魔王「おまえは女だ」ふたなり勇者「認めねえ」

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68 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/14(火) 22:18:29.91 ID:xgVTOZ5+0

勇者「ここが最深部か」

魔王「む、この気配……やはり来たか」

水の将軍「我は五虎大将の1人、水の大将軍エクヴォリ!」

勇者「ぜってぇ覚えらんねーわその名前」

勇者「魔族ってのは皆難しい名前なのか?」

水の将軍「貴様の頭が悪いだけであろう!」

勇者「あ゛ぁ゛ん?」

水の将軍「悔しければこの私を倒してみせるのだな!」

勇者「蒸発させてやんよ! 紅蓮の炎《ローリング・フレイム》!」

ボワアアア

勇者「口ほどにも……いや、周囲の水を盾にしたな!」

魔王「気をつけろ、奴は――」

水の将軍「気体・液体・個体、あらゆる形態の水を操ることができるのだ!」

勇者(水蒸気が槍の形に!?)

ヒュンッ

魔王「っローゼ!」ガバッ
69 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/14(火) 22:23:07.78 ID:xgVTOZ5+0

魔王「がはっ……」

勇者「お、おい!」

水の将軍「勇者よ、貴様の弱点は調査済みだ」

水の将軍「貴様は強いが故に慢心している。そして、魔族との実戦経験が極めて乏しい」

水の将軍「ついでに挑発に乗りやすい! 油断したな! ふはははは!」

勇者「ちっくしょう……」

水の将軍「まだまだ行くぞ! 水の矢《ウォーター・アロー》!」

勇者(あらゆる方向から――!)

魔王「伏せるぞ!」ザッ

勇者「いってぇ!」

魔王「うぐっ……」

勇者「休んでろよおまえ!」

魔王「俺はおまえを守るためにここにいるのだ!」

勇者「はあ!?」

魔王「俺は不死身だ。俺が盾になっている間に策を考えろ!」
70 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/14(火) 22:24:07.35 ID:xgVTOZ5+0

水の将軍「その弱き魔王もいつまでもつだろうな!」

勇者(敵は水蒸気だろうが氷だろうが自在に操ることができる)

勇者(だからどんな魔法を使っても……いや、それなら水でなくしちまえばいい)

勇者(雷で電気分解を……駄目だ! 下手すりゃオレ達も感電しちまう)

魔王「ぐっぐふっがああっ!! んぐっ……」

勇者(再生が追いつかなくなってきてやがる! 早くしねえと……!)

魔王「……守護壁《プロテクション・ウォー」

水の将軍「させぬ!」

ビュウンッ

魔王「ぐぅっ……!」

魔王「参ったな……防御の術を発動させるためのっ……集中もさせてくれぬか!」
71 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/14(火) 22:24:50.14 ID:xgVTOZ5+0

勇者「くそっ……オレは攻撃の術しか使えねえ」

魔王「今度、おまえに防御の術を教えてやる」ニッ

勇者「よく笑えるな、こんな状況で」

勇者「…………」



魔王『冷静に空間や状況を理解し、1つ1つ問題を解決していけるかどうかは、生きていく上で重要だぞ』



勇者(空間……辺りは水が豊富にある。完全に敵のフィールドだ)

勇者(いや、本当にそうか? ここは水の神殿。聖なる土地だ)



水の精霊3『ここの試練をクリアしたら、水を操る神聖な能力がもらえるよ! がんばってね!』



勇者「おい! 水の大精霊! 見てるんだろ!?」
72 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/14(火) 22:25:28.55 ID:xgVTOZ5+0

水の大精霊「そちらから我を呼び出すとはな」

勇者「水を操る能力、先に寄越せ!」

水の大精霊「……良かろう。どうせすぐに渡すつもりであったしな」

水の大精霊「その男を守ろうとする強き意思がひしひしと伝わってくるわ」

ポワ……

勇者「……よし!」

水の将軍「む……水が!?」

勇者「この空間に存在する水は全てオレのもんになったぜ!」

水の将軍「せこいぞ勇者!」

勇者「生憎、狡賢さならスラム1だったんでな!」

勇者「大好きな水に貫かれろ!」

水の将軍「そんな馬鹿なああああ!!」
73 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/14(火) 22:26:35.39 ID:xgVTOZ5+0

水の将軍「おのれ……おのれ!」

魔王「げほっ……おまえも封印してやろう」フラフラ

水の将軍「私に止めを刺さなかったことを後悔する日が必ず訪れるぞ……!」

魔王「門よ……開け!」




勇者「ガリィ!」

狼「バウワウ!」

勇者「良い子だったな〜!」

魔王「よし、昼飯にするか」

勇者(……こいつ、必死でオレを守ってくれた。ちょっとかっこよかったな)

勇者(なんて思っちまった。なんだか屈辱だ)

勇者(……むかむかする)
74 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/14(火) 22:27:20.86 ID:xgVTOZ5+0

神殿近くの村

勇者「今日はこの村に泊まるか」

狼「ワン!」

勇者「すんませーん、宿探してるんすけど」

香水屋「あら、綺麗な旅人さん! どうぞうちに泊まっていって!」

勇者「いやオレは」

香水屋「わたし、アルセア! あなたは?」

勇者「……ローゼ」

香水屋「名前も綺麗なのね!」

勇者「…………」

香水屋「こんなに綺麗なのに、男の子の格好をしてるなんてもったいないわ!」

香水屋「可愛くしてあげる!」

勇者「えっちょっおい、引っ張んなって!」

狼「♪」ダッダッ

勇者(この雰囲気、なんだか懐かしい。不思議と嫌じゃない)

勇者(ああ、そうだ。彼女と……メリッサと、似てるんだ)

勇者(姿形じゃなくて、この明るさと、強引さが)

勇者(嬉しいような、苦しいような……変な気分だな)
75 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/14(火) 22:28:41.97 ID:xgVTOZ5+0
続く
今回短かった分次回長いです
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/14(火) 23:21:16.89 ID:uNOnpxjgO
乙乙
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 01:00:01.45 ID:GsfgSmLx0
おつおつ
期待
78 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:04:23.97 ID:78jcdTYX0

Episode 5


――――――――

ザアァァァァァァ……

女「どうしたんだい、おチビちゃん。こんな所に1人でいるなんて、危ないよ」

勇者「くにのひとのめいれいで、すてられちゃったの」

勇者「おとこでもおんなでもないこは、おうちにいられないんだって」

女「こんなに可愛い子を捨てるなんて、お国も馬鹿なことをするもんだねえ」

勇者「…………」

女「あたしの家においで」

女「おチビちゃん、おなまえは?」

勇者「おとこだったら、ローゼライト。おんなだったら、ローゼマリア」

勇者「どっちでもないから、ただのローゼ」

女「そっか。あたしはメリッサ。そこに生えてるハーブと同じ名前だよ」

――――――――
79 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:06:46.49 ID:78jcdTYX0

勇者「……この家、甘い匂いがするな」

香水屋「わたし、手作りの香水を売って生活してるのよ」

勇者(すげえ数の瓶だな)

香水屋「これがユリで、あれはホオノキ。あれがヘリオトロープ。どれも素敵な香りよ」

香水屋「気になるのはあるかしら?」

勇者「香水に興味なんて……」

勇者「……あんたがつけてるのは、レモンみたいな匂いだな。けっこう甘いけど」

香水屋「そう! レモンみたいな香りの植物は色々あるけど、このレモンバームは甘みもある匂いなのよ」

香水屋「これはね、特に甘みが強く出るよう抽出方法を工夫してあるの」

勇者「へえ……」

香水屋「あなたの国では、メリッサって呼び方が一般的かしらね」

勇者「…………」
80 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:07:44.43 ID:78jcdTYX0

香水屋「1瓶あげるわ!」

勇者「いや、わりぃよ。まず使わねえし」

香水屋「いいのよ! 出会えた記念にプレゼントしたいの!」

香水屋「これからお洒落に付き合ってもらうんだし」

勇者「…………」

香水屋「旅をしているなら、なかなかお風呂に入れなくて体のにおいが気になっちゃうこともあるでしょ?」

香水屋「ちゃんと香水つけなきゃ!」

勇者「わかったよ。……もらっとく」
81 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:11:17.73 ID:78jcdTYX0

――――――――

勇者「このはっぱね、おうちのおにわにもはえてたよ」

勇者「いいにおいで、すき」

女「なんなら、うちの庭にも植えようか」

勇者「うん!」

女「さあ、早く行こう。びしょ濡れのままじゃ、風邪ひいちまうよ」

――――――――

香水屋「どうして胸を潰してるの?」

勇者「邪魔だからな」

香水屋「ちゃんとした下着、買わなきゃ駄目よ?」

勇者「うっせ」

香水屋「わたしのを貸してあげるわ。ほら、後ろ向いて」

勇者(何故こんなことに……)
82 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:11:45.45 ID:78jcdTYX0

勇者「大体なあ! オレは男なんだぞ!」

香水屋「おっぱいあるのに?」ムニッ

勇者「ひゃひっ!」

勇者「ほら! ちんこだってついてんだぞ! パンツに女にはねえ膨らみあんだろ!」

香水屋「あら、でもそんなこと関係ないと思うなあ」

勇者(ええええええ……)

香水屋「それに、男の子だって別にいいわ。可愛くしたいもの!」

勇者(もう……もうどうにでもなれ……)
83 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:12:16.52 ID:78jcdTYX0

勇者(ヒラヒラの可愛い服着せられちまった)

香水屋「三つ編み、解いてもいいかしら?」

勇者「好きにしろよ」

香水屋「三つ編みにすると、髪の毛にウェーブがかかって可愛いのよね」

勇者「オレは元々巻き毛気味だけどな」

香水屋「よーし、可愛くなった!」

勇者「……………………」

勇者(こんな格好を見たら、魔王の奴、なんて言ってくるかな)

勇者(って、何考えてんだよ、オレは)

勇者(そういやあいつ、オレのこと美少女とか言ってきやがったんだったな)

勇者(思い出したらイライラしてきちまった)
84 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:12:55.08 ID:78jcdTYX0

香水屋「ねえ、どうして男の子みたいに振る舞ってるの?」

勇者「……昔さ、守りたい女がいたんだ。だから、立派な男になろうって、誓ったんだ」

――――――――

女「剣の稽古してるのかい? 精が出るねえ」

勇者「オレ、強い男になるんだ! そしたらメリッサを嫁にして、一生守ってやる!」

女「あはは! そりゃ頼もしいね!」

勇者「こんな町出てって、豊かな暮らしをさせてやるよ!」

女「楽しみにしてるよ、未来の旦那さま」

女「でもね、あんたはきっと、無理に男になんてなろうとしない方が――」

勇者「はっ! てやーっ!」

――――――――
85 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:14:15.95 ID:78jcdTYX0

香水屋「こんなもんかしらね! 仕上げに香水を……甘めのをつけて、できあがり!」シュッ

勇者「…………」

香水屋「外に遊びに行きましょ!」

勇者「そっそれは流石に」

香水屋「ほら! 良い天気よ!」グイグイ

勇者「なあ、店はいいのか!?」

香水屋「いいの! 最近、お客さん、来てくれないから……」

勇者「?」

香水屋「でも大丈夫! 隣町に売りに行って、充分儲かってるから!」




勇者(落ち着かねえ……めっちゃヒラヒラする……脚もスース―するしよ……)

香水屋「この服屋さん、お気に入りなの。ほら見て見て! この服可愛いわ!」

勇者「おまえによく似合ってるよ。はあ……」
86 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:15:27.61 ID:78jcdTYX0

村人1「おい、アルセアだぞ……」

村人2「普通に接しとけ」

勇者(なんか、村の連中がよそよそしいな)

香水屋「ここ、小さな村だけど、喫茶店があるのよ!」

勇者「地味だけど洒落てんな」

勇者(木の匂い。吊るされた花。素朴なインテリア。悪くねえ)

香水屋「わたし、カリン茶!」

勇者「……ローズティー」

香水屋「あとね、ケーキ2個!」

勇者「1人で2個も食うのか?」

香水屋「あなたの分よ! わたしの奢り!」

店員「カリン茶とローズティーがお1つずつ、ケーキがお2つですね」
87 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:16:01.74 ID:78jcdTYX0

香水屋「ここに来るの、久しぶりだわ。1人じゃなかなか来る気になれなくて」

勇者「オレは喫茶店なんて生まれて初めてだよ」

香水屋「あら、そうなの?」

勇者「オレが住んでたところには、こんな店なかったからな」

香水屋「お茶、おいしいでしょ?」

勇者「まあ、そうだな」

香水屋「うふふ」

勇者「……なあ、なんでオレにこんな格好させたんだよ」

勇者「一緒に遊ぶお友達でも欲しかったのか?」

香水屋「それもあるけど、でもね……もっと大きい理由を聞いたら、あなたきっと怒っちゃうわ」

勇者「は?」

香水屋「お手洗い行ってくるね!」
88 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:17:00.74 ID:78jcdTYX0

勇者「なんなんだよったく……」

村人3「アルセアの奴、魔族と取引してるってマジなのか?」ヒソヒソ

村人4「たらしこまれたって噂だぜ?」ヒソヒソ

村人5「親が死んで、寂しくてたまらなかったところをつけこまれたのね、きっと」

村人6「可哀想だけど、でも、ねえ……」

勇者(……なんだ、この噂)

勇者(オレは相手が悪人かどうかは雰囲気でわかる。あいつは魔族と取引するような奴じゃねえ)

勇者「チッ……」

村人5「あなた、この村には来たばかりでしょ?」

村人5「悪いことは言わないわ、あの子と付き合うのはやめなさい。危ないわ」

勇者「失せろメスブタ!」

村人5「きゃっ! 何よ、もう……」
89 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:17:57.20 ID:78jcdTYX0

勇者(村の連中がよそよそしかったのは、この噂が原因か)

勇者(一体何処からあんな噂がわきやがったんだ)

香水屋「お待たせ!」

勇者「……おかえり」

香水屋「……」

香水屋「はやく食べきって、別のとこ行こっか!」




香水屋「あっちの丘は見晴らしが良くってね、あ、そっちからの眺めも良いの!」

勇者「…………」

香水屋「それから、ほらあそこ! あそこの料理屋さん、すっごくおいしいのよ!」
90 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:21:16.20 ID:78jcdTYX0

村人6「なあ、あそこの銀髪の子、めっちゃ可愛くねえか?」

村人7「うっわ、やば……この世に舞い降りた天使様って感じだな」

村人6「1回でいいからヤラせてくんねえかな〜」

勇者「っ――」

香水屋「……どうしたの? 顔色、悪いわよ?」

勇者「気持ちわりぃ……」

香水屋「だ、大丈夫?」

勇者「男の視線……気持ちわりぃ……!」

村人6「ねえねえ君大丈夫? 肩貸そうか? なんならお姫様抱っこでも」

勇者「オレに近づくんじゃねえクソ短小チンコ野郎!!」

村人6「うわっなんだよ」

狼「ガルルルルルル……」

村人6「ひぃっ!」

香水屋「い、行こっかローゼ!」
91 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:23:18.11 ID:78jcdTYX0

香水屋「ごめんね、無理矢理可愛い格好させちゃって」

勇者「…………」

香水屋「……男の人、苦手なの?」

勇者「あんな、ヤることしか考えてねえような連中、大っ嫌いだ」

――――――――

勇者「メリッサ! メリッサー! 肉が手に入ったんだぜ!」

勇者「スラムじゃ滅多に流通しないような良い肉が……メリッサ?」

女「くっ、うっ! 放せ!」

ゴロツキ1「今まで女だけで生きてきただけあって、随分良い物持ってるじゃねえか」

ゴロツキ2「全部俺達が頂いてくぜ」

ゴロツキ1「体の方もなかなかイイじゃねえか」

ゴロツキ3「楽しませてもらおうぜ」

勇者「!!」
92 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:23:57.58 ID:78jcdTYX0

勇者「おまえら強盗か!? メリッサを放せ!」

ゴロツキ4「おっと、そういやガキを飼ってるんだったな」

女「その子に手を出すんじゃないよ!」

ゴロツキ1「出さねえよ、あんなガキ。おい、抑えとけ」

ゴロツキ4「へーい」

勇者「放せ! 放せよー!!」

ゴロツキ1「Cカップくらいか? お?」ムニムニ

女「くうっ……」

ゴロツキ2「尻も可愛い形してんなあ」

女「っ…………」
93 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:24:32.35 ID:78jcdTYX0

女「あっああっうぐっああああ!」

ゴロツキ1「知ってるか? 首絞めながらヤルとすんげえ気持ち良いんだってよ」

女「はぐっ……っ……」

ゴロツキ2「まだ殺さねえでくだせえよ、皆で回したいっすからね」

勇者「放せ!! おまえら全員ぶっ殺してやる!!」

ゴロツキ4「黙れよ、うるせえぞ」

勇者「むぐっうううう!」

女「っ……っ……」

ゴロツキ1「締まりが良くなったな! ……うっ……ふう」

ゴロツキ1「よし、使っていいぞ」

ゴロツキ2「へへへ」

ゴロツキ3「上と下から咥えさせてやろうぜ」

ゴロツキ1「悔しいよなあ、ガキィ。こんな社会の膿みてえな連中に育ての親を犯されちまってよお」

勇者「……」キッ
94 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:25:13.36 ID:78jcdTYX0

ゴロツキ1「女ってのはなあ、男に寄生しなきゃ生きていけねえ生き物なんだ」

ゴロツキ1「なのに、生意気にも女1人で暮らしてたからこんな目に遭うんだぜ」

勇者「女1人じゃない! オレがいる!」

ゴロツキ1「ガキなんて数える内にも入らねえよ! がははは!」

勇者「っ……」

ゴロツキ1「教えてやるよ。この町には法律も規律もねえ!」

ゴロツキ1「弱肉強食。それがこのスラム唯一のルールだ。がーははははははは!!」
95 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:25:40.75 ID:78jcdTYX0

……………………
…………

勇者「メリッサ、メリッサ!」

女「良かった……生きてたんだね、あんた……」

勇者「血が……すぐ、すぐ医者を呼んできてやる!」

女「強く、生きるんだよ……何があっても、絶対に、生き残るんだ」

勇者「メリッサ!」

女「あんたと出会えて、あたし、生きてる証を……残せた……」

勇者「…………」

女「……ありがとう」

勇者「メリッサ……? メリッサ……嫌だ……そんな……」

勇者「あああああああああああああああああああああ!!!!」

――――――――
96 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:26:15.06 ID:78jcdTYX0

香水屋「……男の人に、女の子として見られることが苦手なのね」

勇者「…………」

香水屋「……ごめんね」

勇者「…………」

香水屋「わたしは、ただ、あなたに……」

花屋「こんにちは、アルセアちゃん」

香水屋「ラーセアさん! こんにちは!」

花屋「ラベンダーの香り袋、1つお願いね。あれがあると、よく眠れるんだよ」

香水屋「はい、どうぞ」

花屋「あたしはね、村の連中がしてる噂なんて信じてないからね」

花屋「心配することはないよ、75日もすれば噂なんて消えちまうんだから! がんばるんだよ」

香水屋「……ありがとう、ラーセアさん」
97 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:27:32.89 ID:78jcdTYX0

香水屋「……噂のこと、だけど……」

勇者「……なあ、水やりしなくていいのか?」

勇者「家の周りに生えてる草、大事な商売道具だろ」

香水屋「え、ええ。してくるわ」

勇者「手伝う」

香水屋「いいの、休んでて」

勇者「香水とケーキの礼、してえんだよ」

勇者(……不思議と、こいつのことは嫌いになってない)
98 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:28:11.23 ID:78jcdTYX0



勇者(アルセアが魔族と取引してるなんて、あんなの絶対でたらめだ)

勇者(あんな、悪意の欠片も持ってねえような奴……)

勇者(……いや、騙されて協力させられている可能性もある)


   「それで……今日……」

   「そうか…………」


勇者(アルセアの部屋から、何か聞こえる。男の声だ)

香水屋「ああいけない、カーテン閉めなきゃ」

   「……もしかして、村の人達に俺の存在を知られたりは」

香水屋「大丈夫よ、デフィ!」

   「なら、いいんだが」
99 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:29:28.45 ID:78jcdTYX0

香水屋「そのローゼって子とね、村にお出かけして、わたし、はしゃいじゃって……」

香水屋「はしゃぎすぎて、その子のこと、傷つけちゃった」

   「なら、明日は上手く仲良くできると良いな」

香水屋「ええ」

   「ああ、そうだ。これを」

香水屋「まあ、おいしそう! パウンドケーキね」

   「妹が、君の香水を大層気に入ってね。でも、君は俺と金銭のやり取りはしたくないんだろう?」

   「だから、礼にこれをと思って。妹と一緒に作ったんだ」

香水屋「嬉しいわ」

香水屋「……ねえ、今晩は、血、吸わなくていいの?」

   「……貧血になっていないか?」

香水屋「大丈夫よ」

   「じゃあ、少しだけ」

勇者(血……ヴァンパイアか!?)
100 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:29:55.63 ID:78jcdTYX0

勇者(くっそ、アルセアをたぶらかしやがって!)

吸血鬼「今の魔王様は、親人間派なんだ。だから、いつかきっと、俺達が一緒になれる日が来る」

勇者「!」

香水屋「早くその日が来てほしいわ」

勇者「…………」

勇者(もし、こいつが本当に魔王の味方だったら……斬るわけにはいかねえな)

勇者(でも、アルセアを利用しているだけだったら……)

香水屋「もし、人間と魔族が仲良くできるようになったら……想像するだけでわくわくするわね」

勇者(アルセアの声……随分楽しそうだ。今は、邪魔しないでおこう)

香水屋「明日の晩も来てくれる?」

吸血鬼「ああ」
101 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:30:40.03 ID:78jcdTYX0

翌朝

勇者(朝食……素朴だけど、美味い)

香水屋「これ、もらいもののパウンドケーキ。食べてみない?」

勇者「……」

勇者(……毒は入ってねえな。味も普通だ)

香水屋「……あのね、ローゼ」

香水屋「…………」

勇者「…………」

勇者「昨日さ、オレ、聞いちまったんだ。噂の内容」

香水屋「やっぱり、そうだよね」

勇者「おまえが魔族の男と話をしてるのもな」

香水屋「!」
102 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:31:06.95 ID:78jcdTYX0

香水屋「……彼ね、決して悪い魔族じゃないのよ」

香水屋「信じてもらえないかもしれないけれど……」

勇者「それを確かめるためにさ、今晩、会わせてくれよ」

香水屋「……!」

勇者「オレは勇者だ。悪い魔族は倒さなきゃいけねえ」

勇者「でも、魔族が悪い奴ばかりじゃねえっていうのも、知ってるから」

香水屋「……わかったわ」

香水屋「でも、あなたが勇者だなんて、驚いたわ」

勇者「なんでだよ」

香水屋「こう、もっとムッキムキー! なのを想像してたから」

勇者「悪かったな、こんな細っこくて」
103 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:31:40.31 ID:78jcdTYX0



香水屋「あら、おでかけ?」

勇者「ああ」

勇者(昼は魔王の奴と飯食う約束だからな)

香水屋「……あのね、ローゼ」

勇者「なんだ?」

香水屋「あなたは、今までの人生で、たくさんつらいことがあったんだと思う」

香水屋「でもね、きっとそれ以上の幸せがこれから訪れるわ!」

勇者「はは、だといいんだけどよ」

香水屋「行ってらっしゃい」
104 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:33:58.42 ID:78jcdTYX0





勇者「……ってことがあってよ」

魔王「ふむ……人間と吸血鬼との恋か」

魔王「幸せになるのは難しいだろうな」

勇者「へえ、断言しちまうんだ」

魔王「俺の手にかかっているがな。和平が実現すれば、結ばれることは可能だろう」

勇者「そもそもその魔族の男が本気でアルセアのことが好きなのかもわかんねえけどな」

魔王「……女をたらしこむメリットが吸血鬼にはないな」

魔王「恒常的に血を吸いたいのなら、毎度女が眠っている時を狙えばいい」

魔王「穏便に香水を入手するにしても、人間に化けて買いに行けばいいだけだ」

魔王「俺の予想のできない目的がそやつにあるのであれば、話は別だが……」

勇者「んー……」
105 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:35:34.83 ID:78jcdTYX0

魔王「……仮に結ばれたとしても、魔族と人間では寿命が違い過ぎる」

勇者「魔族って寿命長いんだっけ」

魔王「ああ。種族による差は大きいが……吸血鬼であれば700年は生きるな」

勇者「おまえらは?」

魔王「我等魔人族は500年ほどだな。長ければ1000年生きる者もいる」

勇者「へえ、そんだけ長く生きるなんてしんどそうだな」

魔王「……尤も、」

執事「ぼっちゃま」ヒュン

勇者「うおっ!?」

魔王「爺や、何故ここがわかった」

執事「勇映の玉が部屋に置きっぱなしでございました」

魔王「……うっかりしていたな」

執事「領地内でテロが発生しました。すぐに城へお戻りください」

魔王「わかった。ではな、ローゼ」ヒュン

勇者「……勇映の玉って何だよ」
106 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:36:01.04 ID:78jcdTYX0

村長「白銀の髪……あなたは、もしや勇者様では」

勇者「あ? そうだけど」

村長「実は、この村の近くに巨大な魔物が住みつきまして」

村長「まだ被害は出ておりませんが、退治していただきたいのです」

勇者「あー、一応行ってみるけどよ、無害な奴だったら退治はしねえぞ」

村長「しかし、近くに住みつかれたというだけでも恐ろしく、村人は皆怯えております」

勇者「そう言われてもなあ……」





勇者(近くって……遠いじゃねえか……! 疲れてんのに山登りする羽目になるなんてよ)

勇者「……ここか」

巨大な魔物「ひぇっ! け、剣士!? 勇者か!?」

勇者「図体がでけえだけで、弱そうだなーおまえ……」

狼「へっへっ」ブンブン
107 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:38:28.04 ID:78jcdTYX0

巨大な魔物「お、おで、悪い魔物じゃない!」

勇者「……気も弱そうだもんなあ」

勇者「でもな、この山の麓に村があってさ、村の連中はおまえのことが怖くて仕方ないんだとよ」

巨大な魔物「おで、知らなかったんだ! 近くに人間の群れがいるなんて!」

勇者「えーと、地図によると……山越えた西側なら人間は住んでねえな」

勇者「あっちの方角に行け。いいな。つうか、喋れるだけの知能があるならそのまま魔族の領地に帰れ」

巨大な魔物「そしたら、おで、殺されない?」

勇者「ああ。ほら、さっさと行け」

巨大な魔物「感謝する! 感謝する、勇者!」

勇者「……オレも優しくなったもんだな。あいつの甘ちゃんが移っちまったかなあ」

勇者(動物狩ってから帰るか。新鮮な肉が手に入ったら、アルセアの奴、喜ぶかな)
108 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:39:00.22 ID:78jcdTYX0





勇者(すっかり暗くなっちまった)

勇者「アルセア、戻ったぞ。鹿を一頭捕まえたんだけど……!?」

勇者(家の中から複数人の気配がする。……血の匂いも漂ってやがる)

狼「ガルルルル」

勇者「アルセア!」

勇者「…………!!」

勇者「おまえら……何してんだよ!」

村人1「ひっ!」

村人2「だ、誰かと思ったら、昨日アルセアと一緒にいた奴かよ。まだこの村にいたのか」

勇者「おい、アルセア! しっかりしろ!」

香水屋「……」
109 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:39:26.49 ID:78jcdTYX0

勇者「……どういうことだ」

村人3「そ、そいつ、やっぱり魔族と会ってやがった!」

村人3「昨晩目撃した奴がいるんだよ!」

村人4「だから、殺すことになったんだよ。これも、村のためだ」

勇者「っざっけんな!!」

村人4「ひいっ!」

勇者(くそっ、オレがもっと早く戻っていれば……!)

香水屋「…………」

勇者(治療を……駄目だ、この出血じゃもう間に合わねえ)
110 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:40:53.19 ID:78jcdTYX0

勇者「……自分でも吃驚したんだけどよ」

勇者「おまえに女だって認識されるのは、意外と嫌じゃなかった」

勇者「本当に嫌だったら、あんな格好、絶対しなかった」

勇者「少しだけだけどよ、楽しいって気持ちが、ないわけでもなかったんだぜ」

勇者「なあ、返事、してくれよ……」

香水屋「…………」

勇者「……てめえら、全員ぶっ殺し――!?」

ブシャアアアアア

勇者(一瞬にして、村人達の首が裂けた)

吸血鬼「アルセア……?」ヨロヨロ

吸血鬼「同じ村の仲間に、殺されたのか? 俺と一緒にいたせいで……?」

勇者「…………」

吸血鬼「こんなこと、あっていいのか……?」
111 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:41:36.54 ID:78jcdTYX0

勇者「お、おい……アルセアを何処に連れていくつもりだ」

吸血鬼「…………」

勇者「おい!」

吸血鬼「もっと早く、闇へ誘っておけばよかった」

吸血鬼「陽の下で輝いている君は眩しくて、でも、綺麗で……汚したくなかったんだ」

吸血鬼「……なあ、おまえ、勇者だろ。俺のこと、殺さなくていいのか?」

勇者「……アルセアのことを本気で愛してるって、わかったから、いい」

吸血鬼「たった今、人間達を殺めたんだぞ?」

勇者「おまえがやってなかったら、オレがあいつらをやってた」

吸血鬼「そうか。ふふ、くくっ……」

吸血鬼「……月が、綺麗だな。こんなに悲しい夜だというのに」
112 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:42:17.53 ID:78jcdTYX0






勇者(吸血鬼は、アルセアと共に闇の中へ消えていった)

勇者(あの家にはもう誰も住んでいない)

魔王「香水か? 良い匂いだな」

勇者「良い鼻持ってんじゃねえか」

魔王「この頃元気がないぞ?」

勇者「ははっ、気が緩んでたみたいでさ」

勇者「このオレがさ、目の前で人が死んだくらいのことで、落ち込んでんだぜ」

魔王「……あまり無理をするでない。仲間を失って悲しいと思うのは、当然の反応だ」

勇者「オレさ、おまえが隣にいるとほっとするんだ」

魔王「っ!?」ドキッ

勇者「おまえは死なねえからさ」

魔王「……そうか」
113 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/15(水) 20:43:47.53 ID:78jcdTYX0
続く
今日でお盆休み終わっちゃうのでこれからは更新頻度がバラつくと思います、すみません
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 20:50:28.59 ID:GsfgSmLx0
乙です
毎回すごく面白い
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 21:04:25.33 ID:mASpNuBF0
勇者に幸せになってほしい。乙
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 23:55:21.11 ID:oCjZhZ3wO
乙ー
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/16(木) 00:09:07.98 ID:vOKq+ahGo
118 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:43:24.62 ID:RUdbUN5C0

Episode 6


魔導都市

勇者(この町、豪華な建物とボロい建物の差が激しいな)

勇者(まるで城下町とスラムがごっちゃになってるみてえだ)

勇者(……もうすぐ昼だな。飯の前に本屋に寄るか)

勇者(魔術のバリエーション増やさねえとな)

勇者「……ん?」

町娘1「ねえねえ、あそこで立ち読みしてる人めっちゃかっこよくない?」

町娘2「あらほんと! でもあそこおピンク本コーナーよね」

勇者「……」

魔王「…………」パラパラ

勇者「ふっ……くくっ……」

勇者「魔王様が人間の町でエロ本立ち読みしてんのかよ!」

魔王「ろ、ローゼ!? いつからそこに!?」
119 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:44:14.53 ID:RUdbUN5C0

勇者「あー腹いてえ! あひゃひゃひゃひゃ」

魔王「……仕方ないであろう……このような時でないとなかなかこういった物にはありつけんのだ」

勇者「王様ってプライバシーなさそうだもんなあ!」

魔王「……穴があったら入りたい」

勇者「穴があったら突っ込みたいの間違いだろ?」

魔王「下品だぞ」

勇者「エロ本手に持ってる奴が言うことかよ!」

魔王「くっ…………」

本屋の店長「お兄さん、その本買ってくださいね。今それしわ寄っちゃったんで」

魔王(絶対に誰にも見つからない隠し場所を用意せねば……)
120 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:44:45.10 ID:RUdbUN5C0

空き地

魔王「覚えが早いな」

勇者「防御系はすぐ覚えれたしよ、戦闘用以外のも教えろよ」

勇者「おまえのその、姿を変える術とか」

魔王「……それは難しいな。体を直接変化させる術を覚えるには、まず体のことを知らなければならない」

魔王「そして、人間と魔族とでは体の作りが異なっている。俺は人間の体についてはそう詳しくはない」

魔王「教えられるとすれば……そうだな、髪の色を変える術程度だ」

勇者「えー、ムキムキマッチョマンになれねえのかよ」

魔王「……なってほしくはないな」
121 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:45:27.35 ID:RUdbUN5C0

スーツ男「もしや、あなたは勇者ローゼ様では」

勇者「あ? 何か用か?」

スーツ男「ご依頼がございまして……我が主人の元へご同行願えませんでしょうか」

勇者「どんな依頼だよ」

スーツ男「それは、直接我が主人にお聞きください」

勇者「……まあいいけどよ」

スーツ男「そちらの方は」

勇者「オレの下僕」

魔王「おい」
122 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:47:40.44 ID:RUdbUN5C0

屋敷

勇者(ごってごてだなー……豪華すぎてうんざりするくれえだ)

勇者(外には高い塀とでかい堀があった。相当警戒してんだな)

魔王(……微かにだが、魔族の気配を感じる)

成金男「おお、よく来てくださいました」

勇者「んで、依頼ってなんだよ」

魔王「おまえ、態度が偉そうだぞ……」

成金男「ははは、構いませんよ」

成金男「勇者様には、倒していただきたい魔族がいるのです」

成金男「この頃、魔族によく忍び込まれておりまして」

成金男「私の富を狙っているのでしょう」

成金男「用心棒を雇い、これまでは持ち堪えておりましたが、もう限界なのです」

勇者「ここ、魔導都市だろ? 軍はそこらの町よりずっと強力なはずだ」

勇者「なんでわざわざオレに頼むんだよ」

成金男「軍に通報すれば、このことが公になって騒ぎになってしまいます」

成金男「私は、あまり事を荒立てたくないのですよ」

成金男「なんせ、裕福すぎるものですからね」

成金男「混乱に乗じて私の富を奪おうとする人間や魔族が、他に現れないとも限らない」
123 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:49:04.84 ID:RUdbUN5C0

成金男「この依頼、受けていただけますかな? 報酬は弾みますよ」

成金男「勇者としての名声も上がる。悪い話ではないでしょう」

勇者「んー……」

成金男「前金として、500万Gお出ししましょう」バサッ

勇者「うおっ……」

勇者「……いらねえ。飯を用意してくれればそれでいい」

成金男「おお、なんと素晴らしいお方だ」
124 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:49:48.57 ID:RUdbUN5C0

用意された部屋

勇者「あーくそ、金欲しかったなー」

魔王「ならば、何故受け取らなかった?」

勇者「あいつ、いかにも怪しい。そんな奴に金で利用されたくねえ」

勇者「絶対何か裏がある」

勇者「依頼を受けたふりをしたのは、その『裏』が気になったからだ」

魔王「くく。おまえが金に目をくらませるような人間でなくて安心した」

魔王「この家を調べるぞ」

勇者「ああ」
125 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:51:22.39 ID:RUdbUN5C0

魔王「魔族の気配は……こっちだな」

勇者「よくわかるな」

魔王「常人には感知できぬよう、密室に近い部屋に監禁されているのだろう」

魔王「余程魔感力の優れた者でなければ、気配を追うのは難しいだろうな」

勇者「なあガリィ、魔族の匂いを追うのってできるか?」

狼「わふ!」ダッダッ

勇者「あいつに頼った方が速そうだな」

魔王「…………」
126 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:52:27.62 ID:RUdbUN5C0

魔王「俺も鼻は利く方なのだがな……狼には敵わぬ」

狼「へっへっ」

勇者「ここみてえだな」

魔王「……中に人間もいるようだな」

勇者「聞き耳立ててみようぜ」


成金男「今宵も私の相手はしてくれないのかい?」

狐少女「…………おうちに帰して」

成金男「今はここが君の家だって言ってるじゃないか」

成金男「さあ、夜伽を」

狐少女「嫌あああああ!!」
127 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:54:34.97 ID:RUdbUN5C0

成金男「実はね、今日、勇者様を呼んだんだよ」

成金男「こわーいこわーい魔物の天敵をね」

成金男「どうしようかなぁ、これ以上言うことを聞かないなら、勇者様に調教を頼むしかないねえ」

狐少女「ひっ!」

魔王「……」

勇者「魔族に忍び込まれてる理由ってよぉ……」

魔王「魔族の少女を監禁しているからだろうな」

狐少女「ひっく……うう……」

魔王「助けるぞ」

勇者「おう」
128 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:55:22.22 ID:RUdbUN5C0

バアン!

勇者「よおド変態! 随分良い趣味してんじゃねえか!」

魔王「その娘を放してもらおうか」

成金男「なっ何故ここにおまえ達が!?」

魔王「あくまで魔族の気配を追ってきただけなのだがな」

成金男「え、ええと……この娘はですね……そう、私の愛玩動物でして」

勇者「はあ?」

成金男「ま、魔族を誘拐して飼ってはいけないという法律はないでしょう?」

成金男「魔族には人権がありませんからねえ!」

勇者「チッ……クズが」

勇者「その女の子を解放すれば、魔族に襲われることなんてなくなるだろ」

勇者「なんでこんな所に閉じ込めてんだよ」

成金男「わかるでしょう? 美しいからですよ!」

成金男「最初は観賞用にと思ったのですけどね……すっかり魅了されてしまいまして」
129 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:56:07.44 ID:RUdbUN5C0

勇者「てめえ、ぶった切ってやる!」

成金男「ひいいっ!」

魔王「待て。この男を殺せば、おまえが罪に問われる」

勇者「ああ、そうか。普通の町じゃあ、人殺しは罪だったな」

成金男「ひ、人を殺したことがあるのですか!?」

勇者「あるけど、それがどうしたんだよ」

成金男「ふ、ふふ、勇者が人殺しだったなんて、世間が知ったらあなたの評判はガタ落ちだ!」

成金男「どうです? 私はあなたが人殺しであることを黙っています」

成金男「だから、私を見逃してもらいたい」

勇者「んな話に乗るかっつの!」
130 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:56:44.72 ID:RUdbUN5C0

魔王「その娘を放せ。そうすれば穏便に済ませてやろう」

成金男「え、偉そうにしおって! この娘は決して誰にも渡さんぞ!」

成金男「大体、狐共が悪いのだ! 人間の土地であるこの国をうろついておったのだから!」

狐少女「た……たす……けて……!」

勇者「えーっと……突風《ガスト》!」ビュオッ

成金男「うおっ!」

勇者「よーし、もう大丈夫だぞー!」

成金男「うぐ……く……ただで済むと思うなよ!」

成金男「貴様の悪名を世間に流してやるからな!」

勇者「おまえの悪名も流しといてやるよ」

勇者「とんでもねえロリコン野郎だってな! ははは!」

成金男「くうぅっ……」
131 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:58:36.07 ID:RUdbUN5C0

狐青年「カレン……今夜こそ、絶対に……!」

狐少女「お兄ちゃん? ……お兄ちゃん!」

狐青年「カレン!?」

狐青年「ああ、よかった……」ギュウ

狐少女「あそこのお兄さん達が助けてくれたの」

狐青年「……おまえ、勇者か!?」

勇者「そんな警戒すんなよ。魔族だからってなんでもかんでも殺しはしねえっつの」

魔王「早くこの場を去るのだ。人に見られたら厄介だろう」

狐青年「……恩に着る」
132 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 21:59:47.96 ID:RUdbUN5C0

成金男「このままで……済むと思うなよ!」

成金男「来い! 傭兵達!」

ザッ

勇者「おー、すげえ人数だな」

成金男「いくら勇者とその下僕と雖も、この人数には手こず」

勇者「堀の水をばっしゃー! と」

傭兵達「「「「うおわあああああ!!!!」」」」

成金男「み、水を操っただと!? 術名も唱えずに!?」

勇者「大精霊からもらった力を使えば術名言わなくても発動できるんだよ」

勇者「言った方がイメージは固めやすいけどな」
133 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:00:28.99 ID:RUdbUN5C0

成金男「ふ、ふふ……その力、私のために使ってみませんか? 金は積みますよ!」

勇者「はあー……。なあ、こいつこりねえ性格みたいだしよ、放置してたらまた同じことすると思うぜ」

魔王「うむ……どうしてやろうか」

成金男「ひっひい」


ヒュンッ

ザシュ


成金男「うぎゃああああ!!」

狐壮年「……娘が随分と世話になったようだな」
134 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:04:44.56 ID:RUdbUN5C0

狐壮年「その出血では長くはもつまい」

狐壮年「精々、苦しんで死ぬことだな」

魔王「……」

魔王「待て、狐よ。何故この国に訪れたのだ」

狐壮年(……人間の姿は、偽りのものか)

狐壮年「……魔族の領地から別の魔族の領地へ、移動する途中でございました」

狐壮年「魔族の街道はテロが多発しているため、やむを得ず人間の土地へ足を踏み入れたのです」

狐壮年「我等は耳と尾を隠せば人間とそう姿が変わりませぬ。途中までは順調でございました」

狐壮年「しかし、道中で娘がこの男に目をつけられてしまい、このような事態になってしまいました」

魔王「……そうか。行くがよい」
135 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:05:13.58 ID:RUdbUN5C0

魔王(俺の力不足が招いてしまったのだな……)

勇者「おーいおっさん、助かりてえか?」

成金男「金なら……うぐっ……いくらでもやる! 助けろ!」

勇者「あー、駄目だわこいつ。死んだ方がいいな」

魔王「悪人が死ぬことには、抵抗を感じないのか?」

勇者「感じねえよ。感じる必要もない」
136 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:05:48.10 ID:RUdbUN5C0

――――――――

ザアアァァァァァァァァァァ……

ゴロツキ1「ひでぇ雨だな、今日は強盗業はやめとくか」

ギイィィ

ゴロツキ2「誰だ!?」

勇者「探したんだぜぇ……」

ゴロツキ1「なんだぁ? お前」

ゴロツキ3「あ、去年犯した女と一緒にいたガキっすよ。珍しい髪の色なんて覚えてるっす」

ゴロツキ4「何しに来たんだ? 犯されに来たのか? ひゃーひゃっひゃっ」

ザシュ

勇者「ふふ……はははははは」

勇者「全員、地獄送りだ」

――――――――
137 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:06:30.73 ID:RUdbUN5C0

勇者「初めて人を殺した時、タガが外れたような感じがして」

勇者「それ以来、平気で悪人を殺せるようになった」

魔王「…………」

勇者「ははっ、かなり腕が立つからさ、スラムじゃ用心棒としてけっこう重宝されてたんだぜ、オレ」

魔王「……そうか」

成金男「たすけ……助けて……くれ……」

魔王「…………」

魔王「見たところ、この町は貧富の差が激しい」

魔王「おまえの富を貧しき者に分配すると誓うのなら、命を助けてやろう」

成金男「ち、誓う……誓います、から……」

勇者「おい、助けるのかよ」

魔王「罪人には、償う機会が必要だ」

成金男「へ、へへ……ありがとう……ございます……」

魔王「だが、もし貴様が再び罪を犯せば、貴様には死が訪れるよう呪いをかけた」

魔王「俺は決して貴様を許したわけではないことを忘れるな」
138 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:10:26.32 ID:RUdbUN5C0





勇者「……反吐が出るぜ」

勇者「拉致監禁に強姦未遂をやらかしたんだ。苦しめて殺してやればよかったのによ!!」

魔王「俺の父も、あの者と同じことをしたからな」

魔王「見殺しにはしたくなかった」

勇者「……ああ、そうか。お姫様拉致ったんだもんな」

魔王「俺の父だけではない。人間を飼うことを娯楽としている魔族はそう珍しくなかった」

魔王「今は俺が禁じているため、滅多に行うものはおらぬがな」

魔王「禁を破ったものは……」

勇者「この前のサキュバスみてえに封印の刑か」

魔王「ああ」
139 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:11:13.98 ID:RUdbUN5C0

魔王「人間も、魔族も、同じように罪を犯す」

魔王「両者の性質に、そう違いはないのかもしれんな」

勇者「……はー、疲れたな」

勇者「屋敷の部屋に戻るつもりはねえしよ、宿確保し直さなきゃな」

魔王「……俺も共に探そう。夜に1人で出歩くのは危険だ」

勇者「んな心配いらねえって」

魔王「お前のような容姿の者は狙われやすいからな」

勇者「あ゛? やっぱオレのこと女扱いしてんだろ」

魔王「お前だって、この前はヒラヒラの女物の服を着ていたではないか」

勇者「あれは無理矢理……って、なんでおまえがそれを知ってるんだよ」

魔王「勇映の玉という、魔王専用アイテムがあってな」

魔王「勇者の居場所を示してくれる優れ物なのだが、それだけではなく、勇者の姿を映すことも可能なのだ」

勇者「…………」

勇者「なあ、オレのプライバシーは?」

魔王「…………」

魔王「……すまん」
140 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:12:45.56 ID:RUdbUN5C0

勇者「その玉ぶっ壊す!!」

魔王「やめっやめろっ! 許してくれ! すまんローゼ!!」

勇者「待ちやがれ!!」

魔王「おまえの位置を特定する目的以外ではもう二度と使わんと誓おう!!」

勇者「本当だろうなあ!?!?」

魔王「本当だ!!」

勇者「もしまた覗き見しやがったら……」

勇者「魔王は人間の町でエロ本読んでるって吹聴しまくってやる!!」

魔王「勘弁してくれー!!」

魔王(言動のちぐはぐさが気になるな)

魔王(若さ故に自己を確立できておらぬのか、育った環境によりアイデンティティを歪めてしまったのか)

魔王(……その両方かもしれんな)
141 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/17(金) 22:13:22.49 ID:RUdbUN5C0
つづく
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/17(金) 22:22:14.91 ID:SIPtZ+GDO
乙乙
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/18(土) 03:38:51.15 ID:9gR4xLDT0
この板1番の楽しみよ
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/18(土) 07:32:08.06 ID:IIBvdm8R0
おつです
145 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:11:03.86 ID:gdOkoWJw0

Episode 7


地の神殿

勇者「力任せに解く試練ばっかだなーここ」

勇者「後はこの岩を動かしてスイッチを押せばいいのか」

勇者「なあ魔王―、めんどくせえからやってくれよ」

魔王「あのな……」ゴロゴロ

勇者「よーし、次で最深部だな」

勇者「今までのパターンだと、もうそろそろ……」

シーン……

魔王「現れんな」

勇者「ついにこのオレに恐れをなしたか!」

魔王「何か策があるのかもしれん」
146 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:11:57.32 ID:gdOkoWJw0

勇者「……マジで襲ってこねえな」

魔王「気配も感じぬ。本当に来てはおらぬのだろう」

ゴゴゴゴゴゴ

地の大精霊「我は地の大精霊。他の大精霊のように甘くはないぞ!」

地の大精霊「貴様の力、聢と見せてもらおう!」

魔王「今、『貴様』と言ったな?」

地の大精霊「そうだ」

勇者「『貴様等』じゃなくてか?」

地の大精霊「流石に魔王が仲間とは卑怯であろう」

勇者「まあ普通じゃねえな」
147 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:12:30.09 ID:gdOkoWJw0

勇者「大飛沫《スプラッシュ》!」

地の大精霊「なかなかの威力だな!」

魔王「ほう、大精霊が纏っていた土を一気に流したか」

地の大精霊「だが――!」

勇者(流した土が泥になって足元に!?)

地の大精霊「これで自由には動けぬだろう!」

勇者「舐めんなよ! ……竜巻《トルネード》!」

勇者「これで足元は自由だぜ!」ダダッ
148 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:14:24.48 ID:gdOkoWJw0

勇者(いくら土を自由に操れるとはいえ、本体に直接攻撃をぶち込めば勝機はある)

勇者(今オレに授けられている加護は風と水の1つ)

勇者(この2つの力を組み合わせる!)

勇者「……怒号の炎《アングリー・フレイム》!」

地の大精霊「愚かな! 炎は我を硬化させるだけだぞ! ……風と水だとぉ!?!?」

地の大精霊「ぐわあああああ!」

勇者「こんな単純な手に引っかかるなんてな!」

魔王「大精霊の加護による魔術は詠唱を必要としないことを利用して、偽りの術名を叫んだのか……」

地の大精霊「……卑怯だ」

地の大精霊「だが、その狡猾さも貴様の力の1つなのだろう」

地の大精霊「貴様の実力、確かめさせてもった。聖なる地の加護を授けよう」
149 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:17:11.77 ID:gdOkoWJw0

魔王「さて、勇者ローゼよ。今日の昼飯なのだが……」

勇者「…………」

魔王「なんと、卵焼き5種類セットだ!」

勇者「おっしゃー!」

魔王「それぞれハーブの調合を変えてある」

魔王「そして、一番右端のは砂糖多めだ」

勇者「うんめええええ!!」

狼「♪」

魔王(これほど喜んでもらえるのなら、用意した甲斐があったな)

魔王(尤も、作ったのはメイドであって、俺はただ運んだだけなのだが)

勇者「ありがとな!!」

魔王「……ああ」
150 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:18:10.43 ID:gdOkoWJw0

勇者「そういや、ごこたいしょう? だっけか? おまえにもあんな感じの部下いねーの?」

魔王「ああ、四天王がいるぞ」

勇者「ちゃんといたんだな」

魔王「ああ、ちゃんといる」

魔王「……いないとでも思っていたのか?」

勇者「ちょっとな」

魔王「…………」

魔王「本来、魔王直属の大将は9人だった」

勇者「分裂しちまった結果が現状なんだな」

魔王「そうだ」

魔王「9つの恵みを司る九大天王。彼等が9人揃ってこそ真の力を発揮できるというのに」

魔王「地、岩漿、火、雷霆、風、雪氷、水、波動、闇」

魔王「彼等は恵みを公正に分配し、平和を守るために……」

勇者「…………」zzz

魔王「寝るな」
151 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:20:03.78 ID:gdOkoWJw0

勇者「それより気になってたんだけどよぉ、おまえって攫われたお姫様と関わったことあんのか?」

魔王「ああ、親しかったぞ」

勇者「おまえが和平に拘ってる理由、もしかしたらお姫様だったんじゃねえかと思ってさ」

魔王「その通りだ」

魔王「……美しい人だった。横顔が、おまえと少し似ていたな」

魔王「髪の色も同じ銀だった」

勇者「……へえ」

勇者「…………」

勇者「……好きだったのか?」

魔王「彼女は……俺が最も愛した人だった」

勇者「……ふーん」

勇者(暖かくて優しくて、でも寂しそうな表情だ)

勇者(まるで、オレがメリッサのことを思い出してる時のような……)

勇者(……………………)
152 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:22:52.99 ID:gdOkoWJw0

近くの村

勇者「すんませーん、宿探してるんすけど」

親切そうな男「ああ、宿ならあっちだよ」

勇者「どうも」

勇者(綺麗な村だなー)

勇者(城下町からはだいぶ離れてるってのに、随分豊かそうだ)

勇者(宿は……あの建物っぽいな)

銀髪少女「あーーーーーーーーーーーーー!!!!」

勇者「うおっ」

銀髪少女「お姉ちゃん、私と髪の毛の色おんなじー! 目の色まで!!」

勇者(ガキの頃のオレそっくりだ。吃驚した……)

銀髪少女「嬉しいな! おんなじ色の人全然いないから」

勇者「まあ、わりと珍しいよな」
153 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:24:02.04 ID:gdOkoWJw0

銀髪少女「お父さんとお母さんも、茶髪と金髪で、違う色だから寂しかったの」

勇者「そうか」

勇者(茶髪と金髪の夫婦……まあ、何処にでもいるよな)

銀髪少女「旅人さんでしょ! ねえねえ、うちに泊まってって!」

勇者「いや、オレそこの宿に泊まるから」

銀髪少女「えー、うちに来てよぉ!」

勇者「なんでだよ、嫌だっつの」

勇者(……誰かと親しくなるのは嫌だ。他人との関わりは必要最低限でいい)

勇者(失った時のあの思いは、もう味わいたくない)

勇者(アルセア……)

銀髪少女「お姉ちゃんなんで? なんでいやなのー?」

勇者「嫌なもんは嫌なんだよ!! あとオレはお姉ちゃんじゃねえ!!」

銀髪少女「…………」

銀髪少女「ふえええええええええん!!!!」
154 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:25:55.76 ID:gdOkoWJw0

温和な女性「その子、1人っ子でいつも寂しがってるんだよ」

温和な女性「勇者様、どうか付き合っていただけないですかねえ」

勇者「え、えー……」

温和な女性「ああ、これをどうぞ。ビスケット、焼きすぎちゃったのよ」

銀髪少女「ありがとー!」

温和な女性「仲良くね」

勇者(断る隙がなかった……)

銀髪少女「…………」ジーーー

勇者「……わぁったよ、ったく……」

銀髪少女「わーい! 私、ピティロディア!」

勇者「名前がなげぇ」

銀髪少女「ロディアでいいよ!」

銀髪少女「お姉ちゃんの名前は?」

勇者「だからお姉ちゃんじゃねえって……ローゼだ」
155 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:27:03.18 ID:gdOkoWJw0

銀髪少女「ここ! ここ私のおうち!」

勇者(へえ、水車付きか)

勇者(花壇、よく手入れされてんな)

勇者(アップルミント、ラベンダー、ラムズイヤー、ローズマリー……メリッサ)

勇者(シソ科が好きなのか?)

勇者(こんな花壇、昔、何処かで……)

勇者(……こっちのは何だ? 葉がラムズイヤーみてえな銀で、花が濃い桃色だ)

銀髪少女「あのねー、これ、ピティロディア! 私と同じ名前なの!」

勇者「……ふうん」

銀髪少女「お父さんお母さーん! お客さん連れてきたよー! 銀色の髪の毛なのー!」

母「あら、ロディアったら……!?」

父「銀って、珍しいね。……っ!」

勇者「あ…………」
156 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:29:01.49 ID:gdOkoWJw0

勇者(親の顔なんて、とっくの昔に忘れたと思ってたのに)

母「ローゼ……? ローゼなの?」

父「本当に……ローゼなのか?」

勇者「…………」

銀髪少女「??」

母「ああ、ローゼ……」

勇者「っオレに触んな!!」パシッ

母「ローゼっ……」

勇者「なんで……なんでこんな所にいるんだよ」

父「……陛下の横暴な政治に耐えられなくて、亡命したんだよ」

父「もし、次の子も捨てるよう命じられたら……そう思うと、恐ろしくてたまらなくなった」

父「そして、国に従って君を捨ててしまった罪悪感からも……私達は逃げてしまった」

勇者「…………」

勇者「どうして、オレを捨てろって命じられた時点で国から逃げなかったんだよ!!」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 23:30:40.92 ID:jx41vGG50
昼ドラ並みドロドロしてきた…
158 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:32:30.46 ID:gdOkoWJw0

父「……すまない。そのことは、ずっと後悔しているんだ」

勇者「てめえらなんて親じゃねえ!」

父「だが私達は君を探したんだ!」

父「国を出る直前、命がけでスラムに忍び込み、必死で……!」

父「……だが、私達が見つけられたのは、君が着ていた服だけだった」

父「てっきり、もう死んでいるものだと……」

勇者「嘘つけ!!」

母「……これが、その服よ」

勇者「っ…………」

勇者(……確かに、オレが着ていた物だ。小さくなって着られなくなったから、生活のために売ったんだ)

母「生きていてくれたのね……」

勇者「……こっちに来るな!」

勇者「オレは今更親子ごっこをするつもりなんてねえんだよ!!」ダッ

銀髪少女「あっ、待って! お姉ちゃん!!」
159 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:33:04.03 ID:gdOkoWJw0

宿

勇者(ベッドやわらけえな)ボフッ

勇者(……逃げ出しちまった)

勇者(国も、国に逆らえなかった親のことも、何もかもを恨むことで今まで生きてこられたってのに)

勇者(あれじゃ、恨めなくなっちまうじゃねえか)

勇者「ちくしょう……ちくしょおおおおお!!!!」








160 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:36:14.75 ID:gdOkoWJw0

――――――――

勇者「んーーーーーー!」

勇者「かあさまのたまごやき、トロトロでいちばんだいすき!」

母「あらあら、そんなに喜んでくれるなんて、作り甲斐があったわね」

母「もうちょっと大きくなったら、作り方を教えてあげるわね」

勇者「やったー!」

母「あなたはきっと良いお嫁さんになれるわね」

父「はは、そうとも限らないよ」

父「男として私の仕事を継ぐかもしれないからね」

母「そうね」

父「ローゼ。君は、男として生きることもできるし、女として生きることもできる」

父「普通の人よりも選択肢が多いんだ」

勇者「せんたくし?」

父「たくさんの道を選べるってことだ! 得したな!」

勇者「うん!」

父「ほら、たかいたかーい!」

勇者「あはははは!」

――――――――
161 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:36:50.51 ID:gdOkoWJw0

勇者「……あれ」

勇者(少しだけ寝ちまってたのか)

勇者「父様、母様……」

コンコン

勇者「……誰だよ」ガチャ

銀髪少女「お姉ちゃん!」

勇者「なんでここの部屋だってわかったんだよ」

銀髪少女「女将さんに教えてもらったの」

勇者「……何の用だ」
162 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:37:22.33 ID:gdOkoWJw0

銀髪少女「あのね、私ね、お姉ちゃんとほんとの姉妹だってわかって、すごく嬉しくてね……」

銀髪少女「……泣いてたの? 目、赤いよ?」

勇者「泣いてねえよ」

銀髪少女「……うちにね、晩ご飯食べに来てほしいの」

勇者「行かねえよ」

銀髪少女「お母さんね、お姉ちゃんが好きだった卵焼きとか、ハンバーグとか、作って待ってるって」

銀髪少女「絶対来てね!!」ダダッ

勇者「……行かねえっつってんのに」
163 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:38:10.07 ID:gdOkoWJw0

勇者「……腹、減ったな」

狼「くぅーん」ギュルルルル

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

勇者「地震か!?」

勇者(いや、この感じは……)

地の将軍「ふはははは! この村、地に埋めてやろうぞ!」

勇者「くそっ、もうお休みモード入ってたってのによ!」ダッ



勇者(あちこち地面が割れてやがる)

勇者「おいてめえ!」

地の将軍「早かったな、勇者よ!」

勇者「てめえの狙いはオレの命だろ!? 無闇に村襲ってんじゃねえよ!」

地の将軍「貴様が大人しく首を差し出すと言うのなら、考えてやらんでもないぞ?」

勇者「チッ……ぜってえぶった切ってやる」

地の将軍「我は地の大将軍! 必ずや勇者を地の底へ葬ってみせよう!」
164 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:38:58.98 ID:gdOkoWJw0

勇者「あれ……名前、名乗らねえのか?」

地の将軍「し、死にゆく者に名乗る名などないのでな!」

地の将軍「大地震《アースクエイク》!」

勇者「やらせねえよ!」

地の将軍「ほう、我が術を無効化するとは」

勇者「はっ、ここは神殿のある聖域なんだ。この土地は加護を受けたオレに味方するんだよ!」

地の将軍「ならば、これを見ても強気でいられるか?」

地の将軍「ゴーレム!」

ゴーレム「はっ」ゴゴゴ

銀髪少女「けほっ、けほっ……」

勇者「ロディア……!?」

地の将軍「我にはわかるぞ。この少女、おまえと極めてよく似た魔力をもっている」

地の将軍「血が繋がっているのであろう? 逆らえば、こやつの命はないぞ」

勇者「人質かよ……くそっ、反吐が出るぜ」

勇者(遠距離攻撃で地の将軍を……いや、だめだ。遠すぎる。空なんて飛びやがって)

勇者(ゴーレムに攻撃すれば、ロディアまで傷つけちまう)
165 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:40:51.20 ID:gdOkoWJw0

銀髪少女「お姉ちゃーん!!」

勇者「っ……」

母「ロディア、ロディア!」

父「近づいては駄目だ! 危険すぎる!」

地の将軍「さあ、攻撃できるものならしてみるがいい!」

勇者「……オレが首を差し出したところで、この村が助かる保証なんて何処にもねえ」

勇者「なら、多少の犠牲には目を瞑った方が建設的だよなあ!」

地の将軍「ほう、できるのか?」

勇者「血が繋がってるだぁ!? 知ったことか! オレに家族なんていねえんだよ!!」

母「ローゼ……」

銀髪少女「……お姉ちゃん」ポロ

勇者「っ……」

地の将軍「今だ、カテギダ」

風の将軍「くくっ!」

ザンッ
166 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:41:28.92 ID:gdOkoWJw0

勇者「あっ……」

母「嫌ああああああ!! ローゼ、ローゼ!!」

風の将軍「俺としたことが、急所は外したか」

地の将軍「だが、もう動けはしまい」

勇者「いってぇ……」

勇者「血……止まんね……」

狼「バウワウ!! バウウウ!」

勇者「馬鹿やろ、宿で待ってろよ、おまえ……」

風の将軍「策は見事に成功したな」

地の将軍「我の言った通りであろう」

地の将軍「試練を乗り越えた後であれば、疲労が回復していないだろうからな」

地の将軍「そして、宵は我等魔族が最も力を発揮できる時だ」

風の将軍「俺とエクヴォリが愚かだったな。昼間は眩しすぎる」
167 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2018/08/19(日) 23:42:37.86 ID:gdOkoWJw0

地の将軍「さて、どちらがとどめを刺してやろうか」

風の将軍「これはおまえの手柄だ」

地の将軍「では、遠慮はせぬぞ」

母「待ちなさい!」ザッ

母「この子は、殺させない」

勇者「かあ、さま」

地の将軍「愚かな人間が。その脆い体では盾になどならぬぞ」

父「…………」

父「どれだけ脆くても、ないよりはマシだろう」

勇者「とうさま……」

父「逃げろ、ローゼ」

勇者「そんな、嫌……だ……!」

狼「……」ズルズル

勇者「放せガリィ!」

地の将軍「……気が変わった」
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