ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」

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241 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/05(水) 02:47:59.88 ID:93s5sbUo0
…別の日…

銀髪の教官「…さてさて「昨日お伝えして今日」と言うのは皆さんにとっていささか急ではありますが、わたくしから筆記試験を行って欲しいと教官方から頼まれてしまいましたのでね。無理は承知ですが、どうか受けていただきたい……」英文法と文学担当の、小柄で眼鏡をかけた銀髪の老紳士「ミスタ・シルバークラウド」が謝りながらつぶやいた…

シルバー「えー…出題範囲ですが、今までに教わった英文学と文法のすべてからです。カンニングは推奨できませんが…見つからない自信があると言うのなら、どうぞ試してごらんなさい」

訓練生一同「「くすくすっ…♪」」

シルバー「もちろんカンニングが発覚した場合は零点を付けることもありますから、諸君は十分そのことを理解したうえで試験に臨んでもらいたいですな」

ドロシー「…なぁに、見つからなければいいわけだ……」

シルバー「解答が終わったらそれぞれ退出してよろしい…何か問題があれば挙手をするように。それでは……始め」

ドロシー「…ほーん、『シェークスピアの作品名と登場人物、そのあらすじを出来るだけ記述せよ』か…楽勝だ、カンニングの必要もないな……♪」

アンジェ「…リア王、ハムレット、マクベス、ヴェニスの商人……」

委員長「…『ワーズワースの詩集から、次の詩を全て正しく記述せよ』……なんてことないわ…」

ドロシー「…お『次の用語の穴を埋めよ』……だと?」

シルバー「おやおや、ミス・ハムデン…カンニングとはよろしくありませんね?」

訓練生H「…っ!」教室の壁の下の方に細かい文字でヒントを書いておいた訓練生…が、ミスタ・シルバーに見つかり、穏やかな声で出て行くよううながされた……

シルバー「…ミス・イプスウィッチ…そのカンニング方法は私は学生の頃からあった古典的な方法です……勉強にしてもカンニングにしても、もう少し知恵を働かせなさい」

訓練生I「…はい///」

ドロシー「えーと…最初は『ドクター・ノオ』で、これが『黄金銃を持つ男』…『死ぬのは○○』…これは『死ぬのは奴らだ』で…それからこれが『ダイヤモンドは永遠に』『カジノ・ロワイヤル』……と…♪」

アンジェ「…『最後は卵のように落っこちて潰れてしまった…』……ハンプティ・ダンプティね…」

委員長「……ふぅ、ここまでは順調ね…次の問題は……え?」片手をそっとあげる委員長

シルバー「おや、どうしたのかね?」

委員長「いえ、問題文が途中で途切れていて…」

シルバー「ふむ…では推測してみるといい。情報部員になった場合、君が必ずしも問題の全文を教えてもらえるとは限らないからね…♪」

委員長「は、はい…」

シルバー「よろしい……あぁ、それとミス・ジャーヴィス…確かに女性の胸はさまざまな用途に使えるでしょうが、カンニング用紙を挟むのはいささかよろしくありませんな……若いご婦人がそれではみっともないですよ」

訓練生J「」

ドロシー「…どうやらそろそろおしまいかな……お、終わった♪」

シルバー「それではペンを置いて…みんなご苦労さま、後はゆっくりしなさい」(…ふーむ、ミス・ドロシーのカンニング方法はなかなか斬新だ。答案はおおよそ八十点と言ったところだが、十五点を加点しよう…一方のミス・「委員長」とミス・アンジェは正攻法でこの点数か…なるほど、確かにこの三人の成績は抜群だ…「卒業」もそう遠くはあるまい……)


………

ドロシー「ふぃー、お疲れさん…どうだった?」

アンジェ「さぁね…まぁそこそこじゃないかしら?」

ドロシー「ほーん……それじゃあ委員長は?」

委員長「そうね、手ごたえはあったわ…後半の問題が書かれていなかったのは驚いたけれど……」

アンジェ「問題が「書かれていない」と言っても欠落している部分は少なかったし、貴女なら残りを推測するのはそう難しくなかったはずよ」

委員長「ま、まぁそうかもしれないわ…///」

ドロシー「へぇ、アンジェも人をおだてるのが上手くなったな♪」

アンジェ「…余計なお世話よ」

………

242 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/10(月) 00:35:26.13 ID:blGHsMb30
ベアトリス「あのぉ…射撃訓練も終わりましたけど」

…硝煙をあげているピストルを台に置き、手首を振っているベアトリス……人型の的には撃ちこまれた弾の跡が黒い穴になって残っていて、ドロシーは的を眺めると軽く笑った…

ドロシー「ああ、見えてるよ……たいしたもんだ、また少し伸びたな。若いうちは覚えが早くて結構だ」

ベアトリス「ドロシーさんだって充分若いでしょうが…」

ドロシー「まぁな、ちょっとばかり先輩面してみたかったのさ…ところで、情報部員に必要な条件ってなんだか分かるか?」

ベアトリス「えーと……勇敢なことでしょうか?」

ドロシー「まぁそう言うだろうと思ったが…たとえば?」

ベアトリス「えーと…相手方のエージェントと鉢合わせた時に渡り合えるような……」

ドロシー「ははっ。訓練の後だからそう言うと思ったよ♪ …工作員に必要な「勇敢さ」って言うのは、別に身長十フィートで体重二百ポンドもあるような巨漢と殴り合うとか、そう言う「肉体的な勇敢さ」だけじゃないんだぜ?」

アンジェ「そうね」

ベアトリス「え? …それじゃあどんな場合に「勇敢」って言うんです?」

ドロシー「まぁさっき言ったような肉体的な勇敢さも必要じゃないと言えば嘘になるが…自分がこれっぽっちも信じちゃいないたわごとを真面目に受け止めてみせるとか、反対に心から信じているようなことを蹴飛ばしてみせなきゃならない「勇敢さ」の方が大事さ」

アンジェ「そう言うことよ…ファームでもそう言う訓練があったわ」

ドロシー「ああ…数カ月かけて育てた花を目の前で踏みにじられて、表情を変えたり教官を半殺しにしなければ合格っていう試験がな……私はあやうく教官の首をへし折りそうになったね」

アンジェ「…実際は顔色一つ変えなかったはずよ。そうでなければエージェントにはなれない」

ドロシー「ま、教官がおまけしてくれたんだろうさ……そうだな、例えばベアトリスだったら「王室を廃止しろ、プリンセスを殺せ!」って叫ぶ…とかな」

ベアトリス「うえっ!?」

ドロシー「…出来るか?」

ベアトリス「……必要なら、できます」

ドロシー「結構だ、それでこそ情報部員だな。…アンジェはどうだ」

アンジェ「ええ、出来るわ」

ドロシー「さすがだな……実際に言う場面が来ないように願ってるぜ」

アンジェ「お気遣い結構。別に口先でなら何とでも言えるわ」

ドロシー「そうかよ…それじゃあ後片付けでもして、ぼちぼち帰るか……アンジェ、最初に行け」

アンジェ「ええ」

…十数分後…

ドロシー「やれやれ、ようやく片づけ終わったな……なぁベアトリス」

ベアトリス「何です?」

ドロシー「……ああ見えてアンジェも苦労してるんだ、ベアトリスも時にはプリンセスの隣を譲ってやってくれ」

ベアトリス「分かっています」

ドロシー「そうか? ならいいのさ…それじゃ、帰りに何か食っていくか」

ベアトリス「…はい」

………
243 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2018/12/10(月) 00:40:24.40 ID:blGHsMb30
この数日なかなか投下できなくて済みませんでした……次のエピソード自体はある程度考えてありますが、どのカップリングにするか思案中です

…もし好きなカップリング(タチネコの好み含め)があれば、お気軽にどうぞ…数日後くらいに始めようかと思いますので
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 00:40:45.63 ID:aEykjF7eO
数ヶ月かけて...キング○マンかな?
245 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/11(火) 02:20:44.00 ID:0vMzAc370
>>244 「この犬ってブルドッグだろ?」「いいえ、パグよ」……あれは表現こそちょっとお下品でしたが、イギリス人らしい教官がいい味を出していましたね…確か実際にボリビア(?)だかの特殊部隊では一緒に苦楽を共にしてきた犬を最後に始末するテストがあるそうですが…


…ちなみにテレビシリーズ「ナポレオン・ソロ」のリメイク映画版「コードネ○ム U・N・C・L・E」が60年代の古き良きスパイ物らしくて好きです…そのうちに小ネタとして取り入れたいところですね…
246 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2018/12/16(日) 02:05:28.03 ID:7ZCbULIp0
…caseプリンセス×ちせ「The oriental lily」(東洋のユリ)…

…ロンドン市内・とある公園…

アンジェ「隣、よろしいですか?」

7「ええ。どうぞ」

…秋めいてきたロンドンの公園で暖かそうなコートにくるまれ、公園のベンチに腰掛けて池の水鳥を観察している「7」…そこに茶色のさえないコートを着たアンジェがとぼとぼ寒そうなふりをして歩いてくると、遠慮するような様子で隣に座った…

アンジェ「…それで?」

7「次の任務の指示があるわ」

アンジェ「……続けて」

7「あなたにはロイヤル・キュー・ガーデン(ロンドン南西部にある世界的な王立植物園)で、とある植物を探してもらいたいの」

アンジェ「…どんな植物なの?」

7「ええ…探しているのはごく珍しい種類のユリで、王立植物園にしかないことがはっきりしているわ」

アンジェ「ユリ?」

7「そう、ユリよ……以前、王国側のエージェントから入手したパルファム(香水)があったでしょう?」(※…case「The perfume」)

アンジェ「ええ」

7「あの香水の中に、その花から抽出した成分が入っているらしいことが分かったの……数年前、共和国の理想に共鳴したある植物学者の先生が王国から亡命したのだけれど…その人物がキュー・ガーデンを管轄する「王立園芸委員会」の一人だったことから判明した事実よ」

アンジェ「なるほど…続けて」

7「当然こちらも同じ植物がないか「キュー・デモクラティック・ガーデン」を始め共和国中の植物園を探し回ってみたけれど…残念ながら存在しなかったわ……それを使うかどうかはさておき、なんであれ敵側だけが持っていると言うのはこちらにとって不利になる」

アンジェ「確かに…わざわざアドバンテージを与えることもないわね」

7「そこで貴女にはキュー・ガーデンの「特別温室」から、そのユリの球根か種を入手してもらうわ…まぁ、大きさから言っても持ち出しやすい種がいいでしょうから、この時期まで待っていたの」

アンジェ「なるほど……とはいえキュー・ガーデンの特別温室に入れる人間はそう多くないし、あちらも種や苗の持ち出しにはうんと目を光らせているはずよ…植民地では見つからないの?」

7「ごもっともね…当然こちらも各地にプラントハンターや博物学者、「冒険家」を自称するような人間まで派遣したわ。南アフリカ、インド、セイロン、ホンコン、マレー、西インド諸島……しかし、どうやらそのユリはごく珍しい種類で、見つかっている群生に関しては王国の支配下にある地域でしか自生していないらしいの」

アンジェ「なるほど…確かに軍を派遣して植民地を奪取するよりは、キュー・ガーデンから窃取する方が速いわね…」

7「その通り。無論難しい任務であることは分かっている…だけど、こちらにも「切り札」があるでしょう?」

アンジェ「…誰をどう使うかは私が判断する……それに、いくらか予算をあてて欲しいわ」

7「分かっているわ…また経理部が胃痛になるわね」

アンジェ「プロダクト(産物)が欲しいなら相応の払いが必要ってことよ…おかしい事は何もない」

7「ええ、分かってる…こちらとしても欲しいものが入りさえすればそれでいいわ」

アンジェ「結構。お互い分かりあえたようね……それじゃあ…」

………

247 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/17(月) 01:14:27.92 ID:210TqTTO0
…翌朝・部室…

ドロシー「……で、今度はキュー・ガーデンからユリの花をくすねて来いって?」

アンジェ「ええ」

ドロシー「全く…私たちは情報部員で、怪盗じゃないって言ってやったか?」

アンジェ「言っても無駄だから言わなかったわ」

ドロシー「結構なことで…で、どうするよ」

アンジェ「そうね…コントロールが示唆したように、プリンセスを使う以外ないかもしれない……あるいは…」

ドロシー「あるいは…なんだ?」

アンジェ「…ちせを使う」

ドロシー「ちせか…確かに、あの人斬り刀と白兵戦の能力は大したもんなんだが……」

アンジェ「不安?」

ドロシー「…ありていに言えばな。彼女はエージェントになるには性格が真っ直ぐ過ぎる。いつぞやの件だって、いくら相手が鼻持ちならない奴らだったとはいえ…蝶々一匹のために決闘を挑んでいたんじゃ、もし自分の理想とかけ離れた連中の間にもぐり込むようなことになったらどうする?」

アンジェ「そうね…あの眩しいくらいの正直さは、私たちのような黄昏に生きる人間には明るすぎるわ……」

ドロシー「…妙にセンチメンタルな言い回しだが、だいたいそんなところだ」

アンジェ「…貴女の懸念はよく分かったわ。とはいえ、今回は潜入も破壊工作もしない…正面から堂々と入っていって、何食わぬ顔で出てくるだけよ」

ドロシー「ほぅ?」

アンジェ「…もっとも、コントロールには情報をいくらか差し出してもらう事になるでしょうけれど…」

ドロシー「ふぅん…その口ぶりからすると、何かアイデアを暖めているんだな?」

アンジェ「まぁね」

ドロシー「そっか…それじゃあ任せたぜ」

アンジェ「ええ。それじゃあ、またお茶の時間にね」

…ティータイム・中庭…

アンジェ「…という訳で、今回はキュー・ガーデンから珍しいユリの種…ないしは球根を入手することになったわ」

ベアトリス「あの香水のもとですか…///」

ドロシー「なんだ、もしかしてまたアレを試したいのか?」いやらしい含み笑いを浮かべてウィンクする…

ベアトリス「ばか言わないで下さいっ……それより、キュー・ガーデンの特別温室は重要な園芸作物や、貴重な植物の育成を行っている場所ですし、なかなか入るのは難しいはずですよ?」

アンジェ「もちろんそのことは織り込み済みよ…プリンセス」

プリンセス「なにかしら?」

アンジェ「今回はあなたの名前を活用させてもらう……貴女は確か「王立園芸委員会」の名誉顧問だったわね?」

プリンセス「ええ」

アンジェ「結構…では貴女にはキュー・ガーデンに行く用事を作ってもらいたい」

プリンセス「ええ、任せて」

アンジェ「よろしい…それと、ちせ」

ちせ「む?」

アンジェ「貴女には、そちらが欲しがっている共和国の情報を渡してもよいと許可が出た…その代わりに……」

ちせ「なんじゃ?」

アンジェ「日本の貴重な工芸作物…例えば漆、絹を作る蚕が餌にする桑や、染料になる紅花…の種や苗を引き渡して欲しい。貴女がキュー・ガーデンの特別温室に入るための手土産としてね」

ちせ「なるほど…しかしそう言うことは私の一存では決められぬし、上に相談せねばならぬが……期限は?」

アンジェ「出来るだけ早いうちに」

ちせ「うむ、承知」

アンジェ「よろしい…ではあなたが引き換えの種を手に入れ次第、実行に移す」


248 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/20(木) 01:20:48.22 ID:/cTZThh20
…数日後・在アルビオン王国日本大使館…

堀河公「…して、今回はどのような情報を携えて参ったのだ?」

…鹿威(ししおどし)の響きが時折聞こえてくる日本庭園を眺めつつ、向かい合ってお茶をすすっている二人……膝の前には厚く切ったようかんがそれぞれ二切れ小皿に載せて置いてあり、ちせは正座で膝に手を置き、ちせにとっての「コントロール」である堀河公は腕を組んで目をつぶっている…

ちせ「は…それがかくかくしかじかで……」

堀河公「なるほど…共和国側は我が方がたずさえてきた工芸作物の種苗と引き換えに王国側の情報を寄こすと……」

ちせ「さようで……いかが致しましょうか」

堀河公「ふむ…」ずず…と湯呑みの茶を一すすりした

ちせ「…」

堀河公「よかろう。王国の外交方針がつづられた文書…それなら貴重な作物の種と引き換えてもかまうまい……共和国側へは「条件に応じる」と伝えよ」

ちせ「御意」

堀河公「…しかし二枚舌外交の巧みな英国を相手にするのだ、こちらも何か保険をかけておかねばな……」

ちせ「はっ」

堀河公「なに、そなたに策を弄してもらうつもりはない。謀(はかりごと)はこちらで練るゆえ、そなたは朋友たちに承知した旨を伝えよ」

ちせ「ははっ」

堀河公「…ちせ」

ちせ「はい」

堀河公「……頼むぞ」

ちせ「は、この身に替えましても…!」

堀河公「うむ」

………



…その日の午後・部室…

ちせ「アンジェどの」

アンジェ「返事をもらってきたようね…で、答えは?」

ちせ「肯定じゃ…私の上役は了承したぞ」

アンジェ「結構、ならこちらもすぐ準備に取りかかる…少し出てくるわ」

ちせ「うむ」

ドロシー「お疲れさん。ちせの所のボス…堀河公とやらもずいぶん悩んだだろうな」

ちせ「まぁそうじゃな……決して安い取引ではなかったからの」

ドロシー「だろうよ…ま、後はキュー・ガーデンで種だか苗だかをくすねてくるだけだな♪」

ベアトリス「もう、ドロシーさんったら……またそうやってたやすい事みたいに言うんですから…」

ドロシー「まぁな……何しろこちらには泣く子も黙るプリンセスが付いているしな、ピース・オヴ・ケーク(お茶の子さいさい)さ♪」

ベアトリス「はぁ…そのお気楽ぶりを半分ほど分けて欲しいですよ、まったく……」

プリンセス「……何の話をしていらっしゃるの?」

ベアトリス「あ、姫様♪ …いえ、ドロシーさんが……」

プリンセス「あら、またドロシーさんの話? …ベアトを盗られたみたいで、何だか妬けてきちゃうわ♪」そう言って軽くドロシーの耳たぶを引っぱり、斜め下から見上げるような上目遣いをしてみせた…

ドロシー「おいおい…別に私から言っている訳じゃないんだ、その辺の苦情はベアトリスに頼むぜ……///」

プリンセス「ふふ、それもそうね♪」

ドロシー「ああ…それはそうと、ちせの上司からも「ゴー」が出た。近いうちに決行することになるだろうな」

プリンセス「そう、よかったわ…早くしないと種を収穫されてしまうものね」

ドロシー「まったくだ」
249 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/22(土) 02:17:37.31 ID:1zU7qVhY0
ドロシー「で、当日はそれを着ていくのか」

ちせ「うむ、日・アルビオン王国の友好と親善をうたった交流と言うことで「公的に」動くのでな」…抹茶色に白と紅の山茶花(さざんか)を配した着物に銀ねず色の帯に雪駄…と、華やかではあるがけばけばしくはない格好で決めている…

ドロシー「へぇ…なるほど。任務の時の黒い服もいいが、そう言うのも可愛らしくていいじゃないか…よく似合ってるぜ?」

ちせ「…そうまじまじと見られると気恥ずかしいものがあるがの///」スパイらしく人をたらしこむのが上手で、必要ならとてもチャーミングで褒め上手になれるドロシーにたじたじのちせ…

アンジェ「ドロシーではないけれど、その格好はなかなかいいわ。それに…」

ちせ「なんじゃ?」

アンジェ「袖口が長いからそっと何かを忍び込ませることも出来るわね」

ちせ「なるほど…そこまでは考えなかったが、そういうことに使えないこともないじゃろう」

アンジェ「ええ、特に今回の場合はね…」

ちせ「分かっておる……それと、これが王国側に渡す種じゃ…桑に、三又(みつまた…高級紙の原料)…紅花……」きっちりと紙にくるまれた種を並べる…

アンジェ「ええ。コントロールもこちら用の種を受け取ったそうよ」

ちせ「うむ…東洋の絹はこちらでは作れぬから、養蚕に欠かせぬ桑の種や苗木は、どちらも喉から手が出るほど欲しいものじゃろうて」

アンジェ「そうでしょうね……「パンの木ブライ」の件でもわかるわ」

(※パンの木ブライ…18世紀ごろ、南洋にしかなかったパンの木の苗木を本国に輸送するべく派遣された「バウンティ号」の艦長ブライが権威をかさに着て理不尽な命令や体罰を繰り返し、副長を始め多くの乗員が反乱を起こした事件。事件の直接の原因は渇きに苦しむ乗員の飲料水を減らして、苗木に水を与えた事だと言われる…戦前・戦後に何回か映画化された)

ドロシー「ああ。茶の木だとかゴムの木だとかな」

アンジェ「ええ…とにかく、後は当日うまくやるだけね」

ちせ「うむ…何か手はずを決めた方が良いかもしれぬ……」

アンジェ「そのことなら心配はいらない…プリンセス」

プリンセス「ええ、実は一つ考えがあるの♪」

ちせ「ふむ…と言うと?」

プリンセス「それはね……」

ちせ「…ふむ、なるほど……確かにそれなら自然で悪くないの…」

プリンセス「よかった、頭を悩ませたかいがあったわ♪」

ベアトリス「あの、その計画ってどんな…」

アンジェ「あなたは知らなくていい」

ベアトリス「むぅ…そう言う言い方はないんじゃないですか?」

アンジェ「別にあなたを毛嫌いしている訳じゃないわ……だけれど、あなたの演技力はお世辞にも褒められたものじゃない」

ドロシー「…だから知らないでいれば、より本当らしく見えるってわけさ」

プリンセス「ごめんなさい、ベアト……おわびはうんとしてあげるから……ね♪」耳元でいやらしくささやいた…

ベアトリス「ひ、姫様…///」

アンジェ「とにかく、後は当日を待つばかりね……今回はちせ、プリンセス、それにベアトが一緒に動き、私とドロシーが不測の事態に備えてキュー・ガーデンの一般向け庭園で待機している…もし何かあった時は私かドロシーのどちらかとランデヴーして「クロッカス」を会話の中に挟みなさい」

ベアトリス「どうしてこの時期に「クロッカス」なんです?」

ドロシー「糸一本で綱渡りしているようなまずい状態って事さ…こう見えてアンジェは教養があるからな」

(※クロッカス…由来はギリシャ語のクロコス(糸)から。同属のサフランが持つ雄しべが紅い糸のように見えるため……この雄しべは「サフランライス」などに使われるハーブの一つで価値が高い)

アンジェ「ドロシー…「こう見えて」は余計よ」

ドロシー「へいへい、悪かったよ♪」

250 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2018/12/25(火) 10:46:49.60 ID:ZfZm7ekI0
…作戦当日…

プリンセス「それじゃあ行ってくるわね、アンジェ♪」

アンジェ「ええ」

ドロシー「ちせ、しくじるなよ?」

ちせ「うむ…」

ドロシー「なぁに、そう固くなるなって……敵さんをあなどるのも問題だけどな、そう気負ってちゃ普段出来ることだって出来ないぜ?」

ちせ「そうじゃな……」

ドロシー「な? …もっとも、固いのは態度だけじゃないみたいだけどな♪」むにっ…♪

ちせ「な、何をするのじゃ…っ///」

ドロシー「ははっ♪」

ベアトリス「もう…ドロシーさんは浮かれすぎですよ?」

ドロシー「そういう性格だからな。 それとベアトリス、お前さんもムリにうまい事やろうとしなくていいぞ…普段通りにふるまえ」

ベアトリス「…はい」

アンジェ「ドロシーはこんなだけれど、助言することがあるとしたら今の通りよ…緊張するなとは言わないから、冷静にね」

ベアトリス「分かりました」

ドロシー「それじゃあアンジェ、キュー・ガーデンへ行こうぜ?」

アンジェ「ええ。三人とも、私たちは先行して向こうにいるから……何かあったら援護するわ」

プリンセス「お願いね?」

アンジェ「もちろん」

…キュー・ガーデン…

ドロシー「うーんっ…いい空気だ……♪」

アンジェ「だからって寝こけたりしないでちょうだいね?」

ドロシー「大丈夫さ…だけどアンジェの柔っこいふとももがそんなところにあるとな……よっ、と♪」…ぽすっ♪

アンジェ「…どういうつもり?」太ももの上に乗っかっているドロシーの頭を見おろした…

ドロシー「ひざまくら♪」

アンジェ「ふざけてないで…いいから見張ってなさい」

ドロシー「へいへい……よいしょ、と」

アンジェ「とりあえず私たちは、この場所から動かないでいる理由を周囲に見せないといけないわ…」

ドロシー「ああ。いいとこのお嬢さんが風景画を描く…いかにもそれらしいよな」

アンジェ「そういう事よ……後はプリンセスたちの任務完了までここで待機すればいい」

ドロシー「任せておけよ」

アンジェ「…期待しているわ」さらさらと下絵をスケッチしつつ、油断なく辺りを監視するアンジェとドロシー…


251 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/26(水) 02:15:18.94 ID:dfVndbv/0
そう言えば、ちょっと遅れてしまいましたが…クリスマスおめでとうございます。皆さまのクリスマスがチキンとケーキのごちそうが付いた、良いものだったことを願っております……

252 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/28(金) 02:47:34.62 ID:t93puI9t0
…数十分後・キュー・ガーデン正門…

プリンセス「さぁ、着きましたよ」

ちせ「おぉぉ…何とも広大で壮麗な公園じゃ」

プリンセス「ふふ、何しろアルビオンの富の一端を担っている大事な場所ですものね」

ちせ「ふむ…日本では自然はごくごくありふれていて、そこまで意識することが少ないが……そう言う考えもあるのじゃな…」

プリンセス「ええ…もっとも、自然から切り離されガラス温室に閉じ込められた花々は幸せなのか、時々考えてしまいますが……あ、準備ができたようですよ?」

侍従「…どうぞ、足下にお気をつけてお降り下さい」警護官のオールドミスたちが鋭い目つきで辺りを確認し、二人の侍従がドレスとヒール姿のプリンセスが降りやすいようにと、踏み台を用意してから馬車の扉を開ける…

プリンセス「ええ、お気遣いありがとう…さ、ちせさんも参りましょう♪」

ちせ「うむ」

…プリンセスとちせがキュー・ガーデンの王室用入口に案内されると、片眼鏡(モノクル)をかけていたり、白いひげを生やした博物学者や「王立園芸委員会」の委員が十数人ほど待っていた…

白いあごひげの委員「よくお越しになられました、プリンセス…それとお客人も」

片眼鏡の委員「いかにも…残念なことにユリの時期は終わりつつありますが、それ以外にもさまざまな見どころはございますゆえ……それとプリンセス、王室発行の園芸書で改訂せねばならぬところがございますので、ぜひ時間をいただきたいと思っておったのです」

プリンセス「あぁ、そうですか…分かりました、ロード・チャービル」

片眼鏡の委員「まことに助かります…それと遠い極東からのお客様がいらっしゃるわけですから、最初はキュー・ガーデンのレモンピール博士に色々と案内させましょう…博士、よろしいですな?」

内気な感じの学者「ええ、もちろんです……その、プリンセスをご案内出来て光栄です///」

プリンセス「いえいえ、わたくしこそ博士に案内して頂けるなんて嬉しいです…先月の「植物の繁茂と日照」についての論文、大変に興味深かったですわ」

学者「あっ、その…あの論文を読んでいただけたのですか……その、まだ実証できていない部分もありまして、完成とは言い難いのですが……///」

プリンセス「いいえ、素晴らしいものでしたよ…それでは、案内をしていただけますか?」

学者「あぁ、はい…!」

白髪の委員「それでは私たちも参るとしましょうか…いかがですかな?」

片眼鏡の委員「いかにも」

白ひげの委員「ふむ、そうですな」

…園内…

プリンセス「なるほど、すごいものですわね…」

博士「はい、ここは亜熱帯の気候に合わせた温室でして…特にラン類が集められています。こちらがデンドロビウムで、あちらがファレノプシス……いずれもマレーやシナで採集されたものです」…甘い香りが鼻孔をくすぐり、クリーム色や鮮やかな紫、金粉を振ったようなメタリックなきらめきを見せる蘭の花が、湿気の多い温室の中でこぼれ落ちるように花房を垂らしている…

プリンセス「そう言えば博士、ユリの花もまだ見られるそうですわね?」

博士「あぁ、はい! …ご覧になりますか?」

プリンセス「ええ、もしよろしければ…わたくし、綺麗な花は何でも好きですが、蘭と同じくらいユリの花が好きですわ♪」

博士「分かりました…えぇと、その……プリンセスはよろしいのですが…」困ったようにちせの方をちらちらと見た…

プリンセス「あぁ、そう言えばユリの咲いている温室は「特別温室」でしたわね……でも、彼女の事は王立園芸委員会の名誉顧問であるわたくしが保証しますから…いかがでしょう?」

片眼鏡の委員「……博士、少しは考えたらどうなのだ…プリンセスのご学友は極東の貴重な工芸作物の種や苗を提供してくれると言っているのだぞ? もし機嫌を損ねて「共和国側に渡す」などとなったらどうする……見たいと申されるものは全て見せてあげなさい…!」小声で叱り飛ばす片眼鏡の委員…が、委員は耳が悪いらしく、あまり小声になっていない……

博士「…は、はい!」

プリンセス「どうかなさいました?」

博士「いえ、その…もちろんプリンセスのお友だちの方もご一緒にどうぞ」

プリンセス「無理を言ってしまったようですね…博士、お気遣いありがとうございます」

博士「いえ、とんでもありません…!」

253 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/30(日) 01:28:02.82 ID:kcfr5bZc0
…特別温室…

博士「…では、こちらがキュー・ガーデンの誇る「特別温室」です……どうぞお足下に気を付けて下さい」

プリンセス「ええ、ありがとう……まぁ、何だか風変りな香りがいたしますね?」

博士「かもしれません、東洋の珍しい花木を集めておりますから」

プリンセス「なるほど…ちせさん、この温室をご覧になった感想は?」

ちせ「うむ、さすがはアルビオン王国の誇る植物園……これなら持参した種や苗も有効活用して頂けるものと存じます」

プリンセス「ふふ、嬉しいお言葉です」

白髪の委員「おぉ、そうそう…姫様のご学友は東洋の貴重な工芸作物の種を持参して下さったとか……ぜひ拝見したいものですな?」

片眼鏡の委員「確かに」

プリンセス「まぁまぁ、委員の皆さま方ったら…わたくしの友人も種も逃げ出したりはいたしませんし、せめてしばらくの間、この珍しい花々を観賞させてくださいな?」

白髪の委員「これは失礼いたしました……プリンセスのお気持ちも考えず…」

プリンセス「いえ、卿の王立園芸委員としての熱心さには頭が下がりますわ……♪」孫と祖父くらい年の離れている委員に向けて、無邪気に微笑みかけた…

白髪の委員「これはお恥ずかしい……博士、私たちは先に庭園の方で待っているから、しばらくは君が案内してあげなさい」

博士「分かりました」

プリンセス「…それでは博士、エスコートをお願いいたしますわ♪」

博士「はい…プリンセスをご案内出来るとは光栄です……」

プリンセス「それでは参りましょう?」

ちせ「御意」

………



博士「この百合はオリエンタル・リリーと申しまして……夏ごろになると草丈が6フィートにも育ち、堂々とした白い花を咲かせます…」

プリンセス「なるほど…ところで博士、あのお花は?」

…視線を向けた先には「目標」のユリが数株、ちょっとした岩を組み合わせた段の隙間から生えている……花はすでに散っていて、種を抱えたさやがふっくらとふくらんで、もう半日といったところまで開きかけている…

博士「あぁ、はい…あれが今回東洋で見つかった珍しいユリでして……このユリの何が珍しいかと申しますと、まずは半日陰を好むユリと違って明るい日なたの岩場に良く育ち、花弁の数が一枚多く、めしべの長さも普通のオリエンタル・リリーより長い…その上花色が時期によって徐々に変化するという大変珍しい性質を……失礼、ついまくしたててしまいました///」

プリンセス「いえいえ、博士の博学なことに感心いたしました…ではもっと良く観察させていただきます。あら、残念なことに花は終わってしまっているようですね……そんなに珍しいものなら咲いているところが見たかったですわ…」

博士「申し訳ありません…花はつい数日前に散ってしまいまして……プリンセスがおいでになると聞き及んでいたら、温室の温度を調整するなりして花期を延ばしたのですが……」

プリンセス「いいえ、博士のせいではありませんもの……お気遣いありがとう。花はありませんけれど、ちせさんもご覧になって?」

ちせ「ほう、そのように珍しいものを見ることが出来るとは光栄で……うっ…!」急にめまいがしたようなふりをしてふらつき、ユリの方に倒れかかる…

ベアトリス「あっ…!」

博士「あぁっ!」

プリンセス「ちせさん…っ!」

ちせ「う……申し訳ない、急にくらくらとめまいが……」

プリンセス「あぁ、それはいけません…どなたか、気付け薬を持ってきて下さる?」

侍従「は、はいっ…!」

プリンセス「ベアトリス、あなたはちせさんを座れるところまでお連れして?」

ベアトリス「はい、姫様…!」

博士「ご、ご学友の方は大丈夫ですか…!」

プリンセス「ええ、ありがとう…ちょっとふらついただけですわ」

博士「ならいいのですが……いかん、ユリが…!」

プリンセス「あぁ、何てことでしょう…博士、ユリは大丈夫ですか?」

博士「あぁ…えぇと……ふぅ、茎や葉は大丈夫です…ご学友のお身体が少し触れてしまったようで、種の入っているさやが割れてしまいましたが……これは私が回収しますので」

プリンセス「ごめんなさいね、博士…?」
254 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/30(日) 02:07:34.22 ID:kcfr5bZc0
博士「いえ、めっそうもない…それより、ご学友の方は大丈夫でしょうか?」

プリンセス「ええ、多分大丈夫ですわ……お気遣いありがとう。このことは委員のお爺さんたちには秘密にしておきましょう♪」茶目っ気たっぷりのチャーミングな笑顔を見せるプリンセス…

博士「そ、そうですか…?」

プリンセス「ええ。だってそうでもしないと、博士が気難しい委員のみなさんに怒られてしまいますもの…別に博士のせいではありませんのに」

博士「そんなことまでお気遣いいただき……何といったらよいか///」

プリンセス「いえ、構いませんわ…それに、ここは素敵な場所ですね。…もう少しだけ案内して下さる?」

博士「も、もちろんです…///」

プリンセス「ありがとう♪」(ちせさんの演技も上手だったし…これで任務の半分は済んだわね♪)

………

…園内・貴賓室…

白髪の委員「…さてさて、プリンセス…久しぶりの見学でしたが、いかがでしたかな?」

プリンセス「大変興味深く拝見させていただきましたわ。きっと学業の糧としても役立つことでしょう♪」

白髪の委員「それは何よりですな…ご学友の方はいかがでしたかな?」

ちせ「は、実にすばらしい植物園を拝見させていただき感謝あるのみです…」

白ひげの委員「結構ですな……ところで」別の委員が口を挟んだ…

白髪の委員「分かっておる…それで、ですな……」

ちせ「……いかにも、これを我が国の大使より「貴国との友好と親善のためにお渡しせよ」と預かっております」

片眼鏡の委員「おぉ……では失礼」無礼ではない程度に丁寧ながらも、いそいそと包みを開いた…

白髪の委員「これは…博士、分かるかね?」

博士「えー…はい。こちらが桑の種で、こちらが紅花……いずれも日本の固有種であったり、主要な輸出品となっているものです」挿し絵のついた包み紙と学名を見比べたりしながら、種を調べている…

白ひげの委員「うむ、そうじゃな…あー、「ちせ」さんと申されたか……このような素晴らしい種をいただき、王立園芸委員会としては感謝の念に堪えませんぞ……我が方からも秘蔵の種を選りすぐったのでな、ぜひお国の植物園なりエンペラー(天皇)のお庭になりに育てて、両国の友好を思い出すよすがとして頂きたい」

ちせ「ははっ…その言葉、一言一句誤りなく大使に伝えます」

白ひげの委員「結構…では、もう一杯紅茶をいかがかね?」

片眼鏡の委員「クッキーもありますぞ…キュー・ガーデンで供される茶や菓子はなかなかのものですからな」

ちせ「では、ありがたく…」

プリンセス「…ふふ♪」

………



…夕方・部室…

アンジェ「みんな、ご苦労様」

プリンセス「ええ…お疲れさま、ちせさん」

ちせ「うむ。ところで私の「貧血のふり」はどうであったろうか」

プリンセス「とてもお上手だったわ…それにベアトがびっくりしてくれたおかげで、よりそれらしく見えたわね♪」

ベアトリス「もう…本当にびっくりしましたよ……」

ちせ「単に息を止めていただけなのじゃが、存外上手く行ったのう」

アンジェ「それで、成果のほどは?」

ちせ「うむ…」机の上で袖を振るうと、パラパラとユリの種がこぼれ落ちた

ドロシー「ふぃー…この種のせいでえらく面倒な目にあったが、もうこれで悩まなくて済むな」

プリンセス「ふふ、そうね…♪」

アンジェ「それじゃあ…これは堀河公に渡してちょうだい。あなたが手に入れたプロダクト(産物)なのだから、正当な権利よ」

ちせ「うむ」
255 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/30(日) 02:48:40.35 ID:kcfr5bZc0
…しばらくして…

ドロシー「…それにしても」

アンジェ「なに?」

ドロシー「王国の連中ときたら、しみったれもいいところだな」

アンジェ「……と言うと?」

ドロシー「とぼけるなよ…ちせが王国の園芸委員たちからもらった種さ」

アンジェ「ああ、そのことね」

プリンセス「確かに……パンジーにアネモネ、バラ…どれも花壇に植えるにはいいけれど、商業価値はないものばかりね」

ドロシー「これで取引のつもりだって言うなら、詐欺師もいいところだぜ?」

アンジェ「外交なんてそういうものよ……どうやって相手の無知につけこんで物をせしめるか…それだけだもの」

ドロシー「まぁな……で、ちせは「分け前」を持ってボスの所に行ったのか」

アンジェ「ええ」

ベアトリス「きっと今ごろお茶でもすすっているんじゃないでしょうか?」

ドロシー「…だな」

…一方・駐アルビオン日本大使館の一室…

堀河公「ご苦労であったな、ちせ」

ちせ「ははっ」

堀河公「それで、目的のものは入手したか?」

ちせ「…はっ」

堀河公「結構…それで、この包みが「返礼」として王国から渡された種なのだな?」

ちせ「さようにございます」

堀河公「ふむ…アルビオンめ、我々が東洋人だと思ってふざけた真似を……中身は確認したな?」

ちせ「は…どれもこちらでは珍しくもない花の種や、工芸作物の種子も我々で手に入れられる物ばかりでした……」

堀河公「うむ、まぁよい…共和国からはちゃんと引き換えの情報が手に入ったのでな」

ちせ「何よりでございます……ところで」

堀河公「なんだ?」

ちせ「これを…共和国の間諜から「分け前」として配分された物にございます」

堀河公「ほう? これが「例のユリ」の種か」

ちせ「はっ」

堀河公「ずいぶんと気前のいいことだな……何か言づてはあるか?」

ちせ「いえ…しかし「正当な権利だ」と」

堀河公「ふむ…となると、共和国に対するこちらの心証を良くしたいのか、はたまた恩を売ったつもりか……まぁよい、くれると言うのならもらっておこうではないか」

ちせ「同感にございます」

堀河公「それに比べて王国のやり口は…我が国の輸出に欠かせない、貴重な工芸作物への返礼がバラに菫(すみれ)ときた……こちらも「細工」をしておいてよかったと言うものだ」

ちせ「…と、申しますと?」

堀河公「なに、この間申した「策」というやつでな…おおかたそのような事であろうと思っていたゆえ、渡した種のうち貴重なものは、包む前に茹でて駄目にしておいたのだ……もっとも、怪しまれるといかぬから、撫子のような花の種はそのままにしておいたが」

ちせ「なるほど…」

堀河公「何はともあれご苦労であった。遅くならぬうちに戻るがよかろう」

ちせ「はは…では、失礼いたします」

堀河公「うむ」
256 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2018/12/31(月) 21:17:43.82 ID:uJxFt4PG0
今日は大みそか、今年もあとわずかですね…ここまで見て下さったり感想を下さった皆さま、どうか良いお年を♪


……また年が明けたら投下しますので、おせちでもつつきながらどうぞごゆるりとお付き合い下さい

257 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/31(月) 23:58:26.09 ID:SJjwvZvnO
毎度楽しませてもらってます
Hシーンだけじゃなくちゃんと諜報戦してるのが好きです
258 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/01/02(水) 01:12:38.85 ID:IwLI7TQG0
>>257 コメントありがとうございます、年を越してのお返事になってしまいましたが…(苦笑)


何はともあれ明けましておめでとうございます、本年も皆さまに良い事がありますように…引き続きゆっくりではありますが投下を続けていきますので、どうぞよろしくお願いいたします

259 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/03(木) 02:37:59.04 ID:me2Fml5l0
…夜・部室…

プリンセス「あ、お帰りなさい…♪」パチパチと暖炉の薪がはぜる以外は物音一つしない静かな部室で、一人紅茶をすすっているプリンセス…

ちせ「うむ……おや、プリンセスどの以外はみな部屋に戻っておるのか?」

プリンセス「ええ。アンジェさんは報告書を書くためにお部屋…ドロシーさんは今回手に入れた種をコントロールとの連絡係に届けるためにお出かけ。ベアトは疲れて寝ちゃったわ」

ちせ「ベアトリスにとっては何かと緊張することであったろうからの……して、プリンセスどのはどうしてお休みにならぬのじゃ?」

プリンセス「だって、今回の任務で一番の立役者だったちせさんを待たないで寝に行っちゃうなんて……それじゃあまりにも素っ気ないと思って♪」

ちせ「なに、そこまで気を使ってもらわんでも……務めを果たしたまでじゃ…」

プリンセス「いいえ、ちせさんは大変だったもの……ところで一杯いかが?」ティーカップを軽く持ち上げてみせた

ちせ「紅茶か……ふむ、今夜は少し冷えるのでな…ご馳走にあずかろう」

プリンセス「そう、ならここに座って……ミルクとお砂糖は?」暖炉の脇の一番暖かな椅子をすすめるプリンセス…ちせが折り目正しく座ると、温めたカップにさっそく紅茶を注いだ…

ちせ「うむ。お任せいたすので、ほどよく淹れてもらえるかの…?」

プリンセス「まぁ、責任重大ね……はい、どうぞ♪」砂糖をひとさじと、ほどよい量のミルクを注いだ…

ちせ「かたじけない…ふー、ふーっ……すす…っ……ほぉ…♪」ひとすすりして、満足げなため息をついたちせ…

プリンセス「どうかしら?」

ちせ「いやはや、身体の中から温まるのぅ……それにいい香りじゃ…」

プリンセス「ふふ、このお茶はウバだから…ミルクとよく合うの♪」

ちせ「ふむ…お、何やら菓子もあるようじゃな……っと、一つふたつばかりつまんでも構わぬか?」テーブルの上にあるクッキーに手を伸ばしかけて急にひっこめると、少し恥ずかしげにプリンセスに問いかけた…

プリンセス「ええ、どうぞ♪」

ちせ「では、一ついただくとしよう♪」さくっ…♪

プリンセス「お味はいかが?」

ちせ「うむ…んむ……さっくりとして、食べ終わるとほのかな「バタ」の香りがして……何とも言えぬな…♪」

プリンセス「そう、よかった…もう一杯いかが?」

ちせ「そうじゃな、ではもう一杯(ひとつき)頂戴いたそう……」

…しばらくして・廊下…

ちせ「ふぅ…おかげでだいぶ暖かくなった。これならよい心もちで眠れるというものじゃ」

プリンセス「よかったわ…ところで、ちせさん……♪」

…何か心の底でたくらんでいる時の、ちょっと意地悪な笑みを一瞬だけ浮かべたプリンセス……もちろん普段のちせならすぐ察しただろうが、プリンセスは信頼できる「白鳩」の仲間であり、その上たっぷりの紅茶でお腹の底から暖まって眠気を覚えていたちせは、プリンセスの微笑みに気づかなかった…

ちせ「なんじゃ?」

プリンセス「実を言うと…私の部屋も少し寒くて……」

ちせ「それはまたどうしてじゃ…暖炉があるじゃろうに?」

プリンセス「だって、ここの暖炉はあんまり暖かくないし……宮殿の寝室のようにたくさんのお布団が入っているわけでもないから…」

ちせ「ふむ…この時期でそれでは、真冬になったらさぞ難儀じゃろうな……」

プリンセス「…そうね、私もそう言う環境に慣れていかないといけないのだけれど……」

ちせ「とはいえ、なかなかすぐにどうこう出来るものでもないからの…して、私はどうすればよいのじゃ?」

プリンセス「ええ……暖炉の火を上手く加減して欲しいの。いつもならベアトがやってくれるのだけれど…お願いできるかしら?」

ちせ「うむ。とりあえずそれが済んだら寝に行かせてもらうが、それで構わぬか?」

プリンセス「ええ。もちろん長くお引き留めするつもりはないわ……ごめんなさいね?」

ちせ「なに、困った時はお互い様じゃからな…「情けは人のためならず、やがて自分に還るもの」というやつじゃ」

プリンセス「ありがとう、ちせさん……さぁ、入って?」ドアを開けてちせを部屋に招じ入れると、可愛らしい背中や濃緑の着物からのぞくうなじを見て、ぺろりと舌なめずりをした…

ちせ「…っ、確かに底冷えのする部屋じゃな……何やらぞくりとしたぞ…」

プリンセス「ええ、そうなの……♪」…適当に相づちを打ちながら後ろ手にドアを閉め、カチリと錠を下ろした……
260 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/04(金) 03:20:45.94 ID:WF5d1wly0
ちせ「よいしょ……暖炉に少し焚きつけをくべて…と、これで良し」

プリンセス「ありがとう、これで暖かく過ごせるわ♪」

ちせ「うむ。それでは私も戻らせてもら……ん、どうして鍵が掛かっているのじゃ…?」

プリンセス「ふふ……せっかくだから私のお布団も温めていってくれると嬉しいわ?」

ちせ「…そ、それはどういう意味じゃ」

プリンセス「ふふふ、もちろん言った通りの意味よ…ちせさん♪」

ちせ「その、それは……つまり…///」数歩後ずさりして、慌てて左右に視線を巡らせる…が、この状況を解決できそうな物は見当たらない……

プリンセス「ふふ、いいでしょう?」

ちせ「い、いや…そういう事ならベアトリスに頼めばよいではないか……そ、それにうちのようなちんちくりんでは面白くあるまいが…?」

プリンセス「わたくしはちせさんの事をちんちくりんだなんて思っていないわ…それに、ちせさんは小さくて可愛らしいわ♪」じりっ…♪

ちせ「そ、そんなことを言われても困る…///」

プリンセス「まぁまぁ、そう遠慮せずに…♪」愉快そうに笑みを浮かべて、ちせの腕をぐいっと引っ張ってベッドに引きずり込む…

ちせ「うわっ、何をするんじゃ!?」

プリンセス「ふふ、いらっしゃい…はぁ、やっぱりちせさんは温かいわ♪」

ちせ「や、止めんか/// ……どうしても放してくれんと言うのなら、プリンセスとはいえ手加減は出来かねるぞ?」

プリンセス「ええ、手加減なしで構わないわ♪」

ちせ「さようか、しからばごめ……んぐっ、んん゛ぅっ!?」

プリンセス「んちゅっ、むちゅっ、ちゅぷ……ちゅるっ、んちゅ…れろっ、ちゅぅ…っ♪」何かを言いかけたちせの小さな口にぬるりと舌を滑り込ませ、絡みつかせるプリンセス…

ちせ「んっ、ん゛っ、ん゛む゛ぅっ!? …ぷは……んぐっ、んんぅっ、んんぅ……ふぅぅ、んっ///」

プリンセス「じゅるっ、ちゅぅ……あむっ……ぷはぁ♪」

ちせ「はひっ、ひぅ……はー、はー、はー…っ///」不意打ちのキスに息をし損ねて、目尻に涙を浮かべているちせ…

プリンセス「まぁ、ちせさんったら可愛い…♪」

…涙の粒を指ですくい上げ、ぺろりと舐めあげるプリンセス…ベッドの上には両手を投げ出し、荒い息づかいのちせがあお向けになっている…きっちりとまとっていた着物ははだけ、裾からのぞくきゅっと引き締まったふくらはぎと襟元からちらりと見える小ぶりな乳房が、ちらつく暖炉の火にに合わせて幻想的に揺れ動く…

ちせ「はぁ、はぁ…んはぁ……///」

プリンセス「……そう言えばちせさん、日本では食事のたびに食材に感謝の念を表すそうね?」

ちせ「はー、はー……こんなことをしておいて…やぶから棒になんなのじゃ……」

プリンセス「いえ…そんないい風習があるのだから、私も見習うことにしようと思って♪」

ちせ「結構なことじゃな……しかし…ふぅ……それと今のこれには何の関係もあるまい…///」

プリンセス「いいえ、むしろ今だからこそ…ね♪」

ちせ「……ど、どういう意味じゃ……な、何をたくらんでおるのじゃ…?」

プリンセス「ふふ…いただきます♪」

ちせ「ま、待て…うちは食材でもなければ……んぐぅ、ぬちゅっ、んちゅぅ…っ!?」

プリンセス「はぁぁ、ちせさんのお口の中は甘い紅茶の味がするわ……ところで、ベッドに入るのにお着物を着ていてはいけないから、脱ぎぬぎしましょうね♪」

ちせ「よ、止さぬか…っ///」

プリンセス「もう…暴れちゃだめよ、ちせさん♪」帯がきっちりと締められていて上手く解けないので、大きく襟元をはだけさせ、裾もふとももまでめくりあげてしまうプリンセス…

ちせ「頼む、後生じゃから……そう見るな…ぁ///」

プリンセス「そう言わずに…だってちせさんの肌はとっても滑らかで綺麗だもの……れろっ、ちゅっ♪」

ちせ「んひぃぃ…ん、くぅ…っ///」

プリンセス「れろっ、ぬるっ…んちゅっ……ふふ、それではこっちもお味見させてね…ちせさん♪ …あむっ、ちゅるっ、じゅる…ぢゅぅぅっ♪」プリンセスは鎖骨から順に吸いつくように舐めまわしていって、へそまでたどり着くと一旦顔を上げ、それからちせの秘部に舌をねじ込んだ…

ちせ「あひぃっ、ひい゛ぃ゛ぃっ…!?」がくりと首をのけ反らせて、身体をびくびくとひくつかせる…

プリンセス「きゃあ♪ …もう、ちせさんったら急に跳ねて…まるで元気のいいお馬さんみたい♪」
261 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/05(土) 03:02:10.76 ID:Rf6Bg2dt0
ちせ「いい゛っ゛…あ゛ひぃ゛っ……はひっ…///」

プリンセス「まぁまぁ、ちせさんの割れ目からいっぱい蜜が湧いてきて……溺れてしまいそうね…ちゅ、じゅぅっ……じゅるっ♪」

ちせ「くはぁ…っ、はーっ、はーっ……あっ、おぉ゛ぉっ……!」がくがくっ…♪

プリンセス「ふふ、ちせさんとするのは愉しいわ……にちゅっ、ぢゅぅぅ…っ♪」

ちせ「あっあっあっ……あぁ…っ///」ぞくぞく…っ♪

プリンセス「はぁぁ、気持ちいいわ……任務で昂った(たかぶった)のかしら…身体中が熱っぽくて火照っているの♪」普段はにこにこと穏やかな微笑を浮かべているプリンセス…が、今はちせの上にまたがって目を爛々(らんらん)とさせ、顔を紅く上気させている…

ちせ「ひぐぅっ、はひっ…はぁ、ふぅ……あっあっ、あぁ゛ぁっっ!」…ほっそりしてみえるが乗馬で鍛えられたプリンセスの腰にがっちりと挟み込まれ、丈夫なベッドがきしむほど激しく腰を擦りつけられている……

プリンセス「はぁぁ…っ、気持ちいい……それにとろけたお顔のちせさん……とっても可愛いわ♪」そう言ってにっこりすると指先を舐め、ねっとりと濡れたちせの花芯に指を差しこんだ…

ちせ「んあぁ゛ぁ゛っ、ひぐぅぅ…っ!?」とぽっ、とろっ…ぷしゃぁぁっ♪

プリンセス「ふふふ、ちせさんったら…意外とイきかたは激しいのね♪ …これで指を二本入れてみたらどこまで激しくなるのか、見てみたくなってしまうわ♪」じゅぶっ…ぐちゅぐちゅっ♪

ちせ「ひぅ…はひぃ……ら、乱暴には…しないでほしいのじゃ……ぁ///」

プリンセス「ええ。わたくし「大事なお友だち」に乱暴なんてしませんわ…♪」ぐちゅぐちゅ、ぐちゅり…ぢゅぶぅぅっ♪

ちせ「あっ、ぁ゛ぁ゛ぁぁっ……ひっ゛ぐぅぅぅ…っ!?」がくがくっ…ぷしゃぁぁ♪

プリンセス「ふふ、ちせさんの膣内……とろとろで温かいわ♪」

ちせ「…や、約束したじゃろうが……この…嘘つきめ…が……ぁ…」身体をがくがくさせ、喘ぎながらもプリンセスに食ってかかる……

プリンセス「あら、嘘つき呼ばわりとは心外ね……だってちせさんはわたくしの「大事なお友だち」ではなくて、それ以上の存在だもの♪」あっけらかんとしてそう言うと、ぐりぐりと指でかき回した…

ちせ「はあぁぁっ、あひぃぃっ……ひぐっ、いぐぅぅっ…!」

プリンセス「ふふ、わたくしも……最後はちせさんと重なって、お互いを感じながら達したいわ……///」ちせの脚を大きく開くと「にちゅっ…」と貝が張りつくような音を立てながら、濡れた秘部を重ね合わせた……

ちせ「はひぃ…ひぅぅ……はー、はーっ……」

プリンセス「それじゃあ一緒に参りましょうね、ちせさん……こんなはしたない真似をしてしまうほど…大好きよ♪」

ちせ「はひぃ、はふぅ…そ、そんなことを言われたら……して欲しくて…たまらなくなってしまうではないか……ぁ///」顔を紅くしながらプリンセスの腰に手を回し、ぎゅっとしがみつく…

プリンセス「まぁ、ふふ……それじゃあ、もう遠慮はいりませんわね♪」ぐちゅぐちゅっ…ずりゅっ、ぬちゅっ♪

ちせ「もとより…ふぅ、はぁぁ……遠慮などありはしなかったじゃろう……んぁぁっ、おっ、おぉ゛ぉっ…あっ、あ゛ぁ゛ぁぁっ♪」

プリンセス「あぁぁ、ちせさん…っ、気持ちいいわ……♪」ぐちゅっ、ぐちゅぅ…っ♪

ちせ「はぁぁぁっ、んあぁ…ぁっ♪」

プリンセス「あっ、あ…はあぁぁぁん…っ♪」とぷっ、ぷしゃぁ…ぁ♪

ちせ「くぅっ、あぁっ…んはぁぁ…っ♪」がくがくっ…ぶしゃぁぁ…っ♪

………



プリンセス「ふぅ、とっても気持ち良かった…でもお布団がべとべとになっちゃったわ♪」まるで何もなかったかのようにけろりとした表情を浮かべ、ベッドで荒い息づかいをしているちせを眺めている…

ちせ「はぁ…はぁ……もう知らぬ……自分でどうにかすればよいではないか……んっ///」

プリンセス「あら…親切なちせさんのことだから、わたくしをお部屋に招いて一緒のお布団で寝かせて下さると思ったのに♪」

ちせ「そんな訳あるまいが……今度こそ帰らせてもらうぞ…///」

プリンセス「ええ、どうぞ?」

ちせ「よいしょ……もう二度とプリンセスの頼みは聞かぬ…」がくがくと震える膝と力の抜けた腰でどうにか立ち上がる…

プリンセス「まぁ、残念……また「お願い事」しようと思ったのに♪」

ちせ「///」

プリンセス「ふふ…それじゃあ、お休みなさい♪」

………

262 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/07(月) 01:32:49.22 ID:FEQ55jfP0
…というわけでプリンセス×ちせでお送りしました。読み返してみるとまるでプリンセスが発情期みたいなことに……次はまた明日以降に投下します
263 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/01/11(金) 01:09:22.19 ID:VO4tn+3t0
遅くなってしまってごめんなさい、新しい回を投下していきます
264 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/11(金) 01:42:38.77 ID:VO4tn+3t0
caseドロシー×アンジェ「The Machinegun and spicy spies」(機関銃と際どいスパイたち)

         
         ○
         ○
        ○○
       ○●○
        ○○

…Starring…

         ○
       ○○○
        ○○
      
      Ange
   
   Dorothy

  Beatrice

     Chise

  Princess
        
        ○○
         ○


…とあるホームパーティ…

ドロシー「……それでプリンセスはこうおっしゃったのです…「わたくし、こういったものは初めて見ました」とね♪」

貴族女性「まぁ!」

貴族女性B「そうなのですか…!」

ドロシー「ええ、私とプリンセスは学友として親しくしておりまして…まだ聞きたいですか?」

貴族女性「そうですね、大変興味深いですわ」

ドロシー「それでは、この間プリンセスが言った可愛らしいエピソードを……よかったらシャンパンをもう一杯?」

貴族女性B「ええ、ちょうだいしますわ」

ドロシー「それでは…はい、どうぞ♪」軽やかな手つきで召し使いからシャンパンのグラスを受け取る…

貴族女性B「ありがとう」

アンジェ「…」


…ドロシーが貴族女性の好きな「プリンセス」の話題で場を盛り上げている間に、パーティ会場の笑いさざめく声も届かない屋敷の二階へとそっと抜け出したアンジェ…平凡を絵に描いたようなイブニングドレスをまとった目立たない姿で見とがめられることもなく、階段を上ると厚い樫の木でできた書斎のドアをそっと開け、細い身体を滑り込ませた……西インドの高級葉巻の香りが漂う書斎の中央には、分厚い樫の書き物机が鎮座していて、辺りには革表紙に金文字で装丁された立派な本や黒檀で出来た葉巻入れ、金の軸が付いた名前入りの万年筆などが並んでいる……アンジェはさっと周囲を確かめると腰をかがめ、ビューロー(高級デスク)の引き出しをいじっていたが、すぐに一枚の書類を取り出すと、くるりと丸めてドレスの形を保つ「骨」に巻きつけ、そのまま裏地についている目立たない折り返しから書類を「骨」ごと元の場所に滑り込ませた…


アンジェ「…任務完了」何ということもなく二階から戻ると、通り過ぎるふりをしながら耳元でささやいた

ドロシー「…分かった。……それで、その時にプリンセスはこうおっしゃったんですよ「私のお部屋では見たことないわ」ってね♪」

貴族女性「まぁまぁ♪」

………



貴族女性「はぁ、それにしてもたいそう面白うございましたわ…お名残惜しいですが、そろそろお帰りにならないと寄宿舎の方で怒られてしまいますわね?」

ドロシー「もうそんな時間ですか? …時間が経つのはあっという間ですね、まるで「白雪姫」のようです…なんて♪」

貴族女性「まぁ、ふふふ…それではガラスのお靴をお忘れにならないようになさってね?」

ドロシー「奥様のお気遣い、感謝します。改めて、今日はお招きいただいて愉快に過ごさせていただきました……またお集まりの際は呼んで下さいね?」

貴族女性「ええ、その時はぜひ今のお話の続きを聞かせてくださいましね?」

ドロシー「もちろんです、それではおいとまさせて頂きます……」入り口の召し使いからケープを受け取ると、軽やかに車に乗り込んだ…

アンジェ「…ご苦労さま」

ドロシー「なぁに、あの手のご婦人たちなんて言うのはもとよりおしゃべり好きなんだ。会話を盛り上げるなんてちょろいもんさ……で、モノは?」

アンジェ「手に入れたわ」

ドロシー「さすがだな…それならとっとと戻ろうぜ♪」アンジェに向かってぱちっとウィンクをした…
265 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/12(土) 01:42:14.98 ID:2wtc+z6S0
…翌日・お茶の時間…

ドロシー「さてと…今回はどんな任務なんだ?」

アンジェ「今説明するわ」

プリンセス「アンジェ、私に出来ることがあったら何でも言ってね?」

アンジェ「ええ……それで、今回の指示だけれど…」

ドロシー「ああ」

アンジェ「王国陸軍省が管轄している新兵器の生産計画「ブルー・スワロー」(青いツバメ)について調査せよ…とのことよ」

ドロシー「…昨日アンジェがくすねてきた書類がそれの一部か……で、詳細は?」

アンジェ「それが分かっているなら私たちなんて必要ないわ」

ドロシー「だよな……しかし王室のことなら一発だけど、軍となるとな…」ちらっとプリンセスを見た…

アンジェ「まずは関係のありそうな人物を選び出して、上手く接近するしかないでしょう…プリンセス、この寄宿舎には将官や軍人の娘も多いわよね」

プリンセス「ええ」

アンジェ「もしかしたら何かの糸口になるかも知れない。ベアトリスに手伝ってもらってそれぞれの特徴……特に欠点や弱みを調べて」

プリンセス「分かったわ」

アンジェ「ちせ、あなたは今のところやることがないわ……申し訳ないけれどこの学校に「東洋人」を相手におしゃべりしてくれるような娘はいないでしょうから…その代わり、プリンセスとベアトリスが探りを入れている間、目と耳をそばだてて安全の確保に努めてちょうだい」

ちせ「うむ、承知」

アンジェ「ドロシー、貴女はプリンセスと手分けをして軍人の娘たちに探りを入れて…貴女は自分で安全を確保できるし、目標が持っている弱点の見つけ方もよく知っている……その間に私は「ブルー・スワロー」が何なのかを調べつつ、目立たないようにしているわ」

ドロシー「了解。ま、澄ましこんでいる「お嬢さま」の中にだって、私みたいにがさつな女が好きなひょうろく玉もいるかもしれないしな♪」

アンジェ「そういうことね…それじゃあ、何か進展があったら報告を」

プリンセス「分かったわ」

ベアトリス「それじゃあ姫様、行きましょう♪」

ちせ「では、ご免」

ドロシー「……なぁ、アンジェよ」

アンジェ「なに?」

ドロシー「もう一杯どうだ?」

アンジェ「ええ、頂くわ」

ドロシー「ふー、いい紅茶って言うのはたまらないね……それにしても…」

アンジェ「…何が言いたいの?」

ドロシー「いや、ね……最初にプリンセスが加わった時は熱心なだけのアマチュア…悪くすれば「こっちの尻尾をつかむための贅沢な餌」が送り込まれてきたんじゃないかって思っていたんだが……このところのプリンセスを見ろよ。技術面でもうんと成長したし…それより色々と鉄火場をくぐってきたせいか、「可愛らしいお人形さん」じゃなくて、度胸が据わってきたように見えるね」

アンジェ「それで?」

ドロシー「いや、だからさ……アンジェ、お前さんに似合いだってことだよ♪」

アンジェ「……からかっているの?」

ドロシー「とんでもない…お前さんとプリンセスならいい「婦妻」になれると思うぜ。もし結婚するなら花嫁……どっちがなるのかは知らないが……の介添えと、ほっぺたにキスする役目は私にやらせてくれよな♪」

アンジェ「で、話はそれだけ?」

ドロシー「ああ、それとな……あんまり未来の嫁さんを素っ気なく扱うなよ。たまには可愛らしい笑顔の一つも見せてやれ」

アンジェ「ご忠告痛み入るわ。だけどそれは私の考えることよ」

ドロシー「分かってる……ただ、友人として…さ」

アンジェ「ええ、貴女の気持ちは良く分かっている……私だって…プリンセスのことがなければ……貴女を選んでいたかもしれない……わ…///」

ドロシー「んー、何だって? もうちょっとはっきり言ってくれないと聞こえないぜー?」にやにやしながら首を傾け、耳に手を当てて聞き耳を立てるふりをする…

アンジェ「…いいから早く取りかかってちょうだい///」

ドロシー「へいへい♪」
266 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/14(月) 02:30:36.27 ID:EL8A5lS80
…別の日・教室にて…

ドロシー「ふわぁ…あ……眠くってかなわないな…」


…普段から「お行儀の悪い変わり者」を演じているドロシーは授業もよくサボるが、ファームで叩き込まれたさまざまな知識と天性の勘の良さ、そして恵まれたツキのおかげであまり苦労をせずに済んでいる……今は情報収集のために教室にいるが、机に片肘を突いてほっぺたに手を当てた「お行儀の悪い」姿勢をしている…


気弱そうな女生徒「……ですから、私にはそんな……新しいドレスなんて…」

ドロシー「…?」教室の片隅から聞こえてきた騒ぎに耳を澄ました…

鼻持ちならない女生徒(ロール髪)「…あら、そうなんですの? …大丈夫ですわ、ちょっとしたパーティですもの。せいぜい、いま流行っている秋色のドレスに、ちょっとしたシルクの長手袋くらいがあればよろしいのですわ♪」いかにも人を喰ったような慇懃無礼な態度を取っている…

取り巻き「ええ、ほんとに…サラさんの髪の色だったらよく似合うと思いますわよ?」

取り巻きB「まったくですわ……それにせっかくエレノア様がお誘い下さっているのですから…ねぇ?」

ドロシー「……あいつらも暇だねぇ…いいとこのお嬢さまがカネのない家の娘をパーティに招いて、ドレスを仕立てられなくてまごついたり、貧しい格好で冷やかされている様子を見せ物にしようってか…イヤミな連中だな、全く……っと、待てよ…♪」

ロール髪「なんてことないホームパーティですもの、お気軽にいらっしゃいな?」

気弱な生徒「でも…私……」

ドロシー「おやおや、何のお話をしているんだい…楽しそうじゃないか♪」

ロール髪「あら…お久しゅうございます、ドロシーさん……ここでお見かけするのは何日ぶりでしたかしら? お風邪でもお召しになったの?」

ドロシー「ああ、ごきげんよう。なーに、ちょっとしたことでね……で、何の話をしてたのさ?」

ロール髪「ええ、実はわたくしの家でちょっとした「パーティ」などと言うものを開こうと思っておりまして…それで、ぜひご学友としてサラさんもお招きしようと思っていたのですが……」

取り巻き「サラさんったら奥ゆかしい方で、遠慮なさっているのですわ」

ドロシー「ほーん…で、それはいつやるんだい?」

ロール髪「そうですわねぇ……再来週あたりに開くつもりでおりますわ」

ドロシー「あぁ、そうなのか…エレノア、それはサラが断ろうとするのも無理ないぜ?」

ロール髪「…と、申しますと?」

ドロシー「ちょうどその日さ…プリンセスがサラを「ちょっとしたパーティ」に招こうってつもりなんだ」

ロール髪「プリンセスがサラさんを……ですの?」

ドロシー「ああ、サラは軍人の娘だろ? プリンセスはアルビオンを支えている軍人たちを評価しているからな…そこで今度、この寄宿舎にいる軍人の令嬢たちを招いて夕食会でも開こうって言うのさ♪」

ロール髪「ですが、わたくしはそんなこと…」

ドロシー「聞いたことないって? …当然さ、まだプリンセスと私くらいしか知らないからな…ところがあたしは口が軽いから、サラにうっかり話しちまってね……そんなわけでまだ内緒になっているから、まさかサラだってそうとは言えなかったのさ」

サラ「…あの」

ドロシー「分かってるって…な、エレノアも黙っていてくれるだろ?」

ロール髪「え、ええ…プリンセスのお考えを邪魔することはいたしませんわ」

ドロシー「悪いね……あぁ、それと」

ロール髪「何でしょう?」

ドロシー「……サラみたいな奴を物笑いの種にしているようだがな、私の知っている「とあるお方」はそう言うのを聞くと大変お心を痛められるんだ…あんまりそう言うマネはしない方が身のためだぜ?」ぐっと身体を近寄せると、ドスの効いた声で凄んだ……

ロール髪「…ひっ!」

ドロシー「……ぞろぞろ連れているマヌケどもにもよく言い聞かせておけよ…それでは皆さま、ごきげんよう♪」

サラ「…あの、ドロシーさん……」

ドロシー「いいからこっちに来いよ……どうだ、私の演技もなかなかだったろ?」

サラ「でも、あんなことを言って…」

ドロシー「なーに、私とプリンセスの仲だからな……パーティの一つや二つくらい、すぐ準備してくれるさ♪」

サラ「…あ、ありがとうございます」

ドロシー「気にするなよ……私だって昔はああだったから、サラみたいな娘を見ると共感を覚えるのさ…」片方の頬を撫でながら、小さいサラの手を握りしめてやるドロシー…

サラ「ドロシーさん…///」

ドロシー「さ、次の授業が始まるぜ?」

サラ「は、はい///」
267 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/01/17(木) 11:33:56.35 ID:x1oiXnIf0
ドロシー「……というわけで、再来週の日曜にはプリンセス主催でちょっとした夕食会を開いてもらってくれ」

アンジェ「分かったわ」

ドロシー「頼んだぜ。サラの父親…ヘンリー・ウェストレーク大佐は近衛連隊の連隊長だからな。親しくしていれば「ブルー・スワロー」が何なのか、聞き出す機会があるかもしれない」

アンジェ「結構、それじゃあ引き続き関係を構築するよう努めて」

ドロシー「任せておけ…それと、夕食会にはうんと美味い物を並べて、軽い酒なんかも用意しておいてくれ」

アンジェ「ええ」

…夕食会…

サラ「…本日はお招き下さって本当に嬉しく思います」

プリンセス「いいえ、わたくしこそ皆さまと親交を深めたいと思っておりましたの…♪」

サラ「そんな、畏れ多いことです……」

プリンセス「そんなことはありませんわ。何しろわたくしは普段から皆さまのお父上方…つまり軍の方には敬意を払っていただき、コモンウェルス(英連邦領)を守る大事なお勤めを果たしてもらっているのですから…っと、いけませんね。つい閲兵式の見学に来ている時のような台詞になってしまって……でも、この気持ちは本当ですよ」

サラ「…か、感謝します///」

プリンセス「どういたしまして…今日は肩の凝らないような会のつもりですから、どうぞたくさんお召し上がりになってね?」バッキンガム宮殿などで開く「公的な」夕食会ではなく、小さな宮殿の広間を使った「気軽な」夕食会と言うことで、にこにこと笑顔を浮かべ冗談めかした

サラ「は、はい」

…高級軍人や伯爵以上の爵位を持っている家系ならともかく、大佐…あるいはただの「サー」しかつかない準男爵以下の貴族令嬢では滅多にお目にかかれないプリンセスが目の前にいるとあって、いくらかのぼせ気味のサラ……着こなしがあまり上手ではない上に、栗色の生地を使った流行遅れのドレスが野暮ったい…

ドロシー「おー、よく来たな。サラ……うん、可愛いぜ♪」シャンパングラス片手に(表向きの)年齢とは不相応な、白い滑らかな肩と胸のふくらみを強調した紅のドレスと黒いシルクの長手袋を身に着け、唇にルージュを引いている…

サラ「あ…ドロシーさんもお招きされていたんですね?」見知った顔がいてほっとしている様子のサラ…

ドロシー「いや、なーに……あたしは単に「プリンセスのご友人」ってところでね♪」口もとに微笑を浮かべると、意味ありげにウィンクした…

サラ「そうなのですか…?」

ドロシー「ああ…って、私のことなんてどうだっていいさ。そんな事より何か取れよ、どれも絶品だぜ?」

サラ「は、はい」

ドロシー「…まぁ私だったらそこのハトの詰め物入りか、さもなきゃそっちのローストビーフを勧めるね」

サラ「じ、じゃあそれを…」

ドロシー「ああ、美味いぜ……それと飲み物が要るよな、シャンパンでいいか?」

サラ「いえ、あまりお酒は…」

ドロシー「そうか…なら一杯だけにしておくといいよ」

サラ「そうですね」

…テーブルの上に並んでいるのはこんがりと焼けたスタッフド・ピジョン、黒胡椒を効かせた鴨のロースト、舌先で溶けるような柔らかいローストビーフ、スコットランド産の鮭を使ったスモークドサーモンに、タンの燻製入りゼリー寄せ…それに熱くてカスタードのようにとろりとしたエンドウマメのポタージュ…

プリンセス「ミス・ウェストレーク、ビーフの味はいかがですか?」

サラ「はい、とっても…///」

プリンセス「それは良かった…あら、グラスが空ですわ。取って差し上げますね」

サラ「あ、はい…」

プリンセス「はい、どうぞ……ところで、良かったら「サラさん」とお呼びしても構わないかしら?」

サラ「は、はい…光栄です///」

プリンセス「ふふ、ありがとう……サラさんは素直な方でいらっしゃるのね」

サラ「///」

プリンセス「ふふ、わたくしが近くにいたら余計に緊張させてしまいますね……何か困ったことがあったらお手伝いしますから、どうぞわたくしに教えてね?」

サラ「…は、はい///」

ドロシー「よかったな、プリンセスと話せて?」

サラ「ええ…私、直接お話しするのは初めて」

ドロシー「そっか、そりゃ良かった……それじゃあ祝杯ってことでもう一杯やろう♪」

サラ「はい…///」
268 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/20(日) 01:36:37.48 ID:casHf3ZW0
…深夜・部室…

アンジェ「…で、どうだったの?」

ドロシー「ああ、実はな…かなり面白いことになった」ドレスを脱ぎ捨て、コルセットとペチコートだけの姿で椅子に腰かけている…

アンジェ「と言うと?」

ドロシー「酔って口が軽くなったサラから聞き出したんだが、サラの父親と仲が良くて、一緒にカードをしたり酒を飲んだりする仲間が数人いるらしい…その中の一人が……誰だと思う?」

アンジェ「王立兵器研究委員会の委員か何か?」

ドロシー「惜しいな…陸軍省の技術顧問、サー・ウィリアム・ティンドルなんだ。何でもサラの父親とは幼いころからの友人で、新兵器の運用法や、軍人から見た兵器の使い勝手に関してアドバイスをもらったりするらしい」

アンジェ「なるほど」

ドロシー「しかも面白い事に、ティンドルは最近サラの家に来ることがめっきり減ったらしい…その上、たまに来るときはカバンいっぱいに書類を詰め込んできて、何か難しい話をしていることも多いみたいなんだ」

アンジェ「話の中身は分からないのね?」

ドロシー「ああ…サラはいい子だからな、お父様の仕事の話を盗み聞きなんてしないのさ」

アンジェ「なるほど……それじゃあドロシー、あなたはサラを口説き落とすなりなんなりして、ウェストレーク家に招かれるよう算段すること…もしかしたら何かつかめるかもしれない」

ドロシー「……ふふん、そう言うと思ったぜ」

アンジェ「何か手段が?」

ドロシー「手段どころか…私がイヤミなエレノアとその取り巻きどもからサラを「助けて」やって、しかも「プリンセスとお話できる機会を作ってくれた」って言うんで、お礼として家に招待したいって聞かないんだ」

アンジェ「それで?」

ドロシー「こっちとしてはあんまりがつがつしてるのもおかしいからな、最初はやんわりとお断りしたさ…ところがサラと来たら、シャンパンが効いていたのか妙に強情でね、招待するって聞かないんだ……で、私が折れて招待を受けた…ってわけさ♪」

アンジェ「なるほど。一晩の成果にしては上出来ね…よくやったわ」

ドロシー「ああ」

アンジェ「ただ、ウェストレーク家に入りこんでもしばらくは様子見にとどめて…あまり一気に事を進めようとして元も子も無くしては意味がないわ」

ドロシー「もちろん…♪」

………



…数週間後・ウェストレーク家…

サラ「ドロシーさん、今日は来てくれてありがとう…」

ドロシー「なぁに、他ならぬサラの頼みじゃ断れないさ……お招きしてくれてありがとうな♪」

サラ「え、ええ…///」

…さりげなくあたりを見回して室内の様子を記憶すると、サラの手を握ってにっこりと笑いかける……誰もスパイとは思わない「スパイ」として、日頃からプリンセスと友人であることをひけらかし、何かと注目を集める「女たらしのプレイガール」をカバーとしているドロシーが放つ甘い笑みに、普段から「地味を絵に描いたような」真面目っ娘のサラは真っ赤になってうつむいた…

ドロシー「そんな風に顔を隠しちゃもったいないぜ…サラは可愛いんだからな」

サラ「…も、もう」

ドロシー「ははっ、そう怒るなよ……って、ステキなお茶が準備されているじゃないか…何だか悪いな、気を使わせちゃって」

サラ「だって…ドロシーさんはプリンセスと一緒にいることが多いから……」

ドロシー「贅沢なアフタヌーン・ティーにしなきゃ…ってか? ははっ、サラはマジメだなぁ♪」

サラ「だってそうでしょう…?」

ドロシー「そうでもないさ。なにせプリンセスと向かい合ってお茶をいただくんだぜ? …マナーはうるさいし、おしゃべりだって毒にも薬にもならないような話題ばっかりで、しかも上品にお菓子をお召し上がりにならなきゃならないんだ……美味くもなんともないぜ?」

サラ「ま、またそんな事をいって…」

ドロシー「事実さ…それに引き替え、ここのティータイムはサラの気持ちがこもってるからな……それだけでお腹一杯さ♪」

サラ「うぅ…もう///」

ドロシー「はははっ……あぁそうだ。招待状をくれたのはサラだけど、来てもいいっておっしゃってくれたのはお父上なんだろうし、ぜひともお礼を述べたいんだが……」

サラ「うん、今は書斎にいらっしゃるけれど…そろそろ下りてくるはずよ」

ドロシー「そっか……じゃあ座らせてもらってもいいかな?」

サラ「ええ、どうぞ」

269 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/24(木) 03:13:03.12 ID:2Aer47Ty0
…しばらくして…

ウェストレーク大佐(サラ父)「……ミス・ドロシー。君が学校でサラと親しくしてくれているそうで…私も私の妻も、大変に感謝しているよ」…たまたまサラが席を外すと、ウェストレーク大佐がティーカップを置いて礼を述べた……

ドロシー「いえ、そんな……サラは気立てがいいからそんな風に言ってくれているだけですよ」

サラ父「そう思うかね? …あの娘は引っ込み思案で、おまけに一介の陸軍大佐の娘では大した贅沢もさせてやれないから、お嬢さま学校で苦労しているのは分かっている……現にサラが自分から同級生を家に招いたことはほとんどないし、学校の話を聞いても通り一遍の返事をするだけだ」

ドロシー「…」

サラ父「しかしだ…この間の休日に戻ってきたサラはドロシー君の話題ばかりだった……あんなに明るく話すサラは久しぶりだったよ…」

ドロシー「そうですか…ちょっと恥ずかしいですね///」

サラ父「なに、サラは君の事をほめちぎっていたよ……それでだ。君がサラと一緒に過ごしてくれると言うのなら…我が家の都合さえ合えば、いつ来てくれたって構わないよ?」

ドロシー「…いえ、たとえお友だちの家だからと言っても……」

サラ父「なに…サラはあまり親しい友達がいないし、仲良くしてくれると助かる」

ドロシー「そうですか。でしたら…」

サラ父「ありがとう……あの娘も喜ぶことだろう」立派な口ひげをいじりながら、満足げなウェストレーク大佐…と、玄関の呼び鈴が鳴る音がして、家政婦のお婆さんが応対する声が聞こえた……

家政婦「はい、ヘンリー様は客間にいらっしゃいます……ヘンリー様、ティンドル様でございますよ!」

サラ父「エマ、そんな大声でなくても聞こえるよ」

家政婦「すみませんねぇ、何しろ私は耳が弱いもんですから……」

サラ父「…失敬、ドロシー君……」

ドロシー「いいえ」(…サー・ウィリアム・ティンドル……まさかこうもすぐにお目にかかれるとはね♪)


…廊下で何やら話している声が聞こえていたが、すぐにウェストレークがサー・ウィリアムと一緒に戻ってきた…ドロシーがちょっと観察すると、サー・ウィリアムのクラヴァット(ネクタイ)は結び目がゆるく、スラックスの裾が少し短すぎ、おまけにベストには何かのシミがある……と、服の着こなしは下手だが、人付き合いの良さそうな見た目をしている…


サラ父「ウィリアム…こちらは娘の同級生のドロシー君……ドロシー君、私の友人を紹介しよう。サー・ウィリアム・ティンドル…陸軍省に勤めているんだ」

ティンドル「初めまして」

ドロシー「初めまして、サー・ウィリアム」

サラ父「さぁ座ってくれ…ちょうどお茶も入っているところだ」

ティンドル「それはありがたいね、ヘンリー……このところ忙しくて、満足にお茶を飲む暇もなかったよ」

サラ父「…そうか、大変だったな……それじゃあまた相談事かね?」

ティンドル「ああ、どっさり持って来たよ。もっとも、スコッチも一本持って来たからね…それを傾けながらじっくり話そうじゃないか」

サラ父「それだったら書斎の方がいいか……すまないね、ドロシー君。私とサー・ウィリアムはちょっと席を外させてもらうよ…サラにもよろしく伝えておいてくれないかな?」

ドロシー「ええ」

サラ父「それじゃあ行こう、ウィル」

ティンドル「そうだな」



………


270 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/01/27(日) 01:08:51.24 ID:4MZDbiY50
サラ「…あら、お父様は?」

ドロシー「さっき「サーなんとか」いうお友だちが来てね…スコッチ片手に書斎にこもっちゃったよ」

サラ「サー・ウィリアムね……サー・ウィリアムはお父様の幼い頃からの親友で、今は陸軍省にいらっしゃるの」…ドロシーはそれを夕食会の時に聞いていたが、その時のサラは軽く酔っていたので、ドロシーにしゃべったことを覚えていない……

ドロシー「ふぅん…でもお友だちが陸軍省の「エライ人」なら、サラのお父上もどんどん昇進するだろうな……よかったじゃないか」

サラ「ううん、そんなことはないと思うわ…だってサー・ウィリアムは「陸軍省」って言っても研究とかをしている人だから……」

ドロシー「へぇ、じゃあ頭がいいんだな……私とは大違いだ♪」

サラ「くすくすっ…もう、ドロシーさんったら♪」

ドロシー「はははっ♪」

サラ「あ、カップが…もう一杯いかが?」

ドロシー「悪いね……美味しいパウンドケーキときゅうりのサンドウィッチ…それにスコーン。これだけあれば女王様気分さ」

サラ「ふふ…」

ドロシー「…まして隣にいるのがサラだもんな」

サラ「あんまりからかわないで……///」

ドロシー「嘘じゃないさ…サラは心が真っ直ぐだし、誠実だろ……そういう付き合いって言うのは、いくらポンドを積んだって手に入るものじゃない…」さりげなく手を腰に回し、身を乗り出してサラの瞳をぐっと見据える…

サラ「だ、だめ…ドロシーさん///」

ドロシー「ああ、悪い……別にそう言うつもりじゃなかったんだ///」

サラ「大丈夫、分かっているから…」(…でも「そう言うつもり」でもよかったのに……ドロシーさん…///)

サラ父「おお、サラ…サー・ウィリアムがいらっしゃったよ、ぜひごあいさつを」

サラ「お久しぶりです、サー・ウィリアム…///」

ティンドル「ごきげんよう、サラ……それでね、ぼくはリコイルの衝撃を受け止めるための部品を強化する案を提出したんだ…」

ドロシー「…」

………

ドロシー「……というわけで、間違いなくサー・ウィリアム・ティンドルは研究課題をウェストレーク家に持ち込んでいるね」

アンジェ「なるほど…それで、「ブルー・スワロー」について何か分かったことは?」

ドロシー「ああ、それがな…スコッチで舌が緩んだのか、帰り際にティンドルがぽろりと口走ったんだが…そいつは陸軍の新兵器で、どうやら王立エンフィールド造兵廠で増加試作型の生産を行っているらしい……それと、根掘り葉掘り聞き出すわけにもいかないから興味なんてないような顔をしておいたが…どうやらヴィッカースも計画に参加しているらしい」

アンジェ「そう…まぁ当然と言えば当然ね」

ドロシー「まぁ陸軍の兵器ということになればそりゃそうだろうけどな」

アンジェ「他には?」

ドロシー「……それがおかしなことに、話を聞いている限りだと「ブルー・スワロー」って言うのはどうも大型兵器じゃないような気がするんだ…いい心持ちになっていたティンドルの話に聞き耳を立ててみても、出てくるのは小火器の話題ばかりだからな…」

アンジェ「新型の小銃?」

ドロシー「いや、それにしては秘密保持が厳重すぎる…やっぱり何か新しいタイプの兵器と見て間違いないだろう」

アンジェ「…そう」

ドロシー「それと、詳しい事はつかめちゃいないんだが……秘匿されている生産施設のコードネームに「ディーダラス」って名前が付けられていることは分かった」(※ディーダラス…ギリシャ語ではダイダロス。クレタ島の半人半牛の怪物ミノタウロスを閉じ込める迷宮「ラビリントス」を建築した建築家)

アンジェ「なるほど…迷ったら一生出られない「ラビリンス」というわけね」

ドロシー「ああ」

アンジェ「結構。一回の成果にしては十分過ぎるくらいね…その調子よ」

ドロシー「そりゃどうも……ただ、あんまりサラの家に入り浸るのも具合が悪い。そっちでも色々調べてみてくれ」

アンジェ「分かっているわ」
271 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/01/29(火) 11:09:58.28 ID:Mp/d2Q3b0
…とある場所…

L「……なるほど」

7「はい…少なくとも、「A」(アンジェ)からのレポートによると「『ブルー・スワロー』は、王国陸軍およびエンフィールド造兵廠、ヴィッカース社が中心になって開発中の何らかの小火器である」とのことです」

L「ふむ…この短期間でよく調べ上げたものだ」

7「ええ。それと「D」(ドロシー)が対象との友好を図るため、「チャーリー叔父さん」から贈り物をしたいと…リストが送られてきております」

L「またか…しかしやむをえまい。確かに「D」のプロダクト(産物)は質が優れているからな、その分だけ金もかかると言うことだ……よかろう、経理の連中は頭が痛いだろうが」かすかに苦笑いめいた表情を見せた…

7「ではリストにあるものを準備させます」

L「うむ。それと陸軍省に入り込んでいるエージェントを使って「ブルー・スワロー」についての情報を集めさせろ。それと「必要ならどのような犠牲も問わない」と付け加えておいてくれ」

7「はい」

L「…それにしても、日本産シルクのストッキングが十足に十数年もののスコッチ・ウィスキー、ハバナの高級葉巻とはな……まったく」改めてリストを眺め、腕を組んだ……

…数日後・陸軍省…

職員「さてと、これでよし…と。ミス・ローズ、これを二枚タイプして欲しいんだが」

タイピストの中年女性(エージェント)「はい」

職員「ありがとう。出来上がったら一枚は兵器課長、もう一枚は文書便の箱に入れておいてくれ…ぼくは会議に呼ばれていてね」

タイピスト「はい、行ってらっしゃいまし…」

職員「それじゃあ頼んだよ」

タイピスト「…」地味なタイピストの女性はカタカタと手際よくキーを叩いて写しをタイプし終えると、文書箱の中に入れる前に中身をさっと読み通した……文書の中には「ブルー・スワロー」と書かれた単語が入っている……


…さらに数週間後…

アンジェ「…進展があったそうね、ドロシー」

ドロシー「ああ、ばっちりな……驚くべきことに「ブルー・スワロー」計画の中身が分かったんだ」

アンジェ「…それで?」

ドロシー「それがな、「ブルー・スワロー」計画で開発されているのは新式の自動火器……要は「機関銃」ってやつだったのさ」

アンジェ「機関銃…数年前にアメリカ人が作ったとか言う……」

ドロシー「それさ。今回のもハイアラム・マキシムが作った「マキシムM1884機関銃」の改良型で、銃身を冷却するための水冷式バレル・ジャケットが付いてる」

アンジェ「それで、性能は?」

ドロシー「ああ…「無邪気なお嬢さん方」の前で新兵器開発の苦労話をしているティンドルを相手に興味があるような反応をするわけにはいかなかったから、詳しい事は分からないが…連射速度は一分間に四百発から五百発ってところで、二百発くらいの弾を布ベルトの弾帯で給弾するものらしい……今までの手回し式ガトリング銃や弾倉式の銃が一気に時代遅れになるってシロモノさ」

アンジェ「……なるほど、かなりの脅威になりそうね」

ドロシー「いや、そんな程度のものじゃない……これまでにボーア戦争やインドの反乱に投入された手回しガトリング銃や、ノーデンフェルド式機関銃とは比べものにならないんだ。戦闘隊形を組んだ一個大隊のライフル歩兵を一分間で壊滅させられるんだぜ?」

アンジェ「…そこまでの性能なの?」

ドロシー「ああ…ただありがたいことに、王国陸軍上層部の新しいモノ嫌いと、給弾不良の克服に時間がかかっているから、テストはあまり進んでないらしいが……」

アンジェ「なるほど」

ドロシー「とりあえず、ちゃんと贈り物に見合った成果があったってことさ……サラにはシルクのストッキング、ティンドルにはスコッチ、ウェストレーク大佐には葉巻…ってね♪」

アンジェ「そしてコントロールには情報…重要度から言って伝書鳩やメール・ドロップでは間尺に合わないし危険すぎるから、私が直接連絡するわ」

ドロシー「ああ、任せた」
272 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/03(日) 01:10:09.05 ID:Ry1EXfmW0
投下が遅れてごめんなさい…今日は節分ですし、ちゃんと豆まきをして厄除けしましょうね(…そのうちにプリンセスたちの「間違い日本」ネタに使うかもしれません)
273 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/02/03(日) 01:38:47.97 ID:Ry1EXfmW0
L「なるほど…そう言うことか」アンジェが送り届けた「ブルー・スワロー」のレポートを読んでパイプを噛みしめた…

7「はい。マキシム機関銃の要目ですが…口径は.303ブリティッシュ。水冷式のベルト給弾で装弾数二百発」

L「うむ。その資料なら私も読んだ……急ぎ対抗措置を取らねばな」

7「ですが、現時点で我が方は機関銃の生産体制を整えておりませんが」

L「……軍部の「機関銃不要論」と追加の国防予算を巡る議会の紛糾があったからな…増加試作型の完成はいつの予定だ?」

7「およそ二カ月後です」

L「ふむ…ならば時間稼ぎをしてもらわねばなるまい……」


…翌日・ロンドン市内の公園…

ドロシー「…そいつは厄介だな」

7「厄介でもやってもらわなければならないわ」

…公園のベンチに腰掛け、さりげなく会話を交わしている二人……「7」の口もとは扇で隠され、ドロシーはハムとピクルスのサンドウィッチを頬張りながら、ハトにパンくずを投げている…

ドロシー「…とはいえ、工場を操業不能にするのは車一台を吹き飛ばすのとは訳が違う。しかも警備厳重な造兵廠の施設ときた」

7「ええ…だけれど今回の作戦は「犠牲を問わない」わ。必要な物なら何でも用意する」

ドロシー「分かった……とにかく爆薬がいる。それと時限装置を作るのに必要な部品だな」

7「手配するわ」

ドロシー「後は目立たない色の車…やっぱりロールスロイスがいいな。それと性能のいい望遠鏡……ポンド札もたっぷり頼む」

7「それから?」

ドロシー「地図と旅行ガイドにコンパス……地図は現地の地形が分かる正確なものを」

7「分かった。全て用意する」

ドロシー「あ、あとロープを二十ヤード分ばかり。私たちみたいな業界の必需品だからな」

7「ええ」

ドロシー「ああ…それと」

7「なに?」

ドロシー「この件に関しては報酬をはずんでもらいたいな……自殺まがいの破壊工作なんだ、少しは色を付けてくれたってバチは当たらないぜ?」

7「…どの程度?」

ドロシー「そうだなぁ……私とアンジェに千ポンドずつでどうだ?」

7「…」

ドロシー「何しろこの世界には年金も保険もないもんでね…現金が用意できないようなら分割払いでもいいが?」…エージェントとしての価値がトップクラスにあることを知っていて、ひと勝負するドロシー……

7「…言っておくけれど、エージェントは他にもいるのよ?」

ドロシー「もちろん……とはいえ、私とアンジェほどのはいないがね。それに、別にあんたの財布から出してもらおうってわけじゃない…だろ?」

7「…分かったわ。そのかわり上手くやってちょうだいね?」

ドロシー「ああ、お任せあれだ……ひと月もすれば枕を高くして、ぐっすり眠れるようにしてやるさ♪」

7「ええ、それじゃあ…」
274 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/03(日) 02:08:42.45 ID:Ry1EXfmW0
…部室…

アンジェ「…どうやらよっぽど慌てているようね」ドロシーが受けた指令を聞いて、わずかに眉をひそめたアンジェ…

ドロシー「無理もない。王国と共和国、それぞれ動員できる連隊の数はほとんど同じだ…新兵器が一つあれば簡単に天秤が傾く」

アンジェ「その間の時間稼ぎね」

ドロシー「ああ…そういうことさ」

アンジェ「何か案はある?」

ドロシー「ある程度はな……まずはたっぷり一週間ばかりかけて、近ごろ上流階級のご婦人方に流行している「自動車旅行」としゃれこむ。田舎でいい空気を吸って、ついでに野鳥観察もしたいから望遠鏡を持って行く」

アンジェ「なるほど…それで?」

ドロシー「あちらさんは工場を人里離れたところに作って、警備を固めている……だからそのまま近づく訳にもいかない。少なくとも田舎の宿屋に数日ばかり泊まって、そこを「作戦基地」にしようって腹づもりでいるんだが」

アンジェ「足がかりね…それで?」

ドロシー「後は爆薬を仕掛けて「どかーん!」ってところだ…どうやって仕掛けるかはある程度考えてあるが、結局はその場で決めなくちゃならないだろうな」

アンジェ「分かった。爆破後は?」

ドロシー「その場の状況に合わせてすたこら逃げ出すか、さもなきゃ何も知らないふりをして旅行を続けるか…だな」

アンジェ「臨機応変ね。結構」

ドロシー「なぁに、行き当たりばったりさ…♪」

アンジェ「…それで、爆薬はどうするの?」

ドロシー「まぁ、どうにか隠すさ。何しろ望遠鏡や旅行ガイド、地図くらいなら持っててもおかしくないが…さすがに爆弾ともなると、自動車旅行の必需品には見えないからな」

アンジェ「ではそれに関しては任せるわ…何か私の方で整える手はずは?」

ドロシー「そうだな……旅行にふさわしいドレスを見繕っておいた方がいい。私は手持ちでまかなうから」

アンジェ「そう?」

ドロシー「ああ…濃い紅と黒のがあるし、他にも動きやすい格好ならクローゼットにある」

アンジェ「ならいいわ」

ドロシー「肝心の工場もおおよその目星がついたし…後はプリンセスの公式行事や「お出かけ」が同じ方面にないかどうかだけ確認してくれ」

アンジェ「ええ、分かった」

ドロシー「予定がかぶったりしたら、警護官や防諜部がうようよいるところに突っこむことになっちまうからな……うー、おっかない」

アンジェ「大丈夫、ちゃんと確かめるわ」

ドロシー「よし…それじゃあ私はベアトリスと時限装置をこさえてくる。それじゃあ、寝る前にまたここで」

アンジェ「任せたわ」

ドロシー「ああ」

………
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 17:36:06.34 ID:52iGY7nWO
なんか予想外のアクシデントでドロシーさんアンジェを庇って捕まりそう
スパイ物の見過ぎかな
276 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/05(火) 10:31:45.30 ID:xiv2WGq30
>>275 まずはコメントありがとうございます…遅くて済みません。なるほど、そういう展開も出来ましたね……ちなみに一応イメージは出来上がっているので捕まりはしませんが、際どいことにはなる予定です


…あと、タイトルの所で○が並んでいるのは(何行か左右がずれてしまいましたが…)とある「世界一有名なスパイ」が出てくる映画のオープニングをもじった物です……スパイが世界一有名ではいけないと思うのですが…(苦笑)

277 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/07(木) 01:21:18.23 ID:ZhqUC3//0
…数日後・「白鳩」のネスト…


…テムズ川を望む煙たい一角にある、表向きは貸倉庫になっている「白鳩」のネスト(拠点)…板張りで出来た倉庫の中央には、あちこちの部品が外されている濃緑色のロールスロイスが一台停めてあって、ドロシーが油染みのついたつなぎ姿で車体をいじくりまわしている……一方の片隅ではアンジェが作業机に向かって銃弾をより分け、反対側の隅っこではベアトリスがドロシーと練り上げたプラン通りに、爆弾用の時限装置を作っている…

ドロシー「…ベアトリス、どうだ?」

ベアトリス「ちょっと待って下さい……はい、一個できました」…ベアトリスは椅子に腰かけ、バラした懐中時計の部品や何かの部品だったもの、果てはがらくたまでを上手に使って時限装置を作っている…小さい手が器用に動き、細いピンセットで慎重に最後の部品を組むと「ふぅ…」と息を吐いた…

ドロシー「よし、ちょっと見せてくれ…なるほど、上出来じゃないか♪」

ベアトリス「ありがとうございます///」

ドロシー「さて、お次は爆薬そのものだな…ちょっと手伝ってくれ」

ベアトリス「はい」椅子から滑り降りると、てくてくと歩み寄った…

ドロシー「よし、それじゃあここを剥がすから手伝ってくれ…」

ベアトリス「えっ、床を壊しちゃうんですか?」

ドロシー「今だけな…底板を上げ底にして、隙間に爆薬を詰め込むんだ。どうせ車の床だから、泥でもすりこむかマットを敷けば見分けはつかない」

ベアトリス「なるほど……で、時限装置はどうするんです?」

ドロシー「そいつはもう考えてある…ちょっとエンジンフードを開けるぞ」

ベアトリス「どうしてエンジンを…?」

ドロシー「ふふん、よく見ろよ…このRRは八気筒エンジンなのに、どうしてこの二つのシリンダーだけやたらピカピカなんだ?」

ベアトリス「…えっ?」

ドロシー「やれやれ、まだまだ観察が足りないぜ?」シリンダーを引っ張るとあっさりと抜け、そこに空洞が出来た…

ベアトリス「あっ!?」

ドロシー「この気筒二つはダミーさ…今は綺麗だから目立つが、後で適当にオイルでも垂らしておけばいいしな」

ベアトリス「すごいですね…」

ドロシー「まぁな…まさか時限装置をサンドウィッチと一緒のバスケット、って言うわけには行かないだろ♪」にやりと笑ってウィンクを投げるドロシー…

ベアトリス「それはそうですが…他にもこういう仕掛けがあるんですか?」

ドロシー「ああ、もちろん…♪」車体の後部に屈みこむと、排気管の片方を引き抜いた…

ベアトリス「うわ…!」

ドロシー「二本ある排気管の片方はダミーで、即席の組み立て式ライフルの銃身になってる…ライフリングだけは見えないように、先端だけねじ山を合わせた内筒をかぶせてあるのさ」

ベアトリス「あの…銃身はいいですけれど、機関部は?」

ドロシー「心配しなさんな…工具箱に入っているレンチだの金槌だの、もろもろを組み立てると……「あら不思議」ってやつさ」

ベアトリス「わぁ…!」

ドロシー「それから二本ある予備タイヤのチューブには、それぞれ弾薬と金属ワイヤーが仕込んであって、引き出して持ち出せるようになってる……ワイヤーは音を立てないで見張りだの何だのを「きゅっ」と絞めるためだ」

アンジェ「ドロシー…油を売るのは結構だけれど、準備は終わったの?」

ドロシー「ああ、だからおしゃべりなんてしてるのさ…そっちはどうだ?」

アンジェ「ええ、終わったわ……弾は選別しておいたけれど、一応貴女も確かめて」

ドロシー「あいよ、そうさせてもらおう…別に信用してない訳じゃないぜ?」

アンジェ「分かっているわ。自分の命を預けるのだから当然よ」

ドロシー「今回はぎりぎりまでドンパチしたくないとはいえ…いつ必要になるかなんてわからないもんな」…油を軽く差してシリンダーの回転や引金の軽さを試すと、ウェブリー・スコットを撫でた…
278 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/08(金) 01:27:55.24 ID:75oVL98B0
…さらに数日後…

ドロシー「さて…準備はいいな…?」

…すっかり旅装を整えてRR(ロールス・ロイス)の運転席に収まっているドロシーは、紅に染めた革のハンチング帽と、えんじ色と艶のある黒で組み合わせ、裾がくるぶしより少しだけ短い活動的な旅行用ドレス…足もとは茶革の編み上げ長靴で、首元には襟飾りのリボンをあしらい、額にゴーグルを引っかけている……うら若いレディ二人きりという変わった組み合わせは「日頃付き合っている上流階級の令嬢たちとのお遊びに疲れたプレイガール(ドロシー)が、変に気を使わなくて済む知り合いの地味な女の子(アンジェ)を自動車旅行に誘った」と言う筋書きでカバーしていた…

アンジェ「ええ」

ドロシー「それじゃ行ってくる……いい子にしてろよ?」

ベアトリス「もう、またそうやって私の事を子ども扱いして……」

ドロシー「悪い悪い……真面目な話、私たちの留守中は下手に動くことをしないで、他人の話に耳をそばだてるだけにしておいてくれ。…別にエージェントとしての能力を信用してない訳じゃないが……」

アンジェ「…非常事態になった時に取る越境の手はずや、コントロールとの連絡の取り方を知っているのは私とドロシーしかいない…つまり留守中に何かトラブルに巻き込まれても助けられないわ……そのことは忘れないでちょうだい」

プリンセス「ええ、しっかり覚えておくわ」

アンジェ「お願いね…くれぐれも先走ったりしないように」

プリンセス「ええ。それじゃあ行ってらっしゃい♪」

アンジェ「…行ってくるわ」

ドロシー「それじゃ、お土産に期待しておいてくれ…♪」

………

…ロンドン郊外の街道…

ドロシー「……久しぶりに二人っきりだな」

アンジェ「いきなりどうしたの?」

ドロシー「いや…こうしてみると、すっかりあいつらと一緒にいるのが当たり前になっていたんだな……って思ってさ」

アンジェ「そうね…」

ドロシー「…気軽におしゃべりするような仲間なんて出来る業界じゃないはずなのにな……おかしなもんさ」

アンジェ「ええ…ただ……」

ドロシー「…居心地のいい場所で、知り合いたちに囲まれて馴れ合っているうちに、甘えが出てしまう気がする……だろ?」

アンジェ「…その通りよ」

ドロシー「ああ、よく分かるよ……って、やめだやめだ。 せっかくの旅行なんだし、こんな辛気臭い気分になることはないじゃないか」

アンジェ「元はと言えばあなたが言い出したことよ」

ドロシー「悪かったよ…さ、もっと明るい話題にしようぜ?」

アンジェ「例えば?」

ドロシー「そうだなぁ……例えば「現地に行ったら何を食べようか」…とかさ?」

アンジェ「ふぅ…まったく、あなたと一緒だと旅が愉快でいいわ」

ドロシー「はは…それはどうも」

アンジェ「たいしたものね、皮肉も通じないのだから」

ドロシー「おいおい、こう見えて私だって乙女なんだぜ? 頼むから繊細な私の心(ハート)を傷つけ(ハート)ないでくれよ…」

アンジェ「だじゃれが言えるようなら大丈夫でしょう……次で右の道よ」

ドロシー「あいよ♪」

279 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/10(日) 02:02:47.08 ID:DmqgDLh/0
…数時間後・ロンドンから北に数十マイル…

ドロシー「ふー…空気は澄んでるし気持ちはいいけど、さすがに疲れたな……」

アンジェ「五時間は運転していたものね…でも、もうすぐよ」

ドロシー「そりゃありがたいね…この辺はもうノッティンガムシャーか?」

アンジェ「ええ」

ドロシー「なるほど、確かに森が多いな……弓矢を持ったロビン・フッドやタック坊主が出て来てもいいくらいだ♪」


…車そのものも優れていたが、ドロシーがしっかり手入れしただけあってRRは快調で、途中でエンストや故障を起こすこともなく順調にマイルを稼いでいた……煤煙で煙るロンドンから郊外まではきっちり舗装されていた街道も、この辺りまで来ると年を経たレンガ敷きに変わり、乗り心地には良くないが、のどかで趣のある具合になっている…空気は清冽で、広い森と野原、それに所々小さな畑が入り混じった様子は数世紀前のノッティンガムシャーが舞台になった「ロビン・フッド物語」の世界から変わっていないように見える…


アンジェ「そうね…ちなみに宿屋まではあと数マイルもないわ」

ドロシー「そうかい、そりゃいいや」

アンジェ「それとあなたも疲れたでしょうから、今夜は何もしないでいいわ」

ドロシー「おや、ずいぶんと優しいじゃないか…明日は雨かな?」

アンジェ「馬鹿言わないで。いざ本番って言う時に、くたびれて使い物にならないようじゃ困るっていうだけよ」

ドロシー「やれやれ、相変わらず手厳しいねぇ……」

アンジェ「堅実と言ってちょうだい」

ドロシー「まぁ何だっていいさ。どのみち今夜は休まなきゃやってられ……おいアンジェ」

アンジェ「ええ…」


…二人がじろじろと見ないようにそっと視線を向けた先には、森の中に何かの施設が見え隠れしていた……ご丁寧にも街道から分かれている支道には「関係者以外の立ち入りを禁ず」とでも言うように柵が渡されていて、その脇の小さな見張り小屋には、やたら手の込んだ(その割にヘタな)偽装が好きなアルビオンのお役所らしく、民間人の格好をした歩哨が、猟師が持っているような水平二連の散弾銃を抱えている……が、棒を飲んだような姿勢と堅苦しい態度は、どうやっても陸軍の連隊から派遣されているようにしか見えない…


ドロシー「…ぷっ、くくっ♪」見張り小屋を通り過ぎると、急に笑い始めたドロシー

アンジェ「……何がそんなにおかしいの?」

ドロシー「だってさ……あれで民間人のつもりかよ? …はははっ♪」

アンジェ「そういう事ね…確かにまずい偽装だったわね」

ドロシー「まずいどころか……あれじゃあ近衛連隊の閲兵式だぜ?」

アンジェ「でもそれだけ警戒を固めている考えられるわ…おそらく施設内の警備は厳重よ」

ドロシー「まぁな……だが、手前に小川があったろう。あそこをさかのぼって行けば上手いこと施設の横手に出られるんじゃないか?」

アンジェ「それは今日明日のうちに分かることでしょうね……さぁ、着いたわよ」

ドロシー「ここから『ディーダラス』まで数マイルって所か…ありがたいね」

アンジェ「下見は楽になるでしょうね」

ドロシー「…そういう事。さ、着きましたよお嬢さん♪」

アンジェ「お疲れさま……それじゃあ宿屋に入ったら役割通りに」

ドロシー「ああ…」


280 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/13(水) 02:47:43.26 ID:1VKz3AYh0
…しばらくして・宿の食堂…

宿屋の主人「ささ、ご令嬢方はどうぞ暖炉のそばにおかけくださいまし……メアリや、何をしているんだい?」


…ドロシーが事前に「貴族令嬢として」予約をしておいた宿屋は、居心地のいい田舎の「旅籠」と言った感じの宿で、ぽってりとした愛想のいい中年の主人と、その娘が中心になって切り盛りしている……ドロシーとアンジェは情報収集を兼ね、食事は一階にあるパブを兼ねた食堂で取ることにしたが、案の定カウンターでは地元の農夫や猟師が集まってビールを傾け、宿の主人はいかにも「主人らしく」、忙しい厨房は娘や雇いの女中さんたちに任せきりで、しきりに政治や小麦の作柄の事を話しあっている…


宿屋の娘「はぁーい! …どうもお待たせしました」錫のジョッキに注がれたエールを持ってくる宿屋の娘…年は十代の中頃で、健康そうな身体と丸っこいリンゴのような頬っぺたをしている…

ドロシー「ああ、ありがとう……お嬢ちゃん、こっちにおいで?」

娘「はい、何でしょうか奥様」何であれ女性は「奥様」と呼んでいるらしい娘…

ドロシー「あのね、少ないけど取っておきなさい。それとね、私たちは腹ペコだから……飛び切りの料理をね♪」人好きのするチャーミングな笑みを浮かべ、シリング銀貨を握らせた…

娘「は、はい…///」

主人「おや、どうもすみませんです…メアリや、ちゃんとお礼を申し上げなさい」

娘「奥様、どうもありがとうございます///」

ドロシー「いいのいいの。それにしてもご主人、ノッティンガムは初めてだけれど……いいところだねぇ?」

主人「はい、それはもう…何しろロビン・フッドの時代を残しておるような場所でございますから」

ドロシー「いやまったく。空気は綺麗だし、眺めはいいし…私がブラウニングやワーズワースだったらどんなにかいい詩が詠めることか」

主人「いや、もうその通りでございますよ……メアリや、お客様のスープはまだなのかい?」

娘「…はぁーい!」ドシンと重そうな音を立てて置かれたスープ壺からはエンドウ豆スープのいい匂いが漂ってきて、娘が丁寧に皿へよそってくれる…

ドロシー「いやぁ、待ってたよ……ささ、いただこうじゃないか♪」

アンジェ「え、ええ…///」話す声もどもりがちで、いかにも内向的な様子に見えるアンジェは「ロンドンで羽振りのいい貴族令嬢に気に入られた、気弱でおどおどした娘」というカバーをきっちりこなし、話に加わらない分だけ様々な会話に耳をそばだてている……

主人「どうぞ召し上がってくださいまし」

ドロシー「ええ……ん、これは美味しいね。ほら、マリアンもおどおどしてないで食べてごらんよ♪」ロビン・フッドにちなんで「マリアン」を偽名にしたアンジェ…

アンジェ「は、はい…///」

主人「…いかがでございます?」

アンジェ「そ、その…おいしい……です…///」

ドロシー「それは良かった。ロンドンじゃあ空気も悪いし食べ物だって古くていけない…ここに来て正解だったよ♪」

主人「そうでございましょうね……何でも都会の方じゃあ蒸気機関だのケイバーライトだのと、「新奇のからくり」ばっかりが幅を利かせているようですからね…もっとも、最近じゃこの辺りでもそうでございますが…」

ドロシー「おや…最近じゃあここでもそうかい?」

主人「ええ、そうなんでございますよ……いや、大きい声じゃ言えませんがね?」

ドロシー「ほぅ?」

主人「ええ…ご令嬢方も来る途中で見なすったかどうか……川沿いのほんの数マイルばかり上流に、妙な工場みたいなのが出来ちまって……」

ドロシー「そうかい?…車の方にかかりきりで、それらしいのは見なかったなぁ……」

主人「それがそうなんでございますよ…あんな訳の分からない製鉄所だか何だかを作られて……おかげで牛の乳が出なくなったとか、リンゴのなりが悪くなったなんて聞きますよ…」

ドロシー「本当に、近ごろはどこでもそこでも工場ばっかりだねぇ…」

主人「まったくで…」

ドロシー「せめて今年は作柄が良くなるといいねぇ……天気はいいのかい?」

主人「それはおかげさまで、降るにせよ照るにせよちょうどでございますよ…」

ドロシー「ああ、そりゃいいや……ん、このいい匂いはメインディッシュかな?」

主人「へぇ、ラムチョップ(あばら肉)のステーキと、玉ねぎ入りのミートパイです…うちの自慢の一品でございますよ」

ドロシー「ほほぅ…それは楽しみだ。あとお嬢ちゃん、私たちにサイダー(リンゴ酒)を頼むよ♪」

娘「…はい、すぐお持ちします!」

281 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/02/18(月) 22:48:35.61 ID:cVER7DxN0
…どうもお待たせしてすみませんでした…

…この一週間ばかりというもの、インフルエンザですっかりノックアウトされておりました……まだ頭がクラクラするので続きは投下出来ませんが、とりあえず生きてはいます…これを見て下さっている皆さんも(元気な方は)身体に気を付けて寝具を暖かく、(具合の悪い方は)栄養を取って、起きていないで寝ましょう……ではまた数日後くらいに投下しますので、まずそれまではサヨナラ・サヨナラ・サヨナラ…と言うことで…
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/02/18(月) 23:29:30.63 ID:WdSgD7Neo

体調不良ばかりは仕方ない、お大事になさってください
283 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/21(木) 00:25:02.52 ID:THTswjTm0
>>282 どうもありがとうございます、それでは少し投下していきますので…
284 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/02/21(木) 00:50:17.34 ID:THTswjTm0
…数日後・夜…

ドロシー「さて…準備にとりかかるか」

アンジェ「ええ」

…暖炉の火が静かにパチパチとはぜて部屋を心地よく暖めている中、二人は夕食時に来ていたドレスを脱いでコルセットとペチコートだけの姿になると、任務用の服に着替えはじめた…むろん部屋には鍵があるが、女中が用事や何かで不意に開けてくることもあるかもしれないと、荷物を載せた椅子を重しにして二重に備えている……床に置かれたトランクは二重底が開けられていて、防諜部やスペシャル・ブランチの人間が見たら「興味を引くような」物がいっぱいに詰まっている…ドロシーは黒いハンチング帽に黒い活動用の服、編上げの半長靴で、服のあちこちについている物を引っかけるための輪っかやベルトに次々と「七つ道具」をセットしていく…アンジェは活動用の服に黒マントを羽織り、フードで顔を隠した…

ドロシー「…まずは大事な爆弾三つ……予備の時限装置は持ったな?」真鍮製で、何やら時計のような長針と短針が付いた精妙な出来の爆弾を、腹の所に付けたポーチに入れた…

アンジェ「ええ」

ドロシー「ウェブリーが一丁…どのみち音がするから使うわけにもいかないが……」一発ずつ弾を込めると、シャキンッ…と中折れ銃身をもとに戻した…

アンジェ「…銃把で殴打するなら別よ」アンジェはウェブリー・フォスベリーに弾を込めた…二人とも銃が暴発しないように、まだ撃鉄は起こさないでいる……

ドロシー「まぁな…スティレットに首絞め用の細引き……こっちの方が使うかもな?」細いロープを自分の目の前でゆらゆらさせてから、おもむろに腰へくくり付けるドロシー…

アンジェ「そうかもしれないわね」

ドロシー「それ以前に見つからないようにしますがね…それからロープ……」肩からたすき掛けにした

アンジェ「全く、貴女はロープが好きね」アンジェは秘密道具の「Cボール」を胸元に下げた…

ドロシー「ロープなしの工作なんてあり得ないからな……地図に小型コンパス…ケイバーライト粉の『夜間発光機能』付きとはコントロールも気が利いてる」

アンジェ「ええ…」

ドロシー「あとは工具が一揃いに、とっさのときの煙玉と閃光弾が一個ずつ……と、こんなもんか?」

アンジェ「そんなところでしょう…私も持つべきものは持ったわ」

ドロシー「よし……さてと、来るときに見た脇道の先。あそこに工場があるのは間違いないところだ」

アンジェ「宿の主人もそう言っていたわね」

ドロシー「ああ。施設の警備に当たっているのはロイヤル・フュージリア(ライフル歩兵)連隊…軽歩兵ってことは武器はエンフィールド小銃、将校にウェブリー・スコット・リボルバーってところだろう」

アンジェ「そうでしょうね」

ドロシー「全く、あれだけ手の込んだ偽装をしておいてすっかり筒抜けなんだから……笑えるな」

アンジェ「たいていの偽装なんてそんなものよ」

ドロシー「だな…施設へは私が忍び込むから、アンジェは侵入前と脱出時の援護を頼むぜ」

アンジェ「ええ、火器に一番詳しいのは貴女だもの。任せたわ」

ドロシー「おう……まず、施設へは小川をさかのぼっていって潜りこむ。あの手の石頭どもはそういう侵入方法なんて思いつきもしないだろうからな」

アンジェ「そうね」

ドロシー「施設に近寄ったら歩哨の目をかすめて中に入る…陸軍の規則通りに歩哨を立てているようなら、交代時間も予測がつく」

アンジェ「多分そうでしょう…変える理由がないはずよ」

ドロシー「もし違ったらその時はその時さ……施設に入ったら機関銃の生産状況を確かめつつ、一番効果のありそうな場所にこの「ベアトリスのお手製爆弾」仕掛ける」

アンジェ「ええ」

ドロシー「時限式だが、あんまり長い時間にしておいて気づかれちゃ困る。かといってすぐ起爆するようにセットしても具合が悪い…その辺の兼ね合いは私が決めることにするよ」

アンジェ「任せるわ」

ドロシー「後はとっとと逃げ出して、宿に戻ったら寝たふりでもしてればいい…だな?」

アンジェ「ええ、それでいいわ」

ドロシー「よし…ま、でっかい花火を打ち上げてやろうぜ♪」

285 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/03/02(土) 02:19:37.24 ID:Wn+65SVt0
…数十分後…

ドロシー「どうだ?」

アンジェ「さっきの小さな橋からおおよそ五百ヤード、施設への接近は充分のはずよ……準備はいいわね?」

ドロシー「ああ…となると、ここはもう施設の外周だろうし、見つかったら言い訳も聞いてもらえないだろうな」にやりと不敵な笑みを口の端に浮かべた…

アンジェ「そうでしょうね…それじゃあ私は待機しているから、何かあったら援護するわ」

ドロシー「頼んだぜ」

アンジェ「そっちもね」

ドロシー「ああ、任せておけ」


…リーリーと小さな虫たちが鳴いているせせらぎの柔らかい岸辺の土に足跡を残さないようそっと小川を渡ると、岸辺に生えた灌木の陰に身をひそめたドロシー……視線の先には夜霧に霞む二階建てレンガ造りの工場が影絵のような黒いシルエットとしてそびえ立ち、施設の外周には皿型のヘルメットを被り、リー・エンフィールド小銃の負い革を肩から斜めに回して、銃を背中に背負っている兵士の姿がぼんやりと見える…と、身をひそめているドロシーの左手数十ヤード先の暗闇で小さなホタル火がともり、そのオレンジ色の灯りが、シガレットに火をつけようとする兵士の顔を照らし出した…


ドロシー「…おっと、危うくハチ合わせする所だったな……」相手はマッチの火で目がくらんでいるとはいえ出来るだけ気づかれにくいよう藪や木陰を伝い、夜露が下りた冷たい地面を這って慎重に身体を動かし、立哨に忍び寄った……と、立哨に誰かが近づき、低い声で叱りつけているのが聞こえた…

軍曹「おい、何をやってるんだ。夜間の立哨が煙草なんて吸っちゃならんことぐらい分からんのか…!」

兵士「…すみません、ベイリー軍曹」

軍曹「いいから早く消せ。せっかく慣らした夜目がくらんでしまうだろうが…!」

兵士「はい…!」立哨は慌ててシガレットを踏み消した…

軍曹「よし、おれはまた施設を一周してくるからな……最近は共和国のスパイも大胆になっていると言うし、油断するんじゃないぞ…!」

兵士「了解……やれやれ、軍曹の取りこし苦労もいい加減にしてほしいよ。まだほとんど吸ってなかったのに…」軍曹が立ち去り、兵士がボヤきながらあさっての方を向いた瞬間、ドロシーは後ろから近寄って細引きの輪っかを立哨の首にかけ、きゅっと強く引っ張った…

兵士「…ぐっ!」見張りの兵士は喉から細引きを外そうと手を首元に伸ばし、またどうにかドロシーを振りほどこうともがいたが、体幹の位置と身体のバランスを正しく保ったドロシーは若い女性とは思えないほど頑強で、とうとう兵士の身体が崩れ落ちた…

ドロシー「どじを踏んだな、お前……」ドロシーは音を立てないよう兵士の小銃を背中から外すと、息のない立哨の身体を引きずって川岸の藪の中に隠した…

…施設の横手…

ドロシー「……よし、開いた」

…施設は何人もの職工を同時に働かせやすいように作られた典型的な縦長の工場で、天井はゆるい三角屋根で出来ている…屋根には換気や明かり取り用の天窓があり、夜でも目が慣れればそれなりに明るい……ドロシーがさっと建物の中に入り、静かに鍵をかけ直した直後、施設の外を歩き回っている歩哨が窓の外を通り過ぎて行った…

ドロシー「ひゅぅ……クライスト(おったまげた)…!」


…窓から見えない壁際に這いつくばって歩哨をやり過ごしさっと周囲を見回すと、思わず小声でつぶやいたドロシー……目の前には二列に並んだ製造ジグがずらりと並んでいて、ピカピカと青光りしているマキシム機関銃が製造工程ごとに何挺分も置かれている…吹き抜けのようになっている二階には小部品を作るための製造機械があり、片隅には荷物を上げ下げする水圧式のエレベーターがある…


ドロシー「こりゃ増加試作にしたって多すぎる……連中も機関銃の量産に本気って事だな…」目に入ったものをさっと記憶し、ついでに役立ちそうな資料を数枚くすねる……周囲は静まり返っていて、コトリとも音がしない…

ドロシー「さて…爆弾ちゃんはどこに仕掛けるか……」

…ドロシーは工場が丸ごと潰れるよう中央の梁か柱に爆弾を仕掛けようと考えていたが、残念なことに旋盤やボルト留めの機械は壁際ではなく部屋の中央寄りになっていて、通りやすいよう片づけられた壁際には、爆弾を隠せるような場所がない……

ドロシー「…参ったな、ここも壁際は片づけてやがる……ん?」製造機械が並ぶ一階の片隅に、重そうな鉄扉がある…

ドロシー「……倉庫?こんなところに?」





286 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/08(金) 02:17:49.28 ID:op0liI2Y0
ドロシー「…どうだ……開くか?」

…錠前にキーピックを差し込み、かすかな手元の感覚を頼りにひねる……と、重厚な作りの錠が「カチン…!」と小さいがはっきりした響きを立てて開いた…

ドロシー「…っ!」

ドロシー「……誰にも聞かれなかったみたいだな……やれやれ、肝が縮み上がるぜ…」ごく小さな声でつぶやくと、重い扉をぐっと押した…扉はありがたいことにしっかり油が差してあるらしく、きしむ音一つ立てない…ドロシーは施設の保守管理を任されている職員たちを祝福した…

ドロシー「……さて、ここは一体何の倉庫なんだ? …まるでアナグマの尻の穴だ、真っ暗で何も分かりゃしない……」

ドロシー「壁伝いに歩くしかないかな、こりゃ……まさか灯りをつけるわけにもいかないし…っと、そうだった♪」

…コントロールに要求しておいた七つ道具の中に「ケイバーライト・トーチ」を入れていたドロシー…ケイバーライト・トーチは金属で補強されたガラス筒で、大きさはちょうどトマト缶詰くらいの円筒形で、取り出して数回振ると、ぼんやりとホタルよりはましな青緑色の光を放ち始めた…

ドロシー「…これでよし……さて、改めてここは一体何の倉庫なのやら……」

…手探り半分、トーチの灯り半分で倉庫を物色するドロシー…どうやら倉庫には天井一杯まで高さのある棚がずらりと列になって並び、絹製の円筒状の袋や湿気防止用に亜鉛の内張りがある樽、それに液体の入ったガラス容器が所狭しと並んでいる……絹の袋に触れると、縁のほつれたところからざらざらとした粉がこぼれて手についた…

ドロシー「……おいおい、嘘だろ…」手についた粉をケイバーライト・トーチの灯りに近づけ、愕然とした…

ドロシー「…ブラッディ(くそったれ)…これ全部火薬だってか……!?」…絹の薬嚢(やくのう)や樽に詰めてある黒色火薬に、揺れないようにひと瓶ごとに柳のカゴに入れられ、さらに数個づつロープでくくられている不安定なニトログリセリンのガラス容器…他にも「ブリティッシュ.303」口径弾薬の紙箱が見渡す限り並んでいる…

ドロシー「参ったな……ま、少なくとも爆弾の設置場所で悩む必要はなくなったな…ここで一つ爆発を起こせば、施設丸ごとペルシャあたりまで吹き飛ぶこと請け合いだぜ…♪」ニヤリと笑うと懐中時計の部品を流用した時限装置をセットし、見つかりにくい薬嚢の奥の方に爆弾をねじこんだ……残り二つも手早く…かつ意外と見つかりにくい場所に隠して、さっと倉庫を出た…


ドロシー「…まったく、足音がしないようにゴム底の長靴を選んでおいたが、とんだところで役に立ったな…金属の底が付いた革靴だったら、今ごろ昇天して天使の仲間入りだ……」ケイバーライト・トーチを腰の物入れに納めると、首を軽くすくめて製造機械の間をすり抜けた…

ドロシー「……見張りは…よし、いないな」さっと壁際に屈みこむと窓の左右を確認し、カチリと単純な鍵を開けるとさっと窓の外に抜けだした…


…一見すると軽薄で何でもふざけ半分に見えるが、実際は共和国エージェントの中でも数えるほどしかいない工作の腕前を持ち、エージェント必須の素質「ツキ」にも恵まれているドロシー…そのドロシーが珍しくミスをしたのは、火薬庫で受けた衝撃が抜け切れていなかったせいか、あるいは工作が済んだ安心感でつい緩んだ警戒のせい……さらに言えば単純に「運が悪かった」せいに尽きた…


歩哨「…誰だっ!」ドロシーがそっと左右を見た窓からは、たまたま死角になっていた施設の壁…任務をサボってそこにもたれかかりぼんやりしていた歩哨が、ドロシーの黒い影を目線の端に捉えるとはっとして、たちまち鋭く誰何した…

ドロシー「…っ!」

歩哨「おい、止まれ!」キシンッ!…と、リー・エンフィールド小銃の遊底を動かす金属音が響いた

ドロシー「ちっ…!」さっとナイフを投げつけるドロシー…

歩哨「ぐぅ…っ!」バァ…ン! 

…喉を狙って投げたが外れて、胸元に突き刺さったナイフ…歩哨がその痛みに力んだ瞬間、指が引きつり小銃の引き金を引いた…

歩哨B「何だ!?」

立哨「銃声だ…警報!」たちまち警報ベルが鳴り響き、施設の灯りという灯りが一斉に点灯した…

ドロシー「くそっ、やらかした…!」灯りの届かない小川の方へと一目散に駆け出すドロシー…幸い、灯りに揺らぐ木々のシルエットをドロシーと見間違えているらしく、あちこちの見当違いな方向で銃声が響いている…

兵士「いたぞ! 西側に…」

ドロシー「っ!」バン、バンッ!

兵士「うぐっ…!」

兵士B「向こうだぞ、追え!」

ドロシー「参ったな…こんなところで「鬼ごっこ」する羽目になるとは、ね!」走りながらの牽制射撃に、後ろ手でウェブリーを数発放つと背中のホルスターに戻し、小川と森に向けて全力疾走するドロシー…

士官「装填し照準せよ! …用意、撃て!」ダダダッ、ダダダダッ!…施設の防衛用に設置されていたらしいマキシム機銃の銃声が響き渡り、雨あられと降り注ぐ銃弾が左右の藪に突き刺さってバシバシと音を立て、頭上を「ヒュッ…!」と甲高い音を立てて銃弾が飛んでいく…

ドロシー「えぇい、くそっ…機関銃まで撃ってきやがった!」

ドロシー「…何だっけ…『敵に後ろから撃たれている時は遮蔽物を移動しながらジグザグに走ること…』か……だけどマキシム相手にそんなこと言っていられるかよ!」…小川と岸辺の森があと数十ヤードの距離に近づき、教官の言葉を思い出したドロシー……が、手の届く距離に暗闇があって、つい真っ直ぐに疾走した…

士官「距離…百五十ヤード、撃てぇ!」

ドロシー「…くは…っ!」マキシム機銃の斉射が辺りを扇状に薙ぎ、途端に腰のあたりへすさまじい衝撃が走った…最後の勢いで小川に向けて飛び込んだドロシー…

士官「撃ち方やめぇ! …第二分隊、確認に向かえ!」

…小川…

ドロシー「……っ、続きは『…ジグザグに走ること……銃弾とかけっこして勝てる人間はいない』だったな……くそ、教官の言うことは聞いておくもんだ…」小川の底を這いずりながら痛みに顔をしかめ、今さらながら真理を突いている教官の教えに感心するドロシー……

ドロシー「とにかく止まっちゃダメだ…一度筋肉がゆるんだら動けなくなっちまう……」幸い川底は砂地で、身動きしても泥のように巻き上がったりしないので、追跡者に気づかれにくい…
287 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/03/09(土) 02:06:37.92 ID:bMcJPLgn0
ドロシー「…はぁ…はぁ……くは…っ」


…アンジェの待っている場所までたどり着こうと必死で川底を這って行くドロシー…意識が遠のきそうになったので、身体をせせらぎにひたしたまま顔をおとすと小川の水を一口すすりこみ、一緒に口へ入ったヤナギの枯葉をぷっと吐き出した…


ドロシー「くそ…こんなところでへたばってたまるかよ……少なくとも私がアンジェの腕の中でくたばったら、あの「冷血トカゲ女」が泣くことが出来るのかどうかが分かるってもんだからな……やっこさんの泣き顔を見るためにも、せめてランデヴー・ポイント(会合地点)まではたどり着いてやる…」その数百ヤード後方ではドロシーを探している軽歩兵たちの命令や呼び交わす声が聞こえている…

下士官「…どうだ! 見つかったか!」

兵士「おりません、軍曹!」

兵士B「……おーい、こっちに足跡があるぞ!」

士官「よし、手傷を負っているからそう遠くへは行っていないはずだ! 第一、第二分隊は散開して追跡しろ!」

ドロシー「へっ、ごあいにくさま…つまらない目くらましだったが、やっておいてよかったぜ……」


…初歩的な偽装だが、川沿いの柔らかい地面に数歩だけ足跡を付け、追跡者が見当違いの方向へと向かうようにしておいたドロシー…さらに小ぶりな足のサイズで女だと感づかれないようにオーバーシューズを履き、力を込めて足跡を付けておいた…


ドロシー「……ふぅ…はぁ…」

ドロシー「…ちくしょう、数百ヤードがこんなに遠いとは思わなかったぜ……」

アンジェ「その様子だとそうでしょうね…遅かったわね、ドロシー」川岸の灌木からそっと姿を現したアンジェ…

ドロシー「よう、アンジェ……なぁに、ちょっと川底でカエルの真似をしてたもんでね……」

アンジェ「ずいぶんと不格好なカエルね…さ、私の肩につかまりなさい」

ドロシー「悪いな……うっ!」身体を起こそうとしてうめき声を上げた…

アンジェ「…どこを撃たれたの?」

ドロシー「腰だ…下半身がしびれて仕方ないんだ……」

アンジェ「見せて」

ドロシー「ああ……どうだ?」

アンジェ「そうね…エージェントの守護天使だか何だか知らないけれど、もし貴女がそういうのを信じているならちゃんとお礼をしておいた方がいいわ」

ドロシー「…腰に鉛玉をぶち込まれたって言うのにか?」

アンジェ「ええ。これを見なさい……よかったわね、ドロシー」アンジェは背中のホルスターからへしゃげたウェブリーを抜き取って、ドロシーに見せた…銃弾の食い込んだ跡が撃鉄の脇に残っている…

アンジェ「もし数インチ上だったら、助かっても松葉杖を伴侶にすることになったでしょうね…だいぶ大きな青あざは出来ているけれど、それだけよ」

ドロシー「…それだけで充分さ…とにかく車の所まで行かなくちゃな……」

アンジェ「ええ…ほら、肩を貸してあげるから立ちなさい」


…夜になって車で出かける言いわけとして、宿の主人に「明け方に野鳥観察をするために十数マイル先まで足を伸ばすから」と言い置いて、工作用の服の上からそれらしい服を羽織って出かけた二人……そう言って乗ってきたロールス・ロイスは施設の手前にある森から一マイルほど離れた場所に隠してある…


ドロシー「…はぁ…はぁ……ちくしょう、一千ポンドじゃ割にあわないや…」アンジェにもたれかかり、痛みでひと足ごとに顔をゆがめるドロシー…

アンジェ「……いったい何の話?」

ドロシー「ああ…アンジェには話してなかったな……実は「7」に入り用な道具のことを話しに行ったとき、やっこさんに「報酬として一千ポンドよこせ」って言ったんだ……最初はしぶしぶだったが、しまいには飲んでくれたぜ…ぐっ!」

アンジェ「…何のつもりで?」

ドロシー「なぁに、引退後の「お楽しみ資金」としてね……ちなみにお前さんの分も頼んでおいたから、もしプリンセスと駆け落ちでもするんなら生活費の足しにでもしてくれ…うぐっ…」

アンジェ「…余計な事を言ってないでとっとと歩きなさい///」

ドロシー「あいよ…ったく、怪我人を手荒く扱いやがって……」

アンジェ「そんなにおしゃべりできるなら問題ないわ…ほら、車の所まで来たわよ。私がエンジンをかけるから、その組み立てライフルを抱えて助手席に座ってなさい」

ドロシー「悪い…何しろこのざまじゃあ始動用のクランクも回せないし、アクセルもクラッチも踏めないからな……」

アンジェ「ええ……とにかく私も上手く言いくるめるから、宿についたら元気なふりをしてちょうだい。「手ごたえはあったが見失った敵のエージェント」と「昨夜出かけて、片方が怪我をして戻ってきた二人連れ」…これではどんな間抜けでも「一足す一は二」だと分かってしまうもの」

ドロシー「ああ…せいぜいぴょんぴょん跳ねまわってみせるさ……」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2019/03/09(土) 09:16:16.82 ID:PdahTQeVO
捕まる未遂があるとTVシリーズっぽいね
...捕まってもいいのよ?
289 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/11(月) 01:54:11.26 ID:vfWpHnSA0
>>288 コメントありがとうございます。そう言えば前にも「逮捕・尋問されるのが見たい」という意見がありましたね…本当に皆さんは百合らんぼうがお好きですねぇ……機会を見つけてどこかでやってみます


…ちなみにですが、本当は「RR」などの英国車メーカーは1900年代に入ってから生まれているので、十九世紀末が舞台の「プリンセス・プリンシパル」では少し早いのですが、そこはまぁイギリスじゃなくて「アルビオン」ですし、ケイバーライトだったり空中戦艦が実用化されている世界なので自動車の誕生が早まっていてもいいかな、と……
290 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/11(月) 02:57:52.35 ID:vfWpHnSA0
ドロシー「よし、クランクを回せ…!」

アンジェ「ええ」

ドロシー「そら、動け…っ!」アンジェが始動用のクランクを回すのに合わせて、エンジンをかけるドロシー……仕上げの悪い車なら数回はやり直す必要があるが、さすがにロールス・ロイスだけあって、滑らかな音を立てて一発でかかった…

アンジェ「…かかったわね」

ドロシー「そりゃRRだからな……やれやれ、よかったぜ…」

アンジェ「それじゃあ行きましょう」

ドロシー「ああ、そうしよう…運転は任せた」

アンジェ「ええ、任せておいて」

…村へ続く道路…

ドロシー「…うっ、どう座っても痛いな……」

アンジェ「我慢しなさい。歩きじゃなかっただけ良かったでしょう?」

ドロシー「まぁな……でもなぁ、もう少し気づかいがあってくれてもいいんじゃないか?」

アンジェ「これでも気づかっている方よ…でなければ貴女に運転させているわ」

ドロシー「うへぇ…こんな怪我人に運転させるなんて鬼だな」

アンジェ「別に鬼でも悪魔でもないわ。貴女の方がこの車の運転に慣れているからよ…だいたいこの車は、私が運転するには少し重すぎる」

ドロシー「その分馬力があるからな……それに走りも滑らかだろ?」

アンジェ「ええ、ロールス・ロイスの「エンジンフードに硬貨を立ててエンジンをかけても硬貨が倒れない」って言うのを信じたくなるわ」

ドロシー「ああ、そいつは私も試したが本当に倒れなか……おっ!」


…ヘッドライトだけが照らしている暗い夜道が不意に明るくなったのでドロシーが振り向くと、施設があるあたりの森から明るい黄色と桃色の火柱が天高く立ちのぼり、続けて大きな煙の柱が盛り上がった……その数秒後、二人の耳に巨大な遠雷のような鈍い轟音と一瞬の風が吹き抜けた…


ドロシー「ひゅぅ、クライスト(ぶったまげた)…いくら火薬が数トンもあったとはいえ、あんな大爆発が起きるなんてな…!」

アンジェ「爆弾が上手く作動したようでよかったわ……少なくともまずは目標達成ね」

ドロシー「ああ。今のに比べたらガイ・フォークスなんて子供のお遊びみたいなもんだな♪」

(※ガイ・フォークス…1600年代の人。国教会を優遇しカトリックを弾圧していた当時の英王室に反発し、数十個の火薬樽で議会の開会式を行っている最中の国会議事堂を爆破しようとした)

アンジェ「そうね」

ドロシー「だな……って、くそっ…!」

アンジェ「どうしたの、ドロシー?」

ドロシー「あー…どうやら喜んでばかりじゃいられなくなった」

アンジェ「……と言うと?」

ドロシー「あの爆弾で全部の兵器が吹っ飛んでくれたわけじゃないみたいだ…追っ手が来たぞ」…二人の乗る濃緑色のロールス・ロイスを追ってくるヘッドライトの黄色い灯が二台分見える……

アンジェ「なるほど…で、相手は?」

ドロシー「後ろに近づいてきてるが……おいおい、ありゃ装甲自動車だ…!」

…深夜に疾走する怪しげなロールス・ロイスを停車させようと接近してくる四輪のトラック…が、二人の車を追跡してくるのはただの板張りトラックではなく、全面を装甲板で囲い、荷台の円筒状の銃座にはマキシム機関銃を据え付けている装甲自動車だった…

アンジェ「ふぅ…なるほど、確かにそうね」

ドロシー「…参ったな。あいつはウーズレーのトラックをベースにしてるようだが……まさか実用化されてるとは思わなかったな…!」

アンジェ「なるほど…何にせよついてきてもらっては困るわ。どうにかするしかないわね…」

ドロシー「あぁ、そうだな……ま、こうなったらでっかい打ち上げ花火のついでだ。ひとつ「王国の最新兵器」をきりきり舞いさせてやるとしようぜ♪」


291 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/13(水) 03:02:57.68 ID:h5fELake0
アンジェ「ドロシー、向こうがこっちを停めさせるにせよ、あるいはハチの巣にするにせよ…そう時間はかからなそうよ?」

ドロシー「分かってるさ……いいから飛ばせ、アンジェ!」

アンジェ「ええ。 …くっ、私じゃあこれ以上速くは走らせられないわ」ヘッドライトに浮かび上がったカーブをスライドさせてクリアするが、小柄なアンジェには大型ロールス・ロイスを高速で振り回すのは少し厳しい……唇をかみしめてハンドルを押さえ込む…

ドロシー「よーし…なら私がどうにかしてやるさ」車の荷物をがさごそと漁ると、手に乗る程度の巾着袋を取り出した…

アンジェ「それは?」

ドロシー「石壁用の釘さ。道路上にばら撒いてタイヤをパンクさせるシロモノなんだが…あのウーズレーは重そうだし、車高も高いからな……一度ふらついたら面白いことになるぜ?」

アンジェ「それでちゃんと止められるのね?」

ドロシー「ああ、太陽が東から昇るくらい確実にな……アンジェ、そのまま真っ直ぐ走らせろ!」

アンジェ「…信じたわよ」

ドロシー「任せろって…そら!」

…袋の口を開けると道路上に釘をぶちまけたドロシー……と、二人の車に迫っていた一台目の装甲自動車が釘を踏みつけ、タイヤがバーストすると同時に激しくノーズを振り、そのまま真横を向くと派手に横転した……

ドロシー「ひゅぅ…な、だから言っただろ?」

アンジェ「なるほど……で、二台目はどうするの?」

…先導する一台目が派手にひっくり返ったのを路肩にはみ出してかろうじて避け、再び道路に乗って追ってくる二台目のウーズレー…なかなか手こずらせる二人を相手に、どうやら無傷で捕まえる気が無くなったらしく、マキシム機銃を斉射しながら追ってくる……

ドロシー「ちっ、まとめて引っかかってくれたら良かったんだが……そうはいかないか!」身体をひねって身を乗り出すと、後ろに向けて立て続けにライフルを撃ちこむ…

アンジェ「…装甲自動車に向かってライフルを撃ちこんでどうするつもり?」

ドロシー「車体じゃない、やっこさんのタイヤを狙ってるんだ……アンジェ、車を振らないでくれ!」バンッ、バァ…ンッ!

アンジェ「ええ、そうするわ」

ドロシー「ああ、助かるよ……えぇい、くそっ…弾切れだ!」役に立たなくなったライフルを座席に放り込み、舌打ちする…

アンジェ「それはいただけないわね…」

ドロシー「まったく同感…おい、村まではあと数マイルって所か?」

アンジェ「ええ」

ドロシー「ならとっととケリをつけないとな……そうだ、アンジェ!」

アンジェ「なに?」

ドロシー「すっかり忘れてたが、爆弾の予備があったろ!」

アンジェ「…そうだったわね。爆弾なら信管と一緒に後部座席の下に置いてあるわ」

ドロシー「よーし、なら怖いものなしだ…♪」どうにか後部座席に身体を移すと、シートの下に屈みこんだ…

アンジェ「見つかった?」

ドロシー「ちょいまち……あったぞ!」

アンジェ「投げる間合いは?」

ドロシー「時限装置はぎりぎり数秒にセットするから、奴を真横に寄せて屋根のない銃座の上から放り込む……いいか!」

アンジェ「分かったわ…それじゃあ行くわよ!」…ギアを落しつつ目一杯ブレーキを踏みこむ…一気に減速して装甲自動車と並ぶと、ハンドルを切ってウーズレーに寄せた……あまりにも近づいたのでサイドのミラーが接触して吹っ飛び、機銃手は慌てて銃架を振り向けようとするが、その前にドロシーは後部座席に立ち上がった…

ドロシー「そのまま…そのまま……よし、投げた!」

アンジェ「ドロシー、つかまって!」ギアを上げるとアクセルを踏み込み、一気に装甲自動車を引き離すアンジェ…ドロシーが後部座席に転がりこむのと同時に爆弾が炸裂し、ウーズレーは轟音とともにばらばらになった…

ドロシー「う゛っ…!」

アンジェ「…大丈夫、ドロシー?」

ドロシー「ああ…だがもう二度とこんな曲芸はやらないからな!」

アンジェ「一千ポンドでも?」

ドロシー「…こんな目に遭うって分かってたらその十倍はふっかけただろうな……あいてて…」腰の打ち身が座席に触れ、顔をしかめるドロシー…

アンジェ「とにかく宿に戻ったら薬でも塗ってあげるわよ…それまで我慢しなさい」

ドロシー「そりゃどうも……まったく、こんな冷血女を嫁さんにもらおうなんて、プリンセスもよっぽど物好き……」

アンジェ「…何か言った?」

ドロシー「うんにゃ、何も……とにかく痛み止めにたっぷりのブランデーと、それから柔らかくて暖かいベッド…今欲しいのはそれだけさ」
292 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/15(金) 12:26:00.26 ID:uTi1xhWB0
…夜明け前…

アンジェ「…さぁ、着いたわよ」


…活動用の服は脱ぎ(車に残しておいた)行くときに着ていた普通の服に着替えている二人……最後の百ヤードほどは車の音を聞きつけられないようエンジンを切って惰性で走らせ、妙な時間に戻ってきたことで村人の疑念を抱かせないようにしている……組み立て式ライフルや余った工作用の資材などは途中で川の深みに放り込み、残った活動用の服も宿の部屋で暖炉にくべて焼き捨て、残りの旅には怪しいものを何も持って行かないつもりでいる…


ドロシー「あぁ…それじゃあ静かに部屋に戻ろ……」

宿の娘「…ふわぁ…ぁ……眠いなぁ……」

ドロシー「…隠れろ、アンジェ」

アンジェ「ええ」

娘「…もう、まだ一番鶏も鳴いてないのに……せめてもうちょっとでいいから寝ていたいなぁ……」

ドロシー「宿屋の娘だな…暖炉の火起こしに朝食の準備って所か……早起きないい子だが……」

アンジェ「…こちらにとっては都合が悪い……気づかれないように部屋に入るしかなさそうよ」

ドロシー「ああ、あの子が厨房に入るのを待とう」

娘「…ぶるるっ…さむっ、とにかく早く暖炉の火をおこさなきゃ……あれ?」霧がかって冷え込む朝の空気にぶるっと身震いをして、それから持ち出した敷物のほこりをはたいた…と、そこで二人のロールス・ロイスが戻っていることに気が付いた…

娘「…あれ、この車ってあの女の人の……でも野鳥観察に出かけるから朝方までは戻らないって言ってたはずなのに…」不思議に思って車に近寄ってくる娘…二人が身を潜めている建物の角からは、もう数ヤードもない…

アンジェ「…どうやら別の案が必要になったようね、ドロシー」

ドロシー「ああ、仕方ない…アンジェ、しばらく我慢しろよ?」小声でささやくとぎゅっとアンジェを抱きしめて壁に押し付け、それから熱っぽい口づけを始めた…

アンジェ「んむっ、あむっ……はぁ、はむ……っ、ちゅっ♪」

ドロシー「んちゅっ、ちゅぅぅっ……んふっ、ちゅるっ♪」

娘「…こんな朝早くにお戻りだなんて何かあったのか…な……///」

ドロシー「んちゅるっ、ちゅぱ……ちゅぅぅっ♪」

アンジェ「ふぁぁ…はふっ、あふっ……もっと……ぉ///」

ドロシー「しーっ、気付かれたら困るんだから静かに…んちゅっ♪」

アンジェ「んんぅ…はむっ、れろっ……ちゅぷっ♪」

娘「…うわっ……///」(人気がないからって女の人同士…しかもこんなところで………ロンドンだったら当たり前なのかな///)

ドロシー「……誰?」

娘「!」慌てて息を殺し、壁の陰に身をひそめた…が、目を輝かせて食い入るように見入っている……

ドロシー「…気のせいかな?」

アンジェ「ねぇ、早くぅ……むちゅっ、れろっ…///」

ドロシー「分かったわかった…それじゃあ続きは部屋でしようか……♪」

娘「…っ///」音を立てないように足音を忍ばせて屋内に駆け戻る…

アンジェ「…んちゅっ、ぷは……行った?」

ドロシー「ああ……上手なお芝居だったぜ、一瞬本気なのかと思ったよ♪」

アンジェ「…冗談は止して」

ドロシー「はは、そうむくれるな……これであの娘の口止めは済んだな」

アンジェ「ええ、あの娘がこんなことを誰かに言えるとは思えないわ」

ドロシー「…まったく、私たちも罪作りなもんだ……きっとあの娘は今の光景を思い出しちゃベッドで悶々とすることだろうからな♪ …さ、部屋に戻ろう」

アンジェ「ええ」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/17(日) 09:23:31.48 ID:Axi76Tb1O
ノル公に捕まったらチェンジリング作戦終了だから尋問ネタ難しい
プリンセス誘拐計画が判明、アンジェが代わりに誘拐されてそれを白鳩が尾行する任務のはずがロスト、アンジェはならず者に王室雇われの影武者と勘違いされ国家機密について尋問(百合らんぼう)されるみたいな
ところで映画はいつになるんでしょうね〜アンジェの代役問題が原因なら関根さん二役でいいような...
294 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/18(月) 01:45:00.20 ID:LWgXHgoU0
>>293 まずはコメントをありがとうございます…色々な案まで考えていただき嬉しく思います


…個人的にはノルマンディ公の部下につかまってしまうと(おっしゃる通り)身元が割られてしまいスパイとして使えなくなってしまうので、そこはノルマンディ公以外の防諜組織に捕えられるも防諜・諜報関係の組織にありそうなライバル意識や何かで(実際の防諜組織も縦割り行政で連携が悪いことが多いそうですが…)伝わらず、移送や情報の請求が行われる前に「白鳩」が助けにくる……ようなのを考えております


……ちなみに他に考えている(いた)のは「敵の敵は味方ということでアイルランドの独立派やフランスの密輸業者に接触するも『アルビオンの人間は信用できねぇ』…ということで捕まる」とか「逮捕されてどこかに連れて行かれるも、それはコントロールがしかけた『忠誠度テスト』で、王国防諜部に見えたのも全てコントロールのエージェントだった」などですね



…映画は……どうなんでしょう。正直スクリーンよりも純粋に二期の方がいいような…もし代わりの方が決まったら、ドロシーに「アンジェ、最近声変わったよな?」というメタな台詞を言わせたいですね…(笑)



295 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/19(火) 01:51:08.62 ID:C7higvN70
…宿の部屋…

ドロシー「やれやれ、朝早くで良かったな。あの娘以外は誰も起きてないらしい……悪いが「マントと短剣」式の工作で疲れたし、ひと眠りさせてもらうぜ?」(※マントと短剣…典型的スパイ活動の比喩で、とくに活劇的のような場合のことを指す)

アンジェ「ええ……脱げる?」

ドロシー「どうにか。肌着が擦れるたびにズキッと来るがね…」

アンジェ「でも、その程度で済んで良かったわね」

ドロシー「やれやれ、気楽に言ってくれるぜ……しびれるような痛みこそ収まってきたが、今度はうずいて仕方ないよ…」服を脱いでスーツケースにしまうと「ぼふっ…」と音を立てあお向けでベッドに寝転んだが、たちまち痛みが襲ってきて、あわてて寝返りを打ってうつ伏せになった…

アンジェ「…大丈夫?」

ドロシー「そりゃ多少は痛むが…あ、そこにあるブランデーを取ってくれ」

アンジェ「これ?」

ドロシー「ああ……痛み止め代わりにな。それに昨晩は小川を這いずったりしたせいで凍えたし…」とくとくっ…とグラスに注ぎ、寝そべったままぐっとあおった…

アンジェ「…あまり飲みすぎないようにね」

ドロシー「ああ、そのくらい分かって……い゛っ…!」身体をねじって視線を向けようとした瞬間、またズキリときて顔をしかめた…

アンジェ「全く…いま薬を塗ってあげるわ」白いコルセット姿のままスーツケースから薬の容器を取り出すと、ベッドまでやってきた……

ドロシー「悪いな…しかし付きっきりでマッサージしてもらえるとはね……きっとプリンセスだってしてもらったことはないだろうからな♪」

アンジェ「…」表情を変えずに、きつくドロシーの背中をつねる…

ドロシー「痛っ、そう怒るなよ…軽い冗談だって♪」

アンジェ「口の軽さは命取りよ……で、腰に塗ればいいのね?」

ドロシー「ああ、腰のくびれのすぐ左上って所だ…どうなってる?」

アンジェ「大きなアザになっているわ…待っていなさい、痛み止めを塗ってあげるから……」とろりとした軟膏を背中に垂らすと、痛くならないようにそっと塗り広げる…

ドロシー「うわ…ずいぶん冷たいな」

アンジェ「そうかもしれないわね……どう?」

ドロシー「まだ分からないが、少なくとも悪い気分じゃないね」

アンジェ「ならいいわ」…軟膏をアザのある場所に塗りながら、ついでにこわばった筋肉も軽くマッサージしてあげるアンジェ…

ドロシー「ま、そうやって軽く撫でてもらうだけだってずいぶん違うもんだし……おかげで少し痛みが引いてきた」

アンジェ「そう、結構ね…」

ドロシー「ああ……んっ///」

アンジェ「…ドロシー?」

ドロシー「悪い…ちょっとこそばゆくて変な声が出たが……気にしないで続けてくれ///」

アンジェ「そう……続けていいのね?」

ドロシー「もちろん構わな……んぁっ///」

アンジェ「…」

ドロシー「んぅ…はぁ、んぅぅ♪」

アンジェ「……ねぇ」

ドロシー「な、何だよ……別に気にするなって///」

アンジェ「ふぅ…あのね、そんな艶っぽい声を出されたら気にもなるでしょうが……いったいどうしたの?」

ドロシー「いや、それがさ……昨夜の件で血がたぎったのか、何だか身体が火照って仕方ないんだ…///」

アンジェ「はぁ…まったく人が薬を塗ってあげているって言うのに……」

ドロシー「いや、だから気にしないで薬を塗っちまって……っ!?」

アンジェ「んっ、ちゅぅっ…♪」

ドロシー「ふむぅ……んぅっ!?」

アンジェ「…そんな声をずっと聞かされたら私だってたまらないわ……付き合ってあげるわよ」
296 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/03/22(金) 10:54:07.24 ID:JE+8CbTO0
ドロシー「はむっ、んむっ……ちゅぅ…」

アンジェ「んちゅぅ……ちゅぱ、れろっ…」

ドロシー「ぷはぁ……っ///」

アンジェ「どう?」

ドロシー「……たまらないね♪」

アンジェ「…ならこれはどうかしら……あむっ、はむっ…♪」

ドロシー「んっ、くぅぅ…っ♪」

アンジェ「不摂生な暮らし方をしている割には綺麗な身体をしているわね…ちゅっ、ちゅ…ぅ♪」

ドロシー「あ、はぁぁ…っ……なにせ商売道具だからな、そりゃ多少は気もつか…あ…あっ♪」

アンジェ「ん、あむっ……れろっ…」うつ伏せのドロシーにまたがり、身体をぴたりとくっつけるとうなじから下に向かって肌を吸い、ねっとりと舌を這わせた……窓の外でかすかに白み始めた明け空が調度品のシルエットを次第にはっきりさせ始め、同時にドロシーの艶やかな肌が白っぽいミルク色に浮かび上がっている…

ドロシー「あぁぁ…んぅ///」

アンジェ「…ドロシー」

ドロシー「ふぁぁ……何だ……?」

アンジェ「……ちゅぅっ♪」身体を伸ばしてドロシーにくちづけするアンジェ……濃いブランデーの芳香と、ドロシーの甘く刺激的な香りが鼻をくすぐり、絡めた舌に風味豊かなブランデーの味が広がった…

ドロシー「んっ、んぅっ……あむっ、ちゅぷっ…ちゅる……んちゅっ♪」

アンジェ「……はぁっ」

ドロシー「ぷはっ……アンジェ」

アンジェ「何?」

ドロシー「優しいキスだな…気持ち良かったよ……」

アンジェ「……そういう口説き文句は大事な時のために取っておきなさい///」

ドロシー「なに、そう照れるな…それに私の口説き文句の辞書は大した量だからな、一つふたつくらい使ったって困りゃしないさ」

アンジェ「…結構なことね」

ドロシー「ああ……ところで続きはまだかな?」

アンジェ「ふっ…まったく、雰囲気も何もあったものじゃないわね」

ドロシー「悪いな、何しろ俗物なもんでね…♪」にやにや笑いを浮かべて派手なウィンクを投げた…

アンジェ「…でしょうね」れろぉ…♪

ドロシー「んんっ、んぁっ……あふっ♪」アンジェのしっとりした唇と舌が滑らかなドロシーのもち肌を舐めあげ、細いが意外と長くて力のある指がとろりと濡れた秘所にぬるりと這入ってくる…

アンジェ「…はぁ、あぁ…ん///」右手をドロシーのために使い、左手は自分の膣内に滑り込ませた…

ドロシー「あっ、あぁぁ…気持ち良くてとろけそうだ……んぁぁぁっ♪」くちゅくちゅっ…にちゅっ♪

アンジェ「…ええ」ぢゅぷ…っ、くちゅっ♪

ドロシー「んはぁぁ、あっ…あぁぁぁっ♪」

アンジェ「私も…そろそろ……///」ドロシーの太ももにまたがったまま秘部を擦りつけ、荒い息づかいをしている…

ドロシー「ああ……んくぅ、あ゛っ…ん゛ぅぅっ…♪」

アンジェ「はぁぁ…んっ、くぅぅ……♪」

ドロシー「いっ……くぅっ♪」じゅぷっ、ぷしゃぁ…っ♪

アンジェ「はぁ…はぁっ……んぁぁぁぁっ♪」ぬちゅっ、とろ……っ♪
297 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/25(月) 02:19:34.17 ID:T54gQ+3x0
…しばらくして…

ドロシー「……ふふ、いい具合にとろけてるじゃないか…お前さんはいつもおっかない顔ばかりしてるからな、そういう表情は新鮮でいい」

アンジェ「はぁ、あ…はぁ……私は…身体が小さいから…ふぅ……あなたに合わせると…疲れるのよ……」

ドロシー「ま、その分テクニックは私より上だからいいじゃないか……まさか三回もイかされるとは思わなかったぜ♪」

アンジェ「ふぅぅ……私だって、怪我をしているくせにあなたがこんな激しくしてくるとは思ってなかったわ」

ドロシー「はは、悪かったよ♪ …さて、朝飯の時間まではしばらくあるし少し寝よう。それから風呂を沸かしてもらって、さっぱりしたら朝食が待ってる……って言うのはどうだ?」

アンジェ「…いいわね」

ドロシー「それじゃあ…ほら」

…裸で羽根布団にもぐりこむと端を持ち上げたドロシー…アンジェもコルセットを脱ぐと横にもぐりこみ、ドロシーが背中に腕を回して抱き寄せてきても逆らわなかった……

………



…朝食時…

ドロシー「……ん、んーっ♪」

アンジェ「おはよう…よく眠れたようね」

ドロシー「ああ、おかげさまでな。本当ならもっと寝ていたかったけど……空腹で目が覚めたよ」

アンジェ「朝食はここに運ばせる?」

ドロシー「いや、食堂に行こう…なにせ「付き合いが悪く顔を合わせようとしない人」と言ったら?」

アンジェ「エージェント」

ドロシー「…じゃあ気さくにおしゃべりなんてするのは?」

アンジェ「一般人」

ドロシー「だったら朝食は…」

アンジェ「食堂で決まり……だけど、腰のアザが椅子に触れるたびにうめいていたら宿の人に怪しまれるわよ?」

ドロシー「まぁ、そこはどうにか我慢するさ…それに薬を塗ってくれたおかげで、痛みも少しおさまってきたからな」

アンジェ「ならいいわ……どうやらあの娘が起こしに来たようね」

ドロシー「だな…足音がするぜ♪」

宿屋の娘「……おはようございます、奥様。お目覚めでしょうか?」おそるおそる部屋に入って来た宿屋の娘……

ドロシー「モーニン(おはよう)…ええ、起きているわ♪」ドロシーは胸を隠すように布団を引っ張り上げ、身体を起こした…横ではアンジェが髪を拡げ、甘えるような仕草でドロシーにしなだれかかっている……

娘「あ、はい…それで、朝食はいかがいたしましょうか……お部屋まで運びましょうか///」

ドロシー「いいえ、食堂に食べに行きますから…それとお風呂の支度をお願い」

娘「お、お風呂…ですね///」

ドロシー「…ええ、そうよ♪」

娘「わ、分かりました…」

ドロシー「それじゃあお願いね……あ、ちょっとこっちに来てくれる?」

娘「は、はひっ///」顔を真っ赤にしておずおずとやって来る…

ドロシー「…どうぞ、取っておいて♪」妙に優しい手つきで娘の手を両手で包むようにしてシリング銀貨を手渡し、ねっとりとした色っぽい目つきでじっと見た…

娘「あ、ありがとうございます…っ///」

ドロシー「それではお願いね」

娘「は、はいっ…///」

アンジェ「……飛び出すようにして出て行ったわね」

ドロシー「ああ…これで他のことはすっかり記憶から吹っ飛んだだろう♪」

298 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/25(月) 03:25:15.48 ID:T54gQ+3x0
…朝食時・宿の食堂…

主人「ご令嬢がた、ゆうべは良くお休みになれましたでしょうか?」

ドロシー「ええ、おかげ様で…綺麗な空気のおかげで、彼女の身体も少し調子がいいし♪」朝から風呂に入ってあちこちねとついていた身体をさっぱりした二人は、すっきりしたデイドレスに着替えて朝食の席についている…

主人「それは何よりでございます……なにせロンドンの空気は「やくざなカラクリ」の出す煤煙ですっかり汚れておりますし、身体に良いわけがございませんよ」

ドロシー「まったくもってね…おかげでこちらに来てからは食事も美味しいよ。少々はしたないけれど…」

主人「いえいえ、朝から食事が進むなんていうのは結構な事でございますよ…メアリや、お客様の食事はまだかい?」

娘「今持って行きます…!」

ドロシー「おー…昨夜の夕食も豪勢だったけれど、朝も美味しそうだ。 …さっそくいただくとしよう♪」

…二人の目の前に置かれた朝食は、こんがりと焼いた山形食パンの厚切りに濃厚な自家製バター、厚みが2インチはありそうで、まだぷちぷちと油が跳ねている焼きたてのハムステーキに、新鮮な卵を使った半熟卵、洋ナシのスライス……それと陶器の水差しに入っている搾りたてのミルクと紅茶のティーポット…

ドロシー「んむっ、これはいい……さ、遠慮しないでお食べ♪」

アンジェ「は、はい…///」

主人「さようでございます、お身体のためにもたくさん召し上がってくださいまし」

ドロシー「そうそう、いっぱい食べて私を喜ばせてね♪」

アンジェ「///」


…そういってドロシーとアンジェがやり取りをしていると、不意にエンジンの音が聞こえてきた……二人が演技を続けながら食事をしていると、公用の黒いロールス・ロイスが宿の前に停まり、中から背広姿の男が二人降りてきた…


主人「おや…お役人だなんて、一体なんでございましょうね……」不安そうに玄関に向かった…

ドロシー「……こんなのどかな村に役人だなんて、一体何だろうね?」

アンジェ「そうですね…」内心では正体を割られたかと身構えつつも、そのまま芝居を続ける……場合によっては役人を斬り伏せることが出来るよう、ハムを切り分けているそぶりをしながらテーブルナイフを持っている…

ドロシー「ね…この辺りはノッティンガムシャーだし、ロビン・フッドでも出たのかな?」ふざけ半分に言いながら椅子を軽く引いて、飛び出せる体勢を作った…

主人「…どうぞ、こちらでございます……」平和な田舎に住んでいるだけに、何もしていないうちからすっかり不安げな宿屋の主人…

背広男(がっしり)「やぁ、案内どうも…お客さんは全員ここにいるかい?」一見すると愉快そうながっしりタイプの男は、口でこそ笑みを浮かべているが視線は鋭い…

主人「はい、さようでございます…何しろ朝食の時間でしたので……」

背広男(細め)「…余計なことはいい」…もう一人の冷たい態度の男は黒い背広にソフト帽で、感情のない灰色の目をしている

背広(がっしり)「まぁまぁ、そう突き放すような事をいうなよ……おやじさん、後でおれたちにもその美味そうな朝食を頼むよ。ハラペコなんだ」

主人「はい、それはもう…」

背広(細め)「そういうのは後にしろ……表のロールス・ロイスは誰のだ。君のか?」食堂の隅で食事をとっていた地味な男に声をかけた…

地味な男「いえ…私は旅のセールスマンで、鉄道と乗り合い馬車を乗り継いで来たんです」

背広(がっしり)「ふぅん、そうかい…おやじさん、本当かね?」

主人「ええ、それはもう……それで、あの…」

背広(がっしり)「うん?」

主人「表の車でしたら、こちらのご令嬢方のお車でございますです…」しどろもどろで敬語までおかしな具合になっている主人…

背広(がっしり)「おやおや、わざわざ教えてくれてすまんね……朝食中に失礼します、お嬢さま方♪」ドロシーたちの方にのっしのっしと歩いてくると、帽子を持ち上げて軽く一礼した…大きな身体には多少きつそうな仕立ての悪い背広のせいで、内側に忍ばせているウェブリー・スコットのシルエットが浮かび上がっている……

ドロシー「構いませんとも…もし良かったらここにお掛けなさいな?」

背広(細め)「いえ、結構……表の車はお二人のですね」

ドロシー「ええ、そうですが…何か?」
299 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/27(水) 03:06:11.24 ID:fK7UlOMJ0
背広(細め)「そうですか」ドロシーの答えを聞くと、厳しかった態度がふっと弛んだように見えた…

背広(がっしり)「…お嬢さま方は旅行ですか?」

ドロシー「ええ、そうです……私はロンドンの社交界に疲れちゃったので、身体が弱い彼女の療養もかねて自動車旅行をね♪」

背広(がっしり)「そりゃあいい、空気も新鮮ですからね…で、これからのご予定は?」

ドロシー「ええ…これからドンカスターを経由してヨークシャーまで足を延ばして数日泊まり、それから帰りは道を変えてリーズ、シェフィールド、バーミンガムを通ってロンドンへ戻るつもりです」

背広(がっしり)「なるほど、それは楽しそうですね」

ドロシー「ええ♪」


…ドロシーとアンジェは「7」とも相談して「共和国のエージェントなら、施設を破壊した後は取るものもとりあえずロンドンや港町のカンタベリーへ行き、慌てて壁の向こうへ脱出を図るはず」…と王国防諜部が考えるとにらみ、あえてその逆を突いてアルビオン中北部をのんびりと巡る予定を立てていた…


背広(細め)「……どうもこの二人は違うようだが…どうだ…?」

背広(がっしり)「……ああ。緊急電は「黒のロールス・ロイス」だがこの二人のは濃緑色…乗っているのも「細身の男二人」って事だったが、見ての通り派手に遊んでそうな貴族の若い女に、もう片方はさして年端もいかない少女だ……結びつかないね…」ドロシーたちに聞こえないように身体を近づけて、ひそひそと話す背広の二人…

背広(細め)「…ならここはもういいか……?」

背広(がっしり)「…そうだな……早く次に行こう…」


ドロシー「…」(……あの施設を大空のかなたまで吹き飛ばしてやったのが真夜中より一時間ばかり前…指揮官があの爆発に巻き込まれずにいたとして、混乱を収めて政府機関に連絡するまでざっと二時間……報告を受けた防諜部がロンドンから故障なしで車をぶっ飛ばしてきたら……まぁ、だいたいは計算が合うか…)


背広(がっしり)「…いや、朝食中に驚かせてすみませんでしたね……もう結構ですよ」

ドロシー「それは何よりですわ♪」

背広(細め)「ご協力に感謝します……行くぞ」

背広(がっしり)「おいおい、そんな急がなくたって…せめて何か食っていこうじゃないか。おれはもう空腹で動けないよ!」

背広(細め)「馬鹿言うな…それでは失敬」

ドロシー「ええ」

主人「あの…もう大丈夫ですので……?」

背広(がっしり)「ああ、大丈夫だよ…ところで、よかったらあの美味そうなハムを厚切りにして、玉ねぎか何かと一緒にサンドウィッチにしてくれないか?」

主人「あ…はい、ただいま!」

背広(細め)「…おい、何やってる!」

背広(がっしり)「何って…朝飯の算段だよ♪」

背広(細め)「まったく、お前って奴はいつも口を動かしていないと駄目なのか?」

背広(がっしり)「そう言うなよ…おれみたいな巨漢は腹が減るんだ♪」…大食いで愉快でどんくさい男の演技を続けながら、さりげなく宿の食堂をもう一度見回すがっしり男……

主人「…お待ちどうさまでございます!」

背広(がっしり)「いやいや、速かったじゃないか。あんまり遅いと相棒がガミガミ言うから助かるよ……ほら、お代だ♪」

主人「はい、ありがとうございます」

背広(細め)「…ほら、行くぞ!」

背広(がっしり)「はいよ、待たせたな…」表に停めていた公用車に乗り込むと、あっという間に走っていった…

ドロシー「…何だったんだろうねぇ?」

アンジェ「そうですね、旅路が心配です……」

ドロシー「まぁ心配はいらないよ、私がいるんだから…ね♪」プレイガールが「可愛がっている」女の子にするように、妙に馴れ馴れしく手を重ねた…

アンジェ「…は、はい///」

ドロシー「ふふっ……ロンドンに戻ったら一千ポンドが待ってるぜ…?」何か恥ずかしい事でもささやくようなふりをして、耳元に口元を寄せた…

アンジェ「……報告書もね…」恥ずかしいかのように顔をうつむかせながらまぜ返した…

ドロシー「ふふ♪」

………


300 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/03/29(金) 02:24:23.62 ID:IQX79Epy0
…一週間後・ロンドン…

ドロシー「うーん、相変わらずのくすんだ灰色の空に煙たい空気……これこそ「我がなつかしのロンドン」ってやつだな♪」

アンジェ「元気な事ね……戻ったわよ」

プリンセス「…お帰りなさい、アンジェ♪」

アンジェ「ええ、ただいま」

ベアトリス「…どうでした? 上手く行きましたか?」

ドロシー「もちろん。まぁ少しばかりひやりとした場面もあったが……そっちは何もなかったか?」

ベアトリス「ええ、言われた通り静かにしていました」

ドロシー「よーし、いい子だ♪」犬でも可愛がるようにベアトリスの頭を撫でるドロシー…

ベアトリス「も、もうっ…!」

アンジェ「……とりあえずみんなには留守中あったことを聞きたいわ…しばらくしたら部室で集まりましょう」

ちせ「うむ……何はともあれ二人が無事で何よりじゃ。ついでに着替えて茶でも一服したらどうじゃろうか?」

ドロシー「そうだな、そうさせてもらおう……ベアトリス、お茶の準備を頼むよ♪」

ベアトリス「分かってます」

プリンセス「アンジェ、貴女も長旅で疲れたでしょう…今日はゆっくり休んでね?」

アンジェ「ええ、ありがとう」

プリンセス「……えっちはまた明日にしましょうね♪」

アンジェ「…も、もう……っ///」

…部室…

ドロシー「……というわけで、無事に施設は吹き飛んだ…というわけさ♪」機密事項は適当に省き、おおよそのあらましを話したドロシーとアンジェ……かたわらにはキャンディ茶葉を淹れた紅茶のティーカップときゅうりのサンドウィッチ、それにスコーンが置いてある…

ベアトリス「それで、怪我の方は大丈夫なんですか…?」

ドロシー「ああ…おかげ様で、もう跡も残っちゃいないよ」

ベアトリス「良かったです…」

ドロシー「はは、何せ私は丈夫に出来ているからな♪」

アンジェ「……とりあえず留守中にあった事はだいたい掴めたわ。みんな、お疲れさま」

プリンセス「アンジェとドロシーさんこそ…ゆっくり疲れを癒してね?」

………

…数日後・ロンドン市内の動物園…

7「…今回の件はご苦労さま。新聞記事にはならなかったけれど、こちらの情報網が成果を確認したわ。それにしても…マキシム機関銃を量産していた?」

ドロシー「ああ…それにさっきも言ったが、ウーズレー貨物自動車に装甲板を貼りつけて旋回銃座を搭載した「装甲自動車」もテストしていたようだぜ」

7「そう…何はともあれ、この作戦が成功したおかげで王国の機関銃生産は半年は遅れるわ……その間にこちらも機関銃の配備を急ぐことになるでしょう」

ドロシー「結構なことで…ところで、約束のモノは?」

7「それならきわめて合法的なルートで、貴女が指定した銀行に振り込んであるわ……確認書類よ」アフリカからやって来たばかりのキリンを見ようとする人の群れに混じり、パラソルを差してゆったりと歩き去った…

ドロシー「そりゃどうも…って、あの古狸め……いっぱい食わせやがった…!」銀行の確認書類を見て、思わずあきれたような声を上げた…

………

…在ロンドン・アルビオン共和国大使館の一室…

L「連絡役、ご苦労だった」

7「いいえ…おかげで珍しいキリンも見物できました。それにしても「D」は今ごろ地団駄を踏んでいることでしょうね?」

L「ふむ……私は嘘はついていないし、額をごまかしてもいないが…単にこちらが崩壊したら紙切れになってしまう「共和国ポンド」の紙幣で一千ポンド分を用立てただけだ。彼女は純金で寄こせとは言わなかったし、どこのポンドで払うかも指定しなかったからな」

7「それはそうですが、彼女が寄せる我々への信頼を低下させることにはなりませんか?」

L「ふ…彼女はもとよりはこちらを「信用」などしておらんし、そもそも「組織の元締めだから」と頭から信用するようでは一流のエージェントにはなれまい……それに「一千ポンド寄こせ」と言う時点で、機会があればこちらと縁を切りたいと考えている証拠だ…だからこそ共和国が存続しなければ一文にもならない「共和国ポンド」で払ったのだ。これで「A」も「D」もこちらに残るだろう」

7「…しかし、これで幻滅した「D」が多額の報酬をちらつかされ転向する可能性はありませんか?」

L「あり得んな。彼女はそんなに愚かではない……これはな、ある意味で私と彼女たちの知恵比べでもあるのだ」少しだけニヤリとしてみせた…
301 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/04/01(月) 02:27:42.64 ID:IZ6zbuaA0
…どうもお待たせしています。次のストーリーは多少考えてあります……が、カップリングはアンジェと誰がいいでしょうか? また数日開いてしまいますので、よかったら好きなカップリングを書き込んで下さい…


……また「見たい」という意見が多いようなので、今回はアンジェがピンチに追い込まれ尋問を受けたり受けなかったりします(…が、実際にエージェントとして身元を割られることがないよう、上手く話を持って行くようにします)…ちょっと苦痛などの表現があるかも知れません


302 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/01(月) 07:51:43.18 ID:bs4GA6SMO
やっぱりプリンセスかな
303 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/04/09(火) 10:48:08.83 ID:M9rLO2DT0
…case・プリンセス×アンジェ「The travel guide of London for spies」(スパイのためのロンドン旅行ガイド)…

…ロンドン・官公庁街の一室…

ノルマンディ公「……以上のように、ここ一年ほどのあいだで共和国スパイの活動が非常に活発化してきている。今度は陸軍の施設が破壊され、またしても工作員は逮捕することができなかった」

外務省情報部長「ふむ…ノルマンディ公、そのていたらくではそちらの組織が何のためにあるのか分かりませんね?」

海軍省情報部長「日頃自慢しておられるエージェントたちでも捕まられないとなると……いやはや、困ったものですなぁ」

ノルマンディ公「…お言葉を返すようだが、今回の件では連絡が陸軍省情報部にしか伝わっていなかった。我々がその情報を聞いたのは二日も経ってからだ……ハートレイ准将、なぜ二日も情報を留めておいたのかお聞きしたい」…冷たくさげすむような目で恰幅のいい陸軍省の代表を見た

陸軍省情報部長「それは……今度の破壊工作が我が方の秘密施設に対するものだったからだ。どこに共和国のスパイが潜んでいるか分からんのだから、大声でふれ回るわけにはいかんだろう!」

ノルマンディ公「ふむ…破壊工作が実行されている時点で機密が守られていないことは明白だ。今さら情報漏洩の心配など無用だろう」

陸軍省情報部長「いや、そうは思わん。施設の被害や再建までの日数を推測させないための情報統制だ」

ノルマンディ公「無駄なことだな…そんなものは建築工事に雇われる作業員や用意される建材の量から容易に推測できる。もっと詳しく知りたいと言うのならパブで大工たちにビールの二、三杯も飲ませれば、どこでどんな工事を請け負ったかも教えてくれるだろう」

陸軍省情報部長「ぐっ…」

ノルマンディ公「皆さんがスパイごっこに興じるのは結構だが……少なくとも今後は、各省庁ともに敵諜報員の情報は迅速かつ正確にこちらへと伝達してもらいたい。私からは以上だ」


…しばらくして・外務省…

外務省情報部長「…ノルマンディ公め。少し実績があるからと言って我々の事を素人(アマチュア)呼ばわりか……ミス・コート、防諜課長を呼んでくれたまえ」

秘書「はい」

防諜課長「……お呼びですか、サー・アルフレッド?」

情報部長「ああ、呼んだとも…いま君からの報告書を読んでいたのだが、どうもな……うちの防諜課は対外情報課に比べて顕著な成績を残していないように見えるのだがね」パイプに火を付け、紫煙をくゆらせている…

防諜課長「…と、おっしゃいますと?」…情報部長がやたらパイプをふかすのは機嫌が悪い時の癖だと知っているので、少し身構えた……

情報部長「いや、別に君を責めるつもりはないが……われわれ「外務省情報部」と言えば諜報・防諜に関しては他の省庁も一目置いている存在だ。職員は選り抜きの人員で構成されたエリートたちで、オックスフォードかケンブリッジを卒業した者以外は見かけないほどだからね……」

防諜課長「……ええ」

情報部長「…それがどうだ。数カ月前にはエンバンクメント(運河沿い)で要注意人物のブラックリストを奪取されたが、結局実行犯は闇の中…他にもいくつかの機密情報がこちらから盗み出されたようだが、これも手がかりはなし……どうなのだね?」

防諜課長「それはそうですが、何かこちらが動くたびにノルマンディ公配下の連中があれこれと口出しをしてきまして…」

情報部長「ふむ…そうだとしても、何か実績を残してもらいたいな。このままだと外務省情報部の沽券に関わる……それに、君だってアフリカの片隅にあるような植民地の現地事務所に飛ばされたくはないだろう?」

防諜課長「ええ」

情報部長「どうだね……こう、何か「これは」と思うような情報で、まだ防諜部の連中がつかんでいないものはないのかね?」

防諜課長「は……それが、実は一つだけ有望そうな案件を抱えておりまして…」

情報部長「ほほう…では期待しているよ?」

防諜課長「ええ、お任せを……」

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/09(火) 19:41:42.50 ID:9uUmDos7O
外務省ならアンジェさん割としっかり尋問されそうですね...
19世紀末の尋問ってなんだろう、水責めとか?
305 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/04/11(木) 00:40:08.78 ID:DXgjiEIo0
>>304 当時の外務省と言えば世界中に出先機関があったので諜報は強かったようですが……防諜はどうだったのでしょうね?


…先にあんまり書き込んでしまう訳には(ネタバレになってしまうので…)いきませんが、科学的な尋問手段(興奮剤・自白剤等)以外はたいていあったようですね…これらはどうも中世の異端審問(魔女裁判)や18世紀のフランス革命で磨きがかかったようですが…まぁあんまりグロテスクにならない程度に進めていきます……
306 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/04/12(金) 02:08:50.89 ID:EXXBfEpt0
…別の日・お茶の時間…

ドロシー「ようアンジェ…今回の任務は何だって?」ベアトリスたちと入れ替わるようにしてやってきたドロシーは、椅子にどっかりと腰かけるとカフェテーブルに肘をついた……

アンジェ「マナーが悪いわよ、ドロシー……今回は「産物」(プロダクト)の受け渡し。内容は陸軍省の機密資料で、インド方面における今後の戦略方針や師団の改編、それにあわせた人事についての書類のようね」

ドロシー「…インドねぇ……王国と共和国の権益争い、それに植民地を取り返そうっていうフランスの連中に、それぞれの出先機関や東インド会社……言ってみればあそこは「収拾のつかない椅子取りゲーム」みたいな状態だからな。動向の目安になる戦略方針を知ることができたら大きいってのは分かる」

アンジェ「そういうことよ…それを提供者は金と引き換えに渡すと言っている」

ドロシー「もしそれが本当だったら、まさに「値千金」ってところだが……よもやガセネタじゃないだろうな?」…けしの実が入った香ばしいパウンドケーキを頬張りながら眉をひそめた……

アンジェ「…この情報提供者とはこれまで大小合わせて十数回ほど取引があるけれども、いずれも産物の質は高かった……それに向こうがこちらを食いつかせるための撒き餌として「流してもいい」と考えるレベルではない高度な情報も含まれていたことから、コントロールは「本物」だと判断しているわ」

ドロシー「なるほど。なら喉から手が出るほどだろうな」

アンジェ「ええ、そうでしょうね…対象との接触パターンは「B」方式」

ドロシー「手紙は来たのか?」

アンジェ「ええ…手紙には金曜日の13時にレストランの「ハイバーニア」で待ち合わせとなっていたわ」

ドロシー「……と言うことは16時にコーヒーハウスの「ゴールデン・ライオン」で受け渡しか」

アンジェ「そういうことね…それといつものように支援要員を交代する」

ドロシー「了解。それじゃあ監視役をベアトリス…私が車中で待機だな?」

アンジェ「そうなるわ」

ドロシー「わかった……しかしだ、いくら重要な資料だからってわざわざお前さんほどのエージェントを使うこともないだろうにな?」

アンジェ「…と言うと?」

ドロシー「お前は私やベアトリスと違って取り替えが利かない……プリンセスと「チェンジリング」のことを考えてみろ」

アンジェ「だから?」

ドロシー「コントロールはお前さんの才能を無駄遣いしてるって言いたいのさ…トップ・エージェントを情報の受け渡しに使うなんて、サラブレッドをクズ物屋の馬車引きに使うようなもんだ」

アンジェ「言いたいことは分かったわ。でも今回の機密情報は一段と重要度が高いそうだし、それを扱えるようなエージェントがちょうど出払っているから……致し方ないわ」

ドロシー「なるほど…金の卵を取るためなら「やむを得ない」ってか?」今度はクルミと干しブドウのパウンドケーキにフォークを突き刺しながら首をかしげた…

アンジェ「ええ」

ドロシー「だとしてもなぁ……コントロールは何を考えているのやら」

アンジェ「さぁね、彼らの頭の中は推し量りがたいわ」

ドロシー「ふぅ、私たちに考えを見抜かれるほど単純じゃない…か」

アンジェ「そう言うことよ」

ドロシー「…なるほど」

アンジェ「とにかく後方支援は任せたわ…やる気はあるけれど、ベアトリスだけでは心もとない」

ドロシー「ああ、任せておけ……ま、手早くスマートにこなすとしよう♪」

アンジェ「そうね」

ドロシー「それにしても、コントロールのよこすけちな経費と人使いの荒さときたら……時々、この業界にも労働組合とか保険があればいいのに…って思わないか?」

アンジェ「……少しはね」

ドロシー「だよな…それじゃあ貧乏エージェント同士で乾杯だ」ティーカップを軽く持ち上げて、口の端にニヤリと笑みを浮かべた……
307 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/04/16(火) 10:30:22.62 ID:Hi11guKo0
…数日後…

ベアトリス「そろそろ時間でしょうか?」

ドロシー「午後二時か…まぁ、ちょうどいいだろうな」

アンジェ「…それじゃあ私も支度にかかるわ」

プリンセス「みんな、気を付けていってらっしゃいね…♪」

アンジェ「ええ」

ドロシー「どうも、プリンセス……よし、それじゃあもう一度手はずを確認しよう。ベアトリスは周辺を歩き回って王国の連中が張ってないかを確かめる…私はその間ゆっくり車を走らせるから、異常がなかったら「ゴールデン・ライオン」のはす向かいにある文房具屋の窓際に立って指定の合図だ」

ベアトリス「はい」

ドロシー「まぁ今さら言うこともないだろうが……行くまでの間も尾行されないように「保安措置」をとれよ?」

ベアトリス「分かってます。回り道をして時間をかけるんですよね?」

ドロシー「ああ、そうだ……最低一時間だからな?」

ベアトリス「はい」

ドロシー「何度も言ってしつこいようだけどな……ただ歩くんじゃなくて出口の二つある店に入って裏口から出たり、急に細い角で曲がったり…とにかく追跡者が目立たずには済まなくなるようにするんだぞ?」

ベアトリス「はい、上手くやります」

ドロシー「それでいい…アンジェはランデヴーの場所までは乗合馬車だな?」

アンジェ「そうするつもりよ。私は目立たないほうがいいもの」

ドロシー「…だな」

アンジェ「ええ…それと、ちせ。悪いけれど貴女は待機」

ちせ「うむ…その間プリンセスの身辺は私がお守りしておく」

アンジェ「頼んだわよ……それじゃあ、準備はいい?」

ドロシー「完了だ…そっちは?」

アンジェ「ええ、出来ているわ……もっとも、情報の引き渡しだから得物は持って行かないけれど…」

ドロシー「ああ、その方がいい…変に銃なんて忍ばせて、余計な厄介事をしょい込むことはないからな」

アンジェ「その通りね。それじゃあ行きましょうか…ベアトリス、貴女が先行して」

ベアトリス「はい、それじゃあ行ってきます」ベアトリスは監視地点に選んだ文房具屋とぴったりはまる寄宿学校の制服姿で、とことこと歩き出した…

ドロシー「よし…じゃあ私も行ってくるかな♪」いかにも遊んでいそうな「上流階級のプレイガール風」にまとめた格好でウィンクをすると、ぜいたくなロールス・ロイス(RR)にひらりと乗り込んだ…

アンジェ「ええ、行ってらっしゃい…私はもう数十分したら出る」

ドロシー「ああ、任せた」

プリンセス「それでは気をつけ……うっ」

アンジェ「どうしたの?」

プリンセス「いえ、なんだか風が冷たくて……身震いが出てしまったの」

アンジェ「…風邪を引いては困るわ。暖かくしておきなさい」

プリンセス「そうね……そうするわ♪」

アンジェ「ええ。それじゃあ行ってくるから、後はお願い……」

………

308 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/04/21(日) 02:45:42.27 ID:rE/r2QCC0
…ロンドン市内…

ドロシー「…周囲に防諜部の車は…いないか。連中ときたら判で押したように黒のRRと決まってるもんな」…防諜部の車は目立たないようにほとんどが黒塗りで、たいていは性能がいいロールス・ロイスを使っている……そのせいで、本来は地味なはずの「黒のRR」が逆にトレードマークのようになっている…

ドロシー「……それに、どうやら監視役も見えないな」


…ドロシーは「シルバー・エンジェル」と名付けた、四人乗りの大柄な車体に特別誂えのぜいたくな内装をほどこしたRRのカスタム・カーでゆっくりと通りを流しつつ、貴族のプレイガールらしく時折通りを行く女性たちに流し目をくれる……と同時に、やたら熱心に店先のショーウィンドウを眺めていたり、半日遅れの朝刊を二人して眺めているような場違いな連中を探す…


ドロシー「うーん…それらしいのはいないな。もっとも、防諜部の連中だとしたらそんなへぼ演技をするわけないが……」

ドロシー「…なるほど、ベアトリスもそれらしいのは見かけてないのか……よし」文房具屋のショーウィンドウ越しに見える位置にベアトリスが立ち、万年筆を手に取って眺めるふりをしながらそれとなく手を上下させた……それを見てドロシーもあらかじめ決めておいた宝飾店の前にRRを停めて合図とした…

アンジェ「……安全確認は済んだようね」…ドロシーは通り一つ分ほど離れた宝飾店でウィンドウショッピングに興じながら広く周囲を警戒し、至近距離での異常はベアトリスが監視し、場合によってはアンジェに接触の中止を合図する……


………



…数分後・コーヒーハウス「ゴールデン・ライオン」…

アンジェ「…」


…対象が接触してくるまで五分間だけ待ち、もし来なければ事情があって時間に間に合わなかったと判断して、一時間後に第二の場所で再び待つという基本的な接触スタイルで待ち合わせているアンジェ……一見すると興味なさそうな顔で新聞を眺めているように見えるが、それでいてすでに店内をさっと見渡している…敵のエージェントはもちろん、情報の受け渡しをする段になって見知った顔とばったり出くわし、名乗っている名前と違う名前を呼ばれたり……などという冗談にもならないドジを踏まないよう、店内で声高に議論している紳士たちや王室のゴシップに興じているご婦人たちを確認した…と、時間ぴったりにそれらしい人物が入ってきた…


背広姿の紳士「…」

アンジェ「……あれね」安全確認が済んだ合図として、右手の側に置いてあった新聞を左手側に置き直す…


…アンジェの視線の先にいる情報提供者は灰色の背広にチョッキを着て、金鎖の懐中時計とステッキ……と、ごく普通の紳士姿をしている…胸には白いハンカチがきちんと形通りに差してあり、小脇に「ロイヤル・ロンドン・タイムズ」を挟んでいて、アンジェの合図を見ると向かいの席に腰かけた…


紳士「…」腰かけると新聞を読みながら紅茶をすする…数分の間何事もなく過ごすアンジェと情報提供者……

アンジェ「……ふぅ」読みかけの新聞をもう一度テーブルに置いて、いかにもくたびれたようにため息をついた…

紳士「……何か面白い記事は出ていましたか?」

アンジェ「いいえ…私には少し難しかったようです」

紳士「お嬢さんにはそうかもしれませんな……お勉強ですか?」

アンジェ「ええ、まぁ…そんなところです」

紳士「それは立派ですな……では、お邪魔しないように失礼するとしましょう」…そう言いながら、わざとお互いの新聞を取り違えて持って行った……

アンジェ「…ええ、お気遣いありがとうございます」…アンジェも素知らぬ顔で情報提供者のもって来たほうの新聞を手にした…店の中で確認するわけにもいかないが、たいていは真ん中のページに封筒が留めつけてあり、そこに情報が入れてある……

アンジェ「…」提供者が先に去るパターンの接触方式だったので、しばらくのあいだ紅茶をすすって待つ…

………
309 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/04/25(木) 02:09:04.72 ID:G+rdVvKh0
…高級宝飾店…

店員「こちらなどいかがでしょう? …お客様に大変お似合いかと存じます」

ドロシー「そうね、まぁ悪くはないわ……」

店員「さようでございますか…ではこちらなどはいかがでしょうか。インドで産したルビーでございますが、大きさも輝きもこの通りで…」陳列棚に収まっている金とルビーのネックレスを指し示した…中央にはめ込まれたルビーは大豆くらいの大きさがあり、それを取り巻く金もふんだんに使われている…

ドロシー「まぁ…ずいぶんと大きいのね?」

店員「はい。あなた様のように堂々としていらっしゃる方には、このくらい立派な石でなければ釣り合わないかと…舞踏会でも夕食会でも、これをお召しになれば他のご婦人方と差をつけることが出来るかと存じます……」

ドロシー「…そうねぇ」(…よく言うよ……確かに石は大きいが色がくすんでるし、おまけにネックレスの細工そのものも趣味が悪い…それに私のことを遠まわしに「骨太」だって言いやがった……おおかた植民地か何かで一山当てた平民上がりの成金くらいに思ってやがるな…)

店員「いかがでございましょう?」

ドロシー「えぇ…そうね……」(そろそろ取引も終わった頃だろうし、後は適当にあしらってここを出ればいいな……)

情報提供者「…」

ドロシー「んー……エメラルドとルビーだったら、どっちのイブニングドレスに合うかしら……」(誰か出てきたが、あれが取引相手か……妙に慌てふためいてやがるようだが……って、まずい…!)


…ドロシーが陳列棚のネックレスやブローチを退屈そうに眺めていると情報提供者があたふたと裏道に消え、それと入れ替わるように窓の外を数台のRRと、ほろを張ったマーモン・ヘリントン乗用車が飛ばしてきた…ドロシーは髪型が崩れていないかどうか確かめるようなふりをして手鏡を取り出し、光を反射させて文房具屋のベアトリスに「緊急事態」の合図を送った……が、十数秒もしないうちに車は「ゴールデン・ライオン」の前に急停車し、中から数人の男が飛び出して店内へ飛び込んでいった…


店員「鏡でしたらこちらにございますよ?」

ドロシー「ええ、ありがとう…でもやっぱりルビーと緑のドレスは合わないわね。またにするわ…♪」

店員「さようでございますか……では、またのお越しをお待ち申し上げております…」白手袋をはめた若い紳士の店員は、貴族の老嬢や気難しいオールド・ミスたちをたぶらかすような笑みをにっこりと浮かべ、出口まで見送ってきた…

ドロシー「それではまた来ますわ」(くそ……アンジェが捕まったからって、ベアトリスが慌てて飛び出さなきゃいいが…)

…文房具屋…

ベアトリス「…っ」店のショーウィンドウにきらりと反射したドロシーの合図を見るやいなや、万年筆を見比べるようなふりをして腕を上げ、アンジェに向けて合図を送った……が、それを完全にする暇もないうちに車が「ゴールデン・ライオン」に乗りつけ、どやどやとエージェントらしい男たちが店内に飛び込んで行った…

ベアトリス「…」(冷静に…冷静に…「たとえ私たちの誰かが捕まったとしても落ち着いて行動し、自分の存在を明かすようなことはしてはいけない」って、アンジェさんに教わったんですから……)

ベアトリス「……すみません、またにします」

文房具屋の主人「そうかね…では、また必要なものがあったら来なさいよ?」

ベアトリス「はい…」

…文房具屋を出ると「ゴールデン・ライオン」に視線を向けないようにして普通の足取りで歩き、その場を去るベアトリス…そっと角を曲がると裏道に入り、それからドロシーとの集合場所に向かった…

…「ゴールデン・ライオン」…

アンジェ「…」(あと二分…それだけ待って出ていけば怪しまれない……)

…紅茶の代金はすでに払ってあり、あとはタイミングよく紅茶を飲み終わるように加減しながら窓から見える文房具屋を眺めている……と、ベアトリスの小さい姿が動いて「緊急事態」を示す形で腕を上げた…

アンジェ「…」静かに紅茶を飲み終わると情報が挟んである新聞を畳み、化粧室に入るふりをして裏口から抜け出そうと席を立った…

店員「うわっ…ちょっと、何をするんです!」

背広の男「公務の執行中だ、邪魔立てするな!」裏口の方で店員ともみ合う音がしたかと思うと、どかどかと足音も荒く数人の男が駆け込んできた……アンジェは無表情で、さりげなく表側から出ようと何歩か足をすすめた…

コートの男「よし…全員動くな!」数秒もしないうちに表側にも車が停まり、似たような雰囲気の男たちが飛び込んできた……

アンジェ「…っ」(…どうやらはめられたようね)

指揮官らしい男「よし、いたぞ……確保しろ!」途端に二人の男がアンジェの腕を左右からつかみ、別の二人が3インチの「ウェブリー・スコット」を突き付けた…のこりの男たちは他に怪しい動きを見せる者がいないかと周囲をにらみつけ、ものものしく見張っている…

アンジェ「な、何ですか……!?」震え声を装っておびえたふりをする…

指揮官「とぼけるな、自分でもよく分かっているだろうが…!」

アンジェ「何の事だかわかりません……女性が選挙権を求めてはいけないんですか…っ?」

(せめて「婦人参政権論者」のふりでもすれば、ドロシーたちが越境するなり証拠を始末したりするための時間くらいは稼げる……それに野次馬がこれを見ても、何となく「捕まった活動家の女がいたっけ…」程度ですぐ忘れられてしまうはず……)

指揮官「ふん……連れて行け!」引きずられるようにして店の外に連れ出されるアンジェ…

アンジェ「…放して、放してくださいっ……!」マーモン・ヘリントンの後部座席に押し込まれそうになる寸前でひとりを振り払うと、暴れるふりをしながら小指くらいの小さなガラスのアクセサリーを車の後部に叩きつけた……

男「このっ…!」山猫のように暴れるアンジェに手こずったが、とうとう担ぎ上げるようにしてアンジェを放り込んだ…

アンジェ「…嫌っ、放して!」

指揮官「よし、出せ…!」運転手がアクセルを踏み込むと、車体がぐらりとかしぐほどの勢いで急発進した…

………
310 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/04/30(火) 01:22:36.36 ID:s2x1A2Qf0
…数十分後・倉庫街のネスト…

ベアトリス「ドロシーさん、アンジェさんが…!」

ドロシー「ああ、分かってるよ……それにしてもあの提供者のちくしょうめ、私たちの事を売りやがった…もし見つけ出したら生きながら切り刻んでミートパテか、鉛玉を山ほどぶち込んでグリュイエール・チーズ(よく漫画にでてくる黄色いチーズ)みたいに穴だらけにしてやる……」裏切り者をののしりながら「セイロン紅茶」と書かれた木箱をどかし、床下の隠しスペースから防水布の包みをいくつも取り出す…

ベアトリス「と、とにかく早くコントロールに連絡して指示を仰がないと…!」

ドロシー「……いや、そいつは駄目だ」

ベアトリス「どうしてですか!」

ドロシー「…コントロールに連絡して、なんて言われるかだいたい想像がつくからさ……」

ベアトリス「もちろんアンジェさんは貴重なエージェントなんですから、助けるようにしろって言うに決まって……」

ドロシー「…捕まったエージェントの救出を指示してくれるような情報部があったら、世界中の情報部員はみんなそこに移籍しちまうよ……もしコントロールに連絡を入れたら「状況は危険、直ちに「D」以下は脱出を図れ」と同時に、利用価値より情報漏れの危険の方が高くなるからプリンセスを抹殺せよ…と来るだろうな」

ベアトリス「そんな…!」

ドロシー「この業界なんてそんなもんさ……だからコントロールに連絡するわけにはいかない」

ベアトリス「…でも、だったらどうするんです?」

ドロシー「ああ、その事だが…ちゃんとした尋問を受ければ遅かれ早かれアンジェも「歌う」(白状する)ことになる……だけどな、冷静なアンジェの事だから「遅かれ」の方になるのはほぼ間違いない…だから、アンジェが情報を吐かされる前に居場所を突き止めてやっこさんを取り戻す」

ベアトリス「だとしても、肝心のその場所が分からないことには……」

ドロシー「ふっ……車のエンジンをかけるふりをして捕まった瞬間を見ていたんだが、あの冷血女はとことん肝が据わってるよ…連中を振りほどこうとして暴れながら、こいつを使ったのが見えたんだ」そう言ってペンダントのような小さいガラスの飾り物を見せた…

ベアトリス「…それは?」

ドロシー「ああ、これか……ヘンゼルとグレーテルの話は知ってるか?」

ベアトリス「お菓子の家の…ですか?」

ドロシー「ああ……この小さいガラス瓶はな、ヘンゼルとグレーテルが道しるべで森に撒いて行った白い石ころと同じ役割をするんだ…中にはケイバーライト鉱石の粉末を溶かし込んだ液体が入ってて、この片眼鏡(モノクル)みたいな分光器で見ると、うっすら痕跡が光って見える……っていうシロモノさ」

ベアトリス「……じゃあそれを追えば」

ドロシー「めでたくお家にたどりつける…って訳さ。とにかくアンジェが何かを吐かされたり、移送されたりするまでに向こうのネストを突き止めて、情報を拡散される前に連中から取り戻す……残された時間はあまりないから、とっとと準備をするんだ」そう言いながら包みをほどき、中の銃に弾を込めはじめた…

ベアトリス「は、はいっ…!」

ドロシー「…ちせにはもう伝書鳩を送ったから、こっちに急いでいるはずだ……それから、プリンセスは私たちとの関係がばれないように普段通り過ごしてもらう…というわけで今回は手が足りないから、お前さんにも荒事をやってもらう事になるからな……頼むぞ?」

ベアトリス「……分かりました」

ドロシー「結構…だったらそこにある銃の中から好きなのを選んで弾を込めな?」


…そう言いながら4インチ銃身の「ウェブリー・スコット」二挺、水平二連の散弾銃…それからアメリカ西部の開拓地で見られるウィンチェスター・ライフルを限界まで切り詰めた「ランダル」銃のように、リー・エンフィールド小銃を限界まで切り詰めた改造銃……それにロープやナイフ、スティレットと言った「七つ道具」を手早く身に着けていく……そして最後に、アンジェの愛用している「ウェブリー・フォスベリー」オートマティック・リボルバーを背中側のホルスターに差した…


ドロシー「ベアトリス…必要になるだろうから、そのドカンといくやつも持っていくといい」

ベアトリス「……はい」台の上に並べられた銃から3インチのウェブリー・スコットと護身用の小型リボルバーを取り上げ、弾を込める…それからナイフをひと振りと、真鍮や黄銅で出来た様々な道具を、黒い活動用の服についたあちこちの輪っかや内ポケットにセットする……

ドロシー「…」水平二連に込めた鹿撃ち用の散弾を再確認すると、パチンと銃尾を閉じた…
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/30(火) 01:31:32.57 ID:R4BcImhYO

ドキドキですね。今日はこれで終わりかな?
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/04/30(火) 11:33:04.80 ID:RUsYBKjLO
娼館(女性向け)に潜入任務とかどうだろう
プリンセスは顔割れてて無理かもだが
客のリクエストということでベアちせとかもできるよ!
313 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/01(水) 00:41:34.13 ID:j9HMYbwp0
>>311 >>312 の方、コメントありがとうございます……そしてこのssを見て下さっている皆さま「令和」おめでとうございます。皆さまがの日常が平穏無事でありますように…


…そうですね、貴族令嬢やご婦人がたの通うアブノーマルな「会員制社交クラブ」のようなものは考えておりましたが……せっかく頂いたアイデアですので、どこかでエッセンスとして取り入れてみたいと思います

……それといよいよアンジェの尋問に(新元号早々にこんな場面で申し訳ないです…)入りますので、よろしければお付き合い下さい
314 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/01(水) 02:15:40.82 ID:j9HMYbwp0
…同じ頃・どこか…

アンジェ「…」


…マーモン・ヘリントン乗用車に乗せられたアンジェは頭から袋をかぶせられ、その上さらに「道順を覚えきれないように」と、運転手は車を目一杯飛ばしていた……しばらく左右の席に座ったエージェントから頭を押さえつけられていると唐突に車が停まり、ドアが開く音がした…


左側のエージェント「よし、出ろ!」

アンジェ「…」転ばないように足もとをさぐりさぐりしながら降りるアンジェ…靴音が響く感じはレンガ敷きで、周囲にたちこめる匂いから湿ったレンガの土のような匂いと野菜くず、石炭の煤煙を嗅ぎ分けた……とはいえ、それだけではロンドン中の下町やスラムが当てはまる…左右のエージェントに腕をつかまれ、半分持ち上げられたような格好でどこかに連れて行かれる…

エージェント左「…階段だ、足もとに注意しな」

アンジェ「…」(九…十……)コツン、コツン…ッ、とわびしげな音をたて、階段が続く……一歩づつ歩きながら、反射的に階段の段数を頭に叩き込むアンジェ…

エージェント左「……よし、座れ」左右の男に抱え上げられ、テディベアのように椅子に座らされた

アンジェ「…」

エージェント左「…おい、そっちは掛けたか?」

右側のエージェント「待ってくれ……よし、できた」ロープで椅子の脚に縛りつけられたアンジェ…

エージェント左「よし…それじゃあ目隠しを外してやれ」

エージェント右「ああ」

アンジェ「……っ」


…目隠しの袋を外されると真っ暗闇だった視界が一気に明るくなり、アンジェは目を細めた…視界に入ってきたのは尋問官の座る椅子が三脚と小ぶりなテーブルが一つ……テーブルの上にはランプが置いてあり、視線を動かして素早く足元を確認すると椅子は板張りの床に固定されていて、身動き一つできそうにないことが見て取れた…


アンジェ「…」そのまま黙って座っていると、エリート官僚風のパリッとした身なりをした長身の男が入ってきて、二人のエージェント…アンジェを連れてきた二人…が左右に控えた。エージェントは片方が太りぎみで、もう片方はあまり背が高くない…


長身のエージェント「さてと、お若いお嬢さん(ヤング・レディ)…まずはお互いに自己紹介といこう」灰色の背広をきた長身の男は水色の目でアンジェを見た…かすかに唇を吊り上げたのは微笑みのつもりらしい……

長身「…私はスミス……本名ではないが、まぁ「ジョン・ドゥ」(名無しの権兵衛)では何かと不便だからね」椅子に腰かけて高級なパイプを取り出した…

長身「さてと……今度は君の名前をお伺いしたい」

アンジェ「マーガレット…マーガレット・ホワイトです。どうしてこんな目にあうのかわかりません……放してください!」

ふとっちょ「…ふざけるな!」そう怒鳴りつけて激しい平手打ちを頬に見舞って来た……

アンジェ「…っ!」(頬には大して重要な器官がないから、多少痛めつけても身体に影響はない…と言うことは何か情報を引き出すか、場合によっては寝返りを打たせたいということね……)ファームで教わったさまざまな事を思い出し応用しながら、相手の出方を見るアンジェ……

長身「……ミス・ホワイト。もっとも、他にも名前があるかもしれないが…君のような職業の人間なら分かっているだろう? 君が何をして、王国と女王陛下の治世に対してどんな罪を重ねたか……だがね、まだチャンスはある」そう言ってそらぞらしい笑みを浮かべ、パイプをひと吹きした…

長身「…君はまだ若い。なにか上手い事を言われたか、さもなければ金に目がくらんだか…とにかく共和国の連中にだまされたんだろうってことは分かる……もし協力してくれれば、小さくはないその「過ち」を水に流して、もう一度やり直す機会ぐらいは与えられるし、その方が君の身のためにもなると思うのだが……どうだね?」

アンジェ「……少し考えさせて下さい」(…こうした場合、いくらか協力的にして相手に「寝返りの可能性がある」と思わせることで、多少優位な立場を築ける……)

長身「もちろん…紅茶でも持って来させようか?」

アンジェ「…はい」

長身「だそうだ……廊下の奴にそう言って持ってこさせたまえ」

ちび「はい」


…紅茶が運ばれてくるとちびのエージェントがカップを支え、アンジェの唇に当てた……それを見ながら自身も紅茶をすする長身の男…ありがたいことに紅茶は熱すぎでもなければ冷めすぎでもなく、少しだけ砂糖とミルクも入っていた…


長身「…お気に召したかね?」

アンジェ「ええ、ありがとうございます…」

長身「結構…さて、いくつか君に聞きたいことがある……」

315 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/03(金) 01:55:11.57 ID:8x3RGZl00
長身「…さぁ、教えてくれたまえ。君の協力者は誰だ? いつ、どこで…そして誰にこの文書を渡すのだ?」

アンジェ「協力者なんて知りません! 私は女性でも選挙に行き、議会に立候補できるようにしたいと活動しているだけです…!」

長身「見え透いた嘘をつくのはやめたまえ……どこでスパイとしての訓練を受けた? 指導教官の名前と特徴は? 施設はどこにある? 訓練生の数は?」

アンジェ「言っている意味が分かりません! 本当に女性の政治参加のために活動していただけです、あなたのいう「スパイ」だなんて知りません!」

(…向こうがすべてを知っているなら、もっと具体的な事を聞いてくるはず……にもかかわらずこんな大雑把な質問しかできないということは、まだ確証をつかんではいないようね……ここはドロシーたちが越境するための時間稼ぎにも、しばらく「婦人参政権を求める活動家」で通さないと……)

長身「ふぅ…君がそのように非協力的だと、こちらとしてもいくらか「手荒な手段」をとらざるを得なくなるぞ……?」

アンジェ「そんなことを言っても、まったく知らないことを話すことなんてできません!」


…当然アンジェとしても、厳しい尋問にかけられて「言うべきでない」ことがらまで全て吐かされるよりも、敵方に協力するふりをして「どうでもいいこと」や「つまらない情報」を白状しながら時間を稼ぎ「金の卵」を傷つけないようにする方が正しい手段なのは分かっていた……とはいえ、最初からあっさりと屈してペラペラしゃべってしまうと尋問官に馬鹿だと思われ、悪くすると逆に怪しまれてしまう……そのほど良いさじ加減と名演技こそが、敵方に捕まった情報部員の出来る唯一の「腕の見せ所」で、味方を助ける(場合によっては)最後の「産物」(プロダクト)になる…


長身「やれやれ、困ったご婦人だな…トム」

ふとっちょ「はい」…ふとっちょのエージェントはアンジェの靴を脱がしにかかった

アンジェ「……何をするんですか、止めて下さい!」

長身「なら質問に答えたまえ…君がこの文書を届ける先は? 誰に渡せと指示されている? 指令を出しているのは誰だ?」

アンジェ「本当です、本当に知らないんです…!」

長身「…ならば仕方ない」


…長身があごをしゃくって合図をすると、ふとっちょはアンジェの脚のロープを解いて足を水平に持ち上げ、革の平たいベルトで足の裏を叩きはじめた……尋問の仕方としては一番単純で、始めの数回は大したことがないが次第にじんじんと痛みが増し、最後は柔らかい足の裏が真っ赤になって、火傷でもしたように傷むことになる…尋問としてかなり効果的な上に、もし手違いで拘束を解かれても真っ赤にはれて痛む足では逃げ出すことも難しい……と「一石二鳥」の効果がある…


アンジェ「お願いです、止めさせて……!」

長身「だったら答えるんだ…君を「運用」しているのはどこだ。共和国の情報部か、それともアイルランドの独立主義者か、フランスの「カエル」(フランス人の蔑称)どもか?」

アンジェ「ですから何度も言っているように……うぅっ!」

長身「とぼけるな! 婦人活動家が陸軍省の情報を欲しがるとでも言うのか……!?」

アンジェ「そんなの知りません…っ!」(…この尋問官、うっかり「陸軍省」ってしゃべったわ……ここは私が一本取ったわけね……)痛みに耐えながら髪を振り乱して(尋問に耐性などない普通の女性らしく)泣き叫ぶ演技をし、冷静に状況を把握し続けるアンジェ…

長身「…さあ、答えたまえ!」

アンジェ「ですから、知らないものは知りません…あぁっ!」

長身「……強情だな、ミス・ホワイト…だが、我々は交代も出来れば休むことも出来る……しかし君はそうはいかない。全てを話してもらうまで、こうした「取り調べ」が延々と続くぞ?」

アンジェ「うぅ…この……人でなし…!」

長身「何とでも言いたまえ。我々はアルビオン王国と女王陛下のためにやっているのだ」

アンジェ「うっ……王国の名を借りて…三人がかりで女一人を痛めつけるなんて、あなたたちのやっていることは女衒(ぜげん)以下だわ…!」

ふとっちょ「何を!」

アンジェ「しかもちびにふとっちょ、やせっぽち…まるでドタバタ喜劇の組み合わせよ……!」(…尋問官を怒らせれば、冷静な判断を失わせることが出来る…そして相手は、うっかり手の内をさらしてしまうことがある……)

ちび「この…言わせておけばっ!」アンジェの頬に平手打ちが飛んだ…

アンジェ「うっ…!」

長身「やめろ! …どうやらお嬢さんはもっと本格的な「取り調べ」を受けないと吐く気が起きないようだな……隣へ連れて行け!」

ふとっちょ「…はい」

ちび「……分かりました」

………
316 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/08(水) 02:17:12.30 ID:br1oWSNJ0
…別室…

ふとっちょ「…よし、いくぞ……せーの」

ちび「よいしょ…!」

アンジェ「…」またしても目隠しをされ、両腕をエージェントに抱え上げられたアンジェ…そのまま引きずられるようにして、冷たく湿った空気がよどんでいる廊下を数ヤードばかり運ばれた……

ふとっちょ「…おい、開けてくれ」

見張りの声「はい」

ふとっちょ「よし、ここに縛れ……何やってるんだ、とっととしろよ」

ちび「そうせかすなって…ほらよ」

ふとっちょ「じゃあもう外してもいいな…そら」

アンジェ「…」


…十字架の形に拘束されたうえで目隠しを外されたアンジェの目の前には、尋問官の机と椅子しかなかった先ほどの部屋と違って様々な物が置いてある……立ったまま身体を九十度に折り曲げさせて、首と両手首を一枚の板に空けた穴に拘束する「さらし台」や、X字型だったり洗濯板のような形の「拘束台」、あるいは、正座した身体に食い込むようになっている「三角木馬」が所狭しと置いてあり、中央のテーブルには金属の輝きもまがまがしい外科手術用のような道具類が並べてある……そして部屋の片隅には血を流すためらしい、水の満たしてあるバケツが二つ…どうやらこの部屋に据えてある器具の類は、対象に「情報を吐かせる」というより、相手をサディスティックに痛めつけるための道具に見える…


アンジェ「…」

ちび「で、おれたちはもういいのか?」

ふとっちょ「ああ。どうやら「あの人」はおれたちみたいなのがいると邪魔みたいだからな……退散しよう」

ちび「そうか…ま、お前さんもとっとと吐いちまった方が身のためだぜ? じゃあな」鉄のドアがガシャンと閉められ、薄暗い部屋に一人取り残されたアンジェ…

アンジェ「…」

…これまでは怯えたような演技をしつつも目や耳を働かせて、敵方の情報を収集し、味方の情報は保護してきたアンジェ…が、そのアンジェも中世の拷問室のような光景を見て、背筋に冷たいものが走った…と言っても、いまさら肉体的拷問が恐ろしいわけではない……もちろん、鍛えられたアンジェであっても苦痛には耐えられないが、問題はそこではなかった…

アンジェ「……どうやら予想は正しかったようね…」かすかに表情をゆがめ、小声でつぶやいた…

…捕えられてから最初の尋問を受けるまでの短い間に、アンジェは自分を捕えた相手が「玄人」(プロフェッショナル)ではなく「素人」(アマチュア)なのではないかと薄々イヤな予感がしていたが、どうやら部屋に揃っている拷問器具の類を見るとそれに間違いないようだった…

アンジェ「…まったく……笑えないわ」


…アンジェのような情報部員からすると、同じ捕まって尋問を受けるとなれば、ノルマンディ公率いる防諜部のような「同業者」の手にかかって「手際良く」情報を引き出すための必要限度で(…と言っても相当の苦痛を与えられることになるが)済ませてくれる尋問の方がまだマシだった…そういうプロの尋問官は「正しい情報を引き出す」ために尋問を行うので、対象者を痛めつけすぎて「魂の抜け殻」にしてしまうことはまずない……が、頭に血がのぼったアマチュアの手にかかると、たいていは息を切らした尋問者と、ボロボロになった対象者の肉体だけが残ることになる…


アンジェ「…」(どのみち、あと数時間は稼がないとならないけれど……それまで耐えきれるかどうか、限界を試すいい機会だわ…)


…拘束されたままアンジェが気持ちを整えていると、鉄扉の向こうでやり取りする声が聞こえ、ドアが開いた……入ってきたのは豊満な身体つきの綺麗な女性で、唇にはダークチェリー色の口紅を引いて、黒革のビスチェとスカート、ハイブーツを身に着け、右手からは編み込んである革の鞭を提げ、襟ぐりの部分から大きな白い胸、スカートの裾からは色っぽい綺麗なふとももをあらわにしている……横につき従っている双子のような少女二人も同じような格好をしていて、片方は盆に載ったワインとグラス、もう片方はお湯が入っているらしい洗面器やタオルを持っている……どうやらこの二人はアンジェとあまり年が離れていないように見える…


女「……初めまして、お嬢さん?」

アンジェ「…」

女「あら、だんまりとはさみしいわね。では自己紹介と参りましょう…私はレディ・ワイルドローズ……ローズで結構よ♪ この二人は「アゴニー」(苦悶)と「アンギッシュ」(苦痛)……貴女のお名前は?」甘い音楽的な声で尋ねた…

アンジェ「マーガレット……マーガレット・ホワイト」

ローズ「あら、マーガレットとは可愛らしいお名前…それに白い肌が本当にマーガレットのよう……♪」そう言って優しくアンジェの頬を触り、舌なめずりをした…

アンジェ「…っ」

ローズ「あの汚れた男たちに触られてさぞ気味悪かったでしょう……アゴニー」

アゴニー「…はい」暖かい濡れタオルで腕や顔をそっと拭いた…

ローズ「いかが、マーガレット?」

アンジェ「ええ…ありがとう」

ローズ「良かったわ……さてと、ちょっと貴女にお聞きしたいことがあるの♪」道を聞くような軽い調子で問いかける…
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/05/08(水) 08:21:53.63 ID:ZvufjrLwO
新キャラの方々がすごく好きです
尋問というかただの拷問になるけどもアンジェさんには数時間頑張って耐えてほしい
318 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/09(木) 01:08:09.26 ID:e2D2L7gk0
>>317 まずは感想ありがとうございます…こういう「秘密のクラブなどでSっぽいもてなしをするお姉さま」キャラクターは腐敗した上流階級や貴族社会にはつきものですし、気に入っていただけて何よりです……実は「レディ・ワイルドローズ」はこの後も…


…ちなみに「ワイルドローズ」の名前は英国の国花がバラなのでそこから名付け、「アゴニー」と「アンギッシュ」は英和辞書の「痛み」の類語から引きました……アンジェは引き続き耐える予定です…
319 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/11(土) 02:57:55.84 ID:9az6zJzo0
ローズ「…さてと♪」

アンジェ「…」

ローズ「貴女が持っていた新聞に挟まっていた文書…誰に渡す予定だったの?」

アンジェ「そんなの知りません、たまたま相席になった人が持っていた物です…その人に聞いて下さい」

ローズ「あらあら……マーガレット、嘘は良くないわよ?」

…そう言ったミス・ワイルドローズの手は硝酸でくすんでもおらず(アンジェたちはそうならないよう「任務」の時、常にぴったりとした手袋をしている…)とても白くてほっそりしており、爪も短く切って綺麗に磨いてある……どう見ても銃やナイフを使い慣れているエージェントの手には見えない…

アンジェ「いいえ、嘘なんてついていません…」(やっぱりこの女はエージェントじゃないようね……でも、だとしたらどうして尋問官の真似事を…?)

ローズ「…だったらどうして新聞を取り違えられた時に呼びとめなかったの?」

アンジェ「だって……コーヒーを飲んでいて気が付かなかったし、もし気付いたとしても同じ新聞なのだから…きっと呼び止めなかったと思います」

ローズ「そう…ねぇ、マーガレット」

アンジェ「はい」

ローズ「私としてはあの「ブルドッグ」たちと違って、貴女の事を大事に思っているの……ね?」優しく甘い口調でそう言っているが、瞳にはどろりとした情欲を宿している…

アンジェ「…はい」

ローズ「だから私に……私だけに本当の事を言ってくれないかしら…誰に文書を渡す予定だったの?」

アンジェ「だからそんな文書の事は知りません…嘘じゃないんです」

ローズ「…ふぅ…困ったわね。 アゴニー、アンギッシュ」二人はうやうやしく鞭を受け取ると、代わりに手際よくテーブル上の器具を差し出した…

ローズ「ねぇ、マーガレット…」

アンジェ「…は、はい」アンジェとしてもこうしたタイプの女性は初めて対処するので、慎重に反応を見つつもそれ相応に怯えた雰囲気を演じた…

ローズ「どうしても答えてくれないと、私としても色々試してみないといけなくなるの……例えば、爪を剥がしたり…ね♪」

アンジェ「…」

ローズ「他にも、爪の間に細い串を刺したり……あと、童話の「シンデレラ」だったかしら? 悪い魔女に焼けた鉄の靴を履かせて、死ぬまで舞踏会で躍らせたのは…♪」あごの先に人差し指を当て、困ったように首をかしげた…

アンジェ「…っ」

ローズ「……ところで、何かお話してくれる気になったかしら?」

アンジェ「ですから、さっき言った通りなんです…確かに私は「婦人参政権運動」の活動はしていました……でも、スパイなんかじゃありません…!」

ローズ「そう……アゴニー」

アゴニー「…はい」鉛筆くらいの太さの棒を数本渡した…

ローズ「……綺麗な手ね♪」手首で縛られているアンジェの左手をそっとつかむと、指の間に棒を挟み始めた…

アンジェ「…お願いです、どうか……」

ローズ「文書は誰に渡す予定だったの?」

アンジェ「……ですから、本当に…」

ローズ「…そう」一気に手を締め上げる…

アンジェ「ああ゛ぁ…っ!」指の骨に激痛が伝わり、指の間に挟まれていた棒が折れた…

ローズ「ああ…ごめんなさいね、痛かったでしょう……?」

アンジェ「う……くぅ…っ」

ローズ「さぁ、お願いだから……文書は誰に渡す予定だったの?」

アンジェ「…あぁ…っ……うぅ…」

ローズ「ね、マーガレット…私には話してくれるでしょう?」

アンジェ「…本当に…本当に知らないんです……お願いですから、信じて下さい…!」

ローズ「ふぅ……困ったわねぇ…」

320 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/14(火) 02:05:26.09 ID:pVJAjLVq0
アンジェ「…本当なんです……私には…こんな痛い思いをしてまで嘘をつく理由がありません……」

ローズ「ええ、分かるわ。こんな痛い思いはもうしたくないでしょう……だから本当の事を話してちょうだい?」

アンジェ「うぅっ……どうして信じてくれないの…?」

ローズ「…いくら貴女の事を信じてあげたくても、そんな作り話では納得できないわ……さて、どうしようかしら…」

アンジェ「…そんな……!」

ローズ「……本当の事を話してもらうだけなら手足はいらないし…指を一本づつ折っても十回……足も入れれば二十回は尋ねることが出来るわ……ね、そうでしょう?」

アンジェ「ひっ…!」


…アンジェとしても遅かれ早かれ(…当然アンジェとしては「遅かれ」の方であるように努力していたが)いくらか情報を吐かされることは風邪や税金と同じで、ある程度「やむを得ない」とは思っていた…とはいえ、身体を五体満足にさせておいてくれないようなサイコパスを相手にはしたくない……相変わらず見事に怯える演技を続けてはいたが、いつもよりぐっと実感がこもってしまう…


ローズ「…ふふ、そう怯えなくたっていいわ……ちゃんと話してくれさえすればいいの…♪」そう言って足下にしゃがみこむと、そっとむき出しの足を撫でた…

アンジェ「…っ!」先ほどの革で打たれた部分を触られて、思わずうめき声を漏らした…

ローズ「あぁ、マーガレット……これ、あの連中にやられたの?」

アンジェ「…はい」

ローズ「…もう、マーガレットの柔肌になんてことを……アンギッシュ」

アンギッシュ「はい」

ローズ「かわいそうに、こんなに赤く腫れあがって…あの野蛮人たちにひどい目にあわされたわね、マーガレット……ん、ちゅっ…ちゅぅ♪」なみなみと満たされたワイングラスを受け取ると濃い色をした赤ワインをアンジェの足首から指先にかけ、それから両手でそっと足を包み込むと、爪先からワインの滴るアンジェの足を丹念に舐めまわす…

アンジェ「…///」

ローズ「大丈夫……私は貴女の味方よ…ね♪」

アンジェ「…」

ローズ「……それにしても「手つかずの」娘のお相手をするって言う話だったのに…まったく、あの連中ときたらとんでもない二枚舌ばかりね……まぁ、それも「職業病」と言う事かしら…?」首をかしげて、ひとり言をつぶやいたローズ…

アンジェ「…」(……二枚舌が職業…もしかして外務省?)

ローズ「…でも、こうなると可哀そうなマーガレットがどんなに痛めつけられたか分からないわ……アゴニー、アンギッシュ…外してあげて?」

二人「「はい」」

…左右から近寄ってくると、腕のロープをほどいた二人……とはいえ脚はまだがんじがらめに縛られており、ひりひりと焼け付くような足裏から言っても歩ける状態ではない…おまけに下着姿の丸腰で、外にどれだけの敵がいるかも分からない……アンジェとしては相手が警戒をゆるめるよう、出来るだけ協力的にふるまうことにした…

アンジェ「…っ」縛りつけられていた手首に血が通い、ひどくうずく…

ローズ「よろしい……それじゃあ、お願いね」

二人「「はい」」

アンジェ「……っ///」

…二人が両側から、丁寧な手つきで白いシュミーズとコルセットを脱がしていく……アンジェもご婦人の部屋でならそういう経験がないわけではなかったが、薄暗い地下室で自分を痛めつけてきた相手から…と言う異常な状況下では初めてだった……

ローズ「あぁ、よかったわ…身体は真っ白なままね……本当にマーガレットの花びらのよう♪」そっと脇腹に手を差しのべ、優しく愛撫する…

アンジェ「…んっ」

ローズ「……さぁ、二人とも」

二人「「はい」」…今度は脚のロープを解き、ペチコートをそっと引き下ろした……

アンジェ「…っ」

ローズ「……あぁ、白い肌がまるで新雪のようね…傷一つないわ♪」あちこちを丹念に撫で回すローズ…

アンジェ「…」

ローズ「さて……と♪」しばらく優しすぎるくらいにアンジェの身体を撫でまわしていたが、二、三歩下がってにっこりすると、アゴニーから黒革の鞭を受け取った…

321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2019/05/15(水) 18:04:54.67 ID:xvwqEJpXO
えすえむのお時間である
昔のアンジェさんは鞭打ちに弱かったけど果たして
322 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/19(日) 23:52:23.44 ID:9IxaZVAW0
>>321 さぁ、果たしてどうなるやら…

それと、ここ何日か投下出来ずすみませんでした。とりあえずまた明日以降になるでしょうが、続きを書いていく予定ですので……気長にお待ちいただければと思います
323 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/23(木) 02:28:18.64 ID:1OkC8OmM0
ローズ「もう一度聞くわね、マーガレット……文書を渡す相手は?」

アンジェ「…知りませ……」

ローズ「…」途端に「ヒュッ…!」と鞭がうなり、アンジェの引き締まったふとももに打ちつけられた…

アンジェ「…っ!」

ローズ「ね、本当の事を教えてちょうだい…貴女の所属している組織はどこなの?」ヒュンッ!

アンジェ「……ですから…うぅっ!」

ローズ「早く答えた方がいいわ。でないと貴女の絹のような肌が傷だらけになってしまうもの……組織のトップはだあれ?」

アンジェ「そんなの…っぐ!」

ローズ「さぁ、ひどいことにならないうちに…ね♪」先ほど見せていた形ばかりの優しい表情はすっかり消え去り、瞳を爛々と輝かせて鞭を振るっている…

アンジェ「知らないことは答えようがありま……あ゛ぁっ!」

ローズ「ふふ……組織を守ろうと言う心意気は立派だけれど、今のうちに答えた方が貴女のためよ? ふとももの皮が裂けてしまわないうちに♪」

アンジェ「でも、知らないのはどうしようも…あぁぁっ!」

ローズ「もう、マーガレットったら頑固なのね♪」

アンジェ「…ぐぅっ!」

ローズ「さぁ、教えて…そうでないとまた痛い事をすることになってしまうのよ?」甘く優しい猫撫で声はねっとりとした妖しいささやきに変わり、アンジェをいたぶりながら悦びに身体を震わせている…

アンジェ「……そんなことを言っても……っ、ぐぅっ!」


…かつてアンジェが受けた訓練でも、こうしたインモラルな趣味の持ち主を相手に動じない(…できれば気に入られる)ようにと色っぽい教官がさまざまな事を「実技で」教えてくれたが、訓練に支障が出ないよう絶妙な手加減を加えてくれていたらしい「一流の」教官に比べると、鞭の振るい方に遠慮がなく、両のふとももが焼けつくように感じる…


アンジェ「…はぁ、はぁ……」

ローズ「ふふ…マーガレットはこんなに我慢できたのね。とっても偉いわ……さ、お飲みなさい♪」そう言ってアゴニーからグラスのワインを受け取ると口に含み、アンジェの唇に重ねると口移しでワインを飲ませた…

アンジェ「…っ!」

ローズ「んむっ……んっ…♪」

アンジェ「……っ、んくっ…んっ///」目を閉じたアンジェの口の端から一筋の線になってワインがこぼれた…

ローズ「ふぅ…お味はいかが?」

アンジェ「///」

ローズ「あらあら、そんなに物欲しそうな表情をして……そんな顔をされたら我慢できなくなってしまいそう♪」…ん、ちゅっ♪

アンジェ「…ぁっ///」

ローズ「ふふ…私、貴女のことが気に入ったわ……アゴニー、アンギッシュ」

二人「「はい」」

ローズ「貴女たちも仲間外れは嫌でしょう…さ、お手伝いをしてちょうだいね♪」

二人「「承知いたしました」」

アンジェ「あ……んっ、んくっ///」

アゴニー「…んむっ、んくっ」

アンギッシュ「…んっ、んっ……こくんっ」

…代わる代わる二人からワインを口移しされたアンジェ……なにも食べていない状態で何杯も飲まされたせいで酔いが回ったのか、痛めつけられた身体が少し楽になった分、身体が火照りを覚えていた…

ローズ「ふふ、これで元気が出たでしょう……それじゃあ続きを始めましょうね、マーガレット♪」バケツの水で鞭についた鮮血を洗い落とすと、火照りで赤みを帯びて、汗で艶めいた色っぽい胸元をシルクで拭った…

アンジェ「…」
324 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/05/25(土) 11:01:02.80 ID:/l0NND9G0
…同じ頃…

ちせ「済まぬ、遅くなった…」

ドロシー「お、来たか…危うくパーティがお開きになっちまうんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたぜ。もっとも、あの「黒蜥蜴」女から話を聞き出すのは石からミルクを絞るより難しいがな……」

ちせ「うむ…それで、アンジェどのの行方がつかめたそうじゃな?」

ドロシー「まぁそんなところさ…ところでだ、一つ言っておかなきゃならないことがある……」

ちせ「なんじゃ?」

ドロシー「…今回の件なんだが……こいつはちょっとした「個人的な事情」による殴り込みで、コントロールの指令でも何でもない。どころか、この件に関われば任務を窓から放り出すのと同じになる……」

ちせ「…ふむ?」

ドロシー「当然、失敗したら……いや成功したとしても山ほど問題を巻き起こすのは間違いないし、もし途中で捕まるとかそれ以外のトラブルに巻き込まれても、お前さんのボス…堀河公もかばってはくれないだろう…」

ちせ「ふむ、それで…?」

ドロシー「もちろんお前がいてくれれば心強い…とはいえ、こいつは言ってみれば「任務の範囲を超えている」のも事実だから、一緒に来るかどうかは自分で決めてくれ。 …何しろこんなバカにつき合うって言うなら、そいつも「史上最大の大マヌケ」ってことだからな……♪」

ちせ「なるほど…」

ドロシー「……で、どうする?」

ちせ「ふぅ…幾度も命を助けてもらった朋友を捨て置くというのはあまりにも薄情というもの……助太刀いたす」…そう言って太刀を取り上げた

ドロシー「よぉし、分かった…どうやらお前さんも私たちくらい大マヌケらしい……さ、車に乗ってくれ♪」

ちせ「うむ」

ドロシー「…みんな、忘れ物はないな?」

ベアトリス「はい」

ドロシー「よし…ベアトリス、最後に一つコントロール宛てに暗号電を送ってやってくれ「緊急…協力者「トガリネズミ」は巣を捨てた模様、至急関係者の脱出、潜伏を提案する…本局もただいまをもって閉鎖」とな」

ベアトリス「……はい、送りました」

ドロシー「結構…ならその通信機を使えなくするんだ」

ベアトリス「はい」…愛着を持って整備していた無線電信の装置を、少しもったないなさそうに破壊した……

ドロシー「よし。暗号書も始末したし……余った武器の類は特徴もないから、そのまま地下に放り込んでおけばいい」

ベアトリス「……それじゃあ…?」

ドロシー「ああ、出発だ…あの冷血女を助けにな♪」…濃緑色のロールス・ロイスに飛び乗ると、最新式の「自動点火型」エンジンを噴かした……

ベアトリス「はいっ…!」
325 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/28(火) 10:47:21.46 ID:U+WJNlOr0
…ロンドン市内…

ドロシー「どれどれ……よし、少し薄れてはいるがばっちりだ」


…宝石の鑑定士や時計職人が付けていそうなデザインの「モノクル型分光器」を片目にはめ、コーヒーハウス「ゴールデン・ライオン」の前から車を流した…分光器をはめたドロシーの右目には、夜のとばりが降りたロンドンの道にうすぼんやりと青緑の光の帯が残って見える…


ベアトリス「良かった…それじゃあ、後はそれをたどっていけば……!」

ドロシー「いや、喜ぶのはまだ早い……向こうがネストを突きとめられないようにうんと迂回をしていたり、途中で車を替えたりしたら追えなくなる」

ベアトリス「……でも、もし追えなくなったら…?」

ドロシー「その時はこっちとしてもどうしようもない…もし効き目のあるおまじないだの情報部員の守護聖人だのを知ってるなら、そうならないように祈っておくんだな」

ベアトリス「…」

ドロシー「もっとも、どうやらあちらさんはお急ぎのようだ……まるで尾行を撒く努力をしちゃいない」

ベアトリス「それじゃあ、無事に見つけられるんですね?」

ドロシー「たぶんな。あとは連中が手際よくアンジェを移送したり、人相を触れ回ったりしていない事を願うだけさ…」

………



…再び・どこかの地下…

アンジェ「…ああっ!」

アゴニー「さあ、どうぞお話しください…貴女の「雇用主」との連絡方法は?」ヒュンッ…!

アンジェ「ぐぅっ…!」(…さすがに身体にこたえてきたわ…まるでふとももが焼け付くよう……)

ローズ「…まぁまぁ、よく耐えること……これなら二人もたくさん愉しめるわね♪」アンジェの真っ白なふとももの肌が裂け、鮮血が滴っているのをみてご満悦のワイルドローズ…先ほどから椅子に腰かけ、しばしアゴニーとアンギッシュに任せている……

アゴニー「…さぁ、吐かないとどんどん辛くなるだけですよ……?」

ローズ「その通りね……アゴニー、そろそろアンギッシュと交代してあげて?」

アゴニー「分かりました…」

アンギッシュ「はい…んむ、ちゅっ……」鞭を手渡しつつ、互いに舌を絡めあうアゴニーとアンギッシュ…

ローズ「ご苦労様…さ、お飲みなさい♪」

アゴニー「はい…」座っているローズの前で膝をつき、濃い味わいのワインを口移しで飲ませてもらうアゴニー…

アンギッシュ「……貴女の雇用主は」

アンジェ「…だ、だから知らないわ……あぁ゛ぁ゛ぁっ!」

アンギッシュ「では、次の質問を…連絡役はどんな人物でしたか」

アンジェ「……シルクハットに灰色っぽい服…ステッキはついていたと思うけれど、よくは見なかったわ…」

アンギッシュ「…その連絡役の名前は」

アンジェ「知らないわ……嘘じゃないの…」

アンギッシュ「…どうか事実を…事実のみをお話しください」ヒュッ…!

アンジェ「ああ゛ぁぁ…っ!」

アンギッシュ「…貴女の接触役はどんな人物ですか」

アンジェ「婦人参政権の活動で会うのは……ミス・マーギット…本当にそれだけで、スパイなんて知らないの……お願い…」

…尋問官を信じさせる技法として、直接情報活動とはつながりのない人物を思い浮かべ、立場や名前だけをすり替えて細かい仕草や格好まで詳しく説明するやり方がある…大事な部分ははぐらかし、とにかく細かい部分を詳しく描写してみせると説得力が増す…アンジェも尋問に屈したふりをして、少しづつ口を開いていた…

アンギッシュ「…その方の特徴は」

アンジェ「い、今話すわ……身長は私と同じくらいで、髪は茶…年齢は三十代くらいのオールド・ミスで、たいていは緑のさえないドレス姿……」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 18:14:09.22 ID:w78yBFnbO
アンジェさんがんばれ
....双子はもっとがんばれ
お姉様よりは尋問スキル高そうだし道具もまだまだあるぞ!
327 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/05/30(木) 01:03:14.08 ID:MEEqTHOC0
>>326 コメントありがとうございます…ちなみに二人は双子みたいにそっくりではありますが双子ではなく、ミス・ワイルドローズの「教育」によるものという設定です

…また数日以内に投下していきますので、お待ちください……どうやらドロシーたちの助けが来るまで、他にも色々されそうな予感がしますね…
328 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/02(日) 02:11:18.09 ID:geie0UtD0
ローズ「ようやく素直に話してくれたわね、マーガレット……ふふ、嬉しいわ…ぁ♪」綺麗な脚を組んで椅子に腰かけていたが、滑らかに立ち上がるとアンジェのそばに歩み寄ってきた…

ローズ「……でも、実際はスパイ活動をしていたのでしょう?」

アンジェ「ち、違います……そうじゃないんです…!」

ローズ「もう、マーガレットったら…本当の事を言わないとダメよ?」甘い声の底から、どろりとゆがんだ欲望がにじんでいる…

アンジェ「…本当なんです……信じて下さい、ミス・ローズ…」

ローズ「ふふふ…マーガレット、貴女はとっても可愛いけれど……嘘をつくのは良くないわ♪」そう言って卓上に置かれている道具から、外科手術に使いそうな固定具のような道具と、恐ろしく研ぎ澄まされている剃刀を取り上げた……

ローズ「さてと……せっかくお近づきになれたのだから、もっと貴女の事を知りたいわ…♪」アンジェの前で姿勢を落とし、秘部に固定具をあてがって押し広げた……

アンジェ「…っ///」

ローズ「まぁ、なんて綺麗な薄桃色……まるで処女(おとめ)のままみたい…ね♪」舐めまわすようにじっくりと眺めると、剃刀を取り上げた…

アンジェ「…」

ローズ「ふふふ…それにこの柔らかな産毛……♪」そう言って脚の間を軽く撫でると、まだワインで濡れそぼっている秘部の周りに剃刀を滑らせた…

アンジェ「///」

ローズ「くすっ……可愛らしいマーガレットには処女らしくしていてもらわないと…ね♪」しゃり…しゃりっ……

アンジェ「……んっ///」じらすような刃の滑らせかたに、思わず声が出るアンジェ…

ローズ「動いちゃだめよ……♪」

アンジェ「…ん…はぁ……///」…声を出すまいと思いつつも、散々縛りつけられたり痛めつけられたり…かと思えば口移しでたっぷりとワインを飲まされ、今度は豊満な美人に優しくデリケートな部分を剃毛されている……想定を超える異常な状況とこそばゆいような感覚のせいで体が疼き、花芯が濡れてくる……

ローズ「ふふふ……終わったわ…すっかりつるつるで、まるで赤ちゃんのようね♪」

アンジェ「…はぁ…はぁっ……///」

ローズ「…さてと……それで、貴女の雇用主は?」

アンジェ「……知りません…本当にいま話したことしか知ら……ああ゛ぁ゛ぁぁっ!」

ローズ「ふふ…もう、嘘をついちゃダメだって言ったでしょう……♪」爛々と瞳を輝かせ、研ぎ澄まされた剃刀で浅く…しかしたっぷり一インチほどふとももの柔肌を切り裂いた…

アンジェ「……うぅっ」(…あの剃刀が良く砥がれていてよかったわ……刃がぎざぎざになっているような鈍い刃物でやられたらもっとひどいことになっていたはず…)

ローズ「さぁ、答えて♪」まるで何かの当てっこをするような楽しげな口調で問い詰める…

アンジェ「…あ…うぅ……ですから、本当に……」

ローズ「…ふぅ」いつの間に持ち替えたのか、長い鞭で鋭く打ち据えた…

アンジェ「……ぐっ!」

ローズ「ね、本当の事を言うだけよ……もし教えてくれたら、ごほうびをあげる♪」アンジェの胸元にワインを注ぐと、吸いつくようにして舐めはじめた…

アンジェ「…ん///」

ローズ「大丈夫…ん、ちゅぅ……貴女に害が及ぶような事は……じゅるっ、ちゅ……ないわ……私が助けてあげる♪」

アンジェ「んっ、く…///」

ローズ「……それに……ぴちゃ…組織は貴女がいなくなっても変わらないけれど…んむっ、ちゅぅ……質問に答えないと苦しいのは貴女よ、マーガレット…ちゅるっ…助かるには……素直に答えた方がいいわ……んちゅる…っ♪」

アンジェ「…ん、あ……はぁ…っ///」谷間からへそ、秘部…それからまだ血が滴っているふとももを舌で舐めまわされ、吸われていく…

ローズ「んんぅ……美味しい…♪」…ふとももの鮮血と混じりあったブルゴーニュの濃厚な紅を舌で受け止め、ちろちろと舐め続けている……

アンジェ「んぅっ……んっ///」

ローズ「ふふっ、可愛らしい喘ぎ声……二人とも、ロープを持っていらっしゃい♪」

二人「「はい」」

ローズ「……さ、マーガレットの左脚を♪」

アンジェ「…っ///」二人の手で足首に新しくロープをかけられると、片脚だけ横向きに膝を上げるような状態で固定された…

ローズ「ふふ、いい眺め……次はあなたたちも召し上がれ?」またたっぷりとワインを注ぎ、アンジェの引き締まった乳房を舐めあげた…

アゴニー「…ん、ぴちゃ…ちゅぅ♪」

アンギッシュ「……んちゅっ、ちゅる…♪」…こちらもそれぞれ右脚と花芯に吸いつき、無表情ながら陶然とした様子で一心不乱に舌を這わせている…

アンジェ「あ…んっ……///」酔いが回っていて、そのうえ三人に全身を舐めまわされているせいか、時々が目の焦点がかすむ……
329 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/05(水) 02:41:43.96 ID:SG91uO/t0
ローズ「…さて、それじゃあ今度は……♪」口もとから滴った血とワインの混じった雫を舌先で舐めとると、卓上の小道具をあさり始めた……

アンジェ「…」

ローズ「ふふふ……せっかくマーガレットが「初めて」なのだから、わたくしが手ほどきしてあげないといけないわ…ね♪」

アンジェ「…っ」

…机からワイルドローズが取り上げたのは、樫の木でできた芯材に黒染めの柔らかな牛革をぴったりとかぶせて縫い上げた張り型(ディルド)で、それを数本持って近寄ってきた…

ローズ「マーガレット……これが何か分かる?」

アンジェ「…ええ、おおよそは…予想がつきます…///」…レジェンド(偽装経歴)として作り上げた「マーガレット・ホワイト」は、年ごろからいってそう言ったものの名前くらいは聞いたことがあるが、婦人参政権や貧困の救済など「社会改革の理想に共鳴する真面目なお嬢さん」らしく顔を赤らめてみせた……

ローズ「結構……さ、あなたたちもお取りなさい」

二人「「はい…♪」」

ローズ「…ふふ、マーガレットはこういう「お道具」を使ったことはある?」

アンジェ「……い、いいえ///」(実際は幾度かあるけれど……ここは余計なことを言わない方が利口ね…)

ローズ「くすくすっ……ようやく本当の事を言ってくれたわね♪」

アンジェ「…っ///」

ローズ「それにしても良かったわ…マーガレットの「つぼみ」がまだ手つかずで……♪」張り型を持ってにじり寄ってくると、汗ばんだアンジェの脇腹を舐めあげた…

アンジェ「…う、うぅ…っ……」嫌がるように顔をそむけ、身をよじった…

ローズ「ふふふ…大丈夫、すぐに貴女からおねだりするようになるわ……♪」すべりを良くするためか白いラードのようなものを張り型に塗りつけ、つけ過ぎた分を意味深な笑みを浮かべつつ舐めとった…

アンジェ「……お願い……止めて…止めて下さい……っ…///」

ローズ「心配いらないわ、もっと小さな娘にだって入るもの……始めは少し痛いかもしれないけれど、すぐ慣れるわ…♪」

アンジェ「…お願い、おねがいですから…どうか……」

ローズ「ふふふ……そう言って懇願されるとますますしたくなるのよ…ね♪」にちゅ、ずぶっ……♪

アンジェ「あ…あぁぁぁっ……///」

ローズ「まぁまぁ、何とも初々しい反応だこと…♪」

アンジェ「…うっ、ぐうぅ…っ///」必要以上に痛がって、顔をゆがめるアンジェ…

ローズ「……さ、動かすわよ」

アンジェ「あっ、ぐぅ…っ……ああ゛ぁ゛ぁっ…!」ずちゅっ、ぐちゅ…っ…♪

ローズ「ふふふ…その表情(かお)、とってもいいわ……♪」頬を紅潮させ、額やずっしりとした乳房からは汗が玉になって飛び散る…

アンジェ「あぁぁっ…んっ、ひい゛ぃぃ…っ……!」

ローズ「はぁぁ…素晴らしいわね……アゴニー、アンギッシュ」

二人「「はい」」

ローズ「せっかくだから、あなたたちもどうぞ……と、その前に♪」アンジェの目に黒いシルクの布で目隠しをすると、みだらな笑みを浮かべた…

アンジェ「…あっ……」

アゴニー「…そうおっしゃっていただけるのでしたら……」ぐちゅ、ずぶずぶ…っ♪

アンジェ「あ゛っ、あ゛あぁ゛ぁ…っ……///」

アンギッシュ「…なら私はこちらを……」アンジェのきゅっと引き締まったヒップを指し示した…

ローズ「ええ、いいわよ…♪」

アンギッシュ「…ありがとうございます、それでは……」ぐじゅっ、ぢゅぶ…っ♪

アンジェ「えっ…あ……ん゛ひぃ゛ぃっ…!?」張り型を押し込まれると、拘束されたまま身体をびくんとのけ反らせて絶叫した…

ローズ「ふふ…ふふふふっ♪」

アゴニー「…ふふ」

アンギッシュ「…くすくすっ♪」

………

330 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/06/06(木) 02:19:25.31 ID:2fjQzvp40
…一方・エンバンクメント(運河)沿いの裏通り…

ドロシー「…次は右か……ふぅ、アンジェを捕まえた連中が誰であれ、少なくとも「尾行を撒く」ことに関してはアマチュアに毛の生えた程度だって言うのがはっきりしたぜ…」

ベアトリス「どういうことですか?」

ドロシー「ああ……普通だったらうんと迂回をするとか車を乗り換えるとか、何でもいいが追跡者を撒く手立てをとっておくもんだ…こいつらみたいに目的地へ真っ直ぐ車を走らせたりしないでな」

ベアトリス「……でも、もしかしたら私たちをおびき寄せるつもりかもしれませんよ?」

ドロシー「…なかなか悪くない発想だが、それだったらこっちが餌に食いつくようにもっと複雑で「それらしい」経路を選ぶね……ところが連中はイタチの巣を見つけたテリアそこのけに突っ走ってる…もしファームの教官がこんなのを見たら、脳の血管が切れちまうだろうな」

ベアトリス「…それじゃあ」

ドロシー「この道で間違いない…ってことさ。それに目的地はそう遠くない…周囲を見てみな?」

ベアトリス「はい…」ベアトリスが辺りを見回すと、うっすらと夜霧のかかった運河の両脇に黒々とそびえる保税倉庫のシルエットが広がっている…

ドロシー「…見ての通り、辺りは人通りの少ない…それでいて見慣れない人物や車がいても何もおかしくない海外貿易品中心の倉庫街だ…誰かを連れ去って尋問にかけるにはもってこいだろう?」

ベアトリス「なるほど……」

ドロシー「それと…おそらくだが、連中は尋問室を地階(グランド・フロア)に作らないで地下に用意したはずだ……そいつはこっちとしても都合がいい」

ベアトリス「…どうしてですか?」

ドロシー「そいつは後で説明するさ……そろそろ目的地に到着、ってところだからな…」それらしい場所に近づいたのでロールス・ロイスのエンジンを止めて惰性で百数十ヤードばかり走らせ、薄暗い倉庫の間に停めた…

…その頃・地下室…

アンジェ「はひっ、はぁ、はぁっ……はぁぁ…っ…!」

アゴニー「…くすっ♪」じゅぶ…ぐちゅぐちゅっ♪

アンジェ「あっあっ…はひぃ、あぁぁ…んっ♪」

ローズ「まぁまぁ…マーガレットったら初めてなのにこんなに濡らして……♪」じゅぶ、じゅぶっ…ずちゅっ♪

アンジェ「はひぃ…はへぇぇ……///」とろとろっ…♪

アンギッシュ「では、私も……♪」ずぶずぶっ…ぐりっ♪

アンジェ「はぁ、はぁ…らめ……んはぁぁ…っ///」とぽっ、ぷしゃぁぁ…っ♪

アゴニー「…彼女はまた達してしまったようです、レディ・ワイルドローズ」

ローズ「そのようね…なら「お仕置き」が必要だわ」アンギッシュに向かって軽くうなずいた…

アンギッシュ「…はい♪」

アンジェ「ひっ…らめ、もうやめ……んあ゛ぁ゛ぁぁ…っ///」花芯に二本目の張り型をねじ込まれ、どこか甘ったるい悩ましげな声で絶叫するアンジェ…

アゴニー「んちゅぅ…ちゅっ、ちゅる…ぢゅぅぅ…っ♪」

アンギッシュ「ふふ…ぴちゃ、れろっ……んちゅ、ぢゅるぅ……っ…♪」二人は片脚を持ち上げられたアンジェの前にひざまづくと、乳房に吸いつく仔鹿のように、とろとろと垂れている愛液をすすりこむ…

アンジェ「らめ…そんな……あ、あぁっ…♪」目隠しをされたままあちこちを責めたてられ、ろれつも回らなくなった半開きの口もとからとろりと唾液がこぼれる……持ち上げられていない方の脚は垂れた愛蜜がつたって、つま先から床までべとべとに濡れている…

ローズ「…ふふ、最初から協力してくれればこんな事にはならなかったのよ……んちゅぅ…れろっ……♪」

アンジェ「んぅぅ…んっ、んんぅぅ…っ♪」ローズに口づけをされながらアゴニーとアンギッシュの二人に張り型を動かされて、身体をひくひくと震わせながら絶頂するアンジェ…

ローズ「ふふ…言っておくけれど、まだまだ色んな事を体験できるわ……楽しみにしていらっしゃい…ね♪」アンジェの耳たぶを甘噛みしながらささやきかけた…

アンジェ「んっ、んぅぅ…っ///」とぽ…とろとろ……っ♪

………

331 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/08(土) 01:47:59.52 ID:jFTn6DEk0
…倉庫街の一画…

ドロシー「…アンジェが捕まってる倉庫は……あれか」


…使われていない倉庫の影の暗がりからそっと様子をうかがうドロシーたち…その視線の先には、夜霧に霞んでレンガ造りの倉庫が建っている……辺りには青果店の倉庫から出たカブの葉っぱやニンジンのしっぽのような野菜くずが捨てられているゴミ捨て場があり、運河のよどんだ水の臭いや古びたレンガの土ぼこりのような臭いと交じって、いかにも倉庫街らしい雰囲気を漂わせている…


ベアトリス「……ドロシーさん、どうしてあれだって分かるんですか?」

ドロシー「簡単さ…ケイバーライト粉の痕跡はあそこの前で切れてるし、入り口に見張りがいる……こんな人気のない場所でわざわざ見張りなんて立たせておいたら逆に目立つって言うのに……馬鹿な連中だ」

見張り「…」ハンチング帽をかぶり、時々倉庫の前を行き来している…

ドロシー「…見張りは一人で程度は「並」ってところか……だが動きがぎこちない所を見ると、経験が浅いな……」

ちせ「とはいえ見張りは見張り、見つかれば騒がれるじゃろうが…どうする?」

ドロシー「もちろん片づけるさ……とりあえず奴をおびき出す」道端に落ちていた石ころを拾い上げると軽く手の上で転がして重さを確かめ、絶妙な場所に放った…夜霧のせいで音が妙に響き、それでいて少し離れるとすっかり霧に吸い込まれてしまう……

見張り「…ん?」

ドロシー「……ちせ、仕留めそこなったら頼む」スティレットを握って身構えた…

ちせ「うむ」

見張り「…?」不審そうな顔をして歩いてくると、頭を動かしてドロシーたちの隠れ場所の向かいにある暗がりを透かし見ようとする…その後ろからドロシーが音もなく忍び寄り、口をふさぐと同時にスティレットを突きたてた……

見張り「ぐ…ん゛っ……!」

ドロシー「……よし、片付いた…」スティレットの刃を相手の服の裾で拭うと、死体を引きずって隠した…

ベアトリス「それで、ここからどうするんです…?」

ドロシー「ああ、そいつをまだ説明してなかったな……見たところあの倉庫からは灯りや声が漏れてこないから、どうやら連中は尋問室を地下に作っているようだ…さっき裏側も見てきたが、そっちは運河に面したどん詰まりで道はない……つまり出口は一つきりだ」

ベアトリス「…それで?」

ドロシー「簡単さ……アンジェを助け出すと同時に、ここにいる連中を一人残らずきれいさっぱり始末する…私たちが助けに来たことを連中の「お仲間」に話されちゃたまったものじゃないからな」

ベアトリス「あの…それって……」

ドロシー「そういうことだ……アンジェの命、それと私たちの安全のためにな」

ベアトリス「……っ、分かりました…」

ドロシー「結構。それじゃあ私とベアトリスが突入するから、ちせは地下の入り口で待機……私たち以外で出てくる奴がいたら、問答無用で片っぱしから斬れ」…戦闘技術が未熟で足手まといになるリスクがあるベアトリスを連れて行くことで、「厄介事」に巻き込んでしまったちせに少しでも負担をかけないよう気を回したドロシー…

ちせ「うむ、承知した」ちせも言外の含みに気が付き、軽く一礼した…

ドロシー「よし…それじゃあベアトリス、行くぞ……あいにくと招待状はもらえなかったが、一つパーティにお邪魔させてもらおうじゃないか♪」

ベアトリス「はい…っ!」

…倉庫内…

ドロシー「…やっぱりな……あれだ」倉庫の中はガランとしていて、数台のロールス・ロイスやモーリス、マーモン・ヘリントン乗用車が停めてある……その片隅には小ぶりな階段があって、薄暗いシルエットになって地下へ続いている…

ベアトリス「…そうみたいですね」

ドロシー「ああ……まずは連中の車をおしゃかにしておくぞ。こいつを使って逃げられたら厄介だからな」

ベアトリス「はい」音が響かないようそっとボンネットを開けて、点火栓を外したりコードを切ったりした……

ドロシー「よし、こんなもんでいいだろう…ベアトリス、お前の方が小さいから前だ……私がきっちり援護してやるから、心配するな」

ベアトリス「分かりました…お任せします」

ドロシー「おう……それじゃあ行くぞ♪」そう言うと、ニヤリと不敵な笑みを口の端に浮かべた…


332 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/11(火) 02:00:30.47 ID:nV+5WRBk0
…倉庫の地下…

見張り「ふわ…ぁ……くそ、眠いな…」ハンチング帽をかぶったエージェントが目をこすり、あくびをかみ殺しつつ廊下の椅子に腰かけている…

ドロシー「…」廊下の角からちらりと確認すると、右側のウェブリー・スコットを抜いた…

見張り「…うーん……」眠気覚ましに首を回したり腕を動かしてみたりと忙しい……

ベアトリス「…ここからだと一人しか見えませんね」3インチ・ウェブリーを構えて小声で言った…

ドロシー「…よし、だったらちょっとばかり呼び鈴を鳴らしてやるとするか……スリー・トゥ・ワン…行け!」

ベアトリス「…はいっ!」バン、バンッ!

見張り「う、ぐうっ……!?」


…地下の狭い廊下で反響して、まるで装甲艦の8インチ砲のように轟く銃声……見張りが椅子ごともんどりうって数秒もしないうちに、あちこちから騒がしい物音が聞こえてきた…


王国エージェント「何だ…っ!?」

王国エージェントB「馬鹿、銃声だぞ! とっとと持ち場に……あっ!」

ドロシー「……安全確認もしないで飛び出しちゃ駄目だって教わらなかったか?」右手の廊下から駆けつけてくるエージェント二人にウェブリーを撃ち込み、身体をひねると左側のドアから飛び出してきたハンチング帽のエージェントを撃ち抜いた…

ベアトリス「……っ!」奥の方から駆けつけてきた数人に弾を撃ち込むとひとりが倒れ、残りは慌てて角に隠れた…

王国エージェントC「ボビー、ウィル…援護しろ!」コートの裾をひらめかせ、ウェブリーを撃ちながら走り込んでくる…

ドロシー「…おいおい、連中ときたらずいぶんと数が多いな……同窓会でもあったのか?」


…ドロシーは飛び出してきたエージェントの額を撃ち抜くと、目にも止まらない速さで左のウェブリーを引き抜きつつ弾切れになった右手のウェブリーと持ち替え、そのまま援護射撃をしていたエージェントを仕留めた…


ベアトリス「…く、こんなにいるなんて……聞いていませんでした…よ!?」一人を撃ち抜き、もう一人にも手傷を負わせた…

ドロシー「ああ、私もこんなにいるとは思ってなかったさ…!」持ち替えたウェブリーも撃ちきると水平二連の散弾銃を抜き放ち、廊下の角から向こう側に向けて撃ちこんだ…鹿撃ち用の散弾をもろに浴びて廊下の壁に叩きつけられる王国エージェント…

ベアトリス「…っ、弾切れです!」

ドロシー「分かってる、そこを代われ!」


…中折れ式リボルバーのウェブリー・スコットはどうしても再装填に両手を使う必要がある…ドロシーはベアトリスと交代すると、今度は限界まで切り詰めた改造リー・エンフィールド・ライフルを脇のサックから引き抜き、自動火器かと思うほどの速射で廊下の小机を倒して盾にしている二人を撃ちぬいた…


ベアトリス「っ…装填できました、代わります!」

ドロシー「よし、頼む!」代わりあうようにして壁に背中をあずけ、手際よくウェブリーの弾を込め直した…

ベアトリス「…んっ!」バン、バァン…ッ!

王国エージェントJ「…ぐっ!」

ドロシー「……どうやら片付いたようだな?」

ベアトリス「はー、はー、はーっ……ええ、どうやらそうみたいです…」

ドロシー「よし、それじゃあ後は人に手間をかけさせやがった黒蜥蜴女を探すとしよう……連中に「奪還されてなるものか」って片づけられちまわないうちにな」

ベアトリス「はい」

ドロシー「さてと、どうやらここは大文字の「H」字型みたいなつくりらしい…縦棒ごとに面した部屋があって、入り口側の二つは詰所か仮眠室か……まぁそんなような物だったから、残りは二部屋っきりだ…私なら奥の方が尋問室だと見るね」

ベアトリス「ええ、同感です」

ドロシー「まさに「意見の一致」ってやつだな…それじゃ急ごう♪」

ベアトリス「はいっ!」
333 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/06/14(金) 02:06:27.73 ID:0dT4qfmr0
…同じ頃…

ローズ「…んじゅるっ、れろぉ、ぴちゃ……ふふ、早く言った方がいいわ」

アンジェ「…ん、んんぅ…っ///」ワイルドローズはアンジェの耳の穴から爪先までくまなく舐めまわし、アゴニーとアンギッシュは蜜でねっとりと濡れたふとももにしがみつくような体勢で舌を這わせている……

ローズ「……マーガレット、貴女はよく耐えたわ…もう楽になっていいのよ♪」

アンジェ「…んっ、はぁ……はぁっ///」

ローズ「……ね、もう我慢しないで……素直になりましょう?」

アンジェ「…」くり返しくり返し同じことを言われ続けたせいで一種の暗示にかかり始め、判断力が鈍り始めているのを意識しているアンジェ…

ローズ「私が貴女のことは大事に飼ってあげる…んちゅっ、じゅるっ……きっと貴女も気に入るわ…ね?」


…縛り付けられたアンジェを責めたてながらねっとりとした甘い言葉で誘惑するワイルドローズと、まるで酔ったように身体を舐めまわすアゴニーとアンギッシュ……と、不意に重い鉄扉の向こうから聞き間違いようのない銃声が地下室に反響し、長く尾を引いて響いてきた……最初の数発が聞こえてきたかと思うと一気に激しい銃撃戦の音が始まり、数分もしないで静かになった…


アンジェ「…」

アゴニー「…っ!?」

アンギッシュ「……いったい何の音でしょう、レディ・ワイルドローズ…?」二人はアンジェを舐めまわすのを止めると、今までの無表情と気だるさの混じりあったような表情が取り払われ、怯えたように身体をすくめた…

ローズ「…心配いらないわ。 大丈夫よ、私があなたたちを守ってあげる……あなたたちは私の可愛いしもべですものね♪」

…ワイルドローズ本人も何が起こったか分からないせいか一瞬不安そうな表情を浮かべたが、すぐアゴニーとアンギッシュを抱きしめて口づけを交わすと、二人をかばうようにして扉の前に立った…それから木のかんぬきをかけ、ナイフの代わりになりそうな一番大きいメスを取り上げた…

アンジェ「…」(やっぱり素人ね。扉の正面に立つなんて……)

…一方・扉の前…

見張り「…がはっ……!」

ドロシー「さて、ここだな…」ウェブリーのシリンダーを開いて空薬莢を捨てると弾を込め直し、ドアの脇に立った…

ベアトリス「…でも、こんな鉄の扉じゃ開けようもありませんよ……」頑丈そうな鉄扉を前にすっかり落胆しているベアトリス…

ドロシー「おいおいベアトリス、その歳でボケるのはちと早いぜ? …ここに来るときにネストから「ドカンといくやつ」を持って来ただろうが♪」

ベアトリス「いえ、それはそうですが……中にアンジェさんがいるかもしれないんですよ?」

ドロシー「じゃあ他にいい方法があるなら教えてくれ…煙でも焚いていぶり出すか? それとも尋問官に開けてくれるようお願いするか?」

ベアトリス「むぅ…」

ドロシー「それに、よしんばアンジェが巻き込まれたとしてもだ……あの冷血女がけちな爆発一つでくたばるかよ♪」

ベアトリス「…でも」

ドロシー「悩んでる暇はないぜ、このふざけたドアに爆弾を仕掛けるんだ…ただしドアが完全に吹っ飛んでアンジェの奴をひき肉にしたりしないよう、錠や蝶つがいのところを中心にして…だ♪」口もとに笑みを浮かべた…

ベアトリス「あ……はいっ!」それを聞いて手際よく爆弾を仕掛けた…懐中時計そっくりな時限装置をぎりぎりの短さにセットする…

ドロシー「…いいか?」

ベアトリス「はい、仕掛けました……隠れて下さいっ!」

…ふたたび室内…

ローズ「……もう、マーガレットったら…可愛い顔をしてずいぶんな嘘つきさんね。…お仲間がいらっしゃったようじゃない?」

アンジェ「…さぁ」

ローズ「今さら隠し立てしなくてもいいのよ…もっとも、貴女のお仲間はこの分厚い鉄の扉をどうやって開けるつもりなのかしらね♪」

アンジェ「…分からないわ、ただ……」言いかけた瞬間に猛烈な爆音と衝撃が走り、壁や床からレンガの粉やほこりが一気に舞い上がってもうもうとたちこめた…

アンジェ「……かなり派手な方法だろうとは思っているわ…」爆風で耳が聞こえないなか、心の中でつぶやいた…
334 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/14(金) 03:26:09.81 ID:0dT4qfmr0
ドロシー「……よし、行くぞ!」ウェブリー片手に室内へ飛び込んだドロシーとベアトリス…室内には猛烈な煙とほこりの雲がたちこめ、置いてあったはずのランタンは吹き飛んで、すっかり真っ暗になっている……

ドロシー「…ふぅっ…こりゃ大掃除が必要だな……」ベアトリスが持っているランタンを受け取り、室内を照らした…

アンジェ「……それは貴女がやるべきでしょうね」


…少し声に張りがないが、それでもドロシーに向かっていつも通りの口調で言ったアンジェ…十字架形の拘束台に片脚を高く上げた状態で縛りつけられ、ランタンで照らされている裸身は傷だらけになっている…ふとももの皮はあちこちが裂け、そうでないところにも赤く鞭打ちの跡が残り、おまけにほこりをかぶってすっかり白っぽくなっている…


ベアトリス「アンジェさんっ!」あわてて駆け寄ると、ロープをほどこうと焦っている…

ドロシー「……よう、アンジェ」結び目に悪戦苦闘しているベアトリスにナイフを渡すと、いつもの不敵な笑みを浮かべた…

アンジェ「ええ…」

ドロシー「地下室暮らしは飽きただろ? …上に車が用意してあるぞ」

アンジェ「…結構ね……ごほっ、げほっ…!」

ドロシー「おっと、忘れてた……ここはずいぶんほこりっぽいからな、喉が乾いただろ♪」そう言ってブランデーの携帯容器を取り出し、そっと唇に当てた…

アンジェ「…んくっ、こくっ……」

ドロシー「…どうだ?」

アンジェ「ええ、ありがとう……ところで…」

ドロシー「ん?」

アンジェ「…どうして貴女たちがここに来たの」

ドロシー「そりゃお前さんに「歌われ」たら困るからさ…幸い、道しるべを残しておいてくれたこともあったしな♪」

アンジェ「あれはそういう目的でやったわけじゃない……貴女たちが脱出した後、監視チームがここを突きとめて出入りする人間を見張るなり追跡するなり、しかるべき手段を講じさせるためよ…誰が十字軍ごっこをしろと言ったの?」

ベアトリス「そんな、いくら何でもそんな言い方って……!」

ドロシー「…まぁ待て」

ベアトリス「でも…!」

ドロシー「いいから……ま、それじゃあ少し考えてみようぜ。お前さんが「価値を失う」とこっちも巻き添えを食うし、同時にお前さんの思っている「とある女性」も手札としての価値が下がる…違うか?」

アンジェ「いいえ」

ドロシー「私たちの脱出だって上手くいくとは限らないし、監視チームの立ち上げだって時間がかかる……それまでにここがもぬけの殻になるのは目に見えてる」

アンジェ「ええ…」

ドロシー「…だとしたらお前さんの残した産物(プロダクト)には価値がないってことになる。だったら価値のある方を取り戻すのが利益になる…どうだ?」

アンジェ「だとしても…」

ドロシー「その辺の保安措置は大丈夫さ……局を閉鎖するときに「トガリネズミ」の事は連絡したし、問題になりそうな機材は全部始末しておいた」

アンジェ「……でも…」

ドロシー「それにだ……お前さんが鉄格子の向こうだの天国だのに行っちまったら、あのレディを悲しませることになる…だろ?」

アンジェ「……っ、それとこれとは関係ないでしょう///」

ドロシー「大ありさ…もしもそうなったら今まで築いてきたこっちの信頼やカバーは無駄になるし、ひいては協力が得られなくなるかもしれない……分かったらおしゃべりはやめて、さっさとこんなところからはおさらばしようぜ♪」

アンジェ「ええ……どうやらそれが今までで一番まともな判断ね…」

ドロシー「そりゃどうも…それと、ほら」ウェブリー・フォスベリーと着るものを差し出した…

アンジェ「…助かるわ」

ドロシー「ああ…ところでこの連中は?」ドアが吹き飛んだ時の爆風で伸びているワイルドローズたち三人をあごをしゃくった…

アンジェ「連中が尋問官の代わりに準備した怪しい趣味の女性よ……息はあるようだし、睡眠薬を打って連れて行く」

ドロシー「…途中で怪しまれないか?」

アンジェ「そのあたりの手はずは考えてある……任せてちょうだい」

ドロシー「やれやれ、そこらじゅう引っぱたかれて生傷だらけにされてるって言うのにか? まったく、ついていけないぜ…♪」

………

335 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/16(日) 01:26:13.12 ID:Th4KJ3Jx0
アンジェ「逆ね…あれこれ考えを巡らしていれば必要以上に怯えたりしないで済む」

ドロシー「なるほど……なにはともあれ早くここを出よう。いつ連中の仲間が来るか分かったもんじゃないしな」

アンジェ「そうね……うっ…く!」地面に足をついた瞬間、焼け付くような痛みが押し寄せてきた…

ドロシー「…足の裏もやられたのか?」

アンジェ「ええ、革ベルトでね……う゛っ!」

ドロシー「……その足じゃ歩くのは厳しいだろ…ほら、おぶってやるよ♪」

アンジェ「馬鹿言わないで。それじゃあこの三人はどうする気?」

ドロシー「どのみち三人をいっぺんに運ぶのは無理だ…往復すりゃいいさ」

アンジェ「…それだと時間がかかるわ」

ドロシー「そればっかりは仕方ないさ…ベアトリス」

ベアトリス「はい」

ドロシー「戻ってくるまで見張っててくれ。私はその間にこの愛想の悪いやつを運んでくる」

ベアトリス「分かりました」

ドロシー「よし…ほら、行くぞ♪」アンジェを背負って地下室から運び出した…

…地下室への階段…

ドロシー「…よいしょ……」一段一段確かめるように階段を上る…

アンジェ「……上にはちせが?」

ドロシー「ああ」

アンジェ「なるほど、彼女まで巻き込んだというわけね…」

ドロシー「私はちゃんと「一緒に来るならでっかい問題に巻き込まれる」とは伝えたからな…あとは本人の自由意思ってやつさ♪」

アンジェ「なるほど……形は整えたわけね?」

ドロシー「そういうこと……ほら、噂をすれば♪」

ちせ「……おお、ドロシーどの…アンジェどのは無事か?」

ドロシー「ああ、さっきから私の背中にしがみついてぶつくさ皮肉を言ってるよ……とりあえず腕や脚は付いてるし、聞いている限りじゃ毒舌も無事らしい」

アンジェ「別に「ぶつくさ」なんて言ってないわ…正確な判断が出来ていないわね」

ドロシー「この通りさ……ちなみにまだ回収したいものがあるからベアトリスを下に残してある。 とにかくこの皮肉屋を車に運んでくるから、引き続きここを頼む」

ちせ「うむ、承知した……無事で何よりじゃ」

アンジェ「……ありがとう」

ちせ「なに、構わぬよ」

ドロシー「よっこらしょ……とにかく身体を休めて、もし連中のお仲間が来るようだったらちせに向けて合図のランタンを振ってくれ」

アンジェ「ええ…」

ドロシー「それじゃあ私は戻るが…手早く済ませてくる♪」

アンジェ「頼んだわよ」

ドロシー「ああ…♪」
336 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/19(水) 01:51:35.25 ID:ynqAWnBW0
…数分後…

ドロシー「…よし、これで運び終わったな……やれやれ、とんだ大仕事だったぜ♪」自分は一番大柄なワイルドローズを背負い、ベアトリスとちせにはそれぞれアゴニーとアンギッシュを運ばせたドロシー……地面にワイルドローズを下ろすと、額の汗を拭う真似をして冗談めかした…

アンジェ「お疲れさま」

ドロシー「おう…で、どうやってこいつらを怪しまれないで連れて行くつもりだ?」

アンジェ「そのことだけれど……ロープはある?」

ドロシー「もちろん。この世界の必需品だろ」

アンジェ「ならこの二人を互い違いにして縛り上げて」

ドロシー「あいよ」まるでサーディンを缶詰めにするようにアゴニーとアンギッシュを互い違いに寝かせると、ロープできっちりと縛り上げた…

アンジェ「結構…ならその二人は後ろのトランクへ詰めて?」

ドロシー「了解だ……ベアトリス、手伝え」

ベアトリス「はい」車の後部についている四角いトランクを開けると、ローストビーフの肉そこのけにぐるぐる巻きになっている二人を押し込んだ…

ドロシー「よし…で、この女は?」

アンジェ「それも考えてあるわ……ドロシー、さっきの気付けをちょうだい」

ドロシー「……ああ、なるほどな♪」

アンジェ「そういう事よ」睡眠薬ですっかり意識を失っているワイルドローズの顔や胸元にたっぷりとブランデーを振りかけた…たちまち酒屋の店先のように強い匂いがたちこめる……

ベアトリス「えーと……つまり?」

ドロシー「はは、簡単さ…私たちはゴキゲンなパーティ帰りの貴族様で、このレディは少しばかりグラスが多かった……って設定さ♪」睡眠薬ですっかり意識を失っているワイルドローズを後部座席に座らせた…

ベアトリス「あ、あぁ…なるほど!」

アンジェ「そういう事よ……それならもし警官に停められても言い逃れができる」

ベアトリス「でも…この格好だと貴族になんて見えないと思うんですが……」自分の黒マントを広げてみるベアトリス…

ドロシー「なぁに、そこは冴えた頭とよく回る舌、それに王立劇場並みの演技力でどうにかするさ……えらそうな口調で横柄な態度、貴族くらいしか買えない自動車に怪しげな格好……となればどう見たって上流階級の密かなお楽しみ…つまり貴族のご婦人方がこっそり楽しい乱痴気パーティからのお帰り、って設定さ♪」

アンジェ「その通りよ…もちろんスコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)の警官も馬鹿じゃないから、わざわざ貴族の車を停めさせて不興を買ったりするような真似はしないとは思うけれど……」

ドロシー「…説得力のある設定を作っておけば慌てないで済むからな」

ちせ「なるほど…しかし、日本人の私はどう見ても貴族には見えぬが……そこはどうすればよいのじゃ?」

アンジェ「そうね、貴女は私たちが買って「お持ち帰り」の上で愉しませてもらう予定の東洋人を演じてもらう。だから何もしゃべらなくていいし、適度に縮こまっていればいい」

ドロシー「だな…ちなみにベアトリス、お前さんもちせと似たような境遇だ…私やこの女が今夜たっぷりともてあそぶ予定の「可愛い小間使い」って所だ♪」

ベアトリス「わ、わかりました…///」

ドロシー「よし、じゃあ車を出すぞ♪」

アンジェ「ええ…テムズ川沿いのネスト「ツバメの巣」に向かってちょうだい」

ドロシー「あそこか……到着するまでしばらくかかるし、寝たきゃ寝てもいいぜ?」

アンジェ「気持ちはありがたいけれど、戻るまでは起きているわ」

ドロシー「分かった…ブランデーの残りも飲んじまっていいからな?」

アンジェ「大丈夫よ…」

ドロシー「ああ、分かった」

………

337 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/21(金) 01:38:55.37 ID:R6QkteRl0
…ロンドン市内…

ドロシー「それにしても……そこの女にしろあの施設にいた奴らにしろ、今回は妙に素人くさい連中だったな…」

アンジェ「ええ…私も尋問の間出来るだけ耳をそばだてていたけれど、どうやらあのエージェントたちは外務省の情報部みたいね」

ドロシー「外務省情報部? …あいつらは貿易品の相場みたいな情報や外地での諜報活動なら強いが……国内の防諜もやってるのか?」

アンジェ「…だからじゃないかしら」

ドロシー「得点稼ぎに共和国の情報部員をあげて、他の省庁にいいところを見せようとしたっていうのか?」

アンジェ「ええ。そう考えたらあの場当たり的でせわしない様子もつじつまが合う……特に最近の防諜活動は防諜部の一強状態にあるし、エリート官僚が多くて気位(プライド)の高い外務省からしたら新参者に負けているのはしゃくにさわるはず…要は誰かが早急に成果を求めたのでしょうね」

ドロシー「なるほどな……」

…相づちを打ちながら夜霧がかかっているロンドンの道を迷うこともなく走らせていたが、一本の細い通りに入ると不意に車を停めた…

ドロシー「よし……アンジェ、ここで降りろ」

アンジェ「…どういうつもり?」

ドロシー「もしかしたら気づいてないかもしれないが、お前さんは夕方からさっきまで尋問されてたんだ……残りの後片付けは私とちせでやっておくから、ベアトリスを連れて寮に戻れ」…アルビオンらしい皮肉を利かせてはいるが顔をアンジェの方に向け、真剣な口調で言った……

アンジェ「だめよ」

ドロシー「馬鹿言うな。身体中傷だらけでまともに歩けもしないだろ…手伝いにならねえよ」

アンジェ「だとしても…」

ドロシー「あそこについた時、どうやっておけばいいのかは私にも分かってる……今は戻って傷の手当てをしろ」

アンジェ「…でも」

ドロシー「口答えするな。別に「お涙ちょうだい」の三文芝居にあるような安っぽい同情で言っているわけじゃない…お前の能力が落ちているのは「白鳩」の活動にとっても不利になるからだ」

アンジェ「……わかったわ」

ドロシー「よろしい。ベアトリス、お前さんは怪我の手当だとか看病だとか…そういうきめ細かい気遣いが得意だからな、よく診てやってくれ」

ベアトリス「はい、任せて下さい…!」

ドロシー「結構…どっかの誰かさんもこのくらい聞き分けがいいと助かるんだが……」

アンジェ「…余計なお世話よ」

ドロシー「へっ、だったら最初から人の言うことを聞くんだな♪」

アンジェ「そうね、これからはそうする……年寄りにくどくど言われるのは閉口だもの」

ドロシー「ああ…ちせ、悪いがもうちょっと付き合ってくれ」

ちせ「うむ」


…霧の中に走って行ったドロシーのカスタム・カーを見送ると、寮へ戻る道を歩きはじめた二人……いつも通りのポーカーフェイスを崩さないアンジェだが、さすがに脚が痛むらしく一歩づつ慎重に歩いている…


ベアトリス「…大丈夫ですか?」

アンジェ「ええ…」

ベアトリス「必要なら肩を貸しますよ…?」

アンジェ「必要ないわ……第一そんなことをしていたら目立つ」

ベアトリス「でも、誰もいませんし…」

アンジェ「……だからと言って誰も見ていないとは限らないわ。もしかしたら家の窓から外を見ている人間がいるかもしれない」

ベアトリス「それはそうですが……とにかく寮に戻ったら、ゆっくり休んで下さいね?」

アンジェ「ええ…それと、ベアトリス」

ベアトリス「はい、何ですか?」

アンジェ「…今日はドロシーと一緒に突入役を担ったようね…いくらドロシーにあの射撃の腕があっても、一人だけではまかないきれない部分もあるし、貴女の援護なくしては成り立たなかったはずよ……よくやったわ」

ベアトリス「…ありがとうございます///」

アンジェ「お礼は必要ない……貴女の実力を評価しているだけよ」

ベアトリス「…はい♪」
338 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/23(日) 01:50:44.87 ID:uBOwlgYt0
…寄宿舎・裏庭…

アンジェ「…うっ……」

ベアトリス「大丈夫ですか? …ほら、手を貸しますから……」寄宿舎の外周を取り巻くように植えてある鉄柵と生垣…身体の痛みをこらえて隙間を通り抜けようとするアンジェと、それを手伝うベアトリス……

アンジェ「……まさか貴女に手を引いてもらうことになるとは…私もそろそろ引退を考えた方がいいようね」植え込みで光がさえぎられているのでよく見えないが、かすかに笑みのようなものを浮かべているらしい…

ベアトリス「もうっ、可愛くないですね……さ、早く「部室」で手当てをしましょう?」

…部室…

アンジェ「…ふぅ、どうやら五体満足で戻ってこられたようね」ようやく少しだけ警戒を緩めたアンジェ…心なしか肩を落とし、一気に疲れたように見える…

ベアトリス「そうですね…とにかく室内に入って下さい、手当をしなくちゃいけませんから」

アンジェ「それもそうだけれど、今夜中に暗号文の起草をしておかないと…特にこれだけの事があった以上は……」

ベアトリス「ダメです…! 特に今夜は姫様が公的行事として観劇をなさっていて、お帰りが夜の十一時と遅いんですから…私以外にアンジェさんの手当てを出来る人はいないんですよ?」

アンジェ「…分かったわ……」

ベアトリス「ならいいです……って、姫様!?」扉を開けると心配げに座っていたプリンセスが視界に入り、周囲に聞こえないような小声ながらも驚きの声を上げたベアトリス……と、プリンセスは立ち上がって二人に駆け寄った…

プリンセス「…あぁ、二人とも……無事だったのね…!」

アンジェ「……おかげさまで、こうして生きているわ」

ベアトリス「私も傷一つありません……でも、どうして姫様が? 観劇の後は宮殿に戻って…それからお召し替えをなさって……どう頑張ってもここに戻るのは深夜になってしまうはずですが…」

プリンセス「ええ、その通りよ…ほら」

…そう言った矢先に、窓の外から深夜零時を知らせる「ビッグ・ベン」の鐘がかすかに聞こえてきた……

ベアトリス「えっ、もうそんな時間ですか……?」

プリンセス「ええ…なかなか戻ってこないから心配したのよ?」

アンジェ「そのようね……」少しよろめいて椅子に座りこんだ…

プリンセス「アンジェ…!」

アンジェ「大丈夫よ……向こうの連中とちょっとした「見解の相違」があって、いくらか「意見の転換」を求められただけだから」冷めた口調で皮肉なユーモアを披露してみせるアンジェ…

プリンセス「いいから見せて……あぁ、何てこと…あちこち傷だらけじゃない… ベアト、あなたも大変疲れているところで悪いけれど、すぐに私の部屋から金縁の箱に入っているお薬を持ってきて?」

ベアトリス「いえ、私は平気です……それよりすぐに持ってきますね」

プリンセス「ええ…」


…普段は一国の王女らしく鷹揚(おうよう)でおっとりしているように見えるが、実際は何かと手際のいいプリンセス……すでに暖炉の脇ではポットのお湯が沸いていて、テーブルの上にはそこそこの大きさの金だらいとタオル数本、一通りの薬が入っている薬箱と気付けのブランデーが並んでいる…


プリンセス「さ、脱いで…傷を見せなさい?」

アンジェ「……ベアトリスが戻るまで待った方がいいわ」

プリンセス「口答えしないの「シャーロット」……私は血を見たくらいで失神したりしません…っ!」

アンジェ「…分かった、なら好きにするといいわ……」しゅるっ…と黒いマントを床に落とすと、続けてブラックグリーンの上着と揃いのコルセット、それから黒に近いダークブラウンのスカートを脱ぎ捨てた……シルクのペチコート姿で椅子にもたれているアンジェはいつもより蒼白で、床に散らかる血の付いたコルセットやストッキングも痛々しい…

プリンセス「…ひどい」

アンジェ「そうでもないわ……爪も無事なら歯もへし折られなかったし、両目も見える」

プリンセス「そんなこと言ったって、ふとももの皮が裂けて……いま消毒と止血をしてあげるわね」現場でドロシーたちに巻いてもらったありあわせの「包帯」をそっとはがすと、たらいにお湯を注いでタオルを絞った…

アンジェ「ええ…」痛みをこらえながら傷の周りを拭いてもらい、それから消毒薬をそそぎかけてもらった…いつも表情を隠しているアンジェではあるが、薬が沁みるときの強烈な痛みに顔をしかめた……

プリンセス「アンジェ…痛むでしょうけれど、我慢してね」

アンジェ「ふ、今さら傷の一つや二つで泣いたりしないわ……」

ベアトリス「…姫様、持ってきました」

プリンセス「ありがとう…それじゃあベアト、あなたもこれを塗るのを手伝って?」プリンセスが鍵のかかった金縁の小箱を開けると、こぎれいな薬瓶が並んでいる…と、中に入っている広口瓶を取り出して蓋を開け、白い液状でうす甘い匂いのする薬を手に取った……

339 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2019/06/27(木) 01:56:54.79 ID:ZTtOiJCr0
………



プリンセス「…どう、アンジェ?」

アンジェ「少し沁みるけれど……焼けるような痛みは感じなくなってきたわ」

プリンセス「良かった……このお薬はベーカー街(貴族・富裕層向けの医者が多い通り)でも有名な名医が販売しているお薬なの」

アンジェ「…それは意外ね、あの通りは暇な貴族相手のやぶ医者しかないと思っていたわ」

プリンセス「もう、アンジェったら……って、ベアト?」

ベアトリス「…すぅ…すぅ……んぁっ、姫様?」アンジェのふとももに丁寧に薬を塗っているベアトリス…が、小さな身体で八面六臂の大活躍をしたのですっかり疲れてしまい、指先に軟膏をつけたままうつらうつらしている…

プリンセス「…ベアト」

ベアトリス「は、はいっ」

プリンセス「今日は大変だったでしょう…アンジェの治療は私に任せて、あなたは先にお休みなさいな」

ベアトリス「いえっ、ですが…!」

アンジェ「……いいから休みなさい。このまま寝ぼけた状態で変なところに軟膏を塗られたり、薬の瓶を割られたりされたら困る……それに今日は務めを果たしたのだから、もう充分よ」

ベアトリス「……でも」

プリンセス「…ベアト、命令しなくちゃダメかしら?」

ベアトリス「いえ……分かりました。 それでは済みませんが、先に休ませていただきます…///」

プリンセス「ええ♪」

アンジェ「よく睡眠をとることね…お休み」

プリンセス「……ふふ、けなげなベアト♪」

アンジェ「彼女の美徳の一つね…ただ残念なことにこの世界では「結果」が全てだから、いくら懸命にやっても成果に結びつかない限り評価はしてもらえない……生真面目な彼女からすると、そこが一番つらい所かもしれない」

プリンセス「そうね……ところで痛みはどう?」

アンジェ「おかげ様でずいぶん痛くなくなったわ…」

プリンセス「よかったわ。このお薬は傷跡も消してくれるから、数週間もすれば肌も綺麗に戻るはずよ」あらかたの傷に薬を塗り終えると瓶をしまって箱を閉じた…

アンジェ「助かるわ…なにせこの身体だって「道具」の一つだから、傷だらけでは困る」

プリンセス「ええ……ところでその尋問官の人は男の人だった? それとも女の人?」

アンジェ「あんなのは尋問官でもなんでもない…ただ人をいたぶって悦んでいる背徳的なサディストにすぎないわ」

プリンセス「そうかもしれないわね……それで、どっちだったの?」

アンジェ「女よ…それが?」

プリンセス「…いえ、その女(ひと)がうらやましいと思って……」

アンジェ「……どういう意味?」

プリンセス「だって……私のシャーロットに跡を残すなんて…私でさえそんなのしたことがないのに……」

アンジェ「あなたも私を鞭打ちにしたいの?」

プリンセス「そうじゃないわ。でも…」

アンジェ「でも…?」

プリンセス「そうね、例えば……はむっ、ちゅぅ…っ///」生傷だらけのアンジェをそっと撫でていたわりながら、ふとももの傷のない場所に吸いつくようなキスをした…

アンジェ「…どういうつもり///」

プリンセス「こうやって私の「シャーロット」に跡をつけたくて……ちゅぅぅ…っ♪」

アンジェ「それじゃあ、せめて見えないところにするようにして……ん、ちゅぅ…」
340 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2019/06/30(日) 02:09:09.36 ID:64Y7Qy730
プリンセス「…あぁ…はぁ……あむっ、かぷ……っ…♪」

アンジェ「んくぅ……甘噛み…は……止め……んぁ…っ……///」

プリンセス「…いや……あむっ…」

アンジェ「はぁ…んっ/// …なにも貴女が嫉妬するような事じゃ…ない……でしょう…んぁぁ///」

プリンセス「だって……妬けちゃうんですもの…」ランプの灯を小さく落とした薄暗い部屋で耳たぶを甘噛みしながら、ささやきかける…

アンジェ「あっあっあっ…そんなこと…で、んぅぅ……そのつど嫉妬していたら……んっ…到底この世界では務まらな……んんっ…///」

プリンセス「……シャーロットのいじわる」そう言うとふとももの間に顔を沈めて、舌を這わせた……

アンジェ「だ、だめ……そこは…んぅっ///」

プリンセス「でも……ぴちゃ…んちゅるっ、ちゅぅ……私がしたいの…♪」

アンジェ「止めて…今日はまだお風呂にも入っていないし…んっ、くうっ…ぁっ///」

プリンセス「大丈夫よ……私は貴女と一緒ならこの手を血に染めたってかまわないし、どこだって舐められるわ…ぴちゃ……ちゅぅっ♪」

アンジェ「……ばか///」

プリンセス「ふふ……あむっ、ちゅ……れろっ、くちゅ…っ♪」

アンジェ「あっ、はぁ…んぅぅ…っ///」ふとももを内股に閉じて頬を紅く染め、恥ずかしげに顔をそむけている…

プリンセス「んむっ、れろっ……シャーロットのここ…まるでピンクパールみたい……かぷっ♪」ふっくらしていてとろりとぬめっている花芯の「核」の部分を優しく甘噛みした…

アンジェ「あっあっ……あぁんっ///」いつもは冷ややかなアンジェの瞳が焦点を失い虚ろになると椅子に腰かけたまま身体をひくつかせ、つま先も床から離れてがくがくと震えた…

プリンセス「んふっ、ちゅぅっ……んちゅる、じゅるぅぅ…っ♪」

アンジェ「んぁぁ…っ、あぁ……はひっ、んぅぅっ…!」とぽ、とろっ……ぷしゃぁ…ぁっ♪

プリンセス「…あんっ、んふっ♪ シャーロットの温かい蜜がかかっちゃったわ……んちゅっ、れろ…ぢゅるぅ…っ♪」

アンジェ「はひっ、あぁ…ん/// ……これで……んんっ…満足……したでしょう?」

プリンセス「ええ、少しは……でも、シャーロットにはもっともっと気持ち良くなって欲しいわ♪」

アンジェ「待って、プリンセ……」

プリンセス「…かぷっ♪」

アンジェ「あっあっ、あぁぁん…っ!」


…誰かに聞こえては困るので、声を漏らすまいと必死に喘ぎ声を抑えるアンジェ……しっかりした作りの椅子がきしむほど「びくんっ…!」と身体が跳ね、しゃがみこんでいるプリンセスの顔や胸元にとろとろと愛蜜をぶちまけてしまう…


プリンセス「きゃあっ…もう、シャーロットったら♪」ちゅくちゅくっ、ちゅぱ…れろっ♪

アンジェ「はあぁっ、んぁぁ……はぁ…///」

プリンセス「……ふふ、私だけのシャーロットに…私のしるし♪」かぷっ…♪

アンジェ「…はひっ、ひぅ……はぁ…んくぅぅ……♪」必死にこらえようとしているが、アンジェの感じやすい部分をを知り尽くしたプリンセスの愛がこもった絶妙な責めに、すっかりトロけた表情になっている……声も甘えたような舌っ足らずな調子で、口の端からよだれをひとすじ垂らしている…

プリンセス「あぁ、もうシャーロットってば……可愛くってどうにかなってしまいそう…んちゅっ、ちゅぅっ…んじゅるっ、じゅぷっ♪」

アンジェ「はひゅっ、ひぅっ…あっ、んはぁ…あぁぁぁっ♪ ん、んんっ…あふっ、んあっ……ひくっ、ひくぅぅ…っ♪」ぷしゃぁ…ぁっ♪

プリンセス「……ん、ちゅっ……じゅぷっ…もう少ししたら……んちゅっ…お部屋まで連れて行ってあげ……じゅるぅ…るわね♪」

アンジェ「はー、はー、はーっ…そうしてもらえると……んくっ…助かるわ……///」ぐったりと椅子に崩れ落ちているアンジェ…きゅっと引き締まった脚にはねっとりした愛液の流れがひとすじ出来ていて、つま先にまで届いている……

プリンセス「ええ…ちゅっ♪」身体を伸ばすと、すっかり荒れてしまっているアンジェの唇にむさぼりつくようなキスをした…

………

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