【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】

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468 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/29(日) 16:32:03.79 ID:5Da7Mps90
『井野!』

「もう遅い…!」

 ネブラドーパントは、マザーの腹から手を離した。既に、その腹は、妊婦のそれよりも大きく膨れ上がっており、中で何かが蠢いているように揺れていた。

「定…さぁ…」

「すまない、お母様…必ず、すぐに取り戻す!」

 そう言うと彼は、両手で短剣を握ると…



 ___マザードーパントの腹に、深々と突き刺した。



『!!? 何をする!?』

「あっ、あ゛っ、ああぁぁっ…」

 青銅の剣が、白い腹を縦に切り裂く。夥しい血が噴き出し、部屋を赤く染める。
 駆け出したデュアルの足を、マスカレイドドーパントが掴んだ。

「私だって辛い! だが、今のお母様には、子供一人産み落とす力さえ残されていないのです…!」

『だからって、何でこんなことを!』

「これが! お母様の、愛なのです!」

 血塗れの腹に両手を突っ込むネブラドーパント。ずるりと音を立てて引き出されたその手には…

「…」

「遊香…」

 一人の女が、抱かれていた。

「井野さん、引き上げるよ!」

『待てっ!』

「行かせません!」

 裸の女を腕に抱き、両腕を金に光らせるネブラドーパント。そこへ、クローバードーパントが合流した。
 マスカレイドドーパントは一人、デュアルの背中にしがみつく。

「井野さん、ユウダイ君…私は、これまでです」

「おじさん…ありがとう」

「九頭さん、必ずお母様は、生き返らせる!」

 3人の姿が、一瞬にして消えた。時間操作で、どこかへと走り去ったのだろう。
 マスカレイドドーパントは、震える声で宣言した。

「もう、お母様はいない…これが私の、最期の親孝行です…!」

『…お断りします』

「えっ?」

 戸惑うマスカレイドドーパント。と、突然その体から、黒と白のガイアメモリが抜け、デュアルの手に収まった。
 九頭は、へなへなとその場に膝を突いた。

『…っと、リンカ、いきなり体動かすからびっくりしたぞ』

”失礼しました。ですがこれで、自爆は封じました”

『ああ。…九頭英生。色々思うところが有るだろうが…』

 マスカレイドメモリを、粉々に握り潰す。

『…お前は、ここまでだ。おとなしく、お縄につけ』

 九頭は、その場に泣き崩れた。
469 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/29(日) 16:51:54.96 ID:5Da7Mps90



 聖堂にて。長椅子に腰掛けて、うとうとしていた真堂は、足音に目を覚ました。

「あぁ…九頭さん、帰ったか…」

 ところが、入ってきたのは九頭ではない。朝塚ユウダイはともかく、裸の女を抱いた見知らぬ男に、真堂は怪訝な目を向けた。

「…あんた、何者だ?」

「あんたが真堂か。九頭さんから話は聞いてる。…このメモリも、ありがたく使わせてもらっている」

「! ネブラメモリ…新しい同志なのか。そうか…」

「でも…おじさんは、仮面ライダーを止めるために…」

「気を落とすな、ユウダイ君。またお母様が…」

 そこまで言って、言葉が途切れた。

「…お母様…は?」

「…死んだ」

「は?」

 井野は、重々しく頷いた。

「遊香を、腹の中で育てたまでは良かった。だが、産み落とすことができなかった。だから、おれが腹を裂いて取り出した」

「…本当、なのかね」

「ああ」

 井野は、女を祭壇の上に横たえながら答えた。

「…き、貴様ぁっっ!!」

 赤茶色のメモリを取り出す真堂。

「待って!」

 そこへ、ユウダイが割って入った。

「井野さんは、お母様の言うことに従っただけなんだ! それに、言うとおりにすればお母様は帰ってくるって」

「帰ってくるだと? 死者が帰ってくるのは、お母様の力だ! そのお母様が亡くなった今、どうやって」
470 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/29(日) 16:52:21.31 ID:5Da7Mps90
「…真堂さん、あんたが持ち帰ったメモリについて、九頭さんに聞いた」

「!」

 井野は、遊香の体にヴェールを被せると、真堂に歩み寄った。

「それを使えば、お母様は生き返るそうだ。…心当たりは無いか」

「…」

 真堂は、黙ってどこかへと立ち去った。

 数分後、帰ってきた彼の手には、一つの小さなケースが握られていた。
 開けると、中には5本のガイアメモリが収まっていた。

「『ピラー』、『ストーンヘンジ』、『ヴィマーナ』、『モナ・リザ』…そして」

 右端にある、生成り色のガイアメモリ。そこには、奇妙な黒い曲線で『V』と書かれていた。

「意味など持たない記憶だ…だが、言い換えれば『どんな意味でも持たせられる』」

 真堂はメモリを掲げると、そっとスイッチを押した。
471 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/29(日) 16:52:49.11 ID:5Da7Mps90



『ヴォイニッチ』


472 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/29(日) 16:53:41.46 ID:5Da7Mps90
『Nは止まれない/血塗れの手』完

今日はここまで
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/29(日) 17:22:23.82 ID:7cknQ4aPO
乙、まさかゆるくない募で集まった奴全採用?
これ作劇的には第二部始動かな
474 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/29(日) 18:00:22.24 ID:5Da7Mps90
『ネブラドーパント』

 『ネブラディスク』の記憶を内包するガイアメモリで、井野定が変身したドーパント。緑青色の分厚い鎧で全身を固め、その体表には、金色の鋲が星図めいて無数に打ち込まれている。また、フルフェイスの兜の額には太陽を模した円が、胸から左右の肩にかけては三日月が、両腕には弧を描いた線がそれぞれ金で彫り込まれている。戦闘時には、青銅の斧と短剣を両手に持って戦う。
 紀元前のヨーロッパ、今のドイツに当たる地域で用いられたとされるネブラディスクは、太陽の運行を計測し、太陰暦と季節を同期させるために用いられたという説が有力である。そこからこのメモリには『太陽暦と太陰暦、2つの暦を行き来する』、即ち限定的ながら時間を操る能力がある。具体的には、腕に彫られた金の線が光る時、今より進んだ暦に移動することで高速化、逆に遅れた暦に移動することで低速化することができる。また、自分だけでなく触れた相手の時間をも操作することができる。ちなみに、使用する斧と剣は、ネブラディスクと共に発掘された副葬品と同じ形をしている。
 ガイキの襲撃によって工場が掌握された直後に、真堂が密かに製造し秘匿していた6本のガイアメモリの内の1本。これ自体は新造のメモリではないが、北風町の工場では製造されておらず、かつて真堂が別の工場に勤務していたときの記憶を頼りに作り上げた。
 メモリの色は緑青色。縦線が半円形に曲がった字で、円のような『N』が書かれている。ゼロメモリの『Z』が90°回転したものと考えると分かりやすい
475 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/29(日) 18:27:48.86 ID:5Da7Mps90
忘れてた

>>351を採用させていただきました。ありがとうございました!

そしてもう一つ



『マザードーパント』

 『母』の記憶を内包するガイアメモリで、元歌手の成瀬ヨシノが変身したドーパント。白い、マリア像めいた美しい女の姿で、七色に輝くヴェールのような長衣を纏っている。
 地球の本棚に収蔵されている『母』の本。そのページ数はあまりにも多く、人生をいくつ使っても読み切ることができないほどに情報に溢れている。神話を紐解けば、名だたる英雄や、神々にさえも母はいた。この世界を作り給うた神の母とは、即ち星、地球であった。特に、ギリシャ神話における主神ゼウスの母は、タイタン族の地母神ガイアである。そのことからマザードーパントは、自らの所有物として地球の本棚にアクセスする権限を持つ特異な存在である。
 また、僅かな肉片や朽ちた骨であっても、遺伝子が残っていれば子宮に取り込むことで、胎内で遺伝子の持ち主を育成し、産み落とすことができる。生まれた子は無限に湧き出るマザードーパントの母乳を飲むことで体力を回復し、そして彼女を唯一の母と慕うことになる。母乳を飲まなくとも、対峙するだけで全ての生物は彼女に対して言葉にならない郷愁を感じ、精神の弱い者はそれだけで彼女を母と求めるようになる。
 元々戦闘力はさほど高くはないが、戦う際には見えない巨大な手を繰り出したり、適合率が高ければ空間に巨大な『穴』を開けて、相手を呑み込むなどできる。

 テラーメモリと同時期、即ちミュージアムがガイアメモリ製造に手を染めた最初期に造られた幹部メモリ。しかし、どういうわけかミュージアム下では一度も使用されることなく破棄され、巡り巡って下部構成員であった九頭英生の手に渡った。彼はある理由から、個人的にファンであったインディーズバンドのボーカルであった成瀬ヨシノにこれを渡し、以後は彼女に忠実に仕えることとなった。成瀬とマザーメモリの適合率はほぼ100%、少なくとも加頭とユートピアメモリ以上の適合率を叩き出している。そのため彼女はマザーメモリの能力をほぼ完全に引き出し、自在に使うことができる。その反面、人格は破綻しており、自らを『母』と称し、自分以外の全ての人間を我が子として扱っている。また、完全に体の一部と化しているメモリは、抜去にさえ苦痛を伴い、長時間メモリが体外にあると命に危険が及ぶ。そのためメモリは常時挿しっぱなしで、人間態とドーパント態を自由に行き来する。当然、メモリブレイクは彼女の死を意味する。
 メモリの色は当然金。赤子を抱く2本の腕は、子を抱く母親の視点から見ると『M』の字に見える。




















 悪魔にも、母親がいた。

 しかし、父は彼女を捨て『恐怖』を取った。





 _______母は、修羅となった。
476 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/29(日) 21:12:33.73 ID:5Da7Mps90
(流石にゆるくない募全部にガッツリ出番は無いかな)

(でもあの中の2個ぐらいは使う予定)
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/29(日) 21:28:34.99 ID:hWkzCjTx0

猫のクソダサTでフェレンゲルシュターデンメモリって電波が降ってきた(唐突)
能力は全く思いつかない
478 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/30(月) 21:35:07.02 ID:/5JLEsTE0
「…おや?」

 いつものように、知的好奇心の赴くまま、立ち並ぶ本棚の間を歩いていた青年は、ある棚の裏に縮こまる一人の少女に気付いて、足を止めた。

「君は、誰だい?」

「…」

 黙りこくる少女。薄汚れたワンピースを着て、膝を抱えて座ったまま、小さく震えている。

「ここには、僕しか入れない筈なんだけどな。もしかして、最近誰かの気配がしてたの、君だったのかい?」

「…」

 青年は、やれやれと言った様子で、髪留め代わりの蛇の目クリップを指で弄った。

「…まぁ、害が無いなら良いか。僕は調べ物が有るから、邪魔しないでくれよ」



「検索を始めよう。キーワードは…」

 白い空間を、無数の本棚が行き来する。頭上を飛び交う分厚い古書の群れを、少女はじっと眺めている。

「『街』。『異世界』。『恐竜』…」

「…!」

 突然、少女が立ち上がり、頭上を駆け抜けた一冊の本に向かって手を伸ばした。

「…駄目だな、もう少し絞り込まないと……うん?」

 それに気付いた青年が、慌てて駆け寄る。

「待て、何をする気だ……っ、いや、なんでも無いよ翔太郎。こっちの話だ…」

 虚空に向かって弁明しながら、少女が手に取った本の表紙に目を走らせる。

「『ラビット』…ウサギ? これが欲しかったのかい?」

「…」

 ところが、『ラビット』の本は固く閉じていて、少女がどれだけ力を込めても、表紙さえ捲れない。
 不審に思った青年が取り上げてみると、表紙はいとも簡単に開いた。

「…ああ、なるほど。君は『記憶』なんだ」

 本を閉じ、飛来した棚に戻す。

「地球の記憶は、お互い勝手に干渉することはできない。モノの意味が、独りでに変わったら困るからね。君という人物について書かれた本が人格を得たのか、はたまたここに迷い込んだ君の魂が、本と結合したのか…」

 そこまで言って青年は、くすりと笑った。

「…つまり君は、ウサギを追いかけてここまで来たのか。まるで『アレ』みたいだ。ええと…」

 一台の本棚が、青年の前に飛んでくる。そこに1冊だけ置かれた本を手に取ると、表紙を開いて少女に差し出した。

「……そう。君はまるで…不思議の国の、『アリス』だ」
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/30(月) 21:56:09.27 ID:Bvxr52N30
粋と粋がすぎるでしょこのたった1レスのシーン
480 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/01(火) 21:46:39.19 ID:/Qp+Syw30



 『お母様』が、死んだ。
 その胎で一人の女を育て、そしてネブラドーパントによって腹を切り裂かれて死んだ。
 母神教の残党に奪われないよう、遺体は検視の後速やかに火葬された。解剖も検討されたが、マザードーパントがドーパント態から元に戻らず、また遺体に手を加えることによる危険が予測できないということで、見送られた。
 体内にあるはずのマザーメモリは、焼却炉から出た遺骨のどこを探しても、出てくることは無かった。

「終わった…のか?」

 曇天の公園。ベンチに座り込んで、徹がぽつりと零した。

「成瀬が死んで、ガイアメモリを造る能力は失われて…俺たちの戦いは、もう終わったのか?」

「いいえ」

 隣りに座ったリンカが、きっぱりと否定した。

「失われたのはあくまでメモリを『新造』する手段です。まだ『量産』する手段は残されています。何より、母神教自体は未だ健在です。それに…」

 声を潜め、続ける。

「…彼らが、『お母様』を復活させると言っていたことが気にかかる」

「そんなこと、できるのか? 死人を生き返らせること自体が、成瀬の力なんだろ?」

 すると彼女は少し考えて、やがて言った。

「…できなくもない、と言えます」

「歯切れが悪いな」

「手段はいくつか考えられます。それを、彼らに実行可能か…最も現実的な手段で、成功率は2割弱でしょうか」

「そんなものか」

「いえ、彼らにとって2割は、十分に高いと言えます。この状況です。可能性が1%でもあるなら、彼らは進んで命でも賭けるでしょう」

「…そうか」

 徹は長く息を吐くと…勢いよく立ち上がった。

「そうだよな。あんな終わり方は無いよな。…まだ、戦いは終わっちゃいない。そもそも、ガイキたちだってまだいるんだ」

「現状ガイアメモリ製造工場は、彼らが掌握しています。新たな力で、ドミネーターに対抗できるようになった今、彼らを先に攻めた方が良いかもしれませんね」
481 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/01(火) 21:47:14.66 ID:/Qp+Syw30



 ところが、彼らが工場に攻め入る算段を立てている最中に、アパートに来客があった。
 覗き穴越しに来客の姿を認めた時、徹は居留守を決め込もうかと迷った。だが、よく考えたらベランダからは部屋の明かりが漏れているし、耳をすませば薄い壁越しに会話だって聞こえたかもしれない。何より、居留守が『彼』にバレると、後が面倒臭い。徹は諦めて、ドアを開けた。

「やあ、久し振りだねえ。力野クン」

「…何の用ですか、亀井戸さん?」

 粘つくような笑みを向ける、背の低い男。午後8時に厚かましくアパートに押しかけてきたこの男は、悪びれる様子もなく言った。

「こんなとこじゃ何だからさ。中で話そうよ」



 亀井戸純吉。徹と同じフリーライター。徹や熊笹修一郎が社会問題を中心に扱うなら、彼は芸能人のスキャンダルや、風俗のレポートといった下世話な記事を中心に書いていた。別にそれは構わないのだが、彼はそもそも人格に難があり、同業者からも敬遠されている。徹もできることなら関わりたくないとは思っているのだが、悪いことに彼は、徹の大学の先輩であった。
 その亀井戸は今、テレビを挟んでちゃぶ台の前に居座り、徹のとっておきのビールを当然のように啜っていた。

「…で、何の用ですか? 亀井戸さん、家が近所ってわけでも無いでしょう?」

「まあまあ、落ち着きなよ」

 彼は例の粘っこい笑みを浮かべると、台所の方に目を遣り、言った。

「…アレが君の、『コレ』かい?」

 小指を立てる、古臭いサイン。台所では、来客のためにリンカが簡単なつまみを作っている。

「…そんなところです」

「聞いたよ。いつの間に君が女のヒモになったって。確かに、あれは中々働き者に」

 その言葉は、ちゃぶ台に皿を叩きつける鈍い音に遮られた。

「残念ながら、私は先日勤め先を退職しました。現在、家計は徹に依存しています。あとこちらは茄子の煮浸しです」

「ん、どうも」

 動じることなく会釈すると、茄子を咀嚼しながら話し始めた。
482 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/01(火) 21:47:51.03 ID:/Qp+Syw30
「…仕事を手伝って欲しくてさ」

「仕事? 芸能関係は苦手って前に言った筈ですけど」

「知ってるよ。俺が持ってきたのは、別のやつ。…最近、風車町でちょっとした話題になってる店があってね」

「帰ってください」

 徹は立ち上がると、玄関を指差した。

「前ならともかく、恋人がいるのに風俗レポなんてするわけ無いでしょう。他を当たってください」

「まあまあ」

 彼は立ち上がろうともせず、ビール缶に口をつけた。

「風俗は風俗なんだけど、体験記とはちょっと違うんだ。何しろ、ちょっとヤバ気なことになっててね。もしかしたら、力野クンの得意分野に繋がるかも」

「…」

 徹は黙って、目を細めた。亀井戸が続ける。

「ヤバいクスリが出回ってるかもしれない。その辺を調べてもらいたくてね」

 そう言うと彼は、鞄の中から一枚の紙切れを取り出した。

「これ、店の概要。手伝ってもらえるなら、返事頂戴。じゃ」

 それだけ言うと彼はおもむろに立ち上がり、さっさとアパートを出ていってしまった。



「じゃあ、後で合流しよう」

「何かあれば、すぐに連絡します」

 そう言うと2人は、夜の歓楽街で別々の方向へ歩き出した。片方は薄暗い路地のバーへ。もう片方は、件の風俗店へ。
 ___バーに向かったのは、徹。そして風俗店に向かったのは、リンカの方であった。
483 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/01(火) 21:48:46.82 ID:/Qp+Syw30
今夜はここまで

今回採用したアイデアがもっと早く出てきていたら、リンカが裏切る前にこの話をやりたかった
484 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/04(金) 22:13:15.27 ID:MBzm6WpE0



 がらんとしたバーに踏み入ると、徹はカウンターの真ん中に陣取った。

「…何か、前に来たことある?」

 開口一番、無愛想なマスターが言う。徹は軽く笑った。

「ああ、1年くらい前に。…生ビール1つ」

 ジョッキを受け取ると、泡に口だけ付けて、それからおもむろに尋ねた。

「何か面白い話無い? この辺で」

「こっちが知りたいくらいだよ」

 素気なく切り捨てるマスター。徹は引かない。

「まあ待てよ。この辺りなら、ブンヤ好みの話題には事欠かないだろ? ヤクザとか、女とか」

「女、ねえ」

 マスターが鼻を鳴らす。

「流石、ビジネスウーマンのヒモは言うことが違う」

「はあ?」

 思わず、徹は身を乗り出した。隅のテーブルで縮こまっていた老人が、ちらりと彼の方を覗き見た。

「同業者の間で噂になってるよ。背の高い、スーツの女といつも一緒に歩いて、一緒の家に帰ってるって。二人暮らしならいい加減引っ越したら良いのに」

「同棲は否定しないけど、ヒモじゃねえからな?」

 ビールを一口、飲み込む。

「…仕事だよ、仕事。亀井戸さんに頼まれたんだよ。あるイメクラが、ヤバい薬に手を染めてるんじゃないかってことで、調べてるんだ」

「ああ、『天国牧場』のことか。にしても、あんたも災難だったね。ドブ亀の頼みなんて断っちまえばいいのに」

「すぐ名前が出てくるくらいには、噂になってるわけだ。…断りたいのは山々だけど、あの人、大学のサークルの先輩だったんだよ。断ったら、後輩連中にどんなデタラメ流されるか」

「あんたも苦労人だね。これはサービスだよ」

 小皿にポテトチップスを盛ってくれた。
485 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/04(金) 22:13:45.74 ID:MBzm6WpE0
「ありがとう。…で、その『天国牧場』とやら。どうやら幼児プレイの店だというのは事前に調べてきたんだが…ズバリ、どんな薬が出回ってるんだ?」

「ホルモン剤、かな。それも、違法輸入だって中々無いくらい、とびきり強いやつさ」

「ホルモン剤…じゃあアレか、コンパニオンの胸が、急に大きくなったとか」

「それだけじゃない。なんと、おっぱいが出るようになったって話さ。それも、一人二人じゃない。ここで話してった奴、一人残らずそれを見たんだから、きっと全員そうなってるんだろう」

「なるほど…」

 チップスを一枚、噛んで考える。
 この不本意な案件を彼が受けたのは、当然裏にガイアメモリが絡んでいると睨んだからだ。それでも、リンカがいながら実地調査に徹が赴くのは憚られたので、こうして馴染みの安酒屋に足を運んだのであった。
 ちなみに、最初の険悪なやり取りは、2人が顔を合わせた時の、一種のルーティンであった。

「…だが、どうやって仕入れた…?」

 既に徹は、目的のブツが薬ではなくガイアメモリと想定している。裏で取引されるガイアメモリは高額だ。コンパニオン全員が所持しているとしたら、それにかかるコストも相当なものになるだろう。母神教が直接関わっているのか、或いはとんでもない財力の持ち主が糸を引いているのか…

「さあね、このご時世、通販で何だって買えるだろうし…」

 店のドアが一瞬開いて、すぐに閉じた。酔っ払いが、入る店を間違えたのだろう。気にすることもなく、2人は会話を続ける。隅の方では、老人がグラスに頬ずりしながらいびきをかいていた。



「お兄さん、寄ってかない?」

 客引きの声を聞き流しながら、リンカは目当ての店へ真っ直ぐに突き進む。
 そう、『お兄さん』である。元々背が高く、中性的な格好をしていたリンカであるが、洗いざらしのジーンズに地味なブルゾンを着て、髪を雑に掻き上げると、もうその辺の、それもかなり顔の良いヤンクと見分けがつかない。客引きは勿論のこと、裏路地で煙草を吹かしていた商売女たちでさえ、物陰から身を乗り出しては興奮気味にひそひそと話し合っていた。
 しかし、彼女の目当てはそこには無い。雑居ビルの階段を登り、牛柄の看板の前で立ち止まると、店の名を呟いた。

「『天国牧場』…」

 金属の扉を押し開ける。
486 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/04(金) 22:14:42.75 ID:MBzm6WpE0
「! いらっしゃいませー!」

 カウンター越しに、若い男が声を張り上げた。扉を閉め、歩み寄ると、彼はラミネートされた紙を差し出した。

「どなたか、気になる娘はいますか?」

「…いえ」

「ではフリーですね。何分コースにしますか?」

「…」

 時間ごとに値段が書かれている。下の方には、追加サービスについても書かれていた。

「…50分コースで」

 掠れた声で答える。流石に普段の声だと、女だとバレる。

「オプションはどうなさいますか?」

 男の指す文字列に目を走らせて、リンカは思わず瞬きした。バイブ貸し出し、聖水プレイ、3Pコース…ここに徹がいなくて良かった。彼がどんな反応をするか、想像はできなくもないが、絶対に見たくない。
 断ろうとして、ある一節に目が留まった。

「…裸エプロン」

「50分フリー、裸エプロンですね。合計で2万円になります」

 財布から万札を2枚抜き出し、差し出すと、すぐ横の待合室に案内された。煙草臭い部屋には、既に10人近くの男たちがいて、ソファに座ってスマホを弄ったり、テレビに流れる怪しげな精力剤のCMを眺めたりしていた。
487 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/04(金) 22:53:19.82 ID:MBzm6WpE0



 2時間近く待って、ようやく呼ばれた。
 待合室の出口で注意事項を聞くと、奥に通された。ずらりと並んだ部屋の一つに入ると、一人の女が立って、待っていた。

「あら、おかえりなさ〜い!」

「…どうも」

 小さく会釈したリンカに、肩透かしを喰らったような顔をする女。化粧の厚い、ぎりぎり若いと言える顔。小柄だが、異様に胸が大きい。そして、リンカの注文通り、白黒の牛柄エプロンの他には、何も身につけていなかった。

「じゃあ、お部屋に入ろっか」

 リンカに背を向け、部屋の奥へ歩いていく女。リンカは素早くその全身に目を走らせた。当然、趣味とか性的嗜好ではない。この格好なら、メモリの生体コネクターを探すのに丁度良いと考えたのだ。
 しかし、目当てのコネクターが見当たらない。女は防水シートの上に正座すると、膝をぽんぽんと叩いた。

「ほ〜ら、膝枕してあげるね」

「…はい」

 恐る恐る腰を下ろし、彼女の腿に頭を載せる。上を向くと、大きくせり出した乳房が、リンカの視界一杯に広がった。
 女は、リンカの頭を優しく撫で始めた。

「よ〜しよ〜し、いい子いい子…辛いときは、た〜くさん、ママに甘えてね…」

「ママ…」

 思わず、呟いた。

「そう、ママでちゅよ〜。いい子いい子…」

「…」
488 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/04(金) 22:54:15.31 ID:MBzm6WpE0
 ママ。母親。…お母様。
 何故、人はこうまで女親に固執するのだろう? リンカは、疑問を自覚した。彼女にも親はいたのだろう。しかし、まるで記憶に残っていない。それはつまり、彼女にとって親というものが、その程度の存在に過ぎなかったのだろう。
 しかし、多くの人にとってそれは普通ではないらしい。母親の存在を常に求めているからこそ、この小さな女を求め、甘えるのだろう。そういう意味では、この商売女も、あのマザードーパントも、そう違わない存在なのかもしれない。

「…さ、おっぱいの時間でちゅよ〜」

「!」

 考え込んでいて、今の状況を忘れていた。女はエプロンの紐を解くと、胸当てを捲って巨大な乳房を剥き出しにした。それを下から見上げていたリンカは、遂に見つけた。
 右乳房の下に刻まれた、生体コネクターを。

「は〜い、どうぞ」

「んむっ…!?」

 しかし、それを指摘するより先に、茶色い乳首を口に突っ込まれた。思わず吸うと、甘い母乳が大量に噴き出した。

「んっ…?!」

「いっぱい吸って、いっぱい飲んでね…」

 撫でる女と裏腹に、リンカの中のトゥルースメモリの因子が、このミルクは危険だと告げる。口当たりが良く、栄養も豊富に含まれているようだが、それ以外に強力な依存物質めいたものが混ざっている。トゥルースメモリの力で抵抗しているが、それがなければ彼女は、徹の元へは帰れなくなっていただろう。
 女が、リンカのズボンの股間に手を伸ばす。

「…あら、ママのおっぱいで、ここも大きく…大きく…?」

 ところが、目当てのモノが触れない。女の顔が強張った。

「…君、もしかして」

「…っは、隠していて申し訳ありませんでした」

 リンカは、乳首と口の中のミルクを吐き出すと、すっくと立ち上がった。

「私は女です。そして、貴女はガイアメモリ使用者ですね。その身体変化を見るに、使用メモリは『ホルスタイン』か、『ジャージー』か…」

「! お前、一体何者…」

「名もなきフリー記者Bです。そして」

 ブルゾンの内ポケットから、無骨な大型拳銃を抜き、女に向ける。

「ガイアメモリは殲滅します」

「…知られたからには、生かしておけない…!」

 女は、部屋の隅にあるクローゼットに突進した。

「逃しません」ワイヤー

 銀のワイヤーが、彼女の足を絡め取る。しかしその頃には、女の手には、白と黒のガイアメモリが握られていた。丸みを帯びた牛柄の文字で『H』と書かれている。



『ホルスタイン』



 右の乳房を持ち上げ、コネクターにメモリを挿す。すると、その下から更に2つの乳房が生えてきた。全身が白と黒の体毛に覆われ、四肢が分厚い筋肉に覆われていく。
 足に絡まったワイヤーを引きちぎると、牛の怪人は唸った。

「店長の命令だから…ここで、殺す…!」
489 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/04(金) 22:55:01.55 ID:MBzm6WpE0
『Hな誘惑/不本意な仕事』完
そして今夜はここまで

土日の更新はありません
490 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/04(金) 22:55:32.41 ID:MBzm6WpE0
『Hな誘惑/不本意な仕事』完
そして今夜はここまで

土日の更新はありません
491 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/04(金) 23:03:19.73 ID:MBzm6WpE0
『ホルスタインドーパント』

 『ホルスタイン種』の記憶を内包するガイアメモリで、イメージクラブ『天国牧場』のコンパニオンたちが変身したドーパント。全身を白と黒の体毛と分厚い筋肉に覆われ、手足の先には硬い蹄が付いている。パンチの一撃でコンクリートに穴を開け、突進からの頭突きはプレハブ小屋なら簡単に粉砕するほどの威力。また、四つの乳首からはレーザービームめいて母乳を発射することもできる。
 この母乳は普通に飲むこともできる。甘く、栄養満点で、それだけで健康に生命が維持できるという理想的な飲み物だが、その反面強い依存性があり、副作用として飲めば飲むほど幼児退行していくという代物。
 女性がこのメモリを使用すると、人間態においても乳房が異常に発育し、常に母乳を分泌するようになる。この母乳も、ドーパント態で出せるものと同一である。
 ちなみに、類似品に『ジャージー』『ガンジー』『エアシャー』などがある。メモリの概要は殆ど変わらないが、母乳の味が微妙に異なるらしい。
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/05(土) 11:28:35.40 ID:vZi5BTOL0
マウスドーパント


ねずみの記憶を内包したメモリで変身する。
すばしっこい動きと爪攻撃で敵を翻弄し、噛みつきで即効性の毒を盛ることができる。ただし数十回の噛みつき程度では致死量に到達することはない。毒がまわっても動きが鈍くなり、意識が朦朧とし立てなくなり、発情してしまう程度である。

メス型の場合は非常に高い繁殖力を持っており、1人の男性やオス型ドーパントと1回交わっただけでたった数分で赤子を量産し、赤子の成長速度も早く更に数分もすれば自律できるようになって自ら異性を性的に襲うようになる。

上記の特性を活かして数で相手を押し潰し、犯しつくす戦法がメインになる。また、赤子にも両ドーパントの遺伝子情報が継承されており、実質生きた複合メモリである。その為、実験用マウスドーパントに他ドーパントの精液を注入し、産まれた赤子を忠実な兵士として育て上げる計画が立案されたことがある。


因みに、通常のネズミでも種によっては一度の出産で30匹生まれるとか。
493 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/10/06(日) 10:53:48.08 ID:hafy2tlB0
蜂女が仮面ライダーになる時代かぁ(Twitter見ながら)
494 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/07(月) 21:39:45.03 ID:ET1nUWoG0



 バーを出たところで、携帯が鳴った。

「! 早かったな…もしもし」

”ドーパントです。使用メモリはホルスタイン。現在、店内を逃走中です。既にドライバーを装着し、メモリを装填しています”

「うおっ、分かった!」

 慌ててドライバーを装着した瞬間、右のスロットに金のメモリが出現した。

「変身!」ファンタジー!

 左のスロットに銀のメモリを装填する。それから人のいない路地に駆け込むと、素早くドライバーを展開した。
 黒い外骨格を纏いながら、徹はビルの壁を蹴り、夜の空へと躍り上がった。そこへ金色の鳥が飛んできて、彼の体を包み込んだ。
 白いマントを翼に変えて、仮面ライダーデュアルが街の上空を滑空する。

『店の嬢がドーパントに変身したのか』

”はい。部屋から出て逃走している最中に、同じドーパントが別の部屋から数体ほど出てきました”

『やっぱり、コンパニオン全員がドーパントに…』

 雑居ビルの2階。牛柄の看板の前に降り立つと、扉を蹴り破って押し入った。
 店の中では、数体の雌牛のドーパントが、混乱しながら廊下をうろついていた。

「あの女、どこ?」

「急に消えたと思ったら…」
495 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/07(月) 21:40:36.09 ID:ET1nUWoG0
『おい!』

 イデアカリバーを手に、デュアルが声を張り上げた。

『こんなところに、ドーパントがたくさんいたとはな。全員、メモリブレイクだ!!』

「! お前は…」

「仮面ライダー!?」

「か、仮面ライダーだと!」

 カウンターの向こうから、男の店員が素っ頓狂な声を上げた。

「ま、まずい、皆でやっつけるんだ!」

 男の号令に、その場にいたドーパントが一斉に突っ込んできた。

『! おらっ!』

 先頭の一体に、剣を叩き込む。

『くっ…』

 凄まじい衝撃に、思わず数歩後ずさる。そこへ、更に数体が突進してきた。
 これ以上は受けきれない。デュアルは天井すれすれまで飛び上がり、集団の後ろへ着地した。

『これでも…喰らえ!』

 大剣を大きく振るい、金の衝撃波を飛ばす。

「きゃあっ!?」

 数体のドーパントが吹き飛ばされ、壁に衝突した。すかさず前進し、先頭の一体を斬り伏せた。

「くあっ…!?」

「やっ、やめろやめろ!」

 男が身を乗り出す。が、すぐに引っ込んだ。目と鼻の先を、鋭い角を持った銀色の影が、猛スピードで駆け抜けたからだ。

『メモコーン!』
496 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/07(月) 21:43:43.95 ID:ET1nUWoG0
 銀の一角獣は歌うように嘶くと、デュアルの手元に収まった。
 赤のメモリを取り出し、イデアカリバーの鍔に装填する。



『クエスト! マキシマムドライブ』



『クエスト・ファイナルファンタズム!!』

 剣から銀色の光が迸る。光は、無数の一角獣やグリフォン、ドラゴンといった幻想の獣へと変わり、ドーパントたちへ一斉に襲いかかった。

「きゃああぁっ!」

「ぎゃあぁっ!?」

 雌牛たちの体からガイアメモリが抜け落ち、次々に砕け散っていく。

「ひっ…た、助けっ…」

”そう言えば、他の客は…?”

『! 待合室は?』

 リンカの案内で待合室に足を踏み入れる。
 そこでは、一体の雌牛のドーパントが、数人の客に乳を飲ませていた。



「はぁい、怖くないからね〜…」

「ママぁ…」「ママ、俺にも…」「ママ…」



497 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/07(月) 21:45:28.03 ID:ET1nUWoG0
『…何だコレ』

「!?」

 思わず呟いた声に、ドーパントが反応した。彼女は弾かれたように立ち上がると、相手が誰なのか確認し、ゆっくりと両手を上げた。
 雌牛から人間の姿に戻っていく。右の乳房から白と黒のメモリが抜け、床に落ちた。

『…そのまま、動くなよ。警察を呼ぶから』

 逃げようとする客の1人を捕まえ、携帯電話を取り上げて110番。

『もしもし。植木さんに繋いで欲しい…』

「…駄目だ」

 突然、向こうから誰かが呟いた。

「このままじゃ…おれが、殺される…!」

『うん?』

 見ると、店員の男が、ゆっくりとデュアルに向かって歩いてきていた。

『命までは取らない。メモリは破壊するが…』

「い、い、嫌だあああぁぁぁっっっ!!」

『!?』

 男は突然叫ぶと、走り出した。女が床に落としたガイアメモリを拾うと、左手に突き立てた。

『おい、止めろ!』

「おおおっっ…おあっ…あっ…」

 その体が、白と黒の体毛に覆われていく。四肢が、筋肉で膨れ上がり、体格が増していき…

 ____突然、ずたずたに裂けた。

「ぎゃああああっっっぁあぁっっ…」

 絶叫しながら、全身から血を噴く男。デュアルは咄嗟にトゥルースメモリを抜くと、腰のスロットに挿し替えた。

『止めなさい! ヒトは、牛ではない…』トゥルース! マキシマムドライブ

『だから…雄だからと言って、殺される道理はない…!』

”えっ、そういうことなのか!?”

 体の統制権を預けた徹が、リンカに問いかける。リンカは、出血する男に掌を向けながら答える。

『ホルスタインに限った話ではありません。乳牛や、採卵鶏の雄に商品価値は無い…生まれてすぐに殺される運命です。恐らく、そのメモリを男性が使った場合も』

「あ゛っ、ああっお゛っ……ごはあっ」

 男が、どろりとした血を吐いた。裂けた腹から、内臓が零れ落ちた。それを見た客とコンパニオンが、一斉に嘔吐した。
 地獄のような景色の中で、遂に男は事切れた。
498 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/07(月) 21:46:28.41 ID:ET1nUWoG0
今夜はここまで
499 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/10(木) 20:56:23.74 ID:xOqbS3wr0



「…」

 青年が、ページを捲る。隣に座った少女が、食い入るように中身を読む。

「熱心に閲覧するのに、君については少しも閲覧させてくれないようだ。『アリス』」

 やれやれと肩を竦める。一言も発しない、地球の記憶にも関わらず本の形すらしていないこの少女を、青年は便宜的に『アリス』と呼ぶことにした。彼が差し出した『不思議の国のアリス』を、彼女がいたく気に入ったからだ。

「…まぁ、良いけど。ここから出られずにいるということは、君の肉体は既に消滅している可能性が高い。かと言って、完全に死んだわけでもなさそうだし。…」

 と、ここで青年は、遠い目になった。ぽつり、呟く。

「…まるで、昔の僕みたいだ」

「…」

 気付くと、少女が訴えかけるように彼の方を見ている。彼は、またページを捲った。

「…良いや、君が出られるようになるまで、少しは付き合ってやるとしよう。僕も、少しは辛抱を覚えたからね」
500 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/10(木) 20:57:04.44 ID:xOqbS3wr0



「メモリは店長から貰ったの」

 取調室にて。コンパニオンの1人が証言した。

「他の娘も?」

「うん」

 女が頷く。ホルスタインメモリを自ら使用し、悲惨な死を遂げたあの男が、『天国牧場』の店長だったらしい。

「先輩はもう持ってたし、後輩の娘も面接通ったすぐ後に貰ってたみたい」

「だが、ガイアメモリはそう何本も手に入るものじゃないぞ。店長がどこから仕入れてたのか、心当たりは無いのか?」

「さあ? 給料日以外に、店長とはあんまり関わらないようにしてたし。…あ、でも」

 女は、不意に声を潜めた。

「…その給料日前に、店長がどこかに電話をかけてた。何か、おどおどしながら謝ってたけど、何だったんだろね?」



 同刻、徹とリンカの2人は、鉄格子を挟んで1人の男と向かい合っていた。

「…九頭。いい加減、何か喋ったらどうだ」
501 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/10(木) 20:58:17.19 ID:xOqbS3wr0
「…」

 独房の隅に座り込んで、2人をじっと睨むのは、九頭英生。元ミュージアムのガイアメモリ密売人にして、母神教のナンバー2。しかし、彼は仮面ライダーを道連れに自爆しようとしたところでマスカレイドメモリを引き抜かれ、破壊されてしまった。
 今、彼は独房に籠もり、食事も口にせず、黙って座り込んでいる。

「本当に、成瀬が生き返ると思っているのか」

「当然です。お母様は、必ず帰ってこられる」

「どうやって? マザードーパントの力が無ければ、死者を復元することはできないはず」

 リンカの問いかけに、九頭はうわ言のように答える。

「子供らの、強い想いが…必ずや」

「…」

 徹は、この対話を打ち切った。代わりに、ポケットから白と黒のガイアメモリを取り出し、九頭に見せた。これは、死の間際に店長の手から抜け落ちたものだ。メモリの副作用で命を落とす前に抜去したかったのだが、結局間に合わなかった。

「これを、風車町の店に売ったのか」

「…ふん」

 メモリを一瞥すると、九頭は鼻を鳴らした。

「懐かしい代物ですね。とうに投げ出した計画です」

「計画?」

「これくらいは話してもいいでしょう。…単一のメモリを、効率的に拡散する実験…しかし、預ける相手を間違えました」

「間違えた? 風俗店の店長に渡せば、店のために使うのは分かりきってただろ?」

 すると九頭は、怪訝な目で徹を見た。

「店長? 私は、そんな者には渡していませんよ?」

「何だと?」

「私が、そのメモリを渡したのは…」
502 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/10(木) 21:08:35.03 ID:xOqbS3wr0
今夜はここまで

人の考察とか見るのめっちゃ好きなので、どんどん考察とか雑談してくれると嬉しい
もっとも>>1の作話下手だから考察の余地無いかもだけど
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/10(木) 21:56:11.41 ID:2JizHVVHO
乙、オーケストラの件から考えるとメモリ犯罪に関与してるのは母神教だけじゃなさそうね
ガイキは人じゃないって言ってたけど、もしかしてNEVER?
504 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/10/10(木) 22:24:19.02 ID:xOqbS3wr0
安価によって当初想定してた流れが変わることがある。今の所、全部いい方向に進んでる
例を挙げるなら、リンカのメモリは当初『ロスト』を想定してたけど、安価で『トゥルース』になったことで徹の『ファンタジー』とダブルドライバーで強化形態という設定に繋がった

あと、一番気に入ってるのがドミネーター。飛び蹴り一辺倒のライダーキックの中、踏み付け攻撃をライダーキックと言い張る設定が作ってて非常に気持ち良かった。メモリぶっこ抜きパンチも、『ドミネーター』という単語から着想を得たし。ちなみに、アクセルのエンジンブレードのボツ案がこんな感じで敵のメモリを奪ってエネルギーを使い捨てるという設定だったらしい
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/10(木) 23:15:39.84 ID:Cu+uFkf3O
せっかくだし質問するけど、>>1が募集ドーパントで気に入ってるのってどこら辺?勿論全部採用されてるから好みだけって前提で
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/10(木) 23:35:03.28 ID:8DTFaQ3E0
ロストファンタジーってなると闇堕ちした感じになるね
後、>>1が供養していたエボリューションの設定が好き。
507 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/10/11(金) 18:13:06.01 ID:kxhnlOvV0
>>505は採用したドーパントの中でどれが気に入ってるかって意味なのか、それとも採用した各ドーパントのどこが気に入ってるかって意味なのかな?

前者なら、設定を余さず活かせたという意味でアイドルかな。女ドーパントがやたらエロい所にメモリを挿すのが好き(特にホッパーとか)で、ニチアサに不適切なレベルまで振り切れたのも良かった。
逆に設定を活かせなかったと後悔してるのがオーケストラ。活かすどころか、オーケストラの設定は能力よろしく後付に後付を重ねたもので、途中までは本当にバチカゼのメンバーの誰かを変身者にするつもりだった。おかげで男を女口調で喋らせた辻褄を合わせるために、だいぶ苦しい設定を付け加えてしまった。
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/11(金) 19:18:14.21 ID:0w5sJ4n60
>男を女口調で喋らせた
よくあることだからへーきへーき(二つ後のライダーとか)
509 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/11(金) 22:50:53.50 ID:kxhnlOvV0



「あっ! あぁっ! んっ! はあっ…!」

 あるホテルの一室にて。悲鳴のような嬌声を上げ、腰を振る裸の女。その下で獣のように唸る、小柄な男。

「ほらっ、動け、動けっ!」

「やだっ、もう、限界っ…許してっ」

 泣きながら懇願する女。男は、容赦なく腰を突き上げる。

「ぎっ」

「誰のおかげで、食えてると思ってるっ! ほら、もっと…」

 その時、金属の扉をノックする音が響いた。
 男は無視して、女の腰を掴んで揺さぶり続ける。

「へへへっ…昨日は外したが、今日こそは力野の方が店に行くだろう…その隙に、あの女を」

 次の瞬間
 分厚い扉が、爆音と共に外側から吹き飛んだ。

「…うん?」

「はっ…ひっ…ぐぇっ」

 男はそこで初めて異変に気付き、女を腰の上から突き落とした。

「な、何だよ…? …!」

 威圧的な靴音を立て、部屋に押し入ってきたのは、例のあの女。

「おっと、君は…力野クンとこの娘じゃないか」

 男は例の粘ついた笑みを浮かべながら、全裸のままゆっくりと近寄った。この女、何やらとんでもなくダサいTシャツを着ているが、それは置いておこう。

「どうしたんだい? もしかして、俺に逢いたくなったのか」

 言いかけた言葉が、途中で途切れた。
510 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/11(金) 22:51:30.27 ID:kxhnlOvV0
 彼の口には、無骨な大型拳銃がぴったりと突きつけられていた。

「っ…てめえまさか、ヤクザか」

「名もなきフリー記者Bです。そして」

 部屋に入ってくる、もう一人の人物。彼の姿を認めた時、男の顔から笑みが消えた。

「…亀井戸さん」

「力野…」

 徹は、溜め息を吐いた。

「俺に持ってきた仕事…アレ、亀井戸さんの自作自演だったんですね」

「…何の話だよ」

「とぼけるな!」

 突然、徹が声を張り上げた。

「あんたは、母神教から大量のガイアメモリを供与された。目的は、1種類のメモリをある地域に、どれだけ広げられるかという実験のため。その実験場として風車町が選ばれ、持ち込む役として多くの店に顔が利くあんたが選ばれた。だが」

「貴方は、イメージクラブの店長と結託し、その店にのみメモリを貸与した。コンパニオンにメモリを使用させることで人間離れした力を与え、店の評判を上げ、そして売上の一部を受け取った」

「何で俺に、その裏を暴かせようとしたのか考えたが…あんた、俺を店で始末して、その隙にリンカを寝取る気だったな?」

 リンカが、蔑むような目で亀井戸を睨んだ。
 亀井戸は、きょときょとと2人を交互に見て、それからやっと口を開いた。

「…だったら、何だ」
511 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/11(金) 22:52:08.26 ID:kxhnlOvV0
 そこへ、更に2人の男が駆け込んできた。

「!?」

「北風署、超常現象捜査課の植木だ」

「同じく坂間だ! 亀井戸純吉、お前を逮捕する!」

「…っ」

 それを見た亀井戸は…

「…はっ…ははっ…かっはははははっ…!」

「何が可笑しい!?」

「人間4人で、何をするかと思ったら。逮捕だぁ? かひっ、ひゃひゃっひゃひゃっ…」

 哄笑しながら、彼は…おもむろに、床に倒れた女を引き起こした。

「何をする!?」

 彼は、女の右の乳首を乱暴につまむと、上に引っ張った。異様に膨らんだ乳房の下側には、黒いコネクターが刻まれていた。

「いっ、くっ…」

 苦しげに喘ぐ女。そのコネクタから、白と黒のメモリが抜け落ちる。
512 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/11(金) 22:54:34.12 ID:kxhnlOvV0
 それを手に取ると、亀井戸は4人を見回した。

「乳牛の雄の存在意義って、何だと思う?」

「やめろ、そいつは男が使ったら」

「ンなもん、決まってるよなァ!」

 そう言うと亀井戸は、いきなり自らの股間を掴んだ。黒い毛に覆われた陰嚢を持ち上げると、なんとその裏側に、ガイアメモリのコネクターがあった。



『ホルスタイン』



 乳牛のメモリが、男性器の中へと吸い込まれていく。と、その全身が白黒の毛と、鋼のような筋肉に覆われていった。頭からは黒く太い角が2本生え、手足の先は頑丈な蹄となり…そして、陰茎は突撃槍めいて太く、長く、鋭く尖り、陰嚢は床に付かんばかりに膨れ上がった。

「へっへぇ…俺は、『選ばれた』雄だ…」

「なるほど」

 冷めた口調で、リンカが言う。

「種牛になれば、雄でも生きながらえるわけですか」

「男は殺す! 何故なら、俺が一番優れた雄だからだ。そして、女は犯す。ひひっ…死ぬまで孕ませてやるからな…」

「上等だ。リンカは、絶対に渡さない…」

 怒りに燃える声で、徹が唸った。彼が懐から取り出した物に、ホルスタインドーパントが目を見開いた。

「それは…!」

「予め答えておきます。……貴方との性交渉は、断じてお断りします」トゥルース!

「植木さん、坂間さん、下がっていてください。……こいつを合法的にぶちのめす、またとない機会だ…!」ファンタジー!



「「変身!!」」
513 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/11(金) 22:55:50.45 ID:kxhnlOvV0
今夜はここまで
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/10/12(土) 02:07:32.88 ID:e+phcqOu0
ボスドーパント


団体や組織を率いるboss(ボス)の記憶を内包した、葉巻に偽装された特製メモリで変身する。
メモリまたは当該ドーパントが、ボスに相応しい使用者を選ぶ。たとえ過剰適合者だとしても選ばれてない使用者には反応しない。ボスの素質を磨けば選ばれやすくなる。

当該ドーパントにボスの経験がなくても組織を纏め上げ、無線などを使用せずに遠距離でも部隊を動かす事ができる。また、当該ドーパントに危険が迫ると配下が即座にカバーしようとする。イメージするなら某歯車VのBIG BOSSがやれることに近い

最大の特徴はボスドーパントへ変身直後に周囲の人々やドーパントを即座に集め、忠誠心を芽生えさせて本心から誓わせる事。大半は当該ドーパントに従うが、少しでも同意できないと感じれば人間でも術中から抜け出す事ができる。


メモリの使用者候補はレジスタンスリーダー、マフィアのボス、社長等ではあるが、職歴に関係なくメモリに選ばれる事もある。

個人的には財団Xから抜け出した者達のレジスタンスリーダーとかが使用してそう
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/13(日) 12:27:09.98 ID:A/tw376t0
ウィッチドーパント


魔女(witch)の記憶を内包したメモリで変身する者と、メモリそのものが人型へ変身する者がある。仮面ライダーウィザード並みかそれ以上に様々な属性魔法を使いこなし、当該ドーパント自身や周辺のモノへ魔法をかけて強化や変形も得意とする。薬草や占い等の知識も豊富である

また正史である魔女狩り被害者達の記憶も内包しており、自分等を助けなかった異端扱いされない人間達への怒りや憎しみが変身者の闘争本能を加速させる。
反面当該ドーパントを自主的に守ろうとする人間、特に子供を見つけると恩を感じて全力で守る上に保護しようとする。個体によっては保護した相手に対して知恵を与え、生身で魔法を使役できるように教育することもある


なおハロウィンの時期になって人々が異端な格好(仮装)しているのを見ると大人しくなる
516 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/13(日) 15:05:17.82 ID:rQ/NewS60
「ぬうああっ!」

『たあぁっ!』

 蹄と大剣が激突した。強い衝撃に、剣を握る腕に痺れが伝った。

『硬ったぁ…このっ!』

 胸を蹴り飛ばすと、よろめいた相手に向かって切っ先を突き出した。しかし、分厚い胸筋が刃を受け付けない。
 ホルスタインドーパントはその場で床を蹴ると、頭突きを見舞ってきた。

『危なっ!?』

 咄嗟に横に躱す。重機の如き突進が、勢い余って壁をぶち抜いた。隣の部屋のカップルが、悲鳴を上げて逃げていく。

「はぁ…はぁ…」

 ゆっくりと振り返る、ホルスタインドーパント。彼は唸り声を上げると……突然、反り上がって腰を突き出した。
 と、突撃槍のような巨大な陰茎から、白い液体が勢いよく噴き出してきた。

「ぬぅっ!」

『っ!』

 生臭いは、躱したデュアルのすぐ横を駆け抜け、キングサイズのベッドを吹き飛ばした。
517 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/13(日) 15:05:59.80 ID:rQ/NewS60
「ぬんっ! ふんっ! ふぅっ!」

『…リンカ』

”特に言うことはありません”

 次々に飛んでくる精液を躱しながら、デュアルはイデアカリバーを左手に持ち替え、右手にXマグナムを握った。

「おらっ、死ねっ! 死ね…」

『うるさい!』ミサイル

「ぎえぇぇっ!!?」

 小型ミサイルが股間を直撃し、ひっくり返る牛男。

「こ、この野郎…!!」

 起き上がると、怒りに任せて突っ込んできた。

『お任せください』ワイヤー

 突進してくるホルスタインドーパントに向かって、ワイヤーを放つ。銀色のワイヤーが牛の角に絡みついた。デュアルはその場で飛び上がり、突進を躱すと、そのままワイヤーを掴んで引っ張り、背中に跨った。

『っと、リンカも無茶するぜ…そらっ!』

 銃を手放し、片手でワイヤーをしっかり握ると、ぐいと引っ張った。

「ぐぅっ、降りろ、降りろっ!」

『断るっ! 散々、良いように使いやがって!』

 ロデオめいて、暴れるドーパントを繰るデュアル。部屋を破壊しながら走り回り、遂に壁を突き破ってホテルの外まで飛び出した。
518 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/13(日) 15:06:27.70 ID:rQ/NewS60
 そこは、3階であった。



「きゃぁーっ!?」

「ば、化け物だ!!」



「ぐぇっ」

 コンクリートに叩きつけられ、ぐったりとするホルスタインドーパント。その背中に___

『はあぁっ!!』

「ぎゃあぁーっ!!」

 深々と、大剣を突き立てた。
 背中から降りたデュアルは、ファンタジーメモリを腰のスロットに装填した。



『ファンタジー! マキシマムドライブ』



 苦しむドーパントを、遠くへと蹴り飛ばす。
 デュアルの装甲が剥がれ、金色の鳥となって翼を広げた。そのまま猛スピードで、飛んでいくドーパントを追って駆け出した。

『デュアル…エクスプロージョン!!』

 飛び上がった彼の足に、黄金の鳥が刃のように寄り添う。飛び蹴りが、金と銀の矢となって、ホルスタインドーパントを貫いた。

「ぐわあぁぁぁぁっっっ!!!」

 爆ぜるドーパント。爆炎の中で、全裸の亀井戸純吉が崩れ落ちる。その傍らには、粉々に砕けたガイアメモリが散らばっていた。
519 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/13(日) 15:39:21.75 ID:rQ/NewS60



「…感じます」

 暗い独房の片隅で、やつれた男がぽつりと呟いた。

「お母様が、お戻りになられる…あの、外宇宙の秘技で…」

 鉄格子の外では、腕組した看守が黙って目を光らせている。

「…そう、『ヴォイニッチ』の、大いなる奥義で」

 別の看守が、欠伸しながら降りてきた。元いた看守は短く言葉をかわすと、その場を去っていった。



「…そうか。マザードーパントを生き返らせる算段はあるんだな」

 電話口で、ガイキが念を押した。

「分かった。引き続き、サツとメモリ使用者を見張ってろ。そう、他のやつにも伝えておけ」

 通話を切ると、ガイキは携帯を放り捨て、ソファに沈んで溜め息を吐いた。

「警察に、内通者がいるんですか」

「リンカの仕事だ」

 女生徒の一人、速水かなえの問いかけに、ガイキは可笑しそうに喉を鳴らした。

「やれやれ、あいつが退職前に全部済ましといてくれて良かったぜ。俺は苦手だからな、こういう潜入とか根回しとか」

「…その、マザードーパントというのを生き返らせるのは、どうしてですか?」

「仕事だからだ」

 即答するガイキ。かなえは食い下がる。

「仕事だからって、どうして」

「何でだろうな。お前も、いずれ大人になったら分かるだろうよ。皆が皆、お前らの先生みたいに働きたくて働いてるわけじゃねえ」

 ふと遠い目になり、ぼそっと呟く。

「…ギヅビバデデロ、ギジャバスススダバシザ」

「えっ?」

「…何でもねえ。それより、先生を呼べ。お前らにも、もう一働きしてもらうぜ」
520 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/13(日) 15:40:05.00 ID:rQ/NewS60
『Hな誘惑/選ばれし男』完

今日はここまで
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/13(日) 16:05:44.25 ID:K6SJCqDR0


ガイキ…ゴラゲパゲゲルンムセギジャジャ?
522 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/13(日) 16:08:30.86 ID:rQ/NewS60
『ホルスタインドーパント(種牛)』

 『ホルスタイン種』の記憶を内包するガイアメモリで、フリーライターの亀井戸純吉が変身したドーパント。
 ホルスタイン種を始めとする乳牛は、基本的に雌にしか商品価値が無い。そのため、雄の仔牛は生まれてすぐに処分されるか、せいぜい肉牛にされるのが普通である。そのため男性がホルスタインメモリを使用すると、変身した瞬間に生きたままシュレッダーに放り込まれたかのように、全身がずたずたに引き裂かれて死亡する。
 しかし、一つだけ例外がある。雌牛を孕ませるために存在する雄牛、すなわち種牛である。
 一定以上の適合率を持つ男性がホルスタインメモリを使用すると、優れた遺伝子を持つ種牛に相応しい雄として、例外的にドーパント態に変身しても死亡せず活動することができる。その場合は優れた雄であるという前提があるため、女性が変身した場合よりも更に強い力を持つことになる。具体的には、蹄によるパンチで鉄板をぶち抜き、頭突きでビルを倒壊させ、最高速で突っ込んでくる電車を真正面から受け止めることができる。また、分厚い筋肉は極めて硬く、生半可な刃はまるで通さない。雌と最も異なる点としては、乳房の代わりに巨大な陰茎と陰嚢があり、母乳の代わりに精液を弾丸めいて飛ばしてくる。これを雌のホルスタインドーパントが喰らうと、それだけで妊娠する。ホルスタインだけでなく、他の牛系ドーパントも同様に孕ませることができる。
 九頭英生は、単一のガイアメモリを効率的に広める実験として、風車町にホルスタインメモリを拡散する速度を観測しようとした。その足がかりとして、町の人間に顔の効く亀井戸に無制限にメモリを供給した。しかし亀井戸は、それをむやみに広げることはせず、目を付けていたイメージクラブの店長を脅迫し、店のコンパニオンにメモリを使わせた。ホルスタインメモリの力を得た女性たちは風車町で評判となり、店は急速に売上を伸ばしたが、その半分は亀井戸に奪われることとなった。また、雇ったコンパニオンの中で一番人気の女も、亀井戸が独占していた。
 富と女を得た亀井戸であったが、その欲望に底は無かった。同業者の力野徹が金持ち女と同棲しているという噂を聞くや、彼に接近し、店の闇を暴くという建前の元、彼を店に行くように仕向け、その隙に彼の女、つまりはリンカを寝取ろうと画策した。しかし、最初からガイアメモリの存在を疑った2人に、自身の悪事を暴かれることとなった。
 メモリの色は白と黒の牛柄。下半分は丸みを帯びた牛柄の線、上半分は牛の角めいた尖った線で『H』と書かれている。
523 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/13(日) 16:10:55.88 ID:rQ/NewS60
>>455をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!

ドーパントを採用するときは、それで一話書けるかどうかで判断してる
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/13(日) 18:29:42.45 ID:8bE5hpecO
お前グロンギかよぉ!?ヒューマギアも出さないと(一作目繋がり感)
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/13(日) 21:36:10.21 ID:eHBf9GZXO
スクラップ・ドーパント

『クズ鉄』の記憶を内包したガイアメモリで変身したドーパント
変身した当初は眩い様な銀色の精悍な姿のロボットだが、直ぐに朽ち果てた色へと変色してしまう
動き方も壊れた機械の様にぎこちなく、ノロノロとした鈍重な行動やバグが発生したかの様な怪音が体から聞こえてくる
当初はそのあまりに無惨な姿から、記憶通り廃棄される運命だったメモリだった

しかし『廃材を吸収して力を増す』特性が判明してからは、一転して有力なメモリとして扱われる様になった
特に廃棄された重機や既に住む人間のいなくなくなった廃屋等の人間に棄てられた物は相性が良いのか、ドーパント体に融合してしまう
戦い方はパワー任せの力業。その為このドーパントが暴れて被害が出れば出る程に強化されていってしまう

副次的な作用として、触れた物の使用された記憶がある程度把握できる
しかし、それは捨てられた物に限定される為使い勝手はあまり良くない
メモリの色は錆色。潰されたひしゃげた鉄骨がSの字になっている
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/13(日) 21:47:39.90 ID:PE9rlkjy0
廃材でパワーアップ……
そういえばブレイクしたメモリって廃材みたいなもんだよな?
527 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/13(日) 23:04:45.14 ID:rQ/NewS60
(それより北風町には産廃の廃棄場がある)
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/14(月) 02:41:59.91 ID:+2w61bt8o
廃棄場があって廃棄される予定だったメモリがある
これ、廃棄された屑メモリと運命的な出会いでもシナリオが出来そう?
529 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/14(月) 19:20:10.24 ID:u+XlMcTc0
「う、あっ、ああっ…ああぁぁあぁあああぁぁぁっっっ!!!」

 絶叫し、崩れ落ちる男。その掌から、生成り色のメモリが抜け落ちる。それを拾い上げると、井野は苛立たしげに息を吐いた。

「クソッ…こいつも駄目か」

 目を向けた祭壇には、ヴェールを被った若い女が横たわっている。彼の妹、井野遊香である。半年に自殺した彼女は、兄である定と、母神教の首魁・成瀬ヨシノ、すなわちマザードーパントによって生き返った。しかし、成瀬の腹から取り出されてから、彼女は一度も目を覚まさない。マザードーパントの腹から生まれた子は、マザードーパントの母乳によって体力を取り戻す必要があるからだ。
 しかし、遊香の出産と引き換えに、成瀬は命を失った。成瀬を再び生き返らせるには、この生成り色のメモリ、『ヴォイニッチ』の力が必要であった。

「次を連れてくるよ。井野さん、それ隠しといて」

 朝塚ユウダイが、聖堂を出て行く。
 ヴォイニッチメモリの具体的な能力は、誰も知らない。一つ言えるのは、ごく僅かな選ばれた人間が使用しなければ、瞬時に精神が崩壊し、二度と戻れなくなるということだ。
 井野は、動かなくなった男を担ぎ上げると、祭壇の裏に放り捨てた。何も知らない母神教の信者を、次々とここに呼び出してはメモリを試しているが、まだ一人もメモリに耐えきれた者はいない。

「遊香…待ってろよ…」
530 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/14(月) 19:20:41.99 ID:u+XlMcTc0
「よう」

「!?」

 突然、背後から飛んできた声に、井野ははっと振り返った。
 見ると、そこには白い詰め襟を着た髭面の大男が、目を細めて立っていた。
 と、その隣に眼鏡を掛けた中年の女が、そして背後に、30人ほどの少年少女が手品めいて瞬時に姿を現した。

「誰だ!?」

「マザードーパントを生き返らせるんだろ? 手伝いに来たぜ」

「誰だと言っている…」ネブラ

「てめえにそれを訊く権利は無え!」

 いきなり、男が井野の胸を掌で衝いた。あまりの衝撃に息が止まり、井野がその場に膝を突く。

「くっ……っ! あ、あんた…」

 井野の目が、隣に立つ女の方を向いた。

「見たこと、あるぞ…そうだ、前にここで」

「ああ、誰と思えば。前にミヅキが連れて来た」

「そうか…同じ、お母様の…げほっ」

 咳き込みながら、どうにか立ち上がる。それから、先程拾った生成り色のメモリを女に見せる。

「これを…このメモリを、使える人間を探せば…お母様が、戻ってくる」

「へえ」

 男が、メモリをひったくった。

「おい、ガキども。ポイント稼ぎのチャンスだぞ。誰か、試してみるか」

「よせ! 選ばれた者以外が使えば、一瞬で廃人になるぞ」

 その言葉に、女が息を呑んだ。

「だ、駄目よ! そんなこと、私の生徒たちにさせるわけには」

「先生…」
531 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/14(月) 19:22:16.88 ID:u+XlMcTc0
 ある生徒が、思わず口を開く。ひそひそと話し合う声がして、やがてその中の一人が何か言おうとした、その時

「…うん? そこにいるのは」

「! …あぁっ!?」

 突然、聖堂の床から大量の植物が伸び、生徒や女の体を雁字搦めに絡め取った。
 その間を縫って、一人の少年が井野の隣に姿を現した。

「久し振りだね、愛巣会の小蝿クンたち」

「! あなたは…」

 目を見開く女に、少年…ユウダイは、歯を剥き出して唸った。

「そして…蜜屋先生。僕から全てを奪った、腐れウジ虫女…!」クローバー

「糞ガキめ…」ドミネーター!

 白服の男…ガイキが変身し、クローバードーパントに殴りかかる。それをメイスで受け流すと、彼は叫んだ。

「井野さん!」

「ああ!」ネブラ

 青銅の騎士が、ドミネーターに斬りかかる。迎え撃とうとした拳に、クローバーの茎が絡みついた。

「っ、クソがっ!」

 振り払った拍子に、奪ったヴォイニッチメモリが手から離れた。

「しまっ」

「…はい、キャッチ」

 飛んできたメモリは、吸い込まれるようにクローバーの手に。彼はニヤリと嗤った。

「僕は、運が良いんだ。そして」

 縛られた蜜屋と、彼女の生徒たちに向き直る。

「…丁度ここに、良い実験体がたくさんいるね」

「止めなさい!生徒たちに手出ししたら、許さないわ」

「僕も、少し前までそっちにいた。でも、あんたは僕をクズだと捨てた! …そこで見てなよ。あんたが僕にしたみたいに…僕も、あんたから奪ってやる…!」
532 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/14(月) 19:23:45.11 ID:u+XlMcTc0



「…何だ、どうなってる?」

「もぬけの殻ですね」

 工場を見回して、徹とリンカは首をひねった。
 博物交易、第九貨物集積所四番倉庫。すなわち、北風町に存在するガイアメモリ製造工場である。リンカの案内で工場に侵入したは良いものの、そこには人の気配がまるで無かった。

「ガイキや蜜屋はともかく、他の作業員もいない…」

 見たことの無いような機械や、文字と画像で埋め尽くされた巨大な画面。つい最近まで動いていた気配はあるのだが、そこには誰もいない。

「どこかに出かけているのでしょうか。それこそ、母神教の本拠地などに」

「だが、どうやって? 敷地の前に、新しい車の跡なんかは無かったし…」

「方法ならあります」

 そう言うとリンカは、徹を先導して壁にある質素な金属の扉を開け、中に入った。薄暗い廊下を歩き、また別の扉を開けると、そこは白い正方形の小部屋であった。
 等間隔に黒い線の引かれた床に座って、一人の少年が本を読んでいる。

「…! 誰だ…」

 慌てて立ち上がる少年。彼はリンカの姿を認めると、声を張り上げた。

「リ、リンカさん!? 何をしに来たんですか」

「ガイキたちをどこに転送しましたか。答えなさい」

 Xマグナムを突きつけ、問いただすリンカ。少年は上ずった声で答える。

「ぼ、母神教本部…聖堂に」

「やっぱり…目的は何だ。母神教の掌握か?」

「そんなこと、ぼくは知らない! ガイキさんの命令で、皆を転送しただけだ」

「では、私たちも転送しなさい」

「そ、そんなこと」

「では、ここで貴方の所持する『ゾーンメモリ』を破壊します。…ガイキや他の皆さんが帰る手段を失うことになりますが、よろしいですね?」

「…」

 少年は歯ぎしりすると、ポケットから一本のガイアメモリを取り出した。

「先生たちの邪魔をしないでくださいよ…」ゾーン

「それは、あちらの行動によります。…忠告しておきますが、他の場所に転送しようとは思わないことです」トゥルース!

 ドライバーを装着しながら、リンカが釘を刺す。

「今、私はトゥルースメモリを装填しました。偽りは、全て暴かれます。…徹」

「ああ。今のうちに…変身!」ファンタジー!

 白い部屋に、北風町の風景がミニチュアサイズで投影されていく。その中の一箇所が白く点滅し…デュアルの姿が、部屋から消えた。
533 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/14(月) 19:24:33.72 ID:u+XlMcTc0
今夜はここまで
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2019/10/14(月) 21:08:01.78 ID:RkUNHFgJO
荒らし速報

ID: +vAJUinAO、ID: XxAEAIo80、ID:vuMJPVEE0、ID: Ao8Lv9x9O、ID: cJcQzrkpo 、ID: 6ra6liDjO
ID: 89tlEEMSo

以上のIDが他スレにて悪質な荒らし行為をしている事が確認されました。
これ等のIDは荒らし目的のクソ安価を出しますのでご注意ください。
535 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/14(月) 21:12:46.80 ID:u+XlMcTc0
『クローバードーパント』

 『シロツメクサ』の記憶を内包するガイアメモリで、学生の朝塚ユウダイが変身したドーパント。シロツメクサの花冠を被った、石膏像の天使のような姿をしており、四葉のクローバーを模したメイス(レンゲルラウザーよりは柄が短い)を振るったり、シロツメクサを自在に伸ばして敵を拘束したりできる。汎用性の高いメモリだが、それ以上に厄介なのは四葉のクローバーが持つ『幸運の象徴』に由来する、使用者の運の強化である。急いでいる時は目の前の信号は全て青になり、予報が雨の日に傘を忘れれば空は晴れ渡り、シャリシャリ君は食べたいだけ当たりが出て、自分を狙った攻撃は全て急所を外す。そのため、致命傷を与えるにはそれを上回る幸運か、運では追いつかないほどの飽和攻撃が必要となる。
 母親である朝塚芳花を失ってなお蜜屋に洗脳されたままだったユウダイを、塾の専属医・友永真澄として行動していた成瀬ヨシノは密かに呼び寄せ、洗脳を解除する。そうして彼の復讐心を煽り、エクスタシーメモリの試作品を持たせて蜜屋に特攻させた。返り討ちに遭い死亡した彼の遺体を回収した成瀬は、マザードーパントの力で彼を再出産し、自身の子として新たな洗脳をかけた。塾の落ちこぼれとして蜜屋に虐げられながら、お母様に目をかけられ、深い寵愛を受けることになった『幸運』な彼に相応しいメモリとして真堂が与えたのが、クローバーメモリであった。
 メモリの色は美しい純白。シロツメクサを編んだような線で『C』と書かれている。ホーネットメモリを挿す左手首のコネクターは再出産の際に失われ、このメモリのコネクターは母親のアコナイトメモリと同じく、喉に刻まれている。
536 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/10/16(水) 19:11:06.60 ID:CLo+hCJo0
(CSMダブルドライバー買おうかな…)
537 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/18(金) 21:25:39.68 ID:JTXqOQ800



「嫌ああぁぁっ!!」「うわああぁっ!」「ひっ、い、あっ」

 蔦に拘束された生徒たちが、次々にメモリを挿し込まれては、泡を吹いて動かなくなる。蜜屋が悲鳴を上げた。

「止めて! 私の生徒を…」

 クローバードーパントは構わずに、寧ろ悲鳴を愉しむように、生徒たちにメモリを押し付けていく。

「あ…あぁ…」

 壊されていく、蜜屋の生徒たち。ドミネーターはネブラドーパントにかかりきりだ。
 蜜屋の視界には、過ぎし日の光景がフラッシュバックしていた。



 ___壊されたランドセル。折られた鉛筆。

 ”しわしわの志羽子、しわくちゃババア!”

 ___泥の塗られた机。トイレの個室で泣いていたら、上から水が降ってきた。

 ”べとべと蜜屋、しわくちゃ志羽子!”

 ___教師は、何も言わなかった。助けてはくれなかった。



「嫌…止めて…嫌あぁぁぁっっ!!」



『クイーンビー』



 スーツのポケットから、黄色と黒のメモリが飛び出し、蜜屋の後頭部に収まった。
538 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/18(金) 21:26:11.97 ID:JTXqOQ800
「はぁ…はぁ…あああっ!!」

 女王蜂は絡みつく草を引きちぎると、虹色の翅を震わせてクローバードーパントに突進した。
 速水かなえにメモリを挿そうとしていた彼は、不意打ちに成す術なく弾き飛ばされた。

「私が…教師が…一番強くないと…」

「…ははっ」

 立ち上がりながら、クローバードーパントが嗤う。

「お母様に聞いたよ。あんた、子供の頃は虐められる側だったんだ」

「…ええ、そうよ」

「虐めたいから、あんたは教師になったんだ!」

「違う! 私は…」

 翅を震わせると、生徒たちの持つホーネットメモリが独りでに動き出し、各々のコネクターに刺さった。
 拘束が破られ、たちまち彼は無数のホーネットドーパントに囲まれた。

「完璧な教室…完璧な、生徒たち。成績の差こそあれ、誰も虐げない、虐げられない」

「子供相手にふんぞり返って、惨めなオバサンだ」

「教師が、私が一番強くないと! …ええ、少し考えれば分かるもの。この社会は、弱者を虐げてきた人間が作り上げてきた。彼らの都合の良いように」

「だから上に立って、人を虐げるんだ。弱い自分の憂さ晴らしに!」

「弱い人間の意見が必要だわ。教室をより良いものにするために」

「弱い人間をあんたが踏み躙ったから、今、僕がここにいるんだ!!」

 メイスを振りかざすと、クローバードーパントは女王蜂に襲いかかった。
539 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/18(金) 21:27:18.45 ID:JTXqOQ800



 突き出された短剣を軽く躱すと、肘に手刀を叩き込む。よろめいた隙に、こめかみに肘鉄。崩れた相手の脳天に、瓦割りめいて拳を…
 しかし、青銅の手甲に刻まれた金の線が光ると、敵の体は瞬時にずれた場所へ移動した。

『ちょこまかと…』

 苛立たしげに唸るドミネーター。マキシマムドライブも試したが、適合率が高くメモリが奪えない。
 振り下ろされた斧を受け止めると、呼びかけた。

『おい、何で俺たちが殴り合ってる!?』

「…」

『マザードーパントを生き返らせたいのは、お互い様だろうが! ここで俺たちが潰し合ったら、どっちも損だぞ!』

「…」

 彼の言葉に、ネブラドーパントは少しの間動きを止め…やがてゆっくりと武器を下ろした。

『ああ…そうだ。それで良い』

 ドミネーターは、ドライバーからメモリを抜き、変身を解除した。

「難しい話は後回しだ。今は、あの女を生き返ら」

 言いかけた言葉が、不意に途切れた。
540 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/18(金) 21:28:01.67 ID:JTXqOQ800
「…?」

 ガイキは、ゆっくりと顔を下ろした。



 見下ろした、自身の胸。

 白い服を紅く染めて、キチン質の硬い腕が、彼の胸を貫いていた。



「お前は…お母様の、敵だ…!!」



 振り返ると、そこにはダンゴムシめいた、赤茶色の怪人。

「…クソが」

 血と共に、彼は悪態を吐いた。
541 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/18(金) 21:28:30.73 ID:JTXqOQ800



「ぐぅっ…くあっ」

「完璧な教室に、貴方は不要よ。…それに、ミヅキもね」

 無数のスズメバチに蹂躙されるクローバードーパントを見下ろしながら、女王蜂は冷たく言い放つ。

「クソぉ…お姉ちゃんまで、よくも…ぐあっ!」

 踏み付けられ、思わず声を上げる。

「…その辺にしておきましょうか。さあ、不良生徒に止めを」

「はい、先生!」

 取り囲むホーネットドーパントたちが一斉に飛び上がり、尻の棘を向ける。そして、かつての級友を串刺しにしようとした、その時



『そこまでだ!!』



「!? …あ゛っ!」

 突然、ホーネットドーパントたちの体が床に落ちた。その体から次々にメモリが抜け、砕けていく。

「何事!?」

 倒れ伏す生徒たちを押しのけ、クローバーとクイーンビーの間に現れたのは、金と銀の騎士。

「仮面ライダー…!」

『蜜屋…ガイキ…母神教…全部まとめてぶっ潰す!』

 大剣を構えると、デュアルは女王蜂に斬りかかった。

「また私の邪魔を…!」

 両腕で斬撃を止める。翅を広げて下がると、肩から白い弾丸を飛ばしてきた。
 蜂の子めいた砲撃を剣で撃ち落としながら、デュアルは肉薄する。そして、また下がろうとしたクイーンビーに、重い袈裟斬りを見舞った。

「ああぁっ!」
542 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/18(金) 21:28:58.42 ID:JTXqOQ800
「先生!」ロングホーン

「よくも…!」バンブルビー

『邪魔だ! …メモコーン!』

 立ち塞がる生徒を斬り払うと、どこからともなく駆け寄ってきた一角獣を変形させ、剣の鍔に嵌め込む。

『これで終わりだ…』セイバー! マキシマムドライブ

 金色に光り輝く剣を、女王蜂に振り下ろそうとした、その時

「…!! 止めて!!」

『!?』

 突然、クイーンビードーパントが向こうを指して叫んだ。



「お前は…お母様の、敵だ…!」



 唸るような声。そこに立っていたのは、アイソポッドドーパント・真堂甲太。その、鋭く尖った甲殻の腕が…

『ガイキ…!?』

 ガイキ。財団Xのエージェント。リンカの元上司。ドミネーターの変身者。___ミヅキを殺した、張本人。
 その彼の背中を、アイソポッドドーパントの腕が、真っ直ぐに刺し貫いていた。

「小崎君、速水さん! あの人を…」

「えっ? は、はいっ!」

 蜜屋の命令に、バンブルビーとロングホーンがガイキの元へ走る。

”…徹。今のうちに”

『っ、分かってる…!』

 金の光を放つ剣を、頭上に構える。

『セイバー…トゥルーカリバー!!』

 振り下ろされた必殺の剣を、女王蜂は防御もせず、呆然と受け止めた。
543 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/18(金) 21:39:56.73 ID:JTXqOQ800
『禁断のV/踏みにじられた叫び』完

今夜はここまで
544 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/19(土) 21:24:18.54 ID:IyRrgWkZ0



「ゾーンメモリを持っているのが、自分たちだけだとでも思ったかね」

 円形の口を軋ませて、等脚類の大王が嗤う。

「あれは我が工場の売れ筋でね。当然、何本も製造してあるし、忠実な職人たちの中にはメモリを扱えるものもいる。今頃、あの工場はもぬけの殻だ。私が確保した別の工場に、一人残らず転送したのだからな!!」

「…」

 哄笑するアイソポッドドーパント。心臓を貫かれたガイキは、黙って突っ立ったまま動かない。

「これは没収する」

 ネブラドーパントが、ガイキの腰からロストドライバーを毟り取った。

「所詮、財団とて少し大きいだけの被捕食動物に過ぎん! 真の肉食獣は…」

「…おい」

 突然、ガイキの口が動いた。

「ガイキさん!」

「加勢します…」

「来るんじゃねえ!!」

 駆け寄ってきた二匹の虫たちを一喝すると、やおら胸から突き出た腕を、両手で掴んだ。そして

「…ぬあぁっ!」

「ぎゃああぁぁぁっ!!?」

 ぼっきりとへし折り、そのまま引きちぎった。
545 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/19(土) 21:24:47.58 ID:IyRrgWkZ0
「はぁっ…はぁっ……おおおおおおっっっ!!!」

 ガイキは吼えると、真っ赤に染まった服を掴み、引き裂いた。
 露わになった、彼の上半身。血塗れの分厚い胸板には、奇妙な黒い刺青が刻まれていた。それはよく見ると、巨大な甲羅と鋭い嘴を持った、コウイカのようであった。
 そして…彼の胸の真ん中に空いた穴。向こうの景色まで見えそうなほどに大きなその穴が、見る見る内に塞がっていく。

「なっ…何故だ…!?」

「ガイキさん、一体…」

「…」

 ガイキは、唸り声を上げながら振り返ると、逃げようとするアイソポッドドーパントの肩を掴んだ。

「ひっ…は、離せ、離せっ…」

 唸る彼の顔が、めきめきと音を立てて歪んでいく。目はぎょろりと大きく、黄色と黒の鋭い虹彩へ。口は黒く尖った嘴へ。全身の皮膚が青白く変色し、顎髭は無数の白い触手へと変わった。筋肉質な白い肉体を覆うように半透明の外殻が隆起し、そして今までドライバーを巻いていた腰には、灰色の石版めいたバックルが出現した。
 禍々しい烏賊の怪人となったガイキが、嘴を大きく開けた。次の瞬間

「はあっ!」

「…っ!? あっ、あああっ! ぎゃああっ! あ゛あっ!?」

 口から噴き出したのは、煙を上げる真っ黒な液体。それを浴びたドーパントの頭部が、燃え上がった。
 絶叫するアイソポッド。しかし、ガイキは噴射を止めない。

「あ゛っ、あ゛ああっ…あ、がっ…」

 とうとう、丸いキチン質の頭が爆ぜた。血と脳漿を撒き散らすそれを床に放り捨てると、ガイキは床に倒れたクローバードーパントの元へ歩み寄った。

「…」

「…花は」

 掠れた声で唸ると、動かない少年を両手で吊り上げた。

「嫌いなんだよぉ!!」

「ああああっっ!!」

 そのまま、床に叩きつける。その衝撃に、掴んでいた生成り色のメモリが手から離れ、宙に舞った。
546 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/19(土) 21:25:58.91 ID:IyRrgWkZ0
 それを空中でキャッチすると、今度は祭壇の方へと突き進んだ。

「…!! やめろ!!」

 彼の意図の気付いたネブラドーパントが、止めに入る。

『なっ、何をする気だ!?』

 呆然と成り行きを見守っていたデュアルも、我に返って走り出す。

「全部…知ってんだよ…このメモリも…誰に、適合するかも…」

 呟きながら目指すのは、祭壇の上。眠ったまま目覚めない、井野遊香。

「止めろ! 止めろ! 止めるんだ!!」

「マザードーパントを…寄越せぇっ!!」



『ヴォイニッチ』



 ヴェールを剥がし、裸の胸元に、メモリを突き立てた。
547 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/19(土) 21:58:15.22 ID:IyRrgWkZ0
今夜はここまで
548 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/19(土) 22:33:09.75 ID:IyRrgWkZ0
『マシンオトギハクバー』

 仮面ライダーファンタジー、デュアル専用バイク。白い流麗なシルエットで、ファンタジーの仮面を模したフロントカウルに、馬のたてがみを模した銀のサイドカウルを装備。最高速度712km/h。運転手の念に応じて角が生えたり、翼が生えて空を飛んだりすることができる。素体はHONDA CBR1000RR。
 初登場時は放置自転車を変形させて搭乗したが、以降は自費でマウンテンバイクを購入し、必要時に念じるとバイクに変形するようにしてある。これは徹だけでなくリンカもできるので、彼が出払っているときにリンカがバイクで迎えに行くことも可能。
549 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/10/20(日) 08:14:47.06 ID:v/svdJfm0
(これでもイクサリオンよりは遅いんだぜ)
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/20(日) 10:32:52.28 ID:Y1JDfk0zO
マジかよやっぱ753は315だわ
551 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/10/20(日) 15:21:23.78 ID:v/svdJfm0



『ヴォイニッチ』



 生成り色のメモリが、胸に吸い込まれていく。その肌に、無数の奇妙な文字が浮かび上がった。
 と、硬く閉じられていたその目が、ぱっと開いた。

「遊香…遊香?」

 吊り上げられるように、その体がゆっくりと起き上がる。彼女の肌の上を、夥しい数の未解読文字が駆け抜ける。文字に混じって、天体、植物、そして人間の絵も流れていく。
 そして…祭壇の上に立ち上がった遊香が、両手を広げた。

「? …ああっ!?」

「…ぁ」

 立ち尽くすネブラドーパントと、倒れ伏すクローバードーパント。その体から、各々のガイアメモリが抜け、彼女の手の中へと収まった。
 遊香が、遂に口を開く。

”星”

 ネブラメモリが、右の手へ。

”根”

 クローバーメモリが、左の手へ。
 握りしめた瞬間、その足元からシダのような奇妙な植物が急速に伸び始めた。更に、その頭上には青と赤の光を放つ、不気味な顔を持つ白の球体が出現した。

「な、何が…」

「…これで良い」

 ガイキの姿が、人間に戻っていく。その口から顎にかけて、赤く焼け爛れている。

「回収しろ」

 どこへともなく呟いた瞬間、彼と二匹の昆虫、すなわちバンブルビードーパントとロングホーンドーパントが、姿を消した。
552 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/20(日) 15:21:58.98 ID:v/svdJfm0
”徹。私たちも撤収しましょう”

『だけど…!』

 見回すと、メモリを破壊された生徒たち、それに蜜屋。聖堂は、未知の植物に急速に埋め尽くされていく。

”…では、できる限り回収して警察に引き渡しましょう”

『ああ!』

 近くにあった長椅子に触れると、木材が独りでに動き出した。近くの長椅子や床の木材を剥がし取ると、組み合わさって無数の腕を持つ木製の重機めいた形に変わった。
 それに跨ると、デュアルは叫んだ。

『皆、連れて帰るぞ!』

 木でできた腕が動き出し、逃げ遅れた生徒たちを捕まえていく。最後に蜜屋を捕らえると、デュアルはファンタジーメモリを抜き、機体に突き立てた。木の機体が金属質な銀色に変化すると、力強い音を立てて前進を始めた。



 本棚の立ち並ぶ白い空間。開きっぱなしの本を、座ってじっと眺めている少女の元へ、青年が近寄ってきた。

「君について、閲覧させてもらった」

 彼の言葉を理解してか否か、彼女は次のページを催促するように掌で本を叩く。

「僕の相棒は探偵でね。地球の本棚が使えなくても、君という人物について知るには十分だ。……『北風町の仮面ライダー』と戦っていた兎のドーパントは、君だったんだね。アリス…いや、兎ノ原美月」

 少女は一切の興味を示すことなく、本のページを叩き続ける。
 その手が一瞬、本をすり抜けた。

「…そして、君がここにいられる時間は、残り少ないようだ」

 青年は屈み込むと、本のページを捲った。食い入るように続きを読む少女に、彼は声をかけた。

「君という存在が消えかけているのか、あるいは君が収まるべき場所が出来上がりつつあるのか」

 少女は、応えない。ただ一心に、不思議の国を旅するもう一人の少女を、目で追いかけている。

「行かなくて良いのかい?」

「…」

 開かれたページを読み終えて、少女が顔を上げる。
 青年が、またページを捲る。

「…そうだね。まだ、その時じゃない。時計を持った兎は、まだここにはいない」

 少女に背を向ける。その姿が、ふっと消えた。
553 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/20(日) 15:23:39.37 ID:v/svdJfm0



「…」

「…フィリップ?」

 ガレージの真ん中でぼうっと立っていた青年に、髪の長いグラマラスな女が声をかけた。

「…ああ。大丈夫だ」

 彼は梯子を登ると、隅に置かれた机の前に座った。

「ときめ。悪いけど、もう少し翔太郎と『猫を探して』いてくれないか」

 すると女は、悪戯を覚えた子供のように微笑み、頷いた。

「うん、分かった」

 ガレージを出ようとして、ふと足を止める。

「…アリスのこと、良いの?」

「何が?」

「ここに引き込もって、お話してるだけで良いの?」

「ああ、良いんだ。これが僕にできる、精一杯だから」

 青年は机の端に置かれた、小さな箱を見つめながら答えた。

「でも、調べさせるだけ調べさせといて…翔太郎も気にしてたよ?」

「翔太郎に話せば、絶対立ち向かおうとする。僕たちもまだ、大きな敵を抱えているのに…それに」

 彼は、瞬きもせずに続けた。

「…今は、そっとしておこう。あの町の仮面ライダーは…僕たちが、と言うよりもこの街のことが、嫌いみたいだから」

「…じゃあ、もう暫く猫探しして、翔太郎をここに近付けないようにする」

「頼んだよ」

 去っていく女を見送ると、彼はぼそっと独りごちた。

「亜樹ちゃんは育休。翔太郎は猫探し。…こんなとこ、2人に見られるわけにはいかないからな」

 ノートパソコンを開く。そこに繋がれていたのは、砕け散ったピンク色のガイアメモリ。数日前に彼の前に現れた、謎の一角獣型メモリガジェットが吐き出したものだ。
 そして、それと回路を成すように繋がれた、1本のメモリ。接続されているのは、解析のためではない。『出力』のためだ。

「…何しろ…十数年ぶりに、僕がまた『悪魔』になるんだから」
554 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/20(日) 15:51:58.73 ID:v/svdJfm0
(時系列とか気にしてはいけない)

今日は多分ここまで
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/20(日) 16:22:17.99 ID:pfJf0duFO
乙、まあ風都探偵時空なのに所長が育休してる時点でね
556 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/20(日) 20:12:30.17 ID:v/svdJfm0
(TV本編、小説(未読)、風都探偵から他のSSまで、様々なものが混じって混沌としている)
557 :やっぱりもうちょっと続ける  ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/20(日) 22:20:00.78 ID:v/svdJfm0



「どうして先生を置き去りにしたんだ!」

 小崎が、ゾーンの少年に詰め寄った。少年は後ずさりながら弁明した。

「が、ガイキさんから、撤退するときは戦力になる者だけを回収するよう言われてたんだ! ここから、皆が見えてたわけじゃないし…強いエネルギーを発してる反応だけを回収したら、こうなったんだ」

「だからって、先生を…」

「おれだってびっくりしたよ! まさか先生が、やられたなんて…」

「ちくしょう、仮面ライダーめ…!」

 小崎はその場に崩れると、拳で床を殴った。



 一方、工場の休憩室にて。服を着たままシャワールームに入ると、ガイキは蛇口を全開にした。
 冷たい水が頭から降り注ぐ。赤熱した鉄を水に浸したような音がして、シャワールームが一瞬で煙に包まれた。
 その外では、速水かなえが不安げな顔で立っていて、すりガラスの向こうをじっと見つめている。

「あの…ガイキさん、あなたは一体…」

「…ど、が」

 しゃがれた声が聞こえてくる。それから唸るように一言二言発しようとして、諦めたように黙り込んだ。

「…ガイキさん?」

 呼びかけるかなえ。返ってきたのは、今まで聞いたことのない言語であった。

「ボゾグジャベデ…リントンボドダグ、グラブザバゲバギ」

「えっ? あの、何語…」

 戸惑うかなえに、ガイキは耳障りな声で告げた。
558 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/20(日) 22:20:28.54 ID:v/svdJfm0
「ゴセバ…グロンギン、ラベギブザ…」



「ガイキ…正式名称を、『メ・ガイキ・ギ』」

 救出した人々を警察に任せた後、ようやく家に辿り着いた。鍵を締め、飲み物を用意し、落ち着いてからリンカは話し始めた。

「今から30年以上前、東京近辺で起きた未確認生命体による事件を知っていますか」

「俺が生まれる前だけど…たまにテレビとかで聞く」

「一部の警察組織を壊滅させ、首都圏で4000人近くの犠牲者を出した事件…それを引き起こした未確認生命体、グロンギ族の、現在確認されている唯一の生き残りが彼です」

「ま、待ってくれ! じゃああいつは、人間じゃ」

「はい。彼は人間ではありません。と言うより、財団Xのエージェントにおいて、私のような人間は少数派です」

 そう言うと彼女は、お茶を一口飲んだ。

「…彼が財団に加わった正式な経緯を、私は知りません。確実に言えるのは、彼が他のグロンギ族と違い、無差別的な殺人を好まないこと。そして、財団に忠実な職員であることだけです」

「何だよそれ…じゃあ、デュアルの力で倒せるのか?」

「分かりません。ドーパントでない以上、メモリブレイクによる無力化は不可能です。また、グロンギ族には高い肉体回復能力があり、致命傷を与えるのは困難です。しかし」

「しかし、何だよ?」

「…彼の近くで働いていた私の、私見ではありますが…彼は、理知的で理性的な人物です。ガイアメモリの新造手段を確保するために不要な殺戮は行わないでしょうし、もし任務に失敗したとしても、財団の命令に従って直ちに撤退するでしょう」

「だがあいつは、ミヅキを殺した!」

「兎ノ原美月から仕掛けた交戦の結果として、です。彼は理性的ですが、当然慈悲深いわけではない。降り掛かった火の粉は払いますし、売られた喧嘩は全力で買う」

「じゃあ、どうすれば…」

「…今は、母神教に専念しましょう。マザードーパント復活の引き金は引かれてしまったようですが、まだ手遅れと決まったわけではありません。彼らの妨害をしつつ、ガイキたちはその都度、応戦することにするべきでしょう」

「…」

 難しい顔で黙りこくる徹。リンカは、ふっと息を吐くと、彼の肩に手を置いた。

「…仇討ちに囚われないでください。私は…貴方を、失いたくない」
559 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/20(日) 22:21:44.52 ID:v/svdJfm0
「!」

 リンカが、彼の首に腕を回す。

「最後まで彼女と敵対していた私が言うのは憚られますが…彼女は死に、私は生きている。そして、貴方も」

「…」

「母神教が何と言おうと、命は一つしかありません。どうか、死なないで…死に、走らないで」

 徹は、ゆっくりとその背中に、腕を回した。

「…ああ」

 細い彼女の体をきつく抱きしめながら、彼は絞り出すように答えた。
560 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/20(日) 22:22:51.87 ID:v/svdJfm0
『禁断のV/死んだ女と生きている女』完

今度こそ、今夜はここまで
561 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/22(火) 08:48:42.55 ID:LBFGAhb00
 金村源治郎は、ホームレスである。毎週水曜日に、北風駅前のゴミステーションで空き缶を漁っては、ゴミ袋に詰めて自転車に載せ、業者に売って生計を立てている。
 数年前まで、彼は風都の工業地帯で町工場を営んでいた。風都タワー再建の際には、彼の作る部品が必要とされ、大いに潤ったりもした。しかし、風都タワー再建は、同時に風力発電の技術革新をももたらした。その結果、革新に追いつけなかった彼の工場は売上を落とし、遂には廃業にまで至ってしまった。妻とはとうに死に別れ、子供も独立した後だったのが幸いだった。全てを失った彼は、齢六十にして路上に暮らすことを選んだのであった。

 さて、水曜日。仕事に向かう人の波を尻目に、彼はゴミ捨て場を漁る。

「源さん、調子はどうだい」

「あんま、良くねえなぁ」

 『同業者』の問いかけに、溜め息で答える。

「近頃は、コーヒーさえペットボトルだ」

「じゃあ、ペットボトルに鞍替えするべ」

「…」

 金村は黙り込む。蓋だラベルだ、面倒臭い。単価が安い。色々言い訳は浮かぶが、彼が空き缶にこだわるのは、手に触れた金属の心地よい冷たさから、どうしても離れ難かったからだった。

「…今日は、こんなもんだな。ああ、またカツ丼が喰いてぇなぁ」

 大きく膨らんだゴミ袋を2つ抱えて、同業者が去っていく。何とか言う記者から、協力の礼に貰った1万円で食べた、チェーン店のカツ丼の味が忘れられないらしい。
 金村は袋の口を縛ると、立ち上がった。まだ袋に余裕はあるが、詰めるものが見当たらなかった。



「…」

 業者の事務所を出た彼は、しょんぼりと掌の500円玉を見つめていた。何とか買い物はできるだろうが、どうにも食欲が無い。
 どうしようか考えあぐねていると、目の前にバスが停まった。どうやら、ここはバス停だったようだ。
 目の前で、ドアが開く。無視して歩き出そうとして、ふと足を止める。

「…あい、ごめんよ」

 独り言のように断ると、彼は高いステップを上り、バスの車内に乗り込んだのであった。
562 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/22(火) 11:36:04.27 ID:LBFGAhb00



 井野定は、背丈より高い植物が生い茂る室内で、黙って立ち尽くしていた。
 ここは、かつては母神教本拠地の最奥部にある、教会めいた聖堂であった。しかし今、その面影はない。長椅子や床の一部は、仮面ライダーに人命救助マシンの材料として持ち去られ、床一面には未知のシダめいた植物が生い茂っている。
 唯一、植物が途切れているのは、祭壇の中央。そこには、一人の女が両手を広げて、真っ直ぐに宙に浮かんでいる。服の類を一切身に付けていない彼女の肌には、凄まじい量の謎の文字や、天体、植物、人間を描いた挿絵が、高速で流れていた。その頭上には、不気味な顔の付いた球体が浮遊し、青と白の光を放っている。そして、彼女の周囲には、透き通ったカプセルめいた物体が並んでおり、球体と未知の植物の茎で接続されていた。
 今、並んでいるカプセルは3つ。薄緑色の液体を通して見えるのは、2人の女と、1個のガイアメモリ。一人は、待ち望んだ『お母様』こと、成瀬ヨシノ。そして、時折指や瞼を動かし、今にも誕生を迎えそうな、もう一人の女は…

「…」

 井野の顔が、苦々しく歪む。しかしその目には、次第に奇妙な光が灯ってきた。
 そして、その隣では朝塚ユウダイが、同じく目の前の培養槽を見守っていた。井野と違い、彼の顔は歓喜と期待に溢れていた。
 ユウダイが、呟いた。

「…おかえり、『お姉ちゃん』」



 その日、徹は北風町のゴミ処理施設にいた。取材のためではない。アルバイトのためだ。
 リンカが財団を退職したことで、資金面での支援が絶たれた。彼女に言わせれば現在は徹の収入で生活しているとのことだが、実のところ彼のバイト代や安い原稿料で2人分の生活は賄えず、財団にいた頃のリンカの貯金を切り崩しているのであった。
 近頃は、仮面ライダーとしての戦いに多くの時間を割いている。今まで続けていたアルバイトも、殆ど辞めてしまった。それでも彼女に頼りっぱなしはいけないと、日雇いの仕事を見つけては汗を流しているのであった。

 この日の仕事は、ゴミの積み下ろし。収集車から施設に入り口に、持ってきたゴミを下ろす作業であった。

「お疲れ様でしたー」

 給料袋を受け取り、散り散りになる労働者たち。午前中だけとは言え、慣れない肉体労働に疲れ果てた徹は、帰りの送迎バスの中でうとうとしていた。

「…」

 母神教との戦いに身を投じてから、彼には休む暇がない。警察の一部にしか正体を明かしていない彼は、周りの人に悟られないよう、できる限り普段どおりの生活を心がけていた。
 しかし、戦いは激しさを増す一方だ。立ち向かうべき敵の数まで増えた。身も心も、既に限界に近かった。

「…っ!?」

 突然、バスが大きく揺れた。思わず目を覚ましたが、バスは特に何か起こったでもなく、変わらず進んでいく。
 石でも踏んだのだろう。この辺りは山道で、路面が良くない。
 再びまどろみに帰ろうとした徹の目に、遠くの産廃の廃棄場が映った。そこで何かが動いたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
563 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/22(火) 12:24:08.11 ID:LBFGAhb00



「いつになったら、仮面ライダーと戦うんですか!」

 小崎が、ガイキに詰め寄った。ガイキは退屈そうにソファに沈んだまま、欠伸混じりに一蹴した。

「アレは後回しだ。今はマザードーパントの確保が優先だ」

「でも、あいつは先生を…」

「やられた先生が悪い」

「!? この…」

 焦げ茶色のメモリを抜く小崎。
 そこへ、かなえが駆け寄ってきた。

「小崎君、やめて!」

「速水さん! こいつは、先生を侮辱した!」

「ねえ、落ち着いて。…確かに、メモリブレイクされちゃったけど、先生はまだ生きてる。やるべきことをこなしていけば、きっとまた先生にも会えるわ」

「…」

「ね? 先生も言ってたでしょ。投げ出さず、一歩一歩進むのが一番の近道だって」

「…っ」

 小崎は歯ぎしりすると、踵を返して去っていった。
 残されたかなえは、ガイキの隣に腰を下ろした。

「…小崎君のこと、悪く思わないでください。彼、先生のことを誰よりも尊敬してたから」

「思わねえよ。興味無え」

 そこまで言って、軽く咳き込む。気道が塞がるほどの大火傷を負った彼だが、それも1日足らずで喋れるまでに回復した。それでも、まだ少し咳が出るようだ。

「…先生の言う通り、目的に向かって着実に進んでるんだ。あくまで仕事中だからな。要らねえ危険は抱え込まねえに限る」

「…」

 静かに、彼の言葉に耳を傾けるかなえ。その頬が、微かに朱い。
 それを知ってか知らずか、ガイキも普段より饒舌だ。

「だが…手は打ってある。元はマザードーパントを引きずり出すための罠だったが、そのまま仮面ライダーにも使える」

「それは、どんな?」

「使えばどうしようもなく目立っちまう、迷惑なメモリさ。まさか、第一弾のオーケストラで本命が釣れるとは思ってなかったが…残ったやつらも、有効に活用するとしよう。そうだな…」

 虚空を見つめ、呟く。

「…そろそろ、『アレ』が動き出す頃かもな」
564 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/10/22(火) 12:24:40.00 ID:LBFGAhb00
今日はここまで

ゆるくない募
でっかくなるドーパント
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/22(火) 12:51:24.94 ID:vWJyF2nao
おっつおっつ

ストラクチャー・ドーパント

『構造物』の記憶を内包するメモリで変身する。無秩序に配管のような模様が走る機械の集合体のような姿。体の各所にメモリスロットが存在する
単体の状態では非常に弱いが、メモリスロットに新たなメモリを挿すことで体を組み立てて巨大化していく。
巨大化した部位には新たにメモリスロットが少なくとも2つ追加され際限なく巨大化する『メガ・ストラクチャー』となる

追加使用したメモリの記憶はほぼ利用できず単純に巨大化のためだけに使用されるため使いみちのないゴミメモリ(ビーンメモリなど)や有り余っているマスカレイドメモリが主に使われている
というより考えなしに強力なメモリを組み立てに利用するとバランスを崩して自壊しかねないためどう組み立てるか考える必要がある
(本体→マスカレイド→強力なメモリだと動かしたときにマスカレイド部分が重みに耐えきれず折れる。マスカレイド数本分で強力なメモリを支えるなどの工夫が必要)

倒すためには外側を覆うメモリをどうにかして壊していき本体にたどり着く必要がある
メモリの毒素は全メモリ分しっかり届くため並の使用者がメガ・ストラクチャーになると死ぬ
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/22(火) 14:29:59.80 ID:ze6RwwNR0

『セクシャルデザイア』

『性欲』の記憶を内包するメモリで変身するドーパント。
通常形態は普通の大きさのドーパントだが、セックスをするたびに能力と性欲が上昇し、セックスした人数や回数が多くなると巨大化することが可能になる。
更に、非常に危険な使い方として巨大化するほどにセックスをしたユーザーが一定期間禁欲をすることで理性と引き換えに超強化の巨大暴走状態になことができる。この状態になると理性を取り戻すには十数人の相手を三日三晩ぶっ続けでセックスしないといけなくなる。

当然なことながら男女によって姿が違い、男性は直接男性器を模したドーパント体に、女性は全裸の様なドーパントになる。また、ドーパントの特殊能力も男女によって変化し、男性ならば精液を注ぎ込んだ相手を操る能力になり、女性ならば精液を注いだ相手の寿命を奪って身体の調子を整えることができる。戦闘に置いては肉弾戦のほかに性欲に関する幻惑を見せたりすることができる。


『性欲』とは時として他者の命を奪うことにもなる強い『欲望』である。(Wの次回作のオーズにちょっとひっかけて考えました)
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/10/22(火) 18:09:39.60 ID:8z+Hs3wrO
バルーン・ドーパント

『風船』の記憶を宿したガイアメモリで変身するドーパント
周囲の空気や物体を吸い込み、その姿を際限無く膨張させていく能力を持つ
変身した瞬間より膨らんでいき、数時間後にはパンパンに膨れた体にオマケ程度に手足がちょこんと伸びた姿となる

ユーモラスな見た目とは裏腹に、可燃性のガスを放射する。空中飛行等の被害が出やすい危険な性質を持っている
また、充分に空気を蓄えたならば衝撃を体内で分散させ、反発するカウンターも行える様になるので生半可な攻撃は通用しない
極めつけにはメモリブレイクをした瞬間体が破裂。溜め込んでいた空気を吐き出し周囲に轟音と風害を引き起こす

総じて、変身した時点で何らかの被害が出る事を覚悟しなくてはならない厄介なメモリであると言える
因みに変身者の体が破裂するので、変身者はほぼ死ぬ事が確定している
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