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【ガルパン】 不死の感情
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659 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:58:15.47 ID:nhXQpGdt0
とにかく音の鳴る方へ向けて歩き始めた。ここでの爆撃はもう終わったようだが、中心部からはまだ爆発音が聞こえる。それも外に出てから2分もしない内に収まっていた
「どこでやってるんですかね?」
「……南東部の何処かだとは思うけど……とにかく歩き回るしかないね」
そうはいっても辺りからの炎の音が、その音探しを妨げる。塹壕を超えたり、塹壕経由で移動したり、警戒しつつも動き続けた。しかしその音は見つからない
再び建物の隙間に身を寄せる。水を飲もうとしたら、何も持っていないことに気づいた
「ありゃ……」
「……まぁ、水無しでも一息つけるさ」
「それにしても……見つかりませんね」
「……この都市も相当広いんだろうね……いうほど建物も高くないみたいだし、人口もウチより遥かに多いって聞いたよ」
「はぇー」
今度は辺りから小さく戦車の履帯の鳴らす音がした。これが一方向ならよかったが、それはあちこちから、本当に四方八方から聞こえたのだ
さらに砲撃が再開されたのか、その音もする
「これじゃ……どこでやってるか分からない……どうしたら……」
660 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 22:59:41.72 ID:nhXQpGdt0
だが待っている間に状況は変わった。一際目立った音が迫ってきていたのだ
場所は中心部の方からだ
「黒森峰……ですかね?」
「……他にいないんじゃないかい?」
「プラウダじゃなければ、ですが」
身を伏せたまま顔を覗かせると向こうにいたのは丘の上に見えたあの車輌に似た車輌が幾つか見える。しかしあの丘の上の車輌より小さいように感じる
IV号だ。あれは黒森峰だ。もしかしたら黒森峰の試合に出ている部隊への援軍かもしれない。そうでなくとも倒すべきものだ
手に握られた四角錐型のものに水滴が付く。近づいてくる中で分かったが、黒い服を着た黒森峰の者は西住副隊長がいつもやっているようにキューポラから身を出している。もしかしたら、トンプソンで狙える、かもしれない。それならこの四角錐型の爆弾みたいに近づかなくてもいい
「あれ……狙いますか?」
「……狙ってもいいけど、どうする?この爆弾使う?」
「先頭の車長を撃てれば隊列は混乱します。勝負は相手が車載機関銃でこちらを撃つまでのわずかな時間ですが」
「……やろうか。今度は私が行こう」
「えっ」
「……さっきやらせて、今回も行かないわけにはいかないだろ
それに、私の名は『生しらす丼のカトラス』
足がはやいことから付けられた名前さ」
気づいたら手からトンプソンは奪い取られていた
「……援軍だったらこっちに利するだろうしね」
661 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:00:15.46 ID:nhXQpGdt0
トンプソンのマガジンを抜き、マガジンポーチから新たなマガジンを取り出して装填する。引き金に指をかけ、戦車をできるだけ引き付けている
口が渇く。先程の2人を狙う時より鼓動は激しい気がした。私がやろうとしているわけじゃないのに
30……20……15……。距離は近づいた。敵はこちらには気づいていない。今なら奇襲が成功するはず
その距離3メートル。迷わず建物の隙間から飛び出していった。銃をキューポラの上の方に向けて連射する。音からして最初の3発ほどはキューポラに当たったようだがその後は当たったらしく、素早く隙間に戻ってきた。敵車輌は機関銃を準備する間も無く、横を通り過ぎていく
「後続がいる。逃げるよ」
「は、はい!」
言われるままに狭い中を頑張って走って行く。後ろの車輌が機関銃をこちらに向けたようだが、コンクリートの壁2枚挟んだこちらまでは流石に貫通しない。何とかして私たちは隙間を通って隣の通りまで出る事ができた
成功だ。これで敵の隊列位は崩せただろう
「や、やりましたね」
「……逃げるよ。追ってきてる」
「えっ……」
興奮していたのか、そう言われるまで背後から足音の群れが鳴っていたことには気づかなかった
「……まずいね」
「このまま振り切れますかね?」
「……土地勘は向こうにあるし、数だってある。これは……足だけだね、頼れるの」
「なに、私だって走ることにかけてなら、負ける気はありませんよ?」
「……車で、だろう?」
「うっ……」
「……まぁ、行こう」
確かに彼女の足は速かった。脚力も一応の自信はあるが、それをも上回る勢いでカーブと直進を繰り返す。それに続こうと必死でいるうちに、いつの間にか沢山の声は遠くに消えていた
662 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:16:27.47 ID:nhXQpGdt0
「ふぅ……」
水はないがまた一息つく
「これから……どうしますかね」
「……まだこの爆弾が残っている……どこかで使っちゃったほうがいい」
そうなると他の部隊を探すしかない。結果的に再び黒森峰の選抜隊を探すこととなった。だが戦闘は本当にあちこちで起こっているらしく、音では分かりようがない。時にはプラウダらしき戦車と出くわすこともあった。
そして休憩もとりつつうろつくことしばらく、目当ての車輌を見つけた
「……ティーガーI……」
「ですね……」
これが選抜隊かは分からない。が……私たちが戦っていた選抜隊にはティーガーIはいた。頭は出しているが、再び同じ手が通じるほど甘くはないだろう
「……やろうか」
「はい」
話し合うまでもなく、2人同時に行くことが決まっていた
「……機銃が通り過ぎるまで待つよ」
「分かってます」
先ほどの攻撃で機銃の威力を目の当たりにしている。避けようとするのは当然だった。それぞれ一個ずつ握りしめて、その時を息を潜めて待つ
いや、潜めようと奥に来すぎていた。そして何より……
その道幅は、先ほどより少し広かった
663 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:18:45.69 ID:nhXQpGdt0
カトラスさんが先に飛び出した。私も続いて飛び出していく。目当ての車輌目指して
しかしその時すでに、顔を上げると車長は自動小銃、自分たちと同じトンプソンの銃口をこちらに向けていた
そして私だけそれに気づいてしまったのだ
先んじていたカトラスさんが蜂の巣にされるのに、時間はかからなかった。
一瞬だった。一瞬だけ全面開放的な路上で私は固まった。直後に隙間に戻ろうとしたその時を、相手車長は逃してくれなかった。銃弾は左足首、左太腿と右脇腹を狙った。体の三箇所に鈍痛が走り、隙間に飛び込んで倒れこむ。しかし黒森峰側も追撃を諦めたのか、そのまま郊外の方に向かっていった
意識は保っていた。しかしその意識が痛みを感じさせ苦しめる。左足に力が入らないような状況でなんとか立ち上がり、片足歩きで壁に手をかけながら隙間を逆側に抜けた。出血が激しいのか、意識が薄れていき、地面に倒れこんだ
「流石に……無茶だったか……な……カトラスさん」
彼女に対してはこう思うだけが精一杯。這ったまま腰に四角錐型の爆弾を乗せ、一本奥の広い道に出た。通ってきたときは気にも留めなかったが、道にはフォルクスワーゲンが一輌停車していた
とにかく座る場所を求めて、血の跡を後ろに残しながら近づいた。災害時の車の扱いを心得ているのか、はたまたただ急いで逃げただけなのか、扉が開いている。運転席から何とか右足で椅子まで移動し、背もたれに身を預ける
座って落ち着くと、服に染み付き、今この時も広がってゆく血の跡、痛み、そして先輩方への申し訳なさ。それらのせいからか、顔に涙を浮かんでいた
左足からの出血は益々増している。とりあえず持っていたタオルで股のところを縛ってみたが、それでもこの出血が続くようではもう命は長くないだろう。つまり先輩からの願いを達することは不可能になってしまったということだ
ならばどうする?私はこの時間、どうすればいい?
664 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:53:33.39 ID:nhXQpGdt0
その時腰の四角錐型の爆弾が脇から顔を出しているのが目に付いた。それと車の引き出しから偶々見つけた車の鍵
それらを見た時、頭にある計画が浮かんだ。それを実行すると後戻りはできない。しかし左足からの出血を見て、心を決めた。涙なんか引っ込んだ。この残されたわずかな命を懸けて、黒森峰に一矢報いると
それが大洗の優勝に貢献するかはわからない。しかしそれに近づくと信じた。右足にはかろうじて力が入ることを確認して、鍵を差し込みエンジンを入れる。エンジンは適宜整備されているらしく、かかりがいい
「いい人に持ってもらったね……」
アクセルを踏み込む。左足は使わない。ガソリンもそれなりに入っている。道を曲がって戦車が通った道にドリフトをかけながら戻る
「燃えるねぇ〜……」
薄れようとする意識を抑えながら、戦闘しているらしい道の先に進んでいく
「死んだら怒られるだろうなぁ……」
道が真っ直ぐなお陰でスピードはみるみる上がり、見つけた黒森峰の戦車隊にも接近してしまった。だが前からひっきりなしに砲声がするお陰からか、こちらには気が付いてないようだ
この通りにいるのは三輌だけらしい。もう距離は50メートルもない。そろそろだ。アクセルを一層強く踏み込み、四角錐型の爆弾の紐を引く。猛スピードで鉄の重そうな戦車たちはこちらに迫ってくる
先輩方、申し訳ないですけど、今からそちらに行きます
開けておいた窓から力を振り絞って片手で爆弾を外に出す。アクセルからは絶対に足が上がらないよう、残された力を振り絞る
665 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:54:01.92 ID:nhXQpGdt0
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
加藤 清羅
黒森峰 銃殺 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死
土屋 圭
黒森峰 死体損壊が激しく致命傷は不明 即死
666 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/17(日) 23:54:56.42 ID:nhXQpGdt0
〜
黒森峰女学園
明治期に創設されたプロテスタント団体の熊本バンド。その参加者であった横崎経峰が立ち上げた熊本独語学校がルーツとされる。戦後第一次学園艦計画の中で熊本港を母港とした学園艦の建造が開始され、1959年に学園艦として開校した。その後第一次学園艦移設計画によって、1985年に熊本県嘉島町に移設開校。その後も九州の有力な学園都市として存在している
〜
667 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 20:54:47.38 ID:jvZx0O4gO
2100からやります
668 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:01:24.10 ID:jvZx0O4gO
私たちは真の若き日々の物語を誇りに思い、栄光ある日々を決して忘れないだろう
669 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:04:04.83 ID:jvZx0O4gO
ティーガーIIを学園都市中心部の学園官邸を目指して進ませていた。しかし現状既にプラウダ学園装甲部隊が中心部に迫り、取り囲んでいるようだ。私の気づかぬ間にここまでことが進んでいたとは……
「ここも封鎖されているわ。前方からT34/85が二輌、JS2が一輌出でくるわよ!」
何れにせよ照準器の向こうでは、道路上の三輌の戦車がこちらに砲身を向け待ち構えている。ここが今まで見かけた中で一番突破が用意、というわけではないが、このまま突破しなければ側面を晒すことになる。いくらティーガーIIでも側面を狙われるのは厳しい
「ティーガーIIを正面から止められると思っているの!なめないでほしいわね、イワン共??」
だが正面からの撃ち合いなら決して負けない。装填してあった砲弾をJS2に撃ち込む。砲身から煙が吹き出し、こちらに流れてくる。近距離ならば地獄に送れる。まず一輌
しかし次弾装填までに煙の向こうが光り、T34から正面に砲撃を食らう。正面から撃ち抜かれるほどヤワではないが、車内を激しい揺れが襲い、頭の上のキューポラが煩く騒ぐ
「ぐっ……」
砲手は落ち着いて砲弾の装填が確認されると、T34に撃ち込む。車内に煙と薬莢が排出される。正面から狙われたT34はキューポラから炎をあげ、車体のあちこちからそれ以上の煙を噴出させる
「命中!2輌目撃破。T34後退していきます!」
「よし、包囲に穴が空いたわね」
670 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:04:50.72 ID:jvZx0O4gO
道は開けた。あとは進むのみ。前進し学園官邸に急行するよう指示しようとした時、操縦手から焦る口調で報告が入る
「くっ……隊長、ミッションに異常発生です!ギアが入りません!」
足元からは必死に動かそうとすることによる歯車の噛み合わない嫌な音がする
ギアが入らない。即ちこの戦車は動かない
「江賀に無線を」
「はっ……」
ただ路上で無言で待つ時間が、かなり長く感じられた
「こちら江賀。隊長代行、如何なさいましたか?」
「無事?」
「は、はい。猟兵が二人ほど来ましたが撃退済みです。他には特に……」
「なら、どこかに隠れなさい。やり過ごすのよ。それが最後の命令」
「はっ……最後?」
無線は言うだけ言って無理やり切った。さぁ、数多の者を切り捨てるだけ切り捨ててここまで来た。あとはそのまま行くのみ、か
671 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:09:22.41 ID:jvZx0O4gO
「……もういいわ……ここまでね」
「は?隊長代行?」
船形帽をとってからヘッドホンを外す
「最早、この試合も、学園も負けね。ここから先は私一人で行くわ」
不安げに見つめてくる砲手の視線を無視して淡々と咽頭マイクを取り、トンプソンを持ってマガジンポーチを腰に結びつけ、キューポラを開いて荷物を先、続いて身を放り出す
「エリカ隊長代行!」
外に完全に出た私を追って、砲手がキューポラから身を乗り出す
「最後の命令よ。貴女達は車輌を爆破して、江賀のティーガーIと合流して隠れて時間を稼ぎなさい。とにかく試合終了まで戦わないでいなさい」
車輌を降りて素早く中心部を目指して駆けて行った。背後から隊長代行、隊長代行と呼びかける声がするが、耳に入れることは無かった
私はついに代行としての役目も放棄したのだ。そんな肩書きで呼ばれる資格はない。聞かないふりをし続けたまま、音はやがて本当に聞こえなくなった
672 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:10:08.53 ID:jvZx0O4gO
まだ時たま空の低い位置に飛行機雲の親戚が見える。近くの家は燃え盛り、破壊された煉瓦や木片が所を問わず地を覆っている。白い煙はあちこちから上がり、空に昇る
中心部に近づいてもその光景が変わらず続く中、一人先を急いでいた。煉瓦を踏みしめ、時折近くの壁の跡に身を潜める
中心部に近づくにつれて、落ちている死体の数が増える。それも軍属ではない。防衛隊やSSの制服ではなく、本来の黒森峰の制服を着て、パンツァーファウストや銃を近くに落として瓦礫に埋もれている者が明らかに多い。
人によっては胸のあたりが真っ黒に焼け焦げたまま、パンツァーファウストの棒を握りしめている。初歩的な使い方のミス。それすらも分かっていない人間を、学園は前線に送り込んでいる
これが意味する所は、そのような手段を取らざるを得ないほど戦局がよろしくないというものだった。宣戦布告されていない故に、昨日まで銃の撃ち方さえ知らぬ者を送り込まねばならないほど数が足りないのだ
落ちていた銃は流石に使えない。弾の規格も今のものとは合わない。使われていないパンツァーファウストなら何とか使えるが、流石にこれを持ち運んで行動するのは目立ちすぎる
仕方なくいざという時に備えマガジンをいくつか拾っただけで、残りは捨て置いていった
673 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:11:46.66 ID:jvZx0O4gO
先を急ごうとした時、金切り声に近い叫び声が耳に入った。建物の窓越しに身を潜めつつそちらを向くと、少し離れた路上で黒森峰の女子二人が、プラウダの数名の兵に追われ、服をひん剥かれようとしていた
すぐに捕まり、一人は銃の柄で殴り倒され血痕を拡散させ、地面に伏した。もう一人は向こうの趣味にあったのか、地面の上で襲われていた
その光景はあまりにもおぞまかった。目も銃も向けることなど出来なかった
本来ならここで全員奴らを撃ち殺して然るべきだったろう。たとえあの中の一人を巻き込んでしまったとしても。冷静に考えていたらそうなっていた
だが実に恥ずかしいことに、私は駆け出してしまった。ただ一瞬でも早くこの野生の狂乱から逃げ出したかった
一方でこれで確信できたこともあった。やはり、プラウダはゴキブリ以下だ。蔑むべき存在なのだ、と。それさえなかったら、殺すことにためらいはなかった、と断言できる
674 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:12:22.55 ID:jvZx0O4gO
その後の移動でも弾の使用は必要最低限を心がけた。防戦に加われという指示ならば、その為に弾薬は残しといたほうがいいし、当面は生きねばならない
万が一発見されて戦わねばならないときは、SSになってすぐに従軍した反乱を思い出す。こう見えてもその戦いで反乱部隊の一つを殲滅し、学園長から直々に勲章を授かったこともあるのだ。プラウダの糞野郎なんかに負けはしない
鉄の心、動じることなく頭を狙う
675 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:13:23.34 ID:jvZx0O4gO
数人の頭を弾数発で破壊したころ、学園の防衛ラインらしきものが見えた。といっても塹壕の前に土嚢をいくつか積み、機銃を出し自動小銃を準備した防衛隊が頭だけ見える程度のものだが。見えるだけでも転がっている死体が多い。敵のも、味方のも
正面から行っては間違われ可能性がある。流石に味方に撃ち殺されるなどというヘマはしたくない
裏から塹壕に近づき、建物の横から帽子を出して振った。向こうが確認しているかはわからないが、撃っては来ないが、ちらりと見るとMG42はこちらに向いている。続いてある声をかけた
「Ein Wald(森)!」
少し間が空いたが、返事はしてくれた
「Meer(海)!」
互いにそう言う人間だとは確認は取れたはず。されどまだ弱い
「武装SS装甲師団曹長、逸見エリカよ!そこを通しなさい!」
「こ、これはSSの戦車道部隊の指揮官の方でしたか。失礼を」
676 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:14:10.65 ID:jvZx0O4gO
姿を出し塹壕へ走り、滑り込んだ。そこへ部隊長らしき娘が近づく
「逸見曹長、申し訳ありません。プラウダ兵の一部が黒森峰の服を奪っているという話があったもので……」
「伍長、それより現状を」
名前が分からずとも階級で呼べるのは、こういう時は正直楽だ
「我が部隊を含め、この防衛戦はプラウダの歩兵による第一波を辛うじて撃退しましたようですが……すぐに第二波が来るでしょうね」
「……その時守れるかしら?」
「第一波の時の犠牲は多かったですが、守ってみせます……やれる限りは。そう命令を受けていますから。軍人ならばそれに従い、全力を尽くすのみです」
銃の作動を確認しながら、口角を上げて応じる
「そう……これ、途中の死体から拾ってきた弾。足しになるかもわかないけど、よかったら使ってちょうだい」
「は、あ、ありがとうございます!」
「私は学園長に報告して来るから、ここは任せるわ」
「はっ!」
綺麗な敬礼だ。右手がすっと、まっすぐに伸びている。塹壕を飛び出し、真っ直ぐ中心部の方へ進む。その中で、背後から一層大きな声が響いた
「ジーク、ハイル??」
もう厳しいだろう。さっきは歩兵主体だったようだが、きっと次は戦車隊が来る。あの塹壕では耐えられまい。士気はありそうなのが救いか
時間がない
677 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:16:54.14 ID:jvZx0O4gO
つい今も一発着弾したここに到着した。道中稼働中のこちらの戦車は見当たらなかった。
フリードリヒ地区ブランデンブルク地域にある学園官邸。その象徴である入り口の上の鷲の紋章は足元や翼が欠け落ちており、柱の下がえぐれ、壁も傷だらけである。辺りの窓は破れていないものを探すほうが難しい
学園都市ではなく、学園そのものの喪失。最早話だけだと信じたかった現実は、私の正面に堂々と広がっていた
その柱の下に腰を下ろし息を落ち付けようとしたところ、地面の一部が開き、地下から人の顔が覗いた
「オイ、生徒か??こっちだ!」
姿からして防衛隊だろうか
「急げ!早く!」
近くまでプラウダ本隊は迫ってはいないらしいが、急かされたのもあって呼びかけに応え、案内の者に従い穴に入った。階段を一歩ずつ下り、白熱電灯のぼんやりした光に照らされた廊下を銃片手に進む
地上からも地下からも唸り声が絶え間なく耳に入る。そこは地上で軍服が汚れに汚れた私でさえ、いるのが申し訳なくなるような場所だった
678 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:17:23.77 ID:jvZx0O4gO
♪掲げよ!
廊下の両脇は頭、首、腕、胴、足、その何処かは確実に包帯を巻いている人間がずらりと並んでいた。中央にあるのは私ともう一人が並んで歩くのがやっとなスペースのみ
♪神聖なる旗を
SS、防衛隊、一般生徒問わずほとんどの者は体育座りでおり、横になれるのはさらに酷そうなほんの一部だけである
♪親衛隊は
それらを数名の血まみれのエプロンを身につけた女性が対処していた。もっともテープや包帯、それすらもない時はカーテンの切れ端を巻いた後はほっとかれたが。その方々を避けつつ、コンクリートに囲まれた空間を進む
♪堂々と前進す
処置を受けた生徒の一部はそのボロボロの身にも関わらず、入り口の防衛隊の者に銃を握りながら、外に出してくれと必死で乞う。そして一部は、そのまま地下から飛び出して行く。行ったもののどれほどがまともに帰ってこれるだろうか
♪反逆者の前に倒れし戦友の
戦闘以外でなら高校生以外の関与も認められる。そう、ケガ人の励ましのために小学生が歌うのは別に戦車道連盟規約には反しない
♪御霊とともにいざ行かん
助けるべきか、手伝うべきか。一瞬頭をよぎったが、無視して先を急ぐ。これが終わった後私は再びあのゴキブリ以下共を一匹でも多くこの地から駆除しなければならないのだ
♪反逆者の前に倒れし戦
地下は大きく揺さぶられ、叫び声により歌も中断される。近くに着弾したようだ。私もその拍子に右側の壁にそのひたいを打ち付けてしまった
みんな続けて!……
♪御霊とともにいざ行かん
額を壁から外した後も、少しの間嫌な揺れが頭を包んでいた。足で捻り潰したくなる奴らを思い浮かべつつ、壁を殴った
「プラウダめ……」
679 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:18:59.04 ID:jvZx0O4gO
髪は爆風でボサボサになり、膝を擦りむき、息も大きく荒れている。廊下に靴の踵の音を響かせながら学園長のいる所に向かった。とはいえど単に廊下の奥だ。ここの防空壕はそこまで大規模ではない
その入り口には門番替わりのSSが二人席に着いている
「SS装甲師団選抜隊隊長代行、逸見エリカ。学園長に戦況の報告に参りました」
「生徒手帳の提示を。あと荷物と武器はこちらでお預かりします。それの照合と案件の確認をしますので、しばらくお待ちください」
机を置いただけの受付で係りの者が、手元の書類をそのまま読むような対応をする。上からは砲声が下まで響き、壁は崩れて欠片がパラパラと落ちてくる。それどころではない、というのが分からないのか
「私よ!試合中の戦車選抜隊隊長代行、逸見エリカよ!学園長命令で前線から急いで敵包囲網を突破してきたわ!すぐに学園長やSS総司令官殿に報告に行かねばならないの!
それにね、SSの癖にあの廊下の様を、怪我人すら参戦している様子を間近で知りながら、椅子の上でのうのうとしてるとは、何様のつもり!」
余りに高飛車な態度だったので腹が立ち、思わず反駁する
「生徒手帳の提示を」
「くそったれ!勝手にしなさい!」
しかし受付の者の対応は変わらない。荷物を置くと受付の机の上に黒森峰の印の付いた生徒手帳を叩きつける。許可が出るとそのままズカズカと奥に入っていった
「待つことすらできんとは……全く、これだから戦車関連しか能がない奴は……」
今日何度めかの背後の声は気にする余裕がなかった
680 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:21:38.01 ID:jvZx0O4gO
中に入ると、廊下が人で封じられている。その奥から怒鳴り声が聞こえてくる。学園長のものだ
「奴らがここまでやるつもりだと誰一人報告してこなかった!海軍のみならず、SSまでもが私を欺きおって!職員、軍人、その全ての裏切りでこの戦いは負けるのだ!臆病者揃いが!
職員共、防衛隊共、SS共は殆どが卑劣で忠誠心のない、卑怯者の塊、蛆虫以下の連中だ!
奴らは黒森峰の者たちの中のカスだ!栄誉なぞない!
この学園卒を立派な学歴だと偉ぶっているが一体全体何を学んできた!お上品なテーブルマナーに、外見は立派な宗教作法だけか!
私ももっと早く偉ぶっている奴らを皆殺しにするべきだった!私は最初の最初から裏切られていたのだ!
これは黒森峰の民全てへの重大な裏切りだ!裏切りものは皆報いを受けるだろう!奴らの血によってな!」
人の群れに近づくにつれ、怒鳴り声が大きくなる。群れの中には涙を流す女性を他の女性が慰めている。他の人は無言で、棒が立っているようだ。ただ茫然と棒の追加の一本となっていた
気がつくと棒はぞろぞろと動き出し、私が入ってきたドアの方に向かい、消えていった
部屋からはシルクハットを頭にはめようとしている初老の男が、彼らとは逆の方に向かおうとしていた。その男、等良学園長閣下に走り寄り、跪く
「閣下!」
「ん?君は……」
「待て!貴様、この方を誰だと」
ボディーガードらしき男が詰め寄ってくるが、帽子をはめた学園長閣下がそれを杖を持っていない方の手で制した
681 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:22:18.00 ID:jvZx0O4gO
「まぁ待て待て……そうだ。選抜隊隊長代行の逸見くん、だったな」
「は、はい!」
私の顔を覚えていてくださるとは……なんという光栄か
「戦況のご報告に……参りました」
「そうか……」
「プラウダは既にフリードリヒ地区ノイケルン地域の防衛線に到達。そこの兵の士気こそ高いもの、敵の第一次攻勢による被害も大きく、次の攻勢での突破は避けられません。そこから先は……この学園官邸までは大きな障害は……ありません」
頷きながら次を促してくださる
「……はっ。我が……我が黒森峰戦車道選抜隊は私の乗るティーガーIIを含め……19輌が戦闘不能。唯一の残存車輌であるティーガーIには、狩出教官の指示のもと隠れて時間を稼ぐように命じてあります。その上、現状西住みほを殺した、との報告もありません。おそらくまだ生きているかと
申し訳ありません。試合に敗れ……プラウダの侵入を防ぎきれませんでした……」
意味がないのは分かっていても頭をも地面に擦り付けようかとしたその時、右肩を何かがそっと触れた
682 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:34:16.19 ID:jvZx0O4gO
「ここの床は綺麗じゃない。とりあえず立ちたまえ」
「はっ……」
学園長閣下の手であった。そのままゆっくりと引き上げてくださった。学園長の背はあまり高くなく、私でさえ少し顔を上げてしまえば目線が合ってしまう
沈痛な面持ちが、そこにあった
「詳細な報告をありがとう……君の健闘及び職務遂行には感謝するが……黒森峰はもう終わりだ
北部で日村君のSS歩兵1個大隊が、北東部で久手君の防衛隊装甲第2部隊が、南西部で高鳥君のSS装甲第9部隊などがそれぞれのなんとか敵を食い止めているが、他の戦線は君が見てきたようにもう崩壊している。外はあの有様だ
今ならまだ戦線が構築できている北から逃げられる。健軍町の方に逃げなさい」
肩に置いたまま、しっかり目を合わせて、私に、私なんかに伝えてくださる
「しかし……私は試合に負けた上、命令すら実行出来ず、さらに部隊のものを纏めて救援に向かわせることすらできなかった黒森峰稀代の愚将です。そのようなお言葉を受けるほどのことは……」
「今日の事態を招いたのは君のせいじゃない。これまでの私の行いのせいだ。気に病むことじゃない。君はその厳しい枠内で、最大限のことをしてくれた。これは、私がどうにかしなければならない問題だった」
肩から手を離して背を向けなさる。先程の茫然とした感覚を身体に残しながら、目線を学園長閣下の方に向け続ける
「私は……黒森峰と学園長に忠誠を誓いました」
「脱出しなさい」
だから……と続けようとした私の言葉は遮られる。ドアノブに手を掛け首だけをこちらに向ける
「君には本当に申し訳ないことをした。だがそれでも私に忠誠を誓ってくれてるのなら、この老いぼれの最後の命令を聞いてくれないか
命をムダにすることはない。君みたいな勇気ある人間は生きるべきだ」
持っていたドアノブを捻って、階段の下へと学園長閣下は消えていった
683 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:35:48.83 ID:jvZx0O4gO
目的地に着く前にトンプソンの弾が切れ、近くに投げ捨てて中に入る。入り口の扉はかなり砕け散っていたが、幸いここはまだ占拠されてはいないようだ。しかし煙はあちこちから登っていて、窓ガラスはどれも割れて破片が散っている
「早く避難しろ!プラウダがすぐそこまで来ている!」
「避難するって言ったって……どこへ?」
「そんなもん、プラウダのいない場所だろ!」
中は慌ただしい人の流れがあった。床に無造作に散らばったカルテの紙。それが風に流され、一部は窓の外に飛ばされていく
ライヒ病院の中を、それらを踏もうとも流れに逆らい、看護婦にぶつかろうともある場所を目指す
もう避難されているかもしれない。だとしたら次にその場所に向かうだけだ
階段を登り、さらに奥に向かう事しばらく、ある部屋の前に着いた。ドアを三度ノックし、空気圧がかかる音をさせて扉を開ける
684 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:36:25.45 ID:jvZx0O4gO
「失礼します」
「……その声は、エリカか」
声、それはその部屋に住まうただ一人のものであるのはすぐにわかった
「た、隊長!意識が……」
その部屋に入り、奥のベッド近くのカーテンを払い除けると、そこにはしっかりと私の目を見据える隊長が横たわっていた。敬礼してベッドの傍の丸椅子に腰を下ろす
周りはシーツも敷かれていないベッドが散乱している。ベッドの上の人物からのそれ以上の返事はない。膝の上に手を置き、指を手の中に折り込む
「エリカ、お前が……ここに来たか」
話は向こうから始められた
「隊長……申し訳ありません。隊長から預かった多くの部下を死なせたうえ、大洗に勝つことが出来ませんでした……」
外から絶え間なく続く砲声。隊長ほどの人物が放っておかれている現実。ベッドの上であっても、状況は十分予測できる
「そうか……」
隊長はそうとだけ答えなさった。そのまま少し間を置いて、隊長がこちらに顔を向けられた
「エリカ」
「は、はい」
呼びかけられたが、少しの間言葉は続かなかった
「……お前には済まないことをした、ようだな」
「は……い、いえ、寧ろ代行としての」
「その代行として必要なことを……私はお前に伝えられなかった」
また遠く、どこかに視線を移しなさる
「やはりみほと赤星のあの件は重すぎたようだな……あれに対し私は十分な手を打てなかった。お前にも十分な知識、経験を積ませられなかった
そしてなにより勝たねばならない硬式戦で負けた。天下の愚将だよ、私は。西住の恥さ」
「そんな……ことは……」
685 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:37:07.82 ID:jvZx0O4gO
自嘲する隊長への返答に窮していると、窓の外から金属がひん曲げられ、倒される音が私たちの耳に入ってきた
「きゃあああ!」
「プラウダだ!」
「プラウダの戦車が入って来た!」
「逃げろ、逃げろォーッ!」
どうやらプラウダの戦車がここまで来たようだ。ここまで、か
覚悟を決めきる前に服の袖に力がかかる。目を開き顔を上げると、袖は隊長の弱々しい右手に掴まれていた
「エリカ……私は西住流のためになるなら、自らの欲求を抑えて生きてきた……後継に相応しくあるように、な」
「……はい」
「だが、そんな私だが絶対的な欲求が……一つある……プラウダに捕まるのはもう二度と嫌だ。それだけは嫌だ……頼む……覚悟はできている」
目尻には涙の粒が乗っかっている
「お前にしか、頼めない……」
顔には力ない微笑みが浮かんでいた
奥歯を食いしばり、掴まれた手に視線を集中させる。顔には季節に合わない汗が増し、自分の指の全てを内側に向け膝に、掌に食い込ませた
最早、どうにもならない。この場に他に人はいない。私が、私が、やることができる
違う、違うぞ!やらねばならない、のだ
686 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:39:04.28 ID:jvZx0O4gO
顔を上げることなく席を立ち、部屋を出て近くの薬品室に向かう。棚の扉を開き中のいらない薬品の瓶を床にぶちまけながら、目当ての効果のあるものを探す。酸があったらしく靴から滲み出て指先に痛みを与えるが、気にはならない
目当てのものを見つけると、棚にあった紙コップにそれを移し、それを近くに転がっていたトレイに乗せて病室に戻った
「……隊長、お持ちしました」
「ありがとう……自分で飲もう」
震える右腕をこちらに伸ばしなさる。が、その手はひどく震えており、握る力もあるかわからない
「いえ、お手を煩わせる訳にはいきません。私が……」
「そうか……では、頼む」
あっさりと手は引かれた。紙コップを手にした。トレイを置き、隊長の顔へと近づけていく
「苦いかな?」
「わ、分かりません」
軽く微笑まれると、少しだけ首を上げなさった。それを支える形で左手を入れて、さらに口元に紙コップを近づける。それが今にも飲まれようとした時、思わず顔を背けた
687 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:39:38.69 ID:jvZx0O4gO
病室のトレイの上には水滴の付いたカップと、その近くにある溢れた液体があった。窓の外からの砲声と共に、僅かながら理解できぬ叫び声と階段を駆け上がる音が聞こえてくる
手がかじかむ。そういえば、今日は冬の一日だった。これまでそれに気づかないほど血が沸き立ち過ぎていたのか……
膝に両肘をつき手の中に少し強めに息を吹き込んだ後、丸椅子から立ちご尊顔に布団の縁をそっと持って顔に被せる
神よ感謝します。私とこの御方に尊厳を守る時間が残されていることを。私は残念ながら、その時渡し守カロンに背中を突かれることになるでしょう
ベッドの脇に直立して、自分の胸元から生徒手帳を半分抜いて戻す。そのあと2挺持っていた拳銃のうち九四式拳銃を床に投げ捨て、もう一つのワルサーP38を取り出し、スライドを二本の指で挟んで開いて中の弾を確かめる
中にはしっかり9ミリパラペラム弾が入っている。これはSS装甲師団に入って歩兵として反乱鎮圧に参加してからの愛銃だ。私の兵士としての証でもある。壊れているはずはない
私は最期に偉大なる学園長のご命令に逆らうことになってしまいました。私の忠誠とは、分からなくなってしまいました
スライドを元に戻し、左手で持って口元に持ってくる。右手は右斜め上に伸ばす
引き金に指をかけ、銃口を口に入れる
されども、願わくはこの御方が天の国に導かれ、黒森峰女学園に永遠の栄光があらんことを!
靴の踵同士を叩き、めいいっぱい響かせる
「ハイルフューラー??」
688 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:40:11.56 ID:jvZx0O4gO
生者がただ一人の空間にそう叫ぶと、銃声が病室を包んだ。背後の壁に放射状に飛散する血痕。そして縦に流れる血の筋の下には崩れ落ちた逸見エリカが遺された
689 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:40:38.65 ID:jvZx0O4gO
第74回戦車道大会公式記録
黒森峰女学園犠牲者
逸見 エリカ
大洗 銃殺 口内から後頭部にかけて貫通 自分の銃の使用による自殺と思われる 即死
一般被害者一覧
西住 まほ
ライヒ病院にて死亡。青酸カリを飲んだ跡があり、自殺と思われる
690 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:41:13.06 ID:jvZx0O4gO
〜
広報部より報告
黒森峰女学園の動向
同校からの連絡によりますと、
「死出の旅路を共にしよう」
を
「忠誠か、尊崇か」
において選択したとのことです
〜
691 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/21(木) 21:41:55.14 ID:jvZx0O4gO
今日はここまで
692 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/24(日) 23:40:05.19 ID:AVM5241TO
最後ナリ
2155からの予定ナリ
693 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/24(日) 23:55:13.66 ID:AVM5241TO
黒森峰女学園
ドイツ風の荘厳華麗な塔が並ぶここも、ミサイルと砲撃と爆撃で火の手が上がり、崩壊状態だった。鞄と追加品、そしてトンプソンを抱えて建物に入り、階段を駆け上る。その階段さえ途中でコンクリートを剥き出しにしていた
内部構造も防衛対策も分かっている。目的地への最適なルートを選ぶなど造作もない
ここの中にはすでにプラウダが突入しているようだ。ドアが破壊され、中は赤々しいもので占められている。教室の窓も散々だ。だが感情を呼び起こす暇は、私にはないらしい
前方にある次の階段の下では、二人のプラウダ兵が身を潜めている
「ここが先頭ですか?」
「ああ、だが階段上の突き当たりにMG42が粘ってやがる」
モシンナガンを持った一人が答える。ここから先に進むしかないな
「分かりました!」
「あ、オイ危ないぞ。工兵を待て!」
その者たちの制止を振り切り、階段を駆け上がる
「今の……大洗か?今は味方だったか?」
「確か……そうだか」
「というより……大洗に歩兵なんていたか?」
「さあ……」
694 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/24(日) 23:57:00.16 ID:AVM5241TO
上った先にはプラウダ兵の死体が一個転がっていた。確かに何箇所も銃弾が貫通した跡がある。傷の規模などやその位置、さらに壁の弾痕も見るに、なるほど機関銃が設置されているというのは間違いないらしい
壁側に寄り、来る途中の黒森峰SSの死体の近くに転がっていた鞄から、その死体のものらしき制服を引っ張り出し、袖を通す。背中に縦に一本縫い目がないから、防衛隊でないかはすぐに分かる。階級章がないがこんな事態だ。ある程度はごまかせるだろう
「ベルク(山)!」
通しながら叫んだ。積まれた土嚢と机の向こうでMG42を構えていた者たちは一瞬混乱したのか、待ち構えたまま動かない
「フルス(川)!」
だがしばらくして合言葉が帰ってきた。舟型帽を急いではめる
「SS装甲師団第12部隊の西住です!所属を名乗りなさい!」
「……はっ!我々は黒森峰防衛隊歩兵第3部隊の者です!」
その返事を聞くと壁から身を出し土嚢の方へ駆け足で近づいていく。辞めた話は広がってない、というのは事実だったか。それとも姉の方と思われたか?
「何をやっているんです!もう黒森峰は敗れました。こんな所を守っても意味はありません。ただ殺されるだけです。すぐに武器を捨てて投降しなさい!」
二人の階級は兵と上等兵、そして私はSS。なら、命令できるはず
「しかし、学園長からの死守命令が……」
「援軍なしの死守命令なんて死も同然です。守っても無駄です。投降しなさい!」
二人は暫く考えた後、土嚢から身を出して両手を挙げて階段を降りていった
695 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/24(日) 23:59:09.60 ID:AVM5241TO
さて、障害は消えた。彼女らと逆方向に向かい、素早く黒森峰の制服を脱ぎ捨てる。これは仮に過ぎない
もう一個階段を上がり、割れて破片が辺りに飛び散った窓から屋上に出る。床のタイルはそのほとんどがひび割れ、爆撃を食らって破壊された建物の瓦礫があちこちに散らばっている
脱ぎながら肩にかけていた追加品を外す。追加品である縦長のケースから二本の棒を取り出し、片方の先をもう片方の根元に捻ってはめ込む
左手で軽い方を回しながら、背後を確認してみた。黒いヘルメットをかぶり、息が荒れている女性が、膝に手をついている。彼女の胸にはJUDGEと書かれ三日月型の茶色の板をぶら下げている。状況は私の都合の良い方に傾いている。本当に根底さえ無視すれば、運の良い日だこと
はめ終わって一本の完成した棒を握る力を少し強めた。そして、一度先を見据える
屋上を囲む小さい塔の一つに足を掛け、手で体を引き上げつつ次の場所を探して足を乗せていく。高く、より高くへ
塔に空いている穴にその根元を差し込み、棒の先に付いた布をばっと広げた
その布に描かれていたのは青い「大」に、その中央に被さるようにある「洗」
そう、黒森峰女学園校舎に掲げられたのはプラウダの赤い旗ではなく、サンダースの白地に青い星の旗でもなく、伸び伸びとした感じを強調する大洗女子学園の校章そのものだった
手元のトンプソンを素早くフルオートに切り替える
「黒森峰女学園はーッ??大洗女子学園が占領したッ!」
塔の上で叫びながら、的も無き空にトンプソンのマガジン一個分を撒き散らす。反動と重力に耐えながら撃ち終わった後、宙にトンプソンを投げ捨てた
ここは黒森峰の本陣。そして私は非武装だ。これで終わらないなら、死ぬのみ、か
「……はい、確認しました……では……に則り……でよろしいですね……分かりました」
後ろの審判が無線で誰かと連絡を取っている。疲れもあり、塔の台座に背中を委ねる。無線のイヤホンから指を離した審判は、こちらの方にゆっくり近づいてきた
「おめでとうございます」
次からの審判の叫び声は、意識を失う最中のことで、記憶が曖昧だった
696 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:00:08.74 ID:rkEitg26O
〜
「もうすぐこの戦争も終わるな」
「戦争が終わるとどうなる?」
「知らんのか?」
「戦争がはじまる」
〜
697 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:00:50.98 ID:rkEitg26O
寧ろ、死んでない方が不思議だ。拾った細めの鉄パイプを支えに、何とか路地裏を動いていた
「はぁ……はぁ……ガハッ!」
B1bisの中で飛び回った破片は、しっかりと右胸脇を貫通していた。その為か血の混じった痰を時折吐き出さざるを得なくなる。満身創痍という言葉は、きっとこの私を指すのだろう
右胸脇貫通による肺の損傷、火傷、左足骨折、肋骨骨折、頭部負傷、結構な出血、その他切り傷、擦り傷多数。単体では簡単に死なない怪我を幾つも受けていた。動き続けた。目的地はない。止まった時が、死ぬ時だと思った
もうモルヒネは打った。痛みは殆ど無いが、それで苦しさと動き辛さから開放される訳ではない。右胸脇から聞こえる空気の抜けるような音が不快で仕方ない。しかし、まだ試合は終わってない。これは生徒会が始めた戦い。見届けることのできる人は自分だけだ。それが、先立った会長とのヘッツァーで交わした約束である
「……どうなっている……戦況は……ゲホッ、ゴホゴホゴホッ!」
余りに激しい咳に思わず体が前に倒れこむ。腕が支えきれなくなり、うつ伏せに地面に突っ込む。今まで肺の中に血が溜まっていたらしい。喉はもう逆流する血を抑える力も残っていなかった
むせながら口から血が溢れ出てくる。何度も出てくる血。それがみるみる大地に消えてゆく様に覚悟を決めた
698 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:01:36.46 ID:rkEitg26O
残念だが、もう、限界だ。もう立ち上がる力はない。致し方ない
取り敢えず仰向けになり、そこから腕の力を振り絞って上半身を壁に寄りかからせる。食道に残った血が未だに痰に混じって出てくるが、幾分楽になった。頭から流れる血が顎からズタボロのスカートの上に垂れる
落ち着いてみると激しい砲撃戦が起きているようだ。残り二輌が戦っているにしては多い。まあ、そんな事は大洗が勝てばどうでもいい。大洗が勝てば、大洗が残れば
しかしもう自分に大洗の為に戦える力はない。結果を見届けたいところだが、このまま死を待つよりは早くこの苦しみから逃れたい
やっぱり私は自分の事ばかり考えているな。会長や西住なんかの代わりにはなり得ないんだなり
右手でポケットから九四式拳銃を取り出し、スライドを引く
私は、隊長だったのだろうか……やれる事はやったのか?西住は最大限サポートしてくれた。それに応える事はできたのか
「……そんなのは、後の人の評価に任せるか……ゴホッ……
お姉ちゃん、まさかこんなに早く、そちらに向かうとは思っていませんでした……まさか私が戦車道で死ぬとは……想像……できましたか?」
右のこめかみに銃口を当てる。引き金に指をかけ、今にも引こうとする
「大洗女子ば」
(いやー、姉を尊敬し続ける後輩か、いいもんだね)
「??」
聞いた事ある声に思わず銃口を外し周りを見渡すが、その声の主がここにいるはずがない
699 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:02:14.10 ID:rkEitg26O
「会長……」
馬鹿な、会長と柚ちゃんは、あの時ヘッツァーに残って……
「これは、夢……?それとも、走馬灯か何か……?」
(かーしま、元気にしてたか?)
これは途絶えない。幻聴?
だが会長から声を掛けられて答えないわけにもいくまい
「……会長、これを見てもそう思えますか?」
(だよねぇー)
返事が……あった……
「会長……こっちの……」
(言っていることは聞こえているよ。その様子だとこっちの声もきこえてるみたいだね)
けらけら笑う声、間違いない。会長のもの
「……これは……何ですか?ゴホ、ガハッ!」
(夢さ、かーしまの)
「夢……ですか、ならば早く覚めてそちらに……」
再びこめかみに銃口を当てる。夢なら……苦しみつつ見る夢なら……
(待て待て、あと五分生きてみる気はないか?夢を見ている間も時は流れるんだ)
「……五分で一体何があると言うんですか?ゴホゴホゴホッ」
痰が……多い
(何かあるかも知れないよー)
「何ですかその曖昧な答えは……もはやこの出血にこの怪我です……長くはないでしょう。それなら……この苦しみから逃れたいのです。死なせてください」
(だったらわざわざそれを自分で縮める必要もないだろう。かーしまには試合の結果を聞いてもらわなくちゃいけないんだから)
「しかし……それがあるまで生き続けられるとも思えませんし……」
(んじゃ、断言する。このままかーしまが死ぬまでに、何かが起こる!)
はっきりとした声だった。周りに聞こえてない。黒森峰の者が来ないのが不思議に思えるほどに
会長がそこまで断言なさる。信じない、という理屈は私にはない
700 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:03:18.72 ID:rkEitg26O
undefined
701 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:03:58.28 ID:rkEitg26O
「……会長がそこまで仰るんですから何かあるのでしょう……ですが、このまま死を待つのはしんどいので、少し話をしませんか?」
(いいよー)
「今まで……色々有りましたね。ゴホッ」
記憶を辿る力はまだあるらしい
(あったねー)
「私が……高校で転校してきた時、始業式の日に話しかけてくれましたよね……」
(あー、あれね。生徒会、ウチらの代が少なかったからね。仕事増やす気だったし、とにかく人手人手だったね)
「でも、そのお陰で……私は、恐怖を……あの、右腕の映像を……生徒会活動やっている時だけでも忘れられました……ゴホゴホ……本当にありがとうございます……」
(いやねー。そんな大したことはしてない気がするけどね)
「いえ……私にとっては……感謝しても仕切れないです……ハロウィンパーティー……覚えてらっしゃいます?」
(ああ、私が魔女になったやつね。かーしまはカボチャ被ってたっけ。あれ……なんて言ったっけ?)
「確か……ジャックオランタン……だったと思います……ガハッ!」
落ち着いたと思ったら、またこれだ。どうにもならないんだな、本当に
(他には……生徒会で海行った時とかは覚えてるか?)
「覚えてます……泥ンコ大会やって……プロレスだっていきなり……会長が言って、私が思いっきり……海老反り食らいましたね……」
(それとかでっかい水鉄砲持ってきて撃ちまくってたねー)
702 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:04:50.21 ID:rkEitg26O
「そして……今年に入っていきなり国から今年で廃校だって……言われて……ゴホッ。私が……やっと、青師団でのことを……話して……話すことができて」
(あの話された時は驚いたね。戦車道の現実なんて噂くらいしか聞いたことなかったし。容易く戦車道やるって言ったこと軽く後悔したよ)
「軽くなんですね……ゴホゴホッ」
そうだ。この人は学園の未来を、何千人もの未来を背負っていたのだ。私一人の過去なんて……些細だ
「で、私が隊長になって、戦車探して……右も左もわからない状況で……練習はじめて……マジノに完敗して……」
(まああれは……ねぇ。しょうがないさ)
「西住を転校させて…戦車道やらせて……さらに頼んで副隊長にして……」
(まあ、西住ちゃんも結果的に飲んでくれたけどねぇ、あの時のせいで嫌われても仕方なかったと思うよ。必要だったとはいえ
……でも楽しかった。勝利目指して練習して上手くなって、聖グロ相手にあれだけ接戦に持ち込めて……みんな頑張って……)
「本当に楽しかったですね……」
(あの頃は……)
走馬灯の如き思い出とともに、無言の時間が路地裏を流れる。気がつくと、先程まであった会長の存在は、ここから完全に無くなっていた
703 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:05:49.18 ID:rkEitg26O
「あれ……会長?」
そろそろ五分経ったということだろうか?右脇腹を見ると、もう元の群青色の戦車服の色は見えない。また一口血痰が吐き出される。意識も朦朧としてきた。腕を上げる力もない。鉛玉を撃ち込まずともいいだろう
砲撃音、銃撃音、火災の音、全て続いている。ぼやけていく視界の中、二つの瞳を閉じようとした時、遠くから単調な甲高い音が響いてくるのが耳に入った。私の脳味噌の最後の力を引き出す
「試合終了ーーッ??」
血が抜けて軽くなった首を、少しだけ空へ向けた
「第74回戦車道全国高校生大会優勝は大洗女子学園??」
大きな音量で街中にアナウンスが響き渡る
「戦闘行為を停止せよ!全部隊直ちに戦闘行為を停止せよ!」
大洗が……優勝。勝った……のか。そうか、ゆうしょうしたのか……これで……あんしん……して……
704 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:06:42.25 ID:rkEitg26O
第74回戦車道大会公式記録
大洗女子学園犠牲者
河嶋 桃
黒森峰 頭部、右脇腹負傷などによる失血死 負傷後1時間強ほど生存した跡あり
705 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:08:42.97 ID:rkEitg26O
地上に降り、校舎の正門の前に身一つで歩いてきた。大きな門の上には黒森峰の印である白丸の中の黒十字が乗っかっている。その背後からは何箇所からも灰色の煙が空高く登っている
間も無くその印は髪を揺らすほどの風と轟音とともに爆破され、砕け散った。赤く燃えて周りより黒い煙を上げる。その煙を眺めていると、心の中にあった黒森峰での僅かな良い思い出も空に立ち昇ってゆく気がした
姉と触らせて貰った優勝トロフィー。小学校の時に母と共に会った優しい教官。SSの厳しい練習後に同じ釜の飯を食べた、今は亡き仲間達。それが浮かんでは消えてゆく
消えてゆく
勝ったが、勝ってしまったし、勝てなかった。ここから先戦うとしても、それは真の『西住』ではない。それを得るために、私は何を費やしてきたのか
これが最善の道、利益を最大化する道だとはよく理解している。博打を3度も当ててやっと手に入れた利益だ。そうするしかなかったのだ
だが……余りにも、余りにも全てを破壊してしまった。全てを
その煙を眺めていたが、しばらくして門に背を向けた
泣いた。我慢のがの字もない程大声で泣いた。ボコられグマのボコはどれ程叩かれ負けても応援で再びやってやると言って立ち上がる。しかしもう私に届く応援を出来る人はいないだろう。何より自分自身が出来ないのだから
706 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:09:34.85 ID:rkEitg26O
辺りではプラウダの戦車が何輌も止まっており、その周りからはアコーディオンを奏でる音、コサックダンスのリズムをとる者など、プラウダ側の歓喜が膨らんでいた
「Волк умер! Волк умер!
(狼死んだ!狼死んだ!)」
その近くには黒森峰の制服を着て銃を携えて死んでいる者達
ただ、前に歩みを進めた。行き先があるわけじゃないのに
707 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:10:00.72 ID:rkEitg26O
第74回戦車道大会公式記録
◯大洗女子学園vsX黒森峰女学園
被害 大洗3輌 黒森峰132輌
????????????????????《航空機 21機》
(大洗側同盟 プラウダ学園 64輌
?????????????????????サンダース大付属 なし
????????????????????《航空機 17機》
?????????????????????ポンプル学院 10輌)
黒森峰戦闘体制崩壊と判断
708 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/11/25(月) 00:10:27.84 ID:rkEitg26O
ここまでになります。今後については別のところでやろうかなと考えてます。ありがとうございました
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