高垣楓「結末の顛末」

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 01:32:21.79 ID:cxaNInJko

身体をむりやり捻って、楓さんと顔を突き合わせた。
横倒しになった色違いの瞳が、薄暗さの中にあってなお、神秘の光を湛えている。

 「かえっ、ぁ……あの、ですね」

決意とともに吐き出した筈の言葉。
頼もしさは一息の間にかき消えて、あっという間に喉が震え出す。
目の前のアイドルは笑うことも無く、二度、控え目なまばたきを繰り返した。

 「お酒を……飲みました」

 「はい」

 「だからつまり、楓さん、その」

 「ええ」

 「こんな風な、酔ったままの勢いの、そういうのは、良くないと」

竜頭蛇尾とはきっと俺の事を指してるんだろう。
威勢の良さは最初だけで、言葉は見る間に途切れてしまった。
15センチ前の美貌。
揃ったまつ毛すらよく見えるこの距離で、楓さんは何事かを考えていた。


 「えーっと……」

そう思ったのも束の間。
おもむろに半身を起こすと彼女は枕元にあった携帯電話を拾い上げた。
混乱する俺をよそに、白い顔が液晶のバックライトに照らし出される。
何度か操作をすると明かりは消えて、再び暗闇が俺達を覆い隠した。
一瞬の輝きに慣らされた目が、すぐそこにある筈の姿を見失う。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 01:35:52.08 ID:cxaNInJko



 「じゃあ、来月末の、金曜日の夜。きちんと、しましょう」

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 01:37:36.24 ID:cxaNInJko

言葉というのは、主語が抜け落ちていようと案外伝わってしまうもので。

だからこそ俺は固まった。
今までの行動に何か間違いが無かったか考え直す。
いや結局、全て間違えてた、という事なんだろうけれど。

 「…………あ、の」

 「おやすみなさーい」

話は終わったとばかりに話を終え、楓さんが布団を被る。
その時ようやく、せっかく向けていた背中を戻してしまった事に気付く。
気付いた時には全てが遅過ぎて、楓さんの両腕が俺の身体を捕まえてしまっていた。

 「おやすみなさい、プロデューサー」

 「…………おやすみなさい」

俺の胸元へ顔を埋めて、楓さんがそれきり黙り込む。
ワイシャツから染み込んでくる吐息は火傷してしまいそうな熱さだった。
僅かに髪が揺れる度、それはそれは良い香りが漂う。

 「……」



……いや、寝れる訳ないだろう。

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 01:39:02.71 ID:cxaNInJko

小悪魔な女神様こと高垣楓さんのSSです


http://i.imgur.com/hO5sXIB.jpg
http://i.imgur.com/uiuQicB.jpg

前作とか
アナスタシア「流しソ連」 神崎蘭子「そうめんだよ」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501850717/ )
相葉夕美「プロデューサーに花束を」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1485851599/ )

関連作
高垣楓から脱出せよ ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483426621/ )


上記『脱出せよ』の続編です
直接的な性描写を含みます
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 01:42:29.34 ID:cxaNInJko


※本作はリアルタイム性(性だけに)を重視しています
 完結予定は10月1日です
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 01:59:53.65 ID:O1kOKsrpo
期待
アレの続きが来たか!
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 08:43:05.94 ID:cxaNInJko

 ― = ― ≡ ― = ―

あまりに穏やか過ぎたせいか、しばらく目覚めているのに気付けなかった。
目の前10センチには相変わらず楓さんの顔があって、俺を楽しそうに眺めている。

 「目、覚めました?」

 「……ええ」

 「おはようございます」

 「……おはようございます」

どうも、眠っていたらしい。らしいとしか言えない。
眠りに落ちた記憶は無かった。
幾ら精神で抗おうとも、本能が勝てなかったと見るのが妥当か。

 「朝ごはんにしましょうか」

呟いて、楓さんが身を起こす。
薄いシルクのネグリジェに何かが透けて、俺は慌ててベッドから転げ落ちた。

 「着替えますので、覗く場合は、どうぞ」

何がどうぞなのか理解するのを拒否し、俺は縺れた足のまま部屋から逃げ出した。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 08:49:09.11 ID:cxaNInJko

 「……」

 「……」


さくっ。もしゅ。さく、さくり。


何も無いと聞いていた冷蔵庫には予想以上に何も無かった。
缶ビールは一ダースほど良く冷えていた。

 「……」

俺はジャムを、楓さんはバターを塗ったトースト。
何ともシンプルな朝食を、インスタントのコーヒーをお共に食べ進めていく。
楓さんの髪は寝癖がついたまま。
そのくせテキトーに選んだだろう室内着は、何故だかお洒落に見えた。
常々思うが、本当にズルい人だと思う。

とうとう無言のまま皿とカップは空になった。
何をするでもなく俺達はお互いを眺めていた。
……よく眺めてみれば、思ったよりすごい寝癖だ。

 「楓さん」

痺れと口火とを切ったのは俺の方だった。
聞こえているのかいないのか、テーブルの向こうに座る楓さんがゆるゆると首を傾げる。


 「昨日のは……冗談、ですよね」

 「冗談は、苦手です」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 08:55:38.16 ID:cxaNInJko

二の句も継げずに息を詰まらせた。
つまらない冗談でも言ってくれれば、いっそこの一息を飲み込めたのに。

 「あの、プロデューサー」

 「はい」

 「好きです」


言葉というのは、楓さんが、主語を 好き


 「以前に言ったままの意味で、以前よりずっと大きな、好きです」

 「楓さんは」

 「アイドルです。こんな感じでも、一応」

自分と俺とを指差して、それから二人きりの部屋を示すように両腕を広げて。
しでかした事態を改めて俺に突きつけながら、楓さんは微笑んだ。


 「私、頑張りますから。楽しみにしててくださいね、プロデューサー」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 09:08:39.41 ID:Qhd3ZVCI0
やったぜ楽しみにしてる
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/08/27(日) 09:10:03.84 ID:ed0ItNnV0
楽しみ
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/08/27(日) 23:08:39.71 ID:b7vHRs5D0
楓さんきた
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 07:25:12.56 ID:0R1rvnuAo

 ― = ― ≡ ― = ―

 「本当に、何も、していないんですね?」

 「本当に、何も、していません」

 「誓って?」

 「誓って」


まだ。


言える訳のない一言を飲み込んだ。
小会議室の中で、机を挟んで、ちひろさんと見つめ合う。
掌の中のタイピンがひどく生暖かい。

随分と久しぶりに見る気がするちひろさんの真顔。
脂汗も垂れそうになる頃に、ようやく見慣れた笑顔へと変わってくれた。

 「ふむふむ。分かりました」

 「……ご理解頂けて何よりです」

 「言うまでもないですけれど、あなた達はアイドルとプロデューサーなんですからね」

 「はい」

言われるまでもない。
言われるまでもない台詞が鼓膜に突き刺さる。

 「ああ、でも」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 07:25:55.71 ID:0R1rvnuAo

 「……?」

 「一番困るのは、アイドルさんがやる気を失っちゃう事ですし」

 「はぁ」

 「アイドルのモチベーションを維持するのも、プロデューサーの責務かもしれませんね」


 「……ええと……ちひろさん。その」

 「あぁ、今日も良いお天気ですね。お仕事、頑張ってください♪」

ちひろさんはすっかりいつもの調子を取り戻していた。
同僚達から閻魔帳と呼ばれているファイルを抱え、スキップで小会議室を後にする。
閉じるタイミングを失って、しばらく馬鹿みたいに口を開けていた。

 「……」

以前から気になってはいた。
気になってはいたが、深く考えてはいなかった。
何か、こう、何とは言えないが、繋がっている気がする。

ふと、いつの間にか置かれていたスタドリに気が付いた。
奇天烈なデザインの蓋を指で撫でる。
ちくりと痺れる痛みと共に、今日もまた一日が始まろうとしていた。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 00:36:19.38 ID:elmvqHxWo
待ってたぞ…!
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 19:28:11.80 ID:+01Y39Wao

 ― = ― ≡ ― = ―

 「はっ……はぁ、っ」

頬を染め、息を荒げ、楓さんが喘ぐ。
浮かんだ珠の汗を拭うと、下がりつつあった視線を戻した。

 「まだ……まだ、でき、ます」


信じられないものでも見るように、麗さんがぽかりと口を開けた。

 「高垣……お前……」

 「お願い、します。もう少しだけ」

肩を揺らして、それでも楓さんは確かにそう言った。
その瞳をじっと覗き込んでから、麗さんが背後の俺を振り返った。

 「今のを聞いたか。プロデューサー君」

 「……ええ」

 「随分と……久しぶりだよ。こんなに迫力のある彼女は」

 「……ええ」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 19:28:51.44 ID:+01Y39Wao

普段通りのダンスレッスン。
ジャージに身を包んだ楓さんがスポーツドリンクを空にする。
タオルで拭われた表情は、変わらぬ真剣さを帯びていた。

 「一体、どうしたっていうんだ」

 「……アイドルとして」

 「ん?」

 「だらしない身体では、がっかりさせちゃうかもしれませんから」

 「た、高垣……!」

麗さんがとうとう目元を拭い始めた。
感じ入ったように頷く彼女の前で、楓さんが身体のあちこちへ確かめるように触れる。
一通り撫で終えると、今度は俺へと微笑んで。


 「ね?」


同意を求める笑顔を、俺は真っ直ぐに見られなかった。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 00:21:15.39 ID:q+12vlcHo
よい
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/01(金) 00:27:29.20 ID:1hR7rwwU0
いやーーー すんません ホントすんません
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/02(土) 11:14:33.47 ID:6/0diHgSo
これからひと月やきもきしながら焦らされるとか控えめに言って至福
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 23:05:26.95 ID:JwZVJIWBo

 ― = ― ≡ ― = ―


落ち着かない。


いや、自宅に居ても落ち着かない状況自体は珍しくも何ともない。
ライブの前やCDのリリース直前なんかは落ち着く事の方が少ないくらいだ。
ただ、そういった場合に心を宥める方法なら、俺はもう知っている。

ベッドから身を起こし、本棚に納まる分厚いファイルから一冊を抜き出した。
適当に開いてみると、挟まっていたのは何枚かのメモと写真。
『Nation Blue』発売前のものだった。

 「……」


『こいかぜ』。
『ワンダフルマジック』。
『プロダクションPV』。


プロデューサーとはつまり、アイドルを信じる仕事だ。
これまで積み重ねてきたものを、俺達が魔法と呼ぶそれを、ただ愚直な程に。
だから、新しい何かが始まる時は、こうして過去を振り返る。
そうしている内に、逸っていた心は穏やかになっていく。

いつもなら。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 23:08:28.90 ID:JwZVJIWBo

ご機嫌な笑み。
打ち上げの赤ら顔。

今までの彼女を見つめ直す度、ページをめくる度、落ち着くどころか。


 『アイドルとして』

 『がっかりさせちゃうかもしれませんから』

 『ね?』


アルバムを閉じる。
しばらく部屋を眺め回していると、クッションが目に留まった。
ベッドの木枠に挟み、その間に両足を差し込む。
膝を曲げ、大きく息を吐いて、上半身を持ち上げた。


後でランニングにも出よう。
焼け石に水だろうと、掛けないよりはずっとマシだ。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/06(水) 17:54:11.87 ID:kE7XeF/70
全裸で待ってたからいま牢獄から見てるよ、期待
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 20:02:50.37 ID:1ae1Fm4Co

 ― = ― ≡ ― = ―

 「楓さんは何にしますか?」

 「麦茶で」


 「麦茶?」

 「麦茶を」


 「何にしますか?」

 「麦茶です」


ひょっとして聞き間違えたかもしれない。賑やかな店だし。
もしかしたら楓さんが言い間違えたのかも。レッスン頑張ってたし。
そして訊ねた三度目の正直は、やはり麦茶に違いなかった。

 「え、っと、あの……体調が優れないようでしたら、送りますが」

 「いえ、元気いっぱいです。お腹も空きました」

 「何頼みます?」

 「旬魚のお造りとチーズの挟み揚げを」

 「あとビールですよね」

 「いえ、結構です」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 20:05:03.04 ID:1ae1Fm4Co

楓さんは結構な人気アイドルになった。
大変めでたく、ありがたい事だ。

だからこうして二人きりで飲むのは控えましょう。
そう提案したのも随分と前の話になる。

一悶着の末、結局は俺が折れる形となった。
変装を条件に、今でも月二回の飲み会は絶賛開催中。
店こそ毎回違うが、楓さんの一杯目は大抵、ビール。
少なくとも、アルコール。

 「……どうされたんですか、楓さん。本当に」

 「んーと、別に、大した事ではないんですけど」

 「と、言いますと?」

 「ほら。私、人よりちょっと飲む方じゃないですか」

 「ちょっと?」

 「何か?」

 「いえ」

酒の席で議論をしても無為に過ぎる。
すっかり肩を竦めて、俺は続きを促した。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 20:07:16.85 ID:1ae1Fm4Co


 「だから、抜けるのにも少し時間が掛かるかな……って」


 「……」

 「念の為、ですけれど」

楓さんが微笑む。
俺は不意を突かれて、思わず口の端がひくりと上がった。
気のせいなんかじゃなかった。
後ろにあった逃げ道がどんどんと削られ、細く、細く。


 「プロデューサーは、何にしますか?」


楓さんがメニューを差し出してくれた。
頭だけがぐるぐると回り、行き場の無い目がメニューの上を滑っていく。

 「……冷奴と、ごぼう天を」

 「お飲み物は、何を?」

 「……」

 「……」


 「……麦茶を」

 「プロデューサーって、真面目ですよね」

少しだけ悪戯な笑みを見せてから、楓さんは片手を挙げた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 21:57:57.91 ID:Ksvkuyx6o
ポリネシアンセックスっていうんだっけ
この日にするっていう予定日を決めたセックス
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 22:02:59.74 ID:1ae1Fm4Co
そういう有用な知識がこぼれ落ちるほど欲しい
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/08(金) 00:29:14.26 ID:gyTe5Zvi0

長時間かけて行う性行為かと思ってた

たくみんがポリネシアンするスレの知識だが
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/08(金) 04:36:38.75 ID:OU/n35LNo
時間をかけてねっとりするイメージ
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/08(金) 19:54:12.62 ID:VQLbafJLo
浄化された為、本日分の更新は明晩に延期されました
よろしくお願いします
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 23:03:15.06 ID:pvMhJD/Oo

 ― = ― ≡ ― = ―

 「ふぅ……」

日課になってしまった腹筋を終える。
しばらくベッドの上で溜まった乳酸を逃してやる。
Tシャツ越しに腹を撫で、ゆっくりと起き上がった。

夕飯も済ませた。風呂にも入った。歯だって磨いた。
後は寝るだけ。寝るだけだが、それにはまだ少し早い気もする。
布団被ってネットサーフィンでもするか。
脳がそう結論を下す間際、いやちょっと待て、と身体が申し立てる。
良いタイミングだろう、と。

 「……」

確かに良いタイミングだった。
最近忙しかったし、何より……何と言うか。
そう、イメトレだ。イメトレにもなる。かもしれない。

そうと決まれば善は急げ。
ズボンを緩めながら携帯電話を手に取る。
動画プレーヤーを呼び出し、トイレのドアを開けた。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 23:15:52.04 ID:pvMhJD/Oo


結論から言うとダメだった。
幾ら動画に意識を集中させ、丁寧に竿を扱いてやっても。
脳裏に悪戯な笑みがチラついて、とてもじゃないが続けてなどいられない。

それでもこのまま中断するのが悔しくて、インターバルを挟みリトライを繰り返す。
三度目の挑戦に失敗し、頭を抱えそうになったところで掌が震えた。
メッセージの着信で、差出人は楓さんで、俺は携帯を取り落とした。
思わずどこかの誰かに謝罪した。

心臓がバクバクとうるさい。
そんな訳ないと思いつつも、つい周りに視線を巡らせてしまう。
恐る恐る携帯を拾い上げ、ズボンで手を拭い、通知欄をタップする。


 『自撮りの練習、してみました』
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 23:18:54.99 ID:0pzWuNyWo
あかんて
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 23:21:39.25 ID:pvMhJD/Oo

結論から言うと非常にダメだった。

写っていたのは見覚えのあるネグリジェに身を包んだ楓さん。
胸に大きめのクッションを抱えていて、そういった部分はギリギリ見えない。
よく見ると背景は皺が寄っている。
どうやらベッドに横たわっているらしい。

それは見た事の無い構図で、何故なら絶対に撮らせない構図だったから。
彼女のイメージにそぐわないという理由で幾度となく提案を跳ね除けて。
これまでの数少ないグラビアでも、こんな写真は一枚も無い。


まるで楓さんを組み敷くかのような画。
ベッドとネグリジェとこちらへ伸ばされた手。
否が応にもそういった想像が膨らんでしまう。


再び携帯が震えて、再び俺の手から携帯が飛んでいった。


 『ごゆっくり、どうぞ』


拾い上げた画面には短くそう表示されていて。
気付けば先ほどのメッセージに既読が付いてから5分以上が経過していた。
手はいつの間にか脈打つ竿へと添えられていて、見る間に顔が熱くなる。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 23:25:55.65 ID:pvMhJD/Oo

あらぬ誤解だった。
いや、誤解でも何でもない千里眼なのだが、そういう事にしないとマズかった。

慌ててチャックを閉めようとして、挟まって、悲鳴を上げる。
ズボンを履き直し、手を洗い、画面をタップする。

 「……」

何でもいいから打たなくちゃならない。
けれど茹だった頭は何の助言も授けてくれない。
刻一刻と時間が流れていく中で、俺は全てを諦めた。


 『おやすみなさい』

 『おやすみなさい、プロデューサー。良い夢を』


携帯を枕元に投げ付け、勢い良く布団を被った。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 23:30:41.43 ID:pvMhJD/Oo
http://i.imgur.com/gnFji9Q.jpg

こいかぜと肇ちゃんのお声でいま大変な事になってる 幸せ
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/10(日) 23:48:24.96 ID:WhOjpOO00
支援と期待しかない
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/12(火) 03:32:06.38 ID:866d3vJ9o
なんて言っていいのか分からないけど、本気で攻めに入った楓さんとか、クリティカル必中防御無視くらいの壊れ性能なんじゃ…
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/12(火) 04:55:12.06 ID:UYmQJuKKo
この楓さんは防御無視の貫通ダメージがヤバい
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 10:07:36.99 ID:mNFXwqA5o

 ― = ― ≡ ― = ―


 「何かさー。綺麗になったよね、楓さん」


 「……え。あ、はぁ」

 「いやまぁ前からだけど……何て言うの? 最近ますます?」

朝の社内カフェは賑わいを見せていた。
ばったりと会ったのは春休みに入ったらしい北条さん。
奢ってあげたアーモンドオレを片手に、彼女が何気なく呟く。

 「コスメ変えたのかなー。プロデューサーさん、何か知らない?」

 「……さぁ」

 「ちぇー、プロデューサーさんもヒミツか」

 「え、あの、俺も?」

 「ん? いや、昨日楓さんとお買い物デートしたんだけどね」

傍目から見ても、北条さんは楓さんに懐いている。
楓さんも悪い気はしないようで、彼女の事は妹分として可愛がっているようだ。
オフの日もよく連れ立って遊んでいるらしい。

ちょっと羨ましい。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 10:22:36.67 ID:mNFXwqA5o

 「服を選ぶ時にさ、『加蓮ちゃん、どう? 似合うかしら』って。いつもより弾んだ声で」

 「……なるほど」

 「なんかちょっと変わったなって、そう思いながら見てたら、あーやっぱ綺麗だなーって」

担当アイドルを褒められて悪い気などしない。
ましてや同じ女性アイドルからなら尚更だ。
けれども、その、アレだ。
周りから見ても分かるくらい浮かれている楓さんというのは、こう。

 「あら。私のウワサですか?」


 「あ。おはよー楓さん」

 「おはようございます。加蓮ちゃん、プロデューサー」

 「……おはようございます、楓さん」

クロワッサンとブレンドを片手に楓さんが顔を出す。
傾げられた首に頷くと、俺の横へ腰を下ろした。
脇の鞄を退けようとした北条さんが、にこやかに笑いつつその腕を引っ込める。

 「それで、何のナイショ話だったんですか?」

 「んー? 楓さんって可愛いよねーって話。ね、プロデューサーさん?」

 「あら。そうなんですか、プロデューサー?」

 「……ええ、まぁ」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 10:39:54.68 ID:mNFXwqA5o

楓さんが鼻歌を口ずさむ。
その小さな旋律はひどく美しくて、ただのカフェラテがお供では少し味わいに欠けた。
そんな俺の感慨を知る由もなく、楓さんは下ろしたばかりのトートを漁っている。

 「どうぞ」

取り出されたのは雑誌だった。
四人掛けのテーブルに小さな山が出来て、俺は思わず立ち上がる。
頂上の一冊を手にとってみれば、それは聞き覚えのあるファッション雑誌だった。
俺も北条さんも、驚いたように楓さんを見つめてしまう。

 「……え。これ、ひょっとして……楓さんが載ってるやつ?」

 「ええ」

 「み、見ていいのっ?」

 「ですから、どうぞ」

北条さんが驚くのも無理はない。
モデルという経歴こそ知られてはいても、モデル時代の楓さんを誰も知らない。
もちろん、俺ですら。
北条さんが齧りつくようにページをめくり、見慣れたその姿を見つけた。

 「……楓さん、本当にモデルだったんですね」

 「はい。たまにファッションショーにも、出る、くらいの♪」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 10:47:10.71 ID:mNFXwqA5o


――ひとの過去は詮索しちゃ、めっ、ですよ。


見渡す限りの草原。
思わず口を突いて出た問いに、楓さんは確かにそう答えてくれた。
どことなく拗ねているようにも聞こえた声音は、今でも耳の奥に眠っている。

 「……」

 「おおー……」

チュニック。
コート。
ショートパンツ。
ジーンズ。

俺の知らない楓さんが、俺の知らない表情を浮かべていた。
北条さんがページをめくる度、楓さんの過去が、地平線の雲みたいに遠く膨らんでいく。

 「でも、どしたの? 前は頼んでも見せてくれなかったのに」

 「知ってほしくなったんです」

楓さんがゆっくりとページをめくっていく。
慈しむようなその手つきは、大切なアルバムを紐解く時とよく似ていた。

 「もう、私の全部を、知られちゃっても……いえ」

ぱたりと雑誌を閉じ、いつも通りの素敵な笑顔が覗く。

 「全部……知ってほしくなったんです。あなたに」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 11:11:11.04 ID:mNFXwqA5o

 「へー……プロデューサーさんも、やるじゃん♪」

 「……えっと」

 「楓さんが認めてくれたって事でしょ? 一人前のオトコとして!」


正しくは、一人の男性として、ですね。


物言わぬ筈の瞳が、何故だか俺に語りかけてきた。
幾らなんでも神秘的に過ぎる。
せめて千里眼だけで勘弁してほしい。切に。

 「それもありますけれど、後は、今後の参考にと、是非」

 「……参考、ですか」

 「ええ。どんな装いがいいか、考えておいてくださいね?」

 「やりがいのあるお仕事だねー?」

からからと笑う北条さんの横で、楓さんが鞄から携帯電話を取り出した。
何度か操作を繰り返すと、俺のポケットが震え出す。


 『お好みのものを、着て行きますので』


画面にはそんなメッセージが表示されていて、全力で平静を装った。
行き場のない力みが液晶を軋ませた。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 11:13:00.83 ID:mNFXwqA5o
77連0新衣装楓さん0SSRでした
ありがとうございました
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 13:18:30.21 ID:PZoV0VVQ0
お疲れ様です…
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 13:46:53.94 ID:7fQgqE6e0
以前は微課金とか言ってたのに
奮発したね
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/17(日) 14:20:52.68 ID:F2APUP5M0
77連とか微課金にしてはすごいですね…。
うーん、楓さんは策士可愛い
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 15:42:04.16 ID:cmu/ldGjo
脱がせる服を選ばせるとか確実に仕留めにきてるんだよなぁ…
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 17:31:02.79 ID:TfikSbE1o
楓さんのタンクトップにジーンズが見たい
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 21:28:04.67 ID:mNFXwqA5o
これまでもこれからも微課金だよ
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 21:30:32.93 ID:mNFXwqA5o

 ― = ― ≡ ― = ―

閉じた一冊を伏せると、次の分はもう無かった。
気付けば全て眺め終えてしまったらしい。
溜息を垂れ流しながら寝返りを打つと、安物のマットレスが小さく鳴いた。

彼女は。高垣楓はモデルだった。
決して目立たず、涼し気な顔で、時には笑んで。
ただそれだけだった。

 「……良かった」

昔の彼女を否定したい訳じゃない。
けれど、それでも、俺は今の楓さんの方が、ずっと魅力的だと思った。


――あんな冗談みたいなスカウトで、彼女をアイドルにしてしまってよかったのか。


それだけが今までずっと引っ掛かっていた。
思い出そうとしても記憶はアルコールまみれ。
よく覚えてはいないけども、きっと碌な口説き文句じゃなかっただろう。

またアルバムを引っ繰り返そうかと手を伸ばして、やめた。
いま振り返ってしまったら、みっともなく泣き腫らしてしまいそうだ。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 21:33:26.23 ID:mNFXwqA5o

読み終えた雑誌の山を切り崩した。
冬物を中心としたファッション誌に紛れていたカタログをつまみ出す。

帰り際、いきなり差し出された封筒には困惑するしかなかった。
唇に指を立てながら見舞われたウィンクは目眩がするくらいに決まっていて。
詳細なんて訊けず、開封したのは結局ついさっきの事。
まろび出てきたこの本に、困惑は晴れるどころか増すばかりだった。

表紙に載っていたのはもちろんモデルさん。
楓さんには敵わないものの、なかなかの美人には違いない。
異国情緒を感じさせる顔立ちが、下着姿で笑顔を見せていた。


その、何と言うか、下着のカタログだった。


 「……」

もちろん、この本に楓さんは載っていない。載ってて堪るか。

載ってない筈なのに、どうしてこんなモノを渡されたのか。
ヒントはどうやら数カ所に貼られたこの付箋らしい。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 21:39:20.44 ID:mNFXwqA5o

トンネルを抜けると、そこは下着だった。

思わずそう表現したくなるくらい紙面は下着にまみれている。
モデルさん達はどの方も健康的で、さしたる色気は感じさせない。

そして嫌でも付箋が目に付いてしまう。
付箋にはメモも何も記されていないが、その、ええと。


――中まで選べ、という事だろうか。


 「……いやいや」

イメクラじゃないんだから。
いや、利用した経験はないけども、とにかく。

俺好みバッチリの服装で、楓さんがやって来てくれる。

それはとんでもなく馬鹿馬鹿しい妄想で、途方も無く魅力的な提案だった。
そりゃ、妄想の中で楓さんにバニースーツやらを着せた事はあるさ。
あるけども、それはあくまで脳内の話。
単なる男の悲しい性で、本当にやってしまおうなどと思う筈もない。


けど、着てくれる。来てくれる。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 21:45:36.06 ID:mNFXwqA5o

いつの間にか鳴っていた喉を、誰に聞かせるでもない咳払いでごまかした。
少々荒くなっていた呼吸を落ち着ける。
念のために深呼吸も少々。よしオーケー。
いきなり着信音が鳴り響いて、表示されていたのは楓さんの名前だった。
ベッドから落ちて肘を痛打した。


 「……もしもし」

 『高垣です……あの、大丈夫ですか?』

 「な、何がでしょう?」

 『呼吸が荒いですけど……何をしてらしたんでしょう』

 「何むっ、何も、していません。大丈夫です」

 『そうでしたか』

通話しながらも室内を見渡してしまう。
いや、たまたまだ。有り得ない。偶然に違いない。

 「それで……どうかされました?」

 『あ、そうでした。お渡しした本についてなんですけれど』
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/17(日) 21:50:32.71 ID:mNFXwqA5o

横目を飛ばす。
雑誌の山の頂に、下着姿の女性が微笑んでいた。

 『新しく買う訳ではなくて、同じのか、似たようなのを持っていますので』


 「……は」

 『遠慮なく、お好きなものを選んでくださって大丈夫ですからね』

 「……」

 『それだけです。お休みのところ、すみませんでした』

 「あ、え、いえ、はい」

本当にそれだけで通話は切れた。
耳元から離すとオフになっていた液晶が再表示され、『高垣楓』の名が映し出される。
そりゃそうだ。間違い無い。

いま聞こえていたのは間違いなく楓さんの声で。
手渡されたカタログは間違いなく楓さんの意思で。
俺はもう、間違いなく楓さんの掌の上だった。

 「……」

崩れていた雑誌の山から一冊を拾い上げる。
机の引き出しから緑の付箋を取り出して、俺は再びページをめくり直した。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 21:51:18.71 ID:mNFXwqA5o
(明朝に続く。)
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 22:07:30.17 ID:ICRQMsqCo
もう待ちきれないよ!早く出してくれ!
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 22:38:48.05 ID:cmu/ldGjo
これはひと月かけた高度な前戯
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 22:53:20.61 ID:yTHsV0cho
読者を惹き付ける展開誇らしくないの?
楓さんの掌の上で踊りまくりたい
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/18(月) 09:47:34.50 ID:Ta/CIPb1o

 ― = ― ≡ ― = ―

 「あら」

挨拶もそこそこに、楓さんへトートバッグを差し出した。

 「お早いですね」


 「……え」

 「もっと、じっくり選んでくださってもよかったんですけれど」

 「……」

 「結構、楽しみにしてらっしゃるんですね」

あっと言う間に血が顔へと集まってくる。
両手で覆って俯いて。
一分ほどそうしている間、楓さんは含み笑いを漏らし続けていた。

 「ふふっ……落ち着きました?」

 「……はい」

 「じゃあ、拝見しますね」


 「えっ」

 「どれどれ」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/18(月) 09:58:39.47 ID:Ta/CIPb1o

主の出払っていた隣のデスクへ腰を下ろし、楓さんはトートバッグに手を突っ込んだ。
掴み取った雑誌たちからは幾つかの付箋がはみ出している。
持って帰るでもなくロッカーへしまうのでもなく。
楓さんは俺の目の前で、付箋付きのそれらを、じっくりとチェックし始めた。

 「んー、なるほど……」

 「……」

 「あ、確かに……こういうの……ふふっ♪」

 「……」

 「なるほど……こういう感じ、ですか」


一言で言えば、殺してくれ。


色を失っているだろう俺の顔と雑誌とを見比べて、楓さんは嬉しそうに笑う。
緩んだ頬がどこまでも無垢に見えて、立つ瀬は探すまでもなく消え失せていた。

雑誌を片手に、二人でお喋り。
傍から見れば特にどうという事もない光景だ。
例えその実が、どうしようもない性癖チェックの真っ最中であれ。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/18(月) 09:59:02.96 ID:QCq+tEbvO
もう始まってる!
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 10:03:39.63 ID:Ta/CIPb1o


 「――分かりました」


体感では小一時間ほどにも感じられた五分間。
閉じられたページのぱたりという音がようやくの終わりを告げる。
俺の精神はこれ以上ない程にズタボロで、一刻も早く帰宅してしまいたかった。
何でもいいから逃げ出したかった。

 「プロデューサー」

 「…………はい」

 「こんな感じのが、お好きなんですね?」

 「……相間違い御座いません」

頷く分のエネルギーすら怪しかった。
どうにかこうにか頷いて、もうどうにでもしてほしい。

 「ふふっ……そろそろ、レッスンの時間ですね」

 「そうですね……」

 「じゃあ、行ってきます。お仕事、頑張ってくださいね?」

 「……はい」

立ち上がって伸びをして。
事務所のドアを開きかけた所で楓さんは足を止めた。
振り向いて、戻ってきて、俺の頬に唇を寄せて。


 「お楽しみに」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/18(月) 10:04:30.43 ID:Ta/CIPb1o


もちろん、その後は仕事になる筈もなく。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 10:06:09.27 ID:Ta/CIPb1o
次回更新は今週末予定です
もう1、2エピソード挟んだらYes! Party Time!!です
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 10:45:59.64 ID:a14Ne+VoO
食い気味な気持ち持て余しまくりなのに勝負のコスチューム万端なんだもん
曝け出して無敵にも程があるでしょうよ
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/18(月) 16:08:04.61 ID:kMd98lRfO
これは、生まれついての小悪魔は天使に見えるとか言うやつですか。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 22:58:24.12 ID:VO8JXa/nO
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 21:55:15.68 ID:ROj2M5730
今週末だぞ(気が早い)
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 17:47:06.61 ID:eHHtcV7Qo

 ― = ― ≡ ― = ―

少しフラついて見えて、そしてそれは気のせいじゃなかった。
三船さんが覚束ない足取りでこちらへ向かってくる。
廊下のところどころに積まれた荷物にちょくちょくぶつかっている。
……新年度前に片付けておこう。

 「あの……三船さん?」

声を掛けた途端、ぴたりと動きが止まった。
俯いていた顔が上がる。
呆然とした表情のまま、三船さんは俺の顔を見つめていた。

 「プロデューサーさん……?」

 「あ、はい」

 「……プロデューサーさん」

 「何でしょう……というか、あの、大丈」

肩を掴まれた。
がしり。と確かに聞こえた。
そのままダンボール山の陰に、壁際に追い詰められた。
不覚にも少し、ときめいた。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 17:48:56.47 ID:eHHtcV7Qo

 「ええと、ちょっと、三船さん」

 「かえ、楓さんがっ、楓さんが……おかしいんですっ……!」

 「……へ?」

唐突に飛び込んできた楓さんの名前。
楓さんは割と、おかしな何かをやる事も多い気がするが。

 「一緒にお酒、お酒を飲みませんか……って、誘ったんです……」

 「……ええ」

 「そしたら、『すみません、控えているんです』って、楓さんが……言っててっ」

 「……はい」

 「絶対ぜったい、おかしいです。変です……ライブ前でもないのに……お酒を断るなんて……!」


鬼に金棒、楓に酒瓶。


いつかの折に聞いて、うっかり頷いて、隣の楓さんに頬をつねられた事がある。
それくらい彼女とアルコールは親和性が高い。
体の半分はお酒で出来ていて、もう半分はおつまみだとも聞いた。

ともかく。
楓さんがお酒を断るのはおかしい。それは事務所での共通認識らしい。
普段、楓さんがアイドル達の間でどう扱われているのか考えると、少し頭が痛くなる。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 17:50:38.59 ID:eHHtcV7Qo

 「プロデューサーさん、教えてください……楓さんに、いったい何が……」

 「その、何がと言うか、ええ」

 「お願いです……! 何か、あるのなら……私も、力に……」

 「待って、三船さん、待って、あの、離れて」

間近に迫られ、ぐいと壁に追い詰められ。
潤み始めた瞳と、染まり出した頬と、押し付けられた柔らかさ。
駄目だ。ダメになる。

 「私も、楓さんの……友達として……」

 「分かったから、三船さ、離れ、アイツにぶん殴られるんで、あのホント」

 「プロデューサーさんっ……!」

三船さんの優しさに感動しつつ、柔らかさにはそれ以上に感動してしまう。
俺も男だ。許してほしい。
しかしマズい。早くごまかさないと非常に非常にマズい。
万一にでもこんな状況を楓さんに見られたらと思うと。

 「あら。こんな所で、何をしてらっしゃるんですか、プロデューサー?」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 17:53:55.55 ID:eHHtcV7Qo

血の引いていく音が鮮明に聞こえた。
横を向くのも怖い。向かないのも怖い。
今ならモーフィアスの気持ちも痛い程によく分かる。

 「楓さんっ……ぁ」

 「さっきぶりですね、美優さん」

ようやく気付いたように、三船さんの身体が慌ただしく離れてゆく。
ちらりと胸元を見下ろせば、やはり少し寂しい。

 「かえ、あの、ちが、えう」

 「大丈夫です。分かってますよ、美優さん」

 「そのえと、本当に……私は」

 「プロデューサーは、そんないやらしい事をする方では、決してありませんから」

にこりと三船さんへ笑いかけたまま、後ろの尻尾で俺の耳を突き刺してくる。
心なしかいつもよりも平坦な声で。
聞いているだけで腹の奥が底冷えしてくるような。

 「でも、楓さん、お酒……どうして」

 「うーん……ヒミツ、だったんですけど……」

色違いの瞳がようやく俺の顔を捉えてくれる。
口の端が僅かに上がって、俺の背筋はそれだけで簡単に震え上がった。

 「美優さん。耳を貸してください」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 17:57:51.79 ID:eHHtcV7Qo

 「……え?」

 「まぁまぁ、まぁまぁ」

止める間も無く三船さんの耳に手が添えられる。
色の良い唇を寄せて、楓さんは二言三言、何かを囁いた。
頷いた美優さんはハッと気付いたように眉を上げて、こちらの顔色を伺っている。


これが社会的死か。意外にあっけないものなんだな。


 「……そ、そう、だったんですね。私ったら、また……また、とんでもない早とちりを」

 「あ……え、いえ…………あ、あはは……?」

この期に及んでぺこりと下げられた小さな頭。
控えめな彼女のつむじを見つめたまま、乾いた笑いは勝手に零れていく。

 「じゃあ……お二人とも、頑張ってくださいね。応援……しています」

 「…………あ……は、どうも……」

ぺこぺこと頭を下げたまま、三船さんの背が廊下の角を曲がって消えた。
頑張ってください。
うん、温かい言葉だ。死にたい。

 「ふぅ……頑張る事になっちゃいましたね、新曲」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 18:02:02.44 ID:eHHtcV7Qo

 「…………はい?」


新曲?


 「こっそり、とびきりの新曲を練習しているんです」

 「え。いや、新曲の予定なんて」

 「だから、そういう事にしちゃいました」

 「……」

 「ひょっとして、ぜんぶ、本当の話をしてほしかったですか?」

 「いえいえいえいえいえ」

押し黙っていた心臓が久しぶりに脈打ち始める。
どっと脂汗が滲み出て、今すぐにでもシャツを替えたい。
暑くて暑くてどうにも堪らなくて、二月だと言うのにネクタイを緩めてやった。

 「心臓が止まるかと思いましたよ……」

 「ふふっ……私も、そんなに迂闊な女じゃないですよ」

身に染みるほど知っている。
高垣楓はどこまでも額面通りに――魔性の女神だ。

 「だから、美優さんの為にも、頑張っちゃいましょう」

 「……新曲、かぁ。また作曲家さんに挨拶回りしないと……それから」

 「あ、そっちもですけど」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 18:13:51.47 ID:eHHtcV7Qo

緩めたばかりのタイを掴まれた。
何かを考える暇すら与えられず、どかりと壁に押し付けられる。
ついでとばかりに押し付けられたのは、ひどく熱くて柔らかい何かで。


気付けば、奪われていた。


 「は、ぁ……」

ちゅぷり。

離れた唇はそんな音を立てて、荷物だらけの廊下に妖しく響いた。
何かを考える余地すら与えられず。
俺はただ、2センチだけ上に輝く二粒の瞳を、馬鹿みたいに見つめていた。

 「ふふ……私も、そこまで落ち着いた女じゃありませんから」

 「……っ……あ」

 「嫉妬くらい、しますよ」

 「…………」

 「頑張りましょうね、プロデューサー」

頷く力も抜けて、壁に背を預けたまま崩れ落ちる。
動かせない視界から長い脚が消えていって、後は小さな足音だけが聞こえた。
ダンボール箱の山にもたれ、また忘れかけていた呼吸を取り戻す。


ビンタ代わりのプレゼントは、コーヒーの味がした。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/23(土) 18:34:10.36 ID:eHHtcV7Qo
次回更新は木曜日の予定です
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/23(土) 19:00:18.88 ID:WBonv/8e0


木曜日…た生殺しが始まるのか…
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/23(土) 19:12:18.95 ID:l9C6RqwSO
これずっと主導権握られっぱで終わりそう
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/23(土) 20:04:30.00 ID:gLjEmze1O
楓さんの方が背高いのか?
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/23(土) 20:08:50.73 ID:eHHtcV7Qo
>>83
Yes. 彼女の方が微妙に高い設定です
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2017/09/23(土) 20:30:29.08 ID:mXAbz5200
楓さんが本気を出したせいで(恋愛的な意味で)プロデューサー絶対殺すウーマンになってる…繰り出す攻撃全てが弱点特効クリティカルヒット…
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/23(土) 20:33:42.23 ID:cYahPUS5O
楓さん172cmだしヒール履いたら男性の平均身長より高くなるよな
つらい(平均並感)
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/23(土) 23:52:23.94 ID:gMaQESUW0
この生殺しさえも焦らしプレイだとして楽しもう…
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/24(日) 01:38:35.04 ID:d9T6pX9qo
この楓さんはヒールを封印してる設定なんよ!
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/24(日) 01:42:39.13 ID:d9T6pX9qo
ああ、木曜日って決戦は金曜日の前日やないか…
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/24(日) 03:22:32.74 ID:CfT+TvV8O
楓さんが強すぎて好きなの…
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/24(日) 04:13:50.50 ID:/B3x/SFn0
25歳で元モデルなんだからさすがに処女ではないよな
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/24(日) 04:24:43.29 ID:/B3x/SFn0
処女はさすがに引くから経験人数2〜3人であってほしい
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/24(日) 06:21:10.17 ID:MvLc2mWAO
モバマスは現実じゃないんだから処女に決まってるだろ…
ちゃんと現実と向き合えよ
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/09/24(日) 07:39:41.99 ID:vaVneKqk0
名言ワロタ
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/24(日) 07:44:53.54 ID:c2/nd5iSO
>>93
クッソwwwwww
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/24(日) 08:13:36.99 ID:ATecKsNG0
まあ初期の性格知ってたら男性経験あるとは思えねえ
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/28(木) 01:01:17.81 ID:4DXkhQHto
いよいよ明日か…
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/28(木) 19:31:04.28 ID:6qCtZcfNo

 ― = ― ≡ ― = ―


 「あ。プロデューサーさん」

 「再来週分のスケジュール案です。どうぞ」

 「……ありがとうございます。それと」

 「次の衣装でしたら現場帰りに見てきました。裾飾り増やす方向で修正中です」

 「…………そ、そうですか。順調そうで何よりです」


ちひろさんに書類を手渡し、再びキーボードを叩く。
用件はそれだけだったらしく、中途半端な笑顔を提げながら戻っていった。
気を取り直してメールチェック。
今日も今日とて依頼やら打診やらのメールが電子の山を成していた。

最近は営業回りに出る事も少なくなった。
こちらが何も言わずとも仕事が勝手に舞い込んでくる始末だ。
その中から楓さんの為になりそうな幾つかを選び、当人に感触を尋ねるばかりで。

 「……そろそろ、回ってみるか」

けれどどうも、楓さんは俺が獲ってきた案件の方がお気に入りのご様子。
この間の新人の子とのミニイベントなんて、それは素敵な笑顔が眩しいくらいだった。


ああ、畜生、駄目だ。
気が付いたらまた楓さんの事を考えている。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/28(木) 19:35:02.80 ID:6qCtZcfNo

この一週間は仕事しか手に付かなかった。
それ以外の時間が少しでも出来ると、頭が勝手に彼女について考え出す。
高垣楓じゃない、楓さんについての愚考を。

結局、逃げ場なんて無かったんだろう。
スカウトから丸三年、俺の生活は高垣楓を中心に回っていたと言っていい。
高垣楓は実に回りがいのある女性で、この三年は余りにも満たされ過ぎていた。
磨けば磨いただけ輝く宝石を、とにかく手元に置いておきたかった。

 「コーヒー……」

カップを手に立ち上がり、不意に柔らかな感触が蘇った。
手からカップが滑り落ちる。
カーペットがごとりと鳴って、小さな染みが幾つか出来た。


どこか遠く、蠱惑的な含み笑いが聞こえた。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/28(木) 19:36:25.96 ID:6qCtZcfNo
という訳で、たいへん前置きが長くなりましたが、明日の夜は是非よろしくお願いします。
あとオチが下ネタでもどうか怒らないで
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/28(木) 19:40:45.01 ID:9DDkbHISO
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