何も無いロレンシア

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56 : ◆SbXzuGhlwpak [sage]:2019/06/01(土) 03:05:35.29 ID:zJUkddjZ0
 サウザンドが踏み込みつつ蛇の処理をした、隙というにはあまりに小さな瞬間。ロレンシアはその隙間に強引に進み出た。

「阿呆がっ!!」

 突きを終えて戻る皆殺朱と、前に進むロレンシアが平行の動きをとるや否や、サウザンドの一括と共に薙ぎ払いが襲いかかった。

 横のスペースが無い廊下で槍による薙ぎ払いなど、できるはずがなかった。ロレンシアもそう思っていたことだろう。そこに上半身の捻りのみで行われる、理不尽な薙ぎ払いが襲いかかったのだ。咄嗟に腕を挟み込んだロレンシアだが、その体が軽々と横に吹き飛ばされる。

 そのロレンシアのあまりに勢いの良い吹き飛び方に、サウザンドは己に失策に気づき、ア―ソンは口笛を吹く。

 ロレンシアは壁に叩きつけられるのではなく、先の攻防でドアが破壊されていた部屋の中に転がり込む。受けた薙ぎ払いの威力に逆らうことなく、むしろ自身の脚力すら合わせた吹き飛び方はすさまじいものだった。剣を手放し、吹き飛ぶ最中に椅子を掴むが勢いは落ちない。ついには窓を割って外に飛び出かけたところで、窓枠に手をかけてようやっと止まった。

 窓を破った衝撃に加えて、薙ぎ払いを受けた右腕は骨にヒビが入っていたが、ロレンシアはその顔に何ら痛痒を浮かばせることなく、一階の屋根を足場に起き上がる。そして左手で握ったままだった椅子を空へと放り投げつつ、下屋を走って二つ隣の部屋――サウザンドが立つ隣の部屋――に窓を破り押し入った。

 前からではなく、壁が邪魔をして槍を扱いづらい横から攻めようとするロレンシアの狙いは、サウザンドもわかっていた。今の場所に留まることがまずいことも。

 しかし後ろに下がれば壁があり、槍を突こうものなら石突がぶつかってしまう。前に進もうにも、させじとア―ソンが蛇たちの狙いをサウザンドのみに絞り圧力をかける。かといって階段に下がれば、これから横の部屋から飛び出てくるであろうロレンシアに頭上をとられる。

 ならばと斜め後ろに一歩下がり、階段のスペースを利用してドア越しにロレンシアを瞬刺殺で狙うことにした。瞬刺殺の威力ならばドア越しであっても人を容易に殺せる。ロレンシアの正確な場所こそわからないが、ロレンシア独特の不吉な気配がドアに近づいた瞬間を狙いさえすればいい。一方で槍の穂先が見えないロレンシアが受け流すことはほぼ不可能であった。

 ロレンシアが一気に部屋を駆け抜ける気配を、サウザンドは感じ取る。呪われた気配が部屋の半ばを過ぎ、必殺を確信して瞬刺殺を放とうとした直前のこと。

 頭上で屋根が壊れた音がした。

 サウザンドは知らない。それがロレンシアにより放物線を描いていた椅子の衝突音であることを。ロレンシアの気配こそドア向こうの部屋からするが、頭上から屋根を砕いて強襲してくる姿を一瞬とはいえ思い浮かべてしまった。その一瞬は、同格のロレンシア相手にあまりに致命的なミスだった。

 部屋を駆け抜けたロレンシアは、力の限りドアを蹴破った。もはや両者の距離は、槍の距離ではなかった。しかしそれでもサウザンドは皆殺朱を最も短い長さへと変化させ、ドアを突き破った存在へと標準を定める。

 しかしサウザンドの目の前は真っ黒だった。

「貴様……ッ!?」
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