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【オリジナル】治療完了、目を閉ざすよ【長編小説】
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135 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:28:14.28 ID:JTzsj+KQ0
たちまち丸いゴム体から両手両足が生え、すりガラス越しにも分かるほど、鳥の巨大な目玉が真っ赤に発光を始める。
(不味いな……)
「危険」を察知した侑玖が、ヘッドセットのスイッチをオフにする。
そして彼は息を潜めながら右手を振った。
そこにリボルバー式の拳銃が現れた。
それを慣れた手付きで玄関に向け、腰を落とす。
136 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:28:47.73 ID:JTzsj+KQ0
ガァン! と扉を、物凄い力で叩く音がした。
外の鳥人間が叩いているようだ。
ガァン! ガァン! ガァン!
叩く勢いは徐々に苛烈さを増していき、たちまちのうちに玄関のドアを接続している蝶番が軋みを上げ始める。
数分もせずにドアが蹴破られた。
重低音がして、木製の割れたドアが部屋の中に転がる。
猛禽類の巨大な鳥の頭が、ヌゥ……と部屋の中に入ってきた。
137 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:29:27.39 ID:JTzsj+KQ0
爛々とその両目が赤く光っている。
「クケラ……クケラ……クケラ……」
意味不明なことを言っている。
侑玖は「それ」と目が合う前に、鳥人間の顔面に向けてリボルバー銃の銃弾を六発、連続して一気に発射した。
「グギャラァ!」
汚らしい不気味な悲鳴を上げ、両目を銃弾で潰された鳥人間がよろめき……。
138 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:30:05.47 ID:JTzsj+KQ0
そして、頭部を滅茶苦茶に破壊され、血液と脳漿、よく分からない液体を撒き散らしながらどうと倒れる。
痙攣しているそれを確認し、侑玖は
「フー……」
と息をついた。
そしてヘッドセットに手をかけながら、壊されて雪がなだれ込んできている玄関から外を見る。
空に複数の鳥風船が飛行しているのが見えた。
139 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:30:44.25 ID:JTzsj+KQ0
また部屋の中に戻り、窓に近づかないようにしてから、侑玖はヘッドセットのスイッチを入れた。
「秋坂さん。スカイフィッシュだ。この患者はスカイフィッシュ症候群に感染してる」
彼の通信を聞いて、向こうの秋坂が息を呑む。
『え……? ウソでしょ?』
「冗談なんて言いませんよ。一匹殺しましたが、多分これは分裂体です。まだ、この患者の情報は割り出せないんですか?」
140 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:31:33.73 ID:JTzsj+KQ0
『どうも外国の患者みたいなんだ。生命維持装置に接続されてるままなのかもしれない。国外の患者の場合、すぐに情報開示を求めるのは無理だな……』
「場合によってはこの患者はステらせますけど(殺しますけど)いいですね?」
左腕を振って銃弾を作り出し、それを拳銃に込めながら侑玖が言う。
秋坂は舌打ちをしてから言った。
『重度は?』
141 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:32:18.84 ID:JTzsj+KQ0
「スカイフィッシュ症候群に感染してる時点で、多分5か6。分裂体汚染ですから、もう助からないと思います」
『最優先なのは幸ちゃんを無事に連れ帰ることだ。それは大丈夫そうなの?』
「分かりません。外にいるのが、あの子が身を守れるタイプのスカイフィッシュだとは思えない。かなり危険なことは確かだ」
『どうするの、侑玖?』
「探しに出ます」
そう言って侑玖は、コートのフードを目深に被った。
142 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:32:58.24 ID:JTzsj+KQ0
そして拳銃を下に構えながら、雪の中に足を踏み出す。
たちまちのうちに、しんしんと音もなく降り続く雪の中を、彼は走り出した。
見た目よりは積もっていないようだ。
空を飛ぶ鳥風船達は、目を合わせなければおそらく襲っては来ない。
しかしそれを、幸が知っているとは思えない。
侑玖の頬を冷や汗が流れた。
雪原はどこまでも続いていた。
雪は穏やかに降っていたが、少し進むとどこから来たのか分からなくなる程の大雪に変わってきた。
侑玖は左手を振った。
そこに小さなコンパスが握られていた。
143 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:33:35.70 ID:JTzsj+KQ0
『幸ちゃんを探すって……夢の中でそう簡単に見つけられる?』
「大丈夫です。この前あの子に、夢の中で接触した時に俺の痕跡をつけてあります」
侑玖は秋坂にそう答えてコンパスを覗いた。
しばらく針がくるくると回っていたが、やがてピタリと一方向を指して止まる。
『いつの間に……お前、他人の精神に何かをインプラントするのは違法だぞ? 変態だな』
144 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:34:31.22 ID:JTzsj+KQ0
「人聞きの悪いこと言わないでください。絶対面倒なことになると思ったから、予防線を張っただけですよ」
言い返して、侑玖は前も見えない大雪の中、コンパスの針を頼りに足を踏み出した。
「そのおかげで見つけられるんだから、御の字でしょ?」
進むに連れて雪が深くなってくる。
すぐに足首までを雪が覆い、ついには掻き分けないと進めなくなってきた。
145 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:35:07.32 ID:JTzsj+KQ0
そこで侑玖は足を止めた。
少し離れたところに、うつ伏せの姿勢で倒れている影を発見したのだった。
「幸さん!」
慌てて声を上げてから、周りを見回す。
雪ではっきりとは見えないが、今の所周りを鳥風船は飛んでいないようだ。
急いで雪をかき分けて近づくと、制服姿の幸が青い顔で気絶していた。
コンパスと拳銃をポケットに入れ、かじかんだ手で彼女を抱き上げる。
かなり冷えているようだ。
146 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:36:36.40 ID:JTzsj+KQ0
「幸さん、俺だ。侑玖だ。聞こえるか?」
問いかけながら右手を振る。
彼が来ているのと同じようなコートやブーツなどが一式現れて雪の上に落ちる。
そこで幸が小さくうめいて、震えながら目を開けた。
「た……侑玖君……?」
「細かい説明は後だ。早く防寒着を着て……」
「そっちを見ちゃダメ! 一匹いるよ!」
幸に大声を上げられ、侑玖はハッとした。
大吹雪で前が見えない。
どういうことだ、と問いかけようとしたが、侑玖は一瞬の判断でポケットから拳銃を取り出した。
147 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:37:09.43 ID:JTzsj+KQ0
そして幸を突き飛ばしてその場を転がる。
今まで彼の頭があった場所を、猛禽類の巨大なクチバシがガチン、と噛んだ。
考える間もなく、その赤い眼球に向けて拳銃を発射する。
数発は命中したが、寒さでかじかんだ手で照準が若干狂った。
背後から襲いかかってきていた鳥人間が、右目から噴水のように赤い血液を噴出しながら、金切り声の絶叫を上げる。
148 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:37:52.23 ID:JTzsj+KQ0
『どうした、侑玖! 幸ちゃんを見つけたのか!』
吹雪でノイズ混じりにしか聞こえないヘッドセットの向こうで秋坂が怒鳴っている。
鳥人間は、雪の上にへたりこんで震えている幸に頭を奇妙に揺らしながらにじり寄ろうとしていた。
「チッ……!」
侑玖は舌打ちをして、拳銃を振った。
それが長大なサバイバルナイフに変質し、彼は雪を蹴って鳥人間に躍りかかると、ためらいもなくその脳天に刃を叩き込んだ。
149 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:38:30.72 ID:JTzsj+KQ0
ものすごい勢いで血液が周りに飛び散る。
「ガッ!」
目を見開いて鳥人間がどうと倒れる。
顔面に浴びた血を手で拭って、侑玖は息をついた。
そしてサバイバルナイフを雪の上に捨てる。
「ば……バケモノを……倒しちゃった……」
幸は目を丸くして侑玖を見ていた。
150 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:39:06.85 ID:JTzsj+KQ0
「幸さんを保護しました。でもスカイフィッシュがそこら中にいるみたいだ。回線は遮断できますか?」
息一つ乱さず、侑玖は顔についた鳥人間の血を手で拭ってからコートのポケットに手を入れた。
そしてリボルバー式の拳銃を取り出し、撃鉄を起こす。
『ダメだ。お前達の夢座標が特定できない。もう少し時間が必要だ』
151 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:39:40.35 ID:JTzsj+KQ0
秋坂がそう言うと、侑玖は苦い顔をしてしゃがみ、幸にコートとブーツを押し付けた。
「早く。ここを離れよう。どこか外国の、自殺病患者の脳内らしい」
「う、うん。知ってる」
幸はもぞもぞとコートを羽織りながら、震える手で侑玖の手を握った。
「死ぬかと思った……」
「知ってる……?」
侑玖は怪訝な顔で彼女を見た。
152 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:40:16.38 ID:JTzsj+KQ0
「知ってるってどういうこと? 君はこの『人』の夢の中に入るのは初めてのことだろう?」
問いかけられた幸は、反対に目を白黒とさせながら、倒れている鳥人間の死骸を避けるようにしてブーツに履き替え、侑玖の腕を掴んで歯を鳴らした。
「この人は、イギリスの人で……歳は八十歳くらいかな。生命維持装置に繋がれてて、自殺病のウイルスに感染してる……家族は誰もいなくて、奥さんもだいぶ早くに亡くしてる。孤独な人……」
153 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:40:51.67 ID:JTzsj+KQ0
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
侑玖は青くなって幸に向き直った。
そして彼女の肩を掴む。
「この患者の意識をクラッキングしたのか? それは犯罪だぞ! どうやったんだ? まさか俺を騙して……」
「だ、騙してないよ……?」
おどついた顔で幸は侑玖を見上げた。
「私、夢の主のことが分かるの。前からずっとそうなんだけど……侑玖君は分からないの? どうして?」
154 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:41:27.41 ID:JTzsj+KQ0
どうして? と問いかけられ、侑玖は吹雪の中立ち尽くした。
そして少し呼吸を整えて拳銃を握りしめながら回りに視線を投げる。
「普通は分からない。俺は国家認定のS級マインドスイーパーだけど、それでも患者の中にダイブしただけでその人の個人情報を読み取る(スニークする)なんて芸当は無理だ」
「え……?」
「君は……」
侑玖は何かを言いかけたが思いとどまり口を閉ざした。
155 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:42:04.47 ID:JTzsj+KQ0
そしてヘッドセットに手を当てて言う。
「……秋坂さん、聞いてましたか? イギリス人、八十歳程度。身よりもなくて生命維持装置に繋がっている病人です」
『聞こえてたよ。今大急ぎで特定してる』
秋坂が何かを操作している音がヘッドセットの向こうから響いている。
侑玖は段々と猛吹雪になってきた中、幸を抱きしめるように自分の方に引き寄せた。
コートを羽織っているとはいえ、彼女は制服のスカート姿だ。
完全に凍えている。
156 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:42:35.89 ID:JTzsj+KQ0
「俺から離れないで。ここは夢の表層意識、いわゆる『外層』って呼ばれてる場所だ。俺がここから出るためには、秋坂さんが俺達の居場所を特定してから、回線の切断処理をしなくちゃいけない。でも、君は正規のマインドスイープシステムの回線を通ってダイブしている訳ではないらしい」
「どういうこと……?」
震えながら聞いた幸に、侑玖は淡々と続けた。
157 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:43:15.60 ID:JTzsj+KQ0
「君は、他人の夢の中で『遭難』している状態なんだ。だから、この夢を終わらせないと、君を無事に現実世界に連れ戻すことはできない」
「夢を……終わらせる……?」
幸はハッとして言った。
「そう、いつもこういう夢って途中で終わってた。ブツ切りになって目が覚めるの」
「それは夢の主が目覚めたせいだ。夢が終わりを告げたから、君は強制的に現実に排出されてたに過ぎない」
158 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:43:47.63 ID:JTzsj+KQ0
「……それって……」
「ああ。この患者は生命維持装置に繋がれてると言ったな? なら、この患者を治療して目覚めさせるか、殺すかしないと君はここから出れない可能性もある」
侑玖が静かに言ったことを聞いて、幸は青くなった。
そして彼のコートにしがみついて声を上げる。
「ど……どうしよう……」
「この患者を『治療』する。秋坂さん、煉獄に入ります」
159 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:44:20.38 ID:JTzsj+KQ0
侑玖がそう言うと、ヘッドセットの奥から秋坂の声が聞こえた。
『そうするしかなさそうだね。幸ちゃんは無傷で連れて帰るんだ。そうしたらボーナスやるよ』
「確約はできませんよ」
侑玖はそう言うと、足元に拳銃を向けた。
「どうするの?」
幸に不安げに聞かれ、侑玖は呼吸を整えてから言った。
160 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:44:49.51 ID:JTzsj+KQ0
「この患者の精神は安定してる。ただ周りにスカイフィッシュ……君が言う『バケモノ』がいるだけだ。アレらは、ウイルスが創り出した負のイメージだ。今までも見たことはあるの?」
「うん……目を見ちゃいけないって、前にお母さんから聞いてたから、しっかりと見たことはなかったけど……」
「スカイフィッシュは夢によって様々に形を変える。今回はたまたまああいう形をとっていただけだ」
161 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:45:24.21 ID:JTzsj+KQ0
そこで幸が小さい悲鳴を上げた。
いつの間にか二人は、黒い鳥人間達に囲まれていた。
数十体もいるだろうか。
全部が目を爛々と赤く輝かせて、意味不明な言葉を呟きながら幸と侑玖を睨んでいる。
侑玖は表情を変えずに、腰まで雪に埋もれながら言った。
「大丈夫。安定している精神に揺らぎを与えて、もっと深い所まで入る道を作ればいいだけ」
彼はそう言って、何の予備動作もなく一気に六発、拳銃を足元に向けて発射した。
162 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:45:51.86 ID:JTzsj+KQ0
幸が耳を抑えて声を上げる。
足元の雪に吸い込まれた銃弾が当たった場所から、ドバァッ! と血液が噴出した。
その「赤」はたちまちのうちに白い雪原に広がっていくと、雪を「海」に変えてぬらぬらと蠢き始めた。
幸と侑玖、そして鳥人間達が血液の海の中に沈んでいく。
侑玖はもがいている幸の手を掴むと抱きしめ、ためらいもなく赤い海の中に潜り込んだ。
そこで二人の意識はブラックアウトした。
163 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:46:26.32 ID:JTzsj+KQ0
◇
幸は目を開けた。
そこは、一面に広がるひまわりの花畑だった。
空は青い。
透き通るほどの青さだ。
「ゲホッ! ゲホッ……!」
飲み込んでしまった臭い血液の塊を吐き出してえづく。
その隣で、侑玖は血まみれで重くなっているコートを脱ぎ捨てた。
164 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:46:57.21 ID:JTzsj+KQ0
「大丈夫?」
手を差し出されて、頷いてそれを握る。
立ち上がってコートを脱いだ幸を見て、侑玖は地平線の向こうまで続くひまわりの畑を見回した。
「綺麗……」
鳥人間はいないようだ。
幸はそれを見回して、不意にツゥ……と両目から涙を流した。
「幸さん……?」
165 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:47:27.98 ID:JTzsj+KQ0
侑玖に問いかけられ、幸は熱に浮ついたかのような口調で、静かに言った。
「この人……『彼』が十八歳の時。ここで奥さんと出会ったんだね……」
幸の視線の先に、ひまわり畑の真ん中にマットを引いてバスケットの中の食べ物を口にしている、若い男女がいた。
金色の髪をした男女。
外国人だ。
「煉獄に入れました」
侑玖はヘッドセットの向こうにそう報告してから、幸に向き直った。
166 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:48:12.66 ID:JTzsj+KQ0
「君は、夢の本質を見ることができる目を持っているんだね」
「本質……?」
「俺には、それは見えない」
侑玖はそう言ってひまわり畑を掻き分け、幸の視線が向かっている場所に足を進めた。
慌ててそれを追いかけ、幸は英語で談笑している若い男女の前で足を止めた。
「見えないって……ここに……」
「…………」
侑玖は口を閉ざして、目の前でガスマスクを顔につけ、か細く胸を上下させながら目を閉じている老人を見た。
167 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:48:57.94 ID:JTzsj+KQ0
男性だ。
病院服を着ていて、ガリガリに痩せこけ、骨と皮ばかりになっている。
幸には、別の光景が見えているらしかった。
「秋坂さん、中枢を発見しました」
侑玖がヘッドセットの向こうに向けてそう言うと、秋坂の声が返ってきた。
『患者の特定ができた。向こうの医師会と連絡もついた。ジョナサン・ヘンデル。八十六歳。脳梗塞を起こして以来、七年間植物状態の患者だ』
「成る程」
侑玖はそう言って、腕を振った。
168 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:49:38.55 ID:JTzsj+KQ0
彼が持っていた拳銃が形を変えてサバイバルナイフに変質する。
幸は彼の手のナイフと、自分達に全く気づかない風に談笑している二人を見て青くなった。
「た……侑玖君、何をするつもり……?」
「向こうの医師会の決定は?」
幸を無視して淡々と言った侑玖に、秋坂は答えた。
『ステらせていいそうだ』
「分かりました。施術を開始します」
169 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:50:12.43 ID:JTzsj+KQ0
侑玖はそう言って、ガスマスクの老人の脇にしゃがみこんだ。
幸がもう一度震える声を上げる。
「侑玖君、もしかして……」
「これからこの患者を殺す」
侑玖は無表情で、淡々とそう言った。
幸が胸を抑えてよろめき、声を絞り出す。
「で……でも……」
「…………」
「でも、こんなに幸せそうに……」
170 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:50:44.99 ID:JTzsj+KQ0
「それは君が見ている、この人の心の中の真実の『幻影』だよ。俺には、しなびた老人しか見えない」
「嘘……」
「嘘じゃない。秋坂さんがこの患者の情報を特定した。治療は無理だ。ここで安楽死させる。そうすれば君は、ここから出ることができる」
「嘘だよ!」
幸は必死の形相で侑玖に駆け寄った。
そして彼の肩を掴んで自分の方を向かせる。
171 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:51:13.20 ID:JTzsj+KQ0
「侑玖君、お医者さんなんでしょ? この人を助けてくれないの? この人を治してくれないの? どうして私を助けてくれたみたいに、助けようとしないの!」
「…………」
「この人まだ生きてるよ……? どうしてそんな簡単に……」
「…………」
「簡単に安楽死なんて言うの……?」
大粒の涙を目に浮かべて自分を見上げる幸から視線を離して、侑玖は言った。
172 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:51:41.89 ID:JTzsj+KQ0
「安楽死は簡単だからな。こうすればいいだけだ」
迷いも躊躇もなかった。
侑玖は幸が止める間もなく、声を上げる間もなく、ガスマスクの老人の眉間にサバイバルナイフを叩き込んだ。
幸の目には、談笑していた男性の首元に、侑玖の振り上げたナイフが振り下ろされたのが見えた。
173 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:52:08.34 ID:JTzsj+KQ0
血しぶきが噴水のように吹き上がる。
ガスマスクのしなびた老人は、だんだんしわくちゃのゴミのようになり消えていった。
「あ……ああ……」
幸は掻き消えた男女の幻影と、目の前に転がる血みどろの痕跡を見て震え始めた。
そして両手で顔を覆い、大声をあげようとして……。
174 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:52:47.59 ID:JTzsj+KQ0
◇
「…………」
幸は緩慢に目を開けた。
頭がガンガンして痛い。
頭痛を振り飛ばすように頭を振ると、大粒の汗が額から垂れた。
「お、目が覚めたね。おはよう」
秋坂がそう言って近づいてきて、幸の目にライトを当て、眼球の状態を確認してから脈拍を測る。
「ちょっと脈が早いかな。夢の中で侑玖にショッキングなことでもされた?」
175 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:53:16.06 ID:JTzsj+KQ0
温かいココアの缶を手渡され、幸は震える手でそれを受け取った。
そしてベッドに座り、背中を丸める。
「…………」
そこで侑玖が目を開けた。
そして頭から機器を外し、大きくあくびをする。
「重症ですね」
ものすごく疲れた様子で、侑玖は起き上がってから幸を見た。
176 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:53:45.94 ID:JTzsj+KQ0
「今回みたいに、抜け出しようがない夢の中で遭難したら、起きるのにも一苦労すると思います。ある程度コントロールできるように訓練しないと……」
「た、侑玖君……?」
幸は侑玖の方を見ずに、ココアの缶を握りしめながら言った。
「どうして……殺したの……?」
問いかけられた侑玖は、何がおかしいのか分からない、と言った顔で答えた。
177 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:54:14.17 ID:JTzsj+KQ0
「もう助からなかったからだよ。何かおかしい?」
「おかしいよ……あの人、まだ生きてたんだよ……?」
幸に言われ、侑玖は口をつぐんだ。
そして困ったように頭をボリボリと掻く。
そこで秋坂が息をついて口を挟んだ。
「まぁ、今日は帰りなさい。あなたのお父さんに連絡して、迎えに来てもらってるから」
「お父さんに……?」
「うん、ほら。来たみたい」
178 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:54:57.30 ID:JTzsj+KQ0
病院の入り口にタクシーが停まり、中から裕也が顔を出した。
そして小走りで中に入ってくる。
「幸!」
慌てた様子で駆け込んできた裕也は、ホッとした顔を上げた幸の脇にしゃがんだ。
そしてココアの缶ごと手を握る。
「良かった……」
「ごめんなさい、お父さん……私……」
「事情は秋坂先生から聞いてる。しかし無茶を……」
179 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:55:35.68 ID:JTzsj+KQ0
裕也は立ち上がると、疲れた顔で秋坂が差し出したコーヒーを飲んでいる侑玖を見た。
「……君が、マインドアサシンの子だね?」
問いかけられ、侑玖は顔を上げて頷いた。
「はい……今回はご迷惑を……」
「お願いする。娘に、マインドスイープのやり方を教えてやってくれ」
裕也が侑玖に向けて頭を下げる。
180 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:56:04.94 ID:JTzsj+KQ0
幸が驚いた顔で振り返って声を上げた。
「お父さん……!」
「かなり危険な状態だと聞いた。以前、同じような症例を見たことがある。頼めるだろうか……?」
幸を無視し、裕也は侑玖と秋坂を見た。
秋坂は肩をすくめ、侑玖のことを小突いた。
181 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:56:38.98 ID:JTzsj+KQ0
「だ、そうだ」
侑玖は深く溜息をついて、ゲッソリしたクマの浮いた目で秋坂を見た。
「……とりあえず、寝かせてもらえませんか……?」
少年の声はカラカラと回る換気扇の音に紛れて、そして消えた。
182 :
1
◆58jPV91aG.
[saga]:2018/10/29(月) 23:57:07.80 ID:JTzsj+KQ0
第3話に続きます。
低速更新になりますが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
m(_ _)m
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/10/31(水) 16:40:13.77 ID:eS/4Lr0YO
5年振りに見た…
第一作目完結してたのね読んできます
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/03/29(日) 03:25:07.22 ID:ppCHJXnfo
3話マダー?
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