【ガルパン】みほ「肉欲に溺れた悪魔」

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60 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:48:36.17 ID:DA5CSW+wO

「えっと、逸見さん・・・、その」

気になって、たずねようとしました。

しかし。

「エリカ、もうそれ以上はよせ。・・・行くぞ」

お姉ちゃんに阻まれて、聞けませんでした。


「隊長、でも・・・」

「エリカ、わたしに二度同じことを言わせるな」

「・・・はい、わかりました。隊長」

逸見さんはそれでも何か言いたそうにしていましたが、お姉ちゃんがそれを許しませんでした。


ここまで言い残してお姉ちゃんと逸見さんは去っていきました。

逸見さんは、最後までわたしを睨みつけたままでした。
61 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:49:47.40 ID:DA5CSW+wO

「なによ、あの態度!」

沙織さんが憮然として言いました。

「あの黒森峰は、過去九連覇していた強豪です。・・・もしも優勝を狙うなら、避けては通れない相手ですね」

秋山さんがそう解説しました。


過去九連覇。

あの時、わたしの行動が違っていれば。

十連覇中の強豪と、称されていたはずのに。

こんな思いをせずに、済んだはずなのに。


「・・・みぽりん? 顔色悪いよ?」

「・・・ごめん。ちょっと、気分が悪くて」

「もう出ましょうか?」

「うん。・・・ごめんね、まだ来たばっかりなのに」

「別にいい。西住さんの体の方が大事だ」


結局、チームのみんなに迷惑をかけちゃったな。
62 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:50:54.55 ID:DA5CSW+wO

「・・・」

学園艦へと帰る船に乗りながら、逸見さんの言葉を思い出していました。


何が起こったのかも知らずにのうのうと。


一体、わたしがいなくなった後で何が起こったんだろう。

それに、逸見さんを制したときのあのお姉ちゃんの表情・・・。

なんだか、とっても嫌な胸騒ぎがしていました。


すると。

「寒くないですか?」

考えることに集中して、秋山さんが近づいてきたのにも気づきませんでした。
63 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:51:41.59 ID:DA5CSW+wO

「全国大会、出場できるだけでわたしは嬉しいです」

そう話す秋山さんの横顔を見ると、本当に嬉しそうなのが伝わってきました。

「大事なのは、ベストを尽くすことです。たとえ負けたとしても・・・」


「それじゃあ、困るんだよねぇ」


秋山さんの言葉を遮ったのは、やはりというべきか、会長でした。

「絶対に勝て。我々はどうしても勝たなくてはいけないんだ」

河嶋先輩が、後に続きます。

・・・一度も、砲撃を的に当てたことすらないくせに。

「そうなんです、だって負けたら・・・」

小山先輩が、何かを言いかけました。

すごく、思いつめた顔をして。

でも、わたしたちにはその理由はわかりませんでした。

・・・会長によって、その先がさえぎられてしまったから。


「しーっ・・・。まあとにかく、すべては西住ちゃんの肩にかかってるんだから。もし負けたら何してもらおっかなー。考えとくね」
64 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:52:57.81 ID:DA5CSW+wO


・・・?


わたしが初めて違和感を覚えたのは、この時でした。

会長に、いつもほどの余裕が無いように見えたのです。

いつもは、自分がした悪事を何とも思わずに不気味なくらい飄々としているのに。

なんだか、急に自分を取り繕ったように見えて。


そうした会長の態度を不思議に感じて少し何も言わずにいると、秋山さんが

「大丈夫ですよ! がんばりましょう!!」

と、励ましてきました。

きっと秋山さんは、わたしが一回戦のプレッシャーを感じていると思っているんだろうな。

実際は、そんなことないんだけど。

でも、それを指摘すると秋山さんがすごく落ち込みそうなので

「ありがとう、秋山さん。相手の編成が分かれば、作戦も立てやすいのにね」

そう言って、お茶を濁すことにしました。
65 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/05(火) 23:55:40.28 ID:DA5CSW+wO
以上になります。

豆腐メンタルだろうがなんだろうが試合には勝つのが軍神スタイル。

原作から様々なズレが生じ始めました。

すこしずつ溜まっていくひずみがどういう結果を生むのかを見届けてやってください。

それでは、また
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 23:58:52.59 ID:X9JBwCn00
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 04:43:11.80 ID:UufXnd3uo

病めもっと病め
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 08:42:25.52 ID:AbV7oLuCO
カワシマは別にいなくてもええやろ、殺そう
69 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:35:24.67 ID:sIb+lDG8O
こんばんは。
今日、改めてアニメ1,2話を見直してみました。
みぽりんのキャラが劇場版以降と全然違って面白いです。
暇な方は見直してみることをお勧めします。

それでは、投下します。
70 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:37:01.45 ID:sIb+lDG8O


『サンダースフラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!』


わたしたちは、一回戦を突破しました。

相手が無線傍受をしていたので、それを逆手に取り、主力とフラッグ車を分断させて、その間にフラッグ車を撃破することに成功しました。

森の中に隠れていたところを背後からW号で砲撃すると、あっさりと白旗を掲げたのです。


試合後、サンダースのケイさんは

「ミホ、グッジョブ! 今回はうちの完敗ね。また機会があれば試合しましょ!」

と言って、握手してくれました。

無線傍受までして負けたのに、フレンドリーな人というか、なんというか。


・・・勝つために手段を選ばないあたりは、どこかの流派そっくり。
71 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:37:51.81 ID:sIb+lDG8O

次の日、学校に行くと、大きなバルーンと幟が掲げてありました。

また、学校新聞の号外まで出ています。

生徒会が、士気向上のためにやったようでした。

・・・浅はかな考えだなあ。


それはさておき、二回戦はアンツィオ高校が相手です。

正直、マジノ女学院が勝ち上がってくると思ったんだけど・・・。

去年のアンツィオは確か、三人しか戦車道履修者がいなかったんだっけ。

マジノ女学院も強くはないけど、弱小校に負けるような学校じゃないし。

余程、今年の隊長が敏腕なのかもしれません。


アンツィオ戦へ向けた会議では、その懸念を率直に話しました。

大嫌いな生徒会の人たちに、大嫌いな戦車道で協力するのはとても嫌だったけど・・・。

勝負に負けることは、それ以上に嫌だったから。

そんな負けず嫌いなところに、ぬぐい切れない西住の血を感じた気がして、背筋が寒くなりました。
72 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:38:28.83 ID:sIb+lDG8O

その後、生徒会が、新たな戦車の捜索を命じた結果、ルノーB1bisが見つかったみたいでした。

そして、W号に搭載可能な75mm砲の長砲身が。

それから、船の底の方でポルシェティーガーもみつかりました。

・・・あんなところから重戦車を運んで、その上レストアするのって、無茶苦茶大変だと思うんだけどなあ。

しかも、ただの戦車じゃなくて、あの失敗作のポルシェティーガーだし。

自動車部の人の技術と努力には、頭が下がります。

ただ、さすがにあらゆる改造が間に合いそうにないので、二回戦はそのままの戦力で臨むこととなりました。
73 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:39:18.46 ID:sIb+lDG8O

試合前、アンツィオ高校の隊長、アンチョビさんが挨拶にやってきました。

「わたしが統帥アンチョビだ! そっちの隊長は?」

「西住」

河嶋先輩に呼ばれて前に出ると、アンチョビさんは一層胸を張って

「あんたがあの西住流か」

と、言い放ちました。
74 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:40:12.79 ID:sIb+lDG8O


西住流。

戦車道をやるうえでどこまでもついて回る、その名前。


思わず下を向いてしまいそうになりました。・・・でも


「相手が西住流だろうが島田流だろうが、わが校は負けない! じゃなかった、勝つ!」

アンチョビさんのその言葉を聞いて。

名前なんて関係ない、と言われた気がして。

ひょっとして、名前に縛られる意味はないのかな。

そう、初めて思いました。


「今日は正々堂々勝負だ!」

「はい。よろしくお願いします!」

アンチョビさんとの握手。

握手だけで、アンチョビさんの人柄が伝わってきて。

アンツィオがここまで強くなった理由が分かった気がしました。


・・・どうせなら、こんな学校で戦車道と出会いたかったな。

そう、少しだけ恨めしく思いながら。
75 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:40:57.92 ID:sIb+lDG8O

『アンツィオフラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!!』

アンツィオ高校の秘密兵器、P40を含む全車両を走行不能にし、わたしたちは勝利しました。

こちらの被害はM41セモヴェンテと相打ちになった、CチームのV突だけ。

圧勝と言ってもいい勝利でした。

そんな結果にもかかわらず、試合終了後、アンチョビさんは、わざわざやってきてくれて。

本来悔しくて顔も見たくないだろうわたしに、ハグを求めてきたのです。

そのうえ、両校揃っての宴会まで開いてくれました。

こんな試合後の交流は、わたしにとって初めてです。

勝ち負けを気にせず、試合後は思いっきり楽しむ。

こんな戦車道もあっていいんだ。

少しだけ。・・・ほんの、少しだけ。

目からうろこが落ちたような思いになって。

戦車道にも、いいところがあるんだ・・・って思いました。
76 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:41:40.28 ID:sIb+lDG8O


「西住ちゃん」


二回戦が終わって、いよいよ次は準決勝だという時の事でした。

準決勝の準備をしながら浮かれる皆を、新たに加わった風紀委員の皆さんが叱っている和やかな雰囲気の中。

河嶋先輩が突然ヒステリーを起こして、静まり返った戦車倉庫の中で、わたしは会長に声をかけられました。

「後で話があるから。・・・生徒会室に来て」

生徒会室。

わたしにとって、トラウマでしかない場所。
77 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:42:28.39 ID:sIb+lDG8O


「あの、それは・・・どうしても、ですか?」

顔を引きつらせながら、会長に尋ねてみました。

「んー・・・、そだね。どうしても、そこでしかできない話なんだ」

会長がいつになく真剣な顔をして、わたしにそう言いました。


この人のことは、大嫌いなんだけど。

会長の瞳はあまりにまっすぐわたしを捉えていて。

なんだか、その顔を見ていると、胸がちくんと痛みました。

この痛みは、まるで。

・・・。

その痛みに耐えかねて、わたしは。

「・・・わかりました」

心にもない返事を、してしまったのでした。



どうして、行くと返事してしまったんだろう。

あの日、二度と生徒会室には立ち寄りたくない、と思ったのに。

一体どうして・・・。

・・・

その答えが分かってしまったのは。

もはや取り返しがつかなくなってからのことでした。
78 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:43:54.22 ID:sIb+lDG8O


「やーやー、西住ちゃん。ま、座ってよ」


意を決して、生徒会室へと向かったわたしを待っていたのは、鍋とこたつでした。

「あんこう鍋は、会長の得意料理だからな。遠慮なく食べてくれ」

確かに、プラウダ戦に向けて高緯度地域に向かっているからかなり寒いけど・・・。

「あの、それで・・・。話ってなんですか?」

わたしが尋ねると、一瞬場が静まり返りました。

が、会長は気まずそうにあたりを見渡して。

「思えば、ここでよく泊まったよなー。文化祭の前なんかは・・・」

と、露骨に話をそらしました。


・・・人がわざわざ勇気を振り絞って来てやったのに。

さっさと話をしてくれないかな。

少しいらだって、わたしは

「いえ、思い出話はいいですから。その、話って・・・?」

と、話題を戻しました。

また、沈黙。

そしてまた。

「珍しいもん見せてあげよっか。ほら、河嶋が笑ってる」

三人の入学時の写真と思しき写真を見せて、話をそらそうとします。

・・・別に、河嶋先輩が笑おうが何しようがわたしには関係ないんだけど。
79 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:44:51.21 ID:sIb+lDG8O

「いえ、ですからその、話って・・・」


「・・・鍋、煮えてますよ」

「あ、そだねー。食べよ食べよ」


結局、生徒会の人たちは、話と思しき話を一切してくれず。

わたしは鍋をいただいただけで、家路についていました。

だけど・・・。

何も話してはくれなかったけれど。

彼女たちが、何かを隠してるのはわかりました。

ここまで迷惑をかけておいて、その上急な呼び出しまでかけて、隠し事。

その生徒会の態度にも腹が立ちました。

でも、それ以上に腹が立ったのは・・・。


「・・・あんな顔、してたくせに」

いつもとは違う、真剣な顔をしてわたしを動揺させた会長に。

そして・・・。なぜか動揺させられるばかりか、変な痛みまで訴えた、わたしの胸の奥に潜む何かに。

のこのこ出かけて行ったわたし自身に。

耐え難い怒りと苛立ちを覚えていました。


・・・その日、わたしの部屋にあるボコのぬいぐるみに、少しだけ傷が増えました。
80 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:45:55.66 ID:sIb+lDG8O

そして迎えた、プラウダ高校との準決勝。

今回から、ルノーB1bisを操縦する、風紀委員たちのFチームが加わります。

アンツィオ高校との一戦で圧勝したこともあり、皆の士気も上々でした。

だけど。

プラウダ高校は・・・。

前回大会の、優勝校。

わたしたち、黒森峰を破った学校です。

そのことを考えると、わたしは。

明るくなんて、していられませんでした。
81 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:46:54.85 ID:sIb+lDG8O


わたしが複雑な気持ちで戦車を寒冷地仕様にしていると。

プラウダ陣営のいる方角から、一台の車両がやってきました。

そこから二人の女性・・・、もとい、一人の女性と一人の女の子が降りてきます。


「あれ? 誰?」

わたしたち黒森峰を破った功績で、隊長に昇りつめた張本人。

「プラウダ高校の隊長と、副隊長だ」

昨年度の優勝の立役者。

「地吹雪のカチューシャと、ブリザードのノンナですね!」

カチューシャさんたちが、やってきました。

挨拶がてら、我々の戦車を嘲笑いに来たようです。

・・・身長で負けて、肩車をしてもらって虚勢を張っているのが、なんだか滑稽だけど。

わたしたちのことをさんざん挑発した後。


カチューシャさんは、わたしに目を止めました。
82 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:48:01.45 ID:sIb+lDG8O

「あら? ・・・西住流の」

西住流。

大洗に来てから、わたしのことをそう呼ぶ人は少なくありませんでした。

秋山さんに蝶野教官。そして、アンチョビさん。

みんな、わたしをそう呼んだけど、誰の言葉にも悪意はありませんでした。

悪意が無くても、わたしを苦しめるその言葉。

だけど、今回の「西住流」は、今までとは違う。

なぜなら、今回のそれは。

明確に、わたしを傷つける意思をもって発せられた言葉だったから。

「去年はありがとう」

全身に鳥肌が立ちました。

「あなたのおかげで、わたしたち・・・優勝できたわ」

頭から、じわりと何かが広がる感覚。

「今年もよろしくね、家元さん」

心臓の音が、にわかに大きくなりました。

「じゃあね、ピロシキ〜」

心の底から湧き上がる、憎悪。

カチューシャさんたちが見えなくなったとき、わたしの心を支配しているものは、それだけでした。
83 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:48:54.38 ID:sIb+lDG8O

「みぽりん? ・・・顔、怖いよ」

沙織さんからそう声をかけられても。

「大丈夫なのでしょうか・・・」

華さんから心配されても。

「西住殿・・・。その、去年のことは、気にすることではありません! 西住殿の行動は、間違っていませんでした!」

秋山さんから励まされても。

「落ち着け西住さん。怒ったら、相手の思うつぼだ」

冷泉さんから諌められても。

わたしの心中は、まったく穏やかにはなりませんでした。
84 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:50:00.14 ID:sIb+lDG8O

「に、西住。その、なんだ。今回の作戦を、聞いておきたいんだが・・・」

河嶋先輩にそう声をかけられて。

作戦の下知を行うことにしました。

「はい。皆さんもご存知の通り、プラウダ高校は、昨年度の優勝校です」

落ち着いて。

「プラウダ高校は、撤退してからの包囲戦を得意としています」

駄目。作戦に感情を挟んじゃ。

「ですので、相手の挑発に乗らず持久戦に・・・」

それは指揮官として、最も愚かな行為。

「・・・」

だけど。


「に、西住?」

「・・・持ち込もうと、思っていましたが」

ああ・・・。

「西住殿、いけません!」

ごめんね、秋山さん。

最低な、指揮官で。

「秋山ちゃん、今話してんのは隊長の西住ちゃんだよ。・・・で、どうすんの?」

・・・お前だけは、黙ってろ。

「・・・あそこまで馬鹿にされて、のんびりとしてはいられません」

ああ・・・。やっぱり。


「こちらを嘗めているふざけた奴らを、一気にボコボコにして、速攻で片を付けましょう!」

・・・指揮官、失格だなあ。
85 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:50:29.58 ID:sIb+lDG8O

「大洗をバカにした、その代償がどれほどのものか。見せつけてやりましょう!」

はたから見たわたしは、士気を上げるために隊を鼓舞する隊長。

だけどその実は、私怨に支配された愚かな指揮官。

それに気づいているのは、Aチームのみんなと。・・・死ぬほど不快だけど、きっと、生徒会長だけ。

事情を知らぬ皆から、大きな鬨の声が上がりました。


かくして賽は投げられたのです。
86 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:51:12.28 ID:sIb+lDG8O

結論から言うと、わたしたちの取った作戦は・・・、大失敗でした。

最初は、立て続けにT34/75を撃破。


おかしい、うまくいきすぎる。

そう気づいたとき、もはや隊の暴走は止められなくなっていました。

・・・わたしが、自分で暴走させたくせに。
87 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:51:42.65 ID:sIb+lDG8O

雪原の廃村のようなところへとプラウダを追い詰めたところで・・・。


・・・いや、違う、追い詰めたんじゃない。

ただ、おびき寄せられただけ。


ともあれ、廃村に来たところで、プラウダ高校に包囲されていることに気付きました。

そこでようやく、自分の取った行動がどれだけ愚かだったかを知ったのです。

相手を嘗めてかかっていたのは、他でもない我々の方でした。

その後は、大きな教会の中になんとか撤退。

そして、プラウダから休戦の申し入れと、降伏勧告がなされたのでした。
88 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:53:12.59 ID:sIb+lDG8O

「誰が土下座なんか!」

「全員自分より身長低くしたいんだな・・・」

「戦い抜きましょう!」


プラウダからの使者によって伝えられた言葉はシンプルでした。

三時間待ってやるから、土下座しろ。そうすれば勘弁してやる。

いかにも、あのカチューシャさんの言いそうな事でした。

・・・わたしだって、あのチビに土下座なんてしたくありません。

でも、ここは閉ざされた教会で、おまけに外は吹雪。

三時間の間に、士気がどれだけ低下するか。考えたくもありませんでした。

それに。

「このまま一斉攻撃されると、けが人が出るかも・・・」


万が一にもけが人を出せば。

その責任は、隊長であるわたしが負わなければなりません。

そうすれば、また黒森峰の時のように。

・・・。


だけど、周りは徹底抗戦をする気満々でした。

どうしよう・・・。

わたしは頭を悩ませてしまいました。
89 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:54:16.02 ID:sIb+lDG8O

すると。

「みほさんの指示に、従います」

華さんが。

「わたしも! 土下座くらいしたっていいよ!」

沙織さんが。

「わたしもです!」

秋山さんが。

「準決勝まで来ただけでも上出来だ。無理はするな」

冷泉さんが。

みんなが、そう言ってくれました。


そうだ、今のわたしには・・・、みんなが。

Aチームのみんながついていたんだった。

みんなの言葉に、背中を押してもらって、

面子にこだわらず、降伏しよう。

そう決めた矢先。


「ダメだ!!」

河嶋先輩が、叫びました。

「絶対に負けるわけにはいかん!! 徹底抗戦だ!!」


ああ。またか。

どうして、この人たちはわたしの邪魔ばかりするんだろう。
90 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:55:13.13 ID:sIb+lDG8O

「でも・・・」

「勝つんだ! 絶対に勝つんだ!! 勝たないと、ダメなんだ!!!」

そう思うんなら、もっと活躍してください。

「どうしてそんなに・・・。初めて出場して、ここまで来ただけでもすごいと思います」

「すごくたって、優勝しなければ意味はないんだ!!」

確かに、ベスト4なんて誰にも見向きもされませんね。

「でも、このまま続行して怪我人でも出たら・・・」

そしたらまた、わたしのせいになるんだよね?


すると、河嶋先輩は、少し沈黙した後で、吐き捨てるように。

「多少の犠牲がなんだ! 勝つことの方が大事だ!!」

と、叫びました。


多少の犠牲。

勝つことの方が大事。

その言葉を聞いて。

すーっと頭の中が冷たくなりました。
91 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:56:33.73 ID:sIb+lDG8O

「・・・西住?」

わたしが黙っていると、さっきまで激高していた河嶋先輩が、こちらを不思議そうにのぞき込んできました。


次の瞬間。

「!! みぽりん!」

乾いた音が、教会の中に響き渡っていました。

頬を押さえて目をつぶっている河嶋先輩。

右腕を振り切った姿勢のわたし。

何が起こったのか、理解するのに少しかかりました。


―――ああ、わたしは

ついに、手を出しちゃったんだ。
92 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:57:25.07 ID:sIb+lDG8O

「に、西住・・・?」

震える声で、河嶋先輩がわたしの名前を呼びました。


「ふざけたこと、言わないでください・・・」

わたしの瞳から、涙がこぼれました。

「多少の犠牲より勝ちの方が大事? ・・・そんなわけ、ないじゃないですか!!」

悲鳴に近い声で、わたしは叫んでいました。

わたしを諌めに来た秋山さんが、ぎくりと動きを止めるのが視界の端にうつりました。


「確かに、負けるのは悔しいですし、誰だって負けたくなんかありません。でも・・・、犠牲になった人は、どうなるんですか」

「それ、は・・・」

叫んだことで、息切れしていました。

だけど。肩で息をしながらわたしは。

「犠牲になった人は、一生、傷を背負わなければならないんですよ。たった一つの、戦車道の試合のために。・・・一生残る傷を」

かつて、声に出すことすらできなかった思いを。

今こうして、叫びとなって出てきた思いを。

ぶつけることを、やめませんでした。


「河嶋先輩は、それでもいいんですか。この一勝のために、誰かの人生を台無しにして」

「それで本当に、いいんですか」
93 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 18:59:52.01 ID:sIb+lDG8O

「でも、でも・・・」

河嶋先輩がその場に崩れ落ち、嗚咽し始めました。


「落ち着け、西住さん」

冷泉さんが、わたしの肩を掴みました。

「みほさん、お気持ちはわかりますが・・・。その、暴力は」

華さんが、わたしを見つめました。


周囲は、すっかり静かになっていました。

聞こえるのは、河嶋先輩がすすり泣く音だけ。

当然、士気は落ちるところまで落ちていました。

降伏やむなし。

そんなムードが、教会内に流れました。


・・・そんな中、会長が一歩前に出て。

「西住ちゃん、河嶋の言ったことはわたしが代わりに謝るよ。・・・ごめんね」

だけど、と会長は言葉をつづけました。


「だけどさ。もしここで負けたら・・・」

「わたしたちの学校、無くなるんだよね」
94 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:01:20.75 ID:sIb+lDG8O

文科省。統廃合。廃校。

そんな言葉が、会長の口から語られました。

降伏しても仕方ない。ベストは尽くした。もう十分だ。

そう思っていたであろうみんなの顔が見る見るうちにこわばっていきました。

だって、降伏するということは、つまり。

大洗女子学園の廃校を意味するのだから。


「みんな、黙っていて・・・ごめんなさい」

小山先輩が、うつむきながらそう呟きました。
95 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:02:41.08 ID:sIb+lDG8O

「そんな事情があったなんて・・・」

「大洗が廃校になれば、わたしたち、ばらばらになるのでしょうか?」

「そんなの嫌だよ!」

「単位習得は夢のまた夢か・・・」

Aチームのみんなも、それぞれショックを受けているようです。

そして、それはほかのチームのみんなも同様でした。


・・・だけど、わたしは。

どうしようもないくらい激しい怒りを覚えていました。

今までの生徒会の行動。

文書改竄までしてわたしに戦車道を強要したことに始まり・・・、先日の呼び出しに至るまで。

全ての行動の合点がいって。


苦痛を与えたうえ、隊長までさせておきながら、わたしに何も話さなかった生徒会に対して。

そして裏に隠された意図すら見抜けなかった、最も愚かな人物。

必死だった彼女たちの気持ちも推し量らず、彼女たちを一方的に恨んだ、わたし自身に対して。

この身が張り裂けそうになるくらいの、怒り。


・・・そして、そうしたやり場のない怒りの矛先は。

全て会長へとむけられました。
96 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:04:14.60 ID:sIb+lDG8O

会長が・・・、あの女が、もっとうまくやっていれば。

違った未来があったかもしれない。

わたしだって、こんなに苦しまずに済んだかもしれない。

さっき河嶋先輩を叩かずに済んだかもしれない。

戦車道のメンバーだって、もっと仲良くなっていたかもしれない。

戦車道を、少しでも楽しめたのかもしれない。


そして・・・、会長を、ここまで恨まずに済んだのかもしれない。


そんなことが、頭の中をひたすらぐるぐると回っていました。

「・・・無理強いはしないよ。隊長は、西住ちゃんだからね」

うるさい。


今更。

今更。

今更。

どんな顔をして、隊長としてふるまえばいいの?

わたしが今まで抱いてきた恨みはどうなるの?

何も、事情を知らないくせに、悪態をついて。

仲間を信頼しようともせず、心の中で罵って。蔑んで。

そんな隊長が何を決められるの?

そして・・・。


一体誰のせいで、わたしはそんな隊長になったの?
97 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:05:30.50 ID:sIb+lDG8O

「だけどさ、あたしが言ったことも考慮に入れて、もう一度・・・」


「降伏はしません!!」


みんなが、わたしの方を見ました。

「・・・まだ、試合は続いていますから」

「西住殿・・・。しかし、このままでは」

「確かに状況はかなり難しいです。でも、まだ負けと決まったわけではありません」

「でもみぽりん、もし怪我人が出たらどうするの? さっきは、それで・・・」

「怪我人なんて出ません。出させません。・・・みんなが、わたしの指示に従ってくれる限り」

「西住隊長・・・」

「皆さんも、できる限り細心の注意を払ってください。犠牲のある勝利でも、犠牲のある敗北でもない・・・、犠牲のない勝利を掴むために」


とんでもない暴論でした。

怪我人が出るかどうかなんて、わたしにはどうしようもないこと。

ですが。

そんな詭弁を使ってでも、わたしは。

「諦めたら、そこで道は絶たれてしまいます。みんなで、わたしたちの母校に・・・。大洗に、笑って帰りましょう!!」


みんなから歓声が上がりました。

かなりめちゃくちゃな演説でしたが、なんとかうまくいったようです。

士気が再び最高潮に達したのを見て、わたしはほっと胸をなでおろしました。
98 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:06:03.59 ID:sIb+lDG8O


ここで降伏して、大洗が廃校になってもらっては困ります。


なぜなら。


会長に、まだお返しをしてないんだから。


わたしを最低の隊長に育ててくれたことに対する、お返しを。
99 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:07:24.47 ID:sIb+lDG8O

その後は、秋山さんとエルヴィンさん、冷泉さんとそど子さんに偵察をしてもらい、

皆さんが帰ってきたころには、戦車の修理も終わり、後は戦略を立てるだけでした。

プラウダの包囲網を見て、わたしが立てた戦術は至極シンプル。

教会内にフラッグ車である八九式と、壁となるB1bisだけを残し、残り全軍で相手フラッグ車へ突撃。

それですべてでした。


「それしか作戦はないのか・・・」

河嶋先輩がうなだれました。

「はい。これほど囲まれてしまっては、それしか方法はありません。ただ、ここに隠れているKV-2だけには注意してください」

そこまで作戦を立てたところで、プラウダからの使者がやってきました。

「もうすぐ時間ですが・・・」

全員で、その子を睨みつけると、その子は少し気圧された様子でした。

ちょっとだけ、すっきりしました。


「降伏なんてしません。・・・最後まで、戦い抜きます」

あのチビに、誰が土下座なんてするかと伝えてください。

そう言ってやろうかと思いましたが、砲撃が激しくなってはいけないので止めておきました。
100 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:09:13.04 ID:sIb+lDG8O

「プラウダフラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!!」


一か八かの突撃。

それは、わたしが想定していたよりも壮絶なものでした。

なんとか、わたしたちが盾になり、V突にフラッグ車を撃破してもらいましたが。

わたしたちは、V突と八九式を残して全滅していました。

ともあれ、わたしたちはプラウダ高校に対して勝利を収めたのです。


みんなが、喜びのあまり抱き合っていました。

わたしは少し離れたところでそれを見ていましたが。

そこに会長が近寄ってきました。


「西住ちゃん」

会長は、笑顔をこちらに向けてきました。

「はい、なんでしょう?」

「西住ちゃんのおかげで勝てたよ」

「わたしたちを、ここまで連れてきてくれて・・・、ありがとね」

そう言った会長の目には、うっすらと涙が浮かんでいるようにも見えました。

・・・会長。

「いえ、とんでもないです」

当然のことをしたまでですよ。


だって、わたしは。

あなたに復讐をしなければならないんですから。
101 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:11:20.67 ID:sIb+lDG8O

大洗の学園艦に戻った後。

わたしは、戦車格納庫でうろうろしていた河嶋先輩を捕まえました。


「・・・河嶋先輩」

「おお、西住か。先日はその、なんだ。・・・すまなかった」

河嶋先輩が、伏し目がちにそう言いました。

「いえ・・・。わたしの方こそ、感情的になってたとはいえ、叩いてすみませんでした」

わたしが深々と頭を下げると、河嶋先輩の表情から緊張が抜けていくのを感じました。
102 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:11:58.45 ID:sIb+lDG8O

「まあ、お互いさまということで水に流そう。頭を上げてくれ、西住。・・・ところで、何か用か?」

「はい。会長がどこにいるかご存知ですか?」

「会長? 会長なら・・・」

「西住さん、会長なら生徒会室でお仕事してるよ」

「・・・そうですか」

「会長に何か用があるの?」

「・・・ええ。少し」

「会長はお忙しいんだから、手短に頼むぞ。・・・それにしても会長、わたしたちも手伝うと言ったのに・・・」

「しょうがないよ桃ちゃん。会長にしかできないお仕事なんだし。さ、せっかく先に帰っていいって言われたんだから、一緒に帰ろ」

「桃ちゃんと呼ぶなあ! それじゃあ西住、また明日な」

「準決勝はありがとう。またよろしくね」

「はい、・・・それでは」


わたしは、生徒会室へ向かいました。

わたしのトラウマの場所。

そして。

明日からは、そこは。
103 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:12:40.22 ID:sIb+lDG8O

扉をノックすると、どうぞ〜という間延びした声が返ってきました。

「・・・失礼します」

扉を開けると。

「あれ!? 西住ちゃん? どしたの突然」

会長は、幾分驚いたように見えました。

・・・当然か。

だって、わたしは、会長と出会ったあの日から。

戦車道でやむを得ないとき以外、口を利くこともなければ目も合わせたこともなかったんだから。


・・・準決勝前のあの日を除いて、だけど。
104 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:13:33.31 ID:sIb+lDG8O

「すみません、お仕事中」

「うんにゃ、大丈夫だよ〜」

会長の顔を見ると、若干引きつっています。

どうやら、かなり緊張しているようでした。

「なんのお仕事ですか?」

「補正予算の承認。戦車の補強のためにいろいろ予算を組まないとだから、サインだけでもかなりの量になっちゃうんだよね」

飄々とそう言ってのけた会長の言葉からは、緊張など微塵も感じられません。

思っていることを全く言葉に出さないあたりは、さすがに生徒会長なんだなって思いました。


・・・そんな余裕も、いつまで続くのかはわからないけど。
105 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:14:28.26 ID:sIb+lDG8O

「んで、西住ちゃんはどうしたの? 珍しいじゃん、自分からここに来るなんて」

「実は、会長にどうしてもお聞きしたいことがあったんです」

「んー? なになに、何でも聞いていいよ」

会長が書類に目を落としました。

・・・いや、違う。


わたしの目を、見れないんだ。

どんな質問が飛んでくるのか。

一体、何を言われるのか。

それを考えるのが、どうしようもなく怖いから。
106 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:15:10.52 ID:sIb+lDG8O

「会長・・・」

呼びかけてから、一呼吸おいて。


「どうして、廃校のこと、黙っていたんですか?」


そう尋ねると、会長は少し表情を曇らせて。

「・・・ごめんね」

と一言呟きました。


「ほんとはさ、こないだ西住ちゃんをここに呼んだときに話しちゃうつもりだったんだよね」

「だけど、言えなかった」

「あたしは、西住ちゃんがやりたくないって言ったことを、無理やりやらせてきたから。・・・犯罪スレスレのことをやってでもね」

「そんなことをしておいて、その上にそんな大変なことを背負わせることは、どうしてもできなかったんだよね」

「だから・・・、内緒にしちゃった。・・・本当に、ごめん」

そう言って、会長は、書類を置いて。

こちらへ向かって頭を下げました。

・・・それを見たわたしは。
107 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:16:12.69 ID:sIb+lDG8O

「・・・っ!」

会長が怯えた表情を見せました。

謝ったのに、どうして。

そんなことでも考えているのでしょう。

わたしは会長の謝罪に対して、会長が使用中の机を思いっきり叩くことで返答したのですから。

わたしは、自分の胸がずきずきと痛むのを感じましたが、無理やりそれを握りつぶしました。

きちんと謝った? わたしのためを思ってくれていた?

そんなことは、どうでもいいんです。


だってわたしは、そんなことを聞くためにここに来たんじゃない。

会長へ復讐をするために、ここに来たんだから。
108 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:18:52.94 ID:sIb+lDG8O

「いたっ・・・! 痛いって、西住ちゃん!」

わたしは、無言で会長の髪の毛を掴みました。

会長は、泣きそうになりながらわたしの手をほどこうとしています。

「会長・・・」

「に、西住ちゃん、いたい。い、いたい、よ。ごめん、本当に。今までのこと、ぜんぶ謝るから・・・」

「もう、そんなことどうでもいいんです」

「・・・え?」


会長は一瞬だけきょとんとした表情を浮かべた後。

なぜか、すぐに苦悶の表情を浮かべました。

「うぐっ・・・」

わたしの拳が、会長の細いお腹にめり込んでいたことが原因でしょうか?
109 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:19:53.99 ID:sIb+lDG8O

「会長のお腹、柔らかいんですね。・・・駄目ですよ? 干し芋ばかり食べて。たまには運動しないと」

「どう、じて・・・西住ちゃん」

「・・・はい?」

「どうして、げほっ、こんな。こんな、ことを・・・」

どうして、か。

・・・。


どうして、これだけのことをしてるのに、大声も出さないし逃げ出しもしないんだろう。

・・・ひょっとして、わたしに負い目があるからなのかな。

それとも、決勝がまだ残ってるから、騒ぎを起こせないのかな。

それとも・・・。

・・・。

まあいっか。


どちらにせよ、その心意気はあっぱれです。

そう思ったわたしは。

全て、打ち明けることに決めました。
110 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:21:20.79 ID:sIb+lDG8O

「正直に話しますね。わたし、会長のこと大嫌いだったんです」

「う・・・」

「だって、あれだけやりたくないって言ったのに、わたしに無理やり戦車道をさせて」

「・・・ごめん」

「会長は知らないでしょうけど、わたし、あまりに苦痛で何回も吐いたんですよ?」

「・・・」

「で、ずっと生徒会の皆さんのことを無視してました。本当に嫌いだったから。[ピーーー]ばいいのに、って何度思ったか」

「・・・それで、あたしを殴ったの?」

「違います。話は最後まで聞いてください」

「・・・」

「そう思ってずっと過ごしてたんですけど、この間呼び出されたときに変な気持ちになったんです」

「へんな、きもち?」

「はい。胸が苦しいような、なんというか・・・変な気持ちです。そのときは、それだけでした」

「その後、準決勝の時、会長のお話を聞いて。会長に対する憎しみがピークになったんです」


「会長が、色んなことを正直に話してくれさえいれば、わたしはこんな嫌な奴にならずに済んだんじゃないか・・・って」


「わたしたちの出会いの形が違っていれば、もっと違った未来があったはずなのに・・・って」
111 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:22:13.44 ID:sIb+lDG8O

「・・・西住ちゃん」

「そう思うと、会長に仕返しをしたくてたまらなくなってきました」

「・・・ごめん」

「その直前に、わたし、河嶋先輩のこと叩いちゃいましたよね。だから、会長にも同じことしてやろうと思ったんです。・・・でも」

「でも?」

「その・・・。会長、これ誰にも言わないでくださいね」

わたしは、会長の目をじっと見つめました。


・・・言わないで、か。

こんな風に暴力をふるっておいて、本当に今更、だけどね。

「・・・言わないし、言えないよ。きっと」

会長は、怯えた表情を隠しもせず、そう答えました。

「ありがとうございます。えっと・・・その。わたし」


そこまで話して、わたしはゆっくり深呼吸しました。

これ、話すの恥ずかしいな・・・。

でももう、言っちゃえ。


「すごく、興奮しちゃったんです。会長に、痛いことすることに」
112 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:23:03.90 ID:sIb+lDG8O

「・・・え?」

「興奮というか・・・、その。会長に痛い思いをさせることを想像したら・・・。下着が、びちょびちょになっちゃって」

「・・・えっと、に、西住ちゃん?」

「この意味・・・、わかりますよね?」

「・・・ぁ」


会長が、いよいよ怯えた顔になりました。

このままでは大声を出されてしまう。

そう思ったわたしは。


「・・・んむ!?」

会長の口を、わたしの口でふさぐことにしました。

突然のわたしの行動に、会長は顔を真っ赤にして茫然としていましたが、やがてじたばたと暴れ始めました。
113 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:24:36.78 ID:sIb+lDG8O

「んうー!!」

「ん・・・、ぷは。会長、静かにしてください」

そして、わたしは会長のお腹をまた殴りました。

「うぐ・・・」

「それに会長、ここに人が来たらまずいと思いますよ」

思わず、くすくすと笑いが漏れてしまいました。


「きっとわたしは退学。そうなると、大洗の廃校を誰が止めるんですか?」


わたしの言葉を聞いて、会長は一瞬目を見開きましたが。

すぐに、あきらめたように下を向きました。


「会長、いい子です。もう大声、出しませんよね?」

わたしはそう言って、会長の髪を撫でました。

すると。


「西住ちゃん・・・、やめよう。今ならまだ、あたしもなかったことにしてあげるから」

何やら生意気なことを言って来ました。

まだ自分の立場が分かっていないようなので、またお腹を殴ると、少し呻いて静かになりました。
114 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:26:17.61 ID:sIb+lDG8O

「うーん、お腹ばかり殴ってもかわいそうですし・・・。こんなのはどうでしょう?」

わたしは、会長のスカートの下に手を潜り込ませました。

「げほっ・・・。・・・え? に、西住ちゃん、なにを・・・っ」

「何をって、決まってるじゃないですか」


会長の下着をゆっくりとさわり、そしてその中に手を潜らせました。

さらさらと、産毛のような会長の毛がわたしの手に触れます。

指先からの刺激は、わたしの官能を強くくすぐりました。

「あ・・・! やっ、やめて・・・。西住ちゃん、なんでもするからそれだけは」

「えいっ」


ぐちゅり。という感触が、わたしの指に伝わりました。
115 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:27:50.53 ID:sIb+lDG8O


「いったぁああっっ・・・!!!」


会長の中に、二本の指を突っ込んだのです。

「いたい・・・。いたいよぉ・・・」

会長は、ぐすぐすと泣きべそをかき始めました。

指先に、ぬるぬるした感触が加わります。

一瞬、会長も喜んでいるのかと思いましたが、感触から察するに、血液の様でした。

・・・つまんないの。


「あれ? 会長、はじめてだったんですか?」

「うう・・・、と、当然、じゃん・・・」

「まあ、そうですよね。ここ、女子高ですし。・・・見てください、ほら」

わたしは、会長の中から指を抜いて。

血まみれになったそれを、会長の顔の前に持っていきました。


「会長の初めて、いただいちゃいました」
116 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:31:50.11 ID:sIb+lDG8O

会長は顔をかっと真っ赤にさせ、自分の手で顔を覆いました。

「ひど、い・・・。ひどいよ、にしずみ、ちゃん・・・」

「それじゃあ、また入れますね。今度は・・・三本、行ってみましょうか」

「え!? も、ゆるして」

「ぐちゅぐちゅ作戦です♪」


「いっだぁあああ!!」

ぬるりという感触を伴って、わたしの指は再び会長の中へ入っていきました。

全く濡れていなかった先ほどと異なり、潤滑油を得た会長の膣は、幾分スムーズにわたしの指を咥えこみました。


「ああああっ!! ぐぅっ・・・」

会長の苦痛の方は、どうなってるのか知らないけど。
117 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:32:57.36 ID:sIb+lDG8O

「ぐちゅぐちゅ作戦かあ・・・。ふふっ。わたし、こんな感じで楽しい作戦名を考えながら戦車道やりたかったなあ」

指先をぐいぐいと広げると、会長はさらに苦悶の表情を浮かべました。

「いだい・・・、いたいぃ! 抜いて、抜いてよぉっ!」

「ほら。我慢して声を押さえないと。人が来たら、廃校になっちゃいますよ?」


「いた・・・い。いたいよ。こやま、かわしまぁ・・・」

小山先輩と河嶋先輩。

会長が、おそらく最も信頼しているであろう相手。

・・・当然、わたし以上に。


なんだか腹が立ったわたしは、さらに指の動きを激しくしました。

「いづっっ・・・・!! ああ・・・っ、ぐぅっ・・・・」

「わたしとエッチなことしてる時に、他の女の名前を出さないでください。エッチの時の常識ですよ?」
118 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:33:48.69 ID:sIb+lDG8O

「うぐ・・・、わかった、わかったからぁ・・・っ、はやっくぬいて・・・っえ」

「ふぅ・・・、わかりました。会長の初めても奪いましたし」

わたしは、会長の中から指を抜きました。

「はあ・・・っ、はあ・・・・」

会長が、真っ赤な顔をして荒い息をしていました。


・・・会長の顔、これ以上赤くってなるのかな。

そう思ったわたしは。


「ぐっ・・・!!」

会長の首を思いっきり絞めてみました。
119 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:35:01.89 ID:sIb+lDG8O

「かっ・・・! くくっ・・・!!」

会長が、大きく目を見開いてわたしの腕をがりがりと引っかきます。

腕が痛かったので、手を離すことにしました。


「がはあっ!! げほっ、げほげほ! はぁ、はあ・・・」

苦悶の表情を浮かべる会長。

「・・・可愛い」

太ももに、何かが伝る感触がありました。

触ってみると、ねばねばした透明な液体でした。

それを会長の目の前に持っていきます。

「見てください。今の会長を見て、わたし・・・。こんなに濡れちゃいました」

「はあ、はあ・・・。げほ、ごほっ! っぐ、はぁ、はあ・・・」

「会長・・・、わたし、気づいたんです。わたし・・・会長のことが、世界一嫌いで、世界一好きだって」

「はあ、はあ・・・。にし、ずみちゃん・・・」

「だから、会長・・・」

わたしは、上に着ているものを脱ぎ、ブラジャーを外しました。


「今から、わたしも気持ちよくなります。会長も、手伝ってくださいね?」

わたしがにっこりと笑いかけると、会長は一瞬だけ絶望したような表情を浮かべましたが。

「もう・・・、好きにしてよ」

そう言って、力ない笑みを浮かべました。
120 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:35:59.17 ID:sIb+lDG8O

その後、わたしは会長を激しく犯しました。

時には髪を引っ張り、時には体を殴打し。そして、時にはやさしく抱きしめて。

会長は、わたしのそんな行為を、たまにうめき声をあげるものの、甘んじて受け入れていました。

閉じた瞳に、うっすらと涙を浮かべながら。


わたしは会長の顔の上にまたがったり、会長のと自分のを擦り合わせたりして、何度も果てました。

会長も、行為の最中に嬌声をあげることもありましたから、おそらく気持ちよかったのだろうと思います。

悲鳴を上げている時間の方が、長かったかもしれないけど。


わたしがすっかり満足したころには、会長は血液やら他の体液やらでどろどろのカピカピになっていました。
121 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:36:47.65 ID:sIb+lDG8O

「はあ、はあ・・・。っぐぅ、はぁ・・・・」

「ふぅ・・・。そうだ会長、お風呂行きませんか?」

「おふ、ろ・・・?」

「ええ。会長もわたしも、汚れちゃいましたから。生徒会専用のお風呂があるんですよね?」

前に、誰かがそんなことを言ってたような気がします。

「わか、ったよ。・・・ほら、そこから行けるから」

「会長も一緒に入りましょうね。さあ、行きましょう」

「・・・うん」


その後は、会長の体を洗ってあげて。

何度も、何度も。会長と、その体のあざにキスをしました。

わたしがつけたあざ一つ一つが、いとおしく思えて。

わたしがあざにキスをするたびに、傷が痛むのか、会長は小さな声をあげました。

会長は、わたしとお風呂に入っている間、ぎこちない笑みを浮かべていました。

・・・目だけは、どこか遠いところを見ているようでしたが。
122 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:38:00.24 ID:sIb+lDG8O


「会長」

お風呂の後、会長の髪をとかしながら、わたしは会長に話しかけました。


「・・・どしたの、西住ちゃん」

「今日は、すみませんでした。・・・痛かったですよね」

さっき会長につけたあざを、指先でなぞると。会長は、びくり、と体を震わせました。

「いや・・・、うん。まあ、痛かったけど、さ。わ、わわ、悪いのは、あたしだから」

声を震わせながら、会長はそう言いました。

なんだかそんな会長がとてもいとおしく思えて、わたしは会長を後ろから抱きしめました。


「・・・西住ちゃん」

「会長は、優しいんですね」
123 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:39:15.39 ID:sIb+lDG8O

「そんなこと・・・、ないよ」

そんなことないわけがありません。

だって。


「じゃあ、もうちょっとだけ会長のやさしさに甘えちゃおうかな・・・」

「・・・え?」


「これからも、今日みたいによろしくお願いしますね、会長!」

こうやって、わたしがつけ込めるぐらい、会長は優しいんですから!


「明日も、明後日も、その次も・・・。えへへ、なんだかわくわくしますね!」

会長が、肩をぶるぶると震わせ始めました。

不思議に思ったわたしが、会長の顔を覗き込むと。

会長は、大粒の涙をぼろぼろとこぼしていました。


「会長・・・?」

「う、うん・・・。よろ、しくね。西住、ちゃん」

会長は、こぼれてくる涙をぬぐおうともせず。

無理やり笑顔を作って、わたしにそう言いました。


じわり。と。

嫌な感触が頭に広がりました。


ああ。もうわたしは。


後に引くことは、できない・・・。
124 :らぐB ◆asJU3gh8ZA :2018/06/06(水) 19:42:32.50 ID:sIb+lDG8O
以上になります。
会長の文字がゲシュタルト崩壊してきました。

ついにミホーシャに襲われてしまった会長。
その運命やいかに!?

あ、ちなみにサンダース戦ではケイが無線傍受に気付く前にアリサがとっととボコられたって設定になっています。
ケイ隊長はこんなどうしようもない世界でもフェアプレーを重んじる名将なのです。

それでは、また。
恐らく次回が最後になるかと思われます。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 21:20:38.81 ID:VjGXyJOH0
乙です
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/07(木) 02:40:40.79 ID:DZpq+3++o

いいね👍
127 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:08:37.69 ID:5UbfVgriO
おはようございます。

ガルパンってすんげー面白いですね。
見直すと改めて思います。

では、投下します
128 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:11:06.70 ID:5UbfVgriO

そして、次の日も、また次の日も。

わたしは、会長を犯し続けました。

会長もまた、わたしが来るのを見越して、河嶋先輩と小山先輩を先に帰らせるようになりました。

会長は毎回苦痛に顔を歪ませ、涙を流しながら、しかし決して拒むことはしませんでした。

河嶋先輩と小山先輩を帰らせなければ済む話なのに。

たったそれだけで、わたしは会長に手出しできなくなるのに。


・・・もっとも、その二人はとっくにわたしの行為に気付いているようでしたが。
129 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:12:29.31 ID:5UbfVgriO

戦車道の時、いつも河嶋先輩に睨まれるようになりました。

何度も小山先輩から呼び出されそうになりました。

だけど、その度に会長は彼女を咎めて。結局、一度も呼び出しに応じる必要はありませんでした。

呼び出しに応じたら、何をされてしまうんだろう。

そう思うと背筋が寒くなってしまうほど、小山先輩の瞳は冷たいものでした。


悪魔。

小山先輩の唇は、わたしに向かって、幾度となく、その言葉を投げつけました。

音を伴わない、唇の動きだけの言葉として、何度も。

悪魔、か。

・・・。

あの日、あなたたちがわたしにした行為こそが、悪魔の所業だったと思いますよ?

だって、あのときからずっと。

憎しみと悲しみと、苦しみの連鎖が、続いているんだから。
130 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:14:11.72 ID:5UbfVgriO

だんだんとわたしたちの行為はエスカレートし、最近では戦車道の練習まで早く切り上げて行為にふけるようになっていました。

会長の机を見ると、日に日に詰まれた書類が増えています。

仕事が進んでいないのは、明白でした。

戦車の補強のための、予算を組んでいる。

会長はそう言っていました。

だけど結局、補強というのはポルシェティーガーが追加されただけ。

そもそもが失敗兵器ですから、足回りは不安が多く、走るかどうかもわかりません。

戦力的に、黒森峰の足元にも及ばないことは誰もが悟っていました。

・・・会長の仕事が予定通りに進んでいれば、もっと補強できたかもしれないけれど。
131 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:14:54.88 ID:5UbfVgriO

ですが、わたしはなんだかどうでもよくなっていました。

プラウダ戦で、会長が廃校のことを打ち明けた時。

わたしが一瞬だけ心に思い描いた、ひょっとするとありえたかもしれない幸せな時間。

みんなと、笑って戦車道をやっているような、そんな未来。

だけど。もうその時間は絶対にやってこない。


だってわたしは、もう。

取り返しのつかない道を歩んでしまったんだから。
132 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:15:29.05 ID:5UbfVgriO

毎日、毎日、毎日。

会長が泣いても。先輩に睨まれても。わたしは会長のもとへ向かいます。


会長を犯している時だけは、戦車のことを考えなくて済むから。

会長に痛いことをしている時だけは、嫌な過去を振り払えるから。

会長と気持ちいいことをしている時だけは、あったかもしれない未来を羨むことがないから。


狂ってる。

最初から、そう思っていました。

だけど、今となってはもう。

わたしの心を満たしてくれるのは、会長との時間だけでした。
133 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:16:29.78 ID:5UbfVgriO

迎えた、決勝戦当日。

わたしが戦車の整備をしていると、アンチョビさんがやってきました。

「おー、西住! 元気・・・か?」

笑顔で手を振りながらやってきたアンチョビさんでしたが、わたしの顔を見ると少し表情を曇らせました。

「はい、元気です。アンチョビさん、来ていただいてありがとうございます」

「う、うん・・・。そ、それよりだな。どうだ? 決勝戦への意気込みは」

勝てるわけ、ないじゃないですか。


その言葉を、ぐっと飲みこみました。
134 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:18:27.31 ID:5UbfVgriO

「あとは、今までやってきたことをやるだけです」

「そうかそうか! うん、アンツィオのノリと勢いを分けてやる!! これで百人力だ!」

アンチョビさんは、わたしの手を掴んでぶんぶんと上下に振りました。

「あはは・・・、ありがとうございます」

久しぶりに、こういう人に会ったなあ。

みんな、最近は死んだような目をしてるから。


あ。

一番、目が死んでいるのはわたしだっけ。
135 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:19:43.10 ID:5UbfVgriO

「じゃあわたしはこれで。健闘を祈るぞ! アリーヴェデルチ!」

アンチョビさんは、そう言い残して去っていきました。


・・・いい人。

明るくて、美人で、人望もあって。

・・・今日は、副隊長二人はいないみたいだけど。


ああ。もしもわたしがこんな隊長だったなら。


そう思うと、息が苦しくなってきました。

過呼吸。

何度もその発作を経験してきたわたしは、もはやその対処にも慣れていました。

大丈夫。呼吸を止めればいいだけだから。

しばらく呼吸を止めると、なんとか発作は収まりました。

その後、黒森峰にいたときに大量に処方してもらった抗不安薬を、戦車の陰で飲み下しました。
136 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:21:51.63 ID:5UbfVgriO

「それではこれより、大洗女子学園対黒森峰女学園の試合を開始する。隊長副隊長、前へ!」

審判の方々に促され、わたしは河嶋先輩とともにお姉ちゃんと逸見さんの前に対峙しました。

「弱小校だと、あなたでも隊長になれるのね」

逸見さんが言いました。

・・・去年は一兵卒だったくせに。

たとえわたしが黒森峰に残っていたとしても、お姉ちゃんの後はきっとわたしが隊長だったと思うんだけど。

そんな言葉をぐっと飲みこんで、お姉ちゃんのほうを見つめると、お姉ちゃんはなんだか寂しそうな目をしてこちらを見ていました。


「それでは、礼!」

「「よろしくお願いします」」

礼を交わして、戻ろうとすると。

逸見さんが再びわたしに声をかけてきました。
137 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:22:49.25 ID:5UbfVgriO



「あ、そうそう・・・。あんたが助けた赤星小梅だけどね」
138 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:24:19.74 ID:5UbfVgriO


「え・・・?」


どくり。と心臓が脈打ちました。

赤星さんが、どうしたんだろう。

「・・・エリカ、よせ」

「逸見さん、赤星さんがどうしたの?」

わたしが思わず詰め寄ると、逸見さんは、少しだけ何かを躊躇するように唇を噛んでましたが、次の瞬間。

「よせ!! エリカ!!」

お姉ちゃんの制止も聞かず。

吐き捨てるように。



「死んだわ」



そう、言い放ちました。
139 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:26:17.37 ID:5UbfVgriO

「エリカ!!」

お姉ちゃんが、逸見さんをすさまじい形相で睨みつけました。

普段の逸見さんなら、間違いなく黙るのに。

借りてきた猫みたいに大人しくなるはずなのに。

今の逸見さんは、わたしのことを睨みつけたままでした。


「どう、いう・・・、事なの?」

「どうもこうもないわ。あなたがいなくなった後、あの子は死んだ。・・・自室で首をつってね」

逸見さんの目に、涙が溜まり始めました。


「あなたが大洗に逃げたあと! 小梅は死んだのよ! あなたがぬくぬくと隊長ごっこをしている間にね!!」


逸見さんは、あふれる涙を隠そうともせず。

むき出しの感情をわたしにぶつけてきました。


「どうして逃げたりしたのよ!! あなたが逃げなければ、批判の矛先があの子に向くことはなかった!!」
140 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:26:45.21 ID:5UbfVgriO



「あなたがあの子を・・・っ、殺したのよ!! この、人殺し!!」
141 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:27:33.84 ID:5UbfVgriO

「エリカ!!」

お姉ちゃんが、悲鳴のような声を上げました。


「それ以上・・・、やめろ」

「頼むから、やめてくれ・・・」

お姉ちゃんは、拳をぶるぶると震わせていました。


「嘘・・・、だよね・・・?」

わたしは、そう喉から絞り出すのがやっとでした。

嘘じゃないのなんて、火を見るより明らかなのに。

お姉ちゃんの顔を見れば、すぐにわかるのに。


「・・・信じないっていうなら、それでもいいわ」

逸見さんは、そう言って私に背を向けました。

「あなたにこの試合で思い知らせてあげる。あの子がどれだけつらかったか。・・・あなたを叩きのめして、少しでも味わわせてやるわ」

そんな言葉を、捨て台詞にして。

お姉ちゃんは、しばらく下を向いて歯を食いしばっていましたが。

「・・・守ってやれなくて、すまなかった」

そう言い残して、わたしの前から去っていきました。


残されたわたしは、呆然と立ち尽くしていました。
142 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:28:17.89 ID:5UbfVgriO

「西住・・・」

横にいた河嶋先輩が何事か声をかけてきましたが、全く耳に入ってきません。

Aチームのみんなは、無言でした。

秋山さんだけが何かを言おうとしていましたが、冷泉さんに制止されていました。


赤星さんが、死んだ。

わたしのせいで、死んだ。

その事実は、わたしの心を折るのに十分すぎるほどの威力を持っていました。
143 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:29:04.03 ID:5UbfVgriO


「大洗女子学園フラッグ車、走行不能。よって、黒森峰女学園の、勝利!!」


どこか遠くで、そんなアナウンスが流れていました。

森を突っ切った電撃戦。

アルデンヌの森を越えてきたドイツ軍によってマジノ要塞を蹂躙されたフランス軍のように、わたしたちはなすすべもなく敗れました。

わたしが覚えているのは、逸見さんの乗るティーガーUの砲塔がこちらを指向したことだけ。

次の瞬間、W号から白旗が上がっていたような気がします。

わたしは、もはや何も考えられませんでした。
144 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:30:08.27 ID:5UbfVgriO

「・・・西住隊長は、悪くない」

エルヴィンさんが、そう言いました。


一年生たちが、泣いています。

澤さんが、それを叱っています。自身も、涙を流しながら。


河嶋先輩と小山先輩が、呆然としています。


そど子さんたちが、何やら喚いています。


そんなことが、どこか遠いところで起こっているような気がしました。


ですが、非情にも、それは現実以外の何物でもありませんでした。

小梅さんが、死んだのも。

わたしたちが、黒森峰に負けたのも。

大洗女子学園が、廃校になるのも。

紛れもない、現実。


ですが。

誰も、わたしを責めませんでした。

もはや、責めてすらくれませんでした。
145 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:31:34.63 ID:5UbfVgriO


「・・・みほ」


お姉ちゃんがやってきました。

わたしは、顔だけそちらに向けました。

「その・・・、試合前に、あんなことを言って、すまなかった」

そう言って、頭を下げています。

「だが、・・・無理なことだろうが、エリカを許してやってほしい。お前がいなくなった後、小梅の一番近くにいたのは、エリカだったんだ・・・」

お姉ちゃんは、袖で目元をぬぐい、そして再びわたしを見つめました。


「それから・・・。お母さまが、みほは勘当する、と言っていた。」


「わたしはお母さまを説得しようとしたが・・・、できなかった。・・・本当に、本当に、すまない」

勘当。

いつか言われるだろうと思っていたその言葉は、しかし、すんなりとわたしの耳をすり抜けました。

「本当に、重ね重ね・・・。わたしが無力で、すまない・・・」

お姉ちゃんは、深く頭を下げました。

いつまでも、頭を下げたままでした。

わたしが、回収車に乗り込んだあとも。

黒森峰の人たちが、ほとんど見えなくなるほどに小さくなっても。

いつまでも、いつまでも・・・、

頭を上げることは、ありませんでした。
146 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:33:03.39 ID:5UbfVgriO

学園艦に戻ると、あわただしい空気が流れていました。

・・・当然か。

この学園艦に乗船している約3万人の人たちが、3月までに引っ越しを済ませなければならないんだから。


それが、わたしがこの学校に来た結果なんだから。


河嶋先輩が、涙をボロボロとこぼしながら、戦車道チームの解散を宣言しました。

名残惜しそうに戦車を眺めていた一同でしたが、やがて散り散りに解散を始めました。

「みぽりん、一緒に帰ろう?」

沙織さんから、そう声をかけられました。

だけどわたしは。


「ごめんなさい。今日は、一人で帰るね。みんな、お疲れ様でした」

と言って、家と反対方向へ歩いていきました。


わたしがなにをしようとしているか、Aチームのみんななら分かっていたのかもしれません。

ですが、それを咎める人は、もはや誰もいませんでした。
147 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:35:22.38 ID:5UbfVgriO

わたしは、学園艦の最後尾に立っていました。

船が進んだ後が、白く泡立っています。

学園艦はとても大きいですから、その泡のスケールもとても大きなものでした。

だけど、どんな大きな泡も、しばらくすると弾けて消えてしまうのでした。


ああ。やっと。

わたしも、あの泡のように・・・。


そう思って、学園艦の端に足をかけた瞬間。
148 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:35:49.20 ID:5UbfVgriO


「待ってよ、西住ちゃん」


聞き覚えのある声が、わたしを呼び止めました。
149 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:36:27.03 ID:5UbfVgriO

わたしがこの世で一番嫌いで。

わたしがこの世で一番好きな人。

振り返ると、会長が息を切らしながら立っていました。

「会長・・・」

どうしたんですか。

わたしがそう問いかける前に、会長はその問いに答えました。


「あたしも、連れてってよ」


「・・・え?」

「死ぬ気なんでしょ? そこから、飛び降りて」

・・・はは、やっぱり。

わたしはこの女、大嫌いです。

だって・・・。


わたしの全てを見透かしているんだもん。
150 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:37:25.79 ID:5UbfVgriO

「はい。責任を部下に押し付けて逃げた後、無抵抗の生徒会長を連日レイプし続けて、あげく学校を廃校に追い込む屑に生きる場所はありませんから」

「だったら、あたしも一緒に死ぬよ。だって、西住ちゃんを戦車道に引きずり込んだのはあたしなんだから」

「そのことなら、もういいです。・・・だって、もうそんなのと比べ物にならないくらいひどいことを、わたしは」

「うーん・・・、わかってないなあ。西住ちゃんは」

会長は、そういうと、頭をかきながらわたしの方に近づいてきて。


わたしを船の端の柵に押し付けました。


このまま落とされて殺される。

そう思ったわたしでしたが。


次の瞬間、会長の唇がわたしの唇に重ねられていました。
151 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:38:44.95 ID:5UbfVgriO

「ん・・・」

「・・・ぷは」

「つまりさ、あたしも同じなんだよね」


あたしも、西住ちゃんのことが好き。

そう言ってくれると期待してしまいました。

だって、もしこの人からそんな優しい言葉がかけられるのならば。

大嫌いだけど、大好きな人から、そんなことを言ってもらえるのならば。

ここで死ぬことをあきらめて。

この人と一緒に歩んでいくのもいいかもしれない。

そんな風に思ってしまったから。
152 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:39:40.72 ID:5UbfVgriO


しかし。



会長は、わたしの首を思いっきり絞め上げたのです。
153 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:40:48.78 ID:5UbfVgriO

「ぐっ・・・・・・!」

何が起こっているのかもわからないままに視界がかすみ始めたころ、会長はわたしを開放しました。

「あはは、なんて顔してんの、西住ちゃん」

「げほっ、げほ、がほっ!!」

「あーあ、そんなに咳き込んじゃって・・・。だから言ったじゃん、あたしも西住ちゃんと一緒だって」

そう言って、会長は。

まだ咳が止まってないわたしの顔を掴み、再び唇を重ねてきました。


「ちゅ・・・、んむぅ・・・」


時間にして五分ほどだったでしょうか。

散々舌でわたしの口の中を蹂躙した後、会長はようやくわたしから顔を離して言いました。
154 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:41:24.38 ID:5UbfVgriO


「わたしも西住ちゃんと同じ気持ちだよ」


「西住ちゃんのこと、殺したいぐらい憎いし・・・。殺してほしいほど、愛してる」


そういって笑った会長の顔はひどく蠱惑的で。

わたしは、強く官能を刺激されるとともに。

ああ、本当にわたしの命はここまでなんだなあ、と。

諦観。悟り。恐怖。

そうした感情が、巻き起こりました。


「・・・ふふっ、じゃあ、仕方ありませんね」

「ああ!」
155 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:42:14.73 ID:5UbfVgriO


「じゃあ、行きましょうか」


「うん・・・。その前に、西住ちゃん」


「どうしました、会長?」


「もう一回・・・んむっ・・・・」


「んちゅ・・・。しょうがありませんね、会長は」


「まあ、これが本当に人生で最後なんだから。ちょっとぐらいわがまま言わせてよ」



「会長、震えてますね」


「まあね。死ぬのって、初めてだし」


「えへへ。奇遇ですね。わたしもです」


「・・・じゃあ、西住ちゃん。ここに足をかけて」


「はい。・・・よし、せーので飛びましょう」


「うん。・・・いくよ。せーのっ!」





156 :らぐB ◆asJU3gh8ZA [saga]:2018/06/07(木) 23:49:49.56 ID:5UbfVgriO
以上になります。

改めて見るとめちゃくちゃ長いですね。
ここまでお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました。

どうせ鬱にするなら思いっきり鬱にしてやれと思って小梅にはご退場願ったのですが、なにもそこまでしなくてもよかったかなあと思います。

あと、最後の描写は、皆さんにご想像の中で補完してもらいたいと思い、曖昧にしてあります。
果たして本当に杏はみほと心中することを選んだのでしょうか?
それとも・・・。

あと、ここまでやらせといてなんですが、このみほは本当は杏のことなんて好きでもなんでもないんじゃないかと思います。
もちろん逆も然りですね。
これ書き上げたのが4月の頭とかなんで、色々と筆者の中でも考察が進んでしまいました。

みなさんも暇なら是非色々考えてみてください。
きっと忙しいので考えない人が大半だと思いますが。

それでは、また。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/07(木) 23:50:16.31 ID:yCZN8RMwO

残った面々がどうなったか後日談的なものが欲しいかな
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/08(金) 02:49:05.93 ID:Hfn7We2Q0

昔ラノベ読んでた頃を思い出したわ
ビターなのも良いね
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/08(金) 04:18:42.78 ID:xuGv9qNQo

小梅ちゃんには悪いけど中途半端なのは良くないしね仕方ないね
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