【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】

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83 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 16:24:56.38 ID:ll1rXKFu0
「はっ、はっ、はっ…」

 夜の路地を、一人の男が走る。その後ろを、3人の若い男女が追いかけている。

「もう諦めろよ!」

「いい加減、楽になりましょ?」

「ふざけるなっ…はあっ…」

 必死の逃走も虚しく、男はすぐに人気のない空き地に追いつめられた。
 追手の一人が問いただす。

「てめえ、ブツを何処に隠した」

「さあね。それが分かるのは、僕だけだ」

「オレら舐めんのもいい加減にしろよ…?」ホーネット

 残りの2人も、黄色いガイアメモリを取り出す。

「…」

 固唾を呑む男の目の前で、3人は蜂人間へと姿を変える。

「こ、殺すなら殺せ! 僕は、死んでも言わないぞ!」

「じゃあ死ね!」

 蜂人間たちが一斉に襲いかかる。彼らは棘だらけの腕で男を捕まえると、鋭い顎で肩や喉に噛み付いた。

「ぐっ、ぎっ…ぎゃああっっ!!」

 空き地に、断末魔が木霊する。しかし、絶叫しながらも男は、後ろ手に何かを起動させた。



『リインカーネーション』



 そして、それを密かに背中に刺し…そして、息絶えた。
84 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 16:25:22.37 ID:ll1rXKFu0
「…おっ、今日は一人かい」

 『ばそ風北』に入るなり、店主に声をかけられた。

「そうだけど…?」

「この前の彼女は一緒じゃないのかい? あの、宝塚みたいな」

「ん゛っ!?」

 思いがけない発言に、徹は絶句した。店主はにやにやしながら言う。

「いや〜、ああいうクール系が好みだったなんてね。意外だけど、中々オツなもんじゃないか」

「いや…別に、彼女じゃないし」

 カウンターの前に腰掛けながら、徹は首を振った。

「仕事仲間だよ」

「へぇ〜?」

 にやにや顔のまま、徹に顔を近づける店主。徹はしっしっと手を振りながら、いつもの北風蕎麦を注文した。
 蕎麦を湯がきながら、店主は思い出したように言った。

「そう言えば昨日、熊ちゃんが来たよ」

「熊ちゃんって…熊笹か? 久し振りにその名前を聞いたな」

 熊笹修一郎。徹と同じフリーの記者をしていて、比較的危険な案件にも積極的に首を突っ込む、熱心な男であった。徹とは以前、同じ事件を取材したことから知り合いとなり、時々互いの仕事を手伝ったりしていた。
 しかし、ここ数ヶ月はずっと音沙汰が無く、こうして蕎麦屋の店主に言われるまで、徹もその存在を忘れかけていた。

「あいつ、元気にしてたか?」

「元気は元気そうだったけど…」

 葱を刻みながら、言葉を濁す。

「何かあったのか?」

「ちょっと、思い詰めてる風だったかな…徹ちゃんにも会いたがってたけど、今日は来てないって言ったら、じゃあ構わないって。かけ蕎麦だけ食べて、帰っちゃった」

「ふぅん…」

 相槌を打ちながら徹は、後で電話してみようと思った。



 一方その頃、リンカは風都にいた。と言うのも、財団Xの支部で調べ物をする必要があったからだ。携帯端末からアクセスできる情報には、限りがある。
 調査内容は、ガイアメモリの製造ロット。ガイアメモリには多くの種類があり、それらを製造する工場も風都と中心に各地に散在している。製造数の少ないメモリは、一つの工場でしか造られていないことがあるため、回収したメモリから現在稼働している工場を割り出すことができるかも知れなかった。

「ホーネット…サーバルキャット…そして、ラビット…」

 ミュージアムに投資していた財団Xは、当然全てのメモリの種類を把握している。それがどこで製造されているのかも。
 絞り込みをかけて、最後に3つまで工場を絞れた。内、2つが風都。そして残りの1つが、北風町にある工場であった。

「…いや、3つとも稼働しているのかも」

 リストを自分の端末にダウンロードすると、リンカは席を立った。別の席では、同じような白スーツの男が、電話で誰かと会話しているところであった。時計がどうとか言っている。それを無視すると、リンカは支社を後にした。
85 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 16:41:29.95 ID:ll1rXKFu0



”おかけになった電話は、現在電源が入っていません。___”

「…」

 徹は通話を切ると、溜め息を吐いた。夜のアルバイトの前後に何度も掛けてみたが、ずっとこの調子であった。思えば、彼もまた北風町で相次ぐ怪奇現象について調べたいと言っていた。何か、重大な事件に巻き込まれてなければいいが…
 考えながら家路を歩いていると、突然、彼の後頭部に何かがぶつかった。

「痛っ…」

 振り返ったが、誰もいない。石でも投げられたのかと目を凝らすが、通りに他に人はいないし、人の気配も無い。
 気のせいだろうか。そう思い、再び歩き出した彼の肩を、何かが叩いた。

「っ、何なんだよ、もう!」

 乱暴に肩を払う。と、手に何か硬いものが当たった。

「? …!」

 目を凝らして、気付く。それは、緑色のガイアメモリであった。

「うわっ、ガイアメモリ!?」

 反射的に弾き飛ばしてしまった。ところが、そのメモリは独りでに宙に浮かび上がると、何と一直線に、徹目掛けて飛んできた。

「うわあっ!?」

 徹は、逃げるように走り出した。
 メモリは、空を滑るように彼を追いかける。

「く、来るなっ、来るな…」

 走りながら、周囲に人がいないことを確認すると、鞄からドライバーを取り出した。しかし変身しようとした時、向こう側から誰かが歩いてくるのに気付いた。

「! やべっ…」

 咄嗟にドライバーを隠そうとする徹。しかし、相手が誰か気付いた瞬間、彼は叫んだ。

「り…リンカ!」

「おや、貴方でしたか。夕方のランニングですか」

「ちがっ、違うんだ。メモリが…」

「メモリが…!」

 聞き返そうとして、リンカも徹の言わんとすることを察した。彼を道の端に押し退けると…その場で、大きくジャンプした。
 着地した時、彼女の手には例の緑色のガイアメモリが握られていた。

「あ…ありがとう」

「これは…」

 メモリには項垂れる人間の肩から上と、その後ろに取り憑く一つ目の幽霊が描かれている。ボタンを押すと『リインカーネーション』と声がした。

「『リインカーネーション』…!」

 リンカの顔色が変わった。彼女はスーツの上着を脱ぐと、メモリを何重にも巻いて脇に抱えた。

「このメモリは既に起動しています。いいですか、絶対に端子に触れないでください」

「ふ、触れるとどうなるんだ」

「前の持ち主に、意識を乗っ取られます」

「何だって!?」

 リンカは、珍しく焦ったような口調で言う。

「とにかく、家に戻りましょう。このメモリが、貴方のもとへ飛んできた理由も気になります」



 薄暗い小部屋の床に、鎖で簀巻きにされた少女が転がされている。

「ね〜え〜、これ解いてよ〜」

 少女の頼みを、黄色スーツの女は却下した。

「みすみすメモリを奪われるような出来損ないの生徒に、かける情けは無いわ」
86 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 16:42:33.67 ID:ll1rXKFu0
「放せってんだよ!!」

 少女が怒鳴った。

「助けに来たんじゃねえのかよ! メモリ取り返しに行くから、これを解けってんだよ!!」

「はっ、男と性交するか、自慰行為しか能のない癖に」

「だから何だよ。あたしはなあ、仮面ライダーとセックスしたんだぞ!?」

「だから、その仮面ライダーが誰なのかを教えなさいと言ってるの!」

 女が、少女の頭を蹴った。

「知るかよ! 名乗りもしねえし、名刺も捨てたし」

「…」

 女は舌打ちした。少女に背を向けると、さっさと部屋を出ていってしまった。

「おい…どこ行くんだよ…放せよ…」

 ジャリジャリと鎖を鳴らしながら、少女は身悶えする。

「せめて手だけでも…メモリのせいで、マンコ弄ってないとダメなんだって、知ってんだろ! おい!」

 のたうつ音が、部屋に虚しく響く。

「じゃあ、トイレ…トイレくらい良いだろ? 夕べから行ってないんだよ…お願い、行かせてよ! 漏れそうなんだよ! オシッコ! オシッコがもう、我慢できないんだって…おい! …ひっ、もう出る、あっ、トイレっ、オシッコっ、おしっ……あ、あっ…あぁぁ…」
87 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 19:15:57.01 ID:ll1rXKFu0



「花のメモリが、どうしてそんなに危険なんだ?」

「花?」

 ネクタイを緩めながら、リンカは首をひねった。

「だって、『リイン・カーネーション』だろ?」

「…ああ。いえ、カーネーションではなく『リ・インカーネーション』。『転生』です」

「転生…?」

「このメモリは」

 丸めたスーツを慎重に広げると、中のメモリを両手で掴み、電灯の下に掲げた。

「戦闘能力を持ちません。代わりに、持ち主の記憶や意識を、メモリ内にバックアップします」

「そんなことができるのか」

 目を丸くする徹。リンカは頷いた。

「このメモリは、持ち主が死亡するか、不可逆的に死に近い状態になった時に初めて起動します。持ち主の遺志に呼応して自律行動し、次の持ち主を探します」

「見つけたら、どうなる?」

「強制的に体内に挿入されると、前の持ち主の意識・記憶で次の持ち主…いえ、宿主と言ったほうが良いでしょう。宿主の脳内を上書きします」

「な、何て迷惑なメモリだ…」

 リンカの手の中で、ビクビクと動くメモリ。その端子は、真っ直ぐに徹の方を向いている。

「ええ。貴方からしたら迷惑でしょうが…このメモリは、どうやら貴方が目当てのようです」

「!? そんなことされる覚えは無いぞ?」

「どうでしょうか。それを知るには、貴方が宿主になるしかないでしょう」

「じょっ、冗談じゃない!」

 飛び上がる徹。すかさずリンカが、無表情に言う。

「冗談です」

「な、何だよ…」
88 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 19:17:07.35 ID:ll1rXKFu0
「代わりに、こうしましょう」

 リンカは徹のノートパソコンを立ち上げると、側面に指を沿わせた。そして、目当てのソケットを見つけると、リインカーネーションメモリをそこへ挿し込んだ。

「えっ、それで行けるのか?」

「ロイミュード…機械に近い存在が、ガイアメモリを使用した事象があります。折角USBメモリに準じた造形をしているのですから、活用してみるのも手でしょう」

 言いながら、キーボードを何やら操作する。
 と、画面に一つのウィンドウが現れた。それから遅れて、一人の人間の顔が映し出された。その顔に、徹が思わず声を上げた。

「く…熊笹!?」

”その声は…力野か!”

 画面の中の男は、安堵したように口元を緩ませた。

”そうか、見つけてくれたか…”

「待て、熊笹。このメモリにお前がいるってことは、お前は…」

 画面の中で、熊笹が頷いた。

”ああ。ここで僕と君が話してるということは、僕はもう死んだんだろう。一か八かでメモリを使ってみたが…”

「どうして! 何をやらかしたんだよ!」

 画面に詰め寄る徹。リンカは何も言わず、静かに部屋の隅に引っ込んだ。

”順を追って話そう。僕は、この街で相次いでいる怪奇現象について調べていた___”

 彼は、ドーパントなる怪人の存在、ガイアメモリと呼ばれる記憶媒体、それを扱う密売人について知り、遂にはガイアメモリを造る工場の位置を突き止めた。工場に忍び込み、証拠のメモリも入手した。しかし、それを密売人たちに見つかってしまい、追われる身となった。彼は逃亡を続けながら、メモリをケースに詰め、工場の位置を記した紙と一緒にある場所に隠した。その後、追いつめられた彼は、一緒に持ち出したリインカーネーションのメモリを使用し、直後に彼らに殺害された___

「熊笹、あんた…」

”今はまだ知られていないが、いずれ僕が、ガイアメモリとしてまだ生きていることがバレるかも知れない。そうなったら、メモリを持っている君に危害が及ぶだろう。…このメモリは、すぐに破壊してくれ”

「だが、そんなことをしたら」

”良いんだ”

 熊笹は、微笑んだ。

”どうせ僕は、あの夜死んだんだ。これは僕からの、最期のメッセージだ”

 それから彼は、盗んだメモリの隠し場所を口頭で説明した。それを徹が紙に記録したのを確かめると、言った。

”さあ、メモリを破壊してくれ。手遅れになる前に。そして…どうか、奴らを追い詰めてくれ。君まで危険に晒すのは忍びないが…”

「…安心してくれ、熊笹」

 徹は立ち上がると、ドライバーとメモリを掲げた。

”! それは…”

「お前の遺志は、俺が継ぐ。俺が戦って、お前を手にかけた奴らを徹底的にぶっ潰してやる! だって…」ファンタジー!

『…俺は、仮面ライダーだ』

”! そうか…君が、仮面ライダー…”

『ああ。だから、安心して任せてくれ』ファンタジー! マキシマムドライブ

『…ファンタジー・イマジナリソード』

 白い光を放つ剣が、パソコンごとメモリを両断する。画面の中で、熊笹は目を閉じ…消えた。
 変身を解除すると、徹は切り裂かれたメモリの前にしゃがみ込んだ。

「熊笹…」

 祈るように閉じた目の端を、涙が伝った。リンカはじっと黙ったまま、その隣に膝を突いた。
89 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 19:19:56.77 ID:ll1rXKFu0
『Fを探せ/画面越しの朋友』完

今日はここまで
90 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 19:36:49.76 ID:ll1rXKFu0
『リインカーネーションドーパント』

 『転生』の記憶を内包するメモリを使用した、フリーライターの熊笹修一郎その人。ドーパントに分類してはいるものの、ドーパント体は存在せず、戦闘能力も皆無。
 このガイアメモリは一度コネクターに挿入すると、使用者が死亡するか、それに近い状態になるまで排出されない。死亡するまでの使用者の記憶や意識をメモリ内に複製し、死後体内から排出されると、次の使用者を探して自分で飛び回る。次の使用者は、前の使用者がそうと決めておくか、漠然と『会いたい』と思った相手が選ばれる。次の使用者の体内に強制的に挿入されると、相手の脳内を前の使用者の情報で上書きし、文字通り『転生』させる。一連の工程は不可逆で、一度上書きされた相手の人格は消滅し、以後は前の使用者として生きていくことになる。また、転生先が死亡するとまたメモリが排出され、次の転生先を探して飛び回る。メモリブレイクされるまでは、理論上は永遠にこの工程が繰り返されることになる。
 熊笹は密売人から逃げる途中、盗んだ中にあったこのメモリの字面だけを見て、自分の死後も役立つと信じて使用した。
 メモリの色は緑。項垂れる人間の肩から上と、その肩をあすなろ抱きするように両腕を回す、一つ目の幽霊が描かれている。人間の頭部と肩の線、或いは幽霊の頭部と両腕が『R』の字になっている。
91 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/12(金) 19:39:43.25 ID:ll1rXKFu0
>>75をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました。



それから>>82に補足

 メモリの色はピンク。両耳をぴんと立てた兎の頭部が逆さまに描かれている。言うまでもなく、耳と頭部で『R』の字を形成している。また、ミヅキはメモリにラメやスパンコールを大量にくっつけてデコレーションしている。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/12(金) 20:27:07.13 ID:KKCeNzA00
おつー

ガイアメモリ:ワイルド
「野生」「自然」の記憶を内包するメモリ
しかし、このメモリには隠された力がある
すなわち「ワイルドカード」に由来する「切り札」である
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/12(金) 20:44:39.94 ID:zrjvJvAlO
おつおつ なんか案だしたいけどカッコいいのが思いつかないの悔しい
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/12(金) 21:33:00.05 ID:5tO5a7P40
アイドルメモリ

スポットライトを浴びる横置きされたマイクで描かれた宝石で出来ているかのようなメモリ。
人間を虜にする能力を持ったドーパントにする。副作用で美形になるが、承認欲求に歯止めが利かなくなる。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/12(金) 23:53:19.59 ID:349qYt5W0
セイバーメモリ
『剣』の記憶のメモリで、細長い曲刀(シャムシール的な)がSの字を描いている。次世代型メモリ
古今東西、実在するものも、架空の(例えばアーサー王のエクスカリバーや、ジェダイのライトセーバーなど)ものの記憶も有する

単独でドライバーを介して用いれば、剣の力を備えた仮面ライダーになるかもしれないが、
その記憶はファンタジーにとって剣のイメージを補強し、具体化や発展にも繋がるだろう。
メタくいうと、基本のファンタジー騎士形態を強化する中間フォーム用。ウィザードフレイムドラゴンあたりの枠
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 00:00:21.21 ID:+X/7FrBao
ガイアメモリ一覧見たら結構あって面白い
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 00:43:46.49 ID:fvnBbpSg0
シネマメモリ

『映画』の記憶を内包したメモリ。
映画のフィルムが『C』を描いたような印が描かれている。
自身の定めた空間を『スタジオ』と定義し、自身の思うがままに操ることができるメモリ。このメモリの影響下においては物理法則すら無視する。
しかし、適合率が高い人物や『スタジオ』の外に出てしまった物には干渉できない。
98 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 09:44:15.59 ID:RHhQBJf20
 周囲に人がいないことを確認すると、徹はそっと自販機の取り出し口に手を差し入れた。

「!」

 内側に、何かがテープで貼り付けられている。剥がして手に取ると、それは小さな鍵であった。
 熊笹からガイアメモリ製造工場について聞いた翌日、2人は彼の遺した言葉に従って、証拠品のメモリを回収に向かっていた。メモリの入ったケースと鍵は別々に隠されていて、たった今鍵を回収したところであった。

「北風町公民館裏の自販機…2台ある内、風都くんが描かれている方。これで鍵は手に入れた」

「ケースの方は…」

「産業廃棄物処理施設、そこに放置された、廃トラック…!」

 鍵を上着の内ポケットに入れると、徹は早足に歩き出した。



 風都との境界線とは逆方向に進んだ、山の中腹。そこには広い産業廃棄物の廃棄場があり、風都のみならず他の工業地域から大量のゴミが持ち込まれていた。『産廃反対』の看板が立ち並ぶ中、錆びついて打ち捨てられた軽トラックを発見した。鍵もかかっていないドアを開け、シートを引き剥がすと、空になったエンジンルームに、銀色のアタッシュケースがあるのを見つけた。

「これか…!」

 取り上げ、車の外へ出す。B5サイズほどの小さなケースで、持ち上げると手にずっしりと来た。

「ここで開けましょう」

「ああ」

 鍵を挿し込み、蓋を開ける。
 中には、5本のガイアメモリと、1枚の紙切れが入っていた。徹は紙切れを、リンカはメモリを、それぞれ調べる。

「博物交易、第九貨物集積場の四番倉庫…の、地下…?」

「『サーバルキャット』『トライセラトップス』『オパビニア』『スリープ』…これは?」

 リンカが取り上げたのは、メモリというよりは回路に端子が直接くっついた、部品のようなものであった。

「何だそりゃ?」

「メモリのプロトタイプのようです。ですが、何の…?」

 回路上のスペースには、無数の節に分かれ、短い脚が何本も生えた節足動物のようなものが描かれている。どうやら、アルファベットの『I』と読ませるようだ。ボタンを押すと、従来のメモリ同様に声がした。



『アイソポッド』



「…『アイソポッド』?」

 どんな意味なのか分からず、きょとんとリンカの方を見た。そして、ぎょっとした。

「馬鹿な…そんなことは、あり得ない…」

 リンカは虚ろな顔で、早口に「嘘だ」「まさか」などと呟いていた。

「…り、リンカ?」

「まさか…リストに無い…このメモリは、完全に…」

 それから、はっと徹の方を見る。

「…行きましょう」

「行くって、どこに」

「紙に書かれていた場所、ガイアメモリ製造工場。急ぎましょう、今すぐに!」

「ま、待てよ! 流石に体勢を整えてからでも」

「事情が変わりました。事態は、一刻の猶予も無い…!」

 見たことのない彼女の剣幕に、徹は思わず頷いた。

「わ…分かった」
99 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 09:44:58.71 ID:RHhQBJf20



 徹が門の前にバイクを停めると、リンカはタンデムシートから飛び降りた。ヘルメットを外しながら、警備員の元へ駆け寄る。

「おい、待て!」

 徹の制止を聞かず、リンカは警備員に詰め寄った。

「財団Xです。ここを通しなさい」

「財団…何だって? 許可証かアポはあるの?」

「ここがミュージアム傘下の施設であったことは分かっています。責任者を呼びなさい!」

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ…」

 警備員は困惑しながらも守衛所に引っ込むと、どこかへ電話を掛けた。
 数分後、門が静かに開いた。

「あ、開いた…」

「行きましょう」

 広い敷地を走りながら、徹は質問した。

「さっきの会話…『ミュージアム』って、何だよ?」

「数年前まで風都でガイアメモリを開発・製造していた組織です。今は壊滅し、幹部は全員死亡しています」

「それが、何でここで」

「それが知りたいのです」

 足を止めず、リンカは言う。

「既に消滅したはずの組織に設備が、何故未だに稼働しているのか…生き残った下部構成員が、個人的な資金稼ぎに細々と動かしているだけかと思っていましたが…」

 目の前に、『4』と書かれた建物が現れた。

「第四倉庫…!」

 2人は、開け放たれた倉庫の中へ飛び込んだ。



 広い倉庫の割に、置かれている荷物は少ない。地下へ向かう階段が無いか探していると、不意に後ろから声がした。

「やあ、お探しものかね」

「!」

 振り返ると、作業着姿の男が一人、立っていた。

「この集積場の責任者の、真堂だ。君たちが慌ててこの倉庫に走って行ったと聞いたものだから、追いかけてきたよ」

「工場の作業員風情が、随分と出世したものですね」

 リンカが、冷たい声で言い放った。それは、出会って間もない頃に、徹が一度だけ耳にした声色であった。
 真堂は、平然と頷いた。

「ああ。こう見えても、一生懸命働いてきたものでね。上司がいなくなって、一時期は路頭に迷いかけていたが、今では新しい上司のもと、充実した日々を送っているよ」

「上司…母神教、『お母様』ですか」

「ほう、財団はそこまで把握しているか」

「真堂!」

 徹が声を張り上げた。

「熊笹を殺したのは、お前だな!?」

「熊笹? ……ああ!」

 真堂は突然、声を上げて笑いだした。

「ああ、なるほど! あの小魚に、仲間がいたか。…君、悪いことは言わないから、その女から離れたまえよ。雑魚記者の分際で財団Xに関わるんじゃない」

「貴様…」

 ドライバーを手に取ろうとした徹を、リンカが止めた。
100 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 09:45:56.50 ID:RHhQBJf20
「少し待ってください」

「でも」

「どのみち、すぐに使うことになります。…真堂。熊笹修一郎の遺したメモリを拝見しました。その上で、お訊きします。どうやって、造った? ……『新種の』メモリを!」

 すると、真堂の顔が、待ってましたと言わんばかりに明るくなった。胸を叩き、誇らしげに言う。

「やはり、そこにあったか! …如何にも。ある時期から長い間凍結されてきた、新種メモリの開発を、我々は成し遂げた! 君たちが見たのはプロトタイプだが…」

 作業着のポケットから、赤茶色のガイアメモリを取り出し、掲げる。

「!!」



『アイソポッド』



「…今では、こうして完成にこぎつけた。折角だから、ここでお披露目といこうか。もっとも、それは目撃者潰しでもあるがね!!」

 メモリを後頚部に刺すと、彼の体は硬い殻に覆われた、ダンゴムシめいた姿へと変貌した。

「もう、使うからな! …変身!」ファンタジー!

 徹はドライバーを装着し、仮面ライダーに変身した。

「おっと、雑魚記者の正体は、仮面ライダーだったか。折角だ、一石二鳥といこうじゃないか」

 ドーパントが細く節くれだった手を叩くと、何処からともなく大勢の若者や男たちが現れた。

「さあ、『お母様』の愛を、彼らに知らしめてあげなさい」

「はい!」ホーネット

ホーネット マスカレイド マスカレイド ホーネット マスカレイド マスカレイド ホーネット…

 たちまち倉庫の中は、大量のドーパントに埋め尽くされた。

「人命は考慮しなくても構いません」ミサイル

 黒い銃を抜き、オリーブドラブのギジメモリを装填する。

「…殲滅します」
101 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 10:08:35.64 ID:RHhQBJf20



『ファンタジー…ミスティークエンド!!』

「ぐわあぁぁっ!!」

 魔法陣から放たれた炎や氷が、ドーパントの群れを襲うと、マスカレイドドーパントは爆散し、ホーネットドーパントは人間に戻った。

『これで…手下は片付けたぞ…!』

 息も絶え絶えに、ファンタジーがアイソポッドドーパントに詰め寄る。ドーパントは牙の生えた円形の口を蠢かせながら、キシキシと嗤った。

「だが君、満身創痍じゃないか」

『っ…』

 魔術師の姿をとったファンタジーだが、その衣服はあちこち破れて、下の装甲まで傷が入っていた。そしてその足元には、銃を握ったままのリンカが倒れていた。忍び寄ったマスカレイドドーパントに、後ろから殴られたのだ。
 ファンタジーは騎士の姿に戻ると、剣を握った。

『だが…あと一人だ!』

 斬りかかるファンタジー。ところが

『なっ…!?』

 ドーパントの硬い外殻に、剣が弾かれてしまった。防御が薄そうな部分を狙って突きを繰り出すと、何と剣が折れてしまった。

「はっはっはっは…効かん!」

『ぐあっ!?』

 細く硬い腕が、彼を殴り飛ばした。壁に打ち付けられながら、彼は宙にハンマーを描いた。

『これなら、どうだっ!』

 マントを広げ、滑空しながらハンマーを振り下ろす。しかし、これも通じない。

「言っておくがね」

 再度、振り下ろそうとしたハンマーを片手で止めると、アイソポッドドーパントは言った。

「私はまだ、実力の半分も出していないよ!」

『あ゛っ、がっ…』

 ファンタジーの腹部に、拳が突き刺さる。彼はその場に崩れ落ちると…変身が解け、徹の姿に戻った。

「では、さらばだ。あの世で小魚同士、仲良く恨み給え。我々、捕食者を…!」
102 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 10:12:51.12 ID:RHhQBJf20
 鋭い棘の生えた脚を上げ、徹を踏み殺さんとした、その時

「!?」

 彼を、銃弾が襲った。硬い殻に弾かれてもなお、銃撃は止まらない。

「…真堂」

「往生際が悪いね」

 ドーパントの目の前には、よろよろと立ち上がり、震える両手で銃を構えるリンカがいた。

「心配するな。君もすぐに、同じところへ送ってやろう。…それとも、あの世で彼を迎える、天使にでもなりたいのかね?」

「…」

 リンカは、黙って銃を下ろした。

「そうだ。人生、諦めが肝心だ…」

 ところが…リンカは、今度は片手を目の前に掲げた。
 その手には……

「何っ!?」

「ミュージアムの残党如きに、財団が敗れるのは道理に合いません。私たちも把握していない力を使われることも。何より」

 倒れ伏して動かない、徹に目を遣る。

「……今、ここで仮面ライダー…いえ、力野徹を失うのは…『私が』嫌だ…!!」

 リンカの剣幕に、たじろぐドーパント。
 いつの間にか彼女の腰には、無骨な金属のベルトが巻かれていた。そしてその手に握られていたのは、彼女のトレードマークであるネクタイと同じ、黄金色のガイアメモリであった。



↓1〜3でコンマ最大 リンカの所持するガイアメモリ(今までに出た案でも可)
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 10:14:08.94 ID:xGSx3T2cO
トゥルーメモリ
『真実』の記憶を内包したメモリ
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/07/13(土) 10:26:40.01 ID:IVl6b8kAO
チャンピオン
「王者」の記憶を持つメモリ
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 10:45:20.71 ID:Bm94fgVA0
ヴァンパイアメモリ
『吸血鬼』の記憶を内蔵したメモリ
106 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 11:10:24.17 ID:RHhQBJf20



『トゥルース』



「なっ、何故君がゴールドメモリを」

「スポンサー特権…と、言いたいところですが。これはただの拾い物です。まあ、それも運命」

「リンカ…?」

 徹が、彼女を見上げて呟く。リンカはドーパントを睨んだまま、応える。

「黙っていて申し訳ありませんでした。ですが、もう隠しません。……これが、私の『真実』」

 黄金に輝く筐体に、天秤を象った『T』の文字。リンカがそっと手を離すと、『真実』のメモリは吸い込まれるように、彼女の腰のベルトに嵌った。

『トゥルース』

 メモリがベルトの中へと吸い込まれ、彼女の体は金と宝石に彩られた、エジプト女神めいた姿へと変化した。金の冠には白い羽が差し込まれ、背中には七色の翼が生えている。エジプト十字を象った杖を振り上げると、彼女は言った。

「私は、裁きません。ただ真実を見定め、偽りを暴くのみ」

 杖を敵に向け、宣告する。

「…そして、殲滅する。偽りの力を。…それに縋った、悪しき者を!」
107 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 11:23:48.29 ID:RHhQBJf20
「世迷い言を…っ!?」

 襲いかかろうとしたアイソポッドドーパントの体が、突然固まった。

「ガイアメモリ…地球の記憶…それ自体は真実です。しかし、人間のものではない。それは偽り」

「ぐっ…うぐぅっ…」

 もがき苦しむドーパント。リンカ…トゥルースドーパントは、杖を振りかざした。その先端に、無数の金色の光弾が顕現する。

「終わりです」

 光弾が、一斉にドーパントを襲った。

「あ゛あああっっ!!!?」

 目も眩む爆炎の中で、アイソポッドドーパントがもがく。もがきながら、叫んだ。

「お、おのれ…おのれ、おのれ、おのれぇぇぇえぇぇええっっ!!」

 突然、その体がどくんと脈打った。硬質な殻が何倍にも膨れ上がり、遂には人間離れした巨大なダンゴムシめいた怪物へと成り果てた。

「…」

 トゥルースドーパントは、更に光弾を撃ち込もうとした。しかし、そこで足元に横たわる徹に気付いた。

「っ…リンカ…」

 彼は、震える手でドライバーを握り締め、必死に起き上がろうとしていた。

「…」

 彼女は、杖を下ろした。そうして、代わりに徹の体を抱き上げると、七色の翼を広げた。
 輝く体が、宙へと舞い上がる。そのまま彼女は、倉庫の屋根を突き破り、怪物のもとから飛び去ってしまった。
108 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 11:26:26.35 ID:RHhQBJf20
『Fを探せ/捕食者の牙』完

多分今日はここまで
109 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 11:39:10.57 ID:RHhQBJf20
『アイソポッドドーパント』

 『ダイオウグソクムシ』の記憶を内包するメモリで、ガイアメモリ工場長の真堂が変身したドーパント。全身が硬い殻に覆われ、殆どの物理攻撃が通用しない。防御面だけでなく、棘の生えた四肢による攻撃も強力。また、メモリの力を最大限解放することで、巨大な怪物態『ジャイアント・アイソポッド』へと変化する。モデルとなったダイオウグソクムシ同様、エネルギー効率が異常に高く、ドーパント態でいる間は年単位で食事を摂らなくても生きていける。過剰適合者なら、生身でも飲まず食わずで生きていけるかもしれない。
 ミュージアム壊滅後に新造された、完全に新種のガイアメモリ。戦闘能力以上にこのメモリは、製造した組織が地球の記憶、すなわち『地球の本棚』へアクセスする権限を持っていることを示す、極めて重大な証拠となっている。
 メモリの色は赤茶。いくつもの節に脚と触覚が生えた、等脚類(ワラジムシの仲間)めいた意匠で『I』と書かれている。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 12:12:20.61 ID:9m7XiEz/0
おつ
>>109は面白い設定のガイアメモリだ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 17:07:26.18 ID:2Inh9IzU0
『クエスト』

「探索」の記憶を持つガイアメモリ
相手の弱点の追及のほか、幻惑攻撃などを無効化する

主人公がファンタジーならクエストも必要かなーって
112 :もうちょっとだけ続くんじゃ  ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 18:10:57.55 ID:RHhQBJf20
「…うっ、うぅ…」

 痛みに目を覚ますと、真っ白な天井が目に入った。その視界に、すぐにリンカの顔が割り込んできた。

「気が付きましたか」

「リンカ…?」

 どうにか体を起こすと、そこは病院の個室であった。ベッドの横には、リンカだけでなく植木警部の姿もあった。

「ここは…」

「警察病院だ」

 植木は、硬い顔で答えた。それから、徹が何か言う前に、彼に詰め寄った。

「何故隠していた。本当は…君が、仮面ライダーだったということを」

「えっ」

 徹は思わず、リンカの方を見た。彼女は、気まずそうに言った。

「…貴方ほど、上手に偽れませんでした」

「…」

 徹は溜め息を吐いた。思えば、あの時彼女が使ったのは『真実』のメモリだ。元々嘘を吐けない性質なのかも知れない。

「…怒らないでくださいね。あの時はまだ、あなた方を信用しきれていませんでした」

「警察をか」

「はい。…と言うより、警察が仮面ライダーをどう見ているのかが分からなかった。警部も、初めて仮面ライダーを見た時は、ドーパントに準じた対応をなさったでしょう?」

「それは…」

「敵か味方か分からない。その上で人間離れした力を持つ存在が、身近にうろうろしていては、お互いに落ち着かない。そう考えて、仮面ライダーという存在に対する信用が得られるまでは、正体を伏せさせていただこうと考えました」

「…そうか」

 植木は疲れたように首を振った。

「言いたいことは大体分かったよ。どっちにしても、もう過ぎた話だ。君を…仮面ライダーを疑うことはしない。ここだけの話、課ではガイアメモリだけじゃなく、仮面ライダーの動向も探ってたんだ。何処の誰なのか、目的は何なのか…」

「やっぱり」

「だが…何度も言うが、もう過ぎた話だ。これからは、純粋な味方として頼りにさせてもらうよ」

 植木は笑顔で徹の肩を叩いた。それから立ち上がった。

「じゃあ、今日は戻るとしよう。大まかな話はこの人から聞いた。…ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます」
113 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 18:11:31.26 ID:RHhQBJf20
 立ち去ろうとして、思い出したように鞄の中から、一枚の封筒を出した。

「そうだ、頼りっぱなしじゃ何だ。前に君から聞いていた人物について、調べておいたから目を通してくれ。じゃあ」

 病室を出る植木に、徹は黙って頭を下げた。



「兎ノ原美月…風都出身で、生きていれば現在17歳。5歳の頃に両親が離婚し、母子家庭に育つが、7歳の頃に母親の恋人と同居するようになって以後、2人から虐待を受けるようになった。特に母親の恋人からは性的な虐待を受けていたらしい。児童相談所と警察の働きによって保護され、孤児院で暮らすようになるが、14歳の頃に孤児院から失踪。現在は行方不明」

 調査書には、孤児院時代の彼女の写真が同封されていた。ぼろぼろの人形を握りしめてぎこちない笑みを浮かべる、隈の浮いたその顔は、確かに公園で彼を誘った少女のそれであった。

「親に愛されなかった少女にとって、母神教、『お母様』は、文字通り母親みたいな存在なんだろうか…」

「…」

 ぼやく徹を、リンカはじっと見つめている。その口が、小さく動いた。

「…だとしても母神教は、野放しにできません」

「そう、そうだよ。さっきから気になってたんだ」

 徹は身を乗り出した。

「あのダンゴムシ怪人が、何でそんなに重要なんだ? 新種のメモリがあると、何が大変なんだ」

「それを説明するには、ガイアメモリの仕組みについて話す必要があります」

「どうせ入院してて退屈なんだ。じっくり聞かせてくれよ」

「分かりました」

 リンカは頷いた。

「…まず、ガイアメモリの仕組みについて。ガイアメモリはその名の通り、ガイア…すなわち地球の保持する情報を記録したメモリスティックです」

「うん」

「記録するからには、基になる情報が必要になります。この地球に存在する、あらゆる事象…生物や物体、果ては概念に至るまで、全ての知識を収めた空間が存在します。これを、『地球の本棚』と呼びます。地球の本棚で採取した情報を記憶媒体に書き込むことで、ガイアメモリが造られるのです」

「うん…うん?」

「ミュージアムがガイアメモリの製造を始めたのは、この地球の本棚にアクセスする権限を得たからです。正確には、ミュージアムを運営する家族の一人が、ある事件をきっかけにこの本棚に入り、地球の持つ記憶を本として閲覧する能力を得た」

「うん…?」

 話があちこちへ飛び始めて、徹はだんだん訳が分からなくなってきた。

「しかし、この人物…少年Rとしましょう。少年Rは、ある私立探偵によって拉致、と言うより保護されました。以降、彼はその私立探偵と共にミュージアムと敵対。ミュージアムは、ガイアメモリ開発の手段を失うことになりました」

「えっと…それで、新種メモリが造れなくなった、と?」

「はい。結局、少年Rは自身の手でミュージアムを壊滅させました。正確には、私立探偵と共に、ですが…まあ、それは良いでしょう。ミュージアムも、一時期は新たに地球の本棚にアクセスできる人間を創り出したようですが、それもすぐに死亡しました。つまり、現在に至るまで、地球の本棚にアクセスし、新しいガイアメモリを開発しようとする人間は存在しないのです」

「いや…その少年Rとやらが、また戻ってきたんじゃないか」
114 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 18:11:58.99 ID:RHhQBJf20
「あり得ません」

 リンカは、きっぱりと否定した。

「どうして」

「少年R…彼は他でもない。風都の仮面ライダー、その人ですから」



 その頃、別の病室で同じく目を覚ました者がいた。

「くっ…うっ」

 苦しげに呻きながら起き上がった、一人の少女。やつれた顔で周囲を見回すと、いらいらと首を振った。

「チクショウ…あの、仮面ライダー…!」

 悪態をつきながらベッドを降りようとして、床に崩れ落ちた。どうにか立ち上がろうと差し上げた手を、別の手が掴んだ。

「先生…!」

「ようやく目が覚めたのね、エミ」

 柔らかな声で言う人物。それは、黄色いスーツを着て眼鏡を掛けた、中年の女であった。
 少女の顔が、歓喜と怯えの混じった、複雑な表情に染まる。女は穏やかな笑みを浮かべたまま、少女を助け起こした。

「ずっと待ってたわ。あなたや、カケルが起きるのを」

「先生…ごめんなさい」

「良いの。人生には、失敗も必要よ。…何故なら」

 女は、スーツの懐から、一本のガイアメモリを取り出した。

「!」

「失敗を乗り越えて、人は成長するものだから」

 少女の手に、毒々しいオレンジ色のメモリを握らせる。メモリには、攻撃的な形状をした蟻が、細長い脚と触覚を伸ばして『F』の字を形作っていた。

「さあ…成長してみせて。期待しているわ」

「はい…先生」

 少女はゆっくりと頷くと…手首のコネクターに、メモリを突き立てた。



『ファイアーアント』



115 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:00:57.74 ID:RHhQBJf20
”火事です 火事です 病棟2階、特別処置室で火事です”

「!?」

 突然鳴り響いた非常ベルに、徹は思わずベッドから飛び降りた。そして、腹を押さえた。

「ぐぅっ…」

「じっとしてて。今、確認してきます」

 リンカは、病室の外へ飛び出した。
 数分後、戻ってきた彼女は、徹の肩を抱いて立たせながら、言った。

「ドーパントの襲撃のようです。逃げましょう」

「何だと…」

 彼は、懐からドライバーを出そうとして…今着ている病衣に、それが無いことに気付いた。

「ドライバーはここです」

「サンキュ…っとぉ!?」

 取り出してみせたドライバーを、リンカは素気なく引っ込めた。

「今の貴方は万全ではない。まずは自身の安全が第一です」

「だが、俺が戦わないと…!」

 その時、廊下で爆音が響いた。



「仮面ライダーはどこだぁーっ!!」



「!」

 徹はリンカを振り払うと、声のする方へ走り出した。
 そこでは、毒々しい橙色をした、蟻のような怪人が、逃げ惑う病棟のスタッフに火の玉を吐きかけているところであった。

「動くな!」

 駆けつけた警官隊が、陣形を組んで銃を構える。

「邪魔だあっ!」

「わあっ!?」

 しかし、燃え盛る火の玉に、警官たちは呆気なく引き下がった。
 代わりに、徹が前に進み出た。

「おい、ドーパント!」

「! お前は…」

 蟻人間が、徹の存在に気付いた。その反応に、彼は首を傾げた。

「ん? お前、どこかで会ったか?」

「とぼけるな…」

 ドーパントの体が解けていく。中から現れたのは、あの日路地で彼にメモリを売りつけようとした、二人組の密売人の、女の方であった。彼女も徹と同じ警察病院の病衣を来て、手にはオレンジ色のメモリを握っている。

「お前、まだ懲りてなかったのか」

「うるさい! 先生に、任されたの…だから、やり遂げないと!」

『ファイアーアント』

「まずは…仮面ライダー、お前を殺す!」

「徹!」

 そこへ、リンカが走ってきた。彼女は、頼りなく立ち尽くす徹と、蟻のドーパントを順に見て、諦めたように言った。

「…仕方ありません。この程度の敵なら、今の貴方でも倒せるでしょう」

「ああ、任せとけ。それと…」

 投げ渡されたドライバーとメモリを受け取ると、徹は照れくさそうに言った。

「…初めて、俺のこと名前で呼んだな。リンカ」
116 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:01:42.55 ID:RHhQBJf20
「!」

 彼女の頬が、微かに朱く染まるのを、彼は見ないフリをした。

「…変身」ファンタジー!

「仮面…ライダぁーっ!!」

 飛んでくる火の玉を躱すと、ファンタジーは手に剣を出現させた。攻撃の隙間を縫って接近し、斬りつける。

『せいっ!』

「ふんっ!」

 剣と腕がぶつかり合う。数合打ち合うと、遂にファンタジーの斬撃が敵の肩を直撃した。

「くぅっ…!」

 痛みに苦しみながらも、両腕で剣を捕らえると、至近距離で火の玉を吐き出した。

『おっと!』

 咄嗟に剣を手放し、跳び下がる。

「炎? 『アント』のメモリに、そのような能力は」

『さっきファイアーアントって言ってたぞ?』

 ファンタジーの言葉に、リンカが目を見開く。

「『ファイアーアント』…ヒアリ!? これも新種のメモリですか」

『関係ないさ。炎には…』

 マントを翻し、魔術師の姿に変化する。

『…水だ! 喰らえ!』

 両手を突き出すと、魔法陣から激しい水流が噴き出し、ドーパントを襲った。

「ぎゃあぁぁぁっ!」

 煙を上げ、のたうち回るドーパント。
117 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:03:23.22 ID:RHhQBJf20
『トドメだ……うぐっ!?』

 ドライバーからメモリを抜こうとして、突然ファンタジーが腹を押さえて呻き出した。前の戦闘の傷が、また痛みだしたのだ。

「やはりまだ早かったですか…!」ミサイル

 リンカは銃を抜くと、ミサイルのギジメモリを装填し引き金を引いた。
 何発ものミサイルが直撃し、体勢を立て直そうとしたドーパントが再び倒れる。
 リンカはギジメモリを抜くと、ファンタジーに向かって銃を投げ渡した。

「これを使って!」

『おっと…分かった!』

 黒い銃のスロットに、ファンタジーメモリを装填し、銃身を変形させる。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

『ファンタジー・ウィザードバレット!!』

 引き金を引くと、銃口の先に巨大な水の球体が現れた。球体は見る見る内に膨れ上がり…爆ぜて、無数の水の弾丸となってドーパントを襲った。

「あっ、あ゛あっ、い゛やああっっ!!!」

 水に包まれたドーパントの体が、ぼろぼろと崩れ落ち、中から少女の体が出てくる。床に倒れ伏した彼女の手首から、オレンジのガイアメモリが抜け落ち、そして砕け散るのを見届けると…ファンタジーは、その場に崩れ落ちた。
 駆け寄ってくるリンカ。更にその向こうから、数人のスタッフが話しているのが聞こえる。

「大変です、患者の数が合いません」

「特室の火川くんは?」

「それが、避難させようとした時にはもう…」

 それを聞きながら、ファンタジー…徹は意識を失った。
118 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:05:51.73 ID:RHhQBJf20
『Tにご用心/失敗は成功のもと』完

今度こそ今日はここまで
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 20:12:45.45 ID:NGyvMBgdo
おっつおっつ
そういえば息抜き・ギャグ回は予定あるんだろうか
あるならそんな感じの(親子丼ドーパント的なの)も投げるんだけど
120 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:15:00.28 ID:RHhQBJf20
『ファイアーアントドーパント』

 『ヒアリ』の記憶を内包するガイアメモリで、元密売人のエミが変身したドーパント。オレンジと黒の、禍々しい蟻のような姿を持つ。背中には大きな棘が生え、鋭い顎からは火を吐くことができる。また、相手に噛みついて、生身の人間なら即死するほどの強力な麻痺毒を流し込むこともできる。
 メモリの色は毒々しいオレンジで、長い触覚と脚を伸ばした攻撃的な外見の蟻が『F』の字を形作っている。アイソポッドメモリと同様、ミュージアム壊滅後に造られた新種のメモリ。
121 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:18:57.17 ID:RHhQBJf20
(寿司食いながら、そう言えばギャグ回挟まないとなって考えてました)

(寿司食いながら、もうドーパントまで考えちゃいました)







(相手の視覚と嗅覚と、そして味覚を完膚なきまでに潰す、恐るべきドーパントを考えちゃいました)
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 20:22:34.29 ID:NGyvMBgdo
ツーンとなりそうなドーパントだ
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りしま [sage]:2019/07/13(土) 23:54:47.21 ID:21Vs0zar0
プレシオサウルスドーパント

プレシオサウルスのメモリで変身する怪人
怪人だが変身した際は巨大な首長竜になる、陸上でも戦闘が出来るが、真価を発揮するのは海中である
Wだからやっぱり恐竜系のメモリを出してみた
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 00:11:43.65 ID:UDt2qwsb0
アーチャーメモリ
『射手』の記憶を内包したメモリ。
弦を引きしぼる弓矢がAを象っている。
アーチャードーパントは左手が弓のように変形し、右手で弦を引きしぼる事でエネルギーを収束・発射する事が可能。
連射力・威力共に申し分ないが、命中率は本人の実力に依存する為、使い手が問われるメモリである。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 02:29:15.43 ID:w6ArOq5X0
コントラクトメモリ


 『契約』の記憶を内包したメモリ。鎖と左中央の南京錠がCを象っている。最初にボタンを押して契約内容を読み取らせて設定し、対象に手渡すだけで対象が契約者となる。自分自身に契約を課すことも可。
コネクタに接続せずとも契約を守り通すことで所持者に加護が付与され、肉体的にも精神的にも契約遂行を手伝う。

 コントラクトドーパントは契約を守り続けた通常態と、契約違反して強制変身した暴走態がある。共通して鎖を全身に纏っており、違いは胸部中央部の大きな南京錠が閉じているのが通常態、開いているのが暴走態である。
当然暴走態の方がメモリからの毒素が濃く、鎖を身体から引き抜いて鞭にする等、手段を選ばす契約遂行しようとする。

 契約達成するとメモリ排出と同時に、報酬として対象から毒素を取り除いて肉体強化を授ける珍しく親切なメモリ。
ただし改造されたコントラクトメモリは対象者から毒素と同時に記憶と意識も奪う。奪われた記憶と意識と無防備な肉体はどこへ回収されるかは・・・


 従順なしもべを無差別に即座に用意できる点から、量産化に成功すればマスカレイドよりも便利かもしれない。
弱点は契約内容を遂行しようとして肉体が保つかどうか。或いはメモリの位置である南京錠を攻撃すれば簡単にメモリブレイクできる。ただし南京錠は堅く、威力が不十分であれば開いて暴走態になってしまう。

ついでに南京錠や契約や鎖故に、
『キーメモリやタブーメモリ(で強制通常化・暴走化)』
『ヒートメモリ(で鎖溶けて契約遂行阻害)』
等にも影響されやすい
126 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:01:36.74 ID:ZPJfsSAI0
「…」

 ベッドに仰向けになったまま、徹はじっと天井を見つめていた。横では、リンカがペティナイフでりんごの皮を剥いている。

「…なあ、リンカ」

「じっとしていてください」

 起き上がろうとする彼の鼻先に、ペティナイフを突きつける。徹は慌てて、ベッドに背中を押し付けた。

「心配なのは分かるけど…俺、もう大丈夫だから」

「前もそう言っていたような気がします」

 素気なく言うと、彼女はりんごを一切れ、ナイフに刺して彼の口元に差し出した。

「う…」

 徹は黙って、突き出されたりんごを齧った。咀嚼しながら、ずっと気になっていたことを口に出した。

「…あんた、ドーパントだったんだな」

「…」

 リンカは、ナイフを引っ込めて彼を見た。そして、頷いた。

「…ええ」

「『拾い物』って言ってたな。それは…この街で拾ったのか? それとも風都で?」

「ミュージアムが壊滅した直後…」

 彼女は、齧りかけのりんごを口に入れた。数度咀嚼し、ごくりと飲み込む。

「…事後処理のために、私は風都を訪れました。前任者が独断で余計なことをした、その尻拭いも兼ねて。その際に、旧園咲邸…ミュージアム幹部の自宅で、数本のガイアメモリを回収しました。これは、その内の一本です」

 彼女の手に握られた、金色のガイアメモリ。天秤を象った『T』の文字からは、今まで見てきたメモリとは比べ物にならないほどの、強い力を感じる。

「どうやら、このメモリは私によく適合しているようでした。そこで、一緒に回収したドライバーと共に譲っていただきました。…まあ、実際に使うのは初めてでしたが。せいぜいお守り程度の認識でしたので」

「そうだったのか。……済まなかった」

「何が」

「俺が弱かったせいで、あんたまで戦わせてしまった。ドーパントになってまで…」

「今更です。これまでも私は、Xマグナムで戦闘に参加していました」

「だが、それとは訳が違う。だって」

「ガイアメモリの副作用を気にしているのなら、それは不要です。旧式のガイアドライバーとは言え、きちんと機能しているので、メモリの毒性はほぼ完全に除去されています」

 そこまで言って、彼女はりんごをもう一切れ、切り取って徹に突き出した。

「…済まないと思うのなら、きちんと体を回復させることです。次、貴方があのような危機に陥れば、私は一切の躊躇なくメモリを使用します」
127 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:02:19.73 ID:ZPJfsSAI0



 聖堂に設けられたベッドの上で、火川カケルは目を覚ました。

「っ…こ、ここは…」

「おはよう、カケル」

「! 先生っ!」

 黄色スーツの女に声をかけられて、彼は慌てて起き上がった。聖堂を見回して、尋ねる。

「先生、ここは…?」

「ここは、母神教の本部。『お母様』のお膝元よ」

「お母様の…」

 きょとんとするカケル。確かに、先生の言葉に『お母様』という単語は幾度となく聞いた。しかし、彼にとって尊敬すべき相手は目の前の女であって、それより上の存在をはっきりと意識したことは無かった。
 そんな彼に、ヴェールの向こうの存在が口を開いた。

”火川カケル。…愛しい、母の子”

「!」

 女が、その場に跪く。カケルは戸惑いながらもベッドを降りると、女に倣った。

”よくぞ、ここまで帰ってきてくれましたね。母は、嬉しいです”

「ど、どうも…」

”…あなたは、仮面ライダーとの戦いを生き延び、再び目を覚ましました”

「! …はい」

 少年は頷く。同時に、このヴェールの向こうの存在が言わんとすることを察した。

「ぼくは、メモリを渡そうとした相手が変身するところを見ました」

「それは、どんな人だった?」

 すかさず、女が質問する。少年は「名前までは分かりませんが」と断った上で、目の前で仮面ライダーとなった男の特徴を、できる限り詳しく説明した。また、彼に変身用のドライバーとメモリを与えた女についても話した。
 一通り聞き終えると、『お母様』は満足げに言った。

”ええ。英生の言葉とも一致します。どうやら、間違いないようですね”

「よくやったわ、カケル」

 女は誇らしげに、彼の肩を叩いた。

「あなたは、私の自慢の生徒よ」

「あ…ありがとうございます!」

「あなたになら…」

 女は、懐からオレンジ色のガイアメモリを抜き出した。

「!」

「…私の、手伝いを任せられるわ」
128 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:02:45.51 ID:ZPJfsSAI0
「…は、はい」

 カケルは、震える手でメモリを受け取った。



 夜の通りを、病院から出たリンカは一人で歩いていた。ファイアーアントドーパントの襲撃で一部損害を受けたものの、病院機能にはさほど影響が無かったとのことで、徹は引き続き警察病院に入院している。しかし、懸念事項は残っていた。メモリブレイク後、昏睡状態だった元密売人が、いかにして新たなガイアメモリを手にしたのか。加えて、ファイアーアントメモリもまた、リンカの持つ財団Xのリストに無い、新種のガイアメモリであった。
 リンカは既に、財団に追加支援を要請している。敵がガイアメモリを開発する手段を持っていること、仮面ライダーにさらなる力が必要であることを、強く伝えてある。

「今は、待つのみ…」

 呟きながら…リンカは、おもむろに鞄に手を入れ、Xマグナムを名付けた銃を抜いた。そしてそれを頭上に向けると、躊躇なく引き金を引いた。

「!」

 銃声。それからやや遅れて、彼女の目の前に、一体の怪人が降りてきた。
 それは、ミヅキを追い詰めた時に現れた、蜂女であった。

「よく、私の尾行が分かったわね」

「いやしくも蜂に扮するのなら、羽音の周波数くらい勉強してください」

「この私に『勉強しろ』と? なかなか面白いことを言う」

 リンカは何も言わず、銃を向けた。

「目的は何ですか。私達が奪取したラビットメモリですか」

「ラビットメモリ? …ああ、そう言えばそんなのもあったわね。今の今まで、すっかり忘れていたわ」

「どういうことですか。貴女は、兎ノ原美月の仲間ではないのですか」

「知らないわよ、あんな出来の悪い生徒」

 蜂女は、吐き捨てるように言った。

「とっくにその辺に捨てたわ。必要な情報も手に入れたもの。…そう」

 鋭い顎を、カチリと鳴らす。

「私の、優秀な生徒のおかげでね」

「生徒…『先生』…!!」

 何かを察し、走り出そうとしたリンカの前に、蜂女は立ち塞がった。

「もう気付いたの。あなたが、私の生徒だったら良かったのに」

「そこを通しなさい。さもなくば」

「真堂から、仮面ライダーよりあなたの方が危険であることは聞いてるわ。せいぜい、私の足止めに付き合って頂戴」

「お断りします」フラッシュ

「っ!?」

 リンカの銃から、凄まじい閃光が迸った。複眼に強い光を食らった蜂女は、思わず仰け反った。

「お、おのれっ」

 首を振り、どうにか視力を取り戻す頃には、既にリンカの姿は無かった。
129 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:03:32.75 ID:ZPJfsSAI0



「はあっ…くそっ」

 病棟の廊下を進みながら、徹は悪態をついた。
 リンカが帰った直後、またしてもドーパントが病院を襲撃した。今度は検査室を占拠し、仮面ライダーを連れてこいと宣っているのだという。
 この連日の襲撃は何だ。遂に、敵が超常犯罪捜査課を潰しに来たのか。それとも、仮面ライダーたる徹がこの病院に入院していることが、敵にバレたのか…?

「はぁっ…変身」ファンタジー!

 傷ついた体をおして、仮面ライダーに変身する。ドライバーを没収されなくて良かった。

『っ…ドーパントっ!』

 検査室に踏み込んで、あまりの熱に彼は思わず引き下がりかけた。

『な、何だこりゃ…』

「やっと来たね、仮面ライダー!」

 陽炎の向こうに、一人の少年が立っている。

『今度は、お前か』

「そう。あの時は遅れを取ったが、今度はそうは行かないよ」ファイアーアント

 オレンジ色のメモリを手首に刺すと、少年はヒアリのドーパントに変身した。

『お前もヒアリか…だったら!』

 ファンタジーは魔術師の姿になると、両手を掲げた。

『弱点は分かってる。喰らえ!』

 魔法陣から、水流が迸ってドーパントを襲った。ところが

「…ああ。ぼくにも分かってる。だから」

 彼は、身をかがめて水流を躱した。躱された水は、熱せられた壁にぶつかると、たちまち白い蒸気となった。

『! しまった』

 大量の煙が部屋を埋め尽くす。視界が白に染まり、ファンタジーは身構えた。

『どこに隠れた…!!』

 物音に、咄嗟に突き出した両手が、ファイアーアントの両顎を捕らえた。

「ふんっ!」

『くうぅっ…』

 力任せに押してくるドーパント。いつものファンタジーなら力負けすることは無いだろうが、今の彼は万全ではなかった。

『く、あ、あっ』

 仰向けに押し倒されるファンタジー。その背中を、熱せられた床が苛む。

「どうだ、仮面ライダー…!」

『くっ、ぐうっ、う…』

 じりじりと、尖った顎が彼の喉元に迫る。その距離が、見る見る内に狭まり、そして…



「徹!」

 部屋に飛び込んだ瞬間、絶叫が木霊した。

『ぐわああぁあぁぁっ!!』

「徹……っ!!?」

 晴れていく霧の中に、彼女は見た。オレンジと黒の怪人に組み倒され、肩口に鋭い牙を突きつけられた仮面ライダー…戦友の姿を。
130 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:03:59.99 ID:ZPJfsSAI0



『トゥルース』


131 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:05:07.85 ID:ZPJfsSAI0
「っ、はあっ…やった…先生、やりました!」

 動かなくなった仮面ライダーから牙を抜き、彼は歓喜に叫んだ。強力な毒を流し込んだ。仮面ライダーとは言え、当面は起き上がれないだろう。これで、お母様の…そして、先生の期待に応えることができた。

「ぼくが、ぼくが一番優しゅ」

 言いかけたその口が、途中で止まった。
 胸の辺りに違和感を感じ、視線を下に向ける。

「…え?」

 そこには、白い羽が深々と突き刺さっていた。
 彼が状況を把握するより先に、彼の体を金色の光弾が襲った。

「ぎゃああっ!?」

 壁まで跳ね飛ばされるドーパント。どうにか起き上がった彼は、ようやく理解した。
 仮面ライダーを庇うように立つ、エジプト女神めいた黄金の怪人を。……その、怒りに燃える瞳を。

「…た、たすけ」

 ぽつりと呟く彼の目の前で、女神は七色の翼を広げた。そこから、無数の羽が矢となって飛来し、彼を次々に刺し貫いた。

「あっ、ぎゃあっ、あがっ…ぐぁ…っ」

 腕がちぎれ、胸が砕け、頭が潰れても、攻撃が止むことは無かった。



 ___数分後。そこには、仰向けに倒れて動かない仮面ライダーと、それに物言わず縋り付く白スーツの女と、そして砕けたガイアメモリにぐちゃぐちゃの肉塊だけが残されていた。
132 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:05:39.50 ID:ZPJfsSAI0
『Tにご用心/怒れる女神』完

今日はここまで
133 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:46:14.76 ID:ZPJfsSAI0
『一角獣型ガイアメモリ メモコーン』

 自律稼働するユニコーン型ガイアメモリ。『セイバー』と『クエスト』2本のガイアメモリを内蔵しており、両脚を畳み、角を後ろに倒すことでセイバーメモリが、後ろ脚を回転させることでクエストメモリが出てきて、ロストドライバーに装填・展開することができる。展開した時、メモリ本体がセイバー側だとユニコーン、クエスト側だとグリフォンの頭部に変形する(ダブルドライバーに装填したファングメモリが恐竜の頭になるみたいな)。
 後述するクエストメモリの能力に加えて、メモコーン自体に解毒機能が備わっており、使用者に付いた毒を無効化することができる。



『セイバーメモリ』

 『剣』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。古今東西、あらゆる刀剣に加え、架空の刀剣をも再現することができる。また、エクスカリバーや草薙剣といった剣にまつわる伝説から、このメモリは『英雄の力』としての側面を持っているため、単なる切れ味以上に『悪』に対して強い力を発揮する。
 ファンタジーが騎士の姿で使用することで、鎧に青い装甲が追加され、専用剣『ジャスティセイバー』が出現する。
 メモリの色は青。シャムシールめいて『S』の字に弧を描く剣が描かれている。



『クエストメモリ』

 『探求』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。いかなる困難な課題に対しても、必ず解決するための道筋を示す力を持つ。これを応用することで、敵の弱点を看破したり、幻覚などの弱体化を解除することができる。また探求だけでなく、それを成し遂げる力・意志を概念として含んでいるため、使用すると防御や耐久も強化される。
 ファンタジーが魔術師の姿で使用することで、ローブに赤い装飾が追加され、専用杖『クエストワンド』が出現する。
 メモリの色は赤。虫眼鏡を象った『Q』の字が描かれている。
134 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:51:14.45 ID:ZPJfsSAI0
(本編前に玩具のCMでネタバレされることってあるよね)

(関係ないけどファングメモリは平成ライダーの中間強化ガジェットとして最高傑作だと思うの 設定はもちろんだけど、ギミックも格好良くておまけに一切無駄がない)
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 20:03:51.48 ID:adx0k0Ev0
このあと最強武器が出ますっていう中間フォームの特性上、最終フォーム後は要らない子になりがちな中間フォームだけど
FJはフィリップがメインで使うっていう最大の特徴で、要らなくなりようがないのすごいよね
中間と思ったが実質最終だったタジャドルさんと並んで確固たる中間フォームだと思う
136 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/07/14(日) 21:07:17.76 ID:ZPJfsSAI0
(ファングメモリの何が凄いって、ドライバーに装填した後も格好良いのが凄い)

(恐竜の胴体なんて邪魔くさい付属品になりそうなのに、バッチリ恐竜の頭部に変形して、おまけに開いた顎の間に『F』が来るとか天才か)



(ちなみに次点でNSマグフォンが好き。ガラケー状態だとマグネットスイッチ自体が邪魔くさいのが玉に瑕だけど)
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 02:14:12.62 ID:8Pan0DGo0
次の中間フォームがラビラビタンタンに近い各形態の強化フォームだから、最終フォームは両特性をフルパワーで扱えるのが望ましいねぇ
メモリはどうなるんだろ、『ブレイバーメモリ(勇者の記憶)』とかそんなんかしら?RPGで剣も魔法も扱えるのは勇者と相場が決まってるし

あれ、これタドルレガs
138 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:04:21.05 ID:l6qhdZk40
 警察病院、集中治療室。超常犯罪捜査課の警官たちによって、厳重に警備されたこの部屋のベッドには、仮面ライダーが横たわっていた。そう、仮面ライダーが、である。

「このまま治療するのは無理ですよ!」

 途方に暮れた医師が言った。

「手術も注射もできない…脈すら取れないのに!」

「今、変身を解除するのは不可能です」

 リンカはきっぱりと言った。

「現在、彼の体内ではガイアメモリの力と、ドーパントの毒素が拮抗している状態です。このまま変身を解除すれば、彼の身を守るものが無くなり、即座に死亡します」

「そう言われても…」

 ベッドに横たわり、苦しげに呻く仮面ライダーに目を遣る。

「えっと…力野さん、なんですね?」

『う…そ、そうです』

 小さい声で、彼は答える。

「今、ご気分はどうですか。どのくらい苦しいですか」

『何とか、先生とお話しできるくらい…っ、ごほっ』

「徹、無理をしないで」

 リンカが彼の肩に手を置く。
 今、仮面ライダーが重体だと知れたら、敵からチャンスとばかりに刺客が送り込まれるだろう。そうなれば、今度こそ彼の命は無い。リンカにとって、彼を守るため、己が怪物となることに抵抗は無かった。しかし、またあのような惨劇を繰り返しては、他ならぬ彼自信が悲しむに違いなかった。それが、彼女は嫌だった。

「…必ず、手はあるはず」

「とにかく、ヒアリの毒について調べないと…」

 その時、どこからか微かにメロディが聞こえてきた。

「誰だ、ICUに携帯持ち込んだのは…」

「! これは」

 音の発信源は、病室から持ってきた徹の鞄、その中にある彼のスマートフォンであった。

『誰からか、書いてあるか…?』

「『藤沢』と」

『! 出て、俺の耳に当ててくれ』
139 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:05:01.30 ID:l6qhdZk40
 言う通りにすると、彼は電話の向こうの人物と会話を始めた。それは、彼が馴染みにしている、雑誌の編集長であった。



”力野くん、今大丈夫?”

『は、はい』

”? 今、具合悪いの? また今度にしようか?”

『いえ、大丈夫…ご用件は?』

”大丈夫なら良いけど…ちょっと、仕事をお願いできないかなって”

『! どんな仕事ですか』

”インタビューを頼まれたくてね。今、ちょっとした話題になってる教育評論家なんだけど…”



 こんな状態で仕事を受けるなんて、正気の沙汰では無かった。しかし、内容を聞く内、彼の中にある考えが浮かんだ。
 故に、彼は言った。

『分かりました…お任せください』

「徹!? 正気ですか」

『ただ…その日、私どうしても外せない用事がありまして…信頼できる同業者がいるので、その人にお願いしようと思います。…ええ、報酬もそっちに振り込んでいただく形で…』

 通話を終えると、彼はリンカの方を見た。

「まさか…」

 彼は、頷いた。

『ああ。…どうしても引っ掛かったんだ。俺の代わりに、受けてくれるか?』
140 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:05:44.16 ID:l6qhdZk40
『蜜屋 志羽子 講演会 〜令和に愛を取り戻そう』

「…」

 白い立て看板を、リンカは黙って見つめていた。
 教育評論家・蜜屋志羽子。東都大学教育学部卒。北欧で先進的な教育システムを学び、帰国後は日本の教育制度改革を目指すが、その中で子供に対する大人の根本的な意識の違いに気付く。それを問題視し、改めるべく教育評論家として活動を開始。テレビや各種メディアに出演・出稿している他、私塾『愛巣会』を開設し、素行に問題のある児童の更生にも力を入れている。

「…確かに、引っ掛かる」

 リンカは看板から目を外すと、会場へと足を踏み入れた。
 蜜屋なる女は、聞く限りでは志の高い人物に思える。だがその一方で、と言うよりも、それ故に、彼女の思想は母神教と非常に相性が良いように思えた。恐らく、徹もそれが『引っ掛かった』のだろう。



「近年、児童虐待の件数は加速度的に増加しております。これは、市民の皆さまが虐待を見逃さず、通報するシステムが整ったこともあるでしょうが、虐待そのものが増えていることも紛れもない事実であります」

 壇上でスライドを示しながら、淀み無く話す中年の女。黒い髪を後ろで結い、明るい灰色のスーツを着たこの女が、蜜屋であった。

「物理的、心理的、或いは性的虐待といった、直接的に危害を加える行為は言語道断です。しかし、そうでなくとも、現代の子供たちは人生のあらゆる場面において、行き場を失くしています」

 会場の後ろの方で講演を聴きながら、リンカは漠然と、蜜屋に対して既視感を覚えていた。徹の家のテレビに映っているのは何度か見かけたことがある。だがそれ以上に、つい最近、彼女と直接相対したような、そんな気がしたのだ。

「外で遊べば『うるさい』と怒鳴られ、家に帰れば親は仕事でいない。保育園はパンクし、学校では過酷ないじめに曝されます。何より、子供たちに関わる大人たち自身が、既に疲弊し限界を迎えています。これは、いかに国や行政が、子供を軽視し、子供に関わる重要な役割を蔑ろにしてきたかを如実に示しています」

 スライドに、一枚の姿見が映し出される。鏡の下には一人の幼子が座っていて、鏡面にはやつれて傷ついた一人の女が映っている。

「子供は大人の鏡、社会を映し出す鏡です。大人たちは、口を開けば『最近の若者は』と言いますが、その若者を作ったのは他でもない、あなた方であることを自覚していただきたい」

 それから社会の現状、対策について述べ、表題にある『愛を取り戻す』ことについて話した後、彼女は自身の取り組みについて説明を始めた。

「『愛巣会』では、児童相談所だけでなく、お子様の成長に悩む親御さんからのご依頼にもお応えして、健やかな成長をサポートさせていただいております。勉強だけでなく、レクリエーションや地域への奉仕活動を通じて、互いを尊重する心、自分で考える強い意志を育むことを目標に…」

「嘘よ!!」

 突然、会場から怒声が飛んだ。

「…日々、活動を続けています」

「あんたのせいで、うちのユウダイは…」

 構わず講演を続ける蜜屋に、聴衆の一人が立ち上がった。それは、地味な服を着た40から50歳くらいの女であった。
 警備員が駆けつけて、喚く女を外へと引きずっていく。隣を通り過ぎた女を横目に見ながら、リンカは密かに、その顔を記憶に留めた。
141 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:06:12.13 ID:l6qhdZk40



 控室のドアをノックすると、中から「どうぞ」と声がした。

「失礼します」

 控室に入ってきたリンカの顔を見て、蜜屋は一瞬、顔を強張らせた。が、すぐに元の柔和な表情に戻ると、予め用意してあったと思しき椅子に、彼女を座らせた。

「北風新報から来ました。円城寺リンカと申します」

「教育評論家と、愛巣会の塾長をさせていただいております、蜜屋です」

 急拵えの名刺を、蜜屋は丁寧に名刺入れに仕舞った。

「よろしくお願いします。では、早速ですが…」



 インタビューはつつがなく進んだ。蜜屋も、脇で見ていたマネジャーと思しき男も、リンカの仕事ぶりに対して、一切違和感を感じることは無かった。
 最後に、リンカは尋ねた。

「失礼ですが…先程の講演の最中、先生に対して抗議なさった方がいらっしゃいました」

「そうですね」

 蜜屋は、悲しげに首を振った。

「私の考え、行動については、必ずしも賛同を得られるとは思っておりません。あの方は、始めは私を信じて、大切な我が子を愛巣会に預けてくださいました。しかし、そこでお子様が得たもの、学んだことが、ご自身の期待したものと違っていたのでしょう」

「子供に求めるものに、食い違いがあったと?」

「ええ。私は、自分で考える力を重視し、あくまで言葉による指導を…」

 その時、廊下の方で誰かが騒ぐ声がした。

「…行っております。しかし、生まれ育った環境によっては…」

 彼女の言葉を遮るように、控室のドアが勢いよく開いた。

「蜜屋、志羽子…!!」

「君、止めなさい!」

「落ち着いて…」

 2人の警備員を押し退けて、一人の女が足音荒く部屋に入ってくる。それは、先程蜜屋に罵声を浴びせた女であった。

「…朝塚さん。お話は後で伺いますから」

「ユウダイを、返して…!」
142 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:06:46.75 ID:l6qhdZk40
 女は、目に涙を浮かべながら言うと……



『アコナイト』



「!?」

 紫色のガイアメモリを、喉に突き立てた。

「う、あああああっっっ!!」

 女の体が、紫の花びらに包まれる。その隙間から、灰色の根が伸び、蜜屋を襲った。

「…」

 リンカは何も言わず立ち上がると、蜜屋の体を突き飛ばした。倒れた彼女のすぐ上を、鋭く尖った根が通り過ぎる。

「大丈夫ですか」

「…」

 一瞬、蜜屋と目が合った。彼女の顔に浮かんでいたのは、恐怖や困惑ではなく、苛立ちであった。
 しかし、彼女はすぐに、その表情を消した。

「あ、ありがとうございます。…」

 立ち上がると、紫の花の怪人…アコナイトドーパントに向けて、叫ぶ。

「…何をするのですか! このような、恐ろしいこと…」

「お前が、お前があああっ!!」

 根が、再び蜜屋に向かって飛んでくる。

「危ないっ…あ゛ああっ!?」

 庇おうと飛び出した警備員に、根が掠った。たちまち彼は胸を押さえて苦しむと、その場に倒れて動かなくなった。

「『アコナイト』…トリカブトですか。蜜屋さん、窓から逃げてください」

「で、ですがあなたは」
143 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:07:15.99 ID:l6qhdZk40
「問題ありません」

 リンカは、鞄からXマグナムを抜いた。蜜屋は頷くと、窓を開けて逃げ出した。

「他の方も逃げて!」ミサイル

 言いながらミサイルメモリを装填すると、ドーパント目掛けて撃ち込んだ。

「どけ、どけっ! 邪魔するなっ!」

 根を振り回し、抵抗するドーパント。あくまで、狙いは蜜屋一人らしい。リンカは、ワイヤーメモリに差し替えた。

「お断りします」

 銀色のワイヤーが、ドーパントの体を拘束する。

「くうぅっ…離せぇっ…」

 もがくドーパント。しかし、元々膂力は強くないのか、巻き付くワイヤーをちぎることができない。
 やがて、彼女は諦めたようにその場に座り込んだ。その体から花びらが抜け落ち、ガイアメモリが排出されて床に転がった。
 リンカは、女の前に跪くと、言った。

「…お話を、聞かせていただけませんか」



 一方その頃、警察病院では、植木警部を中心に、隊列を組んだ警官たちが拳銃を構えていた。

「それ以上近寄るな! 撃つぞ!」

「撃ってみれば良いじゃん?」

 病院の廊下を堂々と闊歩する、4人の蜂人間。

「どうせ居るんだろ? 仮面ライダーが!」

「カケルはホント良いやつだったよ。一番面倒い仕事をこなしてさ」

「しかも、手柄はオレたちに譲ってくれるときた!」

「う、撃てぇーっ!」

 植木の号令に、警官たちが一斉に引き金を引く。
 しかし、蜂人間たちはびくともしない。

「ひ、怯むな、撃てーっ!」

「うっとおしいなあ! 全員死ね…」

 蜂人間の一人が、腕を振り上げたその時

 ___甲高い、歌声のような嘶きが、廊下に響き渡った。

「…何? いだっ!?」

 蜂人間の腕に、何かが激突した。

「何だ?」

「仮面ライダー? まさか、もう復活して」

「あ゛ああっ!?」

 困惑する蜂人間の胸に、何かがぶつかった。黄色い蜂の外骨格に、抉られたような大きな傷が付いている。

「だ、誰だ…?」

「クソっ、どいつもこいつも…」

 警官隊とドーパントたち、双方が混乱する中、両者の間に降り立った者がいた。

「これは…」

 それは、小さな一角獣を象った、一機のロボットであった。流れるような銀色のボディに、青いたてがみを生やし、赤い尾をなびかせている。
 彼は歌うような声で嘶くと、金色の鋭い角を、ドーパントに向けた。

「な、何だこいつ…」

「仮面ライダーの、味方…?」

「はっ、こんなチビが、オレたちの邪魔なんて…」

 嘲る声など耳に入らぬ。細い脚で床を蹴ると、小さな一角獣は、目にも留まらぬ速さで怪人どもに襲いかかった!
144 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:09:43.53 ID:l6qhdZk40
『Qを掴み取れ/親と教師』
145 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:10:49.59 ID:l6qhdZk40
誤爆
『Qを掴み取れ/親と教師』完

今日はここまで



(ギャグ回にしようかと思ったけど、強化フォームお披露目がギャグ回は流石に無いなと思った)
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 15:22:44.82 ID:Wnc2IhCCO
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 20:19:15.98 ID:QEVssDs90
「わたしの息子…ユウダイは、中学校の頃からよく分からない人たちと付き合うようになって…帰りが夜遅かったり、時々怖い人から電話がかかってきて、あの子を呼ぶんです。どうにか真面目なあの子に戻って欲しいと、愛巣会に入塾させました。ですが…」

 北風署の取調室にて、朝塚は言った。

「最初は良かったんですが、だんだんあの子の口数が少なくなっていって。たまに言葉を話しても、『先生が』とか『成績が』とか、そんなことばっかり言うようになったんです」

 彼女は俯くと、震える声で続けた。

「心配になって調べてみたら…愛だなんて、嘘ばかり。あの中で行われてるのは、教育なんかじゃない。洗脳です」

「洗脳?」

 リンカが、オウム返しに問うた。その隣で、若い刑事がメモを取っている。

「蜜屋が、自分を頂点とした社会を作っているんです! 子供たちを、自分への忠誠心でランク付けして…挙げ句の果てに、あんなものまで持たせて!」

「あんなもの…ガイアメモリですか」

 朝塚は頷いた。

「これを誰かに売りつけないと、自分は命が無いと、あの子が言ったんです! あの子が苦しむくらいならと、わたしが…」

「…」

 リンカと刑事は顔を見合わせた。

「…分かりました。我々も適切に対処させていただきますので、一度留置所に戻っていただけますか」

 刑事は立ち上がると、朝塚の腕を取って取調室を出ていった。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 20:43:26.45 ID:QEVssDs90



『はぁっ…くぅっ…』

 ベッドの上で、仮面ライダーは苦痛に耐えていた。
 ファイアーアントドーパントの流し込んだ毒が、命を奪うすぐ手前まで来ているのを感じる。
 お見舞いに来ていた植木は、ついさっき慌てて病室を飛び出して行った。その原因が、病院に襲撃してきたドーパントだと知った瞬間、仮面ライダーは無理やりベッドから起き上がろうとして、床に転げ落ちた。医者や看護師に助け起こされながら彼は、せめてこの中に、自分の代わりに変身して戦える者がいないか、必死に目を凝らした。
 リンカの言う通り、彼はファンタジーメモリの力で辛うじて毒に対抗している。ドライバーごと他人に譲渡すれば、自分は死ぬ。しかし、このまま倒れていては、いずれはこの場にいる全員の命が危ない…

「…誰だっ!?」

 突然、医師が叫んだ。彼の視線の先では、硬く閉ざされた病室のドアが、外から激しく叩かれていた。
 強烈な攻撃に、遂にドアにヒビが入った。

『誰、か…』

 とうとう、仮面ライダーが口を開いた。

『ドライバーを、外して…』

「駄目だ、そんなことをしたら死んでしまうんでしょう!?」

『それでも良い…っ! 誰か、代わりに、仮面ライダーに』

「だが…そうしたら、彼女は…」

 医師の言葉に、彼は仮面の中で唇を噛み締めた。
 ドアに入ったヒビが広がり…遂に、大きな穴が空いた。

『逃げて…逃、げ…』

「…こ、これは…?」

 病室に飛び込んできたのは、銀色の小さな一角獣であった。

「えっ…ロボット…?」

『? …!』

 どうにか顔を上げた仮面ライダーと、一角獣の銀の瞳がぶつかった。一角獣はその場で膝を曲げると、大きく飛び上がった。

「うわっ!?」

『…』

 その脚が折り畳まれ、背中から赤いガイアメモリが姿を現す。そこには、虫眼鏡めいた意匠で『Q』の文字が記されていた。
 仮面ライダーはそれをキャッチすると、ドライバーに挿し込んだ。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 20:44:18.65 ID:QEVssDs90



『クエスト』


150 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 20:45:10.20 ID:QEVssDs90
 留置所で、朝塚は座り込んでじっと黙っていた。
 逮捕はされたが、警察は蜜屋のことも調べると言ってくれた。今は、待つしか無い…

「…」

「…朝塚ユウダイは、とんだ落ちこぼれだったわ」

「!?」

 後ろから聞こえてきた声に、彼女ははっと振り返った。
 そこには、件の蜜屋志羽子が、邪悪な笑みを浮かべて立っていた。

「蜜屋っ…ど、どうしてここに」

 ここは、北風署の留置所である。鍵も見張りもある部屋に、どうやって入ってきたのだろう。
 見ると、見張りの警官は、格子の前で倒れている。

「優秀な運び屋がいるのよ。…それにしてもユウダイ。おつかいもこなせないだけでなく、預けたガイアメモリを、よりによって母親に売りつけるなんて」

「お前が…お前のせいで…!」

 掴みかかった朝塚を、蜜屋は軽く一蹴した。

「ああっ!?」

「子が子なら、親も親。後先考えず、目の前の課題しか考えられないのは一緒ね。…折角だから」

 蜜屋は、スーツのポケットから黄色と黒の縞模様のガイアメモリを取り出した。そこには、蜂の巣めいて並んだ六角形に、一匹の女王蜂が描かれていた。

「母親失格のあなたに、最期の授業をしてあげましょう。科目は、ガイアメモリの使い方」



『クイーンビー』



 結った髪を解き、後頭部にメモリを挿入する。たちまち蜜屋の姿は、女性的な体型をした蜂の怪人へと変貌した。その体には、蜂の巣めいた六角形の装甲や、琥珀色の装飾、更には虹色の翅と、随所に高貴な意匠が施されていた。

「ひっ…」

 後ずさる朝塚に、歩み寄る女王蜂。彼女は何処からともなく、紫色のメモリを取り出した。

「アコナイトメモリは、有効活用すれば町一つ簡単に滅ぼせる。今回は、あなたのような落ちこぼれにも、それが可能になるものを用意したわ」

 そう言うと、更にもう一本、メモリを掲げる。しかしそれはまだプロトタイプらしく、外装も何もない、基盤と端子だけの代物であった。

「嫌…来ないで…」

「さあ…せいぜい、試作品の力を見せて頂戴」

 朝塚を壁に追い詰めると、クイーンビードーパントはその顎を掴んで上を向かせた。そして、露わになった生体コネクターに、2本のガイアメモリを無理やりねじ込んだ。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 21:59:36.99 ID:QEVssDs90



「いやああっっ!! …あああぁぁあぁああぁぁっ!!」



「!?」

 警察署から病院に戻ろうとして、リンカは立ち止まった。背後で轟く、女の絶叫を耳にしたからだ。
 すぐに引き返した彼女が目にしたのは、警察署の奥から凄まじい勢いで伸びてくる、灰色の根と紫の花びらであった。

「な、何が…ああっ!?」

 猛毒の根がすぐ横を掠め、リンカはバランスを崩した。見ると、建物にいた人々が一斉に外へと逃げ出している。逃げ遅れた人は、追い詰められるか、根に刺されて倒れている。

「このままでは…」

 Xマグナムを抜き、ミサイルメモリを装填する。そのまま何度も引き金を引くが、爆破された側から根が伸びて、壁や床を埋め尽くそうとしていた。
 そして遂に、リンカは受付カウンターの前に追い詰められた。

「…」

 銃を構え、蠢く植物を睨む。彼女の頭の中では、この場を切り抜ける方法を探しながら、一方で半ば諦めに近い感情を覚えていた。走馬灯のように浮かぶのは、俺に任せろと言ってのけた力野徹の、精一杯強がった笑顔であった。

「…?」

 おかしい。根が、動かなくなった。不審に思い、周囲を再度確認するリンカ。そして、警察署の入り口に、彼女は見た。



「…まだ、間に合うか?」



152 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:00:04.75 ID:QEVssDs90
 汗みずくの病衣の上から、ライダースジャケットを羽織り、ゆっくりと署内に踏み入ってくる、一人の男。
 そしてその横を歩く、小さな一角獣。

「!」

「! リンカ、ここにいたのか!」

 彼が、徹が駆け寄ってくる。不思議なことに、彼と一角獣の歩く道からは、毒の根は恐れをなすように離れていく。

「徹…っ!」

 ほとんど無意識に、彼女は彼の胸に飛び込んだ。徹は驚いたように彼女を受け止めると、ぎこちない手で彼女の背中を叩いた。

「…悪い、待たせた」

 リンカの体を離し、後ろを振り向く。
 彼の目線の先では、根や花びらが一ところに集まり、人の形を形成していた。

「あ…あ、あああっ…ああああっ…!」

 唸りながら、それはどんどん膨れ上がっていく。

「こいつは…」

「『アコナイト』…トリカブトのドーパントです。根は猛毒です。気をつけて」

「毒、か。…丁度良い!」ファンタジー!

 徹は変身すると、魔術師の姿をとった。

「ああああっ! ああああああっっ!!!」

 アコナイトドーパントが、巨大な腕を振り回した。それを空中に出現させた防壁で受け止めると、ファンタジーは片手を差し上げた。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:01:05.81 ID:QEVssDs90
『来い、『メモコーン』!』

 すると、彼の足元に控えていた一角獣が、彼の掌の上に飛び上がってきた。
 彼は小さな獣の背中を上から押し、細い脚を折り畳むと、後ろの脚をくるりと回転させた。すると、ジャックナイフめいて背中から赤いガイアメモリが飛び出してきた。

「あのメモリは…」

 ファンタジーメモリを抜くと、代わりに赤いメモリを装填し、展開した。一角獣の体は、銀と赤のグリフォンの頭部に変形し、ドライバーと一体化した。

『クエスト』

 ファンタジーの体を、赤い閃光が包み込む。光は肩や腕、そして頭部に収束し、深紅の装飾となった。

『俺は、仮面ライダーファンタジー…ファンタジー・クエストだ!』

 右手を掲げると、赤と銀の杖が出現した。それを振るうと、ドーパントの動きが止まった。

『トリカブトの毒に、治療法は無い…だが、熱と圧力をかければ毒は弱くなる!』

 杖から炎が迸り、もがくドーパントを包み込んだ。その球が、見る見る内に小さく縮まっていく。
 やがて炎が消えた頃、ドーパント本体を包んでいた根や花びらは、焼け焦げて炭と灰になっていた。

『トドメはこっちだ…』

 メモリを抜くと、クエストメモリを引っ込め、今度は一角獣の角を回転させた。すると、今度は首から青いメモリが現れた。こちらにはシャムシールめいて『S』の字に湾曲した、、一振りの剣が描かれていた。
 青いメモリを装填し、展開する。今度はユニコーンの頭部となってドライバーと合体した。

『セイバー』

 ファンタジー姿が騎士に変わる。その鎧には、青い綺羅びやかな装甲が追加されていた。
 杖が変形し、銀と蒼の長剣に変わる。

『仮面ライダーファンタジー・セイバー…!』

 長剣の鍔を、ドライバーの前にかざす。

『セイバー! マキシマムドライブ』

『セイバー・ジャスティスラッシュ!!』

 青い剣閃が、ドーパントを一刀のもとに切り裂いた。

「あ、ぁ…」

 灰の中で、一人の母親が倒れた。その喉から、紫色のメモリと、壊れた基盤が吐き出された。

「あれは…?」

 リンカが手を伸ばすより先に、それは紫のメモリと共に、粉々に砕け散った。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:02:21.09 ID:QEVssDs90
『Qを掴み取れ/小さな英雄』完

今夜はここまで
あと、これから更新頻度が落ちます
155 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/16(火) 22:10:59.35 ID:QEVssDs90
『アコナイトドーパント』

 『トリカブト』の記憶を内包するガイアメモリで、主婦の朝塚が変身したドーパント。紫色の花びらと、灰色の根に覆われているが、本体は緑の細い茎のような形をしている。実際のトリカブト同様、全身が猛毒であるが、特に根に強力な毒を持っており、これで刺されたり、掠っただけでも生身の人間なら即死する。また、花びらを空中に散布して不特定多数の人間を毒殺することも可能。ただし、蜜屋への復讐だけが目的の朝塚はこの力は用いなかった。
 蜜屋以外の人間をできるだけ害したくなかった朝塚であったが、他ならぬ蜜屋の手によって、このメモリと一緒に試作品のX_t___メモリをねじ込まれ、無差別に人を毒殺する凶悪な怪物へと成り果ててしまった。
 メモリの色は紫。正面から見たトリカブトの花がアルファベットの『A』に見える。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/17(水) 02:02:37.44 ID:CaX8HfSx0
ガーディアンメモリ
守護者の記憶が内包されたメモリ
その最大の特徴は使用者のなにかを護りたいという気持ちが強ければ強いほど力を発揮する
また護りたい対象が具体的であれば更に力を増し、対象は人物だけでなく物や場所にも及ぶ
157 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 13:19:29.74 ID:aiqpPaVc0
「乾杯」

 そう言って徹とリンカは、缶ビールを打ち合わせた。
 ちゃぶ台の上には、漆塗りの豪勢な寿司桶が鎮座している。リンカが、徹の快気祝いにと出前を取ってくれたのだ。本当は、植木が彼らにご馳走すると言っていたのだが、アコナイトの件で北風署が大きな被害を受けてしまい、それどころでは無くなってしまった。

「何か、悪いな。こんな高そうな飯用意してもらって」

「植木警部から、資金は頂いてます。差額は財団の経費で落ちますので、ご心配なく」

「そ、そうか…」

 平然というリンカに、少し恐縮しながらも、彼は玉子を取って醤油につけた。
 彼らの足元には、銀色の小さな一角獣が座っていて、静かに眠り込んでいる。

「こいつも、何か食わないのかな」

 それを眺めて、ぽつりと零す徹。
 彼の名はメモコーン。リンカが財団Xに要請した、追加支援の内容がこれであった。今はペット型ロボットのように自律して動いているが、その体には2本のガイアメモリが内蔵されており、徹の変身する仮面ライダーに新たな力を授けるのだ。

「メモコーンに食事の必要はありません」

「そうは言ってもなぁ…」

 玉子の端をちぎって、メモコーンの鼻先に差し出してみる。

「ほれ、食うか」

 ところが、メモコーンは少し頭を上げると、ぷいと顔を逸らしてしまった。彼はそのまま立ち上がると、リンカの足元へ移動し、そこでまた眠りに戻った。

「な、なんかコイツ、リンカの方に懐いてないか…?」

「恐らく、『ユニコーン』のガイアメモリが部品に使われているのでしょう。一角獣は、処女を好むと聞きます」

「なるほど……ん?」

「私には性交渉の経験が無いので、メモコーンが」

「わ、分かった! もう良い、分かったから」

 慌てて止めると、彼は寿司桶を彼女の方へ押しやった。

「ほら、あんたも食べてくれよ」

「そうですか」

 リンカは頷くと、鉄火巻きを箸でつまんだ。徹もマグロを口に入れながら、漠然と何か足りないような感覚を覚えた。とは言え、それが何か大変なことになるという気はしない。彼は無視して、目の前のご馳走を堪能することにした。
158 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 14:03:13.68 ID:aiqpPaVc0



 一方その頃。徹の住むアパートに寿司を配達した若い板前が、空き地にミニバイクを停めて黄昏れていた。

「はぁ…来る日も来る日も、配達ばかり…」

 寿司屋に弟子入りして、もう4年になるというのに、一度も包丁を握らせてもらえないのを彼は嘆いていた。大将は何を考えているのだろう。自分には、素質が無いのだろうか。そんなことを考えながら、バイクのシートでぼんやりと夜空を眺めていた。

「…」

「お〜に〜い〜さんっ」

「っ!?」

 耳元で囁く声に、彼は飛び上がった。振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。何やら生臭い匂いのするジャケットを羽織った少女は、彼に悪戯っぽい笑みを向けた。

「元気無いね、どうしたの〜?」

「…どうだって良いだろ」

「当てよっか。…折角、修行して立派なお寿司屋さんになりたいのに、いつまで経っても雑用ばっかり。自分、向いてないのかなぁ〜? なんて」

「っ、お前に何がっ…!」

「コツコツ努力なんて、向いてない向いてない。君に必要なのは…」

 言いながら彼女は、何処からともなく黄緑色の小さな機械を取り出し、彼に握らせた。

「…こっち。使ってごらん、君が、本当に必要なものが分かるかも」

 それだけ言うと、少女はさっさとその場を立ち去ってしまった。
 取り残された板前は、恐る恐るその機械を、電灯の下にかざした。そして、表面に付いたボタンを押した。



『ワサビ』


159 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 14:11:28.84 ID:aiqpPaVc0
そうです。ギャグ回です。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 19:06:46.01 ID:4gkbdv+q0
親子丼は強かったし食べ物系は強いかも?
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 19:07:10.88 ID:v/C1Q2Na0
ソイソースメモリ持ってこないと
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/20(土) 20:39:29.03 ID:aiqpPaVc0
 携帯の着信音で、徹は目を覚ました。はっと外を見ると、まだ暗い。時計は午前4時を指していた。

「な、何だこんな時間に…」

「植木警部からのようです」

 枕元には、既に外出の準備を整えたリンカが立っていた。彼女が差し出したスマートフォンを受け取ると、彼は耳に当てた。

「何ですか? ドーパントですか?」

”そうだ”

「!」

 冗談半分に訊いたのに、間髪入れずに肯定されて、徹は一気に頭が醒めた。

「ど、どこに」

”吹流4丁目の空き地だ。周囲に、毒ガスを撒き散らしているらしい”

「4丁目!?」

 吹流4丁目と言えば、このアパートのある一帯だ。徹は通話を続けながら、カーテンから外を窺った。

「と、とにかく向かいます。警察の皆さんは、住民の避難を」

”既に向かっている。君も、気を付けて向かってくれ”



 徹はアパートを出ると、ドライバーを装着してバイクに跨った。タンデムシートにリンカが座ると、メモコーンも後からついてきた。

「やっぱりこいつ、リンカがお気に入りじゃねえか…変身」ファンタジー!

『…ま、良いか。しっかり付いてこいよ!』

 ファンタジーはアクセルを吹かした。鋼鉄の白馬が、明け方の住宅街に鋭く嘶いた。

 走り始めると、すぐに彼は違和感に気付いた。

『何か…空気がおかしいぞ』

「…」

 後ろのリンカは、黙ったまま彼の腰にしがみついている。その様子にも何か違和感を感じて、ファンタジーは心の中で首をひねった。
 空き地の数十メートル手前で、警察がバリケードを張っていた。

「…あっ、お疲れ様です!」

 警備に当たっていた警官が仮面ライダーに気付き、敬礼した。

『どうも…これは、一体?』

 バイクを降りながら尋ねる。植木が毒ガスと言っていたように、彼もマスクを数枚重ねて着用していた。

「向こうでドーパントが暴れて、と言うか、何かを撒き散らしているようで…ジョギングしていた男性が、それを浴びてしまい」

 警官の指す方を見ると、ブルーシートの上で高齢の男性が目と鼻を押さえてのたうち回っていた。むせながら、「は、鼻が…」とうめいている。

『毒か…リンカ、どう思』

 振り返って、ぎょっとした。
 リンカは、真っ赤に腫れた目で、助けを求めるように彼を見つめていた。しかも、大粒の涙をぽろぽろと零している。

『ど、どうしたんだ!?』

「…駄目です」

『何が』

「私は、これが非常に苦手です」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/20(土) 20:39:54.90 ID:aiqpPaVc0
『苦手…? とにかく、そこにいてくれ』

 ファンタジーはそう言付けると、バリケードを越えて空き地に入った。

『ドーパント、観念しろ!』

「…! 仮面ライダー…」

 空き地の真ん中で、両腕を広げて天を仰いでいたドーパントは、ファンタジーの存在に気付くと顔をそちらに向けた。
 黃緑色の、ごつごつした体をしており、頭に当たる部分からは濃い緑色の茎と葉が伸びている。モチーフは植物のようだ。モアイ像めいて横に開いた口と思しき穴からは、呼吸に合わせて白い煙が細々と立ち上っていた。
 ファンタジーは剣を出現させると、両手に握ってドーパントに向けた。

『メモリを捨てて、自主しろ』

「い、嫌だ…」

 ドーパントは後ずさると…いきなり、白い煙をファンタジー目掛けて噴射した。

「喰らえーっ!!」

『うわっ、何だこれ!?』

 煙を顔に浴びてしまい、ファンタジーは怯んだ。更に次の瞬間

『……あ゛っ!? こ、これは…ごほっ』

 突き刺すような冷たい刺激が、彼の鼻と喉を襲った。仮面の奥で涙が溢れ、視界が歪む。と同時に、彼は今まで感じてきた違和感、それも、昨夕寿司を食べていた時のものに至るまで、全ての正体を理解した。

『これっ…ワサビかっ!!?』

「寿司なんて…寿司なんてーっ!」

 叫びながら、ワサビドーパントが突進してきた。彼は、ワサビの根のような指を突き出すと、ファンタジーの顔に擦りつけた。
 騎士の兜に指先がすりおろされ、ファンタジーの目や鼻を襲う。

『あ゛あっ! やっ、やめろっ…お゛えっ、ごほっ』

 凄まじい刺激に、ファンタジーは腕を振り回して抵抗する。ワサビドーパントとはふざけた敵だが、この刺激は純粋に恐ろしい。何しろ、目と鼻が潰される上、呼吸もままならなくなるのだ。
 とうとう、ファンタジーは地面にうずくまった。

『うっ…げほっ、ごほっ…』

「や、やった…仮面ライダーを倒したぞ…」

 頭上で、ワサビドーパントの声がする。

「この力があれば…おれだって…うわあっ!?」

 ところが、その言葉は途中で遮られた。向こうの方から、リンカの叫ぶ声がする。

「メモコーン! 彼を助けて!!」

 うずくまるファンタジーの肩を、一角獣の角が手荒く突いた。

『っ、分かってる!』

 ファンタジーはそれを受け取ると、変形させ、赤いメモリをドライバーに装填した。

『クエスト』

 ファンタジーが、白い法衣に赤い装飾を纏った魔術師の姿となる。彼の視界が、一気に開けた。

『はあっ…ワサビの辛さは、揮発性だ…熱すれば、飛んでいく…!』

 よろよろと立ち上がると、おののくドーパントを真っ直ぐに睨んだ。

『お前が何を恨んでるのか知らないが…こんな力で人を害するのを、見逃す訳にはいかない!』

 赤と銀の杖を振りかざす。

『大人しく、メモリを』

「嫌だっっ!!」
164 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 21:07:09.51 ID:aiqpPaVc0
 ドーパントが叫んだ、次の瞬間

『あああっ!?』

 その体中から、濃い白色の煙が噴き出した。今なら分かる。それは、細かくすりおろされた、ワサビの粒子であった。

『あっこらっ! 逃げ、げえっ、え゛ほっ…』

 熱で刺激を無効化しようとする間に、ドーパントの姿は白い煙の中に消えてしまった。



 もう、夜も明けてきていたその頃。ワサビ怪人に苦戦する仮面ライダーの姿を、物陰で見ている者がいた。そう、あの若い板前にワサビのガイアメモリを渡した、例の少女である。彼女は目と鼻を分厚いタオルで覆っていたが、周囲の様子を正確に把握しているようであった。

「へぇ〜、小バエから奪ったメモリにしては中々やるじゃ〜ん」

 少女…ミヅキの服は、血で汚れている。今まで着ていた白のロリータ衣装とは違うこの服は、メモリの密売人から奪ったものであった。
 仮面ライダーに雁字搦めにされたところを、女王蜂のドーパントに救われた。しかし女王蜂は、彼女を『お母様』の下へは返さず、鎖さえ解かずに自分のところに監禁していた。そうしてミヅキの接触した仮面ライダーの変身者について聞き出そうとした。しかし、彼女は何も覚えておらず、呆れた女にそのまま放置されていた。つい先日、他から情報を手に入れた女に、思い出したように解放されたが、それまで彼女は、一度もトイレに行くことができなかった。
 彼女は汚れた服を捨てると、裸で街を徘徊した。そうしてメモリの密売人を発見すると、襲撃し、服と売り物のメモリを強奪した。そうして、自身のガイアメモリを取り返すべく、行動を開始したのであった。

「…それに、あたしのメモリを奪ったやつも見つけた。もうちょ〜っと、良いところに行ってくれないかな〜…?」

 呟きながら彼女は、目が塞がった状態のまま、正確にワサビドーパントを追いかけ始めた。
 密売人を襲ったとき、当然彼らはホーネットメモリで応戦した。しかし、極限以上にメモリを使い込み、生身でも超人的な力を発揮するようになっているミヅキには、練度の低い雑魚ドーパントなど敵ではなかった。
165 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 21:08:20.51 ID:aiqpPaVc0
『Wのから騒ぎ/意外な弱点』完

今日はここまで
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 21:16:42.64 ID:/XmhJ92A0
167 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 23:25:16.85 ID:aiqpPaVc0
『北風町』

 風都に隣接する、人口3万人弱の町。企業のオフィスを多く有する風都のベッドタウンとして機能している一方で、街のイメージダウンに繋がるとして、風都が条例で禁じたもの、例えば産業廃棄物の処理施設や、風俗店などが押し付けられる形でこの町に集中している。そのため、この町で生まれた人間は風都に対して良い感情を持っていないことが多い。
 内陸に位置しており、海は無いものの、町の北側を占める山からは川が流れており、地下水も豊富。住宅街の建設で以前より大幅に減少したものの、今でもこの地下水を利用した、野菜や特産品の蕎麦栽培が盛ん。名物はかけ蕎麦に白髪ネギをどっさり盛って、おろし生姜を添えた北風蕎麦。住宅街の片隅にぽつりと建つ蕎麦屋『ばそ風北』は、根強いファンの多い隠れた名店。

 ミュージアムは、この北風町にもガイアメモリ製造工場を建設した。ミュージアム壊滅後も工場は稼働しており、風都近辺にいた密売人の残党がこの町に集まってきている。また、何処からともなく現れた新興宗教『母神教』と結びついて、この町にガイアメモリ汚染を広げている。



 ___この街には、いつも冷たい風が吹く。
168 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:36:50.23 ID:iu6E2u8G0
「…あんた、ワサビ駄目だったんだな」

「…はい」

 今まで見たことのない暗い顔で、リンカは頷いた。
 北風署の応接室。現場から二人を案内した坂間という刑事は、容疑者の情報を入手しにどこかへ行ってしまった。
 昨日、寿司を食べながら徹が感じた違和感。それは、全ての寿司にワサビが入っていないことであった。

「私は基本的に食に関して、知識はありますが特に関心があるわけではありません。これと言って嫌悪する食材もありません。が…」

「ワサビは食えない、と」

「…はい」

 俯いたまま涙ぐむリンカを、徹は慌てて慰めた。

「いや、そんな気にするなって…誰だって、好き嫌いの一つや二つあるだろ。それに、最近はワサビ嫌いな大人も多いって聞くし…」

「…徹は?」

「…俺はイケるけど」

「…」

 この世の終わりのような顔で、ローテーブルの上を凝視するリンカ。徹はおろおろしながらそれを見ていた。
 そこへ、坂間が戻ってきた。

「現場に残された宅配用バイクの持ち主が割れた……ん? どうしたんだ、二人共?」

「あっ、いや、気にしないで」

「そう…?」

 彼は2人の向かいに腰を下ろすと、数枚の書類と写真をテーブルに広げた。

「バイクは北風町にある、『潮風寿司』という寿司屋のものだった。大将の話では、昨日の夕方に寿司の出前に行った若い板前が、まだ戻ってきてないらしい」

「…えっ?」

「その板前、どこに寿司を運んでたと思う?」

 大真面目な顔で問うてくる坂間に、徹は唾を呑んだ。

「…ウチ、です」
169 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:37:17.74 ID:iu6E2u8G0
「そう、メゾン・ド吹流202号室。つまり力野徹宅、あんたの家だ。…」

 彼は、顔写真の添えられた1枚の紙を取り上げた。

「生島彰二、22歳。18歳の頃に潮風寿司の店主に弟子入りし、修行してきた。だが、4年経った今でも寿司の皿洗いと配達しか任されなかったらしい。あんた、顔見たんだろ?」

「見はしましたけど…」

 顔写真と、昨夜の記憶を比較し、彼は首を横に振った。

「玄関先で、一瞬だけだったので…」

「その時はガイアメモリによる中毒症状らしきものはありませんでした。恐らく、帰宅途中に密売人と接触し、メモリを入手したものと思われます」

「どうだか…」

 疑わしげにリンカを見る坂間。どうにもこの刑事、彼ら2人のフリー記者には良い感情を持っていないようだ。

「ま、大将への恨みが原因なら、近い内に寿司屋に現れるだろう。もう警備は送ってあるから、何かあったら連絡する」

 そこまで言うと、彼はもう帰れと言わんばかりに部屋の出口を視線で指した。
 2人は、軽く会釈して立ち上がり、警察署を後にした。リンカはもちろん、力野も気にする様子はない。得体の知れないフリー記者を好む人種なんて、地球上にいるはずがない。この程度の扱いは、彼にとって日常茶飯事であった。



「そんな、とんでもねえ」

 リンカの差し出した封筒を、潮風寿司の大将は固辞した。
 ワサビドーパント…恐らく生島が、ご丁寧に受け取った代金を持って逃げていたため、店に寿司代が支払われていなかったのだ。
 潮風寿司。北風町にある老舗の寿司屋で、店内での食事はもちろん、出前も受け付けている。老舗ながら新しいものも積極的に取り入れるスタイルで、趣向を凝らした寿司は若者にも人気があった。

「ウチのもんが迷惑かけたってのに、金なんて貰うわけにはいかねえよ」

「いえ、そう言わず」

「災難はお互い様ですから」

 二人がかりでどうにか封筒を握らせると、徹は警備に当たる警官をちらりと窺い、それから大将に尋ねた。

「あれから、店に何か連絡は」

「何もねえ」

 大将は、溜め息を吐いた。

「…あンの馬鹿野郎。ここんとこ仕事に身が入ってねえと思ってたら、こんな悪いことしやがるなんて…」

「生島さんは、ここに就職して4年だそうですね」

「ああ。ショージの奴…魚触れねえからって焦ってやがったが…」

「失礼ですが、雑用ばかりだったと」

「雑にやるから雑用なんだ。掃除、皿洗い、配達…やりようで、そこから学ぶことがたーくさんあるってのに、それが奴には分かってなかった」

「なるほど…」

 職人の世界には疎い徹であったが、生島の勤務態度には大将も思うところがあったようだ。

「何より…サビ抜きで握る俺を見て、鼻で笑いやがった。送り出す前に、そいつを説教したんだ。そしたら、こんなことになっちまって」
170 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:37:47.58 ID:iu6E2u8G0
「…」

 気まずそうに視線を逸らすリンカ。大将は、悲しげに顔を覆った。

「…何がいけなかったんだろうな」

「とにかく今は、彼が現れるのを待ちましょう」

 徹は、励ますように言った。



 数時間後、警官のトランシーバーから声がした。

「はい、こちら現場前…えっ、北風署に!?」

「何があったんですか」

 徹が尋ねると、彼はパトカーに向かいながら答えた。

「例のドーパントが、北風署に現れたと」

「えっ、そっちに!?」

「とにかく、向かいましょう。力野さんも」

「はい。…」

 パトカーに乗り込もうとした徹の後ろから、突然、大将が叫んだ。

「…おい、俺も行くぞ!」

「すみません、危険なので…」

「だが、奴は俺のとこのもんだ。俺が行かなくてどうする!」

「…行きましょう、大将」

 徹は後部座席に座って、手招きした。そうして、リンカに向かって言った。

「リンカ、ここに残ってくれるか」

「…はい」

 小さく頷くリンカ。2人の警官と、徹、そして潮風寿司の大将を乗せ、パトカーはサイレンを鳴らしながら走り出した。



 徹たちが到着した頃、北風所では既に多くの職員や警官が逃げ出しているところであった。
 パトカーを降りた瞬間、あのツーンと来る匂いが彼らの鼻を突き刺した。

「くっ…早速やってるな」ファンタジー!
171 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:38:38.82 ID:iu6E2u8G0
『今度はヘマはしないぞ』クエスト!

 変身し、署内に踏み入ると、白い煙の中にワサビの怪人が立ち尽くしていた。

『おい! もう逃さないぞ!』

 赤と銀の杖、クエストワンドを振りかざすと、周囲の煙が一気に晴れた。
 襲撃者の存在に気付き、ワサビドーパントがこちらを向いた。

「やっぱり来たか、仮面ライダー…っ!?」

「俺もいるぞ」

 仮面ライダーの後ろから、ゆっくりと進み出た大将に、ドーパントが明らかに狼狽の色を見せた。しかし、すぐに持ち直すと、強がるように言った。

「はっ、わざわざ縁を切りに来たのかよ。丁度良い…」

「こンの、大馬鹿野郎が!!」

 突然、大将がドーパントを一喝した。

「こんな、訳の分からねえ姿になって、人様に迷惑かけやがって……何より山葵を、人を傷つける道具にしやがった!!」

「だから何だ、あんたに言われたくはない!」

 ドーパントも、負けじと声を張り上げる。

「大体何だよ、サビ抜きなんてお子様舌に媚びやがって! 他にも、訳分かんないネタなんて握ってんじゃねえか! 何がアボカドだよ、何が…」

「だからてめえは、いつまでも雑用なんだよ!!」

『ちょっ、大将』

 止めようとするファンタジーを振り切って、彼はドーパントに掴みかかった。

「昔ながらの型に嵌まるだけが寿司じゃねえ! お客の好み、時代の流れは変わっていくんだ。それに応えてこそ、食べる人を喜ばせることができるんだろうが!」

 細い首を掴み、激しく揺する。

「てめえはよぉ! 配達に行く時に、寿司を受け取るお客の顔を、よく見たことがあるかよ! 寿司桶の中身を覗くお客の表情に、注意を凝らしたことが、一度でもあるのかよ!? 今運んでる寿司をどんな人が食べるのか、何が好みか、山葵は大丈夫か…4年の間、てめえは一度でもそれを考えたことはあるのかよ!!」

「…っ」

「寿司が寿司屋を創るんじゃねえ、俺たち寿司屋が、寿司を握るんだ。…それを食べる人の、”美味い”って幸せを創るんだよ!!」

「…う」

 大将の言葉に、ドーパントは震える声で何か呟いた。

「…どうした、何か言ってみろ」

「…うあああああっっ!!!」

 突然、ドーパントが絶叫した。叫びながら、ワサビの煙を体中から噴き出した。

『大将、危ない!!』

 咄嗟に防壁を展開するファンタジー。ところが、大将は動じず、唸るように言った。

「効かねえ…使い方を弁えねえ山葵なんて、これっぽっちも効くかよ…!」

『大将、もう逃げるんだ!』

 ファンタジーは彼の体を掴むと、警察署の外に向けて放り投げた。杖を振ると、大量の白と赤の羽毛が噴き出して、大将の体を受け止めた。

『…もう、諦めろ』

 彼は、クエストワンドをドライバーの前にかざした。

『クエスト! マキシマムドライブ』

 白いマントが翻り、彼の体を包み込む。次の瞬間、ファンタジーは白と赤のグリフォンの姿となり、空中へ舞い上がった。

『クエスト・ラストアンサー!!』

 白と赤の流星が、ワサビドーパントを貫く。

「ぐ、ああああっっ!!」

 ワサビドーパントの体が爆ぜた。
 爆炎が収まったとき、そこには一人の青年が立っていた。彼は、再び駆け寄ってくる大将を見ると、涙を流した。

「大将…おれ…」
172 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:39:10.82 ID:iu6E2u8G0
「…もう、懲りただろ」

 倒れ込む青年の体を、彼は抱きとめた。左の掌から黄緑色のガイアメモリが抜け、床に落ちて砕けた。

「罪を償って、帰ってきたら…寿司を握って、食わせてやるよ。お前に必要なものが、少しでも分かるように…」

『ひとまずこれで、一件落着…』

 そこへ、一人の警官が駆け込んできた。

「大変です! 寿司屋の方で、リンカさんが…」



 寿司屋のカウンターに座って、リンカは考え込んでいた。

「ワサビ…それに、先日のアコナイト」

 これらのメモリは、財団のリストにもある、ミュージアムが作ったガイアメモリだ。思えば、新造メモリを使っていたのは、工場の長に、今まで意識不明だった筈の密売人と、状況が特殊な人物たちだ。まだ売買の対象にはなっていないのかも知れない。それに何より、アコナイトと一緒に挿入された謎のプロトタイプ…

「! もし、あのワサビドーパントにも同様のメモリが使われていたら」

 徹が危ない。そう思い、立ち上がったその時

「はい、プレゼント〜」

「なっ……ん゛っ!?」

 彼女の視界が、緑に染まった。と思う間もなく、彼女の嫌うあの感覚が、鼻を突き抜けた。

「う゛っ…あ゛っ、え゛ほっ…」

「特製のワサビパイ、良いでしょ〜」

「その声っ…うぐっ」

 彼女の顔に張り付いているのは、夥しい量の練りワサビであった。どうにか拭い取ろうとする彼女の腹に、膝蹴りがめり込んだ。

「がはっ…」

 倒れ込むリンカ。声の主は、彼女を一度無視して、彼女の所持する鞄を漁り始めた。

「ちょ〜っとエッチしてあげたら、馬鹿みたいに言う事聞いたね、あのワサビくん。ま、警察にあたしのメモリがあるなんて思ってないけど…」

 目当てのものを見つけたらしく、笑い声が聞こえた。

「あはっ、あった!」

 それから彼女はリンカの体を掴んで引き起こすと

「…ついでだし、君にはも〜っと苦しんでもらおうかな〜」

 更に山盛りの練りワサビの盛られた皿を、顔に叩きつけた。

「あ゛っ、あ、がっ…」

 皿を外すと、リンカの目や鼻に、執拗にワサビを塗り込む。

「あはははっ! いつも澄ました顔してるくせに、ワサビ一つでこ〜んなに可愛くなっちゃう!」

 突き刺すような刺激に呼吸もできなくなり、とうとうリンカは床に崩れ落ちた。

「あはははっ、ははっ…はははははっ…」

 ひとしきり笑い転げた後、ふっと彼女は笑みを消し、そして言った。

「…じゃあ、死ね」

 ズボンを下ろし、取り返したメモリを太腿のコネクターに挿そうと振りかざす。と

『そこまでだ!!』

「…チッ」

 そこへ飛び込んできたのは、仮面ライダー。しかも、見たことのない姿をしている。彼女は舌打ちすると、近くにあった窓を飛び蹴りでぶち破り、そのまま外へと逃げ出した。

『ああクソッ…リンカ、大丈夫か』

 仮面ライダーが、倒れるリンカを抱き起こす。彼女は目を真っ赤に泣き腫らしながら、口角を吊り上げた。
 そして、掠れた声で言った。

「ええ…心配、いりません」
173 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:40:06.99 ID:iu6E2u8G0



 公園の身障者用トイレに入ると、ミヅキは歓喜の声を上げた。

「やった〜、やっと取り返した…」

 その手に握られているのは、ピンク色のガイアメモリ。ラメやスパンコールでデコレーションされたそれには、両耳をぴんと立てた兎の頭部が描かれている。

「これで、お母様のもとへ帰れる…」

 言いながら、メモリのスイッチを押す。

『false』

「…ん?」

 不審に思い、もう一度スイッチを押す。

『false』

「あ、あれ? これ、あたしのメモリだよね…?」

『false』

 何度も押していると、突然、メモリから耳をつんざくモスキート音が流れ出した。

「あ゛あっ、ああああっ!?」

 メモリの影響で強化された聴覚に、不快な音声が大音響で突き刺さる。耳を塞いでのたうち回るミヅキの鼻先で、落としたメモリがパンと音を立てて弾けた。中に入っていたのは、『false:偽』と書かれた紙切れ。

「う…ああああああっ!! クソクソクソクソクソぉぉっ!!」

 ミヅキは叫びながら、偽メモリの残骸を両足で何度も踏みつけた。それから、やおらトイレの手すりを蹴り折ると、ズボンと下着を脱ぎ捨てて自らの股間に無理やりねじ込んだ。

「ああああっ! クソッ! あっ! ああああっ!」

 女性器から血が出るのも構わず、彼女は怒りに任せて、乱暴な自慰行為を続けたのであった。
174 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:41:28.44 ID:iu6E2u8G0
『Wのから騒ぎ/幸せを握る人』完

今日はここまで

ギャグ回って言った割にギャグが面白くないという
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 19:49:44.88 ID:XoK2IsJhO
ジオウの映画はよ見たい
オーマフォーム見たいよおおおお
176 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:49:48.89 ID:iu6E2u8G0
『ワサビドーパント』

 『山葵』の記憶を内包するガイアメモリで、寿司職人見習いの生島彰二が変身したドーパント。緑のごつごつした体に、頭からは濃緑色の茎と葉が生えている。自身の体を微粒子化して煙のように飛ばしたり、手を相手の顔に擦り付けることでワサビ独特の『ツーン』とくる刺激を与えるという、恐ろしいドーパント。あくまでワサビの刺激に過ぎないので、まともに喰らっても毒性は無いが、気道への刺激で呼吸ができなくなり、窒息死する危険性は否定できない。
 生島は比較的内気な青年であったが、内心ではワサビを食べられない客を見下したり、積極的に新しいネタを取り入れる大将に疑問を抱いていた。また、加えて大将に認めてもらえない劣等感がメモリの毒性によって増幅され、極めて攻撃的なドーパントとなってしまった。
 メモリの色は黄緑。山葵の地下茎と、それをすりおろした軌跡で『W』の字が描かれている。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 19:50:08.35 ID:pMAvYjIR0
NOTメモリさえあれば……
178 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 20:23:37.09 ID:iu6E2u8G0
方向性決めとかないとダレそうだな

↓1〜3で多い方 どっちから進める?

@ミヅキルート

A蜜屋・真堂ルート
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:36:41.19 ID:2/Pp3ZkQ0
1
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:50:05.32 ID:XZQ1eKADO
不遇なミヅキちゃん用に新ガイアメモリ案

ラストメモリ
7つの大罪の一つ「色欲」の力を宿す女性専用の強力なメモリ
芳香により周囲の人間に対して劣情を抱かせて支配する能力を持つ
(男性なら使用者を抱くためなら何でもする肉人形に、女性ならお姉様と呼んで盲目的に従う妹になる)
強力なメモリではあるが毒性も強く、使用者の精神を侵食しハーレムを作る事が目的とさせてしまう

ラビットからの派生でここまで考えてたけどラビットはRでラストはLだったわ・・・
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:50:38.81 ID:XZQ1eKADO
あ、1でお願いします
182 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 21:04:09.73 ID:iu6E2u8G0
(心配しなくてもミヅキちゃんの強化メモリはもう考えてある)

というわけでミヅキルートですね
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