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魔女娘「あなたは何ができるの?」サキュバス「うっふーんなこと」
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233 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/10/29(金) 17:23:33.07 ID:0q//zJcu0
魔女「けど、違った。無くなってるのに気づいたの。精気が――穢れが。だから軽くなった」
魔女「……ねぇ。あと何回こうすれば私の中から精気は無くなるの?」
サキュ姉「それは……」
正直驚いた。
魔女は私の正体を分かった上で私に会いに来ていた。
彼女の口ぶりから私の目的だって察しているのだろう。
目的とは、即ち精気を全て吸い取って彼女の魂まで奪うこと。
彼女は――魔女は自分を殺そうとしているのを分かった上で私に会いに来ていた。
サキュ姉「……あと……あと、本気を出せば次で最後」
魔女「本気……?」
サキュ姉「加減せずにってこと」
魔女「加減してたんだ」
サキュ姉「……だって、死んじゃうんだよ。私が精気を吸い取り切ると――!」
魔女「…………」
魔女は何も言わずに私の瞳をじっと見つめた。
彼女の瞳は深く、底なく。
234 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/10/29(金) 17:24:28.17 ID:0q//zJcu0
まるで深淵のような瞳に射抜かれて、身体が固まった。
そして魔女は口を開いた。
魔女「今更でしょ。初めて殺した人のことも覚えてないのに」
魔女「ねぇ何がそんなに怖いの?」
サキュ姉「怖い……?」
魔女「ん。だってさっきから身体が震えてる」
震え。
言われて気がついた。
恐ろしいのだと。
何が恐ろしいのかと問われれば――
サキュ姉「貴女が――」
魔女「私? ……違うでしょ。精気の中にある業でしょ」
サキュ姉「業……?」
魔女「気づいているでしょ。そんなに多くの精気を持っていて、気づいてないなんて言わせない」
魔女「多少の量の誤差あれど、基本人間は一人分の精気しか蓄えられないし、作り出せない」
魔女「精気は食べ物を――他者の命を摂取することで作り出される。その時容量以上には増えない」
魔女「分かる? ただ生きてるだけじゃ、何人分もの精気を孕むことはない。だけど例外がある――」
サキュ姉「……知ってる。罪を犯せばその分精気が増える」
魔女「罪……確かに罪」
魔女「――人を殺すことは立派な罪」
235 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/10/29(金) 17:35:26.01 ID:0q//zJcu0
サキュ姉「人を……待って、だったら……」
魔女「そう。おかしいと思わなかった? 精気を集めるだけなら殺す必要ない。八分目に留めておいてまた回復してから奪えばいい」
魔女「でも、貴女は殺してる」
サキュ姉「なんで……分かるの……?」
魔女「私より多くの精気を持っているから」
魔女「そんなに精気を抱えている理由は知らないけれど――それだけの物を抱えてよく正気でいられるなと思うよ」
魔女「――人を殺せば、殺した人間の精気を背負う」
魔女「それが精気の量が増える仕組み」
魔女「精気は増えれば増えるほど狂気を孕む」
236 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/10/29(金) 17:36:17.49 ID:0q//zJcu0
魔女「私には百人分の精気で限界だった。これ以上増やせば間違いなく廃人になる」
魔女「感謝してる。貴女が精気を吸ってくれているから、数年ぶりに意識がしっかりとしている」
魔女「私は思うの。私の罪を全て引き取ってくれるなら、殺されたっていいって」
サキュ姉「……」
サキュ姉「――でも、家族のことはどうするの……」
魔女「私がいなくてもやってけるでしょ。精気の狂気に当てられていたときに作った子どもと旦那。未練も執着もない」
サキュ姉「でも……そう、貴方にだってやり残したことあるでしょ。こんなところで死ぬなんて……」
魔女「そんなものないよ」
魔女「どうしたのさっきから……でもでもって、まるで私を殺したくないって言ってるみたいだけど」
サキュ姉「でも……」
魔女「なんで今更躊躇うの。貴女は私よりも多くの精気を抱えている――いっぱい殺してきたんでしょ」
魔女「躊躇わないでよ。私を楽にしてよ」
237 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/10/29(金) 17:36:54.72 ID:0q//zJcu0
魔女「私はね、狂ってるの。とっくに戻れないの。気を抜くとね、殺した母が! 妹が! それだけじゃない。名前も知らない私が命を奪った誰かが! 私のことを責め立てる!」
魔女「どうしてお前はまだ生きてるんだって! 早く死ねってみんなが私に指をさす!」
魔女「貴女も同じでしょ……ねぇ、分かるでしょ」
サキュ姉「わ、私は……」
別に誰かを殺したかったわけじゃない。
母のようになるために必要だったから、やっただけ。
私は淫魔の中では利口な方で、人間に対してリスペクトがあって。
だから殺したかったわけじゃ――
「嘘つき」
誰かが私に向けて言った。
238 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/10/29(金) 17:37:42.15 ID:0q//zJcu0
「嘘つき。お前は望んで私達を殺した」
サキュ姉「あ、ぁあ――」
重い。
心が耐えられないほど、重い。
「どんな文言立て並べたってお前が正当化されることはねぇ」
見ては駄目だ。耳を貸すな。
心が全力で拒否している。
「お前は自分の目的のために私達を騙して殺した」
サキュ姉「あああ、ぁああっ――」
けれど見てしまった。
今まで気づかない振りをしていたものを。
ずっと私に指を指していた。
ずっと私に囁いていた。
私が殺してきた人たちが――。
「「「ほんと、シネよ」」」
サキュ姉「ああああっあああぁあ!!!」
死ねよ、と。
その言葉を掻き消すように叫んだ。
何人も――何人も何人も!
私が今まで奪ってきた重みが私を押しつぶす。
耐えられない。
耐えられない耐えられない。
239 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2021/10/29(金) 17:38:29.29 ID:0q//zJcu0
罪だ。罪の重さだ。
あと少し。あと少しで必要な精気を集め終わる。
でもその少しが集められない。
人を殺すことがこんなにしんどいことだとは思わなかった。
これ以上、私は――
魔女「落ち着け!」
サキュ姉「まじょ……?」
魔女「深呼吸しろ。そいつらにお前のことをどうこうする力はない」
魔女「そいつらは死んでる。お前は生きてる。それが全てだ」
サキュ姉「でも……でも……わたしは……」
魔女「……気持ちはわかる。けど、今更止まるの? 止まれるのか?」
魔女「ここで止まったら今までしてきたことが全て無駄になる」
魔女「目的があるんでしょ。どうしても叶えたいんでしょ。じゃなきゃそんなに精気は集められない」
魔女「ねぇお願い――私も殺して」
サキュ姉「うっ……あうぅ」
目的なんて言われても、こんな思いをしてまで叶えたいものじゃない。
今なら母がどうして止めたか分かる。
でも、今更止まることはできない。彼女の言葉の通りだ。
――今更、止まれないのだ。
240 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/10/29(金) 17:39:14.54 ID:0q//zJcu0
サキュ姉「殺すの……私が……?」
魔女「そう」
魔女は短く肯定するのみ。
本音を言うとまだ殺したくないと思っている。
でも、あと少しなのだ。
あと少しで私の夢が――母のようになるという夢が叶う。
そして魔女は、殺されてもいいと言ってくれている。
サキュ姉「はは――はははっ!」
魔女「……?」
魔女が怪訝な顔を浮かべているというのに、私は高笑いを止めることができなかった。
私はとっくに狂っている。
うじうじうじうじと悩んで……なんで今更常人のフリを出来ようか。
私の夢を遮るものはない。
だったら、やるしかない。
もう今更止められないのだから。
241 :
◆TEm9zd/GaE
[saga]:2021/10/29(金) 17:40:06.64 ID:0q//zJcu0
私は高笑いを上げたまま立ち上がると、脱ぎ捨てられた外套の中から手鏡を取り出し、魔女へと差し出した。
サキュ姉「これ」
魔女「鏡……? これがどうしたの?」
サキュ姉「持ってて。妹から貰った大切なやつ」
魔女「どうして私に……って聞いてもいい?」
サキュ姉「私が逃げ出さないため。あなたを殺したら、返してもらうわ。だから肌見放さず持ってて」
魔女「……わかった」
魔女は私からまるで宝物でも受け取るかのように仰々しく受け取ると、絶対に離さないとばかりにぎゅっと握りしめた。
魔女「貴方だと思って大切にする」
サキュ姉「ははっ、そうしてくれると助かります」
魔女はまじまじと鏡を見つめている。
その顔は私が今まで見たことのないくらい誰よりも綺麗で……
魔女(ああ、そっか……)
今まで見たことないくらいなんて当たり前だ。
死を覚悟し受け入れてる人間の顔は初めて見るのだから。
私は、次に彼女と会うとき――彼女を殺す。
242 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:31:56.96 ID:C9C5IjNN0
少しして男が現れた。
男「後どれくらいで終わりそうだ」
男は挨拶もなしにいきなり切り出した。
タイミングの良さに舌を巻く。
少し前まで魔女がいたのだが、よく出くわさなかったものだ。
……と思ったが、男の方でタイミングを見計らっただけか、と思い直す。
サキュ姉「次で決める」
男「そりゃいい。やっと終わる」
サキュ姉「ほんと、やっと――」
男「おっと感慨にふけるのはまだ早い。集めた精気を始祖のサキュバスの遺骸に捧げないと、世界催眠は手に入らない」
サキュ姉「……その始祖のサキュバスの遺骸っていうのはどこに?」
男「淫魔の里の地下。詳しい場所もわかる」
サキュ姉「ほんとうに地下にあるの? 聞いたことないけど」
男「ある。前に一度見た」
そう断言されたら私からは何も言えない。
だが、一つ気にかかる言葉が男の口から出た。
243 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:32:46.77 ID:C9C5IjNN0
サキュ姉「前に見た……?」
男「色々あったんだよ」
それ以上は答えようとはしなかった。
どうせ詳しく聞いてもはぐらかされるに決まっている。
私はそれ以上の追求をやめた。
そして今一番の問題へと意識を向ける。
次で最後。次に会ったらあの女と会うことはなくなる。
私が殺す。殺してしまう。
迷いがないと言われれば嘘になる。
でも説得されてしまった。今更止まることなんてできないのだ。
244 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:33:44.38 ID:C9C5IjNN0
?
魔女「今日はよろしくね」
サキュ姉「……」
運命の日はすぐに来た。
場所はいつものホテル。
私は何も言わずに魔女を見た。
魔女「どうしたの。緊張でもしてるの」
サキュ姉「……逆に魔女はなんとも思わないの?」
魔女「私? 私は晴れ晴れとした気分。だってこの苦しみから開放されるんだから」
あっけらかんにそう言った。
自分がこれから死ぬというのによくそんな顔できる。
関心を通り越して恐怖すら覚えた。
だが、私だってもう止まらない。止まれない。
覚悟は前に彼女とあった時から決まっている。
私は魔女にキスしようと彼女の肩に手をおいた。
魔女も瞳を閉じてそれを受け入れる。
私は顔を近づけ口づけをしようとした――そのときだった。
245 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:34:41.81 ID:C9C5IjNN0
ドンドンドン。
ドアが何度か叩かれた。
ガチャガチャとドアノブが回る音がする。
鍵がかかっていたためドアが開くことはなかったせいか、執拗にドアを叩かれた。
私は思わず魔女から手を離しドアを凝視する。
すると、「ママー、いるんでしー!」
そんな声が聞こえてきた。
舌足らずな幼い少女の声だ。
その声を聞いて魔女がギクリとした顔をした。
魔女「娘だ……」
サキュ姉「え……」
どうやらドアの向こうにいるのは魔女の娘らしい。
どうしてここに……?
魔女は迷ったような素振りを見せたが、私の方を一度向くと申し訳無さそうにドアへと向かった。
そのままドアを開く。
娘「やっぱりママだ」
魔女「娘ちゃん、なんでここに」
娘「ママのこと追いかけてきたの。だってママがいなくなっちゃうきがしたの」
246 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:36:01.09 ID:C9C5IjNN0
魔女「娘……」
そのとき初めて魔女の瞳に迷いが映った。
果たして子供をおいて死んでしまってもいいのだろうか。そんな迷い。
私はそんな抱きしめ合う彼女達を見て、悟った。
もう彼女からのこれ以上の吸精は無理だ。
だって彼女、死ぬことに疑問を持ってしまった。
もうここで止めよう。自分もこれ以上精気を集めるのは止めよう。
誰かを殺してまで叶えたい願いなんかじゃない。
これまでに殺してしまった命に関しては、私が背負うべき十字架だ。
償い方はわからないが一生をかけて償おう。
そう思っていた矢先。
またも、廊下から騒がしい足音がしてきた。
足音の主は男だった。
サキュ姉「あんた……なんで」
男の姿はボロボロだった。
片腕なんて消し飛んでる。
その男の姿を見た魔女もぎょっとしている。
そんな周りの様子など気にせず、男は焦ったように。
男「居場所がバレた。逃げるぞ。その女が精気持ちだな。そいつも一緒に……」
247 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:36:56.07 ID:C9C5IjNN0
言うが早いか、男はすでに滴っている血で魔法陣を描く。
転移の魔法陣だ。
範囲はこの部屋にいる人物全員。
サキュ姉「どういうこと……」
男「説明してる暇はねぇ」
魔法陣に魔力が込められる。
世界が光り輝き、身体が揺れた。
転移の前兆だ。
何かを言う日まもなく私達は飛んだ。
次に目が覚めたとき、私の前に広がっていた光景は見慣れたものだった。
サキュ姉「ここって……」
私の故郷。淫魔の里だった。
なんで……なんて困惑していると。
魔女「ここどこ……」
困惑している魔女がいた。カノジョの胸の中には転移のショックから気絶してしまった子供が抱えられている。
男「おい、こんなところで立ち止まってる暇はない! こっち来い」
男は焦ったように私達を誘導する。
248 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:37:36.94 ID:C9C5IjNN0
サキュ姉「どこに行くっていうの……」
男「地下だ。世界催眠を獲得する儀式を行う」
サキュ姉「待って私はまだ精気を集め終わってない」
男「だから、その女も連れてきたんだろ」
そう言って指さしたのは魔女だった。
男「どっちみちこんなところでグズグズしてられない。すぐに追いつかれる。早く移動するぞ」
そう言うと男は走り出した。
私はどうするべきかわからず、それは魔女も同じだったようで、とりあえず男についていった。
???「あれは、お姉ちゃん……」
そんな私達を見ている小さい影があるとも知らずに……。
249 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:39:02.45 ID:C9C5IjNN0
――地下。
私達は里の寺院の裏手にある石碑の下に隠されていた隠し通路を通って、地下に広がる大空間へと来ていた。
まさか私の住み慣れた里の地下にこんな空間があるなんて。
男「さて、ここだ……」
厳かに祀られている祭壇の中央に棺があった。黒の棺だ。
サキュ姉「その中にあるの」
男「ああ。始祖のサキュバスの遺骸がな」
男「早く世界催眠獲得儀式の準備に移りたい。吸精してくれ」
焦っているのだろう。
男の口ぶりからして何者かに追われているのが分かる。そのせいで余計に焦っている。
だが、私としてはためらう時間というか、心の準備はさせてほしかった。
というか、先程子供と抱き合う魔女を見て殺さないと決めたのだ。
魔女相手に吸精できない。
だが、当の魔女は覚悟が決まっているのか子供を端の方に置くと服を脱ぎ始めた。
250 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:39:51.89 ID:C9C5IjNN0
サキュ姉「ちょっと、魔女!」
魔女「止めないで。一思いにやって」
サキュ姉「でも……」
魔女「決めたことでしょ。今更意思をブラさないで」
そういわれては私からは何も言えない……。
だから。
サキュ姉「いいんだね」
魔女「いいから」
彼女は覚悟を決めていた。
私の夢も。魔女の覚悟も。彼女の子供のことも。
どれが正解が分からなかった。
もう何も考えたくなかった。
だから私は一番楽な選択――相手から言われたとおりにする、を選んでしまった。
魔女「あっ……」
私が触れると微かに吐息が漏れた。
最後の吸精が始まった。
251 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:41:24.11 ID:C9C5IjNN0
…………。
取り返しがつかないことをしたんだなぁと、他人事のように思った。
私の腕の中には魔女がいる。
もう息をしていなかった。
彼女を抱きしめても、もう何も感じない。暖かさも何もかも。だって死んでいるのだから。
そして私の中の業が囁く。
「お前がやった。お前が殺した」
そうだ。私がやった。私が殺した。
私が魔女を……。
急に現実感が湧いてきて、吐きそうになった。罪の意識に苛まれる。
だが、それすらも許されなかった。
男「よし、終わったな。早く始めるぞ」
いつの間にか男が傍に居た。
彼は片腕で未だに気絶している魔女の娘を抱えている。
サキュ姉「……少しまってよ」
男「待ってられるか! もうすぐあいつが来るかもしれねぇ。ちんたらやってる余裕はないんだよ!」
男は私を無理やり引っ張って棺の前に投げ捨てた。
そして、彼自身は少し離れると
男「始祖よ。ここに贄の準備が叶いました。そのお姿を現しください」
男がそう言うと、棺がガタガタと震えだした。
そして蓋が少し開くと指がにょきりと生えてきて、蓋をズズズッと開き出した。
中から現れたのは美しい女性だった。
始祖「そやつが、贄か」
252 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:42:15.18 ID:C9C5IjNN0
始祖のサキュバスと思しき女が私を指差す。
男「ええ、はいそうです」
私は訳がわからぬままその場の成り行きに身を任せた。
というより何も反応する気が起きなかった。
私の中で業がお前が殺した。お前が殺した。と囃し立ててきたせいもあるし、魔女が死んでしまったという事実を受け止めるのに時間がかかっているからでもある。
始祖「では、世界催眠を手に入れるのはお前ということだな」
そう言って男の方を指さした。
私はそれに対して、いやちがうと言おうとした。
だって世界催眠が欲しかったのは私だ。
と、そこで一つ疑問が浮かんだ。
世界催眠を得るには千の人の精気と一つの淫魔の魂が必要。
千人の精気は集まった。では一つの淫魔の魂は……?
サキュバス「最初から犠牲にする気だった……?」
愕然とした。
愕然とした自分に驚いた。
だってそうだ。愕然とするほど男のことを信用していたということになる。こんないつ裏切るかわからない怪しい男を。
私は今の今まで裏切られないと高をくくっていた。
そのつけを今払わされそうになっている。
苦しい思いをしてきたのは私だ。
今まで精気を集めてきたのも私だ。
253 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:43:28.47 ID:C9C5IjNN0
サキュ姉「男っ――!」
許せなかった。利用するだけ利用して、自分は手を汚さない男に怒りが湧いた。
あまりの怒りに私の拳がわなわなと震えた。
その勢いのまま、殴りかかろうとして、
???「お姉ちゃん……?」
この場には似つかわしくない少女の声が聞こえてきた。
その声はここ唯一の出入り口から。
そちらの方を見ると、そこにいたのは……。
サキュ姉「妹……なんで」
妹「お姉ちゃんが帰ってきてるのを見たから、何してるのかと思って」
私は焦った。
こんなところに妹がいてはだめだ。男に何をされるかわからない。
大切な妹なのだ。傷一つでもついたら後悔する。
幸いなことに男は妹には興味を示さなかった。
それよりも始祖のサキュバスに対して意識が向けられていた。
男「さあ、はやく世界催眠を!」
サキュ姉「ちょっとまった!」
そんな男を遮るように私は叫んだ。
サキュ姉「世界催眠を得るのはその男じゃない。あそこにいる私の妹――サキュバスに」
男「なっ?!」
妹「へ?」
男も妹も私の言葉に面食らったように言葉を漏らす。
始祖のサキュバスだけが静かに頷いた。
始祖「良かろう。確かに世界催眠は淫魔が持つが道理。ソナタの意を優先しよう」
男「ふっざけんな! 私が世界催眠を得るためにどれだけ準備したと……」
サキュ姉「精気を集めたのも、生贄になるのも私! 世界催眠を得る対象は私が決める!」
254 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:44:27.21 ID:C9C5IjNN0
男は激昂したのか懐からナイフを取り出す。
だがもう遅い。
私の体からは力が抜け始めた。
それと同時に私が今まで背負ってきた業が綺麗サッパリ吸われてなくなっていく。
贄として私の体が消費され始めたのだ。
妹「お姉ちゃん――!」
サキュ姉「ごめんね。変なこと押し付けて」
ああ、そうか。
今になって母が、私のようになるなといった理由が分かった。
母も世界催眠を持っている。
つまり私と同じ苦しみを味わったのだろう。
そりゃ、私のようになるな。なんて言うわけだ。
ごめんなさい。お母さん。
私はあなたの言いつけを破り、あなたのようになろうとして失敗しました。
許してくれないだろうなぁ。
お母さんは怒ると怖いのだ。
男「ふざけるなあっ!!」
不意に男の怒号が響いた。
ざまーみろ。
私のことを利用しようとするからそうなるんだ。
してやったリと思って男の方を見ると、ぎょっとした。
ナイフを魔女の娘に対して振り下ろそうとしていた。
サキュ姉「やめろ――っ!」
叫ぶが、その声は男へと届かない。
娘「――き、きゃあああぁっっ!!」
255 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:45:37.27 ID:C9C5IjNN0
一閃。
魔女の娘の胸にナイフが走る。
赤い線が横一線に娘の胸を刻んだ。
その痛みで気絶から覚めた娘が叫ぶ。
なんてことをしてくれたんだ!
魔女娘は関係なかっただろ。
そう思ったが、男にとってはそうではなかったようだ。
男「この娘の中にお前の魂を封印する」
サキュ姉「何言って……」
男「私が世界催眠を手に入れなきゃ意味がないんだよ! だから、千の精気を抱えたお前の魂を拘束しこの娘の中に封印する」
サキュ姉「そんなことしても無駄だ。お前に世界催眠は渡さない」
男「いいや。決めるのは始祖のサキュバスだ。……次は私は淫魔に転生する。私が世界催眠を手に入れる」
その瞬間だった。
私から力が抜けた。
男の言葉通り封印されているのだ。
だが、未だに贄として始祖のサキュバスにも力を吸い取られている。
私から吸い取られる力が拮抗している。
始祖「魂が足りない。贄として不十分だな」
男「だったら……」
始祖「だが、世界催眠の譲渡は行う。不完全で未完成になるがな……」
男「な……だったら今まで集めてきた精気は、私の計画は――」
愕然と崩れる男。
その瞬間、ドアが開け広げられた。
現れたのは――
256 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:46:35.19 ID:C9C5IjNN0
零「見つけたぞ、災厄の魔女!」
零のサキュバス――私のお母さんだった。
男「くっそ、こんなところで……こんなところてぇ――」
零「お前の罪だ。大人しく死ね」
男「あと少しだったんだ、あと少しで……」
その言葉に母は現状を理解したようだ。
世界催眠獲得の儀式が行われていたことを。
零「お前、サキュ姉をどこにやった」
男「はっ、もう贄になっちまったよ」
何言って……私はまだここに……。
そう思ったが、声が出ない。体が動かせない。
どうなって……と思ったら、さっきと視界が違っていた。
これは……たぶん、魔女の娘の視界だ。
ということは、私は彼女の中に封印されてしまったことになる。
世界催眠の儀式は完了したということか……だったらサキュバスは……。
零「だったら、だれが世界催眠を……まさか」
サキュバスがその場にいることに気づいたのだろう。
零のサキュバスは驚いたように目を見開く。
男「ちっ! そうさ、かすめ取られちまったよそのガキに」
零「なんてこと……」
257 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:47:47.94 ID:C9C5IjNN0
男「くそが! 本来なら私が手に入れていたはずなのに……」
零「黙りなさい! 『貴方は呼吸の仕方を忘れる』」
零のサキュバスがそういった瞬間、男の動きが止まった。内に抱えていた魔女娘を取り落とす。
その拍子に魔女娘は気絶したみたいだ。
私も急に意識が重たくなった。
男「わ、私は、なんどでも、蘇る」
男は苦しげにあえぐように言葉を紡ぐ。
それはまさしく呪いの言葉だった。
男「わたしは、災厄の魔女……幾度でも蘇り、幾度も殺す……」
男「次に蘇ったときがお前たちの最後だ」
男「ぜんいん……みな、全て……殺してやる」
男はそう言うと事切れた。
私の意識も闇へと沈んでいく。
零「ちくしょう……」
薄れゆく意識の中、悔しげな母の声がやけに耳に残った。
258 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:51:11.46 ID:C9C5IjNN0
――――――
――――
――
サキュ姉「これが十二年前に起こった出来事」
魔女娘「そう」
魔女娘「じゃあとりあえず齒ぁ食いしばれ」シュッ
サキュ姉「へっ――うごぁ!」バキッ!
魔女娘「やっぱりお前がお母さん殺してんじゃねぇか!」
サキュ姉「イタタっ、くっそ、喧嘩っ早いな。嫌になる」
魔女娘「あのあとお母さんは廃人になって……あれ、お前の話だと死んだって」
サキュ姉「お母さん……零のサキュバスが世界催眠でなにかしたんだろ。じゃなきゃ、サキュバスの里にいた幼いお前が元いたところに帰れるわけない」
サキュ姉「そんなことより、災厄の魔女の話だ」
魔女娘「それ、ホントなの……? 自称してるだけの狂人じゃなくて?」
サキュ姉「ちょっと前に災厄の魔女の下僕が暴れただろ。間違いなく災厄は復活してる」
魔女娘「だったら私は何をすればいい。流石に伝説の化け物を倒すなんて私には荷が重すぎる」
259 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:52:13.35 ID:C9C5IjNN0
サキュ姉「わかってる。だからあなたにお願いしたいのは、目が覚めたあと世界催眠を使える人――母と妹に事情を説明して協力を取り付けて」
魔女娘「世界催眠なら災厄と渡り合えると……?」
サキュ姉「あなたも見たでしょ。サキュバスの不完全な世界催眠で下僕を完封できていた」
魔女娘「確かに、そうか……」
サキュ姉「だからお願い、どうにか災厄を倒して。あいつがいたからみんな……」
魔女娘「……わかったよ。できる範囲のことはやる」
サキュ姉「ありがとう。――さあ、もう夢が覚める。今の私はゆらゆらと揺らめく幻みたいなもの。意識が完全に目覚めて、輪郭がはっきりとしたら封印を解いて外に出るわ。それができたらあなた達の力を貸すわ」
魔女娘「……わかった」
サキュ姉「どうしたの。なにか納得できない?」
魔女娘「納得できるわけない。母親を殺したのはあんただ」
魔女娘「けど、その災厄の魔女のせいでもある」
魔女娘「私は、災厄の魔女も許せない。だからお前の言うとおりにしてやるよ」
サキュ姉「そう……。母親のことはごめんね」
サキュ姉「それと気をつけてほしいことがある――」
サキュ姉「後輩は災厄の魔女だ」
魔女娘「……は? それ、ほんと……?」
――
――――
――――――
260 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:53:38.86 ID:C9C5IjNN0
ライバル魔女「大丈夫ですの!?」
魔女娘「ん? ふぁ……よく寝た」
ライバル魔女「怪我はありませんの?!」
後輩「落ち着きなよ先輩。こうして魔女娘先輩が目を覚ましたんですから」
魔女娘「ごめんライバル魔女、心配かけた。どこもどうとないよ」
ライバル魔女「もう! ついたと同時に気絶するんですもの、心配しましたわ」
魔女娘「ついた……ってことはここは……」
後輩「はい。サキュバスの里です」
魔女娘「早くサキュバスを探そう」
後輩「そうだね」
魔女娘「あてはある?」
後輩「それがどこにいるかは分からないんだ」
魔女娘「そっか、なら――」
魔女娘「『エアロブラスト』」ゴオオオッ
後輩「なっ――ぐはっ」ドゴン
ライバル魔女「な、何をしていますの魔女娘さん。突然後輩さんに攻撃なんて」
魔女娘「こいつ後輩じゃないよ」
ライバル魔女「え?」
後輩「ケホッ……何いってんですか、私は偽物なんかじゃ」
魔女娘「いや、まあ確かに後輩なんだけどさ……こう呼んだほうがいい?」
魔女娘「災厄の魔女――」
ライバル魔女「え」
魔女娘「私の中のサキュ姉が言ってたよ。転移するとき私の心に嫌なものが触った。触れたやつは災厄の魔女に違いないって。あのとき私のことを手伝うって言って私に触れてたのは誰だっけ」
後輩「嫌だなぁ、それだけで疑ってるんですかぁ?」
魔女娘「疑ってる。とりあえずボコる。違ったら全部終わったあとに治してあげる」
後輩「まっずいなぁ……」
後輩「ここはにっげよー」シュシュン
ライバル魔女「ちょっと後輩さん――!」
ライバル魔女「どういうつもりですの、魔女娘さん。こんなところで仲間割れしてるわけには」
魔女娘「あいつはいない方がいい。お願い私を信じて」
ライバル魔女「……分かりましたわ。けど全部追わったあと勘違いだったらちゃんと謝るんですのよ」
魔女娘「わかってる」
魔女娘「……さて。サキュバスとはまだ使い魔契約きれてないから場所わかる。行こうか」
261 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 14:55:27.77 ID:C9C5IjNN0
――地下牢
魔女娘「いた」
サキュバス「ます、たー……?」
サキュバス「なんでここに。どうやって」
魔女娘「そういうのはいいとりあえずここから出よう」
ライバル魔女「そうですわ。早く出ましょう」
サキュバス「いやでも、出たらバレちゃ……」
零「ほう。ここまで来るか」
ライバル魔女「零の――まずいですわ!」
サキュバス「お母様――!」
ライバル魔女「お母様っ!? え、親子……?」
魔女娘「らしいよ」
零「落ち着いているな。まだ彼我の差を理解していないのか」
魔女娘「いいえ、あなたが強いのは知ってる」
魔女娘「私と一緒に災厄の魔女と戦ってほしい」
零「気でもふれたか。何を言うかと思えば……」
魔女娘「あなたも知ってるはずです。災厄の魔女は転生を繰り返している」
魔女娘「私は災厄の魔女が誰に転生したか知ってます」
262 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:00:31.59 ID:C9C5IjNN0
零「なぜ貴様がそのことを」
魔女娘「私の中にいるサキュ姉から聞きました」
零「サキュ姉!? なんで貴様がその名前を――まて貴様まさか」
魔女娘「はい。十二年前、私もあの場にいました」
零「あのときの子供か……」
零「サキュ姉が貴様の中にいるというのは本当か」
魔女娘「本当です。あの時、災厄の魔女は私の中にサキュ姉の魂を封印しました」
魔女娘「さっきサキュ姉と話をしました。それで十二年前に何があったかを知りました」
零「……話をきかせろ」
魔女娘「はい……」
263 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:01:12.95 ID:C9C5IjNN0
………………。
………………。
………………。
264 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:02:10.83 ID:C9C5IjNN0
魔女娘「――――それでサキュ姉は私の中に封印、サキュバスは中途半端に世界催眠を獲得したというわけです」
零「そうか……」
サキュバス「やっぱり……お姉ちゃん近くにいたんだ」
魔女娘「やっぱりって……?」
サキュバス「なぜだか、マスターから懐かしい感じがして、それに淫魔の気配もしたの。だから、前にマスターの中の淫魔の力が活性化するように細工をしたんだけど……それでお姉ちゃんが目覚めたんだね」
零「使い魔として淫魔と契約したからというのもあるでしょう。見たところ特性の同調までしているようですから余計に」
零「分かりました。あなたの話を信じましょう」
魔女娘「それじゃあサキュバスを返してくれる?」
零「あくまで災厄の魔女と戦う間のみです」
魔女娘「それって……」
零「この娘はあくまで私の娘。サキュバスの里の次の長です。それが使い魔としていなくなられては困ります」
サキュバス「そんな……」
魔女娘「……わかったよ」
ライバル魔女「いいんですの?」
魔女娘「使い魔契約なんてこっちの事情に突き合わせるわけにも行かない。彼女には帰るところがあるんだ」
サキュバス「マスター……」
魔女娘「それに使い魔とマスターじゃなくたって私達は友達でしょう」
サキュバス「マスター――! うんそうね!」
魔女娘「さて、話は纏まった」
零「その後輩というのが災厄の魔女の生まれ変わりということで良かったな。そいつを倒すまでの協力関係だ」
魔女娘「分かってる。よろしく頼むよ」
265 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:03:25.99 ID:C9C5IjNN0
――後輩視点
後輩「ちっ、正体がバレたな」
途中まではうまく行っていた。
不信感は抱かれながらも、それでも敵対するといったところまでは行ってなかった。
おかしくなったのは、魔女娘が気絶してから。
心の中に封印したサキュ姉とあったか。
ここ最近封印のかかりが甘くなっているのは感じていた。
それがこの結果をもたらすか。
もう私が災厄の魔女の生まれ変わりだということはバレていることだろう。
だったら動けるうちに動いておかなくてはいけない。
私の目的は世界催眠の獲得と、女神の加護の奪取。
世界催眠に関しては零のサキュバスを敵に回したから簡単には行かないだろう。
だから女神の加護の方を狙いに行く。
266 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:04:31.30 ID:C9C5IjNN0
私は使い魔との特性の同調が強く出る体質だ。例え転生してもその使い魔が生きていれば同調が続く。
だから今の私には三つの力がある。
一つ目は、私本来の魔法の才能。
二つ目は前世で私の使い魔だったサキュ姉のサキュバスとしての能力。
そして三つ目。私の初めての使い魔。その能力。私が初めて召喚したのは神と呼ばれる存在だった。だから私は転生とやりなおし二つの能力を使える。
やり直しは現在二回目。一回目のときは女神の加護の所在を確かめるだけで終わった。
だが、そのおかげで今誰が女神の加護を持っているか把握している。
私は今そいつのところに向かっている。
転移を繰り返し、学園へと戻ってきた。
そいつは先日から量の一室出引きこもっている。
後輩「友魔女ちゃんこんにちは」
壁抜けの魔法を使い、彼女の部屋へと侵入する。
真っ暗な部屋の中に座り込んでいる彼女は驚いた様子で私のことを見た。
友魔女「なんでここに」
後輩「なんだっていいじゃないですか」
私は私ぐらいの背丈の下僕を召喚する。
友魔女「なんで下僕が……まさか」
後輩「そうそう、私が災厄の魔女なんだよね」
私は軽々しく言った。
もうみんなにバレていることだ。今更隠す気もない。
後輩「あなたの女神の加護をちょーだい」
私は友魔女に襲いかかった。
267 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:05:36.05 ID:C9C5IjNN0
加護というのは要は遺志の力だ。
特別な力を持っている人が死後、その意思が特別な力となって誰かを守る力となる。
守護霊という言葉が近いかもしれない。
ともかく加護には元となる人物がいるということを覚えておいてほしい。
そこで女神の加護のことだ。
女神の加護は言ってしまえば私にだけ効く特別な力だ。
私の力を封じ込める力がある。
それはなぜか。加護のもととなった人物が影響している。
私の姉なのだ。
姉は救国の女神と呼ばれ、災厄の魔女を倒した人物。
そこから私に対して特効の加護になったのだろう。
友魔女はその加護を持っている。どうして持っているかは分からないが、前回の周回で把握した。
私には目的がある。
それは大好きなお姉ちゃんを蘇らせることだ。
女神の加護と世界催眠の力があれば可能だ。
いくら万能の世界催眠といえど視認を蘇らせることは不可能だ。無理やり蘇らせても廃人……人とは呼べない状態で蘇ることとなる。
だが、そこに加護が重なると話は変わってくる。加護は遺志であり意思だ。そこには元となった人の魂が存在する。
魂があれば世界催眠で人を蘇生できる。
私は、今度こそ世界を滅ぼしたあとで、私とお姉ちゃんだけの楽園を作るのだ。
だから世界催眠と女神の加護が必要なのだ。
世界催眠の手に入れ方はもう分かっている。
魔女娘とサキュバスの使い魔契約をのっとってしまえばいい。私の魔術なら二人が近くにいて時間をかければ可能だ。使い魔との特性の同調をすれば、私も世界催眠を使えるようになる。手に入れようと思えばいつでも手に入れることができる。だから後回し。
問題は加護の方だ。
268 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:06:36.39 ID:C9C5IjNN0
加護は他者への譲渡は不可能だ。
ただし、加護自体の意思で所有者を変えることはある。
だから誰が持ってるかは分からない。それを周回で突き止めた。
奪い方は簡単だ。加護を持ってる人間を殺せばいい。
そうすれば行き場を失った加護は自然と一番近くの人間につくこととなる。
だから、友魔女を殺せば女神の加護が手に入ると思ったのだが……
後輩「お前……」
私は焦った。
目の前にはズタボロの友魔女が。
彼女は私と下僕の攻撃を為すすべもなく受けていた。
あきらかに、弱い。弱すぎる。
後輩「なんで、加護を持ってないんだ」
そう。この弱さ、友魔女が女神の加護を持っていないのは明らかだった。
思えばこの周回はイレギュラーが多すぎた。
主要人物のほとんど全員が性格や過去が変わっていた。
だからか。そのあおりを受けて友魔女から加護が消えているのか。
ここまで変わってはだめだ。
それに十二年前に世界催眠を手に入れられていればもっと楽に物事を進められていた。
ここまでこじれてちゃダメだ。
後輩「最初からやり直そう」
私にはループする力がある。
始まりはお姉ちゃんに殺されて初めて転生してから。だから百年近く前。ループするためには自決する必要があるが恐れることはない。
戻ることを決意した。今回集めた情報も含めて次はもっと効率よく動こう。
そう思い、私は自分の首を切り落とそうとした。
そのとき
269 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:07:32.52 ID:C9C5IjNN0
友魔女「死ぬんですか」
ボロボロの彼女は虫の息になりながらもそう問いかけてきた。
後輩「ええ。この周回はこれ以上何かやっても無駄だから」
友魔女「だから死ぬんですか」
友魔女「死ぬんなら、私のために役立てろ」
後輩「――え?」
私の土手っ腹に穴が空いた。
遅れてそれが友魔女の魔法によるものだと気づく。
この一撃のために力をためていたな。
友魔女「私の加護になれ」
後輩「……ははっ」
思わず笑ってしまった。
彼女の目は私とおなじだった。
愛されることを望む目。
でも満たされることのない愛情。
後輩「いいよ、加護になってあげる」
私と彼女は多分同類だ。
それなら彼女に手を貸すのも一興か。
すべて終わったあとに転生しても遅くない。
私の体が光の粒子となって友魔女を包む。
私は加護――災厄の加護となった。
270 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:10:27.03 ID:C9C5IjNN0
――友魔女視点
前世の私は孤独だった。
私の孤独を埋めてくれたのはゲーム。とりわけ乙女ゲーだった。
ゲームの世界では王子様達が私に優しくしてくれる。私に愛を注いでくれる。
けど、それだけで十分とはいかなかった。
いくら王子様たちに愛されようと私の中になにか物足りなさを感じた。
その物足りなさを埋めてくれたのが、ゲームの中の魔女娘だった。
初めての感情だった。
彼女は友としてゲームの中の私を何度も助けてくれた。
愛情は今までいくらでももらってきた、でも友情をくれたのは彼女が初めてだった。
私は夢中になった。
彼女のことしか考えられなくなった。
そして、私は死んでこの世界に転生してきた。主人公として。
最高だと思った。
これで魔女娘と実際にお話できる。
ゲームの中のような彼女との友情を実際に体験できる。
だが、実際にはそんなことはなかった。
イレギュラーが多すぎた。
全然ストーリー通りに事が進まない。
それに、再国祭の日、魔女娘達は私以外には倒せるはずのない怪物を倒してしまった。それと同時に気づいてしまった。私には私が本来持っている力がない――すなわち災厄の魔女を倒すことのできる女神の加護をもっていないことを。
じゃあ私は何なんだ。私はなんのためにここにいる。
魔女娘とは思ったような関係を結べず、本来主役として果たすべき役割すらなくなった私は、なんでここにいるんだ。
271 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:12:38.66 ID:C9C5IjNN0
私の存在意義について悩み、意識の底に深く沈んでいく。
そんなときだった、後輩が現れた。
そして明かされた彼女こそが災厄の魔女だと。
怪しいとは思っていた。本来彼女はこの世界に深く関わるようなキャラクターではないというのに、色々と分け知りすぎた。
そんな彼女が告げる。私の女神の加護が欲しいと。
私は笑いそうになった。
どうして彼女がそのことを知っているかは気になったが、だが、そんなことはどうでもいい。
私にその加護はない。
私に女神の加護を持つ資格はないということだろう。
だってそうだ。救国の女神は作中であまねく全ての人に慈愛と博愛をもって接していた。主人公もそうだ。
だが、私はどうだ。魔女娘魔女娘と、彼女のことばかり。
女神の加護をもつ資格は無い。自分でも分かった。
私は抵抗する気になれなかった。
しばらくすると攻撃はやんだ。
するとどうだ、災厄の魔女が自殺しようとするではないか。
272 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:15:01.52 ID:C9C5IjNN0
そのときひょっとしてという思いが走った。
だから彼女を私が殺した。
「死ぬんなら、私のために役立てろ」
その力、加護としてもらう。
そうすれば、私ののぞみが叶う。
災厄の魔女は笑った。
何を思ったかは分からない。
けど、愉快そうに笑った。
「いいよ、加護になってあげる」
そして災厄の魔女は私の加護となった。
これで私の望みが叶う。
私にはもう魔女娘しかいらない。
だから全部壊す。世界を全部破壊して、私と魔女娘だけの世界を作る。
それが私の望みだった。
273 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:15:59.47 ID:C9C5IjNN0
X
ライバル魔女「きゃー帰ってきましたわ、愛しのドラゴンちゃん」
ドラゴン「がうがう」
サキュバス「感動の対面してるとこ悪いけど、これからどうするの」
魔女娘「一回学園に戻ろう」
零「ほう、それはどうしてだ」
魔女娘「学園に友魔女って人がいるんだけど、災厄の魔女について何か知ってるぽかったから」
ライバル魔女「話を聞きに行くというわけですわね」
魔女娘「そう」
零「だったら私の世界催眠で学園まで送ろう」
魔女娘「うん、お願い」
274 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:17:30.96 ID:C9C5IjNN0
――学園
零「……と、ついたぞ」
魔女娘「ありがとう」
魔女娘「――――!」
魔女娘「なにこれ……?」
ライバル魔女「なにか異様な雰囲気が」
友魔女「や、遅かったね魔女娘」
魔女娘「友魔女! もう気分は大丈夫なの?!」
友魔女「ええお陰様で生まれてきて今までで一番さいっこーうの気分」
魔女娘「それならいいんだけど……」
零「待て、近づくな」
零「お前から災厄の魔女の気配がする」
魔女娘「えっ!?」
友魔女「流石だね。気づくんだ」
零「ちっ――『お前は身体の――」
友魔女「言わせねぇよ」ドゴン
下僕「ゴオオオオォォォっ!!!」ドガッ
零「ぐはっ」ガクリ
友魔女「世界催眠は口に唱えなきゃ発動しない。だったら言わせなきゃいい」
サキュバス「お母さん――!」
サキュバス「しっかりしてください! ……っ、気絶してる」
275 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:18:15.30 ID:C9C5IjNN0
魔女娘「何やってるの友魔女!」
友魔女「何って邪魔者を消してるんだよ」
ライバル魔女「邪魔者ですって!」
友魔女「そう。この世界には魔女娘と私以外いらない。全部消すの」
下僕達「「「ウオオオンンン!!」」」ワラワラ
サキュバス「下僕があんなにたくさん」
魔女娘「やめて、友魔女!」
友魔女「もう無理だよ、止まれないし止まる気はない」
友魔女「それが嫌なら倒して、私を止めてみな!」
魔女娘「――やるしかないか」
魔女娘「【オーバーノヴァ】」ドゴン
下僕「ぐおお……」
友魔女「知ってるでしょ。それくらいじゃ下僕は止まらない!」
魔女娘「だったら何度だって倒す。友魔女が目を覚ますまで」
友魔女「やれるもんならやってみろ」
276 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:19:15.43 ID:C9C5IjNN0
ライバル魔女「始まってしまいましたわ……くっ、こうなったらワタクシも――」
サキュバス「ちょっと待って」
ライバル魔女「止めないでくださいまし……って」
サキュバス「うん。この子って」
猫「にゃーん」
ライバル魔女「友魔女の使い魔ですわね」
サキュバス「なんでここに……」
猫「あーあーてすてす」
ライバル魔女「え……」
サキュバス「猫が喋ったぁ!?」
猫「非常時に付きこの猫ちゃんの体を借りてるだけだから、そんなに驚かないで」
ライバル魔女「借りてるって……」
猫「そう。私は救国の女神と呼ばれてるわ」
ライバル魔女「救国の女神ですって!?」
サキュバス「それって……?」
ライバル魔女「昔、災厄の魔女を倒した人よ……とっくの昔に死んでるはずだけど」
猫「ええ、私は死んでるわ。今の私は加護になって意思だけの存在になったの」
サキュバス「なんでそんな……」
猫「馬鹿な妹を止めるため、よ。お願い力を貸して」
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2021/11/10(水) 15:22:14.47 ID:C9C5IjNN0
魔女娘「いい加減目が覚めた!?」
友魔女「目なんてとっくに覚めてるよ!」
友魔女「だからこうして、世界を壊してる」
友魔女「ね、お願い。壊した世界で一から私とやり直そう」
魔女娘「馬鹿言わないで!」
ライバル魔女「魔女娘さん! 下がって」
ライバル魔女「【オーバーノヴァ・フォーマルハウト】」ドゴン
下僕「ウオオオウオッ」ドカコーン
友魔女「ち、厄介なのが来た」
ライバル魔女「魔女娘さんはそのまま下がってて。猫がいるから話を聞いて」
魔女娘「何言って……」
猫「こちらです」
魔女娘「猫だ。猫が喋ってる」
ライバル魔女「そのまま猫と話して力をもらってくださいまし!」
魔女娘「力を……」
友魔女「……まあいいよ。ライバル魔女も殺さないといけないと思ってたからさ」
ライバル魔女「はい? あなたじゃワタクシを殺せませんわよ」ビュン
下僕「ぐおお」シュウゥ
友魔女「な!? 下僕が一振りで消滅した?! どうなってるの」
ライバル魔女「女神の加護の力ですわよ」
ライバル魔女「さあ、戦いましょう。ワタクシもあなたの友達。友達が間違った道に行くというのなら、全力で止めますわ!」
友魔女「チっ、ちょこざいな!」
278 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:23:01.13 ID:C9C5IjNN0
猫「はじめまして、私は救国の女神と呼ばれている存在です」
魔女娘「本物なの?」
猫「はい、本物です。貴方にも馬鹿な妹を救うため力を貸していただきたい」
魔女娘「……? よくわからないけど友魔女のことなら言われなくても止めるよ、私は」
猫「いえ、今の友魔女さんは妹の加護、災厄の加護を纏っています。そう簡単には倒れません」
猫「ですので私の加護を差し上げます。女神の加護を」
猫「すでにライバル魔女さんには半分渡しました。残りの半分の力をあなたに」
魔女娘「なんでもいい。友魔女を止められるなら」
猫「では、私の加護を授けます」
猫「どうか、どうか友魔女を打災厄の魔女を止めてください」
279 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:24:00.13 ID:C9C5IjNN0
魔女娘「おまたせライバル魔女」
ライバル魔女「遅いですわよ」
友魔女「うぐ、ここで増えるか」
魔女娘「キツいんなら降参したら」
友魔女「だれが!!」バキン
ライバル魔女「無駄でしてよ!」ドッ
友魔女「なんで、なんでよ!」
友魔女「なんで二人して私を止めるだよ。私のことを気にかけてくれるんだよ! 私は――私は!」
ライバル魔女「なぜって? そんなの決まっていますわ」
魔女娘「うん。私達友達だから」
友魔女「とも、だち……?」
魔女娘「友達だから間違ったことをしてたら止めるよ」
ライバル魔女「そうですわ」
友魔女「私は……私は……」
魔女娘「……っ。なんだこれ」シュウゥ
ライバル魔女「力が、抜けるようですわ……」シュウゥ
女神の加護「すみませんお二方。やはり私が決着をつけます」
女神の加護「もう終わりにしましょう」
友魔女「おまえは……うぐあ」シュウゥ
災厄の加護「お姉ちゃん……」
280 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:25:06.96 ID:C9C5IjNN0
女神の加護「愚かな妹よ。あなたの罪は私が一緒に償います」
災厄の加護「馬鹿言わないで、今更そんな」
女神の加護「……本当に今更でしたね」
女神の加護「もっとあなたを気にかければ良かった。もっとあなたとお話をしていればよかった」
女神の加護「愚かだったのは私の方ですね」
災厄の魔女「お姉ちゃん……」
災厄の魔女「そんなことない。私のほうが」
女神の加護「仲直りしましょう。長い長い……百年続いた姉妹喧嘩をおしまいにしましょう」
災厄の魔女「……ごめんね、お姉ちゃん」
女神の加護「私こそごめんなさいね」
魔女娘「二つの加護が消えていく」
ライバル魔女「戦いで壊れた街も直っていきますわ……」
サキュ姉「っとと、わあ!」ポン
サキュバス「お姉ちゃん……なんで……」
サキュ姉「女神の加護に当てられて、封印が完全に解けたみたい」
サキュ姉「ただいま、サキュバス」
サキュバス「おかえりなさい、お姉ちゃん」ギュウ
友魔女「私は……」
魔女娘「あんまり落ち込まないで。戦いで傷ついたところは加護のおかげでなかったことになったんだし」
ライバル魔女「そうですわよ。それに友達ですもの喧嘩くらいしますわ」
友魔女「……ありがとう二人とも」
281 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:26:04.03 ID:C9C5IjNN0
――数日後、教室
ライバル魔女「ですからうちのドラゴンちゃんはご飯じゃないと何度行ったら分かるんですの」
魔女娘「いいじゃん。尻尾の先くらいすぐ生えてくるでしょ」
ライバル魔女「だからトカゲでもありませんってば!」
友魔女「あはは、二人は相変わらずだね」
友魔女「……本当はここにサキュバスもいたんだけど」
魔女娘「しょうがない。サキュバスはお姫様だからね。使い魔として召喚するにはあまりにも不敬。里に帰るのは当然だよ」
ライバル魔女「それに離れていても友達ですものね」
魔女娘「そうそう」
教師「はい皆さん席について下さい。授業が始まりますよ」
教師「と、その前に皆さんに報告があります。他国からの留学生がこられました。入ってきてください」
友魔女「留学生だって」
ライバル魔女「どのような人かしらね……ってあら」
魔女娘「――――」
サキュバス「淫魔の里から来ました。里長からは人の世界を、ひいては人のことを理解するよう言われました。精一杯頑張るので仲良くしてください」
魔女娘「サキュバス――!」
サキュバス「うふふ、みんなまたよろしくね」
282 :
◆TEm9zd/GaE
[sage saga]:2021/11/10(水) 15:29:26.37 ID:C9C5IjNN0
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