【リョナ注意】緑輝「歯形祭り。」葉月「はっ?」【響け!ユーフォニアム】

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1 :注意書き [saga sage]:2018/06/05(火) 21:33:01.24 ID:j7V3WS/C0
初SSです。
割と馬鹿な内容なのに原稿用紙約400枚分あります。
こんなに長くなるとは思わなかった。二度とSSは書かない。

因みに「リョナ」は「猟奇オナニー」の略です。
麗奈が久美子の首を切断して、その首でオナニーします。
生首ぐるぐるが嫌いな人は見ないで下さい。

猶、主なテーマは「反吸血鬼」です。
吸血鬼物が好きな人も見ないで下さい。
ともあれ、吸血鬼は滅ぶべきであると考える次第である。

逆に「Ever17」をリスペクト。
私が知る限り、叙述トリックに存在意義を与えてくれた唯一の作品です。
但しこのSSではブリックヴィンケルさんは助けてくれない。

難読漢字は本編終了後に纏めて読み方を載せます。
別に読めなくても困らないけど。
>>2以降本編。
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 21:49:09.79 ID:8rkLg5Evo
もうなんか期待しちゃうだろこれ
3 :001/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:02:01.29 ID:j7V3WS/C0
葉月 「……歯形?」


 やっぱりその発音は、葉月ちゃんにも「はがた」と聴こえた様だった。


久美子「ミドリちゃん、滑舌悪いよ。それ『あがた』じゃなくて『はがた』に聴こえる。」


緑輝 「いえ、『はがた』でいいんです。」


 ミドリちゃんは微笑みながらそう言うと、周りに人が居ないか確認する様に、首を動かす。
 なにをしているのか、と思いながら見ていると、直ぐ様、視線が戻ってくる。


緑輝 「ふふっ。実はですね……今日は、好きな人を噛んじゃっていいんです。……ほら、私も噛んで貰いました。」


 そう言いながら、ミドリちゃんが浴衣をめくる。肩の部分に、なにやら、黒っぽい線が二本あった。


葉月 「それって……。」


 私達は、さらけ出された部分をじっと見詰めた。


久美子「……あっ。」


葉月 「……あ。」


 歯の痕だった。
 確かにそれは、人間の歯形の様だった。
4 :002/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:04:01.61 ID:j7V3WS/C0
葉月 「ねえ、これどーしたの?」


 葉月ちゃんが心配そうに訊くが、ミドリちゃんは至って楽しそうだった。


緑輝 「ふふふ、これですかあ? 吸血鬼の御姉様に噛んで貰いましたー。」


久美子・葉月「吸血鬼の御姉様?」


緑輝 「はい! ミドリ、吸血鬼になっちゃいましたー。……あはは♪」


 ミドリちゃんは、無邪気に笑う。
 私には、その、何時になく無邪気な笑顔が、却って事の深刻さを物語っている様に思えた。


緑輝 「という訳で、久美子ちゃん。」


 そう言って、ミドリちゃんが、私に抱き付く。


久美子「え、なに?」


 左肩に違和感。


緑輝 「いっただっきまー――」
5 :003/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:05:01.27 ID:j7V3WS/C0
葉月 「うわ!」


 人影。
 急に、ミドリちゃんの小さな体が力を失い、倒れ掛かって来る。


久美子「おっと。」


 思わず抱き締めた。


葉月 「え?」


久美子「え? あ……。」


 ミドリちゃんの背後に立っていたのは、高坂さんだった。


麗奈 「久美子、大丈夫?」


久美子「うん……。」


葉月 「高坂さん?」


 その彼女は、私達の存在を無視するかの様に、なにかをもぞもぞと遣り始めた。珍しくポニーテールで、白いワンピースに黒いショルダーバッグという出で立ちだった。
 作業は数秒で終わったらしい。こちらに向き直り、手を伸ばしてくる。
6 :004/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:05:51.27 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「さあ、その子を渡して。」


久美子「え? うん……。」


 言われるままミドリちゃんの体を高坂さんに預けると、なんと軽々と持ち上げてみせた。 ミドリちゃんの体は、ぐったりと動かない。
 高坂さんが体の向きを少し変える。


麗奈 「ふんっ、この泥棒猫。」


久美子「え?」


 次の瞬間、ミドリちゃんの体がふわりと浮き上がり――鈍い音と共に、蹴られて吹き飛んでいた。
 そのまま勢いに任せて地面を転がり、軈て止まる。


葉月 「み……緑っ!」


 地面に倒れているミドリちゃんに向かって、葉月ちゃんが駆け出す。


麗奈 「駄目っ!」


 高坂さんが、突如大声を上げた。私はびっくりして、思わず高坂さんの顔をじっと見詰める。


麗奈 「離れて!」


 高坂さんは、葉月ちゃんに向かって叫んでいる様だった。
7 :005/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:06:30.93 ID:j7V3WS/C0
葉月 「緑、確りして!」


 しかし、高坂さんの言葉は葉月ちゃんの耳には届いていなかった。葉月ちゃんは、俯せに倒れているミドリちゃんの脇に寄り添ったまま、離れない。ミドリちゃんの身を案じていた。


久美子「高坂さん、どうしてあんな事を……。」


麗奈 「久美子もあの子の心配? ……平気、この程度では死なないわ。それより、今の内に逃げましょう。」


久美子「逃げる?」


麗奈 「ええ。……直ぐに『ちゆ』するわ。」


久美子「ちゆ?」


 私が聞き返すと、高坂さんは黙って首を動かした。それは、ミドリちゃん達の居る方を見る様に、促している動きだった。
 目を遣る。
 倒れているミドリちゃんと、その側にしゃがんで様子を見ている葉月ちゃん。


葉月 「あ!」


 突然、葉月ちゃんが声を上げた。
 そのまま見ていると、ミドリちゃんの腕が大きく動く。


麗奈 「……ほら。」
8 :006/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:07:21.89 ID:j7V3WS/C0
緑輝 「ああん、酷いですう! こんな事するなんて……。」


 そう言いながら、ミドリちゃんが立ち上がる。


葉月 「良かったー。無事だったんだ。」


 葉月ちゃんも立ち上がる。


緑輝 「はい、ありがとうございます。葉月ちゃんはやっぱり優しいです。……大好き!」


 ミドリちゃんが、葉月ちゃんを抱き締める。


麗奈 「……さ、久美子、今の内。」


 高坂さんが、私の腕を掴む。


麗奈 「いきましょう。」


久美子「え、いくって――」


緑輝 「二人共、逃げるんですか?」


 その時、ミドリちゃんの冷たい声が辺りに響いた。
 ミドリちゃんに抱き締められたままの葉月ちゃんも、怪訝な表情でこちらを見ていた。
9 :007/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:08:01.91 ID:j7V3WS/C0
葉月 「高坂さん、そのまま行っちゃうの? 緑にあんな事しといて。」


緑輝 「そーですう。」


 その言葉を聞いた高坂さんは、少し笑みを浮かべてから、振り向いて声を上げた。


麗奈 「あら、それはどっちの事かしら? ……首の神経を切断した事? ……それとも、貴方の背中を蹴り飛ばした事?」


緑輝 「両方ですう!」


 ミドリちゃんが、葉月ちゃんを抱き締めたまま怒る。可愛い。怒っても可愛い。


麗奈 「でも、貴方は久美子を噛もうとした。……でしょ?」


緑輝 「はい。……噛みたかったですう!」


 ミドリちゃんが悔しがる。可愛い。


麗奈 「ふふっ、そうね。……じゃあ、交換条件。その子は上げるわ。好きに噛んでいいわよ。でも、久美子は渡さない。」


久美子(?)


 「交換条件」とやらに私の名前が出てきた。一体なんの話をしているのか。
10 :008/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:08:42.19 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「それで手を打ってくれない?」


緑輝 「うー……仕方ありませんね……。」


 勝手に話が進む。


緑輝 「じゃあ、葉月ちゃんから戴きますね。」


 ミドリちゃんが、抱き付いた状態のまま、右手で葉月ちゃんのタンクトップの肩の部分を、外側へと引っ張った。左の鎖骨が、完全に顕わになる。


葉月 「え、何?」


緑輝 「あー……。」


 ミドリちゃんが口を開けて、顔を葉月ちゃんの左肩へと近付ける。


麗奈 「さ、久美子。」


 その言葉と共に横から腕を引っ張られたけど、無視して二人の様子を見詰め続けた。ミドリちゃんの口が、葉月ちゃんの左肩に触れる。


葉月 「ちょっと、緑……。」


 それは、肩に口付けをされて恥ずかしがる、素朴な女の子の声だった。しかし――
11 :009/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:09:23.33 ID:j7V3WS/C0
葉月 「……あっ! 痛っ! ちょっと、緑っ! やめてっ! 痛い! 痛いよ! ……こ、やめてってば!」


 葉月ちゃんの声が怒気を帯び、ミドリちゃんの頭を引き剥がしに掛かった。良く見えないけど、左手が使えないらしい。右手だけで、ミドリちゃんの顔をぐいぐいと押していた。
 それでも、ミドリちゃんの頭は、全く離れない。


葉月 「この……!」


 その時、すっと、ミドリちゃんの頭が、葉月ちゃんの左肩から離れた。
 葉月ちゃんの表情が緩む。
 次の瞬間、ミドリちゃんがその場にしゃがみ込んだ。


葉月 「え、なに、……うわ!」


 葉月ちゃんの体が、少し浮き上がる。
 しゃがみ込んだミドリちゃんが、葉月ちゃんの足首を掴んで、十センチメートル程持ち上げていたのだった。信じられない力だった。


葉月 「ちょっと、緑っ! 下ろ――」


 葉月ちゃんが、後ろにバランスを崩す。
 尻餅をつき、あっ! と声を上げる。
 透かさず、ミドリちゃんが上半身に馬乗りになる。
 右手で左手を押さえ、左手で右手を押さえる。
 勝負は決まった。一瞬の出来事だった。
12 :010/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:09:56.49 ID:j7V3WS/C0
葉月 「み、緑……。」


緑輝 「ふふふ。大人しくしていて下さいね♪」


 ミドリちゃんはにっこりと笑うと、押さえていた左手を、自分の右脚の下へと押し入れてゆく。


葉月 「ちょ、ちょっと……なにするの……。」


 それは、不安と恐怖が入り雑じった様な声だった。
 葉月ちゃんがピンチだ。
 高坂さんに顔を向ける。


久美子「こ、高坂さん、葉月ちゃん――」


麗奈 「駄目。もう不意打ちも通じない。」


久美子「そんな……。」


緑輝 「さあ、葉月ちゃん、心の準備は出来ましたか?」


 再び二人の方へ目を遣ると、葉月ちゃんの右手も、既に左脚の下に敷かれている様だった。ミドリちゃんの左手が、自由になっている。


葉月 「あ……嫌……お願い、緑……。」
13 :011/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:11:46.00 ID:j7V3WS/C0
緑輝 「だーめっ♪」


 再び、ミドリちゃんの牙が、葉月ちゃんの左肩へと食い込む。


葉月 「痛い! 緑! やめてえ!」


 葉月ちゃんの絶叫に、ミドリちゃんが顔を上げる。むっとした表情だった。


緑輝 「もー、静かにしていて下さい……。」


 ミドリちゃんの左手が、葉月ちゃんの口元に向かう。


葉月 「あ! く、久美子! こうふかはん!」


 何をされるか察した葉月ちゃんが声を上げるが、遅かった。口に手を宛がわれ、変な発音になる。


葉月 「ばぶべべえ。」


 更に、右手が追加される。


葉月 「ん! んー!」
14 :012/345 [saga sage]:2018/06/05(火) 22:12:14.96 ID:j7V3WS/C0
 ミドリちゃんが、少し、右手を離す。


葉月 「ん! ん!」


 それでも、声は出ない。


緑輝 「あは♪」


 口を押さえている手の位置が修正されたらしく、左手だけで完全に発声が封じられていた。
 そして右手が、再び葉月ちゃんのタンクトップをずらす。


緑輝 「葉月ちゃん大好きですよー。」


 なにかに陶酔したかの様な声と共に、ミドリちゃんの牙が、ゆっくりと葉月ちゃんの肩へと向かう。


麗奈 「さ、久美子。今度こそいくわよ。」


 腕を引っ張られる。


久美子「あ、うん。」


麗奈 「走って。」


 私は、高坂さんに先導されながら、全力で走った。
15 :013/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:20:33.57 ID:j7V3WS/C0
          *
 角を幾つか曲がる。
 そうしてゆき着いたのは、薄暗い神社の境内だった。そこで、前を走る高坂さんの速度が遅くなり、軈て立ち止まる。


麗奈 「この辺まで来れば平気なんじゃないかな。」


 高坂さんが私に振り返って、そう告げる。私はというと、全力で走った所為で呼吸が激しく、とても話す様な気分ではなかった。
 それ処か立っているのも辛い。思わず、石畳の上にへたり込んだ。


久美子「はあ、はあ。」


 呼吸を整えながら、高坂さんを見上げる。
 白いサンダル、白いワンピース、黒いショルダーバッグ。
 凛とした表情、立ち姿。
 荷物もあるというのに、高坂さんは、息一つ切れていない。
 ぱっと見、汗も掻いていない。
 思わず、笑みがこぼれる。
 それは、真っ白いワンピース姿で悠然と立っている高坂さんと自分を引き比べて、自嘲する気分になったからか。それとも、全力で走って精神が興奮しているからか。
 私の笑みに疑念を抱いたのか、高坂さんが少し首を傾げる。


麗奈 「久美子、平気?」


久美子「あ……、うん。」


 何とか声を出す。勿論、全然平気じゃない。


麗奈 「ふふっ。」
16 :014/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:21:56.51 ID:j7V3WS/C0
 高坂さんは少し微笑むと、ゆっくりと歩いて私の目の前まで来る。
 そして、おもむろに鞄からペットボトルを取り出し、しゃがむ。


麗奈 「先ず飲んで。」


久美子「あ、ありがと。」


 礼を言って受け取る。
 暗くて見にくいが……中身は水の様だった。
 キャップを捻ると、小気味良い音がする。はっとした。何と未開栓だった。
 顔を上げて、訊く。


久美子「いいの?」


 高坂さんは、黙って頷く。


久美子「じゃあ……。」


 更にキャップを捻って、飲める状態にする。
 そして、ペットボトルの口に唇を付け、傾ける。少しぬるい。
 しかし、ごくり、と一口飲んだ瞬間、渇いた喉が蘇る。
 おいしい。ゴク、ゴク、と飲み続ける。


麗奈 「久美子が無事で良かった。」


 その言葉を、飲みながら聞く。
17 :015/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:22:27.14 ID:j7V3WS/C0
久美子「ぷはあっ。はあ、はあ……うん、高坂さんの御蔭だよ。」


 飲み終わってから返答する。
 キャップを閉じ、


久美子「ありがと。」


 の言葉と共にペットボトルを返そうとすると、高坂さんは首を振り、


麗奈 「いいの。上げる。」


 と呟く。


久美子「え、でも……。」


 私が食い下がると、高坂さんは嫣然と微笑み、更にはっきりとした口調で言う。


麗奈 「上げる。」


 その笑顔に少しどきんとした私は、


久美子「そ、そう……。」


 と言って、ペットボトルを引っ込める。
18 :016/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:23:35.09 ID:j7V3WS/C0
久美子(なんか……。)


 施して貰ってばかりだ。少し申し訳無い気分になる。
 顔を上げて再び目を遣ると、現前の高坂さんは澄ました表情をしていた。
 なにやら居心地の悪さを感じた。なにか喋らなければ……
 と言っても、話題なんて、直ぐには思い浮かば――


久美子「あ! あれ、なんだったんだろうね。」


麗奈 「あれ?」


久美子「さっきの、ミドリちゃん。……どう考えてもおかしかった。吸血鬼になったとか言ってたし。」


 同意の言葉が欲しかった。しかし、


麗奈 「ああ、あれね。」


 と、素っ気無い返事。
 高坂さんは、あまり興味が無さそうだった。
 もう一度、口にする。


久美子「……え? 吸血鬼だよ?」


 すると、高坂さんは、なにか面白い事にでも気付いたみたいに、少し笑みを浮かべる。
 あれれ、なにかおかしい。
 私の認識と高坂さんの認識には、ずれがある様だった。
19 :017/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:24:11.23 ID:j7V3WS/C0
久美子「えーっと……。」


 おかしいと思わないの? と訊く前に、高坂さんが口を開く。


麗奈 「彼女はね、吸血鬼になったのよ。他の誰か……、誰か別の吸血鬼に噛まれてね。」


久美子「は? ……吸血鬼なんてこの世に――」


麗奈 「居るのよ。」


 私の発言を遮って、きっぱりと言う。


久美子「……まじ?」


 真面目な口調で訊くと、


麗奈 「大まじ。」


 真面目な口調で返ってくる。そして、一呼吸置いてから、


麗奈 「吸血鬼は実在するの。一般人のあいだには、直隠しに隠されているけどね。」


 衝撃の事実。
20 :018/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:24:40.91 ID:j7V3WS/C0
久美子「……まじ?」


麗奈 「だから、まじな話だってば。」


 高坂さんの語調が少しきつくなる。


麗奈 「吸血鬼は実在するし、政府は裏で吸血鬼を使って非人道的と言える様な事に手を染めているし、その為の吸血鬼ハンターも居るし、吸血鬼に噛まれたら、噛まれた人間も吸血鬼になるの。」


 少しうんざりとした顔で、捲し立てる。ちょっと怖い。
 怖ず怖ずと訊く。


久美子「えーと、……じゃあ、葉月ちゃんは……。」


麗奈 「今頃は、彼女も吸血鬼になっているかも知れないわね。」


 高坂さんの口調は、至って真剣だった。


久美子「嘘でしょ……。」


 溜息が出る様に、口から言葉が出る。


麗奈 「残念ながら、真実よ。」
21 :019/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:25:10.89 ID:j7V3WS/C0
 感情を交えずに告げる高坂さんの態度に、少し冷たさを感じた。
 私は、少し目を伏せながら、


久美子「そっか……。」


 と呟いた。
 葉月ちゃん、ミドリちゃん……。
 二人は高校に入ってから最初に出来た友達であり、同じ部活の同じパートで練習する、掛け替えの無い仲間だった。
 もし二人が居なくなったら、私は……――


麗奈 「だいじょーぶ?」


久美子「あ、うん。」


 はっとして、視線を上げる。
 気を落としていると思われたのか、高坂さんの顔は、私を心配する様な表情に変わっていた。
 そうだ久美子、あんたは一人じゃない。
 思い切って、訊く。


久美子「ねえ、二人はどうなるのかな。」


麗奈 「え? どうなるって?」


久美子「あ、その、えと、政府に連れていかれて……、実験とか、されちゃったりするのかな。」
22 :020/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:25:38.13 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「いや、多分それは無いわ。良くも悪くも、あの二人にそこまでの価値は無いわ。」


久美子「そっか。」


 それを聞いて、一安心。


麗奈 「うん。若しも市中で偶然に吸血鬼ハンターと出会った場合には、多分その場で処分されるでしょうね。」


久美子「処分!」


 私が大声を上げたので、高坂さんは少し驚いた表情になったけれど、直ぐに笑みを浮かべ、


麗奈 「あ、大丈夫よ。殺される訳じゃないわ。人間に戻されるだけ。」


久美子「え、戻れるの?」


麗奈 「ええ、戻れるらしいわ。但し、吸血鬼だった頃の記憶は全て失ってしまうらしいけど。」


久美子「そーなんだ。」


麗奈 「うん。」


久美子「そっか。じゃあ、早く二人を見付けにいかないとだね。」
23 :021/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:27:26.31 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「え、なんで?」


久美子「え? だって、戻して上げるんだったら早い方がいいでしょ? 戻すのが遅れれば遅れる程、消えちゃう記憶が多くなっちゃうんでしょ? そんなの、かわいそうじゃない。」


 私にはそれが当然に思えた。しかし――


麗奈 「いや、そうじゃなくて、久美子になにが出来るの? って事。」


久美子「……え?」


麗奈 「だって、見付けた所で吸血鬼と戦える訳でもないし、ハンターの連絡先を知っている訳でもないし。」


久美子「それは、そうだけど……。」


麗奈 「なにも出来ないのに、見付けてどうするの。噛まれにでもいくの? そんなの、私が許さないわ。」


 正論だった。


久美子「そうだけど……あ、高坂さんも知らないの?」


麗奈 「なにを。」


久美子「連絡先。」
24 :022/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:28:00.95 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「知らない。」


 高坂さんは、さらりと答えた。
 それは本当に知らずに言っているのか。それとも、私を巻き込まない為に嘘を言っているのか。
 ……しかし、高坂さんの顔は無表情だった。今の私には、その答えを伺い知る事は出来なかった。
 取り敢えず、素直に詫びを入れる事にした。


久美子「そっか、御免。……私、なにも考えずに話してた。」


麗奈 「ん、別にいいのよ。怒ってる訳じゃないから。」


久美子「うん……。」


 優しい。
 少し、ばつが悪い。


久美子(……。)


 それにしても、高坂さんはなんで吸血鬼に就いてこんなに詳しいのだろうか。
 一般人には秘匿されている筈なのに。
 そう思うと、またしても質問せずにはいられなくなってくる。


久美子「ねえ、高坂さんってどうしてそんなに吸血鬼に詳しいの?」


麗奈 「え?」
25 :023/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:28:30.81 ID:j7V3WS/C0
久美子「だって、一般人には隠されてるんでしょ? 私も今日まで全く知らなかったし……。」


麗奈 「……ん、それはね、……ある人に教えて貰ったの。」


久美子「ある人?」


麗奈 「うん。」


久美子「ある人って?」


麗奈 「それは言えない。」


久美子「なにそれ。」


 一気に、緊張が解けた。
 それでは、なにも答えていないのと同じだ。
 質問を替えよう。


久美子「え、えと、じゃあ、高坂さんって、実は政府の人なの?」


麗奈 「政府?」


久美子「うん。」
26 :024/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:29:00.88 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「そんな訳無いじゃない。唯の高校生よ。」


久美子「高校生と吸血鬼ハンターの二足の草鞋……とか。」


 と言うと、高坂さんは笑って、


麗奈 「無い無い。吸血鬼ハンターになるには、特別な資質が必要らしいから。」


 と答える。


久美子「え、でも、高坂さんにも資質があるんじゃないの? だって、さっき私を助けてくれた時のキックの威力、凄かったし。それに、だから、吸血鬼に就いても、その人から色々と教えて貰えたんじゃないの?」


 それ以外に考えられなかった。
 高坂さんに蹴られたミドリちゃんの体は、十メートルくらい先まで転がっていた気がする。
 はっきり言って、普通の人間の所業ではない。
 それに、ここまで走ったあとも、全く平気な顔をしていた。
 普通の人間ではない事だけは、確かだった。
 しかし、高坂さんは肯定も否定もしない。視線を下の方に遣って、なにか考えている様な表情だった。
 ……あ、そうか。ハンターである事が秘密だからか。


久美子「あ、大丈夫。高坂さんが吸血鬼ハンターだって、誰にも言わないから。」


 すると、


麗奈 「久美子。」


 高坂さんの目が、真っ直ぐにこちらを見る。
27 :025/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:29:30.91 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「ハンターだったら逃げてないわ。……あの時、不意打ちが決まったあと、自分の力であの子を人間に戻している筈だわ。」


久美子「あ……。」


 ……それもそうか。


久美子(……え、でも……)

久美子「あ、あの……、その人間に戻す作業って、一人で出来るの?」


麗奈 「出来る……らしい。」


 なにそれ。なんで断言しないのか。


久美子「じゃあ、ハンター見習い……みたいな……。」


麗奈 「ふふっ。久美子って可愛いわね。ほんとは薄々気付いてるんじゃないの?」


久美子「え、何を?」


麗奈 「ふふっ。……もー……。」


 高坂さんは髪を掻き上げると、笑顔でこちらを見詰めて来た。
28 :026/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:40:00.29 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「私が、……吸血鬼だって事。」


久美子「えっ。」


 予想外でした。


久美子「えと、じゃあ、さっき私を助けてくれたのは……。」


麗奈 「ふふふっ。」


 高坂さんの笑顔が眩しい。


久美子「もしかして……。」


 もう、嫌な予感しかしなかった。


麗奈 「私が、自分で噛みたかったから。」


 ゆっくりと言って、にっこりと微笑んだ。


久美子「そ、そう……。そうだったんだ……。」


麗奈 「うん!」
29 :027/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:42:00.38 ID:j7V3WS/C0
 無邪気で、元気な返事。
 こんなに楽しそうな高坂さんの顔を見たのは、初めてだった。


久美子「えと、じゃあ……ミドリちゃんみたいに、どこかに歯形が……。」


麗奈 「うん。ここ。」


 そう言うと高坂さんは、ショルダーバッグの肩に掛ける部分を、少しずらしてみせた。
 黒っぽい、歯形。ミドリちゃんの時と同じ。
 肩に掛ける部分に隠れていたので、今まで気付かなかった。


麗奈 「綺麗でしょ。」


 高坂さんは、なぜか誇らしげだった。


久美子「う、うん。……そうだね。」


 そうは思えなかったけど、取り敢えず肯定の返事をした。


麗奈 「ふふっ。久美子にも直ぐに付けて上げる。」


久美子「え……。」


 要らない。心の底から要らない。
30 :028/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:42:59.98 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「ねえ、もういいかな?」


久美子「あ、うん。」


 高坂さんが、鞄を元に戻す。
 迂闊だった。白ワンピには不釣り合いな、やけに大きな鞄だと思っていたら、傷が隠されていたとは。


久美子「あー……。」


 私は、高坂さんを刺激しない様に、ゆっくりと立ち上がった。


麗奈 「どうしたの? 久美子。」


 高坂さんが、その場にしゃがんだまま、にこやかな表情で見上げてくる。


久美子「あ、ちょっと、脚が痛くて。……あ、ずっと座ってたからだと思うんだけど……。」


 私は、左右の太股を手で触りながら、一歩、後しざった。


麗奈 「そう。平気?」


久美子「うん、平気平気。……動かしてれば治るよ。」


 左右を見回しながら、もう一歩後しざる。
 しかし、左を向いても暗闇。右を向いても暗闇。
 正面、高坂さんの後ろには、少し明るい、神社の本堂。
31 :029/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:43:30.22 ID:j7V3WS/C0
久美子「あ、ここ、誰も居ないね。」


麗奈 「うん、久美子と二人っ切りになりたかったから。」


久美子「そ、そっか……。」


 と言って、引き続き左右を見回しながら、更に後しざる。
 すると、高坂さんの表情が、少し陰る。


麗奈 「ねえ、久美子、若しかして私の事嫌い?」


久美子「え、嫌いじゃないよ! 全然嫌いじゃないよ!」


麗奈 「嫌いじゃないけど好きでもないとか……。」


久美子「ううん、好きだよ! とっても好きだよ!」


 と言って、脚を摩りながら、また一歩。


麗奈 「そっか、良かった……。」


 そこで、高坂さんは俯き、鞄の中に右手を入れる。
 なにかを捜している。
 また一歩。
32 :030/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:43:59.96 ID:j7V3WS/C0
久美子(なにを……。)


 高坂さんはなにを捜しているのか。


久美子(ケータイ? ……そうだケータイ!)


 はっとした。
 右手を動かす。
 しかし、感触が無い。


久美子(ん?)


 何で無いのか。
 視線は高坂さんから外さずに、更に左手も動かしてみる。
 服の上から、両手で、念入りにポケットの位置を探る。右手はペットボトルを持ったままだから、少し遣りにくい。


久美子(どこ?)


 あまり使わない、御尻のポケットにも手を伸ばしてみる。
 しかし、いくら触っても、ケータイが入っている感触が無い。


久美子(嘘でしょ?)


 ケータイが無い。
 これでは、いざと言う時に助けも呼べない。
 何と言う状況だ。
 と思った次の瞬間、高坂さんが、ちらりとこちらを見る。
 ああ、警戒されている。……静かに一歩。
33 :031/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:44:29.96 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「ん……。」


 目当ての物を見付けたのか、高坂さんが声を上げる。
 そして、鞄の中から、ゆっくりと、なにかを取り出す。
 そのまま、こちらを見遣り、怪しく微笑む。


久美子「あ、あはは……。」


 私も、ぎごちない笑みで応じる。
 高坂さんの右手にある物体は、少し離れたのと、暗い所為で良く見えない。
 でも、態々取り出したのだ。少し気になる。


久美子「それ……なに?」


麗奈 「ナイフ。使うと思って入れといた。」


久美子「そ、そう。」


 言われてから改めて見ると、それは折り畳み式のナイフに見える……様な気がする。


久美子「あ、ミドリちゃんの時か。さっき私を助けてくれた時に使ったんだね!」


 何でまた鞄から出したの? とは言わない。言ってはいけない。


麗奈 「うん。想定外だった。……本当は、あの場では使う積もりは無かったんだけどね。まあ、止むを得ず。」
34 :032/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:44:59.95 ID:j7V3WS/C0
 高坂さんは、ナイフを眺めながら言う。
 じゃあ、本当はなにに使う積もりだったの? とも言わない。絶対に言ってはいけない。
 ちらりと、足下に目を遣る。
 右手のペットボトルが目に入る。


久美子(あ……。)


 全く……。
 向こうは、右手にナイフ。こっちは、右手にペットボトル。
 どうしてこんな事になってしまったのか。
 と思いつつ、高坂さんに視線を戻す。
 双眸が、ナイフを眺めている。
 その高坂さんの頭が、静かに動く。


麗奈 「ねえ久美子。」


 と呟きながら、こっちを見上げてくる。


久美子「……はい……。」


麗奈 「私と遊ばない?」


久美子「あ……。」


 来た。
35 :033/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:45:30.21 ID:j7V3WS/C0
久美子「……う、うん。いいよ。……あ、じゃあ、ちょっとこれ、高坂さんが持っててよ。」


 私は、持っていたペットボトルを持ち直すと、高坂さんの方を向いた。


久美子「いくよ……。」


 彼女の胸に収まる様に、下手投げで、軽く……


久美子「はいっ。」


 投げる。
 ペットボトルは、ふわりと放物線を描き、高坂さんに――
 届くよりも早く、私は後ろを向いた。そのまま、全力で駆け出す。


久美子(誰か!)


 神社の石畳。


久美子(誰も居ないの?)


 境内に植わっている木。鳥居。
 駄目だ。辺りは薄暗いし、誰も居ない。
 後ろには、凶器を持った女の子が一人……。
36 :034/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:46:00.19 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「えいっ。」


 その瞬間、衝撃を感じ、体のバランスが崩れた。修正出来ない。
 前のめりに倒れた。


久美子「あぐっ。」


麗奈 「うっ。」


 続けて、背中に重い感触。体が圧迫される。
 ああ、高坂さんだ! もう追い付かれた!


麗奈 「あははははは! どこ行くの、久美子お?」


 直ぐ後ろ、詰まり私の真上から、女の子一人分の圧力と、嬉しそうな声が降り懸る。
 高坂さんが、私にタックルして動きをとめたのだった。そして、そのまま伸し掛かっている。


久美子「こ、高坂さん……。」


 御中を抱き締められている。二本の腕が、私の体と石畳とのあいだにあるのを感じる。
 そして、背中の重圧。一体何カップあるのか。


麗奈 「ねえー、なにして遊ぶ?」


 その声と共に少し圧迫感が薄れ、私の御中の下から、高坂さんの両腕が引き抜かれる。
 逃げ――
37 :035/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:46:31.37 ID:j7V3WS/C0
久美子「あっ」


 今度は、御尻に圧力。
 両手で押さえ付けられた感じだった。
 そして、腰に硬い感触が来て、その硬い感触と入れ替わりに、御尻にあった、手の感触が消える。


麗奈 「御医者さんごっこしよっか?」


 声が近い。振り向く。
 高坂さんの顔が、私の顔の直ぐ側にあった。彼女の髪の毛が、振り向いた私の目の前に、ゆらりと垂れ下がっていた。


久美子「……お、御医者さんごっこ? ……いいね。私、御医者さんやりたい。」


麗奈 「えー? 久美子は患者さん役。脚が痛いんでしょ?」


久美子(あ……。)


 しまった。墓穴を掘った。
 後ろから、コッ、と音がする。
 そして、腰の硬い感触が消え、その直後、どっ、と御尻に衝撃。


久美子(!)


 振り返る。高坂さんが、私の御尻の上に腰掛けていた。
38 :036/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:46:59.92 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「さあ、脚を診て上げましょうね。」


 と言いながら、高坂さんが動く。御尻の上で、御尻が動く。


久美子「え、いいよそんなの。」


 しかし、右の太股の裏に、くすぐったい感触。私の声は無視された様だ。


麗奈 「ふーむ、どれどれ?」


 体の陰になって見えないが、高坂さんが右手で触っているらしかった。感触が続く。


久美子「こ、高坂さん……くすぐったいよ……。」


麗奈 「成る程……。」


 私の言葉は、またもや無視された。


麗奈 「まあ、これは大変!」


 突然、高坂さんが、態とらしい声を上げる。


麗奈 「今直ぐ『しゅじゅちゅ』が必要だわっ♪」


 続けて、嬉しそうな声……って、手術?
39 :037/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:47:30.10 ID:j7V3WS/C0
久美子「え、そんな、いいよ。私、もう治ったから……。」


麗奈 「それでは、オペを始めます。……メス! ……はい先生、唯今……。」


 高坂さんが、鞄の中に手を入れる。
 私の言葉など完全に無視して、鞄の中から「メス」を捜しているらしい。やばいのではないか。
 顔を前に戻す。
 辺りには誰も居ない。
 自力で逃げるしかない。


久美子「く……か……。」


 しかし、何とか高坂さんの下から逃れようにも、御尻が重くて逃げられない。


久美子「高坂さん、御願いだからそこから降りて。」


 振り向いて懇願する。


麗奈 「ここから? ……駄目ー♪」


 右の太股の裏に、違和感。
 直後、激痛に変わる。


久美子「う……、高坂さん、なにを……あっ!」


 痛みで直感した。高坂さんがナイフかなにかを突き刺して、また引き抜いたのだ。
40 :038/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:48:00.25 ID:j7V3WS/C0
久美子「うう……。」


 思わず、下を向く。
 凄まじい痛み。


久美子「こ、高坂さん……なにしたの……。」


 言いながら、もう一度振り返る。


麗奈 「手術よ。見る?」


 そう言うと、高坂さんは立ち上がった。
 自分の二の腕越しに、右の太股が見える様になる。
 どくどくと、血があふれ出ていた。
 何という事を……――
 左の太股に、変な感覚。


久美子「えっ?」


 右に向いていた首を、反対側に動かす。
 高坂さんが、私の左の太股の、真横に座っていた。そして、短パンの裾を、まくり上げていた。
 顔の方に目を向けると、丁度、高坂さんもこちらを向く所だった。
 目が合うと、にっこりと笑い、


麗奈 「さあ久美子ちゃん、今度は左脚を診て上げましょうねー♪」


 と言いながら、右手のナイフを銜えようとする。
41 :039/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:48:30.03 ID:j7V3WS/C0
久美子「ちょっと、やめてよ。」


 私が咄嗟に制止の言葉を吐き出すと、少し動きをとめたが、


麗奈 「ふふっ、やめなーう。」


 ナイフを口に銜え、太股の裏を触る。


久美子「やめてってば!」


 その言葉と共に、左膝を勢い良く曲げる。
 手応えがあった。
 踵の部分が、高坂さんの左手に当たったらしい。
 と思った直後、左の足首を、右手で掴まれる。
 きつい。
 それだけではない。掴まれた左脚が、全く動かない。
 私が脚の力を入れてもひくりとも動かないのだ。何という膂力。
 これが吸血鬼の力……。
 掴んだ脚を見ていた高坂さんの顔が、ゆっくりとこちらを向く。


麗奈 「久美子。暴れひゃはめ。」


 と言い、ナイフを銜えたまま、優しげに微笑む。
 直後、左の太股に微かな感触。
 見ると、今まで私の短パンを押さえていた左手が、離れていた。
42 :040/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:48:59.95 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「よいひょ、よいひょ。」


 その声と共に、高坂さんが、蟹の様に横方に移動を始める。


麗奈 「よいひょ、よいひょ、よいひょ。」


 但し、その右手は、私の足首を掴んだままだった。
 今度はなにをする気なのか。


麗奈 「よいひょ、よいひょ、よいひょ……。」


 高坂さんは、私の足下へとゆき着くと、横歩きをやめ、


麗奈 「ふう!」


 ナイフを銜えたまま、一息つく。
 続いて、私の両足首を揃えて、地面に並べる。
 その足の上に、


麗奈 「よい……ひょ。」


 と言いながら、座る。
 重い。
 御尻で押さえ付けられた。もう、さっきみたいに脚を曲げる事は出来なくなった。
 そうした上で、高坂さんが両手を前に伸ばし、私の左太股を、再び「診察」する。
43 :041/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:49:29.95 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「ふむふむ。」


 右の時よりも念入りに、左の太股を、ぎゅう、ぎゅう、っと揉まれる。今度は両手で揉まれている。
 真後ろの高坂さんを見るのに、少し姿勢が辛い。
 右腕を体の正面に移動して、上半身を支える様にした。


久美子「御願い、もうやめて。」


麗奈 「ん?」


 高坂さんの手が止まる。
 そして、右手だけ口元に動く。
 銜えていたナイフを右手で持つと、柔和に微笑み、言葉を発した。


麗奈 「そうね。じゃあ診察はもう終わり。……久美子ちゃーん? 待ちに待った『しゅじゅちゅ』の時間ですよー?」


久美子「え、そんな、嫌だ、やめて!」


 私の声には構わず、高坂さんが、右手のナイフを握り直す。
 そのまま、左の太股の裏に、すっと近付ける。


久美子「御願い! 高坂さん!」


 高坂さんが、こちらに目を遣る。


麗奈 「ふふっ。駄目え♪」
44 :042/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:50:30.78 ID:j7V3WS/C0
 刺すのが、見えた。


久美子「痛い!」


 咄嗟に、左手を伸ばす。
 更なる痛み。
 そして、左手にも痛み。
 高坂さんが、妨害の為に伸ばした私の左手を、きつく握り締めていた。


久美子(ああ……。)


 私は理解した。咄嗟に伸ばした左手は、高坂さんの右手に当たったのだ。右手に当たって、握っているナイフが動き、傷口の神経を刺激したのだ。


麗奈 「久美子、邪魔しちゃ駄目よ。」


 高坂さんが冷たく言って、手元に視線を落とす。
 ナイフが――


久美子「痛い! 痛い! 痛い! 痛い!」


 ゾ、ゾ、ゾ、ゾ、という音と共に、焼ける様な感覚が、膕の方へと広がっていった。


久美子「うっ。」


 そして、ナイフを引き抜かれる痛み。
 掴まれていた私の左手が解放され、石畳の上にすとんと落ちる。
45 :043/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:51:01.34 ID:j7V3WS/C0
久美子「ううう……。」


 右脚より、遥かに痛みが激しい。
 それもその筈。左の太股の裏側が、ぱっくりと割れていた。蝉が羽化したあとの抜け殻の様に、脚に大きな切れ目が入っている。


麗奈 「よいしょ……。」


 高坂さんが、ゆっくりと立ち上がる。
 そして、こっちに向かって歩いてくる。
 じっと目で追う。
 すると、私の体の横を通り過ぎ、顔の横も通り過ぎる。そのまま顔の正面まで来ると、立ち止まって、颯と振り向く。
 白いワンピースが、ふわりと揺れる。
 その更に上、高坂さんの顔に目を向ける。
 冷やかな表情。
 しかし、私と目が合うと、顔が綻ぶ。
 そして、視線を合わせたままゆっくりと私の目の前にしゃがむと、ナイフの刃を、ぺろりと舐める。


麗奈 「ふふっ。……久美子の味がするわ。」


 その表情と台詞に、寒気がした。


麗奈 「ねえ、次はどこを切る?」


 ナイフの反対側も、同じ様に、ぺろりと舐める。
 そして、綻びた顔を、ゆっくりと私に近付ける。
46 :044/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:51:30.04 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「私の御人形さん。」


 違う。いつもの高坂さんではない。
 これが吸血鬼なのか。
 私は、両の太股がじんじんと痛む中、声を絞り出した。


久美子「ねえ、……どうしてこんな事するの?」


麗奈 「どうして?」


 高坂さんは、少し首を傾げる。


麗奈 「好きだから。」


 好きだから? 意外な答えが返ってきた。


久美子「……好きだと、こんな事するの?」


 高坂さんは、こくりと頷く。


麗奈 「私ほんとーはさー、前から思ってたの。久美子で遊んでみたいなって。」


久美子「……は?」
47 :045/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:51:59.88 ID:j7V3WS/C0
 今、「久美子で」って言った。
 この子は何を言っているのか。
 憤りを覚える。そして、一抹の悲しさも。友達になれるかも知れない、と思っていたのに。


久美子「酷いよ、私をなんだと思ってるの……。」


麗奈 「……あれ?」


 高坂さんが、いよいよ怪訝な顔になる。


麗奈 「分かんないかな? 私の愛が。」


久美子「……愛?」


 益々分かんない。


久美子「それは、どーゆー……。」


麗奈 「そうね……。」


 高坂さんは呟くと、私の顔から視線を逸らした。
 顔と目が、ゆっくりと右下を向く。
 私もそれを追って、顔を少し右に遣る。


久美子・麗奈「……。」
48 :046/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:52:29.99 ID:j7V3WS/C0
 なにかを考えている様な表情。
 ずっと見詰め続けていると、その顔が、おもむろに下を向く。
 そして、今度は左下へと動く。
 沈黙が長い。
 話の手掛かりでも捜しているのか。


久美子(……なにか喋ってよ……。)


 次の瞬間、思いが通じたのか、高坂さんが口を開く。


麗奈 「ねえ、久美子もさ……小さい時に遊ばなかった? 小さい子向けの人形で。」


久美子「……人形?」


麗奈 「うん。リカちゃん人形とか、シルバニアファミリーとか。」


久美子「ああ……。」


 遊んだ。


麗奈 「好きだったでしょ? 昔は。人形。」


 良く憶えていないが……、多分、好きだった。


久美子「うん、多分……。」
49 :047/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:53:00.01 ID:j7V3WS/C0
麗奈 「じゃあさ、好きな物に就いては、苛めてみたいって思うわよね? だから久美子もさ、人形の服を脱がせて、手足を引っこ抜いたり、ナイフで切り刻んだりしたわよね?」


久美子「……は?」


 ……嘘でしょ?
 一瞬、呆気にとられる。


久美子「しないよ……。」


 若干震え声になる。


麗奈 「え? ……ほんとに?」


 小さく首肯する。


麗奈 「薄々いけない事だって知りつつ、隠れてこっそり遣らなかった?」


久美子「遣らないよ! 意味分かんない……。」


 思わず語気が荒くなるが、直ぐに尻窄まりになる。


麗奈 「……そっか。遣らないんだ。……じゃあ動物を解剖した事も無いのね?」


 戦慄を覚えた。
50 :048/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:53:30.39 ID:j7V3WS/C0
久美子「……解剖?」


麗奈 「うん。」


 訊いてはいけない気がした。しかし好奇心の方が勝ってしまった。


久美子「高坂さんはあるの? 解剖した事が。」


麗奈 「うん。小学校の時にはモルモットを解剖してみたわ。クラスで飼ってた奴。……そのあと、中学校の時には猫を。」


久美子「ねこぉ?」


 高坂さんは、黙って頷く。


麗奈 「近所の野良猫が子供を産んだの。それを見てたら、もう居ても立っても居られなくなって。」


 高坂さんの顔に笑みが浮かぶ。ちょっと待て。


久美子「……子猫を解剖したの?」


麗奈 「うん。とっても興奮したわ♪」


 酷い。酷過ぎる。
51 :049/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:54:00.20 ID:j7V3WS/C0
久美子「……高坂さんは、生き物をなんだと思ってるの? みんな、掛け替えの無い命なんだよ。」


麗奈 「だって、とっても可愛かったんだもん。」


久美子「可愛いのに殺すの? 解剖するの?」


麗奈 「可愛いから、解剖するの。可愛いから、愛しているからこそ、解剖してみたくなるの。」


久美子「その為に、高坂さんの満足の為に、掛け替えの無い命が失われるんだよ。」


麗奈 「それは仕方無い事だわ。ある意味窮極の選択ね。愛と死は私にとって永遠のテーマ。久美子の体もその為にあると言っても過言ではないのよ。」


久美子「いや、過言でしょ……。」


 私の体は、高坂さんの為にある訳じゃない。


麗奈 「久美子……。」


 高坂さんが、右手にナイフを持ったまま、私の頬に両手を伸ばしてくる。
 目の前で、ナイフの刃が、にぶく輝く。


麗奈 「久美子、私の愛を、受け入れて。」
52 :050/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:54:29.92 ID:j7V3WS/C0
久美子「……嫌だ。……そんな身勝手な、……一方通行な愛、……愛じゃない。」


麗奈 「……そうかしら?」


 高坂さんが、首を傾げる。
 私は、そんな高坂さんの顔を、精一杯睨み付ける。


麗奈 「ふふっ、じゃあ、久美子も私を愛せばいいわ。そうしたら一方通行じゃない。」


久美子「高坂さんを?」


麗奈 「うん。」


 変な考えが頭に浮かぶ。じゃあ解剖してもいいのか。


久美子「……ふっ。」


麗奈 「……なに?」


久美子「じゃあ高坂さん、解剖してもいいの?」


麗奈 「……え?」
53 :051/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:54:59.97 ID:j7V3WS/C0
久美子「だって、愛してたら解剖しちゃってもいいんでしょ? 仕方無いんでしょ?」


麗奈 「……久美子、私の事解剖したいの?」


久美子「うん、是非とも解剖したい!」


 我ながらおかしな事を言っていると思いつつ、急いで返事をする。


麗奈 「そう……。そうなんだ。」


 高坂さんはそう呟くと、ゆっくりと立ち上がる。
 その場で、回れ右。
 直ぐに、鞄を開く音がする。
 彼女の上半身に、目を遣る。
 またしても、鞄の中から、なにか捜している様だった。


麗奈 「ん……。」


 小さく漏らすのが聴こえた。
 そして、なにかを取り出す。
 取り出した物は、体の陰になって見えない。
 しかし、腕を動かすのに合わせて、ばさばさと音がする。
 見えた。
54 :052/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:55:30.04 ID:j7V3WS/C0
久美子(あ……。)


 直ぐに判った。
 それは、ピクニックなどで使う、レジャーシートだった。体の前で広げていたのだ。
 空中で、大きく広がる。
 それを高坂さんが、背中を丸めて、石畳の上に敷く。
 綺麗に広がった。
 一体なにを始める気なのか、と思いながら注視していると、肩から鞄を下ろし、レジャーシートの上に無造作に置く。
 続いて髪の毛を纏めているシュシュを外し、頭を軽く左右に振ると、シュシュも同じ様にシートの端に落とす。
 足に手が届くまで屈み、片足ずつサンダルを脱いでシートに上がると、


麗奈 「よっ。」


 という声と共に、両膝を突く。
 続いて、鞄の側面に手を遣る。
 外側にあるポケットに、手を入れている様だった。
 直ぐに出てきて、鞄の側に、なにかを置く。
 ケータイだった。


久美子(あ!)


 あれが使えれば、助けが呼べる。
 と思っている目の前で、また、鞄の中に手が突っ込まれる。
 なにかを捜す様な素振りは見せず、今回は、直ぐに手と布の様な物が出てきて、体の陰に隠れる。
 何を出したのか。タオル?
 疑問を抱きつつ見詰めていると、また鞄の中に手が突っ込まれ、やはり直ぐに出てくる。
 ペットボトルだった。
 ケータイの手前に、ペットボトルが置かれる。
 見覚えがあった。
55 :053/345 ◆WJBKjMiKIY [saga sage]:2018/06/05(火) 22:55:59.92 ID:j7V3WS/C0
久美子(あれって……。)


 多分、さっき投げ渡した奴だ。律儀にも鞄に入れてから追い掛けて来ていたらしい。
 間髪を容れずに、また、タオルの様な物がごそっと出てくる。
 そのまま、体の陰に消える。
 少し、間があく。
 体の陰で、なにかしているのか。
 そう思いながら見ていると、高坂さんの手が戻ってきて、またしてもタオルの様な物が出てくる。
 今度は、体の陰に隠れなかった。見える。レジャーシートの上に置かれたそれは、間違い無くタオルだった。タオル多くない?
 続けて、ハサミ……じゃない、ペンチ。直ぐに消える。


久美子(……え?)


 一体そのペンチで、なにをする気なのか。
 不安を感じていると、次は、服の様な物が出てくる。


久美子(服……着替え?)


 なんでそんな物まで……。
 直ぐ様、手が戻ってくる。今度は、鞄の中には入らない。
 口の部分を、大きく広げている。
 鞄の中を確認している様だった。


麗奈 「うん。」


 納得した様な声を上げて、鞄から手を離す。
 そして、
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