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【ガルパン】 不死の感情
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609 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 22:50:52.14 ID:E1fl5AjpO
〜
ドイツ陸軍暗黒の日
エーリヒ・ルーデンドルフ
アミアンの戦いを受けた発言
〜
610 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 22:57:35.51 ID:E1fl5AjpO
「最後の一輌、IV号発見しました!5番通り52番地のビル陰に潜んでいます!進行方向は南!6番通りに向かう道から挟み撃ちにできます!」
話は入ってきた。黒森峰にとってもかけがえのない人だったと思うし、私が指揮する上で支えになる方の一人だった
「……報告に感謝する」
しかし悲しむ時間など無い。仮に悲しんでいたとしても、何やってんですか、と笑い飛ばされそうなのもあるが。すぐに観測隊からの報告が入る。大洗はこれ一輌のみ。これさえ潰せば、勝ちだ
「よし、四輌全車で包囲するわ!国末と江賀は5番通りから、小梅は私と合流して6番通りに向かう。IV号を確実に仕留めなさい!」
「ヤヴォール!」
三輌の車長からのはっきりとした返事を確認し、車輌を進める。そして合流した小梅車に先行させ、6番通りに向かう
その時私の頭は、一時的にそのIV号で支配された。だからこそ考慮すべき存在が頭から欠けていた。ティーガーIIが悠然と走り、それの交尾がとある路地裏の前を過ぎた時、道の真ん中に飛び出した者らがいた
「来た!」
彼女らの手には、パンツァーファウストらしくはない何かが握られている。駆け足でティーガーIIの後ろに回り込む
「見た!」
右腕の動きが若干ぎこちないが、そんな事は気にせず、ただ目標に走り寄っている
「勝ったッ??」
それを合図に二つの吸着地雷をティーガーIIの背面に重い金属音と共にくっつけ、紐を引く。そしてその勢いのまま走り去ろうとした
「は、早く!早く撃ちなさい!」
「は、はい!」
通信手が7.92ミリ機銃で二人を狙う。銃弾を食らった彼女らは焼いたゴマの如く跳ね回り、地面に斃れた
だが判断は遅れていた。すぐ後に小梅のティーガーIIの背後は大きな爆発音と共に吹っ飛ばされた。車輌からは火の手が上がり、黒い煙を登らせる
611 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:01:53.31 ID:E1fl5AjpO
「……念のためもう少し撃っておきますか?」
「轢きなさい。息の根を止めるなら」
操縦手にそう指示したところ、流石に嫌悪感があるらしく、若干怯えた目でこちらを見てきた
「しかし、履帯に肉片が挟まると……」
「戦車道は人を苦しめるためにあるわけじゃないわ。早めに、そして確実にとどめを刺すのも礼儀よ」
「……はっ」
車輌は二つの血しぶきの集団を作った上で小梅のティーガーIIの脇を通り、隣り合った状態で一回車輌を止めさせる
「小梅、乗員は無事?」
「何とか」
戦車の上で炎に消火器を向ける小梅が答える。幸いエンジン部のみの損傷で、車内そのものには影響なさそうだ
「ご苦労だったわ。後は我々に任せて脱出しなさい。この先の行動は任せるわ」
「はい。エリカさんたちも健闘を祈ります」
走り去った後ろには赤い線が一本に纏まってついてきている。その奥、起点には履帯に捻り潰された二人の残忍な死体しか残っていなかった
私は正しい
612 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:02:29.42 ID:E1fl5AjpO
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
鈴木 貴子
黒森峰 銃殺 履帯に轢かれた跡あり 死体損壊激しく致命傷は不明 即死
野上 武子
黒森峰 銃殺 履帯に轢かれた跡あり 死体損壊激しく致命傷は不明 即死
613 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:04:58.87 ID:E1fl5AjpO
私がそれを見つけた時、IV号は道の片側に身を寄せ、敵が来るのを待っていた。ここに来たのは先ほどの場所にはもういられないということと、敵がこちらに誘き出される可能性が高い、というものだ
かといってパンツァーファウストがあるわけでもないし、他に直接装甲に風穴を開けてやれる兵器も持ち合わせていない。なら車長の頭でも狙ってやろうか、とささやかな期待を寄せていた。今ある唯一の銃、Stg44の銃身を強めに握り直す
それにしても……砲声、ロケット砲、サンダースとプラウダの参戦、これらが指すのは何か。まだ確証は持てないが、予想はできる。ではその状況下で我々の勝利に必要なのは何か。こちらの残り車輌はあって2輌。場合によってはこの1輌だけ、かもしれぬ。いや、戦力差的にその方が考えやすい
相手は何輌だ?5輌以下ではある。そうなると他の人の活躍を考えても……3から5輌かな。数の差、質の差は……未だ圧倒的か。やはり猟兵によって敵の数を減らしていくしかない
そして近くの廃墟と化した建物の陰に潜んでいた時、奥から戦車の履帯の音。IV号は動いていない。となると……やはり、パンター。おまけにキューポラから頭を出していない。これじゃ車長を撃てないじゃないか。お前らは生真面目に頭を出してりゃ良かったんだが
そして偵察はやはり仕事をしていたらしい。ギリギリからわざわざ側面を晒さぬよう出てきて、正面を完全にこちらに向けつつ進んできている
IV号が足元に狙いを定める。放たれた弾は履帯ではなくその少し上の履帯のカバーに当たり、弾かれる。それで前のめりになった的車輌から撃たれた弾もまた、IV号の足元にめり込んだ。土砂がこちらにも降りかかる
下がるIV号をパンターは追撃しようとする。そしてその車輌が十字路を超えて更にIV号と私に迫ろうとする
614 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:12:34.80 ID:E1fl5AjpO
その時、視界の右側から二本の筋がパンター目指して流れた。その内一本がパンターの側面に当たり、黒い煙が砲塔から砲身までまとわりついた
「おっ」
顔を出し左に向けると、破壊され中が見える建物の一番上で、愉快げに手を振っている人を視認できる。茶髪ロングである
「沙織さん……」
その隣に棒を構えたままの優花里さんを認めたのとほぼ同じくして、IV号はさらに素早く車輌を後退させ始めた。パンターは車輌丸ごと燃え続け、音と煙をあたりに撒き散らしている
だが動かない。彼女らは私を見つけたらしく、何を言っているのか、どんな表情をしているのかは分からないが、身ぶりを交え何かを伝えようとしている。しかしそんなことする暇はない。もう既に彼女らの立ち位置はバレているし、そして今まさに撃破した戦車の裏から、ティーガーIが砲塔をそちらに向けたまま接近しているのだ
このまま彼女たちを失うのは今後の戦略的に損失が大きい。いや、それ以上に私が、私が彼女らを失いたくない
逃げろ!その場を離れろ!早く……持ち物なんざ捨ててどこかに行け!
今から近づいても間に合わない。せめて逃がそう。我を忘れんばかりに声を届けようとした。しかしそれは燃え盛るパンターの音と先程から増してきた他の場所からの砲撃音に邪魔される。死んでもなお邪魔するかこのやろう!
そして最早逃げる時間もなくなり、間も無くその砲塔のアハトアハトが建物の最上階狙って砲弾を撃ち込んだ。その建物の吹っ飛ばされる様子からは思わず目を逸らした
後に残るは、崩れる瓦礫の音と煙の増加。そして戦車は隅にいた私の前を気づくことなく通り過ぎていった
そして次の角を戦車が曲がると、やっと私はその建物から向こう側へと飛び出せた
615 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:13:08.33 ID:SASSSKiG0
「……そう。国末のことは残念だけど、猟兵が狩れたなら良しよ。6番通りの裏に回り込みなさい。私たちが勝つわ」
「ヤ、ヤボール」
残りは二輌。本当に数は減りに減ってしまった。だが相手はあと一輌。これだけだ。これさえ倒せば……終わる。早く……早く終わらせなくては
「あの、逸見曹長……先程からここ以外でも戦闘が勃発しているような音がしているのですが……宜しいのですか?」
「今は試合に集中しなさい。話によるとここら辺よね。警戒は緩めないでいなさい。小隊からの続報は?」
「今はまだ……」
「早くさせなさ……ん?」
正面の先で何かが動いた。いや、出てきた。あちこちから黒く上がる煙、破壊されたコンクリートやレンガの建物、その中に確実に混じっていて実に、本当に素晴らしいものがいた。殺れる、そう確信した
??「ようやく見つけたわ。最後の一匹よ」
待ち侘びたその時に少し胸が高ぶる
「では、終わらせましょう」
そのティーガーIIのアハトアハトに砲撃を命じた。この試合を終わらす為
616 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:15:49.92 ID:SASSSKiG0
向かい合ったティーガーII。砲塔はこちら。こちらは停止状態。絶望以外の何を捉えればいいのだろう。絶望の一部を一瞬で払い、とっさに麻子は両方のレバーをそれぞれ逆に力を入れて動かし、時計回りに超信地旋回を開始させた。足回りへの被害など考える暇は無かった
しかしそれは命中を避けるものでは無かった。ティーガーIIから撃たれた88ミリ砲弾はIV号の砲塔右後部に命中した。麻子は反動で運転機器に額を強く打ち付け、背中にも大きな痛みを感じた
頭を打ち付けたせいか少しばかり気を失っていたが、間も無く全身を痛みに襲われながら、何とか運転機器から頭を放す
「ううっ……背中をハンマーでぶん殴られたみたいだ……」
何が起きたかは分かっている。痛みが特に強い背中に手を当てると、生暖かい液体が手に着く。戻してみると右手の平全体は完全に、一部の隙間もなく紅に染まっていた。有能なだけに麻子は分かってしまった
焦げ臭い匂いがする。自分でさえこれなのだ。背後が怖い
恐る恐る後ろを振り向くと、空が見える。青い。しかし、赤い
「五十鈴……さん……」
もう砲手五十鈴華の顔は写真か想像でしか見ることはできない。もう、砲手席に腰掛けたその身体は目も、鼻も、口も、耳も、長い髪も有していない。両手を降ろした手と胴と足だけがそこにはあった
「クッ」
涙を堪えつつレバーに力を入れて、再び車輌を前に動かした。幸い、動きからしてエンジンに大きな支障は無いらしい
逃げなきゃ。とにかく、ここから。私たちは黒森峰には屈しない。西住さんを生かそうとする限り。表情も声もないが、きっと五十鈴さんも同調してくれるだろう
外では何かが起こっている。エンジン音に混じって続く砲撃の音。何だ。何が起こっている。そして、何ができる?
617 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:21:10.69 ID:SASSSKiG0
「命中!」
「よし!ジャッジのコールは!」
車内で思わず叫んだ。しかし外から笛の鳴る音はない。IV号には小さいが火の手が上がっている。タダではすんでいないだろう。だったらまだ中で生きているのか?
「完全な撃破が必要なようね。もう一度よく狙って、止めを刺しなさい」
「大洗IV号、後退していきます!」
前を見ると確かにIV号は遠ざかっている。それなりの速度も出ているようだ
「クソッ、動けるの?追いなさい!江賀にも連絡!挟み撃ちにして確実に倒すわよ!」
「ヤボール!」
しかしその動きは一つの声で制止を迎えることになった
「エリカ隊長!学園より緊急無電です!繋ぎます!」
車輌を発進させる前に邪魔が入る。あと一歩のところなのにタイミングが悪すぎる。だが学園からの命令だ。取り敢えず出発を中止し、無線を繋がせる
「こちら逸見です」
「こちら狩出だ」
「き、教官……どうなさいましたか。もう直ぐ大洗は倒せますが……」
少し、ヘッドホンは音を伝えてこなかった。そしてやっと聞こえた言葉は、実に感情のない声にのせられていた
618 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:21:53.38 ID:SASSSKiG0
「……学園都市フリードリヒ地区にプラウダの大部隊が迫っている。各部隊現在の戦況を省みず、これの防戦に参加せよ」
「なっ!」
馬鹿な!ここで、だと……
考えも纏まらぬうちから反駁を始める
「お待ちください、教官!大洗は現在中破車輌が一輌だけです。それを撃破すれば試合は終了します!戦闘行為は禁止され、宣戦布告によるものでないならプラウダの侵攻は止まるはずです!宣戦布告されたものなら防衛隊青年大隊が対応できるはず!大洗を撃破する余裕はあります!
いずれにせよこちらの勝利は目前です!あと5分ください。確実に大洗を撃破します!」
「早急に来い。そっちには今何輌いるんだ?」
「ティーガーI、ティーガーIIがそれぞれ一輌のみです。そちらに一輌だけならまだしも、両方送るなんて出来ません!」
先ほどまではすぐに返答があったのに、今度はやけに時間が空いた
「……教官?」
「貴様何をやっている??残り二輌だと??我が校の栄光ある戦車隊を壊滅させられただと??今年あれの回復に我々はどれ程の予算をかけたのか、そしてこれまでそれを守るために何人の命が散っていったのか、貴様には分からんのか??」
「しかし空爆と猟兵相手では……」
「言い訳なんぞ聞きたくない??兎に角、貴様らもこちらに来い??」
いつもは落ち着いている教官らしくないほどの罵声が、私の耳と心臓に突き刺さる
「……誠に申し訳ございません」
619 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:23:05.24 ID:SASSSKiG0
undefined
620 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:23:36.88 ID:SASSSKiG0
「……すまない、取り乱してしまったな。兎に角、現在SS装甲師団学生大隊、学園都市防衛隊学生大隊を攻め込んできたプラウダに対して送ったが、最早一部を除き壊滅、突破されている。空爆とプラウダのミサイルで結構やられたからな、数が足らん
学園長の命令で非軍属も使ってはいるが、正直使い物にならん。ただ敵の戦車を前に死んでいくだけだ
それに都市防衛の為のアハトアハト高射砲団も空爆で壊滅状態だ。ルフトバッフェもサンダースの連合航空隊に有明海で縛り付けられている。撤退中の敵爆撃機の追撃すらできん」
ルフトバッフェが来れなかったのはそのせいか……あの拝金主義の軍団ふぜいが……
「現在は学園に残ったSS歩兵師団の一部が学園と学園官邸周辺で辛うじて防衛しているに過ぎない。士気も下がる一方だ
その為に君達が防衛に参加するということが必要なのだ。士気を上げ、プラウダに一矢報いる為にも」
「しかし学生大隊しか出してないのならば宣戦布告はされてないと愚考します。ならば大洗を撃破すれば、試合は……」
「逸見君、確かにプラウダとサンダース、ポンプルは戦車道大会における大洗の同盟としてこの戦いに参加している。しかしそれは名目だ。プラウダ外務局とサンダース校外交流担当課から、降伏に応じない時は試合終了次第宣戦すると通告を受けている
全く敵ながらよくやってくれるわ。こちらは学生部隊のみなら数で勝る二校には太刀打ちできん。君たちがその状況なら尚更な
情報によると緑川河口周辺にサンダースの戦車部隊が上陸しているらしい。宇土も向こうに寝返った。奴らは確実に黒森峰を崩壊させるつもりだ」
黒森峰の……崩壊。私の愛する学園の
その言葉はこの先の私の口をしばらく封じられるほどの重りだった
621 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:24:06.27 ID:SASSSKiG0
「試合が終わったら、二校の侵攻に歯止めが効かなくなる。つまり大洗を生かして試合はできるだけ抵抗した上で、プラウダに黒森峰中心部を陥落させた時に終わらせる。ルールに戦闘体制の崩壊を勝利条件とすると決められているからな
サンダースには空以外参戦させん。それが学園都市の被害を最小にしつつ有利に講和を結ぶ道だ。講和さえなれば、あとはやりようだ。相手が二人もいるしな
とにかく、これは学園長命令でもある。もう一度言う。各部隊戦況を省みず防戦に参加せよ」
返事を聞くこと無く無線は切られた。急に告げられた事実。もう、学園は負けるしかないのか……こんなに離れた場所で、大洗なんて雑魚軍団に梃子摺りに梃子摺った挙句
私があっという間に大洗を殲滅していれば!あの極寒の戦場でプラウダの停戦なんざ無視して殲滅していれば!いや、そもそも私が、私がもっと強かったら……
椅子の座面を拳で殴り、歯の噛み合う限り全てに力を込める
「……学園長より命令。追撃は中止よ。学園官邸に向かいなさい。江賀にも同様の連絡を。IV号は捨て置きなさい」
照準器の向こうからすでにIV号は消えていた
622 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/10(日) 23:26:58.94 ID:SASSSKiG0
〜
広報部より報告
黒森峰女学園の動向
同校からの連絡によりますと
「全てを賭して最後まで」
を
「プラウダの猛攻」
において選択したとのことです
〜
今日もここまで
623 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:04:08.18 ID:JuXJT1NJO
もうすぐ始めます
624 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:05:58.06 ID:JuXJT1NJO
〜
馬鹿にも様々な種類の馬鹿があって、利口なのも馬鹿のうちのあまり感心しない一種であるようです
トーマス・マン
〜
625 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:07:18.77 ID:JuXJT1NJO
建物の瓦礫の中に踏み込んで行く。ここで偵察に見つかった時など脳みそから抜け落ちていた
「優花里さん、沙織さん!」
建物の中ほどに撃ち込まれた砲弾は建物を足元から完全に崩壊させていた。未だバランスを崩し、崩れる瓦礫の音が聞こえる。埃が舞い、熱気は私の息から白を奪う
すぐに一人を見つけた。完全にコンクリートの大きな塊の下敷きとなり、辺りに血飛沫をばら撒いて、手足の先だけを覗かせている。最早生死を問うまでもない。その様子に今まで幾つも死体を見てきた私も、思わず顔をしかめ目をそらす
そして、もう一人も土煙の向こうにいた。幸いコンクリートの下敷きとはなってないが、埃が体に敷き積もり、腹の辺りからの出血が凄まじい
「優花里さん!」
優花里さんに瓦礫に気をつけながら近づく。声をかけるが、返事はない。この出血、そして内臓が見え隠れするほどの腹部の大きな傷。こう判断するに時間は必要ない。もう、助からない
「しっかりしなさい。大丈夫ですか!モルヒネは??渡したモルヒネはどこですか??」
だがそれでも処置は行う。偵察に見つかってもそれはその時。今は、少しでも長くこの人を生かす道を……
裂けた腹に見えかけた臓物を戻し、服の上から素早く持っていた白い布を巻き付け縛る。服の左上のポケットに入っていたモルヒネ注射のケースを見つけ、右の二の腕上方に袖をまくり上げてから打つ
優花里さんは先ほどから返事がわりの呻き声をあげるようになったが、とにかく体外への出血はそれなりに抑えられたはずだ。ただ体内に溜まっていくだけだが。こればっかりは血管を結んで止めるなりしなければ、止めようがない。つまりいろいろやったが外見がまともになっただけだ
626 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:09:53.51 ID:JuXJT1NJO
??一通りの処置が終わると、優花里さんを仰向けにして外に目と耳を転じる。試合が行われているにしては多すぎる砲声、銃撃音。北西の学園都市中心部から爆撃後より多く登る煙。そして双眼鏡で道の隙間を見た時に遠くに見えたT34/85。それで現状を決定する情報は揃った
「……プラウダの本格参戦……いつの間にか、試合の目的が黒森峰を倒すことに変わっているようです」
双眼鏡を下ろして優花里さんの足元に膝をつく
「優花里さん……私は行かなくてはなりません。このままプラウダが黒森峰を攻め落としたら、決勝の最大の勲章者は彼らだ、という印象を与えてしまいます。皆が命を懸けた成果をプラウダが持っていくのは、何としても避けなくてはなりません。我々の勝利のために」
優花里さんは最期まで生き続けようと、肺だけで懸命に深呼吸を続けている。意識ははっきりしているようだ
「……フフ……凄いですな……」
しかし、大丈夫な訳では全くもってない。声も力無い
「ここまで絶望的な状況でも……勝利のみを見据えておられる……い……今も……実に頼もしい西住殿ですね……」
やっと、優花里さんが声を絞り出す。弱い。血が、傷が、そして辛うじて作り出した微笑みがジリジリと最後の力を削ぎ落としていっている
627 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:11:16.34 ID:JuXJT1NJO
「頼もしいだなんて……臆病なだけです。臆病だからバカにならないと動けないんです」
なぜ私は今こうして『西住』であろうとしているのか。あの憎むほど嫌っていた西住の道に沿うように
簡単だ
「バカだから、こうして目の前で、私を支えてくれた友達が次々死んでいるのに、まだ試合のことを考えているんです。どうすれば勝てるのか、ただそれだけを考えてしまうんです」
吐く息が白く変わる。優花里さんの先程の笑いも消える
「小さい頃からお母さんに戦車道をやらされている内に自分が極力傷つかないコツを覚えました。意味を考えない、何も想像しない、バカになってやるべきことをただやる、やり続ける……とにかく楽になりたかったんです」
空には何本も煙が消えてゆく。上着の上の幾つかのボタンを外し、左胸の方をシャツにする。そこにそっと指を触れる
「私のここには爆弾が埋まっているんですよ。バカになった報いです。嫌な事はすぐに押し込んで蓋をして、もう見るのも怖くて開けられない爆弾です。もし破裂してしまったら……私にもわかりません」
全く恐ろしい想定だ。胸元から指を外し、二本の腕を力無く降ろし、首を振る
「頼もしいどころか自分の記憶から逃げ続けている、臆病なだけの人間です」
シャツの上に上着を戻すと、片手の指でさっさとボタンをはめる
628 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:11:50.11 ID:JuXJT1NJO
シャツの上に上着を戻すと、片手の指でさっさとボタンをはめる
「さあ、私の最後のつまらない話はおしまいです。何ができるか分かりませんが、私も出発します」
ここまで来たら、この偽りを貫き通すしかない。彼女に対応する時間がない
優花里さんの手元に金属の塊と布を置く
「信号弾と白旗です。近くに人が来たらこれで助けを呼んでください」
荷物を纏めようとすると、目の先にあるものが目に入った。鼻のフレームが思い切りひしゃげた眼鏡だ。レンズも辛うじてフレームにくっついているという感じだ
死体をどうにもできない以上、数少ない遺品になる。それを手に取り、ポケットにしまおうとすると、連鎖的に重い金属音が耳に入る。見ると優花里さんの手元に置いていた信号弾用の銃が、少し離れた場所に移動している
「こんなものに……用はないであります……自分も……一緒に行きます」
深呼吸の合間に口を開いてきた
「行くって……無理です!動けるわけないじゃないですか!」
しかしその通りなのだ。腹筋繊維を一本残らず引き千切られた彼女は、上半身を起こす事も出来ない。動く、ましてやここから移動するなんて出来るはずがない。ここから彼女を移動させるとなると……手段はただ一つ
「大丈夫であります……お腹の痛みは感じなくなりました。連れて行ってください……お願いです……優勝のために……と死んだみんなのためにも……西住殿と一緒に……大洗の優勝を見届けるのであります……」
腕を伸ばし、涙を流して優花里さんは懇願してくる。どうする。そもそも彼女は置いて行くつもりだったし、彼女を運ぶ時間は今後のプランにとっては支障だ。だが……私にとって彼女は何であったか……
こう言えるほど効いてしまうモルヒネを少し厄介に思ったが、少し迷ったのち友としてその懇願に応える事にした。こうすれば賢くなれるのか、バカだから分からない
629 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:13:20.62 ID:JuXJT1NJO
優花里さんを腕を引っ張り上げて背負うと、若干でも瓦礫で塞がった道を選んで進む。まだ偵察はいる可能性が高い。そしてその時、今の私は戦えない
時折更に建物が崩れる音と、遠くから銃撃音、砲撃音を耳にしつつ、ある場所を目指す
「西住殿……やっと、遺書に書くような事以外にお話ししたい事が浮かんだので……今度は自分の話をしてもいいですか?」
「どうぞ」
この段階になって呼吸もある程度落ち着いてきたようだ。ある程度、でありまだ荒いが。死に目まで気を紛らわせるのに付き合おう
「酷い大会になってしまったけど、一つだけ良かった事があります……」
耳元に息がかかる
「ずっと……お母さんの言葉が、怖かったんです
『あなたが戦争で遊ぶのは、何も知らないからよ!本物の戦争を経験したお年寄りや、戦争で亡くなった方と遺族に、失礼だと思わないんですか!あなただって、実際に自分が撃たれたら、そんなの大嫌いになるに決まっています!』
って」
だろうな。私だって初めて会ったあの場で殴りかかろうかと思ったのだ。日常的に出会っていたら、キレていてもおかしくない。まぁ幸いそうはならなかったわけだが
「悔しかったけど、もしかしたら、そうなのかなと思って……言い返せませんでした。でも……こうなった今でも、ティーガーとパンター、7TPは、カッコよくて、好きであります」
だが、これが彼女なのだ。戦争を嫌っているかとその道具が好きか。それを別個に捉えている。そしてどれだけそれを取り巻く環境が悪化しても、芯は揺らがない。率直に言って羨ましい。いや、それができても楽しくない私にしたら単なる僻みか
「やっと、自信を持って、言えたのであります……」
荒れる呼吸の中、その合間を縫うように一言ずつ伝えてくる
630 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:14:02.38 ID:JuXJT1NJO
「家に帰ったら……作りかけだったティーガーI……黒森峰西住みほ仕様を完成させなきゃ……」
何か息を吐き切るようにゆっくりだが一気に言う。家に帰ったら、か……自分のことはよく分かっているはず。だからこそ、私はその話に乗り続ける
「あはは……そんなのがあるんですか。どのくらいの大きさなんですか?」
二歩進む。返事はない。背中が少し軽くなった気がする。少し歩調を落として二歩さらに進む。それでも返事はない。先ほどまでは少し待てば呼吸の中から返事があったというのに。背中から振動と温かみが薄くなる
更に歩調を落としてゆっくりとレンガの上を二歩進み終わった時、ただ流れ出る涙を堪えようと歯を食いしばっていた。しかしそれでも止める事は叶わず、目は水源となり続けた
人が死んでいて、そのために私が泣いている。あの時以来、か。だがあの時のように残忍さが極限を突破しているわけじゃない。だけど涙は止まらない
「トモダチ……」
きっと答えはそこだろう
631 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:16:40.73 ID:JuXJT1NJO
どこだろう、ここは
なんだか、あたたかい
まわりが、しろい
かべが、みえない
おかしいな、わたしはさむいふゆのまちにいたはずなんだけど
「麻子……麻子や……」
だれかの、よぶこえ
いつも、きいていたこえ
「おばぁ……」
なぜ、おばぁがここにいるの
すがたを、みまちがえるはずがない
かくじつに、おばぁだ
ここは、どこ
どこだ
「病気……病院はいいの?」
「いいもんかね。だからここにいるんだろう」
よくないから、ここにいる?
「全くおまえの親もそうだが、おまえもそんな若くしてこんなとこに来て。親不孝者が」
ああそうか
??ここは……
『麻子さん、麻子さん!』
そとから、こえがする
これも、いつもきいていたこえ
なんども、なんどもよんでる
「ホラ、お友達が呼んでなさる。川を渡るまでにまだ時間があるから最後の奉公をしてきな」
632 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:17:59.87 ID:JuXJT1NJO
優花里さんの遺体を背負ったまま、道中たまたまIV号を発見した。そのことは非常に幸運だったが、IV号はいつも見慣れた姿とはかけ離れたものだった。辛うじて黒森峰の追撃を逃れたのであろう。砲塔には大きな穴が開き、車輌は傷だらけだ。シンボルのアンコウのマークもかなり傷が入っている。しかもそれが路上のど真ん中で停車している
中にはまだ生きている人が、仲間がいるのか。背負ったまま駆け足で近づく
車体の上に登り、エンジンの上に一旦優花里さんを腰掛けさせ、その穴から車内を覗く。その中も、これまでの練習で見慣れた姿ではなかった。車内には血痕が一面に散らばり、砲手席にいなければ華さんとは分からない遺体、その奥に操縦席の計器に身体を預けた麻子さんがいる。二人ともピクリとも動かない
「麻子さん生きてますか!麻子さん!」
そのうち生きている可能性がある方に向け、声を張り上げる。何度かそれを繰り返し半ば諦めかけていたところで呼びかけが通じたのか、計器から頭を少し浮かせた麻子さんが、額から太い血の筋を作りながらこちらを振り向く。戦車服の背中の部分は大きく黒ずんでいる。私の袖とは色が完全に別物だ
出血多量。背中と頭を足せば、相当量になるだろう
「ああ……お婆ぁ、なるほどね」
「凄い出血です。傷を見せてください!」
そう呼びかけながら、優花里さんの遺体を穴の周りの棘で傷つけないように注意して運び込むことに腐心している時点で、優先云々の問題でないことを私は示してしまっている。そしておそらく、その通りだ。
「いや……いい、モルヒネを打ってる。それより……行き先を言ってくれ」
予想通りの反応をして麻子さんは身を更に起こし、息を吸い込み椅子を調整して両手で操縦桿を強く、力強く握る
「早く……命の保っている内に。その為に戻ってきたんだ……」
633 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:19:30.84 ID:JuXJT1NJO
その言葉には有無を言わさない迫力と鋭さを持ち合わせていた。だがそれよりもある言葉が私をその場に留めさせる
戻ってきた。一体どこから?この出血じゃこの車内からは動けないはずだ。ましてやさっきのさっきまで気絶していたのだぞ?
暫く答えられずにいたが、向かうべき、実行すべき事を思い出す
「市街の中心……黒森峰女学園官邸までお願いします。」
「了解……」
634 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:21:47.72 ID:JuXJT1NJO
IV号は土煙を上げ、未だに順調なエンジン音を立てながら走り始めた。車内の私たちは無言で各々の作業をこなしている
麻子さんは操縦桿を握り、物見窓から前を注視しながら車輌をまっすぐ前に進める。目も霞んでゆくだろうに、その中でよくできるものだ
一方私は車内に置いてあった布で華さんを包んで、それを椅子の後ろで縛る。友人として死者にできる最低限のはなむけだ
「西住さん……」
視線は前に残しながら、麻子さんが話しを振ってきた
「どうしました?」
「撃たれたあと……黒森峰の追撃が、全く無かった……何が、起こってるんだ?あなたの予想でいい……教えて、くれないか……」
追撃がなかった、か。新たな情報にして、予想を補完するに十分なものだ
「どうやらプラウダがこの試合に参戦しているようです。こちら側で」
「ようです……ってことは、こちらに連絡も無しにか……」
「プラウダの真の目的は、おそらく黒森峰を崩壊させることでしょう。黒森峰もこれだけ損傷させたIV号を追撃させず、試合に出場しているメンバーまで呼び戻しているとなると、相当まずい状況だと思います」
「では……何故あなたはこれからわざわざそこに行くんだ?」
「大洗を、真に優勝させる為です」
「……出来るのか?この状況で……無線も繋がらんし……カバさんもやられたと見るべきだろうし……」
「分かりません。ですが、みんなの死を無駄にしないためにも、やれるだけのことはやります」
635 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:23:44.09 ID:JuXJT1NJO
「……分かった。だが……済まない……そろそろ私の気力が、限界に近づいているようだ……」
限界か……仕方ない。これだけ出血していながらここまで意識を保ってこれただけでも十分だ
「……分かりました。では、車庫みたいなところがあればそこに隠してください。これが撃破されたらおそらく負けです」
「了解……」
再び何も話さなくなり、近くの車庫にIV号を見事ワンテイクで入れた。やりきって安心したらしく、操縦桿から手を離し背もたれに身を委ね、息を吐く
「麻子さん……すみません」
「……どうした?」
言葉が溢れた。あの時心から頼まれたこと、それを裏切る結果を残さねばならない
「おばあちゃんのお見舞い、行けなくなっちゃって……」
「……いや、構わない……もう、会えたから……」
「えっ?」
理解が追いついていない。しかしその事を気にせず、麻子さんは話を続ける
636 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:24:53.07 ID:JuXJT1NJO
「……西住さん……あなたはあの世とか……神とか、を信じるか……」
急になんだろうか。あの世とか、神か……
顎に手をかけて少し考えるが、麻子さんには時間がない事を思い出す。すぐに返すしかない
「……私は、信じていません。というより、信じたくありません。だって神様がいるのなら、私にこんなに過酷な運命を着せるはずがないと思います。もしあの世があったら、私の立てた作戦のせいで死んだ皆さんに申し訳なくて、顔向けできません」
私は生き残ってしまう。この試合のみならず、これまでのみんなの命全てを踏み台にして。そんな人間が天国なんてものに行けるはずがない。なら、そんなもの無い。勝手な理由で唯物論者になってしまった方が楽だ。実に無責任なバカだな
呼吸は落ち着いているが、背中の染みは大きくなり、額の赤い筋は変わらず流れる。麻子さんは自分の身を更に背もたれに委ねる
「……残念だったな」
自嘲しようか、としたところで、麻子さんが力なく口角を上げた
「へっ?」
「あの世は……あるぞ。私は……そこでお婆ぁに会ってきた……みんなに、顔向け出来ないなら……出来るまで、こっちに……絶対……来るな……よ」
私の方に顔を向けた麻子さんは、さらに悪戯っぽく微笑んだ。それに返事をする間も無く、崩れるようにそのまま腕を垂らして、首が座らなくなった赤ん坊のような姿になってしまった
637 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:26:28.55 ID:JuXJT1NJO
「麻子さん!」
車長席から降りて彼女の元に向かう。しかし、その呼びかけにも、揺さぶりにも答えは、反応は無かった。もう一度彼女の名前を叫んで揺さぶるが、ただ首が振り子となっている、という結果しかやってこなかった
肩を掴んだ両手をそっと離して、まずは彼女を姿勢よく座り直らせる。隣の通信手の席に無線の計器に近い場所に、優花里さんの近くで拾った壊れたメガネを置いた
そして自分の居るべき場所に戻り、トンプソンの紐を肩に掛ける。それが終わると、ぐるりと車内を見回した
「麻子さん……華さん……優花里さん……沙織さん……」
一人一人の姿を見据えつつ、名前を呼んでいく。だがもちろん私の独り言になってしまう。一人、いや二人に関しては見える姿は想像でしかないのだ
「みんな、つい最近までごく普通の女の子だったのに、ここまでよく頑張ってくれました……黒森峰のSSにも劣らない素晴らしいチームでした」
ある持ち物を追加したのちにキューポラから身を出して、車輌から飛び降りて走り出す。
ありがとう、あんこうチーム。私が戦車道をやってきた中で、いやそれだけじゃなくても、本当に……ただ、最高だった
638 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:27:56.43 ID:JuXJT1NJO
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
武部 沙織
黒森峰 砲撃死 砲撃による建物崩壊による圧死 即死
五十鈴 華
黒森峰 砲撃死 頭部損傷による脳死 即死
秋山 優花里
黒森峰 砲撃死 腹部損失による失血死 負傷後10分ほど生存していたと思われる
冷泉 麻子
黒森峰 砲撃死 背部、損傷による失血死 負傷後30分ほど生存していたと思われる
639 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/14(木) 21:29:20.79 ID:JuXJT1NJO
〜
広報部より報告
大洗女子学園の動向
同校からの連絡によりますと、
「実に最高のチームであった」
を
「あんこう『チーム』の解散」
において選択したとのことです
〜
ここまでです
640 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:56:16.88 ID:DJC40sPbO
〜
力によって支えられた政権は、その力の反逆を何より恐れる。だが力による支えのない政権は、そもそもが非常に不安定である。
山鹿涼 『日本の学園都市』より
〜
641 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:57:00.71 ID:DJC40sPbO
私とカトラスさんはレオポンから走りに走ってブレスラウ地区を過ぎて、森崎橋より上流の橋を隙をついて渡って向こう岸に着いた。あの場に残っていても何もできない。その悔しさは癒えるはずがない。が、生きなければならないのも確かだった
「こ、ここまで来たね」
荒れた息を整えながら、同行人に声を掛ける
「……ここからどうするの?」
「いや……特に何も」
ただ背中を押されるままに飛び出し、自動車部を任されただけだ
「……黒森峰が追ってきているのは確か。早くここからは離れたほうがいい」
「……そうだね」
レオポンから持ってきたトンプソンM1を携え、さらに奥、黒森峰の市街に向かう。幸い東の隅っこの地域ならここからでもさほど遠くないらしい
「武器持ってて大丈夫かな?」
「……流石に置いていった……いや、持っていこう」
私が持っていた銃に手を乗せて細目を上手に見つめてくる。確かにこの先は敵地。持っておくに越したことはない
642 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:57:38.99 ID:DJC40sPbO
幸いその不安は全く必要ないものだった。代わりに市街地は非常に不気味だった
「誰も……いないのかな?」
「……車もない。人もいない……誰もいなくなった街、だね」
文字通り誰もいないのである。よって武器を持ちながら少し歩いていても、誰にも何も言われることはない
日は登っているから、窓から電気の光が見えないのはわかる。だがそれでいて、あたりに走る車も人すらも見かけないのだ。自分たちが話すのさえはばかられるような異様な雰囲気が支配していた
「ここだけなのかな?」
「……さぁ」
市街の中から少し外側に出ようとした時、視界の奥、東の方に何か見える。稜線にこそ隠れていたが、そこにあったのは数多くの戦車だった
「自衛隊かな?」
「……分からない」
とりあえず身を伏せてみる。自衛隊なら包囲網から脱出している時点で大丈夫云々は聞いたが、やっておくに越したことはない
しかしよくよく見てみると、色が皆均一で濃緑だ。自衛隊の戦車は春に教官が来た際に一度見たが、迷彩色だったはず
「……何処の?」
その戦車の感じをかつて見た事があった
「もしかして……プラウダ?」
あの色、そして一部の車輌が大きく砲身を前につき出している。間違いない。あの雪山で見続けていた車輌だ
「……でも、なんでこんな所に……今回の試合、プラウダは参加していないはず……」
「まさか、同盟?」
あの黒森峰が我々にしてくれた事を、プラウダが我々にしようと考えているのか?
643 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:58:12.14 ID:DJC40sPbO
ここで一つの考えが浮かぶ。もしプラウダが我々に味方して同盟しているなら、そこに行けば助けてくれるかもしれない。生き延びるのが先輩たちからの指示だった。その指示を最優先するなら、そうするのが妥当かもしれない
しかし、現在プラウダが我々に味方しているのかも分からないし、更に今他の皆は命を、学園の存続を懸けて戦っている。私だけが悠々と生き残るわけにはいかない
それだけではない。私が生き残っても、試合に負けて学園が廃校になってはあの場に残った先輩に申し訳ない。だったら、私が出来ることをして大洗を優勝させる手助けをするしかない
「……どうする?」
「プラウダが味方かどうか断定できないですし、大洗が優勝しなきゃ意味ないです。ここは市街地に行きましょう」
「……分かった」
644 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:58:40.38 ID:DJC40sPbO
頃合いを見計らって戦車隊に背を向け、市街地に戻るべく西に向かった。その間に先ほど駆けていった丘の上に、多くの茶色の戦車が布陣していた
「……黒森峰」
それが何を意味するか、実に容易だ
「先輩方は……負けた……」
そう言葉を発した途端、不意に涙がどんどん流れ始めた
「先輩……」
「……幸いこの辺りに黒森峰の人はいないみたいだ。少しくらい大丈夫」
彼女は肩に手を置いた。実に、温かい
だがその温かさがさらに涙を生じさせる。地面に膝と頭を落とし、やりようのない慟哭を地面にぶつけ続けた
だがこうしてばかりもいられない。ある程度流した後は、意地でもって無理やり泣き止んだ
「……もういいのか?」
「はい」
目元を袖で拭ってただ前を向き、先輩方の願いを叶えるべく進むしかない
645 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:59:21.10 ID:DJC40sPbO
道は真っ直ぐに中心部に向け伸びている。相変わらず通行人はいない。ここを今車で走ったら、とてもスピードが出せそうだ、とか考えつつ街に入る
しかしカトラスさんがあるものに気づいたのか、建物の隙間に身を寄せるようジェスチャーする。指示されるままにちらりと覗いてみると、その先にいたのは黒い服を着た人達、黒森峰の者だ。手には何か持っている
一本裏の道に入り、その場所に近づいていく。確認すると、黒森峰のものはマシンガンを手に警戒をしている。彼らが守っている場所には『黒森峰女学園学園都市防衛隊武器庫』と薄れた日本語で書かれている。濃く書かれた点のついたアルファベットは読めない。きっとドイツ語か何かだろう
「……武器庫……だね」
「どうやり過ごそうかな……」
「……ツチヤさんの先輩方の願い、叶える気はある?」
小さいがやけに低めの、よく耳に通る声で、カトラスさんが話し始めた。
「そりゃ……もちろん」
「……なら、黒森峰の戦車を潰すのが手っ取り早い。戦車に抵抗するためにも、さらに武器がいる。そして、今すぐにそれを手に入れられるのは、ここ。黒森峰の武器庫ならきっと何かあるはず」
「なっ……」
「……違う?」
武器を……手に入れる?ここで?
「い、いや……」
「……じゃあ、そのトンプソンで戦車倒せる?」
銃を見つめ直す。無理だ。元は機関銃を防ぎながら前進するために作られたのが戦車。こんな自動小銃じゃ弾かれるのがオチ
「……それに、攻撃できても死んだら意味ない。なら、強力な武装で一撃で倒した方がいい」
「じゃ、じゃあ、この武器庫を……」
「……あの門番たちを倒して手に入れる」
倒す……って
646 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 21:59:50.45 ID:DJC40sPbO
「……それが一番早い。他の武器庫が見つかる、または見つかっても警備が緩め、という保証はないし……むしろここでモタモタしている方が見つかるリスクは高い」
どうしてだ。どうして人を殺そうって話をしているのに、ここまで平然と話せるんだ
「……今までと変わらない。戦車の大砲か……そのトンプソンと続く対戦車兵器ってだけ」
「なんで……なんでそんな簡単に……」
「……それに関して答える暇はないね。行くかい?行かないかい?このままじゃジリ貧だけど」
どうする。彼女の言っていることは正しい。全くその通りだ。だが……だがここで……
「……まさかここの武器を話し合いで貰えるなんて考えちゃいないよね?」
いや、私のためじゃない。この戦いは先輩がたの、自動車部の、そして学園のための戦いだ。そのためだ、そのためなのだ……
「……分かりました。行きます」
「……そう……ツチヤさんが行く?なんなら」
「いえ、私が」
手に持ったトンプソンを眺める。使い方ならアンツィオ戦の時に偵察の為に持って行ったスズキ先輩から聞いた。マガジンポーチにも四つのバイオプラスチックでできたマガジンが入っている
だがここにいるということは、この二人は試合に無関係の者たちだ。ここで殺すのは自身の防衛のためではない。自分の優勝したい、学園を残したいという欲により起こす行動だ
幸いだったのはこの葛藤の間、全くもって武器庫前の二人が私たちの存在に気付かなかったことだろう
ここで戦って勝てば、学園艦に住む三万人の人が都市を離れて路頭に迷わずに済む。優勝するなら、ここの二人の損はそれに勝る。自動車部も残る。そう自分に言い聞かせて、覚悟を決めた
647 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:02:01.80 ID:DJC40sPbO
マガジンを込めてあることを確認し、引き金に指をかけ、その二人が此方に姿を現すのを待つ。弾は20発、これで倒せなかったら死ぬしかない。時は来た。見回る二人が一緒にこっちの方に姿を見せた
「……行くか?」
「はい」
息を吐き、トンプソンを構えて建物の裏から飛び出した。二人に走り寄りながら引き金を引く
乱れる球の一つが一人目に命中、当たったところが幸い首から上で、猛烈に血を吹いて奥側に倒れる
もう一人がこちらに気づきMP40/Iを向けるが、引き金の指を固定したまま素早く銃を左に向け、腹部と胸部を狙う。彼女も前のめりに倒れたことを確認し、弾切れを示す音を鳴らし続けた状態で、やっと指を引き金から離した
「……終わった、みたいだね」
「はぁ……はぁ……」
死んだ、らしい
「……じゃ、音もしただろうし、早めに済まそう。二人が死んでるか確認して」
「いや……死体をさらに傷つける真似は……」
「……生きてて撃たれても知らないよ。それに私が巻き込まれちゃたまらない」
またしても真っ当な事を言われてしまった。だが血を垂れ流すこれら二つのものに触れたくはない。弾倉を入れ替えて倒した頭に銃口を向け、一瞬躊躇ったが、彼女の視線があることに気づいて、二人に一発ずつ銃弾を撃ち込んだ
「……私が開ける方法探すから、少し休んでて」
「あ……はい」
こみあがる吐き気に考える力を奪われて、言われるままに武器庫の脇の壁に背中を預け、腰を下ろした。銃も一度手元から離す
そのシャッターは閉じている。鍵穴とかはない。シャッターの上の赤いランプの灯った装置などから察するに、遠隔スイッチとかがあるらしい。生憎トンプソンと弾は共用できないようで、私が右脇に朝食を垂れ流す近くで、カトラスさんが不満げに弾の予備を投げ捨てていた
少しして片方の死体のポケットからボタンのついた機械を見つけ、それを持ってシャッターの前で上に向けてスイッチを押した。するとシャッターは重い音を出しながら、徐々に上へと開いた
「……おー、ビンゴ」
「入ってみますか」
「……そうだね」
648 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:03:31.48 ID:DJC40sPbO
かなり力を入れて立ち上がって合流する。薄暗い中に入ると、縦長のケース、整頓された自動小銃など、よく分からないものを含めたくさんのものが並んでいる
「どれがその対戦車兵器、ってやつなんですかね?」
「……わかんない。流石にそんな知識ないし」
「ないのにここをこじ開けたんですか?」
「……いや、こんだけ戦車揃えている学校なら、対策として持ってるはず」
「対策って……何のですか?」
「……他所からの防衛と……恐らく、戦車道の反乱」
「反……乱?」
自分が持つ戦車道のイメージからは、なかなか想像がつかない。反旗を翻して何になるというのだろう
「……戦車道が反乱起こしたら、戦車以外で止めるしかない。そうなると……そういうのが必要になるよ
さ、それより片っ端から箱を開けてみよう。あったら教えてくれ」
私の疑問が完全に解消される前に、彼女は手を鳴らして箱の山へと歩みを進めた
爆発物もあるだろうから、扱いには気をつけつつ箱を開けて、中身を確認してゆく。奥まったところにあったその中の一つのプラスチックケースを開けると、ある物が入っていた
649 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:04:56.50 ID:DJC40sPbO
四角錐型の物の先に紐がついている。底を近くにあった鉄のケースに近づけると、重いドアに鍵が掛かるような音がしてガッチリとくっ付いてしまった。引っ張ってもずらそうとしても外せなくなったので、仕方なくそのままにする
「……何かあったのかい?」
「入っていたケースには……Bombeと書いてあるから、爆弾かな?」
「……磁石が付いてるみたいだね。戦車の車体にも取り付けられるかもしれない」
「でも、これで戦車の車体なんて破壊できるのかな……」
「……流石に車体にくっつけるだけの爆弾なんて脅しにしかならないし……なんかしら効果はあると思う。使い方さえ間違ってなければ」
「それじゃ、持っていきますか?」
「……そうだね。他に簡単に使えそうなものは見当たらないし、のんびりするわけにもいかない……行こうか」
650 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:11:11.42 ID:DJC40sPbO
奥にあったカバンを手に取り、お互い二つずつその爆弾を入れてから、その場を立ち去ろうとした。しかしそのまま立ち去れるほど、私は気丈な人間じゃない
「……早く行こう。ここを爆破するのは面倒そうだし」
「少し待ってください」
もう先ほどの死体は、血を流し切って外気に触れ続けて冷たくなっている。その二人を倉庫側に寄せると、手をヘソの上で重ね合わせる形で仰向けに並べた。それぞれ結構重かったが、日頃思い部品を持ち歩いていたのが功を奏したようだ
カトラスさんはただ何も言わずにその様子を眺め、待ってくれていた
彼女らは、死んだ。試合で生きるか死ぬか、それを賭ける場所にいなかったにもかかわらず
その二人を前にして手を合わせる。だが心の中でも謝罪の言葉はない。私は……私は間違っていない。彼女らは必要な犠牲だと断言してしまおうとするからだ
「……行こうか」
「はい」
しばらくして手を下ろすと、背後の声が私の気持ちを途切らせようとしてきた。行為自体はやめたし、カバンを背負い直してその場を去った。だがこの記憶だけは棘のように頭の奥まで貫き通し、切り替えを許さなかった
651 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:12:41.42 ID:DJC40sPbO
今度は境界付近で折り返すことなく、市街の奥へと進んでいく。道中道の隙間に身を潜めながらあてもなく進んでいくが、奥まで行っても人がいない
「本当に……誰もいない」
「……避難したのかもしれないね。西住副隊長が市街地を戦場にするって言ってたから」
しかし奥に進むと、あるものが増えていた。南北に進む道の一部の地面に敷かれていたであろうコンクリートが剥がされ、そこそこ深めの溝が横たわっているのである
「……何なんだ、この溝は?……排水用にしてはやけに雑な作りだね」
カトラスさんが呟くが、返事をするための頭が働かない。安全以外にはあの事しか考えられないのだ。だがしばらくして、やっと次の議題が来た。遠くから音が聞こえるのだ
「これは……エンジン音、ですね」
「……戦車が近くにいるかもしれない」
「一旦待ちましょうか」
この音でやっと棘は抜けた。隙間から少し身を出して辺りを見回すが、道中にそれらしきものはない
「……遠いね」
「幸いこの辺りじゃ無いようです」
しかもエンジン音といっても戦車とは音が大きく違う。なんの音が考えていたその時、遠くで何発もの爆発音が耳を襲った
「なっ!」
「……爆発?どこから……」
「こっちみたいです」
生憎ここから煙のもとは見えないが、場所をずらして低い建物の上を通して見ると、丘のある南東の方から煙が上がっている。それは何度も何度も繰り返された
飛行機だ。煙の上で旋回している小さなもの、どこの何かは分からないが、これが煙の原因であり黒森峰の戦車隊を攻撃している、というのは現地に行かなくても検討がつく
それだけで驚くのは早かった。今度は南西の方から白い筋が、市街地の中心部の方に向けて何本も通っている。幸いこちらを向いてはいないようだ。そしてそれは中心部の地面に向けて吸い込まれていった
652 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:14:20.63 ID:DJC40sPbO
「く、黒森峰が……大洗以外から攻撃されてる……」
こんな装備が大洗にあるはずがない。あってもこんなところに持ってこれるはずがない
「……そうみたい……だね」
こちらに有利となる出来事である、というのは明らかだった
「……まずは様子見だね」
喜ぶわけにはいかなかった。先程のエンジン音が此方に向けて近づいてきたのだ。爆弾らしきものが街に投下され、煙を何箇所も登らせている。しかも飛行機の群れはこちらに近づいてきている。ここにいれば爆撃に巻き込まれることは容易に想像できた
「……こっちに来てるね」
「ど、どうしたら……どこか隠れられる場所は……」
周囲を見渡すが、件の溝以外特に隠れられそうなところはない。それに溝とはいえ上はガラ空き。上から降ってくる爆弾には対抗できない
一方のカトラスさんは近くの家の中を窓の外から見ていた。そしてカバンから先ほどの爆弾の一つを取り出すと、その根元を握って窓を叩き割った
「ちょ……ちょっと、何やってるんですか!人の家ですよ!」
「……ここに避難する」
「で、でも……」
「……たとえ不法侵入でも、爆撃に巻き込まれて死ぬよりマシ……緊急避難、緊急避難」
割った窓に手を入れ鍵を開けると、素早く窓を開き、窓枠に足を掛けていた
「……早く。ここは地下室があるから、外の溝よりはまとも」
確かにそうだ。さっきから彼女の話に乗っかってばかりだが、それで助かるのならそうするしかない。私も窓から室内に入っていた
653 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:20:01.89 ID:DJC40sPbO
地下室への木の扉が床にあるのを見つけ、すぐに身を滑り込ませる。中にある階段を降り、階段の途中で段を椅子代わりにして腰を下ろす。まもなく近くにも爆撃が開始されたようで、爆発音だけでなく振動も地下室に伝わってきた
「……やっぱり爆撃みたいだ」
それにしても、本当につい最近まで戦争関連の云々なんて、自分にとって紙の向こうの話でしかなかった。だが今、私はそのものではないが、現場にいる。少し安全なところとはいえ
そしてその安全のために、私は……
だめだ。考えれば考えるほど、変な思考に染まっていきそうだ
「そうだ……カトラスさん、一つ伺ってもいいですか?」
「……どうしたんだい?」
「武器庫の時とか……今回の侵入の時とか、何でそんなに平然と出来るんですか?」
それが正しいのはわかる。だが道徳の壁を思いっきり壊してそれができるかは、また別だろう
654 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:24:05.50 ID:DJC40sPbO
「……さぁね。強いて言うなら……環境?」
「環境、ですか……そうなると、船底の、でしょうか?」
「……まぁ、そうなるね」
「私自身そこら辺知識が曖昧なのですが、ただこれをやり過ごすのもなんですし、少し教えてくださいますか?」
床、といっても頭の上にあるが、を指し示しながら話を切り出すと、カトラスさんは表情を変えなかったものの、頭を指で掻きながら呟いた
「……あんまり面白くないよ?」
「構いません。無言よりは遥かにマシでしょうから」
「……違いないね」
話を整理するように上を眺めていた
655 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:25:52.87 ID:DJC40sPbO
「……それじゃあそうだね……学園艦の底の方、上じゃ大洗のヨハネスブルグと呼んでるって話だけど……ま、桃さんがなんとかしてくださっおかげで今はマシだけど、昔はほんとそのままだったね。ほんと数年前までは」
「数年前、までですか」
「……そ。甲板とか艦内港湾に直結する出入り口、つまり地上からの物資の供給口をどこの派閥が抑えるか……それの大半を掌握しさえあれば、底をほぼ差配することができる。そしてその供給口を守る、または奪うために、各派閥は資金源を狙い続けたのさ」
「派閥なんてものが……あったんですか」
「……あった、じゃないな。実は今もある。桃さんの調停のお陰で、当面の衝突は回避されているけどね……そして、基本底に収入源はない。そりゃもともと船舶科自体が労働と引き換えに学費を免除されてる人たちの集まりだからね。実家の送金なんてあったとしても大した額じゃない。船舶科の中にゃ勉強と勤務をして、バイトまでしてる奴もいる」
「寝る時間あるんですかそれ……」
「……そういう奴の中にゃ立って寝る術を習得している奴もいるさ。もっとも……勤務中バレたらタダじゃすまないが
……ま、それはいいとして、つまり底は金がなくて逆に、いやだからこそ金が欲しく堪らない場所なのさ」
「なるほど……」
自分も放課後はかなりの時間を自動車部に割いていると思うが、実にそれは幸せだったのかもしれない
「……そして、私の仕事は知ってるか?」
「確か……バーの店員さん、でしたっけ?」
「……そうだ。そして、ノンアルが基本とはいえ、飲食で利益率の高い飲み物の販売が軸だ。ま、値段はある程度は安いがね
……で、アルコールとか糖度の高いものは基本そんなに腐ったりするもんじゃない。つまり廃棄分もそんなにない……要するに、私の店はドル箱ってわけだ」
彼女の話は分かりやすかった。機械の部品が噛み合うように、実に論理的だった
656 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:27:25.96 ID:DJC40sPbO
「……話が早いのは、こういう時はいいのか知らないけど……まぁ、当たりだろうね。私の店は、金を求める派閥対立の立派な舞台だった」
やはり……そして、元々の疑問の解決になる鍵も、きっとここにある
「……一応お銀のいた派閥は主要派閥だったし、地上の出入口をいくつも抑える力もあった……そして私はそこにみかじめ料を納める存在だった
……だがね、他所がウチを襲うことは時々あった。そして大概はウチの派閥の主力、ムラカミとかがいない時をよく狙ってたね……そうなると派閥の助けが来るまで、基本一人で、いても味方かもわからない客と防衛だ
カネだけは盗まれてはいけない……それだけは厳命されてたからね……空き瓶とかモップとか、まさに手当たり次第さ。敵も数いたからね……割っては戦うの繰り返しさ。考える暇なんてありゃしなかった」
かなり壮絶な世界だったのだろう
「……床にはよく破片が散らばっていたよ……一度だけチャカ持ってきた奴もいたし……」
「チャカ?」
「……拳銃さ。ま、流石に地上に連れていかれたけど」
どれだけ世紀末だったんだ?ここまでとは……平穏な甲板からは想像もつかない世界だ
「……私の前に店をやっていた人は、腕を殴られて破片で神経やられてシェイカー振れなくなって辞めたし……私だってココなんかには傷がある……」
彼女は冬服の袖を捲り上げて、肘のは近くの傷を見せてくれた。長さは3センチほど、だが周囲にも若干赤みが残っている
「……治療ったってあんなとこじゃ縫い合わせるだけだからね。酒を麻酔がわりに」
「お酒を……ですか?」
「……そう。度数高めの酒をイッキして、さらに鍋越しに頭を鈍器で叩いて気絶させて、その間に縫う……痛いよ、その時よりあれはあとあと……
ま、私は数針だったからマシな方さ……ヤバイやつだと途中で眼を覚ますから、そしたらまたイッキさせんのさ……」
「はぁ……」
あまりの想像の範囲外の出来事続きに、気の抜けた返事しか返せなくなっていた
657 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:44:38.00 ID:nhXQpGdt0
「……さて、だいたいこんなもんかね。こんな世界にいたら、冷酷にやるやり方も覚えるってものさ
……でも……お銀が……お銀が死んじゃった時は……流石に……」
そのまま頭を抱えて前に体を倒した。そのまま嗚咽が混じり始める。きっと……死ぬ事態はそうそうなかったのだろう。流石に労働者でもある彼女らを見捨てるのは惜しいはず
「……そうですか……」
「だからこそ」
嗚咽を振り払い、いつになくはっきりとした口調で、私が伸ばそうとした腕を止めた
「私は勝ちたい。いや、大洗を勝たせたい。それが……お銀が望んだことだから」
その視線は私の方にはない。正面のコンクリートの壁だけを見ている
「……貴女は、勝ちたい?」
「生き残るには……勝つしかない、のですかね?」
「……そうだね。ここは黒森峰の都市の中だし……こちらが負けたら、どうなるかは分からない」
「なら、勝ちます」
「……それが聞けてよかった」
658 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:57:45.27 ID:nhXQpGdt0
ある程度続いた爆撃が終わってから1分くらい過ぎた後、周りを警戒しながら地下室から顔を出した。家は爆撃によって大きな損害は出なかったらしく、普通に開けたままにしていた窓から外に出る事ができた
「……音はしてたけど、直接はされなかったのかね?」
「しかし地下に閉じ込められるよりはいいですよね」
お邪魔した家に一礼して外に出ると、外は崩れた建物で溢れ、そこからは赤い火の手が上がり煙を登らせる。戦争ドキュメンタリーでよく見る廃墟となった街のシーンが、眼前に広がっていた。本当に私たちがいた家は幸運を持っていたらしい
「……これって、なんだったっけ?」
「たしか……戦車道の試合、だった……気がします」
「……でもここは戦場だね」
「ですね……」
659 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:58:15.47 ID:nhXQpGdt0
とにかく音の鳴る方へ向けて歩き始めた。ここでの爆撃はもう終わったようだが、中心部からはまだ爆発音が聞こえる。それも外に出てから2分もしない内に収まっていた
「どこでやってるんですかね?」
「……南東部の何処かだとは思うけど……とにかく歩き回るしかないね」
そうはいっても辺りからの炎の音が、その音探しを妨げる。塹壕を超えたり、塹壕経由で移動したり、警戒しつつも動き続けた。しかしその音は見つからない
再び建物の隙間に身を寄せる。水を飲もうとしたら、何も持っていないことに気づいた
「ありゃ……」
「……まぁ、水無しでも一息つけるさ」
「それにしても……見つかりませんね」
「……この都市も相当広いんだろうね……いうほど建物も高くないみたいだし、人口もウチより遥かに多いって聞いたよ」
「はぇー」
今度は辺りから小さく戦車の履帯の鳴らす音がした。これが一方向ならよかったが、それはあちこちから、本当に四方八方から聞こえたのだ
さらに砲撃が再開されたのか、その音もする
「これじゃ……どこでやってるか分からない……どうしたら……」
660 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:59:41.72 ID:nhXQpGdt0
だが待っている間に状況は変わった。一際目立った音が迫ってきていたのだ
場所は中心部の方からだ
「黒森峰……ですかね?」
「……他にいないんじゃないかい?」
「プラウダじゃなければ、ですが」
身を伏せたまま顔を覗かせると向こうにいたのは丘の上に見えたあの車輌に似た車輌が幾つか見える。しかしあの丘の上の車輌より小さいように感じる
IV号だ。あれは黒森峰だ。もしかしたら黒森峰の試合に出ている部隊への援軍かもしれない。そうでなくとも倒すべきものだ
手に握られた四角錐型のものに水滴が付く。近づいてくる中で分かったが、黒い服を着た黒森峰の者は西住副隊長がいつもやっているようにキューポラから身を出している。もしかしたら、トンプソンで狙える、かもしれない。それならこの四角錐型の爆弾みたいに近づかなくてもいい
「あれ……狙いますか?」
「……狙ってもいいけど、どうする?この爆弾使う?」
「先頭の車長を撃てれば隊列は混乱します。勝負は相手が車載機関銃でこちらを撃つまでのわずかな時間ですが」
「……やろうか。今度は私が行こう」
「えっ」
「……さっきやらせて、今回も行かないわけにはいかないだろ
それに、私の名は『生しらす丼のカトラス』
足がはやいことから付けられた名前さ」
気づいたら手からトンプソンは奪い取られていた
「……援軍だったらこっちに利するだろうしね」
661 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:00:15.46 ID:nhXQpGdt0
トンプソンのマガジンを抜き、マガジンポーチから新たなマガジンを取り出して装填する。引き金に指をかけ、戦車をできるだけ引き付けている
口が渇く。先程の2人を狙う時より鼓動は激しい気がした。私がやろうとしているわけじゃないのに
30……20……15……。距離は近づいた。敵はこちらには気づいていない。今なら奇襲が成功するはず
その距離3メートル。迷わず建物の隙間から飛び出していった。銃をキューポラの上の方に向けて連射する。音からして最初の3発ほどはキューポラに当たったようだがその後は当たったらしく、素早く隙間に戻ってきた。敵車輌は機関銃を準備する間も無く、横を通り過ぎていく
「後続がいる。逃げるよ」
「は、はい!」
言われるままに狭い中を頑張って走って行く。後ろの車輌が機関銃をこちらに向けたようだが、コンクリートの壁2枚挟んだこちらまでは流石に貫通しない。何とかして私たちは隙間を通って隣の通りまで出る事ができた
成功だ。これで敵の隊列位は崩せただろう
「や、やりましたね」
「……逃げるよ。追ってきてる」
「えっ……」
興奮していたのか、そう言われるまで背後から足音の群れが鳴っていたことには気づかなかった
「……まずいね」
「このまま振り切れますかね?」
「……土地勘は向こうにあるし、数だってある。これは……足だけだね、頼れるの」
「なに、私だって走ることにかけてなら、負ける気はありませんよ?」
「……車で、だろう?」
「うっ……」
「……まぁ、行こう」
確かに彼女の足は速かった。脚力も一応の自信はあるが、それをも上回る勢いでカーブと直進を繰り返す。それに続こうと必死でいるうちに、いつの間にか沢山の声は遠くに消えていた
662 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:16:27.47 ID:nhXQpGdt0
「ふぅ……」
水はないがまた一息つく
「これから……どうしますかね」
「……まだこの爆弾が残っている……どこかで使っちゃったほうがいい」
そうなると他の部隊を探すしかない。結果的に再び黒森峰の選抜隊を探すこととなった。だが戦闘は本当にあちこちで起こっているらしく、音では分かりようがない。時にはプラウダらしき戦車と出くわすこともあった。
そして休憩もとりつつうろつくことしばらく、目当ての車輌を見つけた
「……ティーガーI……」
「ですね……」
これが選抜隊かは分からない。が……私たちが戦っていた選抜隊にはティーガーIはいた。頭は出しているが、再び同じ手が通じるほど甘くはないだろう
「……やろうか」
「はい」
話し合うまでもなく、2人同時に行くことが決まっていた
「……機銃が通り過ぎるまで待つよ」
「分かってます」
先ほどの攻撃で機銃の威力を目の当たりにしている。避けようとするのは当然だった。それぞれ一個ずつ握りしめて、その時を息を潜めて待つ
いや、潜めようと奥に来すぎていた。そして何より……
その道幅は、先ほどより少し広かった
663 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:18:45.69 ID:nhXQpGdt0
カトラスさんが先に飛び出した。私も続いて飛び出していく。目当ての車輌目指して
しかしその時すでに、顔を上げると車長は自動小銃、自分たちと同じトンプソンの銃口をこちらに向けていた
そして私だけそれに気づいてしまったのだ
先んじていたカトラスさんが蜂の巣にされるのに、時間はかからなかった。
一瞬だった。一瞬だけ全面開放的な路上で私は固まった。直後に隙間に戻ろうとしたその時を、相手車長は逃してくれなかった。銃弾は左足首、左太腿と右脇腹を狙った。体の三箇所に鈍痛が走り、隙間に飛び込んで倒れこむ。しかし黒森峰側も追撃を諦めたのか、そのまま郊外の方に向かっていった
意識は保っていた。しかしその意識が痛みを感じさせ苦しめる。左足に力が入らないような状況でなんとか立ち上がり、片足歩きで壁に手をかけながら隙間を逆側に抜けた。出血が激しいのか、意識が薄れていき、地面に倒れこんだ
「流石に……無茶だったか……な……カトラスさん」
彼女に対してはこう思うだけが精一杯。這ったまま腰に四角錐型の爆弾を乗せ、一本奥の広い道に出た。通ってきたときは気にも留めなかったが、道にはフォルクスワーゲンが一輌停車していた
とにかく座る場所を求めて、血の跡を後ろに残しながら近づいた。災害時の車の扱いを心得ているのか、はたまたただ急いで逃げただけなのか、扉が開いている。運転席から何とか右足で椅子まで移動し、背もたれに身を預ける
座って落ち着くと、服に染み付き、今この時も広がってゆく血の跡、痛み、そして先輩方への申し訳なさ。それらのせいからか、顔に涙を浮かんでいた
左足からの出血は益々増している。とりあえず持っていたタオルで股のところを縛ってみたが、それでもこの出血が続くようではもう命は長くないだろう。つまり先輩からの願いを達することは不可能になってしまったということだ
ならばどうする?私はこの時間、どうすればいい?
664 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:53:33.39 ID:nhXQpGdt0
その時腰の四角錐型の爆弾が脇から顔を出しているのが目に付いた。それと車の引き出しから偶々見つけた車の鍵
それらを見た時、頭にある計画が浮かんだ。それを実行すると後戻りはできない。しかし左足からの出血を見て、心を決めた。涙なんか引っ込んだ。この残されたわずかな命を懸けて、黒森峰に一矢報いると
それが大洗の優勝に貢献するかはわからない。しかしそれに近づくと信じた。右足にはかろうじて力が入ることを確認して、鍵を差し込みエンジンを入れる。エンジンは適宜整備されているらしく、かかりがいい
「いい人に持ってもらったね……」
アクセルを踏み込む。左足は使わない。ガソリンもそれなりに入っている。道を曲がって戦車が通った道にドリフトをかけながら戻る
「燃えるねぇ〜……」
薄れようとする意識を抑えながら、戦闘しているらしい道の先に進んでいく
「死んだら怒られるだろうなぁ……」
道が真っ直ぐなお陰でスピードはみるみる上がり、見つけた黒森峰の戦車隊にも接近してしまった。だが前からひっきりなしに砲声がするお陰からか、こちらには気が付いてないようだ
この通りにいるのは三輌だけらしい。もう距離は50メートルもない。そろそろだ。アクセルを一層強く踏み込み、四角錐型の爆弾の紐を引く。猛スピードで鉄の重そうな戦車たちはこちらに迫ってくる
先輩方、申し訳ないですけど、今からそちらに行きます
開けておいた窓から力を振り絞って片手で爆弾を外に出す。アクセルからは絶対に足が上がらないよう、残された力を振り絞る
665 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:54:01.92 ID:nhXQpGdt0
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
加藤 清羅
黒森峰 銃殺 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死
土屋 圭
黒森峰 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死
666 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:54:56.42 ID:nhXQpGdt0
〜
黒森峰女学園
明治期に創設されたプロテスタント団体の熊本バンド。その参加者であった横崎経峰が立ち上げた熊本独語学校がルーツとされる。戦後第一次学園艦計画の中で熊本港を母港とした学園艦の建造が開始され、1959年に学園艦として開校した。その後第一次学園艦移設計画によって、1985年に熊本県嘉島町に移設開校。その後も九州の有力な学園都市として存在している
〜
667 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 20:54:47.38 ID:jvZx0O4gO
2100からやります
668 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:01:24.10 ID:jvZx0O4gO
私たちは真の若き日々の物語を誇りに思い、栄光ある日々を決して忘れないだろう
669 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:04:04.83 ID:jvZx0O4gO
ティーガーIIを学園都市中心部の学園官邸を目指して進ませていた。しかし現状既にプラウダ学園装甲部隊が中心部に迫り、取り囲んでいるようだ。私の気づかぬ間にここまでことが進んでいたとは……
「ここも封鎖されているわ。前方からT34/85が二輌、JS2が一輌出でくるわよ!」
何れにせよ照準器の向こうでは、道路上の三輌の戦車がこちらに砲身を向け待ち構えている。ここが今まで見かけた中で一番突破が用意、というわけではないが、このまま突破しなければ側面を晒すことになる。いくらティーガーIIでも側面を狙われるのは厳しい
「ティーガーIIを正面から止められると思っているの!なめないでほしいわね、イワン共??」
だが正面からの撃ち合いなら決して負けない。装填してあった砲弾をJS2に撃ち込む。砲身から煙が吹き出し、こちらに流れてくる。近距離ならば地獄に送れる。まず一輌
しかし次弾装填までに煙の向こうが光り、T34から正面に砲撃を食らう。正面から撃ち抜かれるほどヤワではないが、車内を激しい揺れが襲い、頭の上のキューポラが煩く騒ぐ
「ぐっ……」
砲手は落ち着いて砲弾の装填が確認されると、T34に撃ち込む。車内に煙と薬莢が排出される。正面から狙われたT34はキューポラから炎をあげ、車体のあちこちからそれ以上の煙を噴出させる
「命中!2輌目撃破。T34後退していきます!」
「よし、包囲に穴が空いたわね」
670 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:04:50.72 ID:jvZx0O4gO
道は開けた。あとは進むのみ。前進し学園官邸に急行するよう指示しようとした時、操縦手から焦る口調で報告が入る
「くっ……隊長、ミッションに異常発生です!ギアが入りません!」
足元からは必死に動かそうとすることによる歯車の噛み合わない嫌な音がする
ギアが入らない。即ちこの戦車は動かない
「江賀に無線を」
「はっ……」
ただ路上で無言で待つ時間が、かなり長く感じられた
「こちら江賀。隊長代行、如何なさいましたか?」
「無事?」
「は、はい。猟兵が二人ほど来ましたが撃退済みです。他には特に……」
「なら、どこかに隠れなさい。やり過ごすのよ。それが最後の命令」
「はっ……最後?」
無線は言うだけ言って無理やり切った。さぁ、数多の者を切り捨てるだけ切り捨ててここまで来た。あとはそのまま行くのみ、か
671 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:09:22.41 ID:jvZx0O4gO
「……もういいわ……ここまでね」
「は?隊長代行?」
船形帽をとってからヘッドホンを外す
「最早、この試合も、学園も負けね。ここから先は私一人で行くわ」
不安げに見つめてくる砲手の視線を無視して淡々と咽頭マイクを取り、トンプソンを持ってマガジンポーチを腰に結びつけ、キューポラを開いて荷物を先、続いて身を放り出す
「エリカ隊長代行!」
外に完全に出た私を追って、砲手がキューポラから身を乗り出す
「最後の命令よ。貴女達は車輌を爆破して、江賀のティーガーIと合流して隠れて時間を稼ぎなさい。とにかく試合終了まで戦わないでいなさい」
車輌を降りて素早く中心部を目指して駆けて行った。背後から隊長代行、隊長代行と呼びかける声がするが、耳に入れることは無かった
私はついに代行としての役目も放棄したのだ。そんな肩書きで呼ばれる資格はない。聞かないふりをし続けたまま、音はやがて本当に聞こえなくなった
672 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:10:08.53 ID:jvZx0O4gO
まだ時たま空の低い位置に飛行機雲の親戚が見える。近くの家は燃え盛り、破壊された煉瓦や木片が所を問わず地を覆っている。白い煙はあちこちから上がり、空に昇る
中心部に近づいてもその光景が変わらず続く中、一人先を急いでいた。煉瓦を踏みしめ、時折近くの壁の跡に身を潜める
中心部に近づくにつれて、落ちている死体の数が増える。それも軍属ではない。防衛隊やSSの制服ではなく、本来の黒森峰の制服を着て、パンツァーファウストや銃を近くに落として瓦礫に埋もれている者が明らかに多い。
人によっては胸のあたりが真っ黒に焼け焦げたまま、パンツァーファウストの棒を握りしめている。初歩的な使い方のミス。それすらも分かっていない人間を、学園は前線に送り込んでいる
これが意味する所は、そのような手段を取らざるを得ないほど戦局がよろしくないというものだった。宣戦布告されていない故に、昨日まで銃の撃ち方さえ知らぬ者を送り込まねばならないほど数が足りないのだ
落ちていた銃は流石に使えない。弾の規格も今のものとは合わない。使われていないパンツァーファウストなら何とか使えるが、流石にこれを持ち運んで行動するのは目立ちすぎる
仕方なくいざという時に備えマガジンをいくつか拾っただけで、残りは捨て置いていった
673 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:11:46.66 ID:jvZx0O4gO
先を急ごうとした時、金切り声に近い叫び声が耳に入った。建物の窓越しに身を潜めつつそちらを向くと、少し離れた路上で黒森峰の女子二人が、プラウダの数名の兵に追われ、服をひん剥かれようとしていた
すぐに捕まり、一人は銃の柄で殴り倒され血痕を拡散させ、地面に伏した。もう一人は向こうの趣味にあったのか、地面の上で襲われていた
その光景はあまりにもおぞまかった。目も銃も向けることなど出来なかった
本来ならここで全員奴らを撃ち殺して然るべきだったろう。たとえあの中の一人を巻き込んでしまったとしても。冷静に考えていたらそうなっていた
だが実に恥ずかしいことに、私は駆け出してしまった。ただ一瞬でも早くこの野生の狂乱から逃げ出したかった
一方でこれで確信できたこともあった。やはり、プラウダはゴキブリ以下だ。蔑むべき存在なのだ、と。それさえなかったら、殺すことにためらいはなかった、と断言できる
674 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:12:22.55 ID:jvZx0O4gO
その後の移動でも弾の使用は必要最低限を心がけた。防戦に加われという指示ならば、その為に弾薬は残しといたほうがいいし、当面は生きねばならない
万が一発見されて戦わねばならないときは、SSになってすぐに従軍した反乱を思い出す。こう見えてもその戦いで反乱部隊の一つを殲滅し、学園長から直々に勲章を授かったこともあるのだ。プラウダの糞野郎なんかに負けはしない
鉄の心、動じることなく頭を狙う
675 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:13:23.34 ID:jvZx0O4gO
数人の頭を弾数発で破壊したころ、学園の防衛ラインらしきものが見えた。といっても塹壕の前に土嚢をいくつか積み、機銃を出し自動小銃を準備した防衛隊が頭だけ見える程度のものだが。見えるだけでも転がっている死体が多い。敵のも、味方のも
正面から行っては間違われ可能性がある。流石に味方に撃ち殺されるなどというヘマはしたくない
裏から塹壕に近づき、建物の横から帽子を出して振った。向こうが確認しているかはわからないが、撃っては来ないが、ちらりと見るとMG42はこちらに向いている。続いてある声をかけた
「Ein Wald(森)!」
少し間が空いたが、返事はしてくれた
「Meer(海)!」
互いにそう言う人間だとは確認は取れたはず。されどまだ弱い
「武装SS装甲師団曹長、逸見エリカよ!そこを通しなさい!」
「こ、これはSSの戦車道部隊の指揮官の方でしたか。失礼を」
676 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:14:10.65 ID:jvZx0O4gO
姿を出し塹壕へ走り、滑り込んだ。そこへ部隊長らしき娘が近づく
「逸見曹長、申し訳ありません。プラウダ兵の一部が黒森峰の服を奪っているという話があったもので……」
「伍長、それより現状を」
名前が分からずとも階級で呼べるのは、こういう時は正直楽だ
「我が部隊を含め、この防衛戦はプラウダの歩兵による第一波を辛うじて撃退しましたようですが……すぐに第二波が来るでしょうね」
「……その時守れるかしら?」
「第一波の時の犠牲は多かったですが、守ってみせます……やれる限りは。そう命令を受けていますから。軍人ならばそれに従い、全力を尽くすのみです」
銃の作動を確認しながら、口角を上げて応じる
「そう……これ、途中の死体から拾ってきた弾。足しになるかもわかないけど、よかったら使ってちょうだい」
「は、あ、ありがとうございます!」
「私は学園長に報告して来るから、ここは任せるわ」
「はっ!」
綺麗な敬礼だ。右手がすっと、まっすぐに伸びている。塹壕を飛び出し、真っ直ぐ中心部の方へ進む。その中で、背後から一層大きな声が響いた
「ジーク、ハイル??」
もう厳しいだろう。さっきは歩兵主体だったようだが、きっと次は戦車隊が来る。あの塹壕では耐えられまい。士気はありそうなのが救いか
時間がない
677 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:16:54.14 ID:jvZx0O4gO
つい今も一発着弾したここに到着した。道中稼働中のこちらの戦車は見当たらなかった。
フリードリヒ地区ブランデンブルク地域にある学園官邸。その象徴である入り口の上の鷲の紋章は足元や翼が欠け落ちており、柱の下がえぐれ、壁も傷だらけである。辺りの窓は破れていないものを探すほうが難しい
学園都市ではなく、学園そのものの喪失。最早話だけだと信じたかった現実は、私の正面に堂々と広がっていた
その柱の下に腰を下ろし息を落ち付けようとしたところ、地面の一部が開き、地下から人の顔が覗いた
「オイ、生徒か??こっちだ!」
姿からして防衛隊だろうか
「急げ!早く!」
近くまでプラウダ本隊は迫ってはいないらしいが、急かされたのもあって呼びかけに応え、案内の者に従い穴に入った。階段を一歩ずつ下り、白熱電灯のぼんやりした光に照らされた廊下を銃片手に進む
地上からも地下からも唸り声が絶え間なく耳に入る。そこは地上で軍服が汚れに汚れた私でさえ、いるのが申し訳なくなるような場所だった
678 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:17:23.77 ID:jvZx0O4gO
♪掲げよ!
廊下の両脇は頭、首、腕、胴、足、その何処かは確実に包帯を巻いている人間がずらりと並んでいた。中央にあるのは私ともう一人が並んで歩くのがやっとなスペースのみ
♪神聖なる旗を
SS、防衛隊、一般生徒問わずほとんどの者は体育座りでおり、横になれるのはさらに酷そうなほんの一部だけである
♪親衛隊は
それらを数名の血まみれのエプロンを身につけた女性が対処していた。もっともテープや包帯、それすらもない時はカーテンの切れ端を巻いた後はほっとかれたが。その方々を避けつつ、コンクリートに囲まれた空間を進む
♪堂々と前進す
処置を受けた生徒の一部はそのボロボロの身にも関わらず、入り口の防衛隊の者に銃を握りながら、外に出してくれと必死で乞う。そして一部は、そのまま地下から飛び出して行く。行ったもののどれほどがまともに帰ってこれるだろうか
♪反逆者の前に倒れし戦友の
戦闘以外でなら高校生以外の関与も認められる。そう、ケガ人の励ましのために小学生が歌うのは別に戦車道連盟規約には反しない
♪御霊とともにいざ行かん
助けるべきか、手伝うべきか。一瞬頭をよぎったが、無視して先を急ぐ。これが終わった後私は再びあのゴキブリ以下共を一匹でも多くこの地から駆除しなければならないのだ
♪反逆者の前に倒れし戦
地下は大きく揺さぶられ、叫び声により歌も中断される。近くに着弾したようだ。私もその拍子に右側の壁にそのひたいを打ち付けてしまった
みんな続けて!……
♪御霊とともにいざ行かん
額を壁から外した後も、少しの間嫌な揺れが頭を包んでいた。足で捻り潰したくなる奴らを思い浮かべつつ、壁を殴った
「プラウダめ……」
679 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:18:59.04 ID:jvZx0O4gO
髪は爆風でボサボサになり、膝を擦りむき、息も大きく荒れている。廊下に靴の踵の音を響かせながら学園長のいる所に向かった。とはいえど単に廊下の奥だ。ここの防空壕はそこまで大規模ではない
その入り口には門番替わりのSSが二人席に着いている
「SS装甲師団選抜隊隊長代行、逸見エリカ。学園長に戦況の報告に参りました」
「生徒手帳の提示を。あと荷物と武器はこちらでお預かりします。それの照合と案件の確認をしますので、しばらくお待ちください」
机を置いただけの受付で係りの者が、手元の書類をそのまま読むような対応をする。上からは砲声が下まで響き、壁は崩れて欠片がパラパラと落ちてくる。それどころではない、というのが分からないのか
「私よ!試合中の戦車選抜隊隊長代行、逸見エリカよ!学園長命令で前線から急いで敵包囲網を突破してきたわ!すぐに学園長やSS総司令官殿に報告に行かねばならないの!
それにね、SSの癖にあの廊下の様を、怪我人すら参戦している様子を間近で知りながら、椅子の上でのうのうとしてるとは、何様のつもり!」
余りに高飛車な態度だったので腹が立ち、思わず反駁する
「生徒手帳の提示を」
「くそったれ!勝手にしなさい!」
しかし受付の者の対応は変わらない。荷物を置くと受付の机の上に黒森峰の印の付いた生徒手帳を叩きつける。許可が出るとそのままズカズカと奥に入っていった
「待つことすらできんとは……全く、これだから戦車関連しか能がない奴は……」
今日何度めかの背後の声は気にする余裕がなかった
680 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:21:38.01 ID:jvZx0O4gO
中に入ると、廊下が人で封じられている。その奥から怒鳴り声が聞こえてくる。学園長のものだ
「奴らがここまでやるつもりだと誰一人報告してこなかった!海軍のみならず、SSまでもが私を欺きおって!職員、軍人、その全ての裏切りでこの戦いは負けるのだ!臆病者揃いが!
職員共、防衛隊共、SS共は殆どが卑劣で忠誠心のない、卑怯者の塊、蛆虫以下の連中だ!
奴らは黒森峰の者たちの中のカスだ!栄誉なぞない!
この学園卒を立派な学歴だと偉ぶっているが一体全体何を学んできた!お上品なテーブルマナーに、外見は立派な宗教作法だけか!
私ももっと早く偉ぶっている奴らを皆殺しにするべきだった!私は最初の最初から裏切られていたのだ!
これは黒森峰の民全てへの重大な裏切りだ!裏切りものは皆報いを受けるだろう!奴らの血によってな!」
人の群れに近づくにつれ、怒鳴り声が大きくなる。群れの中には涙を流す女性を他の女性が慰めている。他の人は無言で、棒が立っているようだ。ただ茫然と棒の追加の一本となっていた
気がつくと棒はぞろぞろと動き出し、私が入ってきたドアの方に向かい、消えていった
部屋からはシルクハットを頭にはめようとしている初老の男が、彼らとは逆の方に向かおうとしていた。その男、等良学園長閣下に走り寄り、跪く
「閣下!」
「ん?君は……」
「待て!貴様、この方を誰だと」
ボディーガードらしき男が詰め寄ってくるが、帽子をはめた学園長閣下がそれを杖を持っていない方の手で制した
681 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:22:18.00 ID:jvZx0O4gO
「まぁ待て待て……そうだ。選抜隊隊長代行の逸見くん、だったな」
「は、はい!」
私の顔を覚えていてくださるとは……なんという光栄か
「戦況のご報告に……参りました」
「そうか……」
「プラウダは既にフリードリヒ地区ノイケルン地域の防衛線に到達。そこの兵の士気こそ高いもの、敵の第一次攻勢による被害も大きく、次の攻勢での突破は避けられません。そこから先は……この学園官邸までは大きな障害は……ありません」
頷きながら次を促してくださる
「……はっ。我が……我が黒森峰戦車道選抜隊は私の乗るティーガーIIを含め……19輌が戦闘不能。唯一の残存車輌であるティーガーIには、狩出教官の指示のもと隠れて時間を稼ぐように命じてあります。その上、現状西住みほを殺した、との報告もありません。おそらくまだ生きているかと
申し訳ありません。試合に敗れ……プラウダの侵入を防ぎきれませんでした……」
意味がないのは分かっていても頭をも地面に擦り付けようかとしたその時、右肩を何かがそっと触れた
682 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:34:16.19 ID:jvZx0O4gO
「ここの床は綺麗じゃない。とりあえず立ちたまえ」
「はっ……」
学園長閣下の手であった。そのままゆっくりと引き上げてくださった。学園長の背はあまり高くなく、私でさえ少し顔を上げてしまえば目線が合ってしまう
沈痛な面持ちが、そこにあった
「詳細な報告をありがとう……君の健闘及び職務遂行には感謝するが……黒森峰はもう終わりだ
北部で日村君のSS歩兵1個大隊が、北東部で久手君の防衛隊装甲第2部隊が、南西部で高鳥君のSS装甲第9部隊などがそれぞれのなんとか敵を食い止めているが、他の戦線は君が見てきたようにもう崩壊している。外はあの有様だ
今ならまだ戦線が構築できている北から逃げられる。健軍町の方に逃げなさい」
肩に置いたまま、しっかり目を合わせて、私に、私なんかに伝えてくださる
「しかし……私は試合に負けた上、命令すら実行出来ず、さらに部隊のものを纏めて救援に向かわせることすらできなかった黒森峰稀代の愚将です。そのようなお言葉を受けるほどのことは……」
「今日の事態を招いたのは君のせいじゃない。これまでの私の行いのせいだ。気に病むことじゃない。君はその厳しい枠内で、最大限のことをしてくれた。これは、私がどうにかしなければならない問題だった」
肩から手を離して背を向けなさる。先程の茫然とした感覚を身体に残しながら、目線を学園長閣下の方に向け続ける
「私は……黒森峰と学園長に忠誠を誓いました」
「脱出しなさい」
だから……と続けようとした私の言葉は遮られる。ドアノブに手を掛け首だけをこちらに向ける
「君には本当に申し訳ないことをした。だがそれでも私に忠誠を誓ってくれてるのなら、この老いぼれの最後の命令を聞いてくれないか
命をムダにすることはない。君みたいな勇気ある人間は生きるべきだ」
持っていたドアノブを捻って、階段の下へと学園長閣下は消えていった
683 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:35:48.83 ID:jvZx0O4gO
目的地に着く前にトンプソンの弾が切れ、近くに投げ捨てて中に入る。入り口の扉はかなり砕け散っていたが、幸いここはまだ占拠されてはいないようだ。しかし煙はあちこちから登っていて、窓ガラスはどれも割れて破片が散っている
「早く避難しろ!プラウダがすぐそこまで来ている!」
「避難するって言ったって……どこへ?」
「そんなもん、プラウダのいない場所だろ!」
中は慌ただしい人の流れがあった。床に無造作に散らばったカルテの紙。それが風に流され、一部は窓の外に飛ばされていく
ライヒ病院の中を、それらを踏もうとも流れに逆らい、看護婦にぶつかろうともある場所を目指す
もう避難されているかもしれない。だとしたら次にその場所に向かうだけだ
階段を登り、さらに奥に向かう事しばらく、ある部屋の前に着いた。ドアを三度ノックし、空気圧がかかる音をさせて扉を開ける
684 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:36:25.45 ID:jvZx0O4gO
「失礼します」
「……その声は、エリカか」
声、それはその部屋に住まうただ一人のものであるのはすぐにわかった
「た、隊長!意識が……」
その部屋に入り、奥のベッド近くのカーテンを払い除けると、そこにはしっかりと私の目を見据える隊長が横たわっていた。敬礼してベッドの傍の丸椅子に腰を下ろす
周りはシーツも敷かれていないベッドが散乱している。ベッドの上の人物からのそれ以上の返事はない。膝の上に手を置き、指を手の中に折り込む
「エリカ、お前が……ここに来たか」
話は向こうから始められた
「隊長……申し訳ありません。隊長から預かった多くの部下を死なせたうえ、大洗に勝つことが出来ませんでした……」
外から絶え間なく続く砲声。隊長ほどの人物が放っておかれている現実。ベッドの上であっても、状況は十分予測できる
「そうか……」
隊長はそうとだけ答えなさった。そのまま少し間を置いて、隊長がこちらに顔を向けられた
「エリカ」
「は、はい」
呼びかけられたが、少しの間言葉は続かなかった
「……お前には済まないことをした、ようだな」
「は……い、いえ、寧ろ代行としての」
「その代行として必要なことを……私はお前に伝えられなかった」
また遠く、どこかに視線を移しなさる
「やはりみほと赤星のあの件は重すぎたようだな……あれに対し私は十分な手を打てなかった。お前にも十分な知識、経験を積ませられなかった
そしてなにより勝たねばならない硬式戦で負けた。天下の愚将だよ、私は。西住の恥さ」
「そんな……ことは……」
685 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:37:07.82 ID:jvZx0O4gO
自嘲する隊長への返答に窮していると、窓の外から金属がひん曲げられ、倒される音が私たちの耳に入ってきた
「きゃあああ!」
「プラウダだ!」
「プラウダの戦車が入って来た!」
「逃げろ、逃げろォーッ!」
どうやらプラウダの戦車がここまで来たようだ。ここまで、か
覚悟を決めきる前に服の袖に力がかかる。目を開き顔を上げると、袖は隊長の弱々しい右手に掴まれていた
「エリカ……私は西住流のためになるなら、自らの欲求を抑えて生きてきた……後継に相応しくあるように、な」
「……はい」
「だが、そんな私だが絶対的な欲求が……一つある……プラウダに捕まるのはもう二度と嫌だ。それだけは嫌だ……頼む……覚悟はできている」
目尻には涙の粒が乗っかっている
「お前にしか、頼めない……」
顔には力ない微笑みが浮かんでいた
奥歯を食いしばり、掴まれた手に視線を集中させる。顔には季節に合わない汗が増し、自分の指の全てを内側に向け膝に、掌に食い込ませた
最早、どうにもならない。この場に他に人はいない。私が、私が、やることができる
違う、違うぞ!やらねばならない、のだ
686 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:39:04.28 ID:jvZx0O4gO
顔を上げることなく席を立ち、部屋を出て近くの薬品室に向かう。棚の扉を開き中のいらない薬品の瓶を床にぶちまけながら、目当ての効果のあるものを探す。酸があったらしく靴から滲み出て指先に痛みを与えるが、気にはならない
目当てのものを見つけると、棚にあった紙コップにそれを移し、それを近くに転がっていたトレイに乗せて病室に戻った
「……隊長、お持ちしました」
「ありがとう……自分で飲もう」
震える右腕をこちらに伸ばしなさる。が、その手はひどく震えており、握る力もあるかわからない
「いえ、お手を煩わせる訳にはいきません。私が……」
「そうか……では、頼む」
あっさりと手は引かれた。紙コップを手にした。トレイを置き、隊長の顔へと近づけていく
「苦いかな?」
「わ、分かりません」
軽く微笑まれると、少しだけ首を上げなさった。それを支える形で左手を入れて、さらに口元に紙コップを近づける。それが今にも飲まれようとした時、思わず顔を背けた
687 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:39:38.69 ID:jvZx0O4gO
病室のトレイの上には水滴の付いたカップと、その近くにある溢れた液体があった。窓の外からの砲声と共に、僅かながら理解できぬ叫び声と階段を駆け上がる音が聞こえてくる
手がかじかむ。そういえば、今日は冬の一日だった。これまでそれに気づかないほど血が沸き立ち過ぎていたのか……
膝に両肘をつき手の中に少し強めに息を吹き込んだ後、丸椅子から立ちご尊顔に布団の縁をそっと持って顔に被せる
神よ感謝します。私とこの御方に尊厳を守る時間が残されていることを。私は残念ながら、その時渡し守カロンに背中を突かれることになるでしょう
ベッドの脇に直立して、自分の胸元から生徒手帳を半分抜いて戻す。そのあと2挺持っていた拳銃のうち九四式拳銃を床に投げ捨て、もう一つのワルサーP38を取り出し、スライドを二本の指で挟んで開いて中の弾を確かめる
中にはしっかり9ミリパラペラム弾が入っている。これはSS装甲師団に入って歩兵として反乱鎮圧に参加してからの愛銃だ。私の兵士としての証でもある。壊れているはずはない
私は最期に偉大なる学園長のご命令に逆らうことになってしまいました。私の忠誠とは、分からなくなってしまいました
スライドを元に戻し、左手で持って口元に持ってくる。右手は右斜め上に伸ばす
引き金に指をかけ、銃口を口に入れる
されども、願わくはこの御方が天の国に導かれ、黒森峰女学園に永遠の栄光があらんことを!
靴の踵同士を叩き、めいいっぱい響かせる
「ハイルフューラー??」
688 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:40:11.56 ID:jvZx0O4gO
生者がただ一人の空間にそう叫ぶと、銃声が病室を包んだ。背後の壁に放射状に飛散する血痕。そして縦に流れる血の筋の下には崩れ落ちた逸見エリカが遺された
689 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:40:38.65 ID:jvZx0O4gO
第74回戦車道大会公式記録
黒森峰女学園犠牲者
逸見 エリカ
大洗 銃殺 口内から後頭部にかけて貫通 自分の銃の使用による自殺と思われる 即死
一般被害者一覧
西住 まほ
ライヒ病院にて死亡。青酸カリを飲んだ跡があり、自殺と思われる
690 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:41:13.06 ID:jvZx0O4gO
〜
広報部より報告
黒森峰女学園の動向
同校からの連絡によりますと、
「死出の旅路を共にしよう」
を
「忠誠か、尊崇か」
において選択したとのことです
〜
691 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:41:55.14 ID:jvZx0O4gO
今日はここまで
692 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/24(日) 23:40:05.19 ID:AVM5241TO
最後ナリ
2155からの予定ナリ
693 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/24(日) 23:55:13.66 ID:AVM5241TO
黒森峰女学園
ドイツ風の荘厳華麗な塔が並ぶここも、ミサイルと砲撃と爆撃で火の手が上がり、崩壊状態だった。鞄と追加品、そしてトンプソンを抱えて建物に入り、階段を駆け上る。その階段さえ途中でコンクリートを剥き出しにしていた
内部構造も防衛対策も分かっている。目的地への最適なルートを選ぶなど造作もない
ここの中にはすでにプラウダが突入しているようだ。ドアが破壊され、中は赤々しいもので占められている。教室の窓も散々だ。だが感情を呼び起こす暇は、私にはないらしい
前方にある次の階段の下では、二人のプラウダ兵が身を潜めている
「ここが先頭ですか?」
「ああ、だが階段上の突き当たりにMG42が粘ってやがる」
モシンナガンを持った一人が答える。ここから先に進むしかないな
「分かりました!」
「あ、オイ危ないぞ。工兵を待て!」
その者たちの制止を振り切り、階段を駆け上がる
「今の……大洗か?今は味方だったか?」
「確か……そうだか」
「というより……大洗に歩兵なんていたか?」
「さあ……」
694 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/24(日) 23:57:00.16 ID:AVM5241TO
上った先にはプラウダ兵の死体が一個転がっていた。確かに何箇所も銃弾が貫通した跡がある。傷の規模などやその位置、さらに壁の弾痕も見るに、なるほど機関銃が設置されているというのは間違いないらしい
壁側に寄り、来る途中の黒森峰SSの死体の近くに転がっていた鞄から、その死体のものらしき制服を引っ張り出し、袖を通す。背中に縦に一本縫い目がないから、防衛隊でないかはすぐに分かる。階級章がないがこんな事態だ。ある程度はごまかせるだろう
「ベルク(山)!」
通しながら叫んだ。積まれた土嚢と机の向こうでMG42を構えていた者たちは一瞬混乱したのか、待ち構えたまま動かない
「フルス(川)!」
だがしばらくして合言葉が帰ってきた。舟型帽を急いではめる
「SS装甲師団第12部隊の西住です!所属を名乗りなさい!」
「……はっ!我々は黒森峰防衛隊歩兵第3部隊の者です!」
その返事を聞くと壁から身を出し土嚢の方へ駆け足で近づいていく。辞めた話は広がってない、というのは事実だったか。それとも姉の方と思われたか?
「何をやっているんです!もう黒森峰は敗れました。こんな所を守っても意味はありません。ただ殺されるだけです。すぐに武器を捨てて投降しなさい!」
二人の階級は兵と上等兵、そして私はSS。なら、命令できるはず
「しかし、学園長からの死守命令が……」
「援軍なしの死守命令なんて死も同然です。守っても無駄です。投降しなさい!」
二人は暫く考えた後、土嚢から身を出して両手を挙げて階段を降りていった
695 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/24(日) 23:59:09.60 ID:AVM5241TO
さて、障害は消えた。彼女らと逆方向に向かい、素早く黒森峰の制服を脱ぎ捨てる。これは仮に過ぎない
もう一個階段を上がり、割れて破片が辺りに飛び散った窓から屋上に出る。床のタイルはそのほとんどがひび割れ、爆撃を食らって破壊された建物の瓦礫があちこちに散らばっている
脱ぎながら肩にかけていた追加品を外す。追加品である縦長のケースから二本の棒を取り出し、片方の先をもう片方の根元に捻ってはめ込む
左手で軽い方を回しながら、背後を確認してみた。黒いヘルメットをかぶり、息が荒れている女性が、膝に手をついている。彼女の胸にはJUDGEと書かれ三日月型の茶色の板をぶら下げている。状況は私の都合の良い方に傾いている。本当に根底さえ無視すれば、運の良い日だこと
はめ終わって一本の完成した棒を握る力を少し強めた。そして、一度先を見据える
屋上を囲む小さい塔の一つに足を掛け、手で体を引き上げつつ次の場所を探して足を乗せていく。高く、より高くへ
塔に空いている穴にその根元を差し込み、棒の先に付いた布をばっと広げた
その布に描かれていたのは青い「大」に、その中央に被さるようにある「洗」
そう、黒森峰女学園校舎に掲げられたのはプラウダの赤い旗ではなく、サンダースの白地に青い星の旗でもなく、伸び伸びとした感じを強調する大洗女子学園の校章そのものだった
手元のトンプソンを素早くフルオートに切り替える
「黒森峰女学園はーッ??大洗女子学園が占領したッ!」
塔の上で叫びながら、的も無き空にトンプソンのマガジン一個分を撒き散らす。反動と重力に耐えながら撃ち終わった後、宙にトンプソンを投げ捨てた
ここは黒森峰の本陣。そして私は非武装だ。これで終わらないなら、死ぬのみ、か
「……はい、確認しました……では……に則り……でよろしいですね……分かりました」
後ろの審判が無線で誰かと連絡を取っている。疲れもあり、塔の台座に背中を委ねる。無線のイヤホンから指を離した審判は、こちらの方にゆっくり近づいてきた
「おめでとうございます」
次からの審判の叫び声は、意識を失う最中のことで、記憶が曖昧だった
696 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:00:08.74 ID:rkEitg26O
〜
「もうすぐこの戦争も終わるな」
「戦争が終わるとどうなる?」
「知らんのか?」
「戦争がはじまる」
〜
697 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:00:50.98 ID:rkEitg26O
寧ろ、死んでない方が不思議だ。拾った細めの鉄パイプを支えに、何とか路地裏を動いていた
「はぁ……はぁ……ガハッ!」
B1bisの中で飛び回った破片は、しっかりと右胸脇を貫通していた。その為か血の混じった痰を時折吐き出さざるを得なくなる。満身創痍という言葉は、きっとこの私を指すのだろう
右胸脇貫通による肺の損傷、火傷、左足骨折、肋骨骨折、頭部負傷、結構な出血、その他切り傷、擦り傷多数。単体では簡単に死なない怪我を幾つも受けていた。動き続けた。目的地はない。止まった時が、死ぬ時だと思った
もうモルヒネは打った。痛みは殆ど無いが、それで苦しさと動き辛さから開放される訳ではない。右胸脇から聞こえる空気の抜けるような音が不快で仕方ない。しかし、まだ試合は終わってない。これは生徒会が始めた戦い。見届けることのできる人は自分だけだ。それが、先立った会長とのヘッツァーで交わした約束である
「……どうなっている……戦況は……ゲホッ、ゴホゴホゴホッ!」
余りに激しい咳に思わず体が前に倒れこむ。腕が支えきれなくなり、うつ伏せに地面に突っ込む。今まで肺の中に血が溜まっていたらしい。喉はもう逆流する血を抑える力も残っていなかった
むせながら口から血が溢れ出てくる。何度も出てくる血。それがみるみる大地に消えてゆく様に覚悟を決めた
698 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:01:36.46 ID:rkEitg26O
残念だが、もう、限界だ。もう立ち上がる力はない。致し方ない
取り敢えず仰向けになり、そこから腕の力を振り絞って上半身を壁に寄りかからせる。食道に残った血が未だに痰に混じって出てくるが、幾分楽になった。頭から流れる血が顎からズタボロのスカートの上に垂れる
落ち着いてみると激しい砲撃戦が起きているようだ。残り二輌が戦っているにしては多い。まあ、そんな事は大洗が勝てばどうでもいい。大洗が勝てば、大洗が残れば
しかしもう自分に大洗の為に戦える力はない。結果を見届けたいところだが、このまま死を待つよりは早くこの苦しみから逃れたい
やっぱり私は自分の事ばかり考えているな。会長や西住なんかの代わりにはなり得ないんだなり
右手でポケットから九四式拳銃を取り出し、スライドを引く
私は、隊長だったのだろうか……やれる事はやったのか?西住は最大限サポートしてくれた。それに応える事はできたのか
「……そんなのは、後の人の評価に任せるか……ゴホッ……
お姉ちゃん、まさかこんなに早く、そちらに向かうとは思っていませんでした……まさか私が戦車道で死ぬとは……想像……できましたか?」
右のこめかみに銃口を当てる。引き金に指をかけ、今にも引こうとする
「大洗女子ば」
(いやー、姉を尊敬し続ける後輩か、いいもんだね)
「??」
聞いた事ある声に思わず銃口を外し周りを見渡すが、その声の主がここにいるはずがない
699 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:02:14.10 ID:rkEitg26O
「会長……」
馬鹿な、会長と柚ちゃんは、あの時ヘッツァーに残って……
「これは、夢……?それとも、走馬灯か何か……?」
(かーしま、元気にしてたか?)
これは途絶えない。幻聴?
だが会長から声を掛けられて答えないわけにもいくまい
「……会長、これを見てもそう思えますか?」
(だよねぇー)
返事が……あった……
「会長……こっちの……」
(言っていることは聞こえているよ。その様子だとこっちの声もきこえてるみたいだね)
けらけら笑う声、間違いない。会長のもの
「……これは……何ですか?ゴホ、ガハッ!」
(夢さ、かーしまの)
「夢……ですか、ならば早く覚めてそちらに……」
再びこめかみに銃口を当てる。夢なら……苦しみつつ見る夢なら……
(待て待て、あと五分生きてみる気はないか?夢を見ている間も時は流れるんだ)
「……五分で一体何があると言うんですか?ゴホゴホゴホッ」
痰が……多い
(何かあるかも知れないよー)
「何ですかその曖昧な答えは……もはやこの出血にこの怪我です……長くはないでしょう。それなら……この苦しみから逃れたいのです。死なせてください」
(だったらわざわざそれを自分で縮める必要もないだろう。かーしまには試合の結果を聞いてもらわなくちゃいけないんだから)
「しかし……それがあるまで生き続けられるとも思えませんし……」
(んじゃ、断言する。このままかーしまが死ぬまでに、何かが起こる!)
はっきりとした声だった。周りに聞こえてない。黒森峰の者が来ないのが不思議に思えるほどに
会長がそこまで断言なさる。信じない、という理屈は私にはない
700 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:03:18.72 ID:rkEitg26O
undefined
701 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:03:58.28 ID:rkEitg26O
「……会長がそこまで仰るんですから何かあるのでしょう……ですが、このまま死を待つのはしんどいので、少し話をしませんか?」
(いいよー)
「今まで……色々有りましたね。ゴホッ」
記憶を辿る力はまだあるらしい
(あったねー)
「私が……高校で転校してきた時、始業式の日に話しかけてくれましたよね……」
(あー、あれね。生徒会、ウチらの代が少なかったからね。仕事増やす気だったし、とにかく人手人手だったね)
「でも、そのお陰で……私は、恐怖を……あの、右腕の映像を……生徒会活動やっている時だけでも忘れられました……ゴホゴホ……本当にありがとうございます……」
(いやねー。そんな大したことはしてない気がするけどね)
「いえ……私にとっては……感謝しても仕切れないです……ハロウィンパーティー……覚えてらっしゃいます?」
(ああ、私が魔女になったやつね。かーしまはカボチャ被ってたっけ。あれ……なんて言ったっけ?)
「確か……ジャックオランタン……だったと思います……ガハッ!」
落ち着いたと思ったら、またこれだ。どうにもならないんだな、本当に
(他には……生徒会で海行った時とかは覚えてるか?)
「覚えてます……泥ンコ大会やって……プロレスだっていきなり……会長が言って、私が思いっきり……海老反り食らいましたね……」
(それとかでっかい水鉄砲持ってきて撃ちまくってたねー)
702 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:04:50.21 ID:rkEitg26O
「そして……今年に入っていきなり国から今年で廃校だって……言われて……ゴホッ。私が……やっと、青師団でのことを……話して……話すことができて」
(あの話された時は驚いたね。戦車道の現実なんて噂くらいしか聞いたことなかったし。容易く戦車道やるって言ったこと軽く後悔したよ)
「軽くなんですね……ゴホゴホッ」
そうだ。この人は学園の未来を、何千人もの未来を背負っていたのだ。私一人の過去なんて……些細だ
「で、私が隊長になって、戦車探して……右も左もわからない状況で……練習はじめて……マジノに完敗して……」
(まああれは……ねぇ。しょうがないさ)
「西住を転校させて…戦車道やらせて……さらに頼んで副隊長にして……」
(まあ、西住ちゃんも結果的に飲んでくれたけどねぇ、あの時のせいで嫌われても仕方なかったと思うよ。必要だったとはいえ
……でも楽しかった。勝利目指して練習して上手くなって、聖グロ相手にあれだけ接戦に持ち込めて……みんな頑張って……)
「本当に楽しかったですね……」
(あの頃は……)
走馬灯の如き思い出とともに、無言の時間が路地裏を流れる。気がつくと、先程まであった会長の存在は、ここから完全に無くなっていた
703 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:05:49.18 ID:rkEitg26O
「あれ……会長?」
そろそろ五分経ったということだろうか?右脇腹を見ると、もう元の群青色の戦車服の色は見えない。また一口血痰が吐き出される。意識も朦朧としてきた。腕を上げる力もない。鉛玉を撃ち込まずともいいだろう
砲撃音、銃撃音、火災の音、全て続いている。ぼやけていく視界の中、二つの瞳を閉じようとした時、遠くから単調な甲高い音が響いてくるのが耳に入った。私の脳味噌の最後の力を引き出す
「試合終了ーーッ??」
血が抜けて軽くなった首を、少しだけ空へ向けた
「第74回戦車道全国高校生大会優勝は大洗女子学園??」
大きな音量で街中にアナウンスが響き渡る
「戦闘行為を停止せよ!全部隊直ちに戦闘行為を停止せよ!」
大洗が……優勝。勝った……のか。そうか、ゆうしょうしたのか……これで……あんしん……して……
704 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:06:42.25 ID:rkEitg26O
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
河嶋 桃
黒森峰 頭部、右脇腹負傷などによる失血死 負傷後1時間強ほど生存した跡あり
705 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:08:42.97 ID:rkEitg26O
地上に降り、校舎の正門の前に身一つで歩いてきた。大きな門の上には黒森峰の印である白丸の中の黒十字が乗っかっている。その背後からは何箇所からも灰色の煙が空高く登っている
間も無くその印は髪を揺らすほどの風と轟音とともに爆破され、砕け散った。赤く燃えて周りより黒い煙を上げる。その煙を眺めていると、心の中にあった黒森峰での僅かな良い思い出も空に立ち昇ってゆく気がした
姉と触らせて貰った優勝トロフィー。小学校の時に母と共に会った優しい教官。SSの厳しい練習後に同じ釜の飯を食べた、今は亡き仲間達。それが浮かんでは消えてゆく
消えてゆく
勝ったが、勝ってしまったし、勝てなかった。ここから先戦うとしても、それは真の『西住』ではない。それを得るために、私は何を費やしてきたのか
これが最善の道、利益を最大化する道だとはよく理解している。博打を3度も当ててやっと手に入れた利益だ。そうするしかなかったのだ
だが……余りにも、余りにも全てを破壊してしまった。全てを
その煙を眺めていたが、しばらくして門に背を向けた
泣いた。我慢のがの字もない程大声で泣いた。ボコられグマのボコはどれ程叩かれ負けても応援で再びやってやると言って立ち上がる。しかしもう私に届く応援を出来る人はいないだろう。何より自分自身が出来ないのだから
706 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:09:34.85 ID:rkEitg26O
辺りではプラウダの戦車が何輌も止まっており、その周りからはアコーディオンを奏でる音、コサックダンスのリズムをとる者など、プラウダ側の歓喜が膨らんでいた
「Волк умер! Волк умер!
(狼死んだ!狼死んだ!)」
その近くには黒森峰の制服を着て銃を携えて死んでいる者達
ただ、前に歩みを進めた。行き先があるわけじゃないのに
707 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:10:00.72 ID:rkEitg26O
第74回戦車道大会公式記録
◯大洗女子学園vsX黒森峰女学園
被害 大洗3輌 黒森峰132輌
????????????????????《航空機 21機》
(大洗側同盟 プラウダ学園 64輌
?????????????????????サンダース大付属 なし
????????????????????《航空機 17機》
?????????????????????ポンプル学院 10輌)
黒森峰戦闘体制崩壊と判断
708 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:10:27.84 ID:rkEitg26O
ここまでになります。今後については別のところでやろうかなと考えてます。ありがとうございました
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