【ガルパン】みほ「肉欲に溺れた悪魔」

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1 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:44:58.78 ID:Wm7clheOO

※みほ杏注意

※微エログロ注意

※鬱展開注意
2 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:46:47.87 ID:Wm7clheOO

わたしはボコが大好き。

だって、ボコはやられてもやられても

どんなにボロボロになっても立ち上がるから。

それが、ボコだから。

わたしは、ボコにはなれなかったけれど。



わたしはボコが大好き。

やられても、やられても、立ち上がる。

わたしにはそれができない。

できないのなら、いっそ・・・。
3 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:48:18.95 ID:Wm7clheOO

けたたましい目覚ましの音が鳴り、わたしは急いで飛び起きました。

まだちょっと肌寒い季節だけど、布団をきれいに畳んで、服を着替えようとして。

そこまでして、ある事に気が付きました。


「そっか・・・」

わたしはその事実を噛み締め、思わず満面の笑みを浮かべてしまいます。

「もう、家じゃないんだ!」


わたしはもうこんなことをする必要もなかったんだ。

だって、戦車道のない、大洗女子学園へ転校してきたんだから!
4 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:48:55.24 ID:Wm7clheOO

鼻歌を歌いながら、わたしは制服に着替えました。

まだ糊のついた、新しい制服。

これにつつまれているだけで、なんだか新しい人生が始まったような気がするなあ。

登校しながら街にあるお店でも見てみようかな。

そんなことを考えながら、わたしは新居を後にしました。


・・・鍵、かけたっけ?
5 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:50:07.57 ID:Wm7clheOO

学校のチャイムが、お昼休みの到来をみんなに知らせました。

みんな、ワイワイと話をしながら各自食事をとりに教室を出ていきます。


・・・わたしを除いて。


朝は、はしゃいでて忘れてたけど、わたしって引っ込み思案なんだった。

お友達、これから作れるのかな・・・。

そんなことを考えていると、机からシャープペンが落ちてしまって。

それを拾おうとすると、つぎは消しゴムと物差しが。

そしてそれを拾おうとすると、今度は全てが机の下に落ちてしまいました。

なんだか、幸先悪いなあ・・・。

そんな風に思っていたわたしでしたが、

直後、それが杞憂だと思い知りました。
6 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:50:56.40 ID:Wm7clheOO

「ヘイ彼女! 一緒にお昼どう?」

後ろからそう声をかけられて振り向くと、そこには女の子が二人立っていました。

片方の子は少しギャルっぽいかな? 確か、武部さん。

もう片方の子は・・・。とっても美人で、おしとやかそうな人。五十鈴さん。

「ほら、沙織さん? 西住さん、驚いていらっしゃるじゃないですか」

「あ、いきなりごめんね?」

「あの、改めまして。よろしかったらお昼、一緒にどうですか?」

そこまで言われて、ようやく自分が誘われていることに気付きました。

「わ、わたしと、ですか?」

そう問いかけると、二人はにっこり笑って頷きました。



・・・考えてみれば、こんな風に話しかけてもらったのって、いつぶりだろう。

黒森峰の時は・・・。

・・・。

ううん、過ぎたことは過ぎたこと。

大事なのは、大洗でのこれからの生活だよね。


わたしの学校生活、うまくいくかもしれません!
7 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:52:02.05 ID:Wm7clheOO

お昼が終わって、わたしたちは教室に戻ってきました。

武部沙織さんと、五十鈴華さん。

二人が友達になってくれて、なんだか胸がいっぱいになっていました。

友達と食べるご飯はいつもの何倍もおいしくて、お腹もいっぱいでした。

午後の授業、眠くならないといいけど・・・。

わたしは、呑気にそんなことを考えていました。


そこに。

そんな朗らかな気分を吹き飛ばすような出来事が起こったのです。

思えば、その出来事さえなければ。

彼女たちとの出会いがもう少し違ったものであったならば。

結末も、少しは変わっていたのかもしれません。
8 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:52:56.18 ID:Wm7clheOO

三人の生徒が入ってきて、教室はにわかにざわつきました。


変な片眼鏡をかけた人。

なんだかほわほわした感じの人。

それから、小さいけど・・・。なんだか、とっても偉そうで、どことなく怖いオーラの人。


彼女らは教室を見渡していましたが、片眼鏡の人がわたしを指さすと、小さな人はこちらに向かって手をあげて

「やあ、西住ちゃん」

と、わたしを呼びながら近寄ってきました。


あたかも、旧知の間柄であったかのように、馴れ馴れしく。
9 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:53:31.92 ID:Wm7clheOO

・・・一体、誰だろう?

そう疑問を浮かべていると、武部さんが説明してくれました。

「生徒会長と副会長、それから広報の人」


どうして生徒会の人たちがわたしのところに来たんだろう。

にわかに湧いてきた不安と恐怖。

「あ、あの・・・」

わたしは、怯えながらそう声を出すので精一杯でした。


そんなわたしの態度にも一切構わず、広報の人は変な片眼鏡を光らせながら

「少々話がある」

と言って、わたしを廊下に連れ出しました。
10 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:54:20.59 ID:Wm7clheOO

「えっと・・・。話って、一体・・・」

嫌な予感がする。

わたしは、声を震わせながらも三人に対して問いかけました。

すると、生徒会長は、不敵な笑みを浮かべました。


後になって思えば、その顔こそが悪魔的な意味を持っていたのかもしれません。


「必修選択科目なんだけどさあ」

「戦車道取ってね」


生徒会長の口から紡がれたその言葉は、まさしくわたしにとっての死刑宣告であるかのように感じられました。
11 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:56:01.73 ID:Wm7clheOO

「え・・・。この学校には、戦車道の授業はないんじゃ」

手が、震えてきます。

「今年から復活することになった」

胃から何かが逆流しそうになってくるのを、無理やり飲み込みました。

「あの、わたし、この学校には戦車道はないと思って」

「わざわざここに転校してきたんですけど・・・」

眩暈と耳鳴りがさっきから止まりません。

「いやあ、運命だねえ」

生徒会長の腕に力が入り、肩を組まれていたわたしは引っ張られてしまいました。

思わずよろけるわたしを、生徒会長が支えました。

まるで、何かを暗喩するかのように、周囲からうかがえないよう、こっそりと。

しかし。

わたしにとって、そうした行動は不快なものにしか感じられませんでした。


なぜなら、この人が引っ張らなければ。

わたしはよろけることもなく済んだのだから。
12 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:57:46.66 ID:Wm7clheOO

「それに、必修選択科目って自由に選べるんじゃ・・・」

わたしの最後のささやかな抵抗もむなしく。

「とーにかくよろしくぅ」

わたしの背中を、思いっきり叩いて。

生徒会の人たちは去っていきました。


彼女らがみえなくなるまで、わたしは茫然と立ち尽くしていました。

立ち尽くしながら、わたしは、自分の視野が少しずつ失われていくのを感じていました。

そして。

彼女たちが完全に見えなくなったところで、我慢の限界を迎えました。


「う・・・、ぐ・・・!」


「み、みほ!! 大丈夫!?」

武部さんが駆け寄ってきてくれたのを、なんとなく覚えています。


「げ、げええええ・・・!!」


「西住さん!」


眩暈と耳鳴りと、全身の震え。

それらが頂点に達して。

わたしは、さっき食べたお昼を、すべて床に戻してしまいました。


ああ・・・、せっかく美味しいお昼ごはんだったのにな。
13 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 20:59:10.29 ID:Wm7clheOO

気が付くと、わたしは保健室に寝かされていました。

しばらくすると、武部さんと五十鈴さんがやってきてくれて、わたしに何があったのかを尋ねてきました。

わたしは二人に、事の顛末を話すことにしました。

戦車道を履修するように言われたこと。

わたしが西住流家元の次女であること。

戦車道から逃げ出してきたこと。

話をするたびに全身から汗が出て、再び胃の中のものを戻しそうになりましたが、幸い嘔吐することはありませんでした。


もう既に、戻せるものはすべて、廊下に戻し切っていましたから。



武部さんと五十鈴さんは、わたしの話に理解を示してくれました。

わたしは、そうした二人の反応が、本当に心地よく感じました。

やっぱり、この人たちはわたしを大事に思ってくれている。

そう心から思いました。


・・・この後すぐに、その思いも裏切られるのに。
14 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:00:36.53 ID:Wm7clheOO

それからのことは、あまり覚えていません。

というか、思い出したくありません。

体育館で反吐の出るような映像を見せられて。

友人二人はすっかり洗脳されてしまいました。

そして、あろうことか、わたしに戦車道を履修することを勧めてきたのです。

先ほど、戦車道の履修を拒絶するあまり、文字通り反吐が出た友人がいたという事実は、二人の中から消えてしまったようでした。




その晩、わたしは履修登録用紙を前に、暗澹たる心持で座っていました。

夕飯は当然、喉を通りませんでした。

そればかりか、無理して飲んだ水すらもすぐに吐いてしまいました。

トイレには何度駆け込んだことかわかりません。

戦車道。

その言葉は、ひときわ大きな文字で書かれており、履修用紙の上半分を占拠していました。

わたしの脳裏に、繰り返し、あの映像が流れました。


赤星さんたちの車両を助けに行って。

それで。

あろうことか、プラウダごときに。
15 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:01:25.12 ID:Wm7clheOO

その後のOGたちの反応も。

西住の、親戚たちの反応も。

お母さんの反応も。

お姉ちゃんの、逸見さんの、他の隊員たちの反応も。

思い出したくもないのに、鮮明に流れてきます。


全身の汗腺が開き、冷や汗が噴き出てきました。

さっきから、この繰り返しなのです。

シャワーを浴びたわけでもないのに、わたしの体はひどく濡れていました。

全て、わたしの汗でした。


・・・もう、考えたくないよ。


地獄のような思考から逃げるため、わたしはたいして興味もない香道に丸をつけ、シャワーで汗を流して布団に入りました。

・・・結局、一睡もできなかったけど。
16 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:03:12.13 ID:Wm7clheOO

次の日、沙織さんと華さんは、香道を選んだわたしを一切責めませんでした。

そればかりか、わたしと同じことがしたいという理由で、香道に選びなおしてくれました。


昨日知り合ったばかりのわたしのために、ここまでしてくれるなんて。

大切な友達。

改めて、わたしは二人のことをそう思いました。

同時に、昨日二人が戦車道を履修したいと言った時、二人を恨んだことを恥じました。

やっぱり、この二人は友達なんだ。

そう思うと、なんだか胸がすっとして。

お昼休みに入るころには、憂鬱な気分はなくなっていました。



ああ、わたしはなんて愚かだったのでしょうか。

あの人たちが、それをよしとする筈なんてなかったのに。
17 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:04:26.08 ID:Wm7clheOO


『普通T科 2年A組西住みほ 普通T科 2年A組西住みほ 至急生徒会室へ来ること』


悪夢のような呼び出しがあったのは、その日の昼休みの事でした。


「ど、どうしよう・・・」

呼び出しの内容は、考えるまでもありませんでした。

こうなると、あの人たちはきっと地獄の果てまででも追ってくるに違いない。

そうなったら、一体わたしはどうなってしまうんだろう。

そう思うと、全身ががたがたと震えだしました。

沙織さんと華さんは、わたしについてきてくれると言います。

わたしは二人に連れられて、生徒会室へと向かいました。



「これはどういうことだ」

生徒会室につくなり、広報の片眼鏡の人に詰め寄られました。

「なんで選択しないかなあ・・・」

生徒会長は、そう言ってうんざりとした表情を浮かべています。

やっぱり、この件での呼び出しだったんだ。

分かってはいたものの、改めてそれを認識すると、なんだか耳鳴りがして、

世界が徐々に遠くなっていくような感覚になりました。
18 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:05:33.78 ID:Wm7clheOO

沙織さんや華さん、生徒会の人たちが何やら言い争っているみたいです。

だけど、わたしの耳にはそれは全く入ってきませんでした。

わたしの周囲がぐらぐらと揺れ始めたように感じました。

思えば、単にわたしがぐらぐらと倒れそうになっていただけなのかもしれません。


「みほ!? 大丈夫!?」

沙織さんが心配そうにこちらをのぞき込んできました。

そんな沙織さんの姿を見て、わたしは。



「あ、あの。わたし・・・」

蚊の鳴くような声でした。


「戦車道だけは・・・」


「・・・やりません」


戦車道。

二度と声にも出したくなかった、その言葉。

わたしは弱弱しい声で、しかしきっぱりと、それを拒絶しました。
19 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:06:36.23 ID:Wm7clheOO

その後、案の定倒れてしまったわたしを、沙織さんと華さんは保健室に送ってくれました。

もっとも、朦朧としていたから、その辺りのことはあまり覚えてないんだけど。

気が付いた時には保健室でまた寝ていましたから、きっとそういうことなんだと思います。

何回もそんなことをしてもらったことに対して、かなりの罪悪感が湧き上がってきました。

だけど、これで戦車道をやらずに済む。

沙織さん、華さんにも、これ以上迷惑をかけなくて済む。

そう思うと、胸がすく思いでした。


明日からは、普通の女子高生として生活を送るんだ。

ちょっと遠回りになっちゃったけど、楽しみだなあ。

そんなことを思いながら、保健室を後にして、家路につきました。

なんだかうきうきして、足取りも軽かったです。


・・・次の日発表された必修選択科目の履修者名簿を見るまでは。
20 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:07:26.43 ID:Wm7clheOO

「え・・・? なんで・・・?」

沙織さんと華さんと、わたし。

三人の名前は、香道履修者の欄には無く。

戦車道履修者の筆頭に書かれていました。


生徒会長たちが希望用紙を書き換えたんだ。


そのことに気付くのに、それほど時間はかかりませんでした。
21 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:09:53.71 ID:Wm7clheOO

自分の状況に大いに絶望したわたしとは違い、沙織さんらの反応は目に見えて軽いものでした。

もともと戦車道をやりたがっていた二人ですから、形式的に生徒会を責める言葉は口にしたものの、それ以上のことは何も言いませんでした。

そんな二人を見て、わたしの中で、何かが吹っ切れました。



その後、戦車道の授業が始まって。

生徒会の人たちから戦車を探すように言われて。

戦車好きな、秋山優花里さんと出会って。

38(t)を発見して。

なぜだかもとからあったW号に搭乗することが決まって。

とんとん拍子に戦車道の授業が進んでいくのが、なんとなく他人事のように思えました。

思えば、無意識のうちにわたしはわたしの心を守ろうとしていたのかもしれません。


だって、もしそんな出来事が、現実に、わたしの身に起こっていることだと知ってしまったら。

きっと、わたしの心は粉々に壊れてしまうから。
22 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:10:46.73 ID:Wm7clheOO

次の日、戦車を洗いました。

例によって、あまり自分に関係のあることのようには思いませんでした。

どうやら明日は教官が来るみたいです。

多分、蝶野教官が来るんでしょう。

あの人は、戦車道を新しく始める学校とか、そういうのが大好きだから。


蝶野教官は、わたしが西住の人間だってことは当然知っているはずでした。

だって、何度も家で顔を合わせてきたんだから。

それから、今までのことも、すべて。


昔のわたしのことを知っている人が来ることを思うと、すごく憂鬱な気分になってしまいました。

ボコを抱きしめて丸くなっていると、いつの間にか時計の針が5時を指していたのを覚えています。」


・・・当然、次の日は寝坊しました。
23 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:12:01.62 ID:Wm7clheOO

ギリギリ間に合いそうなタイミングだったんです。

だけど、間に合いませんでした。

登校中に出会った、ふらふらしている生徒を肩で支えながら登校したから。


見捨てる選択肢もありました。

だけど、こんな風にふらふらしているその子が、数日前のわたしのように思えて。

あまりいい思い出じゃないけど、あの時、沙織さんと華さんはわたしを支えてくれたから。

わたしも、誰かを支えてみたくなったのかもしれません。


「・・・この借りはいつか必ず返す」

そう言い残して、その生徒は校舎の中へと消えていきました。


まさか、その借りをあんなに早く返してくれるとは、その時は夢にも思いませんでしたけど。
24 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:13:21.04 ID:Wm7clheOO

「こんにちは!」

学園長のフェラーリを10式で踏みつぶし、蝶野教官がやってきました。


・・・やっぱり、この人が来たんだ。

分かってはいたことだけど、目を合わせたくなくて、思わず下を向いてしまいました。


だけど、蝶野教官はわたしの顔を見るなり

「西住師範のお嬢さまじゃありません?」

と、近寄ってきました。
25 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:14:19.76 ID:Wm7clheOO


西住師範のお嬢さま。


わたしが、一番捨てたい肩書き。


この人は、去年、黒森峰でどんなことがあったのか知っているはずなのに。

どうしてそんなことが言えるんだろう。

どうして、わたしに対して・・・。

・・・。


ぐっと、涙がこみ上げてきました。

もう間もなく、涙がこぼれてしまう。


そう思った時、それを知ってか知らずか沙織さんが手を挙げて。

「教官! 教官はやっぱり、モテるんでしょうか!」

無理やり話をそらしてくれました。


沙織さん・・・。

ありがとう、また守ってくれて。


戦車道のクラスが始まって以来、初めて温かい気持ちになりました。
26 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:15:44.27 ID:Wm7clheOO

「教官! 本日はどのような練習をやるのでしょうか?」

秋山さんが無邪気に質問しました。

これほど無邪気なら、楽しいだろうなあ。

「そうね、実戦形式の模擬戦、やってみましょうか!」


模擬戦。

正直、こんな素人集団にできるようなことには思えませんでした。


だけど。

ここで戦いの怖さを思い知れば、みんな戦車道なんてやめるかもしれない。


わたしの中に、そんな思いが渦巻きました。
27 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:16:38.17 ID:Wm7clheOO


「あの!」


役割をクジで決めようとしていたAチームのみんなに、わたしは声を掛けました。

「どうしました? 西住殿」

秋山さんがそう問いかけてきた後、わたしは呼吸を整えて、言いました。


「わたし、車長やってもいいかな」

それしか、勝つ方法はありませんから。


「本当ですか!? 西住殿がコマンダーの車両に乗り込めるなんて、感激ですぅ!!」

「みぽりん? 別にいいけど、その・・・。大丈夫なの?」

沙織さんが、心配そうな顔をしてこちらを見つめました。

「うん。平気」

沙織さんの心遣いに、少し心が痛みました。


わたしは、これから他の戦車道履修者の心を折ろうとしているだけなのに。

そんなわたしのことなんて、心配しなくていいのに。
28 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:18:26.77 ID:Wm7clheOO

「西住さんが指揮をしてくださるなんて、心強いです」

「ありがとう、華さん。それから・・・、みんなの役割も、今日はわたしが決めていいかな?」

「もちろんです、西住殿!」


勝つための役割。

どうすればいいのか少し考えて、すぐに決まりました。


「では、華さんが操縦手、沙織さんが通信手、秋山さんが装填手でお願いします」

「それだと、砲手がいませんが・・・」

「わたしが兼任します」

「大丈夫ですか? W号は三人乗り砲塔なので、それをするには結構忙しいですよ?」

「大丈夫、砲手席から指揮を執るから」

「それなら構いませんが・・・」


操縦手はきっと誰がやっても同じ。

装填手は、きっと秋山さん以外無理。

砲手なんて、素人には絶対任せられない。

それから・・・、沙織さんには、できる限り危なくない仕事をやってもらいたい。


そんな思いで決定した役割でした。
29 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:20:07.02 ID:Wm7clheOO

「じゃあ華さん、マニュアルをよく読んでください」

「は、はい。ええと、イグニッションを入れて、それから・・・」

その後、何度か後ろに行ったりエンストしたりしましたが、なんとか安定して走らせることができたようでした。


決められた位置に到着し、しばらくすると教官から通信がありました。

『みんな配置についたわね? 戦車道は、礼に始まり礼に終わるの。一同、礼!』

「よろしくお願いします」


礼に始まり礼に終わる、か。

本当に、最後の礼で試合の中で起こったことがすべて終わるならば、どんなによかったか。


だってわたしは、戦車道の世界にある、礼節のかけらもないヘドロのような部分を見てしまったんだから。
30 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:21:04.90 ID:Wm7clheOO

『それでは、試合開始!』

ともあれ、試合開始です。

索敵のため、ハッチから顔を出して見渡すと、七時の方向に八九式がいるのを見つけました。


「七時の方向に敵影あり。砲撃します」

「あの、西住さん。砲撃って、わたくしは何をどうすれば・・・」

「大丈夫、砲塔が回るから。華さんは、わたしが撃ったら前進してください」

「は、はい。頑張ります!」
31 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:22:00.08 ID:Wm7clheOO

「西住殿、装填完了しました!」


八九式なら余裕で正面装甲が抜ける。

これは練習だから、相手に与える衝撃を減らすために、一番分厚いところを狙えばいい。


だけどわたしは、あえて装甲が薄いところを狙いました。

その方が、トラウマを植え付けられると思って。

視界を得るための、小窓を狙って。

「・・・発射」


周囲に耳をつんざくような轟音が響きました。

75mm砲を正面から弱点に食らった八九式は、一瞬で白旗を上げました。


『Bチーム八九式、走行不能!』

「す、すごい・・・」

「じんじんします・・・」

「なんだか・・・、気持ちいい・・・」


相手にトラウマを与えることを目的とした砲撃。

フェアプレイのかけらもない行動。

しかしそれは、戦車道に詳しくない彼女らには魅力的だったようでした。

しまったことをしたと気づいたのは、試合が終わってからの事です。
32 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:23:09.43 ID:Wm7clheOO

「華さん、そのまま前進してください。索敵します」

「は、はいっ!」

しばらくそのまま、わたしたちは道を進みました。


開けたところに出たと思ったところで。

思いがけない出会いがありました。
33 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:24:02.67 ID:Wm7clheOO

「あれは・・・、危ない!!」

なんと、人が寝ていたのです。

華さんに言って、車両を止めてもらおうとしましたが、間に合いそうにありません。


と、そこで。

その人がゆっくりと起き上がり、戦車に飛び乗りました。

「みぎゃ!」

飛び乗った時にこけて顔を打ったようですが、どうやらケガはなさそうでした。

「あれ、今朝の・・・」

さっき助けた、綺麗な子。


すると突然、沙織さんが通信手席のハッチを開けて

「あれ、麻子じゃん。どうしたのこんなところで?」

と、その子に声を掛けました。


どうやら、この子は冷泉麻子さんというそうです。

授業を抜け出して、サボっていたとのこと。

ちょっと変わった子だな、と思いました。

とりあえず、演習場にいると危ないので、中に入ってもらうことにしました。


その直後のこと。

後ろから轟音が響きました。
34 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:24:48.25 ID:Wm7clheOO

「何今の!? もーやだぁ!」

「あの音・・・、きっと三突の75mm砲ですね」

「六時方向にCチームか・・・。華さん、旋回ってできますか?」

「は、はい。やってみます・・・きゃ!」


華さんが、緩旋回を試みたときでした。

なんと、運悪くぬかるみにはまってしまったのです。


「す、すみません。あら? でも、これ、出られない・・・」

どうやら、よくない感じにはまってしまったようです。

「落ち着いて。何度か試してみてください」

そう言ってみたものの、どうもなかなか抜け出せそうにありません。

三突相手にこの角度は分が悪いから、角度を変えようとしたのに・・・。

万が一にも当たってしまえば、一撃でやられてしまう角度でした。
35 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:25:48.50 ID:Wm7clheOO

「どうしましょう、西住殿・・・」

「とりあえず、三突を撃ってみる。だけど、砲塔の旋回と相手の砲撃、どちらが先か・・・」


わたしが、唇をかみしめたときでした。

気づくと、さっきまでわたしの足元にいた冷泉さんが、華さんの近くに寄っていました。

「ちょっと代わってみてくれ」

「麻子!? あんた、運転できるの?」

「今マニュアル読んだからなんとかなる」

「なんとかって、あんた・・・」

マニュアルをちょっと読んだだけで、このぬかるみから抜け出せるわけがない。

わたしは浅い考えの彼女にいら立ちを感じました。


しかし、一瞬の後。わたしは、自分の狭量さを思い知りました。

「きゃ!」

「抜けたぞ。それで、どうすればいい、西住さん」

一瞬で、冷泉さんは操縦をマスターしてしまったのです。


とりあえず抱いたのは感謝の思いでした。

それから、困惑と、彼女の才能への嫉妬。

それらの入り混じった、複雑な感情が、わたしの心に浮かんで消えました。
36 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:27:35.46 ID:Wm7clheOO

「冷泉さん、このまま前進してください」

「わかった」

V突が砲撃してきましたが、わたしたちがぬかるみから脱したことで難を逃れました。


「停止!」

W号が、がくんと停止しました。

車体の動揺が収まると同時に、わたしは引き金を引きました。


轟音の後。

V突から、白旗が上がりました。


『CチームV号突撃砲、走行不能!』

「やったねみぽりん!」

「お見事です!」

「ありがとう。・・・あっ、12時の方向に敵! 秋山さん、装填急いで!」

「は、はいっ!!」


前から馬鹿正直に38(t)が突撃してきていました。
37 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:30:31.18 ID:Wm7clheOO

38(t)。

生徒会の戦車。

わたしをここまで引きずり込んだ元凶。

・・・いいでしょう、そんなにお望みだったならば。


戦車道をやることの恐怖を、満足するまで味わわせてあげる。


白旗判定の出ないように、何発も当ててやろうと決めました。


「冷泉さん、すこしだけ前に進んで停止してください」

「わかった」


冷泉さんに停止してもらった後。

わたしは、砲弾が弾かれるように角度をつけて。

何度も38(t)を撃ちました。

Eチームは、最初こそ何度か打ち返そうとしてきましたが、何度も命中させるうちに、戦意を喪失したように見えました。
38 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:33:02.15 ID:Wm7clheOO

「あ、あのう、西住殿・・・」

秋山さんが何かを言いたそうにしていましたが、聞こえないふりをして、撃ち続けました。


そして、しばらく弾かせ続けた後、少し手元が狂って、砲撃を正面から当ててしまいました。

38(t)から上がる白旗判定。

わたしは、なんだかもったいないことをしたなあ、と思いました。

もうちょっと、恐怖を与えておきたかったのに。

いくら跳弾したとしても、自分の戦車に砲弾が当たることは、初心者には十分な恐怖を与えられるから。


『DチームM3リー、Eチーム38(t)、走行不能! よって、AチームW号の勝利!』

一年生たちのチームは、わたしが気づかない間に自滅していたようでした。

かくして、大洗女子学園での初の模擬戦は、我々Aチームの圧勝に終わったのです。
39 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:34:07.55 ID:Wm7clheOO

「みんなグッジョブベリーナイス! 初めてでこれだけ動かせれば十分よ!!」

蝶野教官が、全体に声を掛けました。

わたしたちとCチーム以外、ほとんど瞬殺だったんだけど。

最初にやられたバレー部チームと、自滅に終わった一年生チームは特に沈んだ顔をしていましたから、教官なりに気を遣ったのかもしれません。


「特に、Aチーム!」

蝶野教官から、わたしたちのチームは名指しで褒められました。

まあ、あれだけの圧勝だから当然かな。


これだけむちゃくちゃに蹂躙したから、もう誰も戦車道を続けようなんて思わないはず。

優越感と、達成感がわたしの胸を支配しました。

さて、あの人たちは一体どんな顔してるんだろう。

そう思って生徒会の方を見ると。



会長がこちらを見て笑顔を見せていました。
40 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:35:22.91 ID:Wm7clheOO


「・・・は?」


思わず、小さな声が漏れてしまいました。


なんで、なんで、なんで。

あんなに何発も当てて怖がらせてやったのに。

普通、一発でも当たれば怖くてくじけそうになるはずなのに。

なんでそれをやったわたしに、笑いかけることができるんだろう。

・・・文書の改竄までして、わたしの恨みを買っているのは知ってるはずなのに。

どこまで無神経なんだろう。


疑問と、怒り。そして多少の呆れと。・・・底が知れない彼女に対する、少しの。ほんの少しの、恐怖。

わたしの心では、そうした感情たちがせめぎあっていました。
41 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/04(月) 21:38:29.92 ID:Wm7clheOO
すんげ―長いので今日はここまでになります。
書きあがっておりますので、どうか最後までお楽しみください。

既にお気づきでしょうが、この作品では、みほが原作にくらべてかなりというかめちゃくちゃ小物で嫌な奴になっております。
原作の聖人の域に片足突っ込んでるみほとの対比もお楽しみいただければと思います。

それでは、また。
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/04(月) 22:53:39.91 ID:BgcHM0FSO
闇ほすき
43 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:28:10.39 ID:DA5CSW+wO
こんばんは。

早くR18ゾーンに行ってほしいんですが、なかなかいきません。
あしからず。

では、投下します。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 23:29:49.80 ID:X9JBwCn00
いやっほぉぉぉ!待ってたぜ!
45 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:30:39.94 ID:DA5CSW+wO

ともあれ、模擬戦が終わった後のことです。

Aチームのみんなとお風呂に入りました。

そこで、冷泉さんが正式にわたしたちのチームに加わってくれることが決まりました。


・・・あんな一方的で、下品な試合展開を見た後で、加わりたいと思うなんて。

大洗の人たちは、少し鈍感なのかもしれません。
46 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:31:21.92 ID:DA5CSW+wO

次の日、わたしの予想と異なり、戦車道履修者は一人も欠けることなく集まっていました。

それも、珍妙に戦車の色を塗り替えたうえで。

嘗めているのか、と思いました。


その日の練習後、生徒会の人たちは、練習試合の告知を行いました。

相手は聖グロリアーナ。

言わずと知れた、四強校の一角です。

ああ、この人たちは戦車道を嘗めているんだな。

そう確信しました。


普通の神経をしていれば、突然四強校に試合を申し込んだりしない。

相手にも失礼だし。

もう、この学校の戦車道ごっこに何かを期待することはやめよう。

少なくとも、まともな対応を期待してはいけない。

そう、心に決めました。
47 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:32:33.02 ID:DA5CSW+wO

その後、各チームのリーダーを集めて作戦会議が行われました。

練習の時もそうでしたが、河嶋先輩が暫定的に隊長のようです。

戦車を金色に塗って、的を外しまくるくせに、よくそんなことができるなあ・・・。


「・・・そして、丘の上からグロリアーナをたたく!!」

単純な囮作戦の概要を説明し、得意になっている様を見て、さらに滑稽に思いました。


聖グロリアーナがそんな簡単な策に引っかかるわけがない。

冗談は、片眼鏡だけにしてください。

そう思って下を向いていると、生徒会長が

「西住ちゃん、どうかした?」

と尋ねてきました。

・・・話しかけないでほしいなあ。

そう思いましたが、一応返事だけはしておくことにしました。


「いえ・・・」

「いいから言ってみ」

詰め寄られました。
48 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:33:21.06 ID:DA5CSW+wO

いくらなんでも、今考えていたことをそのまま伝えるわけにはいきません。

オブラートに包んで、言うことにしました。

「聖グロリアーナは、当然こちらの囮作戦を読んでくるはずです。最悪、利用されて逆包囲されるかも・・・」

わたしがそう言うと、河嶋先輩は激高して

「わたしの立てた作戦に文句を言うな!! だったらお前が隊長をやれ!!」

と言ってきました。


わたしは、思わずカチンと来ました。

どれだけこの人は無能なんだろうか。


すると、会長が、場を収めようとするかのようなそぶりをして言いました。
49 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:34:27.15 ID:DA5CSW+wO


「まあまあ。・・・でも、隊長は西住ちゃんがやったほうがいいかもね」


わたしは、絶句しました。

犯罪じみた方法で戦車道に参加させておいて、そこまでわたしに背負わせるのかと。

と、同時に。この場が、生徒会長に支配されつつあるのを感じました。

巧みな誘導と、オーディエンスの扇動。

ひょっとすると、先ほどの河嶋先輩のバカげた発言も罠・・・?

背筋に寒いものが走りました。


なんなのこの人・・・?

そう思ったわたしは。

「西住ちゃんがあたしたちの指揮とって」

会長が台詞を言い終わるなり。

「いえ、それは・・・無理です」

そう言って、断ってしまいました。
50 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:35:19.94 ID:DA5CSW+wO

場が、静まり返ります。

「やっぱり、隊長は河嶋先輩のままで・・・」

正直、わたしが隊長をやった方がいいのは明白でした。

ですが、わたしはそれ以上に何かを背負いたくはなかったのです。


背負えば背負うほど、わたしに対して牙をむくものは多くなるから。

結局最後は、みんながわたしに矛先を向けることはわかっていたから。
51 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:36:18.44 ID:DA5CSW+wO


・・・しかし、そこで。

それまで黙っていたカエサルさんが、口を開きました。

「まあ、先輩を立てようとする西住さんの気持ちはわかるが。しかし我らの中に戦車道経験者は皆無。これで戦えというのは、あまりに酷ではないか?」

すると、澤さんや磯部さんも

「わたしも、西住先輩の指揮がいいと思います!」

「西住さんの模擬戦の時のアタックにはしびれました!」

と、カエサルさんに同調しました。

「・・・で。ああやってみんな言ってるけど。どーする、西住ちゃん?」


もう、退路はありませんでした。


「・・・わかりました、頑張ります」


――――ああ、この人は。

一体どれだけわたしに苦痛を与えたら気が済むんだろう。

絶望が、わたしを包みました。
52 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:37:20.41 ID:DA5CSW+wO

「整列!」

練習試合当日になり、わたしたち大洗女子学園と聖グロリアーナが対面しました。

聖グロリアーナのチャーチルとマチルダ。

硬い装甲が特徴の、歩兵戦車です。

対する大洗は、寄せ集めの戦車たち。

相手の戦車に有効なのはV突だけで、あとは装甲を抜くのも一苦労。

その上、相手をバカにしているかのような塗装や装備も施されています。

正直、戦う前から結果は見えているようなものでした。


「突然の申し出にもかかわらず、練習試合を受けていただき、感謝する」

「構いませんわ。・・・それにしても、なかなか個性的な戦車ですのね」

相手の隊長、ダージリンさんは笑いをこらえるようにして言いました。


「それでは、一同、礼!」

試合が、始まりました。
53 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:38:19.58 ID:DA5CSW+wO


結果的に、わたしたちは勝ちました。

途中、河嶋先輩の立てた作戦が全く功を奏さなかったり、一年生が逃げ出したりするアクシデントはありましたが。


市街戦に持ち込み、V突にのぼりを外させて、チャーチルとマチルダを一両ずつ撃破させました。

チャーチルの装甲を抜くには、75mm短砲身では無理でしたから、八九式にV突の前へとおびき出してもらったのです。

こんな初歩的な策にかかるあたり、ダージリンさんの指揮には付け入る隙があるのかもしれません。

そして、冷泉さんの走行技術で路地を逃げ回りながら、W号でマチルダを三両。


完全に負けると思っていましたが、冷泉さんの想像以上の操縦能力と、華さんの集中力によって、何とか勝利を収めたのです。
54 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:38:59.75 ID:DA5CSW+wO

試合後、艦に戻ろうとすると、一年生が並んで、逃げ出したことを謝罪しに来ました。

この子たちは、単純に戦車道のことをよくわかってなかっただけなんだ。

そう思うと、今まで彼女たちに少なからず感じていた苛立ちが、すっと消えていきました。

まあ、常識で考えればわかるようなこともわかってなかったみたいなのは問題だけど。

普通に考えて、砲撃の中、戦車の外に出たら逆に危ないでしょ。

その点だけは、少しお説教をしておきました。



誰かにケガをされると、その責任は隊長であるわたしが負わされるんだから。
55 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:40:20.59 ID:DA5CSW+wO

その後、一人で艦を歩いていると。

会長がこちらに近寄ってきました。

「いやあ、なんとか勝てたねえ。お疲れさん」


なんとか勝てたねえ?

わたしの指揮が無ければ、なすすべもなく負けていたくせに。

自分たちは、とっとと履帯をやられて立ち往生していたくせに。

なんだか無性に腹が立ったわたしは、

「はい。最初から下手な囮作戦なんてしなければ、もっと楽に勝てていたと思います」

皮肉たっぷりに、言葉を返しました。

「次はもっとうまく作戦を立てます。それじゃあ、失礼します」

吐き捨てるようにそう告げて、その場を後にしました。



「・・・ごめんね、西住ちゃん」


会長が後ろで、小さな声で何かを呟いたようでした。


・・・思えば、この人の言葉が、もっとよくわたしの耳に入っていれば。

もうちょっと、変わった未来もあったのかもしれません。

ですが、会長の声はあまりにも小さくて。

わたしの耳には、なにも届きはしませんでした。
56 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:41:20.92 ID:DA5CSW+wO

その後、しばらくは練習を重ねる日々が続きました。

みんなさすがにあの戦車じゃまずいと気づいたのか、通常仕様に塗りなおしていました。

歴女の皆さんは歴史上の戦いを学び。

バレー部の皆さんはバレーで培った精神力と体力で。

一年生のみんなは、団結力と頭の柔軟さで。

みんなそれぞれのやり方で、初心者とは思えないほどに上達していきました。

・・・生徒会チームの砲撃だけは、一向にうまくなりませんでしたが。


そして、迎えた全国大会の抽選会。

わたしたち大洗女子学園は、初戦でサンダース大学付属と当たることが決定したのでした。
57 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:42:03.08 ID:DA5CSW+wO

「初戦でサンダースですか・・・」


戦車喫茶ルクレール。

いたるところに戦車がちりばめられた、趣味の悪い店です。

転校してきた直後のわたしだったら、きっと卒倒していたでしょう。

ですが、連日トラウマに曝露されたわたしの心は、すっかり鈍っていました。

ですから、抽選会の後に、Aチームのみんなと、この店でお茶をしているのです。


「ゆかりん、そんなに強いの? サンダースって」

「強いというより、とってもリッチな学校なんですよ。戦車保有台数が、全国一なんです」
58 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:43:02.85 ID:DA5CSW+wO

秋山さんがサンダースについて説明していると。

「副隊長・・・?」

横から、聞き覚えのある声がしました。


絶対にそっちを見たくない。

・・・でも、見なければならない。


ゆっくりと顔を向けると、そこには。

「ああ・・・。元、でしたね」

黒森峰の、逸見さんと。

そして。


「まだ、戦車道をやっているとは思わなかった」

「お姉ちゃん・・・」
59 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:47:23.75 ID:DA5CSW+wO

「お言葉ですが、あの時の西住殿の取った行動は、間違っていませんでした!」

秋山さんが立ち上がって、そう叫びました。

「部外者は口を挟まないでもらいたいわね」

「すみません・・・」

立ち上がってくれたのはうれしいけど、そこで引き下がらないでほしかったな。


「まあ、戦車ごっこのついでにお仲間ができてよかったじゃない。」

そのセリフの直後、逸見さんの表情が嘲笑から侮蔑に変わったのを感じました。

そして、さも憎々しげに

「・・・あなたのせいで、何が起こったかも知らずにのうのうと」

とつぶやきました。

「エリカ」

お姉ちゃんが逸見さんを制しましたが、逸見さんはこちらを睨み続けています。


絶対に許さない。

逸見さんの瞳は、わたしにそう言っているように見えました。

何が起こったか・・・?

一体何が起こったというんだろう。

わたしが黒森峰を去った後に、一体何が・・・。
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