダー「えっ、ええっと…ど、どうも、オレ、サンダーって言うんだ。」オドオド


 図体とは裏腹にやけにオドオドした感じの[オーガ]種のモンスターが口を開いた、そんな巨漢の背後からひょっこりと
弦楽器を背負った無職が「よう!ブルー今帰ったぜ!!」と陽気な声で言いながら出てきた


   ブルー「お、おいリュート!!なんだコイツは!?」

  リュート「ああ、そうだった…なぁブルー、どうだろう?俺の弟分でサンダーっていうんだ」

  リュート「一緒に連れてってもらえないか?」


 帰ってきて早々にこの男はそんなことを言い出したのである。
928 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/08/01(月) 17:44:06.17 ID:Vk4ncGAa0
おつー
そういやマジックキングダムも指輪と関連深いんだな
929 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/08/03(水) 23:04:49.87 ID:k6E2CZHl0

 蒼き魔術師は品定めでもする様に紹介された弟分とやらを眺めた、容姿からも分かる通り腕っぷしは頼って良いと見た
戦力はあって困るものでもない…それに――――


  ブルー(…"モンスター"という種族も存外侮れんからな)チラッ

  スライム「(´・ω・)? ぶく?」ノソノソ


 術こそ全て、そんな魔術至上主義の民だったがリージョン界は彼が思う以上に広かった。

 少なくともこの旅の合間で何度このゲル状生物に助けられたことか…、一角獣の形態に代わり治癒や戦闘を繰り広げた事
地下で[巨獣]との闘いの時に[マリーチ]の姿になり最終的なトドメを刺したクーン

 戦闘形態でなくとも素の[スライム]の状態で[メイルシュトローム]の脅威から救われたのだって記憶に新しいだろうに


   ブルー「貴様の弟分か…。」ジッ

  サンダー「あ、あぅ…だ、ダメ?」ビクッ


   ブルー「よかろう、同行を認める…ただし!俺達は然る目的の為に[ディスペア]の監獄に潜入する」

   ブルー「しくじれば獄中生活を余儀なくされる事になるッ!…これを聞いて尚も覚悟は変えんか?」


  サンダー「う、うん!オレはアニキが行くなら何処へだって着いて行くよ!!」グッ!

   ブルー「…そうか、ならば何も言うまい。」


  リュート「おぉ!!良かったなぁ!サンダー!」

  サンダー「やったー!やったー!」ピョンピョン!


 大柄で無骨な鬼が無邪気な子供が如くぴょんぴょん飛び跳ねる、イタ飯屋の内部に振動が走る
扉奥からライザがやって来て「下の階までドスドス響いて来るからあまり暴れないで頂戴」とお小言を受ける程である
 そんなやり取りがされる中で魔術師はアニーに顔を向けて監獄潜入にこの新参者を連れてく上での確認を取る


 ブルー「確か…アニー、お前が用意してた潜入用の偽装IDや小道具には予備があったよな?」

 アニー「ああ、それね…なんかの手違いで潜入前にダメにしちまった時の為にって1人分多くは作らせてたわね〜」


 グラディウスなんて裏社会の仕事柄、何時どこで恨みを買ってる連中からの鉄砲玉が飛んでくるか判らない
不測の事態に巻き込まれて破損や紛失が有ってもいい様に最低でも1名分は余分に偽装IDは作らせていたが…。


 アニー「作業服に関しては…んー最悪モンスターの作業員ってコトでどうにかなるかなぁ」


 そう呟いてマグカップの中に注がれたモカを口にした、クーンはじめスライムも作業服は必要としない。
[ディスペア]潜入に置いてIDがあれば"モンスター"はどうにかなる、業者の服が必要なのはあくまで"人間<ヒューマン>"だ



  リュート「へへっ!ブルー、サンダーの奴を一緒に連れてくのを許してくれてありがとな!」ガシッ!

   ブルー「…フン、礼を言われるような事をしたつもりはない。」

   ブルー「そんなことよりも連れていくからにはコキ使うからそのつもりでいろ…戦闘面は頼りになるんだろう?」


 腕を伸ばして術士と肩を組む無職の男が朗らかな笑みを浮かべながら感謝を述べる、そんな男の馴れ馴れしさに
ため息を吐きつつも術士は腕を払い除けはしなかった。いい加減一々相手をするのも面倒になったからである
 同行を許したからにはお前の弟分と言えども戦力として使わせて貰うからな?とブルーが男に言う
すると彼はニィっと笑って次のような返事を口にした。




      リュート「サンダーは見た目は恐いが、本当に恐い奴だよ。」



…だから心配しなさんな。っと


―――
――
―
930 :次回は土日か月曜日予定 [saga]:2022/08/03(水) 23:05:25.83 ID:k6E2CZHl0


―――――そして現在




  ディスペア看守A「…あー、なんというか意外と怖がりさんか?」ポリポリ


    サンダー「だ、だって凶悪犯だなんてぇ…」ガクガク

     リュート「…あははは、ま、まぁ…コイツやる時はやる奴なんスよ」



   ブルー(…頭痛くなってきた)ハァ…




  ディスペア看守A「しかし今日は賑やかなもんだ、こんな美人さんまで居ると来た」

     メイレン「いやだもうっ!お世辞を言ってもなにもあげませんよ//」テレッ//



 褒められて気を良くしたのか破顔した顔で看守に手を振るメイレン、そんな作業服姿の彼女に笑いながら
お世辞じゃありませんよと肩を竦め看守は業者のIDコードのチェックに入る、サンダーの時と言い中々に口が巧いのだろう


  ディスペア看守A「許可書確認と。はい、どうぞ―――」




   「待て」




 看守がIDコードを機械で読み取り術士一行を通そうとしたところ、野太い声で止められる。声の主に視線を
送ればそこに居たのは立派なスーツに身を包み白い帽子を深々と目元近くまで被った男が立っていた。
 看守はその男の姿を見るや否や顔を強張らせて姿勢を正した。


 ディスペア看守A「しょ、所長ッ!」ビシッ


      所長「…いつもと違う作業員だな?」ジッ

 ディスペア看守A「許可書は本物です」


 部下からそれを聞くと監獄の最高責任者はふむ…っと顎に手を当てて暫し考え込む素振りを見せて彼に次の様に言った


    所長「ふむ、この業者は次の入札から外せ。孫請けに仕事を丸投げしおって…」


 やれやれ、最近の企業はコレだからいかんなと首を振った、それから一呼吸置いて所長はジッとクーンとスライムを見る


    所長「そこの犬達も作業するのか?」



      クーン「犬じゃないやい!」ムーッ
     スライム「(; ・`д・´)ぶ、ぶくぶくぶーーーっ!」ピョンピョン!


  メイレン「鼻が利くんです、何かと便利なんですよ」
   ブルー「本日はパイプ修理も承っております、聞けば野生の[ゼノ]や[スライム]が勝手に住み着いているとの事で」


 咄嗟にそれっぽい理由をつけてモンスター従業員も居るんですよとアピールしておく、パイプ管内部のゲル状生物共を
どうにかする為に鼻の利く奴や同種の生物を探せそうな奴も居るのだと。


   所長「…。」ジッ

   所長「よかろう、作業は迅速、かつ、確実にな」クルッ、…コツッ、コツッ、コツッ


 それだけ言って[ディスペア]の所長は踵を翻してその場を立ち去って行った…。ヒヤッとしたが第一関門は突破できた
931 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/08/05(金) 04:01:24.48 ID:/ymg/ilM0
クーンかわゆい
932 :次回は土日予定、早まる場合もあり [saga]:2022/08/08(月) 22:49:43.76 ID:a0fbJpcP0
―――
――
―


    アニー「ふぅ…さっきのは焦ったわ、よ、っと!」ヌギヌギ


 監獄内部に入り込んだ一行は作業着を脱ぎ、動きやすい普段着へと直ぐに着替える

 この刑務所の"常連客"だったアニーは所長が現れた時、心臓が飛び出すかと思った…冤罪で囚われたエミリアを
グラサン上司からの命令でライザと共に救出しに来たのはまだ半年も経っちゃいない割と最近の出来事であった
 [解放のルーン]が刻まれた巨石に触れて晴れて放免となった瞬間もあの道楽所長に顔を見られていた筈だ…
だから反射的に背を向けて顔を見られない様にもしたが、人数の多さとサンダーの巨体の影に居たのが功を成したのか?


怪しまれない程度には適当に電装関連の修理と配管の整備の方をしておいた、"ガワ"だけはそれっぽく見える雑な整備だが
わざわざ裏の流通ルートからアニーが時間を掛けて仕入れてきただけの事はある
 修理工の知識なんぞ空っきしの素人集団でもある程度は誤魔化しが利く位には修繕できる万能キットだったな


    メイレン「ええ、ヒヤッとしたわね…じゃあ道中の案内お願いするわよ」

     アニー「OK。そっちは"刑期100万年の男"に用があるんだったわね…」

     アニー「あたしもどんな奴か知らないけど場所に心当たりならあるわ」


 刑期100万年の男、どんな罪状で捕まったのかは知らないがその囚人は顔も年齢も何もかもが不明で、ただ一つだけ
[ディスペア]の最奥にある独房が彼の"塒<ねぐら>"であるとされている、あくまでも噂の域だが
 エミリア救出作戦時にルーファスから叩き込まれた地図の間取りやその他事前情報から照らし合わせると
やはりその謎に包まれた区画しか候補が残らなくなるので間違いないだろう


    ブルー「…おい、その囚人とやらも良いが俺の方の依頼は忘れてないだろうな?」ジトーッ

    アニー「ああっ、もうっ!わかってるわよ!忘れてないから!巨石の方でしょ!!…近い方から先に行くのよ」


 同じ刑務所で方やとある囚人に、方や刑務所内にある特別な巨石に、目的別の依頼人がそれぞれに居るのだ
ガイドしてやるのは構わないが生憎と黄金髪の女は分身の術なんて器用なモンは使えない
どの道[ディスペア]内部を歩き回るのだからまずは道中でクーン一行を目的の場所まで連れて行ってその後、ブルーを
ルーンの刻まれた石へと案内する手順だ
あ
 ここまで[解放のルーン]の為だけに何日もお預けを喰らった蒼き魔術師からすれば逸る気持ちもあるがグッと飲み込む
リージョン界の凶悪犯罪者が繋がれる施設だ、下手に単独で動くよりは勝手知ったる者達と共に歩むが吉、と理性で抑える


 階段を下り、長い梯子を下りてきた所でアニーが先頭に立ち「こっちよ。」と先導を始める、彼女に倣い太いパイプ管に
繋がっている梯子を昇り始める一行…しかし…


  リュート「ととっ…!?やべっ、着替えに手間取ってたら皆先に行っちまってらぁ!?」タタタッ

  リュート「……あり?あいつ等どっちに言ったんだ?」キョロキョロ


  サンダー「アニキーーーっ!置いてかないでくれぇ〜!」ドタバタ



―――――ドンッ!!


  リュート「おわっ!?サンダーばっかお前押すな!?」ワタワタ


 後ろから走って来た赤い巨体に押されて体勢を崩したリュートはそのままサンダーと縺れる様に転がりその先は―――




  ダストシュート『 「燃えるゴミは火・水」 』ドォーン!



 廃棄ゴミを捨てるためのダストシュートだァァッッ!!!転がる二人はそのままダストシュートから下層のゴミ捨て場に
あわや真っ逆さまに落ちていくゥ!!!


  リュート&サンダー「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」


 実に間抜けな話だが、こんなそんなで早速一行から逸れメンバーが出てしまったのであった…人数の多さ故か
パイプ管から入って行った魔術師一行もクーン一行もこれに気が付いていないという…
933 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/08/08(月) 22:53:46.64 ID:ghhlLhHXo
孫請けに仕事丸投げはいけないよね(戒め
934 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/08/09(火) 04:51:38.55 ID:5QpmsiA60
おつー
935 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/08/11(木) 03:11:54.82 ID:pc0lMB0V0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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936 :1日遅れて申し訳ない 続きは土日予定 [saga]:2022/08/15(月) 16:34:56.91 ID:rBkd7eZT0

 田舎出身組の二人がゴミ捨て場に落下する中、先行した面々は太いパイプ管の道を通っていた
エミリア曰く「まるで学食だわ」と評した囚人達の食堂の真上を通り、規則性のある動きで出現と消失を繰り返す
ゲル状生物の住処と化した湿り気のある配管の中を潜り抜け、その先の梯子を昇り…


  アニー「こっちよ、いつもなら此処を降りてくルートだけど今回はそっち、向こう側に飛び乗るわ」シュバッ!


 そう言って道中放し飼いにされていたモンスターを切り裂いた剣を鞘に納めた彼女が向こう側へと跳ぶ、それに倣うよう
他の潜入者達も跳んで行く、長い降り階段の先に厳重警備がされた扉が一つ


   メイレン「此処に刑期100万年の男がいるのね…」

  フェイオン「私が開けよう」スッ


 人の生涯が何人分費やされれば償えるかもわからなくなる途方もない罪科を背負った人物が待ち受ける部屋だ
慕っている女の身に大事があっては困ると辮髪の男が前に出て無骨な腕でドアの取っ手を掴む
 彼が戸を開けるとそこに居たのは……!!





       所長「ご苦労だったね、やはりここの囚人に用があったのかね。」




  アニー「なっ!?道楽所長…ッ!」


 独房の中に囚人など居なかった。いたのは[ディスペア]の最高権力者…この監獄の所長その人だったのだ…ッ!
全員が身構える、このままでは憐れ一行は刑務所の愉快な仲間入りを果たしてお揃いの囚人服で臭い飯を食うハメになると

 しかし…所長は身構えた一行を一瞥してからフッと笑い、手を振る「拘束する気はない、落ち着き給え」との言葉付きで


 メイレン「どうして、バレたの…」ゴクリッ


 入口の所で最初に出会った時からだろうか?こちらにはアニーが居た…やはり顔を見られていたのか?当然の疑問を
紫髪の女性が投げかける…すると所長は右手の甲を見せる様に軽く手を挙げた、その薬指に嵌められた装飾品を見せる様に


  所長「君らが来た時、これが光ってね。そう…私は"ここの所長でもあり、同時に囚人でもある"」


 彼は事も無げにさらりと言ってのけた、自分は監獄の最高責任者だが、同時に囚人なのだと…この事実を知る物は
世界に数える程しかいない、自由の身でありながらも囚われの身―――なんと矛盾した立場であろうか…。


  所長「この[ディスペア]全てが私のための監獄と言ってもいいだろう…」


 どこか遠くを見つめる様にそう呟いた所長の表情は…深々と被った帽子の所為で目元は見えにくいが
口元は何処か皮肉めいた自嘲とも取れる笑みを零していた。
 長い年月を同じ場所で、同じ様なルーチンワークばかりしていた、そんな疲れ切った男の顔に見えたのだ…

 「今日を解放の日とする。」などと宣い、腕に自信のある囚人が自由を掴むために監獄内を奔走する様を眺める娯楽を
愉しむという道楽に耽る理由も全てそこにありそうな気がした


  メイレン「…一体、何したの?」


 純粋な疑問を投げかけた、目の前の男は間違いなく風変りな変人だが…極悪人には見えなかったからだ
それに対して、痛い横腹を突かれたと言った具合の苦笑を浮かべながら彼は言う


  所長「フッ、指輪が欲しいのではないのか?」

 …触れて欲しくない内容なのだろうな、露骨に話題を逸らした所長と、そんな彼の前にトコトコ歩いて行くマイペースな
緑の獣っ子が「うんっ!」と元気に声を上げる


   所長「何故だ?」

  クーン「んっとね…――――――」

―――
――
―
937 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/08/18(木) 01:28:47.68 ID:dMToGOzu0
乙
所長妙に印象的よね
938 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2022/08/18(木) 04:20:06.98 ID:1Z0kFobQ0
スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています

何故一旦停止しないのですか

何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?
939 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/08/19(金) 02:57:33.52 ID:e+DWnUH90
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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940 :続き次の土日かもしれない [saga]:2022/08/21(日) 23:25:49.27 ID:3wW5IvOu0

 理由を問われたクーンはめちゃくちゃな説明をした。額に手を当て溜息を吐くメイレンや苦笑するフェイオン
それを眺める術士組達…なんとも混沌とした場だが、所長は顎に手を当て「そうか…まぁ、よかろう」と薬指に嵌めていた
[隠者の指輪]を取り外し差し出した


   所長「こんな所まで私に面会に来る者はそうはいない、持って行け。」


  クーン「良いの!?わーい!やったーっ!」ピョンピョン

  アニー「随分と気前が良いじゃないの」


   所長「さっきも言ったが君達が来た時にその指輪が光ったのだ、共鳴し合っていたから引き合わせただけだ」

   所長「退屈なのだよ、私は…。だからこそソレを君達に渡したらどうなるのか興味がある。」




   所長「クーンと言ったな?指輪を全て集め終えて君が目的を果たした暁には旅の話を聞かせてくれないか?」

  クーン「旅のお話?」

   所長「あぁ…とびっきりの冒険譚さ、どんな結末が待ち構えていたのかを語って欲しいんだ、私の退屈凌ぎになる」


 指輪をタダでくれてやる代わりに道楽所長は故郷の星を救いたがっている少年の物語を御所望のようで…
こうして変わり者の最高責任者と二言、三言ほど言葉を交わした後に一行は独房を後にした
 目的の一つ刑期100万年の男から指輪を得る事ができたのだ…であればもう一方の目的、[解放のルーン]が刻まれた石に
触れる為に監獄の最奥へと足を運ぶ必要がある

 それを聞いた所長は「ほう、また面白いショーを見せてくれるのかね?前の時同様に期待しているぞ」とアニーに言い
彼女は彼女で「げっ…やっぱりアンタ覚えてたのか…」と嫌そうな顔をしたそうな

―――
――
―


   ブルー「さて…長い遠回りだったが漸く、[解放のルーン]をこの[小石]に刻めるんだな」スッ


 蒼き魔術師は[バックパック]から取り出した石を眺めて感慨深く言葉を零した。4つあった石も残り2つ
その内の1つも今日この場でルーンが刻まれ、"資質"を得るのもそう遠くない未来になった訳だ…

 祖国から賜った使命…弟であるルージュと殺し合いをするという運命の日はまた近づくのだ


 クーン等一行は別に[印術]を極めたいワケではないので所長の計らいにより一足先に[ディスペア]の出口まで護送された
ボク達は一緒に行けないけど頑張ってね!と激励の言葉を受け彼らは来た道を戻り
アニーがいつも"客"を案内する本来の道順まで戻って来た


 スライム「(; ・`ω・´)ぶくぶくぶー」ノソノソ


  ブルー「ああ…一気に人手が少なくなったからな、警備ロボや放し飼いのモンスター共を相手取るのも疲れる」

  ブルー「1体1体は決して強くないが徒党を組まれて囲まれたとあってはな…改めて、戦いは数が物を言うと学んださ」


  アニー「へぇ〜、前までスライムが何言ってるのか全然分かってなかったのにまるでリュートみたいじゃん!」

  ブルー「あのボンクラと俺を同列にするのは止めろ!…別に理解してる訳じゃない、ただ大体言いたい事がわか――」



  ブルー「…。」



  ブルー「そういえばリュートで思い出したが、奴は何処だ?」キョロキョロ

  アニー「え」



 クーン達がパーティーから抜けた事で人員が減り戦力が大幅に落ちた、だから妙に手数が足りていないと思っていた
現状この面子3人しか居ない…っ!大所帯から一気に数が減った事で初めてリュートとサンダーが逸れた事に気が付いた

  ブルー「あ、あ、あんの大馬鹿野郎!!!何処に行ったんだァ!?」

 所内に術士の怒声が木霊した…。最近ちょっと見直したと思ったらコレである。
941 :色々立てこんだり不調だったりで遅くなりすまない、4レスだけですが投下 [saga]:2022/10/02(日) 23:46:48.30 ID:nkkEfNMT0

 蒼き魔術師は怒鳴り散らした後、冷静になろうと努めた…

 これまで通って来た道を思い出せ、ゲル状生物も沸く配管の中は多少複雑な部分はあったが構造からして結局の所は
一本道と言ってもいい道筋だ…これと言って枝分かれした道と呼べる物も無い
 強いて言うのであれば刑期100万年の男の独房と巨石へ通ずるルートとの分岐点だけである


 もしもリュートがパーティーから逸れてしまったと推測するのであれば何をどう間違ったか知らないが自分達に
置いて行かれて独房行きの道順へ続く足場へ跳ばずそのまま道なりに巨石ルートへ進んだであろうと考えた





 ……実際の所は、ブルー等が考えるよりももっとずっと前の段階からダストシュートから落っこちて行ったという話だが



  ブルー「…チィ、世話の焼ける奴らだ…ルーンの刻まれた巨石の部屋に行くついでに連中を見つけて回収せねばな」

 スライム「(;´・ω・) ぶくぶー…」


 分岐点まで戻って来た一行は下層へと飛び降り、直地地点からすぐの入り口へと入る…
元は山積みにされていたコンテナだったと思われるものが崩れていてそれを足場に降りていく、コンテナの中身だったのか
途中無造作に転がっていた[シェルガード]が目に付く、憶測だが[ディスペア]職員の備品なのではないだろうか?
 アニー曰く、この監獄の従業員用ロッカーに何故か[ハンドバズーカ]が入ってるらしいのでそれを踏まえると
脱獄犯を取り押さえるための装備なのだろうと思われる


 廊下に繋がる部屋の出口へと歩いて行く最中に蒼き魔術師が声を掛ける


  ブルー「アレには乗らんのか?」

  アニー「あぁ、あの作業用エレベーターね…あれ乗っちゃうと面倒臭い事に入口までほぼ強制で戻る道のりになるの」

  アニー「真っすぐ目指すなら廊下を出て、廃材置き場のマンホールから下水を通るのがベストよ」


  ブルー「ふぅん…そういう物なのか」


 ガチャッ





「キェェェェェェェェェー――ッッッ!!」



 扉を開くと同時に[ピックバード]が鋭い[クチバシ]を突き出しながら飛来してきた!番犬ならぬ番鳥ッ!
初めから侵入者が出てくることを知っていたかのような動きで突飛してくる鳥を視認すると同時に急ぎ戸を閉める

 廊下に出ようとした手前から直ぐ様にエレベーターの部屋に戻り鉄製の分厚い扉を引くと、ドッ!と強い衝撃と激突音が
伝わる…どうやら先程の鳥がそのまま扉に激突したようだ
 もう一度ゆっくりと戸を開き、隙間から何も居ないか覗き込む様に廊下を見れば…


 「ガーッ!ピーッ!侵入者の反応あり 侵入者の反応あり」
 「[ディスペア]内部に侵入者だ!今日は所長も視察に来ている日だぞ!!なんとしても捕らえるんだ!!」



  リュート「ひえ〜!勘弁してくれぇ〜!」ドタバタ
  サンダー「お助け〜!!!」ドタバタ



 向こう側から大量の警備兵と雇われモンスター等、そして警備ロボを引き付けてきたリュート等の姿が…っ!



      ブルー「 何 し て く れ て ん だ 貴 様 ァ !! 」



   リュート「あぁっ!!ブルー良い所!!助けてくれぇぃ!!」

    アニー「…いやぁ、あの数は雑魚とは言え骨が折れるわ、うん」

942 :実際 解放のルーンはアニーの道案内ガン無視した方が早い [saga]:2022/10/02(日) 23:48:17.11 ID:nkkEfNMT0

 勝てない敵ではない、これまでの戦いで術力にも余裕が出てきたブルーの[ヴァーミリオンサンズ]で楽に一掃はできる
しかし、一発二発で掃討完了とはいくまい…修理業者の人間として変装して入って来たから持ち込めた荷物も戦いに適した
いつもの服装と武具、最低限の回復薬のみであり[術酒]の類は生憎と今回は置いてきている

 やれなくはないが念には念を入れるのであれば温存と行きたいところだ


 三十六計逃げるに如かず―――こうなればリュート等の後続から迫って来る[ディスペア]職員達の集団とエンカウントを
してしまう前にひたすら先へ先へと駆けて目的の地点まで逃げ込むなりするのが吉であろう


   ブル−「ええい!こっちだ着いて来い!」バッ!

  リュート「えっ!?術で全員ぶっ飛ばすんじゃねーの!?」

   ブルー「そうしたいのは山々だがな!」




   アニー「こっちよ!」ガチャッ!


 監獄内を走り続け術士達はある一室を目指す、道中でふと見覚えのある道を走っている事に気が付いたリュートが叫ぶ


  リュート「オイオイ!その部屋はゴミ捨て場だぞ!」
  サンダー「ダストシュートから直通で落ちてきた場所だ〜!」

   アニー「こっちで合ってるの!良いから早くアンタ達も入りなさい!内側から鍵かけるからっ!」


 全員がゴミ捨て場に入ると同時にアニーが手早く鉄扉を閉じて鍵を閉める、当然職員達はマスターキーを持参している為
ほんの僅かな時間稼ぎにしかならない、そこで彼女は―――


  アニー「ゴミ捨て場なら板切れでも[鉄パイプ]でもなんでも手頃な物があるでしょう!心張り棒の代わりにするのよ」


 外側から簡単に開けない様にすべく廃材の山へと走り出す、ゴミ捨て場というだけあって何処から湧いたのか
虫系統のモンスターが二匹沸いてダンゴムシの様に転がりながら接近してくるが「邪魔よ!」の一言と共に切り捨てられる
 幸いにも塵置き場の格子扉は鍵が掛かっておらず簡単に開けることはできた、程よいサイズの鉄棒や木板、針金を手にし
戻ってきて手早くドアノブと扉上部のドアクローザーに細工を仕掛ける、これで簡単には鉄扉を突破できまい


  アニー「ふぅ、どうにかなったわね」

  ブルー「貴様、手慣れてるな…」

  アニー「そりゃあ仕事柄ね、で目的の場所だけどそこのマンホール下を通っていくわ」


 黄金髪の女が指差すはゴミ置き場から向って左の隅にある蓋の外れたマンホールであった
それを見て弦楽器を背負った男が「なんだ、わざわざ廊下に出なくてもそこの下に潜れば良かったのか」と嘆いていた


  リュート「サンダーと一緒に上のダストシュートから落っこちてそこのゴミ袋の上に着いたんだけどさ」

  リュート「そのまんま下水の方に行ってれば早かったのね…がっくし」ハァ…



  ブルー「もしや……貴様がいつも使う道案内ルートよりもコイツ等の来た道の方が最短ルートだったのではないか?」

  アニー「うっ!……こ、今回はクーン達をあの所長のトコに連れてく為にあのルートを通ったのよ!」


 ふとブルーは思った事をそのまま口に出してみた、いつもアニーは巨石に用がある顧客を
配管の上を伝うあの道順で案内してルーンへと連れて行く様だが、会敵の危険性と到達時間を顧みてもコレが最適解ではと

 断じていつも自分が"客"を案内する道順が遠回りなのではない!本来なら安全かつ最短で自分もダストシュートを使う!
…等とアニーが主張しているが本当かどうか怪しいものであった


 スライム「(;´・ω・) ぶくぶー、ぶくぶー、ぶくぶく!」ピョンピョン

 リュート「うん?幾ら扉に細工したって警備員が時間掛ければぶち破って来るから早く行こうってか?それもそうか…」


  ブルー「…今度は逸れるなよ」ジトーッ

 リュート「わ、分かったってば睨むなよ…」
943 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/10/02(日) 23:48:55.04 ID:nkkEfNMT0
―――
――
―

 ぴちょん…ぴちょん…。


 梯子を下りて黴臭さと古い油の様な匂いが入り混じった下水道を通っていく、時折"解放の日"に
チャレンジした者の遺体と思われる物か、随分と年季の入った囚人服と皮膚が腐れた遺体が下水の水に浮いていた…

 アニーが知り得る限り、ルーファス含む自分達以外に[ディスペア]の脱獄を試みた者はほぼ居ない、今の道楽所長の代に
変わってから成功させたのは初めてがあのグラサン上司なのだから…ここに浮かんでいるのはそれよりも
前のチャレンジャー達の末路と言った所だろうな


 金網状の床の上を歩き道中で遺骨を舐めていた[フェイトード]を蹴り飛ばし、梯子を上って出た先ではサーチライトの
強い光が床を照らしていた、"解放の日"を除いた厳戒態勢時はあの明かりが忙しなく動き回り
監獄内を忍び歩く者を探す役目を果たすのだが、幸いにもまだアレは稼働していないようであった

 そのまま道なりに進んでいくと路が途切れた場へと躍り出る、道は無く、ただ飛び降りる事で眼下に広がる通路に
一方通行でのみ向かう事ができる、ガラガラと音を立てて動く年季の入ったコンベアは鉄屑を何処かへと運んでいく



 目当てのブツは大階段を下った先の地下にある、であれば跳ばぬ理由など無いと言わんばかりに術士一行は飛び降り
コンベアの真横も通り抜けて長い長い降り階段へと…




 コツッ…コツッ…!



  アニー「さてとコレをアンタ達に渡しとくわね」スッ

  ブルー「? なんだこの不細工なヘルメットみたいな物は?」


 唐突に守銭奴の女から渡された奇妙な物体を手に蒼き術士はマジマジと眺める、自動二輪車を駆る者が着用する
バイザー付きのヘルメットの様にも見えなくはないソレを見て彼は言った…。


  ブルー「…いや、待てもしやコレは[赤外線スコープ]とやらか」


 多少部品を弄られた、ジャンク品の形跡はあるが確かにそれは赤外線を視認することができるようになる機器であった
術士に渡した物と同じ物を着用した女が口を開く、曰く「この先、入る度に変わる赤外線の迷路がある」とのことだ

 赤外線に触れれば即座にアラートが鳴り、どこからともなく警護のメカがすっ飛んでくるという寸法だ
リージョン界の名立たる悪党が投獄される監獄だけあって配備された戦闘機の能力はトリニティのお墨付き、モンド基地に
居た私兵団と同等か下手をすればそれ以上の場合もある


  アニー「避けれる戦闘は避けた方が良いでしょ」

  ブルー「…確かに」


 階段を降り切り、件のフロアへと扉を開き脚を進めると…


 リュート「おっ!!こりゃあすげぇや…マジに赤い線の壁が見えるぜ」

 サンダー「えぇ…そんなに凄いのかいアニキ?」
 スライム「('ω')ぶく?」


 "装飾品<アクセサリー>"しか装備できないモンスター種族達が"人間<ヒューマン>"に尋ねる、頭部装備ができる彼らにしか
視えざる壁の迷路の道を知る事はできないのであった…
 サンダー等からすればただ広っい空間に奇妙な円筒が一定間隔で大量に突き出てるだけの奇妙な間取りにしか見えない


  リュート「すげぇのなんのって、あえて遠回りするような道順だったり結構複雑に張り巡らされてんだよ」

  リュート「スパイ映画の主人公目線になったみたいだぜ…」テクテク


 ヒューっと口笛を吹いてすっかり上機嫌なリュートとその背にぴったりとついて来るモンスター種達、見えないからこそ
密着するように歩いて行くしかない
 落ち着いて赤外線の迷宮を通り抜り抜けて、[ヘッジホグ]が二体戯れている小部屋に辿り着く
赤外線のフロアが防衛ラインとして大本命だったのか抜けた先の守衛は強い物では無かった、容易くそれらを倒し
向って左側の梯子をよじ登り[ディスペア]のエアダクトへと一行は進んで行った
944 :今回ここまで 次回 土日予定 [saga]:2022/10/02(日) 23:50:14.34 ID:nkkEfNMT0

 ごうん…ごうん…!と人間どころか大型の貨物トラックさえ入りそうな巨大エアダクト内の突き当りでは換気扇が音を
立てながら回り続け、施設内に工業地帯の様な匂いと妙な湿り気を帯びた外気が空気を送り込んでいた

 向かい風の形で吹き付けてくる空気に逆らい、最奥まで進み壁伝いにちょっとした鉄格子があることを確認する
曰く、此処が目当ての巨石がある部屋へと通ずる抜け穴らしい
 工具箱から取り外し様の道具を漁り鉄格子を外す作業に掛かり出すアニー、彼女は術士達に向かって言う


  アニー「チョット後ろを見張ってて」

  ブルー「後ろだと?」

  アニー「ええ、"変なもの"が来るかもしれないから」


 以前エミリアを連れて此処を脱獄した時に背後から気色の悪い怪物がやってきたらしく
どうにもルーンを目指す者を襲う様にこの付近を塒<ねぐら>にしているらしい、雇われたモノなのか偶然ここの環境を
気に入り住み着いたのかは不明だが道楽所長はソレを大層気に入っていた


  サンダー「うぅ…なんか嫌な感じがする」


 後ろを見張る様に命じられた2人と2匹は自分達が入って来た入口の方に目線を向ける
換気扇の風切り音に混じってカタカタと妙な音が聞こえ始めたのは来た道を見つめて間もない事であった
 小心者の鬼人の言葉に応えるかの様に"ソレ"はやってきた

 生き物の死骸が長らく放置された腐臭と土の匂いを混ぜた異臭を漂わせ、ムカデを思わせる節足と蝙蝠の翼
先端からぶら下がったギョロ目付きの人間の頭蓋骨――――[ニドヘッグ]と呼ばれるモンスターが歯をガチガチ鳴らして
笑いながら此方へとやってきた…ッ!



  ニドヘッグ「ゲヘゲヘゲヘ… にお い" す"る…ケヒェヒェ…」ズルズル…!


 4本の赤い腕の様な触手から伸びた鋭い爪は宛ら騎兵隊のランスか何かか、死体喰いの百足は低い声で唸りながら
獲物達の姿を捉え…


    ズダダダダダダダダダダダダダダダダダ…!!!


 槍の様な四本腕を前に突き出す姿勢で猛進撃を繰り出して来た…ッッッ!!4本槍と無数の針の様な脚で
獲物を踏み刺して行かんとする一直線上に放たれる技、[百足蹂躙]であるッ!


   ブルー「各員、左右に散開しろ!!」バッ

  リュート「うひ〜っ!でっけぇムカデだぁ〜!気持ちワリィぜ!!」スチャッ!


 術士とゲル状生物が、[ヨークランド]組がそれぞれ左右に分かれる様に飛び退き各々の武器を手にする
[鬼走り]の射線同様、分かりやすい技であるが為に避けやすくだがそんなことは想定済みだと言わんばかりにすれ違い様に
4本腕を器用に動かし左右に分断させた4名目掛けて[突き]を繰り出す

 瞬時に[ユニコーン]に変化したスライムに運ばれて刺突から免れた術士組に対して田舎出身組は
方や手にした武器で見事に[ディフレクト]し、もう片方は憶病な性格は何処へやら、ガッシリと大樹の様な太い両腕で
死体喰いの腕を受け止めたではないか…ッ!!



   ニドヘッグ「!!!」ググググ…ッ

    サンダー「ひぃ〜…危うく眉間に穴開いちまうトコだったぁ〜!!」


 情けない声とは裏腹に掴んだ相手の腕はピクリとも動かない、見た目通りの剛腕は確かに脱獄を試みた人物を何人も
葬って来た怪物の刺突を受けきっていたのである


    ブルー(…ほう?リュートと共に監獄内を逃げ回っていたが…なるほど、見掛け倒しではないということか)
   スライム「(;´・ω・)ぶくー?」パカラッ!パカラッ!

    ブルー「…なんでもない、少し考え事をしてただけだ、それよりも俺を乗せてるんだ前見て走ってくれ」


 回避の術士組と防御の田舎組、避ける事と受け止める事とで違いはあるがどちらもダメージを完全に無効化している事に
違いはなかった…。[ニドヘッグ]は下手に全員を狙うよりも各個撃破を優先すべきと考え、回避よりもガードに専念する
[ヨークランド]組を狙う事に決めたようだ
 赤い四本腕の根元…つまりは肩に当たる部位が開き、そこから目玉が現れる…!両肩の眼球と宙ぶらりんの頭蓋骨から
覗かせる一つ目が怪しく輝いた
 黄光を纏った魔眼をリュートに向けて"凝視"する…ッッッッ!!
945 :今回はここまで 次回は火曜日か水曜日予定 [saga]:2022/10/09(日) 22:53:06.48 ID:Mza6y9UQ0

 死体喰いの百足が魅せたのは[マヒ凝視]だ、先端からぶら下がった人骨の一つ目が彼奴の主眼であるのあらば両肩から
浮き出る眼球は副眼と言えよう、単純に視覚範囲を広げる為だけに非ず…自身の生態系に詳しくない敵が死角を攻めようと
主眼では見えない懐に飛び込んだ者あるいは肩背部目掛けて強襲を仕掛けようと動き出した者に対してのカウンターだ
 初見で肩に[マヒ凝視]を発生させる魔眼が隠されていると知らずに接近した敵対者を絡めとり
身動きが取れなくなった所を逆に討ち取るというのが彼奴の手口なのである


  リュート「ぐぉっ」ガクンッ


 浮かび上がる瞳を直視した為、急速に力が抜け落ち手足が痺れ出す。
思う様に身体が動かなくなった所へ[ニドヘッグ]は身体を撓らせて器用に無数の脚をリュートの方へと向ける

 向けられると同時に百足の細く鋭い脚が胴から飛びぬけた…ッ!

 無数の[針]が機銃の弾丸の如く青年目掛けて放たれた、それを見た弟分が「アニキ!」と叫びながら
腕から発生させた電流を百足と青年の中間点目掛けて撃ちだす



   ドッグォォォォン…!!



  サンダー「アニキ!大丈夫かい!?」

  リュート「お、おう…たひゅかったぜ、しゃんらー」


 麻痺の影響で呂律が回らないながらも礼を述べるリュート、サンダーが習得していた[電撃]が上手いこと相手の[針]に
当たり小規模な爆発を起こして相殺したのであった。


   ニドヘッグ「お…おの…れ ぐぐぐ…クヒャ――――ッ!」ビリビリビリビリ…!!



   ブルー「っ!?こ、これは…」クラッ

   アニー「うるさっ!?」
  スライム「Σ(・ω・;) ぶくっ!?」


 耳を劈く様な音、大気さえも震わす振動が辺りに響き渡る、[ユニコーン]形態のスライムが思わず竦み脚を止め掛け
騎乗中のブルーも眩暈を覚える"音"による攻撃、ここがダクト内部という筒状の空間だからこそ
反響音が増すという点もあるのだろう前線から離れてるアニーでさえ耳を抑えたくなる"悪環境に恵まれた[スクリーム]"が
容赦なく[ヨークランド]組の二人を襲った…!


  リュート「ぐぅぅぅぁ―――――!!」ビリリリリッ!
  サンダー「うわあああああああぁぁぁっ!!」ビリリリッ!


 "音撃波<ソニックウェーブ>"が相手とあっては[ディフレクト]で防ぐことはできない、直撃を受けて尚もまだ立っていられる
タフさ売りのサンダーと流石に膝をついたリュートを見て死を喰らう百足は笑い出す



    ニドヘッグ「 よ わ い ナ ぁ 」ゲヘゲヘゲヘ!

    ニドヘッグ「みな…ごろ…し… うケェーッケッケッ…」



 百足から垂れ下がる頭蓋骨は下卑た笑みを浮かべ、腸の様に長くグロテスクな触手を喉奥から伸ばす
管の様なソレの先端には注射器の針に似た骨が付いており相手の生体エキスを奪い取るモンスターの技能、[生気吸引]に
使われるソレであることが分かった、まだ麻痺で動けぬリュートに狙いを定めてソレを伸ばし…!



  ブルー「汝、現世においてあらゆる束縛から解き放たれん!――[解放のルーン]よ!」フォンッ!フォンッ!



  リュート(おぉっ!身体の痺れが消えた―――動くぞ!恩に着るぜ!)スチャッ、ズジャッ!!!

  ニドヘッグ「ぐぎゃあああああああああ"ああ"あ""あぁ"ぁぁ…!!」ビチャァァ!


 自由を授ける文字の加護を得たリュートは即座に剣を振るい自分目掛けて飛んできた触手を切り飛ばす
赤黒い飛沫を上げて暴れ狂うソレ、切断された先端部位は骨針を何度も床に叩きつけながらビチビチと暴れ…次第に
強い日差しに照られた蚯蚓の様にゆっくりと動かなくなった

946 :次回は火曜日か水曜日予定 [saga]:2022/10/12(水) 18:01:02.52 ID:GiLQJumW0

 切り飛ばされた器官を一瞥して死を喰らう百足は怒りを体現せんと長い胴体を振り回す
地下空洞に住まう[巨獣]や基地の護り手を担っていた[巨人]…野心家が産み出した"力"の結晶[グレートモンド]…etc
蒼き術士一行はこれまでも強者と死闘を繰り広げてきた身だ、その彼らをして見れば目の前の蟲は決して強いとは言えない

 監獄内で追って来る職員と警護ロボ、モンスターの群れといった数の暴力とも違って相手は単一


 激戦に次ぐ激戦を抜けてきた事で最早、[ニドヘッグ]程度なら主戦力のアニーが居なくとも
そこそこに渡り合えるレベルには成長していた…

 この戦闘で注意すべき点は"空間"の問題だろう。

 筒状のダクト内だからこそ[スクリーム]の音響が響き威力も底上げされ、巨大百足と言った風貌の[ニドヘッグ]にとって
程よく自分は動けることが可能でありながらその巨体ゆえに相手の移動を妨げる事ができるという点だ


    ニッドッグ「 ぐ が あ あ あ あ ! …よ、よ"くも、やった"ナぁぁぁ!!」


   ニドヘッグの腕『 』ブォン!
   ニドヘッグの胴・脚『 』ヒュッ!


――――パシィィィン…!

 両肩の眼玉もフル活用して視野を広げ、4腕のランスで逃げる得物を串刺しにしようと[突き]を繰り返し
胴を鞭の様に振り回してダクト内部で幾度と無く叩きつけていく
 時折[百足蹂躙]を織り交ぜて突撃と移動を繰り返し、果てはこの場が筒状である事を利用し壁を、天井をと移動していく


  リュート「うへぇぇぇ…天井をカサカサ言いながら這ってやがるぜ…やっぱデケェ百足ってのは気色悪いなぁ」


 見上げれば赤と黒の長い胴がジグザグに動いて先端の頭蓋骨が自分達を―――地上を見下ろす形で垂れ下がっている
そして骨は口を開き音波攻撃を垂れ流して来る
 器用に天井に張り付いたまま、地表目掛けての[スクリーム]を放出しながら動き回る


   スライム「(;´・ω・)ぶく…!」
   ブルー「チィ!厄介な…爆ぜろ[インプロージョン]!」キュィィィン


 8の字を描く様に首を振り回す逆さ吊りの百足、それに応じる様に"音撃波<ソニックウェーブ>"が照射された床が砕け罅割れる
無茶苦茶な軌道で飛んでくるそれを避ける一角獣の背から振り下ろされない様にしがみ付きながらもブルーは術を唱え
 長い胴体の内の幾つかを消し飛ばす…!弾ける蟲肉片、上がる悲鳴、致命傷を与えられなかった事に彼は舌を打つ


    ブルー「ええぃ!まどろっこしい…あんなにも動き回られては狙いが定まらんかッ!」


   リュート「ブルー狙いさえ定まればなんとかなりそうなのか!?」

    ブルー「…ああ、あのクソ忌々しい一つ目付きを粉微塵に爆破してやれるさ!」

   リュート「OK!サンダー俺をぶん投げろ、その後はお前のアレでワンツーフィニッシュ決めるぜ!」


 術士にそれだけを確認すると糸目の青年は弟分にそう笑いかける、それを見て彼の隣を走っていた気弱な豪鬼は青年を
掴み取柄の剛腕で天井を走る百足目掛けてリュートを投擲するッ!


   サンダー「うおおおおおぉぉぉ!アニキーッ!行ってくれぇぇぇぇぇッ!!」ブンッ


 豪鬼の筋力で天井目掛けて打ち上げられた青年は[刀]を手に[諸手突き]の構えで死を喰らう百足の先端――頭蓋骨が
ぶら下がった胸部へと一直線に飛んで行く


   ニドヘッグ「…く…くルな…!!」


 風を切り飛ぶ男目掛けて両肩の魔眼を開き幾度も瞬く、だが…!解放の加護を受けた彼に[マヒ凝視]は意味を為さない
四つ腕の[突き]を放つもリュートの刺突は突き出された腕ごとへし折りながら胸部へと突き立てられ
 百足は悲鳴をあげて地に落ちる…、背にジリジリと伝わる落下の衝撃、そして一つ目を見開けば天には大きな人影が…!


     サンダー「[グランドヒット]だぁぁぁぁ!!」ゴォォォッ!!


 筋骨隆々の巨体がその身を活かした急降下を仕掛け[ニドヘッグ]に重い一撃を与える、百足は降って来た重量に
呼応するかのように上体を仰け反らせ、掛けられた圧で頭蓋骨から目玉が飛び出しそうになった
 飛び出しそうな一つ目が"最期に"網膜に焼き付けた物は…地にサンダーと言う名の杭で止められた自身に向けて
魔術を唱える蒼い衣を纏った術士の姿であった…っ!
947 :続き来週の火水のどっちか予定 [saga]:2022/10/18(火) 22:31:10.98 ID:OAoGcI+90

 …ジュゥゥゥゥ…!


 宙ぶらりんだった頭部は黒ずみ、焼け崩れては消えていく…それに合わせて長い百足の胴体も蜃気楼の如く消えて行った
かくして監獄内で蠢いていた一匹の蟲は生涯に幕を下ろしたのであった


    ブルー「終わったな」


 一角獣形態から元のゲル状に戻ったスライムが言葉も無く頷いた、…モンスターは倒したモンスターを破片でもいいから
取り込むことで相手の生命情報を取り込み"技"を得とくできるが…どうやらこのゲル状生物も兄貴分を担ぎ上げてる豪鬼も
[ニドヘッグ]というゲテモノを取り込まなかったようだ


 …まぁあの百足を取り込んだ所で大した物は得られんだろう、彼奴が使ってきた[百足蹂躙]と
悪趣味な生涯の記憶くらいしか手に入りそうにないだろうし



               「やーっと!開いたわ!!」ガコンッ


 ブルーが振り返ると螺子回しとスパナを手に汗を拭うアニーの姿がそこにはあった、「やっと開いたか」とだけ呟いて
我先にと彼は目当てのブツが保管されているであろう部屋へと進んでいく


     アニー「あぁっ!ちょっと待ちなさいよっ!もうっ!」タッタッタッ!

    リュート「俺達も行くぞ!サンダーあの穴の中に突っ込め!」
    サンダー「おう!任せてくれよ」ドドドドッ!



―――
――
―
【双子が旅立って12日目 午後 19時48分 "[ディスペア]" 】


 シュタッ!


 監獄の最奥にその巨石はあった、美術館の展示品か何か様に囲われたソレにはアルファベットのPに似た文字が刻まれ
誰を待つでも無く佇んでいた…天井から巨石を照らす様に射す一筋の光が照明の物か、はたまた天窓か何かの月明かりか…
神秘性を含んだルーンの巨石を目の当たりにしたブルーにとってはどちらでも良い事だった


  ブルー「おぉ…!遂に…やっと、やっと3つ目のルーンを…っ!」フラフラ…



 万感の思いだった。

 祖国を旅立ちまだ2週間と経たぬ間だが、この3つ目のルーンを得る為だけにどれだけ遠い回り道をしてきたことか…っ!



 此処に忍び込む為だけに守銭奴の女に媚び諂い、金策に走ったり、知り合った連中の騒動に巻き込まれたり
胸に色んな感情や悩みを抱えた奴らと出会い、自分の知らぬ文化や世界を知ったり…

 …気づけば、喧しい馬鹿共と騒ぐ時間を悪くないと思い始めてしまったり…。


 そこまで考えて彼は首を横に振った、鞄からルーンの小石を取り出しふらふらと蛍光灯に釣られる羽虫の様に階段を昇り
巨石に手を伸ばし―――――


                フォン…!

  i'⌒  \    
  |  | \ \  
  |  |  / /    フォン…!
  |  レ゙ /     .
  |  /      .
  |  |        
  |  |        
  弋,丿       

  フォン…!


           『解放のルーン』を手に入れた!
948 :続き来週の火曜日か水曜日予定 [saga]:2022/10/25(火) 23:56:42.09 ID:GxthtBYw0

 手にした小石に刻み込まれたルーンを眺める、そこには求めて止まなかったやまなかった解放の象徴があった…。
これで残す巨石巡りもあと一カ所、しかも場所の特定も出来ている―――今、ブルーが成り行き上で下宿しているイタ飯屋
あそこの店主がやたらと[シュライク]の古墳へ「男のロマン」がどうこう言いながら語って来るのだ


 最後の巨石はその古墳に在り。


 遺跡の一種というだけあって中に挑み行方不明者となった者は数知れず、如何なる罠や魔物が潜むか分からぬ以上
最善を考えるのであれば場所の特定はできていても単騎で突っ込むのは得策ではない

 …グラサン店主が行きたいと豪語しているのだ、折角だからもう少しグラディウスの連中を利用させて貰おうではないか




  アニー「ちょっとアンタねぇ…!一人だけ抜け駆けってのはズルいでしょーが!!」タッタッタ…!グイッッ!

  ブルー「く"え"っっ!?」ギューッ



 そこまで考えていた術士を思考の底から引き摺り上げたのは守銭奴の女であった、…仲間を置いて一人で勝手に先行して
巨石に触った事にお怒りの様で術士の法衣についてる霊獣の毛皮を使ったショールを引っ掴みそのまま首を絞められる術士


  リュート「とうちゃ〜く!…おろ?なんだなんだ、ブルーの奴まぁたアニーにシメられてらぁ…おっかねぇ」シュタッ

  サンダー「うひ〜…ブルーさん顔がトマトみたいに赤くなったと思ったら青くなってる…助けた方がいいんじゃ?」


 危うい顔色をし始めた所でギブギブ!と叩いて来る術士を黄金色の髪をした女は解放した、息を切らせながら術士は
首を絞めてきた彼女を睨みつけ「先走ったのは悪かったが少しは加減しろ!」と怒りを表した







  「はっはっはっ!愉快愉快、準備の抜かりなさといい、先程の戦いぶりといい、それにコメディまで見せるとはね」




 パチパチと手拍子と共に称賛の声が上部から浴びせられる、首を天へ向ければ強化硝子の窓越しに道楽所長が此方を
見下ろしているのがわかる、キャスター付きの椅子が二つに監視用なのか古いタイプのパソコンが2台置かれた小部屋から
彼は術士一行のこれまでの動きを見ていたようだ



    クーン「ブルー!おめでとー!」ピョンピョン

  フェイオン「我々もこの部屋から君達の活躍を見て居たぞ、やったな!」



     所長「良い退屈凌ぎになったよ、そこの扉を開けてあげるから出給え」カチッ


 ルーンの小石集めには参加していないクーン等とすっかり御眼鏡に叶ったのか上機嫌な道楽所長に今のやり取りを見られ
ムスッとした顔で退室する術士とそれに続く面々、かくして[ディスペア]潜入は幕を閉じたのであった。

―――
――
―

 文字の刻まれた小石を3つ、大事そうに眺めながら彼は[クーロン]の繁華街を歩いていく
監獄から帰ってきた一行は発着場で各々に解散、ブルーはアニーと共にイタ飯屋への帰路に着いていた


 アニー「ず〜っと石なんかを眺めちゃって気持ち悪いわねぇ…」

 ブルー「フン、なんとでも言え、俺にとってはルージュと対峙する際の力に近づけた証なのだ」

 アニー「はいはい、前エミリアが話してた決着つけたい弟さんね…子供の喧嘩みたいなことに態々資質集めなんて」ヤレヤレ



 カランカラン…!

 未だ双子で殺し合いをするという真実を知らぬアニーは店の扉を開けて「ただいまー」と一声掛ける
休業中の店内にはまだ奥に置き場所が無いのか大量の武器が置かれていた…ジョーカーとの決戦に向けての物資だ
これだけのブツをアジトに持ち込んで来たということはいよいよ以て大規模作戦も間近といった所なのだろう
949 :続き来週の火曜日か水曜日予定 [saga]:2022/11/02(水) 02:08:46.97 ID:WxhF7TZs0

 搬送されていく物資を眺めながら「随分と物々しいな」と術士の青年は独り言ちる、そこへ通り掛った赤紫色の髪をした
女性が「今追っている巨大な敵との決戦だからね」と声を掛けた


  ライザ「これまでも色んな奴を相手取って来たけど…ジョーカーはそんな連中とは一線を画するわ」


  ライザ「仮面の下の素顔は勿論の事、正体に関連する尻尾を掴ませずそれでいて
         様々な犯罪組織や政界の大物と接触を図れるコネクションや情報量…用意の周到さ」


  ライザ「他のグラディウス支部は当然として雇えるのなら外部の手を借りてでも戦力を集めて総力戦で行きたいわ」


 と、告げて蒼の術士をジッと見てくるライザの視線からそそくさと逃げる様にブルーは割り当てられた自室へと向かう
修練には丁度良いのかもしれんが監獄帰りで疲れてる今そういう話はパスだ
 さっさとシャワーを浴びて布団の上に倒れ込んでしまいたいという気持ちが大きかった


 …残りの巨石巡りもあと1カ所…、ルーファス等を戦力として組み込んだパーティー編成で最後の一つに挑みたい所だが
御覧の通りジョーカー戦に向けた準備に加え(決着がつくまでは午後4時から10時までの短期経営だが)店の経営もある

 グラディウス組を同伴しての[シュライク]までの遠征は少し時間を要する…暫し暇になるだろうな




 …なに?グラディウス組が駄目ならリュートとサンダーを連れて行けばいいじゃない、だって?



 今日の[ディスペア]での教訓である、戦力として頼れはするが変な罠踏んだり余計な仕事も増やすからリカバリーが要る
指輪集め御一行はもう次の指輪を求めて何処かに旅立った事だろうし…
 術士は歩きながらそう言えば次にクーン達が何処に行くか訊いていなかったな…と考えもしたが
尤も旅の目的も違うし俺とはもう会う事もあるまいと、そこで思考を止めた


 ガチャッ


 自室に戻った術士は背負っていた荷物を降ろして衣服棚からバスタオルとこっちでの生活に合わせた寝間着に手を伸ばす
初めの頃は魔法王国の一般的な服と違う意匠に戸惑いもあったが随分とラフな服装にも慣れたものだと思える

 ふと、手を伸ばした彼の眼には棚の中に大事そうにあ保管していた一枚のディスクが留まった
3日前にレオナルドから渡されたデータの入った円盤だ


  ブルー「…そういえば、これも暇があれば[IRPO]に渡してくれと頼まれていたな」


 勝利を冠する印を取得できるのはグラディウスの最終準備段階が終わった頃だ…
ともすれば近々届けてやるのも吝かではない

 衣服とタオルを手にした彼はぼんやりとそう考えながら棚を閉じ、ゆっくりと蒼の法衣を脱いだ

―――
――
―

     [ディスペア]からの帰還からそのまま就寝して…さらに1日、アニーからいつも通りの稽古を受け

  裏通りにあったpzkw�Xの店から譲り受けた大量の重火器と各地から仕入れてきたトラップの類を運ぶ手伝いをし

   ……偶にウザ絡みしてきたリュートをモップで撃退なんかもして丸一日を過ごし



そして祖国を発ってから14日目の正午…

【双子が旅立って14日目 午後12時00分 [IRPO] 】



  ブルー「なんでお前等までついて来ることになったんだか…」

 リュート「いやぁ〜お前が警察に行くなんて何事かと思ったし〜?聞けばレオナルドさんの頼みらしいじゃん?」
 サンダー「アニキが世話になったって人の頼み事ならオレも手伝いたいよ!」

  アニー「ルーファスの奴が何かこれからアンタと会う刑事は顔が利くからモンド潰しの土台を今から築けってさ」
 スライム「(`・ω・´)ぶくっ!」フンス


 機械博士の頼みでモンドが関わっているからと田舎出身の二人が駆けつけ、金髪の女は上司が"ジョーカーを倒した後で"
遠からぬ未来でグラディウスが標的にするであろうとモンドへの一手として布石を巻く為に派遣した、スライムは説明不要
950 :今回2レス 次回来週の火曜日か水曜日予定 [saga]:2022/11/09(水) 10:46:30.62 ID:UAPF01160

 理由はともあれ各々がブルーの用事に付き合うらしい、彼はそんな仲間達と共に[IRPO]の受付へと向かい
桃色髪に白い帽子をちょこんと乗せた受付嬢に声を掛ける


  [IRPO]受付嬢「一般の方はご遠慮下さい。」

     ブルー「ヒューズ捜査官、…ロスター捜査官に取り次いでもらいたい。」


 良くも悪くも組織内で有名な不良警官のコードネームではない、本名を告げられて受付嬢は少し考える。
捜査官は基本的に自身の名を明かさない物で、それを知っているとなれば信頼ある人物、もしくは信頼に足る者から紹介…


  [IRPO]受付嬢「失礼ですが、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょう?」

     ブルー「とある人物から彼にこのディスクを渡して欲しいと頼まれたのだ。」


  [IRPO]受付嬢「…。わかりました、では応接室の方へどうぞ。」

―――
――
―

 通された部屋は一面に赤糸で紡いだ絨毯が敷かれた会議室の様な間取りで中央に大机が置いてあり、それを取り囲む様に
茶色い革ソファーが八脚程置かれていた、通された一行は件の刑事が来るまでの間、椅子に腰かけ談笑に花を咲かせたり
キョロキョロと応接室の内装を落ち着かなさそうに眺めたり、出された茶を啜り頬杖を突いたり…三者三様に待ちぼうけた

 どれ程、待ったことだろうか?ブルーが空っぽになった湯飲みの底をぼんやりと眺めていた時、陽気な声と共に彼は来た



  ヒューズ「いやー、待たせたね。なんかウチにヤバい案件のタレコミに来たんだって?………んっ?」ピタッ



 ロスター捜査官は術士の顔を見て、歩みを止めた。時を同じくしてブルーも彼の顔を見て固まった。




       - ブルー『自己紹介がまだだったな、ブルーだ』 -

    - ヒューズ『俺はヒューズ、見ての通り[IRPO]所属の刑事だ、そっちの小僧はレッドってんだ』 -





  ヒューズ「あっ、アンタはあの時キグナスに乗ってた術士じゃないか!」

   ブルー「そういうお前は…あの気に喰わん名前の奴と一緒に居た…!!
               そうかヒューズという名、何処かで聞いた様な名だと思ったが…お前の事だったのか」


  リュート「えっ!?なんだブルー、お前さんこの人と知り合いだったのか?上京したての頃に俺もバーガー屋で…」



   アニー「……なんていうか、世間ってかなり狭いわね。会う人が大体誰かと誰かの知り合いじゃないの…」ハァ…



   アニー「あー、知り合いなら話は早いわね、ブルーが受付の子に用件を伝えた後であたしも付け加えたけどさ」

   アニー「あたしは"ルーファス"のお使いで派遣されたアニーよ、よろしく」



  ヒューズ「ほぉ〜?ルーファスん所の…」ジーッ


   アニー「?」

  アニーの胸『 』ボインッ!



  ヒューズ「…なるほどなぁ、ルーファスの奴め良い部下持ってるじゃねぇか〜!」デヘヘ


―――
――
―
951 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2022/11/09(水) 10:47:20.52 ID:UAPF01160



 ヒューズ「……えー、つまりアンタ等はモンドの野郎が裏でコソコソやってる悪事の証拠データを持ってきたと」ヒリヒリ



 頬っぺたに出来た真っ赤な紅葉をまだ抑えながら、ヒューズは受けた説明を確認するように問う。
先程まで鼻の下を伸ばしながらアニーの胸を凝視していたのとは打って代わり真面目な顔で彼は言葉を続ける…
平手打ちの乾いた音が反響するくらいには程良い間取りの会議室でジロリと一行を一瞥しながら。


 ヒューズ「事情は分かった。だがね、ハイそうですかじゃあウチの方で見ますねと直ぐにはならんのだよ。」

  アニー「は?なんでよ…」


 ヒューズ「仕事柄でね、色んな所から恨みを買っちまうんだよウチは。」

 ヒューズ「分かるかい?レオナルド博士からの紹介っつーことで一定の信頼はあるけどな
          お巡りさんトコのPCをハッキングされたりウイルスを送られたりとかそーいうのあんだわ」


 ヒューズ「お役所特有のクソめんどくせぇ手続きだの申請だのと色々必要なんだよ…。」ポリポリ


 ヒューズ「持ち込まれた"ネタ"もネタで特級にやべぇ奴だし、これ開示するにあたってアンタ等の素性も問題になる」



 ヒューズ「何よりパトロールの活動に協力してもらわにゃならんのよ、規則なんでね」


 "規則だから"彼は術士にそう言い切った。


 [IRPO]では"盾のカード"を欲する旅人が後を絶たず、資質の為にカードを集める者と同行して任務をこなし
その人物の人間性、器量、力を得た後でそれをどのように使いこなすか…悪事に転用しようとする傾向があるのか等を
見定めるという一環がある。



 ……生憎と"ヒューズはブルーという人物の人柄を直接その目で見ていない"



 キグナス号で確かに双子の弟のルージュとは出会い、直接言葉を交わし…彼が温厚で正義感溢れる人物であると理解した
だが対して僅かな時間とはいえ邂逅のあったブルーは紅き術士とは正反対に、「自分が気に入らないから名前だから」と
そんな理由で手を組む事を否定し、更に船が動かなければ自分が困ると…

 要するに言ってしまえば自己中心的な性格と、あの時に見受けられた。


 自分さえ良ければ周りがどうなろうと構わない、そういうタイプの人間は自分の利益の為に殺人や盗みなど犯罪にも走る


 …無論、それは極一部の例であって皆が皆そうではないのだ。だが彼が絶対的にそうでないと言い切れる保証も無く
紹介があったから流石に無いと思いたいがブルーが実はモンドか[IRPO]に敵対的な誰某に金で雇われたスパイの様な存在で
レオナルドからのディスクと称して[IRPO]にとって不都合なスパイウェアにすり替えて此処に来たという線もゼロではない


 刑事なんて職業やってれば人を疑うのは間違っちゃいない。故に"盾のカード"譲渡を含む重要案件が転がり込んだ場合は
馬鹿馬鹿しい話だと思うが、パトロールの任務活動に協力するという規則が付いて回るのであった



       ブルー「わかった。何をすればいい?」

      ヒューズ「物分かりがいいな。」






      ヒューズ「[ムスペルニブル]に行くぞ。」ニィ



 パトロールの活動を協力してもらう、その一環として彼は兼ねてより組織が抱えている"人材不足"という案件の解決と
ついでに上司に頼まれていた山頂に咲く黄色い花の採取をしようと考えたのであった。


  ヒューズ(…にしても、本当にそっくりだぜ…流石は双子ってトコか?ルージュの奴とは性格も雰囲気も違うが)
952 :次回来週か早ければ今週中にもう一回更新 [saga]:2022/11/16(水) 19:20:45.41 ID:39lyyz6t0
―――
――
―

【双子が旅立って14日目 午後16時26分 [ムスペルニブル] 】


―――――ヒュォォォォォ…


 氷炎の地と称される"惑星<リージョン>"…大地は永久凍土に覆われ吹き荒ぶ風が何者をも凍てつかせる風を呼び
広がる空は煉獄という単語を思い起こさせるほどに燃え盛る、険しい環境の土地であった

 間違っても観光旅行で来たくない場所No.1に輝く地獄みたいな"惑星<リージョン>"がここ[ムスペルニブル]なのだ

 そんな辺鄙な場所なので当然の様に定期船は全くと言っていい程無い。あの[クーロン]からでさえ日に一便どころか
1週間で一度出航するかどうか怪しい土地なのである

 しかも、険しい土地ゆえに此処にまともなシップ発着場を建設・運営するというのはほぼ不可能で
地獄に居を構える【とある御方の宮殿】に直接寄港するという形式を取っている…その宮殿の主というのが妖魔の君という
相当地位の高い御人なのだが、…人間社会と交友を持つ妖魔の例に漏れず相当な変わり者で(比較的に)他種族に対しても
友好的に接してくれる器量を持った愉快な花火職人でもある


 常に娯楽に飢えてるから自宅の一部を改築して星の海を越えて船が寄港できる乗り場を玄関にわざわざ用意して"指輪"を
求める冒険家、あるいは"術に関する探究の旅"をする旅人、…模範的な解答と真逆を行く"おもしれー奴"と呼べる風来坊等
 そんな連中が何時の日か自分を尋ねにやってきてくれるだろうことを心待ちにして宮殿の主は発着場を政府に提供した




 さて、長々と語ったがつまり何が言いたいかというとだな…  山 中 に 向 か う 船 が 無 ぇ っ!!




 一般的な公的機関の"宇宙船<リージョン・シップ>"は先も述べた通り【ヴァジュイール宮殿】直通ルートしか存在せず
間違っても途中下船は出来ない、指輪の君と畏れられるヴァジュイール様の御力で炎上する空に亀裂を作り
機体が凍結したり熔解しない様ちゃんと結界が張られた進路を進むのが普通であって恐ろしいモンスターが生息する山中に
間違っても直接降りるというのは普通に有り得ない

 特殊任務の為に耐久性と渡航能力に秀でた[IRPO]専用のパトカーに酷似した船でも業火の空の小さな綻びを潜り
唯一降りれそうな地点に降り立ってから徒歩で山頂まで目指すしかないのだ…間違ってもシップで直接山頂まで乗りつけて
目当ての黄色い花を持ち帰るだとかいう反則技はできない



   アニー「へっぷしぃっ!!」

   アニー「うううぅぅぅ…さ、さぶぅっ!!!」ブルブル…


   ブルー「…当たり前だろう、そんな薄着同然の恰好で来ればそうなる馬鹿か貴様は」


   アニー「あ、あ、あ、あアンタはいいわよっ!そんな首元に温かそうな毛皮巻いちゃってさぁぁぁ!」ガタガタ


   サンダー「まぁまぁ…!アニーさん落ち着いて、ほら?パトカーで上空に居た時は蒸し風呂みたいに暑かったよ」

   リュート「そうそう、周りの空気が燃えてて車内も冷房効かせてんのに暑くて、厚着のブルー馬鹿にしてただろ〜」


   アニー「ずずっ…うぅっ、そ、そうだけどさ…確かにアンタ見てて暑苦しいわねぇって汗だくなの笑ったけどさぁ」


   ブルー「…はぁ、仕方ない羽織っている上着を貸してやるか、リュートが」


   リュート「えっ、オレェ?」


    アニー「りゅ、リュート…そのヨーク綿の服貸しなさいよ〜」ガシッ、グググッ!
   リュート「あっ、ちょ!まずいって!!こんなトコで脱がさないで〜!…ぎゃああ寒いぃぃぃ!!雪が!雪がぁ!」


 極寒の大地に脚を降ろした術士一行は来て早々に騒いでいた、青年の上着をはぎ取ろうとする女と、それを必死に
引っぺがそうする青年、そんな二人を見てオロオロとする豪鬼とゲル状生物…一人だけ蒼の法衣とマフラー代わりにした
霊獣の毛皮ショールでぬくぬくと暖を取り目の前の諍いから目を背ける術士


   ヒューズ「…あー、本当におたくらと一緒で大丈夫かね、こりゃ…」


 この纏まりの無いパーティーに一抹の不安と危機感を覚えるパトロール隊員がその場に立ち尽くすのであった
953 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/11/17(木) 02:43:18.45 ID:VnLHUDWi0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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954 :次来週の火、水予定 [saga]:2022/11/23(水) 23:40:39.01 ID:Hx58Wf5U0

 凍土の山を昇りながら術士は捜査官に尋ねる、この山の山頂に咲く黄色い花を採取する任務の手助けをするというのは
説明されて分かったが、もう一方の[IRPO]の人材難を解決する手立てにも手を貸す、というのはどういうことなのか


 ヒューズ「よく聞いてくれたな、昔ちょいとばかりに小耳に挟んだ話さ。」

 ヒューズ「この山の何処かに[氷漬けにされた朱雀]がいるんだよ」


 険しい環境の山である為、ここには最上位モンスターの[朱雀]が生息しているわけなのだが…どういうワケだか
一体だけ山の中腹に氷漬けにされた[朱雀]が居るのだ

 指輪の君が居を構える山だ、そこそこに妖魔が出没するらしく…女性型の妖魔が顔馴染の相棒と共に
悪戯で凍らせて封印しただとか噂されているそうな
 とどのつまり、この捜査官は件の神鳥を助けて恩を売り、[IRPO]の隊員として迎え入れようという魂胆なのだ



  ヒューズ「――――つーわけで、優しくてナイスガイな俺が[朱雀]を助けて勧誘しようって事よ」

   ブルー「…そう上手くいくものなのか?助けた瞬間に襲われる可能性もあるのではないのか?」


  ヒューズ「なぁに、その心配はないさ。[朱雀]ってのは高位のモンスターなだけあって受けた恩義は忘れねぇんだ」

  ヒューズ「基本的に話の分かる種だから、自分から相手の縄張りに土足で踏み入るとか無礼が無ければ襲って来ない」



 とりあえずは神鳥を悪戯感覚で氷漬けにした雌型妖魔を見つけて適当にしばき倒して、救援に来る相方の[霜の巨人]も
ボコボコにして氷の呪いを解呪するように交渉を持ちかけるという主旨を彼は語った
 そう上手く話が行くだろうかと疑問に思いながらもブルーは彼の隣を歩いて山中を進んでいく…そして道中にて



  リュート「へっっぶしぃぃ!!!」ブルッ

  リュート「うぅぅぅ…ささささ、さみぃ!!アニーの上着取られちまったぜぃぃ…!」ガタガタ


  サンダー「アニキ…しっかり!…何処か暖を取れそうな所は…」キョロキョロ

  サンダー「んん?」ピタッ




 山道にある謎の洞穴『 』




  サンダー「あ、あれだ!丁度良い所に洞穴がある!あそこで焚き火でも起こせば温まれるぞ、オイラ見てくる!」ダッ


   ブルー「!? お、おい!勝手に先行するな馬鹿!」

  サンダー「大丈夫だよー!ちょっと様子見てくるだけだからー!それにアニキだけじゃなくて皆も冷えてるからー!」

   ブルー「違うッ!そういう問題ではな―――」


 険しい雪と寒さに覆われたし土地ならばビバークするには最適な洞穴で暖を取るというのは選択としては間違ってない
ただしその際には注意点があるのだ…冬山の登山客が遭難した際に緊急避難先として洞穴に逃げ込むのはよくあるがそこに
冬眠中のクマが居て、春先までの保存食第一号になってしまうというケースもあり得るのだ


 こんな険しい環境下の"惑星<リージョン>"ならば洞穴に潜んでいるのは熊どころの騒ぎではない…!!



        サンダー「  ウ  ワ  ア  ァ  ー ! ! 」



  リュート「サンダー!?」ダッ!!
   アニー「あっ、リュート待ちなさいよ!」

   ブルー「ええぃッ…遅かったか!」


 舌を打ちながら術士と隣にいたパトロール隊員がサンダーの身を案じて次々と芋づる式に仲間が入って行く洞穴へと足を
踏み入れた、そこで見た物は洞穴の奥で輝きを放つ金銀財宝の山とそれを護る番人か何かの様に咆哮をあげる2頭…!
 燃え盛る火を連想させる[赤竜]とそれよりも一回り大きく、黒々とした鱗を持つ[黒竜]であった…ッッ!!
955 :色々忙しくて更新できず すまなかった 書き溜め4レス投下 [saga]:2023/02/02(木) 00:19:16.21 ID:RogDpt0n0

 鬼が出るか蛇が出るか。


 答えは竜が出た。


 洞穴の中に潜む2頭のドラゴン…剥き出しの牙を覗かせながら炎の吐息を漏らす[赤竜]と、その竜が蜥蜴の赤ちゃんに
思えてくるくらいには凶悪な[黒竜]が塒に飛び込んで来た保存食を睨みつける

 赤いのは兎も角、黒い方は大問題だ…


 希少種のドラゴンでありあらゆる攻撃を防ぎきる頑丈な鱗と皮膚、防御面も然ることながら攻撃性も相当に高い
[タイタスウェイブ]を始めとして一撃で命を刈り取る[デスグリップ]や[石化ガス]のブレスを吐き出し敵対者を石に変える


  リュート「さ、サンダー…!!」


 弦楽器を背負った青年が洞窟に踏み入れ見た物は二頭の竜…の眼前にて恐怖の表情のまま文字通り石化した弟分の姿…!
恐らく[黒竜]の吐き出したブレスによって変えられてしまったのだろう




  ブルー(くっ、これは不味いぞ…)




 自分達は[グレートモンド]を倒した。

 あの時とは人数も戦力も大分違うがそれでも実力には確かな自信がある
ドラゴンを相手取ったとしても連携を組んで攻め続ければ勝ち筋は十分に見えはするのだ…。然しながら問題がある


 "このパーティーは【状態異常:石化】を治せない"という点だ。


 スライムが一角獣の姿に成ることで使える[マジカルヒール]を以てしても石化だけは治せないッ!
術の力で治す事ができるがその術がよりにもよって[印術]の反術である[秘術]なのだ
 印術を選考したブルーには[杯]を唱える事はできない、従って石化を解くには竜を倒すことで解除するか
デカい石像と化したサンダーを引き摺って一時退却して医療機関にでも連れてくかの二択


 …長期戦は不味い、―――1人、また1人と石化すればそれだけ戦力は減る、石化解除が不可能ならばそのまま全滅もある


  ブルー「汝、現世においてあらゆる束縛から解き放たれん!――[解放のルーン]よ!」フォンッ!フォンッ!


 そこまで考えて咄嗟に彼は印を切った、この戦闘で懸念すべきは人数の欠員が出る事、欠員を出す一番の要素は石化だ
ならばルーンの加護を付与して予防線を張るべきだ、勿論最優先は我が身である
 自分が真っ先に落ちれば[解放のルーン]を使える術者が居なくなるのだから。


         「グオオオオォォォォン!!」


 竜共が吼える、赤は雄々しく叫びをあげた後に息を吸い込み体内から熱を放出する準備を、黒は呪われし吐息を溜め込み
吐き出された[火炎]と[石化ガス]の二種が交差するように吹き出される


   ヒューズ「やべぇっ!!おい!リュート恨むんじゃねぇぞ!!」ゲシッ!


 危機を察知した不良刑事はすぐさま前に飛び出し"サンダーの石像に蹴りを放った"…ッ![キック]を見舞われた豪鬼像は
ずしんっ!と音を立てて倒れる…。戦闘面においては無数の修羅場を潜り抜けてきたヒューズだからこその判断
 彼は石化中のサンダーを盾にするという機転を利かせたのである

 [黒竜]程の強きドラゴンの力で石化させられたのだ、目の前の二頭と自分達の猛攻がぶち当たったとしても砕けない
背丈も横幅も人の倍はあるサンダーであれば遮蔽物の無いこの洞窟内に置いて丁度いい土嚢代わりになる

 真っ赤な猛火と黒々としたガスが噴き出され、倒したサンダー像の懐に滑り込んで来た捜査官やリュート、スライムが
息を止めてガスを吸わぬ様に耐え忍ぶ…


  リュート「あちちっ…!!背中に当たってるサンダーが焼けてるせいで…このままじゃ石焼芋になっちまうぜっ!」

  ヒューズ「直火焼きか彫像になるよかマシだろ!!――それよりブルーとアニーはどうなった!?アイツらいねぇぞ」


 ブレス攻撃が止まり、彼らが武器を手にサンダー像の影から様子を伺う…如何にサンダーが大柄でも全員が
隠れられる体格ではなく更に言えば距離も離れていた、比較的に像から近かった3名は間に合ったがあの位置では…!
956 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2023/02/02(木) 00:21:06.23 ID:RogDpt0n0


 「ッ〜…ッッ!」



  リュート「ハッ!その声は…ブルー!大丈夫だったのか!?」バッ



 声の方を振り向けば法衣が所々焼け焦げ、火傷に歯を食いしばる術士の姿がそこにあった
肩で息を切らせながらも剣を手に眼前の竜を睨みつけるブルーにリュートが駆け寄る


  リュート「アニーはどうしたんだ!?」

   ブルー「…」フイッ


 答えず、ただ視線を向こうへと向ける…その眼差しの先を追えば、そこには…


 リュート「うっ…!」ゴクリッ




  石化したアニー『 』




 利き手に[刀]を握りしめながらもう片方の手で口元を覆い、咽返している彼女がそのままの姿で石になり果てていた
間違いなくこのパーティー内で1、2を争う最高の物理アタッカーがこの戦線から脱落したことを意味する…ッ!

 高い"STR<筋力>"から繰り出される多様な技を使うサンダー、同じく高火力の剣技を放てるアニー


 直実にこちらの人員は削られている…っ!もう4人しかいない、5人連携技も望めぬ状態になってしまった…ッ!



  リュート「…こいつぁ、ひょっとしなくても不味い展開ってヤツか?」タラーッ

   ブルー「見りゃ分かるだろうが阿呆め…ああなりたく無ければそこでジッとしてろ今[解放のルーン]を掛ける」



  ヒューズ「待ってくれ、先に俺に掛けてくれや……そうすりゃ全員分の時間くらい稼いでやるぜ」



 弦楽器の青年に加護を付与しようと印を切る直前でロスター捜査官が声を掛けた、「やれる保証はあるんだろうな?」と
尋ねる術士に対して「ったりめーだろ」と彼は返す…。蒼き術士はジャケットの男へと印を切り出したのであった…

―――
――
―


「グルルルル…」
「グゴォッ」


 二頭の竜は自分達の吐き出したブレスで燃え上がる炎の中をジッと見つめていた。赤々とした熱のカーテンの向こう側で
蠢く人影が数体…最初に縄張りに飛び込んで来た[オーガ]の石像を巧い事利用して餌達が難を逃れたのは彼らも理解した
 燃える幕の向こう側に後何匹無事な者が居るのかまでは生憎と分からない

 だが間もなく吐き出した炎は完全に消える、そこからは的確に1匹ずつ仕留めて行けばいいだけの話と考えた…


 弱肉強食の世界に置いて上位に立つ彼らは焦らず疲弊しきった餌達の姿を見てから次の一手を掛ければいいのだと。
所詮は群れねば何も成せぬ弱者の集まりであろうと


―――――だからこそ一人の男が炎の壁を突き破って突撃してきた事に驚いた



 ヒューズ「――るァ!!喰らいやがれクソ蜥蜴が!」


 ピーカブースタイルのガード姿勢で炎を突っ切って来た黒ジャケットの男はそのまま拳を振るい、[赤竜]の下顎を殴り
アッパーをかましたと思えばそのまま相手を掴んで何発も何発もひたすら殴打する[どつきまわす]行為に出た…ッ!
957 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2023/02/02(木) 00:22:32.38 ID:RogDpt0n0

 紅き竜は角を掴まれそのままひたすらに殴られる、[黒竜]は同胞に襲い掛かる矮小な生物を硬化させてやりたかったが
今[石化ガス]を打ち込めば[赤竜]をも巻き添えにしてしまうと改めて鋭い爪で人間のみを弾こうと試みた


 ヒューズ「ぐあっッ」ザシュッ、ドサッ!

「グ、グゴオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!」


 ワナワナと肩を震わせた[赤竜]が怒声を上げてヒューズを尾で岩壁に叩きつけ、先程の再現の様に黒の竜と
呼吸を合わせた2種のブレスを浴びせる、[解放のルーン]のお陰で彼はその身が石になってしまうことは無いが
人体に有害なガスと燃え盛る[火炎]を同時に受ける


 二頭がブレスを吐き終えた頃には、焼け爛れた男が石壁から力なくボタリと地に落ちていく…


"これでまた1匹数を減らしてやった"


 竜達はそう内心で嗤い、次なる標的を求めてヒューズから視線を逸らそうとした…その矢先―――



  ――――BANNG! カンカンカンッ!




「グギャオッ!?」ブシャッ


 [赤竜]の眼球が弾けとんだ、銃声と共に岩窟内を跳ねまわった[跳弾]が竜の急所を…眼球という鍛え様の無い一点を
正確無比にぶち抜いたのであるッ!彼らは直ぐに銃声のなった方を見る…





  ヒューズ「スゥーッ、ハァーッ スゥーッ、ハァーッ…ったく、今のでこの俺様を殺れたとでも思ったか?大間違いだバーカ!」




 先程、"致命傷を負わせたと確信した相手が何事も無かったかのように起き上がり"、銃を此方に向けていた…ッ!



  ヒューズ「昔取った杵柄って奴さ…持ってて良かった[克己]ってなァ!不死身のヒューズ様を甘く見んじゃねーぞ!」


 その昔、ルーファスと共に[京]で[心術]の資質を得る修行をした彼だからこそ使える[克己]…ッ!どれだけ死に掛け様と
精神を一点集中させて体内の気で完全回復を可能とする術…っ!
 仕事柄、[IRPO]隊員にとって命の危機なんてものは日常のようなモノだ、特に鉄砲玉の様な性格の彼は尚の事
致命傷を負っても直ぐに復帰できる自己回復能力と彼はこれ以上ない程に相性が良かった


  リュート「ぬおおおおりゃあああああぁぁぁぁ―――ッ!」
  スライム「(`・ω・´)ぶくぶくぶー」パカラッ!パカラッ!


「!?」



            4連携 [ 諸 手 跳 弾 エ ナ ジ ー 角 ]



 リュートが一角獣形態をとったスライムに騎乗して丁度掻き消える寸前の炎の中から現れた、一角獣は身をブンと振るい
乗っていたリュートを射出、放り出された勢いの儘…柄を両手でしっかりと握りしめた[諸手突き]の姿勢のリュートが
[赤竜]の腹部にダーツの矢が如く突き刺さり、それに少し遅れてもう片方の眼球にヒューズが放った[跳弾]がぶち当たる

 腹部と眼球の痛みに竜は身体を大きく仰け反らせ泣き叫ぶ様に天井へ首を向けて哭く


 紅き竜が悲鳴をあげた刹那、サンダー像の影から飛んできた魔術師の思念の鎖が[赤竜]の首に絡みつく
その様は西部劇に登場するカウボーイが牛の首に投げ縄でも引っ掛けたようだった…、術力で構築された念の鎖は
天井を見上げる様にあげられていた竜の首をそのまま念力で下方に向かって勢いよく引っ張る

 身体を大きく仰け反らせていた[赤竜]の首は大地に向かって引っ張られるのだから当然、前のめりに倒れ込む…そして
倒れ込むその先には、リュートを投げ飛ばした後すぐに滑り込んで来た一角獣の立派な[角]が…ッ!!

958 :今回ここまで 次回早ければ土日 遅くとも火水 [saga]:2023/02/02(木) 00:25:26.35 ID:RogDpt0n0

―――ブヂャッッッ!!


「グギャッ!! ギャッ …ッッ ッ"―――!!」


 前のめりに崩れ落ちた[赤竜]の顎下から脳天まで、そこには[ユニコーン]の[角]が深々と刺さっていた。
さしもの竜と言えど脳髄まで貫通されては生きてはいない

 一連の流れの下、彼らは竜を一体討ち倒したのであった


「ッッ!! グ、グオオオオオオオオォォォォッッ!!」


 残された[黒竜]は同胞を斃した者を石に変えようと[石化ガス]を吐き出す、だが…もう遅い!




 ブルー「無駄だ…貴様らはヒューズに時間を掛け過ぎたな、もう全員に[解放のルーン]を掛け終えている…」コツッ、コツッ

 ブルー「[デスグリップ]や[タイタスウェイブ]と脅威はあるが…最大の危険因子を排した今、貴様は恐るに足りん」



―――[バカラ]の地下で[巨獣]との激戦、[ワカツ]における強敵達との死闘、カバレロ一味の秘蔵の殲滅兵器…etc


 この面々は決して弱くはないのだ、何なら国家転覆を企む野心家を倒してリージョン界を一回分くらい救ってるレベルだ
ただ【石化】という状態異常にどうしようもなく手も足も出せなくて危うく全滅仕掛けたというだけの話


 この山に住む[黒竜]と[赤竜]は一般的な個体よりも間違いなく強い、険しい自然環境がそうさせたと言えよう
そんな彼らの想定外は彼らよりも戦闘能力が上の者達がやって来たという事だ
 これが1対1のタイマンなら単純な個としての戦闘能力とお得意の石化なんて搦め手で完勝だっただろうが
搦め手が通用しなくなって連携を取られたとあってはこうなるのも道理だったと


「グッ、グゴッ…!」


 ジリッ…ジリジリッ…!

 先程まで餌だと認識していた連中がにじり寄って来る、自然界のヒエラルキーに置いて絶対に位置していた竜は今
初めて喰われる立場という物を思い知るのであった……ッッ!!

―――
――
―



  アニー「……んっ」パチッ

  サンダー「ああっ、アニーさん!!良かった目を覚ましたんだね!」


  ヒューズ「った〜く、ちったぁ反省しろよサンダー」

  サンダー「うぅ、ごめんよぅ…オレ、アニキや皆の役に立つと思って…」シュン


 黄金色の髪を持つ女は焚き火の音で目を覚ました、自分はどうなったのだろうか?
確か黒い竜の吐き出したガスを吸ってしまってそこから意識が無い…。


   アニー「……あー、まだ頭がボーっとする…けど、こうして無事って事は勝ったってことよね」

   ブルー「まぁな、ほらよ」スッ


 身体中がまだ硬くてぼんやりとしたまま額に手を当てて独り言ちるアニーの声に答えたのは湯気立ち昇るカップを持った
蒼い法衣の魔術師であった…手渡された陶器の中の泥の様な黒さとカフェインの香りは少しだけ彼女の意識を覚醒させた


   アニー「あたし等の持ってきた豆じゃないね、コレ…香りが全然違うし」ズズズッ…

   ブルー「…奥の先人達の私物だ、ギリギリ消費期限切れじゃないから安心しろ」ズズズッ


 女の問いに対してコーヒーを啜りながら答えた男の表情が苦々しいモノだったのはブラックだからというだけじゃない
宇宙旅行中の事故で遭難した者、[ムスペルニブル]にやってきた密猟者…宝探しに来た盗賊、先人達も寒さから逃れる為に
この洞穴に逃げて来て…そして喰われたのだろうというのが"奥の様子"を見てきたヒューズの見解だ
959 :4レス投下 次回火曜水曜 どちらか予定 [saga]:2023/02/04(土) 22:56:50.57 ID:A+l32mxj0


 アニー「うへぇ…目覚め早々でにっっがい話ねぇ〜…」ズズズッ


 お砂糖もミルクも無いブラックコーヒーを啜りながら"奥に居るであろう変わり果てた先人達"の姿を想像してしまう
尚、彼らの持ち物と思われる[オクトパスボード]や[ロードスター]、[ゴールデンフリース]などの希少品と金品もあるとか
所有者は死後相当な時間が経過しており身元の断定も難しいパスポートも大半が焼けてる、この場合は[IRPO]隊員の指示に
従って拾い物をどうするか…という話だが、どうやら彼の特権で奥のモノは術士一行に譲渡するらしい。

 任務に付き合わせたお駄賃半分、もう半分は今後も険しい山道になるのだからコレで装備を整えろ、という事らしい。

 おっかない蜥蜴を2匹ぶちのめしたお陰で身元不明の遺体も船に乗せ帰って検死に回せるし供養もできる
バチは当たらんだろうさ、と不良刑事は手をひらひらさせながら言った


  ブルー「もうしばらくは、此処で暖を取るぞ…身体が十分に温まったら出発だ」

  アニー「はいはい」ズズズッ


―――
――
―



【双子が旅立って14日目 午後19時51分 [ムスペルニブル] 】


 洞穴を出立して山道を歩き始める、空を見上げ瞳に映るのは宵闇を覆う程の真っ赤な炎のベールだ
こんな環境の"惑星<リージョン>"故に夜が近づいていても辺りは暗がりに包まれはしない

 竜達に襲われた被害者の遺品を有難く頂いた彼らは使える防具は装着、道具はいつでも取り出せる場所に携帯し
目当ての妖魔を探す…最初は吹雪の中だから視界も悪く何度か洞穴に戻っては暖を取る出戻りも多かったが
歩いて少し戻った地点で飛び回っていたのをサンダーが発見した

 声を掛ければ泉の精を思わせる相手が嘲る様な笑みを浮かべて襲い掛かってきたので返り討ちにする


 オンディーヌ『シクシク…ヨクモ、ヨクモ! アナタタチ、ユルサナイワ…!』


 ヒューズ「確かにレディに手を上げるのは紳士な俺様らしくないがね、先に手を出してきたのはアンタが先だぜ?」

 オンディーヌ『トモダチ ノ シモノキョジン ニ コロサレチャエ!!』ダッ!


 ヒューズ「あっ!オイ待て…あ〜あ行っちまったよ…悪戯感覚で他人を氷漬けにすんじゃねーぞって説教してねぇのに」


 目当ての神鳥を氷漬けにした[霜の巨人]は何処に居るのか、それを聞く前に妖魔は飛び立ち山の中腹へと向かっていく
あそこに相手が居るのか、何にしても後を追わねばと術士一行は[ムスペルニブル]の山道を進んでいく

 道沿いに歩いて行き山中洞窟の中に足を踏み入れると岩肌を背に横たわる人骨と辺りに散らばった荷物が落ちている
襤褸の布切れや柄部分がボロボロの手斧…これも先の洞穴で見た遭難者のなれの果てかと?警戒しながら歩いて行く


 すると…


カタッ! カタタタッ!


   リュート「何の音―――うげっ!?死んだ人が動き出したァ!?ナンマンダムナンマンダム〜!」

    ブルー「なに馬鹿な事を言ってるよく見ろ!あれは[スパルトイ]や[マッドアクス]だろうがッ!」


 冒険者や密猟者を襲うべく遭難者の成れの果てに擬態していたのだろう動く人骨や意思を持つ手斧…襤褸布は[ワカツ]で
戦った[ゴースト]へと姿を変えて一行へと迫って来る…一々相手取るのも面倒だと一気に洞窟内を駆け抜けようと決め
天井から落ちてくる[ゼノ]や更に奥で待ち伏せていた別個体の人骨達を撒いて彼らは洞窟の行き止まりに辿り着く


   リュート「なぁなぁヒューズさん、もしかして俺達道を間違えちゃったりしたかな?」

   ヒューズ「かもしれねぇな…さっきの分かれ道で右側に思わず走っちまったが、左が出口だったか…」ポリポリ


 冷凍庫の中にでも迷い込んだかと錯覚するほどに寒い…このフロア全体が奇妙な凍気に満ちていた
4人と2体は目前にある異彩を放つ氷のオブジェを眺めながら道を間違えたなと一同に思った…。


 "氷漬けの燃え盛る鳥"が飾られたその部屋に立ち尽くしながら…。
960 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2023/02/04(土) 22:57:34.90 ID:A+l32mxj0

 それは神話に登場する火の鳥であった……氷漬けで尚その姿は美しく現代アートだと言われればそのまま頷きそうな程に


  アニー「コレが氷漬けの[朱雀]ってヤツね」ジーッ

 リュート「ひゃ〜…すっげぇな、燃えてるのに凍ってるぜ、シュールだなー」


  ブルー「コレの封印を解けばいいんだよな?」クルッ


 ヒューズ「そうさ、さっきボコした妖魔の相方をしばき倒せば氷が溶ける…
       恩を売りつけてウチの職場でバリバリ働いてもらいたいがね…打算抜きでも万年氷漬けってのは可哀想だ」


 早いトコ探しに行こうぜ、踵を翻してその場を後にする捜査官に他の面々も続いて出ていくのであった…

―――
――
―


 氷漬けの神鳥を後に来た道を戻り次は分岐路を左側へと進む……外の光が少しだけ漏れてきている、どうやらこの道で
合っているらしい―――山の中腹に出て彼らが目にしたのは一面氷の湖だ、完全に底まで凍り付いていて表面を歩いても
砕けて落ちて溺死…なんて事にはならなさそうで安心する

 獣系統のモンスターが3体スケートリンクで遊ぶ子供よろしくとツルツル滑ってその辺の"雪だるま"に
突っ込んで遊んでる姿しか見受けられない…話に聞く神鳥を凍らせる程の魔人は姿かたちも見えない


  ヒューズ「…っかしいな、確かに[オンディーヌ]はこの辺に向かって飛んでったはずなんだがな…」

  ヒューズ「奴が逃げた先に相方は居る…そうアタリを付けてたんだが、外しちまったかな」キョロキョロ


   アニー「どう見ても[バーゲスト]3匹と"雪だるま"ぐらいしかないわよね…あっ、また1匹その辺の奴に激突した」




  スライム「Σ(・□・;) !?」バッ!

  スライム「(;´・ω・)ぶくっ!ぶくっ!」ピョンピョン!!!



  リュート「あん?どしたんだ?あの雪だるまが気になるのか?」


 何を想ったのか突然、雪だるまを眺めていたスライムが愕きの感情と共に跳ねあがった
遅れて豪鬼が同じ雪だるまを眺めて身震いしながら「ア、アニキ…あの雪だるまやべぇよ…」と消え入りそうな声で囁く
 モンスター種の彼らが一様に感じ取ったナニカが何なのか…それは周りを観察していた仲間も気が付いた



  アニー「…さっきからあの3匹、アレとあの辺の雪だるまにだけは衝突しない――ううん、それどころか避けてる。」

 ヒューズ「何?」ジッ


 言われてみれば不自然に避けてる雪だるまがある、まるで"触らぬ神に祟りなし"とでも言いたげに
武器を手に術士達は"それ"に近づき――――突如として雪塊は膨張を始めたッ!


  ブルー「―――ッ!全員陣形を組め!奴がターゲットの魔人だ!」バッ!


 ただの二頭身サイズの雪玉が風船のように膨れ上がりあっという間に[巨獣]の様な体積へと変わる
アラビアンナイトに描かれるランプの魔人じみた逞しいマッシブボディの雪塊が緑眼を輝かせながら黄色い牙を覗かせる
 雪だるまに擬態していた巨人が正体を現したのに呼応するように離れた位置にある雪だるまが二つ、本来の姿に戻る


  雪の精A『ヒョォォォ…』
  雪の精B『ヒュゥゥゥ…』


 ブルー「チィ…挟み撃ちか、リュート!貴様は[傷薬]でサンダーとヒューズの援護に回って後ろから来る奴らをやれ!」

 ブルー「スライムは俺とアニーの回復を任せる!可能な限りの連携で一気に押し切るぞ!」



   霜の巨人『 グ モ ォ オ オ オ オオオオオオオ オォォォ!!!!』
961 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2023/02/04(土) 22:58:31.17 ID:A+l32mxj0

 雄々しく雄たけびを上げた巨人は雪で出来ているとは思えない硬さを秘めた拳で叩きつける様な[アイススマッシュ]を
蒼の術士目掛けて撃ち込む、詠唱を始めた術士と剛腕の間に電光石火で割り込む女剣士がすかさず一撃を[ディフレクト]し
巨大な腕を跳ね除けた…っ!


     ブルー「爆ぜろ![インプロージョン]」―――カッ!


 ボジュッ!!!


 術が発動し、光で構築された変形二十二面体の檻が巨人の肘から先を圧縮しては爆破する…雪の塊が蒸発する音に遅れて
魔人の呻きが聞こえ…辺りには蒸気が舞う。



  ブルー「今のは助かった!礼を言うぞ――……アニー、貴様その手は…」

  アニー「っ……気ぃ付けな、[フリーズバリア]って奴だよありゃ…ちょっと弾いただけなのに手がこうさ」


 愚鈍そうな見た目に反して機敏な動きで拳を振るった魔人の初撃を防いだ女の得物は刃先が真っ白に凍り付き
それの柄を握りしめていた彼女の手も凍傷を僅かながら負っていた、痛みはするが武器を振るう分には支障は無いが…


  アニー「ほんの一瞬、弾く際に接触しただけでこれだ…アイツに直接攻撃は悪手だわ、面倒な事にね」


 モンド基地で散々利用したバリア系だ…敵に回られるとこの上なく厄介な能力であることはお互い重々承知済み
ブルーとスライムの術や技主体の攻撃か、剣気を飛ばす手法で切り飛ばす…あるいは突破力のある強い連携で
バリアの発動が間に合わない程に一気に畳みかけて消滅させてやるかだ


  霜の巨人『オデの腕…溶かしたなァ!!!グオオオオオォォォ!!!』


 肘から先が圧縮爆破された[霜の巨人]が雫の滴る断面を術士一行に向けて咆える…するとどうだ!?彼奴の肘先から
放水砲の様に大量の水を高圧で噴出されるではないかッ!!溶けた相手の肉体の一部が意思を持つ水となりて一行を襲う

 弾数にして裕に4発分もの[水撃]が撃ち出されたッッ!


 スライム「(;´・ω・) ぶっ、ぶく!!」バッ!ササッ!


 それを見て直ぐに一角獣から元のゲル状生物の形態へと戻り二人の盾となる様に前に出るスライム、カバレロ一味の
秘蔵兵器が使った[メイルシュトローム]を無効化したように2発までは水の砲弾を取り込み吸収できたが盾となるのが遅い
 残りの[水撃]は防ぐ前に術士と女剣士に当たり、彼らを後方へ吹き飛ばす

―――
――
―


  ブルー「…ぐっ、クソッタレめ…っ![朱雀]を凍結させるだけの力はあるか…っ!」ゼェ…ゼェ…!

  アニー「水鉄砲ごときでこの威力ってのは厳しいわね…っ」ヨロッ


  ブルー(これはマズイかもしれん、状況を打開できる策を講じねば…っ 何か…何か無いのか!!)キョロキョロ


 遠目に[雪の精]と戦うヒューズ達の姿が見える、あっちはあっちで雪精の放つ[強風]を受けてボロボロの姿が目に付く
リュートの回復支援が入ってどうにか拮抗している状態だ、援軍は……期待できそうにない


  ブルー(うん?一匹[雪の精]が居ない……?どこに―――! あんなところに亡骸が…あいつ等一匹は倒せたんだな)


  ブルー「…。…!待てよ…もしかしたら…アニー耳を貸せ!」バッ!

  アニー「わっ!?な、なによ!?……えっ、…できるけど、少し時間がかかるわよ」

  ブルー「構わん、できるならそれでいい」


 作戦を伝え終えた所で[水撃]のプッシュ効果で後方に飛ばされた"人間<ヒューマン>"組の元へスライムが吹き飛んできた
ゲル状生物の状態で所々氷結しかけている辺り、水鉄砲から間髪入れずの[冷気]を吹きつけられたのだろう…


  ブルー「スライム、貴様まだ動けるか…?」

 術士の問いに、小さくだが「ぶく!」と肯定で返すスライムの言葉を聞き蒼の魔術師は次の様に言った「あれを喰え」と
横たわる[雪の精]を指差して…。
962 :今回はここまで [saga]:2023/02/04(土) 22:59:16.33 ID:A+l32mxj0

 モンスター種は倒したモンスターを一部でも吸収することで能力を得ることができる、細胞を取り込み
その個体へと成長することが可能だ…

 ヒューズ達が激戦の中でどうにか1体だけ倒せた個体、コレをスライムに吸収させ…目当ての技を引当てられれば…!

 [雪の精]をスライムが取り込む最中、飛んでくる物理攻撃を黄金髪の女剣士に[ディフレクト]してもらい
中距離から術士が発動の早い[エナジーチェーン]で牽制を行う
 攻撃を一見か細い人間の女に防がれ、絶妙なタイミングで瞳などの急所を狙ってヘイトを買って出る術士の連携に
苛立ち始めた[霜の巨人]は多少隙を作ってしまうのを覚悟の上で怒りに任せて息を大きく吸い込み[強風]を吐く準備に入る


  アニー「…はぁ…はぁ…くっ、こんだけやれば流石に手がしんどい…っ!悪いけどあたしはここまでだ!」


 [ディフレクト]要因の剣士が縦横無尽の歩みを止め、その場で立ち止まり得物を持ったまま…静かに目を瞑る
手は何度も氷結界に接触した為、ひどい有様でどんなに頑張ってもあと一振りしか剣も振るえまいと言った所
 そんなアニーを見てようやく観念したかと空気を取り込み更に膨れ上がった巨人は見下ろす

 今から全体範囲に向けて吹き付ける[強風]を受けて、彼らがそれでも立っていたと仮定しよう
盾となる剣士が機能しないのであればもう攻撃は防ぎようが無い、それこそ純粋な拳ひとつで勝てる…


 [霜の巨人]が大きな口を開き、暴風を吐き出さんとしたその瞬間…!






       ブルー「このタイミングだ!!やれェ――ッ!!」バッ!


     スライム「(。-`ω-)ぶくぶくぶーーーーーーーーーっ!!!」ビュオオオオオオオオオオ!!




   霜の巨人『!? ウゴオオオオ!?』グラッ!


 吸収を終えたスライムが飛び出しそして――――"[強風]"を使ってきたのであるッッ!!


 [雪の精]から低確率で取得できる技…それは[シルフィード]と言った風精を撃ち出す技を使ってきたスライムにとっては
容易く使える物で地表から斜め上に目掛けた、魔力を帯びた超局地的な暴風はものの見事に魔人の姿勢を崩す事に成功した

 本来であれば眼下にいるブルー等に対して吐き出すつもりだった相手の[強風]は大きく前のめりに姿勢を逸らすことで
真下に――凍てついた氷の床へと叩きつけられ、そして[霜の巨人]は上方へと昇っていく…!
 宛らシャトルロケットがノズルから火を噴き天へと上がっていくようだ


  ブルー(大気を取り込む際の隙と姿勢を崩したまま空に舞うだけの時間があれば此方も放てるというもの―――)

  ブルー「 [ ヴ ァ ー ミ リ オ ン サ ン ズ ] !! 」


 蒼が放つは紅き大紅玉の嵐、熱を帯びた宝石の破片槍が次々とスライムの[強風]による追い風に乗って雪塊に突き刺さる
[インプロージョン]で肘から先が溶けた時からそう…見た目通り、熱に対する攻撃に耐性が無い彼奴はドロドロと溶け出す


  霜の巨人『グ、ググ…オノレ…!!』


 ドロドロと身体の6割近くが溶けたがそれでも術士の大技を耐えきった魔人は
残り4割の肉体で[ダイビングプレス]を仕掛け憎き魔術師とモンスター種を滅ぼさんと急降下し始める…っ!

 溶け落ちた部分の滴りも既に魔人の力で霜と化し、最早…胴体から下は氷柱の剣山となり果てていた

 今から[ヴァーミリオンサンズ]の2発目を唱えるには少しばかり時間が足らない、詠唱を終えるより先にブルーが
降って来る巨人の身体に潰され圧死する方が早い…もう誰にも止められまいッッ!

  そう[霜の巨人]は思っていた…。



  ブルー「ここまでお膳立てしたんだ!さっきの打ち合わせ通り決めてやれアニー!!!」




  - 手は何度も氷結界に接触した為、ひどい有様でどんなに頑張ってもあと一振りしか剣も振るえまいと言った所 -


 そう…"あと一振りは剣を振るえる"んだ……ッッッッ!!
963 :次は来週予定 [saga]:2023/02/08(水) 22:08:37.02 ID:4PgZO7k10



         霜の巨人『 ナ、ナン ダト ォ ォ ォォ ォ!?!?』ゴオオオォォォ!!





- [ディフレクト]要因の剣士が縦横無尽の歩みを止め、その場で立ち止まり得物を持ったまま…静かに目を瞑る -



 歩みを止めたのは諦観したワケではない。

 静かに目を瞑ったのは最期を悟ったからではない。



 半溶の巨人は辛うじて残っている緑眼で見た、歩みを止めた場から一歩も動かず練り上げた闘気を纏った女剣士の姿を






 - アニー『わっ!?な、なによ!?……えっ、…できるけど、少し時間がかかるわよ』 -

 - ブルー『構わん、できるならそれでいい』 -


 時間の掛かる大技は1発だけじゃあない…2発あったッ!

 揺らめく闘気、極寒の大地に居るのに大火を前にしているような熱量を感じる気迫…ッ!
黄金髪の女剣士は口角を釣り上げ振って来る氷塊を見上げた
 対照的に彼女を見下ろす魔人は本能的に死を悟り表情が凍り付いた…っ!


――――ダンッ!!!


 しなやかなに[柳枝の剣]でも放つような流れる動きと共にアニーは天へと高く跳ぶ
ゆらめく炎…否、太陽の光を思わせる"闘気<オーラ>"を纏った彼女の剣閃が魔人の身体を下から上へと一気に切り裂いた

 無論、言うまでもないが最後のあがきで[フリーズバリア]は展開していた…だがバリアが
対象にダメージを与えるよりも早く術者が消滅しては効力を発揮しない、そういうものなのだ





            アニー「 [ ラ イ ジ ン グ ノ ヴ ァ ] !! 」




 生命の輝きによって生み出された極小の太陽は小規模な爆発を引き起こす
その熱量は神鳥に対し永久凍結の呪いをかけた魔人を[フリーズバリア]諸共溶かすには十分過ぎた…。

―――
――
―



   雪の精B『ヒョ、オォ、…オ』ドサッ


  ヒューズ「ふぃーっ、こんなもんか…」ボロッ

  サンダー「うぅ…死ぬかと思った…アニキー…[傷薬]欲しいよぉ…」

  リュート「おう、お疲れさんっと…ほらよっ!」ゴソゴソ、スッ…!


  リュート「こっちはどうにか終わったなブルー達の方はどうなって……んおっ!?なんだぁ今の爆発!?」


  ヒューズ「……ほー、あの姉ちゃんやるなぁ、デカブツ結構弱ってたがトドメ持って行っちまったぞ」


  リュート「へへっ、どうやら心配いらなかったみてぇだな!」

  ヒューズ「んじゃま、こっちも合流しに行こうぜ…こんで朱雀の呪いも解けるだろうよ」
964 :続き早ければ土日、もしくは火水 [saga]:2023/02/15(水) 20:56:12.26 ID:+5X5accz0

 "闘気<オーラ>"を纏った斬撃で魔人を打倒した一行は一度来た道を戻っていた…なにゆえ戻るのか、その疑問を提案者に
ぶつけた者は当然いた、「さっさっと用件を済ませてこんな悪環境から帰還した方がよかろうに」と不良刑事に言うが
それに対して彼は呪いが解けた朱雀に会い、仲間になってもらう為だと口にした

 ここから先は山頂に登り頼まれていた黄色い花を採取してくるだけ…とはいえ道中何があるか分からない
増強できる戦力は大いに越したことはないということだったのだ


 渋々ながら一行は納得してきた道を逆そうした訳なのだが…








   ブルー「で?これについてどう説明してくれるんだ、ん?」


  ヒューズ「あっれぇ…おっかしぃなぁ〜」メソラシ





  氷漬けの朱雀『 』カチーン





 [霜の巨人]を倒せば呪いは解ける、それで神鳥を仲間にして[IRPO]の人員も増やせてウッハウハ!!という目論見を
完全否定するかのように目前の凍れる芸術はそこに依然として存在した…。

 聞いてた話と違う。――そう叫びたいのはヒューズも同じであった、然し実際に解呪されていないのだから仕方ない


 ヒューズ「ぐぬぬ…これじゃあ俺様の負担を減らす計画が…」


 頭を掻きむしりながらこれから先も減らない仕事量の事を考え苦渋に満ちた顔をする刑事を尻目に術士は考える
呪いを掛けた妖魔は滅した、にも関わらず解呪できなかったのは何故なのか…
 学院に居た頃に読み漁った多くの本に記された記述を記憶の底から洗い出してみる



  ブルー「……もしや、あまりにも長い年月が経ち過ぎて定着したのか?」

 ヒューズ「なに?」


  ブルー「呪いの中に稀に存在する事象だ、例えば石化…これが千年や万年単位で解かれず続いたとしよう」

  ブルー「保存状態が良ければ何ら問題が無いが、野晒しで酸性雨や暴風に長く晒され罅割れたり欠けた場合
         状態異常を治す為の医薬品や魔術による施術を行使しても元に戻せないというパターンがある…」

  ブルー「昨今の技術力の進展と石化した者への早期発見と応急処置が普及した現代じゃほぼあり得ないことだがな」


  アニー「じゃあ、この[朱雀]は…」

  ブルー「その線が有り得るということだ、この山中洞窟でどれだけの間凍ってたかは知らんが」


 サンダー「…あのぉ、ブルーさん、無理は承知でもコイツなんとかしてやれませんか?見てて可哀想なんだけど」


  ブルー「今しがた説明した通りだ、術者も倒してこの有様ときたもんだ
          呪氷が相手じゃ単純に炎に放り込んでハイおしまいという訳にもいかんさ…」


 ましてや妖魔絡みの呪いだ、妖魔の使う術は"科学的超能力<サイオニック>"の学問でも未解明な点がまだある、と付け加えた
それを聞いて何かを閃いたようにヒューズがハッと顔をあげて叫んだ


  ヒューズ「そうだ!妖魔だ!!…餅の事は餅屋に聞けばいい、なぁんで直ぐに気付かなかったんだ!」

   ブルー「どうした突然?」


 叫びをあげた不良刑事に怪訝な視線をくれてやる蒼き術士、そんな彼に対してニカっと歯を見せて笑いヒューズは言う
「"普通の炎に放り込む"じゃ駄目なんだろう?強い力を持った妖魔の特別な炎ならどうだ?」と
965 :続き来週予定 [saga]:2023/02/23(木) 00:00:59.87 ID:rapeIGqr0

 ヒューズ「ちょっと心当たりがあんのさ!妖魔絡みで強い炎って奴によ」

 ヒューズ「コレが終わったらコイツを[ファシナトゥール]まで運ぼうぜ!」


  アニー「いやアンタ運ぼうぜ…って、簡単に言うわね」


 まずは山頂の花とやらを取って来なければならない、それが終わったらこのデカい氷塊を妖魔の御国に運びましょうと?
とんだ重労働である、道中の竜が居た所にあった遺骨の一件といい何回山を往復することになるんだ…
 パトカー型の船をこの山に乗り捨てる前提で[ゲート]を使えば早いだろうが、そういう訳にもいかんだろう


  アニー「…はぁ、頭が痛くなりそうね」

 リュート「サンダー、お前の頑張りどころかもしれねぇぞ、地元でも祭りの神輿担ぐの得意だっただろ?」

 サンダー「うえっ!?オ、オレ…?そうだけど…」チラッ



  氷漬けの朱雀『 』ズーン…



 サンダー「流石にデカさの規模が違い過ぎるよぉ…」ガックシ






 …この後、術士一行は山頂まで行って、黄色い花を採取しようとした所を別個体の[朱雀]に"縄張りに侵入してきた"と
勘違いされて襲われたり、下山の際も全員でわっせ!ほいさ!と"氷漬けの朱雀"を背負いながら帰路に着く途中で
サンダーがうっかり足を滑らせたりアクシデントに見舞われながらもシップに戻るのだが…それは割愛するとしよう…。


―――――
――――
―――
――
−


*******************************************************
―――
――
―



ヒュォォォォォ…



 一陣の風に木枯らしが吹かれていく…





【双子が旅立って15日目 深夜0時00分 [京] 】




  ルージュ「……時間、か。」スッ


 旅館の一室で椅子の背凭れに身を預けていた紅き魔術師がそう呟く
日付はもう、変わった。


 目配せでもする様に湯飲みに口を付けていたレッド少年の方を見やれば彼もまた顔つきが険しい物になっていた
[メタルブラック]との死闘に身を投じた日、戦闘終了後に現れた獅子の如き姫との約束―――その刻限も2時間に迫る


 レッド「俺達はできる限りの事をやったさ、後は姉ちゃんがベストコンディションになるように休養を取らせて」

 レッド「そんで今は[心術]の道場んトコに無理言って奥の座禅部屋も借りてる…精神統一ってヤツをしてるさ」スクッ


 白薔薇姫と体調確認の為にBJ&K、更に何かあった時の為にラビットも護衛としてつけさせている
アセルスと合流して約束の果し合いの地に赴こうと立会人の男二人も立ち上がるのであった…。
966 :続き次の火水予定 [saga]:2023/03/01(水) 22:10:29.39 ID:uq9Mbitq0

 宿泊先から出て橋を渡り[京]の北西に位置する修行場へと赴く、受付の者は彼らを見て静かに来たか、とだけ呟き
奥の部屋に目線を向ける…。
 場所を提供してもらったことに一礼し二人が瞑想の間へと踏み込むと――――



  レッド(! …姉ちゃん見違えたな)

 ルージュ(あ、あぁ…、見た目は何一つ変わっていないのに…これは)ゴクリ




  アセルス「……ん? 二人とも迎えに来てくれたんだね、ってことはもうそんな時間かー」パチッ


 座禅を組む様な姿勢でずっと目を閉じていたアセルスお嬢が目を開き仲間二人の姿を認識した
これから…どう見積もってもあの[メタルブラック]と同等かそれ以上の強敵と1対1で対峙することになるというのに
どこまでも落ち着いた…何事も無いかの様な澄んだ雰囲気を漂わせて彼女は思ったより早かったなぁ〜っと言ってみせた


 この数日、彼女との鍛錬に付き合ってきたからこそ分かる

 彼女は以前と比べて明らかに強くなった、[幻魔]を握りしめたとてその力に振り回されることも無い
自らの意志で妖刀を御せるだろうとも

 心は極めて澄んでいる、波風も波紋の一つすらもない澄んだ水面…明鏡止水に至れていると言ってもいい


 ゆっくりと立ち上がり、ん〜!と背伸びして歩き出す、そんな彼女に付き添う様に白薔薇姫が
その後ろからBJ&Kとラビットが続いて行く


  アセルス「さぁ!行こうか!」


―――
――
―


【双子が旅立って15日目 深夜1時58分 [京] 】



 [庭園]へ続く橋を渡り、一行はその場で待つことにした…

 三日前、黒鉄の武人を討ち取ったこの地にて…――――炎上していた[書院]の火は近隣住民の手によって鎮火し
なんとか形は残っていて、また[メタルブラック]の残骸も撤去済みでこうしていると
あの日は何も起きていなかったんじゃないかとすら思ってしまう

 腕を組み目を閉じたまま柳の木に身を預けたままのレッド少年、その傍らに物言わず立つBJ&Kの上に着地したラビット
[庭園]の中央に立るアセルスをじっと見つめたまま微動だにしない白薔薇…

 そんな仲間達の様子を見渡していた紅き術士は天を仰ぐ様に夜空を見上げる…星明りと月明かりが嫌にハッキリとしてて
雲の流れも全くと言っていい程に無い


 天すらも此度行われる決闘を観戦する気でいるのだろうか…


 ルージュは随分前に購入した携帯電話の液晶画面を覗き込む時間は深夜の1時59分……――――




   ルージュ「ぁ…」




 ―――から、たった今、2時00分に変わった。





 コツッ…コツッ…コツッ…



 靴底の音と共に橋の向こうから幽鬼が如く姿を現した黄金の騎士が視認できたのは彼が声をあげるのとほぼ同時刻だった
金獅子姫が…[黒曜石の剣]を携えてやってきたのだ。
967 :続き来週、もしかしたら再来週になるかもしれない [saga]:2023/03/08(水) 22:41:44.46 ID:G3ja2Li40


 アセルス「獅子姫…。」


 月明りの下、現れた寵姫を見て彼女は名を口にした
[庭園]の中央に立ち対峙する騎士は少女とその仲間達を一瞥する


  金獅子「刻限通りに来られたようですね、アセルス殿…まず約束通り1対1での決闘に応じて頂き感謝します」


 中央に戦士が二人、そこから離れて窺うギャラリーとして術士達一行が立っている…二人の戦いに水を差さない様に
一騎打ちの決闘を見守る為に…!
 たとえアセルスがどれだけの重症を負おうと首と胴体が泣き別れすることになったとしても手出しはしない
それが事前の決め事だ、その代わり彼女が敗けたとしても他の仲間達に危害は加えない


  幻魔『 』スッ


  金獅子「…ほう?見事な業物ですね、ゴサルスが打った物とお見受けします」


 紅く染まった妖刀を鞘から引き抜く彼女を見て金獅子は目を見開いた、生半可な者では[幻魔]を扱い切れない所か
その力に振り回されるだけに過ぎない、しかしそれを手にするアセルスにそういった物は見受けられない


 アセルス「始めましょう」

  金獅子「フッ、そうですね…いざ尋常に参るッ!」



 その一声を口火に両者は動き出した、百獣の王が如く俊足で駆け出し[スマッシュ]を叩き込む動作…っ!
重い[黒曜石の剣]の一撃を[ディフレクト]で防ぎ[切り返し]ていくも獅子姫は右腕に装着した盾でそれを防ぐ
 お互いにノーダメージの初撃…続けて獅子姫は飛び退き距離を開け[冷気]を吐き出す


  アセルス「ぐっ…!」ピシッ、ピキッ…


   白薔薇「アセルス様!!」


 [京]の季節にそぐわない極寒の風、ほんの少し浴びているだけなのに前髪の先から凍り付いて手も悴んで動きが
ぎこちない物になりそうだった、致命的なダメージこそ負わないがこのままでは鈍った所を狩られる…ッ!



  アセルス「[燕返し]!!」シュバッ!
   獅子姫「むぅっ!?」ブシャァッ!


 凍える暴風の中を突っ切り発生源へ飛来する剣技の一撃を受けて獅子姫がよろめく
その隙に素早く呼吸を整えて[克己]を発動させて自身の傷を癒す


   獅子姫「フフッ!そうこなくては面白くない…![払車剣]」ビュオッ!


 額から血を垂らしながらも笑いながら彼女は身を捩じらせ大きく振り被った一振りを放つ
瞬間、"鎌鼬<かまいたち>"が幾つも重なって発生しアセルス目掛けて襲い掛かる―――!



  レッド「あぁっ!姉ちゃん…!!」
 ルージュ「アセルス!!!」


 見届け人である彼らには何も出来ない、ただアセルスの勝利を信じて待つしかない。

 この数日で間違いなくアセルスは強くなった、だが相手もまた強者であった…剣気の嵐に晒され身を切り刻まれた少女は
これは堪らないとばかりに地を蹴り空へと逃れようとするが…!


  獅子姫「甘いっ!」カッ!


 練られた妖気により生じた[落雷]が天高くに居たアセルスの身に落ちる―――ッッ!


  アセルス「きゃあ"ああ"ああ"あ"あ"あ"―――ッ」バチバチィ…!…ドサッ!

968 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [age]:2024/11/02(土) 11:12:02.65 ID:x2Ua38GJo
『15時までロマサガ3、その後ポケポケ
※レアドロアイテムチャレンジあり』
▽Steam/Windows/PS4+VITA/XBOX/Switch/スマホ
ロマンシング・サガ3/HDリマスター Vol.3
(8:45〜)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
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