浅野風香『高峯のあの事件簿・佐久間まゆの殺人』

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179 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:13:43.12 ID:JCUGa/wA0
真奈美「見てない?佐久間君は明らかに知っていたぞ?」

のあ「なるほど、まゆが起点だから勘違いしていたわ」

ヘレン「答えに辿り着いたようね、ディテクティブ」

志希「にゃはは、志希ちゃんお手柄?ハスハスしていい?」

久美子「ヘレン、志希ちゃん、ちょっと来て!」

志希「面白い感じかな、にゃはは、今行くよ〜」

のあ「久美子、何があったのかしら?」

久美子「のあさん、見つかった凶器の資料はそこにあるから見ておいて」

のあ「既に見させてもらったわ。今は何をやっているのかしら」

久美子「ヘレンがくれた資料から色々とわかりそうなの。もう少しだけ時間をちょうだい」

のあ「ええ」

ヘレン「久美子、手伝うわ」

のあ「真奈美、私達は本来の目的へ。待たせ過ぎたわ」

真奈美「ああ。半歩先に行けたか?」

のあ「おそらく。ヘレン、感謝するわ」

ヘレン「礼には及ばないわ。グッドラック、ディテクティブ・ノア」
180 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:14:33.40 ID:JCUGa/wA0
92

清路警察署・ロビー

のあ「留美」

留美「探偵さん、準備は出来たかしら」

のあ「ええ。留美に連絡した通りのことを岡崎泰葉は話すと思うわ」

留美「ええ。これまでの証拠を考慮しても、筋が通らない話ではないわね」

のあ「そこまではお願いするわ」

留美「それ以降も任せてもらってもいいけれど」

のあ「留美ではダメよ」

留美「言葉は正確に」

のあ「私が話す必要があるわ」

志乃「あら……間に合ったみたい」

留美「課長」

志乃「まゆちゃんの話、聞いたかしら」

のあ「先生から連絡はないわ」

志乃「岡崎さんと隠蔽工作をしたのを認めたわ、高森さんと一緒にいたことも」

のあ「私の目標は達成されたわ。真実も明らかになりそうね」

志乃「送検は間違いだったことを……示してしまいましょう」

留美「はい」

真奈美「のあ、和久井警部補」

留美「大丈夫かしら」

真奈美「夏美君の話は長引いたが終わった。岡崎泰葉も待ちきれない様子だ」

のあ「それぐらいでいいわ」

留美「課長、行ってきます」

志乃「ご健闘を……自分の目的を忘れないで」
181 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:15:50.90 ID:JCUGa/wA0
93

清路警察署・少年課

留美「岡崎さん、お待たせしました」

泰葉「刑事さん。それに、高峯さんも」

のあ「ご一緒させていただくわ。真奈美も」

真奈美「邪魔はしない」

留美「夏美、交替」

夏美「はーい、ちょっと話過ぎちゃった。また、お話聞かせて、岡崎さん」

泰葉「はい、時間がある時なら」

夏美「約束よ。それじゃあ、留美さんバトンタッチ」

留美「任されたわ。岡崎さん、ここにはどうやって来たのかしら」

のあ「夏美、ちょっと教えて」

夏美「小声で何?椅子は自由に使って」

泰葉「電車とバスで来ました」

留美「交通の便が悪い所で申し訳ないわね」

のあ「彼女の様子で気になることは」

夏美「別に普通よ?」

のあ「そう」

夏美「まっ、せめて普通に見えるくらいじゃないとここに来た意味はないわよね」

留美「せっかくの休日なのにごめんなさいね、待たせてしまって」

泰葉「いいえ、そんなことは」

留美「夏美、準備はいい?」

夏美「どうぞ、記録する準備は出来てるわ」

留美「それでは本題に入りましょうか。岡崎さん、ご用件は何かしら」
182 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:16:48.51 ID:JCUGa/wA0
94

清路警察署・少年課

泰葉「ふぅ……」

のあ「……」

泰葉「あの、私」

留美「慌てずに、時間はあるから大丈夫よ」

泰葉「ごめんなさい!」

のあ「ごめんなさい……ね」

泰葉「私、その、謝らないといけなくて」

留美「岡崎さん、落ち着いて。何を謝るのかしら」

泰葉「……嘘をつきました」

留美「正直に言ってくれてありがとう。辻褄のあわないことが増えて来て、困っていたの」

泰葉「やっぱり……」

留美「やはり?」

泰葉「警察と高峯さんを騙すのは、無理だって」

留美「そう思ったのは」

泰葉「昨日一晩考えて、正直に話すことにしました」

留美「何を話してくださるのかしら」

泰葉「……その」

留美「言いにくいことかしら。それなら、席を外してもらうけれど」

泰葉「いいえ、大丈夫です。ちょっと、驚かせるかもしれないので」

真奈美「……驚かせるか」

留美「刑事として色々なものを見て来たわ。言ってもらって大丈夫よ」

泰葉「私は知ってます……全てを」

夏美「全部かぁ……」

泰葉「これを見てもらっていいですか」

のあ「……便箋」

留美「見せていただくわ、これは何かしら」

泰葉「もう一つの遺書です、風香ちゃんの……殺人が告白されています」

留美「緒方智絵里さんのかしら」

泰葉「違います……これまで起こしてきた事件のことです」
183 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:17:53.30 ID:JCUGa/wA0
95

清路警察署・少年課

留美「探偵さん、内容を確認して」

のあ「ええ。何が書かれているのかしら」

留美「火事に見せかけて殺害したと書かれているわ」

のあ「任されたわ、留美は続けてちょうだい」

留美「ええ。岡崎さん、これはどういうことかしら」

泰葉「事件の夜に、風香ちゃんの部屋で見つけました」

留美「事件の夜、ね」

泰葉「あの……」

留美「どうぞ、続けて」

夏美「留美さん、どうぞご自由にじゃ話し辛いんじゃない?」

留美「そうね、採用するわ。事件の夜、何時のことかしら」

泰葉「夜の0時頃です」

留美「なぜ、浅野風香さんの部屋に?」

泰葉「風香ちゃんに呼ばれました」

のあ「……呼ばれた」

留美「どうやって呼び出されたのかしら」

泰葉「隣の部屋だったので、ノックで」

留美「ノック、探偵さん何か知ってるかしら」

のあ「シスタークラリスによると生徒達が使っている暗号みたいのがあるそうよ」

留美「事件の夜もそれで?」

泰葉「はい。0時を過ぎたら、私の部屋に、来て、静かに、でした」

留美「方法の詳細を聞いても仕方がないわね」

夏美「呼び出したのは、誰かしら」

泰葉「おそらく……風香ちゃんだと思います」

のあ「……」

留美「0時頃、あなたは浅野風香さんの部屋に行ったのね」

泰葉「はい……そこで」

留美「遺体と遺書を見つけた」

泰葉「……はい」

留美「悲鳴はあげなかったのね」

泰葉「静かに、なんて伝えてくる意味がわかってしまって……それに、声をあげるのは得意ではないので」

留美「遺体を見つけたあなたは、何をしたのかしら」

泰葉「遺書が見えたので……それを読みました」

留美「何が起こったか、書かれていた」

泰葉「風香ちゃんが何を起こしたのか、わかりました」

のあ「……」
184 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:18:31.57 ID:JCUGa/wA0
留美「自殺だと、わかったのかしら」

泰葉「机とか椅子を台にした形跡がありましたから」

留美「私が見たものとは違うわね」

泰葉「私達が、状況を変えました」

夏美「私達かぁ……他は誰なのかしら」

のあ「一人はまゆでしょう」

留美「あなた達は、何をしたのかしら」

泰葉「風香ちゃんのやったことを隠そうとしました」

留美「具体的には」

泰葉「まずは協力してくれる人に……話しました」

留美「どなたかしら」

泰葉「如月さん、珠美ちゃん、藍子ちゃん、それにまゆちゃんです」

夏美「予想通り?」

のあ「ええ」

泰葉「誤魔化せないと思ったから、協力してもらうことにしました」

留美「それぞれの役割は」

泰葉「藍子ちゃんと珠美ちゃんには見張りを頼みました、部屋から出た人はいなかったと聞いてます」

留美「浅野風香さんの部屋を整理したのは」

泰葉「如月さんです」

留美「片付いていたけれど、何をしたのかしら」

泰葉「ただ机と椅子を元の場所に戻しただけです。まゆちゃんに指紋だけつけてもらって」

夏美「へぇ……」

のあ「疑い深い人間なら、それだけで十分よ。例えば、私とか」

留美「旧館については」

泰葉「私とまゆちゃんでやりました」

留美「経験の浅い警察官だったら、逃げだしそうな状況だったわ。なぜ、出来たのかしら」

泰葉「思い込むんです、これはセットだって」

のあ「……セット」

泰葉「ドラマのセットだと思って、役通りに動くんです」

留美「心構えは理解できたわ」

夏美「できた?」

真奈美「私にはわからない」
185 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:20:02.45 ID:JCUGa/wA0
泰葉「風香ちゃんではなく、まゆちゃんの犯行だと思わせるようにしました」

留美「ニセモノの凶器はどこから」

泰葉「旧館の中にあったものを使いました」

留美「本当の凶器は」

泰葉「車の中に隠せば遠くに持って行けるから、カギの開いていたシスタークラリスの車の中に」

留美「凶器はどこにあったのかしら」

泰葉「旧館の中にありました。たぶん……もう隠す気はなかったから」

留美「裏口に足跡があったけれど」

泰葉「それはまゆちゃんが」

のあ「一つ質問をいいかしら。両利きを仄めかすのは、誰の考えかしら」

泰葉「まゆちゃんです。高峯さんが解決した事件があるから、絶対に気づくって」

留美「のあに、まゆちゃんの犯行だと思わせるために」

泰葉「はい」

留美「探偵さん、他に質問は」

のあ「まだ留美に任せるわ」

留美「岡崎さん、したことを全て教えてくれるかしら」

泰葉「まゆちゃんが付けた裏口以外の足跡を掃除しました」

留美「何を使ったのかしら」

泰葉「旧館にあった刷毛とか箒とかです。2階に戻しました」

留美「他には」

泰葉「ダイイングメッセージを血で付けました。Fと」

真奈美「風香かな」

のあ「左利きのような書き方だったから、岡崎さんの言う通りなのでしょう」

留美「その目的は」

泰葉「高峯さんに気付かせるため、です」

のあ「……」

留美「隠蔽工作事態は難しいことではないと思えるわ」

夏美「私も同感」

のあ「彼女達の企みはここから」

留美「終わったのは何時ぐらいかしら」

泰葉「1時前には終わっていたと思います」

真奈美「事件発覚の2時まで、まだ時間はある」

留美「教えてちょうだい、事件発覚時に何があったか」
186 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:21:34.77 ID:JCUGa/wA0
96

清路警察署・少年課

泰葉「私とまゆちゃんが掃除をしている間に、如月さんに忍ちゃんを呼び出すようにしてもらいました」

留美「それは0時半頃で間違いないかしら」

泰葉「それくらいだと思います。一度山荘に戻ってきた時には、終わったと言っていましたから」

のあ「……」

泰葉「少しだけ相談をして、まゆちゃんは旧館に行ってもらいました」

留美「長富蓮実さんがみたのは」

泰葉「まゆちゃん、です。髪型を変えたので、見間違えたのかな」

夏美「うーん……」

泰葉「後は自室で待っていました」

真奈美「工藤忍が見つけるまで」

泰葉「私は忍ちゃんが旧館に向かった時には3階のロビーにいました」

留美「探偵さんを止めるため」

泰葉「高峯さんの部屋、電気が点いていなくて安心しました」

留美「協力した人にお願いしたことは」

泰葉「悲鳴が聞こえてすぐに、如月さんに旧館に行って貰いました」

のあ「早すぎるのに理由がつくわ」

真奈美「岡崎君とその時に会話すらしていないからだ」

泰葉「藍子ちゃんと珠美ちゃんには他の生徒と先生の様子を見てもらいました。珠美ちゃんは誰かが起きて来たら、限られた人数だけは連れて旧館に行くようにと」

のあ「川島先生と今井加奈が起きて来たから、脇山珠美が一緒に降りて行った」

泰葉「本当は……風香ちゃんの遺体は別の人に見つけてもらうつもりでした」

留美「発見したのは今井さんだったわ」

泰葉「自分で呼びに行くといったので、そうしてもらいました……その、ショックを受けるのはわかってました」

のあ「……」

泰葉「まゆちゃんには、高峯さんを困らせる言葉を言ってもらいました」

留美「そうなの?」

のあ「言ってたわ。止められる犯行なら止めますよね、と」

留美「まゆちゃんが次の犯行を止めるために、殺人を犯したという筋書きを探偵さんに意識させるため」

のあ「私は人を集めるようにお願いしたわ」

泰葉「はい、川島先生にそちらはお願いしました」

留美「あなたは浅野風香さんの部屋へ」

泰葉「……はい。謝らないといけないですけど、予想通り、加奈ちゃんが呆然としていました」

留美「あなたは柳先生に今井さんをお願いした」

泰葉「はい。私は高峯さんを呼びに行きました」

のあ「私は浅野風香の部屋に。遺体を見つけたわ」
187 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:22:12.83 ID:JCUGa/wA0
泰葉「高峯さんは自殺でない可能性に気づいてくれました。後は、何もしないでとお願いするだけでした」

のあ「お願い、というには厳しい言葉だったわ」

泰葉「……ごめんなさい」

留美「何を言われたのかしら」

のあ「まゆと共犯ならまゆの犯罪を隠すのでは、と」

留美「手厳しいわね。実際は隠していたのはあなた達」

泰葉「……はい」

留美「これだけかしら」

泰葉「いいえ、集まったところでお芝居を」

留美「お芝居?」

泰葉「皆が集まった前で、不仲であるようなフリをしました」

留美「目的は、探偵さんに過去の因縁に目を向けさせるため」

泰葉「はい。私が会話を進めています」

真奈美「のあなら気づいてくれる、実際にその通りだった」

留美「後で確認しましょう」

泰葉「その後は知っている通りです」

のあ「……」

泰葉「警察が来た後に、まゆちゃんに嘘の自供をしてもらいました」

留美「私だったのは」

泰葉「まゆちゃんが、一番いいだろうって」

夏美「よほどのことがない限り、留美さんは来るものね」

泰葉「もう一つ、刑事さんが良い理由があって」

のあ「私の目の前で呼ぶため?」

泰葉「はい。警察が来た後の早い時間なら一緒にいるから、って」

のあ「……」
188 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:23:00.91 ID:JCUGa/wA0
真奈美「のあを止めるための状況作りだから、当然か」

泰葉「はい……すみません」

留美「何があったのか、まとめてもらっていいかしら」

泰葉「私達は風香ちゃんの犯罪と自殺を隠蔽しようとしました。調べられないように、高峯さんをまゆちゃんに止めてもらいました」

夏美「そう言っちゃうとシンプルね」

真奈美「ああ、シンプルだ」

留美「ありがとう。私からは最後の質問よ、大丈夫?」

泰葉「はい」

留美「隠蔽工作を行った動機を教えてくれるかしら」
189 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:23:44.80 ID:JCUGa/wA0
97

清路警察署・少年課

泰葉「……動機ですか」

留美「そう、動機。何があったかは、わかったけれど、行う動機はいまいち理解できないわ」

泰葉「……」

留美「何人かクラスメイトを巻き込んでまで、隠蔽を行う動機が私にはわからないの」

夏美「ふーん、私には何となくわかるけど」

留美「相馬巡査部長に聞いてもいいのかしら」

夏美「本人から直接聞きましょう、ちゃんと聞いてあげてね」

留美「そうしましょう。岡崎さん、教えてくださるかしら」

泰葉「その……オカシなことを言うかもしれないですけど」

留美「オカシイことには慣れてるわ、言ってちょうだい」

泰葉「可哀そうだな、ってそう思いました」

のあ「……」

泰葉「風香ちゃんがどうして追い込まれないといけないんですか、オカシイじゃないですか」

留美「それは……」

夏美「留美ちゃん、ストップ。ここは話しやすいはずだから」

留美「遮って悪かったわ。岡崎さん、続けて」

泰葉「自分のせいじゃない火事で責められて、一緒に暮らしてるお父さんと同じ苗字も名乗れなくて、どうしてですか」

のあ「……」

泰葉「最後の遺書も、謝ってばかりでした。普段から……謝ってばかりなのに」

夏美「……」

泰葉「智絵里ちゃんを殺したこと、赦せるわけがありません!それでも……もう……これ以上責められなくてもいいと……思いました。ダメだとはわかってます!」

留美「……ええ」

泰葉「救ってあげられなかったから、私達も同じ罪を背負います」

真奈美「罪か……」

のあ「シスターが言いそうな言葉ね」

泰葉「結局、私達の計画は不完全でした……風香ちゃんの罪はわかられてしまいました。だけど、もう……責めないでください」

留美「私は責める気はないわ。法に基づくだけよ」

夏美「岡崎さんの言うところは私の仕事ね、最大限取り計らうわ」

留美「話してくれたもの、それで充分よ」

泰葉「刑事さん……ありがとうございます」

のあ「……」
190 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:24:56.58 ID:JCUGa/wA0
泰葉「ごめんなさい……私達は混乱させただけでした」

留美「……」

泰葉「隠しきれないかもしれないのは、最初から……わかってました」

夏美「……」

泰葉「高峯さん」

のあ「私?」

泰葉「まゆちゃんも巻き込んでしまって……すみませんでした」

のあ「……」

泰葉「謝って許されるとは思いませんけれど……ごめんなさい」

のあ「まゆが自分で選んだのであれば、私があなたを責める理由もあまりないわ」

泰葉「大切な人を失うことを……まゆちゃんは知ってました。私の気持ちもわかってくれました……だから、甘えてしまいました」

のあ「……」

泰葉「不安な思いをさせてしまいました、ごめんなさい。まゆちゃんは何もしてません、人殺しなんて出来る子じゃありません」

のあ「謝らなくていいわ、まゆも戻ってくるでしょうから」

泰葉「まゆちゃんは何も悪くないんです、責めないでください」

のあ「少しは反省だけしてもらうだけよ、責めたりしないわ」

真奈美「そうだな」

泰葉「迎えに行って、もらえますか」

のあ「もちろん。例え本当に殺人を犯していたとしても、私はまゆを待つし、迎えに行くわ」

泰葉「ありがとうございます……山荘の事件はこれで全てです」

のあ「……そう」

泰葉「私が悪いんです……もう誰も責めないでください」
191 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:25:44.41 ID:JCUGa/wA0
留美「相馬巡査部長、動機あってた?」

夏美「大人から見れば理解できない気持ち。よくあることね」

留美「そう」

夏美「まぁ、偽証で罪に問われるほどじゃないわよね?」

留美「ええ。まゆちゃんも不起訴で終わりにできるでしょうね」

泰葉「本当ですか?」

留美「もちろん」

泰葉「良かった……」

留美「岡崎さん」

泰葉「はい、嘘をついていてすみませんでした」

留美「あなたが話したいことはこれで終わりかしら」

泰葉「え……はい、そうです」

留美「だそうよ、探偵さん?」

のあ「私はまゆの無実が証明されたから目的は達成されたわ」

真奈美「私も、だ」

夏美「私は事件後の対応含めて協力していくわ」

留美「私は刑事一課の刑事なの。強盗、殺人といった事件を担当しているわ」

泰葉「えっと、ドラマとかで少し知ってます」

留美「正直に言ってちょうだいね、最後に確認を」

泰葉「はい」

留美「浅野風香さんを殺害したのは」

泰葉「……風香ちゃんの自殺です」

留美「その可能性が高いわ。緒方智絵里さんを殺害したのは誰かしら」

泰葉「自殺した、風香ちゃんです」

留美「……」

泰葉「……」

留美「あなたの証言はこちらの想像通りで、それ以上ではなかった。お疲れ様」
192 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:26:26.69 ID:JCUGa/wA0
泰葉「……どういう意味でしょうか」

留美「これからは刑事というよりは、探偵のお仕事。探偵さん、交替するわ」

のあ「ええ。真奈美、任せてもらえるかしら」

真奈美「言った通りだ。私はのあを信じてるよ」

のあ「ええ」

夏美「留美さん、お疲れ様」

留美「ありがとう。普段の脅しみたいな方が楽だわ」

夏美「怖い職業病ね、刑事じゃなくて良かった」

留美「夏美の仕事よりは楽よ、おそらく」

泰葉「……」

のあ「捜査というよりは、推理よ。私から色々と話して良いかしら」

泰葉「良いですけど……もう話せることなんて」

のあ「あなた、浅野風香の件を隠すために本気だったのかしら」

泰葉「本気……です」

のあ「いいえ。誰かが罪を被る覚悟はなかったわ、あなたもまゆも」

泰葉「いいえ、まゆちゃんにそれをさせるわけにはいきません。そんなことは」

のあ「決意できれば、まゆならやるわ。私は、まゆが何をしたとしても待っているのだから」

泰葉「……」

のあ「まゆの犯行でないことわかるように、中途半端に隠蔽工作はされている。アリバイもすぐに綻ぶようなものだった。つまり」

真奈美「本気じゃないんだ」

のあ「浅野風香が緒方智絵里を殺害し自殺したということは判明されても良いと考えている」

泰葉「……そうかもしれません。最初からずっと」

のあ「ええ、あなたの言う通り」

泰葉「……」

のあ「最初からずっと勘違いしていたの」
193 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:27:46.10 ID:JCUGa/wA0
98

清路警察署・少年課

泰葉「……」

のあ「幾つか気になったことがあるわ。真奈美、旧館に移動したという目撃情報は」

真奈美「長富蓮実が移動した、誰かを見たと言っただけだ」

のあ「そう。緒方智絵里も浅野風香もあなたも目撃したという証言が出ていない」

真奈美「不自然なほどに、だ」

泰葉「消灯時間後だから、変ではないような……」

のあ「高森さんは起きていたと言っていたわ、ほぼ黙認状態だったから他の生徒が起きていても不思議ではない」

真奈美「それにも関わらず、証言はほとんどない」

のあ「犯行を止められたとは言っていない」

真奈美「不思議に思っても、殺人だとは思うまい」

のあ「もう一つ、工藤忍の行動が気になっている」

真奈美「緒方智絵里に呼ばれたと言ったが、すぐに証言を変えたな」

のあ「何で呼び出した、と言っていたかしら?」

泰葉「ノックと手紙です」

のあ「留美、その手紙は」

留美「見つかっていないわ」

泰葉「……」

のあ「ないのよ、いいえ、不要だった」

泰葉「不要……」

真奈美「本来はいらない言い訳だった」

のあ「工藤忍が時間を間違えたのよ、嘘をつくべき時刻を」

真奈美「呼び出されたのは2時だったからな。勘違いしたのだろう」

のあ「それに、呼び出した如月千早と緒方智絵里を見間違うのは無理があるわね」

泰葉「違います、忍ちゃんは」

のあ「工藤忍は悲鳴をあげなかったら、どうするつもりだったのかしら?」

泰葉「え……?」
194 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:28:27.21 ID:JCUGa/wA0
のあ「私の部屋まで呼びに来たら、まゆは出てくるタイミングを見失うわ」

真奈美「実際はその心配はしなくていい」

のあ「騒動は必ず起こるから、あなたにはそれがわかっていた」

泰葉「……」

のあ「つまり、工藤忍も協力者よ」

真奈美「長富蓮実もだろうな」

のあ「窓際の部屋だった人物が全員協力者になるわ」

真奈美「2階が脇山珠美、長富蓮実と高森君だ」

のあ「3階が浅野風香、まゆ、それと」

真奈美「君だ」

泰葉「……その通りです。あえて言う必要はないから、言わなかっただけです」

のあ「3階で作業する以上は北条加蓮も協力者の方がいい」

真奈美「根拠もある」

のあ「彼女、不仲のお芝居に参加していたわ」

真奈美「君と因縁がある以上は参加してもらわなければいけない」

のあ「その因縁は残っていないのね?」

泰葉「違います、そもそも……私じゃないです」

のあ「それを聞けて安心したわ。でも、更に安心したい」

真奈美「のあに同意だ」

のあ「あなたはまゆに罪を負わせるつもりは、ないのね?」

泰葉「ありません……まゆちゃんの犯行じゃないくらいはわかるようにしました」

真奈美「佐久間君は自供が嘘だということも認めた」

のあ「浅野風香の指紋がついた凶器が見つかるのも、想定内だったのか」

泰葉「……」

のあ「そう、これは答えられない」

真奈美「筋書きが変わるからな」

泰葉「どういう意味……でしょうか」

のあ「浅野風香には罪を被せていいと思っているからよ」

泰葉「ち、違います!」

真奈美「……」

泰葉「私は、ただ……」
195 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:30:24.18 ID:JCUGa/wA0
真奈美「残念だが、凶器が発見されないと佐久間君が裁かれかねない」

のあ「シスタークラリスも協力者であり、いつか凶器は発見されるはずだった」

真奈美「佐久間君は帰ってくる」

のあ「私の目的は果たされる。それが狙いだった」

真奈美「のあの目的を、そこにさせる必要があった」

のあ「ええ。まゆを信じているということに、あなた達は安心したのではなかった」

真奈美「佐久間君の無実を証明することが、のあの目的であることに安心した」

泰葉「……」

のあ「浅野風香の自殺を偽装する必要性に合理性は感じられない」

真奈美「夏美君は衝動的な犯行はおかしくないというが、それにしては手が込んでいる」

のあ「シスタークラリスを含めて、協力者が納得する動機とは思えない」

真奈美「例えば、正義感の強い脇山珠美が承知するだろうか」

のあ「私の助手も、納得するとは思えない」

真奈美「ああ。高峯のあの助手に、真相を隠さないといけないと思わせるだけのものがあった」

のあ「理解できる状況もあった。まゆは私が調べた因縁についての資料を見ていなかったにも関わらず」

真奈美「つまり、君達は知っていた」

のあ「自分達の因縁を知っていた。一方的なものではなく、互いに」

真奈美「火事の因縁も理解していたのだろう」

のあ「浅野風香も含めて因縁でつながる全員が」

真奈美「知っているなら、状況が理解できる。対価が何か知っている」

のあ「対価は、彼女自身の命よ」

真奈美「重すぎる対価だ、払うべきものとも思えないが……」

のあ「浅野風香自らがそれを支払ったのよ」

泰葉「待って……高峯さん、どこまで……」
196 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:31:28.94 ID:JCUGa/wA0
真奈美「もう戻れなかったんだ。浅野風香が全てを準備していたから」

のあ「浅野風香はあなたを呼び出す必要がないの。起きてから見つかっても何も問題がないのに」

真奈美「浅野風香は君を呼び出した。君なら演じてくれるはずだ、と」

のあ「浅野風香とあなたには接点がある、演じるということで」

真奈美「浅野風香の趣味は物語を描くことだった」

のあ「経緯は知らないけれど、その趣味とあなたの経歴は互いが知ることになった」

真奈美「趣味に対するアドバイスを君がしていた、何かを読んでいたのを目撃した人物がいる」

のあ「浅野風香は『佐久間まゆの殺人』という物語を描き、あなたに主演を託したの」

泰葉「違います!私が勝手にやりました、風香ちゃんは何も悪くないんです!」

のあ「それでも、疑問が残るわ」

真奈美「目的だ」

のあ「罪が明らかになることがわかっていたなら、まゆの行動に意味があるのかしら」

真奈美「ああ。浅野風香が自殺したという話だけでいい」

のあ「まゆもあなたも何もする必要はない。浅野風香も」

真奈美「君達が無駄なことをするようには思えない」

のあ「まゆが私を騙すというリスクを取るかしらね、無駄のために」

真奈美「目的が別にあった」

のあ「私達を止めるのがあなたの目的だった。浅野風香の事件で終わらせるために」

真奈美「それならば」

のあ「浅野風香が自分の命を犠牲にして自分を犯人に仕立て上げ、『佐久間まゆの殺人』という物語まで残した動機は何か」

泰葉「高峯さん!やめてください!私の話を聞いてください!聞け!」

のあ「……」

夏美「あら、厳しい言葉も出せるのね」

留美「余裕ね、あなた」

夏美「留美さんほどでも。ちゃんと記録してる?」

留美「もちろん、抜かりはないわ」
197 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:32:18.58 ID:JCUGa/wA0
泰葉「目的は、まゆちゃんの無実を証明するだけでいいはずです!」

のあ「……」

泰葉「風香ちゃんがしたことは、正しいと思いません!でも、でも、気持ちをわかってください!もう、そこまで気づいているのなら!」

真奈美「……」

泰葉「私達も罪を背負います、裕子ちゃんも知ってます、風香ちゃんだって同じ気持ちです……だから、もうやめてください……」

のあ「……」

泰葉「風香ちゃんの事件で……終わらせてください」

夏美「……」

泰葉「おねがい、します……」

真奈美「のあ?」

のあ「正直なところ、あなたは最初から気になっていたわ。カワイイからかしら」

泰葉「……冗談はやめてください」

のあ「そうだと思っていたけれど、違うわ。どこか、まゆに似ていたのね」

真奈美「どのあたりが、かな」

のあ「人の意見に従うのに慣れていて、本心を押し殺して我慢しているような」

真奈美「ああ、そうかもしれない」

のあ「罪を被ることは恐ろしいことよ。でも、決意があれば、まゆもあなたも背負えるわ」

真奈美「君達は強いよ」

泰葉「はい、だから……」

のあ「だから、そんなことはさせられないの。まゆにもあなたにも」

真奈美「ああ。痛みに強くても、慣れていても……傷つくことに変わりはないんだ」

のあ「私はワガママなの。まゆに後ろめたい気持ちを残すことなんて、自分を許さないわ」

真奈美「君の気持ちはわかっても、私達は従うことはできない」

のあ「親友を失った痛みを抱えて、その痛みを友人に背負わせて、これからずっと生きて行くことなんて出来ないわ。まゆも、あなたも……そして、彼女も」

泰葉「あ……」
198 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:32:51.32 ID:JCUGa/wA0
真奈美「罪を償う一番の時は、今だ」

泰葉「……もう、わかってるんです……ね」

真奈美「君の言う通り、堀君が君と同じ罪を被るなら、もう一人しかいない」

のあ「彼女の証言を封じることが必要だった」

真奈美「酷な方法だが、自殺した浅野風香を見せることだ」

のあ「あなたなら出来たわ。実際は、本人が進んでそれを選んだのだけれど」

真奈美「その時は、君は少しだけ安心したような顔をしていた」

のあ「緒方智絵里を殺害した犯人は」

真奈美「浅野風香が代価を払い、守ろうとしたのは」

泰葉「風香ちゃん、ごめんね、私……できなかった」

のあ「今井加奈よ」
199 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:35:53.29 ID:JCUGa/wA0
99

清路警察署・少年課

泰葉「……違う、証拠がないはずです!」

のあ「その証拠を少なくともあなたは見ていない」

泰葉「……」

のあ「処分したかどうかも、わかっていない。浅野風香がどこかに隠したからよ」

夏美「……」

のあ「岡崎泰葉、お願い正直に答えて」

泰葉「……」

のあ「岡崎さん?」

泰葉「……グスッ」

夏美「のあさん、ストップ」

留美「相馬巡査部長、ここは任せました。捜査を進めるから、失礼します」

夏美「了解……岡崎さん、ごめんなさい」

泰葉「謝られることなんて……」

夏美「ここ数日、ずっと気を張っていたのね」

のあ「……」

夏美「もういいのよ、話さなくても。酷いお願いをしてしまったわね」

泰葉「大丈夫です、話します……大切な友達だから」

夏美「……」

泰葉「芸能界から離れても……私でいい、大切な場所だから、絶対に……」

夏美「岡崎さん、もう辞めよう」

泰葉「辞めません!私は……風香ちゃんが任せてくれた主役だから」

夏美「違うの、あなたは友人を失った女の子なの」

泰葉「……だって」

夏美「やめましょう、偽らなくていいと言ってくれたのでしょう」

泰葉「……グスン。だって……どうして……なんで……」

夏美「2人とも、外してくれる?」

真奈美「ああ」

のあ「最後に一つだけ」

夏美「一つだけね」

のあ「……あなたは最初からそうすれば良かったわ。悲鳴を上げてしまえば良かった。それが本心だったのだから」

泰葉「……」

のあ「夏美、お願いするわ」

真奈美「私からも頼む」

夏美「わかったわ」
200 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:38:21.77 ID:JCUGa/wA0
100

清路警察署・ロビー

のあ「……」

真奈美「……」

ヘレン「ディテクティブ、受け取りなさい」

のあ「ヘレン……いきなり缶コーヒーを投げないでくれるかしら」

ヘレン「ワトソンにも差し上げるわ」

真奈美「どうも」

ヘレン「ジャパンの缶コーヒーは糖分が豊富で仕事終わりに最適だと聞いたわ。遠慮なく飲み干しなさい」

のあ「テレビドラマの見過ぎだわ」

真奈美「ありがとう、いただくよ……確かに甘いな、疲れに効きそうだ」

ヘレン「探偵の仕事は終わったのかしら」

のあ「おそらく。留美達がきっと終わりまで導いてくれるわ」

ヘレン「浮かない顔ね、解決したにも関わらず」

のあ「そうね……本当に、自分のワガママを通すべきだったのかしら」

真奈美「そう言わないでくれ。私も同意したんだ」

のあ「ヘレン、全ては正義に基づくべきかしら」

ヘレン「難しい質問ね、ディテクティブ」

のあ「あなたのように、この事件は見逃すべきだったのかしら」

ヘレン「ヘレンは後悔などしないわ。失敗は認めても、最善を尽くし、未来に進むだけよ」

のあ「自信家ね、あなたは」

ヘレン「諺よ、悩んだ顔は歓迎すべき客の顔を曇らせる」

のあ「……そうね」

ヘレン「久美子の調査結果が出ているわ、休んだら行きなさい」

のあ「ヘレンはどこに」

ヘレン「『キュレイター」が海外まで手を伸ばしていないか、調べるわ。グッドラック、ディテクティブ」

のあ「本当に急ね、また会いましょう」

真奈美「お元気で」
201 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:39:01.72 ID:JCUGa/wA0
のあ「……その話に行くにはまだ早いのだけれど」

真奈美「国際調査官となると、距離を埋めるために早くなるのかもな」

のあ「ヘレンが特殊なだけだと思うわ」

真奈美「そっちの方が正しそうだ」

のあ「真奈美、先生から連絡は」

真奈美「佐久間君とは会えたそうだ」

のあ「まゆはなんて?」

真奈美「岡崎君が知っていること以上は知らない、と。彼女が話したことが私の話せる全部です、とのことだ」

のあ「まゆは、他の生徒達の行動を邪魔しないようにしているのね」

真奈美「そうだろうな、おそらく」

のあ「明日には戻れそうかしら」

真奈美「戻れるだろう、と先生は言ってるな」

のあ「岡崎泰葉の証言と、今井加奈の犯行の証拠、可能であれば自供があれば、まゆも全てを認めるでしょう」

真奈美「そうだな。和久井警部補の進展はどうだろうか」

夏美「のあさん、お疲れ様」

のあ「夏美、岡崎さんの様子は」

夏美「落ち着いたから恵磨ちゃんにお願いしてるわ。全部、話してくれると思う」

のあ「……そう。ありがとう、夏美」

夏美「ううん、後でご飯でもごちそうして」

のあ「ええ。岡崎さんから新しい証言は」

夏美「とりあえず、3つ目の遺書があるみたいよ。もう捨ててしまったらしいけど」

のあ「3つ目ね……筆まめになったのはこんなことに使うためでないでしょうに」

真奈美「1つ目が殺人の告白、2つ目が過去の殺人の告白」

のあ「3つ目が、その2つの犯人を隠すための告白ということ」

夏美「他には浅野さんが旧館に行ったのを、岡崎さんは見てたみたいなの。長富さんは本当に緒方さんが旧館に行ったのを見てたみたい、時間だけが嘘だったわけ」

真奈美「今井加奈も、か?」

夏美「そっちはいないみたい。幸運か不運かはわからないけど」

のあ「いないと決まったわけではないわ、目撃した人物が別にいたのでしょう」

真奈美「浅野風香か」
202 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:40:09.31 ID:JCUGa/wA0
のあ「ええ。気づかなければ、準備もできない」

夏美「後、やっぱり浅野風香さんが凶器は隠したみたい。岡崎さん、おそらく全部は知らないわ」

のあ「まゆは用意されたニセモノを山に投げただけ、そういうことになるわね」

真奈美「浅野風香は、そこまでする必要があったのか」

のあ「……ないわ。どんなことがあろうが、生きて生きて生きるべきだったの」

真奈美「それもあるが、状況だ」

のあ「自分の自殺も隠蔽することね、必要だったわ。彼女が目的を果たすためには」

夏美「私も同感」

真奈美「理由は」

夏美「他の生徒全員が口裏を合わせていない証言があって、かつ、まゆちゃんのことで冷静でなくなっていなかったら」

のあ「私がその場で突き止められるわ、真奈美もそう思わないかしら」

真奈美「そうだな。高峯のあというのは、そういう奴だ」

音葉「夏美さん……お疲れ様です」

夏美「あら、音葉ちゃん、どうしたの?私に用事?」

音葉「伝言です……今井さんの取り調べをお願いしたいと」

夏美「誰から?留美さん?」

音葉「はい……私は証拠品を受け取りに行ってきます」

のあ「証拠?」

音葉「血が付着したレインコートと手袋が提出されたそうです……失礼します」

のあ「お気をつけて」

夏美「さて、私ももう少しがんばるわ」

真奈美「今井加奈は話せる状態なのだろうか」

夏美「わからない。だけど、大丈夫な気がするわ」

のあ「大丈夫、なのかしら」

夏美「皆が守ろうとした子だったから。きっと、事情があるはずよ。シリアルキラーでもなんでもないと、私は信じてるわ」

のあ「皆……」

夏美「それじゃ、お疲れ様。のあさん、その缶コーヒー、飲まないならちょうだい」

のあ「あげるわ。ヘレンがくれたけれど、私には甘すぎる」

夏美「ありがと。のあさん、またね」

のあ「こちらこそ」

真奈美「さて……家に戻るか?先生はこれから雪乃君のところで夕食にするそうだ」

のあ「気に入ってくれて何よりね。だけれど、まだ家には戻らない。会わなければいけない人物がいるわ」

真奈美「そうか、付き合おう。その人物とは」

のあ「久美子の調査結果を聞いてからにしましょう。必要になるわ」

真奈美「その前に」

のあ「何か、忘れていたことがあるかしら」

真奈美「私達も夕食にしよう。久美子君達にも差し入れが必要だ」
203 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:42:04.29 ID:JCUGa/wA0
101



星輪学園・教会

クラリス「お待ちしておりました」

のあ「こんばんは、シスタークラリス」

真奈美「夜分遅く、お邪魔する」

クラリス「構いません。ここは常に誰かを迎え入れる準備があります」

のあ「椋鳥山荘の事件について、話を」

クラリス「構いません、どうぞ」

のあ「証拠品を提出したそうね」

クラリス「はい」

真奈美「何故、あなたが証拠を持っているのか」

のあ「それは、あなたが協力者だから」

クラリス「事実を隠していたことは申し訳ございません。犯行に使われたものを隠蔽しました」

のあ「誰に頼まれたのかしら」

クラリス「あなた方はどうお考えですか」

のあ「答えてくれると楽なのだけれど。いいでしょう、私の考えを。可能性のある人物は限られるわ」

真奈美「岡崎泰葉かあるいは」

のあ「浅野風香」

真奈美「あなたは真実を知っている。そうだな」

クラリス「既に刑事さんにはお話ししています。浅野風香さんにお願いされました」

のあ「しかし、依頼通りには動かなかった」

真奈美「頼まれたのは、凶器以外の処分だ」

のあ「処分はおろか、警察に提出した」

真奈美「浅野風香の計画を完遂させなかったのは、何故か」

クラリス「理由は単純なものです」

のあ「その単純な理由を教えてくれるかしら」

クラリス「無実の罪で裁かれる必要は誰にもありません。彼女達の計画が破綻した時点で、私は決めていました」

のあ「私からは感謝するわ、その決意に対して」

真奈美「その決意ならば、すぐにでも真実を公表すべきだった」

クラリス「彼女達の意思も無下には出来ません。斟酌くださるとありがたいです」

204 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:42:41.01 ID:JCUGa/wA0
真奈美「斟酌か。私達がこれから話すことへの許可と思っていいな」

のあ「あなたについて、考えていた」

クラリス「私、ですか」

のあ「まずは、どの時点で協力者となっていたか」

真奈美「あなただけは異なる」

のあ「浅野風香が自殺する前ね」

クラリス「その通りです」

のあ「岡崎泰葉の行ったことは、証言ほど多くはない」

真奈美「あなたと浅野風香が状況を作り上げたからだ」

のあ「あっているかしら」

クラリス「間違いはありません」

真奈美「必然的にとある疑問が浮かぶ」

のあ「あなたがどうやって犯行を知ったのか」
205 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:43:36.74 ID:JCUGa/wA0
クラリス「真実とはつまらないものですよ」

のあ「目撃した、緒方智絵里か今井加奈を」

真奈美「旧館に灯りがついたことは、礼拝堂の自室から確認できる」

のあ「異変に気付いたあなたは、旧館に出向いた」

真奈美「そこで、緒方智絵里の遺体を発見した」

クラリス「その通りです」

のあ「目撃者はもう一人」

真奈美「浅野風香だ」

のあ「浅野風香とシスタークラリスが遺体の第一発見者だった」

真奈美「その時には、犯人に気づいていた」

のあ「犯人を庇うことにしたのは浅野風香の方ね」

真奈美「そう考えるのが普通だ」

のあ「生徒のために、協力者となった」

クラリス「……」

のあ「シスタークラリス、質問を」

真奈美「その場合に、腑に落ちないことがある」

のあ「あなたは、浅野風香の自殺を認めたのかしら」

クラリス「私は教職者です、自殺など認めるわけがありません」

のあ「聖職者でなく?」

クラリス「宗教を押し付けることなどしません」

のあ「八百万の神々に祈るシスターなんて不思議だと思っていたわ」

真奈美「あなたには独特の価値観があるようだ」

のあ「いずれにせよ、あなたは浅野風香さんの自殺には関与していない」

真奈美「証拠もある」

のあ「梅木音葉という警察官に取り調べを受けたわね?」

クラリス「はい」

のあ「微かに怒りのような響きを感じたと」

真奈美「耳が良いんだ」

のあ「ポーカーフェイスであるあなたの変化にも気づく」

真奈美「まぁ、どちらかと言えば直感に近いだろうが」

のあ「あなたは怒っていた」

真奈美「浅野風香に利用された側になった」

のあ「あくまでも、あなたの望みは浅野風香が犯人を庇うという行為だけ」

真奈美「自殺により真実を塞ごうなどとは思っていなかった」
206 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:44:59.23 ID:JCUGa/wA0
クラリス「ご察しの通りです。しかし、起こってしまった以上は彼女の意思に従うしかありませんでした」

のあ「証拠を処分しなかったのは、彼女の行為への怒りからかしら」

クラリス「いいえ」

真奈美「最初から処分する気はなかったのか」

のあ「今と同様に調査が進めば、提出するつもりだった」

クラリス「違います」

のあ「どういうことかしら」

クラリス「浅野風香さんの隠蔽工作には協力しましたが、罪を全て被るように事を進ませるつもりはありませんでした」

真奈美「真実を明らかにするつもり、だったのか」

クラリス「はい。例え、今井加奈さん以外の生徒がなんと言おうとも」

のあ「あなたも予定を狂わされたのね」

クラリス「死を対価とされたなら……従うしかありません」

真奈美「あなたの意思とは違ったのか」

クラリス「私は今井さんに反省を求めました。浅野さんの行動はその助けになると」

のあ「目論見は外れた」

クラリス「彼女を待ってくれる親友は鬼籍の人となりました。赦されぬ罪だけが増えてしまいました」

真奈美「……」

クラリス「願わくば、私の浅はかな思惑と愚行をお許しください」

真奈美「どうする、のあ?」

のあ「私が聞きたいのは更に前のこと」

クラリス「どういうことでしょう」
207 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:45:34.60 ID:JCUGa/wA0
のあ「岡崎泰葉が隠していた浅野風香の2つ目の遺書は、復讐に起こしたとされる事故の羅列のように見えたわ」

真奈美「1つ目や3つ目と異なり、彼女らしくない文体だ」

のあ「何かを写しただけのように」

真奈美「今井加奈はメモをよく取るタイプだそうが」

のあ「自宅からは、火事を起こした相手についてのメモ帳が見つからない」

真奈美「既に処分をしたと証言している」

のあ「浅野風香に話したことはないとも」

真奈美「今井加奈から浅野風香に伝わっていない」

のあ「それならば、詳細な事情をどこから知ったのか」

真奈美「生徒達は何故あの短時間で事情を理解できたのか」

のあ「浅野風香の死をトリガーとして、統一した目的に動けたのか」

真奈美「佐久間君はのあの調査記録を見ずに、過去の因縁を知っているのか」

のあ「因縁を乗り越えて、強固な結びつきを手に入れているのか」

真奈美「何もかもを知っていて、それを意図した人物がいる」

のあ「あなたは全てを知っていた」

真奈美「過去も今井加奈が起こした火事のことも」

のあ「シスタークラリス、あなたがこの事件の種を蒔いたのね」
208 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:46:59.08 ID:JCUGa/wA0
102

星輪学園・教会

クラリス「……」

のあ「あなたの考えはいかがかしら」

クラリス「そのように思われても、仕方がありません」

真奈美「知っていたんだな」

クラリス「はい。私は知っていました、彼女達の因縁の輪も。今井さんの過ちも」

のあ「思った通りね」

クラリス「しかし、種を蒔いたということは否定させてください」

真奈美「どういう意味だ?」

のあ「事件を起こすために、行ったことではないと言いたいのかしら」

クラリス「その通りです。私は、種から萌芽した毒の扱いを誤ったのです」

のあ「毒も薬も同じもの」

真奈美「シスターの目的は」

クラリス「赦しにより、本当の結びつきを得ることを望みました」

のあ「その企みは成功した」

クラリス「時間はかかりましたが、古ぼけた鎖に彼女達が縛られることはなくなりました」

真奈美「悪い繋がりの輪は既に変化していた」

クラリス「はい。普通ならば得られない強い連帯の輪へと」

のあ「彼女達は、自分達を繋ぐ関係性を知っていたのね」

クラリス「その通りです」

のあ「そうでなければ、あの夜に同調して動けない」

真奈美「しかし、繋ぐ因果の輪に関係ない生徒がいる」

のあ「まずは脇山珠美、彼女は知っていたのかしら」

クラリス「彼女は過去の火事については知っていましたが、輪については知らないはずです」

真奈美「協力はしていたということは」

クラリス「浅野さんと岡崎さんの気持ちを汲み取ったのでしょう。正義感の強い、立派な女性ですから」

のあ「堀裕子は」

クラリス「私にはどこまで知っていたかは分かりかねますが、彼女は輪を無意識のうちに理解していたのではと」

のあ「見かけ以上に鋭いのね」

真奈美「そんな感じはするな、勘が良いタイプだ」

のあ「最後に今井加奈は」

クラリス「彼女は輪については知らないはずです。浅野風香との強い接点を持つからこそ、輪には関わらせませんでした」

のあ「それは、誰の意思かしら」

クラリス「特定の個人ではありません」

真奈美「その意思も共有していたのか」

クラリス「はい」
209 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:47:41.96 ID:JCUGa/wA0
のあ「シスタークラリス、今までもこのようなことを?」

クラリス「人を繋ぐことはありました」

のあ「失礼、聞きたいことは違うわ」

真奈美「シスターとして、教職者として、その行為自体は私達が口出しすることじゃない」

のあ「どこから、この情報を仕入れたのか」

真奈美「学園に住み込みのシスターが持っている情報には思えない」

のあ「私が調べた程度に、まゆの過去を知っていて」

真奈美「今井加奈の起こした火事も知っている」

のあ「更に、それに発火装置が関わっている」

真奈美「そうなると、私達も追っている人物に突き当たる」

クラリス「知ってらっしゃいますね、その様子では」

のあ「教えてくださるかしら、シスタークラリス?」

クラリス「市立美術館の学芸員さんですよ」

のあ「古澤頼子」

クラリス「名前は嘘だと思っています。少なくとも学芸員を務められるほどに、美術館の知識が豊富であったことだけは事実です」

真奈美「だから、『キュレイター』と」

クラリス「はい」

のあ「付き合いは何時から」

クラリス「彼女が学芸員となってから数ヶ月もしないうちに」

真奈美「接触は向こうからか」

クラリス「はい。彼女の興味は、少年少女達の心や行動だったようです」

のあ「悪趣味ね」

クラリス「同時に美術教育などに熱心な人物でありました」

真奈美「裏の顔は隠せる能力はあった」

クラリス「彼女は星輪学園に貢献してくれる人物でした。本来の目的を隠すために、貢献を提供した」

真奈美「……本来の目的か」
210 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:49:03.60 ID:JCUGa/wA0
のあ「生徒に道を外させるため」

クラリス「そして、輪が出来たクラスがいつの間にか出来ていました」

真奈美「いや、待て。輪は佐久間君がいないと成立しない」

のあ「高森さんはないと言っていたけれど」

クラリス「高森さんは佐久間さんとの因縁を無意味で無価値だと一蹴しましたから」

真奈美「薄々は感じていたが、彼女は強いな……」

のあ「まゆが星輪学園に入ることも、古澤頼子は織り込み済みだった」

クラリス「学芸員さんは、佐久間さんが以前住んでいた屋敷に出入りしていたと」

真奈美「佐久間君のことをそれなりに知っている」

のあ「私が引き取ったことも」

真奈美「事件が起きていられなくなることも、計画のうちか」

のあ「まゆが以前の学校に馴染んでいなくて、転校するのなら星輪学園の可能性が高いことも」

真奈美「予想の通り、か」

クラリス「いいえ。想定通りに偶然上手く行っただけです」

のあ「だけれど、クラス編成に関しては」

クラリス「どこかで介入したと」

真奈美「クラス編成の決定権は」

クラリス「学年主任の先生が決めるようですが、私にはわかりません」

のあ「シスタークラリス、お聞きしていいかしら」

クラリス「私は、それを望んではいません」

のあ「古澤頼子の仲間ではないのかしら」

クラリス「少なくとも、意思や価値観を共有してなどいません」

真奈美「古澤頼子は、先に布石を打った」

クラリス「生徒を集め、因縁を吹き込みました」

のあ「このような事件を起こすための、準備をした」

クラリス「おそらく。私は一部の生徒の様子がおかしいことから、学芸員さんに聞き出しました」

のあ「協力を装って」

クラリス「火事以外の因縁は、真偽も怪しいものばかりです」

真奈美「しかし、年頃の少女を惑わせるには十分だ」

クラリス「私は利用しました。彼女の目的が満たされつつ、状況を変えるために」

真奈美「古澤頼子の企みをひっくり返そうとしたのか」

クラリス「彼女の目的は、見たことのない心の動きを観察することです」

のあ「……知ってるわ、存分に」

クラリス「私は信じていました、彼女達なら変えられると」

のあ「……ええ。まゆなら、変えられるわ」

真奈美「実際に変わった。古澤頼子の思惑は外れた」

のあ「外れたけれど、見たいものではあった」

クラリス「しかし、学芸員さんは満足をしませんでした」

のあ「今井加奈を使って、次の一手を」

クラリス「申し訳ありません……気づいた時には遅かったのです」

真奈美「火事を……火事によって浅野風香の復讐を果たした後だったのか」
211 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:49:54.81 ID:JCUGa/wA0
クラリス「浅野風香さんが、家族共々誹謗中傷などに傷つけられたのは事実です」

のあ「母の姓を名乗り、父と2人暮らしなことも」

真奈美「事実だが……」

クラリス「親友を再会し、過去を打ち明けても消えることのない繋がりを手に入れた彼女には不要な感情です。復讐を生きる意味などにする価値などありません」

のあ「存在しない復讐の理由を今井加奈に吹き込んだ」

真奈美「復讐の材料もだ」

のあ「同じ火災で殺すという計画も」

クラリス「……」

のあ「教会で祈っていたのは、そのためね」

クラリス「私は彼女の罪を聞きました」

のあ「今井加奈は、神の声を聞いてなどいなかった」

クラリス「私がそのようにするように、と」

真奈美「神ではなく、何に祈るように?」

クラリス「自分と友人が赦さなければ、彼女は救われません。必要なのは神ではありません」

真奈美「……」

のあ「浅野風香にこれ以上の何かを背負わせるつもりはなかったのね」

クラリス「はい……もっとも望まない結末になってしまいました」

のあ「……」

クラリス「私は今井さんの真意に気づいていませんでした。最後まで復讐を遂げることを、遂げることで赦されようとしたことに」

のあ「……」

クラリス「申し訳ございません……種は最終的に毒となり2人の命を奪いました。私は間違えたのです」

のあ「シスタークラリス、あなたは間違えたわ」

真奈美「しかし、勘違いしていることがある」

クラリス「勘違い、ですか」

のあ「今井加奈が起こしたのは火事だけよ」
212 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:51:34.55 ID:JCUGa/wA0
クラリス「火事だけ、とはどう意味でしょうか」

真奈美「幾ら発火装置が優秀でも焼死に至るように使うのは難しい」

のあ「宮本フレデリカも利用していたけれど、死者はなし」

真奈美「小火で終わっている」

のあ「更に、今井加奈は下見や調査をした形跡はなかった」

真奈美「火事の直前に駅の監視カメラに写っていたが、いずれの現場でもその日だけだった」

のあ「計画的ではあるけれど、目的が違っていた」

真奈美「火事の時刻も深夜は少なかった」

のあ「火事だけが目的だったの、今井加奈には」

真奈美「悪評への復讐なら、殺人などしなくてもいい」

のあ「死体が今井加奈を狂わせていった」

クラリス「まさか……」

のあ「久美子からの調査結果が出てるわ」

クラリス「あの人達は、今井さんを狂わせるために殺人を行ったというのですか」
213 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:52:31.60 ID:JCUGa/wA0
103

星輪学園・教会

のあ「今井加奈が引き起こした火事により、焼死したとされていた遺体を再度調べ直してもらったわ」

真奈美「不審な点が幾つか見つかった」

のあ「とある事件では、遺体の全身が焼け焦げていた」

真奈美「身元の特定が危ぶまれるほどに」

のあ「何故か」

真奈美「発火装置の近くで焼かれた」

のあ「油のようなものを体に撒かれたうえで」

クラリス「……」

真奈美「本当の死因が違ったものがあった」

のあ「アナフィラキシーショック」

真奈美「蜂毒による毒殺だ」

のあ「また、別の事件では焼死へと追い込む細工がなされていた」

真奈美「足が負傷していた。両足ともに腱を切られ、歩ける状態でなかった」

のあ「燃えて形跡がなくなる何かで縛られていた遺体もあった」

クラリス「……」

のあ「つまり、今井加奈を凶行に走らせるように追い詰めていった」

真奈美「見知らぬ人物を殺してまで、だ」

のあ「おそらく、あなたの知らないところで今井加奈とも接触してるわ」

真奈美「そこまでするぞ、あれは」

クラリス「私は意趣返しをされたと……そういうことになるのでしょうか」

のあ「そういうことでしょうね」

真奈美「輪から伸びた棘が事件を起こした」

のあ「古澤頼子の計画も成し遂げられたわ」

真奈美「同時に輪も崩れなかった」

のあ「あなたの望みも叶えられた」

真奈美「古澤頼子の望みも叶った」

クラリス「……」

のあ「今回の事件は、あなた達が引き起こしたものよ」
214 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:53:46.68 ID:JCUGa/wA0
真奈美「シスタークラリスの良心は疑っているわけではないが」

のあ「仲間割れに、まゆを巻き込まないでくれるかしら」

クラリス「……ええ、おっしゃる通りです」

のあ「あなたが法に裁かれることはないでしょう」

真奈美「隠蔽にこそ協力したが」

のあ「刑事罰を問うようなことは行っていない」

真奈美「だからこそ」

のあ「あなたの神は、あなたを見てどう思うのかしら」

クラリス「……」

のあ「方法を間違えないことね」

真奈美「私からもお願いするよ」

のあ「期待しているわ、シスタークラリス」

クラリス「お望みとあらば……約束しましょう、必ず」

のあ「真奈美、帰りましょう」

真奈美「ああ。佐久間君を迎えに行く準備もしないとな」

のあ「良い夜を、シスタークラリス」

クラリス「高峯様、木場様、おやすみなさいませ。3人のこれからに幸あらんことを」
215 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:54:40.04 ID:JCUGa/wA0
104

星輪学園・教会

クラリス「……」

水野翠「探偵さん達は行ってしまいましたね。シスターは口がお上手です」

水野翠
射手。教会内にずっと隠れていた。

クラリス「水野さん、先ほどの件について」

翠「もちろん、協力しています」

クラリス「……」

翠「私のことは隠してくれたのですね」

クラリス「私はまだ死を望んでいません」

翠「賢明です」

クラリス「水野さん、行いを改めるのであれば」

翠「改めないのであれば、何か起こるのですか?私が望むようなことが?」

クラリス「……いいえ」

翠「答えは出ています。これからもよろしくお願いします」

クラリス「……」

翠「シスター、選択肢などありませんよ」

クラリス「わかっております。まだ、あなた達は私に価値がある人達です」

翠「ふふっ、それはこちらもですから」

クラリス「良い関係を」

翠「はい。それにしても、シスターも嘘をつきとおしましたね」

クラリス「何を、でしょうか」

翠「何故探偵さん達が走り回ることになったのか、それを誰が望んだのか」

クラリス「知らなくていいことも、ありますよ」

翠「輪を作った因縁は知るべきものだったのですか」

クラリス「そう信じています」

翠「私には信じられませんけれど、意見の違いは有益です」

クラリス「ええ。あなた達と意思も目的も共有しません」

翠「意思も目的も共有していないのに、やっていることは変わりません。そこにちがいがありますか?」

クラリス「……ええ。翠さん、彼女の気持ちは私が覚えています、ひけらかすことなど無きよう」

翠「わかりました、もったいないと思いますが」

クラリス「……同意しかねます」

翠「私も家に戻ります。シスター、おやすみなさい」

クラリス「おやすみなさいませ」

クラリス「……」

クラリス「もしも、私の声をお聞きになっているなら……天に召された御霊が平安であらんことを」
216 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:55:55.62 ID:JCUGa/wA0
105

幕間

事件当日

椋鳥山荘・旧館

風香「……!」

クラリス「お静かに……まだ息があります」

風香「智絵里ちゃん、さ、刺されて……早く人を呼ばないと」

智絵里「ううん……お父さんがね……言って……」

風香「しゃべっちゃダメです……お願い」

智絵里「怨みは……強い人が飲み込んで……止めないと……」

風香「智絵里ちゃん話せる傷じゃないよ、やめて、お願い」

智絵里「加奈ちゃん……守ってあげて」

クラリス「緒方さんは、赦すのですか。怨むことなく」

智絵里「風香ちゃん、ごめんなさい……」

風香「どうして、謝って……」

智絵里「お父さん……少し、早いかもしれないけど……そっちに……」

風香「智絵里ちゃん……智絵里ちゃん!」

クラリス「……残念ですが」

風香「そんな……」

クラリス「この苦痛から解放されました。彼女の魂が安らかな場所に行けるよう祈ります」

風香「ごめんなさい……智絵里ちゃんの気持ちは受け取ったから……」

クラリス「浅野さんはどうされますか」

風香「犯人は加奈ちゃんなんです……か」

クラリス「私も彼女の姿を見ました」

風香「私もです……智絵里ちゃんもそう言って……」

クラリス「……」

風香「……」

クラリス「どうされますか」

風香「シスター、私は決めました」

クラリス「今井さんを守りますか」

風香「……はい。協力してください」

クラリス「ご協力いたします。私からもお伝えしたいことがあります」

風香「加奈ちゃんのこと……ですか」

クラリス「はい。秘密にしていて申し訳ありません」

風香「教えてください……全て」

クラリス「あなたと緒方さんの意思を尊重いたします、怨みを断ち切るその強さを」

風香「ごめんね……智絵里ちゃん。私、あなたみたいに強くなるから……」

クラリス「浅野さん、何かご用意するものはありますか」

風香「それなら、ペンと紙をくれますか。私の出来ること……だから」

幕間 了
217 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 22:57:48.72 ID:JCUGa/wA0
106

翌日

高峯ビル最寄りのバス停

真奈美「ここで良かったのか?」

のあ「別のバス停はないはずだけれど」

真奈美「いいや、迎えに行かなくて良かったのかと」

のあ「まゆの意思で行ったのだから、自分で帰ってくるべきよ」

真奈美「自分の意思か」

のあ「帰らせてはダメなの。帰ってきてもらいたいだけ」

真奈美「のあがそれで満足するなら、私も反省はしない」

のあ「先生が迎えに行っているから、ここまで来るのには問題ないでしょう」

真奈美「ああ。でも、バスの時間には少し早かったな」

のあ「そうかしら」

真奈美「待ちきれないか」

のあ「待つのは苦手ね。でも、まだわからないわ」

真奈美「何がわからないんだ?」

のあ「どうやって、まゆを出迎えればいいのかしら」

真奈美「そうだな、ドラマなら平手打ちかな」

のあ「暴力的ね」

真奈美「心配の裏返しさ」

のあ「ご提案ありがとう、採用しないわ」

真奈美「私もしてもらおうとは思っていない。のあが感じる通りにすればいい」

のあ「……ええ。まゆが早く戻れてよかったわ」

真奈美「そうだな」

のあ「みくにゃんのライブも楽しめなくなるところだった」

真奈美「なんだ、そんな心配をしてたのか?」

のあ「悪いかしら」

真奈美「残念だが、それは嘘だ。そんな心配をしている余裕はなさそうだった」

のあ「……お見通しね」

真奈美「私はのあの助手だからな」
218 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 23:00:20.09 ID:JCUGa/wA0
のあ「留美も同じ気持ちだったでしょう。そんな心配などせずに、尽力してくれたわ」

真奈美「ああ。証拠も自供も揃った」

のあ「事件は解決したわ、一番思い罰も今井加奈は既に受けた」

真奈美「浅野風香が彼女に罰を与えた」

のあ「ええ」

真奈美「後は法の裁きを受けることになる。失った人間は戻らない」

のあ「それでも……彼女達なら乗り越えられるわ」

真奈美「ああ。だけど、ひとつ気になるな」

のあ「何かしら」

真奈美「どうして、そこで和久井巡査部長の名前が出てくる?」

のあ「何故、って」

真奈美「ん、まさか同じ心配とは、前川君のライブのことか?」

のあ「そうだけれど。隣で悩みを抱えた顔をしなくて済んだわ」

真奈美「一緒に行くのか、それは聞いてなかった」

のあ「変かしら」

真奈美「いや、今思えば当然ありうることなんだが、一緒にプライベートを過ごしてるイメージはなかった」

のあ「そうかしら。一時期道場でも一緒だったから、夕食相手だったことも多いわ」

真奈美「そうだったのか」

のあ「いつも一緒にいなくてもいいけれど、必要な時にいてくれる腐れ縁よ」

真奈美「どんな縁でも大切なものだ」

のあ「そうね。ネコアレルギーの私に現れたメシアなのとか言いながらみくにゃんを愛していても、大切な友人よ」

真奈美「本当にそんなこと言っていたのか?」

のあ「私は嘘をつかないわ」

真奈美「つい先ほど嘘をついていたばっかりだろうに」

のあ「バスが着いたわよ」
219 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 23:01:39.18 ID:JCUGa/wA0
芳乃「よいしょ、高峯ー、お待たせしましてー」

のあ「先生、ありがとうございます」

まゆ「あっ……」

のあ「……」

芳乃「木場様、お荷物をお預けしてもー?」

真奈美「ああ」

のあ「まゆ」

まゆ「のあさん……ごめんなさい。嘘をついて、心配をかけて」

のあ「平手打ちかしら、やっぱり」

芳乃「乙女の柔肌を叩くのはオススメしないのでしてー」

まゆ「……っ」
220 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 23:02:24.49 ID:JCUGa/wA0
真奈美「まぁ、のあはそんなことはしないよな」

芳乃「佐久間様のほっぺたは柔らかそうに思えましてー」

まゆ「のあさん、くすぐったい……」

のあ「寂しくて死んでしまいそうだったわ。あなたを失うと思うと、また家族を失うと思うと」

真奈美「……」

のあ「でも……帰ってきてくれたわ。まゆ、ここから出ていく時は幸福な別れの時以外は許さないわ。いいわね」

まゆ「……はい」

のあ「もう一度だけ約束させて。幸せになることから逃げてはダメよ、私があなたに望むのはそれだけなの」

まゆ「約束します……だから、その……」

のあ「なにかしら?」

まゆ「また……一緒に暮らしてもいいですか」

のあ「まゆ……」

まゆ「あっ……」

真奈美「おや。それが本心か、さっさと抱きしめてしまえばいいのに」

芳乃「姉か母のようでありましてー」

のあ「おかえりなさい……まゆ」

まゆ「ただいま帰りました……のあさん」

EDテーマ

探し人
歌 前川みく


製作 tv〇sahi
221 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 23:04:06.77 ID:JCUGa/wA0
次回予告

真奈美「……いくら何でも遅すぎる」

第9話
井村雪菜「高峯のあの事件簿・高峯のあの失踪」
に続く
222 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 23:05:30.13 ID:JCUGa/wA0
オマケ

撮影中の一幕・岡崎泰葉の悩み

のあ「泰葉……随分とプロデューサーと話しこんでいるわ」

真奈美「役作りに余念がない、流石だよ」

のあ「終わったようね」

真奈美「泰葉君、何を話していたんだい?」

泰葉「取り調べのシーンについて相談していたんです」

のあ「見せ場……あなたの力量が問われる場面」

泰葉「演技の演技をするのと、演技が出来なくなった演技をするので、アドバイスを貰いました」

真奈美「聞いてるだけで混乱しそうだ」

泰葉「友達思いで、大切な場所を見つけた生徒の役なんです。今の私なら、きっと良い演技ができます」

のあ「あなたになら出来るわ……私が保障する」

真奈美「私も保証しよう」

洋子「……」ドヤァ

のあ「何故……洋子が誇らしげなのかしら」

真奈美「今回は出番もないはずなんだが」
223 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 23:06:51.81 ID:JCUGa/wA0
P達の視聴後

CuP「まゆ……なんて優しい子なんだ。犯人役にしようなんて考える人間の品性を疑わざるを得ない……」

PaP「そう言われてるが」

CoP「サプライズになりますし、いいかもしれません」

PaP「反省はしてないな」

CuP「のあさんも一度でも疑うなんて……信じられません」

PaP「ドラマの中での話だからな?」

CuP「つまり、ボクがまゆと一緒に住めばいいのでは……?」

CoP「そろそろ隔離しますか」

PaP「離し過ぎると危ない。適切な距離が大切だ」

CoP「どうしてこうなんでしょうか、仕事は出来るのに」

おしまい
224 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 23:09:34.81 ID:JCUGa/wA0
あとがき

お待たせしました。
遂に1話で10万字越を果たしたので、読んでいただきありがとうございます。

リメイク前と同じタイトル回収ものです。違いは『 』。
今回はあらすじをちゃんと守りました。

次回は、
井村雪菜「高峯のあの事件簿・高峯のあの失踪」
です。
真奈美回です。

それでは。
225 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/02/21(木) 23:11:42.00 ID:JCUGa/wA0
シリーズリスト・公開前のものは全て仮題

高峯のあの事件簿

第1話・ユメの芸術
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472563544/
第2話・毒花
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475582733/
第3話・爆弾魔の本心
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480507649/
第4話・コイン、ロッカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/
第5話・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503557618/
第6話・プレゼント/フォー/ユー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513078349/
第7話・都心迷宮
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521022496/
第8話・『佐久間まゆの殺人』
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1550664151/
第9話・高峯のあの失踪
第10話・星とアネモネ
最終話・銀弾の射手(完)

更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 02:36:52.47 ID:eMhp1yqlo
すげえ……こりゃ時間かかるわけですわ
じっくり読ませていただかねば
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2019/02/22(金) 12:40:46.54 ID:zL3LfAcV0
おつです
次回も楽しみにしてます
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [age]:2020/11/11(水) 20:34:46.03 ID:rLqnC/tvO
殺人事件題材/推理ゲーム
『マーダーミステリー』
オーイシ×加藤のピザラジオ 第41回SP
(21:00〜放送開始)


https://youtube.com/watch?v=4kg98SFvm4o

プレイヤー
オーイシマサヨシ、加藤純一
岩渕紗貴(Moshimo Vo.G)、Gero
佳苗るか、春日望(Cv.キズナアイ)
鈴木もぐら(空気階段)
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