浅野風香『高峯のあの事件簿・佐久間まゆの殺人』

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79 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:05:26.77 ID:+PFa67g40
のあ「F、かしら」

真奈美「Fというと」

のあ「浅野風香だけ。でも、違和感がある」

真奈美「違和感とはなんだ?」

のあ「緒方智絵里が書いたとは思えない」

真奈美「その根拠は」

のあ「指を押し付けて書いたように見えるわ」

真奈美「誰かが死後に工作した、と」

のあ「殺害現場はほぼそのまま、偽装工作も簡単なものだけ……真奈美、質問を」

真奈美「なんだ?」

のあ「容疑者は」

真奈美「おそらく山荘にいる」

のあ「部外者の可能性を何故排除できるのかしら」

真奈美「ここが殺害現場だから、だ」

のあ「その通り。緒方智絵里を部外者がここまで運んできたとは考えにくい」

真奈美「誰かに呼び出されたな、山荘の誰かに」

のあ「ケータイも通じない場所で部外者が呼び出したとは思えない」

真奈美「夜中にこんな場所に来るんだ、相手は……」

のあ「真奈美、緒方智絵里は犯人に立ち向かえるかしら」

真奈美「そういうタイプには見えなかった」

のあ「危険を察知したら、逃げるはずよね」

真奈美「ああ」

のあ「ここにいる時点でおかしいわ」

真奈美「部屋の真ん中か、壁際ではなく」

のあ「親しい間柄のはず」

真奈美「やはり、犯人は」

のあ「……クラスメイトの誰か」

真奈美「……そうなるか」
80 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:06:43.86 ID:+PFa67g40
のあ「彼女達を疑うのは嫌だけれど……難事件ではないわ」

真奈美「その根拠は」

のあ「現場は残っている、久美子達なら手掛かりは幾らでも見つけられるはずよ」

真奈美「後はアリバイか」

のあ「南側の部屋の生徒が目撃者となっていないかしら……いや、違う」

真奈美「のあ?」

のあ「犯人は殺人が露呈することを覚悟している可能性があるわ」

真奈美「待て、それなら」

のあ「山荘に戻りましょう。後がない人間は何をするかわからないわ」
81 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:07:20.97 ID:+PFa67g40
49

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

千夏「はい、住所は……」

泰葉「高峯さん!」

のあ「大教室にいなさいと言ったはずよ」

泰葉「とにかく、今は3階へ行ってください!」

真奈美「警察への連絡は」

千夏「今しています!」

のあ「電話回線は無事、と」

泰葉「こっちです!」

真奈美「何をそんなに急いで……まさか」

のあ「まずは確認を。真奈美、行くわよ」
82 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:08:19.41 ID:+PFa67g40
50

椋鳥山荘・3階・浅野風香の部屋前

泰葉「風香ちゃんの部屋です!」

清良「今井さん、しっかりして!」

加奈「……」

泰葉「加奈ちゃん……どうですか」

清良「この通り、放心状態で……」

真奈美「何があった?」

清良「様子を見に来たら、今井さんがへたり込んでいて……」

泰葉「私も加奈ちゃんと風香ちゃん以外は集まったから、様子を見に来て……」

のあ「真奈美」

真奈美「どうし……た」

のあ「親友の首吊り死体は……耐えられないでしょうね」

真奈美「悲鳴も出ないほど、か」

のあ「真奈美、今井さんを頼むわ」

真奈美「わかった。今井君を運ぼう、柳先生手伝いを」

清良「わかりました」

のあ「岡崎さんも行きましょう」

泰葉「調べなくていいんですか」

のあ「まずは全員の無事を確認し、万が一の可能性を止めることよ」

泰葉「……」

のあ「どうしたの、岡崎さん」
83 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:08:58.93 ID:+PFa67g40
泰葉「自殺じゃない……ですよね」

のあ「今は考えなくていいわ。落ち着きなさい」

泰葉「……知ってるんです」

のあ「知ってる?」

泰葉「何でもないです……」

のあ「岡崎さん、ショックを受けてるのね」

泰葉「……そうかもしれません」

のあ「気丈に振る舞うのもいいけれど、事態が事態よ。無理をすることはないわ」

泰葉「違うんです……ごめんなさい、疑っています」

のあ「誰を、かしら」

泰葉「あなた、です」

のあ「どういう意味かしら」

泰葉「……皆の所に行きましょう。集まっていれば、安全ですから」

のあ「……ええ」
84 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:10:31.75 ID:+PFa67g40
51

椋鳥山荘・1階・大教室

瑞樹「とりあえず、全員無事よ……」

のあ「全員いるわね、緒方智絵里、浅野風香、今井加奈とシスタークラリス以外は」

瑞樹「……ええ」

真奈美「シスタークラリスと今井君はどちらに」

瑞樹「ショックを受けてるみたいだから、シスタークラリスにお願いしているわ。1階の西側の部屋に一緒に」

のあ「……そう」

真奈美「警察は」

千夏「1時間後には。道や電話回線には特に問題ないと」

のあ「生徒達の様子は」

瑞樹「この通り……事態は伝わってるわ」

藍子「のあさんっ!」

のあ「ここにいるわ」

藍子「犯人は、智絵里ちゃんを殺した犯人は風香ちゃんなんですか……?」

のあ「今の所はわからないわ」

藍子「えっ……」

珠美「まさか、別に犯人がいると!?」

のあ「それもわからない。部外者の可能性もあるわ」

裕子「そうですよね!このクラスに人を殺せるような人はいませんから!」

加蓮「……本当に、そうかな」

裕子「えっ、何ですか、加蓮ちゃん」

加蓮「いるんじゃないの。ねぇ、岡崎さん」

泰葉「何を言ってるんですか……?」

加蓮「別に。あなたが恨んでて、それで殺しちゃったとか」

蓮実「あなたが言えることじゃない」

加蓮「なに、蓮実」

蓮実「なんでもない」
85 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:11:21.57 ID:+PFa67g40
泰葉「デタラメなことを言わないでください!疑うなら、他にもいて……一番怪しいのは、そう、まゆちゃん」

まゆ「私……?」

泰葉「そう。だって、探偵さんと共犯だっておかしくないのに」

まゆ「……違う、違います!のあさんを疑わないでください!」

泰葉「信じられない。でも、他にも汚い手段が好きな人もいるから」

千早「なぜ、私を見るのかしら」

泰葉「……別に」

千早「岡崎さん、言いなさい」

泰葉「じゃあ、言います。あなたは兄弟を殺したんでしょう」

千早「……あれは事故だったのよ」

泰葉「不幸な事故だったの、本当に?」

藍子「泰葉ちゃん、やめたほうが……」

千早「何が、言いたいの」

泰葉「あなたが、そういう人だってことよ」

千早「岡崎さん、言っていい事と悪い事があるわ!」

藍子「待って、こんな時に言い争っても……」

千早「あなたは黙ってなさい、高森藍子!」

藍子「……うぅ」

珠美「千早殿、落ち着いてください!」

裕子「そ、そうですよ!」

千早「優……」

瑞樹「どうしたの、みんな落ち着いて!」

忍「……言い合っても仕方がないよ」

泰葉「冷静ですね、実はホッとしているから?」

忍「えっ、いきなり、何言うの?」

泰葉「……」

のあ「岡崎さん、落ち着いて」

泰葉「落ち着いてなんていられない!だって、クラスメイトが2人も殺されてる!誰も信じられないし、誰も傷つけたくないのに!なのに、何もやれなくて……」

清良「……」
86 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:11:51.14 ID:+PFa67g40
珠美「珠美も同じ気持ちです。でも、騒いでも何も解決しません」

千夏「ええ……そう思うわ」

珠美「泰葉殿、落ち着きましょう」

泰葉「……うん」

のあ「素直に言うけれど、私は直ぐにこの事件を解決できないわ」

真奈美「……」

のあ「警察が来るまで、皆を守るわ。それだけは約束させて」

まゆ「……はい」

のあ「この部屋で待っていましょう。いいかしら」

瑞樹「みんな、従ってくれるかしら」

千早「……仕方がないわ」

加蓮「いたくないけれど」

蓮実「わかりました」

真奈美「のあ、事情を聞くか」

のあ「……いいえ。不安にさせるだけよ」

真奈美「承知した」

のあ「川島先生、今井さんとシスタークラリスを呼んできて。大丈夫そうであれば」

瑞樹「わかったわ」

のあ「真奈美はロビーで見張りを。刑事がかっ飛ばしてくるはずよ」
87 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:14:22.13 ID:+PFa67g40
52

椋鳥山荘・駐車場

大和亜季「到着であります!久々にサイレンでかっ飛ばしましたな!」

新田美波「山道での運転技術、参考になりましたっ」

大和亜季
刑事一課和久井班所属の巡査部長。山道を苦にしない運転技術を披露した。

新田美波
刑事一課和久井班所属の巡査。普段は運転担当だが、今日は亜季が運転を担当した。

亜季「いやいや、褒められると照れますなぁ」

和久井留美「疲れていなそうね。新田巡査、今の時刻を」

和久井留美
刑事一課和久井班班長。階級は警部補。通報時はまだ起きていたらしい。

美波「午前3時25分です」

留美「通報からおよそ1時間。科捜研の車は」

美波「あそこに。後300秒くらいで駐車場に到着予定です」

亜季「早いでありますな」

留美「出発が早かったもの。署を出たのが一番早かった」

美波「でも、大和巡査部長が追い抜きました」

亜季「あっちはサイレンなしでありますから」

のあ「来たわね、留美」

留美「探偵さん、お疲れ様」

亜季「高峯殿、お疲れ様であります!」

美波「和久井班到着しましたっ」

のあ「状況は把握してるかしら」

留美「大まかには」

のあ「私と学生がここにいる理由は」

留美「大体聞いてるわ。新田巡査、1階東側の大教室へ。全員の安全を確保して」

のあ「真奈美がいるわ、使ってちょうだい」

美波「はいっ!」

留美「新田巡査、止まって。探偵さん、聞き取りは」

のあ「進んでないわ」

留美「探偵さんらしくもない。新田巡査、聞き取りもお願いするわ」

美波「美波、いきますっ!」

留美「遺体は2人と聞いてる。私はどちらを先に見ればいいかしら」

のあ「2階を」
88 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:15:12.45 ID:+PFa67g40
留美「信頼しましょう。大和巡査部長、別館の状況保存と見分を」

亜季「了解であります!」

のあ「行きましょう」

留美「ちょっと待って。科捜研の3人が来てるの」

のあ「鑑識より先に到着してるとは、職務熱心ね」

松山久美子「のあさん、お疲れ様」

松山久美子
科捜研所属。常時白衣着用の美女。すぐに現場に行ける体制は整えてあるわ、とのこと。

のあ「久美子、早いわね」

久美子「清路の科捜研は現場主義なの。のあさん達も心配だったし」

留美「松山さんは私達と2階へ」

久美子「オッケー」

留美「そこのおふたり?」

梅木音葉「準備できました……なんでしょうか?」

一ノ瀬志希「にゃはは、深夜の緊急出動は興奮しちゃうねー」

梅木音葉
科捜研所属。久美子の後輩らしく白衣着用。耳が利くタイプ。通報時は科捜研で趣味に勤しんでいた。

一ノ瀬志希
科捜研所属。音葉の年下の後輩。鼻が利くタイプ。音葉が自宅に帰らないので、科捜研に泊まるつもりだった。

留美「梅木さんは大教室へ、新田巡査の手伝いを。科捜研の職務は、その後でいいかしら」

音葉「わかりました……」

留美「一ノ瀬さんは、緒方智絵里さんの殺害現場を見てちょうだい」

志希「んー……」

留美「嫌かしら」

志希「にゃはは!留美にゃん、適材適所!いってくるよー」

留美「なぜ、一ノ瀬さんは一目散に旧館の外へ?」

のあ「彼女なりに何か気づいているから」

久美子「信じておくと気も楽よ」

留美「信じましょう。2階の現場に案内して」

のあ「わかったわ」
89 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:17:49.73 ID:+PFa67g40
53

椋鳥山荘・3階・浅野風香の部屋

留美「天井の梁に首吊り死体、お名前は」

のあ「浅野風香」

久美子「争った様子はないわね。のあさん、この部屋調べた?」

のあ「いいえ。あなた達に任せた方がよいかと」

久美子「何もしてなさそうね。そこの手紙、見ていいかしら」

留美「手紙?」

久美子「机の上。のあさん、中身見てないのよね?」

のあ「見ていないわ」

留美「あなたが見た時のまま」

のあ「ええ」

留美「その手紙、私にも見せてちょうだい」

久美子「うん、内容は遺書だったわ」

留美「そのようね。探偵さん、第一発見者は」

のあ「今井加奈。彼女が浅野風香と最も親しかった」

留美「浅野風香さんの得意科目は」

のあ「得意科目?」

留美「知ってるかしら」

のあ「おそらく国語。苦手なのは英語、何故そんなことを?」

留美「情報は幾らでも欲しい、柊課長に提出するために。彼女の趣味は?」

のあ「これも推測だけれど、趣味は本を読むこと、それと書くこと」

久美子「そうかもしれないわね。遺書の文章もしっかりしてるわ」

留美「家族構成は」

のあ「父親と二人暮らし。だけれど、苗字は母方の浅野を名乗ってる」

留美「自殺の動機は、この遺書に」

久美子「遺書の内容は……」

のあ「緒方智絵里を殺害、殺害は前から決めていた、動機は怨恨、自殺も決めていた」

久美子「のあさん、読んでないんじゃなかったの?」

のあ「読んではいないわ、推測の結果」

留美「遺書の筆跡は浅野風香さんのものかしら」

久美子「ノートと比べてみたけれど、本人の可能性が高いと思うわ。正確には鑑定を待って」
90 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:18:31.29 ID:+PFa67g40
留美「凶器は」

のあ「今の所、見つかっていないけれど」

留美「すぐに見つかるでしょう」

のあ「見つからないといけない」

久美子「ねぇ、ツーカーなのは良いことだけど、私にもわかるように会話してくれない?」

留美「今は現場に集中して」

久美子「了解、事情は後から聞くわ」

留美「犯人は自殺。直筆の遺書もある」

のあ「そうね。だけれど」

留美「探偵さん、自殺だと思う?」

のあ「……わからない」

留美「松山さん、あなたの感想は」

久美子「自殺は偽装の可能性があるけど、本当に自殺かもしれない」

留美「根拠は」

久美子「自殺なら少なくとも自分の体を梁の近くに上げないといけないわ」

留美「その足場がない」

久美子「ええ。椅子か脚立があるはずだけれど、ない」

留美「梁から飛び降りた場合は」

久美子「梁に落下した時の傷がない」

のあ「そんなことしたら、縄が切れる可能性すらある」

留美「失敗したら、下の部屋の生徒が飛んでくるわね」

のあ「下の部屋は脇山珠美。悲鳴で起きて来たし、正義感も強いから確実に次の機会は失われる」

留美「縄の出所は」

のあ「旧館から」

久美子「梁は結構な高さがあるのよね」

のあ「それが問題」

久美子「結構グラマラスね。そんな浅野風香さんを持ち上げられそうな人は……」

のあ「いないわ」

留美「いるわよ、2人くらい」

のあ「その2人は、私と真奈美」

久美子「もしくは複数犯ということね」
91 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:20:09.87 ID:+PFa67g40
留美「複数と言ってもパターンがある」

久美子「そうね、手伝ったのはどっちだったのかな」

のあ「どういう意味かしら」

留美「殺人、2件の殺人、殺人と自殺、どれをどこまで誰が手伝ったかはわからない」

久美子「死亡推定時刻は12時から2時くらい」

のあ「おそらく、緒方智絵里よりは後」

亜季『警部補殿、下へ来ていただいてもよろしいですか?』

留美「了解。松山さん、ここはよろしく」

久美子「わかったわ」

留美「探偵さんは私と下へ」

のあ「ええ」
92 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:20:54.74 ID:+PFa67g40
54

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

真奈美「のあ」

留美「様子はどうかしら」

真奈美「問題ない。新田巡査と音葉君が聞き取りを進めている」

のあ「何か伝えたいことでも」

真奈美「緒方智絵里が旧館に移動するところを見ていた人物がいる」

留美「どなたかしら」

真奈美「長富蓮実だ」

のあ「2階の南側、起きていたら気づく可能性はある」

留美「何故起きていたのかしら」

真奈美「音楽を聴きながら、ボーリングのためのトレーニングをしていたらしい」

のあ「そう。それで何時ぐらいだったのかしら」

真奈美「1時頃だそうだ」

留美「夜更かしね。別に肝試しをしてようが咎める理由もなしと言った所かしら」

真奈美「工藤忍が緒方智絵里に呼び出された時間と相違がない」

のあ「呼び出された?」

真奈美「緒方智絵里が工藤忍の部屋に来て、2時に旧館に来る約束をしたのが12時半より前だ」

のあ「犯行時刻はその間。緒方智絵里は工藤忍を呼び出す動機がある」

真奈美「そうなのか?」

留美「……」

のあ「真奈美、詳細は後で」

留美「今は大和巡査部長の報告を先に」

のあ「そうしましょう」

留美「真奈美さん、引き続き聞き取りをお願い」

真奈美「わかった」
93 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:22:28.66 ID:+PFa67g40
55

椋鳥山荘・旧館・裏口付近

留美「大和巡査部長」

亜季「警部補殿、こちらを見てください」

志希「聞くべきは刑事じゃなくて探偵。のあにゃん、何かわかるでしょ?」

のあ「発火装置……」

志希「報告書を見たよー、音葉ちゃんの愉快なリズムで書かれたヤツ」

亜季「佐藤心が作成していたもの、かと」

のあ「宮本フレデリカが小火を起こしていたものと同種ね」

志希「発火寸前だったから、水をかけちゃった」

のあ「発火寸前だった?」

志希「うん、志希ちゃんが見つけなかったら旧館は丸焼けだったよ」

のあ「室内に置けばいい、現場を隠蔽できるわ」

亜季「確かに、そうでありますな」

のあ「発火時間が遅すぎるのも不自然よ」

志希「うーん、それには反対。朝方なら、もしも山荘に延焼しても逃げられるよ?」

留美「他に発見したものは」

亜季「足跡であります。こちらを」

志希「小さめの足跡が一人分。身長は150センチ前半ってとこ」

のあ「消されてるわ。一人分になるように」

志希「使ったトンボは部屋の中にあったよ。指紋は後で調べとくー」

亜季「犯人は緒方智絵里殿を殺害した後に、裏口から出たようであります」

志希「そして、ここで山の斜面に近づいた」

亜季「犯人は凶器を投げ捨てたであります」

留美「見つかったの?」

亜季「発見済みであります」

志希「犯人は右足を踏み込んで、一生懸命投げたけど力が強くなかったみたい」

亜季「斜面を転がり過ぎることはありませんでした」

94 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:23:04.07 ID:+PFa67g40
留美「強く踏み込んだ足跡が2つあるのは」

志希「凶器以外に、何かを投げたから」

留美「その何かは見つかったの?」

亜季「そちらは捜索中であります」

志希「三角形か丸い、ころころ転がる何か?」

のあ「転がるもの……」

志希「血が付いたレインコートとかだよ、のあにゃん、わかってるでしょ〜」

のあ「……ええ」

志希「犯人は左手でその2つを投げた。それで、今度はこっち」

亜季「この壁であります」

志希「もたれかかってた。数時間前に」

のあ「……」

志希「肩の位置はこれくらい。身長は150センチくらい、足のサイズからの見立てと一緒」

亜季「犯人は、その後表に回り」

志希「堂々と出て行った」
95 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:23:49.29 ID:+PFa67g40
留美「何故、ここにもたれかかってたの?」

亜季「山荘が見えるからであります」

志希「タイミングを計ってた」

亜季「こちらは暗くて見えませんが、明かりやカーテンの有無はわかります」

志希「だから、堂々と帰れたんだよー」

留美「フム、なるほど」

亜季「目ぼしい発見はそんな所であります」

留美「重要な証拠、凶器が見つかったわ。早期の連絡をありがとう」

志希「遺体はこれからじっくり見るよー、さっくりとは見たけどね。気になることがあるんだー」

留美「何かしら」

志希「刺したのは右、投げたのは左、共犯なのかなぁ?」

のあ「……」

留美「考慮に入れておくわ。のあ」

のあ「何かしら」

留美「山荘へ。新田巡査の調査結果を聞くわ」

のあ「ええ、行きましょう」

留美「待ちなさい、そんなに急がなくても」

亜季「……」

志希「……」

亜季「一ノ瀬殿も人が悪いでありますな」

志希「のあちゃんがいつもの調子だったら、仕事が終わってたのにねー」

亜季「同感であります。だから、私達がやるでありますよ」

志希「にゃはは、気分を入れ替えて、お仕事お仕事〜」
96 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:25:44.26 ID:+PFa67g40
56

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

のあ「留美、止まってちょうだい」

留美「どうしたのかしら、ソファーに座り込んで」

のあ「疲れたの……あなたの力になれそうもないわ」

留美「仕方がないわね、真奈美さんを呼んでくるわ」

クラリス「和久井留美様はどなたでしょうか?」

留美「私です。お名前をお聞きしても」

クラリス「クラリスと申します。星輪学園でシスターと教職についております」

留美「フルネームは」

クラリス「生徒の前ではお控えください」

留美「わかりました。ご用件をお聞きしても」

クラリス「和久井様とお話したい生徒がおります。あちらの部屋へ」

留美「私を名指し、ですか」

のあ「……」

クラリス「はい。和久井様お一人で来て欲しい、と」

留美「わかりました。伺いましょう」

クラリス「よろしくお願いします」

留美「木場真奈美さんを呼んでくださるかしら」

のあ「私は3階の部屋にいるわ。真奈美も3階に来るように」

クラリス「わかりました」

留美「聴取は順調ですか」

クラリス「皆様、落ち着いております。協力的かと」

留美「ありがとうございます。案内をお願いしても?」

クラリス「はい。その前にひとつお聞きしてもよろしいですか」

留美「何なりと」

クラリス「高峯様とは付き合いが長いのですか」

留美「そうです。真奈美さんよりも長いかと」

クラリス「長い付き合いが出来る理由は」

留美「変人だけれど、正義の人だから。これ以上ない美徳ですから」

クラリス「ご案内します。こちらですよ」
97 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:27:26.70 ID:+PFa67g40
57

幕間

椋鳥山荘・1階・東大部屋

クラリス「こちらです。ごゆっくり」

留美「ありがとうございます」

まゆ「留美さん、こんばんは……」

留美「こんばんは、まゆちゃん」

まゆ「驚かないんですね……」

留美「私がいることがわかるのは、まゆちゃんだけよ」

まゆ「……はい」

留美「座っていいかしら」

まゆ「どうぞ……お茶も何もありませんけど」

留美「お気遣いなく」

まゆ「留美さんは……疲れていませんか」

留美「元気よ。最近は休みも取れてるから」

まゆ「……そうですか」

留美「学校は楽しいかしら」

まゆ「前の高校よりは……」

留美「のあが言っていたわ。心配そうに嬉しそうに」

まゆ「のあさんは……なんて、言ってましたか?」

留美「楽しそうよ、って」

まゆ「……」

留美「この行事も楽しみにしていたわ」

まゆ「……」

留美「まゆちゃん?」

まゆ「留美さんは……まゆが言うまで聞かないつもりなんですね」

留美「どういうことかしら」

まゆ「ごめんなさい……のあさんにも、真奈美さんにも言えなくて……」

留美「……」

まゆ「留美さんは……信じてくれますか」

留美「信じるわ。何を見たのかしら」

まゆ「……違います」

留美「違う……とは」

まゆ「言います……このままだと……のあさんが辛いから……」

留美「……」

まゆ「私が……やりました」

幕間 了
98 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:28:55.10 ID:+PFa67g40
58

椋鳥山荘・3階・のあと真奈美の部屋

真奈美「のあ、大丈夫か」

のあ「……」

真奈美「のあ?」

のあ「犯人がわかったわ。今、留美に自供しているはずよ」

真奈美「本当か」

のあ「犯人は、まゆよ」

真奈美「……」

のあ「驚かないのね」

真奈美「 様子がおかしかった」

のあ「まゆの様子に気づいていたのね」

真奈美「違う。のあの様子だ」

のあ「……ごめんなさい、私はあの子の力になれそうもないわ」

真奈美「……」

のあ「せめて、真奈美が共犯だと思われないように動くしかなかった。頭は動かない、最悪なパターンしか思い浮かばない、それを補強する証拠しかでない」

真奈美「のあだったら、調査はするはずだ。最初の1時間が重要だからだ」

のあ「出来ない……」

真奈美「しかし、結論に辿り着いている。何故だ?」

のあ「私は調べていたから」

真奈美「何を」

のあ「まゆのことに決まってるでしょう!」

真奈美「落ち着け、のあ」
99 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:29:23.29 ID:+PFa67g40
のあ「まゆ、浅野風香、緒方智絵里、工藤忍には動機となり得る関係があるの」

真奈美「関係か」

のあ「マンション火災よ、まゆは両親を失い、結果的に私の家にいるわ」

真奈美「……」

のあ「浅野風香の母親が火事の原因を引き起こしたわ、火災が多くの死者を出したのはマンションの設計が悪かったから……具体的には保温材が燃える際に毒ガスが出たから」

真奈美「……」

のあ「緒方智絵里の父親は原因を突き止めた、警察官だったの。浅野風香は母方の姓を名乗りつつ、父親と暮らしているわ。いられなくなったの、世間の目に耐え切れなくなって」

真奈美「緒方智絵里と工藤忍の関係は」

のあ「緒方智絵里の父親が殉職している……その事故に関わっているのが工藤忍の父親よ」

真奈美「……」

のあ「真奈美、工藤忍が緒方智絵里の遺体を発見した理由は何かしら」

真奈美「呼び出されていたからだ」

のあ「誰に」

真奈美「緒方智絵里だ」

のあ「まゆの部屋は」

真奈美「南側の3階だ、一番ロビー寄りの」

のあ「工藤忍の部屋は」

真奈美「佐久間君の目の前」

のあ「2人の因縁に気づいていた理由は」

真奈美「わからな……いや、ある」

のあ「そう、私よ。私が調べた資料があるの」
100 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:30:36.24 ID:+PFa67g40
真奈美「佐久間君は緒方智絵里の計画に気が付いた」

のあ「……バカなことを」

真奈美「浅野風香の件にどう説明をつける?」

のあ「室内にある机と椅子があれば梁に手が届くわ。動かした痕跡が見つかるはずよ」

真奈美「遺体を持ち上げられない」

のあ「持ち上げたんじゃないわ、首を絞めたロープごと引き上げたの……そのロープを梁に結んだだけ」

真奈美「……」

のあ「おかしいのよ……工藤さんの悲鳴を聞いた直後に、岡崎さんと私達が話している所に一番まゆの部屋が近いのよ。なのに」

真奈美「遅れて出て来た、合流したのは旧館の前だ」

のあ「部屋から出て来たわけじゃないの。工藤忍が見つけるまで、旧館に隠れていたから」

真奈美「騒ぎに乗じて紛れ込んだ」

のあ「足跡もあったわ……凶器からも指紋が見つかるはずよ、レインコートから、まゆが寝間着に来ていたジャージの繊維も」

真奈美「のあ、違うぞ。それなら、辻褄があわない」

のあ「勘違いしてるのは真奈美よ、私達が見つけた順番にすぎない」

真奈美「……どういうことだ」

のあ「目撃情報から考えても、緒方智絵里を刺殺した後に工作が出来るわけないの」

真奈美「順番が逆……」

のあ「浅野風香が亡くなったのがおそらく1時頃、緒方智絵里は1時半頃よ」

真奈美「待て」

のあ「まゆは、復讐をするような、違うわ、そんなはずはないの!」

真奈美「のあ……」

のあ「まゆの復讐だったら、浅野風香の直筆の遺書なんて手に入らないの。まゆと同じように緒方智絵里の行動を利用する、動機がある人間がいたの」

真奈美「浅野風香か」

のあ「まゆは止めるしかなかった……そう思い込みたい」

真奈美「……」

のあ「まゆが浅野風香と緒方智絵里を殺した犯人よ。2つの殺人事件を止める代わりに、2つの殺人を犯したの……」

真奈美「……」

のあ「私の見立ては終わりよ、否定できる材料が見つからないの……」

真奈美「のあは、何を望んでるんだ」

のあ「そうでないことを!こんな結末でないことを、こんな別れじゃなければ、私は何とだって耐えられるのに……どうして……」

真奈美「……」

コンコン

留美「入っていいかしら」

真奈美「和久井警部補だ、入れていいか」

のあ「……断る理由はないわ」

真奈美「入ってくれ」
101 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:31:44.72 ID:+PFa67g40
留美「お邪魔するわ。のあと話をさせてちょうだい」

のあ「まゆは話したのかしら」

留美「佐久間まゆさんは2件の殺人を自供しました」

のあ「……」

留美「のあにお願いしたいことがあるの」

のあ「わかってるわ。私の見立ては真奈美に話したから、真奈美から全部聞いて。まゆについて調査した資料は私の部屋のファイルを見て。まゆの対応と取調べは少年課の、出来るなら夏美にさせて。私も夏美以外の取り調べは受けない」

留美「わかりました。取り計らうわ」

のあ「ありがとう。だから、出て行って」

留美「……」

のあ「聞こえなかったかしら」

留美「出ていくわ。真奈美さん、のあを頼むわ」

真奈美「もちろんだ」

のあ「真奈美もよ」

真奈美「断る」

のあ「大丈夫だから、ただ……」

真奈美「なんだ」

のあ「泣きたいだけだから……お願い」

留美「真奈美さん、お話を。のあの見立てを教えてちょうだい」

真奈美「……ああ。のあ、気持ちは私も同じだ」

のあ「……知ってるわ、だから、私は、ワガママなの」

真奈美「それもわかってる。泣いておけ、自分の気持ちに整理がつくまで」

のあ「……うん」

真奈美「私は近くにいるからな。待ってるよ」

前編 了

後編に続く。
102 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/20(水) 23:39:30.75 ID:+PFa67g40
本日はここまで。
後編は明日にでも。

それでは。
103 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:24:17.35 ID:JCUGa/wA0
後編 (59〜)

59

翌朝

椋鳥山荘・駐車場

亜季「朝日が眩しいでありますな……」

久美子「仕事としては一段落ね。留美さんに報告書も出したし」

音葉「はい……生徒達もほとんど残っていません」

久美子「まゆちゃんも移送されちゃったし……」

亜季「まさか、こんな事になるとは……」

音葉「のあさん……大丈夫でしょうか」

久美子「大丈夫じゃないかもね……真奈美さんに出て行ってなんて今ののあさんは言わないわよ」

音葉「やはり……そうですか」

志希「あっ、日の出を見てる〜」

音葉「志希さん……それは」

志希「下っ端らしく、コーヒーを淹れたんだよー」

久美子「あら、珍しい。いただくわ」

亜季「私も頂いて良いでありますか」

志希「どうぞどうぞ」

音葉「いただきます……」

亜季「むっ!」

久美子「独創的な味がするわ……」

志希「にゃはは、志希ちゃん特製ブレンド〜、褒めて」

音葉「私は好きですよ……よしよし」

志希「にゃふふ〜」

亜季「飲んでいると、これで良いような気がしますな」

久美子「気のせいだと思うわ……」

留美「お揃いね」

亜季「警部補殿、お疲れ様であります!」

久美子「のあさんの様子は?」

留美「まだ布団の中に隠れているわ、少しは眠れていたらいいのだけれど」

亜季「山荘に残っている人は」

留美「のあ、真奈美さん、2人と一緒に来た高森さん、それと戸締りをするために残ってくれている川島先生の4人だけ」

志希「マナミンはどこに?」

留美「1階のロビーで報告書を真剣に読んでるわ、新田巡査と一緒に」

音葉「自供とのあさんの見立て……それと私達の報告に差異はありませんか」

留美「大きな差異はなし。のあが言っている背後関係はこれから確認しましょう」

亜季「了解であります」

留美「それで……これは私の、刑事としての個人的意見よ」
104 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:24:53.43 ID:JCUGa/wA0
亜季「何でありますか?」

留美「全てを鵜吞みにできない。自供も、のあの見立ても、現場の状況も」

亜季「何かあると思うのでありますな」

留美「ええ」

志希「留美にゃんの意見に賛成〜」

音葉「私もです……音に乱れがあります」

久美子「私も勘から言えば賛成かな。例えば、何かある?」

志希「志希ちゃんは利き手の特定かなー」

久美子「東郷邸ならいざ知らず、まゆちゃんを特定してしまう」

音葉「聞き取り時に嘘をついた人物がいます……私の感覚ですが」

志希「音葉ちゃんの耳でそう聞こえるなら、そうなんでしょー」

音葉「怒っているような響きも……微かにあったように感じます」

久美子「浅野さんの遺体だけど、やっぱり自殺だと思うわ。首を吊った傷しかないの」

留美「まゆちゃんが嘘をつく、理由があるのかしら」

久美子「うーん、のあさんに嘘をつくようは思えないけれど」

亜季「わかりませんなぁ」

留美「いずれにせよ、私は納得なんてしていないわ。どんな穴も許さない、協力して」

久美子「了解です、警部補」

亜季「大和巡査部長、同じくであります!」

留美「少し休みましょう。頭も体もリフレッシュすべきよ」
105 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:27:09.13 ID:JCUGa/wA0
60

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

真奈美「……」

藍子「……」

美波「気まずいです……」

真奈美「……」

藍子「……」

美波「あ、あの!」

真奈美「新田巡査、どうした?」

藍子「どうしましたか?」

美波「お茶でもいかがですか?」

真奈美「遠慮するよ」

藍子「お気遣いなく」

美波「そ、そうですか」

真奈美「……」

藍子「……」

のあ「……おはよう」

美波「高峯さん!おはようございますっ!」

藍子「のあさん……」

真奈美「のあ、気分はどうだ」

のあ「最悪よ。同じでしょう」

真奈美「……」

藍子「……」

美波「で、でも、お体とかは問題ありませんよね?」

のあ「健康体よ。真奈美、帰りましょう。高森さん、残らせて申し訳ないわね」

藍子「そんな、そんなこと……ないです」

真奈美「急だな」

のあ「ここにいても何も得られないもの。新田巡査」

美波「は、はい」

のあ「後は任せたわ」

美波「了解しました」

真奈美「高森君も家まで送るよ、準備をしてきてくれ」

藍子「はい」

のあ「留美にも声をかけてくるわ……良い態度ではなかったから」
106 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:33:07.94 ID:JCUGa/wA0
61

高峯家の乗用車・車内

のあ「……」

藍子「あの……のあさん」

のあ「そういえば、朝食がまだね」

藍子「ご飯の話じゃないんです、その」

のあ「何かしら」

藍子「のあさんは、まゆちゃんが犯人だと思ってますか……?」

真奈美「……」

のあ「自供もしたわ、久美子達が証拠を積み重ねてくれる」

藍子「でも……」

のあ「……」

藍子「でも、違うと思います……まゆちゃんは、そんなことしません……」

真奈美「……」

のあ「したわ、本人が言った通り」

藍子「しません!」

のあ「……あなたのためだったら、納得したのに」

藍子「……してない、って、信じてます」

のあ「……だけれど」

真奈美「信じる権利はある」

のあ「権利はあるわね、その通りよ……でも、それだけ」

藍子「……」

のあ「信じる権利も自分の正義もあるけれど……ね」

真奈美「……」
107 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:37:29.61 ID:JCUGa/wA0
62

高峯探偵事務所

真奈美「到着だ。久しぶりで、広く感じるな」

のあ「出て行った時は4人だったのに、今は2人だからよ」

真奈美「階段を走って登ると危ないぞ」

バタン!

真奈美「何を慌ててるんだ?」

のあ「……」

真奈美「降りるのは慎重か」

のあ「これを」

真奈美「ファイルか」

のあ「相葉夕美の事件の頃、私が調べた資料よ」

真奈美「佐久間君のか」

のあ「その通り。家族がいない理由、東郷邸に居た理由、前の学校生活、親族、それと火災のことも」

真奈美「見ていいか」

のあ「構わないけれど、警察に提出してちょうだい」

真奈美「わかった」

のあ「早いうちに、誰かが回収しにくるわ。よろしく」

真奈美「のあ、どこに行くつもりだ?」

のあ「部屋に戻るわ」

真奈美「部屋で何を」

のあ「寝るわ」

真奈美「寝れなかったか」

のあ「不貞寝よ。過眠症は私がストレスに晒された際に現れる、症状よ」

真奈美「その症状は治るのか」

のあ「十代後半は重篤だったわ。昨日までは治っていた」

真奈美「……」

のあ「真奈美、おやすみなさい」

真奈美「のあ」
108 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:38:28.86 ID:JCUGa/wA0
のあ「手短に」

真奈美「準備はしておく。今日は夕方からボイストレーナーの仕事で留守にする。明日からにしてくれ」

のあ「……真奈美もちゃんと休みなさい」

真奈美「わかってる」

のあ「真奈美も状況は同じよ、気分も」

真奈美「心配は無用だ」

のあ「いいえ……心配するわ」

真奈美「好きなだけしてくれ。お互い様だ」

のあ「……そうするわ」

真奈美「引き留めてしまったな、おやすみ」
109 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:39:44.77 ID:JCUGa/wA0
63

高峯探偵事務所

のあ「……何故、メイドが家に」

安部菜々「のあさん、こんばんは」

安部菜々
高峯ビル2階にある喫茶店St.Vの店員。ウサミンメイド出張サービスは高峯ビル限定。

のあ「菜々、今何時かしら」

菜々「夕方の6時です。よく眠れました?」

のあ「……あまり」

菜々「温泉の素を準備したんですよ、お風呂を楽しみにしてくださいね」

のあ「……」

菜々「ああっ、お風呂掃除もしてありますよ?先にお風呂にしますか?」

のあ「食事にするわ。良い匂いがする」

菜々「今ご飯をよそうので、座って待っててくださいねぇ。昨日は洋食だったそうなので、焼き魚、大根の煮物、大根の葉っぱをいれたお味噌汁です」

のあ「……菜々」

菜々「ご飯は大盛りにしますか?お昼食べてませんよね?」

のあ「真奈美から頼まれたのね。ご飯はいつも通りでいいわ」

菜々「はい。アイドルさんのお仕事なんて凄いですねぇ、ナナも憧れちゃいます」

のあ「今日の夕食係の……まゆがいないことも聞いてるのかしら」

菜々「聞いてますよ。でも、ウサミンメイドは口が堅いんです。メイドが見ても、言いふらしたりしません」

のあ「そうね……」

菜々「どうぞ、お待たせしました。しっかり食べてくださいね」

のあ「……」

菜々「食欲ありませんか?」

のあ「そういうわけではないけれど」

菜々「わかりました!魔法の言葉が必要ですね。ゴホン……美味しくなーれ、美味しくなーれ、ウサ、ウサ、ウサミン〜、キャハ♡」

のあ「……」

菜々「ウサミンの魔法もかけましたから、ちゃんと食べてくださいね。食べないなら、食べさせてあげます!」

のあ「それは遠慮するわ。いただきます」

菜々「召し上がれ。ナナもご一緒していいですか?」

のあ「もちろん。メイドというわけではないのだから」

菜々「それじゃあ、お言葉に甘えて。よいしょ、っと。いただきます」
110 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:40:59.23 ID:JCUGa/wA0
のあ「喫茶店の仕事はいいのかしら」

菜々「夕食はマスターと菜帆ちゃんで回せるので、心配ありません」

のあ「そう……美味しいわ、懐かしい味がする」

菜々「ナナは母親の味も得意なんですよー」

のあ「ファイルはどこに」

菜々「真奈美さんが、取りに来た刑事さんに渡したって言ってました」

のあ「他に真奈美から伝言は」

菜々「特にはありませんでしたよ?」

のあ「来客は」

菜々「えっと、何も言ってませんでした」

のあ「そう」

菜々「誰かを待っていたんですか?」

のあ「いいえ、そういうわけではないわ」

菜々「……」

のあ「……」

菜々「そのー、のあさん」

のあ「何か言いたいことでも」

菜々「やっぱり辞めます、ナナはメイドですから。ご主人様のことに口を挟みません」

のあ「繰り返すけど、菜々はメイドではないわ。言ってちょうだい」

菜々「わかりました、のあさん、言いますよ」

のあ「どうぞ」

菜々「のあさんは、人の話を聞かないし、頑固だし、趣味は偏ってるし、辛い物へのこだわりが強くて、美人で、スタイルがよくて、お金持ちで、変な人です」

のあ「……否定はしないけれど」
111 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:41:59.38 ID:JCUGa/wA0
菜々「それに、優しい人です。ナナは信頼しています、まゆちゃんもきっとそうです」

のあ「……」

菜々「これから何があるかわかりませんけど、ナナと喫茶店St.V一同はのあさんを応援してます。まゆちゃんが戻ってきた時は歓迎してあげます」

のあ「……ありがとう」

菜々「あー、もう、柄じゃありません、忘れてください!さ、ご飯ご飯!」

のあ「菜々」

菜々「えっと……なんでしょうか」

のあ「真奈美が出かけた後からずっといるのかしら」

菜々「はい、います」

のあ「真奈美がそう頼んだのかしら」

菜々「……真奈美さんが言う通りに」

のあ「大丈夫よ、そこまで心配しなくても。東郷あいと同じ過ちを、まゆの居場所を奪うなんてことを私はしないわよ」

菜々「わかってます……でも、その」

のあ「……」

菜々「泣いてるのが……聞こえちゃって……」

のあ「……別に問題ないわ」

菜々「あー、もっと、良い言葉がかけられればいいのに!のあさん、ごめんなさい!」

のあ「謝らなくていいわ。ただし、要求があるの」

菜々「要求ですか?」

のあ「食後のお茶につきあってちょうだい」

菜々「もちろんですよぉ、今日はロシア風紅茶の準備として特製のジャムを用意してあります!」

のあ「楽しみにしてるわ、もう一つお願いを」

菜々「何ですか?」

のあ「お味噌汁をもう一杯貰っていいかしら、少し七味を入れて」
112 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:42:45.61 ID:JCUGa/wA0
64

某芸能事務所・レッスンルーム

レッスンルーム
某芸能事務所が所有しているレッスンルーム。とあるビルの4階。

大槻唯「真奈美さん、はい、どーぞ☆」

大槻唯
天真爛漫な性格と抜群のスタイルで人気急上昇中のアイドル。

真奈美「ありがとう、手間をかけさせて悪かったな」

唯「でもでもー、サイン色紙なんか貰ってなにするの?家に飾る?」

真奈美「貢物だ。ちょっと込み入った頼みごとをする、可能性があるんだ」

唯「そうなんだ〜、誰かにプレゼント用?」

真奈美「プレゼントと言えば、プレゼントだな」

唯「それじゃあ、返して♪お名前書いちゃうよ〜」

真奈美「お願いしようか」

唯「いいよー、渡す相手の名前は?」

真奈美「相川千夏さんだ。漢字はこう」

唯「ふむふむ、かきかき、はい、出来た!」

真奈美「レッスン後に、私的な用事で済まないな」

唯「いいよー、真奈美さんにはお世話になってるしー、仕上げにチュッ♡はい、ちなったんに渡してね☆」

真奈美「喜ぶだろう。ただ、ニックネームで呼びあう仲ではないんだ」

唯「そうなの?どんな人?」

真奈美「メガネが似合う英語の女性教師だ。」

唯「へぇ〜、大事にしてねっ、って言っておいて☆」

真奈美「伝えておこう。今日はお疲れ様」

唯「ゆい、歌うの好きだし、真奈美さんも好きだから、ぜんぜんだよー☆」

真奈美「好意は受け取っておこう。今日はこれで終わりか?」

唯「ゆいはおしまーい。あっ、みくにゃーん〜」

前川みく「はぁ〜、会議は疲れるにゃあ……」

前川みく
大人気ネコちゃんアイドル。単独コンサートの準備とレッスンで多忙な日々を送る。
113 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:43:19.85 ID:JCUGa/wA0
唯「みくにゃん、お疲れなの?」

みく「真奈美さん、唯ちゃん、お疲れ様〜。そうなの、会議が一杯にゃあ……」

唯「これから帰るなら、一緒に帰る?帰ろ?」

みく「リフレッシュしたいから、ちょっと歌おうと思って」

唯「ざんねーん、みくにゃん、またね〜」

みく「ばいばーい。真奈美さんも?時間があるなら、見て欲しいにゃ」

真奈美「申し訳ない、私もあがるよ」

みく「そっか、うん、今日はみく一人でがんばるにゃ」

真奈美「普段なら付き合う所なんだが」

みく「帰らないといけないの?」

真奈美「同居人が心配でな」

みく「あっ、みくのライブに来てくれるって言ってた人?風邪でもひいてるの?」

真奈美「そんなところだ。今日はここで失礼するよ、相談事があればいつでも聞く」

みく「うん。その人には、みくのライブまでに風邪を治すようにしてほしいにゃ」

真奈美「ああ、最善を尽くすよ」
114 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:45:02.49 ID:JCUGa/wA0
65

高峯探偵事務所

菜々「のあさんのお髪は本当にキレイですねぇ」

のあ「お風呂上がりの世話までは頼んでいないのだけれど」

菜々「ナナはメイドですから、遠慮しないでください!」

のあ「……楽しんでるわね」

菜々「えへへ。少しだけ、ですよ」

のあ「それなら、いいわ」

菜々「はい、おしまいです」

のあ「ありがとう、温泉の素も良かったわ。お肌の調子が良くなった気がするわ」

菜々「本当ですか?マスターにもオススメしておきます」

のあ「実験体だったのね」

菜々「いえいえ、のあさんがお疲れだなー、と思ったので」

のあ「冗談よ、わかってるわ」

菜々「のあさんの肌にも効果があるならマスターにも進めようかと。マスターが更にキレイになったら、お仕事も捗りますから!」

のあ「……そっちの方が本気で言ってるわね」

菜々「そんなことないですよー、マスターはそんなことをしなくても最高ですから。それに、のあさん、寂しかったらナナを呼んでくださいね」

のあ「いいえ、お店に行くわ。今日だけは特別よ」

菜々「はい、それじゃあ特別にウサミンメイドサービスをしましょう!」

のあ「ウサミンメイドサービス?」

菜々「お掃除とお洗濯はやってしまったので……肩たたきとか、昔話とか?」

のあ「メイド、なのかしら」
115 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:45:40.28 ID:JCUGa/wA0
菜々「お話しするのもメイドの仕事です、たぶん」

のあ「別に、いいわ」

菜々「じゃあ、テレビを一緒に見ませんか?見たいドラマがあるんです」

のあ「帰って見ればいいのに」

菜々「真奈美さんが戻ってくるまで、いる約束ですから」

のあ「付き合うわ。どうせ帰れと言っても帰らないでしょうから」
116 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:46:54.46 ID:JCUGa/wA0
66

高峯探偵事務所

真奈美「ただいま」

菜々「真奈美さん、お帰りなさい」

真奈美「のあは」

菜々「そちらのソファーで、お休み中です」

真奈美「寝てるのか」

菜々「はい、やっぱりお昼はちゃんと寝れていなかったみたいです」

真奈美「……そうか。のあの様子は」

菜々「ご飯もちゃんと食べてました、きっと大丈夫です」

真奈美「世話をかけて済まないな」

菜々「いえいえ!まゆちゃんのことで一番落ち込んでるのは、のあさんですから」

真奈美「のあは、何かしていたか?」

菜々「一緒にテレビを見てました、他に何もしないで」

真奈美「いつもとは違うな。片手間でPCで何かしていることが多いんだが」

菜々「そう言えば、一回だけ電話をしていました」

真奈美「電話……相手は誰かな」

菜々「うーん、菜々が知ってる人じゃない気がします。のあさんは先生と呼んでいました」

真奈美「先生か……」

菜々「心当たりはありますか?」

真奈美「わからない」

菜々「先生と呼ぶ職業は多いですもんねぇ」

真奈美「のあが名前も付けずに先生と呼ぶ人物は私も知らないんだ。まあ、本人から聞くよ」

菜々「はい。ナナはそろそろお暇しますねぇ」

真奈美「ありがとう。後でお礼をするよ」

菜々「なら、夕ご飯を食べに来てください。毎日は真奈美さんも大変でしょうから」

真奈美「……そうするよ」

菜々「お邪魔しました。後十五分くらいで起きなかったら、のあさんをお部屋に運んでくださいね」

のあ「起きてるわ……菜々、また来てちょうだい」

菜々「はい、また」

のあ「おかえり、真奈美」

真奈美「ただいま」

のあ「部屋で寝なおすわ、おやすみ」

真奈美「おやすみ」

のあ「朝食の準備をよろしく。また、明日」

真奈美「……朝食?」
117 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:48:00.22 ID:JCUGa/wA0
67

翌朝

高峯探偵事務所

のあ「おはよう」

真奈美「おはよう。遂に寝間着から着替えたか」

のあ「真奈美、約束通り今日まで待ったわ」

真奈美「待ったのか?」

のあ「待ったではないわね、動けるようになったわ」

真奈美「寝たら元気になったか」

のあ「気持ちを変えたわ。私はワガママなの」

真奈美「ワガママとは」

のあ「まだ何も決まっていないわ。まゆはただ留置されているだけ。何もかも完全に否定されてから、諦めればいいの。私がそうしたいから、そうするのよ。まゆのために、自分のワガママを通すの」

真奈美「そうか。私も同じ気持ちだ、受け止めるには時間も足りない」

のあ「ええ、まずは朝食を。準備は」

真奈美「出来てるよ。雪乃君からコーヒーを貰ってきている」

のあ「コーヒーね、まぁ、いいでしょう」

真奈美「お茶の気分だったか?」

のあ「いいえ、私ではないけれど」

ピンポーン……

真奈美「来客だ。出てくるよ」

のあ「失礼ないように」

真奈美「のあよりは対応を心得ているつもりだ。どうぞ」

のあ「……」

真奈美「のあ、和服を着た可愛らしい感じの少女が来ているが、ご案内していいか?」

のあ「だから、失礼のないようにと言ったでしょう」

真奈美「言っている意味がわからない」

のあ「先生よ」

真奈美「先生?」

のあ「弁護士よ、父の代からお世話になってるわ」

真奈美「弁護士!?」

依田芳乃「高峯ー、私を驚かせるのに使うのは感心しないのでしてー」

依田芳乃
依田法律事務所の弁護士。年よりも幼く見られがち。関西在住。
118 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:48:51.29 ID:JCUGa/wA0
68

高峯探偵事務所

芳乃「こちらはそなたが作ったものでしてー?」

真奈美「はい、お口に合いましたか」

芳乃「美味でしてー。コーヒーもでしょうかー?」

真奈美「コーヒーは下の喫茶店で淹れてもらっています」

芳乃「大方、高峯が連れて来たのでしょうー」

のあ「私がした選択の中でも、もっとも良い選択の一つよ」

芳乃「同感でしてー、木場様ー?」

真奈美「はい」

芳乃「高峯は手がかかりましょう、難儀な為人ですからー」

真奈美「いえ、そんなことは」

のあ「そんなに畏まらなくていいのに」

芳乃「そうでしてー」

真奈美「いや……父の代から世話になっていると」

のあ「父が世話になったのは先代と先々代よ。先生のお父様とおばあ様」

芳乃「木場様、いつも通りで構いませんよー」

のあ「そう言ってるわ」

芳乃「年齢も下ですからー」

真奈美「では、お言葉に甘えて」

芳乃「おそらく」

真奈美「おそらく……?」

芳乃「さて、どうしてわたくしを呼びましてー?この地、清路には高名な方もおりますー」

のあ「ビジネスに関わる人であれば不足ないわ。でも、今は先生しか信頼はおけない」

芳乃「信頼は心情的なものにあらず、あなたが欲しい事柄を探さす能力のことー」

のあ「その通り。ご協力くださるかしら」

芳乃「朝早い新幹線でここまで参りました理由はわかりますゆえー」

真奈美「佐久間君のこと、か」

芳乃「逮捕されたのは24時間前、残りは24時間となりますー」

真奈美「残り24時間の意味は」

芳乃「警察が送検を決める期限でしてー」

のあ「はい」

芳乃「しかしー、後見人となった高峯に連絡はありませんねー?」

のあ「はい」

芳乃「迷う理由があるのでしょうー」

真奈美「警察が送検していないということは」

芳乃「決めかねているー、もしくは反証が見つかったと思っておりますー」

のあ「その可能性はあるわ」
119 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:49:37.67 ID:JCUGa/wA0
芳乃「しかし、釈放するほどの根拠もないのでしょうー」

真奈美「フム……」

芳乃「送検されるのは間違いないところでしてー」

のあ「私に残された猶予は」

芳乃「高峯はー、どう思っていますかー?」

のあ「私が考えていることは」

芳乃「違いましてー。どう思っているかを聞いていますー」

真奈美「思っているか。のあはどうしたい?」

芳乃「はいー」

のあ「まゆの無実を証明し、戻ってきてもらいたいの。一日も早く」

芳乃「では、釈放か不起訴を勝ち取りましょうー」

真奈美「その期日は」

芳乃「釈放なら24時間、不起訴なら追加で24時間と10日でしてー」

真奈美「のあ、充分か」

のあ「これから判断するわ」

芳乃「高峯の希望は聞きましたゆえ、わたくしの仕事をいたしましょうー」

真奈美「先生は何を」

芳乃「被疑者との接見は弁護士のお仕事でしてー」

のあ「私は接見出来ない可能性があるわ。何らかの隠蔽工作のおそれがある、と」

芳乃「顔見知りの刑事は、高峯を守るためにそうしているのでしょうー」

のあ「そうね」

芳乃「佐久間まゆ様とお話して参りましょう、高峯の叔母様からお聞きしたとっておきで釣りましょうー」

真奈美「その話は気になるな……」

芳乃「ごちそうさまでしてー。参りましょうかー」

のあ「ええ」

芳乃「しかしー」

真奈美「何か問題が?」

芳乃「清路警察署にはどのように行くのでしてー?」

のあ「真奈美、送ってちょうだい。私達も行きましょう」
120 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:50:33.59 ID:JCUGa/wA0
69

清路警察署・科捜研

真奈美「依田先生は大丈夫なのか?」

のあ「見かけと言葉遣いが頼りなさそうに見えるだけよ」

久美子「あっ、のあさんが来た。音葉ちゃん、志希ちゃんー」

志希「来た来た〜、おっはー、のあにゃん」

音葉「おはようございます……」

のあ「おはよう。土曜日も出勤とは殊勝ね」

久美子「休める時に休んでるから。でも、そんなこと言えるようだから安心した」

音葉「声音が安定しています……目的があって来たようです」

久美子「目的なく科捜研には来ないわよね」

音葉「来てくれても構いません……歓迎します」

志希「ねーねー、のあにゃん、昨日警察署に来てないよね?」

のあ「来てないけれど」

志希「ここが最初でしょ?」

のあ「ええ」

志希「にゃはは!志希ちゃん、大当たり〜」

音葉「時間も順番も正解でしたね……アイスをご馳走します」

久美子「前に言ってたオススメのところ?私も食べたい」

志希「音葉ちゃんが買ってきてよー、まずはのあにゃんの用事を終わりにしてさ〜」

久美子「そうね。のあさん、まず初めに科捜研に来た理由は?」

志希「何か聞きたいことがあるからでしょ」

のあ「その通り。時間がないから聞いていいかしら」

久美子「どうぞ。知っての通り、隠蔽工作とかには協力できないけど」

のあ「わかってるわ」

真奈美「出来る限りのことは教えて欲しいが」

のあ「まずは、緒方智絵里の死亡推定時刻について教えてちょうだい」
121 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:52:26.70 ID:JCUGa/wA0
音葉「最初から……来ましたね」

志希「にゃはは、推理力豊かだね〜」

のあ「私の見立てでもっとも齟齬がありそうで、間違っていて欲しい所を聞いただけ」

志希「留美にゃんと同意見だよ、それ。仲良しだね〜」

のあ「どういたしまして。それで、いつだったかしら」

久美子「23時頃よ」

志希「死因は刺されたことによるショック死じゃなくて、失血死かな」

音葉「刺されてから少しだけ息が……あったと思われます」

久美子「少なくとも、のあさんが言ってた1時から2時じゃない」

真奈美「生徒の話と違うぞ」

のあ「まゆの証言は」

久美子「のあさんが山荘で言ってた見立てと同じ」

音葉「つまり……嘘を」

真奈美「佐久間君は犯行を起こしていないのか?」

久美子「いいえ、そこまでは言い切れない」

志希「やったことを正しく伝えてないだけかも」

のあ「何のために?」

志希「んー、志希ちゃんもそこまではわからないなー」

のあ「凶器について、続報は」

久美子「ええ、投げ捨てられたものは亜季ちゃんが見つけてた」

音葉「確かに……被害者の血液は付いていました」

真奈美「引っかかる言い方だな」

のあ「指紋が出なかったとか」

志希「指紋は出たよ、まゆちゃんのが」

のあ「他の人の指紋が出たということは」

音葉「いいえ……指紋は佐久間さんのものだけでした」

久美子「一致しないの」

のあ「何がかしら」

久美子「遺体の傷と、見つかった刃物の形が一致しない」

真奈美「佐久間君が投げ捨てたのは、凶器ではなかった……」

音葉「はい……緒方智絵里さんを殺害した凶器ではありません」

のあ「だけれど、血は付いていた」

志希「電源に血がついてたでしょ?」

真奈美「ああ。工藤忍が手に付けて動揺していた」

志希「目的はそれ」

久美子「電源と見つかった刃物につけるのが目的ね」

のあ「凶器でないことを隠すため、だと?」

志希「そうじゃないかなぁ?」

のあ「もう一度聞くけれど、理由は」
122 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:53:59.87 ID:JCUGa/wA0
志希「答えは一緒。理由は志希ちゃんにはわかんなーい」

のあ「そう。久美子、まゆが投げ捨てた刃物の出所は」

久美子「犯行現場の旧館だと思うわ」

音葉「取られた形跡が見つかっています……」

のあ「レインコートは見つかったの?」

音葉「ええ……こちらも被害者の血液が付いていました」

久美子「まゆちゃんの指紋も出たし、着てた服の繊維も出たわ」

のあ「学校指定のジャージでしょう、何人か同じものを着ているわ。後者はあてにならない」

久美子「違和感があるのは、血の方ね」

志希「志希ちゃんが思うに足りないよー」

真奈美「持って行く必要があった……わけではないよな」

のあ「手袋は旧館にあったかしら?」

久美子「手袋?」

音葉「ありました……軍手とビニール製の手袋が幾つか」

のあ「刃物からまゆの指紋が見つかったのよね?」

久美子「ええ」

のあ「まゆの手や袖に血は付いていたかしら」

真奈美「いなかった」

のあ「レインコートも刃物と同じね、まゆの犯行だと思わせるために準備されたもの」

久美子「そう、まゆちゃんが緒方さんを殺害したという証拠には」

のあ「ならない。留美の見解は聞いてるかしら」

音葉「聞いています……」

志希「証拠にはならない、って言ってたよ」

のあ「だけれど、まゆの無実を証明するものではない」

久美子「ええ。犯行に使われた凶器ではないだけ」

真奈美「そんなことをする目的は」

音葉「一時的な釈放を狙う……」

久美子「その隙に本当の凶器を処分するとか、何か目的があったり」

真奈美「時間稼ぎか」

志希「誤認逮捕をメディアに言いふらして、警察の権威を傷つける!」
123 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:54:27.56 ID:JCUGa/wA0
のあ「まゆが警察に何の怨みがあるのよ」

志希「東郷邸にいられなくなったから、とか」

のあ「それなら、私を怨めばいいわ」

真奈美「怨んでいたら、一緒に暮らしたりはしないだろう」

志希「まぁ、そうだよねー。まゆちゃんの両親が亡くなった火事も警察が解決してるし」

音葉「解決した警察官の娘が……被害者となっていますが」

志希「偶然?必然?」

真奈美「少なくとも、佐久間君が警察を毛嫌いしている様子はない」

久美子「そんな気持ちがあるなら、私達なんかと話さないわよね」

のあ「まゆの動機として怨恨は考えにくい」

志希「本人が言ってた通り、殺人鬼を止めるための殺人?」

のあ「まゆの性格からしても、それの方がまだ理解できるわ」

真奈美「これは私の勝手な想像だが」

のあ「真奈美、言ってみなさい」
124 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:55:06.19 ID:JCUGa/wA0
真奈美「私は佐久間君が犯人でないとして動く。ならば、佐久間君がしていことの理由は何だと考えていた」

久美子「理由ね……」

真奈美「やっていることは操作のかく乱としか思えない、誰かに目を向けさせないようにしている」

のあ「誰か、とは」

真奈美「真犯人だ、佐久間君が守りたい相手なら」

のあ「クラスメイトでしょうね」

志希「殺人鬼の殺人も、ある意味そうだよねー」

音葉「なるほど……」

久美子「私達は証拠を探さないとね」

志希「椋鳥山荘にもう一度行く?」

音葉「ええ……凶器を見つけることが先決ですね」

シッポシッポシッポヨ……

のあ「電話ね、夏美からだわ」

真奈美「呼び出しがかかったな」

のあ「今から行くわ。そこで待ってなさい」

久美子「取り調べ?」

のあ「ええ。久美子、一つお願いして良いかしら」

久美子「私に出来ることなら」

のあ「現場にまゆが絶対に使わないものがあったわ」

音葉「なんでしょう……?」

のあ「発火装置を調べて。私に隠れて手に入れられるなら、大したものだわ」

久美子「わかった。夏美さん、待ちくたびれてるから行ってあげて」
125 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:58:18.45 ID:JCUGa/wA0
70

清路警察署・少年課

相馬夏美「お疲れ様」

仙崎恵磨「お疲れ様ですっ!」

相馬夏美
少年課の巡査部長。業務とは別にランニングも兼ねた夜回りもしているらしい。

仙崎恵磨
少年課の巡査、夏美のバディ。先月をもって、夏美ともっとも長くコンビを組んだ人物になった。

のあ「お疲れ様。この通り、出頭してきたわ」

夏美「ありがたいわ。出頭してくれないどころか会ってくれない相手のばかりなんだもの」

恵磨「座ってください、お茶を持ってきます!」

のあ「気を使わなくていいのに」

夏美「余ってるのよ、在庫処分中」

真奈美「なら、遠慮なく」

夏美「ご指名を受けたから、私から取り調べをすることになったわ。よろしく」

恵磨「お茶です、熱いのでお気をつけて!」

真奈美「ありがとう」

のあ「……にがっ」

恵磨「いつも良い物飲んでるから、安物で中和しましょうっ」

のあ「ええ……質素倹約も趣味ではあるからそう思うことにするわ」

夏美「恵磨ちゃん、調書をよろしく」

恵磨「了解ですっ!」

のあ「それだけでいいのかしら」

夏美「取調官に調書係、充分じゃない」

のあ「連続殺人事件の容疑者、その共犯と疑われる人物なのだけれど」

夏美「誰が?」

のあ「私が」

夏美「のあさんが共犯なら私にわからないようにやってよ。聞いてるのは、その前」

のあ「容疑者はまゆよ」

夏美「これだけで良い理由はそこよ」

真奈美「理由は佐久間君にあるのか?」

夏美「未成年が逮捕された時に、少年課の仕事は大体真相解明じゃないのよね」
126 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 20:58:51.28 ID:JCUGa/wA0
のあ「話が逸れたわ」

夏美「まあまあ、聞いて。校正の余地はあるか、釈放できないか、不起訴相当でいいか、示談に出来るか、そんな所を調べるのがほとんど」

のあ「何が言いたいのかしら」

夏美「私に殺人事件の調査なんて出来ない……ん、なんか似たような話を前にした?」

のあ「相葉夕美の時だと思うわ」

夏美「多分その時ね、じゃあ、家族関係、交友関係に問題ない優等生タイプの未成年が警察にお世話になる典型的なパターンの話もしたわね?」

のあ「聞いたわ。罪悪感を抱え込むこと。誰かを庇い事態が複雑化する」

真奈美「今回もそうだと?」

夏美「違うわ、その逆」

のあ「逆とは」

夏美「まゆちゃんは罪悪感を持ってるようには見えないわ」

真奈美「……」

夏美「ごめん、なんか言い方が悪かったわね」

のあ「いいえ、大丈夫よ。頭に血が上ったりしていない」

夏美「まゆちゃんは自分の罪の重さがわからないとは思ってない。それにも関わらず、殺人を犯した罪悪感が、私からは読み取れない」

のあ「つまり」

夏美「少なくとも、殺人は犯していないと思うの」
127 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:04:28.71 ID:JCUGa/wA0
71

清路警察署・少年課

夏美「私の意見を言う場面じゃなかった、恵磨ちゃん、記録してた?」

恵磨「してません、夏美の悪いクセはわかってますから!」

夏美「なんか最近、口が達者なのよね」

真奈美「いいじゃないか」

夏美「私も悪いとは言ってないけれど。さて、取調べをはじめましょうか」

のあ「ええ」

夏美「2件の遺体が発見されましたが、関与はしてますか」

のあ「していないわ」

夏美「犯行を自供した佐久間まゆさんとの関係は」

のあ「同居人よ。後見人という立場でもあるわ」

夏美「犯行時刻には何を」

のあ「寝ていたわ。真奈美が証言してくれる」

真奈美「10時半まではな。私もその時間には寝ていた」

夏美「事件が起こったことを把握したのは」

のあ「悲鳴が聞こえてからよ」

夏美「どなたのですか」

のあ「工藤忍のものよ。飛び起きて、旧館へ向かった」

夏美「佐久間まゆさんと連絡を取っていましたか」

のあ「いいえ。直接話すくらいしか手段がないのに」

夏美「どうして?」

のあ「ケータイの電波が入らないから」

真奈美「手紙なども受け取っていない」

夏美「ちなみにだけど、まゆちゃんのケータイからは犯行に関するものは何も出なかったわ」

のあ「……」

夏美「遺体の発見後は何か行いましたか」

のあ「いいえ。調査はしたけれど」

夏美「通報はどなたが」

のあ「相川先生が、1階ロビーの電話で」

夏美「3階の浅野風香さんの遺体に気づいたのは何時ですか」

のあ「旧館から山荘に戻ってから。岡崎泰葉に事態を知らされた」

夏美「のあさん、これくらいでいい?」

のあ「どうして、私に聞くのかしら」

夏美「取り調べして欲しいと言ったのはのあさんだったし」

のあ「そんなことは言っていないわ。夏美以外の取り調べは受けない、とは言ったけれど」

夏美「私ものあさんのことはわかってるつもりだから、ねぇ、真奈美さん?」

真奈美「何かな」
128 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:06:10.77 ID:JCUGa/wA0
夏美「この人、共犯になったりする?」

真奈美「しないと思うな」

夏美「まゆちゃんが泣きながら頼んで来たらどう?」

真奈美「自分で抱えて行って、和久井警部補に突き出しかねない」

夏美「そうよねー、そんな人に取り調べしてもって感じ」

真奈美「ただ、精神的に疲弊することはわかった」

夏美「仲良く暮らせてるみたいだし、いいんじゃない」

のあ「……言いたい放題ね」

夏美「取り調べを終わりにする代わりにお願いがあるの、いい?」

のあ「いいけれど」

夏美「共犯じゃないなら、昨日の状況を調査して」

のあ「……」

夏美「のあさんしか、事件発覚直後の状態を見た人はいないの」

のあ「もとより、そのつもりよ」

夏美「ありがとう、取り調べの手間が省けた。何かわかったら、私にも教えて」

のあ「夏美の目的はそれ?」

夏美「昨日先生とか生徒とか、まゆちゃんから話を聞いて思ったわ。ちょっと、私にはムリね」

真奈美「ムリとは」

夏美「まゆちゃんの行動といい、なんか引っかかるのよね。でも、私が情報集めて考えるよりはあの場に居たのあさんが気づく方が早い、そういう判断よ」

のあ「丸投げに聞こえるけれど」

夏美「適材適所。昨日私が調べたことは教えてあげる、今なら冷静に考えられるでしょ?」

のあ「……」

真奈美「のあ、どうした黙り込んで」

のあ「夏美はこれからどうするの?」

夏美「まゆちゃんにもう一度会ってみる。もう少し範囲を広げて、学校関係者とかから話を聞くつもり」

のあ「一つ聞いていいかしら、まゆのことで」

夏美「いいけど、まゆちゃんは学校関係者からは評判はいいわよ?」

のあ「私に謝っていたかしら」
129 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:06:40.31 ID:JCUGa/wA0
夏美「あっ、そうそう。殺人を犯したわけじゃないと思うのだけど、のあさんに対しては謝ってたわね。本当に申し訳なさそうというか……」

真奈美「佐久間君は、のあに対しては引け目があるのか。被害者ではなく」

夏美「それがどうしたの?」

のあ「まゆである必然性があったのね」

夏美「どういうこと?」

のあ「私が冷静だったなら、今この時点で調べ直す必要などなかった。まゆが犯人だろうがそうでなかろうが、結論は出ていた可能性は高いわ」

夏美「容疑者は全員あそこにいて」

真奈美「のあは背後にある動機も知っていた」

のあ「なのに、出来なかった」

夏美「まゆちゃんが犯人だなんて、冷静じゃいられないわよね」

のあ「目的はわからないけれど、まゆは私を止めたのね」

真奈美「犯人や事件の真相がわからないように」

夏美「のあさんをパニックにさせるのが、まゆちゃんの役目?」

のあ「そういうことね。まゆにしか出来ないこと」

真奈美「だから、謝るとしたらのあだけか」

のあ「何も確かではないけれど、その可能性はある」

夏美「のあさん、でもおかしいわ」

のあ「何がかしら」

夏美「発火装置が作用すれば、そんなことしなくて済んだんじゃない?」

のあ「まだ真相は明らかになっていないわ。これからよ」

夏美「信頼してるわ。そうだ、私の方からお願いがあったのを忘れてた」

のあ「お願い?」

夏美「私にしか取り調べを受けないって言葉、撤回してくれない?」

のあ「まゆが犯人でない可能性がある以上、構わないわ」

夏美「よし、これで円滑に進められるわ。ありがと」

のあ「もしも、まゆが本当に犯人であればその時にお願いするわ」

夏美「少年課の勘が違うと言ってるわ、大丈夫!」

のあ「真奈美、私達も動きましょう。生徒へ話を聞きに」

真奈美「了解だ。誰の話を聞くべきかな?」

のあ「そうね……一番話を聞きにくい人物からにしましょう」

真奈美「聞きにくい人物とは」

のあ「如月千早よ」

真奈美「忙しいという理由で聞きにくいな」

のあ「夏美、如月千早の連絡先を教えてくれるかしら」
130 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:10:09.97 ID:JCUGa/wA0
72

765プロダクション

四条貴音「お話は聞いております。只今、千早を呼んで参ります」

四条貴音
765プロ所属のアイドル。お留守番中とのこと。

のあ「ありがとう」

真奈美「四条貴音が応接してくれるのか……初めて来たが驚きだ」

のあ「うちのビルと同じくらいの大きさね。中堅の芸能事務所かしら」

真奈美「むしろ大手だ、事務所を移転しないのが不思議でしょうがない」

のあ「たしか、劇場は別にあるのでしょう?」

真奈美「ああ。今度一緒に見に行こうか」

のあ「そうね、如月千早がいる時にでも」

真奈美「あー……残念ながら不可能だな」

のあ「そうなの?」

真奈美「そんなことになったら、チケットが取れない。今の如月君千早の状況をのあはあまり理解してないよな」

のあ「まだ実感がわかないわ、まゆのクラスメイトとしか思えない」

真奈美「それはそれで良いか」

千早「高峯さん、木場さん、お待たせしました」

のあ「忙しいところ、訪ねて悪かったわ」

千早「いいえ、ちょうど仕事の合間で事務所に寄る時間でしたから」

真奈美「のあ、手短に終わらせよう」

のあ「わかったわ。如月千早、4つ質問をさせてちょうだい」

千早「はい、事件のことですよね?」
131 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:11:28.37 ID:JCUGa/wA0
のあ「ええ。1つ目はあなた、寝起きは良いのかしら」

千早「寝起き?ええ、良い方だと思うけれど」

のあ「2つ目、岡崎泰葉と何かあったのかしら」

千早「いいえ。でも、私の方からは思い当たることがないのだけれど……」

真奈美「何かあるのか」

千早「私、岡崎さんから恨まれているのかしら。いつも人当たりがいいけれど、違う時があって」

のあ「……」

真奈美「のあ、どう思う?」

のあ「調べてみましょう。3つ目の質問を」

千早「どうぞ」

のあ「あなたはクラスメイトに何か思う所はあるかしら」

千早「……どういう意味でしょうか」

のあ「浅野風香には緒方智絵里を殺害する動機があるわ。まゆから浅野風香に対しても」

真奈美「……」

のあ「あなたにはあるのかしら」

千早「……」
132 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:13:07.99 ID:JCUGa/wA0
のあ「ありそうね、例えば」

千早「待って。探偵とはいえ、プライベートに立ち入るのは失礼じゃないかしら」

のあ「謝るわ。話したくないのならば話さなくてもいい」

千早「そういうわけでは……」

のあ「……」

千早「私に……妹がいたことは知っていますね」

真奈美「一時期ニュースになっていた」

千早「交通事故で亡くなりました、それに関わった人がいると」

のあ「高森さん、かしら」

千早「はい。でも、本当かどうかもわかりません。優の事故は……不幸な事故だったのだと思います」

真奈美「……」

千早「決して、事件ではなく」

のあ「高森さんに声を荒げた理由がわかったわ。ごめんなさい、辛いことを聞いて」

千早「いいえ、今は受け止められています」

のあ「最後の質問を。良いかしら」

千早「時間にはまだ余裕がありますから、どうぞ」

のあ「緒方智絵里が殺害されていたのを知っていたのかしら?」

千早「いいえ。遺体も、見ていません」

のあ「私と真奈美よりも動きが早かったわ。慣れているかあるいは知っていないと、私達に先んずるのは難しいでしょう」

千早「工藤さんの悲鳴が聞こえたので、自然と体が動きました。それに」

のあ「耳が良いことは認めるわ」

千早「知っていた、なんてことはありません」

のあ「知る可能性があるとしたら、浅野風香の動きの方よ。あなたの部屋は、浅野風香の部屋の目の前なのだから」

千早「いいえ。事件が起こったことを知ったのは、工藤さんの悲鳴を聞いた後です」

のあ「……」

千早「終わりで、良いのですか」

のあ「ええ。ご迷惑をおかけしたわ」

真奈美「多忙の身で時間を取ってくれて感謝する」

千早「いえ。その、私から聞いても良いですか」

のあ「どうぞ」

千早「高峯さんの目的は、佐久間さんの無実を証明することですか」

のあ「ええ、私の目的は同居人を取り返すことよ」

千早「安心しました。準備をするので、このあたりで」

のあ「ええ。今後ともよろしく、如月千早」
133 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:28:48.65 ID:JCUGa/wA0
73

某ハンバーガーショップ

真奈美「のあ、如月千早の話だが」

のあ「演技も上手なのね」

真奈美「やっぱり、嘘か」

のあ「へぇ、主演ドラマも数本。アクションものもあるわ、さすがトップアイドルというところね。更にダンスまで上手くて、あの容姿とは恐るべきね」

真奈美「何が嘘だと考えてる?」

のあ「寝起きは本当、岡崎泰葉と何かあるのも本当、高森さんとの件も本当……高森さんの件に関しては事実かどうか怪しいけれど彼女は嘘をついていない」

真奈美「事件を知らないことが、嘘か」

のあ「真奈美より先に行動できるなら、裏の仕事を疑うわ」

真奈美「裏の仕事?」

のあ「同業者とか。芸能界の闇を暴く稼業を」

真奈美「歌にしか興味がない、とウワサされていた人物がそんなことをしていたら驚きだな」

のあ「事態を知っていて、悲鳴で動きだす準備をしていたのでしょう」

真奈美「そうなると」

のあ「如月千早はまゆと同じ目的を果たそうとしている」

真奈美「真実を隠そうとしている」

のあ「それと、私の調査を止めること」

真奈美「フム……次はどうする?」

のあ「真奈美は誰がいいかしら」

真奈美「緒方智絵里の件、事件の順番を誤解させた人物がいる」

のあ「誰かしら」

真奈美「緒方智絵里の死亡後に、呼ばれたと言っている工藤忍と、緒方智絵里を見たと言っている長富蓮実だ」
134 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:29:39.62 ID:JCUGa/wA0
のあ「留美が既に確認しているわ、内容も聞いたわ」

真奈美「なんだ、早く教えてくれればいいのに」

のあ「工藤忍に関しては、直接会っていなかった」

真奈美「それなら、どうやって呼び出した?」

のあ「ノックと手紙。その時には起きていたと証言した。緒方智絵里が立ち去るのも見たと言っているわ」

真奈美「別人と見間違えた、と」

のあ「ええ」

真奈美「長富蓮実も、か?」

のあ「長富蓮実は緒方智絵里だったと言い張ってるそうよ」

真奈美「緒方智絵里に誰かが成り済ました、という可能性はあるな」

のあ「背格好が同じくらいの生徒はいたわね」

真奈美「岡崎泰葉、今井加奈くらいか」

のあ「それに、まゆ。長富蓮実は目撃した人物が帰って来たという証言をしてないわ」

真奈美「確かにそうだな」

のあ「見たのはまゆだった、それなら辻褄は合うわね」

真奈美「佐久間君は戻っていないから、か」

のあ「長富蓮実の辻褄はあうけれど、まゆの行動が殺人に関係ないことを示せるわけではない」

真奈美「それ以前はないのか、本当の緒方智絵里殺害の時間近くで」

のあ「留美達が聞いた限りはないようね」

真奈美「フム……」

のあ「しかし、別の関係性は見つかった」

真奈美「別の関係性?」

のあ「緒方智絵里と工藤忍の関係性ではなく、工藤忍と長富蓮実の」

真奈美「何かあったのか?」

のあ「彼女達の母親に因縁があるみたいね。工藤忍の方だけは知っていたそうよ」

真奈美「……フム」

のあ「長富蓮実にも会ったわ。友人に対するイジメの加害者側だった人物がいるとか」

真奈美「誰だ?」

のあ「北条加蓮らしいわ」

真奈美「つながって来たな」

のあ「真奈美、書くものを持ってるかしら」

真奈美「これを使ってくれ」

のあ「ありがとう。そもそも、私が知っていた背景は」
135 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:30:39.71 ID:JCUGa/wA0
真奈美「佐久間君、浅野風香、緒方智絵里の関係性だ。佐久間君が両親を失うことになる火事がそこにあった」

のあ「それに、緒方智絵里から工藤忍への関係があった」

真奈美「それで今日追加されたのが、工藤忍から長富蓮実、長富蓮実から北条加蓮」

のあ「それと、如月千早から高森藍子」

真奈美「北条加蓮から如月千早と……あまり考えたくないが、高森君から佐久間君に何か思うところがあれば円環になるな」

のあ「集めたのかしらね」

真奈美「誰かが作為的に集めた可能性はあるな」

のあ「もしくは、全て嘘か」

真奈美「全て嘘?」

のあ「事実関係が確認されているのはまゆ、浅野風香、緒方智絵里、工藤忍まで。後はウラが取れていない」

真奈美「のあが調べたものだけか」

のあ「それに、ここに入る人物は予想出来てるわ」

真奈美「北条加蓮と如月千早の間にか?誰だ?」

のあ「岡崎泰葉」

真奈美「確かに、言い争ってはいたな」

のあ「真奈美、北条加蓮と岡崎泰葉にアポを取ってくれるかしら」

真奈美「了解だ」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/21(木) 21:31:13.75 ID:8QW701uSO
うお、前回から1年くらいまってたので驚いたわ
137 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:31:45.80 ID:JCUGa/wA0
74

北条加蓮の自室

真奈美「岡崎君の印象が悪いのか?」

加蓮「うん、丁寧だし外面も良いし成績も良いしカワイイけど」

のあ「私にはそうは思えないけれど、なぜかしら」

加蓮「私の友達の夢を奪ったから……泰葉を怨むのは筋違いかもしれないけど」

真奈美「夢とは」

加蓮「芸能界の。あの子、色々やってたみたいだし」

真奈美「芸能界……?」

加蓮「やっぱり大変だったみたい。今はただの高校生、でも、私がそのこと忘れられるわけもないしさ……変な気持ちもまだあるんだ」

のあ「……」

加蓮「目的があるなら……やると思うんだ、あの子」

真奈美「待て……思い出すんだ……」

のあ「岡崎泰葉に復讐しようという気持ちは」

加蓮「ないない。そんなことしようとしたら、先に私が倒れちゃうよ。今みたいに」

のあ「思ったよりも疲れてしまったのね」

加蓮「うん、でも今は平気だから。ベッドの上でごめんね」

のあ「問題ないわ」

真奈美「……思い出した。見たことあるはずだな」

のあ「真奈美、どうしたの?」

真奈美「いや、後で話すよ」

のあ「いいけれど。岡崎泰葉からも話を聞いてみるわ」

加蓮「うん……さっきの話は秘密にしてよ、話す時は自分で話すから」

のあ「ええ」

加蓮「まゆちゃん、すぐに出てこれるといいんだけど」

のあ「私もそう願ってるわ。お邪魔したわ、お大事に」
138 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:32:54.25 ID:JCUGa/wA0
75

卯美田駅前のカフェ

卯美田駅
星輪学園の最寄り駅。まゆが行きつけの手芸店が駅前にある。

泰葉「すみません、お買い物中で」

のあ「こちらこそ、急に会えないかと無理を言って悪かったわね」

泰葉「趣味のお買い物ですから、気にしないでください」

真奈美「何を買って来たのかな?」

泰葉「ドールハウスの小物です、ちょっとずつ買い揃えてて」

のあ「ドールハウス、学生にはお金的に大丈夫かしら?」

泰葉「私は手軽に楽しめる程度です。アンティーク品は手が出せませんけれど」

のあ「贅沢は覚えなくてもいいわ、自分に出来る範囲で背伸びをしないことよ」

泰葉「え?」

のあ「真奈美、何か変なこと言ったかしら?」

真奈美「変どころか良い心がけだと思うが、のあが言うとはな」

のあ「そうかしら」

真奈美「お金の問題で我慢することなんてないじゃないか」

のあ「岡崎さん、そう言うことかしら?」

泰葉「いいえ、高峯さんが言ったから驚いたわけではなくて。出来る範囲で背伸びをしない、大切なことですよね」

真奈美「そうだな、君らの年代なら特に」

泰葉「はい。それでお話と言うのは」

のあ「事件のことを聞きたいの」

泰葉「……すみませんでした」

のあ「謝られることなんてあったのかしら」

泰葉「共犯じゃないかとか言ってしまって……その、ちょっと取り乱してました」

のあ「いいえ、気にすることではないわ」

泰葉「そう言ってくださると、ありがたいです」

のあ「結果としてはもっともな疑問だったわ。まゆの犯行だという可能性があなたの中にあったのね?」

泰葉「……ごめんなさい、そうです」

のあ「その可能性はどこから」

泰葉「私の部屋、風香ちゃんとまゆちゃんの間でした。時々物音がしてましたから、その……あんなことになるとは思いませんでした」

139 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:33:35.25 ID:JCUGa/wA0
のあ「物音とは」

泰葉「机みたいなものを引きずる音とかドアが開く音とか、です」

真奈美「起きていたのか?」

泰葉「寝ていたのですが、少し気になって」

のあ「物音が聞こえたのは」

泰葉「1時頃だと思います、おそらく。2時頃の悲鳴の時は眠りが浅かった、かも」

のあ「工藤忍の悲鳴を聞いた時は」

泰葉「とりあえず部屋から出て行きました。すぐに如月さんが忍ちゃんの声だと言って、下に降りて行ってしまって。高峯さんとはその後すぐに」

のあ「そうね、私の記憶とも違いないわ」

泰葉「旧館で別れた後は2階の人を起こして、3階に行ったら……」

真奈美「浅野風香の遺体を見つけた」

のあ「その前があるわ」

泰葉「はい。加蓮ちゃんはもう下に降りて来てたのに、加奈ちゃんが戻ってきてませんでした」

真奈美「3階の部屋だったのは、岡崎君と」

のあ「如月千早、北条加蓮、工藤忍、浅野風香、それとまゆ」

真奈美「つまり、浅野風香だけを呼べばいいはずだった」
140 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:34:21.17 ID:JCUGa/wA0
のあ「悲鳴などは聞こえなかったわ」

泰葉「加奈ちゃんの気持ちを考えると……仕方ないと思います」

のあ「浅野風香ともっとも親しい友人だったそうね」

泰葉「はい……」

のあ「遺体を見つけた後は」

泰葉「こういう時は頼りになりそうな柳先生を呼びました」

真奈美「確かに、落ち着いてそうだ」

泰葉「その後に、高峯さんを呼びに」

のあ「事実と相違ないわ。岡崎さんは冷静ね」

泰葉「いえ、昔取った杵柄みたいなものです」

のあ「さて、本題に入りましょうか」

泰葉「事件は本題ではないんですか?」

のあ「あくまで事件の話よ。この画像の子供は、昔のあなたかしら」

泰葉「……はい。子役時代の私です。本名じゃないのに、よく探せましたね」

真奈美「見覚えがあったんだ、思い出せた」

のあ「芸能界には何時から」

泰葉「昔から……今は関係ありません」

真奈美「もう引退しているのか」

泰葉「はい。お仕事は一切してないんですよ」

真奈美「そうだったのか。私にはもったいないように思えるよ」

泰葉「私も少し思いました、でも不思議なんですよ」

のあ「不思議とは」

泰葉「私がいた世界の半分がなくなっても、平気なんです」

のあ「芸能界はあなたを構成する必須要素じゃなかったのね」

泰葉「そうみたいです、凄く悩んでたのに」

のあ「辞めることに悩んでいたのかしら」

泰葉「……」

真奈美「立ち入ったことを聞いてしまったかな」

泰葉「実は……その」

のあ「何かあったのかしら」

泰葉「……あの人、凄かったですよ」

のあ「あの人、とは」

泰葉「如月さんです」

真奈美「……」
141 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:35:47.46 ID:JCUGa/wA0
泰葉「憧れられる場所に居たかったです、芸能界の先輩でなく」

のあ「彼女と何かあったのかしら」

泰葉「直接はありません」

のあ「間接的にはあるのね」

真奈美「狭い世界だからな」

泰葉「でも、勘違いしないでください」

のあ「勘違い?」

泰葉「怨んだりはしてません。あまり学校にいませんけれど、大切なクラスメイトですから」

のあ「……」

泰葉「電車の時間なので、失礼します」

真奈美「ああ。急に呼び出して悪かった」

泰葉「高峯さん、ごちそうさまでした」

のあ「礼には及ばないわ。また、お話ししましょう」
142 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:36:49.77 ID:JCUGa/wA0
76

卯美田駅前の駐車場

真奈美「さて、次はどうする?」

のあ「……」

真奈美「どうした?」

のあ「……やっぱり、カワイイわね。元子役は伊達じゃないわ」

真奈美「いや、別の事を考えていただろう」

ニャニャニャン、デンワダニャ♪

のあ「志乃からだわ、もしもし」

柊志乃『こんにちは、探偵さん』

柊志乃
刑事一課長。どんな時でも平常心を崩さないこと、が刑事の心得とのこと。

のあ「志乃から電話なんて珍しいわね」

志乃『悪い知らせをしようかと』

のあ「悪い知らせね……何かしら」

志乃『まゆちゃん、送検することになったわ』

のあ「……そう、送検ね」

志乃『早いうちに戻してあげたかったのだけれど、ごめんなさい』

のあ「まだ期限に余裕はあるはずよ」

志乃『上が釈放に反対だったの、意見を覆す根拠はおそらく集まらない』

のあ「礼子の意見は」

志乃『同じ。加えて先に話を通したら、刑事部長の態度が硬化したわ』

のあ「志乃らしくもない、上を上手く扱うのは得意でしょうに」

志乃『そうね……謝るわ』

のあ「志乃が謝ることではないわ。釈放に反対された理由は」

志乃『自供が大きいわね……釈放後に証拠の隠蔽を図るのでは、とも』

のあ「妥当なところね。今は何を考えているかわからない以上、仕方がないわ」

志乃『そうね……』

のあ「まゆの様子は」

志乃『弁護士の依田先生から聞いて』

のあ「わかったわ」

志乃『もう少しだけ我慢してちょうだい』

のあ「覚悟はしてるわ、わざわざ連絡をありがとう」

志乃『こちらも全力を尽くすわ。またね……探偵さん』

のあ「ええ、また」

真奈美「間に合わなかった、か?」
143 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:37:25.42 ID:JCUGa/wA0
のあ「仕方がないわ、予想の範囲内」

真奈美「これからどうする?」

のあ「やることは変わらない。真実を明らかにするだけ」

真奈美「ああ」

のあ「真奈美、合っていない生徒は」

真奈美「長富蓮実、工藤忍、今井加奈、堀裕子、脇山珠美かな」

のあ「もう一人いるわ」

真奈美「高森君がいるな」

のあ「フム……」

真奈美「高森君を疑っているのか」

のあ「まゆと同じでしょうね」

真奈美「何が同じなんだ?」

のあ「嘘をついているなら、そう簡単に白状してくれないでしょうね。柔らかくしなる物ほど折れにくいのだから」

真奈美「高森君も何か隠している、と」

のあ「真奈美はどう思うかしら」

真奈美「私の意見も同じだ。全てを話しているとは思えないな」

のあ「次は、脇山珠美の話を聞きに行きましょう」

真奈美「了解だ。その心は」

のあ「部屋が浅野風香の真下だったから。真奈美、連絡を取ってちょうだい」
144 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:38:41.18 ID:JCUGa/wA0
77

星輪学園・剣道場

珠美「……そうですか」

のあ「罪が確定したわけではないわ、まだ家に戻ってこれないだけ」

珠美「あの、高峯殿はどう考えてますか」

のあ「何を」

珠美「佐久間殿は、本当は無実なのですか」

のあ「そう信じることにしたわ」

珠美「信じて、調べて、悪い方が本当だったら高峯殿はどうするつもりですか」

のあ「真実がそうならば捻じ曲げることなんてしないわ」

真奈美「真実が、言った通りならな」

のあ「捻じ曲げているのは誰かしらね。まゆに肩入れしている私かしら」

珠美「……」

のあ「昨日のことについて、聞かせてちょうだい」

珠美「はい」

のあ「部屋は浅野風香の真下だったわね」

珠美「はい」

のあ「物音はしたかしら」

珠美「いいえ」

のあ「工藤忍の悲鳴を聞いてから、どうしたかしら」

珠美「急いで旧館へ向かいました」

のあ「その時に何を」

珠美「佐久間殿の付き添いをして、山荘に戻りました」

のあ「なぜ」

珠美「なぜって、高峯殿にお願いされたじゃないですか」

のあ「真奈美、そうだったかしら?」

真奈美「私の記憶だと、のあが脇山君に頼んだのは事実だ」

のあ「まゆはあなたよりも先に来たのかしら」

珠美「先にいたような気がします」

のあ「まゆは、どこから来たかしら」

珠美「どこから?」

のあ「そう、どこから」
145 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:39:38.07 ID:JCUGa/wA0
珠美「山荘から来たのではないですか?」

のあ「違うわ。旧館の裏からよ、騒ぎに紛れて」

珠美「裏から……」

のあ「見ていなかったかしら」

珠美「いいえ」

のあ「脇山さんはまゆは無実だと思うかしら」

珠美「……」

のあ「答えてちょうだい」

珠美「珠美は、佐久間殿はそんなことをするとは思えません」

のあ「ありがとう。それなら、他のクラスメイトは」

珠美「ありえません!」

のあ「事件は起こったわ」

珠美「……」

のあ「それは事実よ」

珠美「とにかく!ありえません!珠美は知りません!」

のあ「……」

珠美「珠美は……何も知りません」

のあ「脇山さん」

珠美「……」

のあ「私は、まゆを信じていいかしら」

珠美「……」

のあ「どんな目的があったとしても……まゆのことを信じていいかしら」

珠美「高峯殿」

のあ「……」

珠美「答えは、はい、です。珠美は何も知らないですけど……それは知ってます」

のあ「それというのは、まゆが無実だということかしら」

珠美「え?そんなことを言ったつもりはありませんが」

のあ「それなら、どういう意味かしら」

珠美「えっと……」

のあ「ごめんなさい、言わなくてもいいわ」

珠美「そ、そうですか」

のあ「お邪魔したわね、自主練中だったのに」

珠美「珠美は弱いので、人一倍がんばらないと」

のあ「あなたは強いわよ、脇山さん」

珠美「そうでしょうか……」

のあ「真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「他の生徒にも話を聞いてから、今日は家に戻りましょう」

真奈美「わかった」

のあ「それと」

真奈美「それと、何かな」

のあ「先生を迎えに行きましょう、何をしてるのかしらね」
146 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:41:24.85 ID:JCUGa/wA0
78

夕方

高峯探偵事務所

芳乃「ふうー、高峯家のソファーは上等なのでしてー」

のあ「連絡さえあれば、迎えに行ったのに」

芳乃「清路の地を歩き空気を吸えば、手に入れられるものがありますー」

のあ「何が手に入るのかしら」

芳乃「真実への道標でしてー」

のあ「道標……」

芳乃「ばばさまは言っておられました、真実に辿り着くには書類に残らないものが重要であるとー」

のあ「私の知っている証拠と理を重視する姿とは違うわ」

芳乃「人には複数の面がありー、わたくしにとってのばばさまはお茶をしながらお話をゆったりとするのが好きな人でしてー」

のあ「そうかもしれないわ……」

芳乃「しかし、そのお話はわかりやすく、理路整然とし、題材は豊富なのでしてー」

のあ「ふふっ……変わらないわね」

真奈美「お話中か」

のあ「真奈美、大丈夫よ」

真奈美「夕食の買い物をしてくる、何かリクエストはあるか?」

のあ「私はないわ。先生は」

芳乃「食後には緑茶を頂きたいのでしてー」

真奈美「わかった、和食にしようか。行ってくるよ」

のあ「いってらっしゃい」

芳乃「彼女は何故同居していまして?」

のあ「何故と言われても……」

芳乃「きっかけはどちらでしょうー」

のあ「私にはよくわかりません」

芳乃「質問が迂遠でした、どちらが同居を頼みましてー?」

のあ「それは、私。ここに住めばいいと提案したのは私が先だったわ」

芳乃「佐久間様もでしょうかー?」

147 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:42:13.64 ID:JCUGa/wA0
のあ「私が提案したわ。あの子の場所を奪ってしまったから」

芳乃「高峯が望んだのですね」

のあ「……ええ」

芳乃「そうなれば力になりましょうー」

のあ「ありがとうございます。まゆは何か話していましたか」

芳乃「新しいことは何も話しておりませんのでしてー」

のあ「そうでしょうね」

芳乃「高峯に似ています、一緒に暮らしていると影響を受けるのでしょうー」

のあ「似ているかしら?」

芳乃「心に秘めた決意を曲げることはないようでしてー」

のあ「……そう。まゆの様子は」

芳乃「心身共に良好でしてー。空き時間は頂いた毛糸で手編みのものを作っているとー」

のあ「憔悴はしていない、と」

芳乃「はいー、高峯には謝罪の言葉を度々申しておりましたー」

のあ「やはり私なのね、被害者ではなく」

芳乃「はいー」
148 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:43:01.34 ID:JCUGa/wA0
のあ「弁護士泣かせね、今のところ」

芳乃「更生の余地ありと判断されれば、未成年なら数年で戻って来れるでしょうー」

のあ「私に謝るくらいなら、早く戻ってくることを計画すればいいのに」

芳乃「そこに考えが至らぬほどに愚かには見えませぬー」

のあ「自供という行為にも矛盾するわね」

芳乃「ばばさまの言う通りかもしれませんー」

のあ「書類に乗らないものが真実への道標」

芳乃「雰囲気や態度はいかがでしょうー」

のあ「……フム」

芳乃「高峯ー?」

のあ「少し調べ物を。先生、また夕食時に」

芳乃「構いませぬー、ここでゆっくりとしていますゆえー」
149 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:44:06.53 ID:JCUGa/wA0
79

夕食後

芳乃「まことに美味でしてー」

海老原菜帆「お口にあって嬉しいです〜」

海老原菜帆
喫茶St.Vのアルバイト。学校では茶道部に所属しているらしい。

のあ「なぜ菜帆がいるのかしら」

真奈美「緑茶を雪乃君に頼んだら、こうなった」

菜帆「少しだけお茶請けを持って来たんですよ〜、どうぞ〜」

芳乃「これは、良き物でしてー」

のあ「美味しいわ」

菜帆「あら〜、もうこんな時間ですね〜、失礼します〜」

のあ「ありがとう、菜帆」

真奈美「気をつけて帰るように」

芳乃「彼女も下の喫茶店での店員さんなのでしょうかー?」

のあ「ええ。学生だからアルバイトね」

芳乃「学生なのでしてー?」

真奈美「ああ。制服姿をよく見るよ」

のあ「今日は休みだから私服だったけれど。高校生にしては落ち着いているわね」

芳乃「高校生、ほー」

のあ「菜帆がどうしたのかしら」

芳乃「いえいえー、お気になさらずー」

のあ「まぁ、いいわ。真奈美、今日の調査のまとめをしましょう」

真奈美「わかった。ホワイトボードの準備をしよう」

のあ「先生、少しお付き合いを」

芳乃「構いませぬー」
150 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:44:41.66 ID:JCUGa/wA0
のあ「真奈美、科捜研で得られた情報で最も大事なことは?」

真奈美「死亡推定時刻と凶器だ」

芳乃「佐久間様の殺人を肯定するものではなくー」

真奈美「だが、否定するものでもない」

のあ「誤認逮捕に見せかけて、釈放されるための可能性がある」

芳乃「送検はそれが理由と思われましてー」

のあ「結局、緒方智絵里を殺害した凶器は見つかっていないわね?」

真奈美「今の所見つかっていない」

のあ「私の考え通りなら、見つかるはずよ」

芳乃「その根拠はいかがでしてー?」

のあ「最後に話すわ。今日、話を聞いた生徒は」

真奈美「如月千早、北条加蓮、岡崎泰葉、脇山珠美、堀裕子、工藤忍、長富蓮実、かな」

のあ「今井加奈は話せる状況じゃなかったわ。高森さんには今日は連絡していない」

真奈美「心痛は想像に難しくない」

芳乃「そして、佐久間様でしてー」

のあ「真奈美、彼女達にある因縁を書いてちょうだい」

真奈美「ああ」

芳乃「ふむふむ……」

のあ「私が知っていた火事が原因の因縁で円を描くわ。まゆから始まり、浅野風香、緒方智絵里、工藤忍、長富蓮実、北条加蓮、岡崎泰葉、如月千早、高森藍子」

真奈美「そして、佐久間君に戻る可能性がある」

のあ「これについては聞いていないわ」

芳乃「脇山様と堀様はどうなのでしょうー?」

のあ「関係性は見つかっていないわ」

真奈美「脇山君が知らない、と言っていたのはこのことかもしれないな」

のあ「ええ。何が起こったかではなく、裏に何があったか」

芳乃「ならば、何が起こったかを知っているのでしょうかー?」

のあ「その可能性がある」

芳乃「すなわちー」

のあ「彼女が協力者の可能性もある」
151 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:45:31.06 ID:JCUGa/wA0
真奈美「犯人の、か?」

のあ「いいえ、まゆの協力者よ。脇山珠美は協力というよりは、知っているだけかもしれないけれど」

芳乃「佐久間様だけでは不可能と思いましてー」

のあ「協力者はいるはずよ、まゆの証言を裏付けるような行動や言動をしている人物」

真奈美「そうだとすると、誰が協力者だと考えている?」

のあ「それぞれ疑うべきところはあるわ」

芳乃「彼女はいかがでしょうー。目撃証言が虚偽な可能性がありましてー」

真奈美「長富蓮実か……」

のあ「あり得るわ。しかし、緒方智絵里のニセモノを本当に目撃したとしても矛盾はない」

真奈美「ニセモノになれる人物がいるか」

のあ「まゆよ。あるいは、彼女ね」

真奈美「岡崎泰葉か、背丈も同じくらいだな」

のあ「工藤忍の証言は、緒方智絵里を偽った他人が呼んだのであれば、彼女が嘘をついていなくても筋は通る」

真奈美「堀裕子君はどうだ?嘘が苦手そうだが」

のあ「彼女、事件の時に起きていたわよね」

真奈美「そうなのか?」

のあ「髪は整っていたわ。見慣れたポニーテールに」

真奈美「確かに……言われてみるとそうだな」

のあ「待ち構えていた可能性がある。事件が発覚するのを」

真奈美「フム……全員なんとでも言えるな」

芳乃「それでは、協力者の可能性が高いのはどなたでしょうー?」

のあ「この3人よ」

真奈美「如月千早、岡崎泰葉、それと脇山珠美か。最初の2人は厄介だな」

のあ「非常時に私を騙す演技が出来てもおかしくないわ」

真奈美「脇山珠美は何か知っていそうだな、どう思う?」

のあ「浅野風香の件、何か知ってる気がするわ」

真奈美「同感だ」

のあ「脇山珠美の簡潔な受け答えは、如月千早と岡崎泰葉とは違って出来ないことを誤魔化すためのもの」

芳乃「演技という嘘ですー」

のあ「その通り。そして、もう一人」

真奈美「高森君かな」
152 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:46:00.90 ID:JCUGa/wA0
のあ「私もそう考えているわ。なぜ、そう思うのかしら」

真奈美「佐久間君に協力するなら彼女が一番先だ」

のあ「いいえ、違うわ」

真奈美「違うのか?」

のあ「あそこにいた人物なら、私か真奈美よ」

真奈美「確かに、そうだな」

のあ「真奈美、出来るかしら」

真奈美「やらないが……やろうと思えば、もっと上手くやるさ」

芳乃「ふむー、高峯ー、聞いてよいでしょうかー?」

のあ「先生、どうぞ」

芳乃「彼女達の共通点は何でしてー?」

のあ「浅野風香の部屋が近いというのもあるけれど、事件後に同じことを言っているわ」

真奈美「同じこと、とは」

のあ「私にまゆの無実を証明させたがっているわ」
153 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:47:31.86 ID:JCUGa/wA0
80

高峯探偵事務所

真奈美「佐久間君の無実を証明させたがっている?」

のあ「思い出してみなさい。如月千早の最後の質問は?」

真奈美「のあは何が目的か」

のあ「まゆの無実を証明すると言ったら、安心しましたと言っていたわ」

真奈美「フム……岡崎泰葉はそうは言っていなかったと思うが」

のあ「共犯を疑う人物に、何故協力的なのかしらね」

真奈美「確かに、犯人の同居人、もしかしたら共犯である人物に対して協力的過ぎると言えばそうだが……」

のあ「脇山珠美は、まゆを信じていいという言葉だけは簡潔な受け答えではなかったわ」

芳乃「……」

のあ「脇山珠美は、語気を強めた言葉もあったわね」

真奈美「クラスメイトが殺人犯などにはならない、と」

のあ「おそらく……それが嘘よ」

芳乃「高峯ー、嘘と希望は似て非なるものでしてー」

のあ「希望、そういうべきね。彼女はそう願っている」

真奈美「願っているということは……」

のあ「犯人は生徒の中にいるのでしょうね」

真奈美「……」

のあ「でも、まゆじゃない」

真奈美「犯人の目星は」

のあ「付いていないわ。まゆが私を止める理由もわからない」

真奈美「高森君も同じか?」

のあ「高森さんは、私にまゆが犯人でないことを信じさせようとしていたわ」

真奈美「帰りの車内でか」

のあ「本心でもあるでしょうけれどね。彼女が言ったのは、まゆはそんなことをしない、ということだけよ」

真奈美「のあを望むように動かしているのか」

のあ「思い出せば、心当たりがあるわ」

真奈美「例えば」
154 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:47:59.88 ID:JCUGa/wA0
のあ「旧館の前でまゆが殺害を仄めかしていたし、岡崎泰葉は私がまゆの共犯ではないかとも言っていたわ」

真奈美「待てよ……教室内で言い争いがあったが」

のあ「岡崎泰葉が会話の中心にいたわ、あれにも目的があった」

真奈美「過去の因縁をのあに意識させるため」

のあ「そういうことね。あの後の振る舞いも気になるわ」

芳乃「わたくしの私見になりますが、因縁のある相手と同じ部屋に大人しくいるでしょうかー?」

真奈美「確かにそうだ。言い争っていた割には、大人しく意見を聞いた」

のあ「私があの場は混乱することも、今はまゆの無実を証明しようと奔走することも、まだ想定の範囲内」

真奈美「そうするように、のあを一番動かせるのは」

のあ「まゆしかいないわ。まゆが計画したことなのかはわからないけれど」

芳乃「つまりー、佐久間様は高峯の事を信頼していましてー」

のあ「先生、どういうことかしら」

芳乃「佐久間様の無実を証明し、釈放されることは確実だと思っているのではないでしょうかー」

真奈美「無実が証明されるから、この役を引き受けた」

のあ「そう信じましょう、私の助手だもの。それくらいの知恵はあるわ」

芳乃「ふむー、わたくしは虚偽の自供を罪に問われないようにすることを考えるゆえー」

のあ「ありがとう、私からもそれをお願いするわ」

芳乃「ええ、高峯は無実を証明してあげてくださいー」

のあ「言われなくても。真奈美、ずっと気になっていることがあるの」

真奈美「何か」

のあ「彼女達の事よ。違和感がある」

真奈美「詳細を言ってくれ、わからない」

のあ「彼女を繋ぐ因縁は、彼女達の今に影響を与えているように思えないわ」
155 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:49:44.46 ID:JCUGa/wA0
81

高峯探偵事務所

真奈美「……」

のあ「真奈美、どう思うかしら」

真奈美「どう思う……か」

のあ「違和感はあったかしら」

真奈美「違和感はあった。私が見たこととわかったことが一致しない」

のあ「例えば」

真奈美「ここだ。長富蓮実と北条加蓮」

芳乃「蓮のおふたりでしてー」

のあ「まゆも同じことを言っていたわね、ロータスペアよ」

真奈美「長富蓮実が北条加蓮に今も同じように確執を感じているなら、あの態度にはならない」

のあ「趣味趣向も互いに異なるタイプに見えたわね」

真奈美「それにもかかわらず、むしろ仲は良好だ」

芳乃「互いの違いを知り、尊重できることは良き事でしてー」

のあ「そもそも、不仲と思われる生徒はいたかしら」

真奈美「思い当たらないな」

芳乃「それが高峯の言う違和感でしょうかー?」

のあ「ええ。印象と調査結果が異なること」

芳乃「高峯を信じましょうー、真実を掴むまで止まらぬようにー」

のあ「そうするわ」

真奈美「それで、だ」

のあ「何かしら」

真奈美「のあは、この事件の真実は何だと思っている?」

のあ「今の段階ではわからないわ」

真奈美「今の予想でいいんだ、聞かせてくれ」
156 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:50:35.43 ID:JCUGa/wA0
のあ「まゆが殺人を犯したわけではないわ、動機が腑に落ちない」

芳乃「次の殺人を止めるためと申しておりましたー」

のあ「殺人が起きていないなら、私に言えばいいわ。絶対に止めるわ、絶対によ」

真奈美「専門家だものな」

のあ「それとも、まゆは私に話を信じてもらえないと思ったのかしら」

真奈美「佐久間君の話なら、のあは聞くはずだ。どんな話だろうが」

芳乃「そもそも、高峯は事情を多少は知ってましてー」

のあ「そうよ、まゆも私が調べたことは知っているはず」

真奈美「それにも関わらず、のあに相談しないのは不自然だな」

のあ「つまり、もう遅かった」

芳乃「高峯ー、話が飛びましたよー」

のあ「失礼。私は殺人を防ぐわ、何があったとしても。それでも、防げないのは起きてしまった殺人だったからよ」

真奈美「佐久間君が気づいた時には事件は終わっていた」

のあ「まゆは殺人あるいは自殺には関与していない。関与しているのはその後だけ」

真奈美「隠蔽工作だけ」

のあ「ええ。岡崎泰葉、如月千早、脇山珠美と協力して、真実を隠した」

真奈美「佐久間君の役割は限られてくるな、彼女にしか出来ないことであるなら」

のあ「目的は私を止めること。あの夜さえ凌げば、話を合わせることができるわ」

真奈美「山荘で連絡を取るのは難しいが、今なら簡単だ」

芳乃「証拠の提出を義務づける根拠には弱いでしょうー」

真奈美「もう話はついているなら、隠し通せる。脇山珠美の受け答え等も、誰かとすり合わせていた可能性は十分だ」

のあ「協力している以上は何らかの連絡手段は山荘にいた時にもあると考えているわ。これについては、調査が必要ね」

真奈美「佐久間君達が事件の真実を隠そうとしていると、のあは考えているんだな」

のあ「ええ、私はそう考えているわ」

芳乃「しかし、動機は何なのでしてー?」

のあ「わからない。誰かを庇っているのか、私を傷つけるのが目的なのか、警察を試しているのか、答えを出す段階ではないわ」

真奈美「のあにもう一つ聞きたい、いいか?」

のあ「どうぞ」

真奈美「隠そうとしている事件そのものについては、どう考えてる?」

のあ「こちらも結論を出すには早いけれど、私がもっとも可能性が高いと思っている仮説が一つあるわ」

真奈美「それは、なにかな」

のあ「浅野風香が緒方智絵里を殺害し、自らの命を絶った」
157 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:51:29.89 ID:JCUGa/wA0
真奈美「見つかった遺書通り、ということか」

のあ「時間軸的にも通るわ。岡崎泰葉、如月千早、脇山珠美がまゆの協力者となっているのにも説明がつく」

真奈美「部屋は目の前が如月千早、隣が岡崎泰葉、下が脇山珠美だ」

芳乃「もしや、気づいたのでしょうかー?」

のあ「ええ。例え気づいていなくても自殺に繋がるものを見たり、聞いたりする可能性がある以上、この3人は協力者にするしかなかった」

真奈美「殺人の動機は」

のあ「過去の因縁かしら、真偽不明なものは多いけれど、浅野風香と緒方智絵里の関係は事実よ」

真奈美「……」

のあ「私の予想はこれまで。浅野風香の起こした事件を、複数の生徒が協力して真実を隠している。あくまで、それが目的でまゆが罪を被ることなど誰も望んでいない」

真奈美「だから、のあに調査をさせようとしている。調査にも協力的だ」

のあ「動機はまだわかっていない。連絡方法も。それらを調べて行きましょう」

芳乃「ふむー」

のあ「先生、何かご意見が」

芳乃「想像力豊かなことは良きことかと思いますがー」

のあ「率直な意見を」

芳乃「検察官に証拠としては採用されませぬー」
158 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:52:11.02 ID:JCUGa/wA0
のあ「そうでしょうね」

芳乃「高峯ー、わたくしを呼んだ理由はなんでしてー?」

のあ「まゆの無実を証明することよ」

芳乃「然れば、なすべきこともわかりましょうー」

のあ「ええ。まゆが実行犯でないことを示す証拠が必要ね」

真奈美「証拠か、何を探せばいいのかな」

のあ「凶器よ、彼女達がまゆが裁かれることを望んでいないなら見つかるはず」

真奈美「話はわかった」

のあ「痕跡は消しきれない、いえ、残しているはずよ。必ず、見つかるわ」

真奈美「佐久間君の期待に応えるとしよう」

のあ「何があっても、味方でいてくれると示しましょうか」

真奈美「ああ」

芳乃「木場様、お茶のおかわりをー」

真奈美「用意します。のあもどうだ?」

のあ「いただくわ。今日は休みましょう」
159 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:53:01.98 ID:JCUGa/wA0
82

翌朝

高峯探偵事務所

のあ「おはよう……あら」

ヘレン「グッモーニン、ディテクティブ」

ヘレン
イヴ・サンタクロースを追っていた国際捜査官。あたかも自宅のようにリラックスしてモーニングティーを飲んでいる。

のあ「ヘレン、何時から日本へ」

ヘレン「昨日よ。聞いていたよりは元気そうね、ディテクティブ」

のあ「おかげさまで。真奈美と先生はどこに」

ヘレン「雪乃の喫茶店でモーニングを食べているわ」

のあ「大方、先生が希望したのでしょうね」

ヘレン「ディテクティブ、本題に入っていいかしら」

のあ「私にも紅茶を貰っていいかしら」

ヘレン「イエス。私が用意しましょう、そこにお座りなさい」

のあ「ここは私の家で、私の定位置はヘレンがいる所なのだけれど」

ヘレン「臨機応変、日本には良い言葉があるわ」

のあ「……わかったわ」

ヘレン「紅茶を。良い色になったわ」

のあ「いただくわ……ヘレン、聞いていいかしら」

ヘレン「いいわ、質問なさい」

のあ「いつも雪乃が朝に用意してくれる紅茶じゃないわ、何を頼んだのかしら」

ヘレン「もっとも自信のあるものを。ご馳走するわ、遠慮なく飲みなさい」

のあ「そう……美味しいからいいけれど」

ヘレン「ディテクティブ、話を聞く準備は出来たかしら」

のあ「ええ」

ヘレン「ここに来た理由は見当がついていることでしょう」

のあ「ヘレンに何か頼んだ覚えはないのだけれど」

ヘレン「久美子に頼んだでしょう」

のあ「まさか発火装置の件、調査結果が出ている?」

ヘレン「イエス」
160 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:55:05.18 ID:JCUGa/wA0
のあ「ありがたい。誰の手に渡ったか、特定できたのかしら」

ヘレン「それはノー。佐藤心はほぼ何も残さなかった。イヴ・サンタクロースからもあなたが望む結果までは辿り付けない」

のあ「結果まで、という言い方は気になるわ」

ヘレン「譲り受けた人物は数人特定出来たわ」

のあ「誰かしら」

ヘレン「ヨリコ・フルサワと名乗っていた人物よ」

のあ「知ってるわ。今回も古澤頼子が関係しているのね」

ヘレン「ただし、受け渡し場所は東南アジア。日本国内に持ち込まれた形跡はなし」

のあ「ヘレンは日本で受け渡していたものがないとは言ってないわ。そうでなければ、椋鳥山荘で見つかることはない」

ヘレン「その通り。私は行き詰まったわ」

のあ「結論もないのに、ヘレンはここに来ないわ」

ヘレン「発火装置は日本国内で幾つか使用されているわ」

のあ「宮本フレデリカが使ったものがあったわね」

ヘレン「結論を。発火装置を利用したと思われる、火事をとある条件で調査したわ」

のあ「火事……」

ヘレン「条件とは、特定の共通点を持つ被害者がいること」

のあ「特定の、共通点」

ヘレン「複数の死者がそれに該当したわ。ディテクティブ、この資料を見なさい」

のあ「見させてもらうわ……いずれも火事で死亡、放火の可能性は捨てきれない。年齢性別も共通点はなし」

ヘレン「そう、別のつながりがあるわ」

のあ「火事」

ヘレン「ザッツライト。火事よ」

のあ「死因ではない、昔のこと」

ヘレン「佐久間まゆが両親を失った火災が、被害者の共通点ね」
161 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:56:11.42 ID:JCUGa/wA0
のあ「まゆが発火装置を使ったわけではないわ」

ヘレン「なぜそう言うのかしら、ディテクティブ」

のあ「まゆは火災によって両親を失ったわ。もしも怨恨で殺人を犯すのであれば、火事の原因となった人物、被害を拡大することになった建築業者、あるいは救えなかった消防士などに偏るはずよ」

ヘレン「そうね」

のあ「この人物達に怨みを持つ人物なら……」

ヘレン「心当たりはあるわ。火事の原因となった人物の」

のあ「娘……浅野風香よ」

ヘレン「オールライト」

のあ「ヘレンは、これは浅野風香の犯行だと考えているのね」

ヘレン「ノット」

のあ「ノット?」

ヘレン「答えを出すのは私の仕事ではないわ」

のあ「私達のやるべきこと、わかってるわ」

ヘレン「ごちそうさま。雪乃にお礼を言っておいてちょうだい」

のあ「もう帰るのかしら」

ヘレン「ヘレンは一秒も無駄にしないわ。ごきげんよう」

のあ「お元気で」
162 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:57:16.79 ID:JCUGa/wA0
83

高峯探偵事務所

真奈美「発火装置の方が先に情報が出たか」

のあ「ヘレンは登場が早すぎるわ、他の事がわかってからだとばかり」

真奈美「結局、火事にまつわる因縁か……」

のあ「そのようね」

芳乃「高峯ー、行ってまいりますー」

のあ「まゆのこと、お願いするわ」

真奈美「車で送りますよ」

芳乃「ご心配にはおよびませぬー、ゆったりと参りますゆえー」

のあ「お気をつけて」

真奈美「さて、私達も行くとしようか」

のあ「相川先生に話を聞きに行きましょう」

真奈美「私のお土産も役に立ちそうだ」
163 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:58:11.82 ID:JCUGa/wA0
84

星輪学園・教会

千夏「不仲ということはないと思いますが……」

のあ「そうよね、私にもそう見えた」

千夏「このような話なら、私よりも川島先生が良く知っているかと」

のあ「いいえ、少し離れた場所の人物に聞きたかったの」

千夏「私は客観的に務めているけれど……離れているとは思えません」

真奈美「少しだけ離れていること、遠すぎたら意味もない」

千夏「実際の所、不仲ということはないと思います。班分けを決めたのは川島先生ですから、真意のほどはわからないけれど」

のあ「どういう意味かしら」

千夏「口外しないで欲しいのだけれど、いいかしら」

のあ「どうぞ。私もこの場を貸してくれているシスターも秘密は守ると」

千夏「班分けは仲の良い人物と同じになるように決めています」

真奈美「川島先生の意向か?」

千夏「いいえ」

のあ「昔からの慣習かしら」

千夏「ええ、山荘での合宿は今に始まった行事じゃないもの」

のあ「理由は」

千夏「お楽しみですから。打ち解けていない1年生はともかく、2年生以上は気の置けない仲間と過ごして欲しいと」

のあ「まゆと高森さんが同じ班だったのは」

千夏「少しでも見ていればわかります」

のあ「そうね、わかるわ」

千夏「だから、あの夜は驚いたわ……知らないこともあるわね」

真奈美「知らない、か」

のあ「相川先生は、まゆのご両親については」

千夏「聞いています、彼女が隠してはいないので」

のあ「浅野風香とまゆの関係については」

千夏「……」

真奈美「相川先生?」

千夏「いえ……どちらかと言えば仲が良く見えていました。大人しいタイプですから、一緒にいると安心するのかと」

のあ「ええ、同感よ」

千夏「……わかりませんね、子供とはいえ」
164 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:58:48.60 ID:JCUGa/wA0
真奈美「やはり……違うな」

のあ「ええ。相川先生、聞いていいかしら」

千夏「何かしら」

のあ「あなたが知っていた方と、最近知った方、どちらが本当だと思うかしら」

千夏「それなら、前者です」

のあ「根拠は」

千夏「勘ですよ、教師の」

のあ「それならきっと当たるわ、信じなさい」

千夏「……信じましょうか、自分を卑下するのも大変だもの」

のあ「物で証言を引き出したみたいで悪かったわ。だけれど、良い話を聞けたわ」

千夏「あの、名誉のために言いますが、物につられたわけでは」

のあ「言い訳は時間の無駄だから、素直に喜んでおきなさい。真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「凶器を探すわ。まずは、科捜研へ」
165 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 21:59:35.37 ID:JCUGa/wA0
85

清路警察署・科捜研

留美「あら、こんにちは」

のあ「留美。何をしているのかしら」

留美「調べ物の結果待ちなの」

真奈美「何か証拠が見つかったのか?」

志希「留美にゃん、おまったせ〜。あ、のあにゃん、おはよう!」

のあ「おはよう。それで何を」

留美「新しいものじゃないわ。既に見つかっているものを」

志希「遺書だよー」

真奈美「現場にあったものか?」

留美「ええ。筆跡鑑定の結果は、どうだったかしら」

志希「色々照合したけど、本人以外ありえない」

のあ「色々?」

志希「日記とかノートとかだよー」

留美「他にわかったことはないかしら」

志希「あるある、いつもよりも若干走り書きだったよ。筆圧は強め」

留美「書かれた時間もわかると言ってたわよね」

志希「大体だけどね〜」

のあ「いつだったのかしら」

志希「事件当日。とりあえず、ずっと前から用意してたわけじゃないかなー」

のあ「書いたのは」

志希「事件が起こる前か、後かな?そんなかんじ」

留美「……」

のあ「留美は何が知りたかったのかしら」

留美「もう一つ、指紋は見つかったかしら。浅野風香以外の」

志希「あったよー」

留美「どなたかしら」

志希「柳っていう先生と岡崎さんっていう生徒の」

のあ「発見した時に見た可能性が高いわね」

留美「それだけね?」

志希「うん、志希ちゃん嘘つかない」

留美「それなら、まゆちゃんは何を見たのかしらね」

真奈美「どういうことかな」

留美「自殺を偽装し、机の上にこの手紙は置いてあった」

のあ「中身を確認していないのはおかしいわね」

志希「知ってたとか、別の何かがあったとか」

留美「そういうこと。まだ見つかっていないものがありそうね」

のあ「ええ」

留美「私は戻るわ。またね、探偵さん」

のあ「留美もお疲れ様」
166 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:00:36.20 ID:JCUGa/wA0
志希「のあにゃんと真奈美ちゃんは何しに来たの?暇つぶし〜?自営業はいいな〜」

のあ「志希、凶器は見つかったかしら」

志希「まだ見つからない、久美子ちゃんが必死に探してるけどさー」

のあ「久美子はどこに?」

志希「音葉ちゃんと一緒に椋鳥山荘。消したところが重要なの、とか言ってた」

のあ「消したところが重要?」

志希「そう、消した痕跡が重要なんだってさ。それでね〜」

のあ「なるほど、真奈美。行きましょう」

真奈美「どこにだ?」

のあ「椋鳥山荘へ。消した痕跡が重要なの」

真奈美「もう少しだけ、その閃きの根拠を教えてくれ」

のあ「痕跡は残すはずよ、凶器が見つからなければいけないのなら」

志希「ん〜、どゆこと?」

真奈美「佐久間君を犯人とさせないためには、凶器が出るのが絶対だ」

のあ「行きましょう、久美子なら何かを見つけてるはずよ」

真奈美「ああ」

志希「行っちゃった。のあにゃんに見せたいものがあったのに。まっ、いっか、そのうちで。オヤツにしよう〜」
167 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:01:25.77 ID:JCUGa/wA0
86

椋鳥山荘・駐車場

のあ「何をしてるのかしら」

真奈美「地面を調べているようだが」

音葉「こんにちは……何かご用ですか」

のあ「凶器を探しに来たわ。進捗は」

音葉「この通り……地面を調べています」

真奈美「何か手がかりが見つかったのか?」

久美子「んー…やっぱりこっちか」

のあ「久美子」

久美子「のあさん、足元になにかない?」

のあ「何もないわよ。足跡すらないわ」

久美子「ないなら、そっちね」

真奈美「久美子君、どういうことかな」

久美子「のあさん、事件の夜に来るまで誰か車で移動した?」

のあ「していないと思うわ」

真奈美「そのような証言はないはずだ」

久美子「問題、遺体が見つかるまでに行ける距離は」

のあ「幾ら急いでも、山道から出られないでしょうね」

音葉「はい……急いでも山道に投げ捨てるのが限界でしょう」

真奈美「音葉君が試したのか?」

音葉「運動は……嫌いではありませんから」

のあ「音葉、山道で何か見つけたかしら」

音葉「いいえ……歩いた痕跡がありませんでした」

真奈美「つまり、山道には出ていない」

久美子「それに、汗かいていた人いた?」

のあ「いなかったはずよ」

音葉「遠くまでは行けないはずです……ましてや暗い山道です」

真奈美「山荘近く、山の斜面は」

久美子「もう調べてる」

のあ「まゆが証言していた、偽物の凶器をそこで見つけているわ」

真奈美「そうなると、山荘の敷地内か」

久美子「虱潰しに調べる段階は終わったわ」

音葉「はい……見つかりませんでした」

のあ「隠し部屋などは」

久美子「あったら、真っ先にのあさんに教えるわ」

のあ「私の趣味を理解してくれていてありがとう。既に私が調べてるけれど」
168 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:02:27.68 ID:JCUGa/wA0
真奈美「誰かが持ちさった可能性は」

久美子「それはないみたい」

のあ「根拠は」

久美子「留美さんが持ち物を検査したから。拒否した人はいなかったわ」

のあ「持ち物にないなら、どこかに隠していた」

音葉「そのような経緯がありまして……地面を調べています」

久美子「少なくとも事件現場から持ち出さないといけないから」

真奈美「痕跡が残る」

のあ「もしくは、その逆」

久美子「そう。掃除した形跡があるのよね」

のあ「シスタークラリスが丁寧に掃除をしていたわ」

久美子「掃き掃除でしょ?」

のあ「ええ」

久美子「道具が違うわ。竹箒じゃない」

音葉「刷毛のようなものです……」

久美子「ひとつずつ丁寧に消していった」

音葉「痕跡は残ります……多少ですが」

のあ「山荘からここまで来たということね」

久美子「ええ。山荘の裏口からここまで来たの」

のあ「残念だけれど、久美子は勘違いしてるわ」

久美子「あら、どういうこと?」

のあ「ここから山荘に戻った」

久美子「逆だった?足跡はこちら向きなはずよ、たぶん」

のあ「消すなら逆向きに歩いた方が楽でしょう」

久美子「あっ、確かにそうね」

のあ「そもそも、ここを通る必要はないわ」

真奈美「旧館から礼拝堂の裏側にも行ける」

のあ「回りくどいやり方だけれど、誰かが見つけてくれると信じている」

音葉「こちらにも形跡があります……」

久美子「そろそろ終着点じゃなくて、のあさんが言う通りなら出発点だと思うのだけど」

のあ「ええ」
169 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:02:58.58 ID:JCUGa/wA0
久美子「駐車場のこの辺り」

音葉「どなたかの車が……ここにあったようですが」

真奈美「私でも、その車は覚えている」

久美子「真奈美さん、本当?」

真奈美「ああ、クラシックカーだったからな」

のあ「持ち主はシスタークラリス。該当する車は星輪学園に今はあるはず」

久美子「シスタークラリスの車内に隠して、ここから運ばせた?」

のあ「車内まで調査する時間は」

真奈美「なかった。佐久間君の自供は早かったから、山の斜面の調査を優先したはずだ」

のあ「留美達に連絡を……そう言えば」

久美子「圏外よ、わかってると思うけど」

のあ「真奈美、私達はもう一度星輪学園へ」

真奈美「わかった」

久美子「音葉ちゃん、科捜研の車に準備はできてる?」

音葉「はい……私達も星輪学園へ」
170 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:03:49.80 ID:JCUGa/wA0
87

星輪学園・教会の裏

クラリス「知らずのうちに犯行に協力しているとは……思いませんでした」

のあ「あなたのせいではないわ、シスタークラリス」

クラリス「申し訳ありません、メンテナンスの日が近ければ」

真奈美「メンテナンス?」

のあ「言っていたわね」

クラリス「早くに見つけられたのですが」

のあ「……そうね」

久美子「あっ、のあさん」

のあ「結果は」

久美子「指紋が見つかった、たぶん浅野風香さんのもの。被害者の傷と刃物の形は一致しそう。付いていた血もおそらく被害者のだと思う、血液型がA型だった」

真奈美「本当の凶器が見つかった」

久美子「詳しくはこれから調べるから、それじゃ!」

のあ「ご健闘を」

クラリス「……」

真奈美「佐久間君は帰ってこれるかな」

のあ「まゆが嘘を認めればね。シスタークラリス、お聞きしても」

クラリス「私に協力できることであれば、喜んで」

のあ「椋鳥山荘で生徒達が連絡を取る方法はあるかしら。あなたや先生方に気づかれないように」

クラリス「ございます。生徒達には秘密にしてください」

真奈美「あるのか?」

クラリス「古くから学園内で使われています、見たことはないかもしれませんが」

のあ「教えてくださるかしら」

クラリス「ハンドサインとノックです」

真奈美「古典的だな」

クラリス「あまりにも厳格さが過ぎ私語も許されない時代に、生徒達が利用したとされています」

のあ「シスターは生徒達の使うサインの意味はわかるのですか」

クラリス「いいえ。意味を大人に漏らさないように、変化しています」

真奈美「複雑だな」

のあ「しかし、今はそんな時代ではないわ」

クラリス「はい。そのため、奥ゆかしさを好む一部の生徒が細々とつないでいます」

真奈美「佐久間君は好きそうだな」

のあ「ええ。浅野風香と長富蓮実あたりも好きそうね」

真奈美「のあには秘密にしておくべきだな。その方が良い」

のあ「興味が出たら解明してしまいそうね、まゆは良い判断をしてるわ」
171 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:04:37.69 ID:JCUGa/wA0
クラリス「しかし、多くの生徒が使っている場合が今もあります」

のあ「椋鳥山荘ね」

クラリス「はい。夜のお供ですよ、こちらは主にノックです」

真奈美「具体的にはどのような」

クラリス「ノックの回数と組み合わせで連絡を取っているようですが、詳細はわかっていません」

真奈美「詳しいことは伝えられないな」

クラリス「伝えられるのも隣の部屋だけでしょう」

のあ「何分後に、どの部屋に、行くか来るか、その程度でしょうね。椋鳥山荘で夜更かしする分には十分よ」

真奈美「伝える順番と回答が決まっているなら、簡単か」

のあ「それに、ノックで十分よ。伝えるべき人物には伝わる」

真奈美「それは誰だ?」

のあ「浅野風香、岡崎泰葉、それとまゆ」

真奈美「3階南側の3部屋か」

のあ「主体とする人物だけに伝わればいい。全てのことをサインで会話する必要はない」

クラリス「お手紙は星輪学園では好まれます」

真奈美「手紙か……」

亜季「お話中申し訳ありません。クラリス殿、お話をお伺いしても」

クラリス「私は構いません」

亜季「高峯殿は良いでありますか」

のあ「……」

真奈美「のあ、何か考えごとか?」

のあ「ええ。大和巡査部長、もちろん構わないわ」

亜季「ありがとうございます。手短に済ますであります」

のあ「私達はこれで失礼するから問題ないわ。ごゆっくり」

亜季「そうでありますか、どちらへ」

のあ「高森さんに会いに行きましょうか」

真奈美「高森君にか。今なら話してくれそうだな」

のあ「ええ。そういえば、留美達にお願いをしておくわ」

亜季「私達にお願い事とはなんでありましょうか?」

のあ「ヘレンが調べていた火事の件、更に調べて欲しいの。まだ情報が得られるはずだから」
172 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:05:45.73 ID:JCUGa/wA0
88

清路市・某コンビニ駐車場

真奈美「のあ、高森君は自宅にはまだ戻っていないそうだ」

のあ「ケータイにも出ないわね、どこに行ってるのかしら」

真奈美「散歩だと言っていたそうだが」

のあ「近くの公園かしら。真奈美、調べておいて」

真奈美「了解。高森君が徒歩で行きそうな公園は、っと……」

のあ「先生から着信だわ、もしもし」

芳乃『高峯ー、お疲れ様でしてー』

のあ「先生、どうしたのかしら」

芳乃『佐久間様が証言を変えたのでしてー』

のあ「まゆは凶器が見つかったことを知ったのかしらね」

芳乃『自供は嘘と言ってましてー』

のあ「まゆは殺人は否定した?」

芳乃『はいー』

のあ「犯人は誰だと」

芳乃『それについては答えないと申しておりますー』

のあ「どうやら知っていそうね。まだ、話す場面ではないと」

芳乃『わたくしも同感でしてー』

のあ「先生、ありがとう。まゆが何かを話したくなったら、聞いてあげてちょうだい」

芳乃『かしこまりましてー、それではー』

のあ「お願いするわ」

真奈美「佐久間君は自供を覆したか」

のあ「ええ。虚偽の証言はしたけれど、起訴まではいかないでしょうね」

真奈美「そうか。ひとまず目標達成だな」

のあ「今日か明日には戻って来れるでしょうね……」

真奈美「のあ、何か気になることがあるのか」

のあ「色々と。まだ証拠は隠して良そうね」

真奈美「例えば」

のあ「レインコート。凶器はあるのにこっちは見つかっていない」

真奈美「隠している理由に検討はつくか」

のあ「いいえ。高森さんが行きそうな公園は見つかったかしら?」

真奈美「もちろんだ」

のあ「行きましょう」
173 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:07:02.16 ID:JCUGa/wA0
89

高森藍子行きつけの公園

のあ「高森さん、ここにいたのね」

藍子「のあさん、こんにちは。どうしてこちらに?」

のあ「連絡が取れないから直接探しにきたの。隣、座っていいかしら」

藍子「はい、大丈夫です」

のあ「ありがとう」

藍子「真奈美さんは一緒じゃないんですか」

のあ「車を置くところもないし、調べ物を頼んでいるわ」

藍子「……そうなんですね」

のあ「小春日和で良かったわ。肌寒くもない」

藍子「そうですね……でも」

のあ「事件が起こらなければよかったのに」

藍子「……はい」

のあ「違うわね、まゆが嘘の自供をしなければ良かった」

藍子「……え?」

のあ「本当の凶器が見つかって、まゆは自供が嘘だと認めたわ」

藍子「良かった、まゆちゃんは無実だったんですね」

のあ「あなたが私に言った通りになったわ」

藍子「まゆちゃんはそんなこと絶対にしませんから」

のあ「嘘が苦手ね、あなたには似合わない」

藍子「嘘なんて……」

のあ「絶対にしないと言い切れるのは、あなたがまゆが犯行をしていないのを知っているからよ」

藍子「……えっと、その」

のあ「そうでなければ、まゆが犯人だと言われて黙っていられないわ」

藍子「……」

のあ「あってるかしら、高森藍子?」
174 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:08:17.34 ID:JCUGa/wA0
藍子「のあさん……ごめんなさい」

のあ「私に謝らなくてもいいわ」

藍子「まゆちゃんは何もしてません、だって……」

のあ「だって、何かしら」

藍子「ごめんなさい、実はわかってました」

のあ「わかってたとは」

藍子「私、まゆちゃんの部屋にいました。智絵里ちゃんと風香ちゃんのこと、2人で一緒に知りました」

のあ「私の想像より知っていた度合いが上だったわ」

藍子「……ごめんさない」

のあ「謝らなくてもいいわ。謝りグセがつくと、いいことはないわよ」

藍子「え?」

のあ「昨日も似たような反応をされたわ、私にも運があるわね。謝りグセがあるような人物がキーパーソン。私はその人物を知っているわ、そのクセがついた理由も」

藍子「……」

のあ「協力しているのは、まゆ達が隠蔽した理由も知っているから」

藍子「……はい」

のあ「浅野風香が何故自殺を図ったのかも」

藍子「……」

のあ「答えて。浅野風香は自殺なのね」

藍子「……ごめんなさい。風香ちゃんは自殺です、知ってました」

のあ「……そう」

藍子「自殺を疑わせるために、部屋の中を整理しました」

のあ「過去の因縁と犯してしまった罪を、あなたは知っていた」

藍子「知ってしまいました。風香ちゃんの遺書で」

のあ「火災と母親を咎める人物を火事に見せかけて殺してしまったことを」

藍子「……はい」

のあ「駆け引きはするものではないわね。その事実を肯定するものは、まだ見つかっていないわ。見つかった遺書に書かれていたのは、緒方智絵里の件だけよ」

藍子「え……あっ」

のあ「意外と抜け目ないわね、まゆといい私の扱い方を知ってるじゃない」
175 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:09:16.25 ID:JCUGa/wA0
藍子「あの……すみません」

のあ「別の遺書があるのね、あなた達がこの事件の真相を隠蔽するためには必要なものが」

藍子「……あります、のあさん達が知らない遺書が」

のあ「それがなければ、隠蔽に協力する動機がないし、協力した生徒が同じ認識を持てない。あると考えるのが普通よ」

藍子「はい、私は何が起こったかをそれで知りました。今は……」

のあ「岡崎泰葉が持ってるのね」

藍子「え、なんで……」

のあ「まゆの部屋の隣、岡崎泰葉から呼び出されたから事件を知ったのでしょう」

藍子「のあさん、当たりです」

のあ「探偵だもの、想像することが仕事なの」

藍子「もう、隠せないかな……泰葉ちゃんから詳しくは聞いてください。私は、嘘をついたくらいしかしていなくて」

のあ「隠蔽の実行犯は」

藍子「泰葉ちゃんとまゆちゃんです、たぶん」

のあ「他に知っている人は」

藍子「わかりません、もう何人か知ってるかも」

のあ「あなたがしたことは」

藍子「自殺の隠蔽です、もう……謝らなくてもいいと思うんです。自殺で地獄に行かなくても、風香ちゃんがまた誰かに責められる必要なんて、もう、ないんです」

のあ「……そう」

藍子「ごめんなさい……のあさんに大変な思いをさせてしまって」

のあ「真実が確かめられたならいいわ、まゆのことを信じて良かった。私はこれから岡崎泰葉に会ってくるわ」

藍子「あの、のあさん」

のあ「何かしら」

藍子「まゆちゃん、すぐに帰って来れますか」

のあ「おそらく」

藍子「良かった……まゆちゃんのこと、あまり怒らないでください」

のあ「間違った行為だとしても、あなた達の気持ちは尊重するわ。まゆに対しても同じよ」

藍子「良かった」

のあ「だけれど、怒らないのは保証しかねるわ」

藍子「ごめんなさい、怒るのなら私が代わりに」

のあ「辛いわ。家族を失う恐怖は、知っているからこそ、あなたが想像している以上なの。まゆがそれを知らないはずないのに」

藍子「……」

のあ「話してくれてありがとう。これからもまゆをよろしくね、高森さん」

藍子「はいっ」

のあ「真奈美が迎えに来るまで、少し付き合ってちょうだい。そこの自動販売機で飲み物をごちそうするわ、何がいいかしら」

藍子「紅茶がいいかな」

のあ「ご希望通りに。それと、一つ聞きたいことが」

藍子「なんでしょう?」

のあ「まゆとあなたの間に何か因縁はあるのかしら」

藍子「ありません。あったとしても、まゆちゃんはまゆちゃんですから」

のあ「あなたならそう言うと思っていたわ。少し待っていてちょうだい、紅茶を買ってくるわ」
176 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:10:55.58 ID:JCUGa/wA0
90

車内

真奈美「のあの予想通り、高森君も共犯だったか」

のあ「ええ。真奈美の方は見つかったかしら」

真奈美「ああ、岡崎泰葉と浅野風香が2人でいるところを見たという情報は見つかった」

のあ「予想通りね」

真奈美「仲は悪くなかったが、2人だけでいるような関係ではないとも言っていたな」

のあ「最近ということかしら」

真奈美「そういうことだ、だからこそ簡単に見つかった。学校でない場所がほとんどだった」

のあ「急に仲が良くなる何かがあったのかしらね」

真奈美「友人とはそういうものだ。突然壁がなくなったり、出来たりするのさ」

コネコジャナイノヨ、ニャオ!

のあ「夏美から電話だわ。もしもし、なにかご用かしら」

夏美『のあさん、誰か探してない?』

のあ「探してるわ。岡崎泰葉に会いたいのだけれど」

夏美『前髪ぱっつんのカワイイ子なら、目の前にいるわ。のあさんからその子に電話があったから、確認してみたの』

のあ「夏美、どこにいるの?」

夏美『署よ。とりあえず、少年課に案内してるの』

のあ「真奈美、清路警察署へ。岡崎泰葉がいるらしいわ」

真奈美「了解だ。しかし、半歩先を行かれている気がするな」

夏美『見せたいものがあるとか』

のあ「私の見たいものと同じでしょうね、岡崎泰葉は誰か待ってるのかしら」

夏美『誰かとは言ってないから、ご指名はないみたい』

のあ「夏美、岡崎泰葉の話を待たせられるかしら」

夏美『オッケー、担当者待ちって言っておく』

のあ「頼むわ」

夏美『私は星輪学園のこと聞きたかったから、ちょうどいいわ。じゃあね』

のあ「ええ」
177 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:11:29.68 ID:JCUGa/wA0
真奈美「探す手間が省けたな」

のあ「真奈美が言うように半歩先を行かれている。高森さんが電話に出ないのも、時間稼ぎのためかしら」

真奈美「そういうことか、誰のために」

のあ「岡崎泰葉のため」

真奈美「警察に行くまでの時間を稼いだ?」

のあ「見せたいものがあると言っていたわ。その準備でしょうね」

真奈美「もう一つの遺書か」

のあ「おそらく」

真奈美「こちらが知りたいことを知らせてくれる、相手は半歩先にいるな」

のあ「ええ。本当の凶器が見つかったことで、動き始めた」

真奈美「誰かが調査の状況を教えているな」

のあ「ええ。その誰かを特定するのは難しい問題ではない」

真奈美「そうなのか?」

のあ「警察関係者か、捜査の連絡を受けた人物」

真奈美「シスタークラリスか」

のあ「ええ」

真奈美「佐久間君の過去も知っている、他の因縁を知っていてもおかしくはない」

のあ「まゆが自供する前に留美を呼びに来たのもシスターだった」

真奈美「待て。そうなると、凶器の隠蔽にも協力しているのか」

のあ「そうでしょうね。まゆが起訴されるまでに私達が見つけないのならば、車のメンテナンスで見つけたと通報があったはず」

真奈美「シスタークラリスの言葉なら、生徒も先生も信じるだろうな。隠蔽には必要な人物だったのか」

のあ「ええ。私の感想としては、まだ思い通り」

真奈美「思い通り?」

のあ「半歩先を追っている必要はない。追い抜いてしまいましょう」

真奈美「追い抜く、か」

のあ「相手が止まっているこの隙に。少しだけ夏美には雑談を続けてもらいましょう」
178 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:13:00.83 ID:JCUGa/wA0
91

清路警察署・科捜研

のあ「フム……」

ヘレン「十分に情報は集めている。満足いくと思うわ、ディテクティブ」

のあ「流石というか、想像以上よ。真奈美もそう思うでしょう?」

真奈美「ああ……本当に凄いな、数日で集めたと思えない」

ヘレン「自分の目的で動いているだけ、賞賛は不要よ」

志希「あ、のあにゃーん、ハスハスさせろ〜」

のあ「断るわ。何か言いたいことでもあるのかしら」

志希「そうそう、科捜研に後から来た資料を勝手に調べてたんだけどさ〜」

のあ「後から来た資料?」

志希「このファイル。筆跡からすると」

のあ「筆跡どころか、私が提出した資料よ。まゆのことを調べていた」

志希「そうそう、手が滑って指紋鑑定しちゃったんだよね〜」

のあ「何か見つかったのかしら?」

志希「逆。のあにゃん、まゆちゃんにこの資料見せた?」

のあ「見せたわ」

志希「中身まで?」

のあ「私は中を見ている所は知らないわ。でも、私の部屋には入ることは自由にできた。見ていてもおかしくない」

志希「まゆちゃんの指紋、どこにもなかったよ?」

のあ「なかった?」

志希「うん。まゆちゃん、これ見てないじゃないかな〜」
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