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魔王「おまえは女だ」ふたなり勇者「認めねえ」
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439 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/14(日) 21:38:54.35 ID:kx/kzcQp0
女「あんたなら、加護の力なんて無くたって戦えるさ」
女「それに、あんたは元々世界平和なんて考えちゃいなかったじゃないか」
女「無理に勇者の役目を背負わなくなっていいんだよ」
勇者「…………」
女「なんなら、あたしと一緒に世界の端っこまで逃げようか。大精霊様から、安全に暮らせる場所を教えてもらったんだ」
勇者「……それは無理だ。今のオレには戦う理由がある」
女「そっか……じゃあ、あたしを殺しておくれ」
勇者「は? 今、なんて……」
女「あたしを殺さなきゃ、あんたは先に進めない。ここはそういうシステムでできてる」
勇者「意味わかんねえよ!」
女「あたしの霊を壊すんだよ。そうすれば、あたしという存在は完全に消え去るけれど、その代わりあんたは先へ進める」
勇者「ふざけんな! 見殺しにするのだってつらかったのに、この手で直接殺すなんてできるわけねえだろ!」
女「あたしを蘇らせるか、殺すかの、2択だよ」
勇者(こんなの……こんなのどうしろってんだよ……!)
440 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/14(日) 21:39:59.95 ID:kx/kzcQp0
tsuduku
osokute gomenn nasai.....
441 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/04/14(日) 22:42:22.08 ID:XONf5OIco
>>440
お疲れ様。
気にすんな
442 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/04/14(日) 23:53:44.84 ID:G1B6MXI30
>>440
待ってました〜!
どうぞ、ゆっくりと続けてください
443 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/04/15(月) 00:08:20.71 ID:wOn12kwlo
おつ
まってた
444 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/04/15(月) 12:36:10.66 ID:lp3MZD4hO
乙乙
445 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:34:42.22 ID:5RjIV0Mm0
Episode 18
女「ねえ、一緒に生きようよ。あたしと」
女「ずっとそうしたかったんだろう? あたしのこと、守りたかったんだろう?」
勇者「…………」
女「ローゼ……」ギュ
勇者「…………」
勇者「……死んだ奴は蘇らない。決して」
勇者「精霊の加護の力にもそういった性質はない。この力を身に纏っているからよくわかる」
勇者「こんなの、結局嘘っぱちだ」
女「そんなことないよ」
勇者「いいや。不可能だ」
勇者「……精神にクる試練って、このことだったんだな」
446 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:35:39.57 ID:5RjIV0Mm0
女「あたしを斬れるかい?」
勇者「……とっくの昔にお別れした相手と、また別れるだけだ」シャキン
女「そうかい。じゃあ、これで本当にお別れだ」
勇者「っ……」
勇者「メリッサ……」
勇者(メリッサを殺さないと、オレは目的を果たすことはできない)
勇者(あいつとの約束を守れない)
勇者(やってやる。やってやるさ)
勇者(今、オレにとって一番大切なのは、メリッサじゃない。魔王との約束だ)
勇者「……うおおおおおおおおお!!」
ザンッ
447 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:36:09.32 ID:5RjIV0Mm0
勇者「…………」
女「ロー……ゼ……」
女「……ろぉ…………」
女「――――」
勇者「っ…………」
勇者「あああああああああああああああああ!!!!」
勇者「メリッサ! メリッサー! オレは、オレは!!」ガタガタ
勇者(手が震えて、剣を握れない)
勇者(胃の辺りから体の芯を握り締められたような変な感覚が込み上げる)
勇者(メリッサは消え去った。オレは先へ進める)
勇者(これで正解だったのか?)
魔王「おい、大丈夫か?」
勇者「えっ……お前、何でいるんだよ。いつの間に……」
448 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:36:43.14 ID:5RjIV0Mm0
魔王「魔族の俺が人間のしきたりを守るような道理なんぞないからな」
魔王「心配だから後を追ってきたのだ」
勇者「魔王、オレ、オレ…………」
魔王「……しかし、見損なったぞ。愛する恩人に刃を向けるとは」
勇者「なっ……」
勇者「でっでもっ、仕方ねえだろ! メリッサを殺さなきゃオレは光の加護を得られねえんだから!」
勇者「文句ならこのシステム作った奴に言えよ!」
魔王「彼女を斬らず、光の大精霊のもとへ殴り込みに行くくらい、お前ならできたはずだ」
勇者「え……」
魔王「大切なものを天秤にかけ、そのどちらかしか選ぶことができないようでは、勇者と呼ぶに相応しくないな」
449 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:37:09.83 ID:5RjIV0Mm0
勇者「オレは……お前のために……」
魔王「俺を言い訳に使うな」
勇者「…………」
魔王「どうやら俺の見込み違いだったようだ」
勇者「お、お前そんなこと言う奴じゃなかっただろ!?」
魔王「何を勘違いしている。俺は、お前の力を必要としていただけだ」
魔王「だからお前に媚びを売り、お前が罪を犯したことを利用して罪悪感を植え付け、お前が俺の思うとおりに動くよう仕向けていた」
魔王「だが、お前のような人間が光の加護を得られるとは思えぬ」
魔王「世界のことは俺一人でどうにかする」
勇者「お、オレに抱かれてたがってたのも嘘だっていうのかよ!」
魔王「お前は勇者に相応しい人格の持ち主ではないということは、最初からわかっていたが……」
魔王「ここまで愚かとはな」
勇者「なっ……ど……して……」
450 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:38:22.84 ID:5RjIV0Mm0
魔王「さらばだ」
勇者「ちょっと待てよ! 嫌だ!」
勇者「オレ……オレっ……お前のことっ……」
魔王「俺がお前を恨んでいないと思うか?」
勇者「っ……」
魔王「……」
ザシュ
勇者「うっ……づぅっ……!」
魔王「もう二度と俺の前に顔を見せるな」
勇者「まお……」バタリ
451 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:38:56.51 ID:5RjIV0Mm0
勇者(血が止まらねえ)
勇者(オレは……死ぬのか……?)
店主「目が覚めたかい?」
勇者「あれ……オレは……」
店主「覚えていないのかい?」
店主「勇者様は無事試練を乗り越え、ここに戻ってきたものの、満身創痍でねえ」
店主「三日間眠り続けていたんだよ」
勇者「途中から記憶がねえ……」
452 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:39:32.59 ID:5RjIV0Mm0
狼「くぅーん」
勇者「ガリィ……」ワサワサ
店主「勇者様が眠っている間にねえ、大変なことになったよ」
店主「魔族領で激しい内乱が起こったんだ」
店主「魔炎帝とかいう魔王の異母兄が、魔王の座を狙っているとかでねえ」
勇者「魔王が危ねえ……!」
勇者(でも、オレはもうあいつに……)
勇者(……そんなこと知るか。借りを作ったままなんて冗談じゃねえ)
勇者(タダ飯喰らいになるくらいなら、あいつにどんだけ疎まれようが、剣を向けられようが、戦ってやる)
453 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:40:29.53 ID:5RjIV0Mm0
――――――――
――
魔王城
魔炎帝「今日こそ渡してもらうぞ。不死の力を!」
魔王「カルブンクルス……!」
勇者「おい魔王!」
魔王「ローゼ、何故来た!」
勇者「オレ、光の加護を手に入れたんだぜ!」
魔王「光の加護? 中途半端に陰りがあるではないか」
勇者「え……」
魔王「光の加護は、真に相応しい者でなければ使いこなすことはできぬ」
魔王「加護の力をあてにするのではなく、己の中の光を目覚めさせなければ――」
魔炎帝「お喋りはそこまでだ」
魔炎帝「紅蓮の炎《ローリング・フレイム》!」
勇者「させるか!」
勇者(水の壁に光の加護の力を付加して完全に遮断する!)
454 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:41:17.51 ID:5RjIV0Mm0
勇者「お前がオレのことを捨てたってなあ! オレは約束を反故にはしたくねえんだよ!」
魔王「……まったく、お前という奴は……」
魔炎帝「残念だったな、炎はおとりだ」
勇者(こいつ、いつの間に背後に!)
魔炎帝「我に従え! 絶対服従《アブソリュート・オビディエンス》!」
魔王「ぐあっ……」
勇者「魔王!」
魔炎帝「……くくっ……ふはははは! これでついにグラナティウスは我が手に堕ちた!」
魔王「…………」
勇者「こんなの、オレの光の力で……!」
勇者「き、効かねえだと……!?」
勇者(オレの力が……不完全だから……?)
455 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:42:05.81 ID:5RjIV0Mm0
魔王「ローゼ……お前は本当に、邪魔な奴だな」
ザシュッ
勇者「うっ……またお前に刺されるなんて……」
魔炎帝「其奴を殺さぬ限りこの術は解けぬぞ!」
勇者「……そうかよ……」
勇者「なあ、お前、この世界の平和を望んでたよな」
魔王「平和などくだらぬ。混沌こそ魔族の進化を生み出す。世にもたらされるべきは戦乱だ」
勇者「……きっと、本当のお前は、オレに斬ってもらうことを望むだろうな」
勇者「今度こそ、お前の命を奪うことになるけど……生まれ変わったら、その時はまた会おうな」
456 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:42:33.78 ID:5RjIV0Mm0
魔王「――――」
勇者「……オレが本当の勇者だったら、世界もお前も、両方助けられたんだろうな」
勇者「ほんと、お前が言った通り……オレは、勇者に相応しくねえ」
魔炎帝「ふはははは! 本当に斬り殺すとはな!」
勇者「てめえのことは……ぜってえ許さねえ!」
魔炎帝「その傷で戦えるのか?」
勇者「……」
勇者(光の神殿で負った傷もまだ治ってねえ。さっき斬られた箇所からは血が流れ続けている)
勇者(だめだ、視界が……)グラリ
魔炎帝「できれば貴様のことは計画に利用したかったが、やむを得ぬ。ここで死んでもらおう」
勇者「……てめえなんかに……!」
457 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:43:12.36 ID:5RjIV0Mm0
勇者(あー……負けちまった)
勇者(今度こそオレは死ぬんだろうな)
コロコロ……
勇者(石……海の家の店長からもらったやつ……)
勇者(己の内なる光を目覚めさせる力があるんだっけか……光ってなんだろうな)
勇者(光……眩しくて、暖かくて……)
勇者(力……太陽……魂……希望……)
勇者(光は、闇を照らしてくれるもの……)
勇者(オレにとっての光はメリッサで、メリッサが死んでからは……魔王が……)
勇者(その光を、オレは自ら掻き消した)
勇者「…………」
勇者(いいや、オレの心を照らしてくれる奴がいなくたって、オレは生きていけたはずだ)
勇者(つうか、まだ生きていてえな……)
勇者(何があっても、絶対に生き残る。メリッサが死んで以来のオレの信念)
勇者(……オレにとっての光は、他者ありきの光だけじゃねえ!)
勇者(どんなに辛くても、生きて、生きて、生き抜いて、生きていける世界にすること)
勇者(それがオレの光だ!)
458 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:43:52.06 ID:5RjIV0Mm0
勇者(痛みが引くと同時に、視界が闇で包まれた)
勇者(……光が見える)
光の大精霊「よくぞ光を見つけ出したな」
勇者「……光の大精霊様か」
光の大精霊「どれほどの絶望に呑まれようとも、己の光を見つけ出すこと」
光の大精霊「それがこの光の試練だったのだ」
勇者「趣味わりぃよ」
光の大精霊「世界のために迷わず剣を振るうことができるのかも試していたからな」
光の大精霊「悪夢以上の悪夢ではあっただろう」
勇者「全部、幻だったんだな」
光の大精霊「うむ。汝は恩人の霊など斬ってはおらぬし、愛する者を殺してもおらぬ」
勇者「……はあ」
光の大精霊「この試練を乗り越えた歴代の勇者は、もっと勇者らしい答えを見つけておったが……」
光の大精霊「生存本能という答えもまたよかろう。そもそも汝に勇者らしさなど最初から期待しておらぬしな」
勇者「うるせえ」
459 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:47:35.60 ID:5RjIV0Mm0
光の大精霊「先代の勇者は、敵に回った大切な者の幻を斬ることはできたものの、光を見つけ出すことはできなかった」
光の大精霊「よって、我は先代の勇者の心に残っていた僅かな光に見合う量の加護しか与えられなかった」
勇者「オレは今てめえをぶん殴りたくて仕方がねえ」
光の大精霊「殴りたければ殴ればよい。尤も、我に触れることは不可能だがな。存在している次元が異なる」
勇者「チッ」
光の大精霊「この神殿を出る前に、これを持ってゆけ」
勇者「なんだ? この宝石みてえなの」
光の大精霊「この神殿に侵入した、かつての魔族の幹部……九大天王だった者達が落としていったものだ」
光の大精霊「魔王に代々不死の力が受け継がれるのと同様、歴代の九大天王も特殊な力を受け継いでいた」
光の大精霊「時の流れと共に力の核のいくつかは行方知れずとなったが、その内の地、水、火はここにある」
光の大精霊「今代の魔王であれば、これらを上手く使うであろう」
460 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:48:40.17 ID:5RjIV0Mm0
勇者「魔族の幹部……お前が殺ったのか?」
光の大精霊「我が直接手を下したのではない。この空間の性質によって奴等は命を落とした」
光の大精霊「勇者以外の者、それも悪しき心の持ち主がこの神殿に立ち入れば、この闇に呑まれ、正気を失い、自らを破滅させる」
勇者「怖っ……」
光の大精霊「さあ行け、勇者よ。汝の道が光と共にあらんことを」
外
勇者「あー……やっと終わった……」
魔王「ローゼ!」
勇者「魔王お前……本物だよな?」ペタペタ
魔王「どうした、俺の偽物でも現れたのか」
勇者「あったけえ……」ギュム
魔王「お、おい……恥ずかしいだろう……」
狼「へっへっ!」
勇者「魔王……ガリィ……」
勇者「うーっ……」
魔王「な、泣くほど辛かったのか? よかろう、俺の胸くらい貸してやる」
勇者「生きてる……あー……」
魔王「光も、優しさも、失ってはおらぬようだな」
勇者「オレ、お前のことぜってえ守るから」
魔王「そっ、そうか……」
461 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/04/17(水) 23:49:42.48 ID:5RjIV0Mm0
tsuduku
owarasetainoni owaranai
462 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 00:43:27.47 ID:ebgr8lM0o
otu
ganbare
463 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 12:31:28.34 ID:be4ATy4jO
otuotu
464 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 23:14:30.20 ID:/u3lBT4jo
otu
465 :
◆O3m5I24fJo
[sage]:2019/06/01(土) 20:27:37.19 ID:wTgJiP0d0
gomenn nasai
ikitemasu tsudu kikaitemasu
gomenn nasai
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/06/01(土) 20:41:36.40 ID:ED2CmjAlo
daijoubu
matteru
467 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/06/01(土) 21:38:08.46 ID:7vSQEe7Eo
seizon houkoku
arigatai
jibun no pe-su de
468 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:36:23.51 ID:ZP4fbI/A0
Episode 19
魔族の集落
魔王「……参ったな」
勇者「どうした」
魔王「先日、朗報を聞かせられるかもしれないと言っただろう」
勇者「ポシャッちまったのか?」
魔王「不可能だと決まったわけではない」
魔王「あるアイテムが必要だと判明したのだが、それらのいくつかが行方不明でな」
勇者「それってこれか?」
魔王「これは……九大天王の宝玉ではないか……何処で拾った」
勇者「この前光の神殿で大精霊にもらったんだよ。お前に渡すの忘れてた」
魔王「……そうか、なるほど……」
勇者「んで朗報の内容はなんだよ」
魔王「ああ、それはだな」
469 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:37:19.15 ID:ZP4fbI/A0
魔王「結論から述べよう。魔族に帰る土地が見つかった」
勇者「え、マジで?」
魔王「この大地が巨大な一枚の板のようになっているのは知っているな」
勇者「昔本でちょっと読んだっきりだが、まあ一応」
魔王「そもそも、魔族はこの板の裏側、すなわち魔界に住んでいた」
魔王「しかし、未曽有の大災害が起き、魔界は生存に適さなくなってしまった」
勇者「んでこっちの世界に逃げ込んだと」
魔王「伝説では、魔界は地獄そのものと化したと伝えられていたのだが……」
魔王「現在では、自然の豊かな美しい土地となっていることがわかったのだ」
勇者「どうやって判明させたんだよ」
魔王「俺が使う封印の術があるだろう。あれは、魔界に対象者を送り込む術なのだが、」
魔王「先日温泉に行った際、以前封印したサキュバスが夢に現れた」
魔王「淫の気の強い土地であったため、遠く離れた場所からであっても俺の夢に潜り込みやすかったのだろう」
470 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:38:12.21 ID:ZP4fbI/A0
――――――――
――
サキュバス『お久しぶりねえ、魔王様ぁ』
サキュバス『案外こっちは良い所だったわよぉ!』
サキュバス『欲を言えば、もっと良い男がたくさんいてくれたら嬉しいけどぉ……』
魔王『お前は……』
サキュバス『みんなこっちに帰ってくればいいんだわ! うふふふふ!』
――
――――――――
魔王「古い文献を調べ、魔王城の最深部に魔界への入り口があるのを確認し、」
魔王「先遣隊を送り込んだ」
魔王「正に、理想郷とも呼べるような大地が広がっていたそうだ」
勇者「ふうん、良かったじゃねえか」
魔王「しかし……」
471 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:39:15.74 ID:ZP4fbI/A0
魔王「城にある魔界への道はあまりにも狭く、そして危険が多い」
魔王「未知の生物が棲みついている上に、地下深くほど物理法則がおかしくなっているそうだ」
魔王「よって、魔族や魔物を全て一瞬で移動させるための、巨大なゲートを開く必要があるのだが」
魔王「その術を使うには、魔王の力と九大天王の力の全てが揃っていなければならない」
勇者「それって五虎大将味方につけなきゃならねえんじゃねえの」
魔王「その問題はあるのだが、地、水、火の宝玉がこちらにあるのなら、その分は勝手に新たな九大天王を任命することができる」
魔王「尤も、適合者探しには時間がかかるだろうが」
勇者「へえ」
魔王「本来、九大天王の地位はこの宝玉と共に授けるものだったらしいからな」
勇者「らしいって」
魔王「何代も前の時代に、宝玉の奪い合いが発生したらそうでな」
魔王「それ以来、宝玉は当時の魔王の信頼を得ている者達によって隠され、代々秘密裏に継承されている」
魔王「問題は闇だな。闇の将軍スコティニヤは闇の宝玉を所持しており、」
魔王「他の五虎大将とは比べ物にならないほど強い」
472 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:39:45.14 ID:ZP4fbI/A0
勇者「四天王達は宝玉持ってんのか?」
魔王「ああ。普段は何処かに隠しているがな」
魔王「四天王が五虎大将よりも強いと断言できる理由の一つでもある」
勇者「でも敵にも一人宝玉持ってるやついるんだろ」
魔王「スコティニヤは滅多に表には出てこぬ。光を苦手とする体質故にな」
魔王「そもそも、あやつは立ち位置が曖昧だ」
勇者「どういうことだよ」
魔王「一応カルブンクルス側についてはいるようだが、こちらに対抗する姿勢も見られぬのだ」
勇者「じゃあもしかしたら仲間にできるかもしれねえんだな」
魔王「だと良いのだがな」
勇者「ってことは、あとは風の宝玉か。行方がわかんねえのは」
勇者「……なあ」
魔王「なんだ」
473 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:41:02.63 ID:ZP4fbI/A0
勇者「お前、魔界に帰るんならさ……その……」
勇者(オレに告ったこととか色々一体どうするつもりなんだよ)
魔王「…………」
魔王「そう不安そうな顔をするな」
魔王「今は険悪な人間の国々とも、距離を置くことで友好的な関係を築ける可能性がある」
魔王「だから、お前の故郷を初めとして、俺は多くの国と国交を結びたい」
魔王「つまり、頻繁にこちらに来る」
勇者(会えなくなるわけじゃねえのか)
魔王「人間には通い婚という風習もあるのだろう?」
勇者「そ、そもそもオレ達付き合ってすらねえだろ」
魔王「ほっとした顔をしたくせに」
勇者「うっせ」
474 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:42:02.60 ID:ZP4fbI/A0
勇者「にしてもここ良い土地だな。あの氷娘の地元なんだろ」
魔王「ああ。水も緑も豊富だ。……ここもまた、数百年前に人間から奪った土地だが」
勇者「ここに築いた家も何もかも捨てて魔界に帰るんだよな。大丈夫か?」
魔王「慣れ親しんだ土地を手放すのだ。当然混乱は避けられないだろう」
魔王「だが、それをどうにかするのが俺の仕事だ」
勇者(……覚悟決めてんだな)
勇者「にしてもフリー……ええと……」
魔王「フリージアだ」
勇者「そうそう、あいつ遅くねえか。この後美味い飯食わしてくれる約束なんだろ」
雪氷「だぁかぁらあ、私に訊いても無駄なんだってばー!」
風の将軍「貴様なら風の宝玉の在り処をしっているだろう!?」
雪氷「死んであの世でパパに教えてもらってよ!!」
風の将軍「力づくでも吐いてもらうぞ!」
勇者「おいあれ」
魔王「カテギダだな……」
475 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:42:46.04 ID:ZP4fbI/A0
雪氷「そんなしつこい性格だからママにフラれたんだよ!!」
風の将軍「そっそれは関係なかろう!!」
雪氷「あーわかった! ママそっくりの私にいやらしいことする気でしょ!!」
風の将軍「大事な親友の娘にそんなことできるか!!!!!」
雪氷「現在進行形で暴力は振るってるじゃない!」
風の将軍「それはお前が抵抗するからだろうが!!」
雪氷「あっかんべー!」
風の将軍「お前はこっちに来い! カルブンクルス様に仕えるのだ!」
雪氷「寝言は寝て言ってよね!」
勇者「あいつらって案外親しいのか?」
魔王「……色々と複雑でな」
魔王「フリージアの父とカテギダは親友であり、戦友だった」
魔王「女の取り合いをしてギクシャクした時期もあったそうだが、結局は和解し協力しあう仲に戻ったそうだ」
魔王「しかし……」
勇者「お前が後継者に選ばれたことで関係ぶっ壊れたとか?」
魔王「……まあ、そうだな」
476 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:49:39.58 ID:ZP4fbI/A0
――――――――
――
風の将軍『何故だ! 何故グラナティウスなぞを選んだ!』
先代雪氷『カルブンクルス殿下が魔王となっては、再び人間と戦争となるだろう』
風の将軍『それの一体何が問題だというのだ』
先代雪氷『私は、気がついてしまった』
先代雪氷『……魔族も、人間も、同じだということに』
風の将軍『な、何を言い出すのだ! 人間なんぞ下等生物ではないか』
先代雪氷『最後の戦争の時、人間の村を襲い、皆殺しにするよう命じられたことがあっただろう』
風の将軍『……あの戦い以来、お前は腑抜けてしまったように感じていたが』
先代雪氷『殺せなかった』
先代雪氷『殺そうとした人間の中に、私の妻と、娘によく似た親子がいた』
先代雪氷『母の方は、娘だけは助けてほしいと』
先代雪氷『娘の方は、母だけは助けてほしいと、それぞれ、命乞いをしていた』
風の将軍『…………』
先代雪氷『私の妻子も、かつて勇者に殺されかけた際には同じことを言ったそうだ』
風の将軍『お、愚かな! 人間に己の家族を重ねるなど!』
477 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:50:32.57 ID:ZP4fbI/A0
先代雪氷『グラナティウス殿下ならば、争いのない時代を作り上げるだろう』
風の将軍『だが……有力な魔族の多くはカルブンクルス様を支持している』
風の将軍『多くの敵を作ることになるぞ』
先代雪氷『どちらを支持しても、派閥争いを避けられないことは変わらぬ』
先代雪氷『そして私は、平和な未来がほしい』
先代雪氷『お前も、本当は争いに疲れているはずだ』
風の将軍『……』
先代雪氷『こっちに来ないか』
先代雪氷『私とお前が組めば、怖いもの無しだ』
風の将軍『……俺とお前が組んだところで、カルブンクルス様には敵わない』
風の将軍『仲良く殺されるのがオチだ……!』
先代雪氷『恐れるな! こちらにはルヴィニエだっている!』
先代雪氷『誰よりも魔王陛下に忠実なお前が、陛下に逆らうのか!?』
先代雪氷『グラナティウス殿下をお守りすることが、これからの我等の任務なのだぞ!』
風の将軍『……人間を娶って以来、陛下は変わってしまった』
風の将軍『おかしいのは陛下と、人間なんぞを魔王にしようとするお前達だ!』
先代雪氷『カテギダ!』
478 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:51:13.24 ID:ZP4fbI/A0
風の将軍(カルブンクルス様は、次期魔王としてずっと努力なさってきた)
風の将軍(その努力を無駄にしてはならない)
風の将軍(我等九大天王は、カルブンクルス様の教育係として、ずっと殿下をお支えしてきたのだ)
風の将軍(今更グラナティウスを選ぶ方が魔王族への裏切りに等しいではないか)
風の将軍(たとえ争いが起きたとしても、それはやがて魔族の繁栄となる)
風の将軍(そもそも、今更人間と仲良しごっこなぞ実現できるはずがないのだ……!)
魔炎帝『……そうか。コルドスはこちらにはつかぬか』
魔炎帝『殺せ』
風の将軍『っ……』
魔炎帝『お前ならば奴の隙を突けるだろう』
魔炎帝『念のため宝玉を装備してゆけ。奴も宝玉持ちではあるのだろう?』
風の将軍『…………』
魔炎帝『どうした。相棒とはいえ憎き恋敵でもある男だろう』
風の将軍『……仰せのままに』
479 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:52:16.05 ID:ZP4fbI/A0
風の将軍『!?』
風の将軍(隠していたはずの場所に風の宝玉がないだと……!?)
風の将軍(盗まれたか……いや、この場所を知っている可能性があるのは……)
先代雪氷『……カテギダ』
風の将軍『コルドス……!』
先代雪氷『九大天王が宝玉を使用するのは、同格以上の相手と戦う時のみ』
先代雪氷『やはり、私を殺すよう命じられたのだな』
風の将軍『……いいや、違うな』
風の将軍『俺は思い直したんだ。やはり、お前の存在がなければ俺は半人前だからな』
風の将軍『宝玉は、カルブンクルス派の連中から身を守るために持ち出そうとしただけだ』
風の将軍『特に、火を司るゼストスは、ほぼ確実にカルブンクルス様につくだろうからな』
風の将軍『俺はお前と手を組む。だから』
先代雪氷『悲しくなる嘘をついてくれるな』
風の将軍『……通じぬか』
480 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:54:56.30 ID:ZP4fbI/A0
風の将軍『俺の宝玉を何処へやった』
先代雪氷『魔王陛下に忠実に従えない者に、宝玉を使う権利はない』
風の将軍『お前こそ……人間を皆殺しにできなかったというのに!』
風の将軍『命令を遂行できなかったお前こそ俺の宝玉を奪う権利などないだろう!』
先代雪氷『そこを突かれると、痛いな』
先代雪氷『……雨が降ってきたな。涙雨か』
先代雪氷『先程、妻が――プルウィアが亡くなった』
風の将軍『なっ……』
風の将軍『病で臥せっていたとはいえ、余命はまだ』
先代雪氷『カルブンクルス派の者の手によって、薬を毒とすり替えられていたようだ』
先代雪氷『それでもお前はまだ、カルブンクルス殿下に仕えるのか?』
風の将軍『っ…………』
481 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:55:38.57 ID:ZP4fbI/A0
風の将軍『お前が……お前がカルブンクルス様を選んでいれば、彼女は死ななかった!』
風の将軍『プルウィアを殺したのはお前だ!』
風の将軍『命令通り――息の根を止めてやる!』
先代雪氷『俺を殺せば、風の宝玉の場所はわからずじまいだぞ』
風の将軍『ふん、後でゆっくり探してやる』
――
――――――――
風の将軍「大切なものを守るには、より強き者の側につくのが最善だ!」
風の将軍「お前だってこれ以上大切な相手を失いたくはないだろう!?」
雪氷「弱虫! 利用されてすりつぶされておしまいだって本当はわかってるくせに!」
風の将軍「少しでも大切な者と共にいられる時間を伸ばせるのならば、俺は利用される方を選ぶ!」
雪氷「それで手元に何が残ったの!?」
風の将軍「それはっ……」
雪氷「氷の鎖《アイスチェーン》!」
風の将軍「くっ!」
482 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:56:22.62 ID:ZP4fbI/A0
雪氷の叔母「あーあ、カテギダ様ったら。お墓参りに来られたと思ったら、こんなことになるなんて」
勇者「墓参り? てかあんた誰だ」
雪氷の叔母「申し遅れました。私はフリージアの叔母ですの」
雪氷の叔母「カテギダ様は、亡くなった私の姉、つまりフリージアの母のお墓参りによくいらっしゃるのよ」
雪氷の叔母「彼は今でも姉のことが好きみたいで。一途な人よねえ」
魔王「あやつらの事情は把握していたが、そこまで想いが強いとは知らなかったな」
風の将軍「お前の父さえ道を誤らなければ!」
雪氷「おじちゃんさえこっちに来てくれていたらパパは死なずに済んだのに!」
風の将軍「っ」
雪氷「……なんて、今更言ったって、どうしようもない」
風の将軍「…………」
――――――――
――
483 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:57:20.26 ID:ZP4fbI/A0
風の将軍『くっ……互角……ということは、貴様、宝玉を使ってはいないな』
先代雪氷『魔王陛下の命に背いてしまったあの日、私はもう二度と宝玉を使用しないと誓った』
先代雪氷『私にも、もうあれを使う資格なぞないからな』
風の将軍『……ふん、お前のその氷の如き無駄な生真面目さに、何度足を引っ張られただろうな』
風の将軍『だが、今回ばかりは俺がその足元を掬うことになりそうだ』
先代雪氷『お前をこの手で討ちたくはないが――やむをえん!』
雪氷『だめー!!』
先代雪氷『フリージア!? 何故ここに』
雪氷『パパの様子がおかしかったから、追いかけてきてやっと追いついたの』
雪氷『ねえ、よく話し合ってよ! パパとおじちゃんなら分かり合えるはずでしょ!?』
先代雪氷『いいからここから離れなさい!』
風の将軍『……風の刃《ウィンド・エッジ》!』
先代雪氷『ぐっ!』
雪氷『パパ!!』
484 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:58:19.54 ID:ZP4fbI/A0
風の将軍『……勝負あったな』
雪氷『やめて!』
先代雪氷『フリー……ジア……にげ……』
風の将軍『そこをどけ』
先代雪氷『……』ギロ
風の将軍『……安心しろ。娘を巻き込む気はない――突風《ガスト》!』
雪氷『きゃあああ!』ビュオオオオ
風の将軍『離れた場所に飛ばした。……覚悟はいいな』
風の将軍『この手で……お前を……お前を……!』
風の将軍(数百年共に戦った親友を……俺は……)
風の将軍『う……くぅっ…………』
先代雪氷『…………』
風の将軍『……殺した、ことにしておいてやる。フリージアを連れて遠くへ身を隠せ』
風の将軍『このままでは、あの子も殺されてしまうだろう』
先代雪氷『お前……』
風の将軍『逃げ隠れることなど、お前の陛下への忠誠心が許しはしないだろうが……』
風の将軍『今、お前にとって何よりも大切なものは』
ザンッ
485 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:58:48.77 ID:ZP4fbI/A0
先代雪氷『がはっ……』
風の将軍『コルドス……!?』
火の将軍「やはり詰めが甘いな、お前は」
風の将軍『……ゼストス……!』
雪氷『あいたたた……』
雪氷『数百メートルは飛ばされちゃった……。パパは……』
雪氷『……!!』
雪氷『パパ、パパ! 嘘でしょ、パパが……!』
雪氷『いやあああああああああああああああ!!』
雪氷『仇を……だめ、今の私じゃ、まだパパからもらった宝玉を使いこなせない』
雪氷『今は、逃げて、逃げて、強くなるんだ……!!』
486 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2019/06/02(日) 20:59:24.26 ID:ZP4fbI/A0
tsuduku
487 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2019/06/03(月) 00:40:37.57 ID:yZEYCS1ao
papa-!
488 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2022/01/18(火) 23:23:12.62 ID:lNF2mhAi0
これエタってたのか……
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