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ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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759 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/11/22(土) 01:24:59.68 ID:CZu9Rr/30
アンジェ「とにかく、騒ぎ立てずに内密にしようと考えたのはいい処置だったわ」
プリンセス「ええ……本当はちょっと怖かったけれど、騒ぎ立ててもどうにもなるものでもないから」
ベアトリス「でも、姫様に何かあるのではないかと思うと……」
アンジェ「その点は心配しなくていい。今のところプリンセスに直接の危害が加えられる可能性は少ないと見ていい」
ドロシー「本気でやるつもりなら脅迫状なんて送りつける前に鉛玉を送りつけるからな」
アンジェ「その通り……となると『送り主』は何の目的でこの脅迫状を送りつけて来たか、その点が気にかかる」
ドロシー「プリンセスに騒ぎ立てさせて公務や学校での行動を封じたかったか……だとすれば無駄だったな」
アンジェ「あるいは心理的な危害を加えたかったか……」
ドロシー「脅迫状ってのはそのためのものだからな。とはいえ理由が分からないな……もしかしたら金銭や何かの要求をする前に先触れとして送りつけて来たのかもな」
アンジェ「プリンセスに署名入り赦免状でも書かせるつもりだとでも?」紅茶をふくみながら眉をひそめた……
ドロシー「可能性がないとは言えないだろ? プリンセスの叔父さんは内務省を統括するノルマンディ公だ、もしかしたらニューゲート監獄にいる兄弟姉妹とか親戚とかを助けたいあまりに書いたのかもしれない」
アンジェ「だったら慈悲深いプリンセスの人柄にすがろうと、それをそのまま書いて置き手紙にするはずよ。わざわざ脅迫状にする必要がない」
ドロシー「それもそうだな……」
アンジェ「とにかく、理由の詮索は後回しにして対策を考えるべきだけれど……いつものように私とプリンセスが入れ替わればいい」
ドロシー「ま、そうなるな」
プリンセス「でもアンジェ、情報部員としての務めがあるのでしょう?」
ドロシー「そいつはこっちでどうにかするさ。幸いなことに他にこれといった任務はないし、今回の件は優先順位が高い。メールドロップのチェックや暗号文の解読みたいな日常的な任務は私一人でもどうにかできるし、いざとなったらベアトリスを貸してもらえればどうにかなるだろう」
ちせ「もし必要なら私も手を貸すが?」
ドロシー「ありがとな、気持ちだけいただいておくよ」
…個人的には裏表のない性格を好ましく思ってはいるが、あくまでも好意で力を貸してくれているだけのちせにあれこれと手伝わせる訳にはいかない……と同時に、友人とは言え堀河公の手の者としてやって来たちせに「コントロール」の暗号やメールドロップのありかを開けっぴろげにするのは、何かあったときに「関係者」として巻き添えを食わせることになり、ちせ本人のためにならないと出来るだけタッチさせないようにしている…
ちせ「ふむ……」
アンジェ「別にドロシーや私が貴女を信頼していないという意味じゃないわ。メールドロップの確認はその場所に馴染んだ「いつもの人間」でないと怪しまれる可能性があるからで、暗号文は貴女の苦手な英語やラテン語だからよ……もし手伝いが必要なら、その時は是非ともお願いするわ」
ちせ「なるほど、確かにそうじゃな」
ドロシー「分かってくれて助かるぜ……それじゃあアンジェ、入れ替わって王宮に入ったら「第二の脅迫状」が届くのを待ちつつ、差出人とその理由を探ってくれ」
アンジェ「ええ」
ドロシー「ベアトリス、お前さんも普段通りにプリンセスのお付きとして過ごしながら王宮内で情報収集にあたれ。場合によってはアンジェの援護を頼む」
ベアトリス「はいっ」
ドロシー「プリンセスはしばらくアンジェとして校内で過ごし、今回の件のケリが付くまでおだやかな学生生活を送ってもらう。しばらくはレポートや書き取りテストが最大の敵ってことになるな」
プリンセス「分かりました」
ドロシー「ちせはアンジェに偽装したプリンセスの「友人」として振る舞い、同時に護衛として付いてもらう」
ちせ「承知」
ドロシー「……それとこの脅迫状の件だが、コントロールに報告はしない」
ベアトリス「どうしてですか?」
ドロシー「さっきも言ったように、どうも今回の件はプリンセスの動きを封じる目的で行われていて、しかもノルマンディ公や内務省のやり口じゃないようにみえる……だとしたらこっちがコントロールに報告したりして騒ぎ立てるのはまずい。どこに裏切り者がいるか分かったものじゃない」
アンジェ「それに内務卿も王宮内に共和国のスパイがいると勘づいているけれど、それがプリンセスだとは思っていない……必要以上に騒ぎを大きくすればかえってやぶ蛇になる」
ちせ「つまりこの五人で内々に処理するわけじゃな」
ドロシー「そういうことだ」
プリンセス「アンジェ、ベアト……二人とも気を付けてね?」
ベアトリス「はい、姫様」
アンジェ「ええ」
760 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/12/07(日) 01:26:19.74 ID:SvbaYx5h0
…数日後・メイフェア校…
プリンセス「ふふ……こうして学業に集中できるのも久しぶりです♪」
ドロシー「関数の問題を解くのがよっぽど気に入ったとみえる……私には何が嬉しいのかサッパリだ」
プリンセス「あら、このあいだベアトに「学んでおいて損なことなどありはしない」とおっしゃっていたのはドロシーさんでは?」
ドロシー「おっと、こいつは一本取られたな……相変わらず記憶力のいいことで」
プリンセス「何しろ「職業上」色々な方の顔や名前を覚えなくてはなりませんから」
ドロシー「それはこっちの「商売」でも同じはずなんだが、どこが違うのかねぇ……」
…鉛筆を上唇と鼻の間に挟みあごに手を当て、いかにも投げやりな態度で数学の問題を前にしているドロシー……一方のプリンセスは眼鏡をかけ、髪を少しいじったアンジェの姿で問題に取り組み、ドロシーの愚痴に付き合いながらさしたる苦労もなく問題を解いている…
プリンセス「それにアンジェのことは心配ですけれど、公務を離れること自体はいい気晴らしになりますから……」
ドロシー「ごもっとも。堅苦しいのは抜きでいけるし、つまみ食いしたって「国の威信に関わる」なんて規模のでっかい叱られ方をしないですむ♪」
プリンセス「ええ♪」
ちせ「……ドロシー、よいか?」すっと影のように近寄ってきた……
ドロシー「おう、ちせか……どうだ?」
ちせ「私が見たところではそれらしい不穏な連中はおらぬ」
ドロシー「よし」
プリンセス「……大丈夫でした?」
ドロシー「ええ、少なくとも今のところは」
プリンセス「となると、やっぱり王宮のアンジェが気がかりね……」
…その頃・バッキンガム宮殿…
お付き「……では、本日のご予定にございますが」
アンジェ「ええ、お願いします」
お付き「まずは先日議会より起案されました法案、政策についての説明」
アンジェ「はい」
お付き「続けて朝のご学習。本日はケイバーライトに関わる科学、およびインド方面の王国の権益についてより深くご理解いただくための地理分野にございます。王立科学院よりサー・ヘリッジ、王立地理院よりサー・スティラーが参りまして王女殿下に講義されます」
アンジェ「はい」
お付き「学習がお済みになりましたらお茶をご用意いたします。そのあとで国内各地より届きましたる王女殿下に宛てた手紙に返事をしたためていただき、それから軽い運動として乗馬のお稽古」
アンジェ「ええ」
お付き「昼食は王女殿下が後援あそばされております慈善事業の理事会を訪問、非公式の形で昼食会といたします」
アンジェ「続けて下さい」
お付き「午後はロンドン商工会議所と造船組合を訪問なさってご挨拶を。王宮に戻られましたらドイツ語、フランス語の勉強。休憩のお時間には手紙の返事を書いていただき、それから女官たちへのねぎらいを兼ねてお茶の時間」
アンジェ「普段からお世話になっておりますからね。もちろんあなたもですよ、ミスタ・ウォリック」
お付き「わたくしめにそのようなお言葉を……恐縮にございます」
アンジェ「まだ未熟なわたくしを支えて下さっているあなたがたには常々感謝しております。それから?」
お付き「はい。そのあとは書見などをしていただき、夕食はプライスデール伯爵との会食となっております」
アンジェ「プライスデール伯爵にはたびたびお世話になっておりますものね、それにフランス政府の情勢についても聞いておきませんと」
お付き「左様にございます。それがお済みになりましたら王宮にお戻りとなり、残りの勉強をなさってからお休みとあいなります」
アンジェ「分かりました」
…普段と同じく分刻みのスケジュールが組まれているプリンセスの日常……女王の体調が思わしくない事もあって必然的にその分の代役や名代としての公務が多くなっている……プリンセスならそうするであろう柔らかな笑みを浮かべてねぎらいや感謝の言葉も絶やさず、するべき事を淡々とこなそうと改めて気持ちを込め直すアンジェ…
お付き「では、失礼致します」
アンジェ「……さて、本番はここからね」
………
…
761 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/12/12(金) 01:59:10.38 ID:4ztr1d5G0
…午前中…
議会代表「というわけでございまして、王室向け予算のうち王女殿下がお求めでいらっしゃる救貧院の予算は反発もあり……」
アンジェ「そのことについては存じ上げておりますわ、ミスタ・ハーカット……しかしアルビオンのために働いてきて、怪我や病気で働けなくなった人たちを見ているのはとても心が痛みますわ」
議会代表「いえ、もちろん王女殿下のご心痛は我々もよく存じ上げております。しかしながら工場主や農園主からはその分の負担を減らして欲しいと……もちろん貧困層の救済も大事ですが、かといって資本家や弁護士、医師などといった中産階級をむげに扱うわけにも参りませんので……」
アンジェ「難しい所ですわね。では王室予算のうちのいくらかを貧困対策にあてて、協力をお願いすることは可能でしょうか?」
議会代表「ふむ……王女殿下おんみずからが救貧事業に予算を出すとおっしゃれば、あるいは反発も減るやも分かりません」
アンジェ「そうですか、わたくしの名前で良ければどうか使ってみて下さい」
議会代表「分かりました。このような形でお借りするのは心苦しい限りですが、シャーロット王女殿下のお名前を出せば非協力的な一部の人間にも効果があるかと思います」
アンジェ「いいえ、構いませんよ。ではなにとぞ」
議会代表「ははっ」
お付き「……ではシャーロット王女殿下、学習室においで下さいませ」
アンジェ「ええ。いま参りますわ」
…書き物机と重厚な本の詰まった本棚が天井いっぱいまでそびえている学習室……格調高いが厳格で息苦しい雰囲気のある部屋に、ふちを跳ね上げた「アルビオン・スタイル」の口ひげと片眼鏡をかけた老学者が入って来た…
学者「おほん……では姫君、講義を始めますぞ。前回お出しした課題図書はきちんと読まれましたかな?」
アンジェ「ええ、もちろんですわ。あれは「インドにおける地誌と地形」でしたわね」
学者「いかにも。ということはきちんと読まれたようですな」
アンジェ「はい」プリンセスから聞いておいたので予習は完璧で、会話に齟齬が生じないよう前回の授業であっただいたいの出来事も教わっていた……
学者「結構、では前回の続きから……」
…しばらくして…
ベアトリス「姫様、紅茶をお持ちいたしました」
アンジェ「ありがとう、ベアト……異常は?」
ベアトリス「いえ、今のところは特に……」
アンジェ「そう。それじゃあ引き続き周囲の様子を観察しておいて……動きは普段通りで構わないから」
ベアトリス「はい」
アンジェ「……ふぅ、とても美味しいお茶ね」
ベアトリス「恐縮でございます」
アンジェ「いいのよベアト、そんなにかしこまらなくたって♪」
ベアトリス「いえ、姫様とお付きの関係を崩すわけには参りませんから」
アンジェ「まぁ、ベアトったら律儀なのね?」
ベアトリス「いえ、決してそのようなつもりでは……///」
アンジェ「あらあら、ベアトったら照れちゃって♪ とにかく、美味しいお茶をごちそうさま」
ベアトリス「はい、それでは……」
…廊下…
ベアトリス「……もう///」
…ティーセットをワゴンに載せて退出したベアトリスは、人気のない廊下で小さくため息をついた……大好きなプリンセスではなくアンジェが物真似をしているに過ぎないというのに、声や仕草、ちょっとした癖までまるで双子のように似通っていてついどきっとしてしまう……思わず頬を赤らめてしまったこともアンジェには見抜かれてしまっただろうと、恥ずかしく思いながらごろごろとワゴンを運んでいると、同じお仕着せを着た侍女たちと入れ違った…
ベアトリス「ごきげんよう」
侍女「ごきげんよう……それはシャーロット殿下のお茶?」
ベアトリス「はい、ちょうど今お飲み遊ばされたところで……」
侍女「そうなのね。姫様のご機嫌は?」
ベアトリス「ええ、いつも通りのお優しい姫様です」他の事ではまだまだ自信がないこともあるが、プリンセスの気分や具合に関する気配りだけは他の誰にも負けないつもりでいるベアトリス……
侍女「そう、なら安心ね」
…ベアトリスを始め華やかな表舞台に立つことのない侍女や近侍たちは王宮内で独自の「生態系」ともいえる世界を築いていて、その世界は複雑に絡み合い影響を及ぼし合っている……それはほとんどの貴族やアルビオン王室の人間でさえ介入できない場所であり、近侍や侍女たちはそれぞれのひいき目や立身出世を考えて王室メンバーそれぞれを応援する派閥を作り、独自の情報網やさまざまなルートを利用しては自分たちの派閥が有利になるよう有形無形の運動を行っている……
ベアトリス「はい」
762 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2025/12/15(月) 01:50:36.46 ID:JbEr8iQ40
侍女B「それじゃあ私たちは姫様の寝室を掃除してきます」
ベアトリス「よろしくお願いします」
…そして侍女たちはそれぞれの「派閥」があるとはいえ、それよりも王室における侍女同士のネットワークや暗黙のルール、しきたりといったものが優先され、それをないがしろにしようとするものや無視しようとするものは排斥の対象になる…
侍女C「それでは、また後でね?」
ベアトリス「はい」厳格で硬直化した決まり事でがんじがらめになっているように思える世界だが、実際には日々の業務がやりやすくなるような制度上の裏口や抜け道がいくつもあって、はじめは戸惑うばかりだったベアトリスもいつしかその呼吸を飲み込んでうまくやれるようになっていた……
侍女「……ふふ、ベアトリスったら」
侍女B「ね? すっかりシャーロット王女に首ったけで……♪」
侍女C「ああいうとこ、なんとも初心で可愛いわよね?」
…ベアトリス自身はそう思っていなかったが、侍女たちの間では小さい身体でまめまめしく働く律儀なベアトリスは可愛いマスコットや妹分といった扱いで、ちょっとした貴族の娘とはいえそれを鼻にかけない素直な性格も好まれていた…
侍女「そういえば……このところミセス・ライブリーの一派はあの子に手厳しいみたいね」
侍女B「聞いたわ。ミセス・ライブリーときたらあんな性格でプリンセスのお気に入りになれないものだから、当てつけでやっているんだわ……そんなだからプリンセスから遠ざけられるのよ」
…たしかに侍女の中にはベアトリスのおどおどしている部分を「わざと性格を作っている」などと中傷するような意地悪な者もいたが、そういった連中はたいていプリンセスのお気に入りであることに対するやっかみや当てつけとしてベアトリスを対象にしているか、あるいは王位継承争いの余波としてプリンセス付きの侍女であるベアトリスにまで非難の矛先が向いているだけで、それも共和国とのゴタゴタや王室内にいるとされるスパイ騒動のあおりで内務卿主導の警戒が厳しくなると、うかつな言動一つでニューゲート監獄送りになりかねないとなりを潜めつつあった…
侍女C「言えてるわね。さ、それより早く寝室を片付けないと!」
…しばらくして・プリンセスの書斎…
お付き「こちらは一般大衆からの手紙ですのでお名前だけ添えていただければ結構です」
アンジェ「はい、ミスタ・ケイル」
…どんな階層の人間に対しても分け隔てなく気配りを忘れない王女殿下として、手元に届いた全ての手紙に目を通し、返書にサインを書いているプリンセス……もちろん、読み書きが出来て王室宛に手紙を投函できる(時間的にも金銭的にも)余裕がある人間という時点で『一般大衆』のなかでもある程度の『上澄み』ではあるが、そうした人々の書きつづる言葉には世情を反映したものが多く、プリンセス……そして当然ながら入れ替わっているアンジェもそうした言葉や気持ちをおろそかにしないよう努めている…
お付き「こちらの手紙は各地の準男爵や名士、郷士(ジェントリ)たちからのものですので軽くひと言を」
アンジェ「ええ、そうします」
…各地の様子をはじめ農作物の収穫、鉱山の好不調……とうてい見回っている暇などないアルビオン王国領内の様子を一枚の手紙がすべて教えてくれる……この時代にはまだ定義づけられてもおらず概念としても生まれてはいないが、ある種の「オシント」としてアンジェたち「チーム白鳩」は新聞や手紙、噂話と言ったものも重視していた…
(※OSINT…「Open-Source Intelligence」の略。新聞やニュースなどの合法かつ公開されている情報をつなぎ合わせることで相手勢力の動向を探る情報活動。多くの資料を集めなければならないため労力を要するが、活動に違法性がない(少ない)ことから敵対勢力の監視下にある在外公館等でも行え、高度な技能を有するエージェントを投入する必要もなく、逮捕などの危険も少ないなど利点も多い)
お付き「……それからこちらは以前フェントウィック卿にお出しした手紙の返書にございます」
アンジェ「そうですか、相変わらず老ダンカンは気難しくていらっしゃるのかしら?」
お付き「さて、どうでしょうか」
…プリンセスに聞いて「予習」していたので、誰とどんなやり取りをしているか、あるいはどんな懸案事項を抱えているのかを把握しているアンジェ……ペンを持つと字体から言葉の使い方までプリンセスになりきって手際よく返事をしたため、同時にエージェントとして気になる情報を記憶していく…
アンジェ「……」
…文鎮で押さえられていた便せんの山を片付けていくと、中から二度目の脅迫状が出てきた……何食わぬ顔でもう一枚の便せんと重ねて取ると、滑らかな手つきで問題の便せんをスリ取るようにして袖口に滑り込ませた……その後も何食わぬ顔で返事書きをすすめ、最後に万年筆の筆先を拭うとペン立てに戻した…
お付き「では、あとはこちらで片付けておきます。次は馬術の時間でしたな、どうか遅れませぬように」
アンジェ「ええ。どうかよろしくお願いいたします」
………
…宮殿・馬場近くの更衣室…
ベアトリス「さぁ姫様、馬術のお時間ですからお召し替えを。さいわいお天気ですから気持ちもよろしいかと……二通目、ありましたか?」
アンジェ「ええ。こんな素敵なお日柄だもの、馬術のお稽古だってますます楽しいわ♪ ……あったわ、持っておいて」こよりのように細く折った脅迫状をそっとベアトリスに手渡した……
ベアトリス「じゃあやっぱりこの宮殿内に姫様を狙っている人が……」
アンジェ「きょろきょろしない。どこで見張っているか分かったものじゃない」
ベアトリス「は、はい」
アンジェ「もし狙ってくるとしたら馬術の前後ね……馬場は庭を通じて宮殿のあちこちに繋がっているし、いざとなれば塀を乗り越えてロンドン市内に逃げ出すこともできる」
ベアトリス「わたしもお側にいた方が良いでしょうか……?」
アンジェ「いいえ、あくまでも普段通りに勤めてちょうだい。それより書斎に入れる人間が誰で、誰と話しているかをそれとなく見ておいて」
ベアトリス「分かりました」
アンジェ「待って、足音がする……どうもありがとう、ベアト♪」さっとプリンセスらしい柔らかな笑みを浮かべると、乗馬手袋を差し出すベアトリスの手を軽く取る……
血色の悪い侍女「……失礼いたします、乗馬靴をお持ちいたしました」少し血色の悪い一人の侍女が茶革の乗馬靴を持ってきた……
アンジェ「ええ、ありがとう♪」
763 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/01/06(火) 02:28:33.24 ID:pjBVfdv90
…馬場…
馬係「……では、どうぞお乗り下さい」
アンジェ「ありがとう♪」
…馬係に手綱を押さえてもらい、気性の大人しい白馬に乗るアンジェ……もっとも「慎み深くあるべき」女性は『女性の部分』を傷つけないためにも大股を広げて馬に跨がるといった「はしたない」乗り方をするものではないと、サイドサドル(鞍の片側に脚を閉じたまま乗る)式の鞍が付けられている…
馬係「いかがですか、王女殿下」手綱を引いて馬場に出た……
アンジェ「ええ。ホワイトリリーはとても良い子で乗りやすいですわ」
…アンジェ自身は「ファーム」での訓練のおかげで乗馬も得意だが、オーソドックスで上品な乗り方で広い馬場を並足から速歩(トロット)で進ませ、馬の筋肉がほどよく暖まってきたところで駈足(キャンター)にして、髪を撫でる風がちょうど気持ち良い程度の速度で走らせる…
アンジェ「……よしよし」
…馬はカンの鋭い生き物だけあって、プリンセスと同じ香水や振る舞いをしていてもアンジェが別人だと分かっているらしく、ときどき頭や耳を動かして鞍上の人間を気にしている……とはいえすでに何度も入れ替わっては同じように乗っていて、なおかつ意志の強いアンジェがきちんとリードしてくれていることに安心しているのか、久しぶりであることを伝えるようなそぶり以外に目立ったことはしなかった…
アンジェ「良い子ね」
………
…数分後…
アンジェ「はっ……!」
…馬が激しく汗ばむほどではないが、いい運動になる程度の勢いで馬場を巡らせるアンジェ……白馬も大人しくアンジェの指示に従い、鞭を入れたり拍車をかけたりすることもなく、ちょっと胴体を叩いてやるとか軽く声をかけるだけで意のままに走ってくれる……アンジェ自身も任務上プリンセスの身代わりをしているとはいえ、爽快な空気とリズミカルな動きに乗馬の楽しさを感じていた…
アンジェ「それ……っ!」
アンジェ「……っ!?」
…馬の胴に軽く鞭で触れて低めの障害物を越えさせた時、不意にあぶみが外れた……金属状のつっかけスリッパのような形で鞍からぶら下がっているあぶみが外れれば、当然足を支えるとっかかりがなくなってバランスを崩す……が、アンジェは瞬時に鞍の「角」に手をかけ身体を支えると、ひらりと障害物を飛び越えさせた…
馬係「王女殿下!?」
馬係B「ご無事でいらっしゃいますか!」
アンジェ「ええ、大丈夫ですわ……あぶみが外れてしまったようね?」
馬係「申し訳ございません、私どもの手入れが行き届かないばかりに……!」慌てて踏み台を持ってきてアンジェが降りられるよう手助けする……
アンジェ「いいえ、わたくしはなんともありませんから……」
馬係B「だとしてもこのような……王女殿下のお身体になにかあったとなれば大変な事でございますから……」
アンジェ「道具ですから壊れたり外れたりすることもありましょう? さ、見つかって「不手際だ」と叱責されないうちに馬を戻しましょう♪」ちょっとしたハプニングといった様子でいたずらっぽい笑みを浮かべ、大失態に冷や汗を流している馬係が白馬を厩に戻すのを見届けると更衣室に戻った……
…更衣室…
ベアトリス「姫様、ご無事でいらっしゃいましたか……!」
アンジェ「あらベアト、着替えを持ってきてくれたのね♪ ええ、なんでもないの……誰かが鞍に細工をしていたわ」最後の部分だけ耳元に口を寄せて冷たく言った……
ベアトリス「細工を……!?」
アンジェ「声が大きい……さいわい大したことはなかったけれど、もし障害物を飛び越えている時にあぶみが外れたりしたら、落馬して首の骨を折っていたかも分からないわね」
ベアトリス「それだけの害意を持った人が宮殿にいるっていうことですか……」不安そうに周囲を見回すベアトリス……
アンジェ「どうやら手紙だけで終わらせる気はないようね……ベアトリス、私が着替え終わったら馬係のところに行って鞍とあぶみを繋いでいた革紐をもらってきて。切り口を見ればどんな刃物を使ったのか分かるかもしれない」
ベアトリス「はい」
アンジェ「それからたわいないおしゃべりのフリをして、馬係にプリンセスの噂話をしてみてちょうだい……悪い方のね」
ベアトリス「姫様の悪い噂話、ですか……?」
アンジェ「ええ。その話題にのってくるようなら馬係も共犯かもしれない。もし気乗り薄だったりあからさまに嫌な顔をしたらそれ以上やらなくていい」
ベアトリス「分かりました」
アンジェ「貴女一人に色々やらせてしまうけれど、頼むわ」
ベアトリス「はいっ」
アンジェ「良い返事ね……ありがとうベアト、汗も引いたし次の公務に当たるとするわ♪」すべきことを伝えると態度をさっとプリンセスに戻してにこやかにねぎらい、着替えを済ませて出ていった……
………
…
764 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/01/20(火) 00:49:43.37 ID:AuK64ONt0
…昼食時・慈善団体のホール…
理事「……かようにしてシャーロット王女殿下の慈愛に満ちた手厚い援助により、貧民たちや中毒患者を始めとする人々がパンとスープにありつくことができるのでありまして、そのお志に心よりの感謝を申し上げ、わたくしの挨拶とさせていただきます」理事たちから「シャーロット王女殿下」への拍手が起こる……
アンジェ「どうもありがとうございます。わたくしの考えに賛同し、ご助力を賜りましたバークレイ伯爵、ヒンカム男爵、エドマンド主教、レディ・アンドリュー、ディクスン男爵夫人、ハーディー男爵夫人を始め、この場を借りて数えきれぬほどの方々全てに御礼を申し上げ、わたくしの乾杯の音頭とさせていただきます……乾杯」
理事たち「乾杯」
…表向きは「慈善」を謳いながら、実際は貴族のお遊びやアルビオン国教会の実績作り、またある種の政治クラブの一つとして存在している慈善団体……その中で本来の意味に立ち返ろうとする健気なプリンセスの姿勢は時に陰で冷笑されながらも一部の正直な人たちの共感を集め、熱心な活動を生み出しつつもあった……とはいえ理事会はまだまだ閉鎖的な社交界の一種で、貧しい人たちが一杯のスープと固くなったパンで過ごしているにもかかわらず、目の前には銀食器やクリスタルガラスで豪華な食事が提供されている……プリンセスの理想とかけ離れた豪華な会食に苦々しい思いをしながらグラスのワインを口にするアンジェ…
太った理事「サー・ポイントン、こちらは絶品ですぞ?」
ハゲた理事「そのローストビーフをこちらにも回してくれんか?サー・アルフレッド」
白ヒゲの理事「この黒トリュフはあまり美味くありませんな……香りが足りない」
アンジェ「……」にこにこと微笑み、話しかけられると当たり障りのない会話と上品かつ控え目なユーモアでほどよくしゃべり、お腹を壊して公務にさしさわりが出ないよう飲食物にはほとんど手を付けない……
口ひげの理事「プリンセス、こちらの料理はいかがですかな?」
アンジェ「ええ、ありがとうございます」
…脇にはベアトリスともう一人のお付き、背後には警護官二人が控え、一挙手一投足ごとに先回りして椅子を引いたり食器を近づけたりする……普通の人間であったら鋳型にはめ込まれたかのような自由のなさに叫び出しそうなほどだが、冷徹なまでに任務遂行を叩き込まれているアンジェにとってはなにほどのものでもない……ただ淡々とプリンセスとしての役割をこなし、美食をむさぼる貴族や飽きたようにごちそうをつついている貴族、聖職者のくせに俗人まるだしの主教などを観察してそれぞれの癖や特徴を記憶していく…
太った理事「プリンセス、こちらは絶品ですぞ?ぜひご賞味下され」
アンジェ「はい、ぜひそうさせていただきますわ♪」
やせこけた貴婦人「……あの方々は自分でどうにかしようという気概がないのですから、わたくしたちがどうにか引き上げてやらなければのたれ死にするのがせいぜいですわ」
肥えた貴婦人「食べられないというのなら食べなければよろしいのよ、その方が身体にもいいというものですわ……わたくしなんてお医者様に「健康と美容のためには一日一食で良い」と言われているくらいですもの」
アンジェ「……」
ベアトリス「……」
…豪勢な食事が済み、南洋の珍しいフルーツまで用意してあるデザートとコーヒー・紅茶まで終わると笑顔を振りまきながら退出したアンジェ…
………
…
…午後・お茶の時間…
アンジェ「……こうして皆とお茶を過ごすのはわたくしにとって大変よい機会ですわ。もし何か至らないところがあったら遠慮なく申してくださいな?」
侍女「いいえ。わたくしどもはシャーロット王女殿下にお仕えできて大変光栄に思っております」
アンジェ「そう言ってくれて嬉しいわ、ケイト♪」
侍女「そんな……滅相もない、過分のお褒めにございます///」
…庭園でお茶を囲み、普段は身の回りの世話や雑用に走り回っている侍女たちをねぎらう私的なお茶会で、人柄が良く暖かな心遣いを忘れない「完璧なプリンセス像」を演じるアンジェ……そこにはアンジェ自身が持っている「プリンセス」への理想も混じっていて、それが侍女たちにより一層「シャーロット王女」を感じさせる…
ベアトリス「……」
アンジェ「いいのよベアト、わたくしが注ぐわ♪」一人のカップが空になりそうなところでベアトリスがポットを取ろうとすると、軽く手を添えてお茶を注いだ……
ベアトリス「……ひ、姫様///」
巻き毛の侍女「あ……ありがとうございます……///」手を触れられたベアトリスと、プリンセス手ずからお茶を注がれたあどけない巻き毛の侍女はそろって赤面した……
プリンセス「いまのわたくしは一人の「シャーロット」として皆と過ごしたいの、お菓子も遠慮なさらずに召し上がって?」
…チャーミングな微笑みを浮かべ、皿のプティ・フール(一口菓子)やスコーンを取ってあげるアンジェに年若い侍女たちはほんのりと頬を染め、しきたりにうるさくかたくなで、灰色がかった顔色もいかめしい老嬢たちですら少しだけ表情がゆるんでいるように見える…
アンジェ「さぁさぁ、遠慮なさらずわたくしを喜ばせて欲しいわ♪」
…お菓子を取り分け、お茶を注いであげながら脅迫状の送り主がなにか表情に浮かべることはないかと観察を続けるアンジェ……とはいえ大抵の侍女は王族や貴族、果ては格上の女官や侍女たちが浴びせる癇癪や叱責に慣れているため表情を取り繕うことにも長けていて、少し観察した程度でボロを出すようなことはまずない……この和やかな空気の中に一人以上の害意を持った「誰か」がいるのは部屋のどこかに毒蜘蛛がいる事を知りながらベッドに入っているような気分だが「チェンジリング」作戦をはじめ、薄氷を踏むような任務をこなし続けているアンジェにとっては何ほどのものでもない…
アンジェ「さぁ、貴女も♪」
ベアトリス「一緒にお菓子もどうぞ?」
血色の悪い侍女「え、ええ……ありがとうございます、シャーロット王女殿下」
アンジェ「どういたしまして♪」
………
…
765 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/01/29(木) 02:32:28.62 ID:PONt2TVf0
…夕方・学習室…
アンジェ「ふぅ……それで、乗馬の時に切れた革紐は持ってきた?」
ベアトリス「ここにあります」
…午後のお茶をつつがなく終え、天井まで届く重厚な書棚に囲まれた書見のための部屋でベアトリスと顔を合わせたアンジェ……手元には辞書や課題のノートを並べ、言い訳ができるように整えてある…
アンジェ「そう。見せて」馬具に用いられる厚手の革とはいえ天然のものであり、もしかしたら自然に切れてしまうこともあるかもしれない……
ベアトリス「これです……どうですか?」
アンジェ「ベアトリス、貴女も見れば分かるわ」断面をベアトリスの方に向け、書見の時に使う拡大鏡(ルーペ)を渡した……
ベアトリス「……これって」
アンジェ「ええ。切られているわね」自然に切れたときのような毛羽だった断面ではなく、一部にナイフでこすって切れ込みを入れたような痕がある……
ベアトリス「それじゃあやっぱり……!」
アンジェ「そのくらいで動揺している暇はないわ……誰がやったのか探るのが先よ。馬係はどうだった?」
ベアトリス「はい。アンジェさんに言われたように宮殿内で言われる姫様の悪口や中傷の話をしてみましたけれど、どちらかと言えば不愉快そうでした」
アンジェ「それから?」
ベアトリス「馬の準備を整えている間に姫様の馬の側にやって来た人たちですが、他の馬係たちがほとんどのようでした。あとは私を含めた侍女数人で、いずれも姫様の乗馬に必要な道具やお召し替えを持って通りかかっただけみたいです……できれば細かく聞き出したかったですけれど、あんまり根掘り葉掘り聞くと怪しまれると思ったので……」
アンジェ「そうね、無理しなくていい。貴女は引き続き怪しい動きをしている人間がいないか、あるいはプリンセスへの害意をもった言動をしている人間がいないか聞き耳を立てておくこと」
ベアトリス「分かりました」
アンジェ「それじゃあもう下がってよろしい……革紐はきちんと手はずにのっとって捨てておいて」
ベアトリス「はい」
アンジェ「……誰の小細工かしらないけれど、こういうつまらない嫌がらせは早く処理したいものね」
………
…その日の夜…
ベアトリス「では王女殿下、お休みなさいませ」
巻き毛の侍女「お休みなさいませ」
アンジェ「ええ。お休みなさい」
…就寝前のホットミルクを飲み終えて口をゆすぎ、ベッドに横たわってふわりと布団をかけてもらうと、穏やかな笑みを浮かべてベアトリスともう一人の侍女に「お休み」を言った……一礼して下がったベアトリスともう一人の侍女はカップや水差しの入ったワゴン、プリンセスの脱いだ着替えなどを手分けして運んだ…
巻き毛「……ふぅ、これで今日のお勤めもおおかたは終りね」巻き毛になっている栗色の髪がこめかみから跳ねて、生真面目な中にも少しいたずらっぽい雰囲気をした侍女……
ベアトリス「そうですね」
巻き毛「食器は私が片付けておくから、お召し物のほうをお願い……早くしないとお夜食を食べ損ねちゃう」
ベアトリス「分かりました」
…宮殿内の侍女たちはベアトリスのような下級貴族の子女から平民(とはいってもほとんどが「宮仕え」にふさわしい富裕な中流階級ではあるが)の娘たちまでさまざまで、交代しながら王族やそれに仕える官吏や女官たちの指示に従いあれこれと駆け回っている……そんな侍女たちがようやくゆっくりできるのが王族がベッドに入ってからで、厨房で多めに作ったものの手を付けないまま下げられた食事や菓子のお余りでほどよくお腹を満たし、それから寮のような部屋でつかの間の休息を得る…
………
…しばらくして・侍女たちの部屋…
巻き毛「お疲れさま」
蜂蜜色の髪をした侍女「お疲れさま、エイミー」
褐色髪「リリアン、あなたもいま終わったの?」
砂色髪「ええ、今日はあれこれやらされてもうくたくたよ……ベアトリス、あなたは?」
ベアトリス「私はいつも通りでしたよ?」
砂色髪「いいわねぇ、シャーロット王女は手間がかからなくて……」
蜂蜜髪「まぁまぁ、そんなことはいいからお夜食にしましょうよ……ミセス・シモンズからの差し入れは何かしら、と」
巻き毛「どれどれ……? ローストビーフの端っこに時間がたったプディング、固くなったスフレに……スポンジケーキもあるわよ♪」
褐色髪「わぁ、ケーキ♪」
年かさの侍女「きゃあきゃあ騒いでないで早く食べちゃいなさい、食器を厨房に戻さなきゃならないんだから」
巻き毛「はいはい」
766 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/02/11(水) 00:25:05.28 ID:8wV//Rp20
褐色髪「この時間にお夜食を食べるのって、何となくサロンの貴婦人になった気分よね」
巻き毛「分かるかも」
蜂蜜色「これもらうわよ」
砂色髪「あ、ちょっとぉ!」
年かさ「リリアン、私はもうお腹いっぱいだからあげるわ」
砂色髪「ありがとうございます。ミス・リビー」
年かさ「いいのよ。その代わり明日の掃除ではバケツを運んでもらうからね……ベアトリス、貴女ももうちょっとお食べなさい。そんなちょっぴりじゃあ夜中にお腹が空くわよ?」
ベアトリス「ありがとうございます、では頂戴しますね」
年かさ「はいはい。これでお皿も空いたし……ちょっと片付けてくるから、食べたら早く寝支度をするのよ」
一同「はい、ミス・リビー」
年かさ「まったく、返事だけは一人前なんだから……」
…しばらくして…
砂色髪「……はぁ、ベッドってありがたいわ」
ベアトリス「そうですね」
巻き毛「あとは急な呼び出しがなきゃいいけど……」
蜂蜜色「私は一度寝付いたら朝までぐっすりだから、その時はお願いね」
褐色髪「そうなったら頭から冷水を浴びせて起こしてあげるわよ♪」
年かさ「いいから、いつまでも騒いでないで……明かりを消すわよ」
褐色髪「あ、待って……!」
…普段は機械のように決まった動きで堅苦しく過ごしているが、寝室ともなると年相応に騒がしい女の子としての部分が出る侍女たち……二回りほども離れている年かさの侍女にせかされながらベッドに潜り込むと部屋の明かりが消され、常夜灯のぼんやりした光がかすかにドアの輪郭を示している…
………
…
…深夜…
蜂蜜色「……エイミー、エイミー」
褐色髪「なぁに、リリアン」
蜂蜜色「……化粧室、行きたくない?」
褐色髪「そうね……いいわ」
ベアトリス「///」
…寝付きの浅いベアトリスの耳に、ベッド越しにぼそぼそとささやく小さな声が聞こえたかと思うと、二人の侍女がもぞもぞとベッドを抜け出て抜き足差し足で寝室を出て行く音が入ってきた……純粋なベアトリスは少し前まで(一人で行くには少し怖いほど廊下の距離が長く暗かったりするので)本当に連れ立って化粧室へ行くものだとばかり思っていたが、プリンセスとの経験やドロシーが話す冗談交じりのあれこれから、こんな時間に連れ立って化粧室へ行くのがどういう意味かおおよその見当がついてしまっていた…
巻き毛「……リリアンとエイミーってば、まーた化粧室に行ったみたいね」
砂色髪「本当にあの二人ったらお盛んだこと♪ ま、リリアンは顔も良いし……それにピアノも上手だっていうものねぇ?」
巻き毛「……くすくすっ♪」
ベアトリス「……っ///」恥ずかしい事に、おおよそどんな事をするのかの想像もついてしまう……
砂色髪「どうせだから押しかけていってからかってやりましょうか♪」
巻き毛「いやぁだ、もう……♪」
血色の悪い侍女「……いい加減静かにしなさいよ、いったい何時だと思っているの」ベアトリスから数台離れたベッドから大きさを抑えてかすれたような……しかしキツい声が聞こえてくる……
巻き毛「……っ、ごめんなさい」
血色の悪い侍女「いい加減にしなさいよ……ベアトリスや他の娘だって寝ているんだから、騒ぎたいなら表でやって」
砂色髪「はーい……本当にあのミス・パリド(青ざめた顔)はやかましいんだから……」
巻き毛「くくっ……♪」
パリド「……なに、ふざけてるの?」
砂色髪「いーえ、めっそうもない。それじゃあお休みなさいまし♪」
パリド「ふん……」
767 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/02/23(月) 01:01:37.14 ID:4ZeRAPKR0
…数日後・メイフェア校…
ドロシー「よーし、それじゃあ報告を聞こうじゃないか」
ベアトリス「はい」
…常日頃から情報漏洩防止のため「できるだけメモは取るな」と教え込まれているベアトリスは、足元を探るように一つ一つ思い出しながらそれぞれの人物像や宮殿内であった出来事を報告した…
ドロシー「それじゃあ一人目」
ベアトリス「……侍従のミスタ・ハスキンです」
ドロシー「理由は?」
ベアトリス「姫様がこれまで侍従や侍女になれなかった人たちにも門戸を開いたことで、王宮内の伝統が乱れると思っているためです」
ドロシー「ほーん……脅迫状が置かれていた日にプリンセスの執務室に近づけたか?」
ベアトリス「目撃は出来ていませんが可能だったと思います」
ドロシー「そうか、お次は?」
ベアトリス「侍女のミス・ストーンです。普段は主に読書室の掃除や整頓を受け持っていますから、忍び込むのは簡単なはずです」
ドロシー「理由はありそうか?」
ベアトリス「私が調べた限りでは特に……でも、一度だけガゼルさんと話しているのを見かけました」
ドロシー「ガゼルか……ノルマンディ公に付いている腕利きの褐色女だな」
ベアトリス「はい。離れていたので何を話していたかまでは分かりませんでしたが、叱責されているようだったので……」
ドロシー「発破をかけられていたか、脅されていたか……とはいえそれだけじゃ弱いな。ほかは?」
ベアトリス「えぇと、次はですね……」
…一方…
プリンセス「ありがとう、アンジェ」
アンジェ「いいのよ……それより学校内で問題は起きなかった?」
プリンセス「ちっとも♪ せいぜいラテン語の書き取りが大変だったくらいね」
アンジェ「そう、ならよかった……んっ///」
プリンセス「ぷは……貴女とキス出来なかったのも辛かったわ」
アンジェ「プリンセス……んんぅ///」
プリンセス「ちゅっ、ちゅ……ふふ、可愛い。私のシャーロット♪」
アンジェ「ちょっと、誰がどこで聞いているか分からないのよ……///」
プリンセス「大丈夫よ、こんな耳元でささやいているだけなんだから……ね?」
アンジェ「大丈夫じゃないわ……///」
プリンセス「ふふっ……ベアトは可愛いけれど宮殿の寝室であんまりするわけにもいかないでしょうし、なにより小っちゃくてすぐへろへろになっちゃうから物足りなかったんじゃないかしら♪ でも私となら一緒にたくさん愉しめるわね?」じりじりとにじり寄って来て、胸元のリボンを解きながら上目遣いで微笑んでいるプリンセス……
アンジェ「あのね、私はそんなことのために来たわけじゃないのよ……///」
プリンセス「あら、そうなの……パリから取り寄せた素敵なネグリジェがあるのに、残念ね?」
アンジェ「……お楽しみはまず報告を聞いてからよ///」
プリンセス「ええ♪」
………
…
…一時間後…
アンジェ「はぁ、はぁ……」
プリンセス「はぁ……ふふっ♪」
アンジェ「ふぅ……まったくもう……」
プリンセス「これでまた頑張れる?」
アンジェ「……ええ」くたびれきった身体を横たえ、額に乗せるように腕を投げ出しながらもほのかに微笑んだ……
768 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/03/14(土) 01:17:49.60 ID:N8UNLeUl0
…翌朝…
プリンセス「それじゃあ気を付けて行ってらっしゃい……『プリンセス』」
アンジェ「ええ、分かっているわ『アンジェ』」
ドロシー「ベアトリス、引き続き宮殿内での調査は頼んだぜ」
ベアトリス「はい」
ちせ「気を付けての」
ベアトリス「そうします」
アンジェ「……そろそろ迎えの馬車が来るわね……それじゃあ行きましょう、ベアト?」そう言うと早変わりのようにすっと甘く優しいプリンセスらしい笑みを浮かべたアンジェ……
ベアトリス「……は、はい。姫様」
アンジェ「それでは後をお願いしますね、ドロシーさん♪」
ドロシー「ああ……ったく、恐ろしい変化っぷりだな」
…しばらくして・宮殿…
侍従・侍女たち「お帰りなさいませ、王女殿下」
…お召し馬車は思っていたよりも早く宮殿に着いたが、侍従や侍女たちはすでに列を作って出迎えの態勢を取っている…
アンジェ「ええ、ただいま♪ ……少し顔色が悪いようだけれど、具合はいかが?」
パリド(青ざめた顔)「はい、体調は万全です。お気遣い下さりありがとうございます」血色の悪い侍女はアンジェに手を取られ、困惑したような様子で一礼した……
アンジェ「なら良かったわ……フレデリック、坊やのトミーは元気かしら? そろそろ三歳を迎えるころでしたわね?」
侍従「はい、まだ足元もおぼつかない年頃ですがやんちゃばかりで……王女殿下にご記憶いただいて光栄です」
アンジェ「子供達はアルビオン王国の将来を担う宝ですもの。もう少し大きくなったら慰労のお茶会に連れていらっしゃいな♪」
侍従「もったいないお言葉、感謝してもしきれません」
アンジェ「いえいえ……皆にはお世話になりっぱなしなのですから、少しでも過ごしやすく働きやすいよう提案があれば何でもわたくしや侍従長たちに提案なさって下さいね。ミスタ・ハリソン、ミス・ウェスト、そうした提案があればできるだけ検討しますから、ぜひわたくしにも聞かせて下さいね?」
…侍従や侍女たちをねぎらいつつ、内情を知るベアトリスから「規則と体面にこだわり、有益な提案や改善の要望を握りつぶしている」と聞き及んでいる数人にやんわりと釘をさす…
侍従・侍女「おっしゃるとおりにいたします、王女殿下」
アンジェ「ええ、お願いしますわ」
…執務室…
ベアトリス「……あの二人、だいぶ鼻白んでいましたね?」なにかと厳しく底意地の悪い数人をアンジェがたしなめたことで少し愉快そうなベアトリス……
アンジェ「ええ。ああいう連中は銃弾よりも降格や体面を傷つけられることを恐れるものだから、ちょっとした脅しひとつで簡単に操縦できる……手紙は?」
ベアトリス「来ています、相変わらずたくさんありますね」
アンジェ「それだけプリンセスにかかる期待が大きいという事よ……それにこれも」またも挟まっていた脅迫状……
ベアトリス「このところ毎日ですね」
アンジェ「そうね。さて、今日の文面は……」文面を読み終えると再び読み返し、しげしげと便せんをながめた……
ベアトリス「どうかしました?」
アンジェ「ええ……ベアトリス、これをどう思う?」
ベアトリス「えーと「お前は王女にふさわしくない。お前が毎晩のように行っている恥ずべき不品行は知っている」ですか……///」プリンセスと心ときめくような逢瀬を重ねているベアトリスとしては思い当たる節が多々あり、思わず顔を赤らめた……
アンジェ「ふっ……文面もだけれど、ようやく尻尾を出してくれたわね」
ベアトリス「そうですか?」
アンジェ「気づかないようならそれでもいい。とにかく、これ以上だらだらと調査にあたっていると相手がじれて事を大きくしかねない……ベアトリス、決着を付けるから貴女には手伝ってもらう」
ベアトリス「分かりました」
アンジェ「頼むわね……もしかすると思いがけない目にあったりするかもしれないけれど、ここ数日で勝負をつけましょう。覚悟は良いわね?」
ベアトリス「そのくらい我慢できます。これ以上姫様にご心労をおかけするわけにはいきませんから……!」
アンジェ「そうね……それにしても愛されようも行き過ぎると困ったものね」冗談では済まされない事態のはずが、妙なことにかすかに笑っているアンジェ……
ベアトリス「?」
769 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/04/02(木) 00:44:35.51 ID:Nhoe3ffG0
…数日後…
アンジェ「それじゃあ手はずの再確認を行うわ」
ベアトリス「はい。まずは夜になったところでアンジェさんが容疑者を執務室に呼び出す。そこに私が「姫様から用事を承った」と鉢合わせする形で一対一になり、ひょんなことから対象が脅迫状の送り主であることに気づいたフリをして事の次第を問い詰める」
アンジェ「その通り……仮に逆上されたりシラを切られた場合、あるいは必要な言質を取った場合には私が部屋に入ってやり込めるから、心配することはない」
ベアトリス「はい」
アンジェ「とはいえある程度は決定的な状況を作らなければならないのだから、どこかで私が割って入るからといって甘えられては困る。一人でやり遂げてみなさい」
ベアトリス「頑張ります」
アンジェ「ええ……この作戦はある程度の難しさがあるわ。対象者にしゃべらせる時間を作ると同時に、第三者が介入しないよう手際よく片付けなければならない」
ベアトリス「やってみせます、姫様のためですから」
アンジェ「頼もしいことね……それじゃあ夜になるまでは普段通りに」
ベアトリス「はい」
…夜中…
アンジェ「……あら、ちょっとお勉強をしていたらもうこんな時間。貴女たちも疲れたでしょう、なにかあったら呼びますから下がってよろしいですよ」
侍女たち「はい、では失礼いたします」
アンジェ「ええ、わたくしもラテン語と地理を片付けたらベッドに入りますから♪」
………
…侍女たちの部屋…
蜂蜜色「今日は王女様も夜更かしみたいね」
砂色「あなたと違ってご学習だけどね」
巻き毛「はいはい、そんなことを言っている間に……と♪」多少固くなっているケーキの端っこをひょいと口に放り込んだ……
砂色「あ!」
年上「ほら、バカをやってないで片付けるわよ。今夜はまだ王女様も起きていらっしゃるんだから、いつ呼び出されてもいいようにしなさい」そう言うとお夜食の盆に食器やティーセットを集めていく……
年上「今日は貴女の番だったわね、厨房によろしく言っておいてちょうだい……ほら、集まらないと彼女が返しに行けないでしょうが。早くしなさいよ」
蜂蜜色「はぁい」
パリド「これで全部ね……それじゃあ行ってくるわ」食器を乗せたワゴンを押してさっと出ていった顔色の悪い侍女……
ベアトリス「……ふぅ(この中の誰かが姫様を……)」
砂色「どうかした?」
ベアトリス「いえ、なんでも……」
巻き毛「ちょっと食べ過ぎたんじゃない?」
蜂蜜色「いいのよ、ベアトリスは小っちゃいんだからもっと食べて大きくならなきゃ……特にこの辺もね♪」つつましい乳房に手を這わせた……
ベアトリス「ひゃあ!?」
年上「こら、そういうのは御法度だって言ってるでしょうが!」
蜂蜜色「大丈夫ですってば。王女様だって日頃から「仲良くしろ」っておっしゃっているんですし♪」
年上「そういう意味じゃないでしょうが。はしたない」
ベアトリス「……」プリンセスとの関係は社会の規範から言うと「はしたない」行いになってしまうことに傷ついて顔をそむけたベアトリス……
年上「ほらご覧、ベアトリスだってうつむいちゃったじゃない……大丈夫よ、あなたが悪いんじゃないんだから」
ベアトリス「いえ、大丈夫ですよ♪」機嫌のいいフリをしてごまかしていると、伝声管のような呼び出し装置が鈴を鳴らした……
ベアトリス「あ、私が出ます……はい、はい……分かりました」
年上「お勤め?」
ベアトリス「はい、ちょっと行ってきます」部屋を出ると一つ息を吐いて、脅迫状の送り主との対峙に備えて気合を入れた……
770 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/04/13(月) 01:37:56.40 ID:GpXW2nhf0
…執務室…
ベアトリス「すぅ……はぁ……」何回か深呼吸をしてそっとドアノブを回す……
…深夜の執務室は書見や書き物をするための灯りが軒並み消され、ごく限られた照明だけが灯っているが、プリンセスの執務机の前で一人の侍女が何かゴソゴソしているのが分かる程度には明るい…
???「……誰!?」
ベアトリス「ベアトリスです……それよりどうしてここにいるんです? 厨房に食器を戻しに行ったはずでは?」
パリド「あ、ああ……それが厨房に食器を返したところで用事があったことを思い出して。ベアトリス、貴女は?」
ベアトリス「私もちょっとすることがあって……それより一体なにをなさっていたんですか?」
パリド「え、ええ……実は王女殿下に万年筆のインクを足しておかなきゃいけないことに気がついたの」
ベアトリス「……インクなら昼間のうちに私が足しておいたはずですが?」
パリド「言い方が悪かったわ。机のインク壺に注ぎ足す予備の方よ……」
ベアトリス「おかしいですね? 予備のインク瓶はまだ手つかずだったはずです……」そう言いながら少し間合いを詰めた……
ベアトリス「それと……ミス・バーネット、その後ろ手に持っているものはなんですか?」
バーネット(パリド)「……封筒よ」
ベアトリス「封筒?」
バーネット「え、ええ……王女殿下の机の上に置いてあったわ。例の脅迫状じゃないかしら」
ベアトリス「……どうして姫様が脅迫状を送られていることを知っているんですか? そのことは姫様ご自身とごく少しの人間しか知らないのですが」
バーネット「う、噂でよ……それにここ最近の王女は手紙の返事を書くとき不安げだったし」落ち着かない様子で視線をさまよわせている……
ベアトリス「その手紙、私に貸してもらえます?」
バーネット「いいわ。別に私のじゃないし、犯人を探す役に立つかもしれないものね……」
ベアトリス「それじゃあ……まだ封はしてありませんね」
バーネット「きっと私が来たから逃げていったんだわ」
ベアトリス「そうかもしれません……そして内容は「お前のような売女は王室にふさわしくない」ですか」
バーネット「ずいぶんなことを言うものね」
ベアトリス「そうですね……姫様に対してずいぶんな物言いですよ、ミス・バーネット」
バーネット「どうして私に言うの? それは犯人に言うべきことでしょう」
ベアトリス「はい、だから犯人の貴女に言っているんです」
バーネット「ちょっと待って。ベアトリス、貴女は私の事を疑っているの?」
ベアトリス「疑ってはいませんよ……確信を持っています」
バーネット「よしてちょうだい。貴女が少しのせられやすい性格なのは知っているけれど……どこの誰にそんなデタラメを吹き込まれたのよ」
ベアトリス「デタラメですか?」
バーネット「ええ。それにね、最近はやりの探偵小説だって犯人を追い詰める時は証拠を並べ立てるものよ」
ベアトリス「そうですね……じゃあ私が探偵をやりますから、間違いがあったら訂正してくださいね」ふっと息を吐くと身構えつつ、逃げ出されることがないよう扉を背に立った……
ベアトリス「まず貴女はここの掃除を行っていますから「脅迫状」を置ける立場にあります……もっとも、それは私を含めて他の数人にも当てはまりますね」
バーネット「そうね」
ベアトリス「……次に、この前の馬場で姫様の馬具に細工がされていた件。あの時、姫様の乗馬靴を持ってきたのは貴女でした」
バーネット「厩係や他の人間だってそのくらいはできるわ」
ベアトリス「その通りですね……でも数日前に姫様がメイフェア校からお戻りになられた際に貴女の手を取ったとき、指にインクが付いていた。お召し馬車が予想より早く着いて慌てていたんですね」
バーネット「きちんと綺麗にしていなかったのは申し訳ないけれど、筆記具の手入れをしていたらインクくらい付くわ」
ベアトリス「そうですね……でも前回の脅迫状の筆致と貴女の筆跡、調べてみたら字のつづり方に独特の癖がありました。それにこの脅迫状、誰かが置いていったにしてはまだインクが乾いていませんよ?」
バーネット「……」
ベアトリス「あいにく鹿撃ち帽もコートもなしの素人探偵による推理ですが……どうですか、ミス・バーネット?」
771 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/04/26(日) 01:39:22.49 ID:h6sTeiUM0
バーネット「……そうね、お見事だわ」肩をすくめると小さく拍手をした……
ベアトリス「やっぱり貴女が犯人だったんですね……」
バーネット「ええ、そうよ」
ベアトリス「それで、これは誰の差し金ですか? 共和国ですか?」カマをかけるために敢えて王国側の立場にたって問いただす……
バーネット「そんなんじゃないわ、あくまでも私が個人的にやっただけ」
ベアトリス「ただ姫様を攻撃するためにこんなことを? 最悪の場合、大逆罪に問われかねないんですよ?」
バーネット「それでもよ」
ベアトリス「そこまでして姫様を憎むなんて……どうしてですか」思わず一歩詰め寄り、少し背の高いバーネットを下から見上げるようにしてにらみつけた……
バーネット「そうね……どうせバレてしまったんだもの。もう明らかにしたっていいわね……」
…そう言うなりぐいとベアトリスの服の襟元を掴むと壁に押しつけ、膝の間に脚を割り込ませると片手であごを上向かせて唇を重ねた…
ベアトリス「!?」
バーネット「ん……んふ……んちゅ……」
ベアトリス「ん、んん……っ!」バーネットの冷ややかそうな眼でにらまれたかと思うと青白い顔が急に眼前に迫り、薄くてひやっとした唇が重ねられた……
バーネット「ん、あむっ……ちゅぅ……」
ベアトリス「いやぁっ……んっ、んあ……は……離して……!」
…アンジェたちからある程度の格闘技は教わっているとはいえ、腕を押さえられた状態から騒ぎを起こさず振りほどくことはできそうにない……顔をそむけるが蛇のように細長い舌が頬を舐め、唇をこじ開けて口内にぬらりと入ってくる…
ベアトリス「んんっ……んふ……ぅ!」
バーネット「んちゅ、あむ……ちゅ……ぅ///」
ベアトリス「ふう……んっ!」ぐいぐいと押しこまれる中でバーネットに足払いをかけ、二人して分厚い豪奢な絨毯に転がった……
バーネット「ベアトリス、私は……ずっと貴女のことをこうしたいと思っていたのよ……!」
ベアトリス「!?」
バーネット「かいがいしくて愛らしくて、小さな身体にあどけない顔……私だけのものにしたかった……!」首元のリボンを引きむしるようにほどき、くるぶし近くまであるロングスカートをかき分けるようにしてたくし上げていく……
バーネット「なのにシャーロット王女が……あの女が貴女のことを独り占めにして貪って汚すから……!」
ベアトリス「姫様はそんなこと……!」
バーネット「見てしまったのよ、貴女が王女の寝室から出て行くのを……!」
ベアトリス「……っ!?」
バーネット「こんなに小さくて可愛いベアトリスを、あの女はすました顔をして夜伽の相手にさせている……どんなにか憎らしく思ったことか!」
ベアトリス「そ、それは……っ///」まさか「状況さえ許せば毎夜でも乳繰り合う仲だ」とは口が裂けても言えっこない……
バーネット「でももし事が公になってしまったらベアトリス、貴女に害が及んでしまう……だからせめてあの女が苦しんで、貴女にこれ以上手を触れないようになればいいと……」涙を目に溜めながらスカートをたくし上げ、ペチコートをずりおろそうと指をかける……
ベアトリス「ミス・バーネット、そんなにまで私のことを……」
バーネット「そうよ……おたわむれにいちゃついている連中とは違って、私は本当に貴女の事が好きなのよ……!」
ベアトリス「……ちゅっ」軽くだが、唇にそっと口づけをした……
バーネット「!?」
ベアトリス「ごめんなさい。貴女の気持ちには応えられそうにありません……でも、そこまで想ってくれたことは嬉しく思います……」
バーネット「ベアトリス……」
ベアトリス「でも、このままじゃあお互い不幸になっちゃいます……このことは二人だけの秘密にして内務卿に報告することもしませんから、穏便に済ませることにしませんか?」とっさの機転でノルマンディ公のエージェントであるフリをした……
バーネット「でも、どうやって?」
ベアトリス「私は任務の都合からシャーロット王女の侍女を続けないといけませんし、ミス・バーネットから辞職を申し出てくれればどうにか事態を収めることができます」
バーネット「そんなことが……?」
ベアトリス「はい。そうすればタイバーン(刑場)で首に縄をかけられたりロンドン塔で幽閉されたりせずに済みます……私からのせめてもの贈り物だと思って受け取ってくれませんか?」
バーネット「……分かったわ。誰にも口外しないし騒ぎ立てることもしないと約束する……こんなことをした以上どんな目にあったって仕方がないのに助けてくれるなんて、やっぱりベアトリスは優しいわ」服の乱れを直しながら、子供のように素直な笑みをみせた……
ベアトリス「それが取り柄ですから……♪」相手の好意を利用して嘘をついたことに良心の疼きを覚えながら、泣き笑いのような微笑を浮かべた……
ベアトリス「さあ、他の誰かに見つかる前に退散しましょう」
772 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/05/09(土) 10:56:48.44 ID:3JTuKCHh0
バーネット「……誰もいないわ」
ベアトリス「それじゃあ先に出てください、私は少し間を空けてから戻ります」
バーネット「ええ、ありがとう……それと……大好きよ///」
ベアトリス「ありがとうございます、ミス・バーネット……さぁ、今のうちに」
…背中を押すようにして廊下に向かわせると執務室の扉を閉め、ひっくり返ったものや調度の乱れがないかを確かめようとした…
アンジェ「……ご苦労だったわね」
ベアトリス「っ!」
アンジェ「そう飛びあがることはないわ、私よ」プリンセスほか数人しか知らない隠し扉からすっと現われ声をかけた……
ベアトリス「ふぅ、びっくりした……アンジェさん、途中で介入してくれるって話だったのになんで来てくれなかったんですか?」
アンジェ「貴女が独力でうまく切り抜けられそうだったからよ。なかなか口先が達者になったわね」
ベアトリス「口先が達者って……その言い方はないですよぅ」
アンジェ「失礼、話の作り方が上手になったと言い換えるわ。それはそうとあんな状況下で「泥棒猫」である私が割って入ってご覧なさい、あの女に激昂されて何が起きるか分かったものじゃなかったはず。だから私が顔を出さない方が正解だったし、結果として上手くいった」
ベアトリス「それもそうですね。ところでミス・バーネットとの話ですが……」
アンジェ「辞職のこと? そうね、穏便に片付けるならあれ以外にやりようはないでしょう。必要な手続きならあとでどうにかするわ」
ベアトリス「よかった……」
アンジェ「ちっとも良くないわ。スキャンダルを抱えた嫉妬深い女なんて火薬庫の火花みたいなものよ。いつどこで爆発するか分かったものじゃない……できることなら口封じのためにすぐにでも始末したいところよ」
ベアトリス「アンジェさん……!」
アンジェ「分かっているわ。今回の件は誰も介在させず内々に処理すると決めたのだから、あの顔色の悪い女には静かに退場してもらえばいい」
ベアトリス「そ、そうですね……ところでアンジェさん」
アンジェ「なに?」室内に乱れがないか念入りに確認している……
ベアトリス「もしかして怒ってます?」
アンジェ「なぜ?」
ベアトリス「いえ、だって……さっきからミス・バーネットのことをずいぶん……」
アンジェ「あの女が余計な面倒を作ってくれたことに不愉快さを覚えているだけよ、それだけ」
ベアトリス「そうですか、てっきり姫様のことをあしざまに言われて頭に来ているのかと……」
アンジェ「いいえ。私は任務を確実にこなしたいだけ、私情を挟むことはしない」
ベアトリス「……」
アンジェ「余計な事を考えている暇があるなら絨毯のめくれた部分を直しなさい。あと数分したら私も寝室に戻る」
ベアトリス「はい」
アンジェ「……ベアトリスに勘づかれるなんて、私もまだまだね」
ベアトリス「なにか言いましたか?」
アンジェ「なにも」
…数日後…
バーネット「それじゃあね」
ベアトリス「はい」
…宮殿の裏側にある目立たない通用口でお別れを言いに来たベアトリス……バーネットは地味な灰紫色のデイドレスと頭のボンネット、編み上げ靴に手に提げたトランクと旅装を整えており、ベアトリスに簡単な挨拶を済ませると振り返ることもなく歩き去って行った…
ベアトリス「……」プリンセスに時間を作ってもらってバーネットを見送りに来ていたベアトリスは彼女を見送るとすぐ勤めに戻ったが、どこか考え込むような調子で側仕えをこなしている……
プリンセス「……気になるの?」
ベアトリス「はい、どうしても……私だったらどう思うかな……って、つい考えてしまって……」
プリンセス「ベアトのそういう優しいところに彼女も惹かれたのでしょうね」
ベアトリス「そんな……優しいだなんて///」バーネットには申し訳ないと思いつつも彼女の好意には一種の迷惑じみた怖さを感じていたが、プリンセスからの好意には純粋な嬉しさと喜びを覚えてしまう……
プリンセス「ふふ……さ、午後になったらメイフェア校に戻って溜まっている課題を片付けることにしましょうね♪」
773 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/05/19(火) 00:33:37.16 ID:2jPijgb30
…その晩・メイフェア校…
プリンセス「……やっと終わったわ」
ベアトリス「お疲れさまでした、姫様。お休み前の暖かい飲み物をお持ちしますね」
プリンセス「ありがとう、ベアト……難しいレポートだったものだから、すっかり肩がこっちゃったわ♪」公務の時には見せない砕けた態度で腕を回すプリンセス……
ベアトリス「でしたら肩でもお揉みしましょうか?」
プリンセス「ベアトだってもう寝に行きたいでしょうに、そんなわがままを言っては悪いわ」
ベアトリス「そんなことありません。私は姫様にお仕えできて嬉しいですから……///」思わずそう口走ってから顔を真っ赤にするベアトリス……
プリンセス「まぁ、ベアトに愛されて私は果報者ね……でもせっかくだから飲み物にしましょう。それと、ベアトも付き合ってくれること♪」
ベアトリス「わ、分かりました///」
…しばらくして小ぶりな盆に陶器の水差しやカップ、菓子皿などを乗せて戻ってきたベアトリス……暖炉の温もりがまだほのかに残っている部室のテーブルに手際よく夜食のセットを並べ、プリンセスの優しいがうむを言わさない「お願い」に従って向かいに腰かけた…
プリンセス「あら、今夜は温かいミルクね?」
ベアトリス「夜も遅い時間ですし、紅茶では目が冴えてしまうかと思って……姫様が紅茶をお飲みになりたいようでしたらすぐ……」
プリンセス「ううん、いいの……それより、はい♪」お湯で温めておいたカップにミルクを注ぎ、それから隠し棚からとりだした瓶を開けて中身を少し垂らした……
ベアトリス「姫様、それは?」
プリンセス「カルヴァドスよ。少しだけ入れると味もいいしお腹も暖まるわ♪」
…すでに封は切ってあるものの、ドロシーが秘蔵してちびちび飲んでいる上物のカルヴァドス(リンゴ酒)をちょっぴり失敬し「ドロシーさんには内緒よ?」と唇に人差し指をあてておどけると、ベアトリスのカップにも注いだ…
ベアトリス「姫様、私はそんなに……!」
プリンセス「まぁまぁ、少し多かっただけだからきっと大丈夫よ……さ、乾杯♪」軽くカップを持ち上げ、優雅にホットミルクを味わうプリンセス……温かくて優しいミルクの味と、カルヴァドスの甘いリンゴの香りとアルコールの暖かさが喉からお腹にじんわりと広がっていく……
ベアトリス「いただきます……わ、良い香りがして美味しいです」
プリンセス「ね?」
…最低限の灯りにしぼった深夜の部室でこっそり食べるお夜食とミルクは小さな背徳感と軽い空腹を満足させてくれる……思っていたより水差しのミルクが残っていることに気づいたプリンセスは二杯目を注ぎ、先ほどよりすこし大胆にカルヴァドスを垂らした…
ベアトリス「姫様、少しお過ごしではありませんか……?」
プリンセス「私なら平気よ、公務でもお酒をいただく機会はあるもの……それよりベアトは大丈夫?」
ベアトリス「はい、私も全然大丈夫です。このお酒、口当たりがまろやかで美味しいれす♪」丸っこくてあどけない顔をぽおっと赤らめ、少しろれつの回らない口調のベアトリス……
プリンセス「あらあら、ベアトったらもう……♪」
…卓上の小さなランプに照らされてふわふわと心地よさそうにしているベアトリス……小皿の菓子をつまみミルクを飲み干すと食器を片付けにかかったが、手元が少し危なっかしい…
プリンセス「ベアト、食器の片付けは明日にしましょう? その調子だとお皿を落としてしまうわ」
ベアトリス「いえ、そんなことは……それにミルクが乾いてこびりつく前に片付けないと……」酔って意地っぱりになっているのか首を振って盆を片付けようとした矢先、水差しが傾いて倒れかかった……
プリンセス「いけないっ……!」とっさに受けとめてどうにか水差しを割らず音も立てずに済んだが、底に残っていた生温かいミルクが脚を濡らした……
ベアトリス「すみません姫様っ……!」
…盆を置くと布巾をとり、あせあせとしゃがみこんでこぼしたミルクを拭き取りにかかる……飾りこそ少ないが愛らしい淡いミント色のネグリジェ姿をしたベアトリスが座っているプリンセスの前で四つん這いになり、少しお尻を突き上げた格好であたふたしている様子を見て、プリンセスの口角が吊り上がる…
プリンセス「だから私が言ったでしょうに……もう、ストッキングが濡れてしまったわ」
ベアトリス「申し訳ありません、いま拭き取りますから……」
プリンセス「だぁーめ、布巾で拭き取るだなんてつまらないわ♪」
ベアトリス「あの、ではどうすれば……?」
プリンセス「舐めて?」
ベアトリス「ふえっ!?」
プリンセス「な・め・て♪」生温かいミルクが沁みた純白のシルクストッキングでベアトリスの頬をくすぐり、それからその足を口元へと近づけた……
ベアトリス「そ、その……姫様……///」
プリンセス「あら、ベアトったら私の言うことが聞けない?」頬杖をつき、足先でベアトリスのあごを上向かせる……
プリンセス「……さ、良い子のベアトなら出来るわね♪」
ベアトリス「ふぁ、ふぁ……い♪」小さな両手でプリンセスの足を包み込むと、可愛らしい桃色の舌を出して足指を舐め始めた……
774 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/05/27(水) 02:38:22.97 ID:WD8GeGho0
プリンセス「そうそう、上手よベアト……♪」片方の足を舐めさせている間に、もう片方の足でベアトリスの頭を撫でる……
ベアトリス「ふぁい……///」ちゅぱ……ちゅる……ちぅ♪
プリンセス「さ、それじゃあストッキングを脱がせてもらえる? 手は使っちゃダメよ?」
ベアトリス「わ、分かりまひた……///」
…白絹のすべすべしたストッキングはずり落ちないよう太腿のガーターベルトで留められていて、プリンセスが留め金を外すとベアトリスは四つん這いでにじり寄り、ストッキングの履き口をくわえて皮をむくように引っ張った……太腿に当たるベアトリスの温かい息と冷やっこい部屋の空気の寒暖差とくすぐったさで、ぞわりとした感覚を覚えるプリンセス…
プリンセス「んふふ……ベアトったらくすぐったいわ」
ベアトリス「ひゅみまひぇん、ひめひゃま……///」絹の生地をくわえたまま「すみません姫様」と謝り、膝の辺りまで引き下ろしたストッキングを相手に苦戦しているベアトリス……
プリンセス「破かないようにね?」
ベアトリス「ふぁ……い」引っ張っていくうちに「つつ……」とプリンセスのきめ細かな肌を滑っていくストッキング……そのうちにくるぶし、足の甲までずり下げることに成功すると、最後はバナナの皮をむくようにぺろりとストッキングが足先から抜け落ちた……
プリンセス「はい、良く出来ました♪ それじゃあベアト、今度は直接舐めてくれる?」
ベアトリス「はい、姫様///」
…プリンセスの瞳に見られているうちに、下腹部に甘くじゅわっと疼くような感覚を覚え始めたベアトリス……柔らかく小さな白い足と、しなやかで魚の目ひとつない美しい足指、綺麗に磨かれて艶のある桃色の足爪……誰もが知る王女殿下の日頃誰も見たことがない部分が、舌を伸ばせば届く位置にあり、しかもプリンセス自らがベアトリスに「舐めて良い」と差し出してくれている…
ベアトリス「……ちゅる、んちゅ、れろっ♪」
プリンセス「あんっ、ふふっ……ベアトったらくすぐったい♪」子猫がミルクを舐めるかのように、一心不乱に足を舐めあげるベアトリス……その信頼、献身……そして尽きせぬ愛情に思わず嬉しくなると同時に、這いつくばって奉仕するベアトリスの無垢な姿に対し甘い肉欲を覚えてしまう……
ベアトリス「あむっ、れろ……姫様のおみ足、柔らかくておいひいれす……♪」
プリンセス「あら、それなら反対側の脚もお願いしようかしら?」
ベアトリス「いいんれふか……?」赤んぼうが指をしゃぶるようにプリンセスの足指をしゃぶりながら、喜悦の声をあげるベアトリス……
プリンセス「ええ……それと今度はもう少し趣向を変えてみましょう♪」
…プリンセスはそういうと自分でストッキングを脱ぎ始め、脱ぎ終わってだらりと垂れ下がったそれを闘牛士の布のようにヒラヒラと振ってみせるとベアトリスに「後ろを向いて?」とささやいた…
ベアトリス「はい♪」
プリンセス「よろしい……それじゃあ、えい♪」シルクが傷むのも構わずストッキングを引き伸ばすと、つま先と履き口を両端にしてベアトリスの後頭部で結んで目隠しにした……
ベアトリス「わわ、目隠しですか……♪」
プリンセス「ええ。これから何をされるか分からないのも、ちょっとした緊迫感があって愉しいと思って♪」そういいながら四つん這いのベアトリスにまたがって片手でベアトリスの短髪をまとめると、手綱を引くように……ただし乱暴ではない程度にぐっと引いた……
ベアトリス「ん、くっ……///」
プリンセス「あらあら、ベアトったらもうこんなにびしょびしょにして……とってもいやらしくて良い娘ね♪」くちゅ……♪
ベアトリス「ふあぁぁ……ぁ♪」濡れそぼった花芯にプリンセスのしなやかな指が滑り込み、優しく内壁を擦り上げる……
プリンセス「あら、このお馬さんはなかなか進んでくれないのね……そーれ、はい♪」ぱちんっ……!
ベアトリス「ひゃん♪」
…ずるりと秘部から指を抜くと迎え舌でその指先を舐めとり、それからベアトリスの小ぶりなヒップを軽く叩いた……ベアトリスがよちよちとはいはいをし始めると、プリンセスは脚が地面に着かないよう正座のような姿勢で跨がりつつ、鞭をくれるようにベアトリスのヒップをぱちんと叩く…
プリンセス「ふふふ、本当に可愛いお馬さんね……それっ♪」ぱちっ!
ベアトリス「あんっ♪」
プリンセス「それじゃあこの馬場を一周したら降りるとしましょう♪ はいどう、はいどう♪」目隠しのベアトリスを四つん這いで進ませながら、椅子の回りを一周させる……ベアトリスは恥ずかしさと悦びで頬を赤くして口の端から涎を垂らしつつ、一歩進むごとに「ぬちゅ……っ♪」と太ももに垂れた愛蜜がこすれる粘っこい水音を立てている……
ベアトリス「はひ、あひぃ……あぁ……んっ♪」
プリンセス「そろそろ一周ね……はい、良く出来ました♪」そう言いながらにんまりとみだらな笑みを浮かべ、唾液で湿した右手の中指と薬指をぬるりと滑り込ませた……
ベアトリス「い゛っ……ふわぁぁぁぁ……っ♪」頭をのけぞらせて派手に嬌声をあげかけるベアトリス……
プリンセス「しーっ、誰かに聞こえちゃうからお静かに♪」そう言って床に放りだしていたもう片方のストッキングを丸めて口の中に詰め込んだ……
ベアトリス「ん゛ぅっ、ん゛んんん……っ♪」プリンセスの手にとろりと蜜をこぼし、力の抜けた膝をがくりと落とすとひくひくと痙攣しながら絶頂を迎えた……
プリンセス「あぁ、ベアトったらイくところまで可愛い……もっと気持ち良くしてあげるわね♪」白い目隠しに覆われたベアトリスの目には見えないが、プリンセスは瞳を爛々と輝かせ、女帝の風格と吸血鬼のような蠱惑的な表情でベアトリスを見おろしていた……
ベアトリス「んふぅ……んんぅ♪」
…床に崩れ落ちたベアトリスは口に突っ込まれたストッキングをしゃぶりながらプリンセスの残り香を味わい、秘部に伸ばした自分の小さな手に重なるプリンセスの手を使ってぐちょぐちょに濡れた秘部をかき回し、桃真珠色をした敏感な部分を撫で上げながら何度も愛液をほとばしらせた…
プリンセス「まぁまぁ、今日のベアトはまるで獣ね……ふふっ、明け方まであと二時間……それまで思う存分、いっぱいイかせてあげるわね♪」薄暗いランプだけが灯る中、影になった口元にえくぼを浮かべるとふたたび指を沈み込ませた……
775 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/06/16(火) 01:07:48.93 ID:hPSRvhPj0
…Case・ドロシー×アンジェ×プリンセス「Give my best regards to Sir Walsingham」(ウォルシンガム卿にによろしく)…
…とある日・コントロール内の無電傍受施設…
無電オペレーター「……」
…ロンドン市内にある「アルビオン共和国大使館」の立ち入りが制限された一角にはモールス信号機やその受信機がずらりと並び、複数の局員がヘッドフォンを耳に当て、空中を飛び交う電波の中から王国側の周波数、あるいは共和国側が使っていない周波数を捉えると電文をメモ帳に書き留めては、はぎ取った意味不明な文字の羅列を暗号解読室の局員たちが解読器にかけたり、敵方から手に入れたコードブックを用いて平文に戻していく…
解読係「……これは!」次々とメッセージを解読して行く中、一人の解読係が読み解いた暗号文を読むなり書類挟みを手にLの執務室に向かった……
………
…数日後・ロンドン市内の地下街…
L「ああ、来たな」
…張り巡らされた真鍮や銅のパイプが交錯し、常に漏出する蒸気で湿っぽい地下街に隠し部屋の一つがある……もともとは無計画で野放図な地下街の工事に使われていたが、革命騒ぎで放棄され埋め戻されることもなく忘れ去られた区画の一部で、今では開発された地下街と地下鉄トンネルとの狭間にあり、地下街に通じる隠し通路を使って出入りすることができる……室内は「アンダーグラウンド」あるいは「ザ・チューブ」と言い表されるロンドン地下鉄の音が鈍く響いていて、アーチ状の背の低い天井は長身の人間では頭をぶつけてしまいそうになる…
ドロシー「急な呼び出しだったからちょうどいいお土産がなくて大慌てだったよ」
L「慌ただしいのは好ましくないが『ちょっとした問題』が起きてな」
ドロシー「なるほど。それじゃあ一杯もらおうか」
L「好きにしろ。グレンリベット、ヘネシー……アイリッシュウィスキーがいいならジェームソンもある。シャンパンならクリュッグとクルボアジェだ」
ドロシー「今日はやけに気前がいいじゃないか」グレンリベットを開けてウイスキーソーダを作ると軽くあおり、机に肘をついた……
L「納税滞納者からの押収品なのでな。国庫を痛めることもない」
ドロシー「それはそれは……それで、今回はどんな無理難題を押しつける気だ?」
…赤紫色を帯びた瞳に少し皮肉っぽい笑みを浮かべ、グラスを揺すりながらウイスキーソーダをあおるドロシー……デイドレスはちょっとしたお出かけ用といったところで、上等ではあるが目立つほどではなく、ほどほどに綺麗ではあるが派手ではない……ことさらに気配を消そうという意図は感じられないが、必要な程度に「目立たない」格好をしていた…
L「うむ、そのことだが……これを読んでみろ」
ドロシー「あちらさんの暗号文か、わざわざ持ってくるなんて危なっかしいな……」ぼやきながら流し読みを始めたが、内容を確かめるなり目つきが変わり、知らず知らずのうちに姿勢を起こして真剣に読み始めた……
ドロシー「こいつは……」
L「なんだ?」
ドロシー「……どこの誰だか知らないが、こいつはあんたら「コントロール」の内部に送り込まれた第一級の情報源だな」
L「いかにも」内容を読み終えたドロシーからタイプされた紙片を返してもらうと暖炉にくべて灰になるまで焼き尽くした……
L「この発信を捉えてからの数日の間に収集した情報だが、こちらが数ヶ月前に王国へ送り込んだ情報部員の正体、情報活動に使った予算の額、王国への対応方針……とにかくこちらが被った被害は相当なものだ。手札が相手に筒抜けでは勝負にならん」
ドロシー「それで?」
L「もちろんこちらでもこの「もぐら」を探し出すが、君たちも正体を探ってもらいたい……こちらが新規に「植え込んだ」情報部員はおおかた面が割れていて使えんし、既存のエージェントもどうだか分からん以上うかつに動かせん。だが君たちのことは私とほか数人しか知らん以上、まだ存在を掴まれていないはずだ」
ドロシー「希望的観測ってやつか?」
L「ある程度の根拠もある。今までに挙げてきている成果と、王国が君たちを通じてこちらの諜報網を一網打尽にできる利益とではすでに釣り合わん」
ドロシー「なるほどな。しかし末尾の「ウォルシンガム卿によろしく」とはね……ふざけた奴だな」
(※フランシス・ウォルシンガム…1532〜1590年。エリザベス一世に対するスペインやスコットランド女王メアリ・ステュアートを始めとする国内外のカトリック勢力による謀略や暗殺計画を手段を問わずに次々と退け、英国の繁栄を影から支えた「英国情報部産みの親」にして伝説の秘密警察・情報部長官。女王の花婿候補にも次々と難癖をつけ結婚を諦めさせてしまうなど気難しい性格だったことから嫌われていたが、その圧倒的な実力で認めさせていた人物)
L「逆に言えば、それだけの個人的アクセントをつけても許されるほどの実力だということになる……君もそういうお遊びをしてみたいのなら構わんが」
ドロシー「あいにくそんな趣味はないんでね。しかしこれほどの余裕を持っているやつだ、手強いだろうな」
L「こちらも簡単だと言った覚えはない……やれるな?」
ドロシー「ああ、久しぶりに手応えのある相手だ。腕が鳴るね……ああ、それと」
L「分かっている。植え込みに失敗したエージェントたちの分だけ浮いた活動費がある。それを回そう」
ドロシー「頼んだ。なにしろ『情報にはいくら金をかけてもかけ過ぎることはない』んでね」(※「情報には〜」…ウォルシンガムが言ったとされる言葉)
L「よかろう。とにかくこれ以上被害が拡大する前に食い止めたい、成果に期待している」
ドロシー「やるだけはやってみるさ……それじゃあお先に」
L「うむ」
776 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/07/10(金) 01:16:56.69 ID:4V2iKZOq0
…数時間後・部室…
ドロシー「……というわけだ」
アンジェ「そういう浮かれているタイプは必ずボロを出す、そこを押さえればどうとでもなる」
ドロシー「そう上手くいきゃいいんだがね……とにかくしばらくはこっちにかかりっきりになるし、日常の定時連絡やなにかは出来るだけベアトリスにやらせよう」
アンジェ「そうね」
ドロシー「プリンセスとちせは今のところ普段通りだが、場合によっては使うこともあるかもしれない」
アンジェ「ちせが物理的に排除する機会があるかもしれないと?」
ドロシー「そこなのさ」すっかり冷めた紅茶をすすり、眉をしかめた……
ドロシー「いくらそいつが最上級のエージェントだとしてもだ、通信は傍受される可能性があるし……実際そうなったわけだが……無電や伝書鳩、メールドロップでやりとりするにはデリケートすぎる情報だってある。絶対にどこかで担当の管理官とコンタクトしているはずだ」
アンジェ「その担当官を探し出す気?」
ドロシー「ああ。本人が壁の向こうにいるんなら手が出せないが幸いこっちにいるんだし、管理官が誰か割れれば芋づる式にそいつの正体も分かる」
アンジェ「もっともね」
ドロシー「……が、そうなるとプリンセスにもご出馬願うことになるかもしれないな」
アンジェ「プリンセスに頼むのは最後の手段ね、うかつに嗅ぎ回ったらプリンセス自身に危害が及ぶ」
ドロシー「分かっているさ。だが相手の「産物」(プロダクト)は超一級品だ。今はまだ大丈夫だが、もし「チェンジリング」に勘づかれたらおしまいだ」
アンジェ「……」
ドロシー「分かってる、こっちだって必要以上にプリンセスの立場を危うくしたいわけじゃない……とはいえどうしようもない場合もあるってことを覚えておいてくれ。そうならないよう努力はするがね」
アンジェ「ええ、私も出来る限りのことはする」
ドロシー「よっしゃ。それじゃあ私は今夜から「会員制婦人サロン」にしけ込むとするかな」
アンジェ「……どういうつもり?」
ドロシー「知れたことさ。腕利きエージェント、それもこれだけの千両役者となると管理官はノルマンディ公のところ……つまり内務省で間違いない。それで、だ。こちとら内務省課長級の奥様とすっかりねんごろだって話は前にしただろ?」
アンジェ「浮気性な女が持ってくるゴシップに興味があるわけじゃないわ」
ドロシー「へっへっへ……それがその奥様、冷え切った結婚生活なのは亭主が省内で美人の秘書かなにかを抱えているためだと思っているらしくてな。証拠探しに持ち帰り仕事の書類を盗み読みしては、その内容を不満と一緒に私にぶちまけてくれているのさ」
アンジェ「部外秘の書類を持ち帰り?」
ドロシー「敵ながらノルマンディ公の能率的な仕事ぶりを考えたら書類の処理がおっつかないのも無理もないさ……ともかく、書類の持ち出しは公務員の機密保持規則違反で厳罰だから、もし亭主が細君の盗み読みを見つけたとしてもうかつに報告することさえできない……重い規則違反をやらかした部下にノルマンディ公がどんなこの世の果ての植民地のポストを見つけてくるかを考えたら、こっちだってぞっとするね」
アンジェ「それが保険になると」
ドロシー「ああ。そういうパブリックスクールのガリ勉タイプは中途半端に頭が回るから自分でどうにかしようとするし、同時に気位が高くて役職のことばかり考えているから、それを守るためなら口も閉じるし脅しも効く」
アンジェ「あるいはパニックを起こして大騒ぎをするか……あてにならないわ」
ドロシー「大金でもせびればそうなるかもしれないが、こっちはそんなつもりがないからな……それに、まさか自分の細君が婦人サロンで若い女相手の寝物語(ピロートーク)に省内の機密情報をくっちゃべっているとは思わないだろうよ」
アンジェ「……若い女?」
ドロシー「おい、私だってまだ充分に若いだろ」
アンジェ「そういうことにしておくわ……とにかく方向性は了解した。私も別口で相手の管理官を探ってみる」
ドロシー「よろしく頼む……へっくし」
アンジェ「噂でもされているのかしら?」
ドロシー「かもな、モテる女は辛いもんだ♪」
777 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/07/23(木) 00:06:40.78 ID:+MFf+0Cf0
アンジェ「……貴女がモテるかどうかはさておき、他にも情報を探る必要があるわね」
ドロシー「ああ……やつが発信しているモールス電文の強度から位置を割り出していくことにしよう」
アンジェ「電波の三角測量法? あんなの技術的にはまだあてになるようなものじゃないし、そもそも電文を傍受するオペレーターが最低でも三人は必要よ」そういうと露骨に眉をひそめた……
ドロシー「問題があるか? 無電を扱うのは私とお前さん、それにベアトリスでちょうど三人じゃないか」
アンジェ「ベアトリスを単独で使うのは不安があるわね」
ドロシー「そりゃあ荒事に使うには頼りないが、メカや技術に関しちゃなかなかだぜ?」
アンジェ「それは分かっているわ」
ドロシー「なら何が不満だ? プリンセスを安易に使うのはもっと反対だろうし、ちせは刃物なら一流だが通信機なんてからっきしだ。ベアトリスができるんだから……ごほん……ベアトリスを使おうじゃないか」
アンジェ「どうしたの?」
ドロシー「いや、大したことはない……ちょっとつばをのみ損ねてな」
アンジェ「年寄りの証拠ね。いいわ、納得したわけではないけれどとりあえずはその方向しかないようね」
ドロシー「そういうこと。やつの定時連絡は曜日も時間も決まっているが、おそらくは数日おきにパターンを変えているはずだ。そいつを変えられる前に尻尾をつかみたい」
アンジェ「ええ」
ドロシー「まずは通信機のあるネストから任意の三か所を選び出して電波の強度を測る……方位は分からないが、強度からある程度の位置が絞り込めればそれだけでもずいぶんマシになるはずだ」
アンジェ「そうね」
…放課後…
ドロシー「さてと……ベアトリス、それじゃあお前さんにも協力してもらおう」
ベアトリス「分かりました、何をすればいいんですか?」
ドロシー「今回は特定の時間にネストのひとつで通信機を立ち上げ、モールス電文に聞き耳を立ててもらうってお仕事だ」
ベアトリス「一人で、ですか?」
ドロシー「ああ、もう子守りの必要な年頃じゃないだろ?」イヤミに聞こえないように軽い口調でそういうとウィンクを投げた……
ベアトリス「ええ、まぁ……それで?」
ドロシー「分かっているとは思うが電文のモールス信号は距離が離れるほど電波、つまり音が弱くなる……ちょうどこんな具合に波紋になって広がっていくわけだな」ティーカップの紅茶に角砂糖をひとつ落とした……
ベアトリス「はい、それは知っています」
ドロシー「今回はその電波を探り、この同業者がロンドンのどの辺りから電文を叩いているのかつきとめたいってわけだ」
ベアトリス「質問をいいですか?」小さく手をあげるベアトリス……
アンジェ「どうぞ」
ベアトリス「ドロシーさんが紅茶で見せてくれたようにモールス信号は全方位に広がっていきます。それを聞いただけではどこからの発信かは突き止められないと思いますけれど……」
ドロシー「そいつはまったくその通りだが、それは一か所から聞いた時の話だ。今回は私、アンジェ、それからお前さんの三人が別の場所で同時に電文を傍受する。そうすれば信号の強弱である程度の位置が推察できる。それにモールス通信機は電気を食うしハンドバッグに収められるほど小さいものでもない。隠せる場所となるとおのずから限られてくる」
ベアトリス「なるほど」
…アルビオンの技術力がいかに優れているとはいえ、まだまだモールス通信機は小さなものではなく、情報部員にとって便利ではあるが隠しどころに困る厄介者でもあった……通信機の音質や距離もそこまでではなく、シティ(金融街)や貿易会社、船会社といった民間での無電通信も急増するなか混信も起こりがちで、使われるのは速報性の高い通信か、伝書鳩やメールドロップを使えない場合に限られていた…
ドロシー「納得してくれたか?」
ベアトリス「はい。あと一つ提案が……いいですか?」
ドロシー「おう。遠慮することはないからどんどん言ってみろ」
ベアトリス「モールス通信機ですが、実はちょっとした考えがあって……ちょっと待っていてもらえますか?」そう言って立ち上がるとどこかに出ていった……
ドロシー「……なんだろうな?」
アンジェ「さあ」
778 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/08/10(月) 01:44:37.63 ID:xKZDlfS90
ベアトリス「……お待たせしました」数分ほど待っているとベアトリスが戻ってきたが、その手には見なれない何かの部品のようなものが握られている……
アンジェ「それは?」
ベアトリス「これですか? これは通信機の水晶増幅器です。支給されている通信機なんですが、メンテナンスをしている時に出来があまり良くないことに気がついて……もっといい増幅器を使えば感度がぐっと良くなると思って作ってみたんです」
ドロシー「作ってみたって……お前なぁ、そんなクッキーかなにかみたいに……」あきれたような声を上げた……
アンジェ「それで、性能のほどは?」
ベアトリス「実はまだ試していないのですが、いい出来だと思います」普段よりいくぶん自信ありげなベアトリス……
ドロシー「ほう……そこまではっきりと言うんだから相当なもんだな。いいだろう、試してみようじゃないか……完成品は一個だけか?」
ベアトリス「いえ、ちょうど三つあります」
ドロシー「おいおい、まるで誂えたみたいじゃないか。三か所で聞き耳を立てようって時にちょうど役に立つ部品が三つある……ベアトリス」
ベアトリス「はい、何でしょうか?」
ドロシー「隠し棚にある酒の好きなやつを開けていいぞ。それだけの価値はある」
アンジェ「ちなみに奥の左から三番目がドロシーのとっておきよ」
ドロシー「おい。なぁベアトリス、私の好みはお前さんとは違うし、無理にそいつを選ばなくたっていいからな?」
ベアトリス「大丈夫ですよ、こっちにします」
ドロシー「ふぅ、やれやれ……じゃあ私も一杯もらうとしよう。ベアトリスとそのイカした発明品に乾杯しないとな」
…グラスを取り出すとなみなみとブランデーを注ぎ、ベアトリスがごく控えめに注いだサイダー(リンゴ酒)のグラスと触れ合わせた…
アンジェ「昼間から酒だなんていいご身分ね」
ドロシー「そう言うなよ。とにかくベアトリス、お前さんとそのゴキゲンな部品に乾杯だ♪」
ベアトリス「あ、ありがとうございます……なんだか照れちゃいます///」
ドロシー「なぁに。それだけのものを作ったんだ、自信をもてよ」いつもよりも暖かな表情を浮かべて軽く肩を叩いた……
アンジェ「いいけど、少し顔が赤いんじゃないかしら」
ドロシー「おっと、少し飲み過ぎちまったかな……そんなつもりはなかったんだが」
アンジェ「お願いだから教師や寮監にバレることがないように頼むわね」
ドロシー「そんなの楽勝さ……それじゃあ傍受は予定の日から始めよう」
アンジェ「ええ」
ベアトリス「分かりました」
…数日後…
ドロシー「さてと、それじゃあ今日から傍受を始めることにするが……手はずは覚えているな?」
ベアトリス「大丈夫です、よくおさらいしましたから」
ドロシー「結構。まずはそれぞれのネストに行って通信機の部品をお前さんの水晶増幅器に取り替える」
ベアトリス「はい」
ドロシー「それからあとは向こうが定時連絡を発信するまで傍受を続ける……本当なら通信機に詰めている間、不意を突かれないよう子守役が必要なんだが……なにぶん手が足りないからな。ネストの位置がばれていないことを願いつつ用心してかかろう」
ベアトリス「そうですね」
ドロシー「あとは電波の強度から相手の位置を探るだけだ……細かく方向を探ることができる指向性のアンテナみたいなものがありゃいいんだが、そんなのは科学小説に出てくる絵空事だからな……地道に強度から探るしかない。それとあちらさんの定時連絡の時間は分かっているから、予定時刻を一時間過ぎたら中止してメイフェア校に戻る」
ベアトリス「了解しました」
ドロシー「万が一ネストが急襲を受けたら緊急信号を打電して機材を破壊し……その暇があればだが……一目散に逃げだす、いいな?」
アンジェ「緊急時の集合場所や逃走のための道具がしまってある場所は覚えているわね。慌てず騒がずそこへ向かうこと」
ベアトリス「はい」
ドロシー「よし、それじゃあ行こうか」
779 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/08/26(水) 01:28:12.00 ID:1x5btGeP0
…ネストの一つ…
ドロシー「さあ、準備を始めようぜ」
…古めかしい棚に施された特定の浮き彫りを順番に押すとからくり仕掛けのようにカチリと留め具が外れ、浮いた棚板を開くと中に収まっていた通信機が姿を現す……ベアトリスは小さなレンチやペンチを使い、通信機に仕込まれている水晶を慎重に外しお手製の増幅器に差し替える…
ドロシー「……できたか?」
ベアトリス「はい、できました」
ドロシー「それじゃあ試してみるとするか。アンジェ、頼む」
アンジェ「ええ」
…起電用の手回しハンドルを回すと通信機が低くうなり始める……席に腰かけたアンジェがスイッチを「送信」から「受信」に動かすとたちまち計器盤の針が左右に振れ、長短のモールス信号が空中を飛び交っていることを示した…
アンジェ「この波長は通常商用電信ね……確かによく聞こえる。これまでの倍以上は感度が良い」
…耳当てがついたラッパ型のヘッドフォンに耳を傾け、周波数のダイヤルを回しながらしばし沈黙していたが、ヘッドフォンを外すと軽くうなずいた…
アンジェ「いい出来だわ、ベアトリス。とてもいい」
ベアトリス「それならよかったです」
アンジェ「ええ。素晴らしい仕上がりよ……スパイは特許を申請できないのが残念ね」珍しいことにからかうような賛辞まで飛び出す……
ベアトリス「いえ、そんな……///」
アンジェ「それから、できれば全ての通信機にこれをつけたい。手持ちの材料がまだあるようなら他の通信機の分も作って欲しい」
ベアトリス「分かりました」
アンジェ「あと、全体としては良いけど周波数帯によっては音が飛ぶわね」
ベアトリス「そうですか? ちょっと待って下さいね……」再び通信機に顔を寄せると工具を取りだしあちこちいじった……
ベアトリス「……これでどうでしょうか?」
アンジェ「試してみましょう……そうね、いいわ。さっきよりも落ち着いた」
ドロシー「さすがだな。それじゃあアンジェ、ここは任せる」
アンジェ「ええ。残り二か所もお願いね」
ドロシー「ああ……それじゃあ行こう」
…ドロシーはベアトリスを連れてロンドン市街を歩きながらレモネードの屋台で喉を潤したり、道端のショーウィンドウを眺めたりしながら尾行がないか確かめ、とある角でつと裏路地に入った…
…二つ目のネスト…
ドロシー「さ、じゃあ今度はここだ……さっきと同じように頼むぞ」
ベアトリス「はい」
…ベアトリスも二つ目となると手慣れたもので、錯綜した真鍮や銅線の迷路に細く繊細な指を差し入れて増幅器を取り替え、電源を入れると通信機が「暖まる」のを待った…
ドロシー「よし、動いたな……どれどれ……」ドロシーは通信席にどっかりと腰を下ろすとヘッドフォンを当て、かん高いモールス信号の音に耳を傾けた……
ベアトリス「どうでした? 調整はいりますか?」
ドロシー「うんにゃ、文句なしにばっちりだ……ときたま空電が入るが、こいつはロンドン中に金属の蒸気パイプやら何やらが張り巡らされている上に、ドーヴァーの方で雷雨が来ているからだろう」
ベアトリス「そうですね、雷が来るとどうしても空電が入ってしまいますから……」
ドロシー「とにかく増幅器の方は文句なしだ。残り一か所はお前さんに任せるから、いつものように尾行に気を付けて行ってこい」
ベアトリス「はい、それじゃあ行ってきます」
ドロシー「おう……さて、あとはあちらさんが定期報告を打電してくれるのを待つばかり、と」
ドロシー「……へっくし!」数回連続してくしゃみをし、思わず顔をひそめた……
ドロシー「ったく、あんまり埃っぽいのも考え物だな。今度ベアトリスに雑巾がけでもやってもらうか……くしゃみで肝心の通信を聞き逃したんじゃ冗談にもならないしな」
…そうつぶやいていると、ふと足元から背中にかけてぞわりとした寒さを感じた……そこまで低い気温ではないはずだが、作りの雑な安普請の部屋で北窓から吹き込んでくる風がよりこたえるように感じた…
ドロシー「おまけにこの部屋はすきま風がひでぇときやがる……どうにもうそ寒いや」
………
…
780 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/09/06(日) 01:58:47.40 ID:D1niIlq30
…三つ目のネスト…
ベアトリス「ふう……」
…尾行がないか、あるいはネストを監視している人間がいないかをさりげなく見定めて、安全とみると入り口をくぐったベアトリス……通信機のある部屋に入るとバリケード代わりのクローゼットをドアに寄せて身体を椅子に休めたが、疲れを感じているのは歩き回ったからというより、むしろエージェントとして精神を研ぎ澄ましていることからくる気疲れからだった…
ベアトリス「……っと、座っていちゃダメですね。はやく増幅器を取り替えないと」
…パーティや舞踏会のような騒がしい環境よりもむしろ心落ち着けて黙々と取り組める機械の方が安心するような気がするベアトリス……往診に通う医者のような小さい茶革の鞄から工具を取り出すと、通信機の化粧板を外した…
ベアトリス「増幅器もそうですが、ここの接合もゆるい気がするんですよね……今度また調整しないと……」
ベアトリス「ん……よし、入りました」
…細い指がピアニストのように手際よく動き、増幅器を取り替えた……取り外した方の増幅器は持っているわけにもいかないので、後で運河に捨てられるよう食べ終わったサンドウィッチの包み紙にくるんでおく…
ベアトリス「さて、それじゃあ立ち上げましょう」
…手回しハンドルを回して電源を起こすと「ぶぅ……ん」と低いうなり声をあげて通信機が立ち上がり、たちまちロンドンを飛び交う電波が通信機を駆け抜ける…
ベアトリス「それと周波数は……と」波長のダイヤルを回していく……
ベアトリス「この波長は船舶用の電信ですね……」
ベアトリス「それにしてもドロシーさんの言う通りですね、今日は空電が多い……」
…ヘッドフォンを当て、右手には電文を書き留めるための鉛筆を持ち、左手は周波数のダイヤルを回しているが、電信の小気味いい「トン・ツー」に交じって砂利を振るうような空電が入る…
ベアトリス「この調子じゃあ無事に聞き取れるか難しいですね……」
…卓上に置いた懐中時計をちらりと見るベアトリス……予定通りならあと数分で敵方のエージェントが通信を始めるはずだが、通信機は今のところはうんともすんとも言わないで黙っている…
ベアトリス「……」
ベアトリス「……」鉛筆を持って身構えたまま、ダイヤルを小さく左右に回して近くの波長で送信していないか探す……
ベアトリス「……あと十五分」
…通信機の前に座って必要以上に長居をしているとそれだけ危険性が高まる……制限時間が迫りベアトリスがそろそろ撤収を考え始めた矢先、ヘッドフォンにモールス電文の断続音が響き始めた…
ベアトリス「……っ!」
…王国側の暗号帳はプリンセスの協力もあってすでに手に入れている……もちろん用心の上にも用心を重ねるノルマンディ公のことゆえ、定期的に暗号は変更されるが、少なくとも今回はまだ同じ暗号が使われている……ベアトリスは頭に叩き込んである解読表を使って通信を書き留めていく…
ベアトリス「……共和国……情報部……いえ、情報部員……植え込みあり……氏名……ジョン……カウリー……」
ベアトリス「……チェックポイント・ベーカー(B)より……明後日……」
…暗号文を解読しながらも、敵に自分の偽装が筒抜けであることを知らずにいる情報部員の身の上を思い悲痛な気持ちになるベアトリス……が、それでも暗号文を正しく書き留め、同時に振れている針が示す目盛りを確かめて通信の強度を確認する…
ベアトリス「……ウォルシンガム卿に……よろしく……ピリオド……通信終わり」敵の情報部員はいつもの締めくくりで通信を終えた……
ベアトリス「……」
ベアトリス「とにかく通信は聞き取れたわけですし、あとは戻ってドロシーさんたちと強度の比較をして発信の位置を絞り込むだけですね」
…何かの手違いで通信機が発見されても王国の暗号通信を傍受していたことが分からないよう、波長のダイヤルをごく一般的な商用暗号の周波数に合わせてから電源をおとした…
ベアトリス「なんだかどっと疲れちゃいました……帰りにお茶でも飲んでいきましょうか」そう一人ごちると暗号文を書き留めたメモをくしゃくしゃっと丸めて書き損じのメモやノートの紙に混ぜ、柳のバスケットに押し込んだ……
…その夜…
ドロシー「よう、忙しいところ集まってもらって悪いな」
プリンセス「いいえ、久しぶりの「定例会」ですもの♪ 楽しみにしておりましたわ」
ちせ「うむ。こうして菓子も出るしの」甘い紅茶とジャム付きのクッキーにご機嫌なちせ……
プリンセス「でも食べたらちゃんと歯を磨かないとだめですよ?」
ちせ「分かっておる」
アンジェ「さあ、おしゃべりはその辺にしてちょうだい……プリンセス、ちせ、それぞれ報告を」
プリンセス「ええ♪」
ちせ「うむ」それぞれメイフェア校や行動先で発見したことや入手した情報、協力者として有望そうな人物、反対に王国防諜部や内務卿の息がかかっていそうな人間について報告・共有する……
アンジェ「分かったわ、ありがとう……それじゃあ二人は上がってくれていいわ」
プリンセス「あら、もういいの?」
アンジェ「ええ」
プリンセス「分かったわ……それじゃあまた後でね、アンジェ♪」
781 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/09/20(日) 01:31:46.55 ID:c0ffCBGY0
ドロシー「……さてと、それじゃあ傍受の結果について聞こうじゃないか。アンジェ」
アンジェ「私のポイントからは振れ幅があったけれどおおよそ感度3、途中で空電が入ったけれど無事に聞き取ることができたわ」
ドロシー「なるほどな……それじゃあベアトリス」
ベアトリス「はい。私の傍受したポイントでは感度4。空電の影響はほぼありませんでしたが、鉄道の高架が影響していたのか近い周波数の通信が混信することが少しありました」
ドロシー「分かった。で、私の方では感度3。と言っても2に近い方で、空電も混じれば商用通信も割り込んでくるような状態だったな……それでだ」
…卓上にロンドンの地図を広げると裁縫用の待ち針と木綿糸が巻かれている糸巻きを取り出した……それぞれが通信を傍受したポイントに待ち針を刺していく…
ドロシー「アンジェのポイントはここ、それからベアトリス……私はここ……」
アンジェ「王国の通信施設はここ、ここ、それからここ……」待ち針の頭にはそれぞれ色がついていて、色分けされたことで地図上の勢力が明確になる……
ドロシー「さてと……ベアトリス、糸の端っこをその待ち針に結んでくれ」
ベアトリス「あ、はい」
ドロシー「ありがとな……さて、それをこう結ぶと……どうだ」ドロシーたちが傍受したポイントを糸で結ぶと三角形ができた……
アンジェ「それじゃあ次はこうかしら」三角形のうち、一番感度が弱かった点を外して糸を動かし新しい三角形を作る……
ドロシー「そうだな、西はない」
ベアトリス「感度が低い側を外していくんですね?」
ドロシー「そうだ。三角形を前転させていくようにして、より強度のある方に動かして絞り込んでいく」
アンジェ「それと特定の地域は除外できる」
ベアトリス「特定の地域?」
アンジェ「ええ。例えば王室の敷地や王国陸軍の施設……コントロールに入り込んでいる王国のエージェントなら王国との繋がりを疑わせるような場所には絶対近づかない」
ドロシー「そういうことだ」
ベアトリス「なるほど」
アンジェ「これを続けて差し渡し一マイル圏内に絞り込んでいき、後はその街区からあり得そうな施設を徹底的に洗う」
ドロシー「とはいえ、こいつは口でいうほど簡単じゃないんだよな……通信機そのものは目立つ方だが、ロンドンは広い。私たち三人じゃあ調べるにしても限りがある」
アンジェ「泣き言は言っていられないわ、正体をつかまれたら私たちだけじゃなくプリンセスも危うくなる」
ベアトリス「そうですね……」
ドロシー「まぁな……ごほっ、けほっ……」
アンジェ「ドロシー?」
ドロシー「あぁ、なんでもない」
アンジェ「……」けげんな顔をして額を寄せた……
ドロシー「おいおい、キスをするつもりならもっと雰囲気を作ってからに……」
アンジェ「馬鹿を言っている場合? ……ドロシー、貴女熱があるわよ」
ドロシー「なぁに、このくらいは平気さ……ごほ、ごほっ……!」
アンジェ「まったく、馬鹿は風邪をひかないはずなのにね……ベアトリス、看病を手伝ってちょうだい。それと終わったらよく手を洗うこと。プリンセスに移しでもしたら大変だわ」
ベアトリス「はいっ。ドロシーさん、すぐ暖かい飲みものをお持ちしますからね」
ドロシー「私はプリンセスじゃないんだから、そんなに気を遣うなって」口ではいつものように軽口を叩きながらも、少し億劫な様子のドロシー……アンジェが持ってきた毛布を大人しく受け取るとソファーに寝っ転がった……
アンジェ「いいから看病してもらいなさい。とっとと治してもらわないと任務に影響が出るわ」
ドロシー「風邪っ引きでも休めないんだからスパイ稼業ってのも楽じゃないよな……ウイスキーくれ」
アンジェ「トディ(ウイスキーをお湯で割り、果汁や砂糖、スパイスを加えたホット・カクテル)にでもしましょうか?」
ドロシー「よせよ、冷血の黒蜥蜴星人がかいがいしく世話をするなんてかえって気味が悪いぜ? ストレートでいい」
アンジェ「相変わらず減らず口ばっかりね……ほどほどにしておきなさい」
ドロシー「ああ……うへ、このウイスキーは化学薬品みたいな味がするな……って、いつものやつか?」アンジェの取った瓶を眺めたが、普段は気に入って飲んでいる銘柄であることを確かめると肩をすくめた……
アンジェ「どうやら味覚もダメになっているようね。こっちもできるだけカバーするから今日はよく休んでちょうだい」
ドロシー「そうするよ。味覚までイかれているようじゃな」
782 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/10/04(日) 02:58:43.75 ID:nlFmxs8d0
…十数分後…
ベアトリス「ドロシーさん、お待たせしました」
ドロシー「なぁに、待つっていうほどじゃないさ……何を持ってきてくれたんだ?」期待を込めてむっくりとソファーから起き上がると、ベアトリスの持っているお盆をのぞきこんだ……
ベアトリス「風邪と言えばこれに限ります、ビーフティです♪」
(※ビーフティ…「ティ」と言ってもお茶ではない。牛肉と野菜を火に通してから水を加えて煮込んだ薄いスープで、具材は取り除き汁の部分だけを供する。イギリスにおける病人食の定番。スープ皿ではなくマグカップなどを使う)
ドロシー「やれやれ、風邪っ引きだからって食い気がないわけじゃないんだぜ? 魚じゃあるまいし水気だけじゃあな」
ベアトリス「そういうと思って食べ物も持ってきましたよ」
ドロシー「そう来なくちゃな……ヨークシャープディングでも持ってきてくれたのか?」
ベアトリス「もう、風邪なのにそんなもたれるものを食べていいはずがないじゃありませんか……トーストサンドウィッチですよ」
(※トーストサンドウィッチ…19世紀のイギリス的病人食の代表で「胃腸を休めるための淡白な料理がよい」ことから考案された。薄くバターを塗り塩コショウをしたパンで薄手のトーストを挟んだもので、「人生の悲哀を味わう料理」や「史上もっとも安上がりな料理」とも)
ドロシー「参ったな……」手際よく皿とカップを並べるベアトリスと、ため息をついてげんなりした様子のドロシー……
ベアトリス「きちんと治せばそれだけ早く好きなものが食べられますよ」
ドロシー「おっしゃるとおりで……はぁ……」味気ないトーストサンドウィッチと薄いビーフティを渋々口にする……
ベアトリス「それと、寮監の先生には伝えておきますか?」
ドロシー「いいや。ガミガミ言われるのも億劫だし、それ以前に保健室のベッドなんかに閉じ込められたら任務に差し支える」
ベアトリス「そうだろうと思って言わないでおきました」
ドロシー「それでいい……ついでにこのトーストサンドウィッチにコーンビーフでも挟んでおいてくれたら満点だったんだがな」
ベアトリス「それはダメです」
ドロシー「厳しいねぇ……とりあえずごちそうさん」
ベアトリス「それじゃあこのまま部室で……?」
ドロシー「ああ。寮監の見回りの時だけは部屋に戻るけどな」
ベアトリス「分かりました、それじゃあ寝具もいくつか用意しておきます」
…メイフェア校内での長丁場に備えて部室にも仮眠できる程度の備えはあるが、さすがに厚手の布団などは用意がない……食べ終わった食器を盆にまとめると、寝具を持って来るべくいそいそと出て行った…
ドロシー「ま、とりあえず腹は暖まったな……」文句を言いながらもビーフティのおかげで少し寒気が収まった気がした……
ドロシー「すぅ……すぅ……」
…翌朝…
ちせ「ドロシー、よいか?」
ドロシー「んぁ……あぁ、ちせか」
ちせ「なんでも風邪をひいたそうじゃな……大事ないか?」
ドロシー「なぁに、ベアトリスが大げさなだけでそう深刻なことじゃないさ……それよりそいつは?」ちせが運んできた土鍋を指さした……
ちせ「いや、風邪だと聞いたものじゃからな……風邪と言えばこれに限る」
…ふきんを鍋つかみの代わりにしてふたを開けると、中央に紅一点を置いた真っ白な粥がふわりと湯気を立てた…
ドロシー「見た目はオートミールのポリッジ(粥)みたいだが……それと真ん中のやつは例の酸っぱいプラムの漬物(梅干し)だろう」
ちせ「まあ似たようなものじゃな。ともあれ粥と梅干しほど病人に良いものはないのじゃ」ちせは自分のとは別に持ち込んであった志野(しの)焼の茶碗に白粥をよそって差し出した……
ドロシー「この調子だと治るまで固形物とは縁が切れそうだな……ま、いただくよ」
…アルビオンの基準からするといささか熱すぎる粥をふーふーしたりさじでかき回したりしながら冷まし、口を火傷しないよう慎重にふくんだ…
ちせ「どうじゃ?」
ドロシー「なるほど、こいつは塩味なのか……甘くないのは正統派らしくていいな」
…オートミールの粥と言えば甘いミルク味が多いが、アイルランドなどでは「正しい」味付けは塩味と決まっている……下半身を布団でくるんだまま、ときおり梅干しの酸っぱさに顔をしかめながら粥を口に運ぶ…
ちせ「気に入ったようで何よりじゃ」
ドロシー「ああ、この酸っぱいやつを別にすればな……それと今度はゆで卵でも付けてくれ」
ちせ「ふむ、ならば次は卵粥にでもしようかの」
ドロシー「そいつはいいな、うまいものが出ると思えば風邪を治すにも張り合いが出るってもんだ」
783 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/10/19(月) 01:55:06.09 ID:lQwHqx0Q0
ドロシー「……さてと、それじゃあ支度をするか……ごほごほ……っ!」
アンジェ「行ける?」
ドロシー「ああ。任務に穴を開けるわけにはいかないしな……ちゃんと暖かくしていくさ」少し時季外れだが寒がりなら怪しくはない程度に着込んで、暖かなキャメル(ラクダ色)のショールを肩にかけた…
ベアトリス「無理をしちゃだめですよ?」
ドロシー「そうは言っても仕方ないさ、このままこのもぐらを放っておいた日にはこっちの首まで危なくなるんだからな」
アンジェ「それはそうね……今日は前回の結果をふまえて東側と北側に重点をおいて通信を傍受する」
ベアトリス「はい」
ドロシー「こっち側はホワイトホール(官公庁街)も近いし飛び交う無電も多いだろうが、うまくやっていこう」
アンジェ「そうね」
ベアトリス「それにしても、もし今回のもぐらが同僚……と言っていいかはわかりませんが『コントロール』の職員だったら後味が悪いですね」
ドロシー「それはどうかな……っくし!……今回のやつが金目当てで情報を売っている下っ端の事務屋だってことも考えられるが、こっちもそれくらいの用心はしているし……ごほ、げほっ……それを前提にコントロールはできるだけ職務を細分化して内情を広く知られないようにしている。今回のやつはそういうクチとはネタ(情報)もスパイとしての腕前もレベルが違う」
ベアトリス「そういうものですか……それより、本当に大丈夫ですか?」
ドロシー「大丈夫だって。それにそこまで心配してくれるんなら、あんな味気ない料理じゃなくてもっと元気の出るようなものを食わせてくれ」
ベアトリス「それはだめです、風邪の時に胃腸を使いすぎるのは身体に悪いんですから」
ドロシー「これだよ……まぁいい、そろそろ出よう」
アンジェ「そうね」
…二時間後・ロンドン市内…
ドロシー「へっくし……!」
ドロシー「うぅ、ちくしょうめ……」ハンカチを取り出すと鼻をかみ、寒気のせいかぶるっと一つ身震いをした……
ドロシー「……くそ、足下までふらつきやがる」
…傍受を終えて街を行くドロシーはひざ丈の革長靴と地味な茶系のドレス、ずり落ちないようレンズの端と襟元を細い鎖でつないだ鼻眼鏡というタイピストのような服装の下に、できるだけ暖かくしようとウールの下着と靴下を着込んでいる……熱のせいか顔は火照るが背筋には嫌な寒気がし、肘や膝、太ももにはだるいような感覚がある…
ドロシー「それでも腹は減るんだから、われながら頑丈なもんだな……」
ドロシー「せっかくだし腹に入れていくか……ベアトリスの言いつけを守っていた日には風邪より先に腹ペコで参っちまう」
…テムズ川沿いのごちゃごちゃした活気のある通りには、橋を通る人や川を行く内航貨物船やはしけの船員を当て込んだ小さい飯屋や屋台、行商人がたむろして飲食物などを売っている……ドロシーは夫婦が商いをしている一軒のパブに入るとシリング硬貨を置いた…
ドロシー「ミートパイ・アンド・マッシュをひとつ……へっくし!」
店のおやじ「へい、ただいま!」
店のおかみ「ちょいと、大丈夫かね?」
ドロシー「平気だよ……事務所は休ませちゃくれないしね」
おかみ「そいつは同情するけどさ、こっちは日銭商売なんだからうつさないでちょうだいよ? はい、お釣り」
ドロシー「どうも」
…固くすじだらけだがおそらくはビーフと思われる肉のパイとマッシュドポテト、それに追加の味付けのためテーブルには必ず置かれているビネガー(酢)と定食料理とセットでついてくる一パイントの薄いビール……熱っぽいが不思議と食欲は旺盛で、味がいまひとつなのは酢をかけてごまかしながら食べ進める…
ドロシー「ふぅ……ごちそうさん」
………
…その晩…
ドロシー「さてと……今日の成果だが」
アンジェ「ええ、私がいたポイントからは感度がよかった」
ベアトリス「私の方もそれなりに聞こえました」
ドロシー「私の方もだ……だが感度から見るにアンジェの方、北側が一番近いようだな……へっくしょん!」
アンジェ「せめて鼻を覆ったらどう?」
ドロシー「すまん……ともかくだ、ある程度の絞り込みはできた。あとは……ごほげほっ……あり得そうな建物を監視するだけだ」喉の痛みに顔をしかめながらブランデー入りの紅茶をすすった……
ベアトリス「分かりました。それじゃあお布団を用意しますから、ドロシーさんは早く休んでください」
ドロシー「ああ、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
784 :
◆b0M46H9tf98h
[sage saga]:2026/10/29(木) 01:31:10.74 ID:w/7n+dTA0
…二日後…
アンジェ「それで、具合は?」
ドロシー「微熱は収まったよ……今じゃあ結構な熱さ」
アンジェ「まったく、そんな軽口を叩く暇があるなら早く治しなさい。うつるといけないからプリンセスとベアトリス、それとちせには数日ほど部室に来ないよう伝えておいたわ……まったく、おかげでベアトリスにプリンセスを独り占めされていい迷惑だわ……」
ドロシー「えほっ、ごほっ! ……すまん、聞き損ねた。何か言ったか?」
アンジェ「いいえ。それでなくても手が足りないのに迷惑だって話よ……食欲は?」
ドロシー「それがあるから困るんだ。今なら一ポンドもあるステーキだって平らげられそうだ」
アンジェ「結構なことね……ベアトリスは節制しろなんて言っていたけれど、栄養は取った方がいいわ。ゆで卵を多めに作っておいたからあとで食べるといいわ」
ドロシー「卵ってのは分かりやすく栄養があるからな。助かる」
アンジェ「ここで戦力が減ると活動に悪影響が出るからよ……それはそうと、今日も監視対象に目星をつけるため歩き回ることになる。くれぐれも途中でひっくり返ったりしないでちょうだい」
ドロシー「なんとも慈悲深いお言葉で……まったく感激だ」
アンジェ「茶化すのはよして。ともかく三角推測法で推定したのは市街のこの辺り……あとは候補となる建物を監視、いずれやってくるであろう中継役や管理官と思われる人物を突き止める」
ドロシー「仕出し屋から商店の御用聞き、通いのメイドや何かまですべて調べなきゃならないとなったら大変だが、こちとらだってトーシロじゃあない。ある程度同業者かどうかのあたりは……へっくし!……つけられるはずだからな」
アンジェ「そういうことね」
ドロシー「それじゃあ行くか」
アンジェ「ええ」
…ロンドン市内・ティールーム…
アンジェ「……」
ドロシー「……いま角を曲がって来たやつ……シルクハット、片眼鏡、銀の鷲飾りがついた黒檀のステッキ」
アンジェ「いいえ……それより建物に入ろうとしている茶色の山高帽、白い口髭の男」
ドロシー「いや、あいつは住人だ……近所のパブで飲んでいるのを見た」
アンジェ「車から降りたクリーム色のドレスに薄緑のショール、日傘の女」
ドロシー「いま日傘をたたんだ金髪の女か……いや、動きがバタバタしていてそうは見えない」
…ティールームでお茶のセットを前に監視を続ける二人……味わい深いダージリンのポットに、しっとりしたきゅうりのサンドウィッチ、さくっと焼けているスコーンに塗る甘酸っぱいイチゴジャムとクリーミーなクロテッドクリーム、小ぶりで上品なケーキたち……えらそうなご婦人方ほどではないが、かといってティールームに不相応というほどでもない程度にきちんとした格好で、ただ穏やかに過ごしているような印象を与える…
アンジェ「あの御用聞きは?」
ドロシー「うーん、それらしい気もするが……いや、違うな」
アンジェ「あまり長居をしていると人目をひく。そろそろ出ましょう」
ドロシー「ああ……次はあの緑地のベンチで」
アンジェ「ええ」
…数時間後…
アンジェ「ドロシー、定時連絡もあるし私は先に引き上げるわ」
ドロシー「あいよ……結局「当たり」はなしか」
アンジェ「そんなものよ。この世界は地道な活動が基本よ。それじゃあ後で」
ドロシー「ああ」
アンジェ「……そういえば向こうの通りに薬局があったわ。帰りに咳止めシロップと鼻の薬でも買ってきたら?」
ドロシー「そうだな、そうするよ」
アンジェ「ええ、それじゃあ」
ドロシー「……咳止めシロップね。今は確かに必要かもな」
ドロシー「ふぇっ……くし!」
………
…
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