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【艦これ】提督「この絶望的な海へと」【あんこ】
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267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 00:01:54.87 ID:z/Ub4W4P0
「彼女らにまともな戸籍やバックボーンが無いとはいえ……どうにか報いたいものよ」
提督「そうですな」
金剛は、沈んだ。
それはもう、盛大に。
大和が蹂躙したその先すら臨み、掃討を繰り返す内の反撃。
味方の大部分を転回させたった一人、大部隊を地獄送りにするのと引き換えに。
きっと何か、彼女たちの心に刻まれたドラマもあったのだろう。
比叡は、悲愴感など微塵も見せない。
あれだけ慕った姉を喪い、己の身体を一部失ってなお、笑う。
「元人間であればまだ、その遺族もいるのだが……」
提督「その“ 遺族様 ”に金が渡ることを望む艦娘などおらぬでしょうよ」
そうだろう? 最上。お前なら、絶対に望まない筈だ。
【戦果リザルト:最上】
0.PTSD
1.カタワ
2.轟沈
3.PTSD
4.轟沈
5.轟沈
6.カタワ
7.轟沈
8.轟沈
9.生還
ゾロ目……人間としての生活を
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 00:07:37.73 ID:isirCP4S0
「そうか……いや、そうであろうとは思うのだが」
提督「どうせならば仲の良かった同輩にでも還元してやればよろしいのです。
私としては、彼女らに何かしてやるよりはしめやかに、勝手に祈ってやることが一番、そう思いますが」
最上もまた、沈んだ。
元人間として、冷笑的な人格も見え隠れさせ始めていた矢先の悲劇。
彼女ならば喜劇だと笑って終わらせただろうか。
まさか、彼女が間抜けな僚友を庇い致命傷を受けたなど、戦闘前の俺は信じなかっただろうが。
何より、彼女本人すらそんなもの鼻で笑い飛ばしただろう。
「他国からの預かりものもまた面倒ではある。同じだけの“ ドロップ ”を揃えるのも今では儘ならぬ」
提督「そもそも敵性体が殆ど現れませんからな」
結局、Prinz Eugenにはまともな形で自らの“ お姉さま ”に会わせてやることができなかった。
本当に会いたかったのかどうかは、今もって分からないことではあるが。
【戦果リザルト:Prinz Eugen】
0.カタワ
1.PTSD
2.生還
3.カタワ
4.轟沈
5.轟沈
6.轟沈
7.轟沈
8.PTSD
9.轟沈
ゾロ目……人間としての生活を
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 00:16:43.35 ID:LViNAHiL0
提督「沈んでしまったのならばそれで終わり、ただ傷痍の身となってしまった者に関しては」
「左様……こちらで世話をすることになろうな」
提督「ま、サイバネティクスも進化しております。その内義手や義足を付けて出撃できることにもなるでしょう」
自ら豪運を語るPrinzは、その発言通りに帰還してきた。
ただその身の一部を失い、笑みもまた暗いものにして。
ーー実力が足りなくて運だけだから、こうなったのよね。
力無く笑ったその顔を見れば、実力など関係無い戦いであったことは一目瞭然だった。
それでも、生き残った他の仲間を慰めるその姿に、前を向く信念を感じたのではあるけれど。
「それからな……陸軍のやつらも五月蝿い」
提督「あぁ……あきつ丸やまるゆも大勢出撃させましたからな」
横須賀や呉に残した艦娘もいたけれど、それは極々一部。
陸軍の艦娘については寧ろ、その殆どを出撃させた。
まぁ、俺の部下であるあきつ丸は政治的背景など関係無く出撃させたのだけれど。
【戦果リザルト:あきつ丸】
0.轟沈
1.PTSD
2.轟沈
3.生還
4.轟沈
5.カタワ
6.PTSD
7.轟沈
8.轟沈
9.カタワ
ゾロ目……人間としての生活を
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 00:22:48.50 ID:LViNAHiL0
提督「とは言っても彼女ら本人は然程不満など申しておりませんが」
「そうか……ま、共に同じ釜の飯を食い戦い抜いた者たちよ。帝都に燻るクズどもとは違う、か」
お前もその一人だろうが、とは言わない。
言っても意味が無いし、何より人格的には俺より優れているのだろうから。
あきつ丸も確かそんなことを言っていた。
ーー尊敬できるのは提督殿でありますが、それは戦時だからこそであります。
平時には無用の長物、それが俺らしい。
我ながらそれを聞いたときには笑いを堪えられぬ程面白いと思ったものだ。
互いに手の内を見せ合いビジネスパートナー地味た関係だった女にそれを言われるとは。
提督「ビジネスパートナーといえば……いや、あいつはパートナーの部分だけは否定するだろうが」
あと少しで祖国に帰る筈だったGraf Zeppelin。
彼女に関しては運が無かった、そうとしか言いようが無かった。
諦めた様な顔で出撃した彼女も、また激戦に次ぐ激戦を戦い抜きーー
【戦果リザルト:Graf Zeppelin】
0.カタワ
1.PTSD
2.カタワ
3.PTSD
4.轟沈
5.轟沈
6.轟沈
7.生還
8.轟沈
9.轟沈
ゾロ目……人間としての生活を
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 00:25:59.23 ID:Rcl591I30
PTSDだけは引かないあたりこの提督の艦娘らしいな
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 00:29:15.44 ID:UCrbziB/0
戦い抜き、そして帰ってきたのだ。
空母でありながら撤退せず奮戦した挙句、本人すら失笑する名誉の負傷とやらを受けて。
提督「本人が希望すれば帰国させてしまうのも手でしょう。
あちらはこの国よりも人権には五月蝿いのです」
「あぁ。助力に感謝はしているが戦えぬ者を大勢養う余裕は無いのだしな」
提督「……ええ」
外国人に対して冷淡なのはどこも同じなのだろうか。
Grafに訊けばきっと一度は否定してみせ、更にきつい一言を返してくれるのだろう。
冷淡なのではない、そもそも気にすらしていないんだ、とかなんとか。
「…………そういえば、足りているか? 」
提督「は? 」
「女は、足りているか、と。貴様もこの一ヶ月働き詰めだっただろう」
提督「ーーーー」
やにわに、一言。
あくまで真面目な話なのだ、とその実下卑た顔で。
前言は撤回しなければならない。
この将校も人格など破綻している。俺と同列だ。さっさと消えてくれ。
【戦果リザルト:雲龍】
0.カタワ
1.PTSD
2.カタワ
3.生還
4.PTSD
5.轟沈
6.轟沈
7.轟沈
8.轟沈
9.轟沈
ゾロ目……人間としての生活を
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2018/11/24(土) 00:30:00.01 ID:g7Gr1nST0
???!!!?!?!?!??!???!?
ま、また来ます……少なくてすみません
ありがとうございました
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 00:31:19.14 ID:36FDGop/0
これはメインヒロインの貫禄ですわ(白目)
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 00:33:05.01 ID:fsOoJbBQ0
おつつ
ここでゾロとかコンマ神マジエンターティナー
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2018/11/24(土) 00:33:09.35 ID:1fEYPCds0
【まとめ】
大和……生還
比叡……カタワ
金剛……轟沈
最上……轟沈
Prinz Eugen……カタワ
あきつ丸……カタワ
Graf Zeppelin……カタワ
雲龍……人間としての生活を
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 00:36:17.14 ID:sPBozEM7o
大和「!!??!!!??wwww!??!!?」
正直一人勝ちしたと思ったぞ……コンマ神やりやがったな!
278 :
以下、名無しに変わりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 00:45:45.89 ID:kaVwu/JpO
乙
やはりこのスレのコンマ神はおかしい(褒め言葉)
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 00:55:53.99 ID:dTCdFJbIo
なんというか…
コンマ神ってやっぱエンターテイナーやわ
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 14:49:25.87 ID:Y2dlwX2DO
くっそワロタwww
やっぱここの1はコンマ神に愛されておる……
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 15:36:21.59 ID:e1udXUlmO
プリンちゃん…
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 22:12:58.68 ID:CpEMYsiWO
大和さん!?
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 22:14:56.63 ID:zElPuP59O
初期ではメインヒロインの風格を漂わせてた大和さん
どうしてこうなった
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:34:18.65 ID:S9z9sjMs0
まぁ、この後はコンマも無いので……ゆっくり書き込んでいきます
よろしければどうぞ
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:35:21.93 ID:S9z9sjMs0
…
………
……………
某日、横須賀にて。
集ったのは、同じ喜びと悲しみを背負った者たち。
大和「失われた全ての生命に、そして生きながらえた私たちの明日に」
比叡「明日に」
Prinz「明日に」
あきつ丸「明日に」
Graf「明日に」
私たちは、勝った。
あらゆる国が追い求める安寧を数多の犠牲の果てに、得たのだ。
五体満足でこの地に立てた者などそう多くはない。
私たち、つまり提督直属の部下の中では私と、それから雲龍さんの二名のみ。
それとて、八人、そう八人だ、八隻では決してない。
八人の中で六人が生き残り、無傷で生還した者が二人もいる。
しかもその一人は英雄の妻として、人間となれたのだ。
類稀な英雄とその妻と、万雷の喝采で認められこそすれ、誰一人反論など唱えようはずも無い。
仮令女の方が、化け物の最たる者だとしても。
286 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:36:02.61 ID:S9z9sjMs0
Prinz「やーんなっちゃうなぁ……腕の傷口見る? 」
Graf「要らん。自分ので間に合っているからな」
比叡「足じゃないだけマシですって。この義足の使えないことなんの」
あきつ丸「ある意味では自分が一番マシではありますね。
まぁ片目を失うということが良きことであるのならば、でありますが」
大和「…………」
Graf「そんな顔をするのはやめておけ。
貴様は私たちには遠く及ばない戦姫であったのだ。寧ろ誇るべきだろう」
Prinz「そ、あの意味分かんない提督が撤退を命じても戦った私たちが悪いの」
あきつ丸「あれが撤退を命じるにも拘らず戦ったといえば聞こえはいいが……いや、馬鹿なことをしたものでありますね」
比叡「本当本当。あの損得と戦術の鬼の命令無視したんだもん」
大和「…………」
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:38:58.89 ID:S9z9sjMs0
場所は提督の執務室。
あの激戦から二ヶ月と少し、漸く落ち着いた鎮守府で、祝勝会などではない、私たちだけの集まり。
初期から私たちの頭脳役だった最上、途中から加わったにも拘らずすぐさま溶け込み護国の鬼となり沈んだ金剛。
これは、彼女たちを弔う集いだ。
ただ、しめやかに穏やかに行われるそれは悲劇と記憶の、忘れられない空間だった。
Prinz「まぁ、でも……ねぇ? 」
Graf「私の名誉に掛けて誓うがな、雲龍は私たちすら及ばぬ境地にいたのだ」
Prinz「知ってるけど……でもさ」
比叡「…………」
あきつ丸「…………」
大和「心からの祝福とは参りませんが……それでも、提督は提督として十二分に働きました。
雲龍さんもその身に余る攻勢を耐え敵方に打撃を与えたのです」
Prinzの言いたいことは、分かる。分かり過ぎる、程に。
その本音を終ぞ見せなかったように思える彼と。
彼だけに執着しあれだけ望んだ勝利と戦果さえ度外視して戦った彼女。
彼らが幸せを謳歌することに何某か蟠りが残るのは、仕方がない。
ましてや最上と金剛という最も近い同輩を失い、多くの僚友さえ海の藻屑として捨てたのだ。
人によっては、幸せに笑うことさえ暫くは慎めと怒気を湛えるだろう。
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:40:11.71 ID:S9z9sjMs0
提督「さて、俺のクズさを肴にでもしているのかな」
大和「て、提督っ」
Prinz「まっさか。我らが英雄様を謗ることなどありましょうや」
提督「言ってろ。……俺の兄貴と弟、ついでに妹が結婚相手を探しているが? 」
Graf「願い下げだな。貴様の血族など見なくてもうんざりする程だし
比叡「司令が義理の兄妹とかねぇ……本当願い下げ」
あきつ丸「自分は別にそれで……いや、分かっているでありますよ。
これがここの祝福であることなど」
入ってきたるは私たちの提督だ。
現世に舞い降りた軍神の名も高らかに、文字通り化け物地味た戦果を挙げた女を妻にした英雄。
護国の鬼神たる彼を崇め敬いこそすれ、瑕疵を論うことなど、あっては、ならない。
ならない筈では、あるのだけれど。
289 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:42:10.10 ID:S9z9sjMs0
大和「…………結局横須賀からは離れられないそうですね」
提督「ん? まぁな。妻がいる身でまさか地中海や北方に出向くわけにもいくまい」
相変わらず外面だけはいいのだ、この男は。
表情だけを見たならば、それはまさに英傑の貌であって、爽やかながらも益荒男の気質を感じさせる偉丈夫だ。
この上妻を労わる夫の顔まで見せられたらば、なんと酷い仕打ちだろう。
この男が生きていれば当面この国に心配など欠片も要らない、そう思わせる勝者の余裕では、あるのだけれど。
私たちにだけは、分かってしまう。
その裏で、他者など笑って切り捨てる悪魔の顔が。
Prinz「ふん……今日はその奥様はいないようだけど? 」
提督「あぁ、あいつはもう自分一人だけの身ではなくなったからな。家に置いてきた」
Prinz「……は? 」
Graf「……お早いことで」
比叡「どーせ雲龍さんが“ 解体 ”されてから盛りまくったんでしょ……それにしても早過ぎるけど」
あきつ丸「四週間や五週間で分かることはあるらしいが……ま、祝いの言葉くらいは贈ってやるであります」
提督「どうもどうも。涙が出るね」
大和「…………二人に、傾けてあげてください」
290 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:42:37.33 ID:S9z9sjMs0
強引に、終わらせよう。それが私にできる唯一のことだ。
最上が嘲笑すべき同輩の為に沈み。
金剛が身体を張って殿を務めあげ。
私以外の四人が身に一生消えない傷を負ったのだ。
ならば致し方あるまい。女として、否、“ 人間 ”として。
禍福を共有した女が一人、地位も男も子供も、女としてあらゆる幸せを得たのであるならば。
多少の妬っかみくらい、許してほしいものである。
けれど、仲間が仲間を貶す様な場面は見たくはない。
そうであるなら、強引に、強く強く、退けない程に幕引きを。
失った仲間の想い出でも、語っている方が、余程健全であろうから。
291 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:45:44.78 ID:S9z9sjMs0
提督「俺たちの仲間である最上と金剛両名の明日に」
大和「! 」
提督「俺たちの中にあいつらは、生き続ける。俺たちが忘れない限り、俺たちが戦うことを止めない限り」
大和「ッ……明日に」
Prinz「ふん……明日に」
Graf「明日に」
比叡「明日に」
あきつ丸「明日に」
その顔が嘲笑に満ちていたのならば、殴り飛ばし下手をすれば殺していただろう。
けれど、その顔は、心から彼女たちの死を悼んでいるようで。
比叡もあきつ丸も、それにPrinzもGrafも、その顔に嘘を見出せなかったようで。
救われたのか、それともただ過去のものにされてしまったのか。
それは、永遠に分からないのだろうけれど、でも、よかったのだろう。
盃を交わし、呷り、また一献。
まず初めにPrinzが意識を失い、Grafが最後の矜持を守る為に自室へ消えて。
比叡はいつの間にか寝て、金剛との夢に還り。
あきつ丸は、きっともう横須賀へは帰らない次なる任務へと旅立ち、そして。
292 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:46:23.17 ID:S9z9sjMs0
大和「これでもあなたには感謝しているのですよ、提督」
提督「そりゃありがたい。……ん」
大和「ありがとう。今生もう一人生まれるかも分からない妻子持ちの英傑に二人きりで酌をされるなんて光栄です」
提督「ほざけ。……俺は、お前にこそ惹かれていたのかもしれない」
大和「…………」
真っ直ぐ、射抜く様な鋭い鏃の如き眼光を向けられた。
今すぐ逸らしてしまいたい欲求に駆られ、抗う。
正直に言えばずっと苦手だったその曖昧で深過ぎる闇の様な眼光も。
気付けばどこか柔らかく暖かい灯火を僅かに宿していた。
大和「雲龍さんに、怒られますよ? 」
提督「構うものかよ。あれは、俺に惚れているからな」
大和「莫迦。女の嫉妬を甘く見過ぎ」
提督「そうかな? いや、お前を愛人にでもしようかと思っていたんだが」
293 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:48:14.59 ID:S9z9sjMs0
それは冗談混じりの戯言なのか、それとも英雄色を好むという腐った格言の通りなのか。
興味を持ってはいけないのだろうけれど、悲しいことに少しだけ、ほんの少しだけ、希望が灯って、
そして自らフッと息を掛け、消した。
大和「あんまり幻滅させないでくださいな。……はい、最後の一杯にしておきなさい、旦那様」
提督「ーーーー」
暫時、瞠目して。それから獰猛な笑みを浮かべた彼。
彼は物分かりがいい、寧ろ良過ぎる。だから、これで終わりなのだ、私たちは。
この一瞬、少しだけ夫婦っぽいお遊びをして、終わり。これ以上は、進まない、踏み込ませない。
それが彼の為であり、私の最後の矜持だ。
提督「お前とは別の出会い方をすればよかったのかもな、大和」
大和「だとしてきっと雲龍さんと幸せになったでしょう、あなたならば」
提督「そうだといいな、うん」
294 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:49:42.77 ID:S9z9sjMs0
今度は一度、瞑目して。
また私を射抜いて、そして笑って。
提督「大和」
大和「……はい」
提督「明日への希望は、見出せたか? 」
大和「そうであるとも言えず、そうではないとも、言えません」
提督「ほう? 」
大和「このままドイツやフランスの援軍として転戦するのもよし、
雲龍さんの様に慕うべき殿方に尽くすもよし、
或いは横須賀で後進を育成し来るべき戦いに備えるもよし」
提督「あぁ」
大和「私は……そのあらゆる未来への、布石となることに決めました」
提督「…………」
大和「私の幸せは、私だけが見通す未来のどこかにあるのです。
何か一つの目的を探すなんて、私には難し過ぎますから」
提督「…………大和、本当に
大和「言わないで。あなたに誘われたら、揺らいじゃうじゃないですか」
295 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:51:37.89 ID:S9z9sjMs0
提督「…………」
大和「…………」
提督「…………ふ、そうだな、そうだろう、な」
大和「ええ、そうですとも」
言って、少しだけ後悔。駄目押しに頷いて、もう少し後悔。でも、それだってきっといつかの幸せなのだと信じていく。
私は、大和型戦艦一番艦大和の憑座たる艦娘大和であり、そして大和という名を得た、人間。
目の前で酔ったふりをする悪い男になんて嵌ってやるものですか。
寧ろ、私を一番にしなかったことを後悔させてやらなくては、なんて。
得られたかもしれない幸せに背を向けた、そんなありふれた女の、これは一夜の、ちょっとした記憶なのでした。
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 23:52:14.06 ID:l33+gM4IO
(´;ω;`)ブワッ
297 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/24(土) 23:56:35.39 ID:S9z9sjMs0
…
………
……………
「おかえりなさい、あなた」
「あぁ、ただいま。……身体は? 」
「心配し過ぎ。まだまだ、あなたの執務くらい助けられたのに」
帰宅して、暖かい妻に迎えられて、ただその幸せを甘受して。
まぁ、これはこれで悪くはないと、思う。
俺は、決めたのだ。ダイスの力になど頼ることなく、何かを信じるのだと。
信じるのならば、ただ与えられる妄信的で絶対的だと信じることのできる愛に身を捧げるのだと。
「今日は飲んできただろうけれど……飲む? 」
「お前が酌をしてくれるのなら」
「ふふ……馬鹿ね、そんなのあなたから答えを言っているのと同じ。飲み足りないのね? 」
「あぁ」
彼女は、俺のしたいことやしてほしいことを不思議と見通してくれる。
敵の動きや部下としての感情など造作も無く把握できた俺ではあるけれど。
それだけは、彼女にはきっといつまでも敵わない。
298 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/25(日) 00:00:37.36 ID:rJawS7do0
「あ、そうそう……お口か胸くらいなら、いいけど? 」
「ばーか。そこまで猿じゃねぇよ。休んどけ」
別に彼女がまだそこまで腹を重荷にはしていないことなど分かっている。
艦娘ではなくなったとしても人一倍丈夫なのだ、我が妻は。
それは何度も何度も、寧ろ彼女から求めてきた幾夜で理解している。
それでも、この曖昧模糊としていながらも何かを掴めそうな幸せの為に、耐える。
彼女の肢体も、その愛しか含まれない無垢の献身も。
幾度も味わったからこそ今すぐにでも貪りたい気持ちはあるのだけれど、それでも。
耐えることが、彼女を想うことが己の幸せに繋がるのだと、信じている。
否、信じることにしたのだ、俺は。
299 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/25(日) 00:05:04.44 ID:rJawS7do0
「寧ろだな……おい」
「何? 」
「休暇を、取った。今度、温泉にでも行こう。悪いが親父や兄弟も呼んでいるが」
「……いいの? 」
「何が? 」
「私、これでも認知くらいで我慢しようと思っていたのだけれど」
言って、何かまた続けようとして、目を伏せて、顔を背けて。
嗚呼、これが、何か、幸せということなのだろうか。
誰かを信じて踏み出したのならば、踏み出した分だけ相手が歩み寄ってくれて。
その歩み寄りが幸せなのだと信じた相手の愛を包んでやって。
包んだ愛を感じてまた自分も言いようの無い暖かさに、酔って。
「泣くようなことじゃ……心外な」
「だって、あなたクズでしょう? 」
「違いないが……これでも変わろうとしているんだ、俺なりに」
300 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/25(日) 00:09:42.44 ID:rJawS7do0
大和との語らいは言うに及ばず。
PrinzやGrafといった俺に多少の反感を持っていた部下の心にも寄り添おうとしたつもりだ。
あきつ丸や比叡といった一歩引いた視点を持つ部下にも歩み寄ろうとしたつもりだ。
つもり、つもり、つもりだけ。
けれどそのつもりが、いつか積もって何かに変わると、信じて。
せめて、愛すると決めた女には信じてもらいたいし、否定されたくない。
「ま、それでもまだ信じるわけには、いかないけれど? 」
「お手上げだ、それじゃあ。何か? またダイヤの指輪でも贈ろうか? 」
「要らない。そんなものこれ一つで十分。……ね」
「ん? 」
「指輪がどうして高いか、知ってる? 」
「お前を大事だと、美しいと、愛すると信じた分の誠意」
馬鹿真面目に、割と本音で答えて、笑われた。
そんなに笑わなくたって、いいと思うのだが。
301 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/25(日) 00:13:30.36 ID:rJawS7do0
「これはね、あなたがあなたじゃなくなったとき、死んでしまったときの、保険なの。
自分がどうにかなったとき、残された妻を、子を、路頭に迷わせない為の、財貨」
「俺はまだまだ死ぬつもりじゃないが」
「それも知ってる。それにまだまだ死なせてあげるわけないじゃない。この子が生まれたら次の子もすぐ、ね? 」
「…………」
「あなたが呉れたこれは、私たちを想う心そのものなの。
それはいつか売れる財貨であって、そして唯一無二の決意表明。愛してくれる、証」
「…………」
「だから、二つ目なんて要らないわ。ただ、何度でも愛して、キスでも一差し、呉れればいい」
「…………」
302 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/25(日) 00:20:12.02 ID:rJawS7do0
自然と、手と手が絡み合う。
腰に回した手が暖かな肉を柔らかく掴む。
女としては高身長な彼女も、身体だけは鍛え抜いた俺からすれば然程高くない。
その身長差がいいの、なんて臆面もなくピロートークで言われたときには困ったものだけれど。
でも、確かにこれはいいのかもしれない、なんて。
妻と、子供と。
その二人を一人で包み込んで自分を安心させる為には、これが必要なのかもしれない。
「ふふ……ねぇ、覚えてる? 」
「朝になっても欲しがり続けたくせに鬱血痕が恥ずかしくて宅配便を受け取りにいかなかったこと? 」
「莫迦。……私があなたを殺そうとしたこと」
頤を指で上げて覗いた瞳、それが暗闇の猫の様に、細まる。
まるで見通せない深淵を覗く様に、逃がさないと叫ぶ様に。
「やめたわ、そんなの。殺してなんて、あげないから」
「それは嬉しいね」
「嬉しい? ご冗談を。……あなたが私とこの子以外を見たら、一生許さない」
「構わない。見る気も無い」
「どうだか。今夜あたり大和さんでも口説いてきたんじゃないの? 」
「ーーーー」
303 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/25(日) 00:26:06.33 ID:rJawS7do0
「…………そんなわけないだろう? 」
「ふふ……そうね、ええ、そうでしょうとも……んっ」
面倒なことを囀る唇は黙らせて。
そのまま絡み合うわけにはいかないけれど、どちらからともなく寝台に倒れて。
いや、彼女の身体を労ったつもりであって、下敷きなのは俺。
どちらからともなくというのはつまり、俺が倒れ込んだのか、彼女が押し倒したのかということ。
「っ……ん…………他の女の臭い」
「当然匂いくらいは……ッ」
「だーめ。それも、駄目、許さない。上書きしないと」
「……ッ」
吸われて、噛まれて、今度は労わる様に舐められて。
抱き締めた獣に貪られるのも、まぁ悪くはない。
正直なところ、まだ幸せなんてものを実感できているとは思えないけれど。
それでも、彼女が大切だというのは紛れも無い、事実だ。
俺がまだ本当に幸せではないのだと、それすら理解して黙って愛してくれて。
何もかも、他の女なんて瑣末なことどころか今までの鬱屈すら上書きしようとしてくれて。
「嗚呼……俺は、なんてッ……! 」
「仕合わせ、そうに決まっているわ」
304 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/25(日) 00:29:12.07 ID:rJawS7do0
「だって、私がこんなにも、仕合わせなんだもの、ね? 」
咲いた花に食われるなんて、なんて、何?
これが幸せだというのなら、甘んじて受け入れよう。
寧ろ、これを信じた自分が間違っているなど、認めない、認めたくはない。
俺が、俺自身がこれを、彼女を幸せそのものだと、しんじたのだから。
「あぁ……お前が幸せなら、救われるさ、何もかも」
いつか夢見た幸せを、きっといつか、本物に。
305 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2018/11/25(日) 00:29:39.84 ID:rJawS7do0
おわり
306 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 00:29:40.51 ID:WZSRp8z7O
ヤンデレ艦娘にはこれぐらい変わった提督じゃないと釣り合わないってはっきりわかんだね(少し前のイムヤ回を見ながら)
307 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2018/11/25(日) 00:32:11.90 ID:rJawS7do0
建ったフラグとコンマによっては色々と
暴れるPrinzとか妹を虐める金剛とかキレる比叡とか
あと冷笑的な最上とか祖国に帰れなくて絶望するGrafとか
陸軍と提督と幸せと正義に惑うあきつ丸とかあったんですが……
割に早く終わってしまいましたね……
308 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2018/11/25(日) 00:33:21.25 ID:rJawS7do0
まぁ、何はともあれそれなりに長々とお付き合いありがとうございました
割と暇なのでまた早めに新しいのを建てるかと思います
改めてお付き合いありがとうございました
309 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 00:33:26.45 ID:VWzUzn2VO
>>306
あのイムヤは終始運が悪かった印象
最初放置され最後はようやく相思相愛になったと思ったらコンマ神に記憶消し飛ばされるというね
310 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 00:39:32.42 ID:Cn1Fz6By0
乙
やっぱコンマ神っているんやなって
311 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 00:43:17.18 ID:4JWKKoh0o
おつおつ
大団円じゃないですかねこの(コンマ神が憑いてる)
>>1
の物語としては
楽しかった!
また頼むよ……コンマ神も
312 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 01:07:33.32 ID:1OaLrpdSO
おつです。いやあ、巧いなあ。
こういう一癖二癖あるキャラ書かせたら本当に巧いですね。着地の仕方含めて実にお見事でした。
313 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2018/11/28(水) 01:01:54.05 ID:XKxlUocB0
過去作プリーズ
314 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/11/28(水) 02:02:00.99 ID:02NRWdnQO
あんこで板内を検索すれば出てくるぞ
315 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/12/02(日) 00:02:30.08 ID:Zowp+AMu0
乙です
316 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2018/12/15(土) 06:28:15.29 ID:Y/pJKS4q0
【艦これ】平和に揺蕩う海を眺めて【あんこ】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1543155040/
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