ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」

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689 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/03/24(日) 01:37:19.98 ID:76domkFH0
…屋外運動場…

スカーレット教官「さぁ、頑張って走りましょう……適度な運動は美容にも良いわよ♪」

訓練生A「はぁ……はぁ……」

訓練生B「ひぃ……もうだめ……」

…ハードルや雲梯、綱渡り、匍匐前進など盛りだくさんの障害物が含まれているコースを走らされている訓練生たち……うら若い女性であるスカーレット教官は息も絶え絶えの訓練生たちを励まし、助言をしながら鹿のようにかろやかに走って行く…

ドロシー「はっ、はっ……」

スカーレット「ミス・ドロシーはこれで五周目ね?」

ドロシー「そうです、レディ・スカーレット……ふぅ、はぁ……」泥水の溜まった四角い池の上に張り渡されたロープを掴んで渡りながら、途切れ途切れに返事をする……

スカーレット「良い調子ね、頑張って♪」

ドロシー「どうも……」

スカーレット「……ところでミス・マティルダ、貴女は大丈夫?」

マティルダ「はい、私は大丈夫で……ふえっ!」勢い込んでそう返事をした矢先にハードルに脚を引っかけ、派手に顔面から砂場へ突っ込んだ……

訓練生C「……ぷっ♪」

訓練生D「くすくす……っ♪」

スカーレット「うーん、あまりそうは見えないけれど……それじゃあもうちょっと頑張ってみましょうか」

マティルダ「はい……っ!」

…はきはきと返事をしたマティルダは全体からすれば周回遅れもいいところだが、クサらずいたって真面目に走っている……が、砂まみれのくしゃくしゃ髪や、泥水に落っこちてポタポタとしずくをたらしながらちょこまかと走っている様子を見ていると、庭先ではしゃいでいるヨークシャー・テリアのようにしか見えない……次々と追い抜いていく他の候補生たちの中には、思わず笑い出してしまう者までいる…

スカーレット「それじゃあロープをしっかり掴んで、膝裏をロープに引っかけるようにして身体を支えながら、腕の力で前へ引っ張っていくように……」

マティルダ「分かりました……っ!」

スカーレット「そうそう、その調子よ」

マティルダ「よいしょ、こらしょ……ひゃう!?」ロープの上で身体のバランスを崩すと、半回転しながら下の水たまりに落ちて水しぶきをあげた……

訓練生E「ねぇマティルダ、こんな時期に水遊びなんてしてたら風邪引くわよ?」隣のロープをすいすい進みながら、訓練生が皮肉を言った……

マティルダ「うっぷ……でもあんまり冷たくはないですよ?」

スカーレット「ふふふっ……それなら良かったわ、でも今度は落ちないようになさいね?」思わず失笑してしまうスカーレット……

マティルダ「はいっ、頑張ります!」全身から水を滴らせながら這い出てくると、小型犬のようにぶるぶると身震いをしてしぶきをふるい落とし、また走り出した……

………

…教室…

シルバー教官「では、前回のつづり方のテストを返却しよう……成績トップは満点のミス・アンジェだ、おめでとう」

アンジェ「ありがとうございます」

シルバー「そして残念ながら、最下位だったのは……ミス・マティルダ、君だ」

マティルダ「うぅ……」

シルバー「そうしょげることはない、どうやら君は前回の授業をよく聞いてくれていたようだね。書いた答えのうち、おおよそ半分は合っていたよ」

マティルダ「本当ですか、ミスタ・シルバークラウド!?」ぱっと明るい表情を浮かべた……

シルバー「ああ、本当だとも……記述欄がひとつずつズレていなければ、だが」

マティルダ「あっ……!」

訓練生たち「「くすくす……♪」」

シルバー「うっかりミスは情報部員にとっては致命的な結果を招きかねない、今後はこういったことがないよう注意するように……明後日までにラテン語の書き取り二十枚だ」

マティルダ「はいっ」

シルバー「よろしい……それと、諸君の中にはミス・マティルダより誤答の多い者もいたのだからね。次のテストを考えると、あまり笑ってはいられないのではないかな?」

ドロシー「おやおや、そりゃ一体どこのどいつだろうな?」

アンジェ「……てっきり貴女の事かと思ったけれど、違ったのかしら」

ドロシー「よせやい。練習もしてあるし、カンニングの用意だってバッチリさ」

アンジェ「やれやれね……」
690 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/03/29(金) 01:08:56.06 ID:iRyZjprV0
…ある日・更衣室…

意地悪な訓練生「……それにしても不思議よねぇ、ドロシー」

ドロシー「何が?」

意地悪「マティルダよ、なんであの子が訓練生になれたのかしら? 確か教官は「我々は身分や階層、人種で訓練生をえり好みするようなことはしない」って言っていたけれど、きっと才能もえり好みしなかったのね」

イヤミな訓練生「あら、私は良いと思うけど? あの子が万年最下位にいてくれたらビリにならなくて済むじゃない」

意地悪「それもそうねぇ。それにしてもマティルダってば、いっつも子供みたいに「頑張ります!」って……ふふ、あの子いくらが頑張ったところでどうにもなりはしないのにね♪」

イヤミ「でも、その方が教官には受けが良いじゃない?」

…さしたる努力もせずそれなりの成績でうろうろしているだけの二人が底意地の悪さを発揮してマティルダを馬鹿にしているのを聞いているうちに、溜まっている疲れのせいもあってか、普段は飄々と振る舞っているドロシーも思わずカッとなった…

ドロシー「……ま、教官たちも手抜きをする二流よりゃ真面目な三流の方が使いどころがあるって考えてるんじゃないのか?」

イヤミ「へぇ、ドロシーはああいうのがお好み? 確かに小型犬みたいで、足元にはべらせておくには良いかもしれないものねぇ♪」

ドロシー「そうだな。少なくとも主人の可愛がっているカナリアを食い殺してニヤニヤしているような猫どもなんかよりはよっぽどマシだろうよ」

意地悪「ふぅん、それじゃあ少なくともあの子にも一人は味方がいるってわけね」

イヤミ「それも一流訓練生様の♪」

ドロシー「……格闘訓練がしたいんならその時間はあるぜ?」

意地悪「あら、別にそんなつもりじゃないんだけど?」

イヤミ「そんなに恋人のことを言われたのがお気に障ったのかしら♪」

???「はぁ……くだらない事を言っている暇があるんだったら少しでも訓練したら?」

意地悪「あら、貴女もいたの? アンジェ」

アンジェ「黒蜥蜴星人はどこにでもいるしどこにもいない。そういうものよ」

イヤミ「それで、黒蜥蜴星人さんもあの小型犬のことがお好きなわけ?」

アンジェ「好きも嫌いもないわ。私の邪魔さえしなければ誰が何をしようと別に構わない」

意地悪「あら、私がなにか邪魔をしたかしら?」

アンジェ「ええ……私も早く着替えたいの、油を売っている暇があるのだったら早くどいてもらえるかしら」

意地悪「これは失礼……それじゃあお先に♪」

イヤミ「では一流訓練生様どうし、水入らずでどうぞごゆっくり♪」へらへらと笑いながら出ていった……

ドロシー「……けっ、ドブ川の底みたいに性根が腐ってやがる」

アンジェ「あんな連中の言うことを馬鹿正直に聞いているから頭に血がのぼるのよ、少しは学習しなさい」

ドロシー「ああ、私の悪い癖だな……それにしてもあいつらの憎まれ口だが、ありゃあご本人にゃ聞かせたくないシロモノだな」

アンジェ「それについては同感だけれど、残念ながらそうはいかなかったようね……」

マティルダ「……」

…アンジェが軽くあごでしゃくった先には、ロッカーの陰からひょっこり顔を出しているマティルダ本人がいた……普段どんなにキツい訓練でも泣き顔だけは見せない彼女が、珍しく顔をゆがめて涙をこらえている…

ドロシー「……聞いてたのか?」

マティルダ「うん、ちょうど二人がドロシーに話しかけたあたりで……」

ドロシー「そうか……ま、あんな奴らの言い草なんか忘れちまえ」

アンジェ「それに世の中にはもっと大変な事だってたくさんあるわ、あんなので泣いていたら涙が足りなくなるわよ」

マティルダ「そう、だよね……うん、頑張る」

ドロシー「よしよし、その意気だ♪」髪をくしゃくしゃにするように頭を撫で繰り回した……

マティルダ「わひゃあ!?」

ドロシー「ぷっ、なんだよその鳴き声♪」

マティルダ「もうっ、いきなり頭を撫でたりするからでしょ?」

アンジェ「どうやら泣き虫は収まったようね」

マティルダ「ええ、だって一流エージェントはアンジェみたいに表情に出さないものだものね」

アンジェ「……」そう言って純粋な憧憬をたたえた瞳を向けられ、さしものアンジェも困ったような表情をちらりと浮かべた……
691 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/04/06(土) 00:59:52.65 ID:IZkqyWJp0
…別の日…

訓練生A「次の時間は……う、ミス・パープルの実技ね///」

訓練生B「あぁ、今日はそうだったっけ……私、あの人に流し目をされただけでドキドキしてきちゃうのよね///」

…ファームの一室、ずっしりと重い樫の扉の奥に広がっている豪華で官能的な雰囲気の漂っている寝室は「ハニートラップ」のしかけ方とその対策を「手取り足取り」教えてくれる美人教官、ミス・パープルの牙城で、たいていの訓練生はパープルとクィーンサイズのベッドの上で数十分過ごすと、格闘訓練を数時間行ったときよりも激しく膝が震えてしまい、その後しばらくは甘い余韻ですっかりグロッキーになってしまう…

アンジェ「……」おしゃべりに加わるでもなく、静かに座っている……

ドロシー「なぁアンジェ、ミス・パープルだけどさ……ありゃあきっと人間じゃない、地上の女を骨抜きにするために月あたりから送り込まれてきた異星人だ」

アンジェ「そうね、黒蜥蜴星人である私がいるんだもの。月の人間がいたっておかしくはないわ」

ドロシー「やれやれ……食えないやつだな♪」

…しばらくして・パープルの部屋…

マティルダ「し、失礼します……///」

パープル「あら、いらっしゃい♪」

…座り心地のよい肘掛け椅子に腰かけながら少し汗ばんだ白い首筋を軽く拭い、それから艶っぽい仕草で後ろ髪をかき上げるパープル……マティルダはすでに顔を真っ赤にして、なまめかしいパープルの姿を見ないようにと視線をそらしている……パープルはそれに気付いてくすくす笑い、小さな丸テーブルの上に置いてあるポットから紅茶を注いだ…

パープル「さぁ、かけて? 紅茶とチョコレートをどうぞ♪」室内に立ちこめた甘い白粉とパープルの肌の匂い…それに蜂蜜のようにねっとりとした、頭がぼんやりするような何かの香水…濃紫と黒を基調にしたドレスの襟ぐりから白くふっくらした胸元をのぞかせ、黒い絹の長手袋に包まれた柔らかな手でチョコレートをひとつつまんでマティルダに差し出す……

マティルダ「い、いただきます……///」黒っぽく艶やかで濃密な味のする高級チョコレートだが、微笑むパープルにじっと見られているせいで味も分からぬまま口に運んでいる……

パープル「おいしい?」

マティルダ「はい、とっても美味しいです……///」

パープル「そう言ってくれて嬉しいわ、マティルダ……だって貴女のために用意しておいたんですもの♪」ふんわりといい香りが漂う、ミルクと砂糖の入った紅茶をすすりながら、濡れたような瞳でじっと見つめる……

マティルダ「///」

パープル「さ……いらっしゃい♪」紅茶を飲み終えてカップをソーサーに置くと、いつくしむような手つきでマティルダの可愛らしいほっぺたを撫でた……

マティルダ「ひゃ……ひゃい///」

パープル「まぁまぁ、ふふ……そんなに固くならないで? 大丈夫、私が優しくしてあげるから……♪」パープルは水中で柔らかなレタスの葉をむくように、着ている物を優しく丁寧に脱がせていく……

マティルダ「はひっ……ひゃう……っ///」

パープル「もう、そんなに真っ赤になっちゃって……可愛い♪」ふっくらとしてリンゴのように赤いマティルダの両頬に手を添え、瞳の奥を見透かすようにじっと凝視するパープル……

マティルダ「ふあぁ……あぅ///」

…ふかふかしたベッドの上で小さく舌なめずりをして、ねっとりとした甘い色をたたえた瞳で次第に迫ってくるパープルと、太ももを擦り合わせてもじもじしているマティルダ……その様子は蛇ににらまれたカエルや蜘蛛の巣に絡め取られたチョウチョのようで、パープルがのしかかるように迫ってくるにつれて、マティルダの身体が徐々に仰向けになっていく…

パープル「大丈夫、誰にも聞こえないから……ね、キス……しましょう?」みずみすしく艶やかなローズピンク色の唇がゆっくりと迫ってくる……

マティルダ「ミス・パープル……わ……私、もう……んんぅ///」

パープル「ん、ちゅぅ……ちゅむっ、ちゅ……あら♪」優しくキスをしながらそっとマティルダのふとももへ手を伸ばしたパープルが、思わず驚きの声をあげた……

マティルダ「は、はぁ……ごめんなさい、ミス・パープル……まだキスしただけなのに……ぃ///」ぐっしょりと濡れたペチコートを押さえて、恥ずかしそうに顔を伏せている……

パープル「ふふふっ、いいのよ……それはそれで可愛いわ♪」

マティルダ「でも……」

パープル「だーめ、せっかくベッドの上にいるんですもの……「でも」は禁止♪」チャーミングな笑みを浮かべながらそう言うと「えいっ♪」とマティルダをベッドに押し倒した……

マティルダ「ひゃぁ!?」

パープル「ねえ、マティルダ……今度は私にキスしてくださる?」押し倒しつつ体を入れ替え、甘えるように両腕を広げて眼を閉じる……

マティルダ「は、はい……ん、んっ///」ぎくしゃくとした動きでパープルの唇にそっと口づけする……

パープル「ん、ちゅっ……んふっ、ふふふっ♪」

マティルダ「あ、あれ……っ?」

パープル「あぁ、ごめんなさい……貴女の口づけがあまりにも可愛いものだから♪」

マティルダ「うぅ、また上手く出来ませんでした……///」

パープル「いいのよ? マティルダのキスったら初々しくて、とってもきゅんきゅんしたわ♪ ……せっかくだから私に何か聞きたいことはある?」優しいお姉さんのようにマティルダを抱きしめ、頭を撫でる……

マティルダ「はい、あの……」

パープル「なぁに?」
692 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/04/11(木) 01:28:23.76 ID:vpROMSsr0
マティルダ「……私、せっかく「ファーム」に入れたんだから、一流のエージェントを目指したいと思っているんです///」あどけない子供っぽさを感じさせるような笑みを浮かべて、頬を赤く染めた……

パープル「まぁ、立派な心がけね♪」

マティルダ「ありがとうございます……でも、そう思って頑張ってはいるんですけどなかなか結果に結びつかなくって」

パープル「そうなの?」

マティルダ「はい。例えばミス・アンジェのように顔色ひとつ変えずに課題をこなそうと思ってもうっかりミスをしてしまうし……」

パープル「あらあら」

マティルダ「ミス・ドロシーみたいに射撃や格闘でいい成績を出そうとしても、射撃はまともに中心に当たってくれないですし、格闘をすれば攻撃が空を切るかちっとも効果がないかのどっちかで……」

パープル「……続けて?」

マティルダ「ミス・パープルみたいに相手をとろけさせるようなキスやえっちをしようとしても「くすぐったい」って言われるか「なんだか妹がじゃれついてきているみたい」って言われちゃうし……私も教官みたいなすべすべの髪とか、フランス人形みたいな綺麗なブルーの瞳だったら良かったのに……ミス・パープル、どうやったら私は一流エージェントらしくなれるでしょうか?」

パープル「なるほど、ずいぶん悩んでいたのね……でも心配はいらないわ、貴女には良いところがいっぱいあるもの♪」髪を撫で、ほっぺたに優しいキスをする……

マティルダ「そうでしょうか?」

パープル「ええ、貴女のその純真無垢な可愛らしさは何物にも代えがたい立派な特質よ? エージェントにはさまざまな性格、偽装が与えられるものだというのは覚えているでしょう?」

マティルダ「はい」

パープル「冷静で目立たず、さらりと会話を盗み聞きするようなタイプもいれば、私みたいな甘い言葉で相手を誘惑するエージェントや、常に派手な交友関係をひけらかして敵をあざむくエージェントもいる……でも、似たようなタイプのエージェントばっかりでは活動できる範囲も限られてしまうし、なによりすぐ敵方にバレてしまう」

マティルダ「つまり、私でもエージェントとして役に立てるってことでしょうか?」

パープル「もちろん。それどころか、むしろ貴女みたいなタイプは情報部にとってはとっても重宝する存在なの。これからもくじけずに頑張って行けば、きっとひとかどの情報部員になれるわ♪」

マティルダ「……ミス・パープルにそう言われたらやる気が出てきました♪」

パープル「そう、良かったわ……私たちは教官なんだから、分からないことや相談したいことがあったら遠慮せずに聞きに来ていいのよ? その時は、美味しい紅茶とお菓子を用意してあげる♪」そう言いながらずっしりした乳房を下から持ち上げるようにして、マティルダの顔に押しつけた……

マティルダ「ふぁ……い///」

パープル「それじゃあ次の娘が待っているから……ね?」人差し指をマティルダの唇にあてがい、チャーミングな笑みを浮かべてみせた……

マティルダ「はい、ありがとうございました♪」

パープル「ええ……またいつでもいらっしゃいね?」

………

…しばらくして…

パープル「……と言うことがありまして」

ブラック「ああ、あの娘か……真面目なことは確かだが射撃全般や爆発物の取り扱いに関しては絶望的だから、その方面では使い物にはならんな。これだけ過程が進んだ段階でも、まだピストルを持つのにおっかなびっくりと言った具合だ」

ホワイト「ふーむ、彼女は徒手格闘も苦手でね。小柄で腕力がないのもあるが、どうにも優しすぎて相手に対する攻撃性が発揮できないようだね……ブルー、君は?」

ブルー「ナイフもダメだ。カカシ相手の訓練で自分の手を切ってしまうようではな……やる気があるのは結構だが、あのセンスのなさではモノにならないだろう」

スカーレット「追跡と監視も、あのちょこまかした歩き方では見つけてくれと頼んでいるようなものでして。本人はしごく真面目でいい娘なのですが……」

マーガレット「ええ、本当にいい子なのですが……いかんせん、お洒落なドレスもお化粧もあまり似合わないのが残念ですわ」衣服や化粧、身ごなしといった分野を担当するマドモアゼル・マーガレットがフランス流に肩をすくめた……

グレイ「同感ですね。マナーに関しては決して悪くはないのですが、どうにも貴族の令嬢には見えません……よくて「庶民のいい子」どまりです」

ブラック「まったく、候補生不足なのか知らんが、上層部はなんであんな娘を候補生として送り込んできたのやら」

ブルー「あれではファームを出ても、誰も引き受けたがらないような地味な監視任務や連絡役にされるのがせいぜいだろうな……」

ブラウン「……」

ブルー「……何か意見がおありのようですな、ミセス・ブラウン?」

ブラウン「まぁ「意見」というほどの物ではないけれども、ちょっとね……」

ホワイト「ミセス・ブラウン、貴女ほどの元エージェントが抱いた感想だ。是非とも拝聴させていただきましょう」

ブラウン「ミスタ・ホワイト、こんなおばさんをからかっちゃいけませんよ……あのね」

………

693 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/04/24(水) 02:11:24.91 ID:zZwpKeq00
ブラウン「どんなエージェントでもそれぞれ「使いどころ」というのがあるものよ」

スカーレット「使いどころ、ですか」

ブラウン「ええ……確かにマティルダは「良い子」というだけで、いまのところ訓練生としてこれといった取り柄があるわけではないわ」

ブラック「そこなのだ、ミセス・ブラウン……私だって彼女が無事に訓練を終えて、いつかひとかどのエージェントとして活躍してもらいたいという気持ちはある……だが、この世界ではただの「良い子」にはロクな任務が与えられない事くらいご存じのはずだ。それだったらいっそ早めにあきらめさせて、もっと有意義な方面で活動してもらった方が良いのではないか?」

ホワイト「同感だね。私の同期にもひとり、世間で言う「いい人」に該当するような者がいたが、退屈で実りのないひどい任務ばかり与えられて、みんなに「彼はいいやつなんだが……」と言われ続け、いつしか現場から退けられてしまったよ……ミス・マティルダにはああなって欲しくはないね」

ブラウン「そうね……でもあの子のいかにも「小市民」らしいところ、私は活かしようがあると思っているわよ?」

パープル「まぁ、ミセス・ブラウンがそうおっしゃるということはよっぽどなのね♪」

ブラウン「こらこら、わたしを口説いたって何も出ないわよ?」

パープル「あら、残念」

スカーレット「それで、ミセス・ブラウンのおっしゃる「小市民らしいところ」とはなんでしょう?」

ブラウン「ああ、それね……あの子とおしゃべりしているとね、私は不思議となごやかな気持ちになるのよ。暖炉で暖められた部屋にいて、お気に入りの椅子に腰かけ、テーブルには甘いお茶とケーキがある……そんな気分にね」

パープル「言いたい意味は分かります。どうもあの子と一緒にいると、小さい妹を見ているような気分になります……それだけに、ベッドに入ってもみだらな気分にならないのですけれど♪」

ホワイト「邪気や殺気がないというのは確かだね……生まれ持っての小動物らしさというか「良い子」という呼び方がしっくりくる」

ブラウン「そこなのよ。あの子なら見ず知らずの方のお葬式に参列してもきっと涙を流すでしょうし、たった一ペニーだってお釣りをごまかしたりしない」

ブラック「しかし、それこそエージェント候補生として不適当だと証明しているようなものではないか……バカみたいに法律を破ってまわれとはいわないが、目的のためにはどんな手段もいとわないのが情報部員だ。それができないようでは内勤の使い走りがいいところだ」

ブラウン「ミスタ・ブラック、あなたの言う通りね。そして私が言いたいのもまさにそこなのよ」

ブラック「分からんね。射撃はできない、格闘もダメ。尾行も下手なら色仕掛けもできず、暗号解読も遅いときた……どう使い道がある?」

シルバー「……ミセス・ブラウン、どうやら貴女の言いたいことが分かってきたような気がするよ」

ブラウン「ふふ、そうでしょうとも……つまりね、あの子はおおよそ「スパイとはかくあるべし」の正反対みたいな存在なのよ。それだけにあの子がエージェントだと思うような人間はまずいない。人物調査をしたって返ってくる答えは「冗談言っちゃいけません、あんな良い子がスパイなわけないでしょう?」だと確信できるわ」

ホワイト「いいたいことは分かるが、それにしても彼女は良い子すぎるね。経済的にはごく普通ながらも温かな家庭で両親に愛され、世の中の辛酸を味わわずに済むように育てられた……あの子からはそんな雰囲気を感じるよ」

???「慧眼だな、ホワイト」

ホワイト「おや、あなたでしたか……熱心ですね」

L「この先に備えるためにも我々にはエージェント候補生が必要だからな……ありがとう」ミセス・ブラウンからお茶のカップを受け取ると礼を言って、空いている椅子に腰かけた……

ブラウン「それで、先ほどミスタ・ホワイトに言った「慧眼」というのはどういう意味かしら?」

L「候補生マティルダのことだ……ごく一般的な暮らし向きの温かい家庭で良い子に育てられた。まさにその通りだ」

シルバー「彼女のことをご存じなので?」

L「候補生の生い立ちについては全て目を通すことにしている……あの子の両親は数年前に交通事故で亡くなったのだ。誕生日だからと家族そろって出かけたところで自動車に突っ込まれてな……それから養育院に入れられたのだが、あの子は性格がねじ曲がることもなく「良い子」のまま育ったというわけだ」

ホワイト「確かに何事にもめげない芯の強さがありますね」

L「だから「ポインター」が候補者として情報を持ってきたときにサインしたのだ……本人いわく「私を養ってくれた人たちの役に立ちたい」とのことでな。実に立派な動機だ」

ブラウン「ほら、ね?」

ブラック「しかし、努力家だからといって実力の伴わない人間を置いておく余裕など情報部にはないはずだ」

L「いかにも。だが使いどころならこちらで見つける、心配は無用だ……ともかくエージェントとしての基本的な知識と技術を教え込んでやってくれ」

ブラウン「ええ、それは間違いなく……あの子は実に真面目な良い子です。確かに覚えの悪い所はありますけれど、要領よく小手先で済ませてしまう娘たちよりもずっと教え甲斐がありますよ」

ホワイト「そこは同感だね」

ブラック「まぁ、一生懸命で真面目な部分は認めるが……」

パープル「あの子がハニートラップに向かないのはあの子のせいではありませんものね」

マーガレット「ウィ、同感ですわ。あのマドモアゼルにはごく普通なつつましい格好が似合います……世の中にはバラだけではなく、道端のヒナゲシだって必要なのですわ」

シルバー「最近はラテン語のつづりも上手になってきましたからね、ここで訓練から脱落させるのは惜しい♪」

L「結構、意見が一致したようだな……では引き続きよろしく頼む」

………

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