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Pの姉妹はトレーナー!【アイドルマスターシンデレラガールズ】
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2 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:28:34.27 ID:6/0ptyab0
俺、『青木詠』は姉妹たちと同じ、346プロダクションで働くプロデューサーだ。
アイドル部門の担当で、元気な新人アイドルを任されることになった。
姉たちは346プロの専属トレーナーで、アイドルのレッスンを指導している。つまり嫌でも顔を合わせることになる。さすがにこの歳で姉同伴というのは恥ずかしかったりするのだが、当の姉たちは気にしていない様子。
妹の慶ちゃんも大学で勉学に励むかたわら、アルバイトとして346プロダクションに来ては姉やアイドルのサポートをしている。
会社の先輩からはシスコンとなじられたりする。正直に言うと嫌だ。
まあ、シスコンはあながち間違いではないのだが……。
それは置いといて、明日の朝も早い。
俺はたまたま、姉妹との馴れ初めを思い出して感傷に浸っていたのだが、明日の仕事のことを考えて就寝することにした。
就寝時刻は22:00だった。
夢を見ていたかもしれない。
『……て……きて……お……て……』
聞き覚えのある声が耳元に届いてきたと思ったら突風に襲われた。
3 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:29:13.69 ID:6/0ptyab0
詠「うわっ!」
突然のことに驚いて目が覚める。
目の前には掛け布団を高々と掲げる明姉ちゃんの姿。どうやら引っぺがしたらしい。
今は夏だが、これを冬にやられると寒いのだ。
明「起きた!」
布団を持ったまま小声で言うと、にこりと笑う。
詠「起きるよ!」
明姉ちゃんに合わせて小声で返事をする。
今は朝の5時。
彼女の出勤時間はなんと朝の9時。ちなみに俺はもっと遅い。
この時間に起こされる理由は明姉ちゃんの趣味と関係がある。
いや、今となっては趣味というか日課に近い。
明「30分で用意してね」
詠「りょーかい」
俺はこれから彼女と出かけるのだ。
もちろんショッピングなんかではない。店も開いてないので。
俺は言われた通り30分以内で用意を済ませる。
下はランニングタイツにハーフパンツ、上はスポーツウェア。
4 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:30:09.53 ID:6/0ptyab0
明姉ちゃんはもう準備バッチリだった。
ランニングタイツとショートパンツを穿いており、ややぴっちりしたボーダーのウェアとシンプルなデザインのキャップを着用。髪は後ろでまとめている。
2人で玄関へ行き、色違いだが同じランニングシューズを履いて外へ出る。
明姉ちゃんの指導でストレッチを行い、ランニングするのだ。
もうお分かりだろうが、明姉ちゃんの趣味とは早朝ランニングだ。
3年くらい前にこの趣味に誘われてから毎朝一緒に走ってる。
雨の日にはご丁寧に防水グッズ一式を装備させられる。
俺は、明姉ちゃんが独りで走る姿を想像してしまい、同情して一緒に走るうちに毎朝の日課となってしまった。
ところで早朝は車の通りも少なく、なかなか気持ちのいいものである。
明「詠くん」
詠「何?」
明「最近どう?」
詠「普通だよ」
明「担当してる子売れそう?」
詠「さぁ? 彼女たち次第かな」
明「詠くんもしっかり支えてあげなきゃいけないよ」
詠「そりゃあ……もちろん」
そんな仕事の話をしながらランニングをする。
鬱陶しく感じる湿気と気温。まさしく夏を告げている。
5 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:30:49.45 ID:6/0ptyab0
明「ただいま」
詠「ただいま」
帰ってきたのは朝の6時を少し過ぎた頃。
明「お帰り」
詠「お帰りなさい」
他の姉妹たちから『ただいま』の返事は無いので、俺と明姉ちゃんはお互いで返す。
ちょっとしたおふざけだ。
明「シャワー浴びてくる」
詠「おう」
明「覗かないでね!」
詠「覗かねぇよ!」
明姉ちゃんはにこにこと満足そうにバスルームに向かって行った。
俺をからかうのが好きらしい。
俺は起きてくる姉妹たちのためにも朝食作りを始める。
それと並行して弁当も作るのだ。
家事全般は青木家に引き取られたときからの、なんというか、恩返しのつもりで始めたことだった。
6 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:31:30.70 ID:6/0ptyab0
ちなみにうちは姉妹4人と俺で暮らしてる。
職場が同じなので同じ場所に住んでるのだ。
そこそこ広く、俺も一人部屋を持っている。姉妹たちは二部屋を二人ずつで使ってる。もちろん俺の部屋よりも広い。
両親はというと、栃木に住んでいる。
早く孫の顔が見たいと言っていた気がする。
俺がちょうど料理を作り終えた頃、リビングと廊下を繋ぐ扉が開かれた。
麗「おはよう、詠」
詠「麗姉ちゃん、おはよう」
一番上の姉ちゃんだ。
きちんと身だしなみを整えてからやってきた。
上はスポーツウェア、下はスパッツにショートパンツ、機能性の靴下を着用していてスポーツのインストラクターって感じだ。
麗姉ちゃんは美しい所作で椅子に腰かけると俺の方をチラッと見る。
麗「いただきます」
麗姉ちゃんの真っ直ぐな眼で見られると、いつもドキッとしてしまう。
詠「どうぞ……召し上がれ」
麗姉ちゃんは黙々と食べ始めた。
7 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:32:06.88 ID:6/0ptyab0
明「麗ちゃん、おはよう」
しばらくするとシャワーを浴びた明姉ちゃんが戻ってくる。
かかった時間からして、おそらく湯船にも浸かったらしい。明姉ちゃんの身体から湯気のほかほかが見える。
上気した頬や濡れた髪を少し色っぽいと思い、慌てて目を逸らした。
俺と明姉ちゃんも食卓を囲む。
明「いただきます」
詠「召し上がれ」
明姉ちゃんも俺の顔をチラッと見てから食べ始める。
朝食を食べていると廊下の方から扉を開閉する音が聞こえてきた。
この扉の開け方は聖姉ちゃんだろう。
聖「おはよ……」
寝ぼけ眼をこすりながら、麗姉ちゃんとは対照的な格好で入ってくる。
8 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:32:39.91 ID:6/0ptyab0
詠「おはよう……聖姉ちゃん、だらしないよ」
聖「詠〜、着替えさせてよ」
そう言って後ろから俺に抱き付いてくる。
若干はだけたパジャマが目に毒で、聖姉ちゃんの顔もすぐ横まで近づくので少なからず意識してしまう。
麗「バカ言ってないでさっさと食え」
明「自分でやりなよそのくらい」
聖「冷たくない?」
詠「とりあえず離れてくれ」
聖「しょうがないな」
渋々、といった様子で聖姉ちゃんは俺の隣に座って箸を取った。
9 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:33:24.01 ID:6/0ptyab0
聖「いただきます」
詠「どうぞ」
聖「ん、美味しい」
詠「そう、ならよかった。ところで、慶ちゃんは?」
明「いつも通り」
慶ちゃんは大学生になってから生活ペースが変わり、バイトの無い日はどこをほっつき歩いてるのか帰りが遅くなってしまった。
この前はベロベロに酔って帰ってきたりもした。まだ19歳だから心配でしょうがない。
この前なんかは携帯も繋がらなかったので、夜中にあちこち探し回った。
結局見つからず、俺が朝起きてもいなかったので本気で警察に届け出ようかと思ったものだ。
警察署に行こうと家を出たら玄関の前で慶ちゃんが寝ていたという事件は記憶に新しい。
麗「慶のやつ、たるんでるな」
詠「まあまあ、学生なんてそんなものだって」
本当は超心配だけど……。
10 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:34:03.05 ID:6/0ptyab0
聖「お前も帰り遅くなったり、生活が乱れたりでお姉ちゃんたちを泣かしてたもんな」
詠「……すみません」
聖姉ちゃんの言う通りなので俺も強く言えないわけである。
聖「別に責めてるわけじゃないんだが? お前が帰って来ないのが心配で全然眠れなかったくらいだから大したことないんだが?」
詠「ごめんって」
ねちねち責めてくる聖姉ちゃんを少し鬱陶しく思いながら、過去の出来事を改めて反省した。
無断で丸一日家に帰らなかったことがあった。
帰った時、四姉妹に泣かれて生活を改めることにしたのだったか……。
麗「もう以前のことはいいだろう」
聖「あの時は心の底から心配したな」
麗「女々しいぞ。当時も家事はある程度やってくれてただろ」
麗姉ちゃんがフォローしてくれる。女神だ。
けど、当時の俺は朝起きれなかったので家事はほとんどやってません。すみません。
明「私は、大学生って暇なんだなーって思った」
詠「おっしゃる通りです」
明姉ちゃんはフォローしてくれない。大学生の俺を見て、だらしないやつだと思ってたに違いない。きっとイライラもしてたはずだ。
麗「まあ反省してるから今の詠があるわけだし、いいじゃないか」
麗姉ちゃんはやっぱり優しい。
こうして雑談を交えつつ食事を終えた俺は食器を台所に持って行ってシンク内で洗う。
11 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:34:34.00 ID:6/0ptyab0
詠「じゃあ慶ちゃん起こしてくる。食べ終わったら食器、台所に置いといて」
明「起こすの早くない?」
詠「今日は確か1限って言ってたから」
聖「何で知ってるんだよお兄ちゃん」
明「シスコン」
詠「うるせー。聖姉ちゃんはさっさと準備しろ」
リビングから廊下に出る。
後ろから2人の、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
またからかわれた。
俺は慶ちゃんの部屋の前で立ち止まる。
慶ちゃんは明姉ちゃんと同じ部屋だ。
その向かいの部屋が麗姉ちゃんと聖姉ちゃんの部屋。
俺の部屋はリビングに隣接してる。
俺はコンコンと2回ノックをして慶ちゃんの名前を呼ぶ。
当然というべきか、返事は無い。
詠「入るぞ」
控えめに断りを入れてドアを開ける。
12 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/11/30(木) 11:35:42.19 ID:6/0ptyab0
中断します。
続きは数日後に投下します。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/30(木) 15:30:30.08 ID:V6cVyRpNo
女々しいって女に対して使うか?
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/30(木) 17:37:53.29 ID:MBJ9AupJo
>>13
【意味】 女々しいとは、柔弱である。いくじがない。未練がましい。多くは男性についていう。雄々しいの対義語。
ちょっとぐらい使ってもええんちゃう?
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2017/11/30(木) 20:11:29.51 ID:KDooihwjO
うえから
れい
せい
めい
えい
けい
かな?
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/30(木) 23:20:39.72 ID:+b9rmG9I0
R要素は?
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/30(木) 23:55:21.84 ID:15MIHdhpO
慶ちゃん好き
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 02:10:28.71 ID:z+UgG9hSO
>>13
女々しくて
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 14:23:50.98 ID:BtyA39rO0
慶ちゃんは大学生になってから生活ペースが変わり、バイトの無い日はどこをほっつき歩いてるのか帰りが遅くなってしまった。
この前はベロベロに酔って帰ってきたりもした。まだ19歳だから心配でしょうがない。
未成年飲酒…?
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 15:10:32.81 ID:vo/vKRyJo
まじやん草
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 15:29:31.31 ID:4p1i4M7nO
これは大学エアプ
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 15:35:22.50 ID:QfoOtgbTO
アルコール入りのお菓子食べちゃっただけだからセーフ
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 16:17:07.96 ID:kBR/EyDSO
商業ならまだしも匿名掲示板に書かれた二次創作にそこまで求めてはいけない
ってか大学でなら新歓でのまされるだろう
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 17:19:12.10 ID:H3nhD88o0
不穏やな
25 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:10:20.53 ID:H3AEbMY60
慶「……」
スースーと寝息を静かにたてている。
昨日も遅く帰ってきて、きっと就寝時間も遅いだろう。
起こすのは正直忍びないが、これも妹のため……。心を鬼にして慶ちゃんの肩を揺すった。
詠「慶ちゃん、起きろ。今日1限だろ?」
慶「ぅん……うぅ……」
慶ちゃんは唸るだけで起きようとしない。
詠「起きろー!」
早朝の明姉ちゃんよろしく布団を引っぺがす。
徐々に慶ちゃんの瞼が開かれる。
完全に開くことはなく、目を細めたまま俺のことを認識したらしい。
慶「おはよ……お兄ちゃん……」
彼女はすっと体を起こして、ベッドの上で座り込む体勢になった。
26 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:11:43.95 ID:H3AEbMY60
詠「おは……」
今更ながら慶ちゃんの格好がとんでもないことに気付く。
この妹、下着だけで寝てたらしい。
俺は顔に熱が昇ってくるのを感じた。
詠「ばっ……! 慶ちゃん、ちゃんと服を着なさい!」
慶「ふぇ?」
慶ちゃんから顔を逸らす俺。
自分の姿を確認する慶ちゃん。
慶「きゃっ!」
慶ちゃんは隠すように自分を抱く。
俺は慌てて手に持ってた掛け布団でベッドに座る慶ちゃんを包んだ。
詠「ご、ごめん。次から気を付けるよ」
慶「……べ、別にいいよ。気にしてない」
いや、「きゃっ!」て言って隠したじゃん、と思ったが黙ることにした。
27 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:13:04.81 ID:H3AEbMY60
慶「……どうしたの?」
しばしの沈黙の後、先に口を開いたのは慶ちゃんだ。
詠「いや、慶ちゃん今日1限って言ってたろ? だから起こしに来たんだけど、こんなことなら姉ちゃんに頼めばよかったな」
慶「ううん。お兄ちゃんが来てくれて嬉しいよ」
にこっと笑う慶ちゃんは可愛くて、シスコンが加速してしまいそうだ。
慶「それに私の時間割、憶えててくれたんだ」
詠「ああ、起きれなくて遅刻とか欠席が重なったら困るだろ?」
慶「ありがと、優しいね」
詠「普通だよ普通。早く学校行く準備するんだぞ?」
慶「うん」
詠「あと風邪ひくから、その……し、下着だけで寝るのは……」
慶「はい、気を付けます……」
28 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:14:14.26 ID:H3AEbMY60
生活が乱れたのは確かに気になるけど、慶ちゃんは俺の言うこともしっかり聞いてくれるし、良い子であることに変わりはない。
詠「おう、じゃあまた後でな」
そうして部屋を後にしたのだが、動悸が大変なことになってしまった。
妹相手にドキドキしたことが恥ずかしいし、背徳的な気持ちになってしまう。自己嫌悪だ。
リビングに戻ると、聖姉ちゃんと明姉ちゃんが様子の違う俺を見てまたからかい始めたりする。
聖「おや? 詠、まさか妹に手を出したんじゃないだろうな……」
明「えー! さすがに引くよ? シスコンくん」
詠「うるせー。聖姉ちゃんは早く準備してこいって」
俺がそう言うと、やっぱり二人は笑うのだった。
慶ちゃんもばっちり目が覚めて、身支度を終えた姉妹四人は同時に出かけた。
麗姉ちゃん、聖姉ちゃん、明姉ちゃんは自分らの職場へ。
慶ちゃんは通っている大学へ。
出勤時間がみんなよりも遅い俺は、洗濯や掃除など、家事をする。
だいたい九時半くらいにはすべて終わるので、ちょっと身だしなみを整えてから家を出る。
さて、やってきました我が職場346プロ。
29 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:14:56.97 ID:H3AEbMY60
一年目はマネージャーの仕事を主にやってきた俺だが、今年からプロデューサーとして新人アイドルを三名預かることになった。
活発な女の子たちで、彼女たちとはすぐに打ち解けられた。
担当の少ない俺にはマネージャーは付かないらしい。
今日の予定はどうだったかと考えながら、アイドル部門の事務所に向かう。
詠「おはようございます!」
蓮「おう」
実に短く返事をくれたのは『渋谷蓮』さん。去年度、俺は彼の部下としてマネージャーをやっていた。思いやりがあってかっこいい人だ。
葉月「おはようございます」
優しい口調の彼女も俺の先輩で、蓮さんの同期である『島村葉月』さん。
黒髪ロングの美人さんで、しっかり者だがちょっと天然という可愛らしい一面もある。
面白いことに二人とも実の妹をプロデュースしてるのだ。
蓮さんの妹さんは半分俺のせいだけど……。
葉月さんは「私以外の人に妹をプロデュースさせません!」なんて言ってたっけ。
ちなみに蓮さんの妹さんは『凛』ちゃんで、葉月さんの妹さんは『卯月』ちゃんという名前だ。
30 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:15:44.56 ID:H3AEbMY60
彼女たちは現役高校生なので、会うのはきっと夕方からだ。
俺の担当するアイドル三人も高校生なので、先輩の妹さんたちと仲が良かったりする。
特に大きな報告もなく朝礼は終わり、早速仕事を始める。
詠「蓮さん」
蓮「何だ?」
詠「この企画書見てもらっていいですか?」
蓮「どれ……」
と言って受け取ってもらう。ぺらぺらとレジュメをめくり、一通り目を通し頷いた。
蓮「いいんじゃないか?」
にっと笑って「頑張ったな」なんて言葉をかけてくれる。
俺は嬉しくなってちょっと顔が綻んだ。
葉月「詠くん。私にも見せてもらっていいですか?」
葉月さんの笑顔が眩しい。
俺は断る理由も無いので「どうぞ」と言ってレジュメを渡した。
31 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:16:28.79 ID:H3AEbMY60
詠「どうですか?」
葉月「いいと思います! 詠くんの成長は目を見張るものがあります。私もうかうかしてられません!」
詠「そ、そんな……俺はまだまだですよ」
まさかのべた褒めで顔から火が出そうになった。
そんな感じで企画書作ったり、営業に行ったり、電話かけたり、報告書書いたり……。
あっという間に夕方になった。
これからアイドル達とミーティングしたり、ダンスや歌をチェックしてどういう感じで売り出すのか模索していくつもりだ。
「おはようございまーす!!」
元気に挨拶して現れたのは俺が担当するアイドルの『日野茜』ちゃん。
「おっはよープロデューサー!」
親しみを込めた近い距離感で挨拶してくれるのが『本田未央』ちゃん。
「おはようございます」
ゆるふわな雰囲気を纏ったおっとり系の『高森藍子』ちゃん。
この3人でユニット『ポジティブパッション』を組んでおり、俺は彼女たちのために、ひいては自分のために、どう売り込むか日々頭を悩ませるのだ。
32 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:17:35.99 ID:H3AEbMY60
詠「おはよう。今日も元気だね」
未央「いやいや、何言ってるのさプロデューサー! 私たちはまだ女子高生だよ!」
茜「そうですよプロデューサー!! 元気が一番です!!」
藍子「ふふっ! 私は2人ほどじゃないですけど、一緒にいるとこっちまで元気になれる気がします」
藍子ちゃんの言ったように3人の雰囲気が他人に伝播していって、俺もすっかり疲れが飛んだ気がする。
詠「それはよかった。その様子じゃあレッスンも難なくこなせそうだ」
未央「うえっ! それとこれとは話が違うっていうか……」
複雑な表情をする未央ちゃん。前回のレッスンでこってり絞られたのは間違いなさそうだ。聖姉ちゃんあたりだろうか?
茜「未央ちゃん! そんなことではいけませんよ!! 気合があれば何でもできます!!」
藍子「それはちょっと無理があると思うけど……」
一瞬で未央ちゃんの元気が砕け散ったんですけど……。
思春期の女の子は難しい。
33 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:18:23.50 ID:H3AEbMY60
詠「未央ちゃん。聖姉ちゃんは厳しいけど、レッスン終わったら俺がご飯連れてってあげるから頑張れ!」
未央「ホント!? 約束だよ! よっしゃ、やるぞー!」
茜「おお! 未央ちゃんのやる気がっ!!」
藍子「私たちもいいんですよね?」
詠「もちろん。何食べたいか相談しといて」
こうして3人はにこやかにレッスンへと向かった。
意外と単純なのかなぁと思いつつも、やる気になってくれたので結果オーライとした。
3人の「行ってきます」の言葉に俺は「行ってらっしゃい」と返した。
安請け合いするみたいにご飯奢るって言ったけど、あんまり高いものは嫌だなー。なんてケチなことを考える。
蓮「詠、お前担当の子たちと仲良いよな」
詠「え、そうですかね? 普通ですよ」
蓮「俺と凛を見てそんなことがよく言えるな」
詠「……なんかすみません」
34 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:19:31.65 ID:H3AEbMY60
蓮「何でお前がスカウトしてきたのに担当は俺なんだよ……上も融通が利かないな」
詠「おっしゃる通りです」
蓮「島村は妹と仲良いよな」
葉月「まあ渋谷くんよりは良いですよね。青木くんもお姉さんたちと仲良しですし」
なんて兄妹談義をしていると、噂をすればというやつか……。
「おはようございます」
サラサラでロングな黒髪を持つ美少女が挨拶しながら事務所に入ってきた。
どことなく蓮さんの面影を感じるこの子が件の凛ちゃん。最初に会った時、カッコいい雰囲気に目を奪われたものだ。
「おはようございます!」
元気にお辞儀しながら挨拶した少女は葉月さんの妹の卯月ちゃんだ。
ふわっとした黒寄り茶色のロングヘアーの一部をサイドに纏めている。頑張り屋さんだ。
蓮「おう」
葉月「おはよう!」
素っ気なく返事する蓮さんに対し、満面の笑みでお迎えする葉月さん。
35 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:22:56.18 ID:H3AEbMY60
詠「おはようございます!」
凛「あ、詠さん……その、おはよ」
ふいっと俺から顔を逸らす凛ちゃんとは何だか壁を感じる。
アイドルに無理に誘ってしまったし、もしかしたら嫌われてるかもしれない。
卯月「詠さん! おはようございます!」
詠「おはようございます!」
卯月ちゃんは誰に対しても人当たりがよくて俺にもよく構ってくれる。
卯月「あのー、詠さん」
顔色を窺うように卯月ちゃんはもじもじとしながら俺に声をかけてくる。
卯月「学校でテストが近くって……よかったら今度勉強見てもらえませんか?」
詠「俺でよければ……葉月さん?」
自分は二つ返事でオーケーしたいが、一応身内の方に許可をもらわなければと、葉月さんの名前を呼んだ。
葉月「卯月ちゃんがいいなら私は構いませんよ」
卯月ちゃんはそれを聞いて「やった!」と小さくガッツポーズした。
36 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:24:12.51 ID:H3AEbMY60
詠「卯月ちゃん、分からないことあったら何でも聞いてください」
卯月「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
素直に喜んでくれるのが俺としては嬉しい。
少し雑談してると横から「あの……」と声を掛けられる。凛ちゃんだった。
凛「詠さんって、その、勉強とか得意なの?」
おずおずと聞いてくる凛ちゃんは相変わらず目を合わせてくれない。
詠「得意っていうか……どうでしょう?」
よくわからない。
教えるのが上手なだけかもしれない。
卯月「はい! 詠さんはすっごく頭良いんですよ!」
凛「へぇ、そうなんだ」
驚いた様子で俺のことを見つめる凛ちゃん。やっと目を合わせてくれたな〜なんて思ってしまった。
凛「私にも教えてほしい」
詠「えっ!?」
凛「嫌?」
詠「全然! 嫌じゃないですよ」
嫌いな相手に教えを乞うほど切羽詰まってるのか……と失礼なことを考えてしまうが、俺は距離感が縮められればいいなと思ってたので結構嬉しい。
37 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:25:11.33 ID:H3AEbMY60
詠「でも意外です。凛ちゃん、そんなに切羽詰まってたんですか」
凛「え? ……ま、まあそんなところ」
卯月「じゃあ三人で勉強会ですね!」
詠「えっと、蓮さん?」
お兄さんにも許可を頂かなくては……。
蓮「おう、凛が世話になる。よろしくな」
詠「はい!」
蓮「凛。詠に迷惑かけないように」
凛「わかってるよ」
傍から見ても鬱陶しそうに返事する凛ちゃん。
確かに兄妹仲はあんまりよくないみたいだ。お互い嫌いじゃないんだろうけど……。
というわけで卯月ちゃんと凛ちゃんの勉強を見る会が新たに俺のスケジュールを埋めた。俺も予習しないとな。
葉月「応接室使っていいですからね」
詠「いつから始めますか?」
卯月「ダメじゃなければ今日からお願いします!」
今夜から早速勉強することになった。
姉ちゃんたちには遅くなる旨を伝えておこう。
38 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/02(土) 20:27:13.35 ID:H3AEbMY60
中断します。
次回更新未定です。
質問等のレスには返信していった方が良いですか?
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 22:38:24.79 ID:BtyA39rO0
どちらでもいいよ
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 22:39:37.75 ID:EPlhvlXGo
オリキャラ満載になりそうだな
オリキャラもの嫌いだからオリキャラ注意入れて欲しかった
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/02(土) 22:52:58.88 ID:oeWia4Who
オリキャラとか名前をつけたキャラをまとめてほしいかな
42 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/03(日) 01:16:12.72 ID:pbpHD4lg0
オリキャラまとめ
青木詠
・プロデューサー
・トレーナー四姉妹の義理の兄弟
渋谷蓮
・プロデューサー
・渋谷凛の兄
島村葉月
・プロデューサー
・島村卯月の姉
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/06(水) 04:32:59.87 ID:m+xtDitw0
乙です
ところでR要素はいつあーるのでしょうか?
44 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:02:18.49 ID:NY0UoauB0
葉月「卯月ちゃん、頑張ってね!」
卯月「はい! 頑張ります!」
蓮「詠のやつけっこうモテるからうかうかすんなよ。おい凛聞いてる?」
凛「聞いてるってば。……ありがとう」
それでも4人とも兄弟姉妹として上手くやってるんだな。
彼女たちもレッスンへと向かい、気が付けば夜になっていた。
蓮さんと葉月さんは先にあがるので妹をよろしくと言って帰っていった。
俺に彼女たちを送れってことなんだろう。
社用の車を使うことにしよう。
現在二十時、高校生だから二十二時までには社を出たい。
俺たちは早速勉強を始めた。
卯月「うう、数学難しいです……私文系なのに」
詠「私立を受験するなら数学は要りませんよ」
45 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:03:09.02 ID:NY0UoauB0
卯月「詠さんと同じ国立に行きたいので頑張ります!」
詠「そうですか、じゃあ俺も精一杯教えます」
俺が教えると卯月ちゃんは一生懸命聞いてくれる。
必然的に距離が近づいて少しドキドキしてしまう。
凛「……」
詠「あれ、凛ちゃんは特に問題なさそうですね?」
凛「合ってる?」
詠「よくできてますよ」
俺に教えてもらう必要も無いくらいに、次の試験範囲をしっかり押さえてあった。
どうして教えてなんて言ってきたんだろう?
凛「そっか。ここは?」
凛ちゃんは尋ねてくるたびにずいっと距離が縮まる。
端正な顔立ちが目の前にあって、俺は緊張をなんとか隠す。さっきの疑問は露と消えた。
慶「高校の問題ってこんなに難しかったっけ?」
詠「……何で慶ちゃんがここにいるんだ?」
慶「お兄ちゃんがいたいけな美少女に手を出さないか、監視するためだよ」
46 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:03:40.43 ID:NY0UoauB0
詠「出さないっての」
慶「わからないじゃん。ね、卯月ちゃん、凛ちゃん?」
卯月「あはは……」
凛「はぁ……」
二人とも困ったように返事をする。
詠「こら、慶ちゃん。あんま二人の勉強の邪魔しちゃダメだよ」
慶「はーい」
凛「手出されても別にいいけど……」
卯月「詠さんならいいですけど……」
二人とも何かぼそっと呟いたけど聞こえなかったので「何か言いました?」と聞いてみた。
しかし、二人とも「何も言ってません」と否定するだけだった。
詠「そろそろ帰ろうか」
時間も遅くなってきたので社用の車を使って二人を送る。慶ちゃんも、一人で返すのは危ないので一緒に乗せる。
助手席に慶ちゃん、後部座席に凛ちゃんと卯月ちゃんが乗る。
幸いというべきか二人の家は会社からあまり離れていない。
47 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:04:47.35 ID:NY0UoauB0
詠「凛ちゃんのお家は花屋さんでしたよね?」
凛「そうだよ。その通りをずっと真っ直ぐ」
五分ほど走ると花屋の前に着いた。まあ何回も通っているので分かるのだが。
凛ちゃんのお母さんが家の前で待機している。
おそらく凛ちゃんが連絡しておいたのだろう。
凛「ありがとう、詠さん」
詠「いえいえ、私にできることなら何でも言ってください」
俺は先に車を降りて後部座席を開ける。
凛ちゃんと一緒に凛ちゃんのお母さんの元まで歩き、俺は挨拶する。
詠「こんばんは。346プロダクションの青木詠と申します。遅い時間まで娘さんを拘束してしまって申し訳ありません」
深々とお辞儀した。
凛ちゃんはその様子を見てポカンとしていたと思う。
凛母「いえ、こちらこそ凛がいつもお世話になってます」
凛ちゃんの面倒を見てるのは主にお兄さんなのだけど。
凛ちゃんは家では俺の話ばかりしてくれるらしいので、凛ちゃんのお母さんも俺のことを知っていたようだ。
凛「ちょっとお母さん、余計なこと言わなくていいから」
凛ちゃんはそう言いながら顔を赤くする。
48 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:05:44.99 ID:NY0UoauB0
凛「詠さん」
いったん落ち着いてから俺の名前を呼び、こちらを向く。
詠「何でしょう?」
凛「ちょっとしゃがんで」
詠「? こうですか?」
よくわからないけど、言われたままに俺は凛ちゃんの前にしゃがみ込んだ。
凛ちゃんはきょとんとしてすぐ吹き出した。
……かと思えば俺と同じようにしゃがみ込む。
凛「詠さん、しゃがみすぎ」
次の瞬間、彼女の唇が俺の頬に触れる。
凛「今日はありがとう。そのお礼だよ」
俺はきょとんとしてたと思う。
しばらくしゃがんだまま動くことができなかった。何というか……意外だった。
凛ちゃんのお母さんは「大胆ねぇ」とか言ってた。
慶「お兄ちゃん」
慶ちゃんに声を掛けられてハッとした。
詠「お、おう! 次行くか! それじゃあ……」
49 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:06:48.64 ID:NY0UoauB0
凛ちゃんはさっきより顔を赤くして手を振ってくれた。
隣のお母さんはニヤニヤしていた。
凛「詠さん、そういうことだから!」
詠「わかりました。ありがとうございます。少し時間をください」
これで気づかないほど俺も馬鹿ではない。
告白されたんだ。どうしたものか……。
恋愛感情は抱いてない。でも今彼女を女性として意識し始めてしまったのも事実だ。
何より可愛いし美人だし魅力的な少女だ。
そんな子が俺を好きって言って……ないけど、行動で示してくれた。
確かに大胆だったけど。
悶々としながら運転席に戻る。
何だか空気が重い。
詠「どうしたの?」
慶「べっつにー!」
卯月「……」
車を出してからは質問攻めだった。
慶「どうするの? 付き合うの? アイドルだよ? 恋愛禁止じゃないの?」
詠「そんないっぺんに聞くなよ。付き合うことは……今はできないけど、彼女とはちゃんと向き合って考えるよ。正直、さっきの出来事で女性として意識してる」
慶「本当に手出したら犯罪だからね?」
50 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:07:24.83 ID:NY0UoauB0
どことなく慶ちゃんの口調が強い。責められてる気分だ。
どうせすぐ職場に広まるんだろうなと関係無いことも考えたりした。
詠「わかってる。だからちゃんと向き合うってば」
そういえば俺は誰かを好きになった事なんて一度も無いような気がする。
詠「好きって、どういうことなんだろうな……」
慶「そう言えばお兄ちゃんの恋愛話聞いたことなかったかも」
詠「人を好きになったことない……のかな?」
慶「でも私のこと好きでしょ?」
詠「それは……好きだけど」
卯月「私はどうですか?」
不意に卯月ちゃんも後ろから話しかけてくる。
詠「卯月ちゃんのことも好きだと思います」
慶「誰でもいいのか!」
なんて冗談っぽく言って笑う慶ちゃん。
51 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:07:59.52 ID:NY0UoauB0
詠「いや、でもみんなそういう好きじゃない」
なんというか……好きだけど好きじゃない。
詠「恋愛的な意味で好きってことじゃないと思う」
正直に答える。
詠「でも恋愛的な意味での好きってのもよく分からないんだけどな」
明るく返したつもりだったが、卯月ちゃんは少し真面目なトーンで言葉を紡ぐ。
卯月「恋って、いつもその人のことが頭から離れなくて、触れたいと思ったり、求められたいと思ったり、その人のこともっと知りたいと思ったり、その人と子供を……」
そこで不自然に途切れたのでバックミラーを見てみると、卯月ちゃんはうつむきがちになり、顔をほのかに赤らめている様子だった。
詠「そうなんですか。僕にはまだよくわからないですね」
慶「お兄ちゃんの年齢だったらそろそろ焦った方がいいよー。相手がいないって問題でしょ」
詠「結婚とか恋愛とか考えたこと無かったな」
多分両親が死んだときから全く考えてなかっただろう。
青木家に引き取られてそれなりに幸せな生活を送って、どうやって恩返ししていこうかとか考えて、そしたら自分の幸せはすっぽり抜けて……。
そうじゃなくて、今の両親と姉妹の幸せが俺の幸せなんだろう。
52 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:08:31.36 ID:NY0UoauB0
だから自分のことは二の次だった。
詠「ま、向き合ってみようかな?」
慶「凛ちゃんと付き合うの?」
詠「それは……どうしよう」
好きか嫌いかで言えば好きだ。
勇気を出して告白してくれたことも無下にはできない。
けれども、俺の言う『好き』は『愛してる』とは違う感情だと思う。
それで付き合うのは凛ちゃんに対して失礼ではないか?
悶々と考え事をしていると卯月ちゃんの家の前に着いた。
葉月さんがお出迎えのため家の前に立っていた。
先ほどと同様に俺も卯月ちゃんと車を降りて挨拶する。
詠「葉月さん、妹さんを遅い時間まで拘束してすみません」
葉月「ううん、気にしないでください。卯月ちゃんから連絡きてたので」
続けて「卯月がお世話になりました」とお辞儀までしてきて何だか恐縮した。
卯月「詠さん、今日はありがとうございました!」
葉月「明日もお願いしますね」
詠「あ、はい」
明日も勉強会をすることが決まった瞬間だった。
53 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:09:10.87 ID:NY0UoauB0
詠「じゃあ私はこれで……」
と踵を返そうとすると、袖をきゅっとつかまれる。
卯月ちゃんがうつむいたまま俺の袖を握っている。
卯月「詠さん!」
俺の名前を呼びながら、ぱっと顔を上げる。
卯月「私も好きですっ!!」
さっきの会話のやり取りから勘違いを避けるためか「……れ、恋愛的な意味で」と付け足した。
詠「え……」
俺は意外なことが続けて起こったことに対して、完全に固まってしまった。
卯月「す、すみません……詠さんが困っちゃうって思ったんですけど……」
少し涙ぐむ卯月ちゃん。
彼女も困惑してるように見えて、俺の戸惑いが薄れていく。
卯月「凛ちゃんの告白見たら私も勇気出さなきゃって思って……。それに、詠さんが誰かと付き合うのを黙って見ていられませんでした」
きっと彼女も悩んで選択した答えなんだろう。
凛ちゃんに対する罪悪感や、先を越されたという焦りが感じ取れる。
例え早まったとしても、それでも卯月ちゃんの想いに嘘偽りが無いことは伝わった。
54 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:09:41.62 ID:NY0UoauB0
卯月「だから、わがままですけど、自分勝手で最低な話ですけど! 詠さん、私と付き合ってほしいです! ……って言ってはダメですか?」
卯月ちゃんは泣いていた。
俺も感情が昂って、思わず泣きそうになってしまった。
言うだけならいいじゃないか。
よくよく考えたらそれこそ酷い話だと思う。
後で分かった事なのだが、恋愛ごとで相手に希望を残しておくのはとても残酷なことなのだ。
けれども俺は「考えさせて」なんて命乞いをするみたいに醜い延命行為のようなことを言ってしまった。
決断できない。優柔不断。傍から見れば二人の女性をキープしてるようなクズ野郎にも見えるかもしれない。
嬉しいはずが苦しくなってきた。今すぐこの世から逃げ出したいとさえ思った。
詠「必ず、答え出しますから」
俺にはそう言うのが精一杯だった。
卯月ちゃんは自身をわがままだとか最低だとか言っていたけど、俺は本当に良い子だと思う。
55 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:10:09.51 ID:NY0UoauB0
卯月「私、詠さんがどんな答えを出しても大丈夫ですから」
でなきゃ、そんな言葉と笑顔は出てこない。
卯月ちゃんの隣で葉月さんは彼女の頭を撫でながら、俺にも優しい笑顔を向けていた。
どんな答えでも大丈夫だから気にしないでと言ってるようだ。
俺にはその優しさが辛かった。
挨拶をしてすごすごと車に戻る。
慶「お兄ちゃん……」
か細い声を出す慶ちゃんを横目で見る。
心配そうに、あるいは呆れたようにこちらを見つめていた。
詠「なあ、俺ってモテるの?」
慶「妹にそれ聞く?」
詠「いや冗談だよ。ごめん」
慶「謝ることないけど……」
数秒の沈黙。
卯月ちゃんたちは自宅へ戻ったけど、俺は車を発進できないでいた。
慶「とりあえず帰ろうよ」
詠「ああ……」
慶ちゃんに促されてようやく帰路に着く。
車のキーを会社に返して、徒歩で家に向かう。
56 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/06(水) 12:14:21.58 ID:NY0UoauB0
中断します。
R要素はそのうち出ます。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/06(水) 14:08:22.96 ID:5eSXr+/R0
おつ
R要素期待
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/06(水) 16:15:19.55 ID:2X2zhBUnO
ハーレム期待
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/06(水) 18:30:39.81 ID:dHu7+5rdo
おつ
某同人の某女系家族みたいな感じにならなければいいのだけれど
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/06(水) 19:43:59.92 ID:2skxTVQoO
慶ちゃんはブラコンかわいい
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/06(水) 22:34:29.98 ID:IcMo+sFzO
実際ルキトレちゃんが一番かわいいしエロいよね
62 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:36:43.49 ID:xyRsIsvV0
慶「お兄ちゃんさ」
不意に口を開く慶ちゃんに相槌を打つ。
慶「自分で気づいてなかったと思うけどモテるよ? 紹介してって言われたこと何回かあるし、麗ちゃんたちも言われてたんじゃないかな?」
詠「まじか……いや、一回くらい告白されたことはあるけどさ……」
慶「振ったんだよね、その時」
詠「そうだったな。付き合うってことがよくわかんなくて結局無かったことにした気がする」
慶「あはは、最低だ!」
けらけら笑いながら「女の子が可哀想だー」と続けた。
慶「ま、お兄ちゃんがどんな答えを出しても私はいいんだけど……」
そこでいったん言葉を区切っているように思えた俺は、歩きながら横にいる慶ちゃんの顔を見た。
うつむきがちで表情は読み取れないが、少しもの悲しそうな雰囲気が伝わってくる。
慶「……実は私も好きなんだよ」
意を決したようにつぶやいた。声は震えていた。
俺は黙っていた。なんとなく、そう言われるかもしれないと察していたのだと思う。
63 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:37:51.20 ID:xyRsIsvV0
慶「恋愛的な意味で、だよ?」
こちらに顔を向ける。身長差は大きく、慶ちゃんは俺を見上げる。
無理に笑顔をつくっているようだ。
詠「でも俺たち……」
兄妹だからと言いそうになったが、やめた。
そういうことを言い訳にしたくない。彼女は本気なのだから。
そうやって逃げるなんてずるい。ださい。かっこ悪い。
慶「義理じゃん」
何を言おうとしたのか分かったようで、慶ちゃんはそう言った。
慶「小さい頃から優しくしてくれるお兄ちゃんが好き」
慶ちゃんの話が続く。
小学生の頃、慶ちゃんの手を引いて遊びに連れて行ったこと。
俺が中学に上がって勉強を見てくれたこと。
高校の制服を可愛いって言ってくれたこと。
大学に進学するのを勧めてくれたこと。
慶「いつも私たちのために頑張ってくれてたこと、知ってるよ」
詠「俺はそんなつもりじゃ……」
慶「好きなの。愛してるの」
俺はどうしてこうも優柔不断なのだろうか。
諦めさせるには振ればいいだけの話だ。それができない。
傷付けるのが嫌なんだ。
64 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:38:52.30 ID:xyRsIsvV0
けれども引き延ばせば引き延ばすほど、彼女を傷付けてしまうだろう。
分かっていても言葉にならない。
詠「……今は……付き合えない」
慶「今は? いつならいいの?」
詠「ちょっと待って、急な話で頭が追い付かない」
本日で三人目。
慶ちゃんは本気だ。からかいではない。
慶「そうだよね、ごめん。ゆっくり決めて。返事待ってるからね」
詠「ああ……」
それからは無言。気まずくて息が詰まりそうだった。
詠「ただいま」
慶「ただいまー」
リビングに行くと、三人の姉ちゃんが「おかえり」と言ってくれた。
麗「……どうした?」
いち早く様子がおかしいのを察知した麗姉ちゃん。鋭い。
65 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:40:12.19 ID:xyRsIsvV0
詠「や、それが……」
ちらっと慶ちゃんの方を見る。
慶ちゃんもこちらを見ていて、緊張したような面持ちだ。
一つ頷いて慶ちゃんは姉ちゃんたちの方に向き直る。
慶「私、今日お兄ちゃんが好きって言った」
空気が固まったみたいだ。
けれども全員ポカンとはしていない。黙って聞く姿勢だ。
慶「男の人として見てるって言ったの……それだけ」
麗「そうか……。それで詠は?」
詠「考えさせてくれって……」
麗「慶はそれでいいのか?」
慶「うん! お兄ちゃんがちゃんと返事くれるならいいよって」
そう言って慶ちゃんは俺に抱き付いてくる。
詠「わっ! こ、こら!」
慶「本当にどんな答えでもいいからね?」
ぎゅっと抱き付いたまま、こちらを見上げる慶ちゃんはとても愛らしく、さらにあんなことがあった後だと、意識しすぎて心臓がちぎれそうになった。
慶「お兄ちゃん、すっごい心臓ドキドキ鳴ってるね」
66 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:41:12.41 ID:xyRsIsvV0
詠「やめろって……。慶ちゃんも真っ赤じゃん」
慶「えへへ……」
照れくさそうに笑うのが可愛い。
頭に血が流れ込んでくるような感覚がした。
聖「ちょっと待った!」
俺が慶ちゃんの様変わりした対応に焦っていると、聖姉ちゃんがずかずかとやってきた。
聖「それは許さない」
まあ普通に考えて義理と言えど兄妹が恋愛関係になるのは嫌だろう。まだ恋人となったわけではないが。
それに凛ちゃんや卯月ちゃんの件も無視できるはずがない。
詠「そりゃそうだよな」
けれどもこれで慶ちゃんは諦めてくれるのではないか。
聖「お前は私と結婚してもらう!」
詠「はぁ!? 何言ってんの!?」
聖「昔約束しただろ? 大きくなったら結婚する! って」
慶「聖ちゃん、小さい頃の約束は時効だよ。それに私もそういう約束したことあるし」
明「待って! それなら私も詠と結婚!」
67 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:41:57.88 ID:xyRsIsvV0
次から次へと何が何やら……。
明「私も詠のこと大好きだし!」
聖「いや、詠は私のものだ!」
詠「ちょちょちょ、ちょっと待って! 落ち着いて!」
麗「……ならば間を取って私が」
あれ、麗姉ちゃんってそんなこと言うキャラだっけ?
わちゃわちゃしたけど何とか落ち着いて……少しだけ話し合いをした。
麗「つまり実は全員、詠に想いを寄せていたということだな」
聖「いつもアプローチしてただろ!」
明「聖ちゃん、詠がにぶちんなの知ってるでしょ?」
慶「そんなんじゃ動じないよね」
詠「いや近付かれるとドキドキするんだけど……」
聖姉ちゃん、誰に対してもそんな感じだと思ってた。
……要するにみんな俺が好きってことだな。なんだよそれ。
俺はもうどうやってリアクションすればいいのか分からず、ぼけっとしていた。
68 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:42:37.67 ID:xyRsIsvV0
麗「詠、聞いてるか?」
詠「ああ、なんとか……」
麗「ならいいんだが」
詠「俺、どうすりゃいいの?」
麗「好きにすればいい」
そうは言っても、その選択を取ることは俺にはできない。
白黒決着つけたいのだ。一つだってうやむやにしたくない。
詠「今、答えを出すなんて無理だ。卯月ちゃんや凛ちゃんのこともあるし」
聖「それもそうか、この変態」
明「女ったらし」
慶「最低」
詠「麗姉ちゃん、結婚しよう」
「「「わー! ウソウソ!」」」と麗姉ちゃん以外の三姉妹が必死になる。
麗「あのな、そんな決め方されたら私も困るだろ」
ごもっともです。
呆れる麗姉ちゃんは真剣な顔つきで俺を再び見る。
69 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:44:25.20 ID:xyRsIsvV0
麗「時間をかけてもいいからじっくり決めるんだぞ? ましてや渋谷と島村は現役女子高生アイドルなんだからな?」
詠「わかってる。彼女たちのどちらかに気が向いても引退まで待つよ」
麗「お前が好んで距離を縮めるのはいいんだが、問題は起こさないように頼む」
詠「うん……」
聖「詠、私なら問題にならないぞ」
明「私もならないよ」
慶「お兄ちゃん! 私もだよ!」
詠「そうか。なら卯月ちゃんや凛ちゃんは先に婚約しないといけないな……」
婚約をあらかじめ済ませてしまえば電撃結婚にならずに済むという戦略。
世間的には電撃婚と変わらないが。
聖「無視するな!」
ギャーギャーわめく三人を放っておいていると麗姉ちゃんは遠い目をしていることに気が付いた。
麗「もう結婚のこと考えてるのか……」
これは婚期を逃しそうで焦っている女の目だ。
自分も早く結婚するべきだったと、後悔してもしきれないような念を感じる。
70 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:47:17.44 ID:xyRsIsvV0
詠「そうだよ。選んだ人と結婚しないとみんなに失礼な気がして……」
聖「当たり前だ。私は許さないからな」
慶「私はお兄ちゃんが中古でもいいよ?」
明「私も別にそうやって経験を積むのは悪くないと思うけど……」
聖「ならお前らが経験値稼ぎの相手になってやれ」
慶「じゃあ始めは私ね!」
聖「それはダメだ」
明「聖ちゃん、わがまますぎない?」
詠「くだらねー」
麗「くだらん」
よく麗姉ちゃんとは意見が合う。
一つ溜め息をついて、首を横にふるふると振るう。
というか中古とか経験値稼ぎってなんかムカつくなぁ。
まあ確かにそういう経験はあるんだけど。
詠「ごめん、すぐに答えだせない。今日は寝るね。おやすみ」
わいわいしていた姉妹たちも「おやすみ」と返事した。
71 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:48:19.57 ID:xyRsIsvV0
どうせ翌日も同じようなルーティーンに違いない。
だから深くは考えずに……と思ってもそういうわけにいかない。
結局1時間は布団の中で悶々と考えこんでいた。
詠「選り取り見取りか……」
そんなこと口にする俺は最低だな。心底嫌いだ。自分のことが。
詠「そんなやつが好きな人と付き合う資格なんてあるのか?」
好きな相手が嫌いな相手と付き合うって考えたら吐き気がする。
もういっそ全員振ってしまおうか。
それは失礼なのか?
待たせて期待させ続けるのも失礼に違いない。
でも咄嗟に選べと言われたら……選べない。
詠「やばいな」
自分のクズっぷりに呆れながらも瞼は重くなり、ようやく睡眠に就けるという感覚を得た。
次に目を覚ましたのはやはり明姉ちゃんに起こされた時だ。
もはや日課の早朝ランニング。
詠「……おはよう」
普段より寝れなかったので少し眠たい。
布団を引っぺがされて落ち着かない。
72 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:49:09.72 ID:xyRsIsvV0
明「……」
明姉ちゃんからの返事は無い。そのことを不思議に思ったが、彼女の顔は明らかに戸惑いを呈している。
詠「どうしたの?」
起き上がろうとしても身体が動かないことに気付いた。
動かないというよりは身体が重くて動かしづらいといったところだ。
明「何してたの?」
冷たい声で言われて俺もすぐに気付いた。
慶「……」
慶ちゃんが俺の布団の中に潜り込んでいた。しかも下着姿で。
詠「は?」
俺の胸に頭を乗せ、脇腹あたりに手を回している。片足を俺の股下に突っ込み、お互いの足を絡ませている。
慶ちゃんが俺の上に乗っていたのだ。
73 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/07(木) 13:54:35.99 ID:xyRsIsvV0
中断します。ハーレム展開になっちゃいました。
ここからコメディを展開できれば最高なんですけど、ギャグセンス皆無な自分には難しいですね。
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/07(木) 14:39:44.99 ID:Ob9zKRhpo
期待しております
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2017/12/07(木) 22:55:18.81 ID:v5KcvF8k0
ハーレム展開でもギャグにはならない
つまりドロドロのサイコサスペンスになる?
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/08(金) 14:56:02.17 ID:KSeTa0KNO
もうパンツ脱いでいい?
77 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:49:21.05 ID:xMWvGEAO0
明「詠……」
詠「違う。誤解だ」
明姉ちゃんの視線が俺の下腹部へ……。
明「何興奮してるのよ?」
詠「これは違うって」
俺は慌てて否定した。ただの朝立ちだ。
とりあえず慶ちゃんを起こす。
慶「んぅ〜……お兄ちゃん、朝早い……」
めっちゃ眠そう。
こいつ昨日何時に寝たんだよ……。
詠「とにかく明姉ちゃん、これは違う。知らない。慶が知らないうちに入ってきてただけだって」
明「……」
じとーという効果で表現できそうな視線が俺を襲う。
かと思いきや、嘘のようにケロッといつもの態度に戻った。
明「あはは! 冗談! 慶が悪いの知ってるから安心してよ」
詠「はぁ!?」
78 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:50:27.50 ID:xMWvGEAO0
明「ほら慶! あんたは自分の部屋に帰れ!」
明姉ちゃんは再び俺の上で寝始めた慶ちゃんの後ろ襟をつかむ。
慶「にゃ〜、お兄ちゃん……たしゅけて……」
明「この!」
ぐいぐい。寝ぼけ眼の慶ちゃんは俺の服を掴んで必死の抵抗。呆れたを通り越してちょっと微笑ましい。
詠「姉ちゃんいいよ。俺が連れてく」
充分に覚醒したので俺は慶ちゃんを抱っこして持ち上げ、彼女の部屋に移動した。
慶「お兄ちゃん……しゅき……」
ベッドに寝かせるときに慶ちゃんはそんなことを言った。
詠「もう潜り込むなよ」
簡単に注意して部屋を後にしようとしたが、慶ちゃんに両手で頭を抱きかかえられた。
俺は体勢を起こそうとしてたので、急に加わる力に対処できず慶ちゃんの胸に飛び込むように倒れてしまった。
慶「お兄ちゃん♪」
詠「ちょっと……」
困った。
そもそも慶ちゃんってこんなに好き好きしてくる子だったか?
と疑問に思ってしまうほどだ。
79 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:51:09.37 ID:xMWvGEAO0
彼女の中で何かが吹っ切れたのだろうか。
だとすれば間違いなく原因は昨日の件だろう。
しばらくその体勢のままだったが、すぐに慶ちゃんは静かに寝息を立てた。
俺は緩んだ拘束からするりと抜けると自室へ戻りランニングの準備をする。
明「遅いよー」
詠「ごめん」
ちょっとだけ不機嫌な明姉ちゃんに詫びを入れる。
明「うん、じゃあ行こっか」
およそ30分のルーティーン。
だが、いつもと違う感じがした。
違和感の正体にはすぐに気付いた。いつもより距離が近い。
普段なら人一人分の間があるのに、今日は腕と腕が触れそうな距離で走ってる。
こつこつと腕が当たるたびにお互い謝って、走るのを続ける。
明「あのさ」
詠「何?」
明「私ももうあまり我慢しないよ?」
詠「……ああ、うん」
家の前に着く手前で明姉ちゃんが俺にそう話した。
その後特に何事も無いまま玄関に着いた。
80 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:51:47.20 ID:xMWvGEAO0
詠「ふぅ……今日も疲れたな」
今日は少しハイペースだったかもしれない。
気を紛らわすため俺は独り言を言ってしゃがみ、靴紐をほどく。
すると背中にぴとっとした感触を覚えた。
詠「……我慢しないってそういう?」
明「ま、まあ……」
少し上擦った声で答える明姉ちゃん。
詠「汗かいてるから離れてくれ」
明「私、別に嫌いじゃないよ」
それは湿ったウェアが? それとも汗の匂いが?
どう質問しても困惑する答えしか返って来なさそうだったので、聞かないことにした。
詠「とりあえずシャワー浴びてきたら?」
明「……もうちょっとこのまま」
詠「……」
いつもならすぐ風呂場へ行くのに、初めてそんなこと言われたので軽く戸惑った。
81 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:52:35.68 ID:xMWvGEAO0
明「せっかくだし……一緒に入ろ?」
耳元でささやかれてドキッとする。
酷く暑い。きっとランニングで体温が上がったからだ。
こめかみまで動悸が響いてくるなんて疲れすぎだろう。
詠「はは……姉ちゃん疲れすぎ。確かに今日はペース上げ過ぎたよな」
俺は靴紐をほどき終わり、立ち上がる。
明姉ちゃんの方に振り返る。このとき俺は彼女のことを見なければよかったと後悔する。
懇願するような上目遣い。赤く染まった頬。
お互いの顔は息がかかるくらい近くにあって、艶のある唇が半分ほど開いていたのがいやに官能的だった。
数秒の間、俺はその光景に目を奪われ、自分の心臓の鼓動が大きく脈打ってくるのをしっかりと感じ取った。
明姉ちゃんの顔が自分に近づいてくるのを認めて、初めて俺は彼女から顔をそむけることができた。
詠「は、は、は、早く行って来いって!」
明「……いくじなし」
そう言いながら彼女はすっと俺の横を通り抜けていった。
詠「ごめん。でも軽々しくできないから」
明姉ちゃんに限らず、最初の人と付き合わなきゃいけない気がした。
だから勢いに任せて決めたくなかった。
82 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:53:39.24 ID:xMWvGEAO0
明姉ちゃんは何も言わずに風呂場へ向かった。
詠「やば……」
俺は心臓の鼓動が止まらず、先ほどの艶っぽい彼女が頭から離れず、しばらく悶々とする羽目になるのだった。
詠「トイレで……いやいや、相手は姉ちゃんだぞ! 我慢だ我慢! すぐ治まる!」
麗「何がだ?」
詠「おわぁっ!!」
キッチンで朝食を作っていると麗姉ちゃんが後ろから声をかけてきた。
どうやら独り言を聞かれたらしい。
詠「お、おはよう」
麗「ああ、おはよう。どうした? そんなに驚いて」
詠「や、何でもないよ」
麗「ふむ。それならいいんだが……」
少し怪しまれたようだが、麗姉ちゃんは詮索してくる人ではない。
麗「ところで、焦げ臭くないか?」
詠「へ? ……ああっ!!」
言われて気付いて、慌てて火を止める。
83 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:54:39.09 ID:xMWvGEAO0
玉子焼きは焦げてしまった。
時間が経ち、聖姉ちゃんも起きてくる。
聖「おはよう」
詠「おはよう」
聖「焦げたか?」
詠「うん、ごめん」
聖「いや、いいんだが。珍しいんじゃないか?」
不思議そうに俺を見たが、聖姉ちゃんはつかつかと俺の後ろにやって来ると、ガバッと背中から抱き付いた。
詠「うおっ! や、やめろって!!」
聖「んー? どうした? 今日はやけに焦ってないか?」
詠「や、風呂まだだし、汗臭いだろ? 恥ずかしいんだよ」
聖「はぁ? 詠、いつもそんなこと言わないだろ」
麗「確かに珍しい気もするが、聖にきっぱり拒絶したということでいいんじゃないか?」
聖「恥ずかしがるなよー」
「こいつめ!」とか言って俺の耳にふっと息を吹きかけてくる。
ビクッとして声も出てしまった。恥ずかしい。
84 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:55:45.96 ID:xMWvGEAO0
詠「まじでやめろ!」
聖「はっはっはー。可愛いやつだなぁ」
明「聖ちゃん、相変わらずだなぁ」
お風呂上がりの明姉ちゃん登場。
お風呂上がりだと女性はなぜこうも色っぽく見えるのか……。
俺は今すぐ逃げて落ち着かせるべきだと思った。
詠「じゃあ俺入ってくるわ」
すぐに椅子から立って、風呂場へ直行。
聖「……ちょっと待て」
その場を離れようとする俺の腕を聖姉ちゃんが引っ張る。
詠「な……」
「何?」って言おうと思ったが聖姉ちゃんの目を見ると、彼女の視線が俺の下腹部あたりに注がれている。
詠「行くからっ!!」
俺は無理矢理腕を振りほどき、小走りで風呂場へ向かう。
見られた……。寝起きだからと言い訳できない。
85 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:56:31.71 ID:xMWvGEAO0
聖「詠〜」
呼ばれたのでリビングと廊下を繋ぐドアから顔だけ出して応える。
にんまりと素敵な笑顔の聖姉ちゃんがこちらを見ている。
聖「手伝うぞ?」
軽く握った拳を上下に振るジェスチャーで問いかけてくる。心底楽しそうなのがムカつく。
詠「いらねーよ! バーカ!」
ちらりと見えたが麗姉ちゃんはいつもと変わらず平常だ。
明姉ちゃんは逆に顔を真っ赤にさせて居心地悪そうにしてた。
麗「聖、あんまからかってやるな」
明「聖ちゃんってバカよね」
聖「明はそういうの苦手だよな」
明「……私だって勇気出したんだから」
聖「ほう、抜け駆けか?」
麗「別にいいだろう。詠へのアピールは自由だという話を昨日つけたじゃないか」
聖「じゃあ私のもありだろう?」
麗「別に誰も聖を責めてないだろ」
86 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:57:22.66 ID:xMWvGEAO0
俺は風呂場でガシガシと頭を洗ったり、ゴシゴシと強く身体を洗う。そうすることで自然と治まってきた。
しかし少し思い出すと反応してしまう。
詠「仕事から帰ったらさっさと寝よ」
一日跨げば記憶も薄れる。
考え込まずに今日も変わらず仕事をしよう。
コンコン! 風呂場を叩くノックの音だ。
思わず身体が跳ねそうになる。
聖姉ちゃんのやつ、マジで来たんじゃないだろうな……。
麗「詠」
違った。聖姉ちゃんではないことに安堵し、俺は「何?」と用件を尋ねた。
麗「長いが大丈夫か? のぼせてないか?」
詠「うん、大丈夫」
麗「そうか。私たちはもう行くぞ?」
詠「え、もうそんな時間?」
麗「ああ、慶のことよろしくな」
詠「お、おう。行ってらっしゃい」
どうやら仕事に向かったらしい。
身体を拭いて風呂場から出る。
87 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:58:45.06 ID:xMWvGEAO0
慶「ふぁぁ……」
詠「……」
欠伸しながら入ってきた慶ちゃんとご対面した。
慶「……」
ぽけっとした表情ながらもじっくりと俺の身体を目に焼きつけているようだ。
俺の自意識過剰かもしれないが、慶ちゃんは目に焼きつけているのだ。
特に陰部を。恥ずかしげもなくじっくり見てる。
詠「出てって」
慶「早くしてね」
詠「わかってる」
この間で優に10秒は経っていただろう。
慶ちゃんは「別に気にしないのになー」なんてのんきに言いながら脱衣所もとい洗面所を出た。
詠「悪い。もういいよ」
慶「本当に早いね」
と言いながら慶ちゃん再び入室。
パンツはいただけだから。
88 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 11:59:29.15 ID:xMWvGEAO0
慶「お兄ちゃんって結構いい身体してるね」
下を隠してもまじまじ見てくる。デリカシーの無い妹だ。
おまけにペタペタと触ってくる。
詠「そんな触るなよ」
慶「照れてる〜。私も結構鍛えてるんだ」
ほらほら、と自分の腕を見せつけてくる。
引き締まった程よい肉付きで、生活が乱れてる割には健康的に映える。
詠「綺麗だな。夜も早めに寝ればもっと綺麗になれるのに、もったいない」
慶「お兄ちゃんは、もっと綺麗な方がいいの?」
詠「お兄ちゃんじゃなくても、もっと綺麗な方がいいと思うけど」
慶「ふーん」
詠「慶ちゃんも学校、遅れないように行きなよ」
慶「うん、今日三限からだから大丈夫だよ」
詠「そっか」
朝食を食べ終える。
洗濯が終わるまで時間があるし、歯を磨いたり、髪整えたりしておこう。
一通り自分の洗面が済む。
慶「お兄ちゃん、まだ出ない?」
ちらっとこちらの様子を見て慶ちゃんが尋ねてきた。
89 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 12:00:42.81 ID:xMWvGEAO0
詠「ああ、洗濯物干したら出る」
慶「じゃあ髪梳いて?」
自分でやれ、と思ったが時間もあったので引き受ける。
妹のお願いはあまり無下にできない。頼られるのは好きでもある。
櫛が引っ掛かるところは手で梳いてやる。
時折、頭をポンポンなでなでしてやると、慶ちゃんは小動物がうっとりしたように気持ちよさそうな顔をする。
慶「これ好きぃ」
兄に甘える妹の無邪気な笑顔。
俺もそれが大好きなのだ。
詠「はいはい、おしまい」
離れようとすると、正面から腰に手を回してぎゅっと抱き付いてきた。
詠「どうした?」
慶「私、お兄ちゃんのこと好きなの本気だから!」
詠「わかってるって」
抱きしめ返して頭を撫でる。
これは妹に対する愛情表現……ということにしておきたい。
ピピッ! という洗濯終了の合図が俺たちの間に割って入った。
詠「お、終わったか。じゃあ干したら行くから」
俺はテキパキと洗濯物を干して会社に向かう。
慶「行ってらっしゃい」
わざわざ玄関まで見送りに来てくれた。
詠「行ってきます」
慶ちゃんは扉を閉めるまでひらひらと手を振ってくれた。
90 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/13(水) 12:02:06.32 ID:xMWvGEAO0
中断します。
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/13(水) 22:50:16.14 ID:SKjakshQ0
乙
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 02:24:04.67 ID:gvageeUZo
おつー
93 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:37:20.52 ID:meYxdbSz0
出勤中、会社の前で肩を叩かれる。
蓮「よう」
詠「蓮さん! おはようございます」
蓮さんは少しニヤついた表情で俺の隣を歩く。
蓮「凛に告られたんだってな?」
ドキッとした。
詠「え、ええ……すみません」
蓮「何を謝ってんだよ。お前だったら任せられる。凛のことよろしくな」
爽やかに笑って言われた。
まだ返事してないんですけど……。
なんだかんだ妹想いな蓮さんのことだ。
「付き合ってません」とか言ったら殺されるのでは?
詠「はは……」
なので俺は愛想笑い。
その後、蓮さんの妹さんの話を聞かされつつ、事務所に入る。
94 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:37:47.75 ID:meYxdbSz0
葉月「おはようございます」
蓮「おう、おはよう」
詠「おはようございます!」
葉月さんはすでに出社。朝から働く頑張り屋さんだ。
そんな彼女は俺に気付くと、トテトテとやってきて眩しい笑顔を見せてくる。
蓮さんと二人で眩しさに目を逸らす。
葉月「詠くん! 卯月ちゃんのことよろしくお願いします!」
蓮「ん?」
詠「はは……」
乾いた笑いしか出てこない。
俺はその場で土下座した。
蓮「ちょ……」
葉月「ええっ!?」
詠「申し訳ございません」
この二人なら話してもいいだろうと思い、昨日あった出来事を説明する。
95 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:38:39.58 ID:meYxdbSz0
2人ともそれぞれの妹が俺に告ったことは把握済みだったらしいが、何を勘違いしたのか付き合うことになると思ったらしい。
蓮「あー、そうだったのか」
葉月「ご、ごめんなさい。私ったら勘違いしてしまって」
詠「いえ、僕の方こそごめんなさい。いろいろありすぎて頭こんがらがってます」
蓮「だよなぁ……まさか義理といえど姉妹からも交際を申し込まれるなんてな……」
葉月「詠くんはいい子ですからね」
詠「それで、誰が好きとか、まだそういうのわかんないので保留にしてる状態です」
うーん、と二人は考え込む。
蓮「恋愛感情が曖昧に感じる原因は間違いなくお前の姉妹たちだろうな」
葉月「そうですね。お姉さんたちから向けられる好意が当たり前すぎて、他の女の子のアピールに気付かないって感じで育ってますよね」
蓮「鈍感は作られるものなのか……」
葉月「もともと詠くんの持つ恋愛感情が乏しいっていうこともあると思いますけど」
蓮「とにかく、誰かが傷つくのは避けられないからな。ウジウジ悩むよりきっぱり決断しないとダメだ」
96 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:39:25.54 ID:meYxdbSz0
詠「それは分かってるんですけど……」
葉月「そうですよ渋谷くん。青木くんは今誰が好きかわからないっていう状態ですから、好きかどうかわからないのに一人を選ぶなんて全員に失礼ではないですか?」
蓮「一理あるが……」
うむぅ……とまたみんなで考え込む。
俺は一緒に悩んでくれる先輩に申し訳ない気持ちになった。
蓮「ならいっそ全員振れば?」
葉月さんは「え?」という感じで、一瞬ゴミを見るような眼で蓮さんを見た気がするが、気のせいだろう。
あの聖人みたいな葉月さんが、天使のような笑顔の葉月さんがそんな顔するわけない。気のせいに違いない。
葉月「うーん、確かに詠くんの気持ちを尊重すべきですよね」
蓮「要するにそういうことだよな」
詠「自分で決める……」
蓮「そういうこと。ま、相談には乗るからよ」
葉月「私たちを頼ってくださいね!」
詠「はい、ありがとうございます」
97 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:39:54.78 ID:meYxdbSz0
しかしあれこれ悩んでも時間は待ってくれず、気が付けば夕方。
未央「おっはよーございまーすっ!」
茜「おはようございますっ!!!!」
藍子「おはようございます」
三者三様、元気な挨拶をいただいた。
詠「おはよう」
未央「今日はどんな仕事が待ってるのかなー?」
ルンルンと俺に聞いてくる未央ちゃん。
詠「ごめんね。今日もレッスン」
茜「レッスンですか!! わかりました!!!!」
やる気十分の茜ちゃん。両の拳をぐっと握る。
未央ちゃんはというと眉間を抑えながら変わらぬテンションで
未央「知ってました。ええ、知ってましたとも!」
とか言って笑ってる。
詠「でも急にどうしたの?」
未央「まあ、レッスンも結構やったしそろそろお客さんの前でライブもいいかなーなんて」
どうやらモチベーションは高いらしい。
98 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:40:28.32 ID:meYxdbSz0
藍子「未央ちゃんってばずっと『武道館まだかなー?』って言ってるんです」
楽し気な様子で藍子ちゃんが教えてくれた。
詠「ははは、武道館とは目標高いなぁ」
茜「目標は高ければ高いほどいいものですよ!!」
詠「そうだけどさ……」
自信無いなぁ……。
未央「プロデューサーがそんなんでどうすんのさ! 見てよ! 私たちはこんなにやる気だよ!?」
藍子ちゃんをチラッと見ると、彼女も胸の前で小さくガッツポーズを作った。
詠「善処するよ」
何だか元気をもらえる。
詠「三週間後にミニライブあるから、まずはそこからだな」
茜「何ですとぉっ!!?」
未央「聞いてないよ!」
藍子「ええっ!?」
詠「ごめん。言ってなかった」
まあ三週間後だしなぁ……。
99 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:41:20.66 ID:meYxdbSz0
未央「やるじゃん、プロデューサー! こうしちゃいられないね!」
藍子「そうだね。もっとたくさん練習しないと」
茜「では、今から走ってレッスンルームに行きましょう!!」
未央「走らないよ!」
藍子「走らないよ!」
詠「気を付けて行ってらっしゃい」
俺は3人を見送ろうと立ち上がった。
未央「せっかくだし、あれやっとこうよ!」
詠「あれって何だ?」
未央「これこれ!」
と言って未央ちゃんは藍子ちゃん、茜ちゃんと円になってお互いの右手を重ね合わせた。
ちょうど一人分入るスペースを開けているので、俺が入るのだろうと察しは付く。
詠「はは……」
ちょっと照れくさいながらもフレッシュな雰囲気にあてられたのか俺もその輪に加わって三人の手の上に自分の手を重ねた。
100 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:41:50.57 ID:meYxdbSz0
詠「……」
未央「プロデューサー」
詠「何?」
未央「気の利いたこと言ってよ」
昨今のJKは唐突にこんなことを振ってくるのか。
茜ちゃんも目を輝かせてこちらを見ている。
藍子ちゃんは苦笑い。俺を気の毒そうに見ていた。
詠「てか考えとけよな……」
少しだけ考えて一つ咳払いした。
詠「三週間後のミニライブ絶対成功させるぞー!」
「おー!!」と三人が合わせる。
俺は満足げに笑う三人の頭を、頑張って来いという思いを込めて撫でる。
未央「わ、何をするぅ!?」
茜「プロデューサーさんなりの気合注入ですね!」
藍子「わぁっ! えへへ……」
彼女たちはもう一度気合を入れ直して部屋から出て行く。
俺も一緒に廊下に出て、事務所のドアの前で見送った。
101 :
◆Xx4o45zWU.
[saga]:2017/12/15(金) 19:42:33.32 ID:meYxdbSz0
詠「うーん、我ながらちょっと過保護かな?」
凛「本当だよね」
突然後ろから声を掛けられて情けなくも飛び上がりそうなほど驚いた。
凛「ふふっ! 詠さん驚き過ぎ」
口元を片手で押さえて笑っている。
詠「な、あ……」
一方で俺はというと、昨日あった出来事を思い返してしまいばつが悪いと感じるばかりだ。
ていうか気まずい。
しかし凛ちゃんはさも気にしてない様子で俺に話しかけてくる。
凛「おはよう、詠さん」
詠「あ、うん、その、おはようございます」
凛「どうしたの? そんなに慌てて」
詠「いや、そんなことないです」
凛「嘘、昨日のこと気にしてるんでしょ?」
図星を付かれて狼狽えたけれど、何とか頷くことができた。
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