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中野一花「うらはらちぇいす」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2019/01/07(月) 22:24:28.36 ID:Qn8TGrOM0
五等分の花嫁のss。R18。
中野二乃「こんすいれいぷ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1543718702/
中野三玖「だっかんじぇらしー」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1544619044/
の続き。
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[ saga]:2019/01/07(月) 22:25:51.74 ID:Qn8TGrOM0
「上杉君、今日は学食じゃないんですね」
昼休み。いつもなら学食で伝家の宝刀『焼き肉定食焼き肉抜き』を振るっているはずの俺は、とある事情から教室でもそもそ菓子パンをかじる憂き目に会っていた。というのも、全校生徒が入り乱れて食事をするあの場所に行くのは、今の俺の状況から鑑みた時、得策とは言えなかったから。
そうやって警戒心を持ち、アンテナを高めに張っていたからこそ、俺に話しかけてきた人物の顔はかなり意外だった。本来であれば、彼女はここではない場所にいるべき人間だ。
「……そういうお前はなんでここに?」
中野五月。五つ子の末っ子。姉妹の中で最も食に関する興味関心が高いであろう彼女は、昼食の時間を誰より楽しみにしていそうなものなのに。それがどうして、昼休みも半分ほどが過ぎ去ったこの時間、まだこんなところにいるのか。
「いえ、家計が家計なので、あんまり贅沢は」
「ああ、そうか。なんか悪い」
「謝ってもらうようなことじゃありません」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[ saga]:2019/01/07(月) 22:26:37.57 ID:Qn8TGrOM0
食いしん坊に食を我慢させるというのはなかなかのことだ。しかも、そうなった原因を辿っていくと最終的には俺に到達するのだから、自然に謝罪の言葉も出てくる。それが遠因と呼べるくらいに薄い関連性ならまだしも、限りなく直接の要因だ。出会って一年と経たない連中相手に一蓮托生してしまうのだから、人生というものは本当に良く分からない。
「最近は二乃がお弁当を作ってくれるので、それで十分満足ですし」
「…………」
少々厄介な名前を出されて一瞬眉がひくついたが、特になんでもないような表情をどうにか顔に貼り付けて、適当な相槌を打つ。些細な失態から全てが瓦解していく可能性があるので、こんな日常のワンシーンにも注意しなくてはならない。全然昼休めていないが、文句を垂れている暇があるのなら今までと同じペースで顎を動かし続けるべきだろう。
「集まって食わないのか?」
「一花はお仕事が入っていて、二乃と三玖は日直で遅れるそうなので。そこで四葉と話した結果、たまにはクラスの友達と食べるのも良いだろうって」
「なるほど」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[ saga]:2019/01/07(月) 22:27:40.16 ID:Qn8TGrOM0
仲違いを疑ったが、特にそういうことでもないらしい……とも言い切れなかった。四十人のクラスから日直が二人選ばれるとして、仲良し五人組の中の別々のクラスに属している二人が同時に日直業務を負う確率……は、まあ、有り得なくもない程度に収まるかもしれない。……が、その確率計算に、『俺と肉体関係を持ったことのある』というドギツい冠をつけた場合、果たしてそれはいかほどか。俺は自信を持って「ああ、今日は二人とも日直なんだ」と信じることが出来そうにない。どうしても裏を疑いたくなってしまう。
俺の見ていないところで二人がこっそり戦争を始めている可能性だって頭のどこかでは考えていて、とうとうそれが顕在化したのではないかと冷や汗が一筋背を伝った。今現在、この学校には爆弾が多すぎる。
「で、お前、弁当は?」
「……食べ終わりました」
「……ああ、そう?」
体重やら美容やらに人一倍気を遣っていそうな二乃が作る弁当は、そこらの男子が持ってくるような大雑把で量に特化したものとは一線を画すのだろう。そしてそれはきっと、五月的にはちょっと物足りないくらいの容量で。
「…………やらんぞ」
「要りませんよ!」
「そこまでムキにならなくても……」
「……すいません」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[ saga]:2019/01/07(月) 22:28:33.63 ID:Qn8TGrOM0
しゅんと萎んだ彼女をぼんやり眺めながら、味のしないパンを咀嚼し続ける。俺も俺で食べ盛りの体にそれなりの無理を聞かせているので、あまり他人のことばかり考えてもいられないのだった。衣食住の中で、疎かにすると短期的に手痛いしっぺ返しを受けるのが食だ。これに関しては割と死活問題なので、自分を優先させてもらう。気遣いで自分がひもじくなっていては目も当てられない。
なおも無心で規則的に顎を動かし続ける。せっかく生徒が目の前にいるのだから問題の一つでも出してやれれば良いのだが、最近この姉妹を前にすると上手いこと頭が働いてくれない。何度でも重ねて言うことになるが、顔も体つきもまるで同じなのが厄介極まりないのだ。五月と俺の間にはやましいことなど何一つ存在しないのに、顔を合わせると罪悪感のようなものに苛まれてしまう。良くないと分かっていても脳が自然と服の下にあるものを想像してしまうこともあって、どうしようもない。
「今日の勉強会はどこで開くんですか?」
「あー、また図書館あたりで考えてる」
「上杉君、最近私たちの家を使いたがらないですよね。あそこなら時間も人目も声の大きさも気にしなくて済むのに」
「いや、それはあれだ。明確な縛りがあった方が意識的に手を動かすようになるだろ。惰性でやるのが一番良くない」
「考えあってのことなら構いませんが」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[ saga]:2019/01/07(月) 22:29:30.88 ID:Qn8TGrOM0
実を言うとそんな考えなんてなかった。意識の問題なんてのは今なんとなくひねり出したこじつけに過ぎない。とにかく、俺はもうあの家で勉強など出来るわけがないのだ。どうやったって二乃との行為を思い出して悶々としてしまうし、あいつ自身、最近俺を焚きつけてあわよくばもう一度コトに及ぼうとしている節がある。見え透いた地雷を踏み抜くほど愚かではないつもりだ。
「それより五月、さっき一花は仕事だって言ったか?」
「ええ。今日は撮影があるみたいで学校はお休みです。放課後までにはなんとか終わりそうだと言っていたので、勉強会には間に合うかと」
「……そうか」
「なにか?」
「なんでもない。気にしないでくれ」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[ saga]:2019/01/07(月) 22:30:49.52 ID:Qn8TGrOM0
残り僅かとなったパンを一気に口の中に放り込み噛み砕く。先日の意味深なメールの後、俺は未だに一花と一対一で話す機会を持てていない……というか、極力二人きりにならないように立ち回っていた。どんな話をしたところでロクな結末を迎えそうにないと分かっているからだ。それでもいつかは何とかしないといけないというのは理解できていても、先を思うと頭が痛い。幸い五月の反応からも分かる通り目撃情報の拡散は為されていないようだから現状一安心だが、近くアクションがあっても何の不思議もなかった。
それで言えば、三玖も三玖でだいぶ問題があった。
元から羞恥心や距離の取り方がどこかズレていたあいつだったが、あれっきり妙に近い。気づけば隣にいるし、酷い時は呼吸音がはっきり聞こえるくらいまでこちらに詰め寄ってくる。それに触発された二乃までチキンレースを始めようとするからなおのこと手に負えなくて、勉強会のたびに俺の胃痛がマッハなのだった。二人とも告白関連のことはなあなあの有耶無耶にしたままだから、絶妙に居心地が悪い。スキンシップの過剰な奴なんだという理解は、明確に示された好意の前にはあまりに無力だ。こんな状況の対処法などどこを調べても載っていないので自力で何とかする外なく、目下最大の悩みの種として俺の前に立ちはだかっている。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[ saga]:2019/01/07(月) 22:31:57.87 ID:Qn8TGrOM0
「上杉君、最近ちゃんと眠れていますか?」
「どうした急に」
「ここのところずっと元気がないので。自分たちが負担になっているんじゃないかなと」
実際は、お前の知らないところで複雑化した人間関係を思って精神が摩耗しているだけなのだが。しかしわざわざこんな特大の爆弾情報を教えてやるわけにもいかず。
「心配すんな。それは関係ねーよ。ただちょっと怠いだけだ」
「無理は禁物ですよ?」
「分かってる」
その思いやりに心の中でこっそり感謝を表明しながら、教室の前に固定されている時計を見た。昼休みも残すところわずかだ。
「お前はどうかそのままでいてくれよ」
「はい?」
疑問の声には答えず、次の授業のテキストを取り出した。五月の呆けたような表情が、妙に印象的だった。
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